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(´・ω・`)紺色の記憶のようです
95
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 22:45:54 ID:dTRZMDZU0
>>91
,93
一年ほど前にVIPで投下してました
リメイクというか続きを書くために戻ってきた感じです
といっても書くの本当に最終回辺りだけなんでほとんどが再投下となります
96
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:45:55 ID:dTRZMDZU0
4月。
どれ程この時を待ち望んでいたか。
ついに、ついに僕たちが一番下でなくなるときが来たのだ。
あの理不尽な先輩たちのお叱りとようやくおさらばできる。
それを考えるだけでもう幸せ過ぎる。
(-_-)「いよいよ僕たちも先輩かぁ」
(´・ω・`)「実感ないなぁ」
(-_-)「だよね......あ、そういえばさ」
(´・ω・`)「ん?」
(-_-)「今年も一人、めちゃくちゃ速いやつが入ったらしいよ」
(´・ω・`)「え、マジで?」
(-_-)「うん、俺たちで言うドクオ君とかモララー君並だって」
(´・ω・`)「うへぇ」
97
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:46:17 ID:dTRZMDZU0
忘れてた。
新しく入ってくるやつにはそういうやつもいるということ。
僕の方が先輩なのにぼろ負けとか情けなすぎる。
(´・ω・`)「そいつも僕たちが注意したりとかすんの?やだわぁ」
(-_-)「なー」
そう考えると先輩になっても気疲れするのは代わりないのかもしれない。
幸せがどんどんと失われていく。
(´・ω・`)「はぁ」
(-_-)「ま、そろそろ行こうぜ。今日、外部のプールでの練習だしストレッチしとこうぜ」
(´・ω・`)「あー、そういえばそうか」
(-_-)「......」
(´・ω・`)「ん?どうした?」
98
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:47:16 ID:dTRZMDZU0
(-_-)「あ、いや......去年もさ、このくらいの時期に外部のプールでの練習あったじゃん?」
(´・ω・`)「?うん」
(-_-)「そのときはさ、俺たちプールの上から見学だったけどさ。今日はプールで泳ぐんだよな」
(´・ω・`)「うん」
(-_-)「......あのときの、向こう側の先輩たちになれたんだな。俺ら」
(´・ω・`)「......」
あのとき、とは多分ヒッキーと初めて話したあのときのことだろう。
僕もその時のことを思い出す。
ガラスの向こう側で力強く泳ぐ先輩たちの姿を。
遠い世界のように感じたあの世界。
今日、僕はそこで泳ぐんだ。
僕も、あんな風になれたのだろうか。
99
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:47:39 ID:dTRZMDZU0
一月経って5月に入った。
今年もゴールデンウィークを迎える。
世間では休みだと浮かれる人が多いなか、僕たち水泳部のテンションは最低にまで落ち込んでいた。
当たり前だ。
この休みが開けてしまうとあの極寒のプール開きなのだ。
ゴールデンウィークはまるで、死のカウントダウンのように思える。
そして今日はゴールデンウィーク最終日。
もう気分は最悪だ。
(´・ω・`)「......失礼します」
( ´∀`)「ん。お、来たね」
そしてそんななか、今日僕は監督から呼び出しをされていた。
何かしでかしてしまったかと内心びくつきながら部屋に入る。
100
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:48:29 ID:dTRZMDZU0
恐る恐る監督の顔をうかがうとそこにはいつものような、にこやかな監督の顔が見えた。
よかった、説教ではないようだ。
ほんの少し、ホッとする。
( ´∀`)「いやごめんね。いきなり呼び出して」
(´・ω・`)「あ、いえ」
( ´∀`)「うん、それでね。話ってのはさ、君のスタイル1※についてなんだけど」
(´・ω・`)「はぁ」
( ´∀`)「君、全種目泳げるんだよね」
(´・ω・`)「え?ま、まぁ、はい。泳げ、ます」
( ´∀`)「ん、ならさ、個人メドレー※、やってみない?」
※スタイル1
その選手のメインで泳ぐ種目のこと。
メインとなる種目の泳種、距離によって効果的な練習方法が異なるためこれを決めるのは結構重要
※個人メドレー
バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、クロールの順に4種目を泳ぐ種目
101
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:48:52 ID:dTRZMDZU0
(´・ω・`)「個人メドレー、ですか?」
( ´∀`)「うん。ほら、個人メドレーがスタイル1だったギコ君が卒業しちゃってさ、個人メドレーがスタイル1の選手がいないのよ」
(´・ω・`)「はぁ」
( ´∀`)「それで、君なら全種目泳げるし問題ないかなって思うんだけど。どう?やる?」
(´・ω・`)「......えーと」
正直、個人メドレーとか大っ嫌いだ。
なぜ好き好んで全種目をいっぺんに泳がなくてはならないのか。
そもそも僕は全種目泳げるだけで別に得意なわけではない。
むしろバタフライとか苦手なのだ。
あんな疲れる泳ぎ、やりたくない。
絶対に、やりたくない。
102
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:49:50 ID:dTRZMDZU0
(; ´∀`)「このままだとさ、夏の大会の個人メドレーの正選手枠が埋まらないんだよ。やらない?」
(´・ω・`)「え」
( ´∀`)「ん?」
(´・ω・`)「正選手枠があいてるんですか?」
( ´∀`)「うん、個人メドレーって長距離種目だし全種目をある程度泳げなきゃいけないから出れる人少ないからね。人がいないんだよ」
(´・ω・`)
( ´∀`)「まあこれからの練習のことも関わってくるし嫌なら別の人に」
(´・ω・`)「やります」
( ´∀`)「え?」
103
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:50:22 ID:dTRZMDZU0
(´・ω・`)「個人メドレー、やります」
( ´∀`)「あ、本当?」
(´・ω・`)「はい」
( ´∀`)「ん、それじゃこれからはそれ用の練習になるから。頑張ってね」
(´・ω・`)「はい!」
だがまあ。
空いている正選手枠を逃すのはなんと言うか勿体無い気もするし。
だから、ちょっとくらい、我慢して頑張ろう。
104
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:50:49 ID:dTRZMDZU0
と、思っていたのだが。
すぐさまそれを後悔することになった。
先程のミーティングの次の日。
プール開きの日のことである。
(;´ ω )(死ぬ)
水泳の練習は大きく分けて二つのグループに分けることができる。
短距離を専門とするグループと、長距離を専門とするグループの二つである。
そのうち僕のスタイル1となった個人メドレーは長距離しかないため必然的に後者のグループに入る。
ではグループによって練習がどうことなるか。
単純である。
短距離を専門とするグループは短距離を、長距離を専門とするグループは長距離を泳ぎまくる。
簡単にいってしまえばただ、それだけ。
105
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:51:11 ID:dTRZMDZU0
それではこれの何が問題になるのか。
それは長距離グループの方が一日の練習で泳ぐ量が多くなること。
それも少しではない。
下手すれば倍近くも泳ぐ。
それも苦手な泳法で、だ。
ではそれを続けるとどうなるかというと。
(;´ ω )「うぉえ!」
勿論、こうなる。
また今年も、トイレにお世話になる日々が始まることを意味していた。
106
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:51:33 ID:dTRZMDZU0
それから2ヶ月。
練習をなんとかこなせるようになってくると気がつけば7月を迎えていた。
今年もまた、都高対抗戦記録会が近づいてきた。
皆、正選手になるために一層練習に打ち込んでいた。
(-_-)「正選手になりてぇなぁ」
(´・ω・`)「ヒッキーは何泳ぐの?」
(-_-)「ん?100mか200mのバタフライ」
(´・ω・`)「バッタか、比較的選手少ない枠だし行けるんじゃない?」
(-_-)「だといいんだけど」
107
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:51:55 ID:dTRZMDZU0
(´・ω・`)「ま、今度の選考会、頑張ってね」
(;-_-)「くっそ、この余裕感むかつくわぁ」
(´・ω・`)「悪いね」
まあ僕には関係のないことだけど。
僕の正選手は確約されているから。
ただひとつ問題があるとすれば。
練習の辛さにもう、個人メドレーが大っ嫌いになっており、泳ぎたくないと言うことくらいか。
108
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:52:18 ID:dTRZMDZU0
7月下旬。
都高対抗戦記録会に参加する選手を決めるために選考会が行われることになった。
正選手になれる三人を決めるための部員同士の戦いが、始まろうとしていた。
(-_-)「......」
(´・ω・`)「よ」
(-_-)「ん」
(´・ω・`)「どうよ」
(-_-)「いい感じ」
(´・ω・`)「そか、頑張れよ」
(-_-)「うん」
(´・ω・`)「負けんなよ」
(-_-)「......うん」
109
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:52:39 ID:dTRZMDZU0
そして、これから100mバタフライの選考会が始まろうとしていた。
ヒッキーがプールに向かっていく。
今年の100mバタフライでの出場希望者は5人。
高校から水泳を始めたヒッキーが、正選手になるのは少し厳しいかもしれない。
ヒッキーもそれは分かっていた。
だが、しかしヒッキーはやる気を失っていなかった。
むしろ、燃えていた。
( ^ω^)「......」
(-_-)「......」
その選考の相手に、ブーンがいたからだ。
110
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:53:00 ID:dTRZMDZU0
( ´∀`)「えーではこれより、100mバタフライの選考を始めます」
( ´∀`)「選手は、準備してね」
(-_-)「......」
( ^ω^)「......」
選手たちが、スタート台に着く。
それと同時にプールがシンと静まる。
ピッ!
そして短い笛の音が、都心の屋上から響いた。
それに続くように水の跳ねる音が響く。
25mの狭い世界の、小さな戦いが始まった。
111
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:53:27 ID:dTRZMDZU0
バタフライというのは4つの泳法のなかで最も疲れる泳法である。
一度波になれればかなり早い泳ぎではある。
しかし腕にかかる負担などが半端なく大きいため慣れないと後半になるとバテてしまうことが多い。
そしてバテてしまえばもう、波に乗ることは出来ない。
ただ、もがくことしかできなくなってしまう。
それゆえ、一度リズムを崩すと巻き返すのが難しい。
一度崩れてしまえば、あとはおちていくのみ。
(-_-)(......マイペース、マイペースだ)
だから無理に飛ばしはしない。
短距離とはいえ100mもあるのだ。
無理に飛ばして後半バテてしまえばもう終わりである。
いかに最後まで保てるか。
それが、経験の少ないヒッキーにとって、勝負の分かれ目である。
112
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:53:48 ID:dTRZMDZU0
(-_-)(......っ!)
一瞬、隣のコースの選手が目に入る。
速い。
自分とジリジリと差がつけられているのが分かる。
でも、ここでペースを狂わせるわけにはいかない。
それは自殺行為だ。
自分の力量は自分が一番よくわかっている。
これ以上、ペースを上げることは無理だと言うことは分かっている。
分かっては、いるが。
(-_-)(ブーン!)
その相手が、絶対に負けたくない相手なら別だ。
113
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:54:11 ID:dTRZMDZU0
死んでも、勝ちたい相手。
ここで勝負しないで、いつ勝負すると言うのだ。
腕を回すペースを上げ、キックを強く打つ。
重い水をかき分け、進んでいく。
(;-_-)(腰いてぇならちょっとは遅くなりやがれや!)
だが、差は縮まらない。
離されることはなくなったがそれでも追い付けない。
(;-_-)(もっと、もっとだ!)
ならばもっと、スピードを上げるしかない。
(;-_-)(......)
だが、上がらない。
もう、これがトップスピード。
無理をしても、ここが限界だった。
114
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:54:36 ID:dTRZMDZU0
(;-_-)(ぐっ......)
今スッと、水を撫でた。
先程までの水をかき分けていた手の感触とは異なるもの。
みるみる、泳ぎのスピードが落ちていくのが分かる。
腕が、限界を迎えた。
(;゚_゚)(く......そっ!)
一度落としてしまったスピードを取り戻せる体力などどこにも残されていない。
あとはもう、落ちるだけ。
だが、ブーンは変わらない。
どんどんと、進んでいく。
離され、そして見えなくなる。
そして終わってみれば、結果は惨敗。
誰がどうみても、圧倒的なまでに差がついていた。
115
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:54:58 ID:dTRZMDZU0
(;゚_゚)「ぜぇ......ぜぇ......」
(´・ω・`)「ヒッキー」
(;゚_゚)
(´・ω・`)「その」
(;゚_゚)「......悪い」
(´・ω・`)「あ」
レースが終わり、声をかけるとヒッキーは逃げるようにシャワー室へと向かっていった。
何て声をかければよかったのだろうか。
もしかしたら声をかけるのはそもそも間違いだったかもしれない。
116
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:55:21 ID:dTRZMDZU0
( ´∀`)「次、100m背泳ぎ」
選考会は何事もなかったかのように続いていく。
ヒッキーが負けたことなど、なかったかのように次のレースが開始されていく。
(´・ω・`)「......くっそ」
分かっていた結果だった。
あいつが速いことなんて、分かりきったことだった。
でも、ヒッキーは必死にやって来ていたんだ。
この一年と少しを、サボらずやりきったのだ。
例え分かっていたとしても。
この苛立ちだけは、抑えられなかった。
117
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:55:48 ID:dTRZMDZU0
夏休みに入り、大会が近づいてくると我が高校では一年生に応援の練習をさせる。
行うのは午前練習と午後練習の間の昼休憩。
練習に付いてこれるかどうかというラインの一年が多いのに休憩を潰して行われるそれはまさに地獄である。
勿論、去年僕たちもこれをやった。
あれは地獄としか言いようがない。
夏の日差しが照りつける屋上で、声を枯れるまでだし、そして先輩たちにダメ出しを食らう。
理不尽なことこの上ない。
さらにただでさえ意味のないと思っていることを強制されるのだ。
やる気など起きるはずもない。
118
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:56:09 ID:dTRZMDZU0
しかし、それも去年の話。
今年は逆の立場にいるのだ。
「「「いけいけ!おせおせ!」」」
(´・ω・`)「頑張ってんなぁ」
直射日光を浴び、汗を流し、必死に叫んでいる。
そんな一年の様子を眺めながら昼食を食べる。
あんなに頑張っているやつらがいるなかこうのんびりと食べているのなんか申し訳ない気分になるのはなぜなんだろうか。
応援してるのに気が滅入るとか本末転倒過ぎる。
やっぱり応援って、無駄だよなぁと思いつつ箸を進めていく。
119
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:56:29 ID:dTRZMDZU0
(-_-)「よっ」
(´・ω・`)「ん」
(-_-)「隣いい?」
(´・ω・`)「もち。お前が来なきゃボッチだもん」
(-_-)「おいおい」
(´・ω・`)「にしても遅かったね。何かしてたの?」
(-_-)「ん、えー、まぁ。ほら、俺、その、正選手のさ、その、選考落ちたじゃん?」
(´・ω・`)「......うん」
(-_-)「それでさ、監督にまだ空いてる正選手枠無いか聞いててさ」
(´・ω・`)「そっか」
120
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:56:59 ID:dTRZMDZU0
(-_-)「ま、ダメだったけどさ」
(´・ω・`)「......」
(-_-)「......」
(-_-)「ま、来年もまだあるし。これからこれから!」
(´・ω・`)「......」
(-_-)「あー腹減った!さっ、飯食おうぜ飯!」
(´・ω・`)「......うん」
やっぱり、何て声をかけていいのか分からない。
一番辛かったのはヒッキーのはずだ。
そしてその辛さは僕も知ってる。
でも、だからこそ何て声をかけていいか分からない。
プールにはまだ、誰に向けられるわけでもない、一年の応援する声が聞こえる。
その声は誰も元気付けられず、目の前で落ち込んでる人すら助けられない。
ああ、やっぱり応援なんて無駄じゃないか。
121
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:57:24 ID:dTRZMDZU0
.........
......
...
朝八時。
大会が始まる一時間前。
また今年も決戦の地にやって来た。
(-_-)「ショボン、調子どう?」
(´・ω・`)「んー、まあまあかな」
(-_-)「そっか。あ、ストレッチとかマッサージ、必要なら手伝うよ」
(´・ω・`)「ん、助かる」
ヒッキーの手を借り、体を動かしていく。
軽く動かして、分かった。
今日は調子がいいようで体が軽い。
だがこれならもしかすると、などとは考えない。
そんなもの、去年で懲りている。
変な期待はしない。
正選手だろうとオープンだろうと。
ただ、泳ぐだけである。
122
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:57:45 ID:dTRZMDZU0
(-_-)「......あれ?」
(´・ω・`)「ん?」
(-_-)「あそこ、ギコ先輩じゃね?」
(´・ω・`)「へ?」
(,,゚Д゚)「ん。お!いたいた!」
(´・ω・`)「あ、先輩」
(,,゚Д゚)「よ、ショボン。久しぶりだな」
(´・ω・`)「っす」
123
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:58:06 ID:dTRZMDZU0
先輩はこっちを見つけると、すぐにこちらに近づいてきた。
一応の礼儀として軽く頭を下げ、挨拶をする。
先輩は悪い人じゃないのは分かってる。
けどやっぱり、こんな風に上下関係を気にしなきゃいけないのは苦痛だ。
正直、早く帰ってほしい。
(,,゚Д゚)「お前、個人メドレーをスタ1にしたんだって?ガンばれよー」
(´・ω・`)「あ、うっす」
(,,゚Д゚)「とりあえず......」
(´・ω・`)「?」
124
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:58:27 ID:dTRZMDZU0
(,,゚Д゚)「ほれ、肩の力抜いて」
(´・ω・`)「へ?なに......」
(,,゚Д゚)「ほい」
(;´・ω・`)「あいででででで!!?」
いきなり背後に回ったかと思うと、すぐに肩に激痛が走った。
あまりの痛さに思わず声が出てしまう。
(,,゚Д゚)「んー、やっぱ肩が硬いのか。バッタ、あんまり飛ばしすぎるなよ?この肩じゃすぐ疲れちまう」
(;´・ω・`)「いつつ......」
(,,゚Д゚)「どうだ?」
(;´・ω・`)「どうだって......」
125
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:58:48 ID:dTRZMDZU0
(,,゚Д゚)「肩、少しは動かしやすくなったんじゃないか?」
(;´・ω・`)「へ?......あ」
軽く肩を回すと先程より回しやすくなったような気がする。
さらにさっき感じた激痛は嘘のようになくなっていた。
(´・ω・`)「これ......」
(,,゚Д゚)「最近あんまやってねーって聞いたからな。ま、可動域広げるためのストレッチ?みたいなもんだ」
(´・ω・`)「え、あ」
(,,゚Д゚)b「頑張れよ、応援してっからな!点、稼いでこい!」
(´・ω・`)「......す」
やっぱり悪い人じゃない。
むしろ、いい人だ。
126
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:59:12 ID:dTRZMDZU0
まあ分かっている。
分かってはいるのだが。
この真っ直ぐした視線と期待感と先輩という威圧感。
どうにも慣れない。
(;´・ω・`)(はぁ)
ひとつ、心の中でため息をつき時計を確認する。
まだ会場まで時間があるようだ。
すると先輩がまだストレッチに付き合ってくれるという。
断るわけにもいかず、先輩とストレッチをすることになった。
なってしまった。
ああ、落ち着かない。
なんというか、精神的に疲れてしまった。
127
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:59:34 ID:dTRZMDZU0
精神がすり減り、ボロボロになった頃にようやく大会が開始した。
今年も場内は蒸し暑く、とても居心地が悪い。
先程までの精神的疲労も相まってか、体の調子はいいはずなのにクタクタだった。
(;´・ω・`)「はぁ」
(-_-)「お疲れだね」
(´・ω・`)「ん、まぁ」
(-_-)「気持ちは分かんなくはないけどね。どうする?もうサブプールいく?」
(´・ω・`)「んー......いや、もう少ししてからいくよ」
(-_-)「ん、じゃ、先いってるわ」
(´・ω・`)「おー、いてら」
128
:
名無しさん
:2017/06/21(水) 23:59:56 ID:dTRZMDZU0
ヒッキーを見送り、手元のプログラムで自分の番を確認する。
今年の200m個人メドレーの参加人数は62人。
去年の1500m自由形とは桁違いの参加人数。
こんなの、勝てるわけがない。
期待しなくて、正解だった。
(´・ω・`)「......ん」
ふとプログラムから目をあげるとブーンがサブプールに向かう姿が見えた。
(´・ω・`)(......)
ブーンの姿にふと、去年のことを思い出す。
去年、僕はここであいつに負けた。
ぼろ負けだった。
思い出すだけで、胸の奥から嫌な感情が沸き上がってくるのを感じる。
だが今年は泳ぐ種目が違う。
あいつと僕が戦うことはない。
気にする必要なんてない。
あいつはあいつ、僕は僕なのだ。
129
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:00:16 ID:5qz469kY0
会場にアナウンスが鳴り響く。
そのアナウンスに釣られ、一度プールに目を向ける。
どうやら第一種目が開始するようだ。
うちの高校から選手が出るのか、皆が立ち上がり始め、応援の準備を始める。
ちらりと、ブーンがいた方を見てみる。
だがそこには、もうブーンの姿はなかった。
そして先ほどみたプログラムの内容を思い出し、ひとつため息をつく。
今年もあいつは、変わらないようだ。
130
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:00:39 ID:5qz469kY0
プログラムは順調に進んでいき、気がつけば僕の出番がもうそこまで迫ってきていた。
軽くサブプールで体を動かし、体を水にならす。
緊張はしていなかったつもりだったけど、それでも何となく落ち着かない。
少し泳ぐ度に、メインプールに目を向けてしまう。
(-_-)「お、やっぱりショボンか」
(´・ω・`)「あ、ヒッキー」
(-_-)「これから?」
(´・ω・`)「うん、ヒッキーはダウン?」
(-_-)「そ、まぁもう上がるけど」
(´・ω・`)「あ、そなの。お疲れ」
(-_-)「ん、お疲れ。頑張れよ」
(´・ω・`)「おう」
131
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:01:03 ID:5qz469kY0
短い会話を交わし、ヒッキーを見送り、再びメインプールに目を向ける。
するとどうやら個人メドレーの選手の召集が始まったようで人が集まり始めているのが見えた。
レースの順番的にまだ行くには速い、がここにいても落ち着かない。
先ほどからそわそわしすぎているのが自分でも分かる。
少し気持ちを落ち着けなければと思うがそのためのいいアイディアが浮かばない。
(´・ω・`)「ま、なるようになれ、だな」
まあそんなときは投げ出すに限る。
単に自暴自棄になっているだけだが。
それでも幾分かは気持ちが楽になるのだから不思議なものだ。
132
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:01:25 ID:5qz469kY0
とりあえず、召集場所へと向かうことにしよう。
そう考え、サブプールから上がり体をミニタオルで拭きながら歩く。
ふと周りをみれば僕と同じ、個人メドレーに出るであろう選手が何人もいた。
(´・ω・`)「......」
人が多い。
去年とは比べ物にならない。
倍以上、参加者がいるのだから当たり前ではあるのだが。
実際に目の当たりにするとさらにその多さを実感させられる。
この中からたった16名。
勝者は16名だけなのだ。
去年のあの1500mのときですら、上位にカスリもしなかった僕に可能性なんてなにもない。
133
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:01:46 ID:5qz469kY0
分かりきった負け試合。
泳いでも、泳がなくても結局は変わらない。
(´・ω・`)「......」
それでも僕は今日、ここで泳ぐ。
正選手として、この大会で。
それは部活に入ってしまい、強制的に泳がされているから。
本音で言えば、個人メドレーなんて泳ぎたくないわけだし。
何度も辞めたいって思っていたし、今だって思うことがある。
でも、僕はここにいる理由はそれだけなんだろうか。
それだけじゃ、何となく納得できない。
それにこの落ち着かない感覚。
心の奥にあるこの感覚。
それがなんなのかはよく、分からないけれど。
不思議と嫌な感じはしなかった。
134
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:02:42 ID:5qz469kY0
そわそわしながら待つこと十数分、ようやく僕の名前が呼ばれレース待ちの列に並ぶ。
前を見るとこれから泳ぐ人達がまだ数人いた。
僕の出番はまだ、もう少し先のようだ。
(´・ω・`)「......」
何をするわけでもなく、ただひたすらに自分の出番を待つ。
一組、また一組と僕の前のレースが終わっていくのを眺める。
少しずつ、少しずつ列が前へと進んでいく。
プールへと近づいていく。
前の人達が減っていく。
135
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:03:02 ID:5qz469kY0
「......次のレースの人達はコースに入ってください」
そして、遂にこの時が来た。
2分にも満たない短い戦い。
(´・ω・`)「......っし」
短く息を吐き、頭を切り替える。
周りは見ない。
応援する声も無視する。
ただ、目の前に広がる水を見つめる。
余計なことは考えない。
ただ、泳ぐだけ。
短く、三回笛が鳴った。
その音に僕はスタート台へと向かう。
一際、応援の声が大きくなったが、ピーッ、と再び笛の音が会場内に響き渡ると同時に聞こえなくなった。
136
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:03:24 ID:5qz469kY0
シンと静まり帰った会場。
スタートの合図を待つ。
数秒しかないその時間。
それでもとても長く感じられ、鼓動が早くなる。
『よーい......』
ピッ!
短い笛の音が聞こえたと同時に水の中に飛び込む。
水により外の世界から切り離され、一人きりの戦いが始まった。
137
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:03:51 ID:5qz469kY0
個人メドレーは4泳法を全てを泳ぐというかなり変わった種目である。
そのため、人によってかなり泳ぐペースが異なる。
バタフライが得意な人は序盤から飛ばすし、逆に苦手な人は疲れないように飛ばしすぎないようにする。
こういった風にどの泳法で勝負を仕掛けるのかが異なっているのだ。
勿論、オリンピックの選手ならば、全種目を早く泳ぐことも可能だろう。
だが、勝負をしているのは高校生なのだ。
全種目を早く泳げる選手など、ほんの一握りだろう。
つまり、今この大会において言えば大切なのはいかに自分のペースを乱さないか、得意種目で勝負できるかということである。
だから僕は苦手なバタフライはセーブ気味に泳ぐことにしていた。
序盤戦を捨てる。
体力があるうちに飛ばした方がいいような気もするが後半バテて泳ぐなんて、御免である。
138
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:04:13 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)(マジかよ、はっや)
レース開始から25m。
一度目のターンを終えた頃、隣のコースの選手が離れていくペースがおかしい事に気がついた。
どんどんと離れていくのが分かる。
少し、ペースを落としすぎているのではないか。
もっとあげられるんじゃないか。
(´・ω・`)(......)
だが、ペースは上げない。
そんなことしてもあれには追い付けない。
バタフライが苦手なのは知ってたことだ。
今はいかに疲れないかが重要である。
139
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:04:35 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)(......っ)
ようやく50m。
苦手なバタフライを終え、背泳ぎへと移行。
個人メドレー特有の違う泳法へのターン。
一見地味だがこれがスムーズにいくかいかないかでかなりタイムが変わる。
バタフライや平泳ぎのタッチターンとも、クロールや背泳ぎのクイックターンとも異なるこのターン。
見た目以上に、うまくこれをやるのは難しい。
(;´・ω・`)(やっちまった)
だから、今年からスタイル1を変えたばかりの僕には思うようなターンは出来なかった。
通常、背泳ぎへと移行する際、バサロキックと呼ばれる水中でのバタフライのキックの仰向け版を行い、勢いをつける。
だが、思うように呼吸が続かず、さらにターンの勢いがないせいでかなり失速してしまった。
140
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:04:56 ID:5qz469kY0
ここから巻き返すのは、かなり辛い。
水泳の勝負は波に乗れるかどうか。
そしてその波にいかに乗り続けられるか。
これが全てといっても過言ではないだろう。
(´・ω・`)(......)
だから、勢いを殺してしまったのは致命的である。
少しでも勢いを取り戻せるように、ペースをあげる。
他の競泳者に追い付くために。
しかし、背泳ぎは他の泳法と異なり上を見ながら泳ぐ泳法である。
そのためあまり他の競泳者は見えない。
つまりここでは、周りと僕のとの差が全くわからない。
ただひたすらに天井を見て、泳ぐしかない訳である。
141
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:05:18 ID:5qz469kY0
その事もあってか、僕はかなりペースをあげてしまっていた。
見えないせいで、ここで上げなければ更に離されるのではないかと思ってしまったからである。
更には苦手なバタフライを終えたことで少し、気が緩んでいたのかもしれない。
もうあとには辛い種目はないのだと考え、飛ばしてしまっていた。
(´・ω・`)(......100mっ!)
再びのターン。
今度は意識をしていたためか、スムーズにいく。
先程まで飛ばしていたこともあってか、なかなかの勢いで平泳ぎに突入した。
再び視界が水のなかへと戻ってくる。
ちらりと周りを見てみる。
本当は周りを見るのは泳ぎ的にはフォームが崩れやすいのでよくないのだが、気になってしまうのだから仕方ない。
右に左に、なるべく頭を動かさないように他の泳者を探す。
142
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:06:28 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)(よしっ)
視界の端に、黒い影を捉えた。
あれだけ離されていた隣と並んでいた。
つまりバタフライで離された分を背泳ぎだけで取り返すことに成功したということ。
まだあと100m近くあるが、これは大きい。
隣に人が見えるのは精神的にかなり助かる。
(´・ω・`)(平泳ぎは、速くねーな)
更に幸運なことに、となりのコースの選手は自分より平泳ぎが遅かった。
少しずつだが、離れていくのがわかる。
隣との勝負と言う訳ではないが、それでも勝てるかもしれないというのはかなりモチベーションが高まる。
正直にいうと先程の背泳ぎの飛ばしすぎのせいか、かなり疲れている。
普段ならもうここでペースを落とす頃だ。
143
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:06:49 ID:5qz469kY0
だが、今日は違う。
隣にいる人にこのままいけば勝てるかもしれない。
そんな考えがペースを落とさせない。
(´・ω・`)(ラストっ!)
そしていよいよ、ラストのクロールに突入した。
もう、残っている力を全て注ぎ込み、腕を、足を動かす。
(;´・ω・`)(うっ)
体の疲労が、そろそろ限界に達しようとしていた。
だが、あと、あと50mもない。
あと少し、あと少しだけなんだ。
144
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:07:09 ID:5qz469kY0
(;´・ω・`)(......)
思い出したのは去年の自分。
あのボロボロだった自分。
だがまだ、あんなに苦しくない。
まだ僕は、泳げている。
辛いけど、まだ、まだいけるはず。
(;´・ω・`)(っ!)
ここから何を考えてたとか、さっぱり覚えていない。
ただひたすらに腕を回し、足を動かしていた。
無心だった。
何も考えず、がむしゃらに泳いでいた。
赤い線が見えた。
ラスト5mの合図。
息を止め、最後の力を振り絞る。
あと、もう少しだけ。
苦しくても、力を出しきるんだ。
(;´・ω・`)「っは!」
腕を目一杯伸ばして壁にタッチし、顔をあげ空気を肺に取り込む。
軽く、深呼吸をしながら電光掲示板を見てみる。
145
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:07:30 ID:5qz469kY0
(;´・ω・`)(......あ)
そこにはこのレース内の順位とタイムが表示されていた。
このレースでの順位は、一位。
何度見直しても、そこには僕がトップだった記録が表示されていた。
(;´・ω・`)(......)
別にレース内で一位をとっても意味はない。
全体の順位がよくなければ決勝にはいけないのだから。
だから今回、一位だったのはたまたま組まれたレースが運よく僕が一番速かっただけで。
こんなのは単なる偶然で。
どうせ決勝には出れないのだから意味なんてない。
無い、けれど。
(´・ω・`)「......っし」
心の底からただ、嬉しかった。
146
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:07:51 ID:5qz469kY0
ダウンを行い、観客席へと戻る。
大会もそろそろ終わりに近いこともありみんな疲れた顔をしていた。
特に一年は声だしをやらされてるせいか更に死んでるようにみえる。
確実に泳いでだけではない疲れ具合。
何とも無駄な体力消費だ。
( ´∀`)「ん、お、戻ったの。お疲れ」
(´・ω・`)「え、あ、はい。お疲れ様です」
( ´∀`)「良いタイムだったね。ベスト、だよね?」
(´・ω・`)「っす」
( ´∀`)「そーかそーか。ベストか。おめでとう。今年からstyle1変えてあれなら上々だよ」
147
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:08:11 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)「......」
( ´∀`)「ま、今年は残念だったけどちゃんとタイムはのびてるし、来年こそ決勝に行こうね。モナも出来る限り頑張るよ」
(´・ω・`)「はい」
結局今年も、僕は上位16人のなかに入ることは出来なかった。
順位は26位。
まあ、分かっていたことだしそこまで落ち込むことはないけれど。
(,,゚Д゚)「おっ、ショボン!」
(´・ω・`)「あ、先輩」
(,,-Д゚)「惜しかったなぁ。ターンとか色々つめりゃもっと行けただろ?」
(´・ω・`)「あ、はは」
148
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:08:43 ID:5qz469kY0
(,,゚Д゚)「ほら、ビデオ。来年に繋げるためにしっかり見ろよ!」
(´・ω・`)「......うっす」
(,,゚Д゚)「ほらこことかよく見ろ。ここはこうした方が」
(´・ω・`)「あー」
流石に終わっていきなりこれは気分が滅入る。
勘弁してほしい。
ただそんなことを言えるわけもなく。
(,,゚Д゚)「それでここはだな」
(´・ω・`)「あー」
蒸し暑い中、熱い指導が続く。
多分このとき、僕の顔も後輩と同じくらい死んでいたと思う。
それほどに、苦痛だった。
149
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:09:03 ID:5qz469kY0
先輩の暑い、いや暑苦しい指導は30分近く続いた。
疲れた、本当に疲れた。
泳いで疲れていたところにあれだ。
体も精神ももう限界である。
(-_-)「お疲れ」
(;´・ω・`)「......おー」
(;-_-)「大丈夫か?これから最後のリレーの応援あるけど」
(;´・ω・`)「......死にてぇ」
(;-_-)「ハハハ」
だが後輩が頑張ってるなか、サボる訳にもいかない。
嫌々ながらも応援の準備を始める。
そうしているうちにどうやらプールサイドにリレーの選手たちが出てきたようだ。
150
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:09:35 ID:5qz469kY0
チラリとそちらの方を見てみる。
そこには各学校の代表選手たちが自分達の学校の校旗を広げ、入場していた。
観客席からプールまではそこまで距離はないはずなのに。
とても、とても遠くに感じてしまう。
先程まで、僕もあそこで泳いでいたのに。
まるで、別世界だ。
(´・ω・`)「......」
遠い遠いその世界。
僕にはたどり着けないであろうその世界。
目を閉じ、校旗を掲げる自分を想像する。
そういえば一年前もこんな風な想像をしたことがあった。
確か、正選手の自分を想像したときだ。
そのときはあまりの似合わさに笑ってしまったが。
だが、今は違う。
どんなに似合わない姿でも。
どんなに無理だと分かっていても。
ただその姿に憧れていた。
151
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:09:55 ID:5qz469kY0
.........
......
...
10月。
泳ぎのシーズンは終わりを迎え、今年も水泳部は筋トレ部兼マラソン部へと変貌した。
少しは慣れたと思っていたがやはり辛いものは辛い。
去年に比べればまだましだがそれでもかなりボロボロである。
(;´・ω・`)「うへぇ」
(;-_-)「ふっ!ふっ!ふっ!」
そんな僕に対し、ヒッキーは絶好調のようだ。
大会が終わってからの練習の気合いの入り方が半端じゃない。
今日の筋トレも去年の様子からは想像できないほどの追い込み具合である。
152
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:10:18 ID:5qz469kY0
(;´・ω・`)「ずいぶん飛ばすね」
(;-_-)「んぁ?」
(;´・ω・`)「ペース早くね?」
(;-_-)「おうよ、追い込んでるからな」
(;´・ω・`)「どうしたのよ」
(;-_-)「そりゃお前、来年こそ正選手の枠を勝ち取るためよ!」
(;´・ω・`)「あー」
(;-_-)「来年こそ!あいつを!ぶっ倒す!」
そう宣言するとヒッキーはさらに筋トレの速度を上げる。
汗だくでかなり限界に近いはずなのだがそれでも落とすどころか上げていく。
153
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:10:38 ID:5qz469kY0
(;-_-)「ぜっ......ぜっ......」
(;´・ω・`)「うへぇ」
見てるこちらも辛くなってくるほどである。
僕には絶対真似できない。
というより、やろうとも思わない訳だが。
(;´・ω・`)「......ふぅ」
それでもかなり辛い。
今日の練習を終えた頃には腕も足もパンパンになっていた。
普通にやってもこれなのにさらに追い込んでいたヒッキーは化け物じゃないかと思えてしまう。
(;-_-)「あ、お疲れ」
(;´・ω・`)「おー......あれ、なにそれ」
(;-_-)「んー?あぁ、これ?プロテイン」
(;´・ω・`)「......前から飲んでたっけ?」
(-_-)「んー?いや、最近飲み始めた」
(´・ω・`)「へぇ」
154
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:10:58 ID:5qz469kY0
(-_-)「やれることはやらないとね」
(´・ω・`)「......すっげぇなぁ」
(;-_-)「そうかな?」
(´・ω・`)「うん」
心からそう思う。
だって僕なら、諦めてしまうだろうから。
そんなことをしようとすら、思わないだろう。
負けたら、そのまま。
何も考えずに諦めてきた。
そうやってここまで来た。
(-_-)「まっ、見てろよ!いつかショボンも追い抜いてやるぜ!」
(´・ω・`)「......おう」
155
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:11:18 ID:5qz469kY0
入部したてのときは僕と同じくらいボロボロになってて。
水泳だって初心者で。
正選手になりたくてもなれなくて。
それでも諦めなかった。
僕とは全くの別の生き方。
僕には出来ないその生き方。
(;-_-)「......ココア味まっずぅ」
(´・ω・`)「ははっ」
もしも僕も、そんな生き方ができたら。
そうやって生きてきたのなら。
少しは、変わっていたのだろうか。
あの、あの遠い世界に手が届いたのだろうか。
156
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:11:40 ID:5qz469kY0
12月に入ると筋トレがさらに本格的になり、寒さを忘れるほどに汗をかく。
ここに外部の室内プールでの練習が加わり冬の水泳部の最も辛い時期に突入した。
今年入った一年は一部例外を除き、去年の僕らみたいに死んでいた。
その姿によく僕が去年を乗り越えられたと思う。
(´・ω・`)「......」
そう、僕は乗り越えた。
乗り越えられたんだ。
( ^ω^)「......」
あいつと、違って。
157
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:12:03 ID:5qz469kY0
ブーンのサボりに、もう誰も何も言わなくなっていた。
練習はしないが、部活には来てマネージャー擬きの仕事をしているからだろうか。
でも、練習に参加することはほとんどない。
たまに参加したと思ったら少しだけ参加してすぐにアイシングを始めてしまう。
邪魔なこと、この上ない。
最初の頃は何も知らない一年が世話をしてくれるからかなついていたがいつの間にかそれもなくなっていた。
誰も話しかけず、誰にも話しかけない。
完全に孤立していた。
158
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:12:45 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)「......」
この部活に入ったとき、あいつは僕の上にいた。
確実に、僕たちの代で上位の部類だった。
悔しいけど、才能があると認めざる終えない。
なのに、どうして。
( ^ω^)「......」
(´・ω・`)「......」
あいつに対して何かを言う資格は僕にはない。
僕だってサボってしまったことはあったし辞めたいと何度も思っているから。
それでも僕は納得がいかない。
納得、出来ない。
159
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:13:08 ID:5qz469kY0
だからといってあいつに話しかけようとは思わない。
何を話せばいいかなんて分からないし、変にあいつに関わると今後めんどくさいことになりかねない。
それほど浮いてしまっているのだ、あいつは。
僕の勝てなかった、僕の届かなかった世界にいたはずの男。
その面影はもうどこにもない。
そして12月のとある日。
今日は珍しく、ブーンが練習に参加していた。
さらに今日の練習は外部のプールでの練習であいつが泳ぐのは一体いつぶりのことだろうか。
そして久しぶりに見た、あいつの水着姿は酷いものだった。
サボりにサボり続けた体は、筋肉が落ちダルダルになっていた。
さらにひどいのは顔。
誰がどう見てもやる気を感じられない。
160
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:13:34 ID:5qz469kY0
そして案の定、泳ぎ始めると練習に取り残されていた。
泳ぎの速さ自体は意外なことにも全く問題はなかった。
やはり、あいつには才能があると感じてしまう。
だが、体力が衰えきっていた。
数時間の練習に耐えられる、泳ぎきれる体力は残っていたなかったのだ。
初めは前の方で泳いでいたのに、少しずつ、少しずつと後ろに下がっていき終いには誰よりも遅く、今にも沈みそうな泳ぎでもがいていた。
あれが、あれが僕の勝てなかった男の姿なのか。
心のなかでそう呟く。
勝ちたかった相手だった。
負けて、悔しい思いもした。
そして今、僕はあいつに勝っている。
あいつは僕の遥か後ろにいて、僕はあいつを引き離す。
そう、僕は勝ってしまったんだ、あいつに。
161
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:13:57 ID:5qz469kY0
だが、心はモヤモヤする。
一年の時、あれほど望んでいたはずなのに。
(´・ω・`)(......)
勝ちたかったのに、勝ちたくなかった。
あいつより速くなりたかったのに、僕より遅いあいつを見たくなかった。
もう、訳がわからない。
(´・ω・`)「......ふざけんな」
誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。
相変わらずあいつは後ろの方を泳いでいる。
もがくように泳ぐその姿は酷いものだった。
いつもは練習をしないせいで苛つくのに、練習をしている姿もどうしてこんなに苛立たしいのだろう。
162
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:14:18 ID:5qz469kY0
.........
......
...
年も明け、気がつけば2月。
もうあと半年ほどで引退である。
入部したのがついこの間のように感じるのに、もうあと少しで終わりなのだ。
ようやく、この辛い練習から開放される。
まあそのあと受験が待ち受けているからあまりその日はあまり来て欲しくないのだが。
さて今日はというと、僕はなぜか監督に呼び出されていた。
まさかまたstyle1の変更の話ではないだろう。
もしかして何かをやらかしてしまっただろうか。
前にも同じようなことを考えたなぁと思いつつ、部屋にたどり着く。
軽くノックをし、部屋に入った。
(´・ω・`)「失礼します」
(-_-)「あれ?」
(´・ω・`)「ヒッキー?」
163
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:14:39 ID:5qz469kY0
そこには監督の姿はなく、代わりにヒッキーがいた。
(-_-)「ショボンも呼び出された感じ?」
(´・ω・`)「うん、ってことはヒッキーも?」
(-_-)「うん」
本当に用件が分からなくなってきた。
ヒッキーがいるなら説教とかじゃないと思う。
でも、そうだとすると本当になんの話なんだろうか。
そんなことを考えているとガチャリと扉が開く音がした。
どうやら監督が来たようだ。
( ´∀`)「モナモナ、遅れてごめんモナ」
(-_-)「あ、お疲れ様です」
(´・ω・`)「お疲れ様です」
164
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:15:01 ID:5qz469kY0
( ´∀`)「ん、じゃあさっそく始めよっか」
そういうとごそごそと何かをあさり出す。
しばらくすると一枚の紙を取り出した。
数字が書かれた紙。
なんの紙だろうかと、じっくりと見てみるとどうやら色々な種目の記録のようだが。
( ´∀`)「いやー二人とも最近よく頑張ってるよね」
(;*-_-)「あ、い、いえ」
( ´∀`)「謙遜しなくていいモナ。現にこの調整不足の時期に自己ベストを更新してるんだし」
165
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:15:23 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)「......」
( ´∀`)「それでこれ、見てほしいんだけど」
そういい、差し出されたのは先程取り出した紙。
様々な種目のタイムがかかれているのだがなんのタイムなのかがわからない。
僕の記録ではないようだがなんなのだろうか。
(´・ω・`)「これは?」
( ´∀`)「ん、去年の都校対抗戦記録会のA、B決勝のボーダー記録」
(-_-)「へっ?」
( ´∀`)「見てくれるばわかるんだけど......二人とも」
( ´∀`)「B決勝、狙えるぞ」
166
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:15:44 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)「え......?」
思わず、声が出てしまった。
B決勝に、出れる?
( ´∀`)「流石にすぐに、というのは無理だし毎年ボーダーはかなり変わるから絶対、とはいえないけどね」
心臓が、バクバクいっているのがわかる。
嘘ではないかと疑ってしまう。
でも、これは紛れもなく現実なんだ。
本当に、本当なんだ。
( ´∀`)「去年のボーダーと今の君たちのタイム比べると、ほらあともう少しずつ速くなれれば狙えるよ」
差し出された紙を何度も見直す。
何度見直してもそこに書かれたタイムは確かに僕の自己ベストより少し速いだけのタイム。
夏までの期間を考えれば、普通に辿り着ける可能性は十分にある。
167
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:16:05 ID:5qz469kY0
( ´∀`)「モナ、あとショボンくん」
(´・ω・`)「え?あ、はい」
( ´∀`)「一応なんだけど、自由形でも今年は出るかもしれないから」
(´・ω・`)「え?」
( ´∀`)「君のタイム、自由形でも決勝ラインだからね。もし個人メドレーが危なそうだったらこっちに回ってもらうから」
(´・ω・`)「......」
もう、頭のなかが真っ白だ。
混乱しすぎて何を言われてるのかがよくわからない。
あまりに、今までの僕には関わりのなかった世界の話だから。
168
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:16:26 ID:5qz469kY0
( ´∀`)「まぁうちは自由形の選手が多いから出来たら個人メドレーで出てほしいんだけどね。まぁ、頭の片隅にでも」
(´・ω・`)「......っす」
( ´∀`)「モナモナ、オッケー。お話はこれでおしまい。練習頑張ってね」
(-_-)「うっす!」
(´・ω・`)「はい」
( ´∀`)「ん、じゃあまた部活で」
軽く頭を下げて、部屋から出る。
そして、先程言われたことを思い出す。
B決勝。
僕が、B決勝に。
169
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:16:46 ID:5qz469kY0
(-_-)「......ショボン」
(´・ω・`)「ん?」
(-_-)「頑張ろうな」
(´・ω・`)「おう」
まだ、確実に決まったわけではないけれど。
それでも、手が届くところにそれはある。
後は手を伸ばすし、掴むだけ。
もう、やるしかない。
(´・ω・`)「やってやるか」
(-_-)「だな」
頑張るしかないだろ、こんなの。
170
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:17:26 ID:5qz469kY0
学校の行事もすべて終わり、3月。
また春が近づいてきた。
大会まで、そして引退まであと5ヶ月しか残っていない。
まだ引退まで長いはずなのに、こうしてみるととても短いように思えてしまう。
さて、春が近づいてきたといってもまだまだ外では泳ぐことの出来ない時期。
相変わらずの筋トレ地獄である。
気分はがた落ちし、嫌々部活に向かう。
頑張るとは意気込んだし今もまあいつもに比べればやる気はあるもののやはり僕は僕。
そう簡単に変われるものではない。
171
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:17:46 ID:5qz469kY0
寒空の下。
都会の屋上で今日も練習が始まった。
相変わらず見ただけでイヤになるようなメニューのラインナップがホワイトボードに書き出されていた。
今日はどうやら各自でメニューをやるようで皆でまとまって、と言うわけではないようだ。
となると、いつもなら適当にメニューを流すのだがそうもいかない。
決意して少ししか経っていないに辞めるのは流石に気が引ける。
まあそれに、やる気が有るときくらい頑張ってみようかなとも思う。
そんなこんなで誰に聞かせるわけでもなく変な言い訳を自分にしながら練習を始める。
まあどうせ途中で辛くなっていつも通りに戻るだろうと思っていた。
172
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:18:07 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)(......?)
だが去年までの辛さはどこにもない。
メニューの量は変わってないどころか上級生向けになったはずなのに。
昔できなかったメニューを、普通にこなすことができている。
あれだけ無理だとか、辞めたいとか思っていたのに。
この2年で成長していたことを改めて実感する。
練習を全て終え、時間が余ったのでフォームの確認のために鏡の前に立ってみる。
そこに写っていたのは僕の知らない僕。
細かった腕には筋肉がつき、やる気のなかった顔はほんの少しだけ引き締まっている。
僕は、僕がこんなにも変わっているなんて知らなかった。
そしてそんな姿を見てか、鏡の中の僕は少しだけ嬉しそうに笑っていた。
173
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:18:29 ID:5qz469kY0
( ´∀`)「はい、ということで新入生が入ってくる前に皆さんの力試しと言うことで記録会に参加することになりました」
そんなある日、年度の締めとして小さな記録会に参加することになった。
特に名前がある大会でもないし、上に繋がるものでもない。
本当に小さな記録会である。
参加するのは一人二種目とのことだが、とりあえず僕のメイン種目である200m個人メドレーは確定だとしてもうひとつは何にしようか。
やはり、監督にも言われたことだし自由形を泳ごうか。
そんなことを考えていると監督が近づき話しかけてきた。
( ´∀`)「ショボンくん、ショボンくん」
(´・ω・`)「あ、はい」
174
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:18:49 ID:5qz469kY0
( ´∀`)「記録会の種目なんだけどね、君、個人メドレーとバタフライね」
(´・ω・`)「えっ」
( ´∀`)「苦手なんだからちゃんと練習しないと。じゃ、頑張ってね」
(´・ω・`)
まあどうせ自由形であろうと考えていたところにまさかの死刑宣告。
よりによって苦手種目をやらされると思ってなかった。
この前のミーティングのこともあるし自由形だと思ってただけにダメージがでかい。
175
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:19:10 ID:5qz469kY0
(-_-)「お、ショボンもバタフライなんだ」
(´・ω・`)「聞いてたのか......ヒッキーは、まぁ聞くまでもないか」
(-_-)「おう、バッタだよ。俺のstyle 1だからな、負けねーからな!というか勝つ!」
(´・ω・`)「うひぃ」
暑い、なんとも暑すぎる。
僕なんか相手にこんなに燃えられても困る。
そもそも僕がヒッキーに現時点で勝てるかどうか分からない、というか危ない気もする。
176
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:19:30 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)「はぁ」
(-_-)「頑張ろうなっ!」
(´・ω・`)「......おう」
小さな記録会で頑張っても意味ないとかstyle 1 でもない種目で勝負しても意味ないとか勝てる気がしないとか。
思うことは沢山ある。
けれど、そんなことをいっても仕方ない。
そんなことを考えるのも面倒である。
嫌でも、もう最後なんだし頑張ってみようか。
そう思うと、心が一気に軽くなる。
心が軽くなりそして。
(´・ω・`)(......僕らしくないな)
不思議なことに記録会が待ち遠しく感じられた。
177
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:19:50 ID:5qz469kY0
それから記録会までの数日間。
僕の練習はバタフライが中心のメニューとなった。
(;´・ω・`)(つら......)
苦手な種目を中心にやるのはやはり辛い。
それに加えバタフライは疲れやすい種目である。
この相乗効果でさらに辛さは加速していく。
でも、やめようとは思わない。
いや、やめるわけにはいかないと言うべきだろうか。
(-_-)
同じメニューを、ヒッキーがこなしているのだ。
178
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:20:10 ID:5qz469kY0
そんななか僕が離脱するわけにはいかない。
だけど。
(;´・ω・`)(......すげぇ)
改めてそう感じた。
バタフライ中心のメニューに慣れていないとはいえ今やっている練習はかなり辛い。
だからバタフライを数時間、数百、数千メートル泳ぐのはかなり難しいはずである。
しかし、ヒッキーの泳ぎの速度は落ちない。
どんどんと進んでいく。
一年の頃のあいつの面影はどこにもない。
そこにいるのは一人の水泳選手。
179
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:20:31 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)「......」
泳げば泳ぐほどに差は開いていく。
力の差を感じてしまうほどに。
だがこれは当たり前のこと。
ヒッキーはバタフライがstyle 1 でずっと泳いできたのだ。
そして僕はバタフライが苦手でさらにstyle 1 でもない。
だから、負けても仕方ない。
仕方ないことなんだ。
そう思う。
思うけれど。
それと同時に胸の奥から何かが沸き上がってくる。
だけどそれがなんなのかを考える暇はない。
今はただ、練習に集中しなければ。
180
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:20:51 ID:5qz469kY0
( ´∀`)「モナ、ショボンくん遅れてるよ!」
(;´・ω・`)「うへぇ」
余計なことを考えすぎたようだ。
気がつくと練習から遅れていた。
ただでさえ辛いのに速度を上げなくてはいけなくなってしまった。
( ´∀`)「はい、ゴー」
(;´・ω・`)「......はあ」
もう文句を考える余裕もない。
やるしかないのだ。
(;´・ω・`)(......頑張ろう)
記録会まであと数日。
別に気合いをいれるような大きな大会ではない。
それでも、僕に出来ることはやっておこう。
181
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:21:11 ID:5qz469kY0
.........
......
...
記録会当日。
会場につくとあることに気がついた。
小さな記録会のためか、参加者はかなり少ないようだ。
そのためそれぞれの種目の参加者も少なく、かなりレース数が少ない。
だから、想像できなかったことではなかった。
こうなる可能性を考えてなかったわけではなかった。
(-_-)「まっさか本当に勝負になっちまうなんてな」
(´・ω・`)「だな」
ヒッキーとの直接対決。
しかもコースもご丁寧に隣。
もはや仕組まれてたのかと思うほどである。
182
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:21:31 ID:5qz469kY0
(-_-)「へへっ」
(´・ω・`)「ん?」
(-_-)「負けねぇからな?」
(´・ω・`)「......」
不得意な種目での勝負。
だから負けても仕方ない。
だってヒッキーはすごいやつだから。
僕にはできないことを出来る。
そして、僕より短い時間でここまで成長してきた。
才能、なんだろう。
僕にはないものを持ってる。
だから、しょうがない。
そう思う。
それで納得する。
いつものように、いいわけをする。
そうやって僕を納得させようとする。
183
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:21:53 ID:5qz469kY0
でも。
でも、納得しきれない。
これでもずっと水泳を続けてきたのだ。
これでも僕もこの2年で成長していたのだ。
負けるわけにはいかない。
そんな感情が沸き上がってくる。
ヒッキーが頑張ってきたのは知っている。
でも、僕だって。
僕だってやってきたんだ。
逃げることもあったけど。
それでも、僕はやってきたんだ。
だから、負けたくない。
そう、負けたくない。
僕は、負けたくないんだ。
心の奥から声が聞こえる。
負けたくない、負けたくないと。
それはつまり、どう言うことなのか。
184
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:22:14 ID:5qz469kY0
去年の都高対抗戦記録会。
僕はレースで一位をとった。
嬉しかった。
心の底から。
ただひたすらに、嬉しかった。
(-_-)「ぜってぇ負けねぇ」
(´・ω・`)「おぅ」
ヒッキーと小さく笑いあい、そしてコースへと向かう。
ドクンドクンと、心臓の音が聞こえる。
でも、緊張してるわけではない。
体は軽いし、やる気も十分。
体が熱い。
だけどそれは不快ではなく、むしろ心地いい。
185
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:22:36 ID:5qz469kY0
ドクンドクン。
心臓の音が止まらない。
寒いわけでも、怖いわけでもないのに体が震える。
今まで感じたことのない感覚。
これは、何だろう。
スタート台に立ち、合図を待つ。
とても短い時間のはずなのに。
とても、とても長く感じる。
あんだけ嫌だと思っていたのに。
早く、水の中へ飛び込みたい。
泳ぎたいんだ。
ただ、ひたすらに泳ぎたい。
泳ぎなんて好きじゃなかったはずなのに。
水に飛び込むそのときが、待ち遠しかった。
186
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:22:56 ID:5qz469kY0
短く笛が3回吹かれた。
ついに、このときが来た。
息を大きく吸い、そして吐き出す。
緊張はしてない。
体もリラックスしている。
そして、早く泳ぎたいと思うこの気持ち。
スタート台に立ち、そして小さく笑う。
最高の気分だった。
『よーい』
その声にシンと静まり返る。
とても短い、空白の時間。
この時間すら長く感じる。
ただ、水面を見つめる。
キラキラと光る、水面。
何も考えずに。
飛び込むその一点を見つめる。
とてつもなく長く感じられたその時間。
はやく、はやく、はやく。
笛よ、鳴ってくれ。
187
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:23:16 ID:5qz469kY0
......
......
ピッ!
笛の音がプールに響いた。
その音が僕の耳に届くと同時に水の中へと飛び込む。
僕とヒッキーの小さな勝負が始まった。
ひとつ、ふたつ、みっつとドロフィンキックをうち、水の中を進んでいく。
バタフライは疲れる泳ぎだ。
こういう、水中での動作が勝負を分けると言える。
そしてこういう細かい動作は練習の有無がものを言う。
(´・ω・`)(......まぁそうなるよな)
序盤、飛び込みから浮き上がりまででヒッキーにほんの少しだがリードされる。
やはり苦手だからとやらなかった僕より練習を続けてきたヒッキーの方がこういうところは速い。
188
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:23:36 ID:5qz469kY0
まあ、分かっていたことだ。
ここまでは予想通り。
むしろ少ししか離されてないのだから上出来だ。
勝負はここから。
(´・ω・`)(一気にいく!)
練習の時の様子からヒッキーが後半、バテて落ちることはないだろう。
確実にヒッキーは後半に強いタイプだ。
対し僕はどう頑張ってもバテる。
体が固いからか泳法が悪いのかなんなのか、理由は分からないけどバテるのは確実だ。
ならどうするか。
簡単だ。
序盤で引き離すしかない。
(´・ω・`)(......っ)
普段の個人メドレーの時のバタフライとは比べ物にならないほどペースを上げる。
後のことは考えない。
とにかく今、今だけでも速く。
腕を回し、腰を動かす。
189
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:23:59 ID:5qz469kY0
ヒッキーとの差はみるみる縮まりそして。
(´・ω・`)(......っしゃ)
最初のターンを行うときには追い越していた。
だがまだ勝負は序盤。
問題はここから。
いかにこのペースを、このリードを守れるか。
はっきりいってオーバーペースだ。
早ければ次のターン、レースの半分が終わった辺りにはバテる。
そのくらいの、無茶なペース。
バテて抜かれてしまえばそれまで。
もう勝ち目はないしその後泳ぎきるのすら地獄だ。
疲れきったときに泳ぐバタフライほど嫌なものはない。
190
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:24:20 ID:5qz469kY0
(´・ω・`)(......)
だが、ペースは落とさない。
落とせない。
驚いたことにヒッキーが食らいついてきていた。
このペースなら引き離せると思っていたのに。
ヒッキーは、こんなにも速くなっていたのか。
(´・ω・`)(まだだ......)
でも、そう簡単に抜かれるわけにもいかない。
ここで抜かれたら、もう体力的にも精神的にも勝ち目はなくなる。
そして、出来るならもっと、もっと距離を離したい。
この程度のリードでは、後半に強いヒッキーの射程圏内。
191
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:24:40 ID:5qz469kY0
ならば。
(´・ω・`)(っ!)
さらに水を強くかく。
今まで感じたことのないほどの水の重みを感じる。
疲労感が一気に高まっていく。
完全に、無理をしている。
だが、速度は上がった。
勢いに乗れている。
ここだ。
ここしかない。
ここで、ここで離すしかない。
最初で最後のチャンス。
(´・ω・`)(いっけ!)
二回目のターンをし、引き離しにかかる。
ターンで勢いは死んでいない。
ターンがうまくいった証拠だ。
192
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:25:01 ID:5qz469kY0
いける。
上手くいっている。
上手くいきすぎている。
(´・ω・`)(......離れたな)
ヒッキーとの差ははっきりわかる程度には大きくなっていた。
勝負は中盤。
ここでリードできているのは大きい。
後は僕の体力とヒッキーの追い上げ次第。
やれることはやった。
後はもう、運任せだ。
193
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:25:22 ID:5qz469kY0
(;´・ω・`)(......ぐ)
最後のターンの手前。
遂に限界を迎えた。
予想よりは持った方ではあるがそれでもまだゴールまでには距離はある。
そしてヒッキーとの差は、小さい。
(;´・ω・`)(あー、もう)
勢いを失い、泳ぎが雑になっていく。
体から力が抜けていく。
タイミングが悪い。
このタイミングでターンは不味い。
ただでさえ勢いを失っているのに。
(;´・ω・`)(......やべぇ)
予想通り、勢いを無くしすぎた泳ぎではターンなんか上手くいかない。
さらに勢いが奪われ、泳ぎが遅くなる。
対しヒッキーは落ちない。
確実に、そして丁寧に泳いでいく。
バタフライ一筋に打ち込んできた、そして練習で後半まで耐えられるようにしてきたヒッキーだから出来る泳ぎ。
初心者で、遅くて。
ブーンのことを遠い存在だといっていたヒッキー。
でも、今は違う。
ヒッキーはすぐそこまで迫ってきていた。
194
:
名無しさん
:2017/06/22(木) 00:25:44 ID:5qz469kY0
だが、負けられない。
負けたくない。
力が入らなくなった腕を無理矢理回す。
スピードは上がらない。
でも、落ちもしない。
これでいい。
あとはゴールするだけなのだから。
このリードを守り、ゴールするだけ。
たった、それだけ。
残り、15m。
ヒッキーはもうすぐそこにいる。
じわりじわりと詰めてくる。
そしてこちらは限界ギリギリ。
もう、最後まで持つことを祈るしかない。
残り10m。
まだ、まだいけるはず。
体はもう、ボロボロだけど。
それでもまだ、泳げる。
リードはもう、ほぼない。
残り5m。
赤いラインが見えた。
ラストの合図。
がむしゃらに泳ぐ。
コンマ一秒でも速くゴールするために。
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