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兄「なんだ、あれ……」妹「おかしのいえ?」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/08(土) 23:15:48 ID:LxCXXAjQ
あるところに樵の一家がおりました。
夫婦と兄妹の四人家族です。

兄はとても賢く聡明で、小さいながらもよく勉強をしていました。
妹はとても食いしん坊で、野草やキノコなどに詳しくなりました。
ちぐはぐな兄妹でしたが二人はとても仲良しでした。

しかし樵の家はとても貧しく、母親の提案により兄妹は森の奥に捨てられる事になってしまいました。
一度は小石を置いて帰り道を印して事なきを得ましたが
小石を集められなかった二度目はパンくずで代用するも小鳥に食べられてしまうのでした。

71以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 21:50:53 ID:aFK2dm7A
弟子「さ、今日は疲れたしご飯を食べたらとっとと休もう」

兄「まだ遅い昼食なんですけど」

弟子「いいんだよ。大仕事をしたんだ。数日休暇を設けたって罰は当たらないさ」

婆「あんたはいつも休もうとしとるだろうに」

弟子「えー最近は真面目にやってますよー?」

婆「サボっていたらわたしにきっちり言うんだよ?」

弟子「ほーらまた小さい子達に圧力をかけるぅ。無視しちゃっていいんだからね?」

兄(どっちにも返答し辛い)

72以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 21:56:36 ID:aFK2dm7A
翌日
弟子「さて、今日は……お休みという事で調合も採取もなし!」

兄「えっと、掃除も洗濯も終わったのですが」

弟子「というわけで、ちょっと私の小屋に案内しようかなと思う。使う機会もあるだろうし」

妹「おねえちゃんのこやー?」

兄「そういえば一度も入った事の建物はありましたが……」

弟子「そうそう家のそばのアレだよ」

兄「……なんの為の小屋なんですか?」

弟子「私個人の倉庫と作業場だね」

兄「……」

73以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 21:57:24 ID:aFK2dm7A
弟子「部屋は大きく分けて三部屋! まずこちらが冷凍室!」ギィィ

妹「さむーい!!」

兄「……こ、これは」

兄「大量の吊るされた枝肉に無数の棚!」

兄(まあ、なんとなく予想はしてた)

弟子「ふっふっふー部屋そのものに魔法的処置がしてあるから、めちゃくちゃ長期保存できるのだよー」

兄「だとしてもこの量、食べ終わるまでにどれだけかかるんですか」

弟子「んー? あんまり深く考えた事ないからなぁ。減れば補充するし」

74以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 21:58:53 ID:aFK2dm7A
弟子「続いてこちらが加工作業部屋だ」

弟子「下拵えや冷蔵保存はここ。奥の扉が燻製室になっている」

兄「めちゃくちゃ本格的だ……」

妹「このてつのたるはー?」

弟子「それはソーセージとか作る時に使う混ぜる装置だね。魔法で中の刃をぐるんぐるん回すんだ」

兄「ハイテクですね」

弟子「魔法があるのにハンドル手回しも億劫だからね」

75以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:00:57 ID:aFK2dm7A
弟子「最後の部屋は乾燥室。肉に限らず野菜やフルーツも干したりしてるよ」

弟子「完全に無添加で切っただけのものを干したりするね」

弟子「自然派志向の頭のイカレタ貴族が買ってくれるんだ。ちゃんとして作ったやつのほうが美味しいのに」

兄「それ作り手が言っちゃっていいんですか?」

弟子「下拵えしたとして、ただ干すだけだと肉なんかボロっとした食感になるからね」

弟子「よくあるような干し肉、って感じはそれなりの手間が必要なんだけど、連中はそれさえ嫌うのさ」

兄「金持ちの道楽ですね」

弟子「全くだ。まあ彼らほどでないにしても、こちらもそれなりには裕福だけど」

兄(これだけ設備があるしこれも道楽なのかなぁ)

76以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:02:01 ID:aFK2dm7A
弟子「そんなわけで使いたい事があれば言ってくれ。鍵は私が管理しているし」

兄「仮に料理するにしてもあっちの家にあるお肉を使っちゃうですけど……」

弟子「まあ食品加工に興味があるのなら、て事さ。でも別にいいんだよ? ここで保管されてた部位持っていて料理しても」

妹「おりょうり……んー……」

弟子「妹ちゃんもただ野草を煮込むだけじゃ美味しくないでしょ」

妹「にこむ?」

兄「あ、すみません。未だに生で食べてるみたいでして」

弟子「……火が取り扱えないとか家庭の問題とかで生食していたわけじゃないんだ」

77以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:06:20 ID:aFK2dm7A
お家作りも一段落し、またいつもの日々が始まりました。
兄は毎日、弟子に教わりながら調合を。
妹は毎日、図鑑を片手に薬草の採取を。
時折、他の事を学んだり、魔法について教わったり。
楽しい毎日を送りました。

そうして、元々暮らしていた家の事などすっかり忘れ
数年があっという間に過ぎ去ったのです。


妹「お兄ちゃん。今日の分、摘んできたよ」

兄「分かった。そこのカゴに入れておいて」

妹「オッケー」

78以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:06:54 ID:aFK2dm7A
妹「そうだ見て見て! 黒いキノコ!」

兄「……黒いキノコがそんなに珍しい?」

妹「そうじゃない! ほら、森で迷った時に見つけたキノコと同じ種類」

妹「これ、実は凄い薬になるんだって。お姉ちゃんのところに持ってかなくちゃ」

兄「それを妹は生食したのか……」

妹「納得の苦さだね」

兄(胃腹、丈夫過ぎるだろ)

79以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:10:58 ID:aFK2dm7A
兄(しかしナチュラルに持ち込み先が姉さんだったな)

兄(そりゃあまだまだ未熟だけども、俺でも調合できるかの確認ぐらいされても……)モンモン

弟子「おや、また要らない事を考えてそうな顔だね」

兄「あ、姉さん」

弟子「このキノコ、干しておいてくれ。ちょっと使い方が特殊だから、あとで説明するよ」

兄「分かりました」

弟子「いやあ優秀な助手がいると楽ができていいねぇ」

兄「はは、ありがとうございます」

80以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:12:21 ID:aFK2dm7A
弟子「で、なにを悩んでいたんだい?」

兄「いやぁ……別に悩んでは」

弟子「大方、あのキノコの事だろう」

兄「……」ギクゥ

弟子「あれはねー。前に食べた事があるって言われたんだよ」

弟子「で、結構稀少なキノコだから見つけたら持ってきてくれ、て言っておいたのが一番の理由だろう」

弟子「別に君の能力云々の話じゃあないから落ち込まないように」

兄「……なんでもお見通しかー」

弟子「ふふ、私はお姉ちゃんだからね。兄君の事なら分かるさ」

81以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:13:19 ID:aFK2dm7A
兄「あ、そうだ。このキノコって滋養の効果もあるんですか?」

弟子「あるにはあるけども、疲れているのかい?」

兄「いえ、自分ではなく、その、お婆さんに……」

弟子「あー……」

兄「最近は特に咳き込んでいるのを見かけるので」

弟子「まあ効果はあるだろうけども、殆ど気休めだろうね」

兄「……寿命、という事ですか?」

弟子「前にも話したけどもかなりの高齢なんだよ。あんなツンデレだけどね」

82以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:15:25 ID:aFK2dm7A
弟子「まあ私が口を出すとあれこれ言い返されるし」

弟子「作った薬の試し飲みを、て事で兄君から渡されれば飲むだろう」

弟子「飲ませたかったらそんな感じで運ぶといい」

兄「薬で試し飲みとは一体……」

弟子「いいんだよ。あの人も大概に面倒臭い人だからね」

弟子「真正面からの理由だと怒るけども、そうしたちょっと遠回りすれば無下にはしないから」

83以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:18:26 ID:aFK2dm7A
弟子「もうちょい素直になってほしいもんだけどもねー」

兄「ははは。でもとても優しいですよ」

弟子「ふふ、そりゃそうだ。私だってその一人だもの」

兄「え?」

妹「お兄ちゃん!」バァン

兄「ドアが壊れるから全力で開けない」

妹「お姉ちゃんも! 早く来て! お婆ちゃんが!」

兄弟子「!」

84以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:19:42 ID:aFK2dm7A
……
婆「ゴホッ! ゴホゴホッ! はぁ……はぁ……」

弟子「私達がいるんだ。倒れるまで無茶しなくてもいいだろうに」

婆「うる、さいよ……」

妹「お婆ちゃん……」

婆「ああ……そんな顔なんてするんじゃあ、ないよ。あんたは、可愛いんだから」ナデ

兄「……姉さん」

弟子「どうにもならないよ。君達には酷だけど、覚悟をしなさい」

兄妹「……」

85以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:20:34 ID:aFK2dm7A
婆「やれやれ、年は食いたくないもんだねぇ」

弟子「年を食いすぎているんですから当然ですよ」

婆「……そうさねぇ」

兄「どなたかに連絡とかしたほうがいいんですか?」

弟子「いや。近親者は私達だけみたいなものだ」

兄「あ……そう、だったんですか」

86以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:23:01 ID:aFK2dm7A
弟子「というよりも……」

婆「ああ……遍く天よ育む大地よ。今こそこの命と名を返し、この肉体を還そう」

婆「その名は……」

お婆さんの言葉が終わると、体は輝きだして無数の光の粒へと変わっていきました。
キラキラと光り、立ち上りながら消えていくその光景はあまりにも幻想なものです。
悲しくて寂しくて、とてもとても美しいものでした。

妹「お婆、ちゃん……」

兄「そんな、こんな事……」

87以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:23:43 ID:aFK2dm7A
……
兄「お婆さん……」グス

妹「お婆ぢゃん……」グズグズ

弟子「はーやれやれ……。これだから妖精族は。逝き際は派手な癖にほんっと空気が読めない……」

兄「え、あ、え……」

妹「妖、精……?」

弟子「うん。そういえばなんだかんだで私達の種族の話はしていなかったね」

弟子「妖精族の中でも珍しい種族だったんだよ。寿命も300年とない、まあ人間からすれば長命だけど妖精としては短命さ」

妹「300……」

弟子「あー君達のはしていたけども、私達は誕生日にお祝いなんてしていないから、年齢も知らないんだったか」

兄「あ、はい。すみません、できればお祝いしたかったのですが、聞いていいのか分からなくて……」

弟子「ありゃ、そんな遠慮をしていたのか。気を遣わせてしまって悪かったね」

88以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:25:34 ID:aFK2dm7A
弟子「私は135歳。あの人は319歳だ」

弟子「100年以上の付き合いだったけども、君達と出会う前からいつ死んでもおかしくなかったんだよ」

妹「そんな……」

弟子「あ、因みに私は魔女族なんだ」

兄「そうだったんですか……え、魔女族の方は人間に混じって暮らしているんですよね?」

兄「そんなに寿命が長いと普通には暮らせないんじゃ……」

弟子「人里で暮らしている人だと人間と変わらないよ。というか純血の人はそういうところで暮らしたりしないし」

弟子「あと私は寿命を思いっきり伸ばす薬を飲んだからね」

兄「そうだったんですか……」

89以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:28:53 ID:aFK2dm7A
弟子「まあそんなわけだからさ。悲しむな、とは言えないけども笑顔で見送ってあげよう」

弟子「こんな可愛い孫二人に看取られたんだ。さぞかしいい最期だったろうね」

妹「……違うよ」

弟子「うん?」

妹「娘と孫、だよ」

兄「そうです。お婆さんはきっと……」

弟子「……」

弟子「ふふ、そうだね。こんなに可愛くて優秀な孫と娘に囲まれていたんだ」

弟子「これほど幸せな最期はないね」

90以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:30:24 ID:aFK2dm7A
弟子「さ、お墓を作ろうか。生憎空っぽだけど、区切りの一つくらいはつけないとね」

兄「手伝います。と、いってもなにをしたらいいのやら……」

弟子「うーん……。あの人がよく身につけていた帽子とネックレスを見つけて持ってきてくれ」

弟子「どうせ部屋の目立つところに置いてあるだろうから、探す手間はないとだろうけどもね」

弟子「私は先に外にいるから頼んだよ」

妹「うん、分かった」

兄「分かりました」

91以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:33:36 ID:aFK2dm7A
兄「お婆さんの部屋、入るの初めてだな」

妹「うん……そうだね」

妹「……お婆ちゃんの香りだ」

兄「だね」

妹「もっと。もっとお婆ちゃんと沢山お話しておけばよかった……」

兄「……今はやるべき事をやろう。感傷に浸るのはあとだ」

妹「あ、あった」

兄「……本当に取ってくるだけだな」

92以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:35:41 ID:aFK2dm7A
弟子「お、もう見つけてきたか。やっぱり目立つところにあったんだね」

兄「はい。台の上だったんで取ってきただけでした」

妹「これ、ただの石……?」

弟子「流石にそれだと味気ないからね。これを魔法で!」ガガガガ

妹「うわーー!」

兄「削れて……十字架に、台座のついた……」

弟子「お墓のできあがりだ」

兄「おぉ……」

妹「すごい……」

兄(便利だけどこれはこれで、なんというかお手軽すぎて……いや考えるのはやめよう)

93以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:38:46 ID:aFK2dm7A
弟子「さて、その帽子とネックレスを貸してごらん」

弟子「これをこうして……」

兄(十字架の部分にネックレスをかけて帽子を被せて……)

兄「なんか、旅の途中で命を落とした仲間の墓標みたいですね」

弟子「あーうん。私もそう思った」

妹「これ、風で飛ばされたりしないかな……」

弟子「ここで更に魔法を使って」

兄(淡く光った……なんだろう)

弟子「お墓の完成だ」

妹「え? 今ので?」

94以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:41:49 ID:aFK2dm7A
弟子「これで帽子もペンダントもここから動かせないし」

弟子「耐久力も石並みになる。まあ、墓石の部分と同化させた、みたいなもんだよ」

兄「へー……あ、でもちゃんと帽子なんです」

妹「なんか、凄い限定的な魔法……」

弟子「そりゃそうさ。こういうお墓の為に編み出された魔法なんだから」

弟子「因みに解除されると物は盗まれる」

妹「えー……」

弟子「ただ色々と面倒な上に、失敗するとそれなりの確率でひどく不幸な目にあう。手足の一本持っていかれる事故とかね」

兄「怖っ……」

弟子「まあ手を出す馬鹿はいないよ。相手も魔女だし、故人を偲んでのものと分かっているし」

95以下、名無しが深夜にお送りします:2021/10/31(日) 22:44:26 ID:aFK2dm7A
弟子「さて、明日から私はしばらく家を空ける事になる」

兄「え?」

妹「ど、どうして……?」

弟子「あの人が亡くなったからね。その関係でやらなきゃいけない事が多々あるんだ」

兄「あ、そういう事か……」

弟子「うん? あ、もしかして私までいなくなると不安にさせてしまったかな?」

妹「……うん」

弟子「勘違いさせて悪かったね。でも私はどこにも行かないよ。少なくともむこう数十年はまず、ね」

兄「嬉しいは嬉しいんですが、時間のスパンが……」

96以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 21:53:21 ID:ZPiNMD7M
弟子「で、話を戻すとその間、留守番をするか私と一緒について来るかだけど」

妹「行く!」

兄「僕達も空けてしまっていいのでしたらついて行きたいです」

弟子「おお、即決」

弟子「まあそっちのほうが心配もないし、むしろ助かるよ」

兄「……とは言え大丈夫ですかね。ずっと無人だなんて」

弟子「ここら一体に結界のようなものを張るから心配御無用だ」

弟子「中は時間も止まっているから買い置きが腐りもしない」

兄「魔法超便利……」

妹「だね」

97以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 21:55:09 ID:ZPiNMD7M
……
弟子「さて、まずはここからだ」

妹「お店みたい」

兄「協会とかじゃないんですか?」

弟子「まー本来はそこを一番先に行くべきなんだけどもね」

弟子「距離に応じて転移魔法も面倒臭くなるんだよ。できれば短い距離で済ませたい」

兄「……なんでそういうところは不便なんでしょうね」

弟子「さっきの封印魔法だって便利だけどすごく難しいからね。あの範囲は私も最近成功するようになったぐらいだし」

弟子「便利な分、なにかしらマイナス面もあるもんさ。何事もそうだろう? 世の中上手くできてるよ」

98以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 21:57:21 ID:ZPiNMD7M
弟子「どうもー」

男「お、弟子ちゃんか。今日はどうした?」

弟子「師が亡くなりましたのでそのご挨拶に伺いました」

男「……そうか。まあ歳が歳だったしな」

弟子「ええ、あの人もようやくゆっくり休める事だろうと思います」

男「で、そっちの子達はどうしたんだい?」

兄「初めまして」

妹「は、初めまして」

99以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 21:59:20 ID:ZPiNMD7M
弟子「数年前にあの人が連れてきた子達です」

弟子「今は調合と採取を手伝ってもらっていますがとても優秀な子達ですよ」

男「ほー、君達は正式な魔女になるのかい?」

妹「え、と……」

兄「そういえば特に考えた事なかったなぁ。正規となると資格が必要なんですか?」

弟子「そうだね。試験に合格して免状を貰っているのが、正規と言っていいかな。じゃないと協会とか利用できないし」

100以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:01:48 ID:ZPiNMD7M
男「まだそこら辺詳しくないのか。俺はここで薬草や薬の卸しをやっているんだ。勿論買い取りもしている」

弟子「調合の依頼なんかもここから貰う事もあるんだよ」

男「魔女にもランクみたいのがあってさ。一応、俺でも下のほうの免状は持っているんだぜ」

妹「男の人でも魔女なの?」

兄「……そういえば話、聞いていなかったな」

妹「え、嘘、いつ?」

弟子「寝ちゃってたもんなぁ。魔女は魔女業をしている人を指すから誰でも魔女になれるんだ」

男「まあ俺は結局合わなくて魔女との商いに身を置いているけどね」

101以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:03:00 ID:ZPiNMD7M
弟子「それじゃあ私達はこれで」

男「おお、また寄ってくれ」


弟子「さて、次は……」

兄「あの、思ったんですけども手紙とかを転送する、みたいな魔法とかはないんですか?」

弟子「うん? そりゃあ勿論あるよ」

妹「え、あるんだ……」

兄「……直接報告に向かうのが礼儀、とかでしょうか?」

弟子「あーそういう事か」

弟子「必須ではないけども、今後は完全に私がお世話になるからね。その挨拶さ」

弟子「まあ二人がついて来てくれるって言ってくれたし、お得意先に君達を紹介しておこうというのもあるけど」

102以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:05:49 ID:ZPiNMD7M
弟子「だからまあ、別にそこまで重要じゃないかな、て所には手紙だけ送るつもりさ」

兄「あ、そうなんですね」

妹「でもそれ、帰ってからだよね? なんだか仲が悪くなりそう……」

弟子「んー。ま、お互いビジネスライクでやっている相手とかだからね」

弟子「別に情でやり取りしているわけじゃないし、それで拗れる関係でもないさ」

兄「結構閉鎖的なコミュニティなのに、更にそんな薄い関係もあるんですね」

弟子「魔女業をやっている時点で世捨て人なところがあるし、さもありなんってものだよ」

弟子「あとこういう生業に就く人は大抵それなりの寿命だからね。一年二年音沙汰なしなんてよくあることさ」

103以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:09:02 ID:ZPiNMD7M
……
弟子「今日はここまでだね。宿を借りようか。協会は明日の朝一かな」

妹「お泊り!」

兄「そういえば数日空けるって言ってましたもんね」

弟子「今日は魔女ご用達の宿だから体裁気にしなくていいからね」

兄「……魔女向けの宿って経営成り立つんですか?」

弟子「はは。半分道楽が殆どだよ」

妹「どういうこと?」

兄「お婆さんや姉さんがそう頻繁に遠方に出かけているイメージないだろ」

妹「そっか……魔法もあるし泊まることって珍しいか」

104以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:11:33 ID:ZPiNMD7M
妹「おいひいい!!」

兄「すごい。これで道楽の宿だなんて」

弟子「ああ、うん。言い忘れたけど、表向きにはレストランなんだ。ここの店、人気店なんだよ」

兄「体裁を気にしなくていい、とは」

弟子「ここ二階が魔女の客室だからね。従業員以外立ち入り禁止扱いで、レストランの客がこっちに来ることはないよ」

妹「えー? でも子供とか入ってきそう」

兄(その好奇心が絶対にあった子供の説得力)

弟子「部外者が階段を上ろうとしたら音が鳴るからね」

兄「魔法で?」

弟子「魔法で」

妹「ちなみにどんな音?」

弟子「めっちゃ怖い叫び声」

兄「子供がトラウマになっちゃう……」

105以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:13:26 ID:ZPiNMD7M
妹「あー美味しかった……幸せ。デザートのプリンもヤバかった」

弟子「私も久々に食べたけどもほんと美味しかったね。ああ……あの噛むたびに旨味溢れるステーキ」

兄「パンもふっわふわだったし、赤いスープもすごかった。なんだあれ、トマトっぽいのにすごいまったりとした味でくせになる」

兄「というか大丈夫なんですかこれ。お金とか」

弟子「魔女の薬と引き換えに安くなるからね」

兄「なにに使うんだろう……」

弟子「ああ、いや。滋養強壮の薬だよ。レストラン業が忙しいらしい」

妹「一般人と魔女とどっちに商売したいんだろ」

兄「なんだか宿はレストラン業を続けるための薬調達が目的に見えてくる……」

106以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:20:22 ID:ZPiNMD7M
翌日 協会
「以上で登録抹消の手続きのほうは終わりとなります」

弟子「ありがとうございました」

「……寂しくなりますね」

弟子「耳にタコができそうだった小言も懐かしくなるんでしょう」

「ふふ、私は既に恋しいですよ」

「それで、そちらのお二人はどうします?」

弟子「まだ試験を受ける段階ではないので」

「そうでしたか。ではいずれ」

弟子「ええ、その時はよろしくお願いします」

107以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:23:11 ID:ZPiNMD7M
兄「お婆さんもここへ来ていたんですね」

弟子「もともと時たま来ていたぐらいだけど、ここ三十年ぐらいはほんと少なくなったかな」

弟子「他の用事のついでに立ち寄るぐらいだったからねぇ。しかもここ数年は数えるぐらいしか行ってないし」

妹「お婆ちゃんもお姉ちゃんも、何日もいないことあんまりなかったしね」

兄「……もしかしてそれは僕達が理由ですか?」

弟子「ふふ、そりゃあ可愛い君達と少しでも一緒に過ごしたかったからね」

兄妹「……」

弟子「あの偏屈な人からもそれだけ好かれていたこと、ちゃんと誇るんだよ」

妹「勿論!」

兄「それを否定する日は一度と来ないでしょうが……もっと、もっとたくさん話をしていれば……」

弟子「それはどれだけ時間をかけていようと後悔するものだよ。これまでの時間に間違いはなかった、と胸にしまっておくんだ。いいね」

108以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:28:29 ID:ZPiNMD7M
……数日後
弟子「さて、素材の買い付けも終わったし我が家に帰ろうか」

兄「ふつうに買い出しも兼ねてましたね」

弟子「そう足しげく遠方にいかないから、まとめてやるくせがついているんだよ」

弟子「でもまあ、あの人が亡くなった報告をしつつ、買い物するのは流石に不謹慎だなって思ったけどね」

妹「出直すにしても遠いもんね」

弟子「……実はぐるっと一周して周ってくる予定にしていたから、この店は家から一回で楽に来れたりするんだ」

兄「えぇ……」

弟子「いやいや、既に他の買い物しているのだし今更だろ?」

兄「それはそうでしょうけども」

109以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:35:16 ID:ZPiNMD7M
弟子「荷物の整理はできたしこれから一週間ぐらいは家のことをするだけ。決して仕事はしないこと! いいね?」

兄「え? はあ……」

妹「どうしてー?」

弟子「今は慌ただしくしていただけだからね。すぐにまた気持ちが揺さぶられるよ」

兄「……そう、ですね」

妹「……お婆ちゃん」

弟子「それと今後についての話もあるあしね」

110以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:43:24 ID:ZPiNMD7M
弟子「君達は魔女になる意思があると思う」

兄「はい」

妹「もちろん!」

弟子「私は100歳を超えていると言ったね。それでも所謂上級の魔女じゃないんだ。せいぜい中の上ってところかな」

兄「姉さんでも……」

妹「魔女になる自信なくなってきた……」

弟子「すごい真面目、とは言わないけども、それなりにやってきたつもりでこれだからねぇ」

弟子「人の人生ではとても短すぎるんだよ。魔女業というものは」

弟子「だから考えてほしい。人間として魔女になるのか。それとも私のように寿命を延ばすか」

111以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 22:49:01 ID:ZPiNMD7M
弟子「後者はもちろん、人の世ではもう暮らしていくのは難しくなる」

弟子「ま、定期的に遠方に移り住む、という手段もあるけども。一つところに住むのは無理だ」

弟子「今日の明日に決める必要はないから、じっくり考えるのだよ」

弟子「さ、今日はもうご飯にしよう」

兄「手伝います」

妹「あたしもー」

弟子「ほほう、三人で作るか……よし久々に手の込んだものを作るか」

弟子「2時間コースと3時間コース。どっちがいい?」

兄「選択肢が……!」

妹「3時間コース!」

兄「早まるな!」

112以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 23:08:10 ID:ZPiNMD7M

妹「お兄ちゃんはどうするのー?」

兄「魔女になるよ。薬は妹次第かな。合わせるよ」

妹「えぇ、なにそれー」

兄「お兄ちゃんだからね」

兄「もっとも、どうするかなんて聞くまでもないんだろうけどもさ」

妹「うん。魔女になるし薬も飲むよ」

兄「だよね」

妹「お姉ちゃんを一人にはできないからね」

113以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 23:13:51 ID:ZPiNMD7M
妹「お兄ちゃんもそれでいいんだよね」

兄「ああ」

兄「俺も姉さんのことをほっとけないし、今更よそで生きていくにしてもね」

兄「それに魔女業をやりたいし……ここで生きていきたい」

妹「うん、あたしも」

兄「明日、姉さんに話そうか」

妹「だね」

114以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 23:19:47 ID:ZPiNMD7M
翌朝
弟子「……決断が早いね」

弟子「後悔は、あるようには見えないか」

兄「もともとそのつもりでしたので」

妹「あたし達もお姉ちゃんと一緒にいたいもん!」

弟子「……ありがとう」

弟子「ふふ、こんな未来がくるなんて想像もしていなかったなぁ」

弟子「私もね、君達のようにあの人に拾われたんだよ」

弟子「でもあんな偏屈だからね。他に人をとることもないだろうし、親戚はおろか頼るような親密な知人もいない」

弟子「だから長い長い一人暮らしが待っている。そんなことを思っていたよ」

115以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 23:22:38 ID:ZPiNMD7M
弟子「正直に言って、二人が同じ道を歩んでくれて嬉しいよ」

弟子「そうと決まれば準備を進めよう。すぐに集まる素材じゃないしね」

兄「あの、思ったんですけどもその薬は姉さんで作れるの?」

弟子「資格上無理だね。だから君達が魔女になる申請をして、協会のほうに作成依頼をすることになる」

兄「あ、やっぱり」

弟子「寿命を延ばす薬はねー。ほんと上級だからね」

妹「できればお姉ちゃんが作ったのがのみたかったなー」

弟子「いやーその頃には君達、土の下だよ。よしんば間に合ったとして、そんな年で薬を飲みたいかい?」

妹「ちぇー」

116以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 23:26:23 ID:ZPiNMD7M
兄「ちなみに薬を作るまでの期間や副作用的なものってないんですか?」

弟子「んー材料の問題のほうが時間かかるからなー。できあがりは多分半年ぐらい先」

弟子「副作用は成長が鈍化することだね。伸びる寿命はおおよそ300年前後だけど伸びた分に比例するわけじゃないんだ」

兄「……」

弟子「どうかしたかい?」

兄「あの……妹には飲ませるの、しばらく待たせるべきでは。ちょっと酷と言いますか」

弟子「……うん、まあ、あとで私のほうから相談して決めておくよ」

117以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 23:29:20 ID:ZPiNMD7M
……

…………

………………

「そろそろ次の家を考える頃でしょうか」

「そうだねぇ。流石にまだ私も経験を積みたいし二人にも手伝ってもらおうかな」

「はい! はい! キノコの家がいい!」

「「……」」

「なにがいいでしょうか」

「そうだねぇ。まだ時間はたっぷりあるのだし、じっくり考えようか」

「えぇ! なんで!?」

118以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/01(月) 23:32:02 ID:ZPiNMD7M
あるところに不思議なおうちがありました。

周囲は深い森の中。
いったい誰が建てたのかなんてわかりもしません。

不思議なおうちの周りはとってもいい匂いがしています。
思わずふらふらと近寄ってしまいたくなるような、とても食欲を刺激されるものでした。

それに釣られたわけではないものの、二人の子供が近づいてきます。
衣服はボロボロで泥などで汚れていました。

そして不思議なおうちの前まで来ると、思わず呆然と見上げます。

「なんだ、これ……」

「おにくのいえ?」


兄「なんだ、あれ……」妹「おかしのいえ?」    終

119以下、名無しが深夜にお送りします:2022/01/10(月) 02:20:18 ID:mPB6ypkQ
おつ

120以下、名無しが深夜にお送りします:2022/03/01(火) 04:25:06 ID:J.banIVQ
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/


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