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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

518以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 22:47:09 ID:2iqxfLtM
(2月29日)mon
〜学校・HR〜
うるう年の2月最終日。
今日は朝から激しい雨が降っていて、相変わらずの空模様だ。
週末は暖かくなるみたいだけど、しばらくは寒い日が続くらしい。


男「友、うっす!」

友「うっす! 双妹ちゃん少女さん、おはよう」

双妹・少女「おはよう」

友「ひとつ聞きたいんだけど、男は少女さんとデートに行ったりしてるのか?」

少女「デ……デートですか//」


少女さんは友の言葉を反芻し、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
もう、その反応を見ただけでバレバレだ。

519以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 22:49:31 ID:Dlf32XH6
男「まあ、行ったりしてるかな」

友「マジかよっ! このリア充めっ!!」


友はそう言うと、シャドーボクシングを繰り出した。
友なりに祝福してくれているのだろうけど、オーバーリアクションで何だか気恥ずかしい。


男「分かったから、やめてくれよ」アセアセ

友「ははは、これくらいで勘弁しておいてやるよ」

双妹「ちなみに、友くんは友香さんとどうなったの?」

友「俺は少女さんのことで話をしただけだし」

双妹「ふうん……」

少女「デートに誘ったりとか、そういう話はしなかったんですか」

友「そういう話はしてないけど、少女さんを水族館に誘ってあげようって話にはなったかな」

双妹「へえ、そうなんだ〜」

520以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 22:53:16 ID:mqo.3q7k
友「それで今度の土曜日なんだけど、男と双妹ちゃんの予定は空いてる?」

双妹「あー、ごめん。その日は妹友ちゃんと映画を観に行く約束をしてるんだよね」

男「俺も部活があるから、土曜日は無理だ」

友「そっか、日曜日なら大丈夫かな」

双妹「その日なら大丈夫だよ」

男「ああ、俺も大丈夫」

少女「私はもちろん大丈夫ですっ!」

友「じゃあ、友香さんに日曜日ってことで伝えておくから」

男「分かった、日曜日な。ところでさあ、連絡し合えるようになってるってことは脈ありなんじゃないのか?」

友「そうかなあ」

男「どうやら、俺たちが取り持ってやらないといけないみたいだな」

友「え……いや、別にいいって」アセアセ

少女「ふふっ、そんなことを言わずに頑張ってね♪」

521以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 23:01:42 ID:mqo.3q7k
〜学校・お昼休み〜
お昼休みになり少女さんと話をしていると、友が奇行に走っている姿が目に入ってきた。
何もない空中にパンチを繰り出し、さらに教室の隅に何かの印を書いている。
はっきり言って、訳が分からない。
そんな友の姿を眺めていると、ついにクラス委員長が重たい腰を上げた。


委員長「友くん!」

友「ああ、委員長さん。何か用?」

委員長「何か用じゃないでしょ。教室に変な落書きをしないでくれませんか」

友「うるう年は霊的な力が強くなって悪い霊が活発になりやすいんだ」

委員長「悪い霊?」

友「ああ、結構いるんだ」

委員長「友くんがオカルト好きなのは勝手だけど、教室はみんなで使っている場所なんです。こういう事はしないでください。この前、英語の授業を妨害して怒られたばっかりですよねえ」

友「くそっ、仕方ないな。別の方法を考えるか……」

522以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 23:07:26 ID:mqo.3q7k
男「なあ、友。一体、何やってるんだよ」

友「んっ、ああ……ちょっとな」


助け舟を出そうとして声を掛けると、友は歯切れの悪い口調で言葉を濁した。
何か言いにくいことでもあるのだろうか。


委員長「男くん、ちょうどいいところに。今から消すので手伝ってください」

男「でもさっき、悪い霊がどうとか言ってただろ」

少女「そうですよね」

委員長「先週、あなたも授業中に騒いでいましたよねえ。同じ理由で怒られる前に、ちゃんと消しておいたほうがいいと思いますよ」

友「男、悪いな。そういうことだ。俺たちが消し終わるまで少し待っててくれ」

男「俺も手伝うよ」

友「……すまん、サンキューな」

523以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 20:10:32 ID:i7AUTSV.


524以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 20:49:07 ID:ar9pOgio
10分ほどで教室に書いた印を消し終わり、俺は友から事情を聞くことにした。
悪い霊がどうとか言っていたし、友の奇行には何か理由があるはずだ。


友「単刀直入に言って、低級霊が少女さんのことを連れて帰ろうとしているみたいなんだ」

少女「私のことを?!」

男「……そっか、そうなのか」

少女「やっぱり家に帰らないといけないですよね……」

友「それはそうなんだけど、問題は神霊ではなくて低級霊が来たってことだ」

男「どういうことだよ」

友「低級霊は四十九日を過ぎても現世に留まっている悪霊だから、関わると碌なことがないんだ。もしかすると、少女さんを引き込もうとしているのかもしれない」

男「少女さんを引き込む!?」

友「ああ。やつらに目を付けられた以上、何か良くないことが起きるのは間違いないだろう」

525以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 20:53:55 ID:Kmw.1DYk
少女「良くないことって、何が起きるんですか?」

友「それは分からないけど、少女さんは男に憑依している状態だし、今は守護霊に護られているから大丈夫だと思う」

少女「そうなんですね」

男「少女さんがいつも『家に帰ると良くないことが起きる』と言っていたけど、それはこのことだったのか」

友「たぶん関係があるだろうな。実はうさぎのぬいぐるみに霊的残留物質が残されていたんだ」

男「霊的残留物質?」

友「霊的な痕跡のことだ。少女さんの家には浮遊霊や低級霊が集まっていたから、その痕跡がいつ付いたものなのかは判然としないんだけど――」

男「判然としないんだけど?」

友「とりあえず、今はそれを調べようと思ってる」

友「それと少女さんの家にお線香をあげに行った帰りなんだけど、結構な数の低級霊が俺たちの後を付けて来ていたんだ。尾行されないようにすぐ除霊してやったんだけど、制服を着ていたから学校がバレたんだろうな」

少女「全然気が付かなかった……」

526以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 20:56:05 ID:MmqSf0QE
友「そんな訳だから、男にこれを渡しておくよ」


友は学生服のポケットに手を入れると、手袋を取り出した。
以前、少女さんが苦しんでいたときに使っていたものだ。


男「これで触れば、興奮した霊を鎮めることが出来るんだっけ」

友「あのときよりも強力な霊具に作り変えておいたから、低級霊に触れば男でも除霊することが出来るはずだ」

男「すげーじゃん!!」

友「まあ、少女さんクラスの力を持っている怨霊が相手になると、動きを抑えるだけで精一杯なんだけどな。少女さんに触らない限り悪影響はないから、いざってときに使ってくれ」

少女「でも、私と男くんは低級霊の姿が見えないですよ」

友「いざってときは、少女さんなら姿を見ることが出来るはずだ。もしそのときが来たら、男の脳みそを弄くればいいと思う」

少女「なるほどっ!」

男「お前ら、さらっと怖いことを言うなよ」

527以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 21:00:08 ID:ar9pOgio
友「それはまあ冗談として、今日から俺も電車で帰ろうと思ってる」

男「友は自転車通学だろ」

友「そうだけど、低級霊が少女さんを引き込もうとしているなら、次の狙いは男の家のはずだ。だから、もし最寄り駅に低級霊がいたら除霊しておきたいんだ」

男「だったら、教室に書こうとしていた結界を俺の家に書いてくれたらいいじゃないか」

友「それが出来れば良いんだけど、俺がその中にいなければ発動しないんだ。今は地道な除霊が一番だと思う」

男「そっか、そう都合の良い話はないよな」

少女「でも除霊をしているだけで、根本的な解決になるんですか?」

友「ならないけど、それ以外に方法はないし。とりあえず、春休みになるまでが勝負だ」

少女「……そうですね」

528以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/19(木) 18:12:36 ID:M9QU2jSU
おつ

529以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:00:53 ID:b35c6lEs
男「ところで、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

友「何を?」

男「やっぱり四十九日を過ぎても現世に留まり続けることは、良くないことなのか?」

友「以前も話したと思うけど、霊波動は波だからお互いに干渉する性質があるんだ。そのせいで幽体が劣化して、霊波動の波源である魂をも傷付けてしまうことになる。そうなると悪霊や怨霊になってしまうだけではなくて、魂も壊れて消えてしまうんだ」

男・少女「ええっ?!」

友「少女さんは幽体が少ないから、霊的な力が強い代わりに霊波動の影響も受けやすくて……。仮に四十九日を越えてしまった場合、浮遊霊としての寿命はとても短いものになると思う」

少女「私は寿命が短い?」

男「やっぱり、四十九日を越えることは出来ないのか」

友「そう考えておいたほうがいいだろうな。離脱日基準で4月1日が少女さんのタイムリミットだ」

530以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:23:26 ID:yXtLAfo2
少女「じゃ……じゃあ、生まれ変わりってあるんですか!」

友「生まれ変わり?」

少女「小説だと、成仏をしたヒロインが美少女に生まれ変わって、主人公と結ばれたりするストーリーがよくありますよね」

友「確かによくある話だけど、仏教の最終的な目的は六道輪廻から解脱して極楽浄土に往生して成仏することなんだ。だから、成仏をしたヒロインが人間界で生まれ変わる話は破綻していると思う」

少女「つまり、生まれ変わることは……ない?」

友「ああ。期待するような返事ではないと思うけど、少女さんは成仏をするか魂が壊れて消えてしまうか、そのどちらかしかないんだ」

少女「そっか、そうなんだ……」

男「……」

531以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:25:41 ID:b35c6lEs
〜自宅・部屋〜
低級霊が少女さんを道連れにしようとしていること。
そして少女さんの寿命は短く、生まれ変わる可能性もないこと。
それらのことがずっと頭の中で引っ掛かっている。

俺は小さくため息をつき、手袋を棚の上に置いた。
少女さんにとって幸せな結末は、やはり成仏しかないのだろうか――。


男「……少女さん」

少女「何ですか?」

男「ずっと考えていたんだけど、友の言っていたことは本当なのかな」

少女「私は友くんのことを信用しています」

男「でも仏教以外にキリスト教とかイスラム教があって、それぞれ考え方がまったく違うだろ。だから、友が絶対に正しいとは言えないんじゃないかな」

532以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:30:08 ID:b35c6lEs
少女「もしかして、友くんのことを疑っているんですか?」

男「そうじゃなくて、ずっと一緒にいられる方法を探してみようって言ってるんだ」

少女「……」

少女「ねえ、男くん。幽霊の私には身体がありません。それなのにどうやって物事を考えたり、記憶したりしていると思いますか」

男「えっ?」

少女「私は魂が大脳の代わりをしているんだと思います」

男「何が言いたいんだよ」

少女「生きている人と同じように外部からの刺激に対して反応を返すことが出来るということは、何らかのエネルギーを消費して変化し続けているということなんです。つまり、魂が老化して壊れてしまうことは避けられないんです」

男「そんなことを言うなよっ!」

少女「私も今日、ずっと考えていたの!」

少女「魂が壊れて消えてしまうなら、私は一日一日を大切に過ごしたい。そして、そうなる前に笑顔で送ってもらいたい!」

533以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:48:35 ID:/5BcffAk
男「本当にそれしかないのかな」

少女「仕方ないよ。だって、私は死んでいるんだもん――」

男「そう……だよな。少女さん、分かったよ」

少女「……」

男「4月1日に笑顔で成仏できるように、今を大切にして過ごしていこう」

少女「……うん」


俺たちは無言で向かい合い、唇を重ねた。
そして、お互いに気持ちを確かめ合う。

あと1ヶ月。
それまでに少女さんの自殺の偶発性を解明し、未練を叶えなければならない。
そして、俺は彼女を笑顔で送ってあげるんだ――。

534以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/24(火) 20:13:14 ID:TCuFI97Y
おつ

535以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/25(水) 23:31:25 ID:2CiAKuZM
(3月1日)tue
〜最寄り駅〜
今朝は厳しい冷え込みになり、昨日から降り続いている雨が雪に変わっていた。
積もるほどではなさそうだけど、歩道が凍結していて歩きにくい。
そんな悪路を友が平然と自転車で走ってきた。


友「うっす!」

男「うっす!」

双妹・少女「友くん、おはよう」

友「おはよう。じゃあ俺、自転車停めてくる」


駐輪所に行った友が戻ってくるのを待ち、駅舎に入る。
そして、俺たちは待合室で暖を取ることにした。

536以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/25(水) 23:34:18 ID:M.U88byo
友「……思ったよりいなかったな」

少女「いなかったって、低級霊のことですか」

友「ああ。式神に構内を探査させながら除霊していたんだけど、数えるほどしかいなかった」

少女「構内にいるってことは、私のことを待ち伏せしていたってことですよね」

友「そうだと思う」

少女「嫌だな……」

双妹「ふと思ったんだけど、その式神っていうのをボディーガードにすることは出来ないの?」

友「それが出来れば良いんだけど、俺がいないと使役することが出来ないから、ボディーガードにするのは無理だと思う」

双妹「ふうん、そうなんだ」


俺は3人のやり取りを聞きつつ、最寄り駅で待ち伏せされていたことが気になった。
もしかすると、すでにここが特定されているのかもしれない。

537以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/25(水) 23:38:23 ID:2CiAKuZM
男「なあ、友。待ち伏せされていたってことは、ここが特定されたんじゃないのか?」

友「いや、それはないと思う。昨日は学校前の駅に少しいただけだったからな」

男「それって、登下校の手段が電車だとバレたことになるだろ。それでもし、今朝はこの周辺のすべての駅で待ち伏せをしていたとしたらどうなると思う」

少女「どうなるんですか?」

男「相手からしてみれば学校前の駅とこの駅で待ち伏せしていた低級霊だけが除霊されたことになるから、俺たちがその2つの駅を利用したことが分かるんだ」

少女「そっか、そうですよね!」


最寄り駅を特定された以上、もし低級霊たちにすべての交差点で待ち伏せをされたとしたら、あっという間に家も特定されてしまうことになる。
そうでなくても、俺たちには低級霊の姿が見えないのだ。
少女さんが姿を消して俺の家まで付いて来たことがあったように、俺たちだけならば簡単に尾行することが出来るだろう。

538以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/25(水) 23:45:10 ID:VgsMjpSk
友「でもそうだとすると、低級霊の意思が統率されていることになるだろ。あいつらが組織だって動けるとは思えないんだけど」

男「だったら、リーダー格の上級霊がいるってことになるんじゃないのか」

友「リーダー格の上級霊ねえ……。もしそんな悪霊がいるならそいつを除霊してしまえば解決することになるけど、それは幽霊探知機の修理が終わってからの話だな」

男「あのアプリのことか。それって、いつ直るんだ?」

友「まだ分からないけど、今月の中旬には帰ってくると思う。とりあえず、男と双妹ちゃんは守護霊を強化しているから手出しを出来ないはずだし、こちらから攻勢に出るのはその後でも大丈夫だと思う」

男「本当にそれで大丈夫なのかな」

友「大丈夫だって。待ち伏せが心配なら、毎日違う道を通ればいいだけの話だろ」

男「それはそうなんだけど」

双妹「とりあえず、今日も友くんと一緒に帰らないといけないのなら、私は男の部活が終わるまで待ってるから。たまには見学に行ってもいいよねえ」

男「ああ、構わないぞ」

双妹「やったあ♪」

少女「……」

539以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 06:35:45 ID:fGBNzRrQ
おつ

540以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 21:59:59 ID:p8OuJiEc
〜学校・お昼休み〜
午前中の授業が終わり、待望のお昼休みになった。
そしてお弁当を食べようとすると、珍しく双妹が俺の席にやってきた。


双妹「ねえ、一緒に食べようよ」

男「いいけど、妹友さんは?」

双妹「インフルエンザなんだって」

男「ええっ、そうなんだ。昨日から天気が悪いし、寒い日が続いているもんな。妹友さんは大丈夫なのか?」

双妹「大丈夫ってことはないだろうし、今週は学校を休むんじゃないかな」

男「まあ、そうなるよな」

少女「まだインフルエンザが流行っているなら、気を付けないといけないですね」

双妹「うん、そうだね」

541以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 22:51:19 ID:p8OuJiEc
男「ところでさあ、友って何かを隠しているように感じないか」


俺はお弁当を食べつつ、友の席を見やった。
それに合わせて、双妹も友の席に目を向ける。


双妹「隠すって、何を?」

男「昨日、友が言っていたことだけど、うさぎのぬいぐるみの霊的な痕跡と低級霊の付き纏い行為には何らかの関係があるはずなんだ。それなのに、友は上級霊の存在に懐疑的だっただろ」

少女「言われてみれば、確かに……」

男「友は何かを知っていて、俺たちに隠しているんじゃないかなあ」

双妹「ねえ、男。あ〜んして、あ〜ん♪」


双妹は唐揚げを挟むと、臆面もなく俺の口元に持ってきた。
いやいや、さすがに学校でそれはおかしいだろ。
しかし、双妹はにこりとした表情のまま引き下がろうとしてくれない。
つまり、俺の口を塞ぎたいということか。

542以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 23:00:18 ID:4yuM3riY
男「もしかして、双妹も何か知っているのか?」

双妹「……」

双妹「やっぱり、私たちに隠し事は出来ないわね。じゃあ、あ〜んして♪」

男「みんなが見てるぞ」

双妹「私たちが特別な双子だってことは、みんなも知っているでしょ。好きなように言わせておけば良いし、もう気にすることなんて何もないよ」

男「はあ、仕方ないな」

ぱくりっ
もぐもぐ・・・

双妹「ふふっ// 少女さんは男とこういうこと、出来ないよね♪」

少女「むぅっ……」

男「ほれはいいはら、はやく教えろよ」

双妹「えっとね、少女さんの部屋を調べたときに聞いたんだけど、友くんは何も教えてくれなかったの。慎重にならないといけないことだからって」

男「それじゃあ、双妹も詳しいことは知らないってことか」

双妹「まあ、そういうことになるかなあ」

543以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 23:06:10 ID:5nd0HRZc
男「やっぱり、友に問いただすしかなさそうだな」

双妹「はい、あ〜んして//」


今度はプチトマトを指で摘んで持ってきた。
少女さんやクラスのみんなが見ているし、さすがにそれはレベルが高すぎるぞ。


双妹「冗談だって、冗談」パクッ

双妹「私もね、友くんの話を完全に信じているわけじゃないの。だって、低級霊がいるとか言われても見えないんだもん」

男「まあな」

双妹「でも、少女さんがいるのは本当のことでしょ」

少女「……」

双妹「だから、少女さんの死因と低級霊のストーカー行為が無関係ではないのなら、私たちは忘れてはいけないんだと思う」

双妹「少女さんがいわゆるPTSDで苦しんでいるってことを――」

544以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/27(金) 01:02:51 ID:PjGA/eLM
男「ああ、そうか。家に帰れるようにはなったけど、まだ完全に乗り越えてはいないんだよな……」

双妹「そうだよ。男の気持ちも分かるけど、少女さんのペースで歩いてあげないといけないの。だから、友くんを信じることも大切なんじゃないかな」

少女「……双妹さん」

男「ちょっと答えを急ぎすぎていたのかもしれない。双妹、ありがとう」

双妹「それじゃあ、あ〜ん//」

男「今度は何だよ」

双妹「私の唐揚げをひとつ食べた」

男「俺にくれたんじゃなかったのかよ」

双妹「あ〜んっ//」


俺は仕方なく、雛鳥のように大きく口を開けて待つ双妹に唐揚げを食べさせてあげた。
そして、満足そうな表情を浮かべている双妹を見て、たまには一緒に食べるのも悪くないなと感じた。

545以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/31(火) 19:35:59 ID:RyHs8D3I
(3月3日)thu
〜自宅・放課後〜
今日はひな祭りということもあり、朝から双妹がとても浮かれていた。
リビングに飾られた、立派なひな壇。
そして雛人形と一緒に飾られている、華やかな金花糖。
まあ、俺には関係のないイベントだ。


双妹「お母さん、ただいま〜」

男「ただいま」

母親「おかえり」

双妹「ねえねえ、今夜はちらし寿司なんでしょ」

母親「そうよ。今から治部煮を作るんだけど、どれを入れるの?」

双妹「今年は海老とマツタケにする」

母親「じゃあ、持ってきて」

双妹「は〜い♪」

546以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/31(火) 19:44:18 ID:RyHs8D3I
〜部屋〜
少女「双妹さんの家では、すぐに金花糖を食べちゃうんですね。うちではひな壇を片付けてから食べてましたよ」


双妹が俺の部屋に入って来ると、少女さんが笑顔で話しかけた。
女子にとって、ひな祭りは楽しい行事なのだろう。
それは幽霊になっても変わらないようだ。


双妹「あれっ? 少女さんの家でも金花糖を飾るんだ」

少女「はい。ひな祭りが近付いてきたら、お祖母ちゃんが送ってきてくれるんです。友達は飾らないって言うし、うちだけかと思ってました」

双妹「私もうちだけかと思ってた。すごく可愛いよね〜」

少女「そうですよね」

双妹「少女さんはそのまま食べるの?」

少女「そのままでも食べるけど、煮物に使ったり、いちごジャムにしたりするかな」

双妹「ふうん、そうなんだ。いちごジャム、美味しそう♪」

547以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/31(火) 20:06:52 ID:RyHs8D3I
少女「でも、どうしてひな祭りの日に食べるんですか」

双妹「うちでは、ひな祭りの日に私が選んだものを料理に使うことになっているの。縁起物だし、願いを込めて煮込むのが良いんだって」

少女「へえ〜、おもしろい」

双妹「それで私は双子だから、毎年2つ入れることにしているの」

少女「へえ、そうなんですね。それじゃあ、今年は海老とマツタケだから――って、海老は分かるけど、どうしてマツタケなんですか?」

双妹「夫婦松茸っていう言葉があるんだけど、いつまでも兄妹で仲良く一緒にいられたら良いなと思って」

少女「いつまでも、兄妹で仲良く一緒に?」

双妹「そうだよ。男もそう思ってくれてるよね//」

男「ああ、当たり前じゃないか」

双妹「ふふっ、ありがとう♪」

548以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/31(火) 20:20:11 ID:hVerhy2M
〜リビング〜
晩ご飯が完成し、俺たちはリビングに行った。
今日はひな祭りなので、ちらし寿司と治部煮、ハマグリのお吸い物だ。
少女さんは、それらを美味しそうに食べる双妹を羨ましそうに見詰めている。
こればかりはどうにも出来ないし、今日ばかりは本当に可哀想だ。


母親「ふと気になったんだけど、双妹には彼氏はいないの?」

双妹「どうしたの、急に」

母親「男に彼女が出来たんだし、双妹はどうなのかなって気になるじゃない」

双妹「あはは、それがまだいないんだよねー」

母親「双妹が男にべったりだから、それが伝わるのかしらねえ。最近はまた、毎日一緒にお風呂に入っているでしょ」

549以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/31(火) 20:47:06 ID:grrFxCqk
双妹「それって関係あるの?」

双妹「私と男は同じ双子なんだよ。別にやましい事は何もしてないし、私は男と過ごす時間を大切にしたいだけなの。男もそうだよね」

男「そうだな、俺もそう思う」

母親「……はあっ。男と双妹がそういう心理的傾向になりやすいのは分かっているつもりだけど、やっぱりそれを理解してあげるべき――なのかしらねえ」

双妹「ふふん♪ やったあ//」

少女「ええっ?! もう高校生なのに、兄妹で一緒にお風呂に入るのを許してしまうんですか」

双妹「今夜は久しぶりに洗いっこをしようかな〜//」

少女「双妹さんっ、そんなの絶対に駄目ですから!」

550以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/31(火) 21:50:34 ID:hVerhy2M
少女「男くんからも何か言ってくださいよ!」

男「双妹、俺には今、彼女がいるってことを忘れるなよ」

双妹「はいはい、分かってるって」

母親「それで、男はその彼女とどうなってるの?」

男「週末にみんなで遊びに行こうって決まってて、それなりに順調だと思う」

母親「ふうん、そうなのね。とりあえず、二人とも高校生らしい普通の恋愛を経験してみなさいね」


その言葉を聞いて、俺ははっとした。
もしかすると、母さんは少女さんが幽霊だということを知っているのかもしれない。
だけど、知っているかどうか聞くなんて出来るはずがなく、俺は適当に返事を返して晩ご飯を食べることにした。

551以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/06(月) 22:35:51 ID:I8pYUPbE
(3月4日)fri
〜学校・お昼休み〜
久しぶりに雲の隙間から晴れ間が覗く金曜日。
今日も妹友さんが欠席をしているので、双妹とお弁当を食べている。


双妹「妹友ちゃん、明日は大丈夫かなあ」

男「一緒に映画を観に行くんだっけ」

双妹「そうそう。この前、男が少女さんと観て来たやつ」

少女「魔王くんがすっごく格好良かったですよ! きっと、双妹さんもキュンキュンすると思う」

双妹「へえ、そうなんだ。それで妹友ちゃんがね、入浴シーンを楽しみにしているんだけど、おかしいよね〜」

少女「そうかなあ。そのシーン、すごくドキドキしましたよ// それで男くんなんてね、ヒロインのヌードを期待しちゃったみたいで『お前かよっ!』って突っ込みいれてて」

双妹「ええっ、何それ」クスクス

男「仕方ないだろ。お風呂場でシャワーの音がしたら、ヒロインのサービスシーンを見られると思うじゃないか」

少女「周りの女性客がすごく引いてて、見てて可笑しかったです」

552以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/06(月) 22:45:47 ID:PnJzGHqw
週末の教室はにぎやかで、双妹と少女さんの会話も弾んでいる。
俺はそんな二人のたわいないおしゃべりに耳を傾けながら、お弁当を食べる。


ドガシャアアンッッ!


女子生徒「きゃあああぁぁぁっ!!」

不良「おらあっ、だらくそっ! くたばりやがれっ!!」

友「がふっ……がはぁっ…………!」


心地よい時間が流れるお昼休み。
それが突然、喧騒に包まれた。

553以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/06(月) 22:51:05 ID:lJ3KmMkg
怒声が聞こえた場所を見ると、不良グループの男子二人が執拗に友を蹴り続けていた。
友は座席ごと蹴り飛ばされたらしく、床に崩れ落ちて丸くうずくまり、必死に堪えている。


男「友っ!!」

友「うぐっ……っ……」

男「てめえらっ! 何やってんだよ!!」


俺は急いで駆け寄り、DQNを蹴り飛ばした。
そして不良が繰り出してきた右腕を逸らし、懐に入り込んで投げ飛ばす。


男「おりゃあぁっ!」

不良「がふっ!!」

554以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/06(月) 23:32:10 ID:YR5pR/GQ
男「友っ、大丈夫か!」

友「……げほっ……あ、ああ……すまん、何とか…………」

少女「お……男くんっ! 後ろっ!!」


少女さんの緊迫した声が聞こえて振り返ると、DQNが椅子を高く持ち上げて力強く構えていた。
そしてその直後、DQNが奇声を発しながら椅子を振り下ろしてきた。
俺はそれを全力で打ち払い、体勢が崩れたDQNに足をかけて転ばせる。
するとDQNは隣の机で身体を強打し、俺は流れるようにして腹に蹴りを追加してやった。


DQN「がはっ……ぐっ…………」ガクリ

男「ふう、片付いたな」

双妹「いやっ、いやあぁぁっ!!」


ほっと安心した直後、双妹の悲鳴が聞こえて俺は咄嗟に振り返った。
するとそこには男子生徒の姿があり、そいつらに双妹が押し倒されていた。
デブが双妹に馬乗りになり、ガリが双妹の両腕を押さえている。
普段は目立たないモブのくせに、双妹に何やってくれてるんだっ!

555以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/06(月) 23:36:44 ID:PnJzGHqw
男「……ちっ、双妹っ!」

少女「双妹さんっ!!」

デブ「動くなっ! 俺がぴょんぴょんしたらどうなるか、試してほしいのか?」

双妹「うぐぅっ、ううぅっ……」

男「くそっ!」ギリッ

ガリ「きしゃしゃしゃ……。ボクたちのお遊びが終わるまで絶対に動くんじゃねえぞ」

ギャル「おらあっ! お前らも這いつくばれっ!」

才女「そうですわ!」

友「がふっ……」

男「……はぐぅっ…………」


ギャルさんと才女さんが突然豹変し、俺たちに殴り掛かってきた。
まったく注意を向けていなかったせいで拳が脇腹にめり込み、俺は激痛で膝を付く。

556以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/07(火) 00:14:25 ID:BwRjl.FM
デブ「ぐふふっ! 双妹さんって可愛い上に巨乳だし、やっぱり上玉だよな」

双妹「うっ……ううっ…………」

ガリ「双子の兄妹ってさあ、いつも一緒にお風呂に入ったり、エロいことをヤりまくったりしているんだろ? 男に胸を揉まれて、こんなに大きく育ったのかもな。げへっげへっ」

デブ「それじゃあ、今度は俺たちのモノを大きくしてもらおうか!」

双妹「いやっ……触らないでっ! 男、男ぉっ!!」

男「くそっ、お前らっっ! 俺の双妹に手を出して、ただで済むと思うなよ!!」

才女「あらあら、怖い怖い。可愛い妹さんが素敵な声で鳴いているのですから、お兄さまも素敵な声で囀ってくださいませんか?」


才女さんは嗜虐的な笑みを浮かべ、その外見からは想像する事が出来ない力で蹴り込んできた。
まるで、全身を抉られているかのようだ。


男「……う゛あ゛あああっ…………」

才女「うふふ// そう、その声ですわ」ゾクゾク

557以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/07(火) 15:07:19 ID:HCW.aRB2
憑依されたのか?
急展開どな

558以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 00:13:24 ID:8vX2X6jk
男「才女さん。どうして、こんなことを――」

才女「どうしてって、したいからに決まっていますわ」

男「したい……から?」

才女「ええ、男子を蹂躙してみたい。そして、思うがままに服従させたいんですの!」


才女さんは強く言い放つと、俺を蹴り転がして内履きズックを脱ぎ、右足で股間を踏みつけてきた。
急所をぐりぐりと圧迫されて、足の裏の感覚とともに鈍い痛みに襲われる。


少女「お……男くんっ!」

男「うぐうぅっ……」

才女「あはははっ! このむにゅむにゅしている物は何かしらねえ♪」

男「くそっ! やめ……お゛う゛うぅっ!」

才女「少しでも暴れると踏み潰しますわよ。それとも、気持ちよくて身悶えしているのかしら!」

才女「ねえ、お兄さま。大切な妹が犯されている姿を見ながら、そしてそんな妹に見られながら、このまま卑しい劣情を吐き出しても宜しいんですのよ//」

559以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 00:44:48 ID:uMOnhQdg
委員長「ちょっと、あなたたち! こんなこと、今すぐやめなさいっ!!」

男「い、委員長!!」

委員長「みんな、分かってるの? 男くんと双妹さんは一卵性双生児なんですよ。デブ君とガリ君は、男くんにホモレイプをする趣味があるってことなんですか?」

デブ「あーっ、そうだったな。見た目は可愛いけど、こいつと男は100%同じなんだっけ。想像したらマジで萎えてきたぜ」

ガリ「げひゃひゃひゃひゃ……。脱がせたらアレが生えていたりしてな」

双妹「……」

双妹「そんなの……」

双妹「そんなの……もう聞き飽きたわよ! 離してっ! 離しなさいよ!!」

委員長「だまれっ、染色体の異常で生まれてきた出来損ないの癖に! 男くんと同じ遺伝子で性別が違うなんて、あなた気持ち悪いのよ!」

デブ「そうだそうだ。本当はオトコなんじゃねえのか?」

ガリ「きしゃしゃしゃしゃ! 私はオンナの見た目をしているだけの出来損ないですって、言ってみろや! それが言えたら、下の口にたこさんウインナーを食わせてやるよ!」

双妹「……いやっ、やめて…………やめてくださいっ。お願いだから!」

560以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 01:12:16 ID:uMOnhQdg
男「くそっ、ふざけやがって! この、だらくそがっ!!」


双妹がこんなにも傷付けられて、俺がいつまでもされるがままになっていると思うなよ!
俺は才女さんの右足を両手で掴み、全力で持ち上げながら立ち上がった。
そして、才女さんのスカートを捲り上げる。
普段はお淑やかな彼女にとって、この恥辱には耐えることが出来ないはずだ。


才女「んなっ?!」

才女「きゃああぁっ//」


才女さんは慌ててスカートを押さえ、恥ずかしそうな表情で俺をねめつけてきた。
その一瞬の隙を逃さず、俺は脇を抜けて双妹へと駆け出す。
そしてその勢いのまま、デブに跳び蹴りを食らわしてやった。


デブ「ひでぶうぅっ!」


デブが吹っ飛び、俺は続けざまにガリの股間を蹴り上げる。
すると、ガリは奇声を発しながら激しく悶絶し、白目を剥いて動かなくなった。

561以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 01:17:25 ID:j2.HHR5s
気絶したデブとガリを見やり、委員長が呆然とへたり込む。
俺はそんな彼女に睨みを利かせ、双妹に手を差し出した。
制服が少し乱れているけれど、特に怪我などはしていなさそうだ。


男「双妹、大丈夫か!」

双妹「うん……助けてくれるって信じてた// 男は怪我とかその、大丈夫なの?」

男「ああ、俺は大丈夫だ。とりあえず、みんなから距離を取れ。俺は友に加勢してくる!」


そう言って振り返ると、友が女子生徒5人から集団リンチを受けていた。
さて、どうしたものか。
女子を投げ飛ばす訳にはいかないし、割って入って友を引きずり出すくらいしか方法はなさそうだ。
そして双妹に合図を送って、教室から逃げるというのが無難なところだろう。

そう思った次の瞬間、教室にいた生徒たちがバタバタと倒れ始めた。
委員長も上体が脱力し、糸が切れた人形のように動かない。
そして、ふらふらと友が立ち上がった。

562以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 08:39:16 ID:uyg5tBOc
頑張れ

563以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 20:36:10 ID:I5Et4Sw2
双妹「何なの……これ」

男「さ、さあ……何なんだ、これは――」

友「…ぐっ……つぅっ、これは憑依霊の仕業だ。俺が除霊しまくっているから、低級霊がみんなに憑依して俺を排除しようとしてきたんだ」


友はよろめきながら手近な椅子に座り、状況を説明してくれた。
この一週間、友が低級霊の除霊を続けていたので、低級霊たちは少女さんの依り代である俺の家を特定することが出来ないでいた。
だから低級霊たちは不良グループに憑依し、友を排除するために暴動を起こしたのだ。

しかし俺が倒してしまったので、低級霊たちは双妹を人質に取って俺を牽制し、反撃しづらい女子生徒に依り代を変えて攻撃してきた。
そして友が除霊に成功したおかげで、憑依霊の支配から解放されたみんなが意識を失った。
それが現在の状況らしい。

564以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 20:55:33 ID:I5Et4Sw2
少女「私のせい……ですよね。ごめんなさい――」

友「いいって。これくらいの怪我ならすぐに治るだろうし、少女さんの気持ちだけで十分だから」

少女「でも……痛いですよね。ごめんなさい」

友「まあ、それはそうと、いくつか気付かれただろうな」


俺と双妹が兄妹で、一緒に住んでいること。
守護霊を強化していても、人間に憑依すれば物理的に接触できること。
そして物理的に接触は出来るが、依り代にして支配することは出来ないこと。


友「やつらは欲望や不安、抑圧した気持ちに付け込んで意識を支配して来るんだ。とりあえず、みんなに破魔の印を仕込んでおいたから、しばらく大丈夫だと思う。念のために広域結界を仕掛けておいて助かったよ……」

男「友、ありがとう」

双妹「……ありがとう」

565以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 21:01:14 ID:I5Et4Sw2
それらの説明が終わる頃、気を失っていたみんなが意識を取り戻し始めた。
委員長も呻き声を上げ、呼吸を荒らげながら呆然としている。


委員長「はあはあ、私……どうして…………」

委員長「……! 双妹さん」


委員長はおぼつかない様子で立ち上がり、視界に双妹を捉えると顔を曇らせて視線を泳がせた。
双妹はそんな彼女の出方を、ただ黙って見据えている。


委員長「双妹さん、その……酷いことを言ってしまってごめんなさい。どうしてあんなことを言ってしまったのか、その……分からなくて。本当に私…………どうかしていたと思う……」

双妹「そんなこと、気にしないで。もう慣れてるから――」

566以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/08(水) 22:04:14 ID:uMOnhQdg
委員長「ううっ、うううっ……ごめんなさい。ごめんなさいっ…………」

双妹「……」


双妹は泣き崩れる委員長を寂しそうに見詰めると、倒れたままのデブとガリに冷めた視線を向けた。
きっと今まで言われてきたことを思い出しているのだろう。

同じ双子でも女子のほうが力が弱いからなのか、心ない言葉を言われるのは双妹のほうが多かった。
もし普通の二卵性双生児だったならいじめられる事はなかったのだろうけど、少し特別だというだけで人の態度は大きく変わってしまうのだ。

俺たちのお弁当は騒ぎのせいで床に落ち、もう食べることは出来そうにない。
俺は小さくため息をつき、双妹の肩を抱き寄せて優しく頭を撫でてあげた。
すると、双妹が心地良さそうに身体を預けてきた。
そんな双妹に寄り添い、俺たちは心を通わせる。

少しでも早くつらい気持ちが癒えるように。
そして、少しでも早く双妹に笑顔が戻って来てくれるように――。

567以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/09(木) 05:05:01 ID:uax08Jx.
おつ

568以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:23:20 ID:OWrQ4PeQ
・・・
・・・・・・
5限目のチャイムが鳴って教師が入ってくると、教室の惨状に驚いて授業が中止になった。
友は「すぐに目を覚ます」的なことを言っていたが、意識を取り戻していない生徒が大勢いたのだから無理もない。
そして救急車が何台も呼ばれる騒ぎになり、次々と病院に運び出されていった。
その一方で、俺たちや意識を取り戻した生徒は保健室で診察や事情聴取を受けることになり、それぞれ迎えに来た保護者に連れられて帰宅した。

今回の乱闘騒ぎで一部の生徒に処罰が下り、俺は柔道部でありながら喧嘩に加勢して4人に怪我をさせたという理由で3週間の部活動停止処分が言い渡された。
そのことで母さんに何か言われるかと思ったが、双妹のフォローもあり特にお咎めは無かった。

ちなみに、友は理不尽な理由で暴行を受けただけなので処分は受けていない。
しかし以前の英語の授業で心霊騒ぎを起こし、その関係者である俺と双妹が失神症状を訴えていないことから、少し不審には思われているようだ。

569以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:25:55 ID:K7GWU6mw
やがて夕方になり、今日のことがニュースで報道された。

北倉市の県立高校で集団パニック。
そのニュースを見ていて、思いも寄らない事が起きていたことが分かった。
病院に搬送されたのはうちのクラスだけではなくて、校庭に次々と入ってくる救急車に不安を感じた1年生から3年生の女子生徒34人も過呼吸のような症状を訴え、合計で58人もの生徒が病院に運ばれていたそうだ。
その症状はいずれも軽いが、女子生徒7人が大事を取って入院しているらしい。
その事態を重く見た校長先生は臨時休校の判断を下し、午後の授業と部活動をすべて中止にしたとのことだった。

この過呼吸も低級霊の仕業なのだろうか。
もしそうだとするならば、今後もこのようなことが続くのかもしれない。

570以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:42:15 ID:uZ9cYTw2
〜自宅・部屋〜
男「学校、すごく大変なことになっていたんだな」

少女「……」

双妹「……そうだね。これからも今日みたいなことがあるのかな」

男「大丈夫だとは思うけど、早めに何らかの手を打たないと不味いよな」

双妹「例えば、何をするの?」

男「それを言われると困るけど、低級霊だったら友が除霊してくれるし、憑依していた場合は俺が投げ飛ばして倒せるだろ。しばらく、それで何とかするしかないんじゃないかな」

双妹「でも倒すって言うけど、相手は操られているだけなんだよ。本人は何も悪くないし、今度は退部させられるかもしれないわよ」

男「まあ言い方は悪かったけど、やりようはあると思う。こっちには除霊の出来る手袋があるんだし」


俺はそう言って、棚の上に置いている手袋を見た。
それさえあれば、触るだけで俺でも除霊が出来るのだ。


双妹「そっか、あれを使えば良いんだ。じゃあ、出掛けるときは持ち歩いておいたほうが良さそうだね」

571以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:54:24 ID:K7GWU6mw
少女「あの……これって、私が家に帰れば解決しますよね」

男「家に帰るってどういうことだよ」

少女「私のせいで男くんと友くんが怪我をして、双妹さんも危険な目に遭って、多くの人に迷惑をかけてしまいました。そんなことが続くなら、私はもういないほうが――」

双妹「ねえ、少女さん。私は正直に言って、早く貴女にいなくなってもらいたい。だけど、本当にそれで良いの?」

少女「良くないけど、私も同じなんです」

双妹「同じって何が?」

少女「私も男くんに取り憑いている憑依霊だから……」

男「少女さんはあいつらとは違って、人の弱さに付け込んで身体を乗っ取ったりしないだろ。だから、同じじゃないよ」

少女「私も同じことが出来るんですよ。同じじゃないはずがないです!」

男「……そうだな。少女さんは同じことが出来るよな」

少女「だから――」

男「でもっ! 少女さんには良心があるじゃないか。その心があるだけで、あいつらと少女さんは違う。そうだろ」

572以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 22:59:01 ID:uZ9cYTw2
プルルル・・・
突然、電話が掛かってきた。
大事な話をしているというのに空気が読めない奴だ。
誰からだよと思いつつ確認すると、友香さんの名前が表示されていた。


男「ごめん、友香さんからだ」

少女「……」

男「もしもし、男です」

友香『もしもし、男くん? 友香です』

男「俺に電話って、珍しいですね。何かあったんですか?」

友香『実はネットを見てて、気になる記事があったから電話をしたんです』

男「気になる記事?」

友香『……うん。今日、男くんの学校で集団パニックがありましたよねえ。その原因が心霊現象じゃないかって、SNSやまとめサイトで話題になっているんです』

男「ええっ?!」

友香『だから少女が関係しているんじゃないかなと思って、少し心配で掛けてみたんです。よければ代わってもらえませんか?』

男「分かりました。それじゃあ、今から代わりますね」

573以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 23:02:51 ID:uZ9cYTw2
双妹「何かあったの?」

男「今日のことがネットで話題になっているらしい。それで少女さんが心配だから、代わって欲しいって」

少女「……私に?」


少女さんは不思議そうな顔をして、手を差し出してきた。
俺はそれを見て何とはなしに少女さんにスマホを渡すと、そのまま手をすり抜けて落ちてしまった。
少女さんは幽霊なんだし、すり抜けて当然だ。
うっかりしてた。
俺はスマホを拾い上げ、苦笑いをしている少女さんの耳元に当ててあげた。


少女「もしもし、代わりました」

少女「えっ……あ、あれ? 声が聞こえない――」

少女「……ごめんなさい、私にはスマホを使うことが出来ないみたいです」

男「まあそっか、そうだよな」

574以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 23:05:07 ID:K7GWU6mw
男「もしもし、友香さん?」

友香『あ、ああ……男くん?』

男「実は少女さんがスマホを使えないみたいで」

友香『そうだよね。慌ててたから、私もさっき気付いたところ。多分、ビデオ電話も使えないですよねえ』

男「双妹もいるし、ちょっと試してみるよ」


俺はスマホをいじっていた双妹に声をかけ、少女さんの動画を撮ることが出来るか試してもらった。
ピロリ〜ン♪という電子音が鳴り、少女さんにスマホを向ける。
そして、双妹は首を横に振った。


男「友香さん、やっぱり映らないみたい」

友香『そっか。じゃあ、メールします』

男「分かりました」

575以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 23:09:44 ID:uZ9cYTw2
トゥルルル〜ン♪

男「はやっ!!」


From:友香さん
件名:少女へ

本文:
少女はひとりじゃないんだからね!
日曜日楽しみにしてるよ(^_^)v
z♪

576以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/20(月) 23:16:34 ID:tz8TBcbM
少女「友香ちゃん……」

少女「私、やっぱり頑張ろうと思います。こんなことをしてくる人に負けたくないです!」

男「そうだよな。みんなで頑張ろう」

少女「はいっ!」


友香さんのおかげで少女さんが元気になり、俺は少女さんと一緒にメールの返信をすることにした。
そしてそれが終わると、双妹がタイミングを見計らって話しかけてきた。

577以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 00:20:11 ID:7lq0lOSA
双妹「少し調べてみたんだけど、今日の集団パニックは心霊現象が原因じゃないかって言われているみたいなの」

男「友香さんもそう言ってた」

双妹「それでね、集団パニックは過去にも事例があるんだけど、そのほとんどが女子生徒だけが症状を訴えているみたいで、今回みたいに男子生徒を含むクラス全員が意識を失ったっていうのは前例がないんだって」

男「へえ、そうなんだ」

双妹「だから本物じゃないかって言われているみたい」

男「でも、それはネット上の話だろ。確かに心霊現象が原因だけど、友はそれを否定しているし俺たちが何かするのは止めておいたほうがいいと思う。ただでさえ学校全体が混乱しているんだし、騒ぎを鎮めるために黙っているのがベストなんじゃないかな」

双妹「まあ、そうかもしれないわね」

578以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 00:42:02 ID:FUHw3dgY
男「それじゃあ、少し早いけどお風呂に入ろうか」

双妹「えっ、もう入るんだ。私、着替えを取ってくるわね♪」

男「ああ、俺たちは待ってるから」

双妹「うんっ、すぐ行く//」


双妹は頬を緩め、軽やかに部屋を出て行った。
お昼にあんなことがあって心配だったけど、もう大丈夫のようだ。


少女「双妹さん、お昼にあんなことを言われたのに――」

男「俺もそのことは心配だったんだけど、もう大丈夫みたいだな。本当に良かったよ」

少女「……」

男「それじゃあ、そろそろ行こうか」

少女「そうですね」


俺は少女さんの様子が気になりつつ、着替えを準備して部屋を出た。
そして、ちょうど居合わせた双妹と3人でお風呂場に向かった。

579以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 06:42:53 ID:I5Q3feW2
おつ

580以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 22:57:49 ID:aCu.IM.k
〜双妹さんの部屋・少女さん〜
お風呂から上がり、男くんと一緒に集団パニックのことを調べていると、いつの間にか双妹さんの部屋に移動する時間になっていた。
私は壁をすり抜けて、洋服ダンスの中からいつも通りに声を掛ける。
しかし、今日は返事が返ってこなかった。

もしかして、もう寝ているのかなあ。

私はそう思い、双妹さんの部屋にそっと入る。
そして二段ベッドに目を向けると、上段のベッドで双妹さんが抱き枕に跨がってしがみ付いていた。


少女「あの、双妹さん」


――そこは私のベッドですよ。
そう言い掛けて、私は言葉を飲み込んだ。
双妹さんが寂しそうな表情で眠っていたからだ。


少女「そんな格好で寝ていたら、風邪を引きますよ。起きてくださ〜い」

双妹「んっ……わわっ、少女さん?! え、うそっ、いつの間にか寝ちゃってた」

少女「寝るなら自分のベッドで寝ないと、風邪を引きますよ」

双妹「そ……そうだね。ごめん」

581以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 23:44:17 ID:7lq0lOSA
少女「少し気になったんですけど、今日言われたことはあまり気にしないほうがいいと思いますよ。どこまでが本心だったのか分からないし」

双妹「私は別に気にしてないよ。もう慣れてるから……」


双妹さんは淡々とした表情で言い、太ももまで捲れ上がっていたネグリジェの裾をそっと直した。
そして壁際に移動し、ぺたりと座り込む。
私はそれを見て、双妹さんの隣に腰を下ろすことにした。


少女「今までもそういうことってあったんですか?」


少しでもつらい気持ちが楽になってくれればと思い、話の続きをそっと促す。
すると双妹さんは抱き枕を抱えて、小さくため息をついた。
そしてややあって、心の内を話し始めた。

582以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/21(火) 23:53:18 ID:aCu.IM.k
双妹「……まあね。小学生のときに、『オトコ女』とか『あそこを見せてみろよ』とかよく言われていたの。親が『一卵性双生児は同じ性別しか生まれない』とか『女の子は遺伝子の病気を持っている』って教えるから、子どもが学校でからかうようになるんだよね」

双妹「それから小学校の2分の1成人式がテレビで放送されて、その後はいじめがなくなったんだけど、人の気持ちは難しいらしくて――」

少女「……」

双妹「中学2年生のときに気になる人がいたんだけど、その人がグループの中心になって私の陰口を話していたの。それを聞いた男がすごく怒って、彼らと乱闘騒ぎになってそれっきり。でもあのとき、すごくうれしかった」

少女「そんなことがあったんだ……」

双妹「もうむかしの話だけどね。それ以来、みんなが双子の話題を避けるようになったから、逆にそれで良かったと思ってる。いじめや陰口って、すごくつらいし」

583以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/22(水) 00:03:24 ID:Ng/yLgug
少女「はあっ、私たちって男運が良くないですよね」

双妹「うーん、まあ、そうかもね」

少女「ほんとそうですよ! 私は告白を断っただけで自殺をされて、SNSに遺書まで遺されたし!」

双妹「あー、少女さんには悪いけど探して読んでみたの。逆恨みされるだけでも迷惑なのに、個人情報まで書かれて本当に最悪だよね」

少女「そう! 私は人殺しなんじゃないかって、ずっと悩んでた。でも友香ちゃんに相談して、みんなが励ましてくれて、私は頑張ろうって思えたの」

双妹「友香さん……か。今日のことで電話をしてくれたり、優しい人だよね」

少女「うん、困ったときには頼りになる友達なの。マスコミにストーカー行為をされていたときも、友香ちゃんが色々と考えてくれたんです」

双妹「そうなんだ。でも、ストーカー行為は勘違いだったんでしょ」

少女「それはそうなんだけど、そのときはマスコミだと思っていたから」

双妹「……」

双妹「じゃあ、本当は誰にストーカー行為をされていたの?」

584以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/22(水) 00:06:33 ID:5d9asUOo
あれっ?
誰にストーカー行為をされていたんだろう。


双妹「少女さんって、記憶が曖昧になっていたんですよねえ」

少女「……はい。今でもはっきりとは思い出せない記憶があるんです」

双妹「それってさあ、今日あったことに似ていると思わない?」


はっきりとは思い出せない記憶。
憑依霊に取り憑かれて錯乱し、記憶が曖昧になっていたクラスメイトたち。
そして、うさぎのぬいぐるみの霊的な痕跡。


少女「もしかして、私も憑依霊に取り憑かれていたってことですか?!」

双妹「その可能性はあると思う」

少女「でも、どうして――」

双妹「それは分からないけど、ゆっくり思い出していったら良いんじゃないかなあ」

少女「そう……ですね」

585以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/22(水) 01:36:04 ID:Ylr.3cqs
双妹「少女さん、聞いてくれてありがとう。私、もう下りるわね」

少女「あっ、うん」


そう返すと、双妹さんは二段ベッドのはしごに足をかけた。
そして少し下りたところで、抱き枕に手を伸ばす。
わざわざ持って上がって抱き付いていたのかと思うと、何だか少し微笑ましい。

……わざわざ上に?

双妹さんはときどき抱き枕をクッション代わりにしているけれど、つらい事があって抱きしめたくなったのならば、思う存分、自分のベッドで抱きしめれば良いと思う。
それなのに私のベッドで――いや、男くんが使っていたベッドで1時間近くも何をしていたのだろう。

まさか、一人でえっちなことをしていた、とか?!
抱き枕に跨がってネグリジェの裾をはだけさせて、あらぬ妄想をしながら抱き付いて。
でも、だけどそうだとしたら――。


双妹「少女さん、電気を消すけど良いかな」

少女「えっ?! ああ、どうぞ」

双妹「それじゃあ、おやすみなさい」

少女「……おやすみなさい」

586以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/23(木) 19:05:28 ID:ry8nONkU
おつ

587以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 20:33:44 ID:xah1RU42
(3月5日)sat
〜自宅・部屋〜
いつも通りに双妹が起こしに来て一緒に朝ご飯を食べていると、少女さんが双妹に観察するような視線を向けていることに気がついた。
双妹もそれに気付き、少女さんがさり気なく視線を逸らす。
昨日の夜、二人の間で何かあったのだろうか。

俺は少し気になり、タイミングを見計らって聞いてみることにした。
部活動停止処分のせいで予定が空いているし、上手く行けば双妹に少女さんのことを認めてもらう手掛かりを掴むことが出来るかもしれない。


男「少女さん。昨日の夜、双妹と何かあった?」

少女「……いえ、何もないですよ」

男「だけど、双妹のことを気にしているみたいだったから」

少女「……」

少女「何と言うか、相変わらず仲が良いなと思って」

男「なんだ、そういう事だったのか。前も言ったと思うけど、俺と双妹は双子の兄妹なんだから仲が良いのは当たり前だろ」

少女「それは分かっているんだけど、最近は兄妹以上の関係があるんじゃないかって、そんな気がしてきて――」

588以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 20:40:47 ID:DGvU3mmQ
男「もしかして、双妹にやきもちを妬いてる?」

少女「そんな事は……あるかも、です」


少女さんは不安そうに言うと、じっと俺を見詰めてきた。
今週は双妹と一緒にお弁当を食べたり、少女さんでは出来ないことを意識してしまうような時間が多かったのかもしれない。
俺はそう考え、少女さんの心配を打ち消してあげるためにそっと身を乗り出した。


少女「んっ……んんっ//」


優しく接すればキスが出来るし、身体を抱き締めることも出来る。
二人の気持ちがつながれば、もっといろいろなことが出来るようになる。


男「俺は少女さんのこと、好きだよ」

少女「……私も、好きです」

589以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 20:54:25 ID:s9iOxF5o
俺は少女さんを優しく押し倒し、彼女に覆いかぶさった。
そして身体が触れ合う微妙な位置で上体を固定し、唇を重ねあう。
力を抜くと少女さんの身体をすり抜けてしまうので、地味にキツイ体勢だ。

そのため今度は俺が横たわり、浮くことが出来る少女さんが俺に跨がった。
すると少女さんは一瞬はっとした表情になり、顔を曇らせた。


男「どうかした?」
少女「ううん、何でもない。男くん……今日はいやらしいね」

男「それは少女さんが可愛いからだよ//」

少女「ええっ、そうかなあ//」


少女さんは頬を緩ませ、にこりと微笑んだ。
俺はそんな彼女に手を伸ばし、控え目な膨らみを包み込む。

590以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 20:59:26 ID:a8SA9gRA
少女「ねえ、ぎゅう〜ってしてもいい?」

男「いいよ」


そう言うと、少女さんは上体を倒して俺にぎゅうっと抱き付いてきた。
両腕が床をすり抜けて背中に回されているので、身体が完全に密着している。
そのおかげで少女さんの柔らかさが伝わってきて、俺はあそこが硬くなっていることを少女さんに伝えてしまった。
しかし物理的には触れ合うことが出来ないせいで、性的な刺激はほとんど感じない。
きっと、これが今の俺たちに許されていることなのだろう。

俺はただ、少女さんのぬくもりを全身で受け止める。
そしてそのまま、俺たちはお互いの身体を感じあう。

591以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/27(月) 21:15:21 ID:DGvU3mmQ
少女「男くん、我慢してない?」

男「……してないよ。今、すごくうれしいし」

少女「あ、あのっ……私が裸になって、その…………見ていてあげることなら出来る、かも//」

男「ええっ、それって一人でしているところを見たいってこと?!」


少女さんは顔を赤らめ、上目遣いで俺を見詰めてきた。
そして、艶っぽい声でささやく。


少女「だめ……かなあ//」

男「無理むりむりむりっ! 少女さんに見られるのは、さすがに恥ずかしすぎるって!」

少女「どうしても、だめ?」

男「どうしてもだめ。逆に、少女さんもそういうのは見られたくないだろ」

少女「それは、そうだけど……」

男「なっ。とりあえず、そういうことだから」

少女「う……うん。変なことを言って、ごめんなさい」

592以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/28(火) 23:06:08 ID:ErFFua1w
〜双妹の部屋〜
少女さんの提案を断ったせいなのか少し気まずい雰囲気になり、俺は気分を変えるために双妹の部屋に移動することにした。
少女さんは少し不満そうだったけれど、双妹に交際を認めてもらうことが出来れば、少女さんが余計な詮索をしないで済むようになるはずだ。
そう勇んで、双妹に話を振ってみたのだが――。


双妹「私、二人の気持ちは認めているわよ」

男「えっ、そうだったのか」


どうやら、すでに認めてくれていたようだ。
最近は少女さんともよく話をしているし、少しは気持ちが軟化してくれたのだろう。


双妹「でも、交際は認めない。それだけは絶対に駄目なの」

男「好きな気持ちはどうしようもないけど、付き合うのは駄目ってことか」

双妹「……うん。少女さんはもう死んでいる人だから」

593以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/28(火) 23:26:59 ID:ErFFua1w
男「そうは言うけど俺たちには見えているし、話も普通に出来るんだから個性みたいなものだろ」

双妹「個性みたいなものだなんて簡単に言わないでよ。二人がどんなに好きになっても結婚は出来ないし、周りの人から変な目で見られるだけなんだよ。お父さんとお母さんも簡単には理解してくれないだろうし、私はそんな恋愛は応援できない」

男「現実的に考えたら双妹の言う通りだけど、俺たちは話し合ったんだ。4月1日に笑顔で成仏できるように、今を大切に過ごしていこうって。俺は笑顔で少女さんを送ってあげたいんだ」

双妹「男は好きな人と笑顔で別れられるの?」

男「そのときになってみないと分からないけど、それしかないんだ」

双妹「少女さん、少し前に私が話したことを覚えてる?」

少女「あの話のことですよね。覚えていますよ」

双妹「ふうん、そう……」


双妹はそう返すと押し黙り、思案めいた。
少女さんとどんなことを話したのかは知らないけれど、二人は先々のことを見据えて話し合っていたのだろう。
そしてややあって、双妹は少女さんに鋭い視線を向けた。

594以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/28(火) 23:44:24 ID:K/yyF2CM
双妹「私が幽霊ものの恋愛小説を読んでいることは知っているでしょ。それでいくつか読んでみて、ヒロインが生まれ変わってハッピーエンドになる小説に共感できないなと思ったの」

少女「生まれ変わり?」

双妹「……うん。例えば、生まれ変わったヒロインが主人公の前に現れて結ばれたり、主人公の娘として生まれ変わって前世の記憶を思い出したり――」

双妹「そんなのヒロインが主人公の人生を奪っただけだし、自分の娘が元カノの生まれ変わりだったと分かれば家族揃って不幸な結末が待っているだけだもん」

双妹「だから、もし生まれ変わりに期待しているのだとしたら、私は少女さんのことを絶対に許さないから」

男「あのさあ、双妹は知らないみたいだけど、少女さんは生まれ変わることが出来ないんだ」

双妹「えっ?」

少女「そういえば、双妹さんには話していなかったですね」

少女「えっと……友くんによれば、私は成仏をしても生まれ変わることはないそうです。それに、4月1日を越えてしまうと魂が壊れて消えてしまうんです」

595以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/28(火) 23:48:57 ID:ErFFua1w
双妹「ちょっと待ってよ! 少女さんは気持ちの整理が出来なかったら消えてしまうってこと?!」

男「だからこそ、俺は少女さんの未練を叶えて笑顔で送ってやりたいんだ!」

少女「双妹さん! あの約束は絶対に守るから認めて欲しいです」

双妹「ずるいよ、そんなの……」

双妹「私は少女さんに後腐れなく別れてもらいたいの。だからデートに失敗すれば諦めてくれると思っていたし、出来ないことがあると自覚させれば身を引いてくれると思ってた。それなのにそんなことを言われたら、さすがに未練を叶えてあげるしかないじゃない!」

少女「それじゃあ、私のことを――」

双妹「でも……それでも、少女さんは幽霊だから絶対に認めない! さっきも言ったけど、それだけは駄目なの」

少女「そんな……」

男「双妹の気持ちは分かったよ。また今度、一緒に話し合おう」

双妹「……うん、私も気持ちの整理をさせて欲しい。少女さんのことをどう思っていて、私はどうしたいのか、ちゃんと考えたいから」

少女「……」

596以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 20:59:57 ID:.ysbbDy6
ピンポーン♪
話が一旦落ち着いたところで、来客のチャイムが鳴った。


男「誰か来たみたいだな。ちょっと見てくる」

双妹「待って。男が行くと、少女さんも動くことになるでしょ。私が行くから、興味があればこの本を読んでみて」


双妹はそう言いながら立ち上がり、机の上に置いていた小説を差し出してきた。
そして、俺がそれを受け取ると部屋を出て行った。


男「せっかくだし、読んでみるか」

少女「そうですね」


俺は背表紙を向けて、あらすじを読んでみた。
それによると、これは雨の日にしか会うことが出来ない女幽霊の謎を解くミステリー小説らしい。
双妹がこうして勧めてきたということは、少なくとも生まれ変わりエンドではないのだろう。

597以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 21:17:15 ID:pRrK1zEE
妹友「お邪魔しま〜す」


小説を読み始めてすぐ、双妹と妹友さんが部屋に入ってきた。
どうやら、さっきの来客は妹友さんだったようだ。
そういえば、今日は映画を観に行く約束をしていたっけ。


男「妹友さん、おはよう」

妹友「おは〜♪ 男くんって、相変わらず双妹ちゃんと同じ部屋なんだ」

双妹「今は別々なんだけど、大体こんな感じかも」

妹友「ふうん……けほっけほっ…………やっぱり、仲が良いんだね」

男「妹友さん、風邪は大丈夫?」


まだ咳が出ているみたいだし、本調子ではなさそうだ。
そんな体調で映画を観に行って、風邪をぶり返したりしないだろうか。

598以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 21:21:52 ID:lioUPEdY
妹友「熱が下がったから来たんだけど、ちょっと無理っぽい」

男「それじゃあ、今日は帰ったほうがいいんじゃない?」

双妹「私もそう思ったんだけど、外はまだ降ってるし、雨が止んでからのほうが良いかなと思って……」

少女「でも、妹友さんって、火曜日からずっと休んでいましたよねえ。早めに帰ってもらったほうがいいと思いますよ」

妹友「ごめんね、小降りになったら帰るから」

双妹「うん、そのほうが良いかも」

妹友「はあぁっ、外島くんに会いたかったよおぉっ〜!」

双妹「仕方ないよ。風邪が治ったら、一緒に行きましょ」

妹友「うん……しょんぼり」

男「じゃあ俺、自分の部屋に戻る」

双妹「そうなんだ。あの話、ちゃんと考えておくから」

男「ああ、前向きに頼むよ」

少女「……」ペコリ

599以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 21:32:31 ID:.ysbbDy6
妹友「そういえば、男くん!」


部屋を出ようとすると、妹友さんに呼び止められた。


男「何かなあ」

妹友「昨日、学校で大変なことがあったんでしょ。悪霊の仕業とか話題になっているみたいだけど、男くんと双妹ちゃんは大丈夫だった?」

双妹「私は特に何も――」

男「俺も別に何ともないし、ちょっと怪我をしたくらいかな」

妹友「ふうん、そうなんだ。それだけで済んで良かったね」

双妹「うん、すっごく怖かったんだから! 妹友ちゃんは休んでいて、本当にラッキーだよ」

妹友「そうかもね。あ〜、でもでも、外島くんに会えないからプラマイゼロだしっ!」

双妹「あはは、そうだね」

600以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 23:18:55 ID:pRrK1zEE
〜部屋〜
双妹と妹友さんの話が盛り上がり始めたので、俺は双妹の部屋を後にした。
そしてキッチンに行き、はちみつホットミルクを作って二人に出してあげた。
少しでも風邪予防になってくれれば幸いだ。

俺も自分の部屋に戻り、ホットミルクを飲む。
いろいろ話し合った後だし、はちみつの甘さが心地いい。


男「さっきの話だけど、少女さんは結婚をしたいとか思ってる?」

少女「男くんが告白してくれたときに、言いましたよね。私は結婚が出来ないし、赤ちゃんを産むことも出来ませんって。それを承知した上で付き合っているんですから、そんな願望はまったくないです」

男「そっか。でも、そういう言葉が出るのは憧れの裏返しなんじゃないかなって思うんだ。双妹もいろいろあって、結婚に憧れているような感じだから――」

少女「私だって、本当のことを言えば憧れはありますよ。でも、結婚式エンドは双妹さんが許さないと言っていた生まれ変わりと同じじゃないですか」

少女「それに、私たちはまだ結婚ができる年齢ではありません」

601以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/29(水) 23:44:46 ID:pRrK1zEE
男「確かにそうだけど、俺たちが個人的に結婚式をするだけなら法律は関係ないだろ。付き合った証を残そうとすることは、そんなに悪いことなのかな」

少女「その後、男くんの人生はどうなるんですか」

男「……えっ?」

少女「私はすでに死んでいる幽霊なんですよ。それなのに永遠の愛を誓ってしまうと、男くんの未来を奪ってしまうことになるじゃないですか。気持ちはうれしいけど、男くんが死んだ女性と冥婚をするなんて、私は絶対に望みません」

男「何もそこまで真面目に考えなくても――」

少女「女の子はそれくらい結婚に対して真剣なんです」

男「ご、ごめん……」

少女「それに今の私が目指しているものは、私たちだけで自己完結をして終わりになるようなことじゃないんです」

男「それって、どういうこと?」

少女「それを聞かれると困るんですけど、私は私の気持ちが多くの人に繋がっていくような、そんなことが出来ればいいなと考えています。だから、男くんもそれを一緒に探してくれるとうれしいです」

602以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/30(木) 00:24:26 ID:XVeZh2l2
トントン・・・
ノックの音がして、双妹と妹友さんが入ってきた。


妹友「男くん、さっきはありがとう。すごく美味しかったよ」

男「それは良かった。今から帰るの?」

妹友「ええ。あまり長く居て、双妹ちゃんに風邪をうつしても悪いし」

男「まあ、そうだね」

妹友「それにしても、男くんの部屋ってすごく綺麗に片付いているんだ。えっちな本はどこに隠しているのかにゃ♪」

双妹「まあ……私もいるし、男はスマホ派だよ」

妹友「へえ、そうなんだ。双妹ちゃんがいるのに、こっそりいやらしいサイトを見たりしてるんだ〜//」

男「はいはい。それはもういいから、早く帰れよ」

妹友「けほっけほ……ごめん。それじゃあ、帰るね」

男「ああ、そのほうが良いと思う。風邪、気を付けてね」

妹友「うん、ありがとう。また月曜日に学校でね。バイバイ♪」

603以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/30(木) 00:43:48 ID:XVeZh2l2
双妹と妹友さんが部屋を出て行き、俺は話を戻そうと少女さんに向き直った。
すると、少女さんは窓の外を眺めていた。
今は雨が止んでいるみたいで、妹友さんが濡れて帰る心配はなさそうだ。


少女「ねえ、男くん。窓を開けて空気を入れ換えませんか?」

男「別にそこまでする必要はないと思うんだけど」

少女「でも、気になるから。双妹さんにもそう言ってきます」

男「ああ、うん」


俺は少女さんを見送り、とりあえず部屋の空気を入れ換えることにした。
雨上がりの生暖かい空気が部屋に入ってきて、春の訪れを予感させる。
そんな季節の移ろいに感じ入りながら外を眺めると、妹友さんの姿が目に入った。
何やら歩道の植え込みが気になるらしく、いろいろな角度でスマホを向けているようだ。
そして今度は街路樹を見上げると、スマホを向けて覗き込んだ。

もしかして、妹友さんには雪吊り萌えの趣味があるのか?

とりあえず、見なかったことにしてあげよう。
俺はそっと窓を閉め、少女さんが戻ってくるのを待つことにした。

604以下、名無しが深夜にお送りします:2018/08/30(木) 00:51:38 ID:FEAzqMNw
おつ

605以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/03(月) 22:34:11 ID:1isJsRnE
(3月6日)sun
〜北倉駅前・バス停〜
みんなで水族館に行く日の朝、俺と双妹は友と合流して北倉駅に向かった。
相変わらずの曇り空と春のような暖かい陽気。
今日は絶好のお出かけ日和だ。


友香「おはようございます」

少女「友香ちゃん、おはよう〜」


待ち合わせ場所に着き、お互いに挨拶を交わす。
そして、友香さんが心配そうな顔で友を見詰めた。


友香「怪我、大丈夫ですか?」

友「腫れは引いてきたし、もう大丈夫。男がいなかったら、今頃は病院送りだったかもしれないけど――」

友香「そうなんだ。やっぱり、悪霊って怖いんですね」

606以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/03(月) 23:16:20 ID:6xTANxTA
双妹「ふと思ったんだけど、今から人が集まる場所に行く訳でしょ。そんなところで憑依霊に取り憑かれたりしたら、大変な騒ぎになるんじゃないかなあ」

友「恐らく、その心配はないと思う」

双妹「どうして?」

友「友香さんには説明していないからもう一度言うけど、憑依霊は欲望や不安、抑圧した気持ちに付け込んで意識を支配して来るんだ。だから、俺たちを排除するつもりなら、俺たちに対して悪意を持っている人に取り憑かなければならないんだ」

双妹「……そうなんだ」

友香「つまり、無い袖は触れないということですね」

友「まあ、そういうことです。最近、英語の授業中に悪目立ちとかしてたし、それがマズかったかなあ」

双妹「じゃあ、みんなは私のことを――」

男「双妹。あんな奴らのこと、もう忘れろよ」


これから遊びに行くのだから、委員長たちに言われたことを思い出す必要はない。
俺は双妹の頭をぽんぽんと叩き、笑顔を向けた。


双妹「うん、そうだね。ありがとう」

607以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/03(月) 23:36:47 ID:6xTANxTA
〜水族館〜
バスに揺られること約1時間、俺たちは海の見える水族館に到着した。
大人4人に特別料金の少女さん。
こういうときは、誰からも見えないのはお得だと思う。

そんな訳で俺たちは悠々と館内に入り、まずは目玉のジンベエザメ館に向かった。
そして建物の中に入ると、巨大水槽で雄大な泳ぎを見せるジンベエザメが迎えてくれた。
一気にテンション上げあげだ!


友「さすがジンベエだな。迫力が違うぜっ!」

男「この圧倒的な存在感、修学旅行で行った水族館に負けてないよな」

友「おうっ、絶対に負けてないっ!」

少女「エイが泳ぐ姿も可愛いよね」

双妹「それ分かる。すごく優雅な泳ぎ方だもんね」

友香「そうそう! 私はあの長い尻尾も可愛いと思うよ」

少女「ジンベエさんが泳いでいて刺さったりしないのかなあ」

友香「ああ……それ、絶対いそう!」

少女「だよね!」

608以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/03(月) 23:46:31 ID:6xTANxTA
ジンベエザメ館を満喫した後、俺たちは別棟の本館に移動した。
そこはテーマごとに水槽が分けられていて、水族館の醍醐味が集約されている場所だ。


双妹「回遊魚が泳いでいる姿を見ていると、何だか落ち着くよね」

男「そうだな。魚たちの洗練された泳ぎを見ていると、それだけで癒されてくるよな」

双妹「そうそう♪」

友「くそうっ! 今はマリンガールの餌付けショーをしてないみたいだ」

男「どうしたんだよ」

友「男も見たいだろ。可愛いマリンガールが餌付けされる姿を!」

男「それ、逆だから!」

友香「はいはい、見られなくて残念でしたね」

友「少女さん、ちょっと水槽の中に入ってみてくれる?」

少女「ええぇっ?! いやですよ。私でオチを付けようとしないでください!」プンスカ

609以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 00:13:05 ID:utajcjjE
友香「そんなことより、あっちに家族連れが集まっている場所があるわよ」

友「ほんとだ。ちょっと行ってみようか」


俺たちは何がいるのか気になり、人の少ない場所から中に入ることにした。
すると、そこには浅い水槽が設置されていた。
どうやら、ウニやヒトデ、イソギンチャクなどに触ることが出来るようだ。


友香「へえ、触れるんだ」

友「ヒトデって、確かひっくり返しても元に起き上がれるんだよな」クルクル

友香「だからって、本当にひっくり返すのは可哀想でしょ」

友「ふれあいコーナーだし、たくさん触って楽しまないと。ほら、可愛いから触ってみなよ」

友香「……あっ、ヒトデって結構しっかりしてるんだ」クルリ

双妹「友香さん、そっちでヤドカリが歩いてる」

友香「ほんとだ。触っても良いのかなあ♪」

610以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 00:22:05 ID:9QACQJ6A
少女「男くん、私たちはあっちの水槽を見に行きませんか?」

男「そうだな。ここは友に任せよう」

少女「見てみてっ。この水槽、魚がいっぱい生えてますよ!」

男「えっと、水族館の不動の人気者。チンアナゴとニシキアナゴだって」

少女「じっとして動かないし、砂の中はどうなっているんだろ」

男「雑草みたいに、ブワァーって根っこが生えていたりして」

少女「ええぇっ、変なことを想像させないでくださいよ〜」

男「少女さん、見てみて。あのニシキアナゴ困った顔してる」

少女「どれどれ?」

男「あの手前に生えてるシマシマ模様のやつ」

少女「ほんとだ、困ってる。きっと根っこが生えてるとか言ったからだよ」クスクス

611以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 00:48:37 ID:lbXl2de2
少女「ねえねえ、あれは何かなあ」

男「クラゲの光ファンタジーだって」

少女「何だか面白そうだし、行ってみようよ♪」


俺は少女さんの要望に応えて、暗闇の中に入って行くことにした。
すると、その奥に幻想的な空間が広がっていた。
円筒形の大水槽やアクアリウム水槽が透明感のある青い光で照らされ、その中をクラゲがふわりふわりと漂っている。
しかもピンクや黄色、緑といった光を当てることでクラゲたちが光り輝き、本当に幻想的な世界に迷い込んでしまったかのようだ。


少女「わあぁ、すごい……」

男「そうだね」


俺は少女さんの手を取り、クラゲたちを見上げた。
そして揺らめく光に包まれ、いつしか心を奪われていた。

612以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:13:58 ID:9QACQJ6A
双妹「やっぱり、ここにいた」

男「ああ、双妹。どうかしたのか?」

双妹「もうすぐ、イルカプールの時間だよ」

少女「わわっ! もうそんな時間なんだ。行くいくっ!」


イルカプールの時間が迫っていると知り、少女さんは慌てた様子で言った。
ここのイルカショーは触れ合い体験も実施しているので、俺もイルカに触るのが楽しみだ。


男「それじゃあ、行こうか」


俺たちは外で待っていた二人と合流し、急ぎ足でイルカの訓練施設に移動した。
そして、インストラクターの同伴でイルカプールに入場した。

613以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:16:56 ID:utajcjjE
イルカ「キューキュー」

少女「いやん、可愛い〜//」

双妹「こっちに来てくれるかなあ」

友香「あっ、こっち見てるよ!」


スイスイ
ザバ〜ンッ・・・


双妹「わわっ、2頭も来てくれた!」

イルカ「キュッ」「キュ〜」

少女「……」

イルカ「キュキュッ」チラリ

少女「……」フワフワ

イルカ「キュゥ」「キューッ」チラッ

614以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:21:39 ID:lbXl2de2
少女「……!」

少女「見えてる! このイルカさんたち、私のことが見えてるよ!!」

友香「イルカには健常者と障がい者を見分ける能力があって、障がい者を助けることが出来るって聞いたことがあるわよ。もしかしたら、それで少女の姿が見えているのかも!」

男「すごいな、イルカって」

友「霊感が人間以上に発達しているのかな」

双妹「多分、幽霊が珍しいんだよ。視線を独り占めだね」

イルカ「キューキュゥッ♪」ピトッ

少女「……?!」

少女「ねえ、みんな手を出してみて」

男「手を?」

少女「いいから、出してみて」

615以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:25:37 ID:lbXl2de2
そう言われて俺たちが手を差し出すと、少女さんはみんなの手を触って回った。
俺と双妹、友に友香さん。
少女さんは幽霊なので、もちろん触ろうとしても手がすり抜ける。


少女「触れるよ! 私、イルカさんに触れるよっ!」ペタペタ

イルカ「キュウッ!」

少女「すご〜い、ツルツルしてる//」

友香「いいな、私も触りたい!」

双妹「ほんとだ、ツルツルしてる〜」

男「何だか、長靴のつま先みたいだな」

双妹「もう、そんなこと言わないでよっ!」

616以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:28:51 ID:utajcjjE
少女「見てみて〜。イルカさんに乗ってみた♪」ふわふわ

イルカ「キュキューッ!」

友香「あはは、何やってるのよ〜」

友香「そうだ! 写真を撮るから、そのままでいてね」

少女「ええっ?! 私は写らないんだけど」

友香「いいのいいの。スマホには少女が写らなくても、私の心には映っているんだから」

少女「……うん、ありがとう」


少女さんがうれしそうに微笑すると、友香さんはスマホを構えた。
こんな状況でも、二人は今を楽しもうとしている。
そして、イルカプールにシャッター音が鳴り響いた。

617以下、名無しが深夜にお送りします:2018/09/04(火) 22:38:04 ID:lbXl2de2
・・・
・・・・・・
イルカプールで盛り上がったあと、俺たちはお昼ご飯を食べることにした。
そしてイルカの訓練施設に戻ってイルカショーに参加し、ペンギンの散歩に同行して、海の生態館でアザラシの泳ぎを堪能した。
友と友香さんを取り持つ作戦が成功したのかどうかは知らないけれど、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
最後に思い出補正付きで集合写真を撮り、俺たちは水族館を後にした。


少女「はあぁ、今日はすごく楽しかった」

友香「少女が水槽にもぐってアザラシに突撃したときは、少しびっくりしたけどね」

少女「だって、触れるかな〜って思ったから」

男「水槽にへばり付かされた俺の身にもなってくれよ」

少女「あはは♪ でも、どうしてイルカさんだけは触ることが出来たんだろ」

友「よく分からないけど、霊波動は波の性質があるから、イルカが出している超音波と干渉したのかもしれない」

少女「ふうん、不思議ですね」


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