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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

73以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 00:27:05 ID:dF1v/fBY
席に着くとチャイムが鳴り、HRが始まった。
教室に担任の教師が入ってきて、出欠を確認する。
そしてそれが終わると、HRに続いて1限目の数学の授業が始まった。


教師「――であるからして、角度と斜辺の長さが分かっていればsinθを活用することで、三角形の高さを計算することが出来るのです。それでは、各自で問題を解いてみましょう」

少女「三角関数を活用した面積の計算ですね」

男「ちょっ、少女さん……顔が近いって」ヒソヒソ

少女「はわわ、ごめんなさい//」


少女さんはそう言いうと慌てて身体を離し、今度は机の横から教科書とノートを覗き込んできた。
俺はそんな少女さんのことが気になりつつ、問題を解いていく。

74以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 00:30:39 ID:s99yjGbI
少女「あっ! その問題、答えを間違えていますよ」

男「ああ、ほんとだ。ありがとう」

少女「どういたしまして♪」

男「この問題も難しいな」

少女「それは余弦定理を使えば解けますよ!」

男「なるほど、余弦定理か」

教師「男っ! そんなに喋りたいなら、前に出て模範解答と解説を頼もうか」

男「……ええっ?! マジッすか!」

少女「ふふっ、授業中に私語なんてしているからって……わわっ?!」フワフワ


席を立って教壇に向かうと、少女さんも引っ張られて一緒に付いてきた。
どうやら、解説を手伝ってくれる――訳ではなさそうだ。
俺は小さくため息をつき、少女さんと双妹の視線を感じながらチョークを手に取った。

75以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 00:40:17 ID:6r8XeXyc
今日はここまでにします。

>>73訂正
そう言いうと

そう言うと

76以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 19:55:51 ID:6r8XeXyc
〜学校・お昼休み〜
お昼休みになり、俺はお弁当を食べて友の席に行った。
そして隣の席の椅子を拝借し、少女さんの話の続きを促した。


友「それじゃあ、少女さんがどれほど強力な力を持っているのか。まずはその話から始めよう」

少女「それなんですけど、私ってそんなにすごい力を持っているんですか?」

友「そうだよ。男が少女さんの姿を見て、普通に会話までしていることは異常なことなんだ」

男「異常って、どういう風に……」

友「人はなぜ、物を見たり音を聞いたりすることが出来ると思う?」

男「それは目や耳があるからだろ」

友「目や耳があるだけでは、見たり聞いたりすることは出来ない。たとえば物が見えるのは、目の網膜で受容した情報が視神経に伝わって、最終的に大脳の視覚中枢が情報を受け取っているからだ」

男「まあ、厳密に言えばそうだな」

友「これが物を見るために必要な要素のひとつなんだ」

77以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 19:58:12 ID:dF1v/fBY
友「では、物を見るために目以外で必要なものは?」

男「目以外で?」

少女「光、ですね」

友「そうだね。光がないと目に情報が入って来ない」

男「そんなの当たり前だろ」

友「当たり前かもしれないけど、それが物が見えるということなんだ。だけど、実はもう一つ必要なものがある」

男「まだ必要なものがあるのか?!」

友「それは見る対象となる物体だ。それがなければ、人は物を見ることが出来ない。これら三つの要素が揃うことで、人はようやく物を見ることが出来るようになるんだ」

78以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 20:02:29 ID:dF1v/fBY
男「三つの要素か」

友「それじゃあ、少女さんはこの三つの要素が揃っていると思うか?」

少女「……私には身体がないから揃っていないです」

友「そうだね。幽霊には生身の体がないから、絶対にその姿を見ることが出来ないんだ」

男「それはおかしくないか? 生身の体がなくても、俺や友は少女さんの姿を見ることが出来ているだろ」

友「そのことなんだけど、幽霊は幽体と霊体、魂で構成されていて、魂が霊波動を発しているんだ。俺みたいに霊感が強いと幽体や霊波動を感じ取ることが出来るから、幽霊の姿を見ることが出来るって訳だ」

男「霊波動を感じ取るとか思いっきりオカルトだな」

友「俺はスピリチュアリズムを信仰している訳じゃないから、オカルトだと批判されても異論はない。だけど霊的解釈の一部は正しいみたいだし、男や少女さんにとって分かりやすい部分もあると思うんだ。超ひも理論とかユニバーサル余剰次元モデルだとか言われても困るだろ」

少女「そ……そうですね。心霊番組や小説で馴染みのある言葉を使ってくれたほうが、私も分かりやすいです」

男「まあ、そうかもな」

友「じゃあ説明を続けるけど、問題は霊感がない男の場合なんだ」

79以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 20:07:06 ID:6EFZLJ12
友「少女さんには生身の体がないから、三つの要素が揃っていないだろ。そして男には霊感がないから、幽体や霊波動を感じ取ることが出来ない。それなのに、少女さんの姿を見ることが出来る。それは少女さんが男に自分の姿を見せているからなんだ」

男「もう少し分かりやすく言ってくれよ」

友「つまり少女さんが男に取り憑いて、大脳の視覚中枢に直接情報を与えているんだ」

男「えっ、ええぇぇっ! そんなことが出来るのか?!」

少女「……」

友「論理的に考えたら、それ以外に考えられないだろ」

男「確かに……」

友「少女さんと会話が出来るのも、それと同じ理屈だ。空気の振動を声として感じ取っているのではなくて、大脳に直接情報を与えて操っているからなんだ」

男「それを少女さんがしているのか」

友「信じられないかもしれないけど、そういうことになる。少女さんがどんなに強力な力を持っているのか、もはや説明するまでもないだろ」


視覚情報と聴覚情報の操作。
そんなに強力な力を持ってまでして、少女さんは最期に俺に会いたかったということだろう。
そう思うと、嬉しいような怖いような複雑な気分になった。

80以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/27(火) 20:19:11 ID:6EFZLJ12
少女「私が今さら言うのも変な話ですけど、そんなことをして大丈夫なんですかねえ」

友「現状では大きな問題はないと思う。だけど四十九日を過ぎても同じ事をしていたら、お互いに悪影響が出てくるだろうな」

少女「悪影響って、どんな事が起きるんですか」

友「生身の体を持たない少女さんが俺たちと会話が出来るのは、幽体を介して一部の電磁波や生きている人間の霊波動を意味のある情報として感じ取っているからなんだ。だけど、波には干渉する性質があるだろ。そのせいで幽体が劣化して、霊魂を傷付けてしまうことになるんだ」

少女「それじゃあ、普通に成仏するまでは大丈夫ってことですね」

友「まあ、そういうことになると思う」

男「でも、どうして少女さんはそんなに異常な力を持ってしまったんだろ」

友「その理由はいくつかある」

男「いくつかって?」

友「まず、今年がうるう年だということかな。星と暦の巡り合わせが影響して、霊的な力が強くなりやすいんだ」

少女「今月は29日まであるんだっけ」

友「そうそう。ちなみに西暦2000年のときは、いろいろ重なってかなりヤバかったらしいぜ」

男「……ふうん」

81以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/28(水) 21:06:41 ID:u3p/KNoU
少女「ところで、うるう年以外の理由は何なんですか?」

友「詳しいことは霊視をしてみないと分からないんだけど、何と言うか……少女さんの死因も関係しているみたいなんだ」


友は少し言葉を濁し、俺に目配せをしてきた。
さすが霊感が強いだけあって、死んだ原因も分かっているのだろう。


少女「私の死因が分かるんですか?!」

友「それはまあ、目に見えて痕跡が残っているからね。恐らく、死因はそれだと思う」

男「俺も気が付いていたんだけど、つらいことを思い出すんじゃないかと思うと、なかなか言い出せなくて――」

少女「そうだったんですね」

友「どうする? やっぱり言うのをやめようか」

少女「いえ、大丈夫です。私はそれでも知りたいです。知らないといけない気がするんです」

男「それじゃあ、悪いけど頼む。俺よりも友のほうが詳しく知っているだろうし――」

友「そうだな。分かった」

82以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/28(水) 21:13:43 ID:hU9QwySA
友「少女さんの首を見れば分かるだろうけど、少女さんは自殺霊なんだ」

少女「自殺……ですか」

友「何と言うか、首を吊って自殺したんだと思う」

男「少女さん、大丈夫?」

少女「はい。でも、あまり実感が湧かないです」

男「そっか」

友「それで自殺霊についてだけど、大きく分けて二種類いるんだ。一つは絶望や怨嗟を抱えながら自殺をした霊で、もう一つは欲望を叶えるために自殺をした霊だ」

少女「私はどっちの自殺霊なんですか」

友「それがその、少女さんの場合は何かがおかしいんだ」

83以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/28(水) 21:33:32 ID:43PIBbLQ
少女「何がおかしいんですか?」

友「少女さんの行動が自殺霊らしくないんだ。男に憑依して呪詛を吐き散らしている訳ではないし、心中のように望んで自殺をしたようにも見えない。しかも自殺霊が未練を抱えているなんて、俺はあまり聞いたことがない」

男「言われてみれば、それは違和感があるな」


未練とは、志半ばで死んでしまった人が抱く心残りのことだ。
それは怨恨や怨嗟といったネガティブなものではなくて、前向きでポジティブな気持ちの表れだというイメージがある。
生きることが嫌になって自殺をした人が、ポジティブな願いを抱くものだろうか。


少女「そうなると、私は自殺をしていないことになりますよね」

友「だけど少女さんには自殺痕が残されているから、他殺だとは考えにくいんだ」

男「まるでミステリだな」

少女「家に帰りたくない理由が分かれば、謎が一気に解明するんですかねえ」

男「やっぱり、それが最大のネックだよな」

84以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/28(水) 21:58:34 ID:u3p/KNoU
友「一つ聞きたいんだけど、どうして家に帰りたくないの? 日本独自の死生観で考えるなら、四十九日を迎えていない浮遊霊は自宅で過ごしているはずなんだけど」

少女「何と言うか、家に帰ると良くないことが起きるような気がするんです」

友「良くないこと?」

少女「……はい」

男「ちなみに、家に帰れないせいで俺に対する未練も解消できないんだ」

友「もしかしたら、少女さんは事故死霊の特徴を持っているのかもしれない」

男「それって、どういうことだよ。少女さんは自殺霊じゃないのか?」

友「少女さんの死因は首吊り自殺で間違いないけど、それだけではないような気がするんだ」

男「自殺だけど、事故死でもある――か。一体、何があったんだろ」

友「それはまだはっきりとしたことは言えない。だけど少女さんが家に帰れない原因は、それが関係しているはずだ」

85以下、名無しが深夜にお送りします:2018/02/28(水) 22:46:34 ID:u3p/KNoU
男「結局、肝心なことは何も分からないのか」

友「そうは言うけど、昨日の今日で解決しろっていうほうが無茶なんだ。とりあえず、今は家に帰りたくない理由を解明することから始めよう。まずは、少女さんの未練を解消させてあげたいだろ?」

男「そうだな。それは俺たちも話していたところだ」

少女「友くんは私を無理やり家に連れて帰る、なんてことは言わないですよね」

友「帰りたくない理由が分からない以上、そんな危険なことはしないよ」

少女「良かった……」

男「それじゃあ、そろそろお昼休みが終わる時間だし、俺たちは席に戻るから」

友「もうそんな時間か。また何か分かったら話をしよう」

男「ああ、そうしてくれると助かるよ」

少女「友くん、今日はありがとう。またよろしくね」ペコリ

86以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 21:01:48 ID:wRUwK4Nw
〜自宅・部屋〜
部活が終わって自宅に帰ってきたときには、午後6時を過ぎていた。
俺の隣には今日も少女さんが立っている。
何だか付き合っているみたいだなと思いつつ、俺は遠慮がちに彼女を招き入れた。


少女「今日は楽しかった〜♪」

男「俺は少し疲れたよ。部活、今日はハードすぎ……」

少女「それじゃあ、私がマッサージをしてあげましょうか//」

男「えっ?! でも、少女さんは触れないだろ」

少女「そういえば、そうでしたね」

男「ま……まあ、触ることが出来たとしても遠慮するけど」

少女「どうしてですか?」

男「だって、少女さんにマッサージをしてもらったら緊張しそうだし」

少女「緊張するって、ただのマッサージですよ。もしかして、変なことを考えてる?」

男「いやいや、そんなことないって!」

少女「ふうん、それなら良いけど――。せっかく私のテクニックを披露するチャンスだったのに、すごく残念です」ショボン

87以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 21:04:45 ID:8zm9Y3E6
男「それはそうと、少女さんが家に帰りたくないのはどうしてなんだろうな」

少女「わわっ、急にまじめな話にシフトしないでくださいよ」

男「ごめんごめん」

少女「家に帰りたくない理由ですけど、やっぱりよく分かりません」

男「俺、少し考えたんだけど、小学生や中学生のプチ家出が問題視されているだろ。ああいうのって、何が原因なんだろ」

少女「家庭環境が良くないとか、もっと自分を見て欲しいとか、そういった理由がほとんどじゃないかなあ」

男「少女さんは親と仲が悪かったとか、そういうのはないの?」

少女「別に普通だったと思いますよ」

男「普通?」

少女「バレンタインデーにお父さんにネクタイを渡すつもりだったし、それくらいには仲が良かったと思う」

男「そっか、そうなんだ」

88以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 21:07:14 ID:7/dzlUtA
男「それじゃあ、今まで家出をしたことはないの?」

少女「したことがないです」

男「まあ、少女さんってそんなことをしそうには見えないもんな」


家庭環境に問題はないし、今まで家出をしたこともない。
それなのに、なぜ家に帰りたくないと言っているのだろうか。

いや、待てよ。
少女さんは『きっと良くないことが起きる』と言っていた。
そして少女さんの死因は、自殺だけど事故死でもある。
事故に遭ってしまったせいで、家に帰りたくないと思うようになってしまったのではないだろうか。


男「俺、ひらめいたかもしれない!」

少女「ひらめいたって、何をですか?」

男「少女さんが家に帰りたくない理由だよ」

少女「ぜひ聞かせてください!」

89以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 21:17:47 ID:vkLsUefY
男「それじゃあ、話すよ。少女さんは自分の家で、とある事故に遭ってしまったんだ」

少女「とある事故?」

男「ああ。その事故で少女さんは意識を失い、病院に運ばれて入院することになった。そして入院することになった少女さんは、医師から衝撃の事実を聞かされたんだ」

少女「それって、何なんですか?」

男「それが何かは分からないけど、それを聞いて絶望した少女さんは自殺をしてしまった。つまり、そういうことだったんだ」

少女「はあ……それで結局、どういうことですか」

男「少女さんは自殺を考えるほどの事故に遭ってしまったから、良くないことが起きると思って家に帰りたくないんだ」

少女「話は面白いですけど、私は違うと思います。良くないことが起きるっていうのは、そういうことじゃないような気がするんです」

90以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 21:28:25 ID:7/dzlUtA
男「じゃあ、どういうことかな」

少女「それは分かりません。それに意識不明で救急搬送されてきた患者に、自殺を選択させるかもしれない内容の話を告知するとは思えません」

男「でも、病院で自殺をしたんだろ」

少女「そんなのあり得ないです。出来るわけがないじゃないですか」

男「少女さん、自分で言ったことを覚えてる?」

少女「何のことですか」

男「昨日、病院のベッドで横たわる自分の姿を見下ろしていたと言っていたじゃないか。もし家で自殺をしていたのなら、病院よりも警察のお世話になっているはずだろ」

少女「それはそうかもしれないけど、何だか腑に落ちないです。病院で首吊り自殺をしたなら、ベッドで横たわる姿を見下ろすことは出来ないと思います」

91以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 21:37:40 ID:8zm9Y3E6
そう言われ、俺は眉を寄せた。
確かに病院で首吊り自殺をすると、ベッドの上で横たわる姿を見下ろすことが出来ない。
しかし、家で自殺をした場合も警察のお世話になるので同じことだ。

少女さんの記憶と、首に残された自殺の痕。
そして、家に帰りたくない理由。
どんなに考えても、これらが一つに繋がらない。

そういえば記憶がすごく曖昧になっていると言っていたし、まだ足りない情報があるのだろう。
もしそうだとするならば、現段階ではこれ以上考えることは難しそうだ。

92以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/01(木) 21:48:48 ID:wRUwK4Nw
男「まだまだ、分からないことが多いな。これ以上考えても意味がなさそうだし、そろそろ着替えようと思うんだけど」

少女「そうですね。それでは、私は後ろを向きますね//」


少女さんはそう言うと、後ろを向いた。
それはつまり、少女さんが俺の視覚中枢を操作して、後ろを向いているという姿を俺に見せているということになる。

あれっ?
そうなると昨日お風呂に入ったとき、少女さんが裸だったのは俺になら見せてもいいと思っていたからなのか?


少女「もう着替えましたか」

男「いや、まだ着替えてない」


俺はそう言いつつ、少女さんのほうに振り返った。
すると、少女さんの服装が制服姿から洋服姿に変わっていた。
しかもそれに合わせて、髪形がアレンジされている。
少しでも可愛く見せようと、俺のために頑張ってくれているのだ。

だけど、彼女はすでに死んでいる。
気持ちはうれしいけれど、それに応えられるはずがない。
そう、応えられるはずがないのだ――。

93以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/05(月) 21:07:11 ID:WscPhLRE
(2月17日)wed
〜学校・お昼休み〜
友「なあ、男。少女さんのことで試したいことがあるんだけど」

男「試したいこと?」


お昼休みになり、お弁当を食べ終えると友が話しかけてきた。
試したいこととは、一体どんなことだろう。


友「心霊催眠っていう交霊術を使って、少女さんの記憶を呼び覚ましてみようと思う。普通は気持ちの整理が出来るようになった段階で思い出していくものなんだけど、少女さんの場合は特殊な状況だから必要なことだと思うんだ」

男「催眠術か……。それではっきりと思い出すなら、試してみる価値はありそうだな」

少女「でも、それで何を調べるんですか?」

友「少女さんの死因は首吊り自殺で確定だけど、事故死の要素も孕んでいるだろ。だからどんな状況で自殺に至ったのか、その経緯を知りたいんだ」

94以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/05(月) 21:23:17 ID:WscPhLRE
少女「なるほど。自殺の動機を調べるんですね」

友「それも気になるけど、今提案しているのは現場検証に近い感じかな」

少女「現場検証?」

友「いつどこで、どのように死んだのか。それを思い出すことで、自分を見詰めることが出来るようになるはずなんだ」

少女「自分を見詰めることが出来るようになれば、いろんなことが分かるようになりますよね。ぜひお願いします!」

友「それじゃあ、準備があるから土曜日に俺の家でってことで良いかな」

男「悪いけど、土曜日は予定が入ってて――」

友「予定?」

男「俺の親父が海外出張に行くんだけど、家族で見送りをすることになっているんだ。だから日曜日でも良いかな」

友「おう。そういうことなら、日曜日に準備をしておくから」

男「ああ、分かった」

95以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/05(月) 21:26:46 ID:WscPhLRE
少女「日曜日が楽しみだね。私が曖昧になっている記憶を思い出せば、男くんの推理が正しいかどうかも分かるようになりますよ」

男「俺の推理?」

少女「ほらっ! 私が家で事故に遭って、そのことがきっかけで病院で自殺をしたと言ってたじゃないですか」

男「ああ、あのことか。だって、それ以外に考えられないだろ」

友「あのさあ、病院で首吊り自殺をするとか、普通に無理だと思うんだけど」

少女「ですよねえ。私もそう思います」

男「そうは言うけど、家で自殺をしたら病院で気が付くって状況にならないだろ。警察沙汰になるんだから」

少女「でも、気が付くと病院にいましたし――」

友「ただ単に家族が救急車を呼んで、病院に運ばれて死亡したってことじゃないのか? まあ、どこで自殺をしたのか、少女さんの記憶を呼び覚ませばすぐに分かることだけどな」

男「言われてみれば、そう考えるのが普通かもな」

友「事故にこだわるから、変なことになるんだ」

96以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/05(月) 21:29:33 ID:WXE08Gjc
少女「それじゃあ、自殺の経緯は友くんが解明してくれるとして、自殺の動機は何なんでしょうね」

男「それも催眠術で同時に分かるんじゃないのか?」

少女「それもそっか」

男「少なくとも、いじめで悩んでいたってことはなさそうだけどな」


少女さんが話してくれた、生きていた頃の記憶。
それによると、少女さんは友達と一緒にバレンタインチョコを買いに行っていたらしい。
もしいじめられていたならば、そんな気持ちの余裕はなかったはずだ。


少女「でも、つらいことはあったような気がします」

男「つらいこと?」

少女「はい。でもクラスのみんなが私を励ましてくれて、すごくうれしかったことを覚えています」

97以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/05(月) 21:30:49 ID:VmdtOPbs
男「つらいことって何があったの」

少女「何がって……あれっ? うまく思い出せないです」

男「死んだときだけじゃなくて、つらい記憶も曖昧になっているのか」

少女「そう……みたいですね」

友「少女さんって、どこに行ってたの?」

少女「学校ですか? それなら、北倉高校ですけど」

友「クラスは?」

少女「看護科の1年A組です」

友「看護科って女子しかいないんだよなあ」

少女「そうですよ」

98以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/05(月) 21:34:49 ID:hrHg2ZeQ
友「なあ、男。ちょっと双妹ちゃんに聞いてみようか」

男「聞いてみるって、何をだよ。双妹は少女さんと面識がないんだぞ」

友「だけど、看護科に友達がいるかもしれないだろ。そうすれば、何か分かるかもしれないじゃないか」

男「そうかもしれないけど、どうやって説明するんだよ」

友「それは任せた!」

男「……仕方ないなあ」


俺は小さくため息を吐き、少女さんと双妹の席に向かった。
どうやら、双妹は妹友さんとファッション誌を読みながらだべっているようだ。
内容的に説明しづらいけれど、やるしかない。

99以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/06(火) 20:33:51 ID:lR0akWQQ
男「双妹、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな」

双妹「聞きたいこと?」

男「北倉高校の看護科の1年A組なんだけど、そこに友達っているか」

双妹「いや、いないけど。それがどうかしたの?」

男「実は少女さんのことで知りたいことがあって」

双妹「……えっ、まだ諦めていなかったんだ」

妹友「何なに? もしかして、男くんに好きな人がいるの?!」


妹友さんが好奇の眼差しを向けてきた。
しかも、少女さんは期待で目を輝かせている。
こういう場合、どうやってやり過ごせば良いのだろう。

100以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/06(火) 20:48:03 ID:lR0akWQQ
男「それはその、何と言うか――」アセアセ

双妹「えっとね、少女さんは男が中学生のときに告白して断られた女の子なの」


どのように説明すればいいのか困っていると、双妹がストレートに説明してくれた。
俺は「そうそう」と頷き、妹友さんに目を向ける。


妹友「あっ、ああ。もしかして、未練たらたらってやつ?」

男「そうじゃなくて、日曜日に北倉高校に行ったんだけど、そのときに良くないうわさを聞いたから気になって――」

少女「ええっ、良くないうわさですか?!」


話を聞き出すための方便なのに、少女さんが驚いてどうするんだよ。
でも、そんな天然っぽい反応がちょっと可愛い。


双妹「ふうん、そうなんだ。それで、妹友ちゃんは聞いたことある?」

妹友「それかどうかは分からないけど、聞いたことがあるわよ」

男「ほんとに?!」

妹友「うん」

101以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/06(火) 20:56:33 ID:lR0akWQQ
双妹「ねえねえ、どんな話なの?」

妹友「私の友達が普通科に通ってるんだけどね、冬休みに自殺をした男子生徒と同じクラスなの。それで、警察やマスコミの人に聞き込みをされたんだって」

双妹「あれって、いじめ自殺なんでしょ」

妹友「それがそうじゃなくて、本当は告白をして断られたことがショックで自殺したらしいの」

双妹「うわあ、何それ〜」

男「そんなの有り得ないだろ!」

妹友「それでね、その相手の女の子っていうのが看護科の1年生なの」

男「まさか、それが少女さんなのか?!」

妹友「さあ、そこまでは……。それでその子、今は学校に来ていないんだって」

双妹「そうなんだ」

少女「……」

102以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/06(火) 21:02:47 ID:lR0akWQQ
双妹「その看護科の女の子、すごく可哀想」

妹友「そうだよね! その男子が自殺したのは自分のせいだって、思い込んでいるんだろうね」

双妹「彼女は命を守るための勉強をしているのに、こんなの許せないよ……。一生消えない心の傷を背負い続けることになるんだよ!」

男「そうだよな――」


男子生徒は自殺をすることで、女子生徒の未来を奪ったのだ。
それはきっと少女さんのことで、看護師を目指していた彼女にとってその苦しみは計り知れないものだったに違いない。
男子生徒がしたことはあまりにも身勝手で、とても許されるようなことではないと思う。


妹友「その女の子は今も落ち込んでいるのかもしれないけど、告白を断ったのは正解だよね」

双妹「そうそう! もし付き合っていたら、絶対に酷い目に遭わされていたと思う。自殺したのはそいつの勝手だし、さっさと忘れちゃえばいいんだよ」

妹友「ほんと、それ! サイッテーなオトコだよね!!」

103以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/06(火) 21:07:11 ID:BRf3qC0E
少女「……男くん、席に戻りませんか」


そう言われて少女さんを見ると、彼女の表情が曇っていた。
さっきまでの快活な笑顔は微塵も感じられない。
もしかすると、今の会話を聞いて曖昧になっていた記憶が戻りつつあるのかもしれない。


男「二人とも、ありがとう」

妹友「うん」

男「じゃあ、俺は席に戻るから」

双妹「……」

104以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/06(火) 21:19:09 ID:BRf3qC0E
友「どうだった?」

男「かなり胸くそ悪い話だった。恐らく、それが動機に繋がっているのだと思う」

友「どんな話だったんだよ」


そう言われ、俺は少女さんを見た。
泣いてはいないものの、とてもつらそうな表情をしている。
今はそっとしておいたほうがいいだろう。


男「悪いけど、今は勘弁してくれ」

友「そっか。何か事情があるみたいだし、日曜日までに話してくれたら良いから。今は焦らずに慎重にいこう」

男「そうだな」

少女「……ありがとう」

105以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/07(水) 23:02:23 ID:UhLvx9Ws
〜自宅・部屋〜
学校が終わり、家に帰ってきた。
昨日はずっと楽しそうだった少女さんも、今日はお昼休みからずっと気落ちしたままだ。
きっと、自殺した男子生徒のことを考えているのだろう。
そう思っていると、少女さんが小さくため息を漏らした。


少女「……はあ」

男「少し落ち着いた?」

少女「はい。お昼休みに話していたことをずっと考えていたんですけど、ようやく気持ちの整理が出来ました」

男「そうなんだ」

少女「もしよければ、聞いてくれませんか」


少女さんは儚げに微笑んで、俺を見詰めてきた。
そんな彼女に、俺は無言でうなずいた。

106以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/07(水) 23:04:16 ID:AzWCFTOo
少女「私は二学期の終業式の日に、少年くんに告白されました。もちろん断ったんですけど、そのあとに彼が自殺をしたんです」

少女「私がそのことを知ったのは三学期になってからでした。そのときは彼の名前を知らなかったので『普通科は大変だなあ』くらいにしか考えていなかったんですけど、次の日、生徒指導室に呼び出しされたんです」

少女「そこで待っていたのは警察の人で、私は彼との関係について事情聴取をされました。そして、遺書の内容を聞かされました。少年くんが自殺をしたのは、私のせいだったんです」

男「それでどうなったの」

少女「私は告白を断っただけですし、事件性がないということで厳重注意をされただけで済みました。それから彼の家族と面談することになって、友香ちゃんやクラスのみんながたくさん励ましてくれました」


少女「すごくうれしかった――」


少女さんが苦しそうに気持ちを吐き出していく。
そしてふいに見せた表情に、俺ははっとさせられた。

107以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/07(水) 23:32:28 ID:ddlQ40BE
男「俺、思うんだけど、少女さんは何も悪くないと思うんだ」

少女「……うん、分かってる。それでも、私が告白を断ったことが原因であることに変わりはないんです」


これが少女さんの自殺の動機なのだろうか。
そうだとすれば、あまりにもつらすぎる。
自分を追い詰めて追い詰めて、ずっと苦しんできたのだろう。


少女「だからこそ、私は前に進み続けるつもりです」

男「えっ?」

少女「看護師になれば楽しいことばかりではなくて、終末期の患者さんを看取ることで人の死と向き合い、つらい思いもたくさんすることになると思います」

少女「だからといって、私はそこに留まるわけにはいかないんです。より多くの患者さんをケアするために、その経験を繋げていきたいと思うから――」

少女「少年くんのこともそれと同じだと思うんです」

男「……」

108以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/07(水) 23:34:42 ID:xPJX3NhA
少女「男くん……聞いてくれてありがとう」


少女さんはそう言うと、寂しそうに笑った。
だけど、どういうことだ。
今の話を聞く限り、少女さんは男子生徒の自殺を乗り越えている。
しかもそれだけではなくて、将来の夢を真剣に考えていたことも分かった。


つまり、少女さんには自殺をする動機がないのだ――。


それならば、なぜ少女さんは自殺をしたのだろうか。
もしかすると、男子生徒の自殺以上につらい出来事があったのかもしれない。
その記憶を思い出すことは、少女さんにとって幸せなことなのだろうか。


少女「……!!」


俺は左手を伸ばし、隣に座っている少女さんの右手に触れた。
しかし実際には右手はなく、お互いの手が触れることなくすり抜けてしまった。
それでも気持ちが伝わったのか、少女さんははにかんだ笑顔を見せてくれた。

109以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/08(木) 11:53:47 ID:noqb6Xfo
動画に感想書くだけで10万!社畜なんかやってられねー!
goo.gl/3dtVP

110以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 20:28:54 ID:.A4nN98k
(2月12日)fri
〜放課後・少女さん〜
友香「ねえねえ。駅前にスイーツのお店がオープンしたんだけど、一緒に行ってみない?」


放課後になってすぐ、友香ちゃんが話しかけてきた。
私は気分が乗らず、上の空で返事を返す。


少女「……そうだね」

友香「豆乳を使ったクリームの風味が良くて、しかもヘルシーなんだよ!」

少女「……そうだね」

友香「私はシュークリームを注文しようかと思っているんだけど、少女は何を頼む?」

少女「……そうだね」

友香「ううん、残念。そのお店にはソーダがないんだよね〜」

少女「……」

111以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 20:57:38 ID:.A4nN98k
友香「もしかして、昨日からずっとあのことを考えているの?」

少女「……うん」


バレンタインデーのチョコを買いに行ったとき、男くんが見知らぬ女子と一緒にチョコを選んでいた。
二人はお互いに名前で呼び合っていて、とても仲睦まじそうにしていた。
そのことが、ずっと頭から離れてくれない。

中学校を卒業して、もうすぐ1年。
男くんに彼女がいないと考えるほうが、どうかしているんだ……。


友香「私はあの女子、絶対に男くんの妹だと思うな」

少女「どうしてそう思うの?」

友香「だって、雰囲気がすごく似ていたし、彼氏と一緒にバレンタインチョコを買いに行くっておかしいでしょ」

少女「そうなのかなあ」

友香「それにあの二人のこと、何となく知っているような気がするんだよね」

少女「友香ちゃん……その話はもういいよ。ありがとう」

112以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 21:05:28 ID:S6zRzAWY
友香「それじゃあさあ、どうして男くんのことが好きなの?」

少女「それはなんと言えば良いのか分からないけど、男くんの頑張る姿が私の心に訴えかけてくるの。最初はへたれですごく弱かったんだけど、今ではうちの学校で試合をするくらい強くなっているんだよ//」

少女「私は男くんに告白されてから、ずっとそれを見てきたの……」

友香「そっか。一度は告白を断った相手だけど、それがきっかけで気になるようになっちゃったんだ」

少女「う……うん//」

友香「だったら、少女も勇気を出さなくちゃ!!」

少女「勇気?」

友香「好きな人に告白するっていうのは、本当に勇気がいることなの。断られたらどうしようって、もうそれだけで世界が終わってしまうような気持ちになるくらいに――」

少女「……うん」

友香「不安な気持ちは分かるけど、男くんも同じ気持ちだったはずだよ。それに、少女は前に進み続けるんでしょ?」

113以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 21:14:44 ID:GT2R2d5U
そうだよね。
私は前に進み続けるんだ!

もしかしたら、友香ちゃんが言うようにただの兄妹かもしれない。
すでに付き合っていて、あっけなく振られてしまうかもしれない。
だけど、それは告白してみないと分からない。


少女「友香ちゃん。私、決めたよ!」

友香「ほほう、決めましたか〜」

少女「うん。14日の日曜日に、男くんにチョコを渡して告白するっ!」


14日の日曜日。
その日は私の学校で柔道部の交流試合がある。
その試合が終わったら、男くんに気持ちを伝えるんだ!


友香「ようし、それじゃあ作戦会議よ!」

少女「駅前のスイーツ店だよね。行くいくっ♪」

114以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 10:51:59 ID:B6B4Z/Vs
私たちは学校を出て、スイーツ店へと向かった。
その道すがら、私は何となく落ち着かない気持ちになってきた。


少女「ねえ、友香ちゃん」

友香「どうしたの?」

少女「何だか、誰かに見られているような気がしない?」


そう言って、きょろきょろと周囲を見渡す。
だけど、不審な人影は見当たらない。


友香「少女、走るわよ」

少女「う、うんっ!」

115以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:17:58 ID:B6B4Z/Vs
友香ちゃんの合図と同時、私たちは人ごみに紛れながら街中を駆け出した。
また、嫌なことをされるのかなあ……。

少年くんのことで私を一番傷付けてきたのは、週刊誌の心ない記事だった。
私が少年くんを自殺に追い込んだかのように書き、SNSやデートDVについて問題提起をしていたのだ。
お父さんがクレームを出していたけれど、出版社からの謝罪は一度もない。
こんな理不尽な仕打ちをしてくるのが大人なのだとしたら、すごく悲しい。


友香「……はあはあ、ここまで来れば大丈夫かも」

少女「はあっ……はあはあ、うんっ。気配が……消えたみたい」

友香「マスコミ、かなあ」

少女「分からない。でも、だとしたらどうして今頃――」ハアハア

116以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:22:48 ID:B6B4Z/Vs
友香「少年くんの法要、昨日が四十九日だったんでしょ。だから思い出したんじゃないの?」

少女「私も遺族の人に呼ばれて参列したんだけど、マスコミの人は誰もいなかったわよ」

友香「だったら、狙いは少女の写真かもね」

少女「私の写真?!」

友香「少年くんを自殺に追い込んだ少女が、バレンタインデーをどのように過ごすのか。そんな記事を書きたいのかも――」

少女「まさか……」


いくら何でも、私のプライベートに興味を示す出版社があるとは思えない。
だけどあそこならば、また心ない記事を書いてくるかもしれない。
そうなれば、男くんに迷惑を掛けてしまう。

117以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:26:46 ID:7cWTB4Z6
友香「少女、私たちでマスコミを出し抜くわよ!」

少女「……えっ、ええっ?!」

友香「出版社が欲しいのは、少女のスクープ写真でしょ。それさえあれば、いくらでも印象操作が出来るんだから」

少女「……うん」

友香「だったら、隠れているパパラッチに写真を撮られなければいいのよ」

少女「それはそうなんだけど、うまく行くかなあ」

友香「私が付いていれば、全部うまく行くって! だから、少女は男くんのことだけを考えていればいいのよ♪」

少女「はうぅっ//」


何だか頼もしい。
友香ちゃんがいれば、何でも出来る気がする。
彼女が友達になってくれて、本当によかった。

118以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:46:40 ID:K2vlVPxw
(2月18日)thu
〜男くんの部屋・少女さん〜
少女「う……ううん…………」


駅前のスイーツ店に入ったところで、目が覚めた。
どうやら、生きていた頃の記憶を夢で見ていたようだ。
そしてそれが、心に重くのしかかってきた。

14日に告白すると決めたのに、私はまだ気持ちを伝えていない。
男くんと一緒にいた人が妹だと分かったのに、私はまだ気持ちを伝えていない。
中学生のときに両思いだったことを確認しただけだ。

男くんに今の気持ちを伝えないと!
そして、男くんから返事を貰わないと――。

119以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:49:06 ID:B6B4Z/Vs
だけど、言えるわけがない。
だって、私はもう死んでいるんだから。
幽霊になった私が告白しても、男くんと恋愛なんて出来るわけがない。
どんなに頑張っても、もう前に進むことは出来ないんだ。


だからといって、
気持ちを伝えないなんてことはしたくない。


4月1日が私のタイムリミット。
その日までに成仏を出来なければ、きっと友くんに除霊されてしまう。
そしてこの世界から、私の想いを消されてしまう。


そんなの、絶対にいやだから――。

120以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:52:36 ID:B6B4Z/Vs
双妹「男、朝だよ〜」


双妹さんが今日も男くんを起こしに来た。
男くんと双妹さんは、とても仲がいい。
同じ学校なので一緒に行っているし、夜はリビングや部屋で気兼ねなくおしゃべりをしている。
二人が話をしないのは、学校の教室にいるときくらいだ。

私にもお兄ちゃんがいれば、こんな感じだったのかなあ。
双妹さんのこと、何だかうらやましいな。


男「双妹、おはよう」

双妹「おはよう。早く着替えて下りてきてね」

男「分かってるって」


男くんが眠そうに返事を返すと、双妹さんは部屋を出て行った。
そして、男くんが私に挨拶をしてくれた。
それがうれしくて、私は笑顔で応える。


少女「男くん、おはよう//」

121以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 12:50:17 ID:8BsaTsms
面白いがな

122以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:17:21 ID:xd7i6H86
(2月19日)fri
〜学校・お昼休み〜
週末の金曜日、俺はいつものようにメモアプリで少女さんと雑談を楽しむことにした。
生きていた頃の話をすることで、自殺の原因を推察する手掛かりになるかもしれないからだ。


少女「それでね、文化祭の出し物が喫茶店に決まったんです」

男『それで?』

少女「それで普通、喫茶店っていえばメイド喫茶じゃないですか。だけどメイドは縁起が悪いからって、ナース喫茶に決まったんです」

男『ナース喫茶?』

少女「はい、みんな実習服を着て接客したんですよ。そうしたら普通科と福祉科から男子がいっぱい集まって、すっごく繁盛したんです!」

男『そうなんだ。行ってみたかったかも』

男『そういえば、少女さんは魔法少女みたいに着替えが出来るんだっけ。実習服姿を見てみたいな♪』

少女「えっ、ええぇっ?!」

123以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:23:15 ID:ytMS2YGI
男『少女さんの可愛いところ、見てみたい』

少女「ええぇっ// 恥ずかしいから、今回だけですよ!」


少女さんは照れながら言うと、思案めいた。
恐らく、実習服を着た自分の姿をイメージしているのだろう。
そして表情が柔らかくなったかと思うと、次の瞬間には実習服姿になっていた。


少女「えへへ、どうですか//」

男「どうって、マジで可愛いし//」


看護科の実習服。
それを着た少女さんは笑顔がすごく魅力的で、男子が集まるのは当然だと思った。
ナース姿の少女さん、マジ天使!


男「というか、脱がないのかよ!」

少女「何を期待していたんですか、何をっ!」プンスカ//

124以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:25:08 ID:xd7i6H86
友「男、今は大丈夫か〜」


少女さんと雑談を楽しんでいると、友が無粋にも話しかけてきた。
少女さんもナース服のままで、何事かと友を見る。


男「別にいいけど、どうかした?」

友「今日は少女さんの初七日だから、ちょっと様子を見に来たんだ」

少女「あっ、ああ。そういえば、今日なんだ」


少女さんが自殺をしたのは13日だ。
だから、今日が初七日ということになる。


友「それで、三途の川に行ってきた?」

少女「三途の川? いえ、行ってないです」

125以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:30:35 ID:xd7i6H86
友「初七日なのに三途の川が気にならないってことは、冥土の旅をするつもりがないってことか」

少女「そんなことを言われても、私は男くんから離れることが出来ないし――」

男「やっぱり不味いのか?」

友「必ずしも冥土の旅をしないといけない訳じゃないけど、成仏できないコースをまっしぐらって感じだよな」

少女「ふえぇ、そんなあ……」ショボン

男「あまり少女さんを脅かすなよ」

友「ごめんごめん。三途の川は宗派によって違いがあるし、冥土の旅をする必要がない場合もあるから」

少女「ううっ、分かりました」

友「でも、なるべく早く家に帰ったほうが良いのは確かだろうな」

少女「そうかもしれないけど、家には近付きたくないんですよね……」


少女さんはそう言うと、小さくため息を漏らした。
この数日でいろいろな記憶を思い出したけれど、未だに家に帰りたくない理由は分かっていない。
恐らく自殺をした理由が分かったときに、その理由も分かるのだろう。

126以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:41:12 ID:xd7i6H86
友「とりあえず、心霊催眠をすれば何かが分かるはずだ」

少女「そうですね」

男「少女さん。またつらい思いをすることになるかもしれないけど、それは大丈夫?」

少女「……はい、私はなぜ自殺をしたのか知りたいです」

男「そっか」

少女「ところで、友くん」

友「何?」

少女「私を見て、何か気付きませんか?」フリフリ


少女さんはしなを作り、アイドルのようにポーズを取った。
ナース姿がとても可愛くて、かなりあざとい。

127以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:45:09 ID:ytMS2YGI
友「……」

少女「……//」ドキドキ

友「それじゃあ、日曜日に待ってるから」

少女「……えっ?!」

男「お、おうっ!」


友は少女さんを一瞥し、何事もなかったかのように席に戻っていった。
一言くらい感想を言ってあげればいいのに、釣れないやつだ。


少女「はあっ、スルーされたし」ショボン

男「友のことなんか放っておいて、俺たちだけで話をしよっか」

少女「そうですね」

128以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:52:29 ID:ytMS2YGI
今日はここまでにします
レスありがとうございました

129以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 20:25:36 ID:tnfh/hjQ
〜市街地・料亭〜
学校が終わり、午後7時過ぎ。
明日から親父が海外出張で家を空けるということで、今夜は家族四人で外食をすることになった。
寒ブリや加納ガニ、地元の野菜を使った伝統料理。
冬の味覚をこれでもかと堪能することが出来る大名コースだ。


男「やばいな。この刺身、美味すぎるし!」

双妹「ねえ、男。煮物もすごく美味しいよ♪」

少女「……」

男「ちょっ、親父! なんで、カニばっかり食ってるんだよ」

親父「早く食べないとなくなるぞ」

男「双妹、ぶりしゃぶは後回しだ! カニを攻めるぞっ」

双妹「ええぇっ!! さっき食べてたお刺身って、ぶりしゃぶ?!」

母親「じゃあ、わたしがぶりしゃぶを頂こうかしら」

少女「……いいなあ」ショボン

130以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 20:28:00 ID:tnfh/hjQ
双妹「ごちそうさまでした」

男「ふう、食った食った〜」

双妹「ねえ、お父さん。ゴールデンウイークには帰って来れそう?」

親父「そうだな。早めに仕事を片付けて、4月の半ば頃には帰って来られるように頑張るよ」

双妹「そうなんだ! お仕事、頑張ってね//」

親父「男や双妹は、将来やりたい仕事とか決まっているのか?」

男「いや、まだ……」

双妹「私は保育士になりたいと思ってる」

131以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:04:07 ID:DB8LlpWE
親父「仕事っていうのはな、自分のためだけじゃなくて人々の生活を支えるためにすることでもあるんだ」

男「人々の生活を支えるため?」

親父「お父さんがしている設計の仕事の場合、書いた図面の通りに機械を作っている人がいて、その機械で仕事をしている労働者がいることになるだろ。そして、完成した製品を販売して購入してくれる人がいるから、また新しい仕事が入ってくるんだ」

男「ああ、そういう話か……」

親父「保育士の仕事も、子供を預かることで母親の就労支援をする時間を作ることが出来るから、子供の発育支援と家庭の生活基盤を支える仕事だと言い換えることも出来ると思う」

双妹「……うん」

親父「将来の夢とか何のために生きているかとか、そういうのは人それぞれだろうけど、人はみんなでみんなを支えて生きている。そのことだけは絶対に忘れてはいけないと思うんだ」

男「分かってる」

双妹「そうだよね」

親父「将来どんなことをしたいのか。男はまだ決まっていないみたいだし、2年生になってからの宿題だな」

男「ちゃんと考えておかないと――」

親父「それじゃあ、そろそろ帰る準備をしようか」

母親「そうね、そうしましょう」

132以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:13:47 ID:tnfh/hjQ
〜自宅・部屋〜
食事が終わって家に帰ってきたときには、すでに10時を過ぎていた。
親父はまた母さんとどこかに出掛けたので、今は双妹が自分の部屋にいるだけだ。
俺はそう思いつつベッドに座ると、少女さんが隣に座って話しかけてきた。


少女「男くんのお父さんって、立派な人ですね」

男「立派と言えるのかは分からないけど、いつも何かをしていないと気が済まないみたい」

少女「そうなんだ」

男「立派っていえば、少女さんも立派だよね」

少女「私がですか?」

男「看護師になりたいっていう目標があって、それを叶えるために北倉高校の看護科に進学したんだろ」

少女「あ、ああ……そうですね」

133以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:16:06 ID:JNCaVZN6
男「少女さんはどうして看護師になりたいと思ったの?」

少女「それはその……なんというか、小学生のときに入院したことがあって、そのときに担当してくださった看護師さんがすごく優しくしてくれたんです」

男「憧れってやつ?」

少女「そういうことになるのかなあ。私もその看護師さんみたいに、病気で苦しんでいる人に笑顔を届けたいと思ったんです」

男「少女さんらしいね」

少女「でも、私は将来の夢を諦めちゃったんですよね……」

男「余計なこと……聞いてごめん」

少女「ううん、いいんです」


少女さんは寂しげな表情を浮かべ、声を落とした。
看護師になりたいという叶うことのない将来の夢。
少女さんは三途の川に行っていないみたいだし、このまま渡らずに帰ってくることは出来ないのだろうか。

134以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:21:19 ID:DB8LlpWE
少女「もう遅いですし、そろそろお風呂に入りませんか?」


少女さんは時計を見ると、ふわりと立ち上がった。
将来の夢の話はあまりしたくなかったのかもしれない。


男「そうだな」

少女「それでは、今日も一緒に入りましょう♪」

男「相変わらず、お風呂場の外で待つっていう選択肢はないの? 今日で初七日だし、行動できる範囲が広くなったとか――」

少女「もしかして、私とお風呂に入るのが嫌なんですか」

男「そ……そんなことはないし、少女さんと一緒なのはうれしいんだけど、そろそろ何と言うか、あれな感じで――」

少女「あれな感じって、何なんですか?」

男「いや、まあ、俺もオトコだし溜まるものがあるというか、いくら幽霊だとはいっても少女さんは女子だからその――」

135以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:46:46 ID:DB8LlpWE
少女「男子には、何か溜まるものがあるんですか?」

男「えっとその……少女さんに会ってから、俺たちはずっと一緒にいるだろ。だから、アレが溜まってきてもう我慢できないというか――」

少女「よく分からないけど、溜まって良かったですね。私は100円玉貯金をしていたことがあるんですけど、200枚も貯まったときはすっごくうれしかったですよ♪」

男「あ、ああ……そうなんだ」


だめだ、分かってもらえそうにない。
少女さんは看護師になる勉強をしていた訳だし、性知識がないなんてことはないだろうけど……。
だからといって、直接的な説明をするのは憚られる。


少女「こつこつ頑張って、たくさん溜めてくださいね♪」

男「……はあ、そうだな」

136以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 00:55:02 ID:GaIyy1Xc
〜お風呂場〜
結局、いつも通りに一緒にお風呂に入ることになった。
さすがにもう裸ではないけれど、ちょっとセクシーな水着を着ている少女さん。
最近は首の自殺痕を見慣れてしまったので、それを見ても何も感じなくなってしまった。
そうなると、女性的な曲線に目が行ってしまう訳で……。

小ぶりで控えめな微乳の膨らみ。
体育座りをしている少女さんの綺麗なヒップライン。
見ては駄目だと思っていても、抑えきれない情欲がいきり立つ。


少女「ねえ、男くん」

男「えっ?!」

少女「こうして一緒にお風呂に入るのも、何だか慣れてきたと思いませんか。最初はすごく緊張してたのに……」

男「そ、そうだっけ」

少女「そうですよ。私はまだ恥ずかしいけど、何だかうれしいです」

137以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 01:01:15 ID:uHaDU1ZQ
男「うれしいって、どうして?」

少女「だって男くん、私の水着姿を見て元気になっている……よね//」


少女さんは顔を赤らめて、恥ずかしそうに微笑んだ。
俺は慌てて勃起した陰部を両手で隠し、少女さんから目を逸らす。
そして顔を俯けて謝った。


男「それはその……ごめんっ!」

少女「ふふっ、別に怒ってないですから// それってつまり、触ることも出来ない幽霊の私に興奮してくれたってことなんでしょ?」

男「えっと……少女さんについ見惚れてしまって――」

少女「良かった〜// ずっと私に魅力がないのかなって思っていたの」

男「そんなことないって! 少女さんは可愛いし、スタイルも良くて魅力的だと思う。だからそれでその……」

少女「男くん、ありがとう。あのね――」

138以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 01:15:48 ID:uHaDU1ZQ
ガラララッ・・・
急に浴室のドアが開き、俺は驚いて振り返った。
するとそこには、髪を束ねた全裸の双妹が立っていた。

少女さんとは目に見えて差がある、半球型のふっくらとした乳房の膨らみ。
くびれた腰と丸いお尻が作り出す女性らしい曲線美。
双妹はそれらを恥じらう様子もなくさらけ出し、薄毛の陰部からは女性器の割れ目が覗き見えている。


少女「……ええっ?!」

双妹「男、一人で何をしゃべってるの?」


双妹が不思議そうな顔で浴室を見渡す。
そして首を傾げると、俺に心配そうな眼差しを向けて中に入ってきた。
双妹には少女さんの姿が見えていないと分かっているけれど、何だか見咎められたような気分で少し気まずい。

139以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 01:17:57 ID:GaIyy1Xc
男「今日は一緒に入ろうとか言ってたっけ」

双妹「言ってないけど、今日は駄目だった?」

少女「ねっねえっ! これってどういうこと?!」

男「ま……まあ、見ての通りだと思う」

双妹「隣が空いてるし、大丈夫って意味だよね。ふふっ♪」


双妹は浴槽のお湯を汲んで浴びると、俺の隣に足を踏み入れた。
そこには少女さんがいて、彼女の身体を笑顔で蹴り飛ばす。
そして全身で圧し掛かると、身体を重ね合わせるようにして湯舟に浸かった。

ちゃぷんと音がして、水位が高くなる。
双妹は少女さんとは違い、生身の体があるからだ。

140以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 01:18:57 ID:uHaDU1ZQ
少女「……」

双妹「ねえ、脚を伸ばしたいからこっち向いてよ」


双妹に促されて、いつものように向かい合う。
それと同時に、双妹の足が太ももの付け根に滑り込んできた。
その反動で水面に波が立ち、双妹の身体がゆらゆらと揺らめいて見える。


双妹「はああ〜//」


心地好さそうな声を出し、双妹はとてもご満悦な様子だ。
その一方で、少女さんは浴槽の隅に追いやられて不満そうな顔をしている。

141以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 20:01:10 ID:Rw5.Fl5U
双妹「やっぱり、男と一緒のときが一番落ち着くわね//」

少女「男くんはいつも双妹さんとお風呂に入ってたんだ……」

男「そうだけど、いつもって訳じゃないから」

双妹「えー、そうなの?」

双妹「でも言われてみれば、少し気まずいときもあるよね。だけどそんなときでも、私は男と過ごせる時間を大切にしていきたいと思ってるよ」

男「えっ? ああ、そうだな」

少女「……」

双妹「そんなことより、聞いてくれる?」

男「聞くって、何を?」

双妹「今さあ、お父さんとお母さんが一緒に出掛けているでしょ。こんな時間に開いているお店なんてないし、私たちに弟か妹が出来ちゃったりしてね//」

142以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 20:31:59 ID:Rw5.Fl5U
男「いやいや、それはないだろ」

双妹「でも明日からしばらく会えない訳だし、お母さんも寂しいんじゃないかなあ。こうしていつまでも仲がいい夫婦って、すごく憧れちゃうよね//」

男「そうだな」

双妹「私たちもいつか、こんな幸せな家庭を築いていくのかなあ」

少女「幸せな家庭……か」

男「そういうのって、まだ先の話だろ」

双妹「そうだけど、私はもう結婚できる歳になっているでしょ。まあ、そんな相手はいないんだけど」

少女「……私、お風呂場の外で待っています。どうぞ、ごゆっくり」


少女さんは不機嫌そうに言うと、約1.5メートルの範囲内。
浴室の壁をするりと抜けて、お風呂場の外に出て行ってしまった。
少女さんは家族ではないのだから、一緒にお風呂に入っていた今までがおかしいのだと思う。
それなのに、今は彼女のことを少し遠くに感じた。

143以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 21:10:01 ID:GaIyy1Xc
双妹「ねえ、男。どうかした?」


少女さんが出て行った場所を見ていると、双妹が不思議そうな顔で聞いてきた。
そして、双妹も壁をちらりと見て言葉を続ける。


双妹「最近よく何もない場所を見ているよね。さっきも一人でしゃべっていたし、疲れているんじゃないの?」

男「まあ確かに憑かれているけど、別に大丈夫だと思う」

双妹「それならいいんだけど、月曜日からずっと気持ちがそわそわして違和感を感じるんだよね。生理前だからPMSの影響かもしれないけど、男のことが気になる感じだから関係ないと思うし――」

男「そういうことなら、少し気を付けたほうが良さそうだな」

双妹「うん、そのほうがいいと思う」

男「それじゃあ、俺はもう上がるから」

双妹「上がるって、何言ってるの? まだ身体を洗っていないみたいだし、そんなの有り得ないと思うんだけど」

男「うぐっ……」

144以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 21:15:21 ID:uHaDU1ZQ
双妹「そうだ! 今日は一緒に洗いっこをしようよ♪」

男「ええっ?!」

双妹「だってほら、この前、水着に着替えて入ろうとしていたじゃない。ちゃんと洗っていないみたいだし、私がきれいにしてあげるから//」


双妹は目を輝かせると、俺に身体を寄せてきた。
そのせいで俺は股を開くことになり、太ももの間に双妹を挟み込む。
すると双妹は何食わぬ顔で、勃起したままの陰茎に手を伸ばしてきた。
指先が触れてびくっと反応し、包皮を剥かれてお湯の温度を敏感に感じ取る。
双妹に卑猥な意図がないことは分かっているけど、さすがに今日はいろいろとヤバ過ぎる。


男「悪いけど、自分で洗うから大丈夫だ」アセアセ

双妹「え〜っ、何なに? 別に恥ずかしがらなくても良いじゃない。ほらっ、早く洗い場に移動しようよ。泡あわですごく気持ちいいわよ//」

145以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 21:35:56 ID:DXRE/GX6
男「別に恥ずかしいわけじゃなくて、ちょっと事情があるんだ」

双妹「私はそんな事情なんて気にしないし」

男「俺は気にするんだってば。えっと……そう、今日はあれな感じで――」

双妹「それくらい気付いてるし、ついでにすっきりさせてあげるわよ//」

男「いいって、そういうことは自分でするから」

双妹「でも、12日から一度もしてないんでしょ。今までこんなことはなかったし、少し心配なんだよね――。もしかして、病院で何か言われたの?」

男「そうじゃなくて、したいけど時間がなくて出来ないだけだから。というか、双妹は女子なんだから、もう少し恥じらいを持ったほうがいいんじゃないのか」

双妹「恥じらいねえ。私たちは同じ双子なんだから別に恥ずかしいなんて思わないし、女子もそういう話をするんだよ」

男「そうかもしれないけど、人前でそういう話はしないだろ」

双妹「今は私たちだけしかいないじゃない。それに兄妹だからこそ、えっちな話も気兼ねなく出来るんじゃないのかなあ」

男「まあ、そうだけど……」

146以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 22:11:02 ID:Rw5.Fl5U
双妹「ねえ、私たちはどうして性別が分かれちゃったんだろうね」

男「それは染色体が――」

双妹「理屈は知ってるからいい。私はね、一卵性の双子なのに性別が違って、そのせいで身体の悩みを共感し合えないことが嫌なの。私たちはお互いに同じ自分なんだから、性の悩みも包み隠さずに相談したいしされたいじゃない」

男「それは分かっているんだけど、俺の言い方が悪かったよ。ごめん……」

双妹「ううん、私のほうこそ少しイライラしちゃってごめんなさい」

双妹「えっとね、私はどんなことでも気兼ねなく話をしたいし、男と一緒にお風呂に入る時間がすごく好きなの。もう一人の私のことを身近に感じていられるから――」

147以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 22:20:21 ID:DXRE/GX6
双妹が言いたいことは、俺もよく分かっている。
俺と双妹は、普通の兄妹ではないからだ。

もし二卵性の双子だったなら、俺たちは普通の兄妹という感じで落ち着いていたのかもしれない。
しかし俺と双妹は一卵性双生児なので、性別が違っても、どこかで必ず自分の片割れだという意識が入り込んでくる。
そして、性別が違うもう一人の自分に興味を抱くことになる。
俺と双妹は、そんな普通の双子とは異なる特殊な環境で育ってきたのだ。

148以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 22:24:55 ID:GaIyy1Xc
男「うまく言えないけど、俺も双妹と同じ気持ちだから……。俺も双妹のことをちゃんと知りたいし、もっと本音で話をしたいと思ってる」

双妹「……」

男「だけど、性別が違うから出来ないこともあるんじゃないかなって思うんだ。さすがに今日は洗いっこは無理だけど、背中を流してくれると嬉しいかな」

双妹「……! じゃあ、私も背中を流して欲しい」

男「仕方ないな」

双妹「ふふっ、やったあ〜♪」


双妹がうれしそうに顔をほころばせ、俺たちは洗い場に移動した。
何だかんだで、俺もこの時間が好きなのかもしれない。
俺はそう思いつつ、風呂椅子に腰を下ろした。
そしてスポンジが背中に触れると、浴室にボディーソープの香りが広がった。


双妹「さっきの話だけど、どちらかが結婚するまで、ずっとこうして一緒にいようね」

男「そうだな」

双妹「うん、そうだよね//」

149以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/16(金) 21:48:40 ID:LgkdM2wA
〜部屋〜
お風呂から上がり、部屋に戻ってきた。
少女さんは不機嫌な様子で、さっきから一言も口を聞いてくれない。


男「もしかして、双妹のことで怒ってる?」

少女「別に私は怒ってなんかいないです」プイッ

男「怒ってるし」

少女「怒ってないです!」

男「まあ、なんて言うか、うちではこれが普通なんだ。月曜日は双妹が――」

少女「言い訳なんて、しなくて良いです。双妹さんが未だに男くんやお父さんと入っていても、だからお風呂場が広いんだなって納得します。家族のあり方はそれぞれだし、やましいことがないなら別に構わないです」

男「じゃあ、何に怒っているんだよ」

少女「それは……そう、私がもう死んでいるから」

男「死んでいるからって言うけど、それは少女さんの個性みたいなものだろ。俺はそれを受け入れているつもりなんだけど」

少女「……」

150以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/16(金) 22:07:29 ID:gv9McpwQ
双妹「ねえ、男。今なんだけど、少し大丈夫?」


黙り込んでしまった少女さんの機嫌を直す方法を考えていると、双妹が部屋に入ってきた。
すると、少女さんが不愉快そうな顔で何かを呟いた。
やはり少女さんが怒っている原因は、双妹とお風呂に入っていたことが関係しているのだろう。
俺は切っ掛けが掴めるかもしれないと思い、双妹の用件を聞くことにした。


男「あまり大丈夫じゃないけど、少しだけなら――」

双妹「うふふっ// それじゃあ、手短に済ませるわね」

男「ああ、それで頼む」

双妹「……えっと、少女さんのことなんだけど、お風呂に入っているときに妹友ちゃんからラインが来ていたの」

男「ライン?」

双妹「男がこの前、少女さんの悪いうわさを聞いたって言ってたでしょ。それで私、妹友ちゃんに北倉高校の友達に会えないかなあって相談していたの」

男「へえ、そうなんだ」

双妹「そうしたらね、その友達が友香さんって人と同じ部活をしていて、うわさが本当か聞いてくれたんだって」

151以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/16(金) 22:22:52 ID:04m5dmgQ
男「友香さんって、少女さんの友達だっけ」

少女「……そうです」

双妹「そうそう。少女さんと同じクラスの人で、一番仲がいい友達なんだって」

男「もしかして、何か分かったのか?!」

双妹「そういう訳じゃないけど、友香さんに男のことを話したら、会いたいって返事が返ってきたらしいの。日曜日に待ち合わせをしているんだけど、男は行ける? もしかしたら、少女さんにも会えるかもしれないわよ」


友香さん……か。
彼女に会えば、少女さんの自殺の動機がはっきりするかもしれない。
そうでなくても、かなり有益な情報を聞くことが出来るだろう。
しかし、日曜日に会うことは出来ない。

152以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/16(金) 23:10:13 ID:lq40MIog
男「悪いけど、日曜日は友と約束があるんだ」

双妹「そうなんだ。じゃあ、男は行かないって返事をすればいいかな」

男「とりあえず、そう言っておいてくれるかな。でも、日曜日以降で会える日があったら話をしたいって、友香さんに伝えておいてほしい」

双妹「うん、分かった。男がまだ少女さんのことを諦めていないのなら、私はもう一度チャンスが来るように応援してるから」

少女「……」

双妹「だから、まずは友香さんの話を聞いてくるわね!」

男「双妹、ありがとう」

双妹「それじゃあ、頑張ってね// おやすみなさい♪」

男「ああ、おやすみ」


そう返すと、双妹は軽い足取りで部屋を出て行った。
どうやら、今度の日曜日は少女さんのことで大きな動きがありそうだ。

153以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 19:36:04 ID:MF6PAvH6
少女「双妹さんって、男くんのことが好きなんですね」


双妹が出て行くと少女さんの表情が和らぎ、かすかに微笑した。
理由は分からないけど、少しは機嫌が良くなってくれたみたいだ。


男「まあ、双子の妹だし仲がいいと思う」

少女「双子の妹か……。よくテレビや漫画で、双子は見えない絆で結ばれているとかテレパシーがあると言ってますよね」

男「それ、分かる気がする」

少女「やっぱり、そういうのがあるんだ。男くんと双妹さんは特別な絆で結ばれていて、何だかうらやましいです」

男「まあ確かに、俺と双妹は特別な絆で結ばれているんだろうな」


奇跡のミックスツイン。
俺と双妹は、極めて稀な男女の一卵性双生児なんだから――。


少女「あっ、そういえば!」

少女「外まで声が聞こえてきて気になったんですけど、一卵性の双子ってどういうことなんですか?」

154以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 19:47:45 ID:rgny/1Us
男「少女さんって、看護科だろ」

少女「そんなことを言われても、性別が異なる一卵性双生児なんて聞いたことがありません。男女の双子は絶対に二卵性双生児なんですよ」


少女さんの言葉を聞いて、俺は小さく嘆息した。
俺と双妹が一卵性双生児だと知った人は、大抵が少女さんのような反応を示す。
そして、頼みもしないのに語り始めるのだ。

面倒くさいから黙っていたのに、こうなったら話し合う以外に方法はない。
俺は仕方なく、今まで何度となく繰り返してきた説明をすることにした。


男「平たく言うと、受精卵が多胚化したときに性別を決める染色体が抜け落ちて、性別が男女に分かれたんだ」

少女「そんなことが本当にあるんですか」

男「ああ、本当にあるみたいだよ。異性一卵性双生児は世界中で数例しか報告されていなくて、ごく稀にしか生まれないんだ」

少女「でも、それだと異数体になってしまいますよね。少しおかしくないですか」


異数体とは、染色体の数が通常よりも1〜数本多くなったり少なくなっている個体のことだ。
そんな生物用語が出てきたということは、少女さんは知識が邪魔をして受け入れることが出来ないタイプなのだろう。

155以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 20:41:23 ID:rgny/1Us
男「おかしいって何が?」

少女「男くんの説明だと、XYの受精卵が双子になったときに『XYとXO』に分かれたことになりますよね。そうなると、双妹さんはX染色体が1本しかないからターナー症候群を患っていることになります」

少女「だけど平均的な身長だし、胸もその……大きいですよね。性的発達が遅れているわけではないし、双妹さんがターナー症候群を患っているとは思えません」

男「たしかに双妹はターナー症候群を患っていないし、その他の検査でも異常はなかったみたい」

少女「それじゃあ、男くんのほうに染色体異常があるんですか?」

156以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 20:48:03 ID:MF6PAvH6
男「いや、俺も異常はなかったみたい。まさしく健康そのものって感じだな」

少女「でも中学生のとき、よく学校を休んで病院に行ってましたよねえ。何だか信じられないです」

男「それじゃあさあ、親父の書斎に行ってみる?」

少女「お父さんの書斎ですか」

男「俺たちが生まれたときに話題になって、マスコミの取材を受けたらしいんだ。それで、親父がそのときの科学専門誌や週刊誌を保存しているんだ」

少女「すごく気になるし、読んでみたいです!」

157以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 21:43:33 ID:mna2sIk2
〜親父の書斎〜
少女「男くんのお父さんの部屋の本棚、難しそうな本ばっかりですね」

男「そっちは設計とか工学関係とか、親父が仕事で使う資料が収められている本棚だからね。少女さんに見せたい週刊誌は、こっちの本棚に収まってるよ」

少女「わわっ! ここにある雑誌が全部そうなんですか?!」

男「そこにあるのは最近のやつだな。親父が特集記事を気に入って、それ以来ずっと定期購読しているんだ」

少女「へえ、そうなんだ。それじゃあ、このDVDは何なんですか?」

男「それは俺たちが5歳のときに出演した、民放のおつかい番組のやつじゃないかなあ」

少女「ほんとだ! あの番組名が書いてあるし!!」

男「その放送局が2分の1成人式を企画して家庭訪問バラエティにも出演したから、そのDVDもあると思う」

少女「男くんと双妹さんって、もしかして有名人だったの?!」

男「そんな訳ないだろ。現に少女さんは、俺と双妹のことを知らなかったじゃないか」

少女「そんなことないですよ。きっと、私が知らなかっただけですから」アセアセ

男「いいって、そんなフォローをしなくても」

158以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 21:51:30 ID:mna2sIk2
少女「ところで、週刊誌は見つかりそうですか」

男「ああ、うん。これがさっき言ってた特集記事が載ってるやつだよ」

少女「えっ?! これって――」


少女さんに週刊誌を見せると、不快そうに顔を曇らせた。
これは男性向けの写真週刊誌なので、表紙に性的な言葉が載っている。
女子に見せるのだから、最初から目的のページを開いておくべきだった。


男「……ごめん! えっとほら、この記事が俺たちのことなんだ」アセアセ

少女「この記事が男くんのことなんだ……」

男「そうだよ。生物学的なめずらしさと話題性があったから、こうして記事にしてくれたんだと思う」

少女「そっか……。それじゃあ、読んでみるね」

159以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 20:13:29 ID:X/AbCKBU
――奇跡の双子、異性一卵性双生児

少女さんは記事の表題をつぶやくと、ゆっくりと内容を読み始めた。
久しぶりに、俺も目を通す。
最初は祝福の言葉から始まり、その次に異性一卵性双生児のことが説明されている。
そしてその説明が終わると、健全な異性一卵性双生児が生まれた仕組みや性染色体異常について考察していく流れになっている。

160以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 20:26:33 ID:X/AbCKBU
一卵性双生児はひとつの卵子(厳密には二次卵母細胞)にひとつの精子が受精し、その受精卵が何らかの刺激で二つに分離して多胚化することで誕生する。
そのため一卵性双生児は基本的に同一の遺伝子型を持っているので、通常は同性しか生まれない。
ところが先日、昨年12月13日にI県の彩川医科大学附属病院で男女の一卵性双生児が誕生していたことが分かった。

このような双子は異性一卵性双生児と呼ばれており、世界中でもわずか数例しか報告されていない極めて稀な存在だ。
なお異性一卵性双生児の女性はターナー症候群を患っていることが知られており、これまでは双子の一方または双方が性染色体に何らかの異常を持って生まれてくると考えられていた。
しかしこのたび生まれてきた男女の双子は健康そのもので、多胎妊娠による切迫早産で入院したこと以外には一切の異常がみられなかったのだ。
そのような報告は今までに例がなく、それが科学的に証明されたのは史上初めてのことである。
それでは、なぜそのような双子が生まれたのだろうか。

161以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 21:43:23 ID:GybuDdV6
おつ

162以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 23:42:46 ID:kUW.iojY
ヒトの染色体は22対(44本)の常染色体と1対(2本)の性染色体で構成されていて、性別は性染色体の組み合わせによって決定されている。
性染色体にはX染色体とY染色体の2種類があり、その組み合わせがXYならば男性でXXならば女性になる。
これら23対の染色体は父親と母親から1本ずつもらうことで対になっているので、通常は性染色体の本数が2本以外になることはない。
しかし、ごく稀に性染色体が1本多いXXYの男性や性染色体が1本少ないXOの女性が生まれることがあるのだ。※Oは無いという意味。

その原因のひとつが、減数分裂における染色体不分離である。
生殖細胞は精子形成や卵形成の過程で減数分裂を行い、それによって染色体数が半分になっている。
しかし性染色体で染色体不分離が起きると、性染色体が正しく分配されずにXYの精子やXXの卵子、性染色体を持たない精子や卵子などが出来てしまうことになる。
その異常な生殖細胞が正常な生殖細胞と受精すると、XXYやXOの性染色体構成を持つ異数体の受精卵が生じるのだ。
しかも驚くことに、健全な男女の一卵性双生児はこのXXYの受精卵が多胚化して誕生したと考えられている。

163以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 23:44:36 ID:kUW.iojY
その詳細は今後の研究によって解明されることが期待される分野ではあるが、考え方はとても単純だ。
最初の体細胞分裂(卵割)の後期において、それぞれの娘細胞(割球)で余剰な性染色体を排除しようとする現象が起こり、X染色体を1つ脱落したXYの割球とY染色体を脱落したXXの割球に分かれた。
そして、それらの割球が直ちに分離して多胚化したので男女の双子になった、というものだ。
しかしこのような現象は、場合によっては遺伝子や細胞組織に異常を生じさせることになってしまう。

164以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 23:56:34 ID:kUW.iojY
遺伝子はメンデルの法則で知られるように、両親から受け継いだ遺伝子が働きあってさまざまな特徴や性質を子どもに伝えている。
ところが、数ある遺伝子の中には父親から受け継いだ遺伝子のみが発現するものや母親から受け継いだ遺伝子のみが発現するものがあり、単為生殖を防ぐために、どちらの親からもらった遺伝子なのか識別して抑制してしまう仕掛けが施されているのだ。
したがって父親由来の染色体と母親由来の染色体が対になっていなければ、遺伝子の仕掛けが誤作動を起こして胎児が正常に育たなくなってしまうのである。

つまり遺伝子レベルの話では、X染色体を1本持つ正常な卵子に減数分裂の異常で生じたXYの精子が受精してXXYの異数体の受精卵になり、その受精卵が多胚化するにともなって父親由来のX染色体を脱落した男児とY染色体を脱落した女児に分かれなければならないことになるのだ。

さらに細胞レベルの話では、受精卵が2細胞期の時点で多胚化し男女の双子に分かれることが要求されることになる。
なぜなら受精卵は卵割を繰り返しており、多胚化する時期が遅いとモザイク型の性染色体異常になってしまうからだ。

165以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 00:07:56 ID:PueheZXk
例えばXYの受精卵からY染色体を喪失することで生まれる異性一卵性双生児(XY正常男児とXOターナー女児)では、次のようなモザイクが考えられる。
仮に発生の初期段階に1つの細胞でY染色体を喪失し、そのまま卵割を繰り返して桑実胚期まで成長した場合、その受精卵はXYの正常な細胞とXOの異常な細胞を併せ持つ『モザイク胚』になってしまう。
そしてこのモザイク胚が2つに分離して多胚化すると、双子の双方が『X/XYモザイク型』の性染色体異常を持って生まれることになってしまうのだ。

この例のように核型が『45,X/46,XY』のモザイクを有していると混合性性腺異形成症などの性分化異常を伴い、病態として内外性器に異常がみられるようになる。
その障害の程度はさまざまで、外性器が正常な女性または正常な男性に近い外観になって病気に気が付かないこともあれば、曖昧な外性器になってしまうこともある。
また社会的な性別の決定が要求される場面では慎重な判断が必要となり、そのことが本人や家族に与える影響は計り知れない。
それはXXYの受精卵から生まれる異性一卵性双生児の場合も同様である。

以上のことから、健全な男女の一卵性双生児は天文学的な確率で生じた奇跡によって生まれてくることがお分かり頂けたであろう。
いくつもの偶然が重なり、ふたつの胚が無事に着床して妊娠が成立し、新しい生命が誕生したのだ。

166以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 00:16:19 ID:oRuA957g
ところで、異性一卵性双生児の誕生にはまだ大きな疑問が残されている。
男女の双子は二卵性だと判定するのが通常であり、一卵性だと判定することは絶対にあり得ないからだ。
それでは、なぜ一卵性だと判明したのだろうか。

妊婦検診で多胎妊娠だと判明した場合、速やかに膜性の診断をしなければならない。
なぜなら膜性の種類によって妊娠や分娩のリスクが大きく異なり、母体と胎児の周産期管理がとても重要な課題になるからだ。
その膜性診断の結果、二絨毛膜二羊膜性双胎(DD双胎)という状態になっていることが判明し、2つある胎盤は癒合していないことが確認された。
このDD双胎の状態になるのは受精後3日以内に分離した一卵性双胎とすべての二卵性双胎であり、そのリスクは単胎妊娠の約5〜10倍だと言われている。
やがて性別診断で男女だと判明したので、双子の卵性はDD双胎になる条件と矛盾しない二卵性だと判定された。

ところが、出産後に状況が一変した。
切迫早産でNICUに入院することになり、そのときの血液検査で男女ともにA型だと判明したからだ。
血液型がO型とB型の父母から、通常はA型の子どもが生まれることはない。
しかもそれが二卵性の双子で起きたものだから、周囲は大変な騒ぎになった。

167以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 00:22:17 ID:PueheZXk
両親の血液型から生まれるはずのない血液型の子どもが生まれる理由は、さまざまな可能性が考えられる。
今回のケースでは減数分裂のときに染色体がねじれて一部が入れ替わる乗換えという現象により、血液型を決定する遺伝子で組換えが起きていたことが原因だった。

血液型はABOの3種類ある遺伝子のうち、2つが組み合わさることで決定される。
その3種類の遺伝子はA遺伝子を基本の形として、B遺伝子とO遺伝子には、それぞれ次のような特徴がある。

B遺伝子は、前半部分がA遺伝子と同じ構造をしている。
O遺伝子は、後半部分がA遺伝子と同じ構造をしている。

つまり遺伝子の組換えにより、B型の母親が持っていた遺伝子(B遺伝子とO遺伝子)の後半部分が入れ替わってしまい、B遺伝子がA遺伝子と同じ構造になってしまったのだ。
そしてそのA遺伝子を持つ卵子が受精して、A型の双子が生まれたのである。

しかし、この現象が2つの卵子で同時に発生していたとは考えにくい。
そこでDNA双子鑑定を実施した結果、ついに男女の一卵性双生児だということが判明したのだ。
この血液型騒動がなければ、恐らく一卵性だと判明することはなかっただろう。

168以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 00:29:16 ID:oRuA957g
・・・
・・・・・・
特集記事を読み終わり、俺はゆっくりと息を吐いた。
16年前に書かれたそれには、俺と双妹が生まれてくるまでの記録が残されている。
今でこそ笑い話になっているけれど、血液型騒動があった当時は本当に大変だったらしい。
だけど、それがあったから今の俺たちがいるのだと思う。

記事の最後は、両親の言葉でまとめられている。
誕生の喜びと不安、戸惑い、そして夫婦の絆。
多くの人に支えられて生まれて来たのが、異性一卵性双生児の俺と双妹なのだ。

169以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 18:55:50 ID:oRuA957g
少女「ありがとう。読み終わりましたよ」

男「特集記事はどうだった?」

少女「生命が生まれるって、本当に奇跡的なことなんですね。すごく興味深かったです。それに男くんと双妹さんのご両親の想いや、医療従事者の方との連携が伝わってくる、そんな優しい気持ちになれる記事でした」

男「これを読むと、もっと頑張らないといけないなって思うんだ」

少女「そうだよね。それなのに、それなのに……」


唐突に少女さんが悲痛な声を出した。
そして、週刊誌が収められた本棚を見上げた。


少女「この出版社は私を苦しめるんです――」

男「それって、どういうこと?」

少女「私、この出版社の人にストーカーをされていたんです!」

170以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 19:01:05 ID:oRuA957g
男「ストーカーをされていた?!」


俺はその言葉に驚き、少女さんを見詰めた。
すると、少女さんはぽつぽつと語り始めた。

男子生徒の自殺に関連して、この週刊誌に心無い記事を書かれたこと。
そのことでクレームを出したけれど、出版社からの謝罪がないこと。
そして、12日から気味の悪い視線を感じていたこと。
少女さんが口を開くたびに、怒りと苦しみが吐き出されていく。


少女「きっとこの出版社は、少年くんを自殺に追いやった私がどんな恋愛をしているのか、それを記事にするつもりだったんです」

少女「こんなに優しい記事を書けるのに、どうしてそんなことをするの?」

少女「どうして、私がそんな仕打ちを受けないといけないの?!」

男「少女さん……」

171以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 19:07:49 ID:PueheZXk
男子生徒の自殺を思い出したとき、少女さんはとてもつらそうな表情をしていた。
それでも少女さんはそれを乗り越えて、将来の夢を真剣に考えていることを話してくれた。
つまり、生きていたときの少女さんがそんな気持ちになっていたのだろう。

しかし、マスコミはそれを許さなかった。
男子生徒の自殺は形を変えて、少女さんを追い詰めていたのだ。

2月12日。
それは少女さんが自殺をした前日。
彼女は悪意の視線に気付いてしまった――。

だけど、この出版社が悪意のある記事を書くとは思えない。
実際には記事を読んでいないので何とも言えないけれど、少女さんの当事者意識による思い込みが誤解を招いてしまっただけのような気がする。
ストーカー行為も本当にあったのだろうか。

男子生徒の自殺の記事を読めば何かが分かるかもしれないが、今はとても探して読めるような雰囲気ではない。
そっとしておいたほうが賢明だろう。


男「少女さん、部屋に戻ろうか」


俺は少女さんを連れて部屋に戻ることにした。
彼女はふわりふわりと、力なく浮いていた。

172以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 20:24:51 ID:MTdnb2QA
ここまでで一区切りです
レスありがとうございました


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