したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3.5

899紅麗:2013/07/31(水) 02:09:14



人に見付からないように、必死に走った。
後ろがどうなったかも、気にせずに走った。振り返らずに走った。
足を前へと進める度に激痛が走ったが、それも無視するほどに。


だから、気付かなかったのかもしれない。


仲間が二人、消えていることに。



「あれ?リオトとカクマがいない?!」
「あいつ、あの大怪我で一体どこに!」

ユウイは「はぐれたんじゃないか」と焦りの色を見せるが、それをマナが落ち着かせる。

「大丈夫、彼らなら別の場所から逃げたわ」
「なら、いいんだけど…どうして」
「彼らにもきっと、知られたくないことはあるのよ」

マナ、凪、ユズリ、ユウイは「色のない森」――いや、「色のない森と呼ばれていた場所」から脱出する。
そこで四人はようやく足を止めた。マナを除いた三人がぜぇぜぇと肩で息をする。
呼吸を整えながら、凪が振り返って森の木々を眺めた。

「やったんだな…私たち」

その言葉に続いて、ユウイ達も後ろを振り返る。途端に喜びの気持ちが心を埋め尽くしていった。

「凪、ほんとにありがとう…ユズリも。皆がいなかったら、アタシ…」

『死んでいただろう』と言葉は続けられなかった。カクマとリオトに礼を言えないことを残念に思う。
凪とユズリは顔を見合わせて。それからお互いに笑った。

「友達を助けるのは当たり前なのだよ」
「家族を助けるのは当たり前のことだろ」


ユウイは、あふれ出る何かを必死に押し戻しながら、大きく縦に頷いた。
そんな彼女の背中を、マナは微笑ましげに眺めていた。


「よし…帰ろうっ!」







「よぉ、お前かよ、ミチル……」
「俺じゃァ不満か?潰すぞ」

壁に助けられるようにして歩いていたリオトの前に現れたのは、ホウオウグループの生物兵器であるミチル。
こんなぼろぼろの体では生きて帰れるかどうかもわからないと思ったリオトは、ホウオウグループの人間に連絡を取ったのだった。

「誰でもいいから迎えにきてくれ」―――と。

ちなみにカクマは途中で「早く歩けなくてめんどくせぇからここで終わり、じゃーまた学校でなー」と森を出た瞬間リオトを投げて帰ってしまった。
―――個人的に腹が立つので、今度学校で会ったらぶちのめそうと思う。
まぁ、そのおかげで人目を気にすることなく仲間を呼ぶことが出来たのだが…その点については感謝かもしれない。
けど、こんなひょろひょろな男に、自分を運ぶことができるのだろうか?すこし、不安になった。

「でー、何があった?」
「悪ぃ、説明は後、だ……もう、立ってら、…れ…」

言葉を言い切る前に、リオトは意識を失った。
地面にぶつかる寸前に、ミチルがリオトの体を支える。
そして、ぶつぶつ文句を言いながらも、アジトへと向かうのだった。

900紅麗:2013/07/31(水) 02:10:07

「た、ただいま…」
「たでーま」

榛名姉弟が家に帰ると、大きな悲鳴に出迎えられた。言うまでもなく榛名母のものである。
自分の息子と娘が擦り傷だらけでところどころ血を流した状態で帰ってきたらどこの母親だってビックリするだろう。
我が家に帰ってきたユウイとユズリだったが、そのまま外へと押し出され、無理矢理車の中へと押し込まれた。

多分、病院に連れて行かれるのだと思う。姉と弟は、顔を見合わせて苦笑した。
「笑ってる場合じゃないでしょ」と、母親に叱られた。





結果から言うと、ユウイは骨折はしてなかったものの、腕の骨にほんの少しだけヒビが入っていた。よくこんな状態で木刀を振り回していたと、しみじみ思う。
ユズリも、大きな怪我はなかった。腕や足に出来たアザが痛々しいが…。二人とも部活は暫く休むようにと医者に言われた。部活熱心な二人は勿論しょ気た。
診察も終わり、再び車に乗り込む。途端、強烈な眠気が二人を襲う。

「ユウイもゆーちゃんも昔から変わらずやんちゃっ子だなぁ。はっはっは」
「もう、あなた!今までにない大怪我だったのよ」
「ま、二人とも無理せずにゆっくり休めよー」

ほぼ無意識な状態で、父親の言葉に頷く姉弟。かたん、と揺れる車内が心地良い。
薄目で窓から外を覗いてみた。今日は、綺麗な星月夜だ。


ふ、と。意識が深い海へと沈んでいく。





今はただ、しずかに眠って、疲れた体を癒したかった――








どこまでも青く

901紅麗:2013/07/31(水) 02:12:01
エピローグになります。大量投下すみません…!これ、一種のテロじゃねぇのか。
これで目覚めた能力者系列は完結になります。ありがとうございました。

お借りしたのは名前のみ込みでサイコロさんより「森山 修斗」akiyakanさんより「ジングウ」「アッシュ」「フレイ・ブレアフォレスト」
スゴロクさんより「ヴァイス・シュヴァルツ」「火波 スザク」「火波 アオイ」「夜波 マナ」樹アキさんより「ミチル」
しらにゅいさんより「トキコ」十字メシアさんより「ユウタロー」「百々江 想」「弐々 簀」「角枚 海猫」「葛城 袖子」
ヒトリメさんより「コオリ」「阿久根 実良」えて子さんより「アオギリ」「犬塚 夕重」「我孫子 佑」
(六x・) 「凪」「冬也」サトさんより「スイネ」鶯色さんより「ハヤト」思兼さんより「霧島 優人」「巴 静葉」「橋元 亮」「アリス」「御坂 成見」
SAKINOさんより「カクマ」砂糖人形さんより「笙汰」でした!ありがとうございましたー!
自宅からは「榛名 有依」「高嶺 利央兎」「浅木 旺花」「シュロ」「ハーディ」「リンドウ」「ミューデ」「フミヤ」「クロ」「ミユ」でした。

ユウイ達の追加情報やハーディの詳細についてはまた後日、キャラ作成スレの方へあげさせていただきます。





森の中を全力疾走する白黒の女性が一人。
表情からは何も感じられないが、その足取りからは多少の焦りが感じられる。
数分前から聞こえている青年の言葉も彼女の耳には届いていないようだ。

「シュロさん、聞いて!速いですってば!」

女性の後ろから息を切らしながら走ってくる青年―――森山修斗という名前だ。
この二人はアースセイバーという組織に所属している二人。おそらく「色のない森」のことを聞きつけて急いでやってきたのだろう。
今までこの「色のない森」の異変については何度も聞いていた。だから、警戒はしていたのだ。
けれど、ウワサになっているような(化け物が出る、といったような)ことは一度もおきたことがなかった。
なので、言い方は悪いが少し油断していたのだ。 何 も お き な い だ ろ う と。


(くそ、死人でも出ていたらどうする――)


人の『今』を壊してはならないのが彼らの掟。報告によると凄まじい爆発音と動物の咆哮が聞こえたらしい。
まだ収容できていない能力者によるものだと考えて間違いないだろう。野生の能力者か、あるいは「ホウオウグループ」のものか――
そこまでを考えている暇はなかった。とにかく、一刻も早く現場へ行き能力者を捕らえなければ。
すぅっと大きく息を吸い、片手を口元へ宛てて叫んだ。


「おい!人がいるなら答えろ!何があ―――」


そうして森の奥深くまで来たところで、白黒の女性――シュロが足を止めた。シュウトも、怪訝そうな顔をしながら立ち止まる。

そこに、人はいなかった。

あるのは、あの美しく輝く大樹と泉のみ。

「おい、こりゃあ…」
「すごい、ですね…」

聳え立つ大樹に二人は言葉を失う。
そういえば、とシュウトが口を開いた。

「ここは昔、デートスポットのような場所だったらしいです。それが――戻ってきたのかもしれませんね」

森が荒れた形跡は、まったくなかった。あの大きな猫の死体もなかった。
『ミユ』が消えると同時に全てが元に戻ったのかもしれない。

「爆発音に関しての報告は無視できないので…数日調査は必要になると思いますけど…何もなければまた、此処が素敵な場所になるかもしれませんね」
「そう、だな」


シュロとシュウトの二人は暫く、その大樹から目を離すことができなかった。

902紅麗:2013/07/31(水) 02:13:18
――――・――――・――――


黒い猫が、森に二匹。

「にゃー」
「にゃあにゃあ」

挨拶をしているのだろうか、二匹とも少しだけ頭を動かす。

「にゃ?」
「にゃーにゃー」

……何を話しているかはわからない。

「あら、もしかして、あなた、私と似たような存在かしら?」
「……ふん、やっぱり、ただの猫ではないか」

…突如として。その猫二匹は人間の言葉を話し始めた。この場にあの変人「フミヤ」がいたらぴょーんとタイブしていただろう。
まぁ、二匹のうちの一匹は彼の飼い猫、「クロ」だったのだが。
二匹の姿が変わる。一匹はとんがり帽子に黒い肩出しドレス、中世の魔女を彷彿とさせる格好で、「大人の女性」の雰囲気を醸し出していた。
もう一匹、「クロ」は黒髪を下方で二つに縛り、口元を隠した赤いマフラーを付けている。「学生」のようだった。

「おもしろいわね、私はフレイ。フレイ・ブレアフォレスト。貴方、名前は?」
「…「猫」。「クロ」と呼ぶ奴もいるが、「猫」だ」
「へぇ、「クロ」ちゃんね」
「「猫」だ」

きっ、と「猫」がフレイを睨む。

「これは、お前達の仕業か?」
「何がかしら?」
「あの幽霊となった少女が暴れたことだ。お前達、ホウオウグループの仕業か?」
「……さぁね」

フレイが、肩を竦めて笑った。

「私はあんな子知らないわ。――あら、本当よ。今日此処に来たのだって、偶然だもの。
あの子がどうして幽霊になってまであの…「ユウイ」?だったかしら。あの子を殺そうとしたのか、私が知りたいぐらいだわ」
「……ヴァイス・シュヴァルツ、か?」
「だから、知らないって言ってるでしょう?」

「ヴァイス・シュヴァルツ」この世界の裏を知っている人物ならば一度は聞いたことのある名前だろう。
本名を初めとして、様々なことが謎に包まれている男である。
ただ、最近分かってきているのがその「能力」。もしかすると、あの男が「ミユ」に戯言を吹き込んだのかもしれない。
だけど、「絶対」とは言い切れない。

うう…と「猫」がマフラーに顔を埋める。

「それに貴方が彼女たちのことを探ったってなんの意味もないわよ、貴方、この世界の「悪」でも「正義」でもないんでしょう?」
「……それも、そうだな」
「関係のない人の不幸に首突っ込むなんて、貴方も随分悪趣味ねぇ」

悪趣味なのは私じゃない、フミヤだ。と反論したかったが、相手の知らない人の名前を言っても仕方ないと思ったので口を噤んだ。
少し納得のいかない表情をしていたが、考えることに疲れたのかやがて「猫」は素直に頷いた。
フレイはくぅ、と大きく伸びをすると妖艶に笑って、

「ふふ、今日は「アタリ」ね。面白いものがたくさん見れたわ。
またどこかで会えるといいわね、貧相なお胸のお嬢さん」
「―――!!違うッ!!お前がでかいんだ、お前が!!」

903紅麗:2013/07/31(水) 02:16:32
――――・――――・――――


目の前に、彼を睨みつける獣がいた。

「彼」はその獣に自分の腕から流れ出た血を勢いよく浴びせる。
獣はその血を振り払うように頭を左右に振ったが、直後、炎に包まれ床へと崩れ落ちた。
その血の主―――高嶺 利央兎は肩で息をしながらぴくりとも動かなくなった獣へと近寄る。その顔は蒼白。
誰がどう見ても「体調不良だろ?」と問うようなレベルだった。

ゆっくりと死体に触れる。死体から流れ出た生暖かい液に触れる。
そのまま腕を頭上に掲げると、獣から出た血が鋭い刃となり壁へと飛んでいった。
やっぱり、とリオトは自分の腕を見つめる。

(オレ、どーなっちまったんだ…?)

今、自分でなんとかわかったことは「自分に新しい力が備わった」ということ。それから「体調がすこぶる悪い」ということだった。
能力―――高嶺 利央兎の能力は「自分の血を自由に操る」だけのものだったはずだ。
それが、今試したところによると「血が発火」して「死体から流れた他の生物の血」でさえも操れるようになっていた。
パイロキネシス、という能力を聞いたことがある。念じるだけで何もない場所から火や爆発を起こすことの出来る超心理学の超能力の一つだ。
念じれば、血が燃える、爆発する。パイロキネシスに近いものが自分には備わってしまったのだろうか?とリオトは考え込む。

ふ、と時間を確認する。ミチルに運んでもらって、なんとかアジトに到着してから数時間が経った。
時々飛んでいきそうになる意識を、必死に繋ぎとめる。
そして、余計なことに"あれ"を思い出した。そうして、彼の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。勿論嬉しさからである。
無意識に頬の筋肉が緩む。そして頭がくらくらとして重たくなり、糸が切れた操り人形のように後ろに倒れこむ。薄汚れた灰色の天井が見えた。
それから、白色の髪と、腹の立つような糸目。


―――白髪と糸目?


がばりと起き上がって顔を上げる。
ホウオウグループ、千年王国主任、「ジングウ」がそこにいた。いつの間にこの部屋に入ってきたのか。

「お疲れ様です、リオト君。新しい力は如何な物でしょうか」
「何の用だよ」
「…ナイトメアアナボリズム、そんな風に呼ばれる能力がありますね」

質問を無視されて腹が立ったのか舌打ちをしたが、リオトは無言で頷く。あの場所にいた――殆ど全員と言っていい――人間達がその力を所持していた。

リオトは思い出す。あの時、彼はユウイの弟ユズリをカゲの猫から庇った。
自分でもなぜあのような行動に出たのかはわからない。あの場にいたユウイ以外の人間はどうでもいい赤の他人であったのに。

「それに似たような現象が、既に特殊能力を持っている人間に起こったとしたら…。自らを死の淵へと追いやったモノを排除するために特殊能力そのものが進化をすることがあるとしたら。
もう一つのナイトメアアナボリズム――それを、私は『デッド・エボリュート』と呼んでいます。その力をまさか、貴方が手に入れてしまうとはね」
「………」
「おや、喜ばないんですか。折角貴方は他の生物より一歩先を進んだというのに。――あぁ、言葉が悪かったでしょうか、簡単に言えば「強くなった」ということですよ」
「いや、まぁ、…嬉しいけど。馬鹿にしてんじゃねぇよ」

ジングウの前で素直に喜ぶのは少々抵抗があった。

「あー、リオくんここにいた!ちょっと、無理しないでよー!みゅーくんお願い」
「はい」

トキコとミューデが扉を勢いよく開けて部屋へと入ってくる。
ミューデに関してはリオトが座っている場所まで跳躍してリオトの首を掴んだ。突然のことにリオトは対処できず ぐえ と潰れたような声を出した。
ミューデの手の平から伝わってくる冷気。首が徐々にぴりぴりと痛んできたのに気付きじたばたと暴れだす。

「おい放せ!冷たい!痛いっての!」
「……わかった」
「っこの、いきなり何すんだ」
「だって、ミチルくんが『リオトがめっちゃ熱いんだけど』とか言うから…」
「あぁ、冷やそうとしたってことか」
「そーゆーこと」
「アホだろ!!」

がるる、と犬のようにリオトが二人を睨み付けた。
騒がしくなってきたのが堪えたのかジングウは一つ溜め息をついた後部屋を出て行ってしまった。

904紅麗:2013/07/31(水) 02:17:59
「いやしかしー、ミユちゃんが幽霊になって現れるなんてねぇ…」
「幽霊と聞きましてよばれてとびでてーッ!」
「呼んでない!」

ぽん、という音と共に登場したのは、ホウオウグループに属する「幽霊」、ユウタロー。

「いいじゃんいいじゃんぷっぷくぷー。そのミユっていう幽霊はどうなっちゃったのー」
「消えたよ。…成仏って奴か」
「なぁんだ、つまんないの!友達になれるかと思ったのになぁ」
「なぁ、ユウタロー」
「なに」

「お前が幽霊になった理由はなんだ」
「しーらないっ!」
「あ。そ」

短く言葉を返すと、リオトはごろんとその場に寝転がった。
冷えた床が心地いい。三人が名前を呼ぶ声が聞こえたけれど、返事をする元気はもう彼にはなかった。
とにかく、体が重くて重くて仕方がなかった。




それから彼は数日、文字通り死んだように眠り続けたらしい。




「赤い目のおにいさん、おきないね」
「おきないね」
「…お寝坊さんなのよ」
「起こすのよ」

べしべしべしべしべしべし

「あぁコラこのガキ!コイツは今安静にしとかなきゃダメなんだよ!こっちこい!…ったく…」
「みどりのおじさん」
「おじさん言うなっての!!」

905紅麗:2013/07/31(水) 02:21:32
―――・―――・―――

休みが明け、また五日間学校の日々が始まった。
ユズリは包帯だらけ(不幸中の幸いか普段の「中二病予備軍」という称号のおかげで大きな騒ぎにはならなかったのだが)
ユウイは腕を固定し、右目に眼帯をつけるというなんともまぁ奇妙な格好での登校となった。
予想通り、まわりの学生からのひそひそ声が絶えない。…やっぱり、学校休めばよかったかもしれない。
だけど、凪やリオトを心配させるわけにもいかないので、頑張って教室まで歩こうと思う。


教室に入ると、クラスにいた生徒全員が一斉にユウイを見た。あぁ、嫌だなぁこの何ともいえない空気。
「ドジ踏んじゃいました」なんて言いたげな苦笑だけを浮かべて自分の席へと向かう。

「おはよう、ユウイ」

その途中で、凪に挨拶をされた。凪もまた、体中擦り傷だらけだった。
自分のせいで彼女が怪我をしたのだと考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「凪、その…」
「あぁ、これか?気にしていないのだよ」

凪は自分の腕を見るとけらけらと笑った。

「そんなことより、ユウイが無事でよかった。もう無理するんじゃないぞ?」

それだけ告げ、ぽん、とユウイの肩を叩き自分の席へ戻っていく。
彼女のそんな心遣いが、ユウイはとても嬉しかった。


そして、

「どうしたの、その怪我」

後ろから、透き通るような声で話しかけられた。
振り返ると、そこには青い髪。赤と青のオッドアイ。スイネが立っていた。
てへぺろ、とユウイが苦笑を彼女に見せる。スイネも、そんなユウイの表情を見て聞いて欲しくない何かを悟ったのか話題を変えた。

「そういえば」
「ん」
「高嶺 利央兎、今日はまだ学校に来てないみたいだけれど…何かあったのかしら」
「リオトが!?…ごめん、いってくる!」

リオトの名前を聞いた途端。本当に途端だった。ユウイは教室を飛び出していってしまった。
そんな彼女の様子にスイネは思わず笑みを零す。

「…わかりやすすぎるわよ、あの子」




2-2の教室の扉を勢いよく開ける。何人かの視線がこちらに集中するが、無視。
いつもならリオトは窓側の席にいて、パンを貪り食ってるはず…なのだが、スイネの言っていたとおり今日は彼の姿は見えない。

「あの…リオトいないかな?」
「大食いジュニア…?さぁ、今日は見てないけど…」
「リオくんなら、今日休みだって連絡があったみたいだよ」

ユウイの質問に答えてくれたのは、弓道部に所属する犬塚 夕重、
それから人懐っこい笑顔が特徴的な、アッシュだった。

「……大方、食い意地を張りすぎて腹下しちゃった!ってとこじゃないかい?大食いジュニアは」

夕重が欠伸をして、気だるそうに言う。

「リオ君なっさけないなぁ〜」

ピンク髪の少女、簀が続いた。

「いやいや、アイツに限ってありえねーだろ」

あいつ自分の昼飯食べた後俺の弁当も食おうとするんだぜー、と、ハヤト。

「ま、ユウイちゃん、そんな心配せずにさ」

ぽん、とユウイの肩に手を置くアッシュ。
多分、この場にリオトがいたら彼を殴り飛ばしていただろう。

「リオくんなら大丈夫さ、大切な彼氏だから心配するのはわかるけどね」
「そう、か…そういうなら…って彼氏じゃない!ただの幼馴染みだ!」
「ぷぷぷ」

アッシュがユウイから離れ、両手で口を押さえて馬鹿にしたように笑った。



「…ミラ兄」
「どうした、榛名 譲。"鋏"持つ者よ…」

「俺、この休みでまた強くなったよ」
「ほう…確かによく見てみると、顔付きが変わったような気がするな」
「だけど、やっぱりミラ兄にはかなわねぇ!一生ついてくぜ!」
「私もですわ!せんぱい!」

「はぁ…またやってるよ。」
「いいじゃん、海猫。なんか見てて面白いよあの三人」

906紅麗:2013/07/31(水) 02:23:01
そして、放課後。
「怪我が心配だ」ということでアオイが一緒に下校してくれることになった。勿論隣には彼女の姉、スザク。そしてスザクの恋人(?)であるトキコもいた。
それから、弟、ユズリもいる。

少し遠くの方が騒がしい。ぱたぱたと前から半袖半ズボンを着た少年少女達が走ってくる。

「あら…今日はお祭りのようですわね」
「お祭りかぁ」

そういえばそんな話を母親がしていたな、とユウイは心の中で呟いた。
きゃあきゃあと騒ぐ子供達はとても可愛らしく、自分もあんな感じのときがあったんだよなぁと少し寂しい気持ちになる。
そんな子供達の方から何かがふわふわと浮かんでやってきた。―――しゃぼん玉だった。




「祭りなぁ。人混みはきつ…姉貴?!」
「………」


先頭を歩いていたユズリが、姉の異変に気が付いて足を止める。
アオイ達も不安げな表情でユウイの顔を見ておろおろとしていた。


ユウイは、泣いていた。


「ど、どうしましたユウイさん!まさか、お怪我が…」
「ち、違う…ぅ、わかんな、い…けど、ぐすっ」


「その…」


ユズリが小さな声で姉を呼ぶ。


―――そんな彼もまた、目に涙を浮かべていた。


「よかった、な?」
「―――うん…!」





風が、頬を撫でた。





―――・―――・―――


あれから、榛名 有依は変わった。
意見を人にあわせることが少なくなった、なんだかやたらと熱血になった(ような気がする)と、たくさんあるのだが…。
一番目に見えて分かりやすいのは、「数学」の授業の受け方だ。
あれだけ「嫌いだ、嫌いだ」と喚いていた数学。その小テストで毎回満点を取り、応用問題もすらすらと解けるようになっていた。
その成長っぷりは、いかせのごれイチの秀才、霧島 優人も目を見張るほどだった。

(少し、能力使っちゃってるところもあるんだけどね…)

結局、この「モノが数字に見える」という能力についてはわからずじまいだった。
シャーペンを生み出せるあの能力と同じようなものかもしれないし、殺された時の衝撃で生まれてしまった別の能力かもしれない。
けれど、それがなんであれ、数字を見て吐き気を催さなくなったということは素晴らしい成長だと自分でも思う。


数学はあの子を思い出してしまうから、苦手だった。問題を解けば解くほど、ああしていればよかった、こうしていればよかった、などという後悔の念に包まれていたからだ。



それが、どうだ。今は大好きな科目の一つになっている。問題を解けば解くほど、あの子と一緒にいられる気がするから。



あの子が一緒にいてくれるから。





私は忘れない。忘れるものか。








あの痛みを、あの、温もりを。

907紅麗:2013/07/31(水) 02:25:07

これは―――ヒトと、森の精霊の物語。


「……ユウイ」


"強さ"を求める少年にも。


「シズハー!今日はどうするんだい?」
「今日も調査だ、もたもたするな」


少年の謎を追う二人にも。


「…良い風だ。走ったら気持ちいいだろうな」


"サイボーグ"の少女にも。

「………」

未来も、過去も見える少年にも。


「今日は…星が綺麗」


"能力"にも。


「凪姉!怪我、大丈夫なの」
「なぁに、心配ないのだよ」


氷の騎士にも。


「…いーや、今日もサボろ」


"非日常"を求める青年にも。


「ショウター!投げるよー」
「よっしゃー!こいこい!」


平和の中に暮らす彼らにも。


「今日は腹筋、背筋、それから――」
「シュロさん、ほどほどにしておいたほうが」

尊敬する人々の為にただひたすら高みへと目指す者にも。


「さぁ、今日も不思議を探しに行くよ!」


この世界が愛しくてたまらない青年にも。


「ちょっとは懲りろよ!…まったく…」


それを呆れつつも見守り続ける少女にも。


「いつもすまない…袖子」


普通ではありえないような動物にも。


「ほら、はやくしないと遅刻するぞ!」
「わーってるよ、うるせーなー」


そして、あの"おとこのことおんなのこ"にも。







『君にも、会えてよかったと思える人がいますように―――』





心の窓から見る星は

908十字メシア:2013/08/01(木) 08:30:40
『早く逃げないと…!』
『どけぇ! 俺が先に行くんだ!!』
『いやあああああッ!!!!』

怒号と悲鳴の合唱が響く。
その中で、一人の少女が群集の間を縫うように、駆け抜けていった。

「………」

息切れする様子も見せず、少女は走る。
人々の向かう先とは、全く違う方向へ。

全ての始まりは、十分前。


「はー……」

ある『街』に住む平凡な少女は、椅子にもたれて伸びをした。
机に置かれているノートの表紙には、「2-C クロエ」と書かれている。
少女、クロエは机に突っ伏し、足をぶらぶらし始めた。

「宿題終わっちゃった。……ご飯はまだかあ」

退屈に呟くクロエ。
いつものように、母親代わりの女性が来て、一緒にご飯を食べて、雑誌を読んで、ゲームをして――。
それが彼女の一日。
しかし、次の瞬間、それは呆気なく砕け散った。

ヴーーーヴーーー!

「!?」

《避難警報発令 避難警報発令 巨大な津波が来ます すぐに高台へ避難して下さい 避難警報発令 避難警報発令――》

「……え? つな……み…?」

けたたましく鳴るサイレンとアナウンス。
クロエは疑わざるを得ず、何度もそれに耳をすました。
だが、悪夢みたいな現実は変わらない。
直に津波が来て、街を呑み込む。
クロエは腰が抜け、震えることしか出来ない。

「……避難しなきゃ、しなきゃ、しなきゃ……」

自分を奮い立たせる為に、ぶつぶつと目的を言う。
と、軽快な電子音が鳴る。
携帯の着信音だ。

「けっ、携帯、携帯……」

部屋中を探す…と、あった。
ベッドで見つけたそれを開くと、画面には見知った名前と番号が。
あの女性だ。

「……もっ、もしもし」
『クロエ! 今どこ!?』
「い…家……怖い、助けて、死にたくないよ……」
『落ち着いて! ……高台の場所は知ってるわよね?』
「知ってる……」

泣きじゃくりながら答えた。

『そことは逆方向に、安全な場所があるの。そこに行くのよ』
「逆…?」
『信じて。生き残るには、これしかないの』
「………」
『………私、今そこにいるの』
「!」
『時間がない…早く来なさい。大丈夫、また会えるわ』
「……分かった。じゃあ」

パーカーを羽織り、女性からもらった大事な帽子を被る。
バクバクと騒ぐ心臓を落ち着かせようと、二回深呼吸した。

「……よし」

意を決し、ドアを開けた。

909十字メシア:2013/08/01(木) 08:31:56


「くっ……」

かれこれ、家を出てからずっと走り続けている。
どういう訳か、昔から15分くらい、バテることなく走れるのだが……。

「まさか、こんな時に役立つとはね」

複雑な気分だった。
と、また着信音が鳴る。

「もしもし?」
『クロエ、どのくらい走った?』
「えっと…12分?」
『そう。その先のことなんだけど、今から私が言うことをよく聞いて。……その先は、あなたの力を使わないといけない』
「力、って……大きさ変える?」
『いいえ、別の力よ』
「別の、って……無いよ、そんなのっ」

悲鳴に似た声で言うクロエ。
相手の女性は、焦りながらも、落ち着きをはらって告げる。

『大丈夫よ。自分を信じれば……生き残りたいと願えば、きっと使えるようになるわ』
「本当に? ……もう、急に津波がなんて…訳分かんないよぉ……」
『お願い、とにかくこうするしかないの。あなたには生きて欲しいの……クロエ』
「……それしか、無いんだよね?」
『……ええ』
「…………なら、やる。絶対生き残る」

携帯をポケットに仕舞い、前を向いた。
再び、走り出す。
この先を目指して。
術は、それ以外に無い。


「…?」

走り続けると、入り組んだ区域に出た。

「見たことない場所……」

――その先は、あなたの力を使わないといけない。

「このことかな…? でも、どうすれば……」

考えても答えは出ない。
仕方なく、また走り出した。
ところが、今度は単純に駆け抜ければ良いものではなかった。

「なにこれ……ちっとも出る場所が見つからない!」

クロエは、顔から血の気が引くのを感じた。
膝が崩れ落ち、顔が俯く。涙が出てくる。
もう駄目だ――そう思い始めた時。

――生き残りたいと願えば、きっと使えるようになるわ。

「……生き残りたい。私は、生き残りたい! 死にたくない!!」

ひたすら強く願う。
いつも、自分の面倒を見てくれた女性を思い浮かべて。
女性に会いたいと願って。
と、顔を上げたその時だった。

視界に入った一部の壁などが、薄く見えていた。
クロエは驚いたものの、これが女性の言っていた別の力と気付く。
その幻のように見える壁に近付き、振れてみると。

「! 消えた…!」

本当に幻だったのか。
しかし、驚愕している暇はない。
一刻も早く、女性がいるこの先に行かねば。
クロエは、まやかしで塞がれていた道を駆けて行った。
一歩一歩、進むたびに、景色が開けていく。
もうすぐ、もうすぐだ。
そう確信して、そこへ飛び出した。

910十字メシア:2013/08/01(木) 08:32:56


「はあっ、はあっ……」

先にあったのは、見知らぬ高い丘。
と、クロエはある事に気付く。

「……いない」

女性が見当たらない。
周りを見渡すも、優しい笑みを向ける姿は見つからなかった。
その代わり、あるものを発見した。
白衣を着た、集団。
クロエに気付いたその人間達は手を叩き、彼女に歩み寄った。

「素晴らしい。覚醒実験は成功」
「危機的状況と、強い願いから成る能力発現……一人だけだったが、これだけでも良い成果だ」
「”コレ”を作った甲斐があったというもの」
「だ……誰? どういう事? あの人はどこ?」
「まあ落ち着け……『街』を見てみるがいい」
「え――」

振り返って見下ろした、自分の住む『街』は。

「何…これ…」

まるでそれは。

「嘘でしょ……」

そう。


     ――実験施設――。


「さて…実験は終わった。この箱庭はもう不必要だ」

と、何人かが『街』に向かって何かを放り投げる。
クロエは見た瞬間に、それが爆弾だと直感で分かった。

「ま、待って! やめて!!」

だが必死の制止も虚しく、街は大きな火と煙に包まれてしまった。
クロエはそれを、呆然と見つめた。
――今まで信じていたものは、全部嘘だったのか。
そう思いながら。
すると、ポケットからあの着信音が鳴った。
憑かれたように、クロエは電話に出る。

「…………もしもし」

返事はない。
と思いきや、向こうから聞き慣れた声が耳を刺した。


「ごめんね」


それを聞いた一瞬で、クロエの脳裏で何かが弾けた。
それは、微かな、一番大事な記憶。
まだ小さい自分に微笑む姿。
頭を撫でる手。
そして悲しげな声で言った、あの言葉。

――ごめんね。

クロエは、気付いた。
そして後悔した。
何故、今まで分からなかったんだ。
あの女性は、代わりなんかではない。
あの人は、あの人は紛れもない。


自分の本当の、母だったのだと。


Escape in the fiction




クロエの過去話でした。

911しらにゅい:2013/08/03(土) 11:35:09



 色のない森。
かつてそう呼ばれていた灰色の森は今は緑の海に包まれ、本来そこにあった厳かな姿を取り戻していた。
森の奥には樹齢何百年とも思わせるほどの大樹があり、その周りを囲むように澄み切った泉が広がっている。
ここで何が起きて、どのような争いがあり、誰が泣き、嘆き、苦しみ、そして立ち向かっていたか。
その出来事を知ろうとする者なんて、恐らく誰も居やしないだろう。この森に広がる美しさを前にすれば、それすら億劫となってしまいそうだから。
 さて、その”元・色のない森”へ一人の来訪者がやってきたのであった。

「………」

 バサ、と羽音を立てて地に足を付けたのは、異様な風体の男である。
気だるげな雰囲気と、山伏の持つ錫杖、そして人間にはないカラスの翼。
黒翼の彼は大樹へ向かって歩くと、ある程度距離が縮まったところで立ち止まり、上を見た。
頭の上では透き通るような水色の若葉が広がっており、その隙間から太陽の光を零している。
光の加減で葉の色が変わる姿は、どこかの童話のフレーズにあった絵にも描けない美しさそのものである。

「…なぁ、ハーディ…」

 男はそう呟くと、錫杖を土に刺した後、ドカッ、とその場に胡座を掻いて座った。
その表情はどこか、憂いを帯びている。

「お前と、お前が昔会った子供達と、そのオトモダチ達が頑張ったおかげで、森を取り戻す事が出来た。
…こんなに、綺麗だったんだな。そら神秘の森って呼ばれるわな。」

 彼が後ろを振り向けば、ぬいぐるみのようにふんわりとした小鳥達が、ピチチ、と鳴きながら空を飛び回り、時折、湖の水面に足を引っ掛け、水遊びを楽しんでいる。
パステルカラーの花々の上を色鮮やかな蝶が舞い踊っている。
生命に満ち溢れたこの光景を見ていると、忘れていた何かを思い出せた、そんな懐かしさが沸き起こってくるようだ、と男は心の中で呟く。

「…なぁ、ハーディ。お前は、本当に…諦めないで、よく頑張ったよな。」

 故郷の森と、それを見せると約束した友人達と、その美しい思い出を取り戻す為に、彼は頑張った。
悠々と構えているその姿とは裏腹に、願いに対する渇望はとても強く、また焦りも感じさせた。
男にとって、ハーディの葛藤を理解するのは難しかった。だから、そんな思いをするぐらいなら諦めた方がいい、などと言ってしまい、
本気で彼を怒らせてしまった事があった。

『君に、私の想いなど…理解する事は出来ないだろうね…』

 そんな言葉と悲しげな表情を共に返されたのを、男は今でも覚えている。
しかし、

「今なら、お前のその気持ち…理解出来る気がする。とても、大切なものなんだよな。」

 そう言って、目の前の大樹に語りかけた。
その返答は、返って来ない。
返って来る筈が、ないのだ。

「………」

 彼は、ここにいない。

「…ハーディ…」

 さわ、と心地良い風が耳の横を通り過ぎ、髪が僅かに浮かび上がる。
先程まで聞こえていた鳥もどこかに行ってしまったのか、森は死んだかのように静まり返っている。
男は森の奥で、ただ独りとなってしまった。

912しらにゅい:2013/08/03(土) 11:38:02
「……ハーディ…お前…これ、好きだったよな…」

 男は自前の袋から何かを取り出し、大樹の前へ置いた。
七輪と木炭、それを燃焼させる為のマッチだ。そして、もう1つ取り出す。

「今、焼いてやるよ……お前の大好きな、ジンギスカ、「人の森で何しているんだカザマ!?」

 ラム肉パックを取り出そうとした瞬間、黒翼の男…風魔は背後から頭をスパン!と叩かれてしまった。
小気味良い音が森に響き渡ると、どこに隠れていたのか、鳥達が一斉に飛び立っていったのであった。

「いや、いい天気だし……外でバーベキューを。」

 風魔は叩かれた箇所を押さえながら、背後へ振り向いた。
叩いた犯人は緑色の服を身に纏い、特徴的な帽子を被った男…この森の主で、先程風魔が弔っていたハーディであった。
いや、正確には、死んでいないのにあたかも死んだように弔っていた、だ。

「…ばあべきゅうっていう場所でもないし、下手すれば火災に繋がるんだよ?」
「つーかいつからいたの。」
「お前と、昔会った子供達と、のくだりからここに帰ってきてたけど…?」
「やだァん筒抜けェ?」

―――今すぐその巫山戯た顔を思いっきりそこの湖に突っ込んで浄化してやりたい。

 クネクネと気持ち悪く身体を曲げる風魔に、温厚なハーディも思わずそんな衝動を抱き掛けてしまった。
しかし実行に移すことはなく、彼はハァ、とため息に収束させると、風魔から袋を奪い取り、今しがた取り出した道具類を片付け始めたのであった。
片付けながら、彼は風魔へ問いかける。

「というか、何故私を勝手に殺してるんだい?酷いじゃないか。」
「そういうところが見たいって、神のお告げが。」
「君、たまに変な事言うよね…」
「俺が言ってるのは真実だぜ?ホウオウグループにここ教えた事もな。」
「……は?」

 ハーディは思わず耳を疑ってしまった。
しかし風魔はそれを気に留めず、言葉を続けた。

「アースセイバーや警察が立ち入って、ホウオウグループが知らないわけないだろ?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……つまり、君は、…ここを売った、というのかい?」
「まぁ、そうなるけど。俺、ギブアンドテイク主義だぜ?」
「……カザマ…君は、なんてことを…」

 やっと平穏が訪れたというのに、心休める暇もないのかとハーディは心底嘆いた。
風魔の性格を熟知していなかったわけではない、だが彼は友人で、
多少なりとも身内には情があるからよもやそんな真似をするわけはないだろう、と甘く見ていた部分はあった。
森の主は暗い未来を思い表情を曇らせたが、烏天狗は次にこんな事を言ったのであった。

「ちゃんと言っておいたぞ、『アースセイバーが巡回している可能性があるから、直接介入するなら俺を通した方が早い。
無駄なリスクを背負うのはあんたららしくないだろ?』って。」
「え…」
「な?俺ちゃんと言ったろ?」

 ハーディは言葉を返す代わりに、苦笑を漏らした。
ああそうか、やはりこの烏天狗は、ハーディの知る風魔で間違いはなかったのであった。
暗に無防備に晒されているこの森を護ってくれる、と示してくれたのであったから。
安心して片付けを再開したハーディの横で、あ、と風魔が声を上げた。
顔だけ彼の方へと向けると、口をぽかんと開けてこちらを見つめている。

913しらにゅい:2013/08/03(土) 11:39:35

「どうしたんだい?」
「アレ、どうしたんだ?」

 そう言って風魔は、己の手首を指差す。
その意図を理解したハーディは、ああ、と声を漏らし、返答する。

「あげたんだ、あの子に。」
「へぇ、いいの?カノジョとの思い出だろ?」
「…いいんだ。」

 ハーディが苦笑しながら、袋の紐を引っ張る。

「…ふーん。」

 風魔は後追いせず、その様子をただ眺めているだけだった。
会話が止まり、二人の間に少しだけ、静寂が訪れる。ハーディの視線は、どこか遠く見ているようだ。
ややあって、風魔が口を開くとこんな事を呟いた。

「『過ぎたことを振り返る暇なんてない。アタシは立ち止まらない。前に進み続けるよ。』」
「!それ、は、」

 それは、ハーディがあの友人…榛名有依から聞いた言葉そのものだ。
風魔はその場にいなかった筈なのに、彼の口から発せられる一字一句、彼女のあの言葉であった。
驚くハーディを余所に、烏天狗はいつも通り、眠たげな表情を彼へと向けた。

「『アタシは忘れない。さよならなんて言わないぜ。ずっと一緒だ。』」
「………」
「いるんだろ?お前の、そこにも。」

 そうか、彼が自分に伝えたいのは。

 彼女が、と風魔は言葉を付け足して、ハーディの左胸を指差すと、彼は自身の左胸を抑えて、目を閉じた。

「……ああ、そうだな。ここに、いる。」

 慈しむように、懐かしむように、想いを馳せるように。
彼女の姿も、声も、思い出も、全てそこに詰まっているのだと確かめるように。
ハーディはただ胸を抑えて、彼女を…ミハルを、思い出すのであった。

「ハーディ、」
「ん?」
「そういや、これ言ってなかったな。」










"おかえりなさい"





(何故君がそんな事を言うのだと羊は笑ったが)

「…ただいま。」

(穏やかな表情で烏天狗にそう告げたのであった)

914しらにゅい:2013/08/03(土) 11:41:05
>>911-913 お借りしたのはハーディ、名前のみ榛名 有依、ミハル(紅麗)でした。
こちらからは風魔です。

せっかくプロフィールで頂いていた友人設定をようやく活かす事が出来た…!

915akiyakan:2013/08/11(日) 20:53:43
「曰く、親より先に子が死ぬと、その子は親が来るまで賽の河原で石を積み上げ続けなければいけないと言う」

 手にした「ソレ」を見つめながら、ジングウは呟いた。

「貴方にとっての親が設計者である私なのか、それとも貴方の身体を造った「彼ら」かは分かりませんが――どっちにしろお前も私を置いて先へ逝ってしまうんだな」

 ジングウは恨み言を呟く。手にした小さなビンの中に浮かぶ、ミツの首に向かって。その様子は、彼にしては珍しく、どことなく寂しげであるように見えた。

 生物兵器の維持にも使われる培養液の中で、その首は未だ生々しくそこに存在している。もっとも閉じられた眼が、二度と開く事は無いのだが。

 ジングウは常々言っている。自分は魔法使いではないと。彼にも限界はある。失われた命を「完全に」蘇らせる事は出来ない。

 否、それはおかしいと彼を知る者は思うだろう。彼は自分自身のクローンを創造し、それによって、死んでも再び蘇ると言う行いをやってのけたのだから。ならば、首が残っているミツを再び生き返らせる事など、造作も無いのではないだろうか。

 だが――やはり不可能なのだ。ここにある首は空っぽだ。もうここに、ミツの魂は残っていない。あるのは「彼」の人格を出力する為の脳髄だけだ。ハードはある。しかし、ハードだけなのだ。それを動かす為のソフトが無い。身体を治しても、その中に入る筈の中身が、もうここには存在していないのだ。

 ジングウ程の腕があれば、それらしい人格をでっちあげる事も出来るだろう。だが、そうして創り出された魂は、果たして以前のミツと同一人物であると、言えるのだろうか。

 故に、生と死の法則を捻じ曲げ、神のごとく振る舞う錬金術師であっても、失われた形を元通りにする事は出来ない。その身、その行いは、人間の範疇を超えられないのだから。

「……私は、貴方を尊いと思う」

 ジングウは目を伏せ、その死を悼む様に呟く。

「私は貴方が誇らしい。本来ならば私は、貴方の行いを愚かだと蔑むべきなのでしょうが……その行いを美しいと思うのを、私はどうしても禁じられない」

 ジングウは伏せた顔を上げ、自分の目の前に存在している物を見上げる。

「貴方の自己犠牲を、無駄になどさせません」

 そこには、バイレンスドラゴンの威容が聳えていた。

  ――・――・――

「――調査の結果、ムカイ・コクジュはここ、市街地から離れた山林にある廃墟を根城にしているようです」

 ホウオウグループ支部施設内、閉鎖区画。プロジェクターとそれを映し出すスクリーンを、格納庫内に設置して造られただけの即席のブリーフィングルームに、『千年王国』が勢揃いしていた。

 他のメンバーとは不仲であるクルデーレ達や、ロクブツ学園への潜入任務にあたっているロイドの姿もある。それだけ、この作戦にかけるジングウの、否、『千年王国』一同の意気込みが感じられた。

「本日の零時、ここへ我々は強襲を仕掛けます」

 何か質問は。プロジェクターで映し出された映像を背に、ジングウが言う。手を上げる者は誰もいない。愚問だと、聞く事など何も無いと、皆その沈黙によって答えている。

 ミツを殺された、その日から。ここにいる者達は、皆待ち望んでいた。自分達の仲間を奪ったその男に報復する日を、ずっと。

 気合いを入れる者、ミツが亡くなった時を思い出して涙ぐむ者、これと言って感情を見せない者。そこにある反応は様々だ。しかし理由はどうあれ、ここにいる者達は皆、ムカイ・コクジュを、『失われた工房』を疎ましく思い、憎く思い、打倒したいと思っていた。その一点においては、全員が共通していた。

「私は善だとか悪だとか、短絡的に世界を二分する言葉が大嫌いだ。しかし、それを承知であえて言わせてもらう――『失われた工房』は悪だ」

 凛と。格納庫内に響き渡り、良く通る声でジングウが言う。

「敵、と言う言葉すら、奴らを言い表すには足りない。対局する二つの勢力があるならば、それは双方にとっての敵と敵なのであって、それを善悪で断ずる事は出来ない。だが、あれは悪だ。揺るぎ無く、疑いようが無く、あれは我々にとっての悪だ」

 大げさに、仰々しく。身振り手振りを交えながら、演技がかった調子で。しかしそれでいて、ジングウの演説にはどことなく必死さがあった。彼らしくない不器用さが、そこにはあった。

916akiyakan:2013/08/11(日) 20:54:14
「私の信条は、「生きるとは即ち、戦うと言う事」だ。目の前に障害を与えられた人間は幸福だ。それを乗り越える事によって、その者はより一段高みへと上がる事が出来る。我らが同胞ミツは、その障害を乗り越えられずに散った。生きる事が戦いと同義である以上、障害に敗れる事は死と同義である。ただ、それだけの事だ」

 ただそれだけの事。ミツの死はなるべくしてなった事なのだと、ジングウは冷酷に切り捨てる。逆に言えばそれは、「こう言う日が来る事を覚悟していた」人間の立ち振る舞いであった。万象万人、すべての存在に戦う事を強要する彼は、同時に万象万人、仲間の死を受け入れなくてはならないのだから。

 しかしそれにすぐさま、「だが」と拳を握り締めながら続けた。

「私を笑いたければ嗤えばいい。未熟だと罵ればいい、恥知らずだと誹ればいい。私は今、少なからず怒りを覚えている。私は「彼」を、ミツを好ましいと思っていた。愛おしいと思っていた。かつての同胞が生み出した「彼」を、或いは友の様に、或いは我が子の様な感情を持って抱いていた」

 彼らしくない、感情に満ちた声。普段のジングウとは異なった様子に、皆少なからず驚いた表情を浮かべ、あのクルデーレですら呆気に取られているようだった。

 もっとも、その中でただ一人だけ、フレイだけは嬉しそうな、或いは満足げな笑みを浮かべていた。懐かしいものを見たような、数年来の友人に出会った様な。そんな表情だった。

「友を殺されて怒らなければ何とする? 子を奪われて憎まんとすれば何とする? そんなモノはもはや人ですらない。私は人間だ。神に挑みこそすれ、私は人間であると言うスタンスまで止めるつもりは無い!」

 それは叫びだった。叫びであり、主張であり、宣言だった。他者に本心を見せない男の、抜き身の咆哮だった。

「諸君らに問う。君達の心に、怒りはあるか? 憎しみはあるか? ……よろしい、ならば戦争だ。ムカイ・コクジュに教えてやろう。我らが同胞を手にかけた、その代償がどれだけ高かったのかを。お前に対する怒りと憎悪の炎の、その熱さを!」

 ――・――・――

「あの……ジングウさん」

 ブリーフィングが終わり、遠慮がちにサヨリが話しかけてきた。

「その……花丸、さんは……」
「彼は、来ていないようですね」
「……はい」

 花丸の姿は、ブリーフィング中には無かった。と言うよりここ数日、彼の姿は見ていない。一応、バードウォッチャーでその動向を監視し、居場所までは把握しているのだが。

「……彼は……」
「彼なら、大丈夫ですよ」
「え?」
「知ってますか、サヨリさん。ある聖人の言葉なのですが、こう言う言葉があります。『すべてを投げ出した者が、最後にすべてを手に入れる』のだと」
「ジングウさん……」
「彼は投げ出した、と言うより、奪われた、の方が適切ですがね。ですが、奪われた物を取り返す為に積み重ねた彼の努力は、決して無駄になったりしないのだと、私は確信しています」

 ジングウがそう言った時、二人から少し離れた場所にあるコンテナから物音が聞こえた。何事かとサヨリが振り返ると、そこから走り去っていく小さな影が見えた。

917akiyakan:2013/08/11(日) 20:54:46
「あれは……!? 花丸さ、」

 追いかけようとしたサヨリの手を、ジングウが掴んで引き留めた。

「止めておきなさい、サヨリさん」
「でも……!」
「言った筈ですよ、彼は大丈夫だと」

 そうだ、彼は大丈夫。そうジングウは、心の中で呟く。

 花丸の心が本当に折れてしまったのなら、ここには来ていない。彼にはまだ、戦う意思が残っている。残っているのならば、それで十分だと。

「待ちましょう、サヨリさん。彼は必ず来ます」
「……はい!」
 


 ≪報復前夜≫



(そして、千年王国が再び動き出す)

(友の仇を取るべく)

(降りかかる火の粉を払うべく)

(千年王国は行く)

(その道の名は、修羅道)

※えて子さんより「花丸」、十字メシアさんより「クルデーレ」をお借りしました。自キャラはジングウ、ミツ、サヨリ(企画キャラ)、ロイドです。

918えて子:2013/08/13(火) 08:51:06
「始末人との会話」の後の話です。
十字メシアさんより「シザキ」をお借りしました。


「………多っ」

夕方、アーサーとシザキがリュックと紙袋に目一杯の資料を詰めて病院へやってきた際の、長久の第一声だった。


『はい。言われたの探して持ってきたよ』
「サンキュ、アーサー。シザキ」
「…長久の言っていた「保護者」とは、君たちのことだったのか…。…すまなかったな。アーサーが世話になった上に、手伝わせる形になってしまって…」
「気にすることはないよ。困った時はお互い様だ」
「……恩に着る」

軽く頭を下げると、二人からリュックと紙袋を受け取る。
中を覗くと、分厚い茶色の紙封筒がぎっしり詰まっていた。

「…これ全部、UHラボの資料か?」
「関連資料もあるがな」

ハヅルから資料の一部を受け取ると、長久はそれにざっと目を通す。
そこにはラボの詳細や規模、研究員や被検体の情報、実験の内容などが事細かに書かれていた。

「……文字で見てるだけで胸糞悪くなりそう…」
「同感だ」

大量にある資料の一部、しかも数枚にしか目を通していないのに、頭部に鈍痛が走った気がして長久は軽くこめかみを押さえた。
答えるハヅルも、あまり表情は明るくない。

「でも、UHラボがどんな研究所か、ってのはおおよそ理解した。危ないところみたいだな」
「…ああ。そうだな…」
「しかし、見たくないは通用しないからなぁ…俺はどの辺を調べればいい?」
「そうだな……久我。お前は、これを頼む」

そう言われ、ハヅルから茶封筒のひとつから取り出された紙束を手渡される。

「これ…何だ?……UHラボ研究員?」
「あの客人の顔と名を覚えているのは…久我、お前だけだ。もしそいつがUHラボの関係者なのであれば、その資料に載っている可能性が高い…。探してみて、くれないか」
「了解。……とはいえ、こん中からアイツを探すのか…骨が折れそうだ」

ざっと見積もって厚み2.5センチはありそうなほどの紙の束を見て、思わずため息が零れる。
が、それも僅かな時間のことで、すぐに姿勢を正すと眼鏡を直して資料に目を通し始めた。

「正直、この大部屋に俺たち以外の患者がいなくてよかったよ。こんなの見られたら相当怪しい光景だぜ」
「………そうだな」

軽口のように呟かれた長久の言葉に、ハヅルは苦笑した。

919えて子:2013/08/13(火) 08:51:53



ハヅルと長久が資料と格闘している間、アーサーとシザキの二人は病室の外にいた。
無関係ではないとはいえ、あまり他人に資料の内容を見られるわけにはいかない。そういう理由だった。

『ごめんね、シザキ。でも、これが僕たちの方針なんだ』
「いや、大丈夫さ。分かっているよ」
『そりゃよかった』

シザキの言葉に、アーサーは安堵したように笑った。


「………………あった!!」

しばらくすると、病室から長久の声が聞こえた。

「アーサー!シザキ!」

次いで二人を呼ぶ声が聞こえ、二人は病室の中へと戻った。

「どうしたんだい、長久さん」
『見つかったのかい?』
「ああ。こいつだ」

そう言うと、長久は紙束を留めているクリップを外し、その中から一枚の顔写真つきの書類を見せる。

「こいつが、蒼介を拉致った男だ」
「この人が…」
『………』

シザキとアーサーは受け取った書類を食い入るように見つめていたが、やがてアーサーが青い顔で顔を逸らした。

『やだよ……何でこんなひどいことができるの?』
「知りたくもないな。…アーサー。君は、あまり見ないほうがいいよ」

シザキが書類を返すと、長久はそれを受け取って手元の資料とまとめ、クリップで留める。

「…UHラボは既に無くなってるけど、残党や手札はどれほど残っているか分からない。だから…もし、その男と対峙することがあっても、一人でどうにかしようとかすんなよ」
「…了解、分かったよ」
「ならいいんだ………ん?」
「ん?どうしたんだい、長久さん?」
「いや…ちょっと分からない単語があって」

そう言って、長久は書類の一点を指差した。
アーサーとシザキがそれを覗き込む。

「………『失われた工房』?」
『なんだろ、これ?』

同時に首を傾げるシザキとアーサーに、ハヅルは別の資料に目を通しながら説明する。

「今言った…UHラボの生き残りたちが集まって出来た組織だ。目的は…世界征服だとか、ラボを潰した奴らへの復讐だとか……まあ、いろいろ言われているがな…。…以前、亡霊騒ぎがあったのを知っているか?」
「んー、言われてみればそんなこともあったような」
『僕知ってる!ベニー姉さんがまとめてるの見たよ!みんな大騒ぎだったって!』
「そうか…。…まあ、その亡霊騒ぎを起こしたのが、『失われた工房』の奴ららしい…」
「ふうん……」

ハヅルの説明に小さく頷きながら、長久は資料を紙封筒に戻した。

「…ってことは、こいつがこの組織と繋がってるって可能性もあるわけか?」
「……ないとは…言い切れないな。…元は、同じ研究所の研究者だ……。…シザキも、気をつけてくれ…」
「ああ、分かったよ」

一通りの資料を確認し終わると、元通りに紙袋とリュックにつめる。

「じゃあこれ、戻しておいてくれ」
『了解です!』
「あー、あと今度事務所の掃除するから、覚えておいてくれな」
『了か……ん?長久、もう退院できるのかい?』
「ああ。今すぐじゃないけど、早けりゃ明日にでも。気絶してただけだし、目立った後遺症とかもないんでね」
「それはよかった。おめでとう」
「ああ、サンキューな」


復活への道筋


『元気になったら、京姉さんたちにも報告しないとね!』
「ああ…助けてくれたのあの人たちだっけ。…お礼、しないとな」

920十字メシア:2013/08/16(金) 05:28:54
「……はあ?」
「だから! ハルキに惚れた理由教えてって言ってるの!!」

ヘッドフォンから流れるラジオを聞き流し、漫画を読むあたしの前で、スイネがキラキラした目で言った。

「だって二人は恋人でしょ?」
「そ、そうだけどさあ……つか、何でそんなこと聞くの」
「気になるからに決まってるじゃない! 全部言うのよ、さあ!!」
「はああああ!?」

いやいやいやいや。
ふざけんな……マジでふざけんな!!
この手の! 話はすげえ!! 苦手なんだよ!!!

「あら、どうして?」
「恥ずかしいからに決まってんだろアホ!!」

顔真っ赤で反論すると、右辺りから笑い声が。
この声は……お前かトキコ!

「ホタルさんって、意外とシャイだよねー」
「うっ、五月蝿い五月蝿い!!」
「変なところでねぇ〜。リア充の癖にぃ」

だああああああ華燐まで混ざってくるなあああああ!!!!

「そんな、天を仰ぐようなポーズしなくても……」
「するわ!!!」
「まあまあ。で、どっちが告白したの?」
「聞けよコラ」
「いいじゃない別にぃ〜。アタシにも聞かせてよぉ」
「はいはーい! 私も私も!」
「囲むな! 聞き出すな! やめろぉお!!」

ホント勘弁してくれ!
そんな、頭爆発しそうな、甘酸っぱい乙女な話なんかやってられっか!!

「今の蛍も十分、乙女だけどぉ」
「そっ、そんなこと――」
『お〜ね〜が〜い〜』
「ああもうハモるな! 鬱陶しい!! 分かった、分かったよ!」
「おっ? という事は?」
「言うよ! 言えばいいんだろ! はあ…………えーと――」


* * *

14になった年の夏。
あたしは、ハルキと一緒に縁日に来ていた。
たくさんの人だかりと、夜店の仄かな明かりが、祭りの雰囲気を作っている。
店も「たこ焼き」、「わたあめ」、「金魚すくい」、「射的」と、種類はとっても多い。
弟の面倒を見る姉のように、ハルキと手を繋ぐあたしは辺りを見渡した。

「どこ行く?」
「うーん……とりあえず、お腹へった」
「それじゃあ、何か食べ物買うか! どれにしよっかな〜……」

寄る屋台に悩んでいた時、あたしの目は『ある物』に吸い寄せられた。
それは――。

(光る剣だ……カッコイイ……!)

中学二年にもなって、こんな子供臭い物に惹かれるなんて、って思うけど……。
やっぱり、こういう武器モノに弱いんだよなあ、あたし。

「蛍?」
「ふえっ」
「どうしたの?」
「あ、ああ! あのさ――」
「ねえ! アレ可愛くない?」
「!」

この声は……まさか……。

「ホントだ! 可愛い〜」
「どれにしようかなあ」

やっぱり……。
ここから離れた屋台で、同じクラスの女子達が、キーホルダーやストラップを見てはしゃいでいる。
どれも女の子が好むような、可愛いものばかり。

(……やっぱり、あたしって変かなあ……)

同じクラスの女子達は大抵、恋愛やファッションの話だとか、手芸やお菓子作りだとか、如何にも女子らしい趣味や会話。
それに引き換え、あたしは少年漫画や武器関連の本を読み、趣味は武器の手入れと製作、収集と女らしさの欠片もない。
そのせいで話しかけづらくて、クラスの友人があまりいないんだよな……。

「? 蛍?」
「あっ……な、何でもない! えっと、たこ焼き食べよう! たこ焼き!」

剣の玩具買ってるところ……それを持って喜んでる顔、正直見られたくない。
不思議そうなハルキの手を強引に取って、たこ焼きの屋台に行った。

921十字メシア:2013/08/16(金) 05:30:23


「お祭り、楽しいー」
「ね! ちょうど花火上がる頃だし、疲れたからどっかに座ろ」
「うん」

座れそうな場所を探す。
けど、どこもいっぱいで中々見つからない。
するとハルキが。

「見つけた」
「え、どこ?」
「あそこ」

指を差す方向には鳥居の階段。
意外なことに、人一人いない。
木陰であまり目立たないせいか?

「見晴らしも問題なさそうだし、いいな。あそこで見ようか!」
「花火、見たことないから、楽しみ」
「あ、そういやそうだっけ……きっと気に入ると思うよ」
「わーい」

一番上まで上り、冷たい石段に腰かける。
まだ花火が咲かない夜空を見上げつつ、かき氷を食べ始めた(因みにソーダ味)。
ハルキはりんご飴を食べる……と思いきや。

「あ」
「むー?」
「寄るの、忘れるとこだった」
「え、どこよ」
「ちょっと待ってて」
「あ……」

何も言わずに降りてった。

「……まあ、いいか」

黙々とかき氷を食べる。
たまに空を見上げて、後の事を考えた。
半分ぐらい食べ終わったところで、空が光ったのに気付く。
花火の打ち上げが始まったんだ。

「まだかな、ハルキ……」

愚痴を溢すと、下から足音が聞こえてきた。
もしや、と思い見ると、見慣れた水色の髪が。

「はあ、はあ、はあ……」
「遅いよ。もう花火始まってるってのに」
「ごめん。ここから結構、離れてて……」
「……ったく。で、何買った?」
「えっと、蛍へのプレゼント」
「へ? ……あたしに?」
「うん。はい」
「…………」

あたしは、驚きのあまり何も言えなかった。
だって、ハルキが買ってきたコレって……。

「剣の……玩具……」
「蛍、凄く欲しそうに、見てたから」
「……あ」

バレてたのか。
……何か、恥ずかしい。

「つか、わざわざ自分の分で、買わなくても良かったのに……」
「じゃあ、何で蛍は買わなかったの? 欲しいなら、買えばいいのに」
「………………中学生なのに、こんな小さい子が欲しがるような玩具、買うなんておかしいし……それにあたし、こういう物ばっか好きで、全然女の子らしくなくて、変わってるだろ……?」

小学生の頃はあまり気にしてなかったけど、中学校に通いだしてからというものの。
周りの女子を見て、男子みたいな嗜好の自分が恥ずかしくて、でも変えれなくて。
正直、辛い。

「むー……よく分かんないけど、ぼく、蛍のそういうところ、良いなって、思ってるよ?」
「……え」
「ぼくの知ってる蛍は、強くて、カッコよくて、頼もしくて、物知りで、優しくて、ちっとも変なんかじゃないよ。だから、落ち込まないで」
「…………」

何だか、胸がざわざわし出すと同時に、ほっとしてくる。
けど、最後の長所、寧ろそっちじゃん。
あんたの方が、優しい奴だよ。

922十字メシア:2013/08/16(金) 05:32:07

「……プレゼント、嬉しくなかった?」
「……いや。嬉しい、凄く! ありがと!」
「ホント? ……良かった!」

柔らかくて、優しい笑顔が花火の光に照らされながら、目に飛び込む。
気のせいか、胸のざわつきが速まった。

「ぼくもね、蛍が喜んでくれると嬉しいんだ。蛍は自分のこと、女の子らしくないって言うけど、蛍の笑った顔凄く可愛いよ」

そう言われた途端。
高鳴った胸に、色んなものが混ざった何かが溢れだしそうになった。
……? 何だろ、今の。

「蛍? 顔赤いけど、大丈夫?」
「……へっ!?」

口から裏返った声が出た。
いや、待て、何で裏返った?
というか、顔赤いって……。

「……ホントだ」

頬を触ってみると、火照ってるのが分かる。

「熱あるの?」
「?!」

ハルキの手のひらが、あたしの額に触れた、瞬間。
心臓が、一気に跳ね上がったような感覚。
更に頬が火照ってきて、頭の中がぐるぐる、ごちゃごちゃ。
反射的に、ハルキの手をのけてしまった。

「ななななな何してんの…!?」
「え、叔母さんがやってたみたいに、熱あるかどうか……」

た、正しいんだけどさ…!
いきなり触れるとか…………アレ、ちょっと待てよ?
昔だって手繋いだり、寄りかかって昼寝してたのに、何で今恥ずかしいんだ?
何回も言ったけど、男子みたいなあたしに、乙女な恥じらいは無い。
何で? 何で? 何で?
……あああああ訳分かんねえ!!

「ねえ、大丈夫なの? 風邪、引いてない?」
「へっ!? ……あ、い、いや大丈夫、大丈夫! 熱いから火照っちゃったんだよ、きっと! あははは」

よくわからない感情を抑えるように、笑って誤魔化す。
あたしってば、変なの。

「そっか。じゃあ、また回ろ」
「おうよ!」

と、意気込んだが。
その後しばらく、変な気持ちに振り回されてるのか、ハルキの顔を中々まともに見れなかった。

* * *


「それが、惚れたきっかけ?」
「…………」
「おお。ホタルさん、茹でタコみたいに真っ赤」
「当たり前だっつの〜……! もう、恥ずかしい……!」
「それで、告白までの経緯は?」
「まだ聞くのかよ?!」
「当たり前でしょ!」

いやもういいって!!
羞恥心で死ぬから!!
これ以上はもたない――そう判断したあたしは、逃げるように教室を飛び出した。
嗚呼……どーにかしてくれぇ……。


夏の縁日、恋の花火




サトさんから「スイネ」、しらにゅいさんから「トキコ」お借りしました!
蛍の恋の話はまだ続きます。

923思兼:2013/08/19(月) 00:58:48
久々に自キャラのみです。


【憧憬エクセンサス】


―第11話、人間に惚れた妖怪―


静葉に家、つまり巴邸には静葉以外の家人は『存在しない』

その理由は基本誰も知らず、シリウス団のメンバーも教えられていない。

その上、家賃や生活費は一体どこから出ているのか?いつも小奇麗過ぎるのはなぜか?
と言った具合に、ある種の不気味さを孕んでいる。

しかし、静葉はこの無駄に広い屋敷を団の為の施設として開放しており、静葉の言う『集会場』
とはこの屋敷のことで、団員全員が合鍵を持っており自由に活用している。


そして、静葉の家に静葉の他に家人が誰もいない理由を知らされていない団員でも、知っている
ある秘密が、この屋敷には存在する。



「…太陽は、苦手だ。」

それは巴邸の二階、南側の大きな個室にいる。

中世風の装飾と調度品に囲まれ、天蓋付のベッドで目を擦りながら呟く少年。

金色に輝く髪は軽くウェーブがかりながら背中あたりまで伸びており、その顔つきと相まって
むしろお姫様のような印象を与える。

唯一現代風のパジャマから見える肌は白磁のように血の気が無く、死人にも見える。


そして、一番目を惹くのはその両目で、深紅に輝くそれはまるで極上のルビーで成見のそれ…つまり
アルビノとは違う実在感のある紅だった。

口元からは特に見せようとしていないにも関わらず長い犬歯が見えており、どこか普通ではない印象を与える。



「おはよう、ニコ。相変わらず朝早いんだな。」

少年がベッドの上で伸びをした時、静葉が扉を開けて部屋に入ってきた。

その手には淹れたての紅茶がある。

「おはよう静葉、ありがと。まぁ、本来まかりなりにも吸血鬼…しかも真祖の末裔の僕が
朝日と共に起きるのも、どうかとおもうのだけど。」

「いいじゃないか、早起きは得をするぞ?」

紅茶を受け取りながら言う少年ニコに静葉はそんなことを言う。

924思兼:2013/08/19(月) 01:00:12


そう、この少年が団の秘密だった。

ニコラス=アルケロス・ノワールド・マキュロ

この長い名前が少年の本名で、ニコとは愛称だ。

その正体は人間では無くヴァンパイアと言う存在…昔から人間の恐怖の的であり、長い間その存在は
幻想だと思われていた化け物だ。

しかもニコはヴァンパイアの中でも「マキュロ氏族」と言う真祖の血脈、つまり開祖に連なる一族の末裔である。

先程から太陽を浴び続けているにも関わらず伝承のように灰にならないのは、これが要因であり
ニコも含めたマキュロの真祖には聖水と心臓への銀杭以外は通用しない。

もっともニコが最後のマキュロ氏族の生き残りである為、実質ニコだけの特徴であるが。



この社会で吸血鬼と正体をばらすわけにもいかずニコはその正体を伏せており、その真実を
知る者はシリウスの団員だけだった。

「今日で9日目になるが、身体は大丈夫か?」

「うん、14日間くらいまでなら大丈夫かな。
それ以降は、僕の理性がもつかどうかはわからないけど。」

「すまない…最近医療機関の警備がいきなり厳しくなってな。
亮や影士がいま侵入ルートを構築しているのだが。」

「気にしないで、静葉やあいつらは悪くない。」


今、ニコには危機が迫っていた。

ヴァンパイアである以上、彼も血を飲まねば生きていけない。

不死者ヴァンパイアの中でも特に異常な不死性を持つ真祖のニコでも克服できていない弱点だ。

今までは影士や亮がその力を使って輸血パックを医療機関から盗んでいたのだが、最近それらの警備が
いきなり厳重になり、盗めない状況にある。

建物自体のセキュリテイはおろか、保管されている棚に電子ロックと錠前の二つが付けられ、
さらに三方向から監視カメラで監視されている。

亮ではカメラを回避できるが棚のロックを外せず、影士は輸血パックを取り出せてもカメラに映ってしまうのだ。

925思兼:2013/08/19(月) 01:02:07

そして、もう今日で9日間彼は血を飲んでいない。

最悪、静葉たちが提供することも考えられるが、それでは一時しのぎにしからならず、素人の静葉たちが
採血するのはリスクが高い。

しかも、ニコは基本的に人間から直接血を吸わないことにしている。

例外は凶悪犯のような人間だけであり、それ以外からは絶対血を吸わないと静葉に言っているのだ。


彼は普通に振る舞っているつもりだが、外出もせず寝ていることも多くなってきた為、あまり余裕が無い。

最悪理性を失い暴走することも考えられ、そうなればおしまいだろう。




「ああ、早く人間になりたいなぁ…僕も、静葉と一緒に普通の人間として生きたい。」

「ああ、それが俺たちの目的だからな。
超能力を捨てて、普通の人間になる、と。」



ニコにとっては普通になることの先に目的があった。

ニコは静葉が大好きだったからだ。

偶然のある出会いからひそかな好意を寄せるものの、現状二人の種族の壁は高すぎる。

これではその先に待つのは寿命差や体質の違いからの悲恋だけだろう。


人間になり、胸に秘めた思いを伝えることこそ、ニコの望みだった。


「(でも、あなたはそんな僕の思いを知らない。)」


少年は削りゆく己の命より、そのもどかしさでいっぱいだった。


<To be continued>

926思兼:2013/08/19(月) 01:41:29
もう一つ投下します。


【成見の追憶視】


―第×話、幻視する話―



遥は俺の親友だった。

思えば記憶の中のアイツはあの時からずっと笑っていたんだっけか。

まるで大人の、それこそ母親のそれみたいな微笑み。

歳にしちゃあまりにも不自然で、違和感を感じるほどアイツは大人びていた。


実際そう思ったのは俺だけでは無かったらしく、周囲からは「良くできた子」「優しい子」
「苦労のかからない子」とか言われていた。

しかも、それは作られたような性格じゃなくて本心からのものだったらしい。

俺の眼はそういったのも『視える』から、それがウソだったり、作られた性格だったら
すぐにわかってしまう。


でも、そうじゃなかった。

アイツは元々そういう奴だった。


確か一度、直接『どうしていつも微笑んでいるのか』って聞いたことがあったはず。

その時、遥の奴は『悲しい顔を見てると、悲しくなっちゃうでしょ?だからせめて私だけは
いつも笑顔で、誰も悲しまないようにしたいの。それができなくても、私が笑っていたら、安心して泣ける
人ができると思うし』なんて言ってたな。

余りにも自虐的な献身性じゃないのか?

遥はいつも誰かの為ばっかで自分の為なんて言葉が無かった。

俺と一緒になってからはずっと俺の為にばかりだった。

それすらも『私は私にできること、私がしたいことをやってるだけだよ』って言うだけだった。

勿論、一切の迷いも偽りも無く。


最期、自殺する時までその意志は変わらず、俺の目でも変化を悟ることは出来なかった。

微笑みを浮かべた遥かの遺体を視て、その経緯を視るまでは。


いじめの事実も、破綻しかけていた遥の心も、俺は知らなかった。

理由は簡単…遥が視させなかったからだ。

全部あの笑顔げ上からそういったのを塗り潰して、そういった像ぼやけさせてしまっていたから。

何でそれができたのかすら、俺には分からない。

その理由すら、笑顔が隠してしまっていたのだから。



『成見君、どうしたの?』

「…なぁ、遥はどうして俺の眼を欺けるんだ?」

『さぁ?どうしてかな?』


答えは、残滓に尋ねてもあの日と変わらなかった。



<To be continued>

927akiyakan:2013/08/23(金) 19:31:32
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 バイコーンヘッドを装着したアッシュが、突撃銃を乱射しながら走っていく。それに追従する様に、バレットシステムタイプのリバイアサンが三機続いて行く。

「バレット1、状況を報告してください!」
『こちらバレット1! 現在、敵の昆虫型生物兵器の群れと交戦中! 右も左も蟲だらけだ!』
「場所はどこです!?」
『ここから敵の本拠地が見える! 距離にして100メートル位!』
「了解! バレットチームは現状を維持してください!」
『了解(ラジャー)!!』

 バレット1=アッシュとの通信を切り、サヨリは別のチームへと通信を入れる。

「こちらHQ! ドグマ1、聞こえますか!?」
『聞こえてるよ!』

 通信機から聞こえてきたリキの声は、若干苛立っているようだった。

『何て数の蟲だ! 潰しても潰しても、キリがねぇ!』
『ああ、もう気色悪いったらないよ、もうー!!』
『嫌あぁぁぁ、来ないでえぇぇぇぇぇぇ!!』

 ドグマチーム=ドグマレンジャーは、こちらはこちらで苦戦しているようだった。雑音も酷いが、レンコの悪態とブランの悲鳴が通信機から聞こえて来る。

『HQ、こちらドグマ4。火炎放射器を使用しては駄目ですか?』
「HQよりドグマ4。火炎放射器の使用許可は出せません。と言うか魎、それは作戦前に伝えた筈ですが」
『聞いてみただけですよ、ジングウ……覚悟はしていましたが、流石にこれはキツイ……!』

 確かに、群れで押し寄せてくる蟲の大群に、火炎放射器は有効的だろう。しかし、使えない。周囲を木々に覆われた山林でそんなモノを使用すれば、あっと言う間に周囲は火の海となるだろう。そんな騒ぎになってしまったら、ムカイを倒すどころではない。逃げ足の速いあの男は、姿を眩ましてしまうだろう。

「この布陣、確実に自分の弱点を理解してますね、向こう」
「将棋と同じです。自分の持ち駒・総戦力を把握し、それぞれの特色を生かしつつ、またそれぞれが持つ短所を補った運用をする。それが『用兵』と言うものですよ」

928akiyakan:2013/08/23(金) 19:32:18
 目の前の画面から一切目を離さずに、ジングウが答える。サヨリに対して説明しつつも、その集中力の大部分は目の前の戦況把握へと注がれている。

「こちらHQ。ビースト1、そちらはどうですか?」
『こちらビースト1。俺達は快適だよ、ミューデの坊主のおかげでな』

 ビーストチーム=ロイドをリーダーとした混成チームは、蟲による足止めを受けていなかった。

 チームの戦闘を歩くのはミューデ。その周囲は、霜が降りていた。息が白くなる程の冷気であり、襲い掛かってくる蟲達の動きは鈍く、中には飛び掛かる前に活動を停止した物もいる。彼らの周囲だけが、真冬に逆戻りしたような光景だ。

『やるじゃねぇか、ミュー坊。蟲が次々シャーベットになってくぜ』
『む、蟲のシャーベットって……美味しく無さそう』
『そっかぁ? 案外美味そうじゃね?』
『そら、お前はグリフォンだからな』

 イマの返事に、ロイドが冷静に突っ込む。蟲の対処に悲鳴を上げている他と比べ、彼らにはかなりの余裕がありそうだ。

『HQよりビースト1。これより、廃墟内へ突入する』
「気を付けて下さい。ムカイが開発したバイオアーマーは、こちらのバイオドレス以上の機動力を備えているようです。最悪、気が付いたら死んでいた、なんて事も有り得ます」
『そうならないようにする為に、突入チームに俺達改造人間を選んだんだろ?』

 自信に満ちたロイドの声が、通信機から聞こえて来る。ややあって、扉を蹴破るような音が聞こえて来た。

『――無粋だな、人様の家に土足で上がるなど』
『――ッ!!』

 通信機越しに、その声が聞こえた。

 忘れもしない、忘れるものか。

 ロイド達が息を呑むのが聞こえる。コンソールの前で、サヨリが何かを堪えるように唇を噛んでいる。

 現れた。現れたのだ。彼らの怨敵が。

『ムカイ・コクジュ……』
『品の無い。こんな夜中に、アポも無く押しかけてくるなど。ホウオウグループの品位を疑いますね』
「負け犬風情にかける礼節など無い」
『ぬ……っ!!』

 マイクを掴みジングウが切り返すと、俄かにムカイの声に怒気が宿った。しかしそうなったのは一瞬の事であり、すぐさまムカイは冷静さを取り戻す。

『……ふ、負け犬と言うのは貴方もでしょう、ジングウ? 密かに用意したクローンボディに乗り換えて、意気揚々とホウオウグループに離反してみれば、結局眷属に出戻りとは何ですか、貴方のザマは? 本当に滑稽ですよ、私なら恥ずかしくて死んでしまう』
「…………」
『聞こえているんだろう、ジングウ? 見栄っ張りで、自己顕示欲豊富な、目立ちたがり屋の道化(ピエロ)君? 言いたい事があるなら君らしく、現場まで出て来たらどうなんだね?』

 ちら、とサヨリは隣にいるジングウの表情を盗み見る。それを見て知らず、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。おそらくは、現場にいるロイド達も、そして通信を聞いているであろう、他の千年王国の所属者達も、皆が同じ事を思っていただろう。

 何を――分かり切った事を言っているのだ、この男は?

「――ムカイ・コクジュ。お前は、車から降りてわざわざ石を拾うのか?」
『何?』
「お前は、自分が進む進路上に石ころが「立ち塞がっていた」時、わざわざ拾って自分の道から退けるのか、と聞いている」
『な……』
「蹴飛ばせば済むモノを、撥ね飛ばせば済むモノを、そもそも踏み越えれば済むモノに対し、一々そんな無駄を重ねているのか、お前は?」
『き……さま……』
「そんなんだから、ホウオウグループに「すら」入れないんだよ、お前は」
『――貴様ッ!!』

 流石のムカイも、今回は冷静さが保てなかったようだ。一度引いた熱波が、先程よりも勢いを増して燃え上がる。

929akiyakan:2013/08/23(金) 19:32:48
「そもそも通過点でしかないお前など、私がわざわざ出向くまでも無く、部下の力だけで十分なんだよ。まぁ、それでも気を悪くしないでくれ。そこにいる我が同胞達は、ホウオウグループでも指折りの精鋭達だ。必ずや、お前を駆逐し、踏み潰してくれる事請け合いだろう」
『ジングウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

 ムカイが吠える。それと同時に、「かかかかっ!」と言うロイドの笑い声が通信機から聞こえて来た。いや、ロイドだけではない。彼と一緒にいるイマも大笑いしていた。

『言うじゃねぇか大将! 胸がスッとしたぜ』
『ああ、そうだ。任されたぜ、頭。絶対にこいつは俺達がぶっ潰す!』



 ≪『失われた工房』VS『千年王国』≫



 ――to be Conthinued

※十字メシアさんより「リキ」、「魎」、「レンコ」、「ブラン」、紅麗さんより「ミューデ」、鶯色さんより「イマ」をお借りしました。自キャラからは「AS2」、「サヨリ(企画キャラ)」、「ジングウ」、「ロイド」、「ムカイ・コクジュ」です。

930akiyakan:2013/08/23(金) 19:34:25
「許さんぞ、ジングウ―――ッ!!!!」
『!? 戦闘領域に内、無数の熱源が出現しています! 気を付けて下さい!』
「了解!」

 サヨリの警告に応えた瞬間、ロイド達の足元が、否、彼らがいる廃墟が爆発した。

「つぅ――ッ!!」

 ミューデの身体を庇いながら、その爆発に巻き込まれないよう、ロイドは廃墟から転がり出ていた。その隣を、ほぼ同じタイミングで飛び出したイマの身体も滑っていく。すぐさま体勢を立て直すと、ミューデを支えながら、ロイドは廃墟の方へと視線を向けた。

「……おいおい、何だ、その悪趣味なのは」

 一瞬、自分の身体が小さくなったのだと錯覚してしまった。

 砕け散った廃墟の中から現れたのは、巨大な蟲だった。サソリ、クモ、カマキリ、クワガタムシ、ミミズ。それぞれがそのままスケールアップし、更に子供の落書きみたいに余計なモノが追加されている。例えば、サソリは元々以上に全身に鋭利な突起を備え、まるで全身で何十本もの槍を構えているようであったし、ミミズに至っては、元々柔らかくぬめりのある柔肌に覆われている筈なのに、黒光りする装甲に全身を覆っており、口に当たる部分には鋸みたいな歯が備わっていて原型を留めてすらいない。

「覚悟しろ、ジングウ……千年王国、ホウオウグループ!」

 サソリの背中に、ムカイの姿があった。自分の頭からターバンを剥ぎ取り、ボサボサの髪を剥き出しにしている。その瞳がレンズの向こうで、怒りと歓喜で爛々と燃えているのがロイドには見えた。

「私の自信作、大型昆虫生物兵器の実験台にしてくれる! 行け! 私の可愛い作品達よ!」

 ムカイの号令に従い、五匹の巨蟲達が襲い掛かる。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 アッシュ達のチームを、足元から大ミミズが襲い掛かる。

「ぐあっ!? な、何だこいつは!?」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「で、でかっ!?」

 ドグマチルドレンに、大クワガタムシが飛び掛かる。

「うわ、こっちにも来た!?」

 ロイド達に向かって来たのは、大サソリだった。毒槍の備わった尾を振り回し、鉄板でも真っ二つに出来そうな両腕の鋏を打ち鳴らしながら躍りかかってくる。

「ちっ……」

 応戦しながら、ロイドは舌打ちをした。この反撃で、ムカイの姿を見失ってしまっていた。匂いで追尾しようにも、彼らが潰した蟲の体液の臭いが強過ぎて、それも敵わない。

931akiyakan:2013/08/23(金) 19:34:57
「おい、残りの二匹はどこへ行った!?」
「クモはクルデーレさん達のところへ。カマキリはパラボッカさん達のところへ行ったみたいです!」
「ちぃ……」

 最悪だ、と悪態をつきそうになるのをロイドは堪える。これはまだ、予想の範疇内だ。ムカイが大型の生物兵器を持ち出してくるのは、まだ計画内。



『覚悟しておいてください、皆さん。おそらくムカイは、我々の襲撃に際して虎の子である大型の昆虫兵器を使う筈です。それらの戦闘能力は、我々ホウオウグループの機械兵器に勝るとも劣らない戦闘能力を有している……絶対に、一人で立ち向かうような真似はしないでください』



 巨蟲は厄介。そう、事前に伝えられていたのだ。いざその姿を目の当たりにしたからと言って、それに圧倒されている場合ではない。

「やるぞミュー坊、イマ!」
「了解!」
「あいよっ!」

 愛用の仮面を被り直しながら、ロイドが叫ぶ。それに対し、後ろで二人が力強く応えた。

 振り下ろされるサソリの鋏をかわしながら、取り囲むように包囲し、一斉に各々の攻撃を当てる。しかし、有効打にはならない。分厚い外殻はイマが吐き出す火炎弾を防ぎ、ミューデの高温も低温も寄せ付けていない。

「ちっ、ニードルも駄目か」

 弾かれる弾丸の上げる火花に、ロイドは眉を顰める。すぐさまニードルガンの機械腕を外すと、巨大な爪の備わった新しい機械腕に換装した。

「だったら、こいつならどうだ!」

 ヴン、と言う駆動音の直後、ロイドの右腕は小刻みにブレ始めた。暗闇の中、残像を伴いながらそれは震え続ける。

「そらあっ!!」

 自分に向かって突き出された鋏をかわし、ロイドはサソリの腕目掛けて右腕を振り下ろした。
 たった一撃。しかしその一撃は、それまでの事が嘘であるかのように、易々とサソリの左腕を切り落とした。
 超振動と単分子。チェーンソーの破壊力と、日本刀の鋭さを組み合わせた結果だ。頑強なサソリの装甲でこれなのだ。まさにそれは、人間をバラバラに切り刻む人食い虎の一撃だった。

932akiyakan:2013/08/23(金) 19:35:35
「効いた!」
「俺に続け、二人とも!」

 ロイドが駆け、右腕を振る。サソリの装甲は裂け、爆ぜ、ズタズタに引き裂かれていく。
 苦痛に悶えるようにサソリは残った右腕を出鱈目に突出し、毒液を撒き散らしながら尾を振り回す。しかし、当たらない。獣の速さで、或いはそれ以上の魔獣の速さで動くロイドを、捉える事が出来ない。

「くらえぇい!!」
「それっ!」

 ロイドに傷付けられた場所を狙い、イマとミューデの攻撃が炸裂する。装甲に入れられた亀裂を起点にして、二人の攻撃が確実にサソリを追い詰めていた。

「バレット2、バレット3! フォーメーションを整えて!」
『了解』

 奇襲を受けたアッシュ達も、体勢を立て直して反撃に移っていた。地中を縦横無尽に移動するミミズに対して、チームワークを活かした連携攻撃によって対抗している。

「おい魎! そのデカブツの動きを止めるのは任せたぜ!」
「ああ。そっちもしくじるなよ?」
「はっ、言ってろ!」
「リキに続くよ、ブラン!」
「うんっ!」

 チームワークならば彼らも負けていない。四人を押し潰そうと迫るクワガタムシを、魎の下半身に備わった万力の様な腕がその顎を抑え込む。クワガタムシの膂力はそれを引きはがそうとするが、機械仕掛けの下半身はモーターを唸らせ、六本の足で地に根を張り、二本の剛腕によって怪物の身体を封じ込めている。

 そうして出来た相手の隙を、三人は見逃さない。リキのジェットハンマーがクワガタムシの頑強な装甲を食い破り、その場所へ続けてレンコとブランの攻撃が炸裂する。

 巨蟲達は強敵だ。だが、決して勝てない相手ではない。

 我らはホウオウグループ。我らは千年王国。

 鳳凰の眷属たる我らを、虫けらごときで阻めるとでも思ったか――!!

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 すべての武器を失ったサソリが、地面に崩れ落ちた。
 ミミズの巨体が地面から引き摺り出され、晒し者になった。
 クワガタムシは自慢の大あごを、その身もろとも打ち砕かれた。
 八つの足を折られ、クモは全身を引き裂かれて果てていた。
 カマキリはその両腕で何者の命を奪う事もなく、力尽きていた。

「は……倒せたか」

 周囲を見渡し、一息つくようにロイドは息を吐いた。

 五匹の強敵を相手に、しかし千年王国の人員は健在。誰一人として欠けてはいない。それはもう、これ以上の犠牲は出さないと言う彼らの気迫のようにも感じられた。

933akiyakan:2013/08/23(金) 19:36:16
「流石ですね。いくら巨大であるとは言え、蟲で不死鳥は倒せませんか」
『!?』

 全員が一斉に、声のした方を向く。そこに、木の枝に腰掛けて座っているムカイの姿があった。

 さっきまで激昂していた人間と同一人物とは思えない程、彼の様子は落ち着きを取り戻している。否、それを言うならむしろ『余裕』か。虎の子である筈の巨蟲をすべて倒されてしまったと言うのに、彼の表情には全く焦りの色は無かった。

「……大した余裕だな。てっきりもう、逃げたものだと思ったが……」
「大事な生物兵器の実戦投入ですから、ちゃんと観察しておきたかったんですよ」
「そうかい。だがな、生憎と失敗だったみたいだぜ? おたくの自慢の蟲達は、みんな俺達に負けちまった」

 「次はお前の番だ」。ロイドが右腕の爪を突きつける。しかし、ムカイの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。

「ええ、そうですね。蟲では不死鳥に敵わない……だったら、もっと強力な生き物になればいい」
「何?」

 ロイドが首を傾げるのと、異変が起きるのは同時だった。彼のすぐ傍で、倒れて動かなくなった筈のサソリが起き上がったのだ。

「何!?」
「そんな、止めを刺した筈なのに!?」

 サソリだけではなかった。他のチームが倒した蟲達も、同様に再び動き出していた。眼を赤く輝かせ、傷口から体液が零れるのも構わないかのように、巨大な蟲達が立ち上がる。

「何をする気だ、ムカイ・コクジュ!?」
「くくくくく……」

 ロイドの言葉にムカイは答えない。ただ、不気味に哄笑を漏らすばかりだ。

「まぁ、黙って見ていろよ。面白い物が見られるぞ」

 サソリが、ミミズが、クワガタムシが、クモが、カマキリが。
 生ける屍と化したそれらが、お互いに一カ所へと集合していく。
 そして、目も背けたくなるような光景が始まった。

「こいつら……」
「融合……している……!?」

 バキリバキリと、骨の砕けるような音が鳴る。
 グチャリグチャリと、肉の弾ける音が聞こえる。

 一カ所に集まった蟲は、お互いを喰らい合い始めた。互いの肉と肉と合わせ、そこから癒着していく。まるで粘土細工の様に、五体の身体が混ざり合い、融け、捏ね、砕け、一つの形を造っていく。

 そして誕生したのは、この世のものとは思えない醜悪な怪物だった。

934akiyakan:2013/08/23(金) 19:37:09
「■■■■――――ッッッッ!!!!」

 大気を震わせ、怪物が吠える。もはやそれは、「蟲」などと言う言葉など不適当と思えるまでの異形。例え神でも、ここまで悪趣味な生命体は産み落としたりしないだろう。

 凶眼、凶面。頭部のベースとなっているのは蜘蛛であろうか、八つの眼が赤く光っている。胴体部分からはクワガタムシの顎が飛び出し、その両腕からはカマキリの刃が伸びている。腹にあたる場所からは八本の足が生えており、そこからおそらくミミズのものであろう長い胴体が、まるで大蛇のように伸びている。

「さぁ、第二ステージの開幕です!」

 ムカイが眼鏡を押し上げながら、芝居がかった調子で言う。それに従うように、合体した魔蟲は再び咆哮した。

「みんな気を付けろ――来るぞ!」

 ロイドの号令で全員が身構えるのと、怪物がこちらに向かって来るのはほぼ同時だった。



 ≪蠱毒の皿の上で・前編≫



(そこは戦場と言う名の皿)

(生き残れるのは、)

(もっとも優れた者だけである)

 ――to be Conthinued

※※十字メシアさんより「リキ」、「魎」、「レンコ」、「ブラン」、紅麗さんより「ミューデ」、鶯色さんより「イマ」をお借りしました。自キャラからは「AS2」、「ロイド」、「ムカイ・コクジュ」です。

935十字メシア:2013/08/25(日) 19:43:38
蛍の恋の話、その2。


縁日でハルキに励まされ、思い切って他の女子に話しかけて以来、クラスの友達が増えていった。
どうやら、一人が好きな奴だと思われてたようで、中々声をかけづらかったという。
どっちもどっち、だったのか……。
ついでにその訳も話すと(武器収集の趣味だけはやめといた)、別に変じゃないし大丈夫だと言ってくれた。
悩んでたのがアホらしい……良い人達だ……!

けど、良い事だけでなく、良くない事も舞い込んできた。
あの夜以来というもの――。

「蛍ー」
「はえっ!?」
「見て見て、凄い綺麗なカード、当たったんだー! 良いでしょ?」
「あ……え……」
「? 蛍?」
「ああ、うん、うん! 良かったな!」
「えへへー」

ハルキを見る度に、胸が高鳴るようになった。


「大好き」


「と……ところで、何枚集まった?」
「えーと、100枚はいったかなー」
「はあー……随分と買ったね……」

まあ、ハルキのカード収集を始めたきっかけは、あたしなんだけど。
今はあまりやってないけど、かつてあたしはカードゲームにハマっていた。
自分で言うのもなんだけど、全国大会で毎年連続優勝してた強者だ。
だがその栄光も、興味を持ったハルキに教えた事で、終わりを告げる。

初心者のハルキに、ボロ負けされた。

こうして、あたしの連続優勝の記録は幕を閉じたのであった……。
いや、別に恨んじゃあいないけどさあ。
何? あの強さ……化けモン級だぞアレは。
それから、こいつはカードゲームにドハマりし、集めるタイプのカードにも手を出している。
なので、大抵のおやつはウェハースチョコ(カード入り)。

「だって、蛍が教えてくれたから。楽しいよ、ありがとう」
「……そ、そりゃ、どーも」
「? どうして、顔赤いの?」
「なっ、何でもない! ああ、ほら! もうチャイム鳴るから、教室に戻りなよ!」
「あ、ホントだ。じゃあ、またねー」

いつもの笑顔で、手を降って教室を出てった。
見慣れてる筈なのに、まともに顔を見れなくって、油断したら声が裏返りそうになる。
頬に手を当ててみたら、まだ熱い。
どうしたんだ? あたし……。

936十字メシア:2013/08/25(日) 19:44:11


昼休み。
仲良くなった数人の女子達と、一緒にご飯タイム。
ああ、この前まで相手がハルキだけだったのが信じられない……。
今は逆に、ハルキと食べるのに緊張しちゃう訳だけど。

「乃木鳩さんって、ショートにしないの?」
「んー……長いほうが好きだから」
「へえー、意外!」
「よく言われてたよー」
「でも長い髪、似合うよ」
「ホント?」
「うんうん! でもイメチェンして、ハルキ君……だっけ。ハート鷲掴みするのも手じゃないかな?」

……ん?
何でハルキが出てきた?
つかハート鷲掴みとは何だ?

「だって、好きなんでしょ? ハルキ君の事!」
「……………………え」

ええええええええええええ!!?
ちょっと……ちょっと待った!
どうしてそうなった!?
あたしが、あいつを好き、って……。

「だって、最近ハルキ君に対して、凄いぎこちなく接してなくない?」
「100%恋だよ! 恋!」
「あんなの、誰でも分かるよ〜」
「え、いや、あの、あたしとハルキは、ただの昔馴染みなだけで……」
「じゃあ、何でいつも顔赤くするの?」
「そ、それは……」

というか、あたしが恋だなんて、そんな乙女チックな事……絶・対有り得ない!!!

「恋は、誰に対しても平等に訪れるものだよ! ワトソン君!」
「誰がワトソンだ誰が」
「命短し恋せよ乙女!」
「あの、すいませんちょっと」
「頑張ってね乃木鳩さん!」
「聞けってぇえええ!」


疲れた……。
体育無い日なのに、いつも以上に何か疲れた……。

「蛍〜」
「あ……ハルキ……」
「どうしたの? 元気、無いよ?」
「……」
「?」

ヤバイ。ああ言われたせいで、余計意識してしまう……!
また顔赤くなるのだけは避けないと!

「は……早く帰るよ! ほら!」
「あ、うん。帰ろう」
「……」

少しは疑問に感じないのか、こいつ。
緊張ぎみで挙動不審なあたしの、この振る舞いを。
……マイペースな奴なのは分かってたことだし、今更か。

「あ、蛍。お祭りで買った剣、ぼくも触ってもいい?」
「い、いいけど……」
「ありがとー。ぼくも、カッコよくて好きだよ。アレ」
「……あの時は、ホントに……その、ありがとう」
「ううん。だって、”友達”には喜ぶ事をしてあげろって、教えてくれたのは、蛍なんだよ?」
「……」
「? どうしたの?」
「あんたには関係ないっ」
「え。……ご、ごめん」

”友達”……か。
まあ、色々鈍いし、そうだよな。
……こいつに、恋なんて理解できるのか?
伝えても、意味あるのか?
そう思うと、溜め息をつかずにいられなかった。

937十字メシア:2013/08/25(日) 19:48:03


―翌日―

「乃木鳩さん、おはよ」
「ん、おは」

教室で友人に挨拶をする。
内の一人が焦ってるような顔で、あたしに駆け寄って来た。

「乃木鳩さん! ちょっと宿題見せてくれる!?」
「宿題?」
「日本史のプリント! ハルキ君の告白手伝いますから!」
「ええええいいいいいいいらんから!! 見せるからしなくていいって!!!」
「おおっ、自分の力で道を切り開くとは……」
「ちっがーう!!!! 別に、告白とか……そんな、無理!!」
「え〜、何で?」

はっ、恥ずかしいし……どうせ、伝えたところで『友達として好き』〜なオチになるんだよ、あいつの場合!!

「じゃあ、このまま思い続けるだけでいいの?」
「う……」
「分かってくれなくても、伝えた方がいいと思うよ。私は」
「…………」
「あ、そろそろチャイム鳴る」
「えっ! の、乃木鳩さん! プリント!」
「あっ、ああ。はい」
「ありがと〜! 恩に着るよ!」


昼休みになった。
今日も、ハルキはあたしのクラスに来ている。
会話をする傍ら、友人に言われた事を何度も思い返した。
でもさ、伝わらなかったら、告白の意味無いんじゃあ……。

「蛍!」
「はひっ!?」
「聞いてる?」
「あー聞いてる聞いてる」
「ホント?」
「はいはいホントです」

全く、こっちの気も知らないで。

「それでね、カード交換したんだけど、そのカード、蛍みたいなんだー」
「あたし?」
「うん」

見せてもらうと、水色の鎧と絹の服を纏い、勇ましげに剣を振るう、綺麗な女の人が描かれていた。

「ほら。強くて、カッコよくて、可愛い蛍にピッタリ!」
「…………」
「蛍?」
「あ、いや、あの……ありがと」

顔を見られないように背けた。
こいつ……分かってて言ってんじゃね?
恥ずかしくて、もどかしくて、腹立たしくて。
こいつのせいで、自分の中で弱気なもう一人のあたしが、時々顔を出してくる。
こんな感情、一体どうしろって言うのさ?
ああ、いっそ無かった事に出来れば、楽になれるかもしれないのに!

938十字メシア:2013/08/25(日) 19:54:10


「…………」
「随分と静かねえ。どうしたの」
「……何も」

気持ちを口に出せず、あいつの頬を突っついて帰ってきた後。
あたしは何かするわけでもなく、居間で食卓にうつ伏せのまま、ぼーっとしていた。

「ま、恋煩いもほどほどにね」

はいはい。
………………うん?

「恋……煩い?」
「だって、この前、ハルキ君が家に来た時、様子おかしかったもの。誰でも分かるわよ」
「え、ちょ、嘘!? そんなに分かりやすい!? あたし!」
「うん」
「……」

ま、また顔が熱くなりそう……。

「……もう、気持ち悪い。抑えきれない」
「じゃあ、伝えたら?」
「……ムリ」
「あら、珍しく弱気ね」
「ハルキに言っても、無駄だよ。恋とか、分かんないって。きっと」

そしたら、叔母さんは穏やかに笑って言った。

「私なら、それでも伝えるわ」
「……何で?」
「無理矢理、気持ちに蓋して、苦しいままでいて、それで失恋になった時、後悔するよりマシだよ」
「……」
「ありったけの思いをぶつけて、すっきりした方がいいじゃない?」
「…………出せないんだ」
「ん?」
「勇気も、素直さも。口に出せないんだ」
「まあ……確かにそういうことも、あるわね」

「でも」と叔母さんは前置きして、

「そういうのは、自分からいかないと何も変わらないよ」
「…………」
「あら? 電話だわ。誰かしら」

裁縫道具と布を食卓に置き、叔母さんは電話に出た。
ふと時計を見てみると、いつの間にか8時30分過ぎになっている。

「はい、もしもし。……ああ、サキ。どうしたの? ……えっ、来てないけど…………ちょっと待って。蛍、ハルキ君と一緒に帰ったわよね?」
「え、今日は、用事があるとかで、あたし一人で先に帰ったけど……どうしたの?」
「ハルキ君が、まだ帰ってきてないみたいなの」
「!!!」

あいつ……一体どこに!?
もう夜更けてるんだぞ!?
…………くそ、嫌な予感、なんて考えたくもねえ!!

「探してくる!」
「えっ、ほ、蛍!?」

四の五の言わず、あたしは家を飛び出す。
当てなんて、無いけど。
それでも、いてもたってもいられない。
あいつに何かあったら――!

「ハルキ……! どこにいんだよ……!」

走ってる内に、涙が出てくる。
あたしは本当に、どこまで弱気になれば気が済むんだ。
このままずっと、素直な心を隠して、あまのじゃくな態度を取るつもりか?
ふざけんな。
そんなことしたって、この気持ちは消えない。

――いっそ無かった事に出来れば、楽になれるかもしれない

何であんな馬鹿なこと、思ったんだろう。
無くしたくなんかないよ。
この胸の高鳴りも、あんたも。
溢れそうな気持ちに、蓋するのはもうやめよう。
伝えなきゃ。分からなくても、報われなくても――。


「――蛍?」

939十字メシア:2013/08/25(日) 19:59:01


「!?」

後ろから、聞き慣れた声。
恐る恐る振り向くと、水色の髪に水色の左目。
そしてあの、赤い右目と、右腕。

「……ハルキ……」
「どうして、ここにいるの?」
「…………」
「? 蛍――」
「こ、のっ……ノー天気ヤロー!!」
「えっ」
「それはこっちのセリフだ!! こんな遅くまで、何してたんだよ!!!」
「ご、ごめん……中々、見つからなくて」
「はあ?」
「コレ……」

と、ハルキが鞄の中から箱を取り出して、あたしに渡した。

「何だよ、コレ」
「開けてみて」
「……」

まだ不機嫌な顔をしたまま、あたしは箱を開けた。
…………これって。

「……あたしが欲しかったヘッドフォン?」
「うん。この前、それ見て欲しいなーって言ってたの、覚えてたから」
「……じゃあ、これを探してずっと?」
「えへへ……そういや、サキやシュウスケに連絡するの、忘れてた」

…………ホント、あんたって奴は……。

「人に心配、させといて、理由聞いたら、プレゼント、探し、かよ…………」
「えっ……と……嬉しく、無かった?」
「……あんた、ねえ……」
「蛍……?」
「……ひっく、本当に、心配したんだぞ……! ひぐっ、くっ、うあああ……」
「! ……ごめん、なさい。泣かないで……」
「泣かしといて、よく、ひぐっ、言うよ……でも、ありがとう……嬉しいよ……」
「……本当?」
「本当だ」

いつも呑気で、バカで、マイペース。
けど優しくて、いつもあたしを喜ばせようとする……笑顔が素敵な奴。
そんなあんたが、あたしは。

「……ハルキ」
「ん?」
「今まで、臆病で素直になれなくて、ずっと言葉を封じ込めてたけど…………あたし……」


「ハルキのこと、大好き」


「…………」
「…………」
「そっか、そうなんだ」
(あー、やっぱりオチは……)
「ぼくも、蛍のこと大好き」

…………えっ?

「えええええ!!?……マ、マジで……?」
「うん」

ちょ、ちょっと待て!
だって、恋とかけ離れたような男子なのに!?
鈍いやつなのに!?

「あのね、蛍と一緒にいるとね、顔がぽかぽかしてきて、胸がドキドキして、変な気分だったんだ」
「え…………それって……」
「昔はそんな事、無かったけど、段々そうなってきた。この気持ち、何なのか分からなくて、ずっと考えてた。何で蛍といると、もっともっと、幸せなのかなって」
「……」
「でも、蛍の言葉で分かった。ぼくの気持ちは、蛍と同じものだって。嬉しいな、蛍がぼくのこと、大好きだって分かって」

おま、抱き着くな! 恥ずかしいだろ!
こ、これはこれで、何か……ああ畜生〜……。

「蛍、好き。大好き」
「〜〜〜っ、は、早く帰るぞ! サキとシュウスケが待ってる!!」
「あ、そうか。うん、帰ろう」

って、然り気無く手を繋ぎやがって……っ!
…………まあ、悪く、ないけど。


伝えて、良かった。

940十字メシア:2013/08/27(火) 00:51:11
(六x・)さんから「冬也」、akiyakanさんから「都シスイ」お借りしました。


「いや〜。デコラキャンディーの新作ケーキ、美味しかったねー」
「そうだな」
「凪っちも、一緒に行けたら良かったんだけど」
「凪姉、大丈夫かな…」
「こらこら、そんな暗い顔しちゃだーめ! 凪っちに見せたら、逆に心配されるよ?」
「うん…そうだね。ありがとう、ミユカさん」

休日の昼下がり。
シスイ、ミユカ、冬也の三人はデコラキャンディーを出たところだった。

「そういやミユカ、昨日はえらく不機嫌だったけど……何かあったのか?」
「……白蛇さんにやられたの」
「ああ……」

百物語組の一人であり、ウスワイヤの調査員である、蛇妖怪の青年の飄々とした笑みを浮かべるシスイ。

「あの蛇野郎……いつかギッタンギッタンにしてやる……」
(燃えてる……)
(燃えてるな……)

……心なしか、般若が見えた気がする。

「帰ったら、白蛇さんをギャフンと言わせる方法を――」

ガシャ。

「ん?」
「どったのシー君」
「……この先から、物音がした」
「物音?

シスイの視線を追い、路地を見るミユカ。

「確かに、何かしらの反応があります」
「……一応、見に行った方がいいね」
「ああ。冬也、俺達で行くから、先に帰っててくれ」
「大丈夫ですよ。念のため、光弾銃もってきてます。僕だって、アースセイバーの一員ですから」
「おっ、頼もしいねえ。守られる側から、守る側に回る日は近いかな〜」

ミユカに冷やかされ、顔を赤くする冬也。
その反応を見て、いつもの笑い声を上げ、頭をぽんぽんと撫でる。

「でも、無理はしないでね」
「はい」
「よし、行くか」

シスイを先頭に、三人は路地に入った。
迷路のように、時には直進し、時には曲がる。

「……ただの、物音だったかな」
「冬也、もう一度見てくれるか?」
「あ、はい」

再び能力を使う冬也。
数分経つと、確認し終えたらしく、目が見開いた。

「あの角の先に……」
「何かある、ってか」
「はい……」

三人にまとわりつく空気が、一気に強ばる。
ミユカはナイフを、冬也は光弾銃を構えた。
武器を持たないシスイは、いつ奇襲を喰らってもいいように、心構えをしておく。

「……行くぞ」

シスイの一声で、曲がり角へ踏み出した。
そこにいたのは――黒い外套を着た、幼い少女。
蹲ったまま、身動きひとつない。
心配に思ったミユカが声をかける。

「ねえ、どうしたの?」
「…………」
「どこか痛い?」
「…………」
「大丈夫だよ。お姉さん達、悪い人じゃあないから――」
「ちょ、ミユカ!」

少女に駆け寄るミユカ。
と、近付いた瞬間。

「おお、無用心なこと」
「え?」

941十字メシア:2013/08/27(火) 00:54:14

ブワァッ!

「うわっ!?」
「ミユカ!」
「ミユカさん!」

動かなかった少女が突然、高く跳躍した。
驚いたミユカは尻餅をつく。
シスイと冬也の後ろに降り立った少女は、フードの隙間から見える口を、歪ませて弧を描いた。

「ほほほ、愚かなものじゃ。だが退屈しのぎが出来て、苦しゅうない」
「退屈しのぎ?」
「今分かる。ほうら、来た!」

と、周りから機械が擦れるような音。
見渡すと……パニッシャーだ!
いつの間にか囲まれている!

「な……!?」
「そんな、反応は一つだけだったのに!」
「ほほほ……そやつらは、今まで妾の力で”生の音”を隠されていたからの。見破れる訳がなかろう」

穏やかながらも、小馬鹿に話す少女。

「では、妾は高見の見物とさせてもらうぞ。精々、楽しませてみよ」
「まっ、待て!」
「シー君! 危ない!」

と、追いかけようとしたシスイに、体当たりするミユカ。
直後、マシンガンの弾が、シスイがいた地面を抉った。

「悪い、ミユカ。助かった」
「その言葉を言うには、まだ早いよ」
「そうだな、さて……」

パニッシャーの数を数える。
ざっと、8機……いや、10機はいるだろうか。

「多いですね……」
「ちょっとキツいかな。正確に遠距離攻撃出来るのは、冬君だけだし。私も、腕伸ばせば出来ないことは無いけど……」
「銃撃する冬也を、俺が守る。ミユカ、単独攻撃、頼めるか?」
「任せて」
「よし、やるぞ!」


「見つけたー」

建物の上に移動した少女の背後に、少年――ヘルツが現れた。
彼を見るなり、少女は分かりやすいほどに顔をしかめる。

「おや、邪魔が入ってしまったか」
「えー。邪魔なんて、酷い酷い」
「この宴は妾だけのものじゃ」
「ボクにも見させてよ」
「ふん、勝手に見る癖に」
「てへ」

ニカッと笑うヘルツ。
対して、少女は服の袖で口を覆う。
まるで「吐き気がする」と言わんばかりに。

「猫かぶりなどするな。気色の悪い」
「そんなに辛辣にしなくても〜」
「嫌いな奴にしてはいけない理由など、無いわ。同じ同志であることに、感謝するがよい」

忌々しげに、吐き捨てた。


「はあ、はあ……」
「シー君、大丈夫!?」
「……ちょっと、やべえ」
「数が多い……不利ですよ……!」
「あの子、どうやってこんな数を…!?」

息を切らすミユカとシスイ。
パニッシャーの数は10機どころか、20機以上もいた。
逃げることもままならない。
一人でも戦闘不能に陥ってしまえば、殺られる確率は高くなる。
現に、前線に突っ込むミユカは、右肩と左足に傷をつけられていた。

(このままじゃ…!)

焦るミユカ。
その時だった。

ドゴォオンッ!!!

942十字メシア:2013/08/27(火) 00:56:16

「!?」
「パニッシャーが……」
「吹っ飛んだ!?」

突如起こった爆発が、パニッシャーを数機、木っ端微塵に吹き飛ばした。
すると硝煙の向こうから、咳き込む声が。

「ケホッケホッ……ふむ! 申し分ない威力ですね」
「誰だ!」
「あわわ、私は敵ではありません! 攻撃しないで〜」

煙が晴れてくる。
そこに立っていたのは、白っぽい癖毛と、ライトグリーンの猫目を持つ少年だった。
「き……君は?」
「自己紹介は後で! 今はパニッシャーを壊しましょう!」
「わ、分かった」

とにもかくにも、戦力が増えたのがよろこばしいことなのは、違いない。
マシンガンの銃口が、自身に向けられたのに気付いた少年は、咄嗟にかわした……が。

ずべしゃっ!

『…………』

着地に失敗した。

「にゃ、にゃははは……運動は苦手なものでして……」

少しばかり不安になった三人だが、贅沢は言ってられない。
攻撃を再開する。
少年は、何かテニスボールのような球体を、数機のパニッシャーに向かって投げた。
直後、爆発したところを見ると、どうやらこれが先ほど、パニッシャーを吹き飛ばしたもののようだ。

「ありゃ、無くなりましたね……」
「えぇっ!? そんな!」
「でも心配ご無用! 青髪の人、ちょっとだけ銃を貸してくれるかな?」
「え? ……な、なるべく、早く返してくださいね」
「ありがとう!」

冬也から銃を受けとると、ポケットから何やら、炎のような模様をした、赤い塊を取り出した。
よく見ると、僅かながら湯気が上がっている。

「それは……?」
「撃ってみたら分かるよ」

と言って、それを銃に当てると、塊が銃に吸い込まれるように融合した。
冬也は、少し驚いた眼差しを向ける。

「はい! どうぞ!」
「は、はあ……」

不思議そうに、受け取った銃を見る。

(とりあえず、撃ってみよう!)

意を決して、一機のパニッシャーに狙いを定め、銃の引き金を引いた。
光弾がパニッシャーに当たった――瞬間、なんと、周りのパニッシャーに向かって、弾から大きな飛び火と爆風が巻き起こったのだ!

「凄い!! どうやったの!?」
「そんな複雑な事ではありません。”爆発”の要素を、銃に付与させただけです」
「”爆発”の要素……?」
「爆弾から取り出したんですよ。能力を使って、ね」

ニンマリ笑う少年。

943十字メシア:2013/08/27(火) 01:01:47

「お次はコレ!」
「スプレー缶……?」
「えーと……では黒髪の方! これを拳に吹き掛けて下さい!」
「お、俺? わ、分かった……」

少年からスプレー缶を受け取ったシスイは、それを右拳に吹き掛けた。
その右拳でパニッシャーにパンチを当てると――。

バチバチバチィッ!

「うわっ!? 拳から電気が…!?」
「その電気は、機械の動力を停止させるんです!」
「停止……本当だ、動かなくなってる」

シスイの拳を当てられたパニッシャーは、脱け殻のように力をなくし、地にへたり込んでいる。
パニッシャーの数は、格段に減少してきた。
形勢逆転だ。

「よーし! この調子で行くよ!」
「おう!」
「はい!」


「ふー……何とか片付いたね」

額の汗を拭うミユカ。
周りはパニッシャーの残骸でいっぱいだ。

「助かったぜ。サンキュ」
「いえいえ。あ、まだ名前、言ってませんでしたね。私は紀野 ココロ、守人やってます!」
「守人!?」
「そうだったんだ〜」
「はい! 皆さんはアースセイバーの方ですよね?」
「えっ、どうして分かったんですか?」
「その銃、ウスワイヤ製でしょ? 一度、知り合いに見せてもらったことあるんだ」

少年――ココロの「知り合いに見せてもらった」という言葉が引っ掛かるのか、ミユカは考え込む。
が、すぐさま分かったらしく。

「ねえ、その知り合いってもしかして、のぎのぎ……じゃなかった。蛍ちゃんの事?」
「はい、そうですよ」
「ああ、そういや、あいつも守人だったな」
「ついでに同じ学校ですよー」
「あれ!? 君もいかせのごれ高校なんだ!」
「おや? その反応からして、皆さんも?」
「ああ。冬也は1年で、俺とミユカは2年なんだ」
「おお〜! 私も2年ですよ!」

同級生に巡り会えたからか、興奮ぎみなココロ。

「1組でも2組でも見ない顔だから、分からなかったんだな」
「確かに、あまりそちらのクラスに行きませんね」
「折角だから、昼休みにでもおいでよ!」
「そうですね……ええ。明日、是非そちらにお邪魔します!」


「終幕、だね」
「ふむ……まあまあ、じゃの。御主さえいなければ、最高の宴だったが」
「まーだ言うのー?」
「黙らぬか、二枚舌。耳障りじゃ」
「はいはい。随分と随分と、我が儘な姫だねえ。君という奴は……」
「ふん……戻るぞ」


―翌日・昼休み―

「ココロちゃん……」
「お前……」


『女子だったの(か)!?』


二人が驚愕するのも無理はない。
男だと思っていた人物が、スカートを穿いていたのだから。

「にゃはは、よく言われますよ〜」
「てっきり、男かと……」
「ご、ごめんなさい……」
「いいですよ、気にしてませんから!」


守人「紀野」


(余談だが)
(『彼女』の格好を見た冬也も、驚いたのは言うまでもない)

944えて子:2013/09/03(火) 21:36:36
自キャラのみです。


セラの襲撃以来、無人のままであった情報屋「Vermilion」。
そこに、何週間ぶりかの灯りと人影が見えた。

「よ…っと。準備はいいか、アーサー、ロッギー」
『うん!僕もアーサーもばっちりだよ!!』

他の二人よりも軽傷だったため、一足先に退院した長久。
メンバー内で唯一入院に至らなかったアーサー。
この二人で、長らく無人にしていた情報屋内の掃除をしようとしていた。

「銃弾で駄目になった家具とかの買い替えはハヅルが退院してからにするとして…割れたガラスだの花瓶だのの片付けぐらいはしないとな」
『めちゃめちゃだもんねー』
「本当にな……手加減ナシにやってくれたもんだよ、まったく」

小さくぼやきながら、ほうきを使って床に散らばった破片をかき集めると、アーサーがちりとりでそれを掬いゴミ袋に入れる。
長久と共に病院に運ばれたハヅルも今日めでたく退院の運びとなったのも、ここの掃除を始めた理由のひとつである。
ハヅルに余計な仕事を増やさないようにという長久の配慮と、散らかったものを綺麗に掃除してハヅルを驚かせたいというアーサーの企みからだ。

『ハヅルが帰ってきたら、びっくりするかなあ?』
「どうだろうな。アーサーとロッギーが頑張ったなら、褒めてくれるんじゃないか?」
『本当!?じゃあ頑張ってお掃除するよ!!』

明るく返すと、手にはめていたロッギーを外し、穴だらけのソファに丁寧に置く。
そしてぐっと腕まくりをすると、きつく絞った雑巾を手に、椅子を使って窓を拭き始めた。

「張り切りすぎて怪我するなよー。せっかく治ったのにまた足捻ったら笑い事じゃなくなるぞ」

長久がそう声をかけると、「大丈夫だ」とでも言うように手を振る。
椅子はほとんど被害を受けていないし、よっぽど無茶な体勢にさえならなければアーサーが落ちることも無いだろう。
一人頷くと、長久はほとんどドアの役目を果たしていないドアへ向き直った。

「……困るわ、マジ困るわ」

全体に弾痕が残るドアを見つめて、誰にともなくぼやくように呟く。
ドアノブは何発も撃たれて完全に変形して外れてしまっているし、蝶番も馬鹿になってしまったのかゆらゆらと揺れている。
おそらく一番の被害はこのドアであろう。細かい作業が得意で今まで小さな修繕もしていたハヅルがいたとしても、これを直せるかといわれたら難しいところかもしれない。

「…ま、帰ってきてから考えるか」

頭をがしがしと掻くと、掃除に戻る。
割れたガラスを片付け、落ちた薬莢や銃弾を分別する。
雑巾とバケツを持って二階へ行くと、固まってしまった血を力いっぱい拭った。

「…………」

ふと、手を止めてぼんやりと宙を見上げる。

紅は目を覚ましたようだが、まだ面会謝絶のようで長久もアーサーも会えていない。
それに、未だ何の足取りも掴めていない蒼介…カチナの行方も気になる。
以前UHラボのことを調べた際に出てきた単語『失われた工房』。ハヅル退院後にもう一度本腰を入れて調べることになっている。ここを襲撃し彼を連れ去った男がUHラボの研究員だったのなら、元研究員で構成されている『失われた工房』は何かしらの手がかりを有しているかもしれないからだ。
そのことを考え、はあ、とため息をつく。

『長久ー!!終わったよー!!』

階下からのアーサーの声で我に返る。
見ると、階段の下でアーサーが手を振っていた。
拭き掃除がだいたい終わったらしい。

「おう、ちゃんと雑巾は片付けたか?」
『片付けたよ!洗っていつものところに干した!』
「そうか。……お、頃合だな」

壁にかかった時計を見ると、そろそろハヅルが退院する時間だ。

「支度してちょっと待ってろ。俺も片付けちまうから」
『はーい!』

ばたばたと駆けていったアーサーを見送り、雑巾をバケツに投げ入れると立ち上がる。

「……なるようになるか。オーナーも、蒼介も、あのまま終わる人じゃあない」

自分に言い聞かせるように呟くと、掃除の後片付けを始めた。


嵐の間の晴天


「…お待たせ。じゃあ、ハヅルを迎えに行くか、アーサー」
『うん!』

945akiyakan:2013/09/04(水) 11:04:53
 ――風景が一変していた。

 木々は薙ぎ倒され、地面は所々が抉れている。

 事象の中心に在るのは、異形、巫蠱が生み出した最強の毒虫。

 そして、

 その周囲に転がっているのは、

 皿から落ちた、

 最強に敗れた、

 他の者達であった。

 ――・――・――

「く、くくくく……」

 ムカイが嗤っている。右手で顔を覆い、しかしその下から見える口元には誰が見ても分かる位、笑みを形作っている。

「くくく――くはははははははははははは!!!!」

 やがて零すようだった笑い声は、堪えきれなくなったような高笑いへと変化していた。

「無様! 無様だなぁ、ジングウ! 何が、お前の同志が私を倒す、だ? これを見ろ、これを視ろ、これを認ろ! これが現実だ!」

 優勢から一変。千年王国は、合体した魔蟲にほとんど手も足も出せずにいた。

 大クワガタ、大サソリが備えていた防御能力、大クモと大ミミズが持っていた機動能力、大カマキリの攻撃能力。五体の能力をすべて統合し、一体の怪物と化したそれは、単純な足し算の強化ではなかった。

「ぐわっ!!」

 魎の下半身が魔蟲の攻撃に耐え切れず、破壊された。鉄くずと化した下半身を引き摺りながら、彼の身体が地面の上を転がっていく。

「魎――!!」
「ブラン、駄目! 隊列を崩したら――」
「え――きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 レンコとブランの身体を、高速で振られた二つの刃がズタズタに切り裂く。

「レンコ、ブラン!! ――こンの野郎ッ!!!」

 仲間を傷付けられ、激昂したリキがジェットハンマーを振りかざして飛び掛かる。

「ジェット――ハンマアァァァァァァァァ!!!!」

 狙い過たず、ハンマーは魔蟲の背中へと命中する。ドスン、と言う鈍い音が辺りに響き渡った。

 だが、

「嘘……だろ?」

 先程通用した筈のハンマーは、魔蟲の装甲に罅一つ付けられてはいなかった。黒光りする甲殻には、へこみすら見当たらない。

 何かの間違いだ。そう思って、リキは何度も同じ場所をハンマーで殴打した。右に、左に、振って振って、振り続け、何十回とハンマーを打ち据える。

 その時、不意に手応えが無くなったのを彼は感じた。ようやく相手の装甲が砕けたのか。いや、違う。そうではない。自らの手にしている物を目にし、リキは絶句していた。

「んな……」

 ジェットハンマーの槌の部分。その部分が無くなっていた。度重なる連続使用に耐え切れず、ハンマーは自らの威力に砕けてしまったのだ。しかもそこまで酷使していながら、相打ちではない。魔蟲の装甲にはやはり、ダメージは与えられていなかった。

「――ごはっ!?!?」

 魔蟲が身動ぎし、リキを自分の上から振り落とす。更に鞭の様にしならせた大ミミズの胴体が、地面へと落下していくリキ目掛けて襲い掛かった。まるでバットに当たったボールの様に、彼の身体は吹き飛ばされ、数本の木を薙ぎ倒したところでようやく停止した。

「が……はっ……」

 リキは大量の血を吐き出した。常人なら即死であろうが、それでも息があるのは流石は生物兵器と言ったところか。しかしだからと言って、無事と言う訳でもない。

946akiyakan:2013/09/04(水) 11:05:27
『リキ――!!!!』

 モニター越しで戦いを見ていたエレクタが悲鳴を上げた。

『レンコ、ブラン、魎! みんな、返事して! みんなぁ!』
「狼狽えるんじゃありませんよ、エレクタ。これ位で死ぬほど柔に作った記憶はありません」

 ディスプレイの中で泣いているエレクタを、ジングウが静かに窘める。

『キング、僕にも行かせて!』
「許可できません。電子戦しか能の無い貴方が行って、何になると言うのです。足手まといが関の山ですよ」
『で、でもぉ……』

 電脳空間内でエレクタが地団太を踏むが、ジングウはそれに応えない。実際、エレクタが行っても状況は好転しない。先にやられた兄弟同様、彼も魔蟲の餌食になるだけだ。

「サヨリさん、戦闘続行可能な人員は?」
「えっと、待ってください……出ました! アッシュさんとロイドさん、それにイマさんです!」

 ――・――・――

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 突撃銃を乱射しながら、双角の獣が疾走する。宵闇の中、銃口から放たれる火が人魂の様に辺りを淡く照らす。

 それはまさしく獣の牙だ。人体であれば、その五体を容易に引き千切り、バラバラに打ち砕く。ましてや、その威力に麒麟の籠を施しているのだ。その牙は、戦車の装甲にだって穴を穿てるだろう。

 だがしかし、効かない。魔を持ち、怪物と化した存在に、その牙は歯型すら付けられずにいた。

 それでもアッシュは攻撃の手を休めない。空になった弾倉を捨て、胸の転送装置で取り出した新しいカートリッジを差し込み、再び魔蟲目掛けて引き金を引く。

 これで良い、とアッシュは心の中で呟く。

 攻撃が通用しようとしまいと、アッシュの攻撃は魔蟲の注意を自分へと引きつけている。それこそが彼の狙いであり、この場における役目だった。

 魔蟲がその巨体を引き摺り、アッシュの方へと身体の前面を向けた。

 その時だった。

 木陰から、大きな影が飛び出した。右手の先から伸びる巨大な爪が、月光に反射して煌めく。

「――ちぃっ!」

 魔蟲の首を狙った、ロイドの大爪の一薙ぎ。しかしそれは、蟲の右腕の鎌によって防がれていた。あの大サソリの装甲すら引き裂く大爪が、しかし食い込みこそすれダメージになっていない。

「くそっ! 今の攻撃すら受け止めるのかよ!」

 アッシュの隣に着地しながら、ロイドが悪態をつく。見れば、その右腕にある爪は人差し指の物が折れており、他の刃はところどころが欠けていた。

『これだけ攻撃しているのに、傷らしい傷は無し……本当に、どうやったらあれを倒せるんですかね』
「ああ、全く……こうなりゃヤケだ。こっちも出し惜しみ無しで行くぞ」

947akiyakan:2013/09/04(水) 11:05:57
 そう言うとロイドは使い物にならなくなった右腕を外し、新しい右腕と取り換えた。

 先程の爪とは明らかに印象の異なる腕だった。先の大爪は、その五指に備わった爪こそ巨大であったがしかし、それでも腕の部分は人間のものと同じシルエットをしていた。普段付けているニードルガン内臓型であれ、そうだった。だがそれらは、「そう言う形でなければならない」と言う制約があったからだ。

 だが、これは違う。その第一印象は「鎚」と呼ぶのが相応しいだろう。腕の形をしたハンマー。まるで巨人の腕を思わせる程大きく、無骨な形状をしており、その肘に当たる部分からはピストンの様なモノが飛び出していた。手首の部分にはタービンがあり、まるで腕輪の様にそこに存在している。がちり、と接続すると、機能を確認する様にタービンが数回転した。

「イマ、援護してくれ!」
「りょーかいっ!!」

 ロイドの声を合図に、空中で待機していたイマが動いた。魔蟲目掛けて、まるで雨の様に火球を吐き出す。それらは魔蟲の装甲を僅かに焦がす程度でしかなかったが、その注意をロイドとアッシュから逸らすには十分だった。

『大盤振る舞いだ』

 そう言うと、アッシュの周りに無数の火器が姿を現す。転送装置によって呼び出しだされたそれらは、RPG−7やロケットランチャーの様な、歩兵が運用出来る兵器の中で最大級の火力を誇るモノ達だった。

『一発残らず喰らっていけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!』

 両腕でロケットランチャーを構え、発射。空になったそれらを投げ捨て、次の武器へと手を伸ばす。魔蟲の身体に次々と着弾し、爆煙がその身体を包み込んでいく。その周囲にバラバラと、おそらく魔蟲の身体の一部であろう、破片が煙を上げながら散らばった。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 更に追撃。雄叫びを上げながら、煙を吹き飛ばしながらロイドが飛び掛かる。彼は振り上げた右腕を、思いっきり魔蟲の腹へと叩き付けた。手首のタービンが高速で回転しながら装甲を削り、肘のピストンが勢いよく打ち出される。それと同時に手首から先の部分が、打ち込まれたピストンの分だけ飛び出し、更にその肉を抉る。

「スレッジ――インパクト――ッ!!!!」

 ロイドが叫ぶのと同時に、右腕の機械腕は爆発した。魔蟲はもちろん、その腕をつけていたロイドも巻き込んで。

『ロイドさん!』

 爆風から吹き飛ばされるロイドの姿を見つけ、アッシュは駆け寄った。至近距離で爆発を受けた防護服はボロボロに千切れており、彼のトレードマークである仮面も割れてしまっている。右腕は完全に砕け散っており、その破片の一部が肉に突き刺さっていた。

「くっそ、頭の野郎……物騒なもん使わせやがって……」
『良かった。悪態がつけるなら、まだ元気ですね』
「んな訳ねぇだろ、アホかお前は……アレはどうなった?」
『死んだんじゃないですかね』

 そう言って、アッシュは魔蟲の方へ顔を向ける。もうもうと煙に包まれるそれが、身動ぎする様子は見られない。そしてその周囲には、砕けた甲殻の破片が転がっている。

『流石に、戦車が壊れる程の火力には耐えられなかったみたいですね』
「そうか……」
『あ、安心するのは速いですよ。まだムカイが残ってます』
「……そうだったな」

 ため息をつきそうになったロイドは、アッシュの言葉で気を入れ直す。ボロボロの身体を起こし、樹上から見下ろす狂科学者へと目を向けた。

948akiyakan:2013/09/04(水) 11:06:27
「なかなか手強かったぜ、お宅の秘密兵器。だが、これで残すはお前だけだ」
「…………」
「今度こそ、その首を貰うぜ」

 あえて腕の無い、右腕の方を向け、ロイドが言う。それをムカイは感情の無い眼差しで見ていたが――

「……ははっ」

 ――不意に口元を歪め、二人を蔑むように嗤った。その様子に、ロイドもアッシュも眉を顰める。

「何が可笑しい?」
「はっはっはっは……いえいえ、貴方達の愚鈍さと滑稽さが、ですよ」
「何……」
「まさか――まさか本気で、私の可愛い魔蟲を倒したとでも思っているのですか? 自信過剰も甚だしい!」
「な――」

 反射的に、二人は後ろを振り返っていた。もうもうと立ち込める煙が、少しずつ晴れていく。そして、月光の中で露わになったのは――

『な……』
「抜け……殻……!?」

 そこにあったのは、魔蟲のシルエットをした巨大な物体だった。薄い外皮だけの空蝉。中身の入っていない文字通りの抜け殻だ。それはロイド達の攻撃で著しく破損していたが、その中にある筈の本体の姿はどこにも無い。

『ッ――!? ロイドさん、伏せて!!』

 アッシュがそう叫ぶのと、横薙ぎの一撃が二人を襲うのはほとんど同じタイミングだった。アッシュはロイドの盾になるように立っていたが、攻撃は二人を巻き込んで吹き飛ばす。麒麟の加護を受けて強固になっている筈のバイコーンヘッドに、亀裂が走った。

『が――はっ!?」
「ぐうっ!?」

 ロイドの身体は地面を転がり、その延長線上にあった木の根元にぶつかる形で停止した。歯を食いしばって何とか意識を留めると、視界の端にアッシュの姿が見えた。身動ぎする様子は無い。

「アッシュ! おいアッシュ! 返事しろ!」

 応答は無い。装着しているバイコーンヘッドは装甲部分が砕けており、基盤が剥き出しになって火花を上げている。瞳は閉じられ、ロイドのいる場所からでは生きているのか死んでいるのか、分からなかった。

「ぐあっ!?」

 頭上から聞こえた声に顔を上げる。全身を糸に巻かれたイマが、重力に引かれて墜落していくのが見えた。

「あの男の部下である割に、どいつもこいつも想像力が足りませんね」

 地に伏す千年王国の面々を見下ろしながら、ムカイは心底つまらなそうな口調で吐き捨てた。

「弱い……弱過ぎる。いや、違うか。私の作った蟲が強過ぎると言うだけの話か。哀れだな。鳳凰の眷属ともあろうものが、蟲に踏み潰されるとは!」

 地響きを立てながら、宵闇の中から魔蟲が姿を現す――無傷だ。全く、微塵程も傷付いていない。抜け殻を使ってあの一斉攻撃をかわしたとは言え、それでもいくつかは命中した筈だ。しかし、傷は無い――攻撃が効いていない!

「どうした? 蟲だぞ、たかが一匹の虫けらだぞ? お前達が馬鹿にした、蟲だぞぉッ!!」
「う……ぐ……」
「ははははははっ!! 己の無力さを噛み締めて死んでいけぇ!!」

 狂喜の哄笑が響く中、ロイド達の下へと魔蟲がにじり寄っていく。そんな事しなくても、その能力を持ってすれば満身創痍の彼らを駆逐する事など容易い筈だ。しかし、魔蟲はそうしない。

 まるで主の意思を理解している様に、

「ぐあっ!!」

 ゆっくりと、

「きゃあっ!!」

 ゆっくりと、

「うあっ……」

 まるで真綿で首を絞めるような緩慢さで、彼らを蹂躙していく。力の差はもう歴然でありながら、決着はもうついたにも関わらず、ムカイの、己を力を誇示するように魔蟲は嬲り殺しにしていく。

949akiyakan:2013/09/04(水) 11:06:59
「ぜぇ……ぜぇ……」

 もう誰にも、立ち上がる気力さえ残ってはいない。全身傷だらけであり、気力も体力も根こそぎ奪われている。もう死んでいるのか生きているのか、判別もつかないような有り様だった。

「ふっ、他愛も無い」
「ぐっ……」

 倒れているロイドの顔面を、ムカイは踏みつけた。苦痛と怒りに表情を歪めながら、ロイドは睨みつける。

「貴方、さっきから威勢よく言ってましたよね? 次はお前の番だ、だとか、その首を貰うだとか。ほら、もう一度言って見てくださいよ、ホラ!」
「うっ……ぐっ……」

 何度もムカイはロイドの顔を踏みつけ、その身体を蹴りつけた。身体を動かす程の力がもう残っていないのか、それともささやかな抵抗なのか、ロイドはそれを防御せずに受け続ける。

「はぁ……つまらない。もういいですよ、アバベルゼ」

 ムカイが脇に退く。ロイドの顔は腫れ上がり、鼻や口から血が零れていた。

「殺しなさい。皆殺しです」

 魔蟲の影が、ロイドの上に覆い被さる。彼を助けられる者は誰も、この場にいない。

 蟲が右腕の鎌を振り上げる。自分の最後を覚悟し、ロイドは目を瞑った。

(……俺の命はここまでか)

 死の瞬間、ロイドが想ったのは失われた自分の記憶。死ぬ前までに取り戻す事が出来なかった事、それだけが心の残りだと、彼は無念そうに思う。

 大気を切り裂きながら、巨大な大鎌が迫る。あの威力なら、首と言わず胴体毎もって行ってくれる事だろう。

 恐怖は――無い。諦観にも似た覚悟が、ロイドに心の安定を与えていた。

「…………?」

 だが、何時まで経っても魔蟲の鎌は、ロイドの首を刎ねる事は無かった。先程と同じで、また焦らしているのだろうか。勘弁してくれ、とロイドは思う。こちらはもう覚悟出来ているのだから、ここに来て出し惜しみは美しくない。

「――〜〜!!!」

 ムカイが何かを言っている、ような気がする。蹴られたせいか、周りの音がうまく拾えない。耳からでは、何が起きているのか感じ取れなかった。

 意を決して、ゆっくりと瞼を開けた。

 そして、そこに広がっていた光景に、息を呑んだ。

「――――っ」
「何だ、一体何が起きた!?」

 ムカイが困惑の声を上げる。
 魔蟲が、悲鳴にも似た奇声を上げている。

「何なんだ、こいつは!?」

 魔蟲を押さえ込む、巨大な影が存在していた。大きさで比べれば、魔蟲とはずっと小さい。しかしその影は、魔蟲の膂力を大きく上回り、その巨体を力づくで押さえ込んでいる。

「う――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
『W――WOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!』

 巨大な龍の咆哮と、それに重なるように少年の雄叫びが辺りに響き渡る。

 そう、それは――

「は、花丸……」

 赤色の装甲、巨大な力の象徴である竜を模した姿。鳳凰の眷属が生み出した強大なドラゴンが、バイオレンスドラゴンが、そこに在った。



 ≪蠱毒の皿の上で・後編≫



(なるほど、確かに魔蟲は最強なのかもしれない)

(しかし、皿の上における最強とは、同時に井の中の蛙と同義である)

(ここに現れたるは、こことは異なる皿より生まれし最強の存在)

(今こそ、どちらがより優れているかを決めようではないか)

 ――to be Conthinued

※十字メシアさんより「リキ」、「魎」、「レンコ」、「ブラン」、「エレクタ」、鶯色さんより「イマ」、えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ジングウ」、「サヨリ(企画キャラ)」、「AS2」、「ロイド」、「ムカイ・コクジュ」です。

950akiyakan:2013/09/06(金) 18:44:07
 時間を遡る事、数十分前――

「――何時まで、そうしているつもりですか」

 部屋の入り口に立ち、その中に向かってジングウは言った。

 部屋の中にあるのは、ハンガーに固定されたバイオレンスドラゴンだ。明かりの無い薄闇の中で、それは物言わず彫像の様に、そこに立っている。

「…………」
「戦況は分かっている筈です。聞いて、理解している筈です」

 部屋の隅にはスピーカーがあり、そこから音が聞こえて来る。彼らがいる場所から少し離れた場所で行われている、ムカイと千年王国との戦いの音だ。

「貴方が戦わなければ、皆が死んでしまいます。貴方は、それでもいいのですか?」
「……何で、僕なんですか」

 薄闇の中から返事がした。バイオレンスドラゴンの足元で、何かが動いた様な気がした。

「ジングウさんが行けばいいじゃないですか……ジングウさんの方が、僕の何倍も強いじゃないですか……」
「ええ、そうですね。私は確かに、貴方より強い」
「だったら――」
「でも、バイオレンスドラゴンを動かせるのは貴方だけだ」
「…………っ」
「魔蟲は強い。私の能力では、おそらく倒す事は出来ないでしょう。仮に魔蟲を倒せたとしても、後にはまだムカイのバイオアーマーが控えています。彼らを破れるのはバイオレンスドラゴンだけであり、それを動かせる貴方だけなんです」
「……僕じゃ、無理ですよ……」

 涙声だった。ぐすっ、と鼻をすする音も聞こえる。

「一人で戦う事も出来ない。バイオレンスドラゴンをうまく操る事も出来ない。僕じゃ、戦っても勝てませんよ……」
「いいえ。この戦いに勝てるのは貴方だけです」
「何でなんですか……何でジングウさんは、僕に戦う事を強要するんですか……」

 しばらくの間、すすり泣く声が室内に響く。

「僕みたいな弱い人間に戦わせて、貴方は何がしたいんですか……」
「……私にはこの世で一番許せない事が、一つだけあります」
「…………?」
「それは、優れた才能を持っているにも関わらず、それを腐らせて終わる人間です」

 静かな、それでいてはっきりとした口調で、ジングウは言い放った。

「戦う才能を持つにも関わらず、戦おうとしない者。学ぶ才能を持つにも関わらず、学ぼうとしない者。他者を助ける才能を持つにも関わらず、その様に生きない者……そう言った「怠け者」が、私は一番大嫌いだ。輝く宝石をその身に宿らせていながら、その価値に気付く事も無く死んでいく愚か者共が、私は一番許せない」
「……ジングウさんは、僕に戦う才能があるって言うんですか……? だから僕に、戦えって言うんですか……?」
「いいえ。残念ながら、貴方には戦う才能は無い――ですが、それとは別の才能があります」
「別の……才能……?」

 薄闇の中で、バイオレンスドラゴンの足元にいる者が、顔を上げたような気がした。

「思い出しなさい、花丸さん。貴方の才能を。貴方の異能を。貴方が生まれ持った、貴方だけの、誰にも負けないたった一つのチカラを」



 ≪キミだけの力≫



「僕だけの……チカラ……」

(薄闇の中で、花丸は自分の手を見る)

(脳裏に浮かぶのは、ミツが言い掛けていたあの言葉)

(それはまだ分からないが、)

(しかし、自分が戦えばみんなが助かるのなら)

(だったらもう一度、勇気を振り絞ってみようと思った)

※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ジングウ」です。

951akiyakan:2013/09/06(金) 18:44:37
「う――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
『W――Ooooooooooooooooo!!!!!!!!』

 バイオレンスドラゴンが、花丸が雄叫びを上げる。掴まれた魔蟲の両腕部が、ミチミチと音を立てながら引き千切られていく。

「GYAaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 魔蟲が奇声を上げる。それは悲鳴にも似た声だった。そうはさせまいとするように、魔蟲は胴体から伸びた大クワガタの顎で、ドラゴンの身体を押さえ付ける。

「く――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 しかし、それも抵抗らしい抵抗にならずに終わる。ドラゴンが魔蟲の両腕から手を離し、大あごを掴んで力を込める。バキリ、と言う骨の折れた様な音が聞こえた。まるで割り箸でもへし折るような容易さだった。

「GyAaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 魔蟲の両腕に備わった刃が、バイオレンスドラゴンへと襲い掛かる――かわせない! 二つの刃はバイオレンスドラゴンの両肩を切り裂き、食い込んだ。

「Gi――!?」

 しかし、そこまでだった。食い込んだ刃が動かない。魔蟲が引き抜こうと力を込めても、それは微動だ一つしない。盛り上がったドラゴンの筋肉が、刃を絡め取って押さえ込んでいる。

「――捕まえた」

 魔蟲の目の前で、ギラリとバイオレンスドラゴンの眼が輝く。その瞬間、本来は感情を持たない筈の魔蟲が、まるで恐怖に驚くようにのけ反った。

 右アッパー。魔蟲の頭部を捉え、下から粉々に打ち砕いた。

 続けてボディーブロー。魔蟲の身体の中でもっとも柔らかい腹部を打ち据え、炸裂した威力が内臓を破裂させる。

 力にだけ頼る者は、より強大な力によって滅ぼされる。

 まさしく、その通りと言うべきか。

 千年王国が束になって勝てなかった魔蟲が、更に強大な力を持つバイオレンスドラゴンによって成す術も無く蹂躙されていく。その光景を、周りの者はただ茫然と見つめていた。 

「はぁ……はぁ……」

 コクピットの中から、花丸は魔蟲を見下ろしていた。

 見るも無残な有り様だった。ほとんど無抵抗に殴られ続け、その全身はぐちゃぐちゃに潰れている。装甲こそ形を留めているが、外部から受けた威力を軽減しきれず、内蔵は完全に潰れてしまっている。

「う――うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 堪えきれず、花丸は嘔吐していた。バイオレンスドラゴンの体液に満たされたコクピット内に、黄色い吐瀉物が漂う。

「ぜぇ……ぜぇ……」

952akiyakan:2013/09/06(金) 18:45:10
 酷い。非道い。ヒドイ。

 ここが戦場。これが、戦うと言う事。

 お互いの生死を賭けて戦う、惨たらしく、不条理で、無慈悲な世界。

 ああ、確かに、花丸は戦う事には向いていない。

 なぜなら、彼は他の命を奪う覚悟が無い。魔蟲を殺したのだって、不本意に違いないだろう。それを止める方法が殺す以外に無かっただけであり、もし殺さずに動きを止められたのであれば、そちらを選んでいたであろう。確かに彼には、ジングウの言う通り、戦う才能は無かった。

「――アバベルゼ、ファイナルモード」
「!?」

 ドラゴンの聴覚が、その声を捉えた。瞬間、ドラゴンの足元に倒れている魔蟲の死骸が起き上がった。花丸が驚くのにも構わず、それはドラゴンの身体に絡み付く。

「魔蟲の体内熱量が増大している――!?」

 ドラゴンの全身に絡み付いた魔蟲の身体が、赤く発熱し、煙を上げ始めた。それがただならぬ事であるのだと、誰が見ても気付けただろう。もっと詳しい者が見ていれば、それがいわゆる「自爆モード」であった事も。

 魔蟲の身体は、ドラゴンの関節部分を狙って絡み付いている。力づくで振り解こうとするが、間に合わない。

「せめて、みんなを巻き込まないようにしないと……」

 無理矢理翼を展開し、ドラゴンの身体を空へと運ぶ。だが、絡み付いた魔蟲のせいで、うまくバランスを取る事が出来ない。五十メートル程飛行したところでコントロールを失い、墜落するように森の中へと落ちる。巨体が地面の上を滑り、木々を薙ぎ倒しながら停止した。

 その、次の瞬間、

 爆発と閃光が、バイオレンスドラゴンを包み込んだ。

 ――・――・――

『……ほう。あの爆発に耐え切れたのか』

 クレーター状に抉れた爆心地に降り立つと、その中心に彫像の様に立つバイオレンスドラゴンを見てムカイは少し驚く様に呟いた。

『溶鉱炉を生み出す位の熱量は与えていた筈なんだが……』

 ムカイの言葉を裏付けるように、クレーター内はそこに存在していたすべてのモノが焼き尽くされていた。木は炭と化し、土は融解して赤くなっている。大気は高温と化し、ゆうに百度は超えていた。まさしく、魔蟲の最後の咆哮が生み出した、死の世界だった。

『だが、如何に外側が頑丈とは言っても、中身までは果たして無事でいられるかな?』

 バイオアーマーを纏ったムカイが、灼熱の中を歩いて行く。それに対して、ドラゴンは立ち尽くしたまま動かない。

『……ふん、死んだか』

 マスクの下で、ムカイは嘲笑を浮かべた。

 だが、

『う……』

 微かであるが、声が聞こえた。若い、少年の声が。強化装甲服特有の、くぐもった声だ。

953akiyakan:2013/09/06(金) 18:45:40
『ほう、まだ息があったか』
『ム……カイ……コクジュ……』
『あの時の少年が、まさかこんな物を纏って現れるとはな。それ程、私に敗れたのが悔しかったか?』
『…………』
『それとも、DSX‐001の仇でも取るつもりか』

 バイオレンスドラゴンを前にして、ムカイには余裕があった。魔蟲を苦も無く屠る姿を彼も見ていた筈であろうが、しかし今のドラゴンから先程までの覇気を感じない。彼の言うように、外装は無事でも、パイロットである花丸が受けた衝撃はとてつもなかった筈だ。これならば自分のバイオアーマーでも倒せる。こう確信しての事だ。

『な……で……』
『ん?』
『何で……こんな、事を……』
『…………?』

 花丸の言葉の意味が分からず、ムカイは首を傾げる。マスクの下にある表情は、「こいつは一体何を言っているんだ?」と小馬鹿にしてすらいた。

『貴方には、聞こえないんですか……この子達の声が……痛い、痛いって、言ってるのに……みんな、熱い熱いって言いながら死んでいったのに……それなのに……』
『……聞こえませんね、そんな声』
『…………!』
『この蟲達は皆、私の作品です。私が生み出した。言うなれば私は、彼らの創造主です。創造物が創造主に従うのは、当然の事でしょう』
『……貴方には聞こえないのか……この子達の声が。蟲達の声が、叫びが、嘆きが、苦悶が! 貴方は誰よりも、この子達の傍にいるのにっ!!』
『生物兵器は生き物ではなく道具です。貴方だって「使っている側」の人間でしょう? 何をそんな、偽善者の様に……』
『……違う』

 花丸の胸に、燃えるモノがあった。自分にもまだ、こんなモノがあったんだと驚く程の熱さ。今、花丸にもはっきりと認識出来た。

 目の前の男は敵である。そして、自分にとって見紛う事の無い『悪』なのだと。

『違う、それは違う! 生物兵器だって生き物だ! 兵器として生まれただけで、生き物に違いは無い!』
『だからどうした。結局のところ、命を玩んでいる事に変わりはないではないか』
『違う! 貴方と僕らは全然違う。だって――貴方は命に、これっぽっちも敬意を払っていないじゃないか!』

 花丸は知っている。

 確かにジングウは、命を自由に生み出して作り変えてしまう。そうやって彼は今まで、いくつもの生物兵器を生み出してきた。色んな命を、玩んできた。

 だが彼は、何時だってそうやって生まれてきた命を一つだって軽んじる事は無かった。生きている命を、「生きている」と言う事実を、彼は大切にしていた。

 花丸だってそうだ。

 彼は生物兵器に限らず、どんな生き物とも友達でありたいと接していた。目の前の生き物が、ただの道具などと一度だって思った事が無かった。

 そうじゃなければ、デルヴァイ・ツァロストが破壊された時だって、フェンリルが傷付いた時だって――コハナがいなくなった時だって、悲しんだりなどしない。涙を流したりなどしない。

『敬意……敬意、だと? くく、くはははははははは!!! そんなものを、一体どうして払うと言うのだ! たかが道具に、たかが手足に!』

 花丸の言葉を、ムカイは鼻で嗤った。

 彼にしてみれば当然だ。昆虫型生物兵器の最大の特徴は、その量産性の高さである。「その気になればいくらでも生み出せる命」に、一体どうして敬意を払えると言うのだろう。

『大量に生み出し、大量に消費する! 使い捨ての道具にいちいち敬意など払えるか!』
『…………――ッ!!!!』

 許せない。許してはいけない。

 この男の思想を。この男の所業(おこない)を。この男の在り方を。自分は絶対に許容出来ない。

 この男はここで、絶対に倒す。

『貴方は――僕が倒す!』

 バイオレンスドラゴンの眼に光が宿る。赤い輝きはまるで、花丸の激情を映すかのようだ。

『勝負だ、ムカイ・コクジュッ!!』
『良いだろう! 私の最高傑作で相手をしてやる! 君も出来そこないの人形と同じ運命を辿るが良い!』



 ≪D×D≫



(対峙する一対の、)

(装甲と装甲)

(意思と意志)

(人造魔と人造竜)

(勝つのは、虐げられた者の野望か、)

(それとも、すべてを奪われた者の願いか)

 ――to be Conthinued

※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ムカイ・コクジュ」です。

954akiyakan:2013/09/16(月) 18:47:25
『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 バイオレンスドラゴンが右の拳を振り上げ、目の前のムカイ目掛けて拳を叩き付ける。向かって来る拳を前に、ムカイは両手を組んだまま動かない。

 拳は、ムカイのいた所に命中した。だが、手ごたえは全く無い。

『なるほど、パワーはなかなかですが……遅いですね』

 声は、すぐ横から聞こえてきた。ムカイはまるで、公園のベンチに腰掛けるような気楽さで、ドラゴンの左肩に乗っていた。

『く――っ』
『遅い』

 花丸が振り返る時には、もうムカイの姿はそこに無い。彼の姿は、花丸から十メートル程離れた場所にあった。

(速い……全然見えない……!)

 超音速。あのミツですらその動きを捉えられず、成す術も無く倒された技を前に、花丸は冷や汗を浮かべた。バイオレンスドラゴンを装着しても、その動きの端すら感じ取る事もままならない。

 生身の花丸だったら、何が起きたのか分からず死んでいただろう。バイオレンスドラゴンの装甲なら、いくらムカイのバイオアーマーとは言え――

『おっと? 痛覚の反応まで鈍いのか?』
『え?』

 一体何の事か、花丸には分からなかった。だが次の瞬間、嫌でも理解させられた。

『あ――がっ!?!?!?!?!?!?』

 左肩に激痛が走る。何本もの血管がナタで一振りにブツ切りされたような痛みが、一気に花丸を襲ってきた。それと共に、ドラゴンの左腕が肩から丸ごと地面に落ちる。機体と一体化する構造であるが故に、機体が負った痛みがそのまま搭乗者にもフィードバックされる。

955akiyakan:2013/09/16(月) 18:47:55
『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』
『ド、ドラゴンの装甲を、こうも容易く……!?』

 魔蟲の大鎌ですらまともなダメージにならなかったと言うのに、切られた瞬間を知覚すらさせない鋭さと、龍の装甲を切り裂く切れ味に戦慄する。魔蟲よりもずっと小さい筈なのに、花丸が抱いた恐怖感はそれ以上だった。

『超振動と言うやつだ。チェーンソーの強化版とでも言えば、君にも分かりやすいかな?』

 そう言いながら、ムカイは自分の右腕を掲げる。よく見なければ分からない程であるが、細かく、そして高速で振動しているのが分かる。原理としては、ロイドの大爪の機械腕と同じだ。だが、破壊力がそれとはケタ違い過ぎる。

(接近されたら勝ち目が無い……!)

 距離を置いての遠距離戦闘。それが得策と感じた花丸は、素早く使用する武装を選択した。

『くらえ!』

 ドラゴンの口から、帯状の火炎が吐き出される。圧縮された熱量の塊であるそれは、もはや光線と言っても差し支えないだろう。大気を焼きながら、ムカイ目掛けて炎が迫る。

『……ふん』

 だが、ムカイは背中から生えた羽を少し羽ばたかせるだけで、一瞬の内にその場から移動する。やはり花丸は、それを目で追う事は出来ない。

『まだまだ!』

 それでも花丸は、ムカイを追いかけるように火炎を放ち続ける。ムカイが逃げても逃げても、彼は諦める事無くそれを追い続けた。

『しつこいですよ』
『うぐっ!?』

 何かが通り抜けて行った直後、右肩に鋭い痛みが走った。おそらくは、ムカイが切りつけていったのだろう。それでも花丸は、止まらない。ただがむしゃらに、周囲に火炎を撒き散らす。

 そうやっている内に、炎は周囲に燃え広がり、辺りを包み込む火の海と化した。

『はぁ……はぁ……』
『これでもう終わりですか?』

 ムカイの声が聞こえる。だが、辺り一面が炎に包まれている為に、その姿はどこにあるのか分からない。右から聞こえて来るようでもあるし、すぐ後ろから聞こえて来るようでもある。

『まさか、周囲を炎で包み込めば、私を焼き殺せるとでも思っているのですか?』
『はぁ……はぁ……』
『残念ですが、私のバイオアーマーに隙はありません。この程度の炎なら十分に耐えられる』
『はぁっ………………』
『出し物は終わりですか? それなら、この一撃で仕留めてあげましょう!!』

 ムカイが動いた。発生した衝撃波が炎の壁を吹き飛ばし、弾丸の様なスピードで向かって来る。

 右手は手刀の形を造っている。それは真実、刃と化し、バイオレンスドラゴンの身体ごと花丸の身体を貫く――

 ――筈、であった。

『……何?』

 突き出された手刀。しかしそれは空を切り、虚空に向かって伸ばされるのみ。すぐ傍にドラゴンの身体があるが、後数センチ、紙一重の差で命中していない。

『外した……だと?』

 再び炎の中に身を飛び込ませながら、ムカイは首を傾げる。狙いが甘かったのだろうか。

『……ふむ。ですが、次は当てます』

 揺らめく炎のせいで視界は悪いが、しかしムカイの目、と言うより、バイオアーマーに備わった複眼が対象を捉える。無数の眼を用いた多重照準。加えて、バイオレンスドラゴンの巨体は、この炎の中でも見落としようがない。

 再び全身を鋭利な弾丸と化し、ムカイは炎の中から飛び出す。そして照準を定めた事もあり、今度は外す事無くその右腕は確かに貫いた。

956akiyakan:2013/09/16(月) 18:48:28
 バイオレンスドラゴンの、「右の掌を」、だ。

『な――!?』

 驚愕に、ムカイは目を見開いた。

 有り得ない。こんな事が起きる事など、有り得ない。

 狙いは正確であり、自分の攻撃は超音速。向こうはこちらの姿が見えておらず、仮に居場所がバレていたとしても、マッハで向かって来る攻撃に対応出来る筈が無い。

 なのに――

『捕まえ――たッ!!』

 右手に突き刺さった腕ごと、花丸はムカイの身体を鷲掴みにした。ムカイは逃げようともがくが、いかんせん膂力が違う。速度で勝っていても、パワーにおいてはバイオレンスドラゴンの方が上である。

 花丸が一体何のために周囲を火の海にしたのか。それは、高速で動くムカイを捉える為だ。

 助走無しからのトップギア。音さえ置き去りにする超音速。確かにムカイのバイオアーマーの能力は脅威だ。しかし、どれだけ高速で移動出来たとしても、その身体が物質で構成されている以上――地球上の物理法則からは逃れられない。

 音速を突破する時に発生する、空気の壁を破る事で生じるソニックブーム。それはどうしたって発生する。花丸が作りだした炎のフィールドは、ムカイを焼く事が目的なのではない。ムカイが彼の命を狙って向かって来る、その瞬間に発生する空気や炎の揺らぎ。それによってムカイの行動を感知する為の網であり、レーダーだったのだ。

 だがこれは、理論上可能なだけであり、実際に行うのは不可能だ。相手の予備動作が見えるとはいえ、それでも向かって来る攻撃は超音速。死ぬ確率が100%から95%程度にまで減っただけに過ぎない。

 それでも花丸は、生き残る5%をもぎ取った。まぐれでは決してない。ある意味でそれは、確率こそ5%でしかないが、当然の結果であると言えた。バイオドレスを扱う為に鍛えて来た花丸だからこそ、これまで懸命に積み重ねて来た彼だからこそ、僅かな勝機を手にする事に成功したのだ!

『GAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!』

 ドラゴンが雄叫びを上げながら、ムカイの身体を地面に叩き付けた。地面が砕けて隆起し、拳が地面にめり込む。

『が――はっ!?』
『まだまだッ!!』

 何度も何度も、花丸はムカイの身体を地面に叩き付けた。衝撃でドラゴンの腕の骨や軋み、皮や肉が抉れるのも構わない。痛みで拳が焼け付くが、それも気にしない。ただひたすらに、彼はムカイを地面に打ち付ける。

『図に乗るなよ……!』
『ぐっ!?』

 掌に激痛が走り、花丸は思わずドラゴンの手を放してしまう。右手で掴んでいたムカイの姿はそこには無く、それを握り締めていた指はバラバラに切り落とされていた。

『ぜぇ……ぜぇ……』

 クレーターの外側に立っている、まだ無事な木の上にムカイは姿を現した。花丸の攻撃は確実に効いており、装甲の所々がえぐれて黄色い体液を滴らせている。

 魔蟲とは違う。当たれば倒す事が出来る。花丸の攻撃が効いているのが、その証明だ。

 だが一歩。後一歩足りない。

『残念だったな』

 苦しげな、しかし余裕のあるムカイの声。口端を歪めて笑っている姿すら思い浮かびそうだ。バイオレンスドラゴンの圧倒的な暴力を受けても、彼は無事だった。

『く……』
『君は頑張った。実に頑張ったよ……だが届かない。届かなかった。それが何故か分かるか?』
『…………』
『実にシンプルな答えだよ、花丸……君よりも! 君達よりも! 私の方が優れているからだ!』

 ムカイが両腕を広げる。その直後に、彼が纏うバイオアーマーの前面装甲が開いていく。無数の光球がその下から覗き、次々に青白い光を放ちだす。

 忘れもしない。ミツごと花丸を消し去ろうとした、エネルギー砲だ。

『消え去るが良い! これが私の力だ――!!!!』

 バイオアーマーから放たれた、強烈な熱線。

 土を蒸発させ、鉄すら融解し、その熱源たる炎さえその形を維持できず、プラズマへと変貌してしまう超高熱。

 その時、周囲は真昼の様な明るさに包まれた。

 例え人工とは言え、ツヨヨミの闇では、アマテラスの輝きには勝てない。

 あらゆる生命体の存在を否定する光が、

 バイオレンスドラゴンを、

 花丸を、

 呑み込んだ――



 ≪Dead End≫



※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ムカイ・コクジュ」です。

957akiyakan:2013/09/16(月) 18:49:06
「う……こ、ここは……」

 気が付くと、花丸は「真っ白な」場所にいた。

 本当に、真っ白だ。まず地面が白い。地平線まで続く、平坦で変わり映えの無い無機質な白。建物も、木も、凹凸すらも無い徹底的な平坦さが、そこには存在していた。

 もちろん、空も白い。見上げるとそこには、果てしなく続く「白」が存在していた。その無機質さ故に、ここが白い天井を持つドームに包まれているのだと錯覚してしまう。

「……ああ、そうだ。僕は死んだんだ」

 自分の両手を見つめ、花丸はポツリと、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

 最後の瞬間を、彼は思い出す。ムカイの放った光線が視界を埋め尽くした、その瞬間を。

 あれだけの熱量だ。きっと自分は、熱いと思う暇も与えられず、物質としては骨すら残らずこの世から消え去った。

「……ついに僕は、自分の肉体すら奪われたのか」

 そう言って、自嘲気味に、自虐的に彼は笑った。

 ああ、そうだ。これが持たざる者の末路。届かぬ光に胸を躍らせ、身に余る願いを抱いた事の結果。

 やはり自分では、届かないのだ――届かなかったのだ。

「はは……はははははは……」

 怒りも無い。悲しみも無い。憎しみも、涙も。ただ胸に空いた空しさだけが、彼に残された唯一のものだった。

 ――だって死んでしまったら、何も意味は無い。

「――?」

 その時彼は、何かが自分の背後に現れたのを感じた。振り返ると、巨大な異様が自分を見下ろしていた。

「……ああ、そうだね。僕が死んだんだから、お前もここにいて当然か」

 赤色の装甲。空を覆い隠すかのような一対の翼。大蛇よりも太い尾。地を踏みしめる強靭な足と、敵を薙ぎ倒す強大な腕。

 幻想のドラゴンか、或いは恐竜の末裔を模したかのような怪物――バイオレンス・ドラゴン。

 それは花丸を静かに見つめていた。

「君の事は、最後まで好きになれなかったよ。この前よりはマシだったけど、全然言う事聞いてくれないし」
『…………』
「まぁ、仮にレスポンスが万全でも……僕は彼に勝てなかったんだろうな……」

 ムカイの生み出したバイオアーマー。その性能を、その力を、まざまざと見せつけられた。圧倒的とは、ああ言うモノを言うのだろう。「もしも機体の自由が利いていたら」。そんなIFを考えさせる気も起こさない程の力量差だった。

 花丸は善戦した。自由の利かない機体と言う枷を引き摺りながら、それでも彼は懸命に戦った。戦い抜いた。その結果、誰も傷すら入れられなかったムカイ・コクジュに手傷を負わせる事が出来た。

 だけど、その結果が一体何になる。一体何になると言う。

 花丸は敗れ、死んだ。死んでしまったら、何も残らない。

 誰も傷付けられないムカイに傷を負わせた。確かに花丸にはそれが出来た。だが、そこまでだった。それでも彼は、結局ムカイに敗れたのだ。

 ムカイが生きて勝ち、花丸は死んで敗れた。

 彼は、届かなかったのだ。

「…………ははは、無様だね……」

 いまさら悔しさから涙が出て来た。もう死んでしまって、この感情にも何の意味は無い筈なのに。自己満足にすらならないのに。それでも熱い感情が、自分の中から込み上げてくる。後から後から出てきて、止まらない。

「嫌だよ……このまま死ぬなんて……嫌だよぅ……悔しいよぅ……」

958akiyakan:2013/09/16(月) 18:49:43
 悔しくて悔しくて、仕方が無い。こんなにも自分に勝利を渇望する気持ちがあるなんて、と花丸自身が驚いている。否、それは正確ではない。

 自分は、あの男には、ムカイ・コクジュにだけは、「負けたくない」のだ。

 彼の行いを、思想を、在り方を。許せないのだ、認められないのだ、否定してやりたいのだ。

「うぅ……ひっぐ……えぐっ……?」

 気が付くと、ドラゴンの頭が低い位置にあった。花丸が手を伸ばせば届く高さだ。その眼差しは、一つの意思を持って訴えてくる。

 ――力が欲しいか、と。

「……ははは、」

 こいつは凄いな、と花丸は心から思った。

 もう死んでしまったのだ。もうここで終わりなのだ。それなのに目の前の獣は、まだ諦めていない。

 獣だから終わりが分からないのだろうか。否、それは逆だ。終わりを「認められない」のは何時だって人間だ。本能で生きているからこそ、余計な雑念を持たないからこそ、獣は純粋だ。己が終わりを理解すれば大人しく果て、まだ生きられるならば最後の瞬間まで生きる。

 花丸は諦めた――勝てないから。

 だがドラゴンは諦めていない――まだ戦えるから。

「何でこんなにも――僕の周りにいる人達は眩しいんだろう……」

 周りはこんなにも強くて、

 周りはこんなにも輝いていて、

 そして自分はこんなにも弱い。

 ああ、いや。

 自分はこんなにも弱くて、

 自分はこんなにも濁(くす)んでいるから、

 だからこそ、力が欲しくて、光が欲しくて、憧れたのだ。

「……いいよ、持って行け」

 そう言って、花丸は両手を広げた。死んで、敗北者となった自分に残された最後の魂(モノ)を、彼は曝け出した。

959akiyakan:2013/09/16(月) 18:50:14
「お前なら勝てるよ、きっと。だから、僕のすべてをくれてやる。こんなモノで良ければ、いくらでも」

 だから勝て、僕の代わりに。

 自分では勝利者にはなれない。しかし、他の誰かの為の礎にならばなれる。

 ああ、そうか。きっとミツも、死に際はこんな気持ちだったのだろう。

 自分の死の後を、残された花丸(もの)に託して――

 花丸の言葉に応えるように、バイオレンスドラゴンは大きく口を空けた。大人でも丸呑みに出来そうな位に大きく、小柄な花丸など造作も無いだろう。

(さようなら)

 心の中で、別れの言葉を贈る。

 敬愛する、仲間達へ。親愛なる、友人達へ。

 そして、花丸と言う存在は完全に消滅した――


















「え……」

 ――筈、だった。

 信じられない事が、彼の目の前で起きていた。

 バイオレンスドラゴンは、花丸を呑み込もうとした。それは間違いない。だが花丸が呑み込まれようとしたその瞬間に、ドラゴンの動きを阻んだものがあった。

 それは白い大蛇だった。バイオレンスドラゴンにも負けない位巨大な大蛇が、その巨体に巻き付いて動きを封じている。ドラゴンは花丸に向かって口を開けているが、それ以上身体が動いていない。

「うわっ!?」

 やがて、バイオレンスドラゴンの巨体が倒れた。ドラゴンは動かない。代わりに、その身体の上を滑りながら、花丸に向かって大蛇が近付いて来た。

 顔が近付いてくる。花丸は、大蛇の眼に映る自分の姿が見えた。ドラゴンに食われるのではなく、この蛇に食われる。そう、本気で思った。

 大蛇は花丸のすぐ傍まで顔を近付け――ちろり、と花丸の頬を舐めた。

「……え?」

 思わず、きょとんと花丸は大蛇を見上げた。大蛇の様子に、敵意も害意も感じられない。ただじっと、花丸を見つめている。

「……お前、まさか……」

 白い、蛇。花丸の脳裏に、一匹の蛇の姿が浮かんだ。いつでも一緒だった、しかし離れ離れになってしまった、大切な家族を。

「コ……ハナ?」

 半分の期待と、半分の不安。二つの感情が混じった様子で、恐る恐る呼びかける。すると大蛇は、その名を呼んでくれた事が嬉しかったかのように、花丸の身体に頭をこすりつけてきた。

「コハナ……コハナぁッ!!」

 力いっぱい、花丸は大蛇の頭に、コハナに抱き着いた。

「やっと会えた……会いたかった、会いたかったよぅ……」

 瞳から涙が溢れてくる。悲しみでも悔しさでもない、嬉し泣きの涙が、後から後から流れてくる。

「……だけど、何でそんな姿に……?」

 花丸が首を傾げる。するとコハナは首を持ち上げ、彼の後方へと視線を向けた。まるで、そこに立っている何者かを見るように。その視線に気付き、花丸が振り返ると、

「……え、」

 再び、コハナ同様に、会える筈の無い人物がそこにいた。

960akiyakan:2013/09/16(月) 18:50:47
「ミツ……さん?」

 肩口で切り揃えられた髪型。見る者の主観によって変化する、男とも女ともつかない中性的な顔立ち。もうこの世にはいない筈の「彼」は、微笑を浮かべながらそこに立っていた。

「……あ、そっか。僕らはもう死んでいるから、ミツさんがここにいてもおかしくないのか……」
「いいえ、花丸。ここは死後の世界ではありません」
「え。だって、僕はムカイに負けて、死んじゃったんじゃ……それに、ミツさんがここにいるじゃないですか」
「このミツは、ミツであってミツではありません。この世に残った、ミツとかつて呼ばれたモノの残響です」
「残……響……?」
「これはミツの未練です。貴方に伝えようとして伝えられなかった言葉を伝える為に、ミツの脳に残っていた残念であり、残響。時間が経てば消えていくだけの影です」

 ミツの言葉に、花丸の表情が見るからに曇った。

「……あの、こんな事を言うのもおかしいんですが、その……僕のせいで、すみませんでした……」
「気にしないでください。あの時は、あれが一番最良だったんです」
「だけどっ……! 僕にも戦う力があれば、もしかしたらミツさんは死なずに済んだかもしれない……それなのに……!」
「……花丸、貴方には戦う才能なんてありませんよ」
「!」

 ミツの言葉に、花丸はハッとなった。ジングウも言っていて、そしてミツも同じ事を言った。

 君には、戦う才能「は」無い。

「思い出してください。貴方の、本当の才能を」
「…………」

 自分の才能。自分だけの力。自分だけの異能。

 その言葉の意味を、しっかりと噛み締める。

 踵を返した花丸は、倒れているドラゴンの下へと歩み寄った。片膝をついてしゃがみ込み、ドラゴンの頭に手を当てる。

「バイオレンスドラゴン、お願いだ。僕の言う事を聞いて」
「君を操ろうだとか、使いこなそうだとか……それはただの傲慢だったよね。ごめん」
「僕に力を貸して」
「僕に力を分けて」
「僕に協力して欲しい」
「一人で戦うだとか、もうそんな事は言わない」
「僕はそうだ――何時だって誰かの力を借りて戦ってきたんだ」



 ≪RAINCARNATION・Ⅱ≫



(そして再び、花丸の視界を溢れるばかりの光が埋め尽くした)

(残響となったミツは、その光景を見届けると、満足そうに微笑んだ)

(役目を終えた残響は、光の奔流に呑まれて消え去った)

(時の流れが、過去の遺物を押し流すかのように)

(人造天使の残り香は、完全にこの世から消え去った)

※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ミツ」です。

961えて子:2013/09/19(木) 20:35:57
久しぶりの白い二人シリーズ。
ヒトリメさんから「コオリ」、サイコロさんから「桐山貴子」をお借りしました。


今日は「じゅうごや」なの。
でも、「ちゅうしゅうのめいげつ」でもあるんだって。
お月様がまん丸になる日なの。
とってもきれいなんだって。

コオリと読んだ本に、じゅうごやはおだんごを食べるって書いてあったの。
だから、おだんご作ることにしたの。

「でも、コオリ、おだんごのつくりかたしらないの」
「アオ、知ってるの」
「ほんと?」
「うん。白玉のおだんごなの」
「しらたまなの?」
「しらたまなの」

二人で白玉のおだんごを作ることにしたの
『しらたまだんごのこな』も手に入れたの。準備は大丈夫。

「どうやってつくるの?」
「こなとお水をまぜるのよ」
「まぜるの?」
「まぜるの」

おだんごのこなをボウルに入れて、お水を入れるの。
タカコにチョコレートの時「きちんとはかりなさい」って言われたけど、お水ってどのくらい入れるんだろう。

「ちょっとずついれればいいのよ」
「そうね」

コオリ、頭いい。
ちょっとずつお水を入れて、混ぜるの。
これで、どのくらいお水を入れるのか分からなくても、大丈夫。

「おみずとまざって、かたくなってきたの」
「そうしたら、こねるの」

耳たぶくらいのかたさがいいんだって。
アオもコオリも、耳たぶふにふにしてみた。

「このぐらいかなあ」
「このぐらいかなあ」

こねこねしおわったら、ぶちってちぎって丸めるの。

「丸くしたらちょっとだけ真ん中をおすのよ」
「おしちゃうの?どうして?」
「わかんない」

そういえば、せっかく丸めたのにどうしてつぶしちゃうのかしら。
ご本を読んだら、書いていないかな。

「たくさんできたね」
「うん、たくさんできた」

たくさんたくさんお団子できたの。
アオとコオリの作ったの、ちょっとずつ形が違うね。

「つぎはどうするの?」
「次はお湯でゆでるの」
「ゆでるの?でも、コオリたち、ひがつかえないわよ」
「使えないね」

お湯が使えないと、おだんごゆでられないの。
どうしよう。

962えて子:2013/09/19(木) 20:36:55

「あら、二人とも何してるの?」
「あ、タカコ」
「ようむいんのおねえさん」
「そうだ、タカコにお願いしよう」
「そうしよう」

タカコ、おとなのひとだもんね。
火も使えるの。

「?どうしたの?」
「あのね、おだんごゆでてほしいの」
「コオリたち、ひがつかえないの」
「お団子?ああ、今日十五夜だものね…いいわよ、どれかしら」
「これなの」
「あ、これね……………多っ!!!」

タカコ、固まっちゃった。
どうしたんだろう。

「……アオギリちゃん、コオリちゃん。もしかして、この粉全部使ったの…?」
「うん」
「うん」
「…………………」

タカコ、ボーっとしてる。
どうしちゃったんだろう。

「タカコ、どうしたの?」
「……え?あ、い、いや、何でもないわ。早くゆでちゃいましょうね」
「やったあ」
「おねえさん、ありがとう」
「ううん。……ただ、今度からは粉は必要な分だけ使うようにしてね」
「?どうして?」
「他の人が使うときに、なかったら困っちゃうからよ」
「「はあい」」

タカコがゆでると、たくさんのおだんごができたの。
お皿に入れて、あんこをのっけると、出来上がりなの。
タカコ、すごいなあ。

「はい、どうぞ」
「ありがとう、タカコ」
「ありがとうなの」

おだんごを持って、お外に行くの。
お空にまん丸のお月様。

「きれいだね」
「きれいだね」

じゅうごやは今日だけだけど、おだんごはたくさんあるの。
あとで、みんなにも食べてもらおうっと。


白い二人とおつきさま〜おだんご作るの巻〜


「うーさぎ、うさぎー」
「なにみてはねるー」
「「じゅうごやおーつきさーまー、みてはーーねーるー」」

963スゴロク:2013/09/24(火) 00:00:27
リアル事情がひとまず落ち着きました。1か月くらい覚悟してましたが、思ったよりスムーズに運んだのでよかったです。

というわけで、リハビリを兼ねて一本。



「もう、行くんですか?」
「ええ。お世話になりました」

ブラウ=デュンケルはその日、瀕死の自分を解放してくれた「守人」の家を辞していた。
乃木鳩 蛍、ハルキと名乗ったその二人は、ヴァイスの仕掛けに引っかかって死にかけていた自分を救ってくれたのだ。
恐らく奴はこのことを知らないだろうが、いつまでもここに留まっていては迷惑がかかる。何かの弾みで奴に捕捉されないとも限らないのだ。
帽子を被り直し、女性に一礼する。

「ついついご厚意に甘えて、長居をしてしまいましたが……やはり、俺がここに留まっていては、ご迷惑になるかと」
「迷惑だなんて……むしろ、こちらこそ大したことも出来ませんで」

女性はそういうが、ブラウにとってはなかなか得がたい時間だった。
かつてヴァイスに奪われ、二度と帰らない穏やかな時間。

(だが、だからこそ、俺がここにいてはならない)

妻も子供も失ったあの日、自分は全てを捨てて「ブラウ=デュンケル」になったのだ。
あの白き闇を追う、藍色の復讐者にて。

「蛍くんとハルキくんには、よろしくお伝えください」
「はい……どうか、お気をつけて」
「すみません。では、失礼します」

帽子をちょっとあげて挨拶し、ブラウはその家を後にした。





「こんにちは、アーサーちゃん、ロッギー君」
「その後、いかがですか?」

情報屋「ヴァーミリオン」を京とアンが訪れたのは、長久が退院して戻って来た、ちょうどその日だった。

「長久君、退院おめでとう」
「はは……どうも。おかげさまで、何とか生きてますよ」
『ベニー姉さんはまだ予断を許さないけど……でもちょっとずつ、良くなって来てるって』

アーサー、いやロッギーも、少しだけ安心を込めてそう言った。そうであって欲しい、という願いも多分に含まれていたが、京もアンもあえてそれを指摘するほど良心を捨てていない。

「そう、それはよかったわ。早く良くなるといいわね、紅さん」
「全くです。早く、あの方の元気な姿がみたいものです」

代わりに、今と、これからのことを少しだけ触れる。

「……と、何を調べてるの?」

京が目を留めたのは、ソファに腰を下ろす長久の持つ、書類の束。見ると、顔写真や記録写真が印刷されているのが見えた。

「ああ、これは……」
「……UHラボ、ね」

長久が応えるかどうか一瞬迷った間に、京がその答えを口にしていた。

「……わかりますか」
「わかるわ。……私も、こいつらとは無関係じゃないから」

見て、と言いつつ、京はズボンの右脚を一気にまくり上げる。
長久は一瞬動揺したが、その下から現れたものを見て目を見開いた。
ズボンの下にあったのは、本来あるべき白い肌ではなく、冷たい質感を持つ黒い金属。

「私は元々、アースセイバーの所属。これは知ってるわよね」
「……一応は」
「アースセイバーとしての最後の任務になったのが、とある能力者の監視。どこからか逃げ出して来たらしくて、いかせのごれに住みついてたそいつを見張っていた。でも、ある時そいつが能力を暴走させて、騒ぎになったの。そして……」



『!? 何、あんた達! その人をどうする気なの!?』
『チッ、気づかれたか……』
『殺せ。目撃者を出してはならない。それがUHラボのルールだ』
『UHラボ!? あんた達、一体……』
『隠、下がれッ!!』
『え、ッ!!……があぁぁあぁ……ッ!!!』



「……怪我は程なく治ったんだけど、半分千切れてた右脚はどうしようもなくてね。義足に取り換えて歩けるようにはなったわ」
「しかし、京様はそれ以来、現役時のようなキレのある動きが出来なくなり、事実上の引退を迫られたのです」

ちなみに、旅行先でアンと出会ったのはその最後の任務である監視を通達されてから数か月後、交代で時間が空いた時である。
ズボンを戻し、京は息をつく。

「そういうワケで、私も連中には因縁があるのよ。全く、壊滅しても諦めが悪いんだから」
「全くです。連中、頭にウジでも沸いているのでしょう」

真顔でさらりと毒を吐くアンである。

「そうね。きっとその通りだわ」

さらに否定しない京。

964スゴロク:2013/09/24(火) 00:01:17
『ふ、二人ともキツいね……』
「当然よ、ロッギー君。私はね、アースセイバーだったからって、アキヒロ隊長の理論に一から十まで賛成してるワケじゃない。でも、誰かを守るって言う信念だけは理解できる。だから、色んな人を今なお傷つけるUHラボが許せない」
「私も同様です。奴らは今の『怪盗一家』と同じ、唾棄すべき集団です。排除されなければなりません」

珍しくギリ、と歯ぎしりをするアン。古巣である怪盗一家が、ホウオウグループに引き込まれて殺人者の集団と成り果ててしまったことが心底気に食わないらしい。

「キングの意志を無視するなど……」
「アン、落ち着きなさい。二人が驚いてるわよ」

見ると、長久とアーサーが呆気にとられたように、あるいはどこか警戒するようにアンを見ていた。
それでようやく我に返ったアンは、意味もなくフォーマルウェアの襟を直しつつ言う。

「……失礼しました」
「まあ、そういうコトよ。私はもう戦えないけれど、出来ることはあるわ。私の力が必要だったら言ってちょうだい、手を貸すわ」
「京様がそうおっしゃられるのなら、私も御助力致します。個人的な感情の面からも、そうしたいと思っておりますので」

二人がそう述べたところで、情報屋にさらなる客が現れる。

「こーんにーちはー」
『ん? この声は……』

ロッギーとアーサーが一緒になってドアの方を向く。
ドアを開いて入って来たのは、髪を突っ立てた変わった風貌の少年。

「理人君、だったかしら?」
「そーうそう、赤銅 理人ですー。こんにちーはー」

変な所でためて変な所で伸ばす、その奇妙な喋り方は一度聞いたら忘れようがない。
「ハーメルン」のコードをつけられている要注意人物だが、少なくとも敵ではないのは確かだった。
その彼が、何をしにここまで来たのか?

「んんー、かーんたんに言えば、協力ー締結ってやーつですーよ」
「協力? 俺達にか?」
「んーむ。僕もねー、UHラボにはちょーっとした因縁があるーのーですよ」

言いつつ、理人は左の袖をずらして上腕を見せる。
そこには、大分薄くなってきているものの、焼き付けられたような何かの文字があった。
曰く、「PT−0707」。

「それは?」
「…………」

問われて、なぜか理人は黙った。ややあって、彼はがらりと口調を変えて言った。

「……識別番号だよ。実験体のね」
「何……」
「そうさ」

ニヤリと、理人はどこか恐ろしい、顔だけの笑みを浮かべて。


「僕は、UHラボの実験体だったんだよ。それも、『成功体』のね」


「! 成功体……ですって?」

京の呟きに、理人は「そうです」と至って普通に返した。

「奴らの目的は、つまるところ最強の生体兵器の開発。そのために、能力者になり得る人物を各地から攫って来ていた」

ゲンブやスザクもまた、彼らの被害者の一人だ。特にスザクは精神的に何度も改造を受けたため、最近になるまで精神状態が著しく不安定だったのは記憶に新しい。

「僕もその一人だったけど、幸いと言うか僕の能力は精神に直結する特殊なタイプでね。洗脳や強化で異常を来たしたら話にならない、と最低限の思考誘導だけを受けたんだよ」

その「最低限」ですら人道を大きく踏み外しているのは、長久の前の資料が物語っている。

「僕は早くからそれに気づいていたから、従ったふりをしていた。奴らは僕を成功体だと喜んだ。試作被検体0707、『特異点励起』。それが僕の力だよ」

何にでも存在する特異点。それに干渉し、励起して表に出すことで、神の手違いたる「特殊能力」を引きずり出す。それが、理人の力。

「ラボが壊滅する少し前に、僕はいかせのごれに逃げ出した。そこから先の事は、君達の方が詳しいと思うけどね」

とにかく、

「僕はね、連中が許せないんだよ。理由とかそういうことじゃなくて、その存在自体が。連中は滅ぶべきだ。そうは思わないかい?」

と、

「……滅ぶ、って、あの……」

入口の方から少女の声。理人が振り向くと、そこにいたのは、果物を入れたバスケットを抱え、赤い髪を背中まで伸ばしたどこかボーイッシュな少女。

「こ、こんにちは。お見舞いに来たんだけど……な、なんか、凄い怖い話してなかったか……?」

少女―――火波 スザクは、らしくもなくおずおずとそう口にした。




状況変転


(それぞれの動き、それぞれの思惑)
(如何様に交差し、影響するか)
(今は、まだわからない)


えて子さんから「久我 長久」「アーサー・S・ロージングレイヴ」をお借りしました。

965akiyakan:2013/09/27(金) 20:21:28
 ――何故だ。

 ムカイ・コクジュの脳裏を過ったのは、その一言だった。

 作戦は完璧だった。餌の情報を使って千年王国を引きつけ、自分に有利な陣形でこれを殲滅する。実際、残す敵は指揮官であるジングウと生物兵器の幼体、それに戦闘能力を持たない擬人兵のみだ。バイオアーマーのスペックを持ってすれば、倒せない敵ではない。言わば、詰みの形。贔屓目に見ても王手だ。飛車を叩き潰した今、王を守るモノは何も無い。

『……何故、だ』

 相手側にも強力なバイオアーマーが存在していたのは予定外だったが、それも許容範囲だ。多少手こずらされたが、これも倒した。摂氏三千度のプラズマ砲を食らって無事でいられるものなど存在しない。こちらのバイオアーマーも破損したが、それもすぐに修復が完了する。それが終われば、今度はジングウの首を取りに行く。

 すべては順調に、ムカイの掌の上で事は進んでいた。

 ――その、筈だった。

『何故だ……ッ!!』

 倒した。倒した筈だ。繰り返すようだが、カーボンナノチューブですら750度の高温に耐えるのがやっとなのだ。摂氏三千度のプラズマを受けて耐えられる有機生命体などこの世には存在しない。存在しないのだ。

 だが、ムカイの目の前には存在する。超高温で焼かれて尚も、形を維持し、命を持って存在するモノが。

『何故貴様は、存在しているッ!!』

 ――・――・――

 プラズマ砲の直撃によって発生した煙の中で、それはゆっくりと起き上がった。

 身体は小さい。バイオレンスドラゴンとは比べるまでもなく、その身体はとても小柄だ。人間の子供――それこそ、その装着者である花丸とほとんど変わらない位の大きさしかない。シルエットはドラゴンよりも人間に近い。両頬から伸びる突起や、背中を走る背びれなどが、竜の面影を残している。

 身体本体に対して、それに備わっているパーツは有り余る程に大きい。背中に備わった翼は、変化前のバイオレンスドラゴンのモノと同じ位の大きさである。腰から伸びる尾も同様であり、身体の部分だけが小さい為に、非常にアンバランスに見える。

 かと言って、それらのパーツに比重を取られているとは言え、その重みに負けているようには見えない。しっかりと両足で地面に立ち、前かがみになる様子も、後ろに引っ張られているようでもない。それは小柄でありながら、巨大な翼と尾を支えていた。

 外見の変化も激しいが、一番目を惹くのはその体色の変化だろう。バイオレンスドラゴンは赤であったが、今の姿は真っ白だ。白く滑らかな装甲が、全身を包んでいる。それ故にドラゴンと言うよりも、天使の方が思い浮かべやすかった。

 変貌したドラゴン――花丸は、自分の両手を見つめている。状況を確認する様に、己の身に起きた変化を感じる様に、その手を開いたり閉じたりしている。

『――……!!』

 両手をぐっと握り締め、顔を上げる。樹上から見下ろす、自分が倒さなければならない相手を、彼は見据えた。

『ええい、何であろうと構わん……』

 ムカイもまた、花丸を見返していた。傷口から煙が上がったかと思うと、バイオアーマーの表面に出来た傷が塞がっていく。

『私の邪魔をするなら、死んでもらうだけだ!』

 背中に閉じていた、六枚の翼が開いた。透明でトンボの羽を思わせるそれは、高速で羽ばたくと瞬時に強風を発生させる。それは周囲の木々を吹き飛ばし、地面の破片を宙へと舞い上がらせた。

『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
『はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 雄叫びを上げながら、ムカイが突進してくる。それに対して、花丸は真正面からそれを受け止めた。お互いの手と手を組み合い、二人は四つ腕の状態になる。

 最初は拮抗しているようであったが、徐々に花丸が押され始め、地面を削りながら後ろへと後退していく。懸命に踏みとどまろうとするも、力で負けてしまっている。ついには、その先にあった木に背中を押さえ付けられる状態になってしまった。

966akiyakan:2013/09/27(金) 20:22:00
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 花丸の首を掴み、空いた右腕をムカイは掲げた。腕が小刻みにブレ、小虫の羽音にも似た音を響かせる。バイオレンスドラゴンの腕すら切り落とす、超振動の爪だ。

『アームド・ウィングッッッ!!!』

 その時、花丸の背部、まるでマントの様に広がっている翼が形を変えた。しなやかな流線型を描くフォルムが盛り上がり、やがて花丸の身体程もある巨大な腕へと変貌したのだ。

『何!?』

 翼が変形したのを見るや、ムカイは花丸を離してその場から離れる――直後、彼がそれまでいた場所を巨大な腕が左右から挟むように押し潰した。

『まだまだッ!!』

 再び翼が形を変える。今度はまるで、二門の砲身の様だ。砲口の奥が青白く光り、そこにエネルギーが収束していく。

『ッ――!?!?』

 羽を広げ、ムカイは空中へと逃げる。彼を追う様に放たれた高熱のエネルギー砲は、青白い光の帯となって虚空に軌跡を残した。

『多段変形だと!?』

 目の前で見せられた現象に、ムカイは絶句する。

 別段、メタモルフォーゼと呼ばれる現象そのものは珍しいものではない。生物兵器にも取り入られる機構の一つであるし、あたかも人間に擬態するかのように、二つの形態を自由に変身出来る超能力者もいる。

 しかし、それらは一形態から別の一形態への変身の一パターンが基本ある。生物としての限界、物質としての限界がある以上、複雑な形態変化を数パターン持つ事は極めて難しい。

 故に、ムカイの目には異質に映った。翼と言う形態から腕、更には砲と言う様々なパターンへと変形する。まるで粘土でも捏ねて形を変えるような手軽さで姿を変える。それがどれだけ困難な事なのかを知ればこそ、彼は言葉を失ったのだ。

『だが、速さならば――!!』
『っ!!』

 ムカイの攻撃が、花丸を捉えた。何とか本体への直撃を免れるも、左の翼が切り裂かれた。小柄になったとは言え、付属品である翼や尾と言ったパーツにウェイトを取られ過ぎている。辛うじて花丸自身への攻撃を避けられても、それらのパーツが犠牲になってしまう。

『そらそら、どうした!』
『は、速い、速過ぎるっ!!』

 ムカイのスピードは、花丸にはもう捉えられないレベルに達していた。攻撃をかわしきれなくなり、徐々に本体へと届き始めている。白い装甲に、無数の切り傷が刻まれた。

『くぅ……!』

 花丸は翼を広げ、自分を包み込む様に閉じた。その直後、翼の表面が変化し始めた。まるで鉱石の様に硬化し、彼を包み込むシェルターとなっていく。

『チィッ! そんな事まで出来るのか!』

 シェルターを踏みつけ、ムカイは幾度と無く斬撃を振り下ろす。シェルターとバイオアーマーの爪がぶつかり合って火花が散り、両者の力が鬩ぎ合う。

『ぐうぅっ! うぅっ!』
『おのれ、何て固い装甲なのだ!』

 ムカイの攻撃はシェルターに傷をつけるが、あくまで表面だけだ。硬化した翼は、高速振動によって切れ味を増している筈のバイオアーマーの斬撃でも破壊できない程、強力な結合力を持っている。

『ならば……』

 埒が明かないと感じたムカイは、シェルターから飛び降りた。前面装甲を展開し、プラズマ砲のチャージを始めた。無数に並ぶ光球が、青白い光を放ちだす。

『くらえ!』

 三千度の超高温が、花丸目掛けて襲い掛かる。ムカイが持ちうる最強の切り札であり、その灼熱に耐えられる物質などこの世には存在しない。仮に、装甲化した翼がそれに耐えられたとしても、中身はただの人間だ。完全に熱を遮断でも出来ない限り、耐えても蒸し焼きになる。まさにそれは、必殺の攻撃だった。

967akiyakan:2013/09/27(金) 20:22:43
 だが、プラズマが放たれた、その瞬間に、シェルターが開いた。

『な――』

 一体何をするつもりなのか、とムカイが思った瞬間、花丸の腰から伸びる尾が動いた。彼の目の前でそれは円を形作り、その円の中に光の壁の様なものが出現する。

 それが何であるか、ムカイは気付いたがもう遅かった。既に発射体勢に入ったプラズマ砲は止められない。光球から放たれたプラズマは、狙い過たずに花丸目掛けて伸び――光の壁に当たって「180度」に反射した。

『ぐ――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 自らの放ったプラズマに焼かれながら、断末魔にも似た悲鳴をムカイは上げる。彼の自慢のバイオアーマーも、そして彼自身も、諸共に焼き尽くしていった。

 ――・――・――

「ぜぇ……ぜぇ……」

 自分の左肩を押さえながら、ムカイは荒く息をついていた。彼が押さえている手は、そこから先がごっそり無くなっていた。全身を覆っていたバイオアーマーのほとんども炭化しており、その役目を果たしていない。顔も剥き出しになっている。全身が焼けただれていた。

「ぜぇ……ぜぇ……」

 もはや死に体だ。しかし、その眼光だけは生気を全く失っていない。ギラギラと輝き、その眼光は自らを倒した存在を睨み返していた。

「貴様……!」

 白い装甲のバイオドレスが、白銀の竜が近付いてくる。翼をマントの様にはためかせ、その姿は中世の騎士にも似ている。

「まさか……ジングウがこれ程のものを造り上げているとはな……」

 それは即ち、自分の作ったバイオアーマーよりジングウの創造物の方が優れていた、と言う事だ。その事実に、ムカイは歯噛みをする。

『それは違いますよ』
「……何?」

 不意に聞こえてきた声に、ムカイは顔を上げた。同じ様に、花丸もそちらに視線を向ける。そこには、ジングウが改造して使っている、一台のバードウォッチャーがいた。

『ムカイ・コクジュ。貴方は私に敗れたのではない。そこにいる、たった一人の少年に敗れたのだ』
「私が、この少年に負けただと? この期に及んで貴様はまだ私を愚弄するのか!?」

 ジングウの言葉に、ムカイは激昂する。興奮のあまり傷口から血が滲みだすのも、彼は構う様子は無い。

「こんな! こんな戦う才能も無く、生物兵器を従わせるだけしか能が無い、ホウオウグループの末端でしかない小僧に! 私が負けただと!? この小僧がした事は、貴様が造ったバイオアーマーを着て戦っただけだろう!? 私が負けたのはこいつにではない! 貴様に負けたのだ!」

 そうでなければ、惨めでしかたがなかった。同じ科学者として、圧倒的な技術差を見せつけられて、それでも負けたのが組織末端の構成員であるなど、彼のプライドが許せなかった。ジングウに負けたのならまだしも、自分に劣る者に敗れたのだと、耐えられなかった。

968akiyakan:2013/09/27(金) 20:23:21
『……貴様もそうだが、かつての私も、「絆」と呼ばれる力をいささか軽んじていた――単純な話だ、ムカイ。お前は一人で戦っていた。だが、彼には何人もの仲間がいた。そもそも数で劣る貴様が、勝てる通りなどあるまいて』

 そうだ。その戦いは、花丸一人で戦っていたものではない。

 彼を包み込んで守り、戦う力を貸していたバイオレンスドラゴン。

 ドラゴンの手綱を握り、彼が戦いやすいように努めたコハナ。

 そして、そのコハナを補助する為に、バックアップにはミツの脳髄が使われている。

 少なく見ても三つ。それだけの数が、花丸に加勢していた。素人が見ても、四対一の戦いではどちらが有利かなど、誰が見ても分かると言うものだ。

『ムカイ。王って奴にはな、一人ではなる事は出来ない。ましてや、王の素質が支配する能力であると勘違いしている者になどなれやしない……本当の王様って言うのは、他者から借りた、協力してもらった力を束ねる才能を持っているヤツの事を言うんだ』
「…………」

 ジングウの言葉を聞いて、ムカイは顔を伏せる。それから彼は、くっくっくと笑い声を零した。

「……なるほど。仲間の不在が私の敗因か。認めよう、ジングウ。今回は私の負けだ」

 ムカイがそう言った瞬間――何かが森から飛び出してきた。

『え――』

 花丸が驚いている間に、森から飛び出した来たモノ――巨大なトンボ型の生物兵器は、ムカイを抱えて飛び去っていく。速い。音速機並かそれ以上のスピードだ。

「だが、次は勝つぞ。今度は私も駒を揃えて迎え撃とう! さらばだジングウ、ホウオウグループ!」

 ムカイと、それを運ぶ生物兵器の姿が遠ざかっていく。誰も、それに追いつけるものはいない。

『逃がした、か』
『すみません、ジングウさん。僕が気を付けていたら……』
『良いですよ……むしろ、都合が良い』
『え?』

 自分の聞き間違えだろうか。そう思って花丸は顔を上げる。バードウォッチャー越しではジングウの表情は分からない。しかし花丸には何故か、薄ら笑いを浮かべる彼の姿が思い浮かんだ。

『何はともあれ、作戦終了です。皆さんを集めて戻りましょう』



 ≪決着≫



(失われた工房と千年王国の戦い)

(大きな犠牲を払いながらも、ここに一つの終着がついた)

(しかし、王国に所属する誰もが、この戦いはまだ終わっていないのだと感じていた)

(エンドレス・ファイア、消えない炎)

(だが今だけ)

(今だけは戦士達に休息あらん事を)

※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラは「ムカイ・コクジュ」、「ジングウ」です。

969えて子:2013/09/27(金) 21:51:12
スゴロクさんから「火波 スザク」「隠 京」「赤銅 理人」、名前のみクラベスさんから「アン・ロッカー」をお借りしました。


「はあ、お見舞いにねぇ…。わざわざ悪いな、気遣ってもらって」
「い、いや…取り込み中なら、後で、」
「あーあー、気にするな。取り込み中って程取り込んでもねぇよ」
「そう…それなら、いいんだけど」

スザクの言葉を遮って、長久が手を振りつつ笑う。
それにスザクは少しホッとしたように笑った。

「あ、これ…よかったら、どうぞ」
「あ、こりゃどうも」
『わー、おいしそう!!ねえねえ長久、ちょうだいちょうだい!!』
「がっつくなっ」

ごつん、と軽く拳骨を落とされ、アーサーがひぃん、と悲鳴をあげる。

「…まあ、せっかくだ。みんなで頂いちまってもいいか?」
「勿論。じゃあ、僕はこれで…」
「ん?何だよ、もう帰るのか。せっかくあんたが持ってきたんだし、一緒に食ってけ」
「え?いや、でも…」
「遠慮するなって。…それに、今の話はあんたにも関係なくはないかもしれないしな」
「………?」

すれ違いざまに肩を叩かれ告げられた言葉に、スザクは軽く首を傾げた。



「ほれ。ハヅルほど綺麗じゃないけど、まあいいだろ」
『長久ぶきっちょー。りんごでっこぼこだよー』
「やかましい!!その胴体限界まで引き伸ばしたろかコノヤロウ!!!」

パペットを握って縦に力いっぱい引っ張られ『ぬわあー!人形いじめはんたーい!!』と叫ぶロッギーを見て、スザクは呆然とし、京とアンは小さく苦笑する。

「長久くん。ロッギーくんが可哀想だから、そろそろやめてあげましょう?」
「……………ちっ」

小さく舌打ちをして長久が手を放すと、アーサーは慌ててロッギーを抱きかかえ、労わるように頭を撫でる。
その様子を、皮をむかれて切られた少し歪なリンゴを一足先に口にしながら、理人が笑って見ていた。

「いーやー、仲がいいーっていーいねー」
「………。んで、さっきの話なんだけど」

ソファに座りなおすと、皿に乗ったリンゴを爪楊枝で勢い良く突き刺し、やや強引に話を戻す。

「協力の件は、ハヅルの意見も聞かないと何ともいえないけど、有事の際には何かしら手助けを頼むことがあるかもしれない。…それは、その時によろしく頼むとして…理人、だっけか。あんたが言ってた「連中は滅ぶべきだろう」って問いかけ。ハヅルやオーナー、それと他の奴らはどうか知らないが、俺たちはYesともNoとも言えない」
「…どうしてだい?」
「…知らないからさ。何も」

長久の答えを、アーサーが引き継ぐ。

『僕らも、長久も、普通に生きてきたんだ。普通にお父さんとお母さんの間に生まれて、普通に育って、勉強して、友達と遊んで…』
「だから正直言うと、UHラボの所業や邪悪を聞いても、いまいち自分の身として考えられないんだ。もちろん、資料を見れば連中のやってきたことはひどいもんだぜ。文字で見ているだけでも嫌な気分になるし、吐き気もする。…ただ、あんた達の憎しみや怒りや考えってのは、完全に理解することは出来ない。ぶっちゃけてしまえば連中が滅びよう生き延びようが、俺は知ったこっちゃない」

けどな、とリンゴの欠片を口に放り込み、長久は続ける。

「…あの男は…オーナー達の幸せに、蒼介の心と人生をぶっ壊した。それは、許されることじゃねぇし、許す気もさらさらねぇ。UHラボとか関係なく、アイツには自分のしたことの落とし前をつけてもらう。…それだけだ。ただ、それだけなんだ」

一言一言区切るように、自身に言い聞かせるように、拳を握り締めて長久は言う。
その声は暗く、重く、そして固い決意に覆われていた。


ただ、それだけ


「ソウスケ…?」
「17年間行方不明だった、オーナーの甥っ子だよ。カチナ…って名前の方が、あんたは馴染みがあるかもしれないな」

970思兼:2013/09/29(日) 00:33:17
お久しぶりです。連投失礼します。




【悪戯ナイトゲーム】


―第12話、性質の悪い話―


橋元 亮はつかみどころの無い少年である。

同時に余りにも不可解で謎の多い少年である


静葉の親友であり『シリウス』の最初期メンバーでもあり、古参メンバーでもある。

また、他人と積極的に接点を持とうとする(そして時には悪戯を)ような好印象の遊び好きの少年であることは間違いない。




だが『それ以上のこと』が全くの不明なのだ。


まず静葉でさえ亮の住んでいる場所は知らず(成見の家の近くとは言っているが)、学校に行っている様子もなく朝早くから集会場(要は巴邸)に来ては遅くまでだらだらと居座っている。

集会場には部屋がたくさんあるので泊まっていくことさえ、珍しくない。

と、思えば突然ふらりと居なくなっては数日間集会場に来なくなり、それどころか全く姿を見なくなったと思えばいつの間にか戻って来ている。

本人に聞いてもニヤニヤするか嘘くさい話ではぐらかすかのどちらかで、まともに話を聞けたことは静葉ですら無かった

以前ダニエルや静葉、影士がこっそり尾行しようとしたこともあるが『かくれんぼ』で姿をくらまし、撒かれたこともある。

優人やアリスが学校で姿を探したり、先生や生徒に尋ねたりしているがいずれもそれらしい人物には行きつかなかった。


故に、亮の私生活を知る人間は誰一人としていないのだ。


**********************************************



「まぁ、詮索されるのは好きじゃないし♪」

携帯電話を閉じ、寝転がっていた亮は立ち上がり埃をはたく。

時刻は23:00、少年が出歩く時間帯では無い。

亮が寝転がっていたのは廃ビルの屋上で、おそらく『かくれんぼ』で忍び込んだのであろう。

971思兼:2013/09/29(日) 00:35:24


「さて、今日は楽しい事があるかな?」

そんな言葉と共に、亮は廃ビルを出る。



『かくれんぼ』を発動して姿を消しながら亮が練り歩くのはアーケード街で、まだ人通りは多く周囲はライトアップで明るい。


「いいね♪この空元気みたいな電飾がおかしくてたまらないねぇ〜
…っと、あれあれ?」

ニヤニヤ笑いながら歩いていた亮の目に入ったのは、明らかに不良っぽい少年数人に囲まれた気の弱そうな青年だった。

金がどうのこうのというセリフげ聞こえてくるあたり、カツアゲだろう。

聞こえているはずにもかかわらず、周囲の人々は我関せずといった態度で無視している。


「ん〜面白そうなオモチャ発見。」

ニヤニヤ笑いながら亮はリーダーらしき金髪の少年につかつかと歩み寄ると、

「そおぃ!」

その股間を思いっきり蹴とばした。

ぐえっ、という情けない悲鳴を上げながら少年はうずくまる。


「な…だれだ!どこにいやがる!?」

「はいは〜い!みなさんこんにちは〜
あれ?もう今はこんばんは、だったっけ?まあいいけど。」

怒鳴り散らす少年たちの目の前に『かくれんぼ』を解除した亮が姿を現す。

「イケないですねぇ〜君たちみたいなゴミクズは狩る側じゃなくて狩られる側でしょ?
ちゃんと身の程はわきまえて欲しいんだけど?」


「ってめえ!!」

「ほいっと。」

少年たちは激昂しながら殴り掛かってきたが、亮は姿を消すとその拳を避け、先頭の少年の鳩尾に拳を入れる。

そのまま集団の背後に移動すると再び『かくれんぼ』を解除した。

「ひ…おまえ、どこから湧きやがった!?」

「さぁね〜オバケかもよ?」

ニヤリと笑いながら殺し文句のように言うと、少年たちは悲鳴を上げながら逃げて行った。

周囲の人々は『?』な顔でそれを見ていたのだが、その理由は亮が少年たちだけに対して『かくれんぼ』を解除していたからに過ぎない。

972思兼:2013/09/29(日) 00:40:23


「さて、ねぇねぇ〜そこのお兄さん。」

「は、はいっ!?」

「もし僕の事、誰かに言ったらきっと不幸になるよ?」

ずいっ、青年に顔を近づけ囁くように言うと『かくれんぼ』を発動しながら、その場を離れる。


後にはポカンとした表情の青年だけが残された。




「あ〜あ、なんかあっさり終わってつまんなかったなぁ〜
仕方ないけど、明日静葉が早く来いっていってたし、もう帰ろ。」


勝手なことを呟きながら、亮は欠伸を一つすると、裏路地へと消えて行った。



*************************************************

―数日後―


「なぁ亮よ?」

「何、静葉?」

「この新聞記事の『怪異!消える少年の亡霊!』って…お前か?」

「ん〜?まっさかぁ〜僕は亡霊じゃないよ〜」

「…そうか、余計なことをしてたらしばき倒してやろうかと思ったのだが、それならいいんだ」

「ん〜?そう?あ、ちょっとコンビニに行くね。」

「ん?ああ、わかった。」





「…もしもし、しゃべるなって言ったでしょ〜?
ああ、あの不良君たちにキミの住所教えといたから…あれ?もう来ちゃったんだ?」




<To be continued>
.

973思兼:2013/09/29(日) 00:42:02
今回は後二つあげます


【匿名テロリズム】


―第13話、名無しの話―


>>2 名無しさん
はよ画像出せよ>>1

>>12 名無しさん
マダー?

>>154 名無しさん
釣りかよ…氏ねよ>>1

>>444 ダニエル
ああ、この板踏んだ奴にはもれなくトロイプレゼントしといたから。
あと、スパイウェア使ってエロ画像ばっかのフォルダは削除してあげたよ♪
そろそろ現実に戻りなよ×××野郎君♪


*************************************


「ふう、とりあえずバックドアとエクスプロイドは散布できたっと。
そろそろあの病院のセキュリティ中枢への侵入経路を確保しないと、ニコ君がもたないや。
それにしても、エッチな画像ごときで騒ぎすぎでしょ?
それに、トロイ仕掛けてたら駆除ソフトが反応するのにね。」

ピザを一切れかじりながら、ダニエルは薄暗い部屋で呟く。

彼の周囲にはおよそ4台のパソコンが光を放っており、ダニエルはその全てを一人で操作していた。


ダニエル・マーティンは天才ハッカーである。

元々の腕もそうだが、彼の『眼』はあらゆるセキュリティシステムを全て突破する力がある。

超能力者+ハッカー=電子戦最強、と言うのがダニエルの意見である。


と言っても今回はかなり難航していた。


ヴァンパイアの少年ニコの為に今まで影士や亮がその超能力を使って病院から盗んでいたのだが、最近になってセキュリティが大幅強化され盗めなくなったのだ。

そこでダニエルに出番が回ってきたのだが、そうそう一筋縄では行かなかった。

セキュリティなら『眼』で突破できるのだが、そもそも『入り口』が見つからないのである。

『入り口』とは要するに病院のセキュリティシステムへのアクセス経路だが、それが見つからないのだ。

おそらく経路が巧妙に隠蔽され隠し通路扱いになっているのだろうが、その隠し通路の痕跡を見つけなければ『眼』でそれを暴くこともできない。

だから、今ダニエルはスパイウェアなどを動員してその痕跡を集めようとしている。

974思兼:2013/09/29(日) 00:44:21



「ダニエル、どうだ?」

「あ、静葉。う〜ん、今のところはまだ進展無しかなぁ?
ニコ君はどう?大丈夫だった?」

そんな部屋にコーラのボトルとコップを持った静葉が入ってくる。

ダニエルは静葉と住んでいる為、この部屋は当然巴邸の一室だ。


「ああ、今は寝ている…が、やはり衰弱は隠せんな。日に日に寝ている時間が長くなっている。」

静葉はダニエルにコーラを渡しながら、どこか心配そうにそういった。

「サンキュ。困ったね、このままじゃニコ君がもたないや。」

「うむ…どうしたものか…」


「仕方ない!ねぇ静葉、明日アイを呼んでくれるかな?
確証は無いしリスクも不明だけど、アイに手伝ってもらえば何とかなるかも。」

「本当か?わかった、明日呼ぶ。だが、今日じゃなくていいのか?」

「うん、ボクは今からその準備をするから。」


********************************************


name 名無し さん
pass dm616

>コードが解禁されました。ようこそ『名無しさん』
>以降の通信は『名無しさん』のサーバーから行います。
>通信会社からの監視を遮断、記録の偽装を完了しました。
>現在×××××××人の『名無しさん』がネットワーク上に存在します。
>そのうち起点指定された14662人の『名無しさん』に仕掛けた『Infiltrator205』を起動します。
>ネットワークを構築…監視システムをオンにしました。
>ここまでの起動ログを削除しました。
>プログラム『アイ』のバックアップシステムをセッティング開始
>セッティング中です…


「まぁ、こんなものかな?
あとはアイと僕が頑張るしかないよね。」



<To be continued>

975思兼:2013/09/29(日) 00:45:45
文中にリンクが出来ていますが、どうか無視してください。
最後です。


【感情融解≒再燃】

―第×話、生み出された話―


私は誰?

もう何度目にもなる問いかけ

私が知りたいこと

答えは返ってこない、返ってくるわけがない

私は『違う』から

私は『何も』出来ないから


歌えない…声が出ない

触れられない…すぐそこにあるのに

聞こえない…0と1の文字の羅列になってしまう


どうして…?どうして…?


そもそも…どうやって声を上げるんだっけ?

どうやって歌うんだっけ?

触れてどうするの?

そもそも『聞く』って何?


ああ…私から何か大事なもの、大事な記憶がどんどん抜け落ちてしまうような気がする。

でも、それが何だったかすらも忘れて思い出せなくなってしまっている。

あれ…?忘れるって一体何のことだったっけ?

違う!そうじゃなくて!それが嫌なんだ!

このままじゃ、私は私でなくなる!!

嫌だ!そんなのは嫌だ!怖い…よぉ…!


私は見たい!話したい!聞きたい!触れあいたい!歌いたい!

このまま消えたくない!私は『生きていたい』んだ!


『お前は死んだ、だが今は確かに生きている。そこから出たければ、イメージしろ。
今のお前はまだ生まれてすらいない。さぁ目を覚ませ、お前の居場所がそこにある。』


え…?


*****************************************

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「な…なんだ!?
いきなり画面から青いのが飛び出してきたぞ!?」

「あ…あれ?私は…?」

「お前…一体なんだよ!?」

「あ…私は『アイ』です、初めまして。何者かと言われましても…名前以外何も分からなくて…」


こうして、孤独な少年は独りぼっちから二人になった。


<To be continued>

976えて子:2013/10/03(木) 09:28:04
白い二人シリーズ。思兼さんの「【悪戯ナイトゲーム】」後半の新聞記事を少々お借りしました。
ヒトリメさんから「コオリ」、紅麗さんから「アザミ(リンドウ)」、名前のみ十字メシアさんから「エレクタ」をお借りしました。こちらからは「アオギリ」です。


「リンドウ、何読んでるの?」
「みどりのおじさん、なにしてるの?」
「あ?新聞だよ、見りゃ分かんだろ」

コオリといっしょにおさんぽしてたら、リンドウが何か読んでたの。

新聞。アオ、知ってるよ。
いろんなこと、書いてあるの。
学校でも見たことあるけど、それとは違う新聞なんだって。
同じ新聞なのに、不思議。

「見せて見せて」
「みせてー」
「ちょ、てめえら俺はまだいいって言ってな……ああもう!」

コオリと一緒に、リンドウの新聞を見るの。
いろんなことが書いてあって、毎日違うことが書いてあるんだって。
「こうつうじこ」のこととか「いべんと」のこととか、たくさん書いてあるの。
アオやコオリには難しい言葉もあるから、リンドウに教えてもらうの。

「みどりのおじさん、これはなんてよむの?」
「おじさんって言うな。……亡霊。『ぼうれい』って読むんだよ」
「ぼうれい?」
「ぼうれいってなあに?」
「あぁ?お化けだよお化け」
「おばけさん?」
「おばけさんなの?」
「そうそう、おばけおばけ」

おばけさん。
お話ではよく聞くの。
いかせのごれには、たくさんいるのかしら。

「おばけさんって、どんなのかしら」
「アオ、知ってるよ。おばけさん、アオやコオリみたいに、さわれないの」
「さわれないの?」
「うん」
「でんきのおにいちゃんみたいに?」
「エレクタとは、ちょっと違うんだって。エレクタが言ってたの」
「そうなの?」
「そうなの」
「なにがちがうのかしら」
「わかんない」

エレクタも、おばけさんも、さわれないの。
でも、エレクタはおばけさんじゃないんだって。
なんでだろうね。

977えて子:2013/10/03(木) 09:28:49

「きっと、エレクタは見えるからおばけさんじゃないんだ」
「おばけさんはみえないの?」
「うん、見えないって聞いたことあるの」
「でも、しんぶんにはおばけさんがみえているわよ」

新聞には、おばけさんのことがきちんと書かれている。
新聞の人は、おばけさんが見えていたみたい。

「きっと、不思議な力で見えたのよ」
「ふしぎなちからなの?」
「うん、前にお勉強したの。“れいかん”がある人は、おばけさんが見えるんだって」
「しんぶんのひとも“れいかん”があったのかしら」
「きっとそうなのよ」
「コオリたちには?」
「?」
「コオリたちには“れいかん”あるのかしら」
「わかんない。おばけさんを見たら、きっとわかるよ」
「おばけさんをみれたら、コオリたちも“れいかん”があるのね」
「うん」

「えぇい、うぜぇんだよさっきから人の耳元でぺちゃくちゃぺちゃくちゃと!!!新聞なら後でいくらでも読ませてやるからどっか行け!!!」

「はぁい」「はぁーい」

リンドウに怒られちゃった。

「どうしよう」
「なにしよう」

今日のお勉強は全部終わっちゃったの。
だからやることがないの。
こういうの、「たいくつ」っていうんだよね。

「こんぺいとうのおねえちゃん。おばけさん、さがしにいこう?」
「おばけさん探すの?」
「うん。コオリたちにも“れいかん”あるのか、たしかめるのよ」
「いいね。探しにいこう」

今日の「よてい」ができたの。
やったね。


白い二人のおべんきょう〜おばけさん探すの巻〜


「リンドウ。アオたちおばけさん探しに行ってくるの」
「“れいかん”あるかたしかめてくるのよ」
「あっそ。暗くならないうちに帰って来いよ(探すの面倒だから)」
「はーい。いってきまーす」「いってきまーす」
「はいはい、いってらっしゃいいってらっしゃい。………」


「…………待て。今あいつらなんつった?」

978サイコロ:2013/10/21(月) 22:10:43

次日。道場にて。
ショウゴは再び相対する。

1戦目、アンジェラ&ヒロヤ兄妹。

ショウゴはニヤリと笑いながら挑発する。
「昨日までの俺とは違う、二人一緒にかかってきな。
…言っておくが銃はそっちのアドバンテージにならねぇぜ?」

「言うじゃない、この前の時はあんなにコテンパンだったのに。
私はこんな足手纏いと組む必要はないわ。」

「いい加減にしろよアンジェラ。気を抜いてやられかけただろ、この前は。」

「ああん?果てろクソゴミ男」
「んだと爆ぜろスカタン妹!」

勝手にヒートアップするこの二人に挑発はいらなかったかもしれない。
既に道場には障害物の段ボールや板などが設置されていた。

「おい、アホ兄妹。そろそろ始めるぞ。」

「「誰がアホ兄妹だ!」」「果てろ!」「爆ぜろ!」

仲のいい兄弟だ、と思いながら腰だめに銃を抜いた。即座に二人は別方向へと駆け出す。
罵りながらも息の合った動きに感心しつつ、ショウゴも障害物へと隠れた。

979サイコロ:2013/10/21(月) 22:11:26

ウミネコはショウゴの言動を注意深く観察していた。
そんなウミネコにシスイが話しかける。
「ショウゴさん、憑き物が落ちたというかなんというか…」

「…。」

「少し変わりましたよね。吹っ切れたというか。」

海猫は観察しながらも何かを考え込んでいるようで、シスイの話も半分くらいしか聞いて無いようだった。

「ああ。」

「何か心配でも?」

「いや、ちょっとな…。」


「なんで?なんで当たらないんだ!?」

アンジェラの悲鳴がヒロヤに届く。
相変わらず前衛を彼女に任せ、後衛をヒロヤが担当していたのだが、
障害物にうまく隠れるショウゴを捉えられずにいた。
ショウゴが障害物から銃を向ける瞬間を狙って狙撃も試したが、当たらない。
いや、当たった感触はあるのだが、降参しないのだ。銃弾のあたり判定は申告制で、
ルールに対してきちんと守るのが前提である。
ましてや頭に血が上ったアンジェラならともかく、ショウゴがルールを破るとは思えない。

「何か仕掛けがあるのか…?」

「いやいや、大した仕掛けじゃないよ。」

「なっ!?」
いつの間にかショウゴが後ろに立っていた。
隠れたと思っていたが、回り込まれていたことには気づいていなかった。
障害物をうまく使ったらしい。
咄嗟に持っていたアサルトライフルをショウゴへ向けて放りつつ障害物を乗り越え、距離をとろうと遠ざかった。
もちろん短機関銃を抜いておくことも忘れず、その場へ弾をばら撒いた。
一般人や訓練の積んでいないテロリストであれば、この動きに対応できる人間はほぼいないだろう。
熟練の兵士でさえ怪しいものだ。
しかしショウゴは動じない。
迷わずライフルを掴むと横に跳びながら発砲してきた。
そこにアンジェラが割り込んでくる。
格闘になり、アサルトライフルを器用に振りながらアンジェラのガンカタをいなして崩して邪魔をする。


「くっそコノヤロさっさと果てろ!」

なかなか当たらない事にイラついてきた時だ。

「!?」

いきなりショウゴの姿が消えた。

(いや、これは!?)
「下だアンジェラ!」

ショウゴが寝そべりこちらへ銃口を向けていた。次の瞬間。
銃声と共に、バサッ、という羽音が轟いた。

「危ない危ない、しかしこの姿になったからにゃもうあんたに勝ち目はないよ」

先ほどまでとは一人分上の位置にアンジェラは浮いていた。
いや、正確には背中から生えた黒いガラスのような翼で羽ばたき、飛んでいた。
「この姿でならアンタも楽に倒せるよ。
ホントは使いたくなかったんだけど、やっぱ手抜くのはダメよね。」

冷や汗も乾かないうちにニヤリと笑うアンジェラ。

「ついてこれるかしら!?」

着地すると再び銃を構える。
ショウゴは俯くとクックックと肩を揺らした。

「面白れぇ、『ついてこれるか』ね、こりゃ良い前哨戦になりそうだ。」

ショウゴがふらりと体をひねったところを、ヒロヤの支援弾幕が横切る。
同時に先刻よりも速いスピードでアンジェラが突っ込んでいた。
接近戦闘になる前にショウゴは拡散弾を撃つ。
拡散する前に上へ回避し、スピードを落とすこと無く突っ込んでくるアンジェラ。
ショウゴは排莢し銃に弾を一発詰める。アンジェラの「飛び」蹴りをかわし、追撃に銃を構えようとして、


すっぽ抜けた。


その決定的なミスを勿論アンジェラは見逃さない。

「いただきよ!」

ショウゴの銃を咄嗟に奪うと、トリガーを引き絞る。

980サイコロ:2013/10/21(月) 22:12:01


轟音とともに、皆の目が驚きに満ちた。

まごう事無き実弾の音に。

その弾丸がショウゴの銃から放たれた事に。

銃弾を掴むように伸ばしたショウゴの腕が、吹っ飛んだと思ったら瞬時に元に戻ったことに。

アンジェラは呆然と立ち尽くす。

ヒロヤは構えを崩した。

シスイは飛び出しかけ、

ウミネコはシスイの裾を掴んで引き戻す。

「…どうした?効かないと言っただろ、銃弾は。
俺はなぁ、一度死んでるんだよ。ナイトメアアナボリズムっつーのを持っている。これはその証明だ。
もう一度言うぞ、『銃は効かねぇ』。分かったらホレ、かかってこい。」



突然の事に動揺したのもあるだろう。
急に戦法を変えることも少なくない戦場で戦ってきたアンジェラだが、銃が効かないというのは厄介だった。
勿論ヒロヤにも言える事で、苦戦を強いられる事になる。


アンジェラは戦法を切り替え、ガラスのような黒い羽による攻撃と、ヒットアンドアウエイを高速移動しながら行い、
ヒロヤはショック弾で気絶させる戦法に出た。

だが。

やがてアンジェラが降参を叫び、粘ったヒロヤもギブアップを宣言した。

981サイコロ:2013/10/21(月) 22:12:34




2戦目。シスイ対ショウゴ。

「シスイ、本気で戦ってくれ。」

突然の申し出に、シスイは困惑する。

「本気って…手を抜いてはいないですよ?」

ショウゴは首を振りながら答える。

「天子麒麟じゃねぇ、天士麒麟だ。天装を見せてくれ。」

「そんな…あれは、そうそう簡単に使うものじゃ」

「シスイ。…これが見えるか。これは実弾だ。お前との模擬戦にこれを使う。意味は分かるな?」

「!?」

「俺はお前を殺す気でやる。お前も本気で来い、シスイ。」

言い終わるか終らないか。そのタイミングで、ショウゴが発砲する。
シスイの後ろに置いてあった鉄の的に、ヒビすら入らない穴が開く。

「っ!」

シスイは遮蔽物を移動しながら、考える。

(今日の先輩…明らかに何かが変だ!早めに止めなくちゃ、危なくないか…!?)

チラリとウミネコを見たら、ウミネコもこちらを見ていた。

(構わん、やれ)

ウミネコの目はそう伝えてきた。
ええい、考えても仕方ない、先輩を止めよう、とシスイは若干自棄になりつつも詠唱を始める。

 「――其は、四天の中心に座したる天帝の証」

障害物を乗り越え、更にショウゴを中心として円を描くように、銃弾の雨を回避していく。

 「目覚めよ、黄道の獣。汝が往くは、王の道」

肩を銃弾が掠め、風切り音が耳を打つ。そして…

 「我、護国の剣と成りて――魑魅魍魎を打ち破らんッ!!」

最後の一言と共に、シスイの動きが変わった。

982サイコロ:2013/10/21(月) 22:13:06


十数分後。



「…満足ですか、先輩。」

大の字に寝転ぶ二人の姿がそこにはあった。
障害物はほぼ全てが吹き飛び四散し粉々になっていた。
シスイは大汗をかきながら、ショウゴの方を見る。

「…まさか、先輩が『デッドエボリュート』を使えるようになっているとは。」

シスイよりもボロボロになりながらも、ショウゴはニヤリと笑った。

「おう、満足だ。予想通りでもあった。ありがとよ、お前のおかげで俺は『弾を込められた』。」



「装備」は整った。「覚悟」も整った。残すのは「時」と「場」、そして。



「敵」。

983サイコロ:2013/10/21(月) 22:13:33


akiyakanさん宅から都シスイ、十字メシアさん宅から角牧 海猫、ヒロヤ、アンジェラをお借りしました。

長いこと連載を開けて申し訳ありません。
関係者各位にお詫び申し上げます。


まだかかるよ;

984スゴロク:2013/12/02(月) 15:16:51
「ただ、それだけ」に続きます。ちょっと短いです。



長久の口にしたその名前に、スザクは一瞬固まっていた。
カチナ。その名は、忘れようもない。
かつてと言うほどでもない以前、他でもない自分を死の淵に追いやった少年。

「あいつが……!?」
「ああ。本当の名前は蒼介。オーナーの、実の弟だ」
「弟……」

その時の彼女の心境を現すならば、複雑、という形容がぴったりくるだろう。
カチナはスザクにとっては、倒すべき敵。しかし、情報屋の彼らにとっては、守るべき存在なのだ。
そして恐らくは、UHラボの被害者の1人。

「……あんたにとっては、許せない相手だろうな。だが、俺達、特にオーナーにとっては、何にも代えがたい存在なんだよ」
『なんだよね。……許せとは言えないケド、せめて危害は加えないでやってくれないかな』
「…………」

少しの沈黙を置き、スザクは口を開いた。

「……カチナ……蒼介? そいつが、僕達に手を出さない限りは、僕も何もしないよ。少なくとも、今はね」
『そう言ってくれると助かるよ。……けど、なあ』
「奴を何とかしないと、話が始まらん」
「奴っていーうのは?」

奇妙に間延びした口調で、理人が割り込んで来た。

「もーしかして、僕がロッギー君から聞ーいた、あのセラとかゆー男かね?」
『! その通りだよ。知ってたのか』
「いーま言っただろう? ロッギー君から聞いたのサ」

本気か冗談かわからない、さっきまでの怒りの様相を微塵も感じさせない道化の笑みを浮かべて、理人はしゃくっ、と歪に切られたリンゴを食みつつ、足を組み替えた。
冷静に考えれば訪ねてきた側としてかなり失礼なのだが、今それを気に掛ける者はいない。

「……あんた、ロッギーからどれくらい『聞いた』?」
「だーいたい全部かな? その蒼介ってコがこーっちに連ーれて来らーれて、そーれからセラって奴がつーれて行ったトコまでは」

大雑把だがまさしく全てだった。

『……それだけ知ってるなら話が早いね』
「ああ。奴……セラは、蒼介を『命令』で連れ出した。俺達は、その時暴れ出した蒼介にやられたんだ」
『蒼介は、命令でしか動けないみたいだった。あいつが、「邪魔する奴は全員潰せ」って“命令”したから、多分それで……』

アーサーの呟きには、スザクが応じる。

「……確かに、初めて会った時も自分のこと、命令を聞く兵器だってブツブツ言ってたな」
「……連中のやりそうなことね」

はあ、と嘆息したのは京だ。スザクや理人ほどではないにしても、彼女もラボには因縁がある。

『セラについては、アーサーも僕も資料で見たけど……人間のやるコトじゃないよ、あれ』
「連中は自分の研究にしか関心のない、悪い意味でのマッドサイエンティストの集まりだからな。一体何を考えてるんだ……」

スザクの呟きには、誰も答えを持っていない。

「……いずれにせよ。コトはまだ、始まったばかり……あるいは、始まってすらいないのかも知れません」
「なら、始めるだけよ、アン。ラボの残党……『失われし工房』だったかしら? それを追うのが、さし当りの近道だと思うわよ」
「わかりました」

現状、カチナこと蒼介を連れ去ったセラがどこに行ったのか、その背後に何があるのかはつかめていない。
情報屋の面々にしても、今は外しているハヅルを含めて、目下調査の最中だという。

「……それで、理人君だったかしら?」
「んー?」
「あなた達は、協力者として見ていいのかしら?」
「そーれで結構。雨里さーんは?」

言われた京は少し考え、こう言った。

「……あのコはダメよ。単に特殊能力が使えるだけじゃ、いざと言う時に大変だもの」
「確かに。失礼ながら、実戦慣れしているとはお世辞にも見えませんでした」

つまりは参戦却下。雨里本人も理人も、予想済みの結論だけに驚きはしない。

「ま、そーでしょーな。でーは、本人にはそーう伝えときましょー」

985スゴロク:2013/12/02(月) 15:17:32
さて、とリンゴ、最後の一つを嚥下し、理人は立ち上がって長久とアーサーを見る。
不意に、口調を変えて。

「僕はこれから独自に連中を追うよ。何かわかったら連絡する。これがアドレスだ」

半ば一方的に、長久にメモ用紙を押し付ける。

「……わかった」
「慌ただしくて済まないね。何はともあれ、まずはその蒼介君を取っ返すのが先だ。連中を潰すのは、その後でも十分に間に合う」

潰す、という部分にだけ、わずかに憎悪が滲んでいたが、それも一瞬。
すぐにいつもの道化笑いに戻ると、理人は「それじゃー、まーたー」と間延びした口調で言い残して情報屋を出て行ってしまった。

『……騒がしいというか、何というか』
「アーサー、ロッギー、あれは気にしたら負けだと思うぞ」

ともあれ、と長久は気を取り直して続ける。

「ラボの連中も、セラって奴も、見逃すわけにゃいかねえ。自分が何をやったのか、思い知らせてやる」

ぐっ、と痛むほどに拳を握りしめる。
そんな彼に続くように、スザクも口を開く。

「……僕達の気持ちや考えはわからないって、さっき言いましたよね。僕も、あなた達の気持ちは、本当には理解できないと思う」

けれど、

「少なくとも、僕やゲンブ、あの理人みたいな人間にとっては、ラボの残党がいる限り、過去が過去にならない。終わらせないと、僕らは今を歩けない」

だから、

「どれくらいのことが出来るかわからないけど……僕も、力になりたい」

赤い瞳は、決意を宿して燃えていた。






――― 一方、その頃。


「ここか……ここに、いるのか……」

ある家の前に、佇む影一つ。
憎しみに濁ったその目は、中にいるであろう標的の姿を捉えていた。

「マナの姿を奪った、あのまがい物が……」





運命交差点・螺



(その導く先には……?)


「アン・ロッカー」「アーサー・S・ロージングレイヴ」「久我 長久」をお借りしました。

986akiyakan:2014/01/07(火) 21:03:22
※都合により、自キャラのみです

 ――天に向かって、巨大な樹が生えていた。

 それは、遠方からでもよく見る事が出来た。空を突くように聳え立つそれはゆうに300メートルを超えている。その樹には枝は無く、空に向かって一直線に伸びる柱のようにも見える。幹の太さは、ビルほどもあるだろう。 周囲にはそれを超える建物は無く、強いて言うなれば、少し離れた場所に建っているスカイツリー位だろう。ビル街に根を張る姿が尚更その巨大さを見る者に見せつけていた。



   ――・――・――



 一人の人間が、荒れ果てたビル街を歩いていた。
 人の姿はまったく無い。大通りを走る車も無く、街は完全に死んでいる。いや、抜け殻と呼ぶべきなのか。
 都市を機能させていた人間がいなくなり、都市の命であった人間の生活が無くなった。ここにあるのは、かつて都市だったものの入れ物だけだ。

「ちょっと兄さんや、めぐんではくれないかね」

 呼びかける声に足を止め、「彼」はそこに座り込んでいる男性を見下ろした。
 髭や髪が伸び放題の不衛生な姿。典型的なホームレスだ。年齢は六十過ぎ、と言ったところか。男性は人懐っこそうな笑みを浮かべて金属製の箱を差し出してくる。
 「彼」は自分の懐に手を入れて探ると、それを箱の中へと入れた。数枚のお札にいくつかの貨幣が落ちる。
 それを見て、ホームレスの男性は驚いた様に目を瞬かせた。

「兄さん、これはいくら何でも太っ腹過ぎないか? 何も、有り金全部寄越してくれなくても良かったのに」

 そう言いながら、男性は箱の中から一万円札を一枚摘まんで見せた。確かに箱の中にある金額は、見ず知らずのホームレスに恵んだにしてはあまりにも多い額だった。

「いいんですよ。私には、もう必要の無い物ですから」

 そう言って、「彼」は微笑んだ。
 ホームレスの男性には男に見えるから、彼は「兄さん」と呼んでいるに過ぎない。便宜上、「彼」としているが、実際のところ、「彼」の性別を判断するのは難しい。その顔立ちと身体つきは、本当に中性的だ。見る者の主観によって、「彼」は男にも見えるし女にも見えるだろう。見た目、二十代中盤位に見える。

「早まった真似をするんじゃないよ、兄さん。アンタ、まだそんなに若いじゃないか」

 「彼」の様子を見て、ホームレスの男性は顔を顰めた。男性の言葉の意味が分からないのか、「彼」は不思議そうに首を傾げる。

「アンタでもう、今月十人目だよ。兄さんもだろ? この先の『大樹』へ行こうとしているんだろ?」

 そう言って、男性はまだずっと先にある、あの巨大な樹を指差した。

「俺がここに住むようになってからずっと、あの樹を目指して色んな奴らがやってくる。俺より年取った奴もいたし、兄さんより若いまだ子供もいたな。ふらふらっと、まるで花に集まる虫みたいにさ。で、誰一人として帰って来なかった……あの樹はな、人喰いなんだよ」

 男性は傍にあったボトルを開け、喉を鳴らしながら飲んだ。ひとごこち付けるように、ため息を吐き出す。

「来る奴はみんな言う、あの樹は女神なんだと。そんでもって、いつか旅に出るらしい。それに自分達も連れて行って貰いたいそうだ……あんな風にな」

 男性が指し示す方向へ、「彼」は顔を向けた。自分達から少し離れた場所に人影がある。それはふらふらと、まるで夢遊病患者のような足取りで、しかし真っ直ぐに樹を目指して向かっていた。
 それを見つめる男性の目には、諦観の色が浮かんでいた。

987akiyakan:2014/01/07(火) 21:04:06
「兄さんも知ってるだろ? ……知らない訳が無いよなぁ。あれは大事件だった。日本だけじゃなくて、世界で取り上げられた。あれを知らない奴は誰もいない」

 それは、半年前の出来事だった。
 突如、東京タワーを呑み込み、それを侵食する形で巨大な『大樹』が出現した。無骨な赤い鉄骨で出来た日本の首都のシンボルはもはや存在せず、代わりに同じ高さの植物が存在している。
 『大樹』が、ただそこに立っているだけであれば、おそらくは新しい東京の観光地として受け入れられたであろう。だが男性が言うように、『大樹』は人喰いだった。
『大樹』が出現したその日から、日本各地で行方不明になる者が後を絶たなくなった。『大樹』は、一種のテレパシーの様なものを発して人間を呼び寄せ、それを捕食していた。あたかも、食虫植物が獲物をフェロモンによって引き寄せるかのように。
 『大樹』を倒す為、自衛隊は元より、米軍による攻撃も行われたが、すべて失敗に終わった。百を超える戦車の砲撃も、空を埋め尽くす程の爆撃機による攻撃も、すべて『大樹』には通用しなかった。
 世界はこの怪物を排除する事が出来ず、どうする事も出来ず、その半径数キロ圏内を立ち入り禁止にし、誰も近付けないようにする事しか出来ないのだった。結果として、かつての東京都港区周辺は見る影もなく荒れ果て、巨大な廃墟街と化している。

「あの樹を目指してくる奴らはみんな、目が虚ろで様子がおかしいんだが……兄さんはしっかりしてるみたいだな。だったら尚更よしときな。自分からあの樹の栄養になりにいくなんて、馬鹿げてる」

 そう言って、男性は肩を竦めた。
 「彼」は、ずっと前方にある『大樹』の方を見つめる。まだ距離はあるのに、その巨大さがその場所からでもよく分かった。
 彼はしばらくそれを見つめた後――『大樹』に向けて足を踏み出した。

「俺は止めたからな、兄ちゃん」

 背後から、男性の声が聞こえる。それに「ええ」と「彼」は返す。

「忠告は受け取りました。ですが私は、あそこへ行かなければいけません」

 「彼」は振り返って、男性の方を向いた。その眼差しには、確固とした意思がある。

「あそこには、私の兄妹がいるのです」



   ――・――・――



 ――歌が聞こえる。

 透き通った、少女の歌声が、廃墟の町に響き渡る。
 半年間放置された都市はすっかり荒れきっていた。建物や地面は歪み、亀裂が走り、そうして出来た隙間から雑草が茂っている。普通、半年ではこうはならない。『大樹』の伸ばした根がコンクリートの地面を突き破り、ビルを折り曲げ、歪ませてしまった結果だ。

 天を突く神樹。遺跡化した都市。そこに響き渡る少女の歌声。

 まるで北欧神話の一ページのようだと、「彼」は思った。

988akiyakan:2014/01/07(火) 21:04:40
 『大樹』に近付くにつれて、風景はビル街から森のように変化していった。
 放射状に伸びた巨大な根が、まるで積み木を崩すように建物をなぎ倒している。そこから木が生え、『大樹』の周囲を覆っていた。森の中は、綿胞子のようなものが淡い光を放ちながら浮かんでおり、それのおかげで全く暗くない。『大樹』の影響なのだろうか、木々は八メートルを超えるものばかりであり、明らかに異常な成長速度だ。たった半年で、都市が森林地帯へと変貌している。
 不意に開けた場所に出て、そこで「彼」は足を止めた。
 鬱蒼と茂る森の中で、その場所はぽっかりと開けていた。そこには崩れたビルがあり、森の中から突き出た形で存在する。
 そのビル。崩れてビルの角が頂点となった瓦礫の上に、一人の少女が座っていた。
 年の頃、十六歳から十八歳くらいだろうか。薄い緑色の、長い髪の毛を持つ少女だ。どこかの学校のものだろうか、制服を身にまとっている。
 少女は目を瞑り、その透き通った声で歌っていた。決して大きな声と言う訳でもないのに、その歌声は遥か遠くまで流れていく。
 不覚にも、その光景に「彼」は見惚れていた。美しいと、思っていた。
 少女が歌うのを止めた。「彼」の存在に気付き、そこへ視線を向ける。青色の双眸が自分を見つめているのを、「彼」は感じる。

「久し振り、ミツ」

 柔らかな笑みを浮かべながら、少女が言う。かつて見た時はまだ年端もいかない幼子で、その微笑みにはその面影が残っている。あぁ、やはり彼女なんだと「彼」、ミツは思った。

「ええ。お久し振りです。レリック」



 ――・――・――



「ミツは今まで、どこにいたの?」

 瓦礫の上に、二人で並ぶようにして座る。レリックは、興味深そうな眼差しでこちらを見つめてきており、その様子が微笑ましいようにミツは笑った。

「世界を……見ていました」
「世界を?」
「ええ。そうすれば、何か見えると思って……」
「何か……見つけられた?」
「色々……ですね」

 ミツは、目の前に広がる森を見つめた。
 「彼」はこれまで見て来たものを回想する。

 南方の平和な国で、幸福に暮らす人々の姿を見た。
 中東の内戦が絶えない国で、苦しみに喘ぐ人々の姿を見た。
 平和であっても、豊かであっても、その中で熟成される人間の闇を見た。
 荒廃していても、貧しくあっても、その中で輝き続ける人間の光を見た。
 憎しみ合い、傷付け合う人間がいた。
 信頼し合い、助け合う人間がいた。
 醜くも美しい世界を、「彼」は見つめて来たのだった。

「そっか……旅をして、色んなものを見て来たんだね」

989akiyakan:2014/01/07(火) 21:05:13
 そう言うレリックの横顔は、ミツの知る幼い少女のものではなかった。大人びていて、見た目以上に成熟した立派な一人の女性のようだと「彼」は感じた。

「レリックも、旅に出るんですね?」
「うん、そうだよ。ちょっと、ミツより遠くて大変だけど」

 苦笑を浮かべて、彼女は『大樹』を見上げた。
 まだ距離はあるものの、そこからでも十分にその詳細を見る事が出来た。柱のように聳え立っているそれは太く、日本電波塔のシルエットを残しながら存在している。例えるなら、タワーが骨格であり、幹の部分がそれを肉付けするようにある。 よくよく見ると、『大樹』は普通の植物と違っていた。そもそもこんなに巨大になる植物自体無いのであるが、その樹皮は一見するとよくある木の幹のようで、しかし実際は動物の肉に似た構造物で構成されていた。道管や維管束に見えるモノは脈動し、何かしらの体液を全身に送り込んでいる。

「東京タワーを骨格にするとは考えましたね」
「うん。まぁ、タワーだけじゃ足りないから、余所から鉄骨も拝借したんだけど。軍隊の人達のせいであっちこっち折れたから、治すの大変だったんだよ?」
「まぁ、貴女が人喰いで、しかも大喰らいとくれば、当然の反応だと思いますよ?」
「む? レディに向かって大喰らいなんて失礼ね。ミツったら、旅先でデリカシーを忘れて来たんじゃないの」
「でも実際食べ過ぎですよ。日本全国で千人って言うのは、ちょっとやり過ぎじゃ」
「実際は一万人よ。日本では千人かもしれないけど、世界中に呼びかけたんだもの」

 むぅ、と頬を膨らませる愛らしさに対して、言ってる事は物騒極まりない。一万、と言う数字に、ミツも思わず頬が引き攣るのが分かった。

「何だってそんなにたくさん……」
「だーかーらー、呼んだの。『私と一緒に新しい世界へ行きませんか?』って。どっかの悪質勧誘宇宙人みたいに内容ぼかしたりしないで、ちゃんとどう言う事をするのかご理解と同意をしていただいた上で来てもらってるんだよ? それなのに大喰らいだなんて……」

 頬を膨らませながら、レリックはそっぽを向く。少しからかい過ぎたか、とミツは頭を掻いた。

「……一億人でも、足りないよ」
「え?」
「これから私、誰もいない世界に行くんだよ? 周りに知ってる人、誰もいないんだよ? ……何人集めたって足りないよ」
「……怖いのですか?」
「怖いよ……すっごく」

 自分の身体を抱き締め、レリックは小さく震えていた。

「怖いなら、止めればいいじゃないですか」
「そうだね……実際、そうしようと思った。でもね、ぐーは怒ると思う。多分」

 レリックは苦笑を浮かべた。きっと自分も同じような顔をしていただろうとミツは思った。

「『特異な才能を持つ者は、その者にしか出来ない事がある。凡夫に出来る事は誰にだって出来るのだ。その者にしか出来ない事は、その者がやるべきだ』……博士の口癖でしたね」
「うん……これは私にしか出来ない事だから……やらないとぐーに怒られちゃう」

990akiyakan:2014/01/07(火) 21:05:46

 そう言って笑うレリックの表情は、諦めているようにも見えて、しかし確固とした意志を感じさせた。
 全く、身内にすら容赦が無いヒトだ、とミツは心の中でため息をついた。これから彼女が行おうとしている事は、決して楽な事ではない。誰にでも出来る事ではなく、それこそ彼女にしか出来ない事だ。だが、だからと言って彼女がやらなければいけない道理は無い。
 もっとも、きっと、自分が彼女と同じ立場だったとしても、同じ選択をしただろう。

「……ありがとう、ミツ。話聞いてもらったら、ちょっとだけ怖いの無くなった」
「そうですか。それは良かった」
「うん……ミツはこれから、どうするの?」
「また旅に出ますよ……まだ見てないモノがたくさんありますからね」
「そっか……」
「貴女が迷惑じゃないなら、私も一緒したいんですけど」
「……え?」

 レリックの驚いた顔を見て、ミツは悪戯っぽく微笑を浮かべた。自分の生みの親がこう言う芝居がかった真似を好むのが何故なのか。これ以上無いくらいに分かった。

「え……え??」
「貴女まさか、私がこんな世間話する為だけにわざわざここに来たと思ってたんですか?」
「……ついて来て、くれるの?」
「妹を放っておける訳ないじゃないですか。一応私、貴女の兄妹なんですよ?」

 じわ、と青い瞳が涙で滲んだ。目元を拭いながら、レリックは微笑う。その顔に、曇りはもうなかった。

「バカね、ミツったら。女の子を口説くなんて、まるでアッシュみたいよ?」
「別に口説くつもりは無かったんですけどねぇ……」

 ポリポリと照れ臭そうにミツは頭を掻く。実際、こそばかゆい。だが、決して悪い気分でもなかった。



   ――・――・――



 明け方、それは起きた。
 異変に気付いたのは、『大樹』にもっとも近い場所で暮らしているホームレスだった。
 まるで地震でも起きたかのような大きな揺れに、彼らは自分達が住処にしている廃墟から飛び出した。まだ放置されて半年程度であるが、それでも老朽化は進んでいる。潰されてはたまらないと、断続的に続く揺れの中で彼らは廃墟から次々に這い出てくる。
 丁度夜が明け、太陽が昇ってくるところだった。地平線から上る朝日がそれを照らし、彼らはその光景を目にした。
 『大樹』から、翼が生えていた。
 形が変化していた。一直線に天に向かって聳える柱のようだったそれは、途中から巨大な二対の翼を生やしていた。大きな一対と、その後ろから補助翼の様な一対が生えている。
 『大樹』の頭頂部の形も変わっていた。楕円形に膨れ、まるで目の様にいくつかの青い光球が出現している。
 それはもはや『樹』と言うよりも、羽根を持つ『虫』か、或いは『竜』のような姿だった。



 ――・――・――

991akiyakan:2014/01/07(火) 21:06:26
『ミツ、準備は良い?』
「ええ。私は大丈夫ですよ」

 『大樹』の先端部分に出現した眼の一つに、ミツはいた。身体の半分が『大樹』と同化しており、無数の根が身体に巻き付いている。
 レリックの姿は無い。だが、その声はまるでスピーカーから聞こえて来るかのように、「彼」のいる場所に反響していた。

「なかなか見栄え良く変形しましたが、これ、ちゃんと飛べるんでしょうね?」
『失礼な。この半年間、わざわざマントルまで身体を伸ばして熱エネルギーを集めたんだよ? 飛べる筈だよ……多分』
「多分っていいましたよね、今?」
『あーもう! カウントダウン開始するよー!!』

 了解しました、と返し、堪えきれずにミツは笑みを零した。
 幼い頃のレリックを思い浮かべ、その変化に感慨深さを感じる。

「本当に……立派になりましたね、レリック」
『え? 何か言った?』
「いいえ……しかし、見送りが戦闘機二機だけと言うのは、ちょっと寂しいですね」

 そう呟くミツの視界に、先程から旋回を続ける戦闘機が映った。『大樹』を取り囲むように、ずっとその周囲を飛び続けている。

『……まぁ、ぐーもアッシュも、みんな忙しいだろうし』

 そう言うレリックであるが、その声には少なからず落胆の色が含まれていた。
 これが今生の別れになるかもしれないのだ。付いて来て欲しいとまでは言わない。だがせめて。せめて見送りに位は来て欲しいと思った。

『……行くよ!』

 未練を断ち切るように、レリックの声が力強く響いた。次の瞬間、強烈なGが、ミツに襲い掛かって来る。

「ぐ――ぬ」

 吸い上げた熱エネルギーを根の部分から噴射し、『大樹』の身体を押し上げた。
 ミツとて並の人間ではないが、それでもその加重は強烈だった。実際、全長300メートル以上もある巨大な構造物が、地球の重力に逆らって飛び立とうとしているのだ。その為に必要なエネルギーは尋常ではない。ミツだから耐えられているようなものであり、専用の訓練を受けた宇宙飛行士や高速機のパイロットでも、これでは十秒と持たない。

「ぐぅ……っ!!」

 少しずつ、『大樹』全体が浮かび上がっていくのが分かる。目の前の景色が、少しずつ下にズレていく。
 地球の風景を見るのは、これで最後になるだろう。そう思い、ミツは視線を地上の方へと移した。重力から逃れようと、『大樹』はどんどんそこから離れていく。

「あ――」

 その時、ミツは思わず目を見張った。

992akiyakan:2014/01/07(火) 21:13:13
「レリック、あれを!」
『え……――あっ!』

 常人であれば、それには絶対気付けなかった。しかし彼女達は人間ではない。その視線の先に、「彼ら」はいた。

 学生服姿の青年が、こちらに向かって手を振っていた。
 剣歯虎を模した仮面を装着した男性が、飛び立つ彼女達を見つめていた。

 そして、

 亜麻色の長い髪を持つ女性が、レリック達に笑いかけていた。
 彼女と最も一番近くにいたヒト。機械仕掛けの身体でありながら、人間以上に人間らしく彼女と接し、母親のように振る舞ってくれたヒトが。
 銀色の髪を持つ男性が、その傍らに立っていた。
 いつも薄ら笑いを浮かべ、この世のすべてに対して斜に構えた態度を取っていたその人物は、今は傍らに立つ女性と同じ「親」の顔で彼女達を見送っていた。レリックとミツ。二人をこの世に生み出した、彼女達にとって正真正銘の父親が、そこにいた。

 ある者は小高い丘の上から。
 ある者はビルの屋上から。
 しかし皆一様に、自分達を見送るように顔を上げていた。
 それらが見えたのはほんの一瞬だった。『大樹』を押し上げる力は、あっと言う間に彼らでも視認できない距離まで引き離してしまう。
 それでも、ミツも、レリックも、全員を見逃さなかった。まるで時が止まったかのように、彼らを確認した瞬間だけ、時間の流れが無くなったかのように感じられた。

『みんな……』
「……行きましょう、レリック。私達にしか出来ない事をしに」
『――うんっ!』

 間もなく『大樹』は地球の重力圏を離れ、宇宙へと飛び出して行く。まだ見ぬ宇宙へ、彼らは羽ばたいて行く。

 ――行ってきます

 それに返ってくる言葉はある筈ない。それでも二人は確かに、

 ――行ってらっしゃい

 自分達を見送ってくれた者達の声が、背中を押してくれるのを感じていた。


≪another line≫

993akiyakan:2014/01/07(火) 21:38:40
補足。《another line》そのタイトル通り、本筋とは異なった世界線の話です。

994akiyakan:2014/01/08(水) 13:15:25
《another line》の補足内容です。http://1st.geocities.jp/h_p_l_0209/SSpool/public_htmlsspool/tennimukatte_hosoku.html

995えて子:2014/01/15(水) 10:05:53
おしょうがつが、終わったの。

たくさんかざってたおかざりも、緑色のとげとげも、みんな片付けられちゃった。
「どうしてかたづけるの」って聞いたら、「お仕事が終わったから片付けるの」って言われた。
おかざりも、お仕事してたんだね。

「コオリー、コオリー」
「こんぺいとうのおねえちゃん」
「コオリ、お正月におとしだま、もらった?」
「もらったのよ。おねえちゃんも、もらったの?」

お正月に、大人の人から「おとしだま」もらったの。
大人の人がこどもにあげるんだって。

「あのね。アオ、おとしだまで気になることがあるの」
「おねえちゃんもあるの?コオリもあるのよ」
「いっしょのことかな」
「わからないのよ」

二人で、うーん、ってなっちゃった。

「コオリのおとしだま、見せてほしいのよ」
「うん。おねえちゃんのも、みたいのよ」
「じゃあ、せーの、で見せよう」
「うん」

「「せーの」」

せーので出したおとしだま。
アオのもコオリのも四角だったの。

「…まるくないね」
「まるくないね」
「中に入ってるおかねは、まるいよ」
「うん、まるいのよ」
「でも、たまじゃないの」
「たまじゃないのよ」

四角いふくろにまるいおかねなの。
でも、たまじゃない。
へんなの。

「まあるいおとしだまも、あるのかな」
「きっとあるのよ」
「探してみよう」
「そうしよう」

二人で、まあるいおとしだま、探すの。
見つかるといいな。


白い二人とおとしだま〜まあるいおとしだまを探して〜


「最初はどうしよう」
「だれかにきくといいのよ」
「聞いてみよう」

996思兼:2014/01/27(月) 15:40:04

白い二人のおべんきょう〜おばけさん探すの巻〜より続きです。

【流星ガーディアン】

第14話、心配性な話


サイボーグの少女、アリスは道路を漆黒のバイクで走っていた。

『スキャンパー』というニックネームをつけられたフルカウルの排気量400ccのそれは加速力と旋回性を重点にカスタマイズされており、そのニックネーム(跳ね回る、の意)の通り非常に小回りの利く仕様になっている。

アリスはこれを日常の足として使っている。

フルフェイスヘルメットからは濃蒼の長い髪が靡き、日の光を浴びてキラキラと光っている。

今日は身体のフルメンテナスをする為に朝から団の仲間である『高橋 直子』博士の下に行っており、自宅ではできない部分のメンテナンスを行ってもらっていたのだ。

人間の身体とは根本的に構造が異なる身体になってしまったアリスは、疲れを感じず極限状況でも行動でき人間を遥かに凌駕する身体能力と演算能力を備えるが、その代わりに定期的に消耗パーツの交換や各部位の調整などを必要とする。

現行科学技術から遥かに逸脱したオーバースペックの塊のアリスを何故博士がメンテナンスでき、パーツを(オーダーメイドとはいえ)製作できるのかは不明だが、ともあれアリスはメンテナンスを博士に頼っている。
それが今、ちょうど終わったところだった。



「あれは…?」

遥か遠く、走りながら人を遥かに超えた視力で捉えたのは、コオリとアオギリの二人だった。

小さい子供が二人だけで居るのを訝しんだアリスは、脳内に組み込まれたメモリーチップ

997思兼:2014/01/27(月) 15:40:35
にアクセスし、静葉の言っていた言葉を検索する。

『いいかアリス、子供を見た時近くに保護者が見えなければ、できるだけ家に送り届けてやれ。いかせのごれはそこまで治安の良い街じゃない。どんな組織がどんなふうに暗躍してるかわからんからな。アリスは見た目は少女だから不審者扱いはされないだろう。』

その言葉に従い、アリスは減速し二人の前で停車する。
そこは、場所的にはアリスの自宅からほとんど離れていない場所だった。

「小さい子二人でどうしたの?」
「おねーさんだぁれ?」
「僕の名前はアリス、いかせのごれ高校の2年だ…それで、お母さんやお父さんは?子供が二人だけで出歩くのは危ない。」

アリスはヘルメットを脱ぎスキャンパーから降り、小さな二人の前でしゃがむ。
アリスは女性にしては身長が高い為、威圧感を与えないようにだ。

「おばけさんをさがしにいくのー!」
「おばけさん?」

アオギリが言う。
表情が乏しいアリスがそのまま小首を傾げるのはシュールな光景だが、これは本当に真意を測りかねる。

「しんぶんにのってたの!」
「…そう。」

そこまで聞いて、合点がいく。
新聞の心霊特集か何かを見てこの子供たちは興味を持ってしまったのだろう。
それで、その『おばけ』を探している。

「でも、子供だけじゃ危ない。」
「えー?アオ、おばけさんにあいたい!」
「・・・」

どうしても探したい様子のアオギリとコオリを見て、アリスは表情こそ変化しないが内心

998思兼:2014/01/27(月) 15:42:52
ではかなり困っていた。
こういう事態にアリスは弱いのだ。

「…わかった、僕が一緒に行ってあげる。それで満足したら、家に帰ろう?」
「うん!」

結局、付き合うことにしてしまった。
そのうち飽きるだろうと言う推測もある。


二人に最強の保護者が付いた瞬間である。



<To be continued>

ヒトリメさんから「コオリ」、えて子さんから「アオギリ」をお借りしました。
こちらからは「アリス」です。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板