したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ハゲタカのようです

49名無しさん:2016/03/27(日) 19:17:02 ID:SoEOAtLY0



特定犯罪激化対策課の部屋は、いつにもまして曇っていた。
書類を持ってきた事務の女性が、扉を開けた瞬間にそれを中に放り投げて出ていくほどに。

狭い室内に五人も喫煙者がいる時点で、
部屋の中の匂いは地獄の釜よりもひどい。

(´・_ゝ・`) 「おいおい、今の態度おかしいだろ」

( ・∀・) 「そうっすね」

(´・_ゝ・`) 「おい茂羅。お前ちょっと文句言って来い」

( ・∀・) 「え、嫌っすよ」

(´・ω・`) 「行かなくていいぞ茂羅」

( ・∀・) 「ですよね」

(´・ω・`) 「ただその代わりに俺の煙草買ってきてくれ。金は後で払う」

50名無しさん:2016/03/27(日) 19:18:33 ID:SoEOAtLY0

特対課の中で最も若い茂羅は、肩身の狭い思いをしながら日々を過ごしていた。
普段は若造扱いされるのを嫌って課内にはめったに寄り付かない。
今日五人揃っているのは、一月に一回の定例会議のためだ。

だが会議はあってない様なもので、こうして煙草を吸いながら近況報告をするだけであった。
そのため、月一で茂羅は煙草を買いに行かされている。
庁舎内を三から四種類の煙草のカートンを持って歩く中年男を想像してもらいたい。
どのような扱いを受けるかすぐにわかるだろう。

( ・∀・) 「たまには自分で行ってくださいよ」

(#´・ω・`) 「あぁ?」

チャンネル国民にしてはかなり珍しい百九十センチを超える大柄な体格に、
逞しい筋肉と相まってその睨みは人を殺せそうなほどの迫力があった。

( ^ω^) 「諸本、茂羅の言う通りたまには自分で行け、後俺の煙草も頼む」

(;´・ω・`) 「えっ……羽毛田さん」

( ^ω^) 「俺をその名前で呼ぶな」

51名無しさん:2016/03/27(日) 19:20:54 ID:SoEOAtLY0

(;´・ω・`) 「あ、すいません。武雲さん。俺ですか」

( ^ω^) 「後輩ばっかり使ってやるなよ」

(´・ω・`) 「あなたには言われたくないですよ」

(´・_ゝ・`) 「落ち着けよ……っと電話だ」

課内に緊張が走った。
特対課の電話が鳴るというこは、基本的に仕事の話である。

(´・_ゝ・`) 「あぁ? 俺か? 流石兄弟がいるだろうが! あぁ! くっそ……。っち……了解」

電話を置いた出実。
暫く何もしゃべらずに煙草を吸っていた。
残りの四人が話題を振れと目くばせをする中、内藤が火ぶたを切った。

( ^ω^) 「どんな案件だった」

(´・_ゝ・`) 「警視庁のサーバーが何者かにクラックらされてるそうだ。
       愉快犯らしくてな、とにかく各自パソコンで確認してみろ」

52名無しさん:2016/03/27(日) 19:22:01 ID:SoEOAtLY0

先程まで好きなように過ごしてた課内の全員がすぐに警視庁のホームページにアクセスする。
普段のトップページに上書きされるように存在するドット絵で描かれた爆弾。
それはGIF画像のように爆発を繰り返していた。

(´・_ゝ・`) 「で、警視庁サイバー犯罪対策課がいろいろやったらしいんだが、結局消せなかった」

('A`) 「流石兄弟は?」

(´・_ゝ・`) 「休暇だと、ふざけた連中だ」

他の課の人間に聞かれていたら皆が口をそろえて、お前に言われたくない、と言うだろう。
特定犯罪激化対策課よりも休暇が多い部署なんてないのだから。

( ・∀・) 「そう言えばデミさんの仕事見るの初めてっすね」

(#´・_ゝ・`) 「あ? 俺が仕事してないって言いてぇのか」

(; ・∀・) 「ち、違いますよ。俺らへの仕事はデミさん経由できますけど、
       デミさんの仕事ってそうじゃないじゃないですか」

( ^ω^) 「デミの場合、大抵はこの事務所で仕事ができるからな」

53名無しさん:2016/03/27(日) 19:23:35 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「っつーよりは、そうできるようにしてるんだよ。わざわざな」

('A`) 「俺も興味がありますね。デミさんの仕事」

(´・ω・`) 「大した仕事してないから見せたことないんだろ」

(´・_ゝ・`) 「おい、諸本。お前今回の人事考課覚えておけよ」

(#´・ω・`) 「糞っ……」

( ^ω^) 「今のは諸本が悪い」

(´・_ゝ・`) 「仕方ねぇから見せてやるよ」

出実は背中側にある棚を開け、中にある無数のUSBメモリのうちの一つを取り出した。
通し番号が降られているだけの何の変哲もないもの。
記憶容量は市販されているものよりもかなり大きいことだけが表示からわかる。

( ^ω^) 「特注のUSBメモリだ。お前ら、パソコンの画面見てろ。ぼーっとしてると見逃しちまうぞ」

54名無しさん:2016/03/27(日) 19:24:06 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「え……?」

出実が行ったのは、USBメモリを自分のパソコンに差し込み、アプリケーションを起動するだけ。
事前に作成された通りに、プログラムが勝手に仕事をこなす。
暫く接続不能になり、更新すると元通りの警視庁のホームページになっていた。
爆弾のドット絵はどこにもない。

(´・_ゝ・`) 「予めプログラムを組んでおけばこの程度なら解決できる。すぐにな」

( ・∀・) 「……すげーっすね」

(´・_ゝ・`) 「ふん、何のために毎日毎日事務所にいると思ってるんだ。
        クロスワードやナンプレ解くだけが仕事じゃないんだよ、諸本」

(;´・ω・`) 「ぐっ………………すいませんでした」

(´^_ゝ^`) 「分かればいいんだよ、分かれば」

一仕事終えたデミタスは大欠伸をしながら背伸びした。
髪の毛一本すら生えていない立派な禿頭を窓の外に晒しながら。

55名無しさん:2016/03/27(日) 19:27:16 ID:SoEOAtLY0


>>


【番号】 012

【姓名】 兀山 出実

【読み】 コツザン デミ

【年齢】 45

【役職】 警視長/課長

【専門】 情報工学

【解決事件】

・大手通信事業者乗っ取り事件
・官公庁情報漏えい事件



>>

56名無しさん:2016/03/27(日) 19:28:06 ID:SoEOAtLY0



警視庁 刑事局 組織犯罪対策部 特定犯罪激化対策課

通称、ハゲタカ。
彼らに解決できない事件は無い。
組織として統制のとれた強さを持つのが特殊部隊だとすれば、
彼らは全くその逆。
突き詰めた能力を持つ個人の集まりである。

(´・ω・`) 「おはようございます……って、あれ、今日デミさん休み?」

( ^ω^) 「ん……あぁ、風邪らしい」

(´・ω・`) 「は? デミさんが?」

諸本が課内に入ってきた時の臭いが違ったのは、それが原因であった。
普段はしない甘い香りが充満しているのは、武雲の煙草によるもの。
出実はいつもそれを馬鹿にしているが、武雲がまともに取り合っているのを見たことはなかった。

( ^ω^) 「おいおい、あいつだって人間だ。風邪くらいひくだろう」

57名無しさん:2016/03/27(日) 19:31:27 ID:SoEOAtLY0

(´・ω・`) 「それで武雲さんはどうしてここに」

( ^ω^) 「ちょっと行き詰っててなぁ。この前の事件、どうもうまくいかない」

(´・ω・`) 「ああ、高層ビルの女性事務員密室殺人事件」

諸本もその概要はデミを通して聞いていた。
珍しく手こずっているのだと楽しそうに話していた。

( ^ω^) 「ふぅー…………」

火のついたままの煙草がバースデーケーキのように灰皿を彩っている。
そのせいで、まだ朝礼前の時間であるのに煙草の臭いが充満していた。

(´・ω・`) 「吸いすぎじゃないですか」

( ^ω^) 「こうでもしないと頭が回んねぇ。お前、どう思うよ」

(´・ω・`) 「いや、どうって言われても。俺は頭脳労働あまり得意じゃないんで」

( ^ω^) 「まぁそう言わずに聞かせてみな」

58名無しさん:2016/03/27(日) 19:37:52 ID:SoEOAtLY0

自他ともに認める肉体派の諸本だったが、先輩に促されて事件概要を思い出す。
煙草に火をつけた後、少し考えてから話し始めた。

(´・ω・`) 「……犯人は合鍵か何かを持っていたんだと思います。じゃないと密室の説明はつかない。
       トイレで殺されたガイシャに抵抗の後がないのもおかしい。
       普通の女性ならいきなりトイレに入られたら何かするでしょう。見ず知らずの人間ならなおさらです」

( ^ω^) 「顔見知りの犯行ってことか。確かに、ガイシャはキジョロックの重役と不倫関係にあった。
       だがこの重役、別件で数か月前に殺されてる」

(´・ω・`) 「……それは初耳でした。しかし、関係はあるのでしょうか。今回の件は手口があまりに素人離れしています。
       仮にどこかに依頼したとしても、普通の人間には不可能です」

( ^ω^) 「そうだな。それで?」

武雲は推理を邪魔しない。
諸本が今言った程度のことであれば、通常の捜査本部でも既に考えられている可能性である。
続きを言うように促したのは、諸本自身の言葉で聞くためだ。

59名無しさん:2016/03/27(日) 19:38:39 ID:SoEOAtLY0

(´・ω・`) 「部屋の中が荒らされてなかったことからも、最初からガイシャを殺す気だったんでしょうね。
       ……あーパソコンとか携帯とかの連絡履歴も調べたんでしたっけ」

( ^ω^) 「ああ。ノートパソコンは開いていたが、何も表示されていなかった。
       プロバイダに問い合わせても二人とも特に怪しいサイトには繋いでいない。
       携帯も同じだ。事前の連絡先もおかしなところはない」

(´・ω・`) 「最近流行りの電子ドラッグとかも違いますね」

特殊な音源と映像で人間の感覚を麻痺させ狂わせてしまう電子ドラッグ。
実際には噂に尾ひれがついているだけで、そこまで強力なものは存在しない。

( ^ω^) 「それだと自殺になるからな。俺も見たが、あれは自分で刺した傷じゃない」

(´・ω・`) 「すいません、わかんないです」

( ^ω^) 「だよなぁ、時間をとって悪かったな。俺は行くわ」

(´・ω・`) 「何処にですか?」

60名無しさん:2016/03/27(日) 19:39:46 ID:SoEOAtLY0

( ^ω^) 「電子ドラッグと言ったか。
        俺はそっちの専門じゃないからよくわからんが、
        パソコンは端から関係ないと切って捨てていたフシもある。
        もう少し調べてみるさ」

武雲は立ち上がって部屋を出ていった。
一人残された諸本が煙草を吸っていると、遅刻ギリギリに茂羅が入ってきた。
薄い縦のストライプが入った紺色のスーツに、濃い赤のネクタイ。
髪はワックスでバッチリと決め、いつも以上に身だしなみを整えていた。

(´・ω・`) 「おい、茂羅。今日はデートか?」

( ・∀・) 「え、はい」

(´^ω^`) 「そうか、仕事が来たら振ってやるよ」

(; ・∀・) 「やめてくださいよ! 嫌がらせじゃないですか」

(´・ω・`) 「悪いな、家で嫁さんが待ってるんだ。今日は娘の誕生日なんでな」

( ・∀・) 「この前奥さん出て行ってるって言ってたばっかじゃないっすか」

61名無しさん:2016/03/27(日) 19:40:42 ID:SoEOAtLY0

(´・ω・`) 「そうか死ね」

( ・∀・) 「冷たいっすね。あとなんでこんな甘い臭いするんですか」

(´・ω・`) 「さっきまで武雲さんがいたからな」

( ・∀・) 「ああ、っと電話ですよ」

(´・ω・`) 「お前が出ろ」

特対課の電話は基本的にすべて出実がとっていた。
常に課にいることもあり、出実以外への用件は携帯にかかってくるからだ。
依頼された仕事の振り分けも出実のその時の気分である。

必然的に一番若い茂羅、そしてその次の毒男に仕事がまわされることが多い。
かつて一度だけ文句を言った茂羅は、その半期の人事評価を下げられてボーナスが棒引きされた。
その仕返しに劇物を持ち込んで大喧嘩寸前になったところで武雲が間に入り、事なきを得たのだが。

( ・∀・) 「あーはい、特対課です。あ、自分は茂羅です。え? デミさん?」

62名無しさん:2016/03/27(日) 19:41:44 ID:SoEOAtLY0

横目で諸本を確認する。

(´・ω・`) 「休みだ」

( ・∀・) 「休みだそうです。え、あ、はい。ちょっと待ってください。
       諸本さん、テレビつけろって部長からです」

(´・ω・`) 「ったくめんどくせぇなぁ……」

机の上に置いてあったリモコンの電池は切れており、しぶしぶテレビの前まで向かった。
テレビの電源ボタンを押して映ったのは臨時ニュース。
どのチャンネルに変えても同じ内容が放映されていた。

( ・∀・) 「適当に見終わったら今いる全員で会議室にこい、だそうです」

(´・ω・`) 「……」

受話器を置いて茂羅もテレビが見やすい場所に移動した。
防犯カメラの映像を見やすいように編集した動画は、画面越しでも伝わるほどの激しい光と音を放つ。
崩落していくのは百五十年の歴史を誇るヴィップ裁判所。

砂煙を立ち昇らせて、わずか数秒で瓦礫の山へと変わった。

63名無しさん:2016/03/27(日) 19:44:29 ID:SoEOAtLY0

(´・ω・`) 「茂羅、行くぞ」

( ・∀・) 「はい」

テレビをつけっぱなしにして二人は会議室に向かう。
特対課の部屋から出て廊下を真っ直ぐ進み、エレベーターに乗り込む。
庁舎内はいつにもまして慌ただしく、会議室もまた今までになくひっ迫していた。

(´・ω・`) 「特対課、諸本入ります」

( ・∀・) 「同じく特対課、茂羅入ります」

受付に立っている若手に声をかけて中に入った。

( ´_ゝ`) 「お、やっと来たかハゲタカ」

(´<_` ) 「相変わらず遅いな」

瓜二つの男達はタブレットを操作しながら悪態をつく。
騒がしい会議室の中、それを聞きつけた諸本は二人の後ろを通った時に椅子を軽く蹴飛ばした。
ガタイのいい諸本に蹴られたせいでバランスを崩した男は、隣のもう一人を巻き込んで派手に倒れた。
何人かが手を止めて音の出所を探すが、すぐに元の作業に戻る。

64名無しさん:2016/03/27(日) 19:45:09 ID:SoEOAtLY0

(#´_ゝ`) 「てめっ……」

(´・ω・`) 「おっと、すまない。足が長くてな」

( ・∀・) (やっぱこの人性格悪いわ……)

(´<_`#) 「落ち武者野郎……」

(#´・ω・`) 「あぁ!?」

三人が火花を散らす中、茂羅は無視して適当な席に座った。
サイバー課の流石兄弟と諸本は顔を合わせる度に喧嘩をしている仲であり、
会議室にいる他の面子は誰も止めに入らない。

そればかりか煽る者もいる始末。

从 ゚∀从 「やれー! 流石兄弟! 残った髪もむしってやれ!」

捜査一課きっての実力を誇る高岡葉音が流石兄弟に声援を送れば、

('、`*川 「生意気な双子を締め上げてやりな」

薬物課の女傑、伊藤紅須が諸本の背を押す。

65名無しさん:2016/03/27(日) 19:46:17 ID:SoEOAtLY0

周囲の熱気が会議室内満ち、その中心で二人対一人が睨み合う。
会議室が危うくリングになりかけたところで、ようやく静止がかかった。

/ #,' 3 「馬鹿者! さっさと席につけ!」

警察庁 刑事局 局長、荒巻龍。
ヤクザと勘違いされそうなほど鋭い目つきと、年を取ってもなお衰えない肉体に多くの者が畏敬を念を抱いている。
龍じいと呼ばれ、曲者ぞろいの刑事局を纏めている叩き上げ。

/ ,' 3 「大規模なテロがあったのは皆既に知っていることと思う。そして同時に、まだ皆が知らない事実が一つ。
     テロがあった少し後の時間に、郵便局から届いたものだ。
     ふざけたことに、最寄りの郵便局の消印が押してある」

荒巻が掲げた手紙は、コンビニで売っているような封筒。
住所も郵便番号もなく、宛名に警察庁の荒巻殿へとだけ書いてあった。

/ ,' 3 「この手紙の差出人の目的は、囚人の解放だ。
     十三年前に儂が壊滅させたはずの組織。ゲ=ハの残党と思われる」

会議室がざわつく。
今は伝説となっているゲ=ハ戦争。その終止符を打った立役者であったからこそ、荒巻は今の地位にいる。
当時も警察組織に所属していた者達は皆一様に俯いた。

66名無しさん:2016/03/27(日) 19:47:31 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「ゲ=ハ戦争っすか……」

(´・ω・`) 「お前いたのか」

( ・∀・) 「入ったばっかりの若手でしたけどね」

(´・ω・`) 「俺もそんなに変わらねぇよ」

/ ,' 3 「今回のような大規模なテロを起こせるほど危険な組織を、野放しにしているわけにはいかない。
     全力を挙げて犯人逮捕に繋げるぞ! 諸君らの活躍を期待する! 
     必要な情報はすべて関係各所に送ってある。対策本部の指揮は私が執る! 以上だ!」

荒巻は演説を終えると解散を指示した。
それぞれが情報を集めに自らの部署に戻っていく。
諸本と茂羅も立ち上がり部屋を出ようとしたときに、荒巻に呼び止められた。

/ ,' 3 「おい、ハゲタカ!」

(´・ω・`) 「龍じいか、その名前で呼ぶな」

67名無しさん:2016/03/27(日) 19:48:20 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「初めまして」

/ ,' 3 「お、お前さんが茂羅か。ん……? ついにハゲタカにも髪があるやつが入ったのか」

(´・ω・`) 「龍じい、話は何だ」

/ ,' 3 「相変わらず刺々しとるな。ちょっとこっちに来なさい」

荒巻が向かった先は会議室と同じ階にある小会議室の一つ。
完全防音の重い扉を開け、三人は中に入った。

/ ,' 3 「手っ取り早く本題に入ろうか。実はな、手紙にはほかにもいくつかのことが書いてあった」

(´・ω・`) 「他の事?」

/ ,' 3 「警察庁内に裏切り者がいる、と」

( ・∀・) 「……揺さぶりですか?」

/ ,' 3 「儂はそう考えておる。だが、万が一のこともある。信頼できるお前さんたちに話しておく」

68名無しさん:2016/03/27(日) 19:48:56 ID:SoEOAtLY0

(´・ω・`) 「だったらあれだけの大人数で対応しないほうが良かっただろう」

/ ,' 3 「残念ながら……体面と言うものがある。
     怪我人や死人が出なかったとは言え、裁判所の破壊はもはや全国民の知るところになった。
     それをいくら信頼できるとはいえ、お前さんたち特対課のみで事に当たらせることは出来ん。
     世間がそれを許さんだろうて」

(´・ω・`) 「で、龍じいは俺らにどうしてほしいんだ」

/ ,' 3 「特対課を名指しして宣戦布告をしてきおった。
     犯行グループと思われるゲ=ハは凶悪な集団だ。お前さんたち全員が協力して立ち向かう必要がある」

( ・∀・) 「協力ですか……」

この一大事に風邪で寝込んでいる出実と、普段朝が弱くて出勤しない毒男を思い出し苦笑いする茂羅。

/ ,' 3 「心配しなさんな、すぐに纏まる。皆、心は同じだからな」

(´・ω・`) 「……恨まれる覚えしかないな」

69名無しさん:2016/03/27(日) 19:50:59 ID:SoEOAtLY0


/ ,' 3 「善人に好かれるより、悪人に嫌われていなさい。儂の尊敬する人の言葉だ。
     さて、やり方はいつも通りお前さんたちに任せる。この事件、必ず解決しろよ」

(´・ω・`) 「了解!」

( ・∀・) 「了解!」

荒巻と別れ特対課に戻った二人は、心底驚いた。
誰よりもめんどくさがりで、誰よりも口の悪い男が一番奥の席に座っていたからだ。

( ・∀・) 「風邪だったんじゃ……」

(´-_ゝ-`) 「ったく、頭も痛ぇし喉も痛ぇ」

(´・ω・`) 「うつさないでくださいよ」

(´・_ゝ・`) 「こんな時くらい優しい言葉がかけられねぇのかお前は」

(´・ω・`) 「急に優しくなっても気持ち悪いだろ?」

(´-_ゝ-`) 「はぁ……取り敢えずニュースは見た。すぐに毒男を呼べ。これからの動きを決めるぞ」

70名無しさん:2016/03/27(日) 19:55:28 ID:SoEOAtLY0


>>


【姓名】 荒巻 龍

【読み】 アラマキ リュウ

【年齢】 58

【役職】 警視監/局長

【専門】 交渉術

【付記】 特対課の創設者。あらゆる事件に首を突っ込むため、警察庁の最終兵器との呼び声が高い。
     大雑把な性格でありながら、慎重な交渉を得意とする。
     解決してきた事件は数多くあるが、荒巻が加わった時点から犠牲者を出さないことで有名。
     唯一の例外がゲ=ハ戦争であった。


>>

71名無しさん:2016/03/27(日) 19:56:07 ID:SoEOAtLY0



('A`) 「すいません、遅くなりました」

(´・ω・`) 「ったく、連絡してから一時間は経ってるぞ」

('A`) 「朝はどうも弱くて……」

(´・ω・`) 「普通の会社ならクビだ」

(´・_ゝ・`) 「もういいだろ。……取り敢えず、今回の対ゲ=ハでプランがあるやつはいるか」

出実は課内を見回すが、誰も答えなかった。
それも当然だろう。たった一時間そこらで、危険な組織に対する手段を考えつけるはずもない。

(´・ω・`) 「とは言っても、相手方の動きが分からないとどうもできない」

( ・∀・) 「次の爆破予告とかはなかったんですよね?」

(´・ω・`) 「聞いてない。メディアも同じだろう」

72名無しさん:2016/03/27(日) 19:59:04 ID:SoEOAtLY0

リモコン片手にチャンネルを何度も変える諸本。
臨時ニュースで流される映像はどれも一時間前と同じであった。

(´・_ゝ・`) 「インターネットでも同じだ。しょうもない憶測ばっかり飛び交ってやがる」

('A`) 「正直対策しようが……ふぁ……無いですね」

大きな欠伸をして目元に涙を浮かべる毒男。
手元では瞬く間に拳銃がばらされて組み上げられていく。
銃火器の扱いに長けた毒男ならではの技能だ。

(´・_ゝ・`) 「龍じいは他に何も言ってなかったのか?」

(´・ω・`) 「……」

諸本は少しの間逡巡し、伝えることを決めた。

(´・ω・`) 「警察庁内に……裏切り者がいるかもしれないと」

(´・_ゝ・`) 「……頭が痛い話だな」

73名無しさん:2016/03/27(日) 19:59:46 ID:SoEOAtLY0

風邪による頭痛に加え、他所の課を誰も信用が出来ない状態であることを知り、出実はぼやいた。
四種類の煙が課内の天井付近で混じり合う。
誰もが無言のまま、ひたすらに煙を吐き出す。

( ´_ゝ`) 「やぁやぁハゲタカの皆さんお揃いで」

(´<_` ) 「いや待てアニジャ。ハゲタカのナンバーツーが見当たらない」

ノックもなしに特対課の部屋に入ってきたのは、先程会議室で諸本と争っていた双子。

(´・_ゝ・`) 「てめぇらか……今は邪魔すんな……」

( ´_ゝ`) 「おっと、特別な情報を持ってきたんだがな」

(´<_` ) 「優秀なハゲヤマさんはご自分で調べるそうだ」

(#´-_ゝ-`) 「……っふー……俺はコツザンだ」

('A`) 「殺りますか?」

毒男が手元の拳銃の安全装置を外す。
普段使いには邪魔になるためサプレッサーはついていない。

74名無しさん:2016/03/27(日) 20:02:17 ID:SoEOAtLY0

(´-_ゝ-`) 「やめろ、銃声で頭痛がひどくなる」

( ・∀・) 「致死性の猛毒なら用意できますよ」

(´・ω・`) 「密室で使ったら俺らも御陀仏だろうが。何の用だ流石兄弟。場合によっちゃ生かして返さねぇぞ」

並みの人間であれば腰が抜けて動けなる様な諸本の睨みにも全く動じず、
双子の兄が投げたのは何の変哲もないSDカード。

( ´_ゝ`) 「最近の事件で関係がありそうなものをピックアップしてみた」

(´<_` ) 「優秀なハゲタカの皆さんなら、それで次の襲撃地点くらい予測できるだろ?」

来た時と同じように双子は帰って行った。
嵐が過ぎ去ったかのような課内で、諸本は渡された記録媒体をパソコンに取り込み、
入っていたデータを全員分の共有フォルダーへとコピーした。

(´・_ゝ・`) 「随分丁寧に纏めてあるじゃないか」

('A`) 「オフカイ市で放火……? これがゲ=ハに関係あるのか?」

( ・∀・) 「あ、これ武雲さんが追いかけている事件っすね」

75名無しさん:2016/03/27(日) 20:04:53 ID:SoEOAtLY0

(´・ω・`) 「ええと……全部で十五件か。全部この一年以内の事件だな」

(´・_ゝ・`) 「うちが直接関わったのは……三件か」

( ・∀・) 「デミさんがこの前解決した警察庁ホームページ乗っ取り事件と、俺が解決した化学薬品工場占拠事件。
       それに、武雲さんの高層マンション密室殺人事件っすね」

(´・_ゝ・`) 「正直に言え。共通点が分かるやつはいるか。俺はさっぱり見つからん」

椅子に凭れて天井を見上げる出実。
顔を歪めているのは頭痛のせいだけではない。

(´・ω・`) 「さっぱりだ。俺はちょっと外に出て来る」

(´・_ゝ・`) 「連絡だけはとれるようにしておけよ」

(´・ω・`) 「了解」

諸本はお気に入りのコートを着て特対課を出ていった。

( ・∀・) 「今回のテロの目的ってなんなんすかね」

76名無しさん:2016/03/27(日) 20:05:28 ID:SoEOAtLY0

('A`) 「仮に事件の首謀者がゲ=ハだとすれば、恐らく目的は手紙の通りだろうな。
     刑務所に収監されているゲ=ハの指導者」

(´・_ゝ・`) 「……キングロマネスク」

十三年前のゲ=ハ戦争で荒巻龍に敗れ、捕まった男。
捕まってすぐ一審で死刑宣告を受けたが、
ゲ=ハ残党の暴走を恐れた政府が刑の執行をせずに未だに閉じ込められているまま。

( ・∀・) 「かなりやばい人だったとは聞いてますけど」

(´・_ゝ・`) 「ヤバいなんてもんじゃない。完全にイカれてる。
       ロマネスクは龍じいに捕まるまでに二回追い詰められている。
       一回目は娘と妻を炎の中に投げ込みその隙に難を逃れ、
       二回目は彼を妄信する信者五十人近くを人の壁にして逃げ遂せた」

('A`) 「三回目、民間犠牲者を出しつつも龍さんが捕まえたんでしたね。
     その時の死闘の話は聞いたことがあります。全身に八発の銃弾を受けても倒れなかったと」

( ・∀・) 「人間じゃないっすね……」

(´・_ゝ・`) 「他の事件は……エーエーバラバラ殺人事件、ナンジェイネットワーク社員の子供誘拐事件、
        キジョ役員殺害事件、ヤオイ館爆破事件……? 最近の凶悪事件ばっかじゃねぇか」

77名無しさん:2016/03/27(日) 20:06:10 ID:SoEOAtLY0
        
( ・∀・) 「でもたぶんこれ、ほとんど犯人捕まってますよね」

(´・_ゝ・`) 「武雲の事件以外は全部解決済みになってるな……」

事件名の横には詳細と、犯人確保の有無、対応した者、種々の情報が細大もらさず記入されている。
驚くべきは、今朝の会議からたった数時間でそれらの情報を纏めてきた流石兄弟の手腕。
庁内最高の情報屋とも呼ばれる所以であった。

(´・_ゝ・`) 「その通りだ。ったく……十三年もすれば衰えているだろうが、奴だけは解放しちゃいけねぇ。
       おい……ニュースを見ろ」

用意された資料を黙々と読んでいた時、つけっぱなしにしていたテレビ番組の変化に出実が最初に気付く。
ニューススタジオに足早に入ってきた男が、一枚の紙を渡してキャスターに囁いた。
それを聞いて血の気をなくした表情のキャスターは、震える声で手元の原稿を読み上げる。

「た、たった今、裁判所爆破グループのものと思われるメッセージが届きました。
 全国で流せとのことなので、さ、再生します!」

≪我々は……ゲ=ハである。このテープを聞いている諸君等は、命を無駄にしたく無ければ懸命な行動をしたまえ。
  我々の目的は、ロマネスクの解放である。この目的が聞き入れられるまでは、矛先を収めるつもりはない。
  三日以内に開放しなければ、あらゆる国の機関が我々の脅威に曝されるであろう。
  そしてもう一つ、憎き荒巻龍の首を差し出せ。
  さもなくば、荒巻龍が創設したロマネスクの敵。特定犯罪激化対策課の連中も同様に標的とする。
  以上だ≫

78名無しさん:2016/03/27(日) 20:06:47 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「…………」

('A`) 「…………」

( ・∀・) 「…………」

煙草を吸うのも忘れ、テレビに釘付けになっていた三人は、
指先に感じた熱で現実へと引き戻された。

( ・∀・) 「諸本さんに教えてあげた方が」

(;´・_ゝ・`) 「茂羅、すぐに電話しろ。毒男は武雲にだ」

('A`)( ・∀・) 「了解!」

毒男と茂羅はすぐに自分の携帯から電話を掛けた。
諸本はすぐに出たが、武雲は留守番電話に繋がっていた。

(; ・∀・) 「って大変なんですよ諸本さん、聞いてます? え? いや危ないですって! ちょっと! 話を聞いて……。
       ……切られました」

79名無しさん:2016/03/27(日) 20:07:36 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「諸本は何て言ってた」

(; ・∀・) 「自分が囮になる……って……」

(#´・_ゝ・`) 「あの馬鹿……武雲はまだ出ないのか!」

('A`) 「すいません、何度もかけてるんですが……」

(´・_ゝ・`) 「ったくどいつもこいつも。いいか、とにかくここが一番安全なはずだ。待機だ。絶対に外に出るな。
        後、お前ら家族をすぐに呼べ。ここで保護してもらう」

恨みを晴らすための犯罪は、恨んだ当人だけでなくその周囲に被害を及ぼすことがある。
その可能性を第一に考えた出実は、すぐに他の課員に家族への連絡を実行させた。
独り身一人暮らしで身寄りのない武雲には必要なかったが、諸本の家族には出実が連絡を済ませた。

( ・∀・) 「今回のヤマ、かなり厄介っすね」

('A`) 「敵がどこにいるのか全く分からない。何か少しでも頼りになるものがあれば……」

80名無しさん:2016/03/27(日) 20:08:45 ID:SoEOAtLY0

言葉を切るように携帯が鳴った。
毒男は慌てて耳に当てる。

('A`) 「武雲さんからです。テレビ見ましたか? え? いや……わかりました」

電話をしながらメールを開く毒男。
そこにはほんの五分前に武雲からのメールが届いていた。
すぐに開くように指示され、メールの添付ファイルを開く。

テキストを撮った写真にはヴィップ国の象徴的な建物が羅列されており、幾つかに日付が記入されていた。
最も早い日付は今日と同じであり、裁判所と書かれた場所の隣。

('A`) 「これは……、え、はい。わかりました。武雲さんは……武雲さん? ……切れた」

(´・_ゝ・`) 「で、あいつはなんて」

半ばあきれ顔の出実に毒男は電話の内容を報告した。

(´・_ゝ・`) 「こいつはどこから手に入れた」

81名無しさん:2016/03/27(日) 20:11:24 ID:SoEOAtLY0

('A`) 「例の高層マンション事件のガイシャのパソコンらしいです。
     ほとんどデータは入って無いみたいですけど。今から家に帰ってそのパソコンと荷物を持ってくるって」

(;´・_ゝ・`) 「キナ臭くなってきやがった。とりあえず残りの事件を全部……調べろ」

立ち上がろうとしてぐらつき、机に手をついた出実。
その音で出実が体調不良であったことを思い出した毒男と茂羅。
慌てて部屋の中に戻り、両側から支えようとした。
それを断り、出実は椅子に深く座る。

('A`) 「デミさん、少し休んどいてください。俺らがやりますんで」

(;´・_ゝ・`) 「すまん……少し仮眠をする」

( ・∀・) 「ストーブの温度上げときます。毛布か何かいりますか?」

(´・_ゝ・`) 「いや、このままで大丈夫だ。しばらく任せた……」

目を閉じた出実を残し、二人は資料を集めに向かった。

82名無しさん:2016/03/27(日) 20:11:48 ID:yu4U6OBg0
おもしろい

83名無しさん:2016/03/27(日) 20:12:11 ID:SoEOAtLY0


>>


【ゲ=ハ関連予想事件簿】
       
・高層マンション密室殺人事件

・エーエーバラバラ殺人事件

・ナンジェイネットワーク社員の子息誘拐事件

・化学薬品工場占拠事件

・ヤオイ館爆破事件

・株式会社キジョロック役員拷問殺害事件

・河川敷ホームレス暴行事件

・危険物保管倉庫襲撃事件

・原発テロ未遂

・官邸前突発デモ事

・インターネットウィルス感染事件

・ツイッター上で荒巻龍殺害予告

・暴走運転で死傷者八人

・オフカイ市、リンゴジュース屋放火事件

・警視庁ホームページクラッキング事件


>>

84名無しさん:2016/03/27(日) 20:14:16 ID:SoEOAtLY0



武雲は高層マンションの犯行現場に来ていた。
鑑識官が少しだけ調べて特におかしいところが無いと判断したノートパソコンの電源を入れ、
適当なフォルダを開いて中を見ていた。
入っていたのは亡くなった女性の写真や、書きかけのレポート、事務資料など、当たり障りのないものばかり。

少し場所を移動しようと動かした瞬間に画面が切れた。
パソコンにさして詳しくない武雲は、焦って何度か電源ボタンを押す。
画面は暗くなったままで、何の変化もない。

( ^ω^) 「っち……」

舌打ちをしながらひっくり返してバッテリーの蓋を開けた時、一枚の紙きれが落ちてきた。

( ^ω^) 「なんだこれ……」

書いてあったのは読める単語が一つもないホームページアドレス。
そしてアルファベットと数字がランダムに組み合わされた八桁の文字の羅列。
武雲はそれがIDとパスワードだとしばらくして気づく。

抜けていた電源コードをノートパソコンに挿し直し、
両手の人差し指でゆっくりと確実に打つ。
エンターキーを押すとヤフーのトップページから切り替わった。

85名無しさん:2016/03/27(日) 20:14:48 ID:SoEOAtLY0

(; ^ω^) 「……おいおい」

ヴィップに存在する主要な建築物が書き込まれたテキスト。
その横には日付が書いてあった。
すぐさま写真を撮り、それを課のパソコンに送る。

電話を掛けようと思って携帯の画面を見ると、毒男からの着信が何度もかかってきていた。
履歴から毒男へとかけなおす武雲。

( ^ω^) 「俺だ。いや見てない。だがそれよりも、送ったメールをすぐ確認してくれ。
        ……俺は少し家に寄ったらすぐに戻る」

必要なことだけを告げ、電話を切った。

( ^ω^) 「これが本当だとすれば……次に狙われるのはヴィップ国立シンフォニーホールか……」

裁判所と同じ日付が記入されていた国立の施設。
電話案内にかけ、ホールの番号を調べてすぐに電話をかける。
携帯を押し付けた耳に休館日のメッセージが流れた。

( ^ω^) 「何が狙いだ……」

86名無しさん:2016/03/27(日) 20:15:37 ID:SoEOAtLY0

ノートパソコンを持って部屋を飛び出し、鍵をかけてエレベーターに飛び乗った武雲。
一階まで降りると近くのバス停へと全速力で走った。
息を切らしながら時刻表を指でたどり、つい今しがたバスが出発していたことを知る。

(; ^ω^) 「……ふぅ」

ライターを取り出し煙草に火をつけた。
冬の曇り空に立ち上る煙が消えていく。
それを眺めながら武雲は考え込んでいた。

( ^ω^) (今朝のテロがなぜあのOLの部屋にあったサイトに書かれていた。
       危険な組織とつながりはなかったし、履歴にも怪しいものはなかったはずだ。
       いや、それが思い込みか。デミほどパソコンを使いこなせていればそのくらいの偽装ができるのか。
       なんにせよ聞いてみないといけないか)

両手をポケットに入れながら待っていると、時間通りにバスが来た。
三駅先、シンフォニーホール前のバス停で降りる武雲。
彼の知っているホールはそのままの姿でその場所にあった。

( ^ω^) 「まだ大丈夫だったか」

87名無しさん:2016/03/27(日) 20:18:07 ID:SoEOAtLY0

休刊日の為か、付近に人の姿はない。
ホールの正面入り口が見える場所で立つ武雲。
怪しい人影が出入りすることもなく、一時間ほどが経過した。

身も骨も凍るような寒さの中、暖の代わりに吸っていた煙草も切らして手がかじかんでくる。
缶コーヒーでも買いに行こうと背を向けた瞬間、爆音と共に、シンフォニーホールが倒壊した。

(; ^ω^) 「なっ……!」

沈黙した瓦礫の中を駆け抜け、見渡しのよくなった広場を見回す。
逃げ去る怪しい者の姿はない。
音を聞きつけた野次馬が一人また一人と集まってくる。

(; ^ω^) 「くそっ……」

あらかじめ仕掛けていた爆弾による犯行の可能性も考え、武雲は早々に引き上げた。
そこからバスと電車を利用して自分の家に帰り、テレビをつける。
案の定、野球中継や他の番組が軒並み中止や延期になっており、
どのテレビ局も夕方のシンフォニーホール爆発事件の話題で持ちきりであった。

88名無しさん:2016/03/27(日) 20:18:42 ID:SoEOAtLY0

帰ってきて落ち着かないうちに、インターフォンが二度鳴らされる。
シャワーを浴びようと服を脱ぎかけていた武雲は、シャツのボタンだけ適当に閉めて玄関に向かった。

「宅配便です」

( ^ω^) 「あぁ、どうも」

荷物を送ってくれるような親戚もおらず、特に何か注文をした覚えがない武雲は宛先を確かめた。
それは間違いなく武雲の住所と名前であったが、送り主の欄に書いてあるのは見知らぬ企業名。
断るわけにもいかず、受け取ってサインをした。

「ありがとうございました」

( ^ω^) 「ご苦労様」

運送車に乗って去っていく青年。
取り敢えず荷物を玄関先の靴箱の上に置き、武雲はシャワーを浴びに向かった。

たっぷり三十分以上湯船につかり、テレビの電源を入れる武雲。
相変わらず同じような討論番組や、代わり映えのしないニュース番組で、
もう何回目かもわからない犯行声明文が流されていた。

89名無しさん:2016/03/27(日) 20:20:59 ID:SoEOAtLY0

( ^ω^) 「ゲ=ハ……」

かつてヴィップ国を恐怖に叩き落とした伝説的テロリスト集団。
荒巻龍によって頭を取られ壊滅したかに思われていたゲ=ハは、
丁度その時に二つ目の犯行声明文を各放送局に送ってきた。

「番組の途中ですが、ゲ=ハから再びメッセージが届きました。
 再生します」

スタジオ内に緊張がはしる。
武雲も張り付くようにテレビを見つめていた。

( ^ω^) 「……」


≪我々は本気だということが分かってもらえたと思う。
  繰り返す。期限は三日間。もし三日以内にロマネスクが解放されなかった場合、
  チャンネル国に甚大な被害を与える爆弾を起動せざるを得ない。
  それともう一つ。シンフォニーホールにどうやら鼠が紛れ込んでいたようだ。
  我々としては非常にありがたいことに、目的のうちの一つを今夜達成するであろう。さようならだ、特対課、武雲≫


(; ^ω^) 「なっ!!」

90名無しさん:2016/03/27(日) 20:22:00 ID:SoEOAtLY0

夜中、食事を終えた家族が寛いでいるような時間に、郊外にある一軒家が巨大な炎に包まれた。
轟音が平和な団欒を破壊し、男達は様子を見に家の外に向かう。
突如巻き起こった爆風で付近の外灯が砕けた区画で、たった一つの明かりとなった武雲の家。
異変に気付いた近所の住民達はすぐに消防署へ連絡し、紅く弾ける家を呆然と眺めていた。

91名無しさん:2016/03/27(日) 20:29:32 ID:SoEOAtLY0


>>


【国立ヴィップ裁判所】

歴史のある最高裁判所。
チャンネル国に最初に建てられた裁判所であるが、現在は老朽化のため使用されていない。
切り出した石を組み合わせて作った構造であり、観光スポットとして利用されている。
建設費用・維持費用で国内最大の税金がかけられていた。

【国立シンフォニーホール】

最大収容人数 8000人。 特Sクラスの席からCクラスの席まであり、価格差は何と数百倍。
講演内容は雑多であり、オペラ・オーケストラが主な利用目的であるが、
劇・サーカスなどのあらゆる用途で用いられる複合施設。


>>

92名無しさん:2016/03/27(日) 20:30:36 ID:SoEOAtLY0
10


(;´・ω・`) 「嘘だろ……」

諸本は深夜の道路を制限時速の二倍以上で飛ばしていた。
鳴り続ける携帯電話を無視して、神経のすべてを運転に費やしながら。
武雲の家まで一時間の距離を僅か二十分で走破し、事実を知った。

数台の消防車に囲まれて未だ燻っている武雲の家。
諸本が車を降りたと同時に、黒く焼け焦げた柱が音を立てて倒れた。
通報通り爆発は止まっておらず、今なお定期的に火花を挙げている。
すぐさま携帯を取り出し、頭の中に入っている電話番号を押す。

(´・ω・`) 「……俺だ」

警察庁の特対課では、茂羅が電話を取った。

(; ・∀・) 「諸本さん……どこにいたんですか! 何度も電話したんっすよ!」

(´・ω・`) 「武雲の家だ」

93名無しさん:2016/03/27(日) 20:32:30 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「……早く戻ってきてください。伝えなきゃいけないことがあります」

(´・ω・`) 「待て。武雲が無事かどうかを確認する」

( ・∀・) 「…………」

炭化した家は元の形状を一切保っておらず、無事なものは何一つなかった。
火災の憂き目から逃れていたのは、爆発の衝撃で家の外に飛び出したであろう細かな備品だけ。
特対課の証である襟章を見せたところで、テープで区切られた中に通してはもらえない。
二次災害の恐れがあるために入れないであろうことは、諸本にも痛いほどわかっていた。

( ・∀・) 「とにかく、すぐに警察庁まで来てください!」

(´・ω・`) 「……わかった」

愛車の黒いカムリに乗り込み、武雲の家を後にした。
既に消防吏員が来ている以上、明日明後日には嫌でも結果を知ることになる。
ヴィップ警察庁に向けてアクセルを踏み込む。

94名無しさん:2016/03/27(日) 20:34:25 ID:SoEOAtLY0

(;´・ω・`) 「っ……くぉっ!」

人気のない夜の街は、信号も多く視界が悪い。
突如として目の前に現れた人影を避けるために、諸本は激しくハンドルを切った。
スピードを出しすぎていたため止まることができず、車はスピンして横っ腹から電信柱に突っ込んだ。

鳴り続けるクラクションの音で諸本は意識を取り戻す。
額を抑え、大破した車から外に出る。
目にかかる暖かいものをぬぐいながら、目の前に立っている男と向き合った。

諸本と同じだけある上背。
筋骨隆々な肉体は諸本よりも一回り大きく見える。

(´Tω・`) 「……なんだお前」

( ゚∋゚) 「……」

(´Tω・`) 「ゲ=ハか」

( ゚∋゚) 「……ほらよっ」

95名無しさん:2016/03/27(日) 20:35:55 ID:SoEOAtLY0

足元をふらつかせながらも立ち上がる諸本。
突然投げられた携帯電話を何とか掴む。

( ゚∋゚) 「ゆっくり話せばいい」

男は胡坐をかいて道路の真ん中に座った。
正体不明の男の動きを警戒しながらも携帯を耳に当てる。

(´Tω・`) 「……誰だ」

川;゚ -゚) 『あなた!? あなたなの?』

(;´Tω・`) 「……空!?」

川;゚ -゚) 『ええ。よかった、あなたが無事で』

(;´Tω・`) 「今どこにいる!? 怪我はないのか?」

川;゚ -゚) 『私も、璃々も無事よ。怪我はないわ。
       車で警察署向かってたら、急に……』

(;´Tω・`) 「すぐに助けに行く」

96名無しさん:2016/03/27(日) 20:36:32 ID:SoEOAtLY0

川;゚ -゚) 『お願い、あなた。気を付けて……きゃっ』

(;´Tω・`) 「おい! 空!? 空!?」

( ゚∋゚) 「さて、終わったか。携帯を返してくれよ。高かったんだ、その機種」

地面に叩き付けて壊してやるのもあまりに小さな抵抗に思え、諸本は持ち主の元へ投げた。
目標地点を軽くずれた軌道を容易くキャッチする男。

( ゚∋゚) 「立てるか?」

(´Tω・`) 「どうするつもりだ」

( ゚∋゚) 「お前を連れていく。抵抗するなら、容赦しない。
      二人にはまだ手を出さないつもりだ。他の人間はわからんがな」

(´Tω・`) 「ふぅ……一本」

( ゚∋゚) 「なんだ?」

(´Tω・`) 「一本吸わせてくれ」

97名無しさん:2016/03/27(日) 20:38:07 ID:SoEOAtLY0

胸ポケットを探したが、中に残っていた煙草は衝撃ですべて千切れていた。
予備を入れているはずのコートのポケットにも何も入っていない。

( ゚∋゚) 「ほらよ」

(´Tω・`) 「すまないな」

煙草とライターのセットをキャッチし、一本抜いて火をつけた諸本。
胸の痛みも気にせずに深く息を吸い、胸いっぱいに煙草の煙を詰め込む。

(#´Tω・`) 「同じ銘柄を吸ってる奴とはやりたくねぇんだが……。
        妻と娘より大事なモノなんてないんでな。お前を今から殺す」

借りたものを投げ返して、それを男が受け取ったと同時に地面を踏み込んだ。
強靭な肉体で初速を得た諸本と、男が正面からぶつかった。

諸本の素早くも重い一撃を男は往なし、躱す。
力任せに見せかけての足技や関節固めの狙いは、全てはずされた。

(´Tω・`) (こいつ……ただの素人じゃない)

98名無しさん:2016/03/27(日) 20:38:47 ID:SoEOAtLY0

対峙してからの違和感の正体に、諸本はようやく気付く。
あらゆる格闘技を体験し、習得してきた諸本にとっても力の底が見えない相手。

( ゚∋゚) 「もっと恐ろしいものかと思っていたが……」

(;´Tω・`) 「ちぃっ……」

大振りの一撃をガードの上からたたき込まれ、手を緩めざるを得なかった。
両腕が痺れ、胸が強く傷む。
嫌な汗がゆっくりとこめかみをつたって流れ落ちた。

( ゚∋゚) 「無理をするな、もう眠れ」

(メ´Tω・`) 「く……」

たたらを踏んで後ろに下がった諸本に振り下ろすような拳が迫る。
辛うじて上げた腕にも力は入らず、そのまま吹き飛ばされてアスファルトの上を三メートル以上転がった。

99名無しさん:2016/03/27(日) 20:39:24 ID:SoEOAtLY0

(メ´Tω-`) 「はぁ……はぁ……っ……ごほっ……」

( ゚∋゚) 「いい加減抵抗をやめたらどうだ。殺すのは簡単だが、敢えてそうしていない」

(メ´Tω-`) 「っ!」

胸ぐらを掴まれ引き上げられる諸本。
だらりと下がった両手両足。
ネクタイが首を圧迫し、抵抗できずに諸本は意識を失った。

その瞬間、地面を削る様なタイヤ音とハイライトが二人を照らし出す。
完全に止まる前の車から飛び降りてきた毒男が、銃を構える。
遅れて運転席から出てきた茂羅も同様に、車の陰から大男に狙いをつけた。

('A`) 「動くな!」

諸本を掴んだままの男はゆっくりと声のした方向を振り向いた。
向けられた拳銃を恐れるそぶりも見せず、平然としたままで。

100名無しさん:2016/03/27(日) 20:41:01 ID:SoEOAtLY0

('A`) 「諸本さんを離せ」

( ゚∋゚) 「邪魔をするな……」

('A`) 「警告だ! 諸本さんを離せ。発砲許可は出ている」

( ゚∋゚) 「……今しばらくこの男は預けておく」

捨て台詞を残して諸本を壁にするように投げ、車のライトから外れた方向へ逃げ去った。
射線をふさがれた毒男は撃つことを諦め、男が闇の中へ走り去った方角を睨む。

( ・∀・) 「毒男さん?」

('A`) 「無理だ。こんなに暗いと当たりはしない」

地面に倒れ伏した諸本を茂羅が助け起こし、そのまま三人は警察庁へと戻った。

101名無しさん:2016/03/27(日) 20:41:52 ID:SoEOAtLY0


>>


【姓名】 神内 空/璃々

【読み】 ジンナイ ソラ/リリ

【年齢】 38/12

【付記】 神内諸本の妻と娘。諸本がタバコをやめないことにしょっちゅう業を煮やし、
     実家に帰っている。空の父親がシベリア通りのデモ事件に巻き込まれたことから
     二人の関係は始まった。当時、諸本はまだ特対課に所属しておらず、
     一般の警察官として事件の解決に尽力した。なお、出会った頃はまだ禿げていなかった。


>>

102名無しさん:2016/03/27(日) 20:45:40 ID:iOPZu4A20
面白い
髪がある頃に出会えて良かったな

103名無しさん:2016/03/27(日) 21:43:27 ID:SoEOAtLY0
11

(´・_ゝ・`) 「生きてるか、おい」

(´・ω・`) 「……残念だったな」

簡易ベッドの上に寝かされた諸本は、全身の至る所に包帯を巻かれていた。
そのせいで軽い寝返りすら打てずに舌打ちをする。
ヤニで汚れた見慣れた天井おかげで、諸本は現在地を確認できた。

時計は昼を回っており、諸本は半日以上意識を失っていたのだと気付く。

(´・_ゝ・`) 「悪いな、病院に入れてやれなくて」

(´・ω・`) 「俺は別に大丈夫です。武雲さんは……」

( ・∀・) 「武雲さんは、まだ見つかってません」

(´・_ゝ・`) 「焼けた家の中はまだ調べてない。危険物が残ってるかもしれないからな……」

(´・ω・`) 「そうですか」

104名無しさん:2016/03/27(日) 21:44:11 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「医者に診てもらったが、お前どういう体の構造してんだ。
       あれだけの事故の後、ぼっこぼこにされても打ち身と擦り傷、打撲……全治一週間だとよ」

信頼のできる医者を呼び、寝ている諸本の診療をしてもらっていた。

(´・ω・`) 「そうか……」

(´・_ゝ・`) 「妻子のことだが……すまない、俺がもう少し早く気付いていれば……」

(´-ω-`) 「気にするな。俺が必ず助け出す。必ず」

静かな室内でパソコンのメール受信音が鳴った。
出実は送り先が本部になっていることだけを確認してすぐに開く。

(;´・_ゝ・`) 「なっ……なんだこれ……」

突如として画面が真っ暗に染まり、無数の英単語が下から上に流れていく。
その内容がすぐに判断できたのは出実の能力があったからこそ。

(#´・_ゝ・`) 「くそがっ!」

キーボードをたたき壊すような勢いで打ち始める。

105名無しさん:2016/03/27(日) 21:45:03 ID:SoEOAtLY0

('A`) 「どうしたんですか」

(;´・_ゝ・`) 「くっ……話しかけるな、気が散る」

出実の後ろに回って画面を見ても、茂羅と毒男には何が起きているのかわからない。
ベッドに寝ていた諸本には尚更であった。

(´・ω・`) 「おい、何が起きてる」

(; ・∀・) 「わかんないっす……」

長々と打ち込んではエラー音が響く。
それを何度も繰り返し、出実はパソコンの回線を引き抜いた。

(´・_ゝ・`) 「舐めた真似しやがって……」

(´・ω・`) 「どういうことだ」

(#´・_ゝ・`) 「お前は寝てろっ……あーくそっ……」

106名無しさん:2016/03/27(日) 21:46:16 ID:SoEOAtLY0

絶え間なく指を動かしながら、起き上がろうとした諸本を制して、戸棚の中から幾つかのUSBメモリを取り出した。
全てのUSBポートに差し込み、中に保存してあるプログラムを起動する。
画面上を文字が踊り続けた後、うるさい位に鳴り続けるエラー音の大合唱。
それに対して何もできなかった結果、出実のパソコンは完全にその機能を失った。

(#´・_ゝ・`) 「……本部のメールを偽装したトラップだ。こんな簡単なもの踏むとはな」

状況が分からない三人に出実は説明した。
自身の失策と、想定を上回る相手の存在を。

(´・_ゝ・`) 「メールを開いたせいで添付ファイルに偽装されていたウィルスが俺のパソコンにダウンロードされた。
       常設してある特別製のファイヤーウォールは全く役立たず。
       取り敢えず線をぶち抜いたが、パソコンをオーバーワークで破壊しようとする動きに対応できなかった」

出実の机の上から発せられている焦げた臭い。
それが天才の敗北を決定的なものにしていた。

( ・∀・) 「つまり、ゲ=ハにはデミさんよりも優秀な人間がいるってことっすか」

(´・_ゝ・`) 「わからん。これだけのウィルスを一人で組んでるなら、そうかもしれん。
        特別製で予算五十万もかかったんだがな……」

107名無しさん:2016/03/27(日) 21:47:30 ID:SoEOAtLY0

('A`) 「デミさん……今度は俺のパソコンにメールが来ました」

(´・_ゝ・`) 「……見せろ」

毒男の机の前に行き、そのメールを開いた。

(;'A`) 「え?」

(´・_ゝ・`) 「俺のパソコンを破壊した以上、敵の目的は攻撃じゃない。
       ここまで出来る奴にとっては、特対課のネットワークはザルだからな」

('A`) 「えっと……これは、ゲ=ハからの……挑戦状?」

(´・_ゝ・`) 「諸本、良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい」

(´・ω・`) 「いい知らせから」

(´・_ゝ・`) 「奥さんと娘さんは生きてる。怪我もなさそうだ」

メールに添付されたアドレスに飛ぶと、動画のストリーミングが開始された。

108名無しさん:2016/03/27(日) 21:49:28 ID:SoEOAtLY0

最初に映ったのは俯きながらも、真っ直ぐ歩く女性と少女。
諸本の妻である空と璃々に間違いがなかった。

窓の外に映る景色は三階ほどの高さ。
事務所のようなただっぴろい空間の中心に二人は座らされていた。
覆面をした数人の男達が仕掛けを組み上げていく。

(´・ω・`) 「悪い知らせは」

(#´・_ゝ・`) 「じきに聞こえるはずだ」

(   ) 『待たせたね、特対課の皆さん。この通信はリアルタイムで行われているよ。
     さっきのプレゼントは楽しんでもらえたかな、出実警視長?』

露骨な煽り文句に苛立ち、出実は机の上を殴りつけた。
振動で書類の山が崩れ、床に散らばる。

(#´・_ゝ・`) 「糞が、舐めた真似しやがって」

(   ) 『さて、本題に入ろう。今ここに、諸本警視の奥さんと娘さんがいる。
      あぁ、大丈夫。何もしていないさ。悪戯好きな部下は多いが、我々はきちんと統制されている。
      この建物、見覚えは無いかな』

109名無しさん:2016/03/27(日) 21:52:39 ID:SoEOAtLY0

男が立っている位置を外れ、カメラのピントが後ろの窓に合う。
その先に見えるのは、巨大な駅。
丁度新幹線がホームに入ってきているところであった。

( ・∀・) 「ゼンレス駅っすね……」

ヴィップの交通機関の中心。
バス、新幹線、在来線などの路線が集中している国内でも相当な大きさを誇るターミナル駅。

(   ) 『ゼンレス駅の近くにある事務所の三階に彼女たちはいる。
     今から三時間後、仕掛けられた爆弾が爆発し、現状のままでは確実に死に至るだろう』

(;´・ω・`) 「すぐに……っ」

(´・_ゝ・`) 「座ってろ」

(   ) 『これは挑戦状だ。我々から、特対課の諸君への。
      ゲ=ハの誰も事務所にはいない。爆弾を無事解除できれば人質はただで救出できる。
      悪い話ではないだろう……?』

110名無しさん:2016/03/27(日) 21:55:01 ID:SoEOAtLY0

('A`) 「行ってくる」

(´・_ゝ・`) 「待て、まだ終わってない」

('A`) 「時間が無いだろ」

(´-ω・`) 「お前が行く必要はない……俺が……」

ベッドから起き上がった諸本は、苦痛に顔を歪めながら立ちあがる。

(   ) 『挑戦するもしないも自由だ。いずれこの国は我々によって破壊される。
      今死ぬのも後で死ぬのも同じことだ。さて、それでは特対課の諸君。また会おう』

(´・_ゝ・`) 「……」

警察庁から駅までは二十分もあればたどり着ける。
出実は課内にいる人間を見回す。

('A`) 「行かせてください。建物内で人質の救出。俺向きなはずです」

(´・ω・`) 「お前に迷惑をかけるわけにはいかない」

111名無しさん:2016/03/27(日) 21:58:41 ID:SoEOAtLY0

(#´・_ゝ・`) 「お前ら行くつもりかもしれんが、俺が許可を出さなきゃいけるわけねぇだろ。
         待ってない……って言うから行く? のこのこと馬鹿か。
         特殊部隊で人数かけた方が安全に決まってんだろうが」

(#´-ω・`) 「あんたは妻と娘の命を他の人間に預けろと? ふざけるな……っっつつ……」

(´・_ゝ・`) 「てめぇの怪我を治してからにしろ。良いか、俺がこの課の頭だ。
        お前ら全員の命を預かってるのも俺だ。わかってんのか」

(#´・ω・`) 「わかってねぇのはてめぇだ! 俺の命で家族が助かるんなら喜んで払うってんだよ!」

(#´・_ゝ・`) 「ガキみたいに駄々こねんじゃねぇ!」

今にも殴り合いを始めそうなほどの剣幕で睨み合う二人。
それを相手にもせず戦闘の準備をしている者も二人。

(´・_ゝ・`) 「おい、お前らも何してんだ」

('A`) 「……デミさん、手」

(´・_ゝ・`) 「…………」

あまりに強く握りしめられた出実の手は真っ白になっていた。
毒男に指摘されて僅かばかり緩む。

112名無しさん:2016/03/27(日) 22:02:11 ID:SoEOAtLY0

('A`) 「おい茂羅」

( ・∀・) 「え、なんすか?」

('A`) 「なに準備してんだ。お前が来ても邪魔だ」

( ・∀・) 「いやいやいや、爆弾ですよ? 俺の出番じゃないっすか」

('A`) 「爆発物解体くらいなら俺一人でできる」

( ・∀・) 「ガスだったら?
       映像だけじゃよくわからないですけど、火薬以外でも人は殺せますよ」

('A`) 「っち……」

(´・_ゝ・`) 「待てって……言ってるだろ。命令違反で懲戒免職にするぞ」

出実は扉を塞ぐように立つ。
その手に構えているのは黒く光る拳銃。
決して仲間に向ける様なものではないはずのそれが、毒男を真っ直ぐに捉えていた。

113名無しさん:2016/03/27(日) 22:03:27 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「助けたい人を助けることができないなら、警察官である必要はないです」

警察手帳を胸ポケットから取り出して後ろに放り投げた。
綺麗な弧を描いて出実の机の上に着地する。

('A`) 「デミさん」

(´-_ゝ-`) 「っはぁー……」

頭を抑えながら深いため息をついた。
長い沈黙を埋めようとはせず、煙草を取り出そうと持ち上げた手を元の位置に戻す。
一つずつ聞く、と前置きをする出実。

114名無しさん:2016/03/27(日) 22:07:02 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「……諸本、お前は仲間が信頼できるのか」

(´・ω・`) 「当たり前だ」

(´・_ゝ・`) 「……毒男、茂羅、お前ら他人のために命かけられるのか」

('A`) 「当たり前です」
( ・∀・) 「当たり前っす」

銀のアタッシュケースと、黒のリュックサック。
毒男と茂羅はそれぞれの荷物を持った。
それらには爆弾解体のために必要な専門の道具が詰まっている。

(´・_ゝ・`) 「・…………毒男、茂羅、諸本の妻子を救いに行け。
       タイムリミットは残り二時間五十分。頼んだぞ」

('A`)( ・∀・) 「了解!」

115名無しさん:2016/03/27(日) 22:08:14 ID:SoEOAtLY0


>>


【銀のアタッシュケース】

毒男の仕事道具。主に爆弾解体用の道具が入っている。
たまに現金を入れて運ぶ仕事をするためにも用いられる。
現金主義である毒男らしい鞄であるが、平時から盗難被害によく合う。
車の中に置いてあったのを盗まれたとき、毒男は犯人が泣いて許しを乞うまで追い詰めた。
余談だがその時中に入っていたのは、母の日のためにブローチである。


【黒のナップサック】

お洒落は欠かさない茂羅ではあるが、仕事においては効率を最重要視する。
背負って移動できるため重量物を入れても運びやすい。
スーツ姿で背負うとちぐはぐになってしまうことを本人も気にしている。
茂羅は道具を購入するのに金に糸目はつけず、登山用品の最高級ブランド。


>>

116名無しさん:2016/03/27(日) 22:09:13 ID:SoEOAtLY0
12


('A`) 「足引っ張るなよ」

( ・∀・) 「ええ、気を付けます」

ゼンレス駅が臨める三階建ての古い事務所。
十数年かけて計画開発されたヴィップ国の中心部に残る、数少ない開発前の建築物のうちの一つ。
茂羅は引き戸を開けようとした毒男の腕を掴んで止めた。

( ・∀・) 「流石に警戒しなさすぎっすよ」

('A`) 「正面玄関だぞ」

( ・∀・) 「だからこそです。敵は僕らのことをよく知ってるんですから、警戒すべきです」

('A`) 「じゃあどうする?」

( ・∀・) 「こうするんです」

茂羅は数分間かけて扉の上半分に穴をあけた。
その中に鏡を入れて、扉の周囲を確認する。

117名無しさん:2016/03/27(日) 22:10:02 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「ありましたね」

簡単なワイヤートラップ。
扉を開けると同時に爆弾を起動させる単純な罠。

( ・∀・) 「切れば大丈夫なタイプですね」

持ってきていたニッパーでワイヤーを断ち切った。
扉は何の抵抗もなく開き、毒男は正面を確認した後、足元に置いてあった爆弾に刺さったピンを抜く。

('A`) 「人の気配がないな」

( ・∀・) 「なんにせよ罠だらけです。気を付けて進みましょう」

一瞬の油断が命取りになることを、潜入のプロである毒男は勿論、茂羅も理解していた。
茂羅は片目用の不可視光ゴーグルを装着し、木張りの床を奥へと進む。
事務所の構造等の知識は頭に入れて来ており、三階まで迷うことはない。

('A`) 「っと、動くな。振動検知式だ」

118名無しさん:2016/03/27(日) 22:10:57 ID:SoEOAtLY0

地面に向けて垂れている紐とそれに結ばれた玉。それに火薬の束が繋がれていた。
少しでも揺れてしまえば、下の火薬に引火する仕組み。

毒男は仕掛けの上部だけ撃ち抜き、振動検知部を無効化した。

( ・∀・) 「無茶苦茶っすよ。火薬に当たったらどうすんですか」

('A`) 「あんまり長いこと時間をかけて作った仕掛けじゃなさそうだ。
     この程度の罠で仕留められると思うとは、甘く見られたもんだな」

(; ・∀・) 「毒男さんっ!」

('A`) 「っと……」

茂羅の声に反応して後ろへ下がる。
一階から二階へ向かう階段には、複数のセンサーが設置されていた。
爆弾には直接関係のないダミーをすべて破壊し、残ったみっつのセンサーを解体していく。

特対課のメンバーは全員が代わりのきかない特別なステータスを持っているが、
その中でも二人の得意分野は隣り合わせのように近く、共闘することも少なくない。
特に爆弾の解体においては、特殊解体チームの数倍の能力を誇る。

119名無しさん:2016/03/27(日) 22:11:44 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「これで最後ですね」

('A`) 「一階クリア、どうぞ」

毒男は片手を耳に当てて通信機の電源が入っていることを確認する。
雑音が数秒流れ、特対課で待機している出実が返事をした。

(´・_ゝ・`) 『了解。残り二時間を切った。気をつけろ』

('A`) 「了解」

二階も一階と同様に散らかった事務所。
三階へと昇るための階段には、赤外線センサーがあらゆる角度に取り付けられていた。
階段を登り切った二人の前には扉が三つあり、どれも向こう側が見えない鉄の扉。

('A`) 「どう思う?」

( ・∀・) 「一つづつ分解してたら時間足りないですね」

('A`) 「恐らく、この扉の向こうにセンサーを解除する鍵があるだろう。……真ん中にしよう」

120名無しさん:2016/03/27(日) 22:14:59 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「根拠は何っすか?」

('A`) 「勘だ。どうせ三つ全部いかなきゃいけない可能性もあるからな」

( ・∀・) 「わかりました。それじゃ、ちょっと待ってください」

鞄から聴診器を取り出してドアに当てた茂羅は、甲高い電子音を聞いた。
それは、ドアを開けることが爆弾の起動に繋がる可能性があるという事。

( ・∀・) 「何か仕掛けてますね」

毒男は両手でゆっくりと扉を触る。
上から下へと、扉を揺らさない様に注意しながら。
扉の下側にある換気口の近くで手が止まった。

('A`) 「それ、温度見れるか」

( ・∀・) 「ええ」

ゴーグルの外側のタブをいじることで設定を変える茂羅。
オレンジ色の毒男の人影と、青色の扉。
毒男が指をさしているところだけが、扉とは若干異なった色をしていた。

121名無しさん:2016/03/27(日) 22:16:02 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「そこで間違いないです」

('A`) 「さて、扉の向こうに爆弾。起動条件、爆発規模は不明。
     しかも制限時間有。難しい問題だな」

( ・∀・) 「電気で回路をショートさせるのはどうっすか」

('A`) 「そういう方法もあるが、回路が見えない段階で使うべきじゃない。
     さっきみたいに扉に穴を開けるのは難しいだろうしな」

( ・∀・) 「ガラスならともかく、鉄板だとかなりの時間がかかりますね。
       いっそのことヘリで屋上から来ればよかったかもしれません」

('A`) 「俺らがゲ=ハの思惑に乗ってる内は人質も無事だろうが、
    そういう事をすればどうなるかわからん。両隣の部屋も一応見ておくか。
    お前は向こうを頼む」

階段を背に右側を茂羅が逆を毒男が向かう。
二手に分かれてそれぞれの扉を調べ、五分も経たないうちに二人とも真ん中の扉まで戻ってきた。

( ・∀・) 「こっちの扉は見た目何にも無さそうでした」

('A`) 「俺の方は火薬のにおいが隙間から漏れ出してやがった。
     わかっちゃいたが、かなり不利だな」

122名無しさん:2016/03/27(日) 22:16:57 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 『二階はどうなってる』

毒男と茂羅の無線に本部からの交信が入る。
映像の通信は常にオンになっているが、赤外線等は映らないため状況が伝わりにくい。

('A`) 「正直よくないですね」

(´・_ゝ・`) 『構造上、二階は三部屋に分かれているはずだが』

('A`) 「三階に行くための階段にはありえない量の赤外線センサー。
    扉の向こうで管理してるでしょうね」

(´・_ゝ・`) 『突破できそうか? 無理なら別の手段を考える』

( ・∀・) 「毒男さん、この辺の壁なら抜けるでしょうね。ボードが二枚程度ですから」

('A`) 「特対課に所属している俺らが出来なきゃ、誰にもできないですよ」

(´・_ゝ・`) 『ふん……生意気言うようになりやがって』

茂羅は持ってきた携帯工具で壁の一部をくりぬく。
細いカメラを通し、扉の向こうを見ていた。

123名無しさん:2016/03/27(日) 22:17:39 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「振動検知センサーが三つ。赤外線等は無し。机の上に幾つかの爆弾有り。
       後ろのガラスも同じようになってます。狙撃や窓からの侵入は無理でしょうね。
       机の上に目立つようにパソコンが置いてます」

('A`) 「なんだ、思ったより大したことないな」

開口部を広げ、金属製のフレキシブルアームを二本差し込む。
先端に着いた鋏で、カメラの映像を見ながら振動センサーを無効化していく。

( ・∀・) 「流石っすね」

('A`) 「よし、開けろ」

三つを完全に無効化してから、扉をゆっくりと開く。
机の上に置いてあったノートパソコンは、ご丁寧にエンターキーを押すだけで解除するように設定できていた。
ただし近寄ることが出来れば、だが。

( ・∀・) 「これ全部火薬か……」

('A`) 「冗談だろ……」

両隣の部屋との壁は雑に抜かれ、黒い砂で埋め尽くされていた。
硫黄の臭いが二人の鼻へ届く。

124名無しさん:2016/03/27(日) 22:18:35 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「黒色火薬っすね」

臭いで火薬の種類を判別する茂羅。

('A`) 「スプリンクラーが生きてると思うか?」

( ・∀・) 「無理っすよ。禁水性の物質があったらどうするんですか」

奥の机に至るまでの全ての足場が火薬まみれになっており、足の踏み場は無い。

('A`) 「下に何が隠れてるかわかったものじゃねぇ……糞が」

(´・_ゝ・`) 『残り一時間だ。急げ』

爆弾解体のプロであるがゆえに、複雑な爆弾一つを時間をかけて解体することには慣れている二人も、
単純な仕掛けをいくつも解除することに挑戦したことはなかった。
当然、後者のパターンには人数をかけられる爆発物処理班が充てられるからだ。

( ・∀・) 「パソコンを壊したらどうなりますかね」

(´・_ゝ・`) 『爆発物に直接接続されているかはわからないが、
       信号が消えた時点で起爆させるような仕組みは簡単に作れる』

125名無しさん:2016/03/27(日) 22:19:56 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「パソコンを壊したらどうなりますかね」

(´・_ゝ・`) 『爆発物に直接接続されているかはわからないが、
       信号が消えた時点で起爆させるような仕組みは簡単に作れる』

('A`) 「それにここからじゃ、後ろのガラスごとうちに打ち抜いちまう。
     そっちから無線でコントロールは……できねぇだろうな」

(´・_ゝ・`) 『当然、オフだろうな』

('A`) 「っし……茂羅、サポートしろ。天井固定で行く」

( ・∀・) 「了解っす」

毒男は手近な机の上の火薬を払い落とし、ゆっくりと机の中身を確認する。
その中に何も入っていないことを確認した後、上に乗った。
さらに天井にワイヤーを固定し、十分に張り詰めたことを確認してぶら下がる。

('A`) 「次の寄越せ」

126名無しさん:2016/03/27(日) 22:20:58 ID:SoEOAtLY0

茂羅が投げ渡したセットは天井固定用の金具。
簡易のバッテリーが内蔵され、対象に三本のビスをねじ込み固定する。
ドライバーは不要で、ある程度の荷重を支えることができるようになる。
一つずつ確認しながら、部屋の奥、窓際にあるパソコンまで近づいていく。

( ・∀・) 「届きますか?」

('A`) 「もう一つだ。身体の向きを変える」

パソコンの頭上まで進み、固定具を二つ。
それぞれにワイヤーを通し、毒男は体の向きを入れ替えた。
頭を下にして、脚を固定する。
両手をフリーにしてパソコンを触り始めた。

('A`) 「デミさん、指示を」

(´・_ゝ・`) 『ゲ=ハがなめた真似しやがって。見る限りはエンターキーだけ押せば解除されるだろうよ』

('A`) 「まあやっぱりそうですよね。パソコンのことはあまり詳しくないので。
     これの意味すること程度ならわかりますが」

逆さになりながら人差し指でエンターキーを押した。
茂羅が背後の階段を確認すると、全てのセンサーが消えていた。

127名無しさん:2016/03/27(日) 22:21:41 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「毒男さん、オッケーです」

('A`) 「今戻る」

固定したワイヤーを手繰って軽快に戻ってくる毒男。
無理な体制を続けていたにも拘らず、息一つ乱れていなかった。

三階に昇った二人は扉を開けて部屋に入る。
事務用品などは何一つなく、天井に防火シャッターだけを残した部屋。
中心の椅子には電極を腕に張り付けた二人の姿があった。

( ・∀・) 「怪我はありませんか」

川;゚ -゚) 「お願いします、私はいいので、娘だけでも」

⌒*リ´;-;リ 「ママぁ……」

('A`) 「どういうことですか」

128名無しさん:2016/03/27(日) 22:22:24 ID:SoEOAtLY0

≪三階到達おめでとう≫

錆びれたスピーカーから、犯行声明と同じ声が聞こえてきた。
扉を開いた数十秒後に再生されるように設定されていたのか、音声はあらかじめ録音されたもの。

≪二人の電極は爆弾と繋がっている。
  爆弾は二つの異なる心音データが送られている間だけ爆発しない設定になっている。
  つまり、外したままにすればすぐに爆発する≫

(;'A`) 「っ……!」

≪そしてもちろん、時間制限でも爆発する。
  何時にこのメッセージを聞いているのかはわからないが、午後五時丁度に設定してある≫

(; ・∀・) 「残り五十分……」

≪ものは彼女たちの後ろに見えるかな。爆発の規模は小さなものだ。周りの心配はしなくていい≫

(#'A`) 「ふざけやがって」

(#・∀・) 「下の階の火薬が爆発してれば結構な被害が出たはずだ」

129名無しさん:2016/03/27(日) 22:23:31 ID:SoEOAtLY0

≪っと、話しすぎたな。最後の勝負だ。楽しんでくれたまえ≫

スピーカからはそれ以上何も聞こえなかった。
音声が終わった度同時に、背後の扉で上から聞こえた閉まる音。
すぐに茂羅が確認しに戻り、何度も蹴るが扉はピクリとも動かない。

その間に毒男は二人の後ろに合った爆弾を確認していた。
時限装置が残りの時間を刻んでいる黒い金属製の箱。
外側のねじを外し、外装をはがす。

('A`) 「茂羅、これなんかわかるか」

背後で銃撃の音をさせている茂羅に向かって叫ぶ。
扉の錠を破壊した茂羅が、足元にあった爆弾の中を確認する。

(; ・∀・) 「…………」

金属の箱に入っていたのは複雑な回線と、小さなガラス瓶。
中身は琥珀色の液体で満たされていた。

(´・_ゝ・`) 『おい、茂羅。何があった』

130名無しさん:2016/03/27(日) 22:24:43 ID:SoEOAtLY0

(; ・∀・) 「……VXガス」

('A`) 「聞いたことがあるな」

(; ・∀・) 「もっとも強力な毒性ガスのうちの一つです。
       皮膚や呼吸から体内に吸収される神経ガスで」

('A`)  「つまり」

茂羅の説明を遮った毒男。
言葉の意味は解らないまでも、二人の表情から空はそれがどれほどの危険物かを知った。

('A`) 「こいつが爆発したら……いや、それで扉は空いたのか」

( ・∀・) 「ええ、錠前に何発かぶち込んでやりました」

('A`) 「奥さん、聞いてほしい。今からその電極を一瞬はがし、俺と茂羅に張り替える。
     二人は走ってこの事務所から出てください」

川 ゚ -゚) 「……娘だけを」

その願いを茂羅ははっきりと断った。

131名無しさん:2016/03/27(日) 22:26:39 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「あなたたちの命を、俺たちは諸本さんから預かってきてます。
       時間があまりありません。言う事を聞いてください。
       心配しないでください。俺たちは御主人と同じ特対課です」

川 ゚ -゚) 「…………」

('A`) 「茂羅、準備はいいか」

( ・∀・) 「ええ」

('A`) 「奥さん。電極をはがしたら娘さんを連れて走ってくださいね。1、2,3!!」

毒男と茂羅が同時に電極をはがし、それを合図に二人は走って行った。
すぐに自分たちに張り付け、爆弾の変化を確認する。
表示は何一つ変わらず、二つの心電図の波形が変化したことの影響はない。

('A`) 「っふー……さて、取り掛かるぞ」

( ・∀・) 「了解」

132名無しさん:2016/03/27(日) 22:27:40 ID:SoEOAtLY0

様々な事態に対応できるように持ってきた道具を全てひろげた。
最初に毒男が全体構造を確認し、床に書き込む。
茂羅はそれに書き足すように電子回路の制御図を描く。
たった一つの過ちすら起こさないよう可能な限り緻密に、正確に。

(´・_ゝ・`) 『残り四十分』

図を書き終えた二人は、工具でもって一か所ずつ分解し始めた。

('A`) 「茂羅、そっち持ってろ」

( ・∀・) 「はい」

一ミリのずれもないように神経を研ぎ澄ます。
白い線を何本か切ってから工具を置いた。

( ・∀・) 「これで遠隔操作部らしきものは外しましたね」

('A`) 「まだメインの解体が終わってない。油断するなよ」

複数のリード線でバイパスをいくつも作り、解体していく。
不必要な配線を軒並み片付けた所で、ようやく一段目のカバーを外すことができた。
時限装置は一番底に仕舞われており、まだ届かない。

133名無しさん:2016/03/27(日) 22:28:22 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「一つ聞きたいんですけど」

('A`) 「なんだ」

( ・∀・) 「……やっぱいいです。さっさと終わらせて飲みに行きましょう」

('A`) 「ああ。そっち、外せ」

二段目の解体は遅々として進まなかった。
組み上げられた時点であちこちが固定されており、それを外すことに手間取っていた。
ハンドドリルで固定部を削る作業は、二人の神経を徐々に犯していく。

( ・∀・) 「……」

('A`) 「……」

無言で作業をしながら茂羅は腕時計を見る。
二時五十分を針がさす。本部からの通信は全く無い。

134名無しさん:2016/03/27(日) 22:29:09 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「……」

二段目のボックスを取り外し、ついに時限装置が露になった。
毒男は手を動かすのをやめて、胸ポケットに手を伸ばす

('A`) 「なぁ、お前」

( ・∀・) 「何ですか。こんな時に」

茂羅は煙草を吸いだす毒男を止めず、配線を幾つか切った。
タイマーは未だ止まらず、無常に時を刻む。

('A`) 「吸えよ」

( ・∀・) 「……今は気分じゃないんで」

底部に合った水銀スイッチを取り外した。
振動を気にする必要がなくなり、ペースが上がっていく。

('A`) 「ふぅー……」

長い煙を吐き出す。
それは空中をしばらく漂ってから消えた。

135名無しさん:2016/03/27(日) 22:30:30 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「毒男さん……手伝ってください」

('A`) 「…………」

さらに三本の線を断ち切る。
残されたのはカラフルな線は十本ほど。

('A`) 「茂羅」

(#・∀・) 「毒男さん!」

殆どすべての解体が終わり、茂羅の手が止まった。
残っているのは溶接で固定されたボックスの中に導かれた複数本のリード線。
貫通した時に断線させてしまう可能性があるせいで、電気ドリルで穴をあけることはできない。
腕時計の針が示す時間は、残り三分。

('A`) 「なぁ、茂羅」

( ・∀・) 「なんですか」

('A`) 「その電極をよこせ」

136名無しさん:2016/03/27(日) 22:31:12 ID:SoEOAtLY0

( ・∀・) 「爆弾を起爆させないためには二人分の鼓動が必要なはずです」

('A`) 「大きな傷口があれば多少は騙せるだろ。
     たった数秒だろうが、防火シャッターをくぐるくらいの時間はあるはずだ」

(#・∀・) 「嫌です。それなら同時にはずして走りましょう」

茂羅にはわかっていた。
爆弾に繋がれた火薬の量と、VXガスの致死性を考えれば、万に一つも助からないであろうことを。
そして当然、そのことに毒男も気づいていた。

('A`) 「いいか、俺の話を聞け」

(#・∀・) 「なんで、毒男さんがそんなことする必要があるんですか。たった数年間働いただけじゃないですか。
       一緒に行動したことだって殆どないのに」

(#'A`) 「わかるだろうが。めったにない先輩の命令くらい聞け」

(; ・∀・) 「っ……!」

('A`) 「俺の合図で走れよ」

(; ・∀・) 「毒男さんっ!」

137名無しさん:2016/03/27(日) 22:35:18 ID:SoEOAtLY0

その気になった毒男を茂羅が止めることは出来ない。
戦闘経験において彼我の実力差は圧倒的だからだ。
流れるような動作て取り出した銃は、ごく自然に天井に向けられる。

毒男はほとんど狙わずに天井のスプリンクラーを打ち抜いた。
けたたましいベルの音が鳴り、ゆっくりと防火シャッターが下りて来る。
水が爆弾にかからないように体で傘をしながら毒男は待つ。

シャッターが人ひとり分ほどまで狭まった時、左足を三カ所打ち抜いた。
静かな発砲音とは対照的に、真っ赤な血液が激しくあふれ出す。
水浸しの床に拡がっていく。

(#'A`) 「よこせっ!!!」

茂羅の腕についた電極を無理やりはがし、傷口に押し当てた。
それを合図に走って僅かに空いた隙間をくぐり抜け、扉に手をのばす。
後ろを振り向かずに、そのまま一階まで走り抜けた茂羅。
爆発した音は聞き取れなかった。

何も考えずただひたすらに走る。現実から逃げるために。

138名無しさん:2016/03/27(日) 22:35:56 ID:SoEOAtLY0


>>


【毒男 & 茂羅】

特対課の中で最もともに活動することが多い二人。
銃火器と危険物という重なるところも多いそれぞれの専門分野を持っているためである。
また二人ともが課内でパシリとして先輩に使われているため、割と結束している。
達成した任務は数えられないほどあるが、二人を有名にしたのは、
ヴィップグランドホテル立てこもり事件。
最上階である55階まで階段で登り切って、犯人を確保。
巨大な爆弾を僅か十分で解体した。死傷者はゼロ。


>>

139名無しさん:2016/03/27(日) 22:39:12 ID:SoEOAtLY0
13

(  ∀ ) 「……」

(´・_ゝ・`) 「少し休んで来い」

(#・∀・) 「休めるわけがないでしょう! 今すぐゲ=ハを皆殺しに……っ!」

頬に強い衝撃を受け、茂羅は課内の壁に叩き付けられた。
出実に殴られたということに気付くのには時間がかかった。

(´ _ゝ `) 「いいから、休んで来い」

起き上がることすらできず、壁にもたれていた茂羅を出実は引っ張り起こす。
その背を押された茂羅は何も言わずに仮眠室へと歩いていった。

(´-_ゝ-`) 「はぁ…………」

特対課から犠牲者が出た事実が重く出実の肩にのしかかる。
毒男と茂羅が現場に出ることを判断したのは出実だった。その責を負わないわけにはいかない。
諸本は保護された妻とは合わないままに、無言で横になっていた。

140名無しさん:2016/03/27(日) 22:40:08 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「武雲、俺はどうすればいい……」

呟きは煙草の煙と混じり合う。
武雲の家では断続的爆発が繰り返しており、未だに消防が立ち入りできていない。
流しっぱなしのテレビで、新たな犯行声明が流れていたが、出実の頭には入ってこなかった。

≪我々は大いに喜んでいる。これで二人目の特対課を処分できたことを。
 そろそろ国も重い腰を上げてロマネスクを解放せざるをえまい。
 起源は明日までだ。もしも明日までに解放されなければ、国中が火の海になるであろう≫

国立の建物へのテロは止まらず、武雲が送ってきた情報通りに爆破が起きていた。
ほとんど怪我人が出ていないのは、ゲ=ハの気分に過ぎない。
死者がいつ出てもおかしくない状況に、警察は相当な圧力を受けていた。

(´・_ゝ・`) 「……」

/ ,' 3 「入るぞ。お前、何腑抜けた顔してやがる。ちょっと顔洗って来い」

ノックと同時に部屋に入ってきたのは、特対課の創設者である荒巻龍その人。
荷物を抱えたままの二人の若手を連れて、出実の前に立つ。

141名無しさん:2016/03/27(日) 22:40:47 ID:SoEOAtLY0

(´・_ゝ・`) 「……龍じいか」

/ ,' 3 「聞こえんかったのか、ドアホ。顔を洗って来いと言ったんだ」

椅子に座ったままの出実の首元を掴み、課内の給湯スペースまで投げ飛ばした。
机の上の資料、花瓶、全てをひっくり返して、出実の身体は流し台にぶつかった。

(#´・_ゝ・`) 「ってぇな」

/# ,゚ 3 「おい、三度目はねぇ」

恐ろしい剣幕で睨みつけられ、出実は渋々顔を洗った。
湯沸かし器から吐き出された水が湯気を立ち昇らせる。
いつ変えたのかもわからないようなよれよれのタオルで顔を拭く出実。

/ ,' 3 「少しは目が覚めたか」

(´・_ゝ・`) 「何の用ですか」

/ ,' 3 「はん、顔を拝みに来てやったのよ。いいか、良く聞け」

142名無しさん:2016/03/27(日) 22:41:38 ID:SoEOAtLY0

荒巻は年老いて皺が刻まれてもなお力強い拳を出実の胸元に突き付ける。

/# ,' 3 「部下を殺すような上司はクソッタレだが、自分が殺した部下の気持ちがわからない奴はもっとクソだ。
     お前は、意思疎通もできてない奴を死地に送り込んだのか? 違うだろうが!」

(#´・_ゝ・`) 「部下の気持ちが分かったところでなんだ! 俺が殺したことには違いない!」

/ ,' 3 「なんだてめぇ、死んだ部下に謝りたいのか。だったらとっとと死ね。あの世で会えるもんなら会ってこい」

(´・_ゝ・`) 「は……?」

/ ,' 3 「毒男は、何を思って死んだ。それを知ってやれ。できるなら、かなえてやれ。
     それが部下を殺した上司のとる責任だ」

(´ _ゝ `) 「俺の……責任」

/ ,' 3 「一つだけ教えてやる。国はロマネスクを解放するつもりはない。
     上の能無し共はゲ=ハがどれほど強力だとしても、国を破壊することなんでできないと考えている。
     儂はそうは思わねぇ。あいつらを止められるのは特対課しかない。……わかってんだろ。
     気持ちが戻ってきたら連絡してこい」

荒巻は固く握った拳を崩し、手のひらを出実の肩の上に置く。
二、三度柔らかく叩いて荒巻は特対課を後にした。

143名無しさん:2016/03/27(日) 22:42:26 ID:SoEOAtLY0

(´-_ゝ-`) 「毒男が……何を思ったか……」

無口で人づきあいが苦手な男だった。
飲み会でも端の席に座り、一人で延々と飲んでいるような。
本心を口にしない、冷めた男だと最初に会った時に出実は思っていた。

数年後、ようやく会話に入ってくるようになった。
共に過ごした任務は少なかったが、少しずつ、考えていることが分かり始める。

酒を一人で飲むのは、大騒ぎをする人間が苦手だから。
話をしないのは、口下手だから。

仕事には手を抜かなかった。
銃の整備は欠かさず、課内の机の上はいつも油がこびりついてた。
朝が弱くとも、任務は必ず行い、そして必ず達成すること。

茂羅が入ってきて、少しは先輩らしく飯に連れて行っていたことも、
二人で酒を飲みに行っていたことも知っていた。
母親思いで、母の日には課の人間に内緒で花を買って帰っていた姿を諸本に見つかり、
次の日散々からかわれて一ヶ月も姿を見せなかったこともあった。

144名無しさん:2016/03/27(日) 22:43:16 ID:SoEOAtLY0

最後の決断をした時の毒男のことを出実は考える。

自分よりも若い茂羅を生かしたいと。
出来るならば、仇を取ってもらおうと。
そして、母親への謝罪と。

出実の考えが合っているどうかはもはやで確かめようのないことである。

それでも、止まってしまった足を再び前に出すためには必要なことであった。
独り善がりな理由づけだったとしても。
出実は深く息を吸って課の電話を取る。
かける先は決まっていた。

どんな逆境でも諦めることを知らない鋼の男。
出実を特対課に引き抜いた頼れる警察庁の親父。

/ ,' 3 「俺だ。随分と気持ちが変わるのが早いじゃねぇか」

(´・_ゝ・`) 「あんたのおかげですよ」

/ ,' 3 「生意気言いやがって。とりあえず今日は休め。明日の朝一に儂の用意できるだけの人材を送り込む。
     解決しろよ」

(´・_ゝ・`) 「勿論だ」

145名無しさん:2016/03/27(日) 22:45:24 ID:SoEOAtLY0


>>


【ゲ=ハ】

チャンネル国内で最も大きな事件を起こした信仰宗教。
組織内にさらに二つの派閥が存在し、お互いにいがみ合っている。
国家の完全なる支配を目的とし、二十年ほど前に結成された。
十三年前に指導者が捕まったせいで、それ以降目立った活動はなされていない。
会員の規模は数万人以上ともみられ、海外にも多数の信仰者がいる。


>>

146名無しさん:2016/03/27(日) 22:46:35 ID:SoEOAtLY0
14


从 ゚∀从 「おいおい、いつまで寝てやがる」

まだ日がでるか出ないかの頃、特対課の扉を開ける男がいた。
白髪銀目で乱雑に制服を着た男は、真っ直ぐと正面の机に向かう。

(´・_ゝ・`) 「……誰だ」

从 ゚∀从 「もう朝日が昇ってんのかと思ったぜ。ったく、勘違いさせるような頭しやがってよ。
        高岡葉音。捜査一課から荒巻のじいさんに呼ばれてきた」

(´・_ゝ・`) 「捜査一課……?」

从 ゚∀从 「おいおいおい、警察庁捜査一課の鬼高岡を知らないってか。モグリかよ」

( ´_ゝ`) 「っと、先客がいたようだな」

(´<_` ) 「よう、手伝いに来てやったぜ、感謝しな」

从 ゚∀从 「流石兄弟か……」

147名無しさん:2016/03/27(日) 22:47:29 ID:SoEOAtLY0

( ´_ゝ`) 「龍じいに言われちゃあ仕方ねぇ」

(´<_` ) 「ハゲタカに恩を売っとくのも有りだ」

二人は台車に乗せて巨大なデスクトップを持ってきていた。
勝手に机の上に置き、コンセントをさして電源を入れる。

(´・_ゝ・`) 「次から次へと……うるさい奴らだ」

( <●><●>) 「遅れました。交通課の若田桝です」

(´・_ゝ・`) 「若田さんまで・……」

持ってきていた紙の束を広げて画鋲で止めていく。
それらは警察庁を中心としたヴィップ国の中心部の地図。
既にゲ=ハが関係すると思われる幾つかの事件が赤で印されていた。

( <●><●>) 「おや、高岡じゃないですか」

从;゚∀从 「若田さん!? どうしてここに……」

( <●><●>) 「龍から手助けするように言われてね」

148名無しさん:2016/03/27(日) 22:48:39 ID:SoEOAtLY0

齢六十を迎えた小柄な老人。
優しそうな瞳の中には芯の強い光が潜んでいた。

(#´・ω・`) 「ったく、人が寝てんのにギャアギャアうるせぇ!」

( ´_ゝ`) 「おっと、死体かと思ったぜ」

(´<_` ) 「あれだけの事故でよくその程度の怪我で済んだな」

(´・_ゝ・`) 「お前ら、いったん座れ。とにかく時間が無い。すぐにでもゲ=ハが仕掛けた爆弾を見つけなきゃいけない。
        若田さん、わざわざご足労いただきありがとうございます」

( <●><●>) 「いやはや、ここにいると昔を思い出します」

かつて特対課に所属していた若田が交通課に移動した理由は、警察庁の誰もが知っていた。
荒巻龍が沈静化させたゲ=ハ戦争で失われた警察官の数は、公式に発表されているだけでも三十五人。
それとは別に事件を解決するために命を懸けた六人の男達がいた。

あまりに凄惨な死にかたをしたために発表されていない、当時の特対課に所属していたメンバー。
生き残ったのは荒巻と若田のたった二人だけ。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板