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(´・ω・`)紺色の記憶のようです
1
:
最初の方は再投下
:2017/06/21(水) 00:01:00 ID:dTRZMDZU0
人付き合いは得意な方ではなかった。
不得意、というわけではないが話すのは好きではないのは確かだろう。
いつからこんな風になったかは覚えていない。
ただ、ひとつわかるのは僕と言う存在は周りから見るとコミュ障というやつに見えるだろうということ。
まあ別に、そんなことどうでもいいのだが。
本当に何時からだろうか、僕がこんな性格になったのは。
覚えてはいないがとりあえず中学校三年間、特に周りと関わることなく生きてきたのは確かだ。
周りからは真面目なやつと言われたがそうではない。
ただ周りの遊びに付き合う位なら勉強した方がマシとなんの目的もなく勉強をしていたからだ。
そのお陰か、高校受験は特に問題なく自分の行きたいところに入った。
母親は泣いて喜んだが僕にはなんの感動もなかった。
むしろまたどうせ、中学のときと変わらない、下らない三年間を過ごすのかと少しうんざりしてたくらいだ。
でも違った。
都心の中心にある、6階建のコンクリート製の校舎。
屋上から聞こえる人の声と水の音。
僕はここで、忘れられない青春を過ごすことになる。
246
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:16:56 ID:myDS9uw60
こうして、最後の夏、最後の大会が始まった。
大会が始まるとすぐ、応援席は見慣れた光景となっていた。
まあ、当たり前か。
蒸し暑いなか、大声で応援していれば、誰だって死ぬ。
慣れてなければより、だ。
今年もいつも通りと言うべきか、応援で力尽きるものがちらほら見える。
そして、またこれもいつも通りと言うべきなのかなんなのか。
どこを見渡してもある男の姿が見つからない。
そいつの種目はまだまだ先だと言うのに。
まあ、つまりなんと言うか。
まさに、いつも通りと言うことだろう。
247
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:17:25 ID:myDS9uw60
先ほど先輩に手渡されたプログラムに目を落とす。
僕の出番はもう少し先。
さて、それまで何をしようかと悩んでいると、ヒッキーが立ち上がるのが見えた。
(-_-)「......」
(´・ω・`)「ん?ヒッキー?アップ?」
(-_-)「え、あ、うん」
(´・ω・`)「まだ早くないか?」
(-_-)「......なんか落ち着かなくて」
(´・ω・`)「......そっか」
248
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:17:47 ID:myDS9uw60
(-_-)「......個ンメ今年、激戦らしいじゃん」
(´・ω・`)「ん、残念ながらね。そっちは?」
(-_-)「例年通りかな......ま、今までの自己ベじゃキツいのには代わりないけど」
(´・ω・`)「......頑張れよ」
(-_-)「そっちもな」
小さく笑いあう。
緊張しているのか、とてもひきつった笑顔だ。
多分、お互いに分かってるんだ。
勝つ確率が、限りなく低いことは。
249
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:18:12 ID:myDS9uw60
でも、期待してしまう。
あれだけ頑張ったヒッキーならそれも乗り越えてしまうのではないかと。
勝ってもおかしくない、いや、勝たないとおかしいと思ってしまう。
ヒッキーは、誰よりも頑張ってきたんだから。
(´・ω・`)(......)
なら、僕はどうだ?
僕は、頑張ってきたのだろうか。
皆に、勝ってもおかしくないと思われるくらいに、なれたのだろうか。
250
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:18:33 ID:myDS9uw60
それから何人かの応援を適当に流しつつ、僕の出番を待つ。
まだ時間はあるのだが、なんだか落ち着かない。
多分、ヒッキーも同じ気持ちだったのだろう。
僕もヒッキーにならって早めにアップに向かおうかどうか悩んでいると、大会のプログラムはバタフライに突入していた。
(´・ω・`)「......っと」
一瞬、アップに向かおうとしていた体を抑え、席にもどる。
これだけ、この種目だけは見ておきたい。
いや種目というより、ヒッキーをだが。
他の人のレースはどうでも良かったが、このレースだけは、見ておきたい。
251
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:19:20 ID:myDS9uw60
「......続いて第9レース、第一コース ヒッキー君 ○○高校」
ヒッキーのレースは9レース目、最後から三番目のレース。
つまり、状況は全く僕と同じのようだ。
(-_-)「......」
試合前の最後のストレッチか、大きく腕を回す。
その動きに、固さはない。
遠くからで顔は良くは見えないが、どうやらもう緊張はしてないらしい。
(´・ω・`)「......頑張れぇ!」
気がつくと、僕はヒッキーを応援していた。
今までで一番、大きな声で。
これまで意味ないとか散々思ってきたが、声を出さずにはいられなかった。
声が届いてるかは分からないけど。
出せる限りの声を出す。
心から、応援する。
速く、速く、速く、と。
勝て、勝て、勝て、と
252
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:19:42 ID:myDS9uw60
溢れてくる言葉をそのまま、声に出す。
喉が痛いとかそんなこと、気にならない。
そして、その応援を遮るように、笛が短く鳴らされる。
いよいよ、始まるのだ。
「よーい......」
その声に、先ほどの応援が嘘のように静まりかえる。
たった1秒くらいの、短い静寂。
勝負前の緊張感が漂う、世界で一番長い1秒。
誰もが息をのみ、その時を待つ。
......ピッ!
会場に電子的な音がなり響き、続いて水に飛び込む音が響く。
戦いが、始まった。
253
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:20:04 ID:myDS9uw60
出だしは皆、並んでいた。
飛び込みから浮き上がりに至るまで、誰一人として遅れることなく、並ぶ。
ヒッキーも例外なく、皆がほぼ、同じ速さであった。
そして、その後の泳ぎでも、差は生まれない。
まるで皆がシンクロしているかのように、並んでいた。
負けていない。
高校から水泳を初めたヒッキーが。
決勝に近い選手たちと肩を並べ、泳いでいる。
彼が3年前まで、初心者だったことなど、その泳ぎを見て分かる者はいないだろう。
それくらいに、その泳ぎはお手本のようにキレイで。
そして、速い。
254
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:20:25 ID:myDS9uw60
だがそれでも、並んでは、ダメ。
決勝に出るためには、勝たなくてはいけない。
だが、25mの折り返しに入っても、差はつかない。
ラップタイムは自己ベストを上回る好ペース。
だが、無理をしているようには見えない。
つまり、最高の泳ぎ。
だが、それでも。
周りに勝つまでには至らない。
しかし負けるわけでもなく、ただ、並ぶ。
何とももどかしい時間が、続いてく。
(#´・ω・`)「勝てぇ!!」
そのもどかしさのせいなのか、気がつけば叫んでいた。
だが、その叫びでヒッキーが速くなることも、周りが遅くなることもない。
無駄なことは分かってる。
でも、このもどかしさ。
叫ばずには、いられない。
255
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:21:07 ID:myDS9uw60
8人、誰一人として欠けることなく50mが終わる。
レースは中盤。
疲れやすいバタフライ。
体力の差が出てくる頃。
(;´・ω・`)「っ!」
ついに、均衡が破られた。
最初に脱落したのは第八コース。
ターン前に力尽きたのか、ターン後、浮き上がりから遅れ出す。
そして、それに釣られるかのように、レースは動き出す。
また一人、また一人と遅くなり、トップと離れていく。
256
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:21:29 ID:myDS9uw60
(;´・ω・`)「......」
そんななか、ヒッキーは食らい付いていた。
ほんの少し、トップの方が速いが、それでもその泳ぎに付いていっている。
でも、それじゃあダメだ。
勝て、勝たないと。
抜かないと。
トップじゃないと。
まだあと、2レース。
16人も、いるのだ。
それも、どいつも速い。
ここで負けてたらもう、可能性なんて、ほぼ0だ。
頼む、頼むから。
どうか、ヒッキーを。
勝たせてくれ。
神様とか、仏様とか。
もう誰でもいいから。
あんなに、頑張ってたんだ。
誰よりも遅かったのに、誰よりも努力した。
だからもう、いいじゃないか。
だって、これで勝てないなら。
もう、どうしようもないじゃないか。
257
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:23:36 ID:myDS9uw60
(;´・ω・`)「あっ......」
だが、その祈りは届かない。
ヒッキーは決して、後半に落ちるタイプじゃない。
むしろ、後半に強いタイプ。
だというのに、ズルズルとトップ集団から離される。
ここからでも、必死に泳いでいるのが伝わってくる。
だが、それでも。
ヒッキーは、そこまでだった。
一度ついた差は縮まることはなく。
それどころか広まっていき。
気づいたときにはレースはそのまま、終わりを迎えた。
258
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:23:58 ID:myDS9uw60
電光掲示板に表示されたタイムは、ベストタイムだった。
ヒッキーが泳いできた中でもっとも、いい泳ぎをした証。
僕なんかではもう、決して勝てない位に速い。
だが、そのタイムでは。
このタイムでは、夢を掴めない。
ベストなのに、最悪なタイム。
(;´・ω・`)「......」
僕は居ても立ってもいられなくなり、急いでサブプールへ向かう。
ヒッキーに、一秒でも早く会うために。
会ってどうするとかは全く分からない。
ただ、気がつけば体がそこへ、向かっていた。
259
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:24:30 ID:myDS9uw60
サブプールへ着くとメインプールから歓声が上がった。
どうやら、プールへ向かう間にバタフライのレースが終わったらしい。
ちらりと電光掲示板に目を向けるとそこには決勝へ進む、16人の名前が出ていた。
(´・ω・`)「......」
何度見ても、そこには、名前がなかった。
あのレースの結果を見て、分かりきったことだったが、それでも受け入れられない。
だって、あんなにも、あんなにも努力をしてきたやつが認められないなんて。
そんなは絶対に、おかしいじゃないか。
(-_-)「......あ」
(´・ω・`)「......あ」
視線を戻すと、そこにはヒッキーがいた。
ヒッキーに会いに来た訳だから喜べばいいのだが、生憎、何も考えずに来てしまったせいで何を言っていいか全く分からない。
260
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:24:51 ID:myDS9uw60
頑張ったねと努力を称えるべきか、それとも残念だったねと慰めるべきなのか。
はたまた両方間違いなのか。
全く分からない。
なんて言葉をかければいいのか、分からない。
(´・ω・`)「......ヒッキー、あのさ、その」
(-_-)「......へへっ」
(´・ω・`)「え?」
どうしても言葉が見つからず、どうにかして声を出そうとしたその時、ヒッキーの笑い声が聞こえた。
一瞬、聞き間違いかと思ったが、すぐに聞き間違いなどではないことがわかった。
理由は簡単。
顔が、笑っていたから。
261
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:25:12 ID:myDS9uw60
(*-_-)「おい、見たかよ俺の泳ぎ!」
(´・ω・`)「え、あ、あぁ」
(*-_-)「俺さ!A決勝へ出たやつと75位までさ、並んで泳いでたぜ!?ヤバくないか!?」
(´・ω・`)「そ、そうなの?」
(*-_-)「ああ!ほら、一番早かったやつ!ギリギリA決勝ラインだったっぽくってさ!今年はA決勝B決勝接戦だったみたいでよ!」
(´・ω・`)「......ヒッキー」
空元気、なのだろうか。
いやでも、本当に笑っているようにも見える。
だが、もしそうなら、理由が分からない。
どうして、笑っているんだろうか。
262
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:25:44 ID:myDS9uw60
(-_-)「決勝へは出れなかったけどよ、初心者だった俺がさ、ここまで泳げるようになるなんて思わなかったよ」
(´・ω・`)「......だな。僕より速いしな」
(-_-)「バタフライ限定だけどな。でも......嬉しいわ」
(´・ω・`)「え?」
(-_-)「レースには負けちまったけどさ。最後に最高の泳ぎもできて、はえーやつと肩並べてさ......負けたのは悔しいし、泣きてーけど......楽しかったよ。俺でも頑張ればここまでやれるんだって」
(´・ω・`)「......」
(-_-)「俺はもう、やれることやって満足したよ。だから、さ」
263
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:26:08 ID:myDS9uw60
(-_-)「勝つのは、任せたぜ」
.
264
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:26:30 ID:myDS9uw60
.........
......
...
(´・ω・`)「......」
サブプールで一人、アップをしながら先ほどのことを思い出す。
勝つのは任せた、とヒッキーに言われたことを。
(´・ω・`)(......)
思い出す度に、心臓の鼓動が早くなる。
体が、熱くなる。
勝てるのだろうか、僕は。
相手は、強い。
誰よりも頑張ったヒッキーが越えられなかった壁。
それを僕が、僕なんかが乗り越えられるのか。
265
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:26:54 ID:myDS9uw60
勝つことを、諦めたわけじゃない。
今日が始まってから僕はずっと、勝ちたいと思ってきていた。
だから、ヒッキーに言われるまでもなく、勝ちたいと思っていた。
だがそれでも。
いざ試合が近づくと、不安がまるで体を蝕むように固くする。
(;´・ω・`)「......ダメだ」
このままでは泳ぐどころではないとプールから上がる。
まずはこの体を解さなくては。
そう考え、ストレッチを行うべく、ストレッチように作られたスペースへと向かう。
一人でやれるストレッチはたかがしれている。
できたら誰かの手を借りたいところ。
もしかしたら誰かいるかもと辺りを見渡してみる。
266
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:27:31 ID:myDS9uw60
(´・ω・`)「......あ」
そして、一人見つけた。
よく見知った男の顔だ。
確かに考えてみればあいつがいるとすればここだった。
応援席におらず、泳ぐ気もないのなら。
ここ以上に最適な場所はない。
僕たちの学校のストレッチスペース。
横になってもいいようにとしかれたマットの上。
そこの上に寝そべる一人の男。
ブーンがそこにいた。
さて、どうしたものかと考える。
他には人もいない。
だが、あいつに頼めるわけもない。
どうせ頼んだところでやってくれないだろうし。
そもそも場所的にあいつがいない他のところでストレッチをした方がマシかもしれない。
267
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:28:02 ID:myDS9uw60
ならばと体を翻し、他の場所へ向かおうとしたその時。
( ^ω^)「......なぁ」
(´・ω・`)「え?」
あいつから、話しかけてきた。
いつ以来だろうか。
ブーンに話しかけられるのは。
全く、検討もつかない。
それくらいに、昔のことだ。
そんなやつが、一体。
(´・ω・`)「......なんだよ」
( ^ω^)「ストレッチだろ?」
(´・ω・`)「......まぁ、そうだけど。それが?」
( ^ω^)「......こいよ」
(´・ω・`)「は?」
268
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:28:22 ID:myDS9uw60
( ^ω^)「ほら、ここ」
(´・ω・`)「え?」
ブーンがマットを指差し、僕を呼ぶ。
一瞬思考が固まり、何をしてるのか分からなかった。
その行動があまりに意外すぎたから。
だって、まさかこいつが。
( ^ω^)「ついでにマッサージもしてやるお」
自分から、くるだなんて思ってもみなかったから。
269
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:29:01 ID:myDS9uw60
( ^ω^)「......だいぶ、凝ってるおね」
(´・ω・`)「......まぁ」
結局僕は、こいつのストレッチを受けることにした。
だが受けてみると意外と、上手い。
流石は練習せずに、マネージャーの仕事の手伝いをしていただけのことはある。
( ^ω^)「......緊張してるのかお?」
(´・ω・`)「......」
( ^ω^)「......」
ブーンが僕に質問してくる。
だが、そんなものに答える気はない。
270
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:29:36 ID:myDS9uw60
( ^ω^)「......」
(´・ω・`)「......」
( ^ω^)「......僕たちさ」
(´・ω・`)「......?」
( ^ω^)「ライバル、だったおね」
(´・ω・`)「......」
( ^ω^)「今でも、僕はそう思ってるお」
(´・ω・`)(......ライバル、か)
271
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:29:56 ID:myDS9uw60
そういえば入部したとき、そんなことを言っていた気がする。
一方的に決められただけだけど。
でも、確かに言われてみるとこの三年間、ずっとこいつと争っていたような気がする。
こいつに勝つために、泳いでいた気がする。
こいつを目標に、泳いでいた気がする。
知らぬ間に、本当にライバルになっていたんだ。
(´・ω・`)「......僕にぼろ負けだったけどね」
だが、それを認めるのはなんかイヤで。
つい、そんなことを言ってしまった。
272
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:30:28 ID:myDS9uw60
( ^ω^)「おっおっお、そうだお。ぼろ負けだったおね」
(´・ω・`)「......」
( ^ω^)「......僕を、負かしたんだお」
声が、震えていた。
うつ伏せの僕には、ブーンの顔が見えない。
だけど、わかる。
(´・ω・`)「泣いてるのかよ」
( ω )「......う、うるせぇお!」
(´・ω・`)「......」
( ω )「......ぜってぇ」
(´・ω・`)「?」
( ω )「......ぜってぇ勝てお。負けるなお」
273
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:30:53 ID:myDS9uw60
マッサージの力が強くなる。
こいつは今、何を考えてるのか。
元からこいつのことはよく分からない。
だけど、分かることがひとつ、増えた。
こいつも、僕と同じだ。
負けたら悔しいし、本当は、勝ちたかったんだ。
( ω )「......勝てお......ぜってぇ」
(´・ω・`)「......お前に言われなくても、勝つつもりだったよ」
( ω )「......」
(´・ω・`)「......ストレッチ、ありがとな」
そういい、立ち上がる。
決してブーンの方は見ない。
多分、あいつも、見てほしくないだろうから。
274
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:31:16 ID:myDS9uw60
後ろは見ず、メインプールへと向かっていく。
目指すは戦場。
僕の、最後の泳ぎをする舞台へ。
(´・ω・`)(......あれ?)
そしてその途中、あることに気がつく。
肩が、軽い。
先ほどまであれほどガチガチだったのが信じられないほどである。
肩だけではなく、全身至るところが軽い。
(´・ω・`)(......サンキュー)
声には出さず、心の中で感謝する。
声に出すのは、少し、恥ずかしいから。
あいつに感謝の言葉を言うのは何となく、嫌だから。
でも、心の中では深く、深く感謝する。
あいつのおかげで、戦えそうだ。
275
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:31:59 ID:myDS9uw60
足取りは軽い。
体はいい感じに出来上がっている。
気分も上々。
いける。
勝てる。
やれる。
泳げる。
自信が、みなぎってくる。
決戦まであと、30分程度だろうか。
緊張はもちろんしている。
だが、その緊張が、心地よい。
先ほどまで、あんなに固くなり、不快だったのが嘘のようだ。
果てには今泳げば、確実にベストが出せる。
そんな意味不明な自信まで沸いてくる。
こんな気持ち、初めてだ。
いつも、負けるとかそんなことばかり考えている僕が。
勝つことだけを考えている。
この僕は、一体誰なんだ?
水に映る僕は、知らない男だった。
自信に満ち溢れた、一人の水泳選手がそこにいる。
二人の想いを背負った、一人の男がそこにいる。
僕の憧れた遠い世界の僕が、そこにいた。
276
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:32:20 ID:myDS9uw60
レースの召集が始まった。
周りには緊張した面持ちの、個人メドレーを泳ぐであろう選手たちが集まっていた。
そんな彼らの顔を見て、感じる。
負ける気がしない、と。
一つ、また一つとレースが消化されていく。
少しずつ、僕の出番が近づいてくる。
その、少しずつというのがもどかしい。
今、すぐにでも泳ぎたいというのに。
不思議なものだ。
もう練習のときはあれだけもう泳ぎたくないと考えていたのに。
ただただ今は、泳ぎたい。
277
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:32:42 ID:myDS9uw60
そして、ついに。
「次のレースの人達はコースに入ってください」
僕の出番がきた。
ついに、ついにきた。
心臓の音がうるさいくらいに大きくなる。
初めての感覚。
よく、分からないこの高揚感。
心地いいような、それでいて緊張してしまっているような。
なんだかよく分からない、そんな感覚。
そんな僕を包み込むかのように、会場はこれから泳ぐ人たちの応援で包まれる。
僕を応援する声も、ちゃんと聞こえている。
多分、もうプログラムの後半だからだろうか。
朝より声が小さく、恐らく今年の一年たちが力尽きたのだろう。
そんな容易に想像できる応援席の今を思い浮かべ、小さく笑い、スタート台へと向かっていく。
278
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:33:06 ID:myDS9uw60
そのときだった。
「しょぼんーーーー!!がんばれぇええええええええ!!」
会場に、誰よりも大きく、そして、心のこもった声が響きわたった。
279
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:33:32 ID:myDS9uw60
その声は、僕のよく知った声だった。
だからこそ、驚く。
思わず応援席の方へ振り返り、声の主を探してしまう。
(# ^ω^)「ぜってぇ勝てぇええええええええ!!しょぼんーーーー!!!」
そこに、絶叫するかのごとく、大声を出すブーンがいた。
280
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:34:00 ID:myDS9uw60
信じられない光景だった。
今まで一度たりとも、あそこで声を出したことがなかったあいつが、誰よりも大きな声で僕を応援しているのだ。
(# ^ω^)「しょぼんーーーー!!がんばれぇええええええええ!しょぼんーーーー!!」
その声は、一度だけではない。
何度も、何度も繰り返す。
周りの応援をかき消すかのごとく。
腹の底、心の底から声を出していた。
(# ^ω^)「がんばれぇええええええええ!がんばれぇええええええええ!いけええええええええええ!!」
(´・ω・`)「......ははっ」
思わず、笑ってしまった。
あいつもあんなに必死な顔をできるなんて知らなかったから。
あんなにも大きな声を出せるなんて知らなかったから。
そして。
こんなにも、応援が僕に力をくれるだなんて知らなかったから。
281
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:34:45 ID:myDS9uw60
スタート台に立ち、合図を待つ。
その時ふと、今までのことが思い返された。
振り替えると、練習が辛かったり、レースに負けたり、散々なことばかりが思い出される。
今更だが、よくやめなかったものだと思う。
そして、考える。
どうして僕は、やめなかったのだろうか。
振り替えれば辛い記憶ばかり。
だけどそれは、全てが僕に繋がり、そして、今に繋がっている。
今のこの僕に。
この、瞬間のために。
この、最高に、楽しい時間のために。
282
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:35:07 ID:myDS9uw60
そう、この、泳ぎたくて、泳ぎたくて仕方がない、この気持ち。
これが、理由なんだ。
ああ、そうだったのか。
ようやく、今さらになってわかった。
あんなに苦しくて、辛くて、勝てないとわかってて。
それでも辞めなかった、いや、辞めれなかった理由。
僕は、こんなに、泳ぐのが好きだったんだ。
283
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:35:34 ID:myDS9uw60
この三年間のことを思い出す。
辛いことが沢山あったはずなのに、今思い出すといい思い出に思えるのは何故なんだろうか。
決して、いい高校生活ではなかったと思う。
漫画とかにあるような青春なんてなかった。
あったのはもっと暗い、もっと現実的な普通の世界。
でも、それでも思い出される光景はみんな綺麗で。
辛かったはずなのにもう一度、やり直したいと思ってしまう。
僕の過ごした三年間。
いい青春、なんかではなかった。
嫌な思い出も沢山ある。
だから、この記憶を色で表すなら青みたいな澄んだ色なんかじゃない。
もっと、黒く、暗い色。
でも、それが綺麗で。
そして目を閉じれば思い出されるその色。
僕の記憶の色。
その色は。
284
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:36:45 ID:myDS9uw60
飛び込んだ、水の色に似ていた。
(´・ω・`)紺色の記憶のようです 了
285
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 03:39:04 ID:myDS9uw60
最後まで読んでくださった方は本当にありがとうございました
最後が少し駆け足なのとかなりの期間をかけての完結になってしまい申し訳ない
ただ書きたかったことは書けたので満足です
また下記に私が以前かいていた似たような高校青春ものの作品を載せておきます
良かったら読んでみてください
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1452687191/
286
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 04:47:44 ID:OIbWPZxEO
乙!
287
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 05:57:04 ID:P/IVjKuAO
似てねぇ!
288
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 08:48:40 ID:Ek8cEafE0
>>285
感動を返せwww
289
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 09:06:16 ID:pTxHFmtE0
ないた
290
:
名無しさん
:2017/07/15(土) 11:53:34 ID:QBfWJxIU0
こういう終わり方は後日談を読みたい気持ちとこれでいいんだって気持ちが同時にこみ上げる
完結乙
291
:
名無しさん
:2017/07/16(日) 03:29:51 ID:/zWDq2lU0
お前だったのかwww
292
:
名無しさん
:2017/07/16(日) 14:01:01 ID:XfkyXCNQ0
ええええww
293
:
名無しさん
:2017/07/16(日) 16:53:56 ID:0b2ImkXs0
乙 良い作品だった
過去作で感動返せww そっちの続編書いてくださいなんでもしますから
294
:
名無しさん
:2017/07/17(月) 10:14:53 ID:czjO9lss0
結果まで読みたかったけど、これはこれできれいな終わり方でいい
おつおつ
295
:
名無しさん
:2018/01/20(土) 18:01:39 ID:OFytbhVw0
今さらですが乙!
すごく良かった!最後の応援がブーンなのがすごく嬉しかった!
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