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『机上空論のアイディーアル』

1闇の名無しさん:2013/12/31(火) 18:27:15
世界線上というものは、ありとあらゆる世界に於いて無数に存在する『概念』である

言うなればそれは「平行世界」。己が存在する世界とは少し変わったもう一つの世界の「可能性」
選択をした世界としなかった世界に枝分かれする世界線は、限りなく無限に近い数が存在し――

それは、この世界……“闇魔郷”に於いても、例外ではなかった。

これは無数の世界を垣間見た、とある少女の物語――――

2闇の名無しさん:2013/12/31(火) 18:45:16

「……ねえ、裂夜」

夜の帳が下り、静寂と深黒に包まれた闇魔館の一室で、落ち着いた女性の声が響き渡る
声の主は白衣の女性。濡烏色の髪で隠された右目を目の前の少女に向けながら、問いかけるように言葉を投げる

その声の先に佇むのは“従者”というべき衣服を纏う灰髪のメイド長

「…どうしたの?お姉ちゃん」

女性に比べれば幾分か幼いその声だが、声の奥にはしっかりとした“理性”が存在し
一言で言うのなら「冷静沈着」。向けられた言葉に答えを返すように「裂夜」と呼ばれた少女は振り返って
椅子に腰を掛けて艶めかしい笑みを浮かべる女性――「ルキ」は、ゆっくりと口を開く

「世界線収束…アトラクタフィールド理論、って知っているかしら?」

「アトラクタフィールド、ですか…」

突拍子もないその質問に、裂夜は思わず疑問を隠しきれないような声で問い返してしまう
しかしルキはそれを見越していたかのように、くすりと笑みを零し

「世界線と言うものは無数に存在し、無数に枝分かれしていき…やがてそれは収束するという理論」
「例えば、過去の失敗を無かった事にしようと過去を改変しても――失敗は確定してしまう」
「何度無かった事にしても、「失敗した」という事実が存在し続ける限り、世界線は「失敗」へと収束する」

「……それは、救いのない理論…ですね」

ルキが語った「理論」を聞き終えると、裂夜は少し困り果てた様子で答えてみせた
困っている理由はひとつ――こうしてルキが、突拍子もなく「何か」を語り出す時は……必ず、何かが起こる為

“厄介なことにならなければいいけれど”。そう思考を巡らせる裂夜の裏で――今まさに、厄介なことが起こっているとは
今ここにいる、闇の住人…いや、この世界の誰もが知る由もないだろう。

ただ一人だけ――――闇の王である、「神流」を除いては

3闇の名無しさん:2013/12/31(火) 18:57:11
―――闇の王たる遊月神流は、月明かりの差しこむ部屋の中で夢を見ていた

目を覚ましたらそこはいつもの闇魔館。だか神流はその自慢の直感で気がつく
この闇魔館は、どこか違う――と


「お嬢様、お目覚めになられましたか?」

冷ややかながらも芯の通った声に振り返ってみると、そこに立つのはメイド長「裂夜」
だが、神流はすぐに気がつく。毎日見ている神流だからこそ気がついた、その些細な異変

「……裂、夜?その傷は――」

左目を縦に斬るように付けられた傷。とある夜の日、神流と裂夜が鎬を削った戦いの中で負った名誉の傷
しかし目の前で神流に視線を向ける裂夜の顔には――「右目を裂くように」、傷が付けられていて
確かに左目なはずなのに。些細ではあるが確かに起こった異変は、神流の心を僅かに揺さぶり

「…?この傷は貴女があの夜、私に付けた傷ですよ…?」
「ほら、私のナイフを奪い取って―――」

「ナイフを、奪いとった……?」


その心の揺さぶりは巨大な振動となって、少女の矮躯を小刻みに揺らす
ナイフを奪い取った――その言葉を聞いた途端に神流の中で、巨大な疑問が浮き上がる
己の中に存在しない“事実”への疑問。「私がいつ、ナイフを奪った?」という疑問が

4闇の名無しさん:2013/12/31(火) 19:08:59
「あの夜は、私が拳で傷をつけたはずじゃ…」

「…そう、でしたっけ?」
「あの夜…ナイフを奪った後、貴女は私に対してこう言っていましたが」
「『消えない傷を付けてあげるわ。これで一生、貴女は私の奴隷よ』…と」

これがタチの悪い冗談ならば、今すぐにでもこの従者の腹に正拳をぶち込むのだが
生憎「事実」を理解するのに必死な脳内は、そんな行動を起こせる余裕もなく

「……ごめんなさい、少し寝ぼけているみたい…もう少し寝かせて」

「…?体調が優れないようでしたら、専属医を手配しますが―――」

私に向けて心配するような表情を浮かべ、眉間に手を伸ばすようにして身を動かす
その様子を見て私は――何を思ったのだろう。私にはその姿が、誰とも知らぬ他人に思えてしまって


「いいから、一人にしてッ!!」


貼り上げた声に驚いたのだろうか。伸ばされた手がビクッと反応して静止する

暫し訪れる静寂…やってしまった。脳の処理が追いつかない故に、全てを拒むように声を荒らげてしまう思考停止の行動
一秒前の己を呪い殺したい……!いくら姿に差異があるとはいえ、目の前の少女は…仲間である、「裂夜」だというのに

「…申し訳、ありませんでした」

怒られたことによる哀しみと驚き。両方が混ざったような声色で、裂夜は消え入るように謝罪の言葉を述べ
私が頭を下げる間もなく、彼女は瞬くうちに姿を消してしまった

再び室内が静まり返る。私以外の者が存在しない部屋の中で、私は差し込む太陽を眺め

「……夢、だといいのにな」

うわ言にも似た言葉を己に投げかけるように残し、温もりの残る布団の中へと――眠りの中へと、潜り込んだ

5闇の名無しさん:2015/03/29(日) 18:46:10 ID:???
差し込む日差しに目を瞬かせる。時計に目を移せば、今の時刻は午前9時を回ったところ
いい時間だ。このまま軽く顔を洗って、新しい一日を始める―――なんて、そんな気分には到底なれるはずもなかった

一晩経った後でも鮮明に思い返せる昨夜の記憶。私を恐れと悲しみを孕んだ瞳で見つめるサクヤの顔。
刻みつけられたのは表情だけではない。あの右目に付けられたキズもまた、私の記憶に根を下ろしているようで
夢ではないと、頬をつねって確認しながら。私は寝ぼける嗜好を奮い立たせて自室を足早に後にする。


―――――


食堂。皆は既に朝食を取り終えた後なのだろうか、いつも賑やかな食堂には厨房からの生活音だけが静かに響く。
こんな些細な変化ですら恐怖を覚えてしまう。この精神状態はとてもマズい、さっさと解消しないと―――

「よっ、今日は遅いんだな。昨日の痴話喧嘩で疲れちまったのか?」

と、かけられた声は聞き慣れたあの男の声。軽薄で無忠誠、しかし今となっては懐かしさすら覚える彼の声。

「別に……私だって寝坊するときくらいあるわ。それより執事こ――――そ……」


振り向いた時、私の身体に稲妻が落ちたかのような錯覚を覚えた。
立っていたのは執事ではなく、m2。あの冷静沈着で寡黙で、決して執事とは似ても似つかない口調の彼が
何故あんな軽い言葉を掛ける?それではまるで真逆じゃないか。そう、サクヤのキズみたいに、真逆。

執事と呼ばれた彼はしばしキョトンとした表情を浮かべるも、すぐにその軟派な笑みを浮かべなおして
姿がm2ということを除けば何一つ執事と変わりない彼を見て思わず私は

「っ……!」

「ちょっ……おいおい、吐き気を催すほど図星だったのか?」

拒絶感が湧き上がる。日常のすべてが反転したような。天地が逆転し、逆さ吊りにされているかのような感覚。
そうして椅子から転げ落ちる私を抱きかかえるようにして持ち上げるm2。ああ、ほんとうに、わけがわからない。


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