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メイド長の長い一日
1
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 12:11:42 ID:4DqTQO06
即興で適当に書いて行きます
2
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 14:51:25 ID:4DqTQO06
騒々しい街の環境音が、長いこと静寂に慣れていた私の耳を刺激する。
街行く車、通り過ぎるお洒落な女子高生、せわしなく歩くスーツ姿のサラリーマン。
こんな何の変哲もない風景ですら懐かしく感じるほどに、長い時を闇の中で過ごしていたのだと
初夏の日差しが眩しい大通りで、街に似つかわしくないクラシックなメイド服に身を包んだ私は実感した。
さて、何故私がわざわざ“外の世界”の都心部、「東京」へ来ているのかと言えば
ことの始まりは数日前まで遡る―――
3
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 14:51:56 ID:4DqTQO06
―――三日前
「・・・・・・休暇?」
厳正な雰囲気に包まれた部屋の中で、重苦しい内装とは対照的な少女の声が木霊した。
驚きを隠せぬ表情を浮かべたまま少女――神流は目の前で微笑むメイド長に視線を返す。
「ええ。一日でも構いませんので、休暇をいただけたらなあ、と」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔とはまさにこのこと。想定外の願いに、女王である神流は動揺を隠せぬまま問う。
「いや、まあ受理するけれど・・・・・・いいの?一日で」
神流の驚愕は当然といえよう。あの仕事狂いなメイド長“神月サクヤ”が、休暇が欲しいと申し出たのだから。
これはまさしく天変地異。基本晴れが無い闇世界が、雲ひとつない快晴となるレベルの。
・・・まあ、さすがにそれは無いとしても、それほどに“サクヤが休暇を申し出る”という事は一大事なのだ。
そんな驚きをよそに、本人はいつもと変わらぬ笑みを浮かべて神流を眺めている。
だがその笑みの裏に――「たまには休暇くらい、構いませんよね?」という無言の圧力がかかっていることを、神流は知っている。
「はい。一日休んだ分は、すぐにカバーしますから」
このメイド長、本気だ。これで断ろうものならば、翌日の紅茶が野良犬の生き血に変わっていても不思議ではない。
「・・・・・・明日は快晴ね・・・」
未だ驚きが消えぬ表情で女王神流は申請を受理すれば、どこと無く上機嫌で去って行くサクヤを眺めながら
普段よりも幾分雲の薄い闇世界の空を眺めながら――そんな言葉を漏らした。
4
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 14:58:37 ID:4DqTQO06
――――
と、いうことで。私は休暇を貰い、わざわざ外の世界に着てまでこの東京へとやってきたのだ。
無論、伊達や酔狂でこの魔都へとやってきた訳ではない。観光などという生半可な理由でもない。
私が数十、数百年ぶりにこの摩天楼へと舞い戻った理由は
『幻のスイーツ!一日20個限定激レアケーキ!』
・・・手にしたチラシに書かれている通り、この東京でしか売っていない『幻のスイーツ』を手に入れるためだ。
以前無断で仕事を抜け出し、限定品の懐中時計を買いに行ったときは・・・・・・こっ酷く叱られた上、購入も出来なかった。
故に今回は事前に休暇を取ると報告しておき、万全の状態で挑むことにした。というのが今回の理由。
さあ、早速スイーツの販売店が存在するデパートの中で待機するこの作戦。
前回の教訓を生かし、今回は事前に店の場所を確認し一番乗りでスイーツを手に入れるという手法。
しかし・・・その店の開店時刻は午後13時。現在時刻は・・・・・・午前10時。
少し早く来すぎてしまっただろうか?開店までの空き時間をどうすごしたものか・・・と、思考を巡らせた刹那
5
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 15:00:55 ID:4DqTQO06
「ふ、ふえぇぇん・・・・・・!ママぁ・・・!」
子供の泣き声・・・?切羽詰ったような泣き声に思わず辺りを見回し、声の主を探してしまう。
気持ち早足で大型スーパーの店舗を歩く。すると、お菓子売り場のコーナーで座り込み涙を浮かべている少女を発見した。
ああ、迷子か。この時間帯のデパートではよくあることだと、その場を立ち去ろう・・・とするが
良心がその歩みを止める。いくら外の世界とはいえ、ここで見過ごすのは薄情すぎるのでは無かろうか、と。
だが私の目的は別に迷子を救うことではない。あくまでも、幻のスイーツを手に入れることだ。
ここで少女を助けても、利益は無い――
「・・・キミ、お母さんとはぐれちゃったの?」
なんて冷たい女になりきるには、私はまだ早すぎるか。それにいいことをしたらいい事が帰ってくるって、師匠も言ってたし。
とりあえず私はしゃがみ込む少女と同じようにしゃがみ込みながら、目線を同じくして少女に話しかける。
「うん・・・・・・ひっく、おかし、みてたら・・・っ、おかあさん、いなくなってて・・・ぐすっ」
ふむ、という事はこの少女はお母さんとこのスーパーにやってきて、一人でお菓子を見ていたらはぐれた・・・ということか。
となればこのスーパーの中に彼女のお母さんが残っている可能性が高い。そして同じように、母親も少女を探しているはず!
そうと決まれば私は少女を慰めるように撫でて上げ、優しく手を握り母親探しの旅を始めた。
「お母さんはどんな人?」
「え、っと・・・背が高くて、茶色い長い髪で・・・・・・」
・・・情報としてはやや心もとないが、少女にこれ以上の情報を求めるのは酷だろう。
まだ若干すすり泣く少女の手を引きながらスーパーを何週か回ってみる――
6
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 15:01:31 ID:4DqTQO06
―――み、見つからない。
かれこれ20分は探したというのに、彼女の母親の姿はおろか、このスーパーには客員一人入っていない。
「お、かあさ・・・っ」
まずい・・・これ以上見つからないとなると、この少女につらい思いをさせてしまう。
とりあえずスーパーを後にして、迷子センターにでも――
「莉子!」
と、そんな考えを打ち消すように発されたのは、こちらへ向かってくる一人の女性によるもの。
背が高く、茶髪のロングヘアー・・・・・・そして安堵に満ちた表情を見れば、女性が彼女の母親であると瞬時に悟り
声を聞くと同時に走り出した少女を見届け、私も母親の元へと歩む。
「おかあさん!おかあさん!」
「ごめんね、一人にさせちゃって・・・寂しかったでしょ?」
・・・親子愛とはいいものだ。安心して涙をこぼす少女を抱きかかえて謝る母親の姿で、私も思わず安堵のため息をこぼす。
物心つく前から親に見捨てられ、数年間一人で幼少期を過ごしてきた私とは違い
あの子には頼れる、そして心配をかけてくれる母親がいるのだと思うと・・・・・・どことなく心が痛い。
「ううん。あのね、あそこにいるお姉さんが一緒にいてくれたからさびしくなかった!」
・・・!? おセンチな気分を覚ますように告げられた少女の言葉と同時に向けられる少女の指
いや、一緒に探したのは確かだが・・・こう紹介されると、なんだか照れる。
「まあ・・・ありがとうございます、娘と一緒にいてくださって・・・」
7
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 15:02:07 ID:4DqTQO06
「い、いや・・・当然のことをしたまでですから・・・」
頭を下げる少女の母親。しかしそこまで例を言われるほどのことをしたわけではないので、またも心が痛くなる。
「なにかお礼でも・・・」
そ、そこまでしなくても!と思わず声を張り上げてしまう。いやほんと、私はただ一緒にいて探してあげただけですから。
結局見つからなかったんだし・・・と、母親の願いを丁重にお断りし
「それでは・・・本当にありがとうございました」
「おねえちゃん!ありがとー!」
しばらく母親の陳謝を眺めた後、去って行く二人の姿を見つめながらふう、とため息をこぼす。
時刻は11時。開店時間にはまだ早いが、やはりこれといってすることも無い。
迷子の母親探しを終えて一息つきながらぶらぶらとデパート内を散策していると
「きゃああああ!引ったくりー!!」
!? 本日二回目の驚愕。耳に刺さってきたのは、初老の女性と思われる方の悲鳴。
ひったくり・・・!?確かに周囲は混雑しており、引ったくりには最適な環境ではあるが・・・・・・まさか白昼堂々引ったくりとは恐れ入る。
なんて悠長な思考をしている場合ではない!ここは今すぐにでも駆け出し、引ったくり犯を捕まえねば・・・
が、先ほど言ったとおり、辺りは混雑していて犯人の姿がまったく持って見当たらない。
いやそもそも私は犯人の姿を見ていない・・・・・・くっ、これはどうしたものか。
8
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 15:51:05 ID:4DqTQO06
・・・思考をめぐらせること数秒。ふと漂ってきた香りは、被害者である初老の女性による香水だろうか。
! そうか。彼女のバッグならば、この香水のにおいがバックにも移っている筈だ!
そうと決まればこの自慢の鼻を利かせ、初老の女性とは別の方向から漂ってくる匂いの元へ――
「ぐえっ!」
猛烈タックル。普段の私ならば時間停止でも使ったのだろうが、ここは東京だ。下手な真似は出来ないだろう。
足元で延びる男からバッグを取り返して初老の女性へと手渡す。
再び、慣れていない感謝をされて戸惑いながらも、いそいそとスイーツ店へ並び始める。
だが。二度あることは三度あるということだろうか。
「待ちやがれえええ!!」
隣の店舗から一人の男性が飛び出し、それを追うように制服姿の男性が飛び出して行く。
・・・見るからに万引き。またも事件に巻き込まれるとなると厄介である・・・・・・が
ここまで来てしまったからにはもうとまれない。私は店員の男性とともに、また犯人とのおっかけっこを開始する――
9
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 15:51:57 ID:4DqTQO06
・・・・・・現在時刻、午後4時。
万引き犯の次は食い逃げ犯、次は爆弾魔、誘拐犯、強盗・・・・・・
すべての悪人どもに天誅を下していたら、気がつけば時計の針は開店時間を四時間も過ぎていた。
言わずもがな、幻のスイーツは全て売り切れ。ほかのスイーツもほぼ買いつくされているという有様だった。
ああ・・・・・・いいことをすればいい事が帰ってくるなんて言うけれど、こんな結果になるなんて
私は閑散としたスイーツ店を後にして、目的の無くなったデパートから一刻も早くおさらばしようと足を速める。
「おねえちゃん!」
・・・?そんな時、不意に背後からかけられた言葉に足を止め振り返る。
するとそこに立っていたのは数時間前に迷子になっていた少女とその母親――
突然の出来事に困惑していると、少女はうれしそうに私に駆け寄ってきて、ひとつの袋を差し出し
「これ!私からのプレゼントだよ!」
―――思わず、声を失ってしまう。
差し出された袋は子供らしいかわいげな装飾で彩られており
つけられていたタグには「おねえちゃんへ 莉子より」と、つたないながらもしっかりとした文字で書かれていた
「この子、どうしてもお姉ちゃんにプレゼントする!って聞かなくて・・・」
10
:
闇の名無しさん
:2014/07/01(火) 15:52:57 ID:4DqTQO06
・・・この子が、私のために。
誰かに物を貰うなんていつ以来だろうか。慣れていないことに戸惑ってしまうが、私はその袋を受けとって
「・・・・・・ありがとう、莉子ちゃん」
思わずこぼしてしまいそうな涙を堪えて、うれしそうに微笑む少女の頭をなでてあげる。
また会おうね、と。去り際にかけられた言葉に、私も微笑を返して頷いて
二人の姿を見送った後――彼女たちが住む世界とはかけ離れた、闇の世界へと私は戻る。
この東京に戻ってこれるのは、数年後か数十年後か――・・・。その時、彼女が生きているのかどうかはわからないけれど
必ず戻ってくるよ、と告げた言葉を守れるように。私は手渡された袋を握り締めて闇への扉を開いた。
数日後。闇魔館の一室で、手作り感あふれるクッキーを頬張るメイド長の姿があった。
手元には少女からメイド長へと宛てられた一枚の手紙が。その手紙を見返しては、メイド長は笑みを零し
「師匠・・・・・・いいことをすれば、いい事が返ってくるって・・・本当ですね」
幻のスイーツとは違う、限定品でもない手作りクッキーだけれど、メイド長にとっては代えの効かぬただひとつの「スイーツ」を頬張って
澄み渡る青空を見上げながら、今日もメイド長サクヤは仕事に励む。
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