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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

446以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/18(月) 19:57:15 ID:R2vYSZjI
友香「それじゃあ、みんな揃ったし、そろそろ行きましょうか」


俺たちは友香さんに付いて歩き、駅舎を出て歩道に出た。
すると、双妹が小声で話しかけてきた。


双妹「ねえ、男。少女さんは大丈夫なの?」

男「どうだろうな。大丈夫だと思いたいけど……」

少女「今日は友香ちゃんもいるし、頑張ります!」


少女さんは威勢よく答えると、ふわふわと俺たちの前に浮かんだ。


双妹「意気込みだけは十分みたいだね」

少女「意気込みだけじゃないですっ」


しかしすぐに少女さんは立ち止まり、俺たちと肩を並べた。
そして、約1.5メートル。
やっぱり、今回も同じだった。

447以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/18(月) 19:58:55 ID:72TLzY7c
双妹「駄目だったね」

少女「すみません」ショボン

男「でも、先週より前に進んでいるだろ。もう少し頑張れるんじゃないか?」

少女「そ……そうですよね!」

男「ぐぬぬぬ――」


全力で右足を踏み出そうとしたが、やはりピクリとも動かない。
それだけ、少女さんの心の闇が深いということだろう。


友香「……あの、どうかしましたか?」


友香さんが歩みを止め、振り返った。
そして歩道の真ん中で立ち往生をしている俺たちを見て、眉をひそめた。

448以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/18(月) 20:01:41 ID:OijKQv2g
男「何て言うか、身体が動かなくて」

友香「身体が動かない?」

双妹「えっと、ほら。好きな人の家に行くのかと思って、それで緊張しているのかも」アセアセ

友香「あ、ああ……なるほど」

男「そ、そうなんだ」

友「……」

友「友香さんに話しておきたいことがあるんだけど、いいかな」

友香「私に?」

友「俺たちは今、少女さんが亡くなった理由を調べているんです。そのことで少し協力してくれませんか」


その言葉に俺は驚いた。
まさか少女さんのことを話すつもりなのか?!
しかし、現状を考えると友香さんの協力が必要なことは間違いないだろう。

449以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/19(火) 19:21:00 ID:SFP9K7sE
友香「亡くなった理由を調べているって、どういうことですか」

友「単刀直入に言って、少女さんを成仏させるためです」

友香「あの、言っていることの意味が分からないんですけど」


友香さんはそう言うと、怪訝そうに友を見据えた。
そして、友が慎重に口を開く。


友「少女さんは今、自分が死んだ理由が分からなくて現世をさまよっています。そんな彼女の魂を救うためには、どうしても友香さんの協力が必要なんです」

友香「こんなときにふざけるのは止めてください!」

男「友香さん、俺たち3人には少女さんの姿が見えているんだ。彼女は今もここにいて、家に帰ることが出来ずに苦しんでいるんです!」

双妹「信じられないかもしれないけど、本当のことなの」

友香「少女が今も苦しんで……いる?」

男「そうです。俺たちではなくて、少女さんに力を貸してあげてください」

450以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/19(火) 19:23:41 ID:54bXVuLU
友香「信じられないけど、その……分かりました。それで私は何をすればいいんですか」

少女「もしよければ、友香ちゃんと話をしたいです」

友「そうだな、そのほうが手っ取り早いもんな。それじゃあ、最初に友香さんも少女さんの姿を見えるようにしたいと思います」

友香「そんなことが出来るの?」

双妹「友くんには霊能力があって、私も見えるようにしてもらっているんです」

友香「霊能力?!」

友「今、日常的に身に着けているアクセサリーを持っていますか?」

友香「持ってないけど、それがないと駄目なんですか」

友「いや、大丈夫です」

友「……少女さん。今回は前と違って霊具を作ることが出来ないから、友香さんの鳩尾に手を添えて意識を集中してくれるかな」

少女「は、はいっ。分かりました」

友「それでは、友香さんは俺が合図を送るまで目を瞑っていてください。次に目を開いたとき、少女さんの姿が見えるようになっているから」

友香「う……うん」

451以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/19(火) 19:27:42 ID:6HF/dohc
友香さんが言われるがままに目を瞑ると、少女さんが歩み寄りそっと友香さんの鳩尾に手を添えた。
そしてその手に、友が御札を重ねる。


友「我の名は友。心の臓より送りたるは幽界の者を見し力。此の者は彼の者を捉え、干渉する力を生み出したるは――」


本人は真剣にやっているのだろうけど、相変わらず胡散臭い。
この中二っぽい呪文はどうにかならないのだろうか。
やがて儀式が終わり、友が少女さんの手から御札を離した。


友「もう目を開けても大丈夫ですよ」

友香「……」

少女「友香ちゃん。私のことが見えていますか」

友香「えっ……うそでしょ。本当に少女なの?!」

少女「そうだよ。たくさん心配掛けてごめんね」

452以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/19(火) 19:31:13 ID:6HF/dohc
友香「どうして? どうして、自殺なんてしちゃったのよお!」

少女「それは――」

友香「つらいことがあるなら、一人で悩まずに相談して欲しかった。だって、私たち親友でしょっ!」


友香さんは気持ちを昂ぶらせ、供花を手にしたまま、悲痛な表情で少女さんを抱き締めようとした。
しかし、その腕は身体をすり抜ける。
そして友香さんはそのまま泣き崩れた。


友香「ううっ、うわあああんっ!」

少女「友香ちゃん、ごめんなさい――」

男「これで良かったのかな」

双妹「これで良かったんだよ、きっと……」

男「……そうだな」

453以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 15:01:01 ID:mpmZxSJY


454以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 19:37:17 ID:gl0cKDkA
やがて気持ちが落ち着いたのか、友香さんがしゃくりあげながら立ち上がった。
そんな彼女に友が説明を始める。
少女さんの姿を見ることが出来る期間や守護霊の力を強めるための御守り。
それらの説明が終わると、友香さんは赤く腫れた目で少女さんを見詰めた。


少女「友香ちゃん。私は私がどうして死んでしまったのか、その理由を知りたいの。だから、私に協力して欲しい」

友香「……ひっく、分か……ってる。私は何を……したらいいの」

友「うさぎのぬいぐるみを調べたいので、少女さんの部屋に案内してほしいです」

友香「少女の……部屋?」

友「少女さんの自殺は意図的なものではなくて、偶発的な事故によるものなんです」

友香「あれが、事故だって言うの?!」

友「その事故原因が分からないせいで、少女さんは家に帰ることが出来ないんです。詳しいことを話すと長くなるので、まずは少女さんの家に行きませんか」

友香「そう……ですね」

455以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 19:39:47 ID:nOyQoMbQ
男「なあ、友。俺たちは少女さんの家に行けないんだけど」

友「行けないものは仕方ないだろ。ちゃんと調べてくるから、後のことは任せてくれ」

友香「あの……どうして男くんは行けないんですか」

友「憑依霊には霊的占有範囲というものがあって、男の霊的中心が少女さんの占有範囲から出られない状態になっているんです」

友香「ふうん、そんなことをしているんだ」

双妹「ねえ、少女さん。このままだと男がお線香をあげられないわよ」

少女「そうなんだけど、やっぱり怖くて……」

双妹「そっか。それじゃあ、仕方ないわね」

456以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 19:42:10 ID:IDe8nIjw
男「友香さん。そういう訳だから、ごめん」

友香「ひとつ聞きたいんですけど、その動けないのって、いわゆる金縛りなんですか?」

男「多分、金縛りとは違うんじゃないかなあ」

双妹「金縛りって言うより、男が無意識に全力で抵抗している感じだよね」

男「もしかしたら、少女さんが運動神経を操作しているのかも」


少女さんは視覚や聴覚、触覚の操作をしている。
それくらい霊的な力が強いのだから、さして驚くほどのことではない。


友香「私に良い考えがあるんだけど」

男「良い考え?」

友香「男くんが自分で動けないなら、誰かに運んでもらえばいいんです」

双妹「それはもう考えたし、押しても引いても駄目でしたよ。さっきも言ったけど、全力で抵抗して来るんです」

友香「だったら、抵抗しても無駄な状況を作ってしまえばいいじゃないですか」

457以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 19:43:41 ID:gl0cKDkA
友香さんはそう言うと、スマホを取り出して何かを調べ始めた。
そして少し距離を取り、どこかに電話を掛ける。


双妹「何をするつもりなんだろ」

男「……さあ」

少女「友香ちゃんのことだから、突拍子もないことだと思うけど――」

双妹「突拍子もないこと?」


そうこう話していると、友香さんが戻ってきた。
何となく、にこやかな表情をしているように見える。


友香「電話で聞いたら、すぐに来てくれるって」

男「来てくれるって、誰がですか」

友香「タクシー」

男「ええっ、タクシー?!」

458以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 20:07:59 ID:IDe8nIjw
双妹「ね……ねえ、本当にタクシーがこっちに来てるよ!」

男「まじかよっ!」

双妹「もしかして、あれに乗って強引に連れて行くってこと?!」

友香「そうですよ。男くんが少女から離れられないなら、少女も男くんから離れることが出来ないはずですよね。私も供花を持って歩くのが大変だから、ちょうどいいかなと思うんです」

友「なるほど。車に乗せるのは盲点だったな」

双妹「ちょっと待ってよ! もし少女さんの留まる力のほうが強かったら、男はどうなるの?!」

男「あ、ああ……確かに」


車の中でぺちゃんこになるとか、魂が身体から抜け落ちるとか。
最悪の場合、そんな状況になるんじゃないのか?!

459以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 20:12:09 ID:R1owHpMY
男「でも少女さんに一歩を踏み出す勇気があるなら、俺は友香さんの提案を試してみたいと思う。少女さんはどうしたい?」

少女「今のままだと、私は何も変われない。だから、死を受け入れるために家に帰りたいです」

男「そうか。じゃあ少女さん、一緒に頑張ろう!」

双妹「男、何を考えているのよ! もし万が一のことがあれば、死ぬかもしれないのよ!」

男「そうかもしれないけど、俺は少女さんを支えてあげたいんだ」

双妹「じゃあ、少女さんは責任を取れるの?」

少女「双妹さんの気持ちは分かります。だけどここで私が頑張らないと、男くんの気持ちに応えることが出来ないと思うんです」

少女「双妹さん、私は前に進みたいんです!」

460以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 20:15:52 ID:IDe8nIjw
双妹「口で言うのは簡単だけど、そもそも少女さんは――」

友「まあ、はっきり言って大丈夫だけどな」

男・双妹「えっ?」

友「男は守護霊を強化しているだろ。最悪の場合、少女さんが弾き出されるだけだから」

双妹「……」

少女「……」

双妹・少女「そういうことは先に言ってよね!!」

友「ご、ごめん」アセアセ

461以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/20(水) 20:19:15 ID:nOyQoMbQ
友香「えっと、タクシーに乗るのは大丈夫ってことで良いんですか?」

双妹「まあ、そうだね」

友香「じゃあ、待たせているから行きましょうか」


そう言われて友香さんが指差したほうを見ると、タクシーが駅前に停車していた。
いつの間にか到着して、俺たちを待っていたらしい。


男「少女さん、頑張ろう!」

少女「はいっ」


俺は少女さんの手を取り、駅前のタクシーへと歩みを進めた。
その足取りは少しぎこちなく、まるで自分の身体ではないかのようだ。
しかし、それは少女さんが勇気を出している証なのだ。

一歩、一歩、また一歩。
前に向かって足を踏み出していく。
そして、ついに少女さんはタクシーに乗ることに成功した。

462以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/21(木) 05:32:57 ID:94L/6ilk


463以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/25(月) 19:59:13 ID:aSBwdqro
〜住宅街〜
駅からタクシーで走ること数分。
さっきまで帰ることが出来なかったのが信じられないほど、簡単に少女さんの家に到着した。
タクシー代はみんなで割り勘にし、車から降りる。
そして、俺は少女さんの様子を確認した。


男「家に着いたけど大丈夫?」

少女「だ……大丈夫です」


その声はわずかに震えていた。
自分が死んだ場所に戻ってきたのだから、もちろん怖いに決まっている。
それでも、少女さんは気丈に振舞って頑張っているのだ。


男「ここまで着たら、もう一息だな」

少女「そうですね」

464以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/25(月) 20:02:11 ID:aSBwdqro
双妹「そういえば、少女さんの家って浮遊霊が集まっているんだっけ」

友香「ええっ、そうなの?!」

友「確かに浮遊霊の集会場みたいになっているけど、そのほとんどは少女さんのことが心配で来ているだけだから特に気にする必要はないと思う」

友香「……ふうん。よく分からないけど、少女は謝っておいたほうが良さそうだね」

少女「そうかもしれないけど、本当に浮遊霊が集まっているんですか?」


少女さんはそう言うと、友に疑いの眼差しを向けた。
どうやら、少女さんには他の浮遊霊の姿が見えないらしい。


友「少女さんは男の守護霊が守っている範囲の中にいるから、他の浮遊霊の姿が見えないんだ」

少女「じゃあ、取り憑くのを止めれば見えるようになるってことですか」

友「そういうことになるね」

少女「ずっと家に帰っていなかったし、怒られたりするのかなあ」

友「それはあり得るかも」

少女「いやだな……」ショボン

465以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/25(月) 20:03:44 ID:aSBwdqro
男「とりあえず、心配をかけているなら早く帰って安心させてあげようよ」

双妹「そうだね。もう2週間近く帰っていないんだし」


ピンポーン♪
ガチャリ


少女「……お母さん、ただいま」

少女母「友香ちゃん、双妹さん、いらっしゃい。中学校の同級生も一緒だと聞いていたけど、男の子だったのね」

少女「……」

友香「……はい、そうなんです」

双妹「私のお兄ちゃんと友くんです」

男「こんにちは、男です」

友「友です」

少女母「みんな、今日はありがとう。どうぞ上がってください」

466以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/26(火) 08:07:18 ID:PfOvCzvE
どうなる

467以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/26(火) 22:37:10 ID:bPt9NxvQ
〜少女さんの家〜
友香さんが供花をおばさんに渡すと、俺たちは仏間に案内された。
仏壇の横に中陰壇が置かれ、遺影や遺骨が安置されている。

少女さんの死が、すぐそこにある――。

月曜日に自分の死を知り、泣き崩れていた少女さん。
死を受け入れるために、勇気を出していた少女さん。

ようやく自分の身体がある場所に戻ってくることが出来て、彼女は一体何を考えているのだろうか。
寡黙に佇んでいる彼女の心境は、生きている俺では推し量ることが出来ない。

そう考えていると、友香さんが仏壇の前に座った。
俺たちもそれに倣い、仏壇と向かい合う。
そして、友香さんがお線香に火をつけるとお香の香りが仏間に広がり、俺たちは静かに手を合わせた。

468以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/26(火) 22:46:21 ID:bPt9NxvQ
少女母「お友達が来てくれて、きっと少女も喜んでいるわね」

少女「……」

友香「そ……そうですよね」

少女母「それじゃあ、みんな。お菓子を用意するから、ぜひ食べていってね」


おばさんはそう言うと、あんころ餅とコーヒーを座卓に並べてくれた。
一口食べると小豆の優しい甘さが口いっぱいに広がり、それがコーヒーのほろ苦さを中和して風味を引き立ててくれている。
小腹を満たして冷えた身体も温まり、とてもほっとさせられた。


男・双妹「ごちそうさまでした」

友香「ごちそうさまでした」

友「なあなあ、友香さん。あの話を――」

友香「えっと……ああ、うん」

469以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/26(火) 22:53:14 ID:bPt9NxvQ
友香「あの、おばさ……」

少女母「そうだ! 男くんって、もしかして柔道部をやってる男くん?」

男「はい、そうですけど」

少女母「やっぱり、そうなんだ。思い出したことがあるから、少し待っててくれるかしら」


おばさんは笑顔を見せると、仏間を出て行った。
そのせいで、友香さんは言葉を切り出すタイミングを逸してしまったようだ。
それからしばらくして、おばさんが戻ってきた。


少女母「少し迷ったのだけど、これを受け取ってくれませんか?」


おばさんはそう言うと俺に向かって座り、小さな箱を差し出してきた。
その箱は四つ葉のクローバーがデザインされた包装紙に包まれていて、緑色のリボンで十字にラッピングされていた。
それはとても温かく、まるで優しい気持ちが伝わってくるかのようだ。

470以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/26(火) 22:56:02 ID:bPt9NxvQ
少女「わああぁぁっ!」

少女「ちょっと、お母さん! みんなの前で、何やっちゃってくれてるのよお!!」アセアセ

友香「あのっ、おばさん。私たち、少女さんの部屋に行っても大丈夫ですか」

少女母「でも、あそこは――」

友香「それは分かっていますけど、私たちがいたら少女さんが恥ずかしいかもしれないし」

少女母「それもそうね。みんなの前で渡したりなんて出来ないわよね」

友香「じゃあ、私たちは少し席を外させていただきます」


友香さんは立ち上がり、仏間を出て行った。
その後を友が付いて行き、双妹が少女さんを一瞥して席を立つ。
どうやら、無事に少女さんの部屋の調査が出来そうだ。

471以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/26(火) 23:07:54 ID:bPt9NxvQ
少女母「これをお渡しする前に、娘の話をしても良いかしら」

男「……はい、ぜひお願いします」

少女母「男くんのことは、よく少女から聞かされていたの。夏の大会で頑張っていたこととか、14日に学校で練習試合があることとか――。他所の学校の生徒なのに、とても熱心に応援していたみたいだわ」

男「そう……なんですね」

少女母「だけど少しつらいことがあって、それでも男くんにチョコレートを渡すんだってすごく照れ臭そうに話してくれたときは、私も応援してあげたい気持ちでいっぱいだったの」

少女母「それなのに、どうしてこんなことになっちゃったのかしらね――」

少女「お母さん……」

男「今週の月曜日、妹と一緒に少女さんのお見舞いに行ったんです。でもそうしたら土曜日に亡くなったと聞いて、すごく驚きました。少女さんはどうして亡くなったのですか」

少女母「あの娘は看護師になるのが夢だったの」

男「それは知っています。小学生のときに入院したことがあって、そのときに看護師に憧れたと話してくれました」

少女母「……」

少女母「ごめんなさい。やっぱり湿っぽい話になってしまうわね」

472以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/26(火) 23:10:27 ID:bPt9NxvQ
少女母「ところで、男くんには好きな人はいるの?」

男「はい」


俺はそう答え、少女さんを一瞥した。
そして、名前を告げる。


男「少女さんのことが好きなんです」

少女「……!」

少女母「男くん、ありがとう――」


おばさんの表情はとても寂しげで、それでいて気恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
もしかすると、お世辞だと思われたのかもしれない。

473以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/26(火) 23:12:46 ID:bPt9NxvQ
少女「男くん」


少女さんが緊張した面持ちでおばさんの隣に座り、俺と向かい合った。
そして、彼女は声を振り絞った。


少女「私もあなたのことが好きです。遅くなってしまったけど、私の気持ちを受け取ってくれませんか」


およそ2週間遅れのバレンタインチョコ。
俺は少女さんの死を肌で感じながら、彼女の気持ちを受け取った。

474以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/27(水) 20:32:28 ID:R/aW0NRI
〜住宅街〜
弔問を済ませ、俺たちは少女さんの家を後にした。
何だか、今はとても複雑な心境だ。

少女さんの死と家族の悲しみ。
おばさんは娘を亡くして、それでもその現実を受け入れようとしていた。
それなのに、俺たちの前には少女さんが当たり前のように立っている。

それは少女さんが成仏をしていないからだ。
きっと、この状況は望ましいことではないのだろう。
俺と少女さんは、いつかは――。


少女「ねえ、友くん。私の部屋を調べて何か分かりましたか?」

友「少なくとも、盗撮カメラが仕掛けられていた痕跡はなかった。マスコミは関係ないと思う」

少女「そうなんですね」

475以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/27(水) 21:22:25 ID:R/aW0NRI
友「それはそうと、男も無事にチョコを貰えたようだな」

男「俺は本命だけど、友は義理じゃないか」

双妹「そうそう。男に絡む余裕があったら、早く彼女を作ったほうがいいんじゃないかなあ」

友「ぐぬぬ……双妹ちゃん、容赦ないな」ショボン

少女「そ、そうだ! 友くんって、意外と友香ちゃんと気が合うかも」

友香「……えっ?」

少女「友くんはすごく親身になってくれるし、良い人だよ。試しに話だけでもしてみたらどうかなあ」

双妹「それは良いアイデアかも!」

友香「ちょっ、え……ええっ?!」

476以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/27(水) 21:23:00 ID:R/aW0NRI
友「それじゃあ、あの喫茶店で少し休んで行きませんか? 少女さんのことで、今までのことを話しておきたいし」


嫌そうな顔をしている友香さんに対して、友は少女さんを誘う口実に使った。
今までのことを話すとなれば容易には断れないし、友香さんが困り切った表情で俺と双妹に視線を向ける。


友香「もちろん、みんなも来てくれるんでしょ?」

男「俺たちが聞いても仕方がないし、雨が降りそうだから帰ります」

少女「友香ちゃん、まずは最初の一歩が肝心だよ!」

友香「えええぇぇっ?!」

友「そこまで嫌そうにされると、さすがの俺もちょっと傷付くかも――」

友香「はあっ、分かりました。少女のこともあるし、話を聞かせてもらうだけですからね」

友「了解。それじゃあ、友香さん。行こうか」

477以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/27(水) 21:25:39 ID:R/aW0NRI
俺たちは駅前で二人と別れ、駅舎へと入っていった。
そして様子を見るために一度振り返ると、友と友香さんがこちらを見ていた。
あの二人は喫茶店に行かずに、俺たちを見送って何をしているのだろう。
俺は疑問に思いつつ、駅舎の中を通り抜けて南側の出入り口から外に出た。


双妹「今頃、友くんたちはいい雰囲気になってるのかなあ」

男「少女さんのことを話すわけだし、楽しい話題にはならないんじゃないか?」

双妹「それもそっか。でももし二人が付き合うことになったとしたら、男もうかうかとしていられないわよ」

男「……は?」

双妹「だって少女さんは幽霊だし、私は絶対に交際を認めないもん」

男「絶対なんだ」

双妹「当たり前でしょ」

478以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/27(水) 21:32:04 ID:R/aW0NRI
少女「でも双妹さん、北倉駅前の図書館で幽霊ものの恋愛小説を借りてきて、最近ずっと読んでいますよね」

男「ふうん、そんな本を読んでいるんだ」

双妹「そうだけど、どうして内容を知ってるの?!」

少女「私、本を読むのが好きなんです」

双妹「べ……別に二人の交際を認めるつもりはないんだからね!」プイッ

少女「ところで、バレンタインチョコの消費期限は大丈夫ですか」


双妹がただのツンデレだと察した少女さんが、チョコレートの話題を切り出してきた。
ここでアピールをしてくるとは、なかなかの策士かもしれない。
俺は通学鞄からチョコレートを取り出して、消費期限を確認した。
すると、それには一度はがして貼りなおした痕跡が残されていた。


男「まだ1ヶ月くらいあるみたい」

少女「そっか、よかった//」

479以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/27(水) 21:37:03 ID:R/aW0NRI
双妹「それはそうと、少女さんはどうしてまだ男に取り憑いているの。チョコは渡したし家にも帰れるようになったんだから、自分の家に帰るべきなんじゃないかなあ」

少女「確かに家に帰れるようにはなったけど、今度は家の中にいるのが嫌なんです」

双妹「もしかして、知らない浮遊霊が集まっているから?」

少女「そうじゃなくて、良くないことが起きるような気がするんです」

双妹「それって、杞憂なんじゃないの? 実際、何も起きなかったし」

少女「でも、もやもやした気持ちは変わっていないんですよね――」

男「家に帰ったとは言っても、自分の部屋には戻っていないだろ。それが関係しているのかも」


少女さんが自殺をしたのは自分の部屋だ。
しかし今日は家に帰っただけで、自分の部屋には戻っていない。
友香さんたちを呼びに行こうとしたけれど、少女さんの行動範囲に縛られて2階に上がることが出来なかったからだ。
気持ちの整理も出来ていなかったし、今回は家に帰れただけでも前進したと考えるべきだろう。

480以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/27(水) 22:29:04 ID:R/aW0NRI
双妹「……そっか。結局、まだ気持ちの整理が出来ていないし、家に帰れただけでも前進したと考えるべきなのかもしれないわね」

男「そうそう、俺もちょうどそう思ってた」

少女「すみません。次は部屋に入れるように頑張ります」

男「まあ、そんなに焦ることはないよ」


俺はそう言い、話題を変えて雑談をすることにした。
しかし会話が盛り上がってきたところで、冷たい雨が降り始めた。


双妹「男は傘を持ってる?」

男「ああ、降りそうだったし持って来てる」


俺はそう言いつつ、傘を差して双妹を入れてあげた。
その一方で、少女さんは幽体の見た目を変えてレインコート姿になっている。
何だか可愛い。
それからしばらくして雨が強くなり、俺たちは足早に家に帰ることにした。

481以下、名無しが深夜にお送りします:2018/06/28(木) 08:59:59 ID:g725WIZs
友はうまく行くといいな

482以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/02(月) 20:52:12 ID:fJyNSwOQ
〜自宅・部屋〜
自宅に着いて部屋に戻ると、俺は暖房をつけて部屋着に着替えた。
そして通学鞄からチョコを取り出し、ミニテーブルの上に置いた。
少女さんは俺の隣で、そわそわと浮いている。


男「じゃあ、いただきます」

少女「……うん//」


俺は若葉のような色のリボンを解き、四つ葉のクローバーがデザインされた包装紙を破った。
すると土色の小箱が出てきて、和チョコというラベルが貼られていた。
中は10個入りのアソートになっていて、5種類の味が楽しめるようだ。


男「抹茶と小豆は分からなくはないけど、醤油ショコラ?!」

少女「試食したんだけど、すごく美味しかったよ」

男「へえ、そうなんだ」


醤油ショコラを手に取り、ぱくっと食べてみた。
噛むと舌の上で溶け、優しい甘さと香ばしい風味が口の中で広がっていく。
奥深い味が絶妙で、今までにない楽しさを感じることが出来る。

483以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/02(月) 20:55:30 ID:DpuvkNLw
男「確かに、すごく美味しいな!」

少女「でしょでしょっ♪」

男「他にもほうじ茶生トリュフと桜チョコがあるのか」

少女「そ……それとね、包装紙にも意味があるんですよ//」

男「包装紙に?」


俺は抹茶チョコを食べ、包装紙を手に取った。
四つ葉のクローバーが描かれているので、幸せとか幸運といった意味だろう。


少女「その4枚の葉っぱにはそれぞれ願いが込められていて、すべて揃って『真実の愛』を表しているんです。そして四つ葉のクローバーにも花言葉があって――」

男「花言葉?」

少女「そのひとつが『ビー・マイン』なんです」

少女「だ……だから、私はその包装紙に包み変えたんですっ//」

484以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/02(月) 20:59:01 ID:.qfiyutw
ビーマイン。
Be mine.

直訳すると、私のものになって――か。

チョコレートは手作りではなくて、市販のものかもしれない。
だけど包装紙を交換し、ちゃんと少女さんの想いが込められている。
俺はそれがすごくうれしかった。


男「少女さん、ありがとう。俺はもう少女さんの彼氏だから!」

少女「……うん//」

男「それで明日、一緒にどこかに行かない? 付き合い始めたのに、まだデートらしいことをしていないだろ」

少女「そうですよね。デートに行きたいです//」

485以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/02(月) 21:02:02 ID:fJyNSwOQ
トントン・・・
ノックの音がして、双妹が入ってきた。


双妹「そろそろいい雰囲気になってる頃かなと思って、邪魔をしに来たわよ」

男「双妹、ちょうど良いところに来てくれたな」

双妹「ちょうど良いところ?」

男「明日少女さんとデートに行くんだけど、お勧めの映画って何かないかな」

双妹「映画デートに行くの?」

男「そうそう」

双妹「それなら、『魔王の命令なんて聞かないんだから!』って映画はどうかな。すごく話題になっているみたいだよ」


俺たちの交際は認めないと言いつつ、素直にお勧めの映画を教えてくれた。
それにしても――。
何だよ、そのラノベみたいなタイトルの映画は。
よく分からないけど、魔王軍を裏切った側近が勇者と共闘するファンタジー映画なのだろう。
それはそれで面白いかもしれない。

486以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/02(月) 21:13:27 ID:DpuvkNLw
少女「双妹さん、それって今日から公開されている映画ですよねえ!」

双妹「うん」

少女「私、すごく楽しみにしていたんです!」

双妹「へえ、そうなんだ」

少女「ねえねえ、男くん。一緒に観に行こうよ」

男「別にいいけど、それって勇者系のファンタジー映画とか?」

少女「もうっ、違いますよ!」

少女「魔王役の外島くんと天使役の知波くんがヒロインを奪い合う、胸きゅんラブストーリーです//」

男「……ふうん、恋愛映画なんだ。それじゃあ、明日はそれを観に行こうか」

少女「やったあ♪」


俺は喜ぶ少女さんを見やり、二人分のオンラインチケットを予約した。
そして映画の話題で盛り上がる少女さんと双妹の話を聞きながら、その後の予定を考えることにした。

487以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/03(火) 03:26:01 ID:ndUWB3TI
おつ

488以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/03(火) 20:30:41 ID:gZXHDvA.
(2月28日)sun
〜映画館〜
雲の隙間から晴れ間が覗く日曜日。
俺と少女さんは電車とシャトルバスに揺られて、ショッピングモールに併設されている映画館にやってきた。


少女「見てみて、今日の上映分はもう満席みたい。予約しておいて良かったね」

男「ああ、やっぱりすごく人気があるんだな。それじゃあ、チケットを発券してくる」


俺はそう言って、券売機を操作した。
後方通路側の座席を2枚。
そこが俺と少女さんの席だ。


少女「あれっ? 私の分の座席も予約していたんですか」

男「隣の人と重なり合うわけには行かないし、落ち着いて観られないだろ」

少女「……そうですよね。男くん、ありがとう」

489以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/03(火) 20:48:41 ID:CHRtutMM
やがて上映時間になり、俺たちは席に着いたのだが……。
観客は若い女性や女子中高生ばかりで、男性は俺だけしかいなかった。
もしかして、俺ってものすごく場違いじゃないのか?!


少女「男くん、いよいよだね♪」

男「あ……ああ、うん」


閉じた状態の座席にふわりと腰をかけている少女さん。
照明が暗くなり、予告編が始まっただけですでに興奮を隠し切れない様子だ。
まあ恋愛映画は主に女性が観るものだし、少女さんが楽しんでくれればいいだろう。
俺は居心地の悪さを感じつつ、スクリーンに目を向けた。

490以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/03(火) 21:08:22 ID:gZXHDvA.
・・・
・・・・・・
映画の上映が終わり、俺たちは表に出た。
最初はどうなることかと思ったけれど、ヒロインを中心とした三角関係が複雑に絡み合っていて面白く観ることが出来た。
とはいえ、女性たちの黄色い声のせいで居心地は良くなかったが――。


少女「はふぅっ// 魔王くん、格好良かったね♪」

男「ヒロインにバイオリンを手ほどきするシーンとか、気障っぽいけどすごく良かったよな」

少女「そこ、面白かったよね。みんなも笑ってたし」

男「でも友達の皐月ちゃん、少し可哀想だったな」

少女「うーん、そうだよね。でも、舞踏会の帰りには気付いていたんじゃないかな。ヒロインのことを疑っている感じだったし」

男「そうだけど、俺はヒロインが告白する前に皐月ちゃんにチャンスを与えてあげるべきだったと思うんだ。皐月ちゃんのほうが先に魔王のことを好きになっていたんだから」

少女「えー、それって嫌味に聞こえない?」

男「そうかなあ。恋愛ものじゃないんだけど、魔法少女もののアニメで三角関係の話があって――」

少女「多分あれのことだと思うけど、それとは状況が違うと思うよ」

491以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/03(火) 21:25:36 ID:gOqLEb4Q
〜ショッピングモール〜
少女さんは意外とアニメに詳しいことが分かり、フードコートでお昼ご飯を食べながらアニメの話に花が咲いた。
しかしふと、少女さんが寂しそうな表情になっていることに気が付いた。


男「どうかしたの?」

少女「えっ、どうして?」

男「ちょっと寂しそうな顔をしているような気がしたから」

少女「……気のせいだよ」ニコッ


少女さんは笑って誤魔化したが、視線は気持ちを訴えていた。
恐らく、一緒にお昼ご飯を食べられないことに心を痛めているのだろう。
このままだと、今日一日、少女さんに寂しい思いをさせてしまうかもしれない。

何かないだろうか。
俺と少女さんが二人で一緒に出来ることは――。

492以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/04(水) 23:56:22 ID:6aUFAEms
アニメの話で盛り上がった後、俺はスマホのゲームアプリの話をした。
そしてその流れで、俺は少女さんをゲームコーナーに連れて行った。
もちろん、考えがあってのことだ。


男「ここに来たら、やっぱり太鼓のベテランだよな!」

少女「ふうん、そうなんだ。私、こういうところに来たことがなくて……」

男「ゲーセンで遊んだことがないんだ」

少女「はい」

男「そっか。太鼓のベテランは音楽に合わせて流れてくるアイコンを太鼓で叩くゲームなんだけど、まずは俺がプロの技を見せてあげるよ」ポチッ

太鼓くん『いよっしゃー! ドンパチかましてやろうぜ!!』

〜♪
ドドドンッドドド・・・
カツカツ、ドドドンドンッ!!

男「ふうっ、ざっとこんなもんかな」

太鼓くん『やるじゃねえか。漢がたぎってくる熱いスピリットを感じたぜ!』

493以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/05(木) 00:15:07 ID:q8BnLock
少女「すご〜い!!」

男「少女さんもやってみる?」

少女「ええっ?! 私じゃあ触れないし無理ですよ」

男「ほらっ、少女さんの家に帰るとき、俺を動けなくしていただろ。それを逆に考えれば、少女さんは俺の身体を操ることが出来るってことになると思うんだ」

少女「でも……」

男「いいから、一緒にやってみようよ。すごく楽しいから」

少女「そう……ですね。やってみます」

太鼓くん『せいやあ! もういっちょ、魂の鼓動を感じて叩いてくれや!!』


開始の太鼓を叩くと曲が流れ始め、俺はまず全身の力を抜いた。
すると何となく身体が熱を帯びてきて、両腕がゆっくりと上がり始めた。
そして自分の身体ではなくなってしまったかのような浮遊感を感じ、俺は少女さんにすべてを委ねることにした。

494以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/05(木) 00:26:18 ID:q8BnLock
〜♪
ドンッパチパチ・・・
ドド・・・ドドドンドドン

少女さんがぎこちない動きで、太鼓くんを叩き続ける。
それはリズム感があるとは、とても言えるようなものではなかった。
しかし、喩えようのない高揚感で心が満たされていく。


太鼓くん『ふははは、遅い遅いぞっ! バーニング太鼓アターーック!!』

少女「はわわっ?!」アセアセ

太鼓くん『くうぅっ、まったく俺の太鼓魂に響いて来やがらねえ! もっと熱い想いをぶつけてみせろや!』

少女「……」

男「どうだった?」

少女「すっごく気持ちいい!!」


少女さんはゲーム画面を見詰めて、目を輝かせた。
そして、真剣な表情で太鼓を叩く真似をする。

495以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/05(木) 00:37:57 ID:zEoPzNnk
少女「男くん、もう一回挑戦させて」

男「じゃあ、リベンジと行こうか」

少女「うんっ!」

太鼓くん『応っ! その言葉を待っていたぜっ!!』


俺の身体を使って、必死に太鼓くんを叩いている少女さん。
コツが分かってきたのか、最初にプレイしたときよりもリズム感が良くなっている。
そんな彼女のプレイ内容に太鼓くんも満更ではなさそうだ。


太鼓くん『ちょっとは腕を上げたようだな。この調子で、もっと俺の熱い太鼓魂を震わせてくれ!!』

少女「ねえねえ。もう一回、太鼓くんを叩きたいっ!」

男「ああ、リズム感が良くなってきたし、太鼓くんが満足するまで叩きまくろう!」

少女「ありがとう。今度こそやるわよっ!」

496以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/09(月) 20:03:13 ID:0rN8DTsU
・・・
・・・・・・
太鼓くんに褒められて満足し、俺たちはゲームコーナーの休憩所に移動した。
そこで火照った身体をクールダウンし、俺は冷たい棒茶を買ってきて喉を潤す。


少女「はあ、すごく楽しかった♪」

男「最後は連打が決まっていたし、初めてにしてはいい感じだったんじゃないかな」

少女「だよね! 太鼓くんも褒めてくれたし」

男「そうだな。少女さんはリズム感があると思う」

少女「そうかなあ//」

男「それで、次はどうする? そろそろ、場所を変えようかなと思うんだけど」

少女「私は男くんが行きたいところでいいです」

男「それじゃあ、ウインドウショッピングをしようか」

少女「うん、そうだね」

497以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/09(月) 20:11:10 ID:Jg7Mnko2
俺たちはレディースファッションが集まる一画に移動し、色んなお店の服を見て回ることにした。
ブランドによって雰囲気が違うので、見ているだけでも面白い。


少女「このブラウスとスカートのコーデ、すごく可愛いと思いませんか?」

男「良いんじゃないかな」

少女「試着してみようかな〜♪」


少女さんはそう言うと、マネキン人形の観察を始めた。
一体、何をするつもりなのだろう。
そう思っていると、少女さんの着ている服がマネキンと同じになった。


少女「えへへ、似合うかなあ//」

男「そっか、少女さんは服を自由に変えられるんだっけ。清楚な感じですごく可愛いよ」

少女「ありがとう。この機会に色んな服を試してみたいな」

498以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/09(月) 20:23:28 ID:zN5oYU6E
少女さんは満面の笑みを浮かべると、最初に着ていたデート服の姿に戻って店の奥に進んでいった。
俺はその後を付いて歩き、約1.5メートルの行動制限に引っ掛からないように気を付ける。
そして、少女さんのファッションショーが始まった。


少女「ねえねえ、今度はそっちのお店に行こうよ」

男「さすがにそこは不味いだろ」

少女「でも、可愛い下着も着てみたいな//」


少女さんは動ける範囲で店内に入り、下着を指差した。
そうだなあ……。
俺も一人のオトコとして、少女さんの下着姿をたくさん見てみたい。


男「まあ、少女さんがそこまで言うなら仕方ないな」

少女「ふふっ、ありがとう//」

499以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/09(月) 21:19:37 ID:Jg7Mnko2
下心に負けてランジェリーショップに入ったものの、女性客の視線を感じて居心地が悪くなってきた。
こういう感覚は双妹の買い物に付き合ったりして慣れてはいるけれど、今回は少女さんと来ているので俺が一人で物色しているかのように見えている。
それを考えると、さすがに今日は少し気まずい。


少女「このランジェリー、すごくセクシーだね」

男「ああ、うん」

少女「男くんだったら、私にどれを着て欲しいですか?」


俺はそう言われ、いくつか見比べてみた。
店頭にあったような可愛い下着やセクシーなランジェリー。
それを着ている少女さんの姿を妄想し、はやる気持ちを隠しながら実際に手に取ってみる。

500以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/09(月) 21:25:39 ID:Jg7Mnko2
店員「お客様、何かお探しですか?」

男「うわあっ! びっくりした……」

店員「本日は何かお探しですか?」

男「えっと、彼女に似合うものをと思いまして――」


俺はそう言って、女性店員に苦笑いを返した。
すると女性店員は怪訝そうな顔になり、俺が持っているピンク色のベビードールとブラ&ショーツに目を向けた。

ヤバい……。
これは事案発生か?!

501以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/09(月) 21:51:18 ID:Jg7Mnko2
店員「もしかして、恋人へのプレゼントですか」

男「えっと、そうなんです」

店員「それでしたら、サイズ等はご存知でしょうか」

男「バストサイズですか?」


俺は少女さんに目を向け、水着姿を思い浮かべた。
身長は150センチくらいで、小柄な体型。
胸もかなり小さくて、お皿を伏せたような扁平な形をしている。
きっと、Aカップかそれ以下のサイズだと思う。
そう考えていると、少女さんが恥ずかしそうな顔でねめつけてきた。


少女「それは禁則事項です!」アセアセ

男「……すみません。詳しいサイズはちょっと」

店員「それでは仕方ありませんね。ブラジャーは採寸をしたほうが良いですし、今度はお連れの方とご来店ください」

502以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/09(月) 21:53:44 ID:zN5oYU6E
男「……はあ、体よく追い出された感じだな」

少女「そうですね」

男「少女さんが教えてくれたら、もう少しいられたのにな」

少女「だって、胸がないから恥ずかしいんだもん。ちなみに、さっきのランジェリーが男くんのお気に入りなんですか?」

男「それはその……着たところを見てみたいと思った」

少女「ふふっ、男くんのえっち//」

男「それでどうする? まだ服を見て回る?」

少女「それじゃあ、今度は男くんの服をコーディネートしませんか」

男「うん、そうだな」


そう決まり、俺たちは紳士服ブランドのお店を見て回ることにした。
そして、時刻は15時。
俺たちはシャトルバスに乗り、暗くなる前に家に帰ることにした。

503以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/10(火) 19:37:44 ID:2q.P4Vdo
〜電車内〜
シャトルバスが終点に着き、俺たちは電車に乗換えて二人がけの椅子に座った。
周りに乗客はほとんどいないけれど、念のために少女さんが窓側で俺が通路側だ。
そして流れ行く景色を眺める振りをしながら、少女さんの横顔を見詰める。
するとそれに気付いた少女さんが、にこりと微笑んだ。


少女「今日はありがとう。すごく楽しかったです//」

男「俺もすごく楽しかったよ」

少女「今日観た映画ね、年末にドラマが放送されてずっと楽しみにしていたの」

男「へえ、そうだったんだ」

少女「魔王くんってオラオラ系で強引なんだけど、実は誠実でシャイな一面があるんだよね。それがすごく可愛くて、いいなあって感じで――」

504以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/10(火) 19:39:00 ID:2q.P4Vdo
男「少女さんって、そういう男性がタイプなんだ」

少女「うーん、それはどうだろ。映画だから見ていて楽しいけど、現実にそういう男子に迫られるのは苦手かも」

男「要するに、適度にリードして欲しいってことか」

少女「そういうことかなあ。もしかしてやきもち妬いてた?」

男「そ、そんなんじゃないし!」

少女「だけどよく考えてみたら、男くんも強引なところがあるよね。私に告白してくれたとき、すごく嬉しかったよ//」


少女さんはそう言うと、俺の左手に触れた。
そして、真っ直ぐな視線を俺に向ける。

505以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/10(火) 19:41:44 ID:mwMzLOBA
男「……」

少女「……」


お互いの視線が交錯し、無言で向かい合う。
これって、そういうこと――だよな。

だけど、どうすればいいのだろう。

俺は混乱した頭で、映画のキスシーンを思い出した。
しかし、強引に奪うようなキスは出来ない。

緊張で心臓が早鐘を鳴らし、呼吸が荒くなる。
もう、少女さんのことしか考えることが出来ない。
俺は身体がすり抜けないように、出来る限りゆっくりと。
そして、優しく唇を重ねた。

506以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/10(火) 19:52:04 ID:2q.P4Vdo
少女「……初めてのキスが電車の中だなんて//」

男「えっ、ああ……でも景色が綺麗だよ」

少女「そんなことを言われても、ロマンチックな気分にはなれないです!」

男「少女さん、拗ねた顔も可愛い」

少女「も……もうっ、誤魔化さないでくださいよ//」


口ではそう言っているけれど、キスが出来た時点で少女さんがそれを望んでいたということになる。
それなのに、少し拗ねている少女さん。
そんな彼女が可愛くて仕方がない。


男「今日は本当に最高の一日だよ//」

少女「そうだね。ずっとこうしていられたらいいのに――」


少女さんは面映げに言うと、俺に肩を寄せてきた。
だけどその言葉には、少し憂いが含まれているような気がして……。
だから俺は、その不安を打ち消すかのように少女さんの肩に腕を回した。

507以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/11(水) 19:43:23 ID:EbVWVUIs
おつ

508以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/11(水) 21:13:49 ID:QOsTCYiI
〜自宅〜
男「ただいま」

少女「……お邪魔します//」

母親「あら、お帰りなさい」


家に帰ると、わざわざ母さんがキッチンから出てきて俺を迎えてくれた。
何か良いことがあったらしく、とてもニコニコしている。
早く話したくて仕方がない、ということだろう。


母親「男、聞いたわよ〜」

男「聞いたって何を?」

母親「今日はデートだったんでしょ。男も隅に置けないわねえ」ニヤニヤ

男「んなっ?! どうしてそれを知ってるんだよ!」

母親「ふっふっふ、お母さんの情報ネットワークをあまく見ないことね!」

男「いやいや。普通に考えて、双妹が話しただけじゃないか」

509以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/11(水) 21:19:24 ID:ioQXOjlU
母親「それでどうなの」

男「どうって、何がだよ」

母親「もうキスまでしちゃったの?」

男「べ……別にそれくらいしても良いだろ」アセアセ

母親「ふうん、男も隅に置けないわねえ。でも、無責任なことはしちゃ駄目よ。大丈夫だと思うけど、もしものときは避妊をするのが最低限の優しさなんだからね」

男「わ……分かってるって!」

少女「……」

母親「はあっ、早くお父さんが帰って来てくれないかしら〜//」

男「この流れでそういうことを言うなよ……」

母親「うふふ〜♪ お母さんだって、お父さんとデートをしたいんだもん//」

男「可愛く言っても一緒だし。それじゃあ俺、部屋に戻るから」

母親「もうっ、男はノリが悪いわねえ」プンスカ

510以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/11(水) 21:21:49 ID:b5GriCkw
〜部屋〜
母さんから解放されて、俺たちはどうにか部屋に戻ってきた。
しかし今の話をした後に少女さんと二人きりになるのは、性的なことを想像してしまって微妙に気まずい。
そのせいで沈黙と緊張が張り詰め、部屋に重たい空気が漂っている。

だからといって、このまま黙り込んでいる訳には行かない。
俺は状況を打破するために、意を決して少女さんと向かい合った。


男「えっと……少女さん」

少女「……! は、はいっ」

男「その、さっきは母さんが変なことを言ってごめん」

少女「え……ああ、そんなこと全然ないです。逆に避妊するように教えていることを知って、すごく感心しました。いいお母さんですよね」

男「そうかなあ」

少女「私はそう思います。だけど、私たちには必要のない物……ですね」

511以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/11(水) 21:59:06 ID:ioQXOjlU
男「それって、この前の話?」

少女「……はい」

少女「私には身体がないから、男くんを包み込んであげることが出来ないんです。だから好きな人と離れ離れになって愛し合うことが出来ないお母さんの気持ち、分かるような気がします」

少女「やっぱり、それを思うと寂しいです」

男「寂しい……か」

少女「べ、別に変な意味じゃないんだけど、触れ合うことが出来ないことは私にとって存在を否定されていることと同じなんです」


少女さんは顔を伏せ、力なく言った。
確かにそう言われると、俺と少女さんは本当の意味で触れ合うことが出来ない。
あくまでも、少女さんに触れていると錯覚しているだけに過ぎない。

512以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/11(水) 22:09:39 ID:ioQXOjlU
男「それはそうかもしれないけど、俺は今日、少女さんと一緒にデートをしてすごく楽しかった。キスをしたときはドキドキしたし、もっと少女さんのことを知りたいと思った」

男「こうして色んなことが出来るのに、もし触れ合うことだけが出来ないのだとしたら、それは少女さんが本音ではまだ望んでいないからってことになるんじゃないかな」

少女「……」

男「今は出来ないことがあるかもしれないけど、一緒にそれを乗り越えて出来ることを増やしていこうよ」

少女「私ね、ずっと思っていたことがあるんです。私がここに存在していることを知ってもらいたい。そして、男くんに気持ちを伝えたい――って」

少女「だけど、いつの間にかそれに執着していたのかもしれません。だから、これからは思いやりの気持ちを忘れないようにしたいです」

男「思いやりの気持ち?」

少女「はい。今までは自分の気持ちに囚われていて、あまり男くんの気持ちを考えていなかったような気がするから――」


少女さんはそう言うと、爽やかな笑みを浮かべた。
それはまるで、真冬の空に広がった青空のようだった。

513以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/12(木) 20:25:39 ID:MKIvZ/Lo
〜双妹さんの部屋・少女さん〜
午後11時になり、私は双妹さんの部屋に移動することにした。
いつもと同じように洋服ダンスの中から声を掛けて、返事を待つ。


少女「双妹さん、入りますよ」

双妹「どうぞ」

少女「お邪魔します」


部屋に入ると、双妹さんは抱き枕をクッション代わりにして小説を読んでいた。
私も読んだことがある幽霊ものの恋愛小説だ。
その内容を思い返しながら二段ベッドに歩み寄ると、双妹さんが意外そうな顔で話しかけてきた。

514以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/12(木) 20:33:17 ID:siarMGH.
双妹「ふうん、ちゃんと時間通りに来るんだ。てっきり、今日は来ないのかと思ってた」

少女「そう言われても、これが私たちのルールだし」

双妹「そうだけど、今日はデートだった訳だし遅くなるのは仕方ないかなって考えていたから」

少女「じゃあ、今から戻ってもいいですか?」

双妹「だめに決まってるでしょ!」

少女「……ですよね。ところで、今日は違う本を読んでいるんですね」

双妹「ええ、読み終わったから新しいやつ」

少女「それも幽霊ものの恋愛小説ってことは、やっぱり私のことを認めるつもりはないんですか」

双妹「まあ、それもあるけど、ちょっと気になることがあって――」

515以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/12(木) 20:36:53 ID:siarMGH.
少女「気になること?」

双妹「少女さんって、いつかは成仏するんでしょ」

少女「そう……ですね」

双妹「それって、この世からいなくなるってことだよねえ。それじゃあ、そのあと男の気持ちはどうなるの?」

少女「それは……」

双妹「もちろん、少女さんに未練があることは分かってるよ。だけど男のことが好きなら、自分が幽霊だということを受け入れて後腐れなく別れて欲しいです。だって、男には未来があるんだから」


男くんと後腐れなく別れる――。
少し険悪な雰囲気になったときもあったけど、今日はとても幸せな一日だった。
だから、これからも男くんと良い関係を築きたいと思っていた。
それなのに、そんなことを考えながら交際しないといけないの?

だけど、私はすでに死んでいる。
男くんの将来を考えるなら、お互いに納得して綺麗に成仏しなければならないのだ。

516以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/12(木) 20:53:44 ID:H.SeLBNA
双妹「ごめんね、嫌な気持ちにさせて……」

少女「ううん、大丈夫です」

双妹「えっ?」

少女「指摘してくれないと、たぶん気付かなかったと思うから」

双妹「そっか――」


双妹さんは申し訳なさそうに言うと、読んでいた小説に視線を戻した。
その小説のラストは、生まれ変わったヒロインが16歳になったときに主人公と再会して結ばれる、というものだ。
私と男くんにも、そんなハッピーエンドが用意されていればいいのに――。
私はあまい夢想をしながら、二段ベッドの上段に移動した。

517以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/14(土) 10:06:11 ID:UlyGvnco
おつ

518以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 22:47:09 ID:2iqxfLtM
(2月29日)mon
〜学校・HR〜
うるう年の2月最終日。
今日は朝から激しい雨が降っていて、相変わらずの空模様だ。
週末は暖かくなるみたいだけど、しばらくは寒い日が続くらしい。


男「友、うっす!」

友「うっす! 双妹ちゃん少女さん、おはよう」

双妹・少女「おはよう」

友「ひとつ聞きたいんだけど、男は少女さんとデートに行ったりしてるのか?」

少女「デ……デートですか//」


少女さんは友の言葉を反芻し、恥ずかしそうに顔を赤らめた。
もう、その反応を見ただけでバレバレだ。

519以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 22:49:31 ID:Dlf32XH6
男「まあ、行ったりしてるかな」

友「マジかよっ! このリア充めっ!!」


友はそう言うと、シャドーボクシングを繰り出した。
友なりに祝福してくれているのだろうけど、オーバーリアクションで何だか気恥ずかしい。


男「分かったから、やめてくれよ」アセアセ

友「ははは、これくらいで勘弁しておいてやるよ」

双妹「ちなみに、友くんは友香さんとどうなったの?」

友「俺は少女さんのことで話をしただけだし」

双妹「ふうん……」

少女「デートに誘ったりとか、そういう話はしなかったんですか」

友「そういう話はしてないけど、少女さんを水族館に誘ってあげようって話にはなったかな」

双妹「へえ、そうなんだ〜」

520以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 22:53:16 ID:mqo.3q7k
友「それで今度の土曜日なんだけど、男と双妹ちゃんの予定は空いてる?」

双妹「あー、ごめん。その日は妹友ちゃんと映画を観に行く約束をしてるんだよね」

男「俺も部活があるから、土曜日は無理だ」

友「そっか、日曜日なら大丈夫かな」

双妹「その日なら大丈夫だよ」

男「ああ、俺も大丈夫」

少女「私はもちろん大丈夫ですっ!」

友「じゃあ、友香さんに日曜日ってことで伝えておくから」

男「分かった、日曜日な。ところでさあ、連絡し合えるようになってるってことは脈ありなんじゃないのか?」

友「そうかなあ」

男「どうやら、俺たちが取り持ってやらないといけないみたいだな」

友「え……いや、別にいいって」アセアセ

少女「ふふっ、そんなことを言わずに頑張ってね♪」

521以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 23:01:42 ID:mqo.3q7k
〜学校・お昼休み〜
お昼休みになり少女さんと話をしていると、友が奇行に走っている姿が目に入ってきた。
何もない空中にパンチを繰り出し、さらに教室の隅に何かの印を書いている。
はっきり言って、訳が分からない。
そんな友の姿を眺めていると、ついにクラス委員長が重たい腰を上げた。


委員長「友くん!」

友「ああ、委員長さん。何か用?」

委員長「何か用じゃないでしょ。教室に変な落書きをしないでくれませんか」

友「うるう年は霊的な力が強くなって悪い霊が活発になりやすいんだ」

委員長「悪い霊?」

友「ああ、結構いるんだ」

委員長「友くんがオカルト好きなのは勝手だけど、教室はみんなで使っている場所なんです。こういう事はしないでください。この前、英語の授業を妨害して怒られたばっかりですよねえ」

友「くそっ、仕方ないな。別の方法を考えるか……」

522以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/17(火) 23:07:26 ID:mqo.3q7k
男「なあ、友。一体、何やってるんだよ」

友「んっ、ああ……ちょっとな」


助け舟を出そうとして声を掛けると、友は歯切れの悪い口調で言葉を濁した。
何か言いにくいことでもあるのだろうか。


委員長「男くん、ちょうどいいところに。今から消すので手伝ってください」

男「でもさっき、悪い霊がどうとか言ってただろ」

少女「そうですよね」

委員長「先週、あなたも授業中に騒いでいましたよねえ。同じ理由で怒られる前に、ちゃんと消しておいたほうがいいと思いますよ」

友「男、悪いな。そういうことだ。俺たちが消し終わるまで少し待っててくれ」

男「俺も手伝うよ」

友「……すまん、サンキューな」

523以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 20:10:32 ID:i7AUTSV.


524以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 20:49:07 ID:ar9pOgio
10分ほどで教室に書いた印を消し終わり、俺は友から事情を聞くことにした。
悪い霊がどうとか言っていたし、友の奇行には何か理由があるはずだ。


友「単刀直入に言って、低級霊が少女さんのことを連れて帰ろうとしているみたいなんだ」

少女「私のことを?!」

男「……そっか、そうなのか」

少女「やっぱり家に帰らないといけないですよね……」

友「それはそうなんだけど、問題は神霊ではなくて低級霊が来たってことだ」

男「どういうことだよ」

友「低級霊は四十九日を過ぎても現世に留まっている悪霊だから、関わると碌なことがないんだ。もしかすると、少女さんを引き込もうとしているのかもしれない」

男「少女さんを引き込む!?」

友「ああ。やつらに目を付けられた以上、何か良くないことが起きるのは間違いないだろう」

525以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 20:53:55 ID:Kmw.1DYk
少女「良くないことって、何が起きるんですか?」

友「それは分からないけど、少女さんは男に憑依している状態だし、今は守護霊に護られているから大丈夫だと思う」

少女「そうなんですね」

男「少女さんがいつも『家に帰ると良くないことが起きる』と言っていたけど、それはこのことだったのか」

友「たぶん関係があるだろうな。実はうさぎのぬいぐるみに霊的残留物質が残されていたんだ」

男「霊的残留物質?」

友「霊的な痕跡のことだ。少女さんの家には浮遊霊や低級霊が集まっていたから、その痕跡がいつ付いたものなのかは判然としないんだけど――」

男「判然としないんだけど?」

友「とりあえず、今はそれを調べようと思ってる」

友「それと少女さんの家にお線香をあげに行った帰りなんだけど、結構な数の低級霊が俺たちの後を付けて来ていたんだ。尾行されないようにすぐ除霊してやったんだけど、制服を着ていたから学校がバレたんだろうな」

少女「全然気が付かなかった……」

526以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 20:56:05 ID:MmqSf0QE
友「そんな訳だから、男にこれを渡しておくよ」


友は学生服のポケットに手を入れると、手袋を取り出した。
以前、少女さんが苦しんでいたときに使っていたものだ。


男「これで触れば、興奮した霊を鎮めることが出来るんだっけ」

友「あのときよりも強力な霊具に作り変えておいたから、低級霊に触れば男でも除霊することが出来るはずだ」

男「すげーじゃん!!」

友「まあ、少女さんクラスの力を持っている怨霊が相手になると、動きを抑えるだけで精一杯なんだけどな。少女さんに触らない限り悪影響はないから、いざってときに使ってくれ」

少女「でも、私と男くんは低級霊の姿が見えないですよ」

友「いざってときは、少女さんなら姿を見ることが出来るはずだ。もしそのときが来たら、男の脳みそを弄くればいいと思う」

少女「なるほどっ!」

男「お前ら、さらっと怖いことを言うなよ」

527以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/18(水) 21:00:08 ID:ar9pOgio
友「それはまあ冗談として、今日から俺も電車で帰ろうと思ってる」

男「友は自転車通学だろ」

友「そうだけど、低級霊が少女さんを引き込もうとしているなら、次の狙いは男の家のはずだ。だから、もし最寄り駅に低級霊がいたら除霊しておきたいんだ」

男「だったら、教室に書こうとしていた結界を俺の家に書いてくれたらいいじゃないか」

友「それが出来れば良いんだけど、俺がその中にいなければ発動しないんだ。今は地道な除霊が一番だと思う」

男「そっか、そう都合の良い話はないよな」

少女「でも除霊をしているだけで、根本的な解決になるんですか?」

友「ならないけど、それ以外に方法はないし。とりあえず、春休みになるまでが勝負だ」

少女「……そうですね」

528以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/19(木) 18:12:36 ID:M9QU2jSU
おつ

529以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:00:53 ID:b35c6lEs
男「ところで、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

友「何を?」

男「やっぱり四十九日を過ぎても現世に留まり続けることは、良くないことなのか?」

友「以前も話したと思うけど、霊波動は波だからお互いに干渉する性質があるんだ。そのせいで幽体が劣化して、霊波動の波源である魂をも傷付けてしまうことになる。そうなると悪霊や怨霊になってしまうだけではなくて、魂も壊れて消えてしまうんだ」

男・少女「ええっ?!」

友「少女さんは幽体が少ないから、霊的な力が強い代わりに霊波動の影響も受けやすくて……。仮に四十九日を越えてしまった場合、浮遊霊としての寿命はとても短いものになると思う」

少女「私は寿命が短い?」

男「やっぱり、四十九日を越えることは出来ないのか」

友「そう考えておいたほうがいいだろうな。離脱日基準で4月1日が少女さんのタイムリミットだ」

530以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:23:26 ID:yXtLAfo2
少女「じゃ……じゃあ、生まれ変わりってあるんですか!」

友「生まれ変わり?」

少女「小説だと、成仏をしたヒロインが美少女に生まれ変わって、主人公と結ばれたりするストーリーがよくありますよね」

友「確かによくある話だけど、仏教の最終的な目的は六道輪廻から解脱して極楽浄土に往生して成仏することなんだ。だから、成仏をしたヒロインが人間界で生まれ変わる話は破綻していると思う」

少女「つまり、生まれ変わることは……ない?」

友「ああ。期待するような返事ではないと思うけど、少女さんは成仏をするか魂が壊れて消えてしまうか、そのどちらかしかないんだ」

少女「そっか、そうなんだ……」

男「……」

531以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:25:41 ID:b35c6lEs
〜自宅・部屋〜
低級霊が少女さんを道連れにしようとしていること。
そして少女さんの寿命は短く、生まれ変わる可能性もないこと。
それらのことがずっと頭の中で引っ掛かっている。

俺は小さくため息をつき、手袋を棚の上に置いた。
少女さんにとって幸せな結末は、やはり成仏しかないのだろうか――。


男「……少女さん」

少女「何ですか?」

男「ずっと考えていたんだけど、友の言っていたことは本当なのかな」

少女「私は友くんのことを信用しています」

男「でも仏教以外にキリスト教とかイスラム教があって、それぞれ考え方がまったく違うだろ。だから、友が絶対に正しいとは言えないんじゃないかな」

532以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:30:08 ID:b35c6lEs
少女「もしかして、友くんのことを疑っているんですか?」

男「そうじゃなくて、ずっと一緒にいられる方法を探してみようって言ってるんだ」

少女「……」

少女「ねえ、男くん。幽霊の私には身体がありません。それなのにどうやって物事を考えたり、記憶したりしていると思いますか」

男「えっ?」

少女「私は魂が大脳の代わりをしているんだと思います」

男「何が言いたいんだよ」

少女「生きている人と同じように外部からの刺激に対して反応を返すことが出来るということは、何らかのエネルギーを消費して変化し続けているということなんです。つまり、魂が老化して壊れてしまうことは避けられないんです」

男「そんなことを言うなよっ!」

少女「私も今日、ずっと考えていたの!」

少女「魂が壊れて消えてしまうなら、私は一日一日を大切に過ごしたい。そして、そうなる前に笑顔で送ってもらいたい!」

533以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/23(月) 22:48:35 ID:/5BcffAk
男「本当にそれしかないのかな」

少女「仕方ないよ。だって、私は死んでいるんだもん――」

男「そう……だよな。少女さん、分かったよ」

少女「……」

男「4月1日に笑顔で成仏できるように、今を大切にして過ごしていこう」

少女「……うん」


俺たちは無言で向かい合い、唇を重ねた。
そして、お互いに気持ちを確かめ合う。

あと1ヶ月。
それまでに少女さんの自殺の偶発性を解明し、未練を叶えなければならない。
そして、俺は彼女を笑顔で送ってあげるんだ――。

534以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/24(火) 20:13:14 ID:TCuFI97Y
おつ

535以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/25(水) 23:31:25 ID:2CiAKuZM
(3月1日)tue
〜最寄り駅〜
今朝は厳しい冷え込みになり、昨日から降り続いている雨が雪に変わっていた。
積もるほどではなさそうだけど、歩道が凍結していて歩きにくい。
そんな悪路を友が平然と自転車で走ってきた。


友「うっす!」

男「うっす!」

双妹・少女「友くん、おはよう」

友「おはよう。じゃあ俺、自転車停めてくる」


駐輪所に行った友が戻ってくるのを待ち、駅舎に入る。
そして、俺たちは待合室で暖を取ることにした。

536以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/25(水) 23:34:18 ID:M.U88byo
友「……思ったよりいなかったな」

少女「いなかったって、低級霊のことですか」

友「ああ。式神に構内を探査させながら除霊していたんだけど、数えるほどしかいなかった」

少女「構内にいるってことは、私のことを待ち伏せしていたってことですよね」

友「そうだと思う」

少女「嫌だな……」

双妹「ふと思ったんだけど、その式神っていうのをボディーガードにすることは出来ないの?」

友「それが出来れば良いんだけど、俺がいないと使役することが出来ないから、ボディーガードにするのは無理だと思う」

双妹「ふうん、そうなんだ」


俺は3人のやり取りを聞きつつ、最寄り駅で待ち伏せされていたことが気になった。
もしかすると、すでにここが特定されているのかもしれない。

537以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/25(水) 23:38:23 ID:2CiAKuZM
男「なあ、友。待ち伏せされていたってことは、ここが特定されたんじゃないのか?」

友「いや、それはないと思う。昨日は学校前の駅に少しいただけだったからな」

男「それって、登下校の手段が電車だとバレたことになるだろ。それでもし、今朝はこの周辺のすべての駅で待ち伏せをしていたとしたらどうなると思う」

少女「どうなるんですか?」

男「相手からしてみれば学校前の駅とこの駅で待ち伏せしていた低級霊だけが除霊されたことになるから、俺たちがその2つの駅を利用したことが分かるんだ」

少女「そっか、そうですよね!」


最寄り駅を特定された以上、もし低級霊たちにすべての交差点で待ち伏せをされたとしたら、あっという間に家も特定されてしまうことになる。
そうでなくても、俺たちには低級霊の姿が見えないのだ。
少女さんが姿を消して俺の家まで付いて来たことがあったように、俺たちだけならば簡単に尾行することが出来るだろう。

538以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/25(水) 23:45:10 ID:VgsMjpSk
友「でもそうだとすると、低級霊の意思が統率されていることになるだろ。あいつらが組織だって動けるとは思えないんだけど」

男「だったら、リーダー格の上級霊がいるってことになるんじゃないのか」

友「リーダー格の上級霊ねえ……。もしそんな悪霊がいるならそいつを除霊してしまえば解決することになるけど、それは幽霊探知機の修理が終わってからの話だな」

男「あのアプリのことか。それって、いつ直るんだ?」

友「まだ分からないけど、今月の中旬には帰ってくると思う。とりあえず、男と双妹ちゃんは守護霊を強化しているから手出しを出来ないはずだし、こちらから攻勢に出るのはその後でも大丈夫だと思う」

男「本当にそれで大丈夫なのかな」

友「大丈夫だって。待ち伏せが心配なら、毎日違う道を通ればいいだけの話だろ」

男「それはそうなんだけど」

双妹「とりあえず、今日も友くんと一緒に帰らないといけないのなら、私は男の部活が終わるまで待ってるから。たまには見学に行ってもいいよねえ」

男「ああ、構わないぞ」

双妹「やったあ♪」

少女「……」

539以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 06:35:45 ID:fGBNzRrQ
おつ

540以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 21:59:59 ID:p8OuJiEc
〜学校・お昼休み〜
午前中の授業が終わり、待望のお昼休みになった。
そしてお弁当を食べようとすると、珍しく双妹が俺の席にやってきた。


双妹「ねえ、一緒に食べようよ」

男「いいけど、妹友さんは?」

双妹「インフルエンザなんだって」

男「ええっ、そうなんだ。昨日から天気が悪いし、寒い日が続いているもんな。妹友さんは大丈夫なのか?」

双妹「大丈夫ってことはないだろうし、今週は学校を休むんじゃないかな」

男「まあ、そうなるよな」

少女「まだインフルエンザが流行っているなら、気を付けないといけないですね」

双妹「うん、そうだね」

541以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 22:51:19 ID:p8OuJiEc
男「ところでさあ、友って何かを隠しているように感じないか」


俺はお弁当を食べつつ、友の席を見やった。
それに合わせて、双妹も友の席に目を向ける。


双妹「隠すって、何を?」

男「昨日、友が言っていたことだけど、うさぎのぬいぐるみの霊的な痕跡と低級霊の付き纏い行為には何らかの関係があるはずなんだ。それなのに、友は上級霊の存在に懐疑的だっただろ」

少女「言われてみれば、確かに……」

男「友は何かを知っていて、俺たちに隠しているんじゃないかなあ」

双妹「ねえ、男。あ〜んして、あ〜ん♪」


双妹は唐揚げを挟むと、臆面もなく俺の口元に持ってきた。
いやいや、さすがに学校でそれはおかしいだろ。
しかし、双妹はにこりとした表情のまま引き下がろうとしてくれない。
つまり、俺の口を塞ぎたいということか。

542以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 23:00:18 ID:4yuM3riY
男「もしかして、双妹も何か知っているのか?」

双妹「……」

双妹「やっぱり、私たちに隠し事は出来ないわね。じゃあ、あ〜んして♪」

男「みんなが見てるぞ」

双妹「私たちが特別な双子だってことは、みんなも知っているでしょ。好きなように言わせておけば良いし、もう気にすることなんて何もないよ」

男「はあ、仕方ないな」

ぱくりっ
もぐもぐ・・・

双妹「ふふっ// 少女さんは男とこういうこと、出来ないよね♪」

少女「むぅっ……」

男「ほれはいいはら、はやく教えろよ」

双妹「えっとね、少女さんの部屋を調べたときに聞いたんだけど、友くんは何も教えてくれなかったの。慎重にならないといけないことだからって」

男「それじゃあ、双妹も詳しいことは知らないってことか」

双妹「まあ、そういうことになるかなあ」

543以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/26(木) 23:06:10 ID:5nd0HRZc
男「やっぱり、友に問いただすしかなさそうだな」

双妹「はい、あ〜んして//」


今度はプチトマトを指で摘んで持ってきた。
少女さんやクラスのみんなが見ているし、さすがにそれはレベルが高すぎるぞ。


双妹「冗談だって、冗談」パクッ

双妹「私もね、友くんの話を完全に信じているわけじゃないの。だって、低級霊がいるとか言われても見えないんだもん」

男「まあな」

双妹「でも、少女さんがいるのは本当のことでしょ」

少女「……」

双妹「だから、少女さんの死因と低級霊のストーカー行為が無関係ではないのなら、私たちは忘れてはいけないんだと思う」

双妹「少女さんがいわゆるPTSDで苦しんでいるってことを――」

544以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/27(金) 01:02:51 ID:PjGA/eLM
男「ああ、そうか。家に帰れるようにはなったけど、まだ完全に乗り越えてはいないんだよな……」

双妹「そうだよ。男の気持ちも分かるけど、少女さんのペースで歩いてあげないといけないの。だから、友くんを信じることも大切なんじゃないかな」

少女「……双妹さん」

男「ちょっと答えを急ぎすぎていたのかもしれない。双妹、ありがとう」

双妹「それじゃあ、あ〜ん//」

男「今度は何だよ」

双妹「私の唐揚げをひとつ食べた」

男「俺にくれたんじゃなかったのかよ」

双妹「あ〜んっ//」


俺は仕方なく、雛鳥のように大きく口を開けて待つ双妹に唐揚げを食べさせてあげた。
そして、満足そうな表情を浮かべている双妹を見て、たまには一緒に食べるのも悪くないなと感じた。

545以下、名無しが深夜にお送りします:2018/07/31(火) 19:35:59 ID:RyHs8D3I
(3月3日)thu
〜自宅・放課後〜
今日はひな祭りということもあり、朝から双妹がとても浮かれていた。
リビングに飾られた、立派なひな壇。
そして雛人形と一緒に飾られている、華やかな金花糖。
まあ、俺には関係のないイベントだ。


双妹「お母さん、ただいま〜」

男「ただいま」

母親「おかえり」

双妹「ねえねえ、今夜はちらし寿司なんでしょ」

母親「そうよ。今から治部煮を作るんだけど、どれを入れるの?」

双妹「今年は海老とマツタケにする」

母親「じゃあ、持ってきて」

双妹「は〜い♪」


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