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今日も何処かで誰かが世界を救っているようです
1
:
◆q3XheuOe12
:2016/04/03(日) 22:48:05 ID:VBbdKorg0
『第三次世界大戦の引き金となったのは、ナノマシンでした』
機械音声によるアナウンスが、床に、壁に、天井に反響する。
『クレイトロニクス。ナノマシン同士の連結によって自由自在に形状を変化させる物質。
当初、それはただ所有者の想像した形状を映し出すだけの技術に過ぎませんでした』
一面白塗りのその空間には『継ぎ目』がなかった。
『ですがクレイトロニクスは『自己進化』したのです。
ナノマシン自身が、より高性能なナノマシンを作り出し、
形状のみならず、まさしく想像を実現する技術へと、発展した』
床も壁も天井も、窓や照明さえも、初めからそうであったかのように一つに繋がっていた。
『科学が人類の手を離れ、一人歩きを始めた。
私達人類は、その事をただ喜び歓迎出来るほど、楽観的ではありませんでした。
恐れてしまったのです』
その広い空間の中央には、ホログラム発生装置が設置されていた。
映し出されているのは――第三次世界大戦の様相。
『この技術を誰かが悪用すれば、簡単に世界を滅ぼしてしまえるのではないか。
機械が知性を持って、人類を滅ぼし、また支配し始めるのではないかと。
――『想像』してしまった。そしてそれは、いとも容易く実現された』
無数のロボットが人類を圧倒する光景が、小さな子供がショックを受けない程度の表現で描写されていた。
人々が零す涙や嘆きから、新たなロボットが生まれ、彼らを取り囲んでいく。
『恐怖、怒り、恨み、悲しみ、疑心暗鬼……急速に伝染し、膨張する負の感情。
その全てに、クレイトロニクスは形を与えていきました。
人類は、自分達の絶望に飲み込まれてしまうかのように思われました』
2
:
◆q3XheuOe12
:2016/04/03(日) 22:48:44 ID:VBbdKorg0
不意に、ホログラムの中で閃光が走った。
人の形をした青い雷光が、人類を包囲するロボットの一群を薙ぎ倒していた。
『ですが、そうはならなかった。映画の中から溢れ出てきたかのようなロボットの群れにも、
この世界に形を得てしまった心に巣食う怪物にも、臆さない勇気を持つ者達が、人類にはまだ残っていました。
クレイトロニクスは……彼らの気高い精神にも、形と力を与えたのです』
膝を屈していた人類の中から、一人また一人と立ち上がる様が映し出される。
ある者は紫色の霧を生み出してロボット達を溶かしていき、
ある者は筋骨隆々の姿を得て怪物を叩きのめしていく。
ある者は光り輝く剣と盾を以って、ある者は業火を、ある者は吹雪を生み出し、恐怖の象徴を打ち払っていく。
『そして彼ら……ヒーローの勇姿によって、人類は再び希望を抱く事が出来ました。
恐怖を心から追い払い、脅威に立ち向かえるようになったのです。
皆が勇気を持って戦い続け……気付けば、私達が生み出した敵はいなくなっていました』
ロボットと怪物がいなくなると、ヒーロー達は一箇所に集まり、ホログラムの外側へと視線を向けた。
『今ではクレイトロニクスに機能制限を設けるナノマシンが開発され、世界中に散布されています。
ナノマシンは人々の想像ではなく、機械的なプログラムによってのみ制御されるようになりました。
よって彼ら……ヒーロー達もその役目を終え……今では一般人として生きていると言われています』
そして小さく手を振ると、その状態で映像が静止し、ヒーロー達のシルエットロゴが形成された。
『彼らの事を、助けを求める心が生み出した『蜃気楼』《ミラージュ》だったと言う者もいます。
ですが彼らが取り戻してくれたこの平和は……決して幻などではありません。
彼らはきっと、本当にそこにいたのです。蜃気楼は、世界を救ってくれなどしないのですから』
電子音声によるアナウンスが終わった。
シルエットロゴ下部には『視聴には台座に設置されたボタンを押して下さい』と表示されている。
「……かっけえええええええ!ねえ兄ちゃん!今のもう一回見ようよ!もう一回!」
ホログラム発生装置の前で、小さな子供が高揚を抑え切れないと言った様子で叫んだ。
ナノマシンで構成された展覧ホールには殆ど声は響かない。
が、それでも多少の人目を集めた。
3
:
◆q3XheuOe12
:2016/04/03(日) 22:49:18 ID:VBbdKorg0
「……見る訳ないだろ。こっちは学校の課題研究で来てるんだ。
お母さんがうるさく言わなきゃお前を連れてくるつもりだってなかったし、さっさと全部見て回って帰るよ」
苦笑混じりの視線に晒された少年の兄が、うんざりとした口調で答えた。
「えー……つまんないなぁ。あ、じゃあさ!『ミラージュ』の中で誰が一番カッコいいと思う?
僕はやっぱりブーンかなぁ。あの決めゼリフ……」
「やめてくれよ。ミラージュなんて存在する訳ないだろ。全部デタラメだよ」
食い下がる少年に、兄は溜息を吐いて向き直ってそう言った。
「いいか。どこの国でも、政府はミラージュに対する招集を呼びかけてる。国連もだ。
戦争は終わっても、今でも治安の悪い所は幾らでもあるからな。
でもそういう所に一回でもミラージュが来てくれたって聞いた事あるか?ないだろ」
兄は一息にそう続けると、弟に背を向け、別の展示物へと早足に歩いていってしまった。
壁から天井にまで続く大窓の外に見える、自由の女神像だ。
かつてはリバティ島に設置されていたそれは、今ではニューヨークの中心に立っていた。
掲げる灯火からは、天蓋のように地表を覆う金色の薄膜が広がっている。
大戦時、ニューヨークに向けて無数のミサイルが発射された事があった。
彼女はその時に、クレイトロニクスによって正の影響を受け、人々を守らんと動き出した。
自らの足でここまで歩いてきて、その手に掲げた黄金の灯火で空を覆い、死と破壊の雨を焼き払ったのだ。
窓の傍に設置されたプレートには、そう記されている。
「これだって、ただの嘘っぱちだ。戦争中にリバティ島ごと壊されて、
仕方なくこっちに建て直したけど、こう説明した方が見栄えがいいってだけさ」
「でも、彼女は今でもニューヨークを守ってるじゃないか、ほら」
兄に追いついた弟が、女神の掲げる灯火を見上げ、指差して言い返す。
「ふん、あんなのただのバリア装置だ。女神が自分の意志で動き出した証拠になんかならないよ」
兄は弟の言葉を鼻で笑い飛ばした。
そしてまた次の展示物へ向かおうとして――弟に服の裾を掴まれた。
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