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海のひつじを忘れないようです

182名無しさん:2017/08/20(日) 22:03:34 ID:sRmmAC9s0
怒鳴った俺の声に返答を寄越したのは、
目の前で震えるジョルジュではなかった。それは背後から聞こえた。
点と点の上に支えられた車輪の摩擦が立てる、静かな音。
幽鬼のように実存が不確かなその気配とは裏腹に、
屹然とした存在感を放つ少女性を排した声。凍れる蒼き、瞳。

「その子に罪はないわ」

車椅子の、魔女。
そいつが、自身を支える機械の上から、俺を見下ろしていた。

「あいつは、自分から棄てたのよ」

ジョルジュの胸ぐらをつかんだまま、視線だけを魔女へ向ける。
人を惑わす魔女。その指は細長くジョルジュの手の中、
その手中に収められたハーモニカへと向けられている。
乏しいという言葉では表すことの不可能な位相で、不変の表情を貼り付けながら。


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