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ガルパン みほルートGOODエンド

132名前なんか必要ねぇんだよ!:2016/11/06(日) 01:54:04 ID:g4Rw9hRI
そして杏さんに言われるままにそのあとを付いていく。ほどなくして彼女の現在の住処であるアパートに到着した。想像と異なり、自分の家と大差ないごく普通のものだった。

 「ささ、どうぞ御遠慮なく」

 その言葉に従い、上がらせてもらう。中はきっちりと整理整頓されている、というよりそもそも物が少ない印象だ。

 「逆に会社のデスクは割とゴチャゴチャしてるんだけどね」

 そう話しながら買ってきたものをテーブルに広げていく。酒は缶ビールばかりなのでグラスは必要ない。

 「それじゃ、乾杯」

 缶を軽くぶつけ、口をつけて一気に喉に流し込む。普段あまり酒を飲まないのでそれだけで脳が痺れて体が熱くなるような感覚に包まれる。

 「……で、何があったのかな?お姉さんに話してごらんよ」

 優しい口調での問いかけが、酒で緩んだ心に自然と流れ込んでくる。容姿に似つかわしくない包容力を感じ、どんどん言葉と感情が溢れ出してきた。
 職場ででった女性と交際していたこと。その女性との婚約も考え、まさに今日プロポーズをしようと指輪を買ったこと。だが、まさに今日、他に好きな人ができたという理由から別れを告げられたこと。そしてその新しい相手が、同僚であり友人でもあった男だったこと―――。口に出してみれば、驚く程ありきたりな話だ。今時ドラマでもないくらいに。しかし実際に自分の身に降りかかったこの事態は、こうして飲み慣れない酒をあおり、ついさっき再会した女性に愚痴をこぼし、さらには涙を流すくらいには心を引き裂いたのだ。

 「……そっか。辛かったね。悲しかったね。大丈夫、泣いたっていいよ。それが普通だよ」

 そう言いながら、彼女はこちらの頭を抱き抱えるようにし、そのまま髪を優しく撫でた。そのあまりの心地よさに、更に感情が暴走する。もはや涙は止まる気配すらなかった。
 そして、そのぬくもりの中で彼女への認識を自然と改めた。杏さんとの出会いはまだ互いに高校生の頃だ。ひょんなことから出会い、仲を深め―――彼女から告白をされた。
 しかし、断った。その気持ちは嬉しかったものの、初めて会った頃から彼女になにか底知れないものを感じた。生徒会長として時折見せる辣腕を振るうその姿は、普段の飄々とした振る舞いと大きく乖離していた。特に二度の大洗女子の廃校阻止。それは戦車道チームを率いた西住みほの能力もあったが、そもそも試合による決着というところまで持っていけたのは杏さんの手腕によるものだと聞く。そんな並外れた能力を持ちながら平時はそれをまったく感じさせない。そんな彼女からの告白が、正直―――怖かった。こんな平々凡々な自分に好意を抱いているという。恋人になって欲しいという。その言葉を素直に信じることができなかった。そして、そんな本心を素直に伝えることすらも怖かったのだ。
 だから、嘘をついた。他に好きな人がいるから、と。その答えに彼女は

 『……そっか。なら仕方ないね、うん。残念だけどさ』

 そういって寂しげに微笑む姿に罪悪感を覚えたが、その後杏さんが大学に進学し、自然と連絡も取らなくなった。
 そして今日の再会になったわけだが、今の杏さんからはあの日恐れた底知れなさは感じられなかった。どこまでも暖かく、柔らかい。なぜあの時自分は拒絶したのか、恐怖したのか。

 「大丈夫、大丈夫。私はキミの味方だからね」

 そういって杏さんは、優しく頭を撫で続けてくれる。そのぬくもりのためか、徐々に睡魔が襲ってきた。

 「そんな人、最初からキミにふさわしくなかったんだよ。年下の子なんてさ」

 ……?振られた女性が年下だったと言っただろうか。

 「言ったよ、さっき。ほら、そんなこと気にしないで。そのまま眠っちゃいなよ」

 その言葉にさらに眠気が強くなる。感じた小さな違和感も溶けていくようだった。


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