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海のひつじを忘れないようです

164名無しさん:2017/08/20(日) 21:55:28 ID:sRmmAC9s0
話し終えるのと同時、魔女がぼくの頭から手を離した。
ついさっきまで彼女の手が置かれていた場所に触れる。
そこには仄かに残った人が発する熱と、ざらついた感触の、布製の何かが巻かれていた。
何重にも巻かれたそれは、じくじくと痛む額の傷をすっぽりと覆っていた。

道を塞いだ時と同様に、彼女の車輪が器用に旋回する。
そして彼女はそのまま背を向け、その肢体に比して大きめな車椅子を動かし始めた。
まるでいまここで行われたやりとりなど、初めからなかったかのような様子で。
車輪が回る。彼女の背が、ゆっくりと遠ざかる。

「……ここは」

ぼくはつぶやいた。独り言のように、まったく独り言ではない言葉を。
彼女を引き止めたいという、卑劣な下心を込めながら。その目的は果たされた。
彼女はその背を晒したまま、車輪を止めた。

しかしぼくは、その背に視線を預けつつ、言葉を続けることができずにいた。


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