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【ぼく勉】 文乃 「今週末、天体観測に行くんだよ」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/03(金) 23:07:13 ID:9nEg0gUI
理珠 「ほう。天体観測ですか。どこかの天文台へ行くのですか?」

文乃 「ううん。バスツアーなんだけどね、車で二時間くらいの高原に行くんだよ」

文乃 「結構コアなツアーでね。参加者全員望遠鏡を自分で持って行って、思い思いにレンズを覗くんだ」 ワクワク

文乃 「深夜に駅を出て、数時間天体観測をしたら、早朝に駅に戻ってくるって感じのツアーだよ!」

うるか 「ほへー。そんなのがあるんだねぇ」

成幸 (……それはツアーで行く意味があるのか? とかそういうことは置いておくとして)

成幸 (受験も近いのに大層な余裕だな、というツッコミも置いておくとして)

成幸 「……お父さんと一緒に行くのか?」

文乃 「うんっ! お父さんがね、誘ってくれて……」

文乃 「“一緒に行かないか” って。えへへ……」

成幸 「そうか」 クスッ 「よかったな、古橋」

文乃 「うん! ありがと、成幸くん! 道中のバスではちゃんと勉強するから安心してね!」

成幸 (この寝ぼすけ眠り姫が深夜と明け方のバスで勉強するとは思えないが……)

成幸 (まぁ、たまの息抜きぐらい、問題ないだろうし、何より……)

成幸 (古橋とお父さんの関係が、少しずつ改善しているのが、嬉しい)

48以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:26:52 ID:ZJywfASQ
………………小美浪診療所

宗二朗 「……うん。間違いない。ぎっくり腰だよ」

親父さん 「うぅ……」

理珠 「ぎっくり腰……」

ホッ

理珠 「急に倒れたので、大病かと慌てましたが、ぎっくり腰ですか。良かった……」

宗二朗 「うーむ。そのぎっくり腰に対しての認識は改めた方がいいかもしれんな」

理珠 「?」

宗二朗 「たとえば、ぎっくり腰の患者に、こうしてでこぴんをしてみると、」

ピーン

親父さん 「ぐおお!?」 ビキッ 「うおおおおおおお!?」

宗二朗 「まずでこぴんの衝撃で腰が痛む。その生体反応で動いてしまってまた腰が痛む」

宗二朗 「振り子の振動と一緒だね。その痛み振幅は少しずつ小さくなるがなかなかなくならない」

理珠 「な、なるほど……。恐ろしいものなのですね、ぎっくり腰とは……」

親父さん 「せ、センセイよぉ……。俺の身体でぎっくり腰の解説をすんのはやめてくれよ……」

49以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:28:20 ID:ZJywfASQ
親父さん 「こんなの大したことねぇよ。明日まで寝りゃすぐ痛みもひくだろ……」

宗二朗 「だからそんな簡単なものじゃないと言っているんだがな」

宗二朗 「なんにせよ、しばらくまともに動けないだろう。二、三日の安静が必要だよ」

親父さん 「……安静ってのは、仕事をしても大丈夫なんだよな?」

宗二朗 「バカを言うんじゃない。仕事なんかさせられるわけないだろう」

親父さん 「!? いやいや、そりゃ困るよセンセイ! 明日は町内会のお祭りに出店しなきゃなんだ!」

宗二朗 「そう言われてもな」

ピーン

親父さん 「ぬおおおお!?」

宗二朗 「少し触るだけでそれだけ痛がっていたら、仕事なんてできるものではないと思うがね」

親父さん 「ぐおおお……」

宗二朗 「出店の方は諦めた方がいい。それから、お店の方も一週間ほどは休業した方がいいだろうな」

親父さん 「うぐ……でもな、そうそう簡単に仕事を休むわけにも……」

宗二朗 「腰は消耗品だ。軽く見てると一生仕事ができなくなるぞ?」

親父さん 「むぐっ……」

50以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:28:59 ID:ZJywfASQ
親父さん 「……分かったよ。センセイの言うとおりにするよ」

宗二朗 「うむ。よろしい」

宗二朗 「……と、言うわけで緒方さん。お父さんは二、三日うちで預かるよ」

宗二朗 「話を聞けばお母様も家にいらっしゃらないようだし、その方がいいだろう」

理珠 「すみません。ありがとうございます。父をよろしくお願いします」

親父さん 「リズたま!? リズたまは家にひとりで大丈夫なのかい!?」

理珠 「? 何の問題もありませんが?」

理珠 (……そう。家にひとりなのは問題ない。問題は……)


―――― 『うん! りっちゃん家のうどん楽しみだなぁ〜』

―――― 『お祭りで食べると、味わいもヒトシオだよねぇ〜』


理珠 「……楽しみにしてくれている人が、いますからね」

親父さん 「……? リズたま?」

理珠 「安心してください、お父さん! お店は無理でも、明日のお祭りくらいなら……」

理珠 「私ひとりでどうにか切り盛りしてみせますから!!」

51以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:29:36 ID:ZJywfASQ
親父さん 「へ……? い、いや、リズたま……?」

理珠 「……と、なればボーッとしてはいられませんね。明日の仕込みもしておかないと」

理珠 「では、先輩のお父さん! 父をよろしくお願いします!」 ペコリ

宗二朗 「あ、ああ……」

親父さん 「リズたま? ち、ちょっと待って……――」

理珠 「――お父さんはちゃんと安静にしていてくださいね!」

タタタタタ……

親父さん 「リズたまーー!?」

ズキッ

親父さん 「あいたたたた……っ」

宗二朗 「……ふむ。娘からときどき話を聞くが、理珠さんは猪突猛進なところがあるな」

親父さん 「うるせぇやい。それもリズたまのいいところのひとつなんだよ」

宗二朗 「それはそうだろうな。父親の店のために、がんばろうと走り出すくらいなのだから」

親父さん 「……いや、まぁそりゃ嬉しいがな……。出店っていったって、リズたまひとりじゃさすがに……」

親父さん 「………………」

52以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:30:09 ID:ZJywfASQ
宗二朗 「……心配か?」

親父さん 「娘が心配じゃねえ父親なんかいるもんかよ」

宗二朗 「……ふむ。まったくその通りだな」

親父さん 「……なぁ、センセイ。少し頼まれてほしいんだが」

宗二朗 「? なんだ?」

親父さん 「電話を貸しちゃくれねぇか?」

宗二朗 「……わかった。子機を取ってくるから、ちょっと待っててくれ」

親父さん 「………………」

親父さん (……リズたまはナリは小せぇが、意志は強くて一度言い出したら聞かないタチだ)

親父さん (やると言ったらやるんだろう。明日の出店、自分ひとりで……)

親父さん (縁日の出店とはいえ、ひとりでやりきるのは無理だ……)

親父さん (情けねぇ話だが、小美浪センセイの言うとおり、俺にできることはなさそうだし……)

親父さん (ママは一日で帰ってこれる距離じゃねぇ)

親父さん (ああ、ちくしょう。情けねぇ。でも、背に腹は代えられねぇ……)

親父さん (あのヤロウに頼るしかねぇか……)

53以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:30:40 ID:ZJywfASQ
………………緒方うどん

理珠 「………………」

理珠 「……ふん!!」

グググググ……ッ!!!

理珠 「……うぅ」 ペタン

理珠 (ダメです。荷物をリュックに詰め直して見ましたが、重すぎます……)

理珠 (お父さんが入院ということは、車も出せないということですから、)

理珠 (全部の荷物を会場まで徒歩で運ばなければならないというのに、これでは……)

理珠 (食材から小物、寸胴鍋まで運ぶのは、さすがに難しいですよね)

理珠 (どうしたら……)

理珠 「………………」

理珠 (……冷静に考えてみれば、よしんば荷物を運び込めたとしても、)

理珠 (出店とは言え、ひとりでお店を切り盛りするコトなんて私にはできっこないですよね……)

54以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:31:23 ID:ZJywfASQ
理珠 (……本当は分かっている。私は、意固地になっているだけです)

理珠 (できっこないことに固執して、なんとかしようとあがいているだけ……)

理珠 (……いつもそうです。私は、こうやって、できもしないことを……――)


成幸 「――お邪魔しまーす! 緒方、いるかー?」


理珠 「……へ?」

成幸 「お、いたいた。こんばんはだな、緒方」

理珠 「………………」

理珠 「ど、どうしてうちに成幸さんが!?」

成幸 「いやぁ、まぁ、色々あったというか、なんというか……」

成幸 「とりあえず説明は後だ。準備は終わってるんだな。じゃあ、早速荷物運び込むぞ」

理珠 「へ? へ? 運び込むって、どこに……」


真冬 「疑問。閉店中とはいえ、お店の前に車を止め続けていいものかしら?」


理珠 「……?」 ハッ 「きっ……桐須先生!? なぜ!?」

55以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:31:55 ID:ZJywfASQ
うるか 「やっほー! あたしたちもいるよ、リズりーん」

文乃 「やぁやぁ、困ってるって聞いたから来ちゃったよ」

あすみ 「よっ。親父さん大変だったな。手伝いに来たぜー」

理珠 「うるかさんに文乃先輩まで!? い、一体どうして……」

成幸 「まぁまぁ、細かいことは後だ。とりあえず荷物運んじゃうぞ」

うるか 「よしきた! うるかちゃんの力持ちなところ見せちゃうぞー!」

文乃 「じゃ、わたしはこの寸胴鍋運んじゃうねー」

理珠 「は、はい! お願いします、文乃」

理珠 (……? しかし、運び込むとは一体……。それに、さっき桐須先生は……)


―――― 『疑問。閉店中とはいえ、お店の前に車を止め続けていいものかしら?』


理珠 (車……?)

バーーーーン!!!

理珠 「……!? お店の前に本当に車が!?」

56以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:32:55 ID:ZJywfASQ
真冬 「ええ、私の車よ。小さく見えるでしょうけど、物はたくさん詰めるから安心してちょうだい」

理珠 「先生の車!? 先生、自動車をお持ちだったんですね。意外です……」

理珠 「……いや、というか、」

真冬 「? どうかしたかしら?」

理珠 「えっと、その……先生が、車を出してくださるということ、ですか……?」

真冬 「ええ。それが何か?」

理珠 「な、何かって……なぜ……?」

真冬 「あなたが困っているって聞いたからよ」

真冬 「それとも何かしら」 ジトーーッ 「私の運転が不安?」

真冬 「何なら今からあなたを乗せて走ってみせようかしら?」 フンスフンス

理珠 「ち、違います! 滅相もないです!」

理珠 「そうではなくて、その……先生もお忙しいでしょうし、あの……えっと……」

理珠 「………………」

理珠 「……すみません。ありがとうございます」 ペコリ

57以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:33:39 ID:ZJywfASQ
真冬 「……車を出すだけだもの。お礼を言われるようなことではないわ」

真冬 「……まぁ、本当であれば、利害関係者である生徒と私的な関係を持つのは厳禁だけれど」

真冬 「仕方ないわ。あれだけ頼み込まれてしまっては、ね」

理珠 「……?」

真冬 「ほら、緒方さんもどんどん運び入れなさい。忘れ物がないようにね」

理珠 「あ……は、はい!」

理珠 「………………」


―――― 『やぁやぁ、困ってるって聞いたから来ちゃったよ』

―――― 『あなたが困っているって聞いたからよ』

―――― 『仕方ないわ。あれだけ頼み込まれてしまっては、ね』


理珠 (……私の窮状を、誰かが皆さんに伝えた?)

理珠 (一体、誰が……いえ、) フルフル (そんなの考えるまでも、ないですよね)

成幸 「うおお……お、重い……」 フラフラ

理珠 「………………」 カァアアアア……

58以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:34:15 ID:ZJywfASQ
………………

真冬 「では、たしかに荷物を預かったわ。明日の朝、会場に直接運び入れるわね」

成幸 「先生、分かってますよね? 物積んでますからね? 割れ物もありますからね?」

成幸 「後生だから、安全運転でお願いしますね」

真冬 「失礼。君は私を一体なんだと思っているの?」

成幸 「………………」 ボソッ 「峠の走り屋……」

真冬 「……何か言ったかしら?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「ひっ……。な、なんでもないです!」

真冬 「まったく……」 オホン 「では、また明日。緒方さん」

理珠 「はい! よろしくお願いします! 桐須先生!」

あすみ 「じゃ、アタシもそろそろお暇するか。後輩。今日の分と明日の分、貸しだからな。ちゃんと返せよー」

理珠 「……?」

成幸 「分かってますよ。ありがとうございます、先輩」

あすみ 「にひひ、ま、いいってことよ。緒方も、明日がんばれよ」

理珠 「先輩もありがとうございました。助かりました」

59以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:35:11 ID:ZJywfASQ
うるか 「じゃ、リズりん。明日も出店手伝いに行くかんね!」

文乃 「わたしも行くよ。明日もがんばろうね!」

理珠 「すみません。助かります。バイト代は後ほどちゃんとお支払いしますので……」

うるか 「そんなん気にしなくていいってー! あたしたち友達じゃん!」

理珠 「うるかさん……」

文乃 「じゃ、また明日ねー!」

うるか 「ばいばい、リズりん。成幸もね」

成幸 「おう。ふたりとも、明日もよろしくな!」

理珠 「あ……よろしくお願いします!」

理珠 「………………」

成幸 「………………」

成幸 「……じゃ、俺も帰るな。また明日……――」

――――――ムンズ……

理珠 「……帰るなら、せめて、」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!! 「説明してからにしてくれませんか?」

60以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:35:41 ID:ZJywfASQ
………………少し前 唯我家

成幸 (受験ももう大詰めだ。反復練習を繰り返していかないとな……)

花枝 「成幸ー、電話よー」 ヒョコッ 「緒方さん? からよ」

成幸 「ああ、ありがと」

成幸 (緒方から電話……? あいつだったらメッセージで済ませそうなもんだけど……)

成幸 「もしもし?」


親父さん 『おう、センセイか。夜分にすまねぇな』


成幸 「へ……? 親父さん!?」

親父さん 『何度も言うが、オメェに親父さんと呼ばれる筋合いはね……いててて……』

成幸 「? どうかしました? 大丈夫ですか?」

親父さん 『おう。実はちょっと腰をやっちまってな……ぎっくり腰ってやつだ』

親父さん 『……でよぅ、センセイ。頼みてぇことがあるんだ』

親父さん 『恥ずかしい話なんだが、頼れる奴がオメェしかいねぇ』

親父さん 『だから、恥を承知で、頼む! リズたまを助けてやってくれねぇか!』

61以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:36:16 ID:ZJywfASQ
………………

成幸 「……って、親父さんに電話で頼まれちゃってさ」

理珠 「お父さんがそんなことを……」

理珠 「すみません。我が家の事情に巻き込んで、成幸さんにご迷惑を……」

成幸 「まぁ、あの親父さんにあんなに必死で頼み込まれたら断れないよ」

成幸 「……で、物を運ぶ必要があるみたいだから、俺ひとりじゃ不安で、古橋たちを呼んで、」

成幸 「タクシーを借りても良かったんだけど、桐須先生に頼んでみたら車出してくれるって言うしさ」

成幸 「だから、こうやってみんなでここに来たんだよ」

理珠 「成幸さんが皆さんに頼み込んでくれたんですね。助かりました」

理珠 「本当に……ひとりでどうしたらいいか分からなくなっていたので……」

成幸 「みんな快く引き受けてくれたよ。だからお前が気にする必要はないと思うぞ」

成幸 「俺も、明日は出店手伝うからさ。みんなで出店がんばろうな」

理珠 「へ……? で、でも、成幸さん、明日はバイトがあるのでは……?」

成幸 「……あー、まぁ、そっちもなんとかなるから大丈夫だよ」

62以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:36:49 ID:ZJywfASQ
理珠 「なんとかって……」

成幸 「昼は服屋でバイトする予定だったんだけど、代打を母さんに頼んだし」


―――― 花枝 『えーっ。私明日は一日休みの予定だったのにー』 ブーブー

―――― 花枝 『ま、可愛い息子の頼みじゃ仕方ないわね。引き受けてあげる』

―――― 花枝 『ふふっ。それに、可愛いりっちゃんのためじゃ、ねぇ?』


成幸 (なぜにやついていたのかは分からないが、オーケーしてくれて助かった……)

成幸 「夜はハイステージでバイトだったけど、そっちはあしゅみー先輩に頼んだから」


―――― あすみ 『仕方ねーなぁ。代わってやるよ』

―――― あすみ 『そっ……そんかわし、今度、また勉強教えてくれよ』

―――― あすみ 『へ? いつものことじゃないですか、だって? ばかっ、ちげーよ』

―――― あすみ 『久しぶりに……ふっ、ふたりきりで、って言ってんだよ……///』


成幸 (なぜ先輩が顔を真っ赤にしていたのかは分からんが、とにかく先輩に感謝だな……)

理珠 「………………」

63以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:37:24 ID:ZJywfASQ
成幸 「……ってなわけで、明日は空けておいたから大丈夫だ。俺も手伝うよ」

理珠 「………………」 サー--ーッ……

成幸 「……? 緒方? 顔色悪いけど、どうかしたか?」

理珠 「……す、すみません、成幸さん」

理珠 「私、成幸さんにとんでもないご迷惑を……。本当にごめんなさい!」

成幸 「緒方……?」

理珠 「私、できると、思ったんです」

理珠 「出店くらいなら、ひとりでも大丈夫だって。お父さんがいなくても、私ひとりで……」

理珠 「でも……」

理珠 「……可笑しいですよね。私ひとりじゃ、荷物を詰めたリュックを運ぶことすらできませんでした」

理珠 「でも諦めることもできなくて、どうしようと悩むことしかできなくて……」

理珠 「成幸さんたちが来てくれなければ、私は……」

理珠 「私は今も、何もできず、うずくまっていたんでしょうね……」

成幸 「………………」

64以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:38:25 ID:ZJywfASQ
理珠 「……成幸さんたちが来てくれて、“良かった” と思いました」

理珠 「“助かった” って。きっと、成幸さんたちがなんとかしてくれる、って」

理珠 「そして実際、なんとかなるような気がしてきました」

理珠 「……その裏で、成幸さんが方々にお願いや頼み事をしてくれていたというのに、」

理珠 「それを薄々勘づいていながら、大したことだと考えていなかった……」

理珠 「……いつもそうです。私は、私ひとりで、問題を解決することができない」

理珠 「だから、また私は……こうやって、迷惑を……――」


成幸 「――……それは違うよ、緒方」


理珠 「え……?」

成幸 「……まぁ、そりゃ、色んな人に声かけて、集まってもらったり、バイト代わってもらったり……」

成幸 「大変じゃなかったって言えばウソになるけどさ」 クスッ

成幸 「でも、そうじゃないんだよ。“なんとかなる” と思えるのは、それが理由じゃないんだよ」


成幸 「それはさ、お前が諦めずがんばってきたからだろ?」

65以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:38:57 ID:ZJywfASQ
理珠 「……へ?」

成幸 「緒方が諦めなかったから、親父さんも俺に頼み込んで来たんだろ?」

成幸 「緒方が諦めなかったから、今日だって荷物の積み込みが終わったんだろ?」

成幸 「緒方がいつもがんばってるから、古橋やうるかも、明日手伝おうって思うんだろ」

成幸 「先輩だって母さんだってそうだよ。お前の名前を出したら、二つ返事でオーケーしてくれたんだぞ?」

成幸 「あの “氷の女王” が、生徒のために車を出すと思うか?」

成幸 「お前が何を言ったって諦めないって知ってるからこそ、先生は車を出してくれるんだろ」

理珠 「………………」

成幸 「……たしかに、今回、色んな人に迷惑をかけてしまったかもしれないな」

成幸 「でも、それはみんな分かってて手伝ってくれてるんだよ」

成幸 「お前に協力してあげたい……助けてあげたいって、そう思ってくれてるんだよ」

成幸 「だからさ、そんな気に病むことはないよ。お前は明日、胸張って、」 ニコッ


―――― 『緒方うどんの美味しさをもっと多くの人に知ってもらうためにがんばります!』


成幸 「緒方うどんのうまさを祭りで知ってもらうために、がんばればいいんだよ」

66以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:39:34 ID:ZJywfASQ
理珠 「成幸さん……」

グスッ

理珠 (……私は、本当に果報者です)

理珠 (文乃にうるかさん、小美浪先輩、桐須先生……。たくさんの人に気にかけてもらって……)

理珠 (それが情けなくもあるのですが、それでも……)


―――― 『でも、それはみんな分かってて手伝ってくれてるんだよ』

―――― 『お前に協力してあげたい……助けてあげたいって、そう思ってくれてるんだよ』


理珠 (……その気持ちに応えるために、)

理珠 「……そうですね」

クスッ

理珠 「皆さんの協力に報いるために、最高のうどんを提供しなければなりませんね!」

成幸 「おお! その意気だぞ、緒方!」

67以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:40:11 ID:ZJywfASQ
理珠 (そして……)

カァアアアア……

理珠 (私のために、たくさんがんばってくれた、この人のために……)

成幸 「明日、がんばろうな、緒方!」

理珠 「はいっ! 成幸さん!」

理珠 (そう。私の……)

理珠 (私の、大好きな、この人の、ために……)

68以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:40:55 ID:ZJywfASQ
………………当日

「かけうどん二杯くださーい!」

「こっちは三杯ください!」

文乃 「はーい! 少々お待ちください!」

文乃 「りっちゃん、うるかちゃん! かけうどん五杯よろしく!」

うるか 「あいよー! 任せてー! ……ん、リズりん、器におだしいれたよ!」

理珠 「はい、うどんはもうゆであがります!」

成幸 (さすが緒方うどんの出店。夏に引き続き大人気だな……)

成幸 「600円ちょうど、お預かりします!」

成幸 (……よしっ! 俺も気合いいれてがんばらないと!)

成幸 「ありがとうございましたー!」

69以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:41:42 ID:ZJywfASQ
………………

うるか 「ふはーっ。つかれたねー」

文乃 「少しお客さんも落ち着いたかな。お昼時は大変だったねぇ」

成幸 「いつもはこれを親父さんとふたりでやってるんだよな。すごいな、緒方は」

理珠 「いえ。今回は皆さんが手伝ってくれたので、すごく楽です」

理珠 「本当にありがとうございます!」 ペコリ

うるか 「へへーっ。リズりんのためならこれくらい大したことないよー、だ」

理珠 「しばらくは混まないと思いますから、皆さんはお祭りを回ってきて大丈夫ですよ」

理珠 「店には私がいるので」

文乃 「えっ、でも……」

成幸 「………………」 (緒方なりの精一杯の気遣いだろうな。なら……)

成幸 「そうだな。ふたりはお祭り回ってきたらいいよ。俺も緒方と一緒に店番してるからさ」

理珠 「えっ……? で、でも、成幸さんも……」

成幸 「俺は緒方うどんの店員でもあるんだから、いいんだよ」 ニッ

成幸 「ほら、せっかく緒方がいって言ってくれてるんだ。うるかと古橋はちょっと休憩してこいよ」

70以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:42:19 ID:ZJywfASQ
………………


―――― 文乃 『じゃあ、お言葉に甘えてお祭りちょっと回ってくるけど、』

―――― うるか 『もしお客さんたくさん来たら、すぐ連絡ちょうだいね!』


成幸 (……本当に義理堅い奴らだな。あの様子じゃ、すぐ戻ってきそうだな)

理珠 「………………」

理珠 「……あ、あの、成幸さん」

成幸 「うん? どうかしたか?」

理珠 「成幸さんは良かったんですか。お祭り、回らなくて……」

成幸 「……ん、まぁ、お祭りって誘惑が多いしな。散財するわけにはいかないから、俺は行かなくていいんだ」

理珠 「そう、ですか……」

理珠 (……本当に優しい人です。私を気遣って、そんな風に言ってくれるんですから)

成幸 「でも良かったな。ちゃんと出店できて。うどんも美味しいって大好評だな」

理珠 「はい。本当に良かったです。皆さんのおかげです」

71以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:43:06 ID:ZJywfASQ
成幸 「でも、ほんと朝はヒヤヒヤしたな。桐須先生の車の中で小物類が散乱しててさ」

理珠 「ふふ、そうですね。幸い、割れ物も無事でしたけど」

理珠 「桐須先生はショックを受けていましたね」

成幸 「“驚愕。私の運転って、そんなにアレなのかしら……” 。ってな」 クスクス

理珠 「あっ、今の声真似ちょっと似てました」

成幸 「そうか? ははっ」

理珠 「ふふふ……」

成幸 「………………」

理珠 「………………」

ドキドキドキドキ……


―――― ((私のために、たくさんがんばってくれた、この人のために……))

―――― ((私の、大好きな、この人の、ために……))


理珠 (不思議な感覚です。ドキドキするだけでなく、どこか、落ち着く……)

理珠 (成幸さんの隣にいると、何とも形容しがたい、幸せな気持ちになります)

72以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:43:44 ID:ZJywfASQ
理珠 (私は……)


―――― 『当然です 何故私が恋愛などしなければならないのですか』

―――― 『好いた惚れたと曖昧なものに過分なエネルギーを割くなど非効率の極みです』


理珠 (非効率であろうと、なんであろうと、この気持ちは、もう……)

理珠 (きっと、止められるものでは、ないから……)

ドキドキドキドキ……

理珠 「……あの、成幸さん」

成幸 「ん?」

理珠 「私、本当に、成幸さんに感謝しているんです」

成幸 「へ……? い、いきなりなんだよ。照れるな」

理珠 「四月からずっと、成幸さんには本当にお世話になりっぱなしです」

理珠 「……それこそ、もう、成幸さん抜きでは、生きていけないかもしれないくらいに」

成幸 「……?」

73以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:44:39 ID:ZJywfASQ
理珠 「だから、その……」 (そう。だから。私は……)

理珠 「……もし、成幸さんさえよろしければ、これからもずっと、私のそばにいてください」

成幸 「え……?」

カァアアアア……

成幸 「あっ……う、嬉しいな。そういう風に、言ってもらえるのは……///」

成幸 「こちらこそ、よろしくな。俺も、お前と友達になれてよかったよ」

理珠 「………………」 クスッ 「……私が言うのも何ですが、本当に、成幸さんはもっと人の心を理解する訓練が必要ですね」

理珠 「仕方ありません。私が立派な大学生になったら、成幸さんに心理学のイロハをたたき込んであげます」

理珠 (……今は、“友達” でいい)


―――― 『……今は もっと知りたい 人の気持ち 自分の気持ち』

―――― 『成幸さんの………………』


理珠 (でも、いつか……)

理珠 「……そのときは、私の気持ち、知ってもらいますからね。成幸さんっ」

おわり

74以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:45:27 ID:ZJywfASQ
………………幕間 『ごめん紗和子ちゃん』

紗和子 「……えぐっ、ぐすっ……えぐっ……ひぐっ……」

文乃 「だ、だからごめんってばー、紗和子ちゃん」

うるか 「ごめんねぇ、さわちん。てっきり成幸が誘ってるもんだと思ってさ……」

紗和子 「ひぐっ……えぐっ……おっ……緒方理珠の、危機に駆けつけられない、なんて……」

紗和子 「大親友、失格、だわっ……」

紗和子 「かっ……かくなる……ぐすっ……上は……しんで詫びるしか……」

文乃 「め……めんどくせぇ、だよ……」 (よしよし、紗和子ちゃん。大丈夫だよ)

うるか 「文乃っち、言葉と心の声が逆になってるよ……」

おわり

75以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:52:42 ID:ZJywfASQ
【ぼく勉】 あすみ 「今週末は高校の先輩の結婚式なんだよ」

76以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:53:14 ID:ZJywfASQ
成幸 「へぇー、先輩の結婚式。そろそろそういう年齢なんですねぇ……」

成幸 「あれ? でも先輩の先輩ってことは、まだすごく若い人なんじゃ……」

あすみ 「ああ、あの人はミュージシャンになる! って就職も進学もしなかったからな」

あすみ 「残念ながらメジャーデビューはできなかったみたいだけど」

あすみ 「でもまぁ、音楽活動のおかげでいい人と知り合えたみたいだし、結果オーライなんじゃねーの」

成幸 「……結婚式、かぁ。ちょっと憧れてるんですよね」

あすみ 「へ?」 ドキッ 「お、お前、結婚式に憧れるって……ち、ちと早くねーか……///」

成幸 「へ?」

あすみ 「で、でも、もしこだわりとかあるなら、結婚相手とちゃんと話しておかないとダメだぞ?」

成幸 「……? あの、先輩?」

あすみ 「まぁ、べつに? だから何だってわけじゃねーけど、アタシは特にこだわりねーし?」

あすみ 「神前式だろうがチャペルだろうが、相手に合わせられるっつーか……///」

あすみ 「お前の好きなように決めてくれて構わないっていうか……///」

あすみ 「……アタシは、ウェディングドレスでも白無垢でも、どっちでも構わないけど……」

あすみ 「あ、でもやっぱり、写真撮るだけでもいいから、一度はウェディングドレス着てみたいかな……」

77以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:55:13 ID:ZJywfASQ
成幸 「いや……いやいやいや、先輩、急に何言ってるんですか。違いますよ」

成幸 「俺、結婚式って小さい頃に行ったきりだから、友達の結婚式とかに出席してみたいな、ってだけですよ」

あすみ 「へ……?」

成幸 「自分の結婚式なわけないじゃないですか……」

あすみ 「………………」

成幸 「……先輩?」

あすみ (……あ、アタシの勘違い? っていうか、アタシ、何言ってんだ……) カァアアアア……

あすみ (いっ、今の物言いじゃまるで、アタシと後輩が結婚するのが前提みたいじゃねーか……)

あすみ (お、親父が悪い! 勝手に後輩との結婚を考えたり、後輩との子どもの名前を考えたりするから!)

あすみ (親父が悪いわけで、アタシが後輩と結婚したいわけじゃないからな!)

成幸 「……?」 (先輩さっきから何やってるんだろう……?)

78以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:56:13 ID:ZJywfASQ
成幸 「……まぁ、結婚式ってご祝儀とかあるから、できれば働けるようになってから出席したいですね」

成幸 「友達が多い人はご祝儀だけで相当な出費になるって聞いた事ありますし」

あすみ 「あ、ああ。分からんでもないな。正直、ご祝儀三万は、浪人生的には、きつい」

成幸 「ですよねぇ……」

あすみ 「でもまぁ、先輩には色々お世話になったし、感謝の気持ちも込めて贈るよ」

あすみ 「ついでに、冷やかしたりして遊んで、ご馳走たらふく食ってきてやるって感じだな」

成幸 (いい笑顔だなぁ。その先輩、すごくいい人だったんだろうな)

成幸 「……俺はその先輩のこと知らないですけど、」

成幸 「きっといい結婚式になりますね。先輩も楽しんできてください」

あすみ 「おう!」

79以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:57:04 ID:ZJywfASQ
………………式前日

あすみ 「………………」

あすみ 「……まぁ、こんなモンか」

あすみ (高校入学くらいのときに仕立ててもらったドレスだけど、ヘンじゃないよな?)

あすみ (化粧もいつもより濃いめで、こんな感じで問題ないだろ……)

あすみ (まぁ、どうせ化粧も髪のセットも美容院でやってもらうんだけどさ)

あすみ (にしても……) ジーーーーーッ

あすみ (自分の身体ながら、恨めしくなるよ。高一のときから全然体型変わってねーのな)

あすみ (多少胸とか尻とかがでかくなったくらいか?)

あすみ (ったく、もう少し身長伸びてくれてもいいじゃねーか) ハァ

あすみ (ま、無い物ねだりしてもしょうがねーか。緒方はあたしより小せぇのに頑張ってるしな)

あすみ 「………………」

あすみ (……まぁ、胸はあいつの方が圧倒的にでけーけど)

prrrr……

あすみ 「ん……?」 (先輩から電話……?)

80以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:58:10 ID:ZJywfASQ
ピッ

あすみ 「もしもし?」

『あっ、良かった! 出てくれた! 助かったー!」

あすみ 「……ちわっす。相変わらずテンション高いっすね、先輩」

『いやいやいや、明日結婚式なのにめっちゃテンション低かったら逆にやばいっしょ』

あすみ 「それもそうっすねー」 クスクス 「……で? どうかしたんですか?」

『そうなのよー。大変なのよ。明日出席予定の軽音部OG、ひとりインフルになっちゃったらしくてさ』

あすみ 「へ……? ああ、まぁ、大変っちゃ大変ですけど……」

あすみ 「明日出席してもらえないのは残念かもしれないですけど、仕方ないんじゃ……」

『そうなんだけどね、欠席されちゃうと困るのよ!』

『披露宴、円卓の人数配分を完ぺきにしすぎちゃって、ひとりでも欠席が出るとそこめっちゃ目立つんだわ!』

あすみ 「……はぁ」

『だからできる限り欠席者をなくしたいのよー!』

あすみ (……またヘンなところ、こだわる人なんだよなぁ)

『でさ、あすみちゃん! カレシ、いるのよね?』

81以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/06(月) 23:59:48 ID:ZJywfASQ
あすみ 「……は?」

『いるのよね、カ・レ・シ』

あすみ 「………………」


―――― 『彼氏の趣味で!!』

―――― 『今…… 設定上一応…… 彼氏なわけですし……』


あすみ 「……ま、まぁ、一応」 カァアアアア…… 「いるっちゃ、いますけど……」

『良かった! それでこそあすみちゃんよ! ナイス! 最高!』

あすみ 「……? あの、要領を得ないんすけど、一体……――」


『――……ってことで、明日その彼氏と一緒に結婚式来てね!』


あすみ 「………………」 ハッ 「……はぁ!? 何でこうは――彼氏を結婚式に!?」

『だいじょぶだいじょーぶ。式出席してもらって、披露宴で座っててもらうだけでいいから!』

『もちろんご祝儀はいらないし、お料理や飲み物、好きだけ飲み食いしてってよ!』

『会場近くのサロンに礼服とか靴、一揃え用意しておくから、後でカレシの諸々のサイズ送ってね!』

82以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:00:32 ID:7uI8KgCw
あすみ 「い、いやいや、ちょっと待ってくださいよ。アタシの彼氏、先輩と何の縁もゆかりもないじゃないですか!」

あすみ 「それが結婚式に出席するって、いくらなんでもおかしいでしょ!」

あすみ 「新郎側の出席者にヘンに思われますよ!」

『大丈夫! その点は抜かりないわ!』


『明日だけでいいからカレシと婚約してるフリをしてちょうだい!』 バーーーン!!!


あすみ 「へ……?」 カァアアアア…… 「へぇぇ……!?」

あすみ 「こ……婚約って、アタシ、浪人生ですよ? あいつだって、高校生だし……」

『だーかーらー、フリだけでいいってば』

『ふたりが婚約してて、私もあすみちゃんのカレシと知り合いって言えば、何もおかしくないでしょ?』

あすみ 「そ、そりゃそうかもしれませんけど……」 ハッ 「いやいやいや! やっぱり無茶苦茶ですよ先輩!!」

『お願い! 先輩一生のお願い! おーねーがーいー!』

あすみ 「………………」

あすみ (……婚約者、かぁ)

83以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:01:09 ID:7uI8KgCw
あすみ 「……わ、わかりましたよ。一応彼氏に聞いてみます」

『ほんと!?』

あすみ 「それで向こうが断ったら諦めてくださいよ? 一応あいつも受験生だし……」

『うんうんうん。そのときはあきらめるよ!』

『じゃあ、カレシと連絡ついたらこっちにも連絡ちょうだいね!』

『カレシの服と靴のサイズ聞くのも忘れずにね!!』

『じゃ、私ほかの手配も色々あるから! じゃね!!』

プツッ……

あすみ 「……はぁ。せわしないひとだなぁ。ったく」

あすみ 「………………」

あすみ 「……一応、電話して聞くだけ聞いてみるか」

あすみ 「ダメ元で、だけど。まぁ、一応、先輩に対しての義理は通すってだけ……」

prrrrr……ピッ

あすみ 「……ん、おう、後輩。突然悪いな。あのさ、ダメ元で聞くんだけどさ、」

あすみ 「……明日、タダで結婚式、出席してみないか?」

84以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:01:43 ID:7uI8KgCw
………………当日

あすみ 「………………」

あすみ (うー、やっぱり頭セットしてもらうと落ち着かねーな……)

あすみ (化粧もいつもよりだいぶ濃いし、心なしか息苦しい気がする……)

あすみ (コート羽織ってるとはいえ、ひらひらのドレスだと外は寒いし……)

あすみ (……あー、早く来いよ、後輩)


―――― 成幸 『えっ!? いや、さすがに知らない人の結婚式には出られないですよ!』

―――― 成幸 『……あー、でも、そうですか。困ってるんですか』

―――― 成幸 『………………』

―――― 成幸 『わ、分かりました。先輩がお世話になった人のためですもんね!』

―――― 成幸 『出席します』


あすみ (……いや、まぁ、頼んだのはアタシだけどさ)

あすみ (まさか本当に引き受けてくれるとは思わなかったな……)

あすみ (……婚約者、かぁ) ニヘラ

85以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:02:14 ID:7uI8KgCw
あすみ 「ん……?」

成幸 「………………」 キョロキョロキョロ

あすみ (……? 後輩、何やってんだ?)

成幸 「うーん、メッセージだともうここにいるらしいんだけどなぁ……」

成幸 「どこだろ、先輩……」 キョロキョロキョロ

あすみ 「………………」 ガクッ 「……マジか、お前」

成幸 「!? せ、先輩!?」

あすみ 「おう。何やってんだ、お前。アタシずっとそこにいたぞ」

成幸 「いや、えっと、だって……」 カァアアアア…… 「せ、先輩に、見えなくて……」

あすみ 「ほう? 役柄だけとはいえ、彼女の顔を忘れるたぁふてぇ野郎だな」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「ち、違いますよ! だって、先輩……その、すごく、綺麗になってるから……///」

あすみ 「……へ?」

あすみ 「………………」

あすみ 「……お、おう///」 カァアアアア…… 「そ、そうか。そりゃ……わ、悪かった、な」

成幸 「い、いえ……///」

86以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:03:00 ID:7uI8KgCw
あすみ 「き……今日はありがとな。来てくれて……」

成幸 「ど、どういたしまして、です。全然、大したことじゃないですけど……」

あすみ 「……でもお前、少しは、こう……化粧した女とかに耐性つけとけよ」

成幸 「へ?」

あすみ 「アタシみたいなちんちくりん相手で顔真っ赤にしてたら……」

あすみ 「今日の結婚式、アタシと同世代の女ばっかだから、大変だぞ?」

成幸 「いや、それは、多分、大丈夫かと……」

成幸 「先輩がすごく綺麗だから、緊張しちゃっただけですから」

あすみ 「っ……」

成幸 「……先輩くらいの美人さんばっかりだったら、大変かもしれないですけど」

あすみ 「……///」

成幸 「………………」 ハッ

成幸 (……いやいやいやいや!? 俺何言ってるんだ!? 口説いてるみたいになってるぞ!?)

ドキドキドキドキ……

あすみ (こ、後輩のバカ。なんでそんな、ヘンなこと言うんだよ〜〜〜!!)

87以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:03:54 ID:7uI8KgCw
成幸 「………………」

あすみ 「………………」

ドキドキドキドキ……

あすみ 「あっ……お、お前の着替えもあるし! そろそろ行かないとだな!」

成幸 「! そ、そうですね! 行きましょう!」

成幸 (な、なんだろ、今の空気……なんか、ドキドキする……///)

あすみ (うぅ〜/// こんな調子で、“婚約者” やるのかよ〜……)

成幸 (それにしても、先輩……)

あすみ 「………………」

カツカツカツカツ……

成幸 (高いヒールを履いてるのもあるけど、今日はすごく大人っぽくて……)

ドキドキドキドキ……

成幸 (……本当に、綺麗だな)

88以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:04:52 ID:7uI8KgCw
………………サロン

あすみ 「………………」

ソワソワソワソワ……

あすみ (大丈夫かな、あいつ。こんなところ来慣れてないだろうし……)

あすみ (入ったときも緊張しきりだったしな。ちゃんと着付けてもらってるだろうか……)

成幸 「……あっ、先輩。お待たせしました」

あすみ 「! 終わったか。短かった、な……って……」

成幸 「……えっと、どうですかね? 礼服なんて初めて着ましたけど……」

成幸 「ドレスシャツも、なんだか肌触りがなめらかで不思議な感じだし……」

成幸 「革靴も高そうだから緊張するし、コンタクトもバイトの時よりゴロゴロする気がします……」

成幸 「髪をこんなに整えられたのも初めてだし……。変じゃないですかね?」

あすみ 「………………」 ポーーーーッ

成幸 「……先輩?」

あすみ 「へっ? あ、ああ。いや、うん……えっと、いいんじゃないか?」 プイッ

成幸 (か、感想それだけ!? やっぱり変!?) ガーーン!!!

89以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:05:39 ID:7uI8KgCw
あすみ 「………………」

ドキドキドキドキ……

あすみ (……な、なんだよ、後輩の奴)

あすみ (けっ……結構、いけてんじゃねーか……)

あすみ (後輩のくせに……)

ドキドキドキドキ……

成幸 「……? 先輩?」

あすみ 「んお!? い、いきなりなんだ!?」

成幸 「へ? いや、何もないですけど……もうそろそろいい時間ですから、行きましょう」

あすみ 「あ、ああ。そうだな。行こう行こう」

ソソクサ

成幸 「……?」 (先輩、何か急に変になったけど、どうしたんだろう……?)

90以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:06:34 ID:7uI8KgCw
………………式場 ラウンジ

あすみ 「………………」

成幸 「………………」

成幸 「……な、なんか緊張しますね、こういうところ」

あすみ 「あんまキョロキョロすんなよ、恥ずかしいから」

あすみ 「……今日はお前、アタシの “婚約者” なんだからな」

成幸 「わ、わかってますよ。彼氏前提の、婚約者の振りですよね。ややこしい……」

「あっ、あすみじゃーん。久しぶりー」

「わー、あすみ、変わってなーい!」

あすみ 「よっ、おひさ。卒業してから一年も経ってないんだから当たり前だろ」

成幸 (? 同級生の人たちかな……?)

「ん……? ね、ねぇねぇ、あすみ。ひょっとしてその人が噂の……」

あすみ 「ん? ああ、そうだよ。アタシの婚約者の……」

成幸 「あっ……ゆ、唯我成幸です。初めまして……」

「まだ高校生なんでしょ? かっわいいー!」

91以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:08:21 ID:7uI8KgCw
成幸 「わっ……」 (ち、ちかっ……)

あすみ 「お、おい、あんまからかうなよ」

「ごめんごめん。あすみのカレってどんな子なのかなって思ってたら、ねぇ?」

「うん。予想以上に可愛い男の子だったから、びっくりしちゃってさ」

「じゃ、お邪魔してもアレだから、あたしたち向こう行ってるね」

「また後で、式と披露宴でねー。ばいばい、唯我クンっ」

あすみ 「……行ったか。ったく」

あすみ 「悪いな、後輩。軽音部の連中だから、キャピキャピしてんだよ……」

成幸 「………………」 ポーーーッ

あすみ 「……後輩?」

成幸 「……へ? あ、ああ、はい。大丈夫です!」

あすみ 「………………」


―――― 『……先輩くらいの美人さんばっかりだったら、大変かもしれないですけど』


あすみ 「……へぇ」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

92以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:08:55 ID:7uI8KgCw
あすみ 「……お前、何か? さっきあんなこと言ってくれてた割には、おい?」

あすみ 「結構簡単に他の女に見惚れるんだな? ああん?」

成幸 「ち、違います違います! 誤解ですよ!」

成幸 「ちょっと、こう……急に近づかれたから、ドキッとして……」

成幸 「年上の女性って感じがして、少し緊張しただけで……」

あすみ 「誤解じゃねーじゃねーか!」

成幸 「ひっ……ご、ごめんなさい!」

あすみ 「ったく……」 (……なんだよ、後輩の奴)


―――― 『先輩がすごく綺麗だから、緊張しちゃっただけですから……』


あすみ (さっきはあんなこと言ってくれたくせに……)

あすみ (確かに、あいつら高校のときと比べて、遙かに大人っぽくなってるし、綺麗だけどさ……)

あすみ (それに比べたら、アタシは……)

あすみ (ちっちゃいままかもしれねーけどさ……)

93以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:14:55 ID:7uI8KgCw
あすみ 「………………」


―――― 『自分の身体ながら、恨めしくなるよ。高一のときから全然体型変わってねーのな』

―――― 『ったく、もう少し身長伸びてくれてもいいじゃねーか』


あすみ (……でも、そっか)

あすみ (仕方ねーよな。だってアタシは、全然成長してないし。ヒール履いてもこの程度の身長だ)

あすみ (胸だって、そんな大きくねーし。未だに中学生に間違われることもしばしばだ)

あすみ (……仕方ねーんだよな)

成幸 「先輩……?」

あすみ 「………………」

成幸 「……あ、あの、先輩――」


『――お待たせ致しました。式場の準備が整いましたので、参列者の皆様はご移動をお願いします』


あすみ 「……式の準備ができたみたいだな。行こうぜ」

成幸 「あ……は、はい」

94以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:15:43 ID:7uI8KgCw
………………披露宴

あすみ 「先輩、綺麗だったなー」

「ほんとにねー! 私写真めっちゃ撮っちゃった!」

「あ、それあとでグループ送っといてよ」

「オッケー」

あすみ (……ほんと、綺麗だったな。先輩のウェディングドレス)

成幸 「………………」

成幸 (うーん……。さすがに、お友達と談笑しているときに話しかけるのはアレだよな)

成幸 (後でいいか。でもなぁ……)

あすみ 「………………」 プイッ

成幸 「……うっ」 (さっきから目も合わせてくれないし、気まずい……)

あすみ 「……悪い、ちょっと出てくるわ」

成幸 「へ? 先輩、どちらに……?」

あすみ 「聞くな、バカ。お手洗いだよ」

成幸 「あっ……」 シュン 「す、すみません……」

95以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:16:34 ID:7uI8KgCw
………………お手洗い

あすみ 「……はぁ」

あすみ (さすがに大人げないよな。何やってんだ、アタシ……)

あすみ (これじゃまるで……)

カァアアアア……

あすみ (後輩に、本気でヤキモチ妬いてるみたいじゃねーか……)

あすみ (……まぁ、何にせよ、だ)

あすみ (後輩はアタシのお願いを聞いて付き合ってくれてるんだから、)

あすみ (変な態度取ってたらバチ当たっちまうよな……)

あすみ 「……よしっ、と」

あすみ (とりあえず、席に戻って後輩に謝ろう。話はそれからだな……――)

「――……いやー、花嫁さんめっちゃ綺麗だったねー」

「ほんとにね。あいつにはもったいないくらいだよね」

あすみ (ん……? 新郎側の参列者か……)

96以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:17:10 ID:7uI8KgCw
「ウェディングドレスめっちゃ似合ってたよね。あのスタイルうらやましいわー」

「あんなスラッとしたドレス、わたしが着たら絶対おかしなことになるし」

「あんたなんかまだマシでしょ。あたしが着たらお遊戯会の子どもだよ」

「もう少し足長くなんないかなー。10cmくらい?」

「あたしはそんな贅沢言わないから、もう2、3cmだけでも身長ほしかったわ」


………………


あすみ 「………………」

あすみ (今のふたり、どっちもアタシより身長高いけどな)

あすみ (まぁ、自分の身体のことだから、自分でどんな感想持つのも自由なんだけど、)

あすみ 「………………」

97以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:18:03 ID:7uI8KgCw
あすみ (……アタシは、)


―――― 『ちょっと、こう……急に近づかれたから、ドキッとして……』

―――― 『年上の女性って感じがして、少し緊張しただけで……』


あすみ (ヒールを履いたところで、ちんちくりんのままで)

あすみ (ウェディングドレスなんか着たって、きっと……)

あすみ (……きっと、似合わないんだろうな)

あすみ (嫌だな……)

あすみ (身長が低い自分が。それを恨めしく思う自分が……)

あすみ (……本当に、嫌だ……――)

98以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:18:37 ID:7uI8KgCw
………………

あすみ 「………………」

モグモグモグ……

あすみ (……お料理は、とてつもなくウマい……けど、)

あすみ (味がよく分からない……)

成幸 「はぁ……美味しい……」 ウルウルウル 「葉月と和樹にも食べさせてあげたい……」

あすみ (……結局、まだ後輩にも謝れてないし)

あすみ (そもそも、そんな気分にならねーし……)

「ね、ね、あすみ」 コソッ

あすみ 「ん? あんだよ? コソコソと……」

「いや、ね。あすみは婚約者クンに愛されてるな、って」

あすみ 「はぁ? いきなり何だよ?」

「さっき、あすみがトイレ行ってる間、ちょっとカレシと話したんだよ。そしたらね……――」

99以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:19:15 ID:7uI8KgCw
………………少し前

『ねぇねぇ、カレシくんはさ、あすみのどんなところが好きなの?』

成幸 『へ……!? い、いきなり何ですか?』

『いやー、気になっちゃってさ。ねぇ?』

『うんうん。あたしもめっちゃ気になるよ。あすみもいないし、ぶっちゃけちゃいなよ』

成幸 『そ、そんなこと言われても……うーん……』

成幸 『せんぱ――あすみさんの好きなところかぁ……』

『……あれ? そんなに悩む感じ?』

『あすみちっちゃくて可愛くて美人だし、そういうトコじゃないのー?』

『うんうん。あすみちっちゃくて子どもみたいで可愛いよねぇ』

成幸 『いや、まぁ、あすみさんが可愛くて美人なのはその通りなんですけど……』

成幸 『………………』

成幸 『……でも、あんまりちっちゃいって思ったことはないですかね』

『へ……?』

100以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:19:48 ID:7uI8KgCw
成幸 『いや、出会ったときはそれこそ中学生と勘違いしたりもしましたけど、』

成幸 『知り合って、お付き合いをさせてもらっているうちに、あんまり小さいと思わなくなって……』

成幸 『あすみさんって、すごいんですよ。リアリストで、考え方も大人で……』


―――― 『塾の授業聞くだけで成績伸びる奴なんて一部の天才だけだ』

―――― 『自分で努力せずに 結果なんて出るわけねーのにな』


成幸 『自分の夢のために一生懸命で、いつもいつも、本当に頑張っていて』

成幸 『……なのに、俺のことも気にかけてくれて』


―――― 『塾ってのは自分で勉強することを軸に 必要なものを捕捉するために存在するんだ』

―――― 『その位置づけは間違うなよ後輩』

101以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:20:39 ID:7uI8KgCw
成幸 『俺だけじゃない。他の人のことも、いつも……』


―――― 『……世話やかせやがって…… できれば触らずに助けたかったのに……』

―――― 『でもま ガキ泣かせとくような医者にゃ なりたくねーからな』


成幸 『だから……』

成幸 『すごく “おっきいな” って感じるんです』

成幸 『だから、えっと、その……』

成幸 『恥ずかしいですけど、俺があすみさんを好きなのは……』

成幸 『綺麗で、可愛くて、美人なところ……でも、それ以上に……』

成幸 『頼りになるところ。大人なところ。優しくて、人のためにがんばれるところ』

成幸 『……そういう、“おっきい” ところなんだと思います』

『へ、へぇー……///』

『そ、そっか。あすみのこと、よく見てるんだね……///』

成幸 「……あっ! だ、ダメですよ!? 今の、絶対先輩――あすみさんに言わないでくださいね!』

102以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:21:36 ID:7uI8KgCw
………………

「――……って感じでさぁ。聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃったよ」

「ほんとほんと。ごちそうさま、って感じ」

あすみ 「お、お前ら、アタシがいない間に後輩で遊んでじゃねーよ」

あすみ 「ったく……」

あすみ 「………………」

あすみ (……へ、へぇ。ふーん。なるほどねぇ)

あすみ (“おっきい” とこ、かぁ……///)

カァアアアア……

「あれぇ?」 ニヤァ 「あすみ、顔真っ赤だよ?」

あすみ 「……!? はぁ!?」

「わっ、あすみ可愛い〜! 照れてんの?」

あすみ 「て、照れてねーよ!」

成幸 「? どうしたんです、先輩?」

あすみ 「っ……な、なんでもねーよ!」

103以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:22:24 ID:7uI8KgCw
………………お見送り

先輩 「今日は来てくれてありがとね、あすみちゃん。それから、唯我クンも」

成幸 「いえ、こちらこそお招きいただいてありがとうございました」

あすみ 「……ったく」 コソッ 「こんな無茶はこれきりにしてくださいよ、先輩」

先輩 「ごめんって。そっちのときはご祝儀はずむからさ」

あすみ 「……そっちのとき?」

先輩 「えぇ? 何とぼけてんのー?」 ニヤァ 「あすみちゃんと唯我クンの結婚式に決まってんじゃん」

成幸 「っ……///」

あすみ 「………………」

あすみ (……アタシと後輩の結婚式、ね) ジーーーーッ

成幸 「……?」

ムギュッ

成幸 「……へ? あ、あすみさん? 何で、腕、組んで……///」

成幸 (ど、ドレスで腕組まれると、素肌に触れちゃって、や、ヤバい……)

104以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:23:15 ID:7uI8KgCw
あすみ (アタシと後輩は、ただの、役だけの、恋人)


―――― ((いっ、今の物言いじゃまるで、アタシと後輩が結婚するのが前提みたいじゃねーか……))

―――― ((お、親父が悪い! 勝手に後輩との結婚を考えたり、後輩との子どもの名前を考えたりするから!))

―――― ((親父が悪いわけで、アタシが後輩と結婚したいわけじゃないからな!))


あすみ (親父を誤魔化すためだけの、ニセモノの、恋人)

あすみ (……でも)

あすみ (アタシのことをしっかりと見てくれる……アタシのことをいつも助けてくれる、相手)

あすみ (もう、きっと、否定することなんて、できない、アタシの……)

あすみ (好きな、人……)

あすみ 「……じゃ、約束ですよ。先輩」

クスッ

あすみ 「アタシたちの結婚式、絶対来てくださいねっ」

おわり

105以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:23:51 ID:7uI8KgCw
………………幕間 『小美浪家にて、つい』

あすみ 「ん、そろそろ昼飯の時間だな。作ったら食うか? 後輩」

成幸 「あ、ほんとですか。助かります、あすみさん」

宗二朗 (ナチュラルに名前呼びだと!?)

おわり

106以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 00:24:28 ID:7uI8KgCw
読んでくださった方ありがとうございました。

107以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 01:27:26 ID:DlsPH506
超乙!

108以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 12:53:31 ID:bslqJdkU
おつんこ

109以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 18:38:44 ID:8nynuKFY
おつ

110以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/07(火) 19:48:16 ID:20t1F.Ek
ワイトは先輩も好きです。

111以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/08(水) 12:54:38 ID:f/auRlPw


先輩の長編はどう落ち着くだろう

112以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/08(水) 23:49:38 ID:8fDF2L2Q
あしゅみー先輩のデレは良いなあ

113以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/10(金) 16:07:28 ID:gizsFNOQ
書いてくれてありがとう

114以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 22:59:28 ID:UawLMgbI
【ぼく勉】 うるか 「今週末、ちびっ子向けの水泳教室をやるんだ」

115以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:00:02 ID:UawLMgbI
文乃 「へぇ? 水泳教室?」

うるか 「うん。なんかこのあたりの子どもを集めて学校で教室を開くんだって」

うるか 「水泳部がやることになってさ。なんでも、地域コーケン活動ってやつらしいよ?」

理珠 「なるほど。感心なことですね」

成幸 「……うーん。まぁ、感心なことではあるけどなぁ」

成幸 「受験が差し迫った受験生にやらせることか、それ……?」

うるか 「あたしは息抜きになるからいいんだけどね」

うるか 「でも、滝沢先生もなんかぼやいてたなぁ……」

116以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:00:37 ID:UawLMgbI
………………少し前

滝沢先生 「……ってわけで、悪いが全員で水泳教室の講師役をやってくれ」

あゆ子 「えー? それほんとですかー?」

あゆ子 「私たち、一応受験生なんですけどー」 ブーブー

滝沢先生 「ああ、そうなる気持ちも分かるが、さすがに一、二年生だけじゃ足りないしな」

滝沢先生 「協力してくれ。頼む。この通りだ」

智波 「先生にそこまで言われちゃったら、協力せざるを得ないよねぇ」

うるか 「? あたしは元々協力するつもりだよ?」

あゆ子 「うぐっ……まぁ、私もべつに、構わないですけど……」

滝沢先生 「悪いな、お前ら。助かるよ」

あゆ子 「にしても、近隣の子ども向け水泳教室ねぇ。去年はこんなのやらなかったのに」

滝沢先生 「ああ、まぁ……」

滝沢先生 「今年は、色々あったからな。主に、武元がらみで」

うるか 「へ? あたし? あたしなんかしたっけ?」

117以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:02:01 ID:UawLMgbI
智波 「ああ……」 あゆ子 「なるほど……」

あゆ子 「つまり、うるかが軽く有名人になったから、学園の広報に利用しようって算段ですね」

滝沢先生 「うぐっ……。そうずけずけと言ってくれるなよ。学園長命令なんだよ」

智波 「先生も辛い立場ですよねぇ」

滝沢先生 「いや、逆に理解を示されても反応に困るんだけどな……」

うるか 「??? あたしがユーメイジン? どういうこと???」

あゆ子 「あ、うん。あんたはわかんなくていいよ」

智波 「うん。うるかはわかんなくていいよ。大丈夫だよ」

うるか 「?」

滝沢先生 (……ったく、学園長め。生徒に頼み込まなきゃいけないこっちの身にもなれっての)

滝沢先生 (武元のがんばりを大人の事情で利用するようで癪だが……)

滝沢先生 (水泳教室に来た子どもが、武元に憧れて学園に入学してくれれば……という広報の気持ちも分かる)

滝沢先生 (まぁ何にせよ、引き受けてしまった以上、最善を尽くさなきゃな)

滝沢先生 「……じゃあ、悪いが、今週末頼むな」

うるか 「はーい!」

118以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:02:41 ID:UawLMgbI
………………

うるか 「って感じでさぁ」

文乃 「あ、うん……」

理珠 「そうですか……」

成幸 「………………」

うるか 「? 何でみんなちょっと渋い顔をしてるの?」

文乃 「いや、何でもないよ。うるかちゃんはいつまでもそんなうるかちゃんのままでいてね」 ギュッ

理珠 「今日だけはよしよししてあげます。よしよし。うるかさんはいい子ですね」 ナデナデ

うるか 「へ? へ? 何これ何これ? 何のゲーム?」 ワクワク

成幸 (……ったく。あの学園長、ほんと利用するものは全部利用する、って感じだよな)

成幸 (あの人だけは、教育者っていうよりは経営者って感じだな)

成幸 (……まぁ、一ノ瀬学園の全教職員のことを考えれば、管理職としては妥当なのかな)

成幸 (うるかのがんばりを利用するみたいで、俺はあんまり、好きになれないけど……)

成幸 「……ま、何にせよ、やるならがんばれよ、うるか」

うるか 「へ? そんなのトーゼンっしょ! うるかちゃんがんばっちゃうかんね!」

119以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:03:38 ID:UawLMgbI
………………前日 唯我家

和樹 「行きたい行きたい行きたいー!」

葉月 「お願いー! かーちゃーん!!」

花枝 「そう言われてもね……。私は明日仕事だし、水希は登校日だし」

花枝 「一緒に行ってくれる人がいないのよ。ごめんね」

葉月 「うぅ……」 和樹 「でも、行きたい……」

成幸 「? 母さん、どうかしたのか?」

花枝 「ああ、成幸。こんなチラシがポストに入っててね」

花枝 「それで、ふたりが行きたいって言って聞かないのよ……」

成幸 「チラシ……?」

 『武元うるか選手にの泳ぎを見よう! 一ノ瀬学園主催、ちびっ子水泳教室!』 バーーーーン!!!

成幸 「………………」

成幸 (こ、これ、うるかが言ってたやつじゃないか……)

成幸 (学園長、露骨にうるかを推してきたな。こりゃ明日大変だぞ、うるか……)

成幸 (……ほんと、大変だろうな。きっと)

120以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:04:10 ID:UawLMgbI
成幸 「……で、葉月と和樹はこれに行きたいのか?」

葉月 「うん! うるか姉ちゃんに水泳教わりたい!」

成幸 「そうか……」 ニッ 「わかった。じゃあ、兄ちゃんが連れてってやるよ」

和樹 「!? ほんとに!?」

花枝 「成幸、行ってくれるの? 勉強は大丈夫なの?」

成幸 「ああ、まぁ。明日一日くらいなら問題ないよ」

花枝 「それに、あんた泳げないけど、大丈夫……?」 ジトーーーッ

成幸 「そ、その辺はまぁ、こいつらに万が一がないように、十分気をつけるよ……」

花枝 「……そう」 ニコッ 「じゃあ、よろしくね、成幸」

成幸 「おう!」

葉月 「やったー!!」 和樹 「明日はプール! プール!」

成幸 「………………」 (……まぁ、葉月と和樹のお願いを聞いてやりたいっていうのも、もちろんあるけど、)


―――― 『そんなのトーゼンっしょ! うるかちゃんがんばっちゃうかんね!』


成幸 (……こんなチラシ作られて、うるかが大丈夫かも、気になるしな)

121以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:06:21 ID:UawLMgbI
………………当日

ザワザワザワザワザワ……

うるか 「うおう……」

あゆ子 「うわぁ、こりゃまたすごい数のちびっ子たちだな……」

智波 「プールに入りきるのかな。こりゃ大変だよ」

池田 「先輩方が来てくれて良かったです。こんなの現役生だけじゃ絶対無理ですよぅ……」

あゆ子 (……まぁ、逆にうるかが来るって大々的に触れ込んだせいでもあるんだけどな)

あゆ子 (ったく、学校側はいい広報になってウハウハだろうな。バイト代くらいよこせっての)

うるか 「へへ、腕が鳴るぜー! 今日はみんなで力を合わせてがんばろうね!」

あゆ子 「ん? あ、ああ」 (うーむ。素直なうるかを見ると、自分が嫌なやつみたいに思えてくるな……)

あゆ子 「……よしっ、いっちょやるとするかー……って、ん?」

智波 「? あゆ子、どうかしたの?」

あゆ子 「いや……私の見間違いか? あの奥にいる、ちびっ子ふたりを連れた若い男……」

あゆ子 「あれ、唯我じゃないか?」

うるか 「………………」 ハッ 「……へぇ!? 成幸!?」

122以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:07:14 ID:UawLMgbI
………………

成幸 「すごい人数だな。改めて、うるかってすごいんだな……」

葉月 「とーぜん! だって、うるか姉ちゃんは有名人だから!」

成幸 「ほんとになぁ。近隣の子どもたち、うるかのことみんな知ってるんだなぁ」

成幸 「……ほんと、すごい奴だな、うるかは……――」

うるか 「――えへへ。改めて言われると、さすがに照れるね」

成幸 「へ……?」 ビクッ 「う、うるか!? びっくりした!」

うるか 「それはこっちの台詞だよ成幸ー! 来るなら来るって教えてくれればよかったのにー!」

成幸 「あ、ああ。悪い悪い。あんまり意識させない方がいいかな、って思ってさ」

和樹 「うるか姉ちゃんだー!」 葉月 「有名人だー!」

成幸 「俺は葉月と和樹の付き添いだから、気にするなよ」

「ほんものだー!」  「かわいいー!」  「あくしゅしてー!」  「あとでサインくださいー!」

うるか 「わっ……わわっ……」 (ち、ちびっ子たちに囲まれちった……)

成幸 「ほら、うるかは有名人なんだから、お客さんのほうに来たらそりゃ大変だろ」

うるか 「そ、そだね。じゃあ、あたし一回戻るね。また後でね、成幸!」

123以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:08:03 ID:UawLMgbI
………………水泳教室開始

あゆ子 「ほーら、まず水バシャバシャして……」

あゆ子 「冷たくない? じゃあ、とりあえず入ってみようか。おいで」

智波 「ふふ、あゆ子って子どもには優しいんだね」

あゆ子 「う、うるさいな。ほら、智波の担当の子たちも来たぞ」

智波 「はいはーい。じゃあきみたちもバシャバシャして水に慣れよー。おいでー」

うるか (川っちも海っちも頑張ってるなぁ。よーし、あたしもがんばるぞー)

うるか 「あたしの担当の子どもたちは……」

和樹 「はーい!」 葉月 「わたしたち!」

うるか 「!?」 (成幸とみずきんとこのチビちゃんたち!)

うるか (これは……)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

うるか (上手に教えられれば、成幸の好感度アップも狙えるかも……!?) ギラリ

うるか (よーし! がんばっちゃうぞー!)

124以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:08:48 ID:UawLMgbI
………………プールサイド 保護者席

成幸 (うるかの奴、すごい張り切ってるな)

成幸 (それにしても、うるかが教えるのが葉月と和樹とは。変な因果だな……)

滝沢先生 「よう、唯我。お前も来てたのか」

成幸 「あ、滝沢先生。おはようございます」

成幸 「今うるかに教わってる子どもたち、うちの弟妹なんですよ」

滝沢先生 「ああ、葉月ちゃんと和樹ちゃんか。大きくなったな」

成幸 「……? 何であのふたりの名前を……?」

滝沢先生 「ああ、いや、な……」

滝沢先生 「こういう物言いは適切ではないかもしれないが……まぁ、お前ももう三年生だから、いいか」

滝沢先生 「唯我先生――お前のお父上には、私も新任の頃散々お世話になってな」

成幸 「あっ……」 (そっか。滝沢先生も父さんのこと……)

滝沢先生 「葬儀のとき以来だが、元気に育っているようで何よりだ」

成幸 「……はい。おかげさまで」

125以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:09:42 ID:UawLMgbI
滝沢先生 「……唯我、お前、教育大学を目指しているんだってな」

成幸 「……はい」

成幸 「なれるか分からないですけど、学校の先生になりたいので」


―――― 『ある人が そうしてくれたように』

―――― 『人に寄り添って教えられるような教育者を目指したい』


滝沢先生 「……そうか」

ニコッ

滝沢先生 「なれるさ。お前なら。お前は、唯我先生にそっくりだからな」

成幸 「滝沢先生……」

滝沢先生 「……ま、教職取るには、大学でも体育は必須だからな」

滝沢先生 「高校卒業までに、少しは運動神経磨いとけよ?」

成幸 「うっ……ぜ、善処します……」

成幸 「ん……?」

126以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:10:17 ID:UawLMgbI
………………プール

うるか 「よーし、プールに顔はつけられるみたいだから、身体を伸ばして浮かんでみようか」

葉月&和樹 「「はーい!」」

ザブン……

ブクブクブクブク……

うるか 「わー! 沈んでるー!」

ザバァ!!!

葉月 「ぷはぁ! ふ、不思議だわ……」

和樹 「水に沈むのって楽しいな!」

うるか 「え、えっとね、チビっこたち。くるっとすると水に沈んじゃうんだよ」

うるか 「だから、顔を水につけたら、ピーンってしてみようか」

葉月 「くるっ?」 和樹 「ピーン?」

うるか 「……えっと、えっと……」

うるか (そ、そういえばあたし、成幸に泳ぎを教えたときも上手くできなかったんだったー!)

うるか (ど、どどど、どうしよう!?)

127以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:11:54 ID:UawLMgbI
………………プールサイド

成幸 「………………」

滝沢先生 「………………」

ハァ……

滝沢先生 「……まぁ、分かってたことだけどな」

成幸 「だったらうるかひとりにしないであげてくださいよ……」

滝沢先生 「あいつには人に教える能力も必要だよ。将来を見据えるならな」

滝沢先生 「そのいい訓練になってくれればと思ったが……うーむ。難しいな」

滝沢先生 「とはいえ、私は全体を見ていなければならないし、水泳部で空いている奴もいない」

滝沢先生 「さて、どこかに、泳ぎは苦手だけど、困ってる人を見ると放っておけない奴はいないかな」

成幸 「……言われるまでもないですよ。俺、手伝ってもいいんですね?」

滝沢先生 「助かるよ、唯我。頼む」

タタタタタ……

滝沢先生 「……はぁ、嫌なもんだな」

滝沢先生 「生徒を利用している時点で、私も結局学園長先生と同じ穴の狢、か」

128以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:13:04 ID:UawLMgbI
………………プール

葉月&和樹 「「うるか姉ちゃん、次は、次は?」」 キラキラキラ……!!!!

うるか (うぅ……純粋な視線が痛いよ……)

うるか (まだ浮くこともできてないのに、次も何もないよー!)

ザブン……

うるか 「へ? ざぶん?」

成幸 「よう、うるか」

葉月&和樹 「「兄ちゃんだー!!」」

うるか 「へぇ!? 成幸!? プール入って大丈夫なの!?」

うるか 「っていうか何でプール入ってきたの!?」

成幸 「さすがに子ども用に浅くしたプールだから大丈夫だよ。多分……」

うるか (それでも多分なんだ……)

成幸 「俺もお前らを見てたらプール入りたくなっちゃってさ。ついでに手伝うよ」

うるか 「えっ、で、でも……」

成幸 「俺もこの学園の生徒なんだから、いいんだよ。手伝わせてくれ、うるか」

129以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:13:43 ID:UawLMgbI
うるか 「……う、うん。そこまで言うなら……」

成幸 「よし、じゃあ、まずは伸びて浮くところからだな」

葉月 「うん。でも、沈んじゃうの」

和樹 「ぶくぶくぶくー、って!」

成幸 「うんうん。じゃあ、とりあえず顔をつけたら、手足を伸ばしてみな。お腹を支えてあげるから」

成幸 「よいしょっ、と……」

プカプカプカプカ……

葉月 「……ぷはっ」 キャッキャ 「沈まなかったー! ちゃんとできたー!」

成幸 「多分、身体が丸まっちゃうから沈んじゃうんだよ」

成幸 「もう一回お腹支えてあげるから、手足を伸ばす感覚を覚えるんだぞ」

葉月 「はーい!」

成幸 「……ほら、うるかも、和樹にやってあげてくれ」

うるか 「へ……!? あ、うん! じゃあ、かずきんも」

和樹 「うん!」

130以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:14:26 ID:UawLMgbI
プカプカプカプカ……

成幸 「おー、ふたりとも上手だぞー……ん?」

うるか 「………………」 ジーーーッ

成幸 「ん? どうかしたか、うるか?」

うるか 「……成幸、泳ぐの苦手だよね?」

うるか 「なのに、どうしてちゃんと教えられるの……?」

成幸 「へ? いや、ちゃんと教えられてはいないと思うけど……」

成幸 「……逆に、まともに泳げないから、かな」

うるか 「……?」

成幸 「俺はそもそも運動神経が足りてないからまともに泳げないけど、こいつらは違うから」

成幸 「補講で散々教えてもらったことを、こいつらに分かりやすく伝えるだけだからさ」

成幸 「それは逆に、泳げない俺だからこそできることかな、って」

うるか 「そっか……」

131以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:15:11 ID:UawLMgbI
葉月 「ぷはっ! ちゃんと浮いたよ、兄ちゃん!」

成幸 「そうだな。すごいぞ、葉月」

成幸 「じゃあ、次はお腹の支えなしで浮いてみようか」

葉月 「うん!」

うるか 「………………」

うるか (やっぱり、成幸はすごいな……)

うるか (……それに比べて、あたしは……)

ハッ

うるか (……いやいやいや! 落ち込んでる暇はないっしょ! がんばんないと!!)

132以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:16:03 ID:UawLMgbI
………………

うるか 「次は手を引くから、少し進んでみよう!」

葉月 「はーい!! がぼがぼがぼ……」

うるか 「わー! また沈んでるー!」

成幸 「ほら、葉月。手足を伸ばした感覚を忘れるなー?」

葉月 「はーい、兄ちゃん!」

プカプカプカ……

成幸 「おお、葉月。上手だぞ。和樹もちゃんと浮けてるな。すごいすごい」

和樹 「ぷはぁ! やった、兄ちゃん! 少し進んだよ!」

成幸 「そうだな。手を引いてもらえれば、もうちゃんと伸びて浮けるようになったな」

うるか 「むぐぐぐ……」

うるか (ま、まだまだ! 次はもっとうまくやるぞー!)

133以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:16:49 ID:UawLMgbI
………………

うるか 「じゃあ、ひとりで浮けるようになったところで、次はバタ足の練習だよ!」

バチャバチャバチャバチャ……

和樹 「ぷはっ……。あり? あんまり進んでない……」

うるか 「かずきん、バタ足がね、バチャバチャって感じなんだよ」

うるか 「それだと進まないから、パシャパシャって感じにしてみて」

和樹 「???」

うるか 「あ、えっと……えっと……」

成幸 「……俺が昔よく言われたのは、こんな感じかな」

成幸 「和樹、ちょっとプールサイドに手をついてみな」

和樹 「はーい!」

成幸 「で、ちょっと足の先持つぞー? 足の先を、こうやって……」

成幸 「親指と親指を擦り合わせる感じで……」

成幸 「ここを曲げないで、ここを動かして、バタ足するんだ」

134以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:17:28 ID:UawLMgbI
和樹 「……? えっと、こう?」

バシャバシャバシャ……

成幸 「そうそう。そんな感じだ。良い調子だぞ、和樹」

コソッ

成幸 「……子ども相手だから、難しい言葉とか表現は分からないし、こんな風に身体に触って直接教えてもいいかもな」

成幸 「大人相手にはできないかもしれないけど」

うるか 「あ……う、うん。じゃあ、はづきんもバタ足の練習してみようか!」

葉月 「はーい!」

うるか 「足を伸ばして……伸ばしたまま、こうやって……」

葉月 「おー……」

バシャバシャバシャ……

うるか 「……うん。良い感じだよ、はづきん!」

135以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:18:09 ID:UawLMgbI
………………

うるか 「………………」

うるか (……はぁ。あたし、やっぱりダメダメだな)

うるか (がんばってもがんばっても、空回りしてる気しかしないよ……)

成幸 「おー! ふたりともバタ足で進めるようになってきたなー。すごいすごい!」

葉月&和樹 「「えへへー」」

ピンポンパンポン

 『休憩時間に入ります。プールから上がってください』

成幸 「ん、もう休憩時間か。じゃあプールから上がろうか」

葉月&和樹 「「はーい!」」

成幸 「ほら、うるかも」

うるか 「へ? あ、う、うん。そだね……」

成幸 「……?」

成幸 (うるか……?)

136以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:18:48 ID:UawLMgbI
………………ベンチ

うるか 「………………」

うるか 「……はぁ」

うるか (あたし、何やってんだろ。全然うまくできなかったよ……)

智波 「うーるかっ」 あゆ子 「よっ」

うるか 「? 海っち、川っち……」

智波 「見てたよー、うるか」 ワクワク 「唯我くんと一緒に子どもたちに教えてたでしょー」

あゆ子 「どうだ? ちゃんと唯我にアピールできたか?」

うるか 「………………」

うるか 「……えへへ、むつかしいかな。なかなかうまくいかないね」

うるか 「成幸に手伝ってもらって、なんとかなったって感じだよ。それどころじゃなかった、かな」

あゆ子 「うるか……」

智波 「あ……ご、ごめんね? 浮かれたこと聞いちゃって……」

うるか 「ううん。大丈夫。こっちこそごめんね」

うるか 「……ちょっと飲み物でも買ってくる。またね、海っち、川っち」

137以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:19:33 ID:UawLMgbI
………………

うるか 「……はぁ。ふたりに変なところ見せちゃったな」

うるか 「あたしから元気取ったら何が残るんだよー、ってね……」

うるか 「はは……」 ズーン (……自分で言っててヘコんできたよ)


―――― 『……逆に、まともに泳げないから、かな』

―――― 『補講で散々教えてもらったことを、こいつらに分かりやすく伝えるだけだからさ』

―――― 『それは逆に、泳げない俺だからこそできることかな、って』


うるか 「………………」

うるか 「……ほんと、成幸はすごいな……――」

成幸 「――へ? 俺がどうかしたか?」

うるか 「へぇ!?」 ガバッ 「な、成幸!?」

成幸 「よっ。どうした、うるか?」

うるか 「……ベ、べつに、何もないよ」

138以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:20:08 ID:UawLMgbI
成幸 「そうか? ならいいけど……」

成幸 「……ほら、葉月と和樹がお世話になったお礼に奢ってやるよ。スポドリでいいか?」

うるか 「へ? い、いいよ。あたし何にもしてないし……」

成幸 「何もしてないことはないだろ。ふたりとも大喜びだったぜ?」

成幸 「ちなみに今は海原と川瀬に遊んでもらってて大喜びだ。ほんと、連れてきてよかったよ」

うるか 「でも、あたしは、ほんとに何もできてないし……」

成幸 「………………」 フゥ 「……じゃ、スポドリでいいな」

スッ

成幸 「……ほら」

うるか 「あっ……」

うるか 「……ありがと、成幸」

成幸 「どういたしまして」

139以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:20:42 ID:UawLMgbI
………………

成幸 「………………」

うるか 「………………」

成幸 「……何に落ち込んでるんだ?」

うるか 「………………」 ハァ 「……やっぱり分かる? さすが成幸だね」

成幸 「いつも元気なお前が静かだからな。そりゃ分かるよ」

成幸 「……どうしたんだ?」

うるか 「反省中、なんだ……」

成幸 「反省?」

うるか 「……全然、うまく教えられなかったな、って」

うるか 「トクイな水泳のはずなのに、全然うまく教えられなかったな、って」

うるか 「せっかく来てくれた子どもたちなのに、成幸がいなかったら大変なことになってたよ……」

うるか 「だから、反省してるんだ」

成幸 「……そっか」

140以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:21:19 ID:UawLMgbI
うるか 「……もっと、成幸みたいに」

成幸 「ん?」

うるか 「成幸みたいに教えられたらいいな、って思うのに、全然だね」

うるか 「へへへ、やっぱり無理なのかな。あたしバカだし」

うるか 「がんばってみたけど、うまくいかないし、やっぱりあたしは……」

うるか 「……成幸みたいには、なれないのかな」

成幸 「………………」

成幸 「……まぁ、俺みたいになる必要はないと思うけどさ、」

成幸 「できるよ。うるかなら。うるかなら、絶対教えられるようになるよ」

うるか 「……? 成幸?」

成幸 「だってうるかはさ、」

ニコッ

成幸 「“できない奴” の気持ちが分かるじゃないか」

うるか 「“できない奴” ……?」

141以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:22:01 ID:UawLMgbI
成幸 「うん。うるかも、英語が苦手で、なかなか勉強進まなかっただろ?」

成幸 「水泳で伸び悩んだときもあっただろ?」

うるか 「う、うん。そうだけど……」

成幸 「そのとき辛かっただろ? 大変だっただろ? 悔しかっただろ?」

うるか 「……うん」

成幸 「それが分かるなら大丈夫だよ。お前はその気持ちが分かるから、大丈夫」


―――― 『なあ成幸 今の悔しさだけは忘れちゃならねえぞ』

―――― 『お前は できない奴をわかってやれる男になれ』

―――― 『「できない」 気持ちがわかるのは できなかった奴だけだからな』


成幸 「……今日はうまくいかなかったかもしれないけど、いつかきっとうまくできるよ、うるか」

ニッ

成幸 「だからまた、葉月と和樹に泳ぎを教えてやってくれよ」

うるか 「成幸……」

うるか 「うん、わかったよ! うるかちゃんに任せなさい!」

142以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:22:31 ID:UawLMgbI
うるか 「………………」

ドキドキドキドキ……

うるか 「……あのときと、同じだ」

成幸 「へ?」


―――― 『一度負けたくらいで そこまで悔しがれるなんて すごく価値のある才能だと思うけどな』

―――― 『俺には何もないから うらやましいよ』

―――― 『そこまで本気になれるものがあるって すげぇ幸せなことだもんな』


うるか (……あのときと、同じ。成幸は、いつだってあたしが本当にほしい言葉をくれるんだ)

うるか (あたしのこと、励まして、勇気づけて……元気をくれるんだ……)

うるか 「……ううん。なんでもない。えへへ、ありがとね、成幸」

成幸 「? ん、おう……」

うるか (……だから、好きだよ)

カァアアアア……

うるか (大好きだよっ、成幸!)

143以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:24:17 ID:UawLMgbI
………………

学園長 『皆様、本日の水泳教室は楽しんでいただけたでしょうか?』

学園長 『未来のトップアスリートを目指して、皆さんが本校に入学してくれるのを待っています』

滝沢先生 (……ったく。急に来たかと思えば、広報活動か)

滝沢先生 (熱心なことだね、ほんと。まぁ、学園のためといえば、何も言えないんだけどな)

学園長 『それでは、最後になりますが、本校が誇るトップスイマー、武元うるか選手によるデモンストレーションです!』

ワーワーワー!!! カッコイイーー!! カワイイー!! タケモトセンシュー!!! ガンバレーーー!!!

うるか 「やぁやぁー! どうもありがとうー!」

成幸 (ほんと、すごい人気だな、うるかの奴……)

うるか 「………………」

シーーーーン

成幸 (……真剣な泳ぎとなるや、表情が変わるんだもんなぁ)

成幸 (大人も子どもたちも、一斉に静かになった。その場を変えるような雰囲気を持っている、)

成幸 (ホンモノの、アスリート――――)

――――――ピッ…………パシャン……

144以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:25:07 ID:UawLMgbI
成幸 「………………」

ゴクリ

成幸 「……すげぇ」

葉月 「ふぁー……」 和樹 「はやいなぁ……」

成幸 (……それは、その場を支配するような泳ぎだった)

成幸 (競技会のときとは違う、ある種余裕のある伸びやかな泳ぎは、むしろ、)

成幸 (うるかの強さを誇示するかのようで……)

成幸 (そしてそれは、それ以上に……)

成幸 (……ただただ、美しくて)

成幸 (きっと、その場にいた誰もが、改めて垣間見ただろう)

成幸 (武元うるかというアスリートの、輝かしい未来を)

145以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:25:46 ID:UawLMgbI
………………

うるか 「……ぷはぁ」

うるか (まー、こんなもんかなー)

うるか (滝沢先生には、それなりに本気で泳げって言われたから、まぁまぁがんばったつもりだけど……――)

パチパチパチパチパチパチ!!!!

うるか 「……へ?」 (拍手……!?)

うるか (お、泳いで拍手されるって初めてだよ。なんか……恥ずかしいな……///)

うるか 「あっ……」

成幸 「……」 グッ

うるか (……成幸。ちゃんと見ててくれたんだ)

うるか 「………………」

うるか 「えへへっ……」

146以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:26:17 ID:UawLMgbI
………………

「すごいね、たけもとせんしゅ!」 「かっこいいね!」

「それなのにきれいでかわいくて、アイドルみたい……」

「ねえねえお母さん! わたし、たけもとせんしゅみたいになりたい!」

葉月 「……うーん。わたしも目指そうかな……」

和樹 「ならまずは水希姉ちゃん越えないとなー」

成幸 「………………」 クスッ (……なんだよ、もうできてるじゃないか、うるか)

成幸 (今日は、あんまりうまく教えられなかったかもしれないけど、それでも……)

成幸 (泳いだだけで、こんなに多くの子どもたちに、たくさんのことを教えられてるんだ)

成幸 (……なぁ、うるか。お前は俺みたいになりたいなんて、嬉しいこと言ってくれるけどさ、)

成幸 (俺は……)

グッ

成幸 (……お前みたいになれるように、がんばってるんだよ)

成幸 (お前は俺の、憧れる人の、ひとりだから)

おわり

147以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/11(土) 23:26:58 ID:UawLMgbI
………………幕間  「逆」

水希 「………………」 ブスーーーッ

成幸 「? 水希の奴不機嫌そうだけど、どうしたんだ?」

花枝 「どうも、葉月と和樹に自分が教える前に他人に水泳を教えられたから、ご機嫌ナナメみたいなの」

成幸 「我が妹ながらめんどくさい奴だな……」 (なるほどなぁ……)

花枝 「成幸。逆、逆」

成幸 (……うーん。仕方ない。ちょっとご機嫌取ってやるか)

成幸 「……あーあ、葉月と和樹も少し泳げるようになったし、俺が泳げないままじゃ長男の沽券に関わるなぁ」

成幸 「水希、今度水泳教えてくれないか?」

水希 「!?」 パァアアアアアア……!!! 「プールデート!? それとも海デート!?」

水希 「とりあえず室内プールデートだね! 来年の夏は海に行こうね!!」

成幸 「……お、おう」

花枝 「我が娘ながら少し怖いわね……」 (ほんと、仲良いわね)

葉月 「母ちゃん、」 和樹 「逆、逆」

おわり


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