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少女「私を忘れないで」

1 ◆WRZsdTgWUI:2018/02/17(土) 23:13:03 ID:SLrOQBwc
(プロローグ)
〜体育館裏・少女さん〜
男子「少女さん、わざわざ来てくれてありがとう!」

少女「……」

男子「えっと、その……明日から冬休みだね」

少女「そうですね」

男子「それでその……クリスマスの日は予定が開いてますか」

少女「クリスマスの予定?」

男子「は、はいっ!」

少女「ひとつ聞きたいのですけど、あなたと私は今日はじめて会いましたよねえ。それなのに、どうして教えないといけないんですか」

男子「それは少女さんのことが好きだからっ!」

少女「……?!」

男子「文化祭のときに笑っている少女さんを見て可愛いなって思って、それで一緒に話が出来たらいいなってずっと思っていたんです。だから、僕と付き合ってくれませんか!」

104以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/06(火) 21:19:09 ID:BRf3qC0E
友「どうだった?」

男「かなり胸くそ悪い話だった。恐らく、それが動機に繋がっているのだと思う」

友「どんな話だったんだよ」


そう言われ、俺は少女さんを見た。
泣いてはいないものの、とてもつらそうな表情をしている。
今はそっとしておいたほうがいいだろう。


男「悪いけど、今は勘弁してくれ」

友「そっか。何か事情があるみたいだし、日曜日までに話してくれたら良いから。今は焦らずに慎重にいこう」

男「そうだな」

少女「……ありがとう」

105以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/07(水) 23:02:23 ID:UhLvx9Ws
〜自宅・部屋〜
学校が終わり、家に帰ってきた。
昨日はずっと楽しそうだった少女さんも、今日はお昼休みからずっと気落ちしたままだ。
きっと、自殺した男子生徒のことを考えているのだろう。
そう思っていると、少女さんが小さくため息を漏らした。


少女「……はあ」

男「少し落ち着いた?」

少女「はい。お昼休みに話していたことをずっと考えていたんですけど、ようやく気持ちの整理が出来ました」

男「そうなんだ」

少女「もしよければ、聞いてくれませんか」


少女さんは儚げに微笑んで、俺を見詰めてきた。
そんな彼女に、俺は無言でうなずいた。

106以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/07(水) 23:04:16 ID:AzWCFTOo
少女「私は二学期の終業式の日に、少年くんに告白されました。もちろん断ったんですけど、そのあとに彼が自殺をしたんです」

少女「私がそのことを知ったのは三学期になってからでした。そのときは彼の名前を知らなかったので『普通科は大変だなあ』くらいにしか考えていなかったんですけど、次の日、生徒指導室に呼び出しされたんです」

少女「そこで待っていたのは警察の人で、私は彼との関係について事情聴取をされました。そして、遺書の内容を聞かされました。少年くんが自殺をしたのは、私のせいだったんです」

男「それでどうなったの」

少女「私は告白を断っただけですし、事件性がないということで厳重注意をされただけで済みました。それから彼の家族と面談することになって、友香ちゃんやクラスのみんながたくさん励ましてくれました」


少女「すごくうれしかった――」


少女さんが苦しそうに気持ちを吐き出していく。
そしてふいに見せた表情に、俺ははっとさせられた。

107以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/07(水) 23:32:28 ID:ddlQ40BE
男「俺、思うんだけど、少女さんは何も悪くないと思うんだ」

少女「……うん、分かってる。それでも、私が告白を断ったことが原因であることに変わりはないんです」


これが少女さんの自殺の動機なのだろうか。
そうだとすれば、あまりにもつらすぎる。
自分を追い詰めて追い詰めて、ずっと苦しんできたのだろう。


少女「だからこそ、私は前に進み続けるつもりです」

男「えっ?」

少女「看護師になれば楽しいことばかりではなくて、終末期の患者さんを看取ることで人の死と向き合い、つらい思いもたくさんすることになると思います」

少女「だからといって、私はそこに留まるわけにはいかないんです。より多くの患者さんをケアするために、その経験を繋げていきたいと思うから――」

少女「少年くんのこともそれと同じだと思うんです」

男「……」

108以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/07(水) 23:34:42 ID:xPJX3NhA
少女「男くん……聞いてくれてありがとう」


少女さんはそう言うと、寂しそうに笑った。
だけど、どういうことだ。
今の話を聞く限り、少女さんは男子生徒の自殺を乗り越えている。
しかもそれだけではなくて、将来の夢を真剣に考えていたことも分かった。


つまり、少女さんには自殺をする動機がないのだ――。


それならば、なぜ少女さんは自殺をしたのだろうか。
もしかすると、男子生徒の自殺以上につらい出来事があったのかもしれない。
その記憶を思い出すことは、少女さんにとって幸せなことなのだろうか。


少女「……!!」


俺は左手を伸ばし、隣に座っている少女さんの右手に触れた。
しかし実際には右手はなく、お互いの手が触れることなくすり抜けてしまった。
それでも気持ちが伝わったのか、少女さんははにかんだ笑顔を見せてくれた。

109以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/08(木) 11:53:47 ID:noqb6Xfo
動画に感想書くだけで10万!社畜なんかやってられねー!
goo.gl/3dtVP

110以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 20:28:54 ID:.A4nN98k
(2月12日)fri
〜放課後・少女さん〜
友香「ねえねえ。駅前にスイーツのお店がオープンしたんだけど、一緒に行ってみない?」


放課後になってすぐ、友香ちゃんが話しかけてきた。
私は気分が乗らず、上の空で返事を返す。


少女「……そうだね」

友香「豆乳を使ったクリームの風味が良くて、しかもヘルシーなんだよ!」

少女「……そうだね」

友香「私はシュークリームを注文しようかと思っているんだけど、少女は何を頼む?」

少女「……そうだね」

友香「ううん、残念。そのお店にはソーダがないんだよね〜」

少女「……」

111以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 20:57:38 ID:.A4nN98k
友香「もしかして、昨日からずっとあのことを考えているの?」

少女「……うん」


バレンタインデーのチョコを買いに行ったとき、男くんが見知らぬ女子と一緒にチョコを選んでいた。
二人はお互いに名前で呼び合っていて、とても仲睦まじそうにしていた。
そのことが、ずっと頭から離れてくれない。

中学校を卒業して、もうすぐ1年。
男くんに彼女がいないと考えるほうが、どうかしているんだ……。


友香「私はあの女子、絶対に男くんの妹だと思うな」

少女「どうしてそう思うの?」

友香「だって、雰囲気がすごく似ていたし、彼氏と一緒にバレンタインチョコを買いに行くっておかしいでしょ」

少女「そうなのかなあ」

友香「それにあの二人のこと、何となく知っているような気がするんだよね」

少女「友香ちゃん……その話はもういいよ。ありがとう」

112以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 21:05:28 ID:S6zRzAWY
友香「それじゃあさあ、どうして男くんのことが好きなの?」

少女「それはなんと言えば良いのか分からないけど、男くんの頑張る姿が私の心に訴えかけてくるの。最初はへたれですごく弱かったんだけど、今ではうちの学校で試合をするくらい強くなっているんだよ//」

少女「私は男くんに告白されてから、ずっとそれを見てきたの……」

友香「そっか。一度は告白を断った相手だけど、それがきっかけで気になるようになっちゃったんだ」

少女「う……うん//」

友香「だったら、少女も勇気を出さなくちゃ!!」

少女「勇気?」

友香「好きな人に告白するっていうのは、本当に勇気がいることなの。断られたらどうしようって、もうそれだけで世界が終わってしまうような気持ちになるくらいに――」

少女「……うん」

友香「不安な気持ちは分かるけど、男くんも同じ気持ちだったはずだよ。それに、少女は前に進み続けるんでしょ?」

113以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/09(金) 21:14:44 ID:GT2R2d5U
そうだよね。
私は前に進み続けるんだ!

もしかしたら、友香ちゃんが言うようにただの兄妹かもしれない。
すでに付き合っていて、あっけなく振られてしまうかもしれない。
だけど、それは告白してみないと分からない。


少女「友香ちゃん。私、決めたよ!」

友香「ほほう、決めましたか〜」

少女「うん。14日の日曜日に、男くんにチョコを渡して告白するっ!」


14日の日曜日。
その日は私の学校で柔道部の交流試合がある。
その試合が終わったら、男くんに気持ちを伝えるんだ!


友香「ようし、それじゃあ作戦会議よ!」

少女「駅前のスイーツ店だよね。行くいくっ♪」

114以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 10:51:59 ID:B6B4Z/Vs
私たちは学校を出て、スイーツ店へと向かった。
その道すがら、私は何となく落ち着かない気持ちになってきた。


少女「ねえ、友香ちゃん」

友香「どうしたの?」

少女「何だか、誰かに見られているような気がしない?」


そう言って、きょろきょろと周囲を見渡す。
だけど、不審な人影は見当たらない。


友香「少女、走るわよ」

少女「う、うんっ!」

115以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:17:58 ID:B6B4Z/Vs
友香ちゃんの合図と同時、私たちは人ごみに紛れながら街中を駆け出した。
また、嫌なことをされるのかなあ……。

少年くんのことで私を一番傷付けてきたのは、週刊誌の心ない記事だった。
私が少年くんを自殺に追い込んだかのように書き、SNSやデートDVについて問題提起をしていたのだ。
お父さんがクレームを出していたけれど、出版社からの謝罪は一度もない。
こんな理不尽な仕打ちをしてくるのが大人なのだとしたら、すごく悲しい。


友香「……はあはあ、ここまで来れば大丈夫かも」

少女「はあっ……はあはあ、うんっ。気配が……消えたみたい」

友香「マスコミ、かなあ」

少女「分からない。でも、だとしたらどうして今頃――」ハアハア

116以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:22:48 ID:B6B4Z/Vs
友香「少年くんの法要、昨日が四十九日だったんでしょ。だから思い出したんじゃないの?」

少女「私も遺族の人に呼ばれて参列したんだけど、マスコミの人は誰もいなかったわよ」

友香「だったら、狙いは少女の写真かもね」

少女「私の写真?!」

友香「少年くんを自殺に追い込んだ少女が、バレンタインデーをどのように過ごすのか。そんな記事を書きたいのかも――」

少女「まさか……」


いくら何でも、私のプライベートに興味を示す出版社があるとは思えない。
だけどあそこならば、また心ない記事を書いてくるかもしれない。
そうなれば、男くんに迷惑を掛けてしまう。

117以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:26:46 ID:7cWTB4Z6
友香「少女、私たちでマスコミを出し抜くわよ!」

少女「……えっ、ええっ?!」

友香「出版社が欲しいのは、少女のスクープ写真でしょ。それさえあれば、いくらでも印象操作が出来るんだから」

少女「……うん」

友香「だったら、隠れているパパラッチに写真を撮られなければいいのよ」

少女「それはそうなんだけど、うまく行くかなあ」

友香「私が付いていれば、全部うまく行くって! だから、少女は男くんのことだけを考えていればいいのよ♪」

少女「はうぅっ//」


何だか頼もしい。
友香ちゃんがいれば、何でも出来る気がする。
彼女が友達になってくれて、本当によかった。

118以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:46:40 ID:K2vlVPxw
(2月18日)thu
〜男くんの部屋・少女さん〜
少女「う……ううん…………」


駅前のスイーツ店に入ったところで、目が覚めた。
どうやら、生きていた頃の記憶を夢で見ていたようだ。
そしてそれが、心に重くのしかかってきた。

14日に告白すると決めたのに、私はまだ気持ちを伝えていない。
男くんと一緒にいた人が妹だと分かったのに、私はまだ気持ちを伝えていない。
中学生のときに両思いだったことを確認しただけだ。

男くんに今の気持ちを伝えないと!
そして、男くんから返事を貰わないと――。

119以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:49:06 ID:B6B4Z/Vs
だけど、言えるわけがない。
だって、私はもう死んでいるんだから。
幽霊になった私が告白しても、男くんと恋愛なんて出来るわけがない。
どんなに頑張っても、もう前に進むことは出来ないんだ。


だからといって、
気持ちを伝えないなんてことはしたくない。


4月1日が私のタイムリミット。
その日までに成仏を出来なければ、きっと友くんに除霊されてしまう。
そしてこの世界から、私の想いを消されてしまう。


そんなの、絶対にいやだから――。

120以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/10(土) 11:52:36 ID:B6B4Z/Vs
双妹「男、朝だよ〜」


双妹さんが今日も男くんを起こしに来た。
男くんと双妹さんは、とても仲がいい。
同じ学校なので一緒に行っているし、夜はリビングや部屋で気兼ねなくおしゃべりをしている。
二人が話をしないのは、学校の教室にいるときくらいだ。

私にもお兄ちゃんがいれば、こんな感じだったのかなあ。
双妹さんのこと、何だかうらやましいな。


男「双妹、おはよう」

双妹「おはよう。早く着替えて下りてきてね」

男「分かってるって」


男くんが眠そうに返事を返すと、双妹さんは部屋を出て行った。
そして、男くんが私に挨拶をしてくれた。
それがうれしくて、私は笑顔で応える。


少女「男くん、おはよう//」

121以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 12:50:17 ID:8BsaTsms
面白いがな

122以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:17:21 ID:xd7i6H86
(2月19日)fri
〜学校・お昼休み〜
週末の金曜日、俺はいつものようにメモアプリで少女さんと雑談を楽しむことにした。
生きていた頃の話をすることで、自殺の原因を推察する手掛かりになるかもしれないからだ。


少女「それでね、文化祭の出し物が喫茶店に決まったんです」

男『それで?』

少女「それで普通、喫茶店っていえばメイド喫茶じゃないですか。だけどメイドは縁起が悪いからって、ナース喫茶に決まったんです」

男『ナース喫茶?』

少女「はい、みんな実習服を着て接客したんですよ。そうしたら普通科と福祉科から男子がいっぱい集まって、すっごく繁盛したんです!」

男『そうなんだ。行ってみたかったかも』

男『そういえば、少女さんは魔法少女みたいに着替えが出来るんだっけ。実習服姿を見てみたいな♪』

少女「えっ、ええぇっ?!」

123以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:23:15 ID:ytMS2YGI
男『少女さんの可愛いところ、見てみたい』

少女「ええぇっ// 恥ずかしいから、今回だけですよ!」


少女さんは照れながら言うと、思案めいた。
恐らく、実習服を着た自分の姿をイメージしているのだろう。
そして表情が柔らかくなったかと思うと、次の瞬間には実習服姿になっていた。


少女「えへへ、どうですか//」

男「どうって、マジで可愛いし//」


看護科の実習服。
それを着た少女さんは笑顔がすごく魅力的で、男子が集まるのは当然だと思った。
ナース姿の少女さん、マジ天使!


男「というか、脱がないのかよ!」

少女「何を期待していたんですか、何をっ!」プンスカ//

124以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:25:08 ID:xd7i6H86
友「男、今は大丈夫か〜」


少女さんと雑談を楽しんでいると、友が無粋にも話しかけてきた。
少女さんもナース服のままで、何事かと友を見る。


男「別にいいけど、どうかした?」

友「今日は少女さんの初七日だから、ちょっと様子を見に来たんだ」

少女「あっ、ああ。そういえば、今日なんだ」


少女さんが自殺をしたのは13日だ。
だから、今日が初七日ということになる。


友「それで、三途の川に行ってきた?」

少女「三途の川? いえ、行ってないです」

125以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:30:35 ID:xd7i6H86
友「初七日なのに三途の川が気にならないってことは、冥土の旅をするつもりがないってことか」

少女「そんなことを言われても、私は男くんから離れることが出来ないし――」

男「やっぱり不味いのか?」

友「必ずしも冥土の旅をしないといけない訳じゃないけど、成仏できないコースをまっしぐらって感じだよな」

少女「ふえぇ、そんなあ……」ショボン

男「あまり少女さんを脅かすなよ」

友「ごめんごめん。三途の川は宗派によって違いがあるし、冥土の旅をする必要がない場合もあるから」

少女「ううっ、分かりました」

友「でも、なるべく早く家に帰ったほうが良いのは確かだろうな」

少女「そうかもしれないけど、家には近付きたくないんですよね……」


少女さんはそう言うと、小さくため息を漏らした。
この数日でいろいろな記憶を思い出したけれど、未だに家に帰りたくない理由は分かっていない。
恐らく自殺をした理由が分かったときに、その理由も分かるのだろう。

126以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:41:12 ID:xd7i6H86
友「とりあえず、心霊催眠をすれば何かが分かるはずだ」

少女「そうですね」

男「少女さん。またつらい思いをすることになるかもしれないけど、それは大丈夫?」

少女「……はい、私はなぜ自殺をしたのか知りたいです」

男「そっか」

少女「ところで、友くん」

友「何?」

少女「私を見て、何か気付きませんか?」フリフリ


少女さんはしなを作り、アイドルのようにポーズを取った。
ナース姿がとても可愛くて、かなりあざとい。

127以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:45:09 ID:ytMS2YGI
友「……」

少女「……//」ドキドキ

友「それじゃあ、日曜日に待ってるから」

少女「……えっ?!」

男「お、おうっ!」


友は少女さんを一瞥し、何事もなかったかのように席に戻っていった。
一言くらい感想を言ってあげればいいのに、釣れないやつだ。


少女「はあっ、スルーされたし」ショボン

男「友のことなんか放っておいて、俺たちだけで話をしよっか」

少女「そうですね」

128以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/12(月) 20:52:29 ID:ytMS2YGI
今日はここまでにします
レスありがとうございました

129以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 20:25:36 ID:tnfh/hjQ
〜市街地・料亭〜
学校が終わり、午後7時過ぎ。
明日から親父が海外出張で家を空けるということで、今夜は家族四人で外食をすることになった。
寒ブリや加納ガニ、地元の野菜を使った伝統料理。
冬の味覚をこれでもかと堪能することが出来る大名コースだ。


男「やばいな。この刺身、美味すぎるし!」

双妹「ねえ、男。煮物もすごく美味しいよ♪」

少女「……」

男「ちょっ、親父! なんで、カニばっかり食ってるんだよ」

親父「早く食べないとなくなるぞ」

男「双妹、ぶりしゃぶは後回しだ! カニを攻めるぞっ」

双妹「ええぇっ!! さっき食べてたお刺身って、ぶりしゃぶ?!」

母親「じゃあ、わたしがぶりしゃぶを頂こうかしら」

少女「……いいなあ」ショボン

130以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 20:28:00 ID:tnfh/hjQ
双妹「ごちそうさまでした」

男「ふう、食った食った〜」

双妹「ねえ、お父さん。ゴールデンウイークには帰って来れそう?」

親父「そうだな。早めに仕事を片付けて、4月の半ば頃には帰って来られるように頑張るよ」

双妹「そうなんだ! お仕事、頑張ってね//」

親父「男や双妹は、将来やりたい仕事とか決まっているのか?」

男「いや、まだ……」

双妹「私は保育士になりたいと思ってる」

131以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:04:07 ID:DB8LlpWE
親父「仕事っていうのはな、自分のためだけじゃなくて人々の生活を支えるためにすることでもあるんだ」

男「人々の生活を支えるため?」

親父「お父さんがしている設計の仕事の場合、書いた図面の通りに機械を作っている人がいて、その機械で仕事をしている労働者がいることになるだろ。そして、完成した製品を販売して購入してくれる人がいるから、また新しい仕事が入ってくるんだ」

男「ああ、そういう話か……」

親父「保育士の仕事も、子供を預かることで母親の就労支援をする時間を作ることが出来るから、子供の発育支援と家庭の生活基盤を支える仕事だと言い換えることも出来ると思う」

双妹「……うん」

親父「将来の夢とか何のために生きているかとか、そういうのは人それぞれだろうけど、人はみんなでみんなを支えて生きている。そのことだけは絶対に忘れてはいけないと思うんだ」

男「分かってる」

双妹「そうだよね」

親父「将来どんなことをしたいのか。男はまだ決まっていないみたいだし、2年生になってからの宿題だな」

男「ちゃんと考えておかないと――」

親父「それじゃあ、そろそろ帰る準備をしようか」

母親「そうね、そうしましょう」

132以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:13:47 ID:tnfh/hjQ
〜自宅・部屋〜
食事が終わって家に帰ってきたときには、すでに10時を過ぎていた。
親父はまた母さんとどこかに出掛けたので、今は双妹が自分の部屋にいるだけだ。
俺はそう思いつつベッドに座ると、少女さんが隣に座って話しかけてきた。


少女「男くんのお父さんって、立派な人ですね」

男「立派と言えるのかは分からないけど、いつも何かをしていないと気が済まないみたい」

少女「そうなんだ」

男「立派っていえば、少女さんも立派だよね」

少女「私がですか?」

男「看護師になりたいっていう目標があって、それを叶えるために北倉高校の看護科に進学したんだろ」

少女「あ、ああ……そうですね」

133以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:16:06 ID:JNCaVZN6
男「少女さんはどうして看護師になりたいと思ったの?」

少女「それはその……なんというか、小学生のときに入院したことがあって、そのときに担当してくださった看護師さんがすごく優しくしてくれたんです」

男「憧れってやつ?」

少女「そういうことになるのかなあ。私もその看護師さんみたいに、病気で苦しんでいる人に笑顔を届けたいと思ったんです」

男「少女さんらしいね」

少女「でも、私は将来の夢を諦めちゃったんですよね……」

男「余計なこと……聞いてごめん」

少女「ううん、いいんです」


少女さんは寂しげな表情を浮かべ、声を落とした。
看護師になりたいという叶うことのない将来の夢。
少女さんは三途の川に行っていないみたいだし、このまま渡らずに帰ってくることは出来ないのだろうか。

134以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:21:19 ID:DB8LlpWE
少女「もう遅いですし、そろそろお風呂に入りませんか?」


少女さんは時計を見ると、ふわりと立ち上がった。
将来の夢の話はあまりしたくなかったのかもしれない。


男「そうだな」

少女「それでは、今日も一緒に入りましょう♪」

男「相変わらず、お風呂場の外で待つっていう選択肢はないの? 今日で初七日だし、行動できる範囲が広くなったとか――」

少女「もしかして、私とお風呂に入るのが嫌なんですか」

男「そ……そんなことはないし、少女さんと一緒なのはうれしいんだけど、そろそろ何と言うか、あれな感じで――」

少女「あれな感じって、何なんですか?」

男「いや、まあ、俺もオトコだし溜まるものがあるというか、いくら幽霊だとはいっても少女さんは女子だからその――」

135以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/13(火) 21:46:46 ID:DB8LlpWE
少女「男子には、何か溜まるものがあるんですか?」

男「えっとその……少女さんに会ってから、俺たちはずっと一緒にいるだろ。だから、アレが溜まってきてもう我慢できないというか――」

少女「よく分からないけど、溜まって良かったですね。私は100円玉貯金をしていたことがあるんですけど、200枚も貯まったときはすっごくうれしかったですよ♪」

男「あ、ああ……そうなんだ」


だめだ、分かってもらえそうにない。
少女さんは看護師になる勉強をしていた訳だし、性知識がないなんてことはないだろうけど……。
だからといって、直接的な説明をするのは憚られる。


少女「こつこつ頑張って、たくさん溜めてくださいね♪」

男「……はあ、そうだな」

136以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 00:55:02 ID:GaIyy1Xc
〜お風呂場〜
結局、いつも通りに一緒にお風呂に入ることになった。
さすがにもう裸ではないけれど、ちょっとセクシーな水着を着ている少女さん。
最近は首の自殺痕を見慣れてしまったので、それを見ても何も感じなくなってしまった。
そうなると、女性的な曲線に目が行ってしまう訳で……。

小ぶりで控えめな微乳の膨らみ。
体育座りをしている少女さんの綺麗なヒップライン。
見ては駄目だと思っていても、抑えきれない情欲がいきり立つ。


少女「ねえ、男くん」

男「えっ?!」

少女「こうして一緒にお風呂に入るのも、何だか慣れてきたと思いませんか。最初はすごく緊張してたのに……」

男「そ、そうだっけ」

少女「そうですよ。私はまだ恥ずかしいけど、何だかうれしいです」

137以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 01:01:15 ID:uHaDU1ZQ
男「うれしいって、どうして?」

少女「だって男くん、私の水着姿を見て元気になっている……よね//」


少女さんは顔を赤らめて、恥ずかしそうに微笑んだ。
俺は慌てて勃起した陰部を両手で隠し、少女さんから目を逸らす。
そして顔を俯けて謝った。


男「それはその……ごめんっ!」

少女「ふふっ、別に怒ってないですから// それってつまり、触ることも出来ない幽霊の私に興奮してくれたってことなんでしょ?」

男「えっと……少女さんについ見惚れてしまって――」

少女「良かった〜// ずっと私に魅力がないのかなって思っていたの」

男「そんなことないって! 少女さんは可愛いし、スタイルも良くて魅力的だと思う。だからそれでその……」

少女「男くん、ありがとう。あのね――」

138以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 01:15:48 ID:uHaDU1ZQ
ガラララッ・・・
急に浴室のドアが開き、俺は驚いて振り返った。
するとそこには、髪を束ねた全裸の双妹が立っていた。

少女さんとは目に見えて差がある、半球型のふっくらとした乳房の膨らみ。
くびれた腰と丸いお尻が作り出す女性らしい曲線美。
双妹はそれらを恥じらう様子もなくさらけ出し、薄毛の陰部からは女性器の割れ目が覗き見えている。


少女「……ええっ?!」

双妹「男、一人で何をしゃべってるの?」


双妹が不思議そうな顔で浴室を見渡す。
そして首を傾げると、俺に心配そうな眼差しを向けて中に入ってきた。
双妹には少女さんの姿が見えていないと分かっているけれど、何だか見咎められたような気分で少し気まずい。

139以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 01:17:57 ID:GaIyy1Xc
男「今日は一緒に入ろうとか言ってたっけ」

双妹「言ってないけど、今日は駄目だった?」

少女「ねっねえっ! これってどういうこと?!」

男「ま……まあ、見ての通りだと思う」

双妹「隣が空いてるし、大丈夫って意味だよね。ふふっ♪」


双妹は浴槽のお湯を汲んで浴びると、俺の隣に足を踏み入れた。
そこには少女さんがいて、彼女の身体を笑顔で蹴り飛ばす。
そして全身で圧し掛かると、身体を重ね合わせるようにして湯舟に浸かった。

ちゃぷんと音がして、水位が高くなる。
双妹は少女さんとは違い、生身の体があるからだ。

140以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 01:18:57 ID:uHaDU1ZQ
少女「……」

双妹「ねえ、脚を伸ばしたいからこっち向いてよ」


双妹に促されて、いつものように向かい合う。
それと同時に、双妹の足が太ももの付け根に滑り込んできた。
その反動で水面に波が立ち、双妹の身体がゆらゆらと揺らめいて見える。


双妹「はああ〜//」


心地好さそうな声を出し、双妹はとてもご満悦な様子だ。
その一方で、少女さんは浴槽の隅に追いやられて不満そうな顔をしている。

141以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 20:01:10 ID:Rw5.Fl5U
双妹「やっぱり、男と一緒のときが一番落ち着くわね//」

少女「男くんはいつも双妹さんとお風呂に入ってたんだ……」

男「そうだけど、いつもって訳じゃないから」

双妹「えー、そうなの?」

双妹「でも言われてみれば、少し気まずいときもあるよね。だけどそんなときでも、私は男と過ごせる時間を大切にしていきたいと思ってるよ」

男「えっ? ああ、そうだな」

少女「……」

双妹「そんなことより、聞いてくれる?」

男「聞くって、何を?」

双妹「今さあ、お父さんとお母さんが一緒に出掛けているでしょ。こんな時間に開いているお店なんてないし、私たちに弟か妹が出来ちゃったりしてね//」

142以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 20:31:59 ID:Rw5.Fl5U
男「いやいや、それはないだろ」

双妹「でも明日からしばらく会えない訳だし、お母さんも寂しいんじゃないかなあ。こうしていつまでも仲がいい夫婦って、すごく憧れちゃうよね//」

男「そうだな」

双妹「私たちもいつか、こんな幸せな家庭を築いていくのかなあ」

少女「幸せな家庭……か」

男「そういうのって、まだ先の話だろ」

双妹「そうだけど、私はもう結婚できる歳になっているでしょ。まあ、そんな相手はいないんだけど」

少女「……私、お風呂場の外で待っています。どうぞ、ごゆっくり」


少女さんは不機嫌そうに言うと、約1.5メートルの範囲内。
浴室の壁をするりと抜けて、お風呂場の外に出て行ってしまった。
少女さんは家族ではないのだから、一緒にお風呂に入っていた今までがおかしいのだと思う。
それなのに、今は彼女のことを少し遠くに感じた。

143以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 21:10:01 ID:GaIyy1Xc
双妹「ねえ、男。どうかした?」


少女さんが出て行った場所を見ていると、双妹が不思議そうな顔で聞いてきた。
そして、双妹も壁をちらりと見て言葉を続ける。


双妹「最近よく何もない場所を見ているよね。さっきも一人でしゃべっていたし、疲れているんじゃないの?」

男「まあ確かに憑かれているけど、別に大丈夫だと思う」

双妹「それならいいんだけど、月曜日からずっと気持ちがそわそわして違和感を感じるんだよね。生理前だからPMSの影響かもしれないけど、男のことが気になる感じだから関係ないと思うし――」

男「そういうことなら、少し気を付けたほうが良さそうだな」

双妹「うん、そのほうがいいと思う」

男「それじゃあ、俺はもう上がるから」

双妹「上がるって、何言ってるの? まだ身体を洗っていないみたいだし、そんなの有り得ないと思うんだけど」

男「うぐっ……」

144以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 21:15:21 ID:uHaDU1ZQ
双妹「そうだ! 今日は一緒に洗いっこをしようよ♪」

男「ええっ?!」

双妹「だってほら、この前、水着に着替えて入ろうとしていたじゃない。ちゃんと洗っていないみたいだし、私がきれいにしてあげるから//」


双妹は目を輝かせると、俺に身体を寄せてきた。
そのせいで俺は股を開くことになり、太ももの間に双妹を挟み込む。
すると双妹は何食わぬ顔で、勃起したままの陰茎に手を伸ばしてきた。
指先が触れてびくっと反応し、包皮を剥かれてお湯の温度を敏感に感じ取る。
双妹に卑猥な意図がないことは分かっているけど、さすがに今日はいろいろとヤバ過ぎる。


男「悪いけど、自分で洗うから大丈夫だ」アセアセ

双妹「え〜っ、何なに? 別に恥ずかしがらなくても良いじゃない。ほらっ、早く洗い場に移動しようよ。泡あわですごく気持ちいいわよ//」

145以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 21:35:56 ID:DXRE/GX6
男「別に恥ずかしいわけじゃなくて、ちょっと事情があるんだ」

双妹「私はそんな事情なんて気にしないし」

男「俺は気にするんだってば。えっと……そう、今日はあれな感じで――」

双妹「それくらい気付いてるし、ついでにすっきりさせてあげるわよ//」

男「いいって、そういうことは自分でするから」

双妹「でも、12日から一度もしてないんでしょ。今までこんなことはなかったし、少し心配なんだよね――。もしかして、病院で何か言われたの?」

男「そうじゃなくて、したいけど時間がなくて出来ないだけだから。というか、双妹は女子なんだから、もう少し恥じらいを持ったほうがいいんじゃないのか」

双妹「恥じらいねえ。私たちは同じ双子なんだから別に恥ずかしいなんて思わないし、女子もそういう話をするんだよ」

男「そうかもしれないけど、人前でそういう話はしないだろ」

双妹「今は私たちだけしかいないじゃない。それに兄妹だからこそ、えっちな話も気兼ねなく出来るんじゃないのかなあ」

男「まあ、そうだけど……」

146以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 22:11:02 ID:Rw5.Fl5U
双妹「ねえ、私たちはどうして性別が分かれちゃったんだろうね」

男「それは染色体が――」

双妹「理屈は知ってるからいい。私はね、一卵性の双子なのに性別が違って、そのせいで身体の悩みを共感し合えないことが嫌なの。私たちはお互いに同じ自分なんだから、性の悩みも包み隠さずに相談したいしされたいじゃない」

男「それは分かっているんだけど、俺の言い方が悪かったよ。ごめん……」

双妹「ううん、私のほうこそ少しイライラしちゃってごめんなさい」

双妹「えっとね、私はどんなことでも気兼ねなく話をしたいし、男と一緒にお風呂に入る時間がすごく好きなの。もう一人の私のことを身近に感じていられるから――」

147以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 22:20:21 ID:DXRE/GX6
双妹が言いたいことは、俺もよく分かっている。
俺と双妹は、普通の兄妹ではないからだ。

もし二卵性の双子だったなら、俺たちは普通の兄妹という感じで落ち着いていたのかもしれない。
しかし俺と双妹は一卵性双生児なので、性別が違っても、どこかで必ず自分の片割れだという意識が入り込んでくる。
そして、性別が違うもう一人の自分に興味を抱くことになる。
俺と双妹は、そんな普通の双子とは異なる特殊な環境で育ってきたのだ。

148以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/15(木) 22:24:55 ID:GaIyy1Xc
男「うまく言えないけど、俺も双妹と同じ気持ちだから……。俺も双妹のことをちゃんと知りたいし、もっと本音で話をしたいと思ってる」

双妹「……」

男「だけど、性別が違うから出来ないこともあるんじゃないかなって思うんだ。さすがに今日は洗いっこは無理だけど、背中を流してくれると嬉しいかな」

双妹「……! じゃあ、私も背中を流して欲しい」

男「仕方ないな」

双妹「ふふっ、やったあ〜♪」


双妹がうれしそうに顔をほころばせ、俺たちは洗い場に移動した。
何だかんだで、俺もこの時間が好きなのかもしれない。
俺はそう思いつつ、風呂椅子に腰を下ろした。
そしてスポンジが背中に触れると、浴室にボディーソープの香りが広がった。


双妹「さっきの話だけど、どちらかが結婚するまで、ずっとこうして一緒にいようね」

男「そうだな」

双妹「うん、そうだよね//」

149以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/16(金) 21:48:40 ID:LgkdM2wA
〜部屋〜
お風呂から上がり、部屋に戻ってきた。
少女さんは不機嫌な様子で、さっきから一言も口を聞いてくれない。


男「もしかして、双妹のことで怒ってる?」

少女「別に私は怒ってなんかいないです」プイッ

男「怒ってるし」

少女「怒ってないです!」

男「まあ、なんて言うか、うちではこれが普通なんだ。月曜日は双妹が――」

少女「言い訳なんて、しなくて良いです。双妹さんが未だに男くんやお父さんと入っていても、だからお風呂場が広いんだなって納得します。家族のあり方はそれぞれだし、やましいことがないなら別に構わないです」

男「じゃあ、何に怒っているんだよ」

少女「それは……そう、私がもう死んでいるから」

男「死んでいるからって言うけど、それは少女さんの個性みたいなものだろ。俺はそれを受け入れているつもりなんだけど」

少女「……」

150以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/16(金) 22:07:29 ID:gv9McpwQ
双妹「ねえ、男。今なんだけど、少し大丈夫?」


黙り込んでしまった少女さんの機嫌を直す方法を考えていると、双妹が部屋に入ってきた。
すると、少女さんが不愉快そうな顔で何かを呟いた。
やはり少女さんが怒っている原因は、双妹とお風呂に入っていたことが関係しているのだろう。
俺は切っ掛けが掴めるかもしれないと思い、双妹の用件を聞くことにした。


男「あまり大丈夫じゃないけど、少しだけなら――」

双妹「うふふっ// それじゃあ、手短に済ませるわね」

男「ああ、それで頼む」

双妹「……えっと、少女さんのことなんだけど、お風呂に入っているときに妹友ちゃんからラインが来ていたの」

男「ライン?」

双妹「男がこの前、少女さんの悪いうわさを聞いたって言ってたでしょ。それで私、妹友ちゃんに北倉高校の友達に会えないかなあって相談していたの」

男「へえ、そうなんだ」

双妹「そうしたらね、その友達が友香さんって人と同じ部活をしていて、うわさが本当か聞いてくれたんだって」

151以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/16(金) 22:22:52 ID:04m5dmgQ
男「友香さんって、少女さんの友達だっけ」

少女「……そうです」

双妹「そうそう。少女さんと同じクラスの人で、一番仲がいい友達なんだって」

男「もしかして、何か分かったのか?!」

双妹「そういう訳じゃないけど、友香さんに男のことを話したら、会いたいって返事が返ってきたらしいの。日曜日に待ち合わせをしているんだけど、男は行ける? もしかしたら、少女さんにも会えるかもしれないわよ」


友香さん……か。
彼女に会えば、少女さんの自殺の動機がはっきりするかもしれない。
そうでなくても、かなり有益な情報を聞くことが出来るだろう。
しかし、日曜日に会うことは出来ない。

152以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/16(金) 23:10:13 ID:lq40MIog
男「悪いけど、日曜日は友と約束があるんだ」

双妹「そうなんだ。じゃあ、男は行かないって返事をすればいいかな」

男「とりあえず、そう言っておいてくれるかな。でも、日曜日以降で会える日があったら話をしたいって、友香さんに伝えておいてほしい」

双妹「うん、分かった。男がまだ少女さんのことを諦めていないのなら、私はもう一度チャンスが来るように応援してるから」

少女「……」

双妹「だから、まずは友香さんの話を聞いてくるわね!」

男「双妹、ありがとう」

双妹「それじゃあ、頑張ってね// おやすみなさい♪」

男「ああ、おやすみ」


そう返すと、双妹は軽い足取りで部屋を出て行った。
どうやら、今度の日曜日は少女さんのことで大きな動きがありそうだ。

153以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 19:36:04 ID:MF6PAvH6
少女「双妹さんって、男くんのことが好きなんですね」


双妹が出て行くと少女さんの表情が和らぎ、かすかに微笑した。
理由は分からないけど、少しは機嫌が良くなってくれたみたいだ。


男「まあ、双子の妹だし仲がいいと思う」

少女「双子の妹か……。よくテレビや漫画で、双子は見えない絆で結ばれているとかテレパシーがあると言ってますよね」

男「それ、分かる気がする」

少女「やっぱり、そういうのがあるんだ。男くんと双妹さんは特別な絆で結ばれていて、何だかうらやましいです」

男「まあ確かに、俺と双妹は特別な絆で結ばれているんだろうな」


奇跡のミックスツイン。
俺と双妹は、極めて稀な男女の一卵性双生児なんだから――。


少女「あっ、そういえば!」

少女「外まで声が聞こえてきて気になったんですけど、一卵性の双子ってどういうことなんですか?」

154以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 19:47:45 ID:rgny/1Us
男「少女さんって、看護科だろ」

少女「そんなことを言われても、性別が異なる一卵性双生児なんて聞いたことがありません。男女の双子は絶対に二卵性双生児なんですよ」


少女さんの言葉を聞いて、俺は小さく嘆息した。
俺と双妹が一卵性双生児だと知った人は、大抵が少女さんのような反応を示す。
そして、頼みもしないのに語り始めるのだ。

面倒くさいから黙っていたのに、こうなったら話し合う以外に方法はない。
俺は仕方なく、今まで何度となく繰り返してきた説明をすることにした。


男「平たく言うと、受精卵が多胚化したときに性別を決める染色体が抜け落ちて、性別が男女に分かれたんだ」

少女「そんなことが本当にあるんですか」

男「ああ、本当にあるみたいだよ。異性一卵性双生児は世界中で数例しか報告されていなくて、ごく稀にしか生まれないんだ」

少女「でも、それだと異数体になってしまいますよね。少しおかしくないですか」


異数体とは、染色体の数が通常よりも1〜数本多くなったり少なくなっている個体のことだ。
そんな生物用語が出てきたということは、少女さんは知識が邪魔をして受け入れることが出来ないタイプなのだろう。

155以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 20:41:23 ID:rgny/1Us
男「おかしいって何が?」

少女「男くんの説明だと、XYの受精卵が双子になったときに『XYとXO』に分かれたことになりますよね。そうなると、双妹さんはX染色体が1本しかないからターナー症候群を患っていることになります」

少女「だけど平均的な身長だし、胸もその……大きいですよね。性的発達が遅れているわけではないし、双妹さんがターナー症候群を患っているとは思えません」

男「たしかに双妹はターナー症候群を患っていないし、その他の検査でも異常はなかったみたい」

少女「それじゃあ、男くんのほうに染色体異常があるんですか?」

156以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 20:48:03 ID:MF6PAvH6
男「いや、俺も異常はなかったみたい。まさしく健康そのものって感じだな」

少女「でも中学生のとき、よく学校を休んで病院に行ってましたよねえ。何だか信じられないです」

男「それじゃあさあ、親父の書斎に行ってみる?」

少女「お父さんの書斎ですか」

男「俺たちが生まれたときに話題になって、マスコミの取材を受けたらしいんだ。それで、親父がそのときの科学専門誌や週刊誌を保存しているんだ」

少女「すごく気になるし、読んでみたいです!」

157以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 21:43:33 ID:mna2sIk2
〜親父の書斎〜
少女「男くんのお父さんの部屋の本棚、難しそうな本ばっかりですね」

男「そっちは設計とか工学関係とか、親父が仕事で使う資料が収められている本棚だからね。少女さんに見せたい週刊誌は、こっちの本棚に収まってるよ」

少女「わわっ! ここにある雑誌が全部そうなんですか?!」

男「そこにあるのは最近のやつだな。親父が特集記事を気に入って、それ以来ずっと定期購読しているんだ」

少女「へえ、そうなんだ。それじゃあ、このDVDは何なんですか?」

男「それは俺たちが5歳のときに出演した、民放のおつかい番組のやつじゃないかなあ」

少女「ほんとだ! あの番組名が書いてあるし!!」

男「その放送局が2分の1成人式を企画して家庭訪問バラエティにも出演したから、そのDVDもあると思う」

少女「男くんと双妹さんって、もしかして有名人だったの?!」

男「そんな訳ないだろ。現に少女さんは、俺と双妹のことを知らなかったじゃないか」

少女「そんなことないですよ。きっと、私が知らなかっただけですから」アセアセ

男「いいって、そんなフォローをしなくても」

158以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/18(日) 21:51:30 ID:mna2sIk2
少女「ところで、週刊誌は見つかりそうですか」

男「ああ、うん。これがさっき言ってた特集記事が載ってるやつだよ」

少女「えっ?! これって――」


少女さんに週刊誌を見せると、不快そうに顔を曇らせた。
これは男性向けの写真週刊誌なので、表紙に性的な言葉が載っている。
女子に見せるのだから、最初から目的のページを開いておくべきだった。


男「……ごめん! えっとほら、この記事が俺たちのことなんだ」アセアセ

少女「この記事が男くんのことなんだ……」

男「そうだよ。生物学的なめずらしさと話題性があったから、こうして記事にしてくれたんだと思う」

少女「そっか……。それじゃあ、読んでみるね」

159以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 20:13:29 ID:X/AbCKBU
――奇跡の双子、異性一卵性双生児

少女さんは記事の表題をつぶやくと、ゆっくりと内容を読み始めた。
久しぶりに、俺も目を通す。
最初は祝福の言葉から始まり、その次に異性一卵性双生児のことが説明されている。
そしてその説明が終わると、健全な異性一卵性双生児が生まれた仕組みや性染色体異常について考察していく流れになっている。

160以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 20:26:33 ID:X/AbCKBU
一卵性双生児はひとつの卵子(厳密には二次卵母細胞)にひとつの精子が受精し、その受精卵が何らかの刺激で二つに分離して多胚化することで誕生する。
そのため一卵性双生児は基本的に同一の遺伝子型を持っているので、通常は同性しか生まれない。
ところが先日、昨年12月13日にI県の彩川医科大学附属病院で男女の一卵性双生児が誕生していたことが分かった。

このような双子は異性一卵性双生児と呼ばれており、世界中でもわずか数例しか報告されていない極めて稀な存在だ。
なお異性一卵性双生児の女性はターナー症候群を患っていることが知られており、これまでは双子の一方または双方が性染色体に何らかの異常を持って生まれてくると考えられていた。
しかしこのたび生まれてきた男女の双子は健康そのもので、多胎妊娠による切迫早産で入院したこと以外には一切の異常がみられなかったのだ。
そのような報告は今までに例がなく、それが科学的に証明されたのは史上初めてのことである。
それでは、なぜそのような双子が生まれたのだろうか。

161以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 21:43:23 ID:GybuDdV6
おつ

162以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 23:42:46 ID:kUW.iojY
ヒトの染色体は22対(44本)の常染色体と1対(2本)の性染色体で構成されていて、性別は性染色体の組み合わせによって決定されている。
性染色体にはX染色体とY染色体の2種類があり、その組み合わせがXYならば男性でXXならば女性になる。
これら23対の染色体は父親と母親から1本ずつもらうことで対になっているので、通常は性染色体の本数が2本以外になることはない。
しかし、ごく稀に性染色体が1本多いXXYの男性や性染色体が1本少ないXOの女性が生まれることがあるのだ。※Oは無いという意味。

その原因のひとつが、減数分裂における染色体不分離である。
生殖細胞は精子形成や卵形成の過程で減数分裂を行い、それによって染色体数が半分になっている。
しかし性染色体で染色体不分離が起きると、性染色体が正しく分配されずにXYの精子やXXの卵子、性染色体を持たない精子や卵子などが出来てしまうことになる。
その異常な生殖細胞が正常な生殖細胞と受精すると、XXYやXOの性染色体構成を持つ異数体の受精卵が生じるのだ。
しかも驚くことに、健全な男女の一卵性双生児はこのXXYの受精卵が多胚化して誕生したと考えられている。

163以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 23:44:36 ID:kUW.iojY
その詳細は今後の研究によって解明されることが期待される分野ではあるが、考え方はとても単純だ。
最初の体細胞分裂(卵割)の後期において、それぞれの娘細胞(割球)で余剰な性染色体を排除しようとする現象が起こり、X染色体を1つ脱落したXYの割球とY染色体を脱落したXXの割球に分かれた。
そして、それらの割球が直ちに分離して多胚化したので男女の双子になった、というものだ。
しかしこのような現象は、場合によっては遺伝子や細胞組織に異常を生じさせることになってしまう。

164以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/19(月) 23:56:34 ID:kUW.iojY
遺伝子はメンデルの法則で知られるように、両親から受け継いだ遺伝子が働きあってさまざまな特徴や性質を子どもに伝えている。
ところが、数ある遺伝子の中には父親から受け継いだ遺伝子のみが発現するものや母親から受け継いだ遺伝子のみが発現するものがあり、単為生殖を防ぐために、どちらの親からもらった遺伝子なのか識別して抑制してしまう仕掛けが施されているのだ。
したがって父親由来の染色体と母親由来の染色体が対になっていなければ、遺伝子の仕掛けが誤作動を起こして胎児が正常に育たなくなってしまうのである。

つまり遺伝子レベルの話では、X染色体を1本持つ正常な卵子に減数分裂の異常で生じたXYの精子が受精してXXYの異数体の受精卵になり、その受精卵が多胚化するにともなって父親由来のX染色体を脱落した男児とY染色体を脱落した女児に分かれなければならないことになるのだ。

さらに細胞レベルの話では、受精卵が2細胞期の時点で多胚化し男女の双子に分かれることが要求されることになる。
なぜなら受精卵は卵割を繰り返しており、多胚化する時期が遅いとモザイク型の性染色体異常になってしまうからだ。

165以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 00:07:56 ID:PueheZXk
例えばXYの受精卵からY染色体を喪失することで生まれる異性一卵性双生児(XY正常男児とXOターナー女児)では、次のようなモザイクが考えられる。
仮に発生の初期段階に1つの細胞でY染色体を喪失し、そのまま卵割を繰り返して桑実胚期まで成長した場合、その受精卵はXYの正常な細胞とXOの異常な細胞を併せ持つ『モザイク胚』になってしまう。
そしてこのモザイク胚が2つに分離して多胚化すると、双子の双方が『X/XYモザイク型』の性染色体異常を持って生まれることになってしまうのだ。

この例のように核型が『45,X/46,XY』のモザイクを有していると混合性性腺異形成症などの性分化異常を伴い、病態として内外性器に異常がみられるようになる。
その障害の程度はさまざまで、外性器が正常な女性または正常な男性に近い外観になって病気に気が付かないこともあれば、曖昧な外性器になってしまうこともある。
また社会的な性別の決定が要求される場面では慎重な判断が必要となり、そのことが本人や家族に与える影響は計り知れない。
それはXXYの受精卵から生まれる異性一卵性双生児の場合も同様である。

以上のことから、健全な男女の一卵性双生児は天文学的な確率で生じた奇跡によって生まれてくることがお分かり頂けたであろう。
いくつもの偶然が重なり、ふたつの胚が無事に着床して妊娠が成立し、新しい生命が誕生したのだ。

166以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 00:16:19 ID:oRuA957g
ところで、異性一卵性双生児の誕生にはまだ大きな疑問が残されている。
男女の双子は二卵性だと判定するのが通常であり、一卵性だと判定することは絶対にあり得ないからだ。
それでは、なぜ一卵性だと判明したのだろうか。

妊婦検診で多胎妊娠だと判明した場合、速やかに膜性の診断をしなければならない。
なぜなら膜性の種類によって妊娠や分娩のリスクが大きく異なり、母体と胎児の周産期管理がとても重要な課題になるからだ。
その膜性診断の結果、二絨毛膜二羊膜性双胎(DD双胎)という状態になっていることが判明し、2つある胎盤は癒合していないことが確認された。
このDD双胎の状態になるのは受精後3日以内に分離した一卵性双胎とすべての二卵性双胎であり、そのリスクは単胎妊娠の約5〜10倍だと言われている。
やがて性別診断で男女だと判明したので、双子の卵性はDD双胎になる条件と矛盾しない二卵性だと判定された。

ところが、出産後に状況が一変した。
切迫早産でNICUに入院することになり、そのときの血液検査で男女ともにA型だと判明したからだ。
血液型がO型とB型の父母から、通常はA型の子どもが生まれることはない。
しかもそれが二卵性の双子で起きたものだから、周囲は大変な騒ぎになった。

167以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 00:22:17 ID:PueheZXk
両親の血液型から生まれるはずのない血液型の子どもが生まれる理由は、さまざまな可能性が考えられる。
今回のケースでは減数分裂のときに染色体がねじれて一部が入れ替わる乗換えという現象により、血液型を決定する遺伝子で組換えが起きていたことが原因だった。

血液型はABOの3種類ある遺伝子のうち、2つが組み合わさることで決定される。
その3種類の遺伝子はA遺伝子を基本の形として、B遺伝子とO遺伝子には、それぞれ次のような特徴がある。

B遺伝子は、前半部分がA遺伝子と同じ構造をしている。
O遺伝子は、後半部分がA遺伝子と同じ構造をしている。

つまり遺伝子の組換えにより、B型の母親が持っていた遺伝子(B遺伝子とO遺伝子)の後半部分が入れ替わってしまい、B遺伝子がA遺伝子と同じ構造になってしまったのだ。
そしてそのA遺伝子を持つ卵子が受精して、A型の双子が生まれたのである。

しかし、この現象が2つの卵子で同時に発生していたとは考えにくい。
そこでDNA双子鑑定を実施した結果、ついに男女の一卵性双生児だということが判明したのだ。
この血液型騒動がなければ、恐らく一卵性だと判明することはなかっただろう。

168以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 00:29:16 ID:oRuA957g
・・・
・・・・・・
特集記事を読み終わり、俺はゆっくりと息を吐いた。
16年前に書かれたそれには、俺と双妹が生まれてくるまでの記録が残されている。
今でこそ笑い話になっているけれど、血液型騒動があった当時は本当に大変だったらしい。
だけど、それがあったから今の俺たちがいるのだと思う。

記事の最後は、両親の言葉でまとめられている。
誕生の喜びと不安、戸惑い、そして夫婦の絆。
多くの人に支えられて生まれて来たのが、異性一卵性双生児の俺と双妹なのだ。

169以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 18:55:50 ID:oRuA957g
少女「ありがとう。読み終わりましたよ」

男「特集記事はどうだった?」

少女「生命が生まれるって、本当に奇跡的なことなんですね。すごく興味深かったです。それに男くんと双妹さんのご両親の想いや、医療従事者の方との連携が伝わってくる、そんな優しい気持ちになれる記事でした」

男「これを読むと、もっと頑張らないといけないなって思うんだ」

少女「そうだよね。それなのに、それなのに……」


唐突に少女さんが悲痛な声を出した。
そして、週刊誌が収められた本棚を見上げた。


少女「この出版社は私を苦しめるんです――」

男「それって、どういうこと?」

少女「私、この出版社の人にストーカーをされていたんです!」

170以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 19:01:05 ID:oRuA957g
男「ストーカーをされていた?!」


俺はその言葉に驚き、少女さんを見詰めた。
すると、少女さんはぽつぽつと語り始めた。

男子生徒の自殺に関連して、この週刊誌に心無い記事を書かれたこと。
そのことでクレームを出したけれど、出版社からの謝罪がないこと。
そして、12日から気味の悪い視線を感じていたこと。
少女さんが口を開くたびに、怒りと苦しみが吐き出されていく。


少女「きっとこの出版社は、少年くんを自殺に追いやった私がどんな恋愛をしているのか、それを記事にするつもりだったんです」

少女「こんなに優しい記事を書けるのに、どうしてそんなことをするの?」

少女「どうして、私がそんな仕打ちを受けないといけないの?!」

男「少女さん……」

171以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 19:07:49 ID:PueheZXk
男子生徒の自殺を思い出したとき、少女さんはとてもつらそうな表情をしていた。
それでも少女さんはそれを乗り越えて、将来の夢を真剣に考えていることを話してくれた。
つまり、生きていたときの少女さんがそんな気持ちになっていたのだろう。

しかし、マスコミはそれを許さなかった。
男子生徒の自殺は形を変えて、少女さんを追い詰めていたのだ。

2月12日。
それは少女さんが自殺をした前日。
彼女は悪意の視線に気付いてしまった――。

だけど、この出版社が悪意のある記事を書くとは思えない。
実際には記事を読んでいないので何とも言えないけれど、少女さんの当事者意識による思い込みが誤解を招いてしまっただけのような気がする。
ストーカー行為も本当にあったのだろうか。

男子生徒の自殺の記事を読めば何かが分かるかもしれないが、今はとても探して読めるような雰囲気ではない。
そっとしておいたほうが賢明だろう。


男「少女さん、部屋に戻ろうか」


俺は少女さんを連れて部屋に戻ることにした。
彼女はふわりふわりと、力なく浮いていた。

172以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/20(火) 20:24:51 ID:MTdnb2QA
ここまでで一区切りです
レスありがとうございました

173以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/21(水) 20:41:36 ID:Ia65vCR6
(2月20日)sat
〜Another View〜
今日は土曜日。
彼女は病室の窓から、鉛色の空を見上げた。
そして、懐かしい同級生の顔を思い浮かべた。

今頃は卒業式が行われているはずだ。
本来ならば、その卒業式に彼女も出席しているはずだった。
その……はずだった。

高校2年生の春、彼女は授業中に意識を失い入院を余儀なくされた。
そして、不治の病であることが宣告された。
今は学校を休学し、治ることを信じて闘病を続けている。

それでも、ときどき思ってしまう。
あと何ヶ月、生きていることが出来るのだろうか。
そしてあと何ヶ月、この胸の痛みを耐えなければならないのだろうか――と。

やがて、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。
これは悲しみの涙だろうか。
それとも、卒業を迎えたみんなの感動の涙だろうか。

174以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/21(水) 20:44:23 ID:JAFB57hw
この世界から、彼女だけが取り残されている。
みんなの時間から、彼女だけがこぼれ落ちてしまった。
そして今日も時間だけが過ぎていく。


「女さん、ご機嫌はいかがですか?」


辺りが暗くなる頃、主治医の先生と看護師が入ってきた。
こんな時間に回診に来ることは、今までなかったことだ。
一体何があったのだろうかと、彼女は不安になる。
そんな彼女に、主治医の先生は思いも寄らない言葉を告げた。

とても信じられない。
だけど、彼女の返事は決まっていた。
そして、涙が溢れてきた。

外は激しい雨が降っている。
永遠の別れを悲しむかのように、激しい雨が降っている。

175以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/22(木) 20:01:39 ID:OeE7anno
(2月21日)sun
〜友の家〜
日曜日になり、俺は少女さんと友の家に向かった。
少女さんは一晩寝れば気持ちが落ち着いたらしく、昨日の朝には普段と変わらない様子に戻っていた。
そして今は、自殺の記憶が戻るかもしれないことに緊張しているようだ。


少女「友くんの家って、神社の隣だったんですね。知らなかった……」

男「友に霊能力があるのは、この神社の息子だからなんだ。ちなみに俺の母さんがこの神社で働いていたことがあって、その縁があってここで結婚式をしたらしいよ」

少女「へえ、そうなんだ〜」

男「それで俺と双妹が生まれたときにこの神社も話題になって、今では縁結びと子孫繁栄にご利益がある神社ってことで有名になっているみたい」

176以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/22(木) 20:03:43 ID:KVMmbaME
少女「縁結び神社かあ。生きているときに来たかったな」

男「今から寄ってみる? 御守りとか、すごくご利益があるらしいから」

少女「幽霊の私が神社に行くだなんて、怖くてとてもじゃないですよ。そんなことより、早く友くんの家に行きませんか」アセアセ

男「そっか、少女さんがそう言うなら仕方ないな」


神社は穢れを嫌う場所だし、幽霊の少女さんが嫌がるのも無理はない。
俺は神社の前を通り過ぎ、友の家の呼び鈴を鳴らした。

177以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/22(木) 21:37:35 ID:OeE7anno
ピンポ〜ン♪
ガチャリ


友「待ってたぞ。二人とも中に入ってくれ」

男「お邪魔します」

少女「お……お邪魔します」

友「少女さんのことだけどさあ、昨日メールを読んだんだけど、それから何か分かったか?」

男「いや、特に進展はない。今日は夢を見ていないみたいだし――」

友「そうか」


友はそう言うと、少し思案めいた。
今から催眠術をする訳だし、次の一手を考えてくれているのだろう。
そう思いつつ友の部屋に入ると、少女さんがはっとした表情で床に置かれているカバンに目を向けた。
その様子から察するに、催眠術の道具が入っているのかもしれない。

178以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 21:31:25 ID:aiMuLZek
男「もしかして、ここで催眠術をするのか?」

友「そうだよ」

男「俺はてっきり、神社のほうでするのかと思ってた」

友「そっちでするなら初穂料を頂くことになるけど……」

男「お金を取るのか?!」

友「当たり前だろ。素人の俺が部屋で個人的にするから、サービスしてやれるんじゃないか」

男「まあ、それもそうだな。今度何か奢ってやるよ」

少女「でも、大丈夫なんですかねえ」

友「俺の実力のことなら、大船に乗ったつもりでいてくれ」

少女「う……うん」

179以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 22:02:00 ID:Jmq9ukzc
友「それで先に話しておきたいことがあるんだけど、金曜日の放課後、学校帰りに少女さんの家に行ってきたんだ」

少女「私の家?!」

男「おいっ、聞いてないぞ」

友「男に話せば、少女さんの耳にも入るだろ。それを避けたかったんだ」

少女「もしかして、住所を調べたんですか?!」

友「調べるも何も、俺たちの中学校は体制が古いから卒業アルバムに住所と電話番号が載ってるじゃないか」

少女「……言われてみれば。でも、勝手に行かないでくださいよ!」

男「それで、何をしに行ったんだ?」

友「お線香をあげるついでに、少女さんの話を聞きたいなと思っていたんだ。まあ、家に行っても誰もいなかったけどな」

少女「勝手なことをするから、そうなるんです」プンスカ

友「ただ、誰もいなかったのは生きた人間の話だ」

男「どういうことだよ、それ――」

友「少女さんの家には浮遊霊がたくさん集まっていた」

180以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 22:42:19 ID:Jmq9ukzc
少女「ええっ! 私の家に幽霊がいるんですか?!」

友「そうだよ。少女さんが家にいないから、近所の浮遊霊が様子を見に来ていたんだと思う」

男「もしかして、少女さんが家に帰るのを嫌がっているのは浮遊霊が集まっているからなのかな」

友「それはどうだろう。ただ今後のことを考えて、男の守護霊の力を高めておこうと思う」

男「守護霊の力?」

友「少女さんが家に帰れるようになったら、男もお線香をあげに行くだろ」

男「ああ、行かせてもらおうと思う」

友「そのときに低級霊が寄ってきたらうざいからな」

181以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 22:54:42 ID:YyzZvQKo
男「それで守護霊の力を高めるにはどうしたらいいんだ?」

友「この御守りを身に付けていれば、半年くらいは効果がある。まあ、鞄の中にでも入れっぱなしにしておいてくれ」


友はそう言うと、カバンの中から御守りを取り出した。
神社の名前が刺繍されているので、普通に売っているものなのだろう。


男「そんなことで良いのかよ」

友「御守りはあくまでも補助的なもので、特に大切なことは健康な心身を保つことだ。しっかりと食事を取って、運動をして体力づくりをして、よく寝てストレスを溜めないこと」

友「そんな健康的な生活を送ることで、守護霊は強くなるんだ」

男「それって、もう守護霊とか関係なくないか?」

友「あと、守護霊がいるって信じることも重要な」

182以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 22:57:52 ID:YyzZvQKo
少女「あのー、男くんの守護霊の力を高めて私に影響はないんですか」

友「害意があるなら、すぐに弾き出されるんじゃないかな」

少女「はうぅっ、そんなあ……」

友「でも今は成仏をする前の浮遊霊だから、四十九日までは守護霊も理解を示してくれると思う」

少女「そうなんだ」

友「でも、快くは思われていないだろうな」

少女「……ですよねえ」

男「ふと思ったんだけど、少女さんは守護霊の姿が見えないの? 守護霊も幽霊なんだろ」

少女「私には見えないです」

友「守護霊は妖怪や神格を伴った神霊だからな。ただの人間や浮遊霊程度の霊性では、その姿を見ることは出来ないよ」

男「そういうものなのか」

183以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/23(金) 23:34:46 ID:aiMuLZek
友「それじゃあ、そろそろ始めようか。少女さん、準備は良いかな」

少女「は、はいっ!」


少女さんが緊張した面持ちで答えると、友はカバンから御札を取り出した。
そして、二人は向かい合う。


友「心霊催眠で呼び戻す記憶は2月13日、少女さんが自殺をしたときってことでやってみるから」

少女「お願いします」ドキドキ

友「我が名は友。己に囚われし少女の幽体を取り払い、魂の記憶と交わらんとすることを欲す。我が求めるは死の要素、喪われし生命の記憶――」


本人は大真面目だけど、何だか中二っぽいぞ。
この前口上は本当に必要なのか?
そう思っていると、友は少女さんの鳩尾に御札を押し当てた。


少女「うぐっ……」

友「いざ、解き放てっ!!」

184以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/24(土) 13:20:23 ID:LdqQl75E
おつ?

185以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 19:04:43 ID:IbqlonDQ
(2月13日)sat
〜部屋・少女さん〜
土曜日の午後、外は暖かい雨が降っていた。
天気予報によれば、明日にかけて低気圧が急速に発達して春の嵐になるらしい。
それはまるで、私の気持ちを暗示しているかのようだ。


少女「男くん……」


私は窓のカーテンを閉めて、小さく呟いた。
今日は暖かいし、あの女子とデートをしているのかなあ。
きっと、そうだよね――。

どうして、去年のバレンタインデーに告白をしなかったのだろう。
あの時にほんの少し勇気があれば、男くんの隣にいたのは彼女ではなくて私だったはずなのに。
悔やんでも悔やんでも、悔やみきれない。

186以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 19:07:53 ID:5QUnJ7oQ
少女「……はあっ」


でも、私は決めたんだ!
もしかしたら、あの二人はすでに付き合っているのかもしれない。
告白をすることで、週刊誌に嫌な記事を書かれるかもしれない。
それでも、私は男くんに気持ちを伝えるんだ!


少女「するよ! 明日、絶対に好きだって告白するよっ!!」


私はうさぎのぬいぐるみを手に取り、ぎゅっと抱き締める。
野原をぴょんぴょんと跳ねていくうさぎのように、私も前に進み続けるんだ。
だから、キミも応援してくれるよね?


(でも、本当に上手く行くのかなあ)


不意に気味の悪い視線を感じた。
それは、昨日の放課後に感じた視線と同じだった。

187以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 19:51:24 ID:5QUnJ7oQ
見られている。
この部屋も見られている。
どうして、マスコミの人はこんなことをするの?!


(それは人を殺したからじゃないか)


違うっ!
確かに少年くんが自殺をしたのは私のせいかもしれないけど、私は絶対に人殺しなんかじゃない!


(でも、他の人はどう思っているんだろうね)


それは……。


(みんな人殺しだと思っているよ)


私は本当は人殺し……なの?


そう思うと同時、不安な気持ちが膨らんできた。
私はうさぎのぬいぐるみをじっと見詰め、何度も繰り返した思考のループに迷い込んでいく。
そして、答えを探し続ける。

188以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 19:54:02 ID:IbqlonDQ
(もう分かっているんだろ)


分かっている?


(そうだよ)


確かにそうかもしれない。
きっと、告白しても惨めな想いをするだけだ。


男『悪いけど、キミと付き合うことは出来ない。実は付き合っている人がいるんだ』

少女『あの人と付き合ってるの?』

男『それじゃあ、今から彼女とデートだから。さよなら』

少女『男くん、待ってよっ!! あんな女子より、私のほうが――』

男『はあ?! はっきり言わないと分かんないのかよ。お前みたいな人殺しとは付き合えないって言ってるんだよ!!』

189以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 20:02:22 ID:5QUnJ7oQ
少女「ううっ、ひっく……ひっく…………」


妄想をしていると、涙があふれてきた。
男くんと付き合うことが出来ないのなら、彼に告白しても意味がない。
男くんと付き合うことが出来ないのなら、生きている意味もない。


だったら、死んでしまえばいい――。


そうだ。
もう楽になってしまいたい。
悲しい想いはしたくない。

私は机の引き出しから、お父さんに渡す予定だったネクタイを取り出した。
団子結びをして輪を作り、ドアノブに引っ掛ける。
そしてそれが外れないことを確認すると、体育座りをして右手でネクタイを掴み、ドアに背中を押し付けながら腰を浮かせた。

190以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 20:09:29 ID:NQZDA7Io
輪の中に首を入れる。
でも……本当に…………これでいいのかな。

そう思った瞬間、突っ張っていた両足が疲れてきた。
力が抜けて、腰が落ちる。
それと同時、ネクタイが頸部を強く圧迫した。


少女「……ぅぐっ?!」


息が詰まり、頭の中がとても熱い。
そしてすぐに意識が朦朧として、なすすべもなく眠りの中に落ちていった――。

191以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/26(月) 20:14:19 ID:5QUnJ7oQ
今日はここまでにします
レスありがとうございました

192以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 01:12:44 ID:plRJFZ5U
足の疲れが原因か

193以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 22:06:40 ID:F8CIbtDw
・・・
・・・・・・
〜友の部屋〜
催眠術が成功し、少女さんは友の誘導に従って当時の状況を語り始めた。
告白の決意と不安。そして、首吊り自殺――。
そのすべてを話し終えたとき、少女さんは催眠状態から復帰した。


少女「……はあはあ」

友「少女さん、お疲れさま」

少女「私、死んだ。本当に……自殺していたんだ」ハアハァ

友「そうみたいだね。そしてこの直後に家族が少女さんを見つけて、すぐに病院に搬送したんだと思う。魂が抜け落ちて幽霊になったのは、そのときだ」

少女「あまり実感が湧かないけど、そういうこと……だったんだ」

194以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 22:14:22 ID:guseBiq.
男「どうして……どうして、こんなことで死ねるんだよ!」

少女「こ、こんなこと?」

男「だって、少女さんは俺に告白するつもりだったんだろ。それなのに、こんなの現実から逃げ出しただけじゃないか!」

少女「それは……」


少女さんの気持ちも分からなくはない。
男子生徒が自殺し、さらに週刊誌に心ない記事を書かれて、少女さんは精神的に追い詰められていたからだ。
そのせいで、恋愛に対して強い劣等感を抱いていたのかもしれない。

だけど、頑張って告白してほしかった。
そしてそれ以上に、こんな形で将来の夢を諦めないで欲しかった。

195以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 22:21:33 ID:guseBiq.
友「そう熱くなるなよ。まさか、本当に少女さんが逃げ出したと思っているんじゃないだろうな」

男「思いたくないけど、そうとしか考えられないだろ。こんなことで自殺をするなんて、少女さんらしくないじゃないか!」

友「そういうことだよ。それが分かっているなら、もっと他にすることがあるんじゃないのか」

男「……!」


友の言うとおりだ。
いきり立つだけなら、誰でも出来る。


男「少女さん、ごめん。記憶を思い出してつらいときなのに、責めるようなことを言ってしまって……」

少女「いえ、いいんです。現実から逃げたのは本当ですから」

友「……」

196以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 23:02:40 ID:F8CIbtDw
友「それじゃあ、気を取り直して少女さんの自殺の動機を考えてみようか」

男「それは、やっぱりアレなんだろうな」

少女「……」

友「確かにそれが関係ないとは言えないけど、ひとつ気になっていることがあるんだ」

男「気になること?」

友「ああ、少女さんには事故死霊の特徴があるだろ。それなのに、偶発的な要素がまったくないんだ」

男「足が疲れたことが原因だから、半分は事故みたいなものだろ」

友「いや、俺たちの業界筋では、能動的または受動的な要因で偶発的に死ぬことを事故死と言うんだ。その代表例が交通事故なんだけど、突然発生した事件や事故に巻き込まれて死亡した被害者には、ある共通した特徴が見られる」

男「それって、何なんだ?」

友「彼らの多くは、自分がなぜ死んだのか分かっていないんだ。そして、その現場に近付くのを恐れるようになる。そのせいで死を実感する事ができないから、事故死霊は成仏できない場合があるんだ」

197以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 23:44:28 ID:guseBiq.
少女「それって、私と同じ状況ですね」

友「そうだよ。だから、少女さんは間違いなく事故死霊なんだ」

男「そう言われると、足の疲れは体力的な問題だから事故ではないよな」

友「ああ。マスコミに盗撮されていたことやネガティブ思考も、極論すると精神的な問題だから事故だとは言えないだろう」

少女「そうなると、やっぱり私の死因はただの自殺ってことになるんじゃないですか?」

友「いや、少女さんの自殺にはもっと他の要因が隠されている」

198以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/27(火) 23:47:41 ID:VykA8y2A
男「他の要因って、どういうことだよ」

友「そうだな、俺はうさぎのぬいぐるみが怪しいと思っている。少女さん、いつも話をしているの?」

少女「んなっ// そこですか?!」

男「それは俺も気になったかも。双妹がぬいぐるみと話しているところって見たことがないから、すごくメルヘンだなって思ったし」

少女「それはその……」

少女「何と言うか……私には歳が離れたお姉ちゃんがいるんですけど、私が小学生になる前に一人暮らしを始めて――」

少女「だからその、家ではぬいぐるみがお友達なんです//」

友「なるほど」

少女「あうぅっ……//」

199以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 00:34:55 ID:VGtwCazY
友「どうやら、うさぎのぬいぐるみを調べてみないといけないみたいだな」

少女「ええっ! あの子を調べるの?!」

友「うさぎのぬいぐるみを手に取ったときから、少女さんの感情が急激に落ち込んでいるだろ。もしかすると、何らかの痕跡が残されているかもしれない」

少女「何らかの痕跡って、どういうことですか」

友「悪いけど、それはまだ言えない。もしかしたら盗撮カメラや盗聴器を仕掛けていた痕跡が残されているかもしれないし、それとは違うもっと別の何かが見付かるかもしれないからな」

少女「もっと別の何かって、何だか怖すぎるんですけど……」

男「でもさあ、うさぎのぬいぐるみを調べたとしても、少女さんの自殺から1週間も過ぎているから、あまり期待は出来ないんじゃないかな」

友「そうかもしれないけど、今は少しでも情報が欲しいし、何もしないよりは良いだろ」

男「まあ確かに――」

200以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 00:41:03 ID:VGtwCazY
今日はここまでにします
レスありがとうございました

201以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 20:15:59 ID:kfKbvawM
少女「あのっ、解離性同一性障害の可能性はありませんか」

男「解離性同一性障害?」

少女「いわゆる二重人格のことです」


二重人格なら、小説や映画の中で聞いたことがある。
1つの身体に二人の人格が入っているというものだ。
その場合、もう一人の人格は破壊衝動や自殺願望を持っている場合が多いらしい。


男「つまり、うさぎのぬいぐるみは別人格のメタファーだったということか」

少女「はい。それなら別人格が自殺をしていても、主人格の私は何も知らないってことになりますよね。辻褄が合っていると思います」

友「確かに偶発性の説明は付くけど、その可能性はないだろうな」

202以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 20:40:21 ID:kfKbvawM
少女「はあ……。帰りたくないんだって、察してくださいよ」

友「それは分かってる。ぬいぐるみを調べるときに少女さんも来てくれって訳じゃないから」

少女「でも、私の部屋に入るんですよねえ」

友「あっ! 俺が一人で行っても入れないのか」

少女「そうですよ。残念でしたね♪」

友「少女さんの友達を紹介してもらえたら助かるんだけど、他に何か上手い方法はないかなあ――」


少女さんの友達?
そういえば今、双妹が友香さんに会っているはずだ。
しかも、彼女は俺に会いたがっているらしい。

203以下、名無しが深夜にお送りします:2018/03/28(水) 22:35:26 ID:kfKbvawM
男「少女さんの友達なら、俺が紹介できるかもしれない」

少女「紹介って、まさか友香ちゃんを?!」

友「マジかっ! 男に宛があるなら、俺に紹介してくれよ!」

男「良いけど、実は俺もまだ会ったことがないんだ」

友「どういうことだよ、それ」

男「何だか俺に会いたがっているらしくて、近い内に会う約束をしているんだ。だから、そのときに友の話を振ってみる」

友「……」

友「少女さんのことを考えると、訳ありなんだろうな。とりあえず、いい感じで頼む」

男「分かった」


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