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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

180以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 22:42:19 ID:Jmq9ukzc
少女「ええっ! 私の家に幽霊がいるんですか?!」

友「そうだよ。少女さんが家にいないから、近所の浮遊霊が様子を見に来ていたんだと思う」

男「もしかして、少女さんが家に帰るのを嫌がっているのは浮遊霊が集まっているからなのかな」

友「それはどうだろう。ただ今後のことを考えて、男の守護霊の力を高めておこうと思う」

男「守護霊の力?」

友「少女さんが家に帰れるようになったら、男もお線香をあげに行くだろ」

男「ああ、行かせてもらおうと思う」

友「そのときに低級霊が寄ってきたらうざいからな」

181以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 22:54:42 ID:YyzZvQKo
男「それで守護霊の力を高めるにはどうしたらいいんだ?」

友「この御守りを身に付けていれば、半年くらいは効果がある。まあ、鞄の中にでも入れっぱなしにしておいてくれ」


友はそう言うと、カバンの中から御守りを取り出した。
神社の名前が刺繍されているので、普通に売っているものなのだろう。


男「そんなことで良いのかよ」

友「御守りはあくまでも補助的なもので、特に大切なことは健康な心身を保つことだ。しっかりと食事を取って、運動をして体力づくりをして、よく寝てストレスを溜めないこと」

友「そんな健康的な生活を送ることで、守護霊は強くなるんだ」

男「それって、もう守護霊とか関係なくないか?」

友「あと、守護霊がいるって信じることも重要な」

182以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 22:57:52 ID:YyzZvQKo
少女「あのー、男くんの守護霊の力を高めて私に影響はないんですか」

友「害意があるなら、すぐに弾き出されるんじゃないかな」

少女「はうぅっ、そんなあ……」

友「でも今は成仏をする前の浮遊霊だから、四十九日までは守護霊も理解を示してくれると思う」

少女「そうなんだ」

友「でも、快くは思われていないだろうな」

少女「……ですよねえ」

男「ふと思ったんだけど、少女さんは守護霊の姿が見えないの? 守護霊も幽霊なんだろ」

少女「私には見えないです」

友「守護霊は妖怪や神格を伴った神霊だからな。ただの人間や浮遊霊程度の霊性では、その姿を見ることは出来ないよ」

男「そういうものなのか」

183以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 23:34:46 ID:aiMuLZek
友「それじゃあ、そろそろ始めようか。少女さん、準備は良いかな」

少女「は、はいっ!」


少女さんが緊張した面持ちで答えると、友はカバンから御札を取り出した。
そして、二人は向かい合う。


友「心霊催眠で呼び戻す記憶は2月13日、少女さんが自殺をしたときってことでやってみるから」

少女「お願いします」ドキドキ

友「我が名は友。己に囚われし少女の幽体を取り払い、魂の記憶と交わらんとすることを欲す。我が求めるは死の要素、喪われし生命の記憶――」


本人は大真面目だけど、何だか中二っぽいぞ。
この前口上は本当に必要なのか?
そう思っていると、友は少女さんの鳩尾に御札を押し当てた。


少女「うぐっ……」

友「いざ、解き放てっ!!」

184以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/24(土) 13:20:23 ID:LdqQl75E
おつ?

185以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 19:04:43 ID:IbqlonDQ
(2月13日)sat
〜部屋・少女さん〜
土曜日の午後、外は暖かい雨が降っていた。
天気予報によれば、明日にかけて低気圧が急速に発達して春の嵐になるらしい。
それはまるで、私の気持ちを暗示しているかのようだ。


少女「男くん……」


私は窓のカーテンを閉めて、小さく呟いた。
今日は暖かいし、あの女子とデートをしているのかなあ。
きっと、そうだよね――。

どうして、去年のバレンタインデーに告白をしなかったのだろう。
あの時にほんの少し勇気があれば、男くんの隣にいたのは彼女ではなくて私だったはずなのに。
悔やんでも悔やんでも、悔やみきれない。

186以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 19:07:53 ID:5QUnJ7oQ
少女「……はあっ」


でも、私は決めたんだ!
もしかしたら、あの二人はすでに付き合っているのかもしれない。
告白をすることで、週刊誌に嫌な記事を書かれるかもしれない。
それでも、私は男くんに気持ちを伝えるんだ!


少女「するよ! 明日、絶対に好きだって告白するよっ!!」


私はうさぎのぬいぐるみを手に取り、ぎゅっと抱き締める。
野原をぴょんぴょんと跳ねていくうさぎのように、私も前に進み続けるんだ。
だから、キミも応援してくれるよね?


(でも、本当に上手く行くのかなあ)


不意に気味の悪い視線を感じた。
それは、昨日の放課後に感じた視線と同じだった。

187以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 19:51:24 ID:5QUnJ7oQ
見られている。
この部屋も見られている。
どうして、マスコミの人はこんなことをするの?!


(それは人を殺したからじゃないか)


違うっ!
確かに少年くんが自殺をしたのは私のせいかもしれないけど、私は絶対に人殺しなんかじゃない!


(でも、他の人はどう思っているんだろうね)


それは……。


(みんな人殺しだと思っているよ)


私は本当は人殺し……なの?


そう思うと同時、不安な気持ちが膨らんできた。
私はうさぎのぬいぐるみをじっと見詰め、何度も繰り返した思考のループに迷い込んでいく。
そして、答えを探し続ける。

188以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 19:54:02 ID:IbqlonDQ
(もう分かっているんだろ)


分かっている?


(そうだよ)


確かにそうかもしれない。
きっと、告白しても惨めな想いをするだけだ。


男『悪いけど、キミと付き合うことは出来ない。実は付き合っている人がいるんだ』

少女『あの人と付き合ってるの?』

男『それじゃあ、今から彼女とデートだから。さよなら』

少女『男くん、待ってよっ!! あんな女子より、私のほうが――』

男『はあ?! はっきり言わないと分かんないのかよ。お前みたいな人殺しとは付き合えないって言ってるんだよ!!』

189以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 20:02:22 ID:5QUnJ7oQ
少女「ううっ、ひっく……ひっく…………」


妄想をしていると、涙があふれてきた。
男くんと付き合うことが出来ないのなら、彼に告白しても意味がない。
男くんと付き合うことが出来ないのなら、生きている意味もない。


だったら、死んでしまえばいい――。


そうだ。
もう楽になってしまいたい。
悲しい想いはしたくない。

私は机の引き出しから、お父さんに渡す予定だったネクタイを取り出した。
団子結びをして輪を作り、ドアノブに引っ掛ける。
そしてそれが外れないことを確認すると、体育座りをして右手でネクタイを掴み、ドアに背中を押し付けながら腰を浮かせた。

190以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 20:09:29 ID:NQZDA7Io
輪の中に首を入れる。
でも……本当に…………これでいいのかな。

そう思った瞬間、突っ張っていた両足が疲れてきた。
力が抜けて、腰が落ちる。
それと同時、ネクタイが頸部を強く圧迫した。


少女「……ぅぐっ?!」


息が詰まり、頭の中がとても熱い。
そしてすぐに意識が朦朧として、なすすべもなく眠りの中に落ちていった――。

191以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 20:14:19 ID:5QUnJ7oQ
今日はここまでにします
レスありがとうございました

192以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 01:12:44 ID:plRJFZ5U
足の疲れが原因か

193以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 22:06:40 ID:F8CIbtDw
・・・
・・・・・・
〜友の部屋〜
催眠術が成功し、少女さんは友の誘導に従って当時の状況を語り始めた。
告白の決意と不安。そして、首吊り自殺――。
そのすべてを話し終えたとき、少女さんは催眠状態から復帰した。


少女「……はあはあ」

友「少女さん、お疲れさま」

少女「私、死んだ。本当に……自殺していたんだ」ハアハァ

友「そうみたいだね。そしてこの直後に家族が少女さんを見つけて、すぐに病院に搬送したんだと思う。魂が抜け落ちて幽霊になったのは、そのときだ」

少女「あまり実感が湧かないけど、そういうこと……だったんだ」

194以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 22:14:22 ID:guseBiq.
男「どうして……どうして、こんなことで死ねるんだよ!」

少女「こ、こんなこと?」

男「だって、少女さんは俺に告白するつもりだったんだろ。それなのに、こんなの現実から逃げ出しただけじゃないか!」

少女「それは……」


少女さんの気持ちも分からなくはない。
男子生徒が自殺し、さらに週刊誌に心ない記事を書かれて、少女さんは精神的に追い詰められていたからだ。
そのせいで、恋愛に対して強い劣等感を抱いていたのかもしれない。

だけど、頑張って告白してほしかった。
そしてそれ以上に、こんな形で将来の夢を諦めないで欲しかった。

195以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 22:21:33 ID:guseBiq.
友「そう熱くなるなよ。まさか、本当に少女さんが逃げ出したと思っているんじゃないだろうな」

男「思いたくないけど、そうとしか考えられないだろ。こんなことで自殺をするなんて、少女さんらしくないじゃないか!」

友「そういうことだよ。それが分かっているなら、もっと他にすることがあるんじゃないのか」

男「……!」


友の言うとおりだ。
いきり立つだけなら、誰でも出来る。


男「少女さん、ごめん。記憶を思い出してつらいときなのに、責めるようなことを言ってしまって……」

少女「いえ、いいんです。現実から逃げたのは本当ですから」

友「……」

196以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 23:02:40 ID:F8CIbtDw
友「それじゃあ、気を取り直して少女さんの自殺の動機を考えてみようか」

男「それは、やっぱりアレなんだろうな」

少女「……」

友「確かにそれが関係ないとは言えないけど、ひとつ気になっていることがあるんだ」

男「気になること?」

友「ああ、少女さんには事故死霊の特徴があるだろ。それなのに、偶発的な要素がまったくないんだ」

男「足が疲れたことが原因だから、半分は事故みたいなものだろ」

友「いや、俺たちの業界筋では、能動的または受動的な要因で偶発的に死ぬことを事故死と言うんだ。その代表例が交通事故なんだけど、突然発生した事件や事故に巻き込まれて死亡した被害者には、ある共通した特徴が見られる」

男「それって、何なんだ?」

友「彼らの多くは、自分がなぜ死んだのか分かっていないんだ。そして、その現場に近付くのを恐れるようになる。そのせいで死を実感する事ができないから、事故死霊は成仏できない場合があるんだ」

197以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 23:44:28 ID:guseBiq.
少女「それって、私と同じ状況ですね」

友「そうだよ。だから、少女さんは間違いなく事故死霊なんだ」

男「そう言われると、足の疲れは体力的な問題だから事故ではないよな」

友「ああ。マスコミに盗撮されていたことやネガティブ思考も、極論すると精神的な問題だから事故だとは言えないだろう」

少女「そうなると、やっぱり私の死因はただの自殺ってことになるんじゃないですか?」

友「いや、少女さんの自殺にはもっと他の要因が隠されている」

198以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 23:47:41 ID:VykA8y2A
男「他の要因って、どういうことだよ」

友「そうだな、俺はうさぎのぬいぐるみが怪しいと思っている。少女さん、いつも話をしているの?」

少女「んなっ// そこですか?!」

男「それは俺も気になったかも。双妹がぬいぐるみと話しているところって見たことがないから、すごくメルヘンだなって思ったし」

少女「それはその……」

少女「何と言うか……私には歳が離れたお姉ちゃんがいるんですけど、私が小学生になる前に一人暮らしを始めて――」

少女「だからその、家ではぬいぐるみがお友達なんです//」

友「なるほど」

少女「あうぅっ……//」

199以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 00:34:55 ID:VGtwCazY
友「どうやら、うさぎのぬいぐるみを調べてみないといけないみたいだな」

少女「ええっ! あの子を調べるの?!」

友「うさぎのぬいぐるみを手に取ったときから、少女さんの感情が急激に落ち込んでいるだろ。もしかすると、何らかの痕跡が残されているかもしれない」

少女「何らかの痕跡って、どういうことですか」

友「悪いけど、それはまだ言えない。もしかしたら盗撮カメラや盗聴器を仕掛けていた痕跡が残されているかもしれないし、それとは違うもっと別の何かが見付かるかもしれないからな」

少女「もっと別の何かって、何だか怖すぎるんですけど……」

男「でもさあ、うさぎのぬいぐるみを調べたとしても、少女さんの自殺から1週間も過ぎているから、あまり期待は出来ないんじゃないかな」

友「そうかもしれないけど、今は少しでも情報が欲しいし、何もしないよりは良いだろ」

男「まあ確かに――」

200以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 00:41:03 ID:VGtwCazY
今日はここまでにします
レスありがとうございました

201以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 20:15:59 ID:kfKbvawM
少女「あのっ、解離性同一性障害の可能性はありませんか」

男「解離性同一性障害?」

少女「いわゆる二重人格のことです」


二重人格なら、小説や映画の中で聞いたことがある。
1つの身体に二人の人格が入っているというものだ。
その場合、もう一人の人格は破壊衝動や自殺願望を持っている場合が多いらしい。


男「つまり、うさぎのぬいぐるみは別人格のメタファーだったということか」

少女「はい。それなら別人格が自殺をしていても、主人格の私は何も知らないってことになりますよね。辻褄が合っていると思います」

友「確かに偶発性の説明は付くけど、その可能性はないだろうな」

202以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 20:40:21 ID:kfKbvawM
少女「はあ……。帰りたくないんだって、察してくださいよ」

友「それは分かってる。ぬいぐるみを調べるときに少女さんも来てくれって訳じゃないから」

少女「でも、私の部屋に入るんですよねえ」

友「あっ! 俺が一人で行っても入れないのか」

少女「そうですよ。残念でしたね♪」

友「少女さんの友達を紹介してもらえたら助かるんだけど、他に何か上手い方法はないかなあ――」


少女さんの友達?
そういえば今、双妹が友香さんに会っているはずだ。
しかも、彼女は俺に会いたがっているらしい。

203以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 22:35:26 ID:kfKbvawM
男「少女さんの友達なら、俺が紹介できるかもしれない」

少女「紹介って、まさか友香ちゃんを?!」

友「マジかっ! 男に宛があるなら、俺に紹介してくれよ!」

男「良いけど、実は俺もまだ会ったことがないんだ」

友「どういうことだよ、それ」

男「何だか俺に会いたがっているらしくて、近い内に会う約束をしているんだ。だから、そのときに友の話を振ってみる」

友「……」

友「少女さんのことを考えると、訳ありなんだろうな。とりあえず、いい感じで頼む」

男「分かった」

204以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 22:37:49 ID:VGtwCazY
友「さてと、上手く行けば、来週の日曜日には調べられそうだな」

少女「来週の日曜日って、そんなに急ぐ事なんですか?」

友「そりゃあ、少女さんも早く安心したいだろ」

少女「それはそうですけど、散らかっている部屋を見られたくないです」

友「大丈夫。ご両親がきれいに掃除してくれているはずだから」

少女「そういう問題じゃなくて、家に帰ると本当に良くないことが起きると思うんです」

友「だから、俺がそう思う原因を取り除いてあげるよって言ってるんだ」

少女「でも、でも……」


ぬいぐるみの調査が現実味を帯び始めて、少女さんが渋り始めた。
友に自分の部屋を見られたくない気持ちは分かるけど、それでは今までと何も変わらない。
そう思い、友に助け舟を出すことにした。

205以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 22:41:33 ID:kfKbvawM
男「少女さんは催眠術の提案をされたとき、『自分を見詰めることが出来るようになれば、いろんなことが分かるようになる』って、そう言っていただろ」

少女「……はい」

男「死んだときの記憶を思い出して、何か分かった?」

少女「分かったと言うか、やっぱり私が自殺をするなんておかしいです。だって、男くんに告白するって決めたんだもん!」

少女「……あっ! いえ、これは違うんです!!」アセアセ

男「いいよ、ありがとう。少女さんはつらいことがあっても、前向きに頑張っていける人だと思う。俺はそう思ってる」

少女「……うん」

男「少女さんの記憶は戻ったけど、少女さんの主観だけでは分からない部分があるんだ。だから、もう少し一緒に頑張ってみようよ」

少女「そう……ですね。調べてみてください、私の部屋を――」


少女さんはそう言うと、友を見詰めた。
その表情には、強い意志を感じられた。

206以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/30(金) 20:45:49 ID:57eyaXz.
〜市街地〜
少女さんの催眠術が無事に終わり、俺と少女さんは友の家を後にした。
そして、二人で歩く日曜日の午後。
お互いに告白のことを意識してしまい、ずっと沈黙が続いている。
そんな気まずい雰囲気の中、少女さんが口を開いた。


少女「ちょっと休んでいきませんか」


少女さんはそう言って、公園を指差した。
普段なら親子連れが多い場所だけど、昨日の雨で水たまりが出来ていて、今日は誰もいないようだ。
二人で話をするにはちょうど良いかもしれない。

207以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/30(金) 22:51:09 ID:twkEuJY2
男「そうだね。少し休んでいこうか」

少女「……」


俺はぬかるんだ地面に気を付けながら、公園の中に入った。
その隣を少女さんがふわふわと付いてくる。
そして、二人でベンチに座った。


少女「えっと、その……さっきの告白のことなんですけど――」


少女さんは不安げな様子で言い、顔を俯けた。
もしかして、告白の続きをしてくれるのだろうか。
その気持ちはとてもうれしいけれど、彼女はすでに死んでいる。
付き合うことなんて出来るはずがない。

だけど、理屈ではなくて……。

彼女の気持ちと前向きな想い、そして自殺の悲しみ。
それらを二人で分かち合いたいと思った。

208以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/30(金) 23:15:19 ID:N9jhFgDI
男「……少女さん!」


俺は力強く立ち上がり、まっすぐに少女さんを見詰めた。


少女「は……はいっ……」

男「俺は少女さんのことが好きです!」


これが今の俺の気持ちだ。
それを伝えると、少女さんは唖然とした表情になり、やや遅れて驚きの声を上げた。


少女「ええぇっ?!」

男「こういう時ってさあ、やっぱり男子のほうから告白するべきだと思うから」

少女「本当に私なんかで良いんですか?!」

男「ああ、俺は少女さんのことが好きなんだ。だから、付き合ってください!」


きっと、大丈夫。
この告白は絶対に成功するはずだから――。
しかし、ややあって少女さんは冬の空のように顔を曇らせた。

209以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/30(金) 23:38:12 ID:kMqQQSmc
少女「……どうして、どうしてそんなことを言うんですか?!」

男「俺じゃあ、駄目なのかな」

少女「だって、私は死んでいるんですよ! 恋愛なんて出来るわけがないし、付き合うことなんて出来るわけがないじゃないですか」

男「でも、少女さんは俺に告白するつもりだったんだろ。そう言ってたじゃないか」

少女「それは……それは、生きていたときの話です!」

少女「私は結婚が出来ないし、赤ちゃんを産むことも出来ません。だからあのとき、私は双妹さんの前から逃げ出したんです」

少女「男くんのことが好きだからこそ気持ちを伝えないって、そう決めたんです!」

少女「それなのに――」


自殺の動機に、俺と双妹が関わっていた。
そしてその記憶と告白の決意を、催眠術を通してしゃべってしまった。
それは、少女さんにとって想定外のことだったのだ。

210以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/30(金) 23:45:34 ID:kMqQQSmc
男「人が人を好きになるのに、そんな理屈は関係ないんだよ!」

男「確かに少女さんは死んでいるし、幽霊だから付き合えないって思ってた」

男「だけど少女さんが記憶を思い出していくにつれて、つらいことがあっても前向きに頑張っていける人なんだなと思った。そして、そんな少女さんと気持ちを分かち合いたいと思ったんだ」

少女「でも、でも……私は4月1日でいなくなるんですよ!」

男「だから、そんな理屈は関係ないって言ってるだろ!」

少女「ふふっ……」

男「何がおかしいんだよ」

少女「ご……ごめんなさい。ちょっと、友香ちゃんの言葉を思い出して」

男「友香さんの?」

少女「好きな人に告白するのは、本当に勇気がいることだと話していたんです。それでその後スイーツ店でおしゃべりをしていたんですけど、やっぱり強引さも必要だったんだなと思って」

少女「男くん……本当に幽霊の私なんかで良いんですか?」

211以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/31(土) 00:12:46 ID:JlnGkhdU
男「だから、そう言ってるだろ」

少女「私も男くんのことが好きです。付き合って欲しいです!」

男「これで俺たちは恋人同士……だね」


そう言うと、少女さんは気恥ずかしそうに立ち上がった。
そして、右手を差し出してきた。

少女さんの手が触れて、そのまますり抜ける。
そう思った瞬間、彼女の右手が俺の左手に触れた。


少女「私ね、実は触ることが出来るんです」

男「それって、俺に姿を見せている方法と同じ理屈でってこと?」

少女「理屈なんて関係ないですよ//」

男「そうだな」


俺たちに理屈なんて関係ない。
今までは触れることが出来なかった、少女さんの身体。
その身体に触れることが出来て、体温を感じることが出来ている。
その事実だけで、俺の心は満たされていた。

212以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/02(月) 22:36:44 ID:2kwO/qSg
〜自宅・部屋〜
少女「な……何だか緊張しますね」ソワソワ

男「緊張するって言うけど、今朝までと何も変わらないだろ」アセアセ

少女「でも、付き合い始めたその日にお泊りだなんて//」


少女さんはそわそわと落ち着きがない様子で、ベッドに座った。
あまり離れられないので、俺もその隣に座る。


男「お、お泊りとか言うなよ」

少女「そ、そうですよね」

男「でもその……これってお泊りというか同棲だよな」

少女「はわわ// 同棲とか言わないでくださいよ」

男「あの、少女さん――」

213以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/02(月) 23:37:27 ID:2kwO/qSg
双妹「男、おかえり」


少女さんと落ち着いて話をしようかと思った矢先、双妹が部屋に入ってきた。


男「双妹、ただいま」

双妹「……」

双妹「…………」

男「どうかしたのか、黙り込んで」

双妹「ごめん、何でもない――」

214以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/03(火) 00:20:10 ID:Ifp8Goqw
男「何でもないってことはないだろ。もしかして、何かあったのか」

双妹「……うん」


双妹は力なく頷くと、俺の隣に腰を下ろした。
そして、そこに座っていた少女さんが慌てて横によける。


少女「もうっ、そこは私が……って、あ、ああ、そっか」


少女さんは言葉を詰まらせると、悲しげな表情を見せた。
双妹も同じく、悲しげでつらそうな表情をしている。

双妹は友香さんに会い、知ってしまったのだ。
少女さんの死を――。

215以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/03(火) 00:23:35 ID:LpENAeT2
男「話しにくいことなら、今日でなくても大丈夫だけど……」

双妹「ごめん、大丈夫」


双妹は気丈に言うと、軽く笑って見せた。
それだけで、これから話す内容があまり思わしくないものであることが分かる。


双妹「友香さんのことなんだけどね、明日のお昼に学校を休んで会えないかな」

男「学校を休んで?!」

双妹「……うん。ちょっと事情があって、多分その時間じゃないと駄目なの」

男「事情?」

双妹「驚かずに聞いてくれる?」

男「あ……ああ」

双妹「少女さんね、病院でずっと寝たきりになっているの」

216以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/03(火) 12:14:43 ID:VF91oP8A
幽体離脱ないしは生き霊か

217以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/03(火) 23:41:58 ID:Ifp8Goqw
男「それって、どういうことだよ」


少女さんが病院でずっと寝たきりになっている?
だったら、どうしてここに少女さんがいるんだ。
まるで訳が分からない。


双妹「13日のお昼に友香さんが少女さんの家に行ったら、少女さんが部屋で倒れていたんだって。それで病院に運んだんだけど、まだ意識が戻ってないの」

双妹「それでね、友香さんと一緒にお見舞いに行ってきた。本当は家族しか会えないんだけど、ご家族の方がいらして特別に会わせてくれたの」

男「少女さんに会ったのか?!」

双妹「……うん。でも、でもね……機械がいっぱいつながっていて、私はとても見ていられなかった――」

男「じゃあ、少女さんは……」

少女「そんなの、あり得ないです!」

218以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/03(火) 23:47:27 ID:Ifp8Goqw
双妹「ねえ、友香さんに会える?」

双妹「友香さんは男が少女さんに会えば、目が覚めるんじゃないかって。奇跡が起きるんじゃないかって、そう思ってる」

男「明日、友香さんに会いに行く。そして、病院で寝ている少女さんに会ってみたい!」

少女「……」

双妹「じゃあ、友香さんに連絡しておくわね。あと、私も一緒に行くから」

男「分かった。双妹、ありがとう」

双妹「少女さんに会えるかどうか分からないけど、本当に奇跡が起きるといいよね――」


双妹は肩を落とし、力なく立ち上がった。
そして「晩ご飯の手伝いをしてくる」とだけ言い残し、部屋を出て行った。

219以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/03(火) 23:57:36 ID:Z3abjQzU
男「少女さん! 少女さんは死んでなんていなかったんだ!」


思いも寄らない報せに、俺は声を上げた。
死んでいると思っていた少女さんが実は生きていただなんて、こんなにうれしいことはない。
考えてみれば、少女さんが生きていることを示す証拠はいくらでもあった。

少女さんが最初に病院で気が付いたこと。
新聞に少女さんの死を報じる記事がなかったこと。
妹友さんが『今は学校に来ていない』と言っていたこと。

恐らく、少女さんは幽体離脱をしてしまったのだろう。
だから入院している少女さんは、ずっと寝たきりで意識が戻らないのだ。


少女「私は首吊り自殺をしたんですよ。生きているはずがありません!」

男「じゃあ、友香さんと双妹が嘘を吐いているってこと?」

少女「それは……」

220以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 00:05:58 ID:r0MSXfIg
男「友香さんのこと、友達なら信じてみようよ。もしかしたら、本当に奇跡が起きるかもしれないだろ」

少女「でも、私には分かるんです」

男「分かるって言うけど、少女さんが生きているのは事実だろ。少女さんが病院に戻れば、ぱちって目が覚めるんじゃないかな。それがハッピーエンドってやつじゃないか」

少女「そんな小説みたいなこと、起きる訳がありません」

男「もしかして、少女さんは生き返りたくないの? 俺たちは付き合い始めたわけだし、生き返れば色んなことが出来るようになると思うよ」

少女「私だって生き返れるならそうしたいです。でも、無理なんです。奇跡なんて起こりようがないんです!」

男「どうして、そう思うんだよ。もっと前向きに考えてみろよ」

221以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 00:25:43 ID:r0MSXfIg
少女「心肺蘇生法の救命率はご存知ですか」

男「心肺蘇生法の救命率?」

少女「病気などで心肺停止状態になってしまったとき、その時間が長くなると救命率が下がっていくんです。一般的に、2分以内に心肺蘇生法が開始された場合の救命率は90%程度だと言われています」

男「それなら、保健体育の授業で習ったかも」

少女「それでその救命率なんですけど、4分後で50%程度、5分後には25%程度にまで下がってしまいます。どうして、こんなに早く下がると思いますか?」

男「それは心臓が止まって酸素が回らなくなるからだろ」

少女「そうです。その時間がわずか3分で、脳細胞がダメージを受けてしまうんです。だから、早期の救命活動が必要なんです」

男「少女さんの場合も同じだって言いたいのか」

少女「私の場合は首吊り自殺なので、頸部の動脈が締められて脳に血液が流れなくなります。だから発見が遅れれば遅れるほど、脳に致命的な障害が残ることになるんです」

男「じゃあ、少女さんは……」

少女「それが分かっていても、前向きに考えられるんですか!」

222以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 00:34:12 ID:uNOmdCEA
男「それでも、希望はあると思うんだ!」

少女「そんなのないですよ!」

男「だって、友香さんも看護科の生徒なんだろ」

少女「その友香ちゃんが奇跡にすがっている時点で、もう駄目ってことじゃないですか」

男「だったら、俺が傍にいてやるよ」

少女「えっ?」

男「意識が戻ったら、今度は俺が傍にいてあげるから」

少女「……私の身体は自殺の後遺症が残っているかもしれないんですよ」

男「告白したときに言っただろ。少女さんはつらいことがあっても、前向きに頑張っていける人だと思う。俺はそんな少女さんと気持ちを分かち合いたいんだ」


少女さんは変に知識があるせいで、希望を持つことが出来ないのかもしれない。
だけど、助かるはずの命が消えてしまったら、それはもう二度と取り返しがつかないのだ。
自殺の後遺症なんて、一緒に克服して行けばいいと思う。

223以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 01:01:17 ID:r0MSXfIg
今日はここまでにします
レスありがとうございました

224以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 20:34:31 ID:uNOmdCEA
少女「気持ちを分かち合う……か」

男「そうだよ、一緒に頑張ろう。そうすれば、後遺症があったとしても乗り越えられるはずだから!」

少女「……」

少女「ありがとう。私、まだ死にたくない。もっと生きていたい!」

男「絶対に大丈夫。奇跡を信じて、友香さんに会ってみようよ」

少女「うんっ!」

男「じゃあ、友に連絡してみるか」

少女「友くんに?」

男「幽体離脱をした少女さんが身体に戻れなくなっているなら、俺たちよりも友のほうが詳しいはずだろ」

少女「そうだね」

男「それじゃあ、電話してみる」

225以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 23:02:24 ID:TiT1XedY
PiPoPa...


男「もしもし」

友『もしもし、男か。どうしたんだ?』

男「実はな、少女さんは死んでいなかったんだ。それで友に相談したいことがあるんだけど、大丈夫かな」

友『ちょっと待て! 死んでなかったって、どういうことだよ』

男「双妹によれば、少女さんは病院でずっと寝たきりになっているらしいんだ」

友『いや、普通に考えて、少女さんは間違いなく死んでいる。誰かと間違えているんじゃないのか』

男「そんな訳ないだろ。間違いなく死んでいるって、どうしてそんなことが分かるんだよ」

友『それは少女さんの霊子線が切れているからだ』

226以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 23:07:56 ID:uNOmdCEA
男「霊子線?」

友『霊体と肉体を繋ぐ幽体の線のことで、いわゆる命綱みたいなものだ。少女さんに生きていて欲しいって気持ちは分かるけど、それが切れているってことはもう死んでいるってことなんだ』


そう言われ、俺は少女さんを見てみた。
しかし、線のようなものが繋がっているようには見えなかった。


男「確かにそんな線は見えないけど、双妹は実際に会ってきたんだぞ」

友『本当の本当に、双妹ちゃんが会ってきたのは少女さんなのか?』

男「当たり前だろ。友香さんと一緒に行ったんだから」

友『もしかすると、少女さんは何らかの理由で生かされているのかもしれない』

男「生かされている?」

友『霊子線が切れている状態で心臓が動いているはずがない。それなのに生きているとしたら、それは人工的に延命されているからだ』

227以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 23:43:03 ID:uNOmdCEA
男「人工的に延命されているって、どういうことだよ」

友『最近の医療技術はすごく発達しているから、ごく稀にそんな浮遊霊がいるらしいんだ』

男「へえ、そうなのか」

友『……んっ? ちょっと待て!』

友『もしかして、男は少女さんを生き返らせたいと考えているのか?!』


スマホの向こう側で、友が声を上げた。
さすが、察しがよくて助かる。


男「ああ、少女さんの身体が生きているのなら魂が戻れるはずだろ」

友『そうなんだけど、霊子線が切れているからなあ。戻れないことはない……と思うけど、期待は出来ないと思う』

228以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/04(水) 23:47:51 ID:uNOmdCEA
男「明日の昼、友香さんと一緒に少女さんが入院している病院に行くんだけど、友も来てくれないかな」

友『明日の昼?』

男「午後の授業を休んで、お見舞いに行くんだ。少しでも早く、少女さんを自分の身体に戻してあげたいだろ」

友『でも、マジでそんなことが出来ると思っているのか?』

男「さっき、戻れないことはないって言ってたじゃないか」

友『確かにそう言ったけど、一度切れた霊子線は二度と繋がらないんだ。奇跡でも起きない限り、少女さんの魂は肉体に定着しないと思う』

男「だから、俺たちはその奇跡を起こしに行こうって言ってるんだ」

友『奇跡を起こす……か』

男「ああ。助けられるかもしれない命を何もせずに諦めるなんて、出来るわけがないだろ」

友『そうだな。やれるだけやってみるか!』

男「おうっ! ありがとう」

229以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/06(金) 23:26:30 ID:uL3Kg94E
・・・
・・・・・・
交際が始まって初めての夜。
お風呂から上がって話をしていると、いつの間にか午後11時を過ぎていた。


男「明日は月曜日だし、そろそろ寝ようか」

少女「そうですね。おやすみなさい//」

男「うん、おやすみ」


俺は電気を消してベッドに入った。
しかし、まったく眠くならない。

俺のすぐ隣で、少女さんが眠っている。
しかも彼女は幽霊なのに、身体に触れることが出来る。
あまりにも無防備すぎて、意識するなと言う方が無理なのだ。

230以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/06(金) 23:30:28 ID:v1oUjXs2
少女「あれっ? 男くん、まだ起きているんですか」

男「ちょっと、寝付けなくて……」

少女「実は私もなんです」

男「少女さんもなんだ」

少女「うん// 眠れないなら、もう少し話をしませんか」

男「そうだね」


そう言うと、少女さんは今日の出来事を振り返り始めた。
それを聞いていると、改めて今日は色んなことがあったんだなと実感させられた。

231以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/07(土) 00:48:21 ID:IX9C7RdA
少女「ところで、お風呂はドキドキしましたね//」

男「それはだって、少女さんが相変わらず一緒に入りたいって言うから」

少女「男くんも健全な男子だもんね。やっぱり、私とその……えっちなことをしてみたいですか//」

男「えぇっ?!」

男「それはまあ何と言うか、少女さんは可愛いし、はっきり言うとしたい……と思ってる」

少女「ふふっ、そうなんだ//」


少女さんは恥ずかしそうに微笑み、上目遣いで俺を見詰めてきた。
すると俺はその視線に興奮し、急激に性衝動が湧き起こってきた。
心臓が激しく脈を打ち、陰茎が勃起してガチガチに硬くなる。

そんな状況の俺に、少女さんが手を重ねてきた。
そして、あまい声でささやく。


少女「それなら、一緒に触りっこをしませんか//」

232以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/07(土) 00:59:17 ID:IX9C7RdA
男「いやいや、さすがにそれは駄目だろ」

少女「駄目じゃないよ。初めてだから、その……優しくしてほしいです//」

男「そういうのはまだ早いって」

少女「私には時間が残されていないし、付き合っているんだから……ね?」


少女さんはそう言いつつ、俺の上半身から下半身へと指先を滑らせる。
そして、その手が硬くなっている陰茎に触れた。
しかし、性的な刺激はほとんど感じない。


少女「今度は男くんが触る番だよ//」

男「……それじゃあ、優しく触るから」

233以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/07(土) 01:26:40 ID:PKJXtEjs
少女「……んっ//」

男「少女さん、すごく柔らかい」


少女さんの胸に軽く触れると、手のひらにその柔らかさが伝わってきた。
可愛らしい表情とお皿のような微乳の膨らみ。
このままでは、限界まで溜まっている欲望が一気に溢れ出してしまいそうだ。

というか、もう1週間以上もオナニーをしていないのだ。
今までずっと我慢してきたけれど、もうしたくてしたくて堪らない。


少女「私ね、今ドキドキしているの//」

男「そんな事を言われたら、途中で止めることが出来なくなるけど」

少女「良いよ、もっとたくさん触ってほしいです//」

男「それじゃあ、本当にするから」


俺は少女さんを見詰め、優しく撫でるようにして身体に触れた。
胸の膨らみを、そして少女さんの柔肌を。
しかし次の瞬間、俺が感じたのは毛布とシーツの激しい抵抗だった――。

234以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/07(土) 01:47:04 ID:v8BcVV4Y
男「……!」

少女「期待させてごめんなさい」

少女「私は触っていると錯覚させることは出来る。だけど、本当に触ることが出来る訳じゃないんです」

少女「だからもし我慢できなくなったら、そのときは新しい彼女を作ってください。幽霊の私に好きだって言ってくれただけで、もう十分だから……」

男「その言い方、俺が身体目当てで告白したみたいに聞こえるんだけど」

少女「そう聞こえたのなら、ごめんなさい。でも、今のうちに話しておきたかったんです」


少女さんはそう言うと、毛布をすり抜けて背中を向けた。
実際のところ、少女さんはどの程度の障害を負ってしまったのだろうか。
自分の身体に戻ったあと、いつも通りの生活に戻ることが出来るのだろうか。

235以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/07(土) 01:52:51 ID:v8BcVV4Y
男「不安なのは分かるけど、奇跡を信じて前向きに考えようよ。たくさんお見舞いに行くから、一緒にリハビリを頑張ろうぜ」

少女「……うん」


結局、明日になってみなければ何も分からないのだ。
だから、今は奇跡を信じるしかない。


男「少女さん、おやすみ」


俺は少しでも気持ちがほぐれるように、優しく声を掛けた。
そして、どうしようもないほど興奮している欲望を必死に抑えながら、明日に備えて目を閉じた。

236以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/08(日) 23:28:14 ID:gl9fWclk
おつ

237以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/09(月) 22:12:35 ID:TJz.3EOY
(2月13日)sat
〜病院・少女さん〜
う……ううん。
ここはどこなんだろう。

気が付くと、私はベッドで横たわる自分の姿を見下ろしていた。
いくつもの機械が設置されていて、何本ものチューブやケーブルが身体につながっている。
人工呼吸器とよく分からない装置、そして各種モニターと点滴注射。
高度な医療機器を使っていることから察するに、ここは病院のICUらしい。

どうして、私はこんなところにいるのだろう。
しばらく考えてみた。
しかし、うまく思い出すことが出来ない。

238以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/09(月) 23:54:47 ID:iAbOuIbQ
あれっ。
そういえば、私って私を見下ろしてない?

もしかして、このまま死んじゃうのかな。
だから、自分を見下ろしているのかなあ。

まだ、やり残したことがいっぱいある。
男くんに告白をしてないし、看護師になる夢も諦めたくはない。
だけど、もう叶うことはないのだ。

ならば、ささやかな願いを一つだけ――。

会いたい。
せめて、最期に男くんに会いたいよ。

私は病室のドアを見詰める。
そして、強く念じてドアをすり抜けた。

239以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/09(月) 23:58:39 ID:iAbOuIbQ
少女「むぎゅうっ」


病室を出たと思った瞬間、私はまた病室の中に引き戻されていた。
身体が引っ張られて、病室から出ることが出来ない。

どうして出られないの?
私は男くんに会いたいだけなのに……。

半ば諦めて振り返る。
すると、眠っている私の頭から銀色の紐みたいなものが伸びていることに気が付いた。
どうやら、それが私の頭と繋がっているらしい。

これ、外せないかなあ。
とりあえず引っ張ってみた。
だけど、頭から抜ける気配はない。
つなぎ目も探してみたけど、そんなものはなさそうだ。

こうなったら、引き千切るしかない!
私は意を決して、銀色の紐を手に取った。

240以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/09(月) 23:59:46 ID:VEubA3ic
今日はここまでにします
レスありがとうございました

241以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/10(火) 22:57:51 ID:yHHUh7VU
(2月22日)mon
男「なあ、少女さん。俺、すごいことに気が付いたんだけど!」

少女「すごいことですか?」

男「俺が少女さんに触ろうとしたら、力加減が出来なくて通り抜けてしまうだろ」

少女「そうですね」

男「でも、少女さんが触ろうとすれば俺に触れるわけだ」

少女「正確には触っていると錯覚させているだけですけど」

男「その触っている感覚を工夫すれば、えっちなことも出来るんじゃないかと思うんだ!」

少女「すごいことって、そういうこと?!」アセアセ

男「ちょっと試してみようよ!」

少女「ええぇっ! ほ……本当にちょっとだけですからね//」

・・・・・・
・・・

242以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/10(火) 23:00:55 ID:yHHUh7VU
〜自宅・部屋〜
少女「男くん、おはよう♪」

男「んっ……あ、ああ、おはよう。なんだ、夢だったのか」

少女「ふふっ、今朝はどんな夢を見ていたんですか。すごく気持ち良さそうな寝顔でしたよ//」

男「どんな夢だったっけ……」


俺はまどろむ頭で、夢の内容を振り返った。
少女さんが恥ずかしそうに服を脱ぎ、いやらしい手付きでしごいてくれる夢。
その刺激で興奮が高まっていき、俺は欲望を吐き出した。

そんな夢だったとは、とても言えそうにない。
俺はそう思いつつ身体を起こすと、下半身にぬるりとした違和感を感じた。


男「やべっ、夢精してるし!!」

少女「むせい?」

少女「それってもしかして、噂で聞くオトコの人のアレってことですか?!」

243以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/10(火) 23:04:29 ID:KfN5/umY
男「ご、ごめん! とりあえず、後ろを向いてくれるかな」

少女「は、はいぃっ!!」アセアセ


少女さんが背中を向けたことを確認し、ベッドから下りてパジャマを脱いだ。
そして下着をめくると、想像を絶する惨劇が繰り広げられていた。
しかも、イカ臭いにおいがむわっと部屋中に拡散していく。

もう完全に気付かれているだろうな。
そう思いつつ下着を脱ぐと、部屋のドアが開いた。
いつの間にか、双妹が起こしに来てくれる時間になっていたようだ。

244以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 00:54:17 ID:Z1t07Bbw
双妹「男、おはよう♪」

男「おはよう」

双妹「ふふっ、やっぱり夢精しちゃったんだ//」

男「なんて言うか、あれから一度も出来なくて」

双妹「ふうん。でも、お互いにこういう日ってあるよね。私も生理の血が下着に付いちゃって、朝からすごくショックだよー」

男「ああ、双妹は今日から生理なのか。いつもちゃんとしてるのに、失敗するって珍しいな」

双妹「うん。準備はしていたんだけど、予定より1日早く来ちゃったみたいで――。これってさあ、双子のシンパシーかなあ」

男「いや、さすがにそれは微妙なんだけど」

245以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 01:00:58 ID:TGdJA6B2
双妹「あはは、冗談だってば。それじゃあ、下着をもらっていくわね」


双妹は俺の下着を手に取ると、未だかつてない惨劇を見て口元を緩ませた。
そしてティッシュで軽く拭き取り、ゴミ箱に手を伸ばす。


双妹「はあはぁ……//」

男「なあ、双妹。ついでに、パジャマも持っていってくれないかな」

双妹「ん? うん、良いよ。お風呂を温めておくから、身体を拭いたら下りてきてね」

男「ああ、ありがとう」

246以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 01:06:56 ID:TGdJA6B2
少女「ねえ、男くん」

少女「双妹さんのことなんですけど、いくら兄妹でも、さすがにおかしくないですか?」


双妹が部屋を出て行くと、少女さんが困惑した様子で口を開いた。
兄妹なのにおかしいと言われても、俺と双妹にとっては普通のことだ。
少女さんには男兄弟がいないらしいので、そういう部分で感覚が違うのだろう。


男「おかしいとか言われても生理現象だからよくあることだし、これくらい兄妹なんだから当たり前だと思うけど」

少女「そういうものなのかなあ」

247以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 01:20:49 ID:rprvFlh6
男「それはそうと、見られたら恥ずかしいんだけど」

少女「えっ? ああ……ふふっ//」

少女「もしかして、私が誘惑したからえっちな夢を見ちゃったんですか」

男「それはまあ、そうかもしれない」

少女「えへへ、ちょっとうれしいかも// オトコの人のって初めて見たけど、何だか初夏の匂いがするんですね」スンスン

男「少女さんは匂いも分かるのか。意外とむっつりスケベなんだな」

少女「はわわ、そんなことないですから//」


少女さんは力強く否定すると、慌てて後ろを向いた。
俺はそんな彼女を見やり、身体を拭いて着替えることにした。

248以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 03:04:25 ID:p.OsMKuo
おつ

249以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 19:10:10 ID:Z1t07Bbw
〜最寄り駅〜
今にも雪が降ってきそうな寒い朝。
最寄り駅に着いた俺と双妹は、暖を取るために待合室に入った。


双妹「今日からしばらく、座席争いはしなくて良さそうだね」

男「そうだな。3年生がいなくなっただけで、こんなに変わるのか」


一昨日の土曜日、俺たちの学校で卒業式があった。
そのおかげで、電車を待っている学生の数が半分くらいに減っている。
新学期が始まるまでは、ゆっくり座ることが出来そうだ。


双妹「うちの学校って、他より卒業式が早いよね。やっぱり、進学とか就職の準備をしないといけないからなのかなあ」

男「そうだろうな。県外に行く人は引越しの準備もあるだろうし、早いほうが助かるんじゃないか」

双妹「そうだよね。私は県内の大学に進学するつもりなんだけど、ゆっくり準備が出来るしそのほうがいいと思う」

男「大学って保育士の勉強?」

双妹「うん。子どもたちの力になりたいから、障がい児保育とか専門的な勉強もしておきたいの」

男「ふうん、ちゃんと考えているんだな」

250以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 19:21:24 ID:Z1t07Bbw
双妹「ところで、今日のお昼のことなんだけど」

男「お弁当を食べたら、速攻で行くって事でいいんだろ」

双妹「そうなんだけど、その……会えるとは限らないから」

男「友香さんがいれば、何とかなるんじゃないの?」

双妹「集中治療室って、基本的に家族以外の面会は禁止されているらしいの。それで面会可能な時間も限られているから、私たちは家族の人がいる時間に合わせて行こうってことになっているの」

男「そうなのか。何とかして会いたいんだけどな……」


俺はそう言いつつ、ちらりと少女さんを見た。
不安に思っているのか、とてもつらそうな表情をしている。


双妹「友香さんもそのことを心配してた」

男「そのときは強行突破も持さない覚悟が必要かもな」

双妹「……いやいや、それは普通に無理でしょ」

251以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 20:47:04 ID:Ppn/r2wI
男「そうなると、友だけが頼りだな」

双妹「そういえば、友くんも来るんだっけ」

男「ああ。少女さんのことで、色々と協力してもらっているんだ」

双妹「協力?」

男「まあ、ちょっとな」


霊能力でどんなことが出来るのかは分からないけれど、いざとなれば友が何とかしてくれるだろう。
俺は邪魔をしないように、サポート役に撤すればいい。


男「とりあえず、病院に行ってみないと分からないな」

双妹「そうだね」


まずは、面会が出来ますように。
俺はそう願いつつ、電車を待つことにした。

252以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 20:54:35 ID:Ppn/r2wI
今日はここまでにします
レスありがとうございました

253以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/11(水) 22:50:53 ID:Sx9rvh56
生きかえるのか?
皆んなが幸せになるといいな

254以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 20:05:59 ID:PnP.t9GE
〜学校・HR〜
男「友、うっす」

友「うっす! 双妹ちゃん、おはよう」

双妹「おはよう。今日のお昼、友くんも来るって聞いたんだけど」

友「そうそう。少女さんの件で、俺もちょっと用事があるんだ」

双妹「ふうん、そうらしいわね。でも、面会が出来るとは限らないわよ」

友「えっ、何でだよ」

双妹「私たちも会えるか分からないし、一度に面会できる人数が決まっているから」

友「やっぱり、普通の病室じゃないのか」

双妹「うん。そういうことだから、そのつもりでいてね」


友はそう言われ、双妹の説明を聞きながら双妹の席までついて行った。
俺はそんな二人を見やり、自分の席に座ることにした。

255以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 20:21:58 ID:JKEMspaM
男『少女さん、今朝のことで何か怒ってる?』

少女「……別にそんなことはないです」

男『それなら良いんだけど、ちょっと気になったから』


いつもは俺の隣でふわふわと浮いている少女さん。
それなのに、今日は俺の後ろにいることが多い。
ちょっとしたことだけど、何だかそれが心に引っかかる。


男『もしかして、緊張してる?』

少女「そうかもしれないです」


少女さんはそう言うと、窓の外を眺めた。
やっぱり、病院のことが気になっているのかもしれない。

そう思っているとチャイムが鳴り、HRが始まった。
そしてHRが終わると、1限目の英語の授業が始まった。

256以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 20:32:35 ID:OkQKmZLg
女教師「今日は仮定法過去完了について勉強しましょう」

女教師「もしあのとき〜だったら、……だったのに」

女教師「仮定法過去完了はこのような意味で、if節に過去完了、主節に助動詞の過去形+have+過去分詞を用いるのが原則です」


男「少女さん、分かる?」ヒソヒソ

少女「……」

少女「ごめんなさい、聞いてなかったです……」

男「少し調子が悪そうだけど、大丈夫?」

少女「何だか胸が痛いというか、お腹もちょっと調子が悪くて……」

男「幽霊なのに、胸が痛い?」

少女「……ううっ、あうううぅっ!!」

女教師「If I had known she was in hospital, I would have・・・」

257以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 20:36:11 ID:loKH8gnc
男「えっ?!」

少女「うぐううぅっ、んんっ! んんんっ……んぐぅぅっっ!!」


少女さんは呻き声を上げながら、床に崩れ落ちた。
必死な形相で胸を押さえ、丸くなって身悶えしている。
そんな彼女に、俺は慌てて席を立ち声を掛けた。


男「少女さん! 大丈夫っ!?」

少女「んんっ! むうぅぅっ……!!」


俺の呼びかけに応え、苦しそうな表情で首を横に振る。
こんなとき、どうすればいい。
保健室?
いや、急病人が出たなら救急車だ!

258以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 20:47:12 ID:JKEMspaM
男「今から救急車を呼ぶから! すぐに楽になるから!!」

少女「ぅぅっ……」

女教師「男くん、何度言えば分かるの! 席に着きなさいっ!」


その言葉と同時、女教師が俺の前にやってきた。
そして、苦痛で呻いている少女さんの頭を踏みつけた。


男「……なっ! 何してんだよっ!!」


俺は立ち上がり、女教師を睨み付ける。


女教師「な……何ですか、その態度はっ!」

双妹「男、だめだよっ!」

双妹「先生、そこに立たないでください! そこを踏みつけないでくださいっ!!」

259以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 21:03:47 ID:OkQKmZLg
女教師「双妹さんまで授業妨害ですか!」

双妹「そんなつもりはありません。でも、理由があると思うんです!」

双妹「ねえ、前々から、ずっと気になってた。男には何が見えているんだろう、誰と話をしているんだろうって」

双妹「やっと分かったわ」


双妹は厳しい視線を足元に向けた。
そして、すべてを見透かしたかのように優しい視線を向けてきた。


双妹「男には少女さんが見えているのね――」

260以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 21:06:54 ID:loKH8gnc
男「……!」

男「今、少女さんが苦しんでる。俺は何とかして、彼女を助けたいんだ!」

双妹「助けたいって言われても、私たちには男が一人で騒いでいるようにしか見えないんだよ。まずはみんなに分かってもらわないと、助けることなんて出来ないと思う」


確かに双妹の言う通りだ。
少女さんの姿はみんなには見えていない。
だから、少女さんを助けるためには、その存在を知ってもらわなければならないのだ。


男「くそっ! どうやって説明すればいいんだ――」

友「男、遅れてすまん。少女さんのことは俺に任せてくれ!」

男「友っ!」

双妹「……友くん?」

261以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 21:17:41 ID:JKEMspaM
女教師「あなたは席に戻りなさい!」

友「いや、男がこうなったのは俺のせいなんです」

女教師「あなたの?」

友「はい。昨日、俺の家で心霊催眠の実験をしまして……。どうやら、それがうまく解けていなかったみたいなんです」

女教師「心霊催眠?!」

友「催眠術の一種です。とりあえず、保健室で休ませてもらっても良いですか?」

女教師「そうね、そうしなさい」


友は俺に目配せをすると、内履きを履きなおす振りをして少女さんを抱き上げた。
両手にはめている手袋が霊的な道具なのか、少女さんの容態が落ち着いていく。
それを見て、俺はほっと胸を撫で下ろした。

262以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/12(木) 21:26:03 ID:JKEMspaM
今週はここまでにします
レスありがとうございました

263以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/15(日) 18:19:23 ID:sawrlJaQ
ドキドキ

264以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/16(月) 22:15:15 ID:8oTMeYxY
〜保健室〜
保健室に入り、俺と少女さんはベッドに横になった。
俺が横になる必要はないと思うのだけど、催眠術で情緒不安定になっているという設定なので仕方がない。
少女さんの容態はすでに落ち着いていて、友によればすぐに目を覚ますだろうとの事だ。


男「友、ありがとう」

友「気にするな。俺のほうこそ、出るタイミングを逸して遅くなった」

男「いや、助かったよ。その手袋が霊的な道具なのか?」

友「まあ、一応な。これで触れば、興奮した霊を鎮めることが出来るんだ」

双妹「興奮した霊を鎮めるって、どういうこと?」

友「それは少女さんが目を覚ましたら説明するよ。そのほうが手間が省けるし」

双妹「……分かった」

265以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/16(月) 22:45:51 ID:kCQDvhVk
少女「……うっ、ううん」


しばらくして、少女さんが目を覚ました。
そして周囲を見渡し、俺に気が付くと困惑した様子で呟いた。


少女「えっと……ここは?」

男「少女さん、おはよう。ここは保健室だよ」

少女「保健室?」

男「ああ。俺の体調が悪いことにして、少女さんを連れてきたんだ。どこか痛いところはない?」


俺は身体を起こし、隣で寝ている少女さんに尋ねた。
すると少女さんは思案めき、掛け布団をすり抜けてふわりと浮かび上がった。

266以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/16(月) 22:47:09 ID:kCQDvhVk
少女「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」

男「良かったあ。心配したんだよ!」

少女「ごめんなさい。周りを気にせずに声を掛けてくれて、すごく嬉しかったです//」

双妹「ねえ、気が付いたの?」

少女「……」

少女「えっ、ええっ! もしかして、私の姿が見えているんですか?!」

男「見えていないけど、少女さんのことはもう知ってるよ」

少女「そ……そうなんだ」

267以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/16(月) 23:22:18 ID:8oTMeYxY
友「それじゃあ、場所を変えようか」

男「場所を変えるってどこに?」

友「駅前の喫茶店でいいんじゃね?」

男「授業はどうするんだよ」

友「どうせ昼で帰るんだし、早退しようぜ!」

男「そうだなあ。どうせ午前中で帰るんだよな」

双妹「だったら、家で話をしようよ。喫茶店だと人目に付くし、落ち着いて話が出来ないだろうから――」

男「そうだな。それじゃあ、担任の教師に早退するって言ってくる」

双妹「あっ、待って。私も行くっ!」


俺はベッドから下り、双妹と少女さんを連れて職員室に向かった。

268以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/16(月) 23:26:27 ID:xArkhchg
今日はここまでにします
レスありがとうございました

269以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/17(火) 20:14:08 ID:ccSemnQg
〜自宅・部屋〜
俺たちは学校を早退し、みんなで俺の部屋に集まることにした。
そして部屋に入ってすぐ、友が話を切り出した。


友「双妹ちゃん、休みの日とか遊びに行くときに身に着けているアクセサリーって、何か持ってない?」

双妹「持ってるけど、何に使うの?」

友「少女さんの姿を見えるようにしてあげようかなと思って。多分、そのほうが話を理解しやすいと思うし」

男「そんなことが出来るのか」

友「まあな。でも、霊感がない人間に浮遊霊の姿を見えるようにするのは、本当は良くないことなんだ」

男「双妹、どうする?」

双妹「姿が見えないと話にならないし、部屋から持ってくる」


双妹はそう言うと、部屋を出て行った。
そしてしばらくして、ブレスレットを持って戻ってきた。

270以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/17(火) 22:07:47 ID:ccSemnQg
双妹「これで良い?」

友「大丈夫、いけると思う。それじゃあ、儀式を始めるから」


友は双妹にブレスレットを持たせ、その上に御札を重ねた。
そして、何やら怪しい言葉を念じ始める。
相変わらず、中二っぽいぞ。


友「我の名は友。我が作り出したるは、幽界の者を見し霊具。この器にて彼の者を捉え、共鳴する力を生み出したるは――」

双妹「な……何これ、すごく胡散臭いんだけど」

男「大丈夫だ。俺もそう思ってる」

友「じゃあ、少女さん。これに触れて、意識を集中させて欲しい」

少女「はい。分かりました」

271以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/17(火) 22:37:17 ID:ccSemnQg
少女さんがブレスレットに触れると、双妹がとっさに手を引いた。
そして、不機嫌そうに友を見詰める。


双妹「今、ビリッとしたんだけど」

友「大丈夫、今ので完成だから。少女さん、ありがとう」

少女「あっ、はい。どういたしまして」

友「それじゃあ、双妹ちゃん。それを着ける前に、この御守りを受け取ってくれるかな」


友は通学鞄から御守りを取り出すと、双妹に手渡した。

272以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/17(火) 22:41:40 ID:LbnPQ3lQ
双妹「これは?」

友「幽霊が見えることを低級霊たちに知られると、面倒なことになる場合があるんだ」

双妹「低級霊?」

友「平たく言うと、四十九日を過ぎても現世に留まっている悪霊のことだ」

双妹「悪霊……」

友「そう。だから、守護霊の力を高めておく必要があるんだ。半年くらいは効果があるから、カバンの中にでも入れっぱなしにしておいてくれるかな」

双妹「別にいいけど、守護霊の力ってこんなことで強くなるものなの?」

友「この御守りはあくまでも補助的なもので、特に大切なことは健康な心身を保つことだ。しっかりと食事を取って、運動をして体力づくりをして、よく寝てストレスを溜めないこと」

友「そんな健康的な生活を送ることで、守護霊は強くなるんだ」

双妹「それって、もう守護霊とか関係ないような気が……」

友「あと、守護霊がいるって信じることも重要な」

双妹「何だか信じられないなあ」

男「大丈夫だ。俺もそう思ったから」

273以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/17(火) 22:47:42 ID:yk1xbTBc
友「それじゃあ、双妹ちゃん。そのブレスレットを着けてみて」

双妹「う……うん」


双妹は恐る恐る、ブレスレットを右腕にはめた。
そして、緊張した面持ちで顔を上げる。


双妹「……!」

双妹「見える。見えるよ、本当にっ!!」

男「マジかよ! すげえな!!」

少女「わわっ! えっと、双妹さん。はじめまして」ペコリ

双妹「は、はじめまして」アセアセ

友「ふふん、成功だな」

双妹「友くん、ありがとう。えっと……男から少女さんの気配を感じるんだけど、それは何なの?」

友「少女さんは憑依霊だから、男の身体を共有している状態なんだ。双妹ちゃんが感じているものは根っこみたいなものだよ」

双妹「ふうん、そうなんだ」

274以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/18(水) 00:05:08 ID:Omd.hWJw
双妹「それで、これは外しても大丈夫なの?」

友「ああ、霊力が馴染めば3週間くらいは効果が持続すると思う。霊具として使えるのは少女さんが成仏するまでだから、理論上は4月の半ばくらいまで使える計算になるかな」

双妹「効果があるのは3週間で、使えるのは4月半ばまで――か」

友「もちろん、少女さんが身体に戻れたらすぐに使えなくなるけどね」

双妹「ふうん、そうなんだ」

双妹「でも、びっくりしたあ! まさか、本当に見えるようになるとは思わなかったわ」

友「俺のこと、ちょっとは尊敬しただろ」どやぁ

双妹「あはは。霊能力があるって、絶対に冗談だと思ってた」

友「これを機に惚れてもいいんだぜ」キリッ

双妹「ごめん、それはあり得ないから。いつも女の子の幽霊の裸ばっかり見ていそうだし」

少女「それってもしかして、双妹さんには私のことが裸のように見えているんですか?」

双妹「そうだけど、違うの?」

少女「違うに決まっているじゃないですか。私はちゃんと服を着ていますから」

275以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/18(水) 22:53:54 ID:Omd.hWJw
双妹「ねえ、男。少女さんって、本当に服を着ているの?」

男「当たり前だろ。何言ってるんだよ」

双妹「もしかして、裸だと思っているのは私だけ?!」

男「なあ、友。そのブレスレット、失敗じゃないのか」

友「あのさあ、常識で考えて、幽霊が服を着ているほうがおかしいじゃないか。だって、生身の体がないんだぞ」

少女「はいぃぃっ?!」

男「ちょっと待て! 少女さんが服を着ていると思っているのは、もしかして俺だけなのか?!」

友「逆に聞きたいんだけど、男には少女さんがどんな服を着ているように見えるんだ?」

男「どんなって、少女さんは今、俺たちの学校の制服を着ているじゃないか」

双妹「……どう見ても裸でしょ」

友「ああ、そういうことか! 男は少女さんの姿が見えているんじゃなくて、少女さんが見せている姿が見えているんだ」

276以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/18(水) 23:38:38 ID:mXX5xWPQ
男「おい、ちょっと待て。そうなると、友は今まで少女さんの裸を見続けていたことになるよなあ。かなり気に入らないんだけど――」

友「安心しろ。浮遊霊の裸には興味ないから」キリッ

男「はあ?! それはそれで微妙に気に入らないんだけど」

少女「二人とも喧嘩はやめてください。こうすればいいんですよねえ」ポンッ

友「マジかよっ! 少女さんって、そういうことも出来るのか?!」

少女「ふふん、すごいでしょ〜!」ドヤッ


少女さんは得意げに言うと、ドヤ顔になった。
友もかなり驚いているし、一体何をしたのだろうか。


男「俺にはよく分からなかったんだけど、少女さんが何かしたのか?」

双妹「今、少女さんがうちの学校の制服姿に変身したの」

男「……変身?」

男「つまり、俺が見ている姿と同じ姿が見えるようになったってことか」

双妹「多分、そうだと思う」

277以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/18(水) 23:46:16 ID:Omd.hWJw
少女「男くん、その……今まで気付かなくてごめんなさい」

友「俺も悪かった。てっきり、男も同じように見えているものだとばかり思っていたから」

男「まあ、今まで助けられてばっかりだったし、今回だけだからな」

友「分かってるって」

友「ところで、少女さん。それは幽体の見た目を変えたってことだよね」

少女「ああ……はい、そうです。だから、この制服も私の身体の一部で――」

少女「……?!」

少女「それって結局、私は裸のままって事じゃないですか!」

男「……!!」

友「いやいやいや! 制服を着ているように見えている時点で、裸じゃないから!」

少女「そ……そうですかねえ」

友「そうだから! あまり変なことを言うと、男と双妹ちゃんからの心象が悪くなるからっ!」

278以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/19(木) 07:21:20 ID:Y4iuq9Tk
面白い

279以下、名無しが深夜にお送りします:2018/04/21(土) 19:19:12 ID:uaLdt28o
双妹「あまり時間もないし、そろそろ本題に入ろうよ」

男「そうだな」

双妹「それじゃあ聞くけど、少女さんは入院しているはずでしょ。それなのに幽霊とか浮遊霊とか、どういうことなの?」

男「実は――」


俺たちは双妹にこれまでの経緯を説明した。
その要所要所で思い当たる節があるらしく、双妹はときどき小さく頷いていた。


双妹「ふうん、そういうことがあったんだ。それで、これからどうするの?」

友「少女さんの魂を身体に戻せないか試そうと思ってる」

双妹「そんなことが出来るの?」

友「やってみないと分からないけど、勝算がないわけでもない」


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