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ガルパン みほルートGOODエンド

183名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/15(火) 21:19:22 ID:AwZbmai2

 【愛里寿ルート BADエンド】

 
 とにかく今は逃げなければ。他のことを考えている暇はない。いくら裕福な名家といってもできることには限界があるはずだ。どこかの遠く離れた田舎町にでも行って素性を隠していればきっと―――。
 そう必死でプラスの方向に思考を向けるが、同時に彼女の笑顔や寂しそうな表情が脳裏によぎる。彼女には何の罪もない。なら、彼女を救うこともできるのではないか?こうやって一人で逃げ出すのは、あの娘を見捨てることと同じではないのか?
 そんな『他のこと』を考えたせいか、目の前に黒いいかにも高級そうな車が何台も現れ、こちらの希望を蹂躙するように行く手を遮った。
 
 「やーってやーるやーってやーるやーってやーるぞー♪」

 そして、この状況におよそそぐわない呑気な調子の歌が聴こえてくる。彼女―――島田愛里寿が好んでいる歌だが、もちろんこの声の主は愛里寿ではない。

 「いーやなあーいつを……なんだったかしら?」

 歌を中断して車の後部座席から降りてきたのは島田千代さん―――愛里寿の母親にして島田流戦車道の家元。すでに周囲には屈強な黒服の男たちが控えている。なんともわかりやすい絶望的な状況だ。

 「いやねえ、あの娘に何度も聞かされたから覚えてると自分では思ってたんだけれど。この歳になるとなかなか新しいものが覚えづらくて。戦車道に関することでせいいっぱい」

 新しいもの、ではなく興味がないもの、の間違いだろう。千代さんがわざわざあの歌―――ボコられぐまのボコのテーマを歌ったのは、あの歌が愛里寿の戦車道における本気を出した際に口ずさむ癖からだろう。要するにこう言いたいのだ―――逃がさない、と。

 「だから、貴方にもあまり手を煩わせないでほしいの。こう見えて忙しいんですよ」

 頬に手を当て、笑顔を浮かべながらこちらに近づいてくる。しかし視線は鋭くこちらを射抜いており、動くことを許さない。まさに蛇に睨まれた蛙だ。

 「それにほら、あの娘も悲しむし。貴方も嫌でしょう?愛里寿が悲しむのは」

 すでに千代さんとの距離はあと二、三歩でゼロになるというところまで近づいていた。だがせめてもの抵抗でその涼しげな顔を睨み据える。確かに愛里寿を悲しませるのは本意ではないが、それでも自分の人生まで狂わされるのはもっとごめんだ。

 「んー……、困ったわねぇ」

 わざとらしく眉をひそめ、首をひねってみせる。この反応も予想通りなのだろう。
 
 「あ、そうそう。貴方のご家族やご友人、みんないい人たちね?揃って貴方のことを心配していたもの」

 ……それは、つまり。

 「わかるでしょう、その気持ち。貴方が今抱いたのと同じ感情よ。誰かを心配し、自分が身代わりになってもいい、っていうね」

 ああ、もうここまでだ。ジョーカーを切られた―――というよりは、最初からこちらには手札すら配られていなかったのだ。そんな明らかなイカサマゲームなのに下りることもできない。すべては千代さんの掌の上だ。
 無言でうなだれ、千代さんが乗ってきた車に乗り込む。もはやそれは護送車にしか見えなかった。

 「いい子ね。聡いに越したことはないわ。島田の一員になるならば特に、ね」


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