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兄「なんだ、あれ……」妹「おかしのいえ?」
20
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/10(月) 01:52:34 ID:VTJ6me6I
乙
21
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/12(水) 13:11:17 ID:3TRU8.82
ふむ
22
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/14(金) 23:40:57 ID:EQus6w1I
数日後
兄(ここも森の中だけど、あの森ほど木々が鬱蒼としていない)
兄(よく手入れがされている? という事は、ちゃんと管理するだけの人数が近くで住んでいるのかな)
兄(うーん、でも地図らしきものもなしに闇雲に抜けようとしてもなぁ)
兄(それに今のところは快適な生活が送れている……一時のまやかしかもしれないけど)
妹「おにいちゃん! おにいちゃん! クサイチゴ!」
兄「随分と摘んできたね……」
妹「たべる?」
兄「うん……あ、甘い」
23
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/14(金) 23:43:09 ID:EQus6w1I
弟子「お、二人とも。洗濯は終わったかい?」
妹「終わったー」
弟子「よしよし。今日はもう掃除も済んだだろう?」
兄「そうですね……あ、もしかして料理ですか?」
弟子「お、やる気があるかい?」
兄「……すみません。掃除や洗濯ならできるんですが、料理はあまり……」
弟子「はは、だろうね」
兄「え?」
24
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/14(金) 23:45:40 ID:EQus6w1I
弟子「あんなお粗末なピザを見て目を輝かせていただろう?」
弟子「貧しい生活だったんじゃないか? それこそ、料理らしい料理をする機会もないぐらい」
兄「……」
弟子「別に責めるつもりで言っているんじゃない。人には適材適所があるんだ」
弟子「料理はあの人も私も得意だからね。その分、君達には早めに別の事をさせると思う」
妹「あたらしいおしごと?」
弟子「そう。今日はまず見学ってところだね」
25
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/14(金) 23:49:02 ID:EQus6w1I
弟子「さ、ここが私の作業部屋だ」
妹「わーなにこれなにこれ。かれたはっぱ?」
兄「こら、勝手に触るんじゃない」
兄「……それにしても凄いですね。薬を作っているんですか?」
弟子「ご名答。まあ分かりやすい雰囲気だったかな?」
弟子「私はこれが得意なんだ。他にやれる事もやるべき事もあるが、メインは調合といったところだ」
兄「……魔女の薬、ですか」
弟子「まあそうなるね」
26
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/14(金) 23:52:06 ID:EQus6w1I
弟子「魔女と言っても昔ほどいい加減じゃないから、だいぶイメージが違うとは思うけども」
兄「そうなんですか?」
弟子「色々と厳しくなったんだよ。規制もあったりするし」
兄「つまりそうした監視、管理する組織もあるという事ですか?」
弟子「お。面白いところに着眼したね。全くもってそのとおりだよ」
兄「……もっと魔女は自由に行動されているのだとばかり思ってました」
弟子「その結果、招かれた悲劇とかもあるしね。なるべくしてなった、と言えるよ」
27
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/14(金) 23:54:48 ID:EQus6w1I
弟子「例えば歯が虫歯になる薬」
兄「もうその時点で極悪だ……」
弟子「難しさや材料の高価さもあって歯、四本まで虫歯にする薬なら無許可でも作れる」
兄「怖すぎる」
弟子「六本までならそこそこ難しい資格。八本はかなり学んでないと無理な資格。私はこれを持っている」
弟子「十本は非常に難しい。あの人はこれを持っている。MAXの十二本、有資格者は極々一握りだ」
兄「……」
兄「とりあえず、とにかく怖すぎる」
弟子「だろうね」
28
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/14(金) 23:57:04 ID:EQus6w1I
弟子「作るのもそうだけど売買含めた譲渡も大変でね」
弟子「まず作った時だけども効果……歯の本数と譲渡者の名前をしっかり記録しないといけないんだ」
弟子「で、その記録と薬のサンプルを協会に提出する」
兄「へえ」
弟子「しかも使う相手まで明記させられるから、別の人が同じ人に盛る場合、その分もカウントされる」
弟子「既に四本分虫歯の薬が使われていると、次の薬は要資格である五本以上の扱いというわけだ」
兄「随分細かいんですね。けれど、受け取った側が嘘ついて別の人に飲ますという事も」
弟子「うん。だから譲渡する場合に契約書を書かせるんだ。それも対悪魔用契約と同じ様式」
弟子「破ると譲渡された側は多分死ぬ。今のところそんな事は起きてないけどねー」
兄「どこまでも怖すぎる」
弟子「うん、誤って別の誰かが飲んだりしても違反だからね。使う側も命がけだよ」
29
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:00:05 ID:InU5O3y.
兄「でもなんでそんな厳格に決められているんですか?」
弟子「○○×△国って知っているかい?」
兄「大昔にあった国で滅ぼされたんですよね」
弟子「流石、よく知っているね。実はそこの国王とある魔女が手を組んでいてね」
弟子「まあ早い話、気が合わない他国の王に全ての歯が虫歯になる薬を盛ってしまったんだよ」
兄「うわぁ」
弟子「当然、盛られた王は大激怒。その国を滅ぼすのと盛大な魔女狩りが行われたわけだ」
弟子「流石にこれはやばい、と思った当時の魔女達がルールを作って今にいたる、というお話さ」
兄「なにを思ってそんな凶悪な代物を盛ろうと思ったんでしょうね」
弟子「王もつるんだ魔女も首をはねられたそうだから、真実は闇の中だよ」
30
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:04:05 ID:InU5O3y.
兄(それにしても……これだけ話していても、手を止める事がなかった。凄いなぁ)
兄(よく分からなかった器具、ああやって使うんだ……)
兄(計量も動きが止まる事がない……本当に得意なんだろうな)
兄(というか……)
妹「ホゲー」アキターアキター
兄(飽きてる妹が勝手に物を弄って壊さないか凄い不安)ドギドギ
31
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:06:37 ID:InU5O3y.
弟子「妹ちゃんには退屈だったかな? まあただの見学だし、お外に遊びに行ってもいいよ」
妹「ほんと?! わーい!」
弟子「あんまり遠くには行くんじゃないよー」
妹「はーい!」
兄「す、すみません」
弟子「あの子は見るからにアウトドア派だからね」
兄「そうなんですよね。そこら辺を走り回っては、野草やらを食べているから不安で不安で」
兄「キノコも詳しいんですけど、ここは自分達がいたところと違うだろうし、手を出すなとは言っているんですが」
弟子「確かにそれは……少し不安だね。でもまあ今のところ元気にやっているしなぁ」
弟子「それにしてもそういうのは得意なのか……ふふ、君達は案外いいチームとなりそうだ」
兄「?」
32
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:09:23 ID:InU5O3y.
弟子「おっと、もうこんな時間か。そろそろ夕飯の料理をしなくてはな」
弟子「妹ちゃんも外に行ったしお腹を空かせて帰ってくるだろう……がっつり肉にするか」
兄「お気遣い頂いてすみません……」
弟子「こら、子供がそんな遠慮をしちゃいけないよ」
弟子「そもそも妹ちゃんも兄君も体が細いんだ。もっと食べないと大きくなれないぞ」
兄「……」
兄「あの、なんでお婆さんも姉さんも僕達によくしてくれるんですか?」
兄「どう見たって、僕達の働きに待遇が見合っていない」
弟子「そりゃあそうでしょ」
兄「えっ」
33
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:12:14 ID:InU5O3y.
弟子「詳しい経緯は知らないけども」
弟子「君達を連れてきたのはあの人のお節介だと私は思っているよ」
弟子「ま、早い話はツンデレというわけだ。あの年でだよ?」
弟子「気持ち悪いよねっ」ハハァッ
兄「あ、あの……姉、さん」
婆「……」ピクピク
弟子「おやご機嫌麗しゅう。もっと素直になられたほうがいいと思いますよ?」
婆「あんたにゃあ、タンスの角に小指をぶつける呪いでもかけてやろうかね」
弟子「おー怖い怖い」
34
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:14:38 ID:InU5O3y.
それから一週間と少し
弟子「さて、今日から少しずつ調合を手伝ってもらうよ」
兄「は、はい!」
弟子「妹ちゃんはこれ、読んでみる?」
妹「んー? あ、おほんだ!」
兄「……薬草の図鑑、ですか」
弟子「試しのつもりだったけども、以前も図鑑には食いついていたのかな?」
兄「はい。それを元にまあ……拾い食いをしていると言いますか」
弟子「これで薬草も覚えてくれたら嬉しいんだけども。まあまだ幼いんだ。長い目で見守ろうかな」
35
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:19:16 ID:InU5O3y.
弟子「まずは使った器具をしっかり洗うところからだ」
弟子「兄君は心配する必要はないと思うが、それでも勝手が違ったりもするだろう」
弟子「まずはやってみて直すべき点があったら、その都度説明していくよ」
兄「わ、分かりました」
兄(確か姉さんはこう洗っていた、はず)ゴシゴシ
兄「これでどうでしょうか?」
弟子「ふむふむ」
弟子「ここの部分はこれを使ってこう洗えばすぐだ。あとここ、汚れが落ちにくいから注意」
弟子「まあこうやって洗うとしっかり落ちるから、そこまで丹念にする必要はないけどね」
兄「なるほど……」
36
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:21:07 ID:InU5O3y.
……
弟子「よし、今日はここまで」
兄「ふー……」
妹「……」
弟子「……凄い集中力だね」
兄「この分ですと薬草もしっかり覚えてくれそうです」
弟子「お、それは嬉しい話だ」
37
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:23:53 ID:InU5O3y.
婆「おや、今日から始めているんかい」
弟子「ええ。物覚えもよくて、すぐに追い抜かれてしまいそうです」
兄「そ、そんな事ないですよ」
婆「はんっ。どこぞの誰かは本当に覚えなかったからね」
兄「ええ?!」
弟子「ふふ、隙あらばサボろうとした口だからね。何事も適当でいいんだよ」
婆「よかーないよ、この馬鹿たれ」
38
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:28:10 ID:InU5O3y.
弟子「今日の晩御飯はなににしようかなぁ。昨日はがっつり肉だったし、今日はあっさり目にしようかなぁ」
婆「気をつけな。こいつの言うあっさり目は肉の量だ」
兄「あ、肉には違いないんですね」
弟子「さあ召し上がれ」
兄「このミネストローネ……ウィンナーの量が凄い……ポトフ?」
妹「おいしそー!」
婆「全く、あんたじゃないんだから、この子らがぶくぶく太っちまうじゃないか」
39
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:30:19 ID:InU5O3y.
深夜
兄「……? 姉さん?」
弟子「おや兄君。見られてしまったか」
兄「こんな時間になにをしているんですか?」
弟子「ふふ、大人のお楽しみというやつだ。兄君はトイレかい?」
兄「そうですが……お酒ですか?」
弟子「美味しいぞ。と言っても流石に兄君にはまだ早いな」
弟子「でもいつか君や妹ちゃんと酒をかわしたいものだなぁ」
兄「……性格からして妹は酒豪になってそうですね」
弟子「はは、それならそれで楽しそうだ」
40
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:33:27 ID:InU5O3y.
弟子「昔はあの人とよく呑んだものだけど、最近はめっきりだ」
兄「……そうなんですか」
弟子「ま、年が年だしね。仕方がない事だよ」
兄「やっぱり魔女ですし、数百歳とかなんですか?」
弟子「んー? あー……まあそのあたりはその内にでも説明するかな」
兄「?」
弟子「話すのなら他の事も交えてのお勉強になるんだ」
兄「ああ。そういう事でしたか」
41
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:36:32 ID:InU5O3y.
数日後
弟子「さて、今日は珍しく座学といこうか」
妹「えー」
弟子「こらこら、やる前から諦めない」
弟子「本日は魔女についてだ。そもそもだが魔女族、と呼ばれる種族がいる」
弟子「魔力を有し、全体的に魔法に長ける種族。実際に人里離れた場所で魔法や薬の研究をしていた者も少なくない」
弟子「それが今日の魔女のイメージの元となっているんだろうね」
兄(確かにそんなイメージだ)
弟子「ただ大半の魔女族は人間に混じって生活している」
兄「えっそうなんですか?」
42
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:39:36 ID:InU5O3y.
弟子「むしろ魔女族で、魔女をやっているのは極少数だよ」
兄「へー……」
弟子「じゃあ魔女とはなんなのか? という話だが、こちらも件の魔女族のイメージに引っ張られている感じだな」
弟子「私達みたいな生業を魔女業とし、それに従事する者を魔女と呼んでいるんだ」
弟子「だから魔女と言っても性別も種族も関係ない」
兄「……」
兄「あの、そうなるとお婆さんや姉さんは魔女族じゃない、て事ですか?」
弟子「そのとおりだ。さて、なに族だろうね」フフフ
兄(むしろ人の姿で別の種族がそんなにいる、ていう事実のが驚きなんだけどなぁ)
43
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:44:05 ID:InU5O3y.
弟子「私達の種族についてはまた今度かな」
兄「?」
弟子「妹ちゃんはついてこれてないしね」
妹「スヤァ……」
兄「……すみません」
弟子「まあ、妹ちゃんはこうした話には向かないとは思っていたしね」
44
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:50:14 ID:InU5O3y.
しばらく後
妹「とってきたー!」
弟子「ふむ、ふむ……うん、全部揃ってるね。偉い偉い」ナデナデ
妹「えへへー」
兄「……」
兄(僕も頑張らないと。早く調合の仕方を学んで……)
弟子「こーら。兄君、焦らない」
兄「あ、う、すみません……」
弟子「調合はね、基本を覚えて、実際にやって身につけていくものだよ」
弟子「焦ってもあとで手痛いミスをするだけだ。落ち着いて一つ一つやっていこう。暗記物とは違うんだ」
兄「……はい」
45
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 00:58:30 ID:InU5O3y.
弟子「それにね。今は妹ちゃんのほうが活躍できているように見えるかもしれないけれど」
弟子「腕を磨いていけば兄君自身、採取について学んでいく事はできる」
弟子「だけど、だ」
弟子「……妹ちゃんには、まあ調合は無理だと思う」
兄「……」
兄「……確かに」
弟子「だから慌てる必要なんてないだよ」
兄「……分かりました」
46
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:05:03 ID:InU5O3y.
婆「だいぶできるようになったじゃないか」
妹「あ、おばあちゃん!」
弟子「いやー師がいいからですかねー」
婆「これを見習わずにしっかりやるんだよ」
兄「え? あー……えー」
弟子「流石に返答に困る事を言うのはどうかと思いますよ?」
47
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:08:00 ID:InU5O3y.
婆「だいぶできるようになったじゃないか」
妹「あ、おばあちゃん!」
弟子「いやー師がいいからですかねー」
婆「これを見習わずにしっかりやるんだよ」
兄「え? あー……えー」
弟子「流石に返答に困る事を言うのはどうかと思いますよ?」
48
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:10:10 ID:InU5O3y.
弟子「それにしてもこっちの部屋に顔を出すなんて珍しいですね」
婆「そろそろ次の家を建てるつもりだから、それを伝えにきたんだよ」
妹「おひっこし?」
弟子「あーいや、例のおうち、だね」
兄「お菓子の家、ですか?」
婆「流石に気が早いとは思ったが、この子らにも手伝わせながら、ともなれば時間もかかる」
婆「今からしっかり考えてやってみな」
49
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:13:49 ID:InU5O3y.
兄「そもそもなんであんな家を建てているんですか?」
弟子「あれはね、悪魔を封印しているんだよ」
妹「あくま!? あくま……が、おかしのいえ?」
兄「なんか、随分とファンシーな悪魔ですね」
弟子「暴食の悪魔でね。食料は勿論、人々の夢や希望、大切な思い出。そうしたものまで食べる凶悪な悪魔さ」
弟子「で、昔々に封じるまではいったんだけども、力を失うまで封じるにしても千年単位でかかるだろう、と」
弟子「そこで美味しそうな家を封印の上に建てて、うんと精神的に苦しめてやれ、というのが話の始まりだ」
兄「まるで陰湿な嫌がらせのうような……」
弟子「でも千年程度で力を失うだろうぐらいの効果は見られるんだ」
兄「嫌がらせ凄い」
50
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:16:19 ID:InU5O3y.
婆「とっととくたばってくれりゃあ、あんなもの何度も作らずに済むってのにねぇ」ハァ
兄「……魔法を唱えたり、魔法陣を使ったりでできるものじゃないんですね」
弟子「半分正解かなぁ。まず建材となる食べ物をある程度用意しないといけないんだ」
妹「えーあれだけのおかしあつめたの?」
婆「できあがる家の6,7割は必要さね」
兄「結構な量だ……」
弟子「で、まず一つ目の魔法陣で家にする。次に家を囲むほどの大きな魔法陣で、防腐関係の処理をする」
兄「魔法なのに現実的だ……」
51
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:19:36 ID:InU5O3y.
弟子「最後、悪魔の封印との繋がり……まあ封印されている空間の真上、みたいな認識を行わせる魔法陣を敷く」
兄「? 封印は移動可能なんですか?」
魔女「なに言ってんだい。あの森の殆どが封印場所だよ」
妹「ひろーい!」
兄「え、怖……そんな上にいたのか僕達……」
兄「けどそれだと悪魔の復活を狙う人物がいたら目印になってしまうのでは?」
弟子「んー直接通れるわけじゃないからねぇ。あの家の存在は知覚できるだけ、みたいな感じかな」
弟子「だからあの家のあたりを大爆発させたら封印が解けるとかないんだ」
兄「それなら安心ですけども……中々ピンポイントな作用ですね」
弟子「相当な魔女達が連日、寝る間も惜しんで編み出したものらしい」
52
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:21:53 ID:InU5O3y.
弟子「しかし封印の家かー。まあ大体は決めてあるから、魔法陣と食材の調達のほうが大変かなぁ」
婆「へえ。珍しく先駆けてやっているんだねぇ」
弟子「そりゃあ勿論」ジュルリ
兄妹「?」
弟子「二人に手伝ってもらうとしたら魔法陣と料理かなー」
兄「え、大丈夫ですかね……」
弟子「陣はちゃんと描いたメモを渡すし、料理も簡単な工程だから大丈夫だよ」
兄「ほ……」
婆「これを機に料理を学ばせたらどうだい」
弟子「うーん。でも作るのはアレだからなぁ。あまり料理としての勉強にはならないと思いますよ」
53
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:23:48 ID:InU5O3y.
婆「それじゃあ仕方がないね」
婆「二人とも、今日の料理番の手伝いをしな」
妹「はーい」
兄「分かりました」
兄(適材適所とは一体……)
婆「そう難しそうな顔をするんじゃあないよ。簡単な料理を教えるだけさね」
婆「わたしら二人がいない時、なにも作れないんじゃあ困るだろうに」
弟子「一緒に家を空ける事ってありますかねぇ……」
婆「あってからじゃあ遅いんだよ」
54
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:26:22 ID:InU5O3y.
妹「なにつくるのー?」
婆「ミートパイさね」
兄「え、難しそう……」
婆「大したもんじゃあないよ」
婆「適当にひき肉と玉ネギなんか具材を刻んだものを軽く炒めて適当に味をつける」
婆「パイ生地を伸ばして型に油を引いて生地をしく。あとは炒めた具を載せて上にもう一枚パイ生地を被せ」
婆「溶いた卵の黄身を塗って釜で焼くだけさね」
兄(難しそう)
55
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:29:38 ID:InU5O3y.
婆「先に釜の使い方を説明するよ」
婆「ここに置いてある薪を中に入れて火をつける。一食程度ならこの束で十分さね」
兄「火はどこから持ってくればいいんでしょうか?」
婆「普通に火を起こしたりもするけども、流石にそれは不安だねぇ。この赤い石が棚にあるから、これを中に投げ込みな」
婆「強い衝撃を受けると火を放つから取り扱いは気をつけるんだよ」
兄(あ、普通に魔法に関する道具だ)
婆「中が熱くなったらパイを入れてしばらく待つだけ。20分から30分もあれば焼けるだろうけども」
婆「そのあたりは様子を見ながらやりなね」
56
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:32:35 ID:InU5O3y.
弟子「さて今日の晩御飯は二人も手伝っているわけだし」
弟子「可愛い妹と弟の手料理かぁ楽しみだなぁ」ニヨニヨ
妹「あ、おねえちゃん!」
弟子「ほほう、ミートパイかぁ」
兄「えっと、多分大丈夫だと思うんですが」
婆「なに言ってんだい。味見して平気だったんだ。しゃんとしなっ」
弟子「いただきます」パク
弟子「うん! 美味しい! いやあ毎日自分か婆さんの料理だからなぁ嬉しいなぁ」
婆「調合のほうをやらせているんだ。当面、料理当番にはさせないよ」
57
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 01:36:11 ID:InU5O3y.
弟子「まーそうですよね」
婆「食事の時間とは別に小腹が空いたんなら言いなね」
弟子「だね。その時はちゃんと見ててあげるから、自分達で作ってみるといいよ」
弟子「一回だけだといざって時に作れない、とかあるし」
妹「はーい」
兄「分かりました」
兄(でも、食事の量が結構多くて、これ作るほどお腹が空く事ってない気がする……)
58
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/15(土) 12:31:56 ID:ozz8b1G2
うかつに売ると死ぬ危険がある魔法が虫歯かー……
いやまあ、治療する魔法とかないなら普通に死ねるけども
59
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2019/06/18(火) 03:01:46 ID:e1NTXsmc
乙
60
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:23:58 ID:aFK2dm7A
更に更にしばらく後
とある森に新しいおうちができました。
お菓子の家の近くに、茶色が目立つおうちです。
屋根はスネ肉、煙突はステーキ、窓はロースの薄切りを撒いたアスパラガス。
壁は切り分けられていないスペアリブやモモやネック、柱はケバブ。
ドアはカルビでカーテンはタンのようです。
それはそれはお腹が空く香りのおうちです。
兄「お肉の家……」
妹「……」ゴクリ
弟子「中にある花は造花なんだけどトントロでできている」ウットリ
兄(なにゆえ)
61
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:26:10 ID:aFK2dm7A
婆「……任せるんじゃあなかったよ」
兄(ガチ後悔!)
婆「大体、なんだい……ああもうどこから指摘すればいいのやら」
弟子「私的にイチオシはあの煙突です。炭火の遠赤外線でじっくり焼き上げ、中の半レアを切り抜き」
弟子「美味しかった!」
妹「おいしかった!」
兄(確かに贅沢な食べ方だった……)
婆「自分が食う為に作るもんじゃあないんだよ!」
弟子「いやですねー、過程で余った端肉を処理したまでですよー」ウヘヘヘ
62
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:30:50 ID:aFK2dm7A
兄「あの、今更なんですけども、僕達がお菓子の家を食べた所為で、あそこはもう機能しないって事なんですか?」
弟子「多分、十年はもつんじゃないかな」
弟子「ただ例の封印と家を繋ぐのにもの凄い時間がかかるんだよね」
婆「そうさね。最低五年、長くて八年」
婆「ま、どの道あと十年、二十年で移す予定だったし、少しばかし前倒しになっただけの事」
婆「あんた達は建て直しに協力したんだから、責任なんてもの感じるじゃあないよ」
弟子(相変わらずツンデレだなぁ)
63
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:32:38 ID:aFK2dm7A
兄「あの、今更なんですけども、僕達がお菓子の家を食べた所為で、あそこはもう機能しないって事なんですか?」
弟子「多分、十年はもつんじゃないかな」
弟子「ただ例の封印と家を繋ぐのにもの凄い時間がかかるんだよね」
婆「そうさね。最低五年、長くて八年」
婆「ま、どの道あと十年、二十年で移す予定だったし、少しばかし前倒しになっただけの事」
婆「あんた達は建て直しに協力したんだから、責任なんてもの感じるじゃあないよ」
弟子(相変わらずツンデレだなぁ)
64
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:34:54 ID:aFK2dm7A
妹「……」グー
妹「おなかすいた!」
兄「なんだかんだで結構時間かかったもんね」
妹「じめんのおえかきもたいへんだったぁー」グー
弟子「う、私まで急に空腹感が」グー
弟子「……」
弟子「……少し、少しだけなら」ハァハァ
兄「ちょ、姉さん? しませんよね? 流石に食べようとか思ってませんよね?!」
弟子「先っちょだけだから……」ハァハァ
婆「はあ……こうなると思ったよ」
兄「ええぇ?!」
65
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:38:41 ID:aFK2dm7A
兄「ていうかいいんですか?! これ!」
婆「駄目に決まっとるわ。転移の魔法陣を敷くからそのあんぽんたんを止めておくれ」
兄「いくらなんでも体格差があり過ぎるんですが!」
婆「今、家が損傷したら一からやり直しだよ! 気張って止めな!」
兄「姉さん! 絶対止めて下さい!」ガシィ
妹「……またいっぱいおにくたべられる」
婆「魔法陣も描き直しだよ!」
妹「おねえちゃんだめぇ!」ガシ
弟子「兄君、人には抑えきれない欲求というものがあってだね」
兄「涎垂らしながら力説しないで下さい!」
66
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:40:07 ID:aFK2dm7A
婆「さあできたよ! とっととその馬鹿を押し込みな!」
兄「さあ帰ってご飯食べましょう!」
妹「おうちかえろ、おねえちゃん」
弟子「ああ……ああ……肉が……目の前にあるのに……」
弟子「……ハツ、ミノ、チチカブ……」
兄「モツばっか! しかも使ってない!」
67
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:41:53 ID:aFK2dm7A
……
弟子「ふう……腹も満たされたし一仕事終えた達成感……」
婆「危うくやり直しにしそうだった口の言葉じゃあないね」
婆「でもまあ、材料はともかく本来の目的で言えば問題なし」
婆「ようやく安心して任せられるよ」
弟子「そりゃどーも」
兄「今まではお婆さんがやっていたんですか?」
婆「あの家を含めて三軒ほどね。面倒だけども協会から褒賞が出るからやっていたんだよ」
弟子「とは言っても、この界隈でそこまで富に執着している人もいないからねぇ。ぶっちゃけ貧乏くじだよ」
68
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:43:36 ID:aFK2dm7A
兄(毎日調合したりするぐらい仕事はあるんだもんな……食事もそれなりに豪華だし)
兄(時々どっちかが出かけているけども、どっかに卸しているのかな)
婆「元はわたしの師匠の知り合いがやっていたんだけどもねぇ」
婆「なんやかんやあって引き継いだわけさね」
婆「まあこれでようやく肩の荷が降り、ゴホッゴホッ!」
弟子「あーほらお婆ちゃん。もう若くないんだから少しは休みましょうよ」
婆「人を年寄り扱いするんじゃあないよ!」
弟子「んー……まあ、いいか」
69
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:46:34 ID:aFK2dm7A
妹「……おばあちゃん、ぐあいわるいの?」
婆「別に悪かぁないよ。流石にちょっと疲れただけさね」
妹「……」
婆「休めばすぐ元気になる。そんな顔をするんじゃあない」
妹「うん」
兄「……」
兄「あの、お婆さんって……」
弟子「かなりの年だよ。正直、あれだけ元気なのは異常なぐらいの年齢だ」
兄「そう、ですか……」
70
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:50:02 ID:aFK2dm7A
弟子「さ、今日は疲れたしご飯を食べたらとっとと休もう」
兄「まだ遅い昼食なんですけど」
弟子「いいんだよ。大仕事をしたんだ。数日休暇を設けたって罰は当たらないさ」
婆「あんたはいつも休もうとしとるだろうに」
弟子「えー最近は真面目にやってますよー?」
婆「サボっていたらわたしにきっちり言うんだよ?」
弟子「ほーらまた小さい子達に圧力をかけるぅ。無視しちゃっていいんだからね?」
兄(どっちにも返答し辛い)
71
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:50:53 ID:aFK2dm7A
弟子「さ、今日は疲れたしご飯を食べたらとっとと休もう」
兄「まだ遅い昼食なんですけど」
弟子「いいんだよ。大仕事をしたんだ。数日休暇を設けたって罰は当たらないさ」
婆「あんたはいつも休もうとしとるだろうに」
弟子「えー最近は真面目にやってますよー?」
婆「サボっていたらわたしにきっちり言うんだよ?」
弟子「ほーらまた小さい子達に圧力をかけるぅ。無視しちゃっていいんだからね?」
兄(どっちにも返答し辛い)
72
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:56:36 ID:aFK2dm7A
翌日
弟子「さて、今日は……お休みという事で調合も採取もなし!」
兄「えっと、掃除も洗濯も終わったのですが」
弟子「というわけで、ちょっと私の小屋に案内しようかなと思う。使う機会もあるだろうし」
妹「おねえちゃんのこやー?」
兄「そういえば一度も入った事の建物はありましたが……」
弟子「そうそう家のそばのアレだよ」
兄「……なんの為の小屋なんですか?」
弟子「私個人の倉庫と作業場だね」
兄「……」
73
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:57:24 ID:aFK2dm7A
弟子「部屋は大きく分けて三部屋! まずこちらが冷凍室!」ギィィ
妹「さむーい!!」
兄「……こ、これは」
兄「大量の吊るされた枝肉に無数の棚!」
兄(まあ、なんとなく予想はしてた)
弟子「ふっふっふー部屋そのものに魔法的処置がしてあるから、めちゃくちゃ長期保存できるのだよー」
兄「だとしてもこの量、食べ終わるまでにどれだけかかるんですか」
弟子「んー? あんまり深く考えた事ないからなぁ。減れば補充するし」
74
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 21:58:53 ID:aFK2dm7A
弟子「続いてこちらが加工作業部屋だ」
弟子「下拵えや冷蔵保存はここ。奥の扉が燻製室になっている」
兄「めちゃくちゃ本格的だ……」
妹「このてつのたるはー?」
弟子「それはソーセージとか作る時に使う混ぜる装置だね。魔法で中の刃をぐるんぐるん回すんだ」
兄「ハイテクですね」
弟子「魔法があるのにハンドル手回しも億劫だからね」
75
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:00:57 ID:aFK2dm7A
弟子「最後の部屋は乾燥室。肉に限らず野菜やフルーツも干したりしてるよ」
弟子「完全に無添加で切っただけのものを干したりするね」
弟子「自然派志向の頭のイカレタ貴族が買ってくれるんだ。ちゃんとして作ったやつのほうが美味しいのに」
兄「それ作り手が言っちゃっていいんですか?」
弟子「下拵えしたとして、ただ干すだけだと肉なんかボロっとした食感になるからね」
弟子「よくあるような干し肉、って感じはそれなりの手間が必要なんだけど、連中はそれさえ嫌うのさ」
兄「金持ちの道楽ですね」
弟子「全くだ。まあ彼らほどでないにしても、こちらもそれなりには裕福だけど」
兄(これだけ設備があるしこれも道楽なのかなぁ)
76
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:02:01 ID:aFK2dm7A
弟子「そんなわけで使いたい事があれば言ってくれ。鍵は私が管理しているし」
兄「仮に料理するにしてもあっちの家にあるお肉を使っちゃうですけど……」
弟子「まあ食品加工に興味があるのなら、て事さ。でも別にいいんだよ? ここで保管されてた部位持っていて料理しても」
妹「おりょうり……んー……」
弟子「妹ちゃんもただ野草を煮込むだけじゃ美味しくないでしょ」
妹「にこむ?」
兄「あ、すみません。未だに生で食べてるみたいでして」
弟子「……火が取り扱えないとか家庭の問題とかで生食していたわけじゃないんだ」
77
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:06:20 ID:aFK2dm7A
お家作りも一段落し、またいつもの日々が始まりました。
兄は毎日、弟子に教わりながら調合を。
妹は毎日、図鑑を片手に薬草の採取を。
時折、他の事を学んだり、魔法について教わったり。
楽しい毎日を送りました。
そうして、元々暮らしていた家の事などすっかり忘れ
数年があっという間に過ぎ去ったのです。
妹「お兄ちゃん。今日の分、摘んできたよ」
兄「分かった。そこのカゴに入れておいて」
妹「オッケー」
78
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:06:54 ID:aFK2dm7A
妹「そうだ見て見て! 黒いキノコ!」
兄「……黒いキノコがそんなに珍しい?」
妹「そうじゃない! ほら、森で迷った時に見つけたキノコと同じ種類」
妹「これ、実は凄い薬になるんだって。お姉ちゃんのところに持ってかなくちゃ」
兄「それを妹は生食したのか……」
妹「納得の苦さだね」
兄(胃腹、丈夫過ぎるだろ)
79
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:10:58 ID:aFK2dm7A
兄(しかしナチュラルに持ち込み先が姉さんだったな)
兄(そりゃあまだまだ未熟だけども、俺でも調合できるかの確認ぐらいされても……)モンモン
弟子「おや、また要らない事を考えてそうな顔だね」
兄「あ、姉さん」
弟子「このキノコ、干しておいてくれ。ちょっと使い方が特殊だから、あとで説明するよ」
兄「分かりました」
弟子「いやあ優秀な助手がいると楽ができていいねぇ」
兄「はは、ありがとうございます」
80
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:12:21 ID:aFK2dm7A
弟子「で、なにを悩んでいたんだい?」
兄「いやぁ……別に悩んでは」
弟子「大方、あのキノコの事だろう」
兄「……」ギクゥ
弟子「あれはねー。前に食べた事があるって言われたんだよ」
弟子「で、結構稀少なキノコだから見つけたら持ってきてくれ、て言っておいたのが一番の理由だろう」
弟子「別に君の能力云々の話じゃあないから落ち込まないように」
兄「……なんでもお見通しかー」
弟子「ふふ、私はお姉ちゃんだからね。兄君の事なら分かるさ」
81
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:13:19 ID:aFK2dm7A
兄「あ、そうだ。このキノコって滋養の効果もあるんですか?」
弟子「あるにはあるけども、疲れているのかい?」
兄「いえ、自分ではなく、その、お婆さんに……」
弟子「あー……」
兄「最近は特に咳き込んでいるのを見かけるので」
弟子「まあ効果はあるだろうけども、殆ど気休めだろうね」
兄「……寿命、という事ですか?」
弟子「前にも話したけどもかなりの高齢なんだよ。あんなツンデレだけどね」
82
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:15:25 ID:aFK2dm7A
弟子「まあ私が口を出すとあれこれ言い返されるし」
弟子「作った薬の試し飲みを、て事で兄君から渡されれば飲むだろう」
弟子「飲ませたかったらそんな感じで運ぶといい」
兄「薬で試し飲みとは一体……」
弟子「いいんだよ。あの人も大概に面倒臭い人だからね」
弟子「真正面からの理由だと怒るけども、そうしたちょっと遠回りすれば無下にはしないから」
83
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:18:26 ID:aFK2dm7A
弟子「もうちょい素直になってほしいもんだけどもねー」
兄「ははは。でもとても優しいですよ」
弟子「ふふ、そりゃそうだ。私だってその一人だもの」
兄「え?」
妹「お兄ちゃん!」バァン
兄「ドアが壊れるから全力で開けない」
妹「お姉ちゃんも! 早く来て! お婆ちゃんが!」
兄弟子「!」
84
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:19:42 ID:aFK2dm7A
……
婆「ゴホッ! ゴホゴホッ! はぁ……はぁ……」
弟子「私達がいるんだ。倒れるまで無茶しなくてもいいだろうに」
婆「うる、さいよ……」
妹「お婆ちゃん……」
婆「ああ……そんな顔なんてするんじゃあ、ないよ。あんたは、可愛いんだから」ナデ
兄「……姉さん」
弟子「どうにもならないよ。君達には酷だけど、覚悟をしなさい」
兄妹「……」
85
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:20:34 ID:aFK2dm7A
婆「やれやれ、年は食いたくないもんだねぇ」
弟子「年を食いすぎているんですから当然ですよ」
婆「……そうさねぇ」
兄「どなたかに連絡とかしたほうがいいんですか?」
弟子「いや。近親者は私達だけみたいなものだ」
兄「あ……そう、だったんですか」
86
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:23:01 ID:aFK2dm7A
弟子「というよりも……」
婆「ああ……遍く天よ育む大地よ。今こそこの命と名を返し、この肉体を還そう」
婆「その名は……」
お婆さんの言葉が終わると、体は輝きだして無数の光の粒へと変わっていきました。
キラキラと光り、立ち上りながら消えていくその光景はあまりにも幻想なものです。
悲しくて寂しくて、とてもとても美しいものでした。
妹「お婆、ちゃん……」
兄「そんな、こんな事……」
87
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:23:43 ID:aFK2dm7A
……
兄「お婆さん……」グス
妹「お婆ぢゃん……」グズグズ
弟子「はーやれやれ……。これだから妖精族は。逝き際は派手な癖にほんっと空気が読めない……」
兄「え、あ、え……」
妹「妖、精……?」
弟子「うん。そういえばなんだかんだで私達の種族の話はしていなかったね」
弟子「妖精族の中でも珍しい種族だったんだよ。寿命も300年とない、まあ人間からすれば長命だけど妖精としては短命さ」
妹「300……」
弟子「あー君達のはしていたけども、私達は誕生日にお祝いなんてしていないから、年齢も知らないんだったか」
兄「あ、はい。すみません、できればお祝いしたかったのですが、聞いていいのか分からなくて……」
弟子「ありゃ、そんな遠慮をしていたのか。気を遣わせてしまって悪かったね」
88
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:25:34 ID:aFK2dm7A
弟子「私は135歳。あの人は319歳だ」
弟子「100年以上の付き合いだったけども、君達と出会う前からいつ死んでもおかしくなかったんだよ」
妹「そんな……」
弟子「あ、因みに私は魔女族なんだ」
兄「そうだったんですか……え、魔女族の方は人間に混じって暮らしているんですよね?」
兄「そんなに寿命が長いと普通には暮らせないんじゃ……」
弟子「人里で暮らしている人だと人間と変わらないよ。というか純血の人はそういうところで暮らしたりしないし」
弟子「あと私は寿命を思いっきり伸ばす薬を飲んだからね」
兄「そうだったんですか……」
89
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:28:53 ID:aFK2dm7A
弟子「まあそんなわけだからさ。悲しむな、とは言えないけども笑顔で見送ってあげよう」
弟子「こんな可愛い孫二人に看取られたんだ。さぞかしいい最期だったろうね」
妹「……違うよ」
弟子「うん?」
妹「娘と孫、だよ」
兄「そうです。お婆さんはきっと……」
弟子「……」
弟子「ふふ、そうだね。こんなに可愛くて優秀な孫と娘に囲まれていたんだ」
弟子「これほど幸せな最期はないね」
90
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:30:24 ID:aFK2dm7A
弟子「さ、お墓を作ろうか。生憎空っぽだけど、区切りの一つくらいはつけないとね」
兄「手伝います。と、いってもなにをしたらいいのやら……」
弟子「うーん……。あの人がよく身につけていた帽子とネックレスを見つけて持ってきてくれ」
弟子「どうせ部屋の目立つところに置いてあるだろうから、探す手間はないとだろうけどもね」
弟子「私は先に外にいるから頼んだよ」
妹「うん、分かった」
兄「分かりました」
91
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:33:36 ID:aFK2dm7A
兄「お婆さんの部屋、入るの初めてだな」
妹「うん……そうだね」
妹「……お婆ちゃんの香りだ」
兄「だね」
妹「もっと。もっとお婆ちゃんと沢山お話しておけばよかった……」
兄「……今はやるべき事をやろう。感傷に浸るのはあとだ」
妹「あ、あった」
兄「……本当に取ってくるだけだな」
92
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:35:41 ID:aFK2dm7A
弟子「お、もう見つけてきたか。やっぱり目立つところにあったんだね」
兄「はい。台の上だったんで取ってきただけでした」
妹「これ、ただの石……?」
弟子「流石にそれだと味気ないからね。これを魔法で!」ガガガガ
妹「うわーー!」
兄「削れて……十字架に、台座のついた……」
弟子「お墓のできあがりだ」
兄「おぉ……」
妹「すごい……」
兄(便利だけどこれはこれで、なんというかお手軽すぎて……いや考えるのはやめよう)
93
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:38:46 ID:aFK2dm7A
弟子「さて、その帽子とネックレスを貸してごらん」
弟子「これをこうして……」
兄(十字架の部分にネックレスをかけて帽子を被せて……)
兄「なんか、旅の途中で命を落とした仲間の墓標みたいですね」
弟子「あーうん。私もそう思った」
妹「これ、風で飛ばされたりしないかな……」
弟子「ここで更に魔法を使って」
兄(淡く光った……なんだろう)
弟子「お墓の完成だ」
妹「え? 今ので?」
94
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:41:49 ID:aFK2dm7A
弟子「これで帽子もペンダントもここから動かせないし」
弟子「耐久力も石並みになる。まあ、墓石の部分と同化させた、みたいなもんだよ」
兄「へー……あ、でもちゃんと帽子なんです」
妹「なんか、凄い限定的な魔法……」
弟子「そりゃそうさ。こういうお墓の為に編み出された魔法なんだから」
弟子「因みに解除されると物は盗まれる」
妹「えー……」
弟子「ただ色々と面倒な上に、失敗するとそれなりの確率でひどく不幸な目にあう。手足の一本持っていかれる事故とかね」
兄「怖っ……」
弟子「まあ手を出す馬鹿はいないよ。相手も魔女だし、故人を偲んでのものと分かっているし」
95
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/10/31(日) 22:44:26 ID:aFK2dm7A
弟子「さて、明日から私はしばらく家を空ける事になる」
兄「え?」
妹「ど、どうして……?」
弟子「あの人が亡くなったからね。その関係でやらなきゃいけない事が多々あるんだ」
兄「あ、そういう事か……」
弟子「うん? あ、もしかして私までいなくなると不安にさせてしまったかな?」
妹「……うん」
弟子「勘違いさせて悪かったね。でも私はどこにも行かないよ。少なくともむこう数十年はまず、ね」
兄「嬉しいは嬉しいんですが、時間のスパンが……」
96
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 21:53:21 ID:ZPiNMD7M
弟子「で、話を戻すとその間、留守番をするか私と一緒について来るかだけど」
妹「行く!」
兄「僕達も空けてしまっていいのでしたらついて行きたいです」
弟子「おお、即決」
弟子「まあそっちのほうが心配もないし、むしろ助かるよ」
兄「……とは言え大丈夫ですかね。ずっと無人だなんて」
弟子「ここら一体に結界のようなものを張るから心配御無用だ」
弟子「中は時間も止まっているから買い置きが腐りもしない」
兄「魔法超便利……」
妹「だね」
97
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 21:55:09 ID:ZPiNMD7M
……
弟子「さて、まずはここからだ」
妹「お店みたい」
兄「協会とかじゃないんですか?」
弟子「まー本来はそこを一番先に行くべきなんだけどもね」
弟子「距離に応じて転移魔法も面倒臭くなるんだよ。できれば短い距離で済ませたい」
兄「……なんでそういうところは不便なんでしょうね」
弟子「さっきの封印魔法だって便利だけどすごく難しいからね。あの範囲は私も最近成功するようになったぐらいだし」
弟子「便利な分、なにかしらマイナス面もあるもんさ。何事もそうだろう? 世の中上手くできてるよ」
98
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 21:57:21 ID:ZPiNMD7M
弟子「どうもー」
男「お、弟子ちゃんか。今日はどうした?」
弟子「師が亡くなりましたのでそのご挨拶に伺いました」
男「……そうか。まあ歳が歳だったしな」
弟子「ええ、あの人もようやくゆっくり休める事だろうと思います」
男「で、そっちの子達はどうしたんだい?」
兄「初めまして」
妹「は、初めまして」
99
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 21:59:20 ID:ZPiNMD7M
弟子「数年前にあの人が連れてきた子達です」
弟子「今は調合と採取を手伝ってもらっていますがとても優秀な子達ですよ」
男「ほー、君達は正式な魔女になるのかい?」
妹「え、と……」
兄「そういえば特に考えた事なかったなぁ。正規となると資格が必要なんですか?」
弟子「そうだね。試験に合格して免状を貰っているのが、正規と言っていいかな。じゃないと協会とか利用できないし」
100
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:01:48 ID:ZPiNMD7M
男「まだそこら辺詳しくないのか。俺はここで薬草や薬の卸しをやっているんだ。勿論買い取りもしている」
弟子「調合の依頼なんかもここから貰う事もあるんだよ」
男「魔女にもランクみたいのがあってさ。一応、俺でも下のほうの免状は持っているんだぜ」
妹「男の人でも魔女なの?」
兄「……そういえば話、聞いていなかったな」
妹「え、嘘、いつ?」
弟子「寝ちゃってたもんなぁ。魔女は魔女業をしている人を指すから誰でも魔女になれるんだ」
男「まあ俺は結局合わなくて魔女との商いに身を置いているけどね」
101
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:03:00 ID:ZPiNMD7M
弟子「それじゃあ私達はこれで」
男「おお、また寄ってくれ」
弟子「さて、次は……」
兄「あの、思ったんですけども手紙とかを転送する、みたいな魔法とかはないんですか?」
弟子「うん? そりゃあ勿論あるよ」
妹「え、あるんだ……」
兄「……直接報告に向かうのが礼儀、とかでしょうか?」
弟子「あーそういう事か」
弟子「必須ではないけども、今後は完全に私がお世話になるからね。その挨拶さ」
弟子「まあ二人がついて来てくれるって言ってくれたし、お得意先に君達を紹介しておこうというのもあるけど」
102
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:05:49 ID:ZPiNMD7M
弟子「だからまあ、別にそこまで重要じゃないかな、て所には手紙だけ送るつもりさ」
兄「あ、そうなんですね」
妹「でもそれ、帰ってからだよね? なんだか仲が悪くなりそう……」
弟子「んー。ま、お互いビジネスライクでやっている相手とかだからね」
弟子「別に情でやり取りしているわけじゃないし、それで拗れる関係でもないさ」
兄「結構閉鎖的なコミュニティなのに、更にそんな薄い関係もあるんですね」
弟子「魔女業をやっている時点で世捨て人なところがあるし、さもありなんってものだよ」
弟子「あとこういう生業に就く人は大抵それなりの寿命だからね。一年二年音沙汰なしなんてよくあることさ」
103
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:09:02 ID:ZPiNMD7M
……
弟子「今日はここまでだね。宿を借りようか。協会は明日の朝一かな」
妹「お泊り!」
兄「そういえば数日空けるって言ってましたもんね」
弟子「今日は魔女ご用達の宿だから体裁気にしなくていいからね」
兄「……魔女向けの宿って経営成り立つんですか?」
弟子「はは。半分道楽が殆どだよ」
妹「どういうこと?」
兄「お婆さんや姉さんがそう頻繁に遠方に出かけているイメージないだろ」
妹「そっか……魔法もあるし泊まることって珍しいか」
104
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:11:33 ID:ZPiNMD7M
妹「おいひいい!!」
兄「すごい。これで道楽の宿だなんて」
弟子「ああ、うん。言い忘れたけど、表向きにはレストランなんだ。ここの店、人気店なんだよ」
兄「体裁を気にしなくていい、とは」
弟子「ここ二階が魔女の客室だからね。従業員以外立ち入り禁止扱いで、レストランの客がこっちに来ることはないよ」
妹「えー? でも子供とか入ってきそう」
兄(その好奇心が絶対にあった子供の説得力)
弟子「部外者が階段を上ろうとしたら音が鳴るからね」
兄「魔法で?」
弟子「魔法で」
妹「ちなみにどんな音?」
弟子「めっちゃ怖い叫び声」
兄「子供がトラウマになっちゃう……」
105
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:13:26 ID:ZPiNMD7M
妹「あー美味しかった……幸せ。デザートのプリンもヤバかった」
弟子「私も久々に食べたけどもほんと美味しかったね。ああ……あの噛むたびに旨味溢れるステーキ」
兄「パンもふっわふわだったし、赤いスープもすごかった。なんだあれ、トマトっぽいのにすごいまったりとした味でくせになる」
兄「というか大丈夫なんですかこれ。お金とか」
弟子「魔女の薬と引き換えに安くなるからね」
兄「なにに使うんだろう……」
弟子「ああ、いや。滋養強壮の薬だよ。レストラン業が忙しいらしい」
妹「一般人と魔女とどっちに商売したいんだろ」
兄「なんだか宿はレストラン業を続けるための薬調達が目的に見えてくる……」
106
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:20:22 ID:ZPiNMD7M
翌日 協会
「以上で登録抹消の手続きのほうは終わりとなります」
弟子「ありがとうございました」
「……寂しくなりますね」
弟子「耳にタコができそうだった小言も懐かしくなるんでしょう」
「ふふ、私は既に恋しいですよ」
「それで、そちらのお二人はどうします?」
弟子「まだ試験を受ける段階ではないので」
「そうでしたか。ではいずれ」
弟子「ええ、その時はよろしくお願いします」
107
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:23:11 ID:ZPiNMD7M
兄「お婆さんもここへ来ていたんですね」
弟子「もともと時たま来ていたぐらいだけど、ここ三十年ぐらいはほんと少なくなったかな」
弟子「他の用事のついでに立ち寄るぐらいだったからねぇ。しかもここ数年は数えるぐらいしか行ってないし」
妹「お婆ちゃんもお姉ちゃんも、何日もいないことあんまりなかったしね」
兄「……もしかしてそれは僕達が理由ですか?」
弟子「ふふ、そりゃあ可愛い君達と少しでも一緒に過ごしたかったからね」
兄妹「……」
弟子「あの偏屈な人からもそれだけ好かれていたこと、ちゃんと誇るんだよ」
妹「勿論!」
兄「それを否定する日は一度と来ないでしょうが……もっと、もっとたくさん話をしていれば……」
弟子「それはどれだけ時間をかけていようと後悔するものだよ。これまでの時間に間違いはなかった、と胸にしまっておくんだ。いいね」
108
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:28:29 ID:ZPiNMD7M
……数日後
弟子「さて、素材の買い付けも終わったし我が家に帰ろうか」
兄「ふつうに買い出しも兼ねてましたね」
弟子「そう足しげく遠方にいかないから、まとめてやるくせがついているんだよ」
弟子「でもまあ、あの人が亡くなった報告をしつつ、買い物するのは流石に不謹慎だなって思ったけどね」
妹「出直すにしても遠いもんね」
弟子「……実はぐるっと一周して周ってくる予定にしていたから、この店は家から一回で楽に来れたりするんだ」
兄「えぇ……」
弟子「いやいや、既に他の買い物しているのだし今更だろ?」
兄「それはそうでしょうけども」
109
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:35:16 ID:ZPiNMD7M
弟子「荷物の整理はできたしこれから一週間ぐらいは家のことをするだけ。決して仕事はしないこと! いいね?」
兄「え? はあ……」
妹「どうしてー?」
弟子「今は慌ただしくしていただけだからね。すぐにまた気持ちが揺さぶられるよ」
兄「……そう、ですね」
妹「……お婆ちゃん」
弟子「それと今後についての話もあるあしね」
110
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:43:24 ID:ZPiNMD7M
弟子「君達は魔女になる意思があると思う」
兄「はい」
妹「もちろん!」
弟子「私は100歳を超えていると言ったね。それでも所謂上級の魔女じゃないんだ。せいぜい中の上ってところかな」
兄「姉さんでも……」
妹「魔女になる自信なくなってきた……」
弟子「すごい真面目、とは言わないけども、それなりにやってきたつもりでこれだからねぇ」
弟子「人の人生ではとても短すぎるんだよ。魔女業というものは」
弟子「だから考えてほしい。人間として魔女になるのか。それとも私のように寿命を延ばすか」
111
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 22:49:01 ID:ZPiNMD7M
弟子「後者はもちろん、人の世ではもう暮らしていくのは難しくなる」
弟子「ま、定期的に遠方に移り住む、という手段もあるけども。一つところに住むのは無理だ」
弟子「今日の明日に決める必要はないから、じっくり考えるのだよ」
弟子「さ、今日はもうご飯にしよう」
兄「手伝います」
妹「あたしもー」
弟子「ほほう、三人で作るか……よし久々に手の込んだものを作るか」
弟子「2時間コースと3時間コース。どっちがいい?」
兄「選択肢が……!」
妹「3時間コース!」
兄「早まるな!」
112
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 23:08:10 ID:ZPiNMD7M
夜
妹「お兄ちゃんはどうするのー?」
兄「魔女になるよ。薬は妹次第かな。合わせるよ」
妹「えぇ、なにそれー」
兄「お兄ちゃんだからね」
兄「もっとも、どうするかなんて聞くまでもないんだろうけどもさ」
妹「うん。魔女になるし薬も飲むよ」
兄「だよね」
妹「お姉ちゃんを一人にはできないからね」
113
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 23:13:51 ID:ZPiNMD7M
妹「お兄ちゃんもそれでいいんだよね」
兄「ああ」
兄「俺も姉さんのことをほっとけないし、今更よそで生きていくにしてもね」
兄「それに魔女業をやりたいし……ここで生きていきたい」
妹「うん、あたしも」
兄「明日、姉さんに話そうか」
妹「だね」
114
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 23:19:47 ID:ZPiNMD7M
翌朝
弟子「……決断が早いね」
弟子「後悔は、あるようには見えないか」
兄「もともとそのつもりでしたので」
妹「あたし達もお姉ちゃんと一緒にいたいもん!」
弟子「……ありがとう」
弟子「ふふ、こんな未来がくるなんて想像もしていなかったなぁ」
弟子「私もね、君達のようにあの人に拾われたんだよ」
弟子「でもあんな偏屈だからね。他に人をとることもないだろうし、親戚はおろか頼るような親密な知人もいない」
弟子「だから長い長い一人暮らしが待っている。そんなことを思っていたよ」
115
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 23:22:38 ID:ZPiNMD7M
弟子「正直に言って、二人が同じ道を歩んでくれて嬉しいよ」
弟子「そうと決まれば準備を進めよう。すぐに集まる素材じゃないしね」
兄「あの、思ったんですけどもその薬は姉さんで作れるの?」
弟子「資格上無理だね。だから君達が魔女になる申請をして、協会のほうに作成依頼をすることになる」
兄「あ、やっぱり」
弟子「寿命を延ばす薬はねー。ほんと上級だからね」
妹「できればお姉ちゃんが作ったのがのみたかったなー」
弟子「いやーその頃には君達、土の下だよ。よしんば間に合ったとして、そんな年で薬を飲みたいかい?」
妹「ちぇー」
116
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 23:26:23 ID:ZPiNMD7M
兄「ちなみに薬を作るまでの期間や副作用的なものってないんですか?」
弟子「んー材料の問題のほうが時間かかるからなー。できあがりは多分半年ぐらい先」
弟子「副作用は成長が鈍化することだね。伸びる寿命はおおよそ300年前後だけど伸びた分に比例するわけじゃないんだ」
兄「……」
弟子「どうかしたかい?」
兄「あの……妹には飲ませるの、しばらく待たせるべきでは。ちょっと酷と言いますか」
弟子「……うん、まあ、あとで私のほうから相談して決めておくよ」
117
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 23:29:20 ID:ZPiNMD7M
……
…………
………………
「そろそろ次の家を考える頃でしょうか」
「そうだねぇ。流石にまだ私も経験を積みたいし二人にも手伝ってもらおうかな」
「はい! はい! キノコの家がいい!」
「「……」」
「なにがいいでしょうか」
「そうだねぇ。まだ時間はたっぷりあるのだし、じっくり考えようか」
「えぇ! なんで!?」
118
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2021/11/01(月) 23:32:02 ID:ZPiNMD7M
あるところに不思議なおうちがありました。
周囲は深い森の中。
いったい誰が建てたのかなんてわかりもしません。
不思議なおうちの周りはとってもいい匂いがしています。
思わずふらふらと近寄ってしまいたくなるような、とても食欲を刺激されるものでした。
それに釣られたわけではないものの、二人の子供が近づいてきます。
衣服はボロボロで泥などで汚れていました。
そして不思議なおうちの前まで来ると、思わず呆然と見上げます。
「なんだ、これ……」
「おにくのいえ?」
兄「なんだ、あれ……」妹「おかしのいえ?」 終
119
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2022/01/10(月) 02:20:18 ID:mPB6ypkQ
おつ
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