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【ぼく勉】 文乃 「今週末、天体観測に行くんだよ」

398以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:10:26 ID:ho235Jjg
………………アイスショー当日

成幸 「うわぁ、すごい人だなぁ……」

ザワザワザワザワ……

「桐須美春、初演劇アイスショーで初主役だって! すごいよね!」

「まだエリジブルなのに普通のショーにもたくさん出てるよな」

「スケートめっちゃうまいのにめっちゃ美人で、憧れるよね〜!」

成幸 (それにしても、すごい人気だな、美春さん)

成幸 (改めて、今さらながら本当にすごい人なんだな、あの人……)

成幸 (ん、もらったチケットの席はあそこか。混んでるし、座って待ってよう)

成幸 (……目が合ったりしたら手でも振ろうと思ってたけど、こりゃ気づいてもらえないな)

成幸 (これだけ回りにたくさん人がいたら分かるはずないよな)

成幸 「………………」 ドキドキドキドキ…… (……三十分後くらいに開演か。はぁ、なんか緊張するな)

ハッ

成幸 「……ん?」 (……何で俺が緊張してるんだ?)

399以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:11:09 ID:ho235Jjg
………………開演

〜〜〜♪

成幸 (……演目は “白鳥の湖”)

成幸 (正直、台詞も何もない、スケートリンク上で演技をするだけのショーで何が分かるんだって思っていたけど、)

ゴクッ

成幸 (すごい……!)

成幸 (遠目でしか見えないから、細かい表情もよく分からない。でも……)

成幸 (美春さんの動きすべてから、まるで感情が流れ込んでくるみたいだ……)

成幸 (それに……) カァアアアア……

成幸 (すごく、きれいだ。デートしていたときと違うきれいさで……) ドキドキドキドキ……

成幸 (あの人が、本当に……)


―――― 『かわいいモフモフがたくさんいますよ、唯我成幸さん!!!』

―――― 『ぎゃんカワです!! これがぎゃんカワというものなのですね唯我成幸さん!!』


成幸 (あの桐須美春さんと同一人物なんだなぁ……) ドキドキドキドキ……

400以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:13:43 ID:ho235Jjg
………………

美春 (好き……好き……)

美春 (だから、悲しい。好きだからこそ、裏切りが、つらい)

美春 (いまは少しだけ、気持ちが分かる……)

美春 (気持ちを重ねて、姫の心をなぞって……)

美春 (わたしは……)


―――― 『美春』

―――― 『美春さん』


美春 (……姉さまのことが好き。唯我成幸さんのことも、きっと……)

美春 (でも、だからこそこれはきっと、本物じゃない)

美春 (恋に恋しているだけ。そうでなければ、私はこんな風に、この気持ちを利用したりはできない)

401以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:14:16 ID:ho235Jjg
美春 (だから……)


―――― 『……美春さんに、あんな顔、してほしくなかったので』

―――― 『……また今度、あのデートの続きをしませんか?』


美春 (嬉しかった言葉も、戸惑う気持ちも、悲しい想いも、すべて……)

美春 「………………」

美春 (もう演目の終わりも近い。姉さまも見てくれている。この気持ちを、そのまま曲に乗せて)

美春 (きっと唯我成幸さんも見てくれている)

美春 (どうですか、唯我成幸さん。私の演技、見てくれていますか?)

美春 (しっかりと舞えていますか? 滑れていますか? 私は、魅力的ですか?)

美春 (……なんて、一般席のどこにいるかも分からないあなたに問いかけても、どうしようも……――)

パッ……パァッ……!!!

美春 (へ……?)

美春 (ど、どうして……?)

美春 (どうして、あなたを見つけてしまえるのでしょう……唯我成幸さん……!)

402以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:15:01 ID:ho235Jjg
………………リンク脇

プロデューサー 「………………」

ブルブルブルブル!!!!

プロデューサー (素晴らしいわぁ! 素晴らしい演技よ美春ちゃん!!!!)

プロデューサー (つい先日まで、恋のこの字も表現できていなかったあの子が……!)

プロデューサー (今は本物の悲劇のお姫様のように、優雅に、可憐に舞っている……)

プロデューサー (ああ、次回公演の発想がどんどん湧いてくるわぁ!!)

プロデューサー (予定さえ合えば、また美春ちゃんを主役に……)

プロデューサー 「……ノン! 美春ちゃんの予定に合わせて次回公演を組むわぁ!!」

403以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:15:52 ID:ho235Jjg
………………

美春 (こんなに多くの観客がいる中で、どうして……)

美春 (唯我成幸さん、どうしてあなたはそんなにも光り輝いて見えるのでしょう)


―――― 『恋をすると、回りが見えなくなるの。相手しか見えなくなるの』

―――― 『それなのに、周囲すべてが輝いて見えるわ。もちろん、恋する相手もね』


美春 (ああ、もうこんなの、自分を誤魔化すことすらできないではないですか……)

美春 (私は……ええ、そうです。私は……!!)



美春 (私はあなたのことが好きです。唯我成幸さん)



美春 (……届いてほしい)

美春 (この気持ちを、唯我成幸さんに届けたい……!)

美春 (好き! 好き……!! あなたのことを……)

美春 (お慕い申し上げております、唯我成幸さん!!)

404以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:16:22 ID:ho235Jjg
パチパチパチ……パチパチパチパチパチパチパチパチ……!!!!!

美春 (へ……?)

美春 (あっ、い、いつの間にか、演目が終わっていました……)

美春 (こんなに演劇に没頭できるなんて思っていませんでした……)

美春 (でも、すごく……)

美春 (満ち足りた、やりきった気持ちです……)

美春 「………………」

美春 (……ねぇ、唯我成幸さん。私の気持ち、届きましたか?)

美春 (私の想い、感じてくれましたか? ドキドキ、してくれましたか?)


―――― 『……また今度、あのデートの続きをしませんか?』


美春 (……そのときに、お返事聞かせてもらいますからね)

ニコッ

美春 (そのときこそ、私の魅力で、あなたをトリコにしてみせますから!)

405以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:16:54 ID:ho235Jjg
………………観客席

成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

成幸 (す、すごかった。後半、ずっとドキドキしっぱなしだった……)

成幸 (最後の最後まで見入ってしまった。すごい……)

美春 「……」 ニコッ

成幸 (へ……?)

成幸 (いま、俺の方を見た……?)

成幸 「………………」

成幸 (い、いやいや、こんなに人がたくさんいて、俺のことを見分けられるわけないよな……)

成幸 「………………」

成幸 (……ない、よな?)

おわり

406以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:17:39 ID:ho235Jjg
………………幕間1 「配置」

美春 (唯我成幸さんから頂いたペロはどこに置きましょうかね)

美春 (んー、配置で考えるなら姉さま人形の隣がベストでしょうか……)

ポン

美春 「………………」

モヤモヤモヤモヤ……

美春 (……姉さまとペロがくっついていると、少しモヤモヤしますね)

ススススッ……

美春 (少し離して……これでよしっ、と)

407以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:18:22 ID:ho235Jjg
………………幕間2 「ねぞう」

美春 「左に姉さま人形、右に唯我成幸さんからいただいたペロを寝かせて、と」

美春 「ふふ……ふふふふ。まさに両手に花状態ですね」

美春 「これはきっと良い夢が見られるはず! おやすみなさーい!」

………………翌朝

美春 「……むにゃ、もう朝ですか……」 ムクリ

美春 「あれ? ペロと姉さまは……」

ハッ

美春 「ぺ、ペロが姉さまに覆い被さってますー! ハレンチです!」

美春 「私の隣で寝ていたはずなのにー! そんなに姉さまがいいんですかー!」

美春 「唯我成幸さんのばかー! 浮気者ー!」

おわり

408以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:20:53 ID:ho235Jjg
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。
とりあえず今週末シリーズは一区切りかなと思います。
原作での立ち位置がどうであれ、好意を明示するというテーマで書きました。
くどい話が多かったと思いますが、わたしは書いていて楽しかったです。

次、投下します。

【ぼく勉】 真冬 「洗濯機が壊れた日に」

409以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:21:23 ID:ho235Jjg
………………唯我家

花枝 「参ったわねぇ……」

成幸 「……んー、うんともすんともいわないな」

成幸 「さすがにこれは俺にどうにかできるようなことじゃないな」

花枝 「急に洗濯機が壊れるなんてねぇ。困ったわ」

成幸 「まぁ仕方ないよな。物心ついた頃からこの洗濯機だし」

成幸 「修理は?」

花枝 「さっき電話したけど、来られるのは早くても明日になるそうなの」

花枝 「今日のお洗濯はコインランドリーに行くしかないわね」

成幸 「ああ、じゃあ俺が行ってくるよ。参考書持って行けば待ってる間勉強できるし」

花枝 「あら、ほんと? 助かるわ。じゃあお願いしてもいいかしら」

ズシン……!!!

成幸 「!? か、母さん? 何、その洗濯物の量は……」

花枝 「どうせコインランドリー行ってもらうなら、大物もついでに洗ってもらおうかな、って」

花枝 「じゃ、よろしくね♪ 成幸」

410以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:22:03 ID:ho235Jjg
………………

成幸 「………………」

ヨロヨロヨロヨロ……

成幸 (……母さんめ。息子の厚意を利用するとは、なんて母親だ)

成幸 (うー、カーテンとかマットとかも入ってるから重い。っていうか、これ、ビニール袋破けないよな……)

ビリッ……ビリビリッ……

成幸 (ヒィーーー!? ほんとに破けてきたー!?)

ドサッ……

成幸 「ああ……」 (もっと小分けにしてビニール袋にいれればよかったな……)

成幸 (うーん、どうしよう。全部身体に巻き付ければ持って行けるかな)

成幸 (でも、それだと洗濯物のお化けみたいになりそうだな……)

成幸 (また職務質問されるのはカンベンだし。うーむ……――)

  「――奇遇。そんなところで立ち尽くして、一体どうしたの、唯我君」

成幸 「へ……? あっ、桐須先生。こんにちは」

真冬 「ええ、こんにちは。一体どうしたの? それは……洗濯物?」

411以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:22:38 ID:ho235Jjg
成幸 「はい。家の洗濯機が壊れちゃって、コインランドリーに行く途中だったんですけど……」

成幸 「ビニール袋に洗濯物を詰め過ぎちゃって、破れちゃったんです」

真冬 「軽率。あなたは本当に、ヘンなところが抜けているのだから」

成幸 「面目ないです……」

真冬 「……まったく。仕方ないわね」

スッ

真冬 「洗濯物、半分持つわ。二人なら持てない量じゃないわ」

成幸 「本当ですか。助かります。でも、先生、どこかへお出かけの予定だったんじゃ……」

真冬 「偶然が重なって少し驚いたけれど、実は私もなの」

成幸 「へ……?」

真冬 「私も洗濯機が壊れてしまって、これからコインランドリーに行くところだったのよ」

真冬 「だから何の問題もないわ」 ヒョイヒョイッ 「……さ、行きましょう。一番近くのコインランドリーでいいわね?」

成幸 「あ、はい! ありがとうございます!」

412以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:23:17 ID:ho235Jjg
………………コインランドリー

成幸 「あっ……」

真冬 「? どうかしたの、唯我君。早く洗濯機を回したら?」

成幸 「あ、いえ、そうしたいのはやまやまなんですけど」 カァアアアア…… 「恥ずかしながら、洗剤を忘れてしまって」

真冬 「……閉口。今日のあなたは本当に抜けているわね」

成幸 「全く返す言葉もないです……」 シューーーン 「買うのももったいないので、家までダッシュして洗剤取ってきます……」

真冬 「待ちなさい。その往復時間は、受験生にとってとても貴重なはずよ」

真冬 「私の洗剤を使いなさい。普段使っているものとは違うでしょうけど、洗濯だけなのだから問題ないでしょう」

成幸 「桐須先生……」 キラキラキラ……!!!! 「ありがとうございます!」

真冬 「そ、そんなに感謝されるようなことじゃないわ。ほら、使いなさい」

成幸 「いえいえ、本当にありがとうございます……って……」

成幸 (なんかめちゃくちゃ高そうな洗剤だ。うちの安い粉洗剤とは全然違うぞ……)

成幸 (でも、使っていいって言ってくれてるんだから、大丈夫だよな……)

キュッ……カパッ……フワッ

成幸 (……あっ、これ、桐須先生と同じ匂いだ)

413以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:23:58 ID:ho235Jjg
………………

ゴウンゴウンゴウンゴウン……

真冬 「……前より間違いが減ったわね。いいことだわ。要素に紐付けて時系列を見られるようになっているわね」

成幸 「ありがとうございます。世界史は先生に教わったおかげで、少し得意になったと思います」

真冬 「……私は関係ないわ。君が頑張った結果でしょう」

真冬 「あら、そこ間違っているわよ」

成幸 「あっ、ほんとだ……」

真冬 「まったく。まだまだ不安ね。もっと精進なさい」

成幸 「そうですね。がんばります!」

カリカリカリ……

成幸 「………………」

真冬 「………………」

真冬 「……最近、どうかしら?」

成幸 「へ? どうって……」

414以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:25:11 ID:ho235Jjg
真冬 「……緒方さん、古橋さん、それから、武元さんもだけれど」

成幸 「ああ、あいつらの進捗ですか? それなら……」

グッ

成幸 「すごいですよ。模擬問題の解答精度がどんどん上がっています」

成幸 「武元も英単語の記憶量がどんどん増えてますし、発音もよくなってきています」

成幸 「三人全員の進路実現が、現実味を帯びてきてますよ」

真冬 「そう……」

成幸 「まぁ、もちろん結果は保証できませんけど……」

成幸 「でも、大丈夫だと思います。最近のあいつらを見てると、心の底からそう思うんです」

真冬 (……まったく。いい顔で笑うものね)

真冬 「……君もよ。唯我君」

成幸 「?」

真冬 「……なれるわ。絶対。お父さんのような、立派な教育者に」

成幸 「へ……?」 カァアアアア…… 「き、急になんですか……」

真冬 「褒めているのよ。他意はないわ」

415以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:25:57 ID:ho235Jjg
成幸 (そうは言ってもな……)

ドキドキドキドキ……

成幸 (滅多に褒めてくれない先生が、あんなにストレートに褒めてくれるなんて……)

成幸 (驚くなというほうが無理な話だよ……)


―――― 『……なれるわ。絶対。お父さんのような、立派な教育者に』


成幸 「………………」

真冬 「……? 唯我君?」

成幸 「……あ、いや、すみません。嬉しいです。すごく。ありがとうございます。でも……」

真冬 「?」

成幸 「……俺、たしかに親父……父さんみたいな教師になりたいと思っています」

成幸 「父さんみたいに、人を励まして、一緒に成長できるような教育者に」

成幸 「……でも、今は思うんです。それと同じくらい、目指すべき先生の姿があるって」

ニコッ

成幸 「俺は、桐須先生みたいな教師になりたいって、そう思うんです」

416以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:26:27 ID:ho235Jjg
真冬 「へ……?」

ハッ

真冬 「わっ、私!?」

成幸 「はい! 先生みたいな、生徒を想って、生徒のためにがんばれる先生に!」

真冬 「なっ……な、何を……///」

プイッ

真冬 「わ、私は、教師として当然のことをしているだけで、そんなの……――」

――ピーーーーーーッ

真冬 「!?」

成幸 「あっ、洗濯終わったみたいですね。取り出さないと……」 トトトトト……

真冬 「………………」 ドキドキドキ (ま、まったく、急に何を言い出すかと思えば……)


―――― 『俺は、桐須先生みたいな教師になりたいって、そう思うんです』

―――― 『はい! 先生みたいな、生徒を想って、生徒のためにがんばれる先生に!』


真冬 「っ……///」

417以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:27:09 ID:ho235Jjg
………………

成幸 「今日はありがとうございました。おかげで勉強が捗りました」

成幸 「それから、洗剤まで借りてしまって……」

フワワワーン……

成幸 (うぅ……なんか、桐須先生と同じ匂いが、洗濯物から……///)

真冬 「気にしなくていいわ。待ち時間に勉強を教えるくらい大したことではないもの。もちろん、洗剤も」

真冬 「ただし、忘れ物には気をつけなさい。受験で同じ事をしたらアウトよ」

成幸 「はい。肝に銘じておきます」

真冬 「よろしい」 クスッ 「……じゃあ、また明日学校で。唯我君」

成幸 「はい。では失礼します」

418以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:27:41 ID:ho235Jjg
………………翌朝

うるか 「あっ、成幸! おーっす!」

成幸 「おう、うるか。古橋と緒方も、おはよう」

理珠 「おはようございます」

文乃 「おはよ、成幸くん」

うるか 「ん……?」

クンクンクン……スンスン

成幸 「な、なんだよ、うるか。出会い頭に人のシャツに顔近づけて……」

成幸 (っていうか、めちゃくちゃ近いぞ……///)

うるか 「んー……成幸、洗剤変えた? 匂いがいつもと違うんだよねー」

文乃 (いつもとって……うるかちゃん、そんなに恒常的に成幸くんの匂い嗅いでるの……?)

文乃 (まぁ、うるかちゃんって誰に対しても結構そういうところあるもんなぁ……)

成幸 「……あー、それ昨日コインランドリーで洗ったからだよ。家の洗濯機が壊れちゃってさ」

理珠 「それは大変でしたね。だから匂いが変わったんですね」

成幸 「あー……」 (本当は加えて桐須先生に洗剤を借りたからなんだけど……)

419以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:28:24 ID:ho235Jjg
うるか 「んー? でもその匂い、誰かの匂いと似てるような……」

文乃 「あはは。ほんと、うるかちゃんって匂いに敏感だよね」

文乃 (……まぁ、そのせいでわたしも成幸くんの家にお泊まりしたときドキッとさせられたんだけど)

文乃 (……ん? ってことは、まさか……――)


真冬 「――あら、おそろいで登校かしら? おはよう」


成幸 「あ、桐須先生。おはようございます」

緒方 「あ……お、おはようございます、先生」

文乃 「おはようございます!」

成幸 (うんうん。普通に挨拶できてるな。だいぶ先生とのわだかまりがほぐれたみたいだ。良いことだな)

うるか 「おはようございまーっす! ……ん?」

クンクンクン……

真冬 「ち、ちょっと、武元さん? どうして私のシャツに顔を近づけるのかしら?」

真冬 「というか、その距離はさすがに、近いわ……」

うるか 「……やっぱり! 成幸と同じ匂いだよ!」

420以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:29:50 ID:ho235Jjg
真冬&成幸 「「!?」」

真冬 「……ぐ、偶然! 洗剤が一緒だっただけでしょう」

真冬 「わ、私は朝礼業務があるから、失礼するわ」

真冬 「あなたたちも遅刻しないようにするのよ!」

トトトトト……

理珠 「? 桐須先生、少し慌てているように見えましたが、一体どうしたのでしょうか?」

うるか 「先生と洗剤がかぶるなんて、すごい偶然だね、成幸!」

成幸 「へ? あ、ああ、まぁ、そうだな……」

成幸 (い、いや、なんで嘘ついてるんだ、俺? っていうか、何で先生はあんな誤魔化しを……?)

成幸 (これじゃ、なんかやましいことがあるみたいで、今さら本当のことも言えないぞ!?)

文乃 「………………」 ジトーーーーーッ

成幸 「……!?」 ビクッ 「ど、どうかしたか、古橋?」

文乃 「……うん」 ニコッ 「とりあえず、昼休み、ツラ貸せやコラァ、だよ、成幸くんっ」

成幸 「……はい。文乃姉ちゃん」

おわり

421以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:30:46 ID:ho235Jjg
………………幕間 「いつもの場所」

成幸 「……ってことで、かくかくしかじかで先生の洗剤を借りただけだよ」

文乃 「なんだ、それだけか。よかったよかった」

文乃 「また先生の家にお邪魔して、洗濯が必要な某かを致したのかと思ったよ」 ニコッ

成幸 「笑顔で反応しづらいようなえげつないことぶち込んでくるよなぁお前って……」

成幸 「……ん、でもそろそろまた先生の家に行って掃除しないとな」

成幸 「そろそろ汚れる頃だろうし、それこそ洗濯物もたためてないだろうしな」

文乃 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……? 古橋?」

文乃 「……ナチュラルに女教師の家に通い妻してる君にえげつないなんて言われたくねぇ! だよ!」

おわり

422以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:31:59 ID:ho235Jjg
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。


次投下します。


【ぼく勉】 理珠 「地鶏の研究をしているんです」 文乃 「えっ、自撮り?」

423以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:32:39 ID:ho235Jjg
と思ったのですがすみません、眠いので明日投下します。

424以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:44:27 ID:R.Syq8Go
更新多すぎて草
おつやで

425以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 01:07:09 ID:KmaczHPw
おお復活したのか
おかえり

426以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 12:25:57 ID:e/31zRzA
やっぱ文系ちゃんの相談役ポジションおいしいよなあ

427以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 13:43:00 ID:dAVZuhfo
おつおつ

428以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 23:57:57 ID:ho235Jjg
>>1です。
投下します。

【ぼく勉】 理珠 「地鶏の研究をしているんです」 文乃 「えっ、自撮り?」

429以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 23:59:02 ID:ho235Jjg
理珠 「はい、(うどんに)乗せるための地鶏(料理)の研究です」

文乃 「えっと、載せるって……SNSに載せるための自撮り、ってこと……?」

理珠 「その通りです、文乃。さすがですね。時代はSNSですから」

理珠 「ただ、これがなかなか難しくて、SNS映えする地鶏(料理)が思い浮かばないんです」

うるか 「あ、そ、そうだね。構図とかなかなか難しいよね……」

理珠 「? たしかに、撮る構図も大事ですね。色々試してみます」

文乃 「………………」 うるか 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

うるか (り、リズりんが……) 文乃 (承認欲求を求めるSNS女子に……!?)

うるか 「えっと、でもリズりん? 自撮りをSNSに乗せるのって、ちょっとマズくない……?」

理珠 「? なぜです?」

うるか 「えっ、な、なぜって……そりゃあ……ネットにのっちゃうと、もう二度と消せない、し……」

理珠 「? なぜ消す必要があるんですか?」

文乃 (リスク管理ガバガバすぎだよりっちゃん!?)

430以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 23:59:36 ID:ho235Jjg
うるか 「ち、ちなみにどんな自撮りをアップするつもりなの?」

理珠 「それを悩んでいるんです。胸(肉)を使うつもりではあるんですが……」

文乃 「!?」 (り、りっちゃん!? 自分のおっぱいの破壊力を正しく理解していたんだね!?)

文乃 (Gカップりっぱいを武器にどんな自撮りをアップするつもりなの!?)

理珠 「でも、やはりモモ(肉)の方がやわらかくていいかなとも思いますし……」

うるか (フトモモ!? リズりんのフトモモはおっぱいよりやわらかいの!?)

うるか (今度フトモモ揉ませてもらおう……じゃなくて!!)

文乃 (どんなエッチな自撮りを撮るつもりなのりっちゃーん!!)

文乃&うるか 「「………………」」

理珠 「? 文乃? うるかさん? 黙りこくってしまって、どうかしましたか?」

431以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:00:16 ID:KTVNI7b6
文乃 「……だめ」

理珠 「へ?」

文乃 「やっぱりダメだよりっちゃん! 自撮りなんて!」

うるか 「そうだよリズりん! もっと自分を大事にして!」

理珠 「??? えっと、地鶏の何がダメなのでしょうか……」

文乃 「自撮りをするのはいいけど、エッチなのはダメ!」

うるか 「そう! リズりんのおっぱいとフトモモの自撮りなんか、絶対許さないよ!」

文乃 「そうだよ! そんなの、ナニに使われるか分からないんだから!」

理珠 「……は?」

文乃 「とにかく!! 男の子が喜んじゃうエッチな自撮りなんか、絶対に許さないからね!!」

うるか 「そうだよ! 成幸みたいなエッチな男の子は、そういうの大好物なんだから!!」

理珠 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 「……はぁ?」

432以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:04:36 ID:KTVNI7b6
………………

文乃 「………………」 [わたしたちはアホな勘違いをしました。]

うるか 「………………」 [反省中です。]

理珠 「……まったく。何を考えているんですか、あなたたちは」

理珠 「私の言葉が足りなかったのも悪かったとは思いますが、地鶏を自撮りと間違えますか、普通」

文乃 「うぅ……ごめんだよぅ、りっちゃん……」

うるか 「えへへっ、日本語ってむつかしいね」

理珠 「それに、エッチな自撮りって……まったく……」

理珠 「なぜ私がそんなものをネットにアップしなくてはならないのですか」

文乃 「てっきりりっちゃんが承認欲求バリバリSNS女子になったのかと思って……」

うるか 「そのおっぱいを使ってネットの住人をトリコにしよーとしてるのかと……」

理珠 「バカなんですか?」

文乃 「うぅ、返す言葉もないよぅ」

成幸 「………………」

成幸 「……えっと、何やってんだ、お前ら?」

433以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:05:11 ID:KTVNI7b6
………………前日 緒方うどん

親父さん 「うーん……」

理珠 「お父さん? 珍しくため息なんかついて、どうかしましたか?」

親父さん 「ああ、リズたま。いや、実は町内会から頼まれごとをされちまってな」

親父さん 「何でも、新しくブランド化した地鶏を使ったメニューを出してほしいそうなんだ」

理珠 「地鶏? ああ、最近見かける “七緒鶏” ですか?」

親父さん 「おう、それだそれだ。それを使った新メニューを、商店街の店で一斉に出して、PRがしたいんだそうだ」

親父さん 「協力すれば鶏肉を安く売ってくれるらしいから、こっちにとっても願ったり叶ったりなんだが……」

親父さん 「いかんせん、俺ぁこういうの考えるのが苦手でな。どうしたもんか……」

理珠 「ふむ……」

理珠 「……よろしければ、その新メニュー、私に任せてもらえませんか?」

親父さん 「!? リズたま、本当かい!? 助かるよ!」

理珠 「はい! 緒方うどんの一人娘の名にかけて、素晴らしい新メニューを考えてみせます!」

434以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:05:45 ID:KTVNI7b6
………………帰路

理珠 「……と、いうことがありまして」

理珠 「困っている父を見るに見かねて申し出たのですが、これがなかなか難しくて……」

成幸 「なるほどな。お店の売り上げにも関わるだろうし、地域振興も兼ねてるとあれば難しいよなぁ」

成幸 「……で、まじめに悩んでいた緒方に、あいつらはアホな事を言った、と」

理珠 「まったく、何がエッチな自撮りですか」 プンプン 「理解に苦しみます」

成幸 「まぁまぁ、あいつらもお前のことが心配だったんだろうし、そう怒ってやるなよ」

成幸 「……それにしても、新メニュー開発かぁ。大変そうだな」

理珠 「鶏天を乗せるのでもいいかと思ったのですが、今までの鶏天との違いが分かりにくいですし……」

理珠 「炒め物にしてみたら、鶏が細かくなって隠れてしまって、せっかくの地鶏が薄れてしまいますし……」

理珠 「昨日も色々試作してみたのですが、どうもしっくりくるのが思い浮かばないんです」

理珠 「新メニュー開発がこんなに難しいとは思いませんでした……」

成幸 「そう思い詰めるなよ。新メニューは今週末から一斉スタートなんだろ? まだ時間はあるじゃないか」

成幸 「役に立つかは分からないけど、俺もバイト中に色々考えるからさ。元気出せよ」

理珠 「えっ、本当ですか?」 パァアアアアアア……!!! 「成幸さんが一緒に考えてくれるなら百人力です!」

435以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:06:19 ID:KTVNI7b6
成幸 「お、おう? いや、そんな大げさな。俺なんかきっとあまり役には立たないよ」

理珠 「そんなことありません!」 ガバッ

成幸 「のわっ……!? ちょっ、緒方、ち、近い……///」

理珠 「成幸さんは、文化祭の時だって、たくさんたくさん助けてくれました!」

理珠 「最後の一押しのもみじおろしうどんだって、成幸さんが考えてくれたじゃないですか」

理珠 「……1000食完売したのは、成幸さんのおかげといっても過言ではありません!」

成幸 「ど、どうどうどう。そう言ってくれるのは嬉しいが、少し落ち着こう、緒方」

成幸 「ち、近い、というか……その、色々と、くっついてる、から、な?」

理珠 「へ……?」 ハッ 「ひゃっ!? す、すみません……」

成幸 「いや、全然、俺は大丈夫だから……――」


「――ほーう。人んちの前で娘と密着とは、やってくれるじゃねぇか。センセーイ?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「お、親父さん!? なんで……」 ハッ 「って、もう緒方うどんの目の前!?」

親父さん 「何とぼけようとしてんだテメェー!! 今日という今日はバイト前に駆除してやらぁー!」

436以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:07:14 ID:KTVNI7b6
………………緒方うどん

成幸 「……はぁ」 (また今日もひどい目にあったな)

成幸 (親父さん、悪い人じゃないんだけど、緒方が絡むと人が変わるからな……)

親父さん 「………………」 ギラギラギラ

成幸 (あー、こりゃ今日は一日機嫌が悪いままだな。気をつけないと……)

……ポコン

親父さん 「のわっ……っと、リズたま? なぜおたまで俺の頭を……?」

理珠 「いつまで不機嫌そうな顔をしているんですか。さっきのは誤解だと言ったでしょう」

理珠 「私が成幸さんに抱きついてしまっただけで、成幸さんは悪くありません」

親父さん 「り、リズたま。そうは言ってもな……」

理珠 「もしまだそんな顔を続けるつもりなら、今日はお手伝いをボイコットします。成幸さんと一緒に」

理珠 「なんだったら、そのまま賃上げ要求のストライキに移行してもいいんですよ?」

親父さん 「賃上げ要求!?」

成幸 (経営者の娘が賃上げ要求のストライキに参加するってすごいな) クスクス (泥沼の家庭事情がありそう)

成幸 (……って違う。アホなこと考えてる場合じゃない!)

437以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:08:00 ID:KTVNI7b6
親父さん 「り、リズたま、でも俺ぁ、リズたまのことが心配で……」

理珠 「私はもう子どもじゃありません。いい加減、過保護にするのはやめてください。迷惑です」

成幸 (ま、まずい……)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

親父さん 「………………」

理珠 「………………」

成幸 (未だかつてないくらい親子間が険悪な雰囲気だー!?) アセアセアセアセ……

成幸 (こ、こんなときはお袋さんに間に入ってもらうしかない。今日はお袋さんは……) ハッ

成幸 (一日留守にするから俺がバイト入ってるんだったー!!)

ガラッ

成幸 「あっ……い、いらっしゃいませー!」

成幸 (夕食時のお客さんも入り始めた! とにかくこのままやるしかない!)

親父さん 「………………」  理珠 「………………」

成幸 (……不安だ)

438以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:08:39 ID:KTVNI7b6
………………

理珠 「お父さん、注文です」

親父さん 「……おう」

親父さん 「……あがり。持ってってくれ」

理珠 「はい」

成幸 「………………」

成幸 (……いつもより、口数は少ないけど)

成幸 (意外と普通だな。もっとこう、まったく無言でやるのかと思ったけど……)

「……ちょいちょい、バイトのあんちゃん」

成幸 「あ、はい!」 (常連のおじさんだ。追加かな?)

トトトトト……

成幸 「ご注文ですか?」

「いやいや、大したことじゃねーんだけどさ。オヤジと理珠ちゃん、また喧嘩してんのかい?」

成幸 「えっ……? あ、ああ、やっぱり分かります?」

「そりゃ、俺は何年もここに通ってるからなぁ」

439以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:09:09 ID:KTVNI7b6
「でもよ、おもしれぇだろ? あんちゃん」

成幸 「面白い……?」

「傍目からも喧嘩してるって分かるのに、息ピッタリだろ?」

成幸 「……?」

理珠 「お父さん。注文は」

親父さん 「ん。いまできる」

親父さん 「……リズたま、あれは――」

――コトッ

理珠 「さっき倉庫から持ってきました。なくなりそうだったので」

親父さん 「……おう。ありがとう」

理珠 「いえ」

成幸 「……たしかに。口数は少ないのに、全部伝わってる感じですね」

「おう、さすが理珠ちゃんのカレシだねぇ。よくわかってるじゃねぇの」

成幸 「かっ……!? ち、違いますよ。俺と緒方はそういう関係じゃ……」

440以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:09:39 ID:KTVNI7b6
「へぇ? そうなの? でも、オヤジの奴と飲むと、いつも言ってるぜ?」

「“うちはリズたまが上等な跡継ぎを連れてきてくれたから安泰だー” とかなんとか……」

成幸 「へっ……!?」

「バイトの奴だって言ってたから、それ間違いなくあんちゃんのことだろ?」

成幸 「い、いや、そんなわけないですよ。だって俺、親父さんに覚えめでたくないし……」

「いやいや、素直になれねぇだけなんだって。オヤジの奴、飲むといつもお前さんのことべた褒めで……――」


――――ドン!!!


親父さん 「……うどん、お待ち」 ギロッ

「お、おう。ありがとよ」

親父さん 「……ふん」

「……ふぅ。ビビったビビった。これ以上余計なこと言ったら後がめんどくせぇな、こりゃ」

「仕事の邪魔して悪かったな、あんちゃん」

成幸 「は、はぁ……?」

成幸 (……? 一体何だったんだ?)

441以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:10:09 ID:KTVNI7b6
理珠 「………………」

親父さん 「………………」

理珠 「……お、お父さん」  親父さん 「リズたま……」

理珠&親父さん 「「!?」」

理珠 「……っ、お、お父さんから、どうぞ」

親父さん 「……い、いやいや、リズたまから……」

理珠 「……むっ」 ジトッ

親父さん 「……わ、わかったよ。俺から言うよ」

親父さん 「さっきは悪かったよ。話も聞かず、センセイに怒ったりして」

理珠 「いえ、それは成幸さんに言うべきことだと思いますけど……」

理珠 「……まぁ、いいです。私も、ごめんなさい。言いすぎました」

親父さん 「そ、そっか……」

理珠 「はい」

成幸 「………………」 クスッ (……ほんと、似たもの親子だよな。でも、いい親子だ)

成幸 「……ん? “親子” ?」

442以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:10:41 ID:KTVNI7b6
成幸 「………………」

ハッ

成幸 「そうだ! 親子だ! 親子だよ、緒方! 親父さん!」

親父さん 「!? な、なんだ、急に大声出して……」

理珠 「成幸さん、どうかしましたか?」

成幸 「親父さん、例の地鶏なんですけど……」

親父さん 「例の地鶏って…… “七緒鶏” のことか?」

成幸 「その “七緒鶏” って卵も美味しかったりしませんかね?」

親父さん 「卵ぉ……?」

親父さん 「………………」

親父さん 「……おう。ちと町内会長に聞いてみらぁ」

成幸 「……はい! ありがとうございます!」

親父さん 「けっ。うちの店のことだ。テメェに礼を言われる筋合いはねぇよ」

443以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:11:18 ID:KTVNI7b6
………………週末 緒方うどん

理珠 「町内会の呼びかけもあって、お客さんがたくさんですね」

ワイワイガヤガヤ……

理珠 「みんな、地鶏の新メニューを楽しみにしてくれているみたいです」 クスッ

理珠 「成幸さんの考えた新メニューを、です」

成幸 「や、やめろよ、緒方。ただでさえ緊張してるんだから……」

ドキドキドキドキ……

成幸 (だ、大丈夫だよな。試食したらめちゃくちゃ美味しかったし……)

成幸 (うるかも古橋も美味しいって言ってくれたし、関城も……)


―――― 『やっぱり緒方理珠の作ったうどんは最高ね! 一本一本に緒方理珠を感じるわ!』


成幸 (……いや、あいつは緒方のものは何でも美味いって言うけど)

成幸 (と、とにかく、お客さんが満足してくれることを祈ろう……)

ギュッ

成幸 「へ? お、緒方?」

444以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:11:50 ID:KTVNI7b6
理珠 「大丈夫ですよ」 ニコッ 「成幸さんが考えたメニューです。皆さん満足してくれるに決まっています」

ムギュッ

理珠 「それに、私は好きですよ?」

成幸 「へ……?」 ボフッ 「す、好きって……。っていうか、くっつきすぎじゃないですかね、緒方さん?」

理珠 「ふふ♪ 成幸さんの考えたうどん、好きですよ」

成幸 「あ、ああ。うどんね。そ、そうだよな……」

理珠 「とても美味しいですから。だから、大丈夫です」

グッ

理珠 「自信持ってください、成幸さん!」

成幸 「……おう」 グッ 「ありがと、緒方」

445以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:12:23 ID:KTVNI7b6
親父さん 「おう、センセイ! 人の店で娘とくっついてんじゃねぇ!」

成幸 「ヒッ……! す、すみません!」

親父さん 「……新メニュー、あがったからお客様にお出ししてくんな」

成幸 「あ……は、はい!」

ドキドキドキドキ……

成幸 (だ、大丈夫かな。ちゃんと美味しいかな……)

……バシッ!!!

成幸 「っ……お、親父さん?」

親父さん 「胸ぇ張れよ」 フン 「俺がうめぇって言ったんだ。大丈夫に決まってんだろ」

成幸 「あ……」 クスッ 「はい!」

成幸 「お、お待ちどうさまです! 新メニューの、“七緒鶏の親子うどん” です!」

成幸 「地鶏のお肉と卵を使った親子丼の具を、熱々の釜揚げうどんの上にかけました!」

成幸 「熱々のうちにお召し上がりください!」

「おおー!」  「おいしそー!」  「鶏肉やわらかそー!」  「たまごふわふわしてるー!」

 『いただきまーす!!』

446以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:12:56 ID:KTVNI7b6
ズルズルズル……ムシャムシャムシャ……

成幸 「………………」 ドキドキドキドキ……

「う……」  「えっ……」  「お……」

成幸 「!?」 (へ!? な、何その反応!? 美味しくなかった!?)

 『……お……美味しいーーー!!!』

成幸 「あっ……」

パァアアアアアア……!!!

成幸 「ありがとうございます!!」

親父さん 「けっ。だから言っただろうが」

クスッ

親父さん 「おい、センセイ。次々上がるからさっさとお客様にお出ししねぇか!」

成幸 「は、はい! いまいきます! 親父さん!」

親父さん 「だからテメェに親父さんって呼ばれる筋合いはねぇってんだよ!」

447以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:13:43 ID:KTVNI7b6
親父さん 「………………」

「これおいしーね、ママ!」  「ほんとね。優しい親子丼の味がうどんによく合うわ」

「地鶏だけじゃなく卵も使うとは、考えたなぁ」  「“七緒鶏” って、卵も美味しいんだな」

「こりゃ、他の店の限定メニューも食べてみないとだな」  「今度地鶏と卵、買ってみようかしら……」

親父さん (……ふん。まぁ、好調じゃねぇか。まぁ、俺とリズたまが作ったんだから当然だけどな)

成幸 「親父さん、新しい注文です。親子、五丁お願いします」

成幸 「……? 親父さん?」

親父さん 「……おう、センセイ」

成幸 「?」

親父さん 「……ありがとよ。テメェの考えたメニュー、最高だよ」

成幸 「えっ」 カァアアアア…… 「あ、あはは。なんか親父さんに褒められると変な気分です」

「店員さーん! 注文お願いしまーす!」

成幸 「あ、はーい! ただいま!」 クルッ 「じゃ、親父さん。追加で五丁、お願いしますね」

親父さん 「あいよ!」

448以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:14:17 ID:KTVNI7b6
理珠 「お父さん、こちらも親子追加で四丁お願いします」

親父さん 「おう! そしたらリズたま、麺が……――」

理珠 「――そろそろ足りなくなるだろうと思って、もう持ってきてあります」

親父さん 「ん、わかった。ありがとな、リズたま」

理珠 「いえ。あと、さっき来た出前の注文ですが……」

親父さん 「三十分後だろ? 十分前には仕上げとくから、おかもちだけ準備しといてくれ」

理珠 「わかりました」

成幸 「………………」


―――― 『とても美味しいですから。だから、大丈夫です』

―――― 『……ありがとよ。テメェの考えたメニュー、最高だよ』


成幸 (……本当に似たもの親子だな) クスッ (なぁ、緒方。親父さん。この親子うどんが美味しいのは、きっと、)

成幸 (……ふたりが相性抜群の仲良し親子だからだよ)

おわり

449以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:15:08 ID:KTVNI7b6
………………幕間 「試食です」

文乃 「これ成幸くんが考えたの!? すごいね、本当に美味しいよ!」 ズルズルズル……

文乃 「……おかわり!」

成幸 「いや、俺は考えただけだけどな」

文乃 「いやいや、それでもすごいよ。さすがの発想力だね」 ズルズルズルズルズルズル……

文乃 「……おかわり!」

成幸 「そう言われると照れるな。えへへ……」

文乃 「………………」 ズルズルズルズルズルズルズルズルズル……

文乃 「……おかわり!」

成幸 「いやさすがに食い過ぎだ! っていうか味の感想言わないならもう食うな!」

紗和子 「ま、負けないわ。うっぷ……」

クワッ

紗和子 「お、緒方理珠のうどん、誰よりたくさん……うぷっ……食べてみせるわ!」

成幸 「お前も変な対抗心燃やすんじゃない関城! っていうか古橋に勝つのは無理だから諦めろ!」

おわり

450以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:16:00 ID:KTVNI7b6
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

投下します。
時季外れもいいところですが。

【ぼく勉】 紗和子 「レッド・ホット・バレンタイン」

451以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:17:17 ID:KTVNI7b6
………………化学室

紗和子 「………………」

グツグツグツグツグツ……

紗和子 「ふふふふふ……」

紗和子 「あとはこれを、こう、と……」

コトコトコト……マゼマゼマゼ……

紗和子 「………………」

ニィィ……

紗和子 「ふふ……あとはこのチョコを型に流し込んで固めれば完成よ!!!」

部員 (関城元部長、引退したのに何やってるんだろ……?)

紗和子 「待っていなさい、唯我成幸! このチョコであなたもイチコロよ!」

部員 (ああ、チョコ作ってたんだ。バレンタインかな)

部員 (唯我成幸さんって、部長の好きな人なのかな。部長もそういう人いるんだなぁ)

紗和子 「ふふ……ふふふ……!!」

部員 (それはそうと、マッドな笑いが似合うなぁ部長……)

452以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:17:56 ID:KTVNI7b6
………………翌日 登校日 放課後

陽真 「なーりーちゃん、かーえろ」

陽真 「……って、どうしたの、その紙袋」

成幸 「ん? いや、なんかしらんけど今年はバレンタインのチョコをたくさんもらっちゃってさ」

成幸 「モテ期到来かー、なんてな。全部義理だよ。それでもありがたいけどな」

陽真 「………………」 ウーム 「……ちなみに誰からもらったの?」

成幸 「? えっと、これはうるかと緒方と古橋にもらったな」


―――― うるか 『なっ……成幸! こ、これ、チョコ! 食べてね! あたしの気持ちだから!』

―――― 理珠 『成幸さん! あの……よ、よかったら、食べてください……。私の、気持ちです……』

―――― 文乃 『お父さんに毒味してもらったから大丈夫! ちゃんと食べられるから!』


成幸 「全員顔真っ赤だったけど、風邪でも引いてんのかな。大事ないといいけど」

陽真 「あ、うん」

陽真 (……成ちゃん、間違いなくそれ全部本命だよ……)

453以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:18:35 ID:KTVNI7b6
陽真 「? でもそれにしてはチョコ多くない?」

成幸 「ああ、あとは学校に来る前に会ったOGの先輩と……」


―――― あすみ 『お、おう、後輩。朝から呼び出して悪いな。よかったら、これ……』


成幸 「……こっちは、内緒にしてくれって言われたけど、お前にならいいかな。桐須先生からなんだ」


―――― 真冬 『他の人には内緒よ。これ、がんばって作ったから、食べてくれたら嬉しいわ』


陽真 「あー、うん……」

成幸 「風邪、流行ってんのかな。ふたりも顔が真っ赤だったけど……」

陽真 (もはやそのニブさは犯罪的だよ成ちゃん……)

成幸 「で、実はこの後、緒方と勉強会なんだ。だから、悪いけどまだ帰れない」

陽真 「あ、そうなの。残念。大森も用事あるみたいだし、ひとりで帰るとしようかな」

成幸 「っていうか、せっかくのバレンタインなんだから海原と一緒に帰ったらいいだろ」

陽真 「智波ちゃんは部活だよ。卒業前の後輩への指導ラストスパートだってさ」

陽真 「でも心配ご無用。部活が終わった後デートの約束があるからね」

454以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:19:06 ID:KTVNI7b6
成幸 「そうかよ。聞くんじゃなかったよ……」

陽真 「はは、じゃ、成ちゃん勉強がんばってね――」


紗和子 「――――唯我成幸ーー!!」 バーーーーーン!!!


成幸&陽真 「「!?」」

紗和子 「教室にいてくれたのね、良かったわ」

成幸 「……せ、関城、急に登場するなよ。心臓飛び出るかと思ったわ」

紗和子 「間に合って良かったわ。うちのHRが長引いて、どうなることかとヒヤヒヤしたわ」

成幸 「? そんなに急いで何か用か?」

紗和子 「その前に確認なんだけど、あなたこの後緒方理珠と勉強会よね?」

成幸 「へ? そうだけど……」

紗和子 「……よし。完璧ね」 (ふふ……ふふふふふふ……!!)

成幸 「?」

紗和子 (さぁ、始めるわよ! 私の、在学中最後であろう、緒方理珠への恩返し!)

紗和子 (レッド・ホット・バレンタイン作戦、決行よ!!)

455以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:19:50 ID:KTVNI7b6
………………昨夜

紗和子 「……うんうん。見た目は完全にただのチョコね」

紗和子 「完璧に仕上がったわ。これで唯我成幸も緒方理珠の魅力に気づいてイチコロね!」

紗和子 「……でも、しまったわね。何も考えずに適当に安いチョコの型を買ってしまったから……」

キャピルーン♪

紗和子 (思いっきりハート型のチョコになってしまったわ)

紗和子 (それにラッピングも安いのを適当に買ったら、すごくハートハートしてるわ……)

紗和子 (……ま、まぁ、効能がしっかりあれば、形なんてどうでもいいのよ!)

紗和子 (ハート型だろうとなんだろうと、それでも問題はないはず!)

紗和子 (あとはこれを、明日の緒方理珠と唯我成幸の勉強会の直前に渡せば……!!)

紗和子 「……ふふ、ふふふふ!!」

紗和子 「そう、この新発明チョコレート、『レッド・ホット・チョコ・ペッパーズ』 、略してRHCPをね!!」

456以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:20:33 ID:KTVNI7b6
………………

紗和子 (RHCPは、唐辛子の辛み成分、カプサイシンを多分に含ませたチョコレートよ)

紗和子 (普通に唐辛子成分をチョコに混ぜ込んだのでは、当然チョコは辛くなってしまう)

紗和子 (けれど、このRHCPは、唐辛子からカプサイシンだけを抽出し、小さなカプセルで包みこんでいるわ!)

紗和子 (だからRHCPを口に入れても、辛みは感じない。ただの甘いチョコレートとしか感じないわ)

紗和子 (そしてそのカプセルは、チョコレートが胃に到達する段階で溶け出し、カプサイシンは人体に吸収される)

紗和子 (……そう、つまりこのチョコレートを食べると、辛みを感じることなくカプサイシンを摂取することができる!)

紗和子 (そしてカプサイシンには、新陳代謝を促進する効果がある。当然、脈拍も上がることになるわ)

紗和子 (今このチョコを唯我成幸に食べさせれば、緒方理珠と勉強をしている間にその効果が表れ始め……)

紗和子 (カプサイシンによる脈拍上昇。それによるドキドキで、ふたりの距離は……)


―――― 成幸 『……あれ? 何で俺、こんなにドキドキしているんだ……』

―――― 理珠 『成幸さん……?』

―――― 成幸 『っ……』 ドキッ 『お、緒方……。緒方って、なんでそんなに可愛いんだ……?』

―――― 理珠 『へっ……?』 トゥンク……

457以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:21:18 ID:KTVNI7b6
紗和子 (……そう! そして、ふたりは末永く結ばれることになるのよ!!) グッ

成幸 「……えっと、関城? 黙り込んじゃってどうしたんだ?」

成幸 (っていうか、拳握って天を仰いで、一体何やってんだこいつは……)

紗和子 「何でもないわ! ところで唯我成幸! 今日は何の日かしら?」

成幸 「へ? いや、何って……バレンタインデーだろ?」

紗和子 「そう、その通り、バレンタインよ! だからこれあげるわ!」

成幸 「え……? ああ、ありがとう」

成幸 「えへへ、なんか義理って分かってても、こういうのもらうと嬉しいよな……って」

成幸 「!?」

成幸 (……ら、ラッピングがめっちゃハートなんだけど!?)

成幸 「せ、関城、このチョコって……」

紗和子 「へ? そりゃ、バレンタインのチョコよ。決まってるでしょ?」

紗和子 (ふふ、感謝しなさいよ、唯我成幸! 私が全力で緒方理珠との仲を応援してあげてるんだから!)

紗和子 「……私の(緒方理珠への)想いがたっぷり詰まってるわ」

成幸 「!?」 陽真 「!!」 ニヤァ

458以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:21:52 ID:KTVNI7b6
紗和子 「……? どうしたのよ、顔を真っ赤にしちゃって」

ハッ

紗和子 「ま、まさか変なこと考えてるんじゃないでしょうね? 当然、義理よ?」

成幸 「あ、ああ、そうだよな。悪い、わかってる」

紗和子 「……じゃ、食べて?」

成幸 「へ?」

紗和子 「だから、食べて。今ここで」

成幸 「今? いや、でも……」

陽真 「いやぁ、成ちゃん」 ニヤニヤ 「女の子がこんなに、“食べて” って言ってるんだから、いただかないとバチが当たるよ?」

成幸 「……わかったよ。まぁ、小腹も空いてたし、いただくよ」

成幸 (なんか、もらったチョコを教室で空けるのって恥ずかしいな。他の奴の目もあるし……)

スッ……ハラリ……

成幸 「……!?」

成幸 (チョコもめっちゃハート型なんだけどー!?)

陽真 「!!」 ニンマリ

459以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:22:41 ID:KTVNI7b6
ザワザワザワザワ…………

「お、おい、唯我の奴、またチョコもらってるぞ!」

「しかもあれ、隠れファンも多い化学部の関城さんじゃ……」

「お姫様たちのみならず、関城さんまで……」

「唯我の野郎……!」

成幸 「せ、関城、これ……」 カァアアアア…… 「なんで、ハート型なんだ……?」

紗和子 「へ? 何でって……」 (うーん、型を適当に選んだからなんだけど、わざわざ言う必要もないわよね)

紗和子 「当然、その方が(緒方理珠のあなたへの)気持ちが伝わると思ったからよ!」

成幸 「ぶっ……!」

陽真 「……いやぁ、成ちゃんがモテモテで俺は嬉しいよ」

陽真 「じゃ、俺帰るね。成ちゃん、ごゆっくり」

成幸 「お、おい、小林! 変な言葉を残して行くな!」

紗和子 「……ねえ、唯我成幸。早く食べて?」

成幸 「へ? あ、ああ……じゃあ、いただきます」

パクッ

460以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:23:24 ID:KTVNI7b6
ムシャムシャムシャ……

紗和子 「………………」 ジーーーッ

紗和子 (大丈夫かしら。ちゃんと辛みは隠れてるかしら……)

成幸 (めっちゃ見てくる。なんだろう。感想でもほしいんだろうか)

成幸 「……えっと、美味しいぞ、関城」

紗和子 「えっ、あ、そう?」 ホッ 「なら良かったわ」

紗和子 「実は味見するのを忘れていたから、少し心配だったのよね」

成幸 「ん、味見してないのか。ほんとに美味しいから、お前も食べてみたらどうだ?」

パキッ

成幸 「ほら、口つけてないとこ」

紗和子 「あっ……ありがと……」 パクッ

紗和子 「ん……」 モグモグ 「あらほんと。我ながら結構美味しくできたわね」

紗和子 (うまく辛みも隠れているし、これなら大丈夫そうね)

成幸 「……ん、本当に美味しいな」 モグモグモグ……

紗和子 (……それにしても、美味しそうに食べてくれるわね。ちょっと嬉しいじゃない)

461以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:25:08 ID:KTVNI7b6
トトトトトトト……

理珠 「……あっ、成幸さん」

理珠 「よかった、まだ教室にいらっしゃったんですね」

成幸 「ああ、緒方。お前もHR終わったんだな。じゃあ図書室行くか」

理珠 「それが……父から電話がありまして、お店の手伝いに戻ってきてほしいと……」

理珠 「すみません、成幸さん。せっかく時間を取ってもらっているのですが、今日の勉強会に行けなくなりました」

紗和子 「!?」

紗和子 (な……なんですってー!?)

成幸 「ああ、そうなのか。大丈夫か? 俺も手伝いに行った方がいいか?」

理珠 「い、いえいえ! そこまでではありませんから、大丈夫です」

成幸 「そうか? なら、俺のことは気にせず帰ったらいいよ」

理珠 「はい。すみません、そうします。成幸さん、関城さんも、さようなら」

トトトトト……

成幸 「家業の手伝いじゃ仕方ないよな。今日はひとりで勉強するか……」

462以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:25:40 ID:KTVNI7b6
紗和子 (そ、想定外の事態だわ! まさか緒方理珠が勉強会をキャンセルするなんて……)

成幸 「んー、緒方に解いてもらいたい物理の問題があったんだけどな……」

紗和子 (ど、どうしようかしら。日を改めてまた唯我成幸にRHCPを食べさせて……)

成幸 「どこかに緒方くらい理系が得意な奴いないかな……」

紗和子 (……いやいやいや! さすがにバレンタインでもないのに手作りチョコなんか渡したら不自然だわ!)

成幸 「……ん?」

紗和子 (どうしたら……)

ガシッ

紗和子 「……へ? ゆ、唯我成幸!?」

成幸 「関城! この後時間あるか?」

紗和子 「へ……?」

463以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:26:15 ID:KTVNI7b6
………………生物室

紗和子 「………………」

カリカリカリ……

紗和子 「……はい、解けたわよ。たぶんこれで合ってると思うけど」

成幸 「……ん、解答と同じだ。さすがだな、関城」

紗和子 「ふふん。緒方理珠には及ばないまでも、理系の問題だったらそれなりの自信はあるわ」 ドヤッ

成幸 「ふむふむふむ……ああ、なるほど。こうやって解くのか」

成幸 「……関城の途中式、すごく分かりやすいから助かるよ」

紗和子 「……まぁ、教えてほしいって言われたからには、分かりやすく解いた方がいいでしょ」

成幸 「緒方は大体の問題を暗算で解くし、途中式書いてもらっても解読に時間がかかるからな……」

紗和子 「あの子は特殊なのよ。理系の物事に関しては脳みその作りが私たちと違うのよ」

成幸 (関城も結構そっち寄りだと思うけどな……)

成幸 「それにしても悪いな。無理言って勉強付き合ってもらっちゃって……」

紗和子 「べつにいいわよ。家に帰ったって勉強をするだけなんだから、変わらないわ」

464以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:27:20 ID:KTVNI7b6
紗和子 「………………」

カリカリカリ……

紗和子 (……まさか緒方理珠の代わりに私が勉強会の相手に指名されるなんて)

紗和子 (うまくいかないものね。お節介はやめろという神様の思し召しから)

紗和子 (……なんて、非科学的ね。私らしくもない)

紗和子 「……ねぇ、唯我成幸。緒方理珠からチョコレートはもらったのよね?」

成幸 「ん? ああ、もらったぞ」

紗和子 「そう。なら、まぁいいかしらね」

成幸 「?」

紗和子 (ひょっとしたら、私がお節介をかけるまでもないのかもしれないわね)

紗和子 (あの子にはもう、私の手助けは必要ないのかしらね……)

紗和子 (ふふ、そう考えると感慨深いような、寂しいような……)

紗和子 (……ん? でも、何か忘れているような)

成幸 「……それにしても暑いな。暖房そんな強くしてないのに不思議だな。上着脱ぐか」 ヌギヌギ

紗和子 「……!?」

465以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:27:54 ID:KTVNI7b6
紗和子 (わ、忘れてたーーーー!! 唯我成幸にRHCPを食べさせたんだったわ!!)

成幸 「ふーっ。なんか上着脱いでも暑いな。変だなぁ。関城は暑くないか?」

紗和子 「へっ!? べ、べつに暑くなんかないけど!?」

成幸 「? なんで焦ってんだお前。っていうか、汗すごいぞ?」

紗和子 「!?」 ダラダラ (そ、そういえば私も、少し暑いような気が……)

紗和子 「……あ」


―――― 『――お前も食べてみたらどうだ?』


紗和子 (そういえば私も食べたんだったわ!!)

紗和子 (さすが私の発明品ね! ひとかけら食べただけでカプサイシンの作用がすごいわ!)

紗和子 (……ってそんなこと考えてる場合じゃないわね!?)

紗和子 (とりあえず……) ヌギヌギ (暑いのは如何ともし難いから、白衣を脱ぎましょうか)

成幸 「っ……」

紗和子 「? どうかしたかしら?」

成幸 「い、いや、何でもない……」

466以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:28:41 ID:KTVNI7b6
成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

成幸 (な、何でこんなにドキドキしてるんだ、俺……?)

成幸 (っていうか、なんか……)

紗和子 「……?」

成幸 (……白衣を脱いだ関城って、なんか、不思議な感じだ)

成幸 (私服姿は何回か見たことがあるけど、制服姿は新鮮で……)

成幸 (かわいい……)

成幸 「……?」

ハッ

成幸 (……お、俺は何を考えてるんだ!? 女友達を “かわいい” だなんて……)

ドキドキドキドキ……

成幸 (ああ、もう! 何でこんなに暑いんだ? 何でこんなにドキドキするんだよ……)

成幸 (……いかんいかん。勉強に集中しなければ)

467以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:29:12 ID:KTVNI7b6
………………

成幸 「………………」 カリカリカリ……

紗和子 「………………」 カリカリカリ……

ドキドキドキドキ……

成幸 (……相変わらずドキドキするし、身体がぽかぽかするけど)

紗和子 (少なくとも勉強に支障はないわね)

成幸 (さすがに、俺から勉強会に誘っておいてもう解散ってのも悪いし……)

紗和子 (もう少し。もう少しだけ付き合ったら、別れないと……)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

成幸 (……あっ、やっぱり関城ってすごくきれいだな。制服姿、似合ってるな)

紗和子 (……唯我成幸、前より筋肉質になったかしら。少しかっこいいじゃない)

成幸 「あっ……」 (やべっ、目が合った……)

紗和子 「ん……」 (いま、唯我成幸、私を見ていた……?)

成幸 (な、なんだ、この感じ……/// ものっそいドキドキする……)

紗和子 (図らずも私の発明品の効能が実証されつつあるわ……///)

468以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:30:06 ID:KTVNI7b6
ガラッ……

「あら、関城さん。今日もお勉強?」

紗和子 「あ……先生! すみません。今日もお借りしています」

生物教師 「いいのよ。以前に許可は出していますからね。勉強に使うのなら大歓迎よ」

生物教師 「あら……?」

成幸 「あっ、こ、こんにちは。関城さんにお願いして、俺も使わせてもらっています」

生物教師 「ふふ、関城さんが緒方さん以外の誰かと一緒に勉強をしているなんて、めずらしいわね」

生物教師 「それに、男の子だなんて。ふふ、本当にめずらしいわ」 ニコニコ

紗和子 「へ……? な、何ですか?」

生物教師 「彼氏かしら? 一緒にまじめに勉強ができる関係って、ステキね」

紗和子 「へぇ!?」

ボフッ

紗和子 「ち、違いますよ! 私たちは、そういう関係じゃ……」

紗和子 「ね、ねぇ!? 唯我成幸!」

成幸 「へ!? そこで俺に振るのかお前!?」

469以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:30:44 ID:KTVNI7b6
成幸 「い、いや、そりゃ、俺と関城は、そんなんじゃ……」

カァアアアア……

成幸 「……ない、です」

成幸 「あの、全然、ほんと、これっぽっちも……」

成幸 「関城のこと、きれいとか、かわいいとか、制服姿が新鮮で似合ってるとか……」

成幸 「……お、思ってないですから」

紗和子 「へぇ……!? ゆ、唯我成幸? あなた、何を言って……」 カァアアアア……

成幸 「へ……?」 ハッ (!? お、俺、何を言ってるんだ!?)

紗和子 (か、顔が赤くなるのが、自分でも分かる……。ほっぺが熱いわ……)

生物教師 「あらぁ、あらあらあら……」 ニコニコニコ

生物教師 「青春ねぇ。邪魔しちゃアレだから、私はもう行くわね」

紗和子 「あっ、ち、ちょっと待ってください! 絶対何か勘違いをしていますよね!」

生物教師 「それじゃ、ごゆっくり」

ピシャリ……

紗和子 「ああ……」 (行ってしまった。先生、絶対何か勘違いしてるのに……)

470以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:31:20 ID:KTVNI7b6
紗和子 「………………」

成幸 「………………」

成幸 「……あ、えっと……なんか、すまん」

紗和子 「……いいわ。元はと言えば、私のせいだし」

成幸 「?」

紗和子 「……そろそろお開きにしましょうか」

成幸 「ん、ああ。そうだな」

成幸 「今日は付き合ってくれてありがとな。問題の解き方も教えてもらったし」

紗和子 「どういたしまして。本当は緒方理珠が来られれば良かったのだけどね」

成幸 「……ん、まぁ、緒方が来られなくなったのは残念だけどさ、」

成幸 「お前とふたりきりで勉強できて良かったよ」

紗和子 「っ……」 プイッ 「そ、そう。それなら良かったわ」

成幸 「?」

471以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:31:58 ID:KTVNI7b6
紗和子 「………………」

ドキドキドキドキ……

紗和子 (……違うから。これは、ただのカプサイシンの効能だから)


―――― 『関城のこと、きれいとか、かわいいとか、制服姿が新鮮で似合ってるとか……』

―――― 『……お、思ってないですから』


紗和子 「っ……///」

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

紗和子 (違う! これは、私の発明品の効果がすごいだけ。だから……)


―――― 『お前とふたりきりで勉強できて良かったよ』


紗和子 「……はうっ///」

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

紗和子 (あー、もう! いい加減、効果消えなさいよ〜〜〜〜!!)

おわり

472以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:32:53 ID:KTVNI7b6
………………幕間 「妹はチョコッと危険なフレグランス」

水希 「ふふ……ふふふふふ……」 クワッ 「今年こそ実行に移すとき!」

水希 「チョコを何倍かに希釈した水を自分にスプレーして、っと……」

シュッシュッ……


―――― 水希 『ごめん、お兄ちゃん。お金がなくて、チョコ用意できなかったよ……』

―――― 成幸 『あれ? でも、水希からほのかにチョコの香りが……』

―――― 水希 『……うん。だから、お兄ちゃん。チョコの代わりに……わたしを食べて……?』


水希 「ふふっ……ふふふふふふっ……むふっ!!」

水希 「名付けて “妹はチョコッと危険なフレグランス” 作戦よ!!」

葉月 (……ああ、姉ちゃんがどんどんわけわからなくなっていく)

和樹 (姉ちゃんはぶれないよなぁ……)

葉月 「……じゃあ、とりあえず、和樹」

和樹 「ほいさ」 スッ

おわり

473以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:41:50 ID:KTVNI7b6
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。
とりあえずたまっていたものはこれですべてです。
書きかけのはいくらでもありますが。

長らく空白の期間を設けてしまってすみません。
待っていてくださった方がいたら申し訳ありませんでした。

美春さんの話は、本当はもっとコンパクトにまとめたかったのですが、
どうせなら書きたいこと全部書いてやろうと思って滅茶苦茶長くなりました。
わたしのSSは短ければ10kB程度、長くても30kBいかない程度です。
が、これは60kBを超えました。もっとうまくできたかなーとも思います。
申し訳ないことです。

関城紗和子さんのSSを2つも書いているとは思いませんでした。
完成品を眺めていたら関城さんの名前が2つ並んでいて自分で笑ってしまいました。

なんだかんだ、アニメはすごく良かったと思います。
二期も楽しみですね。

レス全然見られていないのでリクエストっぽいのがあって書けそうだったら書きます。

自分語りが長くなりました。
申し訳ないことです。
また投下します。

474以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 01:19:28 ID:045EXMvQ

バタフライフィールドさんのお話とかどうでしょう

475以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 01:56:10 ID:xFu7Fop.
本誌読んだ時には全く気づかなかったわ

476以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 02:15:47 ID:cF0YOMt6
おつおつー。長くても面白いし全然OK

茨の会とかメイド喫茶のキャラ達みたいなサブキャラの話もみたいな

477以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 02:44:18 ID:kSeqCqQQ
相変わらずの高クォリティで安心した

478以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/08(日) 10:00:28 ID:5lwwXXN.
再開待ってたわ

479以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/09(月) 15:24:27 ID:4g.A2kuQ
水泳部の池田さんの話をぜひお願いします

480以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/09(月) 19:19:09 ID:zf5nzWSU
敗北者じゃけえ…

481以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/12(木) 23:39:44 ID:jPNv9trQ
おつやで

482以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/18(水) 00:20:23 ID:wPto6ljY
原作の雰囲気が不穏だからこのスレにあるss読んで凌ぐんだ…

483以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/24(火) 00:26:52 ID:SvCQQs/k
不穏さは一週で消えたな

484以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/29(日) 20:32:26 ID:0l2HjuyQ
シエンタ

485以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/08(火) 12:28:53 ID:OArscQ9g
アニメ始まってるじゃん

486以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/13(日) 02:58:43 ID:SrnLRntY
ここのssもアニメ化してくれませんかね?

487以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 00:42:17 ID:WREau8ic
アマプラで2話見たけど、>>1のssで読んだ文系が居眠りするやつと頭の中でごっちゃになってて笑ったわ
完成度高すぎ

488以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:50:59 ID:yuN6bUJk
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】 文乃 「合宿最終日はバーベキューだよ、唯我くん!!」

489以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:51:55 ID:yuN6bUJk
………………勉強合宿三日目夜 うかり荘

成幸 「急にハイテンションになってどうした、古橋」

文乃 「だ・か・ら! バーベキューなんだよ、唯我くん!」

文乃 「今さっき先生方がお話してるのを偶然聞いちゃったんだ!」

文乃 「明日の午前の講習が終わったら、先生方のカンパでバーベキューらしいよ!」

うるか 「!? それほんと、文乃っち!」

文乃 「ほんともほんとだよ〜! 何でも、高級牛肉からブランド豚肉までそろえてくれてるみたいだよ〜!」

成幸 「分かった分かった。そりゃ楽しみだけど、明日に取っておこうな」

成幸 (今さっき風呂場でとんでもないことがあったばかりのにもう立ち直りやがった……)

成幸 (ほんと食いしん坊だな、古橋は……)

理珠 「まったく、文乃とうるかさんは食いしん坊ですね」

成幸 「騒ぐのはそれくらいにして、今日のおさらいをやって早く寝るぞ」

文乃&うるか 「「はーい」」

成幸 (……にしても、先生方のカンパでバーベキューか。塾講師ってのも大変だな)

490以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:52:31 ID:yuN6bUJk
………………翌日 昼

真冬 「………………」

ブルルルン……プスプスプス……

真冬 「迂闊。やってしまったわね……」

真冬 (夏休みも終わりに近いからと有給を取って峠を攻めに……もとい、ドライブをしにきたけれど)

真冬 (まさかガソリンがこんなに減っていただなんて……)

真冬 (こんな峠道でガス欠なんて洒落にならないわ。どうしたものかしら……)

真冬 (夏休みとはいえ世間は平日。さっきから車も通りかからないし……)

真冬 「ん……?」

キャッキャ……ワーワー……

真冬 「……喧噪。近くに人がいるようね。キャンプかしら」

真冬 (恥を忍んでガソリンを譲ってもらうしかないわね)

491以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:53:01 ID:yuN6bUJk
………………広場

ワイワイガヤガヤ……

成幸 「おー、さすがに大盛り上がりだな。先生方も太っ腹だなぁ」

文乃 「お肉がたくさんあるよ、唯我くん!」

うるか 「旅館の人がカレーも作ってくれてるみたいだよ!」

理珠 「あっちに冷やしうどんもあるみたいですよ!」

グイグイグイグイ

成幸 「わっ、わかったわかった。わかったから引っ張るなって……」

成幸 「食べ過ぎてお腹壊したりしないようにな。ほら、好きなもん取ってこい」

文乃&うるか&理珠 「「「はーい!!」」」

バヒューン!!!!

成幸 「だー、もう! 人がたくさんいるんだから走るなよー!」

成幸 「……って、もういないよ。まったく」

492以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:54:01 ID:yuN6bUJk
成幸 「……はしゃいじゃってまぁ」

クスッ

成幸 「ま、今日の午前中まで目いっぱい勉強がんばってたしな。これくらいのご褒美があっても……――」

「――なーにひとりで呟いてんだ、こーはいっ」

ピトッ

成幸 「ひうっ!? 冷たっ!?」

あすみ 「にひひ、ほんといい反応してくれるよな、お前って」

成幸 「先輩……。やめてくださいよ、もう……」

あすみ 「悪い悪い。ほら、麦茶取ってきてやったから飲めよ」

あすみ 「散々子どもたちの引率してノドカラカラだろ、“先生” ?」

成幸 「引率って……。あいつらは俺と同い年ですよ」

成幸 「でも、ありがとうございます。たしかにノド乾いてたから嬉しいです」

あすみ 「ま、確かに引率の先生というよりは、娘たちに振り回されるパパって感じだったけどな」

成幸 「ぶっ……! だ、誰がパパですか! 変な事言わんでくださいよ!」

493以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:54:34 ID:yuN6bUJk
あすみ 「にひひ。そういやそうか。お前はパパじゃなくて、弟なんだっけ?」

成幸 「へ?」

あすみ 「……なぁ? “成幸くん” ?」

成幸 「なっ……なんですか、いきなり……」

あすみ 「いや、べつに大したことじゃねーんだけどな。昨日から気になっちまってさ」

ニヤニヤ

あすみ 「お前と古橋、どうして姉弟ごっこなんかするに至ったのかが、さ」

成幸 「いや、本当に大したことじゃないですよ。お祭りの日に……」

成幸 「……!?」 ハッ


―――― 『大ありです 問題ないと思ってる時点で問題だらけです』

―――― 『あとで徹底的に補習です』


成幸 (あっ、あっぶねー!! 古橋に言うなって言われてるの忘れてたー!)

成幸 (危うく先輩に言ってしまうところだった……!)

成幸 (さすがあしゅみー先輩! 隙をつくのが上手い……!!)
   ※成幸くんが隙だらけなだけです。

494以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:55:14 ID:yuN6bUJk
あすみ 「? ん、どうした、後輩?」

ニヤニヤニヤニヤ

あすみ 「なんか言えない事情でもあるのかー? んー?」

成幸 「い、いえ、べつに、そういうわけではないんですが……」

成幸 「っていうか、先輩、その……」

あすみ 「ん?」

成幸 「ち、近い、です……」

あすみ 「………………」 ニィ 「……ほーぅ、やっぱり先輩に迫られるのが好みか、後輩」

あすみ 「密室じゃなくて悪かったな」

成幸 「だ、だからあれは違うんですってば! もー!」

あすみ 「にひひ。ほんとにからかい甲斐がある奴だよな、お前って」

あすみ 「……で? 何で姉弟ごっこなんてすることになったのか、そろそろゲロっちまえよ」

成幸 「結局その話蒸し返すの!?」

あすみ 「えー、教えてくれないのかよー、後輩ー」

成幸 「ダメなんです! 話しちゃダメって言われてるんです!」

495以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:55:48 ID:yuN6bUJk
あすみ 「へー……」 (話しちゃダメ、ねぇ……?)

あすみ (どうせ大した話じゃねーだろと思ってたけど、ここまで隠そうとするとはな)

あすみ (それに、口止めされてる? 古橋にか?)

モヤモヤモヤ……

あすみ (なんかわかんねーけど、それはちょっと……ムカつく)

あすみ 「ちぇっ、ひどいよなー、後輩は」 チラッ

あすみ 「人に無理矢理キスしようとしといて、そんなツレない態度を取るのな」

成幸 「なっ……!?」 (あ、あの写真は……カラオケボックスでの写真……!?)

成幸 「それどう見ても先輩が俺にキスしようとしてるじゃないですか!」

――――ガサッ

真冬 「……失礼。ぶしつけで申し訳ないのですが、もしよろしければ、ガソリンを分けてもらえないでしょうか」

あすみ 「……へ?」

成幸 「へ?」

真冬 「……? こ、小美浪さん? 唯我君?」

成幸 「な……な、なんでここに先生が!?」

496以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:57:20 ID:yuN6bUJk
………………

あすみ 「へぇー」

ニヤニヤニヤ

あすみ 「峠を攻めに来たはいいけど、ガソリンの残量が少ないのを忘れていてガス欠、ですか」

真冬 「きっ、禁止! そう何度も言わなくてもいいでしょう、小美浪さん!」

真冬 「それに私は峠を攻めたりなんかしません! ちょっとドライブに来ただけよ!」

成幸 「ま、まぁまぁ。なんにせよ良かったですね。旅館の人にガソリンを分けてもらえて」

真冬 「その上、予備校の方にバーベキューにまで混ぜてもらってしまって……申し訳ないわ」


―――― 『ああ、一ノ瀬学園の先生ですか! 休暇中に生徒たちの様子を見に来るだなんて、熱心な先生ですね!』

―――― 『ぜひバーベキューに参加していってください! 生徒たちも喜ぶでしょう!」


真冬 (……予備校の先生にも盛大な勘違いをされてしまったわ。恥ずかしい……)

あすみ 「いやぁ、さすがは熱心ですね、真冬センセ?」

真冬 「や、やめなさいっ! 小美浪さん!!」

あすみ 「にひひひっ」

497以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:58:40 ID:yuN6bUJk
成幸 「ど、どうどうどう。先生、落ち着いてくださいよ」

成幸 「それに先輩もあんまりからかわないでください」

あすみ 「へいへい。わかったよ」

真冬 「……オホン。当然、最初からずっと落ち着いているわ」

成幸 (どこがだよ……)

成幸 「ところで、こんな奥にいないで、せっかくのバーベキューですし、何か食べに行きましょうよ」

真冬 「不可。そんなことできないわ」

成幸 「? どうしてですか?」

真冬 「あなたたちがいるということは、ここにはあの子たちもいるのでしょう?」

成幸 「あの子たち……? ああ、古橋と緒方ですか? まぁ、いますけど……」

真冬 「このバーベキュー、勉強合宿の最終日、最後の息抜きだと聞いているわ」

真冬 「あの子たちも、せっかくがんばった最後の息抜きに、私の顔なんか見たくないでしょう?」

成幸 「先生……」

真冬 「だから私はお誘いの面目が立つ間くらいここにいるわ。こんな端にあの子たちも来ないでしょう」

498以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 21:59:10 ID:yuN6bUJk
真冬 「……それに、まだあなたたちふたりに聞かなくてはならない話もあるし、ね」

ジロリ

真冬 「……さっきの話を詳しく教えてもらいたいのだけれど」

あすみ 「? さっきの話?」

成幸 「?」

真冬 「誤魔化そうとしたってそうはいきませんからね。さっき、とんでもないことを言っていたわね」


―――― 『人に無理矢理キスしようとしといて、そんなツレない態度を取るのな』

―――― 『それどう見ても先輩が俺にキスしようとしてるじゃないですか!』


成幸 「……!?」

あすみ 「あー……聞かれてたかー」

真冬 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

真冬 「……どういうことか、しっかり教えてもらうわよ」

499以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:00:27 ID:yuN6bUJk
………………

文乃 「ふんふんふーん♪」

ムシャムシャムシャムシャムシャパクパクパクパクパクパク

文乃 「お肉も野菜もカレーもうどんもサイコー! やっぱり夏はBBQだね!」

文乃 「りっちゃんもうるかちゃんも楽しんでるみたいだし、先生方も粋なことしてくれるよねぇ」

文乃 「唯我くんも……って、そういえばさっきから見ないなぁ」

文乃 (先輩もいないし、ひょっとして……)

文乃 (……ふたりで、こんなときまで勉強してたりして)

文乃 「………………」

文乃 (あり得るなぁ……)

文乃 (勉強は良い事だけど、休むときはしっかり休まないとだよ)

文乃 (仕方ないなぁ……) クスッ (文乃お姉ちゃんがお肉でも持って行ってあげようかな)

文乃 「まったく、本当に……」

文乃 「手のかかる弟だなぁ、成幸くんは」

文乃 (さて、どこにいるのかな)

500以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:01:04 ID:yuN6bUJk
理珠&うるか 「「………………」」 キョロキョロキョロ

文乃 「……? りっちゃん、うるかちゃん、どうかしたの?」

理珠 「あ、文乃。成幸さんを見かけませんでしたか?」

うるか 「見当たらないんだよねー」

文乃 「唯我くん? 偶然だね。わたしも探してたとこなんだよ」

文乃 (……ん? りっちゃんとうるかちゃん、うどんとカレーを持ってるけど、ひょっとして……)

文乃 「……ふたりとも、ひょっとしてそれ、成幸くんに持って行ってあげるのかな?」

理珠 「へっ? あ、いえ、べつに、その……」

アセアセアセ

理珠 「……そ、そうです。先ほどから見当たらないので、どうせ勉強でもしているのだろうと」

理珠 「うどん持って行ったら喜んでくれ――じゃなくて、食べるかな、と」 カァアアアア……

文乃 (おっ、乙女ーーーー!! 恋する乙女すぎるよりっちゃん!)

うるか 「べ、べつに成幸に喜んでほしいとかじゃないからね!」

うるか 「お腹空かせてたら可哀想だから、持って行ってあげるだけだかんね!!」

文乃 (こっちはこっちでテンプレ乙女ーーーー! ふたりとも可愛すぎるよ!)

501以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:01:42 ID:yuN6bUJk
うるか 「……? ところで文乃っち、その大量のお肉は?」

文乃 「……へ?」

ハッ

文乃 「えっ、あ、いや、これは、その……」

うるか&理珠 「「………………」」 ジーーーーッ

文乃 (ど、どうしよう。成幸くんに持って行くつもりだったけど、この二人に知られたくないし……)

文乃 「も、もちろん自分用だよ。お肉美味しいから、いくらでも食べられちゃうね!」

うるか 「おー、さすが文乃っち。食べまくってんね」

理珠 「文乃ならフードファイターになれると思います。すごいです」

文乃 (ひ、人の気遣いも知らず、この子たちは……!)

文乃 「……ん?」

成幸 「……」

文乃 「あ、成幸くん。あんな茂みのほうで何やってるんだろ」

うるか 「? あ、ほんとだ」

理珠 「誰かと話しているのでしょうか。とりあえず行ってみましょうか」

502以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:02:32 ID:yuN6bUJk
………………

真冬 「まさかとは思うけれど、あなたたち、不純異性交遊をしているのではないでしょうね」

成幸 「うぇっ!? な、なんでいきなりそんな話になるんですか!?」

あすみ 「いや、まぁキスだの何だのの話を聞かれてたらそうなるだろ」

成幸 「先輩はどっちの味方なんですかー!」

真冬 「……唯我君、きみは小美浪さんに無理矢理キスをしようとしたの?」

成幸 「してませんよ!」

真冬 「じゃあ、小美浪さん、あなたは唯我君にキスをしようとしたの?」

あすみ 「んー……」

ニヤァ

あすみ 「……まぁ、それを肯定してもウソにはならないかなぁ」

成幸 「先輩!? 何言ってんですか!」

真冬 「……! ふ、不潔! やはり不純異性交遊をしていたのね!」

あすみ 「えー、やだなぁ、センセ」 ムギュッ 「不純じゃないですよ?」

成幸 「うぺぇ!? な、何で抱きつくんですか、先輩!?」

503以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:03:21 ID:yuN6bUJk
真冬 「!? 淫靡!! 離れなさい、小美浪さん!」 グイッ

成幸 「!?」

成幸 (ぎ、逆側から先生に……!?)

あすみ 「きゃー、センセったらだいたーん。先生も後輩に抱きつきたいんですか?」 グイッ

真冬 「か、からかわないでちょうだい! そんなわけないでしょう!」 グイグイ

あすみ 「どうだかなー?」 グイグイグイ

成幸 (り、両側から引っ張られて、やわらかいやら良い匂いやらで、何がなんだか……) フラフラ

文乃 「――成幸くーん? こんなところで何してるの?」

真冬 「!?」

シュバッ

成幸 「へ……? わっ……わわわっ……」 グラッ

あすみ 「……? のわっ……」

ドターーン!!!

文乃 「……? へ……?」

文乃 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!! 「……本当に何をやってるのかな、きみは」

504以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:03:54 ID:yuN6bUJk
成幸 「いてててて……」

成幸 「……ん?」

あすみ 「………………」

成幸 「………………」

成幸 (……これはあくまで俺の推察だけれど)

成幸 (古橋たちの声が聞こえて、先生は慌てて俺の手を離して茂みに隠れて、)

成幸 (そのせいで先輩に一方的に引っ張られることになった俺は、そのまま先輩の方に引っ張られ……)

成幸 (結果として、先輩を押し倒しているような姿勢になってしまっている……のだろう)

文乃&理珠&うるか 「「「………………」」」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 「……ケダモノ」 ボソッ

成幸 「ち、違う! 断じて違うぞ! お前らは何か誤解をしている!」

理珠 「ほぅ。では成幸さんは、先輩を押し倒して何をするつもりだったのですか?」

成幸 「いや、べつに押し倒したつもりはないからな!?」

うるか 「成幸のヘンタイ! エッチ!」

成幸 「ストレートに傷つくからやめろ! 誤解だ!」

505以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:04:37 ID:yuN6bUJk
あすみ 「……おい、後輩。とりあえず重いから、どけ」

成幸 「あ、は、はい!」 イソイソ 「すみません、先輩……」

成幸 (先生、いくら古橋と緒方に会いたくないからって、急に手を放さないでほしいよ……)

理珠&文乃&うるか 「「「………………」」」 ジトーーーーーッ

成幸 (おかげで変な誤解をされてるし、正直に話してしまいたいところだけど……)

真冬 「………………」 フルフルフルフル

成幸 (茂みからの視線がすごい……。これは、話しちゃダメなやつだよな……)

成幸 (さて、どうしたもんか……)

あすみ 「………………」 ハァ (……ったく。しゃーねぇ後輩と先生だな)

あすみ 「……お前ら、何か勘違いしてるみたいだが、お前らが考えてるようなことはないぞ」

あすみ 「つまずいた後輩がよろけただけだ。偶然、アタシを押し倒したようになっちまったけどな」

成幸 「先輩……」

うるか 「な、なんだぁ。それだけかぁ」 ホッ

理珠 「そ、そんなことだろうと思ってました」

文乃 「そうだよね。わたしはもちろん、そう思ってたよ、成幸くんっ」

506以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:05:54 ID:yuN6bUJk
成幸 「お前ら、調子良いこと言うよなぁ……」

あすみ 「で、その食べ物、後輩のために取ってきてくれたんだろ?」

あすみ 「向こうのテーブルで食べるから、先待っててくれ。部屋に忘れ物があるんだ」

理珠 「分かりました! うどんもっと用意して待ってます!」

文乃 「肉も増やしておくね!」

成幸 「い、いや、それ以上はちょっと……」

うるか 「じゃ、待ってるねっ! 成幸! 先輩!」

トトト…………

あすみ 「……ふぅ。行ったか」 スッ 「出てきて大丈夫ですよ、真冬センセ」

真冬 「……感謝。うまく誤魔化してくれて助かったわ、小美浪さん」

あすみ 「ええ。後輩はアタシを押し倒した性犯罪者になりかけましたけどね」

成幸 「ぶっ……! 洒落にならんようなことを言わないでください!」

真冬 「……謝罪。急に手を放したのは申し訳なかったわ。ふたりともケガはないかしら?」

あすみ 「あれくらいでケガするようなヤワな身体はしてませんよ」

真冬 「そう……。よかったわ」

507以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:06:30 ID:yuN6bUJk
真冬 「………………」

成幸 「……先生?」

真冬 「あの子たち、とても楽しそうね」

成幸 「へ……?」

理珠 「……」 うるか 「……」 文乃 「……」 ワイワイワイ

成幸 「ああ……」 クスッ 「ええ。勉強は大変そうでしたけど、でも、充実してましたよ」

成幸 「たくさん頑張ったから、今はすごく楽しいんだと思います」

成幸 「そう……」

あすみ 「せっかくなんだし、声でもかけてったらいいじゃないですか」

真冬 「迷惑。あの子たちは、大嫌いな私の顔などみたくもないでしょう」

成幸 「そ、そんなこと……」

真冬 「………………」

クルッ

真冬 「予備校と旅館の方に挨拶をして帰るわ。これ以上、あの子たちと接触するリスクは避けたいから」

あすみ 「あれ、先生? キスのことはいいんですか?」 ニヤァ

508以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:07:17 ID:yuN6bUJk
成幸 「……!?」 (何でわざわざ蒸し返すんだ先輩!?)

成幸 (いや、間違いなく俺が困る様を見るためだろうけど!!!)

真冬 「………………」

成幸 「ち、違うんですよ先生! キスも何もないです! 俺と先輩はそういう関係じゃ……――」

真冬 「――……不問。キス云々のことは、とりあえずおいておくことにするわ」

成幸 「……って、へ?」

真冬 「あなたの帰りが遅くなると、またあの子たちが探しに来るわ。だから、仕方なく、よ」

ジロリ

真冬 「ただし、不純異性交遊は絶対に許しませんからね」

成幸 「先生……」

あすみ 「……だってさ、後輩?」 ニヤリ 「じゃ、不純じゃない交遊としゃれ込むか?」

成幸 「良い感じの話で終わりそうだったのに何でそう蒸し返すんですかー!!」

あすみ 「……とまぁ、後輩からかうのはこれくらいにして、と」

あすみ 「……真冬センセ」

真冬 「……? 何かしら?」

509以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:07:58 ID:yuN6bUJk
あすみ 「あいつら、べつに先生のこと嫌ってなんかいないと思いますよ」

真冬 「っ……。何の根拠があって、そんなことを言うのかしら」

あすみ 「根拠と言われると弱いですけど……」

あすみ 「アタシも散々進路変えろって先生に言われましたけど、」

あすみ 「……アタシ、べつに真冬センセのこと嫌いじゃないですよ?」

真冬 「………………」

カァアアアア……

真冬 「……し、主観。客観性に乏しい、ただのあなたの感想だわ、それは」

あすみ 「ま、そりゃそうか」 クスクスクス……

真冬 「……失礼するわ。邪魔したわね。唯我君、小美浪さん」

トトトトト……

あすみ 「……結局何も食べずに行っちゃったよ。ま、緒方たちがいるなら仕方ないか」

成幸 「………………」 ニヤニヤニヤ

あすみ 「……あんだよ、後輩。その生暖かい目は」

成幸 「いや、先輩も優しいところあるなぁ、って……」 ニヤニヤニヤ

510以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:08:33 ID:yuN6bUJk
あすみ 「ほーぅ。いい度胸だな、後輩」

あすみ 「今度真冬センセにあることないこと吹き込んでやろうか?」

成幸 「じ、冗談です! それだけは勘弁してください!」

あすみ 「……ったく。すぐヘタれるようじゃアタシに喧嘩売るのは百年はえーっての」

あすみ 「………………」

あすみ 「……なぁ、後輩」

成幸 「……? なんですか?」

あすみ 「いつか、センセと緒方たち、フツーに話ができるようになるといいな」

成幸 「………………」

成幸 「……はい、本当にそう思います」

成幸 (……本当に、いつになるか分からないし、そんなときが来るのかも分からないけど、)

成幸 (あのまっすぐな奴らと、まっすぐな先生が、一緒に笑い合えるような日がくれば、いいな)

おわり

511以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:13:47 ID:yuN6bUJk
………………幕間1 「別腹」

うるか 「あ、センパイ! 成幸! 遅いよもー!」

あすみ 「悪い悪い。ちょっと手間取ってさ」

理珠 「先輩の分も取ってありますから、存分に食べてください」

成幸 「ああ、ありがとな……って……」

ドーーーーーン

成幸 「な、なんだこの肉の量は……」

文乃 「へ? 成幸くん、男の子だからたくさん食べるかなと思って、一人前+α取っておいたよ?」

文乃 「ちょっと多かったかな? じゃあ私も一緒に食べるね!」

うるか 「あれだけ食べてまだ食べるの文乃っち……」

文乃 「もちろん! お日様の下で食べるお肉は別腹だよねー!」 ムシャムシャムシャ

あすみ 「ツッコむ気も湧かねーな……」

おわり

512以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:14:20 ID:yuN6bUJk
………………幕間2 「姉弟」

あすみ (……ん、そういや結局姉弟云々のこと後輩に聞きそびれちまったな)

あすみ (ったく。何が姉弟ごっこだよ。アタシは後輩が弟なんてご免だけどな……)

ポワンポワンポワンポワン………………

成幸(弟) 『あすみ姉ちゃん、受験頑張ろうな!』

成幸(弟) 『大丈夫だよ! 姉ちゃんなら絶対国立医学部受かるよ!』

成幸(弟) 『えへへ。姉ちゃんのために、対策プリントたくさん作ったからな』

成幸(弟) 『俺、姉ちゃんの作ってくれるご飯大好き! 姉ちゃんの料理は世界一だな!』

成幸(弟) 『いつもありがとな、姉ちゃん。姉ちゃん、大好きだよ!』

………………ポワンポワンポワンポワン

あすみ 「………………」 ハッ 「……あ、アタシは何考えて……ん?」

ツーーーーーポタッ……

あすみ 「な、何で鼻血が……」

おわり

513以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 22:18:13 ID:yuN6bUJk
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

>>240さんから着想を得て書きました。
ありがとうございました。
夏ももう終わってから投下するなよと自分でも思いますが。
申し訳ないことです。
今回の話はアニメに準拠しているつもりです。


毎週、アニメの話からSSを書こうかなと思います。
近いうちに第二話に関係したSSも投下したいと思います。
ちょっと出足が遅れてしまいましたが、三話以降はアニメ放送後すぐくらいに投下できるようにがんばりたいです。


また読んでくれたら嬉しいです。

514以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/15(火) 23:38:52 ID:XP21mx9w
おつー

515以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/16(水) 06:33:41 ID:YMQGMkAM
乙です

516以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/16(水) 12:10:38 ID:sWV4VY4k
きてるやん!!
おつんこ

517以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/16(水) 15:31:02 ID:maOO1N7.
乙です
楽しみにしていました

518以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/16(水) 22:43:58 ID:EIKuiBbg
おつ

519以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/29(火) 21:43:59 ID:TGvyu8.2
アニメは旅館後のsns騒動カットか…

520以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/30(水) 23:57:30 ID:ipRpMCgc
再開来てたか乙
ここのssもアニメ化してほしいわ

521以下、名無しが深夜にお送りします:2019/10/31(木) 21:46:25 ID:ssobg012
ハロウィンssはよはよ��

522以下、名無しが深夜にお送りします:2019/11/06(水) 03:49:42 ID:mn.Omhak
シエンタ

523以下、名無しが深夜にお送りします:2019/11/07(木) 00:15:10 ID:iLuObUaI
ようやっとアニメ5話まで見たぞ
やっぱり敵対心丸出しの水希ちゃんかわいいよね

だから>>190このssも早くアニメ化して?

524以下、名無しが深夜にお送りします:2019/11/14(木) 21:23:53 ID:xtkT2/V6
舞ってるで

525以下、名無しが深夜にお送りします:2019/11/19(火) 05:04:16 ID:PO4bTZT2
やっぱ文系回面白いわ

526以下、名無しが深夜にお送りします:2019/11/20(水) 00:19:00 ID:tKMIRqCI
ほんと1年振りくらいに話進展しましたね

527以下、名無しが深夜にお送りします:2019/11/21(木) 01:24:13 ID:ZalBax36
本スレで語りたいのに語れないジレンマ
五等分も僕勉も今週は神回よ

528以下、名無しが深夜にお送りします:2019/11/22(金) 22:32:24 ID:69Y3XYnQ
いい夫婦の日記念ssはよ

529以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/01(日) 01:49:56 ID:ET2AQN0g
アニメが神回だったのでこのスレも復活はよ

530以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/09(月) 19:41:38 ID:G3/J96O2


531以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/26(木) 17:05:46 ID:Plix4l3.


532以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:36:27 ID:bivwmP6g
>>1です。
すみません、結局長らくお待たせしてしまいました。
待っていてくださった方、いらっしゃいましたらありがとうございます。ごめんなさい。

アニメ二話直後の話と思っていたければ幸いです。
ついでに、桐須先生のお誕生日記念のSSだと思っていただければ嬉しいです。

成幸 「俺ひとりで家事代行サービスですか?」

533以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:41:43 ID:bivwmP6g
………………朝 メイド喫茶HighStage

マチコ 「そうなの。唯我クンご指名なの。必ずひとりで来るように、って」

マチコ 「しかも時間指定は上限一杯で依頼は掃除だよ。変だよね」

成幸 「はぁ……?」

ヒムラ 「なにそれ? ちょっと怪しくない?」

ミクニ 「唯我クン可愛いからなぁ。ファンの妙齢のお姉さんとかじゃない?」

ヒムラ 「だとすれば、唯我クンが無防備にひとりで家に入った瞬間、パクッと……」

ミクニ 「!? だから時間が上限一杯なのね!? 唯我クンを目いっぱい堪能できるように!」

成幸 (何言ってるんだろうこの人たちは……)

マチコ 「うーん、そんなことになったらあしゅみーが悲しむよねぇ……」

マチコ 「怪しいし、やっぱり断っておいた方がいいかな」

成幸 「ちなみに、どんな方からのお願いなんですか?」

マチコ 「ああ、うん。お名前と住所はこれだよ。この人」

成幸 「……? ん?」 ハッ 「えっ、この人ですか……?」

マチコ 「へ? 唯我クン、知り合いなの?」

534以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:42:13 ID:bivwmP6g
………………マンション前

成幸 「………………」

成幸 (……なぜあの人がわざわざ俺を指名したのか、理由は分からなくはないけど)

成幸 (でも、何でわざわざハイステージにお願いをしたんだろうか……)

成幸 (ま、いいけどさ。そろそろ時間だし、インターフォン押すか……)

ピンポーーン……ガチャッ

?? 「正確。時間厳守ね。素晴らしい心がけだわ」

成幸 「どうも、こんにちは。ハイステージから家事代行で参りました、唯我です……」

成幸 「……って、わざわざ自己紹介する必要もないですよね……」


成幸 「――……桐須先生」


真冬 「ええ。では、お願いするわ。唯我君」

成幸 「はい。お邪魔します」

535以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:42:48 ID:bivwmP6g
成幸 (どうせいつもどおりグチャグチャなんだろうな……)

成幸 「……!?」

キラキラキラ……!!!!

成幸 「なっ……!」

真冬 「どうかしたかしら?」

成幸 「……す、すごく綺麗な部屋ですね。桐須先生」

真冬 「あら、どうもありがとう」 フフン

成幸 (すごいドヤ顔だ。がんばって掃除したんだろうな……)

成幸 「でも、家事代行の依頼は掃除になっていますけど……」

真冬 「謝罪。どうやら、生来の綺麗好きがたたってしまったようね」

クスッ

真冬 「……と、いうことで、掃除に関してはしてもらうことはないわ」

成幸 「へ……? でも先生、時間は上限一杯指定されてますけど……」

536以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:43:20 ID:bivwmP6g
真冬 「ええ。だから、あなたには他に何をしてもらおうかしら」

成幸 「……!?」


―――― 『なにそれ? ちょっと怪しくない?』

―――― 『唯我クン可愛いからなぁ。ファンの妙齢のお姉さんとかじゃない?』

―――― 『だとすれば、唯我クンが無防備にひとりで家に入った瞬間、パクッと……』

―――― 『!? だから時間が上限一杯なのね!? 唯我クンを目いっぱい堪能できるように!』


成幸 (ま、まさか、ヒムラさんとミクニさんが言っていた通り……!?)

真冬 「さ、唯我君。早く出しなさい」

成幸 「だ、出しなさいって、いや、そんな……」

真冬 「どうせ持っているんでしょう? 勉強道具」

成幸 「いや、俺は、その、そういうのは……」

成幸 「………………」

成幸 「……へ?」

537以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:44:10 ID:bivwmP6g
………………

成幸 「………………」

カリカリカリ……

真冬 「完璧。だいぶ基礎が身についてきているわね。いいことだわ」

成幸 「あ、はい。ありがとうございます、先生」

成幸 (……何をアホな勘違いをしていたんだろうか、俺は)

成幸 (いや、でもまさか、お金を払って俺を家に呼んで、勉強させるとは思わないもんな……)

成幸 (……っていうか俺、何で仕事中に勉強してるんだろう)

真冬 「……ん、そろそろお昼ね。休憩しましょうか」

成幸 「はい、わかりました。お茶でもいれますね」

真冬 「いいわ。君は座ってなさい。私がいれてくるから」

成幸 「あっ……」

成幸 (……俺が動く前に、本当に台所に行ってしまった)

成幸 (俺が家事をしなくちゃならないのに、先生にさせるのは申し訳ないな)

成幸 (っていうか大丈夫かな。また湯飲みでも割ってケガでもしないかな……)

538以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:44:44 ID:bivwmP6g
真冬 「お待たせ。緑茶よ……って」

真冬 「……救急箱を持って何をしているの、君は」

成幸 「あ、いえ。先生がいつケガしてもいいようにスタンバイしてました」

真冬 「……君は本当に私のことを何だと思っているのかしら」

成幸 (……ドジっこ無防備女教師)

真冬 「今、とてつもなく失礼なことを考えていないかしら……?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「め、滅相もないです! お茶、いただきます!」 ズズズ……

真冬 「まったく……」 ズズズ……

成幸 「………………」

成幸 「……あの、先生」

真冬 「? 何かしら?」

成幸 「どうして俺を指名して家事代行をお願いしたんですか?」

成幸 「しかも、掃除を依頼していたのに、しっかりと掃除してあるし……」

真冬 「前と同じよ。教師の威厳を保つために、小美浪さんには汚い部屋なんて見せられないわ」

真冬 「だから君を指名して家事代行をお願いしたのよ」

539以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:45:14 ID:bivwmP6g
真冬 「そうしたら偶然掃除をする気になってきて、君が来る前に部屋が綺麗になってしまったの」

真冬 「それだけよ」

成幸 「………………」

成幸 「……いや、それで納得しろというのはいくらなんでも無理ですよ、先生」

真冬 「ん……」

成幸 「………………」 ジーーーーッ

真冬 「……分かったわ。白状するわよ」

真冬 「この前のお詫びよ。それから、日頃の感謝かしら」

成幸 「へ……?」

真冬 「この前、小美浪さんと一緒に家事代行に来たとき、あなたに掃除をさせてしまったでしょう?」

真冬 「あなたに申し訳ない事をしてしまったから、そのお詫びと……」

真冬 「いつも、あなたに掃除をさせてしまって、勉強時間を奪ってしまっているから……」

真冬 「その感謝の気持ちも込めて、バイトの時間も勉強をさせてあげようとしたの」

カァアアアア……

真冬 「羞恥。自分で話すと恩着せがましくて嫌だわ。だから言いたくなかったのよ……」

540以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:46:01 ID:bivwmP6g
成幸 「先生……」

クスッ

真冬 「唯我君……?」

成幸 「……まったくもう。最初は何事かと思いましたよ。そんなことを考えてくれてたんですね」

成幸 「ありがとうございます。そのお気遣いだけで嬉しいです」

成幸 「でも、さすがに勉強を教えてもらってお金は受け取れないですよ」

真冬 「不可。後で払うからちゃんと受け取りなさい。それは正規の契約に基づいた謝礼なのだから」

成幸 「でも……」

真冬 「日頃掃除をしてもらっているのだから、それくらいさせてちょうだい」

真冬 「でないと、一生あなたに頭が上がらなくなってしまうわ」

成幸 「……わかりました」 ニコッ 「ありがとうございます、先生」

真冬 「それから、もう一つ……約束もあったから」

成幸 「へ? 約束……?」

ピンポーーーーン

真冬 「来たようね。ちょっと待っていてちょうだい」

541以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:46:42 ID:bivwmP6g
成幸 「?」 (お客さんかな……?)

真冬 「ご苦労様です。どうもありがとう」

成幸 (いや……)

真冬 「……お待たせしたわね。さ、机の上を片付けてくれるかしら」

成幸 「へっ? 先生、それって……」

成幸 「店屋物?」

真冬 「ええ。少し早いけど、お昼ご飯にしましょう」

コトッ

真冬 「これで、やっと約束が果たせるわね。さ、どうぞ」

成幸 「……!?」

成幸 (こ、この四角い器は、お重!? これは、まさか……)

成幸 (噂に名高い超高級品の……)

パカッ

成幸 「ほんとにうな重だー!?」

キラキラキラキラキラ……!!!!!

542以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:47:19 ID:bivwmP6g
成幸 (キラキラと独特の光沢を放つ焦げ目……)

成幸 (身の合間から見えるタレの染みこんだご飯……)

成幸 (そして何と言ってもこの、香ばしいタレの香り……)

グゥゥゥウウウ……

成幸 (なんて食欲をそそる食べ物なんだ……!!)

成幸 (でも……)

真冬 「? どうかしたかしら?」

成幸 「こ、こんなお高い食べ物を、いただいていいんでしょうか……?」

真冬 「……? 何を言っているの、唯我君。約束したでしょう」

成幸 「えっと……すみません、さっきから言ってる “約束” って……」

真冬 「したわ。小美浪さんとふたりでうちに来たとき」

真冬 「……あなたに掃除をしてもらったときに」

543以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:48:07 ID:bivwmP6g
成幸 「へ……?」


―――― 『うわっ なんでたった数日で元に戻ってるんですか!』

―――― 『え……? 教師の威厳? はぁ……』

―――― 『えっ うな重!!?』


成幸 「あっ……」 ハッ 「あのときですか!」

真冬 「ええ。思い出してもらえたようで何よりだわ」

真冬 「そういうことだから、遠慮する必要はないわ。食べてちょうだい」

成幸 「じ、じゃあ、そういうことなら……」

成幸 「いただきます!」 モグッ…… 「……!?」

成幸 (う、うなぎやわらかー! タレとからまって、ご飯とよく合うなー!)

成幸 (うな重って、こんな美味しいものなのか……)

モグモグモグ……

成幸 (し、幸せ……) ジーーーン……

真冬 「………………」 クスッ (……まったく。美味しそうに食べてくれるものね)

544以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:49:10 ID:bivwmP6g
………………夜

成幸 「………………」

ピピピピピピ……

成幸 「あっ、仕事終わりのアラーム……ってもうこんな時間か」

真冬 「時間が経つのを忘れていたということは、集中できていた証拠よ。がんばったわね」

成幸 「はい。いつもより頭が冴えている感じがします。ありがとうございました、先生」

真冬 「……だから、何度も言わせないでちょうだい。日頃のお返しよ」

真冬 「さ、では暗くなる前に帰りなさい。今日は家事代行ご苦労様でした」

成幸 「何もしてないですけどね」

成幸 「うな重もごちそうさまでした。めちゃくちゃ美味しかったです」

真冬 「それも約束を果たしただけよ。気にすることはないわ」

真冬 「……いつも、本当にありがとう」

成幸 「っ……」 ドキッ 「い、いえ。べつに、そんな……」

成幸 (な、なんだろ。今日の先生、妙にしおらしくて、少しヘンな感じだ……)

545以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:49:49 ID:bivwmP6g
真冬 「………………」

成幸 「………………」

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

成幸 (な、なんか、調子狂うな……――)

ガタッ……

成幸 「ん……?」

バタバタバタバタドンガラガッシャーン!!!!

成幸 「!?」

真冬 「あっ……」

成幸 (クローゼットと戸棚から一斉に、物が雪崩のようにくずれ落ちてきたぞ!?)

真冬 「………………」

成幸 「……あの、先生? 片付けたって言ってましたよね?」

真冬 「………………」 プイッ 「……一応、片付いてはいたでしょう?」

成幸 「ゴミや不要物をどこかに押し込めることを片付けとはいいませんよ!」

真冬 「む……」

546以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:50:19 ID:bivwmP6g
真冬 「………………」

プクゥ

成幸 「またそんなむくれた顔をして……」

成幸 (……まったくもう)

クスッ

真冬 「……な、なんにせよ、あなたの家事代行の時間は終わったでしょう。早く帰りなさい」

成幸 「ええ、そうですね。家事代行は終わったので……」

スッ……

真冬 「……っ、何をやっているの。片付けは私がやるわ。だから君は――」

成幸 「――家事代行は終わったので、いつもどおり一緒に片付けをしましょうか、先生」

真冬 「へ……?」

成幸 「今日はいつも勉強を教わるのを、先払いしてもらっちゃいましたし」

クスッ

成幸 「さ、先生も。早くやりましょう」

547以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:50:54 ID:bivwmP6g
真冬 「唯我君……」

クスッ

真冬 「……まったくもう。またお返しをしなくちゃいけないじゃない」

成幸 「それより何より、まず部屋を汚さないようにしてください」

真冬 「し、辛辣。正論は時に人を傷つけることを知るべきだわ、君は」

成幸 「はは……」

成幸 「………………」

成幸 (……先生、いつも俺が掃除をしていること、感謝してくれてたんだな)

成幸 (でも、先生)


―――― 『時間が経つのを忘れていたということは、集中できていた証拠よ。がんばったわね』


成幸 (それと同じくらい、俺も……)

成幸 (先生が勉強を教えてくれること、感謝してるんですよ)

おわり

548以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:51:46 ID:bivwmP6g
………………幕間 「におい」

葉月 「んー?」

成幸 「ん、どうした、葉月。兄ちゃんにそんなにべったりくっついて」

葉月 「なんか、兄ちゃんの服から良い匂いがするの。美味しそうな匂い……」

成幸 「あ、ああ。今日兄ちゃん、ごちそう食べて来ちゃったからな……」

成幸 「ごめんな、葉月。いつか兄ちゃんがお金稼げるようになったら、葉月にも食べさせてあげるからな」

水希 「………………」

ギラリ

水希 「……そうだね、葉月。お兄ちゃんから匂いがするね」

水希 「どこの誰か知らないけど、発情した年上のメスネコらしき匂いが……!」

和樹 「そっち!?」

おわり

549以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 00:58:34 ID:bivwmP6g
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
長らく間を開けてしまって申し訳ありません。

宣伝というわけではないですが、本日、某イベントに参加します。
夏はこの一連のスレで投下したSSを小説調に直して頒布というかなり手抜きな内容だったのですが、
今回はきちんとイベントのために書いた小説を頒布します。
恐らく明日ぼく勉で参加するのは私だけかと思いますので特定は簡単かもしれません。それが何だというわけではありませんが。
とりとめもない自分語りをしてしまいました。申し訳ないことです。


来年はできるだけ間を開けないようにこのスレにSSを投下し続けたいと思います。
本編も佳境に入ってきたような気がしますが、今後が非常に楽しみですね。明日のアニメもとても楽しみです。
このスレも、時々覗いていただければ幸いです。

本年、見ていただいた皆さん、レスをくださった皆さん、ありがとうございました。
また来年も見て頂ければ、レスをいただければ嬉しいです。

550以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 03:49:05 ID:mybs7Tvg
おつ。来年もよろしく

551以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/28(土) 04:37:45 ID:6QT4AYjQ
乙です
久しぶりの投下ありがとうございます
来年も宜しくお願いします

552以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/29(日) 16:56:02 ID:FLk5IAt2
おおお!!


553以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/29(日) 23:33:11 ID:FLk5IAt2
遅れてアニメ見たら酷過ぎてビビったわ

554以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/30(月) 00:50:23 ID:GpJqPOZY
まあ、作者がうるかエンドにするって決めたんだからしゃあない
もう辛くて原作読めないが
このssスレだけ楽しみにしてます…

555以下、名無しが深夜にお送りします:2019/12/31(火) 03:21:53 ID:eMIy9H3g
アニメネタバレはしないでしょ(願望)
3期を完全に潰された方が辛いよ

556以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/01(水) 08:50:24 ID:.YtgyuNg
おつんこ!

コミケのタイミング悪いな
あのアニメと同日の開催て
うるか好き以外全滅したで

557以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/01(水) 09:28:23 ID:Pg.blAn6
まあ何はどうあれ>>1のssは神
今年も楽しみに待ってます…!!

558以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 18:17:43 ID:8j7WrGb.
後生だからコミケの本委託してくれ

559以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:00:59 ID:cJVSX9MM
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】 理珠 「もう気づいてしまいましたから」

560以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:01:30 ID:cJVSX9MM
………………年末 七緒図書館

理珠 「うー……」

文乃 「むむむむ……」

うるか (リズりんと文乃っち、難問に当たってるみたいだなぁ)

うるか (クリスマスからずっと根詰めてるもんね。センター受ける組は大変だ)

うるか (でも最近険しい顔してることが多い気がするなぁ。うーん……)

ハッ

うるか 「……ねぇねぇ、リズりん、文乃っち」

理珠 「? なんですか、うるかさん?」

うるか 「大晦日の夜なんだけどさ、一緒に初詣に行かない?」

文乃 「へ? 初詣?」

うるか 「うん! 息抜きとゴーカクキガンも兼ねてさ! 最近ふたりとも根詰めすぎだかんね!」

文乃 「うるかちゃん……」

理珠 「うるかさん……」

561以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:02:26 ID:cJVSX9MM
文乃 「せっかくだし、行こっか、りっちゃん」

理珠 「そうですね。少しくらいならいいですよね」

うるか 「せっかくだし、みんなも誘っちゃおっか! あたし、海っちと川っちに声かけてみんね!」

文乃 「んー、じゃあわたしも鹿島さんたちに声かけてみようかな」

理珠 「では、私は関城さんに声をかけてみます」

うるか 「えへへ、なんか楽しみになってきたね! 屋台で色んなもの食べよーね!」

理珠 「まったく……。うるかさん、メインはお参りと合格祈願ですからね」

文乃 「ふふ、そんなこと言って、りっちゃんも屋台のうどんが楽しみなんじゃない?」

理珠 「む……。それは、否定しませんが……」 プイッ 「文乃はずるいです」

文乃 「えへへ、ごめんごめん。わたしも屋台の食べ物楽しみだよ」

文乃 「アメリカンドッグに焼き鳥に焼きそば……。あと牛串とか……」

うるか 「ふ、文乃っち。どんだけ食べるつもりなの……」

562以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:04:14 ID:cJVSX9MM
うるか 「……あっ、でさ、あのさ」

カァアアアア……

うるか 「べ、べつに他意はないけどさ。その……のけ者にするみたいで嫌だし……」

うるか 「なっ、なな、成幸もさ、その……誘って、みよっか、とか……///」

うるか 「べ、べつにヘンな意味はないからね!? と、友達として? 誘ってあげるだけで……」

理珠 「おお、それはいいですね。成幸さんこそ根を詰めすぎな気がします。いい気晴らしになると思います」

うるか 「そ、そうだよね!」 パァアアアアアア……!!! 「じゃあ、こばやんと大森っちに誘ってもらうね!」

文乃 (うるかちゃん乙女すぎるよ。色々とだだ漏れだよ……)

文乃 (ここにいるのがりっちゃんじゃなかったら色々とお察しされてるところだよ……)

理珠 「……成幸さんが、来る。成幸さんと一緒に、お参り……///」

理珠 「ふふふ。楽しみです……///」

文乃 (りっちゃんはりっちゃんで色々と漏れてるよ……)

文乃 (まったく。ふたりとも可愛いんだから) クスッ

文乃 「………………」

文乃 (……成幸くん、来るのかぁ)

563以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:04:57 ID:cJVSX9MM
文乃 (べつに、だからってわたしは、ふたりと違って何かあるわけじゃないけど……)


―――― 『ねーねーどうかなぁ唯我君? ゆ・か・た! 似合ってる?』

―――― 『ふ 2人とも似合ってるな』

―――― 『古橋なんてとくに板についてるというか…… 大和撫子って感じだよな』


文乃 「………………」

文乃 「……わたし、振り袖でも着てっちゃおうかな」 ボソッ

文乃 (そしたらまた、夏祭りの時みたいに褒めてくれるかな……)

ハッ

文乃 (わ、わたしってば、何バカなこと考えてるのかな。そんなの……)

うるか 「文乃っち……?」 理珠 「文乃……」 ジーーーーッ

文乃 「へ……? へぇ!?」

文乃 (ひ、ひょっとしてわたし、声に出してた!?)

うるか&理珠 「「………………」」 ジーーーーーーーーッ

文乃 (ま、まずいよ〜〜〜! 2人とも滅茶苦茶こっち見てくるよ〜〜〜〜!)

564以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:06:20 ID:cJVSX9MM
うるか 「いいね! 振り袖って着たことないけど着てみよっか!」

文乃 「へ……?」

理珠 「わたしも興味があります。和装は慣れていますが、振り袖は着た事がありません」

文乃 「あ……そ、そうだよね。ふたりも着てみたいよね!」

文乃 (せ、セーフ! 成幸くんに関してのところは声に出してなかったみたい!)


―――― ((そしたらまた、夏祭りの時みたいに褒めてくれるかな……))


文乃 「っ……」

文乃 (わたし……何考えてるんだろ。成幸くんはわたしの弟みたいなもので、りっちゃんとうるかちゃんの好きな人で……)

文乃 (でも……――)

うるか 「――でも、振り袖ってどうやって着るの? っていうか、家にあるかなー」

文乃 「へ!? あ、そ、そうだね。たぶん美容室とかでレンタルと着付けをしてもらうんだと思うけど……」

文乃 「……よく考えたら年の瀬の今からで間に合うかな。もうどこも予約で一杯かな」

うるか 「うーん……」

理珠 「美容室ですか……」

565以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:07:53 ID:cJVSX9MM
理珠 「………………」

文乃 「りっちゃん?」

うるか 「リズりん?」

理珠 「……ちょっと聞いてみないと分かりませんが」

理珠 「予約が空いているであろう美容室に心当たりがあります」

566以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:08:30 ID:cJVSX9MM
………………大晦日

文乃 「………………」


―――― 理珠 『電話をしてみたところ、快くオーケーをしてくれました』

―――― 理珠 『振り袖もたくさんあるから、好きなものを選んでもらって構わないとのことです』

―――― 理珠 『大晦日の夕方くらいに伺う予約を取ったので、待ち合わせて一緒に行きましょう』

―――― うるか 『さっすがリズりん! すごいね!』


文乃 (……水を差すようで嫌だったから何も言わなかったけど、怪しいよね)

文乃 (着付けまでしてくれる美容室って、この時期すごく忙しいんじゃないのかな……)

文乃 (しかも、ついこの前まで自分で髪を切ってたりっちゃんがそんな美容室をしってるなんて……)

文乃 (……変なお店だったら、わたしがりっちゃんとうるかちゃんを守らないと)

うるか 「あ、文乃っちー! こっちこっちー!」

文乃 「あっ、うるかちゃん、りっちゃん」

理珠 「全員揃いましたね。では――」

「――――きゃァーーーーーーッ!! すごい逸材揃いだわァ!?」

567以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:09:02 ID:cJVSX9MM
文乃 「!?」

ドドドドドド……!!!!

文乃 (変な女の人がすごい勢いでこっちに走ってくる!? 変質者!?)

理珠 「あちらの方が美容室の烏丸さんです」

文乃 「あれが!?」

烏丸 「は、はぁ、はぁ……」 ゴクリ 「ち、近くで見ると、改めてすごいわァ……!」

烏丸 「緒方さん、ご紹介ありがとう! あなたのお友達だけあって美人揃いねェ!」

烏丸 「ダイヤにルビーにサファイア……! 壮観な光景だわァ!!」

ツーーーー……

烏丸 「い、いけないわァ。興奮しすぎて鼻血が……」

文乃 (紗和子ちゃんといいこの人といい、りっちゃんはこの手のヘンタイに好かれるフェロモンでも出してるのかな!?)

うるか 「あはは、なんかすごい人だねぇ、文乃っち」

文乃 「あの人を笑って済ませられるあたりうるかちゃんも大物だよね……」

牧上 「……あっ、いた! ちょっと、店長! 勝手に店飛び出してどこかに行かないでくださいよ!!」

568以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:09:47 ID:cJVSX9MM
………………SALON'DE KARASUMA

牧上 「先ほどは店長が大変失礼致しました……」 ペコペコ

文乃 「い、いえ……」 (この店員さん、苦労してそうだなぁ)

牧上 「ヘンな人ですが、腕は確かなので安心してくださいね」

烏丸 「牧上さァん! 準備できたかしら!? 私もう我慢できないわァ!」

文乃 (そうは言っても不安だよ……)

烏丸 「ん……? んん!?」 ズズイ

文乃 「ひっ……!? な、なんですか?」 (近い! 近すぎだよこの人!)

うるか 「ほんとにすごい人だね、文乃っち」 クスクスクス

文乃 「笑ってられるうるかちゃんもなかなかだよ……」

烏丸 「この香りは……あなたたち、恋をしているわねェ?」

文乃&うるか 「「!?」」

文乃 「な、何を、いきなり、そんな……」

うるか 「こ、恋なんて、なんのことやら分からないかなぁ〜……?」

569以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:10:18 ID:cJVSX9MM
烏丸 「誤魔化してもダメよォ。この毛先から香る恋する乙女のフレグランスを見落とす私じゃないわァ」

烏丸 「し・か・も」

クスッ

烏丸 「この後、ひょっとしてその相手と会う予定があるんじゃないかしらァ?」

文乃&うるか 「「!!??」」 ギクギクッ

うるか 「な、何のことだか〜、わ、わかりませんなぁ〜」

アタフタアタフタ

うるか 「こ、恋とかフレグランスとか、身に覚えがないというかなんというか〜」

文乃 (誤魔化すうるかちゃんも可愛いなぁ……) ホッコリ

烏丸 「武元さんは認めてくれないようだけど、あなたはどうかしら? 古橋さん?」

文乃 「へ!? い、いやいや、わたしも何のことだか分かりませんけど!?」

570以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:11:22 ID:cJVSX9MM
烏丸 「あら、ほんとにィ?」

文乃 「本当ですよ! 恋とか、そんなの……」


―――― 『星のこと話してる古橋 俺は好きだけどな』

―――― 『起きてる』


文乃 「!?」

文乃 (わ、わたしのバカバカバカ! 何で成幸くんのことなんて思い浮かべてるのよー!)

文乃 (成幸くんはりっちゃんとうるかちゃんの好きな人なんだからー!)

文乃 (そういうのじゃないんだからー!)

ポカポカポカポカポカ!!!

うるか 「ふ、文乃っち大丈夫? 急に自分の頭たたき出してどうしたの……?」

烏丸 「フフフ、可愛い子たちねェ」

烏丸 「あら……?」

理珠 「………………」 ペラ……ペラ…… 「……ふむ、なるほど。こんな髪型もあるのですね……」

理珠 「毛染めは……受験に支障が出る可能性があるのでやめておいた方がいいですね」

571以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:12:18 ID:cJVSX9MM
烏丸 (一心不乱に女性向け雑誌を読んでいる……?)

理珠 「ふむふむ……」

烏丸 「………………」


―――― 『あ あの…… 美容室って初めてでよくわからないのですが……』

―――― 『そこまでするものなのですか……? 私あまりお金は……』


烏丸 (以前とは全然違うわね。すごくいいことだわ……)

烏丸 「……緒方さん、ちょっと待っていてちょうだいねェ。先に二人をやってしまうから」

理珠 「はい、わかりました。待ってます」

烏丸 「……さ、では始めましょうか、武元さん、古橋さん」

烏丸 「ふたりの魅力を振り袖で最大限引き出すヘアメイクをしてあげるわァ!」

うるか 「はーい! よろしくお願いしまーす!」 文乃 「あはは……よろしくお願いします」

烏丸 「さァ! ルビーとサファイアの原石をピッカピカに磨いていくわよォ!」

牧上 「店長! 採算のことは考えてくださいね!?」

572以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:19:15 ID:cJVSX9MM
………………

うるか 「………………」 文乃 「………………」

キラキラキラ……!!!!

うるか 「な、なんか、すごいね、文乃っち」

文乃 「う、うん。少し髪を整えてもらっただけなのに、なんか、綺麗になった気分……」

文乃 (腕は確かだったんだなぁ、あの人……)

烏丸 「フフ♪ お相手さんに褒めてもらえるといいわねェ」

うるか 「!? だ、だから、べつに相手なんて……」

うるか (でも、成幸が褒めてくれたら……えへへ……///)

文乃 (ふふ、いちいち可愛いなぁ、うるかちゃん)

文乃 (ダメダメ朴念成幸くんが褒めてくれるわけないけど、でも、もし褒めてくれたら……)

文乃 「……///」

牧上 (店長じゃないけど、このふたり可愛いな……)

牧上 「……では、着付けとメイクをしますので、こちらへどうぞ」

文乃&うるか 「「はーい!」」

573以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:19:45 ID:cJVSX9MM
烏丸 「……さて、お待たせしたわねェ、緒方さん」

スッ

烏丸 「前より髪が伸びたわねェ。どうする? 前みたいにエクステを使ってみる?」

理珠 「いえ、あれは重くて大変なので……」

理珠 「それに、今回は一時的なものではなく、その髪型をできるだけ維持したいと思っているので……」

烏丸 「あら? イメチェンしたいってことかしらァ」

烏丸 「なら、どんな髪型にしたいかしら?」

理珠 「それが……先ほどから雑誌を読んでいるのですが、よく分からなくて……」

理珠 「どんな髪型が有効なのか、まるで分からないのです」

烏丸 「有効……?」

理珠 「はい」

スッ……

理珠 「好きな相手が、どんな髪型が好きか。どんな私なら好きになってくれるか……」

理珠 「それが、まるで分からないのです」

烏丸 「!?」

574以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:20:45 ID:cJVSX9MM
烏丸 「お、緒方さん……?」

理珠 「? どうかしましたか?」

烏丸 (す、すごい変化だわァ! 進歩というべきかしらァ!?)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

烏丸 (それにしても、とんでもなくストレートに感情を表す子ね……)

烏丸 (不覚だわァ。この私がこんなにドキドキさせられるなんて)

理珠 「……あの、烏丸さん。だから、お願いしたんです」

理珠 「烏丸さんにお任せします。私を、可愛く、綺麗に、魅力的に、してください」

理珠 「私はもう……」


―――― 『私は すこぶる ゲームに弱いのですね』

―――― 『好きになれました いいえ たぶん……』

―――― 『大好き です』


理珠 (……私はもう、気づいてしまいましたから)

575以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:21:20 ID:cJVSX9MM
理珠 「文乃も、うるかさんも、とても綺麗な人です。そんなふたりと一緒だからこそ……」

理珠 「私を、あのふたりと同じくらい……いえ、あのふたりより綺麗にしてください」

烏丸 「緒方さん……」

理珠 「……そんなことが不可能なのは分かっています。でも、私は……」


―――― 『ああ そうか』

―――― 『この人は 私のなりたい私だ』

―――― 『私の…… なれない私だ』


理珠「……好きになってほしい相手がいます。その人に振り向いてほしいから」

理珠 「私の好きな人に、私を好きになってもらいたいから」

理珠 「だから……」

烏丸 「……あなた、変わったわね。以前とは大違いだわ」

烏丸 「良い恋ね。本当に素敵な恋をしているのね」

烏丸 「……いいわァ、緒方さん。燃えてきたわよォ……!!」

576以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:21:52 ID:cJVSX9MM
烏丸 「全力でいくわ。いいえ、全力を超えていくつもりで……」

理珠 「……烏丸さん」


―――― 『はァ……』

―――― 『フゥ…… やる気が出ないわァ 牧上さん……』


烏丸 (やる気が出ず、無為に時間を過ごしていた私をたたき起こしてくれたこの子のために……)

烏丸 (……そして、この子なら)

烏丸 (いいえ、この子だからこそ、私ももっと高みを目指せる気がするわァ……!)

烏丸 「あなたというダイヤを、ピッカピカに磨き上げてあげるわァ!!」

烏丸 「そしてあなたの恋を、きっと成就させてみせるわァ!!!」

カッ!!!!!!

理珠 「は……はいっ!」

理珠 「よろしくお願いします!!」

577以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:23:04 ID:cJVSX9MM
………………

文乃 「いっえーい!」 パシャッ

うるか 「えへへ、なんか振り袖で自撮りって照れちゃうね。自分じゃないみたいだよ」

文乃 「あはは、でもうるかちゃんとっても似合ってるよ。可愛いよ」

うるか 「えへへ、ありがと、文乃っち。文乃っちもめっちゃ似合ってるよ」

うるか 「こーいうのなんて言うんだっけ? イタについてる、って感じ?」

文乃 「……ほう? 誰のどこが板だって?」 ズイッ

うるか 「ど、どしたん、文乃っち。なんか怖いよ」 アセアセ

うるか 「それにしても、リズりん遅いね。どうかしたのかな」

文乃 「そういえば、わたしたちより時間かかってるね。大丈夫かな」

うるか 「リズりんのおっぱいが収まる振り袖がないとかかなー? なんて……――」

文乃 「――ひょっとしてわたしに喧嘩を売るのが目的かな?」

うるか 「だからなんで怒ってるの文乃っち!?」

スッ……

牧上 「お待たせしました。緒方さんも着付けが終わりました」

578以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:23:52 ID:cJVSX9MM
うるか 「あ、文乃っち、終わったみたいだよ……って」

文乃 「うるかちゃん? ねぇ、同じことをわたしの胸を見ながらでも言えるの……って」

理珠 「あ、文乃、うるかさん。お待たせしてしまってすみません」

キラキラキラ……!!!!

うるか 「り、リズりん……?」

文乃 「りっちゃん……?」

理珠 「! ふたりとも、振り袖がよくお似合いですね! とても綺麗です!」

うるか 「へ? あ、う、うん。ありがと」

文乃 「ありがとう、りっちゃん……」

理珠 「? ふたりとも、どうしたのですか? 何か様子が変ですが……」

理珠 「……はっ!? ひ、ひょっとして、私何か変ですか!? 似合っていないですか!?」

理珠 「や、やはり、髪型をいじってもらうべきではなかったのでしょうか……」

うるか 「!? ち、違うよ? なんていうか、その……」

文乃 「似合ってないなんてことないよ! とっても綺麗だよ、りっちゃん! ただ……」

理珠 「!? その、なんですか、うるかさん! ただ、なんですか、文乃!」

579以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:24:49 ID:cJVSX9MM
うるか 「……キレイになりすぎじゃない、リズりん」

理珠 「……へ?」

文乃 「うん。なんていうか、雰囲気が大人っぽくなったっていうか……」

理珠 「き、綺麗……。大人……」

カァアアアア……

理珠 「お、お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます」

うるか 「お世辞なんかじゃないよ! リズりんめっちゃキレーだよー!」

文乃 「うんうん! ほんと、雰囲気が変わっちゃって一瞬誰だか分からなかったくらいだよ!」

理珠 「ふ、ふたりとも褒めすぎです……///」

理珠 (……でも、良かった。私は、少しでもふたりに近づけたでしょうか)

理珠 (成幸さんも……)

カァアアアア……

理珠 (……キレイと言ってくれるでしょうか)

文乃 「………………」 クスッ (……りっちゃん、本当に変わったな)

580以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:25:41 ID:cJVSX9MM
文乃 (……ねぇ、りっちゃん)


―――― 『好きになりたかったはずの自分が どんどん嫌いになる』

―――― 『私は文乃 ずっとあなたのようになりたかった けれど昔以上に 今はそれが遠く感じる』


文乃 (泣きそうな顔であんなことを言っていたりっちゃんは、もういないんだね)


―――― 『好きになれました いいえ たぶん……』

―――― 『大好き です』


文乃 (りっちゃん、がんばってね。うるかちゃんは強敵だよ)

文乃 (……ふふ、成幸くんったら、こんな美少女ふたりに好意を寄せられて、幸せ者だね)

ズキッ

文乃 (っ……)

文乃 (……痛くない。苦しくない。何も、ない)

文乃 (だってわたしは、りっちゃんとうるかちゃんの、友達なんだから……)

おわり

581以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:26:16 ID:cJVSX9MM
………………幕間1 「裏で」

智波 「ってことで、うるかに頼まれたんだけど、陽真くん、唯我くんのこと初詣に連れ出せる?」

陽真 「それくらいならお安いご用だよ。成ちゃんにも息抜きが必要だし」

智波 「でも、ごめんね、陽真くん。ふたりきりで初詣できなくなっちゃって……」

陽真 「気にしなくていいよ。俺は、友達を大事にする智波ちゃんが大好きだよ」

智波 「陽真くん……」

ギュッ

智波 「わたしも、そんな陽真くんが大好き……///」

あゆ子 「……うん、色々言いたいことはあるが、」

奏 「とりあえず俺らがいないみたいな空気で話を進めるのはヤメロ」

582以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:26:53 ID:cJVSX9MM
………………幕間2 「採算」

牧上 「でも店長、うちの店、振り袖三着セットもあったんですね。私見たことないですけど」

烏丸 「当然よォ。だって、緒方さんに三人分の着付けとレンタルをお願いされてから買ったんだもの」

牧上 「へ……?」

烏丸 「京都から取り寄せた最高級の振り袖よォ。ふふふ、それをしっかりと着こなすあの三人の行く末が怖いわァ……!」

牧上 「………………」

烏丸 「……? 牧上さん?」

牧上 「店長……」

クワッ

牧上 「久々のお客さんなのに、完全に赤字じゃないですかーーーーー!!」

牧上 「ただでさえ閑古鳥が鳴いてるのにーーー!! どうやって年を越すんですかもぉおおおおおおお!!!!」

おわり

583以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 20:29:00 ID:cJVSX9MM
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。

年末に間に合えばよかったのですが無理でした。
今年も読んでもらえると嬉しいです。

また投下します。

584以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 21:22:26 ID:M8JcjeDk
乙です、次も期待しています

585以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/02(木) 22:49:40 ID:8j7WrGb.
おつぞ

586以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/03(金) 00:18:36 ID:0mZtDmLA
おつ

587以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:20:22 ID:i657rC06
>>1です。投下します。

>>474さんリク書きました。


【ぼく勉】 蝶野 「あなたが感謝してくれたから」

588以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:20:58 ID:i657rC06
………………三学期 蝶野家 朝

蝶野 「………………」

パチッ

蝶野 「………………」

リリリリリリリリリリ……!!!!

……カチャッ

蝶野 「………………」

蝶野 (……三学期、三年生は自由登校)

蝶野 (いつものくせで、目覚ましをかけてたみたいっスね)

蝶野 (目覚ましがなかったところで、結局その前に目が覚めてるんだから、習慣ってすごいっス……)

蝶野 「………………」

蝶野 (受験生としては、さっさと起きて勉強をするべきっスけど……)

蝶野 (……とりあえず、SNSでも見て、と……って、うわっ)

589以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:21:28 ID:i657rC06
………………タイムライン

「バタフライフィールドの占いが更新されなくなって早数日……」

「バタフライフィールドの占いがないと不安で会社に行くのが怖いです」

「お願いだから早く復活して!」

………………

蝶野 「あー……」

蝶野 「………………」

蝶野 (……見なかったことにして、ネットニュースでも、っと……わっ)

………………ネットニュース

【速報】バタフライフィールドのブログコメ欄、オーバーフロー

【悲報】テレビ局も困り果てた!? バタフライフィールドはどこへ!?

………………

蝶野 「………………」

蝶野 (……冬休みに入ったから更新お休みしてたらすごい騒ぎになってるっスね)

蝶野 (テキトーにやってるだけなのになぁ)

590以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:24:10 ID:i657rC06
蝶野 「………………」

ポチポチポチポチ……ピッ

蝶野 「……まぁ、これで文句はないっスかね……――」

――――ピロンピロンピロンピロンピロン!!!!!

蝶野 (こ、コメントがすごい勢いで増えているっス……)

蝶野 (こんなことで感謝感激されるとは、なんともはや……)

蝶野 「………………」

蝶野 (……まぁべつに、悪い気はしないっスけど)

蝶野 「………………」

蝶野 (目、覚めちゃったし……)

蝶野 (久しぶりに学校にでも行ってみるっスかね……)

591以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:26:00 ID:i657rC06
………………

 一年生の、晩秋の頃のことだっただろうか。

 『おはよ、蝶野さん』

 『おはようっス、古橋さん』

 その人は、百人中百人が認めるであろう、美しい女性だった。

 同級生で同性の自分すら――いや、きっとクラスメイト全員が見惚れるくらい、美しい女性だった。

 『今日も冷えるね。冷え性だから困っちゃうよ』

 『午後から雨みたいっスよ。だからもっと寒くなるかもしれないっスね』

 『ええっ!? 雨なの!? 天気予報で言ってなかったから傘持ってきてないや……』

 『あー……』

 いらないことを言ったと思った。

 私は、天気予報なんて見てはいない。なんとなく、分かるから言っただけだ。

 私にはなんとなく分かる。見える。午後、雨が降ることが。

 自分でも気味が悪いことだが、分かるのだ。

 自分でも気味悪く思えることを、どうして言ってしまったのだろう。

592以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:26:40 ID:i657rC06
 『雨、降るのかぁ……』

 『あ、いや、天気予報で降らないって言ってたなら、降らないかも……――』

 『――よしっ! いまのうちに職員室で傘を借りてこよう! 降り出してからじゃみんな殺到するもんね!』

 『へ……? いや、でも、天気予報では降らないって……』

 『信じるなら、天気予報なんかより友達の言葉でしょ』

 その人は、あっけらかんとそう言った。

 『じゃ、職員室行ってくるね、蝶野さん』

 『あ、は、はいっス……』

 その人は、職員室に向かう素振りを見せたかと思えば、パタリと立ち止まり。

 『あ、言い忘れることだった。

 その美しい顔で、咲った。

 『雨のこと教えてくれてありがとね、蝶野さん』

 その笑顔を、きっと、私は一生忘れないだろう。

 本当に本当に美しかったのだ。

593以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:27:27 ID:i657rC06
………………通学路

蝶野 「………………」

蝶野 (……二年以上も前のことっスね)

蝶野 (それから、かしまんといのぽんとも意気投合して、いばらの会を作ったんスよね)

蝶野 (あの人の笑顔を曇らせたくないから。あの人を、近くで見守るために)

蝶野 (でも、あの人は……)

蝶野 「………………」

蝶野 (……段々と、笑わなくなっていった)

594以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:28:15 ID:i657rC06
………………

 『おはよう、蝶野さん』

 『あ、おはよっス、古橋さん』

 それは表面的には何も変わらず訪れた、些細な変化だ。

 疲れるような、辛いような、苦しいような。

 そのどれとも違うような、複雑な何かが見えた。

 私には、猪森さんのように、超常的な何かを見る力はない。

 けれど、なんとなく、行く末が見える。

 なんとなく、雨が降る、だとか。なんとなく、よくないことが起こる、だとか。

 目の前に相対した人の、少し先が、漠然と見える。

 『……大丈夫っスか、古橋さん』

 『へ? 何が?』

 その人は、出会った頃と変わらない笑顔で、あっけらかんと言った。

 『大丈夫だよ。元気も私の取り柄の一つだからね!』

595以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:29:13 ID:i657rC06
 『っ……』

 その瞬間、見えた。

 見えてしまった。

 その人が――美しいその人が、苦悶の表情を浮かべ、涙する姿が。

 その人の将来に、良くないことが――とても良くないことが起こる、その未来が。

 『そ、そうっスか。なら、良かったっス……』

 けれど、私はそれ以上何も言えなかった。

 何を言っても、力になれないと思ったから。

 そのときから、そう。

 私は、ずっと。

  ((助けて))

 待ち続けていたのだろう。

  ((誰か、この美しい人を、助けて))

 彼女に手を差し伸べてくれる、王子様のような人が、現れるのを。

596以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:30:14 ID:i657rC06
………………通学路

蝶野 「………………」

蝶野 (……で、また、なんというか、タイミングが良いというか悪いというか……)

成幸 「……ん? あ、えっと、蝶野……で合ってるか?」

蝶野 「おはようっス。合ってるっスよ。古橋さんのクラスメイトの蝶野っス」

成幸 「おう、おはよ。自由登校なのに朝早くに登校とは感心だな」

蝶野 「そっちも同じじゃないっスか」

成幸 「せっかくだし学校まで一緒していいか?」

蝶野 「それはまぁ、構わないっスけど……」

蝶野 「大丈夫っスかね? 唯我ファンに刺されたりしないっスか?」

成幸 「ははっ、なんだそりゃ。俺のファンなんか俺の弟妹くらいだから安心していいぞ」

蝶野 (半分冗談半分本気だったっスけど、本当に無自覚っスね、この人……)

蝶野 (あなたの周りの女子、ほとんどあなたのファンっスよ)

蝶野 (……って言っても、信じないっスよね)

蝶野 (うちの姫も含めて、みんなあなたのファンっスよ。まったく……)

597以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:31:14 ID:i657rC06
………………

 三年生に上がってすぐのときだ。

 その人は、とある男子生徒と出会った。

 その人にかかっていた、暗い暗い何かが、少し晴れて見えた。

 少しずつ、本当に少しずつだけれど、暗い何かが減っていくのが分かった。

 それと同時に、その人の未来が、少しずつ変わっていくのが分かった。

 相変わらず暗い未来だったけれど、明確に変わった。

 その人が、ひとりきりではなくなった。

 どんなに苦しいことや辛いことがあっても、誰かが一緒にいてくれるような、そんな未来。

 そして、数ヶ月が経ったある日。

 それは、劇的に変化した。

 ピカピカと光り輝いて見えた。

 元々美しかったその人が、なお一層輝いて美しく見えた。

598以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:32:43 ID:i657rC06
 『何かいいことでもあったっスか?』

 私は、思わずそう聞いていた。

 『えっ? い、いいことって、べつに……』

 その人は、逡巡した後、こっそりと教えてくれた。

 『……実は、お父さんと仲直り……ってわけじゃないけど、なんていうか……』

 『少し、腹を割ってお話できたんだ。進路も認めてくれるって言ってくれて……』

 『あとは、成幸くんが……』

 『……って、これは絶対言っちゃダメな奴だ! 今のなし! なしだからね、蝶野さん!』

 ああ、もう結果なんてわざわざ言うまでもないだろうけれど。

 その人の未来は、決定的に変わっていた。

 私には、たしかな未来は見えない。はっきりとした何かは見て取れない。

 占いのようなものだ。不定形の、もやのようなカタチでしか分からない。

 けれど、その人の未来が、美しく切り替わったのだけは、分かった。

 きっと夢を叶え、多くの人に囲まれて、幸せに生きているであろう未来が、見えたのだ。

599以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:33:27 ID:i657rC06
………………通学路

蝶野 「唯我さんは、今日はどうして登校するんスか?」

成幸 「ん、ああ、今日は古橋と約束があるんだよ。センター前の最終確認だな」

成幸 「センターまで十余日。あんまり猶予はないけど、最後までできることはしてやりたいからな」

蝶野 「………………」 クスッ 「……まじめっスねぇ」

成幸 「悪かったな。俺はどうせ、ガリ勉しか能がないつまらない男だよ」

蝶野 「そんなこと言ってないっスよ」

ニコッ

蝶野 「唯我さんはカッコ良くて、頼りになるって思ってるっスよ。本当に」

成幸 「っ……」

成幸 「そ、そうかよ……」 プイッ

成幸 (お世辞でも同級生にカッコいいとか言われると、照れるな……)

蝶野 「………………」

蝶野 (……そう、本当に)

蝶野 (本当にそう思ってるっスよ、唯我さん)

600以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:34:35 ID:i657rC06
………………

 ―――― 『雨のこと教えてくれてありがとね、蝶野さん』

 あの日、あなたの笑顔が嬉しかったから、占いも始めた。

 ブログで発信したら、たくさんの人が喜んでくれて、良かったと思った。

 私にたくさんのものをくれたあなたのために、恩返しがしたいと思った。

 あなたが好きな――きっとあなたを救ってくれたのであろう、彼と。

 末長く結ばれてほしいと思った。

 でも、残念。

 私には、はっきりとした未来は見えない。

 だから、あなたの好きな彼の未来を占っても、やはり幸せそうな姿しか、見えない。

 その隣に立っている、誰かの正体までは、分からない。

 けれど、ああ、願わくは。

 彼の隣で立っている誰かが――彼の手を取る誰かが、あなたであることを。

 あなたが彼の隣で、幸せになることを。

 おわり

601以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:35:17 ID:i657rC06
………………幕間 「似た者父娘」

文乃 「………………」

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

文乃 「……!? バタフライフィールドのブログが更新された!?」

零侍 「何!? それは本当か、文乃!?」

文乃 「よ、良かったよぅ。最近これを見ないと少し不安だったから……」

零侍 「ああ、本当に良かった。私もこれがないと不安でな……」

 父娘そろってすっかりバタフライフィールドにハマってました。

おわり

602以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:39:35 ID:i657rC06
>>1です。

完全な妄想です。私の脳内で補完した内容が大変多いです。
不快に思われた方がいたら申し訳ないことだと思います。

3-Aの生徒ほぼ全員が古橋姫の見た目の美しさだけに心酔しているとは思えないので、
きっと皆何かしら古橋姫の内面の美しさに触れる機会があったのだろうなと思っています。
かしまんもいのぽんも、きっとそうだと思っています。


あとすみません、今回のSSと関係ないですが、ひとつ前の理珠さんの話ですが、
皆さんお分かりと思いますが原作123話の直前のつもりです。
理珠さんのイメチェンには、絶対に烏丸さんが関わってるだろうと踏んだ私の妄想です。


また投下します。

603以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 00:55:23 ID:bSUr.7/U
おつ

604以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 03:18:12 ID:70dsccVA
おつです

605以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/13(月) 10:59:55 ID:mnBZANRY
ええな

606以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/14(火) 02:06:38 ID:ot7Jjn3M
蝶野さんにこんな裏設定があってもいいよね

607以下、名無しが深夜にお送りします:2020/02/27(木) 18:51:33 ID:89TR1vm2
前々スレから全部読ませて頂きました、最高です
水希ちゃんをこんなにも天使に描いてくれて本当にありがとうございます

608以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/10(火) 00:11:49 ID:HnGnPGK6
今週の成幸の告白凄く良かった

マルチエンドには関城さんや美春も含まれてて欲しいな

609以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/10(火) 14:43:44 ID:4grvA.BE


610以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/10(火) 16:30:52 ID:HFd6/XeA
イッチの美春さん長編ほんとすこ
よくできた映画一本観たくらいの充実感ある

611以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/11(水) 01:33:09 ID:jh6ojSss
本編パラレルええな

612以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:04:35 ID:7Jz2yKsQ
>>1です。投下します。

数ある世界線の中でアニメ時空に一番近い世界線と思っていただければ幸いです。


【ぼく勉】 あすみ 「誕生日をあなたと」

613以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:05:49 ID:7Jz2yKsQ
>>1です。投下します。

数ある世界線の中でアニメ時空に一番近い世界線と思っていただければ幸いです。


【ぼく勉】 あすみ 「誕生日をあなたと」

614以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:06:55 ID:7Jz2yKsQ
………………大学 ガイダンス

 『――……えー、つまり、皆さんはまだ学生ではありますが、もう医者としての一歩を踏み出しているのです』

 『生半可な学生気分は己を殺します。そして、その先には患者を殺してしまう未来があります』

 『気を抜くことなく勉学に励みなさい。そうでないと、本当に将来患者を殺すことになりますよ』

あすみ 「………………」

あすみ (……さすが、国立医学部。言うことが厳しいな)

あすみ (教員だけじゃない。周りの新入生も皆まじめに話を聞いている)

あすみ (予備校とは全然雰囲気が違うな……)

あすみ 「………………」

あすみ (……アタシも頑張らねーとな)

615以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:07:54 ID:7Jz2yKsQ
………………帰り道

あすみ 「……はぁ」

あすみ (高いとは聞いてはいたけどな)

あすみ (まさかあんなにかかるとは。教科書代……)

あすみ (がんばって貯めたバイト代がかなり吹き飛んだな)

あすみ (……んー、勉強がんばるのは当然としても、)

あすみ (バイトも今まで以上にやらないと、こりゃ後期の学費と教科書代が怪しいぞ)

あすみ (受験なんか比じゃないくらい忙しくなりそうだな……)

あすみ 「………………」


―――― 『受験が終わったら……』


あすみ (……あんな風に言ってたのが遠い昔のことみてーだ)

あすみ (いかんいかん。せっかくやりたいことができるようになったんだ)

あすみ (勉強が忙しかろうと、バイトが忙しかろうと、アタシが望んだことなんだから)

あすみ (アタシががんばらねーとダメだろ)

616以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:08:35 ID:7Jz2yKsQ
あすみ (今日は、後輩が家に来る日)

あすみ (……たぶん、最後になるであろう後輩との時間)

あすみ (いつまでも後輩を頼りにするわけにはいかないし、)

あすみ (後輩に彼氏のフリをしてもらう必要も、もうない)

あすみ (……もう、ない)

あすみ 「………………」

あすみ 「……べつに、だから何だってわけじゃないけどさ」

あすみ 「……早く帰ろ」

617以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:10:47 ID:7Jz2yKsQ
………………小美浪家

かすみ 「はーい、唯我君。あーん」

成幸 「いや、あの、自分で食べられるんで……」

かすみ 「もーっ。彼女の母親にそんなに照れちゃって。可愛いなぁ」

かすみ 「そんなんじゃまたあすみちゃんにからかわれちゃうぞ〜?」

かすみ 「ってことで、はい、あーん……」

成幸 「いや、だから……って」 ハッ

あすみ 「………………」

成幸 「せ、先輩!?」

かすみ 「あら、あすみちゃん。おかえりなさーい!」

かすみ 「いま、唯我君と母子水入らずのスキンシップ中だったの」

かすみ 「あすみちゃんも混ざる?」

あすみ 「……混ざる? じゃねー! 何やってんだババアー!」

かすみ 「きゃーっ。あすみちゃんが怒った〜」

618以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:11:21 ID:7Jz2yKsQ
………………

あすみ 「……ったく、あのバカ親」 ブツブツブツ

成幸 「あ、あの、先輩……」

あすみ 「お前もお前だよ、まったく」 ブツブツブツブツ

あすみ 「人の母親にデレデレしやがって……」

成幸 「すみません。いや、デレデレしてるつもりはなかったんですが……」

あすみ 「………………」 ジロリ

成幸 「……人のお母さんにデレデレしてすみませんでした」 ドゲザー

あすみ 「……ふん」

あすみ 「………………」 (……これじゃダメだ。せっかく、最後なのに)

あすみ 「……そんなことより、お前、家に来るの随分早かったな」

あすみ 「約束の時間はまだだろ」

619以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:12:03 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「……はい。ちょっと早めに来る必要があったので」

あすみ 「?」

成幸 「すみません、先輩。今日はガイダンス後の勉強計画立て……の予定でしたけど」

成幸 「実は少しウソついてました」

あすみ 「……ウソ?」

成幸 「すみません、先輩。とりあえず、何も聞かずについてきてもらえませんか?」

あすみ 「……?」

620以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:12:46 ID:7Jz2yKsQ
………………High Stage入り口

成幸 「………………」

あすみ 「お、おい、後輩。何も聞くなとは言うけどな……」

あすみ 「何でハイステージに来たんだ? 今日はバイト入ってねーだろ」

あすみ 「っていうか、今日は休店日だって店長が言ってたし……」

成幸 「……まぁ、休店日というよりは、貸し切りが正しいですかね」

あすみ 「後輩……?」

成幸 「じゃ、皆さん、入りますよー!」

ガチャッ

成幸 「……さ、どうぞ、先輩」

あすみ 「どうぞって、お前、一体……」

パン……パンパンパン!!!!


 『お誕生日おめでとーーーーー!!!!』


あすみ 「……!?」

621以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:13:31 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「へ? へ? へ?」

マチコ 「あしゅみー戸惑ってる。可愛いー!」

ヒムラ 「意外と想定外のことに弱いよね、あしゅみーって」

ミクニ 「ほら、あしゅみーこっち向いてこっち向いて」

パシャリ

ミクニ 「はい、あしゅみーの戸惑い顔チェキもらいましたー」

あすみ 「お、お前ら、何で……? って……」


――――あしゅみー誕生日おめでとう!!――――


あすみ 「何だあの横断幕ー!?」

あすみ 「……ん? 誕生日?」

あすみ 「………………」

ハッ

あすみ 「……そ、そうか。そういやアタシ、今日誕生日か。だから誕生日会か」

マチコ 「今さらー!?」

622以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:14:05 ID:7Jz2yKsQ
店員 「さ、さ、あしゅみーのアネゴ。こっちです」

店長 「お誕生日席はこっちだ、あしゅみー。唯我君、同伴ご苦労だったな。ありがとう」

成幸 「いえいえ。俺も先輩にはお世話になってますから」

あすみ 「お、おい、後輩。これ、どういうことだよ」

成幸 「すみません、先輩。サプライズだったので、結果的に嘘つくことになっちゃいましたけど」

成幸 「ハイステージの皆さんが、先輩を驚かせたいとがんばっていたので、協力しちゃいました」

理珠 「私たちもいますけどね」

文乃 「そうだよー、成幸くん! わたしたちも飾り付けとかお料理とか手伝ったよー!」

うるか 「文乃っちは早々にキッチン出禁になってたけどね」

あすみ 「のわっ!? お前らまで!?」

文乃 「成幸くんから先輩のサプライズ誕生日パーティをするって聞いたので」

うるか 「ならあたしたちも混ぜてもらわないとだよねー! って」

理珠 「はい。私たちも、先輩にたくさんお世話になりましたから」

あすみ 「お前ら……」

あすみ 「……ん?」

623以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:14:54 ID:7Jz2yKsQ
真冬 「………………」 コソコソコソ

あすみ 「……先生?」

真冬 「っ……」 ビクッ

あすみ 「何してるんですか、そんな隅っこで……」

あすみ 「……っていうか、何でメイド服着てるんですか」

真冬 「ふっ、不可! その質問は不許可よ、小美浪さん」

マチコ 「真冬ちゃんはねー、ふふふ〜♪」

マチコ 「たまたま店の前を通りかかったところを捕まえちゃいましたっ」

あすみ 「捕まえちゃいましたっ、じゃねーよ。えげつないことしやがって……」

あすみ 「すみません、先生。アタシの誕生日会になんかに巻き込んで……」

真冬 「……べつに、巻き込まれたとは思っていないわ」 プイッ

真冬 「……お誕生日おめでとう、小美浪さん」

あすみ 「あっ……」 クスッ 「ありがとうございます、真冬ちゃん」

真冬 「なっ……」 カァアアアア…… 「そ、その呼び方はやめなさいと何度も……!!」

624以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:16:03 ID:7Jz2yKsQ
マチコ 「さささー、それじゃこの辺で本日のメインイベント、いってみよー!」

ドーーーーン!!!!

ヒムラ 「みんなでがんばってこしらえて誕生日ケーキのろうそくに火をつけてー」 シュボボボ!!!

ミクニ 「電気を消してー!」 パチパチパチッ

あすみ 「ろうそくが二十本……。そっか、アタシももう二十歳か……」

〜♪

 『ハッピーバースデー♪ トゥ、あしゅみー♪』

あすみ 「ん……」

フゥ……

 『おめでとー!!!』

パチパチパチパチパチパチパチパチ……!!!!!

………………………………

………………

625以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:18:07 ID:7Jz2yKsQ
………………

マチコ 「はい、あしゅみー。これ、わたしたちからのプレゼント」

ミクニ 「図書カードだよ。これから色々入り用になるでしょ」

ヒムラ 「がんばって立派な女医になって、ハイステージに本物の女医として君臨してくれ」

あすみ 「はは……。ハイステで女医やれるかはわかんねーけど、ありがとな」

店長 「これは我々からだ」

あすみ 「……? これ、メイド服?」

店長 「新作だ。唯我君にも手伝ってもらってデザインした」

あすみ 「お、おぅ……」

店長 「これから勉強で忙しくなるとは思うが、たまにでいいから店に出てくれると助かる」

あすみ 「……はい、店長。アタシも、金は必要なんで、ぜひ」

626以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:18:46 ID:7Jz2yKsQ
うるか 「先輩、これはあたしからー!」

理珠 「私は、これを」

文乃 「お誕生日おめでとうございます、先輩」

あすみ 「お前らまで……。なんか悪いな。ありがとう」

真冬 「……私からも、つまらないものだけど」

あすみ 「先生まで!? ありがとうございます。今日の今日でよく準備できましたね……」

ワイワイワイ……

あすみ (……ったく。わざわざ誕生会なんて。アタシのガラじゃねーっての)

あすみ (みんな誕プレまで用意してくれて、なんか……)

クスッ

あすみ (……ちくしょう。嬉しいじゃねーか)

成幸 「……先輩」

あすみ 「ん? おう、後輩」

あすみ 「……ったく、何がサプライズだよ。騙しやがって」

成幸 「あはは、それはすみません。でも、嬉しかったみたいで良かったです」

627以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:19:22 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「なっ……」 カァアアアア……

あすみ 「……そりゃまぁ、こんな風に祝ってもらえりゃ嬉しいに決まってるだろ」

成幸 「まぁ、そうですよね」


―――― ((……たぶん、最後になるであろう後輩との時間))

―――― ((いつまでも後輩を頼りにするわけにはいかないし、))

―――― ((後輩に彼氏のフリをしてもらう必要も、もうない))


あすみ (……まぁ、残念でもあったけどな、なんて言えるわけもないよな)

成幸 「先輩、お誕生日おめでとうございます。これ、俺からのプレゼントです」

あすみ 「お前まで用意してくれたのか。悪いな……」

あすみ 「………………」

あすみ 「……開けてもいいか?」

成幸 「どうぞ」

あすみ 「ん……」

あすみ 「ノート……?」

628以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:20:05 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「はい。先輩が苦手な部分をまとめました」

成幸 「センターで間違えたところとか、二次試験で間違えたところとか」

成幸 「さすがに医学部の範囲は俺には分からないので、これが限界ですけど」

成幸 「大学の授業が始まる前に、一度目を通してもらうといいかなと思って」

成幸 「……たぶん、俺がもう先輩に教えられるようなことはないので、これが最後だと思いますけど」

あすみ 「っ……」

あすみ (最後、か……)

あすみ 「……ああ、そうだな。ありがとよ」

成幸 「あ、それと……」

スッ

成幸 「これはタダでもらったものですから、プレゼントとは言えないでしょうけど、どうぞ」

あすみ 「へ? これって……チケット……?」

629以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:20:42 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「あっ……ど、ドハっちゃんランドのチケット!?」

あすみ 「あのときの……?」


―――― 『お…… 大当たりぃぃ!!!』

―――― 『一等の…… ドハっちゃんランド御招待券プレゼントー!!』

―――― 『先輩が使ってください 有効期限半年ありますし 受験が終わってからでも行けますから』


成幸 「結局あのとき渡せてなかったので」 クスッ 「ぜひ行ってください」

あすみ 「あ、ああ、ありがとう」

あすみ 「………………」


―――― 『……たぶん、俺がもう先輩に教えられるようなことはないので、これが最後だと思いますけど』


あすみ (最後……)

あすみ (……は、嫌、だな)

ギュッ……

成幸 「……? 先輩?」

630以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:21:20 ID:7Jz2yKsQ
あすみ 「……な、なぁ、後輩」

成幸 「はい?」

あすみ 「たしかにお前は教育学部で、アタシは医学部で、全然違うし……」

あすみ 「アタシも、これ以上色々なことでお前に迷惑をかけるのは忍びないと思うし……」

あすみ 「……だから、勉強に関しては、このノートがきっと最後、なんだと思う」

成幸 「……?」

あすみ 「……でも、アタシは、」

あすみ (アタシは……)


―――― 『今度こそチューしとくか?』

―――― 『な? 冗談冗談♪』


あすみ (……アタシは)

あすみ 「……アタシは、お前と最後なのは、嫌だ」

631以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:22:13 ID:7Jz2yKsQ
成幸 「先輩……?」

あすみ 「……だから、このチケットはいらない。お前が使えよ」

成幸 「へ? で、でも、先輩……――」

あすみ 「――……でも、ひとりで行くなよ。絶対……」

あすみ 「……絶対、アタシも誘えよ。一緒に、行くから……」

成幸 「あっ……」 カァアアアア…… 「は、はい。分かりました」

あすみ 「っ……」

カァアアアア……

あすみ (顔が、熱い。絶対真っ赤になってる。ああ、ちくしょう……)


―――― 『……アタシは、お前と最後なのは、嫌だ』


あすみ (な、何を恥ずかしい事を言ってんだ、アタシは……)

632以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:22:45 ID:7Jz2yKsQ
あすみ (……でも)

クスッ

あすみ (後輩に勉強を教えてもらうことが、これで最後でも……)

あすみ (後輩との時間が最後じゃないって、それだけで……)

あすみ 「……ああ、そうそう。ちなみに、後輩」

成幸 「? なんです?」

あすみ 「バカ親父は未だにアタシとお前の事ラブラブカップルだと思い込んでるからな」

成幸 「!? ま、まだ説明してなかったんですか!?」

あすみ 「えー? だってパパに説明して怒られるの怖いしー」 キャルーン

成幸 「あんたそんなキャラじゃないでしょ!?」

あすみ 「ま、ともあれ、だ」

ニコッ

あすみ 「だから、これからも恋人役、よろしくな、こーはい♪」

おわり

633以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:24:07 ID:7Jz2yKsQ
………………幕間 『バカ親父』

宗二朗 「!?」 キュピーンン

患者 「せ、先生!? どうかしましたか!?」

患者 「私のレントゲン写真、そんなに悪いですか!?」

宗二朗 「成幸君とあすみがイチャイチャしている波動を感じる!?」

患者 「へ……?」

かすみ 「はーい、宗二朗ちゃーん。今は診療中だからしっかりしましょうねー」

おわり

634以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:26:07 ID:7Jz2yKsQ
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

4月9日はあすみさんの誕生日なので、一応の完結を見たところで書きたいと思っていました。
ただ、冒頭で申し上げた通り、世界線はアニメが一番近いと思います。
うるかさんもしっかり日本にいます。

また投下します。

635以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 23:52:38 ID:K/dvYsUQ
おつ

636以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/11(土) 01:36:21 ID:yzip6BFw
いつも応援しています!楽しみで仕方ありません!
がんばってください!

637以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:31:15 ID:tZaPmrsM
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 文乃 「いつか君にお返しを」

638以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:39:13 ID:tZaPmrsM
………………古橋家

ガサガサガサ……

文乃 「……ふー」

文乃 「なんかまだまだ出てくる感じだね、お父さん」

零侍 「ああ。しばらく大掃除なんてしていなかったからな」

文乃 「家の収納に甘えてきたけど、そろそろ物が収まらなくなってきたし」

文乃 「せっかく今年は一緒に大掃除できるんだから、徹底的にいらないもの捨てちゃおうね、お父さん」

零侍 「……ん、ああ」


―――― 『……――だねっ、零侍くんっ』


零侍 「………………」 フッ 「……そうだな」

639以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:39:45 ID:tZaPmrsM
文乃 「それにしても……」

グチャァ……

文乃 「一度も見た事ないようなものまで出てくるのはなんなの……」

零侍 「ああ、その箱は昔私が買ってきたおもちゃだな」

文乃 「おもちゃ? じゃあ、これ私の……?」

零侍 「いや……」

パカッ

零侍 「……私は玩具に疎かったものでな。全部男児用だ」

零侍 「懐かしいな。静流にも呆れられたものだ……」

文乃 「……まぁ、旦那が一人娘のために買ってきたおもちゃがこれじゃ、ねぇ」

文乃 「これはロボット? こっちは戦隊物? これは……御面ライダー……?」

文乃 「まったくもう、お父さんはそそっかしいんだから……」


―――― 『まったくもう。零侍くんったらそそっかしいんだから』


零侍 「……ああ」

640以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:40:59 ID:tZaPmrsM
文乃 「……ふふ、でも」

零侍 「?」

文乃 「昔のわたしのために買ってきてくれたんだよね。ありがとう、お父さん」

零侍 「ん……あ、ああ……」

零侍 「……呆れ方からお礼の言い方まで、どんどん似ていくものだ」

文乃 「? なんか言った?」

零侍 「いや、なんでもない。作業に戻ろう」

零侍 「この収納から出てくるものはほとんどゴミでよさそうだな」

零侍 「む……。これは古着か。お前のものだな」

文乃 「わー、懐かしいー! これお気に入りだったワンピースだ!」

文乃 「えへへ。これ、お母さんと一緒に買ったやつだよ。お母さんとおそろいなの!」

文乃 「お母さんの方もある! 懐かしいな……」

零侍 「………………」

641以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:41:48 ID:tZaPmrsM
零侍 「……もうサイズ的に着られる服はなさそうだが、どうする?」

文乃 「? どうするって?」

零侍 「静流との思い出が残っているのだろう? 残しておくか?」

文乃 「………………」

フルフル

文乃 「……ううん。もう着られないものを残しておいても仕方ないよ」

文乃 「思い出は、頭の中に残ってるよ。だから、これはもういらないんだ」

零侍 「……ああ。そうだな」

文乃 「でも、まだきれいで着られるよね。捨てちゃうのももったいない気がするなぁ」

零侍 「む……。そうだな。知り合いに譲れるのなら、そうした方がいいかもしれんな」

零侍 「とはいえ、これくらいの子供がいる家庭に知り合いは……」

文乃 「うーん……」 ハッ 「あっ……」

クスッ

文乃 「……もらってくれる人、いるかも」

零侍 「……?」

642以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:42:23 ID:tZaPmrsM
………………唯我家

葉月 「きゃーーーーーー!!!」

葉月 「可愛いお洋服がたくさんーーーー!!!」

花枝 「なんか申し訳ないわねぇ、文ちゃん」

花枝 「本当にこんなにたくさんもらってしまっていいの?」

文乃 「はい! さすがにわたしはもう着られませんし、葉月ちゃんが着てくれるなら嬉しいですから」

葉月 「きゃー! お姫様みたいなお洋服も!」

葉月 「こっちはフルピュアみたい! かわいい!」

成幸 「良かったな、葉月。ほら、喜ぶのはいいけど、その前に何かしなくちゃな」

葉月 「!」 ピョコッ 「文ねーちゃん、ありがとう!」

文乃 「いえいえ、どういたしまして」 ニコッ

文乃 (ふふふ。葉月ちゃん、喜んでくれてよかった)

文乃 (でも……)

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 (問題はあっちだよね……)

643以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:43:00 ID:tZaPmrsM
水希 「ふ、古橋さん! 葉月とお母さんは籠絡できても、私はそうはいきませんからね!」

水希 「葉月に取り入ってお兄ちゃんと近づこうって魂胆でしょうけど、そうはいきませんから!」

水希 「……でも葉月のためにわざわざお洋服を持ってきてくれてありがとうございます!」

文乃 「ど、どういたしまして……」

文乃 (ちゃんとお礼を言ってくれるあたり、根は本当に良い子なんだよね……)

和樹 「ふーん、だ」 ツーン

成幸 「ん? 和樹まで水希みたいになってどうした?」

和樹 「葉月はいいけど、俺のお洋服はないし」 ツーン

成幸 「いや、仕方ないだろ。古橋は女の子なんだから……」

文乃 「あ、そうそう。和樹くんにも色々持ってきたんだ」

ドサッ

和樹 「……!? おもちゃ!?」

文乃 「昔お父さんが私のために買ってきたおもちゃなんだって」

成幸 「お、親父さん、娘にこんな男の子が喜びそうなものを……?」

644以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:43:40 ID:tZaPmrsM
文乃 「お父さんったら、娘のわたしのために男の子用のおもちゃを買ってきちゃったみたいなの」

文乃 「そそっかしいよね」 クスクス

成幸 「ん、そうだな」

成幸 (……古橋がすごく楽しそうに親父さんの話をしてる)


―――― 『今日はお父さんが家にいるから…… あんまり 帰りたくなくて』


成幸 (なんか……) クスッ (俺も、嬉しくなってくるな)

和樹 「文ねーちゃん! これ、もらっていいの!?」 キラキラキラ……!!!!

文乃 「うん。ちょっと古いおもちゃだけど、まだまだ遊べると思うよ」

和樹 「やったー! ありがとー、文ねーちゃん!!」

成幸 「……ったく。現金な奴だな」

葉月 「きゃー! かわいい〜!」  和樹 「おー! この剣光るー!」 キャッキャ

成幸 「悪いな、古橋。おもちゃまで……」

文乃 「ううん。ほとんど使ってないおもちゃだから、使ってくれた方が嬉しいよ」

645以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:44:40 ID:tZaPmrsM
成幸 「で……」

水希 「ぐぬぬぬぬ……」 ギリリ 「葉月のみならず和樹までたぶらかして……」

水希 「でも和樹のおもちゃまですみません」 ペコリ 「本当にありがとうございます、古橋さん」

水希 「それはそれとしてぐぬぬぬ……」

成幸 「お前はまだそんな隅っこで……」

文乃 「あはは……」

文乃 「あ、そうそう。水希ちゃんにも持ってきたんだ」

水希 「!? へ、へー! 古橋さんのお古のお洋服でしょうか」

水希 「で、でも残念だなー! たぶんちょっとサイズが合わないんじゃないかなー!」

水希 「どこがとは言いませんけど、ちょっとサイズがなー!」

文乃 「……はは、うん。そうだね」

ズーーーーーン

文乃 「……だと思ったから、はい、これ。たぶん私には少し大きいから。どことは言わないけど」

水希 「へ……? これ、ワンピースですか……?」

646以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:45:13 ID:tZaPmrsM
文乃 「うん。これね、お母さんが着てた服なんだ」

水希 「!? 古橋さんのお母さんの……?」

文乃 「……って言っても、たぶん一回くらいしか着られてないんじゃないかな」

文乃 「葉月ちゃん。ちょっとこっち来て」

葉月 「? はーい」 トコトコトコ

文乃 「えっとね……あったあった。このワンピース」

文乃 「これとおそろいなんだ。昔、お母さんと一緒に買ったんだ」

葉月 「わー! じゃあこれふたりで着ると、水希ねーちゃんとペアルック!」

文乃 「うん。きっとかわいいと思うよ」

水希 「い、いいんですか? これ、いただいてしまって……」

文乃 「うん! ぜひもらってよ!」 ニコッ

文乃 「葉月ちゃんと水希ちゃんみたいな、仲良しの姉妹に着てもらえれば、きっとそのお洋服も嬉しいと思うから」

水希 「ん……」 カァアアアア……

水希 「あ、ありがとうございます、古橋さん。大切にします」

文乃 「うん! どういたしまして」

647以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:46:14 ID:tZaPmrsM
………………帰り道

文乃 「はー、今日はみっちり勉強できたねー、成幸くん」

成幸 「ああ、そうだな。テストの結果も良好だし、調子いいじゃないか」

文乃 「えへへ。成幸くんのおかげだよ。ありがと」

成幸 「俺は大したことはしてないよ。お前のがんばりが結果に出てるだけだろ」

文乃 「そう? じゃあ、そういうことにしておこうかな」

文乃 (……なんて、全部君のおかげで間違いないんだけどね)

文乃 「でもごめんね。晩ご飯までいただいて、遅くなったからって送ってもらっちゃって」

成幸 「気にすんなよ。適度な運動はこの後の集中にいいしさ」

成幸 (送ってかないと母さんがうるさいし……)

成幸 「それに水希も、ほら。お礼のつもりだったんだろ」

成幸 「今日の晩飯、いつもの倍以上は豪華だったぞ」

文乃 「へ? お礼……?」

成幸 「葉月と和樹がいろいろなものいただいたし、自分もワンピースをもらったからな」

648以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:46:52 ID:tZaPmrsM
文乃 「そんなの、気にしなくていいのに。わたしこそ、いつも成幸くんにお世話になってるんだから」

成幸 「そうか? それを言うなら、俺もいつもお前にお世話になってるけどな」

成幸 「色々相談したり、とかさ」

文乃 「そんなの大したことじゃないよ。君がわたしにしてくれたことに比べたら、さ」


―――― 『お前らのこと幸せにしてみせるから 俺を信じてつきあってくれ!!』

―――― 『かっこいいよなぁ 古橋は』

―――― 『お前が本当にやりたいこと 俺が 全力で応援してるからな』


文乃 (……本当の、本当に。君が私に、してくれたことに比べたら)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

文乃 「……私はきっと、たくさんお返しをしなくちゃいけないんだよ、君に」

649以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:47:31 ID:tZaPmrsM
成幸 「ん……」 ドキッ 「あ、あはは。そう言われるとなんか照れるな」

成幸 「じ、じゃあ古橋、いつか俺にお返ししてくれよな」

テヘッ

成幸 「なーんて、冗談……――」


文乃 「――――うん。するよ」


成幸 「へ……?」

文乃 「するよ。いつか、絶対。受験が終わった後に。君に、お返し」


―――― 『お前らのこと幸せにしてみせるから』


文乃 (……君が、わたしのことを幸せにしてくれた、その後に)

文乃 (それが、どういう形のお返しになるか、今はまだ分からないけれど)

文乃 (だから……)

文乃 「……だから、期待しててね。成幸くんっ」

おわり

650以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:48:11 ID:tZaPmrsM
………………幕間1 『やはり敵』

水希 「………………」 ショボーン

水希 (……この前は、せっかく色々と持ってきてくれた古橋さんに心ない言葉を浴びせてしまった)

水希 (古橋さんは私たちに対して厚意100%で持ってきてくれたっていうのに……)

水希 (きっと古橋さんはお兄ちゃんに邪なことを考えたりはしないんだ。いい人だもん)

水希 「……と、いうことで今日はお詫びもかねてケーキを焼きました!」

水希 「古橋さん、お勉強の休憩にケーキでもいかが!?」

文乃 「ふぇっ!? 水希ちゃん!?」 ササッ

水希 「………………」

文乃 「えっ、け、ケーキ? やったー! 嬉しいなー!」

水希 「……古橋さん。今慌てて隠した携帯電話……」

文乃 「ふぇっ……?」 ギクッ

水希 「待ち受け、ねこを抱いたお兄ちゃんでしたね……?」

文乃 「ふぇっ!?」 ギクギクッ

水希 (や、やはり……) ギリリッ (この人は敵!)

651以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:48:58 ID:tZaPmrsM
………………幕間2 『見栄』

文乃 「………………」

文乃 (……私の記憶の中のお母さんとも、動画のお母さんとも合致しない)

文乃 (お母さん、今のわたしと同じくらいだもんね……)

文乃 (どこがとは言わないけど……)

文乃 (………………)

文乃 「……お母さん、絶対このワンピース、見栄張ったよね……?」

おわり

652以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 22:49:43 ID:tZaPmrsM
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

653以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/21(火) 01:31:25 ID:9py1LuAk
おつ

静流母もシックスパッドしてたのかなww

654以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/21(火) 06:58:52 ID:5TvDjXzU
水希ちゃんラスボスかわいい

655以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/22(水) 04:26:36 ID:nk/erQyU
おつんこ!

656以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/22(水) 12:12:12 ID:.NKmdXU6
やっぱ小姑水希ちゃんがさいかわだよね?

657以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:41:33 ID:8/XR1gKQ
>>1です。投下します。

【ぼく勉】 真冬 「自分の気持ちに素直にね」

658以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:42:16 ID:8/XR1gKQ
………………結果発表直後 一ノ瀬学園 生徒指導室

真冬 「………………」


---- 『--……そう』

---- 『……なら…… もう…… いいのかしら……』

---- 『もう…… 我慢しなくて いいのかしら……』

---- 『おめでとう えらいわね 今までよく頑張ったわね』

---- 『3人ともすごいわ 先生自慢の生徒よ』


真冬 「っ……」 グスッ

真冬 (いけないわ。思い出したらまた涙が……)

真冬 (情けない。教師として、こんなことじゃいけないのに……)

真冬 (でも……)


---- 『合格しました 3人とも』


真冬 (……本当に、よかった)

659以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:54:28 ID:8/XR1gKQ
真冬 (さて、今日合否報告の予定者、あとは……一人だけね)

真冬 「ん……?」

真冬 「関城紗和子さん……? この子って、たしか……--」


紗和子 「--……はい。関城紗和子です」 ズーーーン


真冬 「!?」 (き、恐怖! ドアの隙間から死んだ魚のような目が……!)

真冬 「……って、そんなところで何をしているの?」

紗和子 「すみません。何か涙ぐんでいたようだったので、入りにくくて……」 キィ……

真冬 「!? な、涙ぐんでなんかいません! 少し……花粉症なだけよ!」

紗和子 「はぁ……。まぁいいですけど。合否の報告に来ました。関城紗和子です」 ズーン


---- 『ええ まったくもって遺憾です……』

---- 『まったく…… 関城さんたらプンプンです!』


真冬 「ああ、あなたが……」

紗和子 「第一志望の弓弦羽大学、合格しました……」 ズーン

660以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:55:00 ID:8/XR1gKQ
真冬 「あ……そ、そうなのね。おめでとう! よかったわね!」

紗和子 「はい。ありがとうございます……」 ズーン

真冬 「……え、えっと」

真冬 「どうかしたの? せっかく第一志望に合格したというのに、その表情は……」

紗和子 「……いえ、べつに」

紗和子 「何も……」

真冬 「………………」

フゥ

真冬 「……ほら、座りなさい」 ニコッ

紗和子 「え……?」

真冬 「せっかく第一志望に合格したのに、そんな表情をしていたらもったいないわ」

真冬 「何かあったんでしょう? 解決できるかはわからないけれど、私でよかったら話を聞くわ」

661以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:57:13 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「へ……? で、でも……」

真冬 「私は教師よ。そんな“しょぼくれた”顔をしている生徒、放っておけないわ」


---- 『桐須じゃねえか! 何しょぼくれてんだこんなトコで?』


真冬 (……そう。もし、この子が何かに悩んでいるのなら)

真冬 (“先生”のように、私も、この子に寄り添ってあげたい)

真冬 (だから……)

真冬 「……お話、聞かせてくれるとうれしいわ。関城さん」

紗和子 「………………」

コクリ

紗和子 「……はい」

662以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:58:06 ID:8/XR1gKQ
………………数十分後

真冬 「………………」

紗和子 「……それでですね! 緒方理珠ったらひどいんですよ!」

真冬 「え、ええ……」

紗和子 「たしかに私が悪かったですけど、でも、私緒方理珠のことを想って言ったんですよ! 合格よって!」


---- 『合格よッッッ!!!』

---- 『2人とも見事に合格してたわ緒方理珠ッッ!!!』

---- 『これで春から晴れて同じキャンパスライフよ緒方理珠ッ!!!』

---- 『ちょっと聞いてる? 我が親友緒方理珠〜!!』


真冬 「そ、そうね……」

真冬 「………………」

真冬 (長い……話が長いわ、この子……!)

663以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:59:13 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「それで、緒方理珠ったらすごく怒ってしまって……」


---- 『あ゙ーーーーっ!! 何故言うのですかーーーーッ!!!』

---- 『自分で見たかったのに 自分で見たかったのに!!!』

---- 『ひいっ!!! 堪忍よ緒方理珠ーッ!!!』


紗和子 「うぅ……って、先生、話聞いてますか!?」

真冬 「!? と、当然。きちんと聞いているわ」

真冬 (……先生。今改めて思いますが、生徒の相手は大変です)

紗和子 「……分かってます。私が悪いんだって」

シューーーン

紗和子 「……きっと緒方理珠に嫌われてしまったわ」

真冬 「……?」

紗和子 「緒方理珠“にも”、空気が読めないとか思われてしまったわ……」 ズーーーン

真冬 「………………」

664以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 22:59:57 ID:8/XR1gKQ
真冬 (……でも、大変でもなんでも、私は、)

真冬 「……そんなことないと思うわよ。緒方さんはそんなこと思わないわ」

真冬 「それに、緒方さんは、あなたがきちんと謝れば許してくれるわ」

紗和子 「そうでしょうか。私、いつもこうやって相手に嫌な思いをさせてしまう……」


―――― 『またガリ勉関城が平均点上げてるよ』

―――― 『平均点以下の奴補習だってさ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 「だからきっと、緒方理珠にも……」

真冬 「……そう。あなたはそう思うのね」

スッ

真冬 「あら、ちょうど退勤時間だわ。この後予定は? 関城さん」

紗和子 「へ……? あ、空いてますけど……」

真冬 「じゃあ、一緒に行きましょう」

紗和子 「行く……? って、どこに……?」

665以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:00:52 ID:8/XR1gKQ
真冬 「そんなの、決まってるでしょう?」

真冬 (……大変でもなんでも、私は、“こうなりたい”と願って、今ここにいるのだから)


---- 『私が教師を目指すことは…… 間違いだと思いますか!?』

---- 『間違いだったかどうかなんて 本当に終わっちまうまでわかんねーもんさ』

---- 『自分の気持ちに素直にな』


真冬 「あなたの大切なお友達のところに、よ」

クスッ

真冬 「自分の気持ちに素直にね、関城さん」

666以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:01:27 ID:8/XR1gKQ
………………緒方うどん

理珠 「〜♪」

親父さん 「………………」 (……リズたま、ご機嫌だな。鼻歌なんてめずらしいぜ)

親父さん (……ずっと、心理学勉強してえって言ってたもんな) グスッ 「……っと。歳食うと涙もろくなっていけねぇや」

……ガラッ

親父さん 「おぅ、いらっしゃい! ……って」

紗和子 「あ……こ、こんにちは……」

真冬 「こんにちは。緒方さんのお父様」

親父さん 「さ、紗和子ちゃんと先生じゃねーか! いらっしゃい!」

理珠 「……? 関城さん? それに桐須先生まで? 一体どうしたんですか?」

真冬 「べつに大した用事じゃないわ」 クスッ 「とりあえず、大葉天うどん、いただけるかしら?」

真冬 「……あなたは? 関城さん」

紗和子 「あっ……わ、私は……きつねうどんを」

親父さん 「まいど! 大葉天うどんときつねうどんだな! 大急ぎで作るから座って待っててくれ」

親父さん 「リズたまも、せっかく先生と紗和子ちゃんが来てくれたんだから、一緒にうどん食べたらいいや! 席に案内しといてな!」

667以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:02:11 ID:8/XR1gKQ
………………

理珠 「……?」

紗和子 「………………」 ヒシッ

真冬 「……あの、関城さん」

真冬 「そうくっつかれると、食べにくいのだけど……」

紗和子 「………………」 ギュッ

真冬 「……まったく」 (まるで隠れるように、縮こまって余計に私にくっついて)

理珠 「意外です。関城さんと桐須先生って、あまり関わりがなかったと思いましたが」

理珠 「仲良しさんだったのですね」

真冬 「生徒と仲良しになった憶えはないわ」

ズルズルズル……

真冬 「相変わらず美味しいわね、あなたのところのうどんは」

理珠 「ありがとうございます」 ジッ 「……あの、関城さん」

紗和子 「!?」

理珠 「何をやっているのか分かりませんが、早く食べないと伸びてしまいますよ?」

668以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:03:02 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「あ……そ、そうね」

紗和子 「いただきます」

ズルズルズル……

紗和子 「……美味しい」

理珠 「そうですか。このうどん、私の受験合格を聞いた父が張り切って打ったらしいです」

ズルズルズル……

理珠 「……うん。美味しいですね」

紗和子 「………………」

ズルズルズル……

理珠 「……それで? 一体今日はどうしたんですか?」

理珠 「おふたりがそろっていらっしゃるなんて、大した用事がないようには思えないのですが」

真冬 「そうね。大したことかどうかは、見る人によって変わるものね」

スッ

真冬 「ほら、関城さん。いつまでも私にしがみついてないで。自分がどうしたらいいか、分かるでしょう?」

紗和子 「……ん」

669以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:03:33 ID:8/XR1gKQ
理珠 「……? 関城さん?」

紗和子 「……あの、緒方理珠。あのね、」

紗和子 「今日、その……合格発表、あなたが見る前に……その……」

紗和子 「……先に、言ってしまって……ごめんなさいっ」

理珠 「へ……?」

理珠 「………………」

理珠 「……えっと」

理珠 「……ああ、そういえば、そんなこともありましたね」

理珠 「そんな大げさに謝らなくてもいいですよ。これから気をつけてくださいね」

紗和子 「え……?」

紗和子 「え、えっと、許してくれるの? 緒方理珠」

理珠 「許すも何も、今の今まで忘れてましたよ」

クスッ

理珠 「妙に大人しくて変な関城さんだと思ったら、そういうことだったんですね」

670以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:04:45 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「……じ、じゃあ、私のこと、怒ってない?」

理珠 「さすがにあのときは怒りましたけど、今は特には……」

紗和子 「私のこと、空気が読めないとか思ってない?」

理珠 「は? 空気を読むという言葉の意味が未だによく分からない私にそれを聞きますか」

紗和子 「んっ……」

紗和子 「……そ、そうね。あなたはそうよね。ずっと……」


―――― 『空気を読むとはどういうことですか? できたのにできないフリをしろということですか?』

―――― 『どうなのですか?』


紗和子 (……あなたは、ずっと変わらない。私の恩人で、憧れの人)

真冬 「………………」

クスッ

真冬 「……さて、うどんもいただいたことだし、私はそろそろおいとまするわね」

真冬 「うどんごちそうさま。お勘定よろしく、緒方さん」

671以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:05:30 ID:8/XR1gKQ
理珠 「あ、は、はい……――」


親父さん 「――……ち、ちょっと待ったー!」 ズザザザザッッ!!!!


理珠 「……お父さん。店内で走らないでください。ホコリが立ちます」

理珠 「一体どうしたんですか?」

親父さん 「いや、それがさ、今日さ、パパさ、リズたまの合格で舞い上がってうどん打ってね」

理珠 「はい」

親父さん 「ちょっと打ち過ぎちゃってね……まだまだ残ってるんだよね」

理珠 「……はい?」

親父さん 「夕食のお客だけじゃ絶対に捌ききれないくらい残ってるんだよ」

親父さん 「こんなことバレたらママに怒られちゃうし……」

親父さん 「……と、いうことで」

ドンッ!!!!

親父さん 「今日は俺のオゴリだ! 先生、紗和子ちゃん、たんとうどん食ってってくれ!」

真冬 「!? い、いや、この量はさすがに……」

672以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:07:40 ID:8/XR1gKQ
紗和子 「………………」

クスッ

紗和子 「……じゃあ、お言葉に甘えて、いただきます」

ズルズルズル……

真冬 「関城さん……」

紗和子 「……せっかくですし、桐須先生。ごちそうになって行きませんか?」

真冬 「………………」

真冬 「……承知。仕方ないわね。美味しいうどんがこんなにあるのだから、遠慮するのも野暮かしらね」

親父さん 「あっ……そういや紗和子ちゃん! 大学合格おめでとうな!」

紗和子 「へ……? あ、ありがとうございます!」

紗和子 「……あれ? 私、合格したこと言いましたっけ?」

673以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:08:16 ID:8/XR1gKQ
理珠 「……!?」 ハッ 「ちょっ、待ってください! お父さん……――」

親父さん 「――いやいや、リズたまから聞いてるんだよ。リズたまったら嬉しそうにさー」


―――― 理珠 『そうそう。関城さんも合格したんですよ。同じ大学です!』

―――― 理珠 『友人がひとりもいないかもと不安でしたが……』

―――― 理珠 『関城さんがいてくれて良かったです。春からが本当に楽しみです!』


親父さん 「なんて言っててさ……」 シミジミ

理珠 「っ……///」

紗和子 「お、緒方理珠が、そんなことを……///」

親父さん 「いや、ほんと、リズたまの友達でいてくれてありがとうな、紗和子ちゃん」

親父さん 「これからもリズたまのことをよろしくな」

紗和子 「は、はい! 任されました! 緒方理珠のキャンパスライフは私が守ります!」

親父さん 「うんうん。これで俺も安心だ」

674以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:09:40 ID:8/XR1gKQ
親父さん 「……ってことで、俺はこれで失礼――」

――――ガシッ

理珠 「……お父さん」

親父さん 「ひっ!? リズたま……? 腕を掴んでくれるのは嬉しいが、ちょっと痛……」

ギリギリギリ……!!!!!

親父さん 「痛っ!? めちゃくちゃ痛い!?」

理珠 「うどんの打ち過ぎもそうですが、私の話を勝手に関城さんにして……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 「許せません。お母さんに一度怒られてください」

ズルズルズル……

親父さん 「いや、ちょっと、リズたま!? せっかくママにはバレないと思ったのに!?」

親父さん 「あ〜〜〜〜…………」 ズルズルズル……

真冬 「………………」 ポカーン 「……なんというか、すごいお父様ね」

紗和子 「………………」 ポーーー…… 「……緒方理珠が、私に、いてくれて良かったって……」

紗和子 「……えへへ」

675以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:10:14 ID:8/XR1gKQ
真冬 「………………」

フッ

真冬 「……良かったわね、関城さん」

紗和子 「……はい。あの、先生」

真冬 「? 何かしら?」

紗和子 「……ありがとうございます」

紗和子 「先生のおかげで、緒方理珠ときちんとお話することができました」

紗和子 「本当にありがとうございました」

真冬 「……ええ。どういたしまして」

理珠 「……まったくもう。お父さんは」 プンプン

紗和子 「あっ、お帰りなさい、緒方理珠。お父様は?」

理珠 「お母さんに預けてきました。今頃お説教されていると思います」

676以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:11:19 ID:8/XR1gKQ
理珠 「ところで、関城さん、先生」

理珠 「実は、うるかさんと文乃と、泊まりで卒業旅行に行こうという話をしていまして……」

真冬 「あら、そうなの」

真冬 (……まぁ、教師としては、生徒の外泊はあまり推奨できないけれど)

真冬 (卒業旅行くらいで野暮なことは言えないわね)

理珠 「それでですね、もしよかったら、お二人も一緒に行きませんか?」

真冬 「……は?」

紗和子 「へ……? わ、私も?」

紗和子 「私も誘ってくれるの……?」

理珠 「? もちろん、嫌なら無理にとは言わないですが……」

紗和子 「い、いいい嫌なわけないわ! 行く! 絶対行くわ!」

紗和子 「高熱が出ても何があっても絶対に行くわ!」

理珠 「いや、高熱が出たら来ないでください」

紗和子 「……卒業旅行。緒方理珠と、卒業旅行。友達と……卒業旅行……えへへ」

真冬 「……えっと、緒方さん?」

677以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:11:56 ID:8/XR1gKQ
理珠 「? はい?」

真冬 「聞き間違いかしら? 私も……?」

理珠 「はい! さっき文乃と話したんです! 先生も一緒だったら、きっと楽しいですねって」

真冬 「っ……///」

理珠 「だから先生も、もしお嫌でないなら、一緒に行きませんか?」

真冬 「い……嫌、とかではない、けれど……」

真冬 (い、いいのかしら? 生徒たちの卒業旅行に、教員がついていくなんて……)

真冬 (さすがに言い逃れできない気がするけれど……でも……)


---- 『自分の気持ちに素直にな』


真冬 (……行きたい、と。私は、思ってしまっているのね)

真冬 「……学園長に、相談するわ」

真冬 「その上で、“引率” として許されるのであれば……」

真冬 「……私も、ご一緒してもいいかしら?」

理珠 「……!」 パァアアアアアア……!!! 「はい! ぜひ!」

678以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:12:48 ID:8/XR1gKQ
………………

紗和子 「それで、旅行の行き先はどこなの、緒方理珠?」

理珠 「あまり詳しくは決まっていないのですが、うるかさんと文乃はスキーがしたいと言っていました」

真冬 「ん……スキー? それなら、もしかしたら親戚のペンションを紹介できるかもしれないわ」

キャッキャ……

紗和子 「スキーなんて久しぶりだから楽しみね!」

理珠 「関城さんは本当に何でもできるんですね。すごいです」

紗和子 「ふ、ふふ」 ニヤァ 「……手取り足取り教えてあげるわ、緒方理珠」

理珠 「……なんか怖いので別の人に教わります」

紗和子 「なぜ!?」 ガーーーン

真冬 「………………」 クスッ (……よかった)

真冬 「……ねぇ、関城さん」 クスッ 「楽しみね、卒業旅行」

紗和子 「ん……」

紗和子 「……はい! 本当に楽しみです、桐須先生!」

おわり

679以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:13:40 ID:8/XR1gKQ
………………幕間1 『高熱』

紗和子 「ごほっ……げほっ……ごほっ……」

関城母 「あー……。まだ熱高いですね、紗和子さん」

関城母 「ゆっくり休んで早く治しましょうね」

紗和子 「うぅ……」

紗和子 「私も卒業旅行行ぎだがっだーーーーー!!!」

680以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:14:28 ID:8/XR1gKQ
………………幕間2 『お土産』 卒業旅行中 水族館

理珠 「むむむむ……」

真冬 「……? どうしたの、緒方さん。すごい顔ね」

理珠 「あ、先生。ちょっと関城さんへのお土産で悩んでいて……」

理珠 「関城さんはしましま模様が好きなので、しましまのぬいぐるみを買おうと思うのですが……」

理珠 「このキンチャクダイぬいぐるみとニシキアナゴぬいぐるみ、どちらがいいと思いますか!?」 バーーーン!!!

真冬 「そ、そうね、どっちがいいかしらね……」

理珠 「むむむむむ……」 ポン 「決めました。悩ましいですが、こちらのニシキアナゴにします!」

真冬 「そう。あの子はボーダーが好きなのね」 クスッ 「じゃあ、私はこのキンチャクダイにするわ」

理珠 「へ……?」

真冬 「……関城さん、卒業旅行すごく楽しみにしていたものね」

真冬 「せめてお土産だけでも渡して、喜んでもらいましょう、緒方さん」

理珠 「んっ……」 ニコッ 「そうですね、桐須先生!」

おわり

681以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/23(木) 23:15:42 ID:8/XR1gKQ
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

682以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/24(金) 21:18:11 ID:A4ZqtiGY
おつ

683以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/26(日) 13:17:31 ID:S8lTMXwY
関城ママ導入はやいうまい嬉しい
イッチは単行本組から本誌組になったのかな

684以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/10(水) 05:27:57 ID:5oDpqj/k
乙でした!
久しぶりに覗きにきたら新作上がってて大歓迎です!

685以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:24:31 ID:XrL0W91.
>>1です。
長く間隔を開けてしまいました。
もし待っていてくださった方がいましたら申し訳ありません。
投下します。

眠り姫編の途中くらいからスタートです。


【ぼく勉】 水希 「お料理を教えてほしい?」

686以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:25:05 ID:XrL0W91.
………………“文学の森の眠り姫” 編中 唯我家

水希 「どうしたの、お兄ちゃん。急にお料理だなんて……」

水希 「本試験だって間近なのに……」

成幸 「いやな、ほら、古橋が俺をかばったせいでけがをしただろ?」

水希 「? うん、それは知ってるけど……」

成幸 「それで、俺が今身の回りのお世話をしに行ってるだろ?」

水希 「………………」

水希 「……ウン、ソウダネ」

成幸 (……今の間はなんだ?)

成幸 「それで、料理を作ったりもするだんだけどさ、あんまりうまく作れなくて……」

成幸 「だから、水希に料理を習って美味しいものが作れるようになったら、古橋もよろこんでくれるかな……って」

水希 「………………」

成幸 「だ、大丈夫か、水希。なんかすごい顔してるけど……」

687以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:25:51 ID:XrL0W91.
水希 (ふ、古橋さんめ……) ゴゴゴゴゴゴ……!!!

水希 (お兄ちゃんに身の回りのお世話をしてもらっているにとどまらず、手料理まで作ってもらってるなんて……!!)

水希 (古橋さんめ……!!)

成幸 「水希……? ダメ、かな?」

水希 (……でも、古橋さんは、お兄ちゃんのことを助けてくれたんだよね)

水希 (もし古橋さんが助けてくれなかったら、お兄ちゃんが落ちて、大けがしてたかもしれないし……)

水希 (……何よりお兄ちゃんに上目遣いでお願いされたら断れるわけないでしょー!!)

水希 「……いいよ」 ハァ 「お料理、教えてあげる」

成幸 「!? 本当か!?」 パァァァアアアア!!! 「ありがとう、水希!!」

水希 (……本当に嬉しそうな顔。よっぽど古橋さんに美味しいものを食べさせてあげたいのかな)

ズキッ

水希 (……ふんだ。べつに、お兄ちゃんは古橋さんに恩返ししているだけだもんね)

水希 (だからべつに、特別なことなんてないんだから……!)

688以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:27:16 ID:XrL0W91.
………………

成幸 「………………」

トン……トン……トン……

成幸 「……よし」

成幸 (自分で言うのもなんだが、食材はきれいに切れたぞ。最近古橋の家でごはんを作ってた成果だな)

水希 「………………」 ジーーーーーッ

水希 「……お兄ちゃん。ちゃんと切れてはいるけど、こうした方がもっといいかな」

スッ……トントントン……

水希 「お野菜とお肉に火を通す場合は、同じくらいの大きさにそろえた方がいいんだよ」

水希 「じゃないと、火の通り具合がまちまちになっちゃうでしょ?」

成幸 「ああ、なるほど。合理的だな……」

成幸 「食材を切るときは大きさをそろえる……と」 メモメモ

水希 (お兄ちゃんったら、メモまでとっちゃってマジメだなぁ)

水希 (……かっこいいなぁ) キュンキュン

成幸 「えーっと、たしか、煮込むまえに炒めるんだよな……」 スッ……

689以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:28:02 ID:XrL0W91.
水希 「お兄ちゃん、炒める順番を考えてね」

成幸 「ああ、肉とか固い野菜からだろ」

成幸 「だから、肉とにんじんとじゃがいもを先に……」

水希 「だーめ。じゃがいもはたしかに固いけど、火が通るとすぐ崩れちゃうんだから」

水希 「じゃがいもは最後だよ、お兄ちゃん」

成幸 「あ、そうか。そういえば古橋とふたりでカレー作ったときもそうだったような……」

水希 「む……」 (また古橋さん……) モヤモヤ

水希 「あとは、たまねぎだけ先に炒めて飴色にする場合もあるけど、今日はいいかな」

成幸 「ああ、メイラード反応の代表例だな」

成幸 「ちなみにあまり知られていないけど肉を焼いたとき色が変わるのも実はメイラード反応なんだぞ」

水希 「お兄ちゃん、お料理は得意じゃないのにそういうことは詳しいんだよね……」

水希 (まぁ、そういうところがかっこいいんだけど……えへへ)

水希 「さ、じゃあ炒めて、お兄ちゃん」

成幸 「おう!」

690以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:28:39 ID:XrL0W91.
成幸 「………………」

ジューーーー……

水希 「………………」 (……真剣な顔してお料理するお兄ちゃん、かっこいいなぁ)

成幸 「……のわっ! たまねぎがとんだ!」 アタフタアタフタ

水希 (慌てふためくお兄ちゃんもかっこいいし……)

成幸 「なぁ、水希、そろそろ水を入れたらいいかな?」

水希 (わたしに指示を求めるお兄ちゃんもかっこいい……)

水希 「うん。じゃあそろそろお水入れようか。こぼれないようにゆっくりね」

成幸 「ああ」

水希 「………………」

水希 (古橋さんは、毎日こんなお兄ちゃんを見てるんだよね)


―――― 『だから、水希に料理を習って美味しいものが作れるようになったら、古橋もよろこんでくれるかな……って』


水希 (……そしてきっと、たぶん)

水希 (これからもずっと、見ることになるんだろうな……)

691以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:29:39 ID:XrL0W91.
………………

葉月&和樹 「「うまーーーーーーーー!!!!」」

ガツガツガツガツ

水希 「ほら、葉月も和樹も、そんなに急いで食べないの」

成幸 「うんうん……」 モグモグモグ

成幸 「我ながら美味しくできたな」

水希 「うん、とっても美味しいよ、お兄ちゃん。すごいよ」

成幸 「まぁ、カレーはまえに一度作ってるからな……」

成幸 (……というか、市販のカレールーを使って、レシピ通りに作って美味しくできない方がおかしいんだよな)

水希 「じゃあ次は、もう少し難しいお料理にチャレンジしてみようか」

成幸 「ああ! よろしくな、水希!」

692以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:31:01 ID:XrL0W91.
………………数日後

成幸 「最近、古橋だけでなく親父さんも、俺の料理を美味しいって言いながら食べてくれるんだよ」

ニコニコニコ

水希 (お兄ちゃん、嬉しそうだなぁ……かわいいなぁ)

成幸 「この前作ったハムチーズサンドも古橋がすごく喜んでくれたんだ」

成幸 「あと特製スムージーも美味しいって……」

成幸 「ああ、あとな……」

ペラペラペラ……

水希 「………………」

水希 (……それはそれとして、最近古橋さんの話ばっかりだ)

成幸 「あ、そろそろ古橋の家に行く時間だ! じゃ、行ってきます!」

ビュン!!

水希 「あ、いってらっしゃい……って、もう行っちゃった」

水希 (学校お休みになったら、家にいる時間増えるかなって思ったけど)

水希 (……最近ずっと古橋さん家に行ってばっかり) ハァ 「……買い物でも行こ」

693以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:31:41 ID:XrL0W91.
………………買い物帰り

水希 (お兄ちゃん、今日も夕食は古橋さん家で食べるんだろうな)

水希 (古橋さんは、毎日お兄ちゃんと一緒にご飯食べてるんだよね)

水希 「………………」

水希 「……いいなぁ」

ハッ

水希 「!?」 (い、いけない。古橋さんがけがをしたのは、お兄ちゃんをかばったからなのに……)

水希 (“いいなぁ” なんて、そんなこと思っちゃだめだよね……)

水希 「………………」

水希 「……わたし――」


  「――本当に歩いて大丈夫か、古橋。けがに響かないか?」

 「大丈夫だってば。少しは動かないと逆に体に悪いって言われてるし」


水希 「!?」 (この声って……) サササッ

694以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:32:11 ID:XrL0W91.
成幸 「でも、まだあんまり歩きすぎない方が……」

文乃 「いやいや、近所のスーパー行くだけでしょ……」

文乃 「何度も言うけど、成幸くんは過保護すぎだよ」

成幸 「そうは言ってもな……」

水希 (やっぱりお兄ちゃんと古橋さんだー!!) コソッ

水希 (……って、何でわたし隠れてるんだろ)

成幸 「痛かったら言えよ? いつでもおぶるからな?」

文乃 「もーっ! だから大丈夫だって……とっ」

コケッ

成幸 「古橋!」

ギュッ……グイッ

文乃 「あっ……///」

成幸 「大丈夫か、古橋」

文乃 「ご、ごめん。ちょっと松葉杖引っかかっちゃって……」

文乃 「……ありがとう、成幸くん」

695以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:32:59 ID:XrL0W91.
成幸 「歩けるか?」

文乃 「うん。大丈夫」

成幸 「気をつけろよ。早く治さなくちゃ本試験にも響くからな」

文乃 「そうだね。気をつけるよ」

水希 「………………」

水希 (……うん。そう。わかってるんだ、わたし)

水希 (あのふたりがとってもお似合いのカップルだって)

水希 (……わかってる。わかってるんだよ)

水希 (でも、だからこんなに、悔しいんだよ……)

水希 「……わたし」

水希 「わたしだって……!」

水希 (もしお兄ちゃんが階段から落ちそうになったとき、そばにいたのがわたしだったら)

水希 (わたしだって絶対、古橋さんと同じことをしたのに……)

水希 「………………」

水希 (ああ、最低だ、わたし……)

696以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:33:45 ID:XrL0W91.
文乃 「今日の晩ご飯は何にするの?」

成幸 「何が食べたい? ……って聞いても、そんなにレパートリーはないけどな」

文乃 「ふふ。成幸くんが作ってくれるお料理、全部美味しいから悩んじゃうな」

成幸 「全部水希に教わった料理だけどな」

水希 (だめ、これ以上考えちゃ……)

水希 (だめなのに……)

水希 「………………」

水希 (もし、そのとき、お兄ちゃんのそばにいたのが、古橋さんじゃなくてわたしだったら)

水希 (……いま、お兄ちゃんの隣にいたのは、古橋さんじゃなくて、わたしだったのに)

水希 (わたしだったのに……!)

水希 「……る……い」


水希 「……ずるいよ、古橋さん」


水希 「………………」

水希 (……ああ) フルフル (本当に、わたし、最低だ)

697以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:34:29 ID:XrL0W91.
水希 (古橋さんはお兄ちゃんを助けてくれたのに)

水希 (そんな古橋さんに、わたし、“ずるい” なんて思ってる……)

水希 (わたし、なんて嫌な子なんだろう……――)


  「――――そうだよ! 水希ちゃん、すっごく良い子なんだから!!」


水希 「へ……?」

成幸 「わ、わかってるよ。水希は俺にはもったいないくらい良い妹だよ」

文乃 「もーっ! だからそれを声に出してちゃんと伝えてるの? って言ってるの」

成幸 「それは……」

成幸 「……あんまり、してないかも」

文乃 「でしょ? だから言ってるの」

成幸 「……すまん」

文乃 「わたしに謝っても仕方ないでしょ。ちゃんと水希ちゃんに……」

文乃 「……って、君にいつもお世話してもらってるわたしが、あんまり偉そうに言えることじゃないね。いつもありがとね、成幸くん」

成幸 「いや、それは全然、そもそも俺のせいだし……」

698以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:36:03 ID:XrL0W91.
文乃 「あっ、そうだ!」

文乃 「ねえ、わたしの足が治って、受験も終わったらさ、ふたりでお料理を作らない?」

成幸 「えっ……」 ドキッ 「ふ、ふたりで?」

文乃 「うん! それで、水希ちゃんに食べてもらうの」

文乃 「わたしは、成幸くん経由でいつも美味しいごはんをありがとう、って」

文乃 「成幸くんは、日頃の感謝を全部こめたらいいよ」

成幸 「ああ、それいいな」

成幸 「……夏にカレーを作ったときを思い出すな」

文乃 「そうだね。でも、今度は逆だよ、成幸くん」

文乃 「あのときはなんとかがんばって君にお料理を教えられたけど、」

文乃 「……今度は君が、わたしに教えてね、成幸くん」

成幸 「……ああ、任せとけ」

グッ

成幸 「なんてったって、俺は最高の妹から最高の料理を教えてもらってるからな」

文乃 「うん! ふたりで、水希ちゃんに美味しいお料理作ってあげようね!」

699以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:36:39 ID:XrL0W91.
水希 「………………」

水希 「……そっか」

水希 (うん、そうだ。わたし、悔しいんだ)

水希 (古橋さんにお兄ちゃんを取られちゃったみたいで、悔しいんだ。でも、それと同じくらい、思ってる……)



水希 (……今、お兄ちゃんの隣にいるのが、古橋さんでよかった、って)



水希 (……美味しいお料理、か)

クスッ

水希 (上等ですよ、古橋さん。せいぜいがんばって作ってください)

水希 (中途半端なものだったら、お兄ちゃんは絶対に渡しませんからね!)

おわり

700以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:37:28 ID:XrL0W91.
………………幕間1 眠り姫編エピローグ後『鏡に向かって』

水希 「………………」

ドキドキドキドキドキ…………

水希 (べ、べつに大した意味があることじゃないけど)

水希 (ただ、ちょっと試してみるってだけのことだけど……)

水希 「………………」

水希 「ふっ……文乃お姉ちゃん……///」

カァァァアアアアア………………

水希 「や、やっぱなし! こんな呼び方……///」 ハッ

文乃 「………………」

水希 「ふ、古橋さん!? いつから!?」

文乃 「……えっと、ごめん。水希ちゃんが鏡に向かって何かブツブツ言ってるから、心配になって……///」

文乃 「あー……」 オホン 「ふ、文乃お姉ちゃんだよー? なんちゃって……///」

水希 「あ゛ーーーーーーーー!!! 忘れて! 忘れてくださいー!!」

701以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:38:10 ID:XrL0W91.
………………幕間2 『お姉ちゃん記念日』

文乃 「成幸くん成幸くん!!」

成幸 「な、なんだ、文乃。そんなに息を切らして……」

文乃 「今日をお姉ちゃん記念日にするよ!」

成幸 「……は?」

文乃 「だから、今日をお姉ちゃん記念日にするって言ってるの! お姉ちゃん記念日!」

成幸 「えっと……」

水希 「あ゛ーーーー!!! 何でお兄ちゃんに言うんですかー! もーーーっ!!」

成幸 「水希までどうした!?」

文乃 「えへへ……/// “文乃お姉ちゃん” かぁ……///」

水希 「もーっ!! だから忘れてくださいってば!!!」

成幸 (まぁ、よくわからんが……)

成幸 (こうしてみると、本当に仲良し姉妹みたいだな) クスッ

おわり

702以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 00:38:48 ID:XrL0W91.
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
また投下します。

703以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 02:31:01 ID:Mjcjmj9E
新作感謝です!
やはり水文はいいなぁ

704以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 03:32:38 ID:f.2oOeYQ
おつ!

705以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/05(水) 09:14:12 ID:9VrKvByM
あなたの作品が大好きです。
これからも頑張ってください!

706以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/06(木) 18:52:38 ID:/CR7VUKw
おつんこ
文系ルートほんとすこ

707以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/09(日) 02:43:32 ID:OoFNWP3g
来てるやん乙
19巻の発売が待ち遠しい…

708以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:52:46 ID:9adJZdO2
>>1です。
普段と環境が違うので文字化け等あるかもしれません。
投下します。
誰のルートでもないIfルートの話だと思っていただければと思います。

【ぼく勉】 成幸 「そういえば、先輩」 あすみ 「ん?」

709以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:53:34 ID:9adJZdO2
………………受験後

成幸 「この前、先輩のお父さん、言ってましたよね」

あすみ 「? 言ってたって、何だよ」

成幸 「いや、ほら……」


―――― 『言ってる通り 人生医者が全てじゃあない ……が まぁ やるだけやってみなさい』


成幸 「……って」

あすみ 「ん、ああ。そういやそんなこと言ってたな」

あすみ 「……けどそれがどうかしたのか?」

成幸 「いや、だって考えてみてくださいよ」

成幸 「あれってつまり、お父さんが先輩の夢を認めてくれたってことでしょう?」

あすみ 「……あー、まぁ、そういうことになるのか」

あすみ 「………………」

あすみ (……改めて言われるとハズいな)

710以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:54:51 ID:9adJZdO2
成幸 「それに、そもそももう受験も終わったわけじゃないですか」

あすみ 「まぁ、そうだな。おかげさまで無事国立医学部に入れたな」

成幸 「ということはですよ?」

あすみ 「ん?」

成幸 「もう、俺と先輩は、恋人のフリをする必要はないのでは……?」

あすみ 「へ……?」

あすみ 「………………」

あすみ 「……へぇ!? 何でそうなるんだ!?」

711以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:55:37 ID:9adJZdO2
成幸 「いや、だってそうですよね。そもそも俺が先輩の彼氏のフリを始めたのって……」


―――― 『な……なんか お前に免じて もうしばらく様子見てくれるってよ……』


成幸 「お父さんに医学部受験を認めてもらうためですよね。なら……」

成幸 「もうお父さんが先輩の夢を認めてくれていて、なおかつ先輩も無事医学部に合格できた今……」

成幸 「そこに俺が介在する必要はないのでは?」

あすみ 「……あ、えっと、いや、まぁ……」

フラフラフラ……

あすみ 「……そりゃ、そうっちゃ、そうかもしれんけど、な?」

成幸 「……?」 (先輩どうしたんだろ。なんか目ぐるぐる回ってるし、急に足下もおぼつかなくなったぞ……)

712以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:56:39 ID:9adJZdO2
あすみ 「い、いや、でもな。ほら、実はウソでしたー! なんてやったら、親父の奴烈火の如く怒るぞ、きっと」

成幸 「それはそうでしょうけど、仕方ないんじゃないですか? ウソをついたのは事実なわけですし」

成幸 「いつまでもウソをついているのも気が引けるので、こうなった以上、ちゃんと謝りましょう」

あすみ 「……あー、うん。まぁ、そうだな」

あすみ 「………………」

あすみ 「いや、でも、もう少しだけ、この恋人のフリ、続けちゃダメか?」

成幸 「へ? 何でですか?」

あすみ (……このヤロウ。本当に疑問しかないような顔しやがって)

あすみ 「いやー、親父はお前のこと相当気に入っちゃってるからさー」

あすみ 「今ウソでした、なんて言ったら、怒るどころかヘコんじまうと思うんだよな」

あすみ 「……きっと来年度から、診療所の土日営業もできないくらいに」

成幸 「へぇ!? それは大変だ。なら……」

あすみ 「お、おう。だから……――」

成幸 「――……なおのこと、早く、ウソだって告白しないとですね!」

あすみ 「何でそうなる!?」

713以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:57:37 ID:9adJZdO2
成幸 「へ? だってそうでしょう? 今の段階でそんなにショックを受けるんだったら、」

成幸 「できるだけ早く早くウソを告白して、ショックから立ち直ってもらって、来年度もちゃんと診療所をやってもらわないと!」

あすみ 「……あー、うん。そうだな。そうだよな。お前はそういう奴だよな」

成幸 「? 先輩?」

あすみ 「いや、でも、ほら、愛憎ってのは表裏一体だからな。親父はお前のことを気に入ってはいるが……」

あすみ 「アタシがお前と結婚するって思い込んでるくらいだから、それがウソだって分かったら……」

あすみ 「……アタシとお前を八つ裂きにするくらいには、怒るかもなぁ」

成幸 (さっきから怒るって言ったりヘコむって言ったり、どっちなんだろう……)

成幸 「それくらいは覚悟の上です。大切なお嬢さんについて騙していたも同然なんですから」

成幸 「誠心誠意謝ります。その上で、殴られることもやむなし、と……」

あすみ 「……い、いやいや!? さすがに親父も巻き込まれただけのお前を殴ったりはしないと思うぞ!?」

成幸 「……?」 (八つ裂きにするかもとか言ってたのに……)

714以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 20:58:08 ID:9adJZdO2
成幸 「……先輩」

あすみ 「な、なんだよ」

成幸 「さっきからちょっと様子が変ですよ? 言ってることも支離滅裂だし、どうかしたんですか?」

成幸 「そんなにお父さんに怒られるのが怖いんですか?」

あすみ 「いや、そんなことはねーけど……」

あすみ 「………………」

あすみ 「……なぁ、後輩」

成幸 「はい?」

あすみ 「お前は、そんなに嫌かよ。アタシと、恋人のフリするの……」

成幸 「へ?」

カァアアアア……

成幸 「い、いえ、嫌とか、そういうわけではないですけど……」

あすみ 「……じゃあ、いいじゃねーか」

あすみ 「いつか、親父にはウソだって言うよ。でも、今じゃなくてもいいだろ?」

あすみ 「……この関係、もう少し続けちゃ、ダメか?」

715以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:00:02 ID:9adJZdO2
成幸 「………………」

フルフル

成幸 「……いえ、やっぱりダメです」

あすみ 「!? な、なんでだよ……」

成幸 「これ以上ウソをつき続けるわけにはいきませんし、何よりこのままじゃ……」

成幸 「………………」

あすみ 「…… “このままじゃ" なんだよ」

成幸 「……いえ、なんでもないです。とにかく、早く親父さんに謝りに行きましょう」

あすみ 「っ……」

あすみ 「そ、そうかよ! わかったよ! そうするよ!」

あすみ (“このままじゃ” ……)

ハッ

あすみ (“このままじゃ、好きな相手と付き合うこともできない” とかか……?)

あすみ 「っ……」 ズキッ (……んだよ、後輩の野郎)

716以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:01:37 ID:9adJZdO2
………………小美浪家

宗二朗 「………………」

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

宗二朗 (娘とその恋人が神妙な顔をして尋ねてきて、“大事な話がある” ときたものだ……) ドキドキドキドキ……

宗二朗 (こ、これは期待してもいいのだろうか……)


―――― 成幸 『お父さん、娘さんを僕にください!!』

―――― あすみ 『親父! アタシたちは本気だ! 頼む!』


宗二朗 (こんな感じの展開をパパ期待しちゃってもいいのかしら!? いや、それとも……)


―――― 成幸 『じ、実は、娘さんのお腹の中には僕の子どもが……』

―――― あすみ 『無責任なことをするつもりはねぇ! アタシはこいつとこの子を育てる!』

―――― 成幸 『だから娘さんを僕にください!』


宗二朗 (こんな感じのを期待しちゃってもいいのかーーー!?)

717以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:02:32 ID:9adJZdO2
宗二朗 「………………」 ポワポワポワ……

かすみ 「……は〜、宗二朗ちゃんったらなんか別世界に行っちゃったみたい」

かすみ 「それで? お話って一体なぁに? なんか深刻そうだけど」

あすみ 「あ、ああ、実は……――」

成幸 「――……いや、先輩。俺から話しますよ」

あすみ 「後輩、でも……」

成幸 「……まず最初に、謝らせてください。先輩のお父さん、お母さん、本当に申し訳ありませんでした」

かすみ 「……? 謝られるようなことをされた憶えはないんだけどなぁ」

成幸 「ずっとウソをついてきました。先輩とのことです。俺は……」

成幸 「……俺と先輩は、恋人同士ではありません」

かすみ 「……へ?」

718以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:03:35 ID:9adJZdO2
かすみ 「……あー、うん。まぁ、知ってたけど」

あすみ 「まぁ、お袋はそうだよな。それはそうなんだけど……」

宗二朗 「………………」

あすみ 「問題はこっちだよな。おい、親父、なんとか言ったら……って」

宗二朗 「………………」 プスプスプスプス……

あすみ 「……死んでる?」

かすみ 「縁起でもないこと言わないで、あすみちゃん。生きてるから」

かすみ 「ただ、あー、これは……」

宗二朗 「……アレ ココハドコ? ワタシハ ダレ?」

かすみ 「元に戻るのに一時間はかかるかな〜?」

719以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:04:26 ID:9adJZdO2
………………一時間後

成幸 「――……と、いうわけなんです」

かすみ 「は〜、なるほどねぇ。あすみちゃんの方から唯我君に頼んで、恋人役をやってもらってたとー」

かすみ 「まぁ、ママはそんなところじゃないかなー、って踏んでたけどね!」 エッヘン

宗二朗 「………………」

成幸 「あの、お父さん、ご存知であったとはいえ、お母さんも、騙すようなことをして本当にすみませんでした」

あすみ 「いや、アタシが無理言ってやってもらってたんだから、お前は悪くねぇだろ」

あすみ 「……謝るとしたら、アタシだ。本当に悪かったよ、親父」

かすみ 「? あれ、あすみちゃん。私はー?」

あすみ 「あんた最初っから気づいてただろ!!」

かすみ 「てへっ☆」

宗二朗 「………………」

あすみ 「……いや、っていうか、親父もなんか言えよ。さすがにずっと黙ってると怖いんだが」

宗二朗 「………………」 ボソッ 「……成幸君」

成幸 「! は、はいっ!」

720以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:05:20 ID:9adJZdO2
成幸 「あ、あの、本当に申し訳ありませんでした! 大切な娘さんのことで、ウソをつくようなことをして!」

成幸 「あの、だから、その……」

宗二朗 「……謝らないでくれ、成幸君。娘が迷惑をかけてしまってすまなかった」

成幸 「!? あ、頭を上げてください! お父さんが謝るようなことを何も……!」

宗二朗 「……ふふ。まだ私を “お父さん” と呼んでくれるか」

成幸 「あっ……す、すみません」

宗二朗 「……構わんよ。いや、本当に楽しかった。君とあすみの将来を考えるのも、君と将来酒を汲み交わす想像をするのも」

宗二朗 「……本当に楽しかった」

あすみ (……アタシが言うことじゃねぇけどこの親父重いな)

宗二朗 「よくよく考えてみれば、うちのじゃじゃ馬娘が君のような好青年を捕まえられようはずもない」

成幸 「いや、そんな……」

宗二朗 「ほんの一時だけでも夢を見させてくれてありがとう。本当にすまなかった」

成幸 「………………」

スッ

成幸 「……こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした」

721以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:06:31 ID:9adJZdO2
成幸 「……では、先輩」

あすみ 「ん」

成幸 「これで本当に、ニセモノの関係はおしまいですね」

あすみ 「………………」

あすみ 「……ああ」

あすみ 「なんか悪かったな、今まで」

あすみ 「親父を騙すために恋人のフリなんて頼み込んで、色々なところに連れ出して……」


―――― 『小妖精メイドあしゅみぃちゃんのビキニ姿が拝める幸せ者なんて そうそういねーぞ?』


あすみ 「お前に勉強を教わるだけに留まらず、勉強の邪魔みたいなこともして……」


―――― 『親父へのダメ押しに もう1枚♪』


あすみ 「本当に……」

722以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:07:16 ID:9adJZdO2
あすみ (……ああ、そうか)


―――― 『この診療所がなくなったって…… 世界も夢も終わりません!』

―――― 『先輩は必ず立派な医者になるんですっ!!』

―――― 『場所なんかどこだって 先輩がいればそこが新しい小美浪診療所になるんですッッ!!』


あすみ (アタシ、本当に……)


―――― 『な? 冗談冗談♪』


あすみ (本当に、こいつのことが……)

あすみ 「………………」

あすみ 「……本当に、ずっと悪いコトしたな。後輩。すまん」

ポロ……

あすみ 「あ、あれ? なんで、目、潤んで……」

ポロポロポロ……

あすみ 「なんで、涙なんか……」

723以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:08:00 ID:9adJZdO2
かすみ 「あすみちゃん……」

成幸 「………………」

成幸 「……先輩、ハンカチどうぞ」

あすみ 「っ……や、やめろよ。アタシとお前は、もうべつに、ニセモノの恋人とかじゃない……」

あすみ 「……ただの、先輩後輩なんだから。だから……」

あすみ 「……もう、やめろよ。そうやって優しくするなよ」

あすみ 「そういうこと、されると……っ」

あすみ (また……)

あすみ (また、お前と、そういう関係に……)

成幸 「………………」

成幸 「……俺たちの関係はこれで終わって、ただの先輩後輩。そうですね」

成幸 「では、その上で改めて、先輩にひとつお願いがあります」

あすみ 「お願い……? なんだよ」

成幸 「先輩」


成幸 「改めて、お願いします。俺と、ホンモノの恋人になってもらえませんか?」

724以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:09:54 ID:9adJZdO2
あすみ 「………………」

ボッ

あすみ 「……へ?」

成幸 「先輩のことが好きです。先輩のホンモノの彼氏になりたいです」

あすみ 「へ? へ?」

成幸 「だから俺とお付き合いしていただけませんか?」

あすみ 「へ? へ? へ?」

かすみ 「あらぁ♪ 唯我君ったら意外と情熱的♪」

あすみ 「ふぇ……」

あすみ 「ふぇぇえええええええええ!?」

あすみ 「こっ、このタイミングで、何言ってんだ、お前!」

あすみ 「じ、冗談なら笑えねーぞ!!」

成幸 「………………」

ギュッ

あすみ 「ふぇっ!?」 (手、手……ぎゅって……手……///)

725以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:11:00 ID:9adJZdO2
成幸 「……先輩」

あすみ 「はっ、はいっ!」 ドキッ

成幸 「冗談でこんなこと言わないです。先輩じゃありませんから」


―――― 『いや? けっこーいいと思ってっけど? カワイーじゃん そいつ』

―――― 『ま ウソだけど』


あすみ 「そ、その節は、本当になんというか、申し訳なかったというか……」

グイッ

あすみ 「ひゃっ!?」

成幸 「……先輩」

あすみ (ち、近い近い近い……!?)

成幸 「先輩のことが好きです」

成幸 「先輩のまっすぐなところとか、一生懸命なところとか、気遣ってくれるところとか……」

成幸 「あと、お客さんに分け隔てなく接するところとか、仕事に対するプロ意識とか……あと……」

あすみ 「もっ、もういい……/// わ、わかったから……」

726以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:12:03 ID:9adJZdO2
かすみ (……唯我君ってこういうとき積極的なのね。意外だなー♪)

成幸 「………………」

フーーーー

成幸 「……以上、お願いでした」

あすみ 「き、急に冷静になるなよ……」

あすみ 「………………」

カァアアアア……

あすみ 「……わ、わかったよ。あ、アタシのこと、好きになっちまったんだろ」

あすみ 「仕方ねーな。ほ、本当に仕方ねーから、だけど……」

あすみ 「こっ……」

あすみ 「……こちらこそ、よろしくお願いします」

成幸 「……?」

成幸 「………………」

成幸 「ええええぇえええええええええええええええ!?」

あすみ 「!? な、なんだよ! 急に大声上げんじゃねーよ!」

727以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:12:36 ID:9adJZdO2
あすみ 「っていうかなんでお前が驚いてんだよ!」

成幸 「いや、だって……」

オロオロオロオロ……

成幸 「お、オーケーされるとは思ってなかったので……」

成幸 「いや、っていうか、先輩、本当に……?」

あすみ 「し、仕方ねーからだって言ってるだろ。仕方ねーから、お前のホンモノの彼女になってやるよ」

成幸 「……あ、いえ、そんな、義務感からだったら、申し訳ないので結構です」

ズーーーーーン

成幸 「やっぱりそうですよね。先輩みたいなエネルギッシュで何でもできちゃう美人さんと俺じゃ、釣り合わないですよね……」

あすみ 「!? い、いや、違くて……」

かすみ 「………………」

コソッ

かすみ 「……こんなときくらい、素直にならないと〜」

あすみ 「お、お袋……」

かすみ 「また後悔してさっきみたいに泣いちゃうゾ♪」

728以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:13:12 ID:9adJZdO2
あすみ 「っ……わかったよ……わかってるよ」

あすみ 「……こ、後輩。いや、その……成幸……くん」

成幸 「……?」

あすみ 「アタシも、その……」

あすみ 「……お前のこと、好き、なんだ」

あすみ 「好きなんだよ」

あすみ 「だから、その……」

あすみ 「アタシからも、頼む。お願いします」

あすみ 「アタシの彼氏になってください!」

あすみ 「フリとかニセモノじゃない、ホンモノの、恋人に、なってください!」

成幸 「……へ? あ……」

カァアアアア……

成幸 「ぜ、ぜひ……あ、よ、よろしく、お、お願いします……」

あすみ 「あ、ああ……///」

729以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:14:01 ID:9adJZdO2
成幸 「………………」

あすみ 「………………」

あすみ 「……ってことで、じゃあ、後は――いや、成幸くん、これからもよろしくな」

成幸 「はいっ! 先ぱ――じゃなくて……えっと、なんて呼んだら……?」

あすみ 「知るかよ。お前が勝手に決めたらいいだろ」

成幸 「は、はい。じゃあ……えっと……」

成幸 「“あすみさん”」

あすみ 「っ……///」

成幸 「あ、あはは。なんか恥ずかしいですね」

あすみ 「……いい」

成幸 「へ?」

あすみ 「そ、それで、いい」

成幸 「は、はい。じゃあ……あすみさん」

あすみ 「ん……」

730以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:15:13 ID:9adJZdO2
あすみ 「……っていうかお前、実の親の前で告白って、どんな罰ゲームだよ」

成幸 「あ、すみません。でも、一度関係をリセットさせないと、前に進めないと思ったので……」

あすみ 「……ん」


―――― 『これ以上ウソをつき続けるわけにはいきませんし、何よりこのままじゃ……』


あすみ (……あれは、そうか)

あすみ (“このままじゃアタシと本当の恋人になれない” ってことか……)

あすみ 「………………」

ニマァ

あすみ 「……そうか///」

かすみ (雨降って地固まる……というよりは、自分たちでホースで水を撒いて踏み固めた感じかしら)

かすみ (まぁふたりが幸せそうで何より……ん? 何か忘れてるような〜……)

宗二朗 「………………」

ノソリ

かすみ 「……あ、宗二朗ちゃん」

731以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:16:01 ID:9adJZdO2
あすみ 「!? お、親父……」

宗二朗 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「お、怒ってます……よね?」

成幸 「そりゃそうですよね。愛する一人娘と不誠実な交際をしていた男が、今さら本当にお付き合いを始めるなんて……」

成幸 「父親だったら怒って当然だと思います! 殴られても仕方ないと思っています! ですが、俺も本気です!」

成幸 「娘さんと交際させてください!」

あすみ 「お、親父! アタシからも頼むよ! ウソをついてたことは謝る!」

あすみ 「でも成幸くんは悪くねーんだ! だから、成幸くんとの交際を認めてくれ! 頼む!」

宗二朗 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「お父さん……!」

あすみ 「親父!」

宗二朗 「……何を言っているんだ、あすみ、成幸くん!」

パァアアアアアア……!!!

あすみ 「へ……?」

宗二朗 「結婚式はどこにする? チャペルか? 神前式か?」

732以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:16:34 ID:9adJZdO2
成幸 「……えっと」

宗二朗 「ウェディングドレスもいいが、白無垢も捨てがたいな」

宗二朗 「無論、成幸くんもだ! モーニングも似合うだろうな。紋付袴も捨てがたい!」

宗二朗 「うぅむ……」 ハッ 「そうだ! 両方とも着ればいいんだな!」

宗二朗 「よし、パパちょっと結婚式代奮発しちゃうぞ!」

あすみ 「……おい、親父」

宗二朗 「……と、いうことだ」

ニコッ

宗二朗 「これからもどうか、末永くうちの娘をよろしく頼むよ、成幸くん」

成幸 「は……はいっ!! こちらこそ、よろしくお願いします!」

733以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:17:36 ID:9adJZdO2
………………診療所前

あすみ 「……ったく、親父の奴」

―――― 宗二朗 『ん、もうこんな時間か。夜も遅いし送って行きなさい、あすみ』

あすみ 「娘に彼氏を送らせるか、フツー」

成幸 「あはは、親父さんらしいですね」

成幸 「まぁ、さすがに夜道をひとりで帰らせるわけにはいかないので、お見送りだけでいいですよ」

成幸 「それじゃ、先輩、また明日」

あすみ 「む……」

成幸 「……あっ、じゃなくて……」

成幸 「……また明日、あすみさん」

あすみ 「……ん。また明日、成幸くん」

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

734以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:18:32 ID:9adJZdO2
成幸 「………………」

あすみ 「………………」

あすみ (……冗談じゃ、ない)

あすみ (ウソでも、ない)

あすみ (ニセモノでもない)

あすみ (ホンモノの、恋……)

成幸 「……じゃあ……――」

あすみ 「――……ま、待った」

成幸 「……?」

あすみ 「………………」

ギュッ

成幸 「……せ、先輩……?///」

成幸 「なんで、抱きついて……」

あすみ 「察せ、バカ」

735以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:19:15 ID:9adJZdO2
あすみ 「………………」

成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

成幸 「ん……」

ギュッ

あすみ 「っ……///」

ドキドキドキドキ……

あすみ 「……なぁ、成幸くん?」

成幸 「な、なんですか?」

あすみ 「こーいうとき、どうしたらいいと思う?」

成幸 「………………」

成幸 「……目、つむってください」

あすみ 「ん……」

成幸 「………………」

あすみ 「………………」

736以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:19:59 ID:9adJZdO2
成幸 「……あすみさん」

あすみ 「成幸くん」

スッ…………

かすみ 「………………」

宗二朗 「………………」

ジーーーーーーーッ

あすみ 「……って何見てんだジジババーーーーーー!!!!」

宗二朗 「む。見つかってしまったか。かすみちゃんがもっと近づこうって言うから〜」

かすみ 「だってー、あすみちゃんの記念すべき初キス、しっかり見ておきたかったんだもーん」

成幸 「……はは、本当に愉快なご両親ですね、あすみさん」

あすみ 「ああいうのは愉快って言わねぇよ。迷惑って言うんだよ。ったく……」

あすみ 「じゃあ、また次回にお預けだな、成幸くん」

成幸 「そうですね。また今度ですね」

あすみ 「ああ、また今度……」

737以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:20:43 ID:9adJZdO2
あすみ 「………………」

あすみ (診療所がなくなることも)

あすみ (受験に失敗して、医者を諦めることも)

あすみ (もう、ない)

あすみ (そして……)

成幸 「……? どうかしましたか、あすみさん?」

あすみ (こいつと……成幸くんとの関係が、ウソで終わることも、ない)

あすみ (また今度が、何度でも……)

あすみ (これからも、ずっと……)

あすみ 「えへへ……」

成幸 「先輩?」

あすみ 「これからもよろしくな、成幸くん」

成幸 「はいっ! こちらこそよろしくお願いします、あすみさん」

おわり

738以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:21:31 ID:9adJZdO2
………………幕間 『気振り両親』

宗二朗 「かすみちゃん、できたー?」

かすみ 「うん、完ぺき♪ 宗二朗ちゃんは?」

宗二朗 「こっちもオッケーだ」

あすみ 「? 何作ってんだ? 患者さんのリストかなんかか?」

かすみ 「ちがうよー、あすみちゃん」

キャピッ

かすみ 「これは〜、あすみちゃんと成幸くんの結婚式の招待客リストだよっ」

あすみ 「……あー、うん」

ビリッビリッビリッ

宗二朗 「あ゛ーーーーー!!! 私とかすみちゃんの二時間の苦労の結晶がーーーー!!」

おわり

739以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 21:26:53 ID:9adJZdO2
>>1です。
以前から妄想していたことを、本編であすみさん編が始まったらやれないなぁと思い、書き上げました。
あまり良い二次創作ではないと思います。申し訳ないことです。
明日はとうとう明日の夜の小妖精編ですね。楽しみです。
また投下します。

740以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/10(月) 23:21:07 ID:BhceomUc
おつ
ニヤニヤさせられたぜ

741以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 14:13:23 ID:Uhv0hfU6
良かった
あすみ可愛い

742以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:32:44 ID:lMbr6Vko
>>1です。
書いていたら書き上がってしまったので投下します。
どのルートにも分岐していない12月28日以降の話だと思います。
投下します。

【ぼく勉】 美春 「彼は教え子につき……?」

743以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:33:21 ID:lMbr6Vko
………………真冬の家

美春 「感謝感激。急にお邪魔したのにもてなしてもらってすみません、姉さま」

真冬 「そう思うなら来るときは事前に連絡をちょうだい」

真冬 (危なかったわ。昨日唯我くんが偶然家に来て掃除をしてくれていて助かったわ)

真冬 「まったく、もう大学生なのにあなたは変わらないわね」

美春 「えへへ、そう言われると照れてしまいます」

真冬 「褒めてはいないのだけれど」

ハァ

真冬 「そういえば職場でいただいたお菓子があったわね。持ってくるわ」

美春 「わぁ、嬉しいです! ありがとうございます、姉さま」

美春 (ふふ、姉さまのおうちは、いつ来てもきれいで落ち着きます)

美春 (さすがは姉さまですね)

美春 (例の一件以来、ずっと布がかぶせてあったトロフィーの棚も出しているし……)

美春 (何より、今の姉さまは本当に楽しそう。笑顔も増えました)

美春 (……認めたくはありませんが、これも全て、唯我成幸さんのおかげ、ですね)

744以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:34:21 ID:lMbr6Vko
美春 「………………」

美春 (ま、まぁ、だからといっておふたりの交際を認めるわけにはいきませんけど)

美春 (姉さまは教師。唯我成幸さんは生徒。おふたりは決してそういう仲になってはいけない関係です)

美春 (けれど、燃え上がったおふたりの恋は、阻むものが多ければ多いほど燃え上がるもの!)

美春 (そしておふたりはきっと、もうお互いのことしか目に入っていません)

美春 (ならばやはりここは私が、私の色香で唯我成幸さんを誘惑するしかありませんね……)

美春 「………………」

美春 (ま、まぁ? もしも唯我成幸さんが、私の大人の色香に惑わされることなく卒業を迎えたなら)

美春 (おふたりの交際を認めてあげないことも、ありませんけれど)

美春 (……ん?)


『彼は教え子につき ①』


美春 「彼は教え子につき……?」

美春 (きっ、驚天動地! 姉さまの本棚に漫画本が置いてあるだなんて!!)

美春 (少女漫画ですね。でも、私が読んだことがない漫画です……)

745以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:35:03 ID:lMbr6Vko
美春 「………………」

美春 (姉さまはまだ戻ってきませんよね。それに、漫画くらい無断で見てもお怒りにはならないでしょうし)

美春 (姉さま、ちょっと拝見させていただきます)

ペラッ……

『俺……やっぱり先生じゃなきゃ……』

美春 「……!?」

ペラッ

『だ だめよ結人君! 私とあなたは教師と生徒! でも……っ』

美春 「ひゃっ……!」

ドキドキドキドキ……

美春 (こ、この内容は……これではまるで……――)

真冬 「――美春」 ヒョコッ

美春 「ひゃいっ!?」サササササッ

真冬 「紅茶でいいかしら? それともコーヒー?」

美春 「ど、どちらでも大丈夫です! 姉さまと一緒でいいです!」

746以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:35:44 ID:lMbr6Vko
真冬 「? そう、わかったわ」

美春 (……あ、危なかったです。漫画くらい読んでも怒られはしないと思っていましたが)

美春 (こ、この内容は、まずいです。たぶん、これは……)

ペラッ……ペラッ……

美春 (……姉さまの、願望……!!)

美春 「………………」

ペラッペラッペラッ……

美春 (な、なんて過激なんでしょう。教師と生徒が、こんな……こんな……!)

美春 (は、は、ハレンチです!!)

747以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:36:43 ID:lMbr6Vko
美春 (姉さまは唯我成幸さんと、こんなことを……――)

真冬 「――お待たせ。お菓子とお茶よ」

美春 「ひゃうっ!?」 スッ

美春 (あっ……! つ、つい、カバンの中に隠してしまいました!)

真冬 「? どうかしたの? 顔が赤いけれど……」

美春 「い、いえ! ちょっとこの部屋暑いですかね! 暖房の温度を下げてもいいですか、姉さま?」

真冬 「そうね。たしかに少し暖めすぎかもしれないわ。ええと、リモコンは、と……」

美春 (な、なんとか誤魔化せましたが……これは……)

美春 (……これは、由々しき事態ですよ!)

748以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:45:02 ID:lMbr6Vko
………………帰り道

美春 「………………」

トボトボトボ……

美春 (この漫画本……)

美春 (……結局、あのまま返すタイミングも逸して、バッグに入れたままになってしまいました)

美春 (今度真冬姉さまに謝らなければ……)

美春 (……いえ、そんなことよりも)

美春 (唯我成幸さん)


―――― 『お義姉さんのことで協力してほしいんですッ!!!』

―――― 『姉さまのために協力!? 当然至極ッ!!』

―――― 『――……残念至極 ですが姉さまがそう決めたのでしたら仕方ありませんね』

―――― 『でも姉さま 少し声が明るくなりました 美春はそれが一番嬉しいです!』


美春 (……ええ、そうです。本当は分かっているんです。私だって)

美春 (今の姉さまがあるのは、唯我成幸さんのおかげだということを)

749以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:45:37 ID:lMbr6Vko
美春 (……分かっているんです)


―――― 『あなたにはずっと…… お礼を言わなければと思っていました』

―――― 『あなたのおかげで 最近家族に笑顔が増えてきたんです』

―――― 『姉さまも昔に比べて 仕事が楽しそうですし』

―――― 『その道において姉が迷いなく幸せならば きっそそれをこそ天職と呼ぶのですから』


美春 (私がもう……)


―――― ((衝撃展開……!! 恋人云々はともかくここまでマニアックな間柄とは……!))

―――― ((いけません! せめて卒業まではプラトニックな関係でいてもらわねば……!!))


美春 (……心の奥底では、おふたりの関係を認めてしまっているということを)

美春 (……ですが!)

美春 (殿方は皆狼! 唯我成幸さんも一時のハレンチな考えひとつで姉さまに近づいているだけという可能性も絶無ではありません!)

美春 (ここはもう、姉さま最愛の妹であるこの私が、確認するしかありません!!)

美春 (善は急げ、ですね! 待っていてください、姉さま! 私が唯我成幸さんの真意を確認して参ります!)

750以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:46:29 ID:lMbr6Vko
………………唯我家

水希 「お兄ちゃん、お夕飯できたよー」

成幸 「ん、もうそんな時間か」 ノビーー

成幸 (久々にひとりでじっくり勉強、捗った捗った……)

成幸 (……って、やったのはほとんどあいつら向けの問題作成だけど)

ピンポーン

水希 「? なんか届く予定あったかな?」

成幸 「ああ、俺が出るよ。みんな先食べててくれ」

……ガラッ

成幸 「どちら様ですか……って」

美春 「夜分に申し訳ありません。こんばんは、唯我成幸さん」

成幸 「……美春さん!?」

花枝 「成幸ー? どなたかいらっしゃったの? ……あら?」

花枝 「……あらあらあらあら」

パァアアアアアア……!!!

751以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:48:03 ID:lMbr6Vko
………………食卓

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

花枝 「………………」 ニコニコニコニコニコニコニコ……!!!!!!

葉月 「きりすみはるせんしゅだー」

和樹 「ゆーめーじんだー」

美春 「すみません、突然の訪問だというのに、ご相伴にあずかってしまいまして」

成幸 「いえ……」

美春 「美味佳肴! お夕飯、とても美味しいです! 栄養バランスもよく考えられていて、味付けも濃くなく薄くなく……」

モグモグモグ……!!!

成幸 (すみませんと言う割にはたくさん食べるなこの人……)

成幸 「あの、美春さん、今日は一体どうしたんですか? っていうかどうして俺の家の場所を……?」

美春 「……はっ! あまりのご飯の美味しさに失念しておりました」

モグモグモグ……

美春 「でもどうしましょう。お箸が止まりません!」

成幸 「……食べてからでいいですよ」

752以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:48:40 ID:lMbr6Vko
水希 「………………」 (お、お兄ちゃんにたかる新しいメスがまた一人……!!)

美春 「はぁ〜〜〜、美味、美味、美味です〜〜〜〜〜!!」

水希 (しかもすごい美人さんだし! っていうか現役フィギュアスケート選手!?)

水希 (そんなの反則だよーーーー!!)

花枝 「………………」 (たしかこの娘、前にランジェリーショップで成幸の写真を出して……)


―――― 『すみません こういう男性を悩殺できそうな下着はありますか』


花枝 (……これはもう確実ね) フンス (このお嬢さんは成幸の彼女またはそれに類する何か!!!)

花枝 (でかしたわ成幸!! 文ちゃんやりっちゃんに興味を示さなかったのはそういうことだったのね!)

成幸 「……!」 ゾクッ

成幸 (なんだか知らないが水希と母さんからの圧がすごい……!)

成幸 (美春さん早くご飯食べ終えてくれーーーー!!!)

753以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:49:42 ID:lMbr6Vko
………………食後

美春 「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

成幸 「お口に合ったなら何よりです。それで、一体どんなご用件でしょうか」

成幸 「……あと、どうして俺の家の場所を知っていたのかも教えてもらえると……」

美春 「愚問愚答。この私が、お姉様と特別な関係にあるあなたのご自宅を特定していないわけがないではありませんか」

成幸 「はぁ……」

美春 「姉さまとお酒を飲んでいるときに聞いたら教えてくれましたよ?」

成幸 (教員の情報セキュリティとは……)

美春 「そして、唯我成幸さん、今日はあなたにお伺いしたいことがあって来ました」

成幸 「伺いたいこと……?」

美春 「はい、それは……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「それは……」 ゴクリ……!!!

美春 「………………」

美春 「……あなたと、姉さまとの関係についてです」

成幸 「……? 桐須先生と俺の関係……?」

754以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:50:26 ID:lMbr6Vko
成幸 (関係……? ってなんだろう。俺と先生はただの教師と生徒だし……)

美春 「………………」 ジーーーーーーッ

成幸 (でも、美春さんはすごく真剣な顔してるし……)

成幸 (なんなんだろうか……)

美春 「……単刀直入に伺います」

美春 「唯我成幸さん、あなたは真冬姉さまのことをどう思っていらっしゃるのですか?」

成幸 「桐須先生のことをどう思っているか……?」

美春 「はい。誠心誠意。あなたの本心を教えてください」

成幸 「えっと……」

成幸 (先生をどう思っているか? そんなの……)


―――― 成幸 『とんでもなくドジで家事下手な人ですね』

―――― 成幸 『今まで無事一人暮らしをして来られたのが不思議なくらいですよ。ははは』


成幸 「………………」

成幸 (……って言えるかぁあああああ!!)

755以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:51:03 ID:lMbr6Vko
成幸 (たしか美春さんって……)


―――― 『詮無い嘘はやめてください 私の尊敬する完璧な姉さまに限って 苦手なものなど存在しません』

―――― 『もし百億が一姉さまに苦手なものが発覚した場合』

―――― 『24時間365日お傍に張りついて誠心誠意 いかなる手段をもってしても克服にあたらせて頂く所存です』


成幸 (……多分、美春さんは俺がそんなことを言っても信じないだろうし)

成幸 (もし万が一、俺の言うことを信じてしまった場合……)


―――― 美春 『姉さま? 聞きましたよ? お掃除とお料理が “少々” 苦手なのですね?』

―――― 真冬 『ち、違うのよ、美春。そんな事実はなくて、その……――』

―――― 美春 『――問答無用。ご心配には及びません、真冬姉さま』

―――― 美春 『今から私が、姉さまが苦手を克服するまでつきっきりでお教えいたしますので』


成幸 「………………」

成幸 (……最悪、桐須先生が、死ぬな)

756以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:51:36 ID:lMbr6Vko
美春 「……?」 (どうしたんでしょう、唯我成幸さん。難しい顔をして黙りこくって……)

美春 (姉さまのことをそれだけ真剣に考えてくれているということなのでしょうが……)

美春 (お、男ならズバッと言ったらどうですか!! 男らしくありません!)


―――― 成幸 『真冬先生は、俺の大切な人です! 大好きな人です!』

―――― 成幸 『だから誰になんと言われようと俺は……』

―――― 成幸 『絶対に真冬先生と添い遂げてみせます!!!!』


美春 「はうっ……///」

美春 (そ、そこまで覚悟が決まっているなら、私だって……)

美春 (おふたりの関係を認めるに吝かではないのに……)

成幸 「………………」

成幸 (ど、どうするどうするどうする!?)

成幸 (正直に話してしまったが最後、最悪桐須先生が死ぬ未来が見える以上、本当のことは話せないし……)

成幸 (かといって、こんな真剣な顔をしている美春さんに嘘をつくのも申し訳ないし……)

成幸 「………………」 グッ (……よしっ!)

757以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:52:19 ID:lMbr6Vko
成幸 (……ここはなんとか、嘘をつかない範囲で誤魔化そう!!)

成幸 「……俺にとって、桐須先生は、」

美春 「……!」

美春 (き、来ますか! 来るんですか!?)

美春 (カレエゴのようなとんでもない一撃が!?)

成幸 「えっと……」

成幸 「“放っておけない人” ですかね……」

美春 「………………」

美春 「……放っておけない人、ですか?」

成幸 「はい」

美春 「む……」 モヤモヤ (な、なんでしょう。何か釈然としないような……)

成幸 「桐須先生って、すごくしっかりしている人じゃないですか」

美春 「当然至極。姉さまは絶対的に完璧な理想の体現者です」

成幸 (すごい表現の仕方だ……)

758以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:52:51 ID:lMbr6Vko
成幸 「でも、どこか放っておけないような危うさもありませんか?」

美春 「……?」

成幸 「美春さんだってしょっちゅう先生の家を訪ねているじゃありませんか」

成幸 「それは、先生のことが心配だからではないですか?」

美春 「む……」

美春 「……単純に姉さまに会いたいから、という気持ちもありますが」

美春 「まぁ、たしかにそれはありますね」

成幸 「だから、俺も先生のことが放っておけなくて、先生の家を訪ねている側面があります」

成幸 「……たしかに、今の俺と先生の(掃除を手伝うような)関係は適切ではないかもしれません」

美春 「ええ。世間一般に照らし合わせれば、あなたと姉さまの(恋人)関係は適切とは言えないでしょう」

成幸 「でも、先生には俺が必要なんです。詳しくは……桐須先生の名誉のために言えませんが」

美春 「!?」 (姉さまの名誉のために言えない!? 姉さまはどんな破廉恥な理由であなたを求めているのですか!!)

成幸 「先生は意外と不器用で、できないことも多いんです」

成幸 「あ! で、でも美春さんが先生に教える必用はないですよ。俺がしっかり教えますから。手取り足取り!」

美春 「!?!?」 (手取り足取り!? 手取り足取りどんな破廉恥なことを姉さまに教えるつもりですか!!)

759以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:54:47 ID:lMbr6Vko
成幸 「だからその、これからも俺と先生の(家で掃除・勉強をする)関係を認めていただけたら……」

美春 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……って、あの、美春さん? 聞いてます?」

美春 (や、やはり殿方はケダモノ! 唯我成幸さんも紛れもない狼……!)

美春 「み、認められるわけないでしょう! やはりあなたも姉さま(の体)が目的なんですね!!」

成幸 「先生が目的……?」

ハッ

成幸 (た、たしかに。先生に勉強を教えてもらうと捗るから、それをアテにしている面は否めない……!)

成幸 「……た、たしかにその通りかもしれません。俺は、先生のためといいつつ、先生をアテにしているかもしれません)

成幸 「でも、美春さん! たぶん先生は俺がいなくなったら(ゴミだまりに埋まって)廃人になりますよ!」

美春 「!?」 (姉さまはもうそこまで身も心も唯我成幸さんのトリコに……!?)

美春 (悪逆非道! なんて卑怯な人でしょうか……!)

成幸 「だからどうか……」

ギュッ

美春 「ひゃあっ……!?」 (手!? 手を、握……握られ……!)

760以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:55:25 ID:lMbr6Vko
成幸 「お願いします、美春さん。俺と先生の関係を、認めてください……!」

美春 「ひゃっ……ひゃっ……」 (と、殿方に手を! 手を握られています!?)

成幸 「あと、俺が先生の家に(掃除をするために)通うのを認めてください!」

ギュッ……!!!

美春 (!? つ、強く……握……)

美春 「わっ、わかりました! わかりましたから!」

美春 「あなたと姉さまの(恋人)関係を認めます!」

美春 「それからあなたが姉さまの家に(恋人として)通うことも認めますから!!」

美春 「だ、だから……離してください!!」

成幸 「へ……? わっ」 バッ 「す、すみません、つい興奮して……」

美春 (わ、私にまで興奮するなんて、ケダモノ……!)

カァアアアア……

美春 (……殿方に初めて手を握りしめられてしまいました……)

美春 (もうお嫁に行けません……)

761以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:56:38 ID:lMbr6Vko
成幸 「あの、美春さん、大丈夫ですか? 顔が赤いですけど……」

美春 「!? 赤くなんてなってません!!」

キッ

美春 「あ、あなたの熱意に免じて、今回は認めてあげます」

美春 「認めはしましたけどね……! でも……」

美春 「まだ、結婚まで認めたわけじゃありませんからねーーーーーーーー!!!」

バッ!!!!

成幸 「あ、美春さん!? もう帰るんですか!? っていうか結婚って何の話ですか!?」

美春 「唯我成幸さんのお母さま! ご飯ごちそうさまでした! 夜分に失礼しました!」

美春 「妹さん! ご飯とっても美味しかったです! 今度お礼は必ずしますね!」

美春 「双子さんたちも、また今度! それでは失礼致します!」

タタタタタ……

成幸 (わ、わざわざ俺の家族に挨拶をしてから走り去って行った……律儀な人だ……)

花枝 「あのお嬢さん、一体どうしたの?」

成幸 「俺に聞かないでくれ。俺にもわけがわからないんだ」

762以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:57:16 ID:lMbr6Vko
………………帰路

タタタタタ……

美春 「………………」 (……今回は私の負けです。唯我成幸さん、あなたの熱意に負けました)

美春 (あんな情熱的に姉さまへの愛を宣言されてしまえば、認めざるをえません……)

美春 (ですが!!)

美春 (両親は厳しいですよ! 姉さまとの結婚をそうすぐ認めてくれると……)


―――― 母 『真冬さんの言う部屋の片付けを手伝ってくれる殿方ってどんな方かしらねぇ』

―――― 父 『あの気むずかしい子が気に入るのだからきっと良い子だろう』

―――― 母 『なんにせよ、あの子ももういい歳ですし、そろそろ結婚してほしいですねぇ』

―――― 父 『うむ。あの子が連れてくる男なら信用できるだろう。早く家に連れてきてくれるといいのだが』


美春 (……いえ、外堀全埋めでしたね)

美春 (ですが、私はそんなに甘くありませんよ! あなたと姉さまの関係を全て認めたわけではありませんから!)

美春 (今日のような熱意を見せてくれなければ、絶対に結婚なんか認めませんからね!!)

おわり

763以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:57:50 ID:lMbr6Vko
………………幕間1 『カレエゴ』

真冬 「あら? カレエゴの一巻が本棚から消えているわね」

真冬 (昨日の掃除のときにどこかへやってしまったかしら)

フッ

真冬 「まぁ問題ないわね」

スッ……サッ……トッ

真冬 「うっかり一巻をもう一冊買ってしまってあるから何の問題もないわ!」

バーーーーン

真冬 「………………」

真冬 (……大ゴマで偉そうに言うことではないわね)

764以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 20:58:33 ID:lMbr6Vko
………………幕間2 『許すまじ』

花枝 「それにしてもお上品で感じの良いお嬢さんだったわね」

成幸 「美春さんのこと? あの人、桐須先生の妹だよ」

花枝 「真冬ちゃんの? あー、そういえばなんとなく感じが似ている気もするわね」

水希 「………………」 ブツブツブツ……

成幸 「……で、水希は隅っこで一体何をやってるんだ」

水希 「……許すまじ。兄に近づく、不貞の女郎。許すまじ……」

ブツブツブツ……

成幸 「………………」

成幸 「……さ、明日のあいつらの勉強の準備でもするかな〜、っと」

葉月 「兄ちゃん、逃げたー」

和樹 「見なかったことにしたー」

おわり

765以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/11(火) 21:00:08 ID:lMbr6Vko
>>1です。読んでくださった方ありがとうございました。
まだ本編中に拾えそうなエピソードがたくさんあると思います。
全部書き上げられるとは思えませんが、少なくともこのスレがエンプティを迎えるまでは投下したいと思います。
お付き合いいただけたら嬉しいです。

感想、乙等励みになります。いつもありがとうございます。
またageていたら読みに来てくださると嬉しいです。

また投下します。

766以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/12(水) 00:45:23 ID:xA1Z/oUM
おつ
新作も楽しみにしてます

767以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/12(水) 00:46:08 ID:ck16vYpg
おつおつ

768以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/12(水) 14:34:43 ID:7Oag0XBE
やばい、最高すぎる

769以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:28:39 ID:PHnQenq6
>>1です。
書いていたら書き上がってしまったので投下します。
文学の森の眠り姫編ルート後です。


【ぼく勉】 水希 「新しいこれからをあなたと」

770以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:29:12 ID:PHnQenq6
………………問.168後 某日 唯我家

文乃 「………………」

水希 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

チクタクチクタク……

文乃 「あっ……な、成幸くん、帰ってくるの遅いね」

水希 「………………」

チラッ

水希 「……そうですね」

文乃 「あ……あはは……」

文乃 (きっ……きまずい……!)

文乃 (なんでこんなことに……?)

文乃 (今日、わたし……)

文乃 (わたし、誕生日なのにーーーーー!!!)

771以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:32:12 ID:PHnQenq6
………………少し前

成幸 「誕生日おめでとう、文乃」

文乃 「えへへ、ありがとう、成幸くん」

成幸 「早速だけど、はい、プレゼント」

文乃 「わぁ! 本当に作ってきてくれたんだ!!」

文乃 「ねぇねぇ! 着てみていい?」

成幸 「ああ、もちろん」

成幸 「……でも良かったのか? 誕生日プレゼント、そんなので」

成幸 「俺の手作りのエプロンがいいなんて……」

文乃 「“そんなの” じゃないよ」

シュルシュル……スッ

文乃 「世界で一着だけの、わたしの彼氏さんが作ってくれたエプロンだよっ」

文乃 「えへへ、どうかな? 似合う?」 クルッ

成幸 「っ……」

772以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:32:56 ID:PHnQenq6
文乃 「? どうかした、成幸くん?」

成幸 「い、いや……///」

成幸 (ま、まずい。せっかく文乃に着てもらうんだからと、これでもかと可愛く作ったから……)

成幸 「可愛すぎる……っ」

文乃 「へえっ……?///」

成幸 「あっ……」 (口に出してしまった……)

文乃 「……えへへ。嬉しいな」

成幸 「いや、こちらこそ、そんなに可愛く着てくれて嬉しいよ」

文乃 「もうっ、成幸くんったら……///」

成幸 「いや、ほんとに……///」

水希 「………………」

文乃 「えへへ……」

成幸 「はは……」

水希 「………………」

文乃 「……!?」 バッ 「み、水希ちゃん!? いたの!?」

773以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:33:35 ID:PHnQenq6
水希 「……はい、こんにちは、古橋さん」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 「もちろんいますよ。ここは私の家ですから」

文乃 「あ、それはそうだよね……」

成幸 「帰ってたのか。早かったな、水希。おかえり」

水希 「うん、ただいま、お兄ちゃん」

文乃 (あれ……? わたしにツンケンするのはいつものことだけど……)

文乃 (なんでだろう? 大好きなお兄ちゃんを相手にしても、なんか表情が暗い……?)

水希 「……お兄ちゃん」

成幸 「ん?」

水希 「ちょっとお遣い頼んでもいいかな。ちょっと今日は部活で疲れちゃったんだ」

成幸 「あ、ああ。俺は構わないけど……」 チラッ

文乃 「……わたしは大丈夫だよ。待ってるよ」

成幸 「ん。悪いな、文乃。水希、何を買ってきたらいいんだ?」

水希 「……うん。えっとね……」

774以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:34:10 ID:PHnQenq6
………………現在

文乃 (……そして今、わたしは水希ちゃんとふたりきり、顔をつきあわせている)

水希 「………………」

文乃 (いつもなら……)


―――― 水希 『やっと兄と交際を始めて半年くらいでしょうか?』

―――― 水希 『まぁよく保った方だと思いますよ。兄の我慢あってのことでしょうけどね!』


文乃 (……って感じで直接ツンケンしてくるけど)

文乃 (今日はなんか、怒ってる……? というよりは、苦しそうというか、悲しそうというか……)

文乃 (……どうしたんだろう?)

水希 「………………」

文乃 (……よしっ)

グッ

文乃 (わたしはもう成幸くんの彼女さん! と、いうことは、水希ちゃんは妹同然!)

文乃 (なら、わたしが水希ちゃんのお悩みを解決してあげなくちゃ!!)

775以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:34:42 ID:PHnQenq6
文乃 「あ、あのさ、水希ちゃん」

水希 「……なんでしょうか」

文乃 「どうかしたのかな? なんか表情が優れないけど……」

水希 「………………」

プイッ

水希 「……べつに何もありませんけど」

文乃 「いやぁ……」

文乃 「……嘘がヘタだなぁ。お兄ちゃんそっくりだね」

水希 「っ……」

水希 「……べつにあなたには関係ないでしょう」

文乃 「いやいやいや、関係ないわけないでしょ」

文乃 「わたしは成幸くんの彼女だよ! そして水希ちゃんは成幸くんの妹さん!」

文乃 「ってことは、水希ちゃんはわたしの妹みたいなものだからね!!」

水希 「古橋さん……」

776以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:35:25 ID:PHnQenq6
文乃 (……ふふ。我ながらキマったね。良い姉できたね……――)

水希 「――……彼女になった程度でもう兄の妻気取りですか……?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 (あーーーーー!!! 地雷だったーーーーーー!!!)

水希 「………………」

ハァ

水希 「……まぁ、あなたと兄がくだらない理由で別れるなんてことはないでしょうから」

水希 「あなたはいずれ、本当に私の姉になるんでしょうね」

文乃 「へ……?」

カァアアアア……

文乃 「あ、あはは……/// そ、そうなったらわたしは、うん……嬉しいけど……」

水希 「………………」

文乃 「……?」 (水希ちゃん、まだ暗いままだ……)

文乃 (うーん……)

777以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:36:22 ID:PHnQenq6
文乃 「……お友達と喧嘩した?」

水希 「仲良しです。良い友達に恵まれました」

文乃 「お母さんか、葉月ちゃん和樹くんと何かあった?」

水希 「そんなわけがないでしょう」

文乃 (……うーん)

文乃 「水泳のタイムが伸びない、とか……?」

水希 「………………」

ハァ

水希 「しらみつぶしですね。違います」

水希 「……もう。お節介。本当に……」

文乃 「ん……ごめん」

水希 「……本当に、そういうところが、兄を惹きつけたんでしょうね」

水希 「そしてきっと、その兄に似ている、私やお母さん、葉月と和樹も……」

文乃 「……?」

778以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:36:55 ID:PHnQenq6
水希 「………………」

文乃 「水希ちゃん……?」

水希 「……古橋さん、最初に謝っておきます。ごめんなさい」

文乃 「へ? へ?」

水希 「それから……」 スッ 「誕生日おめでとうございます」

文乃 「へっ……? へぇ!?」

文乃 「わ……わたしへの誕生日プレゼント!? 水希ちゃんが!?」

水希 「……私が? 私がプレゼントを用意したら何かおかしいですか?」

文乃 「う、ううん。すごく嬉しいよ! 嬉しい……」

文乃 「本当に……」 クスッ 「嬉しいんだよ、水希ちゃん。ありがとう」

水希 「……いえ」

文乃 「ねぇ、開けてもいい?」

水希 「っ……」

コクリ

水希 「……はい」

779以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:37:47 ID:PHnQenq6
文乃 「なんだろうなぁ〜♪」

ガサガサ……

文乃 「……ん? 包丁?」

文乃 「………………」

水希 「……あ、あの」

水希 「ちがうんです! その……私……」

水希 「包丁がそういうものだって知らなくて……」

水希 「常識知らずだって言われたらそれまでですけど、本当に……」

水希 「……知らなくて」

780以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:38:28 ID:PHnQenq6
………………数日前

成幸 「………………」

ガガガガガガガガ……!!!!

水希 「……? お兄ちゃん、何作ってるの?」

成幸 「ん? 文乃への誕生日プレゼントだよ」

水希 「ん……そっか、古橋さん、そろそろ誕生日なんだ」

成幸 「何がほしいか聞いたら、俺手作りのエプロンがいいってさ」

成幸 「まぁ、水希のおかげで文乃も料理がどんどん上手くなってるからな」

成幸 「キッチンに立つのが楽しいみたいだ」

水希 「ふーん。そっか……」

成幸 「なんか、包丁も新しいのを買おうとか言ってたな。出刃包丁とか……」

成幸 「水希が使ってるのを見て欲しくなったとか言ってたぞ」

水希 「……ふーん。古橋さん、包丁がほしいんだ。出刃包丁かぁ」

781以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:39:02 ID:PHnQenq6
………………

水希 (高校に入ってからバイトもしてるし、家計の分を引いても……)

水希 (……うん。古橋さんへのプレゼントのお金を出しても問題ない)

水希 (古橋さん、お料理上手くなってきたけど、まだ疎いから)

水希 (……えへへ。喜んでくれるかな)

水希 「すみません、この左利き用の包丁いただけますか?」

782以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:39:36 ID:PHnQenq6
………………現在

水希 「……それで、その後、テレビで包丁はプレゼントしちゃダメだって知って」

水希 「“縁を切ることを表すから” って……」

水希 「私、いつも古橋さんにきつく当たってるから……」

水希 「包丁なんかプレゼントしたら、古橋さんを嫌な気持ちにさせちゃうかもしれないし……」

水希 「でも、せっかくバイト代で買ったものだから、相応しい人に使ってほしいし……」

水希 「それで、その……――」


文乃 「――――すっごーーーーーーーい!!!!!」 ガバッ


水希 「へ……?」

文乃 「すごいよ水希ちゃん!  これ私が欲しかった出刃包丁だね!? この包丁すごく高そうだけど大丈夫!?」

文乃 「えっ!? っていうかパッケージに左利き用って書いてある!? 包丁に利き手って関係あるの!?」

文乃 「たしかにハサミは左利き用じゃないと切りにくいけど、包丁は考えたことなかったよ!」

水希 「い、いや、あの……」 カァアアアア…… 「そんなに、まくし立てられても答えられないっていうか……」

水希 「ち、近い、です……///」

783以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:42:22 ID:PHnQenq6
文乃 「あっ……ごめんごめん」

文乃 「つい興奮しちゃったよ。水希ちゃんからプレゼントがもらえるなんて思ってなかったから……」

文乃 「……すごく、嬉しくって」 ニコッ

水希 「っ……///」

水希 「……バイトしてますから、お金はお気になさらずに。大丈夫です」

水希 「あと、普通の包丁は、あんまり利き手は関係ないですけど……」

水希 「古橋さんが欲しがってた出刃は、片刃なので……」

水希 「左利き用じゃないと多分、切りにくいと思います」

文乃 「はぇ〜、そうなんだ。危ない危ない。普通の買うとこだったよ……」

水希 「あと、古橋さんが包丁を欲しがっているのは、兄から聞いていたので……」

文乃 「そうなのかぁ。なんか、成幸くん経由でねだっちゃったみたいになっちゃったなぁ……」

文乃 「でも、本当にありがとう。すごく嬉しいよ、水希ちゃん。えへへ」

水希 「ん……どういたしまして、です」

784以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:43:02 ID:PHnQenq6
文乃 「……っていうことは、ひょっとして、水希ちゃんが今日暗かったのは、」

文乃 「包丁のプレゼントはあまり縁起が良くないってことを知って、悩んでたから……?」

水希 「ん……」

水希 「……ごめんなさい」

文乃 「なんで謝るの? わたしはすごく嬉しいから何の問題もないよ」

水希 「でも……」

文乃 「………………」 クスッ 「……水希ちゃんは優しいね」

水希 「……?」

文乃 「包丁のプレゼントが縁起が悪くて、そのせいでわたしと成幸くんがどうにかなったら嫌だ、ってこと?」

文乃 「そうだね。たしかに、わたしと成幸くんに万が一何かがあって、それで水希ちゃんが気に病むのはわたしも嫌だなぁ」

文乃 「……ってことで、こうしましょう」 ゴソゴソ……

水希 「……?」 (お財布……?)

文乃 「おっ、よかったよかった。あった」

文乃 「水希ちゃん、包丁ありがとう。大切に使うね」 スッ 「その代わり、はい、この五円玉を差し上げます」

785以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:45:44 ID:PHnQenq6
水希 「五円玉……? なんで……?」

文乃 「ふふふ、わたしはこれでも “文学の森の眠り姫” なんてあだ名で呼ばれていたこともあってね」

文乃 「おまじないやしきたりにも詳しかったりするんだよ」

文乃 「刃物をプレゼントされたら、五円玉を相手に渡すんだ」

文乃 「そうすると、縁起の悪い “切った” 御縁を結び直すことができるんだ」

文乃 「これでわたしたちは今まで以上に強固な関係で結ばれたよ!」

文乃 「だから、大丈夫。これで何も縁起が悪いことはなくなったよ。新しい縁を結んだからね」

文乃 「ありがとう、水希ちゃん。この包丁、大切に使わせてもらうね!」

水希 「……古橋さん」

水希 (この人は、ああ、本当に……)

水希 (すごい人だ)

水希 「……はいっ!! 古橋さん!」

786以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:46:21 ID:PHnQenq6
………………

文乃 「……えっと、こう、かな」

ガッ……

文乃 「うぅ、また骨に引っかかった……」

水希 「お魚はもっと、こう……」

ググッ……ゴッ……

水希 「……です」

文乃 「む、難しいんだよ……」

文乃 「……でもせっかく水希ちゃんがプレゼントしてくれた包丁だし、がんばるね!」

ググ……ゴッ……

文乃 「……!? できたー!」

水希 「……やれやれ。頭を落としただけでそんなに喜んじゃって」

水希 「いつまでもメシマズのままじゃ、兄に愛想尽かされちゃいますよー?」 プークスクス

文乃 「最近はちゃんと口内出血しないもの作ってるもん!!!」

水希 「そんなの当たり前なんですよ!!!」

787以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:46:52 ID:PHnQenq6
文乃 「……ま、まったく、水希ちゃんは本当に口が減らないんだから」

水希 「古橋さんこそ、いつまで兄の彼女面してるつもりですか」

文乃 「だから本当に彼女なんだってばー!」

水希 「………………」


―――― 『刃物をプレゼントされたら、五円玉を相手に渡すんだ』

―――― 『そうすると、縁起の悪い “切った” 御縁を結び直すことができるんだ』

―――― 『これでわたしたちは今まで以上に強固な関係で結ばれたよ!』

―――― 『だから、大丈夫。これで何も縁起が悪いことはなくなったよ。新しい縁を結んだからね』


水希 (“新しい縁” “今まで以上の関係” かぁ……)

水希 「そ、そうですか。彼女ですか。じゃあ、早く魚くらいさばけるようにならないとですね」

水希 「ふっ……」

カァアアアア……

水希 「……文乃、お姉ちゃん」

文乃 「!?」

788以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:47:39 ID:PHnQenq6
………………

成幸 「ただいまー」 (……ふー。遠くのスーパーじゃないと買えないようなものばっかりだったから大変だったな)

ドタドタドタドタ!!!!

成幸 「ん……?」

文乃 「お帰り成幸くん!! ねぇ聞いて聞いて聞いて成幸くん聞いて!!!」

成幸 「のわっ!? いきなりどうした、文乃」

文乃 「あのね!!! 水希ちゃんがね!!! わたしのこと、お姉ちゃんって……!!!」

水希 「だああああああ!!! 何でお兄ちゃんに言うんですかバカー!!」

水希 「文乃お姉ちゃんのバカーーーー!!!」

文乃 「また言ったーー!! ねぇねぇすごくない!? すごいよね成幸くん!!」

水希 「もういいです!! これからもそう呼ぶって決めましたから恥ずかしくないです!!」

水希 「その代わり、私が姉と呼ぶんですから、兄と別れたりしたら承知しませんからね!!」

成幸 「あーー……」 (一体俺は何を見せられているんだろうか……)

成幸 (でも、まぁ……水希も文乃も嬉しそうだし、いいか……)

おわり

789以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:48:14 ID:PHnQenq6
………………幕間 『それは』

文乃 「ん? ひょっとして今までわたしがお料理ベタだったのは、包丁が合っていなかったからなのでは?」

水希 「いえ、それは関係ないと思います」

成幸 「そういうレベルの料理ベタじゃなかったしな」

文乃 「冗談だよ!! そんな兄妹そろってバッサリ切ることないでしょーー!!」

おわり

790以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 21:51:20 ID:PHnQenq6
>>1です。
今日が左利きの日だと知り、書きました。
読んでくださった方ありがとうございました。

また投下します。

791以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/13(木) 22:58:30 ID:LSj4gG8g
左利きの日初めて知った

おつ

792以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/14(金) 00:51:33 ID:EUDJ4FCo
おつんこ!!!
この組み合わせほんと好き

793以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/14(金) 12:28:55 ID:KaScJ.CI
新作ありです!
前にも書いたけど、やはり水文はイイ…

794以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/16(日) 01:25:33 ID:lhHct9mI
ええな
右利きの日ssも待ってるで

795以下、名無しが深夜にお送りします:2020/08/31(月) 01:58:07 ID:BTv1ZgZ.
乙乙

796以下、名無しが深夜にお送りします:2020/09/17(木) 04:31:14 ID:kclaCEMM
文系の姉ムーブほんとすこ

797以下、名無しが深夜にお送りします:2020/09/19(土) 13:50:51 ID:ExCQ8DXo
おつおつ
水希ちゃん可愛くて幸せ

798以下、名無しが深夜にお送りします:2020/10/02(金) 18:15:47 ID:D7rB3x7M
19巻の発売日やな

799以下、名無しが深夜にお送りします:2020/10/24(土) 02:07:16 ID:u9vjyso.
わたしと
お兄さんは
絶対そんな関係にはならないから
…ゴゴゴゴ

800以下、名無しが深夜にお送りします:2020/10/27(火) 04:44:43 ID:cy8SENR6
1つ目のスレから見返して思ったがやっぱ完成度高いわ

801以下、名無しが深夜にお送りします:2022/02/10(木) 16:58:48 ID:xZHZuzMo
久しぶりに読み返したけどやっぱり良いなぁ


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