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企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3.5

99しらにゅい:2012/05/26(土) 19:14:37
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夕暮れはあっという間に暗闇を帯びて、もうすぐ夜がやってくる。
鳥さんが私をうちまで送ってくれるそうなので、その言葉に甘えて、私達はまた歩いていた。
…そういえば、大事な事忘れてた。

「あのね、鳥さん。」
「ん?」

 先程と同じように声をかけて、一つ間を置いた後、ちょっとドキドキしながら私は告げた。

「この前の返事なんだけどね?」
「…あ、あぁ…」
「やっぱり、私はホウオウ様が好き。」
「…そう、か…」

 やっぱり予想通り、鳥さんの声はどこか落ちていた。若干、繋いでいた手の力も緩んだ気がするし。
でもね、と私が言葉を続けると、少しだけ鳥さんの身体が強ばった。

「鳥さんも、好き。」
「え…」
「だから、優劣とか順位とか、そういうのは付けられない!
私は鳥さんが一番好き、その気持ちには変わらない。」
「…トキコ…」

 ホウオウ様も、鳥さんも大切。
だから私は、ありのままの答えを鳥さんに伝えた。
選ぶ必要はない、その影さんの言葉を信じて。
少しだけ反応が怖かったけど、鳥さんは追求も何もしないで、私に一言をくれたのであった。

「…ありがとう。」











朱雀と朱鷺がデートするお話
「答え」





(その答えに彼女の全ての想いが込められていた)
(…と、思う)

100しらにゅい:2012/05/26(土) 19:16:14
>>97-99 お借りしたのは火波 スザク、名前のみ夜波 マナ(スゴロクさん)でした!

やっとデート話終わったー!お待たせしてごめんなさい!
これで今後、どのように関われるかが分かるようになるかと思いますっ

101しらにゅい:2012/05/26(土) 19:47:58

「あっ」
「お」
「…お前は確か、」
「盗聴野郎!!」



「「………」」



「…おい、誰が盗聴野郎だコラ。」
「だって人の話盗み聞きしてるじゃん、知ってるよー?」
「お前らが勝手に話すんだろうが、それが聞こえてくんだよ。」
「やだおーぼー!」
「うるせぇ。」
「ところで横暴野郎、こんなところでおサボりですか?」
「………」
「ねー、無視しないでよー。」
「………」
「…ナイトメアアナボリズム…」
「………」
「あ、今反応した。聞きたいんでしょー?ねぇねぇー?」
「………」
「…まったく、非日常に夢見がちになってるといつか殺されるよ?私に。」
「何、じゃあ相手してくれんのか?」
「残念ながら一般市民はお相手にしませーん。」
「…ッチ」
「それに横暴野郎と私とじゃあ、あっという間に終わっちゃうもん。つまんない!」
「ハッ、そんなのやってみねぇと分かんねぇだろ。」
「あっはっは、やだなぁそんな安い挑発には乗らないよ?」
「…つまんねぇ。」
「あっ、ちょっと寝ないでよー!ねぇー!」
「うるせぇな、刺激を寄越さねぇなら目の前からとっとと消えろ。」
「刺激?…えっ、厨二病だけじゃなくて思春期真っ盛りだったの?」
「その緩い頭吹っ飛ばすぞ。」
「てかさー、そんなに戦いたいし能力使いたいなら知り合いにでも頼めばいいじゃん。
良い的にはなると思うよ?」
「………」
「…相手してあげようか?ねぇ?実は友達いないんでしょ?
実はぼっちなんでしょ?ねぇねぇねぇ?
しょーーーーーーうがないからトキコちゃんが盗聴野郎の友達兼相手になってあげようか?」
「うぜぇ。」










カクマとトーキングin屋上
「お相手」





「じゃ、放課後にストラウル跡地でやろう!」
「誤解を生むだろうがその発言。」

102しらにゅい:2012/05/26(土) 19:50:41
>>101 お借りしたのはカクマ(SAKINOさん)でした!

やたらカクマ君が饒舌でよかったのかと少しビクビクしていますが、
やっと交流することが出来ました…!
しかし、当初の目的がお友達になることだけだったのに何故こんなことに(ry
カクマ君とSAKINOさんに全力で土下座させて頂きますすいませんでした!!!

103紅麗:2012/05/27(日) 23:00:34
「ね、ねぇ夕重ちゃん…リオト君が、あのリオト君がお昼にお昼食べてないよ…」
「ん?そんな馬鹿……な…、ほ、本当だ…!明日雪でも降るんじゃないのか…!?」



―――ユウイが、笑ってる。

それは、とてもとても嬉しいことだけれど、その笑顔は決して自分に向けられているわけではない。
そう考えただけで何か黒い、モヤモヤとしたものが心を満たしていく。
アオイの奴はオレからユウイを取ったりしないと言っていたが…やっぱり…。

「悔しい…!」

どうしてもこの教室で飯を食う気にもなれずパンの入った袋を持って廊下に出た。
アオイのあの言葉を信じていないだとか、そういうわけじゃない。
ただ、あの笑顔を、この数年間見続けてきた笑顔を、

「嫉妬だな」
「でぇいッ!?」

気が付けば後ろにアザミ先生、いや、リンドウの奴が立っていた。
リンドウ、オレと同じホウオウグループの人間で、奴もまた特殊能力者だ。
ホウオウグループ内では性格の荒いリンドウ、学校内では優しい性格のアザミ先生、二つの性格を器用に使い分けている。
すごいとは思うが、こっちは調子が狂ってしょうがない。

「リオトはいつもあの女の子と一緒にいるだろう?でも今日は違う、しかも眉間にしわが寄ってる。答えは一つしかないよね?」
「……う」
「ほんと、あの子が好きなんだねー」
「やめろ言うな」
「なんでだい?好きなら好きでそれさらけ出しておけばいいのに」
「…自分から言うのはそこまでだけど、人から言われるのは恥ずかしいんだよ!」
「ふーん」

――しまった、思わずムキになってしまった。ガキじゃあるまいし。

「じゃあさっさと告白しちまえばいいのに」

うわ、こいつ『リンドウ』になりやがった。

「長年の付き合いなんだろ?いけるんじゃねーの」
「……そうしたい、けど」
「……けど?」

そこで言葉が詰まり、オレは俯いた。近くにあった壁にもたれ掛かる。
リンドウはきっと、「度胸のない奴」そんなことを言いたげな目でオレを見ていることだろう。

多分、おそらく、ユウイに告白して、そこでOKなんてもらってしまったら、オレは自分を抑えきれなくなるだろう。
今まで以上に、常に傍に近くに、置いておきたくて仕方がなくなる。下手をすれば取り返しのつかないことだってしてしまうかもしれない。
今までも、何度も考えてきた。「あいつの血はオレみたいに赤いのかな」だとか「痛いのかな」だとか。その度に「それは駄目だ」と奥にしまいこんできた。
『幼馴染』という一線を越えてしまったら、オレはそれを全て「やってしまう」かもしれない。
だって『恋人』ってのはお互い、お互いのことを好きになってなるもんだろ?好きな人からされることはなんだって嬉しいだろ?だから…。
―――あれ?オレは何が言いたいんだ?何を思ってるんだ? ユウイを、殺し自分の…いやいや、有り得ない、そんなことあっちゃいけない。
おいおい、何を考えてるのか自分でもわからなくなってきたぞ。ただ、オレはあいつを守りたくて、血とか、そんな。

「おい」
「はぁッ!?」

壁をドンと叩かれて我に返る。そうか、リンドウいたんだった。

「度胸ねぇなぁ、あんた」

なんだよ、オレのこと知ったような口利きやがって。

「いいか?女ってのはな…」
「アザミ先生ー!一緒にお昼食べませんー?」
「あ、玉置先生!食べます食べますー!もうお腹空いちゃってー!」

けろっといつもの『アザミ先生』に戻ると、幸せそうな顔で音符を撒き散らすような勢いで保健医の玉置先生のところへ走っていってしまった。
……少し、「経験豊富者」の話、聞きたかったかもしれない。



やっぱり、嫉妬せずにはいられませんよね



「あ、リオトだ。今日は一人なんだ」
「オウカか……って何その缶ジュースの山」
「いやートバネと賭けしたら見事にボロ負けでさぁ!ひゃっひゃっひゃ。今日こそ勝てると思ったんだよー」
「……はぁ」
「どうしたのさそんな大きなため息ついて」
「いや、馬鹿は楽でいいなと思って」
「な、なんだとー!どういう意味だよー!」

104紅麗:2012/05/27(日) 23:01:32
お借りしたのは名前のみスゴロクさんより「火波 アオイ」ヒトリメさんより「トバネ」
しらにゅいさんより「玉置静流」十字メシアさんより「弐二 簀」えて子さんより「犬塚 夕重」
自宅からは「榛名 有依」「高嶺 利央兎」「浅木旺花」「アザミ」でした。

友達になりたい・アオイの場合 のリオトサイドだとでも思っていただければ…。
リオトのヤンデレ成分をギャグを交えつつ出したかったのだけれど、結局何がなんなのか…!

105(六x・):2012/06/06(水) 14:35:32
まさかの母ちゃん登場
こんなタイトルですが、タロット的な意味はありません。多分ネ。
お借りしたキャラはスゴロクさんより「ヴァイス」です。

女帝と魔術師


跡地をでた美琴は、ヴァイスと共に歩いていた。

「私を散々いじめておいて、いざ自分が危なくなったら命乞い。笑っちゃいましたよ、どれだけ自分勝手なんでしょうね。あんなのと同じ空気吸ってたなんて最悪です。」
「所詮その程度だったということですよ。あなたは何も悪くありません。」

「ちょっとあなた、美琴から離れなさい!」

女性の声と同時に薄い水色の星弾が二人を包囲した。すかさず美琴も星弾を撃ち、二色の弾は接触し爆発した。

煙が晴れ、空色の髪の女性が現れる。手には黄色の星がついたタクト。美琴の母親にして守人の一員、崎原笙子だ。

「何しに来たですか?お母さん」
「なんと、お母様でしたか…」
「そうよ、この子は私の娘。何か不都合でも?美琴を誘拐してどうするつもりだったのかしら。」

笙子はタクトを振り、ヴァイスの周囲に星弾を撒いた。

「娘が誘拐されかけたってのもあるけど、それ以前にあなた何度も事件起こしてるそうね。守人として、平和を脅かす人って許せないの。あなたは私が今ここで倒す。」
「…宣戦布告されたのであれば相手になって」
「お母さんまで邪魔するんだ…。邪魔者はみんな消さなきゃ…」

ヴァイスの言葉を遮った美琴が黒い星弾を撃ち、笙子の起爆弾を消した。

「真っ黒じゃない…何よこれ…」

その昔、守人の仲間を殺され怒りを抑えられなくなった夫が放ったものと同じ黒い星弾。敵味方関係無しに傷つけた、恐ろしい力。

「嘘でしょ…どうして」
「嘘ではありませんよ、スターライト・エンプレス。あなたの娘は完全に心を閉ざしてしまいました。」

あの天真爛漫で優しい娘が自分に攻撃を仕掛けようとしている
今まで一度も暗い面を見せなかっただけに、笙子は変わり果てた娘の姿に絶望し立ち尽くすしかなかった。


「おじいちゃんやお父さんみたいに最初から崎原の血を持ってる人に比べたら、お母さんの術は付け焼き刃も同然だよ」
「美琴…やめて、お母さんがわからないの?」
「わかってるよ。わかってるからやるの。」


狂気を含んだ笑みを向けながら、美琴は笙子に星弾幕を放った

106(六x・):2012/06/06(水) 14:37:24
次に回すためここまでです。フラグは拾えたのか…むしろ新しいフラグ立ててしまった感があるんですがorz

以下ヒント(?)というかメモ
美琴は直系といえどまだまだ修行中なので、タクトがないと☆が出せません。(おじいちゃんとお父さんならタクト無し&無詠唱で出せます)
どうにかしてタクト奪うか壊せば美琴は無力化します。

107スゴロク:2012/06/06(水) 21:44:46
>(六x・)さん
続きを構想していたところ、美琴の無力化とヴァイスの狙いまで一気に行ったのですが、これで投稿しても問題ないでしょうか?
そちらで問題があるようでしたらこちらは取り下げます。

108(六x・):2012/06/06(水) 23:05:27
>スゴロクさん 
全然問題ないですよー!続きを待機しております(六x°)

109スゴロク:2012/06/07(木) 07:19:57
>(六x・)さん
わかりました。では「女帝と魔術師」の続きです。最近スランプ気味なので、諸々拾って一気に進めてしまいました。ヴァイスの外道振りをどうぞ。


「霧谷三佐……何をしているんですか」
「こっちの台詞だって」

ストラウル跡地。廃ビルから降りてきた「三佐」こと霧谷 操……アルニカは、ニット帽の少年の問いにそう返した。

「しかし、君があの『アルマ』とはね……ゲンブ君の知己らしいから、もう少し年食ってるかと思ったんだけど」
「ゲンブさんはあれでも二十なんですが」

忘れがちだがゲンブも若造である。

「まあ、それより」
「何をしていたか、っていうならこっちが尋ねたいね。ここで何があったの? 大体は一哉君から聞いたけれども」
「実は……」


アルマが語った内容は、一哉がアルニカに話したものと大体同じだった。一連の話を受け、ふうむ、とアルニカは腕を組む。

「一哉君が投げられたのはそれでか……それでその、美琴、だっけ? その子が正気を失っているっていうのは……」
「恐らくは何らかの能力の影響を受けたものかと。俺の情報網では、彼女は苛めを受けてはいましたが、全く意に介していない……というか、そもそも苛められていることにすら気づいていなかったので」

暖簾に腕押し、糠に釘状態だったらしい。では、何の要因で?

「能力、なのかねぇ?」
「その可能性が高いかと思われます、三佐。それと」

背後に立つ少女、夜波 マナに目を向けると、彼女はアルニカに向けて小さくお辞儀をし、続きを促す。

「彼女からの情報で、この一件の黒幕が判明しました」

それは?

「最重要危険人物認定、ヴァイス=シュヴァルツです」
「な……」

思わず絶句した。能力者どころか人間とすら言い難い、壊れた倫理観の持ち主。人を思いのままに操り、使い潰して捨てる最悪のシナリオライター。
その男が、今回の事件の犯人だというのか。

「三佐。自分はこの後、崎原 美琴の捜索及び保護に当たります。よろしければ、協力を願いたいのですが」
「ボクは構わないよ。けど……」

アルニカが気遣わしげに目を向けるのは、背後に立つ少年・一哉。
その彼が、意を決した風に口を開く。

「僕も、連れて行ってください。このまま放っておけない……!」
「…………」

しばしの黙考を経て、アルマは一哉に応えた。

「わかった。ただし、自分の身は自分で守れ。今の彼女は、見境がない。俺の方も余裕はない」
「はい!」

返事を待っていたかのように、ここまで沈黙を通していた海猫が4人を見回し、毅然として言った。

「そうと決まれば、行動開始だね。あの子を見つけて手を打つのは、早ければ早いほどいい」
「そうだな。まずは……」

と、アルマが行動方針を提示しようとした瞬間だ。
突如、その携帯が着信を告げた。

「なに?」

これは仕事用の特別製だ。アドレスを知っているのは、ゲンブの他には一人。

「こちらアルマ。冬也、どうした」
『も、もしもし!? た、大変なんです! 崎原さんを今発見したんですが……!』

110スゴロク:2012/06/07(木) 07:21:53
少し、時間が捲き戻る。

シスイを目的地……ツバメの家まで送ったゲンブは、その足でザルクを自宅に送り届けていた。

「ここまででいいか?」
「はい。すみません、どうも」

ぺこりと礼をするザルクに軽く返し、ゲンブはさて、とレストランに足を向ける。
が、そうしようとした矢先に携帯がなった。

「何だ、こんな時に……ん?」

鳴っていたのは、内ポケットに入れておいた連絡用のもの。

「俺だ」
『ゲンブさんですか? 緊急事態です』

続けてアルマが報告した事項は、

「なん……だとぉっ!?」

水波 ゲンブを、そのように驚愕させる程度の内容であった。事態を一瞬おいて理解したゲンブは、

「わ、わかった、すぐに向かう!」

それだけ答え、通話を切ると、慌ただしく踵を返す。
そして、一目散に報告された場所へダッシュをかけた。

(ええい、厄介なことになったものだ!)

―――そして、その後ろを追う一つの影。

(何だ、何を急いでいる、ゲンブ……何が起きたというのだ)

111スゴロク:2012/06/07(木) 07:22:37
「やめろォォォォォッ!!!」

笙子に放たれた黒い星弾が、その叫び声と共に後方から放たれた電撃……否、雷撃に打たれて一発残らず爆散した。
笑みを消した美琴が見やる先にいたのは、両手を突き出したロングコートの男。

「ホントーに見境がなくなってやがるな……」

荒く息をつくその男……霧波 流也は、美琴に、続いてその傍らに立つ男に、鋭い目線を向ける。

「冬也から聞いた時はまさか、と思ったがな……」
「おや、霧波さんではないですか。ご健勝で何よりです」
「お陰様でな」

姿勢を低くしながら、流也は笙子の前に出る。

「お姉さんよ、とりあえずここは下がりな。アンタの手におえる相手じゃねえぞ」
「そうは……行きません。守り人としても、母親としても、ここで引き下がるわけにはいかないのです」
「守人? それに……なるほど」

自分を奮い立たせるように、笙子は拒否を口にする。そのやり取りだけで状況を大体理解した流也は、何をするよりまず叫ぶ。

「司ァッ!」
「はい!」

美琴とヴァイスが振り向いた後ろには、両手に炎を纏わせた不動 司の姿があった。既に退路を塞いでいる。

(む、これは少々厄介ですね)

少なくとも、いつもの如く逃げの一手は打てそうにない。せっかくここまで美琴が壊れたというのに、そのためのあと一手を打つだけだというのに。

「仕方がありません。面倒ですが、お相手するとしましょう。そう、邪魔者は排除しなければ」
「邪魔者……」

その言葉に、誰より美琴が劇的に反応した。

「邪魔、する……消さなきゃ……みんな、消さなきゃ……」
「その通り、邪魔者は消すに限ります。私は後ろの彼を相手にしますので」

言うと、美琴の返事を待たず、ヴァイスはくるりと体を反転させて司に相対する。

「さて……この力、試してみましょうかね」

112スゴロク:2012/06/07(木) 07:23:34
流也と笙子は、美琴と対峙する。

「お母さんも、コートの人も、ミコトの邪魔をする……邪魔者は、消さなきゃ……」
「……なあ」
「崎原 笙子です」
「俺は霧波 流也だ。それで笙子さんよ、あの子だいぶヤバくねえか? 暴走っつうか、ほとんど狂ってるぞありゃ」

流也の指摘は実の所、かなり当たっていたが肝心な部分で外れていた。現在の美琴は、思考が一点に集中して固定され、それ以外が浮かばない……いわばパニックに近い精神状態に陥っていたのだ。

「……今の私では、恐らく美琴と正面から戦うのは無理でしょう。お願いできますか?」
「OKだ。あのクソ野郎の好きにさせる気はねぇ」

流也が言い終わらないうちに、黒い星弾幕が二人を襲っていた。笙子が咄嗟に星弾を放って散らしたが、それよりも流也が速い。笙子を片腕で抱え、攻撃範囲外に一気に飛び退っていた。そして、彼女を降ろすや否や突撃を駆ける。

「おおおおおおおッ!」

ブリッツフォース……生体電流を自在に操るこの能力で、反射速度を一気に上昇。星弾を人間離れした速度で掻い潜り、首筋に手刀を叩き込む。が、それは突然現れた黒い星に弾かれ、功を奏さなかった。

「ちいッ、さすがに一筋縄じゃいかねぇか!」

流也はこの状態を「フルインストール」と呼んでいる。この時の彼の攻撃速度は不可視の域に達するのだが、それでも防がれるとは予想以上だった。

「邪魔……しないで!」
「悪いな、そうはいかねえんだよ! 第一、親殺しなんか死んでもさせやしねえ!!」
「何で? お母さんはミコトを邪魔するの、だから消すの、それが何でいけないの?」

このやり取りの間に、無数の星弾と不可視の速度で閃くナイフ、そして笙子の援護攻撃が激しくぶつかりあい、相殺している。
状況が非常に厳しいことを見て取った流也は、苦渋の決断を下す。

「笙子さん、ハッキリ言ってあの子は無茶苦茶強ぇ。だから、殺さずってのは考えず殺す気で行くぞ」
「!? 何を……」
「手加減してたらこっちがやられちまう。ヒジョーに不本意だが、本気で殺す気でかかって、それで何とか生かしたまま押さえられるはずだ」

だが実の所、本気で殺す気でかかっても美琴に勝てるかは怪しかった。あの速度に反応して完璧にガードを入れて来るような相手など、正直記憶にない。
が、そんなやり取りをしている間にも攻撃が襲っていた。

「ええい、話もできねぇのか!!」
「もうやめて、美琴! どうしてあなたがこんな……」
「うるさい! 邪魔をする、みんなミコトの邪魔をする……」

言葉が届いているとは思えなかった。声は届いても、意思は届かない。
絶対拒絶の意思と共に放たれた弾幕が、二人を容赦なく打ち据える。

「うおおおおっ!? こ、この!」
「くっ、美琴……」
「消さなきゃ……みんな消さなきゃ……」

113スゴロク:2012/06/07(木) 07:24:06
譫言のように呟き続ける美琴の周囲に、さらに星弾幕が展開される。しかし、事態はここで二転する。
まず一転、

「三佐! 目標発見!」
「了解、アルマ! ヴァイスはここで押さえる!!」

アルマを先頭に走り込んできた、アルニカ、マナ、一哉、そして海猫。
さらに別の方向からは、

「アルマ! 状況は!」
「見たままだろう、ゲンブ」

アルマの連絡を受けて急行して来たゲンブ、そして彼について現れた謎の影。
その見るからに怪しい風体に、アルマが警戒の声を上げる。

「何者だ?」
「アルマ、こいつは味方だ。ヴェンデッタという」

答えたのは本人ではなくゲンブだった。だが、今は問答をしている時間が惜しい。

「了解」

そして、もう一転。

「……皆、来ちゃった……さっきの人も……宮藤先輩も、帽子の人も……ミコトの邪魔をしに来た……」

狂気に彩られた呟きと共に、黒の星弾が不気味なほど黒く染まる。まるで、全ての光を拒絶するかのように。

「邪魔者……全部、消えちゃえ……」

そして、

「消えろ……消えろ……消えろォォォォォォォッ!!!!」

美琴のものとは思えない叫びと共に、滞空していた星弾幕が、全周囲に一気に放たれる。
各々咄嗟に防御、あるいは回避を試みる。が、

「ぬおおおっ!?」

背中合わせの形になっていたヴァイスは、その奔流にまともに巻き込まれていた。しかし、ここでさらなる異変が。
ヴァイスの体が一瞬で黒く染まったかと思うと、流体のようになって溶け、消えてしまったのだ。

「何!?」
「ゲンブ、今のは何だ?」
「わからん! 奴にこんな能力は……」

驚愕する一同の中、ただ一人、

「これは……」

アルマだけが、その力を知っていた。

「これは、まさか……」
「知っているのか、アルマ?」
「海猫、これは『ヤミまがい』だ。以前、秋山寺院を襲った『ピエロ』と名乗る人物……そいつが使った力だ」

その事件はゲンブやアルニカ、流也も星経由だが知っていた。
居合わせた面々が迎撃したのだが、その中にいたカイムが「閉じられ」、一時生死の境を彷徨う大事となっていたのだ。

「それとは別の力……『ヤミ』という物質を生み出し、それを自在に変化させて様々な行動を可能とする……」
「良くご存知ですね、アルマさん」
「!!!」

背後から声。振り向こうとしたアルマの頭を、裏拳が強打した。

114スゴロク:2012/06/07(木) 07:24:45
「ぐあっ!?」

ニット帽が吹き飛び、髪が露わになる。立ち上がろうとするその姿を見て、海猫が、冬也が、司が瞠目する。

「え?」
「あ、あの人どこかで……」
「いかん! アルマ、撤退しろッ!!」
「了、解……」

ゲンブの一喝を受け、アルマは物陰に身を隠しながらその場を速やかに立ち去った。アルマの素性はウスワイヤでも極々一部しか知らないトップシークレット。たとえ味方であれ、易々と知られるわけにはいかなかった。

「厄介な御仁が一人減りましたね」
「隙だらけなんだよッ!!」

流也が叫んだ時には既に、不可視の速度で閃いたナイフがヴァイスを薙いでいた。しかし、その体がまたも闇となって溶ける。と思った次の瞬間には、流也は首を掴まれ、思いきり投げ飛ばされていた。

「ぐはァッ!? が、く、くそ、厄介な能力手に入れやがって……!」

再び姿を消し、今度は笙子の背後に現れるヴァイス。間髪入れず、予測していた海猫が躍りかかる。

「アンタみたいな外道には……50Hitコンボだ!!」

海猫の持つ最大級の攻撃パターン、かつては「羅刹行」で無類の格闘能力を誇るゲンブすら瀕死に追いやった必殺技だ。
車いすから飛び出した彼女の一撃目が、現れた瞬間のヴァイスにめり込む。
グギ、と骨が軋む音。

(取った!!)

本体だ。確信した海猫はさらに追撃を加える。アッパーで打ち上げたヴァイスに跳躍で追いすがり、反動と勢いを巧みに利用した連撃を空中で叩き込む。そして、

「トドメだぁぁっ!!」

最後に渾身の蹴り落としで地面に叩きつけ、自分も着地した。が、そこでオーバードライヴの効果が切れ、足から力が抜けて座り込んでしまった。

「ガ、グ、ごは、っ……」

叩きつけられたヴァイスは地面に半ばめり込んで痙攣しており、戦闘能力は奪ったと見えた。
残るは、美琴。未だに暴走が続いており、既に新たな星弾幕が展開され、発射態勢に入っている。

「まずい、今撃たれては海猫が!!」

飛び出したために車椅子から離れ、さらに反作用で動けなくなっている海猫が一番危険だった。このままでは直撃を受けてしまう。ゲンブがフォローに駆けだそうとした時、

「我に任せろ!」
「ここが勝負所ッ!」

ヴェンデッタと一哉が動いていた。ヴェンデッタの放った氷と冷気が星弾に追いすがって凍らせ、それでも届かないものには一哉が割り込み、その体の一部をゲル状に変化させて受け止めた。

「うぐううっ!!」
「三佐、確保を!」
「了解! 海猫君、こっちだ!」

その間隙をついて、アルニカが海猫を確保して車椅子に乗せ、自身も大きく距離を取った。
そして、ここまで沈黙を保った一人、司が、

「捕まえたぁっ!!」
「!!?」

次なる弾幕を用意していた美琴の背後に忍び寄り、羽交い絞めにして動きを封じていた。

115スゴロク:2012/06/07(木) 07:25:18
「不動、さん、邪魔、する、消え」

もはや支離滅裂な言葉と共に、弾幕を放とうとする美琴。だがそれに先んじて、笙子が司に叫んだ。

「タクトを奪って!」
「!」

司の反応は素早かった。右腕を放すと同時に絡めるようにして滑らせ、美琴の手からタクトを弾き飛ばした。
瞬間、放たれようとしていた弾幕が消え、周囲に静寂が戻った。地面を転がるタクトは物陰にいた冬也がしっかりと確保し、抱えるようにしてその場を離れる。


「いやいや、御見逸れしましたよ皆さん」


突然かけられた声に、全員が振り返った。そこには、全く無傷のヴァイス=シュヴァルツが平然と佇んでいた。

「馬鹿な!? 貴様は海猫が今……」
「あいにくですがね、ヤミまがいをナメていませんか?」

言うや、地面に倒れていたヴァイスの体が黒く染まり、消えた。またも義体だったのだ。

「彼が言うには、このくらいは普通にできるそうですからね」
「おのれ……」

怨嗟の視線もなんのその、とばかりにヴァイスは美琴に目を向ける。美琴も反応し、口を開く。

「負けちゃった……邪魔者、消せなかった……どうしよう……」
「それは仕方がありません。こういうこともあるでしょう」

至極あっさりと言ったヴァイスに、美琴はすがるような視線を向けて言う。

「で、も、不動さんも空橋くんも、みんな、ミコトが邪魔だから……だから、消さないと……」
「ああ、そのことですか?」

ことこの段に至り、ヴェンデッタと司を除く全員が気づいた。
どの案件においても、この男が最終的に狙うもの。
それは、対象となった特定の一人の「破壊」。ならば、ならば、この場においてその一人を、美琴を「破壊」するのにもっとも適した言葉は何だ? それは。それは。それは――――!!!

「!! やめ――――」

ゲンブは遮ろうとしたが、遅かった。そして、ヴァイス=シュヴァルツは言う。



「あれは、嘘です」



美琴の行動を根幹から破壊する、悪魔の一言を。

116スゴロク:2012/06/07(木) 07:26:13
「え―――?」

壊れた機械のように、司に抱えられたままの美琴は声を漏らした。その彼女に、ヴァイスは容赦なく言葉を投げる。

「そうです。その顔です。ワタシはそれが見たかったのですよ。信じていたものが根幹から破壊された者の、その空虚と絶望の表情が」
「てめえは……!!」

流也の怒りを聞き流し、さらに言う。

「最初に出会ったとき、言いましたね? あなたの友人が、あなたを邪魔に思い、手を回していると」
「そ、そう、そうなんですよね? だから、ミコトは……」
「いいえ、出鱈目ですよ。そんな事実は存在しません」

全く容赦なく、突きつける。

「つまり、アナタの今までの行動は無駄だったのです。思い出してみなさい。手を差し伸べた人を、助けに来た人を、アナタはどうしましたか? 何を以って報いましたか?」

美琴がそれを理解しきる直前のタイミングで、とどめを刺す。

「果たして、彼らは再びアナタを受け入れてくれると思いますか? ワタシでしたら御免ですねぇ」

カタカタと震え出す美琴を見て、満足げに頷く。その彼に、辛うじて立ち上がった流也が問う。

「ヴァイスよ……てめぇ、前に言ったよな? 嘘はつかなくても、言わないことはあるってよ」
「ああ、あれですか? なるほど……では」

そして、彼は嗤った。帽子を片手で押さえ、片手をわざとらしく広げ、





「正直に言いましょう。ワタシは嘘つきなのです」





悪魔の、としか形容できない笑みを、浮かべた。



白き闇の嘲笑、魔術師の崩壊

(演出は成功を収めた)
(この舞台もそろそろ撤収)
(次の脚本を書くとしよう)


(……得てして、現実はそう上手くはいかないものである)



(六x・) さんより「崎原 美琴」「崎原 笙子」「空橋 冬也」「不動 司」「宮藤 一哉」紅麗さんから「アルニカ」十字メシアさんから「角枚 海猫」「ヴェンデッタ」you-403さんから「ザルク・ゼドーク」YAMAさんから名前のみ「ピエロ」クラベスさんから名前のみ「カイム」白銀天使さんから名前のみ「シスイ」をお借りしました。
ヴァイスはこの後撤退予定です。

117十字メシア:2012/06/08(金) 20:08:53
>スゴロクさん
ヴェンデッタがヴァイスにキレて攻撃する話投下してもよろしいですか?
撤退は必ずさせますので…

118スゴロク:2012/06/08(金) 20:57:51
>十字メシアさん
大いに結構です。ぜひ投下してやってください。

119十字メシア:2012/06/08(金) 21:23:46
>スゴロクさん

許可ありがとうございます!
スゴロクさんから「ヴァイス」「霧波 流也」「水波 ゲンブ」、(六×・)さんから「不動 司」をお借りしました。


「貴様…ッ!」

ストラウル跡地。
ようやく舞台は終末を迎えていた。

「ではワタシはこれにて」

未だ震える美琴を抱えていた司は、当然ながらヴァイスへ突進しようとした。
が、それよりも先に行動を起こしたのは。


パキパキパキィッ!!!

「! …通してくれませんかね?」
「断る」

ヴァイスにとっては飛び入り役者の一人でしかない、ヴェンデッタだった。
彼女は炎を閉ざした氷の如き表情を浮かべ、ヴァイスが今通ろうとした道を凍らせていた。

「貴様のやり方といい、さっきの発言といい…『あの女』を思い出してな……どうにも怒りを抑えられない」
「よせ! ヴェンデッタ!」

しかし彼女はゲンブの制止を受け入れるどころか。

「今は黙れゲンブ」
「ッ!」

ただならぬ怒気にゲンブはつい気圧されてしまう。
強まるそれに呼応するように、彼女の周りを冷気が取り巻き始めた。

「…死なす事は叶わずとも、せめて四肢を満足に使えなくしてやる!!!!!」

ヴェンデッタの右腕の氷が溶け出す。
それにより、禍々しい魔物の腕が露になった。
彼女はその腕でヴァイスを引き裂こうとするも、容易く避けられる。
そこで彼女は口から冷気を吐き、ヴァイスの腕を凍らせようとした。
しかしそれも避けられてしまった。

「やれやれ、その程度では四肢を壊すのは無理ですね」

ニヤリと笑い、いつの間にか手にしていたナイフを数本、ヴェンデッタの腹に突き刺した。

「ぐぅッ!」
「ヴェンデッタ!」
「来るな…」

ゲンブが駆け寄ろうとするが、ヴェンデッタはそれを良しとしない。

「フフフ…どうしました? もう終わりですか?」
「まだ…だ」
「…先程、『あの女』と言ってましたね? ヴェンデッタという名前を察するに…その人に恨みがあるのでしょう?」
「ああそうだ」

素っ気なく答えるヴェンデッタ。

「……どうです? ワタシと手を組みませんか?」
『!?』

突然の発言に驚く一同。

「ワタシといれば、アナタに相応しい、納得のいく復讐劇が出来ますよ。悪くない話だと思いますが?」
「誰が貴様みたいな奴と…」
「部外者は黙ってて下さい。それに」

一間置いてヴァイスは言った。


「アナタは復讐を果たせればそれでいいのでしょう?」

120十字メシア:2012/06/08(金) 21:25:49
「………」

黙り込むヴェンデッタ。

「……ヴェンデッタ、奴の話には絶対に乗るな」
「そうだぜ。さっき自分から言ったろ、嘘つきだと」
「………」

ヴェンデッタの答えは。

「いいだろう」

「なッ!?」
「おま…正気か!?」
「フフフ…ではこちらへ」

ヴァイスの元に歩み寄るヴェンデッタ。

「ヴェンデッタ…」
「………」
「ではこの氷を溶かしてくれませんかね?」
「…分かった」


「―――だがその代わりにお前を凍らせる!」


「!?」
「フゥウウウウウーーーーーッ!!!!!!」

ヴェンデッタの口から冷気が放たれ、ヴァイスの腕を凍らせる。
生憎再びヤミまがいに邪魔されたが、霜が張り付く程度に凍らせれた。

「事実には事実を。そして嘘には嘘を、だ」
「く…ッ!」
「…我は、復讐者。だがその為に周りを犠牲にしようなどと考えていないし、するつもりもない。どれだけの時が流れようと…我は我のやり方であいつの血を手に染める!!!」
「…そうです、か」

ブワッ

「うわッ!」

舞い上がったヤミで身構えるヴェンデッタ。
晴れた時にはヴァイスはいなかった。

「………」
「ヴェンデッタ」
「…何だ」
「さっきから聞こうと思っていたが、中々その暇が無くてな。…何故助太刀に?」

それを聞いたヴェンデッタは薄く笑って言った。

「…心配だった。ただ、それだけだ」
「そうか…すまなかったな」
「ああ。また何かあれば助ける」
「ねえ!」

声をかけたのは、海猫だ。

「さっきは、ありがとうね。危うくやられるとこだったよ」
「いや、気にするな」
「アンタ強いわねー…あ、折角知り合えたんだし! 友達にならない?」

と、手を差し出す海猫。
しかし。

「すまない、気持ちはありがたいが……我は、人間の友になれない」
「え?」
「…では」

そう言い残し、ヴェンデッタは何処かへと姿を消した。


復讐者、何処かへ去る


(我は)
(人間と仲良くなれるような)
(存在ではない)

121十字メシア:2012/06/08(金) 21:28:02
もうひとつ、小話を。
しらにゅいさんから「チェシャ」お借りしました。


某日、いかせのごれ高校。
2階の廊下をフラフラ歩いていたチェシャは、とある人物に遭遇した。

「おや、キョンシーじゃないか」

キョンシーと呼ばれた少女、初馬 メイコが振り向く。
そしていつもの無表情に等しい笑みを浮かべた。

「チェシャ。こんにちは、」


「死ね」


バキィッ!!!

「あ〜いたたた…いきなりぶつなんて酷くないかい?」
「だって、チェシャ嫌いだから」
「ストレートだねえ、ニヒヒ」
「………」

チェシャを見るメイコの黒い目は、冷たく、まるで見下すかの様だった。
しかしチェシャはそれを意に介する事無く、メイコに話しかける。

「何でオイラの事嫌いなんだい?」
「泣いてくれないから。何度も言わせるな死ね」
「ニヒヒ。まああの時は花菖蒲が助け船出したからいいじゃないか」
「よくねーよ、こっちは必死なんだ」
「そんなにも怖いのかい? …母親が」

『母親』。
たったその一言でメイコの目は見開き、チェシャを睨み付けた。

「おや、気に障ったかい?」
「わざとだろ、死ね」
「まあまあ、そうカリカリしないでおくれよ」
「うるさい黙れ、死ね―――」

とそこでチェシャはメイコの目を覗き込む様に顔を近付ける。

「今のままじゃあ、強くなれないよ。キョンシー」
「は…?」
「じゃあねえ、ニヒヒ」

くるりと向きを変え、不思議な猫はそのまま歩いていった。


猫とキョンシー


「…やっぱりあいつ、嫌い」

122十字メシア:2012/06/16(土) 12:51:27
ヤマネの考え方について。
スゴロクさんから「ヴァイス」お借りしました。


「あの女め…」

霜だらけの腕を押さえ、スト跡地を歩くヴァイス。
と。

「おやおや、随分と手痛い反撃を受けたようだね」
「!」

さっと振り向くヴァイス。
見透かした様な表情で佇んでいたのは、彼と同じ白い髪と、笑っているような青い目をした少年だった。

「貴方は確か…ヤマネとかいう守人でしたっけ?」
「あれ、知ってる?」
「第一世代にして不老不死の守人を、こちら側で知らない人間なんてそうそういませんよ」
「なるほどー」

表情が変わることの無いヤマネ。

「で、その守人が何の用ですか?」
「いやあ、その腕治してあげようかなって」
「…は?」

突然の言葉に、ヴァイスは思わず素っ頓狂な声を上げた。
対してヤマネは笑みを崩さない。

「僕という人物までは知らないようだね」
「…貴方こそ、ワタシという人物を知らないので?」
「いやいや、逆に知ってるよ。bad・endの脚本を常に望む白い闇ってね」
「…ならば、一体何の目的で?」
「君はいかせのごれの為にまだいてほしいんだ」
「いかせのごれの為…?」
「そう」

益々分からなくなるヴァイス。

「…人は弱い。だからこそ強くならねばならない。しかし何もしないで強くなる訳がない。そこで人には試練が必要なんだよ。つまり君という存在は試練そのものなのさ」
「ワタシが役者や邪魔者達を成長させていると? 全く、はた迷惑な理論ですねえ」
「はは、君にとっても悪くない話だと思うよ? 腕、そのままじゃあ不便だろう?」
「…まあ」
「じゃあ交渉成立。…って言っても無償だから安心していいよ、腕出して」

ヴァイスは素直に腕を出した。
その腕をヤマネが掴んだ途端、霜が溶け出す。
1分も経たない内に腕の霜は完全に無くなった。

「ふむ…完全に治りましたね」
「今日の能力は”元の状態に戻す能力”『タイムリセット(巻き戻し時計)』だったから、ちょうど良かったよ」
「今日の?」
「うん、僕の能力は”その日によって変わる”から」
「ほう、それはまた前代未聞の能力ですねえ」
「あはは、僕はどーでもいいけどね。こんな『神様が暇潰しに遊んでいる様な』力……」

不意に自嘲しているかの様な笑みに変わる。
が、それも一瞬だった。

「ところでこれがバレたら、仲間からお咎めをもらいませんか?」
「大丈夫さ、彼らは『ヤマネ』を嫌ほど知っている。それに何を言われようと、僕はいかせのごれの為に動いていく」
「いかせのごれの為…それが貴方の根本ですか」
「うん」
「…もし、ワタシが”ソレ”を壊そうとしたら?」

二人の間に緊張が走る。
ヴァイスは相変わらず不敵な笑みを浮かべ、ヤマネはというと目元に影が差していた。

「そうなれば敵さ。…まあ、そんなつもり無いだろう?」
「バレていましたか」
「舞台まで壊すバカな脚本家がどこにいるって言うんだい?」
「確かにそうですね」
「まーそういう事だから、僕は”壊れない”かなー。大切な物はいかせのごれだけだから」
「…仲間は?」
「『タダ』の仲間だよ。別に殺されてもああはいそうですか、で終わりさ」
「意外と冷たいですね」
「僕はいかせのごれの守人だよ。いかせのごれを守る事が僕だよ」
「…なるほど」
「じゃあ、僕はこの辺で退散するよ。でも僕の見えない所で死にかけてる時は、助けないからね。それだけは覚えといで」
「…分かりました」


白い闇と”いかせのごれの守人”


「しかし、ワタシとて貴方を壊すつもりは全く無い訳ではありませんからね…それだけは覚えていて下さい」

123十字メシア:2012/06/25(月) 20:58:34
放置しっぱなしですいませんでしたorz
緋色の中で系列続編。
しらにゅいさんから「トキコ」、樹アキさんから「ウツロ」、スゴロクさんから「クロウ」をお借りしました。
樹アキさんにパスです。


「………」

スト跡地。
フェンスに背中をもたれ、ウツロは黙りこくったまま座り込んでいた。

「…カナミさん」

生物兵器である自分を唯一、「人間」だと認めてくれた少女の笑みが、ウツロの脳裏に浮かぶ。
別れを告げてから数日。
ウツロは後悔に似た感情を抱いていた。

「…約束、破ってしまいましたね…」

夕暮れの中で交わした『約束』。
彼女は楽しみにしていたのに、自分はそれを果たす前に別れを告げてしまった。

その時。

「ここにいたんだね、うーちゃん」
「…トキコ…さん」

ウツロの元に来たのは、トキコだった。

「ミユカちゃんから聞いたよ。カナちゃんとさよならしたって」
「ミユカ?」
「カナちゃんの親友。それより何でさよならしたの?」
「………」

黙りこくるウツロ。

「自分が彼女と違うから? 死にたがりだから?」
「………」

寡黙。
だが次の言葉で瞠目する。


「ホウオウグループだから?」


「!」
「…やっぱりそうなんだ」
「……だって、このままでいたら、あの人は…」
「そんなの理由にならないよ」

強く、しっかりとした声音で言うトキコ。

「…本当に守りたいなら、自分の力で守るべきだよ」
「僕にはそんな力はない」
「そんなの、言い訳にしかならない」
「けど―――」
「いい加減にして!」

と、トキコは(一応加減して)ウツロの左頬を殴った。

「ちょ、トキコさん。いきなり何を…」
「殴りたくもなるよ! いっつもそうやってウジウジして!! 逃げてばっかりで!!! カナちゃんからも逃げたじゃんか!!!」
「!」
「…うーちゃんがカナちゃんを突き放したのは、『カナちゃんを傷付けたくないから』じゃない。『自分を傷付けたくないから』だよ」
「ちっ、ちがっ―――」
「違わないよ」

ぴしゃりとウツロの言葉をトキコは遮る。
そしていつに増して真剣な眼差しをウツロに向けて言った。

「…うーちゃんは死にたがりなんかじゃない、ただの臆病者。傷付くことを恐れて、内側から閉じ籠もるただの臆病者」
「……」
「私、うーちゃんの事嫌いになりたくない。だから―――」


「もう一回カナちゃんに会って。そしてちゃんと気持ちを伝えて」


朱鷺、死にたがりを叱咤する


「何…? 外れの森に奇妙な現象…?」


※補足に最後のは、カナミの能力による現象を聞かされたクロウはこの後トキコちゃん(とウツロ君)に調査を頼む、という展開前です

124(六x・):2012/07/07(土) 23:55:48
とりあえず一段落。後日談あるかも。


魔術師と、友と

ヴェンデッタが去った後も、美琴はまだ震えていた。

「全部、嘘…不動さんと空橋くんがミコトをいじめようとしてたのも、宮藤先輩やお母さんが邪魔しようとしてたのも、全部嘘なのに、私はなんてことを…」
「操られてたようなもんだろ。悪いのは全部あのクソ野郎だ。今度会ったら焼き尽くしてやる。」
「そうよ美琴、あなたのせいじゃないわ。誰一人死んでないし、あなたは何も悪くない。」
「…知らない人の言ったこと真に受けて、確かめもせずにひどいこと言って、人を助ける力を間違った方に使った人を、誰が許してくれるっていうの?…ゲンブさん、能力者がこういう事したら殺すんでしょ?私のことも後で処刑するんでしょ?」
「そ、それは…」
「どうせ死ぬなら、今ここで…」
「おい、崎原…?うわぁ!」

俯く美琴の体から黒いエネルギーが漏れ出し、その衝撃で司が弾き飛ばされる。


「なんだよこれ…」
「巻き込まれても痛くないよ、一瞬だから……」

黒いエネルギーに包まれた美琴が呪文の詠唱を始める。その顔には、すでに生気はない。

「な、なんて高密度のエネルギーなんだ…こんなのが爆発したら地形が変わっちゃうよ!」
「美琴やめて!それを使ったらあなたは…」

笙子が呪文詠唱を阻止しようと星弾を出そうとした、その時

125(六x・):2012/07/07(土) 23:57:02
「この馬鹿者がぁぁ!」
「っ!!?」

和風の女性が現れ、美琴の頬を叩いた。

「馬鹿かお前は!!何で簡単に死を選ぶんだ!!」
「…ゆ…うひ…さん?」
「確かにお前はやっちゃあいけないことをしたよ、堕ちるところまで堕ちたよ、だからって何で死のうとする!!堕ちたんなら上がって来いよ!!」
「上がる…ですか?」
「ああそうだ!!一度落ちたんだ、後は上がるしか道はないだろう!?」
「…でも、もう私はみんなといる資格なんか」
「一人で上がって来いなんて言わない。苦しかったら俺がお前の手を取って引き上げてやる。」
「…」
「周りを見ろ。手を伸ばせ。お前には、手を差し伸べてくれる奴がたくさんいる。穴の中は暗くて狭くて、一人に見えるかもしれないが、周りにはいつも誰かがいてくれるんだ。それを忘れるな。」
「この人の言う通りよ、美琴は一人じゃないでしょう?」

笙子も続く。

「僕が一人じゃなくなったのは、崎原くんのおかげだよ。」

一哉が美琴の頭を撫でる。

「一哉くん、心配してましたよ。」
「もう大丈夫だからね。」

優しい言葉をかける、アルニカと海猫

「崎原さんがいないと寂しいなぁ。」
「催眠術にかかっていた仲間を処刑するほど鬼じゃないさ。お前の力は必要なんだ、これからも頼むぞ」

自分が必要だと言う、冬也とゲンブ

「いいの…?わたし、ここにいていいの?」
「いいに決まってんだろ!ダメだったらこんなに集まってねーよ。…心配したんだからな。」

そして、少し泣きそうに見える司

「ふ、不動さん、みんな…ごめんなさい、ですぅ…う、うわぁぁあぁん!!」
「…胸貸すから好きなだけ泣けや。」



宮藤先輩、不動さん、みんなありがとう
私、一人じゃなかったよ

126(六x・):2012/07/08(日) 00:09:19

スゴロクさんから「水波 ゲンブ」、十字メシアさんから「角枚 海猫」、紅麗さんから「アルニカ」、えて子さんから「笠村 夕陽」をお借りしました。

美琴お前立ち直り早過ぎだろ…と言われそうですが、「一人じゃなかったよ」と言ってるだけなのでまだ人間関係は完全回復してません。しばらくは気まずい。
そして処刑はないにしても、何かしらの罰はありそう…

あと、司がクソ野郎焼き尽くしてやるとか言っててすいません。

127スゴロク:2012/07/08(日) 10:09:33
>(六x・) さん
いえいえ、ヤツは嫌われて、憎まれてナンボのキャラですからむしろ敵が増えるのはありがたいです。
とりあえず、事後報告の話を書いてみようと思うのですがよろしいですか?

128(六x・):2012/07/08(日) 11:19:39
>スゴロクさん

変装してたら見つからないし、司もそこまで強くないから多分無理ですw


事後報告の話見たいので、どうぞ(六x^)

129スゴロク:2012/07/08(日) 11:26:45
>(六x・) さん
どうもです。では、後ほど書き上げて投下します。

130スゴロク:2012/07/08(日) 13:59:27
事後報告です。ついでにヴァイス側の描写と新キャラも。


美琴の一件がとりあえずの解決を見た二日後。
珍しくウスワイヤを訪れていたゲンブは、若年メンバーの指導教官である七篠 獏也と会話をしていた。
無論、世間話の類の和やかなものではない。

「……以上が、外部協力者・崎原 美琴に関する一件の詳細です」
「厄介な事態になったな……」

獏也が珍しく頭を抱える。ヴァイス=シュヴァルツという男は、その行状からウスワイヤとホウオウグループ、そしてそれ以外の組織を数多敵に回し、かつその全てから命を狙われているにもかかわらず、今の今まで傷らしい傷も負わず生き延びている怪物である。

相手の精神を自在に操る、という単純にして厄介極まりない能力を持つ彼奴は、その力で多くの人間を破壊し、またそれ以上の人数を殺して来た。

ウスワイヤとしては絶対に看過できない存在なのだが、今はそれよりも重要な問題がある。

「あの狂人の手管とはいえ、能力者が暴走し、周囲に被害をもたらしたとは」
「事実関係は不明ですが、一般人が一名重傷を負ったとの情報もあります」

獏也の顔がますます渋くなる。対応をどうすべきか、本気で悩んでいるのだ。
年齢や行動を考慮すれば、記憶ごと能力を封印、というのが順当だ。だが、それが出来ない理由が一つ。

「……『スターライト・エンプレス』が出て来ていなければ、な……」
「加えて守人に連なる身です、迂闊な対応をすると今後の組織活動に差し障ります」

いかせのごれの秩序を守る「守人」。崎原の血統はここに属する、いわばいかせのごれの古株だ。
しかし忘れてはならないのは、彼らの大目的は「いかせのごれを守る」ことであって「人を守る」ことではない。もちろん、それも大きく見れば目的の一つではあるが、逆に秩序を乱す存在であれば、あるいは彼らの在り様に干渉するのであれば、組織が相手でも容赦なく牙を剥く。

それに連なる美琴に対し、下手な手を打てば、ただでさえ案件山積みの現状でさらなる面倒が増えてしまい、最悪ウスワイヤ自体が機能を停止する。
それだけは何としても避けなければならなかった。

「……どうします? 事実として被害が出ている以上、お咎めなしとはいきませんが」
「むう…………」

たっぷり7分ほどの沈黙を経て、獏也はとりあえず、と前置きしてから言った。

「ヴァイスに関する情報は、協力者の義務として知る限り提供してもらう。だが、当面は監視つきで自宅謹慎というところが妥当か。期間は……1週間としよう」

恐らくこれは建前だろう。ヴァイスの「脚本」に乗せられた以上、美琴の精神的ダメージは甚大極まりない。特にその手で母親を殺しかけたという事実は、あまりに重い。
その辺りのケアを考え、なおかつ処罰の体裁との妥協を図ったのがこの案なのだ、とゲンブは考える。
考えて、とりあえず質問する。

「監視は誰に?」
「秘密調査員を一名回す。連絡を頼めるか」
「……了解。彼女を使います」

言うや、ゲンブは携帯を取り出してコールする。相手は、アルマ同様の秘密調査員。

「ヴァイオレット、任務の指示だ」

131スゴロク:2012/07/08(日) 14:00:02
「とんだ災難だったようだね、ヴァイス君」

何処とも知れぬ薄闇の中、仮面をつけた男がそう言った。
対面する黒衣・ヴァイスは、肩を竦めつつ応じる。

「ですが、概ね筋書通りには行きましたよ。壊すまでには至りませんでしたが、見るべきものは見ましたからね。それに、アナタのこの力、有効に使わせていただきましたよ」

ヴァイスが言っているのは、仮面の男・ピエロの特殊能力「ヤミまがい」である。

「初見であれだけ使いこなせるとは、実際大したものだよ。僕ら『運命の歪み』以外で、あのレベルまで同調したのは彼くらいのものだ。たいていの人間は、逆にヤミに心を呑まれて死ぬのだけどね」
「彼?」

知らない人物の示唆に問い返すが、ピエロは「昔の話だよ」と話を逸らす。
ヴァイス自身もそれ以上の興味は抱かず、話を変える。

「ともあれ感謝しますよ。これで、少しは逃げやすくなりました」
「逃げる? ……もしかして、あのお嬢さんかい?」
「ええ」

ヴァイスの顔に、今度は珍しく渋い色が浮かぶ。
ピエロが言っているのは、ヴァイスを執拗に追いかけ回す「シャルラ=ハロート」という少女のことだ。
これは、彼が調査と情報の重要さを痛感することとなったある一件に関係している。
以前、ヴァイスは彼女をターゲットとし、その住まいであった孤児院を人員ごと破壊したのだが、

「あれは完全なる失敗でしたね。まさか、彼女が孤児院で孤立しており、それを破壊したワタシに思慕を寄せるとは」
「さしもの君もそこまでは予想外だったか」
「ええ。事前調査の不足がここまで響くとは……」

ヴァイスという男は実際、愛だの恋だのという感情には(あくまで自身に関する限りは)絶無のレベルで興味がない。脚本執筆に必要ならばいくらでも調べるが、そうでなければ全く気に留めない。
だからこそ、

『ヴァ〜イ〜ス〜さ〜ん!! うふふふふふふふふ〜』

明らかに壊れた笑みで自分を追って来る彼女が疎ましい――――というよりは、正直空恐ろしいものを覚える。
自身、狂人であることを語って憚らないヴァイスでさえこれであり、彼よりいくらかマシな精神を持つピエロ、運命の歪みの中ではかなりマトモな部類に入る澪やジェスターは一度目にした際には完全に引いていた。

もっとも、ヴァイスがシャルラを避ける理由は、単にストーカーを逃れるという以外にもう一つある。
それは、

「彼女はワタシの足取りを掴むと蛇のようなしつこさで追ってきますからね……」
「なるほど。居場所や気配を隠蔽し、密かに事を運ぶ君にとっては、敵とは別のベクトルで厄介な相手だね」

そうですねえ、とヴァイスは嘆息する。
幸いなことにまだ彼女の存在はウスワイヤ側には知られていないようだが、ホウオウグループは情報面で数段上回る。何の拍子で彼女を捕捉し、そこから自分を見つけ出すかわかったものではない。

(まあ、彼女にも利用価値はあります。害にならない程度には、使わせてもらうとしましょう)

それがどれほど歪んでいても愛は愛だ。
しかし、ヴァイス=シュヴァルツという男は、愛でも憎しみでも、自分に感情を向ける相手を―――否、究極的には全ての相手を、駒あるいは役者としてしか見ていないのである。

(当分は、隠れ通すしかなさそうですがね)

その在り方が何に準じたものなのか、彼は知らない。

132スゴロク:2012/07/08(日) 14:02:23
ヴァイオレットへの通達を終えたあと、ゲンブは一礼して踵を返す。
が、思い出したように振り返り、獏也にある事実を告げた。

「っと、忘れていました。教官、もう一点あります」
「何だ?」
「先の一件の直後、謎の人物と遭遇しました」



それは、夕陽が美琴を叱咤し、事態が少し落ち着いた後のことだ。

「いつまでもここにいてもしょうがねぇ。ひとまず場所を変えようぜ」

流也の提案で、一同がその場を後にしようとした、その瞬間だ。
何かに気付いたマナが、弾かれるように後ろを振り返った。

「待って。誰か来た」

それにつられて後ろを見た一同は、一瞬絶句した。
そこにいたのは、古びた帽子と、同色のコートを着た長身の痩躯。

「な……てめぇ、戻ってきやがったのか!?」

司が美琴を庇うようにして前に出、他の面々も一様に臨戦態勢を取る。
だが、その男は帽子の下から一同を睥睨し、物憂げに言った。

「戻って、か。……つまり、もうここにいないのか、奴は」

その声は、よく通るが何かと癇に障る、ヴァイスの声とは全く違っていた。
重く厚みを持った、成年男性の声。

「……ヴァイス、じゃないのか? 誰だ、キミは?」

怪訝な顔で問うたのはアルニカだ。
その問いに、謎の男は彼女を見るでもなく視線を巡らせ、なぜかマナで一瞬その動きを止める。

「……?」

自分がこの男を知っているような気がして、マナは内心首をかしげた。
その間にも、男は言う。

「誰だ、か。俺は……」

妙な、数秒の空白。それを置いて、ヴァイスと同じ帽子とコートの――――よく見ると、濃い藍色の――――男は、名乗る。


「『ブラウ=デュンケル』。幸いだ、そう呼んでくれればな」


帽子から覗くその男の髪と目は、薄い青を宿していた。

紫と緋と藍と

(動き出した紫)
(止まらない緋)
(現れた藍)

(それが何を起こすのか、まだ誰にもわからない)



ということで、美琴の事後処理とヴァイスの動向、そして謎の男登場でした。

ネモさんより「七篠 獏也」YAMAさんより「ピエロ」名前のみ「ジェスター」十字メシアさんより「シャルラ=ハロート」名前のみ「澪」「紫苑(ヴァイオレット)」紅麗さんより「アルニカ」(六x・) さんより名前のみ「不動 司」「崎原 美琴」「崎原 笙子」えて子さんより名前のみ「笠村 夕陽」をお借りしました。

ブラウについては後ほど企画スレに投下します。

133スゴロク:2012/07/09(月) 00:21:39
アッシュ関連で少々。



「ふむ……?」

某日。クロウは、自分に届いたアッシュ関連の指示に関して未だに真意を図りかねていた。
問題なのは監視命令の最後についた一文、「最悪の場合生死不問」。
これがどうにもこうにも納得しきれなかった。

アッシュに対してどう対応すべきか―――元・裏切り者のジングウ旗下なので、クロウとしては当然警戒する―――ホウオウの意見を仰いだところ返ってきた答えがこうなっていた。

だが、いくらなんでも「生死不問」は意図が図れない。
面従腹背とはいえ、ジングウは現在の所グループの害になるような行動は特にとっていない。アッシュにしても、そこここに危ない行動は見られるが反逆の意思は見られない。
むしろ、アースセイバーのエースである都シスイをターゲットに定めているのだから、これはある種歓迎すべきことだった。

だからこそ、クロウはこの指示の意味がわからない。監視は無論。問題が起これば対応する。しかし、生死を問わないとはどういうことか?

「総帥は何を考えておられるのか……」

一度は割り切ったもののやはり気になり、毎日毎日考え続けているが、一向に答えが出ない。
どうやらこの日も、結論は出そうにない。




「ルーツ」
「ん?」

某所。
書類仕事に励んでいたルーツの許に、ナハトが訪れていた。珍しく一人だ。

「あれ、ミーネは?」
「部屋だ。戻るまで出ないよう言っておいた」

ミーネことミネルヴァは、あらゆる障害を無視して移動する能力を持つ少女だ。この間などは勝手に飛び出した挙句、こともあろうにウスワイヤに侵入して来たという呆れた事件を起こしている。
だが、「夜姉ちゃん」と慕うナハトのいう事はよく聞くので、この分なら安心だろう。
さておき、

「で、何か用か?」
「ああ。AS2に関する指令が出ていたはずだ。それを確認したい」
「AS……ああ、アッシュね。ちょいとお待ちを〜、ッと」

しばらく机の中をごそごそやっていたルーツだが、程なくして一枚の書類を取り出した。

「ほい、こいつだ」
「助かる。……」

ナハトが確認した、その指示。

『近隣のメンバーで監視を行え。有事の場合対応は一任する』

「……やはり」
「どうした? 何が、『やはり』なんだ?」

のんきに聞き返して来るルーツに、ナハトは逆に問う。

「ルーツ。この指示は、誰に回した?」
「あー? 今のとこ、クロウに渡しただけだが」
「……だとすると、その間に改竄があったようだな」
「何?」

聞き捨てならない単語を耳にし、ルーツの目が一瞬で据わる。

「おい、改竄ってどういうことだ」
「クロウの受け取った指示には、『最悪の場合生死は問わない』という一文がついていた。だが、今確認したこれにはそんなことは書かれていない」

生死は問わない。つまり、何か問題を起こしたら殺しても構わないということだ。
いくらアッシュが、造り主のジングウが危険とはいえ、こんな指示は通常ありえない。
ナハトが注目したのはそこだった。ホウオウの指示でないのなら、誰かが勝手に内容を付け加えた、ということだ。それも、明らかに「千年王国」に害意を持つナニモノカが。

「……俺はクロウに直接渡したんだが」
「では、誰から受け取った?」
「……たまにこっちに来る連絡員だ。スパロウが知ってるはずだ」
「では、そいつを当たってみるか……」

こうは言ったが、ナハトは手がかりが得られるとは正直な話、思っていなかった。
というのは、連絡員は基本的に末端であり、指示伝達は大規模な行動でない限り文書を何度も受け渡して行われる。その間に誰が介入したのかは、実際に指令が出てからかなり日が経った現状、もはや調べようがない。
それをわかっているがゆえに、ルーツも言う。

「正直、犯人が見つかるとは思えねえんだがな……」
「同感だが、調査はしておかねばならない。組織内に裏切り者がいる可能性も、否定は出来ないのだからな」



鴉の悩み、夜と白の調査



「ホウオウグループが動きましたよ。まあ、ワタシの介入だとはさすがに気づかないでしょうがね」
「騒ぎの拡大と仲間割れを、たったの一文で同時に狙うとは……怖いね、君は」



十字メシアさんから名前のみ「アッシュ」akiyakanさんから名前のみ「ジングウ」YAMAさんから「ピエロ」をお借りしました。
ヴァイスの手がホウオウグループまで廻っている、と布石を打っておきたかったのが本音です、ハイ。
そしてこれを書くまでアッシュをakiyakanさんのキャラだと勘違いしていた自分。アホか私はぁぁぁぁぁぁ!!?

134(六x・):2012/07/09(月) 01:33:18
>スゴロクさん
アッシュ君はakiyakanさんのキャラであってますよー。大丈夫です。


そして、美琴の一件から2日後に美弦(美琴のパパ)が沖縄にいる父(美琴の爺)に会いにいきました

135スゴロク:2012/07/09(月) 08:22:46
>(六x・)さん
あれー!? 正しかったんですか!?
企画wikiでアッシュの項を見たところ、製作者が「十字メシア」となってたものですから……。

akiyakanさん、十字メシアさん、重ね重ね失礼しました(謝
そして(六x・)さん、指摘感謝します。

136スゴロク:2012/07/09(月) 08:31:52
アッシュの項の製作者名を修正しました。
いかん、どうにも頭がボケている……。
製作者間違えるとかこのスレで一番やってはならないことをorz

しばらく頭冷やしておきます。

137十字メシア:2012/07/09(月) 15:15:05
>スゴロクさん・(六×・)さん

こちらもすいません!;
昨日の編集に見落としてしまいました…手間をおかけして申し訳ないですorz
では本題でスゴロクさんの「紫と緋と藍と」の同時刻の話。
スゴロクさんから「水波 ゲンブ」お借りしました。


「…という訳だ。崎原 美琴の監視に当たってくれ」
『………』


『お前馬鹿か?』


「…開口一番がそれか?」

アースセイバーの能力者、水波 ゲンブは連絡先の相手…紫苑の最初の発言に溜め息をついた。

『何で私なんだ!? 一条寺…あ、いや、そもそも秘密調査員でなくてもいいし、というか他にも適役いるだろうがこの唐変木老け出歯亀が!!』

更なる言葉の刃に気が滅入りそうになるゲンブだが、ここで折れるわけにいかない。
それに、彼女がこういう暴言を吐きがちなのは元より知っていた(何故かまでは分からないが)。

「…これは上層部からの命令だ」
『フン、我を通す為に上層部という単語を使うか』
「だからと言ってやらないとは言わせんぞ」
『………』
「とにかく、引き受けろ」
『……………まあ、仕方ない、な。分かった』
「うむ、頼んだぞ」


獏也との話し合いを終えた後、ゲンブは自室に戻っていた。
ふと彼は、ヴァイオレットの事である事に気付く。

(そういや…ヴァイオレットは他人が絡む仕事を極度に嫌っていたな…)

今回で『他人』に当たるのは崎原 美琴。
しかしそれ以外に分かる事は無かった。


「…はあ」

一方、ヴァイオレットこと紫苑はたった今言い渡された任務の内容により、憂鬱な気分に襲われていた。

「何か、まあ…もう嫌だ…」

「どうせいずれは会話するだろうに…」


紫と北の通話


(他人と絡むのが嫌いな彼女)
(それもそのはず)
(実は”コミュ障”人間なのであった)

138十字メシア:2012/07/09(月) 15:16:46
もう一つ小話を。
しらにゅいさんから名前のみ「張間みく」お借りしました。


いかせのごれ高校、廊下。

「ねーねー、張間の靴どこに捨てようか?」
「そこら辺の茂みでいーんじゃない?」
「アハハハ!」

毎度ながらみくを虐めている女子達が、またもや愚劣な会話をしていた。
その時、そんな会話を陰で盗み聞きしていた二人が。
1年の名物的存在の双子、ヒオリとミドリである。

「…ミド」
「うん、ヒオ。今だよ」


「ホントあのブス死んで欲しいよねー」
「ウザいっての!」

ヒュンッ

「マジそれー! じゃあ靴捨てに…アレ?」
「どうしたの?」
「靴が…無い」
「は? 何でよ?」
「分かんないけど…でもちゃんと持ってたよ!」
「もしかしてこれかー?」
「ああ、それそれ。ありがと…って!?」
「アッハハハハ!」

女子達の内1人の反応が面白かったのか、ヒオリは大笑いする。

「ちょっとヒオリ! また邪魔しに来たの!?」
「そっちもまーたこんな事やってんのか? 毎日よく飽きないよな〜」
「うっさい! さっさとそれ返せよ!」
「え〜。ど〜っしよっかなぁ〜」

くるりと一回転した後、閃いた様な表情を浮かばせてヒオリはこう言った。

「じゃーあー…ミドどこかにいるから、見つけたら返すぜ!」
「ホントに?」
「おう、ここで待ってるし」
「しょーがないわね…探しに行くよ」

〜30分後〜

「くっそー! どこにいんのよアイツ!」
「もう無理矢理にでもぶん取ろうよ」
「そうだねー」

「ちょっとー! ミドリ見つからな―――」
と、三人はそこで固まった。
何故なら…。

「ありがとーヒオ!」
「見つかって良かったな、靴」
『ちょっと待てぇぇえええ!!!』
「あ、お帰りー」
「お帰りー」
「お帰りー、じゃねーよ! 何でここにいんのよ!! てか靴!!!」
「え、ミドリの靴がどうしたんだよ?」
『…は?』

ヒオリの発言に素っ頓狂な声を上げる三人。

「これ、あちきの靴だけど…」
「何言ってんのよ。ホントは張間の靴なんでしょ?」
「違うぜー。信じられないなら下足見てこいよ」
「嘘だったら承知しないわよ」

139十字メシア:2012/07/09(月) 15:17:16
「お、お帰りー」
「お帰りー」
『………』
「どうだった?」
「…あった」
「でしょー?」
「もうミドの靴とんなよー」
「………」

気疲れとチャイムで陰謀を諦める三人であった。


放課後、三人は昼の事を未だに納得せずにいた。

「絶対張間の下駄箱から取ったよね?」
「うん」
「でもアイツの靴見たの、あの時が初めてだし…」
『どういう事…?』


「ミド、今日も大成功だな!」
「だね! ヒオ」
「アイツら、今頃不思議がってるよな〜」
「まさか下駄箱の靴が、『魔法の本』で作った物だって思わないもんね〜」

と、ミドは薄汚れたみくの靴を見下ろして、にんまりと笑った。

「けど多分、みくもびっくりしてるな! 新品に変わっちまったんだし!」
「そうだね! 明日もアイツらが何かしてたらまたしっぺ返ししてやろ、ヒオ!」
「してやろうぜ、ミド!」


赤と緑の今日の喜劇

140スゴロク:2012/07/09(月) 17:23:36
久々のザ・スクールライフ、スザク一人称視点です。



「およ? 鳥さん、今日は早いなぁ」

玄関で靴を履き替えていると、廊下の方から声がかけられた。上履きをとんとん、とつま先で叩いて整え、あらためて顔を上げると、いたのは真二だった。

「おはよう」
「んー。それよか、いっつも遅刻寸前なのに、今日はまたどういう風の吹き回しだ?」
「そりゃ、いつまでも寝坊で遅刻、なんてバカは出来ないからな」
「そうか、鳥さんがいつも遅刻寸前なのは寝坊してたからか」

別の方向から別の声。振り返ると、今度は紀一だった。何だか納得したような表情をしてるのは気のせいか?

「他に何があるっていうんだ?」
「ネットとか、ゲームとか」

あいにくだけど、パソコンもゲーム機も僕は持ってない。携帯くらいだ。

(って)

思って気づいた。もしかして僕は時代遅れなのか? この文明の世の中で、パソコンすら持ってないって。
そんな僕の思いは知らず、いつの間にか現れていた勝也が言う。

「スザクがドジなんは今に始まったことじゃないけども、あの『時差ボケ君』よりはマシな方だと思うで」

これには、紀一も真二も「あー」と納得の表情を浮かべた。

「カケル、かぁ」
「確かにあいつのは並大抵じゃないけどよ……」

僕も知っているそいつは、時男 カケルという同級生だ。
身長の割に体重が50もないというやせ形で、ぼさぼさの髪によくわからない笑顔、という―――アオイに言わせれば「胡散臭い」―――外見でありながら、何でか女子に人気がある。ただ、物凄くルーズな時間間隔の持ち主で、まともな時間に登校してくる方が珍しい。

「……集まって何を話している?」

廊下の方から次に現れたのは、2m近い長身の男子生徒。学生服の上から真っ黒な上着を着た龍牙だ。トラックを片手で止めたとか、サバゲーを30秒で制圧したとか、人間離れした伝説が多い。

「お前か……ちょっとした世間話だよ」
「世間話か。呑気なことだ」

呆れたというか、何か「そういうものか」という平坦な調子があった。

「近越、水島は今日も休みか?」
「修一? や、今日は来とるはずやけどな」

言ってぐるりと視線を巡らせる勝也。けど、その姿はない。
修一はちょっと前まで……それこそみくがターゲットになるまで苛めの対象だったのだから、ある種仕方がない。

「そうか。では、後で挨拶でもしておくとしよう。転校して来てから、一度も会っていないからな」

龍牙は案外と律儀なやつだったらしい。「あとでな」と言い置いて、さっさとその場を後にしてしまった。
と思ったら、今度は入れ替わるように玄関から誰か入って来た。サングラスをかけた男子生徒だ。

「よ、皆の衆」
「その声は真か? 何てカッコしてんだよ」

紀一の問いに、その生徒は苦笑いしつつ答える。

「コレ外すと小学生に泣かれんだよ……俺は何もしてねぇのに」

藤枝 真というやつは、年齢に見合わない老けた風貌の持ち主で、なぜか通りがかりの子供に泣かれることが多いトラブル体質でもある。おかげで警察を呼ばれそうになったことも、一度や二度ではない。

「どーかな? 実はなんかしてたりして?」
「うお!? の、昇、脅かすんじゃねえよ!」

真の後ろからいきなり顔を出したもう一人は、新高 昇。狐目が印象的なこいつは、暇さえあれば真をおちょくって面白がっている困った奴だ。

「気づかないお前が鈍感なの。ったく、これだから枯れ枝は」
「藤枝だ! 枯れ枝言うな!」

いつもの言い合いを始めた二人はとりあえず放っておくことにして、時間を確かめる。
と同時に、

キーン、コーン、カーン、コーン、

という聞きなれたチャイムが耳を打った。……チャイム!?

「ホームルームに遅れる――――ッ!!」

叫んで飛び出した僕の後ろにみんなが続いたのかどうかは、覚えてない。




ザ・スクールライフ〜朝の一コマ〜

(結局のところ)
(スザクはどう繕っても、ドジである)


手慣らしに一本仕上げました。
町中の熊さんから「貝塚 真二」サイコロさんから「滝登 紀一」結構暇人さんから名前のみ「時男 カケル」りゃーwさんから「近越 勝也」名前のみ「水島 修一」エマノンさんから「藤枝 真」「新高 昇」445さんから「D-201I 02(龍牙)」樹アキさんから名前のみ「緑音 ののか」をお借りしました。

あえて小説の出番が少ない面子を拾ったのは仕様です。

141しらにゅい:2012/07/09(月) 21:47:51
「………わ!?」

 それは次の日の朝、張間みくが昇降口で靴を履き替えようとした時であった。
靴棚を前にして素っ頓狂な声を上げた幼馴染に、カイリは背後から声をかけた。

「…どうしたの?」
「あ、カ、カイ君…あのね…これ…」

 慌てた様子のみくが差し出したのは、いつも彼女が履いている上履き…ではなく、それとは真逆の、
新品同様の真っ白い上履きであった。靴棚を開いたら上履きがなく、授業開始ギリギリの時間まで靴を探すというのが常であったが、
今日は初めからそこにあった上に、まるで魔法をかけられたガラスの靴のように、新しい上履きが入れられているのだ。
これには流石にカイリも驚いていたのだが、冷静に考え、彼女にこう尋ねた。

「…買い換えた?」
「そっ、そんなことないよ…!だってボク、持ち帰ってないし…」
「じゃあ、誰かが間違って入れたとかじゃ……?」

 ふと、カイリは背後に視線を感じ、みくを背にして振り向くと、そこには靴棚の影から漫画のようにこちらを見つめる赤と緑が二つ。
みくもカイリもよく知る、双子のヒオリとミドリだ。二人はカイリと視線が合うと、にんまり笑い、互いに顔を合わせてハイタッチをした。

「やったなミド!だーいせいこう!」
「みくもカイリも驚いて大成功!」
「えっ、えっ、な、何したの?ヒオくん、ミドちゃん…?」

 うろたえているみくを余所に、二人は影から躍り出て彼女を挟むと、嬉しそうにみくへ告げた。

「みくに新しい上履きプレゼントー!」
「みくはいい子だからなー!サンタからプレゼントだ!」
「サッ、サンタって時期違う…」
「「じゃ、またあとでー!!」」
「あっ」

 みくの頭を同時にぽんと叩くと、ヒオリとミドリは手を繋ぎ、土足のまま嵐のように走り去ってしまったのであった。
ぽかんとしているみくを尻目にカイリは、あの二人の仕業ならば、盗んだわけではないのだろう、と判断し、
履き替えた上履きの靴先をとんとんと地面に付けながら、彼女に声をかける。

「あの二人がプレゼントって言うなら、受け取れば?」
「で、でも…」
「人の好意には甘えるべきだよ。」
「………」

 少しだけ、カイリの顔と上履きを交互に見つめながら困惑していたみくであったが、素直に真新しい上履きを履き換えると、
カイリの横に並ぶ。彼は軽く頷き歩き出すと、彼女もその後を追ったのであった。
その日の朝は、いつもの朝よりも少しだけ幸せだと、みくは感じた。

142しらにゅい:2012/07/09(月) 22:03:48



「あ、の…」
「ん?…あれ、確か君は一年の…」

 昼休み。火波スザクがトイレに行こうと教室を出たら、入り口で張間みくと遭遇したのであった。
ここ最近何かと噂に聞いていた彼女はびくびくと怯えた様子で自分を見上げており、一体何の用事だろうかと、
スザクはなるべく安心させるよう、優しい声色で尋ねた。

「どうしたんだ?誰かに用事でも?」
「え、と…その………ザキ…せんぱい…に…」
「…ん?」

 聞き取れないと顔を近付けたら、みくは勢いよく彼女に袋を突き出してきた。
目の前に突き出されたのは焼き菓子らしきものが中に入っているラッピングされた小さな袋であった。
一瞬何事かと呆けてしまったスザクに、みくは何故か目に涙を溜めながら叫ぶ。

「アっ、アオザキ先輩、に、ありがとうございます、って、っお願いします!!!」
「へ?あ、おい!!」

 そう叫んだみくは勢いよく頭を下げると、困惑しているスザクの制止も聞かず、
一目散にその場から逃げ出してしまったのであった。

「…な、何なんだ…一体全体…」
「どーしたの?鳥さん。」

 教室の入り口で呆然と突っ立っているスザクにトキコは声をかける。
しかし、その視線が右手の袋に写るや否や、目を輝かせて教室の方を振り向くと、こう叫んだのであった。

「鳥さんが女の子からお菓子貰ってるー!!!」
「な゛っ、ちが!!」
「おー、鳥さんモテるなぁ。」
「まぁ鳥さんだしな。」
「そういう趣味だったのかお前!」
「おいトキコはいいのか!?」
「姉様…」
「ちが、違うってアオイ!これはケイスケにって!!」

 好き勝手騒ぐクラスメイトに暴走しかねない妹を危惧したスザクは咄嗟にそう弁解すれば、彼らの視線は一斉に蒼崎啓介へと向けられた。
当の本人はお弁当を食べているので下を向いていたのだが、顔を上げると大量の視線に驚き、思わず箸を落としてしまったのであった。

「…俺がどうかしたか?」
「まぁたまたしらばっくれちゃってレーザー君!」
「ケイスケ、いつの間に一年の子とデキて…!」
「…は?」
「あいえすいませんなんでもないです。」
「ごめんなさい。」

 囃し立てようとしたハヤトとトキコに、ケイスケはドスを聞かせ視線で制すると二人はいとも簡単に土下座して謝罪したのであった。
ため息を付きながら彼は立ち上がると、空になったお弁当箱を仕舞い、教室を出た。スザクの横を通り過ぎる際、手からお菓子を取り上げるのを忘れずに。

「あっ」
「俺になんだろ?有難く貰っとく。」

 悪びれる様子も一切なく強奪したお菓子を片手に廊下を歩き去っていく同級生の背中を見送りながら、
スザクはぽつりと呟いた。

「何なんだ…ホントに…」
「あれ、タガリ先輩も貰ってたよ。」
「え?」

 いつの間にか土下座から立ち上がっていたトキコはスザクの背中越しからそう教えたのであった。
蒼崎啓介に汰狩省吾、そして張間みく。何か通ずる点でもあったのかとますます頭を悩ませるスザクに、
ニヒヒ、とトキコは笑った。

「多分ハリネズミちゃんがお礼したかったんじゃないの〜?精一杯の感謝の気持ちってね。」 
「…トキコは何か知ってるのか?」
「んー、秘密。」
「………」

 結局、火波スザクは悶々とした想いを抱えながら昼休みを終えたらしい。

143しらにゅい:2012/07/09(月) 22:11:14


「…なんか、みっちゃん変わった?」
「えっ?」

 放課後。緑音ののかと共に帰り道を歩いていた張間みくは唐突に告げられた。
何が変わったのか、むしろ悪い方に自分は変わってしまったのかと徐々にうろたえ始めていると、
ののかは続けてみくに喋った。

「うーん、最近のみっちゃんは前のみっちゃんと違うなぁって…」
「ち、違う、の…?」
「うん、なんか臆病じゃなくなった、っていうのかな?結構あっちこっち走ってるし、
笑ってることも多いし、楽しそう!」
「…そう、かな?」

 確かに、あの一件を通して確実に何かが変わっているとみくは薄々感じていた。
目に見えた変化としては、いじめが少なくなったことだ。物が消えるのは相変わらずだが、
あの時のように休み時間に誰かに呼び出され暴力を振るわれることが少なくなったのだ。
誰かに連れ出されようとしたならば、そこを都シスイや汰狩省吾といった先輩達が止めてくれる。
机や黒板に落書きをされたのであれば、冬也やカイリといった同級生が一緒に消してくれる。
自分はその好意に甘え、そして時には相談をし、いじめに耐えてきた。
そうしている内に彼女は気が付いたのだ。自分ひとりだけだと思っていた周りにはたくさん人がいたことに。
それは、あの時汰狩省吾から言われた言葉そのものであった。

「…あのね、ののかちゃん…」
「ん?」
「…ボク、やっと先輩の言葉が分かったんだ。ボクは独りじゃないって…だから、きっと、変わっていってるんだと思う…」

 まだまだ自分は臆病だ、自責の念も拭う事が出来ない。
けれども、周りにいる人々のおかげで自分は無意識に変わろうとしているのだ。
そう思うと、張間みくは嬉しくてたまらなかったのであった。
明日ももっと、自分は変われるのだろうか。
そのような淡い期待を抱いて見上げた空は、もうすぐ夜が訪れる薄暗い夕焼けの空であった。



***


「ねー、サヤカ。」
「んー?」
「最近さ、みくの周りに人いすぎね?」
「あ、私も思うそれ。なんか気持ち悪いよね。」
「ねぇ、なんであんな奴護ろうとするんだか…わけわかんない。」
「だよねー!ばっかみたい!」
「アハハハ!ねぇ、サヤカもそう思うでしょ?」
「んー…」
「…ちょっと、サヤカ?聞いてんの?」
「あぁ、ごめん。聞いてなかった。」
「ちょ、っだからハリマがさぁ!!」
「あー、ごめん。その話、また後で。いこ。」
「え?うん…」
「………」
「…なんだよあれ、こっちはアンタの為にやってんのに!」
「ほんと!お高くとまってえらそーに、ホントサヤカってむかつく。」
「…ねぇ、最近、ハリマいじめ上手くいかないよね。」
「え?そうだけど…」
「じゃあさ、…



次、サヤカにしない?」










臆病の変化と



翌朝、サヤカが登校し、教室に向かう為の階段を昇っていると取り巻きの一人が彼女の前に現れた。
自分の友人の友人、そういった遠い関係にあたるどうでもいい人間であった。
朝の日差しをバックに自分の正面に立つ彼女は、気持ち悪いほど笑顔を浮かべていた。

「…サーヤカ!」
「…何?あんた…」

 気持ち悪い、と言葉を続ける前に彼女は両手を伸ばし、明るい声でこう言った。

「オハヨウ♪」

どんっ

 次の瞬間、サヤカの身体に軽い衝撃が走り、世界が反転した。

144しらにゅい:2012/07/09(月) 22:15:38
>>141-143 お借りしたのはカイリ・ハヤト(鶯色さん)、ヒオリ・ミドリ(十字メシアさん)、
蒼崎 啓介・火波 スザク・火波 アオイ(スゴロクさん)、汰狩省吾(スゴロクさん)、
冬也(六さん)、都シスイ(akiyakanさん)、緑音ののか(樹アキさん)でした!

少しは進展出来たかな…小話で色々絡んでくださってるので出来るだけ拾わせて頂いたつもりです!
さぁ、終わりまで駆け足でいくぞ!(`・ω・´)

145スゴロク:2012/07/09(月) 23:34:33
時間軸はしらにゅいさんの後になります。
が、今回は掟破りに走りました。

本文に登場人物がいません。あえて言うなれば啓介です。




社会、というものはある意味での閉鎖空間と言える。
ルールと言う大きな壁、不文律あるいは暗黙の了解という見えざるラインによって区切られ、その内にあるものを閉じ込める、大きな箱庭とも言い換えられよう。
無論、その壁を越えようとすれば、あるいはそのラインを越えようとすれば、社会の方からそれを弾き出してしまう。


翻って、これは学校というものにもそのまま当てはめられる。
違いと言えば、ラインの方が大きな力を持っているという一点。そして、そのラインはいくつも存在しているという一点であろうか。
そしてそれらのラインは、往々にして生徒の間に張られるものであり、また往々にして関わりのないものには全く感知の出来ないものであり、そしてまた往々にしてその中に入らざるものを攻撃しようとし、さらにまた往々にして対象の意思とは無関係に起きる。


人の数が多ければ多いほど、このような事例は増える。
ラインを張っている方は、それに当てはまらないものを攻撃する。この場合、当てはまらないものが、そのラインに当てはまろうとしているのかどうかは関係がない。
重要なのはただ一つ、その誰かが自分たちのラインに当てはまらない。その一点に尽きるのだ。

別の理由としては、ラインを維持するための生贄、というものがある。
この場合、信頼や協調という名を与えられているこのラインは、妬みや嫉みという名にすり替えられる。
そしてこの場合もやはり、対象の意思や真偽は関係がなく、ただラインを維持するために、あるいはそこから弾かれないために攻撃を行うのだ。

さらなる理由として、単純なものがあげられる。それは即ち、フラストレーションや生活の中で生じるストレスを昇華し、己の精神を守るための能動的な防衛衝動という観点である。
この場合、ラインには共犯あるいは連帯という名が与えられる。対象を攻撃することによって生じる罪悪感を軽減・消去し、己を守るためにラインを張るのである。罪悪感もまたストレスの一種である以上、精神的な面から見ればこれは至極当然の帰結と言えよう。

それに対して思うところがあるとしても、大抵はそれを表現することはない。それは即ちラインへの抵触であり、論を進めれば攻撃対象となるからだ。それでも表現するとすれば、それは立場として強いのか、あるいは攻撃を攻撃として受け取らないのか、そもそも興味を持っていないのか、大抵の場合そのいずれかに分類される。
そうして助けられた対象は、攻撃から外される。しかし、ラインを維持するため、あるいはそこから外れたがゆえに攻撃されるものはなくならない。



これは、学校という閉鎖空間が潜在的に持つ危険性の一つであろう。思考も志向も嗜好も指向も全く異なる人間が一堂に会しているのだ、ひずみの生まれない方がどうかしている。
彼らもそれを無意識の底で理解しているのだ。だからそのひずみを何とかしようと、全く見当違いな行動に出るのだ。その意味では、この「苛め」という攻撃衝動はなくなることはないのかもしれない。


亜當、阿厭、邂舉、亞吾、上会、倦充、唖合、呀在、堊婀、鴉安、宛当、或蛙、扛抵、揚痾、浴翹、錏辮。


まったく、何という世界だ。



蒼崎 啓介の頭の中


(常から無口気味ではあるが)
(頭の中では小難しいことを考えている)
(蒼崎 啓介はそういう男である)


最後の方の羅列、素で読めたら凄いです。  
というか、書いといてなんですが、これは小説なのか?(汗

146十字メシア:2012/07/10(火) 20:30:11
またまたこの二人。
しらにゅいさんから「サヤカ」お借りしました。


ある日のいかせのごれ高校、1年教室にて。

「………」
「〜♪ 〜♪」

無表情気味のサヤカの髪を楽しそうに弄っているのは、1年の双子の一人、ミドリだった。

「…何してんの?」
「あ、もうちょいだから動かないで!」
「………」
「…出来たー! チャイナヘアー!」
「チャイナ…?」
「はい鏡!」

と、どこからか取り出した鏡をサヤカの目の前にかざす。
確かにサヤカの髪は二つの団子になっており、チャイナヘアーというべきものに違いなかった。

「サヤカ可愛い〜似合ってるよ! セクシーチャイナガール!」
「………」

ぴょんぴょんと全身で喜びを現すミドリ。
しかし当の本人は。

バサッ

「アッー! 何で何で何でー!? 折角出来たのにー!!」
「別に頼んでないし」
「ぶー…」

不機嫌になるミドリ。
そこでサヤカはある事に気付く。

「…相方は?」
「ヒオなら図書室に本返しにいったよ」
「…あっそ」
「もう帰ってくる頃だけど…あっ、お帰りヒオ!」
「おー、ただいまミド。よっす、サヤカ」
「…ん」
「相変わらずノリ悪いなー」
「アンタ達が騒がしいだけでしょ」

サヤカは小さく溜め息をついた。

「そんなんじゃ青春くんが逃げるぜー!」
「逃げるぜー!」
「寧ろ大声上げるアンタ達から逃げてくわ」
「え、何でー?」
「何でー?」
「…その同じ返事すんのやめてくんない?」
「やだー」
「ヤダー」
「………」

そっぽ向くサヤカ。
それを見た二人は「ぶー」と膨れたが、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「サヤカって好きなお菓子あるー?」
「は?」
「因みにオレ、クレープ大好きー!」
「誰もアンタの好み聞いてないから」
「テヘペロ☆」
「ウザいってば」

しかし調子に乗る二人はまた「テヘペロ☆」と茶目いた。

「ねーねー何が好きなのさー?」
「………コアラのマーチとか」
「おー! あちきも好きー!!」
「オレもー!!」
「あーそー」

棒読み気味に返事するサヤカ。
とそこでチャイムが鳴った。

「昼休み終わったな」
「終わったー」
「ならさっさと教室に戻れば、鬱陶しいし」
「戻るぜー? でもその前に」
「ん?」

二人はお馴染み、顔を見合わせてにんまりスマイルをするとサヤカにこう言った。

「放課後、オレらが来るまで…」
「ここで待っててよ!」
「はあ? 何でよ」
『ふっふっふ〜』
「………」
「じゃあまた放課後ね! 絶対だよ!」
「絶対だぞー!」
「………何なのよ一体…」

147十字メシア:2012/07/10(火) 20:38:07
「………」

サヤカはちゃんと教室で待っていた。

(…私何やってんだろ)

しかし、流石に約束(あちらから一方的にしたのだが)を放ってしまうのも可哀想なので、おとなしく待つ他無い。

「……………遅い」

15分は過ぎているだろう。
他のクラスメイトも帰ってるか、他の場所にいるかで、今ここにいるのは彼女ただ一人だけだった。

「やっぱりからかっただけなのかな。もう帰ろ…」

と立ち上がったその時。

『サヤカー!!!』
「!? えっちょ、うわっ!!?」

いきなり目の前に躍り出たヒオリとミドリによって、サヤカはうつ伏せに押し倒されてしまった。

「あははーごめーん」
「ごめーん」
「…のいて。重いし邪魔」
『はーい』
「……で? 何なの?」
「うん! ミド!」

促されたミドリは鞄からビニール袋を取り出す。

「何それ?」
「サヤカにプレゼント!」
「…もっとマシな袋無かったの?」
「まあまあ、中身見てみろよ」
「……!」

袋の中に入っていたのは、自身が好きだといっていた、あのお菓子。
しかも結構な数がある。

「……」
「サヤカびっくりー!」
「大成功ー!」
『イェーイ!』

大喜びでハイタッチする二人。
だが―――。

「……何のつもり?」
『?』
「私に優しくしてどうしたい訳? 良い人ぶってるつもり?」
「サヤカ?」
「どしたの?」
「私、偽善者とか嫌いなのよ。ほっといてくんない?」

第一この手じゃ食べれない―――そう言おうとした時。


『ぎぜんしゃって何?』

148十字メシア:2012/07/10(火) 20:38:51

「……は?」
「それにオレら、サヤカの友達だよな?」
「うん、それにそれに友達ってこういう事するんだよね?」
「え…ちょ、え?」
「ねえサヤカ、あちきらとお菓子食べよ!」
「食べよーぜサヤカ!」
「………」

拍子抜けしたサヤカ。
すっかり双子のペースに乗せられてしまっていた。

「…あのさ、私…手使えないんだけど」
「じゃああちきが食べさせたげる!」
「え……でも」
「恥ずかしがらなくていいぞ?」
「…ていうか、これいつ買ったの?」

約束したのは昼休み。
その後買いに行く時間は無いはず。
すると二人はこう答えた。

『魔法の本で作った!』
「はあ? またそんな―――」

と、サヤカの瞳にミドリの鞄が映る。
ジッパーの隙間から除き込む古ぼけたハードカバーの本を見て、サヤカは言いかけた言葉を飲み込んだ。
確証は無いに等しいが、それでも彼女はそうだと気付いた。
二人の言う「魔法の本」がこれなのだと。

「…とりあえず、自力で食べれるから」
「無理しなくてもいいぜー?」
「いいよー?」
「平気だっつの。寄越せ」
「あいよ」

ヒオリがサヤカの手のひらにコアラのマーチを落とす。
サヤカはそれを口元に持っていくと、一気に食べた。

「おー」
「どう?」
「……美味しい」
「でしょー?」
「オレも食べる!」
「あちきも!」
「え、私へのプレゼントじゃないの?」
「食べたくなった!」
「それにいっぱいあるし!」
『ねー!』
「…はあ。もういいよ、勝手にすれば」
「やったー!」
「サヤカ大好きー!」
「ちょ! ミドリ抱き着かないでよ!!」
「ずっと友達ー!」
「友達だー!」
「…………」

サヤカはなんとも言えない気分で二人を見つめるのだった。


赤と緑とその友人


(…まあ)
(久しぶりに好きなお菓子食べれたし)
(一応感謝はしよう)

149スゴロク:2012/07/10(火) 22:05:39
ふと思ったのですが……小説の最後、タイトルの後に( )で追記やキャラの心情を描写するのって、いつ頃、誰が始めたんでしたっけ?
私はしらにゅいさんの真似をして始めたのが定着したんですが。

150十字メシア:2012/07/10(火) 22:28:40
>スゴロクさん

自分はスゴロクさんですねww
緋色の中で系列序盤は意識してませんでしたが。

151えて子:2012/07/13(金) 07:07:58
久しぶりに小説投稿をば。
「揺らぐ視界、揺れる心」の続きみたいになります。
名前のみスゴロクさんから「赤銅 理人」さん、「火波 スザク」さん、同じく名前のみ十字メシアさんより「角枚 海猫」さんをお借りしました。
ほぼ佑のみです。



「………ぬぅ……」

小さく身じろぎして、佑は目を覚ました。
たっぷり寝たおかげか、寝る前は酷かった頭痛やだるさがだいぶ治まっている。

「………今、何時…」

寝起きで上手く働かない頭で机の上を探し、卓上時計(日付表示機能付)を手に取る。
そのままぼんやりと日付と時刻を確認し、目に映った日付と時刻を見て、勢いよく飛び起きた。

「…………うそっ、ほぼ丸一日寝てたの!?」

眠気も何もかも吹っ飛んで卓上時計を凝視する。
慌ててカーテンを開けると、昨夜までの雨はやみ、外は夕闇に包まれていた。

「うわぁ……完全にさぼっちゃったどころの話じゃないな……
……しかも制服のまま寝ちゃった。皺だらけだよ…」

寝押しで何とかなるかな、とぼやきながら、制服を脱いで楽な部屋着へと着替える。
三つ編みを解いてベッドにもう一度倒れむと、天井を見上げた。

「……寝て起きたら、夢でしたー…とかいうオチじゃあ、ないんだよね。やっぱり」

昨日の出来事を思い出して、ぽつりと呟く。
腕や足にできた擦り傷も、体の痛みも本物である以上、それはありえない。
ということは、やはり自分は『能力者』であるわけで―

(本当に信頼が置ける人にだけ話して、あとは隠して生きろ…か)

能力の存在を教えてくれた彼―赤銅理人の言葉を思い出す。
何度も念を押され、それでも自分で選んだため文句は言えないが、とんでもない事実を突きつけてくれたものだと思う。

(…でも、信頼が置ける人ったって、誰に話せばいいんだろうね…)

さすがに秘密を話すといったノリで話していいものじゃないだろうということぐらい、佑も重々承知している。
だからこそ、誰に話すか悩む。

(…………まあ、まだ誰にも話さないでいいか)

しばらく考えた後、佑はこう結論付けた。
幸い、自分の能力とやらは能力者が怪我をしない限りは発動しなさそうだということを聞いている。
ならば、黙っていても問題ないだろうと考えてのことだった。

それと、理人の話で気になる事がもうひとつ。

「……なんで、スザクさんなんだろう…」

火波スザク。2年2組の生徒。
図書室にもよく顔を出すため、佑も顔を知ってはいるが、親しく話したことはない。
せいぜい本の貸し借りで数回言葉を交わす程度だ。
そんなほぼ接点のない相手にいきなり相談を持ちかけられても、困惑するだけだろう。

「…まあ、理人さんも『本当に困ったら』って言ってたし…相談するのは最終手段にするとしても…せめてどんな人かは知っておきたい、よなあ…」

そう呟き、誰かに聞こうかと考えて、ふと親友の海猫の顔が浮かんだ。
彼女は行動的で顔が広い。下級生にも友人がたくさんいると聞いた。

「海猫なら…何か知ってるかもしれないな」

無断欠席の言い訳も兼ねて、海猫に聞いてみようと携帯電話を探す。
いや、探そうとした。

「…………そうだよ。携帯、あの時なくしたんだった……
ああ……探さないと…でも跡地行くのもうやだなぁ…」

パニッシャーに襲われた際、携帯電話を紛失したことを思い出して頭を抱えた。

「夢であってほしかった……」

げんなりとした呟きは、空に消えた。


思案、夕闇の中で

152スゴロク:2012/07/14(土) 21:39:48
紅麗さんに描いていただいたイラストで火がついてしまったので、短編を一丁。
蒼崎家の夕食です。ついでに言うと、美琴の一件が片付いた後を想定。




「…………」

その時、蒼崎 啓介は悩んでいた。
学校帰りに聖からストラウル近辺に呼びつけられ、「ブラウ=デュンケル」なる謎の男に対する調査を委託された。
何でもその男、最重要警戒対象であるヴァイス=シュヴァルツと酷似した格好をしており、彼奴と何らかのかかわりがあることを示唆して去って行ったというのだ。
敵にせよ味方にせよ、放っておける話ではない。

『そーゆうわけだ。細かい手掛かりでもいい、見っけたら俺に報告しろよ』
『……了解。ただし、報告先は七篠教官かゲンブさん辺りにしておく』
『ちょっと待てや、どういう意味だ? 俺には教えられねぇってのかよ』

凄む聖だが、啓介はまるで怯まない。どころか、ジトッとした目で睨み返し、

『あんたを単独で動かしたら、また問題起こすかも知れないんでな』
『問題だとぉ?』
『……俺は忘れてないぞ? あんたのおかげで真衣が日常から引き剥がされたことをな』

今度は聖が黙った。
この蒼井 聖という男、元カルーアトラズ勤務という経歴から能力者嫌いな性格であり、個々人ごとに対応策をメモした「能力者の簡単な殺し方」なる手帳を持っていた程である(真衣の一件をきっかけに、シノが没収・処分している)。

そして、以前は真衣の情報を聞きつけて独断で確保に動いた。その結果、命の危機にさらされた真衣は特殊能力を暴走させ、自らの時間を止めて昏睡に陥ってしまった。
啓介がアースセイバーに所属するようになったのもこれが原因であり、当然の如く自分達の日常を破壊した聖に対しては全く良い感情を持っていない。

『そりゃ、独断で動いた俺にも責任はあるがよ。能力者って以上、いずれは確保命令が下ってたはずだぜ』
『だとしても、そこには、あんたはいなかっただろうけどな』
『ケッ、減らず口だけは一丁前だな。大体あれだ、いくらまともに力が使えねえからって、兄貴のてめえに「監視」を命令するとはよ。甘いんだよ、俺に言わせりゃあ』
『……じゃ、あんたならどうするんだ?』

微妙に啓介の目が据わったことに、聖は気づかない。

『んなの決まってるだろうが。どっかに監禁して、下手な動きを見せりゃ殺す、それだけだ。何なら今すぐにでも――――』

浮遊感を覚え、無茶苦茶に回転する視界の中、しまった、と思った時には既に遅かった。

『―――ぉぉぉぉおおおおぉ!!?』

啓介のサイコキネシスで思いきり投げ飛ばされ、聖は瓦礫の山に突っ込んで意識を失った。




このような経緯が証明するように、啓介にとって最大のウィークポイントであり起爆装置と言えるのが、4つ下の妹・真衣の存在である。諸々の事情で二人暮らしなだけあり、啓介の妹に対する入れ込み様は半端ではない。
学校ではそんな様子は欠片も見せないが、真衣の話題になると(そんな機会自体ほとんどないのだが)強引にでも首を突っ込んでくる。

それだけに、彼は真衣には徹底的に弱い。彼女のいわゆる「お願い」を断れたためしが一度もないのである。
これは、彼女が暫定的ながらアースセイバーに仮登録されている現在、ますます深刻化している。

153スゴロク:2012/07/14(土) 21:41:15
そんな彼は現在、聖を投げ飛ばしたその足で帰宅し、真衣が用意していた夕食の席についている。
諸事情あって現在休学中の彼女は、たいていの場合自宅か、ランカの家にいる。そして、夕食はその日早く帰った方が用意するのが決まりだ。
真衣の作る食事はとにかく出来がよく、味はもとより量・盛り付けまでほぼ完ぺきという、素人のレベルでは最高峰のものだ。

そんな贅沢なものを前に、啓介が悩んでいるわけ。
それは、

「? 啓兄ちゃん、サラダ食べないの?」
「ん、ああ……」

真衣が取り分けた、レタスとトマトのサラダだった。
基本的にこの兄妹は好き嫌いがないのだが、啓介は唯一つ、トマトだけが致命的に苦手だった。
味はともかく、食感と匂いがどうしてもダメなのだ。ことに、生となると「全然」のレベルで駄目だ。
兄としての見栄なのか何なのか、このことは真衣には(無論というか)教えていない。

「?」

ハンバーグやひじきの煮物など、他のものはどんどん箸を進める啓介が、サラダには一向に手を付けようとしないのに、さすがの真衣も怪訝な顔になる。

「!」

それを敏感に察知した啓介は、とりあえずレタスを一枚頬張る。

「もぉ、ちゃんと千切って食べないと行儀悪いよ」
「(咀嚼、しかる後嚥下)ん、すまん」

とりあえずは何とかなった―――と思ったのも束の間。
食事が終わりかけた時分になって、また真衣が尋ねてきた。

「あれ、トマト食べないの?」
「…………」

啓介の皿の上には、レタスが数切れと、切り分けたトマトが4つまとめて(つまりは半個)残っていた。
何とかならないか、と啓介は打開を試みるが、

「先に部屋に行っててくれ。食べたら俺も戻る」
「ダメ。まとめて片付けないと手間だもん」
「ああ、俺が……」
「それもダメ。啓兄ちゃん、いっつも洗い方が大雑把なんだから」

あまりにもその通りな真衣の反論で潰えた。
いよいよ以って進退窮まった啓介だが、ここでさらに状況が悪化する。しばらく疑問符を浮かべていた真衣が、「あ、そっか。しょうがないなぁ」と何やら納得したような声を上げ、フォークを取って対面の席に戻る。
そして、

「はい、啓兄ちゃん」
「……何だ、これは?」

そのフォークでトマトを一切れ刺すと、啓介に差し出して来た。

「何って……食べさせて欲しいんでしょ?」

何故そうなる!? と叫びかけた啓介だが、辛うじてそれは堪えた。これ以上事態をややこしくしては後が面倒だった。
そんな兄の逡巡など露知らず、真衣は満面の笑みに可笑しみのスパイスを混ぜつつ、

「でも、啓兄ちゃんって案外甘えたがりなんだね。ちょっと意外」
「………………」

否定したかったが、冷静に考えると否定できる要素がほとんどないのに気付き、そちらの意味でも啓介は懊悩した。
―――傍から見れば懊悩するまでもなく、紛れもないシスコンなのだが、それはまあさておき。

「というわけで……はいっ、どうぞ」
「…………」

心底嬉しそうにトマトを差し出して来る妹に、啓介の頭の中ではなぜか「水戸黄門」の旋律で「どんぐりころころ」が流れつつ、昔の光景が廻っていた。




天国と地獄〜啓介と真衣の場合〜


(その後、蒼崎家では)
(狂ったように白米を掻っ込む啓介と)
(ひたすら首を傾げる真衣の姿があったそうな)

(どっとはらい)



名前のみネモさんから「七篠 獏也」十字メシアさんより「シノ」をお借りしました。

そのうち別の組み合わせでも書いて見ましょうかね。

154(六x・):2012/07/15(日) 01:49:55
崎原一族は、みんなタロット系の通り名がついていることにした。自キャラのみ&安定の会話文祭り


皇帝、法王に会う


事件から2日後、笙子はリビングで夫と話していた。美琴は、まだ部屋で寝ている。


「美弦さん、美琴なんだけど…明日から学校行かせた方がいいかしら?」
「いや、当分は休ませた方がいいと思う。友達に会って思い出すのもつらいからね。あの子は何も悪くないのに、ひどい奴だよ。」
「精神的ダメージが大き過ぎると、一時的に術が使えないのよね?…怒られるのを承知で言うけど、術が使えないまま一般人として暮らした方があの子のためなんじゃないかしら、って思ったの。」
「親としてはそういう考えもある、笙子さんを怒ることはできない。でも、今の美琴に『もう戦わなくていいから下がってろ』なんていったらますますふさぎ込んでしまうと思うんだ。大丈夫、僕がなんとかするから笙子さんは美琴の側にいてあげて。」

美弦は笑いながら言うと、鍵とヘルメットを持った。
「ブラックメテオは整備済みよ、美弦さん」
「さすが笙子さん、行って来るよ。」


数時間後、美弦は沖縄の地に愛機を停めた。横の建物には「崎原ガラス工房」の看板。

「…ここに帰るのも久しぶりだな。」

美弦が呟いた直後、工房から藍色の髪にタオルを巻いた青年が出てくる。美弦の父親、美琴にとっては祖父に当たる──崎原 弦正だ。

「でかい音がしたから美弦かと思ったが、やっぱりそうだったか。」
「うん。父さんってホント爺に見えないよねw」
「見た目若くても、もう何歳かもわからんボケ老人さwww…笙子さんからだいたいは聞いている、とりあえず入れ。」

弦正は工房の扉にかかったプレートを「営業中」から「準備中」に替えた。


「ごめんね、父さんも忙しいのに。」
「可愛い孫のためなら、これくらいなんくるないさー。さて、元々沖縄に住んでいた崎原一族のうちの何人かがいかせのごれに移民し、守人の一員になった事は知ってるな。」
「あぁ、でも今回の件は出身地あまり関係ない気がするよ。」
「大事なことだから何回〜ってやつさ。美弦、お前が昔同胞を殺されて暴走したのは覚えているか?」
「…あまり思い出したくないけどね。あんな黒い星を出したなんて、今でも信じられない。」
「ワシらの術は、使用者の心に左右されるからな。戦意を喪失すれば術が発動しないし、勝ちたいと願えば願うほど強くなる。怒りや憎しみなど負の感情でも力は増幅されるが、それに身を任せるとただの暴走にしかならんし星弾も濁る。…哀れなものさ。」

憂いを含んだ表情で語る弦正。暴走し、道を踏み外した同胞を何人も見てきたのだろう。

「美琴も…催眠術にかかっていたとはいえ、友達や親を本気で殺そうとした。他人が傷付くことを嫌う優しいあの子のことだ、その罪悪感から禁術まで使おうとしたのも無理もないよ。」
「いつ死ぬかわからん世界に孫を送り出したこと、今でもそれでよかったかどうか悩む。でもな美弦、こういうのは周りが悩んだところでどうにもならん。最終的に自分のことを決めるのは自分さ。今回みたいに壁にぶつかったようなら、助けてやればいい。それが家族、いちゃりばちょおでぇ、だろう?」
「一度会えば皆兄弟、か。そうだな。凝った解決法なんていらなかった、普通に支えてやればいいんだ。父さん、助かったよ。ありがとう。戻って美琴を元気にしなきゃ。」
「あぁ、その事だが、ワシも行く。」
「えっ?」

タオルを外して畳み、古びたローブを羽織る弦正。

「お前が来る少し前に、笙子さんから連絡があった。美琴は監視員つきで1週間自宅謹慎、とな。」
「な、監視員って…というか父さん、何だよその格好!」
「真面目な話をするから、正装みたいなもんさ。ワシは守人は引退した身だが、監視員を送った奴の所へ行って話をするくらいはできる。心配はいらん。平和的に解決してくる。」

155(六x・):2012/07/15(日) 02:37:48

「ウスワイヤに美琴を連れて行ったのは僕だからね、ついて行くよ。」
「うむ。さぁ、行くとするか。」


皇帝と法王を乗せた黒き流星は、ウスワイヤを目指して飛び立つ

余談

「監視員か…美琴の行動にいちいち口出しするような人じゃないといいけど。ねぇ父さん…今気付いたけど、ノーヘルじゃない?」
「美弦は安全運転だから、なんくるないさー」
「なりません!!さっきカッコよかったのに締まらんなもう!!」


最後にフラグさしておきました。誰か回収して…

沖縄方言自動翻訳機能つきです。実際は弦正も美弦も方言全開でしゃべってます。

弦正について少し
守人を引退済みなので、権限はない。現在は爺Aくらいの地位です。ウスワイヤの面々とはあまり面識がないけど、「光の法王」の名は知られてます。

156十字メシア:2012/07/18(水) 21:59:06
斎とその妹である頭領初登場。
(六×・)さんから「崎原 美琴」「崎原 美弦」「崎原 弦正」お借りしました。


いかせのごれのとある場所にある御殿にて。
守人の重鎮とも言える、水無瀬一族の若き頭領、水無瀬 斎は配下の者とある話をしていた。

「なるほど、”白い闇”が…」
「はい、若殿」
「それで? ウスワイヤの対応はどうなりましたか?」
「監視付きで1週間の自宅謹慎…との事です」
「監視…ですか?」
「はい」

ふむ、と思案する斎。

「いくら問題を起こしたとはいえ、崎原さん自身が望んだ事では―――」
「それが…一般人が巻き込まれて重症を負ったと……」
「…そうですか」

斎は溜め息を一つつくと、側にあった緑茶を飲む。
そして決心した様に言った。

「…『佳乃』に聞いてみようかな」
「えっ、姫君に!?」
「うん、こういう事は一応、佳乃に相談した方が最善かと」
「し、しかし…」
「…勿論分かってますよ。ああ見えて結構過激ですし、ウスワイヤの様な組織を毛嫌いしてますし……けど、あの子は紛れもない、守人の総元締めですから」
「…若殿が、そう仰るのでしたら」
「では、水鏡で連絡してきます」

157十字メシア:2012/07/18(水) 21:59:44
−斎の自室−

「…よし」

斎は一息ついて、指先から水を出す。
そして空中に円を描くと、水は丸い鏡の様な物体と化し、次の瞬間には着物の少女が映し出された。

「…兄君?」
「久しぶりだね、佳乃」
「ただ会話しにきた訳では、無いようですね。……美琴の件についてですか?」
「知っていたの?」
「総元締めたる者、いかせのごれの裏事情に詳しくなくては。で、相談の内容は?」
「えっと…崎原さんは、1週間自宅謹慎らしくて」
「自宅謹慎ですか。あの白髪イカレ野郎にいいようにされて、母親や友人を殺そうとしたのです。そんな状態で学校に通うのは難しいでしょうし、心のケアも必要ですからね。あのウスワイヤにしては上出来な提案ですねえ」
「(白髪イカレ野郎って…しかも嫌味付き…)で、監視が付くみたいなんだけど―――」

刹那。

「…あぁ?」

(あ…まずい)
「…折角賞賛の言葉を言ったのに、またそんな愚劣極まりない勝手な判断を? …相変わらずですね」
「か…佳乃?」
「……いいでしょう、そちらがその気なら私にも考えがあります」
「ま、待って佳乃! 崎原さんの件には一般人が巻き込まれてて…」
「知ってます。だからと言って監視付きなんて認められる訳が…無い」

敬語が抜けつつある佳乃。
本格的に怒っている。

「兄君、ウスワイヤに行きましょう。幸い皇帝と光の法王もウスワイヤに来るようなので」
「えっ!? 崎原さんの父上と祖父が!? というか、ウスワイヤに行くって、まさか喧嘩売るつもりじゃあ…」
「大丈夫ですよ。……『話し合い』をするだけだし」
(いや絶対に喧嘩ふっかける気だ!!?)
「では今からそちらに向かいますね、兄君」

佳乃の恐ろしい笑みを最後に、水鏡は消えてしまった。

「………相談、しない方が良かったかな」


総元締めによる静かなる怒りの出御


一方、その頃の紫苑は。

「はあ…何でウスワイヤなんかに来たんだ…しかしそれでは、ささみかが一人に……ううっ」

苦悩していた。

158スゴロク:2012/07/18(水) 22:05:48
>十字メシアさん
>(六x・) さん
ふうむ……差し支えなければ、この続き、私が書いてもよろしいですか? 
腹案がいくつかあるので。

159(六x・):2012/07/18(水) 22:20:57
>スゴロクさん
私は大丈夫です。ぜひお願いします。
ちなみに、美弦の肩書は「スターリースカイ・エンペラー(星空の皇帝)」です。

160十字メシア:2012/07/18(水) 22:46:06
>スゴロクさん

どうぞどうぞ!
いやあ楽しくなってきましたねえ←

161スゴロク:2012/07/19(木) 00:28:08
>十字メシアさん
>(六x・) さん
ありがとうございます。では……。



わずか、時を遡る。
七篠 獏也は、ゲンブを通じてとある男に連絡を取っていた。
正規どころか外部協力員ですらないが、その男の持つ能力はある種の鬼札、ワイルドカードだ。
彼を呼ぶのには理由があった。

(守人が動いたか)

他でもない、先ごろ解決の日の目を見た、崎原 美琴の一件についてである。
ヴァイス=シュヴァルツの手によって半ば暴走した彼女は、現在自宅謹慎となっている。問題なのは、それに対して獏也が命じた監視員の配置。これが崎原本家と守人の元締め・弓流山 佳乃の耳に入り、その両者が直談判に来るというのだ。

(予想していた事態では、ある)

下手をするとウスワイヤ自体が危険だ。そう判断した獏也は、以前ゲンブから聞いていたある男に繋ぎを取り、急ぎウスワイヤに来てくれるよう交渉していたのだ。
幸いにも、向こうはこちらの事情を問わず、「了解した、すぐに向かう」と二つ返事で引き受けてくれた。

(さて、どう転ぶか)

そして、現在。
応接室に当たるフロアで、椅子に座して待つ獏也。傍らにゲンブ、反対側に「その男」を控え、待っていた獏也の前で、部屋のドアが開いた。





「直に顔を合わせるのは初めてか? ワシは崎原 弦正。美琴の祖父だ」
「同じく、崎原 美弦。美琴の父です」
「水無瀬 斎。守人の頭領を務めております」
「弓流山 佳乃。守人の総元締めを預かる者だ」

光の法王。
星空の皇帝。
そして、守人の頭領と元締め。
錚々たる面々を前に、年若いゲンブは若干気圧されていたが、獏也は泰然自若として動じない。

「まずはようこそ、と言っておこう。私は七篠 獏也。アースセイバー構成員の指導教官を務めている。こちらは特別外部調査員、水波 ゲンブだ」

無言のまま一礼するゲンブ。
それには構わず、弦正が反対側の人物に目を向ける。

「そちらの御仁は? 見ぬ顔だが」
「彼は構成員ではなく、外部の人間だ。今回の話し合いのため、立会人として私が呼んだ」
「白波 シドウという。よろしく頼む」

やはり一礼するシドウに、それぞれの反応で返す4人。
さて、と獏也が話を切り出そうとしたところで、佳乃が先手を打った。

「兄君……斎から話を聞いた。崎原 美琴の一件に関して言いたいことがある」
「それは?」

平然と返す獏也に、畳み掛けるように佳乃は告げる。

「1週間の自宅謹慎、これはまだいい。だが、監視をつけるとはどういう了見だ? そんな身勝手が通ると思っているのか?」

明らかにケンカ腰の彼女に、傍らの斎が宥めるように「佳乃、少し落ち着いて」と囁くが、火に油だった。
そちらに向き直りもせず、佳乃は詰め寄るようにしてまくし立てる。

「彼女は被害者だ。あのイカレ野郎に心身を弄ばれ、挙句に友人や母親を殺しそうになった。その美琴に、なぜ監視をつける必要がある? 可能性だけを危険視して何かと縛りをつけようとするのは相も変わらずなのか」
「それらの事情は、こちらでも無論把握している」

あくまで泰然とする獏也に、佳乃がますますヒートアップする。が、それを制するように弦正がす、と手を出した。

「すまんが、少々、落ち着いてはくれまいか? 身内のことだからな、ワシとしても二、三言いたいことはある」
「…………」

穏やかに制されて少し頭が冷えたのか、立ち上がりかけていた椅子に座り直す佳乃。それと入れ替わるように、弦正が「さて」と口を開く。

162スゴロク:2012/07/19(木) 00:29:08
「そちらの考えは一応了解しているつもりだ。だが、どこか納得がいかんのも事実だ」

守人を退いて久しい弦正だが、その眼には現役時と変わらぬ強い光があった。
その光で獏也を真っ直ぐに射、弦正は言う。

「なぜ、美琴に監視をつけねばならん?」
「そうですね、それは聞かせていただきたいものです。元締めが今仰いましたが、美琴はあくまでも被害者です。確かに一般人にも被害が少しばかり出ていますが、それを差し引いても監視員の張り付けには納得しかねます」

美弦もまた、父とは違う静かな言葉で、それを問う。

「………」

獏也は、この姿に想う者の強さを感じた。
しかし、こちらの思惑は、それとは別のところにある。

「なるほど、話は理解した。が、決定が覆ることはない。1週間の自宅謹慎、加えてその間の監視員常駐。これは、貴方方の意見如何を問わず、実行させてもらう」

瞬間、佳乃の目に憤怒が燃え上がった。

「どこまで調子に乗る気だ? お前達はいつもそうだな。能力者を見張り、縛り、時に手駒として使う。そういう愚劣なところは、全く変わっていない」

今にも斬りかからんばかりの剣幕だったが、その顔にふと怪訝なものが過った。

(力が……?)

こういう時、無意識に手に籠っているはずの力が、全く感じられない。視線を映すと、獏也の傍らにいたシドウが口を開いた。

「この空間は、既に俺の『スキルシール』の有効射程範囲に入っている。全ての特殊能力は、ここでは無効だ」

スキルシール。シドウの両目に宿るこの力は、視界内の空間に存在する特殊能力を全て解除・封印する、特殊能力者に対する最強のカウンターだ。獏也が今回シドウを呼んだのは、万が一、億が一交戦状態に陥った場合の保険としてだったのである。

座り直した佳乃に変わり、斎が言う。

「こちらの意見を問わず、とはさすがに聞き捨てなりません。彼女は未熟とはいえ、守人に連なる身。頭領として、被害者である彼女を束縛するような決定は受け入れられません」
「道理だ。が、こちらにはこちらの考えというものがある」
「考えだと? 心身ともにボロボロの少女に監視を振り向けるようなものが、か? フン、組織の考えそうなことだ」

若干15歳にして元締めを務める最強の守人は、敵意も露わにそう言い放つ。
が、ここに来ても獏也の態度は変わらない。
これまで無言を通していたゲンブが、呆れたように口を開く。

「七篠教官、いい加減本心を明かしてはどうですか? なぜそうまで回りくどい真似を」
「……仕方がないな」

そしてようやく、七篠 獏也は決定の真意を語る。

「初めに、今回の一件は、原因がどうあれ崎原 美琴が当事者である。これは大前提だ」

事実だけに、反論は出ない。守人達が反発しているのは、その先だ。

「ヴァイス=シュヴァルツ……極一級危険人物認定を受けたあの男によって彼女は暴走し、周囲に被害をもたらした」
「ならば、お前達はそのイカレ野郎を追うのが筋のはずだ。なぜ美琴を監視しなければならない」

当然の如く反発する佳乃に、獏也は「続きがある」と一言制して続ける。

163スゴロク:2012/07/19(木) 00:29:46
「確かに彼女は被害者だ。が、『ただの被害者』ではないのだ」
「一般人に被害が出た件ですか? しかし、それは……」
「ヴァイスのせい……とばかりも言い切れない理由がある」

ここに来て、獏也は初めて難しい顔をして腕を組む。
美弦が「それは何です?」と問うのに、少しの間をおいてこう答えた。

「これは、当時追跡に当たっていたアースセイバーからの報告なのだが……その一般人はいかせのごれ高校の学生であり、崎原 美琴やその友人に苛めを行っていたという事例がある」
「そんな!? あの子はそんな素振りは一度も……」

驚く美弦に、弦正は「なるほど」となぜか納得する。

「あの子は元々マイペースの塊だからな。苛めとして認識していなかったのだろう」
「……あー……なるほど……」

娘の性格を熟知するだけに、美弦もこれには呆れ気味に納得した様子だ。

「それで、だ。どうも彼女は、その一般人を自らの意思で攻撃したらしい」
「自らの意思で……?」

さしもの佳乃が怪訝な表情で問い返す。
獏也は「そうだ」と一言返し、さらに話を続ける。

「これは、以前ヴァイスによる被害を受けたある男の証言なのだが……今回彼女にかけられたのは、いわゆる精神操作の類ではなく、認識を微妙にずらす、その程度のものであるようだ」

意図を測りかねる一堂に、獏也は説明する。

「こちらのネットワークで調べた結果、彼女に吹き込まれたのは『友人が邪魔に思っている』という嘘であり、彼女はそれを本当だと思わされていた。そういうことらしい」

つまり、美琴は確かにヴァイスによって正気を失わされていたが、それはあくまでも結果であり、不信感を抱き、拒んだのはあくまで彼女自身の意思である、ということだ。ただし、その方向性に誘導が加えられていた、というおまけつきだが。

「図らずも彼女は、自らや友人が苛めを受けていた事実を知ることになり、たまたま出くわしたその苛めの当事者を攻撃した。その時点で正常な判断能力はほぼなくなっていたようだが、それでも当人の意思であるという一面は否定できない」

心神喪失状態での傷害事件、とたとえればわかりやすいだろうか。

「だから、彼女を監視すると?」

斎の言葉にも、獏也はまあ待て、と制する。

「これは、妥協の結果だ。彼女に対して何らかの処罰を与えれば、それは即ちヴァイスの思い通りになるということだ」

ああ、とシドウが頷く。

「恐らく奴は、副次効果としてウスワイヤ……アースセイバーの混乱、最悪でも連携の齟齬を招こうとしたのだろう」

そうか、と納得の声を上げたのは美弦だ。

「不信、不満……そう言った小さな感情は、時間が経つごとに積み重なり、膨れていく。連携に齟齬が生まれれば、組織としての活動に支障が出る。支障が出れば、自分を掣肘する存在が一つ、機能不全に陥る……」
「……どこまでもイカレた奴だ、まったく」

腹に据えかねた、と言った面持ちで佳乃が呟く。
獏也はそちらにちらりと目線をやり、話を続ける。

164スゴロク:2012/07/19(木) 00:30:19
「易々と思い通りになってやる義理はない。何より、彼女はヴァイスの影響を真っ向から受けている。心身のケアのためにも、家族の許で保護するのが最良だと判断した。回復次第、この件の裏を取るため証言はしてもらうがな」
「では、なぜ美琴に監視を?」

弦正の問いにも、獏也は明快に答えた。

「有体に言えば、体裁だ。彼女はアースセイバーの外部協力員であり、どのような状況であったにしろ一般人に被害を及ぼしている。斟酌すべき事情はあまりにも多いが、それを考えても全くのお咎めなしとはいかない。それを許せば、アースセイバーの存在は半分以上その意義を失う」
「……それで、妥協を図ったのが監視員の配置、というわけですか」

斎の問いに、獏也は、

「その通りだが、もう一つ理由がある」

と答えた。

「もう一つの理由?」

これに対して疑問の声を上げたのは、意外にもゲンブだった。彼も、他に監視員を配置する理由があるとは知らなかったのだ。

「教官、それは?」
「……監視するのは、何も崎原 美琴個人に限ったことではない」
「まさか、笙子さんも!?」

思わず椅子から立ち上がる美弦だったが、獏也は即答で応える。

「その通りだが、方向性が違う。理由はヴァイス=シュヴァルツだ」
「……は?」

意味を掴みかねる彼らに、獏也はその裏も明かす。

「これまでの証言と事例からすると、あの男は失敗したシナリオには頓着しないようだが、クライマックスを迎えてなお『壊れ』なかった人間に対しては、二度、三度と干渉を行うようだ。では、この状況で奴が崎原 美琴に干渉するためには、何をするのが最適か?」

これには、シドウが答えた。

「俺ならば、母親を狙う」
「!?」
「その、美琴という少女が殺しかけた母親を操る。恨み言なりなんなりをぶつけさせれば、簡単に崩壊するだろう。そして、それを引き金に、連鎖するようにして次々と『壊し』ていく。俺が奴ならば、間違いなくそうする」

それは、長きにわたりヴァイスを追い続けた男の確信だった。
あの男にとって、「壊し」易いのは家族や友人との繋がりの強い人間。ましてや今回のように、ケアをすべき相手がターゲットである以上、その周辺の人間が使われる可能性は極大だった。

「万が一、崎原 美琴の周辺の誰かが奴に操られるようなことがあれば、今度こそ取り返しのつかない事態が起きる。だから、奴が接触できないように、最悪接触してもその影響を解除できるように、周辺に監視員を常駐させる」

つまり、獏也の言う監視員の意義は、美琴を見張るというのは処罰の体面を保つための方便で、真の狙いは、再び美琴を狙って現れるだろうヴァイスへの警戒。
本来すべき能力と記憶の封印を行わず、このような処置を取ったのには、未だ去っていない脅威への防波堤という狙いがあったのだ。

「そうすることによって、奴に我々及び守人への警戒を抱かせる。一時的な効果に過ぎないだろうが、その時間を得られるだけでも大きな意味がある」

アースセイバーの指導教官は、4人の守人達に向けて告げる。

「決定の詳細を通達する。崎原 美琴は、心身のダメージ回復のため、1週間の自宅謹慎。これは、回復速度によっては変動する可能性があることを付け加えておく。なお、この期間中、周囲警戒及び突発事態への対応、並びにヴァイス=シュヴァルツ捕捉のため、秘密調査員『ヴァイオレット』を監視員として近隣に配置する。また、崎原 美琴に対しては、心的ダメージの回復に伴い、本案件の裏付けのための証言を要請する。この際、同人の希望によっては立会人の参加を認める」

そして、問う。

「以上。異存は、あるだろうか?」



名無しの男の決断

(その決断)
(果たして、黒と出るか)
(はたまた、白と出るか)


(六x・)さんより「崎原 美琴」「崎原 美弦」「崎原 弦正」十字メシアさんより「水無瀬 斎」「弓流山 佳乃」名前のみ「紫苑」ネモさんより「七篠 獏也」をお借りしました。

こ、こんなんでよかったでしょうか……。

165十字メシア:2012/07/19(木) 01:30:36
>スゴロクさん

うひゃー!!?
仕事が早いですスゴロクさん!ww
佳乃の辛辣さ生意気さ嫌味さその他諸々、余すこと無く現れているだと…

166(六x・):2012/07/19(木) 01:43:04
>スゴロクさん

ハス'ヮ'ス⌒←マイペースの塊

弦正はイケメン爺(見た目若者だけど)だった…
笙子が危ない事まで考えてくれてた教官さすがです。


弦正と美弦は異存ないと思います。

167スゴロク:2012/07/20(金) 18:25:30
「名無しの男の決断」の続きです。



「やれやれ、ひとまずカタはついたか」

4人がウスワイヤを去ってしばらく、ようやく獏也は一息をついた。

「お疲れ様です、教官」

ゲンブが礼儀正しく労う。シドウの方はというと、守人に随行して外に出ており、ここにはいない。
恐らく、その足で帰宅しているだろう。

「ああ。……それにしてもあの狂人め、全く厄介な事情ばかりを放り込んでくれる」

獏也としては珍しいことに、心底忌々しげに吐き捨てる。
決定内容については、一応全員が承諾した。佳乃については、形だけでも監視がつくということに最後まで難色を示していたが、斎、そして当の美琴の身内二人の口添えもあって、渋々ながら矛先を収めた。
ただし、

『もし、彼女に少しでも危害を及ぼしてみろ。全力で潰しにいくぞ』

と不信も露わに言い放ったことを付け加えておく。
ともあれ、獏也の興味は今の所そちらにはない。退出しようとするゲンブを呼び止め、

「今回の件についてだが」
「ヴァイオレットを回していますが?」
「いや、そちらではない。ブラウという男についてだ」
「あの男ですか……」

言われてゲンブも思い出す。
美琴の暴走が何とか収束した直後、唐突に現れた謎の男。
自らを「ブラウ=デュンケル」と名乗ったその男は、ヴァイスがいないのを確認し、名乗った後姿を消している。
一体何者なのか。そもそも、何が目的なのか。
詳細が分からない以上、警戒はすべきだった。

「どうしますか? 百物語組を回しますか?」
「それも考えたが、今現在内部で重大問題が持ち上がっているようでな」

シン・シーなどへの警戒シフトもそうだが、先ごろメンバー内で一大事が発生したという。今の所詳細な情報は伝わって来ていないが、どの道今回の件で彼らをあてにするのは難しい。

「学生メンバーを使う。外部協力員を通じ、連絡を入れておいてくれ」
「……スザクはどうしますか」
「外す理由はないな。戦闘になる可能性もある」

ゲンブが渋い顔になったのにはわけがある。
彼女は今、ホウオウグループの構成員(末端の戦闘員だが)のトキコと絶賛交際中なのである。
元々組織というものを重んじる性質の水波 ゲンブという男は、スザクからトキコを通じてホウオウグループに情報が漏えいすることを危惧しているのだ。

……親交のある仲間をこうやって疑うがために、ランカやアオイからの評価は最低未満にまで落ち込んでおり、最近では全く連絡が来なくなっているのはここだけの話だ。

「……わかりました」

渋い顔をしたまま、ゲンブは一礼して部屋を後にした。

168スゴロク:2012/07/20(金) 18:26:12
結果だけ言えば、ゲンブの心配は杞憂であった。
別の言い方をすれば、遅きに失した。なぜなら、ホウオウグループもまた、ブラウに関する情報を手に入れていたからだ。

「ブラウ=デュンケル……ですか?」
「そうだ。一応報告しておくぞ」

バーを経営しているメンバーの一人、ロゼが放っている監視端末「バードウォッチャー」による情報だ。
それを今、ジングウに伝えたのはクロウだ。犬猿の仲であるこの男にも、組織のメンバーであるがゆえ律儀に情報を伝達する辺り、らしいといえばらしい。

「ふむ。まあ、覚えておきましょう」
「……用件はそれだけだ」

無機質に言うと、クロウはジングウの返事を待たずにその場を後にした。
廊下を足音も高く歩きつつ、

(この情勢で、またも新たな何者かが現れた、か。全く、ままならん世界だ)

などど一人ぼやく。
と、

(……一応連絡しておくか)

潜伏メンバーにもメールで連絡を送る。既に耳に入っている可能性もあるので、「警戒されたし」と一文添えるのも忘れない。
なお、チネンからは嫌味たっぷりな返信が帰って来たが、それはさておき。

「最文、伝達だ」
「何?」「言っとくけど」「今のところ」「アンタの話は」「聞く気ないから」

徹底的に反りが合わず、ゆえに相変わらずの態度を取るモブ子こと最文 鈴子だったが、もはやいつものことなのでクロウも気にしない。
でなければ胃が持たない、という切実な理由もある。

「……なら、好きにしろ」

連絡を諦め、通り過ぎる。後ろから何か聞こえたような気もするが、強いて無視した。
ミーネかトキコ辺りから、その内聞くだろう、という考えもあったことだし。

(さて……)

とりあえず、非常勤講師「渡 玖朗」としての潜入任務に戻るべく「その場所」を去るクロウ。だが、唐突にポケットの携帯が震動し、着信を告げる。

「む?」

今のところ、かけてくるような心当たりはない。
一体誰だ、と携帯を開けると、番号だけが表示されていた。見たことがない。
とりあえず、通話を繋ぐ。

「誰だ?」

開口一番、誰何の声を放る。
答えたのは――――。


「藍」を巡る二つの流れ

(秩序の守り手)
(合理化の先駆者)
(それぞれの思惑が向かう先は――――)




akiyakanさんより「ジングウ」ネモさんより「七篠 獏也」十字メシアさんより「最文 鈴子」名前のみ「紫苑」「弓流山 佳乃」(六x・)さんより名前のみ「崎原 美琴」しらにゅいさんより名前のみ「トキコ」をお借りしました。

最後にクロウにかかって来た電話ですが……よろしければ拾ってやって下さい。

169十字メシア:2012/07/21(土) 14:48:26
しらにゅいさんから名前のみ「張間みく」お借りしました。


「ねーねー、今日はどうしよっか?」
「とりあえず、ノート何冊か盗ってきたからさ、ゴミ箱行きにしよー」
「おっ、ナイスじゃん!」

とある日のいかせのごれ高校。
いつも通りの日常の中、張間みくを虐めている女子グループが陰湿な会話を交わしていた。

「絶対泣きながら必死こいて探すよねー」
「マジざまあ」
「次は鞄を体育館裏の倉庫に隠そーよ」

下卑た笑い声を上げ、女子達はどこかへ去る。
だがそれを聞いていた少女がいた事には、気付いていなかった。

「………(コックリ)」

少女は女子達がいなくなった事を確認すると、ゴミ箱からノートを取り出し、付着したゴミやホコリ等を丁寧に払う。
綺麗になったノートを見て満足そうに頷くと、それをしっかり抱えて持ち主の教室へと赴く。
しかし曲がり角に差し掛かった時―――。

「あっ! ついでにジュースのパック捨ててくる!」
「うん、分かったー」
「!?」

慌てて引き返そうとするが時は遅し。
声の主である一人の女子と鉢合わせしてしまった。

「…ん? 何よアンタ」
「あ…え……そ、その…」
「どうしたのー?」
「何か変な奴がいるんだけど」
「変な奴? …あっ、挙動不審ヤローの緋沙子さんじゃん」

名前を呼ばれて体が跳ねる少女、緋沙子。

「こんな所で何してんの〜?」
「べ、別に…俺、急いでる、から」

まだノートに気付いてない様子に半ば安心した緋沙子は、教室へ一目散に駆け出そうとする。
が。

「あれ〜? そのノート…」
「ヒッ!?」
「…何でアンタがそれ持ってんのかなぁ?」
「だ、だだ…だって、これ、俺、の、ノート…だし」
「嘘つくんならもっとマシな嘘つけよ!!」

怒号を口にしながら、一人の女子が緋沙子を突き飛ばした。
その拍子でパーカーのフードが脱げる。

「それ…ちゃーんとゴミ箱に捨ててきたら、見逃してあげる」
「え…」
「けど捨てなかったら…分かってるよな?」
「え、う…」

恐怖で震える緋沙子。
パーカーのフードを戻しつつ、震えながら思案する。

「………」
「どうすんの? 早く決めなって」
「………」

ノートを捨てれば、いたぶられる事は無い。
過去故に、彼女は暴力を振るわれる事にすっかり臆病になっていた。
だが、それでも。

(みくさんは…今でも辛い目に遭ってる……)

意を決した彼女は、弱々しい声ながらもはっきりと言った。

170十字メシア:2012/07/21(土) 14:50:00
「…嫌だ」
「あ?」
「す…捨てない!」

ダッ

「あっ! コラ待て!」

涙を目に溜め、逃げ惑う緋沙子。
しかし、途中で足がもつれ転んでしまった。
それと同時に、武器でもあるお守りの赤いクレヨンがポケットから飛び出す。

「ったた……あぐっ!?」

クレヨンを拾って立ち上がろうとするが、追い付いた女子に背中を強く踏みつけられ、もう一人の女子が知ってか知らずかそれを踏み潰した。

「おとなしく言うこと聞けば良かったのにね〜?」
「………い、やだ」
「…ッ、うっぜぇなあ!!」
「ガ…ッ!?」

強く殴られ、頭の中がぐわんぐわんと鳴り響く。

「ねえ、折角だからノートと一緒に、倉庫の中に閉じ込めちゃおーよ」
「あーそれいいねー」
「…!」

緋沙子の未だ意識が半分抜けているが、それでも会話を聞き取れていた。
しかし捕まった以上、何もできない。
それにここは学校。
能力を使って振り切る、など出来る訳が無かった。
緋沙子にはもう打つ手が無かった。


「ほら、入りなよ」
「………」

かろうじて人一人入れる倉庫。
暗く狭いそれを見た彼女の脳裏には、母親からの虐待の末に、光が差さない狭い収納スペースに監禁されていた記憶が浮かんでいた。

「早く入れっつってんだろ!」
「わっ」

背中を蹴られ、その勢いで倉庫の中に入る。

「いてて…」
「じゃあね〜♪」
「!! いや、やめ、て、待」

ガシャン!

「…って、待って! 待って待って待って待って!!! 嫌だ! 出して!! 出してお願い!」

扉を引いてみるが、ガタガタと言うだけで開かなかった。
恐らく何かがつっかえているのだろう。

「誰が出すかっての」
「その内誰かが見つけるんじゃなーい?」
「有り得ないけどーアハハ!」

女子達の笑い声が遠ざかっていく。
恐怖に囚われた緋沙子は益々扉を揺らすしか無かった。
どうしてここにいるの? 何故閉じ込められた? いつまでここに?
疑問までもが浮かんでくる。

「…あ、そうだ能力で…!」

とポケットに手を入れるが―――。

171十字メシア:2012/07/21(土) 14:50:34
「え? 嘘…無い………あ!」

先ほど転んだ時に落とし、踏み潰された事にようやく気付いた。
払った筈の恐怖心と絶望感が再び沸き上がる。

「…だ…嫌だ……出して…出して出して出して出して出して出して!!!」

扉を強く殴り付けるが、変に頑丈な上に緋沙子の力ではうんともすんとも言わない。

「お願い出して! 出して出して出して出して出してここから出して!!!」

殴り付ける速度が上がる。
悲鳴も徐々に大きくなっていった。
すっかりパニックに陥った彼女の頭に過去の記憶が浮かび、現状と交差し出す。

『もう二度と使わないから…これから良い子でいるから!!!』

「怖いよ怖いよ怖いよ怖いよ!!! 真っ暗な場所は嫌だ!! だから出してお願い!!!」

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

「一人ぼっちでここにいるのは嫌だよ!!! 許して許して許して許して許して許して許して!!!」

『誰か…誰か助けて!! まだ死にたくない生きたいよ!!! だから早く出して!!!』

「誰か俺を探して…俺を見つけて早く!!!」

『痛い…よ……お腹すいた…苦しい……ここから―――』
「早く早く早く早く早くここから―――」


『「出してぇえええええぇえぇえぇぇえええぇぇぇえええええええ!!!!!!」』


「―――子、緋沙子!」
「!」

外から声が聞こえる。
緋沙子はその声が誰の物なのかすぐ分かった。
クラスメイトにして、幼馴染みの優池 鶴海だ。

「ユッケ…ユッケ!
「緋沙子! 今出すから…」

つっかえている板を何とか引き抜き、扉を開ける。

「大丈夫か!? 痛い所は無いか!?」
「…うっ……うわぁあああ!!!」
「おわっ…と」

安心感から思わず抱き着いてきた緋沙子を、鶴海はよろめきながらもしっかりと抱き止めた。

「ひくっひくっ…」
「暗くて狭かったから、怖かったろ?」
「うん…昔を思い出して、怖くて怖くて…早く出たかった……」
「もう大丈夫だからな」

よしよしと背中をさする鶴海。

「でも何でここが…?」
「さっき、バカ女子共がお前を閉じ込めた話をしてたのを、たまたま耳にしたんだよ。みくのノートをゴミ箱から拾ったのも聞いた」
「そうなんだ…」
「相も変わらず、酷い事好き好んでやる奴らだな。その内シメとくか」
「い、いいよユッケ。そこまでしなくても」

慌てる緋沙子。
それを見て鶴海はニカッと笑って言った。

「冗談だっつの。さ、そろそろ行こうぜ」
「うん。あ」
「ん?」
「…ありがとう、見つけてくれて」
「ははっ、気にすんな。オレら幼馴染みだろ」
「うん…そうだね」

(そう言って、いつも助けてくれるもんね)
(いつもありがとう、ユッケ)


暗転からの光


余談。

「あの挙動不審女…一体どうやって出たのよ」
「今度はアイツの机に落書きしよーよ」
「そうねーやろやr」
「オイお前ら」
『!?』
「何してんだ」
「そ…そっちこそ、な、何よ」
「勝手にオレの幼馴染みの机に、心に無いこと書くなよ。やめるつもり無いなら…シメるぞ(ボキボキ)」
『ヒ…ヒィイイイ!!!(逃走)』
「…臆病者」

172スゴロク:2012/07/21(土) 16:50:09
最近、いかせのごれ高校で妙な噂が飛び交っている。
女の子の幽霊が出る、というのだ。

「幽霊だって?」

僕自身、帰り際にそれを聞いた時は半信半疑だった。最近激化の一途を辿る苛めの問題で正直苛々していた、ということもある。
その情報を齎した当人、ミオが僕に言う。

「俺自身、にわかには信じられないですけど」

ちなみにこんな口調だけど、ミオは女だ。

「何か本当らしいですよ、火波先輩。夕方頃から深夜にかけてが多いそうですけど、下手すると昼間っからも出るって」
「随分とアクティブな幽霊だな……」

ミオが他に教えてくれたのは、その幽霊に関する噂。

曰く、学校建設時の事故で死んだ女の子だ。
曰く、この学校に何らかの執着を持つ生霊だ。
曰く、学校自体の化身だ。
曰く、この近辺で殺された子だ。
曰く、生徒の誰かに恨みを持つ怨霊だ。

「凄まじいな……」
「ですよね? 祟られたって人もいるみたいですし」

何でも、その幽霊を目撃した女子生徒が一人、原因不明の体調不良を訴えて入院したのだが、その入院先でなぜか錯乱してしまったのだとか。
事態の恐ろしさを加速させているのが、数ある噂の中でもまことしやかに囁かれているこれだ。

曰く、苛めに耐えかねて自殺した子だ。

「何で、誰も彼も内心でビビッてるみたいで」
「心当たりがある人間が多い、ってわけか……」

その幽霊が誰かは知らないけど、誰かに危害を及ぼすなら放っては置けない。
後でアオイかマナにでも話してみようか、と思いつつ(ゲンブは最初から考慮の外だ)、僕はミオに礼を言ってその場を後にした。気が付くともう4時を回っていた。
さすがに帰らないと。

「またな、ミオ」
「また明日、先輩」



その頃、別の教室。

「そろそろ帰るー?」
「そーだね、さすがに遅いし」

帰り支度をしつつそんな話をしているのは、ここ最近みくやその周辺にまで苛めの手を伸ばしている女子達だ。
実のところヴァイスによる「より徹底的に」という暗示が未だ生きている影響なのだが、それを知る者はいない。

「……それにしても何? あの優池とかって奴」
「何がシメるよ、カッコマンかってーの」

本人を目の前にした時は戦いて逃げ出したというのに、当人たちだけになるとこれである。
人間の習性の一つともいえるが。

「どいつもこいつも……あれ?」

ふと、一人が空っぽの教室に目をやる。夕日に照らされて真っ赤に染まった教室の真ん中に、女子生徒が一人佇んでいる。
身長がやけに低い。160あるかないか、と言った程度だ。

「………」

173スゴロク:2012/07/21(土) 16:50:58

ほんの気まぐれだった。どうにも思い通りにならない苛立ちを、そいつにぶつけようと教室に全員で踏み入る。

「あっゴメン」

明らかに故意とわかる動きで、足を引っかける。が、その足が空を切った。少女が素早く身を引いたからだ。

「……何? 生意気なんですけど?」

別の女子が背後から引っかけるが、今度は横に逃げられる。

「逃げんじゃないわよ」

何度繰り返しても、少女は異様に素早くその足をかわし続ける。
そんなことが続き、ついに女子グループの一人が限界に達する。

「この……いい加減にしろってんだよ!!」

その背中を怒号と共に、思いきり突き飛ば――――せなかった。

「――――ぇ?」

少女を突き飛ばそうと勢いよく伸ばした手が、何の抵抗もなく少女の体をすり抜けたからだ。その女子は、勢いのままつんのめって机に突っ込み、ガラガラと派手な音を立てた。

「……ちょ、ちょっと……」
「何、今の……」

もちろん、その現象はその場にいた全員が目にしていた。
そして同時に、考えたくなかった可能性に至る。
曰く、

「ゆ、幽霊……!?」

苛めに耐え兼ねて自殺した子の幽霊だ、と。

その少女が、俯いたまま、目線だけで傍らの一人を見つめ、



「あなたは……いらない」



瞬間、悲鳴が爆発した。
我先にと出入り口へ殺到するが、いつの間にか閉まっていたドアはぴくりとも動かない。ならばと窓に向かうが、どういうわけか鍵が開かない。硝子も割れない。
はたと気づくと、いつの間にか差し込む光が失せ、夜の帳が降りていた。
だというのに、車の音もしない。どころか、月も星も、全く見えない。外灯の光さえ、差し込まない。なのに、暗闇の中、少女の姿だけははっきりと浮かび上がっていた。

出るに出られない密室の中、ゆったりと歩く少女から少しでも遠ざかろうと、女子グループは教室を壁沿いに逃げ回る。

「ひいいいい!!」
「く、来るなっ、来るなぁぁぁっ!!」

何を叫んでも、少女は意に介さず、ただゆっくりと、距離を詰めていく。女子グループは走っているはずなのに、後を追って歩く少女との距離は広がるどころか縮まりつつあった。
やがて、教室の端に全員が追い詰められたところで、少女が止まる。その代わり、目の前の彼女らに向けて、ゆっくりと手を伸ばす。
いよいよ恐慌状態に陥った女子グループは、何とか逃れようとドアに殺到するが、やはりビクともしない。
間近に死を感じ、ほとんど泣き叫びながら外に出ようと暴れる。その時、


「ぁ」


少女が小さく、吃驚の声を漏らす。瞬間、ドアが開―――かず、ガターン! と大きな音を立てて外側に倒れた。
次の瞬間には、女子グループは全員逃げ去っていた。
一人残った少女は、出しかけた手を引っ込めて息をつく。

「……失敗した。ドアを『私』に出来なかった……」

呟く彼女の背後から、外灯の光が差しこんできていた。



幽霊騒動〜マナの学校訪問?



その日の某家、夕食後。

「ま、マナちゃん、そんなことしたの?」
「何やってるの、マナちゃん……学校で怪奇現象起こすなんてご法度だよ〜?」
「私は遊びにいっただけ、学校に。向こうが暴力振るって来たから、お返ししただけ、ちょっと」
「閉じ込めて、怖がらせて、ですか? それのどこが『ちょっと』や言うんですか」
「別に加えてない、危害は。驚かせただけ、少し」
「だからですなぁ、それのどこが……」
「……そういえば、最近いかせのごれ高校に幽霊が出るらしいが……」
「多分私、それも」
『…………』



闇音流さんより「ミオ」しらにゅいさんより名前のみ「張間みく」十字メシアさんより名前のみ「優池 鶴海」(六x・)さんより「アズール」をお借りしました。
マナの話を書いていて「……見方によっては幽霊?」と思いついて衝動的に書きなぐったのがこれです。

174YAMA:2012/07/21(土) 22:20:26
おひさしぶりです、YAMAです
意味は特にありません

〜クロノ道化師・参戦〜

道化の姿をした仮面の男は「自分の世界」で座っていた、ずっと座っていた。
長い間、姿勢も変えず、無機物のように、座っていた
変わったことといえば「白き闇」が報告に来たことぐらいである。
事実、彼は憔悴しきっていた、まだ『完成』していない体で力を使いすぎたのだ。
『今この瞬間までは』。



「ジェスター」

男は低く名前を呼んだ

「はい」

すぐ返事が聞こえ、
男と違う模様の仮面の青年が現れる
青年はやけに猫背で色あせたローブを身にまとっていた

「終わったようだね?」

仮面の男は青年に問う。

「えぇ、さすがにすべての『杯』を破壊するには時間がかかりましたが、
これで完成度は90%を越えるかと・・・。」

青年はかすれた不健康そうな声で淡々と事実を告げる。

「そうか・・・それじゃぁ」

男は立ち上がり、体をねじった、
男の体は「ありえないほどに捻れた」
腕も足も体も首も優に5回は回転した。
普通の人間なら悲鳴をあげ、逃げ出すだろう、
しかしこの場所に普通の人間はいなかった。
男は体を元に戻すと

「私も入れてもらうとしますか」

仮面の口の両端をつり上げた。

175えて子:2012/07/22(日) 16:51:50
カチナのお話。自キャラしか出ません。出てくる男はモブです。
こういう奴ですよってのの参考になれば。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

男は、追い詰められていた。
どれだけの間走ったのか分からない。何度無様に転んだかも分からない。
ただ、逃げ続けていた。
“ヤツ”から逃れるために。

「………!!」

逃げた先には、古ぼけた大きな壁が聳え立っていた。
咄嗟に近くに転がっていた鉄パイプを拾って殴りつけるが、びくともしない。

「くそっ………くそ、くそっ!!」

自棄になったように何度も壁を殴りつけるが、僅かな破片が落ちるばかりで崩れる気配はない。
それでも男は何度も壁を殴っていたが、背後で土を踏む音が聞こえ、その動きが止まった。

「……おい、つい、た」

抑揚のない声に、弾かれるように振り返る。
小柄な少年が、そこにいた。
布切れというほうが正しいくらいのぼろぼろの衣服、がっと見開かれた瞳孔。
痩せ細った四肢に似合わない大きな鉈を引き摺り、ぺたりぺたりと近づいてくる。

「おま、え、ころす」
「……ふざけるなっ!!!」

逆上した男は、持っていた鉄パイプで少年を殴りつけた。……いや、殴りつけようとした。
鉄パイプは、確かに少年を捉えた。しかし、ダメージを与えることはできなかった。
手ごたえが全くなかったのだ。まるで彼に当たる直前、威力を殺されてしまったみたいに。

「ひっ……!?ぎゃっ!!!」

お返し、といわんばかりに、少年は鉈で男を殴りつけた。
男は膝から崩れ落ち、ぼたぼたと地面に血が落ちる。

「あ……が……」

崩れ落ちた男に向かい、少年が歩を進めた。
男は恐怖の表情を浮かべ、必死に這って逃げようとする。

「や、やめろ……来るな、来るなっ…」

壁に背がつき、退路が断たれる。
それでも男は逃げ続ける。

「…た、頼む……たすけ、助けて…」

男の懇願も空しく、少年は鉈を振り上げる。

「し、ね」
「―――ぎゃあああああああああああああああああああああっ!!!」

男の悲鳴に応えるように、錆びついた鉈が月明かりを受け、煌めいた。











数時間後、少年は跡地の廃ビルの屋上にいた。

「ころ、した。ころした。カチ、ナが、ころし、た」

仄明るい空を見上げ、そう呟いている。
肩に担がれた鉈には真新しい血がべっとりと付着しているが、気にする様子も拭き取る気配もない。
ぽたり、ぽたりと垂れた血が、コンクリートに落ちて赤い水溜りを作る。

「…めい、れい。カチナ、の、めいれい。かんけいしゃ、ころす」

ぽつりと呟くと、ぼろぼろになった爪を口元に持っていき、噛み締めた。

「カチナは、めいれい、を、きく。カチナは、ころす。みん、な、ころす」

まるで壊れたレコードのように繰り返しながら、がじがじと爪を噛む。

「……カチナは、カチナシ。めいれ、いを、きく、へいき」

ばき。と、噛まれて折れた爪が音を立てた。


壊れた戦力外兵器−カチナシ−


『――次のニュースです。
今朝未明、ストラウル跡地で、男性の変死体が発見されました。
遺体は頭部に殴られたような傷がある他、大型の刃物のようなもので斬られた傷があり、
警察は遺体の状態からここ数日の連続無差別殺人事件と同一犯による犯行とみて、被害者の身元確認を急いでおります……』

176スゴロク:2012/07/22(日) 18:34:46
>えて子さん
カチナを登場させる話を書いてもよろしいでしょうか?
い、いや、うちの子と絡ませるアイデアを膨らませていたら大惨事になってしまったもので……。

177えて子:2012/07/22(日) 18:40:46
>スゴロクさん
どうぞどうぞ!

178スゴロク:2012/07/22(日) 20:09:33
紅麗さんの許可をいただけましたので、うちの子たちとカチナ君の話です。紅麗さんより「カチナ」しらにゅいさんより「トキコ」をお借りしてます。ちなみに二回に分けた一回目です。



「やれやれ、どうにか段取りもついたか」

美琴の一件からしばらく経ち、ゲンブは夜の街を歩いていた。
守人達との折衝も何とか(丸くとはいかなかったが)収め、久方ぶりにウスワイヤから解放されたのがついさっきのことだ。

(ここ最近頻発している殺人事件のこともある……用心せねばな)

思いつつ、周囲に油断なく気を配る、「ごく普通の」警戒態勢にあった彼を、



「み、つ、け、た」



無機質な声と、



「     ッ    !!  ! ?」



脳天から振り下ろされたナタが襲ったのと、

(な―――――)

体の力が消え、意識がブラックアウトするのは、ほぼ同時だった。





「何だって、ゲンブが!?」

僕がその連絡をランカから受け取ったのは、学校を終え、トキコと連れだって歩いていた時のことだ。
何でも、誰かに頭をカチ割られて倒れていたのをアースセイバーの連絡員が朝方発見したらしく、外傷と出血で生死の境を彷徨っているらしい。

半分以上パニックに陥っているランカを何とか落ち着かせ、僕は通話を切った。
携帯をパタンと閉じ、思わずひとりごちる。

「あいつが一撃……何で」
「どうしたの? 亀さん、何かあったの?」

隣からトキコが気遣わしげに尋ねて来る。ちょっと前ならあり得なかっただろう光景に少し和んだけど、危機感は消えない。

「ああ……誰かに不意打ちを食ったらしくて、今医療施設にいる」
「不意打ちって……亀さん無茶苦茶強いのに?」

トキコの疑問ももっともだ。
性格はともかく、あいつの強さはアースセイバーでも指折り。こと接近戦においてなら、そうそう遅れを取るほどヤワじゃない。実際、ホウオウグループの戦闘員達が本気で警戒する数少ない人材だって聞いたこともある(ちょっと信じられないけど)。
ともあれ、事実は事実。あいつはやられた。

「なのに、だよ。ともかく、僕は一回様子を見に行ってみる。トキコは急いで家に帰っててくれ、あいつを一撃でのすような相手に狙われたらコトだ」
「う、うん」

179スゴロク:2012/07/22(日) 20:10:19
トキコの家は、僕の家に向かう方向とは全く違う方向にある。丁字路で別れたあと、僕はその足でウスワイヤに走った。
まともな道を通ってたら時間がもったいないから、裏道・横道を通ってショートカットすることにした。




「みつ、けた」




「ッ!?」

突然降りかかった声に驚く間もなく、全く「危険が来る」という反射だけで、僕は大きく一歩、前に跳んだ。
そうしていなければ、僕は今襲ってきた誰かの持っていたナタで、頭を断ち割られていただろう。

「!? 何だ、お前……」

擦り切れて襤褸切れ同然の服、引きずり気味の足に捲かれた包帯。
虚ろな光を宿す目を見開いた、明らかな異常者がそこにいた。

「カチナ、は、カチナ。カチナシの、カチナ」
「カチナ?」

名前なのか、よくわからない、
そのカチナという奴が、さらに言う。

「めい、れい。カチナの、めいれい。ラボ、じっけん、ころす、ころす、ころす……」
「ラボ!? UHラボのことか……」

久々に聞いた嫌な名前に、思わず眉根が寄る。
僕やゲンブもかつて囚われていた、狂気の実験施設。こいつは多分その被検体……洗脳実験か何かの失敗作なのだろう。
そこまでは何とか予測がついた。

「ゲンブもお前が……?」

答えの代わりに襲ってきたのは、ナタの一撃。

「っと!」

素早くはあるが、大振りな上に予備動作が丸分かりだ。回避は難しくない。
とはいえ、

「ここじゃ戦えない……!」

場所が問題だった。ここは人通りが少ないとはいえ、住宅街の外れ。こんなところで力を使うわけにはいかない。
向こうはそんなことを気にするようには見えないし、実際その通りなんだろう。

「チッ、仕方がないか……」

舌打ちを一つ残して、逃げを打つ。
向かう先は、このいかせのごれでもっとも危険と言われる場所。
ストラウル跡地だ。





ストラウル跡地は、4年前まで「サイキックマスター」レイスの率いる同名の組織の本拠地があった場所だ。
ケイイチ達のおかげで破壊されたけど、余波で周辺一帯が廃墟になってしまっている上、原因もなしに奇怪な現象が起きる、いわば「何でもあり」な場所になってしまっている。

そんなところだからこそ、僕達みたいな存在はここを戦場に選ぶ。

「来た!」
「し、ね」

追い付いてきたカチナが―――見かけとは裏腹に、恐ろしく足が速かった―――ナタを真っ向から振り下ろして来る。
だけど、

「通るか!!」
「!?」

僕の力なら、その程度の攻撃は通らない。「龍義真精・偽」……何だか久々に使ったような気がする。
鏡でナタを弾きかえした後、反対の手に幻龍剣を呼び出して逆袈裟に斬りつける。
が、

「な!?」

今度は僕が驚くハメになった。直撃コースだった刀身が、何かにぶつかって威力を殺されたからだ。
慌てて距離をとったけど、その距離をカチナが一気に詰めて一撃を見舞って来る。

180スゴロク:2012/07/22(日) 20:13:15
「うああっ!」

躱しきれずに左肩を浅く斬られた。だけど、今はそれどころじゃない。血を流す左肩を押さえつつ、僕はカチナのさっきの防御について頭をフル回転させる。

(打ち払われたって感じじゃなかった……跳ね返されたわけでもない……威力を削られた、いや、打ち消されたのか?)

おおよその外郭はつかめた。攻撃に反応して、その攻撃を自動で防ぐ常時発動型。相手にするにはかなり厄介なタイプだ。

(けど、それなら!!)

この手の能力持ちには、対処法がいくつかある。一つは手数で圧倒し、防御が追い付かないレベルの攻撃を加えること。もう一つは、

「これで――――」

大威力の一撃で、一気にケリをつけること。

「どぉぉだぁぁぁぁっ!!」

構えた両手を開き、赤い破壊の奔流―――龍精落を放つ。愚直にこっちに向かってきていたカチナは、かわすことも防ぐことも出来ず、その光を真正面から浴びた。

「!」

舞い上がる粉塵の中、僕はここに来てようやく一息をついた。

「やれやれ……全く、何て奴だ……」

多分、最近ニュースになっていた連続殺人事件もあいつが犯人だったんだろう。ラボの関係者を、次から次へと襲っては殺しているということか。

「それにしても、何でこんなバカな……」

命令を、と続けようとして、

「―――馬鹿、な!?」

粉じんの中から飛びかかってくるカチナを見て、僕は衝撃に自失していた。そして、それが命取りだった。

「!! う、ああっ!!?」

肩口から腰まで、袈裟懸けにぶった切られた。ナタが半分朽ちていたおかげでそこまで深い傷にはならなかったけど、引き裂かれたような傷口が灼熱を帯び、鮮血がとめどなく流れ出す。

(しまっ、た……)

僕は、勝機を逃したことを知った。左肩と、右肩からの大きな傷。こんな俊敏な相手を前に、このコンディションではもう打つ手がない。
飛びそうになる意識を意地でつなぎ留め、じりじりと後退する。けど、それも長くは続かない。

「!! うわっ……」

カカトを石に引っかけて、転んだ。そして、

「!!!」

真っ向から斬りかかってくる、カチナの姿を見た。

痛みよりも、衝撃の方が大きかったような気がした。



真っ赤に染まった視界が、半分以上閉ざされつつある。カチナの姿は見えないけど、見えたところでもうどうしようもない。

(死ぬ、のかな……)

自問への自答は、呆れるほどたやすく導き出された。――――その通り。
出血が多すぎる。ここに来るまでに全力疾走を続けた上に久々の本格戦闘、龍精落まで放って少なからず消耗した体にこれでは、助かる方が無理な話だった。

(でも、なぁ……嫌だ、な、や、っぱ、り……)

死ぬのが怖いわけじゃない。けど、トキコ以外の誰かに殺されるのは嫌だった。
僕を殺していいのは、あの子だけなんだから。ここにすぐ来てくれないかな、と微かに思ったけど、諦めた。そんな都合のいい話があるわけないし、何より時間が足りない。僕が事切れるのがどう考えても先だ。

(ごめ、ん、ト、キコ……や、く束、守、れ、なか、ったよ……)

いつか来る全面対決の時、僕らもまた互いの全てをかけて決着をつける。
ただそれだけの約束も、もう守れそうにない。
気づくと、僕は覚えている限りの出来事を追想していた。ランカと出会った日、シドウさんが消えた日、ウスワイヤの存在を知った日、シスイやみんなと一緒に戦った日々、アオイが現れた日、トキコと過ごした毎日……。

(走馬、灯、ってや……つ、かな……もう、ダメ、か……な……)

意識が途切れる。最期に僕が見たのは、



(あぁ……迎えに、来て、くれたんだ、ね……母、さん……)



山吹色の髪を揺らす、あの優しい人の姿だった……。




燃え尽きる翼

(彼女が見たものは――――)




というわけで、まずはここまでです。
続きは仕上がり次第投下します。

181十字メシア:2012/07/22(日) 21:15:44
しらにゅいさんから「張間みく」「玉置静流」お借りしました。


「こ、こんにちは…」
「おや、みくちゃん」
「僕もいますよ」
「斎君もでしたか」

ある日のいかせのごれ高校。
養護教諭の玉置静流は、突如保健室に来た張間みくと水無瀬 斎を迎え入れた。

「どうしたんだい?」
「張間さんの怪我の手当て、お願いしても宜しいですか?」
「い、斎君、ボクは大丈夫だから…」
「いけません、可愛い女の子が痣や傷を拵えていたら。それに今日はいつもより多いし…優池さんにも悪いですよ」

実は、みくがいつも通り暴力を振るわれていた際に、たまたま通りかかった優池 鶴海が当人らを軽くシメ上げたのだ。

「でも…」
「皆、貴方の事心配してるんです。元気な姿を見せて、皆を安心させて下さい」

にっこりと笑う斎。
それを見たみくは俯きながらも言った。

「……分かった。ごめんなさい…」
「いいんですよ。では玉置先生、後は宜しくお願いします」
「うん」

一礼した後、斎は保健室を後にする。

「とりあえず、消毒液とか探して来るから、ベットに座って待っててくれるかな?」
「あ、はい…」

手前のベットに座るみく。

(斎君とユッケ君に迷惑かけちゃったなあ…)

と、その時。
カタンッ

「え?」

どこからか小さな物音が響いた。
どうやら後ろにあるカーテンの向こうかららしい。

(誰か寝てるのかな…)

そっとカーテンを開ける。
しかしベットには誰もいなかった。

「あれ? おかしいな…ん?」

視線を感じ、ベットの下を覗き込むと…不気味に光る一つの緑色の目がこちらを―――。

「「うわぁああああああああああああああああああああああ!!!??」」

182十字メシア:2012/07/22(日) 21:17:24
「ごめんねみくちゃん、先に言うの忘れてたよ」
「い、いえ…ボクもごめんなさい…」

悲鳴を聞いた玉置が駆け付けると、みくと銀の髪の少年が体を震わせて泣いていたのだった。
特に少年の方はベットにも振動が伝わるほどに。

「はい、手当て終わり」
「あ、ありがとうございます……ところで先生、あの人は…? 1年じゃないみたいだけど…」
「ああ、2年2組のノワール君だよ。最も、ここか図書室で勉強してるから、教室には滅多にいないんだけどね」

と、ノワールを見やる玉置。
本人はと言うと、ベットの下には潜り込んではいないが、ベットの毛布にくるまって未だに震えていた。
それを見かねたみくは、少し近付いて話しかけてみるが。

「えっと…さっきは、ごめんなさ…」
「ヒッ!」

今度は毛布にくるまったまま隅の方に逃げてしまった。

「あ…」
「彼、対人恐怖症でね。保健室に誰か来ると、今みたいにベットの下に隠れたり、隅っこの方に逃げ出したりするんだ」
「そうなんですか…」
「まあ僕なら少しだけ慣れてるんだけど…ノワール君」

今度は玉置がノワールに話しかける。
すると僅かだが二人の方へ顔を向けた。

「……」
「この子は1年の張間みくちゃんだよ。たまにここに来るんだ」
「…1……年…? 張間…みく?」

ようやく体の向きも二人の方に向かう。

「そうだよ。ののかさんの事は知ってるだろう? 彼女のクラスメイトだよ」
「…張間…みく……君が…」
「え…?」

自身を知っている様な口を利くノワールに、みくは少し驚いた。

「…虐めの噂で…名前、聞いたから」
「あ…」

この人の耳にも入っているのか。
自分の事が。
みくは何故だか、急に塞ぎ込んでしまいたくなった。

「…辛い?」
「えっ?」
「虐め、って…僕にはあまり分かんない、け、ど……辛いんだよ、ね…?」
「…………」

ノワールは泣きそうな目でみくを見つめつつ、言葉を紡ぎ続ける。

「僕も…僕も、自分なんか生まれてこなきゃ良かったって…思ってる…」
「え…ど、どうしてですか?」
「…僕は、いらない子だから……役立たずで、臆病で、愚図な悪い子だから……だから、何で僕、は生きて、る、かなって…な、で…死んでっ、ないの、かなっ…て……ッ!!」

泣き出すノワール。
玉置は彼の背中を優しくさするが、それでも嗚咽が止まらない。

183十字メシア:2012/07/22(日) 21:18:00
「僕な、か…僕なんか生まれてこなきゃ、良かったのに……そうすれば、そうすれば……」
「………」

フワッ

「…!」

ノワールは急に触れられた別の体温に驚く。
それは自身を抱き締めているみくのものだった。

「ボク、先輩の事よく知らないけど…でも、何となく分かります。先輩もボクと同じぐらい…それ以上に辛い事があったんだって」
「……張、間さん…?」
「ボクも、今はこんな感じだけど…でも、良い事や嬉しい事もいっぱいあるんですよ。だから、先輩もそんな風に、自分で自分を傷付けないで下さい。苦しめないで下さい」
「………」

茫然とみくを見つめるノワール。
そしてはにかんだ笑顔で。

「…ありがとう。張間さん」
「い、いえ…上手く言えないけど…先輩にも、きっと嬉しい事が起きますよ」
「嬉しい事…か」

と、ノワールは首にぶら下げたペンダントのトップを手に持つ。

「それは…?」
「昔、雪の様な女の子からもらったんだ。…僕が、初めて好きになった子」
「へえ…」
「その子も、君みたいに優しかった。綺麗な暖かい心を持ってた…」

懐かしそうに、目を細めて言うノワール。

「…また、会えたらいいなって。その子に」
「会えます、きっと」

根拠は無いが、何故かみくははっきりと言った。

「……張間さん」
「はい?」
「その、良かった、ら……」


「僕の、友達になってくれるかな?」


臆病と黒


(黒の言葉に)
(臆病が笑って応えたのは)
(言うまでもない)

184クラベス:2012/07/22(日) 21:38:06
お久しぶりすぎて申し訳ないです…;
「偶然と突然に捧ぐ」に続きます。
十字メシアさんより「ヨシエ」、しらにゅいさんより「タマモ」、Rianさんより「キエン」をお借りしてます。
本当はもっとお借りしたかったのですが文章力の欠如にて撃沈っ…orz


――ごめんね、僕のせいだ。
目の前で消えると分かっていながら、何も手出しが出来なかった。
自分が術にかかっているともっと早く気づくべきだったんだ。
僕は、妖怪主治医どころか、医者失格だね…。


秋山家の寺院には、百物語組の総勢が集合していた。
動けない数名と、居なくなったキリを除いて。
主である春美はいない。自室にこもっているらしい。

千尋は何もかもすべて話した。自分が見たことを正確に。
最後のほうは鮮明に思い出したのか、ぼろぼろと泣きじゃくる始末だった。
見るに堪えない彼の様子。誰もが彼を許す。
ただし、数名を除いて。

「…それで、本当に全部なの?」
真実の告白の後、数分の沈黙を破ったのは、彼のパートナーであるミサキだった。
「ああ。僕が知る限り…。」
「本当にそうなの!?」

彼女は不意に立ち上がり、千尋の胸倉をつかんで持ち上げる。
驚いた仲間が止めようとするが、彼女はそれを聞かない。
「助からないと分かって見捨てたんじゃないの!?違う!?」
千尋は黙る。胸を持ち上げられた不自然な格好で押し黙り、ただ首を振り続ける。

やがて千尋を床に打ち棄てると、ミサキは鋭い目で睨みつけたまま言った。
「あんたなら…、あんたなら私の疑念を打ち消してくれると信じていたの。でもこれじゃ、酷い裏切りだわ!」
そのまま踵を返し、部屋を出て行った。
「医者ってのは、本当に最低ね!」
その言葉を残して。


「…千尋さん、大丈夫ですか?」
ヨシエが彼を抱き起こす。千尋は尚も無言のままだった。
「ミサキ、こればかりは言い過ぎだよ…。」
ミナミがあきれたような声を上げる。しかし、千尋は首を振り、自らその言葉を撤回した。
「僕が全部悪いんだ。キリ君を助けられなかったのは、事実なんだし。」

「クランケばかり背負う必要ないって!大丈夫大丈夫!」
ノラがなだめる。幹久朗はその様子を見ながら、首をかしげた。
おかしい。何か引っかかる。でも確たるものがない。
仮に千尋の話が本当だとしても、矛盾が存在しないか。
あの様子では嘘とも考えにくい。そうだ。例えば…。

「千尋、今夜はここに泊まっていけ。疲れただろ?」
幹久朗は口を開いた。ここに泊まるのは辛いかもしれないが、この機会を逃してはまずい。
「いいよ。僕は事務所に帰るから…。」
「明日、俺の店に来てほしい。詳しい話が聞きたいんだ。」
俺と親しい妖怪仲も一緒に連れてくるつもりだが、辛いなら俺だけでもいい、と付け加えて。

千尋は一度天井を仰ぎ考えたが、やがてこくんと頷いた。
「分かった。今日はここに泊まって、明日君と君の店に行こう。」
友達、何人でも連れてきていいから。彼はそういうと立ち上がった。
「私、彼についていきますね。」
とヨシエが肩を貸し、部屋から立ち去った。

185クラベス:2012/07/22(日) 21:40:00
残された妖怪たちは一斉に沈黙する。
追悼なのか、疑問なのか、憤怒なのか。それは定かではないが一様に黙っていた。
「…どうする?主暫く出てこれないかもよ。」
「どうするっていわれてもなぁ。」
「今は何も出来ないでしょうし…。」

それぞれが腕を組んで首をかしげる。
そのうち不意にカイムが顔を上げた。ふいと障子側を仰いで数回頷くと、目を閉じた。
不思議に思った数人がカイムを見る。
次に彼がゆっくりと顔を上げた時、その眼は血のごとく赤く染まっていた。

「『少しよろしいですか?』」
その声に全員の視線がこちらを向く。
「『今、僕にハルミさんがとりついています。』」
「ハルミちゃんって、妖怪の方?」
「『はい。人間に体質が近く、あらゆる音を聞く僕に声をかけ、体を貸してほしいと。』」
ですのでこの先は彼女の意見として聞いてください、と前置きをし、彼は話しだした。
「『彼女の意見を端的に言います。』」


「『キリさんを、もう一度取り戻そう、とのことです。』」


全員が動揺する。
「ちょっと待って!カイム…じゃない、ハルミちゃん本気で言ってるの!?」
「『そのようです。正直僕も動揺しています。』」
「ふむ…。確かにそれは一理あるのう。」
タマモが顎に手を添え考える。

「じゃが、確率的にそれは難しいんじゃなかろうか?」
「そうですよ。殆ど無理に等しいです。」
一度「消えた」経験のあるエトレクも声を上げる。
「消えたばかりのキリさんが戻る確率がまず無いに等しいのに、意図的に戻せるんですか?」
「それに、これ以上語っちゃ百物語にならないじゃん!」
ノラも異論を唱えた。

「『無理、ではないでしょう。』」
カイムは頭の中にいる少女の声を逃すまいと目を閉じる。
「『百物語の本来の目的は何か忘れていませんか。100話語った後、どうなります。』」
「えっと、真っ暗になった部屋に幽霊が現れて…。」
「『そういうこと。つまり「101番目の怖い話」を作るのです。』」

「『意図的にキリ君が出てきやすい状況を作り、春美さんを説得して「第一〇一話」としてキリさんを連れもどす。確率は低いですが、やらないよりはましです。』」
本気かよ…とつぶやくエトレクにカイムは頷いた。
「『といっても、具体的な方法は思いつかないので自分は春美さんの説得に専念するからあとはよr』…え、ちょっと待ってくださいハルミさん!?」
慌てて目を開けた時には元の黒色に戻っており、カイムは慌てて立ち上がる。
部屋を見回すが、どうやらもうハルミはいないらしい。

「…提案しておいて何も考えてなかったのか。」
キエンの鋭い一言に、カイムはがっくりと膝を落とす。


「とはいえ、やってみる価値はあるかもね。」
ノラの言葉に一同は頷く。
「確率が低いのはもとよりじゃ。この確立をどこまで上げられるかが重要。」
「方法は後からでもいい。今は人数を集めよう。多いに越したことはない!」
「…やりますか、皆さん!」


誤解、疑問、そして行動


かくして始まった「キリ復活計画」
はっきり言って無計画だがやる気だけはある
…はず。

----
フラグの乱立です。
ミサキサイド、千尋サイドは勿論、百物語組がこれからいろんな人に協力を仰ぐと思います。
乗ってくださるもよし、断るもよし、襲うもよし。
どうぞ遠慮なく拾っていってください。

186スゴロク:2012/07/22(日) 22:18:27
クラベスさんに乗っからせていただきます。



「キリさんが……!?」

廃病院の霊安室、というまともな神経の人間なら恐ろし過ぎて立ち入れない場所で、百物語13話・ミナは吃驚していた。
同じ妖怪にして百物語の仲間であるキリが消滅した、という知らせがたった今、アカノミから入ったのである。

「それで、皆さんは……」

ミサキの離脱などのハプニングにも見舞われているが、100話・ハルミの提案により、キリを101話として呼び戻そう、という話が持ち上がっているという。

「………」

ミナは迷った。今の自分は、半端に顕現している、意思を持った現象にすぎない。他の皆のような「概念」ではない。そんな自分に、果たして何が出来るというのか?

「…………」

それでも、

「……今から神社に戻ります。アカノミさんは、もし流也さん達が来たらこの話をしてあげてください」

何もしないということだけは、断じて受け入れられなかった。


それから程なくして、霊安室からは一切の気配が消えた。





「……そういうことですか」
「ええ。具体的な方法はまだ未定ですが、キリさんが出てきやすい状況が必要となります。少なくともこれは確定です」
「……わかりました。それなら、私も少しは役に立てると思います」

意志ある怪奇現象であるミナは、現れた場所が一種の心霊スポットとなる。無論これだけでは不足もいいところだが、ないよりマシのはずだ。
ただ、

「……あの、カイムさん」
「はい?」

ミナには、一つ気になることがあった。

「ハルミさんの提案というのは、キリさんを101話、百物語の後に現れる本物の怪として呼び戻す、ということでしたよね」
「ええ、そう言っていました」
「……もしかして、それって凄く危険じゃないでしょうか?」
「危険?」

意図するところを図りかねたように、カイムが首を傾げる。
が、ミナは知っていた。ハルミの提案に存在する、一つの危険性を。

「キリさんは『切り裂き魔のとおりゃんせ』です。……百物語の内容は、語る人によって様々ですから、そういう人も出るでしょう」
「……ミナさん、何が言いたいんですか?」
「百物語を全て語った後に現れる怪……ハルミさんの案は、ここにキリさんを当てはめよう、ってことですよね」
「そうですよ、それが何か?」

さすがに苛立ちが声音に乗り始めたカイム。
だが、続くミナの言葉を聞いて、彼は文字通り言葉を失った。

「百物語の最後に出てくる怪は、幽霊ではなく『青行燈』という妖怪の女性とされているんです。主さんの能力は百物語限定ですから、その先にまで影響できるかは未知数です。今はまだ現れていませんけど、もしかするともうどこかに……」

盲点だった。
ハルミの提案自体は確かに理にかなっていた。だが、キリが戻るべき席である「101話」には、古からの先客が既に座っていたのだ。
しかし、ミナはこうも言う。

「百物語の起源は『巡物語』という、いわゆる暇つぶしの遊びです。これは話数が決められていませんから……」
「しかし、主の能力は百物語ですよ? 今あなたもそう言ったでしょう」
「特殊能力は不変じゃありません。何らかの要因によって進化、あるいは変化することもあります……」

ミナの話は「もし」「たら」「れば」の塊であり、決定的な証拠はない。ことに春美の能力に関しては、可能性の話でしかない。だが、看過するにはあまりに重大な内容だった。

「……わかりました。今はどんなものでも、手掛かりが欲しいところです。とりあえず、次に皆さんが集まった時にでも話しておきましょう。どの道すぐには始められませんし」
「はい」
「それでは、この話はひとまずここまでです。……ミナさん、改めて、協力をお願いします」

カイムの言葉に、ミナは無言でうなずいた。



写し鏡と青行燈



「……ところで、いつの間にそんな知識を?」
「時々遊びに来る女の子に教えてもらったんです……」



クラベスさんより「カイム」「アカノミ」名前のみ「ミサキ」「ハルミ」「秋山 春美」をお借りしました。
いきなり水を差してしまったような……大丈夫でしょうか……

187スゴロク:2012/07/22(日) 22:35:29
>>178
今気づきました、カチナ君はえて子さんのキャラでした……製作者どころかレスの名前を間違うとは……。

まことに失礼しました。私はもうダメかもしれません。

188十字メシア:2012/07/22(日) 23:13:36
ちょっとした小話。
(六x・)さんから「不動 司」「空橋 冬也」「崎原 美琴」(名前のみ)お借りしました。


−いかせのごれ高校−

「崎原さん、1週間は学校休むんだって」
「そうか…まあ無理もないか」
「早く元気になるといいね…」
「そうだな―――ん?」

「崎原の奴、今日は休みだってさ」
「マジ? じゃあ今のうちに机に落書きしよーよ」
「しちゃえしちゃえ」

「あの人達…張間さんの…」
「チッ、またくだらねえ事を…ちょっと止めてくる」
「待って、その必要は無いみたい」
「は? 何で…」
「ほら、あれ」

「貴方達…」
「ヒッ!? な…何だ、黒魔女かよ」
「何しに来たの? もしかして、やめてほしい訳?」
「あら…素敵な話をしに来たのに、つれないわね…」
「は?」
「この呪いのかかった手紙…机の中に入れたら不幸な事が起こるのよ…」
「えっマジで?」
「ええ…」
「黒魔女の呪いの手紙とか効果覿面だわw じゃあよろしくー」
「うふふ…任せて…」

「悪化してんじゃねーか」
「大丈夫だよ」
「けどアイツ」
「樹梨亜さんは、崎原さんみたいな優しい子には絶対悪い事しない」
「………あの女子共みたいな奴は?」
「………」
「………」
「…する」


「うふふふふふふ…おめでたい人達だこと…『崎原さんの』机の中に入れるだなんて一言も言ってないのに……明日が楽しみだわあ……アハハハハハ…」


魔術師の欠席、黒魔女の報復


−翌日−

「アレ? アイツらは?」
「暫く休みだって」
「休み?」
「何でも全員、風邪引いた上に両腕両足、骨折したらしいよ」
「………」
「………」
(流石黒魔女…だね)
(流石黒魔女…だな)

「やっぱりおかきは美味しいわね(ポリポリ)」

189サイコロ:2012/07/23(月) 03:25:03

リハビリと気分転換に。


<彼の存在意義。>

「お…掟破りのテクニックを使っても、離れねぇだと!?」
男は焦っていた。
「相手は軽のカプチーノじゃねーか!なぜだ…どうして俺のランエボで引き離せねぇ!」
とある峠道、下り。ここはつい先日から男が走り込んでいる道で、地元の走り屋を文字通り捻り潰して走り込んでいた。

が、しかし。

「なんなんだあのカプチーノ!・・・待てよ、ありゃこの前崖からすっ飛んでった、奴のじゃねーのか…!?」





数十分前に時を巻き戻す。

「アレか?」
峠を往復し獲物を探す事数時間、ついに捕えた。
『ハイ…あの男に復讐を。それも出来るだけの絶望感と敗北感を。』
モトの問いに、「モトになった思念」の女が答えた。
モトを形成するのは、交通事故や事件に巻き込まれた者達の思念である。
その中に先日加わった女が強く望んだ事が、男への復讐であった。
車は女が元々乗っていたモノを記憶を元に具現化し、モトが乗りこんでいるのである。
「しっかしおみゃーさんもカプチーノで4WDに喧嘩売るたぁー大したタマやったんやのー。」
『…元々レーサーの端くれでしたの。大会にも何度か出てましたし、早かったんですのよ。』
そうこうしている間にどんどん標的のランサーエボリューション、略してランエボとの距離が詰まってゆく。
『貴方は私よりも数段早いみたいだけれど。』
「そんなこたぁ無か。ワレの技術と感覚、経験を使っとるんじゃけんの。」
『あら、嬉しいわ。あいつにこれで…。』
「よし、喰らいついたで。もう離さへん。」


そして今のカーチェイスに至る。


「ま・・・間違いねぇ、あのステッカー…この前抜かれた腹いせに突き落としてやった奴だ…なんで生きてやがる…」
男は器が小さかった。その癖にプライドだけは大きかった。性能のいいランエボに乗り、
貧乏な走り屋をあざ笑うかの如き運転を行い、挙句の果てに気に入らない相手の後ろをぶつけ、先日一人崖の下に落とした。
相手は美人の女だった。峠の上でナンパし、断られた腹いせに勝負を仕掛けたら抜かれそうになり、
本人曰く「ついうっかり」後ろからぶつけ、ガードレールを突き破って落としたのである。

「クソが…なんで軽如きに追いつかれんだ…こっちはランエボだぞ…4WD、排気量だってこっちが上だってのに…!」

ストレートでは確かに引き離すのだが、カーブを抜けるともう鼻先まで迫ってくる。男には全く理解が出来なかった。

いや、否定したかったのかもしれない。

「い…イカレてやがる!あんな速度でカーブを抜けてくるなんて正気の沙汰じゃねぇ!」
そう、タイヤのグリップが効くギリギリまでしかスピードを落とさず、迷わずキレイなカーブのラインを描いていくのである。しかも、理想ラインをほぼズラさずに。
細かい技術の蓄積は、車の性能比を埋めていた。

そして峠最後のヘアピンカーブ。
第二コーナー、女が落とされたのと同じ所でモトの運転するカプチーノが外側から男のランエボを抜いた。そして男がカプチーノへ自らの車をぶつけようとした瞬間に。
「格の違いを噛み締めて死になさい、悔いなさい…!」
フロントガラスに女が映り、男の耳には女の声と赤ん坊の泣き声が響いた。カプチーノが衝突を避けたため、力の行き場を無くしたランエボはガードレールに突っ込み落ちていった。
女によると、最後の悲鳴は『畜生がぁぁぁぁぁ!』だったらしい。

『ありがとう…これで私と私のお腹にいた赤ちゃんを殺した奴に復讐出来たわ…。』
モトはタバコを咥えるとニヤリと笑う。
「よかよか。ワシの仕事だっぺ。」
傍から見ると独り言をつぶやく時代遅れのヤンキーだ。しかし、そうではない。

モト。彼は交通事故によって亡くなった者の思念が集まって出来たモノ。

彼の存在意義。

それは悲劇を戒めるため。

それは復讐を遂げるため。

それは――――――――。




カプチーノの具現化を解き、新たに具現化したバイクに跨ったモト。ライターでタバコに火を付けたその時、背後に気配を感じた。

「…誰や。」

190サイコロ:2012/07/23(月) 03:25:33
というわけで気分転換とリハビリ含んで書いてみました。
書きたい事書き殴ってしまった為に文が滅茶苦茶、そして最近の流れをあんまり読んでいませんのでアレなんですけど…。

ランエボ乗ってた男は金持ち息子のクズです。カプチーノの女性は被害者でお腹には妊娠4カ月の赤ちゃんがいました。
気質でストリートバトルしてしまった女性でしたが、モトはバトルで卑怯な手を使われた事、そしてその事故の結果に腹を立て復讐を手伝いました。


一応最後に投げておきました。拾いたい方はどうぞ。

191えて子:2012/07/23(月) 04:24:29
>>187
>スゴロクさん
お気になさらず。そんなこともありますよ。

192十字メシア:2012/07/23(月) 21:09:22
それぞれの意見と価値観的な。
自キャラオンリーです。


『虐め?』

昼休み、時間をもて余す様に駄弁っていた紀伊、ニーナ、キラ。
例の如く、大量の食糧を口に放り込む簀の発言を三人は繰り返した。

「うん。ほら、1年でそれされてる子がいるって噂、聞いてない?」
「あー…あっ、知ってるわ俺」
「オレっこもー」
「私は初耳だな」

それぞれの反応をする三人。

「むぐっむぐっ……んでね、最近じゃあ他の子にも魔の手が伸びてるってゆーか。ゴキュッ」
「ハッ、心を持つ人間の癖に、随分と”冷たい”事をするもんだな」
「…キラ、目が据わってる」

”冷たい”事に関して、特に心に関係するとなると態度が様変わりするキラ。
過去にホウオウグループ脱退に繋がる事件で嫌いになったとらしいが。

「虐めかー…懐かしいなー」
「お前の場合はそうだろうよ」
「ぶっちゃけ、普通の人なら懐かしまないけどねー。けぷぅ〜っ」

そう呟いた簀は、フランスパンのホットドッグを胃に流し込んだ。

(相変わらず良く食う…)
「まーオレっこなら平気だけどな。寧ろクリアした達成感あるし♪」
「………ニーナ、今の発言は虐めをしている奴と同レベルだ。撤回しろ」
「えー? 別にオレっこは虐めしたい訳じゃないぜ? ただソイツと仲良くなるっていうノルマが―――」
「虐めはゲームじゃない!!! されてる側は尋常じゃないほど辛いんだぞ!!!」

ガタッと立ち上がったと同時に、キラはニーナの胸ぐらを掴んだ。
周りの生徒達も急に聞こえた怒声に驚き、視線を投げる。

「おいキラ! 落ち着け!」
「断る。せめて一発殴らせろ」
「キラ!」
「そ、そうだよ。ほら、あんパンでも食べて落ち着きなって」

紀伊と簀の必死の制止すら聞き流す始末。
と。

「キラ。今それをしたら、そこら辺のガキと変わりないぞ」
「!」
「希流湖」

妖艶で美しい顔立ちをしたクラスメイト、希流湖が半ば呆れた様に立っていた。

「…すっこんでろ」
「ムーリ。大体、殴った所で何になるんだよ。正義感気取りのつもりか?」
「………」
「そんな事したって虐め無くなる訳でも、ニーナの性格変わる訳でもねーじゃん、な? …お前が優しいのは元より知ってるぜ?」

イタズラっぽく笑う希流湖。
さりげなく出た褒め言葉に、キラは少し顔を赤らめる。

「………」

一方で胸ぐらから手を離されたニーナは、何事も無かったかの様な態度だった。

「キラー? 希流湖にでも惚れたか?」
「ち、違う! 単純に照れていただけだ!!」
「ケケケ、冗談」
「ったく…………ニーナ」
「ん?」
「…悪かった」
「べっつにー? 過ぎた事は気にしないしー、オレっこもちょっち、楽天家過ぎたかなーって」

会話する二人を見て、紀伊と簀はホッと胸を撫で下ろした。

「サンキュ、希流湖」
「気にするな。困ってたから手助けしただけさ」

と、微笑する希流湖。
余談だが、その笑みで一部の生徒が顔を赤らめたとか何とか。


千差万別の価値観

193スゴロク:2012/07/24(火) 18:46:10
>えて子さん
ありがとうございます。
少しは立ち直れたので、続きを仕上げようと思います。

194十字メシア:2012/07/25(水) 02:46:36
スゴロクさんのフラグを拾わせて頂きました。
最終的に投げちゃってますが。
スゴロクさんから「クロウ」お借りしました。


「―――誰だ?」

見覚えの無い番号。
不審に思いながらも繋いだクロウの問いに、相手が第一声を漏らした。

「こんにちは、ホウオウグループ」
「………」

やはり、声にも聞き覚えが無い。
恐らく今日が初めてだろう。

「もう一度言う…誰だ」
「…っくくく」
「………」

微かな笑い声。
クロウは眉間に皺を寄せるが、ひとまず感情を押し殺す。

「かけといてなんだけど……君達とは話したくないんだよね。これでも冷静になってる方なんだ」
「……質問を変えよう。用件は?」
「用件? じゃあ単刀直入に言ってあげる」


「ストラウル跡地に殺されに来いよ鳳凰のひっつき鳥、以上」


「!」

そこで通話が途切れる。
履歴を見ると、かかってきた番号は何故か載っていなかった。

(挑発か? それとも罠…?)

いくら考えてもキリが無い。
だが向こうから言ってきたからには、いずれはぶつかる障害なのは間違いない。
しかも口調こそは落ち着いてはいたが、血塗られた刃の様な殺意が感じられた。
否、感じ『させていた』と言うべきか。

(とりあえず行ってみるか…)


「…よし。ありがとう、『アンドーラ』」

とあるアンティークショップ。
その店内で、ウエイターの格好をした、店主らしき少女が微笑を浮かべて誰かに礼を述べた。

「まさか、話したい相手の番号にかけられる、ダイヤル式電話が出てくるなんてね…でも助かったよ。これでまた”復讐”が出来る………ックククアハハハ……ッ!」

傍らのレイピアを撫でながら、少女―――レオナは狂った笑い声を上げた。


鴉の通話、店主の狂笑

195スゴロク:2012/07/25(水) 10:20:21
十字メシアさんに続きます。「レオナ」お借りしました。



「さて、問題の場所はここだが……」

先ほど、ブラウという男に関する通達を連絡して回っていたクロウのもとに、一本の電話がかかって来た。明らかな敵意を持ったものからのその連絡に、彼は応じた。
放置しておくのは危険であったからだ。

(どのような手段でこのアドレスを知ったのか……でなければ、何らかの能力によるものか)

興味は目下、相手の力にあった。憎悪や怒りを向けて来る相手は、飽きるほどに見て来た。殺した者は多く、取り逃した者もまた多い。

(ともあれ、成すべきは一つ)

思うクロウの前に、

「!」
「来たね、ホウオウグループ」

人影が一つ。ショートボブの金髪に、茶色の釣り目の少女。

「何者だ?」
「レオナ……と言ってもわからないだろうね。お前らのおかげで、地獄を見た女だよ」
「………」

刃のような殺意と敵意を受けてなお、クロウは動じない。
その様子が気に障ったのか、レオナの眉が不快そうに寄る。

「……随分と余裕だなぁ? これから死ぬっていうのに」
「飽きるほどにやって来たことだ。今更興味も沸かん。それに……」

言い切る前に、レイピアの一突きがクロウを襲っていた。
が、それはクロウに届く前に、不自然な軌道を描いて逸れる。

「!?」
「お前は、俺を甘く見ている」

返す一撃もまた、レオナが入れた力とはまるで違う方向に曲がり、逸れる。

「ふぅん……軌道を操る力か。それが噂のイントルーダーって奴? まさに『介入者』だな」
「知っているなら隠す意味もないな」

言うが、クロウはそれ以上口を開かない。
無駄に情報を与えてやることもないからだ。

この間にも、絶え間ない刺突が連続して7回、クロウを襲っているが、そのどれもがかすりもしない。

「さて、手札はそれだけか?」
「………」

答えは返らない。
代わりに返って来たのは、血を吐くような怨嗟の声。

「……偉そうな口を聞くな。お前達にそんな権利はない。アタシは、お前達が、ホウオウグループなんか死ねば良いのに死ねば良いのに死ねば良いのに死ねば良いのに死ねば良いのにアタシはアタシはアタシはアタシはアタシはお前らのせいでお前らのせいでお前らのせいでお前らのせいで……お前らのせいでぇぇぇっ!!」

憎悪に彩られたその一撃は、クロウが能力を作用させるよりも早く、その身に届いた。

「む!」
「!! 届いた……ハハァッ!!」

そこからは一方的な展開。レオナの繰り出す刺突の雨が、間断なくクロウを襲う。

(ちっ、ぬかった……!!)

体の至る所が貫かれ、裂かれ、血しぶきが舞う。
返り血を浴びながら、レオナは狂笑する。

「アァァアァァッハハハハハハ!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェェェェッ!!!」
「ちいっ!!」

ダメージを辞さず、クロウは一端大きくバックステップして距離を取――――れなかった。

「ガ……!?」

どういう理屈か、それよりも遙かに速く踏み込んだレオナの一撃が、胸部を深々と貫いていたからだ。

「殺ッたァァァァッ!!」

狂喜の叫びと共に、レイピアを押し込んでくる。



「だが、掴んだ、ぞ」



「ッ!!?」

196スゴロク:2012/07/25(水) 10:21:09
途切れがちながら酷く冷静なクロウの声に、狂気に染まっていたレオナの意識が引き戻される。
ふと気づくと、レイピアを持った右手が、クロウにがっちりと捉えられていた。

「は、離せ!!」
「戦闘経験は、あまり、ないようだな……接近戦を、挑んだのは、ともかく……不用意に、寄り過ぎた、のが、失敗、だ」

言うや、クロウは空いている方の手でレオナの頭を鷲掴みにする。

「俺の能力は、察しのとおり、軌道を操る、力……だが、それを、人体に、作用させれば、どうな、る?」
「!?」

言い知れぬ悪寒が、レオナの背筋を駆ける。
が、逃れようとしたときには遅かった。

「血管、神経……ルートが、既に、確定し、変更が効かない、ものは、対象外……答えは、一つ」

瞬間、

「―――――ッ!!!!」

レオナの喉から、甲高い音が迸り、消えた。同時に、その体が頽れ、地に伏す。
肺の中の空気が「イントルーダー」で一気に逆流し、酸欠に陥ったのだ。
だが、クロウの方もただでは済んでいない。

「ッ、無茶を、し過ぎた、か……」

がくり、と膝をつく。
人間の体の中というのは、能力を使う方からするとある種の結界だ。そこに無理やり干渉しようとすれば、体力なり精神力なり、多大な力を消耗する。
レオナの猛攻で重傷を負った身でそれだけの力を発揮した以上、クロウ本人もただでは済まなかった。

(戦闘続行は不可能……ブランクが仇になったか。だが、何とか……)

思う間に、

「!?」

目の前のレオナの姿が消えた。慌てて目を巡らせると、見覚えのある顔が視界に飛び込んできた。
濃い茶髪のショートヘア、窓枠から投げ出す足にはズボン。

「スパロウか……」
「ちわっす、鴉さん。何ともまあ酷い仕儀っすね」

彼女の能力は、視界内の任意の何かを思い描いた場所に転送するものだ。大抵は人員輸送を行うのだが、最近は暇を持て余しているとか。

「奴はどこへ?」
「とりあえず、ここから出来るだけ離れた場所へ。どっかの森の近くっす」
「そうか……ひとまず帰還するぞ」
「それはアタシに働けってことっすね、わかります。んでは失礼」

スパロウが指をスナップして一瞬、クロウの姿はストラウル跡地から消えていた。


未だ深き、その闇



「さぁて」

一人残されたスパロウは、ビルから飛び降りてひらり、と着地する。

「もう出て来てもいいっすよ」




簡素ながら決着までいかせていただきました。
最後にまたフラグが来ましたので、拾ってくださるならご自由にどうぞ。

しかし、昔に比べてクオリティが落ちてますね、我ながら。ネタが切れて来たのか……。

197十字メシア:2012/07/25(水) 13:39:55
スゴロクさんの「未だ深き、その闇」のレオナのその後。
短いです。


「ハァ…ハァ…」

胸を押さえ、フラフラと森の奥へと向かうレオナ。

「ハァ…ハァ………この辺で、いいか、な…」

膝を地に突き、息を整える。
幾分か楽になった後、彼女は『それ』を行った。


「来て、『アンドーラ』」


主の呼び声に呼応するかの様に、アンティークショップは瞬く間にそこへ現れた。

「ありが、と……痛ッ!」

未だに肺が痛む。
それだけ、あの鳳凰にしがみつく小鳥の一撃は強烈だった。
レオナは最後に聞いた小鳥の言葉を思い出す。

「戦闘経験はあまり無い…か……不愉快だけど、認めざるを得ないね」

本音を言うと、毎日”復讐”という名の狩りをしたいが、アンドーラの経営や手入れなどもあって、中々狩りが進まなかったのだ。

「…………」

自室へ辿り着くと、すぐにベッドへ雪崩れ込む。
すると忽ち彼女の呼吸から、乱れや苦痛が無くなっていく。

「ふー……治った…ありがとうアンドーラ。いつも助かるね」

返事は、無い。
だが微かな物音を耳にして、彼女は優しく笑った。

「君は、最後の僕の家族。……僕の宿願を果たせるまで、傍にいて欲しい」

刹那、すぐ近くで別の物音が響く。
横を見ると、さっきまで無かった筈の球体関節人形がベッドに転がっていた。

「ふふっ、ありがとう。……さてと、次はアイツらだ」

自身の敵はホウオウグループだけではない。
地球を守護するなどとほざく偽善者共―――ウスワイヤもだ。
ふと、彼女はベッドの傍にある二枚の写真を見つめる。
一枚目には親らしき男女の二人と小さな女の子、その隣に立っている、一番目に背の高い女の子と、二番目に背の高い男の子。
二枚目は一枚目に映っていた小さな女の子がいたが、背が少し高くなっていた。
そして女の子を取り囲む様に、何人かの少年少女が笑顔で立っている。

「………絶対に―――」

その先の言葉はか細く、外の大きな風の音に掻き消された。
そして、レオナは再び受話器を手にする。
血塗られた殺気を放ちながら。

「……どいつの番号に繋がるのかなぁー」

狂笑とした表情でダイヤルを回す。
繋がったのは―――。


店主の次の矛先


(許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない)
(死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ)
(コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル)


最後のフラグ…良ければどなたか拾って下さいまし。

198しらにゅい:2012/07/25(水) 20:00:26
---


「サヤカちゃんは、いいなぁ…」
「…は?何が?」
「ピアノ、すっごく上手。…いいなぁ。」
「こんなの、練習すればみくにだって出来るって。」
「だって、サヤカちゃんみたいに綺麗で柔らかい音出せないよ…両手も器用じゃないし…」
「やる前からあきらめてどーすんの。」
「だって、絶対無理だよ…」
「私だって、小さい頃からこんなに弾けてたわけじゃないし。
そりゃ、手にまめ出来るぐらい弾いてたりはしてたけど。」
「ほら…」
「でも、いきなり出来ましたーなんて人間いないじゃん。」
「それは、そうだけど…」
「出来ない出来ないって、頭ごなしに否定してるから出来ないじゃん?
出来る、って少しでも思えば、後は手が勝手に動いてくれる。
気持ちと行動が一緒になれば、どんな無茶だって出来るんだよ。」
「…それ、なら…ボクにも、出来るかな…?」
「みくが弾きたい!って強く願って、ピアノを触ったら、ね。」
「……っボクにも、出来る…えへへ…」
「…じゃ、何弾こうかなー?みく、何かリクエストある?」
「えっ、うーんと…じゃあ、サヤカちゃんのお気に入りのあの曲!」
「アレ?…あー、ドビュッシーの『月の光』?」
「うん!」
「分かった、…今度のコンサートも上手く弾けたらいいなぁ。」


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