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【艦これ】五十鈴「何それ?」 提督「ロードバイクだ」【2スレ目】

1 ◆9.kFoFDWlA:2017/08/13(日) 21:53:56 ID:XmBArZ8Y

※深海棲艦と仮初の和平を以て平和になった世界観における、とある鎮守府での一コマを描くほのぼの系

 艦娘がロードバイクに乗るだけのお話

 実在のメーカーも出てきます

 基本差別はしません

 メーカーアンチはシカトでよろしく


※以下ご都合主義
・小柄な駆逐艦や他艦種の一部艦娘もフツーに乗ったりする(本来適正サイズがないモデルにも適正サイズがあると捏造)
・大会のレギュレーション(特に自転車重量の下限設定)としては失格のバイクパーツ構成(※軽すぎると大会では出場できなかったりする)
・一部艦娘達が修羅道至高天
・亀更新

上記のことは認めないという方はバック推奨。
また、上記のことはOK、もしくは「規定とかサイズとかなぁにそれぇ」って方は読み進めても大丈夫です


【前スレ】

【艦これ】長良「なんですかそれ?」 提督「ロードバイクだ」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1454251122/

654以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/16(月) 05:44:47 ID:388gFuSQ

洋食珍事府みがある

655以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/16(月) 12:07:05 ID:9RZyP8T2
GCNJapanのYouTubeチャンネルでやってた土井ちゃんおすすめの朝食メニューがなかなか良さそうだったなぁ

656以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/16(月) 12:51:13 ID:uOm7.DOI
作者は芋に、いや吹雪に何か恨みでも?w

657以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/16(月) 14:20:50 ID:QR.83U5s
思いがけず日本の食の歴史だった

658 ◆gBmENbmfgY:2020/03/16(月) 23:47:49 ID:bite6EM2
>>654
 まだそれを覚えていてくれた人がいるとは……ベースはこっちだったりする

>>655
 アレいいですよね。ロングライド前の食事とか。パスタ+塩コショウ+チーズは結構うまい

>>656
 >>1のリアル艦これは吹雪と始まったんだゾ。
恨み? まさか! 愛だよ! 

>>657
 ブッキーは戦時も大人気だ。だってお芋は蒸しても焼いてもみそ汁の具にもなる。
 だから焼き吹雪も蒸し吹雪も吹雪汁も大好きだ

659 ◆gBmENbmfgY:2020/03/16(月) 23:51:48 ID:bite6EM2

 そして照月である――前回の反省点から、鶴姉妹と先任たる秋月は、食堂の使い方を間違いなく、過不足なく、完璧に、照月に教えた。

 照月もまた涙をぽろぽろ零しながら食堂で美味しいご飯に舌鼓を打った。薄切りの牛肉を鳳翔手製の割り下で作ったすき焼きは、すわ天上の食べ物かと茫然自失するほどのおいしさで『いつか、いつか涼月や初月にも食べされてあげたい』と強く願った。秋月姉、タッパーウェアどこー?

 その巡り合える日が必ず来る。その日までに生きねばならない。彼女たちが沈んだ海に、迎えに行かねばならない。そう――生きて、強くあらねばならない。かくして鎮守府に着任した二人目の防空駆逐艦の力が目覚めた。

 ―――秋月型が持つ力とは、食事の力。清貧を至上とする彼女たちが初めて出会った現代の食文化。飽食だ無駄だといくら声高に叫ばれようと、圧倒的美味の前では無駄無駄の無駄である。

 そこから何を得るのか。秋月は『ご飯を護る。つまり国を護る』という極めて高いモチベーションを得た。そう、食事の幸せをモチベーションに変え、何かを成すのが秋月型が目覚めた力。

 ――集中力の持久・瞬発が、共にズバぬけている。一瞬を無限に、無限が一瞬に感じるほどの長く短い時間の中で、月の輝きは決して途絶えず欠けぬように、その光を照らし続ける。

 雲霞の如く迫りくる敵艦載機。その軌道を読み切り、砲撃を放ち、射撃を放ち、通過すべきところに置くように撃つ。当たるのは当然、当たらば堕ちるは必然、即ち防空駆逐艦の本懐なり――と真面(マジ)で言ってのけるが、秋雲型の流儀である。

 照月もまた『いつか妹たちと美味しいご飯を食べる。鳳翔さん、すき焼き、美味しゅうございました……!!』という夢を、己が強くなって生き延びることを達成することで成し遂げようとした――必要なものは、圧倒的な力。力。力だ!! 何千、何万と、鶴姉妹の元で対空射撃訓練を繰り返した。

 秋月の異名に肖った『光弾の射手』と称される照月は、誰からも異論を赦さぬ防空駆逐艦へと成長し、至った姿こそが――――海軍ランキング十三位・『紅天』の照月。 

 これには提督も青空笑顔。このままエンディングの流れでもおかしくないほどにパーフェクトであった。

 だが無情にも、悲報は届く。意外なことに、その悲報の語り手が、雪風であった。


雪風『し、しれえ!! 照月ちゃんが、照月ちゃんが――――お風呂場で、石鹸で髪を洗ってました!!!』

提督『』


 これには流石の提督も求婚をはぐらかされた時のカイザーのような顔で、握りしめた万年筆を縦に粉砕した。

660以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/17(火) 00:52:20 ID:sJ7xkR9k


芋≡総て吹雪では勿体無いだろ、白雪ちゃんがサトイモだったり峯雪ちゃんがヤマノイモだったり深雪様がコンニャクイモだったりすべきでは?

あと秋雲オメー、過去の型式不詳を逆手に取ってネームシップ立ち上げたな?

661 ◆gBmENbmfgY:2020/03/17(火) 23:11:18 ID:aRODnWyE

 提督と共に執務に励んでいた大淀と、工廠での開発結果報告のために訪れていた明石も口を押さえて驚いた。

 共に激務の最中にあったが、思わず手を止めて雪風を問い詰める大淀と明石。


明石『せ、石鹸? 石鹸って、せっけんよね?』

雪風『せ、石鹸です』

大淀『しゃ、シャンプーは? リンスは? コンディショナーは?』

雪風『雪風もそう聞いたら『なにそれ』って言われました』

島風『島風も見てたんだけど……むしろこの子の常識が『なにそれ』って感じだった』


 偶然、雪風と共にその衝撃映像的な現場に居合わせた島風も、神妙な顔で頷くばかりである。


提督『ッッ…………しま、った』


 提督は己のやらかしを悟った。

 秋月型には何故か――何故か!――戦時の民間人の生活をそのままサクッとスライドさせて記憶に埋め込んでいるかのようなちぐはぐさがあった。それは秋月が着任する以前から、ある程度は分かっていたことだ。

 と言うのも、秋月型にとどまらず、艦娘にはしばしば見られる特徴であった。

 建造された工廠が関西の方面ではないのに関西弁を話す艦娘や、東京方面でないのに江戸っ子口調だったり、名前から連想される動物をモチーフにしたような特徴的な語尾で会話をしたりと、艦娘とは摩訶不思議な存在だキソ。

662 ◆gBmENbmfgY:2020/03/17(火) 23:24:04 ID:aRODnWyE

 その奇妙な固定観念は食事関係のみに留まらない。むしろ留まっているとどうしてそう思ったのだろう。

 艦娘は着任当初が特に常識の差異が顕著であり、どこか現代的な常識と噛み合わない部分がある。鎮守府で時を過ごしていれば、先輩艦娘達からの指導もあり自然と学んでいくのだろうが、座学としてきちんと教わるのと環境から受動的に学んでいくのとでは習熟度合いはまるで違ってくる。

 それをうまくかみ合わせるための教育体制を整えるのも提督の仕事であった。

 だが生憎と――着任から一年と四ヶ月が経過した頃――照月が着任した当時の提督は、『サーモン海域チキチキ蹂躙作戦(副題:戦艦レ級eliteの内臓がボロンとまろび出るよ! 何色かな?)』という大仕事が佳境に入り、頭脳の大半が深海棲艦絶対殺すマンと化していた。

 常識や道徳、情操教育などを後回しにしたうぬが不覚よ。無理やりに改造手術を施しておきながら、洗脳を後回しにするヌケサクな悪の秘密結社の如きマヌケっぷりである。

 そんな殺すマンな脳味噌が冷静さを取り戻した瞬間、提督の脳裏に雷撃的に駆け抜けた記憶がひとつある――かつて提督が戦時の民間人の生活や風俗をまとめた書記をテキトーに速読で流し読みした時の事だった。


提督『せ――洗髪の頻度か……!!』

大淀『あっ』

明石『あっ』


 その提督の一言で、大淀と明石の二人もまた察した。二人ともに、かつての教え子をビデオで見た時の安西先生みたいな顔だったという。

 なんやかんやと幅広い知識を持つ二人である。

 洗髪頻度が高くなり始めたのは、日本では戦後からだったという。

663 ◆gBmENbmfgY:2020/03/17(火) 23:29:29 ID:aRODnWyE

 聞いて驚け、むしろおののけ。


 1950年ごろまで、日本人の洗髪頻度は『月に平均2回』だ。


 『日』ではない。『月』だ。マメな人でも週に1回程度だったというから、現代人からすれば鳥肌が立つレベルであろう。

 なお比較対象として、平安時代で年1回。江戸時代では多い人で月1〜2回であったという。バッチイか? バッチイに決まってる。

 『江戸っ子は綺麗好きだった』なんてフレーズでピンと来る人もいるかもしれないが、その綺麗好きで知られる江戸時代においてすら、多くてもそんなもんなのだ。

 悲しいことにそこから「まるで成長していない……!!」のが当時の日本である。現代から過去へ転生なんてやるもんじゃねえとお判りいただけるだろう。その英知でこの不潔っぷりを何とかして見せろ!!

 なるほど、戦時は食糧難だったのだろう。その日に喰らうおまんまにありつければマシな方であったのは間違いない。

 だがそれは食料だけか? 勿論否だ。あらゆる物資が規制され、手に入りづらくなる。


 ――じゃあ石鹸は?


 答えはシンプルだ――食事より悲惨である。洗濯用を含む家庭用石鹸は『油脂性』だ。当然のように政府から規制対象――配給制となった。

 こうした物資不足は戦局の悪化と比例して下降の一途を辿る。国内で配給される石鹸は、石鹸成分がわずか30%、粘土や陶土が70%を占めるという、もはやこれは石鹸なのか芸術家気取りの陶芸家が叩き割った駄作の破片なのか判然としないものとなる。

 香料? 色素? ああ? 入ってねえよんなモン。しかもこの石鹸、入浴用と洗濯用の『兼用』である。地獄か? 地獄であろう。

664 ◆gBmENbmfgY:2020/03/17(火) 23:32:27 ID:aRODnWyE

 配給という名の地獄の時期を乗り越え――戦後の経済的急成長の陰には、こうした文化的な成長もあった。


 さて、ここに一つの命題がある。


 ――そんな時代の常識が、女の子の形にモールドされ、さながら型抜きのように『ポンッ』と海の上に放り出されたとしよう。


 こんにちは! 私、照月です!!


 ――そんな子をお風呂に入るのを勧めたとしよう。


 どうする?











 どうなる?

665 ◆gBmENbmfgY:2020/03/17(火) 23:35:47 ID:aRODnWyE

https://youtu.be/yv23BDV_jH4

照月『こんな柔らかくてきれいで、泡立ちが良くて、すごくいい香りのする石鹸で髪を洗えるなんて……!!』

雪風『』

島風『』


 ――あんのじょう、こうなりました。

 雪風はダムを破壊されたビーバーのようなご尊顔を晒し、島風は顔面を迷路にしたアザラシのごとき変顔で硬直した。

 嬉しそうに石鹸で髪を洗い始める照月を止めるどころか、流石の二人も茫然と見ているしかなかったという。絶句とはこのことだ。

 視界の中でキュゥキュゥと、不思議な音が聞こえてくる。それは照月の髪から奏でられる音――キューティクルが死んでいく断末魔である。

 なおその光景を見ていたのは、雪風と島風だけではない。


綾波『…………』


 大浴場の湯船に浸かりながら南無妙法蓮華経を唱えていた綾波が声を失った。

 アルカイックな笑みを浮かべたまま、しかし流石にショックを受けていたのか、左右の手は来迎印と摂取不捨印を結びながら硬直していた。

 その鼻から一筋の血が流れた。理解が追いつかない。なんだ? 一体何が起こっているのだ? どうすればよいのだ? レ級を片手間で肉塊にする彼女だって、困ることぐらいあった。

666 ◆gBmENbmfgY:2020/03/17(火) 23:40:52 ID:aRODnWyE

夕立( ゚Д゚)


 そして綾波の隣で同じく湯船につかりながら、玩具のアヒルで遊んでいた夕立もまたそれを見た。


夕立( ゚д゚ )


 こっちみんな。

 夕立は半笑いと驚愕を絶妙にミックスした形容しがたい表情のまま、あっちこっち見ていた。

 夕立は自由奔放なわんこ気質である。アクティブで常に動き回っている忙しない彼女は、この時、完全に自分を見失っていた。


吹雪「ふー…………」


 そんなことを知る由もない吹雪は、一人静かにサウナでぽかぽかとふかし芋風味になっていた。

 駆逐艦の最上位勢が揃いも揃ってこのダメっぷりであるが、さもありなん。

667 ◆gBmENbmfgY:2020/03/17(火) 23:46:19 ID:aRODnWyE

 そして照月は執務室に呼び出され――。


照月『毎日髪を洗わせていただけて、照月は幸せですよ! ちょっと贅沢しすぎですかね、うひひ♪』

提督&大淀&明石『OTZ』

照月『提督と大淀さんと明石さんが挫けた!? そ、そんなに経済がひっ迫していたのですか……!? 私、なんてことを……!?』


 明石と大淀は挫けたというより、無力感からの五体投地であったという。照月の言葉が更に彼女たちを打ちのめし、やがて鎮守府の好感度を上げるがごとくうつぶせに倒れ伏した。


提督『ちくしょう、ちくしょう……!!』


 提督は純粋なDOGEZAだ。キューティクルを殺してしまったことへの罪悪感が並の乙女より強い男であった。

 着任より一年と四ヶ月――彼はまだまだ未熟であった。

 新任の艦娘向けのマニュアルはおろか、鎮守府内のあらゆる施設のマニュアルが徹底的に見直されたことは言うまでもない。


提督『おのれ深海棲艦……!!』


 そして深海棲艦への怒りを燃やす。全ての経験を、あらゆる苦汁を、『全て敵のせいだ』と闘志に変換していると言えば聞こえはいいが、ただの八つ当たりであった。ただし誰にも迷惑をかけない八つ当たりである。だって相手は深海棲艦だもの。

668 ◆gBmENbmfgY:2020/03/18(水) 00:08:40 ID:gTTQmrQ6

 閑話休題――そういう意味であれば、初月は非常に良い時期に鎮守府に着任したと言えよう。

 共にソロモンでやらかした綾波の『世紀末迷子事件』や、夕立の『伝説のスーパー白露型事件』といった諸々の問題の当事者にならなかったし、とっくに戦艦レ級eliteの内臓は無事に海の藻屑と化した後に南方海域は攻略(蹂躙)済みである。鎮守府内のあらゆる施設は充実の一途を辿り、新任艦娘への教育制度も日々バージョンアップしつつも骨子は完成していた。


秋月『いいですか初月――髪を石鹸で洗ってはいけません』

照月『その通りよ初月――そして食堂は配給場所じゃあないわ』

初月(姉さんたちは一体、何を言っているのだろう)


 時に怪訝な目で見られようと秋月と照月は挫けなかった。あの悲劇を知ってるからだ。身をもって。

 今や二人は食堂で堂々と季節のランチ(10食限定)を注文してしまうし、なんと大浴場ではシャンプーで髪を洗うのだ! 文化的!

 洗髪後にトリートメントは欠かさないし、タオルドライ後のヘアオイルは入念に、しかもドライヤーまでかける! ブルジョワ的!

 お出かけ時にはUVケアで髪と肌を守るし、おしゃれ着だって部屋の桐たんすに10着も入ってる! おしゃれ!

 だがそんな二人は今や、


秋月「……」

照月「……」


 どこか暗い雰囲気で夕食のパスタを食む。初月には理解不能である。こんなにおいしいのに、一体全体どこが不満なのかと。

669以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/19(木) 15:06:43 ID:Xu0npiGI
>>1のために吹雪の参考画像を拾って来た
http://dec.2chan.net/60/src/1584592848576.jpg

670以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/19(木) 18:38:48 ID:.LpDOef6
>>669
なんてすけべなんだ

671以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/19(木) 21:44:07 ID:xN0mqGo6
今後の新規着任者には女子力講習を受けさせなきゃならないな
鎮守府にて最強の女子力って誰? 陸奥? それとも提督?

672 ◆gBmENbmfgY:2020/03/19(木) 22:57:06 ID:/zDhuaTg
>>669 >>670
これはとてつもなくすけべな吹雪ですね。マジカル味を感じる。

>>671
>鎮守府にて最強の女子力って誰? 陸奥? それとも提督?
女子力の定義によるかなあ……。
ここの陸奥は自己管理や自分磨きという意味だと非常に熱心でフレキシブル。紛れもなく天才だがそれを嫌味に感じさせない柔軟な立ち振る舞いができる。
極めて優等生。提督とかいうバグみたいな存在を知ったせいか、高飛車や高慢とは無縁。第三砲塔の調子もいい。
慢心に過信に油断で一度天狗っ鼻を叩きおられて成長した赤城・加賀とはタイプが異なる。調和を大事にしつつも、恋愛で一歩先を行けるしたたかさがあります。強さと弱さの使い分けが上手い。
提督が大型二輪免許(一発)取ったときにしれっと隣でご一緒に取得(一発)してたりする。機を見るに敏、そして妖艶で意味深。これには潮や如月も憧れる。なるほど、女子力高い子です。
ただしこの鎮守府における女子力の定義を提督基準にすると誰も勝てないというオチな。髪型変えた? 香水変えた? リボン変えた? 艤装のオイル変えた? 髪1mm切った? やだこのひとこわい。ヘタなホラーよりホラー。

管理能力って意味の女子力ならダントツが二人います。大淀と足柄です。

大淀は他者への管理能力が極めて高い。なんでもできちゃう。管理職の鑑。手が長いのだ。まさに痒い所に手が届くマルチプレイヤー。パーフェクト軽巡の異名は伊達ではない。全ての艦娘に同時に指揮が出せますけどってレベル。
大淀旗下にいる限り、どんな時でもまず間違いなく不調になることはない。ただし新人への教育は苦手。むしろ絶対にダメ。その子がぶっ壊れる。提督が親潮の教導に大淀は有り得ないと言ってた理由がこれ。
ある一定レベルに達した駆逐艦を複数に教導するというなら問題なし。その集団のレベルに合わせられる。が、マンツーマンだと考えすぎてダメになる。大淀には凡人の気持ちが分からない。

ここの足柄は自己管理においては大淀以上にズバ抜けて完璧です。他者への管理も範囲は狭いが、手が行き届く範囲内では最高水準。
メタ的な話で言えば、決戦の日程をあらかじめ通達しておくと自身含め、自身の部隊の艦娘達のCOND値をMAXにしておいてくれる。そら長良や球磨が懐くわけよ。
提督、皆のCOND値MAXにしておいたわよ! これには提督も心がキュンとする。
なのに飲み会だとからあげに勝手にレモンかけてマヨネーズ添えて、いつの間にか大量に揚げたカツまで添えてくるのが足柄。これには提督も殺人鬼みたいな顔する。

だが海軍の公的なパーティ(海軍の将校やエリートが集う堅苦しい場)に連れていく際に、艦娘を一人選ぶという状況があったとしよう。
提督が迷わず声をかけるのは――。

――飛鷹か隼鷹です。

ギャグでもなんでもなくこの二人が最有力候補。高水準で教養を身に着けている戦艦勢もこれには悔し涙。
だってここの飛鷹と隼鷹、一般教養や語学、社交性、マナー、政治、ダンスまでこなせるもの。化粧に着付けも完璧ですよ。酒さえ、酒さえ……。

673以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/19(木) 23:22:18 ID:TH4Ozf5.
前もって与えておいたら自爆だから、ご褒美としてぶら下げておけば完璧ってことですね

674以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/20(金) 01:51:25 ID:zmc9N/p2
同じ天才同士大淀とイムヤってマンツーマンの相性いいのかしら

675以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/20(金) 07:51:40 ID:LVx2BqDE
潜水艦は対潜軽巡が嫌いでち

676 ◆gBmENbmfgY:2020/03/22(日) 01:55:36 ID:5AoOO.k.

提督「明日の朝はグレインブレッド出すからな。あとハチミツと豆乳混ぜた奴にミューズリーを一晩漬けたやつ」

千代田「げ」

提督「オムレツとかはいっぱい食べていいよ」

秋月「グレインブレッド、かあ……」

照月「ミューズリーかぁ……」

初月「あっ」


 初月はその二つを食べたことがない。だが姉二人の表情でなんとなく察した。

 グレインブレッド:ドイツ風雑穀パン。あの黒っぽいヤツ。察して。カロリー欲しいならそこにヌテラ(チョコクリーム。超高カロリー)をべっとりして喰らうがよい。意外とイケるよ。

 ミューズリー:未調理の加工穀物にドライフルーツやナッツをブチ込んだやつ。味? 味とか以前にまず『硬い』。

 牛乳や豆乳、ヨーグルトなどで一晩漬けおきしとくと比較的柔らかくなって、比較的美味しく食べやすい。食べ応えもある。所謂一つのキュケオーン。お通じも良くなっちゃう。

 タンパク質に不満があるなら、そこに蜂蜜代わりのバニラ味プロテインや、蜂蜜そのままにプレーン味のプロテインをブチ込めばよい。味はお察しだ。マズくはないがウマくもない。

 朝からロングライドしちゃうって時の朝食の選択肢に入るだろう。


提督「それと補給食な。間宮と伊良湖にレシピ渡したから、外を走る奴は鎮守府を出立前に忘れず受け取るようにしましょう」

677 ◆gBmENbmfgY:2020/03/23(月) 23:08:40 ID:mWYLMsow

 提督レシピによる間宮・伊良湖謹製の補給食――今は羊羹だけだったが、次第にバリエーションが増えていく。


提督『試作したから食べてみろ、間宮、伊良湖。まずバナナワッフル、こっちはジャム挟んだくるみゴマクッキー。こっちはバナナとナッツ類を挟んだクッキーサンド。

   それとチーズ入りのライスケーキに、これはドライフルーツたっぷりのグラノーラバーだ』

間宮『あら、おいしい! これ、おいしいですよ提督!』

伊良湖『本当に美味しいです! これ、お菓子として出しても――』

提督『食ったな?』

間宮・伊良湖『えっ』

提督『今……間宮が二つ食べた、その何気ないバナナワッフルのカロリー、400kcal超えてるぞ。伊良湖の方は一つだったがな……チョイスが拙かったね。そのチーズ入りライスケーキに至っては700kcalを超える凄いヤツだ』

間宮・伊良湖『』

提督『食ったならば走る。これはロードバイク乗りの常識! 食ったら乗る! 乗らぬなら食うな! そして乗ったら食って良し!! これがルール!

   さあおまえたちの分のロードバイクも納車したぞ!、鎮守府回りを5周して来い! それでカロリー消化できるだろうよ!』

間宮(は、はめられたぁ……)

伊良湖(提督さん、こういうことするから……もぉ。一緒に走りたいなら、そう仰っていただければいいのに……)


 そんな内心の間宮も伊良湖も、嬉しそうだった。裏方で食事を作り続ける日々を送る二人にとって、提督と過ごせるのは朝や昼、夕食時のキッチンでの仕事がメインだ。

678 ◆gBmENbmfgY:2020/03/23(月) 23:32:56 ID:mWYLMsow

 もっと提督と触れ合いたいという想いは、二人にもあった。なんのことはない。少し迂遠ではあるが、提督からの間宮・伊良湖へのポタリングのお誘いである。勿論望むところだった。

 かくしてロードバイクに魅入られた間宮と伊良湖ものめり込むようになっていき、二人もまたロードバイク合宿への参加が決定した。

 上手い食事、適切なトレーニング、上質な休息プランもついてくる。後に如月の女子力を木っ端みじんに破壊する、提督の女子力が炸裂する日は近い。

 具体的には睦月型とポタリングした日に起こる。それとは関係のない悲劇もだが――さておきだ。


提督「――明日の朝一は軽巡洋艦、重雷装巡洋艦、練習巡洋艦、重巡洋艦、航空巡洋艦に、タバタプロトコルを実施してもらう」


 その言葉に、長良を始めとする参加予定者の操るカトラリーの動きが、ぴたりと止まった。

 皆一様に動きを止め、提督に視線を向ける。

 不敵に笑みを浮かべる者。楽しみで楽しみで仕方ないと笑い声をあげる寸前の者。

 いつも通りの気負わぬ表情で佇む者。いつも以上に闘志に満ちたオーラを纏っている者。

 緊張と困惑と不安に、身を縮こませる者。泰然自若として表情が読めぬ者。

 多種多様な在り方で提督を見つめる彼女たちに、提督は言う。


提督「少しばかり趣向を凝らしている。各々、励めよ。俺もずっと見ている――ロードバイクとはいえ、トレーニングとはいえ、お前たちのカッコいいところを間近で見れるのは嬉しい。とても楽しみにしている」


 ――提督は、すごく楽しそうだった。それを見て、艦娘達も笑った。

679以下、名無しが深夜にお送りします:2020/03/24(火) 18:02:31 ID:Ev4Xl2uo
「少しばかりの趣向」とやらによって笑顔が苦悶に歪む未来が見える気がする……
乙です

680 ◆gBmENbmfgY:2020/04/06(月) 23:02:51 ID:sEhcdCmI

 言葉は違えど。場面は違えど。表情は違えど。空気は違えど。

 軽巡は、雷巡は、練巡は、誰もが気付いていた。

 駆逐艦たちの多くが気付いていないことに、彼女たちは一人の例外もなく気付いている。

 海の上での戦いではない。レースとは陸の上で行われる競技だ。深海棲艦を斃すという共通目的の果てには、同じ勝利があった。辿る道筋は違っても、至るべき終点は同じだという確信があった。

 それが今はない。

 楽しそうに笑う提督の表情には、どこか出撃を命じる時に通じる真剣さがあって、更には一抹の弱々しさがあった。

 この中の誰かが沈むわけではない。それでも――負ける者は出てくるのだと。

 だからだろう。提督が少しだけ、寂しそうに見えた。

 いつも自信満々で、元気という概念が人の皮をかぶって歩いているような彼が、年相応の青年に見えた。

 ――だから、艦娘達は笑ったのだ。

 各々が、提督を安心させようとする笑みを浮かべた。


 提督の通達をもって、合宿一日目はこれにて終了。

 だがそれでも、艦娘の中の一部の聡い者は気付く。


長門(……不純、とは言うまい。難渋を乗り越えてこそ、我ら提督旗下の艦隊、そしてその艦娘たる)

681 ◆gBmENbmfgY:2020/04/06(月) 23:03:25 ID:sEhcdCmI

武蔵(相棒よ――タバタプロトコルに、競争の概念を盛り込む気か?)


 長門と武蔵は、示し合わせたかのように、ほぼ同時にその予想に至った。長門はどこか確信を持っているようだった。

 答え合わせは明日と、言葉にすることこそなかったが――。


陸奥(やりかねないわね……軽巡クラスは普通のタバタなら、それこそ新人の鹿島ちゃんだってやり切れるでしょうけど……そうなると辛いかもしれないわね)

大和(矢矧は……気付かないでしょうね。気付かないなら気付かないでいいのですが、懸念されるのは気づくタイミングです。よりにもよってタバタ中だと、取り返しがつかなくなるかもしれない)


 陸奥と大和もまたそれを想定した。ありえない話ではない。だからこそ沈黙し、指摘することはなかった。

 もし彼女たちの予想が合っていれば、提督はそれを直前に告げられた際での対応力や心の強さをも量っている。知らせれば台無しともなりかねない。だからこその沈黙だ。


霧島(……流石は司令。駆逐艦らとは違い、私の分析が正しいならば、それはより軽巡・重巡クラスに相応しい、順当なステップアップを経た課題と言えます)


 霧島も同じ分析の元、それに辿り着く。ただし好意的にだ。より強くなるという点において、それは一切の支障はない。

 勝つということは強いということ。負けたということは劣っていたということ。そしてその敗北をバネに強くなってきた古参とは違い、中堅や新人上がりは未だそれを知らない。

 それを乗り越えてこそ歴戦となる。敗北から得られるものなどないと突っぱねるならそれまでのことだ。霧島は軽巡・重巡らが現在どのような成長を――あるいは退化しているのかを、見極めたかった。


日向(……なるほど、己との戦いだけではなく、他との戦いもか。さては、いや、やはりというべきか――提督、君は航空戦艦だな……?)

682 ◆gBmENbmfgY:2020/04/06(月) 23:04:00 ID:sEhcdCmI

 発想は上記五名と同じだが結論がイカ○トンチキ。


山城(えっぐいこと考えてるに違いないわあの人だもの……そうなると、ああ、不幸ね最上……私の不幸が貴女に感染ったのかしら)


 最上の不幸は自前だ。


龍驤(タバタは自らの限界に挑む。つまり自分との戦いや……もしも、そこに競わせる要素を入れるなら、どう受け止めるかがキモやな。なんせ脚質の違いで、結果は天と地ほどまで開くでぇ? 脚質によっちゃ負けても負けやない)


 龍驤の想像通りのタバタプロトコルが実施されたならば、確実に劣るものが出てくる。だがその劣るものは気付かなくてはならない。

 ――劣っているからこそ、レースでは優勝できる可能性もあることを。


赤城(……どんな趣向をこらそうと、やることは変わらない。変わらないのです。それに気づけぬ者は負ける。

加賀(けれど、それに気づけずとも勝つ者がいたとすれば――)


 それはきっと、一つの超越者だろう。

 一つの頂点に立つものだろう。

 一航戦のように。

 もし、そんな艦娘が出てきたならば、加賀は、そして赤城は――。

683 ◆gBmENbmfgY:2020/04/06(月) 23:04:33 ID:sEhcdCmI

 そんな参加する軽巡・重巡らの決意、観客として見学する戦艦や空母達の思惑。

 異なる思惑や想念を胸に、鎮守府の夜は更けていった――。

684以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/06(月) 23:19:39 ID:9lIkQxlI
ドキドキ(*´∇`*)
いつも楽しみにしてます
乙!

685以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/07(火) 23:14:22 ID:XysF9/4A
続きがめちゃくちゃ楽しみです

686 ◆gBmENbmfgY:2020/04/07(火) 23:44:14 ID:0fDHyAmI

………
……


 各々が期待と不安を胸に秘めながらも、夜の夢を超えて朝日を迎えた。

 食事を手早く済ませた初月は、自身の姉妹、そして鶴姉妹や雲龍たちと共に足早に鎮守府内トレーニング施設へと向かう。

 本日行われるタバタ・プロコトルの公開練習――初月が考えてみればそうそうたるメンバーが集っている。

 鎮守府の最古参から、中堅までが勢ぞろいだ。軽巡・重巡クラスには現状のところ、新人に当たる者が限られている。

 軽巡洋艦/重雷装巡洋艦/練習巡洋艦――24名、全員参加。

 重巡洋艦/航空巡洋艦――ドイツへ長期遠征中のプリンツ・オイゲンおよびザラとポーラ、3名を除いた18名参加。

 ドイツで提督の教育資料・スケジュールを元にサラトガやグラーフ・ツェッペリンらを擁する艦隊指導に当たるのはビスマルクだ。

 そのビスマルク艦隊に所属している重巡……ザラとポーラは新人だ。

 タバタ・プロトコルに本日参加するのは、鹿島を除けば全員が中堅以上。

 その鹿島も先日、彼女の姉の香取から出された課題――妹贔屓を抜きにした難問の数々――をクリアし、及第点を十分に上回る優秀な成績を収めたという。そう、相手の砲口へのスナイパーショットを習得したのだ。


鹿島『おそらにとんでるちょうちょのむれを、いまならすべてちょうのしがいにかえられる』


 少しばかり強化しすぎた影響でひらがなしか喋られなくなったが、やがて元通りになるだろう。妹贔屓など入れるどころか、むしろ香取の教導は香取に対し苛烈極まるものだった。

687 ◆gBmENbmfgY:2020/04/07(火) 23:44:51 ID:0fDHyAmI

………
……


 各々が期待と不安を胸に秘めながらも、夜の夢を超えて朝日を迎えた。

 食事を手早く済ませた初月は、自身の姉妹、そして鶴姉妹や雲龍たちと共に足早に鎮守府内トレーニング施設へと向かう。

 本日行われるタバタ・プロコトルの公開練習――初月が考えてみればそうそうたるメンバーが集っている。

 鎮守府の最古参から、中堅までが勢ぞろいだ。軽巡・重巡クラスには現状のところ、新人に当たる者が限られている。

 軽巡洋艦/重雷装巡洋艦/練習巡洋艦――24名、全員参加。

 重巡洋艦/航空巡洋艦――ドイツへ長期遠征中のプリンツ・オイゲンおよびザラとポーラ、3名を除いた18名参加。

 ドイツで提督の教育資料・スケジュールを元にサラトガやグラーフ・ツェッペリンらを擁する艦隊指導に当たるのはビスマルクだ。

 そのビスマルク艦隊に所属している重巡……ザラとポーラは新人だ。

 タバタ・プロトコルに本日参加するのは、鹿島を除けば全員が中堅以上。

 その鹿島も先日、彼女の姉の香取から出された課題――妹贔屓を抜きにした難問の数々――をクリアし、及第点を十分に上回る優秀な成績を収めたという。そう、相手の砲口へのスナイパーショットを習得したのだ。


鹿島『おそらにとんでるちょうちょのむれを、いまならすべてちょうのしがいにかえられる』


 少しばかり強化しすぎた影響でひらがなしか喋られなくなったが、やがて元通りになるだろう。妹贔屓など入れるどころか、むしろ香取の教導は鹿島に対し苛烈極まるものだった。

688 ◆gBmENbmfgY:2020/04/07(火) 23:45:52 ID:0fDHyAmI
※疲れている。少しずつ行きたいですね

689以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/08(水) 00:46:39 ID:C3CFpNNc
乙です


あやや、物欲クイーンが人格フォーマットされかけてら

690 ◆gBmENbmfgY:2020/04/08(水) 23:35:06 ID:fI9aLRlo

 鹿島に本格的な指導を開始する際に、香取はこんな話をしたという。


香取『私の名である香取、その由来は香取神宮……軍神たる経津主(フツヌシ)を祭る神社です。

   軍神とは戦勝や武運長久の祈願を聞き届ける神――もちろん私は神ではありません。はいそうですかと結果のみを与えることはできない。

   強くなりたいと願う者には、強くなるための試練を与える者でありたい』

鹿島『香取姉……! はい!』


 香取の言葉に感動する鹿島だった。私の姉はこんなにも立派な理念を持つ教育者の鑑なんだと、鎮守府のみんなや提督に自慢したくなるほどに。


香取『では試練を与える者として――まだ生まれたての殻のついたヒヨコに過ぎない新人の艦娘を正しく教え導くためには、練習巡洋艦には何が必要だと思いますか?』


 香取の問いかけに、鹿島はうんうん唸って頭を悩ませた。


鹿島『…………あ、愛?』


 熟慮した結果、そう答える。

 この答えに、香取はにっこりと笑みを浮かべた。花開くような笑みだった。

691 ◆gBmENbmfgY:2020/04/08(水) 23:46:26 ID:fI9aLRlo

http://youtu.be/SoCMIuYwC_A

香取『大間違いです――強さですよ』

鹿島『えっ』


 なんだか空気がおかしくなった。鹿島はこの教導を姉妹の絆を深める、もっとこう姉妹水入らずというか朗らかなイベントだと思っていた……もちろん大間違いである。

 香取の教導は、提督からの評価が極めて高い。誉め言葉として『何事も卒なくこなす』ことができる艦娘に鍛え上げる上では最適解の一人だろう。ただし、香取自身には個々の秘められた才能を見出すほどの才気はない。

 香取自身は、地力の人であり、努力の人だ。大淀とは違うベクトルで優秀なのだが、乱暴な言い方をすれば大淀が大天才とすれば、香取は秀才止まりである。

 そんな香取が行う指導の主旨は『出来ないことを無くす』ことに尽きる。苦手だろうと普通だろうと優秀だろうと関係ない。とにかく普遍的に水準に至らせるのだ。

 まず指導する対象に全力でマウントを取りに行くことから始まる。どちらが上で、どちらが下か。視線だけで見下す側と、這いつくばって仰ぎ見る側を決めねばならない。

 だから見せつけるのだ――香取自身は全てを一定水準以上にこなすことができることを。そのベンチマークを示し、分からせるのだ。身体と精神にだ。

 この提督評においては『とても優しい教導』であるが、もちろん実際に彼女から教導を受けた艦娘からは悲鳴にも似た歓喜の声が上がった――本当に悲鳴だったという説もある。後に着任する海防艦たちが震えあがる地獄の教導だ。


香取『愛? 友情? 努力? なるほど、育めばよろしい――勝った後にです。勝つためには何が要りますか? 勝つ方法を教えるには何が必要ですか?

   ――強さ以外に何があると? 弱いものから教わることはありません。教わろうとも思いません。その無様さや軟弱さから察することはあれど、弱者から教わることなど何一つとして在りはしない。

   弱者が強者に教えることができるなどと、発想そのものが烏滸がましい。そうは思いませんか?』

鹿島『』

692 ◆gBmENbmfgY:2020/04/08(水) 23:53:19 ID:fI9aLRlo

 ――誰だ?

 鹿島は香取がどこかへ行ってしまったような錯覚を覚えた。目の前にいるこの『ワレハ悪魔・鬼畜メガネ……コンゴトモヨロシク』とか言いそうな仲魔は一体誰だと。

 不可思議な現象によってメガネのレンズが光って見える。その向こうにある筈の瞳がどんな色をしているのかが、鹿島からは見えない。

 
香取『繰り返します――練習巡洋艦に必要なものはまず強さです。新人と一口に言っても様々な艦娘がいます。

   気性の荒い者、気弱な者、自らの力量を見誤る者、ハネッかえり……どれも一筋縄ではいきません。

   故に最初に理解させ、発揮させるのです――自らの力の臨界を。その程度の臨界では、練習巡洋艦にすら届かないということを。

   そしてこれも繰り返し言います。貴女が理解するまで何度だって言いましょう――弱きものに教わることなど何もありはしない。強くあらねば誰もついてこない。言うことを聞かない』

鹿島(ポケモンのバッジの話だよね?)


 鹿島は現実逃避し始めた。理解できるけど理解したくなかった。

 何を理解したくなかったかと言えば、もちろんこの後の論理の帰結だ。

 鹿島は――残念というか、喜ばしい事というべきか、香取とは違うタイプだった。どちらかと言えば大淀に近いタイプ――天才型だ。

 つまり、分かるのだ。

 見えるのだ。

 どんなオチが自分に降りかかってくるのかが、分かってしまう。

693 ◆gBmENbmfgY:2020/04/09(木) 00:12:20 ID:R.8Ops8g

http://youtu.be/mGypt9C0YP0

 即ち、このような――。


香取『鹿島……貴女もまた私と同じく鹿島神宮より由来する名を持つ艦娘。鹿島神宮の祭神――軍神たる建御雷神(タケミカヅチ)の如くあれ。

   強くありたい、強くなりたい、勝利したい、負けたくない――そんな艦娘たちの願いをオールサポート。ただしまずはどちらが上か理解してもらうぞ、という具合ですね。

   繰り返します――我々は練習巡洋艦。練習とは同等以上でなくては強くなれないもの。貴女にはまずその強さを体験してもらうことから始めましょう』

鹿島『えっ』


 香取は一振りの大太刀を構えていた。駆逐艦たちが震えながらに語るところの、通称『絶対マウント取る構え』だ。普段なら切っ先を喉元に突き付けて殺気を飛ばし、駆逐艦が尊厳喪失するところで終わりだが――香取は実は、とてもすごく浮かれていた。

 鹿島が着任したことを誰よりも喜んだのは、香取であった。この子は絶対強くしなきゃと思っていたのだ。そして先日、提督から鹿島への教導許可が下りた。

 本当に嬉しかった。でも妹だからと言って手心は加えない。身内に甘いなどと噂が立てば、それは香取のみならず鹿島にとっても傷になる。

 だから鹿島が尊厳喪失してもやめるつもりはなく、怯えて竦んでガチガチ歯を鳴らして命乞いするまでやる所存であった。成程、完璧な理論だ。トラウマになる可能性があるってことを無視すればの話だがな。


香取『ええ、もちろんこれは実戦を想定してのただの模擬戦――鹿島、貴方も抵抗して構いませんよ? ――全部無駄だと分からせますので。大丈夫、貴方の姉さんは―――とても強いですよ?』

鹿島『お慈悲!!!』


 ねえよンなモン。トラック諸島の北西75kmあたりに捨ててきたわ。

694 ◆gBmENbmfgY:2020/04/09(木) 00:18:22 ID:R.8Ops8g

香取『いざぁ』

鹿島『ぎゃああああああああああああああああああ』


 このような無惨な訓練の末、鹿島は強さを手に入れた。色々失ったけれど手に入れたものがある。

 おめでとう、鹿島もまた修羅の仲間入りだ。Bキャンセルはできない。

 カトリネェーー!!
 閑話休題。


 さてそんな香取と鹿島、そして他の軽巡・雷巡・重巡・航巡は先にトレーニング施設に入っており、


初月「もう軽巡と重巡クラスの人たちはアップを始めているみたいだが――ずいぶんと観客が多いな」


 大和と武蔵。長門と陸奥。

 金剛四姉妹に、扶桑姉妹。伊勢姉妹。

 現時点で鎮守府に着任済みの日本の戦艦が、全員がローラー台の周囲に陣取っている。駆逐艦たちもいっぱいだ。

 軽空母の面々も勢ぞろいしていた。二航戦の蒼龍・飛龍の姿もある。水母――秋津洲や、補給艦・速吸もプロテインや各種サプリメントをテーブルに広げている。

 そしてローラー台では既に、タバタプロトコルを行う軽巡勢・重巡勢が各々ウォーミングアップを始めていた。

695以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/09(木) 20:30:06 ID:8d6pruo2
むーざん むーざん
きちくめーがねの かーこいもの

696 ◆gBmENbmfgY:2020/04/19(日) 23:54:07 ID:y7CQfZ/g

照月「それだけ注目を集めているということよ。軽巡・重巡の方々は古参・中堅揃い……長く鎮守府に在籍しているだけ交流も広いし、戦艦や空母の方々も気にするでしょう」

秋月「提督が仰っていた言葉も気になりますしね」


 初月は昨夜の提督の言葉を思い出す――少しばかり趣向を凝らしている、と言っていた。

 惹かれなかったかと言えば嘘になる。初月自身は達成できなかったタバタ・プロトコルに、提督は何か別の要素を付け加えようとしている。

 それによって難易度が上がることはあっても、きっと下がることはないだろう。参加する当の軽巡・重巡クラスはひしひしと感じているのだろう。だからこそ入念にアップしている。

 提督の無茶振りは、慣れたものだ。その無茶を無理にしないために、彼女たちもまたベストを尽くす。提督は無茶を振る。やれると思っているからだ。無理は振らない。出来るわけがないからだ。


初月(…………なんだか、いいな。こういうの。凄くいい雰囲気だ。僕は、個々の鎮守府に拾われて、本当に良かったと思える)


 ――ごはんも美味しいし、とは口に出さなかった。着々と秋月型の才能が芽吹き始めている初月である。


天城「ううん、でもやはり駆逐艦の子たちが多い……比率を考えればそれも当然ですが、まあ納得ですか。

   昨日とは違い、本日は軽巡・重巡クラスがそろい踏み……多くの駆逐艦たちにとって直属の上司に当たる人が走るのです」

初月「……なるほど、それもあるのか。そういう意味では、僕は――」


 初月は防空駆逐艦という、対空火力特化型の駆逐艦だ。その特殊性ゆえに通常のカリキュラムとは少し異なる研修を受けていた。

697 ◆gBmENbmfgY:2020/04/19(日) 23:55:38 ID:y7CQfZ/g

 全ての駆逐艦を始め、新人たちには必須となる共通科目こそ変わらないものの、多くの駆逐艦たちはまず天龍や龍田の元で基本的な教育を受ける。


初月「天龍と龍田以外の軽巡の方とは、あまり接点がなかったか」


 艤装の完熟訓練、乗組員妖精の活用方法、海上での航海練習、それらは演習や座学を通じて学ぶ。トレーニングも余念がない。

 新人は特に必要最低限のスタミナをつけるため、筋トレと有酸素運動を交互に行う。プロテインやサプリメントも専門のインストラクターがついての徹底管理だ。

 その後、天龍・龍田の報告から見出された適正を元に提督が仮配属を決め、以後はその隊を取りまとめる軽巡洋艦・重雷装巡洋艦・練習巡洋艦の教育方針に基づく研修が始まる。

 初月が知っている限り、配属先は以下の通りだ。どこも一筋縄ではいかない、くせの強い艦娘たちの集まりである。

 第一水雷戦隊――阿武隈旗下。

 第二水雷戦隊――神通・能代・矢矧旗下(一部の軽巡・駆逐艦が臨時旗艦を務めることあり)。

 第三水雷戦隊――川内旗下(名取が第五水雷戦隊旗艦兼任・夕張が臨時旗艦を務めることあり)。

 第四水雷戦隊――那珂・由良旗下(長良・木曾が臨時旗艦を務めることあり)。

 第五水雷戦隊――名取旗下(長良は臨時旗艦を務めることあり)。

 第六水雷戦隊――夕張旗下。

 第十一水雷戦隊――酒匂旗下(長良・多摩・天龍・龍田がフォローとして随伴する)。

 特設水雷戦隊――北上・大井・五十鈴・鬼怒旗下(いわゆる作戦時の特殊編成部隊であり、対潜特化や雷撃特化・対空特化など再編されることしばしば)。

698 ◆gBmENbmfgY:2020/04/20(月) 00:00:56 ID:VU.6VtrU

 その他の遊撃部隊や戦隊を担当している球磨や多摩、長良や阿賀野らにつくこともあれば、配属先の水雷戦隊の研修の一環で一時的に他の部隊へ預けられることもある。

 重巡が仕切る戦隊、そして長良が仕切る戦隊――果ては空母や戦艦付きの護衛艦も。

 前述の香取による練習遠洋航海などもそれに当たる。

 そして前述の通り、防空駆逐艦として特殊な立場にある初月は――。


瑞鶴「この公開タバタ・プロトコル練習で、初月が見るべき艦娘は誰か、わかるわよね」

葛城「最強の防空戦力は貴女たち秋月型と――――もう一つ」


 二人の空母が視線を向ける先は、ウォームアップ中の重巡洋艦のグループだ。

 誰もが輝くような威と圧を発するその中で、ひと際研ぎ澄まされた刃のような気を発している者がいる。

 最強の防空重巡洋艦――。


初月「摩耶、か」

秋月「摩耶先輩と言いなさい」

照月「それと朧先輩や秋雲先輩――野分と舞風もよ。今日は走らないけれど、あの四名は一航戦付の護衛艦なのだから。ご挨拶もそのうちね」

初月「は、はい。姉さんたち」

699 ◆gBmENbmfgY:2020/04/20(月) 00:08:05 ID:VU.6VtrU

瑞鶴「…………まあ、摩耶についてはそこまで真剣に見る必要はないかもしれないけれど」

初月「えっ」

瑞鶴「摩耶に関しちゃ特にね。あの人はなんていうか……しょーもないもの見れると思うわよ。あんまり参考にならないからね」

雲龍「…………まあ、そうでしょうね。天龍や五十鈴ちゃん、鬼怒ちゃんあたりがいいんじゃないかしら」


 あまり会話に入ってこない雲龍さえ同意する。

 初月は言葉の真意が掴めず、やや不満げな表情を見せたが――すぐにわかるだろう、と誰も説明しなかった。

 防空重巡洋艦・摩耶。

 彼女が着任したのは鎮守府発足から一ヶ月の間。即ち最古参の一人である。

 そこからずっと一位だったわけではない。

 だが今や不動の一位だ。『着任から半年』でその地位を確立し、以後はその王座を占有している。

 ――それは初月も知っている。だからこそ、先ほどの不満げな表情は、「僕は彼女に届かないと、劣っていると判断されたのか」という誇りを傷つけられたことによるもの。

 だが嫌でも理解するだろう。海の上でなくとも、陸の上での、ただのトレーニングを見ているだけでもわかるだろう。


雲龍(――摩耶。あの人はあらゆる意味で規格外すぎる)

700以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/20(月) 15:41:05 ID:0rzDDx0k
乙です


摩耶様が何やらかすのやろか、まさかイージスシステム?

701以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/21(火) 01:26:59 ID:l5t5RNwA
>しょーもないもの見れると思うわよ。
惨劇の予感……

702以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/24(金) 10:12:49 ID:uZR/0WPQ
10万円入ったらちょっと上乗せしてクロスバイクかエントリーモデルのロード買えるなぁ……とか思い出した僕を止めてください……

703以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/24(金) 16:25:35 ID:rBEivq2Y
ageちゃうような人は勝手にすれば良いと思います

704以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/24(金) 19:15:05 ID:I6gXLFyw
むしろこのスレならばあきつ丸辺りが煽るパターンでありますな

705以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/25(土) 15:08:55 ID:Qchepn3g
>>702
クロスバイクを買ったところですぐにロードバイクが欲しくなる。

エントリーロードを買うのがいいと思いますよ。

706以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/26(日) 14:30:44 ID:L3MOPnDI
前スレのログを見返して気付いたのだが、球磨をブラッシングしてる時に「弟がいる」ということになってたけど、>>530では妹が二人で弟いないな?
まぁ提督の実家設定そのものが裏設定に近いモノのようだし、別にあんまり問題無いか

707 ◆gBmENbmfgY:2020/04/26(日) 23:25:07 ID:tiuIrMIU
※今日はコメント返しだけつかれた
 いつも感想ありがとう。そして投下が遅くてごめんよ

>>700-701
惨劇というかしょーもない感じ
重巡には利己心の塊みたいな子が多いのです

>>702-705
あきつ丸「目的次第ではありますが、軽快な乗り心地や運動を目的にするのであればロードバイクの方が良いであります」

あきつ丸「試乗してみてガチで嵌りそうだと確信できたなら、コンポは105からを選んだ方が後々後悔することもありますまい」

あきつ丸「では授業料にその上乗せする十万とやらをこのあきつ丸に……」

>>706
裏設定故、弟も妹もいてもええかなあと。弟君も妹ちゃんも場合に寄っちゃ出番あるよ。
なんでもできる兄に対しての憧れとコンプレックス拗らせた感じの弟と妹な
提督の兄も姉も叔父も父も母も、それこそ爺さん婆さんまである種のギフテッドで常人とは言い難い連中なので

708以下、名無しが深夜にお送りします:2020/04/30(木) 19:03:43 ID:L/pRf3pk
タバタやってみた
生きてる
ぐぬぬ

709以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/19(火) 21:52:50 ID:47inAopQ
1さんの脚質はなんだろう?

710 ◆gBmENbmfgY:2020/05/30(土) 00:30:27 ID:iZpg.bhQ
※生存報告
 ギリギリ生きてます
 走りたいー、はしれーなーいー
 私はぼっち走行かZwiftばっかりですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか

>>708
ガチで死ぬレベルまで追い込める人は相当高いヴィジュアライゼーション持ってますね
国内ならどんなレースでも勝てちゃうと思いますハイ

>>709
スプリンターを名乗りたいパンチャーだゾ

711以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/30(土) 11:16:12 ID:QBgktJWk
おつ乙
気長に待ってるよー

712以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/01(月) 02:02:39 ID:jK5rn5Bo
>>710パンチャーなんですね ありがとうございます

713以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/04(木) 19:21:56 ID:8cxPT/OI
そういや>>1って今までGIANTとかMERIDAのロードバイクを出しとらんよな確か
あんま好きじゃない感じなんかな…TCRとか乗ってそうな艦娘おりそうやけどな…ありきたりなんかな

714 ◆gBmENbmfgY:2020/06/04(木) 23:24:10 ID:xiRbNqNQ
※コメ返し

>>713そこに戦艦と言うでっかい艦娘が大好きな艦娘がおるじゃろ?
 んで桜模様のフレームを出したMERIDAってメーカーが似合いそうな大和型がおるじゃろ?

 大好きですね。GIANTとMERIDAは避けて通れない。
 そのありきたりと言うのは誉め言葉ですぜ
 誰もが知ってる、誰かが乗ってる、だからありきたりと言うのは早計よ
 誰もが乗ってるだけの魅力、乗り続けられる信頼、安価で手に入れられる高品質がある
 どっちもいいメーカーです

715以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/10(水) 09:26:36 ID:G5DVrC7w
むしろジャイメリの価格が普通っていうか、そもそもロードバイク界隈の価格設定がおかしいというか…
最近モーターバイクの方に鞍替えしたけど、思い返してみればロードパーツのぼったくりっぷりに呆れるっての呆れないっての

雑誌とかでもやたら高価格のパーツばっか推すし、こういう風潮は早いとこ撤廃しないと新規参入者なんて永遠に来んわな

716以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/11(木) 19:25:58 ID:Iu/gO87M
>>1
どうも、>>713でち
読み直してみるとゴーヤがスクル10K乗ってたでちね…
早とちりしてすまんかったでち

717 ◆gBmENbmfgY:2020/06/16(火) 22:51:45 ID:WKnbAkrw
>>715
【あきつ丸のー、超辛口アドバイス小話ー】

あきつ丸「シビアな話をすると、価格設定はおかしいと言えば全てがおかしいし、おかしくないと言えば全くおかしくないのであります。何せ『高い安いは、買う人が決める』のであります。どんな世界であろうと、これは同じであります」

あきつ丸「巷で転売ヤーが雨後の筍や春先の変質者のようにあちこち生えては絶えぬ理由がそこであります。主観的にクソだと思うものであろうと、別の人にとってはそれが高価であろうと欲しい人は欲しい、安かろうと欲しくない人は欲しくないのです。それを選ぶ自由がある時点で、ぼったくりではありませんな」

あきつ丸「もちろんロードバイクの原価や諸々かかる諸経費を考えれば、成程、確かに高いのでしょう――ですが『それでも売れる』ならばその値段になるのであります。ドイツのCANYONが掟破りの通販限定という離れ技を決め、業界に一石を投じた事例もありましたが、業界は依然として旧態然としておりましょう?」

あきつ丸「何よりも安い自転車は安いのであります。以前にも解説した気がしますが、自転車のホビーユーザーにとって初心者向けのエントリーモデルも、玄人向けのハイエンドモデルも、タイムに圧倒的な差が出ることはない――1分1秒を争うプロ以外にとって大差ないのであります」

あきつ丸「つまり『趣味』であります。趣味とは見栄と自己満足が絡むもの。こだわりがあってしかるべきであります。只の運動と定義されるのであれば、それこそなんでもよろしい。それにいくらお金をかけるかは、それこそ当人の自由な選択でありましょう? あ、妻子持つ輩は家計を圧迫しない程度というのは大前提でありますが……」

あきつ丸「どんな雑誌をご覧になられたかはわかりませんが、高価格のパーツを推す理由も明記されていたのでは? 納得がいかないのであれば、それでいいのでありますよ。その値段に見合う、見合わないというものを決めるのは、前述したとおりに『買う人が決める』ものあります故」

あきつ丸「ただこれだけは――新規参入の有る無しについてのご意見については、はっきりと『否』と言わせていただきたく。くどいようですが、『買う人は買う』のです。スポーツで新規を確保できないメーカーに明日があるとでも? 国内で下火になったとしても、本場は欧米諸国でありますよ? モーターバイクが好きな人。嫌いな人。ロードバイクが好きな人。嫌いな人。両方乗ってる人(>>1とか)――すべて『趣味』であります」

あきつ丸「ただビッグプーリーだとかセラミックベアリングだとか、プロでも効果を実感できるかわからんレベルで費用対効果が微妙な代物を、口が悪くなりますが、雑誌の編集やら国内レースレベルで実績を上げた程度の人が、さも素晴らしいものであるかのように絶賛するのは片腹大激痛でありますな」

あきつ丸「ぶっちゃけアレこそ趣味の領域であります。どノーマルで十分でありますよ? というか絶対実感できないでありましょう。楕円形チェーンリングのホビーユーザーの使用感レビューなども全く怪しいものでありますなあ、あっはっはっは!!」

提督「…………」←ビッグプーリー、セラミックベアリング、共に換装している。

長良「…………」←提督と同じ装備。提督大好き。絶許。

天龍「…………」←楕円形チェーンリング大好き。提督大好き。絶許。

足柄「…………」←同じく楕円使い。提督大好き。そして餓えた狼。

※この後、あきつ丸はみんなにメチャクチャ粛清されました。

718 ◆gBmENbmfgY:2020/06/16(火) 22:58:43 ID:WKnbAkrw
>>716
いいのでちよ。
>>1も結構ヨーロッパに偏ってるなーと思ってはいたのでち。本場で選択肢が多いでちからね。
でもぶっちゃけ鎮守府内でもジャイアント乗りは結構いるんでちよ。
GIANTならぶっちゃけ前述したとおり、戦艦になりたい駆逐艦の子とか、その姉とか、この作品中では世界最強の艦娘と言われてる属性過多なメガネ戦艦とか。
MERIDAなら大和型の目立つの嫌いな方とか、でち公とか。


マジで忙しいでち……。

719以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/17(水) 00:24:10 ID:hGrmtY86
乙なのね


へぇ、ビッグプーリーはマジで知らなかった、ちょっと面白いアイテム
楕円形チェーンリングは理屈としては解るけど、ビンディングペダルの存在も加味すると、小細工の印象
セラミックベアリングかぁ、今世紀初めの頃トライボロジーで世界有数の先生が曰く
「鋼球とは真球度が比較にならないからモノになるか怪しい」なんて言われてたから意外

一昨年くらいには様子見扱いだったディスクブレーキの評価は如何?

720以下、名無しが深夜にお送りします:2020/06/17(水) 18:26:52 ID:B.y9UUKs
乙なのです!
こちらもマジカ(粛清されました)も楽しみにしてます

721 ◆B2mIQalgXs:2020/07/21(火) 22:07:30 ID:aR3mK4xY
※リアルの地獄がひと段落しそうなので書き溜め分だけ週末投下(予定)
 信じられないことに軽巡らがローラー台でタバタしてるだけの内容(嘘はついていない)

>>719
 楕円チェーンリングは足柄をはじめ、短距離TTに限って使う子がいたりする好んで使ったりする予定
 ビッグプーリーはメリットデメリットを天秤にかけた時に、乗り手によって評価がおもっくそ分かれる印象ですね
 セラミックベアリングは、うん……セラミックスピードとかはもう廃人域ですが、スギノあたりを使うなら比較的安価で、微かに効果が実感できるような出来ないような、要はプラセボ的なアレ
 ただ寿命の長さはそこそこ実感できてますので、手間考えると案外イイものかもしれません

>>720
 マジカ……? すけべそうな名前ですが、はて、何の話か

722 ◆gBmENbmfgY:2020/07/21(火) 22:08:25 ID:aR3mK4xY
※うお、また酉忘れてました、こっちですこっち

723以下、名無しが深夜にお送りします:2020/07/21(火) 23:38:28 ID:fPle2Jvc
待ってる

724 ◆gBmENbmfgY:2020/07/26(日) 22:54:25 ID:9zTVXNrU
※ごめんちゃい、明日になりそう。案外乱雑に書いててまとめきれなかったです

725以下、名無しが深夜にお送りします:2020/07/27(月) 10:43:57 ID:V8asdzDs
ええんやで

726 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 21:39:19 ID:N0CujLrM
>>699続き

雲龍(相対する空母の艦載機だけに注意を払っていられない――摩耶が立つ海に、摩耶は必ず『脅威』として存在する)


 雲龍も――そして今や空母の中でも最上位を争う実力者となった瑞鶴でさえ、思い出すたびに震える記憶がある。雲龍は震える指先を誤魔化すように強く握った。

 ありありと思い返すことができる、あの全身を走る悪寒、氷柱が延髄と差し変わったかのような怖気。

 ここに居たくない、居てはならない、恐ろしいことが起こるという――理屈ではない本能に訴えかけてくる恐怖。

 向けられている感情があった。

 それは憎悪によるものではなかった。

 それは怨恨に根差すものではなかった。

 そこには、殺意すらなかった。

 彼女のそれは、ただの純粋な――。


摩耶『――飛行機が、嫌いなんだ』


 かつて彼女が言った言葉を思い出す。

727以下、名無しが深夜にお送りします:2020/07/27(月) 21:49:03 ID:k5mKa02A
全裸気を付け!
ロードバイク提督に、かしーらー、なか!

728 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 21:53:01 ID:N0CujLrM

摩耶『断りなくあたしの上を飛ぶ無遠慮さが。クソの代わりに榴弾やら銃弾やらのクソ未満をひり落としていきやがる躾のなさが、人を見下しやがるあの高さも、何もかもがウザったくてしょうがねえ。

   ゴキブリっているよなあ? あいつらも飛びやがるしクソウゼえが、普段は慎ましやかに目のつかねえところにいる。その分別があるだけ上等だ。

   だがアレはダメだ。絶対にダメだ。文字通りにお高く留まってやがる。何様のつもりだ? あたしを誰だと思っている? あたしは――』

 
 ――航空母艦にとって、摩耶という存在は一つの壁である。

 翔鶴型にとっても、雲龍型にとっても、例え一航戦であっても、演習時に摩耶が相手陣営にいた際には相応の工夫が必要だった。

 そして工夫以上に――彼女を知る必要があった。そうだ。摩耶が常に発しているアレは、もはや理屈の埒外にある――。


提督「揃ってるようだな」


 良く通る声に、思考が寸断される。提督の声だ。

 トレーニングルーム内の艦娘達の視線を集め、その波をくぐりながら、提督はトレーニングルーム内の大型モニター前に立った。


提督「さて……予定通り、軽巡クラスと重巡クラス合わせて42名が参加だな。では一斉にタバタ・プロトコル開始――と言いたいところだが」


 ――来た、と。提督が何かを試みようとしていることを予想し、内心であたりを付けている艦娘達が身構える。

729 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 22:02:46 ID:N0CujLrM

提督「覚えているよな? 趣向を凝らすと云った事を。

   御覧の通りギャラリー多いし、何よりマシン台数の都合もある――特定の参加者を応援したい子たちもいるだろうし、グループを分けることにした……」


 その言葉を字面通りに受け取る者は、良くも悪くも古参内には多くない。


提督「軽巡・雷巡・練巡。そして重巡・航巡の諸君。大いに喜べ――君たちに楽しい余興を用意している」


 悪巧みの詳細を語る時の目だった。海戦や演習前の作戦会議……提督が作戦立案する場にしばしば同席する艦娘達――参加者で言えば大淀や香取――はとてつもなく嫌な予感を覚えた。

 大淀はおおよその予想がついていた――答え合わせというよりも、もはや間違い探しの時間である。だが提督が先に語った前置きから、己の予想の大筋に間違いはないと踏んだ。

 香取もまた複数のパターンで予想を付けていたが、その中でもひときわ悪辣なものが来ることを悟った。一方で、まるでわかっていない者もいる。


川内「む」


 ――余興。つまり夜戦だ。ははん、提督ってばわかってるなと川内はまるでわかっていない論理を展開し始めた。

730 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 22:12:33 ID:N0CujLrM

球磨「クマ?」


 ――ひょっとして頑張ったらナデナデしてくれたりするクマ? 球磨が魅力的だからって、人前での御触りは困っちゃうクマぁ……まるでわかっていないのは彼女もである。


提督「ここからの説明は明石が行う」

明石「はい! 皆さん、モニターにご注目です!」


 提督と入れ替わるように明石が艦娘達の前に立つ。彼女が手元の端末を操作すると、背後の大型モニターにいくつかのグラフや記号が表示された。


明石「まず、タバタに参加する軽巡・重巡の皆さんが現在使用している固定ローラー台には、各種計器を取りつけさせていただいています。

   ペダリングパワー、乗り手の体重やギアから計測される速度、そして指先に装着していただく機材からは血中酸素濃度――こうしたデータが各自、私の背後にあるモニターに表示されます! 項目別に!

   20秒間のワーク時の最大・平均心拍数、最大パワー、平均パワー、最大ケイデンス数、平均ケイデンス数などが自動計算されるわけですね!」

大淀(あー……やっぱり)

香取(……ということは)


 二人の予想は的中したが――それは更なる苦痛の到来を意味するものだった。


明石「まあ簡単にいえばですね――タバタ・プロトコルで走破した距離が出る。つまり……順位が出ます!」

731 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 22:49:50 ID:N0CujLrM

 ――空気がひりついたのは云うまでもないことだった。

 その空気を自分が生み出してることに気付いていないのは、もちろん明石である。


明石「(あ、あれ? なんか反応悪いな……)さ、参加者の方々は、今もローラー台でウォーミングアップしている最中で恐縮ですが、一度に計測するのは『六人』です!

   公平を期すためタバタ開始の1分前から提督が名前を読み上げてくださいますので、軽巡・重巡の皆さんはそのまま引き続きアップを続けてくださいね!」

天龍(……明石、あいつ気づいてないんだろうなァ)

龍田(ああ、読めたわ……ロクでもないことだわ。提督ったら本当に、なんて悪辣な事を思いつくのかしら……効果的では、あるのだけれど)


 ――前日に、戦艦達や一航戦らが予想していたことがズバリ的中していた。


提督「これは独り言だが……ご存知の通り、タバタ・プロトコルには8回のセットがある。大型モニターにも表示されるが、各セットごとの順位が参加者全員のお手元にあるサイコンにも表示されるのだ――まるで区間賞のようだね!」

金剛「Oh…………あーあー、そういうことデースか……これはひどいデース」

比叡「? ????? ? お、お姉さまぁー! 比叡、お恥ずかしながらよくわかりません!」

金剛「いい質問デースネ、比叡。分からないことを分からないと言えるのは美徳デース。

   ――このトレーニングはただのタバタ・プロトコルではないのデース! まずはタバタプロトコルのトレーニング内容と目的と達成条件をおさらいしてみまショーウ!

   霧島ぁー! 説明プリーズ!」

732 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 22:52:53 ID:N0CujLrM

霧島「はい。それでは僭越ながら説明させていただきます」


 タバタ・プロトコル。HIIT(High Intensity Interval Training)の一つである、全力運動と僅かな休憩を繰り返すトレーニング方法である。

 このトレーニングは20秒の全力運動と10秒の休息。これを1セットとし、8セットで疲労困憊に至る間欠運動で成り立っている。僅か4分間……明確に言えば3分50秒で完結するシンプルなトレーニングだ。

 目的は心肺能力の向上。有酸素運動エネルギー(長距離走)と無酸素運動エネルギー(短距離・中距離走)の両方にも効果が絶大とされている。

 そしてこのトレーニングだが、応用性が高いことが特徴の一つとして挙げられる。

 運動の種類に『指定が無い』のだ。ダッシュ、水泳、バーピー――そしてロードバイクやエアロバイク。


霧島「さて、ここまでがただのタバタ・プロトコルですが――比叡姉様、ここで提督の言葉……ひいては明石さんの説明に違和感を覚えませんでしたか?」

比叡「え? えーと、ええーと…………あれ? これって別にみんなでいっぺんにやればいいし、なんなら別々でも構わないよね? 何よりもモニターに表示する意味ってないよ? ――だって『競争』するわけじゃないんだし」


 ――まさに比叡の抱いたその疑問は核心を突いていた。


霧島「そう。その『競争』というのがミソです」


 ――タバタ・プロトコルは、自身との戦いと呼ばれることがしばしばある。

 そこには『競争』がないのだ。自らを追い込むトレーニングである。誰彼に勝つ必要はない。そもそも『意味』がないのだ。悪趣味とすら言える。だが本来必要がないはずの、その『競争』の概念を取り入れている。

733 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 22:56:49 ID:N0CujLrM

霧島「まず軽巡・重巡クラスは誰もが並の鍛え方をしておりません。身体も、そして心も。

   この条件下においても間違いなく誰もが『疲労困憊になる』ことはできるでしょう。つまりタバタ・プロトコル自体は成功します。

   ……ですが『出し切れる』のと『ベストを尽くせる』のはまた別の課題なのですよ」


 それを見誤るものは失敗する、と霧島は補足した。


榛名「どういうことです? 榛名もよくわかりませんが……」

霧島「例えばだけれど――仮に比叡姉様の隣で金剛姉様が一緒にスプリントレーニングをするとしましょう。イメージしてみてください、比叡姉様。榛名も自分に置き換えて想像してみて」

比叡「楽しいです!」

榛名「楽しいですね。とっても疲れると思いますが、榛名は大丈夫です!」

霧島「では金剛姉様が『もっともっと速度を出して』と仰ったら?」

比叡「が、頑張ります! 苦しいでしょうけれど! 気合、入れて、行きます!」

榛名「は、榛名は大丈夫です!」

霧島「ですがそんな苦しいところ、金剛姉様は更に速い速度で走っています。それについてこれるよう、もっともっと速度を出すように指示を出されたならば?」

比叡「…………金剛お姉さまはそんなこと言いませんが!! 多分バテバテになっちゃうでしょうけど、しっかり効率考えて走ります! ペダリングとか、フォームとか意識して!」

榛名「榛名も同じです!」

734 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:01:09 ID:N0CujLrM

霧島「そう、それが問題なんですよ。さて、タバタの話に戻りますが――タバタに効率は必要ですか?」

比叡「え? そんなの、元々必要ない―――ん?」

榛名「………あ!」


 得心いったように、比叡が頷き、榛名も「ああ!」と声を上げた。


比叡「――な、なるほど! そういうことだったんですか!」

金剛「そうデース! 元々自分を追い込めるだけの全力運動すればOKなタバタプロトコル! ペダリングの効率とか関係ナッシング! 乱暴な言い方をすれば『疲労困憊になれる』のならば、そもそもペダルを回す必要だってありません!

   だけど互いのライバルたちのリザルトが嫌でも目に飛び込んできマース! そんな中で一切ハートが揺らぐことなく、いつも通りのペースで自分のベストを出す、そして出し切ることを両立できマースか?」


 ――無理である。どうしたって意識し合う。ましてかつては海の上で戦友として信頼し合うと同時に、ライバルとして切磋琢磨してきた――同じ艦種のメンバーだ。意識しない方がどうかしている。

 特に1セット目だ。最も足がフレッシュで、パワーが漲っている状態で行うセットが1セット目である。

 つまり誤魔化しがきかない。最大最強を曝け出す。そのパワーが誰彼よりも劣っていたら? 精神への動揺を抑えきれるだろうか? それによって始まる2セット目にどんな影響があるか? ただ全力で回すだけのタバタプロトコルで、出し切りつつも上位の成績に食い込めるだけの効率も求められる。

 そもそも両立することは極めて困難である。

 全力を出す、イコール、自身の最速では断じてない。


霧島「故に考えるべきは提督の狙いです」

735 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:04:25 ID:N0CujLrM

 提督に狙いがあるとすれば何か――その答えの一つに、既に辿り着いている者達がいる。


大和「提督は後々、艦種を問わないチームによるレースの開催も視野に入れておられるのでしょう。そう考えたならば、このギャラリーだらけの公開トレーニングにも意味が見いだせます」

武蔵「だろうな。いい機会だ――よく見ておけよ、浜風、清霜」

浜風「ええ」

清霜「わかりました!」


 つまりこの場は――。


伊勢「――絶好のアピールの場ってわけね。私たちの時は、ちょっとばかり派手にやった方がいいかな」

日向「ふむ……となると解せんことがあるのだが。先日は駆逐艦や空母など参加する者の艦種はまちまちだったぞ。今日になって軽巡・重巡を競わせるのは何故だ? 昨日は何故やらなかった?」

扶桑「駆逐艦と空母には新人の子たちもいたからかしら……それだけではないような気も」


 だが、違う視点から意義を見出している者もいる。


山城「本質を見誤ってない? 姉さまも、伊勢と日向も」

736 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:07:49 ID:N0CujLrM

山城「まずは8回のスプリントで全力を出し切る。その大前提をクリアしなきゃ。

   それ以外は全て不純よ――まあ尤も」


 軽巡・重巡達の顔を一人一人眺めながら、山城は言う。


山城「……わかってる子は何人かいるみたいだけど、わかってないのもいる。わかってる上で、それを止められない子もいるみたい」


 『ただ出し切る』事を考えるもの。

 『絶対に負けたくない』と思うもの。

 考え方は様々だ。だが見えるものは多くある。


山城「アピールする機会というのは、間違ってないわ。だけど、アピールの方法もね……案外どうにもならないわよ。えげつないわこのトレーニング」


 苦しい時に、人の本質は見えてくる。綺麗なものもあるだろう。汚いものもあるだろう。

 それを見せることを強要するトレーニングだ。だからこそ、山城はそこに一つの真実を見る。


山城「『この人がいれば勝てる』のと……そして『この人を勝たせたい』は、同じようでまるで違うものよ」

737 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:11:50 ID:N0CujLrM

 そう、最悪なことにこの場はアピールの場にもなりうる。

 『こんなにも早く走れる』『誰彼よりも速い』

 それをアピールすることで『この人のチームで走りたい』と勧誘に走る者はきっと出てくるだろうし、『この人が敵チームに居たら厄介だ』と探りを入れる者も出てくるだろう。


日向「君ならどんな子をチームに?」

山城「愚問ね。私なら……『一緒に勝ちたい』と思える子と走りたいわ。チームであればそれが必要不可欠かつ最低条件……私が一緒に勝ちたいと思うのはもちろん、西村艦隊のみんなとよ」

伊勢「――あら」

日向「ほう」

扶桑「まあ」


 瞠目して山城を見やる三人に対し、山城は眉をひそめた。


山城「なんですか……姉さまも、二人も……じっと見たりして……ああそうか、私が失言したのね……同じ会社の誰かが起こした不始末のせいで、TVの前の『誰よアンタ』って突っ込みたくなる誰かのように頭下げたり号泣会見を開かなきゃいけないんだわ……不幸だわ……あんな無様を晒すなんて、私なら恥ずかしくて死んだ方がマシだもの……」


 今日も山城は被害妄想が酷いが、それ以上に誰かへのディスが惨い艦娘であった。

 なんか何の根拠もなくよくわからん細胞があるとかないとかほざき、学歴に見合わぬ無学さ、見ている側が情けなくなるほどの矮小さ、性根が腐ってるとしか思えない卑劣さを晒した馬鹿をテレビで見た時も。

738 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:14:00 ID:N0CujLrM

 『むしろやってないやつおるんか必要なことならやってもええんよ?』とツッコミたくなるほど多発する政務活動費の不正利用が発覚し、記者会見で無駄に泣き喚き被害者面を晒した挙句、実刑判決喰らってなお未だ被害者面をやめない元議員を見た時も。

 山城は無慈悲に『死ねば』と思った。

 『粗にして野だが卑ではない』――石田禮助(石田礼介)の言葉がある。

 『外見や言動が雑で粗暴、洗練とは程遠いものであったとしても、考え方に一本筋が通っていて、決して卑しい行いや態度をとらない』という意味だ。

 艦娘として生を受けた後に、山城はある出来事がきっかけでこの言葉を知り、酷く感銘を受けた。気骨ある生涯を貫いたその生き様を尊敬している。どこか、『戦艦・山城』を――史実の自身を運用した西村提督に通じる考えだと、大いに共感していた。

 そんな山城に言わせれば『こいつらは粗でなく野でもないが、賢しいだけで自己保身ばかりを考えている。まるで腐肉をシルクで包んでいるかのよう。悪臭を見た目や香料で誤魔化そうとしても、その醜悪さは隠せない。性根が卑しい哀れな生き物よ』だ。物乞いの方がまだ謙虚に生きているとすら言うだろう。

 自分はそうはなりたくないと思った。だから常日頃から己に言い聞かせている。恥じることをするなと、律し続けている。道理のないことを決して迎合しないという態度は、山城の頑なで意固地な悪徳でもあったが、それ以上の美徳でもあった。

 ネガティヴではあるが、ハートとガッツがある。悲観的ではあるが、諦観はなく、絶望に立ち向かう勇気と覚悟がある。

 不幸を嘆くことはあっても、希望と理想の光を掲げた。艤装の欠陥や無力さに溜息をつくことはあっても、それを言い訳にすることはしなかった。決して卑に流されることを善しとしなかったのだ。

 こんな自分を、旗艦として仰いでくれる駆逐艦がいる。不幸を嘆くことなく、まっすぐに笑顔を向けてくれる航空巡洋艦がいる。


日向「ああ、いや……君が言うと言葉に重みがあるなと。この日向、感服した。うん、恐れ入った。そうだな、確かに君の言う通りだ。私も、一緒に勝ちたいと思える子たちと走りたい。なあ、伊勢?」

伊勢「ええ、私もそう思うよ。山城ったら普段は人生どん詰まりみたいな暗い雰囲気してるけど、流石はニシムラセブンの筆頭よね。扶桑も鼻が高いんじゃない?」

扶桑「あ、あまり揶揄わないで、伊勢」

山城「……姉さまが私のことで鼻を高くしてくれない……ああ、私はきっと卑しいんだわ……卑しくて不幸だわ……」

739 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:17:58 ID:N0CujLrM

扶桑「ち、違うのよ山城! 姉さま、ちょっと妹が褒められたけど謙虚に受け止めるべきよねって思ったっていうか伊勢が揶揄うからちょっと恥ずかしくなっちゃったって言うかとにかく山城貴女は私の自慢の妹よ!!?」

山城「姉さまに気を遣わせた……死のう……提督との子供を10人ぐらい生んでから死のう……」

伊勢「こんな長期に渡る遠大な自殺計画は初めて聞いたなあ」

日向「今日も山城は愉快だな」

扶桑「貴女には言われたくないわ、日向」


 ――大戦の最中、『ニシムラセブン』と呼ばれた奇跡の艦隊があった。

 スリガオ海峡を抜け、レイテ沖へと突入した少数精鋭部隊。史実においては大敗を喫し、一隻の駆逐艦を除いて海に没した艦隊。

 艦娘としての浮世において、それを覆した。


 ――西村艦隊・旗艦。


 海軍戦艦番付――武蔵・長門に次ぐ、三位。

 最強の航空戦艦。

 『明星』と呼ばれた航空戦艦――それが山城だ。

740 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:22:50 ID:N0CujLrM

日向「ははは。しかし山城、一つ抜けてるぞ?

   『この人がいれば勝てる』と『この人を勝たせたい』と『一緒に勝ちたい』以外に、少なくとももう一つはあるだろう?」


 ――『この人に勝ちたい』だ。


山城「…………そうね。それを見極めるんでしょ? 今日。ここで」


 視線を前に向ける。絶景かな――最強と呼ばれた艦隊の精鋭たる重巡・軽巡の歴々が居並ぶ壮観がある。


日向「まあ、黙って見ていよう。良き瑞雲はおらぬものかな」

伊勢「あ、このトンチキの言葉はともかく、黙る前に聞きたいことあったんだった。ねえ、山城。興味があるんだけれど――軽巡クラスの中にはいるかしら。貴女が一緒に走りたいなって思う子」


 軽巡クラス、と伊勢はあえて限定した。重巡クラスには最上がいる故にだろう。


山城「まだ走る前でしょ……これから見定める――と言いたいところだけど」


 一呼吸おいて、山城は言う。

741 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:27:40 ID:N0CujLrM

山城「まあ……期待してる子はいるわ……天龍、ね」


 意外な名前が挙がった――と捉えるものは、誰もいなかった。

 日向に至っては納得、それも当然――と言わんばかりに頷き、しかし疑問はあったのだろう。


日向「……君にとって天龍は、一緒に勝ちたいのか、戦力として欲しいだけか? それとも――勝たせたいのか、勝ちたいのか」


 意地の悪い質問だった。日向も自覚があるのだろう。いつもの柔和な笑みに、少し陰りが見えた。


山城「勝たせたい、というタイプね。ズルい子よあの子は。一生懸命やってるのを隠そうとして、隠しきれていない」


 苦笑しながら山城は言う。その言葉に憐れみはなかった。ただ報われて欲しいという、祈るような願いがある。


日向「……無理もないことだろう――なにせ、あいつは」


 見据えた先に、天龍がいる。

 この重巡・軽巡の中で――『ただ一人』だけ眼帯を付けたままロードバイクに跨る彼女を見つめながら云う。木曾は眼帯を付けていない。

 日向は、真っ直ぐな視線を天龍に注ぎながら、痛ましげに云う。

742 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:30:25 ID:N0CujLrM


日向「私たちの中で――艦隊でただ一人の、隻眼だ」



 日向がそう呟くと同時、示し合わせたかのように提督が1グループ目の参加艦娘の名を呼ぶ。

 トレーニングが始まる。

 その魁として選ばれたのは。



提督「――天龍」

天龍「おう」


 真っ先に呼ばれた艦娘は期せずして、天龍だった。

743 ◆gBmENbmfgY:2020/07/27(月) 23:31:06 ID:N0CujLrM
※今日はここまでです……明日明後日遅くても週末ごろにはまた見てロードバイク!

744以下、名無しが深夜にお送りします:2020/07/27(月) 23:54:03 ID:1yaQa1IE
乙ー乙ーよくやった!

細かい疑問だけど、>>730
> ペダリングパワー、乗り手の体重やギアから計測される速度
と言っても、スプリントの模擬としては走行抵抗は体重によるタイヤ転がり抵抗よりも風圧抵抗の方が主要素では?
・・・うーむ、ここの明石=サンでは体格とフォームから風圧抵抗を推測計算して
ローラー台の抵抗力を自動補正、みたいな変態技術は、流石にちょっと難しいだろうかねぇ?

745以下、名無しが深夜にお送りします:2020/07/28(火) 11:11:36 ID:hvtz2ckE
乙ー
無理して死にそうな子が出てきそう...

746以下、名無しが深夜にお送りします:2020/07/28(火) 17:57:26 ID:UG78Wpiw
>>743スプリント勝負の話にすりかわっててちょっとなにいってるかわからない
身長体重に脚質差もあるから張り合っても意味ないぞっていう引っかけなのでは?

747以下、名無しが深夜にお送りします:2020/07/28(火) 19:51:42 ID:9vs9riDc

指輪の9割を渡している艦種だから順位が気になってしまう

748以下、名無しが深夜にお送りします:2020/07/28(火) 20:10:06 ID:2Jy2WT7s
山城の株が上がったり下がったり乱高下
きっと彼女の脚質はパンチャーだ

749 ◆gBmENbmfgY:2020/07/29(水) 22:35:18 ID:5pq7tgU2
※ンンンン週末になりそう……
 感想どうもです。案外人おるやん。

>>744
>>746>>744のコメントへの言及? ですよね?)
 その疑問は正しい。そして明石の技術なら可能。そのうちVRというかシミュレーションによる仮想現実レースとかやっちゃう子。チートは即BAN。
 でもこのタバタでは空気抵抗についてはひとつも言及していない。
 つまりそれを加味した測定ではない。単純な出力考えたら体重重い子の方が有利になるのだ。FTP換算、そしてギアの大小は別としても同一の機材を用いたという想定時の順位になります。
 結局のところ提督の狙いはそこだったりします。自分を見失えば一番の目的を見失う。でも他人の存在が自らの力をより強く引き出す要素になり得るなら、大いに利用しろという話。

>>745 いるかもですねw

>>747 軽巡は育てやすいですからね

>>748 山城はいい子ですよ。しょっちゅう死にたがっては孕みたがるおちゃめな一面がありますけど。脚質は、まだナイショです。

750 ◆gBmENbmfgY:2020/08/02(日) 21:31:28 ID:b8S9Ktis

深雪「――――!」


 天龍の名が呼ばれ、真っ先に反応したのは深雪だった。まだタバタプロトコル開始の合図が出ていないにも拘らず、彼女の視線は天龍に釘付けとなった。

 ――あたしは。

 ――深雪様は、どうして強くなろう、なりたいって思ったんだっけ。

 その疑問は一日たった今でも、深雪の心の内側で燻っている。その答えが、天龍を見ていればわかるような――思い出せる気がした。

 次いで駆逐艦たちの多くが沸く。第六駆逐隊の面々は喜色を浮かべて天龍の名を呼んだ。それに呼応するように、多くの駆逐艦が天龍の名前を呼んだ。頑張れ、ファイト、天龍さん出し切って――次々に応援の声が上がり、拍手する者もいる。


初月「っ、と。すごい人気だな、天龍は」

秋月「天龍さんは――『華』のある方ですからね」

初月「はな……?」

照月「見てれば分かるよ。それと――天龍『さん』ね」

初月「あ、ああ」


 初月を見る姉二人の視線には凄みがあった。

751 ◆gBmENbmfgY:2020/08/02(日) 21:43:12 ID:b8S9Ktis
 声援に片手を上げて応える天龍の左目は、眼帯で覆われている。

 駆逐艦たちの拍手や応援の声、その間隙を縫うように、提督の声が滑り込んだ。


提督「木曾」

木曾「ああ!」


 寸毫ほどの間もなく、覇気に満ちた声で応答するのは木曾。今の彼女の右目に、常日頃から装着されている眼帯はない。

 瞼の上から頬にかけて割断するような傷痕が、うっすらと奔っている。


まるゆ「!! 木曾さん! がんばってください!!」

あきつ丸「ファイトでありますよ! 木曾殿!!」

木曾「ああ、見ててくれ」


 口端を吊り上げて不敵に笑う姿に、まるゆとあきつ丸もまた笑みを深めた。

 こうしたやり取りを経ながら、提督の口から次々に1グループ目のタバタ・プロトコルに参加する艦娘達の名が読み上げられていく。

752 ◆gBmENbmfgY:2020/08/02(日) 21:45:15 ID:b8S9Ktis

提督「矢矧」

矢矧「ええ!」


 凛然とした声と引き締まった表情で応答する矢矧。


提督「夕張」

夕張「はい!!」


 力強く声を張る夕張――そして。


島風「――おうっ!!」

長波「座ってろ、島風。ステイだ。見学してんだよあたしらは。アホか」

島風「おっ、ぉぅ……」


 長波に首根っこを掴まれて座らされる島風。

 残る参加者は、二人。その二人は――。

753 ◆gBmENbmfgY:2020/08/02(日) 21:50:05 ID:b8S9Ktis

提督「阿武隈」

阿武隈「はい!」

提督「――北上」

北上「はいな」


 この二人の名が続けて読み上げられた時、部屋の中が一瞬だけ静寂に包まれた。


阿武隈「げ」

北上「にひ」

大井「は?」


 対照的な二人の反応と、隠そうともしない殺意を発し始める大井――これには駆逐艦のみならず、空母や戦艦達の間にもどよめきが走った。


日向「――ほう。あの二人か」


 そんな中で、納得したように薄く笑むのは日向だった。


伊勢「あー、やっぱ気になる? 日向としては」


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