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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

561以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 01:17:25 ID:j2.HHR5s
気絶したデブとガリを見やり、委員長が呆然とへたり込む。
俺はそんな彼女に睨みを利かせ、双妹に手を差し出した。
制服が少し乱れているけれど、特に怪我などはしていなさそうだ。


男「双妹、大丈夫か!」

双妹「うん……助けてくれるって信じてた// 男は怪我とかその、大丈夫なの?」

男「ああ、俺は大丈夫だ。とりあえず、みんなから距離を取れ。俺は友に加勢してくる!」


そう言って振り返ると、友が女子生徒5人から集団リンチを受けていた。
さて、どうしたものか。
女子を投げ飛ばす訳にはいかないし、割って入って友を引きずり出すくらいしか方法はなさそうだ。
そして双妹に合図を送って、教室から逃げるというのが無難なところだろう。

そう思った次の瞬間、教室にいた生徒たちがバタバタと倒れ始めた。
委員長も上体が脱力し、糸が切れた人形のように動かない。
そして、ふらふらと友が立ち上がった。

562以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 08:39:16 ID:uyg5tBOc
頑張れ

563以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 20:36:10 ID:I5Et4Sw2
双妹「何なの……これ」

男「さ、さあ……何なんだ、これは――」

友「…ぐっ……つぅっ、これは憑依霊の仕業だ。俺が除霊しまくっているから、低級霊がみんなに憑依して俺を排除しようとしてきたんだ」


友はよろめきながら手近な椅子に座り、状況を説明してくれた。
この一週間、友が低級霊の除霊を続けていたので、低級霊たちは少女さんの依り代である俺の家を特定することが出来ないでいた。
だから低級霊たちは不良グループに憑依し、友を排除するために暴動を起こしたのだ。

しかし俺が倒してしまったので、低級霊たちは双妹を人質に取って俺を牽制し、反撃しづらい女子生徒に依り代を変えて攻撃してきた。
そして友が除霊に成功したおかげで、憑依霊の支配から解放されたみんなが意識を失った。
それが現在の状況らしい。

564以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 20:55:33 ID:I5Et4Sw2
少女「私のせい……ですよね。ごめんなさい――」

友「いいって。これくらいの怪我ならすぐに治るだろうし、少女さんの気持ちだけで十分だから」

少女「でも……痛いですよね。ごめんなさい」

友「まあ、それはそうと、いくつか気付かれただろうな」


俺と双妹が兄妹で、一緒に住んでいること。
守護霊を強化していても、人間に憑依すれば物理的に接触できること。
そして物理的に接触は出来るが、依り代にして支配することは出来ないこと。


友「やつらは欲望や不安、抑圧した気持ちに付け込んで意識を支配して来るんだ。とりあえず、みんなに破魔の印を仕込んでおいたから、しばらく大丈夫だと思う。念のために広域結界を仕掛けておいて助かったよ……」

男「友、ありがとう」

双妹「……ありがとう」

565以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 21:01:14 ID:I5Et4Sw2
それらの説明が終わる頃、気を失っていたみんなが意識を取り戻し始めた。
委員長も呻き声を上げ、呼吸を荒らげながら呆然としている。


委員長「はあはあ、私……どうして…………」

委員長「……! 双妹さん」


委員長はおぼつかない様子で立ち上がり、視界に双妹を捉えると顔を曇らせて視線を泳がせた。
双妹はそんな彼女の出方を、ただ黙って見据えている。


委員長「双妹さん、その……酷いことを言ってしまってごめんなさい。どうしてあんなことを言ってしまったのか、その……分からなくて。本当に私…………どうかしていたと思う……」

双妹「そんなこと、気にしないで。もう慣れてるから――」

566以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 22:04:14 ID:uMOnhQdg
委員長「ううっ、うううっ……ごめんなさい。ごめんなさいっ…………」

双妹「……」


双妹は泣き崩れる委員長を寂しそうに見詰めると、倒れたままのデブとガリに冷めた視線を向けた。
きっと今まで言われてきたことを思い出しているのだろう。

同じ双子でも女子のほうが力が弱いからなのか、心ない言葉を言われるのは双妹のほうが多かった。
もし普通の二卵性双生児だったならいじめられる事はなかったのだろうけど、少し特別だというだけで人の態度は大きく変わってしまうのだ。

俺たちのお弁当は騒ぎのせいで床に落ち、もう食べることは出来そうにない。
俺は小さくため息をつき、双妹の肩を抱き寄せて優しく頭を撫でてあげた。
すると、双妹が心地良さそうに身体を預けてきた。
そんな双妹に寄り添い、俺たちは心を通わせる。

少しでも早くつらい気持ちが癒えるように。
そして、少しでも早く双妹に笑顔が戻って来てくれるように――。

567以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/09(木) 05:05:01 ID:uax08Jx.
おつ

568以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:23:20 ID:OWrQ4PeQ
・・・
・・・・・・
5限目のチャイムが鳴って教師が入ってくると、教室の惨状に驚いて授業が中止になった。
友は「すぐに目を覚ます」的なことを言っていたが、意識を取り戻していない生徒が大勢いたのだから無理もない。
そして救急車が何台も呼ばれる騒ぎになり、次々と病院に運び出されていった。
その一方で、俺たちや意識を取り戻した生徒は保健室で診察や事情聴取を受けることになり、それぞれ迎えに来た保護者に連れられて帰宅した。

今回の乱闘騒ぎで一部の生徒に処罰が下り、俺は柔道部でありながら喧嘩に加勢して4人に怪我をさせたという理由で3週間の部活動停止処分が言い渡された。
そのことで母さんに何か言われるかと思ったが、双妹のフォローもあり特にお咎めは無かった。

ちなみに、友は理不尽な理由で暴行を受けただけなので処分は受けていない。
しかし以前の英語の授業で心霊騒ぎを起こし、その関係者である俺と双妹が失神症状を訴えていないことから、少し不審には思われているようだ。

569以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:25:55 ID:K7GWU6mw
やがて夕方になり、今日のことがニュースで報道された。

北倉市の県立高校で集団パニック。
そのニュースを見ていて、思いも寄らない事が起きていたことが分かった。
病院に搬送されたのはうちのクラスだけではなくて、校庭に次々と入ってくる救急車に不安を感じた1年生から3年生の女子生徒34人も過呼吸のような症状を訴え、合計で58人もの生徒が病院に運ばれていたそうだ。
その症状はいずれも軽いが、女子生徒7人が大事を取って入院しているらしい。
その事態を重く見た校長先生は臨時休校の判断を下し、午後の授業と部活動をすべて中止にしたとのことだった。

この過呼吸も低級霊の仕業なのだろうか。
もしそうだとするならば、今後もこのようなことが続くのかもしれない。

570以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:42:15 ID:uZ9cYTw2
〜自宅・部屋〜
男「学校、すごく大変なことになっていたんだな」

少女「……」

双妹「……そうだね。これからも今日みたいなことがあるのかな」

男「大丈夫だとは思うけど、早めに何らかの手を打たないと不味いよな」

双妹「例えば、何をするの?」

男「それを言われると困るけど、低級霊だったら友が除霊してくれるし、憑依していた場合は俺が投げ飛ばして倒せるだろ。しばらく、それで何とかするしかないんじゃないかな」

双妹「でも倒すって言うけど、相手は操られているだけなんだよ。本人は何も悪くないし、今度は退部させられるかもしれないわよ」

男「まあ言い方は悪かったけど、やりようはあると思う。こっちには除霊の出来る手袋があるんだし」


俺はそう言って、棚の上に置いている手袋を見た。
それさえあれば、触るだけで俺でも除霊が出来るのだ。


双妹「そっか、あれを使えば良いんだ。じゃあ、出掛けるときは持ち歩いておいたほうが良さそうだね」

571以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:54:24 ID:K7GWU6mw
少女「あの……これって、私が家に帰れば解決しますよね」

男「家に帰るってどういうことだよ」

少女「私のせいで男くんと友くんが怪我をして、双妹さんも危険な目に遭って、多くの人に迷惑をかけてしまいました。そんなことが続くなら、私はもういないほうが――」

双妹「ねえ、少女さん。私は正直に言って、早く貴女にいなくなってもらいたい。だけど、本当にそれで良いの?」

少女「良くないけど、私も同じなんです」

双妹「同じって何が?」

少女「私も男くんに取り憑いている憑依霊だから……」

男「少女さんはあいつらとは違って、人の弱さに付け込んで身体を乗っ取ったりしないだろ。だから、同じじゃないよ」

少女「私も同じことが出来るんですよ。同じじゃないはずがないです!」

男「……そうだな。少女さんは同じことが出来るよな」

少女「だから――」

男「でもっ! 少女さんには良心があるじゃないか。その心があるだけで、あいつらと少女さんは違う。そうだろ」

572以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:59:01 ID:uZ9cYTw2
プルルル・・・
突然、電話が掛かってきた。
大事な話をしているというのに空気が読めない奴だ。
誰からだよと思いつつ確認すると、友香さんの名前が表示されていた。


男「ごめん、友香さんからだ」

少女「……」

男「もしもし、男です」

友香『もしもし、男くん? 友香です』

男「俺に電話って、珍しいですね。何かあったんですか?」

友香『実はネットを見てて、気になる記事があったから電話をしたんです』

男「気になる記事?」

友香『……うん。今日、男くんの学校で集団パニックがありましたよねえ。その原因が心霊現象じゃないかって、SNSやまとめサイトで話題になっているんです』

男「ええっ?!」

友香『だから少女が関係しているんじゃないかなと思って、少し心配で掛けてみたんです。よければ代わってもらえませんか?』

男「分かりました。それじゃあ、今から代わりますね」

573以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 23:02:51 ID:uZ9cYTw2
双妹「何かあったの?」

男「今日のことがネットで話題になっているらしい。それで少女さんが心配だから、代わって欲しいって」

少女「……私に?」


少女さんは不思議そうな顔をして、手を差し出してきた。
俺はそれを見て何とはなしに少女さんにスマホを渡すと、そのまま手をすり抜けて落ちてしまった。
少女さんは幽霊なんだし、すり抜けて当然だ。
うっかりしてた。
俺はスマホを拾い上げ、苦笑いをしている少女さんの耳元に当ててあげた。


少女「もしもし、代わりました」

少女「えっ……あ、あれ? 声が聞こえない――」

少女「……ごめんなさい、私にはスマホを使うことが出来ないみたいです」

男「まあそっか、そうだよな」

574以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 23:05:07 ID:K7GWU6mw
男「もしもし、友香さん?」

友香『あ、ああ……男くん?』

男「実は少女さんがスマホを使えないみたいで」

友香『そうだよね。慌ててたから、私もさっき気付いたところ。多分、ビデオ電話も使えないですよねえ』

男「双妹もいるし、ちょっと試してみるよ」


俺はスマホをいじっていた双妹に声をかけ、少女さんの動画を撮ることが出来るか試してもらった。
ピロリ〜ン♪という電子音が鳴り、少女さんにスマホを向ける。
そして、双妹は首を横に振った。


男「友香さん、やっぱり映らないみたい」

友香『そっか。じゃあ、メールします』

男「分かりました」

575以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 23:09:44 ID:uZ9cYTw2
トゥルルル〜ン♪

男「はやっ!!」


From:友香さん
件名:少女へ

本文:
少女はひとりじゃないんだからね!
日曜日楽しみにしてるよ(^_^)v
z♪

576以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 23:16:34 ID:tz8TBcbM
少女「友香ちゃん……」

少女「私、やっぱり頑張ろうと思います。こんなことをしてくる人に負けたくないです!」

男「そうだよな。みんなで頑張ろう」

少女「はいっ!」


友香さんのおかげで少女さんが元気になり、俺は少女さんと一緒にメールの返信をすることにした。
そしてそれが終わると、双妹がタイミングを見計らって話しかけてきた。

577以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 00:20:11 ID:7lq0lOSA
双妹「少し調べてみたんだけど、今日の集団パニックは心霊現象が原因じゃないかって言われているみたいなの」

男「友香さんもそう言ってた」

双妹「それでね、集団パニックは過去にも事例があるんだけど、そのほとんどが女子生徒だけが症状を訴えているみたいで、今回みたいに男子生徒を含むクラス全員が意識を失ったっていうのは前例がないんだって」

男「へえ、そうなんだ」

双妹「だから本物じゃないかって言われているみたい」

男「でも、それはネット上の話だろ。確かに心霊現象が原因だけど、友はそれを否定しているし俺たちが何かするのは止めておいたほうがいいと思う。ただでさえ学校全体が混乱しているんだし、騒ぎを鎮めるために黙っているのがベストなんじゃないかな」

双妹「まあ、そうかもしれないわね」

578以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 00:42:02 ID:FUHw3dgY
男「それじゃあ、少し早いけどお風呂に入ろうか」

双妹「えっ、もう入るんだ。私、着替えを取ってくるわね♪」

男「ああ、俺たちは待ってるから」

双妹「うんっ、すぐ行く//」


双妹は頬を緩め、軽やかに部屋を出て行った。
お昼にあんなことがあって心配だったけど、もう大丈夫のようだ。


少女「双妹さん、お昼にあんなことを言われたのに――」

男「俺もそのことは心配だったんだけど、もう大丈夫みたいだな。本当に良かったよ」

少女「……」

男「それじゃあ、そろそろ行こうか」

少女「そうですね」


俺は少女さんの様子が気になりつつ、着替えを準備して部屋を出た。
そして、ちょうど居合わせた双妹と3人でお風呂場に向かった。

579以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 06:42:53 ID:I5Q3feW2
おつ

580以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 22:57:49 ID:aCu.IM.k
〜双妹さんの部屋・少女さん〜
お風呂から上がり、男くんと一緒に集団パニックのことを調べていると、いつの間にか双妹さんの部屋に移動する時間になっていた。
私は壁をすり抜けて、洋服ダンスの中からいつも通りに声を掛ける。
しかし、今日は返事が返ってこなかった。

もしかして、もう寝ているのかなあ。

私はそう思い、双妹さんの部屋にそっと入る。
そして二段ベッドに目を向けると、上段のベッドで双妹さんが抱き枕に跨がってしがみ付いていた。


少女「あの、双妹さん」


――そこは私のベッドですよ。
そう言い掛けて、私は言葉を飲み込んだ。
双妹さんが寂しそうな表情で眠っていたからだ。


少女「そんな格好で寝ていたら、風邪を引きますよ。起きてくださ〜い」

双妹「んっ……わわっ、少女さん?! え、うそっ、いつの間にか寝ちゃってた」

少女「寝るなら自分のベッドで寝ないと、風邪を引きますよ」

双妹「そ……そうだね。ごめん」

581以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 23:44:17 ID:7lq0lOSA
少女「少し気になったんですけど、今日言われたことはあまり気にしないほうがいいと思いますよ。どこまでが本心だったのか分からないし」

双妹「私は別に気にしてないよ。もう慣れてるから……」


双妹さんは淡々とした表情で言い、太ももまで捲れ上がっていたネグリジェの裾をそっと直した。
そして壁際に移動し、ぺたりと座り込む。
私はそれを見て、双妹さんの隣に腰を下ろすことにした。


少女「今までもそういうことってあったんですか?」


少しでもつらい気持ちが楽になってくれればと思い、話の続きをそっと促す。
すると双妹さんは抱き枕を抱えて、小さくため息をついた。
そしてややあって、心の内を話し始めた。

582以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 23:53:18 ID:aCu.IM.k
双妹「……まあね。小学生のときに、『オトコ女』とか『あそこを見せてみろよ』とかよく言われていたの。親が『一卵性双生児は同じ性別しか生まれない』とか『女の子は遺伝子の病気を持っている』って教えるから、子どもが学校でからかうようになるんだよね」

双妹「それから小学校の2分の1成人式がテレビで放送されて、その後はいじめがなくなったんだけど、人の気持ちは難しいらしくて――」

少女「……」

双妹「中学2年生のときに気になる人がいたんだけど、その人がグループの中心になって私の陰口を話していたの。それを聞いた男がすごく怒って、彼らと乱闘騒ぎになってそれっきり。でもあのとき、すごくうれしかった」

少女「そんなことがあったんだ……」

双妹「もうむかしの話だけどね。それ以来、みんなが双子の話題を避けるようになったから、逆にそれで良かったと思ってる。いじめや陰口って、すごくつらいし」

583以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/22(水) 00:03:24 ID:Ng/yLgug
少女「はあっ、私たちって男運が良くないですよね」

双妹「うーん、まあ、そうかもね」

少女「ほんとそうですよ! 私は告白を断っただけで自殺をされて、SNSに遺書まで遺されたし!」

双妹「あー、少女さんには悪いけど探して読んでみたの。逆恨みされるだけでも迷惑なのに、個人情報まで書かれて本当に最悪だよね」

少女「そう! 私は人殺しなんじゃないかって、ずっと悩んでた。でも友香ちゃんに相談して、みんなが励ましてくれて、私は頑張ろうって思えたの」

双妹「友香さん……か。今日のことで電話をしてくれたり、優しい人だよね」

少女「うん、困ったときには頼りになる友達なの。マスコミにストーカー行為をされていたときも、友香ちゃんが色々と考えてくれたんです」

双妹「そうなんだ。でも、ストーカー行為は勘違いだったんでしょ」

少女「それはそうなんだけど、そのときはマスコミだと思っていたから」

双妹「……」

双妹「じゃあ、本当は誰にストーカー行為をされていたの?」

584以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/22(水) 00:06:33 ID:5d9asUOo
あれっ?
誰にストーカー行為をされていたんだろう。


双妹「少女さんって、記憶が曖昧になっていたんですよねえ」

少女「……はい。今でもはっきりとは思い出せない記憶があるんです」

双妹「それってさあ、今日あったことに似ていると思わない?」


はっきりとは思い出せない記憶。
憑依霊に取り憑かれて錯乱し、記憶が曖昧になっていたクラスメイトたち。
そして、うさぎのぬいぐるみの霊的な痕跡。


少女「もしかして、私も憑依霊に取り憑かれていたってことですか?!」

双妹「その可能性はあると思う」

少女「でも、どうして――」

双妹「それは分からないけど、ゆっくり思い出していったら良いんじゃないかなあ」

少女「そう……ですね」

585以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/22(水) 01:36:04 ID:Ylr.3cqs
双妹「少女さん、聞いてくれてありがとう。私、もう下りるわね」

少女「あっ、うん」


そう返すと、双妹さんは二段ベッドのはしごに足をかけた。
そして少し下りたところで、抱き枕に手を伸ばす。
わざわざ持って上がって抱き付いていたのかと思うと、何だか少し微笑ましい。

……わざわざ上に?

双妹さんはときどき抱き枕をクッション代わりにしているけれど、つらい事があって抱きしめたくなったのならば、思う存分、自分のベッドで抱きしめれば良いと思う。
それなのに私のベッドで――いや、男くんが使っていたベッドで1時間近くも何をしていたのだろう。

まさか、一人でえっちなことをしていた、とか?!
抱き枕に跨がってネグリジェの裾をはだけさせて、あらぬ妄想をしながら抱き付いて。
でも、だけどそうだとしたら――。


双妹「少女さん、電気を消すけど良いかな」

少女「えっ?! ああ、どうぞ」

双妹「それじゃあ、おやすみなさい」

少女「……おやすみなさい」

586以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/23(木) 19:05:28 ID:ry8nONkU
おつ

587以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 20:33:44 ID:xah1RU42
(3月5日)sat
〜自宅・部屋〜
いつも通りに双妹が起こしに来て一緒に朝ご飯を食べていると、少女さんが双妹に観察するような視線を向けていることに気がついた。
双妹もそれに気付き、少女さんがさり気なく視線を逸らす。
昨日の夜、二人の間で何かあったのだろうか。

俺は少し気になり、タイミングを見計らって聞いてみることにした。
部活動停止処分のせいで予定が空いているし、上手く行けば双妹に少女さんのことを認めてもらう手掛かりを掴むことが出来るかもしれない。


男「少女さん。昨日の夜、双妹と何かあった?」

少女「……いえ、何もないですよ」

男「だけど、双妹のことを気にしているみたいだったから」

少女「……」

少女「何と言うか、相変わらず仲が良いなと思って」

男「なんだ、そういう事だったのか。前も言ったと思うけど、俺と双妹は双子の兄妹なんだから仲が良いのは当たり前だろ」

少女「それは分かっているんだけど、最近は兄妹以上の関係があるんじゃないかって、そんな気がしてきて――」

588以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 20:40:47 ID:DGvU3mmQ
男「もしかして、双妹にやきもちを妬いてる?」

少女「そんな事は……あるかも、です」


少女さんは不安そうに言うと、じっと俺を見詰めてきた。
今週は双妹と一緒にお弁当を食べたり、少女さんでは出来ないことを意識してしまうような時間が多かったのかもしれない。
俺はそう考え、少女さんの心配を打ち消してあげるためにそっと身を乗り出した。


少女「んっ……んんっ//」


優しく接すればキスが出来るし、身体を抱き締めることも出来る。
二人の気持ちがつながれば、もっといろいろなことが出来るようになる。


男「俺は少女さんのこと、好きだよ」

少女「……私も、好きです」

589以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 20:54:25 ID:s9iOxF5o
俺は少女さんを優しく押し倒し、彼女に覆いかぶさった。
そして身体が触れ合う微妙な位置で上体を固定し、唇を重ねあう。
力を抜くと少女さんの身体をすり抜けてしまうので、地味にキツイ体勢だ。

そのため今度は俺が横たわり、浮くことが出来る少女さんが俺に跨がった。
すると少女さんは一瞬はっとした表情になり、顔を曇らせた。


男「どうかした?」
少女「ううん、何でもない。男くん……今日はいやらしいね」

男「それは少女さんが可愛いからだよ//」

少女「ええっ、そうかなあ//」


少女さんは頬を緩ませ、にこりと微笑んだ。
俺はそんな彼女に手を伸ばし、控え目な膨らみを包み込む。

590以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 20:59:26 ID:a8SA9gRA
少女「ねえ、ぎゅう〜ってしてもいい?」

男「いいよ」


そう言うと、少女さんは上体を倒して俺にぎゅうっと抱き付いてきた。
両腕が床をすり抜けて背中に回されているので、身体が完全に密着している。
そのおかげで少女さんの柔らかさが伝わってきて、俺はあそこが硬くなっていることを少女さんに伝えてしまった。
しかし物理的には触れ合うことが出来ないせいで、性的な刺激はほとんど感じない。
きっと、これが今の俺たちに許されていることなのだろう。

俺はただ、少女さんのぬくもりを全身で受け止める。
そしてそのまま、俺たちはお互いの身体を感じあう。

591以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 21:15:21 ID:DGvU3mmQ
少女「男くん、我慢してない?」

男「……してないよ。今、すごくうれしいし」

少女「あ、あのっ……私が裸になって、その…………見ていてあげることなら出来る、かも//」

男「ええっ、それって一人でしているところを見たいってこと?!」


少女さんは顔を赤らめ、上目遣いで俺を見詰めてきた。
そして、艶っぽい声でささやく。


少女「だめ……かなあ//」

男「無理むりむりむりっ! 少女さんに見られるのは、さすがに恥ずかしすぎるって!」

少女「どうしても、だめ?」

男「どうしてもだめ。逆に、少女さんもそういうのは見られたくないだろ」

少女「それは、そうだけど……」

男「なっ。とりあえず、そういうことだから」

少女「う……うん。変なことを言って、ごめんなさい」

592以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/28(火) 23:06:08 ID:ErFFua1w
〜双妹の部屋〜
少女さんの提案を断ったせいなのか少し気まずい雰囲気になり、俺は気分を変えるために双妹の部屋に移動することにした。
少女さんは少し不満そうだったけれど、双妹に交際を認めてもらうことが出来れば、少女さんが余計な詮索をしないで済むようになるはずだ。
そう勇んで、双妹に話を振ってみたのだが――。


双妹「私、二人の気持ちは認めているわよ」

男「えっ、そうだったのか」


どうやら、すでに認めてくれていたようだ。
最近は少女さんともよく話をしているし、少しは気持ちが軟化してくれたのだろう。


双妹「でも、交際は認めない。それだけは絶対に駄目なの」

男「好きな気持ちはどうしようもないけど、付き合うのは駄目ってことか」

双妹「……うん。少女さんはもう死んでいる人だから」

593以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/28(火) 23:26:59 ID:ErFFua1w
男「そうは言うけど俺たちには見えているし、話も普通に出来るんだから個性みたいなものだろ」

双妹「個性みたいなものだなんて簡単に言わないでよ。二人がどんなに好きになっても結婚は出来ないし、周りの人から変な目で見られるだけなんだよ。お父さんとお母さんも簡単には理解してくれないだろうし、私はそんな恋愛は応援できない」

男「現実的に考えたら双妹の言う通りだけど、俺たちは話し合ったんだ。4月1日に笑顔で成仏できるように、今を大切に過ごしていこうって。俺は笑顔で少女さんを送ってあげたいんだ」

双妹「男は好きな人と笑顔で別れられるの?」

男「そのときになってみないと分からないけど、それしかないんだ」

双妹「少女さん、少し前に私が話したことを覚えてる?」

少女「あの話のことですよね。覚えていますよ」

双妹「ふうん、そう……」


双妹はそう返すと押し黙り、思案めいた。
少女さんとどんなことを話したのかは知らないけれど、二人は先々のことを見据えて話し合っていたのだろう。
そしてややあって、双妹は少女さんに鋭い視線を向けた。

594以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/28(火) 23:44:24 ID:K/yyF2CM
双妹「私が幽霊ものの恋愛小説を読んでいることは知っているでしょ。それでいくつか読んでみて、ヒロインが生まれ変わってハッピーエンドになる小説に共感できないなと思ったの」

少女「生まれ変わり?」

双妹「……うん。例えば、生まれ変わったヒロインが主人公の前に現れて結ばれたり、主人公の娘として生まれ変わって前世の記憶を思い出したり――」

双妹「そんなのヒロインが主人公の人生を奪っただけだし、自分の娘が元カノの生まれ変わりだったと分かれば家族揃って不幸な結末が待っているだけだもん」

双妹「だから、もし生まれ変わりに期待しているのだとしたら、私は少女さんのことを絶対に許さないから」

男「あのさあ、双妹は知らないみたいだけど、少女さんは生まれ変わることが出来ないんだ」

双妹「えっ?」

少女「そういえば、双妹さんには話していなかったですね」

少女「えっと……友くんによれば、私は成仏をしても生まれ変わることはないそうです。それに、4月1日を越えてしまうと魂が壊れて消えてしまうんです」

595以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/28(火) 23:48:57 ID:ErFFua1w
双妹「ちょっと待ってよ! 少女さんは気持ちの整理が出来なかったら消えてしまうってこと?!」

男「だからこそ、俺は少女さんの未練を叶えて笑顔で送ってやりたいんだ!」

少女「双妹さん! あの約束は絶対に守るから認めて欲しいです」

双妹「ずるいよ、そんなの……」

双妹「私は少女さんに後腐れなく別れてもらいたいの。だからデートに失敗すれば諦めてくれると思っていたし、出来ないことがあると自覚させれば身を引いてくれると思ってた。それなのにそんなことを言われたら、さすがに未練を叶えてあげるしかないじゃない!」

少女「それじゃあ、私のことを――」

双妹「でも……それでも、少女さんは幽霊だから絶対に認めない! さっきも言ったけど、それだけは駄目なの」

少女「そんな……」

男「双妹の気持ちは分かったよ。また今度、一緒に話し合おう」

双妹「……うん、私も気持ちの整理をさせて欲しい。少女さんのことをどう思っていて、私はどうしたいのか、ちゃんと考えたいから」

少女「……」

596以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 20:59:57 ID:.ysbbDy6
ピンポーン♪
話が一旦落ち着いたところで、来客のチャイムが鳴った。


男「誰か来たみたいだな。ちょっと見てくる」

双妹「待って。男が行くと、少女さんも動くことになるでしょ。私が行くから、興味があればこの本を読んでみて」


双妹はそう言いながら立ち上がり、机の上に置いていた小説を差し出してきた。
そして、俺がそれを受け取ると部屋を出て行った。


男「せっかくだし、読んでみるか」

少女「そうですね」


俺は背表紙を向けて、あらすじを読んでみた。
それによると、これは雨の日にしか会うことが出来ない女幽霊の謎を解くミステリー小説らしい。
双妹がこうして勧めてきたということは、少なくとも生まれ変わりエンドではないのだろう。

597以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 21:17:15 ID:pRrK1zEE
妹友「お邪魔しま〜す」


小説を読み始めてすぐ、双妹と妹友さんが部屋に入ってきた。
どうやら、さっきの来客は妹友さんだったようだ。
そういえば、今日は映画を観に行く約束をしていたっけ。


男「妹友さん、おはよう」

妹友「おは〜♪ 男くんって、相変わらず双妹ちゃんと同じ部屋なんだ」

双妹「今は別々なんだけど、大体こんな感じかも」

妹友「ふうん……けほっけほっ…………やっぱり、仲が良いんだね」

男「妹友さん、風邪は大丈夫?」


まだ咳が出ているみたいだし、本調子ではなさそうだ。
そんな体調で映画を観に行って、風邪をぶり返したりしないだろうか。

598以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 21:21:52 ID:lioUPEdY
妹友「熱が下がったから来たんだけど、ちょっと無理っぽい」

男「それじゃあ、今日は帰ったほうがいいんじゃない?」

双妹「私もそう思ったんだけど、外はまだ降ってるし、雨が止んでからのほうが良いかなと思って……」

少女「でも、妹友さんって、火曜日からずっと休んでいましたよねえ。早めに帰ってもらったほうがいいと思いますよ」

妹友「ごめんね、小降りになったら帰るから」

双妹「うん、そのほうが良いかも」

妹友「はあぁっ、外島くんに会いたかったよおぉっ〜!」

双妹「仕方ないよ。風邪が治ったら、一緒に行きましょ」

妹友「うん……しょんぼり」

男「じゃあ俺、自分の部屋に戻る」

双妹「そうなんだ。あの話、ちゃんと考えておくから」

男「ああ、前向きに頼むよ」

少女「……」ペコリ

599以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 21:32:31 ID:.ysbbDy6
妹友「そういえば、男くん!」


部屋を出ようとすると、妹友さんに呼び止められた。


男「何かなあ」

妹友「昨日、学校で大変なことがあったんでしょ。悪霊の仕業とか話題になっているみたいだけど、男くんと双妹ちゃんは大丈夫だった?」

双妹「私は特に何も――」

男「俺も別に何ともないし、ちょっと怪我をしたくらいかな」

妹友「ふうん、そうなんだ。それだけで済んで良かったね」

双妹「うん、すっごく怖かったんだから! 妹友ちゃんは休んでいて、本当にラッキーだよ」

妹友「そうかもね。あ〜、でもでも、外島くんに会えないからプラマイゼロだしっ!」

双妹「あはは、そうだね」

600以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 23:18:55 ID:pRrK1zEE
〜部屋〜
双妹と妹友さんの話が盛り上がり始めたので、俺は双妹の部屋を後にした。
そしてキッチンに行き、はちみつホットミルクを作って二人に出してあげた。
少しでも風邪予防になってくれれば幸いだ。

俺も自分の部屋に戻り、ホットミルクを飲む。
いろいろ話し合った後だし、はちみつの甘さが心地いい。


男「さっきの話だけど、少女さんは結婚をしたいとか思ってる?」

少女「男くんが告白してくれたときに、言いましたよね。私は結婚が出来ないし、赤ちゃんを産むことも出来ませんって。それを承知した上で付き合っているんですから、そんな願望はまったくないです」

男「そっか。でも、そういう言葉が出るのは憧れの裏返しなんじゃないかなって思うんだ。双妹もいろいろあって、結婚に憧れているような感じだから――」

少女「私だって、本当のことを言えば憧れはありますよ。でも、結婚式エンドは双妹さんが許さないと言っていた生まれ変わりと同じじゃないですか」

少女「それに、私たちはまだ結婚ができる年齢ではありません」

601以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 23:44:46 ID:pRrK1zEE
男「確かにそうだけど、俺たちが個人的に結婚式をするだけなら法律は関係ないだろ。付き合った証を残そうとすることは、そんなに悪いことなのかな」

少女「その後、男くんの人生はどうなるんですか」

男「……えっ?」

少女「私はすでに死んでいる幽霊なんですよ。それなのに永遠の愛を誓ってしまうと、男くんの未来を奪ってしまうことになるじゃないですか。気持ちはうれしいけど、男くんが死んだ女性と冥婚をするなんて、私は絶対に望みません」

男「何もそこまで真面目に考えなくても――」

少女「女の子はそれくらい結婚に対して真剣なんです」

男「ご、ごめん……」

少女「それに今の私が目指しているものは、私たちだけで自己完結をして終わりになるようなことじゃないんです」

男「それって、どういうこと?」

少女「それを聞かれると困るんですけど、私は私の気持ちが多くの人に繋がっていくような、そんなことが出来ればいいなと考えています。だから、男くんもそれを一緒に探してくれるとうれしいです」

602以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/30(木) 00:24:26 ID:XVeZh2l2
トントン・・・
ノックの音がして、双妹と妹友さんが入ってきた。


妹友「男くん、さっきはありがとう。すごく美味しかったよ」

男「それは良かった。今から帰るの?」

妹友「ええ。あまり長く居て、双妹ちゃんに風邪をうつしても悪いし」

男「まあ、そうだね」

妹友「それにしても、男くんの部屋ってすごく綺麗に片付いているんだ。えっちな本はどこに隠しているのかにゃ♪」

双妹「まあ……私もいるし、男はスマホ派だよ」

妹友「へえ、そうなんだ。双妹ちゃんがいるのに、こっそりいやらしいサイトを見たりしてるんだ〜//」

男「はいはい。それはもういいから、早く帰れよ」

妹友「けほっけほ……ごめん。それじゃあ、帰るね」

男「ああ、そのほうが良いと思う。風邪、気を付けてね」

妹友「うん、ありがとう。また月曜日に学校でね。バイバイ♪」

603以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/30(木) 00:43:48 ID:XVeZh2l2
双妹と妹友さんが部屋を出て行き、俺は話を戻そうと少女さんに向き直った。
すると、少女さんは窓の外を眺めていた。
今は雨が止んでいるみたいで、妹友さんが濡れて帰る心配はなさそうだ。


少女「ねえ、男くん。窓を開けて空気を入れ換えませんか?」

男「別にそこまでする必要はないと思うんだけど」

少女「でも、気になるから。双妹さんにもそう言ってきます」

男「ああ、うん」


俺は少女さんを見送り、とりあえず部屋の空気を入れ換えることにした。
雨上がりの生暖かい空気が部屋に入ってきて、春の訪れを予感させる。
そんな季節の移ろいに感じ入りながら外を眺めると、妹友さんの姿が目に入った。
何やら歩道の植え込みが気になるらしく、いろいろな角度でスマホを向けているようだ。
そして今度は街路樹を見上げると、スマホを向けて覗き込んだ。

もしかして、妹友さんには雪吊り萌えの趣味があるのか?

とりあえず、見なかったことにしてあげよう。
俺はそっと窓を閉め、少女さんが戻ってくるのを待つことにした。

604以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/30(木) 00:51:38 ID:FEAzqMNw
おつ

605以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/03(月) 22:34:11 ID:1isJsRnE
(3月6日)sun
〜北倉駅前・バス停〜
みんなで水族館に行く日の朝、俺と双妹は友と合流して北倉駅に向かった。
相変わらずの曇り空と春のような暖かい陽気。
今日は絶好のお出かけ日和だ。


友香「おはようございます」

少女「友香ちゃん、おはよう〜」


待ち合わせ場所に着き、お互いに挨拶を交わす。
そして、友香さんが心配そうな顔で友を見詰めた。


友香「怪我、大丈夫ですか?」

友「腫れは引いてきたし、もう大丈夫。男がいなかったら、今頃は病院送りだったかもしれないけど――」

友香「そうなんだ。やっぱり、悪霊って怖いんですね」

606以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/03(月) 23:16:20 ID:6xTANxTA
双妹「ふと思ったんだけど、今から人が集まる場所に行く訳でしょ。そんなところで憑依霊に取り憑かれたりしたら、大変な騒ぎになるんじゃないかなあ」

友「恐らく、その心配はないと思う」

双妹「どうして?」

友「友香さんには説明していないからもう一度言うけど、憑依霊は欲望や不安、抑圧した気持ちに付け込んで意識を支配して来るんだ。だから、俺たちを排除するつもりなら、俺たちに対して悪意を持っている人に取り憑かなければならないんだ」

双妹「……そうなんだ」

友香「つまり、無い袖は触れないということですね」

友「まあ、そういうことです。最近、英語の授業中に悪目立ちとかしてたし、それがマズかったかなあ」

双妹「じゃあ、みんなは私のことを――」

男「双妹。あんな奴らのこと、もう忘れろよ」


これから遊びに行くのだから、委員長たちに言われたことを思い出す必要はない。
俺は双妹の頭をぽんぽんと叩き、笑顔を向けた。


双妹「うん、そうだね。ありがとう」

607以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/03(月) 23:36:47 ID:6xTANxTA
〜水族館〜
バスに揺られること約1時間、俺たちは海の見える水族館に到着した。
大人4人に特別料金の少女さん。
こういうときは、誰からも見えないのはお得だと思う。

そんな訳で俺たちは悠々と館内に入り、まずは目玉のジンベエザメ館に向かった。
そして建物の中に入ると、巨大水槽で雄大な泳ぎを見せるジンベエザメが迎えてくれた。
一気にテンション上げあげだ!


友「さすがジンベエだな。迫力が違うぜっ!」

男「この圧倒的な存在感、修学旅行で行った水族館に負けてないよな」

友「おうっ、絶対に負けてないっ!」

少女「エイが泳ぐ姿も可愛いよね」

双妹「それ分かる。すごく優雅な泳ぎ方だもんね」

友香「そうそう! 私はあの長い尻尾も可愛いと思うよ」

少女「ジンベエさんが泳いでいて刺さったりしないのかなあ」

友香「ああ……それ、絶対いそう!」

少女「だよね!」

608以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/03(月) 23:46:31 ID:6xTANxTA
ジンベエザメ館を満喫した後、俺たちは別棟の本館に移動した。
そこはテーマごとに水槽が分けられていて、水族館の醍醐味が集約されている場所だ。


双妹「回遊魚が泳いでいる姿を見ていると、何だか落ち着くよね」

男「そうだな。魚たちの洗練された泳ぎを見ていると、それだけで癒されてくるよな」

双妹「そうそう♪」

友「くそうっ! 今はマリンガールの餌付けショーをしてないみたいだ」

男「どうしたんだよ」

友「男も見たいだろ。可愛いマリンガールが餌付けされる姿を!」

男「それ、逆だから!」

友香「はいはい、見られなくて残念でしたね」

友「少女さん、ちょっと水槽の中に入ってみてくれる?」

少女「ええぇっ?! いやですよ。私でオチを付けようとしないでください!」プンスカ

609以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 00:13:05 ID:utajcjjE
友香「そんなことより、あっちに家族連れが集まっている場所があるわよ」

友「ほんとだ。ちょっと行ってみようか」


俺たちは何がいるのか気になり、人の少ない場所から中に入ることにした。
すると、そこには浅い水槽が設置されていた。
どうやら、ウニやヒトデ、イソギンチャクなどに触ることが出来るようだ。


友香「へえ、触れるんだ」

友「ヒトデって、確かひっくり返しても元に起き上がれるんだよな」クルクル

友香「だからって、本当にひっくり返すのは可哀想でしょ」

友「ふれあいコーナーだし、たくさん触って楽しまないと。ほら、可愛いから触ってみなよ」

友香「……あっ、ヒトデって結構しっかりしてるんだ」クルリ

双妹「友香さん、そっちでヤドカリが歩いてる」

友香「ほんとだ。触っても良いのかなあ♪」

610以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 00:22:05 ID:9QACQJ6A
少女「男くん、私たちはあっちの水槽を見に行きませんか?」

男「そうだな。ここは友に任せよう」

少女「見てみてっ。この水槽、魚がいっぱい生えてますよ!」

男「えっと、水族館の不動の人気者。チンアナゴとニシキアナゴだって」

少女「じっとして動かないし、砂の中はどうなっているんだろ」

男「雑草みたいに、ブワァーって根っこが生えていたりして」

少女「ええぇっ、変なことを想像させないでくださいよ〜」

男「少女さん、見てみて。あのニシキアナゴ困った顔してる」

少女「どれどれ?」

男「あの手前に生えてるシマシマ模様のやつ」

少女「ほんとだ、困ってる。きっと根っこが生えてるとか言ったからだよ」クスクス

611以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 00:48:37 ID:lbXl2de2
少女「ねえねえ、あれは何かなあ」

男「クラゲの光ファンタジーだって」

少女「何だか面白そうだし、行ってみようよ♪」


俺は少女さんの要望に応えて、暗闇の中に入って行くことにした。
すると、その奥に幻想的な空間が広がっていた。
円筒形の大水槽やアクアリウム水槽が透明感のある青い光で照らされ、その中をクラゲがふわりふわりと漂っている。
しかもピンクや黄色、緑といった光を当てることでクラゲたちが光り輝き、本当に幻想的な世界に迷い込んでしまったかのようだ。


少女「わあぁ、すごい……」

男「そうだね」


俺は少女さんの手を取り、クラゲたちを見上げた。
そして揺らめく光に包まれ、いつしか心を奪われていた。

612以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:13:58 ID:9QACQJ6A
双妹「やっぱり、ここにいた」

男「ああ、双妹。どうかしたのか?」

双妹「もうすぐ、イルカプールの時間だよ」

少女「わわっ! もうそんな時間なんだ。行くいくっ!」


イルカプールの時間が迫っていると知り、少女さんは慌てた様子で言った。
ここのイルカショーは触れ合い体験も実施しているので、俺もイルカに触るのが楽しみだ。


男「それじゃあ、行こうか」


俺たちは外で待っていた二人と合流し、急ぎ足でイルカの訓練施設に移動した。
そして、インストラクターの同伴でイルカプールに入場した。

613以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:16:56 ID:utajcjjE
イルカ「キューキュー」

少女「いやん、可愛い〜//」

双妹「こっちに来てくれるかなあ」

友香「あっ、こっち見てるよ!」


スイスイ
ザバ〜ンッ・・・


双妹「わわっ、2頭も来てくれた!」

イルカ「キュッ」「キュ〜」

少女「……」

イルカ「キュキュッ」チラリ

少女「……」フワフワ

イルカ「キュゥ」「キューッ」チラッ

614以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:21:39 ID:lbXl2de2
少女「……!」

少女「見えてる! このイルカさんたち、私のことが見えてるよ!!」

友香「イルカには健常者と障がい者を見分ける能力があって、障がい者を助けることが出来るって聞いたことがあるわよ。もしかしたら、それで少女の姿が見えているのかも!」

男「すごいな、イルカって」

友「霊感が人間以上に発達しているのかな」

双妹「多分、幽霊が珍しいんだよ。視線を独り占めだね」

イルカ「キューキュゥッ♪」ピトッ

少女「……?!」

少女「ねえ、みんな手を出してみて」

男「手を?」

少女「いいから、出してみて」

615以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:25:37 ID:lbXl2de2
そう言われて俺たちが手を差し出すと、少女さんはみんなの手を触って回った。
俺と双妹、友に友香さん。
少女さんは幽霊なので、もちろん触ろうとしても手がすり抜ける。


少女「触れるよ! 私、イルカさんに触れるよっ!」ペタペタ

イルカ「キュウッ!」

少女「すご〜い、ツルツルしてる//」

友香「いいな、私も触りたい!」

双妹「ほんとだ、ツルツルしてる〜」

男「何だか、長靴のつま先みたいだな」

双妹「もう、そんなこと言わないでよっ!」

616以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:28:51 ID:utajcjjE
少女「見てみて〜。イルカさんに乗ってみた♪」ふわふわ

イルカ「キュキューッ!」

友香「あはは、何やってるのよ〜」

友香「そうだ! 写真を撮るから、そのままでいてね」

少女「ええっ?! 私は写らないんだけど」

友香「いいのいいの。スマホには少女が写らなくても、私の心には映っているんだから」

少女「……うん、ありがとう」


少女さんがうれしそうに微笑すると、友香さんはスマホを構えた。
こんな状況でも、二人は今を楽しもうとしている。
そして、イルカプールにシャッター音が鳴り響いた。

617以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:38:04 ID:lbXl2de2
・・・
・・・・・・
イルカプールで盛り上がったあと、俺たちはお昼ご飯を食べることにした。
そしてイルカの訓練施設に戻ってイルカショーに参加し、ペンギンの散歩に同行して、海の生態館でアザラシの泳ぎを堪能した。
友と友香さんを取り持つ作戦が成功したのかどうかは知らないけれど、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
最後に思い出補正付きで集合写真を撮り、俺たちは水族館を後にした。


少女「はあぁ、今日はすごく楽しかった」

友香「少女が水槽にもぐってアザラシに突撃したときは、少しびっくりしたけどね」

少女「だって、触れるかな〜って思ったから」

男「水槽にへばり付かされた俺の身にもなってくれよ」

少女「あはは♪ でも、どうしてイルカさんだけは触ることが出来たんだろ」

友「よく分からないけど、霊波動は波の性質があるから、イルカが出している超音波と干渉したのかもしれない」

少女「ふうん、不思議ですね」

618以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 23:03:03 ID:utajcjjE
〜バス停〜
友香「男くんと双妹さんに話したいことがあるんですけど、ちょっと良いですか」

男「俺たちに話したいこと?」

少女「あ、ああ……。それじゃあ、私は友くんの所に行ってるわね」

友香「うん、ありがとう」


少女さんは友香さんに目配せをすると、気を利かせて隣のベンチに移動した。
一体、俺と双妹にどんな話があるのだろう。


友香「えっと、その……今日は来てくれて本当にありがとうございました」

男「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」

双妹「私も気晴らしになって楽しかったです。今日はありがとう」

友香「そう言ってもらえて、本当に良かったです」

友香「先月の13日に少女が自殺をして、毎日がすごく苦しかった。でもこうして楽しい時間を一緒に過ごすことが出来て、別れは当然来るんだけど、それでも気持ちの整理が出来るようになりました。男くんと双妹さん、そして友くんのおかげです」

男「俺たちは何もしてないよ」

双妹「うん」

友香「それでも、男くんと双妹さんには感謝しているんです」

619以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 23:11:08 ID:RxUZQAY.
友香「こういう話をするのはどうかと思うのですけど、私が看護師になりたいと思ったのは、男くんと双妹さんのことをテレビで見たからなんです」

男・双妹「テレビで?」

友香「はい。2分の1成人式のバラエティー番組に出演して、異性一卵性双生児の解説やNICUに入院しているときのエピソードなどが放送されましたよね。実は私にも双子の兄がいるんですけど、だから余計にそれを見て、生命の神秘や人々の想いに共感することが出来たんです」

友香「それでその、私が小学校3年生のときに死んでしまったお母さんのことを思い出して、もし私に医学の知識や看護の知識があれば何かが変わっていたかもしれない。そう考えると、居ても立ってもいられなくなって――」

男「それで看護師を目指しているんだ」

友香「そうなんです。男くんと双妹さんがいなければ、私は少女と出逢うことはなかっただろうし、生きる目標も見つけることが出来なかったと思います」

双妹「そっか、私たちの想いは友香さんに繋がっていたんだ……。人の縁って不思議ですよね」

友香「そうですよね。もしよければ、今度はみんなでお花見に行きませんか? その頃には少女はいないかもしれないけど、この繋がりを大切にしていきたいんです」

双妹「そうですね。私も楽しみにしています」

男「ああ、俺も楽しみにしてるよ。またみんなで遊びに行こう」

友香「はいっ♪」

620以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 23:16:16 ID:utajcjjE
友香「それじゃあ、私は少女たちと話をしてきますね。聞いてくれてありがとう」


友香さんは軽く微笑み、隣のベンチに移動した。
そして少女さんと友の話に加わって、3人で談笑を始める。


双妹「ねえ、男」

双妹「今まで私たちのことを悪く言う人が沢山いたけど、それ以上に感謝してくれている人がいるのかもしれないわね。私が知らないだけで――」

男「そうかもしれないな。少なくとも俺たちが二卵性双生児なら、今日みんなでここに来ることはなかっただろうな」

双妹「……うん。それで今日、どうして少女さんは生きていないんだろうって思ってしまったの。今までは話を合わせていただけだったんだけど、一緒にいてすごく楽しかった」

双妹「少女さんの気持ちは誰に繋がっているんだろうね――」


双妹はそう言うと、少女さんを見詰めた。
その表情はとても優しく、そしてどことなく寂しげな面持ちになっていた。

621以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/05(水) 02:44:51 ID:dzf88gHg
おつ

622以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:01:16 ID:tCoNXZIk
(3月7日)mon
〜自宅・部屋〜
月曜日の朝、久しぶりに双妹が起こしに来るよりも先に目が覚めた。
とりあえずベッドから降りて、暖房を入れて制服に着替える。
そして、俺に引っ張られて双妹の部屋からすり抜けてきた少女さんに声を掛けた。


男「少女さん、おはよう」

少女「男くん、おはよう。今日は早いですね」

男「何となく目が覚めてしまったから、もう起きようかなって」

少女「いつもこれくらいに起きれば、双妹さんが起こしに来なくて済むのに」

男「そうかもしれないけど、双妹は目覚まし時計の代わりにちょうど良いんだ」

少女「でも、だからって甘えるのは良くないと思いますよ」

男「じゃあ、今日は特別に俺が起こしてやるか」

623以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:09:04 ID:ExT4FHac
〜双妹の部屋〜
トントン・・・
軽くノックをして、双妹の部屋に入る。
そして二段ベッドを見ると、双妹はまだ横になっていた。


男「月曜日だぞ。双妹、起きろーっ」

双妹「んぅ、ぉひへふ〜」


すでに起きていたらしく、くぐもった声で返事が返ってきた。
ちゃんと声を出せないのは、婦人体温計を口にくわえているからだろう。

異性一卵性双生児の俺たちが2ヶ月毎に受診している精密検査において、双妹は生殖機能の検査項目で基礎体温表を提出することになっている。
10歳の誕生日から毎朝測って記録していて、基礎体温表はもう5冊目だ。
大学病院がどのようにデータ活用をしているのかは知らないけれど、双妹は生理周期の把握や体調管理などに役立てているらしい。

それはそうと、いつもなら検温が終わっている時間のはずだ。
少し気になって様子を伺うと、双妹の顔色が悪く鼻をすすっていることに気が付いた。

624以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:41:58 ID:ExT4FHac
男「もしかして、風邪を引いてるのか?」

双妹「……」コクリ

少女「昨日、水族館で冷えちゃったのかもしれないですね」


それだけなら良いのだけど、双妹のことが心配で心配で堪らない。
俺は検温が終わるのを待ち、双妹から婦人体温計を受け取った。

37.41℃


男「うわっ、かなり高いな……」

双妹「……はくちゅん……うぅっ、くしゅん……悪いけどノート取って」

男「ああ、分かったからじっとしてろ」


俺は基礎体温表とシャーペンを手に取り、双妹に手渡した。
そして記録が終わるのを待ちながら、折れ線グラフをぱっと見る。
今は生理後の低温期が続いている状態で、高温期の基礎体温と比べてみても、かなり異常な値を示しているようだ。


男「母さんに言っておくから、とりあえず寝てろよ」

双妹「うん、ごめん……くちゅんっ」

625以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/10(月) 23:59:35 ID:tCoNXZIk
〜最寄り駅〜
双妹は学校を休むことになり、俺は少女さんと最寄り駅に向かった。
その道すがら、友と合流した。


友「うっす!」

男「うっす!」

少女「友くん、おはよう」

友「双妹ちゃんは?」

男「風邪を引いて、学校を休むんだ」

友「……風邪?」

男「かなり熱が出ているみたいで、もしかしたらインフルエンザかもしれない」

友「ええっ?! 先週は妹友さんがずっと休んでいたし、今年はまだ流行っているのか」

男「そうみたいだな。早く治ってくれたらいいんだけど、マジで心配だよ」

友「そうだよな。俺も心配していたって、双妹ちゃんに言っといてくれ」

男「ああ、分かった」

626以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 19:28:05 ID:XdxYYZ2I
〜学校・HR〜
学校に着いて教室に入ると、クラスのみんながざわめき立っていた。
先週末に集団パニックが発生し、ネット上では幽霊原因説が論争されているのだから仕方がないだろう。
そのことについては否定し続ける方針で定まっているので、俺が何かを言うつもりはない。

そう思っていると、不良グループが絡んできた。
不良とDQNは最初に暴れた男子生徒だが、状況が異常だったので厳重注意だけで済んでいる。


不良「おっす、やっと来やがったか」

友「お……おっす」ビクッ

男「うっす、俺たちに用でもあるのか」

不良「あるから声を掛けたんだろうが。友、怪我はもう大丈夫なのか」

友「えっと、その……来週中には治ると思う」

不良「そうか、悪かったな。悪霊だか何だか知らねえが、クスリをやっているせいで幻覚を見たのかと思ったぜ!」

友「……」

男「いやいやいや、不良が言うと冗談に聞こえないからっ!」

不良「まああれだ、俺たちのせいでお前らに迷惑を掛けたのは間違いないしな。今度、ジュースの1本でも奢ってやるから許してくれ」

DQN「それじゃあな。アデュー!」

627以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 19:45:20 ID:..70nbaw
友「うおー、マジびびった……」ガクブル

少女「DQNくん、アデューって言ってたけど退学処分になったのかなあ」

男「いや、響きが格好いいから使ってるだけだろ」

少女「そうなんだ。それなら良いんだけど、もう学校に来なくなるのかと思って心配しちゃった」


不良グループはDQNを取り囲んで雑誌を読んでいるみたいだし、あいつらなりの謝罪だったのだろう。
憑依霊に乗っ取られて暴れていただけだし、これくらいがちょうど良いのかもしれない。
そう思いつつ席に着くと、今度は才女さんが話しかけてきた。


才女「あの……男くん。おはようございます」ペコリ

男「あ、ああ、おはよう」

才女「えっと……その…………」


才女さんは小さな巾着袋を抱えると、そわそわと視線を泳がせた。
そして、気まずい雰囲気に包まれていく。

628以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 20:23:58 ID:RhuilIqM
男「もしかして、幽霊騒ぎのこと?」

才女「は……はいっ! えっと、少し言いにくいのですけど、お身体は大丈夫でしたか」

男「あ、ああ……。あれくらいなら、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」キリッ

才女「良かった……。私、あんなことをしてしまった自分が怖くて、それでずっと謝りたいと思ってて……。幽霊のせいとか信じられないけど、私がその……してしまったことだと思うから、だから…………本当にごめんなさいっ」

男「うん、もう大丈夫だから」

才女「そ……それで、少しでも早くお身体が良くなるようにと思いまして、カキフライを作って来ましたの。よろしければ、召し上がってください」


才女さんは上ずった声で言うと、巾着袋を机の上に置いた。
お弁当のおかずでカキフライって、食べても大丈夫なのだろうか。
俺は紐を緩めて、恐る恐る中を覗き見る。
すると、才女さんがカキフライに対する思いの丈をぶつけてきた。

629以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 20:39:04 ID:RhuilIqM
才女「牡蠣には亜鉛が多く含まれていて、男性の精力増進に効果があるそうなんです。クエン酸やビタミンCを含む食べ物と一緒に食べると吸収率が良くなるので、レモンを搾って召し上がってくだされば宜しいかと思います。ですから、タルタルソースではなくてカットレモンを入れて――」

男「わわっ、説明はもういいからっ。気を使わせたみたいで悪いけど、本当にありがとう。お昼休みに美味しく食べさせてもらうよ」

才女「は……はいっ、どうぞ召し上がってください」ソワソワ


才女さんが席を離れると、今度はデブとガリがやって来た。
双妹が欠席していることに気付き、自分たちのせいで休んでいるのではないかと考えると怖くなってきたらしい。
そして半泣きになりながら、双妹にしたことを謝ってくれた。


男「お前たちが謝ってくれたことは双妹に伝えておくから、二度と同じことをするなよ」

デブガリ「ううっ……本当にすいませんでしたぁ!!」

630以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/11(火) 20:47:10 ID:RhuilIqM
男「……はあ、やっと席に戻ってくれたし」

少女「ネット上で幽霊のせいだと言われているのに、みんな謝ってくれるだなんて――。本当のことを言えないのが、何だか心苦しいです」

男「憑依霊のことは黙っているしかないんだから、それは仕方ないよ。内心では色々と思うところはあるのかもしれないけど、みんな本当に良いやつらだよな」

少女「……うん、そうだね」


少女さんは寂しそうに言うと、教室を見渡した。
俺も釣られて、教室を見渡す。
友の席には女子が集まっていて、何だか満更でもなさそうだ。

その様子を見ているとチャイムが鳴り、HRの代わりに校内放送を利用した臨時の全校集会が始まった。
憑依霊のせいで全校生徒を巻き込んだ集団パニックになってしまったが、雨降って地固まる。
小中学生の頃とは違う、そんな何かを感じられた。

631以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/18(火) 23:55:40 ID:uvno5Y4Y
〜学校・お昼休み〜
午前中の授業が終わり、お昼休みになった。
才女さんが作ってくれたカキフライは油っぽくなく、真牡蛎の濃厚な味わいを楽しみながらレモン汁でさっぱりと食べることが出来た。
これは他のおかずも食べてみたくなるレベルだ。


男「才女さん、カキフライありがとう。すごく美味しかったです。タッパーは洗って返したほうがいいのかな」

才女「そのままでも大丈夫ですよ。また明日も何か作ってきますね」

少女「……」ジー

男「それは気持ちだけ受け取っておくよ。彼女に怒られそうだし」アセアセ

才女「あ、ああ……それは困りますよね」

男「じゃあ、今日はありがとう。ごちそうさま」

才女「どういたしまして。私のほうこそ、申し訳ありませんでした」ペコリ

632以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 00:16:14 ID:EgYSAV/k
少女「ねえ、男くん」

男「何?」

少女「私だって、身体があれば美味しいお弁当を作れるんだからね!」

男「分かってるって。少女さんは家庭科の成績良さそうだし」

少女「むぅっ、信じてないでしょ……」

妹友「男く〜ん、誰と話してるの?」


少女さんと話をしていると、妹友さんが不思議そうな顔で声を掛けてきた。
最近は文字入力が面倒で普通に話をすることが多かったけれど、やはり周囲の人からは異様な光景に見えるのだろう。


男「実は彼女と話をしていたんだ」キリッ

妹友「あはは、少しキモいよ」

男「ずばっと言うなあ」

少女「……」

633以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 00:20:19 ID:sOXpK.Jk
男「それで、どうかしたの?」

妹友「双妹ちゃんからメッセが来てたんだけど、やっぱりインフルエンザだって」

男「そうだったみたいだな。それで、ぐったりした卵キャラのスタンプが送られてきたよ」

妹友「あっ、へばってて可愛い//」


スマホを見せると、妹友さんは頬を緩ませた。
インフルエンザは心配だけど、遊び心があるようだから精神的な余裕はありそうだ。
暖かくして寝ていれば、すぐに治るだろう。


妹友「双妹ちゃんには悪いことしちゃったな。これって、私がうつした感じだよね」

男「まあ、そうだろうな」

妹友「ううっ、映画は春休みまでお預けか」ショボン

634以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 00:28:01 ID:nc2MEiWY
友「なあ、男。大事な話があるんだけど、ちょっといいか」


妹友さんと話していると、今度は友がやって来た。
そして何を思ったのか、友はさりげなく手を伸ばして妹友さんの胸を触った。
妹友さんはそれに驚き、反射的に友の腕を払いのける。


妹友「いきなり何するのよっ!」

友「妹友さん、ごめん。足を怪我しててふらついて……」

妹友「はあ? もう信じらんないっ!」


妹友さんは不愉快そうに友を睨み付けると、自分の席に戻っていった。
友はその背中を見遣り、真剣な表情で俺の前の席に座る。


男「今のはさすがに不味いだろ。普段から仲が良いって訳じゃないんだし」

少女「そうですよ。セクハラだと思います!」

友「それなんだけど、妹友さんは憑依霊に憑かれていたんだ」

635以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 00:31:45 ID:nc2MEiWY
男「ちょっと待て! クラスのみんなには低級霊が寄り付かないようにしているはずだろ」

少女「……!」

少女「妹友さんは学校を休んでた」

男「そうか! あの日、妹友さんだけはいなかったんだ」

友「ああ、そうなんだ。俺もそのことを失念していて破魔の印を施すことにしたんだけど、どうやら少し遅かったみたいだ。鳩尾に触って調べてみたら、わずかに霊的な痕跡が残されていた」

男「でも、集団パニックがあったのは金曜日だよなあ。憑依霊に取り憑かれていた痕跡が残っているのは、おかしくないか?」

友「月曜日だ。双妹ちゃんも少女さんの姿が見えているから、低級霊たちは何かあると考えて、友達の妹友さんに監視の目を付けていたんだろう」

男「そうなると、この1週間、妹友さんには低級霊が憑きっぱなしだったことになるんじゃないのか?!」

少女「じゃあ、もう男くんの家がバレてる!!」

636以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 23:43:20 ID:stUbnw.o
友「どういうことだよ」

男「土曜日に妹友さんが遊びに来たんだ。でも、憑依されているような感じではなかったぞ」

少女「そうですよね。私もまったく分からなかったです」

友「だけど、憑依されていた痕跡が残っていたんだ。間違いなく、何らかの欲望を利用して意識を支配されていたはずだ」

男「くそっ、映画だ! 双妹と一緒に映画を観に行く約束をしていたけど、風邪を引いていて我慢するしかない。その気持ちに付け込んで、双妹に会いに行かせたんだ」


憑依霊は欲望や不安、抑圧した気持ちに付け込んで意識を支配して来る。
そこから生じる攻撃的な衝動は、何も暴力だけとは限らない。
雨が降っている中、風邪を引いているにもかかわらず映画を観に行こうとする。
そのような強硬手段に出ることも、立派な攻撃衝動だ。


少女「じゃあ、どうして私たちに何もしてこなかったのでしょうか」

友「恐らく、少女さんの居場所を突き止めた時点で、妹友さんの役目が終わったからだろうな。それなのに不自然なことをしてしまったら、俺たちに警戒されてしまうだろ」

少女「あっ! そうですよね」

637以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 23:50:12 ID:sOXpK.Jk
友「それにしても、男の家がバレたということは、いよいよリーダー格の悪霊が出てくる事になるだろうな。男から少女さんを引き剥がさないといけないし」

男「ついに直接対決ってことか」

友「問題はどうやって少女さんを引き剥がすかだけど、一番簡単な方法は男を殺すことだ」

男「……は?」

少女「男くんを殺すって、どういうことなんですかっ?!」

友「人間は死んだ後、肉体から幽体や霊魂が離脱して幽霊になるだろ。つまり、依り代が死ねば憑依霊も離脱することになるんだ」

友「でも、この一番簡単な方法が最も実行することが出来ない方法なんだ。本気で殺してしまいたいと思われるほど、誰かに恨まれているなんてことはないだろ」

男「そりゃあな」

友「つまり、男を殺す以外の方法で少女さんを引き剥がす必要があるってことだ。その場合に一番簡単な方法は、四十九日を過ぎるのを待つことだ」

638以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 23:54:32 ID:nc2MEiWY
少女「ただ待つだけなんですか?」

友「その日を境にして、少女さんは幽体が劣化して悪霊になるだろ。そうなれば、少女さんは男の守護霊に弾き出されることになるからな」

少女「ええっ、そうなんですか?!」

友「忘れているみたいだけど、少女さんが男に憑依出来ているのは四十九日を迎えていない浮遊霊だからだよ」

少女「そういえば、そんなことを言ってたっけ……」

男「殺せないし待つしかないってことは、当面は大丈夫ってことか。もし俺を殺すつもりなら、集団パニックのときに俺が優先的に狙われていたはずだしな」

少女「そうですよね。そうなると、私がちゃんと成仏できれば問題ないってことになりますね」

639以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/19(水) 23:56:20 ID:stUbnw.o
友「それがそうじゃないんだ。双妹ちゃんは風邪を引いているから、守護霊の力が弱くなっているはずだ。そして低級霊が妹友さんに付き纏っていたことから考えて、そのことに気が付いている可能性が高い」

男「じゃあ、今は双妹が危険な状態ってことなのか?!」

友「そうだと思う。でも、殺人衝動がなければ憑依する意味がないだろ。とりあえず相手の出方を見ながら、男は風邪をうつされないように気を付けてくれ」

男「分かった」

少女「破魔の印は効果がないんですか?」

友「守護霊の力を利用しているから、今の状態では効果を期待できない。風邪が治れば守護霊の力も強化された状態に戻るし、それまで様子を見るしかないと思う。双妹ちゃんは男と仲が良いし、何も心配はないと思うよ」

少女「仲が良い……ねえ」

少女「とりあえず、今日は帰りにマスクを買って帰りましょうか」

男「ああ、そうしよう」

640以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/20(木) 00:07:11 ID:6K4keb5s
友「んっ、ちょっと悪い。重要なメールが来たみたいだ」


友はそう言うと、スマホを取り出した。
そしてメールを読み始めて、目を丸くした。


友「――マジか!!」

男「どうかしたのか?」

友「例の幽霊探知機を修理に出していたのは知ってるだろ」

男「ああ、以前少女さんが壊したやつな」

友「それなんだけど、壊れていなかったんだ!」

男「良かったじゃないか」

少女「そうですよね。私が壊した訳じゃなくて、ほっとしました」

友「それだけかよ! 壊れていなかったということは、全国各地に少女さんの幽体があるっていう探知結果が正しかったことになるんだぞ!!」

641以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/20(木) 00:18:34 ID:6K4keb5s
男「ええっ?! あれって、確かたくさん表示されていたよな」

友「そう、それがすべて本当に少女さんの幽体だったんだ!」

少女「それって、どういうことなんですか?!」

友「ごめん、それはまだ分からない。業者に症状を説明しているんだけど、前例がなくて分からないみたいなんだ」

少女「そうなんですね。どういうことなんだろ……」

友「それと幽霊探知機が10日に返送されてくるから、うさぎのぬいぐるみに残されていた痕跡を調べてみようと思う。それでもしリーダー格の悪霊と関連性があれば、多くのことが一気に解決するはずだ」

男「おおっ、すげえじゃねえか!」

友「このピンチを乗り切って反撃するぞ!」

男「おうっ!」

642以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/20(木) 06:10:01 ID:Rjx8SiAE
おつ

643以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/24(月) 21:10:59 ID:mKHiXUy.
〜自宅・部屋〜
放課後になり、マスクを買って自宅に帰ってきた。
友とはいつも通りに別れ、家には呼ばないことにした。
俺たちが気付いたことに気付かれないために、あえて除霊をしないという方法を選ぶことにしたからだ。


男「少女さん。双妹のことが心配だから、ちょっと様子を見てきてくれる?」

少女「そうですね。もし起きていたら体調も聞いてきます」

男「ああ、頼むよ」


少女さんは壁をすり抜けて、双妹の部屋に入った。
普通の風邪なら俺も様子を見に行きたいところだけど、インフルエンザは感染性が高いので仕方がない。
俺も部屋で大人しくしているほうがいいだろう。
そう考えていると、少女さんが戻ってきた。

644以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/24(月) 21:15:01 ID:EI7f9ivQ
男「おかえり、双妹はどうだった?」

少女「熱はかなり高いけど、食欲はちゃんとあるらしいです。大人しく横になっていれば、悪化の心配はなさそうですよ」

男「そっか、良かった」

少女「それでですね、双妹さんが図書館で借りている本なんですけど、明日が返却日らしいんです。返しに行けないから返してきて欲しいって頼まれたんですけど、どうしますか?」

男「明日までで良いなら、明日の学校帰りに返しに行こうか」

少女「……そうですね」


少女さんは気が進まないといった様子で、返事を返してきた。
俺も今は双妹の部屋に入るのを控えた方が良いとは思うけれど、特別な事情があるのだから仕方がない。
とりあえず、さくっと図書館の本を受け取りに行くことにした。

645以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/24(月) 21:19:58 ID:h8Pr7HNo
〜双妹の部屋〜
トントン・・・
俺は軽くノックをして双妹の部屋に入った。
双妹はちゃんとベッドで寝ているようだ。


男「双妹、風邪は大丈夫か?」

双妹「男、おかえり……。はくちゅん、くしゅん…………うぅ、何とか大丈夫」

男「ゆっくり休んで、早く治せよ」

双妹「……うん」

男「それで図書館の本って、どこにあるんだ?」

双妹「いつものところに3冊と男に渡した本が1冊。あれ、どうだった?」

男「少女さんとはタイプが違うけど、面白かったよ。主人公はあの後、日常に戻っていくんだろうな」

双妹「私は男と少女さんの関係も、そんな感じで終わってほしいと思ってる」

男「そっか……」

少女「……」

646以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/24(月) 21:22:24 ID:7Nxxdq4o
俺は双妹と軽く話をしながら、図書館の本を手に取った。
用事も済んだし、さっさと出て行くことにしよう。


男「じゃあ、明日返してくるから」

双妹「……くしゅんっ」

双妹「はうぅ……もうひとつ言いたいことがあるんだけど、今日から私が一緒じゃないからって、お風呂で変なことをしたら許さないからね」

少女「し……しませんよっ//」

男「そうそう」

双妹「……」

男「それじゃあ、もう部屋に戻るから」

双妹「うん、心配してくれてありがとう。図書館の本、お願いね」

男「ああ、分かったよ」

647以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/25(火) 21:47:26 ID:DcafSPis
(3月8日)tue
〜北倉駅・放課後〜
授業が終わり、俺は双妹に頼まれていた図書館の本を返しに行くことにした。
学校前の駅から電車に乗って、自宅の最寄り駅を通り過ぎて北倉駅。
そこを出て、歩いてすぐのところに図書館がある。

そう、目の前にある。
それなのに、行くことが出来なかった。


友「男、どうかしたのか」

男「いや……何て言うか、ここに見えない壁があるみたいで」

友「見えない壁?」

少女「……ごめんなさい」


背後から少女さんのしょんぼり声が聞こえてきた。
俺はまさかと思い、振り返る。
すると、俺たちは約1.5メートルの行動範囲に縛られていた。

648以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/25(火) 22:06:03 ID:UsCBEXxI
男「もしかして、図書館に行きたくないってこと?」

少女「そんなことはないんですけど、何となくここから出るのが嫌なんです」

男「ここから出るのが嫌だって言うけど、今までそんなことは一度もなかっただろ」


少女さんが入院していた北倉総合病院と、日曜日に行った水族館。
そのどちらに行くときも、少女さんが嫌がることはなかった。
それなのに、どうして今日は嫌なのだろう。


少女「……すみません」

友「とりあえず返却するくらいなら俺でも出来るから、代わりに行ってこようか」

男「そうだな。悪いけどそうしてもらえるかな」


仕方なく、通学鞄から図書館の本を取り出す。
そして友に渡そうとすると、ふいに女子生徒に声を掛けられた。

649以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/25(火) 22:08:32 ID:UsCBEXxI
友香「こんにちは。こんな所で何をしてるの?」

友「あっ、友香さん。こんにちは」

男「こんにちは。俺たちは今から図書館に行こうとしていたんだけど、あのときみたいに動けなくなって。それで、友に本を返しに行ってもらおうとしていたところなんだ」

少女「……」ショボン

友香「ふうん」

友「友香さんは今、帰り?」

友香「そうだよ。今日は部活がないから」

男「……!」

男「もしかして、少女さんは学校に行きたくないんじゃないのか?!」


少女さんが通っている北倉高校。
そこに行きたくないのだと考えれば、総合病院や水族館に行けた理由が自然と分かる。
徒歩ではなくて、北倉駅に併設されているバス停を利用したからだ。

650以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/25(火) 22:10:51 ID:chudDYkc
少女「……そうです」

少女「学校に行ってはいけないような気がするんです」

男「やっぱりそうか。学校に行きたくないから、通学路に出たくないということだったんだ」

友香「少女が自分の部屋に戻りたくないのは分かる。でも、どうして学校にも行きたくないの?」

男「そうだよな。少女さんは看護師になる夢を真剣に考えていたし、行きたくない理由がない」


いや、待てよ。
本当にそうなのか?


友「しまった!!」

友香「まさか、そんな――」

少女「……私、分かっちゃった」


そう呟いた少女さんの表情は、とても冷たくて――。
そして、ぞっとするような乾いた笑みを浮かべていた。

651以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/25(火) 23:34:19 ID:chudDYkc
少女「あははは……、そっか……そうなんだ…………」

少女「私、少年くんに取り憑かれて自殺したんだ!」

少女「……どうして、どうしてなのっ?!」

男「少女さんっ!」


俺は通学鞄を投げ捨て、少女さんを抱き寄せた。
すると上半身と両腕に少女さんの身体を感じ、温もりが伝わってきた。
大丈夫だ。
彼女はまだ俺を求めてくれている――。


少女「ううっ……うわあああぁぁんっ…………!!」

少女「こんなことで死にたくない。いやだ、いやだよぉ……」

少女「ねえ、私は何のために生まれてきたの。何のために、今まで頑張ってきたの?!」

少女「分からない、分からないっ!」

少女「……ううっ、ううぅぅぅっ…………」

652以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/26(水) 00:01:59 ID:5r7j3qhI
男「分からないことがあるなら、それが見つかるまで一緒に探そうよ。少女さんは一人じゃないんだから!」

友香「そうそう! 私もいるんだし、絶対大丈夫だよっ!」

少女「男くん、友香ちゃん……」

友「俺もだ!」

少女「みんな…………私は、もう……死んでいるんだよ。生きている人と一緒にいることなんて出来っこない!!」

男「そんな事はないっ! 少女さんは死んでないし、俺たちの心の中でずっと生き続けているんだ!」

友香「そ……そうだよ。水族館で撮った写真、私たちには少女の姿が見えているんだからっ!」

少女「ぐすっ、ううっ……そんなのいやだよ…………思い出の中でしか生きられないなんて――」

男「少女さん、ごめん。生きている俺たちでは、やっぱり少女さんの気持ちを分かることは出来ないのかもしれない。でも話をすることが出来て、姿を見ることが出来て、少女さんと一緒にいるとすごく楽しいんだ」

男「この繋がりを大切にしたい。そして、少女さんの気持ちがみんなに繋がっていくようなことを一緒に探したいんだ!」

少女「ううっ、うあああんんっ…………!」

653以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/26(水) 00:23:31 ID:7DszYVlA
理不尽な死を突き付けられ、ただただ泣き叫んでいる少女さん。
やがて気持ちが落ち着いたのか、少女さんの身体が俺の腕をすり抜けた。
その表情は暗く沈んでいるが、先ほどまでのような不安はまったく感じない。


男「少女さん……」

少女「……」

友「とりあえず、気持ちが落ち着いたなら移動しよう。人が集まってる」

少女「……はい」

友香「じゃあ、反対側に行きましょ」

友「そうだな」

少女「……」


俺たちは通学路とは反対方向に進み、駅前の広場に移動した。
ここならば人も少ないし、落ち着いて話すことが出来そうだ。

654以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/26(水) 00:41:08 ID:5r7j3qhI
友「えっと……少女さんに言っておきたいんだけど、いや、言ったところで何も変わらないかもしれないけど、少女さんは少年に成すすべなく殺された訳ではなくて呪いに打ち勝ったけど死んでしまったんだ」

少女「どういう……こと、ですか」

友「憑依霊は依り代が死ねば、その肉体から離脱するんだ。だからもし少女さんに少年の霊が憑いていたとすれば、病院で少女さんが幽体離脱をしたときに少年の霊も一緒に肉体から離脱していたはずだ。でも、幽体離脱をしたときに少年はいなかった」

少女「……はい」

男「つまり、少女さんは憑依されていなかったということか」

友「そういうことだ。そもそも、少年は少女さんに憑依することが出来なかったんだ。だから、うさぎのぬいぐるみに霊的な痕跡が残っていたんだ」

男「うさぎのぬいぐるみの痕跡は少年のものだったのか?!」

友「それは未確認だけど、聞いた限りでは少年の痕跡で間違いないと思う。少女さんに心霊催眠を試したとき、うさぎのぬいぐるみを手に取ったときから感情が反転していたからな」

655以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/26(水) 00:53:45 ID:UdcFhXDo
友香「うさぎのぬいぐるみに憑依しても、少女に憑依出来ないなら同じことじゃないの?」

友「それが同じじゃないんだ」

友「少女さんは男に彼女がいると思っていたし、男に告白するとマスコミに悪質な記事を書かれると思っていた。それでも男に告白しようと決意できるほど、前向きに考えることが出来る女子なんだ」

友「だけど少女さんには、うさぎのぬいぐるみに自己投影をして相談をする習慣があった。少女さんはそこに心の弱さを見出されて、少年に付け込まれて呪われたんだ」

少女「……」

友「でも、無い袖は振れない。自殺の意思がない少女さんは、意識を完全に支配される直前に打ち勝ったんだ。だけど、首を通した後だったので助からなかった。それが少女さんの自殺の真相だ」

友香「少女は少年くんに……自分の弱さに負けた訳じゃなかったんだ」

友「ああ、そうだよ。少年は少女さんが意識を取り戻して強引にぬいぐるみから切り離されたせいで、一時的に霊的な力を大きく消耗してしまった。だから友香さんや家族にも憑依できなかったし、救急車を追跡することも出来なかった」

友「そのおかげで、少女さんは男に会えたんだ」

656以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/26(水) 00:57:09 ID:0urfkMkY
少女「そっか……、私……頑張ったんだ…………」

友香「ねえ、友くん。何とかできないの?!」

友「何とかって、何をさ」

友香「少年くんを除霊することに決まってるじゃない! このままだと少女が救われないし、そんなの私も嫌だよっ」

友「明後日になれば、幽霊探知機が返送されて来るんだ。そこで一気に除霊する」

友香「明後日じゃなくて、今すぐ出来ないの?」

友「俺も出来ることならそうしたいけど、居場所を特定してから攻撃しないと双妹ちゃんが危ないんだ。だから、幽霊探知機が帰ってくるまで動かないほうが懸命だと思う」

友香「そういえば、男くんの家がバレてるんだっけ……」

友香「分かった。こうなったら明後日でもいいから、徹底的にお願いね!」

友「ああ、それは任せとけ」

657以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/26(水) 01:20:33 ID:0urfkMkY
男「それじゃあ、少女さん。俺たちは家に帰ろうか」


今日は少女さんにとって、いろいろあり過ぎた。
気持ちの整理をする時間が必要だと思う。
そう考えて声を掛けたが、少女さんは力強く顔を上げていた。


少女「ううん、私は図書館に行く」

少女「私は……少年くんなんかに…………負けたりしない!」


図書館は通学路を歩くことさえ出来れば、すぐ目の前にある。
しかし、そこに行くためには殺された恐怖に打ち勝たなければならない。
それでも、少女さんは前に歩み出した。

658以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/26(水) 22:46:35 ID:azV/wDwg
おつ

659以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/01(月) 23:35:17 ID:gnr0Nuk2
(3月9日)wed
〜自宅・部屋〜
少女「男くん、おはよう。朝ですよ」

男「……少女さん、おはよう」


水曜日の朝、いつもの時間に少女さんが起こしに来てくれた。
昨日は大変なことがあったというのに、いつもと変わらない表情で微笑んでいる。
やっぱり、少女さんは強い人だと思う。

それはそうと、何だか動く気になれない。
頭がぼんやりして、強い寒気を感じる。


男「……はっくしょん…………」

少女「もしかして、風邪を引いたのですか?」

男「そうかも――」


俺は身体を起こして、おでこに手を当てた。
何となく、少し熱い気がする。
マスクをしたり注意はしていたけれど、双妹から風邪をもらってしまったのかもしれない。

660以下、名無しが深夜にお送りします:2018/10/01(月) 23:38:48 ID:ekzoC0lU
少女「双妹さんのインフルエンザがうつったのなら、学校は休んで病院に行ったほうが良さそうですね」

男「でも、今は大切な時期だし寝ている訳にはいかないだろ」

少女「気持ちはうれしいけど、今は休んでください。私のことより、男くんの身体のほうが心配ですから」

男「少女さん、ごめん……」

少女「とりあえず、お母さんに話さないといけないですね」

男「……そうだな……へっくしょん…………。うぅ、さむっ」


外は強い雨が降っているらしく、部屋がいつもより薄暗い。
俺は暖房と明かりをつけて、部屋着に着替えた。
そして少女さんを見ると、何となく落ち着かない様子で何もない場所を眺めていた。


男「どうかした?」

少女「いえ……何となく見られているような気がしたので――」

男「何だかんだで、俺と双妹は有名人だからなあ。気にしないほうが良いと思うよ」

少女「……」


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