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夢見る人に之聴く人のようです
1
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:04:20 ID:gNviqX360
母親がわりの親戚に手を引かれ、おずおずと診察室にやって来た君は当時九歳であった。
(゜д゜@「うちの子変なんです」
変、とは一体なんだろう。
生きる意欲を失くした人のことか。
支離滅裂な妄想に囚われ習慣に固執する人のことか。
はたまた集中力が切れやすく、走り回ってしまうのか。
言葉の意味を図りかねている僕に、如何なる異常が見られるのか、その人は語り始めた。
しかしそれよりも、僕の視線は彼女に釘付けであった。
貧相な体つきに伸ばしっぱなしの髪。
頭皮は白く粉が吹き、風が吹けば雪のように舞いそうだった。
爪もまた伸びっぱなしだった。
白貝のような爪の奥には、垢がどっちゃり積もっているようだった。
そういえば微かに異臭もする。
饐えた臭いは、少女には似合わなかった。
なにより一番気になるのは表情だ。
目の下は窪み、まなこは赤く充血し、瞼は薄く晴れていた。
血色の悪い唇は噛み締められている。
針の筵に座り続けているような雰囲気が、診察室に満ち始めていた。
ともすれば、隣の夫人は彼女の獄卒であろうか。
(゜д゜@「こういうわけで」
と、どういうわけかは分からないが、夫人はとにかく困っているようだった。
(´・_ゝ・`)「お話しはよくわかりました」
分かっていない。
分かっていないが、分かることはある。
(´・_ゝ・`)「では直ちに入院ということで」
僕の申し出に、夫人は大喜びしていた。
少女は僕をちらと見た。
僕もまたちらと見返すと、少女はそっと目をそらした。
子に親は必要であるが不必要なこともある。
彼女に最適な空間を提供すべきだろう。
(´・_ゝ・`)(ところで何が変なのやら)
入院の手続きを機械的に行う一方で、僕は気になっていた。
彼女の奇妙な性質については、一夜明けてから分かった。
8
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:11:36 ID:gNviqX360
さて。
世の中には鉄火巻き味の歯磨き粉なんてあるのだろうか。
今朝方起きてすぐ、歯磨きした僕はなんとも言えない風味に襲われた。
磯の香り、生臭い魚の味、苦っぽい薬品がピリピリと舌を焼く感覚。
(´・_ゝ・`)「…………」
パッケージには、鉄火巻きをデフォルメしたキャラが描かれている。
口をゆすぐ。
もう一度チューブから絞り出す。
口に入れる。
また磯と生臭さ。
鉄火巻きだ。
えづきながら僕はそれを吐き出した。
(;´・_ゝ・`)(最悪だ)
冷や汗を流す僕が鏡を見ると、少女が立っていた。
('、`*川「あったでしょ、てっかまきあじ」
(´・_ゝ・`)「……手の込んだ悪戯をするんだね」
('、`*川「ちがうもん、ゆめでみたんだもの」
(´・_ゝ・`)「どんな夢さ」
再度水で口の中を清める。
ああ全く、なんて朝だろう。
('、`*川「せかいじゅうのはみがきこがね、てっかまきあじになったの」
(´・_ゝ・`)「…………」
('、`*川「それでね、せんせいがはみがきしたらあまりにもきもちわるくてはきだすの」
(´・_ゝ・`)「…………」
僕は歯ブラシに手を伸ばした。
('、`*川「でもせんせいははみがきしたいの」
(´・_ゝ・`)「…………」
('、`*川「ひどいあじのするはみがきこなのにやめられないの」
たら、と冷や汗が出る。
手は止まらない。
再び歯磨き粉のチューブを絞り出している。
みちみちと鉄火巻きのキャラが指で扱かれていく。
9
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:12:27 ID:gNviqX360
('、`*川「それをなんどもなんどもくりかえしているうちにあさになっちゃった」
おはよう、せんせい、と少女は言う。
(´・_ゝ・`)「まさか、」
変、というのは、
(´・_ゝ・`)「夢が、現実に、なって……」
腕が持ち上がる。
口元に歯ブラシがあてがわれる。
咄嗟に口に力を入れて拒んだが、唇にベタベタと歯磨き粉がついた。
それでさえも気持ち悪い。
僕は彼女が怖くなっていた。
('、`*川「そうよ、ゆめがげんじつになっちゃうの」
それともげんじつがゆめになっているのかしら、と少女。
僕は抵抗出来ずに自ら歯磨きしていた。
クソ不味い歯磨き粉で。
(´・_ゝ・`)「なんとか出来ないのか?」
('、`*川「みんなとめようとしたけどダメだった」
お医者さんにれいのうりょくしゃ
悪魔祓いにお祓い、催眠術療法。
手は尽くしてきたがどうにもならなかったそうだ。
なるほど。
いやなるほどじゃない。
それでどうして僕のところへ来たのやら。
歯磨き粉を吐き出して、口をゆすぐ。
なるべく、なるべく長くゆすぐ。
それでも唇が緩やかに開き、水がこぼれていくのだが。
(´・_ゝ・`)「どうすれば終わる?」
('、`*川「……わかんない」
(´・_ゝ・`)「一番肝心なところじゃないか」
このままでは一生鉄火巻きの歯磨き粉で歯磨きしなくてはならない。
10
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:14:21 ID:gNviqX360
('、`*川「みんなわたしのせいだっていうよ」
夢なんか見るから、と。
僕は初めて理解した。
彼女の目があんなにも腫れていたのは、極力眠らないようにしていたのだろう。
それとも、されていたのか
……。
(´・_ゝ・`)「君のせいじゃない」
二度口をゆすぎ、再度歯磨き粉を手に取る。
それでも僕は言う。
(´・_ゝ・`)「誰だって夢は見る」
('、`*川「でも、」
(´・_ゝ・`)「君のはたまたま現実とリンクしてしまうのさ」
それがどんなにありえないことだったとしても。
(´・_ゝ・`)「でもそんな夢は食べちゃおうね」
('、`*川「……たべるの?」
(´・_ゝ・`)「食べるさ。いい夢も、悪い夢も、楽しい夢も、怖い夢も」
だから、話してごらん。
('、`*川「……」
(´・_ゝ・`)「……あれ?」
ふと、僕は手元を見る。
歯磨き粉のパッケージには、超爽快激辛ミントと書いてある。
鉄火巻きのイラストはどこへやら。
('、`*川「すごい」
先生、夢を食べちゃったんだ!と少女。
僕は何が何だかわからなかった。
だけど、とにかく僕はもう歯磨きをしなくていいらしい。
あのひどい味の歯磨き粉で。
11
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:17:17 ID:gNviqX360
これが一番最初に聞いた夢。
鉄火巻きが夢に出てくるなんてよほど気に入ったのだろう。
今となっては笑い話だが、当時の僕には笑えない話だった。
以降、少女の夢は続いていく。
それについてはまた今度。
12
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:18:35 ID:gNviqX360
1.鉄火巻き味の歯磨き粉 了
13
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:19:52 ID:gNviqX360
以下この話に盛り込むお題を五つ募集します
14
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:23:49 ID:gmIVh3GI0
乙、どうなるのか気になる
お題なんでもいいなら「手を繋ぐ」で
15
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:34:49 ID:lafu2EbM0
おつおつ、デミタスは獏だな
お題は「熱いお湯」
16
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 21:39:51 ID:eKBCpb4g0
乙、気になる話
お題は「番狂わせ」でお願いします
17
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 22:01:09 ID:y2p6K/q20
なるほどね、続きが楽しみ
「狐の嫁入り」で
18
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 22:06:13 ID:MkaKh8W60
乙
これは楽しみ
お題は「コーヒー」で
19
:
名無しさん
:2017/04/25(火) 22:52:41 ID:qQccIck60
面白い、続きにも期待するしかない
20
:
名無しさん
:2017/04/26(水) 01:33:01 ID:H7DoHR0A0
乙でした
続き待ってます
21
:
名無しさん
:2017/04/26(水) 19:18:20 ID:j.cDY/Yg0
幼いペニサス!
22
:
名無しさん
:2017/04/26(水) 20:27:23 ID:XI437.QE0
あー乗り遅れた
中出し義母レイプは次回か
23
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 00:23:33 ID:pm1Hex1s0
いいなこれ
24
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:10:05 ID:jGQ7FmMY0
君がこの家に来てから三日目。
僕は眠ることが少し怖くなっていた。
もともと眠るのは大好きであった。
安息と幸福に満ち、絶対的な逃げ場として機能している時間であった。
しかし、例の歯磨き粉事件からそれは一転した。
己が眠るのはなんら恐ろしくはない。
恐ろしいのは彼女が眠るからだ。
眠って、夢を見て、それが現実を侵食したら。
そう思うと朝が来るのが憂鬱に感じ始めていた。
目新しくない話だ。
今までそういった話は職業柄ごまんと聞いた。
まさかそう感じる時が来るとは思わなかったが。
(´・_ゝ・`)(眠りたくない)
隣から聞こえてくる寝息に、溜め息を重ねた。
午前二時。
春の夜明けはまだ遠い。
とはいえ疲労には勝てなかったようである。
僅かなほつれが脳に生じたように、ぷつぷつと意識は途絶えていった。
うとうととしては目覚め、寝返り、少し間延びした瞬きをし、ぼうっと少女の横顔を見つめた。
25
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:10:39 ID:jGQ7FmMY0
少女の寝相は、素晴らしく行儀が良かった。
死後硬直を起こした死体のように、静かに横たわっている。
僕がこのベッドから抜け出して、首を絞めても抵抗しないであろう。
(´・_ゝ・`)「……今何を考えた?」
微睡みかけている脳髄に、僅かな殺意が炙り出されているようだった。
恐れ、苛立ち、問題の解決策を見出せない不安。
そういったものが、とぐろを巻いているようだった。
(´・_ゝ・`)「…………」
僕は、彼女の額を撫ぜた。
暖かい。
そして、硬かった。
そっと触れれば触れるほど、少女の夢が骨に守られていることが伝わった。
(´・_ゝ・`)(この小さな脳みそに、一体どれほどの悪夢が詰まっているのやら)
悪夢が二度と飛び出さぬように、と願わずにはいられなかった。
それが一生付き纏うものと予感していても。
(´・_ゝ・`)(どうか、いい夢を)
未だ対処に困っている僕は、強く希った。
やはりそれもあっさり破られてしまうのだが。
寝不足というものは時に深刻な事態を巻き起こすものである。
26
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:11:13 ID:jGQ7FmMY0
翌日。
僕は歯を磨きながらあくびをしていた。
その隣で、少女はいちご味の歯磨き粉を絞り出していた。
('、`*川「せんせい、おはよ」
(´・_ゝ・`)「ああ、うん」
ミントの風味が甘く感じるくらい、眠かった。
('、`*川「きょうもね、ゆめをみたの」
(´・_ゝ・`)「ふうん」
どんな夢だい?とは言わなかった。
口を動かすのが億劫だったからだ。
休診日。
キリキリと仕事をする日ではない。
ではないが、今日は児童相談所に行くと決めていた。
現状、彼女の親戚を騙して誘拐したようなものである。
であればしかるべき機関に赴いて、先に手を打ってしまえばいいのだ。
(´・_ゝ・`)(ダラダラしていたかったけどな)
うがいをする僕の横で、少女は何やら語っている。
どうやって相談所に話を持ちかけようか。
そのことばかりが頭にちらついた。
('、`*川「せんせい?」
少女は、心配そうに声をあげた。
(´・_ゝ・`)「ん?」
口も開けずに、声帯を震わせた。
架空の相談員から少女へと、視点が塗り替えられていく。
27
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:12:54 ID:jGQ7FmMY0
('、`*川「……わたし、ごはん、いらない」
(´・_ゝ・`)「え?」
どうして、とは言えなかった。
不意に少女の姿が見えなくなったからだ。
(´・_ゝ・`)「 、」
声にもならず、僕は駆け寄る。
穴が空いていた。
少女の、立っていた場所に。
穴からは小さな手が見えていた。
(´・_ゝ・`)「おい、」
大丈夫か、とは聞けなかった。
手を掴むとそれはじっとりと汗ばんでいた。
引き上げられた少女は、黙って泣いていた。
(´・_ゝ・`)「どうしたんだ……」
('、`*川「……あし、」
足、を見ると、赤く、腫れていた。
沸かしたての熱いお湯をかけられたかのように。
そのうち、少女の悲鳴が上がった。
また床に穴が空いたのだ。
今度はしっかりと握っていたから、落ちはしなかった。
穴からは、瞬間的に蒸気が噴き出した。
少女が落ちなかったことを残念がるように、僕の顔を焼いた。
(´・_ゝ・`)「どうなってるんだ……」
薄々気付いてはいた。
また夢が現実になり始めているのだ。
どうやら今回の夢は、
(´・_ゝ・`)「おっと」
少女の立つ場所にポカリと穴が開くらしい。
底は見えず、真っ暗で、落ちたらどうなるかはわからない。
が、火傷の跡を見る限りろくなことにはならないだろう。
28
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:15:07 ID:jGQ7FmMY0
(´・_ゝ・`)「痛むか?」
('、`*川「すごく……」
(´・_ゝ・`)「ならまだいい」
少女を抱きかかえ、僕はキッチンへと向かった。
人が抱えている限りは大丈夫らしい。
僕まで落ちてしまったらどうしようかと思っていたから、そこはほっとした。
(´・_ゝ・`)「足を出して」
勢いよく出された冷水に、両足を差し出す。
(´・_ゝ・`)「すぐに冷やせば跡にならないよ、多分」
('、`*川「……ごめんなさい」
(´・_ゝ・`)「なぜ謝る」
('、`*川「わたしがへんなゆめみるから……」
(´・_ゝ・`)「変じゃない夢なんてないだろう」
夢というのは大体整合性があってないようなものだ。
日中の記憶を整理しているうちに、様々な要素が勝手に結び付いてしまうのだから。
(´・_ゝ・`)「君が望んで見た夢ではないのだろう?」
('、`*川「…………」
返事はない。
やはり負い目を感じているのだろうか。
それはわからないが、火傷の赤みは幾分かマシになっていた。
29
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:15:59 ID:jGQ7FmMY0
(´・_ゝ・`)「今日はこのまま相談所に行こうか」
('、`*川「おもくない?」
(´・_ゝ・`)「君はもっと食事を取った方がいい」
背中へと負ぶさり直し、冷蔵庫を漁る。
バナナが二本あった。
ひとまずこれでいいだろう。
(´・_ゝ・`)「バナナを食べたら出発だ」
('、`*川「……いらないって、いったのに」
(´・_ゝ・`)「健やかに育ってくれよ」
あくびを噛み殺しながら、バナナをかじる。
甘い。
冷蔵庫に入れると黒くなってしまうのはわかるが、冷えたバナナが好きだった。
冷凍庫で凍らせたものも好きだった。
ヨーグルトとマシュマロとバナナを混ぜて、凍らせたものを食べるのはもっと好きだった。
それこそ、子供の方が喜ぶのかもしれないが。
なんてことを考えて、僕はバナナを食べ終えた。
(´・_ゝ・`)(帰りにマシュマロとヨーグルトを買おう)
頭上からも、バナナの芳香が漂ってきた。
30
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:17:21 ID:jGQ7FmMY0
児童相談所へ向かう間、随分奇異の目で見られたような気がした。
大の大人が幼女を負ぶさっているのだから無理もないだろう。
しかも幼女は裸足で、さらに火傷まで負っている。
すわ児童虐待か、誘拐か、といったところか。
それでも気にせず堂々としていた。
別に悪いことはしていない。
気にすることなど何もないのだ。
('、`*川「せんせいは、」
(´・_ゝ・`)「ん?」
またもや面倒臭がって、口も開けずに返事をした。
ぎゅ、と僕の頭を握る手に力が入る。
('、`*川「せんせいはなにをかんがえているの?」
(´・_ゝ・`)「そうだなあ」
街角に目線を逸らし、考える。
なにか楽しいことを教えられればよかった。
が、それでも不安は付き纏う。
(´・_ゝ・`)「これからどうやって、相談員と話をしようかなって思っているよ」
('、`*川「それだけ?」
(´・_ゝ・`)「ほとんどはね。君を守るにあたって、どうすればいいのかさっぱり見当がつかないんだ」
顔が見えないせいか、僕の口はよく滑った。
大人はしっかりしていなくてはいけない。
子供の前で情けないことを言ってはいけない。
まして本当は、君といることが怖いと悟られるだなんて。
嘘でも取り繕わなくてはいけないのだ。
平気だよ、という顔で居なくてはならない。
そうじゃなきゃ立ち向かえない、と僕は思っていた。
31
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:18:44 ID:jGQ7FmMY0
('、`*川「わたしをまもるの?」
(´・_ゝ・`)「君とあの親戚がどんな仲なのかは知らないよ。だけど一緒にいて楽しそうな仲には見えなかったんだ」
だったらいっそそこから離れてしまうのも一つの選択なのだ。
できれば、それを彼女に選んで欲しかった。
(´・_ゝ・`)「君はどうしたい?」
('、`*川「……わたし」
きゅぅ、と小さな手がさらに頭を締め付ける。
もう少しで児童相談所に着く。
その前に、
('、`*川「きえてなくなりたい」
九歳の、君は、そう言った。
(´・_ゝ・`)「……そうしたらおじさんは悲しくて泣いちゃうよ」
門を潜り、ドアを抜けて、ホールへ飛び込む。
古びた蛍光灯がちらつき、気が滅入りそうな場所だった。
(´・_ゝ・`)「君のことを知らなければ君が消えたって僕は悲しまないけど、君を知った以上、君が消えたら僕は悲しいよ」
それは、本当のことだった。
原理不明のものや、背後に人ならざる力を見出しやすいものは、人にとって不可侵の域である。
それがこちら側を犯すのだから、我々は恐怖を感じてしまう。
たとえ、少女に悪意がなかったとしても。
32
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:20:56 ID:jGQ7FmMY0
(´・_ゝ・`)「だけど僕の質問に答えてくれたのは嬉しいな」
('、`*川「……うれしいの?」
(´・_ゝ・`)「僕の問いかけに君は少し自分のことを教えてくれた。それって嬉しいことだよ。その答えがどんなものでもね」
('、`*川「……せんせい」
頭上から聞こえる声音は、少し震えていた。
緊張からくるものだろうか。
押し黙る彼女と、所内の空気が重い渦を描いて混ざり合う。
僕は黙って待ち続けた。
そして、
('、`*川「あのね、」
ノパ⊿゚)「あ、盛岡さんですか?」
(´・_ゝ・`)「あ、はい」
('、`*川「…………」
残念ながら邪魔が入ったのであった。
やたら狭い相談室へ案内された僕は、相変わらず立っていた。
もちろんその背には少女がしがみついている。
椅子に座らせても良かったのだが、また穴が空いては困ってしまう。
なにより事情を説明する方が先であった。
ノパ⊿゚)「虐待のご相談とお聞きしたのですが」
(´・_ゝ・`)「ええ」
ノパ⊿゚)「お父様でいらっしゃいますか?」
(´・_ゝ・`)「いや、ただの精神科医です」
ノパ⊿゚)「…………」
相談員は、ぽかんと口を開けていた。
33
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:22:04 ID:jGQ7FmMY0
(´・_ゝ・`)「血縁関係はないです。というかつい三日前に初めて知り合いました」
ノパ⊿゚)「……あの、誘拐とか」
(´・_ゝ・`)「してないですしてないです!」
ノパ⊿゚)「あ、あ、ですよねー!」
わはは、と笑う相談員はテンパっているらしい。
手元のメモには誘拐してない精神科医と書いてあった。
なんだそれは。
何度か相談員からの質問を挟みながら、僕は事情を話した。
もちろん、少女の特殊な性質もである。
(´・_ゝ・`)「で、僕が親権を取るなり彼女を施設に送るなり、とにかく幸せにできないかと」
ノパ⊿゚)「…………」
(´・_ゝ・`)「……ヒートさん?」
ノパ⊿゚)「あのですね、盛岡さん」
(´・_ゝ・`)「はい」
ノパ⊿゚)「…………その、証拠といいますか。本当にそんなことがあるのかとどうしても疑ってしまいまして」
そりゃそうだろう。
話している僕だって未だに半信半疑なのだ。
このままではただの頭のおかしいロリコンだろう。
ちなみにロリコンというのは和製英語であり正しくはペドフィリアないし小児性愛者と言う。
34
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:23:47 ID:jGQ7FmMY0
(´・_ゝ・`)「ああいかん、つい用語と俗語が……」
ノパ⊿゚)「はい?」
(´・_ゝ・`)「あ、なんでもないです。本当に」
('、`*川「せんせい」
(´・_ゝ・`)「なんだね」
('、`*川「……ゆかにおろして」
(´・_ゝ・`)「君、」
('、`*川「いいから」
髪の毛を引っ張りながら、少女は言う。
毛根を責めるのはやめてほしい。
結構シャレにならない痛みなのだ。
(´・_ゝ・`)「……足、は」
('、`*川「へいき」
でも、わたしのことぎゅっとしててね。
そう言いながら、少女は背中からずり落ちてくる。
僕は慌ててその体を追う。
流動するように、少女は落ちていく。
35
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:28:05 ID:jGQ7FmMY0
相談員は、訝しげにこちらを見ていた。
そして、
(´・_ゝ・`)「あぶない!」
床に足が触れて数秒後。
少女は、穴に落ちた。
(´・_ゝ・`)「……君、君、大丈夫か」
かろうじて捕まえた手を、必死に引きずりあげる。
('ー`*川「……へーき」
やんわりと、少女は笑った。
('、`*川「せんせいならつかんでくれるとおもった」
(´・_ゝ・`)「まったくもう……」
再び抱きかかえ、僕は我にかえる。
ノパ⊿゚)「……………………」
相談員は、ボールペンの軸を壊していた。
どうやらテーブルにペンを押し付けすぎたらしい。
白いテーブルの上には、どくどくと、インクが垂れている。
ぽつ、ぽつ、ぽつと。
白い床に空いた、穴そっくりに。
(
36
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:29:45 ID:jGQ7FmMY0
(´・_ゝ・`)「今日も鉄火巻きにしようか」
('、`*川「てっかまきー」
足をぶらぶらさせながら、少女はおうむ返し。
('、`*川「よかったね、せんせい」
(´・_ゝ・`)「なにが?」
('、`*川「おねーさん、まえむきにけんとーしますって」
けんとーっていいことばなんでしょ?と少女。
そうだね、と僕は返す。
('、`*川「……せんせー」
(´・_ゝ・`)「今度はなんだね」
('、`*川「……けさみたゆめ、もっかいはなしていい?」
(´・_ゝ・`)(もう一回?)
僕はぼんやり思い出す。
朝起きて、眠くてたまらないところに、少女が来た。
何やら熱心に話しながら、僕は適当に聞き流して。
(´・_ゝ・`)「……ああ、」
そうか。
(´・_ゝ・`)「……食べてなかった」
37
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:30:16 ID:jGQ7FmMY0
食べる、と言うのは僕が言い出した言葉であり、そう表現していいのか分からないのだが。
(´・_ゝ・`)「……すまない」
('、`*川「せんせい?」
(´・_ゝ・`)「今朝、君の話をすっかり聞き流していたんだ……」
('、`*川「……しってた」
後頭部に、ずしりと重みがかかる。
寄りかかられたようである。
(´・_ゝ・`)「不真面目でごめんよ」
次はちゃんと食べるから。
雑踏も、視線も、全てが遠のいて。
僕は、君の夢に耳を傾けた。
38
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:32:35 ID:jGQ7FmMY0
2.底なし穴と熱いお湯 了
39
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 06:33:41 ID:jGQ7FmMY0
お題一覧
コーヒー
狐の嫁入り
番狂わせ
以下お題を二個追加しますので募集します
40
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 08:26:24 ID:EdzZRUi.0
乙
おとぎ話
41
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 09:40:03 ID:DGdBKRrE0
おつおつ!
お題パルクール
42
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 11:26:05 ID:G8oMmGCc0
地の文が良い感じ
乙!
43
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 18:05:09 ID:Wx3pPL3M0
乙!
面白い。続きが楽しみ!
44
:
名無しさん
:2017/04/28(金) 19:13:17 ID:e/mmtW/w0
乙
筆早くて嬉しい
45
:
名無しさん
:2017/04/29(土) 05:31:57 ID:H/oF2I0A0
結構暗い雰囲気なのにどこか暖かくて癖になる
46
:
名無しさん
:2017/05/01(月) 23:00:08 ID:ou/2bQ8c0
乙
いい感じです 先生の過去談も気になる
47
:
名無しさん
:2017/05/05(金) 18:41:55 ID:0F6Mr28Q0
これはたまらん
48
:
名無しさん
:2017/05/05(金) 21:45:56 ID:CNGbkiag0
素直に面白いね
49
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 12:56:46 ID:FgKqm1Kw0
休みの日であれば朝から、仕事の時は昼休みに。
僕は、児童相談所へと通い詰めた。
君の口から語られる話は、あまりにも酷いものだった。
物心ついた頃には親戚の家にいたこと。
実の両親の名前すら分からないこと。
幼稚園にも保育園にも行ったことがないこと。
一人で過ごしているうちに、夢の内容はどんどん悪化していったこと。
そのせいでますます疎まれ、空気のような存在と化していたこと。
表現こそ疎いが、そのような内容がつらつらと淀みなく飛び出してきた。
何度か僕は気分を害し、しばしば一人になった。
相談員であるヒートは、やはり慣れているのだろう。
いつでも真剣に耳を傾けてくれた。
ノパ⊿゚)「今日、ペニサスちゃんのご親戚に連絡を取りました」
(´・_ゝ・`)「どうでしたか?」
ノパ⊿゚)「……里親でも施設でも何でもいいと仰っていました」
50
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 12:57:26 ID:FgKqm1Kw0
さすがにあの明るいヒートも、今回は沈痛そうな表情を見せた。
僕は黙って、少女を見た。
('、`*川「だとおもった」
どうでもいいとでも言いたげに、アポロチョコの包装を解いていた。
伸びかけの爪が、カリカリとフィルムを引っ掻く。
その音だけが部屋に響いた。
(´・_ゝ・`)「……出来れば僕が引き取りたいのですが」
ノパ⊿゚)「ですよねえ」
と言いつつも、僕ら二人はおし黙る。
親戚が今更引き取ると言いだすまいと踏んではいた。
問題はその先だ。
僕には身寄りがいない。
両親は他界し、頼れる親戚はいない。
一人っ子ゆえに兄弟からの助けも借りられない。
恋人も実は出来た事もないし、そもそも異性の友人もいない。
あるのは両親から継いだ家と何の目標もなく貯めた金だけだ。
養育条件は、満たしている。
僕が独り身でいなければ。
(´・_ゝ・`)「……やっぱり、僕だけでは里親になれませんかね」
ノパ⊿゚)「……申請することは出来ますが、それが通るかはちょっと」
(´・_ゝ・`)「ですよね」
('、`*川「あっ」
ざんざんと、床にアポロチョコがばら撒かれた。
箱を開ける拍子に落としてしまったのだろう。
51
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 12:58:08 ID:FgKqm1Kw0
('、`*川「ごめんなさい」
(´・_ゝ・`)「いいよ、後で新しいのを買ってあげるから」
('、`*川「おこんないの?」
(´・_ゝ・`)「僕も君くらいの時にはよくやった。だけど怒られなかったよ」
拾い食いしようとしたら怒られたけれど、と付け加える。
ノパ⊿゚)「わたしもよくやりましたよ」
ヒートも、軽快に笑ってみせた。
ノパ⊿゚)「ゴミはこっちで処分しますから」
(´・_ゝ・`)「すみません」
ノパ⊿゚)「いいですよ」
机の上に、チョコの山が築かれた。
勿体なさそうに、少女はそれを見つめていた。
52
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:01:27 ID:FgKqm1Kw0
結局、その日は何の結論も出ないまま帰ることとなった。
手を繋ぎ、僕は君と歩いた。
君の手は温かった。
最初に手を繋いだ時はとても冷えていて、それなのに汗をかいていた。
骨ばっていた手は肉付きがよくなり、きちんと血が巡っているのが分かった。
歯噛みしてボロボロだった爪も、今では手入れをしている。
きちんと生き始めたような気がして、僕は嬉しくなった。
変化したのは手だけではない。
顔も少しふっくらとして、血色がよくなった。
髪の毛には艶が出てきて、きちんと櫛が通るようになった。
目つきも、心なしか柔らかくなった。
言葉は相変わらず遠慮がちだが、僕に話しかけてくれることも多くなった。
滅多に笑わないが、笑うととても可愛かった。
もっと笑ってほしい。
幸せになってほしい。
僕はずっとそう思うようになった。
(´・_ゝ・`)「ペニサス」
最近になって、僕は名前を呼ぶようになった。
それまでは名前を聞くことすら出来なかった。
もしもこの子を手放す時が来るのなら、名前なんて知らない方がいいとすら思っていた。
ダメな大人である。
きっと今までだって、君の名前を呼ぶ人なんていなかっただろうに。
('、`*川「なあに、せんせい」
顔をあげ、しっかり見つめてくるペニサスに僕は問う。
53
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:07:32 ID:FgKqm1Kw0
(´・_ゝ・`)「君はこの先どうしたい?」
('、`*川「せんせいといっしょにいたいよ」
予想していた答えが、すぐに飛んできた。
('、`*川「せんせいがおとうさんになってくれたらなんでもいいよ」
(´・_ゝ・`)「なんでもいいか」
('、`*川「がっこういけなくてもいいよ。せんせいのしごとばにいくのもすきだし」
(´・_ゝ・`)「退屈してないかい?」
('、`*川「んーん。ほかのひとたちとやさしくしてくれるし」
ペニサスは、職場のスタッフからも可愛がれていた。
もっとも、あそこにいるのは性根が優しい連中である。
彼女の事情を知っていたら、なおさらだ。
(´・_ゝ・`)「それでも学校には行かなくちゃいけないよ」
('、`*川「じゃあいくからずっといっしょにいよ」
(´・_ゝ・`)「……そうだね」
目を逸らし、時計台を見た。
もう夕方の六時だ。
夕飯を買って帰らなくてはいけない。
(´・_ゝ・`)「今日は何が食べたい?」
('、`*川「てっかまき」
(´・_ゝ・`)「それは三日前食べただろう」
('、`*川「じゃあオムレツ」
(´・_ゝ・`)「オムレツか……」
('、`*川「こないだのはおいしかったしき」いだった」
(´・_ゝ・`)「まぐれかもしれないよ」
('、`*川「ずーっとわたしのためにつくってよ」
54
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:20:00 ID:FgKqm1Kw0
(´・_ゝ・`)「あー、うん、努力するよ」
ぎちりと小さな指が、手のひらに食い込んでくる。
僕が適当な返事をすれば、すぐにバレてしまうのだ。
だけど僕にだって考えはある。
このままでいけば彼女は施設に行く確率が高かった。
であれば、先々の別れに備えなければならない。
あまり親ぶるのも良くないのでは、と思い始めていた。
いつかその時が来れば、余計彼女に悲しい思いをさせるのだから。
('、`*川「ねー、せんせい」
(´・_ゝ・`)「なんだね」
('、`*川「がっこうにいけたらちゃんとせんせいもきてね」
(´・_ゝ・`)「……うん」
('、`*川「がっこうってがんばったことをおやにみせるんでしょう?」
(´・_ゝ・`)「そうだね」
('、`*川「したらがんばるから、みにきてよ」
(´・_ゝ・`)「行くよ、絶対」
もし君が施設に行ってしまっても、会いに行くことは出来るだろう。
親にはなれなくても、友達かお兄さんくらいにはなれるだろう。
(´・_ゝ・`)(大丈夫、縁が切れるわけでなし)
55
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:21:34 ID:FgKqm1Kw0
それでも一人で帰るようになったら、家の中はとても静かになるだろう。
それが、憂鬱なことに思えて仕方がなかった。
オムレツは、上手く出来なかった。
考え事が手元に絡みつき、菜箸もうまく扱えなかった。
ぐちゃぐちゃになったそれを、君は笑いながら食べた。
(´・_ゝ・`)「ごめんなあ、本当に」
('、`*川「せんせい、きにしないで。ケチャップかけたらおんなじよ」
(´・_ゝ・`)「……でも君が望むものは出来なかった」
何もかもうまくいかなかった。
いつまでもこうしていられるわけがない。
いつ、その時が来てしまうのか。
僕は怖くて仕方がなかった。
56
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:23:05 ID:FgKqm1Kw0
(´・_ゝ・`)「髪の毛伸びたなあ」
ドライヤーを片手に、思わず呟く。
温風に煽られる君には、何も聞こえていない。
目を瞑り、ひたすら耐えている。
髪の毛を乾かすのも、最初は不慣れであった。
そもそもドライヤーを何処にしまったのかも僕は忘れていた。
物置から見つかったそれは、随分と前のものだったが十分に働いた。
ちょっと音がうるさすぎるのが玉に瑕だが。
(´・_ゝ・`)(今度床屋に連れて、いや美容室か)
美容室で、合っているのだろうか。
(´・_ゝ・`)(分からないことばっかりだ)
施設に行ってもこうして髪の毛を乾かす人はいるのだろうか。
自分で出来るようにした方がいいのだろうか。
悩んでいるうちに、髪はどんどん水気を失っていく。
(´・_ゝ・`)(もっとこうして世話をしてあげたい)
それで君が喜ぶのなら。
57
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:26:17 ID:FgKqm1Kw0
('、`*川「だしすぎちゃった」
差し出された歯ブラシには、歯磨き粉がてんこ盛りになっていた。
(´・_ゝ・`)「じゃあちょっともらうよ」
大人が子供の歯磨き粉を使ったって、問題はないだろう。
口に含むと科学的なイチゴ味が広がった。
なにせ甘ったるい。
歯を磨いた気にもならない風味だ。
昔懐かしいといえば、そうだけど。
('、`*川「かんせつきすだね」
(´・_ゝ・`)「…………」
少し歯磨き粉を飲み込んだ。
喉の奥からイチゴの風味が這い出してくる。
せり上がってくる不快感を、根性で堪えた。
(´・_ゝ・`)「…………どこで覚えてきたの、それは」
呆れながら聞くと、本で読んだと返ってきた。
(´・_ゝ・`)「本ってどんな?」
('、`*川「びょういんのろびーのほん」
(´・_ゝ・`)「ああ……」
多分受付嬢のキュートが持ってきたやつだろう。
読み飽きた恋愛小説を、病院の本棚に突っ込んでいるからだ。
58
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:27:24 ID:FgKqm1Kw0
(´・_ゝ・`)「もう少し大人になってから読みなさい、ああいうのは」
('、`*川「なんで?」
(´・_ゝ・`)「ちょっと君には早いから」
('、`*川「でもおもしろかったもん」
(´・_ゝ・`)「他にも本はあるだろう」
('、`*川「きゅーちゃんはなんでもよみなさいっていってた」
(´・_ゝ・`)「……まあ、そうだけど、対象年齢っていうのがあるんだよ」
がらがらとうがいするペニサスに、はたして言葉は聞こえているのだろうか。
(´・_ゝ・`)「聞いてますか?」
('、`*川「なあに?」
ペニサスは、にっこりと笑った。
僕は、言い返すのを止めた。
59
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:28:33 ID:FgKqm1Kw0
セミダブルのベッドに、僕とペニサスは潜り込む。
今はまだ小さいからこれでもいいが、二、三年したら一緒に寝ることは出来ないだろう。
何より犯罪臭がして、恥ずかしかった。
幸いにも部屋は三つほど余っている。
そのうちの一つを子供部屋にすれば……。
(´・_ゝ・`)(そうなる日が来るとは限らないのに?)
もうダメだ、本当に。
僕は彼女を手放せるのだろうか。
('、`*川「せんせい」
寝ていると思った君が、声をあげた。
(´・_ゝ・`)「どうした?」
暗闇の中、体を寄せて来る気配がした。
されるがまま、僕は固まっていた。
('、`*川「しせつなんか、やだ」
(´・_ゝ・`)「……僕だって嫌だよ」
('、`*川「なんでいっしょじゃだめなの?」
(´・_ゝ・`)「僕みたいな人ばかりではないからね。子供を悪い大人から守りたいんだよ」
('、`*川「やだ、やだ」
60
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:31:28 ID:bt.X64dY0
支援
61
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:39:39 ID:FgKqm1Kw0
鼻をすする音がする。
胸元に、ぎゅっと顔を押し当てられた。
どうしたらいいのか分からない。
幸せになって欲しかったはずなのに、どうして泣いているのか。
原因は分かっていても、僕がその根本を変えることはできない。
(´・_ゝ・`)「ペニサス、」
('、`*川「やだやだやだ、せんせいやだぁ」
泣き声は、いよいよ大きくなっていた。
僕はひたすらに抱きしめて、頭を撫で続けた。
赤ん坊に戻ったように、君は泣き続けた。
('、`*川「こうなっちゃうんならせんせい、わたしのことひきとらなきゃよかったのに!」
(´・_ゝ・`)「……ごめんね」
('、`*川「せんせいのばか、ばか」
(´・_ゝ・`)「……ごめん」
('、`*川「せんせいはわるくないもん……」
(´・_ゝ・`)「…………」
('、`*川「わがままいうから、ごめんなさい……」
(´・_ゝ・`)「……僕だって君といたいよ」
('、`*川「…………」
(´・_ゝ・`)「君がここからいなくなったらどうしようってずっと思ってた」
('、`*川「…………」
62
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:42:01 ID:FgKqm1Kw0
(´・_ゝ・`)「さみしいし、かなしいし、もしかしたら泣いちゃうかもしれない」
('、`*川「……せんせいも?」
(´・_ゝ・`)「君からずっと名前を聞けなかったのも、いつかこうなるんじゃないかと思って、思って……」
その先は、話せなかった。
奥歯同士が、ぶつかり合う。
ぎちぎちと、顎が痛くなるほどに。
熱くなる目頭も閉じ締めて。
そのまま夜が明けなければいいと思った。
明日が怖かった。
僕と君が引き剥がされてしまうのではないかと思って。
声を殺して、いい年の大人である僕は泣いた。
('、`*川「せんせ」
泣き腫らした声は、眠気によって掠れていた。
僕は無言のままそれを受け入れる。
('、`*川「ずっといっしょにいよ?」
(´・_ゝ・`)「…………」
('、`*川「ね、いるっていってよ」
(´・_ゝ・`)「…………うん」
('、`*川「いようね」
(´・_ゝ・`)「……うん」
('、`*川「ずっとだよ」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「ぜったいだよ」
(´・_ゝ・`)「うん」
('、`*川「ずっとだから」
(´・_ゝ・`)「うん、うん」
63
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:42:43 ID:FgKqm1Kw0
そうして、気付けば朝になっていた。
(´・_ゝ・`)「…………」
ベッドはもぬけの殻で、僕は時計を見た。
七時四十分。
起きなきゃいけないのは七時。
家を出ている時間は七時四十分。
(´・_ゝ・`)「うっそだろ」
僕は飛び起きた。
慌てて服を着替え、寝室を飛び出した。
キッチンではペニサスがパンにバターを塗っていた。
('、`*川「おはよ、せんせい」
(´・_ゝ・`)「おはようペニサス、起こしてくれてもよかったんだよ!」
('、`*川「だってきもちよさそうにねてたから」
(´・_ゝ・`)「大人は遅刻しちゃいけないんだよ!」
鞄とパンとペニサスの手をひっ掴み、僕は外へ飛び出した。
いつも載っているバスはもう行ってしまっただろう。
パンを食べながら、僕は職場に電話をした。
o川*゚ー゚)o「はあい、盛岡メンタルクリニックです」
(´・_ゝ・`)「もしもし、僕だ。寝坊した」
o川*゚ー゚)o「あらー、ペニサスちゃんが?」
(´・_ゝ・`)「いや僕が」
o川*゚ー゚)o「やだぁー、院長が寝坊とか、やばーい!」
64
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:43:45 ID:FgKqm1Kw0
口調はムカつくがぐうの音も出ない。
(´・_ゝ・`)「それで朝の予約は?」
o川*゚ー゚)o「今日は高岡さんですねえ。でもいっつも遅れて見えるから大丈夫じゃないですかぁ?」
(´・_ゝ・`)「そうじゃない時もあるかもしれないじゃないか!」
o川*゚ー゚)o「ですねえ。とりあえず気をつけて来てくださいよ〜。焦って飛び出したりなんかしたらダメですからね、パパさん!」
(´・_ゝ・`)「パパじゃないっての」
そう言った時にはとっくに電話は切れていた。
それからまもなく、バスはやってきた。
開院ギリギリになんとか着いて、僕はホッとした。
汗だくで診察しなければいけないのが心残りだが、それ以外は問題ない。
(´・_ゝ・`)「キュートくん、ちょっと」
o川*゚ー゚)o「朝からお疲れ様ですー、パパさん」
(´・_ゝ・`)「パパじゃないっての」
げんなりした顔で言い返すと、キュートは不思議そうな顔をした。
o川*゚ー゚)o「パパじゃないですか、ペニサスちゃんの」
(´・_ゝ・`)「そうなりたかったけど」
o川*゚ー゚)o「???」
(´・_ゝ・`)「なんだその顔は」
o川*゚ー゚)o「だってこないだ親権取れたって言ってたじゃないですか」
(´・_ゝ・`)「はぁ!?」
65
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:44:37 ID:FgKqm1Kw0
いつ、と問おうとして、僕は思い当たる。
診察室を飛び出し、ロビーへ向かう。
ペニサスは相変わらず恋愛小説を読んでいた。
まだ君には早いと言ったばかりなのに。
(´・_ゝ・`)「ペニサス、ちょっと」
('、`*川「なあに?」
本から顔をあげず、声だけが返ってきた。
彼女にしては珍しいことである。
(´・_ゝ・`)「今日の夢はどんな夢を見た?」
('、`*川「…………」
ぺら、とページをめくる音がする。
答えはない。
(´・_ゝ・`)「ペニサス」
('、`*川「みてない」
(´・_ゝ・`)「見てない?」
('、`*川「たまにはそんなひもあるよ」
もう一度、ページをめくる音。
本当だろうか?
懐疑的な気持ちが湧いたが、口を閉じた。
(´・_ゝ・`)「……ペニサス」
('、`*川「ん?」
(´・_ゝ・`)「お昼は何がいい?」
('、`*川「てっかまき」
(´・_ゝ・`)「それは四日前に食べたじゃないか」
('ー`*川「ふふふ」
(´・_ゝ・`)「それ以外のものを食べに行こうよ」
呆れてそう言った僕に、
('ー`*川「ふふふ」
君はいつまでも笑っていた。
66
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:45:51 ID:FgKqm1Kw0
3.夜泣きとパパ 了
67
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 13:46:16 ID:FgKqm1Kw0
お題一覧
コーヒー
狐の嫁入り
番狂わせ
おとぎ話
パルクール
68
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 15:16:31 ID:ifDqmyIg0
おやおや
69
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 16:23:35 ID:gOu1Ej8s0
乙です
ペニちゃんかわいいし楽しみ
70
:
名無しさん
:2017/05/06(土) 18:32:40 ID:wTHqwgyI0
おつおつ
幸せな夢は初めてじゃないのかな
71
:
名無しさん
:2017/05/09(火) 23:15:44 ID:7wggKyTs0
鉄火巻き相当思い出の品になってるんだなぁ
乙
72
:
名無しさん
:2017/05/10(水) 13:02:18 ID:nii2cIEw0
ペニサスと一緒に鉄火巻食べたいだけの人生だった
73
:
名無しさん
:2017/05/11(木) 20:22:54 ID:KKVcuG7w0
乙乙
話もキャラも展開も、揃いも揃って好きです
お題
催花雨
74
:
名無しさん
:2017/05/12(金) 22:17:00 ID:xeD.YwWI0
やっばい、可愛い、語彙消える
75
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:55:30 ID:pzTUlDPc0
小さな手が、茹でたじゃがいもに衣を纏わせていく。
細かく砕いたパン粉である。
僕は荒いパン粉よりもこっちの方が好みであった。
油を余分に吸わないし、サクサクとして美味しいからだ。
('、`*川「これでいい?」
(´・_ゝ・`)「ありがとう、ペニサス」
バットに次々と並べられていくじゃがいもを、油の中に放り込む。
途端、皮付きのそれはじゅわじゅわと踊り始めた。
('、`*川「せんせいあつくない?」
(´・_ゝ・`)「大人は熱くないんだよ」
というのは嘘で、少し熱い。
それも我慢できるうちだから、なんてことはないのだが。
('、`*川「あ」
と、君は声をあげた。
('、`*川「じゃがいもがないてる」
ぴー、ちちちち……。
皮と実の間に入った空気が、油の熱で振動しているのだろう。
それをじゃがいもが鳴いたと勘違いしたのだ。
(´・_ゝ・`)(子供の感性はかわいいなあ)
説明するのも野暮であろう。
僕はそうだねと返してあげた。
76
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:56:01 ID:pzTUlDPc0
(´・_ゝ・`)「どうして鳴いてるのかな」
('、`*川「んー……」
パン粉だらけの手を洗いながら、君は考える。
('、`*川「たぶんね、とりがいるの」
(´・_ゝ・`)「鳥?」
('、`*川「じゃがいものとり」
(´・_ゝ・`)「じゃがいもの鳥かあ」
('、`*川「それがね、かわをやぶってうまれようとしてないてるの」
(´・_ゝ・`)「ふむ」
それじゃあ熱いところに入れられて可哀想じゃ無いだろうか、とは言わない。
思っても、言わない。
('、`*川「きっとそのうちとんでいっちゃうの」
(´・_ゝ・`)「なら安心だね」
('、`*川「あんしん?」
(´・_ゝ・`)「無事に飛んでいけるんだね、その鳥は」
77
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:56:26 ID:pzTUlDPc0
菜箸で、ぐるぐるとフライを混ぜる。
フライ同士がくっつかないように、卵を撫でるように。
ペニサスは、ふふりと笑った。
('、`*川「うん、どこまでもいけるのよ」
ぴしゅーーー……。
と、じゃがいもの皮が破裂した。
手の甲に、赤い点を作り上げ、鳥はどこかへと飛んでいったのだろう。
僕にはそれが見えないし、誰の目にも見えるものではないだろう。
しかしペニサスの頭の中ではそうなのだ。
鳥は、たしかに飛んで行ったのであった。
朝からじゃがいものフライを作っているのには理由がある。
僕の病院では月に一度、デイケアを行なっている。
先月はお花見。
今月はピクニック。
来月は梅ジュース作り。
再来月はそれを使ったパーティーだ。
そして今日が、ピクニックに行く日なのである。
天気は良好、最近吹き荒れていた風も少なく出かけるのにはちょうどいい日であった。
あとは熱中症にならないよう、ペニサスに帽子をもたせれば完璧である。
78
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:56:49 ID:pzTUlDPc0
ピクニックでは、各自が料理を持ち寄ってもいいことになっていた。
もちろん持ってこなくたっていい。
バドミントンやフリスビーなどの遊び道具を持ってくる人もいれば、飲まず食わずでただそこにいる人もいる。
帰る時間は自由だし、夕方の五時までずーっと一緒にいたって構わない。
来たい人は来ればいいし、行きたくないなと思ったらそれでいい。
勇気がなかったら、その時は僕たち医者や看護師が助ける出番だ。
その人が馴染む手伝いをして、楽しく過ごす。
それがデイケアの目的であった。
(´・_ゝ・`)「じゃあ行こうか」
('、`*川「はあい」
ポテトフライにサンドイッチ、飲み物もたくさん持って、僕たちは家を出た。
79
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:57:18 ID:pzTUlDPc0
バスで三十分ほどかかって、自然公園に着いた。
ある程度行政の手が入っているものの、野山といった雰囲気である。
比較的麓にある広場が、集合場所になっていた。
o川*゚ー゚)o「院長おはようございますぅー」
キュートがぶんぶんと手を振りながら、挨拶して来た。
僕もそれに倣い、手を挙げた。
(´・_ゝ・`)「早かったね」
o川*゚ー゚)o「シューちゃんが早く行きたいってゆうから来ちゃった」
既に敷かれているレジャーシートの上では、少女が一人座っていた。
キュートの妹である、シュールだ。
しばらく見ないうちに随分と大きくなったな、と僕はペニサスと見比べた。
年も近いし、いい友達になれるかもしれない。
ペニサスも、シュールのことが気になっているようだった。
(´・_ゝ・`)「遊んでてもいいよ」
('、`*川「いいの?」
(´・_ゝ・`)「まだ準備があるからね」
('、`*川「……てつだわなくていい?」
(´・_ゝ・`)「じゃあ帰りに手伝ってもらおうかな。今はたくさん遊んでおいで」
途端、ペニサスはにっこりと笑った。
ありがと! と一言その場に置いて彼女は走っていった。
80
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:57:45 ID:pzTUlDPc0
o川*゚ー゚)o「シューちゃんも女の子が来るって楽しみにしてたんですよー」
キュートはにまにまと、ペニサスの背を見てそう言った。
(´・_ゝ・`)「それはよかった」
ホッとしたところで、僕たちは準備を始めることにした。
レジャーシートを張ったり、パラソルで日陰を作ったり。
そのうちに、
(-_-)「はよざまー、せんせ」
(´・_ゝ・`)「ヒッキーくんおはよう」
(-_-)「これ、コンビニの廃棄の」
o川*゚ー゚)o「フランクフルトに唐揚げ棒ー!」
(´・_ゝ・`)「バイト帰りかい?」
(-_-)「うす、夜勤明けっす」
(´・_ゝ・`)「大丈夫かい?」
(-_-)「昔に比べたら元気っす全然」
o川*゚ー゚)o「あ、お茶飲む?」
(-_-)「うす」
81
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:58:06 ID:pzTUlDPc0
ちらほらと人が集まり始めて、
从 ゚∀从「せんせーおはよ」
(´・_ゝ・`)「おはよう、ええと」
从 ゚∀从「今日はくんの気分で」
(´・_ゝ・`)「ああ、じゃあ高岡くんおはよう」
从 ゚∀从「オレ何にも持って来てないんだけどいい?」
(´・_ゝ・`)「いいんだよ、ゆっくりしていってくれ」
从 ゚∀从「はあいー」
82
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:58:30 ID:pzTUlDPc0
いつのまにか、
ノパ⊿゚)「す、すみません森岡さん。すっかり遅くなっちゃって」
(´・_ゝ・`)「いえいえ、今準備が終わったところです」
ノパ⊿゚)「あちゃー……」
(´・_ゝ・`)「気にしないでください、楽しみましょう」
ノパ⊿゚)「……あの、アイス買って来たんですけど」
lw´‐ _‐ノv「アイス?」
('、`*川「アイスー?」
o川*゚ー゚)o「アイスぅ!?」
(´・_ゝ・`)「キュートくんもう少し落ち着きなさい」
ノパ⊿゚)「アイス食べたい人ー」
从 ゚∀从「もらっていいんすか?」
ノパ⊿゚)「どうぞどうぞ」
83
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:58:54 ID:pzTUlDPc0
ピクニックは、
(#゚;;-゚)「先生こんにちは」
(´・_ゝ・`)「でぃさん、来てくれたんですね」
(#゚;;-゚)「うん、邪魔にならないようにするから」
(´・_ゝ・`)「邪魔になんて思ってないよ。好きに過ごしていいからね」
(#゚;;-゚)「…………」
(´・_ゝ・`)「困ったことがあったらなんでも言ってください。きっと力になれるから」
(#゚;;-゚)「……はい」
始まっていた。
84
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 16:59:30 ID:pzTUlDPc0
(´・_ゝ・`)「…………」
かなたから、子供の叫び声が聞こえる。
それは悲惨な色ではなく、喜びと興奮に満ちたもので。
千切れるように笑うペニサスの後を、ヒッキーが追いかけている。
疲れているだろうに、その体からはエネルギーが満ちていた。
そのまた後ろから、今度はシューが追いかけていた。
ルールは全くわからない。
わからないが、皆楽しそうに互いを追いかけ回していた。
(´・_ゝ・`)(あ、ペニサスがヒートさんにタッチした)
ちょっと待ってて、と手で制したヒートは、アイスコーヒーを飲み干した。
紙コップを置くと、ヒートは追いかけっこの輪に馴染んだ。
まるで最初から加わることが決まっていたかのように。
(#゚;;-゚)「先生」
(´・_ゝ・`)「ん?」
いつのまにか僕の横に、でぃが来ていたらしい。
全く気付いていなかった。
(´・_ゝ・`)「どうかしました?」
(#゚;;-゚)「いえ、先生がなんだか寂しそうな顔をしてたから」
(´・_ゝ・`)「…………」
(#゚;;-゚)「先生もそんな顔をするんだなと思って、珍しくて来ちゃいました」
(´・_ゝ・`)「はは、そうでしたか」
85
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:00:17 ID:pzTUlDPc0
笑顔を取り繕い、かなたから手元へ視線を移す。
サンドイッチ、卵焼き、佃煮、唐揚げ棒、フランクフルト、つくねハンバーグ、プチトマト、アスパラのベーコン巻き、たこさんウインナー、ポテトフライ、おにぎらず。
誰がどれを持ってくると言ったわけでもないのに、どうしてか被りは少なかった。
(#゚;;-゚)「先生も寂しいと思う時があるんですね」
長袖の先から、華奢な手が伸びた。
その指先が向かった先はおにぎらずであった。
キュートがシュールと一緒に作ったと自慢していた一品だ。
意外とこれが、食べやすくてみんなには好評であったのだ。
(´・_ゝ・`)「そりゃ僕も寂しいと思う時はありますよ」
(#゚;;-゚)「ですよね。何言ってんだろ」
(´・_ゝ・`)「何言ってもいいんですよ。言わなくてもいいですけど、でも申し訳なく思うことはありません」
(#゚;;-゚)「……そう思いたいんですけどね」
小さく口が開き、歯がおにぎらずをむしり取った。
大して咀嚼もせず、丸呑みといった風に喉を下っていった。
86
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:00:56 ID:pzTUlDPc0
('、`*川「つっかれたあ」
火照った顔で、ペニサスはやって来た。
(´・_ゝ・`)「大丈夫か?」
昨日見た天気予報では三十度近くまで気温が上がると言っていた。
熱中症にでもなられたら困るので、キンキンに冷えたアクエリアスを差し出した。
('、`*川「ありがとせんせい」
きゅっ、きゅっ、きゅっ、と細い喉が飲み下して行く。
('、`*川「あとねせんせい」
(´・_ゝ・`)「うん?」
ぽす、と額にペニサスの手が当てられる。
そして振り向いたかと思うと、
('、`*川「せーんせとこーうたい!」
lw´‐ _‐ノv「えー、抜けちゃうの?」
不満そうなシュールの声が、遠くから響いた。
(´・_ゝ・`)「なに、僕が今度は鬼?」
('、`*川「いっぱいタッチしたひとがかち」
(´・_ゝ・`)「勝てるかなぁ……」
運動不足にも程がある僕は、しかし不思議とやる気が湧いていた。
(´・_ゝ・`)「君はしっかり休んでいるんだよ」
なんなら日陰に行くといい、と付け加えて僕は駆け出した。
87
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:01:31 ID:pzTUlDPc0
('、`*川「いってらっしゃい先生」
手を振ったけれど、先生は振り返ることなく走っていってしまった。
('、`*川「…………」
なんだかそれが面白くなくて、コップを軽くにぎりしめた。
ぺこ、と透明なコップは、ジュースに波紋を作った。
(#゚;;-゚)「……先生の娘さん?」
先生の隣に座っていたお姉さんは、急に話しかけてきた。
わたしはびっくりして、首を横にふった。
('、`*川「んーん、でも先生はパパになってくれた人」
(#゚;;-゚)「……なんだか複雑そうね」
顔に火傷のあるお姉さんは、聞き取りにくい声でそう言った。
火傷は、何かしょもあった。
右目のくまからほっぺたまで、赤茶色の傷が絵の具のようについていた。
(#゚;;-゚)「……気になる?」
お姉さんは、やんわりと笑った。
わたしは正直にうなずいた。
(#゚;;-゚)「これはね、わたしがわたしのことを嫌いで罰を与えた跡なの」
分かる気はした。
わたしも、変な力を持つわたしが大きらいだった。
(#゚;;-゚)「すぐ人のこと怒らせたり、嫌われるようなことしちゃうから、嫌になってわざと焼いちゃった」
('、`*川「…………」
火傷は、すごく痛いものだ。
でも、先生も今朝火傷したけど、大丈夫そうだった。
もしかしたら大人は痛くないのかもしれない。
88
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:02:05 ID:pzTUlDPc0
(#゚;;-゚)「……あなた、日陰に行った方がいいかも」
ふと、お姉さんは心配そうな顔になった。
(#゚;;-゚)「顔が真っ赤よ」
('、`*川「うーん……」
(#゚;;-゚)「頭痛くなったりしてない?」
そういえば、さっきヒッキーさんを追いかけていて頭がクラクラした。
少し休めば大丈夫かと思ったけど、まだそれは治りそうになかった。
(#゚;;-゚)「一緒に行きましょ?」
と、お姉さんが指差した先にはパラソルの刺さったシート。
そこには、銀ぱつの人が寝転んでいた。
从 -∀从「…………」
すやすやと、その人は子どものように寝ていた。
瞼にはラメがキラキラと光っていて、鼻筋は高くって、すごくきれいな人だった。
(#゚;;-゚)「……そういえば自己紹介してなかったね」
お姉さんの一言に、わたしもハッと気がついた。
('、`*川「もりおかペニサスです、よろしくお願いします」
(#゚;;-゚)「桐崎でぃ、よろしくね」
お姉さんは、ちらと寝ている人を見た。
(#゚;;-゚)「そこにいるのは高岡ハインさん。何回かデイケアで見たことあるの」
('、`*川「ふうん……」
もう一度、わたしは高岡さんを見てみた。
89
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:02:35 ID:pzTUlDPc0
('、`*川「……この人、男の子か女の子かわかんないね」
从 ゚∀从「おー、今日は男の気分だね」
ぱち、と目が開いて、わたしは声をあげそうになった。
从 ゚∀从「あーあ、よく寝た。一ヶ月ぶりによく寝たわほんと」
(#゚;;-゚)「よかったね、高岡くん」
お姉さんの言葉に、高岡さんはにひひと笑った。
从 ゚∀从「時々ロビーで見かけるお嬢ちゃんだな」
(#゚;;-゚)「盛岡先生の娘さんみたいよ」
从 ゚∀从「ああそう」
高岡さんは、さして興味がなさそうに言った。
从 -∀从「あー……まだ寝足りねえ、眠くってしょうがねえ」
('、`*川「寝るのが怖いの?」
だとしたらちょっと前のわたしとそっくりだった。
眠いけど寝れないのはとても辛いことだっていうのはよく知っていた。
从 ゚∀从「怖いわけじゃねえんだよ」
ふわぁ、と口からあくびが逃げた。
そのかわり、しんせんな空気をぱくりと飲み込んでしまった。
从 ゚∀从「寝たいんだけど寝てるとおっかねえ夢を見ちまうのさ」
('、`*川(おっかない夢ってどんな夢だろう)
起きてから、怖いとか楽しかったとか、そう思うことはたくさんあった。
だけどどんなに怖い夢でも、飛び起きたことはなかった。
それは、わたしには関係なくて、わたしの身の回りの人に起きる夢だから。
もうすぐに現実になってしまう夢だから、あんまり怖いと思ったためしがないのだ。
('、`*川(怖いのは、現実になった後に怒る人たち)
だから、夢が怖くて眠れないというのはよく分からなかった。
90
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:03:02 ID:pzTUlDPc0
从 ゚∀从「……水の夢でさあ、オレは溺れてるんだよ」
('、`*川「…………」
从 ゚∀从「暗くて、冷たくて、最初は遠くに光が見えるんだ」
('、`*川「…………」
从 -∀从「……だけど、そのうち縦横上下がわかんなくなってさ」
('、`*川「…………」
从 ゚∀从「……沈むんだよ、ずっと」
そして最後には苦しくなって起きてしまうのだと、高岡さんは言った。
('、`*川「……怖い夢だね」
もしそんな夢が現実になったら、わたしだって怖いだろう。
(#゚;;-゚)「水の夢は怖いよね」
お姉さんも、はぁとため息をついた。
从 ゚∀从「しかも時々鯨が出てきてさぁ」
(#゚;;-゚)「鯨?」
从 ゚∀从「そ。でっけえやつ」
('、`*川「それが怖いの?」
从 ゚∀从「……遠くでさ、溺れてるオレを見つめてるんだよ。まるで早く死なねえかなっていう風に」
('、`*川「…………」
死ぬ。
それは、とても怖いことだった。
91
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:03:45 ID:pzTUlDPc0
从 ゚∀从「その鯨がゆっくり近づいてくることもあるから飛び起きちまうんだよな」
(#゚;;-゚)「やな夢ね」
从 ゚∀从「まったくな」
(#゚;;-゚)「わたしも昔、水の夢見たことがあるよ」
('、`*川「どんな夢?」
(#゚;;-゚)「綺麗な海を泳ぐ魚の夢」
从 ゚∀从「へえ、いいじゃん」
(#゚;;-゚)「だけど海底から急に網が持ち上がって、その中に捕まってしまうの」
('、`*川「…………」
(#゚;;-゚)「釣り上げられたら死んでしまうって、その時はすごく怖くて暴れるの」
从 ゚∀从「…………」
(#゚;;-゚)「でも、網にはフジツボやサンゴが生えていてね、暴れるとそれが突き刺さるの」
从; ゚∀从「…………」
(#゚;;-゚)「そのうちふと思うの。ああ、このまま釣られて死んじゃってもいいかな、って」
('、`*川「…………」
从; ゚∀从「おい……」
(#゚;;-゚)「……という夢を高校生の時に見たことがあるわ。もう七年前になるかしら」
ふ、と柔らかく微笑んで、お姉さんはそう言った。
(#゚;;-゚)「今はもう見ない夢だから、高岡くんも早く丘に上がれるといいわね」
从 ゚∀从「……ありがと」
高岡さんは、照れ臭そうにそう言った。
('、`*川「…………」
水の夢が、少し怖くなった。
92
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:04:38 ID:pzTUlDPc0
散々子供を追いかけ回しているうちに、帰る時間はやってきてしまった。
lw´‐ _‐ノv「きゅうと姉、またぺにちゃんと遊べるかな?」
o川*゚ー゚)o「うん、遊べるよ」
('、`*川「わたしもまたしゅーちゃんとあそびたいよ」
lw´‐ _‐ノv「約束だからね、またね」
(-_-)「あーしんどいこれもう家帰ったらばったりだわ」
(#゚;;-゚)「お疲れ様」
(-_-)「桐崎さんもおつかれー、じゃお先っす」
从 ゚∀从「またなー引津」
ノパ⊿゚)「今日は誘っていただきありがとうございました」
(´・_ゝ・`)「いえ、忙しいのにこちらこそ」
ノパ⊿゚)「また日程が合ったら来てもいいですか?」
(´・_ゝ・`)「もちろんです」
93
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:05:03 ID:pzTUlDPc0
楽しく時間を過ごす。
自分のペースで会話を出来るようになる。
人がいることに慣れる。
そのきっかけになるのなら、こんなにも嬉しいことはなかった。
(´・_ゝ・`)「今日はいい日だった」
バスは、少しずつ公園から遠ざかっていく。
その膝の上では、遊び疲れた少女が眠りについていた。
(´・_ゝ・`)(どんな夢を見ているのやら)
起きたらぜひ、聞かせてもらおうと思っていた。
94
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:06:09 ID:pzTUlDPc0
('、`*川「…………」
水の上に、わたしは浮いていた。
太陽はない。
お月様もない。
それなのに空は明るい青空で、時折黒い点が動いていた。
('、`*川(ここはどこだろう)
体を動かす気はなかった。
居心地がよくて、いつまでも浮いていたかった。
('、`*川(鳥だ)
はるかかなたの点は、鳥だったらしい。
一羽の鳥だ。
ぐるぐると、円を描いて飛んでいる。
その影が、少しずつ大きくなっていった。
95
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:06:37 ID:pzTUlDPc0
家に着いてもなお、ペニサスは眠っていた。
よほど疲れているのだろう。
ベットに横たえて、僕は夕飯を作ることにした。
(´・_ゝ・`)「じゃがいもが余っているんだよなあ」
ポテトサラダにでもしようか、簡単だし。
冷蔵庫にはきゅうりとハムがあった。
メインは、冷凍のハンバーグがあるし……。
96
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:07:04 ID:pzTUlDPc0
鳥は、少しずつ降下していく。
わたしめがけて。
('、`*川「…………」
不思議と怖くなかった。
嘴がどれほど鋭くても、射抜くようにこちらへ向かって来ても。
('、`*川(鳥……)
わたしは、怖くなかった。
ただ、欲しいものが、一つあった。
97
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:07:33 ID:pzTUlDPc0
(´・_ゝ・`)「……ん?」
手にしたじゃがいもの皮が、少しうねった。
(´・_ゝ・`)「……気のせいかな」
じゃがいもの皮に包丁を当て、切れ込みを入れようとした時だった。
「…………ーーー、ちちちちち」
(´・_ゝ・`)「…………」
包丁を持つ手が、止まる。
鳴いた。
たしかに、じゃがいもが鳴いた。
「……ぴーーー、ちちちちち……」
(;´・_ゝ・`)(ほら、ほら)
そのうち、じゃがいもの皮がぷつりと破けた。
ぴり、ぴり、と向こうから、嘴が見える。
かすかにじゃがいもが揺れる。
手のひらの上で、蠢いている。
明らかに生命を持った何かが、じゃがいもから生まれようとしていた。
(;´・_ゝ・`)「どうすればいいんだ」
ひとまず包丁を置いて、僕は見守る。
ゆらゆらと揺れるじゃがいも。
スリットはもう三分の一ほどになる。
その向こうから、柔らかな毛が見えた。
98
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:08:17 ID:pzTUlDPc0
(´・_ゝ・`)(獣だ)
爬虫類ではないらしい。
それだけでもよかった。
そして一つの可能性にたどり着く。
(´・_ゝ・`)(これは、もしや)
じゃがいもの、とりだ。
おとぎ話のような存在が、今まさに生まれようとしていた。
(´・_ゝ・`)(頑張れ……)
じゃがいもの皮はほぼ破れかけている。
(´・_ゝ・`)(生まれてくるんだよ)
生まれたら真っ先にペニサスに見せてあげよう。
君の思いつきが、現実になったのだよ、と。
(´・_ゝ・`)「頑張れ……!」
そして、
( ゚∋゚)「ちちちっ」
薄くクリームがかった色の、小鳥が生まれた。
99
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:08:49 ID:pzTUlDPc0
ペニサスは起きてきたのは、それからしばらく経ってからだった。
('、`*川「せんせい、ゆうはんは?」
(´・_ゝ・`)「あ」
すっかりと忘れていた。
なにせ小鳥なんか飼ったことがないし、道具もない。
そもそもじゃがいもから生まれた小鳥は、普通の小鳥と同じ世話をしていいのだろうか?
生まれて数分で飛び回る小鳥に、僕は頭がいっぱいになっていた。
('、`*川「わ、これじゃがいものことりさん?」
( ゚∋゚)「ちちっ」
ペニサスはすぐ状況を理解したらしい。
早速小鳥と遊び始めていた。
(; ゚∋゚)「ちちちっ」
心なしか小鳥は戸惑っているように見えるのは気のせいだろうか?
(´・_ゝ・`)「まあいいか」
そのまま一人と一羽をそっとしておいて、僕は再び夕食の準備に取り掛かった。
100
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:09:17 ID:pzTUlDPc0
4.ピクニックとじゃがいもの小鳥 了
101
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 17:09:43 ID:pzTUlDPc0
お題一覧
催花雨
狐の嫁入り
番狂わせ
パルクール
以下お題を一つ募集します
102
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 19:18:11 ID:ChOhSqhc0
乙!ペニサスかわいい
お題:海
103
:
名無しさん
:2017/05/19(金) 22:09:21 ID:ql7z0N1w0
面白かった、デイケアの描写がリアルだなぁ
104
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 06:15:52 ID:eXmXpTr.0
クックルが可愛く見えたのは初めてかもしれない……おつおつ
105
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 17:08:35 ID:.wU3B1tk0
クックルだから一瞬ムキムキの鳥が生まれたのかと思ったけど可愛かった
乙
106
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 19:35:52 ID:eZ915dbw0
せっかくなのでお題をさらに五つ追加しようと思います
よかったらどうぞ
107
:
名無しさん
:2017/05/20(土) 19:36:43 ID:hTCL./jI0
お題フリスビー
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