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勇者「最期だけは綺麗だな」

1 ◆GC8HKbhIcg:2018/09/22(土) 19:48:17 ID:jTtUkYE.

【#1】相容れぬ

勇者「あぁ〜、今日も殺ったな。おい、ちょっと休むぞ」

僧侶「……」

勇者「ぼけっとしてんな。休める内に休んどけ」

僧侶「……何であんなことをしたんですか?」

勇者「はぁ? あんなことってなに? 言いたいことがあるならはっきり言えよ」

僧侶「っ、何で村人まで殺したんですか!」

勇者「何かと思えば、そんなことか。相変わらずバカだな、お前」

僧侶「馬鹿は貴方です! 村人は洞窟の魔物を退治して欲しいとーー」

勇者「そうだな。女子供を攫って喰っちまう化け物を皆殺しにしろって頼まれたな」

僧侶「皆殺しって……」

勇者「だってそうだろ? 懲らしめたり追っ払うわけじゃない。殺してくれと懇願されたんだからな」

713 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/22(月) 23:00:13 ID:UduKAYu6

勇者「……」

老人「もう分かったであろう。お主の戦いは、終わったのだ」

勇者「ッ、終わりになんてさせるか!!!」

老人「……」

勇者「終わって堪るか……」

老人「……」

コンコンッ…

老人「入れ」

ガチャッ…

僧侶「……」

勇者「……」

老人「…………儂は外す。後は二人で話せ。その方がよいじゃろう」ザッ

バタンッ…

714 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/22(月) 23:02:46 ID:UduKAYu6

【#4】願い

僧侶「窓、開けますね……」

カチャリ…サァァァ…

僧侶「見て下さい。私達の居た場所とは違って、この里は春みたいです。不思議ですよね」

勇者「……」

僧侶「っ、あの、横になった方がーーー」

勇者「皆は何処にいる」

僧侶「……里の人に案内して頂いて、今は里の集会所にいます。住む場所などは、これから話し合って決めるそうです」

勇者「狩人と助手は」

僧侶「里を見てみると言っていました。まずは理解したいと」

勇者「……そうか」

僧侶「……」

勇者「俺の戦いは、此処で終わりらしい」

僧侶「……」ギュッ

勇者「ふざけた話だ。俺には、それ以外に何もないってのに」

715 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/22(月) 23:04:52 ID:UduKAYu6

僧侶「……っ」

ぎゅっ

勇者「……何してる。離れろ」

僧侶「嫌です!」

勇者「いいから、離れろ」

僧侶「うぅ〜」ムギュゥ

勇者「いい加減にーーー」

僧侶「(何を言ったら良いのか分からない)」

僧侶「(優しい言葉、励ましの言葉、思い付く言葉は沢山あるけれど、どれも本当に伝えたい言葉じゃない)」

僧侶「(言葉に出来ないから、こんなことしか出来ない。伝わって欲しい。もう頭の中が透けてたっていい。だからーーー)」

勇者「分かってる……」

僧侶「へっ?」

勇者「お前が何でそうしたのかくらい分かってる。ただ、俺にはお前がーーー」

僧侶「分かっています。今の貴方にとって、僧侶という存在が、私だけではないということは……」

716 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/22(月) 23:06:39 ID:UduKAYu6

勇者「お前、何でそれを……」

僧侶「あの子に無理を言って聞きました。前の貴方のことも、前の私のことも……」

勇者「……」

僧侶「私にその記憶はないけれど、私の全てが誰かに作られたものではありません」

僧侶「だって、今の貴方を抱き締めているのは、今の私です。そう決めたのは、私なんです」

勇者「……」

僧侶「重ねるなだなんて言わない。でも、この私が私だということを、忘れないで下さい」

勇者「忘れねえよ。忘れるわけねえだろ」

僧侶「……本当?」

勇者「嘘吐いてるように見えるか?」

僧侶「(わっ、顔が近い。そう言えば、素顔を見るのは久しぶりだ)」

僧侶「(寝てる間にも何度も見たけど、こうしていると違う感じがする。なんだか急に恥ずかしく……)」

勇者「ほら、無理をしないで離れろ。俺はもう大丈夫だから」

僧侶「嘘です。あんなに落ち込んでいたのに、そんなに早く立ち直れるわけないです」

勇者「あのなぁ、いつまでも過ぎたことを考えてても仕方がねえだろ。終わりって言われて終われるかよ」

717 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/22(月) 23:09:16 ID:UduKAYu6

僧侶「……」ムギュゥ

勇者「何なんだよ……」

僧侶「戦って欲しくないです」

勇者「……魔女はあの力を使う。止めねえと、どうなるか分からない」

僧侶「止めに行って戦いになったらどうするのですか? 力は奪われたのですよ?」

勇者「それでも、やるんだ」

僧侶「僧侶を、救いたいから?」

勇者「……」

僧侶「っ、ごめんなさい。でも、心配なんです。無茶なことはしないって約束して下さい」

勇者「僧侶、それは無理だ。無茶をしないと、あいつは止められない」

僧侶「傷を負ったらどうするのですか……私の魔力に依存した体で、何が出来るのです」

勇者「お前……」

僧侶「気付いていないと思いましたか?」

勇者「……」

僧侶「お願いですから、もう嘘は吐かないで下さい。それは、優しさではありません……」

718 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/22(月) 23:11:19 ID:UduKAYu6

勇者「そうだな……すまなかった……」

僧侶「いえ、分かってくれたのなら良いのです……まだ、旅を続けるのですか?」

勇者「続ける。此処で諦めたら死んじまったのと同じだ。投げ出すわけにはいかない」

僧侶「(……分かっていた。この人は、こういう人だ。きっと、もう決めているんだ)」

勇者「もう少しだけ、付き合ってくれないか」

僧侶「言われなくたってそうします。貴方を一人になんてしません」

勇者「ありがとな……」

僧侶「……」コクン

勇者「……まずは扉だな。巫女に聞いてみよう。あいつなら、何か知ってるはずだ。さあ、行こう」

僧侶「……」

勇者「おい、どうした。いつまでくっついてーーー」

僧侶「お願いです。もう少しだけ……もう少しだけ、このままでいさせて下さい」

勇者「お前、震えて……」

僧侶「……まだ整理が付かなくって、ちょっとだけ怖いです。自分を疑うなと言った意味が、今なら良く分かります」

719 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/22(月) 23:15:56 ID:UduKAYu6

僧侶「ごめんなさい……」

勇者「何で謝るんだよ。神だとか言われりゃ誰だって困惑する。怖くて当たり前だ」

僧侶「だって、結局貴方に頼っているから……」

勇者「気にするな。落ち着くまで待ってるから、焦らなくて良い」

僧侶「……」

勇者「……大丈夫だ。お前は此処にいる」

僧侶「どこにも、行かないで下さい」ムギュゥ

勇者「こんなんじゃ何処にも行けねえよ」

僧侶「(行かないとは言わない。私を抱きしめてはくれない。それも分かっていた)」

僧侶「(この人が僧侶に対して抱いてる感情は、私がこの人に抱いているものとは違う)」

僧侶「(僧侶は特別な存在。今の私は、その代わりにはなれないだろう)」

僧侶「(ううん。きっと代わりなんて望んでいない。だから、これでいいんだ)」

勇者「……」

僧侶「(出来ることなら、争いのない、穏やかな日々を生きて欲しい。一緒に生きたい)」

僧侶「(叶わないことだと分かっていても、そう願ってしまう……これは、罪なのでしょうか)」

720 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:24:45 ID:nkCCh2j6

【#5】秘密

助手「狩人さん」

狩人「何かな」

助手「この里は何なのでしょうね。いつから存在していて、彼等は何故隠れていたのか……」

狩人「だからこそ、こうして見て回っているのだ。あの老人は話してくれそうにないからね」

狩人「季節が異なること、教会がないこと、それ以外にはあまり変わりないようだ」

助手「此処に魔物は存在しないと言っていましたが、それ以外には何も分かりませんでしたね」

助手「何故存在しないのか聞いても答えてはくれませんでしたし。まあ、警戒されて当然だとは思いますが……」

狩人「その割りには里の集会所を使わせ、寝具や着替え、食事、治療までも施してくれた」

狩人「彼等の判断は実に迅速で、最初からこうなると分かっていたようにすら思えたよ」

助手「この里の人々には見えていたと?」

狩人「以前、私が話したことを覚えているかね?」

助手「はい。遠い過去の人々は魂の力を扱うことが可能で、熟達した使い手ならば遥か遠い場所のことさえも見ることが出来る。でしたね」

狩人「そうだ。そして巫女は、昔の人と称していた」

721 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:27:29 ID:nkCCh2j6

助手「では、彼等は……」

狩人「私はそうではないかと考えている。あの老人が話してくれれば助かるのだがね」

助手「……」

狩人「どうしたのかね?」

助手「僧侶さんのことです。未だに理解が追い付かないと言うか……」

狩人「神という話か。厳密に言えば神ではないが、それに近しい何かということだったな」

助手「狩人さんはどう思いますか? 彼女がそのような存在だと信じますか?」

狩人「神の如き力を持っているのは確かだろうね。君も見ただろう、巫女の力を」

助手「はい、あれは確かに奇跡と呼べるものでした。そこに疑問はありません」

狩人「では、何が疑問なのだ」

助手「あのような力があるのなら、何故人間を救おうとしないのだろう、と……」

狩人「巫女に神として君臨して欲しいのか? 人間を管理して欲しいとでも?」

助手「いや、そう言うわけでは……」

助手「ただ、神としてではなく、力があるのなら助けてくれても良かったのではないかと思いまして……」

狩人「馬鹿を言うな。そのどちらも、意味合いは変わらない」

722 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:30:14 ID:nkCCh2j6

助手「!!」

狩人「いいか、助手。君が考えているような、困った時に現れて救ってくれる都合の良い存在などいない」

狩人「もし彼女が神として、神の如き力を行使していたら世界はどうなっていたと思う?」

狩人「既存の宗教は潰え、あらゆる指導者は力を失い、法や秩序は乱れる。正に混沌だ」

狩人「彼女が神を名乗っていたら、そうなっていたかもしれない。名乗らずとも、あの力を目の当たりにすれば、彼女の姿に神を重ねる輩は必ず現れる」

狩人「更には、彼女の存在を利用して悪事を働く輩も現れただろう」

狩人「どちらにせよ混乱が生まれ、争いが起きる。私は、彼女がそうしなかったことに心から感謝しているよ」

助手「……申し訳ありません」

狩人「いや、いい。私も言い過ぎた」

助手「ですが、先程の僕のような考えが、彼女を創っ……彼女をそうしてしまったのでしょう」

狩人「彼女の言葉が真実なら、そういうことになるのだろうね」

助手「……巫女さんは、どんな思いでいたのでしょうね」

狩人「私には想像も出来ないよ。思考は人間と同じだ。苦悩はあっただろう」

723 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:33:21 ID:nkCCh2j6
助手「魔女も、そうなのでしょうか?」

狩人「さあね。だが、奪った力の使い道が良い方向に向かうとは思えない」

狩人「第一、滅ぼすと言っていたそうじゃないか。言葉通りなら、世界を滅ぼすつもりなのだろう」

助手「そんなことが可能だと思いますか」

狩人「巫女の力を見た後だ。否定は出来ない」

助手「狩人さんは、いつも冷静ですね……」

狩人「ははは。冷静にならざるを得ないだけだよ」

助手「えっ?」

狩人「私にも焦りはある。老人に掴み掛かり、恫喝することも出来た」

狩人「しかし、そうはしなかった。彼の行動を無駄にするわけにはいかないだろう?」

助手「確かに……」

勇者『俺達を、助けてくれ』

助手「………あの時は驚きました。まさか、勇者さんがあんなことを……」

狩人「そうだね。地下の騎士を皆殺しにした男とは思えない台詞だったよ」

助手「肩を持つわけではないですが、あれも人間を救う為の行動であったことに違いはありません。勇者さんが戦わなければ、彼等を救うことは出来なかった」

724 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:36:03 ID:nkCCh2j6

狩人「そう熱くなるな。事実は事実なのだ。背景がどうあれ、殺めたことは罪だよ」

助手「それは分かります。罪は罪です。ただ、どちらを被害者と捉えるかで見え方は全く違う」

助手「狩人さんは騎士を、勇者さんは難民を被害者としている」

助手「しかし、どちらも被害者なのです。狩人さん、勇者さん、どちらの考えも正しいとは言えません」

狩人「それが君の考えか」

助手「はい」

狩人「……それでいい。どちらかに偏ることなく物事を判断するのは良いことだ」

助手「これが、狩人さんが僕に望んだ、正しい答えなのですか」

狩人「はははっ! ああ、正しく、私が君に望んでいた通りの答えだよ」

助手「……」

狩人「む、何か不満そうだな?」

助手「聖水に頼らずに済めば、犠牲なく聖水を造ることが出来れば、そう思うんです」

助手「本当に正しいやり方があれば、衝突することもなかった。貴方も、勇者さんも……」

狩人「……」

助手「もし、そんなやり方があるのなら、僕はそれを見付けたい」

725 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:38:29 ID:nkCCh2j6

狩人「私にとって、それこそが進化なのだよ」

狩人「誰もが納得出来る方法で、誰もが安全に暮らせるのなら、それに越したことはない」

助手「力の継承、でしたよね?」

狩人「全ての人間にね。そうすれば、聖水は必要なくなる」

助手「……」

狩人「無理だと思うかね」

助手「いえ、しかし魔女が……」

狩人「分かっているよ。魔女から取り返さないことにはどうにもならない」

助手「まだ、旅を続けるのですか?」

狩人「ああ、勿論だとも。これは、そう簡単に諦められるものではないからね」

助手「その身体では、無茶ですよ……」

狩人「無茶だろうと、やるしかないのだ」

助手「(こんな強さが、僕も欲しい。単なる力じゃない。彼女のように、揺らがない強さが……)」

726 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:39:56 ID:nkCCh2j6

狩人「何だ、見惚れているのか?」

助手「はい」

狩人「悪いが、君に対してそういう感情には……」

助手「えっ!? いやっ、そういう意味じゃないですよ!!」

狩人「冗談だよ。君の目を見るに、恋愛感情ではないのは分かる。憧れか、或いは羨望か」

助手「分かってるなら言わないで下さいよ……」

狩人「さて、そろそろ診療所へ行こうか。僧侶さんも診療所へ行くと言っていたからね」ザッ

助手「(いつもの無視か……)」

狩人「助手」クルリ

助手「どうしました?」

狩人「君と出会えて良かったよ」ニコッ

助手「(こ、この人は、本当に……)」

狩人「どうしたのかね?」

助手「っ、僕もです!!」

狩人「ん? 何がかな?」

727 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:42:54 ID:nkCCh2j6

助手「僕も、狩人さんと出会えて良かったです……」

狩人「ふむ。そうか、それは良かったよ。あまり褒められた趣味とは言えないがね」

助手「いえ、そんなことはないです。狩人さんはとても魅力的な方ですよ」

狩人「君に余裕があると、何だか腹が立つな。出会った頃の可愛げが失われてしまったようだ」

助手「人間は、成長しますから」

狩人「はははっ、そうだな。その通りだ」

助手「(狩人さん、変わったな……)」

助手「(笑顔が自然になった。笑い方も、作ったような笑い方ではなくなった)」

助手「(感情を露わにすることなんてなかったけど、羅刹王との戦いからーーー)」

「きゃー!」

助手「狩人さん!」

狩人「ああ、分かっている」

タッタッタッ…

助手「魔物は出ないはずでは……」

狩人「あの老人の言葉の通りなら、そのはずだ。実際、音は感じない。魔物ではないのかもしれないな……止まれ」ザッ

728 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:44:03 ID:nkCCh2j6

「助けて!」

「どうした?」

「また悪魔が攻めて来たのです!」

「私が行く」

「駄目です。幾ら貴方でも悪魔相手では勝てません。勇者を待つべきです」

「それでは遅い。他に方法はないのだ」

「ならば、僕も行きます」

「駄目だ。君は残れ。君が、人間を導くのだ」



助手「……子供が四人。ごっこ遊びでしょうか?」

狩人「どうやらそのようだな。何事もなくて良かったよ。さあ、行こう」

729 ◆GC8HKbhIcg:2018/10/26(金) 22:47:11 ID:nkCCh2j6

助手「そうですね」ザッ


「これしかない」

「止せ、無茶だ」

「こうするしかないんだ。龍になるしか……」


助手「!!」バッ

狩人「……」

助手「狩人さん、今のは一体……あんなこと、教会の人間に見付かったらどうなるか……」

狩人「この里に教会はない」

助手「それはそうですけど、そうだとしても、あんな悪趣味な……」

狩人「そうだな、あのような遊びは初めて見たよ。あの老人に聞くことが一つ増えたな」


『……人は、進化する。人として、在るために』

730以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/27(土) 00:03:02 ID:DpskU88Y
お疲れ様です

731 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:06:36 ID:AB5WvJwo

【#6】真実の人

狩人「おや?」

助手「あれは……」

老人「ーーー」

巫女「ーーー」

助手「何を話しているのでしょうか? 言い争いではないようですが、少々雰囲気が……」

狩人「ふむ、気になるな。直接聞いてみようか」

助手「ここは隠れた方が良いのでは? 盗み聞きは気が引けますが……」

狩人「存在を感知出来るのなら、それは逆効果になる。心証を悪くする行動は避けるべきだろう」

助手「しかし、あの老人が素直に話してくれるとは思えませんよ」

狩人「今は巫女がいる。前回とは違った結果を得られるかもしれない。さあ、行こう」

助手「……了解しました」

狩人「何か不満か?」

助手「不満というか、正直焦っています。此処へ来てから二日、いつ何が起きるか分からない」

狩人「君の言う通りだ。魔女が本当に世界を滅ぼすつもりなら、今この瞬間に此処が消し飛んでも不思議ではない」

732 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:08:10 ID:AB5WvJwo

狩人「しかし、そうだとしたら何故さっさと実行しない? おかしいとは思わないか?」

助手「しないのではなく、出来ないと?」

狩人「今は出来ない。或いは準備が必要。それとも、単に魔女の気紛れか……」

狩人「これらは単なる憶測であって状況は変わらないが、猶与があると思えば多少は落ち着くだろう?」

助手「そう、ですね……」

狩人「そう暗い顔をするな。何にせよ、この里から出ないことには始まらないのだ」

狩人「さあ、気持ちを切り替えたまえ。焦っていると言うなら、この時間すら惜しいはずだ。違うかな?」

助手「っ、はい。その通りです。失礼しました」

狩人「宜しい。では行こう」

ーーー
ーー


巫女「力を貸して欲しい」

老人「何度言われても答えは同じじゃ。力を貸せと言われても、儂には貸せるだけの力はない」

ザッ…

狩人「お話の途中に申し訳ない。少し宜しいかな?」

733 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:09:11 ID:AB5WvJwo

老人「……何じゃ」

狩人「そう露骨に嫌な顔をしないで頂きたい。貴方に訊ねたいことがあるのですよ」

老人「この里の成り立ちか? 魔物がいない理由か? そんなに教えて欲しければ教えてやる」

狩人「おや、それは有り難い」

狩人「しかし、どのような心境の変化ですか? 先日は無言を貫いておられましたが」

老人「里の者との話し合いで忙しかった。長話をしている暇はなかった。それだけだ」

狩人「そうでしたか、それは失礼」

老人「……」

狩人「しかしながら、伺いたいのは先程貴方が仰った中のどれでもないのですよ」

老人「勿体振らずに言え」

狩人「龍について」

老人「……」

助手「(僅かに動揺した。何かを知っているのか、ただ単に驚いただけなのか……)」

734 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:10:59 ID:AB5WvJwo

老人「龍が、何じゃ」

狩人「この里と龍はどのような関係ですか」

老人「……」

狩人「此処へ来る途中、子供達が遊んでいるのを見掛けました。子供達は、過去の物語をなぞっていた」

狩人「それが、いつの過去かは分かりませんが、まさか龍が登場するとは思いませんでしたよ」

狩人「しかも、龍になるなどと……幾ら子供の遊びであろうと、口にするはずのない台詞です」

老人「……」

狩人「身近な存在なのか、慕われているのか。どちらにせよ、人間の敵として扱っているようには到底思えなかった」

狩人「私には、英雄か偉人に対する扱いのように思えましたが、如何がでしょうか?」

巫女「待って。それは私が話ーーー」

老人「巫女、よいのだ。儂が話す。伏せていても、いずれは分かることだ」

狩人「助かります」

老人「その前に、診療所の中にいる二人を呼びなさい」

735 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:13:00 ID:AB5WvJwo

助手「二人? では、勇者さんが……」

老人「うむ、先程目が覚めた。話をするなら全員揃った方が良いだろう」

助手「分かりました。では、僕がお二人を呼んで来ます」ザッ

ガチャ…パタンッ…

老人「……」

狩人「何かを怖れているようですね。魔女ですか」

老人「……お主は眼が良いようじゃな。今時の人間にしては珍しい」

狩人「努力の賜物ですよ。最初から扱えたわけではありません」

老人「見えぬ方がよいこともある」

狩人「それは歳を重ねた人間の言葉ですか。それとも、見てきた人間の言葉ですか」

老人「……どちらもだ」

ガチャ…

狩人「来たか」

僧侶「お待たせしました」

勇者「待たせて悪かった」

736 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:13:51 ID:AB5WvJwo

狩人「全くだ。この二日、助手は魔女への恐怖のあまり怯えていたのだよ?」

助手「えっ!?」

勇者「そうかい。そいつは悪いことしたな」

狩人「それで、体はどうなのかね? 脱出方法が分かり次第、すぐにでも出発したいのだが」

勇者「脱出? 何か分かったのか」

狩人「巫女が、この老人に協力を仰いでいた。彼の協力があれば、出られるのではないのかな?」

巫女「それは……」

僧侶「……」

狩人「まあいい。それで、体の方はどうだ」

勇者「問題はねえよ。お前は?」

狩人「問題ない」

勇者「……良いんだな」

狩人「良いとも」

助手「(共に行く、そう言うことか。と言うことは、これからは本当に協力して行動出来る)」

助手「(二人が争わずに済むという点では、勇者さんが力を失って良かったのかもしれない……)」

737 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:16:37 ID:AB5WvJwo

僧侶「お爺さん、お願いします……」

老人「分かっておる。焦らずとも話す。その前に、お主」

勇者「何だ」

老人「先程起きたばかりだが、本当に良いのか。お主を揺るがすことになるぞ」

勇者「聞かなければ始まらないだろう。それに、あんたが協力出来ない理由も分からないんだ」

勇者「巫女なら知っているんだろうが、これはきっと、あんたから聞くべきなんだろう」

巫女「……」ギュッ

勇者「巫女、責めてるわけじゃない。この里の存在を教えてくれなければ、俺達は終わっていた」

巫女「そうじゃない。貴方にとって、これが本当に良いことなのか分からないの」

勇者「何もかも分かる。そう言っただろ?」

巫女「言った。言ったけど、諦めてはくれないの? このままじゃ駄目なの?」

勇者「それは無理だ。俺はもう知っちまった。この記憶は消せない」

巫女「……」ギュッ

勇者「さあ、何もかもを、話してくれ」

老人「……良かろう。儂が知っていることは教える。長くなるが、最後まで聞け」

738 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:18:46 ID:AB5WvJwo

老人「儂等が何故此処に移り住むこととなったのか。魔物の有無、教会の有無」

老人「何故にお主等と違うのか。これらは、里の起こりから話さねばならん」

老人「龍を語るにも、それをなくして語ることは出来んのだ。まずは始まりからだ。全てのな」

勇者「……」

老人「当時、儂等は……いや、人間は進化を目指しておった。人間と言ってもお主等とは違う」

老人「寿命は比べものにならぬ程に長く、人間本来の力を持っていた。魂の力じゃな」

老人「そして魔力。これも、現在の人間とは容量が違う。全てにおいて、現在の人間より優れていると言って良いだろう」

老人「だからこそ進化を目指したのだ。より完全な種となる為にな」

老人「此処に隠れ住むこととなったのは、正に、その進化というものが原因なのだ」

老人「人間は進化を目指し、ひたすらに走り続けた。様々な宗教に属する人間が、それぞれ違った方法で、心に抱く神に近付こうとした」

老人「それが悲劇を生んだ。人間は、踏み込んではならない領域に踏み込んでしまったのだ」

老人「生命の在り方を歪め、更に高い次元の存在になろうとした結果、人は人ではいられなくなった」

助手「それは、失敗したというのことですか」

老人「いいや、進化は成功した。だが、それは最早人間と呼べる存在ではなかったのだ」

老人「そしてそれが、悪魔と呼ばれる存在。逸した存在であり、超越した者達」

739 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:19:56 ID:AB5WvJwo

勇者「……」

助手「……」

老人「人間なんじゃよ。何もかも人間なのだ。悪魔などいない。あれらも、元は人間なのだ」

老人「その先を想像するのは容易いじゃろう。進化を手にした人間と、そうではない者達……」

狩人「支配。反発。そして戦」

老人「そうじゃ。儂等とて、奴等に怯えているだけではなかった。長きに渡って戦った」

老人「戦の最中に生まれ子供達も、長き戦の中で成長し、また新たな戦士となった」

老人「しかし、悪魔の力は凄まじく、一度は立ち上がった者達も次第に屈していった」

老人「最早支配を受け入れるしかないと、皆がそう思い始めた時、彼が現れた」

助手「その時代にも勇者が?」

老人「いいや違う。それこそが、龍」

勇者「!!」

狩人「!?」

老人「驚くのも無理はない。今では全く異なる解釈をされいるようだからな」

勇者「馬鹿な。龍は化け物の王だ。奴が魔物を、悪魔を支配している超常の存在。それが……」

740 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:22:32 ID:AB5WvJwo

老人「それが、何じゃ」

勇者「それが、常識だ」

老人「それらは人間が作った歴史。全ては偽りの積み重ね。そうすることで力を得るのは誰か」

老人「人心を掌握するに一番効率的な方法とは? 咎められることのない存在とは何ぞや」

狩人「教会が作り上げたと言うのか」

老人「それ以外にないじゃろう。あの戦の後、人間には縋るものが必要だったのだ」

老人「短命の人間は異様なまでに死を怖れ、異様なまでに神に祈り、そして縋った」

老人「悪魔という存在は、新たな神を信仰する者にとって実に好都合じゃった」

僧侶「……」

老人「同時に、消し去りたい過去でもある」

老人「戦が終わった後、憎き悪魔が元は人間だったなどと、すぐさま消し去りたかった記憶に違いない」

僧侶「……」ギュッ

老人「……龍について、まだ話しておらんかったな」

老人「龍とは戦の最中に進化した唯一の者。正に英雄、救世主と呼ばれた男。ただ一人、本当の意味で、進化に成功した人間なのだ」

741 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:24:07 ID:AB5WvJwo

助手「本当の意味での成功とは?」

老人「進化の方法は、世代交代しながら受け継がれた。数ある宗教がそうしていた」

老人「それぞれが思い描く神になる。それこそが、奴等の目指した進化の果て」

老人「しかし、如何なる宗教にも属さず、一代で進化に辿り着いた。それが、龍」

老人「彼は進化しても自己を保っていた。そして人間として、人間を守る為に戦った」

勇者「そんな奴が何故ーーー」

老人「落ち着け。まずは聞くのだ」

勇者「っ、済まない。続けてくれ……」

老人「……龍は悪魔を片っ端から倒し、封じた。しかし、中には残った者達もいる」

僧侶「夢魔……」

老人「夢魔は残ったのではなく、免れた種族。妖精、精霊と呼ばれる者達は共存を望んだ」

老人「夢魔は違うが、精霊は人間と共存していたのだ。今では儂等と同じく隠れておるだろうがな」

助手「待って下さい。では、彼等も……」

老人「先に言ったであろう。人間ではない者など、この世界にはおらん」

老人「人間は、進化に取り憑かれたのだ。危険が伴うのも承知で進化を求めた」

742 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:25:44 ID:AB5WvJwo

老人「最初に成功した者が現れてから、誰もが支配に怯えていた。だからこそ躍起になったのだ」

老人「中には獣のようになった者もいる。人を喰らう種族までが生まれてしまった」

老人「あれは最早、進化と呼べるものではない。生命の暴走、ある種の滅びとも言えるだろう」

助手「……」

狩人「続きを」

老人「龍は大半の悪魔を滅ぼした。封じたのは殺せぬ者達じゃ」

老人「高位、王位ともなれば、特定の条件でしか殺害出来ない者もいる」

老人「羅刹王が良い例じゃろう。奴は人間にしか殺すことが出来ぬ」

狩人「……」

老人「龍は強大な悪魔を封じ、己の力で蓋をした。丁度、今のお主等と魔女に似ておるな」

老人「そして、戦の後期から、お主等のような短命の人間、現在の人間が生まれるようになった」

老人「原因は今でも分からん。罰と受け取る者もいた。これこそが進化なのだと受け取る者もいた」

老人「短命だからこそ、その時間の中で何かを追い求める。進化ではない、手の届く何かをな……」

狩人「……」

助手「(皮肉な話だ。人間は既に進化していた。今の話、狩人さんには……)」

743 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:27:19 ID:AB5WvJwo

老人「その者達が作り上げたのが、教会じゃ」

老人「先程、教会が歴史を歪め、悪魔を単なる人間の敵としたと話したが、あれにはまだ続きがある。続きとは、龍のことじゃ」

老人「儂等は忘れようもないが、新たな人間は違った。記憶は受け継がれないからの」

老人「戦が終わって百年が経ち、三百年が経つ頃には、戦の原因は忘れ去られていた」

老人「その頃になって寿命で亡くなる者も多くなり、儂等のような人間は急激に減り始めた」

老人「その間にも時代は急速に移り変わり、戦のことなど何も知らぬ世代が台頭した」

老人「戦も、人間の罪も知らぬ、穢れのない世代。それこそが、何よりも罪深いと思うがの……」

狩人「……」

老人「そんな人間の中に、儂等の居場所などあるはずもない……」

助手「それで此処に移住を?」

老人「移住と言えば聞こえは良いが、儂等は逃げたのだ。彼を置いてな」

助手「彼。龍ですね?」

老人「うむ。彼は残らねばならんかった。留まることで、蓋をしておるからの……」

744 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:29:08 ID:AB5WvJwo

老人「……続けよう」

老人「儂等が移住してから更に時が経ち。戦の傷跡は消え去り、お主等は更に繁栄した」

老人「新たに生まれた宗教……今で言う教会の存在も、この頃には確固たるものとなっていた」

老人「確立されたのは教会だけではない。偽りの歴史も浸透した。当然、偽りの歴史を作り上げた教会に属する人間にさえもな」

僧侶「……」

老人「こうして人間は、歴史が偽りで作り上げられたものであることさえも忘れたのだ」

老人「大雑把に話したが、これが儂等の歴史。人が忘れた、人の犯した罪」

勇者「……」

狩人「……」

老人「……これで分かったであろう。救い主を、龍を、人間が歪めたのだ」

老人「人間が人間として生きる為に、新たな敵を作り上げる為に、龍は魔に堕とされ狂わされた」

老人「人間の敵など最初からおらん。全てが、人間の作り上げたものなのだ」

745 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/04(日) 01:31:33 ID:AB5WvJwo

勇者「……」

老人「信じられぬならそれでもよい。だが、不思議に思うたことはないのか?」

老人「龍が人間の敵、魔の王だと言うのなら、龍は何故今まで人間を滅ぼさなかったのだ?」

老人「真実はその逆なのだ。龍とは人間の守護者。彼は今でも、世界を守っている」

勇者「なら何故、羅刹王が現れた」

老人「龍の力が衰えたのだ。それ以外に考えられん。故意に解いたとするなら、今頃は悪魔で溢れかえっておるわ」

勇者「……」

老人「人は進化を目指して悪魔となり、ある人間は人として生きる為に龍となった」

老人「人は勝利したが、過去を偽り、今や罪を忘れ、人を救った龍を悪魔とした」

老人「龍は堕とされ、悪魔の王と蔑まれ、人間は龍を憎み、討ち果たさんとしている」

老人「龍によって封じられた悪魔を、人間は自らの手で解き放とうとしておるのだ」

老人「始まりから今まで、これら全ては人のため。何とも救えぬ話よな……」

746以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/04(日) 07:08:01 ID:6Z3BkQlU


747以下、名無しが深夜にお送りします:2018/11/04(日) 14:32:21 ID:oSRt1IKY
地の文入れて登場人物に名前付けてカクヨムあたりに投稿したら星200ぐらいはすぐ付くと思う

748 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:08:17 ID:4irgK4KA

【#7】親子

勇者「人間が龍を狂わせたと言ったな」

老人「うむ」

勇者「……狂った原因は何だ。それも人間の認識がどうこうって話か。いつから狂った」

老人「完全に狂ったわけではない。僅かに保っているはずじゃ。だが、今や呑まれつつある」

老人「その兆候は以前からあったようだが、決定的となったのは五年前」

老人「お主の育て親である先の勇者との戦い。龍はその後、精神に明らかな異常を来した」

勇者「あの戦いが原因だってのか……」

老人「他にも要因はある。最後の一押し、決定的となったのが五年前の戦いなのだ」

老人「龍は強靭な精神を持つからこそ、龍となってからも己の人間性、その高潔な精神を保ち続けていた」

老人「しかし、結果として、それが仇となった」

助手「人間だから、ですか」

老人「その通りじゃ。人間であり続けようとしたが為に、龍は耐え難い苦痛を受けることとなる」

老人「戦後の孤独、歴史改竄による人間の裏切り。それらが龍の精神を着実に蝕んでいった」

老人「儂等が移住してからは更に進んだ。自分を知るものが去り、遂には悪魔の王に堕とされたのだ」

749 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:08:48 ID:4irgK4KA

【#7】親子

勇者「人間が龍を狂わせたと言ったな」

老人「うむ」

勇者「……狂った原因は何だ。それも人間の認識がどうこうって話か。いつから狂った」

老人「完全に狂ったわけではない。僅かに保っているはずじゃ。だが、今や呑まれつつある」

老人「その兆候は以前からあったようだが、決定的となったのは五年前」

老人「お主の育て親である先の勇者との戦い。龍はその後、精神に明らかな異常を来した」

勇者「あの戦いが原因だってのか……」

老人「他にも要因はある。最後の一押し、決定的となったのが五年前の戦いなのだ」

老人「龍は強靭な精神を持つからこそ、龍となってからも己の人間性、その高潔な精神を保ち続けていた」

老人「しかし、結果として、それが仇となった」

助手「人間だから、ですか」

老人「その通りじゃ。人間であり続けようとしたが為に、龍は耐え難い苦痛を受けることとなる」

老人「戦後の孤独、歴史改竄による人間の裏切り。それらが龍の精神を着実に蝕んでいった」

老人「儂等が移住してからは更に進んだ。自分を知るものが去り、遂には悪魔の王に堕とされたのだ」

750 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:10:55 ID:4irgK4KA

狩人「それでも保っていたのだろう。それが何故、たった一度の戦いによって異常を来す?」

老人「自らが龍となってまで救った人間に戦いを挑まることが、どれ程のことか分かるか」

狩人「……」

老人「戦うだけならば問題はなかったかもしれんが、戦った人間による影響が大きかった」

老人「これまでにも名声欲しさに挑んでくる輩はいただろうが、その時だけは明らかに違っていたのだ」

助手「違う、とは?」

老人「その男は、心から平和を願っていた。人の世の平和。その為に戦った」

老人「純粋に平和のみを願い、己を犠牲にすることさえも覚悟した男。それが、先の勇者」

老人「龍にとって、その姿は正に、嘗ての己そのものだった」

老人「その男の強靭な意志、魂を叩き付けられた時、龍の精神は凄まじい打撃を受けたに違いない」

老人「だが、自分が死ねば封印が解ける。悪魔が雪崩れ込み、この世は再び地獄と化してしまう」

老人「龍には戦うことしか出来なかったのだ。龍もまた、人の世を守る為に戦った」

狩人「待ってくれないか。戦いを避けることも出来たと思うのだが」

老人「その男に宿る力を危惧したのだ」

狩人「これまでにも力を宿した人間はいた。何故、彼だけを危険視する」

751 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:11:56 ID:4irgK4KA

巫女「それについては私が説明する」

狩人「……それは助かる」

巫女「龍が彼を危険視したのは、崩壊の怖れがあったからだと思われる」

巫女「引き出した力が上限を超えた場合、世界そのものに圧が掛かり、危険に晒される」

狩人「力の暴走か」

巫女「暴走ではない。そもそも認識が違う」

狩人「何?」

巫女「あれは人間が生み出したわけではない。元の私と同じ、始まりから存在した原初の何か」

巫女「あれもまた人間によって認識された。そういう意味では、生み出されたとも言える」

巫女「厳密に言えば、宿るのは力そのものではなく鍵のようなもの。鍵であり、扉」

狩人「鍵?」

巫女「鍵というのは、あくまで例え」

巫女「あれは物質界に存在しない。此処とは違う場所、異なる次元、扉の向こう側」

巫女「そこに大いなる力が在る。意思はなく、肉体もなく、ただ、そこに在る」

752 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:13:01 ID:4irgK4KA

巫女「鍵を持つ者はその場所と繋がる。精神と肉体、魂が、鍵を通じて繋がる」

巫女「そのものと繋がるわけではなく、扉の隙間……鍵穴から漏れ出る程度の僅かな力を得ているに過ぎない」

巫女「何故鍵が存在するのか、何故人間のみに宿るのかは分からない。私と違って、あれは意思を持たない」

巫女「ただ、本質が近い生物に宿る傾向がある。それが人間、創造と破壊の生物」

巫女「鍵が人間に宿るのは、何かが生まれ、何かが滅ぶ時。何かが始まり、何かが終わる時」

狩人「……」

巫女「彼の意志は、龍と比較しても遜色ない程に強かった。それ故に、莫大な力を引き寄せた」

巫女「危険視したのは、それによって扉が完全に開かれ、創造と破壊そのものが溢れ出てくること」

勇者「……」

老人「納得出来ぬようだな。真実を知って尚、龍を憎むか」

勇者「そう簡単に納得出来るかよ」

老人「納得は出来なくとも理解はしたはずだ」

老人「復讐を果たすことが何を意味するのか、それが分からぬわけではないだろう」

753 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:14:36 ID:4irgK4KA

勇者「……」ギュッ

老人「だから言ったのだ。お主の戦いは終わったとな。復讐の旅は、此処で終いだ」

勇者「復讐を諦めても滅びは起きる。俺は魔女を止める。此処に留まるつもりはない」

老人「ほう、これまで復讐に生きてきた人間の言葉とは思えんな」

老人「生きる目的を見失い、戦いに縋り付いているだけではないのか」

勇者「あ?」

老人「育て親の人生が無意味であり、偽りの歴史に踊らされたに過ぎない」

老人「お主はその事実を受け入れられぬだけだ」

老人「今のお主には何もない。生きる意味を見失い、戦いに縋り付いているだけの子供に過ぎぬ」

ガシッ!

老人「相も変わらず、気の短い男じゃな」

勇者「ふざけんな、黙っていられる奴がいるか」

勇者「親の人生が無意味だったと言われて、それを受け入れる子供が何処にいる」

754 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:16:33 ID:4irgK4KA

老人「……」

勇者「あんたからすれば、あの人も俺も、守護者を殺そうとした愚か者なんだろう」

勇者「ただ、あの人は信じていた。龍を倒せば世界は平和になる。皆が笑顔でいられる……」

勇者「そう信じて、それだけを夢見て、あの人は最期まで戦ったんだ」

勇者「それを無意味だと言われて、このまま終われるか。俺が諦めれば、本当に無意味になる」

勇者「あの人も、前の俺も、今の俺が諦めることなど認めはしない。何より、俺自身が認めない」

老人「……」

勇者「俺は、まだ終われない」

老人「そこまでする意味が何処にある?」

老人「今のお主はただの人間なのだぞ。それを忘れたわけではあるまい」

勇者「あんただって、ただの人間なのに化け物と戦っただろう」

勇者「足掻いて抗って、戦ったんじゃねえのか。それが無意味だと思ったことはないはずだ。だから頼む、力を貸してくれ」

老人「里を出て、魔女を止める、か?」

勇者「ああ、そうだ」

老人「お主は魔女を分かっておらん」

755 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:18:39 ID:4irgK4KA

勇者「っ、あんたは知ってるってのかよ」

老人「ああ、今のお主によりは知っている」

老人「魔女は以前、此処にいたのだ。お主と、今の僧侶が出会うまでな」

勇者「!!」

僧侶「!!」

老人「巫女に、三人の成り立ちは聞いたか」

勇者「……ああ、聞いた。それぞれが違う立場で世界を見て、世界を決める」

老人「では、魔女が滅ぼすと決めた理由は知っているか」

勇者「……」

老人「その様子だと、はっきりとした理由は知らぬようだな」

巫女「人心の荒廃と堕落、憎悪と狂気が渦巻く世界を終わらせる。彼を使って」

巫女「魔女は、そう言っていた」

老人「だが、そうはしなかった。違うか?」

巫女「違わない。しかし、魔女は力を奪った。滅ぼそうとしているのは間違いない」

老人「儂が言いたいのは、そうする理由じゃ。いや、そうせざるを得なかったと言っていい」

756 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:19:16 ID:4irgK4KA

巫女「魔女は自分で決めた」

老人「違う。そうではない」

巫女「どういう意味? 何を言いたいのかが分からない。貴方には分かるの?」

老人「魔女の役割は既に決まっていたのだ」

巫女「それは知らない。元の私は、自分で決めろと言った。三人が決めると、そう言った」

老人「それは誰が言った。誰によって得た?」

老人「三つに分かれた時、誰が現状を説明した? 元の存在がそう言ったと話したのは誰だ?」

巫女「……」

老人「……魔女は多くの感情、多くの記憶、多くの力を受け継いだ。人格さえもな」

勇者「人格?」

老人「受け継いだのは元の人格じゃ。お主も知っている始まりの存在。一つであった頃の僧侶」

老人「巫女や僧侶のように元となった人格の上に成り立つのではなく、そのものを受け継いだ」

勇者「それが滅びを選んだのと何の関係がある」

老人「爆発が起きた時、感情の波が押し寄せた。儂はその時、彼女の心を垣間見た」

老人「彼女が望んだのは、お主の生きる世界。付け加えるならば、争いのない、平穏な世界」

757 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:22:42 ID:FFntVMcU

僧侶「(私と同じ……違う。私が同じなんだ……)」

老人「それと同時に、人間を憎んでいた。爆発と同時に全てを思い出したのだ」

老人「その抑えがたい憎悪と、お主への激情を一身に背負った存在。僧侶でもなく、魔女でもない」

老人「それ故に、魔女は自らの道を決めることが出来なかった。僧侶ではいられなかったのだ」

勇者「……」

魔女『私は魔女。もう、僧侶じゃない。私は、僧侶にはなれなかった』

勇者「……」

僧侶「お爺さん」

老人「うむ、何じゃ」

僧侶「魔女は、私に期待していたと言っていました。その意味は分かりますか?」

老人「……魔女が何を思っていたのか、その全ては分からぬが、思い当たる節はある」

758 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:24:29 ID:FFntVMcU

僧侶「教えて下さい」

老人「後悔すると言っても無駄なのだろうな」

僧侶「……」

老人「……よかろう。僧侶、分かれた三人の中で、お主だけが記憶を持っていない。そうだな?」

僧侶「はい……」

老人「だが、今は魔女の心を理解出来る」

僧侶「……はい」

老人「それが何故だか分かるか?」

僧侶「生まれた理由を知ったからです」

老人「違う。同じ経験をしたからじゃ。同じ経験をし、同じ思いを抱いておるからなのだ」

僧侶「!!」

老人「元が一つであったとは言え、お主に以前の記憶はない。お主は、全く別の存在なのだ」

老人「記憶、感情、人格、それらを受け継いでいない。それが何故、魔女を理解出来る?」

老人「例え生まれた理由を知ろうとも、その心に抱く思いが違っていれば理解は出来ないはずだ」

老人「にもかかわらず、お主は魔女の思いを理解出来ている。それは何故だ」

759 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:26:30 ID:FFntVMcU

僧侶「同じ経験を、したから……同…じ…」

老人「そう、魔女は再現したのだ。嘗ての自分が経験したことを、お主にも経験させた」

老人「だからこそ、お主は魔女を理解出来る。同じ思いを抱く者としてな」

僧侶「全てが、仕組まれたことなのですか……」

老人「言っておくが、同じ経験をしたからと言って、同じ思いを抱くとは限らん」

老人「お主がどのように考え、どのような人間になるのか、それは魔女にも分からぬはずだ」

僧侶「では何故……」

老人「教えたかったのかもしれん」

僧侶「えっ?」

老人「人の醜さ、信仰の脆さ、喪う恐怖、戦わねば生きられぬということ……」

老人「これらは魔女なくして知り得なかったこと。そして、魔女が痛感したことでもある。僧侶であった頃にな」

僧侶「それを教えて、何がしたかったのでしょうか……」

老人「……それは、儂にも分からん」

僧侶「(っ、大丈夫。もう揺らぐことはない。私はもう決めている。だけど、魔女は何を……)」

760 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:29:17 ID:FFntVMcU

魔女『そうね。貴方が私になれるはずがない。僧侶はもういないのだから』

魔女『僧侶が彼を救っていたら、僧侶が彼を支えていれば、こんな今にはならなかった』

魔女『僧侶が傍にいた意味なんてなかったのよ。何一つ、与えられなかったのだから……』

僧侶「(与えられなかった。確かにそう言っていた。きっと、与えたかったんだ。でも、何を?)」

勇者「僧侶、どうした。大丈夫か」

僧侶「えっ? あ、はい。私なら大丈夫です」

僧侶「あの子も心配していましたけど、私が思っていたより、私は弱くなかったみたいです」

勇者「そうか……」

僧侶「……心配しないで下さい。怖いですけど、本当に大丈夫ですから」

勇者「……分かった」

老人「……」

勇者「爺さん、続けてくれ」

老人「では、話を戻そう」

老人「先程話したが、魔女の道は既に決められていた。滅びを選択する他になかった」

老人「だが、それでも尚、お主を守ろうとした。だからこそ、この里の扉を封じたのだ」

761 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:33:15 ID:FFntVMcU

勇者「封じたのは分かる。だが、守るってのは何だ。魔女は、あの力で何をするつもりなんだ」

老人「再び爆発を引き起こす」

勇者「!!」

老人「お主から力を奪ったのは、あの力を利用し、爆発を引き起こす為だ」

老人「それは、この里に魔物がいない理由とも密接に関係しておる」

勇者「……どういうことだ」

老人「まず、魂が消えることはない。そして、魂は一つの層にのみ集まる」

老人「それが、お主等の生きる場所じゃ」

老人「魂が留まり続けているからこそ、蘇生の法で呼び戻すことが可能なのだ」

老人「しかし、長い時が経つと魂は澱む。澱んだ魂は穢れ、収束、変質し、それが魔物となる」

老人「当然、殺された魔物の魂もその層に留まる。魂は消えることなく溜まり続ける」

老人「この悪しき輪廻が続く限り、魔物が消えることはない。これも、人間によって生み出されたものなのだ」

勇者「消すつもりか……」

老人「今ある命を消し去り、世界を清め、人の生み出した穢れを洗い流す」

老人「狂わされた龍、封じられた悪魔、穢れた魂の輪廻、それを生み出す人間、全てをな……」

762 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:34:23 ID:FFntVMcU

老人「勿論、爆発を起こせば魔女も消える。一度目とは違い、爆発には耐えられぬだろう」

助手「っ、その爆発の規模は? 我々のいた場所に限ったものですか? それとも全ての層が?」

老人「全てだ。だが、この里は残る」

狩人「何故?」

老人「この層には魔力防壁を施してある。里に生きる全ての者が、全ての魔力を捧げた防壁がな」

老人「それによって以前の爆発から免れたのだ。被害は出るだろうが、儂等は生き延びる」

老人「此処に残れば、まだ助かる可能性はある。戻れば確実に巻き込まれる」

勇者「……」

老人「もう、察しは付いたじゃろう。魔女は、お主に生きて欲しいのだ」

老人「今のお主と同じく、魔女も二つの顔を持つ。僧侶であった自分と、魔女である自分」

老人「何もかもを憎みながら、決して捨て去ることの出来ない感情持つ、歪められた存在」

老人「結果として滅ぼすと選択したが、そこに行き着く過程で一切の葛藤がなかったと言い切れるか?」

老人「魔女にも心がある。お主に抱いた想いは計り知れん。親としてか兄としてか、或いは……」

763 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:36:02 ID:FFntVMcU

勇者「……」

老人「……最初の接触、敵としてお主の前に現れた魔女が何を思っていたか、それを考えたことがあるか」

勇者「……」

老人「儂には魔女が痛々しく見えた。何かに縛られているようにも思えたのだ」

老人「それ故に、お主を此処に匿うようにと言われた時、儂は断ることが出来んかった」

勇者「……」

魔女『安心して頂戴。後は私がやるから』

勇者「……」

老人「今のお主には、失われた時の記憶がある」

老人「今ならば魔女の心が理解出来るはずだ。お主は、それでも行くと言うのか」

勇者「ああ、俺は行く。今のを聞いて、尚更諦めるわけにはいかなくなった」

老人「魔女は既に決断したのだぞ」

勇者「何が決断だ、そんなもん知るか。何もかもを、ガキに背負わせるわけには行かねえだろ」

764 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:41:57 ID:FFntVMcU

【#8】吐露

老人「答えよ。何が、お主をそうさせる」

勇者「……今の俺は、あいつを知っている。あいつが子供だった頃の記憶、共に過ごした記憶がある」

勇者「今思えば、あの人を真似ただけなのかもしれない。或いは自分を重ねたのかも分からない」

勇者「こんな奴でも誰かを守ることが出来るのだと、そう信じたかっただけなのもしれない……」

勇者「今考えれば色々と思い付くが、理由はどうあれ、俺はあいつの傍にいると決めた。ただ、そうしようと思ったんだ」

巫女「……」

勇者「だが、いつしか俺の方があいつを必要としていた。支えるつもりが、支えられていたんだ」

勇者「それからも旅は続いたが、結果として俺は、あいつを置いて行った」

老人「怖ろしくなったのか。誰かに必要とされ、誰かを必要とすることが」

勇者「もっと言えば、逃げたんだ。あいつの為だと思って離れたが、本当はそうじゃないはずだ」

勇者「きっと、あの時の俺は、戦いの先を望んでしまいそうな自分が許せなかったんだろう」

勇者「俺は戦いに逃げて、龍に挑んで死んだ。当たり前だ、逃げた奴が勝てるわけがない。その結果、あいつは爆発を起こした」

765 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:43:26 ID:FFntVMcU

僧侶「……」

勇者「あいつは神でもなんでもない。人間に、神のような力を押し付けられただけだ」

勇者「全てを人間が創造したのなら、今を何とかするのは人間しかいない」

勇者「たった一人に、子供に、この世の全てを背負わせる。そんな、ふざけた話があるか」

勇者「あいつがどう思っていようが関係ない。これ以上の何かを押し付けたくはない」

老人「……それは本心か」

勇者「信じられないのは分かる」

勇者「俺は、何かを憎んで、その為だけに生きてきた。それは間違いない。否定しようがない」

勇者「全てを聞いた今でも、それは消えずに俺の中にある。きっと、消えることはないだろう」

勇者「だが、それだけじゃない。俺の中にあるのは、それだけじゃなかったんだ」

老人「……」

勇者「僧侶が俺に意味をくれた」

勇者「前の俺にも、今の俺にも、確かに与えられたものがある。それが今でも、俺を支えてる」

僧侶「……」

勇者「あいつを、消えさせはしない」

766 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:47:19 ID:FFntVMcU

老人「出来るのか」

勇者「何とかする。俺にはそうしなければならない理由がある。僧侶と共に歩んだ者として」

老人「……巫女」

巫女「何?」

老人「この男と共に歩む。その覚悟はあるか」

巫女「ある」

老人「魔女を止めるということが何を意味するのか、お主は理解しているのか」

巫女「してる。私はきっと、その為に在る」

老人「……よかろう。儂に付いてこい」

巫女「分かった」

老人「勇者よ」

勇者「……」

老人「龍を、同士を見捨てた人間が言えたことではないが、お主に頼みがある」

767 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:48:43 ID:FFntVMcU

勇者「何だ」

老人「人間を、救ってくれ……」

勇者「悪いが、返事は出来ねえ」

老人「それでもよい。お主なら、いや、お主達ならば、何かを変えられると信じている」

勇者「……」

僧侶「……」

巫女「……」

老人「儂等には成し得なかったことを、儂等には見えなかった未来を、見せて欲しい」

狩人「……」

助手「……」

老人「……魔女が爆発を起こすまでには時間がある。まだ、力は馴染んでおらん」

老人「お主達は旅立つ準備をしておけ。里の者も協力する。では巫女、行こうかの」ザッ

768 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:49:47 ID:FFntVMcU

勇者「……」

巫女「ねえ、あなた」

勇者「ん? どうした?」

巫女「私も決めた。だから、私のことを見ていて欲しい。巫女を、見ていて欲しい」

勇者「……ああ、分かったよ」

巫女「ありがとう。私は、扉を開けてくる」

トコトコ…

勇者「巫女」

巫女「?」クルリ

勇者「お前は決めたと言ったが、急いで決める必要はない。お前はまだ子供なんだ」

勇者「だから、これから知っていけばいい。もっと世界を見て、もっと多くのものを感じるんだ。それからでも遅くはないはずだ」

巫女「……」

勇者「巫女?」

巫女「ちょっとだけ吃驚した。前も、同じようなことを言われた」

769 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:51:53 ID:FFntVMcU

勇者「まあ、同じ奴だからな……」

巫女「……」

勇者「?」

巫女「前と同じにはならない?」

勇者「ならない。今度は、逃げる為に戦うわけじゃない」

巫女「もう、置いていかない?」

勇者「……ああ。もう二度と、あんな真似はしない」

巫女「ほんとう?」

勇者「ああ、本当だ」

巫女「……分かった」

勇者「さあ、そろそろ行くんだ。爺さんに置いて行かれるぞ?」

巫女「うん……」

トコトコ…

770 ◆GC8HKbhIcg:2018/11/21(水) 22:53:51 ID:FFntVMcU

巫女「(あの人の瞳に嘘はなかった)」

巫女「(一度目とは違う。確かに違う。けれど、結末を覆すのは容易なことではない)」

巫女「(魔女にも、私にも、未来を見通すことは出来ない。そのはずなのに、感じる)」

巫女「(彼の死が、避けられないものである)」

巫女「(そう感じたからこそ、魔女は此処に閉じ込めたのではないの?)」

巫女「(でも、此処から抜け出すことすら予測しているとしたら? この先にも何かがあるの?)」

巫女「……」

巫女「(やっぱり、何も見えない)」

巫女「……」ギュッ

巫女「(一つだった時は、知りたくないことでさえ、次々と流れ込んできたのに……)」

771以下、名無しが深夜にお送りします:2019/03/31(日) 13:32:32 ID:1Jh45Hls
上げ

772以下、名無しが深夜にお送りします:2019/04/22(月) 23:29:51 ID:2gJFwj.s
待ってます

773以下、名無しが深夜にお送りします:2019/06/06(木) 19:32:21 ID:f1i03Kdo
面白い
ぜひ続きが読みたい
待ってる

774以下、名無しが深夜にお送りします:2019/07/06(土) 15:22:26 ID:iETZYnsk
待ってる

775以下、名無しが深夜にお送りします:2019/11/26(火) 13:58:37 ID:BuzqadJc
浮上

776以下、名無しが深夜にお送りします:2020/01/09(木) 00:19:08 ID:JIqEx1Ug


777以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/03(金) 09:55:10 ID:iAsmClhg
待ってる

778以下、名無しが深夜にお送りします:2020/11/16(月) 10:34:05 ID:1SEdapHw
保守

779以下、名無しが深夜にお送りします:2020/11/22(日) 01:43:40 ID:giXh5ZGk
おーい、続き頼む

780以下、名無しが深夜にお送りします:2020/11/22(日) 01:46:51 ID:giXh5ZGk
こんなに没頭した話ははじめてだよ面白い


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