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少女「私を忘れないで」

969以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:47:34 ID:xJEh8Rbw
少女「私は恋愛が成就したとしても、それで未練がすべて叶うとは思わない。お姉ちゃんみたいに結婚したいし、子どもも欲しい。看護師にもなりたいし、好きな本もいっぱい読みたい」

少女「したいことは、まだまだたくさんあるんです!」

少女「だけど、私の大切な人たちが将来の夢を諦めないでいてくれるのなら、それが私にとっての幸せだなって感じるんです」


少女さんは慈愛に満ちた表情で想いを馳せる。
そんな彼女の優しい想いが、俺にも伝わってきたような気がした。


男「少女さんの気持ち、分かったよ」

少女「そうですか。良かったです」

男「俺たち、もう終わりにしよう」

少女「はい。私を好きになってくれてありがとうございました――」

970以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:48:04 ID:xJEh8Rbw
少女さんとの交際が終わった。
感じるものは、少女さんの優しさと無力感。
結局、俺は未練を叶えてあげることが出来なかった。


少女「……」

少女「ところでですね、私は本当に男くんと双妹さんに出会えて良かったと思っているんですよ。二人がいなかったら、きっと自分を見失っていたと思うから」

男「いや、俺は何も出来なかったし」

双妹「男はともかく、どうして私も?」

少女「小説の読みすぎだと思われるかもしれないけど、少年くんに呪い殺されて絶望するはずだった私の運命を価値のあるものに変えてくれたのが、男くんと双妹さんだからなんです」

双妹「それは言いすぎじゃないかなあ」

少女「そんな事はないよ。二人が異性一卵性双生児だったことも近親相姦をしていたことも、私には必要なことだったんです」

971以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:49:28 ID:xJEh8Rbw
男「それって、どういう事?」

少女「最初に疑問に思ったのが、近親相姦をしていた男くんと双妹さんがどうして私や同級生の男子を好きになったのか、ということです。二人には背徳感のようなものがあったのかもしれないけど、それとは別の意味があったことに気が付いたんです」

男「気が付いたって、何に」

双妹「ちょっと待ってよ。あれは好きだったんじゃなくて、気になっていただけだから!」

少女「それはどっちでもいいんだけど、中学2年生のとき、男くんは双妹さんが気になっていた人と乱闘騒ぎを起こしましたよね」

男「あったな、そんなことも……」

少女「それでみんなが双子の話題をしなくなったから、私は双妹さんのことを兄妹だと知りませんでした。もし知っていたら、バレンタインチョコを買いに行った日、男くんに出会っても悩むことはなかったと思うんです」

少女「つまり、男くんと双妹さんが他の人に目移りをしたのは、私が恋愛で悩んで呪い殺されるために必要な出来事だったからなんです」

972以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:49:59 ID:xJEh8Rbw
双妹「それってさあ、少女さんが死んだのは私たちのせいだって、遠まわしに言ってる?」

少女「そうは言ってないです」

少女「あのときはマスコミの記事や少年くんの自殺のことで悩んでいたから呪い殺される理由はたくさんあるし、その……ぬいぐるみに相談するタイミングとか内容が変わっただけだと思うんです。ただ、私が男くんに告白する決意をしていて双妹さんのことを兄妹だと知っていたなら、私は絶対に死んでなんかいないと言い切れます」

双妹「やっぱり、嫌味に聞こえるし」

少女「まあ、それはともかく、男くんと双妹さんが異性一卵性双生児だってことも、私には必要なことだったんですよ」

男「それはどうして?」

少女「この前、友香ちゃんが看護師を目指している理由を話してくれたんだけど、男くんと双妹さんのことをテレビで見たかららしいんです」

男「ああ、そうらしいな」

少女「友香ちゃんと出逢っていなければ、少年くんに呪われて自殺をしてしまったとき、発見が遅れてそのまま死んでいたと思う。私がドナーになることが出来たのは、男くんと双妹さんが一卵性双生児だったからなんです」

973以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:50:29 ID:xJEh8Rbw
男「そっか。俺と双妹がいたから、少女さんの命がみんなにつながったのか」

少女「そうです。男くんと双妹さんのおかげで、私は生きた証を残すことが出来たんです。そして、男くんと双妹さんの関係を知ってしまったおかげで、最後まで学校に通うことが出来ました。不愉快な思いもしたけれど、それは感謝しています」

双妹「少女さん、もしかして――」


双妹がはっとした声で言うと、少女さんは苦笑した。


少女「男くんと双妹さんが愛し合うことで救われた人が大勢いる。そう考えると、気に入らないけど認めたほうが良いのかなって」

双妹「ありがとう! ねえ、男!!」

男「えっ、ああ……そうだな」

双妹「言っておくけど、前言撤回なんてさせないんだからね!」

少女「しないし」

双妹「それなら良いんだけど、ちょっと意外だったかも」

少女「まあ、そのほうが良いと思うから――」

974以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:50:59 ID:xJEh8Rbw
少女「ところで、今日みんなでお花見に行ったでしょ。実はさくらの木、ソメイヨシノがすべてクローン植物だということは知ってますか」

双妹「それくらいは常識だと思うんだけど、唐突に何の話?」

少女「えっとですね、男くんと双妹さんは一卵性双生児だから、ソメイヨシノに似ているなと思うんです」

男・双妹「言われてみれば、確かに!」


まさしく、目から鱗。
一卵性双生児は体細胞クローンと同じようなものだ。
言われてみれば、俺たちはソメイヨシノと同じなのかもしれない。


少女「ふふっ、ですよねえ」

少女「ちなみに、ソメイヨシノには自家不和合性という性質があって、同一個体の花粉では受粉しないんです。しかも、ソメイヨシノはすべてクローンだから違う木も同じ個体なんです」

975以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:51:29 ID:xJEh8Rbw
双妹「それって、もしかして皮肉のつもり?」

少女「双妹さんにはそう聞こえるんですか。さくらの花には自家受粉を防ぐシステムが備わっているのに、どうして、人は双子の兄妹で性行為をするんでしょうね」

双妹「好きなんだから普通のことでしょ」

少女「でも、子どもを作るのはやめたほうが良いと思うんです」


少女さんはそう言うと、ちらりと俺を見た。
そのことについては、双妹と何度か話をしたことがある。
お互い特に考え方が違うなんてことはないけれど、今は責任を取れないので早いと思う。


少女「ああ、それとですね、ソメイヨシノは全国各地に人の手で植樹されているから自生していた野生のさくらと交雑してしまって、ソメイヨシノによる遺伝子汚染が問題になっているそうなんです。それについて、どう思いますか?」


少女さんが不敵に笑う。
きっと、俺と双妹に『他の人と恋愛をするな』と釘を刺しているつもりなのだろう。

976以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:51:59 ID:xJEh8Rbw
男「どう思うかって、さくらの木に例えなくても直接言えばいいだろ。他の人と恋愛するなって」

少女「それだけだと、私の気持ちが男くんと双妹さんに届かないじゃないですか」

男・双妹「届かない?」

少女「そう! さくらの花と関連付けることで、男くんと双妹さんはさくらの花が咲くたびに私のことを思い出すんです」

男「そんなことをしなくても、俺は少女さんのことを忘れたりしないのに」

双妹「そうだよね。私も少女さんのことは忘れないよ」

少女「分かってないですねえ。私は憑依霊……なんだよ」


少女さんがミニテーブルの上に身を乗り出し、俺たちを見据えた。
その冷たい表情とピンク色のベビードールが妖艶な美しさをかもし出す。
それはとても官能的で儚さも感じさせ、俺は射竦められたかのように視線を外すことが出来なくなった。

977以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:52:30 ID:xJEh8Rbw
双妹「な、何をするつもり?!」

少女「ふふふっ」

少女「男くんと双妹さんは、世界中でたった一組しかいない奇跡の異性一卵性双生児。その奇跡は兄妹で愛し合い、ずっと一緒にいることで輝き続けることが出来るんです。さくらの花が咲いて舞い散っていく、その美しさでみんなの心を魅了するように――」


少女さんは妖しく笑うと、ふわりと浮かび上がった。
ベビードールが揺れて艶かしい素足が目に入り、誘うようにして俺のベッドに移動する。
そして腰を下ろすと、嗜虐的な視線を向けてきた。


少女「男くんに双妹さんを愛する覚悟があるというのなら、私のヘアピンを外してください」

男「ヘアピンを?」


俺がバレンタインデーのお返しで渡した、さくらの花のモチーフが付いたヘアピン。
それを外すということは想いを断ち切るということだ。
しかし、憑依霊であることを強調した少女さんがそんな事をするのは、何となく違和感がある。

978以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:53:07 ID:xJEh8Rbw
少女「その顔、私のことを恐れているんですか」

男「そういう訳じゃないけど――」

少女「さくらの木の下には死体が埋まっているって話、聞いたことがありますよね? 男くんが双妹さんを選ぶというのなら、それくらいの覚悟を持つべきだと思うんです」

男・双妹「……!」


それは強烈な自嘲だった。
さくらのヘアピンを外すことは想いを断ち切ることではなくて、少女さんの意思を受け止めるということ。
少女さんの容姿や雰囲気に惑わされず、己の意志を貫くということ。


男「分かったよ。少女さんの言う通りだ」

少女「では、お願いします」

979以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:53:48 ID:xJEh8Rbw
双妹「男、待って! そのヘアピンを外したら、少女さんの気持ちがみんなに伝わるんじゃないの?!」

男「だろうな」

双妹「だろうなって、少女さんの臓器を移植された人の中には小学生の女の子がいるんだよ。中学生くらいの男子もいたはずだし、それっていいのかな」

男「これはあくまでも俺と双妹の問題だろ。少女さんの気持ちがどんな形で伝わるのかは分からないけど、それを受ける止めることも俺たちにとって必要なことだと思う」

双妹「そ……そうかもね。男がそう言ってくれるなら、私も覚悟を決めようと思う。これからは本気で男と向き合っていくから!」


その決意の言葉を聞いて、俺は立ち上がった。
そして少女さんに歩み寄り、側頭部のヘアピンに手を伸ばす。

――バチッ!

ヘアピンに触れた瞬間、静電気のような衝撃に驚いてとっさに手を引いた。
もしかして、少女さんの霊的な力が強くなったから触ることが出来るようになったのか?!
もしそうだとするならば、ヘアピンを外した振りではなくて、本当に触って外すことが出来る。

980以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:54:19 ID:xJEh8Rbw
少女「本当に残念ですね」

少女「ようやく触れ合えるようになったのに、こんな形で触れ合うことになるだなんて」


俺は何も答えることが出来ず、ただ手を伸ばす。
すると、確かに少女さんはそこにいた。
側頭部から感じる温もりと、指先に絡むさらさらとした髪の毛。
そして霊波動が干渉したのか、少女さんの想いが流れ込んできた。

Ne m'oubliez pas

この別れはあなたが未来へと進んでいくためのもの。
死はつらくて悲しいものだけど、それはあなたと私をつなぐ大切な絆でもあるんだよ。
だから、私はあなたの中で支え続けていけることをうれしく思っています。

楽しいときも悲しいときも、私は絶対に立ち止まったりしない。
あなたが将来の夢を諦めないでいてくれるのなら、それが私の幸せです。

981以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:54:51 ID:xJEh8Rbw
少女「っ!」


ヘアピンを外すと、少女さんが息を呑んだ。
そして、そのまま力なくベッドの上に倒れ込む。


少女「私を……忘れないで」


その声は少し弱々しくて、儚げな表情で口元に笑みを浮かべていた。
何か異常な事態が起こっている。
そう理解した瞬間、少女さんの身体が光の粒子に変わって弾け飛んだ。
それは花火のようにキラキラと輝き、音もなく消えていく。


男・双妹「少女さんっ!?」


もう、そこに少女さんの姿はない。
ベッドの上にはベビードールとショーツだけが残され、それもすぐに溶けるようにして消えていった。

982以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:55:21 ID:xJEh8Rbw
双妹「もしかして、成仏したのかな」

男「たぶん魂が壊れたんだと思う。幽体がほとんど残っていなかっただろうし」

双妹「……そっか」


俺の手には、さくらのヘアピンがまだ消えずに残っている。
つまり、この幽体には少女さんの強い思いが込められていたということなのだろう。
最期に可能な限りありったけの想いを伝えるために――。


双妹「これで良かったんだよね。魂が壊れてしまうとしても、自分の気持ちを大切にしたいって言ってたから」

男「確かにそう言っていたけど、それはどうなんだろうな。少女さんの魂が壊れてしまったのは俺のせいだろうし、俺は少女さんの気持ちに応えないといけないと思うんだ」

双妹「少女さんの気持ちに応えないといけない……か」


双妹はやるせない表情で口にすると、俺に歩み寄った。
そして、さくらのヘアピンを手に取る。

983以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:55:53 ID:xJEh8Rbw
双妹「それで、どうするの?」

男「それは双妹も分かっているんだろ」


俺はそう言うと、双妹を力強く抱き締めた。
すると、双妹は少しためらって俺を抱き締めてきた。

俺と双妹は世界中でたった一組しか存在しない異性一卵性双生児。
誰よりも分かり合うことが出来て、誰よりも一緒にいたいと思える大切な女性。
その双妹と『ひとつ』になることが、少女さんの気持ちに応えることになる。

いや、それは口実で俺自身がそうしたいのだ。

双妹と一緒にセックスをしたい。
コンドームもあるし、それが双妹に伝えたい俺の本心だ。


男「双妹、好きだよ。今夜、ここでゆっくりと話をしたい」

双妹「いいよ。私も……男が好き//」

男「ありがとう。それじゃあ、10時頃に迎えに行くから」

双妹「うん、待ってる。今夜は私たちにとって大切な日にしようね//」

984以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:56:24 ID:xJEh8Rbw
(4月1日)fri
〜男の部屋・双妹〜
目が覚めると、いつも使っている抱き枕が男になっていた。
しっかりとした抱き心地の筋肉質な身体と、太ももに感じる何か硬いもの。

あっ、ああ……思い出した。
私はあのあと、そのまま男と一緒に寝たんだった。

何だか不思議。
毎日のように見ていた男の寝顔が今はとても愛おしくて、お腹に感じる鈍い違和感も幸せな気持ちで心を満たしてくれる。
私たち、本当にセックスをしちゃったんだね。

挿入されたときは少し痛かったけど、同じ双子だからなのかなあ。
すぐに私のことを分かってくれて、気が付くと男を受け止めたい衝動に突き動かされていた。
あのときは心と身体がつながって、本当に『ひとつ』なっていたと思う。

ふふっ♪
好きな人とのセックスって、こんなに幸せな気持ちになれるんだ。

985以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:56:54 ID:xJEh8Rbw
私は男を起こさないように少し離れて、棚に目を向けた。
そして、こうなることを見越して用意しておいた婦人体温計を手に取り、口にくわえる。
今は生理周期の把握と体調管理に利用しているだけだけど、いつか妊活に利用する日が来たりするのかな。

そんなことを考えつつ、ぼんやりと天井を眺める。
すると、部屋が少女さんの幽体の気配で満たされていることに気がついた。
そういえば、いつの間にかヘアピンが消えている。
恐らくそれが溶けて広がっただけなんだろうけど、ふとした疑問から不安が込み上げてきた。

少女さんは最後に、『私は憑依霊なんだよ』と言っていたよね。
もしかして、少女さんは私たちに魂が壊れたと思い込ませているだけなんじゃないの?

実際、公園でテニスをしたとき、少女さんは私の姿が自分の姿に見えるように視覚を操作していた。
しかもそれだけではなくて、少女さんは身体や感覚器官を操ることが出来るし、頭で考えていることも読み取ることが出来る。
そんな少女さんと霊波動が共振して影響を受けやすくなっていたのなら、記憶や感情を操作することも簡単に出来てしまうかもしれない。

私たちの気持ちは、本当に私たちの心からの気持ちなのかな――。

986以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:57:25 ID:xJEh8Rbw
男「双妹、その……おはよう」


しばらくして、男が目を覚ました。
ちょっと気まずそうな表情で、何だかいつもよりよそよそしい。
私はそのことに不安を感じつつ、婦人体温計をくわえたまま「おはよう」と返す。


男「何て言えば良いんだろ。初めて一緒にああいうことをして、こうして顔を合わせるのって少し恥ずかしいって言うか、ちょっと照れくさいな//」

双妹「ぅん」

男「でも、双妹との距離がすごく近付いたと思う」


男は優しい声で言って、私の身体に触れた。
それがとても心地よくて、すごくほっとする。
やっぱり、私は男のことが好きなんだ。
だけど、それが少女さんに作られた感情だとしたら私は自分を信じることが出来なくなってしまう。

987以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:57:56 ID:xJEh8Rbw
男「それはそうと、何か悩んでる?」

双妹「……んっ」

男「兄妹でセックスをしたことで悩んでいるなら、俺はどんなことでも双妹と分かち合って支えていきたいと思ってるし、何の覚悟もせずに妹とセックスをしたりなんてしないから」


早く聞いて欲しい。
その言葉が作られたものではないことを信じたい。
私は検温が終わると同時、基礎体温を確認するよりも先に気持ちを吐き出した。

男と『ひとつ』になることが出来て、とても幸せなこと。
だけど、それが少女さんに作られた偽りの感情なのかもしれないこと。


双妹「ねえ、どっちなんだろ」

男「どっちって?」

双妹「少女さんは私たちの恋愛を応援してくれているのか、それとも、悪意を持って縛りつけようとしているのか」

988以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:59:03 ID:xJEh8Rbw
男「きっと、両方だろうな」

双妹「両方?」

男「自分の気持ちを大切にしたいと言っていた少女さんが、俺たちの感情を作り変えたりする訳がないだろ。でも、快く思っていないのも事実だと思う。だから、ソメイヨシノの話をしてきたんじゃないかな」

双妹「ああ、あの話――」

男「それに今日はエイプリル・フールなんだから、自分の気持ちに嘘を吐けばいいじゃないか」

双妹「ちょっと待ってよ。それって関係ある?!」

男「あるに決まってるだろ。不安だと思う気持ちは少女さんが作った嘘で、幸せな気持ちが双妹の本当の気持ちなんだよ」

双妹「その言葉が嘘だったりしない?」

男「どうなんだろ。今日はエイプリル・フールだからな」


……はあっ。
何だか、悩んでいた私が馬鹿みたいだ。

989以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 22:59:34 ID:xJEh8Rbw
男「でもさあ、少女さんも言っていたけど、兄妹でセックスをしたことは大変なことだと思う。きっと理解されないだろうし、これからつらいことがたくさんあると思う」

双妹「そうだよね」

男「それでも俺は双妹を大切にしたいし、双妹と一緒なら乗り越えていけると信じてる」

双妹「私も男を信じてる。好きだよ!」


私は心からの笑顔を向けて、男と唇を重ねた。
そして、棚の上に用意しておいた基礎体温表を手に取る。

これからどんなことが起きても、絶対に負けたりしない。
少女さんの幽体の気配が薄くなっていく中、私は改めて覚悟を決めた。

だから、本当のことを記入した。
日付が変わって深夜にしたこと。
基礎体温表の4月1日、私たちの記念日にハートのマークを――。

990以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:00:13 ID:xJEh8Rbw
(エピローグ)
〜自宅・女さん〜
9月1日、木曜日。
わたしは久しぶりに緊張する朝を迎えていた。
心臓移植が無事に終わって、今日から学校に通うことが出来るからだ。

不安がないといえば嘘になる。
同級生の友達はみんな卒業してしまったし、新しいクラスの人に受け入れてもらえるとは限らない。
わたしは年上だし、身体のこともあるし、たくさん迷惑を掛けるかもしれない。

それでも、この日が来ることをずっと楽しみにしていた。
ドナーさんのおかげで、わたしは新しい可能性を掴み取ることが出来る。
4月から復学して課題をちゃんと提出しているし、2年間のブランクなんてすぐに取り戻してみせるんだから!


女「わたしは絶対に立ち止まったりしない」


不思議と勇気が出てくる言葉。
それを声に出して、久しぶりに制服に着替えた。

991以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:00:44 ID:xJEh8Rbw
〜学校・女さん〜
外は日差しが強く、残暑がとても厳しい。
わたしはマスクをして、水分補給にも気をつけて、移植心に負担が掛かっていないか気をつけながら通学路を歩く。
そして、学校に着いたときには疲れてへとへとになっていた。

わたしは校舎に入って少し休み、予鈴が鳴ったので職員室に向かう。
そして、担任の先生に挨拶をした。
先生は頻繁に家庭訪問をしてくれたし、休学を決めたときの担任でもあるのですごく安心できる。


女「おはようございます!」

先生「女さん、おはよう。身体のほうは、もう大丈夫なのかな」

女「いろいろと気を付けなければならないことがあって大変ですけど、通学が出来るくらいまで良くなりました。きっとご迷惑をお掛けすると思いますが、またよろしくお願いします」

先生「ああ、簡単に言って良いことじゃないのかもしれないけど、こうして戻って来てくれて本当にうれしいよ。また、みんなと頑張ろう」

女「はいっ!」

992以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:01:14 ID:xJEh8Rbw
先生と話していると、HRのチャイムが鳴った。
この時間は先生と体育館に移動して、教員の列に並んで始業式に参加することになっている。
それが終われば、今度はクラスメイトに自己紹介をしなければならない。

ちゃんと受け入れてもらえるかな。
緊張と不安で胸がいっぱいで、校長先生の言葉が頭に入ってこない。
気がつくと始業式が終わっていて、声を掛けられた。


先生「もう戻る時間だけど、疲れたなら保健室に行こうか?」

女「いえ、自己紹介をどうするか考えていただけなので」

先生「ははは、そういうことか」


先生は軽く笑い、職員室へと歩き始めた。
わたしもそれについて歩く。
そして職員室で説明を受け、教室に移動するときが来た。

993以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:01:44 ID:xJEh8Rbw
廊下を歩き、わたしの教室に向かう。
そこは休学をする前に使っていた教室だった。
きっと、わたしの不安が軽くなるように校長先生が配慮してくれたのだと思う。

そう考えると、とても幸せだなと感じた。

もう大丈夫。
わたしは立ち止まったりしない。

その表情に気付いたのか、先生がわたしに目配せをして教室のドアを開けた。
まずは先生だけが入り、今日から戻ってくる生徒がいることを話す。
そして教室に入ってくるように促され、わたしは新しい世界に一歩を踏み出した。


女「ええっ!」


教室に入ってすぐ、知っている人がいたので思わず声が出てしまった。
彼もわたしの顔を見て、驚いた表情をしている。
まさか友くんが同じクラスだったなんて、これってもしかして運命の出会いだったりするの?!

994以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:02:15 ID:xJEh8Rbw
友くんは今年の3月に病室に現れた不審人物のひとり。
それから4月に退院して、夏休みに夏を感じたくて水着売り場に行ったときに偶然出会った人だ。

そのときに驚いたのは、わたしが心臓移植をしたことを知っていたことだ。
彼は霊感が強いらしくて、そういったものを感じることが出来るらしい。
そして彼には友香さんという看護師志望の彼女がいて、二人が水着を買ったあとにしばらく3人で話をすることになった。

その日は聞かなかったけど、いや、これからも聞くつもりはないんだけど……。
友香さんの雰囲気から察して、少女さんという人がわたしのドナーさんなのかもしれない。
そう考えると少し気まずいけれど、この二人との出会いはきっと偶然ではない何かがあるのだと思う。


先生「女さん、こっちに」

女「あっ、はい」


わたしは友くんに軽く手を振って、先生の隣に移動した。
みんなからの視線を感じる。
だけど、知っている人がいるのは心強い。

995以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:02:46 ID:xJEh8Rbw
先生「それじゃあ、自己紹介をしてくれるかな」

女「はい」

女「……あの、初めまして。わたしは女と言います」

女「わたしは心臓の病気でずっと休学をしていたのですが、難しい手術が成功して学校に通うことが出来るようになりました。だけど、今も薬を飲み続けなければならなくて、生活面でも気を付けなければならないことがたくさんあります」

女「そのことで迷惑を掛けてしまうことがあるかもしれませんけど、わたしはみんなと一緒に卒業できるように頑張りたいと思っています。2歳年上だけど先輩ではなくて同級生なので、気軽に話しかけてもらえたらうれしいです」

女「そんなわたしですが、これからよろしくお願いします」


自己紹介が終わり、教室を見渡した。
少し戸惑っている表情の人が多いけれど、伝えたいことは言ったので、わたしから歩み寄る努力をすれば大丈夫だ。


先生「女さん、ありがとう。あそこの空いている席に座ってください」

女「分かりました」

996以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:03:17 ID:xJEh8Rbw
わたしはこっそりとスマホを操作している友くんの脇を抜け、一番後ろにある自分の席に向かう。
もしかして、友香さんにメッセージを送っているのかなあ。
そんな事を考えつつ含み笑いをしていると、わたしの席のひとつ前に座っている女子生徒と目が合った。
しかも、その隣に座っている男子生徒も同じようにわたしを見ているようだ。

まだどんな人か知らないけれど、通りすがりに軽く会釈をして席に着く。
そして、教室の外に目を向けた。
どこまでも広がっている、夏の青空と住宅街から感じる人々の営み。
2年前と変わらない光景がそこにはあり、帰ってきたんだという実感が込み上げてきた。

わたしは今、たくさんの希望を感じて心が弾んでいる。
わたしの人生が今、ここから未来に向かって動き始めるんだ!


女「ふふっ、ただいま♪」


この気持ちを大切にしたくて、わたしはそっと声に出す。
するとそれを聞かれてしまったらしく、さっきの二人が困惑した表情を向けてきた。
そんな二人に、わたしは笑って誤魔化した。

997以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:03:54 ID:xJEh8Rbw
少女「私を忘れないで」
―おわり―

998以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/20(水) 23:13:05 ID:xJEh8Rbw
ここまで読んでくださってありがとうございました!
機会があれば、またよろしくお願いします

こちらは過去に書いたSSです
http://binchan03.blog.fc2.com/

999以下、名無しが深夜にお送りします:2019/02/21(木) 08:17:01 ID:pfchqdnA
おつです
エッチなアプリの人だったんですね
過去作もほとんど読んでました
次回作楽しみにしてます


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