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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ 第三部
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/10(金) 21:01:44 ID:U0jBOVFc0
第二部までのお話はBoon Roman様に収録されています。
http://boonmtmt.sakura.ne.jp/matome/sakuhin/tender/
(リンク先:boon Roman)
179
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:29:54 ID:XWtDTcAU0
キュートは神妙な面持を緩めて話を切り替えた。
o川*゚ー゚)o「あたし、師匠とは直接はやりとりをしていないの。
だからまずは、師匠がどっちの側にいたのか確かめなきゃ」
( ^ν^)「町にいるか、森にいるか、っすね」
o川*゚ー゚)o「うん。村にいるならいいんだけどね」
( ^ω^)「もし、森にいたら?」
o川*゚ー゚)o「そしたら、あたしはもう近づけないかもしれない」
食べ終えたシチューの皿を足下の石の上に置いて、キュートは眠そうに欠伸をした。
満足げに星空を見上げる。厚い雲の隙間から星は何度か顔を覗かせていた。
o川*゚ー゚)o「確かめるのは怖いけど、最近ようやく踏ん切りがついたんだ。
でも誰かと一緒に向かえればもっと心強い。そういうこと」
巻き込んでごめん、とキュートはニュッ君とブーンの目を交互に見て言った。
180
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:30:54 ID:XWtDTcAU0
( ^ω^)「どうせ通り道ですし、問題ないですよ、ね、ニュッ君」
( ^ν^)「そうっすね。こっちも心強い」
o川*゚ー゚)o「ありがとうです。そう言っていただけて嬉しい」
会話が途切れて、黙々と食事が終わり、食器を重ねた。
腹が膨れるのは幾日ぶりだろうと、腹をさすりながらニュッ君はふと思い、満足そうに腹を摩った。
o川*゚ー゚)o「でもきっと大丈夫。師匠は虎になんてならないよ。
もしも帰れたら、一度師匠のところに寄ってみてよ。あの人の作品、見せてあげるから」
キュートの師匠は小物作りの職人として暮らし、人と交わって生きていたのだという。
o川*゚ー゚)o「たとえばこれとか」
そう言ってキュートは自分の赤くて丸い髪留めを指差した。
ニュッ君とブーンは頷き返した。
181
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:32:00 ID:XWtDTcAU0
( ^ω^)「楽しみにしてますよ」
キュートは微笑んで、自分の薄桃色のテントへと入っていった。
ニュッ君とブーンも自分のテントへと入った。
火を消した薪の束が、静かに炭の香りをあたりに漂わせている。
虎の町の光がひとつひとつ薄らぐのを見つめながら、ニュッ君とブーンは微睡に沈んでいった。
☆ ☆ ☆
182
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:32:57 ID:XWtDTcAU0
約束は果たされなかった。
日が昇って歩き出すと、すぐに村へは辿り着いた。
林業を主産業としたその村の、住宅がまばらに建てられた区域を進むと、ぽっかりと空いたスペースがいくつか見られた。
そのうちのひとつの荒れ地の前で、キュートは立ち尽くした。
o川*゚ -゚)o「ここに、工房があったんだよ」
力の抜けた声でキュートは言った。
詳細を知ろうと村役場にまで足を運んだ。
そして、キュートの家族は全員、虎となったことを知らされた。
o川*゚ -゚)o「そんなはずはないです」
木製のカウンターに腕をついて、身を乗り出すようにして、キュートは言った。
これまでの穏やかな口調が初めて鋭く崩れて荒れた。
o川*゚ -゚)o「あの人が魔人になろうとするはずがないんです。
なりたくないって、ずっと言っていたんです。
虎の手だと、何も作れないからって」
「そう言われましても、記録としてそうなっておりますから」
o川*゚ -゚)o「記録が間違っているかもしれないじゃないですか」
183
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:33:58 ID:XWtDTcAU0
大声が役場に響き、視線がキュートに寄せられた。
激しく震え出すのを察して、ニュッ君がその手を引いた。
( ^ν^)「出よう」
物言いたげなキュートをその一言で制すると、強引に入り口から外へと出た。
役場の人たちの、哀れみ混じりの痛い視線が背中について離れなかった。
行商人が出店をちらほら開いている、村の道の真ん中をニュッ君たちは進んでいった。
やがて道沿いに簡素なベンチを見つけると、そこにキュートを座らせた。
物も言わず、暴れもせずに、その代わりただ目を押さえて、キュートはしんしんと涙を流していた。
やがてキュートはおもむろに目を拭いた。
o川* - )o「行ってくれて良かったのに」
( ^ν^)「離れにくかったので」
o川* - )o「ごめんね」
( ^ν^)「いや」
184
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:34:55 ID:XWtDTcAU0
キュートは息を大きく吸って、長く吐いて、それから、ニッと笑った。
o川*゚ー゚)o「仕方ないもん。宿、探さなきゃね。二人はどこに泊まるの」
泣いていたなんて嘘だとでもいうように、キュートは強く頬をつり上げていた。
宿の数は少なく、村唯一の宿が通りにぽつんと並んでいた。
今の時期、旅人や泊まりがけの商人も少ないらしく、客室は十分に空いていた。
ブーンとニュッ君は相部屋をとった。
o川*゚ー゚)o「あたしは知り合いの家に行くから」
ロビーで自分の荷物を掲げながら、キュートは先にそう告げた。
o川*^ー^)o「ここでお別れ。ほんのちょっとだけど、いろいろお話しできて楽しかったよ」
185
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:35:54 ID:XWtDTcAU0
手紙を書くよ、と笑って言って、キュートは握手を求めた。
ニュッ君とブーンは顔を見合わせ、おずおずと手を伸ばした。
キュートの掌は案外冷え込んでいた。
「じゃ」と、短く行ってキュートは入り口を出て行った。
あとに取り残された二人を振り向くことはなかった。
( ^ω^)「あれは相当無理しているね」
静かな声でそういうと、ブーンは部屋へと続く階段を昇っていった。
ニュッ君だけは一人残って、しばらく入り口を見つめていた。
☆ ☆ ☆
186
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:36:49 ID:XWtDTcAU0
幼い日に、目を引いた小物があった。
メティスの城下町の街道で露店販売されていた、町そのものを象ったミニチュア細工。
「気に入ってくれたかい」
声を掛けてくれた店主のこともまた、キュートの心に強く残った。
やがてその作者が住んでいる場所を知り、いてもたってもいられず単身森の村へと移り住んだ。
師匠の暮らす敷地には、農作物を育てる畑も無く、広い工房とこぢんまりとした母屋があった。
師匠はほとんど工房にいて、日がな一日、何かを切ったり、叩いたり、組み合わせたりしていた。
作る物の幅をキュートの師匠は設けていなかった。
主にアーケの町から、たまにはもっと遠く、今の首都や城下町からも依頼が来て、そのとおりに師匠は作品を作り上げた。
一番得意にしていたのは、人や動物、馬車や家のような類いのもののミニチュアだ。
実用性は無いに等しい。だから大して根も張らない。
でもだからこそいいのだと、師匠は顔を綻ばせながらそれらを積み重ねて行っていた。
187
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:37:54 ID:XWtDTcAU0
o川* )o「あたし、まだ覚えているからね」
呟くように口にした。
あたりには誰もいない。
竹が鬱蒼と茂っているだけだ。
まだ太陽が高いうちに、キュートは竹林へと足を踏み入れた。
強かった冬の風がますます厳しくなり、音が鳴る。
そしてそれ以上に虎の声が奥底から響き渡ってくる。
村の中とはまるでちがう。
人の姿をまるっきり寄せ付けない竹林の中を、キュートはゆっくり歩いていた。
o川* )o「師匠はずっと、虎になるのすごく嫌がっていたんだよ。
虎の手だと何も作れないからって。木を切ったり、組み合わせたりすることができないからって。
だから、本当は嫌がっていたはずだよ。今も、嫌なんでしょ?」
答えは当然のごとく聞こえてこない。
虎の声が波打っているだけだ。
昼間だというのに、竹の葉が空を覆い、あたりに濃く影を残している。
188
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:38:52 ID:XWtDTcAU0
o川* )o「ねえ、師匠。いるならここに来てよ。
見せてあげたいんだ。あたし、裁縫がだいぶ上手くなったんだよ。
師匠と同じように何かを作りたくて、たくさん練習したんだから」
ほら、と自分のポーチや、取り出したハンカチ、布製の小物入れ、服の裾なども持ち上げる。
街並みや人を象った刺繍がそこには綿密に刻まれていた。
隣国の港町、北の国の雪原、遠い砂漠で目にしたオアシス。
誰に見せるわけでもなく、あっちこっちに動かして高々と掲げてみせる。
虎の声が、若干強くなった気がした。
大きくなって、波打って、キュートを取り囲む。
ゆっくりポーチを降ろして、俯いて、それからキュートは息を吐いた。
o川* )o「来ないなら、あたしからそっちに行くから、待ってて」
途端に、空気が変わった。
虎の声のボリュームが一層高くなり、彼女を明らかに威圧してきている。
o川* o )o「……なによ」
キッ、とあたりを睨んで、キュートは歯噛みした。
189
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:39:54 ID:XWtDTcAU0
o川* o )o「入っちゃダメっての? やめてよ。あたしはただ会ってお礼を言いたいだけなんだよ!」
土を蹴って、駆けだして、茂みの向こうへと進んでいく。
あたりはまた一段と暗くなり、虎の声も高くなる。
風が吹き荒び、キュートを包み、切り裂かんばかりに呻いてくる。
竹の撓る音。
擦れる葉がざわめき、影を濁らせる。
キュートは前を見つめていた。
竹ばかりが聳える前の、暗がり。サナ雨林の奥の奥まで続いている闇の向こう側。
どこまでも行ける気になって、足を進めようとしていた。
「待てよ」
と、後ろから呼びかけられた。
190
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:40:53 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ -゚)o「え」
振り向けば、つい最近別れたばかりの顔があった。
( ^ν^)「こういう自然だけの場所に一人で
いるもんじゃねえよ」
顰め面を解しもせずに、ニュッ君はキュートの前へと進んだ。
( ^ν^)「ほら」
o川;゚ -゚)o「え、あ、うん」
差し出された手を弱々しく握って、キュートは前へと歩き進んだ。
☆ ☆ ☆
191
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:41:54 ID:XWtDTcAU0
o川;゚ -゚)o「なんでここにあたしがいるってわかったの」
( ^ν^)「勘っすよ」
o川;゚ -゚)o「ええ」
( ^ν^)「なんすか」
o川;゚ -゚)o「もうちょっと、理屈はないの?」
( ^ν^)「虎のやかましい方を目指したんです」
o川*゚ -゚)o「そうなんだ……ところでお連れさんは」
「昼に食べた川魚にあたったらしい」
o川;゚ -゚)o「大丈夫!?」
( ^ν^)「宿で寝てるうちに直るよ。あの人、身体頑丈だから」
192
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:42:57 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ー゚)o「そういえば二人はどういう関係なの?」
( ^ν^)「俺とブーンさん? どういうというか、まあ、成り行きで」
o川*^ー^)o「そこをもっと聞きたい」
( ^ν^)ゞ「面倒なんすよ」
o川*゚ー゚)o「じゃあ、旅の目的は?」
( ^ν^)「俺は将来なりたいものを探している。あの人は、自分の記憶を探している」
o川;゚ー゚)o「記憶!?」
(;^ν^)「ああ、ほらもう、めんどい。説明しなきゃわからねえっすよね」
かいつまんでの説明をニュッ君は早口でした。
ざっくばらんな調子ではいたが、キュートは何度も頷いてくれていた。
193
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:43:55 ID:XWtDTcAU0
竹林の道は相変わらず続いている。
日が傾いてきたせいか、暗がりもますます濃くなっている。
話は途切れることなく穏やかに進んだ。
( ^ν^)「とまあ、こんな具合であの人には記憶が無いらしい」
o川*゚ー゚)o「ラスティアかあ、懐かしいな。昔、いたよ。まだ滅ぶ前」
( ^ν^)「じゃあ、あとでブーンさんと話してくださいよ。話聞きたがってるから」
o川*゚ー゚)o「話になるようないい思い出もあまり無いけどね」
( ^ν^)「大丈夫。なんでもいいから。きっと嬉しがります」
o川*゚ -゚)o「……」
( ^ν^)「なんすか」
194
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:44:54 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ー゚)o「いや、なんか面白いなって思って」
( ^ν^)「けっ」
口をすぼめるニュッ君に、キュートはそっと微笑んだ。
いつの間にかその足は力強く地面を踏みしめていた。
竹林を進む途中、虎に向かってキュートは頼んでみた。
師匠のところへ案内してほしい、と。
言葉は通じるはずだ、とはニュッ君のアドバイスだ。
たとえ人の姿を捨てたとしても、わかってくれれば導いてくれるだろう。
そんな期待が、虎の声の強まり方によって後押しされた。
進むとき、ある方向に進めば声が大きくなり、別の道へ進めば小さく鳴るか途絶えてしまう。
大きくなる方ばかりをえらんで、前へ前へと進んでいった。
鬱蒼と茂っていた道だが、声を頼りに進むと不思議と足はもつれることなかった。
キュートは師匠のことをニュッ君に話さなかった。
ニュッ君も特別に詮索しようとはしなかった。
会話はだいたいニュッ君の昔話や、ブーンとの旅の話で、それも大して続かずに黙っている時間が多くなった。
気まずい沈黙ではなく、ただ足を進めることだけに集中したくなったからとでもいうような、意識的な沈黙だ。
195
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:45:54 ID:XWtDTcAU0
竹林は唐突に開けた。
夕暮れになった太陽の橙色の光が草原を照らしている。
竹に囲まれたその広い場所に、石がぽつんと置かれていた。
ちょうどキュートのあごくらいの高さまである、大きな石だ。
( ^ν^)「……冗談だろ?」
と、ニュッ君が呟いた。
思わず口から零れてしまった。
( ^ν^)「趣味が悪いな、これは」
ニュッ君が振り向いて、あたりを睨め回す。
虎の姿を捕らえようと目を凝らしていた。
キュートがその裾を掴み、首を横に振った。
o川*゚ー゚)o「いいよ」
( ^ν^)「え? でも……」
o川*゚ー゚)o「なんとなく、気づいてたから」
何が、というニュッ君の問いかけに答えは返ってこなかった。
196
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:46:57 ID:XWtDTcAU0
一歩ずつ、これまでの歩みとほとんど変わらない速度で彼女は歩いた。
ニュッ君は数歩後ろからついていった。
石には何も書かれていない。
人間の手では決してなく、かといって自然にしては不思議な形。
o川*゚ー゚)o「お墓、だね」
キュートはそう断言した。
石の前に受け皿のようなものがあった。
木の実や、枝葉が置かれている真ん中で、一際大きく凝ったものがあった。
目を凝らさなくてもわかる。
それはキュートが髪につけているものと同じ髪留めだった。
( ^ν^)「おそろいだったんすね」
o川*^ー^)o「うん。師匠、髪長かったから、作業中とかに留めていたんだ」
197
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:47:53 ID:XWtDTcAU0
キュートは腰をかがめ、墓の前に頭を下げた。
首を持ち上げると、すぐに頭の髪留めに手を伸ばした。
( ^ν^)「置いていくんですか?」
目を少し見開いてニュッ君が尋ねた。
o川*゚ー゚)o「うん」
( ^ν^)「なんで?」
o川*゚ー゚)o「うーんとね」
髪留めを外した。
o川*゚ー゚)o ・・・
o川*-ー-)o「内緒」
198
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:48:55 ID:XWtDTcAU0
皿の上にことりと髪留めが置かれる。
揺れがすぐにおさまって、安定すると、二つの髪留めがまるで初めからそこに会ったかのように並んでいた。
( ^ν^)「これから、どうするんすか」
ふと思いついた疑問を、ニュッ君はキュートに投げかけた。
後ろ姿ではあったものの、キュートが口の端をつり上げるのがわかった。
o川*゚ー゚)b「まだ何にも決めてない」
振り向いた彼女はやはり笑っていた。
何かを押し隠している。
それはわかったが、ニュッ君には何も問うことができなかった。
☆ ☆ ☆
199
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:49:58 ID:XWtDTcAU0
(ヽ^ω^)「やれやれ、昨日は散々な目に遭ったな」
ニュッ君が竹林から宿屋に帰り、一泊した次の日の朝、部屋の中で二人は旅支度を整えていた。
今日の昼間には道沿いの次の宿へ泊まる予定でいる。
( ^ν^)「調子はどうです?」
(ヽ^ω^)b「やっと落ち着いてきたみたいだよ」
窶れた顔で腹を摩りながらブーンは力なく答えた。
( ^ν^)「無理をしないようにもう一泊することもできますけど」
(ヽ^ω^)「いや、違うんだ。そういう心配じゃ無くてね」
言葉の途中でブーンの腹が音を立てて鳴った。
200
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:50:54 ID:XWtDTcAU0
(ヽ^ω^)「夜ご飯がおかゆだったでしょ。だからね、お腹減った」
(;^ν^)「逆に元気すぎっすよ、そりゃ」
リュックに物を敷き詰め終わり、階下に降りて受付にて手続きを済ませる。
外に出てロバの留め具を外した。荷物を載せている最中に、草を踏み分ける音が聞こえた。
( ^ν^)「ああ」
o川*゚ー゚)o「おはよ」
旅の時の服装とはまた違う、ニット編みの暖かそうな出で立ちだった。
o川*゚ー゚)o「世話になったし見送ってあげるよ」
( ^ν^)「ああ、それは、どうもっす」
201
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:51:57 ID:XWtDTcAU0
(ヽ^ω^)「一昨日のシチュー、美味しかったです」
o川*゚ー゚)o「あ、ありがとうです」
(ヽ´ω`)「思い出したらなんだか涙が」
o川;゚ー゚)o「そんなに! また作ってあげますから」
(ヽ´ω`)「ああ……ありがたや」
(ヽ´ω`)「おや」
頭を下げたそのときに、ブーンはふと口にした。
(ヽ´ω`)「これは、なんです」
キュートの服の裾に、それはひっそりと飾られていた。
202
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:53:01 ID:XWtDTcAU0
o川*゚ー゚)o「ああ、コースターですよ。いいデザインのおみつけるとすぐ留めたくなるんです」
縫い止めされたのは、カエルたちが頭を寄せ合っているマーク。
(ヽ´ω`)「どこのお店ですか」
o川*゚ー゚)o「ラスティアの城下町。
昔、ちょっとした慈善団体みたいなものに所属してて、そこが開いていたお店で使われていたものなんです」
カエルの数はちょうど三匹。
o川*゚ー゚)o「このマークに見覚えが?」
(ヽ^ω^)ゞ「ええと、なんとなく、引っかかるような」
o川*゚ー゚)o「なら、寄ってみるといいかも」
203
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:53:47 ID:XWtDTcAU0
(ヽ^ω^)「でも、ラスティアはもうないのでは」
o川*゚ー゚)o「あたしも最近知ったのだけど、当時の団体のメンバーが隣国に同じようなお店を作ったらしいんです。
風の便りに聞いただけで、まだあたしも寄れていないんですけどね」
(ヽ^ω^)「なるほど。ちょっと遠いけど、いいかもしれないですね」
( ^ν^)「荷造り終わりましたよ」
ニュッ君が手を叩いて知らせてくれた。
村の入り口まで歩いて向かった。
キュートを交えて、他愛ないことを話し合った。
204
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:54:54 ID:XWtDTcAU0
( ^ν^)「さて、と」
村の門の前で一時、止まる。
風と、虎の声は相変わらず、竹林から村の方へと流れてきていた。
( ^ν^)ノシ「それじゃあ」
o川*゚ー゚)ノシ「うん」
キュートは長いこと、遠ざかるニュッ君たちを見つめてくれていた。
☆ ☆ ☆
205
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:56:05 ID:XWtDTcAU0
竹林の道を歩き始めてしばらくした頃。
(ヽ^ω^)「あ」
と、ブーンが言った。
(ヽ^ν^)「忘れ物ですか?」
(ヽ^ω^)「いや、違う。この虎の声」
思いついたことでもあったらしく、ブーンは目を見開いていた。
(ヽ^ω^)「もしかして歌なんじゃないかな」
( ^ν^)「歌?」
( ^ω^)「うん。森に入ってようやく気づいたけど、同じようなフレーズが繰り返されているみたい」
206
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:57:11 ID:XWtDTcAU0
耳に届いている虎の音が、言われてみると、微かにつながりを帯びているように聞こえてくる。
( ^ν^)「本当だ。でも、なんで歌なんか」
そう呟いたニュッ君が、小さく、息をのんだ。
「虎の手だと、何も作れないから」
「ん、なんだっけ。それ」
「キュートが言ってたんです。師匠について、そう」
そのたった一言が、急に心に浮かんだ。
虎の手ではミニチュア細工は作れない。
それでも何かを作りたいと思ったら、歌うことくらいしかできないのではないか。
だとしたら、この歌はキュートの師匠が歌っているのだろうか。
最初のうち、声はキュートを遠ざけていた。
207
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:58:49 ID:XWtDTcAU0
(;^ν^)「物を作れない自分を見せたくなかった……?」
推測が口をついて出てしまう。
仮定を踏まえて思考だけが先に走っていく。
一度は退けたものの、声は最後にはキュートを墓へと導いた。
それが墓だと、断定したのはキュートだ。
薄々気づいていた、と彼女は言った。
キュートが髪留めを置いた理由を、彼女はついに語らなかった。
( ^ν^) ・・・
( ^ν^)「ねえ、ブーンさん」
( ^ω^)「うん?」
208
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 21:59:46 ID:XWtDTcAU0
( ^ν^)「キュートと師匠さんって、どういう関係だったんですかね。
そもそも何で旅をしていたのかも、話されませんでしたよね、俺ら」
( ^ω^)「……僕は聞いてないし、あの人も話さなかったからなあ」
だから、想像でしかないけど、と言い添えてから。
( ^ω^)「何年も旅をしたあとにも、ふっと会いたくなるような、仲のいい二人だったんだよ。きっと」
眺め回した竹林に、ニュッ君は虎の影を探そうとした。
細い幹と幹の隙間を縫うように。
しかしどれだけ目を凝らしても、ついぞその影は見つけられなかった。
悲しい調べの虎の歌はやがて風の音に薄らぎ途切れた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆
☆
209
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 22:00:52 ID:XWtDTcAU0
第十九話 虎の町 (冬月逍遥編④) 終わり
第二十話へ続く
.
210
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 22:01:52 ID:XWtDTcAU0
>>209
訂正
第十九話 虎の村 (冬月逍遥編④) 終わり
第二十話へ続く
.
211
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/25(土) 22:02:50 ID:XWtDTcAU0
おまけ
最近町中を彩っている工芸品をご存じだろうか。
一遍100×100サイズで売られているパッチワークパッチワーク(→写真①)である。
まるで町の一風景を切り取ったかのようなその絵柄は学舎に通う女学生を中心に話題となり
今や老若男女を問わず、日常生活を飾るちょっとしたアクセントとして人気を博している。
作者はサナ雨林の某村在住の工芸師、キュート・スプリング氏(2*歳)。
「自分の作品が大勢の人々の手に取られるようになるなんて夢にも思わなかったですよ」
素直に驚きを表しつつも、我々取材班のインタビューに快く応じてくれるスプリング氏。(↓写真②)
(中略)
「……私の作品は、実はほとんどモデルがあるんですよ。昔憧れていた工芸師さんの、ええそう、さっき話した師匠です。
いつまでたっても師匠の作品のすばらしさが忘れられなくて、再現したくて、ガムシャラに編んでいるんです。
師匠が工芸作品を作ることはもう無いけど、いつまでもそれを悲しんでいるんじゃなくて、師匠に並べるように私が頑張ろう、って。
本格的にパッチワークに取り組み始めた今でも、いいえ、今だからこそ、その思いを強くしながら取り組んでいます。
あ、もちろん、買ってくださった方々は私のことを気にせずご自分の好きなように使ってほしいですよ。
他の誰かに見てもらって、その人の魅力を上げる一助になってくだされば、私はとても嬉しいんです」
――本日は貴重なお話ありがとうございました。
次回は、最近澄んだ歌声が聞こえると評判のサナ雨林遊歩道についてご紹介します。
〜〜アーケ町報 31*年冬号『しんみり流行案内』より抜粋〜〜
212
:
同志名無しさん
:2016/06/25(土) 23:03:59 ID:XDTUIYWE0
おー、乙!
213
:
同志名無しさん
:2016/06/25(土) 23:25:25 ID:RCKDlPUU0
乙乙
214
:
同志名無しさん
:2016/06/26(日) 14:48:33 ID:jviJb8dc0
おつおつ
三匹のカエルに所属してたっていうので一瞬素直姉妹かと思ったけど、辻褄合わなくなるから違うな
215
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/06/26(日) 19:39:21 ID:RMVhSkxw0
>>214
〜〜〜〜〜
('A`)「俺は2年前から、つまりレジスタンスになってからこの組織に加入している。
レジスタンス全体は大した人数じゃない。俺と、シュールと、ジョルジュと、リーダーと、
あとは今ちょうど他の町に行って交渉に参加している奴が少し」
(第一部 戦士と王女の章 『第三話 勝てない理由と追いかけっこ』
>>316
より引用)
〜〜〜〜〜〜
このときドクオの会話に出てきた「他の町に行って交渉に参加している奴」というのがキュートです。
余所の国へ行っているうちにラスティアが滅んでしまい、旅人になりました。
ノパ⊿゚)とo川*゚ー゚)oは友達です。ちなみにlw´- _-ノvもノパ⊿゚)の友達です。
どうして魔人に反抗するレジスタンスに所属していたのか、魔人の村を離れられなかった師匠との関係と合わせてお察しください。
元々のシナリオでは糸使いとして第二部に登場し、某場面でジョルジュと協力する予定でしたが、
どうにもうまく馴染むことができず、泣く泣くお蔵入りに。
この度、その供養の意味合いも込めて、ゲストとして登場いただいた次第です。
216
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:00:59 ID:qmaQ7Tl.0
投下します。
217
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:02:07 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「いらっしゃい」
(´・_ゝ・`)「見ない顔だね。遠くからのお客様かな?」
(´^_ゝ^`)「お好きな席へどうぞ。見ての通り、どの席も空いていますから」
(´・_ゝ・`)「ご注文がお決まりになりましたら及びくださいね」
(´・_ゝ・`)φ「あ、もう選びました?」
(´・_ゝ・`)φ「違う?」
(´^_ゝ^`)「ああ、この音楽ですか。オルゴールですよ」
(´^_ゝ^`)σ「カウンターの一番端、柊の葉のリースの傍に置いてありますでしょう?」
(´・_ゝ・`)「卵型のオルゴール。ほんの少し前までこのお店で働いていた、元店員のものだったんです」
218
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:03:12 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「要らないなんて言うものだから、僕がもらっちゃいました」
(´・_ゝ・`)「しんみりとし過ぎな気もしますけど、鳴らしてみると様になるものなんですよね」
(´^_ゝ^`)「気に入っていただけました? それは良かった。あの子もきっと喜びます」
(´・_ゝ・`)「ところでご注文は……まだいい? ああ、そうですか。どうぞごゆっくりお選びください」
(´・_ゝ・`)そ「はい? 探し物ですか? え、人」
(´・_ゝ・`)□「写真があるんですね。このあたりじゃ珍しい。魔人製? ひょっとしてテーベ製の機械ですか? お高いんでしょう、あれ」
(´・_ゝ・`)□「……ん?」
(´・_ゝ・`)□ ・・・
(´・_ゝ・`)□「この人、いったい何をしたんですか?」
219
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:04:09 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)□「教えられないですか。そうですか」
(´・_ゝ・`)□「いえ、見たことは、ええと、ありますよ。はい」
(´・_ゝ・`)□「ただ特別悪い人には見えませんでしたからね」
(´・_ゝ・`)つ□「とりあえずお返しします」
(´・_ゝ・`)「そもそもあなた方はいったいどうしてあの人を探しているんですか」
(´・_ゝ・`)「答えられない? ふむ……」
(´・_ゝ・`)「正直なところ、その人のことを売るような真似はしたくありませんので、ええ」
(´-_ゝ-`)「いえいえ、こちらのわがままです。謝られることはありません」
(´・_ゝ・`)「お帰りですか」
(´・_ゝ・`)「注文、しないんですね」
220
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:05:08 ID:qmaQ7Tl.0
(´・_ゝ・`)「こんなこという空気じゃないのかもしれませんが、もしもよかったらまた来てください」
(´^_ゝ^`)「一緒にオルゴールを聞きながら一服つきましょうよ」
(´・_ゝ・`)「え? 歌の意味ですか? いえ、あまり詳しくは……」
(´・_ゝ・`)「なんですか? 掌なんて」
バシュンッ
(´ _ゝ `) フッ
「あーあ、またやったな」
「そんなにむやみに消しちゃって大丈夫かよ?」
コクコク
「まったくもう」
221
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:06:12 ID:qmaQ7Tl.0
「で、どうするんだ、これから」
「手がかりないじゃねえか。もう半月経つっていうのに」
「この町に来たのは確か、か。まあそうか」
「気軽に跡を追うっていうけどな、あんたには仕事があるだろ」
「酋長」
「探偵ごっこもここまでにして、そろそろ馬車に乗るぞ」
「今からなら、年末の訓示に間に合うはずだ」
「大司教も待ってるから」
「コーヒーが飲みたい? 自分で眠らせておいて何言ってんだよ」
「はいはい、ダダこねない。とっとと行く。ほら」
キイー
…バタンッ
222
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:07:07 ID:qmaQ7Tl.0
(´ _ゝ `)「ん」
(´+_ゝ-`)「うーん」
(´・_ゝ・`) パチリ
(´・_ゝ・`)「……はて、どうしてテーブルに寝てなんか」
(´・_ゝ・`) ・・・
(´・_ゝ・`)そ「あ! 開店時間過ぎてる!」
(;´+_ゝ+`)「弱ったなあ。寝ぼけていたかな」
(;´・_ゝ・`)「お客さんが来る前に掃除しないと」
アーイソガシイ、イソガシイ
☆ ☆ ☆
223
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:08:16 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)そ「ん」
街道を歩いている途中、ふっと背筋を伸ばして振り返った。
鬱蒼とした森もすでに遠くなりつつある。
その向こうはニュッ君の目になじみのある、ヘルセ付近の山の影だ。
( ^ω^)「どうしたんだい」
( ^ν^)「いや、なんだろう。虫でも飛んできたかな」
歩みを止めて頬をかいた。
これといったものは何も思い浮かばない。
( ^ν^)「なあ、ブーンさん。そういえば、向こうに見えてるあれは何なんだ」
話題を探して、ニュッ君は東を指さした。
これまで山に隠れていた方向に、すらりと伸びる高いものが見えている。
普通の山よりもずっと細長く、棘のような形をしている。
( ^ω^)「イオの峰だね。僕の故郷からもよく見えたよ」
224
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:09:07 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「山なのか?」
( ^ω^)「そのはず。といっても、北のマルティア国の領土内だから詳しくは知らないけれど。
こんな昔話があったろう。『魔人は昔、イオの峰から降りてきた』って」
( ^ν^)「ああ、そんな話もあったかな」
ニュッ君がその昔話を聞いたのは、教会で暮らしていた頃だ。
身寄りのない子供たちを育てていた教会の教父の一人が、彼の寝床で毎晩お話を読んでいた。
ずっと昔のお伽噺。
一番初めは北西に浮かぶ島の高い峰から。
それから後に続いて世界各地の峰から彼らが降りてきたという話。
実際に彼らが山で生まれて降りてきたのか、それとも何かの比喩なのか。
それは今、少なくとも庶民には誰にもわかっていない。
わかっているのは、少なくとも300年前から、彼らが人間社会に溶け込んでいたという事実。
225
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:10:14 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「実物を見たのは初めてでしたよ」
目を眇めて山を見つめて、首が痛いなとぼやいた。
( ^ν^)「次の町までどれくらい」
( ^ω^)「あと少しだよ。ほら、前の方、何か見えるよね」
( ^ν^)「おー、あれか。あれは……なんだ?」
イオの峰に見下ろされながら、彼らは街道をまた歩き始めた。
☆ ☆ ☆
226
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:11:19 ID:qmaQ7Tl.0
第二十話
猪と栗鼠の町、あるいはひとつの観測地(冬月逍遥編⑤)
.
227
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:14:13 ID:qmaQ7Tl.0
どぉん、と強い音がした。
( ^ν^)「ん?」
(;^ω^)「うっわ」
ロビーで二人、ブーンとニュッ君は衝撃に体を揺さぶられる。
薄暗いロビー。
地震のような衝撃だったのに、声を出したのは二人だけだ。
( ^ν^)「なんかみんな白けてるな」
あたりの人たちを眺めまわしてニュッ君がつぶやいた。
ロビーにいるほかの人たちは騒がずに、審査が進むたびに番号が更新される掲示板を見つめている。
ここは審査庁。
エウリドメの入り口に建てられている、入町手続きをするための施設だった。
228
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:15:14 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「結構揺れた気がしたんだけどなあ」
( ^ν^)「地震が多い町なんですかね」
( ^ω^)「ふうん、これも慣れか」
などと納得しかけていると、「地震じゃないわよ」と、横から声が割って入ってきた。
見れば恰幅のいい中年の女性がにこにこしながら立っていた。
「町の中の猪が壁に体当たりしてるのよ」
( ^ω^)「壁?」
「来るときに見たでしょ。エウリドメを囲んでいるあの壁」
来た時のことを思い出す。
人を十人縦に並べてようやくつり合いがとれそうな、大きな壁が、審査庁の周りに聳えていた。
街道から見えていて、十分に二人を驚かせたのだが、それはほんの一面でしかなかったらしい。
( ^ν^)「確かに壁は見えたな。あれ、町を覆っているのか」
229
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:16:09 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「猪とは、森から紛れ込んできたんですか?」
ブーンは歩いてきたときを思い出していた。
サナ雨林を抜けてしばらく歩くと、森ほどではないにしろ、たくさんの樹木が出迎えてくれていた。
冬だからこそ葉のない木が目立つのだが、春先から夏頃にはさぞ豊かに生い茂るようだった。
「ううん、違う。ずっと昔に森から連れてきた猪たちよ。
猪ってほら、どこでも体当たりしちゃうでしょう?
外の森のどこからでも走ってこれちゃうと対策が立てられないからって
どこでどう体当たりされたかすぐに把握できるようにしてあるのよ」
( ^ν^)「管理しているんだな」
「そうともいえるかも」
気のいいその人はまだまだ話したがっていたが、審査室から名前を呼ばれて、名残惜しそうに立ち上がった。
「じゃあね、旅人さん。少し変わっているけれど、いい町だからゆっくりね」
話し好きなおばさんもいなくなり、また二人きりに戻った。
230
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:17:07 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「体当たり、か。町の人たちもそれに慣れっこで、だから驚かないと」
( ^ν^)「名物みたいなものなんかね。それにしては煩そうだけど」
( ^ω^)「猪の数そのものは多くないのかもしれないね」
せっかくだし一回くらいはみたいかも。
なんてことを呟いていたら、名前を呼ばれた。
( ^ν^)「観光、でいいっすよね」
( ^ω^)「いいと思うよ。たぶんあんまり長く滞在できないと思うけど」
そして二人は審査を受けて、三日間という滞在期間を得た。
☆ ☆ ☆
231
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:18:06 ID:qmaQ7Tl.0
審査庁を出たら、そこはもう壁の内側だった。
目につくのは、いくつもの建物だ。
枯れ木の枝が巻き付いている石造りの建物がそこら中に寄せ集められている。
細い道が横へも前へも、斜め向こうへも、好きなように伸びていた。
チョコレート菓子のような家々の屋根が折り重なって空をより狭くしている。
その屋根のずっと奥に、壁の反対側が高く聳えていた。
建物には高さが合った。しかしどの建物も、壁と比較すればごくごく小さい。
新しい町の景色をたびたび二人は目にした。
その中でも、これほど人の手に寄る物の存在を傍に感じた町並みも珍しかった。
隙間が狭いせいだろうか、何もかもがミニチュアになってしまったかのように感じられた。
その目新しい街道が、今はどうにも騒がしい。
道行く人々の足取りが速く、どうも一方へと向かっているようであった。
232
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:19:08 ID:qmaQ7Tl.0
「逃げたぞ!」
まずそう聞こえた。
身構える二人の脇を何かが猛烈なスピードで駆け抜けていく。
「どけどけー!」
という声が耳に残った。
( ^ω^)「な、なんだ?」
( ^ν^)「風?」
きょとんとする二人が振り向いた先に、もうその姿は遠ざかっている。
茶色い堅そうな毛を靡かせて。
( ^ν^)「猪だ」
呟いた言葉の向こう側で、どしん、とまた大きな音がし、土煙が立ち上った。
ざわめきながら、人々が街道を走っていく。二人を追い越して、土煙の方角へ。
怒っている人もいれば、笑っている人もいる。どちらかといえば気楽そうな顔をした人が多かった。
233
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:21:08 ID:qmaQ7Tl.0
首を伸ばして眺めてみれば、猪の横たわっているのが見えた。
「離せ!」
誰かが叫んでいる。
警備員といった風情の男が石畳の床に膝をついてごそごそと手を動かしている。
目を凝らしてみて、初めてその手に小さな人が握られているjのがわかった。
(=゚д゚)「ちくしょう、離しやがれ。こんなところで捕まえやがって」
冬だというのに赤い布一枚をカーディガンのように羽織った小さな人が罵声の主だった。
背は低く、顔だちも幼く、体毛の毛深いのを除くと人間と変わりない。
あれは誰かと尋ねたら、「栗鼠の魔人だよ」と誰かが答えてくれた。
(;゚д゚)「やめろよ、町から出さないでくれよ。頼むよ」
栗鼠の声は次第に小さくなっていく。
警備員はそれを無視して、男をわしづかみにして背中で抱え、審査庁へと進んでいった。
そのようにして、扉の向こうに栗鼠と猪は連れて行かれた。
234
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:22:17 ID:qmaQ7Tl.0
「今日も行っちゃったね」
誰かが言い、みんなが笑って、それで野次馬はお開きになった。
あっけないほどにみんな、顔を背けて狭い街道へと消えていく。
絡みつく枝たちの描くアーチに埋もれていくように。
( ^ν^)「なんだったんだろ」
( ^ω^)「さあねえ。魔人だけど、子どもだからかな。あんまり怖がられてもいないみたいだ」
宿へと向かう道すがら、往来の人々にそれとなく質問をした。
猪について、栗鼠について。
帰ってくる言葉はだいたい同じ。
昔、ここに猪の村があった。
人間はあとからその村におじゃましたが、猪の力に怯えて壁の中に閉じ込めた。
そのうち壁に絡みついた蔦に栗鼠が登ってきて、二種族目の魔人になった。
だが、栗鼠たちは壁からすぐに出て行った。いかに小さかろうと、壁の中は窮屈だったのだ。
栗鼠の魔人は町を出て、今はサナ雨林の森の中に潜んでいるという。
235
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:26:06 ID:qmaQ7Tl.0
「でも、さっきの栗鼠は特殊だよ」
たまたま声を掛けた露天商が、話が好きならしく、付随することをいろいろと教えてくれた。
「あの栗鼠、もう何年も前からいるんだ。で、猪をけしかけて外へと出そうとしているんだよ」
( ^ν^)「壁を壊すつもりなんですか」
「そうみたいだよ。よくやるよね。もう何百年と一度も崩れたこともないのに」
露天の品を売り込まれる前に、早口で別れを告げ、
聳える壁に一瞥をあげながら、二人は宿へと道を急いだ。
☆ ☆ ☆
236
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:26:59 ID:qmaQ7Tl.0
空には星が輝いている。
冬の大三角形が見下ろしてきている中、壁の一部が少し動いた。
猪が向かいに立っていて、鼻でその端を押している。
(=゚д゚)「よしよし」
と、言いながら顔を出したのは、昼間壁にぶつかっていたあの栗鼠だ。
「もうやめようよ」
栗鼠の体が半分穴から出てきたところで、猪はか細い声を出した。
栗鼠は聞く耳持たず自分の身体を揺らしている。
「やめようよ、こんなこと。注目を集めるだけだよ」
先ほどより幾分か大きな声で猪が声を震わせた。
237
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:28:00 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「そんなこというな」
栗鼠がとうとう腕を出す。
(=゚д゚)「いいか、お前はずっと壁の中にいたんだ。だから知らないんだ。壁の外の世界を。
お前らはみんな、もっと自由に走っていいってことを知らないんだよ」
「そんなの知ってるよ」
(=゚д゚)「いいや、知らない。知らないから満足していられるんだ」
「満足しちゃいけないのかい」
(=゚д゚)「いけなくないけど! でもこんな――」
足跡がして、声がやむ。
猪の後ろに立っていた人影が、ゆらりと揺れて猪と栗鼠に近づいた。
「大丈夫」
と、人影が言い、月明かりの元で微笑みを見せた。
( ^ω^)「獲って焼いたりはしないし、君らのことも黙っているから」
238
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:29:51 ID:qmaQ7Tl.0
宿へと向かっていたときに、その穴に気が付いた。
日雇いでの警備員時代に培った勘である。
穴の奥に帰ってしまった栗鼠は、顔の体毛をわずかに覗かせた。
(=゚д゚)「本当だろうな」
( ^ω^)「うん」
(=゚д゚)「だったら証拠を見せろ」
( ^ω^)「証拠と言ってもなあ……外からきた旅人だってことくらいしかわからないよ」
首から下げた、入町管理証を指でつまんで持ち上げる。
審査庁から授かったプレートで、何が起きても必ず身に着けるように言われていた。
わずらわしい管理システムとも思ったが、こんなところで役立つのは予想外だった。
栗鼠がとうとう穴から顔を出して、管理証を鼻を寄せて嗅いだ。
しばらくして重々しくうなずくと、栗鼠はブーンの前に姿を見せた。
(=゚д゚)「審査庁の人間じゃないことはわかったけど、何の用」
( ^ω^)「ちょっとお話しでもどうでしょう」
(=゚д゚)「なら、別の場所にしよう。この穴をばらしたくはない」
手招きする栗鼠の背中を追って、ブーンも夜の町をひっそり歩いた。
☆ ☆ ☆
239
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:30:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「なるほど、静かでいいところだ」
町の真ん中、丸い敷地の広場には、昼間だけ稼働する噴泉がある。
雑踏はすでになく、ひっそり沈んだ空気の中に、花壇の傍の草原でブーンたちは寝ころんだ。
(=゚д゚)「旅人なの?」
となりに座った栗鼠が尋ねた。
( ^ω^)「うん」
「うわあ、すごいなあ」
とは、猪の言葉だ。
(=゚д゚)「お前は何感心しているんだよ!」
のんびりとした猪に、栗鼠の早口の叱咤が飛んだ。
肩をすくめる猪の背中を何度もその小さな掌が叩いた。
240
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:31:53 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「お前もそうなるんだよ。いずれ外に出て、あてもなくふらつくんだ」
「ええ、できるかな」
(=゚д゚)「できる」
(;^ω^)「まあまあ、僕だってただふらついているわけじゃないよ」
微笑みながら、ブーンが上半身を起こした。
( ^ω^)「目的はあるんだ。首都を目指している。僕の過去を知る人がいるんじゃないかと思ってね」
記憶が無いんだよ。
そう、ブーンは付け足した。
241
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:32:52 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「どういうこと?」
素直な疑問が二人の口から出てくる。
いがみあっていたとしても、このときばかりは目を輝かせている。
年のころは、ブーンやニュッ君よりももっと若い。十代かそこらでしかないようだ。
( ^ω^)「そうだねえ、話すと長いんだけど。
目が覚めたらエウロパの森の南の入り口で寝ていたんだ。
何も持っていない状態から始まって、嫌でも生きていかなきゃならなくて、日雇いの仕事で食いつないだ」
( ^ω^)「ようやく生活になったのは鴉の町に行ってからだ。
それから自分の記憶を求めて、道をたどって町を渡り歩いた。
蛇の町、虎の村、そして猪と栗鼠の町。
思えば旅したものだね。もう一か月近くなるよ」
もう何日もしたら、新しい年が始まる。
310年。魔人が来てから始まった新暦も、大きな節目が始まりつつある。
年の瀬迫るこの時期に旅に出るなんて、やはり珍しいことらしく、栗鼠は不可解気に首を傾げた。
でもすぐにその相好は崩れた。
(=゚д゚)「もっと話を聞かせてよ」
声はすっかり少年の声だ。
242
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:33:51 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「俺、外の世界をみたいんだ。こんな壁なんかにしばられるのはもうたくさんなんだよ」
( ^ω^)「でも、閉じ込められているのは猪だけなんだろう。
君たち栗鼠はもともと外で暮らしているって聞いたけど」
(=゚д゚)「うん。でも、俺はこいつと一緒に行きたいから」
栗鼠はそう言って、猪の頭を手でたたいた。
小さな手の指がごわごわの毛に絡まって、猪が気持ちよさそうに鳴いた。
なるほど、とつぶやいて、ブーンの口の端がめくれる。
( ^ω^)「仲がいいんだね」
(=゚д゚)「うん。俺が初めてこの町に入ったときに知り合ったんだ。
こいつがずっと閉じ込められているのが、俺すっごく嫌なんだよ」
( ^ω^)「……優しいな」
ぽつりと、小さく口からこぼすと、ブーンの指が栗鼠の頭に向かった。
掌を置くには小さすぎる頭を、指の腹でちょっとなぜる。
短い薄い茶色の体毛が、月明かりの下でブーンにゆすられた。
243
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:34:51 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「大切にするんだよ。
一緒にいたい人がいるのは、きっといいことだから」
うん、と栗鼠が元気よく答える。
今日のことは不問に伏す、だから黙っているように。
そう宣言して、喜ぶ彼らを背にブーンは離れた。
寒々とした冬の風が寝具に上着を羽織っただけの彼の着た物を揺らす。
( ^ω^)「優しい、か」
もう少しだけ散策して、ブーンは宿へと帰っていった。
☆ ☆ ☆
244
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:35:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「おや」
( ^ν^)「おう、お帰りっす」
オレンジ色のカーペットが敷かれた部屋で、ニュッ君は窓辺に座っていた。
( ^ω^)「寝ないのかい? もう夜更けだけど」
( ^ν^)「眠れなくてな。あんた、今日はどうして外に出たんだ」
( ^ω^)「警備員時代の癖、かな。やましいことはしてないよ」
上着をハンガーにかけて、鞄を床の籠に入れて、ベッドに腰かけた。
年代物なのか、あまり柔らかさは感じないが、掃除は行き届いていて、シーツも綺麗に角に収まっていた。
( ^ν^)「結構遅くに帰るものなんですね」
話が続いていた。
245
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:36:55 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「だいたい明け方に帰ってきて、午前中は眠っていた。
目覚めて身支度を整えて、それからロッシュへ向かってパスタを食べていた」
( ^ν^)「日雇いにしてはハードっすね」
( ^ω^)「思い返せばね。でもほかにやることもなかったし、お金も十分に溜まったし」
( ^ν^)「今更っすけど、喫茶店、通い詰めてくださってありがとうございました」
( ^ω^)「いえいえ」
( ^ν^) ・・・
( ^ν^)「あの」
( ^ω^)「うん?」
( ^ν^)「あのころの俺、旅することなんて考えもしなかったっす」
ニュッ君がブーンの方を向いた。
月明かりの逆行でブーンからは見えにくかったが、その顔は真剣だった。
246
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:37:51 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「外の世界のことも何も知らないで、ずっと喫茶店を手伝って生きていく気でいました。
それでいいんだって思っていたんです」
( ^ν^)「でも、それをデミタスは良くないと思った。だからあんたと一緒に、俺は旅に出た」
( ^ν^)「それはそれで、いいことだったんだろうなって、今では思います。
世間を知るって意味で」
聞いていたブーンはゆっくりと頷いた。
それから口を開こうとしたが、その前に「待って」とニュッ君が制した。
( ^ν^)「待ってください。まだ話は終わりじゃない」
( ^ω^)「そうなの?」
( ^ν^)「はい。ちょっと待ってください」
247
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:38:50 ID:qmaQ7Tl.0
時間を置いた。
ニュッ君は眉根を寄せて、じっくりと考えていた。
口を小さく動かして、言葉が微かに聞き取れるくらい呟いていて。
やがて言葉を紡いでいった。
( ^ν^)「人って、みんな何かしらのしがらみがあると思うんです。
それはいろんな形をしています。恩義だったり、しきたりだったり、ここみたいにはっきりとした壁だったり。
現状に閉じ込める何かに囚われている人たちを、旅している中でいろいろと目にしたように思います」
( ^ν^)「俺のしがらみも、恩義でした。デミタスへの恩があって、世間に出ることを無意識のうちに度外視していた。
そのことをデミタス本人が俺に教えてくれた。こういうのは、きっとすごく珍しいことなんすよね。
しがらみから抜け出す後押しをしてくれるなんて」
( ^ν^)「だから俺は、今気楽です。何の気なしに旅をして、ブーンさんにしたがって歩いています。
とりあえず首都までは行こうって、それだけを決めていたものだから、ほかのこと何にもしていなくて」
248
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:39:53 ID:qmaQ7Tl.0
ニュッ君が頭をかいた。
うまく思いつかねえけど、と言葉を添えて、それでもブーンの方を向いていた。
( ^ν^)「もしも首都についたら、俺、仕事を探したいです」
( ^ω^)「一人で生きる、と」
( ^ν^)「そうっすね。ブーンさんとはお別れになると思うんですけど」
( ^ω^)「気にすることはないよ」
朗らかに言うと、ブーンは顔を崩して、手を後ろに伸ばして天井を向いた。
( ^ω^)「あー、どんなことを言われるかと思ったら、なるほどそういう話か」
( ^ν^)「……変でした?」
249
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:40:50 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「いやいや、そうじゃない。むしろなんだか安心したよ。
ここまで長々歩いてきたけれど、初めて君からちゃんと、自分についての意見を聞いた気がする」
( ^ν^)「そうっすかね」
ぽりぽりと頬をかいて、そうしているうちに、ニュッ君の口元が緩んでいった。
( ^ν^)「今まで、自分のことを話すってのがそもそもあまりなかったんだと思います。
だからちょっと、なんかこう、言いにくかった」
( ^ω^)「そりゃあ、言えてよかった」
( ^ν^)「……はい」
そういって、ニュッ君は鼻で笑った。
今まで彼がしてきたどれよりも柔らかい笑い方だった。
ブーンは天井から顔を戻した。
250
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:41:48 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「まあ、この旅の資金は今回の僕の仕事でだいぶ稼ぐから。
年が明けるころまでは仕事して、それから首都に行こう。それまではまだ職探しはいいよ」
( ^ν^)「大丈夫ですか?」
( ^ω^)「平気だよ。それに僕がいない間に家事をしてくれるから助かってもいるんだ。
あとは図書館にでも行って、調べておきなよ。首都がどんなところだとか、どんな仕事があるかとか」
( ^ω^)ゝ「まあ、僕が知りたいところなんだけどね」
( ^ν^)「なんなら教えてあげますよ、調べて」
( ^ω^)「おお、それはいい! まとめてくれるとありがたい。僕の記憶が――」
そこで。
言葉は途切れた。
251
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:44:16 ID:qmaQ7Tl.0
原因は、外にあった。
衝突音でも、風の音でもない。
( ^ν^)「なんすか、これ――」
それは低く轟く、悲鳴のような音。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
私の記憶が正しければ
その音が初めて観測されたのは、309年12月17日。
人々の寝静まっていた、夜中のことだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
252
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:45:07 ID:qmaQ7Tl.0
「どうしたんだよ、おい」
壁の前で、栗鼠が叫んでいた。
乗っている猪は、鼻息が荒くなっている。
瞳には赤い光が宿り、壁を目にして、地面を蹴り続けている。
「もう一度やるか? 壁を壊すってんなら、応援するけど、こんな夜中じゃ、おい!」
栗鼠の叫びを置き去りにするかのように、猪は駆けた。
まっすぐ、石造りの壁に向かって。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
後に“サイレン”と呼ばれるその音を耳にした魔人の数は、
彼の地域においておよそ10万人とも20万人ともいわれている。
発症したのは、そのうちの三割に及んだそうだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
253
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:46:36 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「は、はは」
壊れた人形のような笑い声が栗鼠の口元から洩れた。
猪の牙がいつもよりも数段鋭く、突進の威力も増していた。
壁の砕けたときの感触が、栗鼠の全身をいまだに痺れさせている。
壁の向こう側には草原があった。
背の高い草の向こうに、高く昇った冬の月。
(=゚д゚)「やったんじゃんか、なあ、おい!」
猪の頭を叩いて栗鼠が喜ぶ。
その下で、猪がまだ鼻息荒くたたずんでいる。
と、その身をひるがえした。
(=゚д゚)「え?」
栗鼠の顔が一気に青ざめる。
254
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:48:01 ID:qmaQ7Tl.0
(=゚д゚)「おいどうした。そっちは元いた町だぞ。エウリドメの」
疑問の声はすぐに消える。
再び猪がかけていた。
赤い瞳を光らせて。
☆ ☆ ☆
255
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:49:15 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ν^)「……なんなんだよ」
いてもたってもいられなかった。
窓の外が赤く燃えるのをみて、慌てて宿屋から飛び出していった。
狭い街道には人々がたたずんでいる。
何をすることもできず、所在なさげに町の空を見つめていた。
赤い炎が空を食んでいる。
濛々と立ち込める黒い煙に、瓦礫が混じって輝いている。
何かの崩れる音。
遠くで鳴り響く悲鳴。
肌をちりちりと焼く熱気。
魔人が暴れている、という噂が耳に飛んできた。
エウリドメで囲っていた猪が暴れて、壁や町のあちこちを壊して回っているのだという噂だ。
256
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:50:11 ID:qmaQ7Tl.0
( ^ω^)「わからない」
ブーンは頭を抱えていた。
さっきまで平和な寝静まった町が、今は業火に焼かれている。
この状況に至った答えを出せる者は、彼らのそばに誰もいなかった。
( ^ν^)「ほかの町は?」
ニュッ君が誰に対してというわけでもなく、疑問を口にした。
声が明らかに震えていた。
( ^ν^)「猪が暴れているんだ。栗鼠は? 鴉や、蛇は、虎は? みんな――」
大きな看板が飛んできて、二人の脇で落ちて砕けた。
破片が飛び散り、ニュッ君の頬をかすめる。
傍にいた人の誰かが叫んだ。
その声も、ニュッ君の耳には遠かった。
( ^ν^)「みんな、どうなったっていうんですか」
答えの見つからない問いが、熱に溶かされ埋もれていった。
257
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:52:58 ID:qmaQ7Tl.0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
理性を失った彼らによって。
彼の地域のほとんどの町が何らかのダメージを負った。
被害の総計はいまだに計算しつくされていない。
(ある逍遥の記録より)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
☆ ☆ ☆
☆ ☆
☆
258
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:54:05 ID:qmaQ7Tl.0
第二十話 猪と栗鼠の町、あるいはひとつの観測地(冬月逍遥編⑤) 終わり
第二十一話 へ続く
.
259
:
◆MgfCBKfMmo
:2016/07/02(土) 20:57:23 ID:qmaQ7Tl.0
投下終わりました。
ここまで、平和だった頃の彼らの世界を描けて楽しかったです。
冬月逍遥編は次回で終わります。
所用のため時間をおきますが、しばしお待ちください。
それでは。
260
:
同志名無しさん
:2016/07/02(土) 21:14:33 ID:HJCX/12.0
おつおつ
261
:
同志名無しさん
:2016/07/02(土) 23:46:55 ID:wMqnmwZo0
乙乙
262
:
同志名無しさん
:2016/07/04(月) 08:02:48 ID:nakba5Io0
おつおつ
謎ばかりが山積みになっていくな
263
:
同志名無しさん
:2016/08/23(火) 22:26:02 ID:pp8vfmC60
おつー
もうワックワクです。凄く楽しみにしています。
264
:
同志名無しさん
:2016/08/31(水) 14:01:02 ID:V2Fi/JQg0
うわあぁぁぁあ!
久々に巡回しに来たら投下来てたー!
今から読むぜー!ずっと楽しみにしてたよ!
265
:
同志名無しさん
:2016/12/17(土) 12:10:25 ID:a6Q6PaMQ0
早くこないかなー!ワクワク
266
:
同志名無しさん
:2016/12/29(木) 15:45:54 ID:VNOVvNXI0
そろそろくるかな!
267
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:20:32 ID:DM6Pm.mI0
それでは投下を始めます。
268
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:27:17 ID:DM6Pm.mI0
(1)首都の惨状
メティス国の首都、メガクリテ。その地を指して花の都と人は呼んだ。
海に向かって末広であり、盛んにおこなわれてきた他国との交易が、異国との文化交流を積極的に促してきた。
歌謡、舞踊、文芸、武芸、絵画……数多の芸術は常に新しい見識や発見に刺激を受け、更新され、メガクリテの一角を彩った。
七色の街、眠らない街、いくら耳を塞いでもきりがない喧騒の街。古くからの異名は数知れず。優美な文化の連なりがこの都市の歴史だ。
300年前に教会を有してからは宗教的意義も生まれた。
不祥事により悪評の募ったメティス国王から、半ば強奪的に首都としての機能を譲り受けたことによりますます力をつけた。
多くの国民にとって、メガクリテはメティス国の誇りと見做されていた。
温厚な気質の人間が比較的多いとされるメティス国において、その愛着の強さは他に類を見なかった。
時は下り、現在。
310年1月14日。
花の都メティスの外郭内部、今、所狭しと瓦礫に埋もれている。
瀟洒な飾りも、豪華な意匠も、全ては泡沫の夢のごとく、何も残っていなかった。
269
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:28:15 ID:DM6Pm.mI0
横たわる建物の破片がひとつ。
太陽の光を乱反射して暗い影を地に伸ばしているそれに、男の手が触れられた。
撫でる手に塵芥がこびりつく。
わずかな風であらかた飛ぶが、いくつか残り、ざらついた感触を覚えさせる。
男は手を叩き、残った砂を丁寧に落とした。
笑みを絶やさぬ広角に、ほんのり赤く染まった頬。全体的に白い貌に細い瞳が垂れがちに伸びる。
柔和な顔とは裏腹に、深く落ちくぼんだ嘆息が漏れ聞こえた。
大ぶりの襞が刻まれた丈長のローブの内側に手を引っ込める。大柄な体が、一段と横に広がって見えた。
男がメガクリテに入ったのは今日の昼過ぎのことだ。
それから一時間ほど歩いて、見たものは崩落の跡と、何かの間違いのように残されてしまった空き家ばかりだった。
( ´∀`)「無惨モナ」
嘆息混じりの声を吐くと、白い靄が纏わり付いた。
270
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:29:19 ID:DM6Pm.mI0
昨年の12月17日。メティス国、およびその周辺地域で「サイレン」が観測された。
その呼び名を最初に付けたのは隣の機械帝国テーベの某科学者だ。
空中を切り裂く、甲高い悲鳴のようなその音を耳にした魔人は、前触れ無しに理性を失う。
全ての魔人が発症するわけではないが、発症の別を予測することはできなかった。
どうして理性を失うのか、またどうしてそのようなサイレンが鳴り響くのか、まだまだ解明にはほど遠い。
サイレンが鳴るたびに、国内の街は擾乱に見舞われた。
ある魔人は自分の力を誇示するかのように暴れ、数多の街で建物や装飾を破壊した。
暴れなかった魔人、または勇気ある人間は暴れる魔人を血みどろになりながらも抑えた。
惨状を目の当たりにした人々は口々にサイレンを恐れ、魔人を非難した。
当の魔人とて凶暴化を避けようも無いことをわかっていても、住処を失った人間の怒りの矛先は魔人へと集中した。
メティス国は、魔人を崇拝するメティス国教の下で育まれてきた土地である。
この国において、魔人は生活を豊かにするパートナーであり、
命令を与えておけば決して人間に危害を加えない守衛であり、なにより良き友人だった。
都市生活圏の社会基盤、商業工業農業その他多くの生活が魔人の援助を前提として成り立っていた。
271
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:30:28 ID:DM6Pm.mI0
その社会秩序が、いつサイレンが鳴り響くかわからないサイレンへの恐怖によってあっけなく崩壊した。
今や魔人は恐怖の対象である。わずかな間に人々は次々と魔人との契約を破棄し、彼らを森へと帰した。
その動きは首都メガクリテとて同じである。
( ´∀`)「街がこの様子だと、メティス国教会本部も相当荒らされているモナ?」
ミ,,゚Д゚彡「どうでしょうかね」
男が問うと、後ろから声が掛かる。その声の主は先刻より柔和な男の後方に付き従って歩いていた。
メガクリテに来る前、出発のときから。
ミ,,゚Д゚彡「このあたりは格別かと。おそらくサイレンが鳴る以前から魔人の多い地域だったのでしょう」
答えた男は目を眇めてあたりを見回し、吐息を漏らした。これもまた嘆息。
纏った黒いコートは笑顔の男と同じく襞の多い黒。鍋蓋型の小さな帽子の下で、波打つ乱髪が肩のあたりまで延びている。
体毛が濃く、峻厳な顔つきも相まって全体として力強い印象を醸し出している。
272
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:31:31 ID:DM6Pm.mI0
顔つきや顔がやや不似合いなものの、二人は一見するとメガクリテを訪ねて来た巡礼者の姿である。
メティス国教のの総本山でもあるため、以前から首都には多くの巡礼者が来訪していた。
故に二人の姿も珍しいということはない。
ただ、荒廃する街並みを背景とすると、その目的は巡礼というよりも、災害現場に弔いを捧げに来た修行僧にも見えた。
ミ,,゚Д゚彡「あちら、ご覧ください。工場の煙突が近くに見えますでしょう。
仕事勤めの家族が多く暮らしていたのでしょう。魔人は力仕事が得意ですから、それら家族に伴われて生活していたと思われます。
サイレンが鳴り響いたのは夜中。寝静まっていた人間たちに、暴走する魔人を抑え込むことは不可能でしょう」
それゆえの瓦礫。
そこまで言葉を紡ぐ前に、男は口を閉じ、目を閉じ、種々の言葉を呟いた。
死の痛みを軽減する言葉、残された遺恨を慰める言葉、冥界への旅を祈る言葉。
メティス国教の教えに則り、ひとつひとつを丁寧に口にする。
( ´∀`)「フサギコや」
笑顔の男が言う、それは乱髪の男の名前であった。
273
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:32:33 ID:DM6Pm.mI0
( ´∀`)「祈りたくなる気持ちもわかるが、ここではいくら祈っても尽きないモナ。
先を急ぐモナ。大司教様は私の到着をご存じモナ?」
ミ,,゚Д゚彡「先だって伝書鳩で手紙を送ってはいます。
ただ、状況が状況だけに、返事を送るいとまもなかったのかと」
( ´∀`)「……教会本部、まだ残っているといいモナね」
ミ;,,゚Д゚彡「怖いこと言わないでくださいよ、酋長」
酋長と呼ばれた男の名はモナー。
二人はメティス北方に広がるエウロパの森より旅してきた魔人であり、かつメティス国教会とも深い縁の持ち主であった。
274
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:33:29 ID:DM6Pm.mI0
もともとは310年元日の、大司教と挨拶を交わすべく参じたものである。
それが、頻発するサイレンによって阻まれ、今日まで到着が遅れていた。
サイレンが起きてから、彼ら魔人を見る人々の目は厳しい。はっきり敵意を当てられることもある。
恨みを買われるのを警戒し、歩みを緩め、決して魔人であるとは明かさないよう気を配って歩んできた。
それが今のこの国の現状。
首都の瓦礫は、このときもまた奇妙にこの国の内情を象徴していた。
弱々しく笑い合っていた二人も、やがて真顔となり、惨状を後にした。
薄曇りの空の下、鴉がどこへともなく飛んでいく。
☆ ☆ ☆
275
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:34:29 ID:DM6Pm.mI0
第二十一話
首都は冷たい雨に頽れ 前編(冬月逍遙編⑥)
★ ★ ★
276
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:35:29 ID:DM6Pm.mI0
(2)new's childhood
彼が憶えている限りでの一番古い記憶は真っ暗闇だった。
目がまだ開いていなかったのか、灯がついていなかったのか、それとも目隠しをされていたのか。正確なところはわからない。
彼はただ暗い中で、誰かの啜り泣く声を聞いていた。
か細く震えるその声はおそらく彼の母親のものだ。泣いている理由はわからない。
記憶はそれだけで途切れてしまう。
次に彼が思い出すのはメガクリテ国教会の教父やシスターたちの柔らかな微笑みだ。
国教会本部、大聖堂の荘厳な装飾の下で、黒いローブを羽織ったその人たちが甲斐甲斐しく彼らを抱いて祈っていた。
命の大切さ。神への祝福。この世の理。罪への償い。
言葉は反響し、全てが増幅されて、空から降ってくる。人間の声よりもずっと大きく、深く、包み込まれるような祈り。
277
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:36:29 ID:DM6Pm.mI0
彼はその音を不快に思った。
どれだけの理念や情熱が籠もっていようとも、理解できなければ雑音でしかない。
そして付け加えて言えば、その音の連なりは彼の原初の記憶において響き渡る啜り泣き混じりの声に良く似ていた。
あれは祈りの言葉だったのだ。
自分を捨てた母親が、涙ながらに罪の告白する音。
それがあの真っ暗闇の記憶なのだと、やがて彼は気づいた。
だから彼は祈りが嫌いだった。
それは教会を出て今に至るまでも変わってはいない。
大聖堂の外には教徒たちが手入れをする端正な芝生が広がっていた。
庭木や石並びもいくつもあって、なおかつ孤児の子たちにも全てが解放されていた。
278
:
◆MgfCBKfMmo
:2017/01/08(日) 21:37:29 ID:DM6Pm.mI0
その中に、座るのに適した石があった。
先代の孤児たちのうちのとりわけ器用な人たちが表面を磨いた、綺麗な石だ。冬でも陽光を掬い取り温かく火照る。
彼はたびたびそこに腰掛け、深くゆっくり息を吸った。
暖かい陽射しを受けた空気が鼻から入って身体を巡り外へと出る。
誰にも文句を言わせない自分だけの時間。
それは自分が続いているという実感であり、彼は大事にしたかった。
思い返せば教会は寛容だった。
賑やかな子も大人しい子も、彼みたいに他者と交わろうとしない子も、平等の命として扱ってくれた。
彼にとっては頗る過ごしやすい環境だった。
本来の意義として、宗教は救いの手段。
弱き者の命を守るのが教父たちの一番の目的である。
彼が生を実感できたのも、その目的の庇護下にあったからに他ならない。
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