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【ぼく勉】成幸 「キスと呼べない何か」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:10:57 ID:nfKWg1KI
………………昼休み 一ノ瀬学園 3-B教室

大森 「なぁなぁ、一学期に唯我がキスしただの何だのって話あったじゃん?」

成幸 「………………」

成幸 (……こいつほんっっっとロクでもねーことしか言わないな!!)

成幸 「……そういえばそんなこともあったな。どうでも良すぎて忘れてたが」

大森 「結局噂もなくなっちゃって、俺としては不完全燃焼というかなんというか」

成幸 「っていうかお前が廊下で大声上げて走り回ったせいで噂になったんだけどな!?」

大森 「でもキスはしたんだろ?」

成幸 「………………」

プイッ

成幸 「……黙秘権を行使する」

小林 (それもう自白してるようなもんだけどね、成ちゃん)

211以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:42:01 ID:feM66L2E
あすみ (相席か。まぁ、混んでるし仕方ないよな)

店員 「こちらの席になります」

店員 「では、お客様、注文が決まりましたらお呼びください」

小美浪父 「いや、すみません。相席になってしまって。失礼します」

成幸 「あ、いやいや、混んでるし仕方ないですよ。どうぞどうぞ」

小美浪父 「あっ」

成幸 「えっ」

あすみ 「……後輩?」

成幸 「えっ、せ、先輩とお父さん!?」

あすみ 「……こりゃまたすげー偶然だな」 (ってことは……)

葉月 「あっ、メイドのお姉ちゃん!」 和樹 「おひさー!」

あすみ 「よー、おチビちゃんたち。おひさー」 (……で、あっちが)

花枝 「えっ? どういうこと?」 パァアアアアアア 「あんなに綺麗な子とどこで知り合ったのよ、成幸!」

水希 「また新しい女が……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

あすみ (あれが、後輩のお母さんと中学生の妹か……)

212以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:42:50 ID:feM66L2E
………………

小美浪父 「いやいや、すみません。まさか相席の相手が唯我くん――いや、成幸くんのご家族だったとは」

花枝 「いえいえ、いつも成幸がお世話になっています」

小美浪父 「とんでもない! いつも世話になってるのは私と私の娘ですよ」

あすみ 「……おい、後輩」 コソッ

成幸 「なんですか、先輩」 コソッ

あすみ 「この状況、とてつもなくヤバいと思うのはアタシだけか?」

成幸 「何言ってんですか、先輩。俺なんかさっきから冷や汗とまりませんからね」

あすみ 「だよなぁ……」 (っつーか……)

小美浪父 「本当に、成幸くんにはいつもお世話になってるんです」

小美浪父 「娘が連れてきた彼氏が、こんなに良い青年で、本当に良かったですよ」

水希 「えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? えっ?」

葉月&和樹 「「彼氏!?」」

花枝 「……あらあら、まぁまぁ……」 パァアアアアアア……!!! 「こんなにきれいな娘さんが、成幸の彼女……」

花枝 「よくやったわ、成幸!」

213以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:44:10 ID:feM66L2E
あすみ (まぁこーなるよな……)

小美浪父 「あれ? 成幸くんから娘の話は聞いていませんか……?」

あすみ (そして、こうなるよな……)

あすみ (……っつーか、こうなるのは運命だったのかもしれない)

あすみ (アホみたいなウソをついて、メイドの仕事を誤魔化して……)

あすみ (後輩を担保に、医学部受験も大目に見てもらって……)

あすみ (そんなズルをしたから、こんな最悪のカタチでウソをバラさなくちゃならなくなったんだな)

あすみ (……仕方ねえ。これは、アタシに対する正当なバチだろう。公開処刑みたいなもんだが、我慢するしかねーか)

あすみ 「……あー、えっと。親父。もうこの際だから、言ってしまうけどな」

あすみ 「実は……――」


成幸 「――いやー! 実は、家族に打ち明けるのが恥ずかしくですね!」


あすみ 「……へ?」

成幸 「ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ」

成幸 「恥ずかしくて内緒にしてたんだ。ごめんな」

214以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:45:23 ID:feM66L2E
水希 「………………」 ピクピクピク……

葉月 「あっ、水希姉ちゃんが白目剥いて泡吹いてる」

和樹 「こりゃまずいな。後で記憶操作しておかないと」

あすみ 「後輩……? おまえ……」

成幸 「しっ。わざわざバラす必要もないでしょ」 コソッ

成幸 「ウソをバラすにしても、それは受験が終わって、先輩が医学部生になってからですよ」

あすみ 「後輩……」

花枝 「まー、なんてめでたいのかしら!」

花枝 「今日は月に一度の家族で外食デー! せっかくだし成幸のおめでとう会も兼ねちゃいましょう」

成幸 「いや、母さん、そんな盛り上がらないでいいから……恥ずかしいから……」

花枝 「この前臨時ボーナスも入ったし、今日は少し高いメニューを頼んでもいいわよ!」

花枝 「特別に今日はドリンクバーも許可するわ!」

葉月 「ほんとに!?」   和樹 「やったー!」

小美浪父 「いや、うちの娘ぐらいでこんなに喜んでもらえるとは……」

215以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:45:56 ID:feM66L2E
………………

小美浪父 「……それでですね、そのとき、成幸くんは言ってくれたんですよ」

小美浪父 「“あすみさんのことは、俺が一生守ります” ……と」

花枝 「きゃー! 我が息子ながらかっこいいわー!」

成幸 「………………」

カァアアアア……

成幸 (そんなこと言った憶えはないよ!?)

あすみ (あの親父、テンション上がってあることないこと言ってやがる……)

花枝 「でも、大丈夫かしら。あすみさん、成幸と一緒で大変なこととかないかしら?」

あすみ 「へっ? あ、アタシが大変、ですか?」

あすみ 「いや、特にそういうことはないですけど……」

あすみ (あんまり、無辜の後輩の家族にウソをつきたくはないし……)

あすみ 「すごく頼りになりますし、アタシのために色々してくれますし……」

あすみ 「本当に、良い人に出会えて良かったって……そう思います」

花枝 「まぁ……まぁまぁまぁ」 パァアアアアアア……!!!

216以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:46:52 ID:feM66L2E
成幸 「せ、先輩、変なこと言わないでくださいよ……」

成幸 「俺が恥ずかしいし、母さんのテンションも上がるじゃないですか」

あすみ 「し、仕方ねーだろ。でも、ウソはついてないからな!」

成幸 「……そ、それは、まぁ……」 カァアアアア…… 「嬉しい、ですけど……」

花枝 「もー! 成幸ったら! 見せつけてくれるわね!!」 バシッ

成幸 「いたっ!? 母さんどんだけテンション上がってるんだ!?」

水希 「………………」

和樹 「水希姉ちゃん起きないなー」

葉月 「兄ちゃんがあすみ姉ちゃんとラブラブしてても反応なしね」

和樹 「こりゃ相当重傷だなー」

成幸 「先輩」 コソッ

あすみ 「おう」 コソッ

成幸 「俺はもうこの空気に耐えられそうにありません。さっさと食べて、ふたりで抜け出しましょう」

あすみ 「……だな。どこかでふたりで勉強でもするか」

217以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:48:07 ID:feM66L2E
花枝 「デート!? デート!? ふたりでどこ行くの!?」 キラキラキラ

成幸 「だー、もう! 母さん興奮しすぎだから!!」

水希 「………………」

ピクッ……

葉月 「……あ」

和樹 「水希姉ちゃんが……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

葉月&和樹 「「起きた!!」」

水希 「……ちょっと、待ってください」

あすみ 「お、おう、妹ちゃん。どうした?」

水希 「お兄ちゃんの彼女さんだって言うなら……」

水希 「逃げないでくださいよ……!!」

あすみ (こ……怖っ……。なんて気迫だよ……)

218以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:49:00 ID:feM66L2E
成幸 「逃げるって……。べつに俺たちはそんなつもりじゃ――」

水希 「――お兄ちゃんは黙ってて?」

成幸 「はい」

あすみ (そして弱いな後輩……)

水希 「……おじさん」

小美浪父 「ん? なにかな?」

水希 「この後、娘さんを借りてもいいですか? ぜひ、うちにお招きしたいので」

あすみ 「えっ……」

小美浪父 「本当かい!? おうちに娘を招待してくれるのかい?」

水希 「ええ。それはもう……」 ニヤリ 「……歓待しますよ。嫌ってほど……」

小美浪父 「よかったな、あすみ! 私に気を遣わずお呼ばれしてきなさい」

あすみ 「お、おい、親父……」

水希 「……来てくれますよね、あすみさん?」 ニコッ

あすみ (怖え……けど……) ハァ (逃げるわけにはいかねーよな)

あすみ 「……わかった。じゃあ、ぜひお邪魔させてくれ」

219以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:49:36 ID:feM66L2E
水希 「……ふふ」

水希 (わたしの知らない間に、お兄ちゃんのことをたぶらかしてた女……)

水希 (ふふふ、どんな風にお兄ちゃんを騙したのか知らないけど……)

水希 (わたしまで騙せると思わないでくださいね……!)

水希 (今日うちにご招待して、散々こき使ってやりますから!!)

水希 「………………」

水希 (……でもまぁ、お兄ちゃんの魅力に気づいたところは、褒めてあげますけど)

水希 (あと、べつにお兄ちゃんを嫌いになってもらいたいわけでもないし)

水希 (……はぁ)

水希 (複雑な心境)

220以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:50:10 ID:feM66L2E
………………唯我家

あすみ 「お邪魔しまーす」

花枝 「はい、どうぞ。ぼろくて狭い家だけど、ゆっくりしていってね。あすみちゃん」

あすみ (……まぁ、実は一度来たことはあるんだが)

水希 「………………」 ジトーーーーーッ

あすみ (あの妹が怖そうだから黙ってよう)

成幸 「すみません、先輩。予定もあっただろうに、家にまで来てもらっちゃって……」

あすみ 「そんなの気にすんなよ。元々は……」 コソッ 「お前がアタシのことを庇ってくれたから、こうなったんだ」


―――― 『いやー! 実は、家族に打ち明けるのが恥ずかしくですね!』

―――― 『ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ』


あすみ 「……ありがとな、後輩。さっきは少し……ううん。かなりカッコ良かったぜ」

成幸 「っ……」 カァアアアア…… 「こ、こんなときまでからかわないでくださいよ」

あすみ (今のは結構本気だったんだけどなー……って言っても信じねーか)

あすみ (ま、普段散々からかい続けてるアタシが悪いんだけどさ)

221以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:51:23 ID:feM66L2E
水希 「あすみさん、このエプロンをお貸しします」

あすみ 「……うん?」

水希 「エプロンをつけたら、早速働いてもらいますよ」

ニヤッ

水希 「……まずは、家中の掃除です」

花枝 「こら、水希。あすみちゃんはお客さんなのよ?」

花枝 「掃除なんかさせられるわけないでしょ。あんた、いい加減に……――」

あすみ 「――いえ、お母さん。やらせてください」

花枝 「えっ?」

あすみ 「……ふふ、いいぜぇ? 妹ちゃん?」 ニヤリ 「アタシがやられっぱなしで終わると思うなよ?」

成幸 (あっ、いつもの先輩だ……)

水希 「むっ……?」 (さっきまでと雰囲気が変わった……?)

あすみ 「家中の掃除だな? 任せろ。大得意だ。妹ちゃんは居間でくつろいでな」 グッ

葉月&和樹 「「あすみ姉ちゃんかっこいいー!!」」 キラキラキラ

222以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:51:58 ID:feM66L2E
………………

あすみ 「まずは上から!! はたきでホコリを落とす!!」

シュババババババ

あすみ 「で、次はほうき! ゴミや埃を要所に集める!!」

シュババババババ

あすみ 「そして局所的に掃除機! 使用電力は最低限で!!」

シュババババババ

水希 「!?」 (電気代のことも考えて掃除をしている……!? この女……)

水希 「できる……!!」 ギリッ

あすみ 「最後はきつくしぼったふきんで、テーブルや棚回りを磨く!」

あすみ 「拭く程度じゃ汚れが伸びるだけだからダメだ! 磨き上げるつもりで!!」

シュババババババ

あすみ 「そして最後に、雑巾で床を磨き上げる……!!!」

あすみ 「畳も水分が残らないように磨く……!!!」

シュバババババババババババババババババババ!!!!!!

223以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:52:57 ID:feM66L2E
………………

ピカピカピカピカ……

花枝 「すごい……。かつてないくらいピカピカだわ」

あすみ 「後輩――成幸くんにはいつもお世話になってるので、気合い入れちゃいました」 キャルン

花枝 「美人なだけでなく、お掃除も完ぺきだなんて……成幸!? こんなすごい女の子どうやって捕まえたの!?」

あすみ 「えへへ、違うんですよ、お母様っ」 キャルン 「アタシが、成幸くんを捕まえたんですっ、なんて! きゃーっ」

成幸 (先輩、なんか “あしゅみー” 感が出てきたな……)

水希 「ぬぬぬぬ……」

水希 「ま、まだですよ! 次は大量の洗濯物をたたんでもらいますから!」

あすみ 「うん?」 ペタペタペタパタパタパタ

水希 「……!?」 (も、もうたたみ始めてる……!?)

水希 (しかもなんて素早いの……で、でも、たたみ方が雑では本末転倒……――)

水希 (――なっ……!?)

キラキラキラ……!!!

水希 (寸分の狂いもない、なんて美しい折り目なの……!?)

224以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:53:35 ID:feM66L2E
水希 「……す、すごい」

ハッ

水希 (感心してどうするの! この程度、わたしだって少しがんばればできるもん!)

水希 「あ、あとは! 今日やる予定はなかったけど、水回りの掃除を徹底的に――」

ピカピカピカピカ……

水希 「……!?」

あすみ 「うん。普段から清潔にしてある良いトイレと風呂だな。すぐピカピカになった」

水希 「う、うそ……」 (なんてできる人なの、この人は……!?)

水希 「っ……あ、あとは……」

あすみ 「おっ、もういい時間だな。今日の晩ご飯は何にする予定だったんだ?」

水希 「えっ……えっと……。今日は、お米を炊かずに、残り物の野菜ですいとん風鍋を……」

あすみ 「よーし、オッケー。じゃ、アタシが作るな」

あすみ 「冷蔵庫の食材、使ったらダメなやつとかあるか?」

水希 「………………」

あすみ 「……? 妹ちゃん?」

225以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:54:12 ID:feM66L2E
水希 「……なにも、ないです。自由に使ってもらって大丈夫です」

あすみ 「ん、そうか。じゃあそうさせてもらうな」

あすみ 「〜〜〜♪」

水希 (……鼻歌混じりに、意気揚々と台所へ行ってしまった)

水希 「………………」

ガクッ

水希 (……認めたくはないけど、仕方ないのかもしれない)

水希 (わたしの、完敗だ……)

水希 「……はぁ」

あすみ 「……?」 (なんか、妹ちゃん凹んでんなぁ……)

あすみ (……売り言葉に買い言葉で、気合い入れて家事をやっちまったが)

あすみ (普段、あの子がこの家の家事をやってるんだよな。やりすぎちまったかな……)

あすみ (悪いことしたな……)

226以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:54:44 ID:feM66L2E
………………晩ご飯 食卓

あすみ 「はい、できましたよー」

コトッ

花枝 「あらあらあら……良い匂いだわ。とても美味しそう」

あすみ 「お口に合うと嬉しいですけど……」

あすみ 「……ほら、葉月、和樹。お前たちの分もよそうからな」

葉月 「きゃー!」 和樹 「姉ちゃんと母ちゃん意外のお料理を家で食べるなんて、新鮮だな!」

水希 「………………」 ズーン

あすみ 「ほら、妹ちゃんも、どうぞ」

水希 「……どうも」 ズーン

あすみ (うーむ。明確な敵意は消えたけど、代わりにめちゃくちゃ暗くなっちまったな……)

あすみ (どうしたもんか)

あすみ 「ほら、こうは――成幸くんの分も」

成幸 「あ、すみません。ありがとうございます、せんぱ――あすみさん」

あすみ 「お、おう……」 (……なんか名前を呼ばれるとこそばゆいな)

227以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:55:39 ID:feM66L2E
花枝 「それじゃ、いただきましょうか。あすみちゃん、本当にありがとうね」

花枝 「いただきます」

『いただきます!』

水希 「……いただきます」

パクッ

水希 (……やっぱり、想像通りだ)

水希 (すごく美味しい。普段から料理をやり慣れてる人の、お料理の味)

水希 (わたしが作ろうとしていた節約メニューの意図をよく理解している……)

水希 (華美でも貧相でもない、素朴な料理……)

水希 「………………」

あすみ 「ほらほら、ゆっくり食べろ。こぼれちゃうぞ」

葉月 「だってー、あすみお姉ちゃんのお料理、とっても美味しいんだもの!」

和樹 「……はむっ。姉ちゃんおかわり!」

あすみ 「嬉しいねぇ。もう食べ終わったのか。ほら、おかわりどうぞ」

和樹 「わーい! ありがと、姉ちゃん!」

228以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:56:57 ID:feM66L2E
水希 「………………」 (……悔しいな。悔しいけど、もう認めざるを得ない)

水希 (この人を厭う要素がない。この人は、絶対に兄を幸せにしてくれる人だ……)

水希 (わたしより、はるかに……――)


あすみ 「――妹ちゃんはさ、学校から帰ったら、いつも家事をこなしてるんだろ?」


水希 「えっ……?」

水希 「ま、まぁ、そうですけど……」

あすみ 「すごいな。アタシなんて浪人生なのに、そうそう家事なんてやらないのに」

あすみ 「お前らの姉ちゃんはすごいな。なぁ、和樹、葉月」

和樹 「そりゃーなー!」 葉月 「水希姉ちゃんは世界一の姉ちゃんだもの!」

あすみ 「……悔しいな。アタシが一番になりたいところだけど、」

あすみ 「きっと掃除も料理も滅茶苦茶上手いんだろうな。悔しいけど、アタシは二番目で我慢するか」

水希 「………………」 (……ああ、そっか)

水希 (この人は、ずっと嫌な気持ちにさせていたわたしのことも気遣ってくれるような人なんだ……)

水希 (……ダメだ。とことん、この人を嫌いになる理由がなくなってしまった)

229以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:57:29 ID:feM66L2E
………………食後 台所

あすみ 「ふんふーんふん……♪」

キュッキュッ……

水希 「……あの、お皿洗い、手伝います」

あすみ 「うん? いいよいいよ。あと少しで終わるし、アタシひとりで大丈夫だよ」

水希 「いえ、あの……やらせてほしいんです」

あすみ 「……そっか。じゃあ、アタシがスポンジで汚れを落とすから、洗剤を流してくれ」

水希 「わかりました」

あすみ 「………………」

水希 「………………」

バシャバシャバシャ……

水希 「……あの」

あすみ 「んー?」

水希 「……今日は、すみませんでした」

あすみ 「何の話?」

230以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:59:13 ID:feM66L2E
水希 「……とぼけないでくださいよ」

バシャバシャ……

水希 「今日、ファミレスで会ってからずっと、嫌なことばかりして、言って……」

水希 「もう、わたしのことを嫌いになってるかもしれないですけど……」

あすみ 「………………」

水希 「……お願いします。兄のことは、嫌いにならないでください」

水希 「お兄ちゃんは悪くないんです。わたしが勝手に、嫌な気持ちになって、嫌なことしただけだから……」

水希 「……ごめんなさい」

あすみ 「………………」 ハァ 「……とぼけてねーよ。何の話だか、これっぽっちも分からない」

あすみ 「妹ちゃんのこと、嫌ってないし嫌う予定もないよ」 ニコッ

水希 「あすみさん……」

あすみ 「……いつまでも、“妹ちゃん” 呼びじゃ分かりにくいし、」

あすみ 「アタシも、“水希” って呼んでもいいか?」

水希 「あ……は、はい! ぜひ!」

231以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:59:55 ID:feM66L2E
あすみ 「ん。じゃあこれからはそうするな。水希」

水希 「……はい」

あすみ 「………………」

あすみ (……水希も、後輩のことが好きすぎるだけで、すごく良い子だ)

あすみ (お母さんも、葉月も、和樹も……。温かくて、良い家族だ)

あすみ (アタシはこんな人たちを騙してるのか……)

あすみ (そして、そんな家族を騙すような真似を、後輩にさせてるのか……)

ズキッ

あすみ (……ダメだ。そんなのは、絶対)

あすみ (アタシがついたウソが、後輩に迷惑をかけている……)

あすみ (それに留まらず、後輩に家族に対して無用なウソをつかせている……)

あすみ 「……なぁ、水希」

水希 「はい?」

あすみ 「洗い物が終わったら帰るけど、その前に話がある」

あすみ 「……お母さんと葉月と和樹、全員に聞いてほしい話があるんだ」

232以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:00:29 ID:RTwzERjA
………………居間

花枝 「話って何かしら、あすみちゃん」

花枝 「ま、まさか、成幸と結婚させてほしいとかかしら……。ど、どうしましょう。神社? チャペル?」

花枝 「白無垢? ウェディングドレス? あすみちゃん美人だからどっちも似合うでしょうし、迷うわね〜」

あすみ 「いや、あの……」

水希 「お母さん! あすみさんすごく真剣な顔してるから、茶化すのはやめてあげようよ」

花枝 「えっ……? あ、そ、そうね……」

花枝 (水希のことだから、まだ嫉妬心むき出しだろうから場を和ませようと思ったのに……)

花枝 (当の水希にたしなめられるとは思わなかったわ……。随分と懐いたものね)

葉月 「あすみ姉ちゃん?」 和樹 「お話ってなーに?」

あすみ 「……あ、あの」

成幸 「先輩……?」

あすみ (……怖い。せっかくよくしてくれた人たちに、前提を覆すようなことを言うのが、怖い)

あすみ (でも……) キッ (家族大好きな後輩に、家族に対してウソをつかせたままにしておくわけにはいかない)

あすみ 「……申し訳ありませんでした」 ペコリ

233以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:01:18 ID:RTwzERjA
水希 「えっ……? ど、どうしたの、あすみさん。いきなり頭を下げて……」

あすみ 「……ごめんなさい。アタシ、みんなにひとつ、ウソをついています」

成幸 「せ、先輩! それは……――」

あすみ 「――成幸くんもウソをつきました。でも、それはアタシのためにウソをついたんです。だから、許してあげてください」


あすみ 「アタシと成幸くんは、お付き合いしていません。恋人でもなんでもありません」


あすみ 「……ただの、予備校の先輩後輩の間柄です」

花枝 「………………」

水希 「えっ……ど、どういうこと……?」

水希 「あすみさんは、お兄ちゃんの彼女さんじゃない、の……?」

あすみ 「……ああ。違う」

花枝 「……成幸」

成幸 「は、はい」

花枝 「あすみさんの言っていることは本当なの?」

成幸 「……うん。本当だよ」

234以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:01:55 ID:RTwzERjA
花枝 「なら、どうしてあんなウソをついたの?」


―――― 『ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ』


成幸 「それは、その……」

あすみ 「夏休みにアタシが頼んだんです。父をごまかすために、恋人役をやってくれ、って」

あすみ 「それが尾を引いて、今日、成幸くんにご家族を騙すようなことをさせてしまいました」

あすみ 「アタシが悪いんです。すみません。本当に……ごめんなさい!」

花枝 「……頭を上げて、あすみちゃん」

あすみ 「はい……」

花枝 「………………」

クスッ

花枝 「やっぱり、そんなことだと思ってたわ。うちの成幸にこんな出来た彼女がいるわけないと思ってたのよ」

あすみ 「へ……?」

花枝 「ほんの一時だけでも夢を見させてもらったわ。ありがとね、あすみちゃん」

あすみ 「い、いやいやいや、お礼なんてそんな! っていうか……怒らないんですか?」

235以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:02:40 ID:RTwzERjA
花枝 「あなたにも事情があるんでしょうし、騙そうとして騙そうとしたわけじゃないでしょう?」

あすみ 「ま、まぁ……そうですけど……」

花枝 「それに、今日あの場で最初にウソをついたのは成幸だし。怒るなら成幸かしら」

成幸 「……まぁ、確かにその通りだな。すまん。母さん、水希、葉月、和樹」

あすみ 「いや、やめろよ、後輩! お前、アタシのためにウソついてくれたんだろ?」

あすみ 「悪いのはアタシだから、後輩を怒るのはやめてあげてください!」

花枝 「……そんな風に言える良い子を怒らないわよ」

クスクス

花枝 「あなた、本当に良い娘さんね」

あすみ 「そ、そんなこと……」

水希 「………………」

あすみ 「あっ……その……水希も、ごめんな」

あすみ 「後輩のこと大好きなお前には、本当に嫌な思いをさせちまったと思う……」

水希 「……やめてください。今、本当に複雑な心境なんですから」

あすみ 「え……?」

236以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:03:25 ID:RTwzERjA
水希 「お兄ちゃんに彼女ができたって聞いて、ショックで、怖くて、嫉妬して……」

水希 「でもいざ家に来てもらったらすごく良い人で安心して、良かったって思って……」

水希 「そうしたら、今度は実は彼女じゃなかったって……」

水希 「……お兄ちゃんに彼女がいなかったのは嬉しいけど、」

水希 「あすみさんだったらいいかな、って思い始めた後だから、複雑な気持ちなんです」

あすみ 「お、おう……。なんか、本当に、ごめん……」

水希 「謝らないでください。べつに、怒ってはいないですから……」

水希 (ああ、もう……本当に悔しい。だってわたし、今すごく残念な気持ちになってる)

水希 (あすみさんがお兄ちゃんの彼女さんじゃなかったって知って、残念に思ってる)

水希 (わたし……あすみさんに、お兄ちゃんの彼女になってほしいって、思ってるんだ……)

葉月 「じゃあ、あすみ姉ちゃんは嫁に来ないの?」 和樹 「こないの?」

あすみ 「ごめんな、葉月、和樹。たぶん嫁には……いかないん、だよな……?」

成幸 「!? お、俺に聞かないでくださいよ。自分でいかないって言ってくださいよ」

237以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:03:56 ID:RTwzERjA
あすみ 「いや、まぁ、そうなんだけど……」 (なんだよ、後輩のやつ……)

あすみ (…… “来てほしい” くらい言ってくれてもいいじゃねーかよ)

ハッ

あすみ (って、アタシは何をバカなこと考えてんだ……)

あすみ (後輩はアタシの被害者だってのに、何勝手なこと思ってんだ……)

あすみ (……っつーか、アタシ、ひょっとして)

カァアアアア……

あすみ (後輩に、“嫁に来てほしい” って言ってほしかったのか……?)

成幸 「どうしたんですか、先輩。顔赤いですけど……」

あすみ 「なっ、なんでもねーよ!」

成幸 「?」

花枝 「………………」 (へー……)

ニヤリ

花枝 (これは、意外と、あすみちゃんもまんざらじゃないのかしら)

238以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:04:37 ID:RTwzERjA
花枝 「……あすみちゃん」

あすみ 「は、はい!」

花枝 「ウソをついていたことは怒っていません。もちろん、成幸も」

成幸 「すまん。ありがとう」

あすみ 「すみませんでした」

花枝 「でもね、さっきの口ぶりだと、あすみちゃん、お父さんにウソをついているのね?」

あすみ 「あ……それは、まぁ……はい」

花枝 「人様のご家庭のことにとやかく言うことはできないし、あすみちゃんにも事情があるんでしょうけど」

花枝 「……ウソはよくないわ。できるだけ早く、今のように、ウソを打ち明けた方がいいと思うわよ」

あすみ 「……本当に、その通りだと思います。アタシも、来年度には打ち明けるつもりです」

あすみ 「でも、もう少しだけ、時間が必要なんです。だから……」

花枝 「………………」 ニコッ 「……わかったわ。私はこれ以上何も言わない」

花枝 「うちの成幸があすみちゃんの役に立てるなら、恋人役としていくらでも使ってちょうだい」

あすみ 「すみません。ありがとうございます……」

あすみ 「……後輩も、いつもありがとな」

239以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:05:42 ID:RTwzERjA
成幸 「いや、俺はべつに、お礼を言われるようなことは……」

あすみ 「いつか、親父にもウソを打ち明けて謝るからさ」

あすみ 「……もう少しだけ、付き合ってもらってもいいか?」

成幸 「一度引き受けたことですから。先輩の夢が叶うまで、付き合いますよ」

花枝 「……ところで、ウソを本当にしちゃうってのも、アリだと思うわよ?」

あすみ 「ウソを本当に……?」

花枝 「お父さんはあすみちゃんと成幸が付き合ってると思っているのでしょう?」

花枝 「なら、このまま本当にお付き合いして、いつか結婚しちゃえば、」

花枝 「ウソも何もなくなっちゃうんじゃないかしら?」

成幸 「なっ……」 カァアアアア…… 「何言ってんだよ、母さん!」

あすみ 「………………」 プイッ

あすみ (ウソを本当にする、か……)

あすみ (そうだよな。本当に付き合っちまえば……アタシと後輩は、ニセモノじゃなくて……)

あすみ (ホンモノの恋人に、なれるのか……)

240以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:06:42 ID:RTwzERjA
あすみ 「………………」

成幸 「ほら、母さんが変なこと言うから、先輩固まっちゃったじゃないか」

成幸 「先輩、母さんの言うことなんて気にしなくていいですからね」

あすみ 「ホンモノ、か……」

成幸 「えっ……? 先輩?」

あすみ 「お前となら、それもいいかもしれねーな」

成幸 「なっ……」

成幸 「ま、またからかうようなこと言って! もうその手には乗らないですからね!」

あすみ 「……にひひ、バレたか」

241以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:07:15 ID:RTwzERjA
成幸 「まったくもう、先輩は……」

あすみ 「………………」


―――― 『……ありがとな、後輩。さっきは少し……ううん。かなりカッコ良かったぜr

―――― 『こ、こんなときまでからかわないでくださいよ』


あすみ (さっきと一緒だ。アタシの本心からの言葉は、全部ニセモノになってしまう)

あすみ (仕方ない。普段のアタシの行いのせいだから)

あすみ (素直になれない、素直になろうとしない、アタシのせいだから)

あすみ (もし、アタシのホンモノの言葉が、こいつに届いたら……)

ギュッ

あすみ (……アタシと後輩は、いつか“ホンモノ” になれるかな)


おわり

242以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:08:30 ID:RTwzERjA
………………幕間1  「父」

あすみ 「ただいまー」

小美浪父 「おお、おかえり、あすみ! どうだった!?」

あすみ 「帰って早々騒々しいな。一体なんだよ」

小美浪父 「何を言ってる! こっちはお前が粗相をしていないか気が気じゃなかったんだぞ!」

あすみ 「自分の娘のことなんだと思ってんだ、あんた……」

あすみ 「何もなかったよ。順調だ。晩飯だってアタシが作ってきたよ」

小美浪父 「おお……」 パァアアアアアア……!!! 「これはめでたい。結婚まで秒読みだな」

あすみ 「っ……」 (こっちの気もしらないで、親父の奴……)

小美浪父 「いやー、しかし良かった良かった」 ドサッ

小美浪父 「五冊目に突入した唯我くんとお前の記録ノートが無駄にならなくて済みそうだからな」

小美浪父 「結婚式の挨拶は任せろ。馴れ初めムービーがいらないくらい、私が語ってやるからな」

あすみ 「あー、うん……」 (これでウソだったって知ったら、卒倒しそうだなこの人……)

あすみ (仕方ねぇ。あくまでこの親父のために……)

あすみ (……ホンモノ、目指してみようかな)

243以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:09:00 ID:RTwzERjA
………………幕間2  「妹」

成幸 「先輩と一緒に行ったところ? えっと、カラオケボックスとか、海とか……」

成幸 「あとはファミレスで勉強したりとかだけだぞ?」

水希 「海……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 (ずるい! 海なんて滅多に行けないのに、あすみさんはお兄ちゃんと……!!)

水希 (アタシだってお兄ちゃんとふたりっきりで行きたいのに!!)

水希 (やっぱりあすみさん許すまじ……)

水希 「………………」

水希 (……悔しい)

水希 (お兄ちゃんとふたりでも行きたいけど……)

水希 (あすみさんも一緒にいたらもっと楽しいだろうなとか考えちゃう自分が……)

水希 (本当に悔しい……!!)

おわり

244以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:09:32 ID:RTwzERjA
>>1です。読んでくれた方ありがとうございました。

また折を見て投下します。

245以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:10:04 ID:ei8Z2GaQ
おつ!
やはりあしゅみー先輩こそ至高

246以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:29:08 ID:CIrMnHwE
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】 真冬 「それがあなたの長所でしょう?」

247以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:34:56 ID:CIrMnHwE
………………一ノ瀬学園 職員室

鈴木先生 「桐須先生、お忙しいところすみません」

真冬 「? 何か?」

鈴木先生 「今日の放課後、二学期第二回目の面接練習があるのはご存知ですよね」

鈴木先生 「実は、担当ではない桐須先生にこんなことを言うのは大変恐縮なのですが、お手伝いいただきたいんです」

真冬 「構いませんよ。前回のように職員に体調不良者でもでましたか」

鈴木先生 「いえ、実はそういうわけではなく……」

鈴木先生 「桐須先生との面接練習を希望すると言う生徒がおりまして」

真冬 「私との面接練習を希望する……? ほぅ……」

ゴゴゴゴゴゴ…………

真冬 「なかなか威勢の良い生徒もいたものですね。いいですよ。引き受けます」

鈴木先生 (さすがは桐須先生。生徒に対しての教育に熱が入っていらっしゃるご様子だ……)

真冬 (どんな生徒か分からないけれど……)

ニヤリ

真冬 (私との面接練習を希望したことを、後悔させる勢いでやってあげるわ。ふふふ……)

248以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:35:56 ID:CIrMnHwE
………………放課後

理珠 「今日はよろしくお願いします。桐須先生」 フンス

文乃 「よろしくお願いします!」 フンスフンス

真冬 (驚愕。まさかこの子たちだったとは……)

真冬 「……ええ。よろしくお願いします」

真冬 「私はあなたたちの面接練習を一度担当したわけだけれど、」

真冬 「……当然。以前よりは格段にレベルアップしているのでしょうね?」

理珠 「もちろんです。もう私に答えられない質問などありません」

文乃 「わ、わたしもです。成幸くんにも付き合ってもらって、練習もたくさんしてきました」

真冬 「感心。では、私も以前以上に気を引き締めて、本物の試験官のつもりで面接に臨みます」

真冬 「よろしいですね?」

理珠 「望むところです」 フンスフンス

文乃 「精いっぱいがんばります!」

真冬 「よろしい。では、一分ほど後に、緒方さんから順番に入室をしてください」

249以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:36:35 ID:CIrMnHwE
………………

コンコン

理珠 「失礼します」

真冬 「どうぞ」

真冬 「では、学校名とお名前をお願いします」

理珠 「はい。私立一ノ瀬学園高等学校の、緒方理珠と申します。本日はよろしくお願いいたします」

真冬 (ふむ……以前より格段に言葉がなめらかになっているわね)

真冬 (自主練習をたくさんしたのでしょうね)

真冬 「はい。よろしくお願いします。では、おかけください」

理珠 「はい。失礼致します」

250以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:37:34 ID:CIrMnHwE
真冬 「では、面接を始めます」

真冬 「まず、緒方さんが本校を志望する理由を教えてください」

理珠 「はい。私は、人の心の機微に鈍感です」

理珠 「人が何を考えているか分からず、自分だけ見当違いなことをしている、ということがままあります」

理珠 「私は、そんなとき、周囲の友人たちとの間に壁を感じます」

理珠 「私はその壁を乗り越えて、人が何を考えているか、分かるようになりたいです」

理珠 「以上のことから、貴学の水準の高い心理学部ならば、私の求める人の心の探究ができると思い、貴学を志望しました」

真冬 (ふむ。言葉はなめらか。棒読みでもなく心もこもっている。及第点ね)

真冬 「よく分かりました。緒方さんは、本校の心理学部で、人の心が分かるようになりたいということですね」

真冬 「では、続けて伺います。あなたの言う “人の心の探究” とは、具体的にどのようなことを指しますか?」

理珠 「え……?」

真冬 「大学は研究機関です。あなたの言う “人の心の探究” が、最終的にどのような研究に行き着くのか」

真冬 「本校としても、私個人としても非常に興味深いです。ぜひ、ご教授いただければと思います」

理珠 「け、研究……?」

251以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:38:25 ID:CIrMnHwE
真冬 「? 大学進学を志望してらっしゃるのに、研究したいことがないのですか?」

理珠 「い、いえ、そういうわけでは……」

真冬 「では、あなたは本校での学びにより自身の苦手を克服した先にどのような研究をしますか?」

理珠 「えっと……」

真冬 「先ほども申し上げた通り、大学は学習する場であり、研究機関でもあります」

真冬 「自身の苦手を克服するという目的を達成するだけだけならば、」



真冬 「専門学校や終身教育機関など、叩くべき門戸は他にあると思いますが」



理珠 「………………」

真冬 「………………」

ハァ

真冬 「……ここまでのようね。長時間の沈黙が続いてしまった時点で、合格は絶望的だと思いなさい」

理珠 「……はい」

252以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:40:49 ID:CIrMnHwE
理珠 「………………」 (悔しい……)

理珠 (たくさん練習してきたのに、その練習の前提が崩されたような気分です)

理珠 (……しかし、どう考えても、桐須先生の指摘の通り)

理珠 (大学は教育機関であり研究機関でもある。最終的に研究をして卒業をすることになる)

理珠 (私は目の前の大学入学という目標に囚われ、入学した後のビジョンをおろそかにしている)

理珠 (私自身が一番理解していなければならないような基本的なことを、桐須先生に指摘されてしまったということ)

理珠 (……悔しい。私、前回から、まったく成長していないじゃないですか)

グスッ

理珠 「っ……」 (ダメです。泣いたら、それこそ、完全に負けてしまう。前回と同じになってしまう)

理珠 (泣かない。自分に何ができるか。今後どう成長していくか。それを考えないと……)

理珠 (勉強に付き合ってくれて、面接練習にも付き合ってくれた、成幸さんに顔向けできない)

理珠 (もっともっとがんばらないと……――)

真冬 「――まぁ、及第点には程遠いけど、前回に比べればはるかに良くなっているわ」

真冬 「がんばったのね、緒方さん」

理珠 「えっ……?」

253以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:41:24 ID:CIrMnHwE
理珠 「そ、そんな……だって、私はまた、前回と同じように……」


―――― 『どうなんですか 緒方さん 黙っていてはわかりませんよ』


理珠 「前回と、同じように……。黙りこくってしまって……」

真冬 「けれど、話をするときに固さや焦りが消えたわ。自信も少し見えていた。それは良い傾向よ」

真冬 「たくさん練習したのが見て取れたわ」

理珠 「でも……」

真冬 「そうね。結果としては惨憺たるものだわ。不合格という事実は変わらない」

真冬 「……でも私は今の面接で、あなたの可能性が見えた気がするわ」

理珠 「私の可能性……?」

真冬 「ええ。あなたは努力して、人の心を理解しようとしている」

真冬 「そして世の中には、一定数あなたのように、所謂 “空気が読めない” 人が存在するわ」

真冬 「緒方さん、あなたは、今のあなたがそうであるからこそ、そういう人たちのためになる研究ができないかしら?」

真冬 「他人に共感を覚えづらい、生きづらい思いをしている人たちを助ける研究ができないかしら?」

理珠 「私と同じような人たちを、助けるための研究……」

254以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:42:27 ID:CIrMnHwE
真冬 「ええ。それはあくまで私の想像する未来のあなたの像だけれど」

真冬 「悪くはないのではないかしら」

真冬 (……なんて、少し喋りすぎかしら)

真冬 (進路選択は自分自身で決めること。そしてそのための答えも、自分自身でできる限り決めなければならない)

真冬 (緒方さんにとってヒントになればいいと思って話してしまったけれど、)

真冬 (……出過ぎた真似をしすぎたわね。反省だわ)

理珠 「……桐須先生」

真冬 「何かしら?」

理珠 「目から鱗です」

真冬 「……?」

理珠 「すごいです。私が、自分自身をモデルケースに、私と同じような人のために何が出来るかを研究する……」

理珠 「それは、私が大学を志望する理由として十分なものに思えます!」

理珠 (少なくともアナログなゲームを理由とするよりは、はるかに!)

真冬 「そ、そう? そう思えるなら、それを自分なりにかみ砕いて、自分の言葉に直して、使えるようになりなさい」

理珠 「わかりました!」 メモメモメモ

255以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:43:11 ID:CIrMnHwE
真冬 (気むずかしいかと思えば、素直な子)

真冬 (つかみ所のない難しい子だけれど、悪い子では決してない)

真冬 (……願わくは、自身の得意分野を伸ばしていてもらいたいけれど)

真冬 (まぁ、仕方ない。本人が決めた進路に、教師が口だしできる範囲なんて限られている)

真冬 「……では、今後は大学入学後のビジョンを明確にして、面接練習に臨みなさい」

理珠 「わかりました」

真冬 「退出してください。一分後に入室するように、外の古橋さんに伝えてください」

理珠 「はい」

真冬 (……さて、次は古橋さんね。彼女もこの前からどう成長しているかしら)

理珠 「……あ、あの、桐須先生」

真冬 「? まだ何か質問があったかしら?」

理珠 「いえ、あの、これは質問というより、私の思ったことをそのまま言うだけのことですが……」


理珠 「ひょっとして、桐須先生は、わたしが文系受験をすることを認めてくれているのですか?」


真冬 「……!?」

256以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:43:42 ID:CIrMnHwE
真冬 「そ、そんなわけないでしょう? 私は、未だにあなたの進路選択を認めていません」

真冬 「今からだって遅くはないわ。考え直せるなら、理系分野を志望することをおすすめするわ」

理珠 「……むっ」 ムスッ

理珠 「私だって、先生に認めてもらわなくたって構いません」

真冬 「生意気。そういうことは、面接を最後まで続けられるようになってから言いなさい」

理珠 「そのための練習でしょう。最初から上手くできるなら、こんな練習なんてする必要はありません」

真冬 「……相変わらず口の減らない子ね」

理珠 「そちらこそ、です」

真冬 「………………」

理珠 「………………」

理珠 「……でも」

理珠 「……今日はありがとうございました。先生のご指摘は、すごくタメになりました」

真冬 「……そう。なら、せいぜいがんばりなさい。応援はしないけどね」

257以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:44:24 ID:CIrMnHwE
理珠 「………………」

クスッ

理珠 (“がんばりなさい” って言っておいて、“応援はしない” なんて……)

理珠 (ひどい矛盾です。この先生は、意外と抜けているのですね。今まで全然しらなかったことです)


―――― 『本当はな…… 緒方のこと すごく大切に思ってるんだよ』

―――― 『できれば…… 好きになってもらえたらって……』

―――― 『桐須先生のこと』


理珠 (……少しだけ、あのときの成幸さんの言葉が分かった気がします)

理珠 (この人は本当に……)

真冬 「……?」


―――― 『勘違いされやすいんだけど 本当はあったかくて生徒思いのいい先生なんだよ』


理珠 (……そういう先生なのかもしれませんね)

258以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:45:40 ID:CIrMnHwE
………………

真冬 「では、古橋さん。続いての質問です」

真冬 「あなたの得意な教科、現代文、古文、漢文、日本史……それらが天文学にどのように活かせると思いますか?」

文乃 (うぅ……やっぱり怖いなぁ、桐須先生)

文乃 (でも、負けられない。桐須先生に負けてたら、そもそも自分自身に絶対勝てない!)

文乃 「……わたしは文章を読むことを苦痛としません」

文乃 「理系分野において、実験によって新しく発見をすることも大事ですが、」

文乃 「前提として、先行研究の文献を読むことが必要不可欠です」

文乃 「文系科目が得意なわたしは、先行研究を読み解き、自分自身の研究に生かすことが容易にできると思います」

文乃 「基礎研究において、それは何より役に立つ能力なのではないかと考えます」

真冬 (なるほど……。よく考えて、よく練られた回答だわ)

真冬 (自分の得意分野をしっかりと生かした言葉になっているわ)

真冬 「……なるほど。研究をする上では、それは確かに強みになりますね」

真冬 「では、続けて聞きますが、あなたは数学が得意ではないですね?」

文乃 「……はい」

259以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:46:23 ID:CIrMnHwE
真冬 「天文学と数学は切っても切れない関係です。その苦手は大きなネックになると思いますが、どうするおつもりですか?」

文乃 「……教科書を読み解く力あるつもりです。だから精いっぱい、勉強します」

文乃 「その証拠になるかは分かりませんが、調査書を見て頂きたいと思います」

文乃 「わたしは、本当に数学が苦手です。テストでは全然点が取れないくらいでした。でも、今は……」

文乃 「がんばって、やっと平均点に届くかというところに来ました」

文乃 「絶対値としては足りないかもしれません。でも、相対的に見ればかなりの成長だと、自負しています」

文乃 「わたしの今までの伸びを、そしてこれからの伸びしろを見ていただければ幸いと存じます」

真冬 「……わかりました」

真冬 (なるほど。考えてきたわね。やはり文系科目が得意だと、対人能力……面接にも活かせるのね)

真冬 (苦手を苦手と認め、その上で苦手を克服したという部分を強調する良いやり方だわ)

真冬 (実際、彼女の数学の点数の伸びは驚異的なものがある。これは、大学の面接担当にも一考の余地が出てくることでしょう)

真冬 (……さて)

真冬 「……では、最後の質問です。あなたの長所と思える部分を教えてください」

文乃 「えっ……?」

文乃 (……わたしの、長所……?)

260以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:47:43 ID:CIrMnHwE
文乃 (文系科目以外でわたしに長所って、何かあるかな……)

文乃 (そもそも、わたしにいいところなんてあるのかな)

文乃 (わたしには何ができるのかな。今まで、何をしてきたのかな)

文乃 (……文系科目が得意で、お話を作るのが得意なこと以外、わたしに何が……)

文乃 (わたし、ひょっとして、長所なんて何一つない……?)

真冬 「………………」

文乃 (……だ、黙ってたら、ダメ!)

文乃 (それじゃ何も伝わらない! 頭が混乱していたって、何か言わなければ面接はそこで終わってしまう!)

文乃 「わ、私は……! 先ほど申し上げたとおり、苦手な数学を、努力で補ってきました」

文乃 「そ、それは、苦手科目でもやりきるという、私の長所だと思います」

真冬 「学生が必要な科目の勉強をがんばるのは当然では? その当然の努力を長所と言い張るのですか?」

文乃 「うっ……」 (た、たしかに、その通りなんだよ……)

文乃 「ほ、他にも、わたしは……れ、恋愛相談、とか、が……得意、です……?」

真冬 「………………」

文乃 (無言の目線が痛い……!!)

261以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:48:17 ID:CIrMnHwE
文乃 「………………」

真冬 「……残念。ここまでのようね。これくらいにしましょう」

文乃 「はい……」 (うぅ……結局わたし、また何も言えなかった……)

文乃 「すみません。大学に訴求できるような長所が、なかなか見つからなくて……」

真冬 「そうね。長所って言われても難しいものね。でも、それでも、言えなければならないわ」

文乃 「……はい。もう一度よく自分自身を見つめ直して、考えてみます」 ズーン

真冬 「………………」

ハァ

真冬 「……“人の心の機微に敏感で、他者との共感能力が高く、人の気持ちに寄り添える”」

文乃 「えっ……?」

真冬 「そして、その人のために全力でがんばれる優しさも持っている」


真冬 「……それがあなたの長所でしょう?」


文乃 「わたしの、長所……?」

真冬 「その結果として――これはあくまで予想だけれど――あなたは、恋愛相談とやらを受けたのではないかしら?」

262以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:48:55 ID:CIrMnHwE
真冬 「それを大学用に、自分でカスタマイズしてごらんなさい」

真冬 「たとえば、“友人との人間関係を円滑にし、勉学にも研究にも協力して取り組むことができると思います” とかね」

文乃 「わ、わたしの、長所……」

文乃 「わたしの、がんばってきたこと……」

真冬 「……?」 (どうしたのかしら、古橋さん?)

文乃 (……そっか、わたし。そうだよね。今まで、成幸くんやうるかちゃん、紗和子ちゃんの相談にだって乗ってきたもんね)

文乃 (それは、わたしの長所でもあるんだ……)

文乃 「ありがとうございます、桐須先生。うまくまとめられるような気がしてきました」

真冬 「そう? よかったわね。なら、次の面接練習までにしっかりと言えるようにしておきなさい」

文乃 「はい!」

文乃 (……分かってたことだけど、改めて思うよ。この先生は、ただの怖くて厳しい先生じゃないんだ)

文乃 (わたしのことなんて嫌いだろうに、そんなわたしのこともよく見てくれているんだ……)

文乃 (わたしが理系受験をすることをよく思ってないはずなのに、結局はこうやってわたしのためにアドバイスをくれるんだ)

文乃 (……本当に、“良い先生” なんだなぁ)

263以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:49:54 ID:CIrMnHwE
………………図書室

理珠 「………………」  文乃 「………………」

ガリガリガリガリガリ……

成幸 「お、おお、がんばってるな、お前ら……」

理珠 「……先生からアドバイスをいただきました。忘れないうちに、カタチにしておかないと」

文乃 「わたしもだよ。二回も面接練習をやってくれた桐須先生のためにも、がんばらないと」

成幸 (……前より先生に対しての苦手が少なくなったみたいだな。よかったよかった)

成幸 (というか、むしろ……) クスッ (“先生のためにがんばる” って気持ちすら見えるな)

文乃 「………………」


―――― 『……“人の心の機微に敏感で、他者との共感能力が高く、人の気持ちに寄り添える”』

―――― 『そして、その人のために全力でがんばれる優しさも持っている』


文乃 (あんなに温かい言葉をかけてくれた大人って……)

文乃 (お母さん以外で、初めてかもしれない)

おわり

264以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:50:30 ID:CIrMnHwE
………………幕間 「次はあなたの番」

真冬 「探したわよ、唯我くん」

成幸 「き、桐須先生……!? ど、どうしたんですか? 俺に何か用ですか?」

真冬 「あなたはまだ面接練習が終わってないでしょう。早く始めるわよ」

成幸 「えっ!? い、いやいや、俺、今日は藤田先生にやってもらいましたから――」

真冬 「――なら、藤田先生に指摘された内容を私に教えてちょうだい。その上で面接練習をするわよ」

真冬 「面接練習は何度やっても損することはないわ。せっかくの面接練習の日なのだから、私ともやっておきなさい」

成幸 「いや、えっと……」

真冬 「いいから、ほら、来なさい……」 ガシッ 「とりあえず前回のことからおさらいね。ちゃんと考えているか、試させてもらうわよ」

真冬 「……もし前回から成長が見られないようであれば」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!! 「……分かっているわね?」

成幸 「ひっ……!? だ、誰か、助けて--ーーー!!」

ズルズルズルズルズルズル……

おわり

265以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:53:21 ID:CIrMnHwE
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございます。
乙や感想、励みになります。個別レスしませんが、ありがとうございます。


この話は桐須先生をメインに据えるか、文乃さんをメインに据えるか迷いました。
最終的に桐須先生メインにしたつもりでしたが、オチは結局文乃さんで落ち着いてしまいました。
結果として原作の面接回の模倣をした上で劣化させただけの抑揚のない話になってしまいました。
申し訳ないことです。


また投下します。

266以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 23:03:07 ID:adZ4cVZk
おつおつ

267以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/18(日) 01:52:11 ID:WFgWIJUI
面白ければすべてよし

268以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/19(月) 00:02:25 ID:MRuKHTiA
楽しみに毎日少しずつ読んでるわ

269以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 01:23:40 ID:tOhol3b2
なんかエレ速でまとめられなくなったな。
俺はここで見るからいいんだけど。

270以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/20(火) 22:40:02 ID:uB.im3Ew
今週のジャンプとよかったな!

271以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/21(水) 19:44:13 ID:OddFOdHY
追いついた支援

272以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/24(土) 15:01:56 ID:KEpMJF/M
楽しみに舞ってる

273以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/27(火) 00:19:09 ID:1jIqrhdE
最近新作来ないけど待ってる
あと今週の文乃も最高だった

274以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/27(火) 22:47:53 ID:Ik.X4.jA
ほんとそれな

275以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/27(火) 23:08:33 ID:3LaZHtO6
更新されないか毎日見にきてるほど楽しみ
気長に待ってよう

276以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/01(土) 09:24:47 ID:NWeuJPWo
生きてるのかどうか

277以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/02(日) 01:23:37 ID:q0PtpZHg
文乃の「起きてる」で心臓射抜かれた可能性

冗談はさておき気長に待ってます

278以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/02(日) 15:10:08 ID:I2CA3Xgw
>>277
その死因は草はえる

279以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/04(火) 21:54:45 ID:Y4rnAq.U
本当にもう来ないのか

280以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 11:57:06 ID:yc33/4Vw
主来ないけど、ここってスレ主以外でも投稿するのはアリなの?

281以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 12:35:10 ID:AvsQcYrM
どうなんだろ
誰かしら書いてくれても俺は見たいと思うけど

282以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 15:55:40 ID:ZoTh8HoA
別でスレ立てた方が無難だと思う
もし参加型っぽくしたいのなら別で立てて>>1で書いておくというのも手だし
何にしてもぼく勉のSSが増えるのは嬉しいから書くなら楽しみにしてる

283以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 16:15:25 ID:SQ64Un/I
>>280だけどありがとう。
今書いてるところなんだけどスレ立てたこと無いうえに単発ネタで、ここのスレ主さんみたいにスレ埋まるまで書き続けるのは無理だからどうしようか悩んでたんだ
書き上がったら頑張ってスレ立ててみます

284以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 17:32:46 ID:fNE1Noao
このスレに自分のSSを書き込む勇気はないわ
主が凄まじすぎる

285以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 21:50:00 ID:eXfAmxME
この調子で書く人増えてくれればいい
主のも見たいけど来ないのかな

286以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/05(水) 22:29:56 ID:KLOPkIEQ
このスレに投下するのはさすがにな

287以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:07:12 ID:TbXVMSi6
>>1です。
投下します。

288以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:07:56 ID:TbXVMSi6
【ぼく勉】 あすみ 「緒方ってハムスターに似てるよな……」

289以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:13:38 ID:TbXVMSi6
………………夕方 繁華街

あすみ 「ふー……」

あすみ (ここのところお客様が多くてバイトが大変だな……)

あすみ (まぁ、その分時給も上がったし、ありがたいっちゃありがたいが……)

あすみ (ま、とりあえず今日は終わったし、明日は休みだし、時間とってしっかり勉強しとかないとな)

サササッ

あすみ 「……ん?」

ハミちゃん (おねーさま) キラキラキラ

あすみ 「ヒッ……!? げ、げっ歯類!?」

あすみ (み、見間違うはずもない。あれは間違いなく、例の奥様の家の、ハミちゃんだ……)

あすみ (またアタシに会うために抜け出してきたのか……)

ゾゾゾッ……

あすみ 「か、勘弁してくれよ……。アタシ、本当にお前たちは苦手なんだって……」

あすみ (とはいえ、このまま放置もできねーし……ど、どうしよう……)

ハミちゃん (おねーさま……えへへ、飛びついちゃおうかな……)

290以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:14:13 ID:TbXVMSi6
ハミちゃん (おねーさまー!) ピョーン

あすみ 「ひっ……!?」 (と、飛びかかられ――)

――ムンズ

「……? なんですか、この子は? ハムスターさんですか」

あすみ 「へ……?」

あすみ 「お、緒方!?」

あすみ (ハミちゃんを捕まえてくれたのか……)

理珠 「どうも。こんにちは、小美浪先輩」

理珠 「この子は先輩のペットですか?」

あすみ 「い、いや、そういうわけではないんだが……」

あすみ (っていうかげっ歯類をペットとか考えたくもない!!)

あすみ (だが、まぁ、緒方のおかげで助かったな……)

あすみ 「ありがとな、緒方。おかげで……――!?」

理珠 「……? どうかしました、先輩?」

291以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:14:50 ID:TbXVMSi6
あすみ (は、ハミちゃんを抱える緒方って……)

あすみ (少し、ハムスターっぽいというか、リスっぽいというか……)

あすみ (一般的には、きっと “かわいい” と言うべきなのだろうけど……)

あすみ (げ、げっ歯類の、ボスのように、見える……!!)

ゾワッ……!!!!

あすみ (や、やめろアタシ! 可愛い後輩になんて失礼なことを――)

理珠 「――先輩?」

あすみ 「ひっ……!!」 (め、目の前に、ハムスターと、ハムスターの親玉が……!?)

あすみ (い、いや、違う。緒方は人間だ。人間……いや、ちょっと待てよ)

あすみ (……もし、緒方がハムスター星人だったら……?) ※先輩は混乱しています。

理珠 「……?」 ジーーーッ

ハミちゃん (……?) ジーーーッ

あすみ (に、似てる! やっぱり似てるぞ!!)

あすみ (やはり緒方はハムスター星人なのか!?) ※先輩はとても混乱しています。

292以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:15:34 ID:TbXVMSi6
理珠 「……あの、先輩?」

あすみ 「あっ!!! すまん緒方! アタシちょっと急ぎの用事を思い出したわ!」

あすみ 「ってことでスマン! そのハムスターはお前に任せた!!」

ダッ

理珠 「へ……?」

理珠 「い、行ってしまいました……」

理珠 (何だったのでしょうか。先輩、少し様子がおかしかったですが……)

理珠 「それよりもこの子ですね。どうしたものでしょうか」

ハミチャーン ハミチャーン

理珠 「……?」

奥様 「……!? あっ、ハミちゃん!」

ハミちゃん (おくさまー!!) ピョーン

奥様 「よかったわぁ、ハミちゃん。探したのよ〜」 ギュッ

理珠 (ほっ。あの人が飼い主さんみたいですね。これで一安心です)

理珠 (それにしても……。先輩、一体どうしたというのでしょうか)

293以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:16:19 ID:TbXVMSi6
………………翌日 緒方うどん

あすみ 「………………」

ズーン

あすみ (……昨日は本当に最低のことをしてしまった)

あすみ (後輩である緒方にハミちゃんを押しつけ、逃走するに留まらず……)

あすみ (緒方をあの恐ろしいげっ歯類に似ているなどと考えてしまった……)

あすみ (……謝らねば)

あすみ (……と、思ってあいつん家に来たはいいものの、緒方の奴いるかな。とりあえず入ってみるか)

ガラッ

親父さん 「おう、いらっしゃい!」

あすみ 「どうも、こんにちは。あの、理珠さんはいらっしゃいますか?」

親父さん 「お? リズたまのお友達かい?」

あすみ (リズたま……?)

あすみ 「お友達……って言っていいのかな。一応、理珠さんの一つ上の先輩です」

あすみ 「同じ予備校の夏期講習を受けて知り合いました」

294以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:17:07 ID:TbXVMSi6
親父さん 「おお、ってことは、ひょっとして “あすみ先輩” かい?」

あすみ 「そうですけど……」

親父さん 「話はよくリズたまから聞いてるよ。リズたまに色々アドバイスをくれたみたいで、どうもありがとな」

あすみ 「いえいえ。そんな……」

あすみ 「ところで、理珠さんは……?」

親父さん 「ああ、わりぃわりぃ。リズたまはいまちょっと出前中でな。店にはいねぇんだ」

親父さん 「でも、すぐ戻ってくると思うから、うどんでも食べて待っててくれな」

あすみ 「あ、でも……」

親父さん 「気にすんなって。リズたまの友達なんだからごちそうするから」

親父さん 「とりあえず超特急で激うまうどんを作ってくるから、座って待っててくれな!」

あすみ 「あっ……行っちまった」

あすみ (……よくわからんが)

あすみ (うちの親父と同じで、経営が苦手なニオイがするな、あのお父さん)

あすみ (アタシとは違う方向みたいだが、緒方も父親で苦労してそうだな……)

295以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:17:51 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「………………」

ズルズルズル……

あすみ (……学園祭でも食ったけど、ここのうどん本当にうめーな)

あすみ (こんな家に生まれりゃ、緒方くらいうどん好きになっても不思議じゃねーかもな)

あすみ 「すみません、お父さん。うどんいただいちゃって」

親父さん 「なに、気にすんなって。そんなに美味しそうに食ってくれりゃうどん屋冥利に尽きるってもんよ」

あすみ 「はい、本当に美味しいです。ご馳走様です」

親父さん 「……いや、ほんと、気にしなくていいんだよ」

あすみ 「……?」

親父さん 「うちのリズたまはさ、こう言っちゃなんだが、ちょっと人の気持ちが分からないところがあってさ」

親父さん 「友達もそう多い方じゃねぇし、友達と喧嘩したっていうのも多かったんだ」

親父さん 「……そんなリズたまがさ、ここ一年くらい、本当に楽しそうでさ」

親父さん 「俺は本当に嬉しいんだ」

296以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:18:38 ID:TbXVMSi6
あすみ 「お父さん……」

親父さん 「それも全部、文乃ちゃんやうるかちゃん、それからアンタみたいな先輩もいてくれるからだと思う」

親父さん 「だから、本当にありがとな。これからも、リズたまの友達でいてくれると、嬉しいぜ」

あすみ 「………………」

あすみ 「……理珠さんは、アタシにとっても大事な後輩ですから」

あすみ 「こちらこそ、これからも仲良くお付き合いさせてもらいたいです」

あすみ (……うぅ。この親父さん、小さい頃から緒方のことをずっと心配してたんだろうな)

あすみ (なのに、アタシはそんな緒方に、昨日あんな失礼なことをしてしまった……)

親父さん 「……? それにしてもおかしいな。リズたま、もうそろそろ戻ってくると思うんだが……」

親父さん 「まさか、事故にあったりなんか……」 オロオロ

あすみ 「あっ……じゃあ、アタシ探してきますよ」

あすみ 「うどんいただいたお礼です! ちょっと行ってきますね!」

あすみ (早く緒方を見つけて、昨日のことを謝らないと……)

297以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:19:24 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ (……と、急き込んで飛び出したものの)

理珠 「……うーん、どうしたものでしょうか」

あすみ (こんなに早く見つかるとは。あの和服姿は間違いなく緒方だ)

あすみ (……が、)

理珠 「あなたは昨日のハムスターさんですね。今日も脱走してきたのですか?」

ハミちゃん (昨日のおねーさん!) ハミハミハミ

あすみ (なんで緒方とハミちゃんが今日も一緒にいるんだよー!!)

あすみ (これじゃ怖くて話しかけられないじゃねーか!)

298以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:20:00 ID:TbXVMSi6
理珠 「どうしましょうかね。あなたの飼い主さんも心配しているでしょうし」

理珠 「うちで保護してあげたいところですが、うちは飲食店なので動物は連れ込めませんし……」

理珠 「でも、出前帰りに偶然出会えて良かったです。今日もかわいいですね」

ハミちゃん (このおねーさんも優しいから好きー!) ハミハミハミ

理珠 「さて、どうしましょうか……」

ハミちゃん (おねえさまに会いたいの! 連れてって!) ハミハミハミ

理珠 「……? ハムスターさん? そっちに行きたいのですか?」

理珠 「………………」

ムフー

理珠 「まぁ、今はお店にお母さんもいますし、少しくらい空けてもいいですよね」

理珠 「わかりました。ハムスターさん。あなたの行きたいところまで私が連れて行ってあげましょう」

299以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:20:42 ID:TbXVMSi6
………………物陰

あすみ 「………………」

ゾクッ

あすみ (お、緒方の奴、ハムスターと楽しげにお喋りを始めやがったぞ)

あすみ (き、昨日の今日で、さっきの今で、反省したばかりで、これは大変、遺憾なことだが)

あすみ (やはりあいつはハムスター星人なのでは……!?) ※先輩は混乱しています。

あすみ (いや、違う。あいつは人間だ。人間でありながら、人類を裏切ったのか!?) ※先輩は混乱しています。

あすみ (だ、ダメだ。正常な判断ができない。こういうときは……)

ピッ……prrrr……

成幸 『もしもし?』

あすみ 「後輩! 悪いが今すぐ来てくれ! 緒方がハムスター星人で人類を裏切ったんだ!!」

成幸 『先輩が混乱しているのはよく分かりました。今すぐ行くのでそこを動かないでください』

300以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:21:30 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「かくかくしかじかというわけなんだ」

成幸 「……はぁ。まぁ、話は分かりましたけど」

成幸 「それで緒方をつけ回してるんですか?」

あすみ 「し、仕方ねーだろ! アタシは先輩として、あいつを正しい人類の道に戻してあげる必要がある!」

成幸 (この人、げっ歯類が絡むとほんとぶっ飛んじゃうよなぁ)

成幸 「俺が緒方と話してきましょうか?」

成幸 「で、俺がハミちゃんを預かっちゃえば、先輩も緒方と話せますよね?」

あすみ 「だ、ダメだ!」

ギュッ

成幸 「せ、先輩!?」 (お、往来で急に抱きつかれるのはさすがに……)

あすみ 「お、お前までげっ歯類側に行ってしまったら、アタシは……アタシは……」

成幸 「……あ、はい」

成幸 (げっ歯類側って何だろう……)

301以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:22:15 ID:TbXVMSi6
………………

ハミちゃん (次はこっち!) ハミハミハミ

理珠 「こっちですね。わかりました」


………………

あすみ 「な!? 緒方の奴、ハムスターの言葉がわかってるんだよ!」

成幸 「まぁ、たしかにそう見えますけど……」

成幸 「そんなことより、緒方はどこに向かっているんでしょうね」

あすみ 「ん……そういえば……」

ハッ

あすみ 「こ、この辺は、見覚えがある……というか、アタシがよく通る道だ……」

成幸 「……うん、まぁ、俺も薄々そう思ってましたけど」

成幸 「間違いなく先輩の家に向かってますよね」

あすみ 「なんだと!? 緒方の奴、本当に人類を裏切るつもりか!?」

成幸 (……この先輩見るの少し楽しくなってきたな)

302以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:22:45 ID:TbXVMSi6
………………小美浪診療所

理珠 「ここは……」

理珠 「小美浪先輩の家……?」

小美浪父 「……おや? 君はたしか、娘の友達の緒方さんだったかな?」

理珠 「どうも、こんにちは」

ハミちゃん (おねえさまの家!) ピョーン!!

理珠 「あっ、ハムスターさん!」

トトトトトト……

303以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:23:34 ID:TbXVMSi6
理珠 「す、すみません、すぐ捕まえます」

小美浪父 「ああ、気にしなくていいよ」

小美浪父 「あのハムスターはたまに来る娘の友達だ。たぶん娘の部屋に行ったんだろう」

小美浪父 「最近、娘はよくあの子と遊んでいてね」

小美浪父 「きみが連れてきてくれたんだね。娘のために、わざわざありがとう」

理珠 「いえ、そんな……」

理珠 「あっ……す、すみません。お仕事中ですよね。お邪魔をしてしまって……」

小美浪父 「気にしなくていいよ。今はお昼休憩中だからね」

304以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:24:06 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「お、緒方の奴本当にうちに入っていきやがったぞ!?」

あすみ 「あいつは本気でアタシたちを裏切ったのか!?」

成幸 「そんな自覚はないと思いますよ。ほら、先輩、少し落ち着きましょう」

成幸 「お父さんは先輩がげっ歯類を苦手だって知ってるんですよね?」

あすみ 「……まぁ、多分」

成幸 「それなら、きっとなんとかしてくれますよ。とりあえず入りましょう?」

あすみ 「そ、それもそうだな……」

あすみ (……いや、しかし、げっ歯類は狡猾だ。どんな罠を張り巡らしているか分からない)

あすみ 「……とりあえず、こっそり行くぞ」

成幸 「えっ? まぁいいですけど……」

コソコソコソ…………

305以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:24:45 ID:TbXVMSi6
あすみ 「ん……。親父と緒方が何か話してるな……」

小美浪父 「ああ、気にしなくていいよ」

小美浪父 「あのハムスターはたまに来る娘の友達だ。たぶん娘の部屋に行ったんだろう」

小美浪父 「最近、娘はよくあの子と遊んでいてね」

小美浪父 「きみが連れてきてくれたんだね。娘のために、わざわざありがとう」

あすみ 「……親父」

成幸 (お父さん、ハミちゃんから逃げ回る先輩を見て、“遊んでる” と思ってるんだな)

成幸 (あのお父さんならさもありなんだけど、先輩、怒ってるだろうなぁ……) チラッ

あすみ 「……親父ぃ」 ボロボロボロ

成幸 「……!?」 (な、泣いてる!?)

あすみ 「お、親父……どうして侵略の手引きなんかを……」

あすみ 「パパまでげっ歯類側についたのかよぉ〜〜〜!!」 シクシクシク

成幸 (先輩ってとことんまで弱るとパパ呼びなんだ……っていうか、まさか泣き出すとは……)

成幸 (……先輩は本当に辛いだろうから、不謹慎な話ではあるけど)

成幸 (……少し可愛いな)

306以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:25:29 ID:TbXVMSi6
………………

小美浪父 「お茶とようかんだよ。どうぞ」 コトッ

理珠 「すみません……」

小美浪父 「いやいや。こちらこそ、おうちのお手伝い中なのにすまないね」

理珠 「いえ。父にはもう連絡を入れたので、大丈夫です」

小美浪父 「そうか。それならよかったよ。きみたちとは、一度ゆっくりお話がしたかったんだ」

理珠 「?」

小美浪父 「……とりあえず、まず、言わせてほしい」

ペコリ

小美浪父 「……娘と仲良くしてくれて、本当にありがとう」

307以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:26:21 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「うぅ……まさか、家族にまで裏切り者がいるとは……」 ブツブツブツ

成幸 「……先輩」

あすみ 「なんだよぅ……」

成幸 「盗み聞きみたいになっちゃって嫌ですけど、先輩もこっち来て聞きましょう?」

あすみ 「裏切り者たちの話なんか……」

成幸 「ほらほら、いつまでも混乱してないで、来てくださいってば」

成幸 「先輩は絶対に聞いといた方がいいですよ。この話」

クスッ

成幸 「先輩のお父さんも先輩とそっくりで、なかなか素直になれない人ですから」

あすみ 「……?」

308以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:27:13 ID:TbXVMSi6
………………

理珠 「へ? へ? い、いえいえ、そんな……頭を下げられるようなことでは……」

小美浪父 「いや、本当にきみたちには感謝をしているんだ」

小美浪父 「あすみは小さい頃から活発で人好きのする性格でね」

小美浪父 「友達も多かったし、いつも楽しそうだったよ」

小美浪父 「……でも、浪人し始めてから、あの子はずっと必死でね」

小美浪父 「もちろん私のせいもあるのだろうが、どうにも、余裕がないようだった」

小美浪父 「……しかし、夏くらいからかな。それこそ、唯我くんやきみたちと出会ってからだ」

小美浪父 「あの子から余計な力が抜けて、余裕が出てきたように見えるようになった」

小美浪父 「間違いなく、唯我くんや緒方さん、古橋さん、武元さんのおかげだ」

小美浪父 「……だから、ありがとう。私はいま、本当に安心しているんだ」

小美浪父 「娘がきみたちと出会ってよかった。きみたちが、娘のお友達になってくれて、本当によかった、とね」

理珠 「お父さん……」

309以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:27:57 ID:TbXVMSi6
理珠 「そうやって言われると、なんて言っていいのかわかりませんが……」

理珠 「私もお勉強のことやその他のことで、先輩からは色々とアドバイスをもらったりします」

理珠 「私にとって、とても頼りになる先輩です」

理珠 「……だから、私の方こそ、先輩に出会えてよかったです」

小美浪父 「そうか……」

小美浪父 「……そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。ありがとう、緒方さん」

理珠 「あっ……さすがにそろそろお店に戻らないとです」

理珠 「お茶とようかん、ごちそうさまでした」

小美浪父 「いやいや、おじさんの話に付き合わせてしまって悪かったね」

小美浪父 「また遊びに来なさい。あすみともども、歓迎するよ」

理珠 「はい! また来ます!」

310以下、名無しが深夜にお送りします:2018/12/06(木) 23:28:27 ID:TbXVMSi6
………………

あすみ 「………………」

成幸 「ね? 聞いて良かったでしょ?」

あすみ 「……ふん」 プイッ

あすみ (……緒方の奴、嬉しいこと言ってくれるじゃねーか)

あすみ (親父も親父だ。恥ずかしいことばっか言いやがって……)

あすみ (いや、しかし、アレだな……)

ズーン

あすみ (……さっき緒方のお父さんと話をして反省したばかりだというのに)

あすみ (またげっ歯類に混乱して、わけの分からんことを口走ってしまった……)

あすみ (ハミちゃんもいなくなったことだし、今度こそ緒方に謝らないと……)




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