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男「お願いだ、信じてくれ」白蓮「あらあら」

573ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2021/08/13(金) 17:07:01 ID:s01NNbY2
〜俯瞰視点〜

たかが鴉天狗と勇儀は言ったが、それは鬼だから言えることである。

普通の人間や妖怪にとっては鴉天狗ただ一人だけでも恐れるべき相手だ。ゆえに古来より鴉天狗は恐れられてきた。

結界とルールができて久しいが、それ以前もそれ以降も天狗の本質は何一つ変わっていない。一たび飛べば瞬きの間に一里を駆け、戯れに竜巻を起こし、逃げ惑う弱者を見て高笑いすらしてみせる。

まさに生まれ持っての強者。それが集団で襲い掛かってくるのだ。弱いわけがない。

個としての最強が鬼であれば、集団としての最強が天狗。規則と規律と自尊心を持って、意に反するものを蹂躙する暴虐の黒色。

いくら強者が揃う地底であっても、たかが鴉天狗などと言うことはできないのだ。

そう、言うことはできないのだ。

「ぐはッ」

「なんだ、偉そうに宣戦布告するからさぞかし強いのかと思えばこんなものか」

言えない、はずなのだ。

574ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2021/08/13(金) 18:24:38 ID:s01NNbY2
時を少し戻す。

鴉天狗達はここにいるはずのない、小さく幼い体躯を見て戸惑っていた。

幻想郷に新しく現れた紅き幼い紅魔館の主。伏魔殿の奥に潜み、夜を闊歩する王。レミリア・スカーレットだ。爛々と輝く瞳を鴉天狗に向け彼女はさぞ嬉しそうに唇を歪めている。まるでケーキを前にした子供のように。

彼女が紅魔館を捨て、人間達と敵対した事は情報通である天狗はもちろん知っていた。しかしそれはあくまで人間に対してのアクションだ。

決して地底の者を守るためではなかったはずだった。

更に言えば自我主義を極めた彼女が地底を守るようなヒロイズムをみせるはずがなかった。

想定外、予想外。どう思考を張り巡らせても彼女がここにいる理由に思い至らず、どうすればいいのか天狗達は考えあぐねていた。

レミリア「洞窟にぞろぞろとひぃふぅみぃよぉ、あぁとにかくたくさん現れて。まるで蝙蝠のようだわ」

その言葉に鴉天狗達はいきり立った。我々は鴉天狗であり、蝙蝠などという薄汚い存在ではない。

レミリアのその一言は思案に耽った鴉天狗達を容易く今に引き戻す。レミリア・スカーレットがいたとしても大した問題ではない。

そもそも我らは鬼を相手しに来たのだ。たかが500年しか生きていない小娘に何を恐れることがあるか。新参者に我らが臆する理由はない。と鴉天狗は目の前の障害を排除するべく各々武器を構えた。

「夜にしか飛べぬちっぽけな童風情が我らを虚仮にしおって! 前から礼儀を知らぬ木端が偉そうにふんぞり返りおって、気に食わなんだ!」

先頭の鴉天狗が右手に持った葉団扇を振るおうと腕を引いた。見た目はただの団扇でも鴉天狗が持てば大砲や爆弾と同義。木々をなぎ倒し、岩肌を削る嵐がレミリアを襲うであろう。

いくらレミリアが吸血鬼であろうと当たればただでは済まない。

「這いつくばって我らに許しを乞うが良い!」

575ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2021/08/14(土) 22:10:37 ID:h8lyBTUU
レミリア「私を見下すなよ。凡妖が」

一瞬だった。

さっきまで愉快そうに笑っていたレミリアが、眉間に皴を寄せた瞬間、彼女は先頭の鴉天狗の頭上にいた。そしてその動きは急上昇したものではない。

急降下したものだった。

彼女の幼い右手が天狗の頭を掴み固い地面へと叩き付ける。衝撃によって辺りに土煙がごうごうと巻きあがり、その中からけほけほと咳をしながらレミリアが何事もなかったかのように現れた。

レミリア「なんだ、偉そうに戦線布告するからさぞかし強いのかと思えばこんなものか」

レミリア「まったく拍子抜けだよ」

最速たるはずの鴉天狗すら反応できない攻撃。見下していたはずの吸血鬼が頭上から降ってくるとはだれも予想していなかった。誤解を生まないように説明しておくが天狗は最速を名乗るだけあってスピードは他の追随を許さない。

しかしそれは大空での話。翼を広げ羽ばたけるだけの十分な自由を確保しての話である。

対してレミリアの素早さは体全体の動きをもってして生まれるものである。体中のバネを使い、地であれ空であれ矢のように跳ねることができるレミリアはこの場においては天狗以上の機動力を持っていた。

飛び上がり、天井を蹴っての急降下。その攻撃を場所が悪く群れで現れた天狗達は避けることができない。油断の隙を突いたとはいえ、この場においてどちらが有利かは揺るがない。

レミリア「ま、弱いから数に頼るんだな」

レミリア「お前らと違って私はただ一人。王者は常に一人なのよ!」

レミリアが次の獲物を狙って飛び上がる。

そこからは殺戮だった。

576ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2021/08/14(土) 22:32:36 ID:h8lyBTUU
レミリアが天狗から天狗に飛びかかり、その首の骨をへし折る。

暴れまわるレミリアに襲い掛かろうにも狙いをつけるのも難しく、常に他の天狗の傍であったため、攻撃虚しく同士討ちを引き起こしてしまうだけだった。

皮肉なことに天狗のもつ群としての長所が仇となっていた。

「あぁあああぁああっ!!」

強者としてのプライドがへし折れる。天狗達にとっては体の傷よりもそっちの方がよっぽど堪えた。たった一人の小娘に弄ばれたと知れれば他の天狗から受ける仕打ちは想像に難くない。

天狗の社会はあまりにもシンプルで残酷だ。転がり落ちてしまえば待ち受けるのは悲惨な運命のみ。一部の者を除いて強者によるピラミッドが彼らを縛り付けていた。

ならばどうするか。帰れば生き地獄。撤退はない。されどプライドももう無い。

レミリア「おぉぅ!?」

それが良かった。

不退転を決めれば話はシンプルになる。生き延びて生き地獄で泣くぐらいなら、地獄で散ってやる。その決意は翼よりも武器よりも強力だった。

飛びついてきたレミリアの体を天狗が強く抱きしめる。恋愛においての抱擁とは違う、噛みつくような抱擁。

全身全霊を込めた束縛であってもレミリアなら振りほどけなくはない。しかし決して容易くというわけではない。

つまり隙ができる。

命を犠牲にすれば彼女に食らいつくことができる。

群としての脅威が今開花した。

577ぬえ ◆ufIVXIVlPg:2021/08/14(土) 22:46:41 ID:h8lyBTUU
初めてレミリアが墜落した。

鋭い風の刃をその身に受け、血を流しながら、真っ逆さまに地面へと落ちていく。

全身の切り傷から血が流れる。血液を奪って生きる自分から血液を失うのはいつぶりだっただろうか。思い返してみるがすぐには思いつかなかった。全身から流れる血液がレミリアから思考力を奪っていたからだ。

傷は深くないとはいえ、受けた傷の数が多い。深手ではないので幸い命に別状はないだろう。

だから追撃をされても反撃はできる。傷はすぐふさがるだろうし、好みではないが天狗から吸血擦れば回復も容易い。

レミリア(だけど、あぁ、そうよね。調子にのるのが私の悪い癖だったと、知っていたのに、やってしまったわ)

視界の端を駆けていく黒い羽根。

天狗達にとってレミリアを倒す事は絶対条件ではない。自分たちの落とし前さえつけることができれば天狗達の目標は果たされる。

そうなれば死んでいった者たちも無駄死にではない。死して蔑まれることもないだろう。

レミリアを無視して奥へと飛んでいくその数は数えるのが困難なほどであり、舞い散る羽根が黒い豪雨のように降り注ぐ。

レミリア(―――油断さえ、していなければ)

レミリアの体が地面へ叩き付けられた。

578以下、名無しが深夜にお送りします:2021/11/20(土) 18:40:59 ID:R80ZvxYU
支援!

579以下、名無しが深夜にお送りします:2022/01/13(木) 01:49:57 ID:6rr1CjaA
俺も支援

580以下、名無しが深夜にお送りします:2022/01/22(土) 18:27:36 ID:hHbj5dgo
支援

581以下、名無しが深夜にお送りします:2022/02/17(木) 02:01:27 ID:OF52AJWM
支援

582以下、名無しが深夜にお送りします:2022/03/01(火) 04:16:24 ID:J.banIVQ
SS避難所
https://jbbs.shitaraba.net/internet/20196/

583以下、名無しが深夜にお送りします:2022/04/20(水) 19:50:35 ID:APeis62M
しえん

584以下、名無しが深夜にお送りします:2023/01/21(土) 18:54:56 ID:5efjN6mI
やあ

585以下、名無しが深夜にお送りします:2023/03/09(木) 06:40:02 ID:GC7cuJ3I
にちわ

586以下、名無しが深夜にお送りします:2023/04/12(水) 02:08:18 ID:oBBjNQ16
小さい頃に追いかけてたssの続きを見付けて感動した

587以下、名無しが深夜にお送りします:2024/01/08(月) 12:27:01 ID:bQV5D4ho
大人になっちまったよ

588以下、名無しが深夜にお送りします:2024/02/21(水) 20:13:01 ID:jRXAF6D2
そう言えばあのSS更新きたかな、がそろそろ一年たつ

589以下、名無しが深夜にお送りします:2024/03/19(火) 00:07:56 ID:Bgxmikmc
なっつかし
俺このシリーズに影響されてSS書くようになったんだよ
戻ってきてくれたら嬉しいな

590以下、名無しが深夜にお送りします:2024/05/14(火) 22:20:10 ID:AOYXE4Ao
始まってもう8年経ったってマジですか?


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