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海のひつじを忘れないようです
165
:
名無しさん
:2017/08/20(日) 21:55:51 ID:sRmmAC9s0
いまならまだ、引き返せる。
ぼくは魔女の問いに応答していない。
跪けという言葉には従ったものの、それは逃げることができずに
やむを得ず行った緊急手段にすぎない。この額の――手当だって、
彼女が勝手にしたことだ。いまならまだ、そう言い張ることができる。
小旦那様の命令に背いていないと、自分で認めることができる。
お前は、なんだ。
ぼくは、小旦那様のひつじだ。
己が思考も、感情も、必要のない生き物だ。
なにをされようと、何が待ち受けていようと。
黙って、従っていればいいのだ。
ただ、黙って――
――その、はずなのに。
なぜ、どうしてぼくは、ぼくの足は、ここから離れようとしないんだ。
ぼくの目は、彼女の背を見つめているんだ。ぼくの心は、彼女の話に囚われているんだ。
車輪の軋む音が、耳の奥をつついた。
ぼくは叫んでいた。待って、と。明確に、彼女に向かって。
そしてぼくは、禁を破った。
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