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【ぼく勉】成幸 「キスと呼べない何か」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/07(水) 21:10:57 ID:nfKWg1KI
………………昼休み 一ノ瀬学園 3-B教室

大森 「なぁなぁ、一学期に唯我がキスしただの何だのって話あったじゃん?」

成幸 「………………」

成幸 (……こいつほんっっっとロクでもねーことしか言わないな!!)

成幸 「……そういえばそんなこともあったな。どうでも良すぎて忘れてたが」

大森 「結局噂もなくなっちゃって、俺としては不完全燃焼というかなんというか」

成幸 「っていうかお前が廊下で大声上げて走り回ったせいで噂になったんだけどな!?」

大森 「でもキスはしたんだろ?」

成幸 「………………」

プイッ

成幸 「……黙秘権を行使する」

小林 (それもう自白してるようなもんだけどね、成ちゃん)

154以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:19:58 ID:joxzYPf2
文乃 「っていうかさっきケータイの待ち受け、ちらっと見ちゃいましたけど!!」

文乃 「先輩、成幸くんとのキス写メを待ち受けにしてますよね!?」

あすみ 「なっ……ち、ちがっ、こ、これは……っ」

あすみ 「お、親父を誤魔化すための、小細工、っつーか……その……」

文乃 「………………」

ハッ

文乃 「……す、すみません、先輩。言いすぎました。つい白熱しちゃって……」

あすみ 「いや、こっちこそすまん。アタシも言いすぎた……」

文乃 「………………」

あすみ 「………………」

文乃 「……あ、あの、先輩。これ、絶対、内緒ですけど……」

あすみ 「……ん?」

文乃 「正直言うと、わたし、成幸くんにときめいたこと、一度や二度じゃすまないくらい、あるんです」

あすみ 「えっ……」

155以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:20:36 ID:joxzYPf2
文乃 「好きとか聞かれると、わかりません……」

文乃 「でも、決して、嫌いじゃないというか……」

文乃 「成幸くんだったら、いいかな、なんて思うことも、時々合って……」

文乃 「でも、りっちゃんもうるかちゃんも成幸くんのことが好きだから」

文乃 「……こんな中途半端な気持ちじゃ、ふたりには勝てないって、わかるから……」

あすみ 「……そっか」

あすみ 「実は、アタシもそうなんだよ」

あすみ 「親父を誤魔化すためとか言いつつ、あいつとふたりで過ごす時間が楽しくてさ」

あすみ 「好きとか、そういう言葉にはできないけど……きっと、アタシはあいつを憎からず想ってる」

あすみ 「でも、あの緒方と武元が相手じゃな」

あすみ 「勝てるとも思えんし、そもそも自分に勝つ気があるのかもわからんし……」

文乃 「先輩……」

あすみ 「……アタシたち、似たもの同士だな」

文乃 「で、でも、先輩は家事が大得意だし、気配りもできるし、体力もあるし……」

文乃 「わたしにはないもの、たくさん持ってるから、きっと、成幸くんだって……」

156以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:21:23 ID:joxzYPf2
あすみ 「そんなの、さっきと一緒だろ。お前が持ってて、アタシが持ってないものだってたくさんある」

あすみ 「アタシはお前みたいに綺麗じゃないしさ。お前みたいにおしとやかでもない」

文乃 「なっ……!」 ムカッ 「だから、先輩はキレイですって! すごい美人のくせに、何言ってるんですか!!」

文乃 「わたしなんて、お菓子食べてばっかりのおデブなのに……!!」

あすみ 「なっ……」 カチン 「お前いい加減にしろよ!? あたしみたいなちんちくりんを前にして、自分をまだ卑下するか!?」

あすみ 「お前がデブだと!? それなら人類ほぼ全員デブだよ!!」

ギュッ

文乃 「ひゃっ……/// お、お腹に手を回さないでください!」

あすみ 「こんなに細いウエスト回りのくせに、何がデブだ!!」

文乃 「せ、先輩こそ! 何がちんちくりんですか!! 実は身長に対して脚すごく長いくせに!!」

文乃 「顔だって小さいし、すごい美人さんだし……何より!!」

ムニュッ

あすみ 「なっ……/// き、急に胸を揉むな!!!」

文乃 「先輩細いから目立たないけど、アンダーに対してトップ結構ありますよね!?」

文乃 「カップ的には大したことないかもしれないけど、これ実はかなりの胸ですよ!?」

157以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:22:07 ID:joxzYPf2
あすみ 「な、何をぅ〜〜〜!!」

あすみ 「この正統派美少女! おしとやか!! 黒髪美人!!!」

文乃 「こっちだって負けませんよ!!」

文乃 「かわいいのにキレイ! くびれもある!! 胸もある!!!」

あすみ 「ぬぬぬ……!!!」

文乃 「ぐぐぐ……!!!」

あすみ 「この!! こうなったら夜通しお前のいいところ言いまくってやる」

文乃 「望むところですよ! 先輩のいいところで言い負かしてやります」

バチバチバチバチ……!!!

158以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:22:40 ID:joxzYPf2
………………翌朝

チュンチュンチュン……

文乃&あすみ 「「………………」」 ズーン

文乃 「……あ、あの先輩」

あすみ 「おう……」

文乃 「……昨晩のことは、お互い、忘れましょう」

あすみ 「そうだな。忘れた方がいいな」

あすみ 「お互いのいいところを言い合っていたら、いつの間にか変な雰囲気になって……」

あすみ 「……チョメチョメ……しちゃったなんて……」

文乃 「なっ……/// なんで言うんですか……」 ウルウル

文乃 「せっかく忘れようとしてたのに……忘れられなくなっちゃったじゃないですか……///」

あすみ 「……忘れる気なんてなかったくせに」

ガバッ

文乃 「あっ……せ、先輩……///」

あすみ編おわり

159以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:23:20 ID:joxzYPf2
………………一ノ瀬学園 化学室

紗和子 「……ぐすっ、えぐっ……」

紗和子 「それでね、ひどいのよ、緒方理珠……」

紗和子 「私は、緒方理珠のことを思って、突き飛ばしたのに……」

紗和子 「“キライです” だなんて……」

紗和子 「えぐっ……」

文乃 「よしよし。つらいね。いやだね。大丈夫だよ、紗和子ちゃん」

文乃 「きっとりっちゃんも本心からの言葉じゃないからね……」

紗和子 「うぅ……うわぁああああああああああああああん」 ガバッ

文乃 「……っとと。おー、よしよし」 ナデナデ

文乃 (なんでわたし、紗和子ちゃんの相談受けて抱きつかれてるんだろう……)

文乃 (まぁ、いいけどさ……)

ムラッ

文乃 (……よく見たら、紗和子ちゃんってすごくおとなっぽくてきれいだよね)

160以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:24:03 ID:joxzYPf2
紗和子 「うっ……ぐすっ……」

文乃 「………………」

ゴクリ

文乃 (そんな子が、自分の胸の中で泣いてるって考えると……)

ゾクゾクッ

文乃 「……ねぇ、紗和子ちゃん」

紗和子 「……な、なに?」 ウルウル

文乃 (あっ、涙目で上目遣い。超可愛い。うん。もうむり)

ギュッ

紗和子 「えっ……? ふ、古橋さん……?」

文乃 「今は、“文乃” って呼んで?」

紗和子 「ふぇっ……?」

文乃 「今から、りっちゃんのことなんて忘れさせてあげる」

161以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:24:43 ID:joxzYPf2
………………翌朝

チュンチュンチュン……

文乃 「……ふぅ」

紗和子 「でへ、でへへ……」

紗和子 「文乃様ぁ……でへへ……」

文乃 「紗和子ちゃんの攻略難度、低すぎだよ。チョロいね」

文乃 「でもまぁ、悪くなかったし……」

ニヤリ

文乃 「ほら、起きて、紗和子ちゃん。もう一戦、行くよ?」

紗和子 「あっ……ふ、文乃様……っ」

紗和子編おわり

162以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:25:31 ID:joxzYPf2
………………唯我家

文乃 「あなたはだんだん、わたしのことをお兄ちゃんだと思うようになーる」

水希 「うっ……」

ブラン……ブラン……

水希 (だ、ダメよ。催眠術なんかに負けちゃ……)

水希 (この人はお兄ちゃんをたぶらかそうとする、女……)

水希 (決して、お兄ちゃんなんかじゃ――)

文乃 「どうしたんだ、水希? 俺だよ? 成幸だよ?」

水希 (あっ……)

水希 「………………」

水希 「……えへへ、お兄ちゃん♪」 ギュッ

文乃 「よしっ」

文乃 (……でも、さすがに中学生相手に朝チュンは犯罪だからやめとこう)

水希編おわり

163以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:26:01 ID:joxzYPf2
………………深夜 古橋家

文乃 「………………」

パチッ

文乃 「………………」

ガバッ

文乃 「は、はぁあああああああああああ!?」

文乃 (なんてアホな夢を見たのかな、わたしは!?)

ドキドキドキドキ……

文乃 「ゆ、夢だよね……? 夢でよかった……」

? 「……? どうかしたの、文乃?」 モゾッ

文乃 「いや、ちょっと怖い夢をみちゃって……」

文乃 「……えっ? う、うるかちゃん!?」

うるか 「もー、うるさいなー。ゆっくり寝られないよー」 ギュッ

理珠 「まったくです。ほら、ぎゅってしてあげますから、怖い夢なんかわすれましょう」 ムギュッ

文乃 「りっちゃんまで!?」

164以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:26:37 ID:joxzYPf2
真冬 「……まったく。いつまでたっても子どもなのだから」 ギュッ

あすみ 「ま、そんなところもかわいいんだけどな……」 ギュッ

紗和子 「文乃様ぁ、私の方にも来てください……っ」 ギュッ

水希 「お兄ちゃん。わたしがなでなでしてあげるね」 ナデナデ

文乃 「う、うそ……」

ガタガタガタガタ……

文乃 (全部夢じゃなかったの!? 現実!?)

文乃 (わたしほんとに全員に手を出して全員に惚れられたのーーー!?)

うるか 「えへへ、文乃。あたし、幸せだよ」

理珠 「私もです。幸せですよ、文乃」

真冬 「文乃さん。あなたは私が守るわ」

あすみ 「家事なら任せろ。お前の身の回りの世話は全部アタシがやってやる」

紗和子 「私は文乃様の犬です……はぁはぁ……」

水希 「お兄ちゃんのためだったら、わたしなんでもするからね」

文乃 「た、たたた……」 ブルブルブル 「助けてーーーーーーー!!」

165以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:27:14 ID:joxzYPf2
………………幕間 「全部夢です」

文乃 「ひっ……た、助け……助けて……」

成幸 「………………」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「……どんな怖い夢を見てるのか知らないけどな」

成幸 「勉強中に寝るなー!!! 早く起きろ古橋ーーーーー!!!」


おわり

166以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/12(月) 23:31:09 ID:joxzYPf2
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。

そして本当にごめんなさい。申し訳ない気持ちで一杯です。
まとめサイトの方。まとめていただいても構いませんが、
>>115>>116の注意書きの部分も載せてもらえると助かります。
それから、念のため、桐須先生編で文乃さんが飲んでいるのは気分が良くなるジュースです。お酒ではありません。


>>112さんのご指摘も真摯に受け止めて、今後のSSに生かしたいと思います。

アホな話を書いてしまいましたが、また懲りずに読んでいただけたら嬉しいです。

ではまた、折を見て投下します。

167以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/13(火) 12:59:57 ID:GoDNbc2k
この投稿頻度はほんとすごい

168以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/13(火) 22:06:34 ID:4XzavnYU


>>112だけど、文句言っといてあれだけど>>1の好きに書くのが一番だと思ってるよ。
前スレの含め全作品楽しんで読んでます。

169以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:17:19 ID:VRyh5Eec
ゆりゆりや

170以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:35:35 ID:xdZFqhxY
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】 紗和子 「あのときの私のように」

171以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:36:31 ID:xdZFqhxY
………………公園

紗和子 「………………」

ゴクッ……

紗和子 「……ふぅ」

紗和子 (放課後に公園で飲む缶コーヒーは格別ね)

ワーワーワー……

紗和子 「……ふふっ。この公園は小さなサッカーコートがあるのね。フットサルって言うのかしら?」

紗和子 (遊び回る子どもたちを眺めながらコーヒーをすするというのもまた趣深いわね)

紗和子 (……サッカーはあまり得意ではなかったけれど、やるのは楽しかった憶えがあるわ)

紗和子 (小学生くらいのときは、私もあんな風に遊び回っていたかしら)

紗和子 (男の子と女の子がいりまじって遊んでるのね。楽しそうでうらやましいわ)

紗和子 (……なんて、高校生の私が考えることじゃないかしら)

172以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:37:02 ID:xdZFqhxY
紗和子 (……いつからかしら。あんな風に遊べる友達が、いなくなってしまったのは)


―――― 『またガリ勉関城が平均点上げてるよ』

―――― 『平均点以下の奴補習だってさ』

―――― 『うえーっ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 「っ……」

紗和子 (……いけない。いやなことを思い出してしまったわ)

紗和子 「………………」

紗和子 (小学校の頃は、何も考えなくてよかったのに)

紗和子 (遊ぶのも勉強するのも、どちらも楽しくて……)

紗和子 (でも、中学校にあがって、勉強がすごく楽しくて……でも……)

173以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:40:57 ID:xdZFqhxY
紗和子 「………………」

紗和子 (やめましょう。考えても詮無いことだわ)

紗和子 (それに、今は緒方理珠たちと一緒で、とても楽しいし……)

コロコロコロ……

紗和子 「あら?」

ヒョイッ

紗和子 (サッカーボール? あの子たちがこっちに蹴飛ばしてしまったのね)

クスッ

紗和子 (仕方ない。投げ返してあげるとしましょうか……――)


「――おまえ、いい加減にしろよ!」


紗和子 「えっ……?」

紗和子 (さっきまでサッカーをしていた子たちが、言い争ってる……?)

174以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:41:27 ID:xdZFqhxY
女の子 「な、なんだよ……! なんでそんなに怒ってるんだよ!」

男子1 「さっきだって言っただろ! それじゃこっちが楽しくないって!」

男子2 「そうだよ。またひとりでドリブルして、ゴールして……」

男子3 「おまえと同じチームになるとボールが回ってこなくてつまらないし」

男子4 「おまえと敵になると、ドリブルだけで抜かれるからどうしようもないんだよ」

女の子 「そ、そんなの……」 ギリッ 「そんなの、ヘタクソなおまえらが悪いだけだろ!」

女子1 「ひっ……」 グスッ 「わ、わたしだって、好きでヘタなわけじゃない、のに……」

女の子 「あっ……ち、違う。きみに言ったわけじゃなくて……」

男子1 「ふん。じゃあ俺たちに言ったのかよ」

女の子 「っ……」

男子2 「……なぁ、もう帰ろうぜ。これ以上言っても、こいつにはわかんないよ」

男子3 「だな。ほら、泣き止めって……」

女子1 「えぐっ……ひぐっ……」

男子1 「……じゃーな」

女の子 「………………」

175以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:42:15 ID:xdZFqhxY
紗和子 「………………」

ドキドキドキドキ……

紗和子 (と、とんでもないものを見てしまった気がするわ……)

紗和子 (っていうか、このサッカーボール、どうしたらいいかしら?)

紗和子 (子どもたちは帰ってしまうようだし、拾ってしまった手前、また置くのもはばかられるし……)

女の子 「………………」

チラッ

女の子 「あっ……」

紗和子 「……!?」 (め、目が合った……)

女の子 「………………」 トトトトト……

女の子 「……すみません。拾ってくれたんですね。ありがとうございます」

紗和子 「あ……ど、どういたしまして」

176以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:42:51 ID:xdZFqhxY
………………しばらくして

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

紗和子 「………………」 (あれからしばらく経つけど……)

紗和子 (あの子、他の子たちがいなくなってからずっと、ひとりで壁に向かってボールを蹴ってるわ)

紗和子 (受験生としては、そろそろ帰って勉強をしたいところだけれど……)

女の子 「………………」

紗和子 (……あの子の悲しそうな顔が気になって、帰る気にならないのよね)

紗和子 (まぁ、勉強道具がないわけではないし……)

紗和子 (近くの自販機で缶コーヒーならいくらでも買えるわけだし)

紗和子 (しばらくここで勉強していこうかしら)

177以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:43:29 ID:xdZFqhxY
………………

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

女の子 (……なんだよ、あいつら)

女の子 (こっちは全力でサッカーやってるだけなのに)

女の子 (何が、おまえとやるとつまらない、だよ!!)

女の子 (男のくせに、わたしよりヘタクソなおまえらが悪いんだろうが!!)

スカッ…………

女の子 (あっ……!?)

女の子 (しまった、目測誤った……バランスが……)

ドテッ……!!!

女の子 「……いてててて……」

女の子 (しまった。少し手を擦りむいちゃったな……)

女の子 (少し血が出てるけど、まぁこれくらいなら……――)

「――ちょっと! 大丈夫!?」

178以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:44:04 ID:xdZFqhxY
女の子 「えっ……?」

女の子 「さっき、ボールを拾ってくれたお姉さん……?」

紗和子 「大変! 血が出てるじゃない! ほら、水道で洗うわよ」

ギュッ

女の子 「あっ……」 アセアセ 「こ、これくらい平気ですよ……」

紗和子 「ダメよ。ばい菌が入ったら大変だわ。破傷風って怖いのよ?」

紗和子 「きちんと洗って消毒をしないといけないわ!」

女の子 「わ、わかりました……」

女の子 (制服の上に白衣を着ていて、変なお姉さんだけど……)

女の子 (ボールも拾ってくれたし、良い人なのかな……)

179以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:44:36 ID:xdZFqhxY
………………

紗和子 「……うん。傷口はしっかり洗って、エタノールで消毒して、絆創膏もしっかり貼れたわね」

紗和子 「ふふ。我ながらかんぺきな処置だわ」

女の子 「……どうして消毒液や絆創膏を持ち歩いているんですか?」

紗和子 「そんなの決まってるわ! 私が化学部部長だからよ!」

バーン!!!

女の子 (よ、よく分からない人だ……)

紗和子 「………………」

紗和子 (……さっきの口論のこととか、聞きたいけれど、)

紗和子 (きっと私が関わるべきことじゃないわね。子どもだもの。きっと翌日には仲直りしてるわね)

紗和子 (出過ぎたことをするものではないわね。そろそろ帰りましょうか)

紗和子 「……では、私は帰るわ。あなたももう暗くなるから、早く帰りなさい」

女の子 「あっ……は、はい。もう帰ります」 ペコリ 「お姉さん、本当にありがとうございました」

紗和子 「いえいえ。気にしなくていいわ。じゃあね」

180以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:45:36 ID:xdZFqhxY
………………夜 紗和子の部屋

紗和子 「………………」

紗和子 (あの女の子、大丈夫かしら?)

紗和子 (私が遠目で見ていた限り、あの子が数人のお友達に一方的に責められているように見えたけど……)

紗和子 (その後、あの子以外の子たちは、公園からすぐにいなくなってしまったし)

紗和子 (まるで、あの子ひとりを置いてけぼりにするように……)

ハァ

紗和子 (……ダメね。あの女の子のことが気になって、まったく勉強に集中できないわ)

181以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:46:18 ID:xdZFqhxY
紗和子 (勝手な話だわ。私、きっと……)


―――― 『またガリ勉関城が平気点上げてるよ』

―――― 『もっと空気読んでくれよー』


紗和子 (あの子と昔の自分を、重ねているんだわ)

紗和子 (余計なお世話。ただの杞憂。そんなの分かってるわ)

紗和子 (でも、どうしても、あの子がひとりで寂しそうにサッカーボールを蹴る姿が……目に焼き付いて離れない)

紗和子 (あの子が辛い思いをしているんじゃないかと思うと、心配でたまらない……)

紗和子 (……あのときの私のように)

182以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:46:48 ID:xdZFqhxY
………………翌日 一ノ瀬学園

理珠 「関城さん」

紗和子 「あら、緒方理珠。何か用かしら?」

理珠 「用と言うほどのことではないのですが……」

理珠 「今日の放課後、息抜きがてら文乃たちと41アイスにでも行こうかと話しています」

理珠 「関城さんも一緒にどうですか?」

紗和子 「えっ……」

紗和子 「わっ、私も誘ってくれるの……?」

理珠 「……もちろんです」

プイッ

理珠 「関城さんも、私の友達……ですから」

紗和子 「緒方理珠……」 ジーン

紗和子 「嬉しいわ! もちろんご一緒させてもら――」


―――― 『お姉さん、本当にありがとうございました』

183以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:47:34 ID:xdZFqhxY
紗和子 「………………」

紗和子 (……どうして、あの子の寂しそうな顔がちらつくのかしら)

理珠 「……? 関城さん?」

紗和子 「……ありがとう、緒方理珠。残念だけど、今日は予定があるの」

紗和子 「だから、私抜きで行ってらっしゃい」

理珠 「そうですか……」 シュン 「残念です。また今度、一緒に行きましょうね」

紗和子 「ええ。ありがとう。その言葉だけでおなかいっぱいな気分だわ」

紗和子 (……きっと、大したことなんてない)

紗和子 (これはただの杞憂で、余計なお世話で、ただの押しつけのお節介)

紗和子 (でも……)


―――― 『こ、これくらい平気ですよ……』


紗和子 (……仕方ないじゃない)

紗和子 (あの子の寂しそうな顔が、どうしても気になるのだもの)

184以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:48:32 ID:xdZFqhxY
………………放課後 公園

紗和子 「……結局、また来てしまったわ」

紗和子 (せっかくの緒方理珠のお誘いまで蹴って、一体私は何をしているのかしらね)

紗和子 (今日はサッカーをする子どもたちの喧噪は、ない……)

紗和子 (その代わり……)

女の子 「………………」

ポーン……ポーン……ポーン……

紗和子 (ひとりで、やはり寂しそうにボールを蹴るあの子の姿だけが、ある)

女の子 「……? あっ……」

紗和子 「……あっ」

紗和子 (……しまった。気づかれないようにしているつもりだったのに、目が合ってしまったわ)

女の子 「お姉さん、昨日はどうもありがとうございました」

紗和子 「どういたしまして。ケガはもう痛くない?」

女の子 「はい! もうかさぶたになっちゃいました!」

紗和子 「そう。良かったわ」

185以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:49:16 ID:xdZFqhxY
女の子 「……あっ、あの」

紗和子 「うん?」

女の子 「昨日のお礼がしたいです。何かさせてもらえませんか?」

紗和子 「お礼だなんて、そんな、気にしなくていいわよ」

紗和子 「傷を洗って消毒して絆創膏を貼っただけじゃない」

女の子 「でも、何もしないんじゃわたしの気が済まないです」

女の子 「お願いします! 何かさせてもらえませんか?」

紗和子 (うぅ……まっすぐな目をされると弱いわね)

紗和子 (小学生の女の子にしてもらうことなんて……)

紗和子 (……いいえ。プラスに考えるべきよ、関城紗和子。話をするチャンスだと)

紗和子 「……そうね。じゃあ……」

紗和子 「お姉さんね、受験生なの。だから、勉強ばっかりで嫌になってきちゃって……」

ニコッ

紗和子 「少し、話し相手になってもらってもいい?」

女の子 「話し相手……?」

186以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:49:50 ID:xdZFqhxY
………………公園 東屋

紗和子 「はい、ココアで良かったかしら?」

女の子 「あ、ありがとうございます。すみません。わたしがお礼をするはずなのに……」

紗和子 「ふふ。律儀な子なのね、あなた」

女の子 (改めて見ると……。白衣は変だけど、このお姉さん、すごくきれいだなぁ……)

紗和子 「? 私の顔に何かついてるかしら?」

女の子 「えっ……!?」 アセアセ 「な、なんでもないです。すみません……」

紗和子 「そう? ならいいけど……」

紗和子 「……さて、じゃあ、お話をする前に、ひとつあなたに謝らなければならないことがあるわ」

女の子 「……?」

紗和子 (さすがに少し恥ずかしいし、怖い気もするけれど……)

紗和子 「……ごめんなさい。昨日のお友達との喧嘩、実は少し、内容を聞いてしまったの」

女の子 「えっ……」

紗和子 「ごめんなさい。悪気はなかったのよ」

女の子 「………………」 プイッ 「……べつに、いいですけど」

187以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:50:33 ID:xdZFqhxY
紗和子 「ありがとう。それでね、その話を、あなたに聞きたいの」

女の子 「……お姉さんにお話するようなことはないですよ」

紗和子 「あなた、サッカーがとても上手なのね。でも、お友達はそこまでじゃない……」

紗和子 「だから、妬まれて、喧嘩になったのね?」

女の子 「………………」

紗和子 「……ごめんなさい。こんなこと、私が言うのは筋違いだと分かっているけれど、言わせてね」


紗和子 「あなたは何も悪くないわ」


女の子 「え……?」

紗和子 「それだけは言っておきたかったの」

紗和子 「あなたは何も悪くないわ。だから、そんな悲しい顔をしないで」

紗和子 「お願いだから、そんなつらそうな顔をしないでちょうだい」

188以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:51:12 ID:xdZFqhxY
………………公園近く 道路

成幸 (ふー、今日はあいつらの 『教育係』 をしなくていい日だから気が楽だな)

成幸 (にしてもあいつら、41アイスに行くとか言ってたけど、お気楽だな)

成幸 (受験までそう日にちはないってことをわかってんのか? 心配だ……)

成幸 (……いかんいかん。あいつらのお守りをしなくていい日くらい、あいつらのことなんか忘れよう)

成幸 (さっさと家に帰って、あいつら用の教材を完成させないと……)

ガクッ

成幸 (……結局、あいつらの勉強で忙殺されるのな、俺)

成幸 (ま、いいけどさ……ん?)

成幸 (……あの公園のベンチに座ってるの、関城? 隣は……し、小学生くらいの女の子か……?)

成幸 (……あの関城が、幼い少女と一緒にいる……?)

成幸 「………………」

成幸 (……犯罪臭しかしないな!?)

189以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:51:51 ID:xdZFqhxY
………………

女の子 「つ、つらそうな顔なんてしてないです……」

紗和子 「してるわ。思い悩んでるような顔。ボールを蹴ってるときも、ずっと……」

紗和子 「だから言ってあげたかったの。あなたは悪くないって」

紗和子 「だって、あなたはサッカーが好きで、たくさん練習したんでしょう?」

紗和子 「今日みたいに、ひとりのときだって、壁に向かってボールを蹴ってきたのでしょう?」

紗和子 「だったら上手で当然だわ。それをやっかんで、ひどいことを言って……」

紗和子 「そんなの、絶対に許されることではないわ! あなたは何も悪くないのよ!」

女の子 「………………」

女の子 「……たしかに、わたし、サッカーが好きです」

女の子 「ひとりでもたくさん練習しました。だから、クラスで一番サッカーが上手になったんだと思います……」

190以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:52:33 ID:xdZFqhxY
女の子 「……でも、わたしと同じチームでも敵でもつまらないって……」 グスッ

紗和子 「……つらかったわね。いいのよ、そんな言葉、気にしなくて」

紗和子 「あなたは悪くない。あなたは……――」


女の子 「――……違います。そうじゃ、ないんです」


紗和子 「えっ……?」

女の子 「たしかに、みんなに言われたことは、嫌でした……」

女の子 「でも、みんながそう言うのも、わかるんです……」

女の子 「だってわたし、みんなよりサッカーが上手だってわかってるのに……」

女の子 「ひとりでボールを無駄にキープしたり、わざと相手をおちょくるようなトリックをしたり……」

女の子 「……みんなが嫌がるってわかってて、そういうこと、しちゃったから……」

紗和子 「………………」

女の子 「……お姉さん、ありがとうございます。わたしのことを、“悪くない” って言ってくれて」

ニコッ

女の子 「おかげで、認められる気がします。わたし、悪かったんです。だから、みんなにちゃんと謝ります」

191以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:53:41 ID:xdZFqhxY
紗和子 「……そう?」

紗和子 「お役に、立てたなら、嬉しいわ……」

女の子 「はい!」

女の子 「……ココア、ごちそうさまでした! お話も聞いてくれてありがとうございました!」

女の子 「わたし、みんなに謝りに行って来ます!」

紗和子 「……ええ。いってらっしゃい」

女の子 「はい。お姉さん、さようなら」 タタタタタ……

紗和子 「………………」 (……行ってしまった)

紗和子 (私……)

紗和子 「……私は、なんてバカなのかしら」

紗和子 (本当に、なんてバカな……――)


「――バカじゃないだろ」


紗和子 「えっ……?」

192以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:54:27 ID:xdZFqhxY
紗和子 「ゆ、唯我成幸!?」

成幸 「よっ、関城」

紗和子 「どうしてここに……?」 カァアアアア…… 「っていうか、今の話、ひょっとして聞いてたの!?」

成幸 「……ああ。悪いけど、聞かせてもらったよ。ごめんな」

紗和子 「なっ……なななっ……」

紗和子 (私が小学生相手に力説してる姿を見られた……!?)

紗和子 (は、恥ずかしくて死にそうだわ……)

成幸 「……道路からさ、お前が小学生の女の子と話してるのが見えたから」

成幸 「お前がとうとう緒方の代わりに小学生によからぬことをしようと決意したのかと思って見張ってたんだよ」

紗和子 「あなた私のことをなんだと思ってるのかしら!?」

成幸 「結果的に盗み聞きをしたみたいになってしまった。それは本当にすまん」

成幸 「……オホン。まぁ、それは置いておくとして、だ」

成幸 「立派だったな。どういう関係かしらないけど、あの子、お前と話したおかげで元気が出たみたいだったぞ?」

紗和子 「………………」

紗和子 「……私は何もしてないわよ」

193以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:55:09 ID:xdZFqhxY
成幸 「…… “あなたは悪くない”」

紗和子 「……何よ? からかってるの?」 ジトッ

成幸 「大真面目だよ。ああやって、自分のことを肯定してもらえたら、誰だって嬉しいだろ」

成幸 「だからあの女の子だって、自分の非を素直に認められたんだろ」

成幸 「だから、お前は本当にすごいよ、関城」

紗和子 「……違うわよ。私は、そんなことを考えて、あんなことを言ったわけじゃないもの」

紗和子 「私はただ単純に、あの子に、私を重ね合わせていただけだわ」

成幸 「……?」

紗和子 「……少し昔ばなしをするわね」

成幸 「昔ばなし……?」

紗和子 「ええ。昔ね、勉強が大好きな女の子がいたの。中学生の女の子よ」

紗和子 「その子は特に理科が好きでね、がんばって勉強をしていたの」

紗和子 「でもね、その子が勉強をがんばればがんばるほど、クラスメイトは嫌な顔をしたわ」

紗和子 「“平均点を無駄に上げるな” とか、“勉強ができたって仕方ない” とか……」

紗和子 「女の子はそんなクラスメイトの声が嫌になって、教室に行かなくなっちゃったわ」

194以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:55:56 ID:xdZFqhxY
成幸 「なんだそれ! ひどい話だな!」

紗和子 「……そうね。ひどいと思ったわ」


―――― ((どうして…… 勉強できてほめられるんじゃなくて バカにされなきゃいけないのよ))


紗和子 「その子はずっと、そう思っていたわ」

紗和子 「……でもね、そうじゃなかったかもしれないって。最近そう思うの」

紗和子 「その子はもっとうまくできたんじゃないか、って」

紗和子 「バカにされたって、気にしなければいい。ううん。笑い返してあげればよかったかもしれない」

紗和子 「そもそも彼らにしてみれば、ただの冗談だったのかもしれない」

紗和子 「それを本気にして、ひとりで嫌な気持ちになって、逃げていただけなのかもしれない……」

紗和子 「……最近、その子はそう思うのよ」

成幸 「………………」

195以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:56:51 ID:xdZFqhxY
紗和子 「あの女の子が友達と喧嘩してる姿を見て、昔ばなしの女の子のことを思い出したの」

紗和子 「ああ、ふたりはきっと、同じなんだ、って」


―――― ((あの子が辛い思いをしているんじゃないかと思うと、心配でたまらない……))

―――― ((あのときの私のように))


紗和子 「……でも、違ったわ。私の勝手な勘違いだったわ」

紗和子 「だって、あの女の子は自分の非を自分で認められていたわ」

紗和子 「昔ばなしの女の子だって、ひょっとしたら、勉強ができることを鼻にかけていたかもしれない」

紗和子 「勉強ができない回りを見下していたかもしれない」

紗和子 「……自分のことを棚に上げて、だから周囲から孤立していただけかもしれない」

紗和子 「あの子は偉いわ。昔ばなしの女の子とは、違う……」

紗和子 (私とは、全然……違う……)

196以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 00:59:15 ID:xdZFqhxY
成幸 「………………」

ハァ

成幸 「……何言ってんだ。そんなの当たり前だろ」

紗和子 「えっ……?」

成幸 「性格だって環境だって何だって違うだろ」

成幸 「あの女の子には、たしかに友達に対して非があったかもしれない」

成幸 「でも、だからといって昔ばなしのその子にも、クラスメイトに対して非があったとは限らないだろ」

成幸 「その子は悪口みたいな冗談に言い返せるような性格だったか?」

成幸 「その子はクラスメイトのことを見下すような性格だったか?」

成幸 「……あの女の子と昔ばなしのその子は違うよ。全然違うよ。違うに決まってるだろ」

成幸 「そうやって自分を責めるのはやめろよ。お前の大好きな緒方は、そんな風に考えるか?」

紗和子 「………………」 フルフル

成幸 「だろ? だから、俺じゃ不満だろうけど、お前があの子に言ってあげたみたいに、俺が言うよ」



成幸 「お前は何も悪くないよ、関城」

197以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:00:03 ID:xdZFqhxY
紗和子 「………………」

ウルッ……

紗和子 「……!?」 (な、なんで涙が……でて……くるの?)

成幸 「せ、関城……!?」

紗和子 「ゆ、唯我成幸っ、向こうむいてなさい!!」

成幸 「大丈夫か? どこか痛いのか?」

紗和子 「あー、もう! このニブチン男! 泣いてるから恥ずかしいから向こうむいてって言ってるの!」

成幸 「あっ……」 プイッ 「わ、悪い……」

紗和子 「……いいわよ、べつに」

グスッ……

紗和子 (……まったくもう。急に変なこと言うから……)

紗和子 (……どうしてくれるのよ)

ポタッ……ポタッ……

紗和子 (嬉しくて、涙が止まらないじゃない……)

198以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:01:24 ID:xdZFqhxY
………………しばらくして

成幸 「……もう大丈夫か? 関城」

紗和子 「大丈夫よ。何も問題ないわ」

成幸 「目、真っ赤だけどな……」

紗和子 「……デリカシーのない男ね。それは思っても口に出さないの」

成幸 「……悪い」

紗和子 「いちいち謝らないで。私がいじめてるみたいじゃない」

紗和子 (……まったく。どうしてこんなに鈍い男が)


―――― 『お前は何も悪くないよ、関城』


紗和子 「あんなに、嬉しい言葉をくれたんだか……」 ボソッ

成幸 「ん? なんか言ったか、関城?」

紗和子 「……なんでもないわ」 (どうせこの鈍い男は、何も察してはくれないし)

紗和子 (……でも、このままやられっぱなしってのも性に合わないわね)

紗和子 (そうだ。いいこと思いついたわ)

199以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:02:00 ID:xdZFqhxY
紗和子 「……ねえ、唯我成幸」

成幸 「うん?」

紗和子 「あなた、いつだかこんなこと言ってたわよね?」


―――― 『は 初デートはどこがいいかしら!?』

―――― 『なるべく金のかからないところが…… 公園とか』


成幸 「……お前、いきなり何の話を始めるんだよ」

紗和子 「いえいえ、奇しくも私は、あなたの希望通りのことをしてしまったと思ってね」

成幸 「?」

紗和子 「だってそうでしょう?」

クスッ

紗和子 「今日はふたりきりよ? あなたと私の初デートは、公園だわ」

成幸 「なっ……」 カァアアアア…… 「き、急に何を、変なことを……」

紗和子 (ふふっ……効いてる! 効いてるわ!)

200以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:02:50 ID:xdZFqhxY
成幸 「は、初デートって、そんな……」

成幸 「こんなの、ただ学校帰りにダベってるだけで、デートじゃ……」

紗和子 「へぇ? なるほど? これがデートじゃないなら、また今度公園デートでもしましょうか?」

成幸 「なっ……///」 プシュー

紗和子 (ふふふ。照れてる照れてる。じゃあ、最後にダメ押しを……)

紗和子 「どうせだし、いっそのこと私たち付き合っちゃう?」

成幸 「えっ……」

成幸 「あっ……、えっと……いや、その……そういうの、俺、よくわからないし……///」

成幸 「いや、でも……そっか。お前と……付き合う、かぁ……」

紗和子 「……?」 (えっと……? この反応は、一体……?)

成幸 「……そう、だな。お前と付き合ったら楽しそうだな。悪くないかもな」

紗和子 「へっ……?」 ボフッ 「……な、ななななな、何を、言ってるの!? 唯我成幸!?」

紗和子 「じ、冗談に決まってるでしょう!? バカなのかしら!?」

成幸 「じ、冗談!? えっ、あっ……」

成幸 「そ、そうだよな! 冗談に決まってるよな! び、びっくりしたー!」

201以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:03:25 ID:xdZFqhxY
紗和子 (ば、バカじゃないの……本当に……)

ドキドキドキドキ……

紗和子 (あなたと私が、付き合うなんて、そんなこと、できるわけないじゃない……)

紗和子 (だって私の大親友の、緒方理珠があなたのことを好きなのだから)

紗和子 (だから、絶対に違う。このドキドキは……)

ドキドキドキドキドキドキドキドキ……

紗和子 (違うわ。この男にドキドキしているわけでは、断じてない)

紗和子 (緒方理珠の好きな人のことを、好きになったりは、絶対しない)

ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……

紗和子 (あーっ、もう!!)

紗和子 (いい加減静まりなさいよ!! 心臓!!)

202以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:05:15 ID:xdZFqhxY
………………小学校 グラウンド

女の子 「……パス行くぞー!」

男子1 「よっしゃ任せろー! ……と見せかけて、スルー!」

女子1 「えへへ。このままゴールまで持ってくよー!」

女の子 「ナイススルーパス!」 (……楽しい。やっぱり、こうやって、みんなと一緒にサッカーができるから、楽しいんだ)

女の子 (名前も聞きそびれちゃったけど、あの白衣のお姉さんのおかげだよ)


―――― 『あなたは何も悪くないわ』


女の子 (あのお姉さんの言葉が、すごく嬉しかった)

女の子 (だからこそ、わたしは、自分の嫌なところを、素直に謝ることができた……)

女の子 「………………」 (あのお姉さんの制服、一ノ瀬学園の制服だよね)

女の子 (お母さんが言ってた。一ノ瀬学園はすごくレベルが高くて、勉強についていくのも大変だって)

女の子 (……勉強、がんばろう。あのお姉さんもきっと、たくさんがんばって、一ノ瀬学園に行っただろうから)

女の子 (わたし、あの人と同じ高校に行く! そしていつか……あの人のように、なりたい!)

おわり

203以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:05:48 ID:xdZFqhxY
………………幕間 「41アイス」

文乃 「はぁ〜〜〜」 キラキラキラ

文乃 「夢の五段重ねなんだよ……」

ムシャムシャムシャ……

文乃 「ん〜〜〜〜〜、どのフレーバーも美味しい〜〜〜〜〜〜最高だよ!!」

理珠 「ふ、文乃? 急いで食べ過ぎではありませんか?」

うるか 「そうだよ文乃っち。アイスは味わって食べないと、お腹壊しちゃうよ?」

文乃 「ふたりとも何を言ってるの!? 今日は41デーだよ!? アイスの割引がきくんだよ!?」

文乃 「もちろん全フレーバー食べるでしょ!? だったらそんな悠長なことは言ってられないよ!?」

理珠&うるか 「「えっ」」

文乃 「さぁ、次の五段重ねは……これと、これとこれとこれ……あとこれ!! お願いします!!」

うるか 「………………」 ゲッソリ 「……先、帰ろっか、リズりん」

理珠 「賛成です、うるかさん」

文乃 「ん〜〜〜〜〜〜、この組み合わせも美味しい〜〜〜〜最っ高〜〜〜〜!!」 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

おわり

204以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 01:06:59 ID:xdZFqhxY
>>1です。
読んでくれた方、ありがとうございました。

毎度のことながら終盤駆け足になってしまって申し訳ないです。
乙や感想ありがとうございます。本当に励みになります。

また投下します。

205以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 12:23:37 ID:hR1cadJc
いい話だなぁ

206以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/14(水) 23:44:01 ID:7CXMf8Y6
そういや先輩もレズさんも理科系科目だったが被り?

207以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:38:28 ID:feM66L2E
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】 あすみ 「ニセモノの恋人」

208以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:39:35 ID:feM66L2E
………………とある休日 街中

あすみ 「……ふー」

小美浪父 「ん、どうした? 疲れたような声を出すなんてめずらしい」

小美浪父 「インフルエンザの出張予防接種、そんなに疲れたか?」

あすみ 「いや、ずっとかしこまってたら肩こっただけだよ」

小美浪父 「? お前、たしか接客業のバイトをやっているんじゃなかったか?」

小美浪父 「普段からかしこまることも多いだろうに」

あすみ (やべっ……)

あすみ (接客業っつっても、客相手にゲームして稼ぐようなメイド喫茶だからかしこまるも何もねーよ)

あすみ (……なんて言えるわけねーし、適当に誤魔化さなきゃな)

あすみ 「ん、まぁ……今日は会社にお邪魔したし、さすがにいつもより緊張するさ」

小美浪父 「……それもそうか」

あすみ (……ほっ。誤魔化せたみたいだ)

小美浪父 「まぁ、うちみたいな小さな診療所は、こういう予防接種が収入の大半を占めるからな」

小美浪父 「毎年うちに連絡をくれるあの会社さんには、頭が上がらないよ」

209以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:40:16 ID:feM66L2E
小美浪父 「ともあれ、せっかくの休日に手伝ってもらって、悪いな」

あすみ 「いいよ。浪人生に平日も休日もないからな」

あすみ 「それに、いつかアタシが継がなくちゃいけない仕事だしな」

あすみ 「今のうちから、手伝いをしておいて損はないだろ?」

小美浪父 「……はぁ。まったく、おまえも諦めが悪いな」

あすみ 「あきらめも何もねーよ。アタシは絶対医者になって、あの医院を継ぐからな」

小美浪父 「勝手にしろ」

あすみ 「勝手にするよ」

あすみ&父 「「………………」」

小美浪父 「……もう昼過ぎか」

小美浪父 「バイト代のかわりだ。どこかで昼ご飯でも食べて帰るか」

あすみ 「……ん。食べる」

小美浪父 「あのレストランでいいか?」

あすみ 「レストランて……間違いじゃないけど、ファミレスって言えよ。恥ずかしいな……」

210以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:41:01 ID:feM66L2E
………………ファミレス ジョモサン

ワイワイガヤガヤ……

あすみ 「なんだ、えらく混んでんな」

小美浪父 「まぁ、休日の昼過ぎだ。こんなものだろう」

あすみ 「ま、勉強でもしながら待つからべつにいいけどさ」

店員 「あの、お客様」

小美浪父 「うん? なんですか?」

店員 「相席でよろしければ、すぐに席が用意できますが……」

小美浪父 「む、本当ですか。あすみ、どうする?」

あすみ 「どっちでもいいけど、腹も減ってるし、すぐ食えるならそれに越したことはないかな」

小美浪父 「それもそうだな。では、相席をお願いします」

店員 「わかりました。では、ご案内致します」

211以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:42:01 ID:feM66L2E
あすみ (相席か。まぁ、混んでるし仕方ないよな)

店員 「こちらの席になります」

店員 「では、お客様、注文が決まりましたらお呼びください」

小美浪父 「いや、すみません。相席になってしまって。失礼します」

成幸 「あ、いやいや、混んでるし仕方ないですよ。どうぞどうぞ」

小美浪父 「あっ」

成幸 「えっ」

あすみ 「……後輩?」

成幸 「えっ、せ、先輩とお父さん!?」

あすみ 「……こりゃまたすげー偶然だな」 (ってことは……)

葉月 「あっ、メイドのお姉ちゃん!」 和樹 「おひさー!」

あすみ 「よー、おチビちゃんたち。おひさー」 (……で、あっちが)

花枝 「えっ? どういうこと?」 パァアアアアアア 「あんなに綺麗な子とどこで知り合ったのよ、成幸!」

水希 「また新しい女が……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

あすみ (あれが、後輩のお母さんと中学生の妹か……)

212以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:42:50 ID:feM66L2E
………………

小美浪父 「いやいや、すみません。まさか相席の相手が唯我くん――いや、成幸くんのご家族だったとは」

花枝 「いえいえ、いつも成幸がお世話になっています」

小美浪父 「とんでもない! いつも世話になってるのは私と私の娘ですよ」

あすみ 「……おい、後輩」 コソッ

成幸 「なんですか、先輩」 コソッ

あすみ 「この状況、とてつもなくヤバいと思うのはアタシだけか?」

成幸 「何言ってんですか、先輩。俺なんかさっきから冷や汗とまりませんからね」

あすみ 「だよなぁ……」 (っつーか……)

小美浪父 「本当に、成幸くんにはいつもお世話になってるんです」

小美浪父 「娘が連れてきた彼氏が、こんなに良い青年で、本当に良かったですよ」

水希 「えっ? えっ? えっ? えっ? えっ? えっ?」

葉月&和樹 「「彼氏!?」」

花枝 「……あらあら、まぁまぁ……」 パァアアアアアア……!!! 「こんなにきれいな娘さんが、成幸の彼女……」

花枝 「よくやったわ、成幸!」

213以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:44:10 ID:feM66L2E
あすみ (まぁこーなるよな……)

小美浪父 「あれ? 成幸くんから娘の話は聞いていませんか……?」

あすみ (そして、こうなるよな……)

あすみ (……っつーか、こうなるのは運命だったのかもしれない)

あすみ (アホみたいなウソをついて、メイドの仕事を誤魔化して……)

あすみ (後輩を担保に、医学部受験も大目に見てもらって……)

あすみ (そんなズルをしたから、こんな最悪のカタチでウソをバラさなくちゃならなくなったんだな)

あすみ (……仕方ねえ。これは、アタシに対する正当なバチだろう。公開処刑みたいなもんだが、我慢するしかねーか)

あすみ 「……あー、えっと。親父。もうこの際だから、言ってしまうけどな」

あすみ 「実は……――」


成幸 「――いやー! 実は、家族に打ち明けるのが恥ずかしくですね!」


あすみ 「……へ?」

成幸 「ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ」

成幸 「恥ずかしくて内緒にしてたんだ。ごめんな」

214以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:45:23 ID:feM66L2E
水希 「………………」 ピクピクピク……

葉月 「あっ、水希姉ちゃんが白目剥いて泡吹いてる」

和樹 「こりゃまずいな。後で記憶操作しておかないと」

あすみ 「後輩……? おまえ……」

成幸 「しっ。わざわざバラす必要もないでしょ」 コソッ

成幸 「ウソをバラすにしても、それは受験が終わって、先輩が医学部生になってからですよ」

あすみ 「後輩……」

花枝 「まー、なんてめでたいのかしら!」

花枝 「今日は月に一度の家族で外食デー! せっかくだし成幸のおめでとう会も兼ねちゃいましょう」

成幸 「いや、母さん、そんな盛り上がらないでいいから……恥ずかしいから……」

花枝 「この前臨時ボーナスも入ったし、今日は少し高いメニューを頼んでもいいわよ!」

花枝 「特別に今日はドリンクバーも許可するわ!」

葉月 「ほんとに!?」   和樹 「やったー!」

小美浪父 「いや、うちの娘ぐらいでこんなに喜んでもらえるとは……」

215以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:45:56 ID:feM66L2E
………………

小美浪父 「……それでですね、そのとき、成幸くんは言ってくれたんですよ」

小美浪父 「“あすみさんのことは、俺が一生守ります” ……と」

花枝 「きゃー! 我が息子ながらかっこいいわー!」

成幸 「………………」

カァアアアア……

成幸 (そんなこと言った憶えはないよ!?)

あすみ (あの親父、テンション上がってあることないこと言ってやがる……)

花枝 「でも、大丈夫かしら。あすみさん、成幸と一緒で大変なこととかないかしら?」

あすみ 「へっ? あ、アタシが大変、ですか?」

あすみ 「いや、特にそういうことはないですけど……」

あすみ (あんまり、無辜の後輩の家族にウソをつきたくはないし……)

あすみ 「すごく頼りになりますし、アタシのために色々してくれますし……」

あすみ 「本当に、良い人に出会えて良かったって……そう思います」

花枝 「まぁ……まぁまぁまぁ」 パァアアアアアア……!!!

216以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:46:52 ID:feM66L2E
成幸 「せ、先輩、変なこと言わないでくださいよ……」

成幸 「俺が恥ずかしいし、母さんのテンションも上がるじゃないですか」

あすみ 「し、仕方ねーだろ。でも、ウソはついてないからな!」

成幸 「……そ、それは、まぁ……」 カァアアアア…… 「嬉しい、ですけど……」

花枝 「もー! 成幸ったら! 見せつけてくれるわね!!」 バシッ

成幸 「いたっ!? 母さんどんだけテンション上がってるんだ!?」

水希 「………………」

和樹 「水希姉ちゃん起きないなー」

葉月 「兄ちゃんがあすみ姉ちゃんとラブラブしてても反応なしね」

和樹 「こりゃ相当重傷だなー」

成幸 「先輩」 コソッ

あすみ 「おう」 コソッ

成幸 「俺はもうこの空気に耐えられそうにありません。さっさと食べて、ふたりで抜け出しましょう」

あすみ 「……だな。どこかでふたりで勉強でもするか」

217以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:48:07 ID:feM66L2E
花枝 「デート!? デート!? ふたりでどこ行くの!?」 キラキラキラ

成幸 「だー、もう! 母さん興奮しすぎだから!!」

水希 「………………」

ピクッ……

葉月 「……あ」

和樹 「水希姉ちゃんが……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

葉月&和樹 「「起きた!!」」

水希 「……ちょっと、待ってください」

あすみ 「お、おう、妹ちゃん。どうした?」

水希 「お兄ちゃんの彼女さんだって言うなら……」

水希 「逃げないでくださいよ……!!」

あすみ (こ……怖っ……。なんて気迫だよ……)

218以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:49:00 ID:feM66L2E
成幸 「逃げるって……。べつに俺たちはそんなつもりじゃ――」

水希 「――お兄ちゃんは黙ってて?」

成幸 「はい」

あすみ (そして弱いな後輩……)

水希 「……おじさん」

小美浪父 「ん? なにかな?」

水希 「この後、娘さんを借りてもいいですか? ぜひ、うちにお招きしたいので」

あすみ 「えっ……」

小美浪父 「本当かい!? おうちに娘を招待してくれるのかい?」

水希 「ええ。それはもう……」 ニヤリ 「……歓待しますよ。嫌ってほど……」

小美浪父 「よかったな、あすみ! 私に気を遣わずお呼ばれしてきなさい」

あすみ 「お、おい、親父……」

水希 「……来てくれますよね、あすみさん?」 ニコッ

あすみ (怖え……けど……) ハァ (逃げるわけにはいかねーよな)

あすみ 「……わかった。じゃあ、ぜひお邪魔させてくれ」

219以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:49:36 ID:feM66L2E
水希 「……ふふ」

水希 (わたしの知らない間に、お兄ちゃんのことをたぶらかしてた女……)

水希 (ふふふ、どんな風にお兄ちゃんを騙したのか知らないけど……)

水希 (わたしまで騙せると思わないでくださいね……!)

水希 (今日うちにご招待して、散々こき使ってやりますから!!)

水希 「………………」

水希 (……でもまぁ、お兄ちゃんの魅力に気づいたところは、褒めてあげますけど)

水希 (あと、べつにお兄ちゃんを嫌いになってもらいたいわけでもないし)

水希 (……はぁ)

水希 (複雑な心境)

220以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:50:10 ID:feM66L2E
………………唯我家

あすみ 「お邪魔しまーす」

花枝 「はい、どうぞ。ぼろくて狭い家だけど、ゆっくりしていってね。あすみちゃん」

あすみ (……まぁ、実は一度来たことはあるんだが)

水希 「………………」 ジトーーーーーッ

あすみ (あの妹が怖そうだから黙ってよう)

成幸 「すみません、先輩。予定もあっただろうに、家にまで来てもらっちゃって……」

あすみ 「そんなの気にすんなよ。元々は……」 コソッ 「お前がアタシのことを庇ってくれたから、こうなったんだ」


―――― 『いやー! 実は、家族に打ち明けるのが恥ずかしくですね!』

―――― 『ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ』


あすみ 「……ありがとな、後輩。さっきは少し……ううん。かなりカッコ良かったぜ」

成幸 「っ……」 カァアアアア…… 「こ、こんなときまでからかわないでくださいよ」

あすみ (今のは結構本気だったんだけどなー……って言っても信じねーか)

あすみ (ま、普段散々からかい続けてるアタシが悪いんだけどさ)

221以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:51:23 ID:feM66L2E
水希 「あすみさん、このエプロンをお貸しします」

あすみ 「……うん?」

水希 「エプロンをつけたら、早速働いてもらいますよ」

ニヤッ

水希 「……まずは、家中の掃除です」

花枝 「こら、水希。あすみちゃんはお客さんなのよ?」

花枝 「掃除なんかさせられるわけないでしょ。あんた、いい加減に……――」

あすみ 「――いえ、お母さん。やらせてください」

花枝 「えっ?」

あすみ 「……ふふ、いいぜぇ? 妹ちゃん?」 ニヤリ 「アタシがやられっぱなしで終わると思うなよ?」

成幸 (あっ、いつもの先輩だ……)

水希 「むっ……?」 (さっきまでと雰囲気が変わった……?)

あすみ 「家中の掃除だな? 任せろ。大得意だ。妹ちゃんは居間でくつろいでな」 グッ

葉月&和樹 「「あすみ姉ちゃんかっこいいー!!」」 キラキラキラ

222以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:51:58 ID:feM66L2E
………………

あすみ 「まずは上から!! はたきでホコリを落とす!!」

シュババババババ

あすみ 「で、次はほうき! ゴミや埃を要所に集める!!」

シュババババババ

あすみ 「そして局所的に掃除機! 使用電力は最低限で!!」

シュババババババ

水希 「!?」 (電気代のことも考えて掃除をしている……!? この女……)

水希 「できる……!!」 ギリッ

あすみ 「最後はきつくしぼったふきんで、テーブルや棚回りを磨く!」

あすみ 「拭く程度じゃ汚れが伸びるだけだからダメだ! 磨き上げるつもりで!!」

シュババババババ

あすみ 「そして最後に、雑巾で床を磨き上げる……!!!」

あすみ 「畳も水分が残らないように磨く……!!!」

シュバババババババババババババババババババ!!!!!!

223以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:52:57 ID:feM66L2E
………………

ピカピカピカピカ……

花枝 「すごい……。かつてないくらいピカピカだわ」

あすみ 「後輩――成幸くんにはいつもお世話になってるので、気合い入れちゃいました」 キャルン

花枝 「美人なだけでなく、お掃除も完ぺきだなんて……成幸!? こんなすごい女の子どうやって捕まえたの!?」

あすみ 「えへへ、違うんですよ、お母様っ」 キャルン 「アタシが、成幸くんを捕まえたんですっ、なんて! きゃーっ」

成幸 (先輩、なんか “あしゅみー” 感が出てきたな……)

水希 「ぬぬぬぬ……」

水希 「ま、まだですよ! 次は大量の洗濯物をたたんでもらいますから!」

あすみ 「うん?」 ペタペタペタパタパタパタ

水希 「……!?」 (も、もうたたみ始めてる……!?)

水希 (しかもなんて素早いの……で、でも、たたみ方が雑では本末転倒……――)

水希 (――なっ……!?)

キラキラキラ……!!!

水希 (寸分の狂いもない、なんて美しい折り目なの……!?)

224以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:53:35 ID:feM66L2E
水希 「……す、すごい」

ハッ

水希 (感心してどうするの! この程度、わたしだって少しがんばればできるもん!)

水希 「あ、あとは! 今日やる予定はなかったけど、水回りの掃除を徹底的に――」

ピカピカピカピカ……

水希 「……!?」

あすみ 「うん。普段から清潔にしてある良いトイレと風呂だな。すぐピカピカになった」

水希 「う、うそ……」 (なんてできる人なの、この人は……!?)

水希 「っ……あ、あとは……」

あすみ 「おっ、もういい時間だな。今日の晩ご飯は何にする予定だったんだ?」

水希 「えっ……えっと……。今日は、お米を炊かずに、残り物の野菜ですいとん風鍋を……」

あすみ 「よーし、オッケー。じゃ、アタシが作るな」

あすみ 「冷蔵庫の食材、使ったらダメなやつとかあるか?」

水希 「………………」

あすみ 「……? 妹ちゃん?」

225以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:54:12 ID:feM66L2E
水希 「……なにも、ないです。自由に使ってもらって大丈夫です」

あすみ 「ん、そうか。じゃあそうさせてもらうな」

あすみ 「〜〜〜♪」

水希 (……鼻歌混じりに、意気揚々と台所へ行ってしまった)

水希 「………………」

ガクッ

水希 (……認めたくはないけど、仕方ないのかもしれない)

水希 (わたしの、完敗だ……)

水希 「……はぁ」

あすみ 「……?」 (なんか、妹ちゃん凹んでんなぁ……)

あすみ (……売り言葉に買い言葉で、気合い入れて家事をやっちまったが)

あすみ (普段、あの子がこの家の家事をやってるんだよな。やりすぎちまったかな……)

あすみ (悪いことしたな……)

226以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:54:44 ID:feM66L2E
………………晩ご飯 食卓

あすみ 「はい、できましたよー」

コトッ

花枝 「あらあらあら……良い匂いだわ。とても美味しそう」

あすみ 「お口に合うと嬉しいですけど……」

あすみ 「……ほら、葉月、和樹。お前たちの分もよそうからな」

葉月 「きゃー!」 和樹 「姉ちゃんと母ちゃん意外のお料理を家で食べるなんて、新鮮だな!」

水希 「………………」 ズーン

あすみ 「ほら、妹ちゃんも、どうぞ」

水希 「……どうも」 ズーン

あすみ (うーむ。明確な敵意は消えたけど、代わりにめちゃくちゃ暗くなっちまったな……)

あすみ (どうしたもんか)

あすみ 「ほら、こうは――成幸くんの分も」

成幸 「あ、すみません。ありがとうございます、せんぱ――あすみさん」

あすみ 「お、おう……」 (……なんか名前を呼ばれるとこそばゆいな)

227以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:55:39 ID:feM66L2E
花枝 「それじゃ、いただきましょうか。あすみちゃん、本当にありがとうね」

花枝 「いただきます」

『いただきます!』

水希 「……いただきます」

パクッ

水希 (……やっぱり、想像通りだ)

水希 (すごく美味しい。普段から料理をやり慣れてる人の、お料理の味)

水希 (わたしが作ろうとしていた節約メニューの意図をよく理解している……)

水希 (華美でも貧相でもない、素朴な料理……)

水希 「………………」

あすみ 「ほらほら、ゆっくり食べろ。こぼれちゃうぞ」

葉月 「だってー、あすみお姉ちゃんのお料理、とっても美味しいんだもの!」

和樹 「……はむっ。姉ちゃんおかわり!」

あすみ 「嬉しいねぇ。もう食べ終わったのか。ほら、おかわりどうぞ」

和樹 「わーい! ありがと、姉ちゃん!」

228以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:56:57 ID:feM66L2E
水希 「………………」 (……悔しいな。悔しいけど、もう認めざるを得ない)

水希 (この人を厭う要素がない。この人は、絶対に兄を幸せにしてくれる人だ……)

水希 (わたしより、はるかに……――)


あすみ 「――妹ちゃんはさ、学校から帰ったら、いつも家事をこなしてるんだろ?」


水希 「えっ……?」

水希 「ま、まぁ、そうですけど……」

あすみ 「すごいな。アタシなんて浪人生なのに、そうそう家事なんてやらないのに」

あすみ 「お前らの姉ちゃんはすごいな。なぁ、和樹、葉月」

和樹 「そりゃーなー!」 葉月 「水希姉ちゃんは世界一の姉ちゃんだもの!」

あすみ 「……悔しいな。アタシが一番になりたいところだけど、」

あすみ 「きっと掃除も料理も滅茶苦茶上手いんだろうな。悔しいけど、アタシは二番目で我慢するか」

水希 「………………」 (……ああ、そっか)

水希 (この人は、ずっと嫌な気持ちにさせていたわたしのことも気遣ってくれるような人なんだ……)

水希 (……ダメだ。とことん、この人を嫌いになる理由がなくなってしまった)

229以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:57:29 ID:feM66L2E
………………食後 台所

あすみ 「ふんふーんふん……♪」

キュッキュッ……

水希 「……あの、お皿洗い、手伝います」

あすみ 「うん? いいよいいよ。あと少しで終わるし、アタシひとりで大丈夫だよ」

水希 「いえ、あの……やらせてほしいんです」

あすみ 「……そっか。じゃあ、アタシがスポンジで汚れを落とすから、洗剤を流してくれ」

水希 「わかりました」

あすみ 「………………」

水希 「………………」

バシャバシャバシャ……

水希 「……あの」

あすみ 「んー?」

水希 「……今日は、すみませんでした」

あすみ 「何の話?」

230以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:59:13 ID:feM66L2E
水希 「……とぼけないでくださいよ」

バシャバシャ……

水希 「今日、ファミレスで会ってからずっと、嫌なことばかりして、言って……」

水希 「もう、わたしのことを嫌いになってるかもしれないですけど……」

あすみ 「………………」

水希 「……お願いします。兄のことは、嫌いにならないでください」

水希 「お兄ちゃんは悪くないんです。わたしが勝手に、嫌な気持ちになって、嫌なことしただけだから……」

水希 「……ごめんなさい」

あすみ 「………………」 ハァ 「……とぼけてねーよ。何の話だか、これっぽっちも分からない」

あすみ 「妹ちゃんのこと、嫌ってないし嫌う予定もないよ」 ニコッ

水希 「あすみさん……」

あすみ 「……いつまでも、“妹ちゃん” 呼びじゃ分かりにくいし、」

あすみ 「アタシも、“水希” って呼んでもいいか?」

水希 「あ……は、はい! ぜひ!」

231以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/15(木) 23:59:55 ID:feM66L2E
あすみ 「ん。じゃあこれからはそうするな。水希」

水希 「……はい」

あすみ 「………………」

あすみ (……水希も、後輩のことが好きすぎるだけで、すごく良い子だ)

あすみ (お母さんも、葉月も、和樹も……。温かくて、良い家族だ)

あすみ (アタシはこんな人たちを騙してるのか……)

あすみ (そして、そんな家族を騙すような真似を、後輩にさせてるのか……)

ズキッ

あすみ (……ダメだ。そんなのは、絶対)

あすみ (アタシがついたウソが、後輩に迷惑をかけている……)

あすみ (それに留まらず、後輩に家族に対して無用なウソをつかせている……)

あすみ 「……なぁ、水希」

水希 「はい?」

あすみ 「洗い物が終わったら帰るけど、その前に話がある」

あすみ 「……お母さんと葉月と和樹、全員に聞いてほしい話があるんだ」

232以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:00:29 ID:RTwzERjA
………………居間

花枝 「話って何かしら、あすみちゃん」

花枝 「ま、まさか、成幸と結婚させてほしいとかかしら……。ど、どうしましょう。神社? チャペル?」

花枝 「白無垢? ウェディングドレス? あすみちゃん美人だからどっちも似合うでしょうし、迷うわね〜」

あすみ 「いや、あの……」

水希 「お母さん! あすみさんすごく真剣な顔してるから、茶化すのはやめてあげようよ」

花枝 「えっ……? あ、そ、そうね……」

花枝 (水希のことだから、まだ嫉妬心むき出しだろうから場を和ませようと思ったのに……)

花枝 (当の水希にたしなめられるとは思わなかったわ……。随分と懐いたものね)

葉月 「あすみ姉ちゃん?」 和樹 「お話ってなーに?」

あすみ 「……あ、あの」

成幸 「先輩……?」

あすみ (……怖い。せっかくよくしてくれた人たちに、前提を覆すようなことを言うのが、怖い)

あすみ (でも……) キッ (家族大好きな後輩に、家族に対してウソをつかせたままにしておくわけにはいかない)

あすみ 「……申し訳ありませんでした」 ペコリ

233以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:01:18 ID:RTwzERjA
水希 「えっ……? ど、どうしたの、あすみさん。いきなり頭を下げて……」

あすみ 「……ごめんなさい。アタシ、みんなにひとつ、ウソをついています」

成幸 「せ、先輩! それは……――」

あすみ 「――成幸くんもウソをつきました。でも、それはアタシのためにウソをついたんです。だから、許してあげてください」


あすみ 「アタシと成幸くんは、お付き合いしていません。恋人でもなんでもありません」


あすみ 「……ただの、予備校の先輩後輩の間柄です」

花枝 「………………」

水希 「えっ……ど、どういうこと……?」

水希 「あすみさんは、お兄ちゃんの彼女さんじゃない、の……?」

あすみ 「……ああ。違う」

花枝 「……成幸」

成幸 「は、はい」

花枝 「あすみさんの言っていることは本当なの?」

成幸 「……うん。本当だよ」

234以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:01:55 ID:RTwzERjA
花枝 「なら、どうしてあんなウソをついたの?」


―――― 『ごめんな、母さん、水希、葉月、和樹。兄ちゃん、実はこのあすみさんと付き合ってるんだ』


成幸 「それは、その……」

あすみ 「夏休みにアタシが頼んだんです。父をごまかすために、恋人役をやってくれ、って」

あすみ 「それが尾を引いて、今日、成幸くんにご家族を騙すようなことをさせてしまいました」

あすみ 「アタシが悪いんです。すみません。本当に……ごめんなさい!」

花枝 「……頭を上げて、あすみちゃん」

あすみ 「はい……」

花枝 「………………」

クスッ

花枝 「やっぱり、そんなことだと思ってたわ。うちの成幸にこんな出来た彼女がいるわけないと思ってたのよ」

あすみ 「へ……?」

花枝 「ほんの一時だけでも夢を見させてもらったわ。ありがとね、あすみちゃん」

あすみ 「い、いやいやいや、お礼なんてそんな! っていうか……怒らないんですか?」

235以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:02:40 ID:RTwzERjA
花枝 「あなたにも事情があるんでしょうし、騙そうとして騙そうとしたわけじゃないでしょう?」

あすみ 「ま、まぁ……そうですけど……」

花枝 「それに、今日あの場で最初にウソをついたのは成幸だし。怒るなら成幸かしら」

成幸 「……まぁ、確かにその通りだな。すまん。母さん、水希、葉月、和樹」

あすみ 「いや、やめろよ、後輩! お前、アタシのためにウソついてくれたんだろ?」

あすみ 「悪いのはアタシだから、後輩を怒るのはやめてあげてください!」

花枝 「……そんな風に言える良い子を怒らないわよ」

クスクス

花枝 「あなた、本当に良い娘さんね」

あすみ 「そ、そんなこと……」

水希 「………………」

あすみ 「あっ……その……水希も、ごめんな」

あすみ 「後輩のこと大好きなお前には、本当に嫌な思いをさせちまったと思う……」

水希 「……やめてください。今、本当に複雑な心境なんですから」

あすみ 「え……?」

236以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:03:25 ID:RTwzERjA
水希 「お兄ちゃんに彼女ができたって聞いて、ショックで、怖くて、嫉妬して……」

水希 「でもいざ家に来てもらったらすごく良い人で安心して、良かったって思って……」

水希 「そうしたら、今度は実は彼女じゃなかったって……」

水希 「……お兄ちゃんに彼女がいなかったのは嬉しいけど、」

水希 「あすみさんだったらいいかな、って思い始めた後だから、複雑な気持ちなんです」

あすみ 「お、おう……。なんか、本当に、ごめん……」

水希 「謝らないでください。べつに、怒ってはいないですから……」

水希 (ああ、もう……本当に悔しい。だってわたし、今すごく残念な気持ちになってる)

水希 (あすみさんがお兄ちゃんの彼女さんじゃなかったって知って、残念に思ってる)

水希 (わたし……あすみさんに、お兄ちゃんの彼女になってほしいって、思ってるんだ……)

葉月 「じゃあ、あすみ姉ちゃんは嫁に来ないの?」 和樹 「こないの?」

あすみ 「ごめんな、葉月、和樹。たぶん嫁には……いかないん、だよな……?」

成幸 「!? お、俺に聞かないでくださいよ。自分でいかないって言ってくださいよ」

237以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:03:56 ID:RTwzERjA
あすみ 「いや、まぁ、そうなんだけど……」 (なんだよ、後輩のやつ……)

あすみ (…… “来てほしい” くらい言ってくれてもいいじゃねーかよ)

ハッ

あすみ (って、アタシは何をバカなこと考えてんだ……)

あすみ (後輩はアタシの被害者だってのに、何勝手なこと思ってんだ……)

あすみ (……っつーか、アタシ、ひょっとして)

カァアアアア……

あすみ (後輩に、“嫁に来てほしい” って言ってほしかったのか……?)

成幸 「どうしたんですか、先輩。顔赤いですけど……」

あすみ 「なっ、なんでもねーよ!」

成幸 「?」

花枝 「………………」 (へー……)

ニヤリ

花枝 (これは、意外と、あすみちゃんもまんざらじゃないのかしら)

238以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:04:37 ID:RTwzERjA
花枝 「……あすみちゃん」

あすみ 「は、はい!」

花枝 「ウソをついていたことは怒っていません。もちろん、成幸も」

成幸 「すまん。ありがとう」

あすみ 「すみませんでした」

花枝 「でもね、さっきの口ぶりだと、あすみちゃん、お父さんにウソをついているのね?」

あすみ 「あ……それは、まぁ……はい」

花枝 「人様のご家庭のことにとやかく言うことはできないし、あすみちゃんにも事情があるんでしょうけど」

花枝 「……ウソはよくないわ。できるだけ早く、今のように、ウソを打ち明けた方がいいと思うわよ」

あすみ 「……本当に、その通りだと思います。アタシも、来年度には打ち明けるつもりです」

あすみ 「でも、もう少しだけ、時間が必要なんです。だから……」

花枝 「………………」 ニコッ 「……わかったわ。私はこれ以上何も言わない」

花枝 「うちの成幸があすみちゃんの役に立てるなら、恋人役としていくらでも使ってちょうだい」

あすみ 「すみません。ありがとうございます……」

あすみ 「……後輩も、いつもありがとな」

239以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:05:42 ID:RTwzERjA
成幸 「いや、俺はべつに、お礼を言われるようなことは……」

あすみ 「いつか、親父にもウソを打ち明けて謝るからさ」

あすみ 「……もう少しだけ、付き合ってもらってもいいか?」

成幸 「一度引き受けたことですから。先輩の夢が叶うまで、付き合いますよ」

花枝 「……ところで、ウソを本当にしちゃうってのも、アリだと思うわよ?」

あすみ 「ウソを本当に……?」

花枝 「お父さんはあすみちゃんと成幸が付き合ってると思っているのでしょう?」

花枝 「なら、このまま本当にお付き合いして、いつか結婚しちゃえば、」

花枝 「ウソも何もなくなっちゃうんじゃないかしら?」

成幸 「なっ……」 カァアアアア…… 「何言ってんだよ、母さん!」

あすみ 「………………」 プイッ

あすみ (ウソを本当にする、か……)

あすみ (そうだよな。本当に付き合っちまえば……アタシと後輩は、ニセモノじゃなくて……)

あすみ (ホンモノの恋人に、なれるのか……)

240以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:06:42 ID:RTwzERjA
あすみ 「………………」

成幸 「ほら、母さんが変なこと言うから、先輩固まっちゃったじゃないか」

成幸 「先輩、母さんの言うことなんて気にしなくていいですからね」

あすみ 「ホンモノ、か……」

成幸 「えっ……? 先輩?」

あすみ 「お前となら、それもいいかもしれねーな」

成幸 「なっ……」

成幸 「ま、またからかうようなこと言って! もうその手には乗らないですからね!」

あすみ 「……にひひ、バレたか」

241以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:07:15 ID:RTwzERjA
成幸 「まったくもう、先輩は……」

あすみ 「………………」


―――― 『……ありがとな、後輩。さっきは少し……ううん。かなりカッコ良かったぜr

―――― 『こ、こんなときまでからかわないでくださいよ』


あすみ (さっきと一緒だ。アタシの本心からの言葉は、全部ニセモノになってしまう)

あすみ (仕方ない。普段のアタシの行いのせいだから)

あすみ (素直になれない、素直になろうとしない、アタシのせいだから)

あすみ (もし、アタシのホンモノの言葉が、こいつに届いたら……)

ギュッ

あすみ (……アタシと後輩は、いつか“ホンモノ” になれるかな)


おわり

242以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:08:30 ID:RTwzERjA
………………幕間1  「父」

あすみ 「ただいまー」

小美浪父 「おお、おかえり、あすみ! どうだった!?」

あすみ 「帰って早々騒々しいな。一体なんだよ」

小美浪父 「何を言ってる! こっちはお前が粗相をしていないか気が気じゃなかったんだぞ!」

あすみ 「自分の娘のことなんだと思ってんだ、あんた……」

あすみ 「何もなかったよ。順調だ。晩飯だってアタシが作ってきたよ」

小美浪父 「おお……」 パァアアアアアア……!!! 「これはめでたい。結婚まで秒読みだな」

あすみ 「っ……」 (こっちの気もしらないで、親父の奴……)

小美浪父 「いやー、しかし良かった良かった」 ドサッ

小美浪父 「五冊目に突入した唯我くんとお前の記録ノートが無駄にならなくて済みそうだからな」

小美浪父 「結婚式の挨拶は任せろ。馴れ初めムービーがいらないくらい、私が語ってやるからな」

あすみ 「あー、うん……」 (これでウソだったって知ったら、卒倒しそうだなこの人……)

あすみ (仕方ねぇ。あくまでこの親父のために……)

あすみ (……ホンモノ、目指してみようかな)

243以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:09:00 ID:RTwzERjA
………………幕間2  「妹」

成幸 「先輩と一緒に行ったところ? えっと、カラオケボックスとか、海とか……」

成幸 「あとはファミレスで勉強したりとかだけだぞ?」

水希 「海……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

水希 (ずるい! 海なんて滅多に行けないのに、あすみさんはお兄ちゃんと……!!)

水希 (アタシだってお兄ちゃんとふたりっきりで行きたいのに!!)

水希 (やっぱりあすみさん許すまじ……)

水希 「………………」

水希 (……悔しい)

水希 (お兄ちゃんとふたりでも行きたいけど……)

水希 (あすみさんも一緒にいたらもっと楽しいだろうなとか考えちゃう自分が……)

水希 (本当に悔しい……!!)

おわり

244以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:09:32 ID:RTwzERjA
>>1です。読んでくれた方ありがとうございました。

また折を見て投下します。

245以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/16(金) 00:10:04 ID:ei8Z2GaQ
おつ!
やはりあしゅみー先輩こそ至高

246以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:29:08 ID:CIrMnHwE
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】 真冬 「それがあなたの長所でしょう?」

247以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:34:56 ID:CIrMnHwE
………………一ノ瀬学園 職員室

鈴木先生 「桐須先生、お忙しいところすみません」

真冬 「? 何か?」

鈴木先生 「今日の放課後、二学期第二回目の面接練習があるのはご存知ですよね」

鈴木先生 「実は、担当ではない桐須先生にこんなことを言うのは大変恐縮なのですが、お手伝いいただきたいんです」

真冬 「構いませんよ。前回のように職員に体調不良者でもでましたか」

鈴木先生 「いえ、実はそういうわけではなく……」

鈴木先生 「桐須先生との面接練習を希望すると言う生徒がおりまして」

真冬 「私との面接練習を希望する……? ほぅ……」

ゴゴゴゴゴゴ…………

真冬 「なかなか威勢の良い生徒もいたものですね。いいですよ。引き受けます」

鈴木先生 (さすがは桐須先生。生徒に対しての教育に熱が入っていらっしゃるご様子だ……)

真冬 (どんな生徒か分からないけれど……)

ニヤリ

真冬 (私との面接練習を希望したことを、後悔させる勢いでやってあげるわ。ふふふ……)

248以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:35:56 ID:CIrMnHwE
………………放課後

理珠 「今日はよろしくお願いします。桐須先生」 フンス

文乃 「よろしくお願いします!」 フンスフンス

真冬 (驚愕。まさかこの子たちだったとは……)

真冬 「……ええ。よろしくお願いします」

真冬 「私はあなたたちの面接練習を一度担当したわけだけれど、」

真冬 「……当然。以前よりは格段にレベルアップしているのでしょうね?」

理珠 「もちろんです。もう私に答えられない質問などありません」

文乃 「わ、わたしもです。成幸くんにも付き合ってもらって、練習もたくさんしてきました」

真冬 「感心。では、私も以前以上に気を引き締めて、本物の試験官のつもりで面接に臨みます」

真冬 「よろしいですね?」

理珠 「望むところです」 フンスフンス

文乃 「精いっぱいがんばります!」

真冬 「よろしい。では、一分ほど後に、緒方さんから順番に入室をしてください」

249以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:36:35 ID:CIrMnHwE
………………

コンコン

理珠 「失礼します」

真冬 「どうぞ」

真冬 「では、学校名とお名前をお願いします」

理珠 「はい。私立一ノ瀬学園高等学校の、緒方理珠と申します。本日はよろしくお願いいたします」

真冬 (ふむ……以前より格段に言葉がなめらかになっているわね)

真冬 (自主練習をたくさんしたのでしょうね)

真冬 「はい。よろしくお願いします。では、おかけください」

理珠 「はい。失礼致します」

250以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:37:34 ID:CIrMnHwE
真冬 「では、面接を始めます」

真冬 「まず、緒方さんが本校を志望する理由を教えてください」

理珠 「はい。私は、人の心の機微に鈍感です」

理珠 「人が何を考えているか分からず、自分だけ見当違いなことをしている、ということがままあります」

理珠 「私は、そんなとき、周囲の友人たちとの間に壁を感じます」

理珠 「私はその壁を乗り越えて、人が何を考えているか、分かるようになりたいです」

理珠 「以上のことから、貴学の水準の高い心理学部ならば、私の求める人の心の探究ができると思い、貴学を志望しました」

真冬 (ふむ。言葉はなめらか。棒読みでもなく心もこもっている。及第点ね)

真冬 「よく分かりました。緒方さんは、本校の心理学部で、人の心が分かるようになりたいということですね」

真冬 「では、続けて伺います。あなたの言う “人の心の探究” とは、具体的にどのようなことを指しますか?」

理珠 「え……?」

真冬 「大学は研究機関です。あなたの言う “人の心の探究” が、最終的にどのような研究に行き着くのか」

真冬 「本校としても、私個人としても非常に興味深いです。ぜひ、ご教授いただければと思います」

理珠 「け、研究……?」

251以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:38:25 ID:CIrMnHwE
真冬 「? 大学進学を志望してらっしゃるのに、研究したいことがないのですか?」

理珠 「い、いえ、そういうわけでは……」

真冬 「では、あなたは本校での学びにより自身の苦手を克服した先にどのような研究をしますか?」

理珠 「えっと……」

真冬 「先ほども申し上げた通り、大学は学習する場であり、研究機関でもあります」

真冬 「自身の苦手を克服するという目的を達成するだけだけならば、」



真冬 「専門学校や終身教育機関など、叩くべき門戸は他にあると思いますが」



理珠 「………………」

真冬 「………………」

ハァ

真冬 「……ここまでのようね。長時間の沈黙が続いてしまった時点で、合格は絶望的だと思いなさい」

理珠 「……はい」

252以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:40:49 ID:CIrMnHwE
理珠 「………………」 (悔しい……)

理珠 (たくさん練習してきたのに、その練習の前提が崩されたような気分です)

理珠 (……しかし、どう考えても、桐須先生の指摘の通り)

理珠 (大学は教育機関であり研究機関でもある。最終的に研究をして卒業をすることになる)

理珠 (私は目の前の大学入学という目標に囚われ、入学した後のビジョンをおろそかにしている)

理珠 (私自身が一番理解していなければならないような基本的なことを、桐須先生に指摘されてしまったということ)

理珠 (……悔しい。私、前回から、まったく成長していないじゃないですか)

グスッ

理珠 「っ……」 (ダメです。泣いたら、それこそ、完全に負けてしまう。前回と同じになってしまう)

理珠 (泣かない。自分に何ができるか。今後どう成長していくか。それを考えないと……)

理珠 (勉強に付き合ってくれて、面接練習にも付き合ってくれた、成幸さんに顔向けできない)

理珠 (もっともっとがんばらないと……――)

真冬 「――まぁ、及第点には程遠いけど、前回に比べればはるかに良くなっているわ」

真冬 「がんばったのね、緒方さん」

理珠 「えっ……?」

253以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/17(土) 22:41:24 ID:CIrMnHwE
理珠 「そ、そんな……だって、私はまた、前回と同じように……」


―――― 『どうなんですか 緒方さん 黙っていてはわかりませんよ』


理珠 「前回と、同じように……。黙りこくってしまって……」

真冬 「けれど、話をするときに固さや焦りが消えたわ。自信も少し見えていた。それは良い傾向よ」

真冬 「たくさん練習したのが見て取れたわ」

理珠 「でも……」

真冬 「そうね。結果としては惨憺たるものだわ。不合格という事実は変わらない」

真冬 「……でも私は今の面接で、あなたの可能性が見えた気がするわ」

理珠 「私の可能性……?」

真冬 「ええ。あなたは努力して、人の心を理解しようとしている」

真冬 「そして世の中には、一定数あなたのように、所謂 “空気が読めない” 人が存在するわ」

真冬 「緒方さん、あなたは、今のあなたがそうであるからこそ、そういう人たちのためになる研究ができないかしら?」

真冬 「他人に共感を覚えづらい、生きづらい思いをしている人たちを助ける研究ができないかしら?」

理珠 「私と同じような人たちを、助けるための研究……」




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