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【ガヴドロSS】 サタニキアドロップアウト

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:27:45 ID:/bI9RVf2


ほぼ書き溜めていないため、気が向いた時にゆっくり投稿する予定です

月乃瀬ドロップアウトというSSが面白かったので、それに感化されて書き始めました

ですが、そのSSに比べたらあまりに稚拙な文章となっています

そこはご愛嬌ということで許してください

それではガヴサタの暗いSSをよろしくお願いします



こういうことって普通書くんですかね。初心者なのでわからなかったです

2以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:29:54 ID:/bI9RVf2
いつからだろう、私が私じゃなくなったのは。

無機質な灰色の天井を見据えながら、私は何度思考を巡らせても答えが出ない難題について思う。

始まりは小さなことだったのだ。今思えば自分の弱さが、驕りが全てを闇に包んだのだから。

しかしそれだけを聞いたら、昔の私ならきっと喜ぶことだろう。

大悪魔なんて高らかに宣っていた、あの時なら。

「210番、運動の時間だ」

「……はい」

3以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:31:20 ID:/bI9RVf2
既に嗅ぎなれた黴臭い部屋に、聞き慣れた女性の声が反響する。

私は小さく返事をすると、これまでの思考を一度中断して重い腰を持ち上げた。

格子の中にいた私は彼女が鉄扉の鍵を開けた後、これまたゆっくりと潜り抜ける。

外に出た私を一瞥すると、彼女は足早に歩き始めた。

長く続く廊下は嫌と言う程見飽きた光景で、そこに響き渡る足音は毎度の如く乾いたものだった。

「着いたぞ、30分だ」

重い扉を開けて久しぶりの外界に出ると、看守はお決まりの文句を垂れる。

若干四畳程度の空間だけが、私に与えられたスペースという訳だ。

4以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:32:19 ID:/bI9RVf2
昔の私なら文句の一つや二つ、いや、ここに来るまでの過程のやり取りで子どものように喚き散らかすことだろう。

「……はい」

雲一つない空をぼんやりと眺めながら、私は小さく返事をする。

だが私の声はよく分からない鳥の鳴き声でかき消されていたのか、看守の女は溜め息を着き、隅に置いてあったパイプ椅子に腰を下ろした。

身体を動かすことは幼少期から好きだった。勉強が苦手だった私が、唯一周りの子どもたちに勝てるものだったからだ。

しかし今は違う。

照りつける太陽を睨みつけると、私は彼女に背を向けるようにして座り込む。

体を動かすことに何の意味があるのか。この先こんな意味がない事をやっても虚しくなるだけなのに。

───────────────────────

5以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:34:24 ID:/bI9RVf2
「ガ、ガヴリール!」

背を向けて前を歩く金髪の彼女に声を掛けると思わず声が裏返る。何せこの気持ちと向き合うことが怖かったからだ。

卒業式も無事終わり、今は彼女と二人の帰り道。いつものメンバーにしては半数が集まっていなかったが問題はない。今夜は私の家で卒業祝いの宴をする約束になっているからだ。

それにしても体中の毛穴からは滝の様に汗が流れ出ている。思えば久しぶりの二人きり。私の表情はどうなっているのだろう。

ちゃんといつも通りの、みんなの前で見せるサターニャになっているのかな。

6以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:36:44 ID:/bI9RVf2
「……なに?」

そんな私の想いなど知らないで、ボサボサの金髪を鬱陶しそうに揺らして彼女は振り返る。そこにはいつものアイツがいて、いつものように面倒くさいを顔に貼り付けて立っていた。

きっと私の声が裏返ったのは馬鹿だから、ということで彼女の中では完結していることだろう。

「あ、あの! そ、その……」

「……? なんだよ、今日のお前いつもより変じゃないか?」

「しょ、しょうがないでしょ! 緊張してるのよ!」

「はぁ? 緊張ってお前、今更私に緊張することなんてないだろ?」

「あるの! 今日だけは、あるのよ」

7以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:38:38 ID:/bI9RVf2
いつもと同じ声でいつもとは全く異質のやり取りに、彼女は訳が分からんとぼやく。

私は今の彼女の気持ちが痛い程分かってはいるが、しかし今だけは、私の未熟な心を待って欲しかった。

私の声で伝えるから。今すぐあなたに届けるから。

「ガヴリール! あ、あのね、私と、私と……その、ド、ドライブが行きなしゃい!」

恥ずかしい。盛大に噛んだ。

いや、恥ずかしいなんてそんな言葉では表現できない程に、私の全身が急激に熱を帯び始めていく。

穴があったら入りたいとはこのことを言うのだと、この時確信した。

8以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:40:11 ID:/bI9RVf2
しかし幸いにも夕日に照らされた私は、逆光のお陰で目の前の駄天使に今の表情を悟られることはないと思う。

まあそれでも、この大事な時にやってしまったということは、やはり私はどうしようもなく馬鹿なのだろう。

「サターニャ、行きなしゃいって……」

額からは一筋の雫が流れ落ち、数分とも数時間とも感じられたほんの数秒後だ。

口元を押さえながら零れたその笑みは、確かに私に対する反応だった。

「それにドライブが、ってなに? サターニャ日本語不自由すぎ」

9以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:45:42 ID:/bI9RVf2
「んなっ!? そ、そそそんなこと言ってないわ!」

「言ったっての。……はぁ、ほんとお前って馬鹿だよな」

ほんとにね。

「馬鹿とは何よ! 馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!」

「あーもう、うっさいなー。馬鹿はサターニャだけで十分だって」

「そんなに言うんじゃないわよ!」

季節は命芽吹く三月だというのに、思わず熱くなってしまう。

正論を言われてムキになってしまうのは私の悪い癖の一つだ。

10以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:47:09 ID:/bI9RVf2
静寂が包む路地で、肩で息をしながら気持ちを落ち着かせる。自己嫌悪に陥るのは家に帰ってからでも遅くはない。

今はもっと、やるべきことがあるのだから。

「それでどうなのよ。私とドライブに行くんでしょうね?」

乱れた制服を整えて私はもう一度、今度は噛まずに問いかける。

緊張の度合いはそれ程変わっていなかった。

「ドライブかー、随分いきなりだな。それに私、運転出来ないんだけど」

「その点なら問題ないわ。あなたは隣に座ってるだけでいいもの」

「なんで?」

「なんでって、誘ってるんだし私が運転するのは当然だわ」

11以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:49:28 ID:/bI9RVf2
「あっそ。っていうかサターニャ免許持ってたんだ」

「ふふーん、恐れ慄くがいいわガヴリール。なんとこの前ついに手に入れたわ。無論、正式な試験をちゃんと受けてね」

「ふーん」

「何よその興味無さそうな態度わ。いい、ガヴリール。それもこれも全部、アンタと一緒に過ごすためにやったことなのよ?」

「えっ? 私?」

「……あ」

言い終わってから気付くのでは遅かった。

12以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:53:02 ID:/bI9RVf2
私は交通事故にでもあったかのような衝撃を脳に感じると共に、目の前が黒に染め上げられる。

一体何を言っているのだろうこの大馬鹿者は。

どうやら考えなしに話すことも、私の悪い癖の一つのようだ。

「へぇー、ふーん。私のため、ねぇ……」

視界は暗転し最早平静を保てなくなっていた私に、追い討ちをかけるかのように嫌らしい笑みが真正面からご登場だ。

彼女のために努力したということを知られたとなれば、一生揶揄われるに違いない。だってそういう少女だと知っているから。

「な、何よ。文句ある?」

だから今日は敢えて強がってみる。

13以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:54:31 ID:/bI9RVf2
その気持ちに嘘はなかった。そのために私は大学に受かってからも勉強を続けていたんだもの。

しかし平然を装う私の言葉についていくはずもなく、体は無情にも一層全身の水分を垂れ流していった。

「ま、なんもねぇよ」

私の小さな虚勢を知ってか知らずか、彼女は吐き捨てると、足元の小石を蹴飛ばす。

いつものように慌てふためく私を見れないのが残念だと言いたげな態度に、私は何故だが勝った気持ちになってしまう。

「それじゃあ! 一緒に行ってくれるわよね?」

「それとこれとは話が別。第一、サターニャの運転する車とか怖くて乗れないわ」

14以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:57:40 ID:/bI9RVf2
「何よ失礼ね。免許があるってことは国が私の運転技術を認めているのよ?」

「たとえそうだとしても、私はこれっぽっちも認めてねぇよ」

「それは乗れば分かることよ。いいから四の五の言わずに、この胡桃沢=サタニキア=マクドヴェルの運転する車に乗りなさい!」

「何で命令口調なんだよ。……ったく、わーったよ。乗りゃいいんだろ?」

「えっ、いいの?」

「自分から言っておいてそれはないだろ。嫌なら乗らんぞ、私は」

「嫌じゃないわよ! やったぁ……!」

思わず小さくガッツポーズしてしまった。しかも両手で。

まあ、今だけは仕方のないことだと考えよう。

15以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 21:59:02 ID:/bI9RVf2
想い人を乗せて行くあてもなく車を走らせる。

何時だったかどこかの小説で見た景色に憧れを抱いた私の思いが、一歩前進した瞬間なのだから。

「それで、いつ行くんだ?」

悪魔ながら天にも昇る気持ちに包まれていると、金髪を揺らす彼女は会話を続ける。

この反応からすると、嫌々連れ出しているということではないらしい。気だるげな態度は変わらないのだが。

「そうね、早速だけど明日の夜なんてどうかしら?」

16以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 22:01:34 ID:/bI9RVf2
「えー、明日はネトゲのイベントがあんだけど」

「何よそれ…。それなら明後日の夜は?」

「明後日はバイト」

「だったら、その次の──」

「その日はなんか家出るのめんどくなりそうだな」

「もう! じゃあいつならいいって言うのよ!」

私の提案を悉く棄却する彼女に嫌気が指して、到頭声を荒らげてしまう。

この駄天使、本当は行く気がないのだろうか。私に期待させておいてそれはあんまりだと思ったが、彼女だけはやり兼ねない存在だ。

泣きそう。

心が抉り取れる程悲しかった。

17以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 22:04:39 ID:/bI9RVf2
「うーん、…そうだ。今からじゃ駄目なのか?」

奇しくも悪魔らしい負のオーラを纏っていると、彼女は徐に口を開く。その言葉は悲観していたものとは裏腹の、直球ストレートだった。

「今から!? 今からって、夜にはヴィネットとラフィエルが家に来るのよ? もちろんアンタもだけどさ」

「んなこと知ってるよ。でもアイツらが来るのは7時だろ? それまでまだ3時間もあるじゃん。これから家帰ってもネトゲは定期メンテでできないしな」

「だからって今すぐはちょっと……」

心の準備が必要だから、とは言わなかった。そんなことを口にしたら今度は何を言われるか分からない。

全く、学習するということは何事においても素晴らしいことである。

私はやっぱりやればできる子なのだ。

18以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 22:06:33 ID:/bI9RVf2
「いいじゃんかー。サターニャもどうせこの後暇なんだろ?」

「こっちは暇とかそういう問題じゃないわよ! なんて言うのもっとこう、……そう! 由々しき問題があるのよ!」

「はぁ? 知らねぇよ、んなこと。いいから行くぞ」

「行く? 行くって何処へ?」

急に踵を返して歩き始めた彼女に、私は訳が分からず問いかける。まだ何も決まってはいないではないか。

ドライブの予定も、私の心構えも。

「決まってんだろ」

しかしそれでも彼女は歩みを止めず、さらに数歩先まで進んだ後に振り返る。そこには先程までとは違い、小悪魔な笑顔でこちらを見つめる天使がいた。

「お前ん家」

余りの可憐さに唖然とする私に、彼女はもう一度微笑んむと、再度影を遠ざけるのだった。

───────────────────────

19以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/30(日) 22:08:59 ID:/bI9RVf2


とりあえず書き溜めてた分だけ

ここからはゆっくり投稿します

おやすみなさい

20以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/02(水) 00:13:30 ID:WwDkno.w
「……ろ。……きろ。聞いているのか210番、起きろ!」

「……えっ?」

揺れる視界と強い口調で、私はいつの間にか寝ていたことに気付かされる。

微睡みに揺蕩う私がまだ覚醒していない眼で顔を上げると、相も変わらずいつもの女が立っていた。

この時間に惰眠を貪る私を何故か許している真意は分からなかったが、今日も恐らく定刻通りに声を掛けてきているだろう。

見飽きた彼女を前に小さく溜め息を着く頃には、私の頭はすっかり冴えていた。

そう。先程の景色は全て、最早遠すぎる昔の出来事。

泡沫に消えた、まだ私だった頃の私の物語なのだ。

「時間だ。戻るぞ」

「……はい」

21以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/02(水) 00:14:09 ID:WwDkno.w
いつもと変わらない無機質な態度で看守は踵を返すのを見て、私も服を払って立ち上がる。

高い日が齎す九月の暑さと黒に染まった自分の髪が鬱陶しかった。

「入れ」

「……はい」

長く続く廊下を再び歩き、私はいつもの場所へと帰ってくる。

簡素なベッドとトイレ、それに格子がついた小窓だけの空間が、今では私の居場所だった。

鍵を外した彼女に促されて、私はそのまま中へと入る。

お世辞にも柔らかいとは言えないベッドに腰掛ける頃には、彼女は元の桎梏された空間を作り上げ立ち去っていった。

遠ざかる足音が耳を支配する中、私は両膝を抱えて壁へと寄りかかる。

囚人服越しに感じる灰色の壁は、少し肌寒かった。

─────────────────────

22以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 15:13:59 ID:HbknkdNM
最新の軽ワゴン車。

正直かなり無茶な買い物をしたと思うが、いざ自分の所有物になった実感すると漆黒のボディが愛らしい。

一昨日手中に収めたばかりではあるが、それでも練習で走った時の乗り心地は上々だった。

全く、約半年の間魔界通販を我慢した甲斐があったというものだ。

「ねぇ、まだー?」

嫌に大きなエンジン音の中で、不意に左から苛立ちめいた声が投げかけられる。

そちらを見ると夕日が差し込む車内で助手席に座る彼女が、気だるげにこちらを見つめていた。

23以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 15:14:42 ID:HbknkdNM
澄んだ瞳と重なる視線にドギマギするが、今は大事な時。私は馬鹿だが、今だけは間違いを犯すような真似はできない。

「最終確認してるのよ! えぇと、ブレーキがこっちでアクセルがこっちよね」

「それさっきもやってたじゃん……」

「うっさいわね、いいじゃない別に。それからこれをDに持ってきて、後はサイドブレーキを……って、ガヴリール!」

教習所で習ったことを確認していると、そこである重大なことを思い出す。

どうやら私はすっかりガヴリールのペースに乗せられていたようだった。

「っ!? な、なんだよ? こんな密室で大声出すなよな。ビビるだろ」

「あ、ごめんなさい、じゃなくて! そ、そういえば私、心の準備がまだなんだけど…… 」

24以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 15:15:24 ID:HbknkdNM
体を揺らしながら、徐にガヴリールへ進言する。自分で言った後では余計に意識してしまい、あの時感じた恥じらいが再度訪れてくるようだ。

これから二人でドライブ。

この限られた空間で一時間以上も一緒だなんて気が狂ってしまいそうだった。勿論、いい意味でだが。

しかしやはりというか、そんな私の想いなど気づいていない駄天使は、顔を顰めて頬杖をついている。

「はぁ? んなもん知るかよ。乗っちまったんだから覚悟決めろよな」

「そんなこと言われてもぉ……」

恥ずかしいものは恥ずかしいんだから仕方ないじゃない。

25以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 15:16:19 ID:HbknkdNM
「それになんだかんだ言って後1時間もないんだから、早く行かないと2人とも来るぞ?」

「で、でもぉ……」

もうちょっとだけ練習してからじゃ駄目かな。

「あー、もう焦れったいなぁ。いいからこういうもんは適当に進んどけばどうにかなるんだっての」

そう言うと痺れを切らしたのか、有ろう事かサイドブレーキに手をかける。

「ちょ、何するの! ま、待って、キャー!?」

「っうぉい!? なんでアクセルに足掛けてたんだ!」

彼女はそのまま私の静止を聞かずに最後の砦を解除した。

通常ならブレーキを踏んでいるのだから、そんなことでは車が動くことはない。だがこの車を運転するのは、ご存知この大悪魔。

過剰なエンジン音が警鐘を伝えていたにも関わらず異変に気付けなかった私は、目一杯踏んだアクセルによって、急発進というA級悪魔的行為を働いてしまったのだった。

26以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 19:23:01 ID:HbknkdNM
「さっきはマジで死ぬかと思った……」

どうにか住宅街を走り抜け往来の少ない海岸沿いに出た所で、緊張が解けた声で彼女は呟く。

さすがにここまで来ると往来も少なく、遮蔽物もほとんどない。

私も夕焼けに映えるオーシャンビューを視界の端に捉えると、額の光る雫を拭った。

「ほんとよ。 全く、あんたがあんなことするのが悪いんだからね」

「いやいや、誰がどう見てもアクセル踏んでたお前が悪いだろ」

「何よ! 初心者なんだから仕方ないでしょ!?」

27以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 19:23:43 ID:HbknkdNM
「だからって、出発前に何度も確認して間違えるのはどうなんだ?」

「うぐっ……! ごめんなさい、私が悪かったわよ」

「まぁ私も気づかなかったし、何にせよ生きてるんだし別によかったけどさ」

「……次は気をつけるわ」

軽口を叩く余裕も出る中、天使と悪魔を乗せた車が行く宛もなくひた走る。

退勤ラッシュに巻き込まれるなんてことはなく、快適に走ることが出来ているのは、私の日頃の行いが良いからだろう。

そういえば、マニュアル車にしなくて本当に良かった。

今の時代、乗れた方がカッコいいからという理由で一応頑張って取ったのだが、絶対にエンストする。

間違いない。

だって隣には彼女がいるんだもの。

28以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 19:26:49 ID:HbknkdNM
「〜〜♪」

逸る気持ちの中で法定速度を守って走る私に、彼女の綺麗な歌声が耳を撫でる。

10年以上前の清涼飲料水のCMで流れていたそれは、まだ私が幼い時に聞いた歌だった。

2人組の男性の曲。あれ、なんだったかしら。

「……随分懐かしいの歌ってるわね」

「ん。なんとなくドライブだったらこれかなって」

「まあ合ってるんじゃない? でもそれってバイクの歌じゃなかった?」

「ま、細かいことは気にすんなって。こういうのは雰囲気が大事なんだよ」

「それもそうね」

29以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/05(土) 19:27:29 ID:HbknkdNM
タンデムでもするかの様な歌詞に若干の疑問を持ちつつも、耳は彼女の歌声を性格に捉えている。

その彼女が歌う歌詞の通り、現在の私の心は跳ね馬の様に乱暴者だ。

ずっと私の鼓動が彼女に聞こえていないか心配なのだった。

彼女に私の気持ちを知って欲しいと思いながらも、いざその時が来たらと思うと憂う日々。

この先友人としてさえ見てもらえないかもしれないけれど、それでも私はその先に進みたかった。

そうして文字通り、千の夜を超えて悩んだ歳月に終わりを告げるべく、私は一歩踏み出したのだ。

望んだ形とは違うけれど、今日という日を作ったのだ。

30以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/06(日) 21:54:42 ID:6VVoo.nc
「帰ってきちゃったな」

気付けば見慣れたアパートに着いていた私は、儚い表情で紡がれた旋律で我に帰る。

楽しい時間はすぐ終わるというのは本当に不思議である。

そういう時は毎度、意図的に誰かが操作してるのではないかと不信感を覚えてしまう。

このまますっと二人で、言葉は少なくとも楽しみを共有していたかった。

それはまさに夢心地という奴だ。

「……そうね」

気付けば見慣れたアパートに着いていた私は彼女の旋律で我に帰る。

言いたいことも言えず、気付けば時間は約束の時間まで後数分。

天使な悪魔と悪魔な天使がいつ来てもおかしくない時間であった。

31以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/07(月) 21:03:27 ID:Opj0Z.vM
勇気を出さないといけない時間が迫ってくる。

雰囲気や場所なんて最早考えられなかった。

私は何の気なしに彼女との時間を楽しんでいた訳じゃない。

今日言わなきゃ。今が最大のチャンスなんだ。

私は意を決したようにエンジンを切る。

やるしかない。

恥ずかしくて彼女を直視できないけれど。

それでもやるんだ、今。

「ガ、ガヴ…! ガヴリール、あの…」

「ん、何?」

32以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/07(月) 21:04:17 ID:Opj0Z.vM
しかし、私の精一杯の勇気は、喉元から外へはどうしても出たがらないらしい。

この調子だと挙動不審だと思われても仕方がなかった。背中にはブラウスが嫌という程張り付いている。

こんな状況でも彼女は私を待ってくれている。

これ以上時間を無駄にはできなかった。

格好が付くようなセリフも考えて、何度も練習したのだからきっと大丈夫。

だから今、はち切れそうな私の気持ちを伝えるんだ。

「ガヴリール、あのね! …あのね」

「うん」

「……私、あ、あなたのことが好きよ!」

33以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/09(水) 22:08:21 ID:HjE49syk
格好良い文句を決めていたのに、結局私の口から出たのは素直な想いだった。

好きという二文字だけじゃ言い表すとこができないが、それでもその二文字に私の想いは詰まっていた。

「……ありがとう」

そんな固く瞳を瞑って告げた勇気の数秒の後、彼女から送られたのは謝辞だった。

私は少なくとも気持ち悪いなどの印象を持っていない口調に、少なからず安堵した。

同性なのだから、通常なら上手くいくはずがない告白なのだ。

それだけが不安だった。

嫌われることだけが何事よりも嫌だ。

34以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/09(水) 22:09:56 ID:HjE49syk
「……その、よかったら返事してくれると嬉しいわ」

「そうだな…。返事、しないとだよな」

考え込む仕草が見えたところで、私はようやく目線を助手席に移す。

いつにも増して真剣な表情をする彼女は、紛れもない私の想い人だった。

「その前に一応確認しておきたいんだけど、好きっていうのはその、友達としての意味じゃないんだよな?」

「……うん」

「そっか…」

彼女は小さく呟くと瞳を閉ざした。

これから言われる内容次第では、今後の私の生活が左右されてしまう。

それはどの方向に持っていくのも鶴の一声次第だが、それを望んだのは他でもない私なのだ。

想いを伝えないということが何よりも後悔する選択だと思う。

だから後悔しない道を選んだ私は、その選択をした自分は責めない。

責めるとするなら、もっと彼女の気持ちに寄り添えなかったそれまでの自分に対してだから。

35以下、名無しが深夜にお送りします:2019/01/09(水) 22:16:51 ID:HjE49syk
「正直なところ、ほんとにびっくりしてる。私はサターニャのこと、友達としてしか見ていなかったし、恋なんてしたこともないからよくわからないしさ」

そっか。

わかった。

私、振られるんだ。

断る言葉も彼女は優しいのね。

そう思った瞬間、私の瞼に雫が溜まり始めた。

しかし結果はどうあれ泣かないようにしよう。

不格好な告白の終わりを、落涙によりさらに黒へ染める必要などないのだ。

「でも、好きって言われた時は凄く嬉しかった。なんて言うんだろう、心が震えたって言うのかな。だから──」


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