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少女「私を忘れないで」
1
:
◆WRZsdTgWUI
:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」
少女「……」
男子「えっと、その……明日から冬休みだね」
少女「そうですね」
男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」
少女「クリスマスの予定?」
男子「は、はいっ!」
少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」
男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」
少女「……?!」
男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」
366
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/19(土) 17:22:36 ID:iBGRNsUg
恋人の行動や発言を監視し、交流の制限やコメントの返信を強要する精神的な暴力。
恋人の自画撮り写真を無断で公開したり、失恋の腹いせにわいせつな画像を公開するリベンジポルノなどの性的かつ社会的な暴力。
このようなSNSによるデートDVは、SNSが日常生活に深く浸透しているためDVだと自覚しにくいことが特徴だ。
さらにSNS上の会話や画像は、不特定多数の閲覧者によって保存され拡散される恐れがある。
それによって、被害者は消えることのない暴力に苦しめられることになるのだ。
自殺をした男子生徒も遺書をブログに公開することで注目を浴び、女子生徒への悪意を残し続けようとしていたことが分かっている。
ネット上で形成された人格異常は、現実世界の男女交際に影を落とす。
そして歪んだ承認欲求はコミュニケーションツールであるSNSを通じて、消えることのない暴力を拡散させていく。
我々はSNSによるデートDVの被害を受けている女性、そして青少年たちの未来が奪われることのないよう、早急にこの問題の解決に取り組まねばならない。
367
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/19(土) 17:26:10 ID:laoqVIZc
今日はここまでにします
レスありがとうございました
368
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/19(土) 20:52:00 ID:2f.aTyFM
乙だよ
369
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/21(月) 21:53:49 ID:Qu5DXIR6
・・・
・・・・・・
双妹「何これ、本っ当に最低なオトコじゃん!」
男「そうだよな。こんなことをして許されると思っているのかよ!」
俺と双妹は記事を読み終わり、声を荒らげた。
男子生徒が遺書を遺していた事は知っていたけど、まさかブログで公開していたとは思わなかった。
双妹「私、デートDVなんてものがあるなんて知らなかった。すごく怖いんだけど、少女さんはその……大丈夫だったの?」
少女「ブログは削除されているんだけど、私の名前や学校名を検索すると拡散された遺書がヒットするんです。たくさんの人が私のことを知っているのかと思うとつらいけど、友香ちゃんやクラスのみんながたくさん励ましてくれました」
少女「だから、私は大丈夫です」
370
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/21(月) 21:55:25 ID:tLMZMIDU
男「大丈夫って言うけど、こんなことをされて平気なはずがないだろ!」
双妹「……そうだよね。私たちもネット上に色んな情報や動画が拡散されているけど、それとはまったく意味が違うもんね」
少女「もういいんです。少年くんの遺族の人と話をしてたくさん謝罪をしてくださったし、もう解決したことですから」
男「そんなの強がっているだけだと思う」
少女「心配してくれてありがとう」
少女さんはそう言うと、笑顔を浮かべた。
その表情はどことなく冷めていて、やんわりと拒絶の意思を感じられた。
男「もしつらいことがあったら、いつでも話を聞くから」
少女「……うん」
371
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/21(月) 23:14:08 ID:JgnfAE6s
少女「ところで、出版社の人の話を聞いてからこの記事を読んで印象が変わりましたよ」
男「それって、どういう風に?」
少女「最初に読んだときは、私が少年くんを自殺に追い込んだかのように書いている記事だと思っていたのだけど、本当は私のことを守ろうとしてくれている記事だったんですよね」
男「ああ、それは俺もそう思った」
この記事の主題は少女さんに対する名誉毀損ではなくて、SNS上のデートDVによる被害者である少女さんの救済と問題提起だった。
恐らく、当事者意識による思い込みが誤解を招いてしまったのだと思う。
俺は少女さんの言葉を真に受けるのではなくて、あのときに読んでおくべきだったのだ。
少女「こんな記事を書いてくれる出版社が、私のことをストーカーするはずがありません。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいです」
372
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/21(月) 23:19:29 ID:tLMZMIDU
男「とりあえず、誤解が解けたみたいだね」
少女「はい。双子の特集記事も素敵だったし、ちょっと好きな雑誌になりそうです」
双妹「まあ、えっちな記事とかヌード写真も多いけどね」
少女「そ……そういうところは、あまり好きになれないかも//」
双妹「あはは、私もあまり好きじゃないかな。でも、男はそういうのが好きみたいだよ。スマホでもよく動画を見ているみたいだし」
少女「ええっ?! そ、そうなんだ//」
男「おい、少女さんに余計なことを言うなよ」アセアセ
双妹「余計なことじゃなくて、大切なことだよ。少女さんは男に取り憑いているから、24時間ずっと一緒にいるんでしょ」
男「まあ、トイレ以外はずっと一緒だな」
双妹「それってさあ、少女さんが成仏するまで続くんだよねえ」
男「多分、そうだと思う」
双妹「そんなの、どう考えても普通じゃないんじゃないかなあ」
373
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/22(火) 00:56:33 ID:BIvA0KnA
男「そうかもしれないけど、離れることが出来ないんだから仕方ないだろ」
双妹「それは少女さんの都合でしょ。この世に未練があるのかもしれないけど、だからと言って、男のプライバシーを侵害してもいい理由にはならないと思うの」
少女「それじゃあ、私が取り憑くのをやめれば良いってことですか?」
双妹「それが出来るのなら、私と男だけで少女さんの家に行くことが出来たはずですよね」
少女「それはそうなんですけど――」
双妹「つまり、少女さんは男のプライバシーを確保する方法を考えないといけないんです」
男「プライバシーの確保って言うけど、今のままでも大丈夫なんじゃないかな。トイレに行くときは外で待ってくれているし、着替えるときも後ろを向いてくれてるから」
少女「そうですよね。私なりに気を使っているつもりです」
双妹「あのさあ、男にとって、プライバシーはそれだけじゃないでしょ」
双妹は不機嫌そうに言うと、週刊誌を手に取った。
そして、カラーページを開く。
するとそのページには、巨乳アイドルの扇情的なヌードグラビアが掲載されていた。
374
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/22(火) 01:00:50 ID:1aBv8a9M
今日はここまでにします
レスありがとうございました
375
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/22(火) 08:08:14 ID:XcqNThas
確かにオッパイは好きだn…
376
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/22(火) 21:37:23 ID:BIvA0KnA
双妹「男は少女さんが一緒にいても、こういう画像とかアダルトサイトを見たりしているの?」
男「いや、双妹じゃないんだから、そういうサイトを一緒に見たりするとか出来るわけがないだろ」
双妹「金曜日の夜、『したいけどそんな時間がない』って言ってたよねえ。少女さんがいるせいでえっちなことを我慢するしかないのなら、性的なプライバシーが確保されていないことになるんじゃないの?」
男「まあ、そう言われるとそうかもしれないけど――」
双妹「それって、デートDVの被害に遭っていることになるんじゃないのかなあ」
少女「私が男くんにデートDV?!」
双妹「そうだよ。少女さんのせいでオナニーをしたくても出来ないんだから、そういうことになると思う」
少女「そ、それって、一人でするアレのこと……ですよねえ//」
双妹「そう。男はいつも週に4、5回くらいしているんだよ。それなのに夢精するまで10日以上も我慢させるとか、私だったら絶対に有り得ない!」
377
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/22(火) 21:46:30 ID:uu59lhR.
少女「ごめんなさい。私、兄弟がいないから、男子のそういう欲求がよく分かっていなくて……」
男「別に謝るようなことじゃないし、少女さんは何も気にしなくていいから」
少女「でもその……男くんは、ひとりでえっちなことをする時間が欲しいんですよねえ」
男「それはそうだけど、でもなんて言うか、しばらく俺が我慢すればいいだけの話だろ」
双妹「そんな状態で、少女さんと付き合っているとか言うつもり?」
男「特殊な状況だし仕方ないじゃないか」
双妹「そんなのおかしいよ。少女さんが一方的なデートDVをしているのに、男がそれを我慢し続けるなんて間違っていると思う」
少女「それじゃあ、私はどうすればいいんですか」
双妹「さっきも言ったけど、男のプライバシーを確保する方法を考えればいいと思う。離れることが出来ないのなら、とりあえず一緒に現状を改善する方法を探しませんか」
少女「一緒に?」
双妹「みんなで考えれば、きっといい方法が見つかるだろうし」
少女「そう……ですね」
378
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/22(火) 23:10:39 ID:BIvA0KnA
男「それで、双妹には何か考えがあるのか?」
双妹「ううん、まだ考えているところ」
少女「あの……ふと思ったんですけど、双妹さんはどうしていたんですか。双妹さんの部屋に二段ベッドがあるってことは、最近まで男くんも同じ部屋で寝ていたってことですよねえ」
双妹「そうだけど、あまり参考にならないかも」
少女「そうなんですか」
双妹「うん。私たちにはプライバシーが必要なかったから」
少女「えっ?」
双妹「だって、男はもう一人の私なんだよ。そういうことが恥ずかしいなんて思ったことがないし、一時期、お互いに暗黙のルールがあったくらいじゃないかなあ」
少女「それって、普通……なんですか」
双妹「どうなんだろ。私は普通だと思うけど――」
双妹がそう言うと、少女さんが困惑の眼差しを向けてきた。
男子生徒の自殺の記事を読みに来ただけのはずなのに、どうしてこんなことになっているんだよ。
勘弁して欲しい。
379
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/23(水) 05:10:00 ID:SC.Vzo8g
おつ
380
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/24(木) 00:04:43 ID:lni0Qiq2
男「あのさあ、よくよく考えてみれば、俺がトイレですればいいだけだろ」
双妹「それって、不衛生なんじゃないの?」
少女「そ……そうですよね。あまり好ましいとは思えません」
男「それじゃあ、少女さんが双妹の部屋に行けば良いんじゃないかな」
双妹「……えっ、私の部屋に?!」
男「双妹なら女同士だし、それですべて解決だろ」
双妹「ちょっと待ってよ。私にもそういうプライバシーがあるんだから、少女さんがずっと部屋に居るのは困るんだけど」
男「それは分かっているけど、他に良い方法がないだろ」
双妹「だったら、男が私の部屋に戻って来てよ。それで少女さんにずっと隣の部屋に居てもらえば、私たちもアレだし一番良いんじゃないかなあ」
男「確かにそういう方法もあるけど、さすがにちょっとアレだよな」
双妹「ん〜、まあ、少女さんがいるし……ねえ」
少女「あのっ! 私は時間を決めれば良いと思います。例えば11時まで男くんの部屋で過ごして、その後は朝まで双妹さんの部屋で過ごすとか――」
381
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/24(木) 00:32:38 ID:fmmtgMBI
男「なるほど。それが一番いいのかもしれないな。時間が決まっていれば、双妹に迷惑を掛けることもないだろうし」
双妹「まあ、少女さんが時間を守ってくれるなら別に良いけど、もう少しルールを決めて欲しいかな。急に壁をすり抜けて入って来られたら、びっくりするし」
少女「それもそうですね」
そんな訳で、少女さんは双妹の部屋の洋服ダンスを通って中に入ることが決まった。
そこならば、部屋に入る前に声を掛けることが出来るからだ。
そして、夜は以前まで俺が使っていた二段ベッドの上段で寝ることになった。
男「結局、俺が最初の日に提案したことに落ち着いたな」
双妹「ふうん、そうなんだ」
少女「……ごめんなさい」
双妹「ちなみに、今日から毎日、私も男と一緒にお風呂に入るからね」
男「ああ、分かった」
少女「ええっ?! それはきっぱり断ってくださいよ!」
双妹「ふふっ♪ それじゃあ、話が纏まったみたいだし、私は晩ご飯の準備を手伝ってくるわね」
382
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/24(木) 00:48:24 ID:l881Q5QE
少女「……はあっ。男くんと双妹さんって、本当にツイコンだよね」
男「ツイコンって何だよ」
少女「兄妹とは思えないくらい仲が良いと言うか、そういう事です」
少女さんは呆れたように言うと、ぷいっとそっぽを向いた。
とりあえず、双妹が一緒にお風呂に入ると言うのなら、それを利用してこちらから歩み寄っていくしかないだろう。
上手く行けば、少女さんのことを認めてくれるかもしれない。
男「何だかんだ言って、双妹も少女さんのことを知ろうとしているみたいだな」
少女「そうなんですかねえ」
男「そうでもなければ、少女さんと一緒にお風呂に入るなんて言わないだろ」
少女「私たちを二人きりにしたくないだけなんだろうけど……まあ、そういうことにしておきます」
383
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/24(木) 00:49:06 ID:fmmtgMBI
今日はここまでにします
レスありがとうございました
384
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/25(金) 00:08:37 ID:esHAmjSo
少女「ところでその、今夜は一人でえっちなことをするんですよねえ?」
少女さんは一転して、好奇の眼差しを向けてきた。
俺たちの前には、週刊誌のヌードグラビアが広げっぱなしで置かれている。
双妹もそうだけど、どうしてこういうことを聞きたがるのだろう。
男「そういうことって、普通は女子に話すようなことじゃないと思うんだけど」
少女「そ……そうだよね。それじゃあ、男くんはどの女優さんが好みなんですか」
男「それなら、ぱっと見た感じはこの人が好みかも」
少女「ふうん、そうなんだ。私と違って胸が大きいし、すごく可愛いですよね」
男「まあ、グラビアアイドルってそんな人ばっかりだし」
少女「やっぱり、男子は双妹さんみたいに胸が大きい女性のほうが良いのかなあ」
男「それは人それぞれだと思うし、俺は控えめな女性も好きだよ」
少女「……それは言わないほうがよかったかも。どうせ、私は胸がないもん」プイッ
385
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/25(金) 00:16:54 ID:smggGsC6
〜部屋・夜〜
晩ご飯を食べた後、双妹の部屋で洋服ダンスや二段ベッドの位置を確認し、3人でお風呂に入った。
そのときに双妹が生理中でちょっとしたアクシデントがあったけれど、やがて夜も遅くなり、少女さんが双妹の部屋に行く時間が迫ってきた。
男「そろそろ時間だな」
少女「そうですね」
男「……」
少女「……」
すぐに会話が途切れてしまった。
今日はいろいろな事がありすぎて、お互いに疲れている。
少女さんは自殺後、しばらく意識不明の状態で入院していた。
つまり浮遊霊ではなくて、生霊だった。
しかし、死亡が確定してしまった。
いまだに家に帰ることが出来ず、自分の身体と対面することも叶わない。
俺がそんな少女さんにしてあげられることは、一体何なのだろう。
386
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/25(金) 00:26:43 ID:smggGsC6
少女「あの、双妹さんの部屋に行ってきます」
男「そっか」
少女「それじゃあ、今夜はその……頑張ってくださいね//」
男「頑張るって、何をだよっ」
少女「何をって言われても、お……おな――」
少女「うぅっ、おなすみなさいっ!」
少女さんは顔を赤らめると、ふわりと浮かんで壁をすり抜けた。
恥ずかしいなら言わなければいいのにとは思うけれど、えっちな単語を言おうとする姿はすごく可愛かった。
俺はそう思いつつ、スマホを片手にベッドの上で横になる。
それからしばらくして、壁の向こう側から双妹と少女さんの話し声が聞こえてきた。
俺と少女さんが離れることが出来るのは、およそ1.5メートル。
壁を一枚挟んでいるだけとはいえ、今夜は一人で過ごす久しぶりの夜だ――。
387
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/25(金) 20:18:52 ID:Mbowj.3Y
自主トレタイムか
388
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/28(月) 20:21:07 ID:04auKy..
(2月13日)sat
〜病院・少女さん〜
辺りが暗くなってきた頃、ようやく頭とつながっていた銀色の紐を引き千切ることが出来た。
そしてそれと同時、人工呼吸器のアラームが鳴り始めた。
看護師さん数人が慌てて駆け込んできて、私の身体を取り囲む。
何が起きているのか分からないけど、どうやら自発呼吸が停止したらしい。
そんな中、私は心が冷めていくのを感じていた。
看護師さんの手際を見ていても、私が看護師になる夢は叶わない。
どんなに努力をしても、私では患者さんに笑顔を届けてあげることが出来ない。
だって、もう死んでいるんだから――。
いつまでもここにいないで、早く男くんに会いに行こう。
私はそう思い、ふわりと浮かんで自分の身体を見下ろした。
そして、そのまま病室を抜け出した。
389
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/28(月) 20:24:56 ID:lVvpRG/U
無事に病室を出ることが出来て、ふわふわと通路を歩いていく。
その道すがら男性医師とすれ違い、病院の職員さんとすれ違う。
しかし、誰も私の姿には気が付かない。
まるで透明人間になったかのようだ。
だけど透明人間は光が網膜を透過してしまうから、目が見えなくなってしまうんだよね。
そう考えると、今の私はすごく不思議な存在だ。
ふわふわ浮いているし、壁だってすり抜けられる。
雨が降っていても濡れることがないから、傘を差す必要もない。
それなのに人の声が聞こえるし、バスと電車にも普通に乗れてしまう。
もしかすると物理的な現象よりも、『私はここに存在している』という認知機能が関係しているのかもしれない。
しかしそれは、私が幽霊であることを強く認識させた。
390
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/28(月) 20:29:53 ID:lVvpRG/U
やがて最寄り駅に着き、私は違和感を感じた。
家に帰りたくない。
家に近づいてはならない。
心の奥底から、そんな感情が沸き起こってくる。
でも、どうしてなんだろう。
その理由はまったく分からない。
それなのに、何となく良くないことが起きるような気がする。
だけど家に帰らなければ、男くんにチョコを渡すことが出来ない。
14日に告白すると決めたのに、気持ちを伝えることが出来ない。
それでも、家には帰りたくない。
よくよく考えてみれば、私の姿は誰にも見えないんだよね。
もはや、告白する以前の問題だ。
少女「……はあっ」
私は小さくため息を吐き、家に帰ることを止めることにした。
391
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/28(月) 20:42:55 ID:zXr1.SQE
それからしばらく考えて、私は学校に行くことにした。
明日はうちの学校で柔道部の練習試合があるので、その試合に男くんが出場するはずだ。
告白を出来ないのならば、せめて陰ながら応援をしてあげたい。
そう思ったのだけど――。
なぜか気分が乗ってくれない。
学校にも近づいてはならないような気がする。
こうなったら、男くんの家に行くしかないっ!
だけど、私は彼の家を知らない。
じゃあ、男くんの学校で待つことにしよう。
私はそう決めて、電車に乗り込んだ。
392
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/28(月) 20:45:22 ID:zXr1.SQE
今日はここまでにします
レスありがとうございました
393
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/28(月) 22:36:10 ID:QdlhNbe6
乙
394
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/29(火) 21:54:39 ID:tzJNo6uM
(2月14日)sun
〜校門前・少女さん〜
今日は待ちに待ったバレンタインデー。
それなのに、私は男くんの学校の前で立ち尽くしている。
今日の試合、男くんは勝てたのかなあ。
学校に行って、応援したかったな。
それなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
激しい雨の中、私はただ立ち尽くす。
ぼんやりと、ただ時間だけが過ぎていく。
395
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/29(火) 21:57:12 ID:NawV7Wcg
(2月15日)mon
〜校門前・少女さん〜
激しい雨が降っているにもかかわらず、音が何も聞こえない寂しい夜。
なぜ音が聞こえないのか疑問に思いつつ、男くんが登校してくるのを待ち続ける。
やがて日付が変わり、朝が近付くにつれて雨が重たい雪に変わっていった。
幹線道路は消雪装置が起動し、歩道には少しずつ雪が積もり始めている。
それからしばらくして、車や電車を利用する人々が通るようになり喧騒が戻ってきた。
なぜ音が聞こえるようになったのか、それは分からない。
そんなことよりも、誰も私に気が付いてくれないことが悲しかった。
学校に登校してきた生徒たちも、私に気が付くことなく校舎の中に入って行く。
やっぱり、私の姿は見えないんだ……。
それでも、男くんに会いたい。
そのために、ここで待っているんだから――。
396
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/29(火) 21:58:30 ID:MvORlNJY
私は気を取り直し、駅がある方向を見た。
歩道の雪はすでに踏み固められていて、その上を多くの生徒が列をなして歩いている。
人も増えてきたし、そろそろ男くんが登校してくるだろう。
そう思っていると、歩道の脇に溜まっていたシャーベット状の雪を車が踏みつけた。
そのせいで、歩いていた男女に氷水が撥ねる。
しかし、間一髪のところで男子生徒が傘を倒して防ぎ、難を逃れることが出来たようだ。
そして、走り去った車を見据える男女。
その二人は、男くんと彼女と思しき女子だった。
397
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/29(火) 22:00:08 ID:MvORlNJY
男「双妹、浴びてないか?」
女子「大丈夫だよ。ありがとう」
男「融雪道路に出てきた途端、これだもんな。勘弁して欲しいよ」
どういうこと……。
二人は一緒に登校するくらい仲がいいの?!
以前、友香ちゃんは彼女のことを妹かもしれないと言っていた。
しかしそれが正しいとすると、彼女は男くんと同い年だということになってしまう。
普通に考えて、そんなことがあるはずがない。
やっぱり、男くんは彼女と付き合っているんだ――。
そう思うと、心がちくりと痛んだ。
でも、これで良かったのかもしれない。
私は自分にそう言い聞かせ、男くんを見送った。
398
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/29(火) 22:02:27 ID:NawV7Wcg
今日はここまでにします
レスありがとうございました
399
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/30(水) 07:54:00 ID:A2qqw8wY
乙
400
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/31(木) 23:22:02 ID:WN7doU.w
それからしばらく立ち尽くしていると、ふいに背後から視線を感じた。
私は慌てて振り返り、周囲を見渡す。
すると男子生徒が自転車に跨ったまま、じっとこちらを見ていることに気が付いた。
お互いに目が合い、彼がしまったという顔で目を逸らす。
その顔には見覚えがあった。
中学生のときに同じクラスだった友くんだ。
少女「もしかして、私のことが見えているんですか?」
友「……そうだけど」
少女「すごいっ! 私のことが見えているんだ!!」
友「俺は今、浮遊霊なんかに構っている暇はないんだけど」
少女「あっ、ああ……ですよね」
友「じゃあな」
401
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/31(木) 23:23:35 ID:WN7doU.w
友くんはそれだけを言うと、私を一瞥して校舎裏に向かって自転車を漕ぎ出した。
その後ろ姿を見つつ、私はふと疑問に思った。
友くんには、どうして私の姿が見えていたのだろう。
そもそも、見えるとは何だろうか。
私は生物の授業で勉強したことを思い出す。
目の働きと視覚情報の伝達経路。
ものが見えるのは、網膜に映った像が視神経を通じて大脳に伝達されるからだ。
大脳に伝達される?
……あっ!
分かったかもしれない。
402
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/31(木) 23:25:07 ID:4f0YciQ6
友くんに私の姿が見えていた理由は、依然として分からない。
だけど、最終的に情報を処理するのは大脳だ。
つまり大脳に直接情報を与えることが出来れば、普通に会話が出来るようになるはずだ。
会話をする方法があるなら、せめて最期に男くんと話をしたい。
男くんの恋を応援してあげたい。
でも、どうすればそんなことが出来るのかな。
私は幽霊なんだし、男くんに取り憑いてみるとか?
ぴったりくっついて、手をつないだりとかしちゃったりして――。
いやいやいや。
男くんには彼女がいるんだし駄目だよ、そんなことは!
私は妄想を振り払い、お昼休みに男くんの教室に行ってみることにした。
403
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/31(木) 23:37:40 ID:aPy.ofvI
〜お昼休み・少女さん〜
男くんの教室を探して中に入ると、友くんと例の彼女も同じ教室だということが分かった。
男くんは一人で漫画を読んでいて、彼女さんは友達と雑談をしているようだ。
その様子を窺っていると、友くんが席を立った。
彼には私の姿が見えているので、もしかすると勝手に教室に入ったことで何か言われるかもしれない。
私はそう思い、急いで隠れることにした。
友「そうじゃなくて、チョコは貰えたのかって聞いてるんだ」
男「試合じゃなくて、そっちのほうか」
友「それで、どうなんだよ」
男「もちろん貰ったぞ。双妹からだけど!」
友「なんだそりゃ。そんなもん、ノーカウントだっつうの」
男「彼女がいない俺たちには、まったく関係ないイベントだな」
友「はあ、確かに……」
404
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/31(木) 23:43:14 ID:WN7doU.w
その会話を聞いて、私は自分の耳を疑った。
『双妹』は男くんの彼女の名前だ。
その彼女からチョコレートを貰ったのに、男くんは彼女がいないと言っている。
もしかして、ただの女友達なのだろうか。
そう思っていると、例の彼女さんがやってきた。
そして、友くんにチョコレートを手渡した。
しかも、それは男くんが選んだものらしい。
これって、私にもまだチャンスがあるってこと?
そう考えると、急激に気持ちが高まってきた。
私がここに存在していることを知ってもらいたい。
そして、男くんに気持ちを伝えたい。
こんなとき、友香ちゃんならどんなアドバイスをしてくれるのだろう。
それを頭に思い浮かべながら、私は校門脇に戻って男くんの帰りを待つ。
やがて辺りが暗くなり、男くんが雪の中を歩いてきた。
私は勇気を出して、さり気なく声を掛ける。
少女「部活、お疲れさまでした――」
405
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/05/31(木) 23:45:31 ID:4f0YciQ6
今日はここまでにします
レスありがとうございました
406
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/01(金) 02:39:49 ID:GFXcQPeo
乙
407
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/04(月) 20:54:46 ID:MDznBl7o
いつもありがとうございます
諸事情により、今回から一区切り兼お礼の下げ更新を控えようと思います
408
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/04(月) 20:55:32 ID:8yEwcyAM
(2月23日)tue
〜自宅・部屋〜
翌朝、目が覚めて隣を見ると、そこに少女さんの姿がなかった。
いつもなら俺を起こしてくれたり、掛け布団をすり抜けて寝姿を晒している少女さん。
その彼女が隣にいないことが、何だかもの寂しく感じた。
いつの間にか、一緒に寝ることが当たり前になっていたらしい。
男「まあ、着替えるとするか」
俺はベッドから降りて、暖房と明かりをつける。
そして洋服ダンスに歩み寄り、パジャマから制服に着替えた。
少女「えっ、あれっ?!」
ふいに背後から少女さんの戸惑う声が聞こえた。
背丈ほどの高さの場所で横になり、寝ぼけた表情で浮遊している。
どうやら、俺に引っ張られて双妹の部屋からすり抜けてきたようだ。
409
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/04(月) 21:21:56 ID:MDznBl7o
男「少女さん、おはよう」
少女「えっと、あの……男くん、おはよう」アセアセ
男「壁をすり抜けるとか、ものすごい寝相の悪さだね」
少女「そ……そんなことはないです//」
少女さんは恥ずかしそうに否定すると、ふわりと浮かんだままゴミ箱を覗き込んだ。
そして顔を赤らめ、まじまじと好奇の視線を向けてきた。
昨日のこともあって軽い冗談で爽やかな朝を演出しようとしたけれど、少女さんは俺がオナニーをしたのかどうかが気になるようだ。
我慢できなくなって抜いてしまったけど、ひょっとすると失敗したかもしれない。
410
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/04(月) 22:12:00 ID:MDznBl7o
男「どうかした?」
少女「いえ、昨日の朝と同じ匂いがするから、あのあと本当に一人でしたんだなと思って//」
男「あ、ああ、どうしても我慢できなくなって……」
少女「ふふっ、男くんは健全な男子だもんね。えっちな事をしたくなるのが普通なのに、今まで我慢をさせてごめんなさい」
男「いや、良いって。別に謝るようなことじゃないし」
少女「でも私、双妹さんに言われるまでずっと性的なことをないがしろにして来たと思うんです」
少女「男くんが週に5回もえっちな事をしているなんてびっくりしたけど、そういう一面も好きになるから、これからは我慢をしたりしないでくださいね//」
男「そんな事を言われると恥ずかしいけど、少女さんに嫌われなくてほっとしたかも」
少女「ふふっ。男くんがどんなにえっちでも、私が男くんを嫌いになることは絶対にあり得ないですから//」
男「ありがとう。俺も少女さんのことが好きだよ」
少女「うん、私も男くんが大好きです//」
411
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/04(月) 23:26:24 ID:8yEwcyAM
双妹「男、おはよう♪」
男「おはよう」
少女さんといい雰囲気になってきたところで、双妹が部屋に入ってきた。
そして、ゴミ箱に視線を向けて少女さんを見据える。
少女「双妹さん、おはようございます」
双妹「おはよう。少女さんは早起きだね」
双妹は皮肉混じりに言いつつ、お腹をさすった。
今日は生理2日目ということもあり、ちょっと辛そうだ。
412
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/04(月) 23:48:49 ID:C2vzJyDI
男「やっぱり、今日は少し辛そうだな」
双妹「まあね」
男「俺が朝ご飯の準備を手伝ってくるから、双妹はゆっくりしてろよ」
双妹「うん、ありがとう。そうしてくれると助かる」
男「それじゃあ、行こうか」
俺は少女さんに声を掛け、部屋を出た。
すると双妹が俺の隣に駆け寄り、頬を緩めた。
まあ、こうなるだろうなとは思った。
双妹「ふふっ♪」
少女「……」
413
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/05(火) 20:01:49 ID:LzAneh2Y
〜学校・お昼休み〜
新しい朝が始まり、いつも通りに授業が始まる。
そしてお昼休みになってスマホを手に取ると、友香さんからメールが来ていることに気が付いた。
一体、どんな用事があるのだろう。
俺はそう思い、早速開いてみることにした。
From:友香さん
件名:土曜日あいてますか
本文:
今週の土曜日なんですけど、少女の家にお線香をあげに行きませんか
男くんが行けば、少女が喜んでくれると思います
都合のいい時間があったら教えてください(^O^)
414
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/05(火) 20:12:09 ID:2Cj10nYY
男「お線香か……」
少女さんのお葬式は身内だけで行うことになっているので、友香さんは日を改めて弔問することにしたのだろう。
そのお誘いメールが来たわけだけど――。
男「少女さんが家に帰れないと、俺も行けないんだよな」
少女「ですよね」
男「とりあえず、土曜日は部活があるから都合が悪いって返そうか」
少女「でも、朝から夜まで部活って訳じゃないですよねえ」
男「そうだけど、行けないだろ」
少女「私、男くんだけじゃなくて友香ちゃんも一緒なら、今度こそ家に帰れると思うんです。だから、行くって返事をしてください」
男「……分かった。少女さんがそう言うなら、昼から行こうって返信するから」
少女「はい、お願いします」
415
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/05(火) 20:23:05 ID:AlgI77fQ
友「男、二人で何を話してるんだ?」
男「今度の土曜日、少女さんの家にお線香をあげに行こうって友香さんからメールがあって」
友「そうなのか。俺には来てないんだけど!」
男「それは知らないけど、友も行くだろ? うさぎのぬいぐるみを調べないといけないし」
友「そうしたいのは山々なんだけど、ちょっと無理かもしれない」
男「何かあったのか?」
友「昨日の英語の授業のことで、俺の家に連絡があったみたいで――」
昨日の英語の授業中、少女さんが胸の痛みで苦しみ始めた。
しかし他の人には少女さんの姿が見えないので、俺と双妹が騒いで授業妨害をしているかのように見えていたのだ。
それを友が上手くフォローしてくれたのだけど、心霊催眠が解けていなかったと説明したことが不味かったようだ。
そのせいで家に連絡があり、親にひどく叱られたらしい。
416
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/05(火) 20:24:25 ID:AlgI77fQ
友「そんな訳で神社の評判にも関わるから、しばらくは大人しくしていないといけないんだ」
男「そうなのか、俺のせいで……ごめん」
少女「ごめんなさい」
友「まあ、良いってことよ」
男「じゃあ、今日の放課後、俺も友の親父さんに謝りに行かせてくれ。元はといえば俺が原因だし、ちゃんと事情を説明しておいたほうが良いと思うから」
少女「そうですよね。私も謝ります!」
友「……悪いな」
男「そのついでに、期末テストの勉強も一緒にしようぜ」
友「そうだな」
417
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/06(水) 11:55:56 ID:d6mZ93L.
続きが楽しみだ
418
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/06(水) 16:48:22 ID:njMceeBs
乙
419
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/07(木) 00:25:21 ID:Mfgssff.
〜友の家・神社〜
放課後になり、俺と少女さんは友の家に向かった。
今回は神社の宮司である親父さんに会うということで、前回以上に少女さんは緊張している。
怖い人ではないけど、さすがの俺も緊張してきた。
友「親父は社務所で仕事をしていると思うから、そっちに行こうか」
男「そうだな」
少女「あ……あの、神社に行くんですか?!」
男「そういえば、少女さんは神社に入るのが怖いんだっけ」
少女「そっ、そうなんです。いきなり除霊されたりしませんよねえ」オロオロ
友「それは大丈夫だよ。少女さんは除霊する必要がない浮遊霊だから」
少女「そうかもしれないけど、神社は神聖な場所だし――」
男「少女さん。ここには謝るために来たんだから、ごねるのはやめにしようよ。もし除霊されそうになったら、俺が守ってあげるから」
少女「ううっ、そうですね。ごめんなさい……」
420
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/07(木) 00:42:00 ID:O.1.hxHU
少女さんを説得し、俺たちは鳥居をくぐった。
そして境内に入ると、授与所にいた巫女さんが俺たちに挨拶をしてくれた。
友「巫女さん、ただいま。親父に会いたいんだけど、今は大丈夫かな」
巫女「大丈夫だと思いますよ。今は社務所にいらっしゃるはずです」
友「そっか、ありがとう。じゃあ、行こうか」
男「そうだな。それじゃあ、お邪魔します」
俺はそう言って、巫女さんに会釈をした。
すると笑顔を返してくれて、俺の背後に視線を向けた。
そこには、少女さんが立っている。
少女「あの巫女さん、私の姿が見えているみたいですね」
友「うちの神社では、本職巫女の霊的な神聖性を高めているんだ。そのおかげで神事や祭事にも定評があって、巫女舞を奉納するときには神霊の気配も感じ取ることが出来るほど高まっているんだ」
少女「へえ、そうなんだ!」
男「お祭りのときに見たことがあるけど、そんなにすごい舞だったのか」
友「ああ、密かにすごいんだぜ。うちの神社は――」
421
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/07(木) 00:43:10 ID:YAksLV5E
〜社務所〜
友に連れられて社務所に入ると、友の親父さんが仕事をしていた。
見たところ、桃の節句の準備をしているようだ。
男「えっと、こんにちは」
友父「こんにちは。男くん、久しぶりだね」
男「今日はちょっと謝りたいことがあって来たんですけど、少しいいですか」
友父「それは、そちらの可愛いらしいお嬢さんのことが関係あるのかな?」
男「はいっ」
友父「それじゃあ、3人ともそこに座りなさい」
そう言われ、俺たちは中に入って正座をした。
やばい。
かなり緊張してきた。
422
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/07(木) 00:45:22 ID:Mfgssff.
男「昨日のことなんですけど、友は俺たちを助けてくれただけで何も悪いことはしていないんです」
少女「……そうなんです。友くんは何も悪くありません」
俺たちは友の親父さんに事の成り行きを説明した。
少女さんに取り憑かれて、友に相談したこと。
記憶を思い出すために、少女さんに心霊催眠を試してみたこと。
少女さんが授業中に苦しみ始めて、介抱するために力を貸してくれたこと。
男「だから、悪いのは俺なんです。本当にすみませんでした!」
少女「すみませんでした」
友「俺は二人に協力したいんだ。迷惑をかけないように気を付けるから、もう少し続けさせてくれ!」
423
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/07(木) 00:49:01 ID:O.1.hxHU
友父「大体の事情は分かった」
友「じゃあ、続けさせてくれるんだ」
友父「こちらの浮遊霊は少女さんだったかな。かなり強力な力を持っているようだが、それをどのように考えているんだ?」
友「事故死霊の特徴を持った自殺霊で、幽体が通常よりも少ないから霊波動の影響が強く現れやすいと考えているんだけど」
友父「事故死をした自殺霊……ねえ」
友の親父さんはそう言うと、少女さんの首元を見据えた。
そこには、首吊り自殺をしたときの自殺痕が残されている。
やがて首元から視線を外し、優しい表情で少女さんに話しかけた。
友父「人はみな、生まれてきた意味を持っている。貴女はそれを探しなさい」
少女「生まれてきた意味を、ですか?」
友父「そうです。生きた証が見付かったとき、貴女の救いがそこにあるはずです」
少女「……はい」
424
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/07(木) 01:01:21 ID:VGQ1TV5c
友父「男くん、友。二人とも、彼女の力になってあげなさい」
男「もちろんです!」
友「それって、許してもらえたってことでいいのかな」
友父「まだまだ未熟者で足を引っ張っているみたいだけど、まあ、やれるところまでやってみなさい」
友「分かった、全力でやってみる!」
少女「男くん、友くん。よろしくお願いします」ペコリ
男「ああ、俺に任せてくれ」
友「そうだな。俺たちがいれば、大船に乗ったつもりでいてくれて大丈夫だ」
少女さんの生きた証。
それを見付けたとき、少女さんは家に帰ることが出来るようになるのだろうか。
そして、成仏をすることが出来るのだろうか。
そのためにも、まずは期末テストを片付けなければならない。
俺は友の家に行って、一緒にテスト勉強をすることにした。
425
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/07(木) 13:30:51 ID:PC9BRAf6
生き返る事はやはりないのか…
426
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/11(月) 19:57:56 ID:YN4BfG4M
〜自宅・部屋〜
1時間ほど友の家で勉強をし、外が暗くなってきたので家に帰ることにした。
明日は得意科目だし、いざとなれば少女さんもいる。
少しくらい勉強をしなくても、期末テストは楽勝だろう。
そんな訳で、俺は家に着くと古新聞を部屋に持って上がり、少女さんの生きた証を探すことにした。
少女「私の生きた証が新聞に載ってますかねえ」
男「載っているとは思えないけど、少女さんが亡くなったときの記事を読めば手掛かりを掴めるかもしれないだろ」
少女「……そうですね」
男「とりあえず、探してみようよ。少女さんが亡くなったのは、公式には2月20日だよな」
少女「ICUの受付さんを信じるなら、そうなりますね」
男「じゃあ、20日の朝刊から探してみよう」
427
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/11(月) 20:05:52 ID:naVE0Xjg
俺は少女さんと一緒に、20日の新聞を隅々まで読む。
しかし、それらしい記事は掲載されていなかった。
同じく21日と22日、そして今日の新聞も読んでみたが、少女さんのことはまったく書かれていなかった。
男「ないなあ」
少女「そうですね。私のことは報道する価値もないってことなのかな」
男「そんなことはないと思うけど、もしかしたら報道規制をされているのかもしれない。北倉高校は看護系の専門学校だし、二人目の自殺者が出たとか報道できないだろ」
少女「たしかに……学校のイメージが悪くなってしまいますもんね」
男「もうすぐ受験シーズンだし、それが影響しているのかもしれないな」
少女「もしそうだとしたら、すごく悲しいです」
428
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/11(月) 20:18:42 ID:xiIOF3xg
〜リビング〜
結局、新聞を読んでも何も分からないことが分かり、俺は仕方なく晩ご飯の準備を手伝いに行くことにした。
そして古新聞を元の場所に戻し、キッチンを覗きみる。
すると、ふわりとみその香りが漂ってきた。
どうやら、今日の晩ご飯はとり野菜鍋のようだ。
母親「男、ちょうどいいところに来たわね。おこたの上にお鍋を運ぶから、新聞を敷いてくれない?」
男「ああ、うん」
俺は食器類を運び、さっき読んだ古新聞をコタツの上に置いた。
そして、ふと思った。
母さんにとって、生きた証は何なのだろう。
男「なあ、母さん。ひとつ聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
母親「良いけど、何を?」
男「母さんにとって、生きた証って何かなあと思って」
429
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/11(月) 20:54:24 ID:naVE0Xjg
母親「生きた証?」
男「そう」
母親「変なことを聞くのね」
母さんはそう言うと、コタツの上にお鍋を置いて首を傾げた。
双妹も俺の言葉を聞いて、コタツから顔を出す。
双妹「ねえねえ、私も聞きたいかも」
母親「ええっ?!」
少女「……私もぜひ聞かせて欲しいです!」
母親「二人がそう言うなら仕方ないわねえ。わたしの生きた証は、男と双妹が生まれてきてくれたことかしら」
男「俺と双妹が?」
双妹「どうして私たちが生きた証なの?」
母親「どうしてって、男と双妹も子どもが出来れば、きっとそう思うようになるはずよ」
男「ふうん、そういうものなんだ」
430
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/11(月) 20:59:20 ID:zL/MGWqM
少女「子ども……か」
双妹「じゃあ、子どもがいない人にとって、生きた証は何なのかなあ」
母親「それは人それぞれだろうけど、そもそも生きた証は考える必要がないことなのよ」
双妹「考える必要がない?」
母親「そうよ。お父さんがいつも言っているでしょ。人はみんなでみんなを支えて生きているって。そうすることで、自分の想いがみんなに繋がっていくの」
母親「つまりね、精一杯生きることがそのまま生きた証になるのよ。だから、二人とも今は自分のやりたいことを頑張りなさい」
双妹「そうだね」
男「そうだな。ありがとう」
少女「……」
母親「それじゃあ、冷める前にお鍋を食べましょ。今日は白菜がすっごく安かったのよ♪」
男「そうなんだ。いただきます」
双妹「いただきます♪」
431
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/12(火) 19:56:33 ID:zB7epf4A
〜部屋〜
晩ご飯を食べた後、少女さんはとり野菜鍋のシメについて語り始めた。
少女さんの家では素麺を入れてシメるのが定番で、うどんやラーメンはほとんどしたことがないそうだ。
作り方は下茹でした素麺を入れて、かまぼこと刻んだねぎを浮かべるだけ。
それが少女さんのマイベストらしく、部屋に戻っても延々と語り続けている。
少女「とにかく、試してみてくださいよ! おみそ汁にお素麺を入れるでしょ? それと同じじゃないですか」
男「いやいや、それとお鍋のシメは別問題だから」
少女「そういえば、私の未練はみそ素麺を普及させることだったような気がします」
男「まあ、そこまで言うなら食べてみてやろうじゃないか」
少女「ふふっ♪ 一度食べたら、もうラーメンには戻れなくなりますから」
男「さあ、それはどうだろうな。超少数派の素麺ふぜいが我が家の定番を覆すつもりだとは、片腹痛いわっ!」
少女「……その言葉、食べ終わった後でも言えますかねえ」
男「ふはははは、言うではないか!」
432
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/12(火) 19:59:17 ID:zB7epf4A
双妹「テスト勉強もせずに、二人で何をやってるの?」
うどん・ラーメン派と素麺派の戦いを繰り広げていると、双妹が俺たちに呆れたような視線を向けていた。
いつの間にか部屋に入ってきていたらしい。
男「お鍋のシメを素麺にするべきか否かで、論争を繰り広げていたんだ」
双妹「まだ続いてたんだ……」
少女「双妹さんもぜひ食べてみてください!」
双妹「そんなことより、そろそろお風呂に入らない?」
少女「そんなことより?!」ショボン
男「お風呂って言うけど、まだ晩ご飯を食べたばっかりじゃないか」
双妹「でも今のうちにお風呂に入っておけば、ゆっくりテスト勉強が出来るでしょ」
男「……それもそうだな。もう一度復習しておくか」
双妹「じゃあ、先に行ってるわね」
男「分かった」
433
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/12(火) 20:19:38 ID:zB7epf4A
〜お風呂場〜
双妹が部屋を出た後、俺は5分ほど時間をずらしてお風呂場に向かった。
昨日から3人で入ることになった訳だけど、今は双妹が生理中なので布ナプキンを洗わないといけないからだ。
別に時間をずらす必要はないと思うのだけど、昨日はいつも通りに双妹がじゃぶじゃぶと洗い始めて、経血で赤くなっていく水を見た少女さんがドン引きしてしまった。
それで、少女さんに配慮することになったのだ。
この辺りの感覚も、やっぱり普通の兄妹とは違うようだ。
少女「ねえ、男くん」
男「どうかした?」
少女「お風呂なんですけど、やっぱり双妹さんと一緒に入るのは変だと思います。このまま上がってくるのを待つことにしませんか」
男「それをすると、少女さんの印象が悪くなるだけだと思う。昨日も言ったけど、歩み寄るチャンスだと思ったほうがいいんじゃないかな」
少女「それはそうかもしれないけど、双妹さんを見ていると何かが違うような気がするんですよね」
434
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/12(火) 20:22:06 ID:ZY0Bv2qw
男「それって、どういうこと?」
少女「それを聞かれると困るんだけど、何となく距離感が近すぎるような気がして。一卵性双生児の兄妹は普通の兄妹とは違って、私が想像している以上に仲が良くなったりするものなのかなあ」
男「んー、それはあるかもしれない。双妹は俺にとって、本当にかけがえのない存在だと思うし」
少女「あ、ああ……やっぱり、そうなんだ…………」
男「異性一卵性双生児は世界中に俺と双妹だけしかいないから、この感覚は俺と双妹だけが分かるものなんだろうな」
少女「そう……かもしれないですね」
男「それじゃあ、あまり遅くなると双妹の機嫌を損ねるし、そろそろお風呂に入ろうか」
少女「はあっ、そうですね」
少女さんは小さく嘆息し、後ろを向いた。
どうやら双妹に対して不満があるみたいだけど、絶対に嫌だという訳ではなさそうだ。
とりあえず、俺は着替えを棚に置いて服を脱ぐことにした。
435
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/12(火) 21:44:20 ID:z6wEpRvA
おつ
436
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/14(木) 20:32:57 ID:55QZOZf.
ガラララッ・・・
浴室に入ると、双妹がまだ洗い物をしていた。
今日は生理2日目なので、布ナプキンを使った枚数が多かったのだろう。
俺は双妹が寒くないのか気になりつつ、少しぬるめのお風呂に浸かって少女さんを招き入れた。
双妹「少女さん、今日はビキニ姿なんだ。男にもその水着姿が見えているの?」
少女「……そうですよ」
男「多分、双妹が見ている姿と同じだと思う」
双妹「ふうん、すごく可愛いよね」
男「ブラにフリルが付いてて、それが可愛いよな」
双妹「自分のイメージで好きな水着を着られるって、ちょっと羨ましいかも」
双妹はそう言うと、布ナプキンを浸け置き用のミニバケツに入れてふたをした。
そしてスポンジを手に取り、身体を洗い始める。
437
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/14(木) 20:37:51 ID:Vl/BfX5g
双妹「そういえばさあ、どうしてお母さんに生きた証を聞いていたの?」
男「実は今日、友の家の神社に行って、親父さんに生きた証を探したほうがいいって言われたんだ」
双妹「そうなんだ」
少女「双妹さんは生きた証って何だと思いますか?」
双妹「それは少女さんのって意味? それだったら、お母さんが言っていた通りじゃないかなあ」
少女「でも、それは死んでしまった私に言えることではないですよね」
双妹「そんなことはないと思うよ。生きていたときに頑張っていたことの中に、少女さんの生きた証があると思う」
少女「頑張っていたこと……か。私は将来の夢を諦めてしまったんですよね」
双妹「でも1年間頑張っていたんだから、振り返ってみれば気が付くことがあると思う。一度、学校に行ってみたら良いんじゃないかなあ」
少女「そうだね。あまり気が進まないけど――」
438
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/14(木) 20:41:58 ID:Vl/BfX5g
男「逆にさあ、今から生きた証を残す方法もあるんじゃないかな」
少女「それって、どうやるんですか?」
男「ほらっ、少女さんは超マイノリティーな素麺を普及させようとしていただろ。それを俺がネットに投稿すれば、少女さんの想いが残り続けることになると思うんだ。つまり、そういう感じかな」
少女「超マイノリティーは余計ですっ」プンスカ
双妹「私は反対だな」
少女「ええっ?! 美味しいですよ、みそ素麺!」
双妹「そっちじゃなくて、ネットに投稿して生きた証を残すことに反対だと言ってるの。少女さんはSNSでデートDVに遭っているんだよ。生きた証がそれと一緒にヒットするって考えたら、私なら絶対に嫌だと思う」
そうだった。
少女さんはSNSでデートDVの被害に遭っているのだ。
双妹が言うように、ネットに投稿するなんて論外だ。
439
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/14(木) 21:14:08 ID:P2F57jiQ
少女「……」
双妹「あれっ? ネット投稿は意外と嫌じゃない感じ?」
少女「いえ、そんなことはないです。本当に早く削除されてほしいし!」
双妹「やっぱり、そうだよね」
男「少女さんはSNSで被害に遭っていたのに、気持ちをまったく考えていなかった。本当にごめん……」
少女「別に謝るほどのことじゃないです。あまり気にしないでください」
双妹「それはそうと、今度みそ素麺を試してみようと思ってるの」
少女「えっ、本当ですかっ?! ぜひ試してみてください!」
双妹は少女さんに笑顔を返し、身体の泡をすすぎ落とした。
どうやら、双妹も少女さんのことを考えてくれているようだ。
そしてそのことが少女さんに伝わったのか、何となく少女さんの態度が軟化したかのように感じられた。
何だかんだ言いつつ、女同士で分かり合える部分があるのだろう。
440
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/14(木) 21:16:18 ID:Vl/BfX5g
少女「ところで、双妹さん。布ナプキンって、洗うのが面倒じゃないですか」
双妹「え? もみ洗いをして浸け置きするだけだし、明日の朝に洗濯かごに入れておけばお母さんが洗ってくれるから、別に面倒だと思わないけど」
双妹はそう言いつつ、風呂椅子を洗い流して湯舟に浸かってきた。
さすがに3人だと狭いので、俺が入れ替わりで湯舟を出て身体を洗う。
少女「そうなんだ。でも、どうして普通のナプキンを使わないんですか」
双妹「私は事情があって2ヶ月毎に精密検査を受けているんだけど、肌トラブルのことで女医さんに相談したら布ナプキンを勧めてくれたの。肌触りがすごく良いし、蒸れないから快適だよ」
少女「へえ、そうなんだ」
双妹「そうそう。慣れるまで戸惑うことがあるかもしれないけど、少女さんも少ない日から試してみたら?」
441
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/14(木) 21:30:32 ID:Vl/BfX5g
少女「それがその、私にはもう来ることがないだよね……」
双妹「……!」
双妹「ごめん、今のはうっかりしてた」
少女「いいですよ、別に――」
双妹「え……えっと、少女さんは今日がお葬式だっけ」
少女「……多分」
双妹「それでお昼休みに友香さんからラインが来たんだけど、土曜日にお線香をあげに行く約束をしているんでしょ。少女さんは家に帰れるの?」
少女「それは分からないけど、今度こそ家に帰れるように気持ちの整理をしたいと考えています」
双妹「そうなんだ。じゃあ、私たちが期末テストを受けているときに、少女さんも試験勉強を頑張らないといけない感じだね」
少女「そうなりますね」
双妹「私に出来ることがあれば協力するから、遠慮なく言ってくださいね」
少女「はい、よろしくお願いします」
442
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/14(木) 21:58:10 ID:Ryed0ANY
〜部屋〜
お風呂から上がり、部屋に戻ってきた。
時刻はまだ10時前なので、テスト勉強をする時間は十分にある。
俺はミニテーブルの脚を広げて設置し、双妹が来るまでに参考書の準備をしておくことにした。
それからすぐに双妹が来て、お互いに得意科目を教えあいながら勉強をした。
その間、少女さんは俺のベッドに座って何やら考え事をしているようだった。
それが何かは分からないけれど、きっと土曜日のことを考えていたのだろう。
生きた証と心的外傷後ストレス障害。
これらの問題を解決して気持ちの整理をしなければ、少女さんは家に帰ることができない。
明日から3日間。
その間に、少女さんは答えを見付けることが出来るのだろうか――。
443
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/16(土) 08:02:39 ID:6nC0vdOk
おつ
444
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/18(月) 19:52:40 ID:OijKQv2g
(2月27日)sat
〜市街地〜
期末テストが無事に終わり、土曜日になった。
今日は少女さんの家にお線香をあげに行く日だ。
俺は朝から部活に行き、学校帰りにお昼ご飯を食べてから待ち合わせ場所に向かった。
その途中で、空を見上げる。
雲行きは少し怪しい感じだけど、今日は久しぶりに晴れ間が覗いている。
昨日のドカ雪のせいで歩道には雪が残っているけれど、それも歩くことに支障はない。
男「少女さん、気持ちの整理は大丈夫?」
少女「たぶん大丈夫です。お葬式も終わったんだし、いつまでも現実から目を背けているわけには行かないから――」
男「そっか、一緒に頑張ろうな」
少女「うんっ!」
445
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/18(月) 19:54:25 ID:UOAwxQmw
〜最寄り駅〜
最寄り駅に着いて有人改札を抜けると、北側の出入り口でみんなが待っていた。
それぞれ学生服を着ていて、友香さんは胸に供花を抱いている。
俺は急いで駆け寄り、3人に声を掛けた。
男「お待たせっ」
双妹「やっと来た。遅いわよ」
男「ごめんごめん」
友香「男くん、こんにちは」
男「こんにちは」
友香「それじゃあ、供花代をお願いします」
俺はそう言われ、友香さんに500円を手渡した。
供花は白を基調とした花が多く、とても可愛らしくまとまっている。
少女さんはそれを見て、笑顔がこぼれていた。
446
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/18(月) 19:57:15 ID:R2vYSZjI
友香「それじゃあ、みんな揃ったし、そろそろ行きましょうか」
俺たちは友香さんに付いて歩き、駅舎を出て歩道に出た。
すると、双妹が小声で話しかけてきた。
双妹「ねえ、男。少女さんは大丈夫なの?」
男「どうだろうな。大丈夫だと思いたいけど……」
少女「今日は友香ちゃんもいるし、頑張ります!」
少女さんは威勢よく答えると、ふわふわと俺たちの前に浮かんだ。
双妹「意気込みだけは十分みたいだね」
少女「意気込みだけじゃないですっ」
しかしすぐに少女さんは立ち止まり、俺たちと肩を並べた。
そして、約1.5メートル。
やっぱり、今回も同じだった。
447
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/18(月) 19:58:55 ID:72TLzY7c
双妹「駄目だったね」
少女「すみません」ショボン
男「でも、先週より前に進んでいるだろ。もう少し頑張れるんじゃないか?」
少女「そ……そうですよね!」
男「ぐぬぬぬ――」
全力で右足を踏み出そうとしたが、やはりピクリとも動かない。
それだけ、少女さんの心の闇が深いということだろう。
友香「……あの、どうかしましたか?」
友香さんが歩みを止め、振り返った。
そして歩道の真ん中で立ち往生をしている俺たちを見て、眉をひそめた。
448
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/18(月) 20:01:41 ID:OijKQv2g
男「何て言うか、身体が動かなくて」
友香「身体が動かない?」
双妹「えっと、ほら。好きな人の家に行くのかと思って、それで緊張しているのかも」アセアセ
友香「あ、ああ……なるほど」
男「そ、そうなんだ」
友「……」
友「友香さんに話しておきたいことがあるんだけど、いいかな」
友香「私に?」
友「俺たちは今、少女さんが亡くなった理由を調べているんです。そのことで少し協力してくれませんか」
その言葉に俺は驚いた。
まさか少女さんのことを話すつもりなのか?!
しかし、現状を考えると友香さんの協力が必要なことは間違いないだろう。
449
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/19(火) 19:21:00 ID:SFP9K7sE
友香「亡くなった理由を調べているって、どういうことですか」
友「単刀直入に言って、少女さんを成仏させるためです」
友香「あの、言っていることの意味が分からないんですけど」
友香さんはそう言うと、怪訝そうに友を見据えた。
そして、友が慎重に口を開く。
友「少女さんは今、自分が死んだ理由が分からなくて現世をさまよっています。そんな彼女の魂を救うためには、どうしても友香さんの協力が必要なんです」
友香「こんなときにふざけるのは止めてください!」
男「友香さん、俺たち3人には少女さんの姿が見えているんだ。彼女は今もここにいて、家に帰ることが出来ずに苦しんでいるんです!」
双妹「信じられないかもしれないけど、本当のことなの」
友香「少女が今も苦しんで……いる?」
男「そうです。俺たちではなくて、少女さんに力を貸してあげてください」
450
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/19(火) 19:23:41 ID:54bXVuLU
友香「信じられないけど、その……分かりました。それで私は何をすればいいんですか」
少女「もしよければ、友香ちゃんと話をしたいです」
友「そうだな、そのほうが手っ取り早いもんな。それじゃあ、最初に友香さんも少女さんの姿を見えるようにしたいと思います」
友香「そんなことが出来るの?」
双妹「友くんには霊能力があって、私も見えるようにしてもらっているんです」
友香「霊能力?!」
友「今、日常的に身に着けているアクセサリーを持っていますか?」
友香「持ってないけど、それがないと駄目なんですか」
友「いや、大丈夫です」
友「……少女さん。今回は前と違って霊具を作ることが出来ないから、友香さんの鳩尾に手を添えて意識を集中してくれるかな」
少女「は、はいっ。分かりました」
友「それでは、友香さんは俺が合図を送るまで目を瞑っていてください。次に目を開いたとき、少女さんの姿が見えるようになっているから」
友香「う……うん」
451
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/19(火) 19:27:42 ID:6HF/dohc
友香さんが言われるがままに目を瞑ると、少女さんが歩み寄りそっと友香さんの鳩尾に手を添えた。
そしてその手に、友が御札を重ねる。
友「我の名は友。心の臓より送りたるは幽界の者を見し力。此の者は彼の者を捉え、干渉する力を生み出したるは――」
本人は真剣にやっているのだろうけど、相変わらず胡散臭い。
この中二っぽい呪文はどうにかならないのだろうか。
やがて儀式が終わり、友が少女さんの手から御札を離した。
友「もう目を開けても大丈夫ですよ」
友香「……」
少女「友香ちゃん。私のことが見えていますか」
友香「えっ……うそでしょ。本当に少女なの?!」
少女「そうだよ。たくさん心配掛けてごめんね」
452
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/19(火) 19:31:13 ID:6HF/dohc
友香「どうして? どうして、自殺なんてしちゃったのよお!」
少女「それは――」
友香「つらいことがあるなら、一人で悩まずに相談して欲しかった。だって、私たち親友でしょっ!」
友香さんは気持ちを昂ぶらせ、供花を手にしたまま、悲痛な表情で少女さんを抱き締めようとした。
しかし、その腕は身体をすり抜ける。
そして友香さんはそのまま泣き崩れた。
友香「ううっ、うわあああんっ!」
少女「友香ちゃん、ごめんなさい――」
男「これで良かったのかな」
双妹「これで良かったんだよ、きっと……」
男「……そうだな」
453
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 15:01:01 ID:mpmZxSJY
乙
454
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 19:37:17 ID:gl0cKDkA
やがて気持ちが落ち着いたのか、友香さんがしゃくりあげながら立ち上がった。
そんな彼女に友が説明を始める。
少女さんの姿を見ることが出来る期間や守護霊の力を強めるための御守り。
それらの説明が終わると、友香さんは赤く腫れた目で少女さんを見詰めた。
少女「友香ちゃん。私は私がどうして死んでしまったのか、その理由を知りたいの。だから、私に協力して欲しい」
友香「……ひっく、分か……ってる。私は何を……したらいいの」
友「うさぎのぬいぐるみを調べたいので、少女さんの部屋に案内してほしいです」
友香「少女の……部屋?」
友「少女さんの自殺は意図的なものではなくて、偶発的な事故によるものなんです」
友香「あれが、事故だって言うの?!」
友「その事故原因が分からないせいで、少女さんは家に帰ることが出来ないんです。詳しいことを話すと長くなるので、まずは少女さんの家に行きませんか」
友香「そう……ですね」
455
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 19:39:47 ID:nOyQoMbQ
男「なあ、友。俺たちは少女さんの家に行けないんだけど」
友「行けないものは仕方ないだろ。ちゃんと調べてくるから、後のことは任せてくれ」
友香「あの……どうして男くんは行けないんですか」
友「憑依霊には霊的占有範囲というものがあって、男の霊的中心が少女さんの占有範囲から出られない状態になっているんです」
友香「ふうん、そんなことをしているんだ」
双妹「ねえ、少女さん。このままだと男がお線香をあげられないわよ」
少女「そうなんだけど、やっぱり怖くて……」
双妹「そっか。それじゃあ、仕方ないわね」
456
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 19:42:10 ID:IDe8nIjw
男「友香さん。そういう訳だから、ごめん」
友香「ひとつ聞きたいんですけど、その動けないのって、いわゆる金縛りなんですか?」
男「多分、金縛りとは違うんじゃないかなあ」
双妹「金縛りって言うより、男が無意識に全力で抵抗している感じだよね」
男「もしかしたら、少女さんが運動神経を操作しているのかも」
少女さんは視覚や聴覚、触覚の操作をしている。
それくらい霊的な力が強いのだから、さして驚くほどのことではない。
友香「私に良い考えがあるんだけど」
男「良い考え?」
友香「男くんが自分で動けないなら、誰かに運んでもらえばいいんです」
双妹「それはもう考えたし、押しても引いても駄目でしたよ。さっきも言ったけど、全力で抵抗して来るんです」
友香「だったら、抵抗しても無駄な状況を作ってしまえばいいじゃないですか」
457
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 19:43:41 ID:gl0cKDkA
友香さんはそう言うと、スマホを取り出して何かを調べ始めた。
そして少し距離を取り、どこかに電話を掛ける。
双妹「何をするつもりなんだろ」
男「……さあ」
少女「友香ちゃんのことだから、突拍子もないことだと思うけど――」
双妹「突拍子もないこと?」
そうこう話していると、友香さんが戻ってきた。
何となく、にこやかな表情をしているように見える。
友香「電話で聞いたら、すぐに来てくれるって」
男「来てくれるって、誰がですか」
友香「タクシー」
男「ええっ、タクシー?!」
458
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 20:07:59 ID:IDe8nIjw
双妹「ね……ねえ、本当にタクシーがこっちに来てるよ!」
男「まじかよっ!」
双妹「もしかして、あれに乗って強引に連れて行くってこと?!」
友香「そうですよ。男くんが少女から離れられないなら、少女も男くんから離れることが出来ないはずですよね。私も供花を持って歩くのが大変だから、ちょうどいいかなと思うんです」
友「なるほど。車に乗せるのは盲点だったな」
双妹「ちょっと待ってよ! もし少女さんの留まる力のほうが強かったら、男はどうなるの?!」
男「あ、ああ……確かに」
車の中でぺちゃんこになるとか、魂が身体から抜け落ちるとか。
最悪の場合、そんな状況になるんじゃないのか?!
459
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 20:12:09 ID:R1owHpMY
男「でも少女さんに一歩を踏み出す勇気があるなら、俺は友香さんの提案を試してみたいと思う。少女さんはどうしたい?」
少女「今のままだと、私は何も変われない。だから、死を受け入れるために家に帰りたいです」
男「そうか。じゃあ少女さん、一緒に頑張ろう!」
双妹「男、何を考えているのよ! もし万が一のことがあれば、死ぬかもしれないのよ!」
男「そうかもしれないけど、俺は少女さんを支えてあげたいんだ」
双妹「じゃあ、少女さんは責任を取れるの?」
少女「双妹さんの気持ちは分かります。だけどここで私が頑張らないと、男くんの気持ちに応えることが出来ないと思うんです」
少女「双妹さん、私は前に進みたいんです!」
460
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 20:15:52 ID:IDe8nIjw
双妹「口で言うのは簡単だけど、そもそも少女さんは――」
友「まあ、はっきり言って大丈夫だけどな」
男・双妹「えっ?」
友「男は守護霊を強化しているだろ。最悪の場合、少女さんが弾き出されるだけだから」
双妹「……」
少女「……」
双妹・少女「そういうことは先に言ってよね!!」
友「ご、ごめん」アセアセ
461
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/20(水) 20:19:15 ID:nOyQoMbQ
友香「えっと、タクシーに乗るのは大丈夫ってことで良いんですか?」
双妹「まあ、そうだね」
友香「じゃあ、待たせているから行きましょうか」
そう言われて友香さんが指差したほうを見ると、タクシーが駅前に停車していた。
いつの間にか到着して、俺たちを待っていたらしい。
男「少女さん、頑張ろう!」
少女「はいっ」
俺は少女さんの手を取り、駅前のタクシーへと歩みを進めた。
その足取りは少しぎこちなく、まるで自分の身体ではないかのようだ。
しかし、それは少女さんが勇気を出している証なのだ。
一歩、一歩、また一歩。
前に向かって足を踏み出していく。
そして、ついに少女さんはタクシーに乗ることに成功した。
462
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/21(木) 05:32:57 ID:94L/6ilk
乙
463
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/25(月) 19:59:13 ID:aSBwdqro
〜住宅街〜
駅からタクシーで走ること数分。
さっきまで帰ることが出来なかったのが信じられないほど、簡単に少女さんの家に到着した。
タクシー代はみんなで割り勘にし、車から降りる。
そして、俺は少女さんの様子を確認した。
男「家に着いたけど大丈夫?」
少女「だ……大丈夫です」
その声はわずかに震えていた。
自分が死んだ場所に戻ってきたのだから、もちろん怖いに決まっている。
それでも、少女さんは気丈に振舞って頑張っているのだ。
男「ここまで着たら、もう一息だな」
少女「そうですね」
464
:
以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/25(月) 20:02:11 ID:aSBwdqro
双妹「そういえば、少女さんの家って浮遊霊が集まっているんだっけ」
友香「ええっ、そうなの?!」
友「確かに浮遊霊の集会場みたいになっているけど、そのほとんどは少女さんのことが心配で来ているだけだから特に気にする必要はないと思う」
友香「……ふうん。よく分からないけど、少女は謝っておいたほうが良さそうだね」
少女「そうかもしれないけど、本当に浮遊霊が集まっているんですか?」
少女さんはそう言うと、友に疑いの眼差しを向けた。
どうやら、少女さんには他の浮遊霊の姿が見えないらしい。
友「少女さんは男の守護霊が守っている範囲の中にいるから、他の浮遊霊の姿が見えないんだ」
少女「じゃあ、取り憑くのを止めれば見えるようになるってことですか」
友「そういうことになるね」
少女「ずっと家に帰っていなかったし、怒られたりするのかなあ」
友「それはあり得るかも」
少女「いやだな……」ショボン
465
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以下、名無しが深夜にお送りします
:2018/06/25(月) 20:03:44 ID:aSBwdqro
男「とりあえず、心配をかけているなら早く帰って安心させてあげようよ」
双妹「そうだね。もう2週間近く帰っていないんだし」
ピンポーン♪
ガチャリ
少女「……お母さん、ただいま」
少女母「友香ちゃん、双妹さん、いらっしゃい。中学校の同級生も一緒だと聞いていたけど、男の子だったのね」
少女「……」
友香「……はい、そうなんです」
双妹「私のお兄ちゃんと友くんです」
男「こんにちは、男です」
友「友です」
少女母「みんな、今日はありがとう。どうぞ上がってください」
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