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( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
1
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/23(金) 23:19:53 ID:tPVEEtDg0
前スレ
( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1438259918/
支援曲 Answer(すーぱーもぐりん氏より)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/link.cgi?url=https%3A%2F%2Fyoutu.be%2F-c3XqxQ_j2A
ゆっくりまったりと。2スレ目でもよろしく。
19
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/23(金) 23:34:14 ID:tPVEEtDg0
( <●><●>)「ペニサス」
ここまで終始無言を貫いていたワカッテマスが口を開く。
ただ端的に名前だけ呼ぶその一声。
明らかに窘めていた。だがその本意が分かるのは、彼とペニサスだけ。
( <●><●>)「やめろ」
(`-ω-´)「…………」
そしてシャキンは悟った。
ペニサスが自分とデレ達が繋がっていることに、薄々感づいていることに。
ワカッテマスの言葉の本意は? やめろ? ショボンを挑発することを、か? 何を、お前達は二人で、何を考えている?
ワカッテマスの、ペニサスに対する呼称が変わっていることに、シャキンはすぐに気付いた。
不躾に諌めるようなその態度に、ペニサスは事もあろうか恭しく、悪態一つつかずに従っている。
それこそシャキンにとって、違和感でしかなかった。
( <●><●>)(使えるものはとっておきましょうかね)
徹底的に無機質。
ワカッテマスの思考はどこまでも冷徹だった。
気付いたことと言えば、ペニサスがこの場の全員を出し抜いて何かに気付いたということだけ。
20
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/23(金) 23:35:00 ID:tPVEEtDg0
だが彼にとってはそれだけで充分だった。
歪な秩序すらも食い潰し、波乱を引き起こそうとしている第二王位ジョルジュに代わり、自分がその椅子に座す。
その結果に至る過程で、信用出来るものはペニサスだけ。
逆に言えば、彼はペニサスに対してだけは絶対的な信用を置いていた。
しかしそれは人間関係から成る親密な信頼ではなく、あくまで成功に至る為のツールに対する期待。
('、`*川「…………」
ペニサスはワカッテマスにだけ分かるように目配せをして、それきり照明の光を仰ぎながら栗色の長髪を手持ち無沙汰に指で弄るだけだった。
( ´_ゝ`)(んだあいつら。デキてんのか?)
兄者から見た俗な印象は、図らずも近かった。
"全ては"ジョルジュが上げた狼煙を契機に、回り出そうとしていた。
从 ゚∀从
ハインリッヒ・アルカード。
吸血鬼の真祖を中心に。
21
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/23(金) 23:35:29 ID:tPVEEtDg0
( ・∀・)「退屈だ」
呟いたモララーの目は、この空間の中の誰も見ていなかった。
あるいは自分にとってただの有象無象、塵芥のような者達の、小賢しい思惑の鬩ぎ合い。
ここまで、彼がジョルジュの引き起こした波乱に対して何か事を起こしたことは皆無。
その気になれば全て、洗いざらい炙り出して白日の下に晒すことも出来ただろう。
ちらと、父親であるフォックス学長に報告しようかと彼の頭を過ぎったが、それすらも億劫だった。
どうせ取るに足らないことだ、と。
そしてこれから起こる出来事の全てが、自分が目をつけている玩具が関与しない限りは、自分の想定の範疇を越えないだろうと確信していた。
椅子から立ち上がり、モララーは飄々とした足取りでその場を後にした。
誰も、彼を引き止めることなど出来なかった。
_
( ゚∀゚)「ま、例のごとく退屈な会合でも始めましょうや。龍のことは……おいギコ、お前が話せ。多分お前が一番スムーズだろ」
(,,゚Д゚)「ちっ……」
22
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/23(金) 23:36:09 ID:tPVEEtDg0
从 ゚∀从「何がスムーズなのか知らねえけど、さっさと始めてくれや。そろそろ腹が減ってきたからよ」
なあブーン。
今の私を見て、お前はどんな言葉を吐くんだ?
ハインの中には決意があった。
人知れず、しかしそれでいて確固たる意志によって具現化した悍ましい力。
ハインは昨夜食べた人間の顔を思い出そうとした。二日前食べた人間の顔を思い出そうとした。だが思い出せなかった。
今が楽しければなんでもいい。
いつまでもそう言ってあてもなくうろついているには、自分はあまりにも脆弱なものに関心を抱いてしまった。
そのように、ハインは自嘲する。
(`・ω・´)(偽りの王位、といったところか。確かにあの女の言う通り、読む気にすらならんが……)
氷のようなハインの闘気にあてられて、シャキンは身震いする。
それは恐れではない。武者震いだ。
23
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/23(金) 23:36:39 ID:tPVEEtDg0
_
( ゚∀゚)
ζ(゚ー゚*ζ
( <●><●>)
('、`*川
(`・ω・´)
从 ゚∀从
24
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/23(金) 23:37:01 ID:tPVEEtDg0
――――が殺る。
.
25
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/23(金) 23:43:10 ID:tPVEEtDg0
終わり。
俺乙、とは言えんわな流石に。というわけでお詫び。
前スレが半端に残ったので何か無いものかと自分で吹っかけておきながら、しかし作風が如何せんこんな感じだから、一生懸命キャラ設定集的なのを作ろうとしたんだが、ハインの設定を書き連ねている最中に「真祖」だの「同族を殺す爪」だの「不死者の王」だのアレなワードが並んだ途端うわああああ、となって今に至る。
まだこうやって話の中で書いてる分にはいいんだがね。
モチベはあるんだが進まない要因は明確なので馴れ合いはほどほどに控えます。多分、いやきっと。
ほいたらまたいつか。
26
:
名無しさん
:2016/09/23(金) 23:50:04 ID:cIgTM1w20
やっぱり面白いわ乙
兄者にまたカッコいいところがあるといいなぁ
27
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 00:20:11 ID:6fLLDeN20
相変わらず面白い
乙
28
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 01:00:03 ID:ZmOF.MBY0
ハインの戦う様が見れて嬉しい
王位の中ではペニサスとワカッテマスの関係が今のところ好きだわ
おつ
29
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 07:23:27 ID:6EQfVuWI0
待っててよかった、やっぱり最高に面白い
これからどうなるのか楽しみだ
30
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 08:01:48 ID:KGJ/oPM.0
ショボン様……
31
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 19:01:30 ID:EY0XJDs20
乙!!
32
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 19:16:45 ID:vAMhjFjc0
多分今夜投下。ながらだけど。
どうしても眠くなったらその時はおつかれ。
33
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 19:22:35 ID:JCw23Pos0
やったぜ
34
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 19:23:22 ID:qr8vXaa.0
早えっ!
35
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 19:27:42 ID:ZmOF.MBY0
ゆゆーがんばえー
36
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 20:31:54 ID:pMtEZuvw0
おおお、無理すんなよ
37
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 21:15:13 ID:vAMhjFjc0
あい、ながら投下につき間隔がめっちゃ開くことがあるかもしれないけど気長にゆっくり楽しんでって
38
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 21:16:57 ID:vAMhjFjc0
第二十一話「禊。彼につけられた傷跡を撫でながら。」
.
39
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 21:23:59 ID:vAMhjFjc0
第三王位継承に際する会合が終わり、ハインは職員居住区を後にする。
バスを使っても良かったが、彼女は歩きたい気分だった。
いくら歩こうと、その程度の消耗など吸血鬼の特性をもってすれば、疲労にすらならないのだから。
そのように、歩きながら、熱を帯びた思考を冷ましていたかった。
第三ブロックと第四ブロックの境に差し掛かり人だかりが出来ていた。
王位システムの、一般生徒への開示に伴い、此度の王位継承も当然彼らの耳に入っていた。
新たな王位ハインリッヒ・アルカードをその目に収めんと、あるいは、我こそが王位の座をもぎとり、座すに相応しいと、血気盛んな生徒達が今か今かと彼女を待っていた。
やがて、群集と声を張らずとも意思疎通が出来るところまできた。
遠巻きの時とは打って変わって、静まり返った生徒達。
从 ゚∀从
ハインは彼等を一瞥し、さして気にも留めず、変わらない歩幅で歩く。
彼女の前に、躍り出る一つの影。
40
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 21:35:36 ID:vAMhjFjc0
( ゚∀゚ )「よう。あんた、吸血鬼なんだってね」
全身に派手な装飾。
銀色のピアスが耳や口、眉など、いたるところについていて、露出の激しい細身の衣服から覗く胸元にはトライバルが彫り込まれている。
( ゚∀゚ )「少し手合わせ願おうか。あんたのせいで外はグールが蔓延って、みんな迷惑してるんだとよ。あひゃっひゃひゃっ」
そんな大義など無用。
それを分かっていながら、アヒャはハインを煽り立てるように高笑いを上げる。
彼は間違っていた。
まるで見世物に集うようにして注ぐ数多の視線。即ち、大衆の目。
そんなものが、惨劇を防ぐ枷になると、理性ではなく、本能のどこかで安堵してしまっていた。
( ゚∀゚ )「あんたを捌いて売れるところに――」
彼の高らかな挑発は遮られた。
彼の肩から上が、大の大人の胴体ならばすっぽり包んでしまうほどの大きさの、黒い手が覆う。そして、握り締める。
41
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 21:45:19 ID:vAMhjFjc0
从 ゚∀从「そいつは悪かったな」
異形の手の中で、アヒャが叫び声を上げている。
すっかり覆いこまれてしまって、その声はくぐもったノイズと化す。
どこからともなく、張り詰めた空気を切り裂くような絶叫。
それを皮切りに、興味本位でハインを見に来た者達は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑い、残る血の気の多い者達の表情も、明らかに焦燥していた。
肩ごと頭を握られ、宙に浮いたアヒャの足がばたつく。
その動きは、ハインの手に籠る力に応じて速くなった。
そして、限界点――
鈍い、様々な質感の物体が潰れる音。
あれだけ激しく動いていた両足は真っ直ぐ地面に向かって伸び、異形の指の隙間からは血が滴り落ちる。
頭を失い、死体と化したアヒャ。
胴回りを握るように持ち替え、ぐずぐずの肉塊と化した頭部を晒す。
潰れた脳が混じった血は深く淀み、陽の光を帯び、妖しく光る。
42
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 21:58:20 ID:vAMhjFjc0
一部の取り巻きは盛大に嘔吐した。
惨たらしい死体を目にする機会が多い学園のアウトローであっても、ここまで悲惨なものに対する抵抗は薄かった。
明らかに目に見える不調を示さない者も、その表情はひきつっている。
だが、次の瞬間彼等の前で繰り広げられた悍ましい惨劇は、その心を容易くへし折った。
ハインは露出した赤い血肉、その露出面が地面を向くよう死体を逆さにし、流れ落ちる血の落下軌道に唇を近付ける。
この世で最も背徳的な、吸血鬼の営み。
流れる血を飲み、そして、大口を開ける。近づく血肉の露出面。
誰かが叫んだ。やめろ、と――
だが、遅かった。
露出した肉に歯を突き立て、耳を塞ぎたくなるような生々しい咀嚼音を立てる。
彼女の銀髪は血に染まり、雪のベールに落ちたようなアヒャの血は、見る者にとってこれ以上にない警告色となる。
从 ゚∀从「俺の前をちょろちょろするな」
首回りの、食べやすい肉を一通り飲み込んでしまって、ハインは口元の血を拭うことすらせず、氷の闘気と殺意にあてられて動けない者達に告げる。
43
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 22:08:29 ID:vAMhjFjc0
从 ∀从「腹が減って腹が減って、どうにかなっちまいそうなんだ」
.
44
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 22:09:16 ID:vAMhjFjc0
.
45
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 22:15:23 ID:vAMhjFjc0
私がある日突然いなくなったとして、この人はどんな顔をするのだろう。
.
46
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 22:17:44 ID:vAMhjFjc0
たまに、この機械の身体から沸き出たとは思えない感傷的な言葉に酔うことがある。
こういうのを、悪癖というのだ。私は知っている。
('、`*川「なんか食べる?」
私の胸の上に、耳を押し当てるように頭をのせる彼に聞く。
そんなことをしたって、心臓の音すら聞こえはしないのに。
( <●><●>)「……ああ」
徐ろに頭を擡げながら、気怠そうな返事。
少し長い前髪が胸にちくちく刺さるけれど、不愉快じゃない。
足の踏み場もない部屋。
ずぼらな自覚はあるけれど、今更小綺麗に保とうとは思えなかった。
なにより、ここは私の部屋なのだから、表面上は雑多に見えても、私物の位置が私にだけきちんと把握出来ていればそれでいいじゃないか、という、ものぐさの典型のような思考が腰を重くするのだ。
私にだけ分かる場所に放り投げられているよれよれのワイシャツを掴み、雑にしわを伸ばしながらキッチンに向かう。
幾分か伸びてましになったシャツに袖を通し、ボタンをとめながら部屋の扉を開く。
47
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 22:29:25 ID:vAMhjFjc0
('、`*川「ふう」
ついさっきまで、彼の好きなようにされていた自分の身体が遅れて火照っているような気がした。
あくまで生身の人間の、そういう機能の再現でしかないけれど、最早生きているのか死んでいるのかも分からないこの身体でも、下卑た快楽を欲しているのは愉快だった。
お前が個人として旗を上げるならば、私は自分の全てをあげる。
初めて彼が自分から部屋を訪れた日、吐いた言葉を思い出した。
我ながら強引過ぎた気もするけれど、ああいう受動的なタイプは、これくらいがちょうどいい。
きっときっかけはジョルジュの声明だろうけれど、あの出来事の前にこうして拠り所を作っておいて、結果としては正解だった。
これはあくまで序章に過ぎない。
いや、もしかしたら、私たちがこうして殺戮の学園で好き放題やっているこの生活も、序章の茶番劇でしかないのかもしれない。
きっと私だけが知っている情報は、あまりにも途方が無くて、これからやらなければならないことの大きさと厳しさに目眩がしそうだ。
48
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 22:41:51 ID:vAMhjFjc0
冷蔵庫には何を作るにも困らない程度の食材があった。
彼が好きなものはなんだろう。
少し考えてみたけれど、大味なものでなければなんでも食べそうだ。
いや、じつは案外偏食家だったりして。
('、`*川「なーんて」
私は何をしているのだろう。
大して上手でもない料理を振る舞って、二人でセックスの感想でも言いあおうか? 馬鹿げている。
会合が終わり、二人で部屋に戻ってすぐに、シャワーも浴びずに繋がって。
彼も私も、きっと柄にもなく浮き足立っているのかもしれない。
こういう時、私はどうしたらいいのかを知っている。
兎にも角にも、まずは話すことだ。
今後のこと。自分が何を知っているか。彼は、何を成したいのか。
心に浮かんだ声をそのままアウトプットすることは、即座に自分の浮ついた頭の整理に繋がる。
きっとはたから見れば、私は独り言の多い怠惰な女なのだろう。
特に気にすることも無かったし、きっとこれからも気にしない。
何にしても、自分だけが解っていればいいのだから。
49
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 22:56:10 ID:vAMhjFjc0
二人分のパスタを作って、トレイを持って部屋に戻る。戻ろう、と、振り返ってキッチンから出ようとした時。
( <●><●>)「早かったな」
ワカッテマスと鉢合わせた。
('、`*川「なに、お腹空いてたの? 部屋で待ってりゃいいのに」
( <●><●>)「これだけ部屋があるんだからわざわざあの部屋で食べなくてもいいだろ」
男性的な、ひどくぶっきらぼうな物言い。
きっと私しか知らない、彼の一面だ。
ちょうど恋する女の子みたいに、口調の変化一つ垣間見えたくらいで一喜一憂する感覚は私には分からないけれど、前のような慇懃無礼な態度よりかは接しやすいので悪くない。
('、`*川「……ま、それもそうね」
トレイを手渡して、二人並んで廊下を歩く。
特に意味はないのだけれど、彼のシャツの、脇腹の弛みを掴んでみた。
50
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:03:57 ID:vAMhjFjc0
('、`*川「美味しい?」
( <●><●>)「…………」
('、`*川「ねえ」
( <●><●>)「ああ」
('、`*川「パスタって偉大よね。麺茹でて適当な具材に味付けしてのっけるだけで、なんとなーく料理出来るひとみたいに見えるもの」
( <●><●>)「…………」
('、`*川「こういうこと言うから可愛げがないんだろうね。ま、別に可愛く見せたいなんて思わないけどさ」
それなりに広い客間で二人きり。
ワカッテマスはろくに喋ろうとしないから、心なしか部屋が一層広く、がらんどうに見えてきた。
('、`*川「機械の身体で食事なんておかしくない? 私、常々この機能いらないかなって思っててさ」
( <●><●>)「…………」
つれないやつだ。
51
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:10:48 ID:vAMhjFjc0
( <●><●>)「……お前は」
('、`*川「んー?」
( <●><●>)「これを美味いと思うのか?」
('、`*川「ぼちぼち」
( <●><●>)「じゃあいいんじゃないか」
('、`*川「んー、そんなもん?」
( <●><●>)「……俺に聞くな」
何を話そうか、何を話そうか。
思い浮かぶ言葉のほとんどはどうでもよくて、口に出そうとする前に思考から消え失せてしまうようなものばかりだった。
('、`*川「今夜泊まってく?」
( <●><●>)「いや、帰るよ」
('、`*川「…………」
( <●><●>)「……泊まる」
v('、`*川「ぶい」
52
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:20:12 ID:vAMhjFjc0
ピースサインを作って、わざとらしいしたり顔をして見せた。
けれど彼は澄ました顔でパスタを黙々と食べ進めていて、こめかみに当てた二本の指を引くタイミングを見失ってしまった。
フォークとスプーンを使って器用に食べ進める彼。
正しい持ち方すらままならず、卑しく音を立てて麺を啜る私。
悲観するつもりなど毛頭ないけれど、誰にでも出来る当たり前のことも出来ない自分に気付いた。
('、`*川(ずーずびびーずびびー、ってな。なにやってんだろ私)
どんな食べ方をしても美味しいものは美味しいし、不味いものは不味いのだから、仕方ない。
( <●><●>)「お前を見てると」
('、`*川「んに」
( <●><●>)「たまに、無性にいらつくことがある」
('、`*川
('、`*川「はあ」
('、`*川(なにさ、箸の持ち方くらいで)
53
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:29:21 ID:vAMhjFjc0
あまりにも明け透けで無神経な発言に、私は珍しく自分がむっとしていることに気付いた。けれど。
( <●><●>)「へらへらしてるくせに、自分の肝心なことは絶対に話さない。ただの秘密主義なら別にいいがな」
('、`*川「別に私のことなんてどーでもいいっしょ」
( <●><●>)「そういうところだよ」
気付けば彼は皿を空にしていた。
スプーンとフォークを置き、水を飲み干して、口を開く。
( <●><●>)「わざと砕けた口調を一貫してるのも、肝心なことを話さないのも、お前を見えなくするから妙にいらつく」
('、`*川「はーはーはーん」
('、`*川「ガキかよお前は」
本当のところどうなのかは分からないけれど、私には彼のその言葉が、幼稚な独占欲みたいに思えた。
特に嫌悪する気も起きないけれど、肯定的でもないつもりだ。
でも、彼がそんな風にむくれているのを、なぜか嬉しく思ってしまう。
54
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 23:30:50 ID:qr8vXaa.0
おおついにこの二人
55
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:33:57 ID:vAMhjFjc0
('、`*川「ほんっと可愛いわあんた」
( <●><●>)「……知るか」
彼はますますむくれてしまって、私はどうしても、そんな彼をからかいたくなってしまう。
食べかけのパスタをそのままに、私はワカッテマスを羽交い締めにするように、後ろから抱いた。
はじめは鬱陶しそうに手で払ってきていたけれど、やがて抵抗も無くなって、しおらしくなった猫みたいに私の腕の中に収まった。
('、`*川「可愛い男の子は好みだけど、しっかり頼れるところも見せてよね」
( <●><●>)「お前の働き次第だ」
('、`*川「まかせんしゃい。頼れる栄光へのナビゲーターペニサスちゃんだわね」
彼が嫌いな私で、そんな風に演じてみせる。
どれだけ彼が嫌だと言っても、今は私のことを知ってもらう必要はない。
私が彼にあげられるのは、あげるべきなのは、私が知ってることだけ。
56
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 23:34:52 ID:sSxhOmFQ0
追いつき支援
57
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 23:40:45 ID:ZmOF.MBY0
なんだかんだ健気で可愛い
58
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:41:27 ID:vAMhjFjc0
('、`*川「内藤ホライゾン」
( <●><●>)「…………」
('、`*川「気になる? あいつのこと」
( <●><●>)「別に」
にべもなく、彼は即答した。
無理もない。現時点であの子は、波紋を投じる小石にすらならない脆弱な存在なのだから。
けれど、彼はこの王位の継承争いなど児戯に思えてしまうような、巨大な流れの一角を担う柱なのだ。
('、`*川「あの子さ、元々二茶重工の御曹司だったのよ」
私の腕の中のワカッテマスは、僅かに肩を震わせた。
( <●><●>)「二茶……? ということは……」
('、`*川「そ、私が作った兵器開発グループの前身。正確には、私がまだちっちゃいガキんちょの時に銃士ロマネスクからぶんどった会社だけどね」
( <●><●>)「銃士ロマネスク」
('、`*川「覚えてる? 悪名高い帝国公認ブローカー」
59
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:48:53 ID:vAMhjFjc0
( <●><●>)「いや、ただでさえ世の中の流れ自体に興味が無いのに。それにもう何年も前の話だ」
('、`*川「はーーーー。覚えてたら私がどんだけ凄いことしたのか分かったってのにさあ」
( <●><●>)「それは別にいいよ。それよりも……」
('、`*川「はいはい。二茶を乗っ取った事の顛末でしょ? 根こそぎ奪い取ってやりましたわよ。ロマネスクの財産も、家族も、なーにもかも」
あの時の私は、ただ恐れていた。
幼さゆえ無防備に覗き見てしまった世界の真相。
その一角を担うあまりにも悍ましい混沌を。
('、`*川「でも、内藤ホライゾンは、ブーンだけは奪い取れなかった。せめてあいつの目の届くところからは離したかったから私も頑張ってはみたけれど……」
( <●><●>)「けれど?」
('、`*川「昔の私ったらお茶目なもんでさあ。すっかり見失っちゃったわけよ」
( <●><●>)「…………」
彼は振り向き、じっとりとした眼差しを向けてきた。
けれどこればかりは本当のことなのだから、今更責められたところでどうしようもない。
60
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:53:16 ID:vAMhjFjc0
('、`*川「まぁまぁまぁ、そんな怖い目で見なさんなよ」
彼の頬を指で突いてみる。
じっとりした眼差しを向けたまま、されるがままなのが少し面白い。
('、`*川「あの子、フォックスが直々に招き入れる形でこの学園に入ってきたのよね」
( <●><●>)「何かある、ということか」
('、`*川「何かどころじゃない」
そして私は、彼の表情を固める言葉を、放った。
('、`*川「あの子の中には、私らの中にいる龍の力の根源がある」
( <●><●>)
('、`*川「驚いた? ねえねえ、驚いた?」
無理もない。
唐突に備わったこの力。やがてその意識は風化して、自分本来の力だとすら認識していた力のルーツが、あんな便りのない木偶の坊のような男に宿っているというのだから。
61
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/24(土) 23:58:07 ID:vAMhjFjc0
('、`*川「あんたの力も、あのモララーの力も、あの子の中にいる悪魔の力の残滓でしかない。その力が欲しいから、フォックスは自身の庇護の届くこの学園に、あの子を匿った」
( <●><●>)「よりにもよってこの学園に、か」
('、`*川「外であの子の力を狙う奴等と比べたらまだ生ぬるい環境ってことでしょ」
( <●><●>)「奴等、に心当たりは?」
v('、`*川「もち、ありますわよー」
またピースサイン。
けれど今度は白けた目で見ることすらせず、彼は私の手を乱暴に握り締め、怒気のこもった目で見上げてきた。
('、`*川「……委員会。外の事情に疎いあんたでも流石に聞いたことくらいはあるでしょ」
( <●><●>)「世界を管理する五人の王」
('、`*川「せいかーい。欲張りな話だわね。既に世界を牛耳っておきながら、それ以上を求めてるってんだから」
62
:
名無しさん
:2016/09/24(土) 23:58:41 ID:MsBvZalE0
!?
63
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/25(日) 00:06:45 ID:aPhJ.GnI0
何の因果か、私達の箱庭の中の自由は、外の世界すら揺るがす因子の入場によってあっさりと壊されてしまった。
私以外の誰も気付かなかった、この世界に走る亀裂。
('、`*川「ジョルジュ? モララー? 王位継承? 小さい小さい。そんなとこで小さく収まってちゃ男が腐っちゃうよ」
口を固く結んだ彼を、私は徐ろに抱きしめた。
気休めのような安心感ではなくて、私があげたいものは、お前ならばこの澱んだ世界の中核に風穴を開けられるかもしれないという、心からの期待。
('、`*川「この掃き溜めみたいな学園が一国家として認められた裏には、きっとそうしなきゃいけない理由があったはず。フォックスがブーンを受け入れるのも、どこかの誰かの算段の範疇だったのかもね」
あり得ない推測ではないはずだ。
委員会が一団体を国として認めた前例など一度もない。
その最初の例が、よりにもよってこの学園なのはあまりにも出来すぎている。
('、`*川「王位継承だの喚いて内輪で争ってるうちに、私らは好き勝手に踊らされてんのよ。それが分かったなら、やるべきことは一つでしょう?」
64
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/25(日) 00:12:03 ID:aPhJ.GnI0
( <●><●>)「ああ」
彼は、私が今まで聞いたどの言葉よりも力強く、答えた。
( <●><●>)「VIPは俺が束ねる」
.
65
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/25(日) 00:13:41 ID:aPhJ.GnI0
.
66
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/25(日) 00:18:12 ID:aPhJ.GnI0
風が流れる音のみが支配する静寂の中で、彼女は悪趣味なグラフィティを貼り付けた雑貨屋の外壁を背に腰を下ろし、蹲っていた。
自身の身すらもすっぽりと覆ってしまう異形の腕で、膝を、頭を抱え込み、うわ言のように小声で呟き続けている。
从 ∀从「もっと、食いたい……もっと……」
金色に輝く左目。そこから流れる血は絶えず、白い頬を濡らし続ける。
真祖として本来あるべき姿に近づけば近づくほど、彼女が触れたかったものから遠ざかってゆく。
けれど何をしなくても、その溝のようなものは埋まらないような気がして、それでも自分の今を、この異形の腕が浅ましいと嘲笑っているような気がして――――
それを紛らわせるために、無尽蔵に湧き出るのは抑えがたい食肉衝動。
学園におけるブーンの存在が、世界の巨大な意志によって捻じ込まれたものだとして、それによって変貌を遂げる真祖の姿。
誰にも観測できるはずもなかった。
しかしそれでいて、彼女を取り巻く禍は、確実に、この物語のような数多の意志の流れを、歪ませてゆく――――
67
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/25(日) 00:19:23 ID:aPhJ.GnI0
終わり。
流石に明日は無い。多分。いやきっと。
おつかれ。
68
:
名無しさん
:2016/09/25(日) 00:19:56 ID:xaq5vwHA0
乙
69
:
名無しさん
:2016/09/25(日) 00:20:19 ID:firjRevQ0
乙乙
そしてハイン…
70
:
名無しさん
:2016/09/25(日) 00:21:25 ID:6Xnuq5560
おつおつ
71
:
名無しさん
:2016/09/25(日) 00:21:41 ID:K9MHsM0A0
どんどん物語が深みに潜っていくなー楽しみ
乙
72
:
名無しさん
:2016/09/25(日) 00:22:09 ID:JQ3tTPnU0
乙!
73
:
名無しさん
:2016/09/28(水) 21:28:36 ID:cazF8jE20
ハインは龍と会ったわけではないのかな?
真祖の力出しただけ?
74
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/29(木) 20:32:09 ID:0/9ih0a20
今日か明日投下
75
:
名無しさん
:2016/09/30(金) 00:12:53 ID:ua.J0Flg0
よし
76
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:49:48 ID:CLErTf8A0
第二十二話「過程から抜け出せないぼく達の、結末に至る為の理由。」
.
77
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:50:12 ID:CLErTf8A0
ζ(゚ー゚*ζ「おはよう、第九王位さん」
打ちっ放しコンクリートの部屋。
光一つ差し込まないその暗室で、彼はイノヴェルチの視線の元、目を覚ました。
( ゚д゚ )「…………」
ミルナは最後に自分が見た光景を、頭の中で反芻させた。
自分の脳天めがけて振り下ろされる羅刹棍。衝撃。
そして、遅れてやってくる静寂。
その闇の中を揺蕩う最中、彼は悍ましい獣の声を聞いた。
「悦びなさい、哀れな子羊。志半ばで失った命、私が呼び戻してあげましょう」
それは刻印のようなもの。
武人として誇らしく死ぬことすら許されず、彼はその闇から掬い上げられた。
( ゚д゚ )「第四王位……」
ジョルジュの声明の時に見た顔だと、ミルナはすぐに気がついた。
青白い顔。赤い瞳。彼女がイノヴェルチであることも。
自身が横たわるベッドの感触を、掌で確かめる。ひどくごわついていた。
そして、血に塗れていた。
ζ(゚、゚*ζ「大変だったんですよ? なにせ首から上が木っ端微塵だったんですから。ここまで修復するのに時間がかかりました」
( ゚д゚ )「あの男は……」
ζ(^ー^*ζ「貴方が殺したショボンくんですか? ご心配なさらず。私がきちんと直しましたから」
ミルナの表情が、硬くなる。
78
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:50:38 ID:CLErTf8A0
( ゚д゚ )「誰がそうしろと頼んだ」
明確な怒気を孕んだ声。
射抜くような視線は、真っ直ぐデレに向かっていた。
ζ(゚、゚*ζ「あら、もしかして貴方も、武士道とは死ぬことと見つけたり、とか言っちゃうタイプの人ですかぁ? 最近多いんですよねそーゆーの」
(# ゚д゚ )「貴様……!」
ζ(゚ー゚*ζ「いいじゃないですかみっともなくて。死んでしまったら全部同じですよ。みーんなただの肉になっちゃうんだから」
部屋の隅に立てかけておいた刀を握り、デレはそれをミルナに差し出した。
ζ(゚、゚*ζ「みっともなくもがいてください。貴方が嫌う、誇りのない死んだような生の中で、存分に打ち拉がれてください。あなた方が謳う価値観がどれだけ矮小なものかを、きっと知ることになるでしょうね」
(# ゚д゚ )「ならばこの場で辻褄を合わせてやるだけだ」
差し出された刀を受け取り、即座に抜刀。
79
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:51:03 ID:CLErTf8A0
その刃はミルナの腹に、真っ直ぐ突き刺さった。
熱を伴う鋭い痛みに、ミルナの脳が警鐘を鳴らす。
(; ゚д゚ )「うぐっ……」
そのまま、真横に刃を滑らせる。
肉を、臓物を切り裂き、皮膚を突き破り、刀はミルナの身体から離れた。
ζ(゚、゚*ζ「無駄ですよー? 貴方、吸血鬼なんですから」
ベッドに身を預けるミルナの上体に覆い被さるように詰め寄り、デレは血の泡を噴き上げる彼の腹部に腕を突っ込んだ。
(; ゚д゚ )「いぎっ……!」
破れた胃を掴み、優しく愛撫する。
細長い指でその食感を確かめ、爪を立てた。
直後、部屋に響き渡るのは断末魔の如き声にならない悲鳴。
始めは野太かったそれは、やがて便りのない、甲高い女の悲鳴のようなものに変わる。
ζ(^ー^*ζ「いい暇潰しになりましたよ。"第九王位さん"」
一頻り遊び終えて、デレは満足げな笑みを浮かべて、たった一つしかない扉をくぐって部屋を後にした。
80
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:51:27 ID:CLErTf8A0
閉ざされた扉の向こうで、ミルナはデレが何者かと話している声を聞いた。
それよりも、彼は再生途中の腹部が発する痛みをどうにかしてほしくて、泣き出してしまいそうだった。
情けない話だ。
一端の武士が、痛みに涙を流すなど。
その悔しさと共に痛感する。
自分が掲げていた誇りが、何の役にも立たないということを。
やがて、扉の向こうの話し声は止み、再び重々しい扉は開いた。
(´・ω・`)「……よお」
部屋に入ってきたのは、ある意味ミルナが今一番話したい人間だった。
ショボンは鎖で上体を縛り上げられていて、身動きが取りづらそうにしている。
解いてやろうとミルナは立ち上がりかけたが、再生途中の腹部から腸が溢れて、その激痛にそのままベッドから転がり落ちてしまう。
(´・ω・`)「ひどいざまだな」
(; ゚д゚ )「お互い……に……な……」
81
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:51:47 ID:CLErTf8A0
冷たい床に座り込み、ショボンはミルナが芋虫のように這いずり回るのを、ただ静かに見つめていた。
(; ゚д゚ )「おもしろいか?」
ようやく腹部の再生が終わり、痛みの残滓も噛み殺すことが出来るようになって、ミルナは自嘲を含んだ言葉を漏らした。
(´・ω・`)「いや」
ショボンはそこで言葉を区切り、息をすることすらやめて考えこんだ。
こんな時、どんな言葉をかければ良いのだろうか。
徹底的に他人を排除し続けたこの生き様の過程で、彼にとってそれはあまりに前例が少なく、難しい問いだった。
(; ゚д゚ )「なぁ、頼みがある」
(´・ω・`)「言ってみろ」
(; ゚д゚ )「殺してくれ」
それが敵うならば、自分はとっくに死んでいる。
ショボンは胸の中でそう毒づいたが、ミルナを責め立てはしなかった。
82
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:52:09 ID:CLErTf8A0
(´・ω・`)「僕から王位を奪っておいて、もう投げ捨てるのか?」
( ゚д゚ )「あれは俺の負けだ。闘いにも負けて、このまま無様に生き恥を晒し続けるなど我慢ならん」
(´・ω・`)「だが、デレがそれを許しはしねえよ」
覚醒したばかりのミルナが知らないことを、ショボンは知っている。
一部の者たちの間で、第九王位が覆ったという噂が流れていること。
偽りの王位。
それが自分の役目であることを、ショボンは受け入れている。
デレからどうこうしろと指示を受けたわけではないが、彼はこの、出処が限られた情報が不自然な速度で伝播していることに、一つ心当たりがあった。
(´・ω・`)(兄さんの仕業だ)
デレの隣に立つシャキン。
この二人が手を組んだとなれば、今の自分達の境遇は自然なのだと、ショボンは事のきな臭さに気付いていた。
83
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:52:57 ID:CLErTf8A0
意図的に情報を改竄し、伝播する。
シャキンが得意なやり口の一つだ。
こうして、術中に嵌めた人間を解答に辿り着けなくさせる手段を、彼は電波に準えて、ジャミングと呼んでいた。
(`・ω・´)
同じ学園にいながら、ショボンが彼に辿り着けないのは、そういうことだった。
血を分けた兄弟であっても、彼が本気で隠そうとしたものには辿り着けない。
あるいはペニサスのように、その改竄の形跡から察知出来るほど勘が鋭ければ、ジャミングを逆手に取ることも可能だろう。
だが当然常人には困難なことで、武に秀でていればいいというわけではなく、それ一つで天賦の才と言っても過言ではない。
(´・ω・`)「よっぽど僕らのことが大事らしい」
84
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:53:26 ID:CLErTf8A0
偽りの第九王位。
あるいは、出来過ぎたタイミングで入れ替わった第三王位。
ショボンはクーとハインの間に起きた出来事を知らないが、自分とミルナのような、確かな違和感をそこに見出していた。
(´・ω・`)(兄さんとデレが何を企んでいるのかは判らない……が、何かあるとすればぼくらかハインリッヒが引き金か?)
主であるデレの支配が唯一及ばない領域、思考を、いずれ来る大きな動きを見据えて回す。
身体を支配の鎖で縛り付けられた自分には何も出来ない。二人の思惑の為にいいように使われるだけだ。
だが、だからといってそこで考えるのをやめてしまえば、本当に死んだような男になってしまう。
それは、少し前のショボンには無かった感情だ。
死の直前、刃を交えた男によって喚び醒まされた、恐怖ではなく、闘志に従って戦うということ。
( ゚д゚ )「独り言が多いな」
ミルナに言われて、ショボンははっと我に返った。
85
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:54:15 ID:CLErTf8A0
( ゚д゚ )「意外だ」
ショボンは、僅かに気恥ずかしく思っている自分に気付いた。
自分は今、どんな顔をしているのだろうか。
分からないから彼は無闇に口を噤み、眉間に皺を寄せて眉を八の字にする。
幼い頃からの癖だった。
何か自分に不慮があっての不都合に見舞われた時、ショボンはいつだってこんな風に渋い顔をしてみせた。
「そんなに眉間に皺寄せてると、顔がしょぼくれるぞ」
(´・ω・`)「…………」
幼い頃、よく言われた言葉だ。
なぜ今になって思い出したのか、彼に対する憎しみならば、一日たりと、一瞬たりと絶やしたことはない。
だが、死してなお胸の中で燃え上がる火が灯る以前、ショボンが、彼を兄として慕っていた頃を思い出すのは、珍しかった。
(`・ω・´)
(´・ω・`)「ちっ……」
86
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:54:37 ID:CLErTf8A0
悪くない最期だった。このまま死んでもいいとすら思えた。
感傷に泥を塗り、無理矢理引きずり上げてきたあの忌々しい吸血鬼。
主と眷属という主従関係によって縛り付けられた今、ショボンに抗う術は無い。
だが、抗わなければならない。
たとえそれが呪いであったとしても、この意志が尽きないのであれば、兄を殺さなければならない。
(´・ω・`)「ミルナ」
( ゚д゚ )「……なんだ」
生前の彼からは毛ほども垣間見ることが出来なかった強い意志を孕んだ瞳。
ミルナはそれに気圧されて、怖ず怖ずと返事をする。
(´・ω・`)「機を見てハインリッヒ・アルカードと接触する。お前も手を貸せ」
自分とデレが主従関係であるように、その血脈を辿れば、あのデレですら、吸血鬼の鎖で縛る真祖に繋がるのだ。
本来はそのような関係である筈なのに、デレはハインに縛られていない。
そこに、活路は存在する。
87
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:54:59 ID:CLErTf8A0
消えかかっていた復讐の火が、風を孕んでたちまち燃え上がる。
自身の心すら蝕むその業火を、ショボンは静かに飲みくだした。
.
88
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:55:29 ID:CLErTf8A0
三日間という時が短いのか長いのか、きっと人によって、あるいはその人の置かれた状況によって捉え方は様々だと思う。
ぼくにとってこの三日間は、コマ送りの映像を見るように短かった。
ハインが第三王位を継承した。
その報せを受けた時は衝撃的だった。
たとえ立場がどうなろうと、あの天上天下唯我独尊の吸血鬼はどこまでいってもハインリッヒなのだと思う反面、彼女が、ぼくの及ばない遠い存在になってしまう気持ちもある。
自ら手放した。そのくせ彼女の一挙一動が気になって仕方がない。
これではまるで…………
( ^ω^)「ストーカーだお」
ハンバーガーをかじっていたドクオは盛大にむせた。
(;'A`)「いつからそんな色男になったんだ」
腰に吊ったホルスターに手を伸ばし、注意深く辺りを見渡す。
どうやら気が抜けていたらしく、漏れ出た言葉は彼にとって本当にどうでもいいことなのに、狼狽えるその姿を見て少しだけ胸がすっとした。
89
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:55:49 ID:CLErTf8A0
ハインが王位を継承してからの三日間で、ぼくはどう進歩したのだろう、と何度も問う。
荒れに荒れている第四ブロックを歩いているだけで、理由もなく命を脅かす暴徒は沸いてくる。
何人も地に叩き伏せてきた。
けれどそれは、何度も解消してきた問題を片手間で処理するような、鍛錬という体を保っていることによって得られる自己満足の為の行為である気がするのだ。
ドクオが銃器のメンテナンス用の道具を買うというので、ぼくもついてゆく。
早々に、背後から暴徒が襲いかかってきた。
( ^ω^)「殺気を抑えきれてない。衣摺れの音が聞こえるなんて論外」
後ろ手に、何かしら得物を握っている奇襲者の腕を掴み、脛辺りを蹴り上げる。
( ^ω^)「奇襲、闇討ちは準備が本番。これで死んでも後悔は無いってくらい、きちんと準備してくるといいお」
次からね、と付け足して、ぼくは振り向きざまに暴徒の顔面を力いっぱい殴った。
確かな手応えと共に、大柄な男は盛大に地面を転がった。
90
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:57:10 ID:CLErTf8A0
('A`)「…………」
( ^ω^)「なんだお?」
('A`)「いや、お前と初めて話した時のことを思い出してな」
( ^ω^)「気持ち悪いからやめてくれお」
('A`)「はっ、減らず口が叩けるようになったな」
吹く風が生ぬるい。
風に運ばれて漂ってくるのは、以前ならば飲食店のダクトから漏れた匂いだったが、今は、どこかの誰かの命を奪った硝煙の匂いだけがぼくの鼻をくすぐる。
( ^ω^)「変わっちゃったおね」
('A`)「そうだな」
荒れ果てた街。それでもぼくは憂鬱になったりはしない。
それどころか、むしろ懐かしさすらある。
人々の目は澱み、希望や野心も無くて、我利我利亡者の虚ろな吐息だけが占めるこの空気感。
ここは、ぼくが乞食として、惰性的に命を繋いでいた外の世界と、まったく同じだった。
91
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:57:32 ID:CLErTf8A0
('A`)「なんで乞食なんかやってたんだ?」
( ^ω^)「だから、二茶が破綻して……」
('A`)「そうじゃねえよ。その気になれば乞食なんかじゃなくて、もっと割の良いシノギがあっただろ。今のお前、外なら一組織もまとめ上げられるくらいの腕っ節だよ」
( ^ω^)「この学園で自衛を心掛けるようになってからだお」
('A`)「本当にゼロからこの短期間で? 嘘だろ」
( ^ω^)「君ほどのやつがあの時のぼくを測り損ねてたっていうほうが、ぼくからしたら嘘だお」
('A`)「…………」
ドクオは足を止めて腕を組み、しばし何かを考え込むようにして視線を地面に落とした。
煙草に火をつけ、しまいにはシャッターを下ろしたブティックのベンチに腰を下ろしてしまう。
92
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:58:05 ID:CLErTf8A0
( ^ω^)「そんなに引っかかるかお?」
('A`)「……別に、俺だって考えることは腐るほどあらぁ」
どうやらそうらしい。
それに対して、特に言及するつもりもない。
ハインが第三王位を継承したということは、元々その椅子に座していたクーさんが負けたということだ。
第二王位から第三王位に転落して、そして今、ぼくは彼女の消息に関する噂を一度も耳にしていない。
('A`)「気になるか?」
( ^ω^)「まぁ、それなりには」
ぼくからは踏み込みづらい話題だったけれど、ドクオの方から持ちかけてきたので、それに甘えることにした。
93
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:59:14 ID:CLErTf8A0
('A`)「死んではない。が、この学園にもいないらしい」
( ^ω^)「辞めちゃったのかお?」
('A`)「いや、実家で療養中、だそうだ。まぁ、それも建前だろうがな」
( ^ω^)「建前」
('A`)「あいつの実家が実の娘を悠長に休ませるわけないってことだよ」
(;^ω^)「スパルタだおね」
('A`)「ああ、超スパルタだ。俺はあいつの修行を見てきたから、あいつの強さも当然だと思える。勿論才能もあるだろうけどな」
あの強さを以って、それすらも頷けると言わしめる修錬がどれほどのものか、純粋に興味がある。
今のぼくには、仮に一日二十四時間の修行を十年間欠かさずにやり遂げたとしても至れない高みに思えるけれど、強さと同じように、自分を苛め抜く行為にも限界はないのだなと再認識した。
94
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:59:34 ID:CLErTf8A0
( ^ω^)「それにしたって、こんな形で帰省してそれはストイックだおね」
('A`)「そういうやつなんだよ」
( ^ω^)「見習わなきゃだお」
('A`)「つって、お前にとっちゃ他人事じゃないかもな」
ドクオが、珍しく意地の悪い笑みを浮かべた。
僅かに細くなった双眸。それは真っ直ぐぼくを捉えている。
背骨が凍りついてしまったみたいに、あるいは足の裏から根が生えてしまったみたいに、ぼくは動けなくなった。
嫌な予感が、する。
( ^ω^)「……どういうことだお?」
そこから先の言葉を、ぼくは的確に予想出来ていた。
けれど、予想していたとしても、いざ直面すれば揺らいでしまう程度の心算しか出来ていなかったようで……
('A`)「クーが実家に来ないか、って誘ってたぞ」
95
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 01:59:56 ID:CLErTf8A0
願ってもない話だ。
そう思えるほどには、ぼくと彼女の繋がりは薄い。
けれども実際に、彼女はぼくを誘っているらしい。
あまりに出来すぎた話だ。
( ^ω^)「どうしてぼくを?」
('A`)「さぁな。聞いてみるか?」
( ^ω^)「いや……」
仮にきな臭い理由があったとして、きっと彼女はぼくでは絶対に看破できないようなもっともらしい理由をでっち上げるだろうし、何も無かったとしたら、それはそれで無粋な気がする。
要するに、この時点でぼくは未知に飛び込む為の覚悟を試されているのだろう。
まともな判断ではないと思う。
どう考えたって、小心者の捻くれた解釈だと思う。
けれど、何故か今のぼくにはそうとしか思えないのだ。
96
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:00:16 ID:CLErTf8A0
( ^ω^)「……考えさせてくれお」
('A`)「だろうなぁ。お前からしてみりゃ、よく分からん女の唐突な誘いだしな」
無理もない、とドクオは苦笑を浮かべる。
面倒臭い性格だとは思うけれど、一度勘繰るべきと判断したことを、真っさらな目で見る事が出来ない。
いや、あるいは、ぼくは……
( ^ω^)「ごめん」
ふとわき出てきた胸の中の言葉を押し込んで、ぼくは溜め息をついた。自然と漏れた溜め息だった。
('A`)「俺に謝ることじゃねえよ。気にするな」
煙草の火を靴底ですり潰し、ドクオは立ち上がる。
('A`)「俺は行く。もう少しで、何か掴めそうなんだ」
97
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:00:39 ID:CLErTf8A0
( ^ω^)「メンテナンスの道具は、いいのかお?」
('A`)「ん、ああ、そういう気分じゃなくなっちまった。伝えること伝えられたし、もういいよ」
来た道を戻ろうとするドクオを呼び止めてみたけれど、彼はどこか上の空で、意識が散漫になっているような気がする。
彼には彼の、ぼくにはぼくの、解決し難い懸念事項が山のようにあるということだろう。
そのように、他人に気が回るなど外にいる時には考えもしなかった。
こんな殺伐とした排他的な世界で、それは随分と皮肉な話だ。
僅かに緩んだ頬。別れを告げかけたその時、轟音が、鳴り響いた。
98
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:00:59 ID:CLErTf8A0
( ^ω^)「っ!」
('A`)「…………」
音がした方に振り返り、何も確認出来なかったのでドクオを見る。
彼は腕を組んで、ぼくが振り返った方向をじっと見据えていた。
('A`)「どうする?」
( ^ω^)「ただ事じゃなさそうだけど……」
本当に暴徒が引き起こす騒動が増えたから、大抵の騒ぎは欠伸混じりでやり過ごすことが出来るけれど、今の音は尋常じゃなかった。
( ^ω^)「巻き込まれないうちに離れるかお」
('A`)「そうだな」
嫌な予感がする。
早々にその場を去ろうと、ぼくたちは同じように踵を返した。
99
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:01:25 ID:CLErTf8A0
その刹那、ぼくは確かな視線を感じた。
肌に、心臓に絡みつくようなそれは、確実にぼくの生殺与奪を握っていて、一瞬でぼくの頭から爪先までを値踏みすると、駆け抜けるように過ぎ去っていった。
(;^ω^)「ドクオ!」
堪らず大声で彼の名を呼んだ。
彼は既にホルスターから黒銃を抜き、左手の指の骨を鳴らしていた。
('A`)「お前も感じたか」
顔の前を、見えない何かが過ぎ去った。
目を凝らしてじっと一点を見つめていると、不可視に近い半透明の細い糸。それを辿ると、同じ糸が違う軌道でぴんと張っているのを見つけた。
彼がこの一瞬で展開させたものらしい。
('A`)「捕まった。覚悟決めとけ、多分とんでもないのが来る」
ぼくの感覚は間違っていなかったようで、ドクオも危機を察知していた。
いやあるいは、もっと具体的な殺気を感じ取っているのかもしれない。
100
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:01:57 ID:CLErTf8A0
ぼくは一歩身を引いて、ドクオが睨む方向をじっと見た。
急に何かが迫ってくるような感覚、というよりも、もっといやらしい、喩えるならば、獲物を見つけた蛇がじわじわとにじり寄ってくるような……
( ^ω^)「嫌な感じだお」
('A`)「この距離で迂闊に逃げられない、と思わせられる。かなりの使い手だ」
自身の力を以ってすれば、相手がそう思わざるをえないと確信しているからこその、このいやらしい迫り方なのだろうか。
だとしたら、相当性格が悪い。
その人物像の類似として、真っ先に頭に浮かんだのはデレの顔だった。
闘いが、一方的な蹂躙であるかのうな不遜な性格。周囲一帯を血と狂気で汚すあの吸血鬼ならば、あるいはこのように不穏を撒き散らしながら歩み寄ってくるのかもしれない。
('A`)「来るぞ」
101
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:04:00 ID:CLErTf8A0
そして、ぼくは身構えた。
視線の先。
歪んでもいない整然と建ち並ぶ建物ですら、頼りなく倒れてしまいそうな荒涼とした空気の向こう側で、黒い影が揺らいだ。
( ^ω^)「…………」
ぼくは、ぼくは、文字通り言葉を失ってしまった。
そこにいたのは、きっとぼくが今、最も想っている人で、そして、彼女の姿が、ぼくが知っていた彼女とはかけ離れていたから。
从 ∀从
黒い影は、ハインは、千鳥足の酔い人のようなおぼつかない足取りで、近付いてくる。
( ^ω^)「ドクオ、銃をしまえお」
('A`)「…………」
( ^ω^)「ドクオ!」
声を荒らげる。
そんなぼくよりも、ドクオはずっと冷静だ。
102
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:04:28 ID:CLErTf8A0
銃口はハインに向いたまま。
彼の眼光は、明確に敵と定めた者を見るときにように鋭かった。
(;^ω^)「…………」
自分の焦りの正体が、ぼくにはよく分かった。
ドクオが血迷って、ハインに銃を向けているからではない。
彼のその判断が、何一つとして間違っていないと思うからだ。
从 ゚∀从
黒いドレスは、デレが来ていたものとよく似ていた。
むしろ今のハインが着ている方が、より悍ましく、その闇の深さを体現するのにお誂え向きだ。
禍々しい黒い右腕が伸びて、傍に建ち並ぶ建物の壁を押さえている。
獣の腕のようで、指先、爪にあたる部分は鋭い。
そして左肩から伸びた黒い翼のようなものは不規則にはためき、その度に黒い霧を撒き散らす。
敵性の有無を問わず、身構えざるをえない。
これじゃあ、これじゃあまるで……
( ^ω^)「バケモ……」
無意識で漏らしかけた言葉に気付き、ぼくはその汚らしい言葉を飲み込んだ。
103
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:04:50 ID:CLErTf8A0
从 ゚∀从「よお」
左目を、正常な右手で抑えたまま、ハインは弱々しい声で語りかけてきた。
その右目はぼくではなく、真っ直ぐドクオの方を見ていた。
('A`)「…………」
从 ゚∀从「美味そうな闘気が漂ってきてると思ったら、お前かよ」
ドクオは何も答えず、代わりに撃鉄を起こした。
ドクオの隣にいるぼくは、彼女の視界に、入っているのだろうか。
从 ゚∀从「顔見知りは、食えねえなぁ」
下卑た笑みを浮かべて、ぼくからでも見て取れる脂汗を垂らしながら、ハインはよろよろと近付いてくる。
( ^ω^)「…………」
何か言える筈も無かった。
ぼくは、痛々しい彼女の姿を努めて無表情で見つめていた。
104
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:05:14 ID:CLErTf8A0
('A`)「まるで食おうと思えば食える、みたいな口ぶりだな」
从 ゚∀从「何が違うんだ? その通りだよ」
重く、湿った発砲音。
ハインの脳天を的確に貫いた弾丸。
木っ端微塵になった肉片が飛び散って、でも、視線は外せなかった。
再生が始まる。
血の泡は瞬く間に彼女の肉を形成して、元通りの状態に戻った。
そして、金色の瞳が、露わになる。
从 ∀从「へへ、へへへ……」
変わらない、今にも地に倒れ伏してしまいそうな足取りで、ハインはぼくの肩の横を、通り過ぎようとしている。
ぼくは、何を言うことも出来ないけれど、自分の中に、確かに燃え上がる炎のようなものを感じることが出来た。
( ^ω^)「ハイン」
本当に小さな、蚊の鳴くような声だったと思う。
事実、彼女の耳には届かなかったらしい。
あるいは、聞こえていて敢えて、何も応えないのかもしれない。
それで、いい――
105
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:05:35 ID:CLErTf8A0
('A`)「人間気取りにはちょうどいい格好だな」
从 ゚∀从「まぁな。今凄く心地いいよ。人間ってのもそうなんだろ?」
('A`)「なんのこっちゃ」
从 ゚∀从「ありのままの姿でいることがよ」
ドクオは少し間を空けて、彼女がぼくたちの背中の向こう側を歩む最中に、答えた。
('A`)「それが誇れる自分ならな」
黒銃をホルスターに収め、左手で何かを手繰り寄せるような所作。
敵対する鋭い空気は消え失せ、泥のように沈んでしまいそうな重い空気だけが残る。
きっと小さくなっているであろう彼女の背中を、振り向いて確認することなど出来るわけがない。
ぼくとドクオは二人、腐ってしまったみたいに淀んだその空気の中、何も言わずにただ押し黙っていた。
106
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:06:06 ID:CLErTf8A0
( ^ω^)「ドクオ」
どこまでも皮肉な、突き抜けるように青い空を仰いだまま、ぼくは彼の名を呼ぶ。
何も答えない彼はぼくの呼びかけを聞いているから、そのまま続ける。
( ^ω^)「ぼく、クーさんのところに行くお」
未知に飛び込む覚悟?
出来過ぎた話?
ぼくがもっともらしく誂えようとした言葉を、胸の中で破り棄てた。
全て、詭弁でしかないじゃないか。
ぼくは怯えていただけなのだ。
あの絶対的な強さに辿り着くために、支払わなければならない対価を。
強さを得る為に対価を支払わなければならない至極当然の理に、この学園に入ってから気付いたぼくは、高みに登る前から自分の爪が痛むことを嫌った。
何度も覚悟を決めたはずの、強くなりたいという意志に対する冒涜だ。
107
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:06:29 ID:CLErTf8A0
('A`)「奇遇だな。俺も行ってみよう、じゃなくて、行かなきゃいけないと思ったところだ」
ドクオにも、どんな対価を支払ってでも強者の座に辿り着かなければならない理由があるのだろう。
けれど、それはぼくも同じだ。
昨日までは曖昧模糊としていた、理由が浮き上がって、それは火を帯びる。
ぼく達の理由は必ずしも衝突するものではないのかもしれない。
けれど、絶対に負けたくないと、思った。
( ^ω^)「同じ釜の飯を食うことになるとは思わなかったお」
意識的に、茶化すような言葉を選んで吐き、ドクオを見る。
('A`)「気持ち悪いからやめてくれ」
当てつけのような言葉。ドクオの顔も、ちっとも笑っていなかった。笑えていなかった。
ぼくは何の脈絡もなく、彼女を名前を胸の中で呟いた。
108
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/09/30(金) 02:07:15 ID:CLErTf8A0
おわり
またいつか
109
:
名無しさん
:2016/09/30(金) 02:14:03 ID:ekiMQE2c0
乙!
ハイン…
110
:
名無しさん
:2016/09/30(金) 02:19:54 ID:zM1NXruY0
乙!!
痛ましい
111
:
名無しさん
:2016/09/30(金) 02:22:08 ID:L9et4QlU0
乙
この作品でショボンがまともだったの初めて見た気がする……
112
:
名無しさん
:2016/09/30(金) 03:51:34 ID:ua.J0Flg0
ショボンいいなぁ凄く面白い
乙
113
:
名無しさん
:2016/09/30(金) 07:40:33 ID:AO3bE1EY0
ショボン様すき
114
:
名無しさん
:2016/09/30(金) 13:04:07 ID:squN21i60
おつ
ショボン&ミルナがんばれ
どっちも好きだから1歩でも足掻いてほしい
ハインのブーンに対する反応がなかったのが辛いな
115
:
名無しさん
:2016/09/30(金) 14:18:39 ID:UgI9Q3hU0
乙
ショボンの株がどんどん上がるなぁ
ブレないやつは本当にかっこいいな
そしてブーンとドクオは修行なのかな?わくわくしてしょうがない
116
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/11/27(日) 12:00:11 ID:MyRZcDlU0
誰かぼくのやる気スイッチを押してください
117
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/11/27(日) 12:01:07 ID:MyRZcDlU0
第二十三話「何百、何千年と同じ事を繰り返したぼくたち」
.
118
:
ゆゆ
◆AdHxxvnvM.
:2016/11/27(日) 12:02:00 ID:MyRZcDlU0
_
( ゚∀゚)「いつまで高みの見物を決め込んでるつもりなんだ?」
第三ブロック職員居住区は、既にジョルジュの手に落ちたも同然だった。
モニター越しに、見世物を見るような目で観測していた大人達を蹂躙し、彼は幾分か愉快になった。
それでも満たされない隙間があるから、彼は自身の居室を訪れた男に、そう問う。
_
( ゚∀゚)「お前だって退屈してるんだろ? 隠そうったってそうはいかねえぜ。お前はあのいけすかねえ元会長とは違う。楽しむ為に強くなったクチだろ」
男は、瞼を下ろしたまま、腕を組んで壁に背を預けた。
_
( ゚∀゚)「モララー」
( -∀-)「…………」
学園最強の男と、第二王位の接触は、誰にも知られぬ形で成った。
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