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【ぼく勉】 文乃 「今週末、天体観測に行くんだよ」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/03(金) 23:07:13 ID:9nEg0gUI
理珠 「ほう。天体観測ですか。どこかの天文台へ行くのですか?」

文乃 「ううん。バスツアーなんだけどね、車で二時間くらいの高原に行くんだよ」

文乃 「結構コアなツアーでね。参加者全員望遠鏡を自分で持って行って、思い思いにレンズを覗くんだ」 ワクワク

文乃 「深夜に駅を出て、数時間天体観測をしたら、早朝に駅に戻ってくるって感じのツアーだよ!」

うるか 「ほへー。そんなのがあるんだねぇ」

成幸 (……それはツアーで行く意味があるのか? とかそういうことは置いておくとして)

成幸 (受験も近いのに大層な余裕だな、というツッコミも置いておくとして)

成幸 「……お父さんと一緒に行くのか?」

文乃 「うんっ! お父さんがね、誘ってくれて……」

文乃 「“一緒に行かないか” って。えへへ……」

成幸 「そうか」 クスッ 「よかったな、古橋」

文乃 「うん! ありがと、成幸くん! 道中のバスではちゃんと勉強するから安心してね!」

成幸 (この寝ぼすけ眠り姫が深夜と明け方のバスで勉強するとは思えないが……)

成幸 (まぁ、たまの息抜きぐらい、問題ないだろうし、何より……)

成幸 (古橋とお父さんの関係が、少しずつ改善しているのが、嬉しい)

617以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:10:47 ID:7Jz2yKsQ
………………小美浪家

かすみ 「はーい、唯我君。あーん」

成幸 「いや、あの、自分で食べられるんで……」

かすみ 「もーっ。彼女の母親にそんなに照れちゃって。可愛いなぁ」

かすみ 「そんなんじゃまたあすみちゃんにからかわれちゃうぞ〜?」

かすみ 「ってことで、はい、あーん……」

成幸 「いや、だから……って」 ハッ

あすみ 「………………」

成幸 「せ、先輩!?」

かすみ 「あら、あすみちゃん。おかえりなさーい!」

かすみ 「いま、唯我君と母子水入らずのスキンシップ中だったの」

かすみ 「あすみちゃんも混ざる?」

あすみ 「……混ざる? じゃねー! 何やってんだババアー!」

かすみ 「きゃーっ。あすみちゃんが怒った〜」

618以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:11:21 ID:7Jz2yKsQ
………………

あすみ 「……ったく、あのバカ親」 ブツブツブツ

成幸 「あ、あの、先輩……」

あすみ 「お前もお前だよ、まったく」 ブツブツブツブツ

あすみ 「人の母親にデレデレしやがって……」

成幸 「すみません。いや、デレデレしてるつもりはなかったんですが……」

あすみ 「………………」 ジロリ

成幸 「……人のお母さんにデレデレしてすみませんでした」 ドゲザー

あすみ 「……ふん」

あすみ 「………………」 (……これじゃダメだ。せっかく、最後なのに)

あすみ 「……そんなことより、お前、家に来るの随分早かったな」

あすみ 「約束の時間はまだだろ」

619以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:12:03 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「……はい。ちょっと早めに来る必要があったので」

あすみ 「?」

成幸 「すみません、先輩。今日はガイダンス後の勉強計画立て……の予定でしたけど」

成幸 「実は少しウソついてました」

あすみ 「……ウソ?」

成幸 「すみません、先輩。とりあえず、何も聞かずについてきてもらえませんか?」

あすみ 「……?」

620以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:12:46 ID:7Jz2yKsQ
………………High Stage入り口

成幸 「………………」

あすみ 「お、おい、後輩。何も聞くなとは言うけどな……」

あすみ 「何でハイステージに来たんだ? 今日はバイト入ってねーだろ」

あすみ 「っていうか、今日は休店日だって店長が言ってたし……」

成幸 「……まぁ、休店日というよりは、貸し切りが正しいですかね」

あすみ 「後輩……?」

成幸 「じゃ、皆さん、入りますよー!」

ガチャッ

成幸 「……さ、どうぞ、先輩」

あすみ 「どうぞって、お前、一体……」

パン……パンパンパン!!!!


 『お誕生日おめでとーーーーー!!!!』


あすみ 「……!?」

621以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:13:31 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「へ? へ? へ?」

マチコ 「あしゅみー戸惑ってる。可愛いー!」

ヒムラ 「意外と想定外のことに弱いよね、あしゅみーって」

ミクニ 「ほら、あしゅみーこっち向いてこっち向いて」

パシャリ

ミクニ 「はい、あしゅみーの戸惑い顔チェキもらいましたー」

あすみ 「お、お前ら、何で……? って……」


――――あしゅみー誕生日おめでとう!!――――


あすみ 「何だあの横断幕ー!?」

あすみ 「……ん? 誕生日?」

あすみ 「………………」

ハッ

あすみ 「……そ、そうか。そういやアタシ、今日誕生日か。だから誕生日会か」

マチコ 「今さらー!?」

622以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:14:05 ID:7Jz2yKsQ
店員 「さ、さ、あしゅみーのアネゴ。こっちです」

店長 「お誕生日席はこっちだ、あしゅみー。唯我君、同伴ご苦労だったな。ありがとう」

成幸 「いえいえ。俺も先輩にはお世話になってますから」

あすみ 「お、おい、後輩。これ、どういうことだよ」

成幸 「すみません、先輩。サプライズだったので、結果的に嘘つくことになっちゃいましたけど」

成幸 「ハイステージの皆さんが、先輩を驚かせたいとがんばっていたので、協力しちゃいました」

理珠 「私たちもいますけどね」

文乃 「そうだよー、成幸くん! わたしたちも飾り付けとかお料理とか手伝ったよー!」

うるか 「文乃っちは早々にキッチン出禁になってたけどね」

あすみ 「のわっ!? お前らまで!?」

文乃 「成幸くんから先輩のサプライズ誕生日パーティをするって聞いたので」

うるか 「ならあたしたちも混ぜてもらわないとだよねー! って」

理珠 「はい。私たちも、先輩にたくさんお世話になりましたから」

あすみ 「お前ら……」

あすみ 「……ん?」

623以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:14:54 ID:7Jz2yKsQ
真冬 「………………」 コソコソコソ

あすみ 「……先生?」

真冬 「っ……」 ビクッ

あすみ 「何してるんですか、そんな隅っこで……」

あすみ 「……っていうか、何でメイド服着てるんですか」

真冬 「ふっ、不可! その質問は不許可よ、小美浪さん」

マチコ 「真冬ちゃんはねー、ふふふ〜♪」

マチコ 「たまたま店の前を通りかかったところを捕まえちゃいましたっ」

あすみ 「捕まえちゃいましたっ、じゃねーよ。えげつないことしやがって……」

あすみ 「すみません、先生。アタシの誕生日会になんかに巻き込んで……」

真冬 「……べつに、巻き込まれたとは思っていないわ」 プイッ

真冬 「……お誕生日おめでとう、小美浪さん」

あすみ 「あっ……」 クスッ 「ありがとうございます、真冬ちゃん」

真冬 「なっ……」 カァアアアア…… 「そ、その呼び方はやめなさいと何度も……!!」

624以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:16:03 ID:7Jz2yKsQ
マチコ 「さささー、それじゃこの辺で本日のメインイベント、いってみよー!」

ドーーーーン!!!!

ヒムラ 「みんなでがんばってこしらえて誕生日ケーキのろうそくに火をつけてー」 シュボボボ!!!

ミクニ 「電気を消してー!」 パチパチパチッ

あすみ 「ろうそくが二十本……。そっか、アタシももう二十歳か……」

〜♪

 『ハッピーバースデー♪ トゥ、あしゅみー♪』

あすみ 「ん……」

フゥ……

 『おめでとー!!!』

パチパチパチパチパチパチパチパチ……!!!!!

………………………………

………………

625以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:18:07 ID:7Jz2yKsQ
………………

マチコ 「はい、あしゅみー。これ、わたしたちからのプレゼント」

ミクニ 「図書カードだよ。これから色々入り用になるでしょ」

ヒムラ 「がんばって立派な女医になって、ハイステージに本物の女医として君臨してくれ」

あすみ 「はは……。ハイステで女医やれるかはわかんねーけど、ありがとな」

店長 「これは我々からだ」

あすみ 「……? これ、メイド服?」

店長 「新作だ。唯我君にも手伝ってもらってデザインした」

あすみ 「お、おぅ……」

店長 「これから勉強で忙しくなるとは思うが、たまにでいいから店に出てくれると助かる」

あすみ 「……はい、店長。アタシも、金は必要なんで、ぜひ」

626以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:18:46 ID:7Jz2yKsQ
うるか 「先輩、これはあたしからー!」

理珠 「私は、これを」

文乃 「お誕生日おめでとうございます、先輩」

あすみ 「お前らまで……。なんか悪いな。ありがとう」

真冬 「……私からも、つまらないものだけど」

あすみ 「先生まで!? ありがとうございます。今日の今日でよく準備できましたね……」

ワイワイワイ……

あすみ (……ったく。わざわざ誕生会なんて。アタシのガラじゃねーっての)

あすみ (みんな誕プレまで用意してくれて、なんか……)

クスッ

あすみ (……ちくしょう。嬉しいじゃねーか)

成幸 「……先輩」

あすみ 「ん? おう、後輩」

あすみ 「……ったく、何がサプライズだよ。騙しやがって」

成幸 「あはは、それはすみません。でも、嬉しかったみたいで良かったです」

627以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:19:22 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「なっ……」 カァアアアア……

あすみ 「……そりゃまぁ、こんな風に祝ってもらえりゃ嬉しいに決まってるだろ」

成幸 「まぁ、そうですよね」


―――― ((……たぶん、最後になるであろう後輩との時間))

―――― ((いつまでも後輩を頼りにするわけにはいかないし、))

―――― ((後輩に彼氏のフリをしてもらう必要も、もうない))


あすみ (……まぁ、残念でもあったけどな、なんて言えるわけもないよな)

成幸 「先輩、お誕生日おめでとうございます。これ、俺からのプレゼントです」

あすみ 「お前まで用意してくれたのか。悪いな……」

あすみ 「………………」

あすみ 「……開けてもいいか?」

成幸 「どうぞ」

あすみ 「ん……」

あすみ 「ノート……?」

628以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:20:05 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「はい。先輩が苦手な部分をまとめました」

成幸 「センターで間違えたところとか、二次試験で間違えたところとか」

成幸 「さすがに医学部の範囲は俺には分からないので、これが限界ですけど」

成幸 「大学の授業が始まる前に、一度目を通してもらうといいかなと思って」

成幸 「……たぶん、俺がもう先輩に教えられるようなことはないので、これが最後だと思いますけど」

あすみ 「っ……」

あすみ (最後、か……)

あすみ 「……ああ、そうだな。ありがとよ」

成幸 「あ、それと……」

スッ

成幸 「これはタダでもらったものですから、プレゼントとは言えないでしょうけど、どうぞ」

あすみ 「へ? これって……チケット……?」

629以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:20:42 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「あっ……ど、ドハっちゃんランドのチケット!?」

あすみ 「あのときの……?」


―――― 『お…… 大当たりぃぃ!!!』

―――― 『一等の…… ドハっちゃんランド御招待券プレゼントー!!』

―――― 『先輩が使ってください 有効期限半年ありますし 受験が終わってからでも行けますから』


成幸 「結局あのとき渡せてなかったので」 クスッ 「ぜひ行ってください」

あすみ 「あ、ああ、ありがとう」

あすみ 「………………」


―――― 『……たぶん、俺がもう先輩に教えられるようなことはないので、これが最後だと思いますけど』


あすみ (最後……)

あすみ (……は、嫌、だな)

ギュッ……

成幸 「……? 先輩?」

630以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:21:20 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「……な、なぁ、後輩」

成幸 「はい?」

あすみ 「たしかにお前は教育学部で、アタシは医学部で、全然違うし……」

あすみ 「アタシも、これ以上色々なことでお前に迷惑をかけるのは忍びないと思うし……」

あすみ 「……だから、勉強に関しては、このノートがきっと最後、なんだと思う」

成幸 「……?」

あすみ 「……でも、アタシは、」

あすみ (アタシは……)


―――― 『今度こそチューしとくか?』

―――― 『な? 冗談冗談♪』


あすみ (……アタシは)

あすみ 「……アタシは、お前と最後なのは、嫌だ」

631以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:22:13 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「先輩……?」

あすみ 「……だから、このチケットはいらない。お前が使えよ」

成幸 「へ? で、でも、先輩……――」

あすみ 「――……でも、ひとりで行くなよ。絶対……」

あすみ 「……絶対、アタシも誘えよ。一緒に、行くから……」

成幸 「あっ……」 カァアアアア…… 「は、はい。分かりました」

あすみ 「っ……」

カァアアアア……

あすみ (顔が、熱い。絶対真っ赤になってる。ああ、ちくしょう……)


―――― 『……アタシは、お前と最後なのは、嫌だ』


あすみ (な、何を恥ずかしい事を言ってんだ、アタシは……)

632以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:22:45 ID:7Jz2yKsQ
あすみ (……でも)

クスッ

あすみ (後輩に勉強を教えてもらうことが、これで最後でも……)

あすみ (後輩との時間が最後じゃないって、それだけで……)

あすみ 「……ああ、そうそう。ちなみに、後輩」

成幸 「? なんです?」

あすみ 「バカ親父は未だにアタシとお前の事ラブラブカップルだと思い込んでるからな」

成幸 「!? ま、まだ説明してなかったんですか!?」

あすみ 「えー? だってパパに説明して怒られるの怖いしー」 キャルーン

成幸 「あんたそんなキャラじゃないでしょ!?」

あすみ 「ま、ともあれ、だ」

ニコッ

あすみ 「だから、これからも恋人役、よろしくな、こーはい♪」

おわり

633以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:24:07 ID:7Jz2yKsQ
………………幕間 『バカ親父』

宗二朗 「!?」 キュピーンン

患者 「せ、先生!? どうかしましたか!?」

患者 「私のレントゲン写真、そんなに悪いですか!?」

宗二朗 「成幸君とあすみがイチャイチャしている波動を感じる!?」

患者 「へ……?」

かすみ 「はーい、宗二朗ちゃーん。今は診療中だからしっかりしましょうねー」

おわり

634以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:26:07 ID:7Jz2yKsQ
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

4月9日はあすみさんの誕生日なので、一応の完結を見たところで書きたいと思っていました。
ただ、冒頭で申し上げた通り、世界線はアニメが一番近いと思います。
うるかさんもしっかり日本にいます。

また投下します。

635以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:52:38 ID:K/dvYsUQ
おつ

636以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/11(土) 01:36:21 ID:yzip6BFw
いつも応援しています!楽しみで仕方ありません!
がんばってください!

637以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:31:15 ID:tZaPmrsM
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 文乃 「いつか君にお返しを」

638以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:39:13 ID:tZaPmrsM
………………古橋家

ガサガサガサ……

文乃 「……ふー」

文乃 「なんかまだまだ出てくる感じだね、お父さん」

零侍 「ああ。しばらく大掃除なんてしていなかったからな」

文乃 「家の収納に甘えてきたけど、そろそろ物が収まらなくなってきたし」

文乃 「せっかく今年は一緒に大掃除できるんだから、徹底的にいらないもの捨てちゃおうね、お父さん」

零侍 「……ん、ああ」


―――― 『……――だねっ、零侍くんっ』


零侍 「………………」 フッ 「……そうだな」

639以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:39:45 ID:tZaPmrsM
文乃 「それにしても……」

グチャァ……

文乃 「一度も見た事ないようなものまで出てくるのはなんなの……」

零侍 「ああ、その箱は昔私が買ってきたおもちゃだな」

文乃 「おもちゃ? じゃあ、これ私の……?」

零侍 「いや……」

パカッ

零侍 「……私は玩具に疎かったものでな。全部男児用だ」

零侍 「懐かしいな。静流にも呆れられたものだ……」

文乃 「……まぁ、旦那が一人娘のために買ってきたおもちゃがこれじゃ、ねぇ」

文乃 「これはロボット? こっちは戦隊物? これは……御面ライダー……?」

文乃 「まったくもう、お父さんはそそっかしいんだから……」


―――― 『まったくもう。零侍くんったらそそっかしいんだから』


零侍 「……ああ」

640以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:40:59 ID:tZaPmrsM
文乃 「……ふふ、でも」

零侍 「?」

文乃 「昔のわたしのために買ってきてくれたんだよね。ありがとう、お父さん」

零侍 「ん……あ、ああ……」

零侍 「……呆れ方からお礼の言い方まで、どんどん似ていくものだ」

文乃 「? なんか言った?」

零侍 「いや、なんでもない。作業に戻ろう」

零侍 「この収納から出てくるものはほとんどゴミでよさそうだな」

零侍 「む……。これは古着か。お前のものだな」

文乃 「わー、懐かしいー! これお気に入りだったワンピースだ!」

文乃 「えへへ。これ、お母さんと一緒に買ったやつだよ。お母さんとおそろいなの!」

文乃 「お母さんの方もある! 懐かしいな……」

零侍 「………………」

641以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:41:48 ID:tZaPmrsM
零侍 「……もうサイズ的に着られる服はなさそうだが、どうする?」

文乃 「? どうするって?」

零侍 「静流との思い出が残っているのだろう? 残しておくか?」

文乃 「………………」

フルフル

文乃 「……ううん。もう着られないものを残しておいても仕方ないよ」

文乃 「思い出は、頭の中に残ってるよ。だから、これはもういらないんだ」

零侍 「……ああ。そうだな」

文乃 「でも、まだきれいで着られるよね。捨てちゃうのももったいない気がするなぁ」

零侍 「む……。そうだな。知り合いに譲れるのなら、そうした方がいいかもしれんな」

零侍 「とはいえ、これくらいの子供がいる家庭に知り合いは……」

文乃 「うーん……」 ハッ 「あっ……」

クスッ

文乃 「……もらってくれる人、いるかも」

零侍 「……?」

642以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:42:23 ID:tZaPmrsM
………………唯我家

葉月 「きゃーーーーーー!!!」

葉月 「可愛いお洋服がたくさんーーーー!!!」

花枝 「なんか申し訳ないわねぇ、文ちゃん」

花枝 「本当にこんなにたくさんもらってしまっていいの?」

文乃 「はい! さすがにわたしはもう着られませんし、葉月ちゃんが着てくれるなら嬉しいですから」

葉月 「きゃー! お姫様みたいなお洋服も!」

葉月 「こっちはフルピュアみたい! かわいい!」

成幸 「良かったな、葉月。ほら、喜ぶのはいいけど、その前に何かしなくちゃな」

葉月 「!」 ピョコッ 「文ねーちゃん、ありがとう!」

文乃 「いえいえ、どういたしまして」 ニコッ

文乃 (ふふふ。葉月ちゃん、喜んでくれてよかった)

文乃 (でも……)

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 (問題はあっちだよね……)

643以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:43:00 ID:tZaPmrsM
水希 「ふ、古橋さん! 葉月とお母さんは籠絡できても、私はそうはいきませんからね!」

水希 「葉月に取り入ってお兄ちゃんと近づこうって魂胆でしょうけど、そうはいきませんから!」

水希 「……でも葉月のためにわざわざお洋服を持ってきてくれてありがとうございます!」

文乃 「ど、どういたしまして……」

文乃 (ちゃんとお礼を言ってくれるあたり、根は本当に良い子なんだよね……)

和樹 「ふーん、だ」 ツーン

成幸 「ん? 和樹まで水希みたいになってどうした?」

和樹 「葉月はいいけど、俺のお洋服はないし」 ツーン

成幸 「いや、仕方ないだろ。古橋は女の子なんだから……」

文乃 「あ、そうそう。和樹くんにも色々持ってきたんだ」

ドサッ

和樹 「……!? おもちゃ!?」

文乃 「昔お父さんが私のために買ってきたおもちゃなんだって」

成幸 「お、親父さん、娘にこんな男の子が喜びそうなものを……?」

644以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:43:40 ID:tZaPmrsM
文乃 「お父さんったら、娘のわたしのために男の子用のおもちゃを買ってきちゃったみたいなの」

文乃 「そそっかしいよね」 クスクス

成幸 「ん、そうだな」

成幸 (……古橋がすごく楽しそうに親父さんの話をしてる)


―――― 『今日はお父さんが家にいるから…… あんまり 帰りたくなくて』


成幸 (なんか……) クスッ (俺も、嬉しくなってくるな)

和樹 「文ねーちゃん! これ、もらっていいの!?」 キラキラキラ……!!!!

文乃 「うん。ちょっと古いおもちゃだけど、まだまだ遊べると思うよ」

和樹 「やったー! ありがとー、文ねーちゃん!!」

成幸 「……ったく。現金な奴だな」

葉月 「きゃー! かわいい〜!」  和樹 「おー! この剣光るー!」 キャッキャ

成幸 「悪いな、古橋。おもちゃまで……」

文乃 「ううん。ほとんど使ってないおもちゃだから、使ってくれた方が嬉しいよ」

645以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:44:40 ID:tZaPmrsM
成幸 「で……」

水希 「ぐぬぬぬぬ……」 ギリリ 「葉月のみならず和樹までたぶらかして……」

水希 「でも和樹のおもちゃまですみません」 ペコリ 「本当にありがとうございます、古橋さん」

水希 「それはそれとしてぐぬぬぬ……」

成幸 「お前はまだそんな隅っこで……」

文乃 「あはは……」

文乃 「あ、そうそう。水希ちゃんにも持ってきたんだ」

水希 「!? へ、へー! 古橋さんのお古のお洋服でしょうか」

水希 「で、でも残念だなー! たぶんちょっとサイズが合わないんじゃないかなー!」

水希 「どこがとは言いませんけど、ちょっとサイズがなー!」

文乃 「……はは、うん。そうだね」

ズーーーーーン

文乃 「……だと思ったから、はい、これ。たぶん私には少し大きいから。どことは言わないけど」

水希 「へ……? これ、ワンピースですか……?」

646以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:45:13 ID:tZaPmrsM
文乃 「うん。これね、お母さんが着てた服なんだ」

水希 「!? 古橋さんのお母さんの……?」

文乃 「……って言っても、たぶん一回くらいしか着られてないんじゃないかな」

文乃 「葉月ちゃん。ちょっとこっち来て」

葉月 「? はーい」 トコトコトコ

文乃 「えっとね……あったあった。このワンピース」

文乃 「これとおそろいなんだ。昔、お母さんと一緒に買ったんだ」

葉月 「わー! じゃあこれふたりで着ると、水希ねーちゃんとペアルック!」

文乃 「うん。きっとかわいいと思うよ」

水希 「い、いいんですか? これ、いただいてしまって……」

文乃 「うん! ぜひもらってよ!」 ニコッ

文乃 「葉月ちゃんと水希ちゃんみたいな、仲良しの姉妹に着てもらえれば、きっとそのお洋服も嬉しいと思うから」

水希 「ん……」 カァアアアア……

水希 「あ、ありがとうございます、古橋さん。大切にします」

文乃 「うん! どういたしまして」

647以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:46:14 ID:tZaPmrsM
………………帰り道

文乃 「はー、今日はみっちり勉強できたねー、成幸くん」

成幸 「ああ、そうだな。テストの結果も良好だし、調子いいじゃないか」

文乃 「えへへ。成幸くんのおかげだよ。ありがと」

成幸 「俺は大したことはしてないよ。お前のがんばりが結果に出てるだけだろ」

文乃 「そう? じゃあ、そういうことにしておこうかな」

文乃 (……なんて、全部君のおかげで間違いないんだけどね)

文乃 「でもごめんね。晩ご飯までいただいて、遅くなったからって送ってもらっちゃって」

成幸 「気にすんなよ。適度な運動はこの後の集中にいいしさ」

成幸 (送ってかないと母さんがうるさいし……)

成幸 「それに水希も、ほら。お礼のつもりだったんだろ」

成幸 「今日の晩飯、いつもの倍以上は豪華だったぞ」

文乃 「へ? お礼……?」

成幸 「葉月と和樹がいろいろなものいただいたし、自分もワンピースをもらったからな」

648以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:46:52 ID:tZaPmrsM
文乃 「そんなの、気にしなくていいのに。わたしこそ、いつも成幸くんにお世話になってるんだから」

成幸 「そうか? それを言うなら、俺もいつもお前にお世話になってるけどな」

成幸 「色々相談したり、とかさ」

文乃 「そんなの大したことじゃないよ。君がわたしにしてくれたことに比べたら、さ」


―――― 『お前らのこと幸せにしてみせるから 俺を信じてつきあってくれ!!』

―――― 『かっこいいよなぁ 古橋は』

―――― 『お前が本当にやりたいこと 俺が 全力で応援してるからな』


文乃 (……本当の、本当に。君が私に、してくれたことに比べたら)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

文乃 「……私はきっと、たくさんお返しをしなくちゃいけないんだよ、君に」

649以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:47:31 ID:tZaPmrsM
成幸 「ん……」 ドキッ 「あ、あはは。そう言われるとなんか照れるな」

成幸 「じ、じゃあ古橋、いつか俺にお返ししてくれよな」

テヘッ

成幸 「なーんて、冗談……――」


文乃 「――――うん。するよ」


成幸 「へ……?」

文乃 「するよ。いつか、絶対。受験が終わった後に。君に、お返し」


―――― 『お前らのこと幸せにしてみせるから』


文乃 (……君が、わたしのことを幸せにしてくれた、その後に)

文乃 (それが、どういう形のお返しになるか、今はまだ分からないけれど)

文乃 (だから……)

文乃 「……だから、期待しててね。成幸くんっ」

おわり

650以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:48:11 ID:tZaPmrsM
………………幕間1 『やはり敵』

水希 「………………」 ショボーン

水希 (……この前は、せっかく色々と持ってきてくれた古橋さんに心ない言葉を浴びせてしまった)

水希 (古橋さんは私たちに対して厚意100%で持ってきてくれたっていうのに……)

水希 (きっと古橋さんはお兄ちゃんに邪なことを考えたりはしないんだ。いい人だもん)

水希 「……と、いうことで今日はお詫びもかねてケーキを焼きました!」

水希 「古橋さん、お勉強の休憩にケーキでもいかが!?」

文乃 「ふぇっ!? 水希ちゃん!?」 ササッ

水希 「………………」

文乃 「えっ、け、ケーキ? やったー! 嬉しいなー!」

水希 「……古橋さん。今慌てて隠した携帯電話……」

文乃 「ふぇっ……?」 ギクッ

水希 「待ち受け、ねこを抱いたお兄ちゃんでしたね……?」

文乃 「ふぇっ!?」 ギクギクッ

水希 (や、やはり……) ギリリッ (この人は敵!)

651以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:48:58 ID:tZaPmrsM
………………幕間2 『見栄』

文乃 「………………」

文乃 (……私の記憶の中のお母さんとも、動画のお母さんとも合致しない)

文乃 (お母さん、今のわたしと同じくらいだもんね……)

文乃 (どこがとは言わないけど……)

文乃 (………………)

文乃 「……お母さん、絶対このワンピース、見栄張ったよね……?」

おわり

652以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:49:43 ID:tZaPmrsM
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

653以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/21(火) 01:31:25 ID:9py1LuAk
おつ

静流母もシックスパッドしてたのかなww

654以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/21(火) 06:58:52 ID:5TvDjXzU
水希ちゃんラスボスかわいい

655以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/22(水) 04:26:36 ID:nk/erQyU
おつんこ!

656以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/22(水) 12:12:12 ID:.NKmdXU6
やっぱ小姑水希ちゃんがさいかわだよね?

657以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:41:33 ID:8/XR1gKQ
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 真冬 「自分の気持ちに素直にね」

658以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:42:16 ID:8/XR1gKQ
………………結果発表直後 一ノ瀬学園 生徒指導室

真冬 「………………」


---- 『--……そう』

---- 『……なら…… もう…… いいのかしら……』

---- 『もう…… 我慢しなくて いいのかしら……』

---- 『おめでとう えらいわね 今までよく頑張ったわね』

---- 『3人ともすごいわ 先生自慢の生徒よ』


真冬 「っ……」 グスッ

真冬 (いけないわ。思い出したらまた涙が……)

真冬 (情けない。教師として、こんなことじゃいけないのに……)

真冬 (でも……)


---- 『合格しました 3人とも』


真冬 (……本当に、よかった)

659以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:54:28 ID:8/XR1gKQ
真冬 (さて、今日合否報告の予定者、あとは……一人だけね)

真冬 「ん……?」

真冬 「関城紗和子さん……? この子って、たしか……--」


紗和子 「--……はい。関城紗和子です」 ズーーーン


真冬 「!?」 (き、恐怖! ドアの隙間から死んだ魚のような目が……!)

真冬 「……って、そんなところで何をしているの?」

紗和子 「すみません。何か涙ぐんでいたようだったので、入りにくくて……」 キィ……

真冬 「!? な、涙ぐんでなんかいません! 少し……花粉症なだけよ!」

紗和子 「はぁ……。まぁいいですけど。合否の報告に来ました。関城紗和子です」 ズーン


---- 『ええ まったくもって遺憾です……』

---- 『まったく…… 関城さんたらプンプンです!』


真冬 「ああ、あなたが……」

紗和子 「第一志望の弓弦羽大学、合格しました……」 ズーン

660以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:55:00 ID:8/XR1gKQ
真冬 「あ……そ、そうなのね。おめでとう! よかったわね!」

紗和子 「はい。ありがとうございます……」 ズーン

真冬 「……え、えっと」

真冬 「どうかしたの? せっかく第一志望に合格したというのに、その表情は……」

紗和子 「……いえ、べつに」

紗和子 「何も……」

真冬 「………………」

フゥ

真冬 「……ほら、座りなさい」 ニコッ

紗和子 「え……?」

真冬 「せっかく第一志望に合格したのに、そんな表情をしていたらもったいないわ」

真冬 「何かあったんでしょう? 解決できるかはわからないけれど、私でよかったら話を聞くわ」

661以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:57:13 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「へ……? で、でも……」

真冬 「私は教師よ。そんな“しょぼくれた”顔をしている生徒、放っておけないわ」


---- 『桐須じゃねえか! 何しょぼくれてんだこんなトコで?』


真冬 (……そう。もし、この子が何かに悩んでいるのなら)

真冬 (“先生”のように、私も、この子に寄り添ってあげたい)

真冬 (だから……)

真冬 「……お話、聞かせてくれるとうれしいわ。関城さん」

紗和子 「………………」

コクリ

紗和子 「……はい」

662以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:58:06 ID:8/XR1gKQ
………………数十分後

真冬 「………………」

紗和子 「……それでですね! 緒方理珠ったらひどいんですよ!」

真冬 「え、ええ……」

紗和子 「たしかに私が悪かったですけど、でも、私緒方理珠のことを想って言ったんですよ! 合格よって!」


---- 『合格よッッッ!!!』

---- 『2人とも見事に合格してたわ緒方理珠ッッ!!!』

---- 『これで春から晴れて同じキャンパスライフよ緒方理珠ッ!!!』

---- 『ちょっと聞いてる? 我が親友緒方理珠〜!!』


真冬 「そ、そうね……」

真冬 「………………」

真冬 (長い……話が長いわ、この子……!)

663以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:59:13 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「それで、緒方理珠ったらすごく怒ってしまって……」


---- 『あ゙ーーーーっ!! 何故言うのですかーーーーッ!!!』

---- 『自分で見たかったのに 自分で見たかったのに!!!』

---- 『ひいっ!!! 堪忍よ緒方理珠ーッ!!!』


紗和子 「うぅ……って、先生、話聞いてますか!?」

真冬 「!? と、当然。きちんと聞いているわ」

真冬 (……先生。今改めて思いますが、生徒の相手は大変です)

紗和子 「……分かってます。私が悪いんだって」

シューーーン

紗和子 「……きっと緒方理珠に嫌われてしまったわ」

真冬 「……?」

紗和子 「緒方理珠“にも”、空気が読めないとか思われてしまったわ……」 ズーーーン

真冬 「………………」

664以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:59:57 ID:8/XR1gKQ
真冬 (……でも、大変でもなんでも、私は、)

真冬 「……そんなことないと思うわよ。緒方さんはそんなこと思わないわ」

真冬 「それに、緒方さんは、あなたがきちんと謝れば許してくれるわ」

紗和子 「そうでしょうか。私、いつもこうやって相手に嫌な思いをさせてしまう……」


―――― 『またガリ勉関城が平均点上げてるよ』

―――― 『平均点以下の奴補習だってさ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 「だからきっと、緒方理珠にも……」

真冬 「……そう。あなたはそう思うのね」

スッ

真冬 「あら、ちょうど退勤時間だわ。この後予定は? 関城さん」

紗和子 「へ……? あ、空いてますけど……」

真冬 「じゃあ、一緒に行きましょう」

紗和子 「行く……? って、どこに……?」

665以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:00:52 ID:8/XR1gKQ
真冬 「そんなの、決まってるでしょう?」

真冬 (……大変でもなんでも、私は、“こうなりたい”と願って、今ここにいるのだから)


---- 『私が教師を目指すことは…… 間違いだと思いますか!?』

---- 『間違いだったかどうかなんて 本当に終わっちまうまでわかんねーもんさ』

---- 『自分の気持ちに素直にな』


真冬 「あなたの大切なお友達のところに、よ」

クスッ

真冬 「自分の気持ちに素直にね、関城さん」

666以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:01:27 ID:8/XR1gKQ
………………緒方うどん

理珠 「〜♪」

親父さん 「………………」 (……リズたま、ご機嫌だな。鼻歌なんてめずらしいぜ)

親父さん (……ずっと、心理学勉強してえって言ってたもんな) グスッ 「……っと。歳食うと涙もろくなっていけねぇや」

……ガラッ

親父さん 「おぅ、いらっしゃい! ……って」

紗和子 「あ……こ、こんにちは……」

真冬 「こんにちは。緒方さんのお父様」

親父さん 「さ、紗和子ちゃんと先生じゃねーか! いらっしゃい!」

理珠 「……? 関城さん? それに桐須先生まで? 一体どうしたんですか?」

真冬 「べつに大した用事じゃないわ」 クスッ 「とりあえず、大葉天うどん、いただけるかしら?」

真冬 「……あなたは? 関城さん」

紗和子 「あっ……わ、私は……きつねうどんを」

親父さん 「まいど! 大葉天うどんときつねうどんだな! 大急ぎで作るから座って待っててくれ」

親父さん 「リズたまも、せっかく先生と紗和子ちゃんが来てくれたんだから、一緒にうどん食べたらいいや! 席に案内しといてな!」

667以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:02:11 ID:8/XR1gKQ
………………

理珠 「……?」

紗和子 「………………」 ヒシッ

真冬 「……あの、関城さん」

真冬 「そうくっつかれると、食べにくいのだけど……」

紗和子 「………………」 ギュッ

真冬 「……まったく」 (まるで隠れるように、縮こまって余計に私にくっついて)

理珠 「意外です。関城さんと桐須先生って、あまり関わりがなかったと思いましたが」

理珠 「仲良しさんだったのですね」

真冬 「生徒と仲良しになった憶えはないわ」

ズルズルズル……

真冬 「相変わらず美味しいわね、あなたのところのうどんは」

理珠 「ありがとうございます」 ジッ 「……あの、関城さん」

紗和子 「!?」

理珠 「何をやっているのか分かりませんが、早く食べないと伸びてしまいますよ?」

668以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:03:02 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「あ……そ、そうね」

紗和子 「いただきます」

ズルズルズル……

紗和子 「……美味しい」

理珠 「そうですか。このうどん、私の受験合格を聞いた父が張り切って打ったらしいです」

ズルズルズル……

理珠 「……うん。美味しいですね」

紗和子 「………………」

ズルズルズル……

理珠 「……それで? 一体今日はどうしたんですか?」

理珠 「おふたりがそろっていらっしゃるなんて、大した用事がないようには思えないのですが」

真冬 「そうね。大したことかどうかは、見る人によって変わるものね」

スッ

真冬 「ほら、関城さん。いつまでも私にしがみついてないで。自分がどうしたらいいか、分かるでしょう?」

紗和子 「……ん」

669以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:03:33 ID:8/XR1gKQ
理珠 「……? 関城さん?」

紗和子 「……あの、緒方理珠。あのね、」

紗和子 「今日、その……合格発表、あなたが見る前に……その……」

紗和子 「……先に、言ってしまって……ごめんなさいっ」

理珠 「へ……?」

理珠 「………………」

理珠 「……えっと」

理珠 「……ああ、そういえば、そんなこともありましたね」

理珠 「そんな大げさに謝らなくてもいいですよ。これから気をつけてくださいね」

紗和子 「え……?」

紗和子 「え、えっと、許してくれるの? 緒方理珠」

理珠 「許すも何も、今の今まで忘れてましたよ」

クスッ

理珠 「妙に大人しくて変な関城さんだと思ったら、そういうことだったんですね」

670以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:04:45 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「……じ、じゃあ、私のこと、怒ってない?」

理珠 「さすがにあのときは怒りましたけど、今は特には……」

紗和子 「私のこと、空気が読めないとか思ってない?」

理珠 「は? 空気を読むという言葉の意味が未だによく分からない私にそれを聞きますか」

紗和子 「んっ……」

紗和子 「……そ、そうね。あなたはそうよね。ずっと……」


―――― 『空気を読むとはどういうことですか? できたのにできないフリをしろということですか?』

―――― 『どうなのですか?』


紗和子 (……あなたは、ずっと変わらない。私の恩人で、憧れの人)

真冬 「………………」

クスッ

真冬 「……さて、うどんもいただいたことだし、私はそろそろおいとまするわね」

真冬 「うどんごちそうさま。お勘定よろしく、緒方さん」

671以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:05:30 ID:8/XR1gKQ
理珠 「あ、は、はい……――」


親父さん 「――……ち、ちょっと待ったー!」 ズザザザザッッ!!!!


理珠 「……お父さん。店内で走らないでください。ホコリが立ちます」

理珠 「一体どうしたんですか?」

親父さん 「いや、それがさ、今日さ、パパさ、リズたまの合格で舞い上がってうどん打ってね」

理珠 「はい」

親父さん 「ちょっと打ち過ぎちゃってね……まだまだ残ってるんだよね」

理珠 「……はい?」

親父さん 「夕食のお客だけじゃ絶対に捌ききれないくらい残ってるんだよ」

親父さん 「こんなことバレたらママに怒られちゃうし……」

親父さん 「……と、いうことで」

ドンッ!!!!

親父さん 「今日は俺のオゴリだ! 先生、紗和子ちゃん、たんとうどん食ってってくれ!」

真冬 「!? い、いや、この量はさすがに……」

672以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:07:40 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「………………」

クスッ

紗和子 「……じゃあ、お言葉に甘えて、いただきます」

ズルズルズル……

真冬 「関城さん……」

紗和子 「……せっかくですし、桐須先生。ごちそうになって行きませんか?」

真冬 「………………」

真冬 「……承知。仕方ないわね。美味しいうどんがこんなにあるのだから、遠慮するのも野暮かしらね」

親父さん 「あっ……そういや紗和子ちゃん! 大学合格おめでとうな!」

紗和子 「へ……? あ、ありがとうございます!」

紗和子 「……あれ? 私、合格したこと言いましたっけ?」

673以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:08:16 ID:8/XR1gKQ
理珠 「……!?」 ハッ 「ちょっ、待ってください! お父さん……――」

親父さん 「――いやいや、リズたまから聞いてるんだよ。リズたまったら嬉しそうにさー」


―――― 理珠 『そうそう。関城さんも合格したんですよ。同じ大学です!』

―――― 理珠 『友人がひとりもいないかもと不安でしたが……』

―――― 理珠 『関城さんがいてくれて良かったです。春からが本当に楽しみです!』


親父さん 「なんて言っててさ……」 シミジミ

理珠 「っ……///」

紗和子 「お、緒方理珠が、そんなことを……///」

親父さん 「いや、ほんと、リズたまの友達でいてくれてありがとうな、紗和子ちゃん」

親父さん 「これからもリズたまのことをよろしくな」

紗和子 「は、はい! 任されました! 緒方理珠のキャンパスライフは私が守ります!」

親父さん 「うんうん。これで俺も安心だ」

674以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:09:40 ID:8/XR1gKQ
親父さん 「……ってことで、俺はこれで失礼――」

――――ガシッ

理珠 「……お父さん」

親父さん 「ひっ!? リズたま……? 腕を掴んでくれるのは嬉しいが、ちょっと痛……」

ギリギリギリ……!!!!!

親父さん 「痛っ!? めちゃくちゃ痛い!?」

理珠 「うどんの打ち過ぎもそうですが、私の話を勝手に関城さんにして……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 「許せません。お母さんに一度怒られてください」

ズルズルズル……

親父さん 「いや、ちょっと、リズたま!? せっかくママにはバレないと思ったのに!?」

親父さん 「あ〜〜〜〜…………」 ズルズルズル……

真冬 「………………」 ポカーン 「……なんというか、すごいお父様ね」

紗和子 「………………」 ポーーー…… 「……緒方理珠が、私に、いてくれて良かったって……」

紗和子 「……えへへ」

675以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:10:14 ID:8/XR1gKQ
真冬 「………………」

フッ

真冬 「……良かったわね、関城さん」

紗和子 「……はい。あの、先生」

真冬 「? 何かしら?」

紗和子 「……ありがとうございます」

紗和子 「先生のおかげで、緒方理珠ときちんとお話することができました」

紗和子 「本当にありがとうございました」

真冬 「……ええ。どういたしまして」

理珠 「……まったくもう。お父さんは」 プンプン

紗和子 「あっ、お帰りなさい、緒方理珠。お父様は?」

理珠 「お母さんに預けてきました。今頃お説教されていると思います」

676以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:11:19 ID:8/XR1gKQ
理珠 「ところで、関城さん、先生」

理珠 「実は、うるかさんと文乃と、泊まりで卒業旅行に行こうという話をしていまして……」

真冬 「あら、そうなの」

真冬 (……まぁ、教師としては、生徒の外泊はあまり推奨できないけれど)

真冬 (卒業旅行くらいで野暮なことは言えないわね)

理珠 「それでですね、もしよかったら、お二人も一緒に行きませんか?」

真冬 「……は?」

紗和子 「へ……? わ、私も?」

紗和子 「私も誘ってくれるの……?」

理珠 「? もちろん、嫌なら無理にとは言わないですが……」

紗和子 「い、いいい嫌なわけないわ! 行く! 絶対行くわ!」

紗和子 「高熱が出ても何があっても絶対に行くわ!」

理珠 「いや、高熱が出たら来ないでください」

紗和子 「……卒業旅行。緒方理珠と、卒業旅行。友達と……卒業旅行……えへへ」

真冬 「……えっと、緒方さん?」

677以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:11:56 ID:8/XR1gKQ
理珠 「? はい?」

真冬 「聞き間違いかしら? 私も……?」

理珠 「はい! さっき文乃と話したんです! 先生も一緒だったら、きっと楽しいですねって」

真冬 「っ……///」

理珠 「だから先生も、もしお嫌でないなら、一緒に行きませんか?」

真冬 「い……嫌、とかではない、けれど……」

真冬 (い、いいのかしら? 生徒たちの卒業旅行に、教員がついていくなんて……)

真冬 (さすがに言い逃れできない気がするけれど……でも……)


---- 『自分の気持ちに素直にな』


真冬 (……行きたい、と。私は、思ってしまっているのね)

真冬 「……学園長に、相談するわ」

真冬 「その上で、“引率” として許されるのであれば……」

真冬 「……私も、ご一緒してもいいかしら?」

理珠 「……!」 パァアアアアアア……!!! 「はい! ぜひ!」

678以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:12:48 ID:8/XR1gKQ
………………

紗和子 「それで、旅行の行き先はどこなの、緒方理珠?」

理珠 「あまり詳しくは決まっていないのですが、うるかさんと文乃はスキーがしたいと言っていました」

真冬 「ん……スキー? それなら、もしかしたら親戚のペンションを紹介できるかもしれないわ」

キャッキャ……

紗和子 「スキーなんて久しぶりだから楽しみね!」

理珠 「関城さんは本当に何でもできるんですね。すごいです」

紗和子 「ふ、ふふ」 ニヤァ 「……手取り足取り教えてあげるわ、緒方理珠」

理珠 「……なんか怖いので別の人に教わります」

紗和子 「なぜ!?」 ガーーーン

真冬 「………………」 クスッ (……よかった)

真冬 「……ねぇ、関城さん」 クスッ 「楽しみね、卒業旅行」

紗和子 「ん……」

紗和子 「……はい! 本当に楽しみです、桐須先生!」

おわり

679以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:13:40 ID:8/XR1gKQ
………………幕間1 『高熱』

紗和子 「ごほっ……げほっ……ごほっ……」

関城母 「あー……。まだ熱高いですね、紗和子さん」

関城母 「ゆっくり休んで早く治しましょうね」

紗和子 「うぅ……」

紗和子 「私も卒業旅行行ぎだがっだーーーーー!!!」

680以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:14:28 ID:8/XR1gKQ
………………幕間2 『お土産』 卒業旅行中 水族館

理珠 「むむむむ……」

真冬 「……? どうしたの、緒方さん。すごい顔ね」

理珠 「あ、先生。ちょっと関城さんへのお土産で悩んでいて……」

理珠 「関城さんはしましま模様が好きなので、しましまのぬいぐるみを買おうと思うのですが……」

理珠 「このキンチャクダイぬいぐるみとニシキアナゴぬいぐるみ、どちらがいいと思いますか!?」 バーーーン!!!

真冬 「そ、そうね、どっちがいいかしらね……」

理珠 「むむむむむ……」 ポン 「決めました。悩ましいですが、こちらのニシキアナゴにします!」

真冬 「そう。あの子はボーダーが好きなのね」 クスッ 「じゃあ、私はこのキンチャクダイにするわ」

理珠 「へ……?」

真冬 「……関城さん、卒業旅行すごく楽しみにしていたものね」

真冬 「せめてお土産だけでも渡して、喜んでもらいましょう、緒方さん」

理珠 「んっ……」 ニコッ 「そうですね、桐須先生!」

おわり

681以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:15:42 ID:8/XR1gKQ
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

682以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/24(金) 21:18:11 ID:A4ZqtiGY
おつ

683以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/26(日) 13:17:31 ID:S8lTMXwY
関城ママ導入はやいうまい嬉しい
イッチは単行本組から本誌組になったのかな

684以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/10(水) 05:27:57 ID:5oDpqj/k
乙でした!
久しぶりに覗きにきたら新作上がってて大歓迎です!

685以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:24:31 ID:XrL0W91.
>>1です。
長く間隔を開けてしまいました。
もし待っていてくださった方がいましたら申し訳ありません。
投下します。

眠り姫編の途中くらいからスタートです。


【ぼく勉】 水希 「お料理を教えてほしい?」

686以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:25:05 ID:XrL0W91.
………………“文学の森の眠り姫” 編中 唯我家

水希 「どうしたの、お兄ちゃん。急にお料理だなんて……」

水希 「本試験だって間近なのに……」

成幸 「いやな、ほら、古橋が俺をかばったせいでけがをしただろ?」

水希 「? うん、それは知ってるけど……」

成幸 「それで、俺が今身の回りのお世話をしに行ってるだろ?」

水希 「………………」

水希 「……ウン、ソウダネ」

成幸 (……今の間はなんだ?)

成幸 「それで、料理を作ったりもするだんだけどさ、あんまりうまく作れなくて……」

成幸 「だから、水希に料理を習って美味しいものが作れるようになったら、古橋もよろこんでくれるかな……って」

水希 「………………」

成幸 「だ、大丈夫か、水希。なんかすごい顔してるけど……」

687以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:25:51 ID:XrL0W91.
水希 (ふ、古橋さんめ……) ゴゴゴゴゴゴ……!!!

水希 (お兄ちゃんに身の回りのお世話をしてもらっているにとどまらず、手料理まで作ってもらってるなんて……!!)

水希 (古橋さんめ……!!)

成幸 「水希……? ダメ、かな?」

水希 (……でも、古橋さんは、お兄ちゃんのことを助けてくれたんだよね)

水希 (もし古橋さんが助けてくれなかったら、お兄ちゃんが落ちて、大けがしてたかもしれないし……)

水希 (……何よりお兄ちゃんに上目遣いでお願いされたら断れるわけないでしょー!!)

水希 「……いいよ」 ハァ 「お料理、教えてあげる」

成幸 「!? 本当か!?」 パァァァアアアア!!! 「ありがとう、水希!!」

水希 (……本当に嬉しそうな顔。よっぽど古橋さんに美味しいものを食べさせてあげたいのかな)

ズキッ

水希 (……ふんだ。べつに、お兄ちゃんは古橋さんに恩返ししているだけだもんね)

水希 (だからべつに、特別なことなんてないんだから……!)

688以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:27:16 ID:XrL0W91.
………………

成幸 「………………」

トン……トン……トン……

成幸 「……よし」

成幸 (自分で言うのもなんだが、食材はきれいに切れたぞ。最近古橋の家でごはんを作ってた成果だな)

水希 「………………」 ジーーーーーッ

水希 「……お兄ちゃん。ちゃんと切れてはいるけど、こうした方がもっといいかな」

スッ……トントントン……

水希 「お野菜とお肉に火を通す場合は、同じくらいの大きさにそろえた方がいいんだよ」

水希 「じゃないと、火の通り具合がまちまちになっちゃうでしょ?」

成幸 「ああ、なるほど。合理的だな……」

成幸 「食材を切るときは大きさをそろえる……と」 メモメモ

水希 (お兄ちゃんったら、メモまでとっちゃってマジメだなぁ)

水希 (……かっこいいなぁ) キュンキュン

成幸 「えーっと、たしか、煮込むまえに炒めるんだよな……」 スッ……

689以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:28:02 ID:XrL0W91.
水希 「お兄ちゃん、炒める順番を考えてね」

成幸 「ああ、肉とか固い野菜からだろ」

成幸 「だから、肉とにんじんとじゃがいもを先に……」

水希 「だーめ。じゃがいもはたしかに固いけど、火が通るとすぐ崩れちゃうんだから」

水希 「じゃがいもは最後だよ、お兄ちゃん」

成幸 「あ、そうか。そういえば古橋とふたりでカレー作ったときもそうだったような……」

水希 「む……」 (また古橋さん……) モヤモヤ

水希 「あとは、たまねぎだけ先に炒めて飴色にする場合もあるけど、今日はいいかな」

成幸 「ああ、メイラード反応の代表例だな」

成幸 「ちなみにあまり知られていないけど肉を焼いたとき色が変わるのも実はメイラード反応なんだぞ」

水希 「お兄ちゃん、お料理は得意じゃないのにそういうことは詳しいんだよね……」

水希 (まぁ、そういうところがかっこいいんだけど……えへへ)

水希 「さ、じゃあ炒めて、お兄ちゃん」

成幸 「おう!」

690以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:28:39 ID:XrL0W91.
成幸 「………………」

ジューーーー……

水希 「………………」 (……真剣な顔してお料理するお兄ちゃん、かっこいいなぁ)

成幸 「……のわっ! たまねぎがとんだ!」 アタフタアタフタ

水希 (慌てふためくお兄ちゃんもかっこいいし……)

成幸 「なぁ、水希、そろそろ水を入れたらいいかな?」

水希 (わたしに指示を求めるお兄ちゃんもかっこいい……)

水希 「うん。じゃあそろそろお水入れようか。こぼれないようにゆっくりね」

成幸 「ああ」

水希 「………………」

水希 (古橋さんは、毎日こんなお兄ちゃんを見てるんだよね)


―――― 『だから、水希に料理を習って美味しいものが作れるようになったら、古橋もよろこんでくれるかな……って』


水希 (……そしてきっと、たぶん)

水希 (これからもずっと、見ることになるんだろうな……)

691以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:29:39 ID:XrL0W91.
………………

葉月&和樹 「「うまーーーーーーーー!!!!」」

ガツガツガツガツ

水希 「ほら、葉月も和樹も、そんなに急いで食べないの」

成幸 「うんうん……」 モグモグモグ

成幸 「我ながら美味しくできたな」

水希 「うん、とっても美味しいよ、お兄ちゃん。すごいよ」

成幸 「まぁ、カレーはまえに一度作ってるからな……」

成幸 (……というか、市販のカレールーを使って、レシピ通りに作って美味しくできない方がおかしいんだよな)

水希 「じゃあ次は、もう少し難しいお料理にチャレンジしてみようか」

成幸 「ああ! よろしくな、水希!」

692以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:31:01 ID:XrL0W91.
………………数日後

成幸 「最近、古橋だけでなく親父さんも、俺の料理を美味しいって言いながら食べてくれるんだよ」

ニコニコニコ

水希 (お兄ちゃん、嬉しそうだなぁ……かわいいなぁ)

成幸 「この前作ったハムチーズサンドも古橋がすごく喜んでくれたんだ」

成幸 「あと特製スムージーも美味しいって……」

成幸 「ああ、あとな……」

ペラペラペラ……

水希 「………………」

水希 (……それはそれとして、最近古橋さんの話ばっかりだ)

成幸 「あ、そろそろ古橋の家に行く時間だ! じゃ、行ってきます!」

ビュン!!

水希 「あ、いってらっしゃい……って、もう行っちゃった」

水希 (学校お休みになったら、家にいる時間増えるかなって思ったけど)

水希 (……最近ずっと古橋さん家に行ってばっかり) ハァ 「……買い物でも行こ」

693以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:31:41 ID:XrL0W91.
………………買い物帰り

水希 (お兄ちゃん、今日も夕食は古橋さん家で食べるんだろうな)

水希 (古橋さんは、毎日お兄ちゃんと一緒にご飯食べてるんだよね)

水希 「………………」

水希 「……いいなぁ」

ハッ

水希 「!?」 (い、いけない。古橋さんがけがをしたのは、お兄ちゃんをかばったからなのに……)

水希 (“いいなぁ” なんて、そんなこと思っちゃだめだよね……)

水希 「………………」

水希 「……わたし――」


  「――本当に歩いて大丈夫か、古橋。けがに響かないか?」

 「大丈夫だってば。少しは動かないと逆に体に悪いって言われてるし」


水希 「!?」 (この声って……) サササッ

694以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:32:11 ID:XrL0W91.
成幸 「でも、まだあんまり歩きすぎない方が……」

文乃 「いやいや、近所のスーパー行くだけでしょ……」

文乃 「何度も言うけど、成幸くんは過保護すぎだよ」

成幸 「そうは言ってもな……」

水希 (やっぱりお兄ちゃんと古橋さんだー!!) コソッ

水希 (……って、何でわたし隠れてるんだろ)

成幸 「痛かったら言えよ? いつでもおぶるからな?」

文乃 「もーっ! だから大丈夫だって……とっ」

コケッ

成幸 「古橋!」

ギュッ……グイッ

文乃 「あっ……///」

成幸 「大丈夫か、古橋」

文乃 「ご、ごめん。ちょっと松葉杖引っかかっちゃって……」

文乃 「……ありがとう、成幸くん」

695以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:32:59 ID:XrL0W91.
成幸 「歩けるか?」

文乃 「うん。大丈夫」

成幸 「気をつけろよ。早く治さなくちゃ本試験にも響くからな」

文乃 「そうだね。気をつけるよ」

水希 「………………」

水希 (……うん。そう。わかってるんだ、わたし)

水希 (あのふたりがとってもお似合いのカップルだって)

水希 (……わかってる。わかってるんだよ)

水希 (でも、だからこんなに、悔しいんだよ……)

水希 「……わたし」

水希 「わたしだって……!」

水希 (もしお兄ちゃんが階段から落ちそうになったとき、そばにいたのがわたしだったら)

水希 (わたしだって絶対、古橋さんと同じことをしたのに……)

水希 「………………」

水希 (ああ、最低だ、わたし……)

696以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:33:45 ID:XrL0W91.
文乃 「今日の晩ご飯は何にするの?」

成幸 「何が食べたい? ……って聞いても、そんなにレパートリーはないけどな」

文乃 「ふふ。成幸くんが作ってくれるお料理、全部美味しいから悩んじゃうな」

成幸 「全部水希に教わった料理だけどな」

水希 (だめ、これ以上考えちゃ……)

水希 (だめなのに……)

水希 「………………」

水希 (もし、そのとき、お兄ちゃんのそばにいたのが、古橋さんじゃなくてわたしだったら)

水希 (……いま、お兄ちゃんの隣にいたのは、古橋さんじゃなくて、わたしだったのに)

水希 (わたしだったのに……!)

水希 「……る……い」


水希 「……ずるいよ、古橋さん」


水希 「………………」

水希 (……ああ) フルフル (本当に、わたし、最低だ)

697以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:34:29 ID:XrL0W91.
水希 (古橋さんはお兄ちゃんを助けてくれたのに)

水希 (そんな古橋さんに、わたし、“ずるい” なんて思ってる……)

水希 (わたし、なんて嫌な子なんだろう……――)


  「――――そうだよ! 水希ちゃん、すっごく良い子なんだから!!」


水希 「へ……?」

成幸 「わ、わかってるよ。水希は俺にはもったいないくらい良い妹だよ」

文乃 「もーっ! だからそれを声に出してちゃんと伝えてるの? って言ってるの」

成幸 「それは……」

成幸 「……あんまり、してないかも」

文乃 「でしょ? だから言ってるの」

成幸 「……すまん」

文乃 「わたしに謝っても仕方ないでしょ。ちゃんと水希ちゃんに……」

文乃 「……って、君にいつもお世話してもらってるわたしが、あんまり偉そうに言えることじゃないね。いつもありがとね、成幸くん」

成幸 「いや、それは全然、そもそも俺のせいだし……」

698以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:36:03 ID:XrL0W91.
文乃 「あっ、そうだ!」

文乃 「ねえ、わたしの足が治って、受験も終わったらさ、ふたりでお料理を作らない?」

成幸 「えっ……」 ドキッ 「ふ、ふたりで?」

文乃 「うん! それで、水希ちゃんに食べてもらうの」

文乃 「わたしは、成幸くん経由でいつも美味しいごはんをありがとう、って」

文乃 「成幸くんは、日頃の感謝を全部こめたらいいよ」

成幸 「ああ、それいいな」

成幸 「……夏にカレーを作ったときを思い出すな」

文乃 「そうだね。でも、今度は逆だよ、成幸くん」

文乃 「あのときはなんとかがんばって君にお料理を教えられたけど、」

文乃 「……今度は君が、わたしに教えてね、成幸くん」

成幸 「……ああ、任せとけ」

グッ

成幸 「なんてったって、俺は最高の妹から最高の料理を教えてもらってるからな」

文乃 「うん! ふたりで、水希ちゃんに美味しいお料理作ってあげようね!」

699以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:36:39 ID:XrL0W91.
水希 「………………」

水希 「……そっか」

水希 (うん、そうだ。わたし、悔しいんだ)

水希 (古橋さんにお兄ちゃんを取られちゃったみたいで、悔しいんだ。でも、それと同じくらい、思ってる……)



水希 (……今、お兄ちゃんの隣にいるのが、古橋さんでよかった、って)



水希 (……美味しいお料理、か)

クスッ

水希 (上等ですよ、古橋さん。せいぜいがんばって作ってください)

水希 (中途半端なものだったら、お兄ちゃんは絶対に渡しませんからね!)

おわり

700以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:37:28 ID:XrL0W91.
………………幕間1 眠り姫編エピローグ後『鏡に向かって』

水希 「………………」

ドキドキドキドキドキ…………

水希 (べ、べつに大した意味があることじゃないけど)

水希 (ただ、ちょっと試してみるってだけのことだけど……)

水希 「………………」

水希 「ふっ……文乃お姉ちゃん……///」

カァァァアアアアア………………

水希 「や、やっぱなし! こんな呼び方……///」 ハッ

文乃 「………………」

水希 「ふ、古橋さん!? いつから!?」

文乃 「……えっと、ごめん。水希ちゃんが鏡に向かって何かブツブツ言ってるから、心配になって……///」

文乃 「あー……」 オホン 「ふ、文乃お姉ちゃんだよー? なんちゃって……///」

水希 「あ゛ーーーーーーーー!!! 忘れて! 忘れてくださいー!!」

701以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:38:10 ID:XrL0W91.
………………幕間2 『お姉ちゃん記念日』

文乃 「成幸くん成幸くん!!」

成幸 「な、なんだ、文乃。そんなに息を切らして……」

文乃 「今日をお姉ちゃん記念日にするよ!」

成幸 「……は?」

文乃 「だから、今日をお姉ちゃん記念日にするって言ってるの! お姉ちゃん記念日!」

成幸 「えっと……」

水希 「あ゛ーーーー!!! 何でお兄ちゃんに言うんですかー! もーーーっ!!」

成幸 「水希までどうした!?」

文乃 「えへへ……/// “文乃お姉ちゃん” かぁ……///」

水希 「もーっ!! だから忘れてくださいってば!!!」

成幸 (まぁ、よくわからんが……)

成幸 (こうしてみると、本当に仲良し姉妹みたいだな) クスッ

おわり

702以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:38:48 ID:XrL0W91.
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
また投下します。

703以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 02:31:01 ID:Mjcjmj9E
新作感謝です!
やはり水文はいいなぁ

704以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 03:32:38 ID:f.2oOeYQ
おつ!

705以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 09:14:12 ID:9VrKvByM
あなたの作品が大好きです。
これからも頑張ってください!

706以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/06(木) 18:52:38 ID:/CR7VUKw
おつんこ
文系ルートほんとすこ

707以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/09(日) 02:43:32 ID:OoFNWP3g
来てるやん乙
19巻の発売が待ち遠しい…

708以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:52:46 ID:9adJZdO2
>>1です。
普段と環境が違うので文字化け等あるかもしれません。
投下します。
誰のルートでもないIfルートの話だと思っていただければと思います。

【ぼく勉】 成幸 「そういえば、先輩」 あすみ 「ん?」

709以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:53:34 ID:9adJZdO2
………………受験後

成幸 「この前、先輩のお父さん、言ってましたよね」

あすみ 「? 言ってたって、何だよ」

成幸 「いや、ほら……」


―――― 『言ってる通り 人生医者が全てじゃあない ……が まぁ やるだけやってみなさい』


成幸 「……って」

あすみ 「ん、ああ。そういやそんなこと言ってたな」

あすみ 「……けどそれがどうかしたのか?」

成幸 「いや、だって考えてみてくださいよ」

成幸 「あれってつまり、お父さんが先輩の夢を認めてくれたってことでしょう?」

あすみ 「……あー、まぁ、そういうことになるのか」

あすみ 「………………」

あすみ (……改めて言われるとハズいな)

710以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:54:51 ID:9adJZdO2
成幸 「それに、そもそももう受験も終わったわけじゃないですか」

あすみ 「まぁ、そうだな。おかげさまで無事国立医学部に入れたな」

成幸 「ということはですよ?」

あすみ 「ん?」

成幸 「もう、俺と先輩は、恋人のフリをする必要はないのでは……?」

あすみ 「へ……?」

あすみ 「………………」

あすみ 「……へぇ!? 何でそうなるんだ!?」

711以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:55:37 ID:9adJZdO2
成幸 「いや、だってそうですよね。そもそも俺が先輩の彼氏のフリを始めたのって……」


―――― 『な……なんか お前に免じて もうしばらく様子見てくれるってよ……』


成幸 「お父さんに医学部受験を認めてもらうためですよね。なら……」

成幸 「もうお父さんが先輩の夢を認めてくれていて、なおかつ先輩も無事医学部に合格できた今……」

成幸 「そこに俺が介在する必要はないのでは?」

あすみ 「……あ、えっと、いや、まぁ……」

フラフラフラ……

あすみ 「……そりゃ、そうっちゃ、そうかもしれんけど、な?」

成幸 「……?」 (先輩どうしたんだろ。なんか目ぐるぐる回ってるし、急に足下もおぼつかなくなったぞ……)

712以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:56:39 ID:9adJZdO2
あすみ 「い、いや、でもな。ほら、実はウソでしたー! なんてやったら、親父の奴烈火の如く怒るぞ、きっと」

成幸 「それはそうでしょうけど、仕方ないんじゃないですか? ウソをついたのは事実なわけですし」

成幸 「いつまでもウソをついているのも気が引けるので、こうなった以上、ちゃんと謝りましょう」

あすみ 「……あー、うん。まぁ、そうだな」

あすみ 「………………」

あすみ 「いや、でも、もう少しだけ、この恋人のフリ、続けちゃダメか?」

成幸 「へ? 何でですか?」

あすみ (……このヤロウ。本当に疑問しかないような顔しやがって)

あすみ 「いやー、親父はお前のこと相当気に入っちゃってるからさー」

あすみ 「今ウソでした、なんて言ったら、怒るどころかヘコんじまうと思うんだよな」

あすみ 「……きっと来年度から、診療所の土日営業もできないくらいに」

成幸 「へぇ!? それは大変だ。なら……」

あすみ 「お、おう。だから……――」

成幸 「――……なおのこと、早く、ウソだって告白しないとですね!」

あすみ 「何でそうなる!?」

713以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:57:37 ID:9adJZdO2
成幸 「へ? だってそうでしょう? 今の段階でそんなにショックを受けるんだったら、」

成幸 「できるだけ早く早くウソを告白して、ショックから立ち直ってもらって、来年度もちゃんと診療所をやってもらわないと!」

あすみ 「……あー、うん。そうだな。そうだよな。お前はそういう奴だよな」

成幸 「? 先輩?」

あすみ 「いや、でも、ほら、愛憎ってのは表裏一体だからな。親父はお前のことを気に入ってはいるが……」

あすみ 「アタシがお前と結婚するって思い込んでるくらいだから、それがウソだって分かったら……」

あすみ 「……アタシとお前を八つ裂きにするくらいには、怒るかもなぁ」

成幸 (さっきから怒るって言ったりヘコむって言ったり、どっちなんだろう……)

成幸 「それくらいは覚悟の上です。大切なお嬢さんについて騙していたも同然なんですから」

成幸 「誠心誠意謝ります。その上で、殴られることもやむなし、と……」

あすみ 「……い、いやいや!? さすがに親父も巻き込まれただけのお前を殴ったりはしないと思うぞ!?」

成幸 「……?」 (八つ裂きにするかもとか言ってたのに……)

714以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:58:08 ID:9adJZdO2
成幸 「……先輩」

あすみ 「な、なんだよ」

成幸 「さっきからちょっと様子が変ですよ? 言ってることも支離滅裂だし、どうかしたんですか?」

成幸 「そんなにお父さんに怒られるのが怖いんですか?」

あすみ 「いや、そんなことはねーけど……」

あすみ 「………………」

あすみ 「……なぁ、後輩」

成幸 「はい?」

あすみ 「お前は、そんなに嫌かよ。アタシと、恋人のフリするの……」

成幸 「へ?」

カァアアアア……

成幸 「い、いえ、嫌とか、そういうわけではないですけど……」

あすみ 「……じゃあ、いいじゃねーか」

あすみ 「いつか、親父にはウソだって言うよ。でも、今じゃなくてもいいだろ?」

あすみ 「……この関係、もう少し続けちゃ、ダメか?」

715以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:00:02 ID:9adJZdO2
成幸 「………………」

フルフル

成幸 「……いえ、やっぱりダメです」

あすみ 「!? な、なんでだよ……」

成幸 「これ以上ウソをつき続けるわけにはいきませんし、何よりこのままじゃ……」

成幸 「………………」

あすみ 「…… “このままじゃ" なんだよ」

成幸 「……いえ、なんでもないです。とにかく、早く親父さんに謝りに行きましょう」

あすみ 「っ……」

あすみ 「そ、そうかよ! わかったよ! そうするよ!」

あすみ (“このままじゃ” ……)

ハッ

あすみ (“このままじゃ、好きな相手と付き合うこともできない” とかか……?)

あすみ 「っ……」 ズキッ (……んだよ、後輩の野郎)

716以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:01:37 ID:9adJZdO2
………………小美浪家

宗二朗 「………………」

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

宗二朗 (娘とその恋人が神妙な顔をして尋ねてきて、“大事な話がある” ときたものだ……) ドキドキドキドキ……

宗二朗 (こ、これは期待してもいいのだろうか……)


―――― 成幸 『お父さん、娘さんを僕にください!!』

―――― あすみ 『親父! アタシたちは本気だ! 頼む!』


宗二朗 (こんな感じの展開をパパ期待しちゃってもいいのかしら!? いや、それとも……)


―――― 成幸 『じ、実は、娘さんのお腹の中には僕の子どもが……』

―――― あすみ 『無責任なことをするつもりはねぇ! アタシはこいつとこの子を育てる!』

―――― 成幸 『だから娘さんを僕にください!』


宗二朗 (こんな感じのを期待しちゃってもいいのかーーー!?)


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