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男「忘れてしまった貴女との約束」
13
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:43:01 ID:1UnGgfV2
「小さい頃はよく一緒に遊んでたじゃん。そこの川で泳いだり、花火したり。……そこの神社でかくれんぼしたり」
男「……あっ!」
「思い出した?」
記憶を辿ると、ある一人の少女が浮かんできた。
短髪で、活発で、日に焼けた肌。
いつも私の手を引いて土手に駆けて登り、駆けて降りた少女。
危ない。
男「もしかして……女ちゃん?」
女「ふふっ、やっと思い出した」
男「久しぶりだね!」
女「うん、久しぶり。全然思い出してくれないからドキドキしたよ」
14
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:44:19 ID:1UnGgfV2
男「髪伸びたね……最後に会ったのが、えっと」
女「6、7年は経ってるかな? でも男が毎年来ていたことは知ってるんだ」
男「え?」
女「お盆の時期になるとここに来てたでしょ? 私も長期の休みの時はここに帰ってくるから父から、『そういえば祖父さん家いったら男くんたちが来てたぞ。話には聞いてたけど凄く大きくなってたわ』って」
男「へぇ、さすが村」
女「ふふっ、ここは小さいところだから、どんな事でもすぐ広まるの」
男「おじさんは元気?」
女「腰痛めて寝てるけど元気だよ」
男「それは元気と言えるの……?」
女「ふふっ」
15
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:45:57 ID:1UnGgfV2
女「男くんは……さ、あの約束を覚えてるから来てくれたんだよね?」
男「約束……?」
さっぱり思い出せない。
約束……引っ掛かるものがある気がするが何も、何も思い出せない。
男「うーん?」
女「そっか、そうだよね……昔だもん。えっと、ここにはどれくらい居る予定なの?」
男「一週間くらい。母さん達は土日のどっちかに来るとかなんとか」
女「そうなんだ、何かしたい事とかあったりする?」
男「特にはないけど一人だけ早めに来た」
16
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:47:55 ID:1UnGgfV2
女「じゃ、じゃあ私と一緒にさ……えっと、その……」
男「?」
女「んとね、その……あ、明日は暇だったりする?」
男「うん、明日暇というか、一週間ずっと暇だよ」
女「それなら! 私も暇だから一緒に……昔みたいにさ、遊ばない?」
男「いいよ、女ちゃんがそれでよければ」
女「ほんと!?」
男「うん」
女「じゃあ、昔みたいに明日の朝家に迎えにいくからね!」
男「もうどこで遊ぶとか決めてるの?」
女「今から考えるの! この一週間は沢山連れ回してあげるから覚悟しててね!」
男「楽しみだ」
17
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:49:12 ID:1UnGgfV2
女「それじゃあ私は帰るね」
男「バイバイ」
女「じゃあね……よっと、バイバーイ」
女はピョンと飛び、土手から大股で勢いよく走り抜けていく。
危ない。
男「変わらないなぁ」
女性というだけで緊張してしまう生き物、それが男。
しかし、女ちゃんの昔と変わらないその姿を見て、私は大きく安堵していた。
『昔と変わらないもの』
それがあるだけで随分と話しやすくなる……気がする。
気がするだけ。
18
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:50:55 ID:1UnGgfV2
祖父「ほぉ、向かいの家の女に会ったんか」
男「うん」
祖母「女ちゃんはこっちに来てる間はたまに野菜とか持ってきてくれんだよ。 不格好なヤツあげるって言いながら置いてくんだ」
男「へぇ、そうなんだ」
祖父「美人さんだったべ?」
男「ングッ……けほっ、けほっ……急になにさ」
祖父「すごい美人さんだから男の心をばきゅーんと……」
祖母「こらっ! 男をからかうんじゃないよ」
祖父「ご、ごめん……」
男「別にいいよ……まぁ、たしかに美人だとは思った」
祖父「んだべ? みろばぁ、男は分かってる」
19
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:52:25 ID:1UnGgfV2
祖母「じぃ酔いすぎだからもう寝っせ」
祖父「ん? そうか? じゃあそうする……男も早めに寝るんだぞ」
男「うん、おやすみじいちゃん」
祖母「……じぃは男が来て嬉しいんだわ」
男「分かってるよ。それにさっきのも別に怒ってないし」
祖母「そっか、風呂はどうする?」
男「俺は夜更かしするからばあちゃんが先に入っていいよ」
祖母「……何だか懐かしいやり取りだな?」
男「あははっ、そうだね」
祖母「んじゃあ、ばぁは先にお風呂入っからね……よっと」
男「うん、行ってらっしゃい」
20
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:53:53 ID:1UnGgfV2
祖父の家のお風呂は私の家と比べると狭く、底が深く、お湯が熱い。
浴槽の中では少し膝を曲げて座る。いつの間にか肩まで登ってきた湯に包まれながら今日の出来事を思い出す。
男「女ちゃん綺麗だったな」
女ちゃん、小学6年生から会ってないのに私の事を私だと見抜いて土手の上で押し倒してきた。
女性に押し倒されるなんて初めて。
変わったようで変わらない彼女の事を考えていると、不思議と体が熱くなる……少しだけ素敵な気分。
男「明日は何をするんだろう」
21
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:54:38 ID:1UnGgfV2
寝る前にスマホを確認すると着信とメッセージが来ていた。
男「そういえばこっちに来てから連絡してなかったな……」
恐る恐るメッセージを開くと母や父から『大丈夫か? ちゃんと着いたか?』と心配する内容ばかり。
男「心配かけちゃったな……返信しておこう」
母や父には簡潔内容で返信をしておいた。
しかし、問題はここから。
22
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:55:40 ID:1UnGgfV2
『大丈夫だった?』
『無事にじいちゃん家に着いた?』
『男、着いたら返信して』
『男、着いたら電話して』
『もう着いた頃合いだよね?』
『スマホみろ馬鹿』
『馬鹿男』
男「……」
これはいけない。
どうすればいいかは決まっている……電話して謝るのだ。
しかし恐怖で指が動かない。
あぁ、なんて面倒くさい姉なのだろう。
ゆっくりとした動作で電話帳を開き姉に電話を掛ける。
23
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:56:51 ID:1UnGgfV2
姉『もしもし』
男「もしもし」
姉『着いたんだ?』
男「うん」
姉『そう……』
男「メッセージ返せなくてゴメン」
姉『いいよ、どうせ疲れて寝てたとかでしょ』
男「……そうそう、疲れちゃって」
姉『分かってたけどね』
男「……そうね」
24
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/13(土) 01:57:30 ID:1UnGgfV2
姉『じゃあ、切るから』
男「うん、おやすみ」
姉『おやすみ』
男「……」
姉『……切りなさいよ』
男「……ん」
姉との通話を終了する。
内容なんて何もない。
なんで電話したんだろうと思うが電話しないと後が怖い。
姉とはいつまでも恐ろしいのだ。
男「はぁ……今日は疲れた。少し早いけどもう寝よう」
25
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/15(月) 18:31:08 ID:w.xJALxY
おつ
26
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:44:40 ID:zip07Lg6
男「んっ……」
女「おはよ」
男「……?」
女「寝ぼけてんね」
男「……!?」
布団から飛び起き物凄い速度で後退する。
どうしてここに女ちゃんが居るんだ。
27
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:45:23 ID:zip07Lg6
女「そ、そんなに驚かなくても」
男「……どうしてここに?」
女「どうしてって……明日の朝迎えに行くねって言ったじゃん」
男「たしかに言ってたけども……って、まだ7時半じゃないか!」
女「早く来すぎちゃった?」
男「てっきり9時か10時くらいに来るのかと」
女「でも、小さい頃はこのくらいの時間から遊んでたんだよ?」
男「そうだっけ?」
女「うん」
28
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:47:17 ID:zip07Lg6
男「……」
いつものように歯を磨く。
しかし、いつもより居心地が悪い。
女「……」
女ちゃんはどうして私の事を見つめているの?
というか、どうして洗面所まで付いてきているの?
歯磨きでさえやりにくい。
ニコニコと微笑む彼女からの視線に耐えながら私は口を濯ぐ。
女「なーに?」
男「いや、何でも」
29
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:48:02 ID:zip07Lg6
女「男くんって結構ひげ濃いんだね。小学生の時とは大違い」
男「そりゃ大学生だし……あと、遺伝だし」
女「触っていい?」
男「え、い、いや……駄目」
女「冗談、冗談だって。さ、祖母さんが朝ごはん用意して待ってるから早く行こ」
そう言って女は狭い洗面所から出て行った。
女ちゃんは私より一つ年上だが同い年のような感覚で接している。
なのになんだか振り回されて……少しだけ姉に近いものを感じる。
30
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:48:38 ID:zip07Lg6
男「……」
祖母「美味いかい?」
男「美味しい」
祖母「そうか、じゃあもっと食え」
男「うん」
女「ふふっ」
祖母「女ちゃんもどうだい?」
女「いえ、私は朝ごはん食べてきたので大丈夫」
祖母「そっか」
男「じいちゃんは?」
祖母「裏の小屋に居るよ。木削ってんでねーかな?」
男「なるほど」
31
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:49:44 ID:zip07Lg6
祖父は趣味のために裏の物置小屋を作業場に作り替えた。
木を嵌めてスイッチを押すとぐるぐる回り出す機械が置いてあり、小さい頃はその機械を扱う祖父の横でいらないと言う木の板などに釘を打っていた思い出。
女「祖父さんはいま何を作ってるの?」
男「最近のブームはだるまとか言ってたね」
祖母「最近はだるま作るのが楽しいらしい。ほれ、あそこにある小さいヤツとかじぃが作っただるまだ」
女「可愛い……」
祖母「持ってくか? いっぱいあっから何個かあげるよ」
女「え、でも祖父さんに悪いよ」
男「大丈夫だと思う。むしろ喜ぶんじゃない? 」
女「そうなんだ……なら、何個か貰いますね」
祖母「うんうん、持ってけ持ってけ」
32
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:51:04 ID:zip07Lg6
朝ごはんを食べ終え外に出る準備をしていた。
女ちゃんはだるまを家に置いてくると言って家から出ていってしまったがどこに行くかはまだ聞かされていない。
すると祖母が満面の笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
男「ばあちゃんどうした?」
祖母「デートだなぁ」
男「違うって、昨日あんなこと言ってたのにどうしたのさ」
祖母「わかんね、でも嬉しくなってな。気を付けて行くんだよ」
男「うん、行ってくる」
腰に巻き付ける小さな鞄の中に財布だけを入れ外に出た。
相変わらず日差しが強い。
道路に出ると、太陽に熱せられたアスファルトからもやのような揺らぎが生まれている。
33
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:52:06 ID:zip07Lg6
男「お待たせ女ちゃん、準備できたよ」
女「男くん、裏の小屋ってあそこ?」
男「そうだよ」
女「ちょっと寄ってもいい? だるま貰ったし祖父さんにお礼を言おうと思って」
そう言うと彼女は小屋に向かって歩き出す。
大きな洗濯機が回っているかのような音を鳴らす小屋の前に立ち、少し歪んだ扉に手を掛けた。
女「祖父さん、おはようございます」
祖父「お、おぉ? 女じゃないか、どうした?」
祖父はこちらに気付くと機械を止め、箒を手に取ると足場に散らばった大量の木屑を集めだす。
34
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:52:40 ID:zip07Lg6
女「祖母さんから祖父さんが作っただるまを貰ったのでそのお礼を言いに」
祖父「そうかそうか、好きなだけ持っけな。なんならこけしもあげっか?」
女「あはは、そんなに貰えないですよ」
祖父「そっか……男は今からデートか?」
男「違うよ」
女「違うの?」
祖父「ほれ」
男「……違うよ」
35
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/19(金) 22:53:14 ID:zip07Lg6
じいちゃんもばあちゃんも……女ちゃんも急に何を言い出すのか。
疲れてきたぞ。
女「ふーん」
男「ニヤニヤしないで」
女「ふふっ、してないよ。 祖父さん、だるまありがとうございました。じゃあ男くん、行こっ」
男「わっ、引っ張んないで! じいちゃん行ってきまぁぁぁぁぁ」
祖父「気を付けてな」
祖父「なんだか女は少しだけ姉に似てる気がすんな。がははっ、男はこれから大変だな!」
36
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/21(日) 16:26:11 ID:GzwsO486
姉はまだか
37
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:25:00 ID:P672zrx2
彼女に引っ張られていると、いつの間にか見知った道に出てきていた。
バイクで通ってきた道だ。
どこに向かっているのかまだ分からないが女ちゃんの後ろを付いていく。 すると彼女はこちらに振り向き笑顔で話し掛けてきた。
女「男くんはあっちで何してるの?」
男「何してると言われても……学生として普通に過ごしてるというか、なんというか」
女「ふーん?」
大学で勉強はしてるが何か目標を立てているわけでもなく、大学へ行き、進級し……ただ、それをしてきたものだから特に何も言えなかった。
38
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:25:36 ID:P672zrx2
女「私はね、今の大学でデザインを学んでいるの。卒業したらこの知識を生かす仕事をするんだ!」
男「……女ちゃんは凄いね」
女「そんな事ないよ。それに、今の大学に行く切っ掛けを作ってくれたのは男くん……君なんだよ?」
男「えっ、何かしたっけ?」
女「昔ね、男くんと、姉ちゃんとお兄ちゃんで遊んでた時に地面に絵を描いてたときがあってね」
女「私が描いた絵をお兄ちゃんは笑ってた……でも、男くんは褒めてくれた。それが切っ掛け」
男「……それだけ?」
女「うん、それだけ。でも、それがあったから今の私があるの」
39
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:26:36 ID:P672zrx2
男「あはは、じゃあ俺に感謝してくれてもいいよ……なんて」
女「ふふっ、お礼にほっぺにちゅーでもしてあげようか?」
男「……結構です」
女「顔真っ赤にしちゃって、年上をいじめるとこうなるから駄目よ?」
彼女には勝てない。
頭の中で小さな私がそう言っている気がする。
男「女ちゃんは年上って感じしないけどね」
女「それどういう事よ」
せめてもの強がり。
そうでもしないと話せる気がしない。
男なんて女性を意識したらそこで終わりなのだ。
40
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:27:11 ID:P672zrx2
女「あっ、ここ! ここだよ!」
彼女は立ち止まり腕を広げる。
男「……ここって」
女「うん!」
女「墓地!」
41
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:27:48 ID:P672zrx2
女「懐かしいでしょ!」
男「懐かしいけどさ……えぇ」
女「?」
横に公園がある。
なのに私たちは小さい頃、この墓地で遊んでいた。
今思うと信じられない。
男「こんな場所で遊んでたのか……」
女「ふふっ、横に公園あるのにね」
男「本当だよ」
42
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:28:31 ID:P672zrx2
女「かくれんぼとかよくしてたねー」
男「あぁ、よく取り残されて泣いてたっけ」
女「男くんがね」
男「酷いよね。見つからないからって帰るとかいじめだよ」
本当に酷い話だ。
姉ちゃんがすぐ戻ってきたからよかったものの、あのまま日が落ちてしまったら幽霊に連れてかれたかもしれない。
43
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:29:10 ID:P672zrx2
女「あっ、ほら、いつも通りお地蔵さまの顔にお団子がくっついてる!」
男「そうだね」
女「どうしてくっつけてるのか知らないけど墓参りの時はやっちゃうよね」
男「ここの人たちみたいにお団子作ったりしないから分からないや」
女「そっか、じゃあ今年は私と一緒に一緒にお団子作ろうか」
男「えっ」
女「ふふっ、一緒にさ、お地蔵さまの顔にお団子くっつけようね。じゃあ次はあっちに行こう!」
男「あ、あはは」
44
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:30:22 ID:P672zrx2
何も言っていないのに事が決まり進んでいく。
知る限りここの女性は皆そうだ。
自分から何かを提案して自分で決定するし、とても頼りになる……が、少し困る時もある。
女「おーい、行くよー!」
男「うん」
でも、嫌いじゃない。
45
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:31:18 ID:P672zrx2
夜、私は昨日と同じく湯船に浸かりながら今日の出来事を振り返った。
男「まずは、朝かな」
女ちゃんが起こしに来たときは本当にビックリした。心臓が飛び出してしまったんじゃないかというくらいには驚いていた気がする。
実際、凄い勢いで後ろへ逃げた。
男「寝顔を見られるとか、恥ずかしい」
男「その後もずーっとニコニコしながら顔を見てきて……なかなか辛かったな」
嫌という訳ではないが居心地が良くない、誰だってそうだと思うはず……。
男「でも、今日は楽しかったなぁ」
狭い浴槽の縁に膝裏を引っ掻け、だらっとする。
46
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:33:17 ID:P672zrx2
男「俺、お墓で遊んでたんだなぁ……それに、あの頃は田んぼ見てるだけで楽しかったんだ」
女ちゃんと歩き、何気ない会話をしながらも私の視線は常に田んぼや川、奥にそびえ立つ山を捉え続けていた。
男「けどなぁ……おたまじゃくしで興奮するなんてな、あはは」
特に田んぼは面白かった。
彼女と二人でおたまじゃくしを見つけ、子供みたいにはしゃいでいた。
それから女ちゃんとはお昼まで一緒に遊んでいたが用事があるとか何とかで別れた。
朝から外を歩いていただけなのにとても楽しく、昔を思い出したり、一緒にはしゃいだり、あっちの友達と遊ぶとはまた少し違った楽しさがあった。
男「今日一日すごく楽しかったなぁ……ほんと、女ちゃんは凄いや」
47
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:34:34 ID:P672zrx2
この何もない田舎に居るとスマホをいじらくなる。
理由は分からない。けど、どれだけ時間がゆっくり動いていようと居間で横になりながら時代劇や昔嫌いだったニュースを見る。
それだけで満足してしまい時間を潰せるのだ。
故に、届いたメッセージに対して返信が遅れる。
『 おはよう、朝だけどちゃんと起きれてる? 分かってると思うけどじいちゃんやばあちゃんの手伝いはしっかりするのよ。
なんなら早起きしてじいちゃんと一緒に釣りに行くのもいいんじゃない?』
男「……」
48
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:35:47 ID:P672zrx2
『 返信ないけど大丈夫? 充電器忘れていじれないとかだったら私がそっち行くまで我慢してね。
新しい充電器を買ってもいいけど、そっちは携帯ショップって近くにあったりしたかしら?
まぁ、何も返信来ないのはちょっと心配だから何か返しなさい』
男「また、姉ちゃんに心配を掛けてしまった……ん?」
『本当に大丈夫?』
男「……電話かけるか」
私は電話帳を開き姉に電話する。
昨日と全く同じ光景のような気がする。
49
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:36:56 ID:P672zrx2
男「もしもし」
姉『なに?』
男「何って……姉ちゃんが俺の事をすごく心配してそうだったから電話したんだけど」
姉『……別に心配なんて、してないけど』
男「そっか」
姉『ところで、メッセージの返信が来ないんだけど……無視とかだったら私、泣くよ?』
男「……無視した訳じゃないから、こっちに来てからスマホを全然触ってないだけなんだよ」
姉『スマホ触らないでどう過ごしてんのよ』
男「丸めた座布団を枕代わりに横になって時代劇とニュース見てる」
姉『そう……それなら、よかった』
50
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:37:32 ID:P672zrx2
男「ん」
姉『もう寝るの?』
男「寝る」
姉『そっか……』
男「あー……明日は、メッセージ返すよう努力するから」
姉『……ん』
男「んじゃあ、切るよ」
姉『うん、おやすみ』
男「おやすみ」
51
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/26(金) 22:39:27 ID:P672zrx2
今日の通話を終了する。
姉は小さい頃から何かと私の事を心配してくれているが、心配し過ぎて熱を出す事もある。
私にとってそれは少しだけトラウマで、 姉に怒られるよりとても恐ろしい。
なるべく心配は掛けたくない……が、これがどうにも難しいのだ。
男「ふぁ……眠いし寝るか」
男「明日は何しよう……女ちゃんは明日、何か用事あったりするの、かな」
男「何も約束してないけどまた明日も会えたら嬉しい……な」
52
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/07/29(月) 21:59:04 ID:SSoxATsE
おつ
53
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:27:13 ID:T1Kw3mLE
少女は嬉しそうに跳び跳ねながらこちらに近付き、背の低い私に抱き付く。
「じゃ、じゃあキス、しよ?」
「キス? チューするの?」
「う、うん」
少女は顔を真っ赤に染めていた。
「よし」と小さく何かを決意したかのような声を出すと、少女は私の肩に手を乗せゆっくりと顔を───。
─────
───
─
男「……んぁ」
54
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:28:59 ID:T1Kw3mLE
男「幸せになれそうな夢だった」
最近、同じような夢を見た気がする。
自分でもよく分からないが大切な記憶だと感じていて、今すぐ思い出したい気持ちがある。
しかし、時間と共に内容が薄れ、繋がっているようで繋がっていない。夢という曖昧なモノに魅せられ、少し振り回される。
男「女の子が居て……あれ、あとなんだっけ?」
ただの夢だ。
それで終わらせればいいのに、どうしても何か引っ掛かりもやもやから抜け出せなくなってしまう。
祖母「おとこー、朝ごはん出来てるよー」
男「いま行くよ……あれっ」
祖母のに声を返し立ち上がる。しかし、それと同時に夢の内容が完全に薄れてしまった。
男「……まぁ、いっか」
祖母「おとこー」
男「はーい」
55
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:29:34 ID:T1Kw3mLE
男「よいしょっと、これで終わり?」
祖父「あぁ、手伝ってくれてありがとうな」
男「いいよ、姉ちゃんにも手伝えって言われてるし」
私は祖父と一緒に酒屋に来ていた。
祖父はこの酒屋さんと仲が良いらしく多くの物をサービスしてもらっていて、サービスされた物を含めて大きな段ボール三つ分の買い物だった。
男「いっぱい買ったね」
祖父「盆だから人来るべ? みんな飲むだろうしこのくらい買っとけばいいんだ。それに男も飲むべ?」
男「まぁ、そうだね……飲む」
祖父「お父さんは弱いけど男はザルか?」
男「今のところあんまり酔った事はないかな」
祖父の家系は皆お酒に強い。
それに対してこの家系と結婚する相手は物凄くお酒に弱い。
私の家では母が酒に強く、父がめっぽう弱い。缶一本で顔真っ赤になりケラケラと笑いだすのだ。
母は、そんな父の姿を見ながら飲む酒が大好きだという。
親戚も同じらしい。
56
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:31:05 ID:T1Kw3mLE
祖父「おっ、あれ女ちゃんじゃねぇか?」
男「え、どれ?」
祖父「ほれ、あそこの畑にいる若い人だ。多分あれは家の手伝いだな」
車の中から祖父が指差す畑を見ると何人かが畑に立っているのだが、私は顔まで認識する事は出来ない。
祖父「いつもなら家に居る時間だが珍しいな」
男「そうなんだ」
祖父「まぁ、午後には終わるべ」
男「ふーん」
祖父「家帰ったら酒飲むべ」
男「まだ昼だよ。人来たらどうすんのさ」
祖父は豪快に笑いながら、「一緒に飲む!」と言う。こちらの常識とは全く違う祖父の価値観に触れているこの時間はとても楽しい。
57
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:31:42 ID:T1Kw3mLE
男「うぇ……暑い」
だれながら車庫の裏にある小さな倉庫に買ってきた酒たちをしまう。
祖母「二人とも疲れたべ、お茶出すから早くこっちに上がっておいで」
家の中からカランと氷の音が外に響いて来た。
祖母が飲み物を準備してくれているのだろう。
ありがたい。
祖父「よしっ、家に入るか」
男「うん」
女ちゃんも忙しいみたいだし今日は家でだらだら過ごすとしよう。
58
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:32:42 ID:T1Kw3mLE
男「いい天気だなぁ」
祖母「ここ来るかい? 風が通って気持ちいいよ」
祖母の後ろにある大きな扉、そこは風でカーテンが翻り風鈴が涼しい音を鳴らしている。
男「風がここまで来てるから大丈夫だよ。ばばあちゃんこそ大丈夫?」
祖母「大丈夫だ」
男「そう」
ここの地域の夏はとても暑いけど風がよく吹いている。山から吹き下ろしているからか、この家の窓がいい位置にあるからなのか、理由はよく分からないけど結構快適だ。
「こんにちはー」
それと同時にガラガラと玄関が開けられる。
祖母「はーい、よいしょ」
男「俺が行くからばあちゃんは座ってていいよ」
祖母「そうかい?」
59
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:33:33 ID:T1Kw3mLE
立ち上がって玄関へ繋がるガラス戸を開ける。
女「あっ、男くん!」
男「女ちゃんと……?」
「なんだ、俺のこと忘ったか」
黒いタンクトップに茶色の短パン、濃い顔に似合うくらいの焼けた肌……と、少し威圧感のある男性が素敵な笑顔をこちらに向けている。
女「ほら、覚えてないだろうって言ったでしょ?」
「んだな。しかし……男、お前で随分とでかくなったな!」
男「え、もしかして……女兄くん?」
女兄「はははっ、久し振りだな!」
60
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:34:11 ID:T1Kw3mLE
女兄「そっか、大学生か」
男「うん、女兄くんは何してるの?」
女兄「俺か? 俺は農家だな」
彼の名前は女兄。
女ちゃんのお兄さんだ。
小さい頃、私や姉と一緒に遊んでいた一人。
男「家の畑を継いだんだ」
女兄「継いだと言われると違うけど……まぁそうなるか?」
女「私に聞かないでよ……あっ、祖母さん! また野菜を持ってきたので見てください!」
女ちゃんは立ち上がると祖母と一緒に台所に歩いていく。
じいちゃんとばあちゃんは相変わらず色んな物を持って来てもらっている。
本当に慕われているんだなと思う。
女兄「行っちまった……うーん、仕事も基本的に皆でやってるし、親父の代わりにって事もないから俺はよく分かんねーな」
男「そうなんだ」
61
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:34:58 ID:T1Kw3mLE
女兄「ところで」
男「うん?」
女兄「姉ちゃんは……居ないのか?」
男「居ないよ。俺だけが来てる」
女兄「そうか……」
私には、女兄くんが少し肩を落としたように見えた。
男「なんで?」
女兄「あっ、い、いや、何でもないんだ! ただ男一人で来たのかなと思ってな」
急に慌て出したけど何か姉に用があるのだろうか。
出来ることがあれば協力したい。
私がそんな事を考えていると
女兄「そ、そろそろ家で夕飯の準備しなくちゃいけねぇから俺帰るな! 男、暇だったらまた家に遊びに来いな」
男「えっ、あ、うん。実は俺ずっと暇だから明日遊びに行ってもいい?」
女兄「おう、待ってるから来い」
62
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:36:13 ID:T1Kw3mLE
女「あれ、お兄ちゃんもう帰るの?」
台所から女ちゃんが帰ってきた。
女兄「おう、あまり居すぎるのもよくないしな」
女「姉ちゃんが居なくて残念だったね?」
女兄「……じゃ、じゃあ俺は帰るから!」
祖母「ありゃ、もう帰んのかい? 家の菓子でも持ってくか?」
女兄「いえ、大丈夫ですよ。それじゃっ!」
女兄くんは逃げるように居間から離れ玄関に向かうと、その勢いのまま外に出ていった。
女ちゃん家の夜ご飯当番は大変なんだな。
63
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:37:31 ID:T1Kw3mLE
女「お兄ちゃん、あんまり変わんないでしょ」
男「うん、最初は怖かったけど昔と何も変わらない女兄くんだったよ」
女「身長低いのに黒くて筋肉ついてて、見た目だけじゃ怖いのも分かるよ。 男くんは……あれ?」
男「?」
女ちゃんは私の体をまじまじと見つめるとジリジリと距離を詰め、私の腕に手を伸ばす。
女「男くんも結構がっしりしてるんだね」
男「あっ、う、そうだね……一応運動は続けてるから」
女「そうなんだ……おっ、気付かなかったけど脚とか凄く太い!」
くすぐったい、そして頭が真っ白だ。
女性に体を触られている。
あぁ、女の人の手はどうしてこんなにサラサラしているのだろう。いや、こんな事を考えている場合ではないのだがどうしても思考がそっちに引っ張られてしまう……。
64
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:39:23 ID:T1Kw3mLE
女「ほぉ……ほぅ」
男「お、女ちゃん? そろそろ離れてくれるとありがたい……かなって」
女「あっ、ご、ごめん……夢中になっちゃって……ね」
男「だ、大丈夫」
気まずくて黙ってしまう……。
女ちゃんも離れてからはずっと俯いたままだ。
沈黙の時間も嫌いではないが、これは耐えられない沈黙。
女「あ、あのさ!」
顔を真っ赤に染めた彼女は綺麗な瞳をうるうるさせながらこちらを見つめている。
女「明日さ、川に……行かない?」
男「川……?」
女「そう、川」
川というと土手の奥で流れている川の事だろうか。
65
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:40:10 ID:T1Kw3mLE
女「だめ……かな?」
男「……いいよ」
女「本当!? じゃあ明日の朝迎えに行くから待っててね!」
男「けど川に何をしに……」
「帰ったぞー」
女「あ、祖父さんが帰ってきたね。じゃあ私もそろそろ帰ろうかな……ん、しょっと」
川で何をするのと聞こうと思っていたのだが無理に引き留めるのもよくないのでこのまま見送る事にした。
女「じゃあ、明日ね」
男「うん、ばいばい」
女「ばいばい」
66
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:41:30 ID:T1Kw3mLE
男「……」
落ち着かない。
明日は川で何をするのだろう、川という事は水だ。つまり、水着……あぁ、あまりよろしくない思考だ。
自分を叱りたい。
男「水着とか持ってきてないけど川は浅かった気がするし……普通の服でもいいか」
泳ぐと決まったわけでもないのに気分が高まってしまう。
女ちゃんはどんな水着を着るんだろうか。
男「……はっ! ダメだ、今日は早く上がって早く寝よう」
67
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:42:08 ID:T1Kw3mLE
男「スマホは……っと」
『電話していい?』
男「……なんで?」
姉から届いていたメッセージだった。
こっちに来てからというもの、少しだけ姉からの連絡が多くなった気がする。
男「電話するか」
習慣になりつつある。
男「……もしもし?」
姉『ん』
男「それで、なに?」
姉『何ってなによ』
男「……切るよ?」
姉『……明日の夜、そっちに行くけど何か欲しいものとかある?』
男「とくに無いけど……それだけ?」
姉『そう……』
68
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:43:01 ID:T1Kw3mLE
電話越しでも分かるくらい姉の気分が落ちている。
仕事で何かあったのか、私の発言が悪かったのか、理由は分からないが姉は落ち込んでいる。
面倒くさい。
男「……今日ね、女兄くんに会ったよ」
姉『女兄ってあの? 懐かしいわね』
男「そうそう、ガッチリした日焼け男になってた」
姉『やっぱり農家だから筋肉ついてるんでしょうね。日焼けはまぁ……そっちならそうねって感じ』
男「うん、格好よかったよ」
姉『あんたも結構筋肉ついてる方だけどね』
男「大学に入ってからはあんまり運動してないからなー」
69
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:44:28 ID:T1Kw3mLE
姉『私は自信もっていいと思うけどね。脚とか凄いじゃない』
男「脚が細くならなくて困ってんだけどね」
姉『女みたいな悩み方するんじゃないよ』
男「だって細くならないんだもん。鍛えてないと太いだけになるし嫌でしょ」
姉『まぁね、私も太った男は……まぁまぁ嫌かな』
男「でしょう?」
姉『そうね』
姉の機嫌もだいぶ良くなった気がする。
男「そろそろ切るね」
姉『明日は夜にはそっちに着くから』
男「そういえば何で来るの?」
姉『電車、お迎えよろしく』
男「……りょーかい」
姉『ふふっ、じゃあ……おやすみ』
男「おやすみ」
70
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/03(土) 00:46:35 ID:T1Kw3mLE
通話を終了する。
姉の機嫌が戻ってみたいで良かった。
何が切っ掛けで落ち込んだのか分からない、けどこういう時はどんな内容であれ話すのが一番だ。
姉はどんなにくだらない話であっても聞いてくれるし、話してあげると何かと気分が晴れるらしい。
ツボがいまいち分からない。
男「あっ、明日は朝から女ちゃんが来るんだった」
すっかり忘れていた
男「水着……」
男「ダメだ、寝よう。明日は忙しくなりそうだからな、寝よう寝よう……よし、寝よう」
男「……寝よう、俺」
71
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:38:01 ID:alXXxjAI
少女は悲しんでいた。
大粒の涙は頬を伝い、足元に落ちた涙で池が出来てしまいそうだ。
「どうして……?」
その問に答えられない。
体が動かない、喋ろうとしても口が開かない。
「えっ、それ……ほんと?」
何も言っていない。
しかし、少女の顔はさっきとは違う晴れた表情に変わっている。
「じゃ、じゃあ……約束だよ?」
私は何を言ったんだ。
少女に向けて叫ぶ、届かなくても叫ぶ。すると、彼女の流した涙の池がゆっくりとせり上がり私を飲み込む。
72
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:38:42 ID:alXXxjAI
もう少しでモヤモヤが晴れそうだというのに、ここまでしか教えないよと誰かが悪戯に弄んでいる。
「──くんが言い出したんだからね! 忘れたりとか絶対に許さないからね!」
「忘れないよ! 大きくなったら──」
─────
───
─
男「……」
女「あ、おはよ」
男「……おはようございます」
女「寝汗凄いね」
73
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:39:20 ID:alXXxjAI
女「今日はあんまり驚かないね、慣れた?」
男「なんか、驚かなかった」
さっきまで会っていた様な感覚が体に残っているからなのか、先日のように驚いてしまう事はなかった。
女「ふふっ、じゃあ顔洗って歯磨きしてきなよ」
男「……いま何時?」
女「7時!」
女ちゃんは相変わらずだ。
74
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:40:12 ID:alXXxjAI
祖母「汗すごいねぇ」
男「なんか焦る夢をみたから、それのせいだと思う」
祖父「風呂場でシャワー浴びていいぞ」
男「ありがと。じゃあシャワー浴びてくるね」
女「うん、行ってらっしゃい」
朝から女ちゃんがこの家に居る事への違和感が無さすぎる。
祖母「女ちゃんは朝ごはん食べたのかい?」
女「はい! 家で作った梅干しで口をきゅーっとしました」
祖父「梅干しか、ちょっとうちの梅でもどうだ?」
女「いいんですか?」
祖母「今年のはうめぇと思うから食ってみぃー? じぃ持ってきてくれ」
祖父「わかった」
女「祖母さんの梅干し楽しみです」
75
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:41:02 ID:alXXxjAI
男「……」
女「梅干し美味しかったね」
男「……っ」
女「苦手なら苦手って言えばいいのに意地張って食べるから……ふふっ」
仕方ないじゃないか、ばあちゃんが満面の笑みを浮かべながら作った梅干を出してくるんだ。
断れる訳がない。
女「涙を堪えながら『美味い……』ってね……ふふっ、すっぱいの苦手なのに」
正直に言うと梅干しは苦手だ。
食べている時はそれを悟られないように上手く隠したつもりだった、なのに女ちゃんにはバレてしまった。
でもまぁ、ばあちゃんは喜んでいたからそれでいい。
76
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:41:59 ID:alXXxjAI
女「それじゃあ、準備しよう」
男「準備?」
女「川、昨日行こうって……忘れてた?」
男「あっ」
女「男くんは忘れっぽいもんね」
男「そんな事ないよ。それはもう凄い記憶力で全ての事を覚えてるよ」
女「……れてるくせに、ばか」
何故か馬鹿と言われてしまった。
女「まぁ、持っていく物とかは特に無いんだけどね」
男「えっ、川で何するか決めてないの?」
女「うん! ほら、早く着替えて行こう行こう」
77
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:43:36 ID:alXXxjAI
土手を越え、林を抜け、少し開けた場所に出ると踏んでいた土が砂利や石にに変わり、その先には緩やかに流れる川が現れた。
男「涼しい……」
土手の上からは川の下流を見ることが出来るがここは川の上流……かな?
浅く透明感のあるこの川では小さい頃によく水遊びをしていた懐かしい場所だ。
女「水場ってのもあるけど木が日差しを防いでるからかな? 風が凄く涼しいね」
男「水も冷たくて気持ちいいよ」
女「あー、ひゃっこい」
二人で川の中に手を入れる。
女ちゃんは目を細めながら年よりじみた声を出している。
おばあちゃんだ。
78
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:44:34 ID:alXXxjAI
女「さて、何しようか」
男「本当に何も考えてないんだ。 流石女ちゃん」
女「へへっ」
男「褒めてない」
女「よしっ」
立ち上がり川に入っていく彼女を目で追う。
この川の深さは脛辺り、水面から可愛らしいサンダルを履いた女ちゃんの足が見える。
そして手も見える。
男「……手?」
女「えいっ」
男「わっぷ」
女「あはは、びしょびしょ」
男「……なるほど?」
彼女も水遊びをして濡れたいらしい。
79
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:45:29 ID:alXXxjAI
男「それなら俺だって……おわっ!」
女「男くん、女の子に水を掛けようとするのは駄目だよ? おとなしく掛けられてなさい」
何を言っているのか私には全然理解できない。
女ちゃんは続けて水をすくうと、ぱしゃぱしゃとこっちに向けて水を掛けてくる。
80
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:47:10 ID:alXXxjAI
女「こうしてると昔を思い出さない?」
男「昔?」
女「そう、一緒に遊んでた時のこと」
女ちゃんは私に水掛けを止めると、川の上で踊るように動き出す。
女「覚えてる? ここから少し降りた所にある神社の裏側に出る裏道」
男「そんな道あったっけ?」
女「……やっぱり覚えてないか、男くんはバカ者だ。ばーかばーか」
男「えぇ……どうしたのさ」
女ちゃんが急に幼くなってしまった。
今朝といい女ちゃんは昔の事をあまり覚えていない私の事を非難してくる。
81
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:48:10 ID:alXXxjAI
女「じゃあ明日はその神社に行こうか」
男「明日? 今日じゃダメなの?」
女「今日は午後から買い物に行くらしいの。私も一緒に行くから駄目なんだ」
男「そっか、じゃあ明日……」
ふと、何か大切な用事とまではいかないが何かあったような気がしてきた。
少しの間、腕を組み考えてみる。
男「あっ」
女「?」
男「そういえば明日、母さん達がこっちに来るんだった」
女「そうなんだ! じゃあ挨拶しに行かなきゃね!」
男「別に来なくてもいいんだよ? でも、母さん達も女ちゃんに会ったら喜ぶかもね」
女「ふふっ、楽しみ」
82
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:48:48 ID:alXXxjAI
男「……」
祖母「眠いのかい?」
男「少し、だけね……」
女ちゃんとの川遊びはとても楽しかった。
あれから何回も水を掛けられたりしたが時間を忘れるくらいには川で楽しく遊んでしまった。
別れ際、土手の上で女ちゃんは「明日が楽しみ!」と、素敵な笑顔で言うと土手を駆け降り、勢いそのまま自分の家に走っていった姿を思い出す。
祖母「眠いなら寝るといいぞ」
男「でも、姉ちゃんを迎えに行くから……起きてないと」
意識が途切れ途切れになりながら会話する。
83
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:49:35 ID:alXXxjAI
祖父「バイクで駅まで行くんだべ? 眠いまま運転する方が危ないから少し寝てすっきりした方がいいぞ」
男「そう、かな……」
祖母「起こしてあげっから寝ちゃいなさい」
祖父「あぁ、それに来るとしても夜だからな。今から寝たとしてもそれまでには起きんべ」
確かに姉がそこまで早くこっちに着くとは思えない。
それにこんな状態でバイクに乗るのも危ない。
男「じゃあ少しだけ寝るね」
祖父母が私を起こしてくれる。その言葉に甘え、私はゆっくりと意識を切り離していった。
84
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:50:36 ID:alXXxjAI
男「……あれ?」
寝起きの頭では状況を理解することが出来なかった。
目を覚まし辺りを見回すと、日が沈み窓から入ってくる外の光はなく、家の中は暗い。
部屋の電気を点ける。
明るくなった部屋では椅子に座ったまま眠る祖母、座布団の上で横になり寝息をたててる祖父。
そして、テーブルの上でチカチカと点滅を繰り返している自分のスマホ。
男「……やば」
必要な物を持ち、スマホを開きながら急いで家から飛び出した。
スマホの待ち受け画面には姉からのメッセージが表示されていた。
『馬鹿』
今日は罵られてばかりだ。
85
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:51:17 ID:alXXxjAI
男「……っ、どこだ」
駅まで急いでやって来た。
姉が来ると言っていた駅はここのはず……というか、隣の駅との距離がとても長くここ以外あり得ない。
辺りを見渡すと、駅の入口から出てすぐ横にある自動販売機の光に照らされたベンチに踞るような姿勢で座っているの人が見えた。
ゆっくりと近付く。
すると、こちらに気付いたのか体を起こし私を見た。
男「……お待たせ」
姉「遅い」
86
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:51:54 ID:alXXxjAI
自動販売機の光が姉の顔を照らしだす。
姉の後ろで赤い怒っていますよオーラがゆらゆらと揺れている。
姉「1時間は待った」
姉「男の事だから早めに来て待ってると思ってた。でも、来たら居ないし、電話しても反応ないしでちょっと心配した」
男「あー……」
寝てなければ、早めに来て姉が駅から出てくるのを待っていたとは思う。
寝ていなければ、ね。
姉「それで、何か言うことは?」
男「ごめん」
姉「ん」
87
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:53:03 ID:alXXxjAI
ずっと私を待っていた姉に対して「 俺が来るのを待ってないでバスに乗って行けば?」と言えなかった。
姉は私を信頼し、暗く誰も居ない駅でずっと待っていたのだ。
何も言えない。
姉「じゃあ、じいちゃん家まで送って」
男「りょーかい」
姉「あぁー、座りっぱなしでお尻痛い」
姉は立ち上がるとパンパンとお尻を叩いて汚れを落とす。
男「意識してなかったけど姉ちゃんスーツなの?」
姉「仕事終わらせてからまっすぐこっちに来たからね」
男「なんでそんな急いで来んのさ。別に今日じゃなくて母さん達と一緒に来ればよかったのに」
姉「うるさい」
姉のこういう所、よく分からない。
88
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:56:16 ID:alXXxjAI
───
─
姉「ところでさ」
私の腰に手を巻き、背中にピッタリ付いた姉が話し掛けてきた。
姉「どうしてメッセージや電話に反応しなかったの?」
「寝てた」と言った場合、姉はどう反応するのか。
姉「ねぇ、聞こえてないの?」
男「んー?」
姉「……バイクは駄目だな」
89
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:57:33 ID:alXXxjAI
姉「じいちゃん、ばあちゃん、来たよー」
祖母「姉か? 可愛くなったねぇ」
姉「ふふっ、ありがと。じいちゃんは?」
祖母「そこで寝てるよ」
姉「本当だ。お酒でも飲んだの?」
祖母「昼寝だ」
姉「昼寝? ばあちゃん、もう夜だよ」
祖母「じゃあ長い昼寝だ。男が眠そうだったから起こしてあげるよと私達が言ってなー、気持ち良さそうに眠る男を見てたらこっちも寝ちゃったんだ」
姉「へぇ……ふふっ、可愛いじゃん」
祖母「まっ、可愛いくなんてないよー」
90
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:58:18 ID:alXXxjAI
祖母「んだけど、男には悪いことしたねぇ」
姉「ちゃんと迎えに来たから大丈夫だよ」
男「ただいまー」
祖母「じぃ、男帰ってきたから起きて飯食うべ」
祖父「んがっ、あ? あー、寝ちまったな」
男「二人とも起きた? ただいま」
祖母「お帰り。じゃあ、ご飯を作るべな……姉は着替えておいで」
姉「分かった。あっちの部屋で着替えてくるね」
91
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:58:55 ID:alXXxjAI
今日も今日とて、風呂の中で一日を振り返る。
男「寝ちゃったのは川で遊んだから、かなぁ」
女ちゃんと二人で川遊び。
水着は無かった……けど、すごく楽しかった。
しかし、気になる事もある。
男「神社」
女ちゃんがやたら神社を気にしていた、意識していた……気がする。
気がするだけかもしれない。
男「約束もなぁ、分かんないなぁ……」
今日の女ちゃんを見て、私は小さいときに彼女とどんな約束を交わしたのか、それも気になっていた。
男「はぁ、子供のときの俺は何やったんだ。何を約束したんだ……」
ここに来てから心を覆い続けるこのモヤモヤはまだ晴れそうにない。
92
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/10(土) 23:59:47 ID:alXXxjAI
風呂から上がり部屋に戻る。
祖父母はもう寝ているだろう。しかし、姉がどこで寝るのかが分からない。
姉が使う布団を出してあげなきゃいけないのだが……。
ギシギシと鳴る床を歩きながら自分が使っている部屋のふすまを開けた。
すると──
姉「あっ、お風呂入っていいの?」
男「……」
姉が寝転がっていた。
男「……ここで寝んの?」
姉「あっちの部屋怖いんだもん」
もう一つの空き部屋は確かに怖い。
祖父が作ったお面やこけしなど、夜に見ると不気味に感じてしまう物が多く飾ってある。
93
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/11(日) 00:07:34 ID:V6FpEkwA
男「布団は?」
来客用の布団や枕は、その不気味な部屋の押し入れにある。
姉「……お風呂入ってくるから、お願い」
姉らしい逃げ方。
しかし、私は弟なのだ。
それに応えなければならない。
男「分かった、やっとく」
姉「ありがと」
男「俺は疲れたからもう寝るけど起こしたりしないでね」
姉「……」
姉は何も言わず、ただ視線を逸らす。
勘弁してくれと、目で訴えるが姉はそのまま風呂場へと姿を消してしまった。
男「姉ちゃんの布団敷いて寝よう」
今日はとても短く感じる一日だった。
明日は親戚も集まって来るだろうし、きっと今日と同じくらいか、それ以上の日になるかも。
男「けど余裕があれば、女ちゃんと神社に……」
94
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 20:59:22 ID:zZVcRqpA
男「……んがっ」
お腹が何かに押し潰されて目が覚めた。
見ると脚が私の腹の上に乗っかっている。
私はそれを隣で寝ている姉から繰り出されたものだと簡単に理解することが出来た。
姉「……ぅぁ」
敷いた布団に対して体が横を向いて寝ている。
掛け布団はそっぽに振り払われ、お腹を出したまま寝るその姿は昨日のスーツ姿とは似ても似つかなくて、とてもだらしない。
寝相が悪すぎる。
姉「……んぅ」
男「ぐっ!」
もう一方の足が私のお腹を襲う。
男「くそっ、動けない……」
体を覆うように置かれた姉の脚を簡単に避ける事は出来そうになかった。
95
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 20:59:56 ID:zZVcRqpA
諦めよう。
変に動いて起こしてしまうのも良くない。
折れた私は姉の両足をお腹に乗せたまま枕元に置いていたスマホを手に取ると、電源を付け画面に表示された時間を確認した。
男「6時か」
いつもなら二度寝する時間だ。
けど目が冴えてしまって眠れる気がしない。
ここに来てからというもの、早起きという習慣がが体に染み付きつつある。
大学生としては恐ろしい習慣だ。
姉「んー……」
男「……あ?」
寝返りを打った姉の足が綺麗な弧を描きながら私の頭上に現れると、勢い残したまま綺麗に顔面を目掛けて落ちてきた。
男「ちょ、ちょっと待て、待て待てまっ──」
96
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:00:42 ID:zZVcRqpA
祖父「おっ、起きたか」
男「起きた……ふぁ」
欠伸混じりに祖父と言葉を交わす。
テーブルの向こう側ではお茶を啜る祖母が椅子に座ってテレビを眺めていた。
祖母「デカい欠伸だな。ご飯出来てるから顔洗ってきな」
男「うん、顔洗ってくる……あ」
姉「おはよう寝坊助さん」
男「……おはよ」
顔を洗いに行こうとしたら洗面所から姉が出てきた。
誰のせいで寝てしまったのか、このだらしない姉に時間を掛けて教えてやりたい。
97
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:01:32 ID:zZVcRqpA
祖父「男、今日は人来るから酒いっぱい飲めるぞ」
男「今日のためにお酒買ったもんね」
祖母「お母さん達はいつ頃来るか聞いてっか?」
姉「昼過ぎだと思う。今年は泊まっていくらしいよ」
祖父「そっか、賑やかになりそうで嬉しいな。なぁ、ばぁ」
祖母「んだねぇ」
男「叔父さん達も来るんだよね?」
祖母「何時に来るか知らんけど来るべ」
98
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:02:09 ID:zZVcRqpA
姉「何か手伝う事はある?」
祖母「いいのかい? じゃあ一緒にお料理してくれないか」
姉「うん、手伝うよ。 ね、男」
男「ん」
姉「男もやるって」
何も言ってない。
姉「よし、ご飯食べちゃおう」
男「ん」
姉「ちゃんと喋りさないよ」
男「いでっ、食べてるんだって」
99
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:03:12 ID:zZVcRqpA
姉と二人、台所で今日食べる物の下ごしらえをする。
トントンと野菜を切る音が心地よい。
男「姉ちゃんってあんまり料理しないくせに切るの上手いよね」
姉「普通でしょ」
姉ちゃんの野菜を切るペースが上がった気がする。
速いペースで切っているのにどうしてこんなにも綺麗に切れるのか、自分が切った物と比べて技量の無さに落ち込んでしまう。
姉「……包丁をこう持って、トントンとね」
男「なるほど?」
姉「ふふっ、違う違う……こう」
100
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:04:21 ID:zZVcRqpA
昼前に家の外でドンと大きな音が響いた。ガラガラと玄関の扉を開ける音が鳴ると、懐かしさを感じる声が私の耳に届く。
叔父「帰ったよー」
叔母「おはようございまーす」
祖父「おぉ、来たか」
従妹「じーちゃーん!ばーちゃーん!」
祖母「よく来たねぇー、よしよし」
叔父「んー? 姉さんか兄さんが来てたりする?」
祖父「男と姉が来てる」
従妹「え!? お姉ちゃん達が来てるの! どこどこ!」
祖母「あっちに居るぞ」
従妹「パパ、ママ、行っていい?」
叔父「いいよ、荷物は出しとくから」
叔母「あんまり迷惑かけちゃ駄目よ?」
従妹「うん!」
101
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:05:26 ID:zZVcRqpA
従妹「お姉ちゃん、お兄ちゃん!」
姉「久しぶりー、また大きくなって、それに可愛くなってー」
従妹「へへっ、ありがとお姉ちゃん」
男「1年ぶり? 久しぶりだな」
従妹「2年だよ! 去年ここに来たときはお兄ちゃん達帰ってて会えなかった」
男「そっか、2年ぶり」
従妹「うん!」
従妹。
叔父さんの一人娘で中学2年生の女の子。
姉「それにしても肌が随分と……」
従妹「黒いでしょー」
確かに従妹の肌は綺麗に日に焼けていた。
女ちゃんくらいか、それ以上かもしれない。
102
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:06:17 ID:zZVcRqpA
姉「黒いわ。運動って男と同じヤツをやってるんでしょ?」
従妹「室内スポーツ!」
男「そこまで焼けるか?」
従妹「焼けた!」
元気でよろしい。
きっとランニングや走り込みで焼けたのだろう……が、焼けすぎだと私は思う。
103
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:06:57 ID:zZVcRqpA
叔父「おぉ、男に姉じゃないか」
叔母「久しぶり」
男「お久しぶりです」
姉「元気にしてましたか?」
叔父「あぁ、もうピンピンよ。ところでお母さん達は居ないのか?」
姉「昼には来ると思います」
叔母「という事は、二人は先にこっちへ来たの?」
男「俺が4日前に一人で来て、姉ちゃんが昨日の夜に来ました」
104
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:07:36 ID:zZVcRqpA
叔母「へぇ、面白いわね……来年の夏は娘にやらせてみましょうか?」
叔父「だ、駄目だ! 迷ったりしたらどうする!?」
従妹「そ、そうだよ! 私はパパ達と来るから!」
叔父「ほっ」
従妹「ほっ」
叔母「面白そうなのに、残念ねぇ」
従妹「残念って何よ! もう!」
105
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:08:48 ID:zZVcRqpA
>>104
叔母「へぇ、面白いわね……来年の夏は娘にやらせてみましょうか?」
叔父「だ、駄目だ! 迷ったりしたらどうする!?」
従妹「そ、そうだよ! 私はパパ達と来るから!」
叔母「しょうがないわねぇ」
叔父「ほっ」
従妹「ほっ」
叔母「面白そうなのに、残念」
従妹「残念って何よ! もう!」
106
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:10:05 ID:zZVcRqpA
「こんにちはー」
また玄関から誰かの声が聞こえてきた。
「ほれ、さっさと入れ。あとこれ、爺さんに渡しといてくれ」
「分かった」
硝子戸の先に大きなシルエットが見えると祖父母は立ち上がり玄関へ向かい歩き始めた。
従弟「こんにちは、来たよ」
祖父「従弟! よく来たなー!」
祖母「また大きくなったんじゃないかい?」
従弟「うん、また身長伸びたんだ。あとこれ、お土産」
祖母「ありがとなー、冷蔵庫に入れてくるわ」
107
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:10:42 ID:zZVcRqpA
伯父「ふぅ……腰が」
伯母「あなたも年取ったわね」
伯父「本当に……な」
従弟「父さん持とうか?」
伯父「ま、任せた……」
祖父「お前はいい加減に痩せろ」
伯父「ぐっ、従弟は先に入ってていいぞ」
従弟「分かった」
108
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:12:44 ID:zZVcRqpA
硝子戸越しに見える従弟の姿。
大柄なのに足音はとても静かだ。
従弟「おわっ、今年は勢揃いだ」
戸を開けた瞬間、自分に集まる視線に驚いたようで従弟はキョロキョロと周りを見回す。
叔父「従弟、久しぶりだな」
叔母「また身長が伸びたんじゃない?」
従弟「久しぶりです。身長も少し伸びました」
従弟。
伯父の子供で高校1年生。
109
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:13:48 ID:zZVcRqpA
叔父「お父さんもまだ身長伸びてるんだろ? 不思議だな」
従弟「あれは足の皮が厚くなっているか頭の皮が厚くなっているかのどっちかです」
叔父「ははっ、なるほどな!」
祖母「頭が寂しくて厚みを増したんだべなぁ」
従弟「あっ、男君に姉ちゃんが居る」
私達の存在に気付いた従弟がこちらに笑顔で寄ってきた。
男・姉「「久しぶり」」
従弟「何年ぶり?」
姉「え、従弟ともそんなに会ってなかった?」
お盆という機会が毎年あるのに会えていないのが不思議に感じる。
110
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:14:38 ID:zZVcRqpA
従妹「私は従弟くんと毎年会ってたけどお兄ちゃん達とは2年ぶりだし……ホントこっちに来なさすぎ!」
男「えぇ……?」
従妹に怒られてしまった。
この二人は毎年どの季節であれ最低1回は泊まりに来るとのこと。
男「しかし、まぁ……デカくなったな」
従弟「うん」
姉「男、従弟と並んでみてよ」
男「なんで」
姉「いいから、ほらほら」
111
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:15:19 ID:zZVcRqpA
嫌々立ち上がり従弟の横に立つ。
私の身長は平均的なため大きくもなく、小さくもなく。 そんな私が従弟と並ぶと……もうちょっとだけ身長が欲しくなる。
男「身長ちょうだい」
従弟「いいよ」
姉「ばーか」
従妹「お兄ちゃんはもう諦めなよ」
私に優しいのは従弟だけだ。
112
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/08/24(土) 21:16:16 ID:zZVcRqpA
伯父「はぁ……疲れた」
伯母「お疲れさまでした」
叔父「おつかれさん」
伯父「久しぶりだな」
伯父たちが顔を会わせ言葉を交わす。
後は私の家族が来れば一家全員集合となる。
伯父「男か、車無いけど母はどうした?」
男「もうすぐしたら来るよ」
伯母「姉ちゃん久しぶりね! また綺麗になって〜!」
姉「あはは、ありがとうございます」
似た雰囲気の者達が集まっているこの光景がとても面白く、つい口が綻んでしまう。
従妹「お兄ちゃん何でニコニコしてんの?」
男「ん? んー、楽しくてかな」
泊まりに来て良かったと、心からそう思えた。
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