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夢見る人に之聴く人のようです

1名無しさん:2017/04/25(火) 21:04:20 ID:gNviqX360
母親がわりの親戚に手を引かれ、おずおずと診察室にやって来た君は当時九歳であった。

(゜д゜@「うちの子変なんです」

変、とは一体なんだろう。
生きる意欲を失くした人のことか。
支離滅裂な妄想に囚われ習慣に固執する人のことか。
はたまた集中力が切れやすく、走り回ってしまうのか。
言葉の意味を図りかねている僕に、如何なる異常が見られるのか、その人は語り始めた。
しかしそれよりも、僕の視線は彼女に釘付けであった。
貧相な体つきに伸ばしっぱなしの髪。
頭皮は白く粉が吹き、風が吹けば雪のように舞いそうだった。
爪もまた伸びっぱなしだった。
白貝のような爪の奥には、垢がどっちゃり積もっているようだった。
そういえば微かに異臭もする。
饐えた臭いは、少女には似合わなかった。
なにより一番気になるのは表情だ。
目の下は窪み、まなこは赤く充血し、瞼は薄く晴れていた。
血色の悪い唇は噛み締められている。
針の筵に座り続けているような雰囲気が、診察室に満ち始めていた。
ともすれば、隣の夫人は彼女の獄卒であろうか。

(゜д゜@「こういうわけで」

と、どういうわけかは分からないが、夫人はとにかく困っているようだった。

(´・_ゝ・`)「お話しはよくわかりました」

分かっていない。
分かっていないが、分かることはある。

(´・_ゝ・`)「では直ちに入院ということで」

僕の申し出に、夫人は大喜びしていた。
少女は僕をちらと見た。
僕もまたちらと見返すと、少女はそっと目をそらした。
子に親は必要であるが不必要なこともある。
彼女に最適な空間を提供すべきだろう。

(´・_ゝ・`)(ところで何が変なのやら)

入院の手続きを機械的に行う一方で、僕は気になっていた。

彼女の奇妙な性質については、一夜明けてから分かった。

149名無しさん:2017/06/14(水) 16:56:21 ID:KZBCkde.0
かくして、夜中のパンケーキパーティーは始まった。
材料は牛乳、卵、ホットケーキミックス、それからちょっとした冒険で塩胡椒。
これはペニサスの提案である。
なにかひとつ隠し味を入れたいというから、好きに選ばせたらこれを出してきたのだ。
そんなのやめなよとかだめだよとか、そういうことは一切言わない。
夜中は何をやってもいい時間なのだ。
何をしても、寝ている人を起こさなければ、許される時間なのだ。

(´・_ゝ・`)「だからね、ペニサス」

('、`*川「うん」

(´・_ゝ・`)「僕も昔、眠れなかった時にはベッドの上でお菓子を食べたりしてたよ」

('、`*川「まよなかだから?」

ぐるぐると、ペニサスの混ぜるボウルに、ペニサスの言葉が落ちていく。

(´・_ゝ・`)「そうだよ。まよなかだからね。何やったっていいんだよ、って自分を許した」

僕の言葉も、ボウルの中へと落とし込む。
薄ベージュ色の生地は、だまひとつなく混ざったらしい。

(´・_ゝ・`)「少し冷蔵庫で冷やしてあげよう」

('、`*川「いつもすぐやいちゃうのに?」

(´・_ゝ・`)「生地を休ませるとおいしいパンケーキになるんだよ」

('、`*川「まよなかだからね」

脈絡もなく、ペニサスは言った。
どうやらその言葉が気に入ったらしい。

(´・_ゝ・`)「うん、まよなかだからね」

僕も真似して繰り返すと、妙にスッとした気分になった。
ペニサスは笑った。
僕も笑った。

150名無しさん:2017/06/14(水) 16:57:09 ID:KZBCkde.0
生地を休ませている間、どうしても暇ができた。
ペニサスは、食器棚を覗いて指差した。

('、`*川「あのおさらつかったことないね」

(´・_ゝ・`)「ああ……」

もう何十年も前に、母が買ってきた皿であった。
縁がレース生地のように穴が空いている、上等な白磁の皿だった。

(´・_ゝ・`)「でも一枚しかないんだよな」

もう一枚は小さい時いたずらで割ってしまったのだ。
そのせいだろうか、隠すように他の器の下敷きにしてしまっていたのは。

('、`*川「……いちまいにたくさんのせたらだめ?」

(´・_ゝ・`)「だめじゃないね」

('、`*川「じゃあのせよ?」

(´・_ゝ・`)「のせようか」

( ゚∋゚)「ちちちっ」

長らく日の目を見なかったその皿を出してやると、それは随分と大きかった。
これならパンケーキの山が崩れても大丈夫かもしれない。
そんなことを思いながら、僕は皿を洗った。

('、`*川「ねーね、こないだかったかみナプキンだしてもいい?」

(´・_ゝ・`)「いいよ、そこの引き出しにあるから」

('、`*川「はーい!」

(´・_ゝ・`)「ああついでだ、ナイフとフォークも準備してくれるかな」

('、`*川「はーい!」

(´・_ゝ・`)「元気でよろしい」

151名無しさん:2017/06/14(水) 16:57:34 ID:KZBCkde.0
手際よく、ペニサスはテーブルを飾り付けていた。
レモン柄の紙ナプキンに、銀のナイフとフォーク。
かとおもえばリビングを出て行って、花瓶と造花を持ってきた。
玄関に飾ってあったものを、わざわざ持ってきたのだろう。
それから椅子もちょっぴり引いて、ハンカチをのせていた。
随分と大掛かりなことになってきたな、と思いながら僕はジャムを取り出した。
いちご、ブルーベリー、あんず、マーマレード。
いつもなら一種類だけトーストに乗せているのだが、今日は大盤振る舞いである。

(´・_ゝ・`)「なんたってまよなかだからね」

小声で呟きながら、バターも取り出した。
パンケーキを焼くのには、随分と時間がかかった。
牛乳を多めにして、薄く焼くつもりだったとはいえ四袋分はちょっとやりすぎであった。

('、`*川「でもまよなかだもんね」

( ゚∋゚) ゙「ちちっ」

ペニサスの言葉に、心なしかクックルは頷いたように見えた。

(´・_ゝ・`)「席についてていいよ」

フライパン二つをシンクにつっこんで、そう言った。
片付けは後だ。
朝になったら僕が昨日の僕に怒るだろうな、とわかっていても。

(´・_ゝ・`)「出来立てが一番だ」

152名無しさん:2017/06/14(水) 16:58:35 ID:KZBCkde.0
ゆっくり、ゆっくり、タワーを壊さぬように運ぶ。
なにせ二十枚分だ。
今まで作ったことも見たこともないようなパンケーキが、二十枚。
興奮しながら、眠気を払いつつ慎重に運ぶ。

('、`*川「…………うわぁ」

無事に、テーブルに置かれた皿を見て、ペニサスは拍手した。

(´・_ゝ・`)「ジャムもバターもはちみつも、全部好きに使っていいよ」

あとは適当に取って食べるんだよ、という説明はいらなかった。
すでに二人とも、手を伸ばしていたからだ。

('、`*川「いただきまーす!」

四つに切り分けて、ペニサスはパンケーキを頬張った。

('、`*川「……おいひい」

うっとり、といった表情で言うもんだから、目は勝手に細くなった。

( ゚∋゚)「ちちちちっ!!」

('、`*川「あ、ごめんね、クックルにもあげるから」

小さく切られたそれに、クックルは早速飛びついた。

( ゚∋゚)「ちちぃ」

('、`*川「せんせい、おいしいっていってる!」

(´・_ゝ・`)「よかったね、ペニサス」

そう言って、一口食べてみた。
しゅわしゅわと口溶けがよく、バニラが香る。
それからほんの少し、ピリッとした辛さ。
甘けと、それを引き立たせるしょっぱさが、なんともいえない調和を作り出していた。
スライスチーズをのせたら、もっと美味しくなるかもしれない、とも思った。

153名無しさん:2017/06/14(水) 16:59:14 ID:KZBCkde.0
(´・_ゝ・`)「塩胡椒、いいね」

('、`*川「まよなかはなんでもゆるしてくれるんだね」

(´・_ゝ・`)「ね」

('、`*川「ねー」

二、三枚食べてしまえば、お腹はいっぱいになるだろう。
そもそも暇つぶしで作ったようなものだから、そんなに食べられないのかもしれない。
ジャムをこんなにたくさん用意したのも大げさで、本当は紙ナプキンや花瓶も要らないのだ。
だけど、用意しちゃいけないという道理もない。

(´・_ゝ・`)(なにをしてもいいんだよ)

まよなかだから。
結局、ペニサスは二枚目を食べている途中で眠ってしまった。
口を無理やり開けて歯磨きさせるのは至難の技だったし、ゆすごうにも口が閉じてて大変困ったり。
そのうちクックルまで寝付いてしまって、まとめてベッドで寝かせてしまった。
それから、やっと自分が寝る支度をして。
随分時間がかかったけれども、不思議と苛立ちはなかった。

(´・_ゝ・`)(明日が日曜日でよかった)

その次の日は、学校だ。

(´・_ゝ・`)(頑張ったらまた遊ぼう)

昼間でも、まよなかでも。

154名無しさん:2017/06/14(水) 16:59:57 ID:KZBCkde.0
5.まよなかとパンケーキ 了

155名無しさん:2017/06/14(水) 17:00:42 ID:KZBCkde.0
お題一覧

催花雨
狐の嫁入り
番狂わせ
パルクール

フリスビー
かんな


お題を二つ募集します

156名無しさん:2017/06/14(水) 19:12:37 ID:ofl5/4Ws0
おつおつ!夜は自由な時間だもんな

お題・殺虫剤

157名無しさん:2017/06/14(水) 19:13:36 ID:ofl5/4Ws0
おつおつ!夜は自由な時間だもんな

お題・殺虫剤

158名無しさん:2017/06/14(水) 21:27:44 ID:q6NFYwnk0
かわゆす

159名無しさん:2017/06/14(水) 22:10:54 ID:yilGTzXc0
乙!ホットケーキ作ってこよ…

お題 自販機

160名無しさん:2017/06/15(木) 23:54:13 ID:Qxkok.3k0
番号振り間違えたのでついでに目次

目次

>>1
1.鉄火巻き味の歯磨き粉

>>24
2.底なし穴と熱いお湯

>>49
3.夜泣きとパパ

>>75
4.ピクニックとじゃがいもの小鳥

>>112
5.にせものとかたつむり

>>144
6.まよなかとパンケーキ

161名無しさん:2017/06/19(月) 08:08:12 ID:9V.gVJeY0
乙 いい保護者してるなぁ
お題今さらだけど>>14忘れてない?

162名無しさん:2017/06/19(月) 08:10:31 ID:9V.gVJeY0
すまん消化してるな、忘れてくれ

163名無しさん:2017/06/19(月) 22:46:10 ID:Su0GxiLk0
乙!
真夜中ってワクワクするよな
順調に幸せそうな家族になってて良かった

164名無しさん:2017/06/20(火) 00:52:23 ID:7hoUTXpA0
お題に>>141抜けてね?

165名無しさん:2017/06/20(火) 15:29:27 ID:.BO.E/CU0
>>164
>>147でデミタスが薬を飲んでたと言っているからそれでは

166名無しさん:2017/07/11(火) 00:35:08 ID:uzuKfGak0
待ってる

167名無しさん:2017/07/11(火) 01:11:16 ID:l1WspsjQ0
紅白の準備で忙しいんだ許せ

168名無しさん:2017/07/11(火) 02:13:26 ID:uzuKfGak0
なら気長に待つぜ!

169名無しさん:2017/07/20(木) 18:00:15 ID:n0wSdUXs0
梅のへそに竹串を刺し、てこのように動かした。
ピン、という手応えとともに、へそは飛んでいく。

(#゚;;-゚)「すごい、こっちまで飛んできた」

从 ゚∀从「スイカの種飛ばしとか思い出すな」

(-_-)「スイカの種飛ばし……?」

从 ゚∀从「なんだよやったことねえのかよヒッキー」

(-_-)「俺、種も一緒に食っちまうから」

从 ゚∀从「うーわ、それ盲腸になるんだぞ」

(-_-)「ならねえよ、二十年ずっと食ってんだぞ」

从 ゚∀从「なる」

(-_-)「ならない」

从 ゚∀从「なる」

(-_-)「ならない!」

从 ゚∀从「なるったらなる!」

(-_-)「ならねったらならねーよ!」

(´・_ゝ・`)「静かに!」

ピシャリと僕が言いつけると、デイルームの空気が止まった。

170名無しさん:2017/07/20(木) 18:00:54 ID:n0wSdUXs0
(´・_ゝ・`)(ああ、しまった)

考え事に気を取られて、つい大きな声を出してしまった。
中にはこういった刺激に弱い人もいるというのに。
現に、真向かいに座っていたでぃは固まっていた。

从 ゚∀从「すんません」

(-_-)「さーせん」

上体をべったり、テーブルに押し付けるようにして二人は謝った。
僕は慌てて楽にするように言って、それからため息を吐いた。

(#゚;;-゚)「先生、どうしたんですか?」

でぃが不思議そうに、僕を見つめた。

(´・_ゝ・`)「どうって、何も……」

(#゚;;-゚)「さっきからずっと上の空でしたよ」

(-_-)「何回も手滑らせて梅落としてるし」

ぐうの音も出ないほど正論であった。
何度か意識が削がれ、その度に仕事に集中しなければと考えていた。
しかし、患者たちにはお見通しだったらしい。

从 ゚∀从「話聞くだけならオレらにもできるよな、なっ!」

小さな部屋を見回して、ハインは頷く。
ヒッキーとでぃも、それに合わせた。

171名無しさん:2017/07/20(木) 18:01:25 ID:n0wSdUXs0
(´・_ゝ・`)「……ペニサスのことなんだけれども」

(-_-)「やっぱなー、そうだと思ったんすよ」

どこか嬉しそうに言った途端、でぃがヒッキーを睨んだ。

(-_-)「ごめんって桐崎さん」

(´・_ゝ・`)「……話を続けてもいいかな?」

(#゚;;-゚)「どうぞ」

静かな促しに、僕は三日前に起きた出来事を語った。
ペニサスが小学校に通い始めて一週間が経った。
最初は、心配なことが多かった。
なにせペニサスは授業を受けたことがない。
大勢の子供と時間を共有したこともない。
おまけに六月から通い始めたものだから、転入の時期が不自然だった。
珍しがられるだけで済むならいいのだが、子供から話を聞いた親から詮索を受けるかもしれない。
それから、夢の影響が学校に現れてしまうのではないかという心配が一番大きかった。
ここ最近、夢が現実に侵食する率は下がりつつあった。
その代わり、一度見るとなかなかの大騒ぎになることが定番になりつつあった。
最近では、朝起きてカーテンを開けたら鯨がいた。
まあるくて巨大な目と、僕の目が合った日には、気絶しそうなくらいに怖かった。
幸いにも、といえばいいだろうか。
鯨は音もなく空へと翻り、そのまま空の彼方へと消えていった。
ペニサスが起きてきたのちに、話を聞けばやはり鯨の夢を見たという。
本人は至って呑気に構えていたが、内心不安で仕方がなかった。
もしも、だが。
長時間拘束されることに耐えきれず、授業中に居眠りをしてしまったら。
あるいは具合が悪くなって眠った時。
僕がそばにいないまま、ペニサスが眠って、夢を見てしまったら。

172名無しさん:2017/07/20(木) 18:01:53 ID:n0wSdUXs0
そう考えると、不安になるのも仕方がない話だろう。
しかし、目下僕の頭を悩ませているのは、誕生日会のことだった。
時間が合う限り、ペニサスを迎えに行った。
どうしても仕事で遅くなる場合には一人で帰らせるのだが、やはり心配になるのが親心というものだろうか。
その日も僕は迎えに行ったのだ。
僕たちはいつも校門で落ち合った。
本を読んでいたり、先生や同級生と思しき子供と話していたり。
ペニサスはとても楽しそうに過ごしていた。
それがいつも僕をホッとさせてくれた。
歩き出せば手をつないでほしいとせがみ、今日起きた出来事をどんどん話す。
そんなひと時が、幸せだった。
しかしその日は違った。
ペニサスは、一枚の紙を畳んだり、読んだりをずっと繰り返していた。
大きさから言って、先生から渡されるプリントではない。
それにもっと上質な紙に思えた。

(´・_ゝ・`)「ペニサス」

そう呼びかけると、ペニサスは困ったように顔をあげた。
その隣からは、クックルが顔を出した。
いつのまにやら、また鳥かごから脱走したらしい。
クックルはたびたび、ペニサスにくっついて学校へ行くことがあった。
先生からもなんとかしてほしいと言われたのだが、どんなに気をつけていても逃げ出すものだから僕は諦めかけていた。

(´・_ゝ・`)「どうしたんだい、ペニサス」

再度呼びかけると、ペニサスはこう言った。

173名無しさん:2017/07/20(木) 18:02:56 ID:n0wSdUXs0
('、`*川「おたんじょうび会にさそわれたの」

差し出され、読んでみるとそれは招待状であった。
二週間後の日曜日。
美原ミセリの家で、彼女の誕生日会を行う。
ケーキを食べて、お話しをして、ゲームをする。
よかったらペニサスちゃんも来てね。
そう書かれた文字は、ラメが入っていて、キラキラと輝いていた。

(´・_ゝ・`)「よかったじゃないか」

('、`*川「よくないもん」

暗い表情で、ペニサスは言った。

('、`*川「おたんじょうびのおいわいなんてしたことないもん……」

その時、僕はようやくとんちんかんな返事をしたことに気がついた。
考えれば気付くことだった。
ペニサスがいたあの環境では、誕生日なんか祝うはずがなかった。
一度も祝われたことのないペニサスが、こういったものをもらって戸惑うのは無理もなかった。

(´・_ゝ・`)「……ごめん、すぐに気がつかなくて」

先生は悪くないよ、とペニサスは言う。
それでも、彼女が傷付いたのは事実だった。

('、`*川「おたんじょうび会、どうしよう」

行きたいけれども、何をすればいいのかわからない。
言葉にせずとも、その気持ちはよく伝わった。

174名無しさん:2017/07/20(木) 18:03:31 ID:n0wSdUXs0
(´・_ゝ・`)「というわけでどうしようかずっと悩んでいるんだ……」

从 ゚∀从「……闇が深いな」

ぼそりとハインが呟いた。
その通りである。
だからこそ、彼女が傷付かない方法で、誕生日会へ行けるように手ほどきをしなくてはならなかった。

(-_-)「誕生日会なんてあるんすね」

(#゚;;-゚)「ヒッキーくん、やったことないの?」

(-_-)「男はあんまりやらないかもなー」

僕も同じであった。
そう、やったことがないからどうすればいいのか、余計わからないのだ。

从 ゚∀从「じゃあやればいいじゃん、ペニサスちゃんの」

(-_-)「そうそう、やっちゃえばいいんすよ」

これで安心、という空気になるが、

(´・_ゝ・`)「そうもいかないんだよ」

(#゚;;-゚)「どうして?」

(´・_ゝ・`)「ちゃんと自分の誕生日にお祝いしてほしいというんだ」

たしかに気持ちはわからなくもない。
いかにも誕生日会の予行練習のようである。
今まで祝われてこなかったペニサスにそれをやらせるのは、酷というものだろう。

175名無しさん:2017/07/20(木) 18:03:55 ID:n0wSdUXs0
ちなみに、ペニサスの誕生日は今から二ヶ月、つまり八月。
もちろん間に合うわけがない。

(#゚;;-゚)「じゃあ、」

と、でぃは口を開く。
その計画に、僕たちは賛同した。

(-_-)「こうなったらちんたら梅ジュースを作っている場合じゃないね」

一同は頷き、急いで作業に取り掛かった。
計画は、極めてスムーズに進んだ。
買い出しにセッティング、その他諸々の準備。
これら全てを二日のうちに終えられたことは、驚異的と言ってもいいだろう。

(´・_ゝ・`)(ああ、緊張する)

一、二年生からジロジロと見られながらも、全く気にならなかった。
ペニサスのことだけが気になって仕方がなかった。

176名無しさん:2017/07/20(木) 18:04:28 ID:n0wSdUXs0
この日、僕はいつもより早く校門へ向かった。
早く行ったのにはさして理由はない。
落ち着かないのと、早くペニサスを迎えに行きたいあまりに、こんな時間に来てしまったのだ。

(´・_ゝ・`)(これを渡して、不機嫌になったりしないといいが)

スーツのポケットに手をやり、嘆息が一つ。
きっともうすぐ出てくる、ペニサスがやってくる。
そう考えていた時だった。

リハ*゚ー゚リ「あの、何されてるんですか?」

(´・_ゝ・`)「…………」

車の窓からぴょこんと飛び出したのはセミロングの頭。

リハ*゚ー゚リ「学校の前で、何されてるんですか?」

(´・_ゝ・`)「…………」

乗っているのは、パトカー。

(´・_ゝ・`)「ち、違うんです子供の迎えに来てて」

リハ*゚ー゚リ「親御さんですか?」

(´・_ゝ・`)「え、ええ」

訝しげに見る婦警に、冷や汗がダラダラと流れてくる。
子供は校門の手前で固まり始めているし、先生まで出てくるんじゃなかろうか。
そう思った時、肩に衝撃を受けた。

( ゚∋゚)「チチィ!」

(´・_ゝ・`)「クックル……?」

僕の首に頭をすり寄せながら、クックルは小さく鳴いた。

177名無しさん:2017/07/20(木) 18:04:54 ID:n0wSdUXs0
それより遅れて、

('、`*川「待ってよクックル」

ペニサスが走ってくるのが見えた。

(´・_ゝ・`)「あ、あっ、あの子です、娘は」

リハ*゚ー゚リ「本当ですか?」

(´・_ゝ・`)「間違いありません!」

やっと追いついたペニサスの手を取り、僕は叫ぶ。

(´・_ゝ・`)「僕はこの子の父親で、この子は僕の娘です!」

きょとんとした顔で、婦警はペニサスを見た。
ペニサスは混乱しているようだが、婦警の視線に気付くと頷いた。

リハ*゚ー゚リ「失礼しました、気をつけて帰ってくださいね」

そう言って、ようやくパトカーは去った。

('、`*川「……先生」

(´・_ゝ・`)「はい」

('、`*川「ちょっとはずかしい」

パトカーを見送った後、ペニサスは手を振りほどいた。

178名無しさん:2017/07/20(木) 18:05:33 ID:n0wSdUXs0
少しショックを受けるが、あたりを見回せば子供ばかりである。
中には、ペニサスの同級生もいたのかもしれない。
僕は謝って、歩き出した。

('、`*川「……あのね、先生」

(´・_ゝ・`)「うん」

('、`*川「……明日からはこなくてだいじょうぶだよ」

わたし、一人で学校いけるし、帰りも歩ける。
そう言うペニサスは、まっすぐ正面を見ていた。

(´・_ゝ・`)「そうか」

平静を装いながら、少し寂しく思っていた。
もしかしたら僕が迎えに行くことで、かえってクラスで浮いてしまっているのかもしれない。
だとしたら、周りの子と同じように一人で帰るのがいいのかもしれない。

( ゚∋゚)「チチッ」

羽を伸ばしながら、クックルが鳴いた。
その声で、ふと僕は思い出した。

(´・_ゝ・`)「ペニサス」

('、`*川「?」

(´・_ゝ・`)「……今日はこのまま病院に来て欲しいんだ」

そうして、僕はようやく招待状を手渡した。

179名無しさん:2017/07/20(木) 18:06:24 ID:n0wSdUXs0




盛岡 ペニサス 様。

あなたの今までのお誕生日をまとめてお祝いする会を開催いたします。

学校が終わったら、どうぞ病院へお越しください。




.

180名無しさん:2017/07/20(木) 18:06:50 ID:n0wSdUXs0
不安げなペニサスの手を握り、僕は階段を登る。
二階はクリニックで、三階はデイケアで使うホールになっていた。
誕生日会を行うのは、三階である。
ペニサスにとっては、初めて向かう部屋だった。

('、`*川「……気なんかつかわなくていいのに」

ぽつりと呟くから、僕は否定する。

(´・_ゝ・`)「僕がやりたかったんだ」

ドアノブに手を伸ばす。

(´・_ゝ・`)「……いや、みんなだな」

扉を開ける。
同時に、クラッカーの音が炸裂した。

(>、<*川「きゃっ!」

(´・_ゝ・`)「大丈夫だよ、ペニサス」

目を開けてごらん。
そう促すと、

('、`*川「わぁ……!」

ペニサスは、口を開けたまま部屋を見回す。
お誕生日おめでとう。
そう書かれたホワイトボードには、来客からの寄せ書きが小さく周りを取り囲んでいる。

181名無しさん:2017/07/20(木) 18:07:26 ID:n0wSdUXs0
天井には、折り紙で作った鎖が弛みを帯びて、ぐるりと飾られていた。
その隙間には寂しくないように、柔らかい紙で作った造花が埋められていた。
キュートとデイケアのメンバーが、急いで作ったもので、愛嬌があった。
作業台を組んで作ったテーブルの上には、フライドポテトに唐揚げ、フルーツポンチが用意されている。
これらはヒートと僕が準備したものである。
といっても、僕が作ったのはフルーツポンチだけなのだが。
ケーキを買ってきたのは、デルタである。
一番大きなものを注文したらしく、一見すると枕か何かのように見えて仕方がなかった。
それぞれの席には、レースのランチョンマットと名札が割り当てられていた。
あの繊細なランチョンマットは、でぃが趣味で作ったものだ。
手先が器用だとは聞いていたが、見事なものである。
名札は、シュールが丹精込めて書いたものだ。
もちろん、その席の通りにみんな座っていた。
残る席は二つ。
僕と、ペニサスの分だ。

(´・_ゝ・`)「ペニサス?」

はたと気付くと、ペニサスは顔を赤くしていた。

ノハ; ゚⊿゚)「ど、どうしたの!」

('、`*川「だ、だって、」

爪;'ー`)「なんだよ、だってって」

( "ゞ)「フォックス、言葉遣いを改めろ」

(#゚;;-゚)「……嫌だった?」

lw;´‐ _‐ノv「ぺにちゃん、どうしたのー」

182名無しさん:2017/07/20(木) 18:07:59 ID:n0wSdUXs0
みるみるうちに、ペニサスの目には涙がたまり出す。
おろおろするみんなに向かって、ペニサスは叫んだ。

( 、 *川「うれしいのに、泣いちゃうの!」

一瞬、静まり返って。
フォックスが、ゲラゲラと笑いだした。

爪'ー`)「ったくよー、心配させやがって! それは幸せな証拠だ!」

( 、 *川「おかしくないの? 変じゃないの?」

(´・_ゝ・`)「おかしいことでも変なことでもないよ」

しゃがみこんで、視線を合わせる。
ペニサスの頭に、クックルが止まった。
心配そうに、鳴くその声は、寂しい響きがした。

(´・_ゝ・`)「それは君の心に気付いて、君の体が正直に反応した証だよ」

从 ゚∀从「そうだよ」

ハインは、柔らかく言う。

从 ゚∀从「その気持ちを、ずっと忘れないでほしいな」

唇を噛み締めながら、彼女は微笑んでいた。

183名無しさん:2017/07/20(木) 18:08:25 ID:n0wSdUXs0
ペニサスが泣き止んでから、パーティーは本格的に始まった。
いつもの夕食よりはずっと早い時間からご飯を食べることになるが、今日は気にしない。
みんなと楽しく、今までのお誕生日をお祝いするのが主なのだから。

lw´‐ _‐ノv「ぺにちゃん誕生日おめでとー!」

ぎゅーう、とシュールは抱きついた。
ペニサスは、きゃあきゃあと言いながら笑った。

lw´‐ _‐ノv「はい、プレゼント」

差し出されたのは、正方形の箱。
いかにもプレゼントです、といった趣だ。

('、`*川「開けてもいい?」

lw´‐ _‐ノv「もちろん」

丁寧に、ペニサスは包装紙を剥がす。
そーっと、そーっと。
みんなが見守る中。
出てきたのは、二つのタッパー。

lw´‐ _‐ノv「それ、すごいんだよ」

不思議そうな顔をするペニサスに、シュールは胸を張る。

lw´‐ _‐ノv「炊きたてアツアツのご飯を冷まさずに、冷蔵庫にしまえるんだよ!」

一瞬の沈黙ののち、フォックスの咳払いが響いた。
おそらく笑いをこらえようとしたか、こらえきれなくなってデルタにど突かれたのであろう。
きょとんとしていたペニサスは、顔を輝かせる。

184名無しさん:2017/07/20(木) 18:08:58 ID:n0wSdUXs0
('、`*川「冷まさなくていいんだ!」

lw´‐ _‐ノv「うん、いいんだよ!」

('、`*川「ありがとう、しゅーちゃん」

lw´‐ _‐ノv「よかった、喜んでくれて」

o川*゚ー゚)o「はいはい、シューちゃんの次はお姉ちゃんねー」

妹を押しのけて、キュートは袋を差し出した。

('、`*川「わあ……!」

ピンクの袋から出てきたのは、眠り姫の絵本であった。
しかもただの絵本ではない。
一つ一つのページが刺繍で表現されている。
絵本というより、美術館のパンフレットのようであった。

('、`*川「きれい……」

上品な金色のスパンコールでできたドレス。
膿んだ海色の目をした悪い魔女。
髪の毛のような細さの糸によって繰り出される、糸車の躍動感。
催花雨のごとく、城へと降り注ぐ眠りの呪いと姫を守る荊。
そして、呪いを解く王子様のキス。
何もかもが美しく、子細に描かれていた。

('、`*川「ありがとう、毎日読みます」

o川*゚ー゚)o「どーいたしましてー」

心底嬉しそうに、キュートは笑った。

185名無しさん:2017/07/20(木) 18:09:26 ID:n0wSdUXs0
( "ゞ)「次は僕でいいかな」

といってもそんなに大したものじゃないんだけど、とデルタは小さな包みを差し出した。

( "ゞ)「気に入ってくれるといいけど」

('、`*川「ハンカチだ!」

薄いラベンダー色の布地に、Pと刺繍がされていた。
言わずもがな、ペニサスのPである。

( "ゞ)「ランドセルの色と同じものにしてみたんだけど……」

気遣い上手な彼らしいプレゼントであった。

('、`*川「デルタさん、ありがとう。大事に使います」

( "ゞ)「お誕生日おめでとう、ペニサスちゃん」

爪'ー`)「次はオレでいいかやー?」

ひょっこりと、その背から顔を出すフォックスの顔は赤かった。
むろん、酒のせいではない。
今日はジュースしか用意していない。
緊張しているのだ。

(´・_ゝ・`)「昔から変わんないね」

( "ゞ)「まったくだ」

ひそめきあう僕たちに気付かず、フォックスは小箱を渡した。

186名無しさん:2017/07/20(木) 18:09:51 ID:n0wSdUXs0
爪'ー`)「ハーモニカだ」

( "ゞ)「開ける前に言っちゃうのそれ」

爪'ー`)「あっやべ、うっかりしてた」

控えめに、波立つように笑いが広まった。
もっとも、ペニサスはハーモニカを知らなかったらしい。
開けてもどのように使うのか、困ったように固まっていた。

爪'ー`)「それはな、こうやって使うんだよ」

ウエストポーチから、年季の入ったハーモニカが飛び出した。
それを口にあてがうと、聞き覚えのある曲が聞こえてきた。

lw´‐ _‐ノv「ハッピーバースデーの歌!」

シュールは嬉しそうに、口ずさむ。
それにつられて、僕たちも歌い出す。
わけのわからないペニサスは、それでも嬉しそうに聞いていた。

爪'ー`)「っとまあ、こんな風に使うわけよ」

慣れるまで大変だけどな、とフォックスは笑った。

('、`*川「今度教えて?」

爪'ー`)「いいぜ、酒抜いて教えてやるよ」

にっかりと、フォックスは笑った。

187名無しさん:2017/07/20(木) 18:10:18 ID:n0wSdUXs0
(-_-)「なーんかすごい人の後にプレゼント渡すのって気がひけるわー」

頬をぽりぽりとかきながら、ヒッキーは造花を差し出した。

(-_-)「ごめんな、俺こういうの慣れてねえから」

('、`*川「かわいー!」

と、ペニサスは歓声をあげた。
クラッカーを持ったウサギが飛び出す、ポップアップ式のカード。
その下には、お誕生日おめでとう!と印刷されていて。
その横に、小さくペニサスちゃん、と書かれていた。

(-_-)「……まあ喜んでくれたんならいいや」

('、`*川「ありがとう、ヒッキー」

(´・_ゝ・`)「ヒッキーくんって言いなさい」

(-_-)「いいっすよ先生、かわいいじゃないっすか」

相変わらず、頬をぽりぽりかきながら、ヒッキーは去った。

188名無しさん:2017/07/20(木) 18:11:48 ID:n0wSdUXs0
(#゚;;-゚)「次、わたしかな」

ピンクの半紙と、さらに薄い白い紙が、かろうじてリボンで纏められている包みが手渡される。
そっと銀色のリボンを引っ張ると、

('、`*川「パジャマ!」

ガーゼ生地でできたワンピースが、出てきた。
胸元には、虹色のたてがみを持ったユニコーンがプリントされていた。

(#゚;;-゚)「もうすぐ夏だから汗疹とお腹を冷やしすぎないようにね」

誕生日おめでとう、そう言って静かにでぃは微笑んだ。

('、`*川「先生、今日から着ていい?」

(´・_ゝ・`)「君の好きにしなさい」

答えると、ペニサスは目を細めた。

189名無しさん:2017/07/20(木) 18:12:20 ID:n0wSdUXs0
从 ゚∀从「お誕生日おめでとーう」

にぃ、と笑うハインに、ペニサスはまじまじと見つめる。
今日の彼女は、黒いワンピースを着ていた。
ぱっと見魔女のようにも見えた。

('、`*川「今日はドレスなんだね」

不思議そうに言うペニサスに、

从 ゚∀从「そうね、今日は女の子の気分だから」

あっさりとかわして、ハインは小さな袋を差し出した。

从 ゚∀从「クッキー作ってみたの」

('、`*川「クッキー!」

( ゚∋゚)「チチチッ!」

目を輝かせるペニサスの隣で、クックルも鳴いた。

(´・_ゝ・`)「こらクックル、それはペニサスのだぞ」

('、`*川「いいよ、クックルにもあとであげるね」

ふふりと笑って、ペニサスは言う。

('、`*川「ありがとう、ハインちゃん」

从 ゚∀从「どういたしまして」

そうして、裾を少し摘み上げて、上品に礼をした。

190名無しさん:2017/07/20(木) 18:12:53 ID:n0wSdUXs0
ノパ⊿゚)「そろそろ終わりが見えてきたね」

ペニサスの周りには、すでにプレゼントで溢れかえっている。
帰りはデルタに車で送っていってもらう予定だったが、そうしておいてよかったと僕は思っていた。

(´・_ゝ・`)(なにしろバスで帰ってたら、持ちきれない)

それもまた、幸せではあるのだが。

('、`*川「ヒーちゃんはなんで背中に手回してるの?」

ノパ⊿゚)「ああ、これ?」

ふふん、と得意げにヒートは笑って、

ノパ⊿゚)「お誕生日おめでとう、ペニサスちゃん」

くまのぬいぐるみを差し出した。

('、`*川「くまさん!」

これがなかなかに大きくて、ペニサスは抱えるのに少し苦労した。

ヽ(・(ェ)・) ノ ゙「くまさんだよー」

ひこひこと、ヒートはくまの手を動かす。

゙ヽ(・(ェ)・) ノ「あとでぼくになまえをつけてね!」

('、`*川「つけるよ、大事にするよ」

ぎゅぅ、と抱きしめて、ペニサスは笑った。

191名無しさん:2017/07/20(木) 18:13:17 ID:n0wSdUXs0
o川*゚ー゚)o「院長、トリですよ」

(-_-)「トリってめっちゃプレッシャーだよね」

从 ゚∀从「うんうん」

(´・_ゝ・`)「そこ、露骨にプレッシャーかけない」

冷やかす三人は、ぱりぽりとポテチを食べている。

(´・_ゝ・`)(そんなこと言われると、緊張しちゃうだろう)

一度だけ、深呼吸をする。
肺を無理やり広げるようにして、息をすると少しだけ気持ちがほぐれるのだ。

(´・_ゝ・`)「僕からのプレゼントは、」

封筒状の、包みを渡す。
ペニサスは、すぐに袋を開けた。

('、`*川「あ!」

爪'ー`)「なんだなんだ?」

('、`*川「匂い付きのペン!」

(´・_ゝ・`)「うん」

バニラ、いちご、石鹸、オレンジ、ぶどう。
もちろん、インクにはラメも入っている。

192名無しさん:2017/07/20(木) 18:13:42 ID:n0wSdUXs0
(´・_ゝ・`)「君には、こういうものを持たせていなかったね」

考えてみれば、実用性重視の鉛筆や赤ペンしか与えていなかった。
せっかく手紙をもらっても、あれでは可愛げのない返事しか書けない。

(´・_ゝ・`)「気付いてあげられなくてごめんね」

まだまだ僕は、立派な父親だとは言えなかった。
それでも、ペニサスは、

('、`*川「うれしい」

僕を真っ直ぐ見つめて、

('、`*川「すっごくうれしいの」

喜んでくれる。

193名無しさん:2017/07/20(木) 18:14:13 ID:n0wSdUXs0
次の日も、平日はやってくる。
まだまだ休みには程遠く、しかし次の日も楽しんで迎えられそうなくらいには遊び尽くした。
片付けも七時には終わり、各自解散となった。

(´・_ゝ・`)「眠いか」

目をこすりながら、首を振るペニサス。
クックルは、とうに寝付いてしまっていた。
今は、ペニサスの手の中で眠っている。

(´・_ゝ・`)「寝なさい」

その頭を撫ぜてやって、僕は無理やり寝かしつけてしまう。
あと十分ほどで、デルタの車は僕の家に着く。
その少しの間でも、休ませてやったほうがいいだろう。

(´・_ゝ・`)「悪いな、忙しいのに」

信号から目を離し、ミラー越しにデルタと目があった。
その目尻は少し下がっており、笑っているのがよくわかった。

( "ゞ)「俺も子供に戻った気分だった」

(´・_ゝ・`)「子供、か」

( "ゞ)「俺も誕生日会とやらに行ったことがないからな」

(´・_ゝ・`)「やっぱり男はやらないよな」

( "ゞ)「やらないなあ」

(´・_ゝ・`)「うん」

194名無しさん:2017/07/20(木) 18:14:40 ID:n0wSdUXs0
( "ゞ)「でも、楽しかった」

(´・_ゝ・`)「そうだな」

( "ゞ)「ケーキなんか久々に食べた」

たまにはいいな、という言葉と共にアクセルが踏まれた。

(´・_ゝ・`)「君の誕生日にもケーキを買ってあげようか」

( "ゞ)「やめてくれよ」

そう言うデルタの声は、あまり嫌そうではなかった。

195名無しさん:2017/07/20(木) 18:15:07 ID:n0wSdUXs0
家に着いてもペニサスは寝ぼけ眼であった。
歯磨きだけでもかろうじて済んだのが、せめてもの救いである。
そのあとはもう、苦労して風呂や着替えを済ませた。
力の抜けた人間というのは、とても重い。
いくら子供でも、それは変わらなかった。

(´・_ゝ・`)(世の中の親は大変だな)

軽々と子供を持ち上げて、さかさかと歩く親はいくらでも見た。
が、こんなにも大変だったとは。

(´・_ゝ・`)(それでもやっぱり、かわいいもんだな)

正体もなく眠るペニサスの胸元には、虹色のペガサス。
その隣には、くまのぬいぐるみ。
サイドボードには、眠り姫の絵本。
その隣には、アロマキャンドル。

(´・_ゝ・`)(これはもうひとつのプレゼント)

ライターで炙ると、部屋にラベンダーの香りが広がった。

(´・_ゝ・`)(僕にできることは数少ない)

悲しいことに、万能ではない。
僕にできることは、彼女の身を案じてうろたえることだけ。

(´・_ゝ・`)(でも幸せになってほしいのは本当だよ)

だから、どうか、いい夢を。

196名無しさん:2017/07/20(木) 18:15:30 ID:n0wSdUXs0
7.まとめてお祝い、幸せな証拠

197名無しさん:2017/07/20(木) 18:15:53 ID:n0wSdUXs0
お題一覧

狐の嫁入り
番狂わせ
パルクール
フリスビー
かんな
殺虫剤
自販機

お題を三つ募集します

198名無しさん:2017/07/20(木) 18:16:27 ID:n0wSdUXs0
目次

>>1
1.鉄火巻き味の歯磨き粉

>>24
2.底なし穴と熱いお湯

>>49
3.夜泣きとパパ

>>75
4.ピクニックとじゃがいもの小鳥

>>112
5.にせものとかたつむり

>>144
6.まよなかとパンケーキ

>>169
7.まとめてお祝い、幸せな証拠

199名無しさん:2017/07/20(木) 18:19:14 ID:n0wSdUXs0
誤爆してごめんなさいでした、紅白がんばります

200名無しさん:2017/07/20(木) 18:22:56 ID:r9wbMxEY0
いいですね。


201名無しさん:2017/07/20(木) 21:12:32 ID:Xf881Pwc0
乙、一気読みさせてもらいました。
ペニサスが徐々にころころと表情を変えていく様がとても愛しい。

お題 片付け

202名無しさん:2017/07/20(木) 21:24:34 ID:w1kV5g6k0
お題:スポーツ

203名無しさん:2017/07/21(金) 03:04:52 ID:dU4ttmaY0
ほんと優しいお話で心が安らぐ

204名無しさん:2017/07/21(金) 17:10:06 ID:I7F.kFPU0
あ〜涙出るぜ〜ちくしょー

205名無しさん:2017/08/10(木) 16:42:54 ID:Ilc8Y3Ms0
優しくて不思議な話で好き
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2412.png

206名無しさん:2017/08/10(木) 17:15:52 ID:KOgcELAA0
想像してた雰囲気まんまだ

207名無しさん:2017/08/10(木) 21:29:58 ID:uwIEBjLo0
歯磨き粉から鉄火巻きが出てる!

208名無しさん:2017/08/10(木) 21:36:18 ID:FtBZ1hHk0
いいなぁ

209名無しさん:2017/08/27(日) 20:36:39 ID:9zY08n1k0
夢を見た。
水の中なのに、息ができる夢。
光は遠くにあって、わたしはそこからどんどん遠ざかる。
だけど怖くはなかった。
わたしは瓶を握りしめていた。
心細くなると、わたしは瓶へと口をつける。
そうして、空の瓶に息を吹き込むと、黒い雲のようなもので満たされる。
これは不安、だ。
わたしの心に巣食う不安を、この瓶は取り除いてくれる。
魔法の瓶。
素敵な瓶。

('、`*川(それでも先生に会いたいな)

瓶を捧げもつようにして、手を伸ばす。
光が、落ちて来る。
わたしの元へ、降ってくる。
目が覚めて、ひんやりと冷たい感触がした。
右手を見ると、小さな瓶が握られていた。
形は細長く、リコーダーにも似ているし、牛乳瓶にもよく似ていた。

('、`*川(夢で見た通りだ!)

じゃあこれはきっと、不安を取り除く瓶なのだろう。
早速先生に見せに行こうと起き上がり、思い出す。

('、`*川(今日、お仕事だって言ってた)

それも学会に行くと言っていた。
先生の仕事はたくさんあるけど、その中でも一番忙しいお仕事だった。
だから昨日先生は、早く起きて準備すると言っていた。

210名無しさん:2017/08/27(日) 20:37:11 ID:9zY08n1k0
('、`*川(じゃましちゃ悪いね)

それに今日の夢は、そんなに怖い夢でもない。
だから先生には内緒で、この夢を使ってみようと考えた。

('、`*川「おはよー、先生」

(´・_ゝ・`)「おはよう、ペニサス」

リビングへ行くと、先生はもうスーツを着て、なんなら家を出るようだった。

(´・_ゝ・`)「良かった、君と少しでも話せて嬉しいよ」

('、`*川「ほんと?」

そう言われると、少し照れちゃう。

(´・_ゝ・`)「今日は怖い夢見なかった?」

柔らかく降ってきた声に、わたしは頷く。
わたしは、前よりも夢を見る回数が減ってきていた。
見ていても、覚えていない時もある。
はっきりと覚えていない夢は、多分現実にはならない。
初めてのことだった。
先生に会うまでは、毎日のように夢を見ていた。
本当に不思議だけど、きっとそれは先生がお話しを聞いてくれるからだろうとわたしは信じていた。

(´・_ゝ・`)「それならよかった」

ホッとしたような顔をして先生は頷いて、鞄を持つ。
後ろ手に隠した瓶には気付いていない。

211名無しさん:2017/08/27(日) 20:37:40 ID:9zY08n1k0
(´・_ゝ・`)「じゃあ、僕はもう行くから。朝ごはんはちゃんと……」

('、`*川「パンとヨーグルトとバナナ!」

(´・_ゝ・`)「そうそう。ちゃんと食べて、ペニサスも学校、頑張るんだよ」

('、`*川「はーい」

言いながら、玄関までお見送り。

('、`*川「いってらしゃい先生」

(´・_ゝ・`)「いってきます」

手を振って、ドアが閉まったら、またリビングへ。

('、`*川「クックル!」

鳥かごに手を出して、クックルを乗せた。

('、`*川「おはよー」

( ゚∋゚)「チチッ」

クックルは、賢い。
小鳥なのに、わたしよりもずっと頭がいい。
前世は人間だったのではと思うくらい、クックルは賢かった。

('、`*川「クックル、瓶に頭を入れてみて」

( ゚∋゚)「チッチィ?」

だからクックルは、わたしの言うことを聞く。
おねがいすれば、なんでも聞いてくれるのだ。

212名無しさん:2017/08/27(日) 20:38:08 ID:9zY08n1k0
('、`*川「そうそう、そのまま息してて」

( ゚∋゚)「チィ……」

首を傾げるクックルの、くちばしから、黒いもや。
手乗りさせている腕からそっと、瓶から引き離す。
すると不安はうねうねと動いて、一つの景色を見せた。
広い、広い、海だった。
青い空、青い海。
どこまでも澄んだ、果てのない、無限の海。

('、`*川(今朝の夢の中みたい)

クックルは、わたしの夢から生まれたから、夢に戻りたくないのかもしれない。

('、`*川(じゃあ夢は、海なのかなぁ)

分からない。
ただただ広いこの海が、クックルの不安なのだろう。

('、`*川「心配しなくてもいいよ、クックルはうちの子だからね」

( ゚∋゚)「チチッ!」

そうして、クックルと一緒にパンを食べた。
クックルのお気に入りはジャムパンで、ブルーベリーよりイチゴが好きらしい。
わたしはブルーベリーの方が好きだから、今日はブルーベリーにしちゃうけど。

( ゚∋゚)「チィ」

('、`*川「だめだよ、ご飯食べないと」

213名無しさん:2017/08/27(日) 20:38:50 ID:9zY08n1k0
促せば、ようやくクックルは食べ始めた。
うん、でもやっぱり、いい子だ。
褒めながら、かりかりと頭を撫でてやった。
食べ終わったら、今度は学校に行く。
クックルも一緒に着いてくる。
最初はからかわれたり、先生に注意もされた。
だけどクックルはお利口だから、段々その事が伝わってきて、みんなに受け入れられるようになった。
だから今日も、ずっと一緒にいる。

ミセ*゚ヮ ゚)リ「おっはよー!」

('、`*川「おはようミセリちゃん」

この子はミセリ。
一番初めにお友達になってくれた子だ。
転校したての頃、お誕生日会に招待してくれたのは、嬉しかったなぁ。

ミセ*゚ー゚)リ「鳥ちゃん今日もいるんだね」

手を伸ばすミセリに、クックルは嫌がってランドセルに逃げた。
クックルは、先生とわたし以外に触られたくないらしい。
ミセリも分かってるのに、諦めが悪いんだ。

ミセ*゚ー゚)リ「けいかい心強いねぇ」

('、`*川「しょうがないよ、クックルは特別だから」

そう言いながら、大きな洋風の家の前で止まる。
ここはツンとデレのお家。
二人ともお金持ちで、庭がすごく広い。
今の時期にはモッコウバラが咲いていて、綺麗なアーチを作っている。
その先には楡の木やマロニエの木があって、なんだか日本じゃない気がしてくる。
ラベンダーとか、カモミールとか、ハーブもたくさん植えてあるのだ。

214名無しさん:2017/08/27(日) 20:39:21 ID:9zY08n1k0
ξ゚⊿゚)ξ「おはよー」

ζ(゚ー゚*ζ「おはよう」

二人は、双子だ。
ツンはお姉さんで、デレは妹。
いつでも仲良しだけど、それはきっとお母さんがいないから。
二人が生まれた時に、体が弱って亡くなったそうだ。
お父さんも忙しいし、お家にはお手伝いさんとか家庭教師とか大人ばっかりだと聞いた。
お互いが味方で友達でお母さんだとデレが言っていた。

ミセ*゚ー゚)リ「今日もかわいい服着てるー」

ζ(゚ー゚*ζ「えへへ、ありがとー」

ξ゚⊿゚)ξ「服なんかいっぱいあるからどうでもいいけどね」

そうは言うけど、本当は大切なものだってわたしは知っている。
この間男子がデレの服を引っ張った時、ツンはすごく怒っていた。
乱暴したこともそうだけど、きっとそれはものを大事にしているからだと思う。
素直じゃないけど、やっぱりツンはいい子なんだ。
その分デレは、少しのほほんとしたところがある。
口数も少ないし、ツンのそばに寄り添っているだけだ。
でも時々、大人みたいな顔をする。
ちょうど先生が、わたしを引き取るかどうかで悩んでいるような顔に似ていた。

('、`*川「あ、そうだ」

ランドセルから、瓶を出して三人に見せる。

215名無しさん:2017/08/27(日) 20:39:55 ID:9zY08n1k0
('、`*川「ねえね、面白い手品しない?」

ミセ*゚ー゚)リ「手品!」

振り返って嬉しそうにいうけれど、そのまま歩くのは危ないと思った。
でもミセリは変なところで器用なのだ。
そのままスイスイ歩いてみせた。

ξ゚⊿゚)ξ「どうせ子供騙しのやつでしょう」

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんは手品嫌い?」

ξ゚⊿゚)ξ「嫌いって言ってないでしょ」

('、`*川「うーんと、わたしもタネはよく知らないんだけどね」

とぼけて、手順を説明する。

ξ゚⊿゚)ξ「ほんとに出来るのかなぁ」

胡散くさそうなツンを押しのけて、ミセリが手を挙げた。

ミセ*゚ー゚)リ「いっちばんのりー」

ふぅ、と息を吹き込むと、やっぱり黒いもやが出た。
ぐるぐる渦を巻き、やがてそれは一枚の紙になった。

ξ゚⊿゚)ξ「なにこれ」

ζ(゚ー゚*ζ「テスト用紙みたい」

ミセ*゚ー゚)リ「あぁーテスト……」

げんなりするミセリを見て思い出す。
そういえば、今日漢字のテストが返ってくる日だった。
ミセリの不安は、その点数なのだろう。

216名無しさん:2017/08/27(日) 20:40:29 ID:9zY08n1k0
ミセ*゚ー゚)リ「やーだーなーテストやーだーなー」

ξ゚⊿゚)ξ「なんだかよく分かんないけど面白いわね」

次にツンが息を吹き込むと、黒いもやは女の人に変化した。
柔らかな笑みを浮かべるその人は、

ξ゚⊿゚)ξ「ママ……」

写真でしか見たことのない、ツンのお母さんだった。

ξ゚⊿゚)ξ「……」

ガラス玉のような目が、薄れゆくもやを見つめている。
やっぱり気を強くしていても、ツンは寂しくて不安に違いなかった。
なんだか見ちゃいけないものを見た気がして、ごめんなさいと言いたくなった。

ζ(゚ー゚*ζ「わたしも、いい?」

デレは珍しく、率先して流れに乗った。
いつもなら、ツンに急かされないとやらないのに。
デレのもやから出来上がったのは、カモメだった。
海を気持ちよさそうに、旋回している一羽のカモメ。

ミセ*゚ー゚)リ「かわいい〜」

ξ゚⊿゚)ξ「そう? ちょっと目つきが怖いけど」

ζ(゚ー゚*ζ「不思議だねえ」

笑いながらもデレの目は、あの大人の目にそっくりだった。

('、`*川(なにが一体不安なのかな)

羽毛を散らし、消えゆくカモメを眺めながら、わたしはずーっと考えてしまった。

217名無しさん:2017/08/27(日) 20:41:09 ID:9zY08n1k0
学校が終わって、今度は真っ直ぐ帰らずに、ちょっと寄り道。
帰り道の途中に公園があって、いつもそこにはフォックスがいる。
ほら、今日も噴水の前のベンチで寝てる!

('、`*川「フォックス、フォックス!」

ゆさゆさと揺さぶると、とろんとした目がやっと出てきた。

爪'ー`)「あんれ、もうそんな時間か」

あくびをするフォックスの片手には、ワンカップのお酒が握られている。
でも、中身は空っぽ。
きっとわたしが来るのを待ってて、すっかり飲んでしまったんだ。

('、`*川「お酒くさぁい」

爪'ー`)「いい匂いだろう」

('、`*川「全然」

爪'ー`)「そう思えているうちが一番楽しいよ」

フォックスは、時々わたしを羨むようなことを言う。
わたしからすると、大人になっても遊んでるフォックスが羨ましいけど。
でもあんまり良くない大人の見本だってデルタさんは言っていた。
でも悪くない大人だし、信用していいよとも言っていた。
良くないのに悪くないって難しいけど、社会になじめていない事はきっとたしかだと思う。
それで、公園に集まって何をしているのかと言うと、ハーモニカを習いに来てるのだ。
フォックスの家はわたしの家から遠いらしいし、汚くて見せられないって話していた。
だからフォックスが、わたしの帰る頃を見計らって公園に来てくれる。
いつでも暇してるから、いつでも好きな時に呼んでくれ、ってフォックスは言っていた。
それにしても、生活するお金はどこから来ているんだろう。
この間の誕生日会でもらったハーモニカだって、ピカピカの新品で、なんだか高そうな刻印まで入っていた。

218名無しさん:2017/08/27(日) 20:41:45 ID:9zY08n1k0
('、`*川(それでもフォックスの服はいつでもヨレヨレだけどね)

何度かお巡りさんに、不審者と間違えられた時もあった。
その時は慌てて先生に電話して、説明してもらった事もあった。
先生も、もうちょっと着るものに気をつけなさいと怒っていたけど、フォックスには全然効かないようだった。

('、`*川(それでも不安に思う事ってあるのかな)

気になって、わたしはハーモニカの吹く音を間違えた。
フォックスは、ニコニコと笑っていた。

爪'ー`)「今日はそそっかしいねぇ、ペニサス」

('、`*川「んー……」

と考えて、わたしはようやく瓶を取り出した。

('、`*川「ねえねえ、これに息を吐いてみて」

爪'ー`)「うん? いいけどなんで」

そう言いながらも、フォックスの目はキラキラとしていた。
何かきっと楽しい事が起こるに違いない! と思っている目だった。
本当にこの人は大人なんだろうか。
やっぱり少し、不思議に思いながら、フォックスのもやを眺めていた。
もやは、ぐるぐる、ぐるぐる、回っている。
ずーっと、回っている。

('、`*川(読み込みのおそいパソコンのマークみたいだ)

フォックスは、黙ってそれを見守っていた。
そのうち、もやは音符になった。

219名無しさん:2017/08/27(日) 20:42:23 ID:9zY08n1k0
爪'ー`)「おおっ、すげえな」

笑うフォックスの目の前で、音符は膨らんだり縮んだり、まるでリズムを刻むように変化する。
そのうちそれは、ドッドッドとドラムを吐き、シンセサイザーのきらびやかな音を叩き出す。

爪'ー`)「……これ、」

フォックスは、笑うのをやめた。
見たこともないような表情で、瓶を見つめた。
そのうち音符は、どこかで聞いたことのあるようなメロディを歌う。

♪「君が好き〜 君が好き〜」

('、`*川「あ」

アイドルの歌。
テレビでこの間やっていた音楽番組のランキングで、名曲と呼ばれていた歌。
もうその歌を歌っていたグループは解散してしまったけど、ストレートな歌詞で空前のヒットを生み出したと説明がついていた。

爪 ー )「……やめてくれ」

フォックスは、わたしから瓶を奪った。

爪 ー )「こんな歌もう、たくさんだ……!」

そうして瓶は、放物線をえがき、噴水へと落ちた。

('、`;川「フォックス?」

爪 ー )「う、うっうぅ……」

フォックスは、泣いていた。
すごく傷付いた顔をして。

220名無しさん:2017/08/27(日) 20:43:02 ID:9zY08n1k0
爪'ー`)「……ごめんな、ペニサス。今日はもう、帰るわ」

何も言えぬうちに、フォックスは去っていった。
謝ることも、なぐさめることもできないうちに。

('、`*川(……こんなこと、するんじゃなかった)

噴水に投げ入れられた瓶は、割れずに残っていた。
拾い上げた時にはすっかり、フォックスのもやも消えていて、あれは夢だったんじゃないかとも思えた。
それでもまだ、胸は苦しい。

('、`*川(誰かがいたずらしないうちに持ち帰らなきゃ)

( ゚∋゚)「チチッ……」

なぐさめるように鳴くクックルに、少しホッとする。

('、`*川(不安を取り除く瓶じゃなかった)

考えてみれば、みんなもやを見た後にすっきりした様子はないのだ。
ただいたずらに、人を傷つけただけ。

('、`*川(わたしのバカ)

素直に先生に話せばよかった。
そうしたら、フォックスを泣かせることもなかったのに。
びしょびしょの瓶を隠すように抱えて、公園を出ようとしていた時だった。

(>、<*川「きゃっ!」

221名無しさん:2017/08/27(日) 20:43:36 ID:9zY08n1k0
誰かにぶつかってしまい、瓶はごろごろと転がっていった。

「おい、大丈夫か?」

その中性的な声には、聞き覚えがあった。

('、`*川「ハインちゃん……」

思わず呟いた言葉に、彼女は頭を振った。

从 ゚∀从「格好をよく見てくれよ」

慌てて見ると、今日の格好はブレザーにスラックス。
どうやら学校帰りで、今日は男の気分らしいとわたしは察した。

('、`*川「ごめんなさい……」

从 ゚∀从「いいっていいって。わざとじゃないんだから」

ひらひらと手を振るハインくんは、わたしの顔を覗き込む。

从 ゚∀从「何があった?」

問われて、思わず夢のことを話しそうになる。
だけど、言っても信じてもらえるだろうか。

('、`*川(先生やフォックス、ヒートさんは信じてくれたけど)

それにまた、傷付けるのが怖かった。

从 ゚∀从「ちょっと待ってろ」

222名無しさん:2017/08/27(日) 20:44:04 ID:9zY08n1k0
ハインくんはそう言って、自販機まで駆け出した。
一回、二回、三回。
ボタンを押して、戻ってきたその手にはコーラとオレンジジュース、麦茶が握られていた。

从 ゚∀从「好きなの取れよ」

('、`*川「でもお金……」

从 ゚∀从「んなこと気にすんなよ」

乱暴な口調だけど、目元には心配しているのがにじんでいた。
わたしは、コーラを選んだ。

从 ゚∀从「ちょっとあのベンチに座るか」

うながされるまま、わたしはハインくんとお話をした。
たわいのない話ばっかりだ。
国語と図工の授業が好きとか、体育も好きだけど得意じゃないとか。

从 ゚∀从「俺も体育苦手だなあ」

('、`*川「ハインくんも?」

从 ゚∀从「うん、大っ嫌い。でもスポーツは好きだけどな」

ちょっと不思議な違いだけど、分かる気はした。
体育はノルマをこなさなきゃいけないから気が重い。
でも、体を動かすのは楽しい。
逆上がりはちっとも出来ないけど、ドッジボールとかは好きだった。

从 ゚∀从「そうそう、そういうのに近いね」

223名無しさん:2017/08/27(日) 20:44:32 ID:9zY08n1k0
話したら、ハインくんも嬉しそうに頷いた。
人が笑っているのを見ていると、心がやわらかくなる。
あんなにひどく落ち込んでいたのに、元気になれるから、笑顔っていいなと思った。

从 ゚∀从「ところでその瓶は大事なものなのか?」

言われてわたしは慌てて隠した。
それを見て、ハインくんは吹き出した。

从 ゚∀从「バレバレだって。気になるなあ」

('、`*川「ええっと……」

困った末に、わたしは、

('、`*川「これは、魔法の瓶!」

素直に、答えてしまった。

从 ゚∀从「魔法かぁ。呪文唱えると飴っころが出てくるとか?」

('、`*川「うーん……そんな感じ……」

じりじりと近付いてくるハインくん。
どうしてなのかと見つめるわたし。
ハインくんが、手を伸ばす。

('、`*川「あっ!」

ダメと言う前に、瓶はハインくんの手元に収まっていた。

224名無しさん:2017/08/27(日) 20:45:15 ID:9zY08n1k0
('、`;川「ダメ! 返して!」

(# ゚∋゚)「チチチッ!」

クックルが、ハインくんの周りを飛び回る。
ハインくんは手で追い払いながら、瓶を覗き込む。

从 ゚∀从「きれーな瓶だなあ」

('、`;川「ダメなの、ねえ、返して……」

从 ゚∀从「見るだけだって」

くすくすと笑うけど、しゃれにならない。
ハインくんは立ち上がって、瓶を観察する。

('、`;川(このままじゃ手が届かない……)

取り戻そうとして、ベンチから立ち上がる。
その拍子に、コーラの缶が倒れた。
ハインくんは、これ見よがしに歩く。
歩きながら、口元に瓶を寄せて、

('、`;川「ダメェーー!!!」

ブォーーー、と息が、吐き出されて、瓶が鳴る。

从 ゚∀从「やっぱやりたくなっちゃうよなぁ」

('、`;川「返してったらぁ……!」

(# ゚∋゚)「チィ!」

从; ゚∀从「あいたっ」

クックルが突いた拍子に、瓶が落ちる。
黒いもやが、うずまく瓶が、落ちる。

225名無しさん:2017/08/27(日) 20:45:52 ID:9zY08n1k0
ばりん。
割れた。
割れて、そこから、ハインさんが飛び出して、

从; ゚∀从「え……」

从∀ 从「…………」

从∀∴∵∴∵|「     」

从;-从「…………」

消えた。
瓶は、跡形もなく消えた。
ハインくんは申し訳なさそうに謝ってきたけど、それよりも相手の方が心配だった。

从 ゚∀从「俺は大丈夫だって。こっちこそごめんよ、大事なものだったのに……」

('、`*川「いいの、いいの……」

何ともないなら、いいの。
言いかけて、口が止まる。

('、`*川「……本当に、何ともない?」

从 ゚∀从「何ともないよ、大丈夫」

そうして、ハインくんはわたしの手にオレンジジュースを握らせた。
コーラの缶は、ハインくんが片付けてくれた。

('、`*川(初めから何にもなかったみたい)

でもやっぱり、これは夢じゃない。

('、`*川「夢じゃ、なかった……」

やっぱり夢は怖い。
夢が現実になるのは怖い。

('、`*川(先生)

早く、会いたい。

226名無しさん:2017/08/27(日) 20:46:14 ID:9zY08n1k0
8.不安のボトルキープ

227名無しさん:2017/08/27(日) 20:46:44 ID:9zY08n1k0
目次

>>1
1.鉄火巻き味の歯磨き粉

>>24
2.底なし穴と熱いお湯

>>49
3.夜泣きとパパ

>>75
4.ピクニックとじゃがいもの小鳥

>>112
5.にせものとかたつむり

>>144
6.まよなかとパンケーキ

>>169
7.まとめてお祝い、幸せな証拠

>>209
8.不安のボトルキープ

228名無しさん:2017/08/27(日) 20:47:10 ID:9zY08n1k0
お題一覧

狐の嫁入り
番狂わせ
パルクール
フリスビー
かんな
殺虫剤


お題を四つ募集します

229名無しさん:2017/08/27(日) 21:11:35 ID:9hm2WKR60
おつおつ!ペニサスにとって夢はやっぱり不安なんだね

お題:琥珀色

230名無しさん:2017/08/28(月) 03:22:14 ID:68nCeVFs0
やっぱおもしれーわ

231名無しさん:2017/08/28(月) 03:28:35 ID:WK3yL8sA0
この時期に投下は嬉しいね
お題:開けっぱなし

232名無しさん:2017/08/28(月) 12:25:52 ID:BfdVT.VY0
お題・背中合わせ

233名無しさん:2017/08/28(月) 12:27:00 ID:BfdVT.VY0
途中送信してしまった、それぞれの不安が一体何が起こったのか気になるね、乙

234名無しさん:2017/08/28(月) 16:45:35 ID:DB.q/i460
お題 踏切

235名無しさん:2017/08/28(月) 18:45:36 ID:Q3Uo7wTU0


236名無しさん:2017/09/17(日) 17:18:49 ID:LxLvIZT60
('、`*川「ただいまー」

玄関からペニサスの、気落ちしたような声が聞こえてきた。

(´・_ゝ・`)「おかえり、ペニサス」

('、`*川「先生もおかえり」

出迎えに行くと、ペニサスはランドセルを下ろしている最中だった。
やんわりと力なく笑う姿は、やはりどう見ても元気がない。
ここ最近、ずっとこんな調子である。

( ゚∋゚)「チチッ」

クックルがペニサスの頭から飛び立ち、僕の肩へと飛び乗ろうとする。
が、

 _,
( ゚∋゚)「……チチチッ!」

不機嫌な声をあげて、再びペニサスの元へと逃げ帰った。

('、`*川「どうしたの、クックル」

 _,
( ゚∋゚)「チチチッ」

どうやら彼は気付いてしまったらしい。

(´・_ゝ・`)「ペニサス、ちょっとおいで」

('、`*川「なんだろ?」

呟くペニサスを、リビングへと連れて行く。

237名無しさん:2017/09/17(日) 17:19:20 ID:LxLvIZT60
( 〈i〉ω〈i〉)「なーご」

('、`*川「……猫?」

リビングにて、でっぷりと寝転がるそれを認めると、ペニサスは僕を見た。

(´・_ゝ・`)「そう、猫だよ」

('、`*川「飼うの?」

 _,
( ゚∋゚)「ヂチッ」

戸惑うようなペニサスと、あからさまに嫌がっているクックル。
僕は首を横に振った。

(´・_ゝ・`)「デルタから預かることになったんだ」

('、`*川「デルタさんから?」

意外そうな声に、僕は頷いてみせた。
デルタは昔から無類の猫好きである。
彼の地元では半野良猫状態の、いわゆる地域猫がたくさん居るらしい。
路地に、店先に、塀に、空き地に、とにかく歩けば猫に会わないことはないと言っていた。
ゆえに彼の生活にはすっかり猫が染み付いてしまっている。
いないと寂しいというより、不自然だと力説しているくらいだった。
そういえば学生の頃には、猫のいる喫茶店やらに誘われて付き添った覚えもあった。
男一人であのファンシーで女性だらけの空間に行くのは忍びないというのは彼の言い分だが、
それは男三人団子になって行っても同じことではないかと薄々感じていた。
つまるところ、恥のお裾分けである。
とはいえ、僕も猫は嫌いではない。
有料のおやつを目当てに群がる猫を撫でくりまわしたり、寝ている猫をひたすらに観察していたり……。
今となってはいい思い出である。

238名無しさん:2017/09/17(日) 17:19:45 ID:LxLvIZT60
さて、猫中毒のデルタが何故僕の家に預けてきたのか。
理由は二つある。
一つはデルタが夏休みに入ったからである。
長らく実家に帰っていなかった彼は、どうも先日御母堂様よりきつく叱られたらしい。
ゆえに帰省しなくてはならなくなった。
しかし猫を長距離移動させるのには気がひけるし、なにより実家にも猫はわんさといる。
デルタによるとその数なんと七匹。
これだけいると、よそものの猫を嫌う猫もいるだろうと彼は踏んだのだ。
そして今は真夏。
猫一匹家に置いて、全部屋クーラーをきかせるのも電気代は掛かるし、万が一何かあってからでは遅い。
そこで、僕に白羽の矢が立ったわけだ。
……もう一つの理由は、やはりペニサスのことである。
ここ最近、何かを思いつめているような雰囲気があるのに、少しもこちらに甘えてはこないのだ。
僕もあまりしつこく聞いてはいないのだが、何か悩みがあるに違いなかった。
話してくれないのはとても悲しいし、これ以上僕もどうすればいいのか分からなかった。
それでも出来ることといえば、楽しみを増やすことである。
幸いにもこの猫ジョイナスは、人懐っこく子供にいくら触られても構わないというタイプだった。
デルタ曰く、このだるだるとした、力の入らない立ち振る舞いが猫の愛らしさの一つらしい。
それに当てられて、ペニサスの悩みもほぐれるといいな、というのが僕の目論見である。

( 〈i〉ω〈i〉)「なーご」

琥珀色の目が、ペニサスとクックルを捉えた。
なんだか笑っているようにも見える眼差しだ。

('、`*川「先生、触ってもいい?」

(´・_ゝ・`)「好きになさい」

 _,
( ゚∋゚)「ヂヂッ」

239名無しさん:2017/09/17(日) 17:20:39 ID:LxLvIZT60
興味津々のペニサスから、僕の背中へとクックルは、逃げ込んだ。

(´・_ゝ・`)「家に戻るかい?」

( ゚∋゚)「チチチッ」

早くしてくれと言わんばかりに、クックルはシャツを引っ張った。
ケージへと向かう最中、背後からは、

('、`*川「かわいいー」

( 〈i〉ω〈i〉)「にゃーご」

('、`*川「もふもふ〜」

( 〈i〉ω〈i〉)「なぁごろ」

('、`*川「お腹だるだるだぁ〜」

( 〈i〉ω〈i〉)「うなんな」

('、`*川「言葉が分かるの?」

( 〈i〉ω〈i〉)「なんなご」

('ー`*川「ふふふ」

( 〈i〉ω〈i〉)「なおなお」

微笑ましい声が届き、僕は安堵していた。
動物には癒し効果があり、治療法の一つとして確立もされている。
そうだと知っているにしたって、ここまでペニサスが喜んでいるのを見ると、やはり嬉しいものがあった。

240名無しさん:2017/09/17(日) 17:21:03 ID:LxLvIZT60
しかし、ジョイナスはただの猫ではなかったのだ。
ジョイナスが来て三日ほど経った朝。
猫がいることにすっかり違和感を感じなくなった頃である。

('、`*川「ジョイナスはよく伸びるねえ」

( 〈i〉ω〈i〉)「なんなん」

立ち上がったペニサスに前足の脇から抱えられ、ジョイナスの胴はアコーディオンのように伸びきっていた。
今日からペニサスの夏休みは始まった。
最近見せていたあの暗い表情も、ジョイナスのお陰か鳴りを潜めていた。

 _,
( ゚∋゚)「チチッ」

……とはいえ最近クックルは構ってもらえていないので、不機嫌なことこの上ないのだが。

('、`*川「先生、朝ごはんまだー?」

(´・_ゝ・`)「待ってて、今ピザを焼くから」

先日通販で取り寄せたばかりのピザである。
甘酸っぱいトマトソースに四種のチーズがびよびよに伸びるナポリピザは、ペニサスのお気に入りだ。
この間聞いたら鉄火巻きと同じくらい好きだとも言っていた。

(´・_ゝ・`)(まったくかわいいんだから)

そう思いながら、冷凍庫を開けた時である。
ヒュン、と風を切る音がした。

(´・_ゝ・`)「へ?」

241名無しさん:2017/09/17(日) 17:21:27 ID:LxLvIZT60
一枚、二枚、三枚。
冷凍庫から飛び出したのは、ピザだった。

('、`;川「あー!!!」

( 〈i〉ω〈i〉)「ぶにゃっ!?」

( ゚∋゚)「チチチチッ!?」

フリスビーのごとく回転し、飛び回る冷凍ピザ。
飛散するチーズ。
掃除したばかりのフローリングに、舞い散るチーズ。

('、`;川「せ、せんせぇー……!」

(´・_ゝ・`)「夢か!」

('、`;川「言うのわすれてたぁ……」

半べそのペニサスは、頷いた。
どうも冷凍のピザが飛ぶ夢を見たらしい。

(´・_ゝ・`)「いいよ、怒らないよ」

分かった分かった、と頷くと、ピザは失速。
一つはフライパンの中に、一つはテーブルの上に。
もう一つはフローリングに。

242名無しさん:2017/09/17(日) 17:22:28 ID:LxLvIZT60
('、`*川「…………」

(´・_ゝ・`)「…………」

('、`*川「先生、」

(´・_ゝ・`)「拾うのはなし」

('、`*川「だってピザが」

(´・_ゝ・`)「床はダメです、お腹壊すといけないから」

('、`*川「床きれいだよ?」

(´・_ゝ・`)「ダメなものはダメです」

('、`*川「だってぇ……」

諦めの悪いペニサスに、僕はダメを繰り返す。
それを尻目に、ジョイナスは、

( 〈i〉ω〈i〉)「なんなごなぁ」

一鳴きして、ピザの上に横たわった。

243名無しさん:2017/09/17(日) 17:22:49 ID:LxLvIZT60
('、`*川「……」

(´・_ゝ・`)「……」

('、`*川「……先生」

(´・_ゝ・`)「火通してもダメです」

('、`*川「ダメですか」

(´・_ゝ・`)「ダメったらダメです」

そう言って、ジョイナスを風呂場に、ピザをゴミ箱へと放り込んだ。

( 〈i〉ω〈i〉)「なぁああーご!!」

抗議してくるが仕方がない。
全身トマトソースが付いたまま歩かれては困るのだ。

(´・_ゝ・`)(やれやれ!)

思わず笑いながら、暴れまわるジョイナスを洗ってやった。
結局朝食を食べることができたのはそれから一時間後で、十時を過ぎていた。

244名無しさん:2017/09/17(日) 17:23:10 ID:LxLvIZT60
狂乱じみた朝食の後、ペニサスは宿題をしに自室へとこもった。
僕はというと、飛び散ったチーズの掃除と皿洗いに腐心していた。

(´・_ゝ・`)(いやぁ、なかなか休みの始まり方がハードだった)

そんなことを思っていると、

( 〈i〉ω〈i〉)「なーぁご」

ジョイナスがキッチンへと入って来た。

(´・_ゝ・`)「ジョイナス?」

皿洗いしている手を止め、僕はしゃがんだ。
どうにも何か用事があると訴えているような目つきであった。

(´・_ゝ・`)「どうした」

( 〈i〉ω〈i〉)「なんな」

餌でも足りなかったのだろうか。
しかしデルタから預かった食事のメモには忠実に従ったはずである。
曰く、高級なペットフードの上にかんなで厚く削った鰹節をふた片、だったはずだ。
それともどこか具合が悪いのだろうか。
そう悩んでいる時だった。

( 〈i〉ω〈i〉)「さっきのお湯、少し熱かった日暮里」

(´・_ゝ・`)「…………え?」

喋った。
聞き間違えていなければ、日暮里と喋った。

245名無しさん:2017/09/17(日) 17:23:35 ID:LxLvIZT60
(´・_ゝ・`)「……ジョイナス?」

( 〈i〉ω〈i〉)「いかにも、吾輩はジョイナス日暮里」

名前の後に地名がつくのはそこが生まれた地であり、忘れないようにしているからだとジョイナスは補足した。
いや、そんなことはどうでもいい。

(´・_ゝ・`)「猫が喋った……」

( 〈i〉ω〈i〉)「そりゃ喋る日暮里。猫は言葉を話せないふりをしているだけ日暮里」

事態を飲み込むことは出来ない。
しかし、ペニサスの夢で妙ちきりんな目に遭うことにはすっかり慣れきっていた。
ゆえに僕は、違和感なくジョイナスと接することが出来た。
半分は、ペニサスの夢のせいではないかと疑いながら。

(´・_ゝ・`)(でも、さっき念入りに確認したし)

となると、やはりこれは現実なのだ。

(´・_ゝ・`)「わざわざ喋るということはなにか話があるんだね?」

確認すると、ジョイナスは頷いた。

( 〈i〉ω〈i〉)「あの少女が蟹の娘だって、君は知ってる日暮里?」

蟹、とは何のことであろうか。
いまいち返事に迷っていると、ジョイナスは言葉を続けた。

246名無しさん:2017/09/17(日) 17:23:59 ID:LxLvIZT60
( 〈i〉ω〈i〉)「夢というものは広大な海で出来ている日暮里」

(´・_ゝ・`)「海」

浮かんで来たのは、大海原。
どこまでも青く、空と海との境が曖昧になってしまう、青い海。

( 〈i〉ω〈i〉)「そう、海日暮里」

入眠すると人間は、夢の海へと行き着くらしい。
深く、深く、人間は海底へと沈み込む。
すると肉体は水となり、魂は無数の泡となる。
自他の境なく、泡と化した人間の魂。
それらがぶつかり合い、海面へと顔を出した時、人間は眠りから目を覚ますのだそうだ。

(´・_ゝ・`)「つまり夢は……」

( 〈i〉ω〈i〉)「他人の記憶を追体験していると言ってもいい日暮里」

だから感覚の生々しかったり、普通では考えられないような事物が重なってシュールな夢を見るのだろう。

( 〈i〉ω〈i〉)「しかし、蟹は違う日暮里」

蟹。
それは、泡にも水にもならない人間のこと。
夢の海を自由に渡り、現実と夢とを繋ぐ者。
ジョイナスは、そう言った。

(´・_ゝ・`)「じゃあ、蟹の娘というのはペニサスのことなんだね?」

( 〈i〉ω〈i〉)「専門用語で言うとそう言うことになる日暮里」

247名無しさん:2017/09/17(日) 17:24:26 ID:LxLvIZT60
納得しながらも、やはり気になることはあった。

(´・_ゝ・`)「なぜそんなにも詳しいんだ?」

( 〈i〉ω〈i〉)「猫は寝るのが仕事日暮里。そんな事くらい、どこの猫も知っている日暮里」

言いながらも、ジョイナスは目を細めた。
ただし笑っているようには見えなかった。
言うならば、僕を咎めるような眼差しであった。

( 〈i〉ω〈i〉)「夢の海は死者の世界日暮里。つまり、入眠は仮死とも言える日暮里」

おどろおどろしい響きを持った声音は、なおも続ける。

( 〈i〉ω〈i〉)「あの海には様々な生物がいる日暮里」

(´・_ゝ・`)「たとえば?」

( 〈i〉ω〈i〉)「死者は魚に、あるいは鳥になる日暮里」

(´・_ゝ・`)「なぜそこに違いが発生するんだ」

( 〈i〉ω〈i〉)「死んだ事に気付かない人間の肉体は水に、魂は魚になる日暮里」

その魚がやがて他の魚に食われるなり、泳ぎ疲れて死ぬと、大きな泡となる。
その泡は、ゆっくり、ゆっくりと夢の海を浮上する。
海面に現れたそれがぱちりと弾けることで、生まれ変わることができる。
その泡が魚群に突っ込んだり、他の泡によって無数に散らされてしまい、生まれることが叶わない者もいるらしい。

248名無しさん:2017/09/17(日) 17:25:15 ID:LxLvIZT60
( 〈i〉ω〈i〉)「一方、鳥は前世の記憶を保ったまま、人間になりたいと思っている連中日暮里」

こちらは海に馴染むことなく、肉体と魂を保持したままに延々と空を飛んでいるそうだ。
もちろん、飛ぶのに疲れて海へと落ちれば魚になるのみだ。
しかし、諦めの悪い鳥は一定数いるという。

(´・_ゝ・`)「しかし、どうやって記憶を保ったままこちらに来るつもりなんだ?」

( 〈i〉ω〈i〉)「蟹を使う日暮里」

世界規模で探したとしても、蟹は少数しかおらず、見つけた鳥は死にものぐるいで接近するという。

( 〈i〉ω〈i〉)「そして、蟹が現実へとくっつけようとしている夢に入り込む日暮里」

(´・_ゝ・`)「まさか……」

( 〈i〉ω〈i〉)「そのまさか日暮里」

蟹の夢に紛れ込んだ鳥は、己の望んだ容姿と地位を確立して人間となる。
そして、蟹が目を覚ました後に……。

( 〈i〉ω〈i〉)「永遠に夢が覚めないよう、蟹を殺してしまう日暮里」

それは、ドアを閉める感覚に近いのだろう。
いつまでもドアが開けっぱなしであれば、再び夢の海へと引きずり込まれてしまう。
そこへ戻ればまた、人間から鳥に、あるいは魚へと戻ってしまう。
だから泡沫の夢を、確固たる現実としたい。
そのために、欲深い鳥は蟹を殺す。


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