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【俺能世界】俺が能力授けるからこの世界で戦え【新世界】Part46

51【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/19(日) 15:42:19 ID:g2ZByGYI
>>50
「どうやらすでに脳が腐っているらしいな、俺のような男が正義の味方であるものか」

悪を殺せと怨念じみた使命感と義務感が身体を突き動かしているだけの男が、どうして正義の使者を名乗れるだろう
情無く慈悲無く容赦無く、粛々と悪を切り裂くこの身はただの刀剣なれば、未知の相手であろうが互いの制空権を触れさせることに恐怖を欠片も抱きはしない
故にこそ、当然今もその剣の冴えに狂い無く、折れず曲がらぬ鋭き鋼を悪を断とうと煌めかせ──

「確かにな、認めよう、貴様は正しい。
 貴様の力の特性、運用法、それに対する対策のどれもに俺は用心をしていなかった」

──手に伝わるは肉を裂く感触ではなく硬質な手ごたえ、同時に響き渡るは鋼の残響
女の操る触腕、そのうち二つが剣を防いでいる
そして遠目からでは分からなかったが──あるいは、今白衣の内より飛び出させたのか、今見えているだけでも触腕の数は3対6本
これがすべてかはわからないが、断言できることはただ一つ、あの段階から後の先を取って防がれた以上この触腕は男の速度の数段上ということ
迅く、そしてあるいは本来の腕以上に精密だ

男は確実に剣において並大抵の相手に後れを取らない、どころか上を取れる実力者だ
彼はその事実を誇張も卑下もせずに正しく受け止めている。その上で認めざるを得ないことが一つ。
仮に正面からの切り合いになれば、確実に手数と速度で封殺されるということを

二つまでなら如何に早くとも捌いて見せよう
三つだろうが培った経験と技術をもとに対応して見せる
だが、それでもそこまで。どれだけ死力を尽くしても、四つ以上になれば必ず最低一つは取りこぼす
素の実力と技術では勝っているという自負はあるが、真っ向からの勝負になればその速度と手数、そしてリーチの差が絶対的な壁となって立ちふさがってくる

剣を防ぐのに二つ、その衝撃を殺すのに二つ
ならば当然最後の二つが攻勢に出てくるのは明白で
速度で負けている以上は今から剣を引いても間に合うはずもなく───

「───だがな、それは貴様とて同じだろう
 何故用心もせずに俺を間合いに入れた?」

間に合わないのなら、剣を引くなどという無駄なことをする必要はない
何かで指示している様子がない以上、そしてこの“本来の腕以上の精密性”からしておそらく操っているのは意思か、あるいはより直接的に脳信号か

ならば、その意思に空白を作ってやれば僅かでも隙ができるのでは?

腹を穿とうとまさに動き出した触腕を目に入れた直後、目を閉じる。あるいはそれは諦めたように映るかもしれない。
だが、悪を切り裂く聖なる剣に諦めなどという言葉は死んでもなく、まして先日自傷を禁ずることを真に善なるものと誓った彼には猶更だ。
故に当然そこにも理由は存在して
瞬間、女の首元で停止したままの剣から銀の眩い極光が放たれる
例え昼であっても目眩ましとして機能できるそれは、表通りと違い明かりもなく、月だけが見守る暗い夜空のここではより一層強烈な輝きとして映ることだろう
まして、首元まで剣との距離が近づいていたならなおのこと
それ自体に攻撃力は全くないが、覚悟もなく、不意に暗闇で光を浴びせられれば例えそれが懐中電灯程度の光でも目が眩み、思わず何事かと身を固めてしまうものだ。
それと同様の現象を狙っての極光を放つと同時、成功しようが終いが回り込むように横に飛ぶ
止まったならば避けれるだろうし、止まらなかったなら一本はわき腹を穿ち、痛打となることは間違いないが、どの道距離を取ってはリーチの差で封殺される以上はこれしかない
結局のところ、どう転ぼうが余裕を持たせぬように即座に連撃を仕掛けるのみだ

52【マニュピレイズ】:2020/07/19(日) 18:21:44 ID:x.fbq37w
>>51
衝突、拮抗、静止。猛烈に突き立てられた破壊と殺意の邂逅は、鋼と鋼が奏でた狂想曲となりて仄暗な裏路地に残滓を染み渡らせる。

「えへ………私ってぇ頭がイイんですよぉっ………?誰よりも優秀で………賢くて……ホラぁ、この子を作ったのだってまだ13の時だったんですよ…………」

玉響の間隙を、女の鈴の音めいた声が甘く静かな言の数々が浚う、それは遍くを満たした反響音が夜風に潰える迄のほんの刹那。軋んだ機械腕を愛おしげに視線が伝う。

「その私の脳が腐って………?あはは………巫山戯た口が聞けたもんですねぇっ?棒振りだけが能の愚昧、蒙昧のクセにぃっ………!
アナタみたいなヒトをなんて言うか…………知っていますかあっ?………グズ!そうグズ!そうやって達観したみたいにカッコつけて………上から見下ろすのをやめろってんですよぉっ!」

例えどれほど口汚い悪態で己の尊厳が傷付けられようとも構わない。それらはどうせ、遥か眼下に犇めく愚者共の囀りでしか無いのだから。
だが如何に些細な切欠であったとしても、彼女にとって許せぬ事がたった一つだけある。

「(巫山戯んなってんです!コイツも私をバカにしてぇっ…………ぐぅ………い、痛め付けてやる………認めさせてやる………自分の間違いをぉ………アイツみたいにぃっ!)」

何よりも、何よりも下に見られるのが嫌いだった。頭が良くて、勉強が出来た、でも他の事は何をやってもてんでダメで、故に何時しか自らの得意とする事で一番を取り続ける事でしか自分の存在意義を見つけられなくなっていた。
ああそうだとも、これは唯の意地で、二十の小娘らしい下らぬ癇癪でしかない。あてどない苛立ちの行方定めたように、手放したワインボトルが音を立てて砕け散る。

醜く地べたを這い蹲って血と肉の痕跡と成り果てたこと男と同じように、只々間違いを認めさせると決意を新たに彼女を断罪せんと嘶いた剣を打ち弾かんと司令を下した瞬間に、その変化は唐突に姿を見せた。

「ぅあ………くうぅううっ………!」

底知れぬ憤怒に目を見開いて、憎き敵を睥睨した彼女には突如として瞳を閉じた男の行いを、その心底に沈んだ策など感付ける訳もなく。
煌々と真夜中を照らした恒星はいとも易く酒で歪んだ視界を白く焼き払う。

脳を伝達する電気信号にて零から百を取り決め動作するこの六本の腕は、ただ念じるだけで一ミクロン程の誤差も無く正しく精密に、それでいて信じられぬ程の速さで動作する。
けれどもそれは、思考と密接に繋がって居るからこそ可能となった芸当で、指揮系統たる彼女自身の脳が動きを止めれば、当然その傀儡(かいらい)たる触腕とてその影響を色濃く反映する。
動物が炎を恐れるように、熱く煮えた湯を湛えたヤカンを触れれば手を引くように、DNAの奥底に刻まれた本能が、一瞬の混濁を見せて固まった。

それはたったコンマ五秒程の隙ではあったがしかし、百戦錬磨たる男にはきっとあくびが出るほど長いものであっただろう。
風穴の空いた思考の傍ら、優秀過ぎる頭脳は脊髄反射にも匹敵する速度で即座に対応、情報を処理し、刺突を断行したが良くて捉えたのは横に回り込んだ彼の服の切れ端程度。
命の取り合いどころか喧嘩ですら片手で数えられる程度しかした事の無い彼女と彼に横たわる絶対的な経験値の差は計り知れない程に大き過ぎた。

「こ、このぉっ……!」

微かに耳朶を叩いた音の波長だけを頼りに向き直る、顔を覆った指の間から見えた紅色は、既に光を見失ってただ地面を射抜くだけ。
姿勢制御の二本を除いた二対のそれらはただ男が居ると思われる空間を引っ掻き回す。消え去った白を塗り替えた月光を受けて4本の硬質ブレードが燦然と瞬く。

鉄壁に思われた守りの向こう、柔らかく無防備な彼女の肢体が綻び出でた。

53【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/19(日) 19:29:33 ID:g2ZByGYI
>>52
「それも肯定しよう、俺には真実これしか能がない」

極光を放った刹那、呻きとともに触腕の動きが僅かだが停止したらしい
後退の選択肢は無論ない。矛盾のような話だが、この超密着状態のこの場所こそが最も生存確率の高い死地であり、僅かでも離れればもはや勝率は絶無に近いのだ。
故にこそ、さらに前へと体を動かす。安全圏など元よりなく、そんなものを探す気もありはしない。
触腕の届く距離は残らず死地なれば、より勝率の高い死地へと身を躍らせ続けることでしか打倒は叶わない
引けば死に、臆しても死ぬ。なればこそ、引かず臆さずか細い糸の上でどちらかに終わりが来るまで我と彼とでトーテンタンツを続けるのだ

「──あぁ、なるほど。貴様、己を劣等だと自覚しているのか
 俺の棒振りに対して貴様はガラクタいじりか?あぁつまり、誰より自分を己自身で見下しているのか」

頭脳を貶す一言に対しての狼狽具合。意識的か無意識的か、相手を見下すように、己の方が優等であると言いたげに小馬鹿にするような話し方
憶測ではあるが、つまりはそう言うことなのだろう。彼の取り柄が剣だけであるのに対して、彼女は恐らく頭脳なのだ
何があったのかは知らないし、また興味もない。だが、触腕と思考が直結している以上、そこをついて乱すことに意義はある
言葉を信じるなら、これほど驚異的な代物を作り上げている以上は頭脳的に優れているのは間違いないのだ。下手に冷静にさせてしまえば不測の一手を打ってきかねない

「それ以外を肯定されなかったのか、あるいは肯定されたうえでそれでもできぬ自分を恥じ続けているのか。
 どちらかは分からんが敢えて言ってやろう──
 
 ──哀れだな、小娘」

罵倒でなく、殺意でなく、敢えて純粋な見下しとして思ってもいない言葉を発する。
しかし彼はまともな情動を知らぬが故に、彼の表情は不変であり、声もまた特段哀れみが乗っているわけでもなく静謐なまま。
およそ感情というものは乗っていない言葉だが、少しでも精神を搔き乱せれば御の字。試せる手を打っただけで、特別期待もしていない

まだ完全には視界が回復していないのだろう、狙い定まらず漠然とした感覚で襲ってくるそれらはしかしそれだけで脅威的だ
狙いを定めていないからこそどこから襲ってくるかわからず、加えて圧倒的な速度だ
だがしかし、裏を返せば攻めるには完全ではない今しかないということ
血のような紅が地面に落ちて割れると同時、一手過てば絶死の四の刃の更なる奥へと体を傾ける。
一太刀で二つを止めて、残りの二つが腹と右足を裂く。知ったことではない。
二太刀で一つを弾きながら、もう一つが腹から顔面にかけてを浅く深く裂き、片目がつぶれる。遠近感がつぶれようがこの距離なら狙いを過つことなど元よりあり得ない。
三太刀目で残る一つを弾きながら首が裂かれ、さらに血が噴き出る。ようやく邪魔が消えた。

そして繰り出す四の太刀
大上段に構えた剣を剣に眠るもう一つの力、極光を凝縮した斬撃とともに倒れこむように繰り出した

54【マニュピレイズ】:2020/07/20(月) 14:30:11 ID:8QJC7ce6
>>53
痛烈が過ぎる閃光が夜の街を書き換える、心の蔵は何時もよりもずっと速く強く脈打って。
今は霞んだ瞳から得ていた膨大な視覚情報が遮断され、変わりに鋭敏化した聴覚は衣服の擦れや息遣いまでも敏感に掬い取る。
だが…………それが一体なんだと言うのだろう、優れた包丁の使い手が優れた戦士足り得ぬ様に、優れた学者たる彼女とて殺意と厭悪が入り混じる今この場に置いてはただの凡愚と何ら変わりはない。

「分かったような口を利かないでくださいってんです………わ、わたしはぁっ!一番じゃ無いとダメなんですよぉっ………!
…………ええそうですよぉ………他に何も無いんですよぉ私にはぁ………でも一番になれば、誰よりも優秀で居続ければ、みんなはぁ凄いってぇ、褒めてくれるんですよぉっ………ふ、くふふ………」

故に彼女は唯一残された聴覚で、傾けるべきでは無い言の葉に、昂ぶらせてはならない感情を、曝け出してはいけないコンプレックスの吐出を選んでしまった。
耳を貸さなくば、苦し紛れと言えども何か、この頭脳を持ってすれば打開への糸口を掴むが出来たかもしれないのに、転じて触腕を操らば、蹌踉としたこの身体を運んで遁走する道もあったというのに。
背中を通じて通じた硬い感触、一つ、二つに重ねて三つ、着実に迫り来る只々冷たく鋭利な殺意の奔流からの逃避を選択出来る程冷静では無かった。

微かに物の動きを読み取るようになった赫灼たる輝きを湛えた双眸、色を取り戻したそれが見たのは…………下弦の月を背負った黒鉄、ああ今まさに、自らの命脈を断ち切らんと星を喰んで輝いた不可避の凶刃だった。

地を前に突き放す軸足、混凝土に突き立てた二本を引き抜き翳した窮余の一策。だがしかし、そうして弄した小細工などで抗える筈も無く。
先行した質量を持った光の刃が無惨にそれらを破壊して、続いた剣が肩口から臍の横、腰までの肉を縦列に刻む。
空をなぞって進んだ軌跡を浅黒い鮮血が追い掛けた。

「あ…ああ………痛……いたい………やっと………やっと終わったと思ったのにぃっ……!
アイツを殺してぇ………もう何もかも忘れられた筈………だったのにぃ………!」

華奢な肢体は幾度か転がって、倒伏した彼女の白衣を赤が染める。生と死の境界線、その狭間で揺らいだ魂を苛立ちと執念だけが手繰り寄せて。
血に塗れた両掌が、固く冷たい地を掴む。持ち上げようと苦心してしかし、肘を立てて上体を起こすのがやっとの有様。溢れた雫が頬を濡らすのも構わずに、木霊させたのはただ悲痛な叫びのみ。

「ぐ……、あ"あ"っ………!殺して何か悪いってんですかぁ………あんな、何も………かもを捧げ………てぇ……!は、ハジメテだって………あの人にあげたのに………!
利用するだけ利用して………使い捨てて………!………えへ………私は只………振り向いて欲しい一心で頑張ってきたってんですよぉ………!」

曰く、彼女は天才だった。16になる頃には大学を含む全ての学習過程を修了して、この国はおろか世界にすらも並び立てる頭脳を持つ者など数える程度にしか居ないと称された程の。
それは他人にたった一つ誇れた物だったから。只管に何も見ず一心不乱に全てを学んだ、孤独故に友情だとか、愛だとかそんな感情をつまらぬ物だと吐き捨てて。

そんな破瓜の娘にとって、己の全てを、秀でた所も足りない所も抱擁し、受け入れた雅量に富んだ大人の男、それが彼女の内側で膨らんで行くのも当然だった。その真意に気が付かぬままに。
ああ、子供にはよくある思い違いだ。自分には無い包容力を持った大人という存在に薄く募らせた憧憬を、胸の高鳴りを恋慕と勘違いした、ただそれだけの事だ。
けれどそれでも自分には初めて他人に抱いた感情だったのだ。

「教え…て…ください………よぉ……ッ!だったら私は…どうすれば…良かったのかぁっ……殺しちゃダメなら…ただ……黙って見送れって……んですか……笑って消えていく……アイツの背中を……!
教えてよ………」

それは死を孕んだ血腥を前にした懇願などでは決して、只々解の得られない疑問を、この頭脳を持ってしても見つけ出せない答えを求めたに過ぎない。
されどそんな事情なんて預かり知らぬ彼にとって返答すべき問いではないのも明白で。ギリギリで生きながらえた彼女の細く頼りない命の綱を黙して断つのも簡単だろう。

憎悪も怒りも哀切も、全て夜風が浚う深夜の折。倒れて伏した男の姿をじっと見詰めて来るかも分からぬ返事を待った。

55【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/20(月) 16:49:04 ID:Rhr7wwrs
>>54
乾坤一擲、破滅的で合理的
己の身を顧みず、死んでも殺すと振るった一撃は今度は確かな人体を裂く手ごたえを伝えてくる
一手過てば為すすべもなく殺されていたであろうそれこそ棒を振るしか能のない男の神髄
執念の果てに奇跡をつかんだともいえるが、あるいは順当な結果だろう。なぜなら戦士と学者ではそもそもからして土俵が違う

「…悪いに、決まっているだろう。何があったのかは知らんし、また興味もないがな、何にせよ選んだのは貴様だろう。
 貴様のそれがあれば気に食わないのなら殺さずとも跳ね除けられたろう、結局のところ貴様は望むがままに利用されたのだろう?」

″畢竟、自業自得でしかないだろう″と容赦なく告げながら、あるいは彼は自身が切り裂いた女以上に明確に死の隣にいる
悪を殺すとその身に背負った妄執だけで意識を保ち、倒れ伏してなおその眼光に狂い無く女をにらみつけて、狂気の念を迸らせる
もはや呼吸さえ浅くなりながらも剣を手放す気配はなく、どころかそれを支えにして何とか再び立ちあがらんと裂かれた傷さえ無視しながらその足に力を込めて、また血がそこから噴き出る悪循環
立つほうが致命的なのに、もはや感じていたはずの激痛さえ淡く遠いもの様になっているにもかかわらずそれでも彼は止まらない

「知ったことか、言ったはずだぞ、興味がないと
 よもや貴様、この期に及んでまだ俺が正義の味方だとでも思っているのではあるまいな」

鋼を突き刺し立ち上がり、剣を引きずり不協和音を奏でながらゆっくりと進む彼の姿はまさしく悪鬼羅刹
多くの英雄譚で語られるような美しい刃をその手に抱き、悪を倒すためだけに生きる男はしかし英雄たちには程遠い
棒を振るしか能がない、と女が語った通りだ。殺すことしか知らない、救い、与えることなどできず奪うことしか能がない
あぁそれは──これまで殺してきた悪と一体何が違うのだろう?

「俺は所詮悪を斬るしか能のない一振りの剣にすぎん。情け、同情、労り、救い…そんなものを与えられると思うな
 それにな、俺は最初に言ったはずだぞ」

自らを剣と評した通り、その言葉には鋼の冷たさと心さえ切り裂こうとする鋭さしかない
女の前まで近寄れば、最後の力で剣をわずかに持ち上げて

「貴様は藻掻き苦しんで死ね、とな」

その心臓を穿たんと、真っ直ぐに振り下ろした

56【マニュピレイズ】:2020/07/20(月) 19:46:32 ID:8QJC7ce6
>>55
「くふ……ふふっ。"つまらない"………
つまら…ないってんですよ……お兄さん………♪やっぱりグズ……零点です…ふふ…」

酒を取り込み遅鈍極まった痛覚とてやはり、胸を、腹を裂かれれば痛い物だと、生から隔たんと歩みを進める鬼を前に心中にて独白を零す。
自身でも驚く程に平静を取り戻した精神状態はきっと、何もかもがどうでも良くなったが故の、一種の諦めのようなものなのだろう。

救済など最初から期待して居なかったさ、同情?ああ下らない、悪を断つとのたまいながら、それらと何ら違わぬ羅刹蛇蝎へと堕ちた男の言葉に何の意味があると言う?。
禄な答えが帰って来ないと知っていながら、自らで見付けられなかった難題を押し付けたのは。
ああきっと、『どうしてヒトを殺してはいけないの?』そんな子供の屁理屈じみた物言いで自分を正当化して、逃げる事が出来ると思ったから。

「くふ……気付いてるんでしょう?自分の抱えた矛盾に………それとも……自分を剣と言って律しているのは………ふ…
笑わせるなってんですよぉ……アンタは人間でぇ……唯の人殺し……えへ……悪を斬る……って…ッ!言うなら……先ずは自分の……首でも掻っ捌いて………みたらどうだってんですかぁ
それかぁあれ…ですかぁ……?……その身体が……朽ちるまで代行者か何かを……気取って殺し続けるつもりですか………?」

こうして嘲り囀る事で、真に恥ずべき己の姿から、目を逸らせる気がしたからなのだろう。
返答等聞くつもりの無い只々悪辣で、楚々たる顔立ちに似つかわしくも無い詰問を虚空に綴る。

『エミリーは凄いなぁ』 『当然だってんですよ!私に掛かれば朝飯前です!』 『悩みでもあるんですか?えへ…お兄さんの為なら何だってできますよぉっ』 『新薬の副作用の改善……効能の増強、勝手にですけど……私なりに手を加えてみました』 『大発見だってんですよぉ…!これをまたお兄さんの名前で発表すれば、一躍時の人になりますよ!』 『お兄さんの約に立てるなら……私はどうだってイイってんです……だから私と……ずっと……』

血溜まりを踏み締めた敵の足はもう眼前、裾から伸びたマニピュレータが心の機微を感じ取って微かな反撃の予兆を滲ませる。
肉体とは隔絶された動力を備えたこれならば、考えるだけで、思っただけで、今なら即座に穿ける、手負いの獣を一息に音よりも疾く切り分けられる。

「(ハ……これが走馬灯ってヤツですか………
あーあ……なんだ……)」

けれどそれをしなかったのは、死の淵に至って今更脳裏に泡沫めいた記憶が去来したからだ。
愚直に、一途に、考え無しに、恋した誰かに全てを尽くして。憎いはずであった男の顔が、血溜まりに映った白刃よりも強く私を魅せた………嗚呼……気が付いてしまったのだ。
何があろうと尊ぶべき存在を、私自ら壊してしまった事に。

「(業腹ですけど、確かに言う通りだってんです…………あのヒトにとって私は都合が良いだけの女だったって分かってて全部差し出したのに……)」

ならばもう、我が人生に生きる価値なんて無く。
下される刃の審判を逃れる理由がある訳も無く。

「それがアンタの生き方だってんなら………精々死ぬ迄続ければ良いです…………
………ハ……酷い有様ですねぇ………アンタも……私も」

濡れた紅玉を瞼の奥に隠して、今際の際に歪な二人の生き様を嗤った。
心の蔵が刺し貫かれ、丸く小ぶりな宝石がまろびでた。
大地を汚した赤とは正反対の、清く、美しく、幽き青が____


//お返しが不定期になってすみません!日を跨いでのロールお疲れ様です、お相手ありがとうございましたー!

57【聖剣】刃 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/20(月) 21:06:34 ID:Rhr7wwrs
>>56
「その通りだ。俺はただの人殺しで、所詮は望まれたままに選んで殺しているだけの大罪人でしかない。
 だからこそ、今更引く道などありはしない。俺は、この身が折れて木端と砕け散るその時まで無限の修羅道を歩み続ける」

その時、これまで無感情だった男の言葉と表情に始めて諦観と共に自嘲するように笑みが浮かぶ
結局はそういうこと
殺すという手段を取った時点で我も彼も等しく悪で、屑でしかないのだから。いや、殺した数で見ればきっと男の方がよほどだろう
それを自覚して尚、止まらない、止まれない。今なお悪を殺せと心の内で声が聞こえ続けているのだ。
祭り上げられ望まれた。望まれるがままに殺し続けた。
それだけが生存理由だと生まれた時から共にあった自身の半身たる刃が告げている

あぁ、だが
女の触腕が肉体が損傷していようが意思で動かせるのを知っていながら、わざわざ近づいて止めを刺そうとしたのは何故だろう?
斬撃を飛ばした方が、まだしも安全だっただろうに

その事実を、自身を刀剣と称する男は人間の様に気づかないふりをした

「…違いない。」

何て様だ
自ら腹を刺したときも、数多の悪を殺したときも、大を救うために小を切り捨て犠牲としたときも砂漠の様に凪いでいた心が、僅かに揺れ動いている
それはきっと、先日に我が身が傷ついても他者を救おうとする本物と出会ってしまったからだろう
言葉ではなく行動で、自身が間違っていたことを突き付けられて、気づかぬうちに男の刀身に罅が入っていた
だが所詮は今更で、もはや変われるとも変わろうとも思わなぬ男は揺れ動く思いさえ断ち切って剣を一息に振り下ろして、これまでの数多の悪と同じように女を切り捨てた

「…次だ。次の悪はいったいどこだ。全て切り裂き地獄の底へ送ってくれる」

片眼は潰れ、片足も潰れ、血も大量に流して死に体も同然。それでもなお止まらない、止まれない、止まってはならない。なぜなら刀身砕けて散り行くその時まで、悪を斬って進むのだと決めたから
月さえ隠れ、明かり一つなくなった深淵を、鋼の断罪者は怨念だけを頼りに歩いて、消えた

/こちらこそありがとうございましたー!

58【ディオド】 ◆y7XUmHaaYQ:2020/07/23(木) 23:51:50 ID:jIR/fiTI
新月の夜
月明かりさえ失われるはずの暗闇は、今では人口の光によってその多くが照らされ昼と変わらぬほどの光量でもってその多くが照らされている
故にこそ、その隙間に生まれる影はより一層の深淵となって逃れられない恐怖を否応なしに叩きつける
昼行性に生まれた人類種の宿命として、暗闇は冷たく恐ろしい

「あっるくのーだいっすきー、どーんどーんいっこっおー♪」

その暗闇の一角で響き渡る、およそ恐怖というものから掛け離れた楽しげな童謡はどこか幼さ残る少年が、手にボールか何かを持ちながら笑顔満面で小躍りするように出鱈目なステップを刻みながら発しているものだった
それは恐怖を誤魔化そうとしてでのものではなく、また恐怖を克服したが故のものでもない
只々純粋に楽しくて楽しくてたまらない、と誰が見てもそれだけでしかないと分かるもの

深淵においてなお欠片たりとも陰らぬ笑顔と声はまるで太陽のようであり、ここは恐ろしい場所ではないのだと聞くものに安堵と安心の感情を想起させる
だがしかし心せねばならない
前述したように光の下には影ができ、それは光が大きければ大きいほどより深く暗いもの
遠くより聞こえりその声は、薄暗がりで見えるその影は、本当に光と呼んでいいものか?
それが本当に美しく光と呼べるものならば、あたりに漂うこの血腥さはなんだ?
少年がその手に持っているそれは果たして本当にボールか?

それが確認できるほど近づいたのならば、覚悟せねばならない
その時あなたは昼を統べる人類に対する夜を統べる者──深淵の覇者たる一角、吸血鬼と相対することになる

「んー、今日は軽くデザートも食べたいところだなぁ」

──散乱する木乃伊の如く干からびた死体の中央で誰かの頭蓋を弄ぶそれに気づかれれば、その食事が再開するのは確実だ


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