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【ぼく勉】小美浪先輩「この前は本当に悪かった」成幸「はい?」

1以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:23:54 ID:w/7Zs4bc
………………海での一件から数日後 予備校

成幸 「なんです、藪から棒に」

小美浪先輩 「いや、メールでも謝ったけど、これだよ。ほれ」

成幸 (紙袋? 中身は……)

成幸 「あっ……ああ。これ、海で貸したシャツですね」

小美浪先輩 「いや、ほんと悪かったな。返すの忘れて先に帰って」

小美浪先輩 「メールでは大丈夫だったって言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

成幸 「えっ、あー……」

成幸 (……帰りに乗せてもらった桐須先生の車の運転は、正直全然大丈夫ではなかったけど、)

小美浪先輩 「? 後輩?」

成幸 (それをこの愉快的な先輩に話したら、また桐須先生をからかうネタにしかねないし)

成幸 (わざわざ言うことではないな。よし)

小美浪先輩 「おーい、こうはーい。どうしたー?」

成幸 「……すみません。大丈夫でしたよ。海の家ですぐに新しいシャツを買えましたし」

小美浪先輩 「そ、そうか……」 ホッ

23以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:55:01 ID:w/7Zs4bc
文乃 「!? な、なんで笑うんですか!」

小美浪先輩 「おいおい、笑うくらい許せよ。そんな見当違いなこと言われりゃ笑いもするさ」

小美浪先輩 「アタシが、後輩を、好き? はっ、そんなわけわかんねーこと言われりゃな」

文乃 「………………」

ジーッ

文乃 「……信じていいんですね?」

小美浪先輩 「信じるも信じないもお前次第だろ」

文乃 「……わかりました。信じます」

小美浪先輩 「そうか。そりゃ何より――」

文乃 「――――先輩、今日はいつもよりオシャレしてて、お化粧も気合い入ってる気がしたけど、」

文乃 「わたしの気のせいだったってことにします」 ニコッ

小美浪先輩 「………………」

小美浪先輩 「……お前ってさ、ホント、時々めっちゃ怖いよな」

24以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:57:18 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「……じゃあ、アタシもちょっとお前に聞かせてもらおうかな」

文乃 「……なんですか?」

小美浪先輩 「アタシに細かいことはわからない。後輩の色恋沙汰なんて、これっぽっちも興味はないからな」

小美浪先輩 「でも、お前と後輩の関係は、昔と今じゃ明らかにちがうよな?」

文乃 「……何が言いたいんですか」

小美浪先輩 「……“成幸くん”」

文乃 「あっ……」 カァアア…… 「そ、それは、その、ただの姉弟ごっこ、だから……」

小美浪先輩 「ふーん、そうかい。じゃ、そういうことにしといてやろうかね」

ニヤリ

小美浪先輩 「姉弟ごっこ、ねぇ。楽しそうで大層結構」

小美浪先輩 「いつまでその“姉弟”を続けられるのか、楽しみだな、古橋」

25以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:59:04 ID:w/7Zs4bc
………………唯我家

成幸 「はぁ……今日は本当に疲れた。先輩がいなかったらどうなってたことか……」

成幸 「先輩に本当に感謝だな。何かお礼しなきゃ……ん?」

ゴソッ

成幸 「紙袋? 誰かの忘れ物か?」

ピラッ……

成幸 (紙が出てきたけど、これ、手紙?)


『よう。お前が固辞するから、サプライズみたいになっちまったけど、これやるよ。

 アタシからのプレゼントなんて、アタシのファンなら垂涎ものだぜ?  小美浪あすみ』


成幸 「……? あっ、これ、シャツ……」

成幸 「わざわざ買ってきてくれたのか、先輩……」

成幸 「あいつらの勉強も手伝ってもらったのに、なんか申し訳ないな……」

成幸 「なんだかんだ、本当に面倒見が良くて優しい人だよな、あしゅみー先輩って」

成幸 「今度、本当に何かお礼しないとな……」

26以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 00:00:10 ID:Wk/a4uWM
………………小美浪家

小美浪先輩 「ただいまー」

小美浪父 「おお、おかえり、あすみ」

ニコニコニコ

小美浪先輩 「……んだよ、キモいな。何をニヤニヤしてんだ」

小美浪父 「いやな、今日は唯我くんとデートだったんだろう?」

小美浪父 「どうだった? 楽しかったか? どこに行ったんだ」

小美浪先輩 「アタシは小学生か」

ハァ……

小美浪先輩 「何もないよ。アイツの家に行って勉強しただけだ」

小美浪父 「!? 家!? 唯我くんの家にか!?」

小美浪先輩 「それがどうかしたかよ……」

27以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 00:00:41 ID:Wk/a4uWM
小美浪父 「………………」

スッスッスッ……

小美浪先輩 「おい。なに無言で着替えを始めてんだ。なんで背広なんか引っ張りだしてんだよ!」

小美浪父 「少し早いかもしれないが、挨拶をしておかなければならないと思ってな」

小美浪先輩 「あいさつって……」

小美浪父 「唯我くんのご家族に。娘のことをよろしくお願いしますとな」

小美浪先輩 「は……?」

小美浪父 「なに、心配するな。あの唯我くんのご家族だ。きっと良い方たちに決まってる」

小美浪先輩 「……うん。まぁ、いつかは言わなきゃいけないと思ってたから、今言うけど」

小美浪先輩 「あんま暴走しすぎるようだと、いい加減殴るぞー、親父ー?」

28以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 00:01:44 ID:Wk/a4uWM
………………幕間 唯我家

水希 「ただいまー」

水希 「……?」

水希 「この匂いは、緒方さん、古橋さん、武元さん……だけじゃない」

水希 「新しい女の匂いがする……!!」 ギリリッ

おわり

29以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 00:03:24 ID:Wk/a4uWM
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございました。

スレ節約のために、ぼく勉のSSをこのスレッドにまた投下すると思います。

30以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:35:43 ID:bgRCVaD6
>>1です。もうひとつお話を投下します。
つたないSSで恐縮ですが、読んでいただけたら嬉しいです。


【ぼく勉】桐須先生 「不可解。どうしたというの、唯我くん」

31以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:36:45 ID:bgRCVaD6
………………海の帰り ショッピングモール駐車場 車内

桐須先生 「一体どうしたというのかしら。地獄から帰ってきたような顔だわ」

成幸 「……どちらかといえば、地獄に行かずに済んだ顔ですけどね」

桐須先生 「君が何を言わんとしているのかまったくわからないわ」

成幸 (もう二度と絶対、この人の運転する車には乗らない……。命がいくつあっても足りない)

桐須先生 「では、行きましょうか。シャツとメガネを新調しに」

成幸 「あ、はい……でも……」

桐須先生 「? 何かしら?」

成幸 「さすがに、上半身裸のまま、ショッピングモールに入るのは……」

桐須先生 「!? そ、そういえばそうね……私としたことが、失念していたわ」

桐須先生 (……というか、今さらなことだけれど、)

桐須先生 (生徒とはいえ、上半身裸の男子と同じ車に乗っていたのね、私) ドキドキ

桐須先生 「す、少し車で待っていなさい。すぐに服を買って戻ってくるわ」

成幸 「すみません、お願いします」

32以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:37:44 ID:bgRCVaD6
………………ショッピングモール

桐須先生 (……とは言ったものの、よく考えたら私、男物の服なんて買ったことがないわ)

桐須先生 (そもそも唯我くんの趣味も分からないし……)

桐須先生 (どんな服を買っていったらいいのかしら……)

桐須先生 (……もしも、もしもよ、)

桐須先生 (私が選択をミスして、とてつもなく趣味の悪い服を買っていったりしたら、)

桐須先生 (……ダメよ。ただでさえ彼には情けない姿しか見せていないのだから、)

桐須先生 (これ以上教師としての威厳を失墜させることは許されないのよ)

桐須先生 (絶対に、彼に満足してもらえる服を買って行かなければ)

桐須先生 (ファストファッションはダメ。シンプルなものも多いけれど、変な装飾がついている可能性が高い)

桐須先生 (メンズファッションに疎い私が選ぶのだから、こういうときは、そう……)

桐須先生 (お高めのお店の服ならば、失敗はきっと少ないわ!)

33以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:39:14 ID:bgRCVaD6
………………駐車場 車内

成幸 「すみません、先生。助かりました」

桐須先生 「サイズなどは問題ないかしら?」

桐須先生 (無難。結局、お高そうなお店の店員さんにお任せしてしまったわ)

成幸 「はい、大丈夫です」

桐須先生 「そう。それはよかったわ」

成幸 「ただ……」

桐須先生 「ど、どうかしたかしら……」

成幸 「すごく着心地がよくて、高そうなんですけど……これ、いくらですか?」

桐須先生 「? どうしてお財布をだしているのかしら、唯我くん」

桐須先生 「今日は海でお世話になってしまったし、それは差し上げるわ」

成幸 「い、いやいや、そういうわけにはいかないですよ」

桐須先生 「却下。私の教師としての体面も少しは察しなさい」

34以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:40:38 ID:bgRCVaD6
成幸 「でも……」

桐須先生 「口止め料、といったらいかがわしいけれど、」

桐須先生 「今日のことを黙っていてもらう担保だとでも思って頂戴」

桐須先生 「それに安物の服よ。社会人の私からしたら取るに足らないお金だわ」

桐須先生 (……本当は福沢諭吉先生が消えたのだけれど)

成幸 「……わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて、頂戴します」

成幸 「ありがとうございます、桐須先生。俺、この服大事にしますね」

桐須先生 「っ……」 ドキッ 「お礼を言われるようなことではないわ」

桐須先生 「さ、今度は眼鏡よ。早く買いに行きましょう」

成幸 「はい!」

……コケッ

成幸 「うおっ!?」 (段差!?)

桐須先生 「!? 危ない……!」

35以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:42:37 ID:bgRCVaD6
成幸 「ん……?」 (あれ、痛くない……? っていうか、やわらかい……?)

桐須先生 「……いつまでもくっつかれていても、困るのだけれど」

成幸 「へ? わっ……わわっ、き、桐須先生……!?」 バッ

成幸 「す、すみません。つまずいた俺を、支えてくださったんですね」

成幸 (や、やば……俺、桐須先生に抱きついてたよ。怒られる……)

桐須先生 「………………」

桐須先生 「……ごめんなさい。あなたが眼鏡をかけていないことなんて、わかっていたことなのに」

スッ

成幸 「へ……? どうして手を出してるんですか?」

桐須先生 「瞭然。手を繋がないと、危なっかしくて仕方ないわ」

成幸 「!? 手、繋ぐんですか!?」

桐須先生 「それがどうしたというの。いいから、早くしなさい」 ギュッ

成幸 「わっ……わわわっ……」

36以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:44:36 ID:bgRCVaD6
………………ショッピングモール内

成幸 (う、海で人目を避けていたときならいざ知らず……)

成幸 (人がたくさんいるショッピングモールで手を繋ぐっていうのは、やっぱり、こう……)

成幸 (恥ずかしいというか、照れるというか……)

成幸 (桐須先生は美人だから、人目を集めるしなぁ)

成幸 (……でも、さすがは桐須先生。まったく動じてないみたいだ)

桐須先生 「………………」

桐須先生 (……せ、生徒とはいえ、男性と、手を繋いで)

桐須先生 (休日のショッピングモールを歩くなんて、これでは……まるで……)

ハッ

桐須先生 (……何を不埒なことを考えているの、桐須真冬。これはあくまで緊急的な措置)

桐須先生 (私が眼鏡を壊してしまったのだから、その責任を取る。それだけのこと――)

子ども 「あーっ。ねえ、ママ、カップルだよー」

桐須先生&成幸 「「っ……///」」

37以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:46:08 ID:bgRCVaD6
………………眼鏡屋

成幸 (とはいえ、いざ眼鏡屋に来たものの)

成幸 (眼鏡なんて高級品、滅多に買わないし、買ったとしても安い店のセール品だしなぁ)

成幸 (こういうショッピングモールに入ってる眼鏡屋って、高いんだよなぁ)

成幸 (安い眼鏡を弁償してもらうのに、高い金額を払ってもらうわけにはいかないし……)

桐須先生 「どうかしたの? 早く選びなさい」

成幸 「あ、はい。でも……」

桐須先生 「好みに合わないのかしら? それなら、別のお店に足を伸ばしてもいいのだけれど」

成幸 「本当ですか!? それなら、壊れた眼鏡を買った店に行ってもらえると助かります」

桐須先生 「得心。それくらいお安い御用よ。では、車に戻りましょうか」

成幸 「!?」

38以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:47:22 ID:bgRCVaD6
成幸 (ば、バカか俺は!? 別の場所に移動となったら車で移動することになる!)

成幸 (桐須先生の車に乗るのはもうごめんこうむりたい!)

成幸 「あ、いや! よくよく見てみるとー、オシャレな眼鏡がいっぱいだー!」

成幸 「桐須先生! ここで眼鏡選んでもいいですか!」

桐須先生 「……? それはもちろん、構わないけれど」

成幸 「わーい、ありがとうございます、先生!」

桐須先生 「あ、あまり、大声で先生と言わないでもらえると助かるわ」

成幸 「あっ……」 (そりゃそうだ。生徒と二人でお出かけなんて、いいことじゃないもんな)

成幸 「す、すみません……」

桐須先生 「いいわ。早く選びなさい」

成幸 「はい……」

39以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:48:48 ID:bgRCVaD6
………………

店員 「では、二時間後には完成していますので、取りに来てください」

成幸 「はい、わかりました。お願いします」

成幸 (……結局、できるだけ安いフレームを選んだら、前のと同じような眼鏡になってしまった)

成幸 (まぁ、それは構わないんだけど、二時間か……)

成幸 (喫茶店にでも入って勉強でもしようかな)

成幸 (幸いにして、電車で勉強しようと思って道具は持ってきてあるし)

桐須先生 「……二時間。この時間を無駄に使う手はないわ。唯我くん」

成幸 「はい。もちろん勉強時間にあてるつもりです」

桐須先生 「そうしましょう。では、行きましょうか」 ギュッ

成幸 「!? ど、どうしてまた手を繋ぐんですか!? っていうか、“行きましょう”って……?」

桐須先生 「愚問。眼鏡が完成するまで、あなたをひとりにするわけにはいかないでしょう」

40以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:51:04 ID:bgRCVaD6
成幸 「い、いやいや、いくらなんでも大丈夫ですって。ショッピングモールから出ないですし」

成幸 「眼鏡の代金も払ってもらいましたし、もう先生はお帰りになって大丈夫ですよ」

成幸 「先生もお忙しいでしょうし……」

桐須先生 「はぁ? さっき段差でこけていた人間の言うべき台詞ではないわね」

成幸 「うっ……」

桐須先生 「あなたの眼鏡を壊してしまった私が責任を果たす必要があるわ」

桐須先生 「そうでなくとも、危険な状態にある生徒を残して帰れるわけがないでしょう」

桐須先生 「私は教師なのだから」

成幸 (かっこいい……)

成幸 (……かっこいいけど、それは自分の部屋をしっかり掃除できるようになってから言ってほしいなぁ)

桐須先生 「どうせ真面目なあなたのことだから、勉強道具を持ってきているのでしょう?」

桐須先生 「喫茶店にでも入って、落ち着いて勉強をしましょう。分からなければ私が教えるわ」

成幸 「……わかりました。すみません。お願いします」

41以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:56:14 ID:bgRCVaD6
………………物陰

文乃 「………………」

文乃 「……気分転換がてら、ショッピングモールに来てみれば」

文乃 「唯我くんと桐須先生が楽しげに手を繋いでデートしてるって……」

文乃 「これは一体どういうことなのかな……?」

文乃 「っていうか、見つけたのがわたしで良かったよ。うるかちゃんとりっちゃんにはとても見せられないよ……」

理珠 「文乃? そんなところでどうしたのですか?」

うるか 「文乃っちー、今日アイス三段重ねサービスだってー!」

うるか 「早く食べにいこー!」

文乃 「三段重ねサービス!?」

ハッ

文乃 (うぅ……今すぐにでも食べに行きたい、けど……)

42以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:58:06 ID:bgRCVaD6
紗和子 「ねえ、緒方理珠? 私とアイスをシェアしましょうよ」

紗和子 「そうすれば、たくさんの味が食べられるわよ?」

理珠 「良い提案です、関城さん」 パァァァ 「みんなで分け合って色んな味を食べましょう」

文乃 (ちくしょー! だよ! 魅力的なこと話してるー! でもあれを看過できないよー!)

文乃 (桐須先生と成幸くんが手を繋いでいるところをりっちゃんとうるかちゃんが目撃したりしたら……)


――――理珠 『……な、成幸さん? どうして、桐須先生と仲睦まじく手を繋いでいるのですか……?』

――――うるか 『成幸のバカー! えっち! そんなに大人の女がいいのかー!」


文乃 「ぐはっ……」 (わたしの胃が、限界を迎える未来が見えたよ……)

43以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 01:59:19 ID:bgRCVaD6
うるか 「文乃っち? どうかしたの?」

文乃 「……ううん。なんでもないよ」

ニコッ

文乃 「ちょっと三人で先に行っててもらえるかな。わたしはお手洗いに行ってから合流するよ」

うるか 「んぅ? トイレだったら一緒に行くよ?」

文乃 「だ、大丈夫! 大丈夫だから! じゃあ、あとでアイス屋さんの前でね!」

シュバッ

うるか 「行っちゃった。文乃っち、お腹でも痛いのかなぁ」

紗和子 (でへへ、緒方理珠とアイスをシェア……間接キス……)

理珠 「うるかさん、行きましょう。関城さんがなんかキモいので」

うるか 「ふたりは本当に大親友なんだよね……?」

44以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:03:56 ID:bgRCVaD6
………………ショッピングモール内喫茶店

成幸 「………………」

カリカリカリカリ……

桐須先生 「………………」

成幸 (……いい。やっぱり桐須先生の前だとメチャクチャ集中できる)

成幸 (あいつらと違って、教える必要はないから自分のことに時間が割けるし、)

成幸 (何より桐須先生のピクリとも笑わない表情が適度な緊張感を与えてくれる)

成幸 (なんだったらこれから毎日家に伺って勉強したいくらいだ……)

桐須先生 (……唯我くん、集中できているようね)

桐須先生 (小美浪さんのメイド喫茶でもしっかり勉強できていたようだし、)

桐須先生 (この子は本当に、勉強をがんばろうという気概が凄まじいわ)

成幸 「……ん」

桐須先生 「? どうかした? 何か分からないところでもあったかしら?」

成幸 「あ、いや、ちょっとお手洗いに行こうかなと」

45以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:04:45 ID:bgRCVaD6
桐須先生 「あら、そう。じゃあ、行きましょうか」 ギュッ

成幸 「!? いや、さすがに、ひとりで行けますよ!」

桐須先生 「何を顔を赤くしているの。男子トイレの中にまでは入れないけれど、」

桐須先生 「トイレの場所までの案内は必要でしょう?」

成幸 「だ、大丈夫ですよ! 場所は把握してますし!」

成幸 「先生はここで待っててください!」

桐須先生 「そう……?」 スッ 「気をつけていってらっしゃい」

成幸 「はい」

46以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:05:21 ID:bgRCVaD6
………………

成幸 (……はぁ。さすがにトイレの案内までお願いするのは恥ずかしすぎるよ)

成幸 (とはいえ、案内板も見にくいな。それっぽい方向に行けば大丈夫かと思ったけど……)

成幸 (うーん、全然分からん。やっぱり桐須先生に案内してもらえばよかったか――)

? 「――ていっ」

ドスッ

成幸 「ふぐっ!?」

文乃 「やぁやぁ、こんにちは、成幸くん。奇遇だね」

成幸 「何事だよ!? ……って、古橋?」

文乃 「そうです。あなたの師匠、古橋文乃です」

成幸 「お前もここに来てたのか。で、どうして俺は手刀を入れられたんだ?」

文乃 「その質問に答える前に、わたしが質問させてもらってもいいかな?」

文乃 「唯我くん、君はどうして、桐須先生と仲良く手を繋いでデートなんかしてるのかな?」

成幸 「……!?」

47以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:06:15 ID:bgRCVaD6
成幸 「いや、違うんだ、古橋。これには深い訳があってだな……!」

文乃 「うん。わたしにはその深い訳は分からないけど、何か事情があるんだろうな、って察することはできるよ」

文乃 「唯我くん、なぜか眼鏡してないしね」

文乃 「でもね、今日このショッピングモールにいるのはわたしだけじゃないんだよ?」

文乃 「りっちゃんとうるかちゃん、あとついでに紗和子ちゃんも一緒に来てるんだよ?」

成幸 「……? それが何か問題あるのか?」

文乃 「なんで君はそういうところとことんまで鈍いのかな!?」

文乃 「……ま、成幸くんは成幸くんだもんね」

48以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:08:10 ID:bgRCVaD6
成幸 「ん……。なんか、すまん」

文乃 「べつに。わたしが勝手に右往左往してるだけ、とも言えるから」

文乃 「……アイス屋さんの周辺には来ないでね。たぶんわたしたちそこにいるから」

成幸 「お、おう。わかった。そっちの方には行かないようにするよ」

文乃 「よろしい。じゃあ、また予備校でね、成幸くん」

成幸 「あっ……、ち、ちょっと待ってくれ、古橋」

文乃 「? どうかしたの?」

成幸 「恥を承知でお願いしたいことがある」

成幸 「……俺を、トイレまで案内してくれないか? 実は眼鏡がなくて、遠くがほとんど見えないんだ」

文乃 「……は?」 ハァ 「本当に、君は手がかかる弟だよ、まったく」

……ギュッ

成幸 「す、すまん。ありがとう」

文乃 「いいよ。手を引くくらい。わたしは成幸くんのお姉ちゃんだからね」

文乃 (……絶対、りっちゃんとうるかちゃんに見られないようにしなきゃ)

49以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:09:12 ID:bgRCVaD6
………………喫茶店

桐須先生 「………………」

ソワソワソワソワ……

桐須先生 (……遅いわ。何かあったのかしら)

桐須先生 (道に迷ってるだけならいいけど、不貞の輩に誘拐されたとか、そういうこともあり得るわ……)

桐須先生 (彼は良い子である分、人の悪意や害意に鈍そうだもの)

桐須先生 (心配。やはり、探しに行くべきね)

ガタッ

成幸 「? 急に立ち上がって、どうしたんですか、先生?」

桐須先生 「!? 唯我くん、無事だったのね」

桐須先生 「随分と時間がかかっているようだったから、心配したわ」

成幸 「ああ……」 (古橋に捕まってた時間が長かったからな……)

成幸 「すみません。ちょっと道に迷ってしまって……」

50以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:10:06 ID:bgRCVaD6
桐須先生 「……ま、まぁ、そんなところだろうと思っていたわ」

桐須先生 「だから送り迎えが必要だと言ったでしょう? まったく……」

成幸 「面目ないです……」

桐須先生 「まぁ、いいわ。ほら、まだ時間はあるんだから、勉強に戻りなさい」

成幸 「はい」

カリカリカリカリ……

成幸 (……そっか。先生)

成幸 (急に立ち上がったのは、俺を探しに行こうとしてくれたのか)

成幸 (……母さん以外で、こんなに俺に親身になってくれる大人がいるって)

成幸 (なんか嬉しいな)

51以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:12:22 ID:bgRCVaD6
………………眼鏡屋

店員 「お買い上げありがとうございましたー!」

成幸 (……ほんと、前とほとんど代わり映えしない眼鏡だ)

成幸 (まぁ、悪目立ちするよりいいか。こういう形の眼鏡、気に入ってるし)

桐須先生 「きちんと見えてる? 問題はない?」

成幸 「はい。レンズが新しくなったから視界がクリアです。勉強にも集中できそうです」

桐須先生 「そう。それは何よりね。しっかり励みなさい」

成幸 「はい! この眼鏡で、絶対受験を成功させます! ありがとうございます、先生」

桐須先生 「お礼を言われる筋合いはないわ。眼鏡を壊してしまったのは私だもの」

フゥ

桐須先生 「ともあれ、無事今日中に眼鏡が仕上がって良かったわ」

桐須先生 「完成まで日を置くようだったら、毎日あなたの世話をしなければならないところだったもの」

成幸 「え……?」

成幸 「あ、あはは、先生もそういう冗談言うんですね」

桐須先生 「……?」

52以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:13:42 ID:bgRCVaD6
桐須先生 「不可解。私がいつどんな冗談を言ったというのかしら」

成幸 「へ? いや、だって、毎日俺のお世話を、って……」

桐須先生 「当然でしょう。もしも眼鏡が今日完成しないようだったら、私は毎日あなたの家に伺うつもりだったわ」

成幸 「そ、そうですか……」 (本気だったのか、この人)

成幸 (あっ、あっぶねー! 店にレンズの在庫があって助かったー!)

成幸 (さすがに毎日家に来られたら大変だし、何より先生に申し訳ないし)


―――― ((なんだったらこれから毎日家に伺って勉強したいくらいだ……))


成幸 (……ん、いや、まぁ、もしそうなってたら、勉強はめちゃくちゃはかどってたかもしれないな)

桐須先生 「? どうかしたかしら、唯我くん」

成幸 「あ、いや……。もし今日中に眼鏡が完成していなかったら、毎日先生に勉強を教えてもらえたのにな、って。そんなこと考えてました」

桐須先生 「……は?」

ハッ

成幸 (俺はアホか!? なに考えてたことをそのまま口に出してんだ!?)

53以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:14:37 ID:bgRCVaD6
桐須先生 「………………」 ゴゴゴゴゴゴ……

成幸 (こ、怖え……。まずい。なんとか言わないと……)

桐須先生 「……唯我くん」

成幸 「は、はいっ!」 ビクッ

桐須先生 「この後、時間あるかしら?」

成幸 「へ……? は、はい。家に帰って勉強するだけなので……」

桐須先生 「そう。じゃあ、今日はうちにきて、勉強していきなさい」

桐須先生 「……さすがに毎日というのは無理だけれど、今日は構わないわ」

成幸 「本当ですか!? じゃあ、お言葉に甘えて、この後お邪魔してもいいですか?」

桐須先生 「ええ。では、行きましょうか」

成幸 「はい!」

54以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:15:19 ID:bgRCVaD6
成幸 「ん……?」 (待てよ? この後先生の家にお邪魔するってことは……)

桐須先生 「どうかしたの? 唯我くん? 早く車に戻るわよ」

成幸 (そ、そうだったー!) ガーン (帰りも桐須先生の車に乗らなきゃってことじゃないかー!)

成幸 「あ、えーと、その……、やっぱり、おうちに伺うのは悪いかな、なんて……」

桐須先生 「無為。子どもが妙な気を遣う必要はないわ。行くわよ、唯我くん」 ガシッ

成幸 「ヒッ……」

ズルズルズル……

成幸 (だ、誰か、助けてー! 文乃姉ちゃーん!)

55以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:16:18 ID:bgRCVaD6
………………幕間 ショッピングモール アイスクリーム屋

文乃 「んー、美味しい〜!」

文乃 「イチゴとクリームチーズのコラボが最高なんだよ!」

キュピーン

文乃 (……いま、なんか、手のかかる弟のヘルプの声が聞こえた気がするけど)

理珠 「文乃、文乃、このアイスも美味しいですよ。小豆の甘みが最高です。一口どうぞ」

紗和子 「この口の中でパチパチするヤツもなかなかよ。食べてみて」

うるか 「チョコチップもビターで美味しいよ〜。はい、文乃っち」

文乃 「わーい、いただきまーす!」 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

文乃 「美味しーい! 幸せ〜。胃に染み渡る……」

文乃 (この幸せ空間から出られそうにないから、)

文乃 (勝手にがんばれ、愚弟! だよ!)


おわり

56以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 02:18:54 ID:bgRCVaD6
>>1です。
読んでくださった方ありがとうございます。
まだ投下したい話がいくつかありますので、
またお付き合いただければと思います。

57以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/12(水) 08:28:17 ID:eIWeZPq.
読んでるよ��。いい感じだね、

58以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:16:12 ID:AFlK0XbA
>>1です。
ひとつ投下します。


ぼく勉】文乃 「言質とったからね。成幸くん」

59以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:16:51 ID:AFlK0XbA
………………お祭りの数日後 古橋家

文乃 「………………」

カリカリカリ……

文乃 (……うん、大丈夫。公式もだいぶ覚えてきた)

文乃 (三角関数とはだいぶお友達になれた気がするんだよ)

文乃 「ふふ、これも全部成幸くんのおかげかな。今度の模試で、目指せC判定! だよ」

文乃 「……ん?」

ハッ

文乃 「“成幸”くん……!?」

文乃 (わ、わわわ、わたしってば、唯我くんのこと、自然と名前で呼んでた……)

文乃 (ひとりのときでよかった……) ドキドキ (りっちゃんとうるかちゃんがいたらとんでもないことになってたよ)

――ピロン

文乃 「ん……? メール? 成幸くんから……?」

ハッ

文乃 (わ、わたしってば、また……!)

60以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:17:52 ID:AFlK0XbA
文乃 (し、仕方ないよね。ふたりでお泊まりなんてしちゃったわけだし……)

文乃 (お泊まり……) カァアア…… (なんか、エッチな響きだよぅ……)

文乃 (……じゃなくて。メールの中身は、と)

文乃 「……ん?」


 『もし良かったら、なんだけど。

  週末、一緒にプラネタリウムに行かないか?』


文乃 「んん??」

文乃 「んんん???」

61以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:18:29 ID:AFlK0XbA
………………週末 駅前

文乃 「………………」

キョロキョロキョロキョロ……

文乃 (だ、大丈夫だよね。間違っても、りっちゃんもうるかちゃんもいないよね)

文乃 (もしも唯我くんと待ち合わせをしているところなんて見られたら、)


―――― 理珠『文乃? どうして唯我さんとふたりでお出かけなんてことになったのですか?』

―――― うるか『ひどいよ成幸ー! どうしてあたしを誘ってくれないのさー!』


ギリギリギリ……

文乃 (そ、想像するだけで胃が痛い……)

62以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:19:12 ID:AFlK0XbA
―――― 『いや、母さんがまた福引きを当てたんだよ。今度はプラネタリウムのペアチケットでさ』

―――― 『母さんは行けないから俺にくれたんだ』

―――― 『古橋、星好きだろ? ちょうどいいかなー、って思って誘ったんだけど……』

文乃 (……うん。いや、ほんと、プラネタリウム自体は楽しみだし、嬉しいんだけど)

文乃 (絶対、りっちゃんとうるかちゃんにはバレないようにしなくちゃ……)

成幸 「……ん、いたいた。おはよう、古橋。待たせたか?」

文乃 「あっ、唯我くん。おはよ」 フルフル 「全然、待ってないよ。今来たトコだよ」

ハッ

文乃 (ふ、ふつーにデートっぽい返しをしてしまったよ……!

文乃 (っていうかこれ、今さらだけど思いっきりデートだよね!?)

63以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:20:17 ID:AFlK0XbA
文乃 (ふぁあ、普段はふたりきりでもなんてことないはずなのに、)

文乃 (意識し始めると緊張するよぅ……)

成幸 「……古橋? ぼーっとしてどうしたんだ?」

文乃 「ふぇっ!? な、なんでもない! なんでもないよ!?」

文乃 「きっ、今日はお誘いいただいて、ありがとうございます。唯我くん」

ペコリ

成幸 「ははは、何だよ、急にかしこまって」

文乃 (っ〜〜〜!! こっちの気も知らないでー!)

成幸 「いつも古橋には色々相談に乗ってもらってるからな。お礼みたいなもんだから気にすんなよ」

64以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:21:06 ID:AFlK0XbA
文乃 「……お礼? そっか」

文乃 (お礼、かぁ……)

文乃 (そう。そうだよね。成幸くんは、ただのお礼の気持ちしか持ってないんだから)

文乃 「……そんなこと言ったら、そもそもわたしはいつも唯我くんに勉強を教えてもらってるんだけどね」

クスッ

文乃 「じゃあ、行こうか。成幸くん」

成幸 「ん……? お、おう」

文乃 「? 顔が赤いよ? どうかした、成幸くん?」

成幸 「い、いや、何でも、ない……」 プイッ

文乃 「……?」

文乃 (どうしたんだろう? わたし、なにか変なこと言ったかな……?)

65以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:25:21 ID:AFlK0XbA
………………電車内

成幸 「………………」 フムフム

文乃 「………………」 カリカリカリ……

文乃 (電車内でも勉強……。まぁ、受験生だし、当然と言えば当然かもしれないけど)

文乃 (隣にいるのがわたしだからいいけど、りっちゃんやうるかちゃんと出かけるときにそんなんじゃ愛想尽かされちゃうぞー)

文乃 (……なんて、言ってあげるわけにもいかないしなぁ)

成幸 「……ん? どうかしたか、古橋。手が止まってるぞ?」

文乃 「あっ、ご、ごめん。何でもないよ」

成幸 「そうか。……ん。そこ、使う公式が違うな。それだと計算が堂々巡りして、xは求められないぞ」

文乃 「うぉぅ……」 ズーン…… 「どおりで計算式がおかしなことになってると思ったよ……」

成幸 「まぁ、そう落ち込むなよ。公式は覚えられてるんだから、あとは使い方を慣れて覚えていけばいいんだからさ」

文乃 「……うん。そうだね」 グッ 「わたし、もう少しがんばってみるよ、成幸くん」

成幸 「お、おう。が、がんばれよ、古橋……」 カァアア

文乃 「?」 (本当にどうしたんだろう、成幸くん……?)

66以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:26:07 ID:AFlK0XbA
………………プラネタリウム

文乃 「ふぁああああ……」 パァァアアアア

文乃 「ねえねえ見て見て、唯我くん! 展示がたくさんあるよ! 銀河系の模型もある!」

成幸 「へぇー。この時期は夏の星座特集なんてやってるんだな」

成幸 「プラネタリウムもこの時期仕様になってるみたいだぞ」

文乃 「ふぁぁあ……」 パァアアアアアアア

成幸 「じゃあ、俺はチケットを引き換えてくるから、この辺見て待っててくれ」

文乃 「うん!」

成幸 (はしゃいじまってまぁ……。本当に星が好きなんだよな、古橋は)

67以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:27:17 ID:AFlK0XbA
………………

文乃 (エントランスに色んな展示があって、これだけでも飽きないよ)

文乃 (来てよかった……唯我くんに感謝だね)

文乃 (りっちゃんとうるかちゃんのことを考えると、申し訳ない気持ちもあるけどね)

クスッ

文乃 (プラネタリウムも夏の星座特集、かぁ。楽しみだなぁ……)

成幸 「……お、いたいた。古橋、次の回の入場券と引き換えられたぞ」

成幸 「もうすぐ開場みたいだから、並ぼうぜ」

文乃 「うん!」

68以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:27:56 ID:AFlK0XbA
………………プラネタリウム 開演

キラキラキラ…………

文乃 (ふぁああああああ……!!)

文乃 (作り物だって分かってても、壮観だよ……!)

文乃 (真っ暗な場所に満点の星……うぅ……本当に本当に、来てよかったよ……)

成幸 (……なんて考えてるんだろうなぁ。子どもみたいな顔してるぞー、古橋)


――――『星が綺麗な夜だとついつい』

‘――――『死んじゃったお母さんの星』

――――『探しちゃうんだよね』


成幸 「………………」 (……まぁ、べつに、今くらいいいよな)

成幸 (勉強のいい息抜きになってくれりゃ、こっちとしても願ったり叶ったりだ)

69以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:28:49 ID:AFlK0XbA
ナレーション『それでは、星々を見ていただいたところで、夏の星座の説明をいたしましょう』

ナレーション『ただいま点滅している星々が、なんの星座かおわかりになりますか?』

成幸 (ん……えっと、夏のあの方角の星座は……――)

文乃 「――てんびん座」 ボソッ

成幸 「え……?」

ナレーション『この形は、そう。てんびん座です』

文乃 「あっ……」 コソッ (ご、ごめん、唯我くん。つい口に出しちゃって……)

成幸 (いや、ほかの誰にも聞こえてないだろうし、べつにいいと思うけど……)

成幸 (……ほんと、子どもみたいだな、古橋)

文乃 (い、言わないでよ。恥ずかしいんだから)

70以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:29:28 ID:AFlK0XbA
ナレーション『てんびん座は、ギリシア神話で、女神アストレイヤが持っている天秤がモチーフとなっています』

ナレーション『アストレイヤは、その天秤で霊魂の善悪を計り、悪しき霊魂を地獄に送ったといいます』

成幸 (ふむふむ。受験に直接関係はなさそうだけど、教養を深めるという意味では、有益な場所だな。ここは)

文乃 「………………」 コクコクコクコク

成幸 (……すごい勢いでうなずいていらっしゃる。少し怖い……)

ナレーション『では、続いて紹介する星座は、こちらです』

ナレーション『さて、このてんびん座のすぐ近くにある星座はなんでしょうか?』

成幸 「………………」 ジーーーッ

文乃 (な、なんでこっちを見るの、唯我くん) コソッ

成幸 (いや、古橋が答えを教えてくれるかなー、って思ってさ)

文乃 (もーっ! 唯我くん!)

ナレーション『一際輝く1等星、アンタレスが目印ですね。さそり座です』

71以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:30:48 ID:AFlK0XbA
ナレーション『さそり座は、アンタレスを中心にして広がる星座です』

ナレーション『発見しやすいので、天体観測をする際は目印にするといいでしょう』

ナレーション『さそり座のモチーフは、ギリシア神話の太陽神アポロンとその姉、女神アルテミスにまつわる逸話にあります』

ナレーション『月の女神アルテミスと太陽神アポロンは仲良しの姉弟でした』

ナレーション『アルテミスはアポロン以外の男性とは関わりすら持たず、弟のアポロンを溺愛していました』

ナレーション『しかし、ある日アルテミスは猟師オリオンと出会います』

ナレーション『アルテミスは力強く、弓の名手でもあるオリオンにどんどん惹かれていきます』

ナレーション『アポロンはおもしろくありません。アポロンにしてみれば、大好きなお姉ちゃんを奪われた、というような気持ちだったのでしょう』

ナレーション『そしてついに、アポロンはオリオンにサソリを遣わして、オリオンを殺してしまいました』

ナレーション『アルテミスは悲しみ、オリオンを天にあげました。これが、冬の有名な星座、オリオン座です』

72以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:32:05 ID:AFlK0XbA
ナレーション『そして、オリオンを殺したサソリが、天に昇ったものが、このさそり座になった、といいます』

ナレーション『さそり座の裏には、そんな姉弟にまつわるお話があったんですね』

文乃 (……そっか。そういえば、そんなお話だったよね)

文乃 (ほかにも、オリオンはアポロンに騙されたアルテミスの矢で息絶える、なんてお話もあるけど)

文乃 (それにしても……)

チラッ

成幸 (ふむ……ためになるなぁ。結構楽しいぞ、プラネタリウム)

文乃 (姉と仲良くする男に嫉妬する弟、かぁ……)


――――『せめて古橋の受験が終わるまで』

――――『告白するのを待ってもらえないか』


文乃 (ふぇっ……!? な、なんで……)

文乃 (あのときのことなんて、思い出してるの、わたし……)

73以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:32:49 ID:AFlK0XbA
………………プラネタリウム終演

成幸 「はぁ〜。おもしろかったなぁ……」

成幸 「星って色んな神話と紐づいてておもしろいな!」

成幸 「今まで地学的なことしか考えたことなかったから、新鮮だったよ。すごいな、星って」

文乃 「……え? あ、う、うん。でしょ? 星、おもしろいでしょ」

成幸 「……? 古橋、なんか顔赤いぞ?」

文乃 「ふぇっ!? そ、そうかな? ちょっと、プラネタリウムに興奮しちゃったからかな」

成幸 「おまえは本当に星が好きだな」

成幸 「でも、喜んでもらえてよかったよ」

文乃 「う、うん。本当に楽しかったよ。ありがとね、成幸くん」

成幸 「っ……」 プイッ

文乃 「……? 成幸くん、どうかしたの……?」

成幸 「な、なんでもない! 二階にも星の展示室があるみたいだから、行こうぜ!」

文乃 「……?」

74以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:33:30 ID:AFlK0XbA
………………帰路 電車内

成幸 (うぅ、眠いけど、耐えないと……)

成幸 (今日の分の勉強は今日中に取り戻さないと……)

成幸 「ん……?」

文乃 「………………」 zzz……

成幸 (今日一日ずっと楽しそうだったもんな。そりゃ眠いよな)

文乃 「……ふふ、えへへ……」

成幸 (どんな夢見てるんだろうな。楽しそうな顔しやがって……)

成幸 (今日ハメ外した分、明日からがんばってもらうからな、古橋)

成幸 (俺もゆっくり眠りたいけど……我慢我慢。さ、もうひとがんばり……――)

ガタン……ゴトン……ガタン……ガタッ……

文乃 「ふぁ……」 カクン

ぽふっ

成幸 「――……っ!?」

75以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:34:22 ID:AFlK0XbA
成幸 (電車が、揺れた、勢いで……///)

成幸 (ふ、古橋の、頭が、肩に……) カァアアア…… (ま、まずい、めっちゃいい匂い……)

成幸 (うおお、さすがにちょっと、起きてくれ古橋ーー!!)

文乃 「………ムニャムニャ……」 zzz……

成幸 「……はぁ」 (……こんな気持ちよさそうな寝顔、起こすわけにはいかないよなぁ)

文乃 「むにゃ……成幸くん、きみは、まったく……」

成幸 「……!?」 ドキッ (び、びっくりした。寝言か……)

文乃 「……まったく、手のかかる、弟だよ」


――――『いつか君が本当にやりたいことを見つけた時は』

――――『お姉ちゃんが全力で応援するからね 「成幸くん」』


成幸 (ま、まずい……! 本当にまずい!)

成幸 (こんなに密着されると、旅館にふたりで泊まったときのこと思い出してしまう……)

76以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:35:26 ID:AFlK0XbA
成幸 (心頭滅却心頭滅却心頭滅却……)

文乃 「……っ、成幸、くぅん……」

成幸 (っ……! だいたいなんで俺のことちょくちょく名前で呼ぶんだよー!)

成幸 (こういうときは素数……素数だ! 素数を数えていこう!)

成幸 (2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31……)

成幸 (……37,41,……えーっと……43,47……)

成幸 (えーっと……次は……)

成幸 (次は……)

77以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:36:04 ID:AFlK0XbA
成幸 (……あー……)

成幸 (……なんか、少し気が紛れて……きた……ような……)

成幸 (あっ、ちが……。これ、ただの眠気……だ、……)

zzz……

文乃 「………………」

成幸 「………………」

子ども 「……? あー、ねえ、お母さん。カップルが仲良く寝てるよー」

お母さん 「しーっ。起こしちゃかわいそうだから、静かにね」

お母さん (……あらあら。お互いをまくらにして、気持ちよさそうに)

お母さん (でも、カップルっていうより、仲良しの姉弟、って感じかしら) クスッ

78以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:36:59 ID:AFlK0XbA
………………駅前

成幸 「………………」

文乃 「………………」

文乃 (ふぁああああああ!!)

文乃 (何やってんのわたし!? 成幸くんにめっちゃくっついて寝てたよ!)

文乃 (ごめん、りっちゃん、うるかちゃん……)

成幸 (うおおおおおおお!!)

成幸 (気を紛らわすつもりが、寝ちまってどうすんだ俺! しかも古橋によっかかって……)

成幸 「な、なんか、すまん……」

文乃 「ふぇっ? う、ううん。こちらこそ、ごめんね」

成幸&文乃 ((き、気まずい……!))

79以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:39:29 ID:AFlK0XbA
文乃 「き、今日は本当にありがとね、成幸くん。すごく楽しかったよ」

成幸 「ん、あ、ああ。それなら良かった」

成幸 「俺も、普段はプラネタリウムとか行かないから、楽しかったよ」

成幸 「今度は本当の天体観測に行ってみたいな」

文乃 「ほんとに!?」 ガバッ

成幸 「!?」 (ち、近い……! 近いぞ、古橋……。っていうか、手! 手!)

文乃 「わたしもゆっくり天体観測行きたいんだよ。受験が終わったら、一緒に行こうね」

成幸 「あ、ああ。受験が終わったら、行こうな……。い、一緒に……」

文乃 「ん……?」

ハッ

文乃 「ひゃあ!?」

80以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:40:18 ID:AFlK0XbA
文乃 (な、なにやってんのわたしー!?)

文乃 (成幸くんから天体観測なんて言葉が飛び出したから、)

文乃 (嬉しすぎて成幸くんの手を握りしめてたよー!)

文乃 (っていうか、一緒に、って……。わたし、何言ってんのー!?)

文乃 「………………」 (……一緒に、か……)

文乃 「……一緒に、行ってくれるんだ?」

成幸 「へ……? あ、ああ。もちろん。古橋と一緒なら、楽しいだろうしな」

文乃 「そ、そっか……」

クスッ

文乃 「……今の、言質とったからね。成幸くん」

81以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:49:29 ID:AFlK0XbA
………………幕間 メタ

文乃 (……? あれ……? この話、夏休み中の話だよね?)

文乃 (わたし、単行本七巻20ページ冒頭で矛盾するようなこと思ってるなぁ)

文乃 「……ま、いっか」


おわり

82以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 00:52:13 ID:AFlK0XbA
>>1です。
読んでくださっている方、ありがとうございます。
幕間おもしろいのが思い浮かばなかったのでメタりました。すみません。
このSSを書き上げてからコミックスを読み直して矛盾に気づきました。すみません。


まだいくつか投下すると思います。
また読んでくれたら嬉しいです。

83以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 08:21:46 ID:A2K07LYc
おつ
文乃可愛い

84以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:21:16 ID:AFlK0XbA
>>1です。
ひとつ投下します。
やや長めで表現もくどいかもしれません。


【ぼく勉】関城 「化学部の文化祭の企画?」

85以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:23:33 ID:AFlK0XbA
………………文化祭前 学校 3-F教室前

成幸 「おう。何かやるんだろ?」

関城 「毎年恒例、科学室で子ども向けの実験ショーよ」

関城 「毎年大盛況なのよ。これを目当てに来る近隣の小学生もたくさんいるわ」

成幸 「へー」 ジトーッ

関城 「な、何よ、その疑わしそうな目は」

成幸 「いや、そんな大事な企画があるのに、こんなところでうどんの試食してていいのか、おまえ」

関城 「し、失敬ね! 化学部の準備はこの後やるのよ」

関城 「化学部はホワイト部活だから部員は学級の企画優先で動いてるのよ」 フフン

成幸 「クラスの企画準備が終わってから部活の企画準備をするって、それ逆にブラックじゃないか?」

関城 「いちいちうるさいわね、唯我成幸!」

関城 「……緒方理珠、どうしてこんな男がいいのかしら……」 ボソッ

成幸 「? なんか言ったか?」

関城 「な、なんでもないわよ」

86以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:25:04 ID:AFlK0XbA
理珠 「うどん、どうですか、関城さん、成幸さん」

成幸 「ん。今日もめちゃくちゃ美味しいぞ。さすがはあの親父さんの娘だな」

理珠 「そ、そうですか。ありがとうございます……///」

関城 (……まったく。乙女しちゃってるわね。緒方理珠)

関城 「美味しいと思うわ。でも、昨日より少しうどんが柔らかいわね」

成幸 (昨日って……。関城、毎日試食にきてるのかよ……)

関城 「ゆで時間を変えたのかしら?」

理珠 「! そうなんです。文化祭は小さな子どもも大勢くるので、それくらいのゆで加減の方がいいかな、と」

理珠 「どうですかね?」

関城 「悪くないアイディアだとは思うけど、ゆで時間が増えると、それだけ提供の回転数が落ちるわね」

関城 「それを考慮に入れた上で問題ないなら、このゆで加減でいいんじゃないかしら」

関城 「立ち食いが基本になるのだから、柔らかい方が食べやすいでしょうし」

理珠 「なるほど……」 メモメモメモ

87以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:27:00 ID:AFlK0XbA
理珠 「ありがとうございます、関城さん。すごく参考になります」

関城 「そ、そう? でも、礼には及ばないわよ。なんてったって、私はあなたの大親友だもの!」

関城 (ふぁああああ……//// 緒方理珠に感謝されてる……!)

関城 (我が人生に一片の悔いなし……!)

理珠 「関城さん以外、何を食べても美味しいとしか言わない鈍いひとたちばかりですし……」 ジロリ

文乃 「あ、あはは……。だって、りっちゃんの茹でるうどん美味しいから」

うるか 「そうそう。リズりんのうどんが美味しいのがいけないんだよ〜」

成幸 「面目ない……」

関城 「まったく。それじゃ試食の意味がないでしょうに……」

ハッ

関城 「……そろそろ化学部の集合時間だわ。それじゃ、失礼するわね」

関城 「緒方理珠、うどんごちそうさま。当日も絶対食べに来るわね」

理珠 「はい。よろしくお願いします、関城さん」

88以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:28:18 ID:AFlK0XbA
成幸 「せわしないやつだな。緒方のためにわざわざF組に来てるんだもんなぁ」

文乃 「……紗和子ちゃん、大丈夫かな」

うるか 「? 文乃っち、さわちんがどうかしたの?」

文乃 「んー、ほら、紗和子ちゃんって化学部の部長さんじゃない?」

文乃 「化学部の企画、毎年本当に大人気だから、プレッシャーがすごいと思うんだよね」

文乃 「“子どもの集客率・人気共にNo.1”。が化学部の毎年の目標だから」

文乃 「先生方も、化学部の企画で子どもにたくさん来てもらって、うちの高校への進学者を 将来的に増やしたいみたいなの」

成幸 「へぇ……。化学部、期待されてるんだな」

文乃 「だから、部長の紗和子ちゃんのプレッシャーはすごいと思うんだよ」

うるか 「さわちん、なんでもない顔してるけど、大変なんだね……」

理珠 「……心配ないと思いますよ」

文乃 「……? りっちゃん?」

理珠 「あの人は変な人です。色々やらかしてくれますし、うるさいですし、本当に変な人です」

文乃 (……かわいそうだけど、)

成幸 (否定できない。すまん、関城……)

89以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:29:21 ID:AFlK0XbA
理珠 「でも……」


―――― 『なら明日の休みにでも私が選んであげましょうか』

―――― 『この親友の関城紗和子が!!』


理珠 「……でも、ときどき、頼れる人なんです。だから、大丈夫ですよ。きっと」

うるか 「リズりん……」

うるか 「リズりんは、さわちんのことが大好きなんだね……!」

理珠 「は……?」 ジロッ 「何をどうしたら、そういう話になるのですか、うるかさん」

うるか 「またまたぁ。照れちゃって〜。このこの〜」 ウリウリ

理珠 「や、やめてください。暑苦しいです」

成幸 (化学部の実験ショー、かぁ)

成幸 (子ども向けって言ってたけど、当日、緒方を連れて行ってやったら、)

成幸 (関城のやつ、喜ぶかな)

成幸 「……ん、俺もそろそろクラスに戻らないとだ。うどん、ごちそうさま。緒方」

90以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:30:13 ID:AFlK0XbA
………………少し後 資材室

成幸 (クラスの連中に頼まれてベニヤの補充に来たものの、どれくらい持って行くかな)

成幸 (うちのお化け屋敷もいよいよ本格的になってきたからな。材料はできるだけ多い方がいいかな)

成幸 (……ん、そういやペンキもなくなりそうだったな。ついでに少し持って行くか)

成幸 「よいしょ……っと」

ズシッ

成幸 (お、重い……。最短経路で教室まで戻ろう……) ヨロヨロ……

成幸 (しまったな。小林か大森にでも一緒に来てもらうんだった)


  「実験準備班、実験用具のセットは、最低ふたつ以上予備を用意してね」


成幸 「ん……? この声は……関城?」

関城 「装飾班、装飾は子どもたちを意識して、かわいらしい感じでよろしくね」

成幸 (あ、そうか。ここ、化学室か)

部員1 「部長、気合い入ってますね」

部員2 「そりゃ、文化祭は化学部の見せ場のひとつだからな」

91以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:31:28 ID:AFlK0XbA
部員2 「知ってるか? 部長、毎日ひとりで遅くまで作業をしてるんだよ」

部員1 「へ? そうなんですか? 言ってくれれば手伝うのに……」

部員2 「人に頼るのが苦手な人だからな……。だから、今できるだけ作業を進めておかないと、だな」

部員1 「そうですね! よーし、がんばって準備するぞー!」

成幸 「……へぇ」 (関城の奴、部員から慕われてるんだな)

成幸 (……っと、いつまでも化学部を眺めてるわけにはいかないな)

成幸 (俺も早くクラスに戻らないと)

ツルッ

成幸 「ん……!?」 (水!? あ、やばっ……――)

――――ガシャーン!!!

関城 「……? 唯我成幸?」

92以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:33:07 ID:AFlK0XbA
関城 「ちょっとあなた、大丈夫? けがはない?」

成幸 「ん、ああ、騒がしくしてすまん。大丈夫だ。廊下が濡れててさ……」

成幸 「ベニヤとペンキは無事か。よかった」

関城 「廊下が濡れてた……?」

ハッ

関城 「ご、ごめんなさい、唯我成幸。その水、たぶん化学部の誰かがこぼしたやつだわ……」

関城 「準備前に大掃除をしたときに、廊下のから拭きが甘かったんだわ」

関城 「本当にけがはない?」

ズイッ

成幸 「わっ……」 (ち、近い……!)

成幸 「大丈夫だよ。俺も物を持ちすぎてて前方不注意だったから、気にするなよ」

関城 「………………」

93以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:34:14 ID:AFlK0XbA
関城 「化学部、注目!」

関城 「……誰か、廊下をぞうきんで拭き直しておいて!」

関城 「それから、それぞれの班ごとに、しっかりと準備を進めておいて!」

関城 「私はちょっとこの場を離れるわ。すぐ戻るから、各自できる作業を進めておくこと。よろしくね」

成幸 「関城?」

関城 「この板とペンキを教室まで運ぶのね? 手伝うわ」

成幸 「へ……? いいのか? 化学部も忙しいだろ?」

関城 「こっちの落ち度で転ばせたのだもの。少しくらい、罪滅ぼしをさせてちょうだい」

成幸 「ん……。なら、お願いしようかな。ありがとな、関城」

関城 「べつに、お礼を言われるようなことじゃないわよ」

関城 「さ、行きましょう。唯我成幸」

94以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:35:02 ID:AFlK0XbA
………………

部員1 (せ、関城部長が、化学部以外の男子と!?)

部員2 (普通に話してる! しかもすごく仲が良さそうに!)

部員3 (というか、なんか距離が近い……!)

部員1 (あの人見知りで空気の読めない部長が……)

部員2 (偏屈で変わり者の部長が……)

部員3 (普通の男子とお話をできるようになったのか……)

ホロリ

部員1 (……どうしてだろう)

部員2 (嬉しいのに)

部員3 (涙が止まらない……)

95以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:35:54 ID:AFlK0XbA
………………下校時刻 昇降口

成幸 「……ふぅ。今日も遅くまでかかったな」

小林 「成ちゃん、この後は家に帰って勉強?」

成幸 「おう。まぁ、無理しない範囲でやるつもりだよ」

小林 「大変だなぁ。体調崩さないようにね」

成幸 「ああ。文化祭直前だからな。気をつけるよ」

成幸 「……ん?」 (……あれ? 最終下校時刻なのに、まだ明かりがついてる教室があるな)

成幸 (あそこって、化学室か……?)


―――― 『知ってるか? 部長、毎日ひとりで遅くまで作業をしてるんだよ』


成幸 「………………」

小林 「成ちゃん?」

96以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:36:51 ID:AFlK0XbA
成幸 「……すまん、小林。先に帰ってくれ。やることを思い出した」

小林 「……ん、そっか」 クスッ 「ねぇ、成ちゃん」

成幸 「うん? なんだ?」

小林 「お人好しなのは大いに結構だけどさ」

小林 「なんかあったら、すぐに俺を頼ってよ?」

成幸 「小林……」 ジーン 「ありがとう。何かあったら、すぐお前に言うよ」

小林 「うん、よろしい。じゃあ、また明日ね」

成幸 「ああ。また明日な、小林」

タタタタ……

小林 「……行っちゃった。まったくもう、“成ちゃん”だなぁ」

小林 「今度は誰の世話を焼くのかな」

小林 「武元さんか、古橋さんか、緒方さんか、それとも……」

小林 「また別の子だったりしてね」

97以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:37:31 ID:AFlK0XbA
………………化学室

関城 「………………」

チョキチョキチョキ……

関城 「……ふぅ。紙の鎖はもう少し必要ね」

関城 (ほかの部員も帰したし、ゆっくりやりましょう)

関城 (……がんばってくれてる部員たちのためにも、がんばらないと)

……ガラッ……

関城 「……!? ゆ、唯我成幸……?」

成幸 「よう。明かりがついてたから気になってさ」

成幸 「もう最終下校時刻だぞ? 帰らなくていいのか?」

関城 「ふふん、見くびらないでちょうだい。顧問の先生にもう少し残る許可はもらってあるわ」

成幸 「なんで得意そうなんだよ……」

98以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:38:47 ID:AFlK0XbA
成幸 「他の部員はいないのか?」

関城 「みんな門限や勉強があるもの。もう帰したわ」

関城 「……みんな残りたがったけど、あまり私のこだわりやわがままに付き合わせたくないし」

関城 「女子の部員もいるから、あまり遅くまで残すのも嫌だしね」

成幸 「……ふーん。そっか」

関城 「……? な、何よ、その顔は」

成幸 「いや、お前が部員に慕われてる理由がよくわかった気がするよ。部員想いなんだな、お前」

関城 「しっ、慕われ、って……!? な、何わけわかんないこと言ってるのよ、唯我成幸!」

成幸 「お前の照れ隠しってほんとうるさいよなぁ……」

99以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:39:34 ID:AFlK0XbA
成幸 「紙の鎖を作ってるのか。装飾に使うやつだな」

関城 「そ、それがどうしたのよ」

スッ

成幸 「手伝うよ。俺はのりで鎖を作っていくから、お前ははさみでどんどん切ってくれ」

関城 「えっ……そ、そんな、いいわよ。あんたに手伝ってもらう理由もないし……」

成幸 「今日、ベニヤ板とペンキを教室まで運ぶのを手伝ってくれただろ。そのお返しだよ」

関城 「あ、あれはだって、ころばせてしまったお詫びだから……」

成幸 「いいから、早くのり貸せよ。お前だって女子なんだから、あんまり遅くならない方がいいだろ」

成幸 「俺は門限とか特にないし女子でもない。お前も気にする必要ないだろ?」

関城 「っ……」

関城 「じ、じゃあ……お願いするわ。ありがと……」

成幸 「おう!」

100以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:40:19 ID:AFlK0XbA
………………

関城 「………………」 チョキチョキチョキ……

成幸 「………………」 ペタペタペタ……

関城 「ん。その 鎖、あと十個くらいつなげたら終わりよ」

成幸 「おう、わかった」

関城 「………………」 チョキチョキチョキ……

成幸 「………………」 ペタペタペタ……

関城 「……唯我成幸、あなた、勉強とか大丈夫なの?」

成幸 「……ん? ああ、まぁ、大丈夫とは断言できないけどな」

成幸 「ま、文化祭の間くらいは、多少勉強を忘れてもいいかな、ってさ」

関城 「……ごめんなさい。あなたも忙しいのに、化学部の準備を手伝わせてしまって」

成幸 「変な言い方するなよ。俺が勝手に手伝ってるだけなんだからさ」

成幸 「……よしっ。十個つなげたぞ。とりあえずこれで天井につけてみようぜ」

関城 「……ん。ありがと、唯我成幸」

101以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:42:27 ID:AFlK0XbA
………………

関城 「し、しっかり押さえててよ! 唯我成幸!」

成幸 「押さえてるよ……」

成幸 「っていうか、怖いなら俺が脚立に上るぞ?」

関城 「こ、怖くなんかないわよ!」

成幸 「ったく……。ん……?」

ピラッ……

成幸 「!?」 ガバッ (い、一瞬パンツが見えてしまった……!)

成幸 (う、上は向けない……)

関城 「ど、どうかしたの?」

成幸 「な、なんでもない。早く鎖をつけろよ」

関城 「わ、わかってるわよ」

102以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:47:03 ID:AFlK0XbA
関城 「うー……」 (脚立の上で立つのって結構怖いのよね」

関城 (とはいえ、さすがに部外者の唯我成幸にそこまでさせるわけにはいかないし)

関城 (とにかく、早くテープでつけないと……)

関城 「あ、テープ……」

成幸 「ああ、テープなら俺が持ってるよ。ほら」

関城 「ん、ありがとう。……って、唯我成幸? どうして下を向いているの?」

成幸 「……聞くな」

関城 「……? あ……」

関城 「み、見た!? 見たのね!?」

成幸 「見てない! だから下向いてるんだろ!」

関城 「っ〜〜〜////」

……グラッ

関城 「あっ……」 (ま、まずいわ。バランスが……)

成幸 「関城!?」

ガシャーン!!!

103以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:48:37 ID:AFlK0XbA
関城 「あいたたた……」

関城 (あれ? あんまり痛くない……?)

成幸 「……悪い、関城。できるだけ早くどいてくれると助かる」

関城 「!? 唯我成幸!?」

関城 (私、唯我成幸を下敷きにしてる……!?)

関城 「ご、ごめんなさい! 大丈夫?」

成幸 「ああ、俺は大丈夫だけど、関城はケガはないか?」

関城 「人の心配をしてる場合かしら!? ほら、起きて」

成幸 「悪い。ありがとう」

関城 「……ごめんなさい。私がバランスを崩したから」

関城 「唯我成幸、あなた、私がケガをしないように、助けてくれたのね」

関城 「ありがとう……」

成幸 「そんなに器用なことはできないよ。偶然だ」

成幸 「でもまぁ、お互いケガがなくて良かったな」

104以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:49:46 ID:AFlK0XbA
………………帰路

関城 「………………」 トボトボ……

関城 (結局あの後、脚立での作業はすべて唯我成幸がやってくれたわ)

関城 (……自分が情けないったらないわね)

成幸 「………………」 (うーん、関城のやつ、落ち込んだ顔してるなぁ)

成幸 「……なぁ、関城」

関城 「……何かしら、唯我成幸」

成幸 「関城はすごいよな。化学部の部長として部員に慕われていて、部員たちのためにがんばっててさ」

関城 「……そんなことないわよ。部員のみんなは、仕方なく私に付き合ってくれているだけよ」

105以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:50:32 ID:AFlK0XbA
成幸 (変なところで卑屈だな……。昔なにかいやなことでもあったのか?)

成幸 (うーん、どうにかしてあげたいけど、本人がネガティブなのはどうしようもないよなぁ)

成幸 「……あ」

関城 「? どうかしたの?」

成幸 「……なぁ、関城。おまえ、明日の朝、早く来て作業したりするのか?」

関城 「そのつもりだけど、どうして?」

成幸 「関城ひとりで?」

関城 「まぁ、そうね……」

成幸 「……そっか。わかった。教えてくれてありがとな」

関城 「?」 (一体なんだというのかしら……)

106以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:52:02 ID:AFlK0XbA
………………夜 唯我家

prrrr…………

成幸 「……あ、小林。夜中に電話かけて悪いな。寝てなかったか?」

成幸 「出てくれて良かった。助かるよ」

成幸 「ん、ああ。ちょっと頼りたいことができてさ」

成幸 「……いや、大したことじゃないんだ。少し教えてほしいことがあってさ」



成幸 「小林さ、化学部の部員に友達とかいないか?」

107以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:54:50 ID:AFlK0XbA
………………翌日 学校

関城 「うぅ……」

関城 (睡眠時間が少ないから、眠いわ。朝日が刺さる……)

関城 (でも、私がしっかりしないと。私は化学部の部長なんだから)

ガラッ……

部員1 「あっ、部長! おはようございます!」

関城 「へ……?」

部員2 「部長、黒板の装飾はこんな感じでいいですか?」

部員3 「実験用具の点検全部終わりました!」

部員4 「化学室前の廊下、少しさみしいですよね。模造紙で研究成果を貼っておくのはどうですかね?」

108以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:55:39 ID:AFlK0XbA
関城 「み、みんな、どうして……?」

部員1 「昨日、全員にメールで連絡が入ったんです。部長が朝も作業をするつもりだって」

部員1 「朝の作業だったら門限も何もないから、手伝ってもいいですよね?」

関城 「あなたたち……」

関城 「……し、仕方ないわね! こうなったら全員で作業進めるわよ!」

部員『おー!』

関城 (……でも、どうしてメールなんか回ったのかしら。わたし、朝から作業するなんて誰にも……)


―――― 『……なぁ、関城。おまえ、明日の朝、早く来て作業したりするのか?』


関城 「……あっ」

関城 (唯我成幸……?)

109以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:56:12 ID:AFlK0XbA
………………放課後 3-B

成幸 「………………」

トンテンカントンテンカン……

成幸 (化学部、うまくいったかな……。っていうか、)

成幸 (お節介をしすぎた気もする。関城のやつ怒ってないかな)

小林 「成ちゃん、これもよろしく。あとはそこ打ち付けたら終わりだから」

成幸 「ん、わかった。置いといてくれ」

小林 「いよいよもって、完成までもう一歩って感じだね」

成幸 「そうだな。長かったような、短かったような……」

小林 「化学部も、うまくいってるといいね、成ちゃん?」

成幸 「ん……ああ、まぁ、そうだな……――」

大森 「――唯我ー! おまえー!」

成幸 「わっ、いきなりなんだよ、大森。って何で泣いてるんだ!?」

110以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:57:58 ID:AFlK0XbA
大森 「眠り姫や親指姫、人魚姫のみならず、他の女子まで毒牙にかけてるとはー!」

成幸 「何の話だ!? っていうか誤解を生みそうなことを言うなバカ!」

大森 「じゃあこの女の子はお前の何なんだよー! 結構かわいいじゃねぇかよー!」

大森 「お前を呼んでくれって頼まれたんだよー!」

関城 「……どうも。唯我成幸」

成幸 「あ、関城……」

関城 「大きなお世話かもしれないけど」 ジーッ

大森 「……?」

関城 「友達は選んだ方がいいわよ、唯我成幸」

成幸 「ああ……。なんかすまん」

111以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 18:59:09 ID:AFlK0XbA
………………廊下

関城 「ごめんなさい。忙しいのに、呼び出したりして」

成幸 「いや、もうそろそろ作業も終わるから大丈夫だ。何か用か?」

関城 「……用っていうか、」

ジーッ

関城 「化学部の部員に、朝集合するようにメールを出したの、あなたね?」

成幸 「あー……うん。俺だよ」

成幸 「余計なことをして悪かった。すまん」

関城 「なっ……。や、やめてよ。顔を上げなさいよ。謝ることなんてないでしょ」

成幸 「……? 関城、怒ってないのか?」

関城 「どうして私が怒ってると思ったのか、説明してほしいくらいだわ」

関城 「……ありがとう、唯我成幸。私、朝化学室に入ったとき、部員たちがいて、すごく嬉しかったの」

関城 「一緒に作業してくれる人たちがいるって思うと、心強かったの」

関城 「……だから、本当にありがとう。それだけ、言いたくて」

112以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 19:00:11 ID:AFlK0XbA
成幸 「俺は何もしてないよ。明日の朝、関城がひとりで作業をするぞ、って伝えただけだ」

成幸 「実際、朝から化学室に行ったのは、部員たちがお前のためにそうしたかったからだろ」

関城 「……っ////」

関城 「……じ、邪魔したわね。話はそれだけ。私も化学室に戻るわ」

成幸 「あっ……関城!」

関城 「……? なに、唯我成幸?」

成幸 「もし、うまく時間とかが合ったらだけどさ」

成幸 「理珠と一緒に、お前の実験ショーを見に行くよ」

関城 「へ……?」

成幸 「だから、その……準備もだけど、当日のショーもがんばってな」

関城 「………………」 ニヤリ 「……当然よ! 私を誰だと思っているの?」

関城 「化学部部長、関城紗和子よ!」 バーン

成幸 「……さすが、恐れ入るよ」

成幸 (すっかりいつもの関城だな。よかった……)

113以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 19:00:52 ID:AFlK0XbA
関城 「……ねえ、最後にひとつだけ、いい?」

成幸 「ん?」

関城 「“理珠” 、ってどういうことかしら?」

成幸 「……あっ」

カァアア……

成幸 「い、いや、それは……成り行きで、そういうことになったというか……」

成幸 「本人には、当分そう呼ぶなと言われてるんだけど……」

関城 「へぇえ……」 ニヤリ 「理珠、ねぇ……。まぁまぁ仲睦まじいこと」

成幸 「ち、ちがうからな! お前が考えてるようなことは何もないからな!」

関城 「ふふ。ま、そういうことにしておいてあげるわ」

関城 (……今はまだ、ね)

114以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 19:03:33 ID:AFlK0XbA
………………文化祭当日 午後

成幸 「………………」

ガクッ……

成幸 (つ、疲れたぁ……)

成幸 (うどん1000食騒動に始まり、フルピュアの衣装探し、ダークフルピュアの衣装作り)

成幸 (3-Aの演劇の手伝いをすることになるかと思ったら、着ぐるみを着て先生方に追いかけ回され、)

成幸 (あしゅみー先輩に助けてもらったと思ったら、図らずも演劇に乱入することになって、古橋と……っ……////)

成幸 (うどんの完売はまだ余談を許さない状況だが、チャンスは今しかない……!)

理珠 「あの、成幸さん? 私、この忙しいときに出歩いてもいいのでしょうか……」

成幸 「大丈夫だ! 3-Fのみんなも、少し休めって言ってくれただろ?」

理珠 「それはそうですが……。というか、いまどこに向かっているんですか?」

成幸 「ちょうどついたよ。ここだ」 ホッ 「ギリギリセーフだ。間に合ってよかった」

理珠 「……化学室? ここって、化学部の――」

関城 『みなさーん、こんにちはー!』

115以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 19:04:31 ID:AFlK0XbA
理珠 「関城さん……?」 (そうでした。関城さん、化学部で実験ショーをやるって言っていましたね)

関城 『今日は、一ノ瀬学園文化祭、化学部実験ショーに来てくださり、ありがとうございます』

関城 『この公演が本日最後となります。楽しんでいってくださいね!』

理珠 「すごい……。こんなにたくさんの子どもたちの前で、あんなにハキハキと喋れるのですね」

成幸 「……ほんと、お前の言ってた通りだと思うよ」

成幸 「あいつはすごいな」

理珠 「……はい。私の、大親友ですから」

成幸 「そうだな。じゃあ、その大親友の晴れ舞台、観ていくだろ?」

理珠 「もちろんです。もしつまらないショーだったら、後でダメ出ししてあげなくてはいけませんから」 フンスフンス

成幸 (……ったく。言ってることは厳しいくせに)

成幸 (楽しそうな顔してるぞー、緒方)

116以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 19:05:52 ID:AFlK0XbA
………………本番直前 化学室

関城 (うっ……。少しうどんを食べ過ぎたわね)

関城 (心なしかスカートがきつい気がするわ)

関城 (でも、がんばるのよ関城紗和子。最後のショーまでしっかり成功させないと)

関城 (がんばってくれたみんなのためにも……)

関城 (楽しみにしてくれている子どもたちのためにも……)

関城 (……結局、緒方理珠と唯我成幸は来られなかったみたいね)

関城 (仕方ないわね。うどん1000食なんてトラブルがあったし)

関城 (……そう。仕方ないこと。唯我成幸も方々を走り回っていたようだし)

関城 「あっ……」

理珠 「……」

成幸 「……」

関城 (……うそ)

関城 (きて……くれたんだ……)

117以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 19:06:35 ID:AFlK0XbA
関城 (……不思議だわ)

関城 (さっきまで苦しくて仕方なかったおなかが全然気にならない)

関城 (公演を繰り返して、痛くなり始めていたのども、全然気にならない)

関城 (……友達が、私のことを見に来てくれている)

関城 (それだけで、私は……)

関城 「………………」

スーーーー

関城 『みなさーん、こんにちはー!』

関城 (それだけで、私は。いくらだってがんばれる気がするもの)

関城 (見てなさい。我がライバルにして大親友、緒方理珠)

関城 (……それから、友達と呼んでやってもいい。唯我成幸)

関城 (この化学部部長、関城紗和子の実験ショーを、せいぜい楽しんでいくといいわ!)


おわり

118以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 19:07:49 ID:AFlK0XbA
………………幕間 後夜祭 勘違い化学部

部員1 「あれ? 関城部長は?」

部員2 「なんでも、後夜祭の花火を観に行かなくちゃだとかで、急いで行っちゃいましたよ」

部員2 「……絶対、あの唯我成幸さんって方と、ですよね?」

部員1 「我らが部長にとうとう春が……!」

部員2 「今夜は打ち上げ兼部長のおめでとう会ですね!」


おわり

119以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/15(土) 19:14:39 ID:AFlK0XbA
>>1です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
文化祭でうどんを何杯も食べた関城さんが、その裏でどうしていたのか想像して書きました。
化学部とか、勝手に想像した部分が多いのは反省点です。
一応断っておくと、まだメインヒロインの中でメイン話を書いていない子がいますが、他意はありません。
全員魅力的なヒロインだと思います。

また書き上がったら別の話をアップします。

120以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/16(日) 15:13:39 ID:l3ORh6EU
>>1です。
ひとつ投下します。


【ぼく勉】水希 「わたしとお兄ちゃん」

121以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/16(日) 15:16:28 ID:l3ORh6EU
………………唯我家

水希 (わたしのお兄ちゃんはかっこいい)

水希 (わたしのお兄ちゃんは頭がいい)

水希 (わたしのお兄ちゃんは優しい)

水希 (わたしのお兄ちゃんは頼もしい)

水希 (わたしは、お兄ちゃんが大好きだ)

水希 (……だというのに)

理珠 「成幸さん、この設問なのですが、出題者の意図がわかりません。なぜこんな回りくどい問題を作るのですか?」

文乃 「ふぁー。成幸くん、どういうわけか方程式からxが消えるんだよ。どうしてだと思う?」

うるか 「成幸ぃー! アルファベットが文字に見えなくなってきたよ! これがゲシュタルト崩壊ってやつ!?」

水希 「………………」 ギリッ

水希 (……そんなお兄ちゃんが、どういうわけか最近よくモテている)

122以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/16(日) 15:17:28 ID:l3ORh6EU
水希 (昔はそんなことはなかった)

水希 (それこそ、数ヶ月前。高校三年生に進級して少しした頃からだ)

水希 (まず、家に女の子をふたり、連れてきた。緒方さんと古橋さんだ)

緒方 「ふむ……。よく分かりました。ありがとうございます、成幸さん」

文乃 「そっか。ここの項を整理しないからこんがらがっちゃうのかぁ。ありがとう、成幸くん」

水希 (……それでも、その頃はふたりはもう少しお兄ちゃんによそよそしかったと思う)

水希 (今は、なんというか、こういう言い方は絶対に適切ではないのだけど、)

水希 (お兄ちゃんを、すごく信頼しているように見える)

水希 (そして……)

武元 「……28,29,30。あ、ほんとだ。目をつむって三十秒数えたらちゃんと英語に見える! ありがと、成幸」

水希 (中学生の頃から話には聞いていた、水泳部の武元さん)

水希 (これは、とても癪だけれど、断言してしまっていいだろう)

水希 (この人は間違いなく、お兄ちゃんのことを狙っている) ギリッ




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