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海のひつじを忘れないようです
172
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 21:58:56 ID:sRmmAC9s0
なぜ彼女だけが、モララーを知っている――いや、覚えているのだろう。
初めからいない――つまり存在しないはずの人物を、彼女は知っているのだろう。
これらの疑問を、ぼくは直接彼女に投げかけた。
彼女は変わらず背を向けたまま、その怜悧さを感じさせる声で答える。
「ヒントをもらったのよ。ジョルジュから」
「ジョルジュ?」
想定外の名前にぼくは鸚鵡返しする。ジョルジュ。
あのひょうきんで、いつも飛び回っていて、動物の鳴きマネが得意で
――ぼくを嫌った、あの子。とうとつに、軽くなった首のことが気になった。
何もない胸へ手を伸ばし、何もないことを確かめるように、触れる。
「私はあなたを許せそうにない」
彼女の声は抑揚なく感情も希薄だった。
だから一瞬ぼくは、話の文脈が変わっていることに気づかなかった。
とはいえ、それがぼくへ向けられた言葉だと理解しても、大きな違いはない。
彼女は背を向けたままでいる。その顔は見えない。
ぼくは罪人だ。そんなことは、誰に言われるまでもなくぼく自身が一番理解している。
けれど彼女は、ぼくの知るぼくの罪を咎めてはいない。別の何か。
彼女はぼくの犯した別の罪を糾弾していた。
おそらくは、初めて会ったあの時から、ずっと。
でも、ぼくにはわからない。
彼女がぼくの何を糾弾しているのか、ぼくにはわからなかった。
ぼくは、何をした?
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