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川 ゚ -゚)は探しているようです

126同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:32:11 ID:s7Hwe/XI0

 だが、カラマロス大佐の手紙を前にしても、アーネムの堅い表情は消えなかった。

( ´_ゝ`)「…私は逃げないぞ、海尉」

('A`)「閣下、前線への援軍は、今からでは、死にに行くようなものです」

( ´_ゝ`)「死、か。
     タンブルストンの軍が私を殺すというなら、それも良かろう」

('A`)「卿ならば、あなたを殺しはすまいと思いますが、それでも…」

( ´_ゝ`)「ふむ、そうかな」

('A`)「そうですとも。彼の狙いはわかっている。あなたの身柄だ。
   あなたを拘束し、ニューソク本国に連れ帰るのが、彼の狙いだ。
   卿ならば、あなたを殺しはしまい」

 沈黙。

 前を見詰めていたアーネム。
 彼は、ぎゅっと下唇を結んでいた。

( ´_ゝ`)「殺さぬ、か。それは、余計に……」

127同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:35:18 ID:s7Hwe/XI0

( ´_ゝ`)「海尉、君はブラゲのツン女史を、覚えているかな?」

 アーネムは、腰のガンベルトに用意された、装飾付き二連拳銃を取り出しながら、言った。

('A`)「…サー?」

( ´_ゝ`)「今なら、わかるのだ。彼女の気持ちが」

 震える声で、アーネムは誰に語りかけるともなく、呟いた。

 観測兵が次々と上げる、
 「前線が崩壊しかかっています!」「右翼の我が軍が囲まれつつあります!」という報告も、
 今のアーネムの耳には、入っていないようだった。

( ´_ゝ`)「私はこれまで、あらゆるものを無だと捉えてきた。
      世を捨て、何もかもをあきらめて生きていた。この自分が生きていることすら、他人事だった。
      …そうすれば、少しは楽になった。背に何の荷も背負わずにおれば、苦しみを忘れられた。
      だが」

 アーネムは拳銃に、青色と赤色の信号弾を装填しはじめた。
 予備兵力の全軍に、集結と攻撃を命ずる合図だ。

( ´_ゝ`)「見つけたんだ。守るに値するものが。
      命を、自分を賭けるに値するものが。
      ここは、私が心血を注ぎ、築いた街だ。…弟者と一緒に、皆と共に」

128同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:39:11 ID:s7Hwe/XI0

('A`)「閣下! お待ちください。早まってはいけません。
   激情で目を曇らせてはなりません。閣下は人の上に立つ者としての判断を…」

( ´_ゝ`)「判断か。それが、逃げるということなら、逃げてどうなる?
     …もう、逃げぬ。
     私はこの街を、この大陸を、このヴィップを愛している。
     そして、私はこの道を選んだのだ。これが、私の戦いだ」

 アーネムは拳銃の装填棒を仕舞い、打ち金を上げた。

( ´_ゝ`)「わかるか海尉。みじめで不名誉な生を長く送るべく運命づけられた、私の気持ちが。
     そして、戦うべき場所で戦うべきものに殉じ、終わることの、気高さが!」

('A`)「閣下!」

 アーネムは拳銃を持った腕を、高らかに天に突き出した。

( ´_ゝ`)「今だ! 今が、私の戦うべき時なのだ!!」

129同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:41:57 ID:s7Hwe/XI0


 強く鈍い打撃音が上がった。


 そして、きらきらした鏡面仕上げの金属の輝きと共に、
 アーネムの羽根付き兜が、青空を背景に、宙を舞っていた。

 逆刃にした剣を振りぬいたドクオが、
 その重い刀身を、中空に捧げていた。

 
 アーネムの頭を離れて飛んでいた羽根付き兜が、
 あっけにとられて口をあけているフサのそばに落ち、転がった。


 アーネムは、しばらくその姿勢のまま座っていたが、
 やがて、無帽となった金髪をたなびかせ、白馬の鞍を離れ、ふらりと地面に落ちかかった。

 その上体を、馬上のドクオが腕を伸ばして、受け止めた。

130同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:43:11 ID:s7Hwe/XI0

 アーネムはぐったりとして、ドクオの腕の中で、伸びていた。


 突然の出来事だった。
 本部の誰もが、この事態に対し、何をどう行動して良いのかわからず、戸惑った。

131同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:45:26 ID:s7Hwe/XI0

 そんな彼らに、ドクオは矢継ぎ早に命令を出した。

('A`)「フサ」

ミ,,゚Д゚彡「い。はいっ!」

('A`)「お前は我が軍の残兵をまとめ、組織して、そしてどこかに逃がせ。
   ここにいる水兵も、前線で壊走した陸兵もだ。
   重要な任務だ。ヴィップ国軍再生の核となる軍人を集め、無事に逃がす任務だぞ」

ミ,,゚Д゚彡「ア…アイ・サー!」

('A`)「残兵の回収は追っ手との戦いだ。厳しいものになると思うが、フサ…死ぬなよ。
   逃げのびろ。命を残して、次の戦いに備えるんだ。
   そしてロマネスク、お前は確か馬が使えたな?」

( ФωФ)「…アイ、あっしは北部地方の出で」

 ドクオは、抱きかかえていたアーネムの体を自分の鞍の前に置き、
 気を失った彼に、馬の首を抱え込むような姿勢を取らせた。

('A`)「では、アーネム公が乗っていた馬に乗り、私と共に来てくれたまえ」

 ロマネスクは素早く、アーネムの乗っていた白馬の鐙に足をかけ、
 慣れた動きで飛び乗って、手綱をつかみ、敬礼した。

( ФωФ)「出港準備完了っす、サー」

132同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:50:19 ID:s7Hwe/XI0

 ドクオはロマネスクを伴い、その場を立ち去ろうとしたが、
 ふと足を止め、後ろを振り返った。

 いまや、戦線は崩壊が始まっていた。


 分厚い硝煙の煙の中に、ときおり、きらきらと閃く刀剣の光が見える。
 戦場の霧を通して、三倍の敵を相手に一歩もひかず、獅子奮迅の働きを見せるカラマロス大佐の姿が、
 ドクオには、ちらりと見えたような気がした。


 彼は、手綱から右手を離し、前線に向かって敬礼した。

 ドクオは、大佐にいろいろと言いたいこともあったが、
 彼を臆病者だと思ったことだけは、一度も無かったことを、今更ながらに思い出していた。


 そしてドクオは、アーネムを前に乗せた自分の馬をめぐらせ、
 こんどは振り返らずに、本部の丘から土煙を蹴立てて、駆け去った。

133同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:52:01 ID:s7Hwe/XI0
四.


 ドクオとロマネスクは、戦場から逃れ、林の中の道を全力で駆けていた。


 クーの補給班が隠れていた森に逃げ込むことも考えたが、
 あの濃い森の中では、逃げるにもスピードが出ない。
 遠くまで逃げるには、馬で駆けるのに適した、ちゃんとした道があるところが良い。

 そう考えたドクオは、森のふち、林の中の道を逃げることにした。


 この会戦の敗北は、疑うことができない。

 ドクオが林に入る直前に、遠く平原の歩兵戦線が一斉に後ろに崩れ、
 雪崩れるように撤退が始まっていたのを目撃している。

 植民地軍の敗北は、もはや決定的だったのだ。

134同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:52:44 ID:s7Hwe/XI0

 二人乗りの馬を駆けさせながら、ドクオは無念の思いを噛み締めていた。

 ニューソクタウンは敵の手に渡る。
 ヴィップ国独立の夢は、ひとまず、先にお流れとなった。


 この上は、馬上に伸びているアーネム公だけでもどこかに逃がし、
 植民地のどこかで再起を図るしかない。

 …それが、カラマロス大佐の遺志に、
 そしてこの戦いに散っていった戦士たちに報いることができる、一番の、また唯一の方法だ。

 ドクオはそう、信じていた。

135同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:53:31 ID:s7Hwe/XI0

 ところで、そういった先々の懸念だけではなく、
 彼らには、目先に迫った、予想されうる危険もあった。

 タンブルストンだ。


 タンブルストンは、植民地軍本部から離脱しようとする騎馬の影を、見逃しはしないだろう。
 彼の本当の目標は、そこにあったからだ。

 だからドクオは、大軍での一斉の離脱ではなく、
 たった二騎での脱出という方策を採った。

 より注目されにくいように、と考えてのことだった。

136同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:56:06 ID:s7Hwe/XI0

 だがやはり、それだけの注意を払っていても、タンブルストンの鷹のような目を欺くことはできなかった。


 本部から二騎が脱出していくのをタンブルストンが目撃したのは、
 彼がちょうど、植民地軍の歩兵横隊を突っ切って、城壁側に抜け出てきた時だった。

 彼は、丘の上の植民地軍本部から、二つの騎馬の影が走り出たのを見るや、
 部下の近衛騎兵を率いて、敗走する植民地軍の歩兵を迂回し、二騎を追撃する運動をとりはじめた。

 タンブルストンが本当にやりたいことは、青い服の植民地兵をいたずらに殺戮することではないのだ。


 会戦の勝敗には一切興味がないとでも言うがごとくのこの行動に、
 彼に付き従う騎兵たちは驚いたが、
 戦線後方から望遠鏡でその様子を眺めていたフィレンクト将軍は、一つ小さく頷いたのみだった。

137同志名無しさん:2014/03/13(木) 21:57:12 ID:s7Hwe/XI0

 林の中に入った二騎の騎馬を、タンブルストンは追い続けた。

 余分な装備を捨てるよう部下に指示し、自らもピストルとサーベル以外の防具はかなぐり捨て、
 可能な限り身軽な姿となって、追撃を行なった。

 
 その甲斐もあってか。
 先を行く二騎の騎馬を直視で確認するまでに、そう長くはかからなかった。

138同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:01:38 ID:s7Hwe/XI0

 ドクオは、タンブルストンの接近に気づいていた。

 かなりの数の騎馬の音がする。
 それが、地鳴りのように、後ろから不気味に迫ってきていたのだ。

(;ФωФ)「艦長、後ろに敵です! ありゃニューソク近衛騎兵ですぜ!!」

('A`)「わかってる。うるせぇ音が聞こえてるぜ」

 ドクオは後ろを振り返った。
 木々の間から、いくつもの派手な装飾のついた騎馬の影が、ちらちらと見えている。

('A`)「くそっ…もう追手に追いつかれたか。
   やはり、二人乗りでは、馬足が落ちて逃げ切れんか!」

 ドクオとロマネスクは、さらに馬の腹を蹴り、速度を上げようとしたが、
 二人の乗る馬は、もうとうに限界いっぱいの力を出していた。


 小川にかかる橋を渡ったところで、ドクオは再び振り返った。
 彼我の差は、さらに縮まっていた。

 そして、近衛騎兵たちの先頭に立って馬を駆っている将校の顔が、はっきりと見えた。
 やはり、タンブルストンだった。

139同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:03:17 ID:s7Hwe/XI0

('A`)「ロマネスク!」

( ФωФ)「ホイ、艦長!」

 ドクオはロマネスクの返答を待たず、握っていた手綱を、併走する彼のほうに放り投げた。

('A`)「こいつは任せた! お前が逃がせ!!」

 そして自らは鐙を蹴って、馬の背から、飛んだ。


 彼のひょろりと細長い体は、後ろ向きのまま宙を舞い、
 そのまま埃っぽい林の地面に、砂煙をたてて、転がり落ちた。

140同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:04:09 ID:s7Hwe/XI0

(;ФωФ)「って、えええええええええええええええぇぇっ!!」

 投げられた手綱を受け取って、気を失ったアーネムだけを乗せた馬を引き、
 ロマネスクは困惑を顔一面に浮かべながら、それでも自分の馬は、しっかりと走らせ続けた。

(;ФωФ)「か、艦長おおおぉぉぉぉぉ!!!」

 声をフェードアウトさせながら、二騎の騎馬は、道の向こうに木々に隠れて、やがて見えなくなっていった。

141同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:08:42 ID:s7Hwe/XI0

 地面に転がったドクオは、背中に受けた衝撃の激痛に悶えていた。
 霞む視界に、間近にまで接近した近衛騎兵隊の姿が映りこんでいた。

 先頭を行く、タンブルストン。

 普段はめったに表情を変えない彼も、
 この時ばかりはさすがに驚きを浮かべて、地面に横たわるドクオに視線を向けていた。

 騎兵隊は疾走の速度を緩めなかった。

 林の中の狭い未舗装路を、ドクオは、塞ぐようにして倒れている。
 タンブルストンの馬は、その障害物を踏みつけにすることを嫌った。
 そして、それを飛び越えようとして、大きくジャンプした。


 ドクオは地面に横たわったまま、息の出来ないほどの苦痛に歯ぎしりしながら、
 ベルトに挟んだピストルに手をかけ、引き抜くことなく、銃口だけを真上に向けて、引き金を引いた。

 銃声が鳴り、光のさえぎられた馬体の下を、発射炎が一瞬明るく照らし出した。
 柔らかい鉛の弾丸は、ドクオを飛び越えようとするタンブルストンの馬の腹に、まともに命中した。

 悲痛な馬のいななきが響き渡り、
 弾丸を腹にくらった馬は、全力疾走の勢いのまま前に一回転して、
 それから、地面をすべりつつ、横倒しに倒れた。

 馬上のタンブルストンの体は宙に浮き、道の先、潅木の茂みに放り出された。

142同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:09:37 ID:s7Hwe/XI0

「た、隊長!!」 

 後続する近衛騎兵たちが、落馬したタンブルストンのまわりに集まった。

 タンブルストンはすぐに灌木の中から起き上がった。
 そして、部下の騎兵たちに、

(´<_` )「逃がすな、アーネムを追え! 絶対に捕らえろ!!」

 と、大声で指示を喚いていた。

 近衛騎兵たちはどうしたものか少し逡巡していたようだが、
 タンブルストンが何度か同じ命令を繰り返すと、再び隊伍を組み馬を駆って、追撃を再開した。

 十数騎の駆ける音が、林の向こうに、ゆっくりと遠ざかって行った。

143同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:10:19 ID:s7Hwe/XI0

 ドクオは呻きながら起き上がった。
 全身をしたたかに地面に打ったので、体のどこもかしこもが痛んでいた。

 一方のタンブルストンも、左肩をかばいながら灌木の中から抜け出て、
 びっこを引くようにして、一歩一歩、ドクオのほうに歩み寄ってきた。


 二人は互いに目線を離すことなく、距離はじりじりと詰められた。

144同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:10:59 ID:s7Hwe/XI0

 間合いに入る前に、タンブルストンは足を止めた。
 そして、騎兵用のサーベルを引き抜き、構えた。

('A`)「おい、やめろ、タンブルストン。
   こうなった以上、俺たちがここで争う理由は無い」

(´<_` )「…ふん。
     ドクオ。貴様はそれで、兄者を守ったつもりか?」

 タンブルストンは、構えた剣を下ろさなかった。
 じりじりと、僅かに、彼はドクオのほうに向かって歩を進めた。

 それでドクオも、海上での斬り合いに使う重い闘剣を抜き、構えた。 

('A`)「ロマネスクは馬の名手だ。おまえらの重装騎兵では追いつけまい」

145同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:12:28 ID:s7Hwe/XI0

(´<_` )「仮に、逃げおおせたとして」

 タンブルストンはそこで、足を止めた。

(´<_` )「お前は、兄者の立場を、より悪くしているだけだ!」

 気合と共に、彼は鋭く、ドクオの喉先を突いた。

 ドクオは剣をからめ、突きを打ち下ろすと、返して相手の小手を切りに掛かった。

 タンブルストンはそれに応じて軽いパリィでいなし、刃先を向けなおし、
 相手の懐へと一歩足を進めた。

 バックステップで間合いをとるドクオ。
 タンブルストンはすかさず反対足を進め、もう一段距離を詰めるようとするが、
 ドクオのフェイントを受けて、受けの姿勢で前進を止めた。

 二人の短く浅い吐息が、向き合った。

146同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:15:27 ID:s7Hwe/XI0

(´<_` )「ふん。独立だと。
     あの愚かな考えは、お前が兄者に吹き込んだのだろう。…植民地軍には、その力も無いくせに。
     なぜ兄者は、お前のような者の言うことを聞いたのか。なぜ兄者は、お前に従うのか」

('A`)「おい、なんか誤解してないか?
   アーネムは別に俺の言うことを聞いたんじゃないぞ。
   あれは、あいつが自分で考えて、自分で決め…」

(´<_` )「ばかな。それは、ありえん」

 タンブルストンは自信に満ち溢れた調子で、ドクオの言葉を即座に否定した。

(´<_` )「あのお方が、自分の考えを持つことなど、ありえない」

('A`)「……なに?」

147同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:20:02 ID:s7Hwe/XI0

 謎めいたタンブルストンの言葉に戸惑ったドクオを、鋭い斬撃が襲った。
 ドクオは右向きの受けでそれを払い、こんどは自分の腕を伸ばして、自分の刀で突こうとした。

 そうと見て取るや、タンブルストンは半身で闘剣をやりすごしざま、掬い上げて相手の手首に切りかかった。
 ドクオはその予想外の攻撃をナックル・ガードで受け止めて、また素早くあとずさり、間合いを取り直した。

 そのすきにタンブルストンは突きを入れた。
 バランスを崩しかけたドクオが、時間稼ぎに刀をからめてきたところに、
 十字に切り結んだ剣をぐっと下向きに力を加えて、ドクオを押し倒そうとした。

 かろうじて後ろ足の踏ん張りが間に合ったドクオは、下になった受け刀を押し返し、タンブルストンに抵抗した。

 鍔迫り合いとなった二人の絡み合った刀は、じわじわと上から押し付けられて、下がっていく。 
 力は、タンブルストンのほうが強いようだ。

(´<_` )「…お前などには到底わかるまい。私だけが知ることだ。
      兄者の、闇だ。それは底知れぬものなのだ」

('A`)「闇、だと…」

 たがいに押し合う二人の顔は、たがいの息のかかる距離しか離れていない。

(´<_` )「そうだ。捨てられ、疎まれ、孤独のみを友として過ごした者の持つ、闇だ。
     闇は、否定の力なのだ。
     他人を否定し、自分自身をも否定し、世界のすべてを無価値にする、力だ」

148同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:21:59 ID:s7Hwe/XI0

 だしぬけにドクオが、この場には不釣り合いな声で笑い出した。
 タンブルストンはびっくりして身を引いた。
 最後に打ち合わされた鋼どうしが澄んだ金属音を立て、鍔迫り合いが終わった。

('A`)「ハッ! おい、てめぇ、知らねぇみたいだから教えてやる!
   あいつはな、昔のあいつとは、もう違うんだ!」

(´<_` )「なに…?」

('A`)「あいつはな、あいつは…。なぜだか知らねぇし、不思議な事だがな。
   皆から愛されてんだよ! 今や、このヴィップの皆からな!!」

(´<_` )「ばっ…! あ、あの兄者が!?」

('A`)「うん、信じられねぇのは無理ねぇと思うわ、俺だって不思議だよ。
   でもよ、もう、違うんだよ。あいつ、好かれてんの。マジで。
   誰からも愛されずたらい回しにされて、私生児の厄介者だったあいつとは、もう違うの」

(´<_` )「う、嘘だ。嘘だな。そうか、そうやって兄者の耳に毒を流し込んだんだな。
     神かけて…兄者を一番知るのはこの私だからな、この私が信じられないことは…」

('A`)「フン。一年間のブランクってのは、寂しいな」

 ドクオは言って、そして、言い過ぎたかと、少しの後悔を覚えた。

 というのも、対峙するタンブルストンの表情が、今までみたこともないような
 恐ろしく、そしておぞましいものへと、変化したからだ。

149同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:22:55 ID:s7Hwe/XI0


 裂帛の気合と共に、タンブルストンが激しい突きを繰り出してきた。
 ドクオはかろうじて左にかわし、後ろに引くのがやっとだった。

 姿勢を立て直す一瞬の間も、タンブルストンは容赦しなかった。
 力強い斬撃の繰り返しに、ドクオも連続した受けで応じざるをえなかった。

( <_  )「兄者を、返せ」

('A`)「返せだと? それが本音か? 
   お前こそ、いい加減にあいつを、あいつ自身に返したらどうだ!」

 剣戟は、一層激しさを増していた。

 ドクオもタンブルストンも、互いに幼少の頃から、正式な剣の訓練を受けていた。
 だから、実力はほぼ互角だった。

 剣を持つ腕を体から離した体勢で、
 鋭く正確な攻防が、いつはてるともなく続いていた。

150同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:25:26 ID:s7Hwe/XI0

 押されているのは、ドクオだった。

 体格の差か、腕の差か。はたまた、思いの差か。
 彼は一歩一歩、力強く荒々しい攻撃を受けるたびに、ステップを後ろに下げざるを得なかった。


 木の根が、唐突に、二人の剣戟に終止符を打った。

 すり足で一歩下がろうとしたドクオの靴に、地面から飛び出た木の根が引っかかった。

 その隙を見逃すタンブルストンではなかった。
 渾身の力で、隙だらけのドクオに、タンブルストンは重いサーベルを振り下ろした。

 それは十文字に受けたドクオの剣をすさまじい力で叩き折り、
 体勢を崩したドクオは、衝撃で後ろに飛ばされ、
 後ろにあった大きな木の幹に、その体をしたたかに打ち付けた。

151同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:26:42 ID:s7Hwe/XI0

 大木の根元に座りこみ、噎せ込むドクオ。
 その前に、サーベルを片手にしたタンブルストンが、ゆらりと近づいた。

 タンブルストンは、激戦を物語るあちこち刃の欠けたサーベルを、ドクオの目の前に突きつけて、言った。


(´<_` )「ドクオ海尉。これでわかっただろう。私が、正しいのだと。
     兄者を守れるのは、私だけなんだと」


 もはや声も無く、荒い息を繰り返して、
 ドクオは、迫るタンブルストンを、その剣の影を眺め上げていた。

152同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:29:19 ID:s7Hwe/XI0

 ふと、二人の耳に、人の話し声と、多くの足音が聞こえてきた。
 声は、二人にも聞きなじみのある人物のものだった。


 二人は同時に、音のしたほうを振り向いた。


(´<_` )「あれは…!」


 それは、フサの声だった。

 無数の植民地軍の兵士たちが、フサに率いられて、林の道を駆けていた。

 武器や装備がふれあう、がちゃがちゃというやかましい音がいくつも聞こえてくる。
 それは、ドクオの指示どおり残兵をまとめあげたフサが、植民地軍の大勢の兵士を率いて、
 林の道をこちらに向かって、徒歩で駆けてくる音だったのだ。

153同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:30:00 ID:s7Hwe/XI0
五.



ヴィップ軍本部付総会計長 クー海尉


部族連合の王にしてトゥーロン族戦士長 デレ

 親愛なるデレ、挨拶に費やす時間が無いため、非礼は許して欲しい。
 そして、きみたちの土地に勝手に上がりこんだ我々白人が勝手ばかりして、本当にすまなく思う。
 しかし君は、我等が懐かしの父、ショボンがいっていた言葉を覚えているだろうか。
 人間は決してわかりあえないとする彼の言葉は、現実に根拠を持つ、筋が通ったものだった。
 これは確かな事実だ。すなわち我々は、タンブルストンの裏切りに遭ったのだ。


ζ(゚ー゚*ζ「タンブルストン卿!? 裏切り!?」

 デレは思わず声を上げて、フサを見た。
 フサは目顔で続きを読むように促した。

154同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:32:05 ID:s7Hwe/XI0

 我々植民地の軍隊は、いま、ニューソク本国の軍隊と戦争状態にある。タンブルストンは本国軍に走った。
 あれほどアーネム公に忠誠を尽くしていた彼が、だ。だが、ここでつらつらと恨み言を言っても始まらない。
 そこで私は単刀直入に君に用件を切り出そうと思う。
 デレ、すまない。君は、君自身の身と、ブーンを守ってほしい。友人として、切にお願いする。
 我々は敗北した。いま、美しいニューソクタウンの城壁から眼下に見えるのは、
 ちりぢりになって敗走していく植民地兵の姿だ。ニューソクタウンは本国軍の手に落ちる。
 この植民地の首都が、もうすぐタンブルストンの手に落ちる。私たちの力では、もう、ブーンを守ることができない。
 あいつはブーンを殺そうとしている。それを抑えていたのはアーネムだ。しかし、アーネムは戦いに負けた。

 タンブルストンは、きっと君たちの村へ行く。そして、奴は自らの信念を貫き、やりたいことをやるだろう。
 逃げてくれ、デレ。目的を果たすためなら、奴はきっと君たちの村を焼きもしよう。
 目的を果たすために義兄を滅ぼしたあいつだ。自らの思いを実現するためには、手段を選ぶまい。

 デレ、逃げてくれ。君たちも、君たちの同朋も、危険だ。
 あいつの手の届かない所へ。この広大な大陸の、安全な場所へ、逃げてくれ。





 手紙はここで終わっていた。
 なおも続けようとする筆跡もあったが、それは紙の中途で、乱雑に途切れていた。

 デレが読み終えたと見るや、フサが息せき切って声をかけた。

ミ,//Д゚彡「まあ、そういうことなんだ。
      デレ、頼む。今すぐ部族のみんなを連れて、ブーンと共に逃げてくれ。
      そして、各地に点在するお前の同胞たちにもこのことを知らせて、共に逃げて……」

155同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:33:21 ID:s7Hwe/XI0

 フサはここで、いったん言葉を切った。 

 それは、デレが恐ろしい表情になっていたからだ。
 そこには、つきあいの長いフサでも、今まで見たことも無かったような迫力が備わっていた。

ミ,//Д゚彡「デレ、俺たちは…」

 激したデレは、激しい口調でフサをさえぎって、言葉をぶつけた。

ζ(゚−゚*ζ「おまえたちは、バカだ!
      おまえたちは、船でこの土地にやってきた。そして、最初は、私たちを殺した。
      つぎにラウンジを殺した。つぎにブラゲを殺した。
      それで最後には、自分たちニューソク人同士で、殺しあったというのか!!」

156同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:35:52 ID:s7Hwe/XI0

 フサは、何もいえなかった。

 デレの圧倒的な威圧感は、いまや部族連合の王としての威厳が備わったものだったし、
 なによりフサは、倫理的な正義は、自分たちより彼女の言葉のほうにあると感じていた。

ζ(゚−゚*ζ「そんなに殺しが好きなら、好きなだけ殺すがいい!
       われわれを奥地へ、奥地へと追いやって、おまえたちだけの世界でな!!」

 デレは叫んだ。

 フサはやはり、何も言えなかった。
 動くことすら躊躇われ、ただ、馬上で視線を落とし、座っていた。


 彼女は、怯えるブーンの手を取って促すと、
 フサを振り返ることなく、自分たちの村へと駆け戻っていった。



第二十六話 ここまで――

157同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:36:58 ID:DihzEroM0
乙!!

158同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:37:45 ID:s7Hwe/XI0
というわけで今日の投下はここまでです。
リアタイ遭遇にびっくり。
読んでくだすってる方にはいつもありがとうございますです、執筆の原動力です

さてようやく次回は最終回となります
例によっていつになるかはわからんとですがすまんこってすたい…

それではまたー!

159同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:40:25 ID:.AUMGMY20
タンブルストンの真の目的皆に教えてやれよクーと思わんでもない
何にせよ乙!

160同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:45:25 ID:LZcqH6Sc0
おつ!
楽しみに待ってるよ〜

161同志名無しさん:2014/03/13(木) 22:49:57 ID:k91mIoJo0
乙です!

162同志名無しさん:2014/03/13(木) 23:27:26 ID:JcTomc/I0
おつー ふっと更新したら来てたからびっくりしたよ

163同志名無しさん:2014/03/14(金) 03:19:30 ID:xXu26MKcO
伝説の逃亡作品の続きが来たと聞いて今三話まで読んだ 
まだ先は長いが頑張って読む

164同志名無しさん:2014/03/16(日) 12:32:31 ID:8EmjmvzcO
追いついた、最終話に期待

165同志名無しさん:2014/04/23(水) 00:21:10 ID:PychZiws0
まだか
まだなのか
これが生きる楽しみだと言うのに

166同志名無しさん:2014/05/03(土) 10:00:52 ID:WALvgNJ20
かなりおもしろい
物語は終盤か?

167同志名無しさん:2014/05/17(土) 01:22:02 ID:kNDJbI2sO
いろんなブーン系を読み漁ってきたけど、あなたの作品には一際強く惹かれる
あなたの作品を一生読んでいたい。これが恋か!

168同志名無しさん:2014/05/17(土) 23:47:52 ID:xWFASm3Q0
俺も追いついた
最終話に期待

169同志名無しさん:2014/05/21(水) 22:30:15 ID:th6hEkSg0
最終話楽しみに待っています!

170同志名無しさん:2014/08/31(日) 17:32:28 ID:qzT6Db920
面白過ぎる。続き待ってます

171同志名無しさん:2014/11/02(日) 21:29:12 ID:MnP2vk..0
ほんと面白いな
待ってるよ

172同志名無しさん:2015/01/26(月) 22:01:46 ID:b90afuQQ0
なんの!まだ待つぞ!

173同志名無しさん:2015/02/21(土) 02:57:48 ID:Xyo2EHsU0
なんの!なんの!

174同志名無しさん:2015/07/14(火) 20:20:42 ID:581eWseI0
なんの!なんの!なんの!

175同志名無しさん:2015/07/16(木) 18:49:03 ID:Al4r/44E0


176同志名無しさん:2015/10/02(金) 01:59:58 ID:ekOra0L.0
俺は待ってるぜ

177同志名無しさん:2015/12/10(木) 12:48:56 ID:e86zlgQI0
僕も待ってます

178同志名無しさん:2015/12/11(金) 21:22:37 ID:wh2lN5FI0
気長に待つぜ

179同志名無しさん:2016/01/14(木) 01:08:10 ID:qsR1MlKQ0
偶然見つけて、1話から一気に読み終わっちまった
いつになるか分からないが、最終話待ってる
頑張ってくれ

180同志名無しさん:2016/01/30(土) 01:14:47 ID:mWBuu46w0
まだまだ待つで

181同志名無しさん:2016/02/06(土) 04:01:13 ID:MATIVxjQ0
ブーン系もとい川 ゚ -゚) にハマったきっかけの作品

182同志名無しさん:2017/03/07(火) 00:54:51 ID:IaUoLR5k0
今度こそ待ってる

183同志名無しさん:2017/04/24(月) 15:04:13 ID:UNDEaoy20
芸さんとこから消えたけどもう書かないの?

184同志名無しさん:2017/04/24(月) 21:20:57 ID:2JQyRWUo0
あら残念ね

185同志名無しさん:2017/07/19(水) 16:58:27 ID:Aegplu.k0
(ラスト一話にまとまらなくても)ええんやで

186同志名無しさん:2018/02/24(土) 08:07:17 ID:zAZOAkBM0
ちくしょう更新されてないの分かってるのに
最後まで読んじまったじゃねえか…
こうなりゃこうやってレス数増やして期待させたあとやっぱり更新がないことを知らせて悶々とさせてやる…

187同志名無しさん:2018/05/21(月) 22:58:06 ID:ScSCx4h.0
まとめから来て続きを探して三千里
すごく面白かった 読んでてドキドキした

188同志名無しさん:2018/08/30(木) 08:41:13 ID:m.jVHpEA0
総合に投下した絵です
https://i.imgur.com/BoKbloP.jpg

189同志名無しさん:2018/08/30(木) 08:43:39 ID:m.jVHpEA0
>>188
すまん擬人化注意

190同志名無しさん:2019/08/01(木) 23:57:02 ID:kn5Tdz3M0
いまさら一話から読んでしまった・・・めっちゃ面白かった!読みながら心拍数上がったわ。
いつまでも待っているぞ

191同志名無しさん:2019/08/26(月) 18:56:08 ID:SuE5EdfI0
今どこで読めるんだ?
前のまとめが消えてて悲しい

192同志名無しさん:2019/08/27(火) 02:42:34 ID:PgOiiWuk0
ここに書いて良いものか迷うけど、少なくとも2通りは読む方法があるよ

193同志名無しさん:2020/05/08(金) 03:26:14 ID:J6CBY10w0
先が気になってしょうがない

194同志名無しさん:2020/05/19(火) 16:44:57 ID:bpANsomk0
過去話読み返したいけどまとめてるとこどこも死んでるな…

195同志名無しさん:2020/05/22(金) 08:42:52 ID:OTyhgYjc0
過去話みたいな まとめ全滅なのか残念
どこか生き残ってくれてはいないかな

196同志名無しさん:2020/05/22(金) 14:07:26 ID:7OsF.JVY0
>>192だけど、まだ読めるよ
URL直打ちか、まとめのDLの2通り

197同志名無しさん:2020/05/24(日) 07:13:41 ID:gfB87pkw0
うおおお一気にまとめて読んできた!!
デレ好きだ!クー好きだ!弟者好きだ!

198同志名無しさん:2023/11/05(日) 02:36:03 ID:z4RhoIKg0
https://web.archive.org/web/20150712235717/http://boonsoldier.web.fc2.com/sagasu.htm
ログどうぞ

199同志名無しさん:2024/03/21(木) 15:32:28 ID:bPwuzbVg0
>>198
あなたが神か


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