したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【ぼく勉】 文乃 「今週末、天体観測に行くんだよ」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2019/05/03(金) 23:07:13 ID:9nEg0gUI
理珠 「ほう。天体観測ですか。どこかの天文台へ行くのですか?」

文乃 「ううん。バスツアーなんだけどね、車で二時間くらいの高原に行くんだよ」

文乃 「結構コアなツアーでね。参加者全員望遠鏡を自分で持って行って、思い思いにレンズを覗くんだ」 ワクワク

文乃 「深夜に駅を出て、数時間天体観測をしたら、早朝に駅に戻ってくるって感じのツアーだよ!」

うるか 「ほへー。そんなのがあるんだねぇ」

成幸 (……それはツアーで行く意味があるのか? とかそういうことは置いておくとして)

成幸 (受験も近いのに大層な余裕だな、というツッコミも置いておくとして)

成幸 「……お父さんと一緒に行くのか?」

文乃 「うんっ! お父さんがね、誘ってくれて……」

文乃 「“一緒に行かないか” って。えへへ……」

成幸 「そうか」 クスッ 「よかったな、古橋」

文乃 「うん! ありがと、成幸くん! 道中のバスではちゃんと勉強するから安心してね!」

成幸 (この寝ぼすけ眠り姫が深夜と明け方のバスで勉強するとは思えないが……)

成幸 (まぁ、たまの息抜きぐらい、問題ないだろうし、何より……)

成幸 (古橋とお父さんの関係が、少しずつ改善しているのが、嬉しい)

350以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:26:55 ID:PQ1Q6G.6
………………古橋家

文乃 (まったく、成幸くんは仕方ないなぁ……)

文乃 (わたししか頼れる相手がいないんだね。まったくもう、本当に……)

ニヤァアアア

文乃 (しっ……仕方、ないんだから……///)

文乃 「で? 相談ってどっちのこと? りっちゃん? うるかちゃん?」

成幸 『へ? 緒方とうるか? いや、あいつらは関係ないけど……』

文乃 「へ?」

文乃 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!! 「へぇ。へぇ。なるほど? で、相談って何?」

成幸 『な、なんだ? 急に声が怖くなった気がするんだけど……』

文乃 「そんなことないよ。いいから早く話しなよ、唯我くん」

成幸 『そ、そうか? ならいいけど……』

成幸 『えっと、相談っていうのが……ちょっと恥ずかしいんだけど……』



成幸 『デートって、どんな風にしたらいいんだ?』

351以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:27:43 ID:PQ1Q6G.6
文乃 「………………」

文乃 「……は?」 メキョッ

成幸 『……? なんか、今、何かが軋むような音がしたんだけど……』

文乃 「気のせいだよ。何もないよ。携帯電話が応力でひずんだりしてないよ」

文乃 (……デートを、どんな風にしたらいいか、だって?)

文乃 「……あの、唯我くん、まさかとは思うけど、明日からの勉強休みに、誰かとデートするのかな?」

成幸 『へ? ああー……まぁ、うん。成り行きでそうなっちゃってさ』

文乃 「へぇ……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 「で、その相手はりっちゃんでもうるかちゃんでもない、と?」

成幸 『何でその二人の名前が出てくるんだ? 違うに決まってるだろ』

文乃 「なるほどなるほど」

文乃 (……この男、今度は成り行きでフラグを……) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

352以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:28:48 ID:PQ1Q6G.6
成幸 『古橋師匠なら知ってるだろ? デートの作法というか、なんというか……』

文乃 「知らない」

成幸 『へ? あ、いや、えっと……』

成幸 『俺、そういうの全然分からないからさ。教えてほしいんだけど……――』

文乃 「――知らない」

成幸 『そ、そう言わず、教えてもらえると……」

文乃 「……だから、知らないんだってば」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 「成幸くんのことなんて、もう知らないって言ってるの」

成幸 『へ? ふ、古橋……――」

――プツッ……

文乃 「……ふんだ。成幸くんのことなんか、もう知らない」

文乃 「人が色々がんばってあげてるのも知らないで、またどこかの誰かとフラグ立てて……」

文乃 (……わたしはべつに、彼がどこの誰と一緒にいようと、知らないけど)

文乃 (べつに、わたしには関係ないことだけど、さ……)

353以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:29:20 ID:PQ1Q6G.6
文乃 「………………」


―――― 『実は、お前に相談したいことがあってさ。例によって、お前にしか相談できないようなことなんだけど……』


文乃 (……成幸くん、困ってるんだろうな)

文乃 (急に怒って電話切ったりして、悪いことしちゃったかな)

文乃 「………………」

文乃 (……わたしはもちろん、りっちゃんとうるかちゃんの友達で、ふたりを応援してあげたい)

文乃 (だから、成幸くんのどこの誰とも知らない相手とのデートを応援してあげることは、できない)

文乃 (でも……)

文乃 (同時に、わたしは唯我くんの友達で、成幸くんの……お姉ちゃん、だもんね)

文乃 (困ってる成幸くんを助けてあげるくらいは、いいよね)

文乃 (……仕方ないなぁ) ハァ (少しだけ。少しだけだからね、成幸くん)

ピッ……ピッ、ピッピッ……

354以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:29:59 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「………………」 ズーーン (……何か知らんが古橋を怒らせてしまった)

成幸 (きっと俺がまた失言をしたんだろうな。うぅ、古橋に申し訳ない)

成幸 (とりあえず、メッセージで謝っておかないと……――)

…………ピロリン♪

成幸 「ん……? 古橋から?」

 『さっきは急に電話を切ってごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃってさ』

 『お詫び、というわけではないけど、男子高校生必見のデート指南サイトをいくつか送ります』

 『よく目を通して、デート、がんばってね』

成幸 「………………」 ブワッ (師匠……!!)

成幸 (なるほど! さっき古橋が少し怒っていたのは、何でもかんでもまず自分を頼るなということか!)

成幸 (まずは自分で色々なものを読んで、その上でがんばれということだな!)

成幸 (さすがは師匠だ! 答えをすぐ教えず、俺に考えるチャンスをくれたんだな!)

成幸 「……よし、明日のデート、がんばるぞ!」

水希 「!?」 (い、今お兄ちゃんからデートって言葉が聞こえた!?)

355以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:35:17 ID:PQ1Q6G.6
………………東景女子大学 学生寮

美春 「………………」

美春 「……えへへ。かわいいストラップを手に入れてしまいました」

美春 「唯我成幸さんと、おそろいの、くまさんのストラップ……」

カァアアアア……

美春 「……あ、あれ? 何ででしょう。顔が熱いですね」

美春 (……明日は、遊園地デート)


―――― 『明日も……楽しみに、していますから』

―――― 『……はい。俺も、楽しみです』


美春 「っ……」 ボフッ (ち、違います。私はただ、遊園地が楽しみなだけです)

美春 (唯我成幸さんだって、きっと話を合わせてくれただけです)

美春 (……でも、) クスッ

美春 「本当に楽しみですね。遊園地デート」

おわり

356以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:35:55 ID:PQ1Q6G.6
………………幕間 「デート」

水希 「お兄ちゃんがデート……」

水希 「デート……」

水希 「………………」

ポン!!

水希 「……よしっ! 明日は学校サボって尾行ね!!」

葉月 「和樹」 スッ

和樹 「ほいさ」 スッ

おわり

357以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 00:37:49 ID:PQ1Q6G.6
>>1です。
すみません。眠気が相当なので寝ます。
ちょうど半分くらいです。
明日後半を投下します。明後日かもしれませんが。

あともういくつか書き上げてある話があるので、それも一緒に投下できたらと思います。

358以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 07:26:14 ID:Ll8ZvOCE
おつ!

359以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 19:38:56 ID:jG0I.A.w
おつんこ
やっぱり妹が最かわなんだよ!!

360以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:00:31 ID:35jgZeyU
怒涛の更新で歓喜だわ

361以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:38:59 ID:PQ1Q6G.6
>>1です。
続きから投下します。

362以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:39:33 ID:PQ1Q6G.6
………………翌日 駅前

美春 「………………」 ドキドキドキドキ……


―――― 『……はい。俺も、楽しみです』


美春 「うぅ……///」

美春 (私は何をしているのでしょう……)

美春 (アイスショーの演技力を高めるため、そして姉さまの安寧な生活のため、がんばると決めたのに……)

美春 (これから唯我成幸さんと会うと考えるだけで、どこか浮ついた気持ちになります……)

美春 「………………」

グッ

美春 (こんなことではいけません! 私は、アイスショーのため、そして姉さまの未来のため、がんばると決めたのです!)

美春 (こんなことでは……――)


成幸 「――あっ、美春さん。もう来てたんですね」


美春 「……!?」 ズザザザザッ!!!!

363以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:40:26 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「お待たせしてごめんなさい……って、」

成幸 「……なぜ、受け身を?」

美春 「なっ、なんでもありません。リンクで転倒したときの受け身の練習をしていただけです」

成幸 (往来でスケートリンクの受け身が取れるとは思えないけど……)

成幸 「……えっと、美春さん。かなり早いですね。まだ集合時間の三十分前ですけど」

成幸 (古橋の教えてくれたサイトで勉強して、三十分前には待っていようとがんばったのに……)

美春 「え、ええ。偶然、家を早く出てしまいまして。でも、ついさっき来たところですから」

美春 (……本当は、寮にいると落ち着かなくて、早く出過ぎてしまっただけですけど)

成幸 「………………」

美春 「………………」

ドキドキドキドキ……

美春 (うぅ、さっき決意を新たにしたばかりだというのに、また浮ついた気持ちに……)

成幸 (な、なんだろう。美春さん、昨日とまた少し違う格好で、すごく……)

成幸 (きっ、綺麗だな……)

364以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:41:26 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「………………」


―――― 『女心鉄則! 「お出かけ時は必ず服を褒めるべし!!!」』


成幸 (よ、よし。今こそ師匠の今までの教えをフルに活用するとき……!!)

成幸 「み、美春さん!」

美春 「は、はい!」 ビクッ

成幸 「えっと……」

カァアアアア……

成幸 「き、昨日も、すごく素敵でしたけど……今日も、その……」

成幸 「……今日も、その、すごくきれいで、素敵です」

美春 「………………」

成幸 「………………」

成幸 (……し、しまったぁああああああ!! これは外したやつか!? ダメなやつだったか!?)

成幸 (セクハラで訴えられるやつか!?)

365以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:41:59 ID:PQ1Q6G.6
美春 「………………」

ボフッ

美春 「ひゃっ、ひゃい……あ、ありがとう、ございます、です……///」

美春 (ひゃあああああ……と、殿方に褒められてしまいました!!)


―――― 成幸 『昨日も素敵でしたけど、今日もきれいで素敵だよ、美春さん』(※誇張あり)


美春 (ひゃああああああああああああ……!!!)

成幸 (よ、よかったぁあああああああ……。セーフみたいだ……)

美春 (きれい……きれい、ですか……)

美春 (えへへ……)

成幸 (で、でもなんか、恥ずかしいな、これ……)

成幸 「……ん?」

成幸 「あ、そのぬいぐるみのストラップ……」

美春 「へ……? ああ、これですか? 可愛かったので早速カバンにつけてしまいしまいました」

美春 「ちょっと子供っぽいですかね……」

366以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:42:41 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「あ、いや、全然いいと思います。すごく自然ですし……」

成幸 「えっと……その、一応、恋人役なので、その……俺も、」

スッ

成幸 「ちょっと恥ずかしかったけど、昨日いただいたストラップ、つけて来ちゃいました」

成幸 「……お、おそろい、ですね」

美春 「へっ……///」 カァアアアア…… 「そ、そうですか。それは、その、なんというか……」

美春 「……あっ、ありがとう、ございます……?///」 (な、何故お礼を言っているのですか私は……)

成幸 「あ、いや、全然、そんな……こちらこそ、ありがとうございます……?///」

通行人 (……初々しいバカップル)

通行人 (なにあのカップルめっちゃかわいい……)

通行人 (無自覚純情バカップル……)

男の子 「ママー、カップルー」

お母さん 「こら、指さしちゃダメよ」

成幸&美春 「「っ……///」」

367以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:44:06 ID:PQ1Q6G.6
………………遊園地入り口

成幸 「そういえば、今日の予定は遊園地でしたね……」 ゴクリ

美春 「? なぜそんなに緊張しているんです?」

成幸 「いや、うちは貧乏なので、あまりこういう場所に来たことがないので……」

成幸 「あの、入園料とかすごく高いですよね。さすがに俺も少しは……」

美春 「結構です。私が頼み込んで、無理を言って来てもらっているんですから」

成幸 「でも……」

美春 「でもも何もありません。そもそも、年下の男子にお金を出させるなんて、女がすたるというものです」

成幸 「……わかりました。じゃあ、チケット、いただきます。ありがとうございます」

美春 (だから、私が頼んで来てもらっているのだから、お礼を言う必要もないというのに……)

美春 (まったく、融通の利かない子ですね。そういうトコロ、きらいではないですが……)

美春 「………………」 ハッ (き、きらいでないだけで、好きというわけではありませんからね!?)

美春 (……って、私は一体誰に言い訳しているのでしょうか? は、恥ずかしい……)

成幸 「……?」 (美春さん、なんかあたふたして、どうかしたのかな……?)

368以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:44:49 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「美春さん、何か乗りたいものとかありますか?」

美春 「えっと……」 カァアアアア…… 「実は私も、恥ずかしながら、あまりこういったところに来たことがなくて……」

成幸 「ああ、そうなんですね。そういえば先生も同じようなこと言ってたしなぁ」

成幸 「じゃあ、俺と同じですね。パンフレットを見ながら、行きたい場所を探してみましょうか」

バサッ……

美春 「色々なところがありますね……うーん……」

成幸 (ふふ、悩んでるなぁ、美春さん。アスリートだから、ジェットコースターとか好きそうだけど……)

美春 「……ああっ!」

成幸 「気になるところがありました?」

美春 「ここ! ここに行きたいです!」 ビシッ

成幸 「……? “キャラクターたちと遊ぼう! ファンシーエリア” ……?」

369以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:46:37 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「きゃああああああああああああ!!!」 キラキラキラキラ……!!!

美春 「かわいいモフモフがたくさんいますよ、唯我成幸さん!!!」 ブンブンブン

成幸 「あ、はい。大丈夫です。俺にも見えてますから。揺らさなくていいですよ」

美春 「ぎゃんカワです!! これがぎゃんカワというものなのですね唯我成幸さん!!」 ブンブンブン

成幸 「あ、はい。その言葉は知らないですけどたぶんそうです」

成幸 (揺すられすぎてアトラクションに乗ってもいないのに酔いそうだ……) ウップ

美春 「えっ、一緒に写真を撮っていいんですか!?」 キラキラキラ……!!!!

美春 「唯我成幸さん! キャラクターさんたちと写真を撮りたいので、撮影をお願いしてもいいですか?」

成幸 「あ、はい。わかりました」

美春 「だ、抱きついてもいいですか? ……わっ、もふもふです」

成幸 (キャラクターに囲まれて、子どもみたいにはしゃいじゃってまぁ……)

クスッ

成幸 「じゃあ撮りますよ。はい、チーズ」

パシャッ

370以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:48:56 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「………………」

カァアアアア……

美春 「す、すみません。はしゃいでしまって……」

成幸 「いえいえ、楽しかったなら何よりじゃないですか」

成幸 「写真、たくさん撮ったから送りますね」

美春 「うぅ……。こんな無防備に笑って、はしたないです……」

成幸 「そんなことないですよ。どれも良い笑顔だと思いますよ」

成幸 (……ん、そういえば古橋師匠の教えてくれたサイトに、こんなときのアドバイスもあったな)

成幸 (こういうときは、たしか……)

成幸 「……えっと、その……どの写真も、とっても可愛くて、綺麗です」

美春 「ふぇっ……」 ボフッ 「しょ、しょう、でしゅか……///」 プシューーー

成幸 「あっ……」 (しまったな。やっぱり俺に言われても嬉しくないよな。そっぽ向いちゃった……)

美春 (と、とととと、殿方に、可愛いなどと言われてしまいました。うぅ……///)

371以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:49:48 ID:PQ1Q6G.6
成幸 (……でも、どの写真も、本当に楽しそうだ)

成幸 (アイスショーのこととか抜きにしても、普通に楽しんでくれているなら、何よりかな)

成幸 「……美春さんは可愛いものがお好きなんですね」

美春 「へ……? え、ええ。昔、犬を飼っていたことがあって。そのときからずっと、モフモフは好きです」

成幸 (……ああ。例の逃げ出してしまったというワンちゃんか)

美春 「こうやってキャラクターに囲まれて写真を撮るなんて初めてで、興奮してしまいました」


―――― 『……全てにおいてフィギュア第一だったから』

―――― 『あんな風に 学校帰りに寄り道して談笑した記憶もほぼないわね』


成幸 (……先生は、友達と一緒に遊んだり、そういったことはほとんどしたことがないと言ってたけど)

成幸 (やっぱり、美春さんもそうなんだろうな……)

成幸 「………………」

成幸 (……よし、それなら!) グッ (アイスショーの助けになるのは元より!!)

成幸 (できるだけ、今みたいに美春さんに楽しんでもらえるように、がんばるぞー!)

372以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:50:33 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「美春さん、次はどこに……って、あれ? 美春さん?」

美春 「………………」 ジーーーーッ

成幸 (いつの間にか売店にいる……。忙しない人だなぁ……)

美春 「ふわぁあああ……」 キラキラキラ……!!!!

成幸 「美春さん? 何を見てるんですか?」

美春 「あ、すみません。ちょっと、ぬいぐるみを……」

美春 「このぬいぐるみ、昔飼ってた犬にそっくりでかわいくて……」

成幸 「ああ、さっき言ってた子ですね」 (なんか、俺がよく着させられる着ぐるみにも似てるな……)

美春 「………………」 キラキラキラ……!!!!

ハッ

美春 「い、いけません。またぬいぐるみを増やしたら、母さまに怒られてしまいます!」

美春 「実家に置きっぱなしの子たちもいるんだから、我慢しないと……」

美春 「……では、次に行きましょう、唯我成幸さん。次はジェットコースターに乗りたいです!」

成幸 「? いいんですか? もっと見ていっても……」

373以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:51:16 ID:PQ1Q6G.6
美春 「いいんです。もう大学生なのだから、子どもっぽい趣味も大概にしないといけませんし」

美春 「姉さまみたいな立派な女性になるには、大人にならないといけませんから」

成幸 (言うほどあの人は立派な女性だろうか……。いや、言うとまた怒られそうだからやめておこう)

成幸 (でも……)

美春 「……はぁ、でも本当にかわいいですね」 シューン

成幸 「あ……すみません、ちょっとお手洗いに行って来ます。待っててください」

美春 「? わかりました」

成幸 「………………」

トトトトト……

成幸 (……チケットも何もかも奢ってもらって、悪い気持ちもあるし)

成幸 (少しくらい、いいよな……)


―――― 『いいんです。もう大学生なのだから、子どもっぽい趣味も大概にしないといけませんし』


成幸 「………………」

成幸 (……あんな寂しそうな顔、してほしくないしな)

374以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:52:36 ID:PQ1Q6G.6
………………ジェットコースター搭乗後

美春 「ふふっ、楽しかったですね、唯我成幸さん! 加速感がたまりません!」

成幸 「うっぷ……うぅ、そ、そうですね……」 フラフラフラ

成幸 (事前に美春さんに揺すられていたのも相まって、滅茶苦茶酔ってしまった……)

成幸 (加速感とか言っちゃうあたり、この人はやっぱり桐須先生の妹だな……)

美春 「もう一回乗りましょう、唯我成幸さん!」

成幸 「か、勘弁してください……」

………………コーヒーカップ

美春 「ふふふ、回転軸が自分にない回転は新鮮です!!」 グルグルグルグルグル!!!!

成幸 「うぷっ……ち、ちょっと、美春さん、回しすぎ……」

成幸 「っていうかよく酔いませんね……」

美春 「鍛えてますから! これくらいの回転数なら首を回さなくても酔いません!」

美春 「もっと速く回せませんかね、これ!」

成幸 「か、勘弁してください……うぷっ……」

375以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:53:10 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「………………」 グタッ……

美春 「唯我成幸さん、大丈夫ですか?」

成幸 「すみません……。少し、休ませてもらえると……」

美春 「もちろんです! ゆっくり休んでください!」

シューーーン

美春 「……すみません。私のせいですね」

美春 「楽しくて、ついハメを外しすぎてしまいました……」

成幸 「あ、いや、全然、美春さんのせいじゃないですよ……うぷっ……」

美春 「ああっ、やっぱりつらそうです。何か飲み物でも買ってきますね!」 ピューン!!!!

成幸 「おかまいなく……って、もう行っちゃったか」

成幸 (うぅ、情けない。がんばるって決めたのに、もうダウンしてしまった……)

成幸 (美春さん、せっかくすごく楽しそうだったのに……――)

  「――……えぐっ、ぐすっ……」  「お母さん、どこー……えぐっ……」

成幸 「ん……?」

376以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:53:49 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 「………………」

ハァ

美春 (私としたことが、後先考えず、唯我成幸さんに迷惑をかけてしまいました)

美春 (年上の女として、色香を振りまいて誘惑するつもりが、何をしているのでしょうか、私は)

美春 (……きっと、唯我成幸さんも呆れているでしょうね)

美春 (これ以上の醜態を晒す前に、今日は早々と勉強タイムにした方がいいでしょうか……)

美春 「……ん?」

成幸 「そうかそうか。お母さんとはぐれちゃったのかー」

みな 「えぐっ……ぐずっ……」 コクコクコク かな 「ぐすっ……」 コクコクコク

成幸 「怖かったなー。でも大丈夫だぞー。お兄ちゃんと一緒に迷子センターに行こうな」 ナデナデ

かな 「ぐすっ……ん……」 ギュッ みな 「……うん」 ギュッ

美春 「……? 唯我成幸さん、その子たちは?」

成幸 「ああ、美春さん。どうも迷子みたいです。お母さんとはぐれてしまったみたいで……」

美春 「迷子さんですか。おやおや、それは困りましたね……」

377以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:54:28 ID:PQ1Q6G.6
成幸 「……すみません。あの、恋人役をやっている最中で、恐縮なのですが」

成幸 「この子たちを迷子センターに届けてもいいでしょうか」

美春 「当然です! 小さな子供の庇護は何をおいても優先されるべきです!」

美春 「お嬢さんたち、この桐須美春が来たからにはもう安心ですよ!」

かな&みな 「「………………」」

スススススッ……

成幸 「あっ……」 (俺の後に隠れてしまった……)

美春 「なっ……」 ガーーーーン

美春 「………………」

美春 「……では、行きましょうか、唯我成幸さん。お嬢さん方」 ズーーーン

成幸 (迷子に振られて少し暗くなってしまった。分かりやすい人だ……)

378以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:55:22 ID:PQ1Q6G.6
………………迷子センター

成幸 「放送もしてもらいましたし、じきにお母さんも来るでしょう」

成幸 「あとは係員さんに任せて大丈夫だと思います。すみません、お時間を取らせました」

成幸 「遊園地デートの続きに戻りましょう」

美春 「……いえ、まだ無理だと思いますよ」

成幸 「へ?」 ギュッギュッ 「あっ……」

かな&みな 「「………………」」 ジーーーーーーッ

成幸 (俺の服の裾を掴んで離しそうにない。目線は無言で何かを訴えている……)

成幸 「……あー、えっと、その、美春さん。大変申し上げにくいのですが……」

美春 「皆まで言う必要はありません。先ほども申し上げた通り、子供の庇護が最優先です」

美春 「唯我成幸さんがいた方がその子たちの精神が安定するのなら、一緒にいてあげてください」

成幸 「あ、何なら美春さんだけ遊園地を回っていていただいても……」

美春 「は? 私に一人で遊園地ではしゃぎ回る浮かれた成人女になれと?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……すみません。一緒にいていただけると、すごく頼もしいので一緒にいてください」

379以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:55:53 ID:PQ1Q6G.6
………………

美春 (……とは言ったものの)

かな 「おにいちゃん、まえにどこかであったことある?」

成幸 「え? ……んー、そういえば、見たことがあるような……」

みな 「かな、おにいちゃんなんぱしちゃだめよ」

かな 「なんぱじゃないよぉ。ほんとにどこかであったことあるのー」

美春 (ふたりとも随分と落ち着いて来たようですね。いいことではありますが……)

みな 「かな、むこうのおねえちゃんがしっとしちゃうわ」

美春 (……随分とませたことを言うものですね)

美春 (まぁ、私のことは少し怖いようですし、このまま少し離れたところにいれば……――)

かな 「……? あ、くまちゃん!」

美春 「……?」 (こっちを見て、一体何を……)

美春 (……ん、ひょっとして、昨日ゲームセンターで取ったこのぬいぐるみのストラップですか)

かな 「くまちゃん……」 キラキラキラ……!!!!

380以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:56:55 ID:PQ1Q6G.6
美春 「………………」

美春 『や、やぁ。ぼくはくまきち! こんにちは!』

成幸 「!?」

かな&みな 「「……!」」 パァアアアアアア……!!!

かな 「おねえちゃん、くまちゃんしゃべったよ!」

みな 「そうね、かな。かわいいわね」

美春 (口元に当てて喋っただけですが、想像以上に喜んでくれている……)

美春 (す、少し嬉しいですね……)

成幸 「………………」 クスッ (美春さん、嬉しそうだな。じゃあ……)

成幸 「ふたりとも、くまきちくんを呼んだら、きっとこっちに来てくれるよ?」

かな&みな 「「!!」」

かな 「くまきちー! おいでー!」

美春 「あっ……」

美春 『い、いま行くよー!』

トトトトト……

381以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:57:35 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 『こ、こんにちは! わたしはくまこ!』

かな 「くまこちゃん! こんにちは!」

みな 「くまこちゃんはおんなのこなのね!」

成幸 (気づいたら成り行きで俺までごっこ遊びに巻き込まれていた……)

成幸 (でも懐かしいな。昔、よく水希、葉月、和樹にせがまれてごっこ遊びをしたなぁ)

みな 「くまこちゃんとくまきちくんはどんなかんけいなの?」 ワクワク

成幸 「えっ、関係……?」 (なんでこの子たちはこんなにませているんだろう……)

成幸 『えっと、わたしとくまきちくんは、仲良しのお友達よ』

美春 『そう、ぼくたちは仲良しのお友達!』

みな 「ほんとに〜? そんなこといって、ないしょでおつきあいしてたりしない?」

美春 「な、内緒でお付き合いって……」 (本当におませな子たちですね……)

かな 「ちゅーするかな。ちゅーするかな」 ワクワク

みな 「きっとするわよ、かな」 ワクワク

成幸 (本当におませだな!)

382以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:58:08 ID:PQ1Q6G.6
………………

かな 『くまこちゃん。ただいまー』

みな 『くまきちくん、おかえりなさい』

かな 『ただいまのちゅー……』

みな 『もうっ、くまきちくんったら……ちゅっ』

美春 (っ……私と唯我成幸さんの、おそろいのストラップが、キスを……///)

成幸 (気づけばストラップも取られてしまいましたね) コソッ

美春 (!?) ビクッ (そ、そうですね! でも楽しそうに遊んでいるようで何よりです) コソッ

成幸 (? 元気に遊んでる間にお母さんが来てくれるといいんですが……――)

「――かなー! みなー!」 バーーーン!!

かな 「! おかあさん!」

みな 「おかあさーん!」

ギュッギュッ

お母さん 「ふたりとも、遅くなってごめんね! 無事で良かった……!」

383以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:58:55 ID:PQ1Q6G.6
………………

お母さん 「本当に、なんとお礼を申し上げていいか……」

成幸 「気にしないでください。一緒に遊んでいただけですから」

かな 「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとー!」

みな 「くまきちくんとくまこちゃんも、ありがとね」

かな 「くまきち……くまこ……」

みな 「ほら、かな。おにいちゃんとおねえちゃんにかえしてあげないと」

かな 「うん……」

美春 「………………」

クスッ

美春 「くまきちもくまこも、ふたりと一緒に行きたいって言ってますよ」

かな 「へ……?」

美春 「だから、もしよければ連れて行ってあげてくれませんか?」

みな 「……いいの?」

美春 「はいっ! ふたりとも、かなちゃんとみなちゃんと遊ぶのが楽しかったみたいですから!」

384以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/05(木) 23:59:44 ID:PQ1Q6G.6
………………

成幸 「ふー。やっと解放されましたね。ませた子たちでしたね」

美春 「………………」

成幸 「……美春さん? どうかしました?」

美春 「すみません、唯我成幸さん。あなたのストラップまであげてしまいました」

成幸 「へ?」

美春 「あれは、私があなたに差し上げたものなのに、勝手をしました。ごめんなさい」

成幸 「い、いやいや! 謝らないでください。あの子たち喜んでたじゃないですか」

成幸 「俺は気にしてないですから、大丈夫ですよ」

美春 「……はい」


―――― 『……お、おそろい、ですね』


美春 (……せっかく、おそろいだったのに)

美春 「……ん?」

美春 (“せっかく” ……?)

385以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:00:19 ID:ho235Jjg
美春 「………………」

ハッ

美春 (わ、私は、何を考えているのでしょう……/// こ、これではまるで……)

美春 (私が、唯我成幸さんとおそろいの物がなくなったことを残念がっているようではありませんか……///)

成幸 「………………」

成幸 「……あ、あの、美春さん」

美春 「!? ひ、ひゃい!? な、なんでしょうか、唯我成幸さん!」

成幸 「えっと……その、ストラップの代わりというわけではないのですが……」

成幸 「こ、これを……」

スッ

美春 「へ……? この遊園地の包装紙……? これは何ですか?」

成幸 「さっき買ったんです。あの……お気に召すか分からないですけど、開けてみてください」

美春 「は、はい……」

ガサゴソガサガサ……

美春 「あっ……」

386以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:00:56 ID:ho235Jjg
美春 「……ふぁぁあああああああああああああ!!」 パァアアアアアア……!!!


―――― 『このぬいぐるみ、昔飼ってた犬にそっくりでかわいくて……』


美春 「さ、さっきのペロ似のぬいぐるみ! なんで……?」

成幸 「さっきトイレに行くフリをして、こっそり買ってたんです」

美春 「そ、そうではなくて! どうして買ったのかを聞いているんです」

成幸 「いや、それは、だって……」


―――― 『いいんです。もう大学生なのだから、子どもっぽい趣味も大概にしないといけませんし』


成幸 「……美春さんに、あんな顔、してほしくなかったので」

美春 「へ……?」

カァアアアア……

美春 「は、はうっ……///」

美春 「……えっと、あの……その……」 ギュッ

美春 「あ、ありがとうございますっ! すごく嬉しいです……」

387以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:02:07 ID:ho235Jjg
成幸 「あっ……///」 カァアアアア…… 「そ、それなら良かったです」

美春 「……あ、あの、大切にします。大切に……///」

成幸 「は、はい……///」

美春 (……摩訶不思議。少し寂しい気持ちだったのがウソのようです)

美春 (今は、とても満ち足りた気持ちです……) ドキドキドキドキ……

成幸 「……? 美春さん?」

美春 (落ち着いているのに、胸は高鳴っている……)


―――― 『恋をすると、回りが見えなくなるの。相手しか見えなくなるの』

―――― 『それなのに、周囲すべてが輝いて見えるわ。もちろん、恋する相手もね』

―――― 『一緒にいると、ドキドキして落ち着かなくなる』

―――― 『でもそれと同時に、どこか落ち着く。ずっと一緒にいたいと思う』

―――― 『……そんな恋を、あなたに知ってもらいたいのよ』


美春 (……私は) ドキドキドキ

美春 (ああ、そうか。私は、この人のことを……) ドキドキドキドキ……

388以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:02:45 ID:ho235Jjg
成幸 (……? 美春さん、急にボーッとしちゃったけど、どうしたんだろ)

美春 「………………」

美春 「……何かをつかめた気がします」

成幸 「へ?」

美春 「感謝します、唯我成幸さん。そして、ごめんなさい」

美春 「この感覚を忘れないうちに、練習に戻りたいんです。なので……」

成幸 「………………」 ニコッ 「何か分かったんですね! すごいじゃないですか!」

成幸 「俺のことは気にせず、練習に戻ってください!」

美春 「あっ……ありがとうございます!」

美春 「すみません。勝手を言って、勝手に振り回して……ご迷惑をおかけしました」

美春 「結局勉強も見て差し上げられませんでした。本当にごめんなさい」

美春 「この埋め合わせは必ずします! それでは、また!」

トトトトト……

成幸 「あっ……」 グッ 「が、がんばってくださいねー! 応援してますからー!」

美春 「はいっ! がんばりますー!」

389以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:03:17 ID:ho235Jjg
………………スケートリンク

プロデューサー 「………………」

プロデューサー (……さて、美春ちゃんは今ごろ何をやっているかしらね)

プロデューサー (まじめなあの子のことだから、古今東西あらゆるラブストーリーを観ているかしら)

プロデューサー (それとも、本当の恋愛に挑戦していたりして……)

クスッ

プロデューサー (……なんて、まさかそんなことは……――)

――――バーーーーン!!

プロデューサー 「!? み、美春ちゃん!?」

美春 「………………」 ゼェゼェゼェ……

プロデューサー 「そ、そんなに息を切らしてどうしたの!? ゲネプロは三日後よ?」

美春 「わっ……わかり、そうなんです……」

プロデューサー 「へ……?」

美春 「わかり、かけているんです。恋心、というものが、きっと……」

390以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:04:19 ID:ho235Jjg
美春 「その人と一緒にいるとドキドキして、でもどこか心地よくて……」

カァアアアア……

美春 「だから……」 キッ 「私を練習に戻してください! 私が、この気持ちに慣れてしまう前に!」

プロデューサー 「………………」

美春 「………………」

プロデューサー 「……わかったわ。美春ちゃん。何かをつかめたようね」

プロデューサー 「練習に戻る事を許可します。早速着替えてらっしゃい」

美春 「は……はい!」 パァアアアアアア……!!!

トトトトト……

プロデューサー 「……驚いた。二日で随分と変わったものだわ」

ドキドキドキドキ……

プロデューサー 「この私がドキドキさせられてしまうなんて、相当ね……」

プロデューサー (……さすがだわ、桐須美春。まったく、将来有望ね)

プロデューサー (それにしても……) クスッ

プロデューサー (一体どこの素敵な殿方かしら。あの美春ちゃんに、あんな顔をさせるなんて)

391以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:05:00 ID:ho235Jjg
………………週末

成幸 「………………」

カリカリカリ……

成幸 「……ふぅ。少し休憩しようかな。だいぶ進んだし」


―――― 『へ……? こ、この広辞苑もビックリな分厚さの冊子が、デートプラン……?』


成幸 (……結局、あれから美春さんから連絡はない)

成幸 (きっと、俺とのデートで何かが掴めたんだろう。今も練習しているに違いない)

成幸 (それは純粋に嬉しいし、俺も役に立てたなら少し、誇らしい気持ちもある)

成幸 (でも、不思議だ。本当だったら今日もあの人とデートをしていたと思うと……)

クスッ

成幸 (……少し、寂しい、なんて思ってしまうのだから)

成幸 (まだ、冊子の半分も終わってなかったんだけどな……――)

――――ピンポーーン

成幸 「……? 誰だろ?」

392以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:05:33 ID:ho235Jjg
ガラッ……

美春 「あっ……」

成幸 「へ……? 美春さん?」

美春 「ど、どうも、唯我成幸さん。こんにちは」

成幸 「こんにちは。一体どうしたんですか? 俺の家、よく分かりましたね」

美春 「姉さまに教えてもらったんです。生徒の個人情報だからと渋られましたが……」

成幸 「あ、お茶でもいれますよ。どうぞ上がってください。今は家族も誰もいませんし」

美春 「!? い、いえ! すぐに練習に戻らないといけないので、結構です!」

美春 (とっ、殿方一人のお宅にお邪魔するなんて、さすがにできません!)

美春 「あの、今日はこれをお渡しするためだけに来たんです」

成幸 「……? 何です、これ? チケット?」

美春 「は、はい。明日、私が出演するアイスショーのチケットです」

美春 「も……もしよろしければですが! 観に来ていただけませんか……?」

成幸 「えっ……あっ、えっと……」

成幸 「……わ、わかりました。わりがとうございます。観に行きます。絶対」

393以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:06:08 ID:ho235Jjg
美春 「は、はい! ありがとうございます! 嬉しいです!」

成幸 「う、嬉しいって、そんな、大げさな……」

美春 「……いえ、嬉しいです。本当に」 クスッ 「正真正銘。本当の本当ですからね」

成幸 「は、はい……」

美春 「……すみません。関係者席のチケットがなくなってしまったので、一般席ですが」

成幸 「いえいえ! チケットがもらえるだけで嬉しいです!」

美春 「………………」

成幸 「………………」

美春 「……では、そろそろ、私は練習に戻ります」

成幸 「あ、はい! わざわざ来ていただいて、ありがとうございました」

美春 「いえいえ、お勉強の邪魔をしてしまいましたね。それでは、また」

成幸 「……は、はい。また……」

成幸 「………………」

成幸 「……あっ、あのっ」

美春 「……? 何でしょうか?」

394以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:06:43 ID:ho235Jjg
成幸 「……この前のデート、とても楽しかったです」

美春 「えっ……」 ドキッ

成幸 「だ、だから、その……」

カァアアアア……

成幸 「じ、自家撞着、です。まだあのデートプランの半分も終わってないですよ」


―――― 『では、これが今日から週末までのデートプランになります! 目を通しておいてくださいね!』


成幸 「み、美春さん的にも、一度自分が言った事を曲げるのは、納得いかないんじゃないですか?」

美春 「えっ……ええと……」 ドキドキドキドキ……

成幸 「だから、その……俺は、楽しかったので、もし美春さんさえよければ……」

成幸 「……また今度、あのデートの続きをしませんか? 俺の受験が終わった頃にでも」

美春 「ふぁっ……」 カァアアアア…… 「そっ、そそそ、そう、ですね……」

美春 「一度言った事を曲げるのは、やっぱり、だ、ダメですよね……」

成幸 「も、もちろんそのときは、ちゃんとバイトしてお金を貯めておきますから!」

美春 「………………」 クスッ 「……ふふ。なんですか、それ。そんなこと気にしていませんよ」

395以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:07:56 ID:ho235Jjg
美春 「………………」

成幸 「………………」

美春 「……では、そろそろ失礼しますね」

成幸 「はい。引き留めてしまってすみません。練習、がんばってくださいね」

成幸 「アイスショー、楽しみにしていますから!」

美春 「ありがとうございます。がんばりますっ!」


―――― 『その人と一緒にいるとドキドキして、でもどこか心地よくて……』

―――― 『私を練習に戻してください! 私が、この気持ちに慣れてしまう前に!』


美春 (プロデューサーにあんな啖呵を切ってしまいましたけど、杞憂でした……)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

美春 (な、慣れるはずありません。ますますドキドキが大きくなった気がします……)


―――― 『……また今度、あのデートの続きをしませんか?』


美春 「っ……///」

396以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:08:35 ID:ho235Jjg
トコトコトコトコ……ピタッ

美春 「……うそ、ついてしまいました」


―――― 『あ、そうだ、姉さま。関係者席のチケット、もう一枚余っているのですが……』

―――― 『……すみません。関係者席のチケットがなくなってしまったので、一般席ですが』


美春 「………………」

ピラッ

美春 「……結局、余らせてしまいました、関係者席。これは、プロデューサーにお返しした方がいいですね」

美春 (……だって、仕方ないじゃないですか。関係者席のチケットを渡したら、彼は――唯我成幸さんは、)

美春 (きっと、姉さまと一緒にアイスショーを観ることになる。仲睦まじく。お似合いの様相で)

ズキッ

美春 (……私はなんて浅ましいのでしょう。それが耐えられないと思ってしまう)

美春 (悲しいって、辛いって、苦しいって……そう、思ってしまう)

美春 (この気持ちはなんでしょう。まさか本当に、恋というものなのでしょうか)

美春 (私は、唯我成幸さんのことを好きだと……そう、思ってしまっているのでしょうか)

397以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:09:32 ID:ho235Jjg
美春 「………………」

フルフルフル

美春 (夏炉冬扇。今は考えても詮無いことですね。本番に向けて、集中しなければ……)

美春 (私の気持ちがどうであれ、この気持ちが私の演技のプラスになるのなら)

美春 (それだって利用するだけです。私はスケーターなのですから)


―――― 『……美春さんに、あんな顔、してほしくなかったので』


美春 (……嬉しい気持ち)


―――― 『……また今度、あのデートの続きをしませんか?』


美春 (ドキドキする気持ち……)


―――― ((悲しいって、辛いって、苦しいって……そう、思ってしまう))


美春 (胸が張り裂けそうな気持ち)

美春 (その全部……全部全部、スケートのために使うだけです!)

398以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:10:26 ID:ho235Jjg
………………アイスショー当日

成幸 「うわぁ、すごい人だなぁ……」

ザワザワザワザワ……

「桐須美春、初演劇アイスショーで初主役だって! すごいよね!」

「まだエリジブルなのに普通のショーにもたくさん出てるよな」

「スケートめっちゃうまいのにめっちゃ美人で、憧れるよね〜!」

成幸 (それにしても、すごい人気だな、美春さん)

成幸 (改めて、今さらながら本当にすごい人なんだな、あの人……)

成幸 (ん、もらったチケットの席はあそこか。混んでるし、座って待ってよう)

成幸 (……目が合ったりしたら手でも振ろうと思ってたけど、こりゃ気づいてもらえないな)

成幸 (これだけ回りにたくさん人がいたら分かるはずないよな)

成幸 「………………」 ドキドキドキドキ…… (……三十分後くらいに開演か。はぁ、なんか緊張するな)

ハッ

成幸 「……ん?」 (……何で俺が緊張してるんだ?)

399以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:11:09 ID:ho235Jjg
………………開演

〜〜〜♪

成幸 (……演目は “白鳥の湖”)

成幸 (正直、台詞も何もない、スケートリンク上で演技をするだけのショーで何が分かるんだって思っていたけど、)

ゴクッ

成幸 (すごい……!)

成幸 (遠目でしか見えないから、細かい表情もよく分からない。でも……)

成幸 (美春さんの動きすべてから、まるで感情が流れ込んでくるみたいだ……)

成幸 (それに……) カァアアアア……

成幸 (すごく、きれいだ。デートしていたときと違うきれいさで……) ドキドキドキドキ……

成幸 (あの人が、本当に……)


―――― 『かわいいモフモフがたくさんいますよ、唯我成幸さん!!!』

―――― 『ぎゃんカワです!! これがぎゃんカワというものなのですね唯我成幸さん!!』


成幸 (あの桐須美春さんと同一人物なんだなぁ……) ドキドキドキドキ……

400以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:13:43 ID:ho235Jjg
………………

美春 (好き……好き……)

美春 (だから、悲しい。好きだからこそ、裏切りが、つらい)

美春 (いまは少しだけ、気持ちが分かる……)

美春 (気持ちを重ねて、姫の心をなぞって……)

美春 (わたしは……)


―――― 『美春』

―――― 『美春さん』


美春 (……姉さまのことが好き。唯我成幸さんのことも、きっと……)

美春 (でも、だからこそこれはきっと、本物じゃない)

美春 (恋に恋しているだけ。そうでなければ、私はこんな風に、この気持ちを利用したりはできない)

401以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:14:16 ID:ho235Jjg
美春 (だから……)


―――― 『……美春さんに、あんな顔、してほしくなかったので』

―――― 『……また今度、あのデートの続きをしませんか?』


美春 (嬉しかった言葉も、戸惑う気持ちも、悲しい想いも、すべて……)

美春 「………………」

美春 (もう演目の終わりも近い。姉さまも見てくれている。この気持ちを、そのまま曲に乗せて)

美春 (きっと唯我成幸さんも見てくれている)

美春 (どうですか、唯我成幸さん。私の演技、見てくれていますか?)

美春 (しっかりと舞えていますか? 滑れていますか? 私は、魅力的ですか?)

美春 (……なんて、一般席のどこにいるかも分からないあなたに問いかけても、どうしようも……――)

パッ……パァッ……!!!

美春 (へ……?)

美春 (ど、どうして……?)

美春 (どうして、あなたを見つけてしまえるのでしょう……唯我成幸さん……!)

402以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:15:01 ID:ho235Jjg
………………リンク脇

プロデューサー 「………………」

ブルブルブルブル!!!!

プロデューサー (素晴らしいわぁ! 素晴らしい演技よ美春ちゃん!!!!)

プロデューサー (つい先日まで、恋のこの字も表現できていなかったあの子が……!)

プロデューサー (今は本物の悲劇のお姫様のように、優雅に、可憐に舞っている……)

プロデューサー (ああ、次回公演の発想がどんどん湧いてくるわぁ!!)

プロデューサー (予定さえ合えば、また美春ちゃんを主役に……)

プロデューサー 「……ノン! 美春ちゃんの予定に合わせて次回公演を組むわぁ!!」

403以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:15:52 ID:ho235Jjg
………………

美春 (こんなに多くの観客がいる中で、どうして……)

美春 (唯我成幸さん、どうしてあなたはそんなにも光り輝いて見えるのでしょう)


―――― 『恋をすると、回りが見えなくなるの。相手しか見えなくなるの』

―――― 『それなのに、周囲すべてが輝いて見えるわ。もちろん、恋する相手もね』


美春 (ああ、もうこんなの、自分を誤魔化すことすらできないではないですか……)

美春 (私は……ええ、そうです。私は……!!)



美春 (私はあなたのことが好きです。唯我成幸さん)



美春 (……届いてほしい)

美春 (この気持ちを、唯我成幸さんに届けたい……!)

美春 (好き! 好き……!! あなたのことを……)

美春 (お慕い申し上げております、唯我成幸さん!!)

404以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:16:22 ID:ho235Jjg
パチパチパチ……パチパチパチパチパチパチパチパチ……!!!!!

美春 (へ……?)

美春 (あっ、い、いつの間にか、演目が終わっていました……)

美春 (こんなに演劇に没頭できるなんて思っていませんでした……)

美春 (でも、すごく……)

美春 (満ち足りた、やりきった気持ちです……)

美春 「………………」

美春 (……ねぇ、唯我成幸さん。私の気持ち、届きましたか?)

美春 (私の想い、感じてくれましたか? ドキドキ、してくれましたか?)


―――― 『……また今度、あのデートの続きをしませんか?』


美春 (……そのときに、お返事聞かせてもらいますからね)

ニコッ

美春 (そのときこそ、私の魅力で、あなたをトリコにしてみせますから!)

405以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:16:54 ID:ho235Jjg
………………観客席

成幸 「………………」

ドキドキドキドキ……

成幸 (す、すごかった。後半、ずっとドキドキしっぱなしだった……)

成幸 (最後の最後まで見入ってしまった。すごい……)

美春 「……」 ニコッ

成幸 (へ……?)

成幸 (いま、俺の方を見た……?)

成幸 「………………」

成幸 (い、いやいや、こんなに人がたくさんいて、俺のことを見分けられるわけないよな……)

成幸 「………………」

成幸 (……ない、よな?)

おわり

406以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:17:39 ID:ho235Jjg
………………幕間1 「配置」

美春 (唯我成幸さんから頂いたペロはどこに置きましょうかね)

美春 (んー、配置で考えるなら姉さま人形の隣がベストでしょうか……)

ポン

美春 「………………」

モヤモヤモヤモヤ……

美春 (……姉さまとペロがくっついていると、少しモヤモヤしますね)

ススススッ……

美春 (少し離して……これでよしっ、と)

407以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:18:22 ID:ho235Jjg
………………幕間2 「ねぞう」

美春 「左に姉さま人形、右に唯我成幸さんからいただいたペロを寝かせて、と」

美春 「ふふ……ふふふふ。まさに両手に花状態ですね」

美春 「これはきっと良い夢が見られるはず! おやすみなさーい!」

………………翌朝

美春 「……むにゃ、もう朝ですか……」 ムクリ

美春 「あれ? ペロと姉さまは……」

ハッ

美春 「ぺ、ペロが姉さまに覆い被さってますー! ハレンチです!」

美春 「私の隣で寝ていたはずなのにー! そんなに姉さまがいいんですかー!」

美春 「唯我成幸さんのばかー! 浮気者ー!」

おわり

408以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:20:53 ID:ho235Jjg
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。
とりあえず今週末シリーズは一区切りかなと思います。
原作での立ち位置がどうであれ、好意を明示するというテーマで書きました。
くどい話が多かったと思いますが、わたしは書いていて楽しかったです。

次、投下します。

【ぼく勉】 真冬 「洗濯機が壊れた日に」

409以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:21:23 ID:ho235Jjg
………………唯我家

花枝 「参ったわねぇ……」

成幸 「……んー、うんともすんともいわないな」

成幸 「さすがにこれは俺にどうにかできるようなことじゃないな」

花枝 「急に洗濯機が壊れるなんてねぇ。困ったわ」

成幸 「まぁ仕方ないよな。物心ついた頃からこの洗濯機だし」

成幸 「修理は?」

花枝 「さっき電話したけど、来られるのは早くても明日になるそうなの」

花枝 「今日のお洗濯はコインランドリーに行くしかないわね」

成幸 「ああ、じゃあ俺が行ってくるよ。参考書持って行けば待ってる間勉強できるし」

花枝 「あら、ほんと? 助かるわ。じゃあお願いしてもいいかしら」

ズシン……!!!

成幸 「!? か、母さん? 何、その洗濯物の量は……」

花枝 「どうせコインランドリー行ってもらうなら、大物もついでに洗ってもらおうかな、って」

花枝 「じゃ、よろしくね♪ 成幸」

410以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:22:03 ID:ho235Jjg
………………

成幸 「………………」

ヨロヨロヨロヨロ……

成幸 (……母さんめ。息子の厚意を利用するとは、なんて母親だ)

成幸 (うー、カーテンとかマットとかも入ってるから重い。っていうか、これ、ビニール袋破けないよな……)

ビリッ……ビリビリッ……

成幸 (ヒィーーー!? ほんとに破けてきたー!?)

ドサッ……

成幸 「ああ……」 (もっと小分けにしてビニール袋にいれればよかったな……)

成幸 (うーん、どうしよう。全部身体に巻き付ければ持って行けるかな)

成幸 (でも、それだと洗濯物のお化けみたいになりそうだな……)

成幸 (また職務質問されるのはカンベンだし。うーむ……――)

  「――奇遇。そんなところで立ち尽くして、一体どうしたの、唯我君」

成幸 「へ……? あっ、桐須先生。こんにちは」

真冬 「ええ、こんにちは。一体どうしたの? それは……洗濯物?」

411以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:22:38 ID:ho235Jjg
成幸 「はい。家の洗濯機が壊れちゃって、コインランドリーに行く途中だったんですけど……」

成幸 「ビニール袋に洗濯物を詰め過ぎちゃって、破れちゃったんです」

真冬 「軽率。あなたは本当に、ヘンなところが抜けているのだから」

成幸 「面目ないです……」

真冬 「……まったく。仕方ないわね」

スッ

真冬 「洗濯物、半分持つわ。二人なら持てない量じゃないわ」

成幸 「本当ですか。助かります。でも、先生、どこかへお出かけの予定だったんじゃ……」

真冬 「偶然が重なって少し驚いたけれど、実は私もなの」

成幸 「へ……?」

真冬 「私も洗濯機が壊れてしまって、これからコインランドリーに行くところだったのよ」

真冬 「だから何の問題もないわ」 ヒョイヒョイッ 「……さ、行きましょう。一番近くのコインランドリーでいいわね?」

成幸 「あ、はい! ありがとうございます!」

412以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:23:17 ID:ho235Jjg
………………コインランドリー

成幸 「あっ……」

真冬 「? どうかしたの、唯我君。早く洗濯機を回したら?」

成幸 「あ、いえ、そうしたいのはやまやまなんですけど」 カァアアアア…… 「恥ずかしながら、洗剤を忘れてしまって」

真冬 「……閉口。今日のあなたは本当に抜けているわね」

成幸 「全く返す言葉もないです……」 シューーーン 「買うのももったいないので、家までダッシュして洗剤取ってきます……」

真冬 「待ちなさい。その往復時間は、受験生にとってとても貴重なはずよ」

真冬 「私の洗剤を使いなさい。普段使っているものとは違うでしょうけど、洗濯だけなのだから問題ないでしょう」

成幸 「桐須先生……」 キラキラキラ……!!!! 「ありがとうございます!」

真冬 「そ、そんなに感謝されるようなことじゃないわ。ほら、使いなさい」

成幸 「いえいえ、本当にありがとうございます……って……」

成幸 (なんかめちゃくちゃ高そうな洗剤だ。うちの安い粉洗剤とは全然違うぞ……)

成幸 (でも、使っていいって言ってくれてるんだから、大丈夫だよな……)

キュッ……カパッ……フワッ

成幸 (……あっ、これ、桐須先生と同じ匂いだ)

413以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:23:58 ID:ho235Jjg
………………

ゴウンゴウンゴウンゴウン……

真冬 「……前より間違いが減ったわね。いいことだわ。要素に紐付けて時系列を見られるようになっているわね」

成幸 「ありがとうございます。世界史は先生に教わったおかげで、少し得意になったと思います」

真冬 「……私は関係ないわ。君が頑張った結果でしょう」

真冬 「あら、そこ間違っているわよ」

成幸 「あっ、ほんとだ……」

真冬 「まったく。まだまだ不安ね。もっと精進なさい」

成幸 「そうですね。がんばります!」

カリカリカリ……

成幸 「………………」

真冬 「………………」

真冬 「……最近、どうかしら?」

成幸 「へ? どうって……」

414以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:25:11 ID:ho235Jjg
真冬 「……緒方さん、古橋さん、それから、武元さんもだけれど」

成幸 「ああ、あいつらの進捗ですか? それなら……」

グッ

成幸 「すごいですよ。模擬問題の解答精度がどんどん上がっています」

成幸 「武元も英単語の記憶量がどんどん増えてますし、発音もよくなってきています」

成幸 「三人全員の進路実現が、現実味を帯びてきてますよ」

真冬 「そう……」

成幸 「まぁ、もちろん結果は保証できませんけど……」

成幸 「でも、大丈夫だと思います。最近のあいつらを見てると、心の底からそう思うんです」

真冬 (……まったく。いい顔で笑うものね)

真冬 「……君もよ。唯我君」

成幸 「?」

真冬 「……なれるわ。絶対。お父さんのような、立派な教育者に」

成幸 「へ……?」 カァアアアア…… 「き、急になんですか……」

真冬 「褒めているのよ。他意はないわ」

415以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:25:57 ID:ho235Jjg
成幸 (そうは言ってもな……)

ドキドキドキドキ……

成幸 (滅多に褒めてくれない先生が、あんなにストレートに褒めてくれるなんて……)

成幸 (驚くなというほうが無理な話だよ……)


―――― 『……なれるわ。絶対。お父さんのような、立派な教育者に』


成幸 「………………」

真冬 「……? 唯我君?」

成幸 「……あ、いや、すみません。嬉しいです。すごく。ありがとうございます。でも……」

真冬 「?」

成幸 「……俺、たしかに親父……父さんみたいな教師になりたいと思っています」

成幸 「父さんみたいに、人を励まして、一緒に成長できるような教育者に」

成幸 「……でも、今は思うんです。それと同じくらい、目指すべき先生の姿があるって」

ニコッ

成幸 「俺は、桐須先生みたいな教師になりたいって、そう思うんです」

416以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:26:27 ID:ho235Jjg
真冬 「へ……?」

ハッ

真冬 「わっ、私!?」

成幸 「はい! 先生みたいな、生徒を想って、生徒のためにがんばれる先生に!」

真冬 「なっ……な、何を……///」

プイッ

真冬 「わ、私は、教師として当然のことをしているだけで、そんなの……――」

――ピーーーーーーッ

真冬 「!?」

成幸 「あっ、洗濯終わったみたいですね。取り出さないと……」 トトトトト……

真冬 「………………」 ドキドキドキ (ま、まったく、急に何を言い出すかと思えば……)


―――― 『俺は、桐須先生みたいな教師になりたいって、そう思うんです』

―――― 『はい! 先生みたいな、生徒を想って、生徒のためにがんばれる先生に!』


真冬 「っ……///」

417以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:27:09 ID:ho235Jjg
………………

成幸 「今日はありがとうございました。おかげで勉強が捗りました」

成幸 「それから、洗剤まで借りてしまって……」

フワワワーン……

成幸 (うぅ……なんか、桐須先生と同じ匂いが、洗濯物から……///)

真冬 「気にしなくていいわ。待ち時間に勉強を教えるくらい大したことではないもの。もちろん、洗剤も」

真冬 「ただし、忘れ物には気をつけなさい。受験で同じ事をしたらアウトよ」

成幸 「はい。肝に銘じておきます」

真冬 「よろしい」 クスッ 「……じゃあ、また明日学校で。唯我君」

成幸 「はい。では失礼します」

418以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:27:41 ID:ho235Jjg
………………翌朝

うるか 「あっ、成幸! おーっす!」

成幸 「おう、うるか。古橋と緒方も、おはよう」

理珠 「おはようございます」

文乃 「おはよ、成幸くん」

うるか 「ん……?」

クンクンクン……スンスン

成幸 「な、なんだよ、うるか。出会い頭に人のシャツに顔近づけて……」

成幸 (っていうか、めちゃくちゃ近いぞ……///)

うるか 「んー……成幸、洗剤変えた? 匂いがいつもと違うんだよねー」

文乃 (いつもとって……うるかちゃん、そんなに恒常的に成幸くんの匂い嗅いでるの……?)

文乃 (まぁ、うるかちゃんって誰に対しても結構そういうところあるもんなぁ……)

成幸 「……あー、それ昨日コインランドリーで洗ったからだよ。家の洗濯機が壊れちゃってさ」

理珠 「それは大変でしたね。だから匂いが変わったんですね」

成幸 「あー……」 (本当は加えて桐須先生に洗剤を借りたからなんだけど……)

419以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:28:24 ID:ho235Jjg
うるか 「んー? でもその匂い、誰かの匂いと似てるような……」

文乃 「あはは。ほんと、うるかちゃんって匂いに敏感だよね」

文乃 (……まぁ、そのせいでわたしも成幸くんの家にお泊まりしたときドキッとさせられたんだけど)

文乃 (……ん? ってことは、まさか……――)


真冬 「――あら、おそろいで登校かしら? おはよう」


成幸 「あ、桐須先生。おはようございます」

緒方 「あ……お、おはようございます、先生」

文乃 「おはようございます!」

成幸 (うんうん。普通に挨拶できてるな。だいぶ先生とのわだかまりがほぐれたみたいだ。良いことだな)

うるか 「おはようございまーっす! ……ん?」

クンクンクン……

真冬 「ち、ちょっと、武元さん? どうして私のシャツに顔を近づけるのかしら?」

真冬 「というか、その距離はさすがに、近いわ……」

うるか 「……やっぱり! 成幸と同じ匂いだよ!」

420以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:29:50 ID:ho235Jjg
真冬&成幸 「「!?」」

真冬 「……ぐ、偶然! 洗剤が一緒だっただけでしょう」

真冬 「わ、私は朝礼業務があるから、失礼するわ」

真冬 「あなたたちも遅刻しないようにするのよ!」

トトトトト……

理珠 「? 桐須先生、少し慌てているように見えましたが、一体どうしたのでしょうか?」

うるか 「先生と洗剤がかぶるなんて、すごい偶然だね、成幸!」

成幸 「へ? あ、ああ、まぁ、そうだな……」

成幸 (い、いや、なんで嘘ついてるんだ、俺? っていうか、何で先生はあんな誤魔化しを……?)

成幸 (これじゃ、なんかやましいことがあるみたいで、今さら本当のことも言えないぞ!?)

文乃 「………………」 ジトーーーーーッ

成幸 「……!?」 ビクッ 「ど、どうかしたか、古橋?」

文乃 「……うん」 ニコッ 「とりあえず、昼休み、ツラ貸せやコラァ、だよ、成幸くんっ」

成幸 「……はい。文乃姉ちゃん」

おわり

421以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:30:46 ID:ho235Jjg
………………幕間 「いつもの場所」

成幸 「……ってことで、かくかくしかじかで先生の洗剤を借りただけだよ」

文乃 「なんだ、それだけか。よかったよかった」

文乃 「また先生の家にお邪魔して、洗濯が必要な某かを致したのかと思ったよ」 ニコッ

成幸 「笑顔で反応しづらいようなえげつないことぶち込んでくるよなぁお前って……」

成幸 「……ん、でもそろそろまた先生の家に行って掃除しないとな」

成幸 「そろそろ汚れる頃だろうし、それこそ洗濯物もたためてないだろうしな」

文乃 「………………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……? 古橋?」

文乃 「……ナチュラルに女教師の家に通い妻してる君にえげつないなんて言われたくねぇ! だよ!」

おわり

422以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:31:59 ID:ho235Jjg
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。


次投下します。


【ぼく勉】 理珠 「地鶏の研究をしているんです」 文乃 「えっ、自撮り?」

423以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:32:39 ID:ho235Jjg
と思ったのですがすみません、眠いので明日投下します。

424以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 00:44:27 ID:R.Syq8Go
更新多すぎて草
おつやで

425以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 01:07:09 ID:KmaczHPw
おお復活したのか
おかえり

426以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 12:25:57 ID:e/31zRzA
やっぱ文系ちゃんの相談役ポジションおいしいよなあ

427以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 13:43:00 ID:dAVZuhfo
おつおつ

428以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 23:57:57 ID:ho235Jjg
>>1です。
投下します。

【ぼく勉】 理珠 「地鶏の研究をしているんです」 文乃 「えっ、自撮り?」

429以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 23:59:02 ID:ho235Jjg
理珠 「はい、(うどんに)乗せるための地鶏(料理)の研究です」

文乃 「えっと、載せるって……SNSに載せるための自撮り、ってこと……?」

理珠 「その通りです、文乃。さすがですね。時代はSNSですから」

理珠 「ただ、これがなかなか難しくて、SNS映えする地鶏(料理)が思い浮かばないんです」

うるか 「あ、そ、そうだね。構図とかなかなか難しいよね……」

理珠 「? たしかに、撮る構図も大事ですね。色々試してみます」

文乃 「………………」 うるか 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

うるか (り、リズりんが……) 文乃 (承認欲求を求めるSNS女子に……!?)

うるか 「えっと、でもリズりん? 自撮りをSNSに乗せるのって、ちょっとマズくない……?」

理珠 「? なぜです?」

うるか 「えっ、な、なぜって……そりゃあ……ネットにのっちゃうと、もう二度と消せない、し……」

理珠 「? なぜ消す必要があるんですか?」

文乃 (リスク管理ガバガバすぎだよりっちゃん!?)

430以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/06(金) 23:59:36 ID:ho235Jjg
うるか 「ち、ちなみにどんな自撮りをアップするつもりなの?」

理珠 「それを悩んでいるんです。胸(肉)を使うつもりではあるんですが……」

文乃 「!?」 (り、りっちゃん!? 自分のおっぱいの破壊力を正しく理解していたんだね!?)

文乃 (Gカップりっぱいを武器にどんな自撮りをアップするつもりなの!?)

理珠 「でも、やはりモモ(肉)の方がやわらかくていいかなとも思いますし……」

うるか (フトモモ!? リズりんのフトモモはおっぱいよりやわらかいの!?)

うるか (今度フトモモ揉ませてもらおう……じゃなくて!!)

文乃 (どんなエッチな自撮りを撮るつもりなのりっちゃーん!!)

文乃&うるか 「「………………」」

理珠 「? 文乃? うるかさん? 黙りこくってしまって、どうかしましたか?」

431以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:00:16 ID:KTVNI7b6
文乃 「……だめ」

理珠 「へ?」

文乃 「やっぱりダメだよりっちゃん! 自撮りなんて!」

うるか 「そうだよリズりん! もっと自分を大事にして!」

理珠 「??? えっと、地鶏の何がダメなのでしょうか……」

文乃 「自撮りをするのはいいけど、エッチなのはダメ!」

うるか 「そう! リズりんのおっぱいとフトモモの自撮りなんか、絶対許さないよ!」

文乃 「そうだよ! そんなの、ナニに使われるか分からないんだから!」

理珠 「……は?」

文乃 「とにかく!! 男の子が喜んじゃうエッチな自撮りなんか、絶対に許さないからね!!」

うるか 「そうだよ! 成幸みたいなエッチな男の子は、そういうの大好物なんだから!!」

理珠 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

理珠 「……はぁ?」

432以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:04:36 ID:KTVNI7b6
………………

文乃 「………………」 [わたしたちはアホな勘違いをしました。]

うるか 「………………」 [反省中です。]

理珠 「……まったく。何を考えているんですか、あなたたちは」

理珠 「私の言葉が足りなかったのも悪かったとは思いますが、地鶏を自撮りと間違えますか、普通」

文乃 「うぅ……ごめんだよぅ、りっちゃん……」

うるか 「えへへっ、日本語ってむつかしいね」

理珠 「それに、エッチな自撮りって……まったく……」

理珠 「なぜ私がそんなものをネットにアップしなくてはならないのですか」

文乃 「てっきりりっちゃんが承認欲求バリバリSNS女子になったのかと思って……」

うるか 「そのおっぱいを使ってネットの住人をトリコにしよーとしてるのかと……」

理珠 「バカなんですか?」

文乃 「うぅ、返す言葉もないよぅ」

成幸 「………………」

成幸 「……えっと、何やってんだ、お前ら?」

433以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:05:11 ID:KTVNI7b6
………………前日 緒方うどん

親父さん 「うーん……」

理珠 「お父さん? 珍しくため息なんかついて、どうかしましたか?」

親父さん 「ああ、リズたま。いや、実は町内会から頼まれごとをされちまってな」

親父さん 「何でも、新しくブランド化した地鶏を使ったメニューを出してほしいそうなんだ」

理珠 「地鶏? ああ、最近見かける “七緒鶏” ですか?」

親父さん 「おう、それだそれだ。それを使った新メニューを、商店街の店で一斉に出して、PRがしたいんだそうだ」

親父さん 「協力すれば鶏肉を安く売ってくれるらしいから、こっちにとっても願ったり叶ったりなんだが……」

親父さん 「いかんせん、俺ぁこういうの考えるのが苦手でな。どうしたもんか……」

理珠 「ふむ……」

理珠 「……よろしければ、その新メニュー、私に任せてもらえませんか?」

親父さん 「!? リズたま、本当かい!? 助かるよ!」

理珠 「はい! 緒方うどんの一人娘の名にかけて、素晴らしい新メニューを考えてみせます!」

434以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:05:45 ID:KTVNI7b6
………………帰路

理珠 「……と、いうことがありまして」

理珠 「困っている父を見るに見かねて申し出たのですが、これがなかなか難しくて……」

成幸 「なるほどな。お店の売り上げにも関わるだろうし、地域振興も兼ねてるとあれば難しいよなぁ」

成幸 「……で、まじめに悩んでいた緒方に、あいつらはアホな事を言った、と」

理珠 「まったく、何がエッチな自撮りですか」 プンプン 「理解に苦しみます」

成幸 「まぁまぁ、あいつらもお前のことが心配だったんだろうし、そう怒ってやるなよ」

成幸 「……それにしても、新メニュー開発かぁ。大変そうだな」

理珠 「鶏天を乗せるのでもいいかと思ったのですが、今までの鶏天との違いが分かりにくいですし……」

理珠 「炒め物にしてみたら、鶏が細かくなって隠れてしまって、せっかくの地鶏が薄れてしまいますし……」

理珠 「昨日も色々試作してみたのですが、どうもしっくりくるのが思い浮かばないんです」

理珠 「新メニュー開発がこんなに難しいとは思いませんでした……」

成幸 「そう思い詰めるなよ。新メニューは今週末から一斉スタートなんだろ? まだ時間はあるじゃないか」

成幸 「役に立つかは分からないけど、俺もバイト中に色々考えるからさ。元気出せよ」

理珠 「えっ、本当ですか?」 パァアアアアアア……!!! 「成幸さんが一緒に考えてくれるなら百人力です!」

435以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:06:19 ID:KTVNI7b6
成幸 「お、おう? いや、そんな大げさな。俺なんかきっとあまり役には立たないよ」

理珠 「そんなことありません!」 ガバッ

成幸 「のわっ……!? ちょっ、緒方、ち、近い……///」

理珠 「成幸さんは、文化祭の時だって、たくさんたくさん助けてくれました!」

理珠 「最後の一押しのもみじおろしうどんだって、成幸さんが考えてくれたじゃないですか」

理珠 「……1000食完売したのは、成幸さんのおかげといっても過言ではありません!」

成幸 「ど、どうどうどう。そう言ってくれるのは嬉しいが、少し落ち着こう、緒方」

成幸 「ち、近い、というか……その、色々と、くっついてる、から、な?」

理珠 「へ……?」 ハッ 「ひゃっ!? す、すみません……」

成幸 「いや、全然、俺は大丈夫だから……――」


「――ほーう。人んちの前で娘と密着とは、やってくれるじゃねぇか。センセーイ?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「お、親父さん!? なんで……」 ハッ 「って、もう緒方うどんの目の前!?」

親父さん 「何とぼけようとしてんだテメェー!! 今日という今日はバイト前に駆除してやらぁー!」

436以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:07:14 ID:KTVNI7b6
………………緒方うどん

成幸 「……はぁ」 (また今日もひどい目にあったな)

成幸 (親父さん、悪い人じゃないんだけど、緒方が絡むと人が変わるからな……)

親父さん 「………………」 ギラギラギラ

成幸 (あー、こりゃ今日は一日機嫌が悪いままだな。気をつけないと……)

……ポコン

親父さん 「のわっ……っと、リズたま? なぜおたまで俺の頭を……?」

理珠 「いつまで不機嫌そうな顔をしているんですか。さっきのは誤解だと言ったでしょう」

理珠 「私が成幸さんに抱きついてしまっただけで、成幸さんは悪くありません」

親父さん 「り、リズたま。そうは言ってもな……」

理珠 「もしまだそんな顔を続けるつもりなら、今日はお手伝いをボイコットします。成幸さんと一緒に」

理珠 「なんだったら、そのまま賃上げ要求のストライキに移行してもいいんですよ?」

親父さん 「賃上げ要求!?」

成幸 (経営者の娘が賃上げ要求のストライキに参加するってすごいな) クスクス (泥沼の家庭事情がありそう)

成幸 (……って違う。アホなこと考えてる場合じゃない!)

437以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:08:00 ID:KTVNI7b6
親父さん 「り、リズたま、でも俺ぁ、リズたまのことが心配で……」

理珠 「私はもう子どもじゃありません。いい加減、過保護にするのはやめてください。迷惑です」

成幸 (ま、まずい……)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

親父さん 「………………」

理珠 「………………」

成幸 (未だかつてないくらい親子間が険悪な雰囲気だー!?) アセアセアセアセ……

成幸 (こ、こんなときはお袋さんに間に入ってもらうしかない。今日はお袋さんは……) ハッ

成幸 (一日留守にするから俺がバイト入ってるんだったー!!)

ガラッ

成幸 「あっ……い、いらっしゃいませー!」

成幸 (夕食時のお客さんも入り始めた! とにかくこのままやるしかない!)

親父さん 「………………」  理珠 「………………」

成幸 (……不安だ)

438以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:08:39 ID:KTVNI7b6
………………

理珠 「お父さん、注文です」

親父さん 「……おう」

親父さん 「……あがり。持ってってくれ」

理珠 「はい」

成幸 「………………」

成幸 (……いつもより、口数は少ないけど)

成幸 (意外と普通だな。もっとこう、まったく無言でやるのかと思ったけど……)

「……ちょいちょい、バイトのあんちゃん」

成幸 「あ、はい!」 (常連のおじさんだ。追加かな?)

トトトトト……

成幸 「ご注文ですか?」

「いやいや、大したことじゃねーんだけどさ。オヤジと理珠ちゃん、また喧嘩してんのかい?」

成幸 「えっ……? あ、ああ、やっぱり分かります?」

「そりゃ、俺は何年もここに通ってるからなぁ」

439以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:09:09 ID:KTVNI7b6
「でもよ、おもしれぇだろ? あんちゃん」

成幸 「面白い……?」

「傍目からも喧嘩してるって分かるのに、息ピッタリだろ?」

成幸 「……?」

理珠 「お父さん。注文は」

親父さん 「ん。いまできる」

親父さん 「……リズたま、あれは――」

――コトッ

理珠 「さっき倉庫から持ってきました。なくなりそうだったので」

親父さん 「……おう。ありがとう」

理珠 「いえ」

成幸 「……たしかに。口数は少ないのに、全部伝わってる感じですね」

「おう、さすが理珠ちゃんのカレシだねぇ。よくわかってるじゃねぇの」

成幸 「かっ……!? ち、違いますよ。俺と緒方はそういう関係じゃ……」

440以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:09:39 ID:KTVNI7b6
「へぇ? そうなの? でも、オヤジの奴と飲むと、いつも言ってるぜ?」

「“うちはリズたまが上等な跡継ぎを連れてきてくれたから安泰だー” とかなんとか……」

成幸 「へっ……!?」

「バイトの奴だって言ってたから、それ間違いなくあんちゃんのことだろ?」

成幸 「い、いや、そんなわけないですよ。だって俺、親父さんに覚えめでたくないし……」

「いやいや、素直になれねぇだけなんだって。オヤジの奴、飲むといつもお前さんのことべた褒めで……――」


――――ドン!!!


親父さん 「……うどん、お待ち」 ギロッ

「お、おう。ありがとよ」

親父さん 「……ふん」

「……ふぅ。ビビったビビった。これ以上余計なこと言ったら後がめんどくせぇな、こりゃ」

「仕事の邪魔して悪かったな、あんちゃん」

成幸 「は、はぁ……?」

成幸 (……? 一体何だったんだ?)

441以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:10:09 ID:KTVNI7b6
理珠 「………………」

親父さん 「………………」

理珠 「……お、お父さん」  親父さん 「リズたま……」

理珠&親父さん 「「!?」」

理珠 「……っ、お、お父さんから、どうぞ」

親父さん 「……い、いやいや、リズたまから……」

理珠 「……むっ」 ジトッ

親父さん 「……わ、わかったよ。俺から言うよ」

親父さん 「さっきは悪かったよ。話も聞かず、センセイに怒ったりして」

理珠 「いえ、それは成幸さんに言うべきことだと思いますけど……」

理珠 「……まぁ、いいです。私も、ごめんなさい。言いすぎました」

親父さん 「そ、そっか……」

理珠 「はい」

成幸 「………………」 クスッ (……ほんと、似たもの親子だよな。でも、いい親子だ)

成幸 「……ん? “親子” ?」

442以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:10:41 ID:KTVNI7b6
成幸 「………………」

ハッ

成幸 「そうだ! 親子だ! 親子だよ、緒方! 親父さん!」

親父さん 「!? な、なんだ、急に大声出して……」

理珠 「成幸さん、どうかしましたか?」

成幸 「親父さん、例の地鶏なんですけど……」

親父さん 「例の地鶏って…… “七緒鶏” のことか?」

成幸 「その “七緒鶏” って卵も美味しかったりしませんかね?」

親父さん 「卵ぉ……?」

親父さん 「………………」

親父さん 「……おう。ちと町内会長に聞いてみらぁ」

成幸 「……はい! ありがとうございます!」

親父さん 「けっ。うちの店のことだ。テメェに礼を言われる筋合いはねぇよ」

443以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:11:18 ID:KTVNI7b6
………………週末 緒方うどん

理珠 「町内会の呼びかけもあって、お客さんがたくさんですね」

ワイワイガヤガヤ……

理珠 「みんな、地鶏の新メニューを楽しみにしてくれているみたいです」 クスッ

理珠 「成幸さんの考えた新メニューを、です」

成幸 「や、やめろよ、緒方。ただでさえ緊張してるんだから……」

ドキドキドキドキ……

成幸 (だ、大丈夫だよな。試食したらめちゃくちゃ美味しかったし……)

成幸 (うるかも古橋も美味しいって言ってくれたし、関城も……)


―――― 『やっぱり緒方理珠の作ったうどんは最高ね! 一本一本に緒方理珠を感じるわ!』


成幸 (……いや、あいつは緒方のものは何でも美味いって言うけど)

成幸 (と、とにかく、お客さんが満足してくれることを祈ろう……)

ギュッ

成幸 「へ? お、緒方?」

444以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:11:50 ID:KTVNI7b6
理珠 「大丈夫ですよ」 ニコッ 「成幸さんが考えたメニューです。皆さん満足してくれるに決まっています」

ムギュッ

理珠 「それに、私は好きですよ?」

成幸 「へ……?」 ボフッ 「す、好きって……。っていうか、くっつきすぎじゃないですかね、緒方さん?」

理珠 「ふふ♪ 成幸さんの考えたうどん、好きですよ」

成幸 「あ、ああ。うどんね。そ、そうだよな……」

理珠 「とても美味しいですから。だから、大丈夫です」

グッ

理珠 「自信持ってください、成幸さん!」

成幸 「……おう」 グッ 「ありがと、緒方」

445以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:12:23 ID:KTVNI7b6
親父さん 「おう、センセイ! 人の店で娘とくっついてんじゃねぇ!」

成幸 「ヒッ……! す、すみません!」

親父さん 「……新メニュー、あがったからお客様にお出ししてくんな」

成幸 「あ……は、はい!」

ドキドキドキドキ……

成幸 (だ、大丈夫かな。ちゃんと美味しいかな……)

……バシッ!!!

成幸 「っ……お、親父さん?」

親父さん 「胸ぇ張れよ」 フン 「俺がうめぇって言ったんだ。大丈夫に決まってんだろ」

成幸 「あ……」 クスッ 「はい!」

成幸 「お、お待ちどうさまです! 新メニューの、“七緒鶏の親子うどん” です!」

成幸 「地鶏のお肉と卵を使った親子丼の具を、熱々の釜揚げうどんの上にかけました!」

成幸 「熱々のうちにお召し上がりください!」

「おおー!」  「おいしそー!」  「鶏肉やわらかそー!」  「たまごふわふわしてるー!」

 『いただきまーす!!』

446以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:12:56 ID:KTVNI7b6
ズルズルズル……ムシャムシャムシャ……

成幸 「………………」 ドキドキドキドキ……

「う……」  「えっ……」  「お……」

成幸 「!?」 (へ!? な、何その反応!? 美味しくなかった!?)

 『……お……美味しいーーー!!!』

成幸 「あっ……」

パァアアアアアア……!!!

成幸 「ありがとうございます!!」

親父さん 「けっ。だから言っただろうが」

クスッ

親父さん 「おい、センセイ。次々上がるからさっさとお客様にお出ししねぇか!」

成幸 「は、はい! いまいきます! 親父さん!」

親父さん 「だからテメェに親父さんって呼ばれる筋合いはねぇってんだよ!」

447以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:13:43 ID:KTVNI7b6
親父さん 「………………」

「これおいしーね、ママ!」  「ほんとね。優しい親子丼の味がうどんによく合うわ」

「地鶏だけじゃなく卵も使うとは、考えたなぁ」  「“七緒鶏” って、卵も美味しいんだな」

「こりゃ、他の店の限定メニューも食べてみないとだな」  「今度地鶏と卵、買ってみようかしら……」

親父さん (……ふん。まぁ、好調じゃねぇか。まぁ、俺とリズたまが作ったんだから当然だけどな)

成幸 「親父さん、新しい注文です。親子、五丁お願いします」

成幸 「……? 親父さん?」

親父さん 「……おう、センセイ」

成幸 「?」

親父さん 「……ありがとよ。テメェの考えたメニュー、最高だよ」

成幸 「えっ」 カァアアアア…… 「あ、あはは。なんか親父さんに褒められると変な気分です」

「店員さーん! 注文お願いしまーす!」

成幸 「あ、はーい! ただいま!」 クルッ 「じゃ、親父さん。追加で五丁、お願いしますね」

親父さん 「あいよ!」

448以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:14:17 ID:KTVNI7b6
理珠 「お父さん、こちらも親子追加で四丁お願いします」

親父さん 「おう! そしたらリズたま、麺が……――」

理珠 「――そろそろ足りなくなるだろうと思って、もう持ってきてあります」

親父さん 「ん、わかった。ありがとな、リズたま」

理珠 「いえ。あと、さっき来た出前の注文ですが……」

親父さん 「三十分後だろ? 十分前には仕上げとくから、おかもちだけ準備しといてくれ」

理珠 「わかりました」

成幸 「………………」


―――― 『とても美味しいですから。だから、大丈夫です』

―――― 『……ありがとよ。テメェの考えたメニュー、最高だよ』


成幸 (……本当に似たもの親子だな) クスッ (なぁ、緒方。親父さん。この親子うどんが美味しいのは、きっと、)

成幸 (……ふたりが相性抜群の仲良し親子だからだよ)

おわり

449以下、名無しが深夜にお送りします:2019/09/07(土) 00:15:08 ID:KTVNI7b6
………………幕間 「試食です」

文乃 「これ成幸くんが考えたの!? すごいね、本当に美味しいよ!」 ズルズルズル……

文乃 「……おかわり!」

成幸 「いや、俺は考えただけだけどな」

文乃 「いやいや、それでもすごいよ。さすがの発想力だね」 ズルズルズルズルズルズル……

文乃 「……おかわり!」

成幸 「そう言われると照れるな。えへへ……」

文乃 「………………」 ズルズルズルズルズルズルズルズルズル……

文乃 「……おかわり!」

成幸 「いやさすがに食い過ぎだ! っていうか味の感想言わないならもう食うな!」

紗和子 「ま、負けないわ。うっぷ……」

クワッ

紗和子 「お、緒方理珠のうどん、誰よりたくさん……うぷっ……食べてみせるわ!」

成幸 「お前も変な対抗心燃やすんじゃない関城! っていうか古橋に勝つのは無理だから諦めろ!」

おわり


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板