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海のひつじを忘れないようです

189名無しさん:2017/08/20(日) 22:06:16 ID:sRmmAC9s0



「小旦那様」

あいつは裏庭で座っていた。
俺は慌てることも、尻込みすることもせず闊歩し、その隣りに座った。
あいつはさして驚いた様子なく、俺の存在を認めた。

森の木々が風もなくゆらいでいた。
枝葉がこすれ、さらさらと耳に心地の良い音を立てている。
鬱蒼と茂った植物の波は、まるで盾のように森の先を暗闇に染めて覆い隠している。
まるでこここそが世界の果て――あるいは世界とは
ここに在るこの場所だけだと、そう主張するかのように。

「ジョルジュにハーモニカをやったというのは、事実か」

あいつは振り向くこともしなかった。
声も出さず、控えめにただこくんと、首をうなづかせた。
この件はそれでもう、おしまいだった。
これ以上何を聞いても、意味など生まれようもなかったから。

その代わりというわけでもないが俺は、懐からあるものを取り出した。
短刀。刀身に波のような奇妙な紋様が刻印された、彼女の形見。


俺の執着。


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