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海のひつじを忘れないようです

150名無しさん:2017/08/20(日) 21:48:42 ID:sRmmAC9s0
ジョルジュがぼくのハーモニカを欲しがっていることは、
だいぶ前から察しがついていた。いや、あの日。
モララーの還泡式が行われたあの時にはすでに、気がついてはいたのだ。

しかしぼくは、それに気のつかないふりをしていた。
ジョルジュのアプローチは迂遠でどうとでも判別のつくやり方であったし
――それにぼくは、期待していたのかもしれない。

「ちょうだい」

ジョルジュの腕が、さらにぐいっと伸ばされた。
ぼくは動かなかった。焦りか、あるいは苛立ちを募らせるジョルジュの顔を、
ただ何もせず、ぼうっと見つめた。

「ちょうだい」

ジョルジュが一歩迫ってきた。ぼくは動かない。
逃げることも、ハーモニカを明け渡すこともしない。
黙ってジョルジュを見つめる。たぶん、きっと、ものすごい無表情で。

ジョルジュの顔が、著しく歪んだ。

「ちょうだい!」


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