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【ぼく勉】 文乃 「今週末、天体観測に行くんだよ」

581以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:26:16 ID:cJVSX9MM
………………幕間1 「裏で」

智波 「ってことで、うるかに頼まれたんだけど、陽真くん、唯我くんのこと初詣に連れ出せる?」

陽真 「それくらいならお安いご用だよ。成ちゃんにも息抜きが必要だし」

智波 「でも、ごめんね、陽真くん。ふたりきりで初詣できなくなっちゃって……」

陽真 「気にしなくていいよ。俺は、友達を大事にする智波ちゃんが大好きだよ」

智波 「陽真くん……」

ギュッ

智波 「わたしも、そんな陽真くんが大好き……///」

あゆ子 「……うん、色々言いたいことはあるが、」

奏 「とりあえず俺らがいないみたいな空気で話を進めるのはヤメロ」

582以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:26:53 ID:cJVSX9MM
………………幕間2 「採算」

牧上 「でも店長、うちの店、振り袖三着セットもあったんですね。私見たことないですけど」

烏丸 「当然よォ。だって、緒方さんに三人分の着付けとレンタルをお願いされてから買ったんだもの」

牧上 「へ……?」

烏丸 「京都から取り寄せた最高級の振り袖よォ。ふふふ、それをしっかりと着こなすあの三人の行く末が怖いわァ……!」

牧上 「………………」

烏丸 「……? 牧上さん?」

牧上 「店長……」

クワッ

牧上 「久々のお客さんなのに、完全に赤字じゃないですかーーーーー!!」

牧上 「ただでさえ閑古鳥が鳴いてるのにーーー!! どうやって年を越すんですかもぉおおおおおおお!!!!」

おわり

583以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:29:00 ID:cJVSX9MM
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

年末に間に合えばよかったのですが無理でした。
今年も読んでもらえると嬉しいです。

また投下します。

584以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 21:22:26 ID:M8JcjeDk
乙です、次も期待しています

585以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 22:49:40 ID:8j7WrGb.
おつぞ

586以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/03(金) 00:18:36 ID:0mZtDmLA
おつ

587以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:20:22 ID:i657rC06
>>1です。投下します。

>>474さんリク書きました。


【ぼく勉】 蝶野 「あなたが感謝してくれたから」

588以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:20:58 ID:i657rC06
………………三学期 蝶野家 朝

蝶野 「………………」

パチッ

蝶野 「………………」

リリリリリリリリリリ……!!!!

……カチャッ

蝶野 「………………」

蝶野 (……三学期、三年生は自由登校)

蝶野 (いつものくせで、目覚ましをかけてたみたいっスね)

蝶野 (目覚ましがなかったところで、結局その前に目が覚めてるんだから、習慣ってすごいっス……)

蝶野 「………………」

蝶野 (受験生としては、さっさと起きて勉強をするべきっスけど……)

蝶野 (……とりあえず、SNSでも見て、と……って、うわっ)

589以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:21:28 ID:i657rC06
………………タイムライン

「バタフライフィールドの占いが更新されなくなって早数日……」

「バタフライフィールドの占いがないと不安で会社に行くのが怖いです」

「お願いだから早く復活して!」

………………

蝶野 「あー……」

蝶野 「………………」

蝶野 (……見なかったことにして、ネットニュースでも、っと……わっ)

………………ネットニュース

【速報】バタフライフィールドのブログコメ欄、オーバーフロー

【悲報】テレビ局も困り果てた!? バタフライフィールドはどこへ!?

………………

蝶野 「………………」

蝶野 (……冬休みに入ったから更新お休みしてたらすごい騒ぎになってるっスね)

蝶野 (テキトーにやってるだけなのになぁ)

590以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:24:10 ID:i657rC06
蝶野 「………………」

ポチポチポチポチ……ピッ

蝶野 「……まぁ、これで文句はないっスかね……――」

――――ピロンピロンピロンピロンピロン!!!!!

蝶野 (こ、コメントがすごい勢いで増えているっス……)

蝶野 (こんなことで感謝感激されるとは、なんともはや……)

蝶野 「………………」

蝶野 (……まぁべつに、悪い気はしないっスけど)

蝶野 「………………」

蝶野 (目、覚めちゃったし……)

蝶野 (久しぶりに学校にでも行ってみるっスかね……)

591以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:26:00 ID:i657rC06
………………

 一年生の、晩秋の頃のことだっただろうか。

 『おはよ、蝶野さん』

 『おはようっス、古橋さん』

 その人は、百人中百人が認めるであろう、美しい女性だった。

 同級生で同性の自分すら――いや、きっとクラスメイト全員が見惚れるくらい、美しい女性だった。

 『今日も冷えるね。冷え性だから困っちゃうよ』

 『午後から雨みたいっスよ。だからもっと寒くなるかもしれないっスね』

 『ええっ!? 雨なの!? 天気予報で言ってなかったから傘持ってきてないや……』

 『あー……』

 いらないことを言ったと思った。

 私は、天気予報なんて見てはいない。なんとなく、分かるから言っただけだ。

 私にはなんとなく分かる。見える。午後、雨が降ることが。

 自分でも気味が悪いことだが、分かるのだ。

 自分でも気味悪く思えることを、どうして言ってしまったのだろう。

592以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:26:40 ID:i657rC06
 『雨、降るのかぁ……』

 『あ、いや、天気予報で降らないって言ってたなら、降らないかも……――』

 『――よしっ! いまのうちに職員室で傘を借りてこよう! 降り出してからじゃみんな殺到するもんね!』

 『へ……? いや、でも、天気予報では降らないって……』

 『信じるなら、天気予報なんかより友達の言葉でしょ』

 その人は、あっけらかんとそう言った。

 『じゃ、職員室行ってくるね、蝶野さん』

 『あ、は、はいっス……』

 その人は、職員室に向かう素振りを見せたかと思えば、パタリと立ち止まり。

 『あ、言い忘れることだった。

 その美しい顔で、咲った。

 『雨のこと教えてくれてありがとね、蝶野さん』

 その笑顔を、きっと、私は一生忘れないだろう。

 本当に本当に美しかったのだ。

593以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:27:27 ID:i657rC06
………………通学路

蝶野 「………………」

蝶野 (……二年以上も前のことっスね)

蝶野 (それから、かしまんといのぽんとも意気投合して、いばらの会を作ったんスよね)

蝶野 (あの人の笑顔を曇らせたくないから。あの人を、近くで見守るために)

蝶野 (でも、あの人は……)

蝶野 「………………」

蝶野 (……段々と、笑わなくなっていった)

594以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:28:15 ID:i657rC06
………………

 『おはよう、蝶野さん』

 『あ、おはよっス、古橋さん』

 それは表面的には何も変わらず訪れた、些細な変化だ。

 疲れるような、辛いような、苦しいような。

 そのどれとも違うような、複雑な何かが見えた。

 私には、猪森さんのように、超常的な何かを見る力はない。

 けれど、なんとなく、行く末が見える。

 なんとなく、雨が降る、だとか。なんとなく、よくないことが起こる、だとか。

 目の前に相対した人の、少し先が、漠然と見える。

 『……大丈夫っスか、古橋さん』

 『へ? 何が?』

 その人は、出会った頃と変わらない笑顔で、あっけらかんと言った。

 『大丈夫だよ。元気も私の取り柄の一つだからね!』

595以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:29:13 ID:i657rC06
 『っ……』

 その瞬間、見えた。

 見えてしまった。

 その人が――美しいその人が、苦悶の表情を浮かべ、涙する姿が。

 その人の将来に、良くないことが――とても良くないことが起こる、その未来が。

 『そ、そうっスか。なら、良かったっス……』

 けれど、私はそれ以上何も言えなかった。

 何を言っても、力になれないと思ったから。

 そのときから、そう。

 私は、ずっと。

  ((助けて))

 待ち続けていたのだろう。

  ((誰か、この美しい人を、助けて))

 彼女に手を差し伸べてくれる、王子様のような人が、現れるのを。

596以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:30:14 ID:i657rC06
………………通学路

蝶野 「………………」

蝶野 (……で、また、なんというか、タイミングが良いというか悪いというか……)

成幸 「……ん? あ、えっと、蝶野……で合ってるか?」

蝶野 「おはようっス。合ってるっスよ。古橋さんのクラスメイトの蝶野っス」

成幸 「おう、おはよ。自由登校なのに朝早くに登校とは感心だな」

蝶野 「そっちも同じじゃないっスか」

成幸 「せっかくだし学校まで一緒していいか?」

蝶野 「それはまぁ、構わないっスけど……」

蝶野 「大丈夫っスかね? 唯我ファンに刺されたりしないっスか?」

成幸 「ははっ、なんだそりゃ。俺のファンなんか俺の弟妹くらいだから安心していいぞ」

蝶野 (半分冗談半分本気だったっスけど、本当に無自覚っスね、この人……)

蝶野 (あなたの周りの女子、ほとんどあなたのファンっスよ)

蝶野 (……って言っても、信じないっスよね)

蝶野 (うちの姫も含めて、みんなあなたのファンっスよ。まったく……)

597以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:31:14 ID:i657rC06
………………

 三年生に上がってすぐのときだ。

 その人は、とある男子生徒と出会った。

 その人にかかっていた、暗い暗い何かが、少し晴れて見えた。

 少しずつ、本当に少しずつだけれど、暗い何かが減っていくのが分かった。

 それと同時に、その人の未来が、少しずつ変わっていくのが分かった。

 相変わらず暗い未来だったけれど、明確に変わった。

 その人が、ひとりきりではなくなった。

 どんなに苦しいことや辛いことがあっても、誰かが一緒にいてくれるような、そんな未来。

 そして、数ヶ月が経ったある日。

 それは、劇的に変化した。

 ピカピカと光り輝いて見えた。

 元々美しかったその人が、なお一層輝いて美しく見えた。

598以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:32:43 ID:i657rC06
 『何かいいことでもあったっスか?』

 私は、思わずそう聞いていた。

 『えっ? い、いいことって、べつに……』

 その人は、逡巡した後、こっそりと教えてくれた。

 『……実は、お父さんと仲直り……ってわけじゃないけど、なんていうか……』

 『少し、腹を割ってお話できたんだ。進路も認めてくれるって言ってくれて……』

 『あとは、成幸くんが……』

 『……って、これは絶対言っちゃダメな奴だ! 今のなし! なしだからね、蝶野さん!』

 ああ、もう結果なんてわざわざ言うまでもないだろうけれど。

 その人の未来は、決定的に変わっていた。

 私には、たしかな未来は見えない。はっきりとした何かは見て取れない。

 占いのようなものだ。不定形の、もやのようなカタチでしか分からない。

 けれど、その人の未来が、美しく切り替わったのだけは、分かった。

 きっと夢を叶え、多くの人に囲まれて、幸せに生きているであろう未来が、見えたのだ。

599以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:33:27 ID:i657rC06
………………通学路

蝶野 「唯我さんは、今日はどうして登校するんスか?」

成幸 「ん、ああ、今日は古橋と約束があるんだよ。センター前の最終確認だな」

成幸 「センターまで十余日。あんまり猶予はないけど、最後までできることはしてやりたいからな」

蝶野 「………………」 クスッ 「……まじめっスねぇ」

成幸 「悪かったな。俺はどうせ、ガリ勉しか能がないつまらない男だよ」

蝶野 「そんなこと言ってないっスよ」

ニコッ

蝶野 「唯我さんはカッコ良くて、頼りになるって思ってるっスよ。本当に」

成幸 「っ……」

成幸 「そ、そうかよ……」 プイッ

成幸 (お世辞でも同級生にカッコいいとか言われると、照れるな……)

蝶野 「………………」

蝶野 (……そう、本当に)

蝶野 (本当にそう思ってるっスよ、唯我さん)

600以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:34:35 ID:i657rC06
………………

 ―――― 『雨のこと教えてくれてありがとね、蝶野さん』

 あの日、あなたの笑顔が嬉しかったから、占いも始めた。

 ブログで発信したら、たくさんの人が喜んでくれて、良かったと思った。

 私にたくさんのものをくれたあなたのために、恩返しがしたいと思った。

 あなたが好きな――きっとあなたを救ってくれたのであろう、彼と。

 末長く結ばれてほしいと思った。

 でも、残念。

 私には、はっきりとした未来は見えない。

 だから、あなたの好きな彼の未来を占っても、やはり幸せそうな姿しか、見えない。

 その隣に立っている、誰かの正体までは、分からない。

 けれど、ああ、願わくは。

 彼の隣で立っている誰かが――彼の手を取る誰かが、あなたであることを。

 あなたが彼の隣で、幸せになることを。

 おわり

601以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:35:17 ID:i657rC06
………………幕間 「似た者父娘」

文乃 「………………」

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

文乃 「……!? バタフライフィールドのブログが更新された!?」

零侍 「何!? それは本当か、文乃!?」

文乃 「よ、良かったよぅ。最近これを見ないと少し不安だったから……」

零侍 「ああ、本当に良かった。私もこれがないと不安でな……」

 父娘そろってすっかりバタフライフィールドにハマってました。

おわり

602以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:39:35 ID:i657rC06
>>1です。

完全な妄想です。私の脳内で補完した内容が大変多いです。
不快に思われた方がいたら申し訳ないことだと思います。

3-Aの生徒ほぼ全員が古橋姫の見た目の美しさだけに心酔しているとは思えないので、
きっと皆何かしら古橋姫の内面の美しさに触れる機会があったのだろうなと思っています。
かしまんもいのぽんも、きっとそうだと思っています。


あとすみません、今回のSSと関係ないですが、ひとつ前の理珠さんの話ですが、
皆さんお分かりと思いますが原作123話の直前のつもりです。
理珠さんのイメチェンには、絶対に烏丸さんが関わってるだろうと踏んだ私の妄想です。


また投下します。

603以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:55:23 ID:bSUr.7/U
おつ

604以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 03:18:12 ID:70dsccVA
おつです

605以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 10:59:55 ID:mnBZANRY
ええな

606以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/14(火) 02:06:38 ID:ot7Jjn3M
蝶野さんにこんな裏設定があってもいいよね

607以下、名無しが深夜にお送りします:2020/02/27(木) 18:51:33 ID:89TR1vm2
前々スレから全部読ませて頂きました、最高です
水希ちゃんをこんなにも天使に描いてくれて本当にありがとうございます

608以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/10(火) 00:11:49 ID:HnGnPGK6
今週の成幸の告白凄く良かった

マルチエンドには関城さんや美春も含まれてて欲しいな

609以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/10(火) 14:43:44 ID:4grvA.BE


610以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/10(火) 16:30:52 ID:HFd6/XeA
イッチの美春さん長編ほんとすこ
よくできた映画一本観たくらいの充実感ある

611以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/11(水) 01:33:09 ID:jh6ojSss
本編パラレルええな

612以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:04:35 ID:7Jz2yKsQ
>>1です。投下します。

数ある世界線の中でアニメ時空に一番近い世界線と思っていただければ幸いです。


【ぼく勉】 あすみ 「誕生日をあなたと」

613以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:05:49 ID:7Jz2yKsQ
>>1です。投下します。

数ある世界線の中でアニメ時空に一番近い世界線と思っていただければ幸いです。


【ぼく勉】 あすみ 「誕生日をあなたと」

614以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:06:55 ID:7Jz2yKsQ
………………大学 ガイダンス

 『――……えー、つまり、皆さんはまだ学生ではありますが、もう医者としての一歩を踏み出しているのです』

 『生半可な学生気分は己を殺します。そして、その先には患者を殺してしまう未来があります』

 『気を抜くことなく勉学に励みなさい。そうでないと、本当に将来患者を殺すことになりますよ』

あすみ 「………………」

あすみ (……さすが、国立医学部。言うことが厳しいな)

あすみ (教員だけじゃない。周りの新入生も皆まじめに話を聞いている)

あすみ (予備校とは全然雰囲気が違うな……)

あすみ 「………………」

あすみ (……アタシも頑張らねーとな)

615以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:07:54 ID:7Jz2yKsQ
………………帰り道

あすみ 「……はぁ」

あすみ (高いとは聞いてはいたけどな)

あすみ (まさかあんなにかかるとは。教科書代……)

あすみ (がんばって貯めたバイト代がかなり吹き飛んだな)

あすみ (……んー、勉強がんばるのは当然としても、)

あすみ (バイトも今まで以上にやらないと、こりゃ後期の学費と教科書代が怪しいぞ)

あすみ (受験なんか比じゃないくらい忙しくなりそうだな……)

あすみ 「………………」


―――― 『受験が終わったら……』


あすみ (……あんな風に言ってたのが遠い昔のことみてーだ)

あすみ (いかんいかん。せっかくやりたいことができるようになったんだ)

あすみ (勉強が忙しかろうと、バイトが忙しかろうと、アタシが望んだことなんだから)

あすみ (アタシががんばらねーとダメだろ)

616以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:08:35 ID:7Jz2yKsQ
あすみ (今日は、後輩が家に来る日)

あすみ (……たぶん、最後になるであろう後輩との時間)

あすみ (いつまでも後輩を頼りにするわけにはいかないし、)

あすみ (後輩に彼氏のフリをしてもらう必要も、もうない)

あすみ (……もう、ない)

あすみ 「………………」

あすみ 「……べつに、だから何だってわけじゃないけどさ」

あすみ 「……早く帰ろ」

617以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:10:47 ID:7Jz2yKsQ
………………小美浪家

かすみ 「はーい、唯我君。あーん」

成幸 「いや、あの、自分で食べられるんで……」

かすみ 「もーっ。彼女の母親にそんなに照れちゃって。可愛いなぁ」

かすみ 「そんなんじゃまたあすみちゃんにからかわれちゃうぞ〜?」

かすみ 「ってことで、はい、あーん……」

成幸 「いや、だから……って」 ハッ

あすみ 「………………」

成幸 「せ、先輩!?」

かすみ 「あら、あすみちゃん。おかえりなさーい!」

かすみ 「いま、唯我君と母子水入らずのスキンシップ中だったの」

かすみ 「あすみちゃんも混ざる?」

あすみ 「……混ざる? じゃねー! 何やってんだババアー!」

かすみ 「きゃーっ。あすみちゃんが怒った〜」

618以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:11:21 ID:7Jz2yKsQ
………………

あすみ 「……ったく、あのバカ親」 ブツブツブツ

成幸 「あ、あの、先輩……」

あすみ 「お前もお前だよ、まったく」 ブツブツブツブツ

あすみ 「人の母親にデレデレしやがって……」

成幸 「すみません。いや、デレデレしてるつもりはなかったんですが……」

あすみ 「………………」 ジロリ

成幸 「……人のお母さんにデレデレしてすみませんでした」 ドゲザー

あすみ 「……ふん」

あすみ 「………………」 (……これじゃダメだ。せっかく、最後なのに)

あすみ 「……そんなことより、お前、家に来るの随分早かったな」

あすみ 「約束の時間はまだだろ」

619以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:12:03 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「……はい。ちょっと早めに来る必要があったので」

あすみ 「?」

成幸 「すみません、先輩。今日はガイダンス後の勉強計画立て……の予定でしたけど」

成幸 「実は少しウソついてました」

あすみ 「……ウソ?」

成幸 「すみません、先輩。とりあえず、何も聞かずについてきてもらえませんか?」

あすみ 「……?」

620以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:12:46 ID:7Jz2yKsQ
………………High Stage入り口

成幸 「………………」

あすみ 「お、おい、後輩。何も聞くなとは言うけどな……」

あすみ 「何でハイステージに来たんだ? 今日はバイト入ってねーだろ」

あすみ 「っていうか、今日は休店日だって店長が言ってたし……」

成幸 「……まぁ、休店日というよりは、貸し切りが正しいですかね」

あすみ 「後輩……?」

成幸 「じゃ、皆さん、入りますよー!」

ガチャッ

成幸 「……さ、どうぞ、先輩」

あすみ 「どうぞって、お前、一体……」

パン……パンパンパン!!!!


 『お誕生日おめでとーーーーー!!!!』


あすみ 「……!?」

621以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:13:31 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「へ? へ? へ?」

マチコ 「あしゅみー戸惑ってる。可愛いー!」

ヒムラ 「意外と想定外のことに弱いよね、あしゅみーって」

ミクニ 「ほら、あしゅみーこっち向いてこっち向いて」

パシャリ

ミクニ 「はい、あしゅみーの戸惑い顔チェキもらいましたー」

あすみ 「お、お前ら、何で……? って……」


――――あしゅみー誕生日おめでとう!!――――


あすみ 「何だあの横断幕ー!?」

あすみ 「……ん? 誕生日?」

あすみ 「………………」

ハッ

あすみ 「……そ、そうか。そういやアタシ、今日誕生日か。だから誕生日会か」

マチコ 「今さらー!?」

622以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:14:05 ID:7Jz2yKsQ
店員 「さ、さ、あしゅみーのアネゴ。こっちです」

店長 「お誕生日席はこっちだ、あしゅみー。唯我君、同伴ご苦労だったな。ありがとう」

成幸 「いえいえ。俺も先輩にはお世話になってますから」

あすみ 「お、おい、後輩。これ、どういうことだよ」

成幸 「すみません、先輩。サプライズだったので、結果的に嘘つくことになっちゃいましたけど」

成幸 「ハイステージの皆さんが、先輩を驚かせたいとがんばっていたので、協力しちゃいました」

理珠 「私たちもいますけどね」

文乃 「そうだよー、成幸くん! わたしたちも飾り付けとかお料理とか手伝ったよー!」

うるか 「文乃っちは早々にキッチン出禁になってたけどね」

あすみ 「のわっ!? お前らまで!?」

文乃 「成幸くんから先輩のサプライズ誕生日パーティをするって聞いたので」

うるか 「ならあたしたちも混ぜてもらわないとだよねー! って」

理珠 「はい。私たちも、先輩にたくさんお世話になりましたから」

あすみ 「お前ら……」

あすみ 「……ん?」

623以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:14:54 ID:7Jz2yKsQ
真冬 「………………」 コソコソコソ

あすみ 「……先生?」

真冬 「っ……」 ビクッ

あすみ 「何してるんですか、そんな隅っこで……」

あすみ 「……っていうか、何でメイド服着てるんですか」

真冬 「ふっ、不可! その質問は不許可よ、小美浪さん」

マチコ 「真冬ちゃんはねー、ふふふ〜♪」

マチコ 「たまたま店の前を通りかかったところを捕まえちゃいましたっ」

あすみ 「捕まえちゃいましたっ、じゃねーよ。えげつないことしやがって……」

あすみ 「すみません、先生。アタシの誕生日会になんかに巻き込んで……」

真冬 「……べつに、巻き込まれたとは思っていないわ」 プイッ

真冬 「……お誕生日おめでとう、小美浪さん」

あすみ 「あっ……」 クスッ 「ありがとうございます、真冬ちゃん」

真冬 「なっ……」 カァアアアア…… 「そ、その呼び方はやめなさいと何度も……!!」

624以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:16:03 ID:7Jz2yKsQ
マチコ 「さささー、それじゃこの辺で本日のメインイベント、いってみよー!」

ドーーーーン!!!!

ヒムラ 「みんなでがんばってこしらえて誕生日ケーキのろうそくに火をつけてー」 シュボボボ!!!

ミクニ 「電気を消してー!」 パチパチパチッ

あすみ 「ろうそくが二十本……。そっか、アタシももう二十歳か……」

〜♪

 『ハッピーバースデー♪ トゥ、あしゅみー♪』

あすみ 「ん……」

フゥ……

 『おめでとー!!!』

パチパチパチパチパチパチパチパチ……!!!!!

………………………………

………………

625以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:18:07 ID:7Jz2yKsQ
………………

マチコ 「はい、あしゅみー。これ、わたしたちからのプレゼント」

ミクニ 「図書カードだよ。これから色々入り用になるでしょ」

ヒムラ 「がんばって立派な女医になって、ハイステージに本物の女医として君臨してくれ」

あすみ 「はは……。ハイステで女医やれるかはわかんねーけど、ありがとな」

店長 「これは我々からだ」

あすみ 「……? これ、メイド服?」

店長 「新作だ。唯我君にも手伝ってもらってデザインした」

あすみ 「お、おぅ……」

店長 「これから勉強で忙しくなるとは思うが、たまにでいいから店に出てくれると助かる」

あすみ 「……はい、店長。アタシも、金は必要なんで、ぜひ」

626以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:18:46 ID:7Jz2yKsQ
うるか 「先輩、これはあたしからー!」

理珠 「私は、これを」

文乃 「お誕生日おめでとうございます、先輩」

あすみ 「お前らまで……。なんか悪いな。ありがとう」

真冬 「……私からも、つまらないものだけど」

あすみ 「先生まで!? ありがとうございます。今日の今日でよく準備できましたね……」

ワイワイワイ……

あすみ (……ったく。わざわざ誕生会なんて。アタシのガラじゃねーっての)

あすみ (みんな誕プレまで用意してくれて、なんか……)

クスッ

あすみ (……ちくしょう。嬉しいじゃねーか)

成幸 「……先輩」

あすみ 「ん? おう、後輩」

あすみ 「……ったく、何がサプライズだよ。騙しやがって」

成幸 「あはは、それはすみません。でも、嬉しかったみたいで良かったです」

627以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:19:22 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「なっ……」 カァアアアア……

あすみ 「……そりゃまぁ、こんな風に祝ってもらえりゃ嬉しいに決まってるだろ」

成幸 「まぁ、そうですよね」


―――― ((……たぶん、最後になるであろう後輩との時間))

―――― ((いつまでも後輩を頼りにするわけにはいかないし、))

―――― ((後輩に彼氏のフリをしてもらう必要も、もうない))


あすみ (……まぁ、残念でもあったけどな、なんて言えるわけもないよな)

成幸 「先輩、お誕生日おめでとうございます。これ、俺からのプレゼントです」

あすみ 「お前まで用意してくれたのか。悪いな……」

あすみ 「………………」

あすみ 「……開けてもいいか?」

成幸 「どうぞ」

あすみ 「ん……」

あすみ 「ノート……?」

628以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:20:05 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「はい。先輩が苦手な部分をまとめました」

成幸 「センターで間違えたところとか、二次試験で間違えたところとか」

成幸 「さすがに医学部の範囲は俺には分からないので、これが限界ですけど」

成幸 「大学の授業が始まる前に、一度目を通してもらうといいかなと思って」

成幸 「……たぶん、俺がもう先輩に教えられるようなことはないので、これが最後だと思いますけど」

あすみ 「っ……」

あすみ (最後、か……)

あすみ 「……ああ、そうだな。ありがとよ」

成幸 「あ、それと……」

スッ

成幸 「これはタダでもらったものですから、プレゼントとは言えないでしょうけど、どうぞ」

あすみ 「へ? これって……チケット……?」

629以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:20:42 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「あっ……ど、ドハっちゃんランドのチケット!?」

あすみ 「あのときの……?」


―――― 『お…… 大当たりぃぃ!!!』

―――― 『一等の…… ドハっちゃんランド御招待券プレゼントー!!』

―――― 『先輩が使ってください 有効期限半年ありますし 受験が終わってからでも行けますから』


成幸 「結局あのとき渡せてなかったので」 クスッ 「ぜひ行ってください」

あすみ 「あ、ああ、ありがとう」

あすみ 「………………」


―――― 『……たぶん、俺がもう先輩に教えられるようなことはないので、これが最後だと思いますけど』


あすみ (最後……)

あすみ (……は、嫌、だな)

ギュッ……

成幸 「……? 先輩?」

630以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:21:20 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「……な、なぁ、後輩」

成幸 「はい?」

あすみ 「たしかにお前は教育学部で、アタシは医学部で、全然違うし……」

あすみ 「アタシも、これ以上色々なことでお前に迷惑をかけるのは忍びないと思うし……」

あすみ 「……だから、勉強に関しては、このノートがきっと最後、なんだと思う」

成幸 「……?」

あすみ 「……でも、アタシは、」

あすみ (アタシは……)


―――― 『今度こそチューしとくか?』

―――― 『な? 冗談冗談♪』


あすみ (……アタシは)

あすみ 「……アタシは、お前と最後なのは、嫌だ」

631以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:22:13 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「先輩……?」

あすみ 「……だから、このチケットはいらない。お前が使えよ」

成幸 「へ? で、でも、先輩……――」

あすみ 「――……でも、ひとりで行くなよ。絶対……」

あすみ 「……絶対、アタシも誘えよ。一緒に、行くから……」

成幸 「あっ……」 カァアアアア…… 「は、はい。分かりました」

あすみ 「っ……」

カァアアアア……

あすみ (顔が、熱い。絶対真っ赤になってる。ああ、ちくしょう……)


―――― 『……アタシは、お前と最後なのは、嫌だ』


あすみ (な、何を恥ずかしい事を言ってんだ、アタシは……)

632以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:22:45 ID:7Jz2yKsQ
あすみ (……でも)

クスッ

あすみ (後輩に勉強を教えてもらうことが、これで最後でも……)

あすみ (後輩との時間が最後じゃないって、それだけで……)

あすみ 「……ああ、そうそう。ちなみに、後輩」

成幸 「? なんです?」

あすみ 「バカ親父は未だにアタシとお前の事ラブラブカップルだと思い込んでるからな」

成幸 「!? ま、まだ説明してなかったんですか!?」

あすみ 「えー? だってパパに説明して怒られるの怖いしー」 キャルーン

成幸 「あんたそんなキャラじゃないでしょ!?」

あすみ 「ま、ともあれ、だ」

ニコッ

あすみ 「だから、これからも恋人役、よろしくな、こーはい♪」

おわり

633以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:24:07 ID:7Jz2yKsQ
………………幕間 『バカ親父』

宗二朗 「!?」 キュピーンン

患者 「せ、先生!? どうかしましたか!?」

患者 「私のレントゲン写真、そんなに悪いですか!?」

宗二朗 「成幸君とあすみがイチャイチャしている波動を感じる!?」

患者 「へ……?」

かすみ 「はーい、宗二朗ちゃーん。今は診療中だからしっかりしましょうねー」

おわり

634以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:26:07 ID:7Jz2yKsQ
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

4月9日はあすみさんの誕生日なので、一応の完結を見たところで書きたいと思っていました。
ただ、冒頭で申し上げた通り、世界線はアニメが一番近いと思います。
うるかさんもしっかり日本にいます。

また投下します。

635以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:52:38 ID:K/dvYsUQ
おつ

636以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/11(土) 01:36:21 ID:yzip6BFw
いつも応援しています!楽しみで仕方ありません!
がんばってください!

637以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:31:15 ID:tZaPmrsM
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 文乃 「いつか君にお返しを」

638以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:39:13 ID:tZaPmrsM
………………古橋家

ガサガサガサ……

文乃 「……ふー」

文乃 「なんかまだまだ出てくる感じだね、お父さん」

零侍 「ああ。しばらく大掃除なんてしていなかったからな」

文乃 「家の収納に甘えてきたけど、そろそろ物が収まらなくなってきたし」

文乃 「せっかく今年は一緒に大掃除できるんだから、徹底的にいらないもの捨てちゃおうね、お父さん」

零侍 「……ん、ああ」


―――― 『……――だねっ、零侍くんっ』


零侍 「………………」 フッ 「……そうだな」

639以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:39:45 ID:tZaPmrsM
文乃 「それにしても……」

グチャァ……

文乃 「一度も見た事ないようなものまで出てくるのはなんなの……」

零侍 「ああ、その箱は昔私が買ってきたおもちゃだな」

文乃 「おもちゃ? じゃあ、これ私の……?」

零侍 「いや……」

パカッ

零侍 「……私は玩具に疎かったものでな。全部男児用だ」

零侍 「懐かしいな。静流にも呆れられたものだ……」

文乃 「……まぁ、旦那が一人娘のために買ってきたおもちゃがこれじゃ、ねぇ」

文乃 「これはロボット? こっちは戦隊物? これは……御面ライダー……?」

文乃 「まったくもう、お父さんはそそっかしいんだから……」


―――― 『まったくもう。零侍くんったらそそっかしいんだから』


零侍 「……ああ」

640以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:40:59 ID:tZaPmrsM
文乃 「……ふふ、でも」

零侍 「?」

文乃 「昔のわたしのために買ってきてくれたんだよね。ありがとう、お父さん」

零侍 「ん……あ、ああ……」

零侍 「……呆れ方からお礼の言い方まで、どんどん似ていくものだ」

文乃 「? なんか言った?」

零侍 「いや、なんでもない。作業に戻ろう」

零侍 「この収納から出てくるものはほとんどゴミでよさそうだな」

零侍 「む……。これは古着か。お前のものだな」

文乃 「わー、懐かしいー! これお気に入りだったワンピースだ!」

文乃 「えへへ。これ、お母さんと一緒に買ったやつだよ。お母さんとおそろいなの!」

文乃 「お母さんの方もある! 懐かしいな……」

零侍 「………………」

641以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:41:48 ID:tZaPmrsM
零侍 「……もうサイズ的に着られる服はなさそうだが、どうする?」

文乃 「? どうするって?」

零侍 「静流との思い出が残っているのだろう? 残しておくか?」

文乃 「………………」

フルフル

文乃 「……ううん。もう着られないものを残しておいても仕方ないよ」

文乃 「思い出は、頭の中に残ってるよ。だから、これはもういらないんだ」

零侍 「……ああ。そうだな」

文乃 「でも、まだきれいで着られるよね。捨てちゃうのももったいない気がするなぁ」

零侍 「む……。そうだな。知り合いに譲れるのなら、そうした方がいいかもしれんな」

零侍 「とはいえ、これくらいの子供がいる家庭に知り合いは……」

文乃 「うーん……」 ハッ 「あっ……」

クスッ

文乃 「……もらってくれる人、いるかも」

零侍 「……?」

642以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:42:23 ID:tZaPmrsM
………………唯我家

葉月 「きゃーーーーーー!!!」

葉月 「可愛いお洋服がたくさんーーーー!!!」

花枝 「なんか申し訳ないわねぇ、文ちゃん」

花枝 「本当にこんなにたくさんもらってしまっていいの?」

文乃 「はい! さすがにわたしはもう着られませんし、葉月ちゃんが着てくれるなら嬉しいですから」

葉月 「きゃー! お姫様みたいなお洋服も!」

葉月 「こっちはフルピュアみたい! かわいい!」

成幸 「良かったな、葉月。ほら、喜ぶのはいいけど、その前に何かしなくちゃな」

葉月 「!」 ピョコッ 「文ねーちゃん、ありがとう!」

文乃 「いえいえ、どういたしまして」 ニコッ

文乃 (ふふふ。葉月ちゃん、喜んでくれてよかった)

文乃 (でも……)

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 (問題はあっちだよね……)

643以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:43:00 ID:tZaPmrsM
水希 「ふ、古橋さん! 葉月とお母さんは籠絡できても、私はそうはいきませんからね!」

水希 「葉月に取り入ってお兄ちゃんと近づこうって魂胆でしょうけど、そうはいきませんから!」

水希 「……でも葉月のためにわざわざお洋服を持ってきてくれてありがとうございます!」

文乃 「ど、どういたしまして……」

文乃 (ちゃんとお礼を言ってくれるあたり、根は本当に良い子なんだよね……)

和樹 「ふーん、だ」 ツーン

成幸 「ん? 和樹まで水希みたいになってどうした?」

和樹 「葉月はいいけど、俺のお洋服はないし」 ツーン

成幸 「いや、仕方ないだろ。古橋は女の子なんだから……」

文乃 「あ、そうそう。和樹くんにも色々持ってきたんだ」

ドサッ

和樹 「……!? おもちゃ!?」

文乃 「昔お父さんが私のために買ってきたおもちゃなんだって」

成幸 「お、親父さん、娘にこんな男の子が喜びそうなものを……?」

644以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:43:40 ID:tZaPmrsM
文乃 「お父さんったら、娘のわたしのために男の子用のおもちゃを買ってきちゃったみたいなの」

文乃 「そそっかしいよね」 クスクス

成幸 「ん、そうだな」

成幸 (……古橋がすごく楽しそうに親父さんの話をしてる)


―――― 『今日はお父さんが家にいるから…… あんまり 帰りたくなくて』


成幸 (なんか……) クスッ (俺も、嬉しくなってくるな)

和樹 「文ねーちゃん! これ、もらっていいの!?」 キラキラキラ……!!!!

文乃 「うん。ちょっと古いおもちゃだけど、まだまだ遊べると思うよ」

和樹 「やったー! ありがとー、文ねーちゃん!!」

成幸 「……ったく。現金な奴だな」

葉月 「きゃー! かわいい〜!」  和樹 「おー! この剣光るー!」 キャッキャ

成幸 「悪いな、古橋。おもちゃまで……」

文乃 「ううん。ほとんど使ってないおもちゃだから、使ってくれた方が嬉しいよ」

645以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:44:40 ID:tZaPmrsM
成幸 「で……」

水希 「ぐぬぬぬぬ……」 ギリリ 「葉月のみならず和樹までたぶらかして……」

水希 「でも和樹のおもちゃまですみません」 ペコリ 「本当にありがとうございます、古橋さん」

水希 「それはそれとしてぐぬぬぬ……」

成幸 「お前はまだそんな隅っこで……」

文乃 「あはは……」

文乃 「あ、そうそう。水希ちゃんにも持ってきたんだ」

水希 「!? へ、へー! 古橋さんのお古のお洋服でしょうか」

水希 「で、でも残念だなー! たぶんちょっとサイズが合わないんじゃないかなー!」

水希 「どこがとは言いませんけど、ちょっとサイズがなー!」

文乃 「……はは、うん。そうだね」

ズーーーーーン

文乃 「……だと思ったから、はい、これ。たぶん私には少し大きいから。どことは言わないけど」

水希 「へ……? これ、ワンピースですか……?」

646以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:45:13 ID:tZaPmrsM
文乃 「うん。これね、お母さんが着てた服なんだ」

水希 「!? 古橋さんのお母さんの……?」

文乃 「……って言っても、たぶん一回くらいしか着られてないんじゃないかな」

文乃 「葉月ちゃん。ちょっとこっち来て」

葉月 「? はーい」 トコトコトコ

文乃 「えっとね……あったあった。このワンピース」

文乃 「これとおそろいなんだ。昔、お母さんと一緒に買ったんだ」

葉月 「わー! じゃあこれふたりで着ると、水希ねーちゃんとペアルック!」

文乃 「うん。きっとかわいいと思うよ」

水希 「い、いいんですか? これ、いただいてしまって……」

文乃 「うん! ぜひもらってよ!」 ニコッ

文乃 「葉月ちゃんと水希ちゃんみたいな、仲良しの姉妹に着てもらえれば、きっとそのお洋服も嬉しいと思うから」

水希 「ん……」 カァアアアア……

水希 「あ、ありがとうございます、古橋さん。大切にします」

文乃 「うん! どういたしまして」

647以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:46:14 ID:tZaPmrsM
………………帰り道

文乃 「はー、今日はみっちり勉強できたねー、成幸くん」

成幸 「ああ、そうだな。テストの結果も良好だし、調子いいじゃないか」

文乃 「えへへ。成幸くんのおかげだよ。ありがと」

成幸 「俺は大したことはしてないよ。お前のがんばりが結果に出てるだけだろ」

文乃 「そう? じゃあ、そういうことにしておこうかな」

文乃 (……なんて、全部君のおかげで間違いないんだけどね)

文乃 「でもごめんね。晩ご飯までいただいて、遅くなったからって送ってもらっちゃって」

成幸 「気にすんなよ。適度な運動はこの後の集中にいいしさ」

成幸 (送ってかないと母さんがうるさいし……)

成幸 「それに水希も、ほら。お礼のつもりだったんだろ」

成幸 「今日の晩飯、いつもの倍以上は豪華だったぞ」

文乃 「へ? お礼……?」

成幸 「葉月と和樹がいろいろなものいただいたし、自分もワンピースをもらったからな」

648以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:46:52 ID:tZaPmrsM
文乃 「そんなの、気にしなくていいのに。わたしこそ、いつも成幸くんにお世話になってるんだから」

成幸 「そうか? それを言うなら、俺もいつもお前にお世話になってるけどな」

成幸 「色々相談したり、とかさ」

文乃 「そんなの大したことじゃないよ。君がわたしにしてくれたことに比べたら、さ」


―――― 『お前らのこと幸せにしてみせるから 俺を信じてつきあってくれ!!』

―――― 『かっこいいよなぁ 古橋は』

―――― 『お前が本当にやりたいこと 俺が 全力で応援してるからな』


文乃 (……本当の、本当に。君が私に、してくれたことに比べたら)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

文乃 「……私はきっと、たくさんお返しをしなくちゃいけないんだよ、君に」

649以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:47:31 ID:tZaPmrsM
成幸 「ん……」 ドキッ 「あ、あはは。そう言われるとなんか照れるな」

成幸 「じ、じゃあ古橋、いつか俺にお返ししてくれよな」

テヘッ

成幸 「なーんて、冗談……――」


文乃 「――――うん。するよ」


成幸 「へ……?」

文乃 「するよ。いつか、絶対。受験が終わった後に。君に、お返し」


―――― 『お前らのこと幸せにしてみせるから』


文乃 (……君が、わたしのことを幸せにしてくれた、その後に)

文乃 (それが、どういう形のお返しになるか、今はまだ分からないけれど)

文乃 (だから……)

文乃 「……だから、期待しててね。成幸くんっ」

おわり

650以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:48:11 ID:tZaPmrsM
………………幕間1 『やはり敵』

水希 「………………」 ショボーン

水希 (……この前は、せっかく色々と持ってきてくれた古橋さんに心ない言葉を浴びせてしまった)

水希 (古橋さんは私たちに対して厚意100%で持ってきてくれたっていうのに……)

水希 (きっと古橋さんはお兄ちゃんに邪なことを考えたりはしないんだ。いい人だもん)

水希 「……と、いうことで今日はお詫びもかねてケーキを焼きました!」

水希 「古橋さん、お勉強の休憩にケーキでもいかが!?」

文乃 「ふぇっ!? 水希ちゃん!?」 ササッ

水希 「………………」

文乃 「えっ、け、ケーキ? やったー! 嬉しいなー!」

水希 「……古橋さん。今慌てて隠した携帯電話……」

文乃 「ふぇっ……?」 ギクッ

水希 「待ち受け、ねこを抱いたお兄ちゃんでしたね……?」

文乃 「ふぇっ!?」 ギクギクッ

水希 (や、やはり……) ギリリッ (この人は敵!)

651以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:48:58 ID:tZaPmrsM
………………幕間2 『見栄』

文乃 「………………」

文乃 (……私の記憶の中のお母さんとも、動画のお母さんとも合致しない)

文乃 (お母さん、今のわたしと同じくらいだもんね……)

文乃 (どこがとは言わないけど……)

文乃 (………………)

文乃 「……お母さん、絶対このワンピース、見栄張ったよね……?」

おわり

652以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:49:43 ID:tZaPmrsM
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

653以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/21(火) 01:31:25 ID:9py1LuAk
おつ

静流母もシックスパッドしてたのかなww

654以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/21(火) 06:58:52 ID:5TvDjXzU
水希ちゃんラスボスかわいい

655以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/22(水) 04:26:36 ID:nk/erQyU
おつんこ!

656以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/22(水) 12:12:12 ID:.NKmdXU6
やっぱ小姑水希ちゃんがさいかわだよね?

657以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:41:33 ID:8/XR1gKQ
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 真冬 「自分の気持ちに素直にね」

658以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:42:16 ID:8/XR1gKQ
………………結果発表直後 一ノ瀬学園 生徒指導室

真冬 「………………」


---- 『--……そう』

---- 『……なら…… もう…… いいのかしら……』

---- 『もう…… 我慢しなくて いいのかしら……』

---- 『おめでとう えらいわね 今までよく頑張ったわね』

---- 『3人ともすごいわ 先生自慢の生徒よ』


真冬 「っ……」 グスッ

真冬 (いけないわ。思い出したらまた涙が……)

真冬 (情けない。教師として、こんなことじゃいけないのに……)

真冬 (でも……)


---- 『合格しました 3人とも』


真冬 (……本当に、よかった)

659以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:54:28 ID:8/XR1gKQ
真冬 (さて、今日合否報告の予定者、あとは……一人だけね)

真冬 「ん……?」

真冬 「関城紗和子さん……? この子って、たしか……--」


紗和子 「--……はい。関城紗和子です」 ズーーーン


真冬 「!?」 (き、恐怖! ドアの隙間から死んだ魚のような目が……!)

真冬 「……って、そんなところで何をしているの?」

紗和子 「すみません。何か涙ぐんでいたようだったので、入りにくくて……」 キィ……

真冬 「!? な、涙ぐんでなんかいません! 少し……花粉症なだけよ!」

紗和子 「はぁ……。まぁいいですけど。合否の報告に来ました。関城紗和子です」 ズーン


---- 『ええ まったくもって遺憾です……』

---- 『まったく…… 関城さんたらプンプンです!』


真冬 「ああ、あなたが……」

紗和子 「第一志望の弓弦羽大学、合格しました……」 ズーン

660以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:55:00 ID:8/XR1gKQ
真冬 「あ……そ、そうなのね。おめでとう! よかったわね!」

紗和子 「はい。ありがとうございます……」 ズーン

真冬 「……え、えっと」

真冬 「どうかしたの? せっかく第一志望に合格したというのに、その表情は……」

紗和子 「……いえ、べつに」

紗和子 「何も……」

真冬 「………………」

フゥ

真冬 「……ほら、座りなさい」 ニコッ

紗和子 「え……?」

真冬 「せっかく第一志望に合格したのに、そんな表情をしていたらもったいないわ」

真冬 「何かあったんでしょう? 解決できるかはわからないけれど、私でよかったら話を聞くわ」

661以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:57:13 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「へ……? で、でも……」

真冬 「私は教師よ。そんな“しょぼくれた”顔をしている生徒、放っておけないわ」


---- 『桐須じゃねえか! 何しょぼくれてんだこんなトコで?』


真冬 (……そう。もし、この子が何かに悩んでいるのなら)

真冬 (“先生”のように、私も、この子に寄り添ってあげたい)

真冬 (だから……)

真冬 「……お話、聞かせてくれるとうれしいわ。関城さん」

紗和子 「………………」

コクリ

紗和子 「……はい」

662以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:58:06 ID:8/XR1gKQ
………………数十分後

真冬 「………………」

紗和子 「……それでですね! 緒方理珠ったらひどいんですよ!」

真冬 「え、ええ……」

紗和子 「たしかに私が悪かったですけど、でも、私緒方理珠のことを想って言ったんですよ! 合格よって!」


---- 『合格よッッッ!!!』

---- 『2人とも見事に合格してたわ緒方理珠ッッ!!!』

---- 『これで春から晴れて同じキャンパスライフよ緒方理珠ッ!!!』

---- 『ちょっと聞いてる? 我が親友緒方理珠〜!!』


真冬 「そ、そうね……」

真冬 「………………」

真冬 (長い……話が長いわ、この子……!)

663以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:59:13 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「それで、緒方理珠ったらすごく怒ってしまって……」


---- 『あ゙ーーーーっ!! 何故言うのですかーーーーッ!!!』

---- 『自分で見たかったのに 自分で見たかったのに!!!』

---- 『ひいっ!!! 堪忍よ緒方理珠ーッ!!!』


紗和子 「うぅ……って、先生、話聞いてますか!?」

真冬 「!? と、当然。きちんと聞いているわ」

真冬 (……先生。今改めて思いますが、生徒の相手は大変です)

紗和子 「……分かってます。私が悪いんだって」

シューーーン

紗和子 「……きっと緒方理珠に嫌われてしまったわ」

真冬 「……?」

紗和子 「緒方理珠“にも”、空気が読めないとか思われてしまったわ……」 ズーーーン

真冬 「………………」

664以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:59:57 ID:8/XR1gKQ
真冬 (……でも、大変でもなんでも、私は、)

真冬 「……そんなことないと思うわよ。緒方さんはそんなこと思わないわ」

真冬 「それに、緒方さんは、あなたがきちんと謝れば許してくれるわ」

紗和子 「そうでしょうか。私、いつもこうやって相手に嫌な思いをさせてしまう……」


―――― 『またガリ勉関城が平均点上げてるよ』

―――― 『平均点以下の奴補習だってさ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 「だからきっと、緒方理珠にも……」

真冬 「……そう。あなたはそう思うのね」

スッ

真冬 「あら、ちょうど退勤時間だわ。この後予定は? 関城さん」

紗和子 「へ……? あ、空いてますけど……」

真冬 「じゃあ、一緒に行きましょう」

紗和子 「行く……? って、どこに……?」

665以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:00:52 ID:8/XR1gKQ
真冬 「そんなの、決まってるでしょう?」

真冬 (……大変でもなんでも、私は、“こうなりたい”と願って、今ここにいるのだから)


---- 『私が教師を目指すことは…… 間違いだと思いますか!?』

---- 『間違いだったかどうかなんて 本当に終わっちまうまでわかんねーもんさ』

---- 『自分の気持ちに素直にな』


真冬 「あなたの大切なお友達のところに、よ」

クスッ

真冬 「自分の気持ちに素直にね、関城さん」

666以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:01:27 ID:8/XR1gKQ
………………緒方うどん

理珠 「〜♪」

親父さん 「………………」 (……リズたま、ご機嫌だな。鼻歌なんてめずらしいぜ)

親父さん (……ずっと、心理学勉強してえって言ってたもんな) グスッ 「……っと。歳食うと涙もろくなっていけねぇや」

……ガラッ

親父さん 「おぅ、いらっしゃい! ……って」

紗和子 「あ……こ、こんにちは……」

真冬 「こんにちは。緒方さんのお父様」

親父さん 「さ、紗和子ちゃんと先生じゃねーか! いらっしゃい!」

理珠 「……? 関城さん? それに桐須先生まで? 一体どうしたんですか?」

真冬 「べつに大した用事じゃないわ」 クスッ 「とりあえず、大葉天うどん、いただけるかしら?」

真冬 「……あなたは? 関城さん」

紗和子 「あっ……わ、私は……きつねうどんを」

親父さん 「まいど! 大葉天うどんときつねうどんだな! 大急ぎで作るから座って待っててくれ」

親父さん 「リズたまも、せっかく先生と紗和子ちゃんが来てくれたんだから、一緒にうどん食べたらいいや! 席に案内しといてな!」

667以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:02:11 ID:8/XR1gKQ
………………

理珠 「……?」

紗和子 「………………」 ヒシッ

真冬 「……あの、関城さん」

真冬 「そうくっつかれると、食べにくいのだけど……」

紗和子 「………………」 ギュッ

真冬 「……まったく」 (まるで隠れるように、縮こまって余計に私にくっついて)

理珠 「意外です。関城さんと桐須先生って、あまり関わりがなかったと思いましたが」

理珠 「仲良しさんだったのですね」

真冬 「生徒と仲良しになった憶えはないわ」

ズルズルズル……

真冬 「相変わらず美味しいわね、あなたのところのうどんは」

理珠 「ありがとうございます」 ジッ 「……あの、関城さん」

紗和子 「!?」

理珠 「何をやっているのか分かりませんが、早く食べないと伸びてしまいますよ?」

668以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:03:02 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「あ……そ、そうね」

紗和子 「いただきます」

ズルズルズル……

紗和子 「……美味しい」

理珠 「そうですか。このうどん、私の受験合格を聞いた父が張り切って打ったらしいです」

ズルズルズル……

理珠 「……うん。美味しいですね」

紗和子 「………………」

ズルズルズル……

理珠 「……それで? 一体今日はどうしたんですか?」

理珠 「おふたりがそろっていらっしゃるなんて、大した用事がないようには思えないのですが」

真冬 「そうね。大したことかどうかは、見る人によって変わるものね」

スッ

真冬 「ほら、関城さん。いつまでも私にしがみついてないで。自分がどうしたらいいか、分かるでしょう?」

紗和子 「……ん」

669以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:03:33 ID:8/XR1gKQ
理珠 「……? 関城さん?」

紗和子 「……あの、緒方理珠。あのね、」

紗和子 「今日、その……合格発表、あなたが見る前に……その……」

紗和子 「……先に、言ってしまって……ごめんなさいっ」

理珠 「へ……?」

理珠 「………………」

理珠 「……えっと」

理珠 「……ああ、そういえば、そんなこともありましたね」

理珠 「そんな大げさに謝らなくてもいいですよ。これから気をつけてくださいね」

紗和子 「え……?」

紗和子 「え、えっと、許してくれるの? 緒方理珠」

理珠 「許すも何も、今の今まで忘れてましたよ」

クスッ

理珠 「妙に大人しくて変な関城さんだと思ったら、そういうことだったんですね」

670以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:04:45 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「……じ、じゃあ、私のこと、怒ってない?」

理珠 「さすがにあのときは怒りましたけど、今は特には……」

紗和子 「私のこと、空気が読めないとか思ってない?」

理珠 「は? 空気を読むという言葉の意味が未だによく分からない私にそれを聞きますか」

紗和子 「んっ……」

紗和子 「……そ、そうね。あなたはそうよね。ずっと……」


―――― 『空気を読むとはどういうことですか? できたのにできないフリをしろということですか?』

―――― 『どうなのですか?』


紗和子 (……あなたは、ずっと変わらない。私の恩人で、憧れの人)

真冬 「………………」

クスッ

真冬 「……さて、うどんもいただいたことだし、私はそろそろおいとまするわね」

真冬 「うどんごちそうさま。お勘定よろしく、緒方さん」

671以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:05:30 ID:8/XR1gKQ
理珠 「あ、は、はい……――」


親父さん 「――……ち、ちょっと待ったー!」 ズザザザザッッ!!!!


理珠 「……お父さん。店内で走らないでください。ホコリが立ちます」

理珠 「一体どうしたんですか?」

親父さん 「いや、それがさ、今日さ、パパさ、リズたまの合格で舞い上がってうどん打ってね」

理珠 「はい」

親父さん 「ちょっと打ち過ぎちゃってね……まだまだ残ってるんだよね」

理珠 「……はい?」

親父さん 「夕食のお客だけじゃ絶対に捌ききれないくらい残ってるんだよ」

親父さん 「こんなことバレたらママに怒られちゃうし……」

親父さん 「……と、いうことで」

ドンッ!!!!

親父さん 「今日は俺のオゴリだ! 先生、紗和子ちゃん、たんとうどん食ってってくれ!」

真冬 「!? い、いや、この量はさすがに……」

672以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:07:40 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「………………」

クスッ

紗和子 「……じゃあ、お言葉に甘えて、いただきます」

ズルズルズル……

真冬 「関城さん……」

紗和子 「……せっかくですし、桐須先生。ごちそうになって行きませんか?」

真冬 「………………」

真冬 「……承知。仕方ないわね。美味しいうどんがこんなにあるのだから、遠慮するのも野暮かしらね」

親父さん 「あっ……そういや紗和子ちゃん! 大学合格おめでとうな!」

紗和子 「へ……? あ、ありがとうございます!」

紗和子 「……あれ? 私、合格したこと言いましたっけ?」

673以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:08:16 ID:8/XR1gKQ
理珠 「……!?」 ハッ 「ちょっ、待ってください! お父さん……――」

親父さん 「――いやいや、リズたまから聞いてるんだよ。リズたまったら嬉しそうにさー」


―――― 理珠 『そうそう。関城さんも合格したんですよ。同じ大学です!』

―――― 理珠 『友人がひとりもいないかもと不安でしたが……』

―――― 理珠 『関城さんがいてくれて良かったです。春からが本当に楽しみです!』


親父さん 「なんて言っててさ……」 シミジミ

理珠 「っ……///」

紗和子 「お、緒方理珠が、そんなことを……///」

親父さん 「いや、ほんと、リズたまの友達でいてくれてありがとうな、紗和子ちゃん」

親父さん 「これからもリズたまのことをよろしくな」

紗和子 「は、はい! 任されました! 緒方理珠のキャンパスライフは私が守ります!」

親父さん 「うんうん。これで俺も安心だ」

674以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:09:40 ID:8/XR1gKQ
親父さん 「……ってことで、俺はこれで失礼――」

――――ガシッ

理珠 「……お父さん」

親父さん 「ひっ!? リズたま……? 腕を掴んでくれるのは嬉しいが、ちょっと痛……」

ギリギリギリ……!!!!!

親父さん 「痛っ!? めちゃくちゃ痛い!?」

理珠 「うどんの打ち過ぎもそうですが、私の話を勝手に関城さんにして……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 「許せません。お母さんに一度怒られてください」

ズルズルズル……

親父さん 「いや、ちょっと、リズたま!? せっかくママにはバレないと思ったのに!?」

親父さん 「あ〜〜〜〜…………」 ズルズルズル……

真冬 「………………」 ポカーン 「……なんというか、すごいお父様ね」

紗和子 「………………」 ポーーー…… 「……緒方理珠が、私に、いてくれて良かったって……」

紗和子 「……えへへ」

675以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:10:14 ID:8/XR1gKQ
真冬 「………………」

フッ

真冬 「……良かったわね、関城さん」

紗和子 「……はい。あの、先生」

真冬 「? 何かしら?」

紗和子 「……ありがとうございます」

紗和子 「先生のおかげで、緒方理珠ときちんとお話することができました」

紗和子 「本当にありがとうございました」

真冬 「……ええ。どういたしまして」

理珠 「……まったくもう。お父さんは」 プンプン

紗和子 「あっ、お帰りなさい、緒方理珠。お父様は?」

理珠 「お母さんに預けてきました。今頃お説教されていると思います」

676以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:11:19 ID:8/XR1gKQ
理珠 「ところで、関城さん、先生」

理珠 「実は、うるかさんと文乃と、泊まりで卒業旅行に行こうという話をしていまして……」

真冬 「あら、そうなの」

真冬 (……まぁ、教師としては、生徒の外泊はあまり推奨できないけれど)

真冬 (卒業旅行くらいで野暮なことは言えないわね)

理珠 「それでですね、もしよかったら、お二人も一緒に行きませんか?」

真冬 「……は?」

紗和子 「へ……? わ、私も?」

紗和子 「私も誘ってくれるの……?」

理珠 「? もちろん、嫌なら無理にとは言わないですが……」

紗和子 「い、いいい嫌なわけないわ! 行く! 絶対行くわ!」

紗和子 「高熱が出ても何があっても絶対に行くわ!」

理珠 「いや、高熱が出たら来ないでください」

紗和子 「……卒業旅行。緒方理珠と、卒業旅行。友達と……卒業旅行……えへへ」

真冬 「……えっと、緒方さん?」

677以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:11:56 ID:8/XR1gKQ
理珠 「? はい?」

真冬 「聞き間違いかしら? 私も……?」

理珠 「はい! さっき文乃と話したんです! 先生も一緒だったら、きっと楽しいですねって」

真冬 「っ……///」

理珠 「だから先生も、もしお嫌でないなら、一緒に行きませんか?」

真冬 「い……嫌、とかではない、けれど……」

真冬 (い、いいのかしら? 生徒たちの卒業旅行に、教員がついていくなんて……)

真冬 (さすがに言い逃れできない気がするけれど……でも……)


---- 『自分の気持ちに素直にな』


真冬 (……行きたい、と。私は、思ってしまっているのね)

真冬 「……学園長に、相談するわ」

真冬 「その上で、“引率” として許されるのであれば……」

真冬 「……私も、ご一緒してもいいかしら?」

理珠 「……!」 パァアアアアアア……!!! 「はい! ぜひ!」

678以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:12:48 ID:8/XR1gKQ
………………

紗和子 「それで、旅行の行き先はどこなの、緒方理珠?」

理珠 「あまり詳しくは決まっていないのですが、うるかさんと文乃はスキーがしたいと言っていました」

真冬 「ん……スキー? それなら、もしかしたら親戚のペンションを紹介できるかもしれないわ」

キャッキャ……

紗和子 「スキーなんて久しぶりだから楽しみね!」

理珠 「関城さんは本当に何でもできるんですね。すごいです」

紗和子 「ふ、ふふ」 ニヤァ 「……手取り足取り教えてあげるわ、緒方理珠」

理珠 「……なんか怖いので別の人に教わります」

紗和子 「なぜ!?」 ガーーーン

真冬 「………………」 クスッ (……よかった)

真冬 「……ねぇ、関城さん」 クスッ 「楽しみね、卒業旅行」

紗和子 「ん……」

紗和子 「……はい! 本当に楽しみです、桐須先生!」

おわり

679以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:13:40 ID:8/XR1gKQ
………………幕間1 『高熱』

紗和子 「ごほっ……げほっ……ごほっ……」

関城母 「あー……。まだ熱高いですね、紗和子さん」

関城母 「ゆっくり休んで早く治しましょうね」

紗和子 「うぅ……」

紗和子 「私も卒業旅行行ぎだがっだーーーーー!!!」

680以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:14:28 ID:8/XR1gKQ
………………幕間2 『お土産』 卒業旅行中 水族館

理珠 「むむむむ……」

真冬 「……? どうしたの、緒方さん。すごい顔ね」

理珠 「あ、先生。ちょっと関城さんへのお土産で悩んでいて……」

理珠 「関城さんはしましま模様が好きなので、しましまのぬいぐるみを買おうと思うのですが……」

理珠 「このキンチャクダイぬいぐるみとニシキアナゴぬいぐるみ、どちらがいいと思いますか!?」 バーーーン!!!

真冬 「そ、そうね、どっちがいいかしらね……」

理珠 「むむむむむ……」 ポン 「決めました。悩ましいですが、こちらのニシキアナゴにします!」

真冬 「そう。あの子はボーダーが好きなのね」 クスッ 「じゃあ、私はこのキンチャクダイにするわ」

理珠 「へ……?」

真冬 「……関城さん、卒業旅行すごく楽しみにしていたものね」

真冬 「せめてお土産だけでも渡して、喜んでもらいましょう、緒方さん」

理珠 「んっ……」 ニコッ 「そうですね、桐須先生!」

おわり

681以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:15:42 ID:8/XR1gKQ
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

682以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/24(金) 21:18:11 ID:A4ZqtiGY
おつ

683以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/26(日) 13:17:31 ID:S8lTMXwY
関城ママ導入はやいうまい嬉しい
イッチは単行本組から本誌組になったのかな

684以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/10(水) 05:27:57 ID:5oDpqj/k
乙でした!
久しぶりに覗きにきたら新作上がってて大歓迎です!

685以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:24:31 ID:XrL0W91.
>>1です。
長く間隔を開けてしまいました。
もし待っていてくださった方がいましたら申し訳ありません。
投下します。

眠り姫編の途中くらいからスタートです。


【ぼく勉】 水希 「お料理を教えてほしい?」

686以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:25:05 ID:XrL0W91.
………………“文学の森の眠り姫” 編中 唯我家

水希 「どうしたの、お兄ちゃん。急にお料理だなんて……」

水希 「本試験だって間近なのに……」

成幸 「いやな、ほら、古橋が俺をかばったせいでけがをしただろ?」

水希 「? うん、それは知ってるけど……」

成幸 「それで、俺が今身の回りのお世話をしに行ってるだろ?」

水希 「………………」

水希 「……ウン、ソウダネ」

成幸 (……今の間はなんだ?)

成幸 「それで、料理を作ったりもするだんだけどさ、あんまりうまく作れなくて……」

成幸 「だから、水希に料理を習って美味しいものが作れるようになったら、古橋もよろこんでくれるかな……って」

水希 「………………」

成幸 「だ、大丈夫か、水希。なんかすごい顔してるけど……」

687以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:25:51 ID:XrL0W91.
水希 (ふ、古橋さんめ……) ゴゴゴゴゴゴ……!!!

水希 (お兄ちゃんに身の回りのお世話をしてもらっているにとどまらず、手料理まで作ってもらってるなんて……!!)

水希 (古橋さんめ……!!)

成幸 「水希……? ダメ、かな?」

水希 (……でも、古橋さんは、お兄ちゃんのことを助けてくれたんだよね)

水希 (もし古橋さんが助けてくれなかったら、お兄ちゃんが落ちて、大けがしてたかもしれないし……)

水希 (……何よりお兄ちゃんに上目遣いでお願いされたら断れるわけないでしょー!!)

水希 「……いいよ」 ハァ 「お料理、教えてあげる」

成幸 「!? 本当か!?」 パァァァアアアア!!! 「ありがとう、水希!!」

水希 (……本当に嬉しそうな顔。よっぽど古橋さんに美味しいものを食べさせてあげたいのかな)

ズキッ

水希 (……ふんだ。べつに、お兄ちゃんは古橋さんに恩返ししているだけだもんね)

水希 (だからべつに、特別なことなんてないんだから……!)

688以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:27:16 ID:XrL0W91.
………………

成幸 「………………」

トン……トン……トン……

成幸 「……よし」

成幸 (自分で言うのもなんだが、食材はきれいに切れたぞ。最近古橋の家でごはんを作ってた成果だな)

水希 「………………」 ジーーーーーッ

水希 「……お兄ちゃん。ちゃんと切れてはいるけど、こうした方がもっといいかな」

スッ……トントントン……

水希 「お野菜とお肉に火を通す場合は、同じくらいの大きさにそろえた方がいいんだよ」

水希 「じゃないと、火の通り具合がまちまちになっちゃうでしょ?」

成幸 「ああ、なるほど。合理的だな……」

成幸 「食材を切るときは大きさをそろえる……と」 メモメモ

水希 (お兄ちゃんったら、メモまでとっちゃってマジメだなぁ)

水希 (……かっこいいなぁ) キュンキュン

成幸 「えーっと、たしか、煮込むまえに炒めるんだよな……」 スッ……

689以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:28:02 ID:XrL0W91.
水希 「お兄ちゃん、炒める順番を考えてね」

成幸 「ああ、肉とか固い野菜からだろ」

成幸 「だから、肉とにんじんとじゃがいもを先に……」

水希 「だーめ。じゃがいもはたしかに固いけど、火が通るとすぐ崩れちゃうんだから」

水希 「じゃがいもは最後だよ、お兄ちゃん」

成幸 「あ、そうか。そういえば古橋とふたりでカレー作ったときもそうだったような……」

水希 「む……」 (また古橋さん……) モヤモヤ

水希 「あとは、たまねぎだけ先に炒めて飴色にする場合もあるけど、今日はいいかな」

成幸 「ああ、メイラード反応の代表例だな」

成幸 「ちなみにあまり知られていないけど肉を焼いたとき色が変わるのも実はメイラード反応なんだぞ」

水希 「お兄ちゃん、お料理は得意じゃないのにそういうことは詳しいんだよね……」

水希 (まぁ、そういうところがかっこいいんだけど……えへへ)

水希 「さ、じゃあ炒めて、お兄ちゃん」

成幸 「おう!」

690以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:28:39 ID:XrL0W91.
成幸 「………………」

ジューーーー……

水希 「………………」 (……真剣な顔してお料理するお兄ちゃん、かっこいいなぁ)

成幸 「……のわっ! たまねぎがとんだ!」 アタフタアタフタ

水希 (慌てふためくお兄ちゃんもかっこいいし……)

成幸 「なぁ、水希、そろそろ水を入れたらいいかな?」

水希 (わたしに指示を求めるお兄ちゃんもかっこいい……)

水希 「うん。じゃあそろそろお水入れようか。こぼれないようにゆっくりね」

成幸 「ああ」

水希 「………………」

水希 (古橋さんは、毎日こんなお兄ちゃんを見てるんだよね)


―――― 『だから、水希に料理を習って美味しいものが作れるようになったら、古橋もよろこんでくれるかな……って』


水希 (……そしてきっと、たぶん)

水希 (これからもずっと、見ることになるんだろうな……)

691以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:29:39 ID:XrL0W91.
………………

葉月&和樹 「「うまーーーーーーーー!!!!」」

ガツガツガツガツ

水希 「ほら、葉月も和樹も、そんなに急いで食べないの」

成幸 「うんうん……」 モグモグモグ

成幸 「我ながら美味しくできたな」

水希 「うん、とっても美味しいよ、お兄ちゃん。すごいよ」

成幸 「まぁ、カレーはまえに一度作ってるからな……」

成幸 (……というか、市販のカレールーを使って、レシピ通りに作って美味しくできない方がおかしいんだよな)

水希 「じゃあ次は、もう少し難しいお料理にチャレンジしてみようか」

成幸 「ああ! よろしくな、水希!」

692以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:31:01 ID:XrL0W91.
………………数日後

成幸 「最近、古橋だけでなく親父さんも、俺の料理を美味しいって言いながら食べてくれるんだよ」

ニコニコニコ

水希 (お兄ちゃん、嬉しそうだなぁ……かわいいなぁ)

成幸 「この前作ったハムチーズサンドも古橋がすごく喜んでくれたんだ」

成幸 「あと特製スムージーも美味しいって……」

成幸 「ああ、あとな……」

ペラペラペラ……

水希 「………………」

水希 (……それはそれとして、最近古橋さんの話ばっかりだ)

成幸 「あ、そろそろ古橋の家に行く時間だ! じゃ、行ってきます!」

ビュン!!

水希 「あ、いってらっしゃい……って、もう行っちゃった」

水希 (学校お休みになったら、家にいる時間増えるかなって思ったけど)

水希 (……最近ずっと古橋さん家に行ってばっかり) ハァ 「……買い物でも行こ」

693以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:31:41 ID:XrL0W91.
………………買い物帰り

水希 (お兄ちゃん、今日も夕食は古橋さん家で食べるんだろうな)

水希 (古橋さんは、毎日お兄ちゃんと一緒にご飯食べてるんだよね)

水希 「………………」

水希 「……いいなぁ」

ハッ

水希 「!?」 (い、いけない。古橋さんがけがをしたのは、お兄ちゃんをかばったからなのに……)

水希 (“いいなぁ” なんて、そんなこと思っちゃだめだよね……)

水希 「………………」

水希 「……わたし――」


  「――本当に歩いて大丈夫か、古橋。けがに響かないか?」

 「大丈夫だってば。少しは動かないと逆に体に悪いって言われてるし」


水希 「!?」 (この声って……) サササッ

694以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:32:11 ID:XrL0W91.
成幸 「でも、まだあんまり歩きすぎない方が……」

文乃 「いやいや、近所のスーパー行くだけでしょ……」

文乃 「何度も言うけど、成幸くんは過保護すぎだよ」

成幸 「そうは言ってもな……」

水希 (やっぱりお兄ちゃんと古橋さんだー!!) コソッ

水希 (……って、何でわたし隠れてるんだろ)

成幸 「痛かったら言えよ? いつでもおぶるからな?」

文乃 「もーっ! だから大丈夫だって……とっ」

コケッ

成幸 「古橋!」

ギュッ……グイッ

文乃 「あっ……///」

成幸 「大丈夫か、古橋」

文乃 「ご、ごめん。ちょっと松葉杖引っかかっちゃって……」

文乃 「……ありがとう、成幸くん」

695以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:32:59 ID:XrL0W91.
成幸 「歩けるか?」

文乃 「うん。大丈夫」

成幸 「気をつけろよ。早く治さなくちゃ本試験にも響くからな」

文乃 「そうだね。気をつけるよ」

水希 「………………」

水希 (……うん。そう。わかってるんだ、わたし)

水希 (あのふたりがとってもお似合いのカップルだって)

水希 (……わかってる。わかってるんだよ)

水希 (でも、だからこんなに、悔しいんだよ……)

水希 「……わたし」

水希 「わたしだって……!」

水希 (もしお兄ちゃんが階段から落ちそうになったとき、そばにいたのがわたしだったら)

水希 (わたしだって絶対、古橋さんと同じことをしたのに……)

水希 「………………」

水希 (ああ、最低だ、わたし……)

696以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:33:45 ID:XrL0W91.
文乃 「今日の晩ご飯は何にするの?」

成幸 「何が食べたい? ……って聞いても、そんなにレパートリーはないけどな」

文乃 「ふふ。成幸くんが作ってくれるお料理、全部美味しいから悩んじゃうな」

成幸 「全部水希に教わった料理だけどな」

水希 (だめ、これ以上考えちゃ……)

水希 (だめなのに……)

水希 「………………」

水希 (もし、そのとき、お兄ちゃんのそばにいたのが、古橋さんじゃなくてわたしだったら)

水希 (……いま、お兄ちゃんの隣にいたのは、古橋さんじゃなくて、わたしだったのに)

水希 (わたしだったのに……!)

水希 「……る……い」


水希 「……ずるいよ、古橋さん」


水希 「………………」

水希 (……ああ) フルフル (本当に、わたし、最低だ)

697以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:34:29 ID:XrL0W91.
水希 (古橋さんはお兄ちゃんを助けてくれたのに)

水希 (そんな古橋さんに、わたし、“ずるい” なんて思ってる……)

水希 (わたし、なんて嫌な子なんだろう……――)


  「――――そうだよ! 水希ちゃん、すっごく良い子なんだから!!」


水希 「へ……?」

成幸 「わ、わかってるよ。水希は俺にはもったいないくらい良い妹だよ」

文乃 「もーっ! だからそれを声に出してちゃんと伝えてるの? って言ってるの」

成幸 「それは……」

成幸 「……あんまり、してないかも」

文乃 「でしょ? だから言ってるの」

成幸 「……すまん」

文乃 「わたしに謝っても仕方ないでしょ。ちゃんと水希ちゃんに……」

文乃 「……って、君にいつもお世話してもらってるわたしが、あんまり偉そうに言えることじゃないね。いつもありがとね、成幸くん」

成幸 「いや、それは全然、そもそも俺のせいだし……」

698以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:36:03 ID:XrL0W91.
文乃 「あっ、そうだ!」

文乃 「ねえ、わたしの足が治って、受験も終わったらさ、ふたりでお料理を作らない?」

成幸 「えっ……」 ドキッ 「ふ、ふたりで?」

文乃 「うん! それで、水希ちゃんに食べてもらうの」

文乃 「わたしは、成幸くん経由でいつも美味しいごはんをありがとう、って」

文乃 「成幸くんは、日頃の感謝を全部こめたらいいよ」

成幸 「ああ、それいいな」

成幸 「……夏にカレーを作ったときを思い出すな」

文乃 「そうだね。でも、今度は逆だよ、成幸くん」

文乃 「あのときはなんとかがんばって君にお料理を教えられたけど、」

文乃 「……今度は君が、わたしに教えてね、成幸くん」

成幸 「……ああ、任せとけ」

グッ

成幸 「なんてったって、俺は最高の妹から最高の料理を教えてもらってるからな」

文乃 「うん! ふたりで、水希ちゃんに美味しいお料理作ってあげようね!」

699以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:36:39 ID:XrL0W91.
水希 「………………」

水希 「……そっか」

水希 (うん、そうだ。わたし、悔しいんだ)

水希 (古橋さんにお兄ちゃんを取られちゃったみたいで、悔しいんだ。でも、それと同じくらい、思ってる……)



水希 (……今、お兄ちゃんの隣にいるのが、古橋さんでよかった、って)



水希 (……美味しいお料理、か)

クスッ

水希 (上等ですよ、古橋さん。せいぜいがんばって作ってください)

水希 (中途半端なものだったら、お兄ちゃんは絶対に渡しませんからね!)

おわり

700以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:37:28 ID:XrL0W91.
………………幕間1 眠り姫編エピローグ後『鏡に向かって』

水希 「………………」

ドキドキドキドキドキ…………

水希 (べ、べつに大した意味があることじゃないけど)

水希 (ただ、ちょっと試してみるってだけのことだけど……)

水希 「………………」

水希 「ふっ……文乃お姉ちゃん……///」

カァァァアアアアア………………

水希 「や、やっぱなし! こんな呼び方……///」 ハッ

文乃 「………………」

水希 「ふ、古橋さん!? いつから!?」

文乃 「……えっと、ごめん。水希ちゃんが鏡に向かって何かブツブツ言ってるから、心配になって……///」

文乃 「あー……」 オホン 「ふ、文乃お姉ちゃんだよー? なんちゃって……///」

水希 「あ゛ーーーーーーーー!!! 忘れて! 忘れてくださいー!!」

701以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:38:10 ID:XrL0W91.
………………幕間2 『お姉ちゃん記念日』

文乃 「成幸くん成幸くん!!」

成幸 「な、なんだ、文乃。そんなに息を切らして……」

文乃 「今日をお姉ちゃん記念日にするよ!」

成幸 「……は?」

文乃 「だから、今日をお姉ちゃん記念日にするって言ってるの! お姉ちゃん記念日!」

成幸 「えっと……」

水希 「あ゛ーーーー!!! 何でお兄ちゃんに言うんですかー! もーーーっ!!」

成幸 「水希までどうした!?」

文乃 「えへへ……/// “文乃お姉ちゃん” かぁ……///」

水希 「もーっ!! だから忘れてくださいってば!!!」

成幸 (まぁ、よくわからんが……)

成幸 (こうしてみると、本当に仲良し姉妹みたいだな) クスッ

おわり

702以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:38:48 ID:XrL0W91.
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
また投下します。

703以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 02:31:01 ID:Mjcjmj9E
新作感謝です!
やはり水文はいいなぁ

704以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 03:32:38 ID:f.2oOeYQ
おつ!

705以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 09:14:12 ID:9VrKvByM
あなたの作品が大好きです。
これからも頑張ってください!

706以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/06(木) 18:52:38 ID:/CR7VUKw
おつんこ
文系ルートほんとすこ

707以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/09(日) 02:43:32 ID:OoFNWP3g
来てるやん乙
19巻の発売が待ち遠しい…

708以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:52:46 ID:9adJZdO2
>>1です。
普段と環境が違うので文字化け等あるかもしれません。
投下します。
誰のルートでもないIfルートの話だと思っていただければと思います。

【ぼく勉】 成幸 「そういえば、先輩」 あすみ 「ん?」

709以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:53:34 ID:9adJZdO2
………………受験後

成幸 「この前、先輩のお父さん、言ってましたよね」

あすみ 「? 言ってたって、何だよ」

成幸 「いや、ほら……」


―――― 『言ってる通り 人生医者が全てじゃあない ……が まぁ やるだけやってみなさい』


成幸 「……って」

あすみ 「ん、ああ。そういやそんなこと言ってたな」

あすみ 「……けどそれがどうかしたのか?」

成幸 「いや、だって考えてみてくださいよ」

成幸 「あれってつまり、お父さんが先輩の夢を認めてくれたってことでしょう?」

あすみ 「……あー、まぁ、そういうことになるのか」

あすみ 「………………」

あすみ (……改めて言われるとハズいな)

710以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:54:51 ID:9adJZdO2
成幸 「それに、そもそももう受験も終わったわけじゃないですか」

あすみ 「まぁ、そうだな。おかげさまで無事国立医学部に入れたな」

成幸 「ということはですよ?」

あすみ 「ん?」

成幸 「もう、俺と先輩は、恋人のフリをする必要はないのでは……?」

あすみ 「へ……?」

あすみ 「………………」

あすみ 「……へぇ!? 何でそうなるんだ!?」

711以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:55:37 ID:9adJZdO2
成幸 「いや、だってそうですよね。そもそも俺が先輩の彼氏のフリを始めたのって……」


―――― 『な……なんか お前に免じて もうしばらく様子見てくれるってよ……』


成幸 「お父さんに医学部受験を認めてもらうためですよね。なら……」

成幸 「もうお父さんが先輩の夢を認めてくれていて、なおかつ先輩も無事医学部に合格できた今……」

成幸 「そこに俺が介在する必要はないのでは?」

あすみ 「……あ、えっと、いや、まぁ……」

フラフラフラ……

あすみ 「……そりゃ、そうっちゃ、そうかもしれんけど、な?」

成幸 「……?」 (先輩どうしたんだろ。なんか目ぐるぐる回ってるし、急に足下もおぼつかなくなったぞ……)

712以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:56:39 ID:9adJZdO2
あすみ 「い、いや、でもな。ほら、実はウソでしたー! なんてやったら、親父の奴烈火の如く怒るぞ、きっと」

成幸 「それはそうでしょうけど、仕方ないんじゃないですか? ウソをついたのは事実なわけですし」

成幸 「いつまでもウソをついているのも気が引けるので、こうなった以上、ちゃんと謝りましょう」

あすみ 「……あー、うん。まぁ、そうだな」

あすみ 「………………」

あすみ 「いや、でも、もう少しだけ、この恋人のフリ、続けちゃダメか?」

成幸 「へ? 何でですか?」

あすみ (……このヤロウ。本当に疑問しかないような顔しやがって)

あすみ 「いやー、親父はお前のこと相当気に入っちゃってるからさー」

あすみ 「今ウソでした、なんて言ったら、怒るどころかヘコんじまうと思うんだよな」

あすみ 「……きっと来年度から、診療所の土日営業もできないくらいに」

成幸 「へぇ!? それは大変だ。なら……」

あすみ 「お、おう。だから……――」

成幸 「――……なおのこと、早く、ウソだって告白しないとですね!」

あすみ 「何でそうなる!?」

713以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:57:37 ID:9adJZdO2
成幸 「へ? だってそうでしょう? 今の段階でそんなにショックを受けるんだったら、」

成幸 「できるだけ早く早くウソを告白して、ショックから立ち直ってもらって、来年度もちゃんと診療所をやってもらわないと!」

あすみ 「……あー、うん。そうだな。そうだよな。お前はそういう奴だよな」

成幸 「? 先輩?」

あすみ 「いや、でも、ほら、愛憎ってのは表裏一体だからな。親父はお前のことを気に入ってはいるが……」

あすみ 「アタシがお前と結婚するって思い込んでるくらいだから、それがウソだって分かったら……」

あすみ 「……アタシとお前を八つ裂きにするくらいには、怒るかもなぁ」

成幸 (さっきから怒るって言ったりヘコむって言ったり、どっちなんだろう……)

成幸 「それくらいは覚悟の上です。大切なお嬢さんについて騙していたも同然なんですから」

成幸 「誠心誠意謝ります。その上で、殴られることもやむなし、と……」

あすみ 「……い、いやいや!? さすがに親父も巻き込まれただけのお前を殴ったりはしないと思うぞ!?」

成幸 「……?」 (八つ裂きにするかもとか言ってたのに……)

714以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:58:08 ID:9adJZdO2
成幸 「……先輩」

あすみ 「な、なんだよ」

成幸 「さっきからちょっと様子が変ですよ? 言ってることも支離滅裂だし、どうかしたんですか?」

成幸 「そんなにお父さんに怒られるのが怖いんですか?」

あすみ 「いや、そんなことはねーけど……」

あすみ 「………………」

あすみ 「……なぁ、後輩」

成幸 「はい?」

あすみ 「お前は、そんなに嫌かよ。アタシと、恋人のフリするの……」

成幸 「へ?」

カァアアアア……

成幸 「い、いえ、嫌とか、そういうわけではないですけど……」

あすみ 「……じゃあ、いいじゃねーか」

あすみ 「いつか、親父にはウソだって言うよ。でも、今じゃなくてもいいだろ?」

あすみ 「……この関係、もう少し続けちゃ、ダメか?」

715以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:00:02 ID:9adJZdO2
成幸 「………………」

フルフル

成幸 「……いえ、やっぱりダメです」

あすみ 「!? な、なんでだよ……」

成幸 「これ以上ウソをつき続けるわけにはいきませんし、何よりこのままじゃ……」

成幸 「………………」

あすみ 「…… “このままじゃ" なんだよ」

成幸 「……いえ、なんでもないです。とにかく、早く親父さんに謝りに行きましょう」

あすみ 「っ……」

あすみ 「そ、そうかよ! わかったよ! そうするよ!」

あすみ (“このままじゃ” ……)

ハッ

あすみ (“このままじゃ、好きな相手と付き合うこともできない” とかか……?)

あすみ 「っ……」 ズキッ (……んだよ、後輩の野郎)

716以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:01:37 ID:9adJZdO2
………………小美浪家

宗二朗 「………………」

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

宗二朗 (娘とその恋人が神妙な顔をして尋ねてきて、“大事な話がある” ときたものだ……) ドキドキドキドキ……

宗二朗 (こ、これは期待してもいいのだろうか……)


―――― 成幸 『お父さん、娘さんを僕にください!!』

―――― あすみ 『親父! アタシたちは本気だ! 頼む!』


宗二朗 (こんな感じの展開をパパ期待しちゃってもいいのかしら!? いや、それとも……)


―――― 成幸 『じ、実は、娘さんのお腹の中には僕の子どもが……』

―――― あすみ 『無責任なことをするつもりはねぇ! アタシはこいつとこの子を育てる!』

―――― 成幸 『だから娘さんを僕にください!』


宗二朗 (こんな感じのを期待しちゃってもいいのかーーー!?)

717以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:02:32 ID:9adJZdO2
宗二朗 「………………」 ポワポワポワ……

かすみ 「……は〜、宗二朗ちゃんったらなんか別世界に行っちゃったみたい」

かすみ 「それで? お話って一体なぁに? なんか深刻そうだけど」

あすみ 「あ、ああ、実は……――」

成幸 「――……いや、先輩。俺から話しますよ」

あすみ 「後輩、でも……」

成幸 「……まず最初に、謝らせてください。先輩のお父さん、お母さん、本当に申し訳ありませんでした」

かすみ 「……? 謝られるようなことをされた憶えはないんだけどなぁ」

成幸 「ずっとウソをついてきました。先輩とのことです。俺は……」

成幸 「……俺と先輩は、恋人同士ではありません」

かすみ 「……へ?」

718以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:03:35 ID:9adJZdO2
かすみ 「……あー、うん。まぁ、知ってたけど」

あすみ 「まぁ、お袋はそうだよな。それはそうなんだけど……」

宗二朗 「………………」

あすみ 「問題はこっちだよな。おい、親父、なんとか言ったら……って」

宗二朗 「………………」 プスプスプスプス……

あすみ 「……死んでる?」

かすみ 「縁起でもないこと言わないで、あすみちゃん。生きてるから」

かすみ 「ただ、あー、これは……」

宗二朗 「……アレ ココハドコ? ワタシハ ダレ?」

かすみ 「元に戻るのに一時間はかかるかな〜?」

719以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:04:26 ID:9adJZdO2
………………一時間後

成幸 「――……と、いうわけなんです」

かすみ 「は〜、なるほどねぇ。あすみちゃんの方から唯我君に頼んで、恋人役をやってもらってたとー」

かすみ 「まぁ、ママはそんなところじゃないかなー、って踏んでたけどね!」 エッヘン

宗二朗 「………………」

成幸 「あの、お父さん、ご存知であったとはいえ、お母さんも、騙すようなことをして本当にすみませんでした」

あすみ 「いや、アタシが無理言ってやってもらってたんだから、お前は悪くねぇだろ」

あすみ 「……謝るとしたら、アタシだ。本当に悪かったよ、親父」

かすみ 「? あれ、あすみちゃん。私はー?」

あすみ 「あんた最初っから気づいてただろ!!」

かすみ 「てへっ☆」

宗二朗 「………………」

あすみ 「……いや、っていうか、親父もなんか言えよ。さすがにずっと黙ってると怖いんだが」

宗二朗 「………………」 ボソッ 「……成幸君」

成幸 「! は、はいっ!」

720以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:05:20 ID:9adJZdO2
成幸 「あ、あの、本当に申し訳ありませんでした! 大切な娘さんのことで、ウソをつくようなことをして!」

成幸 「あの、だから、その……」

宗二朗 「……謝らないでくれ、成幸君。娘が迷惑をかけてしまってすまなかった」

成幸 「!? あ、頭を上げてください! お父さんが謝るようなことを何も……!」

宗二朗 「……ふふ。まだ私を “お父さん” と呼んでくれるか」

成幸 「あっ……す、すみません」

宗二朗 「……構わんよ。いや、本当に楽しかった。君とあすみの将来を考えるのも、君と将来酒を汲み交わす想像をするのも」

宗二朗 「……本当に楽しかった」

あすみ (……アタシが言うことじゃねぇけどこの親父重いな)

宗二朗 「よくよく考えてみれば、うちのじゃじゃ馬娘が君のような好青年を捕まえられようはずもない」

成幸 「いや、そんな……」

宗二朗 「ほんの一時だけでも夢を見させてくれてありがとう。本当にすまなかった」

成幸 「………………」

スッ

成幸 「……こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした」

721以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:06:31 ID:9adJZdO2
成幸 「……では、先輩」

あすみ 「ん」

成幸 「これで本当に、ニセモノの関係はおしまいですね」

あすみ 「………………」

あすみ 「……ああ」

あすみ 「なんか悪かったな、今まで」

あすみ 「親父を騙すために恋人のフリなんて頼み込んで、色々なところに連れ出して……」


―――― 『小妖精メイドあしゅみぃちゃんのビキニ姿が拝める幸せ者なんて そうそういねーぞ?』


あすみ 「お前に勉強を教わるだけに留まらず、勉強の邪魔みたいなこともして……」


―――― 『親父へのダメ押しに もう1枚♪』


あすみ 「本当に……」

722以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:07:16 ID:9adJZdO2
あすみ (……ああ、そうか)


―――― 『この診療所がなくなったって…… 世界も夢も終わりません!』

―――― 『先輩は必ず立派な医者になるんですっ!!』

―――― 『場所なんかどこだって 先輩がいればそこが新しい小美浪診療所になるんですッッ!!』


あすみ (アタシ、本当に……)


―――― 『な? 冗談冗談♪』


あすみ (本当に、こいつのことが……)

あすみ 「………………」

あすみ 「……本当に、ずっと悪いコトしたな。後輩。すまん」

ポロ……

あすみ 「あ、あれ? なんで、目、潤んで……」

ポロポロポロ……

あすみ 「なんで、涙なんか……」

723以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:08:00 ID:9adJZdO2
かすみ 「あすみちゃん……」

成幸 「………………」

成幸 「……先輩、ハンカチどうぞ」

あすみ 「っ……や、やめろよ。アタシとお前は、もうべつに、ニセモノの恋人とかじゃない……」

あすみ 「……ただの、先輩後輩なんだから。だから……」

あすみ 「……もう、やめろよ。そうやって優しくするなよ」

あすみ 「そういうこと、されると……っ」

あすみ (また……)

あすみ (また、お前と、そういう関係に……)

成幸 「………………」

成幸 「……俺たちの関係はこれで終わって、ただの先輩後輩。そうですね」

成幸 「では、その上で改めて、先輩にひとつお願いがあります」

あすみ 「お願い……? なんだよ」

成幸 「先輩」


成幸 「改めて、お願いします。俺と、ホンモノの恋人になってもらえませんか?」

724以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:09:54 ID:9adJZdO2
あすみ 「………………」

ボッ

あすみ 「……へ?」

成幸 「先輩のことが好きです。先輩のホンモノの彼氏になりたいです」

あすみ 「へ? へ?」

成幸 「だから俺とお付き合いしていただけませんか?」

あすみ 「へ? へ? へ?」

かすみ 「あらぁ♪ 唯我君ったら意外と情熱的♪」

あすみ 「ふぇ……」

あすみ 「ふぇぇえええええええええ!?」

あすみ 「こっ、このタイミングで、何言ってんだ、お前!」

あすみ 「じ、冗談なら笑えねーぞ!!」

成幸 「………………」

ギュッ

あすみ 「ふぇっ!?」 (手、手……ぎゅって……手……///)

725以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:11:00 ID:9adJZdO2
成幸 「……先輩」

あすみ 「はっ、はいっ!」 ドキッ

成幸 「冗談でこんなこと言わないです。先輩じゃありませんから」


―――― 『いや? けっこーいいと思ってっけど? カワイーじゃん そいつ』

―――― 『ま ウソだけど』


あすみ 「そ、その節は、本当になんというか、申し訳なかったというか……」

グイッ

あすみ 「ひゃっ!?」

成幸 「……先輩」

あすみ (ち、近い近い近い……!?)

成幸 「先輩のことが好きです」

成幸 「先輩のまっすぐなところとか、一生懸命なところとか、気遣ってくれるところとか……」

成幸 「あと、お客さんに分け隔てなく接するところとか、仕事に対するプロ意識とか……あと……」

あすみ 「もっ、もういい……/// わ、わかったから……」

726以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:12:03 ID:9adJZdO2
かすみ (……唯我君ってこういうとき積極的なのね。意外だなー♪)

成幸 「………………」

フーーーー

成幸 「……以上、お願いでした」

あすみ 「き、急に冷静になるなよ……」

あすみ 「………………」

カァアアアア……

あすみ 「……わ、わかったよ。あ、アタシのこと、好きになっちまったんだろ」

あすみ 「仕方ねーな。ほ、本当に仕方ねーから、だけど……」

あすみ 「こっ……」

あすみ 「……こちらこそ、よろしくお願いします」

成幸 「……?」

成幸 「………………」

成幸 「ええええぇえええええええええええええええ!?」

あすみ 「!? な、なんだよ! 急に大声上げんじゃねーよ!」

727以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:12:36 ID:9adJZdO2
あすみ 「っていうかなんでお前が驚いてんだよ!」

成幸 「いや、だって……」

オロオロオロオロ……

成幸 「お、オーケーされるとは思ってなかったので……」

成幸 「いや、っていうか、先輩、本当に……?」

あすみ 「し、仕方ねーからだって言ってるだろ。仕方ねーから、お前のホンモノの彼女になってやるよ」

成幸 「……あ、いえ、そんな、義務感からだったら、申し訳ないので結構です」

ズーーーーーン

成幸 「やっぱりそうですよね。先輩みたいなエネルギッシュで何でもできちゃう美人さんと俺じゃ、釣り合わないですよね……」

あすみ 「!? い、いや、違くて……」

かすみ 「………………」

コソッ

かすみ 「……こんなときくらい、素直にならないと〜」

あすみ 「お、お袋……」

かすみ 「また後悔してさっきみたいに泣いちゃうゾ♪」

728以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:13:12 ID:9adJZdO2
あすみ 「っ……わかったよ……わかってるよ」

あすみ 「……こ、後輩。いや、その……成幸……くん」

成幸 「……?」

あすみ 「アタシも、その……」

あすみ 「……お前のこと、好き、なんだ」

あすみ 「好きなんだよ」

あすみ 「だから、その……」

あすみ 「アタシからも、頼む。お願いします」

あすみ 「アタシの彼氏になってください!」

あすみ 「フリとかニセモノじゃない、ホンモノの、恋人に、なってください!」

成幸 「……へ? あ……」

カァアアアア……

成幸 「ぜ、ぜひ……あ、よ、よろしく、お、お願いします……」

あすみ 「あ、ああ……///」

729以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:14:01 ID:9adJZdO2
成幸 「………………」

あすみ 「………………」

あすみ 「……ってことで、じゃあ、後は――いや、成幸くん、これからもよろしくな」

成幸 「はいっ! 先ぱ――じゃなくて……えっと、なんて呼んだら……?」

あすみ 「知るかよ。お前が勝手に決めたらいいだろ」

成幸 「は、はい。じゃあ……えっと……」

成幸 「“あすみさん”」

あすみ 「っ……///」

成幸 「あ、あはは。なんか恥ずかしいですね」

あすみ 「……いい」

成幸 「へ?」

あすみ 「そ、それで、いい」

成幸 「は、はい。じゃあ……あすみさん」

あすみ 「ん……」

730以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:15:13 ID:9adJZdO2
あすみ 「……っていうかお前、実の親の前で告白って、どんな罰ゲームだよ」

成幸 「あ、すみません。でも、一度関係をリセットさせないと、前に進めないと思ったので……」

あすみ 「……ん」


―――― 『これ以上ウソをつき続けるわけにはいきませんし、何よりこのままじゃ……』


あすみ (……あれは、そうか)

あすみ (“このままじゃアタシと本当の恋人になれない” ってことか……)

あすみ 「………………」

ニマァ

あすみ 「……そうか///」

かすみ (雨降って地固まる……というよりは、自分たちでホースで水を撒いて踏み固めた感じかしら)

かすみ (まぁふたりが幸せそうで何より……ん? 何か忘れてるような〜……)

宗二朗 「………………」

ノソリ

かすみ 「……あ、宗二朗ちゃん」

731以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:16:01 ID:9adJZdO2
あすみ 「!? お、親父……」

宗二朗 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「お、怒ってます……よね?」

成幸 「そりゃそうですよね。愛する一人娘と不誠実な交際をしていた男が、今さら本当にお付き合いを始めるなんて……」

成幸 「父親だったら怒って当然だと思います! 殴られても仕方ないと思っています! ですが、俺も本気です!」

成幸 「娘さんと交際させてください!」

あすみ 「お、親父! アタシからも頼むよ! ウソをついてたことは謝る!」

あすみ 「でも成幸くんは悪くねーんだ! だから、成幸くんとの交際を認めてくれ! 頼む!」

宗二朗 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「お父さん……!」

あすみ 「親父!」

宗二朗 「……何を言っているんだ、あすみ、成幸くん!」

パァアアアアアア……!!!

あすみ 「へ……?」

宗二朗 「結婚式はどこにする? チャペルか? 神前式か?」

732以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:16:34 ID:9adJZdO2
成幸 「……えっと」

宗二朗 「ウェディングドレスもいいが、白無垢も捨てがたいな」

宗二朗 「無論、成幸くんもだ! モーニングも似合うだろうな。紋付袴も捨てがたい!」

宗二朗 「うぅむ……」 ハッ 「そうだ! 両方とも着ればいいんだな!」

宗二朗 「よし、パパちょっと結婚式代奮発しちゃうぞ!」

あすみ 「……おい、親父」

宗二朗 「……と、いうことだ」

ニコッ

宗二朗 「これからもどうか、末永くうちの娘をよろしく頼むよ、成幸くん」

成幸 「は……はいっ!! こちらこそ、よろしくお願いします!」

733以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:17:36 ID:9adJZdO2
………………診療所前

あすみ 「……ったく、親父の奴」

―――― 宗二朗 『ん、もうこんな時間か。夜も遅いし送って行きなさい、あすみ』

あすみ 「娘に彼氏を送らせるか、フツー」

成幸 「あはは、親父さんらしいですね」

成幸 「まぁ、さすがに夜道をひとりで帰らせるわけにはいかないので、お見送りだけでいいですよ」

成幸 「それじゃ、先輩、また明日」

あすみ 「む……」

成幸 「……あっ、じゃなくて……」

成幸 「……また明日、あすみさん」

あすみ 「……ん。また明日、成幸くん」

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

734以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:18:32 ID:9adJZdO2
成幸 「………………」

あすみ 「………………」

あすみ (……冗談じゃ、ない)

あすみ (ウソでも、ない)

あすみ (ニセモノでもない)

あすみ (ホンモノの、恋……)

成幸 「……じゃあ……――」

あすみ 「――……ま、待った」

成幸 「……?」

あすみ 「………………」

ギュッ

成幸 「……せ、先輩……?///」

成幸 「なんで、抱きついて……」

あすみ 「察せ、バカ」

735以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:19:15 ID:9adJZdO2
あすみ 「………………」

成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

成幸 「ん……」

ギュッ

あすみ 「っ……///」

ドキドキドキドキ……

あすみ 「……なぁ、成幸くん?」

成幸 「な、なんですか?」

あすみ 「こーいうとき、どうしたらいいと思う?」

成幸 「………………」

成幸 「……目、つむってください」

あすみ 「ん……」

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

736以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:19:59 ID:9adJZdO2
成幸 「……あすみさん」

あすみ 「成幸くん」

スッ…………

かすみ 「………………」

宗二朗 「………………」

ジーーーーーーーッ

あすみ 「……って何見てんだジジババーーーーーー!!!!」

宗二朗 「む。見つかってしまったか。かすみちゃんがもっと近づこうって言うから〜」

かすみ 「だってー、あすみちゃんの記念すべき初キス、しっかり見ておきたかったんだもーん」

成幸 「……はは、本当に愉快なご両親ですね、あすみさん」

あすみ 「ああいうのは愉快って言わねぇよ。迷惑って言うんだよ。ったく……」

あすみ 「じゃあ、また次回にお預けだな、成幸くん」

成幸 「そうですね。また今度ですね」

あすみ 「ああ、また今度……」

737以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:20:43 ID:9adJZdO2
あすみ 「………………」

あすみ (診療所がなくなることも)

あすみ (受験に失敗して、医者を諦めることも)

あすみ (もう、ない)

あすみ (そして……)

成幸 「……? どうかしましたか、あすみさん?」

あすみ (こいつと……成幸くんとの関係が、ウソで終わることも、ない)

あすみ (また今度が、何度でも……)

あすみ (これからも、ずっと……)

あすみ 「えへへ……」

成幸 「先輩?」

あすみ 「これからもよろしくな、成幸くん」

成幸 「はいっ! こちらこそよろしくお願いします、あすみさん」

おわり

738以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:21:31 ID:9adJZdO2
………………幕間 『気振り両親』

宗二朗 「かすみちゃん、できたー?」

かすみ 「うん、完ぺき♪ 宗二朗ちゃんは?」

宗二朗 「こっちもオッケーだ」

あすみ 「? 何作ってんだ? 患者さんのリストかなんかか?」

かすみ 「ちがうよー、あすみちゃん」

キャピッ

かすみ 「これは〜、あすみちゃんと成幸くんの結婚式の招待客リストだよっ」

あすみ 「……あー、うん」

ビリッビリッビリッ

宗二朗 「あ゛ーーーーー!!! 私とかすみちゃんの二時間の苦労の結晶がーーーー!!」

おわり

739以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:26:53 ID:9adJZdO2
>>1です。
以前から妄想していたことを、本編であすみさん編が始まったらやれないなぁと思い、書き上げました。
あまり良い二次創作ではないと思います。申し訳ないことです。
明日はとうとう明日の夜の小妖精編ですね。楽しみです。
また投下します。

740以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 23:21:07 ID:BhceomUc
おつ
ニヤニヤさせられたぜ

741以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 14:13:23 ID:Uhv0hfU6
良かった
あすみ可愛い

742以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:32:44 ID:lMbr6Vko
>>1です。
書いていたら書き上がってしまったので投下します。
どのルートにも分岐していない12月28日以降の話だと思います。
投下します。

【ぼく勉】 美春 「彼は教え子につき……?」

743以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:33:21 ID:lMbr6Vko
………………真冬の家

美春 「感謝感激。急にお邪魔したのにもてなしてもらってすみません、姉さま」

真冬 「そう思うなら来るときは事前に連絡をちょうだい」

真冬 (危なかったわ。昨日唯我くんが偶然家に来て掃除をしてくれていて助かったわ)

真冬 「まったく、もう大学生なのにあなたは変わらないわね」

美春 「えへへ、そう言われると照れてしまいます」

真冬 「褒めてはいないのだけれど」

ハァ

真冬 「そういえば職場でいただいたお菓子があったわね。持ってくるわ」

美春 「わぁ、嬉しいです! ありがとうございます、姉さま」

美春 (ふふ、姉さまのおうちは、いつ来てもきれいで落ち着きます)

美春 (さすがは姉さまですね)

美春 (例の一件以来、ずっと布がかぶせてあったトロフィーの棚も出しているし……)

美春 (何より、今の姉さまは本当に楽しそう。笑顔も増えました)

美春 (……認めたくはありませんが、これも全て、唯我成幸さんのおかげ、ですね)

744以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:34:21 ID:lMbr6Vko
美春 「………………」

美春 (ま、まぁ、だからといっておふたりの交際を認めるわけにはいきませんけど)

美春 (姉さまは教師。唯我成幸さんは生徒。おふたりは決してそういう仲になってはいけない関係です)

美春 (けれど、燃え上がったおふたりの恋は、阻むものが多ければ多いほど燃え上がるもの!)

美春 (そしておふたりはきっと、もうお互いのことしか目に入っていません)

美春 (ならばやはりここは私が、私の色香で唯我成幸さんを誘惑するしかありませんね……)

美春 「………………」

美春 (ま、まぁ? もしも唯我成幸さんが、私の大人の色香に惑わされることなく卒業を迎えたなら)

美春 (おふたりの交際を認めてあげないことも、ありませんけれど)

美春 (……ん?)


『彼は教え子につき ①』


美春 「彼は教え子につき……?」

美春 (きっ、驚天動地! 姉さまの本棚に漫画本が置いてあるだなんて!!)

美春 (少女漫画ですね。でも、私が読んだことがない漫画です……)

745以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:35:03 ID:lMbr6Vko
美春 「………………」

美春 (姉さまはまだ戻ってきませんよね。それに、漫画くらい無断で見てもお怒りにはならないでしょうし)

美春 (姉さま、ちょっと拝見させていただきます)

ペラッ……

『俺……やっぱり先生じゃなきゃ……』

美春 「……!?」

ペラッ

『だ だめよ結人君! 私とあなたは教師と生徒! でも……っ』

美春 「ひゃっ……!」

ドキドキドキドキ……

美春 (こ、この内容は……これではまるで……――)

真冬 「――美春」 ヒョコッ

美春 「ひゃいっ!?」サササササッ

真冬 「紅茶でいいかしら? それともコーヒー?」

美春 「ど、どちらでも大丈夫です! 姉さまと一緒でいいです!」

746以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:35:44 ID:lMbr6Vko
真冬 「? そう、わかったわ」

美春 (……あ、危なかったです。漫画くらい読んでも怒られはしないと思っていましたが)

美春 (こ、この内容は、まずいです。たぶん、これは……)

ペラッ……ペラッ……

美春 (……姉さまの、願望……!!)

美春 「………………」

ペラッペラッペラッ……

美春 (な、なんて過激なんでしょう。教師と生徒が、こんな……こんな……!)

美春 (は、は、ハレンチです!!)

747以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:36:43 ID:lMbr6Vko
美春 (姉さまは唯我成幸さんと、こんなことを……――)

真冬 「――お待たせ。お菓子とお茶よ」

美春 「ひゃうっ!?」 スッ

美春 (あっ……! つ、つい、カバンの中に隠してしまいました!)

真冬 「? どうかしたの? 顔が赤いけれど……」

美春 「い、いえ! ちょっとこの部屋暑いですかね! 暖房の温度を下げてもいいですか、姉さま?」

真冬 「そうね。たしかに少し暖めすぎかもしれないわ。ええと、リモコンは、と……」

美春 (な、なんとか誤魔化せましたが……これは……)

美春 (……これは、由々しき事態ですよ!)

748以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:45:02 ID:lMbr6Vko
………………帰り道

美春 「………………」

トボトボトボ……

美春 (この漫画本……)

美春 (……結局、あのまま返すタイミングも逸して、バッグに入れたままになってしまいました)

美春 (今度真冬姉さまに謝らなければ……)

美春 (……いえ、そんなことよりも)

美春 (唯我成幸さん)


―――― 『お義姉さんのことで協力してほしいんですッ!!!』

―――― 『姉さまのために協力!? 当然至極ッ!!』

―――― 『――……残念至極 ですが姉さまがそう決めたのでしたら仕方ありませんね』

―――― 『でも姉さま 少し声が明るくなりました 美春はそれが一番嬉しいです!』


美春 (……ええ、そうです。本当は分かっているんです。私だって)

美春 (今の姉さまがあるのは、唯我成幸さんのおかげだということを)

749以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:45:37 ID:lMbr6Vko
美春 (……分かっているんです)


―――― 『あなたにはずっと…… お礼を言わなければと思っていました』

―――― 『あなたのおかげで 最近家族に笑顔が増えてきたんです』

―――― 『姉さまも昔に比べて 仕事が楽しそうですし』

―――― 『その道において姉が迷いなく幸せならば きっそそれをこそ天職と呼ぶのですから』


美春 (私がもう……)


―――― ((衝撃展開……!! 恋人云々はともかくここまでマニアックな間柄とは……!))

―――― ((いけません! せめて卒業まではプラトニックな関係でいてもらわねば……!!))


美春 (……心の奥底では、おふたりの関係を認めてしまっているということを)

美春 (……ですが!)

美春 (殿方は皆狼! 唯我成幸さんも一時のハレンチな考えひとつで姉さまに近づいているだけという可能性も絶無ではありません!)

美春 (ここはもう、姉さま最愛の妹であるこの私が、確認するしかありません!!)

美春 (善は急げ、ですね! 待っていてください、姉さま! 私が唯我成幸さんの真意を確認して参ります!)

750以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:46:29 ID:lMbr6Vko
………………唯我家

水希 「お兄ちゃん、お夕飯できたよー」

成幸 「ん、もうそんな時間か」 ノビーー

成幸 (久々にひとりでじっくり勉強、捗った捗った……)

成幸 (……って、やったのはほとんどあいつら向けの問題作成だけど)

ピンポーン

水希 「? なんか届く予定あったかな?」

成幸 「ああ、俺が出るよ。みんな先食べててくれ」

……ガラッ

成幸 「どちら様ですか……って」

美春 「夜分に申し訳ありません。こんばんは、唯我成幸さん」

成幸 「……美春さん!?」

花枝 「成幸ー? どなたかいらっしゃったの? ……あら?」

花枝 「……あらあらあらあら」

パァアアアアアア……!!!

751以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:48:03 ID:lMbr6Vko
………………食卓

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

花枝 「………………」 ニコニコニコニコニコニコニコ……!!!!!!

葉月 「きりすみはるせんしゅだー」

和樹 「ゆーめーじんだー」

美春 「すみません、突然の訪問だというのに、ご相伴にあずかってしまいまして」

成幸 「いえ……」

美春 「美味佳肴! お夕飯、とても美味しいです! 栄養バランスもよく考えられていて、味付けも濃くなく薄くなく……」

モグモグモグ……!!!

成幸 (すみませんと言う割にはたくさん食べるなこの人……)

成幸 「あの、美春さん、今日は一体どうしたんですか? っていうかどうして俺の家の場所を……?」

美春 「……はっ! あまりのご飯の美味しさに失念しておりました」

モグモグモグ……

美春 「でもどうしましょう。お箸が止まりません!」

成幸 「……食べてからでいいですよ」

752以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:48:40 ID:lMbr6Vko
水希 「………………」 (お、お兄ちゃんにたかる新しいメスがまた一人……!!)

美春 「はぁ〜〜〜、美味、美味、美味です〜〜〜〜〜!!」

水希 (しかもすごい美人さんだし! っていうか現役フィギュアスケート選手!?)

水希 (そんなの反則だよーーーー!!)

花枝 「………………」 (たしかこの娘、前にランジェリーショップで成幸の写真を出して……)


―――― 『すみません こういう男性を悩殺できそうな下着はありますか』


花枝 (……これはもう確実ね) フンス (このお嬢さんは成幸の彼女またはそれに類する何か!!!)

花枝 (でかしたわ成幸!! 文ちゃんやりっちゃんに興味を示さなかったのはそういうことだったのね!)

成幸 「……!」 ゾクッ

成幸 (なんだか知らないが水希と母さんからの圧がすごい……!)

成幸 (美春さん早くご飯食べ終えてくれーーーー!!!)

753以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:49:42 ID:lMbr6Vko
………………食後

美春 「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

成幸 「お口に合ったなら何よりです。それで、一体どんなご用件でしょうか」

成幸 「……あと、どうして俺の家の場所を知っていたのかも教えてもらえると……」

美春 「愚問愚答。この私が、お姉様と特別な関係にあるあなたのご自宅を特定していないわけがないではありませんか」

成幸 「はぁ……」

美春 「姉さまとお酒を飲んでいるときに聞いたら教えてくれましたよ?」

成幸 (教員の情報セキュリティとは……)

美春 「そして、唯我成幸さん、今日はあなたにお伺いしたいことがあって来ました」

成幸 「伺いたいこと……?」

美春 「はい、それは……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「それは……」 ゴクリ……!!!

美春 「………………」

美春 「……あなたと、姉さまとの関係についてです」

成幸 「……? 桐須先生と俺の関係……?」

754以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:50:26 ID:lMbr6Vko
成幸 (関係……? ってなんだろう。俺と先生はただの教師と生徒だし……)

美春 「………………」 ジーーーーーーッ

成幸 (でも、美春さんはすごく真剣な顔してるし……)

成幸 (なんなんだろうか……)

美春 「……単刀直入に伺います」

美春 「唯我成幸さん、あなたは真冬姉さまのことをどう思っていらっしゃるのですか?」

成幸 「桐須先生のことをどう思っているか……?」

美春 「はい。誠心誠意。あなたの本心を教えてください」

成幸 「えっと……」

成幸 (先生をどう思っているか? そんなの……)


―――― 成幸 『とんでもなくドジで家事下手な人ですね』

―――― 成幸 『今まで無事一人暮らしをして来られたのが不思議なくらいですよ。ははは』


成幸 「………………」

成幸 (……って言えるかぁあああああ!!)

755以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:51:03 ID:lMbr6Vko
成幸 (たしか美春さんって……)


―――― 『詮無い嘘はやめてください 私の尊敬する完璧な姉さまに限って 苦手なものなど存在しません』

―――― 『もし百億が一姉さまに苦手なものが発覚した場合』

―――― 『24時間365日お傍に張りついて誠心誠意 いかなる手段をもってしても克服にあたらせて頂く所存です』


成幸 (……多分、美春さんは俺がそんなことを言っても信じないだろうし)

成幸 (もし万が一、俺の言うことを信じてしまった場合……)


―――― 美春 『姉さま? 聞きましたよ? お掃除とお料理が “少々” 苦手なのですね?』

―――― 真冬 『ち、違うのよ、美春。そんな事実はなくて、その……――』

―――― 美春 『――問答無用。ご心配には及びません、真冬姉さま』

―――― 美春 『今から私が、姉さまが苦手を克服するまでつきっきりでお教えいたしますので』


成幸 「………………」

成幸 (……最悪、桐須先生が、死ぬな)

756以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:51:36 ID:lMbr6Vko
美春 「……?」 (どうしたんでしょう、唯我成幸さん。難しい顔をして黙りこくって……)

美春 (姉さまのことをそれだけ真剣に考えてくれているということなのでしょうが……)

美春 (お、男ならズバッと言ったらどうですか!! 男らしくありません!)


―――― 成幸 『真冬先生は、俺の大切な人です! 大好きな人です!』

―――― 成幸 『だから誰になんと言われようと俺は……』

―――― 成幸 『絶対に真冬先生と添い遂げてみせます!!!!』


美春 「はうっ……///」

美春 (そ、そこまで覚悟が決まっているなら、私だって……)

美春 (おふたりの関係を認めるに吝かではないのに……)

成幸 「………………」

成幸 (ど、どうするどうするどうする!?)

成幸 (正直に話してしまったが最後、最悪桐須先生が死ぬ未来が見える以上、本当のことは話せないし……)

成幸 (かといって、こんな真剣な顔をしている美春さんに嘘をつくのも申し訳ないし……)

成幸 「………………」 グッ (……よしっ!)

757以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:52:19 ID:lMbr6Vko
成幸 (……ここはなんとか、嘘をつかない範囲で誤魔化そう!!)

成幸 「……俺にとって、桐須先生は、」

美春 「……!」

美春 (き、来ますか! 来るんですか!?)

美春 (カレエゴのようなとんでもない一撃が!?)

成幸 「えっと……」

成幸 「“放っておけない人” ですかね……」

美春 「………………」

美春 「……放っておけない人、ですか?」

成幸 「はい」

美春 「む……」 モヤモヤ (な、なんでしょう。何か釈然としないような……)

成幸 「桐須先生って、すごくしっかりしている人じゃないですか」

美春 「当然至極。姉さまは絶対的に完璧な理想の体現者です」

成幸 (すごい表現の仕方だ……)

758以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:52:51 ID:lMbr6Vko
成幸 「でも、どこか放っておけないような危うさもありませんか?」

美春 「……?」

成幸 「美春さんだってしょっちゅう先生の家を訪ねているじゃありませんか」

成幸 「それは、先生のことが心配だからではないですか?」

美春 「む……」

美春 「……単純に姉さまに会いたいから、という気持ちもありますが」

美春 「まぁ、たしかにそれはありますね」

成幸 「だから、俺も先生のことが放っておけなくて、先生の家を訪ねている側面があります」

成幸 「……たしかに、今の俺と先生の(掃除を手伝うような)関係は適切ではないかもしれません」

美春 「ええ。世間一般に照らし合わせれば、あなたと姉さまの(恋人)関係は適切とは言えないでしょう」

成幸 「でも、先生には俺が必要なんです。詳しくは……桐須先生の名誉のために言えませんが」

美春 「!?」 (姉さまの名誉のために言えない!? 姉さまはどんな破廉恥な理由であなたを求めているのですか!!)

成幸 「先生は意外と不器用で、できないことも多いんです」

成幸 「あ! で、でも美春さんが先生に教える必用はないですよ。俺がしっかり教えますから。手取り足取り!」

美春 「!?!?」 (手取り足取り!? 手取り足取りどんな破廉恥なことを姉さまに教えるつもりですか!!)

759以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:54:47 ID:lMbr6Vko
成幸 「だからその、これからも俺と先生の(家で掃除・勉強をする)関係を認めていただけたら……」

美春 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……って、あの、美春さん? 聞いてます?」

美春 (や、やはり殿方はケダモノ! 唯我成幸さんも紛れもない狼……!)

美春 「み、認められるわけないでしょう! やはりあなたも姉さま(の体)が目的なんですね!!」

成幸 「先生が目的……?」

ハッ

成幸 (た、たしかに。先生に勉強を教えてもらうと捗るから、それをアテにしている面は否めない……!)

成幸 「……た、たしかにその通りかもしれません。俺は、先生のためといいつつ、先生をアテにしているかもしれません)

成幸 「でも、美春さん! たぶん先生は俺がいなくなったら(ゴミだまりに埋まって)廃人になりますよ!」

美春 「!?」 (姉さまはもうそこまで身も心も唯我成幸さんのトリコに……!?)

美春 (悪逆非道! なんて卑怯な人でしょうか……!)

成幸 「だからどうか……」

ギュッ

美春 「ひゃあっ……!?」 (手!? 手を、握……握られ……!)

760以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:55:25 ID:lMbr6Vko
成幸 「お願いします、美春さん。俺と先生の関係を、認めてください……!」

美春 「ひゃっ……ひゃっ……」 (と、殿方に手を! 手を握られています!?)

成幸 「あと、俺が先生の家に(掃除をするために)通うのを認めてください!」

ギュッ……!!!

美春 (!? つ、強く……握……)

美春 「わっ、わかりました! わかりましたから!」

美春 「あなたと姉さまの(恋人)関係を認めます!」

美春 「それからあなたが姉さまの家に(恋人として)通うことも認めますから!!」

美春 「だ、だから……離してください!!」

成幸 「へ……? わっ」 バッ 「す、すみません、つい興奮して……」

美春 (わ、私にまで興奮するなんて、ケダモノ……!)

カァアアアア……

美春 (……殿方に初めて手を握りしめられてしまいました……)

美春 (もうお嫁に行けません……)

761以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:56:38 ID:lMbr6Vko
成幸 「あの、美春さん、大丈夫ですか? 顔が赤いですけど……」

美春 「!? 赤くなんてなってません!!」

キッ

美春 「あ、あなたの熱意に免じて、今回は認めてあげます」

美春 「認めはしましたけどね……! でも……」

美春 「まだ、結婚まで認めたわけじゃありませんからねーーーーーーーー!!!」

バッ!!!!

成幸 「あ、美春さん!? もう帰るんですか!? っていうか結婚って何の話ですか!?」

美春 「唯我成幸さんのお母さま! ご飯ごちそうさまでした! 夜分に失礼しました!」

美春 「妹さん! ご飯とっても美味しかったです! 今度お礼は必ずしますね!」

美春 「双子さんたちも、また今度! それでは失礼致します!」

タタタタタ……

成幸 (わ、わざわざ俺の家族に挨拶をしてから走り去って行った……律儀な人だ……)

花枝 「あのお嬢さん、一体どうしたの?」

成幸 「俺に聞かないでくれ。俺にもわけがわからないんだ」

762以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:57:16 ID:lMbr6Vko
………………帰路

タタタタタ……

美春 「………………」 (……今回は私の負けです。唯我成幸さん、あなたの熱意に負けました)

美春 (あんな情熱的に姉さまへの愛を宣言されてしまえば、認めざるをえません……)

美春 (ですが!!)

美春 (両親は厳しいですよ! 姉さまとの結婚をそうすぐ認めてくれると……)


―――― 母 『真冬さんの言う部屋の片付けを手伝ってくれる殿方ってどんな方かしらねぇ』

―――― 父 『あの気むずかしい子が気に入るのだからきっと良い子だろう』

―――― 母 『なんにせよ、あの子ももういい歳ですし、そろそろ結婚してほしいですねぇ』

―――― 父 『うむ。あの子が連れてくる男なら信用できるだろう。早く家に連れてきてくれるといいのだが』


美春 (……いえ、外堀全埋めでしたね)

美春 (ですが、私はそんなに甘くありませんよ! あなたと姉さまの関係を全て認めたわけではありませんから!)

美春 (今日のような熱意を見せてくれなければ、絶対に結婚なんか認めませんからね!!)

おわり

763以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:57:50 ID:lMbr6Vko
………………幕間1 『カレエゴ』

真冬 「あら? カレエゴの一巻が本棚から消えているわね」

真冬 (昨日の掃除のときにどこかへやってしまったかしら)

フッ

真冬 「まぁ問題ないわね」

スッ……サッ……トッ

真冬 「うっかり一巻をもう一冊買ってしまってあるから何の問題もないわ!」

バーーーーン

真冬 「………………」

真冬 (……大ゴマで偉そうに言うことではないわね)

764以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:58:33 ID:lMbr6Vko
………………幕間2 『許すまじ』

花枝 「それにしてもお上品で感じの良いお嬢さんだったわね」

成幸 「美春さんのこと? あの人、桐須先生の妹だよ」

花枝 「真冬ちゃんの? あー、そういえばなんとなく感じが似ている気もするわね」

水希 「………………」 ブツブツブツ……

成幸 「……で、水希は隅っこで一体何をやってるんだ」

水希 「……許すまじ。兄に近づく、不貞の女郎。許すまじ……」

ブツブツブツ……

成幸 「………………」

成幸 「……さ、明日のあいつらの勉強の準備でもするかな〜、っと」

葉月 「兄ちゃん、逃げたー」

和樹 「見なかったことにしたー」

おわり

765以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 21:00:08 ID:lMbr6Vko
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。
まだ本編中に拾えそうなエピソードがたくさんあると思います。
全部書き上げられるとは思えませんが、少なくともこのスレがエンプティを迎えるまでは投下したいと思います。
お付き合いいただけたら嬉しいです。

感想、乙等励みになります。いつもありがとうございます。
またageていたら読みに来てくださると嬉しいです。

また投下します。

766以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/12(水) 00:45:23 ID:xA1Z/oUM
おつ
新作も楽しみにしてます

767以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/12(水) 00:46:08 ID:ck16vYpg
おつおつ

768以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/12(水) 14:34:43 ID:7Oag0XBE
やばい、最高すぎる

769以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:28:39 ID:PHnQenq6
>>1です。
書いていたら書き上がってしまったので投下します。
文学の森の眠り姫編ルート後です。


【ぼく勉】 水希 「新しいこれからをあなたと」

770以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:29:12 ID:PHnQenq6
………………問.168後 某日 唯我家

文乃 「………………」

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

チクタクチクタク……

文乃 「あっ……な、成幸くん、帰ってくるの遅いね」

水希 「………………」

チラッ

水希 「……そうですね」

文乃 「あ……あはは……」

文乃 (きっ……きまずい……!)

文乃 (なんでこんなことに……?)

文乃 (今日、わたし……)

文乃 (わたし、誕生日なのにーーーーー!!!)

771以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:32:12 ID:PHnQenq6
………………少し前

成幸 「誕生日おめでとう、文乃」

文乃 「えへへ、ありがとう、成幸くん」

成幸 「早速だけど、はい、プレゼント」

文乃 「わぁ! 本当に作ってきてくれたんだ!!」

文乃 「ねぇねぇ! 着てみていい?」

成幸 「ああ、もちろん」

成幸 「……でも良かったのか? 誕生日プレゼント、そんなので」

成幸 「俺の手作りのエプロンがいいなんて……」

文乃 「“そんなの” じゃないよ」

シュルシュル……スッ

文乃 「世界で一着だけの、わたしの彼氏さんが作ってくれたエプロンだよっ」

文乃 「えへへ、どうかな? 似合う?」 クルッ

成幸 「っ……」

772以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:32:56 ID:PHnQenq6
文乃 「? どうかした、成幸くん?」

成幸 「い、いや……///」

成幸 (ま、まずい。せっかく文乃に着てもらうんだからと、これでもかと可愛く作ったから……)

成幸 「可愛すぎる……っ」

文乃 「へえっ……?///」

成幸 「あっ……」 (口に出してしまった……)

文乃 「……えへへ。嬉しいな」

成幸 「いや、こちらこそ、そんなに可愛く着てくれて嬉しいよ」

文乃 「もうっ、成幸くんったら……///」

成幸 「いや、ほんとに……///」

水希 「………………」

文乃 「えへへ……」

成幸 「はは……」

水希 「………………」

文乃 「……!?」 バッ 「み、水希ちゃん!? いたの!?」

773以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:33:35 ID:PHnQenq6
水希 「……はい、こんにちは、古橋さん」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 「もちろんいますよ。ここは私の家ですから」

文乃 「あ、それはそうだよね……」

成幸 「帰ってたのか。早かったな、水希。おかえり」

水希 「うん、ただいま、お兄ちゃん」

文乃 (あれ……? わたしにツンケンするのはいつものことだけど……)

文乃 (なんでだろう? 大好きなお兄ちゃんを相手にしても、なんか表情が暗い……?)

水希 「……お兄ちゃん」

成幸 「ん?」

水希 「ちょっとお遣い頼んでもいいかな。ちょっと今日は部活で疲れちゃったんだ」

成幸 「あ、ああ。俺は構わないけど……」 チラッ

文乃 「……わたしは大丈夫だよ。待ってるよ」

成幸 「ん。悪いな、文乃。水希、何を買ってきたらいいんだ?」

水希 「……うん。えっとね……」

774以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:34:10 ID:PHnQenq6
………………現在

文乃 (……そして今、わたしは水希ちゃんとふたりきり、顔をつきあわせている)

水希 「………………」

文乃 (いつもなら……)


―――― 水希 『やっと兄と交際を始めて半年くらいでしょうか?』

―――― 水希 『まぁよく保った方だと思いますよ。兄の我慢あってのことでしょうけどね!』


文乃 (……って感じで直接ツンケンしてくるけど)

文乃 (今日はなんか、怒ってる……? というよりは、苦しそうというか、悲しそうというか……)

文乃 (……どうしたんだろう?)

水希 「………………」

文乃 (……よしっ)

グッ

文乃 (わたしはもう成幸くんの彼女さん! と、いうことは、水希ちゃんは妹同然!)

文乃 (なら、わたしが水希ちゃんのお悩みを解決してあげなくちゃ!!)

775以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:34:42 ID:PHnQenq6
文乃 「あ、あのさ、水希ちゃん」

水希 「……なんでしょうか」

文乃 「どうかしたのかな? なんか表情が優れないけど……」

水希 「………………」

プイッ

水希 「……べつに何もありませんけど」

文乃 「いやぁ……」

文乃 「……嘘がヘタだなぁ。お兄ちゃんそっくりだね」

水希 「っ……」

水希 「……べつにあなたには関係ないでしょう」

文乃 「いやいやいや、関係ないわけないでしょ」

文乃 「わたしは成幸くんの彼女だよ! そして水希ちゃんは成幸くんの妹さん!」

文乃 「ってことは、水希ちゃんはわたしの妹みたいなものだからね!!」

水希 「古橋さん……」

776以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:35:25 ID:PHnQenq6
文乃 (……ふふ。我ながらキマったね。良い姉できたね……――)

水希 「――……彼女になった程度でもう兄の妻気取りですか……?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 (あーーーーー!!! 地雷だったーーーーーー!!!)

水希 「………………」

ハァ

水希 「……まぁ、あなたと兄がくだらない理由で別れるなんてことはないでしょうから」

水希 「あなたはいずれ、本当に私の姉になるんでしょうね」

文乃 「へ……?」

カァアアアア……

文乃 「あ、あはは……/// そ、そうなったらわたしは、うん……嬉しいけど……」

水希 「………………」

文乃 「……?」 (水希ちゃん、まだ暗いままだ……)

文乃 (うーん……)

777以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:36:22 ID:PHnQenq6
文乃 「……お友達と喧嘩した?」

水希 「仲良しです。良い友達に恵まれました」

文乃 「お母さんか、葉月ちゃん和樹くんと何かあった?」

水希 「そんなわけがないでしょう」

文乃 (……うーん)

文乃 「水泳のタイムが伸びない、とか……?」

水希 「………………」

ハァ

水希 「しらみつぶしですね。違います」

水希 「……もう。お節介。本当に……」

文乃 「ん……ごめん」

水希 「……本当に、そういうところが、兄を惹きつけたんでしょうね」

水希 「そしてきっと、その兄に似ている、私やお母さん、葉月と和樹も……」

文乃 「……?」

778以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:36:55 ID:PHnQenq6
水希 「………………」

文乃 「水希ちゃん……?」

水希 「……古橋さん、最初に謝っておきます。ごめんなさい」

文乃 「へ? へ?」

水希 「それから……」 スッ 「誕生日おめでとうございます」

文乃 「へっ……? へぇ!?」

文乃 「わ……わたしへの誕生日プレゼント!? 水希ちゃんが!?」

水希 「……私が? 私がプレゼントを用意したら何かおかしいですか?」

文乃 「う、ううん。すごく嬉しいよ! 嬉しい……」

文乃 「本当に……」 クスッ 「嬉しいんだよ、水希ちゃん。ありがとう」

水希 「……いえ」

文乃 「ねぇ、開けてもいい?」

水希 「っ……」

コクリ

水希 「……はい」

779以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:37:47 ID:PHnQenq6
文乃 「なんだろうなぁ〜♪」

ガサガサ……

文乃 「……ん? 包丁?」

文乃 「………………」

水希 「……あ、あの」

水希 「ちがうんです! その……私……」

水希 「包丁がそういうものだって知らなくて……」

水希 「常識知らずだって言われたらそれまでですけど、本当に……」

水希 「……知らなくて」

780以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:38:28 ID:PHnQenq6
………………数日前

成幸 「………………」

ガガガガガガガガ……!!!!

水希 「……? お兄ちゃん、何作ってるの?」

成幸 「ん? 文乃への誕生日プレゼントだよ」

水希 「ん……そっか、古橋さん、そろそろ誕生日なんだ」

成幸 「何がほしいか聞いたら、俺手作りのエプロンがいいってさ」

成幸 「まぁ、水希のおかげで文乃も料理がどんどん上手くなってるからな」

成幸 「キッチンに立つのが楽しいみたいだ」

水希 「ふーん。そっか……」

成幸 「なんか、包丁も新しいのを買おうとか言ってたな。出刃包丁とか……」

成幸 「水希が使ってるのを見て欲しくなったとか言ってたぞ」

水希 「……ふーん。古橋さん、包丁がほしいんだ。出刃包丁かぁ」

781以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:39:02 ID:PHnQenq6
………………

水希 (高校に入ってからバイトもしてるし、家計の分を引いても……)

水希 (……うん。古橋さんへのプレゼントのお金を出しても問題ない)

水希 (古橋さん、お料理上手くなってきたけど、まだ疎いから)

水希 (……えへへ。喜んでくれるかな)

水希 「すみません、この左利き用の包丁いただけますか?」

782以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:39:36 ID:PHnQenq6
………………現在

水希 「……それで、その後、テレビで包丁はプレゼントしちゃダメだって知って」

水希 「“縁を切ることを表すから” って……」

水希 「私、いつも古橋さんにきつく当たってるから……」

水希 「包丁なんかプレゼントしたら、古橋さんを嫌な気持ちにさせちゃうかもしれないし……」

水希 「でも、せっかくバイト代で買ったものだから、相応しい人に使ってほしいし……」

水希 「それで、その……――」


文乃 「――――すっごーーーーーーーい!!!!!」 ガバッ


水希 「へ……?」

文乃 「すごいよ水希ちゃん!  これ私が欲しかった出刃包丁だね!? この包丁すごく高そうだけど大丈夫!?」

文乃 「えっ!? っていうかパッケージに左利き用って書いてある!? 包丁に利き手って関係あるの!?」

文乃 「たしかにハサミは左利き用じゃないと切りにくいけど、包丁は考えたことなかったよ!」

水希 「い、いや、あの……」 カァアアアア…… 「そんなに、まくし立てられても答えられないっていうか……」

水希 「ち、近い、です……///」

783以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:42:22 ID:PHnQenq6
文乃 「あっ……ごめんごめん」

文乃 「つい興奮しちゃったよ。水希ちゃんからプレゼントがもらえるなんて思ってなかったから……」

文乃 「……すごく、嬉しくって」 ニコッ

水希 「っ……///」

水希 「……バイトしてますから、お金はお気になさらずに。大丈夫です」

水希 「あと、普通の包丁は、あんまり利き手は関係ないですけど……」

水希 「古橋さんが欲しがってた出刃は、片刃なので……」

水希 「左利き用じゃないと多分、切りにくいと思います」

文乃 「はぇ〜、そうなんだ。危ない危ない。普通の買うとこだったよ……」

水希 「あと、古橋さんが包丁を欲しがっているのは、兄から聞いていたので……」

文乃 「そうなのかぁ。なんか、成幸くん経由でねだっちゃったみたいになっちゃったなぁ……」

文乃 「でも、本当にありがとう。すごく嬉しいよ、水希ちゃん。えへへ」

水希 「ん……どういたしまして、です」

784以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:43:02 ID:PHnQenq6
文乃 「……っていうことは、ひょっとして、水希ちゃんが今日暗かったのは、」

文乃 「包丁のプレゼントはあまり縁起が良くないってことを知って、悩んでたから……?」

水希 「ん……」

水希 「……ごめんなさい」

文乃 「なんで謝るの? わたしはすごく嬉しいから何の問題もないよ」

水希 「でも……」

文乃 「………………」 クスッ 「……水希ちゃんは優しいね」

水希 「……?」

文乃 「包丁のプレゼントが縁起が悪くて、そのせいでわたしと成幸くんがどうにかなったら嫌だ、ってこと?」

文乃 「そうだね。たしかに、わたしと成幸くんに万が一何かがあって、それで水希ちゃんが気に病むのはわたしも嫌だなぁ」

文乃 「……ってことで、こうしましょう」 ゴソゴソ……

水希 「……?」 (お財布……?)

文乃 「おっ、よかったよかった。あった」

文乃 「水希ちゃん、包丁ありがとう。大切に使うね」 スッ 「その代わり、はい、この五円玉を差し上げます」

785以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:45:44 ID:PHnQenq6
水希 「五円玉……? なんで……?」

文乃 「ふふふ、わたしはこれでも “文学の森の眠り姫” なんてあだ名で呼ばれていたこともあってね」

文乃 「おまじないやしきたりにも詳しかったりするんだよ」

文乃 「刃物をプレゼントされたら、五円玉を相手に渡すんだ」

文乃 「そうすると、縁起の悪い “切った” 御縁を結び直すことができるんだ」

文乃 「これでわたしたちは今まで以上に強固な関係で結ばれたよ!」

文乃 「だから、大丈夫。これで何も縁起が悪いことはなくなったよ。新しい縁を結んだからね」

文乃 「ありがとう、水希ちゃん。この包丁、大切に使わせてもらうね!」

水希 「……古橋さん」

水希 (この人は、ああ、本当に……)

水希 (すごい人だ)

水希 「……はいっ!! 古橋さん!」

786以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:46:21 ID:PHnQenq6
………………

文乃 「……えっと、こう、かな」

ガッ……

文乃 「うぅ、また骨に引っかかった……」

水希 「お魚はもっと、こう……」

ググッ……ゴッ……

水希 「……です」

文乃 「む、難しいんだよ……」

文乃 「……でもせっかく水希ちゃんがプレゼントしてくれた包丁だし、がんばるね!」

ググ……ゴッ……

文乃 「……!? できたー!」

水希 「……やれやれ。頭を落としただけでそんなに喜んじゃって」

水希 「いつまでもメシマズのままじゃ、兄に愛想尽かされちゃいますよー?」 プークスクス

文乃 「最近はちゃんと口内出血しないもの作ってるもん!!!」

水希 「そんなの当たり前なんですよ!!!」

787以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:46:52 ID:PHnQenq6
文乃 「……ま、まったく、水希ちゃんは本当に口が減らないんだから」

水希 「古橋さんこそ、いつまで兄の彼女面してるつもりですか」

文乃 「だから本当に彼女なんだってばー!」

水希 「………………」


―――― 『刃物をプレゼントされたら、五円玉を相手に渡すんだ』

―――― 『そうすると、縁起の悪い “切った” 御縁を結び直すことができるんだ』

―――― 『これでわたしたちは今まで以上に強固な関係で結ばれたよ!』

―――― 『だから、大丈夫。これで何も縁起が悪いことはなくなったよ。新しい縁を結んだからね』


水希 (“新しい縁” “今まで以上の関係” かぁ……)

水希 「そ、そうですか。彼女ですか。じゃあ、早く魚くらいさばけるようにならないとですね」

水希 「ふっ……」

カァアアアア……

水希 「……文乃、お姉ちゃん」

文乃 「!?」

788以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:47:39 ID:PHnQenq6
………………

成幸 「ただいまー」 (……ふー。遠くのスーパーじゃないと買えないようなものばっかりだったから大変だったな)

ドタドタドタドタ!!!!

成幸 「ん……?」

文乃 「お帰り成幸くん!! ねぇ聞いて聞いて聞いて成幸くん聞いて!!!」

成幸 「のわっ!? いきなりどうした、文乃」

文乃 「あのね!!! 水希ちゃんがね!!! わたしのこと、お姉ちゃんって……!!!」

水希 「だああああああ!!! 何でお兄ちゃんに言うんですかバカー!!」

水希 「文乃お姉ちゃんのバカーーーー!!!」

文乃 「また言ったーー!! ねぇねぇすごくない!? すごいよね成幸くん!!」

水希 「もういいです!! これからもそう呼ぶって決めましたから恥ずかしくないです!!」

水希 「その代わり、私が姉と呼ぶんですから、兄と別れたりしたら承知しませんからね!!」

成幸 「あーー……」 (一体俺は何を見せられているんだろうか……)

成幸 (でも、まぁ……水希も文乃も嬉しそうだし、いいか……)

おわり

789以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:48:14 ID:PHnQenq6
………………幕間 『それは』

文乃 「ん? ひょっとして今までわたしがお料理ベタだったのは、包丁が合っていなかったからなのでは?」

水希 「いえ、それは関係ないと思います」

成幸 「そういうレベルの料理ベタじゃなかったしな」

文乃 「冗談だよ!! そんな兄妹そろってバッサリ切ることないでしょーー!!」

おわり

790以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:51:20 ID:PHnQenq6
>>1です。
今日が左利きの日だと知り、書きました。
読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

791以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 22:58:30 ID:LSj4gG8g
左利きの日初めて知った

おつ

792以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/14(金) 00:51:33 ID:EUDJ4FCo
おつんこ!!!
この組み合わせほんと好き

793以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/14(金) 12:28:55 ID:KaScJ.CI
新作ありです!
前にも書いたけど、やはり水文はイイ…

794以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/16(日) 01:25:33 ID:lhHct9mI
ええな
右利きの日ssも待ってるで

795以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/31(月) 01:58:07 ID:BTv1ZgZ.
乙乙

796以下、名無しが深夜にお送りします:2020/09/17(木) 04:31:14 ID:kclaCEMM
文系の姉ムーブほんとすこ

797以下、名無しが深夜にお送りします:2020/09/19(土) 13:50:51 ID:ExCQ8DXo
おつおつ
水希ちゃん可愛くて幸せ

798以下、名無しが深夜にお送りします:2020/10/02(金) 18:15:47 ID:D7rB3x7M
19巻の発売日やな

799以下、名無しが深夜にお送りします:2020/10/24(土) 02:07:16 ID:u9vjyso.
わたしと
お兄さんは
絶対そんな関係にはならないから
…ゴゴゴゴ

800以下、名無しが深夜にお送りします:2020/10/27(火) 04:44:43 ID:cy8SENR6
1つ目のスレから見返して思ったがやっぱ完成度高いわ

801以下、名無しが深夜にお送りします:2022/02/10(木) 16:58:48 ID:xZHZuzMo
久しぶりに読み返したけどやっぱり良いなぁ


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