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(´・ω・`) ホムンクルスは生きるようです

1名無しさん:2016/04/03(日) 18:59:25 ID:hIo2mFDI0





まとめ様:ローテクなブーン系小説まとめサイト

42名無しさん:2016/04/03(日) 20:46:56 ID:hIo2mFDI0

神州を一括管理したただ一人の巫女。その初代の巫女の名前は桜。
その後に続くように少女たちは皆、花の名前を与えられ国を治めてきた。

錬金術による生産技術の向上と、ポルタツィアによる審議により、
神州において武力を用いた大規模な争いはほぼ完全に消滅した。
それが、ポルタツィアが出現してからたった数十年の出来事。

神州では、平和な日々が今も続いている。

ポルタツィア。

神州に顕現した神。
見た目はその当時の帝の姿を模したと言われているが、身に付けていたのはその当時よりも遥か昔の儀礼用の服。
それ故、神州にその姿を現したのが千年ほど前というだけであり、
それよりも以前から神州に存在していたとされている。

目を合わせた者を後悔と罪悪感の果てに自死させる瞳。
自然環境を自由自在に操るほどの圧倒的な災厄。
悪しき心を持つ者の入国を許さず、大きな揉め事には介入を行う。

その足跡は神州の至る所にあり、素材も神州に住む民にとっては親しみやすい。
反面、扱いには非常に注意しなければならないため、この本を手に取った錬金術師の方々は、
安易な考えで錬成に使用するのはやめるように。

43名無しさん:2016/04/03(日) 20:49:57 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「あんまり……大きくないな」

西方の国にあるものと比べると、城と呼ぶには規模が小さい。
土台は天然の岩石を驚くほど緻密に組み、その上に立っている。
木材を主として建造されているため、火がつけばよく燃えそうだ。

塀は少し助走をつければ乗り越えられそうなほどの高さ。
戦争の危機が無くなってから、侵略に怯える必要が無くなったからだろう。
門は固く閉ざされているが、見張りが二人あまり鋭くない槍を肩にかけ座っていた。

(´・ω・`) 「入れそうだなぁ」

とはいえ、正面からすんなり入れてもらえるわけもない。
塀に沿って裏側に回ってみる。
昼間は人目が多くて無理だろうけど、夜であれば侵入できそうだ。

一刻も早く古代錬金術師の番人に会って、聞かなければならない。
リリの居場所について。

夜になるまでは適当に時間を潰せばいい。

「っ! すいません!」

考え事をしながら歩いていて、お腹の辺りに小さな衝撃があった。
それが黒髪の少女だと気付いた時、唐突に意識が断ち切られた。

44名無しさん:2016/04/03(日) 20:53:01 ID:hIo2mFDI0
・  ・  ・  ・  ・  ・


(;´-ω-`) 「ここは……」

目が覚めたのは灯り一つない暗い空間。
頭の上に空いた穴から零れ落ちて来る月の光だけが、唯一この場所を照らしていた。

横になっている地面はごつごつと硬く、潮の香りと湿気、肌寒さを感じる。
恐らくは海辺の洞窟みたいな場所ではなかろうか。

「気づかれましたか……?」

灯りに照らされた少女は、僕の頭より少し先に座っていた。
長く艶やかな黒髪と、人形のような白い肌はあまりに幻想的でしばし息をのんだ。

「大丈夫ですか?」

(´・ω・`) 「あ、ああ……」

徐々に冷静な思考が戻ってくる。
少女が身に付けている服と装飾は明らかに一般庶民のものではなく、高貴な身分であろうことは、容易に想像がつく。
そしてそれとは全く似合わない黒の外套を羽織っていた。

45名無しさん:2016/04/03(日) 20:53:36 ID:hIo2mFDI0

そもそも、普通の人間にこの僕を気絶させこんな場所に運んでこれるわけがない。

(;´・ω・`) 「君は……?」

/ ゚、。;/ 「あっ……えっと……芒……です」

(´・ω・`) 「君が僕をここに?」

/ ゚、。;/ 「はい……すいませんでした……驚いちゃって……」

驚いたくらいでホムンクルスの意識を断ち切れるわけはない。
その外套こそが探し求めていたものであろう。

「ふん、流石に気づいたであるな」

/ ゚、。;/ 「ロマっ!?」

( ФωФ) 「隠しても無駄であるよ。この男は錬金術師である。それも、相当優秀な」

どういった仕組みになっているのかはわからないが、外套から声が響く。

(´・ω・`) 「あなたを探していた。ロマン・ド・モントー」

46名無しさん:2016/04/03(日) 20:54:18 ID:hIo2mFDI0

( ФωФ) 「誰の差し金であるか? いや、聞かなくても大凡わかっているであるが」

/ ゚、。;/ 「差し金? どういうこと、ロマ」

( ФωФ) 「芒。昔、吾輩の話をしたことがあったであろう」

/ ゚、。 / 「ロマが錬金術の番人になった時の事? 確か……シュール様って人がロマをこうしたって」

( ФωФ) 「うむ。最近連絡があったであろう。そろそろ運び屋が来る、と。
         この男がそうなのであろうな」

(´・ω・`) 「教えてくれ。リリは……今どこにいる」

( ФωФ) 「断る」

(;´・ω・`) 「なっ」

否定の言葉で気づかされた思い違い。
彼女が創り出した錬金術の番人であれば、皆彼女と同じ目的を持っていると。
千年を超える時間を生き続け、それでもなお全く変わりはしないと。

彼らは人間だった。
最初からそう設計されていたわけではない。

47名無しさん:2016/04/03(日) 20:57:35 ID:hIo2mFDI0

( ФωФ) 「今の吾輩は、芒と生きることに何よりも重きを置いている。
         この神州にはいくら彼女の悪意とは言えど侵入は出来ないのである。
         ポルタツィアによって守られ続けている限り。わかったら、帰るがよい」

(;´・ω・`) 「いや、待ってくれ……」

( ФωФ) 「リリ……といったな。吾輩が垣間見た少女のことかどうかは知らぬが、
         彼女の悪意のもとにいるのであれば、もう間に合わぬであろうよ」

(´-ω-`) 「……お願い……します……。どうか、知っていることを教えて……ください」

両手を地面につき、頭を下げる。頼れるのは彼だけなのだ。
シュールの悪意の居場所は、誰も知らず、一人で探しているのでは絶対に間に合わない。

/ ゚、。;/ 「ロマ……」

( ФωФ) 「芒は気にする必要が無いのである……。……では、交換条件であるよ。
         今の芒の置かれている状況を解決してくれるのであれば、手伝うのである」

(´-ω-`) 「何でもする」

48名無しさん:2016/04/03(日) 20:58:39 ID:hIo2mFDI0

( ФωФ) 「途中で諦めなければよいのだがな。……気づいていたとは思うが、芒はポルタツィアの巫女である。
         かつて、芒は民宿を営む両親の子として暮らしていた。
         だが先代の巫女が病に臥せ、若くして亡くなってしまった。
         その代わりにと彼女が無理やり連れてこられたのだ」

/ ゚、。 / 「……」

( ФωФ) 「芒は巫女として生きることを望んでおらん。
         狭い部屋の中に閉じ込められ、毎月の催事には命を懸けてポルタツィアの声を聞き、
         ある年齢になれば結婚相手すら与えられ、子を為すことを義務とされる」

(´・ω・`) 「ポルタツィアの言葉は……特別な血筋のものにしか聞くことができないと」

( ФωФ) 「……芒は亡くなった山茶花の妹である」

血筋に拘らなければならなない故の。

( ФωФ) 「母親は芒を出産した後、しばらくして息絶えた。
         当然、すぐにでもどちらにかに役目を継がせなければならない。
         周りの者達は判断した。姉である山茶花を役目につけ、妹は民宿の老夫婦に預けたのだ。
         芒と言う名前のみが、唯一彼女が母親から与えられたものである」

49名無しさん:2016/04/03(日) 21:00:20 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「姉が亡くなれば妹に目が向くのは当然、か」

( ФωФ) 「それまで普通の暮らしをしていたのである。突然、巫女になれと言われても、どだい無理なものであろう」

(´・ω・`) 「芒はどう思ってるんだ」

/ ゚、。 / 「巫女なんてやりたくない。これからもずっと、父上と母上と一緒に暮らしていきたいのに……」

( ФωФ) 「この調子でな、最近の神託は滞っているのである。
         だが、あまりポルタツィアの機嫌を損ねると何が起こるかわからん。
         城の人間も、町の人間も、良くは思っていないであろうよ」

七大災厄たるポルタツィアがその怒りをばら撒けば、犠牲者は二桁では収まらなだろう。
誰もがこの目の前の少女に、巫女という重役を押し付けている。

(´・ω・`) 「血……か……」

/ ゚、。 / 「どうしたんですか」

(´・ω・`) 「いや、芒には関係が無いんだけどね、ちょっと思うことがあって」

( ФωФ) 「ふん、そもそもなぜその血族しかポルタツィアと会話が出来ぬのであるか」

(´・ω・`) 「もうずっと昔のことだ。調べようもないさ」

50名無しさん:2016/04/03(日) 21:01:18 ID:hIo2mFDI0

( ФωФ) 「わかっている。さて、この問題、おぬしに解決できるのであるか」

(´・ω・`) 「……」

簡単な問題ではないだろうことは予想がついていたけど、これは明らかに僕が出来る範疇を超えている。
下手に芒を攫おうとでもすれば大和国全体を揺るがしかねない。
場合によっては七大災厄と直接かち合う羽目になる。
それだけはごめんだ。

過去にティラミアと戦った時もそうだし、エルファニアが目の前を通り過ぎた時のことはまだ覚えている。
人智を超えた存在である七大災厄は絶対に敵に回してはいけない。

となれば、ポルタツィアの声を聞くことのできる新たな巫女を立てるしかない。

(´・ω・`) 「巫女の系譜はどこかで調べられるのか」

( ФωФ) 「吾輩が覚えている限り、大和国の巫女は分家をとっていない」

(´・ω・`) 「何年ぐらいだ」

( ФωФ) 「百五十年」

(;´・ω・`) 「……他の国の巫女は」

51名無しさん:2016/04/03(日) 21:02:47 ID:hIo2mFDI0

大和国直系の巫女が無理ならば、他所の国から連れてくるしかない。
生まれを偽ってでも。

( ФωФ) 「神州はいくつもの国からなっているが、
         ポルタツィアの声を聞くことのできる巫女の血族で今も残っているのは五つ」

(;´・ω・`) 「たった五つか……」

( ФωФ) 「巫女を中心とした一つの集合体となっているのである。最も大きなここ大和以外には、
         南北に長く連なる武蔵、ここより西の小さな島国、阿波、
         神州最大の神社がある出雲、神州最西端の島国、日向。
         これら五つの土地にのみ巫女は存在している。芒、地図を書いてやれ」

/ ゚、。 / 「うん」

少女の手は、落ちていた石を拾って地面に神州の全体図を書き始めた。
全体的に左右に長細い神州の地図は、ある程度頭の中に入っている。
左側に大きなものが一つ、それと大和国の間にもう一つ島がある。

/ ゚、。 / 「ここが私たちの住む大和」

神州の最も中心に位置している。
やけに船旅の時間がかかっていた気がしたが、
ジョルジュはわざわざ大和から一番近い港まで運んでくれたからだろうか。

52名無しさん:2016/04/03(日) 21:03:42 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「つまり、この残り四つのうちどれかに巫女の血族がいなければ、芒の立場は変えられないってことか。
       ただ気になるんだけど、ポルタツィアの声を聞くことのできるのは、本当にその血族だけなのだろうか」

( ФωФ) 「どういうことであるか」

(´・ω・`) 「僕が神州に来たとき、ポルタツィアが空から落ちてきた。
       積み荷を捨てる様に言われたから、ほとんどの錬金術を海に捨ててしまったわけだけど……。
       あの時、確かにポルタツィアの声を聞いた気がする」

( ФωФ) 「吾輩はそのような話、初めて聞いた」

/ ゚、。 / 「……」

( ФωФ) 「それが本当なら、わざわざ芒がポルタツィアの声を聞く必要がないではないか」

(´・ω・`) 「仮定の話なんだけど。もし、初代巫女がポルタツィアの指示を受けていたら……?
       人々に、自分の血族しか声を聞くことができないと伝えたのかもしれない」

( ФωФ) 「ポルタツィアにメリットが無いのである」

確かにそうだ。
七大災厄ともあろうものが、わざわざそんな細かいことをするだろうか。
いや、それなら逆はどうだ。

53名無しさん:2016/04/03(日) 21:04:41 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「初代巫女が勝手に、そうやって噂を広めたとすれば……」

( ФωФ) 「それなら有り得る話であるな。当時から神として崇められていたポルタツィア。
         その声を直接聞くことができるのであれば、相当な権力を手にしていたのである。
         ただし、その説がまかり通るためには二つほどの関門がある」

(´・ω・`) 「一つは、ポルタツィアが他の人間に話しかけないこと」

( ФωФ) 「もう一つは、必要な時に、確実にポルタツィアにコンタクトできること。
         荒唐無稽である。吾輩は、より可能性が高い方を信じる」

/ ゚、。 / 「僕たちの血筋がポルタツィアによって創り出されたってことだよね」

( ФωФ) 「そうであるな。でなければ、数世紀に跨って女系の血で繋いでいけるわけがないのである。
         遡ってみても、男が生まれたことなんて数えるほど」

もし、一つの国を治めたいのであればその力を振るえばいい。
間接的に、しかもより面倒な方法をポルタツィアが選ぶだろうか。

(´・ω・`) 「先祖代々伝わる文章とか、そういうのはある?」

54名無しさん:2016/04/03(日) 21:05:56 ID:hIo2mFDI0

/ ゚、。 / 「あるけど……」

( ФωФ) 「一族の碑文があるらしいのであるが、何処にあるか誰にもわからぬ。
         最初の巫女が治めたのがこの大和の地であると文献には残っているが、
         其れらしいものは未だに見つからぬ」

とんだ面倒を言われたものだ。
だがリリの情報と交換条件となれば、受けないわけにはいかない。

(´・ω・`) 「打つ手なし……か……」

( ФωФ) 「地道な調査をしていたが、数年かけてもろく碌に情報が集まらないのである。
         それこそ、邪魔をされているかのように、な」

情報収集を得意とする錬金術師であった番人に見つけられない情報を、
どうすれば僕が見つけられるだろうか。
一つ、手っ取り早い手段は最初から思いついていた。

失敗すれば、僕一人では抱えきれないほどの莫大な代償を支払う羽目になる。

(´・ω・`) 「ポルタツィアに……直接聞いてみればいい」

55名無しさん:2016/04/03(日) 21:06:31 ID:hIo2mFDI0

(#ФωФ) 「やめるのである! 怒らせでもすれば何が起きるかわからないのだ」

/ ゚、。 / 「……手伝いませんよ」

(´・ω・`) 「生憎、七大災厄とは縁があってね。恐らく呼び出すことくらいならできるだろうね」

(#ФωФ) 「貴様は己の欲の為に一国を巻き込む気であるか!」

(´・ω・`) 「うまくすれば、芒も役目から解放される」

(#ФωФ) 「だが……」

僕だってできれば取りたくない手段だ。
怒ったエルファニアが掠っただけでも、半身を丸ごと持っていかれた。
七大災厄と呼ばれる意味を体感した恐怖と苦痛は、今も覚えている。

直撃したらどうなっていたかなどと考えたくはない。

(´・ω・`) 「迷惑をかけるつもりはない。家出中のところ申し訳ないけど、この場所を貸してもらえるかな」

/ ゚、。;/ 「ロマ……」

( ФωФ) 「構わぬが、安易にポルタツィアと接触しようとするな。行くぞ、芒」

56名無しさん:2016/04/03(日) 21:07:08 ID:hIo2mFDI0

/ ゚、。 / 「うん……」

( ФωФ) 「吾輩達は離れさせてもらう。この場所は好きに使うがよかろう」

少女は似合わない大きなフードを被り、人間の限界を超えた脚力で洞窟の入口へと向かっていき見えなくなった。
人体を強化と、サイズの伸縮、自由操作の三つを兼ね備えた錬金術。
ロマンの外套は過去に僕が見た古代錬金術の中でも、破格の性能を持つようだ。

(´・ω・`) 「さて、どうしようかな」

七大災厄と縁がある、とは言ったものの今は手元に何もない。
いきなり拉致されてこの場所に連れてこられたのだから当然だけれど。
せめて錬金術の道具さえあれば。

簡単な道具しかなくても、それなりのものは創り出せる。
だけど今は、その簡単な道具を買うお金すらない。

素材を売ってお金にすることもできるけど、神州ではどのような素材が一般的で、
高値で取引されているものは何があるのか、という情報もない。

先程の芒という名の少女は、身分からみてもそこそこのお金を持っていたはずだ。
情けない話ではあるが、少しでも集っておくべきだったか。

色々考えた挙句、徒歩で洞窟を脱出することにした。
大見得を切ったものの、すごすごと町に戻る羽目になるとは情けない。

まぁいい。
一週間もあれば下準備位なら整うはずだ。
肌寒いくらい冷え込んだ洞窟の一本道を、出口に向かって歩き始めた。

57名無しさん:2016/04/03(日) 21:16:22 ID:hIo2mFDI0

・  ・  ・  ・  ・  ・



「いきなり戻ってきたかと思えば、道具を貸してくれ? 随分と甘く見られたもんだね。
 下町の錬金デブババアがと呼ばれている私が」

どう見ても三十ほどの女性に対するババアはただの悪口だし、
恰幅の良いことをここまで気にしていない女性も初めて見た。
下町の錬金デブババアこと、劔錬金術店に戻ってきた僕は、器具の貸し出しをお願いしていた。
しかも、後払いで。

当然そんな無茶な要求が通るわけもなく、こうしてお叱りを受けている僕であった。

「あんた、神州の錬金術事情を知っているのかい」

(´・ω・`) 「多少は」

来る前にシュールやジョルジュからいくつか教えてもらった。
錬金術師の数が相対的に多いこと。
そして、西方の国々とは異なる系譜の錬金術が発展してきたこと。

「不十分だね。神州の錬金術師は、一つの大きな目標を持って研究している」

58名無しさん:2016/04/03(日) 21:20:37 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「目標……?」

「ポルタツィアの完全なる支配」

(;´・ω・`) 「なっ……!」

「今は神州の守り神であるポルタツィアだけど、いつ気分を変えて滅亡の引き金を引くかわかったものじゃない。
 ついこの前だって、悪戯で落ちてきたあれのせいで百人規模の犠牲者が出てる。
 神州の安寧はそういった犠牲の上に成り立っているんだよ」

七大災厄は、人間の限界を超えているからそう呼ばれている。
いくら神州において数千人以上の錬金術師がいたとしても、到底及ぶはずがない。
だが、それは不可能であるとは言えなかった。

実際に犠牲者が出ている以上、ポルタツィアを恨む者が出るのは当然だし、
敵うわけがないと言ったところで、災厄を打ち倒すための研究をしている術師達が、それを止めるわけもないからだ。

(´・ω・`) 「出来ると思ってるのですか」

「やらなきゃいけない。滅ぶ前にね。
 研究には当然お金もいる。だからあんたみたいな余所者に器具を売って、
 利益を減らす必要はないってこった。嘘だと思うんなら、どっか他の錬金術師の店でも行ってみな」

59名無しさん:2016/04/03(日) 21:33:16 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「別に疑っていません。それなら、実験器具を貸してくださいますか」

「話を聞いていたのかい、あんた」

呆れた顔をする女性に、畳みかけるようにさらに続ける。

(´・ω・`) 「つまり、こうすればいいというこですよね。
       僕はあなたの役に立つものを作りましょう。あなたの許可なしには外で売買しない、使用もしない。
       言うなれば、従業員として、ここで働かせてください」

「……変わった子だねぇ。いいよ、その代わり、役に立たなければすぐにホッぽりだすからね」

(´・ω・`) 「有難うございます」

「中を案内するから着いてきな」

錬金術師の研究室は往々にして物が溢れていて、散らかっている。
優秀な術師であればあるほど扱う素材の量は少なくないし、実験器具はいくらあっても足りない。
試験管やフラスコのような使い捨ての道具もストックが必要になるからだ。

だけどこの錬金術師の研究室は大きく違った。
きちんと整えられた棚に、ラベリングした素材が並んでいる。
実験器具も不要なものは仕舞ってあり、通路スペースがかなり広く取られていた。

60名無しさん:2016/04/03(日) 21:33:32 ID:hyy8oRkI0
wktk

61名無しさん:2016/04/03(日) 21:34:15 ID:hIo2mFDI0

「人を見た目で判断しちゃあいけないよ。私の研究室を汚してもたたき出すからね」

(´・ω・`) 「はい、忘れないようにします」

「ふん。さて、じゃあ好きに使ってみな」

(;´・ω・`) 「今からですか?」

「当たり前だよ。無能を雇うだけの余裕はないんだ。あんたの実力を判断させてもらうよ」

思った以上に事がうまく運んでいると油断していた。
錬金術の実演をするのは簡単だけど、素材の数も種類もあまり多く無い。
おまけに、素材のほとんどが見たことすらない。おそらく神州にしか存在しない動植物だろう。

(´・ω・`) 「……わかりました」

それでも、やってみるしかなかった。
ぐるりと一周して、器具と素材を一通り確認する。

綺麗に掃除されていた台の上に、専用器具を用いて幾つかのフラスコを固定していく。
研究室と店が一体になっているというのは、客が来るという事。
置いてある素材にも過激なものは多く無く、一般人向けの錬金術がメインだろう。

62名無しさん:2016/04/03(日) 21:35:16 ID:hIo2mFDI0

それに、研究室内は良く嗅いだことのある匂いがする。
燻した兎草の発する香り。
その効用は集中力の維持。

考えなければならない。今この場で僕にできる最高の錬金術を。

奥の椅子、どう見ても特注のそれに、店主はじっと座っていた。
こちらの手元を見逃さないように見つめている。

素材は知っているものだけを使うことにした。
一度でも本で読んだことがあれば、何とはなしにその効果も用途もわかる。
変に難しすぎる錬金術に挑戦して失敗するよりも、今できることをした方がいい。

手元に用意したのは、兎草、豚真珠、金色鈴蘭、鳴かず蟋蟀の粉末。

ただ何となく、思いついた順番で加工して混ぜていく。完成形をイメージしながら。
鳴かず蟋蟀の粉末は、熱すれば喉に良い薬になる。風邪にかかった時に良く処方される。
金色鈴蘭はそれ以上の効果がある。だけど、こちらは声そのものを暫く変質してしまうため、
そのままでは大人は使いづらい。

二つの素材を混ぜ合わせ、反発する効能は兎草で抑え込む。
小一時間で出来上がるのは、喉に良い粉末薬。
それだけではなく、豚真珠を砕いたものと混ぜ、水を入れながら再度温めると、
口の中に入れるのにちょうどいいサイズで丸まって固まる。

63名無しさん:2016/04/03(日) 21:36:21 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「これでどうですか」

店主に差し出したのは深みのある緑色の個体。
光を受けて手のひらの上で僅かに光る。

「ふぅん、飴みたいなものだね。綺麗な萌葱色じゃあいか。正直予想以上だよ」

店主は一つ指でつまみ、口の中に放り込んだ。

「甘くておいしいね。器具の使い方や素材の理解を見るつもりだったけど、
 まさか即興でここまでするとは……いいよ。雇ってあげるさ。
 そういえばまだ名前を聞いていなかったね」

(´・ω・`) 「ショボンです」

「私は劔。よろしく頼むよ」

およそ女性には似つかわしくない名前の錬金術店で、僕は働かせてもらうことになった。

64名無しさん:2016/04/03(日) 21:38:35 ID:hIo2mFDI0

・  ・  ・  ・  ・  ・


(;´・ω・`) 「ふぅ……」

「少しは休憩したらどうだい」

(´・ω・`) 「これが終わったら、そうさせてもらいます」

劔は基本的に朝は遅く、夜は早い。
錬金術店とは別の場所に住んでいて、研究室を寝泊りするのに貸してくれていた。
最初の三日間は一睡もとらずに神州の錬金術書を読み漁った。

素材と効果がただひたすら羅列してあるだけの図鑑と、
神州の歴史、錬金術基本書から応用書まで、三日間かけて読んだのはおよそ家にあるうちの半数以上。

遠隔錬金術と空間錬金術の専門書はまだ少ししか読めていないけれど、
大凡のことは理解ができたし、実際に簡単なものであれば錬成することができた。

「とんだ拾いものだったね。で、いつまでいるんだい?」

65名無しさん:2016/04/03(日) 21:39:13 ID:hIo2mFDI0

作業を終わらせて休憩室に向かうとホールケーキを切り分けてくれるでもなく、直接食べている劔。
西方でよく見るタイプのケーキは、知人にもらったものだという紹介だけはしてもらえたが。

掘削していくようにどんどんなくなっていくケーキを見ながら答える。

(´・ω・`) 「長ければ三か月。短ければ一ヶ月ほどの予定です」

「それはまた、随分と短いんだね」

(´・ω・`) 「目的を果たすまでですから」

「あぁ、結局降りてこなかったからね、巫女様」

神州に着いた翌日、僕は劔と一緒に信託の広場へと向かった。
そこには朝から多くの人が集まっており、それだけこの神託が重要な儀式なのだと理解した。

しかし、既定の時刻を過ぎても巫女である少女は現れず、昼になる前に人だかりは消えていった。

前日のことは劔には話していなかったが、恐らく少女は拒否したのだろう。
巫女としてポルタツィアの声を聞くことを。
今もあの外套を身に纏いながら城の中の一室にいるに違いない。

66名無しさん:2016/04/03(日) 21:39:48 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「意外とあっさり引き下がるのですね」

正直、暴動の一つや二つは起きるかもしれないと覚悟していた。
ポルタツィアの影響は大きく、その声を聞く巫女が使命を疎かにすれば、
災厄が降りかかるかもしれないのだから。

「みんな知っているのさ、当代の巫女がただの女の子だったときのことをね。
 だから、無理強いしない。天真爛漫で笑顔がかわいい子だったんだ」

(´・ω・`) 「成程、それでなんですね」

「民宿の娘としてこの町にずっとなじんできてたんだ。神州は人のつながりを大事にする。
 知り合いの子供、近所の子供はみんな自分の子供のように接するのさ」

それは、西方では存在しない考え方だった。
争いの多かった国々では、近隣との関係はそこまで成熟しない。

ここでは、家が集まって国になるのではなく、国が一つの家となっているのだと気付かされた。

「それで、来月も、再来月も待つのかい」

(´・ω・`) 「いえ……機会があれば、直接窺ってみたいと思います」

67名無しさん:2016/04/03(日) 21:40:19 ID:hIo2mFDI0

「無理だと思うけどね、ま、好きにしな。私の役に立ってる間は追い出さないでおいてあげるよ。
 ……食べるかい」

さらに残った最後の一切れをそのまま差し出してきた。
それに首を振ってこたえ、研究室に戻る。
後ろからは、しばらく出かけるから店の様子を見ておくようにと、声がかけられた。
それには聞こえる程度に返事をしておく。

玄関が開けば、鈴が鳴るのですぐにわかる。
そもそも、この一週間で客が訪ねてきたのは十数回程度。
一日に一人二人しか来ないのだから、店番だって、僕がいない間はどうせおいていなかっただろう。

研究室にある素材を見直す。
用途も効能もほとんど理解してしまったし、ただ使用するだけでは物足りない。
それなら、と採取に出ていこうとしたところを家の番を任されてしまった。
黙って出かけるかどうか悩んでいたところで、今日最初の鈴が鳴った。

(´・ω・`) 「いらっしゃーい」

適当に返事をしながら店の方に向かう。
劔の得意分野は遠隔錬金術のオーダーメイド。
客の要望に沿ったものを創り出すらしい。
訪ねてくる人間の目的をよく聞くように、と最初の日に教えてもらっていた。

68名無しさん:2016/04/03(日) 21:41:38 ID:hIo2mFDI0

接客用の椅子に座っていたのは、黒い外套を羽織った小柄な人間。
嫌な予感は、どうも外れなかったようだ。

「どうも……」

(;´・ω・`) 「っ!?」

それは、三日前に会った少女。
大和の巫女であり、現在は役目を放棄して閉じこもっているはずだ。

(;´・ω・`) 「何をしに来たんだ」

( ФωФ) 「相談を」

(´・ω・`) 「家主が帰ってくると困るんだ。どこか別の場所にしよう」

( ФωФ) 「大丈夫である。この時間は錬金術師の集会が行われておる。
         三日前に海辺に現れたポルタツィアの調査報告が上がってくるはず。すぐには帰ってこない」

(´・ω・`) 「……相談内容は」

( ФωФ) 「芒」

69名無しさん:2016/04/03(日) 21:44:54 ID:hIo2mFDI0

/ ゚、。 / 「ポルタツィアの……この前の碑文の話です」

(´・ω・`) 「何処にあるかわからないんだよね」

/ ゚、。 / 「ええ、なのでを調べてもらいました」

(;´・ω・`) 「調べてって……たった三日で……」

この国の錬金術師人口が多いのは知っているし、研究しやすい風土のおかげで、
かなり発展してきているのも間違いない。
庶民レベルでもかなりの錬金術品が流通しているのだから、
その元締めと言えなくもない巫女の立場であれば、出来なくもない……のか。

( ФωФ) 「違う。殆ど目途はついておったし、過去の文献を纏めてもらっただけである」

(´・ω・`) 「ただでさえとんでも外套のくせに、調査もできるのか」

( ФωФ) 「吾輩の予測を立証してもらったにすぎぬよ。
         最初の巫女、桜がポルタツィアに出会ったとされる場所がこの大和に幾つかある」

/ ゚、。 / 「嘆きの丘の虹柳、春日山の海底洞窟、黒煙峡の浮遊館、桜湖墳、そして僕が住む大和城。
        大和城を除いては場所はわかっていても殆ど調査できてないんです」

70名無しさん:2016/04/03(日) 21:45:58 ID:hIo2mFDI0

( ФωФ) 「吾輩がこの大和に来てから数十年間もかけて調べたのだ。
         場所は特定したものの、危険も多くて調べきれておらん」

(´・ω・`) 「それを調べてこいと……?」

( ФωФ) 「早とちりであるな。確率が一番高いのは浮遊館なのだ」

(´・ω・`) 「名前からして浮いているようなんだけれど」

( ФωФ) 「浮遊館の足元は、深く削れているのだ。それはかつて地面にあった証拠である。
         ポルタツィアの別名は浮雲の帝。雲の上に住んでいるあれが最初に顕現した場所としては、
         最も確率が高い。
         だが、足元の谷は底が見えない黒い毒霧に覆われておる。生半可な人間では立ち入ることが出来ん」

(´・ω・`) 「だけど僕なら」

( ФωФ) 「おぬしなら出来るであろう。着地のことを考えんのであれば、方法なんぞいくらでも考えつく」

(´・ω・`) 「……」

( ФωФ) 「すぐに決めなくてもいいのである。吾輩と芒は城に戻る。
         芒、地図を」

71名無しさん:2016/04/03(日) 21:46:59 ID:hIo2mFDI0

/ ゚、。 / 「これです」

おずおずと少女が渡してくれた一枚の紙を受け取る。
表には大和の全体図が、裏には浮遊館と思われる場所とメモが書き込まれていた。

( ФωФ) 「これは命令でも、頼み事でもないことを重々承知しておくのである。
         これは交換条件、であるよ。
         おぬしの欲しがる情報と、吾輩の欲しがる情報の。芒、帰るのである」

/ ゚、。 / 「は、はい」

少女は目元まで黒いフードを被り、店を出ていった。
誰もいなくなった店内に、鈴の残響が広がる。

行くべきか、行かないべきか。
浮遊館のある黒煙峡は、ここからそう遠いわけではない。
いきなりポルタツィアを呼び出そうとするよりはまっとうな手段だろう。

必要な情報を手に入れるためには行ってみるしかない。それなのに、僕は迷っていた。
今までになく嫌な予感がしていた。心が何者かに触られているかのような、漠然とした不安。
黒煙峡という地名に聞き覚えは無く、またその場所の想像は全くできなかったけれど。

72名無しさん:2016/04/03(日) 21:47:38 ID:hIo2mFDI0

ふと思いついて劔の研究室の本棚を見れば、目的の物はすぐに見つかった。
先程、ロマンが遺した言葉。
それらはただ一つを除いて、本の背表紙を飾っていた。

黒煙峡に関する資料は、乱雑に詰め込まれた本と本の間に数枚の資料が束ねてあるだけ。
見つけることができたのは、ただの偶然。
ともすれば見落としかねない程の薄い冊子。

研究書の厚さは、危険度に反比例する。
長年の経験から見つけた一つの事実。

どんな情報でも無いよりはましであり、ボロボロの冊子を手に取って開いてみる。
一枚目にはロマンに貰った地図を簡略化したもの。

二枚目から、黒煙峡に関する記述が続いていた。


黒煙峡とは、その名の通り黒い煙を吐き出す亀裂が無数に存在する峡谷のことである。
山々が抉れるように削れ、峡谷に落ちて戻ってきた者はいない。
原因の一つに、有毒な黒煙がある。

73名無しさん:2016/04/03(日) 21:48:26 ID:hIo2mFDI0
一呼吸でも体内に取り込んでしまえば、一年間患った末に命を落とす。
火山の噴火のように、定期的に激しい黒煙が立ち上るため、
付近の山中には鳥や動物すら近寄らない。

死の森と呼ばれることもあったが、何故か植物は環境に影響を受けることなく生存している。
そのことから、黒煙峡付近に住む植物を研究し、
黒煙の毒物を解明することに成功した。

しかし、我々の力が及んだのはそこまでだった。
毒物の効果が分かっても、それに対抗する手段は無く、
結局のところ、黒煙峡は謎に包まれたままである。

黒煙峡に存在する浮遊感と呼ばれている建物。
その姿を見た者は少なくなく、実在はほぼ間違いないと言われている。
浮遊館は、初代の巫女である桜が、ポルタツィアと出会った推測されている場所の一つ。

黄金色に光る木材でできた二階建ての屋敷で、
中にはポルタツィアと桜が交わした制約が刻まれた碑文がある。
それが通説であるが、同じような場所が他にもある以上、ただの推測に過ぎない。

なんらかの要因で黒煙の排出が止まり、調べることができない以上、
我々は、そこにある物を夢想するしかないのだ。

74名無しさん:2016/04/03(日) 21:49:13 ID:hIo2mFDI0


最後のページに書き込まれていた日付は、今からちょうど三十年前。
それから新しい資料が入っていないということは、誰も向かっていないという事だろう。
黒煙峡に関係するかもしれない残りの四冊を本棚から机の上に移し、読み始めた。

劔が帰ってきたのは、虹柳の本を半分ほど読み終えた頃。
両手を埋め尽くすほどの素材を抱えて、扉を蹴り開けて入ってきた。

「ちょっと、見てないで手伝いな!」

(;´・ω・`) 「あ、すいません」

受取った素材を、用途に分けて保存瓶に詰めていく。
どうやら、集会に参加してきただけではないらしい。
出ていった時には小ぎれいだった服は潮の香りがした。

「何見てるんだい」

(´・ω・`) 「ん……それより、採取に行ったんですか?」

「そうだよ。ツレの錬金術師が穴場を見つけてね。珍しいものが取り放題だったわけさ。
 って、あんた。そんな資料なんか出してどうした」

75名無しさん:2016/04/03(日) 21:49:45 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「いや……」

机の上に出しっぱなしにしていた四冊の本。
せめて一冊だけならばただ何となくと言い訳ができたものだが、劔はすぐに察してしまった。

「碑文かい? 誰に聞いたのか知らないけどね、そんなものはありはしないよ」

(´・ω・`) 「……え?」

「碑文の伝説を信じた馬鹿どもが何人も命を落としてんだ。
 そろそろ、夢を見るのは終わりだよ。ポルタツィアと初代巫女の間には何もなかったのさ。
 桜が選ばれたのも、ただの偶然じゃないかね」

(´・ω・`) 「でも、噂として残っているのであれば……」

「確かに、神州じゃあ誰もが知っている。
 だけどね、虹柳も、海底洞窟も、桜古墳も、何処にも見つからなかったし、
 大和城も隈なく探したけれど、碑文なんてものはなかった」

(´・ω・`) 「浮遊館は……」

「やめときな。あんなところに行ってちゃ、いくら命があっても足りやしない。
 無謀な能無しと同じで、骸すら見つからない状態になるのが落ちさ」

76名無しさん:2016/04/03(日) 21:50:31 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「……」

「さ、無駄なことを考える前にさっさと片付けちまいな。
 これから私は依頼されてた商品の錬成をしなきゃいけない。見てみるかい?」

貴重な遠隔錬金術を見せてくれると言う。
普段なら一二もなく飛びつく話だが、今僕の頭の中を占めているのは別の話。
その有難い申し出を断り、少し外を出あるいてくると劔に伝えた。

不満そうな顔をしながらも、帰ってきて誰もいなかったら使うようにと鍵を放り投げられた。
それを受け取り、三日ぶりに大和の町を出歩く。

町の活気は神州にたどり着いた初日とさして変わるところもなく、大和城の方へと歩を向けた。
城門には、相変わらずやる気のない門番。
定刻が来たのか、槍を片手に門の内側へと入っていった。

しばし、空白の時間ができる。
逡巡は、一瞬。

開かれたままの門の間を、自然に潜り抜け、すぐそばの茂みに身を伏せて隠れた。
壁内は広く、あちこちに丁寧に整えられた緑の植物がある。
それらは、丁度良く僕の身を隠してくれた。

(´・ω・`) (入ったはいいものの……)

77名無しさん:2016/04/03(日) 21:51:11 ID:hIo2mFDI0

内側には見張りがおらず、城内へ続く扉は開け放たれている。
しばらく様子を窺っていると、先程の二人が戻ってきた。
そのまま門まで向かい、職務に就く。

二人の死角になってから場内へと進入した。
漆喰の壁と木張りの床。
物音はほとんどせず、幾つかの横開きの扉を開けてみたが、だれも使っている様子はない。
突き当たりには階段があり、僕はもう隠れることをやめた。

上の階へと進むたびに部屋数が少なくなる。
城の構造上仕方のないことではあるが、西の国々にはあまりない建築様式に妙な違和感を感じていた。

途中話し声が聞こえる部屋はあったものの、
誰とも出くわすことなく、最上階の部屋にまでたどり着いた。

( ФωФ) 「入るがよい」

/ ゚、。;/ 「え?」

( ФωФ) 「その襖の外に立っている男に声をかけたのだ」

78名無しさん:2016/04/03(日) 21:52:10 ID:hIo2mFDI0

隙間なく閉じられた部屋の前で暫く迷っていると、部屋の中から呼びかけられた。
中に入れば、高級そうな座布団の上に座している芒。
ロマンは外套を飾る場所に丁寧にひっかけられていた。

/ ゚、。;/ 「どうやってきたのですか?」

( ФωФ) 「この城の警備はたいして厳しくないである。
         であるが……それでもわざわざリスクを冒してきた理由を聞こう」

(´・ω・`) 「黒煙峡に行くためには、移動手段がいる。だけど、お金は全く持ってないからね」

( ФωФ) 「行く気になったであるか」

(´・ω・`) 「その前に幾つか、気になることがあるんだ」

ロマンは、初代の桜とポルタツィアの間に交わされたなにかが碑文に記されている、と言っていた。
では、それが桜の血族に関係する呪いや制約のようなものだったとすれば。
彼女しかできないことであると確定してしまえば、どうあがいても芒は現在の役割を捨て去ることができない。

それはどうなのかとロマンに問う。

( ФωФ) 「……碑文の内容は全く想像できないのである」

79名無しさん:2016/04/03(日) 21:53:11 ID:hIo2mFDI0

(´・ω・`) 「存在しない可能性は?」

( ФωФ) 「それは無いのである。芒の母親に当たる菘、
         その母親の蓮華、それより以前から吾輩はこの神州にいたのである。
         その時からポルタツィアに関してはずっと調査していたのだ。
         それだけの時をかけても、多くはわからなかった。
         たった一つ、桜とポルタツィアが実際に会っていたであろうことを除いて」

(´・ω・`) 「どうしてそう言える?」

/ ゚、。 / 「僕が説明します。僕の家系には代々、その当主しか知らない言葉があるんです。
        僕は、その言葉を知らなかったのですが」

芒は、僕に座る様に座布団を渡してくれた。。
それを有難く受けとって、彼女の正面に座る。

/ ゚、。 / 「僕の母は、僕が生まれて一年も経たないうちに死にました。
        僕を産んだ時の負担が原因だったと聞いています。
        当時すでに三歳だった姉は巫女として迎え入れられ、
        母親を殺した僕は城内で忌み子として町の宿屋の夫婦に預けられました。
        これは、ロマンから最近聞いた話です」

80名無しさん:2016/04/03(日) 21:54:04 ID:hIo2mFDI0

産まれてくる時に、母体に負担を強く与えてしまう赤子がいることは聞いたことがある。
大陸西方でも同様に、母殺しの汚名を着せられることが多い。
運が良ければ教会に引き取られて育てられるが、最悪の場合、その場で処分される。
生まれながらにして、病毒と同じ扱いを受けるのだ。

/ ゚、。 / 「弱り切った母親は、ある日、姉の山茶花を呼び出し、誰もいない部屋で少しの間話をしたそうです。
       大和の神官たちの中で相当な信頼を得ていたロマンすら、その会話の内容は聞いていません」

( ФωФ) 「菘の時も、蓮華の時も、吾輩だけでなく全員が部屋から閉め出されていた。
         何かを伝えていることまではわかっていたが、肝心の中身は誰が聞いても教えてもらえなかったのである。
         山茶花は病によって急死した。そのせいで、芒と話す時間は一切なかったのだ」

/ ゚、。 / 「私は、そういった言葉があることすら知りませんでした。
       いきなりこの大和城に呼ばれ、姉の死を知り、巫女として扱われるようになったのです。
       原因はわかりませんが……最初の儀式のとき、私はポルタツィアと接触することができませんでした」

(´・ω・`) 「ポルタツィアを呼び出すためには、何かが必要だと?」

/ ゚、。 / 「いえ、ロマンの予想が正しいのなら、会話を交わすのに、だと思います」

81名無しさん:2016/04/03(日) 21:54:54 ID:hIo2mFDI0

( ФωФ) 「ポルタツィアの言葉を理解するために、
         巫女にはその言葉が証として送られていたのではないか、という推測である。
         大和でも代々引き継いできた言葉は、しかし途切れてしまった。
         だから、芒の前にポルタツィアが現れなかったのだ」

(´・ω・`) 「いや、待て。僕はこの神州に上陸する前にポルタツィアにあっている。
       その時に、会話こそしていないけれど、その言葉を聞いた」

/ ゚、。 / 「それは、小柄な男の子の姿ではなかったですか?」

(´・ω・`) 「ああ」

/ ゚、。 / 「巫女になってから一ヶ月ほどたったある日、僕の前にも、同じものが来ました。
       ただ一言だけ話してすぐにいなくなりましたが。
       その次の神託の日にはポルタツィアが現れて、その声を聞くこともできたのです」

(´・ω・`) 「なんて言われたんだ」

/ ゚、。 / 「────」

芒の口から聞こえたのは、ただ息が漏れる音。
発音は無く、口の形も一定。
理解できない言葉かと想像していたけれど、現実はより厳しかった。

82名無しさん:2016/04/03(日) 21:55:35 ID:hIo2mFDI0

( ФωФ) 「聞き取れぬのか、それとも理解できぬのか」

既に試していたのであろうロマンの言葉からは、困惑が読み取れた。

/ ゚、。 / 「他の人に試してみたこともあるんですが、やはり聞こえないのですね」

(´-ω-`) 「うーん……」

( ФωФ) 「ポルタツィアの声を聞いたという話は、ないわけではない。
         ただ、実際に資料として残っているものはほとんどなく、その中には嘘をついているものもいただろう」

僕の勘違いではない。
あの時、確かにポルタツィアは声を理解できるように発していた。
それは警告のためだったからなのだろうか。
それとも、僕らがまだ知らない事実があるのか。

(´・ω・`) 「碑文を見つけるしかないんだろうね」

( ФωФ) 「吾輩は最初からそう言っておるつもりだが」

ロマンの言葉を疑ったわけじゃない。
ただ、自分で考えてみないと気が済まなかったのだ。

(´・ω・`) 「最後に一つ。今日言っていた場所の中で、黒煙峡以外の場所について」

83名無しさん:2016/04/03(日) 21:56:30 ID:hIo2mFDI0

( ФωФ) 「虹柳、桜古墳、海底洞窟、大和城についてか」

(´・ω・`) 「今日、僕が居候させてもらっている錬金術師の研究室で、虹柳に関する物だけ少し読んだんだけど、
       彼女はそういった場所は空想で存在しないと言う。
       でも、ただの作り話には思えない」

虹柳は、雨の上がった後に嘆きの丘に現れる柳。
見る角度からによって様々な色に変化するのと同時に、
見えていても絶対にたどり着けないという特徴から名づけられたらしい。

本には、出現場所、その錬金術的用途、特徴、実際の実験事例まで事細かに書いてあった。
詳細な成分データと、緻密なスケッチ。
相当な錬金術の腕前が無ければ、あの本を執筆することは出来ない。

( ФωФ) 「その作者は確認したのであるか?」

(´・ω・`) 「いや……」

( ФωФ) 「恐らく、それはこの大和に百年以上前に滞在していたふろう者のものである。
         吾輩の前に現れ、吾輩の正体を見抜いた相当な術師であった。
         知っているのではないか?」

84名無しさん:2016/04/03(日) 21:58:01 ID:hIo2mFDI0

いくら僕自身が不死者であっても、高名な錬金術師が全て知り合いなわけではない。

( ФωФ) 「突然この大和に現れ、三冊の書物を残して去って行った。
         それぞれが虹柳、桜古墳、海底洞窟についてである」

(´・ω・`) 「その優秀な術師が、それらの地には何もなかったと?」

( ФωФ) 「吾輩は本を書く前に一度しか会っておらん。それ故、彼女の目的も知らん。
         だが、当時の巫女が、彼女が国に帰る前に話しておったはずだ。
         確か……目的は手に入れられそうにないけど、面白い資料が手に入ったからいいや、だったと思う」

(´・ω・`) 「碑については」

( ФωФ) 「勿論、聞いたようであるが、碑? なにそれ。あ、黒煙峡? 危ないから行ってないよ、と」

(´・ω・`) 「黒煙峡だけは、誰も立ち入れていないのか」

( ФωФ) 「そうである」

/ ゚、。 / 「一応、お礼も考えています。その、リリさんの情報を。
       それと……大和器を」

85名無しさん:2016/04/03(日) 21:58:54 ID:hIo2mFDI0

芒が取り出したのは小さな金色の器。
それを支えている力の入りようから見ても、ほぼ純金で間違いが無さそうだ。

(´・ω・`) 「それは?」

/ ゚、。 / 「大和の錬金術発展に貢献した人に、その報酬として渡す大和器です。
       えーっと、ショボンさんでしたっけ。これは黒煙峡の調査が終了した暁に」

(:´・ω・`) 「うーん、器はいらないかなぁ……」

/ ゚、。 / 「大和器は純金でできたものですよ? 僕はこれでご飯を食べようとは思わないですけどね」

(´・ω・`) 「そう言えば、お金で思い出したことがある」

( ФωФ) 「そこの戸棚に入ってあるものを持っていくがよい。この前の時点で用意させてある」

/ ゚、。 / 「こっちですよ」

ロマンは自力で動くことができないのか、そこと言われても何処かわからなかった。
芒に手を引かれ、数少ない調度品の前に案内される。
古びた大型の箪笥にある引き出しは、取っ手も全て木材でできていた。
湿気で歪んでいるせいか、少女が思いっきり引いて開ける。

86名無しさん:2016/04/03(日) 21:59:40 ID:hIo2mFDI0

渡されたのは、純金の粒が入った袋。
それも、結構な重さがある。
神州の物価はほとんどわからないけれど、普通に暮らすのであれば三か月分ほどであろう。

(´・ω・`) 「こんなにも?」

( ФωФ) 「黒煙峡ほどの場所に行くのであれば、様々な錬金術が入用であろう。
         それで揃えるがよい」

/ ゚、。 / 「それじゃ、受けてくれるんですね?」

(´・ω・`) 「受けざるを得ないんだけどね。全く、面倒なことだけれど」

( ФωФ) 「吾輩も嫌がらせでやっているのではない。頼んでいるのである」

(´・ω・`) 「わかっている。興味が無いわけじゃないからね。
       一月ほど待たせると思うけど」

( ФωФ) 「構わないのである」

/ ゚、。 / 「帰りは大丈夫ですか? 送って行きましょうか?」

(´・ω・`) 「いや、いい」

話し込んでいるうちに、陽が沈んでしまっていた。
気持ちはありがたいが、二人で行動していたら見つかる可能性も高くなる。
もし少女と一緒にいる姿を目撃されてしまったら言い訳のしようがないため、
僕は着てきたローブを目深に被り、最上階の部屋を後にした。

87名無しさん:2016/04/03(日) 22:02:26 ID:hIo2mFDI0
















30 災厄の巫女  End

88名無しさん:2016/04/03(日) 22:06:34 ID:hIo2mFDI0
   │
   │
26 朽ちぬ魂の欲望  <上>
27 朽ちぬ魂の欲望  <下>
   │
   │
16 ホムンクルスは試すようです
   │
   │
28 宴の夢
29 古の錬金術師
30 災厄の巫女

89名無しさん:2016/04/03(日) 22:08:54 ID:enPbdHLI0
おつ!
今回も読み応えのある濃い内容だった

90名無しさん:2016/04/03(日) 22:09:17 ID:oKY1YYGg0
おっつー
ワクワクしてくるね
資料を読んでるだけでも面白い

91名無しさん:2016/04/04(月) 00:05:04 ID:PukuSOgM0
乙 相変わらず惹き込まれる

92名無しさん:2016/04/04(月) 05:57:01 ID:er7cGdjw0
素材一覧とかだけかと思ってたけど本編来てたのか


93名無しさん:2016/04/16(土) 23:03:24 ID:.DnqceRc0
追いついた 初めてブーン系小説読んだが案外面白いな

94名無しさん:2016/05/04(水) 23:41:58 ID:7UAhOY8s0
一応、一ヶ月経ったので書き溜め報告です

31話 90%
32話 85%
33話 30%

です。

六月頭に試験がありますので、また少し更新速度が落ちますが、よろしくお願いします。

なお、余談ですが紅白では総合9位をいただけました。

「ハゲタカのようです」

もしお時間がこちらもあればどうぞ。

95名無しさん:2016/05/04(水) 23:54:53 ID:4Hz36dxE0
おーまた試験が大変だな頑張れー
ハゲタカも面白かったよ!

96名無しさん:2016/05/05(木) 00:20:33 ID:TvDdaE1.0
やっぱりそうだったか!!
ハゲタカくっそ面白かった

97名無しさん:2016/05/05(木) 23:26:39 ID:nuKRz92U0
さっきハゲタカ読んできた
面白かった
試験頑張ってくれ

98名無しさん:2016/06/02(木) 21:02:10 ID:iKDWjehQ0

二か月経過でも許してください……

31話 90%
32話 85%
33話 80%
34話 85%
35話 50%

書き溜めは増えてます……
今週末日曜日が試験なので、それが終わった後ぐらいに投下出来ればいいなぁと思っております。

※あくまで個人的な希望です。投下を約束するものではありません


いつもいつも大変遅くなって申し訳ありません

99名無しさん:2016/06/02(木) 21:08:48 ID:CxzKtKio0
乙。
現実をおろそかにしない程度で頑張ってくれ。楽しみにしてるぜ

100名無しさん:2016/06/03(金) 02:44:45 ID:xWPH5U3E0
上に同じ

101名無しさん:2016/06/03(金) 19:11:50 ID:3R8d8IQY0
俺も今週末試験だー
頑張れ!

102名無しさん:2016/07/19(火) 22:19:28 ID:97ESyuuc0















31 少女への手掛かり

103名無しさん:2016/07/19(火) 22:21:33 ID:97ESyuuc0

籠と呼ばれる輸送手段を乗り継いで七日目に、黒煙峡の麓にある小さな村にたどり着いた。
支払いの金を渡すと、輸送屋は逃げるように帰って行く。
その後姿を見送ることはせずに、目の前の光景に向かい合う。
昼間だというのに山全体には黒い霧がかかり、その色が移ったかのように雲も暗く汚れている。

山の麓に並ぶのは、たった数十軒ほどの集落。昼間だというのに誰も畑作業をしておらず、人の姿は見えない。
すぐに山に入っていこうかと思っていたが、異様な村の光景が少し気になって、
一番近くにあった家を訪ねてみた。

数度のノックを繰り返しても誰も出てこない。
不審に思って声をかけながら扉を開けた途端に、鼻を押さえなければならないほどの死臭があふれ出してきた。
吐き気を堪えて口元を覆いながら奥まで進むと、折り重なるように転がっている老夫婦の死体。

腐食の度合いから見ても、死後数か月は経過している。体に目立った損傷は無く、家の中も荒らされていない。
他の数軒を覗いてみても、どこも同じような惨状であった。

原因と思われるのは、集落と山の間を繋ぐように伸びる深い亀裂と、そこから立ち昇る黒い煙。
劔の研究室を借りて創り出していた特殊なマスクをすぐに身に付けた。
地名から予想して予め用意していたのは正解だったようだが、
黒煙を完全に防げるかどうかはわからない。

まぁ、無いよりはましなはずだ。

104名無しさん:2016/07/19(火) 22:22:55 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) (全滅……か……輸送屋が逃げ帰ったわけだ)

全ての家を調べ終わるまでさして時間はかからなかった。
出来るなら埋葬をしてあげたかったが、そのための道具などはなく、今の僕には放置することしかできない。
少しだけ黙祷し最後の家を後にした。

大地にできた裂け目から噴き出す黒煙の量は少ないが、途切れることなくゆらゆらと立ち昇っている。
そのすぐ近くまで寄って覗き込む。
マスク越しで煙を吸い込んでいても、強い頭痛がすぐに現れた。
深穴を覗き込むのをやめて、空気が幾分綺麗な場所で深呼吸をする。

(´-ω・`) 「自然現象か……それとも生体現象か……」

もし黒煙を吐き出す現象が活発化しているのであれば、付近の集落にも伝えなければならない。
毒性から見ても、このまま放置していたのでは、その被害の規模は計り知れない。
可能であれば、原因を見つけてしまうのが一番いいのだけれど。

今日明日程度で解決できるような単純な問題ではないだろう。
影響を与えている範囲が広すぎるし、採取して持って帰るのは危険すぎる。

亀裂を避けながら山に向かう。
干からびた村の様子とは対照的に、不自然なほどの緑が覆いつくす斜面。
黒煙とのコントラストは、静かな山々を不気味に彩っている。

105名無しさん:2016/07/19(火) 22:24:54 ID:97ESyuuc0

少し歩いただけで異常な状態にはすぐに気がついた。
目の前にある森からは、生き物の息遣いが一切感じられないことに。
それがどれだけ異常なことかは、錬金術師でなくてもわかる。

(´・ω・`) (行くか……)

獣道すら存在しない茂みの中で、白刃を振るう。
さほど抵抗なく道が開け、すぐに返す手でまた前方を薙ぐ。
そうやって創り出していった道を一歩一歩進んでいく。

山の斜面で剣が引っ掛かることはなかった。
それは、刃の鋭さゆえの事ではない。

樹が無いのだ。
背の高い植物も全て草であり、その茎は手でも折れるほどに柔らかい。

陽が沈んで星空だけが明かりになった頃、歩くのをやめて休憩することにした。
半日かけて登り続け、やっと中腹くらいまでは来たと思う。
振り返ってみてみれば、通ってきた道が蛇の這った後のように光って残っていた。

(´・ω・`) 「……燭草」

夜になると茎や葉から発光する気体を放出する珍しい植物。
本来なら受粉の為に虫を呼び出す光。
しかし、この山で近寄るものは何もなかった。

106名無しさん:2016/07/19(火) 22:25:26 ID:97ESyuuc0

燭草程度の光では、足元まで照らすには心許ない。
いつどこに裂け目があるかもわからず、日が暮れてから動き回るのはリスクが高すぎる。
そう判断した僕は朝まで眠ろうかと、草の束を枕にじっと空を眺めていた。

うとうとし始めた頃、突然激しい耳鳴に襲われた。

(;´・ω・`) 「っ!」

次いで地面が揺れ、大地が避ける音が響く。
あまりの荒々しさに、世界がバラバラにちぎれているのではと心配になるほど。

たった一瞬の出来事だったが、目の前の光景は大きく様変わりしていた。
僕がつくってきた道はその姿を失い、代わりに何もかもを飲み込んでしまった空洞が存在していた。
夜よりも黒く、闇よりも昏い空間。

それが噴き出してきた黒煙の塊だと気付くまでに、時間はいらなかった。
もし、あの煙の中に巻き込まれていたら。
今頃は少なくとも意識を失っていたに違いないし、最悪、大地の破断に巻き込まれていた可能性もある。

それから朝まで、結局一睡もできなかった。
昇ってくる朝日に照らされて、僅かに残っていた黒煙も風に揺られてゆっくりと拡散していく。
黒煙が晴れて見えた斜面は、鋭い剣で切り裂いたかのように横一直線に割れていた。

107名無しさん:2016/07/19(火) 22:26:55 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) (急いだほうが良いな)

劔錬金術店にあった地図を頼りにするならば、黒煙峡からはまだ山三つほど離れている。
それでこれほどの影響が出ているのであれば、中心部はどうなっているのか予想もつかない。
万が一にも浮遊館が失われてしまっては意味がないのだから。

下を眺めるのもほどほどにして切り上げ、昨日と同じように山道を行く。
当初予定していた山越えは片道六日。
食料は最低限のものを乾燥させ、圧縮したものを用意していた。
別に尽きてしまったとしても問題はないが、長旅は避けたい。

出来るだけ早く調査し、それと引き換えにロマンに聞かなければならないことがある。
休憩を減らし、その時その時で道を変え、より時間が短縮できるように黒煙峡を目指した。

地図に書かれていた場所にたどり着いたのは、麓の村を発ってから四日と半日。
それなりに無茶な旅をした結果、予定よりも大幅に削減することができた。

けれども、浮遊城まであと一歩のところで既に一時間ほども立ち止まっていた。
自然にできた山間の洞窟を抜けた先にあった、狭い足場に座って僕は考える。
ロマンは、このことをちゃんと説明してくれていたはずだと。

108名無しさん:2016/07/19(火) 22:27:49 ID:97ESyuuc0


着地のことを考えんのであれば、方法なんぞいくらでも考えつく、と


これが、そういうことか。
目の前に広がる灰色の空。
気休め程度の幅しかない足元の遥か下方にあるのは、黒煙の海。

その中心に、ポツンと浮かぶものがあった。
ここからでは遠くてよく見えないが、家の形をしているような気もする。

(´・ω・`) 「あれじゃ、ないよなぁ……」

返事など返ってくるはずもないのに、思わずぼやいてしまった。
正直に言えば、隣に誰かがいて否定の言葉をかけてくれればどれほどよかったか。

誰だってこの状況を見れば諦める。
不老不死の僕が太鼓判を押すんだから間違いない。

(;´-ω-`) 「はぁ……」

仮に人間が皆不死だったとして、どれほどの人間があそこに向かって飛び降りられようか。
そんなつまらない自問自答を、もう二ケタ回以上も繰り返している。

109名無しさん:2016/07/19(火) 22:28:20 ID:97ESyuuc0

リリが待っているのだと、心の中で何度も何度も叫ぶ。
自らを鼓舞し、一歩を踏み出すために。
大きく深呼吸を繰り返し、大事な荷物は壊れてしまわない様にクッション材で包んでおく。
旅行用にいつも使っているこの丈夫な袋に、さらに改良の錬金術を加えておいたのは正解だった。



声に出さずに、数字をカウントする。
この一回を逃してしまえば、もう二度と飛び降りられない気がしていた。



だからこそ目を瞑らず、正面から恐怖に立ち向かう。
着地地点を誤れば、何が起きるかもわからない。



殆ど無風状態で、落下は左右されない。
最初で最後の一歩を間違いなく、力強く飛び出せれば絶対に成功する。



帰る方法は必ず存在する。
もし仮になかったとしても、最悪の手段はいくつか思いついていた。



110名無しさん:2016/07/19(火) 22:29:44 ID:97ESyuuc0


(´ ω `) 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


叫びながら、助走をつけ思いっきり踏み込んで空へ飛び出した。
ふんわりと放物線を描いた後、全身を襲う重力。
胃の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような嫌悪感。

自由落下は、もう止めることが出来ない。

着地地点と言うよりも、もはや着弾地点にちかいそれは、真下よりも若干前方。
思い切り飛び出したつもりでも、知らず体にブレーキがかかっていた。

落下時間は今までに経験したものよりもはるかに長く、それが逆に僕を冷静させていた。
このままでは、浮遊館でなく黒煙の海に落ちるということを。

水の中を進むように、両手両足をばたばたとさせる。
少しずつ、身体が目的の場所上空に近づいていく。

必死だった。
何もかもをかなぐり捨てて、リリの事すら脳内から吹きとんでしまうほどに。
たった一歩分の距離が、数千倍にも感じていた。

筋肉が悲鳴を上げても全身の動きは止めない。
届くかどうかという計算を、僕はやめていた。
ただひたすらに虫けらのように身体を動かす。

地面にぶつかる直前に、僕は意識を失った。

111名無しさん:2016/07/19(火) 22:30:45 ID:97ESyuuc0

・  ・  ・  ・  ・  ・



「ヨうこそ」

頭上から声がかけられた。
こんなところに人が住んでいるとは思わなかったし、
衝突の衝撃で飛び散った全身の細胞が、まだ少し残っているグロテスクな惨状を目の前にして、
なんて落ち着いているのだろうとよくわからない心配をしていた。

身体が完全に再生したことを両手で触って確認した後、
ようやく声の主を見上げる。
衝突によってできた窪みの端に立っていたのは、黒光りする人型の金属。
鉄や銅とは決定的に異なっている見たこともないような素材。

関節部は人間と同様の形状をしており、筋肉の代わりに球体と数本の糸が繋がれている。
目に当たる部分には、眼球を模した光が一つだけ埋め込まれており、先程からくるくると回転していた。
驚き、口を開けたまま突っ立っていると、球体から赤や青の光を発し、再び声をかけてきた。

112名無しさん:2016/07/19(火) 22:31:57 ID:97ESyuuc0

|::━◎┥ 「ヨうこそ」

先程と全く同じ抑揚で、それは繰り返す。

(;´・ω・`) 「あ、ああ。あなた……は……?」

自分が間抜けな質問をしているとよくわかっていたが、
聞かずにはいられなかった。
人間の声を保存しておいて、それを流しているだけの置物か。
それとも、中に人が隠れているのか。

|::━◎┥ 「ヨうこそ。コちらへ、ドうぞ」

問いかけに対する答えは無く、ただ一言付け加えた。
自分で作った穴から這いあがり、その金属の前に立つ。

下から見上げていた時はわからなかったが、意外と小柄である。
人間でいえば少年少女ほどだろう。

僕の動きを確認したのか、それともどこかで誰かが僕をからかうために操っているのか、
それは背を向けて歩きだした。

正面に建っていた屋敷は、ガラスのような透明な素材で覆われた巨大な建造物。
それなのに中は近くに寄ってものぞき込めず、凹凸の無いのっぺりとした箱型。
館と称されていたのは、ただ遥か遠くから見ただけであったからだろう。

113名無しさん:2016/07/19(火) 22:32:33 ID:97ESyuuc0

想定外の大きさに気圧されつつも、先導する謎の案内人もどきに着いていく。
歩くたびに唸るような音を出していた。

両開きの扉は、人型の金属が近づくと自動的に開かれ、僕は中へと踏み込んだ。
教会のような内部を予想していたが、もはやここが僕の常識に当てはまらない世界だと理解した。
前後左右、見渡す限り空間を埋め尽くす植物。
林檎や蜜柑などの見知った果物から、野菜、果ては錬金術関連の植物までなんでもある。

よく見れば、一つのプランターには一種類の植物が、最高の状態で最低限存在していた。
果樹であれば、細い幹と果実が、野菜であれば一つ、または一本、草は一握り。

その名の通り道草を食いたくなるのを我慢し歩く。
前方には、此方を見向きもしない金属の人形。
理解不能なそれに対して、不思議と怖いとは思わなかった。

植物のエリアを真っ直ぐ横切り、二つ目の扉の前に立つ。
空間的には横長の長方形になっているのだろう。
左右のどちらも壁のようなものは見えない。

今度はすぐに開かず、数分間待たされた。
暇を持て余し、何度か人形に話しかけてみるも反応は無い。

辺りを見回していると、何の合図もなく扉が開いた。

114名無しさん:2016/07/19(火) 22:34:00 ID:97ESyuuc0

扉はくぐった瞬間、ゆっくりと閉まっていく。
閉じ込められたのではないかという不安は、その部屋の光景を見て吹き飛んだ。

人が一人通れるくらいの幅の道と、両側には天井まで届く青い壁。
それを僕の常識は壁だと理解していた。
しかし、表面は波打ち、今にも零れだしてきそうなほど。
手を伸ばして触れてみると、指先が濡れていた。

(;´・ω・`) 「嘘だろ……」

何の区切りもなく存在する淡水と海水の塊。
その中には、無数の魚が泳いでいた。
例によって、同じ魚は二匹といない。

液体の法則を完全に無視した現象を引き起こしている空間。
それは、錬金術であれば可能であるかもしれない。
だけどこの僕ですら、その手段は想像すらできなかった。

僕の驚きをよそに、金属の人形は歩き続ける。
またしばらく歩いて扉が一つ。
それを超えた先に、今度は動物がいた。

肉食草食の区切り無く、端が見えない草原を自由に闊歩する。
何処まで歩くのかと不安になっていたが、よくわからない金属の大きな箱が目の前で止まった。
扉が開き、人形に乗り込むように手招きされる。
僕が乗り込むと自動で扉は閉まり、激しい音を立てて、乗り物は動き出した。

115名無しさん:2016/07/19(火) 22:35:29 ID:97ESyuuc0

馬車のようなものだろうが、先頭に動物は見えない。
ガラスの窓から見える景色は、目にもとまらぬ速さで後ろに流れていく。
馬よりもずっと早く、揺れも少ない乗り物。これがあれば、世界中を旅することがどれほど楽か。
初めての船や馬車で気持ち悪くなった僕だけれど、これに関しては平気だった。

建物の中なのに、照明の類は全くない。
にも拘らず明るいのは、太陽のような光が宙に浮いているおかげだ。
外の世界と連動しているのかどうかはわからないが、今の時間ならば方角的にも丁度その辺りである。

最後の扉は、今までよりもずっと小さく、人ひとりが通れるほどの大きさしかない。
乗り物はその前で止まり、僕らが下りた後、自動的に走り去った。

まるで人間のように、扉をノックする金属の人形。
中からの返事はない代わりに、扉がゆっくりと開く。

(´・ω・`) 「…………」

その部屋には湖があった。湖畔には小さな白い花が咲き乱れている。
風は無く、畔に一本の木が満開の花を咲かせていた。
根元には、薄紅色の花弁の絨毯。
その上に一人の女性が座っていた。

116名無しさん:2016/07/19(火) 22:38:59 ID:97ESyuuc0

白い服に、白い髪。
まるで絵画を切り取ったかのような世界。

li イ ゚ー゚ノl| 「ようこそ」

一礼して下がっていく金属人形。
部屋に取り残された僕は、どうすればいいのかわからなかった。
彼女に近寄ることで、その世界を台無しにしてしまうかもしれないという漠然とした不安に襲われて、動けずにいた。

li イ ゚ー゚ノl| 「どうぞ、此方へおいでください」

白いテーブルと椅子が二脚、まるで最初からそこにあったかのように現れた。
樹を背もたれにしていた女性は立ち上がり、空席を手のひらで示す。
二度目の呼びかけで見えない糸から解放された僕は、用意された反対側の椅子に座る。

それを確認してから、女性は席に着いた。

li イ ゚ー゚ノl| 「遠路はるばる、よくいらっしゃってくださいました。
        なにか、お飲み物と食べるものを用意させましょう」

机の上に置いてある小型のベルを鳴らすと、柔らかな音色が清浄な空間に響き渡る。
それに何処からともなく聞こえる魚の撥ねる水の音と、鳥たちの鳴き声が重なり、まるで楽曲の様に。
聞き惚れていると、何処からともなく金属の人形が現れた。
先程のと全く同じ形であるが、顔の部分にある一つ目が違うため別の個体だろう。

117名無しさん:2016/07/19(火) 22:40:12 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「不思議そうな顔をしていますね」

(;´・ω・`) 「これは……一体……」

金属人形がどこからともなく、暖かいお茶の入った湯呑を二つ取り出していた。
茶請けとして団子と羊羹が一口サイズに切り分けられたものと一緒に。

li イ ゚ー゚ノl| 「これは、はぐるまさんです」

(;´・ω・`) 「はぐるま……さん……?」

そのまま聞き返してしまった。
女性にとってのあたりまえが、僕にとっての常識とは全く違うらしい。
よく考えなくても、こんなわけのわからない場所に一人で住んでいるのだ。
その程度のことは当然なのだと、そのまま飲み込んでしまうことにした。

li イ ゚ー゚ノl| 「はぐるまさんは機械なんです」

(´・ω・`) 「機械……? これが……?」

車輪は、前に進む。
歯車は、力を変換する。

118名無しさん:2016/07/19(火) 22:41:14 ID:97ESyuuc0

人間の力無しで動くことのできるものを機械と呼ぶのは知っている。
ただ僕の知っているそれらは、ここまで複雑な行動をすることはできない。

li イ ゚ー゚ノl| 「あんまり考えると、疲れてしまいますよ。
        それで、この場所にどのような要件があったのですか」

恐らく、僕には理解できない存在なのだろう。
普段ならもう少し粘っていたはずの僕は、女性に促されてそう認めてしまった。

(´・ω・`) 「……神州の巫女、桜とポルタツィアの残した碑文を探しに来ました」

li イ ゚ー゚ノl| 「碑文……? そんなもの有ったでしょうか……」

(´・ω・`) 「それでは初代巫女の桜のことを、何か知っていませんか」

li イ ゚ー゚ノl| 「桜でしたら私ですよ」

(´・ω・`) 「え?」

li イ ゚ー゚ノl| 「雪月院 桜と申します。以後、お見知りおきを」

神州の歴史は古く、ポルタツィアと関わりをもったのも千年以上昔の話だ。
その時に巫女であった人間が、今も生きているはずがない。
そう、人間であれば。

119名無しさん:2016/07/19(火) 22:42:41 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「あなたは……」
 
li イ ゚ー゚ノl| 「随分と答えに辿り着くのが遅かったですね。それとも、それが限界ですか?
        でしたら、期待外れですね。半端者とはいえ少々評価していたのですが……甘い見積りでした」

ふぅ、と彼女は溜息をつく。
勝手に期待されて、勝手に裏切ったことにされてしまったが、それに関して僕が言えることは何もない。
そもそも、僕と彼女は初対面のはずである。
なぜそこまで言われないといけないのかわからない。

彼女は、一体何を知っているのだろうか。
妖艶な笑みの中に言葉の真意が隠されていて、その片鱗すら見えない。

(;´・ω・`) 「半端者…………」

li イ ゚ー゚ノl| 「不完全だということです。あなた自身は気づいていないのかもしれませんが。
        仕方のないことです。むしろ、中途半端な知識でよくあなたを生み出したものです」

(´・ω・`) 「あなたは、僕の何を知ってるんです」

li イ ゚ー゚ノl| 「ショボン・オーロ・ホーエンハイムの死体を利用したホムンクルスくずれだということ……ですかね。
        必要なら、知ることは出来ますよ」

120名無しさん:2016/07/19(火) 22:43:56 ID:97ESyuuc0

会話がうまくいかないのは、きっと僕と彼女の認識が大きくずれているから。
まずは同じレベルにまで底上げしてもらわなければ、彼女が言いたいことを理解できないだろう。
彼女が、僕にわかるように説明してくれれば一番楽なのだけれど、
どうもそう丁寧にしてくれるつもりはないみたいだし。

(´・ω・`) 「質問を、してもいいですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「どうぞ」

(´・ω・`) 「あなたは、神州の初代巫女、桜で間違いないですよね」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ。先ほどもそう言いましたけどね」

嫌味を言われていることだけはわかった。
ただ、コミュニケーションをしたくないというわけではなさそうで、めげずに次の疑問を投げる。

(´・ω・`) 「どうしてここに住んでいるのですか。しかも、不老不死になって」

li イ ゚ー゚ノl| 「神州に初めてポルタツィアが現れた日、神州の人間の半分は何の前触れもなく死にました。
        神の選定と呼ばれた悲劇です。老若男女、区別なく、無差別に。
        その時のことは、今の神州では誰も知りはしないでしょうが……」

(;´・ω・`) 「半数も!?」

121名無しさん:2016/07/19(火) 22:44:31 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「七大災厄とは、そういうことです。理由も無く、ただ災厄として存在している上位種。
        運よく……いえ、運悪く生き残った者達で、再び国として纏まりました。
        しかし、そんなことがあってすぐにうまくいくなんてありえません」

(´・ω・`) 「……でしょうね」

国民の二人に一人が死ぬのだ。まともな状況ではないし、荒れ放題だろう。
むしろ、国としてまだ機能していたこと自体が驚きだ。
今よりは社会構造が単純だったからこそなのかもしれない。

li イ ゚ー゚ノl| 「私は、私以外の家族を選定で皆失いました。女一人きりになって、生きていけるわけがありません。
        荒れ果てた町で、複数の男性に捕まり、乱暴を受けようとしていた時でした。
        突然、海の中に引き込まれたのです」

(´・ω・`) 「まさか、イヴィリーカの……」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ、知識の魚。生きる知恵。私の前に現れたそれは、生きたいか、と問うてきました。
        生きたければ、我が身を食べろと。私はその通りにしました。
        あなたの知る彼女と同様にね」

(´・ω・`) 「シュールのことですね」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ。大切な人々を自らの愚行で失い、その上に自らを失った哀れな女。
        他人の精神に宿ることで生き長らえ、自らの後始末のために不死者もどきを生み出したのですから。
        ショボンさんは、きっと彼女の一番の被害者ですね」

122名無しさん:2016/07/19(火) 22:45:48 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「……あなたはシュールとは違うというのですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「同じですよ。根本的にはね。わかりやすく言うのであれば、彼女は私の姉弟子のようなものです」

シュールもまた、イヴィリーカにその命を救われていた。
文字通りその血肉から知識を与えられることは、子弟関係にあると言えなくもない。

li イ ゚ー゚ノl| 「ですが……決定的に異なる点が一つ。
        彼女がイヴィリーカに招かれたのは、ほんの子供の時。
        私がそうなったのは、既に成人した後でした」

(´・ω・`) 「それが、二人の差異を生み出した、と?」

li イ ゚ー゚ノl| 「彼女はイヴィリーカの腹の肉をその身に取り入れた。そして錬金術と言う知識を得た。
        それもたった一口だけで、です」

桜は、口元に湯呑を近づけて、ゆっくりと飲む。
その間言葉を発さず、悪戯に僕の不安を煽る。
わざとだと理解できても、彼女の口から紡がれるまでただ待つことしかできない。





         、 、 、 、 、 、
li イ ゚ー゚ノl|  「全部食べたら、どうなるでしょうね」




.

123名無しさん:2016/07/19(火) 22:47:18 ID:97ESyuuc0

(;´・ω・`) 「っ!」

li イ ゚ー゚ノl| 「彼女が不完全だとする意味は、もうわかったでしょう」

イヴィリーカはこの世のすべての知識を統べると言われる七大災厄。
その体はありとあらゆる情報でできている。
それら全てをその身に取り込んだのであれば、彼女はまさしく人の身にて神となった存在。

(´・ω・`) 「……それでは、なぜこんなところにいるんです」

錬金術だけではない。
無限の知識を得ているのに、なぜ彼女はこんな場所で一人暮らしている。
神州の人々の生活レベルを数段上昇させることも容易い筈だ。
ポルタツィアの被害を抑えることだって。

li イ ゚ー゚ノl| 「錬金術も、機械も、それ以外のあらゆる知識を得ても、
        それを誰かのために役立てようとは思いませんでした」
        
(´・ω・`) 「……」

li イ ゚ー゚ノl| 「その時の私には……今でもそうですが、人の生死にも、世界の盛衰にも、国の興亡にも、
        関わることが愚かしく思えましたから。それに、神州にはあれがいます」

(;´・ω・`) 「七大災厄、ポルタツィア……」

124名無しさん:2016/07/19(火) 22:48:54 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「どれだけ知識を得ても、全能とは程遠いですから。災厄には遠く及びません。
        ……本当に人間が神と呼ばれる存在があるとすれば、それは七大災厄で相違ないでしょうね」

(;´・ω・`) 「では、あなたがここにいるのは……」

li イ ゚ー゚ノl| 「ご想像の通りです。私の生は、ポルタツィアによって制限されているのですよ。
        ですから、この世界に自ら関わることは出来ません。
        この館で一人、世界が終わるまで存在し続けるのでしょうね。
        世界と題された本を読むかの如く」

(;´・ω・`) 「…………」

あまりにも無慈悲にな生の宣告。
不老不死の身でありながら、ただの一人で誰も訪れないような場所で生き続ける。
それは地獄と呼ぶにはあまりにも生温い。

li イ ゚ー゚ノl| 「私の話はこれくらいでいいでしょう。あまりショボンさんの役に立つようなことはありません。
        ですが……」

僕は彼女の言葉を遮った。

(´・ω・`) 「……お願いがあります」

125名無しさん:2016/07/19(火) 22:50:38 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ、あるでしょうね」

柔和な笑みは、僕がそうすることを予測していたからだろう。
僕を半端者と呼んだ、彼女。
これまでの世界を眺め続けてきた彼女は知っているだろう。
不老不死である僕の望みを。

(´・ω・`) 「リリを助ける方法を教えてください」

li イ ゚ー゚ノl| 「……」

彼女は、すぐに返事をくれなかった。
先程のように隠し事を楽しんでいる様子ではない。

li イ ゚ー゚ノl| 「私は観測者になることを決めました。今日あなたがここを訪ねてくることを拒むことは簡単でしたが、
        それをしなかったのは何故なのか、自分でもわかりません。
        手助けはしません。それが私の決めた私です」

(´・ω・`) 「……」

li イ ゚ー゚ノl| 「ですが、道を見出す言葉だけは授けましょう。多少なりともあなたの人生を知っている身で、
        このまま見て見ぬふりは出来ませんから。意外と、私にもまだ人間らしいところが残っているものですね。
        ……あなたの道標になるものは、既にあなたが持っています」

126名無しさん:2016/07/19(火) 22:51:40 ID:gAunyHbk0
支援

127名無しさん:2016/07/19(火) 22:52:21 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「僕が?」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ、よく考えてみるといいでしょう」

(´・ω・`) 「…………」

li イ ゚ー゚ノl| 「他にも聞きたいことが無いのであれば、質問に答えた代わりに一つ頼まれごとをしてもらえませんか?」

(´・ω・`) 「それを受けるのは構わないのですが、まだ聞きたいことがあります」

li イ ゚ー゚ノl| 「欲張りですね。……いいですよ。
        他人と話すのはこれが最後になるかもしれませんからね」

言葉の真意は読めない。
彼女が望めば、人と話す程度のことくらいいつでもできそうなのだが。

(´・ω・`) 「今、大和で巫女をしている少女の事です。ご存知かもしれませんが」

li イ ゚ー゚ノl| 「ええ、知っています」

(´・ω・`) 「彼女は巫女としてその生を全うすることを望んでいない。
       あなたなら、彼女を運命の鎖から解き放てるのでは?」

128名無しさん:2016/07/19(火) 22:53:38 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「出来るか出来ないかの話でしたら、出来ます」

その答えは、否定と同義。
理由は先ほど本人の口から聞いたものだろう。

(´・ω・`) 「するつもりはないと」

li イ ゚ー゚ノl| 「先程もお伝えしました。私は、もはや人間の手助けをするつもりはありません。
        ただ一つの役割を除いて、ね。それがあなたにお願いしようとしている内容ですが……」

(;´・ω・`) 「しかし……っ!」

li イ ゚ー゚ノl| 「七大災厄に深く関わるとどうなるか、あなたはよく知っているはずです」

抵抗には、より強い否定で返された。
かつて森林の王ティラミアに何度も殺され、
宵闇の冠エルファニアには半身を奪われた僕が、七大災厄の危険性を忘れるわけがない。

後に聞いた話は、僕の体験とは比較できないほど規模の大きな災厄。
シスターヴァは数週間で一大陸の文明を滅ぼし、ポルタツィアは国の人間をたった一瞬で半数にした

抗おうとする方が間違っている。
それが七大災厄。

(´・ω・`) 「イヴィリーカの知識を得たあなたなら……」

129名無しさん:2016/07/19(火) 22:54:38 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「知識を得ただけで、イヴィリーカそのものになったわけではありません。
        今の私をもってしても、ポルタツィアが本気になれば数分ともたないでしょうね。
        この浮遊館ごと簡単に消滅させられるでしょうから」

全く未知の技術が余すとこなく使われている浮遊館。
その主である彼女の言う事であれば、間違っていないのだろう。
それでも、僕はリリの情報を得るためにどんなことをする覚悟もある。
芒を助けることが僕の望みに繋がるのであれば、躊躇う理由は無い。

li イ ゚ー゚ノl| 「……一つだけ言っておきます。あなたは余計なことに首を突っ込もうとしているのです。
        このまま素直に帰れば、遅かれ早かれいずれ目的には辿り着くでしょう」

(´・ω・`) 「可能な限り、早くなくてはいけないので」

li イ ゚ー゚ノl| 「はぁ……。徒労に終わりますよ」

人間を超えたはずの女性の溜息は、ひどく人間らしかった。
原因が僕にあるとわかっていたが、撤回するつもりはない。

(´・ω・`) 「構いません」

リリと会えるのなら、助けることができるのなら、
地獄の釜の中だって耐えられる。

130名無しさん:2016/07/19(火) 22:55:34 ID:97ESyuuc0

li イ ゚ー゚ノl| 「別に、ポルタツィアの巫女なんて大層な呼ばれ方をしていますが、
        特別な誰かがしなければならないということはありません」

(´・ω・`) 「え? でも、ポルタツィアとの会話ができないって」

li イ ゚ー゚ノl| 「ショボンさん、この国に入国されたときにポルタツィアに会いませんでしたか」

(;´・ω・`) 「会ったというよりは……襲われかけましたが」

突然空から降ってきた子供のような容姿をしたポルタツィアに、こんかぎり脅された。
危険なものを捨てなければ、船を沈めると。
島までもう目と鼻の先の場所でのことだった。

そうだ。
僕はもっと早くに気付くべきだった。    、 、 、 、 、 、
その時ポルタツィアが何と言っていたか、わかっていた。

li イ ゚ー゚ノl| 「ポルタツィアの言語を理解できないのではありません。
        理解するための全てを、神州住む人間及び神州に入国した人間は奪われているのです」

(;´・ω・`) 「待ってください。僕はどんな傷でも再生する不老不死のホムンクルスです。
        たとえ言語能力を奪われようと、すぐに再生するはずです」

li イ ゚ー゚ノl| 「自分に自信があるのは構いませんが、相手を考えてください。
        七大災厄はこの世の法則を上回る存在です。再生できないようにする程度のこと、造作もないでしょう」

131名無しさん:2016/07/19(火) 22:56:35 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「僕が気づかないうちに?」

li イ ゚ー゚ノl| 「あなたに気付かせない様に。そして、巫女の家系にだけ伝わる言葉こそが、ポルタツィアの言語であり、
        その最初の一言を巫女から聞くことで全ての言葉を取り返す、という仕組みです」

それなら、僕はもうポルタツィアと話せるということになる。
だけど少女の言葉は二度三度聞いても、理解できなかった。
それはどう説明するのか。

桜に問うと、思っていたよりもずっと単純な返答が帰ってきた。

li イ ゚ー゚ノl| 「ポルタツィアの目前でなければ意味がありません。それが引き継ぎの儀式で行われていることです。
        もっとも、何のために巫女と言う存在を要求しているのかはわかりませんがね」
   
(´・ω・`) 「芒のいる場所でポルタツィアを呼び出せばいいのか……」

li イ ゚ー゚ノl| 「しかし、難しい問題がまだ一つ残っていますが……それはあなたが考えるべきことでしょう。
        さて、いい加減に私の用件を伝えても?」

(;´・ω・`) 「いろいろとすいませんでした。……はい、大丈夫です」

li イ ゚ー゚ノl| 「この楔を、山際の亀裂に投げ込んでおいてください」

132名無しさん:2016/07/19(火) 22:58:00 ID:97ESyuuc0

手渡されたのは掌ほどの大きさしかない金属製の楔。
複雑難解な錬金術が幾重にも重ねてかけられていること以外には、何もわからなかった。

li イ ゚ー゚ノl| 「最近この峡谷以外の場所で噴き出している黒煙を、此方に集めるためのものです。
        麓の人間には可哀想なことをしました」

(´・ω・`) 「黒煙の原因はあなたなのですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「……麓の方で噴き出してしまったのは、私の管理不足でした。
        そもそも黒煙は、この神州の良くないものの総体だということは……今知ったような顔をしていますね」

(´・ω・`) 「はい……。良くないものとは、つまり毒素ということですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「それだけではありません。
        他にも、大地の歪み、錬金術の負荷、怒りや恨みなどの負の感情など、
        神州中のマイナスを圧縮したものです。
        ポルタツィアによって、神州は争いが限りなく減ったとされていますが、
        その反動で、この場所で黒煙となって噴き出し、光によって浄化されるまで峡谷を漂っているのです」

(´・ω・`) 「……それが平和の代償ですか」

li イ ゚ー゚ノl| 「ポルタツィアに抑圧されている神州の国々は、目に見えない負担を与えられています。
        放っておけば溢れ出し、この地を人の住めない不毛の地に変えてしまうほどの。
        その管理こそが私が自らに課した最初で最後の役目です」

133名無しさん:2016/07/19(火) 23:00:57 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「それは……おかしくないですか。神州で生み出されたはずの負荷が神州を滅ぼすなんて」

li イ ゚ー゚ノl| 「常に放出されていれば、あなたの言う通り国を滅ぼすほどの力はありません。
        しかし、この黒煙峡に揺蕩う瘴気は、長年の間貯め込まれた凝縮された負荷です。
        普通の人間が耐えられるはずがありません」

(´・ω・`) 「植物が枯れていないのは」

li イ ゚ー゚ノl| 「植物は考えませんから。思念が混ざった黒煙は、思考する動物にのみ影響を与えるのです。
        さて、それではショボンさん。その楔を適当に放り投げてもらえば大丈夫ですので」

(´・ω・`) 「わかりました」

li イ ゚ー゚ノl| 「最後に警告を一つ。こういった場所というのは世界中に存在します。人知を超える様な空間が。
        もしそう言った場所に気付いた時は、近寄らないようにしたほうが良いですよ。
        これは余計なことかもしれませんけどね」

(´・ω・`) 「いえ、いろいろとありがとうございました」

深く頭を下げる。
桜は、傍に待機していたはぐるまさんを呼ぶ。

li イ ゚ー゚ノl| 「麓の集落まで送らせましょう。
        浮遊館の下に落ちてしまっては、いくらショボンさんでもそう易々とは脱出できないでしょうから」

機械人形のはぐるまさんは、その両腕でがっしりと僕を掴んだ。
嫌な予感がしたときにはもう遅く、急激な重力負荷を感じて意識を失った。

134名無しさん:2016/07/19(火) 23:03:49 ID:97ESyuuc0

・  ・  ・  ・  ・  ・



( ФωФ) 「ふむ、ご苦労であったな」

(´・ω・`) 「ああ、本当に」

機械人形に送られた後、桜との約束通り楔を亀裂に投げ込んだ。
噴き出していた細い煙は唐突に終わり、それ以降何かが噴き出してくることはなかった。
しばらく様子を見て安全を確認した後、僕は大和城に再び忍び込み、
最上階の部屋でロマンと芒に黒煙峡での出来事を話していた。

( ФωФ) 「驚いたであるな。碑文ではなく本人がいたと」

(´・ω・`) 「しかもとんでもない設備を作って、ね。
       何がどうなってるのかさっぱりわからなかった」

( ФωФ) 「是非とも行ってみたいものである」

もし許されるなら、僕だってゆっくり見学させてもらいたかった。
長居をするつもりはなかったけれど、頼んでも認めてくれなかったに違いない。

135名無しさん:2016/07/19(火) 23:05:22 ID:97ESyuuc0

/ ゚、。 / 「それで、どうすればいいのでしょうか」

芒が話を本筋に戻す。
錬金術師である僕とロマンにとっては宝の山である浮遊館の情報も、
彼女にとってはさほど重要なものではない。
二度とたどり着くことのできないであろう夢の世界についてずっと話していても仕方がないので、芒の質問に答える。

(´・ω・`) 「まずは代役を探さないといけない。ポルタツィアの呼び出し方も考えないと。
       適当な場所で突然呼び出すわけにもいかないし……」

そんなことをすればどうなるか。
運が良くても五体満足ではいられないかもしれない。

かといって大和の儀式を利用するのにはもっと無理がある。
大勢の目の前で突然の引継ぎを行っても、納得はしてもらえないだろう。

( ФωФ) 「あてがないのである」

/ ゚、。 / 「うん……」

頭を突き合わせて悩んでいても、答えは出なかった。
神州の巫女と言う特別な立場を受け入れてくれて、なおかつ民衆の否定を受けない人物。
そんな人間が身近にはいない。

136名無しさん:2016/07/19(火) 23:06:25 ID:97ESyuuc0

( ФωФ) 「どん詰まりであるな」

神州における巫女の立場は、決して軽くない。
重要な祭典には必ず参加しなければならず、一月に一回、ポルタツィアの言葉を聞く儀式もある。
おいそれと城下に降りることは出来ず、食事や衣服、果ては生涯の相手すらも与えられる。
そのような生活をよしとする人間はそうはいない。
だが、それでも。

(´・ω・`) 「浮遊館の情報は伝えた」

興味が無いわけではなかった。浮いている島に存在する館そのものに。
場所を教えてもらったことで簡単にたどり着くことができたし、
予想以上のものも多く見れた。

でも、二人にとってのこれからは、僕には関係ない。
依頼は完遂した。

ロマンが言っていたように、これは交換条件なのだから。
浮遊館の調査情報と、リリの居場所の。
対価を要求することを責められる謂れはない。

( ФωФ) 「うむ……いいだろう。引継ぎの方法が分かっただけでも、充分である」

137名無しさん:2016/07/19(火) 23:07:55 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「リリは何処にいる?」

( ФωФ) 「吾輩が見つけたのは、その娘が見つかった場所である。
         複合錬金術を利用した三十年前の世界調査の最中であった」

(´・ω・`) 「世界調査……」

( ФωФ) 「記録用の錬金術を生体強化した鶫に乗せ放てば、丁度一年後世界中を回って帰ってくる。
         ただし百羽放っても戻ってくるのは七、八羽である。そのうちの一羽が、
         氷に閉じ込められた少女を見ていたようである。
         方角と経過時間的には、大陸中央の最北端付近であろうな」

氷の大地と呼ばれる、大陸最北端の国々。
彼女が身を投げた河からは相当な距離がある。

(´・ω・`) 「氷に閉じ込められていた?」

( ФωФ) 「そうだ。鮮明な映像ではなかったが、人間ではないと確信があった。
         普通、人間が海に落ちて氷漬けになって死んだとすれば、氷の圧力ででもっと醜く歪む。  
         だがその娘は、死んでいるとは思えないくらい綺麗な状態だったのである。
         運よく次の年も同じルートの鶫が帰って来たので確認したが、
         その娘の姿はなかった。氷が溶かされたか、それとも何者かの手によって移動されたかはわからないであるが」

138名無しさん:2016/07/19(火) 23:08:53 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「それを見せてもらいたいんだけど」

( ФωФ) 「……説得はしてみるのである。三日後、昼過ぎ頃に門番に訪ねてみるがよい」

錬金術の研究結果は、他人に見せるものではない。
一国の研究機関ともなれば、なおさらだ。

(´・ω・`) 「そろそろ帰るよ」

出発してから三週間、劔には何の連絡もしていない。
どこかでのたれ死んでいると思われて、残してきた研究を捨てられても困る。

( ФωФ) 「うむ……」

/ ゚、。 / 「それじゃあね」

晴れない気持ちを胸に大和城を出る。
芒の問題が解決しなかったことが原因であることはわかっていたけれど、
どうしても優先しなければならないことがある。

すっかり暗くなって、道端には誰も歩いていない。
どこの家も明かりが消えており、すっかり寝静まった夜の城下街を歩く。

139名無しさん:2016/07/19(火) 23:10:33 ID:97ESyuuc0

(´・ω・`) 「起きてるのか……」

予想に反してまだ明かりのついていた劔錬金術店。
その扉を叩くとしばらくして出てきた大柄な店主は、驚きながらも中に入れてくれた。

「死んだのかと思ってたよ」

(´・ω・`) 「何とか無事でした」

「まぁいいさ。それで、どうだったんだい」

(´・ω・`) 「浮遊館は見つからなかったです」

真実を伝えたところで悪戯に犠牲者を増やすだけであろう。
この旅であったことは、最初から話さないと決めていた。

「ほらね、言ったろう。まぁほんと、良く生きて帰ったよ。今日はゆっくり休みな。
 なにか採って来たんなら、処理しといてあげるよ」

(´・ω・`) 「ありがとうございます」

いつになく優しい劔の言葉に甘え、旅の帰り道でとってきた素材を全て渡して横になった。
徒労にはならなかったとは言え、達成感は無い。
不安そうな芒の表情が目を瞑る度に思い出された。

三日後、もし大和城で見せてもらえたものがリリであったら、すぐに神州を発とう。
ポルタツィアの巫女に関する事実は余すところなく伝えたし、
ロマンがいれば、計画を実行することもできる。

久しぶりの柔らかいベッドの上で、つらつらと考え事をしているうちに寝てしまった。

140名無しさん:2016/07/19(火) 23:11:04 ID:97ESyuuc0

・  ・  ・  ・  ・  ・



「それ、混ぜてから持ってきて」

(´・ω・`) 「はい」

陽鼠の粉末と、八咫烏の粉末を言われた通りに混ぜた後渡す。
浮遊館から帰ってきてから三日間、付きっ切りで劔の錬金術を手伝っていた。
僕が出かけている間に注文が相次いだらしく、珍しく納期に追われているのだそうだ。

そのおかげで僕が帰って来た時もまだ研究室にいたのだという。
ロマンとの約束は昼過ぎであったが、朝から手伝いをしているうちにもう目前まで迫っていた。
劔が忙しそうに錬成をしているせいでなかなか言い出せず、
今もこうして流されるままに錬金術を手伝っている。

(;´・ω・`) 「あの……」

「次、そっちの棚から活力草と鋸草」

(´・ω・`) 「はい」

141名無しさん:2016/07/19(火) 23:12:03 ID:97ESyuuc0

大柄なからに似合わず、劔の調合は繊細だ。
目分量で投入することは決してなく、きっちり量っている。

完成する錬金術にしても評判が高いのも納得の出来だ。
しばらく錬金術の手伝いをしていたおかげで、遠隔錬金術の複雑な工程も大凡理解できた。
神州の素材あっての錬金術であり、西方の国で再現するのは難しそうだが。

(´・ω・`) 「劔」

「なんだい、あ、其れ持ってきな」

言われたものを手渡す。

(´・ω・`) 「用があるので出かけてきます」

「この糞忙しいときにかい?」

劔は錬金術の調合を続けたまま、振り向かない。
了承の代わりに飛んできた指示に従って、素材を棚から降ろして机の上に並べた。

「いいよ、好きにしな。出来るだけ早く戻って来なよ」

(´・ω・`) 「……すいません、ありがとうございます」


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