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企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3.5
199
:
しらにゅい
:2012/07/25(水) 20:03:50
張間みくが授業に出なかった。
学習態度の真面目な張間みくが数学の授業に一向に姿を現さず、そのまま授業が終わってしまった。
クラスメイト達はまたトイレで虐められているのだと冷やかしながら、たいして彼女に気をかけず、
いつものように次の授業の準備をしていた。
そんな矢先に教室に飛び込んできたのは、今話題となっていた少女であった。
けたたましい音を立てて扉を開いた彼女は、今走ってきたばかりなのか肩を上下させながら荒く息を吐いており、
その表情は強張っていた。いつもの怯えた様子は微塵も感じさせない張間みくを見てクラスメイト達はしばし固まっていたのだが、
彼女は近くにいた女子生徒を見つけると、ぶつかりそうな勢いで駆け寄った。
「サ、サヤカちゃん知らない…!?」
「サヤカ…?」
サヤカ、と聞き彼女の中で思い当たる人物はいなかったので、知らない、とだけみくに答え、さっさと教室を出ていってしまった。
みくはすぐに別のクラスメイトを見つけると先ほどと同じように彼へ声をかけたのだが、やはり同様の答えを返され、そして避けられた。
しかし、彼女はあきらめずまた次に、また次へと教室にいるクラスメイトに声をかけていく。傍らでその姿を見ていた冬也はただ事ではないと悟り、
慌てふためくみくを掴んで、ようやくその行為を止めた。
「ちょ、ちょっとハリマさん!いきなりどうしたの?というか、なんで授業サボって…」
「じゅ、授業サボったのはごめんなさい…!でも、っでもサヤカちゃんの姿が、朝から見えなくて…!」
冬也がその名前を聞き真っ先に浮かんだのは、数日前、手に包帯を巻いた黒髪の女子生徒の姿であった。
いじめの主犯であろう彼女を、どうして張間みくはこんなに必死な様子で探しているのか。
そういえば、彼女もまた朝から姿を見せておらず、てっきり取り巻き達と一緒になってみくを虐めているものかと冬也は思っていた。
だが、そのいじめられっ子がこの場に五体満足でいるのであれば、それは間違いであろう。
サヤカとその取り巻き達は一体どこへ…その答えを見つけ出すべく、冬也は考え始めたのだが、とある男子生徒の一言によりその思考は遮られてしまったのであった。
「自業自得、じゃねーの?」
「えっ?」
「…ユズリ君。」
ユズリと呼ばれたヘアバンドをした彼は机の上に足を乗せながら、さも目の前の光景をうっとおしそうに眺め、そう呟いた。
何故そんなことを、と冬也が問いかける前に譲の隣にある机に座っていた彼の友人が、その場にはいささか似つかわしくない笑顔を浮かべながら、
彼へフォローを入れた。
「まぁまぁ、もしかしたらサボりとかなんじゃないの?ここじゃそんなの普通だし…」
「じ、自業自得って何?…どういうことなの…?」
しかし、みくはその言葉を意に介することなく、譲に近付くと、臆する事無く彼へ問いかけた。
不機嫌で、近付く者は皆斬りつけると言わんばかりの雰囲気を出しているにも関わらず、だ。
尋ねられた本人は、大きくため息をつく。
「…さっき、サヤカの取り巻きの奴らが鞄持って、女子トイレから出ていくとこ見たんだよ。
ハリマの虐めが最近上手くいかねーからって、対象変えたんだろうな。」
「えっ?…え、虐めが、って…え…?」
戸惑うみくを余所に譲は足を下ろして立ち上がると、おおげさに額に手を当てながら大きな声で言い放った。
200
:
しらにゅい
:2012/07/25(水) 20:07:33
「あー、だっせぇ。虐めてた奴が虐められなくなったからって、また相手変えて同じ事繰り返して…ほんっと飽きねぇんだな、なぁ?」
その言葉はみくに問いかけられたものではなく、その場にいるクラスメイト全員に問いかけられたものであった。
そして、その問いかけに対し彼らは、ただ口を噤んでは無関係を装い、沈黙したままで、彼の問いに答える者は誰もいなかった。
つまり、サヤカがいじめにあっている、という事実をはっきりさせるものであった。
みくはショックを受けた様子で胸を押さえ俯くと、譲はまだ嘆くのかと面倒臭そうに頭を掻き上げた。
「まぁ、因果応報って言うじゃねぇか。自分のしてる報いは、いつか自分に返ってくるって。…あいつも悪い事してたし、これで懲りるんじゃ、」
「っ違う!!!」
彼女の突然の否定に、譲だけではなく、その場にいた全員が驚いた。
顔を上げた彼女の表情にはいつもの怯えた様子はなく、譲を見る眼の色は誰が見ても分かる通り、怒りであった。
突き刺さるようなその視線に、彼は逆上し、真っ向からみくと向かい合って、怒鳴った。
「何が違ぇんだよ!?」
「サヤカちゃんは、悪くない…っサヤカちゃんは何も悪いことなんてしてない!!」
「してただろうが!!現にそっちが被害者だろ!?」
「違う、っサヤカちゃんは最初だけで、あとは全部違うんだ!!!」
「!?」
「だから、っだから…サヤカちゃんを虐めるなんて、っおかしいんだよ…!!なんで、っなんでサヤカちゃんが虐められなきゃ、いけないんだ…!」
「…お前…」
「ボク、サヤカちゃん探してくる!!」
「あっ、ハリマさん!」
勢いよくみくが教室を飛び出すと、続けて冬也も出て行き、彼女を追いかけた。
恐らく、目的地は女子トイレだろう。彼の話が正しければ、間違いなくサヤカはそこにいるはずだ。
既にチャイムが鳴り、授業が始まったにも関わらず、みくは振り返らずに走り続けている。
本当に彼女を想っているからだ。
(それなら、どうして…?)
冬也の脳裏にちらついたのは、サヤカの腕に巻かれた真っ白い包帯。
やはりあれは、彼女らを引き裂いた原因なのかもしれない。
サヤカと初めて邂逅したあの後、冬也は緑音ののかや氏型環といった一年生を中心に「張間みくとサヤカ」に関する情報を集めていた。
一見関係性のない二人に見えるが、サヤカのあの態度は、いじめられれば誰でもよかった、とは解釈しがたかった。
だから冬也は思い切って、二人は友人だと前提して調査を始めた。
結果、彼の推理は、みくの幼馴染であるカイリの話によって、正解だと確信されたのであった。
冬也の予想通り、いかせのごれ高校に入る以前まで彼女達は友人関係にあった。
まるで姉妹のようだった、と周囲の人間は評価していたらしいが、とある出来事をきっかけにその関係は瓦解してしまった。
それは、おぞましい化け物が襲ってきたという話ではなく、日常のありふれた一場面、体育の授業中、誤って飛んできたボールがサヤカが庇っただけであった。
たったそれだけのことなのに、抱きしめるようにして庇った彼女の身体から何故か赤い棘が無数に突き刺さっていたと、目撃した人達は言う。
何が起こったか分からないサヤカはそのまま倒れ、病院へと運ばれた。
意識不明の重体の末、奇跡的に一命を取り留めたものの、代わりに両手を失ってしまった。
彼女の晴れ舞台であるピアノのコンサートが開かれる、僅か数日前のことであった。
それ以来、みくとサヤカは疎遠になり、何の因果か高校で再会し、そしていじめが始まった。
これほどまで事情を知っているなら何故、と冬也は問い詰めようとしたが、今に至ってようやくその態度に納得した。
カイリはみくの気持ちを汲んで黙っていたのだ、と。
誰もいない静かな廊下を冬也とみくが走り続けていると、中央に転がっている何かが視界に入り、近付くとそれは明確に形を現した。
初めは通学鞄、次はカードらしきものが周りに散乱した財布、ボロボロに破かれた教科書、ノート…
そして女子トイレの前に最後に落ちていたのは、はらわたを裂かれた、小さな熊のぬいぐるみであった。
201
:
しらにゅい
:2012/07/25(水) 20:14:09
「サヤカちゃん!!」
みくが叫んでトイレの中へと入ったがその直後、ヒッ、と彼女の短い悲鳴が聞こえてきた。
それを聞きつけ、恥を忍んで冬也も追って中に入ると、目の前に広がった光景に愕然とした。
トイレの奥では、いつの日かのみくと同じようにサヤカが床に倒れていた。
それだけなら、まだ良かった。
彼女の腕の包帯からにじみ出ている血は何だ?
痛々しく頬に濡れた髪が張り付いているのは、どうしてだ?
彼女の顔が青いのは、何故だ?
「こんなの、って…」
絞り出すように冬也は呟いた。
恐らく、彼女は腕を足で踏まれた。
恐らく、彼女は頭から水をかけられた。
恐らく、度重なる暴行と水責めに体温が低くなっている。
しかしこれではまるで、魔女裁判で摘発された魔女に対する仕打ちだ。
いじめの主犯だからといって、こんなのが許されるのか、否、許されてはならないはずだ。
「サヤ、カちゃ……」
みくが震えながらサヤカに近付き、彼女の肩に触れる。
幸い、彼女に別状はなく、小さく、呼吸を求めるように肩が上下に動いていた。
みくが何度も彼女の名前を呼び、優しく肩を揺すると、ようやくサヤカは目を覚ました。
「サヤカちゃん…!よかった…」
「……なに、みく…笑いに、きたの…?」
安堵の表情を浮かべるみくとは対照的に、サヤカは青い顔のまま彼女を睨み付けた。
その態度に、冬也は憤慨した。
「そんな言い方ないだろう!?ハリマさんが君のことどれほど心配して…」
「…心配、すんのは…そっちの、勝手でしょ……助けてイイ気になりたいなら、他当たれよ…」
二人を余所に立ち上がろうとしたサヤカに、みくは手を差し伸べたが、それを彼女に振り払われてしまった。
そして思わず、みくはこの言葉を口に出してしまったのだった。
「ごめ、んなさい……ボクの、せいで…」
サヤカは、一瞬固まったかと思えば、力が入らないにも関わらずみくの両肩を掴み、険しい表情で怒鳴った。
「っあんたは、あんたはいつもそう!!自分のせい自分のせいって!!
悪くないのに全部自分が悪いせいにして…っ何よ、善人でも気取りたいわけ!?」
「ち、ちがうよ、ボクはただ、」
「頼って欲しいの!?力があるからって!?前と違って、たくさん人がいて、庇ってくれる人達がいるから!?
力のある人達がいるから!?それで罪滅ぼしのつもり!?ふざけんじゃねえよ!!!」
サヤカが勢い任せに身体でみくを押すと、彼女はその力に従って後ろに倒れ尻餅をついた。
人形のように感情を揺れ動かさない彼女だったからこそ、これほどまでに激昂する姿を初めて見て、ただ冬也は圧倒されていた。
サヤカは尚も、訴え続けた。
「皆して力があるからって正義ぶって、弱い奴救って、いい気分になって…報いを受けてるあたしを助けて、それで何?英雄でも気取りたいわけ?
あんたら、勘違いすんなよ!!いじめてる奴は、憂さ晴らしたいからって奴だけじゃない、あんたから被害を受けてるからやってんのよ!!
あたしみたいに!!どうして、っどうして…もう…!!!」
そしてサヤカは、ぜぇ、ぜぇ、と息を吐き、みくを睨み付けて、こう言い放ったのであった。
「あんたなんか、死ねばよかった…!!」
「―――」
その言葉に、みくは呼吸を止められ、表情は絶望を浮かべたまま彼女を見ることしか出来なかった。
しかし対するサヤカもまた、今にも泣き出しそうな表情でみくを見つめていたのであった。
言葉を交わすことのない、長く、身を突き刺すような静寂が訪れる。
その長い沈黙を突き破ったのはサヤカで、何も言わず顔をそらすと、彼女達の横を通り過ぎ、
トイレから出て行ってしまったのであった。
後に残されたのは、みくと冬也。
「…ハリマさ、」
「…行こう。」
「え?」
「…このままじゃ、ダメなんだ…」
声をかけた冬也の予想に反して、みくはすくっと立ち上がり、スカートをほろった。
いつものような泣きそうな表情にはなっていたものの、そのまま嘆き悲しむことなく、踵を返し、トイレから出て行ってしまった。
「っハリマさん!!」
冬也の制止を、やはり聞かないで。
臆病と力の無い子
『…対象Aは?』
「今、学校を出ました。」
『そう、手筈通りね…もう一方は?』
「もうすでに。」
『分かったわ、そのまま背後から追いかけて。私は先に目的地に行くわ。』
「……分かりました。」
『ふふ、イイ子ね……ハナマル。』
202
:
しらにゅい
:2012/07/25(水) 20:16:48
>>198-201
お借りしたのは冬也(六さん)、榛名譲(紅麗さん)、花丸(えて子さん)、
名前のみ緑音ののか(樹アキさん)、氏型環(大黒屋さん)、カイリ(鶯色さん)でした!
こちらからは張間みくとサヤカです!
やっとここまでいけた…あとちょっと。
203
:
十字メシア
:2012/07/25(水) 22:53:05
ノワール小話。
しらにゅいさんから「玉置静流」「トキコ」(名前なし)、樹アキさんから「緑音ののか」(名前のみ)、大黒屋さんから「氏型 環」(名前のみ)、後は名前なしで紅麗さんから「浅木旺花」、スゴロクさんから「火波 スザク」「火波 アオイ」、鶯色さんから「ハヤト」お借りしました。
「え…一日空ける?」
週末のいかせのごれ高校、保健室にて。
玉置静流の言葉に、ノワールは思わず驚いてしまった。
「うん。ウスワイヤで色々仕事が舞い込んで来てしまってね…ここにはいられないんだよ」
「そ、そんな…」
困り果てるノワール。
何せ対人恐怖症の彼にとって、生徒達に必要な保健室で一人きりというのは、歓迎すべきではない事態だからだ。
しかし玉置はウインクをして「大丈夫」と告げる。
「昼休み以外鍵は閉めておくし、ののかさんにも言っておくから」
「あ、あの…氏型さん、は…?」
「ああ、あの子は今日休みなんだよ」
「…そうですか」
「それじゃあ行ってくるね。勉強、頑張るんだよ」
「あ、はい」
そう言い残し、玉置は保健室の鍵を閉めて去っていった。
「……何しようかなあ」
彼からはああ言われたが、実を言うと今はあまり勉強する気になれなかった。
ふと時計を見ると、針は9時過ぎを差している。
まだ1時限目は終わってないらしい。
「…しばらく寝てよう」
ベッドの中に潜り込み、目を閉じる。
瞬く間に眠気がやって来た。
204
:
十字メシア
:2012/07/25(水) 22:53:39
「……ん…?」
どこからか聞こえる歓声に、ノワールは目を覚ました。
グラウンドの方からのようだ。
「何…?」
窓から覗き込むと、大勢の生徒達がサッカーをしている。
どうやら体育の授業をやっているらしい。
またここでベッドに潜り込むのも勿体無く感じ、ノワールはその様子を見ることにした。
「皆体力あるなー……ん?」
と、眼帯で隠した左目を撫でるノワール。
「『オンブラ』も見たいの? …うん、大丈夫。誰も来ないから」
眼帯が外され、顕になった左目は―――黒一色だった。
瞳どころか、白眼の部分さえ黒に染まっており、パッと見だとまるで眼球が無いように見える。
と、そこから黒い影が現れ、左目は黒から白一色に様変わりしていく。
黒い影は小動物の様な形を成すと、窓際に座り込んだ。
これが彼がオンブラと呼ぶ相棒の、一つの姿である。
「今、体育の授業でサッカーをやってるんだよ。クラス対抗みたい」
『キュイー』
オンブラは耳を動かし、機嫌の良い声を上げている。
それを見て、ノワールは思わず笑みが零れた。
「あの黒髪の子、早いなあ……あっ、あのバンダナの子は…あの時の………………」
『キュー……?』
顔を曇らせるノワール。
オンブラは心配そうに声を上げた。
「…あ、うん。大丈夫。ありがとう」
オンブラを撫でながら、再び外に目を向ける。
「あの赤い髪の子、どっかで見たような……それにしても、青い髪の子と顔似てる様な…あっ! ちっちゃい子が猛スピードでボール奪ってった…凄いなあ」
『キュイキュイ』
「いいなあ…僕も皆とやりたいなあ………まあ、無理だろうけど」
『キュ?』
「……僕には、誰かと遊ぶなんて一生出来ないよ。まして、誰かと仲良くなれるなんて……」
例え、誰かと絆を結べたとしてもそこまでだ。
そこから先には進めない。
否、進みたくない。
自身の心が、望んでいないからだ。
「………」
―――自分から歩み寄らなきゃ、何も変わらないよ。
いつだったか、玉置から言われた言葉。
しかし。
「無理だよ…玉置先生……僕みたいな化物に、友達なんて………仲間なんて……」
貴方みたいな役立たずは、もういらない―――…。
「『あの人』に見捨てられた僕なんか…生きてる意味ないよ…」
黒のある日
205
:
紅麗
:2012/07/26(木) 00:08:23
課題をやっていたらトマトの話が出てきて啓介君思い出して爆笑してそっから妄想が止まらなくなったので。
会話文のみ、誰が誰だかわからない状態になってしまっていますが…。
出演順に、自宅より「アザミ(リンドウ)」しらにゅいさんより「トキコ」スゴロクさんより「火波 スザク」(六x・)さんより「ブロント・ビショップ」
クラベスさんより「ゴクオー」ヒトリメさんより「トバネ」自宅より「高嶺 利央兎」 SAKINOさんより「カクマ」十字メシアさんより「弐二 簀」
鶯色さんより「ハヤト」神威さんより「壱岐 晶規」スゴロクさんより「蒼崎 啓介」お借りいたしました!ありがとうございました。
「…スペインかぁ」
「ん?どうしたのアザミ先生」
「ううん、ちょっと思い出したことがあって。皆はラ・トマティーナって聞いたことあるかい?」
「なにそれ、ユーメイジン?」
「違うよトキコ、スペインで8月の最終水曜日にトマト投げ祭りのことさ。世界中から人が集まって互いに熟したトマトをぶつけ合うんだ」
「おー、よく知ってたね、スザク」
「物知りだねー、鳥さん。そんなどうでもいいこと知ってるなんて!」
「……褒めてるのか?それは」
「そう、今スザクが言ってくれたように、スペインでは8月の最終水曜日にトマティーナ、トマト投げ祭りが行われるんだ。
かなり有名だし、テレビで見たことある人もいるんじゃないかな」
「ああ!そういえばだいぶ前にお祭り大好きー!な芸人さんがやっていた気がしますね…!」
「しかし、熟してないトマトが飛んできたら怪我しそうじゃのー」
「(…俺、ちょっとやってみてぇかも)」
「…リオくん、トマト投げ祭り似合いそう」
「は?」
「だから似合いそうって、真っ赤だから」
「あーぁ…」
「主に当てられる方ね」
「…言いたいことはわかるけど変な属性持ってると思われるからその言い方はやめろ」
「あと処理係とかも」
「地面に落ちたヤツを食うほど意地汚くねぇよ!いい加減にしろ!」
「あー、はいはい。トキコもリオトもうるさいよ。今授業中だからねー」
「うーん、私やってみたいなぁ、トマト投げ祭り」
「「(マズイ、トキコが興味を持った!!)」」
「おー、非日常って感じでいいんじゃねーの?」
「……でも、トマトをただひたすら投げるんだよね?僕はね、それ、勿体ないと思うなぁ…」
「オレもそう思う。食べ物で遊ぶなんて許せないな」
「おお!リオトくんもそう思うか!」
「ああ!思うとも!」
「お前ら食べ物のことになると仲良いな!!」
「なんだとハヤトッ オレが一番仲
「あー、わかった、わかったから二人とも落ち着いて座れや」
「ようし!今度の文化祭にでも、みんなでトマト投げ祭りしようよ!」
「ええっ、やんの?やりたくないよそんなの…」
「うさ公は黙ってなさい!」
「もったいないし危ないし、そんなのが会議で通るはずないでしょ。ダメでーす」
「なんでよぉー!ねーお願いアザミ先生っ、会議とかで話してみてよーやりたいよー!この際みかんでもいいよー!」
「ダメ。においのこともあるし。絶対ダメだよ」
「ちぇ、山菜のくせに……いいじゃん!トマトのにおいくらい!ねぇ、レーダーくん!」
「……………」
「レーダーくん?」
「あ……、あぁ…なんだって…?」
「だから、トマトのにおいくらいいいじゃんねって!トマト投げ祭りやりたいでしょー!?」
「俺は、反対だな。…周りに迷惑がかかる、費用もかなりかかる、服が汚れる。いいことなんてないだろう」
「―――レーダーくん」
「なんだ」
「どうしてこっち向かないでずっと机とにらめっこしてるの?」
「…………」
「ねぇえええどぉぉおしてぇぇええ?」
「はいトキコそこまで。ちゃんと席に座らないと成績下げるからね。啓介、顔色悪いけど大丈夫かい?」
「あ、あぁはい。平気です」
「トマトー!」
「だめー、ほらまた時間無駄にした。授業進めるよ」
La Tomatina…?
「成る程、蒼崎啓介はトマトが苦手、と」
「……………」
「…アホか、俺は。こんな情報手にしてどーすんだ。ゴミ箱ゴミ箱」
206
:
紅麗
:2012/07/26(木) 00:37:15
あああ、早速誤字発見です。
スザクさんの台詞「~最終水曜日に「行われる」」が抜けてますね…すみません。
ぬう、何故投下前に気付かない。
207
:
スゴロク
:2012/07/26(木) 20:40:30
前回の続き。アオイ大暴れモード、ちょっと長いです。
明らかに致死量の血を失い、スザクが全く動かなくなったのを見て、カチナはようやく踵を返した。
「ころ、した。ころした。カチ、ナが、ころし、た」
空を見上げ、呟く。洗脳と強化で停滞した思考は、細かなことへの鋭敏性を持たない。
見たままの結果を反芻し、行動するのみ。
「…めい、れい。カチナ、の、めいれい。かんけいしゃ、ころす」
それは「関係者」を殺すたびに口にしている、何度目かもわからないフレーズ。
口癖では断じてない。
「……カチナは、カチナシ。めいれ、いを、きく、へいき」
ナタをぶらさげ、その腕を引きずるようにして、ストラウルを後にしようとしたカチナは、
「?」
どさっ、と何かが落ちる音を聞いて、そちらに思わず顔を向けた。
そこに立ち尽くしていたのは、たった今殺した相手と同じ顔をした、真っ白な髪の少女だった。
とりあえず進行方向にいるわけではないので、カチナは無視してそのまま歩き出した。
実際の所、アオイがその場所を訪れたのは全くの偶然だった。
スザクよりも一足先に帰宅していた彼女は、いつものごとく夕食の支度に取りかかっていた。
が、その日はなぜか、朝から猛烈に嫌な予感がついて回っていた。
『何ですの、これは……』
帰宅してもなお消えない予感に、少なからず蒼ざめた。
そしてその予感は、
『!?』
連絡員経由で入った、ゲンブ重体の報せで根拠なき確信へ変わった。
スザクが危ない。そんな予感と、今すぐいかなければ、という衝動、そしてなぜかストラウル跡地を目指す何かに導かれるまま、アオイは全速力で家を飛び出した。
208
:
スゴロク
:2012/07/26(木) 20:41:46
そして、今。
「―――――え、っ?」
ストラウル跡地を少し進んだ辺りで、アオイは俄かには信じがたい光景に直面し、当初混乱した。
スザクが、最愛の姉が、血にまみれて倒れている。体を裂く大きな傷と、周りに広がる鮮血の痕。それが何を意味しているのか、アオイはわからなかった。いや、わかりたくなかった。
「ねえ、さま……?」
ふらふらと近づき、肩に手をかけて起こす。姿勢を支えられずによりかかって来たスザクは、以前同じような状態になった時より、異様に重かった。力が感じられない。
―――それより、身を切るようなこの冷たさは何だ?
「嘘、でしょう……?」
いつものスザクを威勢よく燃える炎とするなら、今の彼女はさしずめ燃え尽きた蝋燭というべきか?
「姉様……綾音姉様……!」
快活に笑い、何かと外に飛び出しては走り回っていたスザク。
死ぬより辛い目にあって来た彼女が、つい最近トキコと本格的に交際を始めたと聞いた時は、一瞬冗談抜きでトキコへの殺意を覚えたものだが、それをかき消したのは、
『幸せって、こういうことなんだよな、きっと』
と、それこそ心底幸せそうに笑うスザクの姿。
だから、アオイも決めていた。この行き場のない想いを、少しずつでも振り切ろう。スザクの選んだ道を、せめて見守ろうと。
――――なのに。
「どうして、こんな……酷い……!」
なぜ。
どうして。
スザクばかりが、こんな理不尽な目に遭わねばならないのか。
まだ、これからではないか。しがらみや過去を乗り越えて、ようやく幸せに手が届いたところなのに。
「姉様……姉様……姉様……姉様……!」
どんなに呼んでも、もうスザクは答えてくれなかった。
恥も何もなく、アオイは泣いた。涙が枯れるほどに、声が掠れるほどに、泣き叫んだ。堰を切ったように感情があふれて、叫ばずにいられなかった。
ふと、
「―――――」
涙で歪んだ視界の端に、何かが過った気がした。
気がして、そちらを向いた。
「!!」
見えたのは、ゆっくりと遠ざかる少年の背中。ボロボロの服と包帯を身に着け、右手にはナタ。
――――スザクの血に染まった、ナタ。
「――――そう」
スザクを静かに、優しく地面に横たえ、アオイはゆっくり、と言っていい速度で立ち上がる。
俯き加減のその表情はうかがえないが、
「そういう、ことですの」
その声音には、ある感情が混じっていた。いや、それでは正しくない。
ある感情で染め上げられていた、が正解だ。
「『お前』が、姉様を……」
マナがいたなら理解しただろうそれは、混じりけのない殺意と敵意。
そしてそれは、
「―――うぁあああぁぁぁあああぁっ!!!」
戦う力へと、変わる。
209
:
スゴロク
:2012/07/26(木) 20:42:21
倒すべき敵を捕捉したアオイの戦いぶりは、まさに鬼神の如く、とでも評すべき苛烈なものだった。
相当な距離が離れていたはずのカチナとの間合いを一足飛びに詰め、背後から幻龍剣で一閃。そこから全てが始まった。
攻撃を相殺するカチナの能力をわずか2回の攻撃で看破し、避ける先避ける先に攻撃を置いて連撃を仕掛ける。
受ける一方のカチナは、ようやくアオイを邪魔者と認識し、攻撃にかかる。
だが、
「こんなものォォッ!!」
鏡を使うまでもなく、一閃の元に切り払われた。のみならず、逆撃が来る。
当然の如く相殺されたが、カチナの方もここに来て疲労の色が見え始める。
誰一人知る由もないが、彼の能力は生命力に依存して発動する。しかも常時発動型、つまり自由意思での制御が効かないタイプであるため、ダメージを受けなくとも、攻撃されればされただけ消耗していく。そんな彼にとって、大威力が出ない分手数で圧倒するアオイのようなタイプは、天敵ともいうべき相性であった。
「し―――」
言い切る前に次が襲う。能力が発動して相殺するが、振り下ろしたナタは空を切った。疲労もあるが、それ以前にアオイの姿がいきなり視界から消えたからだ。と思う間もなく、
「!」
咄嗟にのけぞったその上を、二本の指が空振る。カチナの攻撃能力がナタ一本であることをとっくに見抜いていたアオイは、命中率を落とそうと目を狙ったのだった。
「ちぃっ!!」
常の彼女なら決してしないだろう舌打ちを残し、アオイは一歩下がって間合いを取る。と見えた次の瞬間にはその足を踏み切り、倒れ込むようにして幻龍剣を振り下ろす。それもまた相殺されるが、カチナの方はいよいよ足元が怪しくなって来ていた。
「めい、れい。カチナの、め、いれい」
これ以上消耗しては「命令」の実行に差し障る。そう判断したカチナは、一気に間合いを離して離脱を図る。
「逃がすものかぁぁぁあぁぁ!!」
当然の如くアオイはストラウルを逃げ回るカチナを猛追するが、残りの力を全て逃走に回したカチナを再び捉えることは、ついに出来なかった。
カチナを見失い、ようやく敵意の衝動が収まったアオイは、頼りない足取りでスザクの許へ戻ってきた。
やはり当然、最愛の姉はそこに横たわっていた。物言わぬ姿で。
赤く美しかった髪は鮮血に染まり、凛々しかったその顔も半分以上血に汚れている。
「姉様……」
先ほどの赫怒も消え、か細い声で呼ぶ。答えは、返らない。
「スザク姉様……」
がくり、と膝が折れる。心の支えだったものを失った彼女は、その身を自ら支えることも、既にままならなかった。
とめどなく涙の零れるその瞳には、虚ろな光しか残っていなかった。
「どうして、こんなことに……」
込み上げてきた何かが、再び絶叫に変わろうとして、
「――――見 つ け た――――」
聞き覚えのある声と共に、すっ、と誰かが横に立った。薄青の髪と黒っぽい服を纏った、よく「夜のような」と評される彼女は、スザクやアオイの良き相談役。
「マナ、さん……?」
210
:
スゴロク
:2012/07/26(木) 20:43:01
アオイには答えず、夜波 マナは動かないスザクの胸に手を当て、しばらく何かを探るように瞑目する。
それに何の意味があるのかわからず、アオイは力なく抗議する。
「マナさん……姉様は、もう……」
「大丈夫。助かる、まだ」
マナが何を言ったのかわからなかった。助かる? スザクが?
一瞬遅れて理解が追い付き、思わずマナに詰め寄る。
「ど、どういうことですの!? 姉様が助かるって……」
「確かに死んでる、普通なら。でも、スザクとあなたには『あの人』がついてる」
「あの人……?」
心当たりがまるでないアオイは、ただ当惑するばかりだ。それには触れず、マナは続ける。
「その人が今、スザクの命を繋いでくれてる。どうにか、なんとか、辛うじて、だけど」
「……では、どうすれば……?」
「そのために呼んだの、アカネさんを」
「え?」
事態についていけないアオイの前に、地を蹴る音と共に一人の女性が息を切らして現れる。
先ごろ生還した、ランカの母・白波 アカネだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……マナちゃん、あんまり走らせないでよ」
「ごめんなさい。でも、どうしてもあなたの力が必要だったから」
悪びれるでもなく言うマナに、アカネは一瞬苦笑し、しかしスザクの姿を見て顔をしかめる。
「……ヒナちゃんの言うとおりね。確かにこれは危なかったわ」
「でも、間に合った。アオイ、手を貸して」
「ぇ――――」
「早く」
急かされるがままアオイが手を差し出すと、その手をマナが取ってアカネと繋がせる。次に、アオイのもう片方の手を、スザクの手に握らせる。
「ま、マナさん、何を」
「理由は後で。黙って従って、スザクを助けたければ」
そういわれては、アオイは沈黙せざるを得ない。そんな彼女の両の手を、向かい合うようにしてマナが握る。
「目を閉じて、アオイ。心の限りに想って、スザクを」
言われるがままアオイは瞑目し、言われるまでもなくスザクを想う。今までのように、今まで以上に。
それこそ、自分の全てを擲っても構わないと思えるほどに。
と、
「!? これは……」
マナの手を通じ、アカネから何かが流れ込んで来るのを感じた。それは自分の体を通り、スザクへと流れていく。
そんな状態がどれだけ続いたのか、ふっ、とマナが手を離し、力の流入が途絶えた。
ふうっと息をつき、アカネがその場に座り込む。
「つ、疲れた……」
「ごめんなさい。でも、必要だったから」
マナがそう言うや、
「!!」
アオイの前で、スザクがぱちっ、と目を開けた。思わず縋りつきそうになったアオイは、しかし、
「? ……姉様、ではありませんわね。どなたですの?」
その髪が、山吹色に染まっているのを見て、不審の声を投げた。スザクの姿をした「誰か」は、アオイに顔を向けると身を起こし、穏やかな笑みを浮かべ、こう言った。
「久しぶり……っていうべきかしら、綾歌」
その声は、スザクのものではなかった。それが当然であるかのように平然とたたずむマナ、少しならず驚くアカネをよそに、アオイはその「誰か」が誰であるか、直感のレベルで気づいていた。
「……母様、ですの……!? まさか……」
その問いに、
「ええ。……本当に、間に合ってよかったわ」
彼女――――火波姉妹の母・琴音は、心底安心したように微笑んだ。
其が名は「抱擁」
「……あら? マナちゃん、どこに行くの?」
「連絡。トキコとシュロに報せに行くから、アカネさんはランカ達にお願い」
「……同時に呼んじゃっていいの?」
「大丈夫。トキコの素性は、アースセイバー側はほぼ知らないから」
えて子さんより「カチナ」名前のみしらにゅいさんより「トキコ」紅麗さんより「シュロ」をお借りしました。
よ、ようやく仕上がりました……。もう一回だけ続きます。
211
:
スゴロク
:2012/08/02(木) 00:20:27
前回の続きです。
フラグらしきものがちらほら。拾っていただければ幸いです。
ストラウル跡地から一度撤退し、火波家に戻ったアオイは、スザクの姿をした火波姉妹の母・琴音から話を聞いていた。
スザクの部屋で、ベッドに腰掛ける琴音が言う。
「一応、私の力について説明しておくわね」
「はい、母様……」
「エンプレス、っていうんだけどね。あなたとスザク、二人ともを守るための力よ」
そういわれて、アオイは思い至る。
「もしや、姉様が死なずに済んだのは……?」
「そう、この力よ。……まさか、こんな事態になるとはさすがに予想してなかったけど」
心底意外そうな面持ちで、琴音は肩をすくめる。
彼女が言うには、いつもの如く秋山神社で過ごしていたところ、スザクの命に危機が迫っているのを感知し、今までのような遠隔からの庇護では間に合わないと直感。ミナ経由でアカネに連絡し、全速力で自ら助けに向かったのだが、その時消えかけていたスザクの命を繋ぎ止めた代わりに、その体に取り込まれる形で憑依してしまったのだそうだ。
アカネがこれまた意外そうに言う。
「それにしても……まさか、ヒナちゃんとこんな形でもう一回出会うなんて、思ってもみなかったわ」
「それはこっちもよ、アカネちゃん」
琴音にしてもそれは同感らしい。二人とも一度は死んだ身だ、再会するなどまさに予想外であろう。
アカネの方は奇跡に近い偶然のおかげで生還したが、琴音の方は精神体となって存在していた。こうしてまた顔を合わせる機会があったこと自体、まさに奇跡というほかない。
ともあれ、と琴音が話題を戻す。
「スザクを助けるのにアカネちゃんの力を借りたのにも、ちゃんと訳があるのよ。ね、マナちゃん」
話を振られ、頷いたマナが口を開く。
「アカネさんの体には、血液に混じって高純度の生命エネルギーが流れている。私の力でそれを波動に変えて抽出して、スザクの双子であるアオイの体を介することで最適化し、最後にスザクに流し込んで傷を治癒させた」
つまり、アカネの持っていた力「フィジカルブースター」を応用し、琴音が「エンプレス」でしのいでいる間にスザクの生命力を補うことで、どうにかこうにか蘇生させた、ということになる。
「……まさか、琴音さんがスザクに憑依するとはさすがに予想してなかったけれど」
マナもまた、虚を突かれたような面持ちで琴音を見る。
スザクの体に乗り移った姉妹の母親は、困ったような顔になって言った。
「スザクはショックで奥の方に落ちたきりだし、起きるには時間がかかりそうよ。それに、私もこの体から出られないみたいだし」
『え?』
と三人分の声が重なった。一番先に口を開いたのはマナ、
「琴音さん……そういうことは先に言って欲しい」
「ごめんなさいね、マナちゃん。スザクを助けるので一杯一杯だったから……」
212
:
スゴロク
:2012/08/02(木) 00:21:10
まあいいですけど、とため息をつくマナ。気を取り直したように顔を上げ、「さて」と3人を見る。
「これからどうする? 私はランカの家に行くつもりだけど」
言いかけたマナの肩を、アカネがつんつんとつつく。
「?」
振り返ると、咎めるような表情のアカネがいた。
「違うでしょ、マナちゃん。私の家、でしょ?」
「……そうでした。私は一度家に帰るつもりだけど、アオイと琴音さんはどうする?」
言われた姉妹、もとい母子は顔を見合わせ、
「ご一緒しますわ。ランカさんにもお話しておかなければ」
「同感ね。色々と話すべきこともあるし、ね」
それぞれ同意した。これを見たマナは、
「じゃ、善は急げってことで」
言うや、さっさと一人で先に歩き出してしまった。相変わらずのマイペースぶりに苦笑するアカネは、二人を先に行かせつつ携帯を開く。
「アカネちゃん、どこかに電話?」
「ランカに状況知らせないと。あの子も一応『スザク組』だしね」
「? そんなチーム、あったでしょうか……」
本気で首を捻るアオイに、「ランカが言ってるだけよ」と補足しつつ、アカネは家で留守番している長女に連絡を取る。
1コールしない内に繋がり、
『も、もしもし、お母さん!?』
何やら慌てたようなランカの声が聞こえてきた。切羽詰まっているようだが危機感がないのを読み取り、アカネは電話の向こうのランカに声をかける。
「落ち着きなさい、ランカ。何かあったの?」
『う、うん、それがね……』
言う背後で、
『スザクの姉貴に何かあったのか、おい!?』
『だ、だから、まだ詳しいことはわかっとらんのです』
などというやり取りが聞こえ、アカネは大体の事情を察した。
「シュロちゃんが来てるのね?」
『うん……何か、綾ちゃんが危ないのか、って言ってるんだけど』
恐るべき直感。内心舌を巻きつつ、アカネは言う。
「今から帰るから、おもてなしして置いて。お客様へのマナー、大丈夫ね?」
移動中
同刻、いかせのごれ高校近辺。
「?」
一人歩いていたブラウ=デュンケルは、誰かの気配を感じてそちらを向いた。
「誰だ?」
(六x・)さんから「アズール」紅麗さんから「シュロ」をお借りしました。自キャラは「火波 アオイ」「火波 琴音」「夜波 マナ」「ブランカ・白波」「白波 アカネ」「ブラウ=デュンケル」です。
213
:
クラベス
:2012/08/02(木) 21:29:35
「移動中」とほぼ同時系列です。今回はやや短め。
スゴロクさんより「ミナ」、名前は出てませんが「ブラウ=デュンケル」をお借りしました。
「青行燈とは、百物語の会に現れるとされる妖怪である…。」
高校の図書館に来たカイムは、妖怪関連の本を読めるだけ読みあさっていた。
先程のミナの助言を受けてである。百物語の後に現れる妖怪は「青行燈」とされているという話を聞いたからだ。
既に現れているのであれば、違う方法を考えなければならない。
既に図書館に籠って2時間が経っている。幸い仕事は今日入っていないため、ゆっくり調べることができる。
「黒く長い髪と角を持ち、歯を黒く塗った白い着物の鬼女、か…。」
性別まで指定されてるとなるとなぁ、と彼は頭を掻く。
そもそも例の計画で、彼は全く同じ話をそのまま持ってくるつもりはない。
最近の怪奇話は典型化しているが、全く同じ話を持ってくる者はいない。
だから「出来る限り彼に近づけつつも、全く違う話」という、無理難題をこなすつもりなのだ。
話は一から作る。無論一人では無理なので協力を呼び掛けたい。
が。
「『青行燈』がこの場合どう扱われるか、次第ですかね…。」
春美の能力「百物語」は不確定要素が多い。
第九八話が消えたことで話数がずれるのか否か。
ミナの言うとおり「巡物語」としてとらえられるのか。
そして、青行燈は本当に居るのか。
書物では彼女を恐れ怪談を99話でやめたと書かれており、具体的な記録が残っていない。
「…こうも不確定要素が多いとなると、ハルミさんもよく提案しましたね…。」
カイムは小さくため息をつくが、実際彼女が提案しなければ誰も何も動かなかっただろう。
色んな可能性を考え、動くことを考えよう。
彼は本を閉じ、簡単に整頓して図書館を出た。
話を作るのは自分がしようかとおもったが、やることができた。
この役目は他の人に任せ、自分は別のことをしようと思い立ったのだ。
別のこと。それは当面ひとつ。
「青行燈を探し出す」ことである。
青い光を求め
(この広いいかせのごれから一人の妖怪を探し出す)
(それは砂漠から一粒の金を見つけるようなもの)
(無茶に近くてもやるしかない)
(計画を成功させるためにも)
学校から出てすぐ。
見たことがある背が見えた気がして、思わず追いかけてしまった。
214
:
スゴロク
:2012/08/02(木) 22:45:58
クラベスさんの「青い光を求め」に続きます。
カイムがその背を追ったのは、気まぐれでも偶然でもない。
古びた帽子とコートを身に着け、悠然と歩くその姿。
(まさか!?)
他でもない、シン・シーと並ぶ、いや下手をするとそれ以上に危険な男。
何人もの人間を手玉に取り、その運命を捻じ曲げてきた人にして人ならざる悪魔。
ヴァイス=シュヴァルツ。
カイムの頭に浮かんだのはその名前だった。どこに向かう? 何をする気だ?
危機感に駆られるまま、カイムはその後を追った。
そして気づく。あの男は、気配を察知する能力に異様なほど長けていると。馬鹿正直に追っているだけでは、あっさり見つかってしまう。
そして気づいた時には、遅かった。その男が足を止め、振り向く。
しかし、
「誰だ?」
聞こえた声は、妙に癇に障る特徴的な声ではなく、重厚な男の声。
半身になったその男は、ヴァイスによく似た格好をしていたが、よく見ると様々な部分が違っていた。
まず色。黒ずくめだったヴァイスと違い、この男の服は一見すると黒だが、よくよく見てみると濃すぎる藍色であることがわかる。
次に目。片目が義眼だというあの男だが、目の前の人物は両目とも健在。
何より、立ち居振る舞いがまるで違う。常に冷たい狂気を漂わせていたヴァイスと異なり、どことなく静謐なものを纏っている。
カイムが呆然としていると、その男はさらに言葉を重ねた。
「俺は『ブラウ=デュンケル』。お前は何者だ」
「あ……僕は、カイムと言います」
男……ブラウの持つ妙な存在感に心なしか気圧されつつ、何とかそれだけを口にするカイム。しかし、続くブラウの言葉は予想外のものだった。
「『奇怪音と無音』? なるほど。音、いや周波数を操る妖怪か」
「な!?」
たった一言言い交しただけなのに、いきなり素性を見抜かれた。驚愕しつつも、カイムの中の冷静な部分が告げていた。
カイムが妖怪だと見抜き、なおこうして平然としている。ということは、十中八九何らかの能力を持っている。
こうして見る限り敵意はないようだが……。
ひとまず落ち着きを取り戻したカイムは、ブラウと名乗った男に言う。
「……なぜ、それがわかるんですか?」
「特殊能力によるものだ、お前の予想通り」
やはり、と直感が告げる。このブラウという男、どうやら相手の思考を読む力を持っているらしい。
だが、その直感は微妙に外れていたことが次の瞬間わかった。
「俺の目に宿る力……あらゆるものを見る力だ、これは。音であれ、霊体であれ、概念であれ。例外ではない、記憶や思考であろうと」
つまり、彼はカイムの頭の中にある素性に関する記憶を垣間見たのだ。
「ところで、何か用か」
「え?」
「お前は俺を追ってきていた。用があるのではないのか、何か」
ブラウの疑問ももっともな話だった。自分の後をついて来たのなら、自分に何か用件があると考えるのが自然だ。
だが、カイムがブラウを追ったのは別の理由だ。
「…………」
「どうした」
「実はですね……」
215
:
スゴロク
:2012/08/02(木) 22:46:31
ヴァイスと間違えて追いかけたのだ、ということをかいつまんで説明する。
それを聞いたブラウの目に、一瞬だけ険しい色が過る。無論、それを見逃すカイムではない。
「……奴と何か?」
「昔、少々な」
あまり語りたくない経緯があるらしい、とはわかった。ともあれ、勘違いからの接触はひとまず収束した。
では、とカイムは踵を返そうとして、
「待て」
ブラウに呼び止められた。
「? 何か……」
「何やら重大な案件を抱えていると見た。相談に乗るが、俺でよければ」
言われたカイムは少し考えた。
確かに現在、自分たちは消滅したキリを呼び戻すための策を講じている最中だ。だが、それをこの男に話してしまっていいものか。
そこまで考えが及んだところで、カイムは気づき、そして諦めた。ブラウは能力で他者の思考に目を通せる。つまり、隠す意味がない。
「……わかりました。僕達は今……」
意を決してキリに関する一件を話すと、ブラウはふむ、とポケットから手を出して腕を組んだ。
「複雑な状況だな、何やら」
一言そういって、少し間を開けて続ける。
「言った以上は相談に乗ろう。これでも元は民俗学者だからな」
ブラウが語った内容を要約すると、このようになる。
「百物語も、怪談も、時代と共に姿を変えていく。都市伝説がその例だ」
「全ての怪談にはモチーフが存在する。たとえば、今話に出たミナという怪異の場合、モチーフとなっているのは恐らく『首おいてけ』『てけてけ』に類する現象だろう」
「『百物語組』とやらに属する怪異は、須らく鬼門の中の『存在』、いわゆる『前世』に対し『怪談』という通路を繋ぐことで結界を開き、『妖怪』という実体に変換されることで存在しているようだな」
「ならば、そのキリという怪異を呼び戻すにはどうするべきなのか」
「元の話はこうだな。『とある信号のない横断歩道。5時55分になるととおりゃんせが聞こえて来るが、そうしたら渡ってはいけない。見たこともない山奥に飛ばされ、けもの道の奥に赤い鳥居。人がいるからと通ってしまうと、後ろから切り裂き魔が襲ってくる。切り裂き魔に顔を取られて呪いをかけられ、彷徨うことになる』」
「これに限りなく近い別の話を見つける、あるいは作る。それが方法ということか」
216
:
スゴロク
:2012/08/02(木) 22:47:19
カイムはわずかなヒントしか与えられなかったが、ブラウはカイムの記憶にある百物語組の存在原理、そして春美の能力である「百物語」の特性から一気に現状を把握してしまった。ただ、結論自体は既にハルミから齎されたものだ。
しかし、ブラウの本領はここからだった。
「その原理に即するならば、そのキリという怪異は死んではいるが消滅したわけではない」
「ええ。事実、エトレクさんという前例がありますから」
「怪人赤マント」エトレク。一度鬼門に戻され、そこからまた復活した経緯のある彼だが、今回とはかなり事情が異なる。
「呼び戻すために元の話が使えない、ならばより近い別の話を使ってしまおう、とこういうわけか」
確認するようにもう一度口にした後、ブラウは組んでいた腕を解く。
「百物語組の存在は、肉体を構成する『怪談』によって定義されている。ならば、『怪談』の根幹の部分、つまり『モチーフ』に当たる部分とそもそもの『存在』が残っていれば、かつてに近い実体を得られると考える」
「言うのは簡単ですがね……」
「実行は難しい。確かにその通りだが、まあ聞け」
話は続く。
「顔を剥ぎ取られる、という怪異は創作の世界にしか存在しない。つまり、キリという怪異のモチーフは『とおりゃんせ』が大きい」
「それはまあ、その通りです」
「そもそも『とおりゃんせ』とは何か? 内容は略すが、共通の解釈としてこういうものがある。この『天神様の細道』では、『行き』で述べた理由に相応しい行いと心持であったかが『帰り』で審判される。民謡の場合は『この子の七つのお祝いに、お札を収めに参ります』という奴だ。そうでなければ、何か恐ろしいことが起きるらしい」
具体的に何が起きるかはわからんが、とブラウは話を締めくくった。
「俺から言えるのはこのくらいだな。手掛かりにでもなれば幸いだが」
「とおりゃんせ」と藍色の考察
クラベスさんから名前のみ込みで「カイム」「キリ」「秋山 春美」「ハルミ」「エトレク」「シン・シー」をお借りしました。
217
:
十字メシア
:2012/08/04(土) 00:28:46
ぶちかましました←
しらにゅいさんから「張間みく」、スゴロクさんから「火波 スザク」「火波 アオイ」、紅麗さんから「榛名 譲」お借りしました。
いかせのごれ高校、1年2組の教室。
みくは同学年の生徒であるタチから、裁縫を教わっていた。
「で…こう?」
「そうそう。みく殿は上達がお早いですな」
「そ、そんな事ないよ…」
「これなら、みく殿の夢もきっと叶いまする。カイリ殿も信じておられますよ」
「そう、かな…」
刹那。
チョークの音が響きだした。
二人がついと、視線を向けると…。
[生意気ハリネズミ 死ね 学校来んな]
「…!」
「……」
俯くみく。
それを見た当人らがクスクスと笑い声を上げる。
それを見たタチは憤慨する。
「お主ら! みく殿に何をするでござるか!!」
「えー? あたし達別に、落書きしてただけだよ?」
「どこにもソイツの名前書いてないじゃん」
「ねー!」
握り締めた拳を震えさせながらも、タチは冷静に言葉を紡ぐ。
「…だったら、今すぐ、消して下され」
「はぁ? 何でアンタからそんな指図受けなきゃいけねーんだよ」
「ここのクラスの奴じゃない癖にさー」
「…ッ!!」
その言葉思わずカッとなったタチは、裁縫用の物差しを女子達に投げつけた。
物差しは見事、一人の女子の額にクリーンヒットした。
「ったぁ〜…ちょっと、何すんのよ!!」
「当然の報いでござりまする!!」
「この、………ウゼェんだよ!」
駆け寄った女子に思い切り顔を殴られ、タチは床に倒れ伏す。
それに寄って集って別の女子が彼を蹴り出した。
「生意気!!」
「死ね!!」
「ぐ…ッ!」
「や…やめ―――」
みくもそこで思わず声を上げかけたその時。
「…!? 何してんのよ!!」
「ヒッ!」
一人の女子が、黒板の陰湿な落書きを消していた少年に気付き、声を張り上げた。
振り向いた少年は、男にしては長い金髪と可愛らしい桃色の目で、顔立ちも女の子に見えなくも無い。
その少年をみくとタチは知っていた。
218
:
十字メシア
:2012/08/04(土) 00:29:29
「倉丸…君?」
「倉丸殿」
二人の声を無視し、倉丸にターゲットを絞ったらしい女子達が彼に近寄る。
「何アンタ、アイツの味方でもすんの?」
「え…いや、あの…その……わっ!」
「倉丸殿!」
「倉丸君…!」
廊下に突き飛ばされる倉丸。
「ねえ、ムカつくんだけど」
「何様のつもりだよ」
「ぼ、ぼくは、ただ…らく、落書き消して、た、だけ…です」
女子達の剣幕に涙を浮かべる倉丸。
と。
「どうしたー? 倉丸」
「! お姉ちゃん!」
「…え、財部先輩?」
倉丸を心配して廊下に出たみくとタチは、一応顔見知りだった希流湖の登場に驚いた。
「よっ、みくにタチ」
「どうしてここに…?」
「ちょっと倉丸の顔見に。…で、倉丸が何かしたのか?」
少し体が跳ねながらも、虚勢は未だ保ったままの女子達ははねつける様に言った。
「ソイツ、あたし達の落書き勝手に消したんだよ」
「お主ら…ッ!」
掴みかかりそうになるタチを制し、希流湖は変わらぬ風袋で続ける。
「そうか…倉丸、何で消したんだ?」
「え…っと……」
「言ってみな。お姉ちゃん怒らないから」
穏やかな笑みを浮かべる希流湖。
「……そのひ…その人達、くーちゃん、の悪口、かい、書いてたから…」
「あ? 書いてねーし」
「……後、たっちーくん、殴った、り…蹴ったり、して、た、し…」
「姉貴いるからって調子乗んなよ!!」
「ナヨ男が!」
「う……」
「まーまーまーまー」
苦笑気味に宥める希流湖。
「…倉丸、ギター持ってるか?」
「? うん」
「よし。なあお前ら、倉丸のギターと歌、聞いてみね?」
「は…?」
「何でよ」
「こいつ、オレのバンドでギター担当してんだよ。後ツインボーカルも。折角だから聞いてみろよ、スゲーから」
「どうせ下手じゃね?」
「何か似合わないしー」
「だよねー」
明らかに嘗めた様な笑みを浮かべる女子達。
「いやいや、マジ上手いから。自慢の弟だぜー」
「お、お姉ちゃん…あた、頭撫で…ないでよ…恥ずか、しい…」
顔を赤らめながらも嬉しそうにする倉丸。
「ブッ、やっぱシスコンじゃん」
「ダッサー」
「うう…」
「はいはい。音楽室に行くぞー…っと、みく」
「は、はい?」
「悪いけど、お前は教室に戻ってくれねーか?」
「え…で、でも…」
「ごめんな。気持ちは分かるけど…でも聞いたらビックリすると思うし…な?」
「…わ、分かりました……」
「サンキュ。悪いな」
219
:
十字メシア
:2012/08/04(土) 00:30:08
「…で」
「ん?」
「何で他の上級生もいんの?」
小声で尋ねる女子。
ちらりと見た方には、希流湖のクラスメイトの紀伊、そしてスザクとその妹であるアオイの姿があった。
というのも、アオイが見る者を凍りつかせる様な笑顔を浮かべていたからである。
実は希流湖が事の顛末を話したからなのだが。
「観客多い方がいいじゃん。ほら座れ座れー」
手をひらひらさせ、女子達に着席を促す希流湖。
当の彼女はアオイの隣に座る。
「倉丸さん、最近どうですの?」
「相変わらず上手いぜー。楽しみにしときな」
「はい!」
「…どーせミスするよね」
「間違えたらお姉ちゃーんって泣きそう」
「あーそれありえr」
「ヴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」
『!!?!??』
不意討ちの如く、音楽室に鳴り響いた咆哮。
音楽に詳しい人間、特にその分野を好む者はその声を……『デスボイス』と言う。
そしてその声を発しているのは紛れもない。
倉丸だった。
…倉丸だった。
「………」
「ほら姉様素敵でしょう!?」
「アオイ先輩、スザク先輩放心しておりまする……」
「いやーマジスゲーなお前の弟」
「だろー?」
驚愕のリアクションをする中、希流湖はただ一人自慢気に笑っていた。
因みに女子達は。
『…………』
震えていた。
「♪闇夜の帳に這いつくばる!!! 蠢く枯れた腕になりて!!! 今宵血肉を…喰らい尽くすゥァアアアアアアアアアアア!!!」
すっかりトランス状態の倉丸。
その時希流湖は。
「…あーもう我慢出来ねえ! オレも一緒に歌うぜ倉丸!」
「えっ」
「キャー! 益々素敵ですわー!!」
「アオイ…」
「…生き生きしてんな」
最早怖いもの無し状態である。
そして女子達は遂に。
『…………』
気絶に至った。
Death voice And Guitar
―翌日―
「おはよー」
『ヒィッ!?』
バタバタバタバタ…
「? 何だアイツら。何でお前にビビってんだ?」
「あは…あははは…」
「そういや、昨日の昼休みに音楽室から凄い声聞こえてきたな…」
「そっ……それ、って…」
「あ? 何だよ。何かあるんならはっきり言えよ」
「ひぃッご、ごめん…そ、れ…ぼく、です…」
「…は?」
「だ、だから、ぼく、です…うぅぅ」
「マジで?お前あんな声出せんの!?すげー!うわー、アレお前だったのか!」
「あ、あの…」
「ライブかなんかやるんだろ!?今度呼べって!な!」
「え、あ………うん…」
「昨日のやつ、センコーに怒られちゃったよ」
「まあ当たり前だわな」
「ははっ。でもあのいじめっ子ら、倉丸を見る度に逃げてるらしいぜ。やっぱ聞かせて正解だったよ」
「最初からそれ狙いだったのか…」
「こちらも素敵なギターと歌声、聞かせて頂いて嬉しかったです!」
「そりゃ良かった。またライヴ来いよ、昨日の曲やるからさ」
「はい! 是非とも!」
「…………」
220
:
十字メシア
:2012/08/04(土) 18:28:10
「白梟の大脱走」の続き的な。
―ウスワイヤ―
「お母さん、何焼いてるの?」
「パリジャンよ。この前、レシピ知ったから作ろうと思って」
「へー」
ウスワイヤでの侵入者騒ぎから数日。
シグマの母親、エマは自室に特別に造らせてもらった竈でパンを焼いていた。
「焼けたらミユカ呼んでいい?」
「勿論。でもたまには他の子も呼んだら?」
「うー…でもミユカ以外友達いないもん」
「あらあら…もっと友達作らなきゃ。ミユカちゃんも毎日暇じゃないのよ?」
「うん…」
俯く息子の頭を撫でるエマ。
「ミユカちゃんに、他の子と仲良くなれる様に協力してもらいなさい。ね?」
「分かった!」
「いい子ね。さ、パンが焼けるまで何しましょうか?」
「絵本呼んで!」
「はいはい。何にしようかしら…」
「…あっ、良い匂いするー!」
「あら本当、焼けたみたいね」
ガタン
「わあ…美味しそー!」
「上手く出来て良かったわ」
「じゃあミユカ呼んでくる!」
「あ、ちょっと待って」
「?」
エマは焼けたパリジャンを3つほど、小さいバスケットの中に入れる。
「? それどうするの?」
「聖さんにお裾分け」
「えー! 何でアイツにー!?」
不平を口にするシグマ。
エマは苦笑気味に彼の頭を撫でる。
「この間、聖さんが守ってくれたでしょう? ちゃんとお礼をしなきゃ」
「でも…アイツ、皆の悪口言ってるし、嫌いだ!」
「ふふっ。確かにあの人はいつもそんな態度だけど、私と貴方を守ってくれたのは事実よ」
「うー…」
「それじゃあ渡してくるから、ミユカちゃんと先に食べてなさい」
「はーい」
221
:
十字メシア
:2012/08/04(土) 18:28:41
「…ここね!」
張り切った様な笑みで聖の自室前に立つエマ。
一呼吸すると、ドアを二回ノックした。
「エマです。聖さん…いますか?」
…反応が無い。
と思いきや。
ガチャ
「…何だ」
仏頂面で聖が顔を出した。
その様子でエマの笑みが明るくなる。
「あっあの! これ、この前守ってくれたお礼です! パリジャンって言うパンなんですけど…あっ、甘くないので大丈夫です!」
「…いらん」
「えっ、でも…」
「いらん」
たった一言残し、聖はドアを閉めた。
茫然とするエマ。
だが意外にも、彼女はここで諦めようとはしない。
床に手をつけると―――。
「……えいっ!」
ドゴォオッ!
「…………」
一本の太い茨のツルがドアを破壊した。
突然の事に聖は一瞬固まるも、すぐ怒鳴り声を上げる。
「何しやがんだテメェ!!」
「パンを受け取っていたら、こうなりませんでしたよ?」
「だからって何もドアを壊す事なんざ―――」
「という訳で、はいっ。どうぞ♪」
満面の笑みと共にパンの入ったバスケットを差し出すエマ。
言葉の先を遮られたのもあってか、聖は唖然とするしか無かった。
「お願いですから、受け取って下さい」
「…………はあ、分かったよ」
「ありがとうございます! あ、ドアの修理については、所長さんに言っておきますので…ではまた」
駆け足で自室を出る…と思いきや。
「あっ、そうだ!」
「!?」
「また食べたかったら言って下さいね。焼いてあげますから!」
「………」
今度こそその場を去るエマ。
聖はバスケットを手にしばらく固まっていたが、とりあえず中のパンを食べてみた。
「………まあまあ美味いな」
ヤクザと魔女とパリジャン
スゴロクさんから「蒼井 聖」お借りしました。
222
:
名無しさん
:2012/08/04(土) 20:03:57
「ヤクザと魔女とバリジャン」の続きです。
「……何だ、このありさまは」
「あ?」
バリジャンを平らげた聖が外からの声に顔を出すと、いたのは啓介だった。
「何だ、てめえかよ。何の用だ?」
「あんたに用はない。真衣を迎えに来ただけだ」
「ああ、例の訓練かよ」
啓介の妹・真衣は「流れ」を操る特殊能力者だ。諸々の事情で現在は制御の訓練をしている状態であり、それを受け持っているのは獏也である。
「バクのおっさんだったら向こうだぜ」
「まだ時間が早かったらしい。外に出るところだ」
どうもフライングだったようだ。
「ところで、これはどうしたことだ?」
「こいつか……」
啓介が尋ねているのは、破壊されたドアのことだ。面倒そうに頭をかきつつも、聖は一部始終を語って聞かせた。一通り理解した啓介の反応は、
「どっちもどっちだな」
とのこと。
「けど、エマさんは上手くやったな」
「どこがだ!? 人の部屋のドアぶっ壊しやがって……」
「そうじゃなかったら、聖さんどうした?」
途中で遮り、畳み掛ける。
「エマさんが部屋の前に置くとかで終わらせてたら、ゴミ箱にでも捨ててただろ?」
図星だった。さすがによくわかっている。察したのか、啓介が大きくため息をつく。
「全く……何でそう捻くれてるんだ。能力者嫌いはわかるけど」
「……よ」
「え?」
「違ぇってんだ。俺が嫌いなのは『能力に驕るバカ』であってだな、『能力者』を一緒くたに嫌ってるわけじゃねぇ。だからってやることは変わらんがな」
じゃあ何なんだ、と自分でも何が問いたいのかわからない風の啓介に、聖は言う。最初の問いとは、全く関係のないことを。
「……俺の力は知ってるな」
「武器を呼び出す力……サモンアームズだっけな」
ああ、と一言置いて。
「それが、特殊能力でもなんでもない、って言ったらどうする?」
言われた啓介は一瞬面食らった。サモンアームズが特殊能力ではない?
「じゃあ……特異体質とか、異常才能とか?」
「ハズレだ」
それじゃあ何なんだ、と尋ねて来る啓介に、聖は「そうさな」と前置きして答えた。
「有体に言えば、機能だな」
「き、機能?」
「おう」
「生体兵器の、機能だ」
一瞬何を言われたかわからず、啓介は思考が止まった。が、それが動き出した瞬間、
「……はぁぁぁぁっ!?」
思わず叫んでいた。
223
:
名無しさん
:2012/08/04(土) 20:04:54
「せ、生体兵器って、アンタ……」
「無論今のホウオウグループのだ。つっても初期の初期の初期、ウスワイヤが出来る大分前だがな」
つまりは「モンスターハンターズ」最盛期の頃らしい。
「大雑把に話すとだな……10代ン時に連れてかれて、改造された。んでデカくなった頃にケイイチ共が連中をブッ潰して、俺は逃げ出した」
「大雑把というか、省略し過ぎというか……」
「俺の力はそん時に組み込まれたモンだよ。んで、逃げた俺は身分を偽造して、社会に紛れて、いつの間にやらカルーアトラズで働いてたワケだ」
前の職場に話題を持って行ったところで、顔が渋くなる聖である。
「あー、それは聞いてる。シギとか言う人とマジで殺り合って辞めただっけな」
「おおよ。その後いかせのごれに飛び込んで、アースセイバーに入って、今に至るっつうわけだ」
話が終わったところで、啓介はようやく、聖の話の内容が、未だ誰も知らない彼の過去であることに気付いた。要点だけ抜き出した、かなり簡単なものだが。
「何でそれを俺に……」
「さあな。ただ、てめぇにゃ借りがある」
真衣の件のみならず、組んでいた時期には幾度となくフォローを受けている。その辺りもコミだ。
「……ま、アンタの過去は俺には関係ないけどな」
「だな。下らねぇことに時間を使っちまった」
それを最後に、啓介は腕時計を見ると踵を返し、真衣を迎えに行った。が、その去り際、
「聖さん、何か知らないけど『親』にはそこそこ気を使うよな? 何でだ」
「ああ、それかよ」
何のことはない、というように、ウスワイヤとアースセイバーきっての能力者嫌いは答える。
「親ってのは『生み出して、守る』存在だからな。ブッ壊してなくすしか能のねぇ俺からすりゃ、随分と上等な存在なんだよ」
蒼井 聖の真意
(それは……?)
名前のみ十字メシアさんから「エマ=クラリス」しらにゅいさんから「シギ」ネモさんから「七篠 獏也」をお借りしました。自キャラは「蒼井 聖」「蒼崎 啓介」です。
224
:
スゴロク
:2012/08/04(土) 21:59:44
「鴉の悩み、夜と白の調査」の続きです。以前失敗したアッシュに関する指令の件です。
「何?」
ルーツからの連絡を受けたクロウの最初の一言は、それだった。
AS2「アッシュ」に関する監視の命令。その末尾に併記されていた「生死不問」の要綱。これが、何者かによって付け加えられた改竄らしい、という内容の連絡を受け、
「ここに来て、また問題か……」
クロウは本気で頭を抱えたくなった。気を配るべき案件は嫌というほどあるにも拘わらず、またも問題が持ち上がった。しかも今度は内部で。
「監視命令自体は未だ続行中だが、生死不問の意味がわからなかった。まさか改竄とは……」
『ナハトとミーネが調査と報告は続けてるけどよ、どーも望み薄らしいぜ』
「だろうな……」
今度は慨嘆も露わに、溜息をつく。実際に指令が出てから、既に結構な時間が経過している。伝達のプロセスがプロセスだけに、犯人を見つけるのは至難以上に不可能と思えた。
『俺の方でも一応洗ってはいるんだがよー。痕跡も、証拠も、一切残ってねえ。スパロウにも聞いてみたが、何も知らんとさ』
「一体どんな忍者だ、そいつは」
冗談のようなつまらない皮肉が出て来るほど、クロウは余裕がなくなっていた。
ホウオウグループの中に裏切り者がいる。それは、考えるに恐るべき事態だった。今までそれと思しきメンバーも何人かはいたが、明確な動きを起こさないため放置して来た。
しかし今回は違う。千年王国のメンバーが対象とはいえ、下手をすれば内部争いに発展しかねない爆弾を投げ込んで来たのだ。しかもたったの一文で、それも指令文書の改竄という形で。
由々しいというにも余りある事態だった。
『クロウ? まさかとは思うが、この指令誰かに伝えたか?』
「トキコとリオトだな、今の所』
『オーライ。トキコには俺から連絡しとく、リオトはそっちでヨロ』
「了解だ。くれぐれも迂闊な手は打つな、と言い添えておいてくれ」
言い交し、クロウは携帯を切る。
(さて……)
「おや、お邪魔でしたか?」
「!」
横合いからの声に振り向くと、たった今話題に上がっていた当人、アッシュがそこに立っていた。いつもと変わらぬ笑顔を浮かべて。
「お前か……」
「ええ、何だかお久しぶりですね」
どうしても警戒感が先に立つのは、ジングウが生みの親であるゆえか。
それを知ってか知らずか、アッシュは言う。
「今の、お友達ですか?」
「……ああ。あまり付き合いはないが」
「そうですか……何とも羨ましいですね、僕には」
そういうアッシュの表情は全く変わらなかったが、声音には少しばかり暗いものが混じっていた。それに気づかないクロウではなかったが、
(寝た子を起こす必要もあるまい)
とあえて無視した。
「そういうものか。ところで、今日はどうした」
「兄さんが今日は休みだったので。つまらないので、早引けです」
「そうか」
クロウ自身は特にアッシュに用があるわけではない。
踵を返すと、背後から声が。
「どちらへ?」
「さあな……」
答えるでもなく曖昧に返すと、今度こそクロウはその場を去った。
一人その場に残されたアッシュは、クロウの背が見えなくなるまで佇んでいたが、ややあって小さくつぶやいた。
「完璧な改竄工作、ですか」
その笑みが、少しだけ不敵なものに変わる。
「証拠も痕跡もゼロ……ですがクロウさん、一人いるでしょう? それが出来る男が、このいかせのごれに」
そのつぶやきを聞いた者は、幸か不幸か誰もいない。
彷徨の鴉、銀角の予感
akiyakanさんより「AS2」名前のみしらにゅいさんより「トキコ」紅麗さんより「高峰 利央兎」をお借りしました。
225
:
紅麗
:2012/08/05(日) 01:16:25
その日の空は灰色だった。
けれど雨が降ることもなく、雷が鳴ることもなく。
こんな微妙な天気の日は嫌なことの一つ二つ、起こりそうだ。空を見上げながらそんなことを思う。
しかし、聞かされたことは、「嫌なこと」で済ませれるようなレベルではなかった。
「そんな、ゲンブの兄貴が―――?」
水波ゲンブの負傷、その情報が獏也からシュロに伝わるまでそう時間はかからなかった。
信じられない、と言わんばかりに彼女は俯きながら首を小さく横に振る。
「どうしてだ、兄貴が倒されるなんて。」
「……とにかく、だ。あのゲンブを一撃で倒すモノが現れた。能力者かもしれないし、怪物かもしれん。」
獏也は腕組みをし険しい表情から戻らない。暫し考え込むようにして口元に手をあてていたシュロは突然くるりと背を向けて何処かへと走り出そうとした、がすぐさま獏也に片腕を掴まれた。
「い、てぇっ!獏也さん、離して、くださいっ!」
「お前、今何を考えていた。」
「……気晴らしに買い物でも。」
「馬鹿言え。ゲンブを倒した奴を探しに行こうとでもしたんだろう。」
「…………。」
―――図星である。
やはり自分は咄嗟の嘘が下手だ。どうしてあんなことを言ったのだ、と数秒前の自分に一発パンチを入れたくなった。
ぎりぎりと腕を締め付ける痛みに顔を歪ませ歩みを止める。逃げたりしないから、という意味を込めた視線を獏也に向ける。彼女の腕を掴んでいる大男は睨みをきかせた後、やっとのことで手を離した。
「……お前はあいつが関わると毎回そうだ。いつものように冷静にいれば良いものを。あのゲンブがやられたんだぞ?」
「わかって、ます。あたし一人じゃあ返り討ちになることぐらい…。そうだ、ゲンブの兄貴に会うくらいは…!」
「駄目だ。奴は今生死をさ迷っている危険な状態。とてもじゃないが人に会うなんてことは出来ん。」
「う…。」
バッサリと切り捨てられた。
自分の兄貴分―――水波ゲンブに対する心配と、彼を負傷させた正体不明の生物に対する苛立ちでシュロは苦虫を噛み潰したような顔をした。
もしかすると……「守ることが出来なかった悔しさ」なんていうのもあるのかもしれない。
自分はゲンブを助けることが出来なかった。そのことだけが心に突き刺さってしょうがない。
……そもそも、彼でさえ勝てなかった相手だ。いや、もしかしたら不意打ちをくらったのかもしれないが。
自分が彼と一緒に行動していたとしても、『生物』には勝てなかっただろう。
でも、それでも自分がいれば…?
盾になることぐらいは出来たかもしれない。奴がどんな能力を持っているのかはわからないが破壊力の高いこの能力で足止め等が出来たかもしれない。ああしていれば、こうしていれば。
『彼は怪我をした、しかも重傷』という事実。それだけが。
そういえばこのことを自分の姉貴分―――火波スザクはもう知っているのだろうか。スザクだけではない、その妹のアオイ、仲間であるランカ、アズール、アカネ…。
…どちらにせよ、一度彼らに会いに行くべきか。
226
:
紅麗
:2012/08/05(日) 01:24:07
「獏也さん」
「許さんぞ」
「違い、ます。行きたいところがあって…。敵討ちとかそんなんじゃあない、ですから。」
「……お前そう言って。」
「違ぇっつってんだろ!どこまであたしのこと信じれないんだあんたは!……っと。失礼。」
思わずかっとなってしまった自分を、軽く咳をすることで落ち着かせる。
「…とにかく、会いに行きたい人達がいるん、です。もし万が一、兄貴をやった奴があたしの前に現れたらなるだけ戦わないように、しますから。」
「絶対だな?」
「はい。約束、します。」
「…わかった、許可しよう。気を付けろ。」
「言われなくても。」
数分後。
ランカの家に母、白波アカネから電話がかかってきたのは、シュロが家に来てまもなくのことだった。
「お、お母さん!……あの…!」
「スザクの姉貴に何かあったのか、おい!」
「だ、だから詳しいことはまだわかっとらんのです…」
ゲンブに続いてスザクまでやられたのか…?と考えたシュロは気が気ではなかった、それでなくても気落ちしていたというのに。
227
:
紅麗
:2012/08/05(日) 01:25:30
だが沈んだ表情は一切見せることなく椅子に座りながら左手の人差し指で一定のリズムを刻みながら机を叩く。何度も瞬きを繰り返した。
(どうなんだ、兄貴だけでなく姉貴にも何かあったのか?あたしの考えすぎか?)
「……」
(それだったら、どうするべきだ。ああくそ、自分が情けない…!!)
「……ロ」
(そんな、姉貴が負けるはずがないよな、誰かに倒されるなんてことが…。)
「シュロ!!」
「うわあ!なんだ!」
「ぼーっとしてないで私の話を聞いて!」
ランカがシュロの前でドン、と机を叩く。たいした力ではないが、シュロの意識を呼び戻すには十分な音であった。
いつの間にか母親との通話は終わっていたようだ。
ランカは溜め息を一つついた後アズールとシュロを見据え静かに言い放つ。
「今から此処にある方が来るみたい。おもてなしを、だって…。」
「…ある方?」
アズールとシュロは同時に首を傾げた。しかし「おもてなし」という言葉にアズールがハッとし、隣にいる白髪の女を見つめる。
「もしかして、えらーい人がくるんじゃあないん…?」
「……えらーい、人…?」
「シュロさん、心配やでぇ…。」
暗い空の下で
(なんだそれ。どういう意味だ。)
(ほら、口悪いやん、シュロさん。)
(………そ、そんなことねぇ…です。)
(あぁ、心配や…。)
(これでも、頑張ってるつもりなんだがなぁ…。)
228
:
紅麗
:2012/08/05(日) 01:26:35
「移動中」のシュロサイド的なものです。
お借りしたのはスゴロクさんより「ブランカ・白波」名前のみ「水波 ゲンブ」「火波 スザク」「火波 アオイ」「白波 アカネ」(六×・)さんより「アズール」ネモさんより「七篠 獏也」でした。
自宅からは「シュロ」です。
229
:
えて子
:2012/08/05(日) 07:07:28
「星の魔術師系列」の小話です。美琴さんが謹慎処分になったその後のような。
最後にフラグのようなものがあったりなかったり。
「…そうか、美琴は今日も休みだったか」
「はい…」
美琴の騒動から数日。
夕陽は仕立て屋のアルバイトであるタチと共に、縁側で休憩をしていた。
世間話から話が弾み、タチの学校での出来事から、今は美琴の話になっている。
「まあ、美琴も思うところがあるのじゃろ。
それに、一度不埒な輩に狙われてもおる。そやつらの手から逃れるためにも、しばらく大人しくしておいたほうが良かろうて」
不埒な輩、とは、ヴァイスのことである。
結局一度も出会うことはなかったが、夕陽はヴァイスがこの騒動の発端なのだろうと感じていた。
(美琴は素直で物事を信じやすいとはいえ、自分に不都合な内容は受け入れがたいと思うたのじゃが……美琴がそれほど素直だったか、あるいはヴァイスとやらは酷く話術に長けているのやもしれぬのう)
「…夕陽殿…」
「……む?どうした、タチ」
「…我輩は、どうすればよかったのでございましょうか…」
「…………」
その呟きには答えず、湯飲みの中の茶を一口すすると、一息つく。
「どうすればよかったか、など、今となっては誰にも分からんよ。仮に分かったところで、過ぎたことは変えられんからのう」
「夕陽殿…」
「しかしなぁ、タチよ。これで終わってしもうたわけではなかろう?これからのことは行動しだいでどんな結果にもなるじゃろうて」
そっとタチの頭に手を置き、ぽんと軽く撫でる。
「主が今すべきことは、終わったことをああすればよかった、こうすればよかったと思い返すことではない。これから何をするか、考えることじゃよ。
そうじゃな、まずは…美琴が戻ってきたら、今までと同じように接することじゃ」
「……それは、もちろんです。…でも、それでよろしいのでございますか?」
「勿論。特別なことよりも、身近な行動のほうが分かりやすいもんじゃ。己にとっても、相手にとってものう。
それに、今まで仲良うしてきた友の態度が急に変わることほど、辛いことはなかろうて」
「………はい!」
何かを察したらしいタチが、その言葉に元気良く返事をして頷く。
それに夕陽も笑って頷き、ふと何か思い出したように瞬きした。
「……ああ、タチや。すまぬが、ちぃと頼みがある」
「はい、何でございましょうか?」
「美琴が学校へ来るようになったら、こちらへ連れてきてはもらえぬかのう」
「?はい…何故でございますか?」
不思議そうにタチが聞き返すと、夕陽は軽く照れたように頬をかいた。
「…先日、余裕がなかったとはいえ、美琴を止めるために強く引っ叩いてしもうてのう。謝罪をいれたいのじゃよ。
本来我が出向いてきちんと言うべきなのであろうが、我は美琴の家を知らんでのう。学校付近で待ち伏せても良いのじゃが、それじゃといつ出会えるか分からぬ上に、この格好では変に目立ってしまいかねん。
かといって男の格好をしておれば我と分かってもらえぬやもしれぬからのう…」
ふむ、とあごを撫でながら思案する様子に、タチはくすりと笑った。
「…大丈夫です、夕陽殿。我輩が責任を持って連れてきます」
「うむ、そうか。よろしく頼んだぞ」
仕立屋、魔術師を案ず
ちりん ちりりん
「……む?誰ぞ客が来たようじゃの。タチ、母を呼んでくれぬか。
我は客を出迎えてこようぞ」
「はい!」
十字メシアさんより「タチ」、(六x・)さんより名前のみ「崎原 美琴」をお借りしました。
こちらからは「笠村 夕陽」です。
230
:
スゴロク
:2012/08/05(日) 08:27:31
「暗い空の下で」「「とおりゃんせ」と藍色の考察」の続きです。
「ねえ、アカネちゃん」
「ん?」
白波家へ向かう道中、アカネの隣を歩くスザク……の姿をした琴音が話しかけてきた。
「シュロちゃんって、確かランカちゃんの友達よね? 御持て成しとかっているのかしら」
「あら、友達どうこうは関係ないわ。こういうことはキッチリしておかないと」
アカネにとっては、知人だろうと友人だろうと、家を訪ねて来た人は須らく持て成すものであるらしい。
概ね間違ってはいないのだが、
「ですけど、それはあくまでアカネさんのお友達の話では?」
「そうでもないわよ。私の友達なら私が、ランカの友達ならランカが。最低限のマナーよ、これは」
ただねぇ、とここで意外にも案ずるような表情になる。
「あの子、しっかりしてるけど変な所で天然なのよね……私の言ったこと、ちゃんと理解してるといいんだけど」
「……それはある、大いに。ランカのことだから多分、おもてなし云々を『今から来る誰かへ』だと思ってるかも知れない」
マナの意見を否定できる材料は、誰も持っていなかった。
ただ、
「……でも、尋ねて来た人をもてなすのはある意味当然。だから、ランカが勘違いしていても、実際に困ることは何もない」
という補足つきだったが。
231
:
スゴロク
:2012/08/05(日) 08:28:16
白波家。
ゲンブの危報を聞き、仲間内のリーダー格(ということに一応なっている)ランカの許に飛び込んできたシュロは、相変わらず苛々と机を指先で叩いていた。
目下の家主であるところのランカは、人化したアズールと共に忙しく立ち働いていた。無論、これからアカネが連れて来るという客人に対してのものだ。
「マスター、お茶が沸きました」
「ん……じゃあ、急須に移して、湯呑み出しておいて。私はお茶菓子取って来るから」
忙しなく立ち回ること10分あまり、仕度が整ったところで二人もテーブルに戻る。
急須からは沸かしたての日本茶が湯気を立て、簡素ながら茶菓子も用意されていた。
一見すると和む光景だが、当人たちはそんな気分では到底ない。
「大さんが負けるなんて……」
「獏也さんの話じゃ、脳天に一撃喰らって、それで終わったらしい……」
「ゲンブさんを一撃とは……どういう強者ですかそいつは」
アズールの問いには、二人とも答えられなかった。
ゲンブの強さはアースセイバーでも知らぬ者がないほど。以前誰かにボロ負けした以外、敗退したという記録は片手に足りない程度だ。
その彼を一撃でKOした襲撃者とは、果たして何者なのか。
答えの出ない問いに頭を巡らせていると、
「ただいま」
「おぅわっ!?」
シュロの背後から突然声。跳び上がった彼女が振り向いたそこには、音もなく佇んでいるマナの姿があった。
「お、驚いた……マナ、頼むからもっと普通に出て来てくれって」
「声はかけた、一応」
確かに。
「お帰り、マナちゃん。どこに行ってたの?」
「スザクの所。もうすぐみんな……」
ピンポーン、
「……来た」
マナが言い終わる前に、玄関のベルが鳴った。ランカがすっ飛んで行った先で、ドアを開いて入って来たのは、
「ただいまー。……ん、ちゃんと用意はしてるわね、OK」
ランカの母・アカネ、
「お、お邪魔いたしますわ」
スザクの双子の妹・アオイ、
「ここに来るのも久しぶりねぇ……」
「……え? あ、綾ちゃん?」
そして、アオイそっくりの姿をし、山吹色の髪を持った少女。
それが誰なのか、家の中にいた3人は一瞬わからずに混乱した。その答えは、真っ先に帰ってきたマナから齎された。
「ランカ、シュロ、アズール」
「な、何?」
「一体どちらさん……って、何でっしゃろ?」
「あの、スザクの姉御にそっくりなのは……?」
「火波 琴音さん。簡単に言うと、スザクとアオイのお母さん」
沈黙が一瞬。しかる後、
『……えぇええぇ――――!?』
吃驚の叫びが、部屋を満たした。
232
:
スゴロク
:2012/08/05(日) 08:28:53
アオイやマナから事の次第を聞いた3人は、スザクがほぼ死んでいたという事実にまず衝撃を受け、ついでアカネと琴音、マナの連携プレーで何とか命を繋いだことを知って安堵し、最後に琴音がスザクの体に憑依したまま戻れなくなっていることを聞いてまた驚いていた。
「琴音さんのことは、私達も一応知ってはいたけど……」
「スザクさんに乗り移るってのは予想外でしたなぁ」
「スザクの姉御が無事、いや無事でもないのか……まあ生きてたのはいいけど、これはなぁ……」
確かにシュロの言うとおり、スザクの精神は底の底に落ちて眠った状態にある。事実上空になった肉体に琴音が何かのはずみで憑依し、そのまま定着してしまった、というのが目下の現状だったりする。
「ヒナちゃん、力は使える?」
「私の方は問題ないわ。スザクの力は……」
思いつつ、右手(スザクのだが)に意識を集中する琴音。一瞬もかからず、その手に赤い幻龍剣が示現する。
「……問題ないわ」
「なら、自衛は出来ると考えてよさそうですわね」
胸をなで下ろすアオイ。そんな彼女をよそに、シュロが口を開く。
「ともかく……ゲンブの兄貴に続いて、スザクの姉御までやられたとなると……」
「襲撃者と実際に戦ったのは、この中だとアオイだけ。何か知らない?」
マナが問うが、
「も、申し訳ありませんわ……頭に血が昇っていて、ほとんど覚えておりませんの」
答えはこれ。印象を残してほとんど記憶に残っていなかった。
ただ、
「何だか、攻撃を悉く打ち払われたような、そんな記憶がありますわ」
「打ち払われた? 反撃とか?」
「そうではなく、何というのか……その、相殺というか……」
「アオイさん、無理して思い出さなくてもいいから」
アオイが無理やり記憶を引き出そうとしているのを察し、ランカが止めに入る。
彼女が襲撃者に関する記憶を引き出すということは、取りも直さずスザクの惨状を思い起こすことに他ならない。スザクに対して恋情に近い想い入れを持つアオイにとっては、それは何より辛いことだろう。
「す、すみません」
さすがに当人も堪えたのか、それ以上記憶を探るのはやめたようだ。
話題を変えるように、アズールが一同を見回して言う。
「それで、これからどないします?」
そうねえ、とまずアカネが口を開く。
「ええと、百物語組だったかしら? ヒナちゃん、ああなってから結構付き合いがあったみたいだから、連絡しておかないと」
「そうね。色々と問題も抱えてるし……」
続いてシュロが、
「あたしは一回戻る。獏也さんに現状報告だけはしとかないと」
最後にアオイが、
「私は……その、母様と一緒におりますわ。心配ですもの……」
彼女が心配なのはどちらかというとスザクの方なのだが。無論琴音の方もそれはわかっている。
「それなら、一緒に来る? 私はこれから秋山神社に行こうと思ってるんだけど」
「……はい。ご一緒しますわ」
火波姉妹、もとい母子の話がついたところで、アカネも言う。
「ランカ、アズール、マナちゃん。迂闊に外を出歩いちゃダメよ?」
「はい、お母さん」
「心得とります」
「……わかってます」
スザク組、波瀾万丈
(数分後、白波家を飛び出した彼女は)
「でっ!?」
「む、すまん……よそ見をしていたようだ」
「い、いやこっちこそ……ってお前は!?」
(……やはり、そうなるか……)
(「奴」によく似た藍色の男と、ぶつかっていた)
紅麗さんから「シュロ」(六x・)さんから「アズール」をお借りしました。自キャラは「火波 アオイ」「火波 琴音」「ブランカ・白波」「白波 アカネ」「夜波 マナ」「ブラウ=デュンケル」です。
233
:
スゴロク
:2012/08/05(日) 08:37:38
一場面忘れました……orz
それぞれ現状とこれからの行動を確認し、実行に移る。
そこはかとなく気迫のようなものが漂う中で、思い出したようにランカが「あ」と声を上げた。
「ランカさん?」
「……琴音さん、アオイさん」
「学校、どうするの?」
「「…………」」
盲点だった。琴音がスザクの体から離れる手段がない現状、諸々の事情もあわせるとこのまま通学するしかない。
頭から飛んでいた可能性に固まる母子に、シュロがとりあえずの提案を示す。
「あ、あー……とりあえず、アオイがフォローしてやるしかねぇんじゃ……?」
提案というか「こうする」というだけの話だったが、こればかりは他の誰にも代案がない。
234
:
えて子
:2012/08/05(日) 15:11:43
『其が名は「抱擁」』で撤退したカチナのその後。
最後にフラグあります。
「……」
ぺた、ぺた、とコンクリートに足音が響く。
突然の妨害から無事(とは言いきれないが)撤退したカチナは、人気のない裏路地にいた。
よほど奥まった場所なのだろうか、人はおろか猫やカラスも一匹もいない。
その路地を、奥へ奥へと進んでいく。
「………て、き。…あれ、は、めいれいの、しょう、がい」
カチナは、感情のない声でそう呟いた。
記憶に新しい、敵意と殺意に満ちた表情。
何故あのような顔をするのか、カチナには理解できないし、理解する気もない。
彼にとって重要なのは、命令を妨害するものであるか、否か。
そしてあれは、障害。排除すべきもの。
「……カチナは、めい、れい、を、きく。カチナ、は、ころす。
あれ、は、しょうがい。じゃ、ま。じゃま、は、はいじょ」
命令を阻害するものは、排除する。
そう認識して、もう一歩踏み出した瞬間、
「げ、ぶ、」
ごぼ、という音と共に、血を吐いた。
ぼたぼたと地面に血が滴り、体を支えきれずに膝をつく。
「………?」
己の血で真っ赤に染まった手を、虚ろな目で見つめる。
命令遂行にのみ特化した彼の思考では、目の前の現状を理解できなかった。
カチナの能力は、生命力を犠牲にして発動される。
多少の消耗ならば疲労のみでしばらく時間を置けば回復するが、あまりにも多くの生命力を一度に消耗すると、その代償はカチナの寿命を直撃する。
ラボが破壊されてから今まで、命令の為に能力を使い続けてきた彼の寿命は、少なからず―いや、相当な量を削られていた。
しかし、そのような事実をカチナが知ることはない。
知ったとしても、理解しないだろうし、行動を止めることもないだろう。
彼にとっては、命令こそ全て。
己が壊れようが、どうなろうが、知ったことではなかった。
しかし、身体はさすがに悲鳴をあげているようだ。
目の前がふらつき、満足に動けない。
痛みも苦しみも感じない体だが、こればかりはどうしようもない。
「………カチ、ナは…めいれい、を……き、く……」
消耗が激しい今の状態では、命令を完全に遂行することは難しい。
そう判断したカチナは、膝をついた姿勢から倒れるように横になる。
そして、目を閉じた。
次に目を開けたならば、この心無き兵器は再び命令を遂行しに行くだろう。
戦力外兵器、一時休眠
直後、路地に響く靴音と人の気配。
横になったままカチナは反射的に鉈を握り締めた。
235
:
YAMA
:2012/08/05(日) 23:59:29
黒いフードの影と白と黒の双子は、
火波スザク、火波アオイ、
そして兵器カチナの戦闘を終始見つめていた。
「おわったね」「うん、おわったね」
「なら、こちらも行動を開始するとしよう」
白と黒の双子と黒フードの影は
それぞれ一歩踏み出すと標的を片方に定めた。
「私はあの生物兵器の方へ行くとしよう」
「じゃぁ」「ボク達は」「あの姉妹の」「監視を」「「続けるよ」」
「では」「「じゃぁね」」
話がまとまったようで三つの影は二つと一つに分かれた。
――――――裏路地――――――
黒フードの影は倒れたカチナに近づき、
何らかの力を使おうと手をかざそうとした。
しかしその瞬間倒れていたカチナが起き上がり鉈で斬りかかってきた
「ふむ、」
黒フードの影は抵抗もせずに立っているだけだった
しかしカチナの鉈は手応えもなくブンッと風切り音だけを残した
何もないところを切ったわけではない、黒フードの影をすり抜けたのだ
もう一つ付け加えると黒フードの影を鉈が通過するとき『鉈の方が』歪んで見えた
「だれ、だ、おまえ?」
「ゲブラー」
怯んで隙ができたカチナに今度こそゲブラーは手をかざした
『廻れ』
ゲブラーがその一言をつぶやいた瞬間三つの出来事が同時に起こった
一つは疲労困憊したカチナの体力が瞬く間に回復したこと、
一つはゲブラーが突如として消えたこと、
一つはその場に真っ黒なカードが落ちていたこと。
カチナはしばらく呆然としていたが落ちていたカードに気づき、
それを手に取り戦慄した
頭の中にイメージが流れ込んできたのだ。
ついさっき『めいれいを邪魔した女』と殺したはずの『殺さなければいけない女』
そして彼女たちのの居場所がリアルに脳裏に入ってくる
カチナは今あったことも半ば忘れすっと口の両端をつり上げた
236
:
YAMA
:2012/08/06(月) 00:00:00
――――――白波家付近(上空)――――――
上空に二つの影が浮いていた
とてつもなく派手な光景にもかかわらず
道行く人は見向きもしない。
誰も意識していない、否。意識できないのだ
そこに新たな影が『空間を歪めて』現れた
「お帰りゲブラー!」「早かったんだねぇ」
「あぁ」
「「あれぇ?」」「おや?」
「中の誰かが」「ボク達に」「「気づいたみたいだね」」
「そのようだな」
三人はそろって下を向き目を細めたのであった
歪みの蠢動――ゲブラー――
スゴロクさんより 火波スザク、火波アオイ。えて子さんより カチナ
237
:
YAMA
:2012/08/06(月) 00:03:19
どうもYAMAです。
えて子さんの「戦力外兵器、一時休眠」に続かせていただきました。
最後にフラグあります拾っていただくとYAMAが喜びます
238
:
YAMA
:2012/08/06(月) 00:05:46
>>237
他のお子様紹介でお借りします抜けてましたすみません
239
:
スゴロク
:2012/08/06(月) 00:08:31
>YAMAさん
おあああ、また物騒なフラグが……。
ブラウを本格的に動かしたいので、私が拾ってもよろしいでしょうか?
正直大暴れモードになると思いますが。
240
:
YAMA
:2012/08/06(月) 08:25:31
どうぞどうぞ喜んで(狂喜乱舞)
241
:
スゴロク
:2012/08/06(月) 12:04:28
「歪みの蠢動――ゲブラー――」の続きです。
今回はブラウ無双の予定……。
「おや、今日もアナタだけですか」
いずことも知れぬ暗がり。その中に、決して溶け込まない黒ずくめの男がいる。
その男は、目の前にいる誰かに話しかける。
「ジェスターと澪はいつものところ。ミゼルとロゼット、ゲブラーはお出かけだよ。何だか面白そうなものを見つけたんだってさ」
その誰かが、
「お?」
ヤミまがいを通じてみる何かに目を引かれた。
「何かありましたか」
「ああ、『彼』だ。何だろうね、君にそっくりな格好だけども」
何の気なしに口にしたその言葉に、黒ずくめは一拍おいて、
「……追いつかれましたか……」
苦々しさも露わに言った。
「何、『彼』を知ってるのか。因縁の相手かい?」
「昔に少々」
思い起こされるのは、かつて破壊したはずの一家、使い潰して捨てたはずの身代わりの顔。
(なぜ、奴がここに……)
白波家を飛び出したシュロがぶつかったのは、古びた帽子をかぶり、同色のコートを纏った痩躯。
「ッ!?」
最重要警戒対象として指定されている男の姿を前に、シュロは有無を言わさず一撃を叩き込んだ。
が、
「甘い」
「わっ!?」
無造作に動いた左手に拳を軽く逸らされ、のみならず勢いは加速され、男を回り込むような形で派手に転倒していた。
「穏やかではないな、いきなり殴りかかるとは」
「黙れこの……あ?」
そこまで来てようやく、シュロは目の前の相手がヴァイスでないことに気付いた。よく似た風体だが、別人だ。
「誰だ、アンタは……」
「俺か。ブラウ=デュンケル。俺の名だ、それがな」
重く、厚みのある声だった。ブラウと名乗ったその男に、シュロは問いかける。
「こんなところで何をしてんだ?」
「何も。ただ、通りがかっただけだ。ぶつかって来たのはお前だろう、そもそも」
言われてみれば全くその通りである。殴りかかったのはシュロの勘違いだ。
「ぅ……す、すまねぇ」
「構わん。慣れている、間違われるのは。……ところで」
家から出てきた二人の少女に目を向け、ブラウは平然と言い放つ。
「上から来るぞ、気をつけろ」
「「え?」」
二人―――琴音とアオイがそう聞き返す間もあればこそ。
次の瞬間、
「「!!」」
足元に落ちた影に、二人は左右に分かれて跳躍。半瞬遅れて屋根から飛び降りて来たのは、
「めい、れい。しょう、がいは、はいじ、ょ。ころす、ころす、ころす……」
アオイがストラウル跡地で撃退したはずの、あの少年だった。
242
:
スゴロク
:2012/08/06(月) 12:05:09
「綾ちゃん、アオイさん……!」
突然の襲撃者に、矢も楯もたまらず飛び出そうとするランカ。アズールが慌てて後を追う。
「ま、マスター! 落ち着いてください!」
「でも、このままじゃ!」
「ランカ、慌てないの!」
狼狽する彼女を一喝したのは、母・アカネ。
「今あなた達が出て行っても、邪魔になるだけよ。部屋に行ってなさい」
アカネの言葉は厳しいものだったが、ランカもアズールもその意味と真意がわからないほど愚昧ではない。
「……はい」
アズールを連れてランカが上に上がった後、アカネは改めて外に飛び出すべくドアに手をかける。
が、
「え!?」
ドアに手が届かない。直前に壁をつくられたかのように、手が弾かれていた。驚くアカネの横から、マナが声をかける。
「私が行く」
言って、マナは自らの体を波動に変換し、壁を通り抜けて外に出ようと試みる。
ところが、だ。
「!?」
壁にぶつかったところで波動が反射し、マナが実体化したのはテーブルの上だった。
「ど、どういうこと!?」
「性懲りもなく……ッ!!」
赫怒に歯噛みするアオイ。同時に、彼女の中の冷静な部分が告げていた。
さっきの一撃は、母……というか姉と同時に、自分をも狙っていたと。
「邪魔者も消せ、と……有体ですがわかりやすい理由ですわね」
一方の少年……カチナに、会話をするような理性は存在していない。ただ、刷り込まれ、ねじ曲がった「命令」を遂行するのみ。つまりは、
「UH、ラボ、かんけ、いしゃ……ころす、ころす、ころす……」
「……なるほど。つまりスザクが狙われたのはそういう理由なわけね?」
腰に手を当てて言ったのは、スザクの体に憑依している琴音だ。その髪が山吹色に染まっていること以外、外見はスザクと変わらない。隣にいるアオイと、カチナが優先して狙ったのは、
「く!?」
命令遂行の障害であるアオイの方だった。錆びたナタを振り回して殺しにかかる。
その一撃は偽式・龍義鏡で跳ね返されたが、こと戦闘に関してはカチナが優れている。何しろ肉体改造を受けた生体兵器であり、しかもコンディションはグリーン。そうそう負けることはない。
ないはずなのだが、
「やらせないわよ」
無造作に赤い光が一閃。身を低くしてかわしたカチナは、そのまま回転して襲撃者の足を狙う。だが、それは低い跳躍で躱され、どころか返礼とばかりもう一閃走る。
「! ?」
明確に、首を狙った大上段の一撃が。しかしそれも、妙な手ごたえと共に止まり、用をなさない。
「防がれる?」
「母様、其奴は能力者ですわ! 攻撃を打ち消してしまうの―――くぅっ!」
言う間に襲いかかって来た一撃を間一髪でかわすアオイ。
数では有利だが、身体能力は明らかに向こうが上。琴音は戦闘慣れしておらず(にしてはよく戦っているが)、アオイ自身も経験は浅い。
いずれ勢いに飲み込まれ、死ぬ。それをいつまで引き延ばせるのか。この戦いは、ただそれだけのものだった。
ただし、
「そこまでだ」
「グ、ガッ!?」
突然カチナの前に現れた、見えない壁がなければ、の話だが。
243
:
スゴロク
:2012/08/06(月) 12:05:50
命令を遂行するために、カチナは壁にナタを叩きつける。だが、それは反響音を立ててあっさりと跳ね返された。回り込もうとしても、四方上下、全てが壁に塞がれていた。どうにか壁を破ろうと無茶苦茶にナタをぶつけるも、かすり傷の一つすらつかない。
それを醒めた目で見つめるブラウ=デュンケルは、カチナの姿を見つつ呟いた。
「哀れなものだな、被検体0−585」
「!? あんた、あいつを知ってるのか」
シュロの問いには、こう答える。
「直接ではないがな。以前関わった事件で、行方不明者の資料を見たことがある」
言いつつ、カチナを「見る」。頭の中に既に構築しているテンプレートに、情報が書き込まれていく。
「分類:変換……カテゴリ:防衛……形式:常時……リスク:A+……なるほど」
一通り吟味し、結論する。
「『相撃ち(カウンターストライク)』だな」
「相撃ち?」
「相手の攻撃に対し、同等のエネルギーをぶつけてそれを相殺する力だ。常時発動型で、制御が効かない」
「相殺って……つまり、攻撃が効かねえってことか!?」
そのようだ、とブラウはやはり、平然と言う。
「だが、あの力は生命力を代償として発動される。受け続けていればそのうち使えなくなる」
まるで最初から知っているかのようにすらすらと述べるブラウに、シュロは感嘆を通り越して疑念の目を向ける。
「……何で、そこまで知ってる?」
「調べたからだ、たった今」
言うブラウが示すのは、その眼。
「俺のこの目は、あらゆるものを見る。それが何であろうと、たとえ記憶や能力そのものであろうと、概念や法則であろうと、関係はない」
地味に凄まじい能力だった。何でも見える、何でもわかる……それがどれほど強力なものかは、一朝一夕にはわからないだろう。だが、この力を持つ者には、どんな隠し事をしても無駄なのだ。尋問も、取引も、自白剤もいらない。ただ見ればいいのだから。
「確かに劣勢ではあるが……」
言うや、ブラウはカチナを囲んでいた壁を解除する。解き放たれたカチナは、目の前にいた琴音目がけて襲い掛かるが、
「特別な攻撃手段は持っていないようだな」
ブラウの言葉に被さるようにして、横から襲ってきた岩石の弾丸、それに続いた爆発に後退を余儀なくされていた。
放ったのは、ブラウの横で構えるシュロ。横目でそれを見るブラウは、習慣のようにその力を解析する。
「分類:操作。カテゴリ:攻撃。形式:任意。リスク:C」
弾き出した結論は、
「『シュラークシュタルク』か。前のめりなことだ」
「シュラークシュタルク」……鉱物やコンクリートなどから武器を作り出す力だ。シュロは今、右腕にマウントする形で金属片のバズーカを作り出しており、そこから岩石を撃ち放ったのだ。
「だが、『相撃ち』との相性はよさそうだな」
何となれば、直撃と爆風、「相撃ち」のコストを浪費させることが出来るからだ。しかも大幅に。
「ブッ―――――飛べこんちくしょおおがあああああ!」
シュロの咆哮に合わせて、金属や岩石の弾丸がカチナ目がけて降り注ぐ。能力故、回避に関しては並のカチナは、それを「相撃ち」で相殺しつつ、噴煙の中、邪魔者であるアオイを狙う。だが、剣の一閃でナタを弾きかえされ、返す一振りが腕を直撃していた。無論これも相殺されたが、カチナの消耗は増す一方だった。
244
:
スゴロク
:2012/08/06(月) 12:06:47
「パターンは読めた」
そう呟くブラウは、この戦いに見切りをつけていた。カチナは確かに強力な生体兵器だが、攻撃手段はナタ一本。もし別の能力を得たとしても、それを使いこなす理性が既に摩耗し、消滅している。今の彼は、ただ本能と衝動に従って戦うのみ。
ならば、とブラウは周囲に首を巡らせ、
「ああ何だ、そこにいたか」
白波邸上空に浮かぶ三人組をあっさりと発見し、その周りを一気に隔離していた。
瞬間、
「「うわぁぁぁぁっ!?」」「ぬおおっ!!」
何らかの手段で宙に浮いていた3人は、その力を失って落下して来た。
落着の衝撃で隔離空間が壊れたが、ブラウは気にも留めない。
立ち上がった3人のうち、白いスーツの少年が言う。
「僕達を見つけるなんて」
「やるものだね、君も」
後を継ぐように言ったのは、黒いスーツの少年。
「俺の力を破るとはな」
感嘆するでもなく言うのは、フードを目深にかぶった人物。それらを順番に見つめるブラウは、
「危ないなぁ、まったく」
黒いスーツの少年に向けて、いきなり発砲していた。その弾丸は、黒スーツに届く前に雲散霧消していたが、ブラウはそれで十分だった。
「分類:干渉 カテゴリ:自在 形式:任意 リスク:D」
そして、
「『存在抹消(エリミネーター)』……と言ったところか」
「……これは驚いたね。一発で見抜かれたよ」
さして驚くでもない風に、白スーツの少年が言う。見抜かれた方の黒スーツの少年は、ただ肩をすくめる。ブラウはさらに白スーツの少年にも目を向け、
「分類:干渉 カテゴリ:防衛 形式:任意 リスク:D」
なるほど、と。
「こちらは『存在創造(クリエイター)』か。運命干渉系が揃い踏みとはまた厄介な」
だが、と。
「……その力、軽々には使えんようだな」
「なんでそう思うのかな?」
白スーツの言葉に、ブラウは「簡単だ」と返す。
「このいかせのごれに『在る』ものは、須らく独自の因果律を持つ……お前達の能力で存在を消し去り、あるいは改変が出来るのは、お前達自身の因果が及ぶごく一部に過ぎない……違うか?」
さらにブラウは例を挙げる。
「あのパニ・シーですら、『なかったこと』に出来るのは現象のみ。それも、決して完全ではない」
「「……ご名答。全く、大した洞察眼だ」」
黒と白、二人の少年が声を揃え、素直な賞賛を贈る。
「確かに、人でも物でも、僕達の力なら自由自在さ」
「けれど、迂闊にそれをやると、必ず反発を喰らう」
「「世界は今を保とうとする。世界そのものに干渉し、存在そのものを根幹から変える僕らの力は、影響できる範囲を大いに限られているのさ」」
そんな二人に、
「……喋り過ぎだ。それに、こいつ相手では分が悪すぎる。戻るぞ」
「「了解だよ、ゲブラー」」
「ここで名を呼ぶな」
言うや、フードの人物は手を突き出し、
「『廻れ』」
瞬間、3人の姿はその場から消え失せていた。
245
:
スゴロク
:2012/08/06(月) 12:07:42
一方カチナとの戦いも、佳境を迎えていた。
ブラウの情報とアオイの記憶から、カチナの能力を御する方法を知った3人は、ナタをかわしつつ一気呵成に攻撃を叩き込んでいた。
その結果、生命力を大幅に浪費する形となったカチナは、命令遂行を優先して撤退を余儀なくされていた。
「めい、れい。カチナ、は、めいれいを、きく、へいき……」
が、
「かんけい、しゃ、ころす、ころす……ころす」
振りかぶった右手から、
「ッ ! 」
琴音目がけて、ナタを思いきり投擲していた。完全に油断していた琴音はそれを防ぐことも避けることも出来ず、額に回転するナタの柄が直撃してよろめく。
さらにカチナは駆け寄ってナタを空中で回収、そのままトドメとばかり、同じところ目がけ、落下の勢いも載せてナタを全力で振り下ろした。
ナタが振り抜かれた直後、鮮血が飛び散り、額を断ち割られた琴音が崩れ落ちる。
「母様ぁぁっ!!」
アオイが叫び、駆け寄る。
それを見届けることもなく、カチナはそのまま何処かへと姿を消した。
家の中からそれを見ていたアカネは、矢も楯もたまらず外へ飛び出す。いつの間にか壁は消えており、下の喧噪を聞きつけたランカとアズールも出てくる。
「ヒナちゃん、ヒナちゃん!! しっかりして!!」
「何とか、生きてる、けど……このままじゃ、ヤバい、かも……」
琴音の「エンプレス」のおかげでどうにか命は繋いでいるようだが、このままでは長く持たない。ウスワイヤに連れて行くにもここからでは時間が足りない。危機的状態に逆戻りしたこの現状に、真っ先に閃きを受けたのはアズールだった。
「! そうや! 秋山神社には今クランケさんがおるはずや、何とか力を借りられれば……!」
頷き、ランカは家に飛び込む。向かった先は、以前の騒ぎでミナが現れた一角。
「! やっぱり!」
案の定、そこには何かの暗がりが見えた。覗き込むと、霊安室の中に一人佇むミナの姿が。
その彼女に向けて、ランカは叫ぶ。
「ミナさん、聞こえる!? お願い、神社に伝えて!」
運命旋転
(その真実は……)
(六x・)さんから「アズール」えて子さんから「カチナ」紅麗さんから「シュロ」名前のみ込みでYAMAさんから「運命の歪み」フルメンバーをお借りしました。自キャラは「火波 琴音」「火波 アオイ」「ヴァイス=シュヴァルツ」「夜波 マナ」「ブランカ=白波」「白波 アカネ」「ブラウ=デュンケル」「ミナ」です。
後半部分のブラウとミゼル・ロゼットの会話は要するに「人の家のお子様を勝手に殺しては駄目だ」って話です、ハイ。
解析した能力の名前に関しては……あれはまあ、ブラウの勝手なネーミングってことで一つ。
246
:
しらにゅい
:2012/08/06(月) 17:06:07
千羽 望という人物は元来、損をする性格である。
北にヒャッハアしながら残虐行為を行う白黒頭の看守がいれば、行ってやりすぎたとフォローして鬼ごっこを強いられるハメに遭い、
南に自分の上司を止めようとする看守がいれば、そのようなことはしなくていいと自ら顔面に生卵を受けて、
西に喧嘩をする上司と同僚がいれば、行って喧嘩を止めようとすると巻き添えを喰らい、
東に怪我をした囚人がいれば、こっそりと傷を癒してあげると後に上司にバレてサンドバックとされてしまう。
気遣いという概念を持たずにひたすら保身に走ればいいものの、やはりお人好しな性格が彼の人生に災いを成し、結果的には重罪人として刑務所から追われる身となってしまった。
現在、彼は逃亡生活の果てにいかせのごれという土地に身を落ち着かせ、追っ手の目から逃れるようにストラウル跡地という辺鄙な場所に居住している。
ここにいれば他人と関わることは極力無いので、彼の長所が彼自身に牙を向くことはなく平穏に日々を過ごすことが出来る。
しかし、このストラウル跡地は何かが起こるからこそ人が寄り付かないのだ。
望の記憶が正しければ、最近では星飾りを付けた少女が同年代の女の子に星を降らせていたのが真新しい。
十中八九あの子は特殊能力者だろうが、一般人に対し危害を加えるのはご法度であることを彼は知っていたし、あまりにも被害が酷いのであれば刑務所が動き出しやしないかと、
内心かなりヒヤヒヤしていた。
結局、この事件の真相はその少女をとある男が唆し、それ故に暴走してしまったというものであったので望の心配は杞憂に終わったが。
本当に、最近は物騒だ。いい加減場所を変えた方がいいかもしれない。
と、望はそんなことを考えながら今日の日課を終えて『家』がある跡地へと帰って来ると、何か騒がしいことに彼は気が付いた。
中ほどに進んだ望の目に映ったのは、もう見慣れてしまった光景であった。
「…また、これか。」
目の前で男と女が殺し合っているにも関わらず、ため息混じりにそう呟けるように慣れてしまった自分が怖い。いや、これはきっと過去の経験からかだろう。
そういえばショウさんも反抗はたくさんしてたけど、なんやかんやで最後まで刑務所らしい人だったなぁ、と望が元同僚の渋い顔を懐古し始めた時、
「っうわ」
女の猛攻により弾かれた石礫が望の元へ飛んできたのであった。
幸い、その石礫が顔面にぶつかるより数秒前に気が付いたので、顔を横に逸らし回避することが出来た。
しかし、女は「死ね」と連呼しながら攻めの手を緩めず、猛攻を止める気配もなかった。
とりあえず被害を受けないように望は建物の影に隠れ、その戦いが終わるのをひたすら待っていたのであった。
247
:
しらにゅい
:2012/08/06(月) 17:08:34
女のレイピアが男の胸を刺し貫いた時、勝負が決まった、と望も思った。
しかし、男と一言二言何か会話をしたかと思えば、突然女が膝をつき、苦しみながらのた打ち回り始めた。
勝利したのは女、否、男の方であったのだった。
男は胸を押さえながら膝をつく、恐らくこれ以上の続行は不可能であろう。
女が荒く息を吐きながら立ち上がろうとしたその時、突然彼女の姿が消えてしまった。
何事かと男も望も驚いたのだが、男は上を見上げながら誰かと一言二言交わした後に、彼もまたその場から姿を消してしまったのであった。
男が消えた後にひらりと上から舞い降りてきたのは、濃い茶髪のショートヘアをした少女であった。
恐らく、一連の消失は全て彼女の力なのだ、と望は推測する。
「(人を消す、いや…移転させるのか…?)」
「さぁて、………もう出て来てもいいっすよ。」
「っ…!?」
望の身体が、強張った。
自分は一度も声を発していないし、存在がバレるような真似もしていない。
少女が飛び降りたビルからも十分死角であったはずだ、それなのに。
「………」
いや、ここで変な意地を張って隠れ続けても見苦しいだけだ。
望は仕方なく、少女の前へと出てきたのであった。
「おや、思ってたより優男。…こんにちは、跡地のお化けさん?」
「お化け?」
「身内から聞いてたんすよ、ストラウル跡地に出入りするお化け、…いや、人間がいるって。
多分、貴方のことかと思うんすけど。」
「はは、…まさか、人違いじゃ。」
苦々しく望は笑ったが、少女がポケットから取り出して突きつけたものを見た途端、彼の表情は固まった。
それは、拠点としている部屋に置いてあった“いつか使うかもしれない大事なもの”であった。
「妙に綺麗な部屋に住んでいるって聞いてましたけど、貴方で間違いありませんよねー?カルーアトラズ刑務所・第1エリア担当看守、千羽望さん。」
「………」
「ああ、ご心配なく。そっちがどんな事情でここにいるのかって事までは聞く気サラサラないんで。」
そう言って、少女は手に持っていた望の身分証を彼に投げ返した。
望はそれを受け取り、未だに掴めない少女の意図に戸惑いながらもポケットへと仕舞った。
「…人の部屋を無断で見るのはあまり関心しませんよ、ホウオウグループ。」
「あら?言ってないのに。」
きょとんとする少女に、望は指先で自分の首をとん、とん、と叩く。
すると彼女は、ああ、と納得したように声を上げたのであった。
「でもホウオウグループって呼び方、なんか釈然としないっすねぇ。」
「貴方の名前を知らないのだから、当然のことでしょう。」
「じゃあ、アタシはスパロウ。これでいいっすよね?ノゾムさん。」
「………」
自分の予想以上にフランクな態度のスパロウという少女に、望はやはり警戒の念は隠せなかった。
何せ今目の前に対峙しているのは腐ってもホウオウグループ。そこがどんな集団か、また、そこに所属する者がどんな人物かというのは、過去の経験上、望も分かっている。
しかしそれを見透かしたかのように、スパロウは頭の後ろで腕を組みながら呟いた。
248
:
しらにゅい
:2012/08/06(月) 17:16:30
「そんなに気張ってるとかえって疲れますよ?」
「……う…」
「図星?」
「そんなことより、さっきのは何ですか?スパロウ、さん。」
「ああ、あれっすか?クロウさんがちょっと絡まれたみたいでしてねー…あ、クロウ、っていうのはさっきノゾムさんが見てた男の人っすよ。」
「絡まれたって…あれ、絡まれたってレベルの話じゃないでしょうに。」
「そうっすねぇ、アタシが来なきゃ今ごろ鳥肉の完成だったかもしれませんっすね。」
「鳥肉って…」
「ま、安心してください。どっちも恐らく生きてるでしょうから。」
それは暗に、女は心配無用だと望に伝えているようなものであった。
「…そうですか…」
「ただ、あの調子じゃあまた喧嘩吹っかけてきそうっすけどね。」
「そうなったらどうするんですか?」
「さぁ?当事者にならないと何とも言えませんっすね。ま、貴方もお気をつけて。」
「…?何故僕が…」
「関係ないとは言い切れないっしょ?」
「…一応、元なんですけどね…これでも。」
「あら、そりゃ初耳。なら、ここに住んでいることも尚更合点がいく。」
「報告はしないんですか?」
「元々噂程度にしか認知されてませんでしたし、報告の必要はないかと。ああ、勧誘ぐらいはするかもしれませんっすけどね?」
「それなら、丁重に断らせて頂きます。…組織は、もう懲り懲りなので。」
「それは残念。」
そこで話の糸が、ぷつり、と途絶えてしまった。
まるで本島に世間話だ、と望は思った。話されている内容は選択肢次第では死を免れない、そんな物騒な言葉遊びかもしれないというのに、
そんなやり取りにでさえ不思議な居心地の良さを感じてしまう。
久しぶりに人と話したからか、それとも。
〜♪
「ん?ちょっと失礼。」
不意に、スパロウの持つ携帯電話から音が鳴った。
彼女がすぐに電話に答えると、誰かと何か会話をし始めた。
スパロウの口から出る言葉から察するに、相手はクロウであろう。
「んじゃ、また跡で。」
そう言って電話を切ると、望の方へ振り返った。
「すいません、ちょっと呼ばれちゃったんでもう行きますわ。」
「え?…あぁ、いえ、こちらこそ引き止めてしまってすいません…」
つい謝罪の言葉が口から出てしまった望に対し、スパロウは、ぷ、と吹き出し、
去り際にこう呟いたのであった。
「貴方、とてもあの刑務所の看守とは思えないっすね。」
千羽鶴と運び屋
(後に残された千羽鶴はといえば)
(一人苦笑しながら頭を掻いていたとか)
249
:
しらにゅい
:2012/08/06(月) 17:19:25
>>246-248
お借りしたのは千羽 望(えて子さん)、スパロウ、名前のみクロウ、蒼井聖(スゴロクさん)でした!
こちらからはなしです。
「未だ深き、その闇」後のスパロウさんと望さんがただ会話するだけの話でした!
なんかスパロウさんこんなキャラで大丈夫かとヒヤヒヤしながら書かせて頂きましたが…
大丈夫だったかな…
250
:
スゴロク
:2012/08/06(月) 17:23:54
>しらにゅいさん
拾ってもらってありがとうございます
スパロウはあれで結構ですよー。というか、wikiに記載した基本設定と口調以外は結構適当なので。
251
:
紅麗
:2012/08/07(火) 02:50:17
シュロは上機嫌だった。仕事とはいえ、ウスワイヤに保護されている子供達と話をすることが出来たからである。
このシュロという白髪の女。真面目なのは良いが普段とても無愛想なのだ。火波スザクやその仲間、子供達に対しては年相応の笑顔を見せることはあるが。
そんな彼女は今両腕に子供達から貰ったであろう大量のお菓子を抱え、ほんわかとしたオーラが見えた。
明らかに「幸せオーラ」を出している彼女に、白い海軍服を着た女性、アルニカが声をかけた。
「こんにちはー、シュロくん。なんだか幸せそうですねー。」
「あ、アルニカさん…そんな顔して、ます?あたし。」
「そうですねー、いつもの仏頂面が嘘のように消えていましたよー!」
仏頂面、その言葉にシュロは眉を顰めた。
人から事あるごとに「無愛想」等と言われる彼女。自分ではそんなことはないと思っているのだが…。
―――口が悪いのも原因の一つなのだろうか?
「シュロくん?」
「え?あぁ、すみません。そんなにあたし、普段機嫌悪そうな顔して…ます?」
「…んー、そうですねぇ。」
シュロの問いにアルニカは少しだけ首を傾げながら今まで見てきた彼女の表情を思い出す。
「そうだね、うん!恐い!ラッシュしてる時とかもう鬼…般若?ううん、悪魔!大魔王…サタンだね!サタン!あっはっはうぶぇっ」
アルニカが笑声を上げるのと、シュロが拳を腹に叩き込むのはほぼ同時であった。
どさどさと菓子が雪崩れ落ち、あっという間に床には菓子山が誕生した。
吹っ飛ぶ程の威力は無いとは言えど、無防備なその腹に何の合図も無く突然パンチをぶち込んだのだ。
吐き気を催すのとその場にうずくまるのには十分すぎる威力だった。
「うっぷ…く、危なッ!危なかった!もう少しで女あるまじき行為をするところだった!」
「誰がそこまで説明しろって言ったよ!なんだ般若って!」
「だ、だってほんとに恐いから…。」
右手で殴られた部位を摩りながら、青ざめた顔で立ち上がる。
うぇ、と短く息を吐いた後また殴られないようにと二歩ほど後退し距離を置いた。体が勝手に後ろに動いた、の方が正しいか。
といっても少し距離を置いたところでどうにかなるものではないのだが。
目前にいる彼女は素早く動くことが出来、RPGの職業で例えるなら「格闘家」さらに詳しく言えば「攻撃特化型」もう一つ言うと「近・遠距離の技を併せ持つ」
「…ったく、あんたに聞いたのが間違いだった!もういい!」
「う…ボク年上なのになんなんですかこの言われようは…。」
「あんたが大魔王だとか悪魔だとか言うからだろうが!」
パンチをした故に床へ落下してしまったお菓子達を拾い集めながらシュロが一喝した。
先程のほんわか女子オーラはどこへやら。…成る程これなら鬼と言われるのもわからなくは―――おっと。
「ほら、行くよアルニカさん。」
「え、行くってどこに…。」
「こんな量のお菓子、あたし一人じゃあとても食べれ、ません。何人か集めてお茶会でも…しましょう。」
全ての菓子を拾い終わったシュロが口を開き、アルニカに背を向けながら言う。
心なしか、彼女の頬は桃色に染まっているように見えた。
「…なんだ、皆と話したかったのならそう言えば良かったのにー。」
「ーーーッ!そ、そんなんじゃ…!」
「はいはい、照れない照れないー。」
「うわぁ撫でるな気持ち悪い!アホ!アホんだら!」
「…ど、どんどん口が悪くなりますねー、キミ…。」
252
:
紅麗
:2012/08/07(火) 03:05:51
「二人ともよくうちの店来てくれてるよねーありがとう!」
輝かしいばかりの笑顔でそう言ったのはシュロとアルニカがよく足を運ぶスイーツショップ「デコラキャンディー」の店長、「津芽矢間 飴実」だった。
ちなみにこの「津芽矢間 飴実」というのはアナグラムで本名は「天津芽 梓猯」というらしい。
偽名を名乗る理由は「なんとなく」なんだとか。アルニカと同じようなものだろうか。(彼女はアナグラムでもなんでもないが)
「うふふ〜、キミのお店のお菓子を食べると元気が出るんですよう!」
「……すみ、ません。毎回大量に買っていっちゃう気が…。」
「謝ることなんてないよー、どんどん買っていってくれると嬉しいなっ!」
その隣に座っているのは。
「それにしても、凄い量のお菓子ですね…。」
「ウスワイヤに保護されている子供達に貰ったん、です。遊んでくれてありがとうって…。」
「子供が好き、なんですね。」
「ま、まぁ…あはは。」
いかせのごれ高校の養護教諭、玉置静流だった。
そして―――その隣には。
「…………。」
「るんるん。」
「……アルニカさん。」
「なんですかー?シュロくん。」
「皆、敢えて突っ込まないみたいだからあたしがツッコむが…。」
「なんで刀が椅子に座ってるん、です?」
そう、タマキの隣の椅子には刀がいたのだ。いた、というか立てかけられていた。
待ってました、と言わんばかりにアルニカがにやにやと嫌な笑みを浮かべだした。
「気持ち悪いから早く理由話せ。」
「ほんっとキミはヒドイですね!!」
「ま、まーまー!私も気になってたんだ。アルニカさん、聞かせてよ。」
えー、それでは。とアルニカが立ち上がり咳払いをする。
シュロのイライラゲージが上昇しているのが目に見えてわかり、飴実が身震いした。
「これはなんとぉ!あのヨリミツさんの「童子切」なのであーる!!」
「泥棒じゃねぇか!!」
間を置かず椅子から素早く腰を上げたシュロの凄まじい両足蹴りがアルニカの背中に直撃した。飴実は目を見開いて驚き、辺りにはポップコーンが飛び散る。
タマキはうわぁっ、と小さく悲鳴を上げド派手に地面に転がるアルニカに駆け寄る。
飴実とタマキには目もくれず、アルニカを上から見下ろし再び怒鳴った。
「あんたほんと何やってんだ!!」
「だ、だって素敵だったから…。」
「だからって盗んでいいと思ってんのかおバカ!」
「う、うぅ…ゴメンナサイ…。」
「ほらもう早く返してきて、ください!」
「はい……。」
「童子切」を持ち、がっくりと肩を落としながら部屋を出ようとするアルニカ。
よほどあの「童子切」が好きだったのだろう。持ち方も丁寧だ。
(ちょっと、かわいそうだったかな…。)
そんなことを思った、直後だった。
「もう少し女らしくしたらどうなんですかーーーーあ!!」
やられっぱらしではいられないと思ったのか。突如くるりと振り向いて「してやったり」な顔でシュロに向かって声を張り上げ、部屋の外へと逃げ出した。
タマキと飴実の近くで、何かが、確実に何かがぷつりと切れる音がした。
「あいつ…、あたしが最近同じようなことをウスワイヤのある奴から言われたの知ってて言ってんのか…。」
「しゅ、シュロさん…?」
「ごめん、なさい。ちょっと行ってきます。」
「行くってどこに…」
「限界だ…。てめー…特別にタダであたしの拳くらわせてやる!うらぁ!」
「うわあああ!!シュロさん!落ち着いて!」
「騒がしいな、何が…。」
「!? 兄貴!?どいて!!」
「え。」
「ご、ごめん、兄貴……。まさか来てるとは思ってなくて…。」
「……まぁ、直撃しなかっただけ良いとしよう。」
今にも泣き出してしまいそうな勢いでシュロは謝罪する。訓練でもないのに彼に拳を向けてしまったことが相当ショックだったらしい。
壁には大きな穴とヒビが誕生していた。
どれもこれもあの海軍服のせいだチクショー、などと思いつつ、見るも無残な姿になった壁へと視線を向けた。
「どうしようこれ…。向こう側見えちゃってるぜ。」
「…俺は知らんぞ。」
「私、直せる人連れてくるよ、待ってて。」
にっこり笑って部屋を飛び出した飴実。…逃げているように見えたのは気のせいか。
―――まぁ、取り敢えず。
「今日も、皆元気です!」
「……?なんであんたがしめてんだ!いつ戻ってきた!?」
「キャアー見つかっちゃいましたー!」
「シュロ、そんなツッコみまくりで疲れないのか?」
「……なんかもう、癖だね…。」
253
:
紅麗
:2012/08/07(火) 03:07:03
お借りしたのは十字メシアさんより「津芽矢間 飴実」、しらにゅいさんより「玉置静流」、スゴロクさんより「水波 ゲンブ」名前のみ「火波 スザク」、akiyakanさんより「ヨリミツ」でした!
自宅からは「アルニカ」「シュロ」です。
254
:
十字メシア
:2012/08/08(水) 20:39:16
新キャラ登場話。
ネモさんから「七篠 獏也」、サイコロさんから「森山修斗」しらにゅいさんから「玉置静流」お借りしました。
「…………………」
「あのー…キララちゃん?」
(ギロッ)
「(ビクッ)な…何でもないです……」
いかせのごれ高校2年2組。
ほとんどの生徒達がただならぬオーラに戦いていた。
キラである。
<おやおや。あからさまに不機嫌だねえ>
「そだねー。『相変わらず貧乏くさい身なりだな愚民よ』とか言った人利一を、軽く睨んで戦闘不能にさせたもんね」
クラスきっての凡人な非凡人である灰音と、ちらほら伝説を残しつつある簀は呑気にその様を見ていた。(因みに簀は大量の中華まんを食べている)
「………」
「白奈、もう話しかけんな。触らぬ神に祟りなし…だ」
「う…うん」
小声で制止したのは紀伊。
「…ねえねえオト君。何でキララちゃん、あんなに怖いの?」
「あー…まあ。ちょっと、な…」
数日前の事だ。
―ウスワイヤ―
「…っと。復興作業も大変だなー」
「大丈夫か、朱弘梨。無理してまた玉置先生に怒られるなよ」
「わーってる、わーってrオェエエエーー!!!」
「言われた傍から吐くなぁあああ!!!! 誰か! 水入りバケツと雑巾と袋!」
千年王国の襲撃を受けた翌日の事。
その時キラは、朱弘梨や他の仲間と復興作業をしていた所だった。
因みに隅っこで、
「金……僕の金………」
学校でもウスワイヤでも金の亡者で有名な人利一が体育座りしていた。
「……どーするよ、アレ」
ジト目で人利一を見やるヒロヤ。
それに対して幸斗は、
「んー…ほっといて、いいんじゃないですかねー」
「…そうか。まあお前が言うんならいいか」
「はいー。なーんか大体いつもの事らしいですよー」
と、そこで幸斗の赤い目が一瞬青く光る。
人格が幸斗から妖魔のユクへ変わったのだ。
「アキヒロの所長権限か。聖の仕置きか。はたまたそれ以外の奴の仕置きで、泣く泣く金出したんだろーよ。哀れな事だなー全く」
体の主に似合わぬ笑い声を上げるユク。
「アイツ、結構嫌われてそうだもんなー…それよか、急に出てくんなよ。ビックリするだろ」
「ハッハッハー!」
「オイお前らー…駄弁ってねーで手動かせよー…」
『へーい』
何とか復活した朱弘梨にたしなめられる二人。
「…ところで、ジャックと梦惟さんは?」
「ああ、パトロールで外に行ってる」
「そうか。しかし梦惟さんが尤惟から離れるとはなあ…」
騒動の前に保護された梦惟は尤惟の姉であるのだが、その重度なブラコンで瞬く間にウスワイヤで有名になった。
どれくらいかと言うと、大衆の前でも「トガちゃ〜んVv」とハグしては尤惟に「死ね」とウザがられるぐらい。
「まあ、ブラコンではあるが真面目だからな。…一応」
「何で最後付け加えたし」
と。
255
:
十字メシア
:2012/08/08(水) 20:39:56
「ただいま〜」
「只今帰還シマシタ」
「おー、お帰りー…って、誰だソイツ?」
「てか…人間じゃなくね?」
ジャックが肩を貸している少年らしき人物に気付く朱弘梨。
またヒロヤの言う通り、体の所々が『破損している』かの様になっていて、しかもコードやらエナメル線やらが見えている。
「跡地で倒れているのを見つけたんデス」
「背中にホウオウグループのマークあったから、多分捨てられたんじゃないかな?」
「んー…まあ、とりあえず所長や獏也さんに相談……ってキラ?」
「…よくものうのうと私の前に……」
「キ、キラ?」
「どうしたんだよ一体…」
「キラさーん?」
突然の態度の変わり様に狼狽える朱弘梨達。
と。
「…ん」
「あっ、起きた」
「大丈夫デスカ?」
目を覚ました少年。
辺りをキョロキョロと見渡していたが、キラに気付いた途端、目を輝かせた。
「…キラ?」
「え?」
「知ってるの―――」
刹那。
「…黙れぇえええええええええええええええッ!!!!!!!!!」
『!?』
ドゴォオッ!
「あたたたー…」
「つう…ハッ、朱弘梨! 大丈夫か!?」
「何とか…まあ関係ねーけどゲロ出そうだし頭いtうぇっぷ」
「大丈夫じゃねーじゃん!!」
二人の漫才はさておき。
キラはいつの間にかアンドロイドの姿を取っており、なりふり構わずルームクエイクを出した。
幸い怪我人は出ずに済んだ(一人体調不良がいるが)。
「お、落ち着いてキラちゃん!」
「そっそうでございマスよ! 急に暴れられては―――」
「五月蝿い。巻き込まれたくなかったらソイツを置いてどこかに逃げろ」
「あわわわ待って下さいキラさーん! 誰かー来て下さーい!! 大変ですー!」
256
:
十字メシア
:2012/08/08(水) 20:40:36
「…で、どういう事だこれは」
「まだ修復中なのに傷を増やしてどうするっすか? 軽かったから良かったものの…」
「………すいません」
幸斗の呼び掛けに応じたシュウトがナイアナでキラを捕縛し、騒ぎを聞き付けた獏也とシノがその場に駆け付け、今に至っている。
朱弘梨はというとついにダウンしてしまい、ベッドに臥せっていた。
「まあまあ。…キラちゃん、何で急に怒ったんだい?」
「……話せば長くなるが…」
語られた内容によると、拾われた少年―――ミーレスは自身の旧式兵器であり、ホウオウグループ時代の相棒であったという。
ある日、怪我をした幼い能力者少女に出会い、グループに内緒でこっそり看病していたのだが、その少女がウスワイヤ側という事を知る。
しかし、殺す理由も特に無いからと彼女は看病を続け、少女を仲間の元へ返した。
だがこの事がホウオウグループにバレてしまい、裏切り者の烙印を押されてしまう。
「…問題はここからだ」
「というと?」
「奴らは、ミーレスに私を殺せと命じた」
キラの口から出た言葉に、その場の空気が凍り付いた。
「しかもミーレスは何の躊躇も無く私を殺そうとした」
「相棒なのに!?」
「アイツにそんなものは通じない」
「どういう事なんですかー?」
相変わらず緊張感の無い口調で聞いた幸斗に、キラは嘲る様に言った。
「……ミーレスには『心』が無い。喜ぶ事も無ければ泣く事も無い。アイツは正真正銘、戦う為に造られた戦闘兵器だ」
「………」
「だが私がアイツを嫌う理由は、殺そうとしたからだけじゃない」
「え?」
「アイツ、昔から私に対して『好き』だと言いまくってたんだよ」
「好き…って……異性としてって事っすか?」
「ああ」
忌々しげに返答するキラ。
「けど、心が無いって…」
「そうだ。アイツの『好き』は私自身ではなく、『戦いの相棒であり最も近くにいる者』である私に向けられた言葉で、好意も無くただただ言っているだけだ。恋愛感情なんてありゃしないし、理解出来る訳なんかない」
「! まさか『冷たいもの』を嫌うのは…」
「…ああ。アイツの心の無さの有り様に絶望したからさ。……人でなしにも程がある」
「キラ………」
重苦しい空気が流れ出す。
それを破ったのはシノだった。
257
:
十字メシア
:2012/08/08(水) 20:51:48
「とりあえず、ミーレス君どうするっすか?」
「そうだな…あの状態を見るに、廃棄された可能性が高い。保護してもいいだろう」
「!? ちょ…ちょっと待って下さい獏也教官!! 何故ミーレスを保護するんですか!?」
納得いかないかの様な素振りを見せるキラ。
当然と言えば当然なのだが。
「このまま放っておくのもアレだろう。それにすぐ暴れるような奴ではないみたいだしな」
「た…しかに、そうですけど……」
事実らしく、否定できない様子のキラ。
と。
ガバッ
「!!?!??!!」
「キラ♪」
「貴様…ッ! 離れろこの人でなし!!!」
その場に現れたかと思えばキラに抱き着いたミーレス。
それを見た獏也は微笑を浮かべ、
「…問題は無いな」
と言ってのけた。
「はぁ!? ふふふざけた事言わないで下さい教官!! 貴様も離れろ鬱陶しい! てか何故ここに!?」
「ごめんキラちゃん…キラちゃんに会いたいって聞かなくて」
「そこは壊してでも止めて下さいよ先生!!! …っぐぁあああぁあああぁぁあああ!!!!!!!!」
ウスワイヤに虚しい咆哮が響いた。
(あれからずっとあんな感じだなんて言えねーよ…)
「オトくーん?」
「ああ…何でもねえから…」
「?」
キラの至上最悪の災難
―余談―
「あっシュウト君、リリーちゃんどうだったすか?」
「あー…またドアの前で追い返されちゃいました」
「ありゃ。まあ仕方ないっすよねえ」
―更に余談―
「ルーツ、あの新人はどこだ」
「新人? …ああ、いつも弱音吐いてる子か。それならジングウの所に行ったぜ」
「何故そんな所に…?」
「さあな」
「…まあいい」
258
:
十字メシア
:2012/08/08(水) 20:52:57
すいません最後にスゴロクさんから「クロウ」「シュバルツ」お借りしました;
ミーレスと新人は後で投下します。
259
:
十字メシア
:2012/08/09(木) 18:01:51
鶯色さんから「バレッタ」(名前なし)お借りしました。
クロエが武器工場に来た話。
「………」
どのくらい日が経ったのかしら。
もう考える力すら無いわ。
「お母さん…」
最後に聞いた声。
母と慕うべきだったあの人は、わたしに謝っていた。
どうして謝るの? 気付きもしなかったわたしに。
―――クロエならきっと 可愛いお嫁さんになれるね。いつか私にも見せてほしいな。
お母さんはそれを夢見ていたに違いない。
何かが違わなければ、今でもお母さんは生きていて、わたしの嫁姿だって見れた筈だわ。
…何かが、違わなければ。
お母さんが『アイツら』の仲間じゃなければ。
「寒い……お腹、空いた…」
雨の中、傘を差さずにずっと歩いていた上、『あそこ』から出ていったきり何も食べてない。
足も、重く、なって……。
「……もう、ある…け、な…い………」
バシャッとぬかるんだ地面に倒れる。
暗くなる視界と遠退いていく意識の間で、茶色い姿と男の人の声が―――。
来訪者
260
:
えて子
:2012/08/11(土) 23:16:19
スゴロクさんに許可を頂いたので、新キャラ登場の回。
スゴロクさんより、「火波 アオイ」「火波 琴音」「白波 アカネ」名前のみ「ブランカ・白波」をお借りしました。
ランカが助けを求めに家に飛び込んだ直後のこと。
「くっ…」
「ヒナちゃん、しっかり!」
「母様っ!」
割られた額からは血が溢れ出し、このままでは命が危ない。
しかし病院にもウスワイヤにも連れて行くには時間が足りない。
皆が手を拱いているときだった。
「あの…どうされました?」
背後から突然、声をかけられた。
アオイが振り向くと、そこには一組の男女がいた。
紅色の髪を持つ女性と、強面で筋肉質な大男。
何者かと問う前に、女性の方が驚いたように口元を覆った。
「まあ、大変!酷い怪我をなさっているじゃないですか!」
琴音の様子を見てのことだろう。
傍に駆け寄り、膝をつく。
「大丈夫…ではなさそうね…」
悲痛な表情を浮かべ、ポツリと呟く。
そのまま、そっと両手を己の胸に当てる。
「…紅…」
「大丈夫よ。血を止めるだけ」
大男が、気遣うように女性に声をかける。
紅、と呼ばれた女性は、小さく微笑むと目を閉じた。
「………!」
女性の体が淡く光り、次の瞬間その手には同じように光る小さな結晶が現れた。
「貴女、何を…?」
「…大丈夫。じっとしていて」
その結晶を、額の傷に向けてほろりと落とす。
結晶は、溶けるようにして傷に吸い込まれた。
傷はというと。
かなりの深手であったはずが、先ほどまで流れていた血が止まっている。
261
:
えて子
:2012/08/11(土) 23:18:24
「……え…?」
「血を…止めました。これで、少しはマシなはず」
鞄の中からハンカチを取り出すと、傷の周りの血をそっと拭く。
そして、首に巻いていたスカーフを外すと、ぎゅっと強く傷口を縛った。
「…これで、よし。あとは、きちんとお医者様の所で治療を」
「あ…ありがとう…」
「……貴女は、いったい…?」
「…あら、名乗りもせずにごめんなさい。私はこういう者です」
微笑んで鞄から名刺を一枚取り出すと、それをアカネに渡す。
アカネはそれを受け取ると、怪訝そうな表情を浮かべた。
「『情報屋「Vermilion」経営者 音早 紅』…?聞いたことないわね」
「個人でひっそりと経営しているものですから…。…けれど、仕事には誇りを持っています。もし何かあったら、気軽にどうぞ」
そう言うと、立ち上がって礼をする。
「…私は、これで。投げ出すようで申し訳ありませんが…」
「い、いいえ。ありがとう…」
「…よかった。…お大事に」
そう言うと、女性は男に支えられるようにして去っていった。
後には、アオイとアカネ、そして手当てを施された琴音が残された。
「あの人…いったい何者だったのかしら…」
「さあ…」
紅色の情報屋
−その後、情報屋「Vermilion」にて−
『あっ!ハヅル、ベニー姉さん、おかえりなさぁい!!』
「…ただいま。…アーサー、悪いが、今日は店じまい…だ。…久我、悪いが外の札をかけかえておいてくれ…」
「…了解」
『おーいおい、僕を忘れちゃ困るなぁ。それで、どうしてだい?』
「…そうだな…すまない、ロッギー。…紅が、体調を崩した…微熱も、ある…」
「大丈夫よ…。少し、眩暈がしただけだから…」
『大丈夫じゃないよぉ!!大変だ大変だ、僕らはお休みの準備をしてくるね!』
「以前にそう言って風邪拗らせて入院直前までいったの忘れたんですか。大人しく寝て、早く元気になってくださいよ」
「……そうね。ごめんなさい」
新キャラの詳細は後ほどあげます。
262
:
スゴロク
:2012/08/13(月) 21:17:19
「紅色の情報屋」の続きです。名前のみ込みで、えて子さんより「音早 紅」「カチナ」クラベスさんより「キリ」「ノア」「クランケ・ヘルパー」ネモさんより「七篠 獏也」十字メシアさんより「シノ」「カナミ」akiyakanさんより「ヨリミツ」「都シスイ」しらにゅいさんより「トキコ」樹アキさんより「緑音ののか」鶯色さんより「ハヤト」町中の熊さんより「貝塚 真二」砂糖人形さんより「ネイロ」サイコロさんより「汰狩 省吾」をお借りしています。自キャラは「ブランカ・白波」「ミナ」「火波 琴音」「火波 アオイ」です。
―――結局、白波家で起きた一件はどうにか収束を見た。
音早 紅と名乗った女性により当座をしのいだ琴音は、そのままウスワイヤに搬送され、治療を受けることが出来た。
ランカの方はクランケに連絡を取ろうと試みたのだが、繋ぎに頼ったミナの時点で弾かれてしまった。
先のキリ消滅の一件でかなりふさぎ込んでいるらしく、正直治療ができるコンディションではないとのことだった。
ともあれ琴音が助かったことで、事件は一応の収束を見た。カチナというらしいあの少年が健在で在る以上いずれまた襲われるだろうが、それでもだ。あの後、ウスワイヤに集まった一同は、未だに意識の戻らないゲンブを見舞った後、獏也にこの件の詳細を知らせていた。
またしても問題を抱えることとなった獏也は冗談抜きで倒れそうになったが、それでも対策は取る、と返答。シノを引っ張り出し、さらにこのような有事への備えとして聖とヨリミツを抜擢。探偵事務所の面々にも警戒を呼びかけることとなった。
アカネはアカネで、帰り道に秋山神社を訪い、琴音の現状を知らせに行っていた。
それから数日が過ぎた、現在。
奇しくも連休明けとなったこの日、火波家では少しばかり奇妙なことになっていた。
「制服着るなんて、ホント何年ぶりかしら……」
「母様……もとい姉様、早くしないと遅刻ですわ」
元に戻る方法がさっぱり見つかっていない琴音が、スザクの体に乗り移ったまま通学することになったのである。対外的には「火波 スザク」を演じることにしてはいるが、いつまで持つかわかったものではない。
(母様の演技力に期待するしかありませんわね……)
正直アオイは不安で仕方がなかったが、母と一緒にいられるという意味では心なしか安堵のようなものを覚えていた。
「出来た。さ、行きましょアオイ」
「はい、母さ……姉様」
一方の琴音の方も、不安は尽きなかった。以前スザクが同じような状態になった時は、心にアクセスすることで説得が出来た。しかし今回は、スザクの存在が全く感じられないのだ。マナの見立てでは、精神の井戸の底の底に落ち込んでいるらしいのだが、それはつまり、スザクを呼び起こすには事実上深層意識の最深部……つまり、人間のパーソナリティの根幹も根幹の部分に手を出す必要があるということだ。
「……シスイさんとトキコさんには、話しておくべきでしょうか」
「事情を知ってる人は少ない方がいいんだけど……その二人なら仕方ないわね」
さすがにそんなレベルの芸当が出来る能力者や施設は、今の所ホウオウグループにすら存在しない。下手を打てばスザクの人格が消えてしまう可能性すらあるのだ。
元より今の彼女は、元々の人格である「火波 綾音」が度重なる精神制御実験のおかげで崩壊しており、後から出来た仮の人格が強さの「スザク」と弱さの「綾音」に分かれた上で再統合されたという、非常に不安定な人格を抱えている。
先頃も、また衝動に突き動かされて暴走を起こし、統合したはずの人格が一時的とはいえ分裂、「綾音」が表に出るという異常事態まで発生している。その扱いには細心の注意が必要だった。
「髪はまあ言い訳が効くけど……性格はどうしようもないわね。あんな男の子みたいな物腰を真似するのは、さすがに無理よ?」
「わたくしも出来る限りのフォローは致しますけれど……困りましたわね」
ゆえに、現状では琴音がスザクを演じるほかない。非常に不安の残る結論だが、現状他に方法がない。
そうこうしているうちに、
「……ついちゃったわね」
「はぁ……」
連れ立って歩く火波「母子」は、いかせのごれ高校に到着していた。
263
:
スゴロク
:2012/08/13(月) 21:17:56
「あっ。しゅざくっち、あおいっち、おはよ〜」
「あら、ののかさん。おはようございます」
登校して早々鉢合わせたのは緑音ののかだった。独特の符丁で呼ばれ、慣れっこのアオイはいつものごとく返事をするが、
「………」
「? しゅざくっち〜?」
覚えのない琴音は無視。ののかが不思議そうに首を傾げるのを見て、アオイは慌てて肘で傍らの母親を突く。
(母様、母様!)
(! ああ、スザクのことね、あれ)
「ああ、おはよう。ごめんなさい。聞いてなかったわ」
「いいよ。……しゅざくっち、何か変わった?」
相変わらず首を傾げるののかは、琴音(inスザク)を見て言う。
「ど、どこが?」
「ん〜……何か、女の子っぽくなったっていうか……」
「「!」」
アオイの懸念が早速的中した形だ。内心大いに狼狽する琴音は、慌てて取り繕う。無論、今度はちゃんと「スザク」を演じるのを忘れない。
「そ、そんなことないって。気のせいだよ、ののか」
「あ、いつものしゅざくっちだ」
「だろ? わ……僕は何も変わってないって」
「でも、髪」
「こ、これ? ちょっとしたイメチェンだよ、イメチェン」
へー、と横から感心の声。アオイが振り返ると、そこにいたのは汰狩省吾。珍しいものを見るような顔で、しげしげと琴音を見つめる。
「スザクってなんていうか、オシャレにあんまり気を使わないって感じがしたから……」
「それはどういう意味……だよ。わ……僕だって、少しくらいは気にしてる……ん、だよ」
「?? だ、大丈夫か? 何かさっきからつっかえてるけど」
やはり琴音では、性格のまるで違うスザクを演じ切るのは無理があった。それを見て取ったアオイは、素早く割って入り、出来るだけ自然に話しかける。
「そろそろ教室に向かいませんこと? 時間がもったいないですわ」
幸いにも、二人とも引き止めはしなかった。
264
:
スゴロク
:2012/08/13(月) 21:19:19
本当の試練は教室に入ってからだった。
火波姉妹が連れだって登校するのはもはや恒例行事となっていたため誰も気にしないが、その片割れがいきなり髪を染めたとなれば、誰しも驚く。
真っ先に反応したのはハヤトだった。
「ありゃ、鳥さんその髪どうしたんだ? 失恋か?」
「違―――う、よ。ただのイメチェン」
「な、何だ、今の妙なタメは?」
続いて真二が、
「どうしたんだ? 調子でも悪いのか?」
「何でもない、ってば」
「いや、でもさっきから話し方がつっかえつっかえだし」
さらに 希流湖がアオイに、
「……スザク、本当に大丈夫か? 何か様子がおかしいぞ、マジで」
「色々と事情があるのですわ。深く詮索しないでいただけると助かりますわ」
「まあ、そういうこともあるだろうけどよ……」
久々に登校してきていたノアはというと、
(何だ……? あれ、ホントにスザクか……? 違和感が……)
その変化を敏感に感じ取り、警戒を強めていた。
(アオイが一緒ってことは、すぐに危険ってわけじゃなさそうだが……)
そしてカナミはというと、
「…………」
無言のまま琴音を見つめ、
(……違う……あれはスザクだけど、スザクじゃない……誰かがスザクのふりをしてる……だけど、何か無理してる……)
持ち前の異様に鋭いカンで以って、事態を感知していた。
そのそれぞれにどうにかこうにか対応しつつ、何とか席に着くアオイ。が、琴音の方はというと、
「……? ??」
スザクの席がわからず、混乱していた。そんな彼女に、怪訝そうな顔のトキコが声をかける。
「鳥さん、どうしたの? 席ここだよ?」
「! ああ、そこだったの、ありがとう」
「……やっぱり、鳥さん変だよ……何かあったの? 言葉づかいもらしくないし……」
さすがに声を潜め、トキコが囁いて来る。席の近いシスイも、
「ああ、何だか無理してるように見えるぞ。俺達でよければ相談乗ろうか?」
と気遣う。これに対して答えたのはアオイだった。
「……では、お二人とも、昼休憩になりましたら屋上に来ていただけます? 事情をお話ししますわ」
そんな彼女らを、
「…………」
いつもより1.5倍増しのジト目で見つめるネイロの姿があったとか。
母と娘とクラスメイト
(あちこちガタガタ)
(演技もボロボロ)
(前途多難な琴音であった)
「……あれ、何かあった? 様子が……」
最後にフラグっぽいものを一つ。
265
:
十字メシア
:2012/08/13(月) 22:11:16
>スゴロクさん
フラグを拾わせて頂きたいのですが、恥ずかしながら最後のセリフ辺りの状況が今一つ掴めないので、簡単な説明をお願いしてもいいですか?;
266
:
スゴロク
:2012/08/13(月) 22:33:42
>十字メシアさん
実は全く指定していません。
あえて言うならば、二人が登校してきたところを見たか、屋上に上がるところを見たかですね。
なので、拾って下さるならシチュエーションはお任せします。
267
:
スゴロク
:2012/08/13(月) 22:42:29
>十字メシアさん
失礼、追記です。
書いた時にぼんやり浮かんでいたのは「登校⇒教室の騒ぎを見た後、屋上に上がるのを目撃」という状況でした。
268
:
十字メシア
:2012/08/14(火) 00:01:42
>スゴロクさん
ありがとうございますー
269
:
十字メシア
:2012/08/14(火) 07:06:10
久々の登場。
クラベスさんから「キリ」(名前のみ)お借りしました。
キリさんがいなくなった。
それを聞いた瞬間、黒井さんはその場にへたりこんだ。
嘘だ。
黒井さんよりずっとずっと強いあの人が、キリさんが。
死ぬなんて有り得ない。
「だ…大丈夫…?」
『…分かんない』
「とりあえず…部屋で休む?」
『うん。ありがとう、アゲハさん…』
アゲハさんに連れられ、黒井さんは部屋に戻る。
「何かあったら、言ってね…」
『うん』
アゲハさんの気配が消え去ると、黒井さんはそこでうずくまって泣いた。
誰にも気付かれたくなかったから、声を押し殺して泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて。
『キリさん…キリさん…ッ!』
初めて会った時を思い出す。
いつも通りの、虚しい日々に「ソレ」は突然やって来た。
キリさんに出会い、自分の事を知り、一人じゃなくなった。
キリさんと出会わなかったら、今ここに黒井さんはいない。
『何でさ、何でさ、何でさ……何であなたが……』
ある日現れたあの人は、黒井さんを救ったあの人は。
黒井さんにとって、カッコいい素敵な王子様だったんだ。
第一話と第九八話
270
:
十字メシア
:2012/08/14(火) 07:18:23
「母と娘とクラスメイト」のフラグを拾わせてもらいました。
名前のみスゴロクさんから「火波 スザク」「火波 アオイ」「火波 琴音」、akiyakanさんから「都シスイ」、しらにゅいさんから「トキコ」お借りしました。
「………」
昼下がりの教室にて。
2年2組の女子生徒、悠里 ミミ。
彼女はある理由から「人間が見えない」体質であり、普段は目が不自由な振りをしている。
だが今日は違った。
(アレって…スザクさん、だよね? 声からして…)
姿は見えずとも声は聞こえるので、知り合いや友人の識別は何とか出来る。
だが今は、姿までもが見えていた。
正確には火波 スザクの姿だけが。
(聞いた話じゃあ、スザクさんの髪は赤だった筈だけど…あの色はどう見ても山吹色だし…)
<どうしたんだい? 悠里 ミミ>
「はひっ!?」
突如聞こえた声に、ミミは思わず素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「は、灰音さん…びっくりさせないでよー」
<ははっ、そっちが勝手に驚いただけだろう?>
「もう〜…」
笑みを崩さず、灰音の髪を弄る神江裏 灰音。
<それにしても、今日の火波 スザクはいつもと違うねえ>
「灰音さんも分かるの?」
<おや? 見えない君もかい?>
「だ、だって話し方がいつもと違うもん」
<まあ、確かにね>
内心でホッとするミミ。
すると灰音が気付いたように声を上げた。
<おや、火波姉妹が教室から出て行くね。都シスイと朱鷺子も>
「えっ? どこに行くんだろ…」
<…ついていけば分かると思うよ?>
「へ?」
<時には好奇心に従うのも、アリだと思うね>
「……灰音さんは?」
<お断りするよ。火波 アオイを怒らせたくないし、それに…ふふっ>
「?」
灰音の意味深な含み笑いに、ミミは疑問を感じたが、彼女はその先を言おうとしなかった。
<とにかくお行き。まあ何があっても神江裏 灰音は知らないけどね>
「………」
無言で彼女を見つめるミミだったが、やがて立ち上がって教室から出ていった。
<これで大妖怪の孫は”理解者”を得れるか否か……流石に傍観者には未来は分からないがね>
大妖怪の孫の尾行
―その頃のウスワイヤ―
「獏也さーん、大丈夫っすかー?」
「今は何とか…な」
「あまり無理しちゃ駄目っすよ? 辛くなったら構わず休むっす」
「うむ、すまない」
「獏也ー」
「朱弘梨。どうした?」
「水無瀬一族の頭領さんが来てるぞ」
「頭領が…?」
最後のフラグは自回収なのでお気になさらず。
271
:
十字メシア
:2012/08/14(火) 08:55:17
あっと記載漏れ;
ネモさんから「七篠 獏也」お借りしました!
272
:
十字メシア
:2012/08/14(火) 21:45:27
「大妖怪の孫の尾行」のウスワイヤの続き。
ネモさんから「七篠 獏也」お借りしました。
突然の来訪客に、獏也は眉をひそめながらもその者を応接室に通した。
その来訪客とは、つい先日訪れた水無瀬一族の頭領、水無瀬 斎である。
「突然すいません、何の連絡もなしに…」
「構わん。それで用件は?」
「あ、その前に……この前は、妹が申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げた斎を見て、獏也は面喰らった様な表情を浮かべた。
「……姉じゃなかったのか?」
「やっぱりそう思います?」
「まあ兄より背が高ければ、な。…あ、いや、すまない」
「ははは、お気になさらず。慣れましたから」
何だか悲しい言葉を言われた気がするが、当人は本当に気にしてないようなので、それ以上突っ込まなかった。
「あの子、いつもあんな風に喧嘩腰なんですよ。身内や仲間なら多少甘くなるんですが……」
苦笑気味に言う斎。
「何故あそこまで嫌うのやら……あ、僕自身は貴方達の事を敵視してないので、守人の力をお借りしたければ僕に言って下さい。なるべくバレないように人員派遣するので」
「ああ…すまない、恩に着る」
「いえ、何かを守る意志は同じですし」
「では改めて…用件は?」
「あ、はい。まずこれを見て頂きたいんです」
と、持っていた書類を獏也に渡す。
それを軽く見ていく獏也。
見終わったところで斎が本題を切り出した。
「今見て頂いた書類は、守人の行方不明者リストです」
「行方不明者?」
「ええ。ホウオウグループ出現もあってか、色々トラブルが続出しておりまして…特にメンバーが行方不明になる事態が、目立っているんです」
「ふむ……これは?」
と、1枚の紙を斎に見せる。
その紙だけ行方不明者の写真が無い。
「ああ…その行方不明者なんですが、まだ赤子の頃に誘拐されたらしくて、写真が無いんです」
「誘拐?」
「ホウオウグループの仕業かはまだ分かりませんが…生まれてまだ間もなく」
「そうか…」
「しかし問題なのはそれだけではありません」
「ん?」
斎の目が更に真剣味を帯びる。
273
:
十字メシア
:2012/08/14(火) 21:46:03
「守人に移籍予定の能力者、弥栄 幸斗をご存知ですよね?」
「うむ。推薦したのは他でも無い、私だからな」
「まだ合格とは見なされてないので、今は大丈夫なのですが……実を言うと、合格と認められても守人になれないんです」
「…どういう事だ?」
「…守人達だけに備わる力がありまして、仲間とのテレパシーと力の共有なんですが…合格出来てもまだ守人ではないので、この力が備わらないんです。その事から、正式に守人として認められるには、『ある物』が必要でして―――」
「その『ある物』も行方不明になっている、と?」
察した獏也の言葉に、斎は少し驚きながらも頷いた。
「正確には、その赤子と一緒に行方不明となっているんです」
「というと…?」
「そもそもその『ある物』を管理していたのが、”いかせのごれの大魔術師”と謳われていたイハル殿なんです」
「何? イハルだと…?」
ウスワイヤに身を置く獏也もその名をよく知っていた。
”いかせのごれの大魔術師”イハル―――ありとあらゆる魔術を使いこなす、天才魔術師。
しかしある日。
「彼は何故自殺を…?」
「生まれたばかりの赤子を誘拐された上、妻のコモモ殿が気苦労で病を患い亡くなったからと…」
「…なるほど」
「…それはイハル殿とその血を継ぐしか扱えないのです。つまり彼がいない今、その誘拐された赤子しか使える人間がいません」
「見つけ出さないと、候補者がいつまで経っても守人になれない…という事か」
「はい。それでリストを見せた理由ですが…行方不明者捜索に協力してほしいんです」
「………総元締めからか?」
「いえ、僕の独断です」
「…やはりそうか」
ふっと諦めた様な笑みを浮かべる獏也。
斎をつられて笑った。
「僕らの大半が攻撃に特化した能力なので…それで、多種多様の能力者がいるウスワイヤに協力を仰ぎたく」
「なるほど……よし、分かった。任務の内に入れておこう」
「ありがとうございます。あ、発見や何かあれば僕に連絡下さいね。くれぐれも佳乃にバレないように…」
「承知した。正直、総元締めと話すと気疲れしてしまうからな」
「本当にすいません……」
溜め息をつきながら謝る斎。
「いや、お前が謝る事は無い。あの事態は予想がついていたからな」
「あの子も兄として僕を見ているのか、いささか疑問に感じております……はあー…」
斎の脳裏に強気な目をした妹の姿が浮かぶ。
そしてその妹とはいうと。
「…ックシュン! …誰か噂でもしてるのか?」
全ての序章
(あらゆる物語)
(それが今)
(明かされ出す)
「…ところで早速なんだが」
「はい?」
「『ヒロヤ』ならこちらで保護されているぞ」
「………えっ?」
最後のフラグも自回収…ですが、ヒロヤについて掘り下げた話を一、二話投下してから書きます。
そしてJ.J以外の守人だと明かされているキャラはリストに載っていません(カンナとソキウスは誰からも認識されていない為除外)。
274
:
スゴロク
:2012/08/16(木) 13:03:19
「全ての序章」終了時点での、各勢力の動向を簡単にまとめてみました。間違いなどあれば指摘願います。
ウスワイヤ&アースセイバー⇒通常通り活動中。獏也のもとには現在「崎原 美琴の一件」「ヴァイスへの警戒」「守人に関する一件」「真衣の訓練」など多くの案件が舞い込んでいる
ホウオウグループ⇒目立った動きはなく、沈黙を保っている。現在のところ本格的に動いているのはクロウとその一派
千年王国⇒アッシュも含め大きな動きはなし
守人⇒イハルの死亡に伴う「とあるもの」の紛失により後継が出ない状態。斎は独断で獏也に協力を依頼
レストラン⇒平常通り。ノルンが何とか復帰
バー⇒平常通り
風月堂⇒平常通り
カルーアトラズ⇒平常通り。現在脱走人員がストラウル跡地に潜伏
UHラボ⇒カチナの残党狩りによって大半の人員が死亡
武器工場⇒平常通り
リリス修道院・孤児院⇒平常通り。ピエロへの警戒続行中
天河探偵事務所⇒平常通り。
スノーエンジェル⇒平常通り。
デコラキャンディー⇒平常通り。
霜月堂⇒平常通り。
トライアルアークス⇒平常通り。
いろは館⇒平常通り。
275
:
スゴロク
:2012/08/16(木) 13:08:08
続きです。
出雲寺組⇒平常通り。
ポリトワルサーカス団⇒平常通り。シュウトが出向中
無々世一派⇒大きな動きはなし
百物語組⇒キリ消滅。それに伴い仲間内で不和が発生。現在はハルミの提案で「101話としてキリを呼び戻す」作戦を実行中。カイムがブラウと接触
IUCチーム⇒平常通り。
怪盗一家⇒ホウオウグループ傘下。
ドラグリュオン⇒大きな動きはなし。
運命の歪み⇒ピエロが行動しているが目的は不明。最近ではヴァイスが動いた
スザク組⇒ゲンブ・スザクがカチナの襲撃を受ける。ゲンブは重体、スザクは死亡寸前の所を琴音に救われたが、現在はその琴音がスザクの体から離れられなくなっている
276
:
十字メシア
:2012/08/16(木) 15:49:48
>スゴロクさん
守人に関してですが、「とあるもの」の回収以外に「行方不明者捜索」も入れて欲しいです
277
:
スゴロク
:2012/08/16(木) 16:18:39
>十字メシアさん
了解しました。wiki転載時に追加しておきますね。
278
:
えて子
:2012/08/18(土) 23:46:30
時系列遡る形になっちゃいますが、「運命旋転」後の撤退したカチナの話です。
カチナしか出てきません。最近カチナしか出てない話が多くてすみません。
ストラウル跡地、廃ビルの屋上。
スザク組の攻撃にて撤退を余儀なくされたカチナは、人っ子一人いないそこで、座り込んでいた。
消耗が激しかったのだろう、手に力が入らず持てなくなった鉈が、近くに無造作に転がされている。
「……ころ、せない。しな、ない。しなな、い」
焦点の合わない目を彷徨わせ、爪を噛みながらそう呟く。
あの時、確かに殺したはずの標的が生きていた。命令遂行の邪魔をする障害も排除できなかった。それどころか障害はますます増えたではないか。
今まで殆どてこずることもなく標的を抹殺し障害を排除してきたカチナにとって、今回の標的と障害は想定外、理解しがたいものだった。
「…………な、ぜ」
何故標的を殺せないのか。何故障害を排除できないのか。カチナには理解できない。
何度も同じ標的を狙うと、相手の警戒度が上がるということも、理解できない。
一度手を引いて別の標的を探して倒すのが得策だろうが、そんなことを考えられるほどの思考能力は、彼に残されているはずもなかった。
「………………………」
カチナの瞳に、無くしたはずの感情が宿る。
殺せない標的への苛立ち。邪魔をする障害たちへの怒り。命令遂行が滞っていることへの焦り。
それらが綯い交ぜになり、カチナの失ったはずの心を煮えたぎらせていた。
「……こ、ろ、す。ころす、ころす、ころす、ころす、ぜったい、ぜったい、ぜったい………!」
明確な苛立ち、怒りを含んだ声音で、呪詛のように呟く。
あまりにも強く噛みすぎたせいか指の皮が破け血が流れているが、それでも構わず噛み続ける。
疲労が頂点に達し、もはや体を支えることすらできなくなったのか、カチナは重力に従いコンクリートの床に横倒しになる。
ガンッと鈍い音を立てて頭を打ち付けても、ぶつけた部分から血を流しても、気に留めない。
ただ、ただ、目を見開き、爪を噛み締め、呪詛のように繰り返すだけだった。
「ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす、ころす…………」
戦力外兵器の苛立ち
(ころさなきゃ、みんなころさなきゃ)
(それだけが、たったひとつの、そんざいいぎ)
279
:
スゴロク
:2012/08/19(日) 00:07:28
>えて子さん
カチナもだんだんヤバいことになってますねぇ。
その内本当、スザク組が誰か死にそう……。
280
:
スゴロク
:2012/08/19(日) 00:24:25
今回は完全にネタです。メタ視点込みです。
「真っ先に聞きたいのですが、なぜワタシはアナタの前にいるのですか。ブラウ=デュンケル」
「俺の台詞だ、それは。……まあいい、せっかくだ。与太話に付き合っていけ」
「舞台裏とはいえフレンドリーな……ま、いいでしょう」
「うむ」
「最近増えているな、企画キャラ達に命の危機が迫ることが」
「いかせのごれに生まれ、能力を持った以上は避けられぬ宿命ですがね」
「しかし、実際に死んだ例はない。わかるか、なぜなのか」
「さて、考えたこともありませんね」
「答えはこうだ。企画キャラの命運を最終的に決定するのはその作者自身であり、他の作者は危機に陥れるまでが限界ラインなのだ」
「まあ、普通に考えればそうでしょうね」
「中には登場以前に、投稿された段階で死んでいるという爆弾もいたが」
「彼ですかね?」
「さあな。ともあれ、だ。最近の例ではスザク組vsカチナという例があるが」
「なるほど。その場合スザク組の命運はスゴロクが、カチナの命運はえて子さんが決める、と」
「なぜ向こうだけさん付なのだ」
「語っているのはワタシ達ですが、書いているのはスゴロクですから……むう、こんがらがって来ました」
「まあ、わからんでもない」
「ついでだ。我らが作者・スゴロクについてどう思う」
「以前どなたかがインタビューでおっしゃいましたが、自キャラを不幸にすることにかけては天下一品の御仁ですね」
「そこは同感だ」
「しかも、大抵の場合は救済策が用意されているのですが、スゴロクはそれを用意しません。最悪の場合、用意だけしておいて気づかせない・使えない・直前でなくなるという『これはひどい』例も多々」
「お前より性質が悪いな」
「放っておいていただきたい。ともあれ、スゴロクが一度決めれば、そのキャラの未来は真っ暗です。救いも何もない、ただひたすら闇へと落ちて行くのです。しかもタチの悪いことに、この傾向は主役級であればあるほど極端になります」
「聞いたことがあるな。確か、以前書いた練習小説では、主役が世界中に裏切られた挙句、精神が壊れて世界を滅ぼしたとか言っていたな」
「それですね。ま、この掲示板では関係のないことですが」
「何はともあれ、与太話はここまでだ」
「そうですね。では、舞台上で会える日を楽しみにしていますよ」
無頼と狂人、舞台裏にて
ブラウとヴァイスの語りでした。繰り返しますが、ネタです。
281
:
えて子
:2012/08/19(日) 03:50:16
>スゴロクさん
死ぬ前に何とかします。
具体的な内容は曖昧ですが←
282
:
スゴロク
:2012/08/19(日) 09:29:51
>えて子さん
まあ、あまりお気になさらずとも結構ですよ。
基本私はどんなフラグでも拾い返せますから。
283
:
えて子
:2012/08/19(日) 09:42:59
>スゴロクさん
了解です。
ありがとうございます。
284
:
えて子
:2012/08/19(日) 13:09:15
どうしても書きたかった話。情報屋とカチナの因縁。
自キャラしかいません。
最近こんな話ばっかで申し訳ない。
通りがかりの怪我人を助けた数日後。
情報屋「Vermilion」は通常通り営業を開始していた。
「……オーナー、はよっす」
「あら、長久くん。いらっしゃい」
「アーサーとハヅルは?」
「お買い物に行ったわ。食材の買出しですって」
「そうっすか」
ここのアルバイトである長久は慣れた所定の場所に鞄を置くと、いつものように店の掃除と資料整理を始める。
1時間ほど経った所で、ふと手を止め、紅のほうを向いた。
「……なあ、オーナー。ちょっと聞きたい事があるんすけど」
「?」
「……オーナーは、何で情報屋なんてやってんです?」
「ああ、そのこと?…そういえば、長久くんには教えていなかったわね」
ぱしっ、とキーボードを叩く手を止めると、紅は顔を上げる。
「……私ね。人を探しているのよ」
「……人?」
「ええ。昔行方不明になって、それっきりの」
「………はあ。恋人か何かっすか?」
長久の言葉には、くすっと笑って軽く首を振る。
「違うわ。甥よ、甥。生きていれば今は高校生ぐらいかしらね」
「甥ですか…」
「…歳の離れた兄がいてね。その人の子なの」
「……はあ。何でまた行方不明に…」
「……それがよく分からないの。襲われたのだと思うのだけど…」
「は?」
「……甥が生まれたのは、私が小学生の頃だったの。
私もよく学校帰りに遊びに行っていたのだけれど……ある日いつものように遊びに行ったら、兄の家は何者かに荒らされていた」
「……………」
「酷いものだったわ。まるで手当たりしだいといった感じ。……その中で、兄も義姉も変わり果てた姿で横たわっていた。つかまり立ちができるようになったばかりの甥は、姿すら見当たらなかったわ」
「……それは……」
「…結局、犯人は分からずじまい。甥も行方不明のまま。家族の皆はもう死んだんじゃないかって言うけど……私はきちんと子の目で確かめたい。諦めたくないの」
「………」
「でも、私は体が弱いから…旅をして行方を捜すというのは難しい。だから、こうして情報屋になったの。もしかしたら、ひょっこりと甥の情報が舞い込んでくるかもしれないと思ってね。……分かった?」
微笑む紅を横目に、長久は軽く息をついて頬杖をついた。
「……なるほど。よく分かりました」
「ふふっ、分かってくれて何より。…そうだ、写真を見る?可愛いのよ」
そう言うと、引き出しの中から一枚の写真を取り出すと、長久に差し出す。
長久はそれを手にすると、日の光にかざすようにして眺めた。
「……色、薄いですね」
「昔の写真だから、少し色褪せちゃってるのね」
「これ、オーナーですか?」
「ええ。たまたま遊びに来ていたときに撮ったものなの」
「……………オーナー」
「ん?何かしら?」
「……見つかるといいですね、甥っ子さん」
「……………。ありがとう、長久くん」
情報屋の理由
(写真の中でこちらへ向かって笑いかける幼い紅と、微笑む一組の男女)
(女性の腕に抱かれた小さな小さな“甥”は)
(――心を失った、あの生物兵器に、よく似ていた)
285
:
スゴロク
:2012/08/19(日) 16:36:20
紅麗さんのイラストを見て思いついた過去話。ついでにカチナに襲われたゲンブの現状も兼ねて。
気が付くと、夢を見ていた。
モノクロの視界に映るのは、ベッドの上で身を起こす黒髪の少女と、よく知っている真っ白な髪の少女。
――――UHラボから逃げ出した火波 綾音と水波 大悟は、紆余曲折を経て白波家に保護されていた。
だが、家長のシドウが突如として姿を消し、家にいた青い妖狐・アズールも消え、一人娘のブランカは体調を大きく崩して入院を余儀なくされた。
足繁く見舞に通っていた二人だが、程なくして「ウスワイヤ」という組織にランカ共々連れて行かれた。
そこで知った事実――――「特殊能力」。常人にあらざる力を持ってしまった者、その一人であることを知らされた。
精神面に爆弾を抱えていた綾音、戦闘力0以下のランカは収容が見送られ、その代りとして大悟のみがアースセイバーへと所属することを決めた。
そして二人は、実験体であった頃の、即ち本来の名を捨て、新たな名を名乗った。
実験を経て精神を破壊され、今生まれ変わった綾音は「スザク」に。大悟自身は、何かを護れる己であろうと「ゲンブ」に。
それから数日経った、ある時のことだ。
「ランカに偽名ぃぃ〜?」
一般の病院に移されたランカの見舞いに来ていたスザクの前でゲンブが提案したのは、ランカにも何かしら偽名、というかカモフラージュの名がいるのではないか、ということだった。
「俺達がこの名を名乗っているのは、例の施設からの追手に対するかく乱の意味合いが強い。であるならば、アースセイバーの面々はともかく、俺達とかかわりの深いランカにもその手の名前がいるのではないか、という話だ」
「……わからなくもないけどさ……」
ちなみに、スザクが後の戦友・都シスイと出会うのはもう少し先。後の恋人(?)・トキコと関わるのはさらに先の話である。
「というわけで、だ」
ゲンブが言い出そうとして、
「ランカの偽名はだな……」
「却下だ」
スザクがあっさり制した。
「……まだ何も」
「却下だ」
またしても。
「人の話を」
「却下だァァァァッ!!」
叫ばれた。
「……スザク。何のつもりだ」
「どうせお前の事だ。ビャッコとかつけるつもりだろ?」
「その通りだが?」
「却下、却下、大却下だあああ!! そんな名前、誰が認めるか!!」
「スザク、一つ言っておくぞ」
胡乱な眼を向けるスザクに、ゲンブは落ち着き払って言う。
「大却下などという言葉はない。残念だったn」
「そういう問題じゃなぁぁぁぁいっ!!」
ほとんど絶叫に等しい声で、スザクは反対を表明する。
286
:
スゴロク
:2012/08/19(日) 16:36:53
「……なぜそこまで反対する」
「僕の台詞だ!! 何でそこまで偽名に拘る!?」
「さっき言ったはずだが」
「違うね、あれは後付けだ。施設の追手がどうのこうの言うなら、そもそもランカを病院に移す必要はない。本気で警戒するならあのままウスワイヤに入れておけばいい」
「む……」
「さあ本音を答えろ、ゲンブ。何のつもりだ?」
一息おいて、ゲンブは言う。
「―――俺達がこうして偽名を名乗る以上、連帯の意味でもランカにも」
「黙れこのドン亀!!」
ついに名前を呼ばなくなったスザクである。
「ど、ドン亀だと!?」
「それって要するに、『俺達だけじゃ面白くないからランカも引っ張り込もう』って話じゃないか!!」
「その通りだ。それの何が悪い」
「開き直るな、亀!!」
ドン亀ですらなくなった。
「な――――」
「前々から思ってたけどな、お前実は面白がってるだけだろ?」
「境遇がこうだからな。少しくらいは遊びがなくてはやってられん」
「だからってランカを巻き込むのは反対だ! 僕らのこの名前は『今までの自分を捨てる』意味だろ? ランカにもそうさせる気か!?」
「いや、何というかニックネームのような」
「『ランカ』で十分だ!! もうお前は黙ってろ!!」
「そ―――」
「黙ってろって言っただろうが!!」
捲し立てるスザクにさすがのゲンブも苛立ちを覚え、口論に発展する。
そんな二人が看護師につまみ出されるのに、そう時間はかからなかった。
―――水波 ゲンブの意識は、未だ完全には戻っていない。
ランカと偽名と迷コンビ
(ちなみに)
(この提案に対するランカ当人の意見は)
「やだ!」
(の一言だったらしい)
(六x・)さんより「アズール」akiyakanさんより「都シスイ」しらにゅいさんより「トキコ」をそれぞれ名前のみお借りしました。
287
:
樹アキ
:2012/08/20(月) 22:12:29
お久しぶりです樹です、また我が家の不死コンビのお話で申し訳ないです…!
不死トリオの関係というか、そうゆうのを感じていただければ幸いです。
っていうか彼らはみんなお互いのこと嫌いなんですけどね。
-----------------------
世界は予測がつかない。
だからこそ、おもしろい。
「みっちょーん」
「誰がみっちょんだ死ね」
よく似た顔を呼び止めると、これまた随分と不機嫌そうで中々観察し甲斐がある。
彼の不機嫌の理由の7割はまたまた似た顔が原因だ。
とってもわかりやすいのに、根っこにある問題は実に深い。
「またウツロっちの事ぴょろー?」
名前を出すと途端に眉間に深いしわが刻まれる。
なんてわかりやすく、面白い。
彼らの嫌悪の根っこにあるのは、存在意義という4文字。
劣化品であろうが存在するのが気に食わない試作品と、
死にたいが試作品に殺されるのは気に食わない劣化品。
そこまでこだわる意味は吾輩にはわからないが。
守るべき対象を見つけたウツロにちょっかいを出すのは一体何故か。
ここからは自分の推測だが、悔しかったのではないだろうかと考える。
自分より劣っているものが自分より素晴らしい物を手に入れる。
プライドがエベレスト並みに高い彼の事だ、許しがたい事実だったのだろう。
「ウツロっちに可愛い彼女が出来て悔しいにゅる?」
「あんまりツマンネェ事言うとマジで殺す」
「殺せるぴょろ?試作品のみっちょんに」
刹那、首に食い込む鈍い痛みと熱。
彼は手が早い、普通の人間だったら一瞬、痛みにも気づくことなく楽に逝ったであろう。
が、ワタクシは普通の人間ではない。指が食い込もうがなんだろうが、大した問題ではないのだ。
首から手が離れる、指先は鈍い赤がべっとりとついていた。
「クソが」
指についた赤を忌々しそうに舐める。
その赤すら、彼の生につながると思うと感慨深いものがある。
「僕はみっちょんのそうゆう素直な所好きだりゅん」
何事もなかったかのようにヘラリと笑って見せる。
我々は繋がっているのだ、知らず知らず互いの生を入れ替えながら。
「死ね」
「死なないポン」
清々しい舌打ちに吾輩は思わず噴き出す。
そっと首に触れると、もう傷はふさがっていた。
驚異的な身体能力、そして一番のバケモノらしさ、再生力。
この能力を壊に使うのがミチル、そして、守に使う、かもしれないウツロ。
この二人が本気を出せばどうなるのか。
「単純にみっちゃんとウツロっちのガチ喧嘩が見たいだけだりゅん」
「マジ性格ねじ曲がってんなァ」
「いやいや、君たちに比べるととっても素直ぴょろー」
ある意味自分の欲求に一番素直なのは私だと自覚はしている。
そして理性があるのも俺だと。
理性をもって本能に従うのだ、矛盾?美学じゃないか。
「ウツロもミチルも今とーっても不安定で、実に観察し甲斐があるんだポン」
愛する人を守る芯があるのか。作られた劣化品に、その魂は宿るのか。
そして、そんな劣化品を見た試作品は、どんな思いを抱くのか。
それは実に、予想不可な楽しい未来。
バケモノは幸せになれるのか、それともバケモノが幸せを奪うのか。
「オボロ」
「なんだりゅん?」
さっきとは変わり、いつも通りの意地の悪い笑顔を浮かべるミチル。
「お前の思い通りに、俺様は動かねェよ」
眺めるのは
(さて、どうなることやら楽しみピョロ)
------------------
さて何回オボロの一人称は変わったでしょうか…!!
ミチルは面白いことを「したい」タイプで、
オボロは面白いことを「見たい」タイプなんだと思います。
288
:
十字メシア
:2012/08/20(月) 23:23:05
スゴロクさんに見習って。
勿論ネタです。
<いやはや。まさか百人を越えるとはねえ>
「だよねー」「ま」「悪く言えば」「一次創作に回せないから」「こうなったんだけどさ(笑)」
「ま、まあまあ…」
<…そういや気になってたけど>
<何故カナミがいるんだい?>
「そーそー」「灰音ちゃんや」「モブ子ちゃんみたいな」「キャラはともかく」「君みたいなストーリー性が」「あまり無いキャラが」「何でここにいんの?」
「何でも、十字メシアさんがあまり出せてないからとか何とか……」
「ふーん」「自業自得じゃん(笑)」
<ふふ。で、角枚 海猫…と>
「…何か文句でもあるの?」
<いや。君でも充分役所はあるけど、守人なら総元締めの彼女ではないか…と思ってね>
「あー。それはあたしが最初に生まれた守人だからだって」
<なーるほどねえ…>
「で」「何話そうか?」
<とりあえず、彼女…十字メシアはキャラは勿論だが、フラグも立てまくっているね。最近>
「特にあたしらのね」
「そうですね。でも私の話も早く進めてほしいです…;」
「ま、アイツも念頭に入れては悩んでるから、大丈夫でしょw」
「もし」「カナミちゃんの話」「まーったく」「進めなかったら」「モブ子ちゃんが」「殺してあげるね!☆」
「待て待て待て、それされたらあたしら存在出来なくなるっての;」
「じゃーあ」「軽く火炙り磔で☆」
<………軽くはないと思うけどね>
<後連載予定の物が三つもあるらしいね>
「あたしら守人のやつは、オムニバスみたいなのだけどね」
「で」「冷血女のと―――」
<おっと、そこまでだよ最文 鈴子。その先は口外禁止>
「えー」「冷血女は?」「いいの?」
<他の人達も、彼女がただで死ぬわけないと薄々感じてるさ。特にakiyakanは…ね>
「まあ、無理しなきゃいいんですけど……」
「その結果が」「アレだもんねえ(笑)」「バッカじゃねーの?☆」
<…と、まあ。楽しみにしておこうか>
「守人に関しても、色々盛り込まれてるみたいですね」
「まあね。まさかここまでなるとは心底ビックリしたよ」
<何にせよ、いかせのごれの戦士達の織り成す物語。その周りはどんな動きを見せるのやら>
「灰音ちゃん」「何だか」「楽しんでるー?」
<勿論。傍観しがいがあるしねえ…それはそうと、君の話はどうなんだい?>
「モブ子ちゃんの?」「さあー?(笑)」「ぶっちゃけ」「このままに」「してほしいかな」
<だがそれは無理だね>
「やっぱりかー」「何であんな奴が」「モブ子ちゃん達の」「生みの親」「なのかなー」
<生まれるべくして生まれた………からかな。流石に神江裏 灰音にも分からないね>
<…では、話す事も無くなったし、そろそろお開きにしよう>
「はいはーい」「さーて」「クロウ君を」「虐めようかなあ(笑)」
「……鈴子ちゃんって、クロウさん好きなんですか?」
「はあ?(笑)」「んな訳ないじゃん!」「あんな糞ガラス☆」「そーゆーカナミちゃんは」「ウツロ君に夢中じゃん?」
「う………」
<ははは、青春だねえ>
「そっ………そう言う灰音ちゃんこそ! 最近チェシャ君と仲良いんじゃないんですか?」
<おやおや、心外だね。傍観者には恋愛感情も仲間意識も無いよ。アレは、ただの…会話仲間さ>
「ま、表舞台で会いましょ」
「はい」
「オッケー☆」
<ではまた…>
舞台裏にて〜十字メシア編〜
タイトル浮かばなかったorz
289
:
紅麗
:2012/08/21(火) 01:54:51
「母と娘とクラスメイト」のシュロサイド。
お借りしたのはネモさんより「七篠 獏也」スゴロクさんより「火波 スザク」「火波 琴音」「火波 アオイ」「水波 ゲンブ」「ブラウ=デュンケル」
名前は出ていませんがえて子さんより「カチナ」をお借りしました。自宅からは「シュロ」です。
「……以上が、あたしが見た出来事、です。」
「…そうか、ご苦労。」
「中々厄介な能力を持つ奴、でした。…それと、そうだ。奴に会い、ました。「ブラウ=デュンケル」」
「なんだと?」
ここのところ大きな事件がいくつも転がり込んできていた為か、すっかり疲れきったような顔をしていた獏也であったが「彼」の名前を聞き、ばっと表情を変えた。
「…なんで「アイツ」とみたいな格好してたんだ…。ややこしいったらありゃしな」
「で、奴についてわかったことはあったか?」
既知のことをシュロがぐだぐだとぼやき始めたので、即座に獏也は質問をする。
ついでに彼女のやたらつっかえる敬語も聞き苦しかったので敬語を止めて説明をするように言った。
「―――奴はあらゆるものを「見る」能力を持っていたんだ。襲撃者の「相撃ち」がわかったのも、奴の「見る」能力のおかげだ。
それが何であろうと、たとえ記憶や能力そのものであろうと、概念や法則であろうと、関係はない……そう言っていた」
「……成る程、凄まじい能力だ」
「あんたのも相当だと思うが。…でも、敵のようには見えなかった、―――だからといって、こちらの味方だ、とは言い切れないけど。何考えてるか全くわからない。」
「…まだまだ警戒は必要、か。…よし、ご苦労。シュロ、お前は少し休め」
「なんで?別に疲れてねぇ。ブラウについてはあたしも独自で調べてみる。で、さっきの「休め」って言葉、獏也さんにそっくりそのままお返し、ます」
「………」
くるりと背を向けて立ち去っていくシュロの背を見つめ、獏也は「生意気だ」とため息をついた。
それから数日後のこと。姉貴(in琴音さん)はすっかり元気になり、今日から妹(娘)のアオイちゃんと一緒に
いかせのごれ高校へ登校することになったらしい。
(なんか…心配だな。)
怪我のこともそうだが、琴音さんは雰囲気からして姉貴とはまっったく似ていない。
髪色の方は「イメチェン」とでも言えばなんとでもなるだろうけど、性格や口調をその場でコロンッと変えるのは無理に近いだろう。
そもそもあの能力者がわんさかいる学校だ。姉貴が姉貴じゃないと気付く奴は数人いるはずだ。
…面倒なことにならなきゃいいけど…。自分も付いていった方が良かっただろうか。年齢的にもまだセーフラインだろう。
………アウトだって? じゃあ間を取ってセウトだセウト。
―――余計に怪しまれるか。ここは、アオイちゃんに任せよう。…きっと大丈夫だ。
「失礼、します」
そんなことを考えながら、辿りついたのはゲンブのいる病室だった。未だ、意識を失ったままだ。
でも生きていて本当によかった。
「兄貴、今日はさ、ウスワイヤに保護されてる女の子が花をくれたんだ」
返事はない。
「えぇっと花言葉は確か、なんだったっけ…?…覚えてないや、ごめん」
が、言葉は届いている、そんな気がした。…ごめん、そうだったらいいと思っただけ。
「で、あたし最近いい曲見つけたんだぜ。ちょっと古いけど綺麗な曲なんだよ」
他愛もない話をしながら花を花瓶に移し終えると、シュロは椅子に座り一息ついた。
特にすることもなかったので、ちらっとゲンブの方を見てみた。目を覚ます気配はない。
…この人はいつもどんなことを考えているんだろう。
この人はどれだけのものを背負って生きているんだろう。
今まで姉貴と一緒にどんな困難を乗り越えてきたんだろう。
この人は、この人達は自分よりも多くの、大きなことを考えている。
尊敬するよ、本当に。
それにしてもこの世界は本当にわからないことだらけだ。誰がいつどこで怪我をする、とか。いつどこで死ぬ、とか。
もしかすると自分が死ぬのは明日かもしれない。明後日かもしれない。きっとまたわからないうちに、それは突然やってくるんだろうな。
(別に死ぬのが恐いわけじゃあないけれど)
ぐうっと背凭れにもたれ掛かり、天井を見上げながら小さくぽかんと口を開け。
「…あたしが死ぬのはいつかな、出来ることならかっこよく死にたいや」
消え入るような声で呟いた。
白い天井
(って、あたしは重症患者の前でなんてこと言ってんだ。ごめんな)
(じゃ、そろそろ行くよ。早いとこ目ェ覚まして、回復したらまた修行付き合ってよ)
290
:
スゴロク
:2012/08/22(水) 20:35:13
トーコの話です。
―――少しというには結構な間の空いた、かつての話。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」
男は走っていた。夜の街を、人気のなくなった道をただひたすら走っていた。
正確に言うと、逃げていた。追って来る何かから。
「こ、ここまでくれば……」
足を緩め、安堵しかけたその背中に、
「ねぇ……どこに行くの?」
「ひいいっ!!」
あどけなさを残した少女の声がかかる。そしてまた、弾かれるように男は逃げ出す。疲労さえ忘れて、ただただ逃げる。
こんなことが、1時間も前からずっと続いている。
男にはわけがわからなかった。
(何で、何で、何でだよ!? 何でこんなことに!?)
男は殺人犯だった。しかも、連続殺人犯だった。
ここ最近いかせのごれで頻発していた、少年少女ばかり狙った連続殺害事件の犯人が、この男だった。
動機は――この際関係ない。問題なのは、件の事件の犯人がこいつである、ということ。
今日も今日とて、全くいつものように品定めをしていた男は、部活か何かで帰りが遅くなったらしい女子学生に目を付けた。
後は簡単。さりげなく後をつけ、人気のない所で引きずり込み、息の根を止める。飽きるほど繰り返した、簡単なことだ。
その、はずなのに。
『こっちよ』
『えっ?』
女子学生が角を曲がり、自分の視界から消えた瞬間、そちらの方から呼びかける声と、女子学生の当惑の声。
覗いてみて驚いた。彼女がどこにもいなかったのだ。走ったにしても速すぎる。
『……ちっ、空ぶったか』
悪態をついてその場を離れる男の背に、
『どこに行くの?』
『?』
さっきと同じ少女の声。誰だ、と思いかけて、そうだこいつでもいい、と振り向く。
『……あ?』
いない。気のせいか、と顔を戻し、
『何をしているの?』
また背後から声。悪戯が過ぎる、と怒鳴りつけるべく振り向き、
『!?』
またもいない。隠れたにしては手際が鮮やかすぎる。
体ごと振り向き、慌てて辺りを見回す男に、
『わたしは、ここよ』
またも声。しかも三度、背中からかかる。
弾かれるように振り向くが、やはり影も形もない。日がすっかり沈み、闇が空を支配し始めている。
恐ろしくなった男は踵を返して走り出し、
『ダメ、逃がさない』
四度目の声に、ついに恐慌をきたした。
291
:
スゴロク
:2012/08/22(水) 20:35:43
それから1時間。逃げても逃げても離れる気配のない姿なき―――いや、その表現は正しくないのだが―――声に、男の精神は限界を迎えていた。
発狂寸前まで高まった恐怖感が、彼から正気を奪う。
「どこだ!? どこにいやがる!? 出てきやがれ、ぶっ殺してやる!!」
『嫌よ。その言葉を、そのままお返しするわ』
またも背後から声。振り向いても、やはりいない。それがますます、男を責め立てる。
『楽しいから、暇だから。それだけで、あなたはたくさん殺した』
「だ、だからどうしたってんだ! ああ!?」
『わからない? なら、あなたはここまでね』
そして、その声は言う。男の背後、それも息がかかるほどの間近から。
『わたしと一緒に逝きましょう―――』
「なっ!?」
不穏な言葉に男は振り向く―――そして、見た。
「―――――――!!」
「ふふ……うふふ……」
不気味に笑いながら恐ろしい力で己の肩を掴む、和服を着た血色の目の少女の姿を。叫び声が迸りかけた刹那、
「さぁ――――!!」
少女の後ろに開いた隙間に、男は少女ごと恐ろしい勢いで引きずり込まれた。男が最後に見たのは、裂け目の向こうに広がる、赤い光に包まれた森。
そして、
「!!!!!!!!」
その中から憎悪に満ちた目でこちらを見つめる、己が手にかけた犠牲者たちの姿だった。
裂け目が閉じる。そして、その場から一切の気配は消えた。
本当に本当の話だよ
夜の道を一人で歩いてると、聞こえて来るんだって
後ろから囁くその声が
その声が聞こえたら、返事をしたり、振り向いたりしたら駄目
凄い力で掴まれて、どこかに連れて行かれちゃうんだって
連れていかれたら、もう帰って来られないんだって
囁いてるのは女の子でね
いつも一人で、とっても寂しがり屋
友達が欲しくて、誰かを呼ぶの
でも、連れてきた友達はみんな消えちゃうの
だからその子は寂しくなって、また呼ぶの
友達が出来るまで、何度でも
その子は誰にも見えないの
だって、人の後ろにしか出られないから
誰も見てくれない、誰も気づいてくれない
だから、その子は囁くの
その子はね
ずっとずっと、ずうっと昔
山に捨てられて帰れなくなった、女の子なんだって
292
:
スゴロク
:2012/08/22(水) 20:37:11
「ただいま戻りました」
「ああ、お帰りなさい、トーコちゃん」
戻ってきた少女を出迎えたのは、巫女服の上から白装束を纏った女性。
「……サシエさん。主は?」
開口一番の発言に、サシエと呼ばれた女性は苦笑しつつ答える。白装束から、包帯に吊られた腕が覗く。
「さすがにもうお休みですよ」
「そうですか」
トーコ、と呼ばれた少女は、嘆ずるでもなくそう返す。
先ほどからこの会話、かなり異様なことになっている。というのは、その場にいるのがサシエのみであり、トーコと呼ばれた少女の姿がどこにもないのである。ゆるりと歩くサシエ、常にその背後から声だけが響いている。
「……今晩はいつもより遅かったですけど、何を?」
「散歩のついでに、街の掃除をして来ました」
「掃除?」
サシエは首を傾げるが、トーコは答えず、
「では、また明晩」
そのまま、すっ、と気配が消えた。
「掃除かぁ……意外と律儀ですね、トーコちゃん」
まさか、トーコの言う「掃除」の内容が、「連続殺人犯を異界に引きずり込み、発狂させた」ことだとは欠片も思わないサシエであった。
「かぁ、ごめ、かぁごめ」
夜闇の中を一人歩くトーコは、知らず知らず歌を歌っていた。
こうなる前のことはほとんど覚えていない。ただ、本来の力である「異界送り」を使った後は、いつも自然とこの歌が出て来るのである。
「かぁごのなぁかの、とぉりぃは」
つたないというか、どことなく舌っ足らずな調子で歌われるのは、「かごめかごめ」。
「いぃつぅ、いぃつぅ、でぇやぁる」
恨み歌だとか、何かの暗喩だとか、埋蔵金の話だとか、単なる遊び歌だとか、色々な説が唱えられている。
「よぉあぁけぇの、ばぁんに」
草鞋を履いた足が、地面を踏むたびにさく、さく、と小さく音を立てる。
「つぅるとかぁめがすぅべった」
その足が、はた、と止まる。
「うしろの、しょうめん」
「だ、ぁ、れ?」
振り向いたそこには―――――――
誘う声
「……何かあったら面白かったのに」
―――ただ、風が吹いていた。
大黒屋さんから「サシエ」をお借りしました。時間軸としては「草木も眠る、丑三つ時」よりかなり前を想定しています。
293
:
スゴロク
:2012/08/22(水) 20:40:41
リテイク!
クラベスさんより「サシエ」をお借りしました。
294
:
紅麗
:2012/08/23(木) 14:24:57
「壊れた戦力外兵器―カチナシ―」の後の「フミヤ」のお話。
自キャラオンリーで申し訳ないです…。
「あァー!遅かったー!!」
一人の青年が、被っていたフードを脱ぎながら闇夜の中で叫びにも近い声を上げた。
その青年の目前には真っ赤に染まった古びた壁、血溜まり、地面に横たわる一人の男。
「もぉー、でっかい悲鳴が聞こえたから来てみたらーくやしー!」
彼は口を尖らせオーバーリアクションを取りぐちぐちと文句をいいながらも
服のポケットから手帳とペンを取り出し何かを書き込み始めた。
地面に倒れている男と手帳を交互に見つめる青年。ペンが異常なスピードで手帳の上で走り回る。
「っひゃー、壁真っ赤だ。なんかやけに叩きつけられた跡があるし…。
―――あぁ!もしかして殺人犯に追い詰められてココを壊して逃げようとしたとか?このオッサン。はは、かわいそうにー。
だいぶ「ハンニン」は無慈悲なんだねぇ、是非会ってみたい。死体…は触らない方が良いよなぁ、おれが犯人扱いされたら困っちゃう」
変死体が自分の足元に転がっているというのに余裕の表情。さらにはその死体を手帳にスケッチし始めた。
その彼の横顔は、とてもとても楽しそうだ。
「……おい、フミヤ」
「なぁに?今忙しいんだけど」
今にも崩れそうな塀の上から「青年」の名を呼んだのは警察でも、人間でもなかった。一匹の黒猫。
猫が、ヒトの言葉を、話している。
血のような赤い眼を持った猫はくぁっと伸びをした後その双眸をすっと細めた。
「……お前も、よく飽きないな」
「飽きないよー!飽きるはずがないじゃん、こんな「非日常」がぐるぐるしている世界…やめられない…!」
猫の言葉に笑いながら返事を返す。ペンは相変わらず彼の手の中と手帳の上で踊り狂い、瞳は「好奇心」によって見開かれている。
はぁ、と一つ、切なげな吐息を零した後、手帳とペンを服の中へ無造作に突っ込んだ。
と、同時に死体の前でおおはしゃぎしていた彼の姿が消えた。なんの物音もなく、だ。
その青年は―――いつの間にか、塀の上にいる猫の隣へと移動していた。暗闇の中で輝く琥珀と赤の四つの瞳。
そしてにやにやと笑みを浮かべながら猫をひょいと抱え上げ、
「さ、帰るか!「犯人」が見れなかったのは残念だけど良いネタが手に入ったしね。
ここ数日の連続無差別殺人事件と、何らかの関係があるかもしれない…これは…もっと外に出る時間を増やすべきかな…」
「……漫画の方は?」
「だぁーいじょうぶ!もう出来てるから、ネッ!」
「「あ、」」
猫を抱え右足でこん、と一度塀を叩いた瞬間、とうとう足場が崩れた。瓦礫と共に猫を抱えたまま宙へと放り投げだされる青年。
―――しかしその後、この場所で物音が響くことはなかった。ただ、風の吹き抜ける音が聞こえるのみ。
危険な好奇心
(くらくらする、やめられない、とまらない)
(あぁ、たのしいったら、ありゃしない!)
295
:
スゴロク
:2012/08/23(木) 23:02:07
「母と娘とクラスメイト」の続きです。リアルに余裕がないのであっさり行きます。
「……というわけですの」
屋上にシスイとトキコを呼び出したアオイは、現状を洗いざらい話していた。
スザクが謎の少年に襲われ、瀕死の重傷を負った、というかほぼ死んでいたこと。
母・琴音のおかげでギリギリのところで踏みとどまっているものの、今度は琴音がスザクの体から離れられなくなってしまったこと。
解決の方法がないため、当分この状態が続きそうなこと。
そして、ついこの間再度の襲撃を受け、何とか退けたことを。
「「………」」
聞いた二人は、あまりの事態に呆然としていた。
「じゃあ、今ここにいるのは……」
「鳥さんの、お母さん?」
「ええ。改めて、初めまして。火波 琴音よ、よろしくね」
人懐っこい笑みを浮かべて挨拶する琴音。
「は、初めまして。都シスイって言います」
「トキコです、よろしく」
それぞれに挨拶を返した後、トキコの目にふっ、と怒りの色がよぎる。
「……ね、蒼さん」
「はい?」
「その、鳥さんを襲った子、どんなだった?」
「え? ええと、赤い髪にナタを持っておりました。それと、後は……何だかボロボロの服装で、明らかに正気を失っておりましたわ」
「わかった。ありがとう」
淡々と受け答えするトキコに、隣に立つシスイが何となく、と言った調子で問いかける。
「……悔しいのか?」
返事は、
「まあ、ね」
平坦な中に、明らかな怒りを秘めた言葉。
「だってそうだよ? 鳥さんを殺していいのは、私だけなのに……」
「……他の奴に取られるのは我慢ならない、と」
そうだよ、と即答でうなずくトキコであった。
「やれやれ……」
聞くだに異常なスザクとトキコの関係であるが、シスイはもうこの件にはあれこれ言うまい、と決めていた。
今は自分の方にも、いくらか問題が発生している。それに、馬に蹴られたくはない。
「……トキコちゃん、一つ聞くけど」
「はい?」
そのトキコに尋ねたのは、琴音。腕を組むようにして、真剣な目でトキコを見据える。
「スザクとの関係については、大方知ってるわ。その上で聞くけど……」
「あなた、本当にスザクを殺すつもり?」
296
:
スゴロク
:2012/08/23(木) 23:03:22
それは、アオイもシスイも、聞くに聞けなかった核心だった。
ホウオウグループはいずれ、世界の合理化のために本格的な活動を開始する。そしてそれは、取りも直さずアースセイバーとの全面激突を意味する。
その時が来れば、後はただ、敵として戦うのみ。問題はその後。
「姉様から以前お聞きしたところでは……トキコさん、姉様の全てが欲しい、と言ってのけたそうですわね」
「うん、欲しいの」
これまた即答。スザクが聞いたら真っ赤になりそうな発言だが、幸か不幸か当人は今、そんな状態にはない。
「それと、姉様を殺すというのは、矛盾ではありませんこと?」
「でもないよ」
あっさりと、言ってのける。
「先に言うけど、これを言い出したのは鳥さんの方だよ」
前置きしたうえで、トキコは言う。
「で、ね。蒼さんの質問だけど、全然矛盾じゃないよ」
「なぜですの?」
「だってそうでしょ?」
「私が鳥さんを殺せば、鳥さんはもうどこにも行かない。ずーっと私のものなんだよ」
『…………』
絶句する一同に、トキコは表情をころっと変えて言う。
「まあ、鳥さんが簡単に殺されてくれるとは思わないけど。それに、生かして負かせたらそっちのがいいしね」
「……だよなぁ。あいつ、負けを簡単に受け入れるほど甘い女じゃないし」
「では……殺さずに済めば、どうしますの?」
「それはその時。そうだなぁ……連れて帰るのもいいなぁ……そしたら……」
色々想像したのか、微妙に顔がニヤケるトキコ。だがそんな彼女に、黙って聞いていた琴音はさらっと爆弾を落とす。
「……何の因果かしらね」
「へ?」
「スザクもちょっと前、部屋で同じこと言ってたわよ。しかも盛大にニヤケてたわね」
「……姉様……」
複雑極まりない表情で呟くアオイであった。
297
:
スゴロク
:2012/08/23(木) 23:10:18
図らずも的を射た発言をしたシスイが頭を押さえる。
そして当事者であるトキコはというと、
「……うわぁ、うわぁ……わ、私どうしよう……」
何やらオロオロしていた。スザクが同じことを考えているとは全く思わなかったらしい。
これでは埒が明かないと、アオイは脱線しかけていた話を強引に元に戻す。
「ともかく、ですわ! そういうわけで、今、姉様は表に出て来られませんの。当分母様が演じることになりますから、お二方とも、そこはご了承くださいませ」
「あ、ああ。わかった」
「はーい。……あれ? 琴音さん、何で鳥さんが部屋でそう言ってたって知ってるの?」
トキコの疑問ももっともだった。話を聞く限りでは、琴音はたいていの場合とある神社(アオイは気を回して名前は出していない)にいるはずで、その当時は火波家にはいなかったはずだ。しかし、琴音はまたあっさりと答えてみせた。
「ああ、それ? 記憶をちょっとね」
乗り移っているスザクの記憶を見たらしい。
「……ということは、姉様の全てが母様には筒抜け、と?」
「……でも、これ以上は梃子でも明かさないわよ」
答えるでもなく言い切る琴音。トキコは何だか口惜しそうな目で見ていたが、琴音が意見を翻す気がないと見たか、「はぁーい……」としぶしぶ引き下がった。
(まあ、本当はわからないだけなんだけど)
モノローグ通り、スザクの意識は現在心の底の底に落ち込んでいる。琴音が見られるのはあくまで表層記憶のみで、あまり深い部分はわからないのだ。
とにかく、と今度はシスイが話を戻しにかかる。
「俺の方もいろいろ立て込んでるから、すぐに何が出来る、ってわけじゃないけど……出来ることがあったら言ってくれよ」
「ええ、その時は頼らせていただきますわ」
朗らかに応じるアオイ。スザクから何度も聞かされた「頼れるヤツ」には、アオイも全幅の信頼を置いている。
と、
「……ん?」
その「頼れるヤツ」ことシスイが、ふと怪訝な眼で入口を見た。
「? 一角君、どうかしたの?」
「いや……」
首を傾げつつも、視線を戻すシスイ。だが、先ほど感じた「何か」の感触は、簡単には消えてくれなかった。
(今、確かに誰かいた……向こうと)
目だけでちらりと見たのは、トキコの背後。
(そこと……)
そして、
(校門……)
入口の方にいたのは、生徒の誰かだろうと思う。だが、残る二つがわからない。
トキコの背後に感じた気配は、明らかに人間のそれではなかった。「天子麒麟」を持つ自分でもなければ気づかないほど巧妙に隠蔽されていたが。
そして校門の気配。これはどちらかと言うと、明らかに「見られて」いた。視線を感じた、とでもいえばいいのか。
(警戒はしておこうか……)
1人思うシスイの耳に、昼休みの終わりを告げるチャイムの音が届いていた。
琴音とスザクと恋バナと
(そして、三つの気配と)
akiyakanさんより「都シスイ」しらにゅいさんより「トキコ」自キャラは「火波 琴音」「火波 アオイ」です。
最後の方のはフラグです。一応こちらでも用意してありますが、拾ってくださるならありがたいです。
298
:
紅麗
:2012/08/24(金) 22:36:32
スゴロクさんの「琴音とスザクと恋バナと」のフラグを拾わせていただきました。
お借りしたのは名前のみスゴロクさんの「火波 スザク」、「火波 アオイ」、「火波 琴音」しらにゅいさんの「トキコ」、akiyakanさんの「都シスイ」
自宅からは「榛名 有依」、「高嶺 利央兎」、「フミヤ」です。
フラグを二つほど…上手く回せているかどうか不安ですが、宜しければ拾ってやってください。
榛名 有依は、扉の前で冷や汗をかいた。
「あ、アタシもしかして今とんでもないこと聞いちゃったんじゃ…。」
この半開きの扉の向こうには四人の人間がいる。
一人は「火波 アオイ」 元々ユウイは彼女に用があって此処へ来たのである。今日一緒に買い物でも行かないか、と誘いに。
もう一人は「都シスイ」、そして「トキコ」それから―――「火波 スザク」…ではなく。彼女の母親。
「え、えぇえ…そんなのあり得るの…?」
今朝登校の際にちらりと見かけただけだが、今日のスザクの様子はおかしい。何が一番気になるって、あの髪の色だ。
スザクと同じクラスのリオトも彼女になんらかの違和感を感じていたらしく休み時間にユウイのクラスへとやってきて
「今日のスザク、色々おかしい。…お淑やかすぎる」と言っていた。
そしてもう一つ、スザクとトキコの関係について。
「な、何あの子「殺す」とか物騒なこと言っちゃってんのー!?
スザクも同じことをって… つ、つまりどういうことなんだよ!」
ごくりと息を飲むと、壁に体を預けた。
「……ど、どうしよう…なんて、アタシが言ってたって仕方ないか…」
取り敢えず、あの話は聞かなかったことにして、彼女達とはいつも通り普通に過ごそう。
うん、それがいい。そうしよう。そうしなければ。
「じゃあ、買い物にも誘わないほうがいっかぁ…大変みたいだし」
アオイの好きなものとか知りたかったんだけどなー、と残念そうに呟き階段を降り始めた、その時だった。
「「いでっ!?」」
「突然」目の前に現れた「何か」と衝突してしまった。ぐわん、と眩暈がする。
無意識のうちに片手を壁へと伸ばしぶつけた頭を押さえた。
「い、一体何が……って、あ…れ…?」
あまりの痛みに「これたんこぶ出来たんじゃないか」と思いながらゆっくりと目を開く。
が、目の前には何もいなかった。
彼女は確かに今、此処で「何か」とぶつかったはずなのだ。それなのに何故…?
「あァくッそ、いってぇ〜〜!!」
「 ! 」
後ろから声が聞こえる。振り返ると赤いフードを被った青年が頭を抱えて蹲っていた。
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