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企画されたキャラを小説化してみませんか?vol.3.5

698えて子:2013/05/15(水) 21:22:18

落ち着かせるように優しく背中を撫でると、唸りながらしがみついてきた。
温もりに触れて少し落ち着いたのか、まだしゃくりあげてはいるが泣き止みはしたようだ。

「……落ち着いた?」

優しく問いかけると、アーサーはこくりと頷く。

「そう…。…ねえ、何があったの?」
「!!」

その問いに、ばっと顔を上げた。
京の服を掴み、何かを訴えようとしきりに口を動かすが、不明瞭な唸り声と吐息の音しか聞こえない。

「……うぅぅうぅ…!!」
「…アーサーちゃん、声が出ないの?」

返事の代わりに、再びぼろぼろと涙を流す。
そういえば、先程から唸り声とジェスチャーしかしていなかった。
しかし、先日出会った時は、腹話術ではあったが自分と普通に会話していたはず。

京が疑問に思ったところで、ふと違和感に気づいた。

「…ロッギー君は?」

彼女がいつも持ち歩いていたパペットの行方を聞くと、アーサーは泣きながらある一点を指差す。
そこには、愛用のパペットの変わり果てた姿があった。

「……ひどい…」

家族同然の相手を傷つけられ、自分自身も酷い目に遭い。
そして、おそらくは彼女にとって深い思い入れのある人形を引き裂かれ。
短期間に強いショックを受けすぎたのだろう、声が出なくなるのも無理はない。そう、京は感じた。
アーサーがパペットなしでは声を出せないのは昔からなのだが、それを今京たちが知る由はない。

「……」

アーサーは、不安に震えながら京にしがみつく。
その様子を見て、京は安心させるように優しく背中を叩く。

ハヅルの応急処置を終えたアンが戻ってくるまで、アーサーは京から離れようとしなかった。


恐怖と不安の楔


(程なくして、遠くに救急車のサイレンが聞こえた)

699akiyakan:2013/05/17(金) 13:31:34
※鶯色さんより「イマ」、えて子さんより「花丸」をお借りしました。

「UHラボ?」

 その単語を耳にして、花丸は首を傾げた。

「何で今更、そんな単語が出てくるんですか? あそこって確か、もう潰れちゃったんじゃ……」
「正確には『潰した』ですけどねぇ。クロウの旦那が」
「そうです。僕もそう聞いてたんですけど……」
「何か、最近生き返ったらしいですぜ、連中」

 そう言って、イマは肩を竦めた。

「生き返った?」
「つい此間、街中にレギオンが出て大騒ぎになったでしょう? あれをやったのが、どうやらUHラボの残党らしいってのがウチの頭(カシラ)の話なんですよ」
「ああ、あれか……」

 その時の事を思い出すように、花丸は呟いた。

 深夜、街中に出現した膨大な数の人工亡霊。それらはすべて規格のものとは異なっており、体内に毒ガスを内包した物や、複数体が合体する機能を有した物などだったと言う。

 偶然花丸はその現場に居合わせており、その時の事はよく覚えていた。一瞬、自分には知らされていないホウオウグループの作戦でも始まったものだと思い、思わず千年王国の仲間に連絡を取ったくらいだ。

「あんな大掛かりな事するの、ジングウさんぐらいだと思ってた」
「そうそう。それで頭、クロウの旦那に詰問されたらしいですよ。『またなのか』って」

 両手の人差し指を鬼の角の様に頭に突き立てながら、イマは言う。それを聞いて、思わず花丸は苦笑を浮かべた。確かに、部下である自分ですらそう思ったのだ。ジングウを目の敵にしているであろう、クロウは真っ先に疑うに違いない。今回は濡れ衣だった訳だが、まぁ日頃の行いが悪いので同情はしない。

「頭自身、こんな作戦を取ったのは自分に濡れ衣を着せる気満々だったからだ、って言ってましたねー。ホウオウグループはともかく、アースセイバーやらその辺は、とっくの昔に滅びた研究所なんて眼中に無いだろうから、って」
「……それって、何だかおかしくないですか?」
「何で?」
「前聞いた事があるんですけど、UHラボって確か、ホウオウグループに入れなかった人達が、再起をかけて集まった組織だったんですよね? それなのに、自分達が戻りたいと思っている組織に罪をなすりつけるなんて……」
「そりゃ、戻るつもりなんて無いんだろうさ」
「え?」
「頭が言ってましたよ。もう奴らにとっては、ホウオウグループは重要でもないんだろうって。何かしら、ホウオウグループに敵対出来るだけの手段や力を手に入れたんじゃないかって、頭は見ているみたいですね……それに連中、クロウの旦那に潰されてますからね。再起しようと頑張ってたのにそんな事されたら、そりゃあ恨みますよ」
「…………」

 果たして、彼らは何を思ってUHラボを造り、ホウオウグループへと返り咲こうと思ったのだろうか。花丸には分からない。彼の場合は、その能力を買われて孤児院から引き取られ、なし崩し的にグループの所属になった。最初こそ、ただいるだけだったが、それでも長く居続ければ立派な居場所となる。それに今の彼には、人ではないが、生物兵器と言う仲間がいるのだから。

 だがそれでも、立場が違っても。UHラボにいた人々の失望は、それなりに理解出来た。

 自分達が目指していたもの。自分達の理想。それそれそのものに手を振り払われ、捨てられた。それは確かに辛いだろう。

「使えないなら捨てる。頭とは違う発想ですよねー」

 ジングウの場合、「使えないなら使えるようにする」、だ。不要な物さえ磨き、或いはそれを補う物を付け加える。労力で言ったら、切り捨てる方が合理的だ。しかし、ジングウはそうしない。使えない物さえ資源と化し、自らの力に加える。失敗した時のリスクは大きいが、あの男には「失敗」と言う単語は存在していない。否、それは錯覚だ――失敗さえ塗り潰して前に進む程、ジングウの行動力が突出しているのだ。合理性もへったくれもない、とんでもないパワープレイである。

「そういや、UHラボって頭が造らせたらしいですよ」
「え、そうなんですか?」

 意外な事実を聞かされ、しかし心のどこかで納得していた。確かに、彼がやりそうな事ではある。

「何でも、グループから弾き出された研究員何人か見繕って、場所と創設資金だけ頭が提供したらしいです。後は丸投げして」
「へぇ……でも、何だってそんな事を?」
「んー……いや、ちょっと考えれば分かるでしょう?」

700akiyakan:2013/05/17(金) 13:32:07
 にひひ、とイマは意地悪そうな笑みを浮かべる。千年王国の合言葉、「想像力を働かせろ」と言いたいらしい。

 が、これ位なら、想像力を働かせるまでもない。ジングウと関わっていれば、その人となりは何と分かってくる。要はあの男は、グループから落とされた者達にチャンスをあげたかったのだ。

『芽が出ない花なんてありませんよ、生きている限りはね。問題は育て方です。案外セオリーだと思われている手段でなく、思いっきり奇をてらった育て方をしたら咲く花も、世の中にはあると私は思うのですよ』

 いつぞや、ジングウが言っていた言葉だ。

 ジングウは人でなしそのものだが、その一方で人間が誰しも持っている可能性や資質を誰よりも信じている。「死んだらそこまで」と割り切る一方で、「生きているのだからそれが芽吹くまで待ちましょう」と言う懐の大きさがある。究極的な意味での能力主義者で搾取主義者だ。あの男にしてみれば、人類すべてが「使える物」なのだろう。

「まぁある意味、そのラボがクロウの旦那に潰されたのはそれらしいと言えばらしいっすね」
「そうですねー」

 全体主義でホウオウグループが掲げる合理性を重視するクロウと、個人主義で独自の価値観によって行動するジングウ。二人はまさに対極で水と油。ジングウが創設に関わった施設をクロウが潰したと言うのは、そんな二人の分かりやすい構図であるように思えた。



 調教師とグリフォン:語り



「そう言えば頭が、近い内に嵐が来るって言ってましたよ」
「嵐……って事は、」
「そうっすね。頭の大好きな戦いが起こる、って事ですねー」

701akiyakan:2013/05/17(金) 13:32:45
――二人の人間が戦っている。

 場所はホウオウグループ支部施設内、閉鎖区画。そこにある、生物兵器の実験場だ。

 戦っている人間は、どちらも同じ格好をしている。違いがあるとすれば、それは背丈ぐらいであろう。片方の人間は、もう片方と比べて少し低い。

 その恰好を目にした人の目には、少し奇異に映った事だろう。
 
 全身が緑色の甲殻装甲で覆われている。頭の部分は蜘蛛の頭部を彷彿とさせ、まるで眼の様に左右四つずつ、計八個の光珠が存在している。胸の部分や肩、足や太腿と言った部位にもそれらの光珠は埋まっており、またその姿は人工物と言うよりも、生物的な印象を見る者に与える。

 その戦いは、凄まじいの一言に尽きる。

 まず速い。両者の攻防は正しく目にも止まらぬと言った様子であり、離れた場所でその様子をモニターしている画面では、スローモーションにしなければ、その全容が全く掴めない程。

 そして、力強い。両者共に素手であるが、その膂力は凄まじい。こちらまで轟音が聞こえて来そうなほど。生物兵器同士を戦わせる前提に造られたこの実験場でなかったら、おそらくそこら中が今頃穴だらけになっていた事だろう。

「ッ――パーフェクト・ウエポン!」
「!」

 技量では、背の高い方が上であるらしい。ほぼ一方的に追い詰めている。それが堪らなくなったのか、追い詰められている方が叫んだ。その途端に、その全身を球形の形に光が包み込む。

 バチッ、と言う音共に、振り下ろされた拳が弾かれる。光の膜はバリアの役割を果たすらしい。それもかなりの強度であり、その凄まじい膂力さえも弾き返している。

「やった!」

 バリアを張っている方が、歓声を上げた。しかし攻撃を弾かれた方は全く動じた様子を見せる事無く、その全身に銀色のオーラが浮かぶ。

 腰を低く落とし、右の拳を構える。一瞬の内にバリアに接近すると、勢い良く拳を突き出した。

「せいっ!!」
「う――わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 一瞬バリアと拳は拮抗するも、銀色のオーラに包まれた拳の威力の方が勝っていた。バリアは砕け散り、それを張っていた当人はその場に尻餅をつく。慌てて顔を上げるも、その鼻先には手刀が突きつけられていた。

「王手飛車取り、ってところかな?」
「あははは……また僕の負けか……」

 お互いに、顔を覆っているマスクを解除する。口元がまず左右に開き、それから頭を覆っている兜がスライドし、素顔が剥き出しになる。

 一方は『双角獣』、AS2ことアッシュ。もう一人は『獣帝』、花丸だった。



 ――・――・――



「やはり、根本的な戦闘能力はアッシュさんが一番高いですね」

 ディスプレイに映し出されたデータを見ながら、サヨリが呟いた。そこには、これまで行われた模擬戦闘の勝率や、その戦闘の内容、また各人のステータス情報などが表示されていた。

「まぁ、アッシュは能力だけでなく、装備品のグレードも強化出来ますからね。能力限定の一対一ならともかく、ましてや『バイオドレス』を装着しての戦闘なら、当然の結果でしょう」

702akiyakan:2013/05/17(金) 13:33:17
 バイオドレス――それが、先程の戦闘で二人が着ていた物の正体だ。

 装着者の身体能力を強化すると同時に、防護服としての役割を果たすバトルドレス。その派生品がバイオドレスである。機械的な部品ではなく、有機体的な素材で構成されているのが特徴で、『着る』のではなく、装着者と文字通り『一体化』する事で機能する。肉体の一部となる事で装着者の神経系や筋力をダイレクトにアシスト。反応速度においてはバトルドレスよりも優れており、また自己修復機能やスキルウエポンを装備する事が出来る。

 こう説明するとバトルドレスの上位互換に聞こえるが、実際はそんなに良いものではない。

 扉が開き、研究室にアッシュと花丸が入って来た。二人とも、バイオドレスを装着する為の特殊なインナースーツを着ており、まるでダイバーを思わせた。

「どうでしたか、お二人とも。バイオドレスの使い心地は?」
「僕はイマイチ。フツーのBDのが好きだなー」
「僕は……よく分からないです。そもそも、バトルドレス自体着るのが初めてなので……」
「それでも、あえて感想を言うなら?」
「えっと……何だか、ヘンな感じです。普段の自分より身体が動いちゃうので……」

 困ったような顔をしながら花丸は言う。

 実際、その感覚は正しい。バイオドレスは装着者と一体化する。即ち、肉体の延長となるのだ。初めての人間は、拡張された自分の膂力や感覚に戸惑いを覚える事だろう。

 実際二人とも、今はそれなりに様になっているが、最初は見ていられたものではなかった。バイオドレスのスペックに振り回され、戦うどころの話ではなかったのである。酷い時には、お互いに真正面からぶつかっていたりした。

 この様に、バイオドレスには様々な問題がある。装着者にある程度の習熟が求められる他、バトルドレスと違って生きた素材を使用している為に、管理・維持に手間がかかる。生物兵器を培養する液に漬けて保存しなければならず、また一着製造するのにも時間がかかる。現状、アッシュ達が着ていた二着しか存在しないのだ。

「ふむ……そればかりは、慣れて貰うしかないですねぇ。バラトストラもですけど、この類は運用出来る人間が限られてくるのが難点です」
「あ、後、父さん。これ女性陣に凄い不評だよ」

 レンコとブランの反応を思い出し、アッシュが言う。

 確かに、バイオドレスは女性陣には不評だった。レンコは取り敢えず着てくれたが、ブランは泣いて拒絶し、それどころではなかった。

「装着者と癒着・融合し、一体化する仕組みですからねー。むしろ、これ否定されるとバイオドレスのアインデンティティゼロなんですが」
「バイオドレスのアイデンティティって何ですか。でも、レンコさんやブランちゃんの気持ち分からなくも無いかも……あれは、ちょっと……」

 バイオドレスの内部を思い出し、サヨリは嫌な表情を浮かべた。

「はっきり言って、エロゲーだよね、アレ」
「無数の襞襞が全身に絡み付いて、それから神経が接続されていく感覚は何とも……」
「止めて下さい、二人とも。それ以上はいけない」

 アッシュは顔色を変えていないが、花丸はげんなりとした表情を浮かべている。視覚的にも、感覚的にも、あれは女性には辛いものがあるだろう。そんな三人の様子に、ジングウは「解せん」と言った表情を浮かべていた。

703akiyakan:2013/05/17(金) 13:34:47
「着け心地を除けばいいんだけどねぇ、アレ」
「後、誰が着けてもSWが発動するなら良いんですが……」

 そう。これも、バイオドレスが遣い手を選ぶ要素の一つである。

 人造模倣能力、スキルウエポン。本来これは、ミツを初めとするバイオドロイドのみが扱う事の出来る力だった。しかし、バイオドレスはSWを一つスロットする機能があった。これにより、バイオドロイドでない者でも、バイオドレスを纏う事でSWを使用する事が可能になるのだ。

 しかし、実際は一筋縄ではいかなかった。例えバイオドレスを来たとしても、装着者とバイオドレスの同調率が低いと、スロットされているSWを発動する事が出来ないのだ。

 このデータを調べる為、一応千年王国所属の者には(拒絶の酷いブランやサヨリの様な非戦闘員は除き)全員にバイオドレスを着て貰った。その結果、SWを発動するだけの規定値を示したのは花丸とミツの二人だけであり、事実上バイオドレスの機能を百パーセント扱えるのはこの二人しかいない、と言う事だった。

「千年王国以外の人間も調べてみたら?」
「とは言っても、SWの乱用されても面倒なんですよねぇ。それにあのカラスの事だから、バイオドレス作る位ならミツを量産しろとか言い出しかねませんし」
「って言うか、リバイアサン部隊作る位なら、そっちのがよっぽど戦力になったんじゃ……?」
「ミツさん一人造るのに、一体いくらの金と手間がかかるのか、考えた事ありますか?」

 ジングウが笑みを浮かべるが、その背後の闇は濃い。藪蛇をつついたかと、アッシュは「知りたくありません」と言う。実際彼自身、その金と手間をかけて生み出された存在だ。我が身に置き換えれば、その大変さはよく分かるつもりだった。

「ところで、何でこんな物を造ったんですか?」
「私の趣味」
「……さいですか」
「もはや突っ込む気も起きませんか、サヨリさん」
「いい加減、疲れるだけなので……」

 額に手を当て、やれやれとサヨリは首を振っている。そんな彼女の様子に、ジングウは少しだけ詰まらなそうな表情を浮かべた。

「まぁ、趣味なのは事実ですが、それを置いても決して無意味ではありませんよ」
「まぁ、ジングウさんのする事ですから、そもそも無意味だとは思ってませんけど……」
「バイオドレスは、成長する武器なのです」
「成長する……武器?」

 ジングウの言葉に、花丸は不思議そうに首を傾げた。

「はい。付喪神云々については長くなるので省きますが、バイオドレスは自我を持たないですが生きている鎧です。そしてバイオドレスは、装着者と一体となって戦う。文字通り手足と化した鎧は装着者の魂に、その想いに反応し、装着者に適応し独自に進化する……私はね、皆さん。貴方達の魂に触れる事で、バイオドレスがどんな変化を起こし、進化していくのか。それが見てみたいんですよ」
「要は僕らをモルモット代わりに、バイオドレスの実験がしたい訳ね」
「ま、要点だけ捉えるとそうなりますね」

 アッシュの毒舌をさらっと肯定するジングウ。その割に、花丸は彼の言葉に不快さは感じていなかった。

 バイオドレスは装着者の魂に、心に呼応し、進化する。それは暗に、「この道具は遣い手に応える」と言っているのだ。普通の科学者だったら、そんなスピリチュアルな事は言わない。物質主義の現実主義者が嫌い、或いは馬鹿にしそうな言葉であるが、ジングウはこう言った言葉を平気で使用する。

『だって、存在しているのだから無視する訳にはいかないじゃないですか』

 否定しようにも、事実存在してしまっている。そこに在るんだから無視せず、使ってしまおう。こう言う事を臆面無く言ってのけるのが、ジングウの凄味なのだろう。

「ところで父さん、バイオドレスの材料って何?」
「ミツさんと同じですよ」
「え、ミっちゃんと同じって……あ、そう言う事」

 合点がいったのか、アッシュが納得したような顔をする。サヨリは何とも言えない、嫌そうな表情を浮かべており、花丸だけがジングウの言葉の意味を理解していないようだった。

「えっと……ミツさんと同じって事は、生物兵器の培養細胞、って事ですか?」
「詳しく知りたければ『リサイクル・プラン』でWiki検索をかける事をお勧めするよ……もっとも、花丸ちゃんにはちょっと刺激が強いかなぁ、なんて」
「????」



 ≪悪魔の発明:2≫



「ところで皆さん、『ソイレント・グリーン』と言う映画はご存じですか? あれは良いですよ、実に合理的だ。もし地球の人口が溢れかえっても、それに対する有効な打開策がある。実に、地球の未来は明る――」

「やめぇい!!」

「おふっ」

704akiyakan:2013/05/17(金) 13:35:41
いかせのごれ某所、公園。

 そこにあるベンチに、一人の男が腰かけている。

 身長、180センチ以上。その巨体から早朝の公園では一際存在が浮いており、彼の周囲だけ場違いな空気をかもしだしている。肩幅ががっちりとしており、それなりに鍛えている事が伺える。くすんだ色の金髪と、欧米人特有の白い肌。丸い眼鏡の奥で、蒼い瞳が覗いていた。

 その威圧感だけで、何者も遠ざけてしまいそうな感じ。今は人気が無いだけだが、これがもし昼間だったらこの男の周囲には誰も寄り付かず、下手すれば居た堪れなくなった人間がその場から逃げだしていた事だろう。

 そんな威圧感をものともせず、一人の少年が男の隣に腰掛けた。いかせのごれ高校の制服を着ており、童顔の優男だ。

「ロイドさん、お久しぶりー」
「おう、一ヶ月振りか」
「最近、何してました?」
「教師。受け持ちは英語。ってか、頭(カシラ)も俺を教師にして潜入させるとか、全く何を考えているんだか」
「後は?」
「幽霊狩ったり、夢限の空間に落ちたり、まぁ色々」
「可愛い子いました?」
「ノーコメ」
「えー何でですか、重要じゃないですかー」
「あのな、自分の学校の生徒がお前に食い荒らされてるとか、居た堪れなくなるわ。第一お前、何人か既に食ってるだろ」
「てへ」
「てへじゃねぇ」
「それはさておき、」
「置いとくのかよ」
「どうですか、ロクブツ学園は?」
「……ぶっちゃけ、やばい」

 一呼吸間を置いてから、ロイドは言った。眼鏡に隠れた視線は空の方を向いており、彼が何を見ているのかアッシュには分からない。

「カルトラの刑務所にいた時、ここ程やべぇ場所は無いと思ったが、あそこも大概だな。ってか、離島じゃなくて街のど真ん中にある分、あそこのがやばいか。更に輪をかけてやばいのが、あんな場所で普通に勉強やってる無神経さだな。あの学校作った奴、とち狂ってるわ」
「……例えば、どんな風にやばいんです?」
「つい此間、レギオンが街中に出て大騒ぎになっただろ。あの時、あの亡霊共はあからさまにあの学校を避けてやがった。学校に敷いてある結界を嫌ったのか、それとも学校に奴らでも恐れる何かがいるのか……」
「へぇ。何だか、楽しそうですね?」
「そら、部外者はな。半日あそこで暮らしてる身分にもなってくれよ。最近じゃ、生きてる奴と死んでいる奴の区別がつかなくなってきた」

 そう言って、ロイドは公園にあるトイレの方に視線を向けた。そこは特に、何も無い。だが、アッシュもそちらへ視線を向けている。二人の見る目はまるで、そこに何かが有り、それをしっかりと捉えているかのようだった。

「仲の良い人、出来ました?」
「まぁ、それなりにな」
「今度、紹介してくださいよ」
「全面的に拒否らせてもらうわ」
「えー」

 ぷくっ、と頬を膨らませるアッシュを無視して、ロイドは立ち上がる。彼はくいっ、と眼鏡を持ち上げると、アッシュの方を振り返って見下ろした。

「それじゃ潜入調査、引き続きお願いします。くれぐれも、アースセイバーに見つからないように」
「ああ、努力する」



 ≪経過報告Ver人面虎→双角獣≫



(本筋を離れ、番外の地で行われる人面虎の戦い)

(彼の姿を見る者は誰も無い)

(まさに、神のみぞ知る)

705スゴロク:2013/05/17(金) 22:20:53
「恐怖と不安の楔」の直後辺りです。ようやくこの設定出せました……。


京とアンがアーサーに付き添って救急車に乗り、その場を離れてからしばらく。
誰もいなくなった情報屋に、人影が入り込む。

「あーららら……こーりゃまたひーどい有様だねぇ」

奇妙に間延びした口調の男……赤銅 理人。いかせのごれ各地を放浪する変人であり、触れた物質に任意あるいは無作為に能力を付与する、という厄介極まりない特殊能力を備えており、アースセイバー・ホウオウグループの双方から「ハーメルン」のコードで登録されている要注意人物でもある。

そんな理人が此処にやって来たのは、全くの偶然からだった。いつもの如く気ままに歩いていた彼は、少し前にこの情報屋の前を通り過ぎたのだが、視界から消えて程なく銃声と騒音が聞こえたのだ。何が起きたのかと様子を伺っていると、研究者風の男が赤い髪の少年を連れ、何事か言いながら理人とは反対の方向へ消えて行ったのだ。

緊急事態と飛び出しかけたところに、今度は別の女性二人が現れ、救急車で運ばれた何人かに付き添って去って行った。

人の気配が消えたところで、ようやく理人は姿を現し、情報屋の中に入り込んだのだが、

「……うーわー、なーんだこりゃ。まーさに惨状だ」

そこら中に血痕と弾痕が残り、家具や調度品が破壊され、ひっくり返され、まさに惨状としか形容のしようがない有様だった。理人はこの情報屋に来たことはないが、さすがに襲撃があっただろうことは一目瞭然だった。
と、

「ん?」

足元に何かを見つけた。拾い上げてみると、それは無残にもズタズタにされたパペットだった。腹話術か何かに使うモノらしいが、そんなモノがなぜ情報屋にあるのか?

「……なーんだこりゃ」

興味をなくして放り捨てそうになったが、寸前で思いとどまった。あることを思い付いたからだ。

「おーぉっと、そうだ。コイツに聞いてみよーかね」

言うや、理人は背負っていたナップサックから器用に一本の針を取り出し、パペットに突き刺す。瞬間、針が凄まじい速度で縦横無尽に動き、数秒後にはパペットが元通りに修復されていた。そのパペットを手に嵌め、理人は反対の手でヘッドホンをつける。

「さーて……まーずは、君の名前を教えてもらおうかーね」

パペットは何も反応を返さなかったが、理人はまるで返事が聞こえたかのように頷く。

「ふーむふむ、ロッギー君ね。でーはロッギー君、ここで何が起ーきたのかね?」

今度は数十秒、沈黙が流れる。それを破ったのは、やはり理人の声だった。

「……あわー、そーりゃ大事だー」

口調は全然そうとは聞こえないが、ロッギーから事態のあらましを「聞いた」理人は内心、かなり慌てていた。
ロッギーの「言った」ことが正しければ、ここを襲ったのはUHラボの関係者、しかもかなり危険な部類だ。あの施設の危なさは理人自身もよく知っていたが、まさかここに来て関わりが出来るとは思わなかった。

706スゴロク:2013/05/17(金) 22:21:31
「やーれやれ、どーしたもーのかね? こーこまで関わって放り出ーすわけにもいかんし」

何だかんだ言って、一度首を突っ込むと放っておけないのがこの男の性格である。幸いと言うか、何が起きてもとりあえず対処できるだけの用意はしてあるし、なければないで現地調達が利く。

「とーりあえずは、あの救急車ーを追いかけてみーるかね」

言って、ロッギーを手に嵌めたまま外に出る理人。



「その件、私も咬ませてもらうけど、いいわね」


そんな彼の前に、一人の女性が現れていた。夜闇の中でもなお黒い長髪と、瞳。片手で眼鏡を弄ぶ、Gパン姿の彼女。
普段ツバメのアシスタントに奔走している、昼間の姿はどこにもない。彼女を、理人は知っていた。

「おんやー……久しぶりだーね、雨里さん」
「フフ……そうね、何年ぶりかしら?」

女性―――絵本作家・一之瀬ツバメのアシスタントたる夜見 雨里は、不敵に笑ってその挨拶を受けた。


「しかーし、相変わらず表と裏の激しいことで」
「前に言ったでしょ? 私はあくまで私、あの子はあの子。違って当然よ」

言い含めるようにはっきりと述べる雨里に対し、理人は表面上は変わらず受け答える。

「はーいはい。まーそれより、状況は把握しーてます?」
「大よそはね。それより、行くなら急いだ方がいいんじゃない? この子もいるし」
「へ?」

言われて雨里の横を見ると、まるで色が抜けたかのような白い髪とリボンが印象的な、無表情の少女が佇んでいた。

「こーの子は?」
「ポリトワルサーカスの団員よ。何だか迷子になったみたいで……送ろうにも時間が遅いから、ひとまずここに預けようと思って」
「何でそーんな結論に……そーりゃ、三鷹先生はたーまにここに来ーますから、顔が多少利ーくのはわかりまーすけど」
「すぐに頼れるのがここだったのよ。……ま、こんな状況では無理みたいだし、状況知ってからこの子も何だかやる気みたいだし」
「時間僅少。拙速推奨」

その少女が、抑揚のない口調で「行くなら急げ」と急かす。言われた雨里は会話を打ち切り、

「……そうね。理人、こっちへ」
「んー」

右手で少女の、左手で理人の手を取る。

「病院の近くまで跳んで、そこからは普通にいくわよ。夜とは言え、一般人に見られたらコトよ」

二人が頷いた直後、彼女らの姿は文字通り掻き消えていた。



運命交差点・推

(交錯する事象)
(未だ見えぬ一線)
(次なる運命は、いかに)

707紅麗:2013/05/18(土) 00:16:57
【純白レコード】直後のお話になります。
思兼さんより「御坂 成見」十字メシアさんより「葛城 袖子」をお借りしました!
自宅からは「フミヤ」です。


さて、と。これからどうするかな。

「……ん?」

ふと、歩みだした足を止めた。また未来が見える。
赤いパーカーを着た男と、オレンジ色のパーカーを着た女が俺に話しかける、未来が。

あぁ、今日はなんだか「話しかけられる」ことが多いな。

まぁ、それも結局は回避してしまうのだけれど。
「見える」男のテンションは、信じられないくらいに高い。
関わったらロクなことがないだろう。俺はそう直感的に感じた。

やれやれ、面倒は、キライ―――


「やぁ、こんにちは、少年!」
「―――!?」


―――なん…だ…。


「ねぇねぇあのさ、君この辺りで化け物とか…」
「ちょっとフミヤ!街中で「そういうの」使うのやめなってば!!」

俺が「見た」あの赤色のパーカーの男が、目の前に立っている。
そしてその男の後ろから、オレンジ色のパーカーの女がぜぇぜぇと息を切らしながら走ってきていた。
見えていたのに避けれなかった未来…何故だ?

「ごめん、びっくりしたよね」

中腰になり申し訳なさそうに俺に謝る女。金髪の髪は後ろで一本に結ばれており、
右目は長い髪で隠されていた。心なしか、隣にいる男と一部分だけ髪型が似ている気がする。
男はと言えば、俺を見ながらにやにや笑っている。きもち悪ィ。

「ほらっ、あんたも謝りなってば!」
「え〜?だっておれ別に悪いことしてないし…」
「いいから謝れ!」

あ、叩かれる、と未来が見えた直後。
すぱぁん!と路地に心地の良い音が響いた。と同時に男が頭を抱えて蹲る。
しかし男は何事もなかったかのように起き上がって、あの笑みを浮かべたまま、

「それよりも君珍しい髪と目だね。もしかして能力者?ねぇねぇ能力者?」
「………っ、こっちくんな変態!不審者!気持ち悪い!」

俺の方へと近付いてくる。ここで全速力で走って逃げても良かったのだが、プライドが許さなかった。
さて、「奴が気持ち悪い」という理由が一番でこいつを拒絶しているのだが、もう一つ、寄られたくない理由がある。

この容姿だ。

白髪に赤い瞳。コレを、あまり見られたくはなかったんだ。
誰にも認めてもらえなかったこの容姿だ。奴らもきっと、気持ち悪いと思っているのだろう。
今まで、ずっとそうだったんだから。

「来るなっつってんだろ!」

俺の大声に、男の方もおかしい、と思ったらしく。近付いてくるのを止めた。
鋭い眼でぎろりと男を睨みつけると、先ほどまであった笑顔はさっぱり消えて、
困ったような表情を浮かべていた。

そんな中、女が俺の方を見た。

「ご、ごめん…不快にさせる気はなかったんだ…」
「―――るな、」
「え?」
「見るなよっ!」

708紅麗:2013/05/18(土) 00:17:56
俺の肩に触れようとする女の手を強く払う。
それど、「見るな」。その一言で女も何か気が付いたようで、ふっと笑うと再び俺と眼を合わせてきた。

「………あ」

女が右手で、長い右前髪をあげる。
するとそこには通常ではまず「ありえない」ような瞳があった。

「うちもさ、「これ」が原因で君みたいになってた時があったんだ。
友達はできないし、いじめにはあうし…もう大変でね。
でも、そんな時助けてくれた人がいたんだよ。…っていうのもコイツなんだけど」

くいっと顔を動かし顎であの男を指し示す。男は後ろで誇らしげに笑っていた。
まぁ、何が言いたいかって言うと、と、少し照れくさそうに女が続ける。

「色々、嫌なこと言われるかもしれないけどさ…。
この世界に自分を「好き」になってくれる人は必ずいるんだよ。だから、大丈夫だよ?
少なくとも、うちたちは君の敵じゃない!」

なーんて、出会ったばっかりなのに何言ってんだろーね!そう言って女は笑った。

「おれは君の髪と瞳好きだけどなー。人と違うって、いいよね!」
「あのね…」

男が放った言葉に、女が溜め息をつく。
…変な奴らだと思っていたが、案外、悪い人たちではない、みたいだ。

「君、お名前は?」
「……御坂 成見」
「ナルミ、ね!よろしく」

すっと手が差し出される。握手をもとめているのだろうが、俺はそんなことはしない。
まだ、こいつらを完全に認めたわけじゃない。

「ちぇ、つれないなぁ」
「まぁまぁ…うちは葛城 袖子。…よろしく、ナルミ」

「さて、自己紹介も終わったところで」
「?」
「化け物探し、再開しますか!」


あぁ、そういえばこいつ、俺の目の前に現れたときもそんなこと言ってたな。


「まだそんなこと言ってたの?!」
「えー、だめー?」
「だめに決まってんだろ!ナルミだっているのに!」
「俺はいいけど…どうなっても知らないよ」
「え…それって、どういう…」




「あんまり、よくない未来が「見えてる」からさ」




「見えた」世界



(…いいじゃん)
(…えっ?)
(上等!この眼で確かめてやろーぜぃ!)
(あー、変なスイッチ入っちゃった)
(…やっぱり、面倒なのに巻き込まれた…)

709えて子:2013/05/18(土) 21:15:48
「恐怖と不安の楔」の続きです。
スゴロクさんから「隠 京」、名前のみクラベスさんから「アン・ロッカー」をお借りしました。


京とアンに付き添われて、アーサーは病院へと向かった。
病院に到着すると、ハヅルと長久はすぐさま運び込まれる。

アーサーも痣だらけという事で診察を受けたが、気絶するほど頭を強く打ってはいたものの命に関わるようなものではない。
ぶつけた時にできた痣はそれほどひどいものではなく、捻挫も軽いもので安静にしていればすぐによくなるだろうとのことだった。
同年代の女子より小柄で軽い体が幸いしたのだろう。

今、京は手当てを受けたアーサーと共に待合室にいる。
アーサーが京の服の裾を握って離さなかったからだ。
アンは京の代わりに医師からハヅルと長久の状態を聞いている。

「……」
「………」

アーサーは表情を強張らせたまま、俯いている。
時折何か言いたげに口を小さく動かすが、すぐに口を一文字に引き結んでしまう。
やはり言葉が出ないのがもどかしいのだろう。

「……そうだ」

ふと思い出したように呟くと、京は荷物からメモ帳とペンを取り出し、アーサーに渡した。

「よかったら、これを使ってちょうだい」
「………」

メモ帳とペンを受け取ると、京の伝えんとすることが分かったのかアーサーは小さく頷く。
よほど話したいことがあったのか、すぐにメモ帳に書き込み始めた。

「…………!」

書き終わると、それを京に見せた。
どうやら、先程情報屋で京に聞かれたことへの返事らしい。

『知らない人が来たら そう介がおかしくなって、ハヅルをおそったの。』

「…そうすけ?」

『ベニー姉さんの家族。姉さんがずっとさがしていた人。』

「………その人がおかしくなって、皆を襲ったの?」

その問いに、アーサーはまたペンを走らせる。
そのやり取りを何度か繰り返してから、メモに書かれた情報を元に、アーサーの言いたい事をまとめた。

「………つまり…情報屋に怖いお客さんが来て、その人の声を聞いたソウスケくんがひどく怯えたから、ハヅルさんはソウスケくんを連れて二階へ避難した。そのお客さんが声を張り上げたら、ソウスケくんが急におかしくなって、ハヅルさんの木槌を取り出して皆を襲った。アーサーちゃんは長久くんに助けを求める途中で階段から落ちて気を失って、目が覚めたらソウスケくんとお客さんはいなくて、二人が倒れていた…ということでいいのかしら?」
「………」

京が確認すると、アーサーは小さく頷いた。

「……そう。辛いこと思い出させて、ごめんなさいね」

京の言葉に、アーサーは首を振る。
待合室の椅子に膝を抱えて座る様子を見ていると、小さく胸が痛んだ。

「…………」
「…?どうしたの、アーサーちゃん?」

不安そうな表情でじっと自分を見つめてくるアーサーに気づき、軽く問う。
声をかけられたアーサーは、おずおずとメモ帳を差し出した。

『そう介 たすかる?』

「…ソウスケくんを、心配してるの?」

『そう介は、今こわい人といっしょにいる。きっとこわい思いしてる。おうちに来てからおきものみたいだったのに、あの人が来たらすごくこわがってた。』

だから、と書いて、ペンが止まった。
しばらく何を書くか迷い、やがてゆっくりとペンが動く。

『早く、ベニー姉さんといっしょにしてあげたい。姉さんやハヅル、長久と会えなくなるんじゃないかって思って、ぼくはすごくこわかった。きっと、そう介も同じ気持ち。だから、早く見つけてあげたい』

文章を見せたアーサーの瞳は、まだ恐怖に揺れていた。
そして、それと同じくらい、姿を消した仲間を心配していた。


小さな決意


(廊下の奥から靴音が聞こえてきた)
(アンか、医師か、別の誰かか…)

710サイコロ:2013/05/19(日) 20:19:05
鬼を喰らう災厄の蛟(しらにゅいさん作)の続きとなります。


夕暮れの中、畳の上で、ショウゴの父であり鬼英会総長であった九鬼兵一が正座していた。

ああ、またこの夢か。ショウゴは首を振る。

父の声は聞こえない。相変わらず、何かを喋っているが、聞こえない。

いい加減にしてくれ、とショウゴが呟く。

次の瞬間。


「グッ…!?」
激痛に目を見開くと、見慣れた天井が目に入った。

同じ夕暮れでも、場所が違う。世話になっている出雲寺組の屋敷の中だった。
辺りを見回すと、本格的な治療道具がショウゴの周りにあった。
布団の横ではアスミが座りながら眠りこんでいて、腕を掴んでいる。
ショウゴは痛みをこらえ、首をひねるので精一杯だった。
体は全身が悲鳴を上げていた。
ズキズキと刺すように痛む手足、迂闊に息も出来ない程傷付けられた内蔵。
今にももう一度失神しそうなほどの痛みだったが、壁掛け時計で日時だけは確認する。

ミヅチと戦ってから2日が経過していた。

「クソ…おい、組長さん…、起きてくれ」
かろうじて捻り出した声だが、アスミの眠りは深いのか起きる気配が一向に無い。
「仕方ねぇな…」
ショウゴが脂汗をダラダラと流しながら掴まれていない方の腕を動かすと、アスミの鼻をつまんだ。
数秒後、アスミがバタバタと慌てて起きた。

711サイコロ:2013/05/19(日) 20:19:42


下手に動くと飛びそうになる意識を何とか繋ぎとめ、ショウゴは状況をアスミから聞いた。
昨日は一度心臓まで止まったらしい。手当は完璧に行なわれていたが、
治癒には時間がかかるという。しかしミズチの期限は悠長に自然回復を待てるような長さでは無かった。
「今日除いてあと…四日か。クソ、どうしろってんだ畜生…」
「…冷静に考えて下さい。あんなのはただの挑発、真に受けてバカを見るだけ損です。
鬼英会と、出雲寺組の精鋭を選りすぐって攻め込むなりなんなり、他にも手立ては沢山ありますよ。」
「それじゃ、筋は通せねぇよ…組長さん、昨日のやり取り、聞いてた、だろ?」
ショウゴは携帯を探りながら言う。
「そんな…死んで花など咲くものではありません、命は大事にすべきです。
それに今の貴方が、どうやって戦いに赴けるというのですか。」
「甘い。この業界は、ぽっくり人が死ぬもんだ。命の重さが…軽いからな。
…ミヅチさんもあながち間違ったことは…。」
ショウゴはそれ以上口に出すのをやめる。探り当てた携帯を操作しながら、アスミに聞いた。
「そういや組長さん…俺は、完全に血が上がっちまって…醜態を晒しちまったが、
あの時、『何に気付いた』んだ?…ぶっちゃけ、俺がミヅチさんと…組手してた時は、
いつもああなんだ…慣れ過ぎてて、わからねぇ。」
ミヅチとの戦闘の最中。ショウゴがキレる前に彼女が「日和物のお嬢さんは、気付いたようですねぇ」
と言っていた事を思い出す。
「ああ、そうです。あの方、もしかして…特殊能力者では?」
「なんだって?」
「動きがおかしかったんです。明らかに。」
頭が冷えている今のショウゴには、ピンと来るものがあった。
「何か、移動系の…能力者?」
「断言はできませんが、能力者の可能性が高いです。」
それ以降、暫く二人は沈黙し、互いに考え込んでいた。
先に口を開いたのはアスミだ。
「ショウゴさん。能力者が相手であるなら、アースセイバーに援護を頼むことができます。」
「お断りだ。それより…すまねぇけども、通話押して、耳元に当てて…くれねぇか」
ショウゴが辛うじて握っていた携帯を受け取ると、アスミが耳に当てる。

712サイコロ:2013/05/19(日) 20:20:14

「先輩…どうしたんですか!?」
1時間後。ショウゴが眠っている所にやってきたのはシスイだった。目を白黒させながら尋ねる。
「敵が来た。ショウゴがボコボコにされた。うちの組員も巻き添え食った。以上。」
アキトが簡潔に説明する。彼は出雲寺組員が戦闘の巻き添えを食った事と、ミヅチに出雲寺組を馬鹿にされた事、
ミヅチに手玉に取られた事、ショウゴが目を覚ました時にたまたま看病していたのがアスミだった、という事に
イライラしているらしく、未だに機嫌が悪い。
アスミに代わって看病をしていたリュウザが、ショウゴを起こす。
「グッ…ん、来たかシスイ。」
「電話で『緊急事態だ、すぐ来てくれ』というから何があったかと思えば…」
「単刀直入に…頼む。お前の能力で、俺の体を…動けるように、してくれねぇか?急がにゃ…ならねぇ。」
「どうして…?」
「頼むぜ、おい。数日後に…リベンジマッチ、しなきゃならねぇってのに…このザマだ。こんなんじゃ、闘えねぇ。」
事情を説明すると、溜息をついてシスイは天子麒麟を発動させた。
「とりあえず、これでどこまで回復できるかなんてわかりませんけど、やれるだけやってみますよ。」

一晩中、ショウゴとシスイはしゃべり続けた。ショウゴは始め喋るのも辛そうであったが、次第に楽になってきたようだ。
時にはリュウザやコトハ、アスミやアキトなどもやってきて話に混ざる。
アースセイバーの事。最近の事件の事。アッシュの事。鬼英会や出雲寺組の事。いかせのごれの世界の事。
そして、今回の事件の事。

そうして、夜が明ける頃には。


「…すげぇな、歩くぐらいは出来るぜ。」
体をふらつかせながらも立ち上がる事ができるようになっていた。

「ね、眠い…」
「すまねぇなシスイ、んでもってありがとう。これだけ回復すりゃ、特訓できるわ。」
シスイだけでなく、眠そうにしていたアキトやアスミ、コトハも目を剥いた。
「その体で何するつもりなの!?」
「つい昨日死にかけたばかりなのよ!?」
「特訓ってお前どういうことだよ!」

脂汗はまだ流れている。それでもショウゴは笑みを受かべて言い放つ。
「座して死を待つほど俺も愚かじゃねぇ。こういう時は多少無茶してでも特訓だ、って相場は決まってるんだよ。」


<ショウゴの目覚めと瀕死回復>

713サイコロ:2013/05/19(日) 20:23:50
というわけで動き出した抱えた爆弾シリーズの続編です。
しらにゅいさんとの合作になります。

お借りしたのは十字メシアさん宅から出雲寺亜澄、九柳亜樹斗、akiyakanさん宅から都シスイ、しらにゅいさん宅からミヅチでした。

714思兼:2013/05/20(月) 10:21:37
『「見えた」世界 』とクロスしているお話です。


【雑踏チルドレン】



「それよりも君珍しい髪と目だね。もしかして能力者?ねぇねぇ能力者?」

「………っ、こっちくんな変態!不審者!気持ち悪い!」





御坂成見が怪しげな男に話しかけられている時であった。








「ん?あれ成見君じゃない?」

「…そうだな。」


それを遠くから眺める少年と少女がいた。

一人は小柄で猫目の少し笑みを含んだ表情が目を引く怪しげな少年、
もう一人は長い黒髪を持つ中性的な背の高い少女だ。



不思議なのは、それなりの数の人が行きかう道路から投げ眼ているのに、
誰も二人が「見えていない」様子だった。

まるでそこに「誰もいない」かのごとく、無視するように。



「ねえねえ、助けに行こうよ!」

「抜かせ亮、お前は騒ぎに首を突っ込みたいだけだろう?」



「静葉はつれないねぇ〜近所の子が変質者に絡まれてるんだよ?」



亮と呼ばれた少年はにやにやしており、明らかに成見を助けるよりも騒ぎに
首を突っ込みたい様子だった。

715思兼:2013/05/20(月) 10:22:14



「うるさい、大体何のためにお前に『かくれんぼ』をさせて、
俺が使いたくもない『耳を塞ぐ』を使ってまで外に出たと思ってるんだ?」


「はは!ごめんって!
…でもどうするの?絡まれてるのは事実だよ?」


亮はにやにや笑いをやめて、真面目な表情になりながら言う。



「確かに、放って置くには少し不安だ。
話しかけて成見から引き離そうか。ダメなら俺たちの『力』で成見を連れて逃げればいい。」


「うんうん、その作戦で行こうか!
一応ダニエルに相手の身元調べてもらっとく?」

「うん、そうだな。だがそれは成見を引き離した後ででいい。
今はあの子を助けることだけ考えよう。」



静葉と呼ばれた少女はそういうと歩きはじめる。


「やれやれ…なんだかんだいって静葉は優しいんだよね。
予定大幅に狂っちゃうのにさ。」


そんなことを言いながら亮もその後に続く。









「…おいあんたら、その子をどうする気だ?」

「はいはいこんにちは〜!
急にごめんね、僕は橋元 亮、そっちの目つき態度悪いのは巴 静葉。
成見君の知り合いだよ!」



「亮!?それに静葉姉ちゃんも!」



――そして二人は、まるで空間から湧き出るように姿を現した。





<To be continued>

716思兼:2013/05/20(月) 10:26:55
<登場キャラクター>
フミヤ(紅麗様)
葛城 袖子(十字メシア様)
御坂 成見(思兼)
橋元 亮(思兼)
巴 静葉(思兼)
ダニエル・マーティン(名前のみ・思兼)

717akiyakan:2013/05/21(火) 17:32:04
 これは、誰も知らない物語だ。

 これは、誰も知らない始まりだ。

 これは、彼しか知らない物語だ。

 これは、彼が生まれた物語だ。

 そして、彼が死んでしまった終わりでもある。



 あるところに、一人の少年がいた。

 少年は、幼い頃より聡明だった。幼いながらも賢く、また他人の心の機微に聡かった。優れた観察眼を持っており、そのおかげで周囲から様々な物事を学び取る事が出来た。

 普通の中流家庭に生まれた。親が特別な才能を持っていた訳でもない。特別な教育を受けた訳でもない。

 ただそれは――本当にたまたまだったのだろう。

 少年は幸福だった。普通に親に愛され、普通に友人に恵まれ、普通に自分を肯定できる世界に生まれた。

 「持っているか」、「持っていないか」。いずれかで言えば、少年は前者だった。「選ばれた」立場の人間であった。そして少年は、幸か不幸か、幼い頃からその事を自覚していた。

 出る杭は打たれる。持つ者は持たざる者に妬まれる。異端は排除される。

 順応するコツは目立たない事。早い段階でその事に気付いてしまった少年は、極力無個性である事に努めた。他人と違う事を隠し、同じ形であろうとした。善人になる訳でも、悪人になろうともしなかった。ただ凡庸であろうとした。その他大勢のモブキャラになろうとしたのだった。

 それが一番楽な生き方で、それが一番摩擦を生まない生き方なのだと。早熟であるが故に、彼は気付いてしまったのだから。

 だが、そんな彼と違って、彼の傍には己が光を隠す事も無く曝け出す者がいた。

 その少年は、信じる光の存在だった。自らの周りを明るく照らし、力無き者に手を差し伸べ、己が悪と認めた者には敢然と立ち向かう。

 少年もまた、彼と同じく異端であった。だが、取った選択が違った。少年は凡庸である事を嫌い、自らの光を惜しげも無く晒した。当然、持たざる者達は、光を持たない者達は反発する。だが、少年はそれに負ける事無く、己が力で輝き続けていた。

 彼は、少年に憧れた。少年は強かった。反発する事に、不和を招く事を恐れて群れに埋もれた自分と異なり、群れの中にあっても自分の個性を失わない少年の強さに、その光に、ただただ憧れ、尊敬の念を抱いていた。

 少年と彼は親友同士だった。異端と異端は惹かれ合う。彼がいくらうまく凡庸を装っても、その内にある光源/個性までは隠し通せない。

 彼は憧れから、少年は同族を求めて。似た者同士、二人は真実親友同士であった。

 ――・――・――

718akiyakan:2013/05/21(火) 17:32:35
 彼は幸運だった。それは間違い無い。

 事実彼は、バスごと谷底に転落しても死ぬ事は無かった。常人なら死ぬ様な目に遭っても命を落とさずにいられたのは、真実幸運だと言っていい。

 不幸だったのは、彼の親友だ。少年はこの事故で命を落とした。

 そもそもこの事故は、本来なら起こらない筈の事故だった。一体誰に、そんな事を予測出来ただろう。休憩で立ち寄ったサービスエリアで男にバスをジャックされてしまうなど。楽しい筈の遠足は、一転して恐怖のバスツアーに変わってしまった。

 少年の不幸さは、バスジャック犯に抗う為の勇気と能力を、幼いながらにも持ってしまっていた事だろう。もし少年がもう少し臆病者だったら、もし少年の能力が普通の子供と同じ位しか無ければ、もし少年が目の前の悪を見逃せる狡さがあったら――もしかしたら、別の未来があっただろう。

 だが、『If』に意味は無い。既に完結した物語の筋書きは変えられない。

 少年は、バスジャック犯と戦った。彼はそれを見守った。結果――二人とも、死んだ。

 バスジャック犯と少年が起こした乱闘の結果、運転手はハンドル操作を誤った。そしてバスは谷底へ転落し、その衝撃で二人共死んでしまった。二人がいたのは運転席だった。そしてバスは、フロントから真っ逆さまに落ちていた。

 彼は、その光景を茫然と見つめていた。潰れた車体から零れ出る赤い液体。それが少年のものなのか、バスジャック犯のものなのか、或いは運転手のものなのか。そんな事、少年には分からなかった。

 ただ胸の中にあったのは、「何故」と言う疑問。

 こんなのあんまりだと、彼は思った。少年は、彼の親友は、間違っていた訳じゃない。彼は誰よりも高潔で、そして優れていた。目の前の悪党が許せなくて、それを何とかするだけの能力があって、そして自分に出来る事をやろうとしただけなのに。

 生き残ったのは自分と、数人の同級生達と、引率の担任の教師。彼と同じく、ただ「見ている」だけだった人間達だ。

 何故なんだ。何故生き残ったのは自分達なのだ。

 こんな取るに足らない、「何もしなかった」人間なんかよりも――少年の方が、目の前の間違いを正そうと「行動した」少年こそが、生き残るべきじゃなかったのか。

 何故、何故、何故。繰り返される自問自答。その果てに、彼は悟った。

 嗚呼、そうだ。そうなのだ。

 これが「世界」なんだと、彼は気付いた。

 善も悪も、関係無いのだ。悪い事をしたから罰が与えられる訳でも、良い事をしたから優遇される訳でもない。ただ、どんな人間も、死ぬ時に死ぬ存在でしかない。善人も悪人も、そこにある価値は同じものなのだと。

 燃料タンクから漏れ出したガソリンが引火し、彼の目の前でバスが燃え上がった。その光景を目にして、少年は笑っていた。声を上げて狂ったように、泣き笑いの表情で彼は笑っていた。

 その瞬間だった。『彼』が産声を上げたのは。それは同時に、それまでの『彼』の死を意味していた。



 ≪混沌原理≫



(やがて『彼』は親の下から姿を消し、それから一度も姿を現していない)

(両親は捜索届けを出しており、『彼』は時折自分の写真を街で見かける)

(その度に、『彼』は嗤うのだ)

(もう九年も経つのにまだ諦めていないのか、と)

719akiyakan:2013/05/21(火) 17:33:14
※えて子さんより「花丸」をお借りしました。

 バイオドレスの運用実験を開始し、数日が経過した。

 流石に回数を重ねる毎に装着者達もその扱いに慣れ始め、またその同調率も最初の頃より上がり始めていた。

「このままの調子で回数をこなせば、そのうち花丸さん達以外でもSWを使えるようになるかもしれませんね」
「そうですね」

 ジングウも、この経過には満足しているようだった。各自の同調率を示す値が、日に日に上がっている事がよく分かる。

「ただ……アッシュさんやリキさんの値は、上昇率が他の人達よりも悪いですね」
「仕方がありません。バイオドレスを受け入れているか否か。それが同調率の鍵ですから」

 バイオドレスの同調率とは、即ちどれだけ鎧を身体の一部として受け入れられるかにある。自分と一体化しているバイオドレスが道具ではなく、自分の手足の一部分だとどれだけ認識出来るのか。それがバイオドレスの運用に不可欠だった。

「ミツさんはバイオドレスが自分と同じ部品で出来ている事、加えて『彼』は自我が薄いですからね。バイオドレスとの適合率は高くて当然なんですよ」
「花丸さんが高いのはどうしてでしょう?」
「彼はやはり、彼が持つ能力『マッドブリーダー』の影響によるものが大きいですね」
「マッドブリーダー……あれって確か、危険な生き物に対して機能する能力ですよね? バイオドレスにも有効なんですね」
「バイオドレスも生き物ですよ。心が無いだけで。それに花丸さんの戦闘スタイルは、所謂「使役・指揮型」です。自身が戦闘能力を持たない分、彼は周りに合わせる事に優れている。それが、バイオドレスとの同調に関してプラスに機能しているのです」

 ジングウはコンソールを操作し、改めて各自のパラメータを確認する。口元に手を当て、何かを思案するようにブツブツと呟いた。

「……二つの内の一つは、花丸さんの専用機にしましょう」
「花丸さんの専用に、ですか? たった二つしか無いのに?」
「同じ人間に使ってもらう事が大事なんですよ、本来は。SWも各種装備も、所詮付属品でしかありません。本当なら全員分のバイオドレスがあったら良かったんですが、それを製造し維持するだけの余裕はありませんので」
「はぁ……」
「それに……花丸さん自身、自分一人で戦う為の力を欲しているようですので好都合です」
「あら?」

 ジングウの言葉に、サヨリは笑みを浮かべる。彼女の反応に、ジングウは首を傾げた。

「どうしました?」
「いえいえ〜、何でもないですよ〜?」
「……何ですか、その笑顔は。気持ち悪いですねぇ」

 ――・――・――

「で、花丸ちゃん、それ貰ったんだ」
「はい」

 支部施設から街へと戻る道を、アッシュと花丸はバイクの二人乗り(タンデム)で走っていた。

 花丸の手の中には、緑色の球体が握られていた。それは体温を持っており、ほんのりと暖かい。

「あれだけ大きなバイオドレスが、こんなに小さくなるなんてね」
「そうですね、びっくりです」

 手にした球体を、まじまじと花丸は見つめている。球体はゴムに似た感触をしており、またあちこちにバイオドレスの各部にあった宝石にも、目玉にも見える部位が付いている。

「バイオドレスって確か、培養液に漬けておかないといけないんじゃなかったっけ」
「培養液自体は、組成を維持する為の成分と運用に必要なエネルギーの補給が役割なので、定期的に支部で補給すれば、こうやって持ち歩く事は可能なんだそうです」
「ふーん。でも、何で花丸ちゃんだけなんだろう」
「サヨリさんは、『大切に育ててね』って言ってましたけど……」
「あ、そーゆー意味ね」
「?」

 花丸が言った言葉だけで、アッシュは合点がいったらしい。何やら納得したように頷いている。しかし言った本人は気付いていないようで、首を傾げるばかりだった。

720akiyakan:2013/05/21(火) 17:33:46
「でもいいなぁ、花丸ちゃんそれ貰えて。僕も新しい武器が欲しいにゃ〜」
「あ、えっと……もし良かったら、使います? 僕が使うより、アッシュさんが使った方が……」
「冗談だよ、ジョーダン。僕はそいつに嫌われてるし、花丸ちゃんが使ってあげて。第一、君が任されたんだろ?」
「あ……はい」

 手にした球体を見つめながら、花丸は嬉しそうに微笑んだ。

 内心、彼は自分がバイオドレスを託された事に喜びを感じていた。今まで生物兵器を操って戦う事しか出来ず、自分一人では何も出来なかった。それがようやく、こうして直接戦う為の力を手に入れられたのだ。花丸の心の中には、今まで足手まといでしかなかった自分が、ようやく役に立てるようになる事への歓喜が溢れていた。

「それにしても、今日は虫が多いなぁ……」
「虫?」

 その時になって花丸は、確かに羽虫が多い事に気付いた。アッシュが運転するバイクは、何度も蚊柱の中に突っ込んでいる。

「変ですね、まだ春先なのに……」
「今年は結構暖かいからね、そのせいかも――!?」

 その時、アッシュがバイクを止めた。突然の出来事だった為、花丸はバイオドレスを落としそうになって慌ててそれを抱き抱える。

「あ、アッシュさん、どうしたんですか、突然……?」

 花丸の言葉にアッシュは答えない。ただ前方を、自分の進行方向を見つめている。

 そこに、一人の男が立っていた。眼鏡をかけており、頭には緑色のバンダナを巻き付けている。いや、バンダナと言うより、頭全体を覆い包むそれはターバンと言った方が相応しいか。身長はアッシュとそう変わらない位であり、白衣を羽織って両手をそのポケットに突っこんでいる。

 そして何より、男は異様だった。男の周囲は黒い群れに覆われている――蟲だ。夥しい数の蟲が、男の周りを埋め尽くしている。しかも、通常の虫とは比べ物にならない程大きい。アリが、オサムシが、バッタが、どれも人間の腕位はある。

「――……お初お目にかかる」

 眼鏡を持ち上げながら、男が言う。カサコソと言う蟲の動き回る音の中心にありながら、その声ははっきりと二人の耳にまで届いた。

「私の名はムカイ。ムカイ・コクジュ。UHラボ残党、『失われた工房(ロスト・アトリエ)』の一人……」
「UHラボの、残党……!」
「ホウオウグループ、特別研究チーム『千年王国』所属、『双角獣』AS2に『獣帝』花丸だな」
「僕達を知っている……!?」

 目の前に現れたムカイと名乗る男に、二人は身構える。行く手を阻む様子と言い、その周囲に蠢く蟲と言い、何よりその身体から放たれる敵意が、この男が二人にとって敵である事を物語っていた。

「何なんですか、貴方。僕達見ての通り、先を急いでいるんですが」
「それは悪かった。何、すぐに済む。手間はかけさせないよ」

 言うと、ムカイは一本の横笛を取り出した。銀色に輝いており、何の変哲も無い笛の様に思える。しかし何かを感じ取ったのか、アッシュは咄嗟に袖から投擲用のナイフを出し、ムカイ目掛けて放り投げた。

「――さぁ、行け」

 だが、遅かった。アッシュの投げたナイフは、ムカイを庇うかのように跳躍した巨大なバッタに阻まれた。地面に落ちたバッタは小刻みに震えた後、それから動くのを止めた。

「私の二つ名は『森海(ディープ・フォレスト)』。我が領域において、彼らは私の僕となる……」

 蟲の大群が、二人に襲い掛かってくる。その禍々しい光景に、思わず花丸は身体が竦む。

721akiyakan:2013/05/21(火) 17:34:16
「う……」
「花丸ちゃん、今こそバイオドレスの出番だよ!」
「あ、は、はいっ!」

 アッシュの言葉で我に返る。花丸は手にしたバイオドレスを、自分の前方に向かって突き出した。

「ウェイクアップ!」

 花丸のパスワードを叫ぶと、手にした球体が解れた。花丸の全身を包み込み、その真の姿を現す。一瞬の内に花丸はバイオドレスを纏っていた。その光景を見て、ムカイの眼差しに好奇の色が浮ぶ。

「行くぞ!」
「はい!」

 アッシュは「天子麒麟」の力を纏い、花丸はバイオドレスで強化された力を使う。普通の蟲より巨大とは言え、身体能力を強化された二人の敵ではない。アッシュの身体に噛み付こうとしたハサミムシがその拳に叩き潰され、花丸を襲おうとした兵隊アリがその足で蹴り飛ばされバラバラに砕け散る。

「ほう……身に纏う事で能力を強化する、か。なかなか、面白い事を考えますね」

 次々と自分の配下である蟲が倒されていると言うのに、ムカイの表情に焦りの色は無い。

 それもその筈だ。アッシュと花丸にとって、この程度の相手は敵にならない――だが、物量差は圧倒的だった。倒しても倒しても、潰しても潰しても、次から次へと蟲は現れ、二人に襲い掛かる。

「くそっ、キリが無いよ、これじゃあ!」
「ぜぇ……ぜぇ……」

 戦い慣れしているアッシュはまだ余裕がある。しかし、問題は花丸だ。バイオドレスの運用実験でそれなりに身体を動かすようになっていたが、彼にとってはこれが自力で戦う始めての戦闘だ。体力の配分が分からない彼は、既に息切れを起こしている。

「見た所、『獣帝』は戦い慣れていないようですね」
「はぁ……はぁ……」
「貴方は私と同じ、戦うのではなく使役する戦闘タイプの人間の筈。わざわざ慣れない事をして、一体何をしようって言うのです?」
「く……ッ!」

 ぐ、っと花丸は唇を噛んだ。

 模擬戦闘の時はやれる、と思っていた。アッシュやドグマシックス、ミツの様な、自分よりも戦闘の得意な人間を相手に戦えていた。だから自分の力は通用するのだと。

 だがそれは、あくまでデータ収集の為の実験戦闘、殺し合う命のやり取りでなかったら、の話だ。花丸は思い知らされた。実戦はこんなにも苦しいものであり――模擬戦闘で、自分は手加減されていたのだと言う事に。

「う……」
「花丸ちゃん!?」

 ついに、花丸に限界が来た。戦っている最中だったバイオドレスが突然、糸の切れた人形の様に倒れる。倒れたバイオドレスに、容赦無く蟲達が群がっていく。

「くそ……花丸ちゃん!」

 アッシュは懐からスタングレネードを取り出し、それに麒麟のオーラを纏わせる。彼が取り出した物を見て、ムカイの表情に初めて焦りの色が浮かんだ。

「それはいけません……!」

 耳を劈く爆音と閃光。まともに喰らえば正規の兵士でも戦闘不能になるそれは、アッシュのオーラによる強化で更に凶悪化していた。至近距離にいた人間であれば鼓膜を破壊されて三半規管が完全に狂い、そしてそれが放つ光で視界を完全に破壊する。

「花丸ちゃん!」

 倒れた花丸に駆け寄り、その身体から蟲を引きはがす。なまじ人間以上の感覚器官を持つが故に、今のスタングレネードは彼らにとって殺虫剤並の破壊力があったようだった。アッシュが埃を払うように手で払っただけで、蟲は簡単に剥がす事が出来た。

「バイオドレス、パージアウト! アンドスリープッ!」

 アッシュのパスワードを受け、バイオドレスが花丸の身体から外れ、元の球体状態に戻る。それを拾い上げ、彼の身体を抱え上げると、アッシュはバイクまで走った。多少乱暴にでも花丸を乗せると、アッシュは急発進する。来た道を戻り、支部施設へと返した。

 アッシュは振り返る。追っ手は無い。無事に二人は、戦闘区域から離脱する。



 ≪失われた工房≫



(かつて、鳳凰の眷属である事を望んだ者達)

(しかし今は、鳳凰に牙を剥く反逆者となった)

(ある男が神に挑む様に、)

(彼らは絶対者へと挑戦する)

(地の底から這いあがり、太陽を手にする為に)

722えて子:2013/05/24(金) 21:16:36
「一人ぼっちの影」の最後で出てきたカチナとセラのその後。
スゴロクさんから「クロウ」をお借りしました。


アーサーたちが救急車に乗り込み、病院へついた頃。

いかせのごれのとある場所では、二人…正確には片方の後ろにもう一人、合わせて三人が対峙していた。

「………」
「………」
「ふふっ…カチナー、頑張れーっ」

睨み合っているのは、ホウオウグループの一員であるクロウと、UHラボの元実験体であるカチナ。
カチナの後ろには、UHラボの元研究員であるセラが、命を懸けた戦いをしている二人を観賞している。

その声はこの場に場違いなほど明るく、カチナに声援を送る姿はまるで運動会か何かで我が子の勇姿を見守る親のようだった。
そんなセラの様子に、クロウは苛立ちを募らせる。

「…何のつもりだ」
「いやだなぁ、カチナの晴れ舞台なんだよ?応援しないで何をするのさ」

くすくすと笑いながら、当たり前だろうと言わんばかりの声音で言う。
クロウの殺気を込めた視線も、どこ吹く風のようだ。

「それに、何かしてないと僕暇なんだもん。進展ないしさー」

ぶうぶうと子供のように口を尖らせるセラに、クロウの顔がさらに顰められる。

しかし、セラの言葉もあながち間違ってはいない。
先程からクロウとカチナの戦いは続いているが、お互いに全くダメージを与えられていないのだ。
クロウの攻撃はカチナの相撃ちで相殺され、カチナの攻撃はクロウのイントルーダーによって軌道を逸らされ空振りに終わる。
クロウが何度か隙を突いてセラへ攻撃を試みたが、全てセラの命令を受けたカチナによって阻まれた。

結局、二人とも決定打を与えることができず、膠着状態に陥っているのだ。

「…ねえ、クロウ君。僕も暇じゃないんだ」
「何?」
「カチナにもっともっと色んな勉強をさせてあげないといけないんだ。この子を一人前の兵器にしてあげないといけないんだよ。君も確かに素晴らしいけど…君にだけ構っていても経験値はなかなかたまらないんだ」

ふぅ、と手を組んで小さく息を吐く。
困ったような口調ではあったが、その表情はとても楽しそうに、歪んだ笑顔を浮かべていた。

「まだまだカチナは半人前だからねぇ…僕が手伝ってあげないといけないね。…ね、カチナ?」

名を呼ばれたカチナは、一瞬怯えたように体を強張らせる。

「……カチナ。分かっているね?」

震えるカチナに、もう一度優しく、しかし有無を言わせない強制感を持って、セラが呼びかける。
いつどこから攻撃が来てもいいように、クロウは身構える。


次の瞬間、カチナの持っていた木槌が地面を殴りつけた。

723えて子:2013/05/24(金) 21:17:11


「!?」


地面を殴りつけ、腕を振り上げる衝撃で、砕かれた土が砂埃となって宙を舞う。
10秒も経たないうちに、カチナとクロウの周りは舞い上がった砂と土によって取り囲まれた。

「ちっ…!」

クロウは小さく舌打ちをすると、砂埃の中から抜け出そうと移動する。
幸い砂埃の範囲は狭い。すぐに視界は晴れた―

「!?」

首筋に、ちりっとした痛み。
次の瞬間、クロウの視界は歪み、ぐるりと反転した。
あまりのことに立っていられなくなり、がくりと膝をつく。

「……な……にを、した…!」
「ちょっと動けなくなってもらったよ。このまま始末しちゃってもいいんだけど、それじゃあカチナの勉強にならないしね」

楽しそうに笑うセラが、クロウを見下ろす。
歯を食い縛ってセラを睨みつけるが、その視界はぐわんぐわんと揺れ続け、とてもまともに相手を見ていられる状況ではなかった。

「ごめんね。また今度、一緒に遊ぼう?その時までに、カチナを一人前にしておくからさ」

7年前と同じように高らかに笑うと、セラはクロウを残し、カチナを伴って姿を消した。




街中の人通りの少ない路地。
セラとカチナは、そこを歩いていた。
セラは途中、どこかからかかってきた電話に出て話をしている。

「借してもらったあれ、役に立ったよ。やっぱり君らに頼んで正解だったねぇ」

「え?見返り?…やだなぁ、分かってる分かってる。君らの『お手伝い』をすればいいんだろ?いつもみたいに」

「その代わり、いい子がいたら殺さないで僕に頂戴?カチナのお友達にしたいんだ…」



「ふふ…じゃあ、いつもの時間に、いつもの場所でね」

その言葉を最後に、通話は途切れた。


狂おしき毒牙


「…狂っているのは、お互い様だろう?」

(心底楽しそうな笑顔で誰にともなくそう呟いた)

724スゴロク:2013/05/26(日) 21:06:39
ブラウの一件のヴァイスサイドです。



「む?」

惨劇をビルの屋上から眺めていたヴァイスに、その名を呼ぶ声がかけられた。怪訝な顔で振り向くと、そこにいたのは何とも異様な風体の少女。
三つ編みのポニーテールに黒のアイマスクとタートルネック、ブーツ、緑のホットパンツという、彼女。
ヴァイスは、その少女を知っていた。

「……確か『ヴァイオレット』と言いましたか? 崎原邸の警護についていたようですが……」
「そうだ。だが、交代の途中でこの騒ぎに遭遇してな。もしやと思えば、やはり貴様だった」

少女―――ヴァイオレットにとっても、このヴァイスという男は看過できない存在だ。美琴を操り、危うく破滅するところまで追い込んだ敵。
それ以前の問題として、苦手な部類の任務に就かざるを得なくなった原因。

「そういうコトだ。これ以上、話すコトはない」
「話したくない、の間違いではありませんか?」

指摘には答えず、ヴァイオレットは両手に紫の光を纏う。

「ほう……」

興味深げに見つめるヴァイスに向けて踏み込み、鉄拳を叩き込む。が、

「なるほど……バリアの類ですか」
「くっ」

突然伸びあがった影のようなものに阻まれ、本人までは届いていない。その向こうで、白き闇が嗤う。

「アイマスクはなかなかいい判断です。ワタシの眼が見えねば、マニピュレイトはかけられませんからね。……ですが」

その影が、瞬時に無数の棘と化してヴァイオレットを襲う。咄嗟に両手のバリアを拡大し、円形の障壁となしてそれを防ぐ。

「それでワタシを抑えたと思ったら、大間違いです」
「…………」

言われなくてもわかっていた。着任前に受け取った情報で、現状のヴァイスは本来の精神操作能力に加え、影のような物質を操る「ヤミまがい」なる能力を所有していると聞かされている。これがそうなのだろう、と目星をつけ、同時にサイコシールドで防げるレベルだと結論付ける。

(だが、攻撃が当たらなくては)

ヴァイオレットはその能力上、実は直接戦闘はあまり得意ではない。体術にこそそれなりに長けているが、攻撃能力はバリアで強化しての白兵戦オンリー。このヴァイスのような、遠隔操作型の能力持ちとは相性が悪かった。壁を撃ち抜くだけの攻撃力は、彼女にはない。

(どうする)

考える間にも、ヴァイスは影を伸ばしてヴァイオレットを攻撃してきている。今度は足元から喰らい付くように、無数の牙が伸びる。両足にシールドを展開、弾いた勢いで距離を取る。

725スゴロク:2013/05/26(日) 21:07:33
「さすがにやりますね。ですが、アナタの相手ばかりしているワケにもいかないので……そろそろ失礼させていただきます」
「! 逃がさん……」

美琴の一件で使ったという影に潜り込んでの転移で逃げる気だ。判断するや否やヴァイオレットは走ったが、弾幕のように放たれた影の欠片が行く手を阻む。
しかし、ヴァイスがその場から逃げることは、結論から言うと出来なかった。なぜなら、

「何!?」

潜り込もうとした影が突然薄れ、弾かれて元の場所に戻ってしまったからだ。虚を突かれたのも一瞬、我に返って辺りを見回すヴァイオレットの眼に映ったのは、いつの間にか横に立っている、ニット帽にいつものサングラスではなくゴーグルをつけた少年。

「い……アルマ、だと?」
「何時まで経っても呼びに来ないから、探しに出たら……」

ゴーグルの奥から、アルマはヴァイスを睨む。

「まさか、ヴァイス=シュヴァルツとはな」
「……何をしに来た?」
「無論、お前を助けにだ」
「誰がいつそんなコトを頼んだ? 余計な世話だ、横入りするな」

仮にも助けに来た人間に言う台詞ではないが、アルマは彼女の性格を知り尽くしている。いつもの如く、

「まあ、そう言うな」

変わらぬ調子で、一言で返す。ヴァイオレットもそれ以上は言わず、またヴァイスへと視線を向ける。
そのヴァイスは、珍しく驚いた様子でアルマを見ていた。

「……何をしました? ワタシのヤミまがいをキャンセルするとは」
「答えると思うか?」
「でしょうね。まあ、いいでしょう」

とは言ったものの、ヴァイスはこの時点で実はかなり追い込まれていた。ヤミまがいでの転移には数秒ほどかかる。腕利きの秘密調査員二人が、その隙を逃すとは思えない。

(参りましたね……)

常々自分で言うとおり、ヴァイスは元々戦闘そのものはあまり得意ではない。他人を操ることに長けている代わり、自ら相手を倒す力は思いのほか少ないのだ。美琴の一件ではヤミまがいを駆使して戦ったが、同じ面子ともう一度戦えばまず間違いなく、負ける。
そんな彼に、この状況では打つ手がなかった。



「おやおや、何だか苦戦しているねぇ、ヴァイス君」



あくまで、ヴァイス自身に関する限りは。

726スゴロク:2013/05/26(日) 21:08:04
「「!?」」

何時の間にかヴァイスの背後に、奇妙な男が現れていた。肩までの赤いストレートヘアに、道化師の仮面と派手な意匠の服を着た、男。
その男に、ヴァイスは驚くでもなく話しかける。

「アナタですか……どうしました?」
「いや、ね。最近顔を見ないから、挨拶でもしとこうかと思ったんだけども」
「……よくワタシの場所がわかりましたね」
「君、ヤミまがいを使っただろ? あれが使われると、僕には場所が何となくわかるのサ。ここまでドンピシャとは思わなかったけども」

眼前の二人を無視して語るその男を、調査員達は知っていた。

「……ピエロ、か」
「確か、以前にリリス修道院や秋山神社を襲ってマークされていたな。ヴァイスと手を組んだのか?」
「のーのー、それは違います。彼が僕達、運命の歪みに加わったのサ」

立てた人差し指を左右に振りつつ、ピエロは言う。

「運命の歪み……だと?」

ヴァイオレットの言葉には答えず、ピエロはヴァイスに向き直る。

「なかなかよくやっているようだね。しかし、君はまだ、ヤミまがいの力を舐めている。僕が今、本当の使い方を教えてあげよう」

言うや、ピエロは一足飛びに間合いを詰め、ヴァイオレット目がけてその手をかざした。
瞬間、

「!!? ああぁぁあぁぁぁ!!」
「かかった、かかった。さあて、今のうちに逃げるとしようか」
「あれは一体……」
「僕の……というかヤミまがいの切札の一つさ。一時しのぎだから長く持たないけど、時間稼ぎにはなるだろうサ」
「……わかりました」

ピエロが足元に「ヤミ」を広げ、二人はそこに沈むようにして姿を消した。




ヴァイオレットの狂乱が収まったのは、ヴァイス達が去ってから数十秒後のことだった。

「っ、はぁっ、はぁっ……」
「大丈夫か、紫苑」
「……くっ」

ヴァイオレット――――紫苑は、呼びかけに答えるより前に、倒れた上体を起こしてアイマスクを引き剥がした。

「こ、この程度……うぅっ」
「無理するな、寝てろ。送ってやる」
「……礼は、言わんぞ」

それには答えず、アルマは紫苑を背負い上げ、ビルの屋上から屋上へと飛び移ってその場を去って行った。
その背に負われる紫苑は、ストラウル跡地近辺で一旦降ろされた際、アルマに問いかけていた。

「……さっきの、転移を弾いたのは?」
「これだ」

獏也に連絡を取ったばかりのアルマが取りだしたのは、何の変哲もないスーパーボール。だが、紫苑は「それ」が何なのか、心当たりがあった。

「……『落とし物』か」
「正解。『当てた場所のエネルギーを拡散させる』という能力が付与されている。これを投げつけてやったんだ」

「落とし物」というのは、ここ最近秘密調査員の何人かが当たっている回収任務の対象だ。「ハーメルン」というレジストコードで呼ばれている男がいるのだが、この男は物体に能力を付与する、という特殊能力を持っている。タチの悪いことに、「ハーメルン」はそうして能力をつけた物体に対して無頓着であり、その辺に放り出しては忘れ去っている。

一般人が拾って騒ぎになることも多いため、それを防ぐためにウスワイヤがこれを回収して回っているのだ。
そうして集められた「落とし物」の一部は、任務の内容によっては隊員に貸し出されることもある。

「ともかく、ヴァイスの一件に加え、ピエロと『運命の歪み』なる新しいキーワードが出て来た。しばらくは忙しいぞ、紫苑」
「……はぁ。また、他人と関わるのか……」
「そう落ち込むな。ささみかが心配するぞ」

727スゴロク:2013/05/26(日) 21:08:39
本拠に戻ったヴァイスは、ピエロから先ほどの話を聞いていた。

「助かりましたよ。生死に拘りはありませんが、捕まってしまっては元も子もありませんからね」
「それなら何よりだ。良かった、良かった」

今一つ信用しにくい口調だったが、それよりも今は尋ねるべきコトがあった。

「先程の、ヴァイオレットを無力化したあれは一体?」
「あれはね、ヤミまがいの極みの一つサ。『人間を開け閉めする力』……文字通り全ての感覚を封鎖して、意識だけを孤立させる。知ってるかい? 人間はね、何の変化もない状況に長時間置かれると、簡単に発狂してしまうんだ」
「ああ、それは聞いたことがありますね。白い部屋の拷問、というヤツでしたか」

それそれ、と頷くピエロ。

「まあ、ヤミまがいを得て、かつ使いこなしてる人間は少ないし、コレが使えるレベルとなるともう僕くらいだね。ただ、君は可能性あるよ」
「ワタシが使えてもあまり意味は……」
「いやいやいや、そんなことはないよ。感覚を封鎖した上で君の暗示をかければ、どんな奴でも簡単に操れるんじゃないかい?」
「……言われてみれば」

孤立した意識ということは、裏を返せば、術者による干渉が容易という事だ。取りも直さずそれは、マニピュレイトに対して無防備となることを意味する。

「どうだい? 次のシナリオまでに、コレを身につけて見ないかな?」
「……乗りましょう」



闇 渦巻く


「……時に、ピエロ。メンバーが一人増えるのは、構いませんかね」
「? 『運命の歪み』が増える分には、まあ構わないけどサ。どうしたの、突然」
「いえ。少々、思う所がありましてね。どうするかは、まだわかりませんが」



十字メシアさんより「紫苑」YAMAさんより「ピエロ」をお借りしました。

728BB(バーカバーカ):2013/05/30(木) 02:20:06
どうも、初投稿です、だめだめな感じかもしれませんがよろしくお願いいたします

「死なない男の死にそうな日々 Ⅰ」

スゴロク様の火波スザク、水波ゲンブ、火波アオイをお借りいたしました、
とても下手なので、キャラを生かしきれてないところがございます、
ここが違う、というところがあればご指摘のほうお願いいたします。




「あ〜あ、呆れ返るほど天気がいいなぁ…」
ある河原の土手に白い服を着た女の子が寝転がっていた、

「お日様はぽかぽか、蝶々はひらひら、なのにあたしはお仕事かぁ…」
そんな事をつぶやいていると後ろから声が聞こえてきた、

「おーいジミー、ここにいたのか…」
息を切らした金髪の青年がそこに立っていた

「こっちの調査は大体終わったぜ?そっちは?」
「コウジはまじめだにゃぁ、あたしのところはとっくに終わったよん」

コウジと呼ばれた青年はため息をつきながら

「俺っちらは元『ホウオウグループ』だったんだからまじめにやらないとみんなから信用されないぜ?」
「まぁ、そうなんだよねぇ、」

この二人は先ほどまで、超能力者と一般的に呼ばれる者たちの犯罪や保護を目的とするウスワイアと呼ばれる組織の人間で
その中のアースセイバーと呼ばれる集団の一員なのだが、悪の組織と呼ばれるアースセイバーと敵対する組織
『ホウオウグループ』の一員であった
ジミーと呼ばれた少女は戦闘員、コウジと呼ばれた青年は組織に作られた超能力者であった

「まぁまじめにやったのは確かよ、こっちも特に奇妙な事件はなし、超能力を使う人もいなさそうだったわ、」
「そう、か…よし、なら帰るか、」

そういってジミーの手をとって立ち上がらせると帰路についたのだった…



−−−いせかのごれ最南端ウスワイア施設内部−−−

「たっだいまーん」
「ただいまー…」

そういってジミーとコウジはドアをくぐると少女が目の前に立っていた

「あ、お帰りなさい、ジルさん、長山さん」
「あ、メリアちゃんただいまぁ」

そういってメリアと呼ばれた少女にジミーが抱きついた

「わぷっ、ジルさん、お日様のにおいがしますよ〜」
「あ、わかるー?日向ぼっこしてきたんだ〜」

きゃいのきゃいのはしゃいでる少女を後にし、コウジはある場所へと向かった


「あ、いたいた、ゲンブさーん」

そういって小走りで向かう先には20代ほどの墨色の紙の男がいた

「ん?おぉコウジか、調査はおわったのか?」
「えぇ、先ほど、ジミーも一緒です」
「そうか…俺はこれから少し行かなければならないところがある、お前らは休んでいていいぞ」
「わかりました、では」

そういって分かれるとコウジは遠い目をし、つぶやく

「きっとまだ信用はされてねぇんだろうなぁ…」
「当たり前だ、このスパイめ、」

タバコの煙とともに現れたのはリョウアと呼ばれる男だった

「ッ……すんません、リョウアさん、だけど何度もいっているように俺っちはスパイじゃありませんってば」
「口ではどうとでも言える…」

タバコの煙を吐き出しながらそういうとリョウアは

「貴様ら元『ホウオウグループ』の人間は信用できん、怪しいそぶりを見せたらすぐにでも殺してやるからな」
「わかってますよ」
「ならいい、肝に銘じておけ、ほかのやつらが信じていても俺は決して貴様らを信頼はしない」
そういってきびすを返しリョウアは去っていった

「はぁ〜…なんだかなぁ…」

うなだれながら自室へと戻っていく、

(どうすりゃいいんだよ、はぁ、めんどくせぇ)

そんな事を考えて、顔を上げると自室の扉の前にゲンブがたっていた

「あれ?どうしたんですか?こんなところで」
「すまない、実はここから少しいったところにある広場に不振な人物が確認されてんだが、もしかしたら奴等かも知れんのだ、」
「ありゃ、それはそれは、なら調査しに行かなきゃ行けませんね、俺っちだけでいけばいいんですか?」
「いや、何人か連れて行く、十分後に現場近くの広場に、」
そういって地図をすとゲンブは早々と去っていった

「うん、じゃぁさっさと用意を済ますかな」

729BB(バーカバーカ):2013/05/30(木) 02:22:41
「こんなもんでいいか、」

コウジは黒のウィンドブレイカーを着て、
腰にサバイバルナイフ3本、マグナム一丁、リボルバー一丁、弾丸用のウェストポーチ
そして投げナイフ10本とショットガン一丁を持ち、部屋を出るとちょうど隣から、青年が一人出てきた
「あ、錬太郎さん」

錬太郎と呼ばれた青年はこちらに振り向き

「コウジ君も呼ばれたの?」
「えぇ、まぁ、錬太郎さんも?」
「まぁ、以前ゲンブとは一緒に仕事をしたし、たぶん今回は用心のためだろうけどね」
「じゃぁ一緒に行きますか?」
「そうしてもらうと助かるよ、僕、集合場所への行き方わからないからね」
「25の大人が言うことじゃありませんよそれ…」

そういいつつ現場へと向かったのだった…



―――――――――――


「きたか、」
そこには5人ほどの人がいた

「コウジ、おっそいー、錬ちゃんが迷子してたの?」
真っ白いローブを着た少女、ジル・ミナル

「はじめまして、僕は火波スザク、錬太郎さんは2回目だね、お久しぶり」
真っ赤な髪と炎のような瞳が特徴的な制服のスザクと名乗る少女

「わたくしはスザク姉様の妹、アオイですわ、以後お見知りおきを…」
青い瞳の少女、火波アオイ

「なぜ貴様なぞ一緒に…」
タバコの煙を吐きながらにらみつけてくる御会堂リョウア

「俺の判断だ、文句があるなら聴くが?」
腕を組み、リョウアをにらむ男性水波ゲンブ

そして、

「錬ちゃんはやめてくれないかなぁ?ジミーちゃん?」
「ニャー?!」
ジミーのほっぺをつねる青年、錬太郎に

「どうもよろしく…俺っちは長山コウジっていいます、」
初めて会う二人に挨拶をするコウジの合計7人が集合した

「元『ホウオウグループ』に属してたから信用できないと思うけど、俺っちのことはすぐ見捨てちゃっていいからな?」

スザクとアオイの二人に言い放つとゲンブに向き直り

「ゲンブさん?あの二人は一般人ですか?絶対に違うと思いますけど、強いんですか?」
「心配することはないよ?前に何度か一緒に戦ったけどすごい子達だから」

コウジの質問に答えたのはジミーであった

「まぁジミーがいうならそうなんだろうけど…」
「ねぇコウジさん?」
「コウジでいいよ」
「じゃぁコウジ、元ホウオウグループっていったけど何で抜けたの?」
「ん?あぁ、こいつのせい」

そういって指差したのはジミーだった

「え?あたしのせい?」
「まぁ、簡単に言うとこいつと一緒に逃げてきた、まぁ、捨て駒にされるのがやだったのと、
あとはジミーが殺されそうになってたからかなぁ…」
「うん、その件では感謝してる」
「二人は付き合ってたりする…?」
「「・・・・・」」

二人ともが黙り込んだところでゲンブが割り込んできた、

「自己紹介は済んだだろう?とにかくこれから行くところには敵がいるかもしれないからな、気を引き締めていけ」
「わかったよ、」

スザクは少し不満が残っていたようだが、しっかりとした顔つきに戻り、全員とともに目的の場所に向かった


―――――――――――――――――――――

730BB(バーカバーカ):2013/05/30(木) 02:29:10
そこには奇妙な物ががたっていた
ラッパを横にして二つずつ積み重ねた物に六本の足をつけた形の巨大な物が四つ並んでいた

「何だ・・・これは…」
そうもらしたのはリョウアであった、

「さぁ?でもろくなものじゃないと思います」
そう答えたのは錬太郎であった

「壊す?」
「…そうだな」
ジミーとゲンブがそんな会話をしていると

「うひゃひゃ、壊されたらたまったもんじゃねぇなぁ!」
「「「「?!」」」」
突然奇妙なものの上部から人の声が聞こえた

「うひゃひゃひゃ、はじめましてかな?諸君!わしの名前は龍爺(ロンコー)、ホウオウグループの戦闘員じゃ!!!」
そう叫ぶと20mはあるその巨大な物体から飛び降りてきた

「さぁ諸君、この機会はヴァサ・アエングルといっての、大量破壊兵器なんじゃが…それでも壊すというのかね?」
「当たり前だ!、それ以前に貴様らホウオウグループは生かしちゃおけねぇ!!」
そういってリョウアが突撃する
その瞬間ヴァサ・アエングルから巨大なレーザーが放たれた

「なっ?!」
ビュァアアアアアン!
間一髪回避するリョウア

「うひゃひゃひゃ、驚いたか?これがこの兵器の実力よぉ!!」
四体が音を立てながら起動していくと同時に背後には人間サイズの機械が無数に存在した

「げ、あれは…」
ジミーがいやな記憶をよみがえらせる、
あの兵器はパニッシャー
いったいいったいの攻撃力は低いが大量にあり苦戦を強いられた代物である
「くそッ!!みんな分かれろ!!」
ゲンブが叫ぶと同時にパニッシャーの銃撃がはじける
「リョウアさん?!危ないですわ!!」
アオイが叫ぶ、リョウアはもともといたところから動かず、銃弾の嵐の軌道上に棒立ち状態だった
「フゥーーー」
タバコを一息吸うとともに銃弾の嵐がリョウアに襲いかかったがリョウアには傷ひとつつかなかった、それどころか、リョウアの体に当たった弾はそのまま飲み込まれていった
「俺の『液体変化(ゲルボディ)』に物理攻撃はきかねぇよ…」
リョウアは体を水の性質と同じに変化することができる超能力者だった

「うひゃひゃひゃ、すげぇすげぇ!!なら俺はお前を相手にするのはやめよう!ヴァサ!」
龍爺が叫ぶと同時にヴァサがリョウアに向けて4発のレーザーを放った
ジュゥ!!
「グッ…」
強力な熱線がリョウアの左腕に命中した
「グゥう…」

血が吹き出て液状化が直ってしまった、その瞬間にパニッシャーの一体がもう一度レーザーを放つ
が…
「僕を忘れてもらっちゃ困るよ?」
レーザーは跡形もなく消えていた
リョウアの前には錬太郎が立っていた
錬太郎は「四次元の入り口」という能力を使用し、四次元へと入り口を開きその中へすべての物を飲み込んでしまえる能力を持っていた

「錬太郎…助かった、」
「いいよ、今度ご飯おごってよね」
そんな軽口をたたいているとパニッシャー群に巨大な爆発が起こった
「あんたたちのせいで私の服に穴が開いたわ!!ぶち壊す!!」
そう叫ぶのはジミー、そしてその後ろからスザクが能力で作り出した剣、幻龍剣を振るい、その横でアオイがパニッシャーの妨害をし、スザクとは色の違う青い幻龍剣でなぎ払っていた
(やっぱり敵が多い、どこかに司令塔があるはずだけど…)
スザクがそう思考をめぐらせていると横からグレネードが飛んできた、
「うわ!!」

バゴォォォン!!
爆音が響く
「姉様?!大丈夫ですか?!」
「…何とか」
ぎりぎりで回避したものの、爆風により少々のダメージを受けてしまった

「うひゃひゃ!!苦戦してるなぁ!!どれわしも動くとするかッ???!」
いきなり側面から飛んできたこぶしに対処できず、吹き飛ばされえる龍爺、
「お前の相手は俺だ、」

そこにはゲンブがこぶしを握り締め、たっていた、
「う、うひゃひゃ、いいパンチだねぇならこっちも!」
そういって立ち上がったと思った瞬間、
 ボゴォ…

「グッ、カッハッ...?!」
ゲンブは龍爺に殴り飛ばされていた、

「うひゃひゃ、どうした?!俺はまだ一段階目だぜ?」
龍爺は、己の肉体を強化する能力を持っている能力者でありゲンブの羅刹行と似た能力であった
(重い一撃だ...だが!)
「ぬおおおお!!」

龍爺に殴りかかるゲンブ、それに対し反撃をする龍爺、現在、実力は互角だった

731BB(バーカバーカ):2013/05/30(木) 02:33:53
「くそ…」
「ハァ…ハァ...」

ヴァサ・アエングルとの退治をしているのは錬太郎にリョウア、どちらも疲労と痛みで押されていた

(ジミーちゃんは…パニッシャーと戦闘中か…リョウアももう持たない)
「うおおおおおお!!」
リョウアが雄叫びを上げヴァサに近づく、

「くらいな!!!」
そういって体を液体化させて装甲の隙間に己を侵入させる
内側から左腕だけを実体化、内部を破壊し続ける

『ピー、ピー』
電子音とともに一機が爆発する

「後、3体!!」
リョウアが叫ぶと同時に

「いんや、後二対」
壊れた物体の上に、ぼろぼろのウィンドブレイカーを着たコウジがたっていた
「こいつらAIで動いてるよしかもあんまり賢くないし同士討ちを狙うのがいいかも」

コウジがそういった瞬間左右に立っていた兵器がコウジに向かって同時にレーザーを照射した

「な?!コウジ!!」
リョウアが叫ぶ

「うを!!」
直撃、巨大な爆発音とともに左側の兵器がレーザーをまともに受け破壊されコウジにも直撃だったはずだが

「あっぶねー…」
傷ひとつなかった

「な、なんだ無事だったか…」
「ん?心配してくれたんですか?」
「あぁ、一応戦力だからな」
「そうですか、」

そんなをしていると再びレーザが飛んでくる
「油断するな!!」
錬太郎が怒鳴る、巨大兵器は後、一体


「ほらほらぁ!!ふっとべぇ!!」
ジミーが激昂しながら能力、ダイナマイトキャノンを発動させパニッシャーを破壊していく
「すごいですわね、ジミーさん」
「僕たちも負けてられないよ!」

スザクとアオイもともに幻龍剣を振るい着々とパニッシャーの数を減らしていた、
「アオイちゃん!、スザクちゃん!、伏せて!!」
ジミーが叫ぶその声を聞いた二人は瞬間、伏せる
その瞬間、巨大な爆発音とともに大多数パニッシャーが吹き飛ぶ
「ふぅ...」
両手をパンパンとたたくき息を吐く

「すごい…」
「あれだけいたパニッシャーが一気に…」

そこには巨大なクレーターができていた
「ごめん二人とも…今のでほとんど力でなくなっちゃった、」
「わかった、のこりはまかせて、」
「わたくしと姉様なら楽勝ですわよ」
「にひひ…アリガト、」

残りのパニッシャーを片付けるために2人は駆け出していった、



「はぁ、はぁ、」
「うっひゃひゃは!!どうした?!もうお疲れかい!!」
(おかしい、さっきまではほぼ互角だったはず…いや、むしろこっちが押していたはずだ…)
「ぬぅおおおおおう!!」

拳を振るうゲンブ、その拳を回避しようとしない龍爺、

バキャア!!
しかし突き出された拳より先に龍爺の拳がゲンブに届く

「カハッ…」
その場に崩れ落ちていくゲンブ、

「うひゃはは!!」
「ハァああああ!!」

笑う龍爺に向かってスザクが幻龍剣を振りかざす

しかし幻龍剣は空を切りカウンターに龍爺は拳を振るったが
「あぶねぇ!!」

横からの叫び声と衝撃、耐え切れず横に倒れるとメギョ、といやな音が鳴った

そこには龍爺とどれほどの力で殴られたのかはわからないが、左頬の部分がえぐれたコウジがたっていた
「え?」
「仲間かばってやられちまうか!!なかせるねぇ!!」

そういってコウジを蹴り上げる龍爺、コウジはけられた衝撃で首から妙な音が鳴り、倒れこむとピクリともしなくなった

732BB(バーカバーカ):2013/05/30(木) 02:34:24
「てんめぇえええええええ!!」

そこに突っ込んできたのはリョウアだった、

「ぶち殺す!!」
リョウアの体が一瞬膨張したかと思った瞬間、目から水のレーザーが放出された

「おっと!!」
回避、そして次の瞬間、疲労で動けなくなった錬太郎も真横に移動していた

「?!っな!」
バキャ!!

腹に強い蹴りを入れられて吹き飛ばされる
「ゴホっ…」

そして、スザク、アオイの後ろに回り込もうとした瞬間
「ん?」
「いかせんよ...」

ゲンブが残りわずかな力を使って龍爺を足止めしたのだった
「無駄だよ〜ん」

顔面に蹴りを入れようとした瞬間
「おいおい、俺っちのこと忘れちまったのかい?おっさん、寂しいなぁ俺っちは死なない男だぜ?」

そんな台詞とともに銃声
そこには死んだはずのコウジがピストルを構えてたっていた

「お?てめぇはさっき死んだはずだろ?!...まさかナイトメア...」
「残念、はずれだ」

コウジ持つショットガンから玉が放たれる、
龍爺は回避しようとしたが

「逃さん…」
リョウアに羽交い絞めにされてしまって身動きが取れなかった

「ヌああああああああああああああ!ここで死んでたまるかああああああああああ!!!」
はずだったのだが強引にリョウアの束縛をとき、回避行動をとった、が
右腕に直撃、この時点で戦闘は不可能と判断される負傷であった

「うひゃひゃひゃはああああああああはハハハはははハハハ!!!」
しかし、龍爺は笑っていた、

「思い出した!!長山コウジ!!裏切り者のモルモット!!貴様はわしが殺す!!」
咆える様ににコウジを指差し叫ぶ

「来てみろよ」
「いや、やめとく、、うひゃひゃ!!また会おう諸君!!!」

そう叫ぶと同時に空から何かが高速で接近、龍爺はそれにつかまり逃げ去っていった…
「くそ!!……いや、みんなの手当てが先か」

動けなくなった錬太郎やゲンブを助けるためにコウジはみんなのところへ向かっていった...


――――――――――――

733BB(バーカバーカ):2013/05/30(木) 02:34:56
「うひゃはははは!!」

『うれしそうですね、龍爺様、』

「あぁ、うれしいねぇ、わしに大怪我させてくれたんだからなぁ!、」

小さな鳥のようなものが声をかけそれに答える龍爺

「さぁて、次こそはやつを殺そう…うっひゃひゃはひゃひゃあひゃ!!」




―――――――――――――――――





「みんな大丈夫か?」

声をかけたのはゲンブだった

「俺っちは無事だけど錬太郎さんが...というよりゲンブさんが一番のけが人でしょ」

「いや...大丈…夫、肋骨が折れただけだから...」

スザクやアオイは特に大きな外傷もなく、ゲンブと錬太郎が一番のけが人であったため、二人をウスワイアに連れて行ってもらうことにした

「悪いな、働かせて」

「ううん、いいよ、それよりありがとね、コウジが助けてくれなかったら今頃僕がああだったよ」

そういってゲンブと錬太郎を支えながら歩き出していった

「しかし、」

「え?」

「仲間をかばい死に瀕する、か、まぁ信用の余地は少しはあるな…」

リョウアがそうつぶやくと同時に、

「私も彼女らを手伝おう、帰るならば早くもどれよ。」

そうコウジに伝え早々と去っていったのだった

(信用、してもらえたのかな?)

そう思いながらジミーの元へとかけていく

「遅い、」

「わりぃな」

「許さない」

「………ふぅ...足、怪我してんだろ?」

「ぅん...」

「ほれ」

背中を差し出しジミーを背負う

「しっかしちっちゃいし軽いな」

「ほめ言葉として受け取っとく、」

「そりゃどーも」

夕日のなか、たわいない会話とともに歩く二つの影が映し出されていた…………





===続く===



スゴロク様本当に申し訳ありませんでした...
ご指摘、ご指導、どんどんお願いいたします

734akiyakan:2013/05/30(木) 10:37:45
※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラは「ジングウ」、「サヨリ(企画キャラ)」、「AS2(アッシュ)」で

す。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 ――UHラボの残党、『失われた工房』ムカイ・コクジュとの戦闘から数日が経過した。

 場所はホウオウグループ支部施設内、閉鎖区画・戦闘実験場。

 バイオドレスを着た花丸と、「バイコーンヘッド」を身に纏ったアッシュが戦っていた。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 雄叫びを上げ、果敢に花丸はアッシュへと向かっていく。その動きは、以前と比べて良くなっている。ほんの数日でここまでの

変化。才能と言うより、努力の結果であろう。一体どれ程の時間を鍛錬に注ぎ込んだかまでは分からない。しかしこの驚異的な変

化から、彼がまさしく「寝食も惜しんで」自分を苛め抜いたのは伺え知れた。

 ――だが、そんな彼の努力の証がかすんでしまうほどの変化が、彼には起きていた。

「はぁ……はぁ……があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 唸り声を上げ、アッシュに飛び掛かっていく。その動きは、もはや人間のものではなくなっている。技術的な物を一切廃し、己

の本能と身体性能に任せた戦闘法。愚直・単純であるが、それ故に小細工では揺るがない力強さがある。実際アッシュは、花丸の

猛攻を凌ぐので精一杯のようだった。

 だが、人間の肉体と獣の肉体、そもそもハードもソフトもエンジンも、何から何まで違う。獣が強力なのはそれ相応の能力を有

し、それを機能させる為の機構を有し、それを使う事を厭わない心があるからである。バイオドレスを纏って強化しているとは言

え、それを扱うのは人の肉体であり、人の思考であり、人の心である。元々その機能を持っていない物で獣を再現しようとしても

、限界がある。

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」

 現に、花丸の動きは戦いが進行するにつれて動きが悪くなっていく。そして、それを見逃すアッシュでもない。

「う――わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 動きの鈍った花丸の腹に、アッシュの蹴りが突き刺さる。バトルドレスによる強化と麒麟の強化。相乗によって生み出された人

外の膂力が、容赦無く花丸の身体に襲い掛かる。彼の身体は十メートルも地面に触れる事無く吹っ飛び、そして実験場の壁に叩き

付けられた。

「…………」

 銀色のオーラを身体から立ち昇らせながら、双角の獣は花丸の方を見つめている。どう見ても花丸は戦闘不能になったと言うの

に、彼はその全身からまだ緊張を解いていない。それどころか、このまま戦闘を続行しようとしているかのような――

「――!!」

 素早く、アッシュが身構えた。

「う……うぅ……」

 壁際に倒れている花丸が身動ぎし、ゆっくりとした動作ではあるが立ち上がった。身体が小刻みに震え、膝が笑っているが、そ

れでも彼は立ち、アッシュの方へと身構える。

 対峙する二人。睨み合ったまま、お互いに出方を伺っている。

 そして、

「!!」

 アッシュが駆け出した。花丸の傍に駆け寄り、床に崩れ落ちた彼の身体を抱き上げる。バイオドレスを脱がせると、そこには完

全に衰弱しきった花丸の姿があった。

 ――・――・――

「こんなの、いくら何でも非道すぎます!」

 記録映像を前に、サヨリが珍しくジングウに抗議している。そんな彼女を意に介した風ではなく、ジングウは映像を見つめてい

た。

「毎日毎日、衰弱するまで戦闘訓練なんて……こんな事を繰り返していたらその内、花丸さんは死んでしまいます!」

735akiyakan:2013/05/30(木) 10:38:16
 流れているのは先程の戦闘訓練であるが、それは一時間以上に渡って繰り広げられている。一切の休憩も挟まずに、しかも花丸

に至っては常に全力疾走で、だ。

「仕方ありませんよ、元より花丸さんは戦闘要員ではありません。決定的に、戦闘に関する経験値が足りていない。それを補うに

は、極限まで自分を追い詰め、徹底的に自分を苛め抜く以外に方法は無いでしょう」
「だからって、こんな……」
「実際に、効果は出ています。決して無意味ではありません」
「意味、無意味の問題ではありません!」

 堪えきれなくなったように、サヨリが机を叩いた。

「ジングウさんだって気付いているじゃないですか、花丸さんが強くなりたいって事くらい!? それなのに……それなのに、こ

んな痛めつけるような真似をするんですか!?」
「…………」

 激昂するサヨリを、ジングウは正面から受け止めている。その表情は揺るがず、むしろ熱を無くした鉄の様に冷めていた。

「別に私、『優しい』貴方に分かって貰おうとは思っていませんが……せめて、花丸さんの覚悟くらいは理解してほしいものです

ね」
「え……」
「あれを私が強要しているとでも? あの鍛錬方法は花丸さん、自らが志願したものですよ」
「…………!?」

 サヨリは、信じられない物を見たように目を見開いた。

 あの苛烈な訓練内容は、花丸が自分で申し出たもの。あの気が小さく、そして心優しい花丸が? それは彼の人となりを知って

いるサヨリにとっては、俄かには信じがたいものだった。

「本当に……ですか?」
「少なくとも私、味方に嘘をつくほど人でなしであるつもりではありませんが……第一、貴方に嘘ついてもメリットなんてこれっ

ぽっちもありませんし?」

 両手を広げ、あっけらかんとジングウは言う。

「そんな、でも、花丸さんが自分でなんて……」
「ふふふ……全く可愛いじゃありませんか。彼もまた、いっぱしの『男の子』だったと言う訳ですよ」
「……それはどういう意味ですか?」
「負けたら悔しい、ただそれだけの真理ですよ」

 ――・――・――

「はぁ……」

 生物兵器ハンガー内にあるベンチに腰掛け、花丸はため息をついていた。

 その表情には苦痛の色が浮かんでいる。アッシュに打ちのめされた場所が痛む、と言うのもあるが、何より彼にとってキツイの

は全身を襲う筋肉痛だ。連日過酷な運動を強いられ、花丸の身体は悲鳴を上げていた。

736akiyakan:2013/05/30(木) 10:38:48
「ふ……ふ、ふふ……」

 だが、苦痛に顔を歪ませながらも、その中に喜色を滲ませていた。

「痛いなぁ……筋肉痛なんていつ以来だろう……でも、少しずつ僕は強くなっているんだよね……?」

 筋肉痛は筋肉のオーバーワークの結果生じる炎症の痛みであり、酷使された筋肉の破壊の悲鳴である。だが、この痛みを堪えて

鍛錬を続けると、筋肉はそれまでよりも強く生まれ変わる。スポーツ選手が自分の身体を苛め抜く職業であると言われる所以だ。

 元々、花丸は自分で戦うタイプの能力者ではない。その為、平均的身体能力ではアッシュの足元にすら及んでいなかった。経験

、力量、能力、そのすべてを不足している。それを短期間で補う為に、花丸は自分の身体が壊れかねないような鍛錬に望んでいる



 愚行、愚策。しかしそれは、確実に花丸の身体を鍛えていた。肉体面ではまだまだであるが、経験値の量ならば下手な戦闘員よ

りも上だろう。短い時間の間に繰り返され、積み重ねた訓練の濃さは、既に百戦錬磨と言ってよい。

 もちろん、リスクは大きい。致命的な破壊をきたし、再起不能に陥る危険性がある。しかし花丸はそのリスクを推して望んでい

る。ひたむきに純粋に、戦う力を欲して。

 一度目は人で無し。その圧倒的な力の前に、花丸は自らを傷付けられただけでなく、大切な友を失った。

 二度目は似姿。自分と同じ戦い方をする相手に、その力は及ばなかった。

 自分の友である生物兵器達。彼らに守られ、或いはその力を借りる。それがそれまでの花丸の戦い方であった。だが、一度目の

敗北は彼の心に爪痕を残した。仲間に頼らなければ勝てない脆弱さ。自分一人では戦う事も出来ない貧弱さ。そして自分が負ける

とは即ち、力を借りた友を喪うと言う現実。

 無々世に勝てなかった――敗北。それが花丸に力を渇望させた。誰かに頼らなくても、自分一人で戦って勝てるだけの力。それ

を花丸は欲した。

 そして、花丸は手に入れた。バイオドレスと言う新しい力を。

 だが、それでも勝てない相手がいた。

 まるで、悪い夢のようだった。新しい力を手に入れ、それに慢心しないようにと日々訓練を重ねていたのに。ムカイ・コクジュ

はそんな彼を嘲笑うかのように、『それまでの花丸の戦い方』をもって彼を打倒した。花丸はムカイに、傷一つ負わせる事が出来

なかった。

 無論、内容が違う。ムカイは数に物を言わせた戦術であったし、アーネンエルベの力を使った支配による強制だ。花丸は生物兵

器との信頼による連携である。だが、しかし――どちらも生物兵器を運用した、「何かに頼った」戦い方であり、そしてどちらも

、「能力によって生物を操っている」と言う事では共通している。まるで彼の選択を否定するかのように、ムカイは花丸の新しい

力をねじ伏せたのだ。

737akiyakan:2013/05/30(木) 10:39:20
 花丸自身、内気で争いごとを好まない優しい性格だ。勝ち負けに関してあまり拘らない部分があるし、可能なら戦い自体避けた

がる部分がある。

 だが、過去二回の敗北。それはどちらも、花丸自らが望んで挑み、そして敗れた戦いなのだ。

 彼だって男の子なのだ――負けて悔しくない訳が無い。ましてやそれが、友を失った戦いであり、自分の誇りを踏みにじられた

戦いなのだから。

「強く……なりたいなぁ……」

 ジングウを筆頭に、千年王国の面々が脳裏に浮かぶ。自分も彼らの様になりたいと、花丸は思う。彼らの様な、背筋を張った強

さが欲しい、と。

「う? ……こ、コハナ?」

 花丸の衣服がもぞりと動き、襟元からアオダイショウが首を出した。生物兵器でないが、彼の相棒と言ってもいいコハナ。コハ

ナは何か言いたげに、花丸を見つめている。

「心配してくれてるの? ……僕は大丈夫だから、安心して」

 花丸は微笑むと、コハナの頭を撫でた。心なしか、コハナも嬉しそうにしているように見える。

「さて、それじゃあ帰ろうか」

 筋肉痛を我慢し、花丸はベンチから立ち上がる。と、その瞬間、何かを察知したようにコハナの首が動いた。

「コハナ? どうしたの?」

 もちろんコハナは答えないが、彼女は一点を凝視――否、睨みつけている。警戒心を露わにしているのが、花丸にも伝わって来

た。

「あそこって確か、バイオドレスの調整槽があったよね……?」

 不思議そうに首を傾げながら、花丸はその一角へと近付いて行く。格納庫の一角に造られたその場所には、いくつもの巨大な試

験管を思わせる水槽が並んでいる。そのほとんどが空であったが、その内の二つには中身が存在していた。二つのバイオドレスが

培養液に浸かり、水槽の中に浮かんでいる。

「え、これって……」

 そして花丸は、違和感に気付いた。二つのバイオドレスは並ぶように配置されている。だからこそ、その違和感がはっきりと分

かった。片方のバイオドレスの形状が、それまでと異なった形状に変化していたのだ。

 その色は緑色から赤色へと変色。どこか昆虫を思わせる形状だったのが、今は爬虫類を彷彿とさせるフォルムへと変貌している

。背部には翼の様な膜が出現し、腰からは尾っぽにも触手にも似た部位が出現している。培養液を激しく泡立たせながら、『花丸

に与えられた』方のバイオドレスは形を変えていた。

「何……一体何が起きているの!?」

 予期せぬ事態に、花丸は恐怖を覚えていた。身が委縮し、その場から動く事が出来ない。全身が震え、歯がうまく噛みあわない

。この感覚を、花丸は知っている。圧倒的なまでの、未知なる存在への恐怖。何が起きているのか分からない、と言うのもあるが

、花丸は本能的に感じ取っていた。今、この場で『生まれよう』としているソレが、果てしなく悍ましいナニカであると言う事を



738akiyakan:2013/05/30(木) 10:39:51
 そうしている内に、水槽の表面に罅が入った。

「あ――」

 水槽が砕け、培養液が辺りに飛び散る。次いで、ぐちゃ、と何かが地面に落ちる音が聞こえた。それなりの質量と重量を備えた

ナニカが、水槽から床に飛び散った培養液の上に落ちた音が。

「ひっ……!?」

 ソレを見て、花丸は思わず顔を引き攣らせた。

 身体の色は赤黒く、培養液に濡れててらてらと光っている。そのせいか、臓腑のような肉塊を思わせた。四肢があり、翼のよう

な膜があり、そして尾がある。頭部には後方に向かって伸びる角が出現しており、それは恐竜か、或いは竜を彷彿とさせた。

「――あがっ!?」

 凄まじいスピードで、何かが花丸に襲い掛かった。それはバイオドレスの放った尾の一撃だったのだが、花丸は視認する事すら

出来なかった。吹き飛ばされた花丸は壁に叩き付けられ、そのまま意識を失う。

 ずるり、ずるりと、這うようにバイオドレスは花丸の方へと進んでいく。まるでその姿は、五体があるのに中身が無い、骨や臓

物が入っていないかのようだ。そうして花丸の近くまでやってくると、バイオドレスは腹部から無数の触手を伸ばし、意識を失っ

た花丸の身体を絡め取る。そのまま彼を引き寄せると、その腹部が開き、まるで丸呑みにするように自分の中へと納めてしまった





 ≪悪魔の発明:3≫



(そして怪物は雄叫びを上げる)

(或いは産声の様に)

(或いは歓喜の叫びのように)

(怪物の身体は更なる変化を起こし、)

(その姿はまさしく、「創造物(クリーチャー)」の名に相応しい様相を現していった)

739えて子:2013/06/01(土) 22:04:18
白い二人シリーズ。6月のイベントといえばということで。
ヒトリメさんより「コオリ」、名前のみ紅麗さんより「アザミ(リンドウ)」、サイコロさんより「桐山貴子」をお借りしました。


今日は、しとしとざあざあ雨が降ってる。
お出かけできないから、コオリとお部屋にいるの。
本を読んだり、お絵かきしたり、お勉強したり。

「雨、やまないね」
「やまないね」
「お出かけできないね」
「できないね」

雨が降ってる日は「おとなのひと」と一緒じゃないとお出かけしちゃいけないの。
いつも一緒にお出かけしてくれるリンドウもタカコも、今日はお仕事だから、いないの。
だから、アオとコオリの二人で、おるすばん。

この間、「ざっし」っていうのをもらったの。
たくさん絵がついてて、きれい。
そのざっしを読んでたら、『6月はジューンブライド!幸せな結婚を!』って書いてあったの。

「…ねえねえ、コオリ。“じゅーんぶらいど”って知ってる?」
「じゅーんぶらいど?ううん、コオリ、しらないのよ。じゅーんぶらいどって、なあに?」
「アオも、わからないの。でもね、6月はじゅーんぶらいどなんだって。6月に“けっこん”すると、いいんだって」
「けっこんって、なあに?」
「わからない」

「「…………」」

アオも、コオリも、わからないの。
「じゅーんぶらいど」って何だろう。「けっこん」って何だろう。

「きれいなおようふく、きてるのよ」
「アオ、知ってるよ。これ、ドレスっていうの」
「けっこんは、ドレスをきるのかな」
「着るのかな」

「「………」」

「アオたちだけじゃ、わからないね」
「わからないね」
「どうしよう」
「どうしよう」
「誰かに聞いてみるのが、いいかも」
「ものしりなひとが、いいのよ」
「うん。物知りな人に、聞こう」
「聞くのよ」

コオリと二人で、ざっしを持ってお部屋を出た。
リンドウとタカコはお仕事だけど、ホウオウグループにはたくさん「おとなのひと」がいるの。

物知りな人にたくさん聞けば、「けっこん」のこともわかるかな。
わかるといいな。


白い二人とじゅーんぶらいど〜けっこんって何だろう〜


「コオリ、どっちにいく?」
「こっちにいくの」

740サイコロ:2013/06/02(日) 23:44:49
コイツのこんな姿、滅多に見た事が無いな。

ベンチに座った後姿を見て、ウミネコはそう思った。

呼び出した相手はキィ、という車椅子の音に気付いて手を上げる。

「珍しいじゃない、ショウゴのそんな傷だらけ怪我だらけの姿だなんて。」

ショウゴは苦笑しながら、

「今までだって別に怪我くらいしてたさ。」

と嘯く。違う、そうじゃない。そういった苛立ちが顔に出でたのだろうか、ショウゴは続けた。

「今回ばかりはちと重い、ってだけだ。」
「そんだけ重く喰らってるのを見た事が無い、と言ったんだよ私は。
 服で隠れてる部分も相当手酷くやられたようじゃないか。」

ショウゴは俯き、スマンと一言呟く。

「話がある、ということだったけど、その事かい?」
「ああ。…何も言わずに、俺の特訓に付き合ってくれないか?」

コイツはいつもこうだ。柔道部の勧誘といい、
いじめられていた後輩を助けようとした時といい、
常に突っ走った男だ。だが、そんなコイツを周りの人間は嫌っていない。

「無論タダとは言わない。何でも1つ言うこと聞いてやるよ。」
「何でもか?」
「俺にできる範囲ならな。」

この問答は卑怯だなぁ。そう思いつつ、返す。

「いいよ。アンタの特訓に付き合ってあげる。」
「ありがてぇ。ミユカを鍛えたアースセイバーの格闘教官様のお手並み拝見、だ。」

あの悪戯っ子のせいでショウゴとウミネコが決闘することになったのは、少し前の事である。結果は…

少し表情が引き攣ったのはウミネコだけではなく、ショウゴもだった。

「言わなきゃ思い出さないのに、わざわざご苦労だね。」
「失言だったよ。」

ゆっくりと立ち上がると、ショウゴはウミネコの車椅子の後ろに回り、押し始めた。



ショウゴがウミネコを連れてきたのは、ショウゴに似合いの特訓場所、といった所だろうか。

がらんとした柔道場だった。

先客がいる。アースセイバーでの顔馴染み、シスイだった。

シスイが協力者である事は、道すがら聞いている。

「…ウミネコさん、今の怪我でショウゴさん鍛えられるんですか?」
「体が動くなら気合と根性。…ってコイツ言ったんじゃない?」

後ろを指さして微笑む。

「大体そんな感じだな。流石ウミネコ、わかってるじゃないか。」

見なくてもわかる、ショウゴはきっといつものようにニヤリと笑っているのだろう。

「んでもって私も同意見だ。ボロ雑巾になるまで絞ってやるさ。」

シスイは溜息を吐きながら何かを呟く。聞き取れなかったが、どうせ大したことじゃないだろう。

「ついでにシスイも鍛えてあげよう。
 なあに遠慮するな、ついでだ。最近新しい能力も身に着いたようだし?」

じわりと脂汗が浮いたのを見て、手帳を開くとウミネコは特訓のメニューを考え始めた。

「とりあえず二人とも準備運動した後に腕立て腹筋背筋スクワット、
 ついでに懸垂とロープ昇りとランニングしてもらおうか。回数と順番は任せる。
 ああ、勿論シスイは天子麒麟を纏ったままで。怪我人に遅れなんてとったらお仕置きだ。」

741サイコロ:2013/06/02(日) 23:48:55
この人ホントに怪我人かよ!

シスイがそう思うのも無理は無かった。なにせショウゴの3倍はこなそうと思っていたのに…

「う…っし、マラソン5キロ、腕立て腹筋背筋スクワット100ずつ、懸垂30にロープ昇降3本終わったな、
 あークソ、キツイ」

脂汗を流しながら、シスイに遅れながらも、無理矢理目標をこなそうとしてくる。

「先輩、傷口は大丈夫ですか?」

心配だけではない。シスイは若干の悔しさも込め、聞く。

「おかげさまでな。」

天子麒麟はショウゴに対して順調に効いているようだった。

本来の目的…戦闘のための強化とは掛け離れた能力の使い方だが、邪道であろうが有効な事には変わりがない。

加えて感情の起伏によって増減する効果も、ショウゴと張り合うことで否応なしに増えている。

このままいけば…

「今日中には、かなり戦えるようになりそうですね。」
「ああ、もうだいぶ良いぜ。だが、今まで通りになるだけじゃな。」
「私に訓練頼んどいて今まで通りなんて有り得ないから。明日以降覚悟するんだね。
 そんじゃ模擬戦、ショウゴとシスイで3本先取のサバイバルデスマッチ。」
「武器の使用は?」
「シスイが天子麒麟を纏っている以上、ハンデは有りかな。けど勿論非殺傷だよ。」

ショウゴの取り出した銃に顔をしかめながら言う。

「当たり前だよ。こんな所でこんな面子で殺し合いをする意味がない。」



シスイの動きは近接格闘として常識の範囲内の動きをしている。

自らの反応が良くない事は闘いながら気付いていた。

繰り出される掌底をいなして袖を掴むつもりが、弾いてしまい次に繋がらない。

蹴りを堪えて足を抱えるつもりが堪えきれずによろける。

ようやく相手を掴んで、いざ投げようと引き付けた所で鳩尾に肘を食らう。

銃は構えた時点で腕を蹴られ当たらない。

発砲の反動を使った打撃も見切られ躱される。

正面からの技の出し合いに、全く対応できない。

正面からの技の出し合いに全く対応できないという事は、
戦術戦略を組まれるまでもなくやられているという事だ。

ショウゴは歯を食いしばりながらも、なおシスイに向かっていく。

742サイコロ:2013/06/02(日) 23:49:28



結果は燦燦たるものだった。

「3対0、ね。ショウゴ、やる気あるのかい?」

厳しい声に何も言えない。

「シスイも手を抜くんじゃない。同情はショウゴの為になんかならないよ。」
「けど…。」
「やめろシスイ、それは俺にとってキツイ。」

汗を拭くショウゴの目は疲れを見せていたが、それでもまだ死んでいない。

「ま、今日は様子見のようなもんだからね。明日からの方がもっとつらくなる、今日はもう上がろう。」

車椅子を動かし背を向け、、帰ろうとしたウミネコをショウゴが引き留めた。

「待ってくれ、ウミネコ。一本だけ手合せ願えないか?」

シスイが目を剥く。

「死ぬ気ですかショウゴさん!?」
「様子見なら、一本くらい闘ってみてくれてもいいと思うんだがね。」

何秒間かの沈黙があり、ウミネコは一気に車輪を動かしてバックでショウゴの前まで戻ると、

「休んどけっつってんでしょうがこのバカが!」

その場で車椅子ごとジャンプし、後ろの手押しをショウゴの顎にぶつける。
シスイはショウゴが浮いたのを見逃さなかった。しかし、反応できない。
先に着地したウミネコは、今度は器用に手押しをショウゴの体に引っ掛ける。
車輪を一気に回転させると、凄まじい勢いでウミネコが半回転し、


ドッ、ドスン


弾き飛ばされたショウゴが壁にぶつかって倒れた。

「この程度反応できないなんてね。」
「いや、今のは僕でも無理ですよ。助けにすら入れなかった…。今の何秒でした?」

シスイが冷や汗をかきながら答える。

「8秒くらいかなー。無理でもないのよ、あいつは。この程度も反応できなくなってるから、
 今日はここまでなワケ。体調万全になるようにしといてあげて。難しいだろうけど、頼んだわ。」

そう言い残すとウミネコは今度こそ出口に向かった。



ミズチと戦った日から数えて3日。
ミヅチの指定した日まで残り4日。
こうしてシスイ達を巻き込んだショウゴの特訓は始まった。


<ショウゴの申し出と特訓の始まり>

743サイコロ:2013/06/02(日) 23:51:30
お借りしたのは十字メシアさん宅から 角牧 海猫、Akiyakanさん宅から都シスイでした。

あくまでショウゴのお話ですが、今回は特訓に巻き込まれる2人の視点から描いてみました。

それにしてもショウゴ、ボコボコだなぁ…。

次回以降はもうちょいマトモに戦えるようになってるはずです。多分。

744紅麗:2013/06/03(月) 01:03:29
「【雑踏チルドレン】」に続きます。
思兼さんから「巴 静葉」「橋元 亮」「御坂成見」十字メシアさんから「葛城袖子」をお借りしました!
うちからは「フミヤ」です。


「…おいあんたら、その子をどうする気だ?」

「はいはいこんにちは〜!
急にごめんね、僕は橋元 亮、そっちの目つき態度悪いのは巴 静葉。
成見君の知り合いだよ!」


「亮!?それに静葉姉ちゃんも!」



その少年と少女は突然現れた。まるで、…そうだ、幽霊のように。
――本当に、突然現れたとしか言いようがなかった。

葛城袖子はビクゥと肩を跳ねらせると、咄嗟にフミヤの後ろへと下がった。
フミヤも、これには驚かないわけがなく、半歩後ろに下がる。

「な、なに…?さっきまで、誰もいなかったのに!」
「おっとっと。…もしかして、今日はツイてる日かナ?」
「さっさと答えてもらおうか。この子をどうするつもりだった?」

やや威圧感を与える瞳で袖子とフミヤに近付く、少女――巴 静葉
それを、わぁわぁと声を上げながら少年――橋元 亮 が止める。

「まぁまぁ、静葉。もーちょっと柔らかーくいこうよ、ね?」
「うるさい。黙ってろ。」

すっぱりと亮の言葉を切り捨てる。
静葉は目線を逸らさず、じっとフミヤの方を睨みつけていた。
こわいこわい、と独り言のように呟きながらフミヤが話し始めた。

「ごめんね、誘拐とかしてたわけじゃないんだよ。」
「………」
「…ご、ごめんなさい。こいつ、見た目は怪しいけど、本当のこと言ってるんだ。」

静葉はそれでもなお二人を睨みつけていたが、ちらりと成見を見ると。

「…本当か?成見」
「――まぁ。変なことはされてないよ。…最初は不審者かと思ったけど。多分、悪い人じゃないと、思う。」

二人はこんな自分の容姿を気味悪く思うことなく受け入れてくれた。
そんな二人を悪く言うのは、少々、気が引けるというものだ。

「…ねぇ、袖子ちゃん?」
「何。ちゃん付けだなんて気持ち悪いな」
「どーしておれの服をそんなに力いっぱいひっぱっているのかナ…?」
「…あんたが変な行動起こさないためにだよバカ」

フミヤの言う通り、袖子はフミヤの服を掴みながら、彼を決して動かすまいと、力いっぱい踏ん張っていた。
と、いうのも、突如現れた二人に向かってフミヤが飛び掛らんばかりに

―――ねぇねぇ能力者ーー!?

と近付いていくのが眼に見えたからである。これ以上の面倒事は避けたかった。

だが、そんな彼女の頑張りも空しく――

「ねぇ、二人ともさっきいきなり幽霊みたいに現れたように見えたけど…。
それは、チョーノーリョクとかそういう類…?ねぇねえ!」

フミヤは、薄汚れた緑色の手帳とペンを持ちながら眼を輝かせ鼻息を荒くしていた。

「………」
「……静葉、この人、気持ち悪いね」
「…あぁ」
「ごめんなさい、ほんと、悪い人じゃない、んだ…」

他人のフリをしたい…!
心の底からそう思った袖子であった。


「って今はそれどころじゃないんだった」


ぱっと表情が変わるフミヤ。

「ねぇ、静葉ちゃんに亮くんだっけ?二人とも、『色のない森』って聞いたことあるかい?」
「『色のない森』…だと?」
「そ。その名の通り森には色がなくてね。鳥の鳴き声も、風の通り抜ける音も聞こえないらしい。」
「…それが、なんだ?」


「それをね、今から見に行こうと思っているんだけれど…。良かったら、君たちも一緒にどう?」

細められた琥珀色の瞳が、鈍く光を放った。



とまらない好奇心。

745紅麗:2013/06/03(月) 01:30:45
「目覚めた能力者」系列の一部になります。



この世界は不思議だ。たくさんの不思議で溢れかえっている。
時間はあっという間に過ぎていく。歩みは、駆け足に変わる。

たくさんの命が存在している。私の知らない、遠く、遠くにも。

そして、何度も繰り返される争い。馬鹿馬鹿しい争い。
どれだけの血を見てきただろう。どれだけの血が、この場所に流れたのだろう。

君は今私を見てくれているだろうか。私の声を聞いてくれているだろうか。
私のことを、忘れてはいないだろうか。思い出してくれているだろうか。

…「記憶」とは非常に奇妙なもので。覚えているものより忘れていくものの方が多い。

記憶は多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけない。
多すぎればその重さに自分がつぶれてしまうし、少なすぎれば空しさによって壊れてしまう。
そして、嫌な記憶ほど心に根強く残りやすい。…いや、これは、私が勝手にそう思っているだけか。

その嫌な記憶を思い出す度に、胸が締め付けられる。
苦しくて、苦しくて、たまらなくなる。あぁ、こんなことならば。
こんな思いをするならば、いっそ、死んでしまえば。そんなことまで思うようになる。

「記憶」とは本当に不思議だ。
自分から望んで消すことは出来ないのに、必要なときに限って消えているのだから。

星が見える。

どんなに辛いことがあろうとも、人々は手を取り合い、支え合いながら生き続けてきた。
希望を今日に、明日に、――紡ぎ続けている。歩き続けている。
命ある人々は、今日も生き続けている。いくつもの季節を越えて。

私は忘れない。忘れてはならない。彼女のことを。彼女達のことを。
この地で起こる、全てのことを。どんなことがあろうとも、それでも、生きていく。

生きていかなくてはならない。
私はいつもまでも、見守り続けたい。


――あぁ、どうか。
どうか、あなたにも、心から会えてよかったと思えるものが存在しますように――。

どうか…、幸せでありますように――。


とあるモノの独白

746akiyakan:2013/06/03(月) 08:47:10
※えて子さんより「花丸」、十字メシアさんより「マキナ」をお借りしました。自キャラは「ジングウ」、「サヨリ(企画キャラ)」、「アッシュ>AS2」です。

 ≪暴虐の竜≫

 施設内に警報が鳴り響く。

 異常の発生源は閉鎖区画。と言っても、施設にいる人間は皆「またあいつらか」と言う顔をするばかりで、誰も駆け付ける気配は無い。日常茶飯事とまでは言わないが、千年王国が起こす警報沙汰は既に珍しくない回数になりつつあった。

 しかし、この時は違った。

 誰も駆け付けない閉鎖区画の入り口。そこが今、かつてそうなっていたように、封印の為のシャッターで閉ざされている。

 その中で起きている事に、誰も気が付かなかった。

 ただ、その場にいる者達を除いて。

 ――・――・――

「これは……」

 警報を聞きつけて、ジングウはハンガー内へと走って来ていた。

 異常の発生源は、バイオドレスや生物兵器を調整する為の培養漕があるエリア。彼が駆け付けた時には、現場は白い蒸気に包まれていた。

「――■■……」

 唸り声が聞こえる。獣の、しかしどんな生物の鳴き声にも当てはまらない様な声。

「ジングウさん、これは……」
「サヨリさん、私から離れないように。おそらくこれは、生物兵器の仕業です」
「生物兵器の? ですが、どの生物兵器も未使用時は封印されている筈じゃ……」
「たまにいるんですよ。封印破って出てくるちょっとやんちゃなのが」

 白い蒸気の向こうで、何かが身動ぎしたのが見えた。普段飄々としているジングウの表情が引き締まり、相手の出方を伺っている。

「■■……」

 唸り声を上げながら、白霧のカーテンを潜って『それ』は姿を現した。

 まるでドラゴンの様だと、サヨリは思った。或いは、白亜紀に地上を支配した竜の末裔だとも。

 赤黒い体色。頭には背中側に向かって伸びる二本の角があり、その形は爬虫類を大型化し、更に凶悪な形に歪めている。おそらくは、自然界においてここまで凶悪な顔付きをしている生物はいないであろう。その点においては爬虫類と言うよりも、昆虫や魚類に近いかもしれない。背中には折り畳まれた翼膜があり、下半身には太く長い尾が伸びている。体躯は巨大で、三メートルはある。

「何これ……こんな生物兵器、目録には……」

 格納庫に存在する生物兵器に、こんな姿をしたものは存在しなかった筈だった。自身に覚えのない存在を前に、思わずサヨリはたじろぐ。

「……馬鹿な」
「え?」

 意外な声を聞いたと思い、サヨリは隣を見た。そこで彼女は更に驚く。普段滅多に驚いた様子を見せないジングウが、心から本気で驚いた表情を見せていたのだ。

「何故、お前がここにいる……お前は私が自ら破棄した筈だ……」
「ジン……グウさん? 知って、いるんですか……?」

 普段とは違うジングウの様子に、サヨリも少なからず動揺する。感情が滅多に揺らいだりしないジングウが、これだけ驚いているのだ。今ここで起きている事が、自分が思っている以上に異常なのだと言う事を、彼女は感じ取った。

「■■■■――ッッッッ!!!!!」
「「ッ!?」」

 怪物が吼えた。その凄まじい振動で、格納庫内の空気が震える。鼓膜を劈く衝撃に、二人は反射的に耳を押さえた。

 と、その時だった。

「――!? サヨリさん!!」
「え?」

 突然、サヨリはジングウに突き飛ばされた。一体何が起きたのか分からず、彼女は茫然とジングウの方を見つめながら倒れていく。

 そんな彼女の目の前で、ジングウの身体に何かが突き刺さった。

「あ……がっ……」
「じ……ジングウ、さん?」

 ジングウの腹を突き破り、背中まで貫通しているソレ。ソレは怪物の尾だった。一体どんな風に動かせばそんな風に動くのか、怪物は自分の尾を槍の様に伸ばし、ジングウの身体に突き刺したのだ。

747akiyakan:2013/06/03(月) 08:47:41
「■■■■――ッッッッ!!!!!」
「――ごふっ!?」

 咆哮を上げ、怪物が尾を振った。その勢いで、ジングウの身体は吹っ飛び、格納庫の壁に叩き付けられる。その衝撃は凄まじく、激突した壁がクレーター状にヘコんでいる。

「ジングウさん!!」

 サヨリが駆け寄ると、ジングウの身体は血塗れだった。生物兵器が暴れた位では簡単には壊れない壁面が、抉れてしまう程の衝撃なのだ。むしろ、身体がまだ原型を留めている方が驚きだ。

「痛ぅ……」
「ジングウさん、大丈夫ですか!?」
「この状況で大丈夫な訳が無いでしょう……」

 この状況で、軽口を叩くだけの元気はまだあるらしい。『ジェネシス』で得た再生能力は伊達ではない、と言う事か。

「取り敢えずサヨリさん、私の事は良いから逃げなさい」
「怪我人が、何を馬鹿な事言ってるんですか!」

 言うが早いか、サヨリはジングウに肩を貸して立ち上がらせようとする。だが彼の足はだらりとしており、力が全く入っていない。

「ジングウさん、足が……」
「脊髄をやられました。下半身が、ごふっ……参りましたね、感覚が全くありません」

 内臓もやられているのだろう、ごぼりと口から血を吐き出す。ジングウが歩けないと判断すると、サヨリは彼の身体を抱き上げた。所謂、お姫様抱っこの形である。

「……まさか、この齢になって女性に抱き上げられるとは思いませんでしたよ」
「こんな時に茶化さないでください!」

 実際、サヨリの表情に余裕が無い。自分の衣服が汚れるのも構わず、彼女はジングウを抱き抱えて逃げようとする。その行く手を阻むように、怪物の巨体が立ち塞がった。

「く――」
『――サヨリさん、伏せて!!』

 濃紺に近い色の装甲服が、怪物の身体を蹴り飛ばす。頭部には二本の角があり、その形は馬の頭部にも、或いは悪魔の顔の様にも見える。胸部には赤い光球が光っており、床を踏みしめるその音はまるで、馬の蹄の音にも似ていた。

「バイコーンヘッド――アッシュさん!?」
『サヨリさん、大丈夫!?』

 胸の転送装置から槍を取り出し構えると、アッシュはサヨリを庇うようにして立った。心強い援軍の出現に、彼女は胸を撫で下ろした。

「アッシュ……サヨリさんの心配する前に、私の心配してくださいな……」
『いや、減らず口が出る内は全然平気でしょ、父さん』
「全く、一体誰に似たのやら……」

 軽口を叩きながらも、アッシュは目の前の相手への警戒を怠らない。蹴り飛ばされた怪物は、全く効いている様子も無く平然と立ち上がっていた。

『結構本気で打ち込んだんだけどなぁ……取り敢えずサヨリさん、父さんを連れてここから離れて』
「は、はいっ!」

 ジングウを連れ、サヨリはその場から退避する。それを見送って、アッシュは改めて構え直した。

『はぁっ!』
「■■■■――ッ!!!!」

 アッシュと怪物の戦闘が始まった。アッシュの武器と怪物の爪が切り結ぶ。

『こいつ、強い……!』

 数刻の打ち合い。それだけで、アッシュは相手の力量をある程度図っていた。

 まず、膂力が違う。アッシュは強化服に天子麒麟の力を合わせた相乗効果により、強力な力を得ている。そうやって生み出したアッシュの膂力に怪物の怪力は拮抗、或いはそれを上回っていた。アッシュの渾身の一撃が、捌かれ、或いは弾き返されてしまう。

『なんて馬鹿力なんだ、こいつ……!』

 そもそも、攻撃がまるで通じていない。例え当たっても怪物の身体は固い装甲に覆われており、傷を付けてもそこがすぐさま再生を始めている。麒麟の力を得て名刀にも匹敵する威力を得た武具が、ことごとく破られていく。

 このままでは負ける。そう思い、離脱を考えていた時だった。

「お、ま、え、かああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
『!?』

 横薙ぎの一撃が怪物を吹っ飛ばした。突然の事態にアッシュは一瞬呆気にとられたが、すぐに状況を把握した。巨大なジェット付きのハンマーを握り締める少女が、目の前に立っていた。

748akiyakan:2013/06/03(月) 08:48:40
「ジングウ様に怪我させたのはお前かあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『あ、やばいな、あれ。完全にスイッチ入っちゃってるじゃん』

 瞳は狂気に濁り、更にいつもと違ってその表情は憤怒で歪んでいる。般若の形相だ。最近の彼女は『狂戦士の首輪』の影響で大人しくなっていたが、久々の『狂気化』だった。能力が暴走しないようにと嵌めてあった首輪は無く、その能力を完全に発揮している。

『駄目じゃん、マキナちゃん。結婚首輪外しちゃ』

 危機が去ったと見るや、いつもの調子を取り戻すアッシュ。彼女の様子を見る限り、おそらく怪物にやられたジングウの姿を目撃してしまったのだろう。彼に恋い焦がれる彼女の行動としては当然のものだろう。ジェットハンマーの破壊力も相まって、怪物を滅多打ちにしている。

「死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね死ねえぇぇぇぇぇぇぇ!!! ジングウ様はボクのものだ! お前なんかに横取りされてたまるかあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
『……父さん、とんでもないのに好かれてるわね』

 まさに狂戦士。『狂気化』はその精神が狂気に浸されれば浸される程効力を発揮するが、うまい具合に怪物への破壊衝動が能力とリンクして通常よりも破壊力が増している。加えていつも使用しているハンマーと違い、使っているのはジェットハンマーだ。殺る気がヒシヒシと伝わってくる。

『……だけど、相手もとんでもないな』

 頃合いと思ったのか、アッシュは転送装置で鞭を取り出すと、それをマキナの身体に巻き付けて自分へと引き寄せた。注意が怪物にだけ向いていたせいか、思ったよりもあっさりと彼女の身体は鞭に縛られる。何をする、と抗議の眼差しをマキナが向けて来たが、それを無視して鳩尾に一発。マキナの意識は奪われ、彼女の身体から力が無くなった。

『悪いね、マキナちゃん。君とアイツじゃ相性が悪過ぎる』

 のそり、と怪物が起き上がる。マキナの連続攻撃でその装甲や身体の部分部分は大きく抉られているが、アッシュの目の前でその破損も再生していく。

『……おいおい、自己再生って言ってもゲームみたいに無料回復って事は無いでしょうに。その肉体を造る程のエネルギーが、一体どこに納めてあるって言うのさ』

 マキナの攻撃力ですらこれだ。あのまま攻撃を続けても、肉体は常人並でしか無い彼女では一発貰っただけでアウトである。アッシュは撤退すべきと判断し、マキナの身体を抱き上げるとその場から走り出した。

「■■■■――ッッッッ!!!!」

 逃がさない、とでも言っているのだろうか。怪物が咆哮を上げると、その背中の折り畳まれた翼膜が左右に広がった。元々巨体であったのが、広げられた翼のせいで更に巨大になったように見える。

 数回、本当に数回。それだけで、怪物の身体が浮かび上がった。

『ちょっとちょっと……飾りじゃないのかよ、それ』

 仮面の下で、アッシュの頬に冷や汗が流れた。轟音と共に、翼を広げたドラゴンが迫ってくる。まるで獲物に狙いを定めた猛禽類の様な速さで、怪物は迫ってくる。

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
『■■■■――ッッッッ!!!!』

 格納庫の出口を目指すアッシュ。そしてそれを追う怪物。アッシュが通路に飛び込むのと、怪物がそれに激突するのはほぼ同じタイミングだった。

 ――・――・――

「ジングウさん、大丈夫ですか?」

 格納庫から脱出したジングウとサヨリは、実戦訓練場の近くにある研究室にいた。取り急ぎの処置で、ジングウの傷の手当てを済ませている。見た目は何時ものジングウだが、その全身に巻き付けてある包帯が通常よりも締め付けてあるのは当然の事だろう。

749akiyakan:2013/06/03(月) 08:49:11
「サヨリさん、キツイです」
「そんな事言わないでください。お腹に穴が空いているんですよ? 脊髄だって損傷してますし……」
「いえ、それはもう治りましたし」

 言うが早いか、ジングウはその場に立ち上がってみせる。普段よりゆっくりとし、ふらついているものの、しかし先程のように立てない訳では無い。

「…………ジングウさん、人間止めてますよね、もう?」
「アナボリズムを連続で受けて無傷の絶対者に並ぶんだったら、むしろこれでも足りない位です」

 言いながら、ジングウは肩を竦めてみせる。彼自身が開発したプロウイルス・ジェネシス。それは人間のDNAを書き換えてしまう魔のウイルスは、確実にジングウの身体を人間とは違う、別の生き物に変えていたのだった。

「ところでジングウさん、聞きたい事があるんですが」
「あの赤い怪物の事、ですかね」
「ええ、そうです――」

 サヨリが言いかけている最中に、どこからともなく爆発音が聞こえた。二人は研究室の窓から実験場の方を覗き込む。すると、格納庫と実験場を繋いでいる通路部分から煙が上がっており、その傍に倒れている装甲服姿の人と中学生くらいの少女が見えた。

「アッシュさん! マキナさん!」

 サヨリの声が届いた、と言う訳でもないが、よろめきながらバイコーンヘッドが立ち上がる。出入り口の方に身構えると、煙の中からあの怪物が姿を現した。その身体には一切傷は無く、誰が見ても無傷だった。

「そんな……バイコーンヘッドを装備したアッシュさんでも勝てないなんて……」
「これ位当然ですよ。『アレ』には、それを成し得るだけのスペックがありますから」

 アッシュが劣勢だと言うのに、ジングウはまるで彼を心配している様子を見せない。それどころか、その成り行きをまるで観察するかのように見下ろしている。籠の中で殺し合う二匹の虫を見ているかのように。

「何なんですか、あれは!」
「……バイオレンスドラゴン。六年前の私がかつて製造し、しかしその危険性から自ら破棄した怪物ですよ」
「バイオレンス……ドラゴン……」

 その名前を聞いて、サヨリは即座にアーカイヴにアクセスした。データは、あった。確かに製作者はジングウであり、その破棄が彼の手で行われた事が記載されている。

 そしてその性能は――

「装着者と融合し、吸収……その肉体を乗っ取って活動……周囲のものを取り込み、自己進化・自己成長していく……ですって……!?」

 デルヴァイ・ツァロストが可愛く思えてくるような、悪夢のテンプレみたいなスペックだった。まるで鎖で繋がれていない猛獣だ。こんな物使ったら最後、例え敵を殲滅出来ても自分達まで滅ぼされてしまうではないか。

「本当にこれ、ジングウさんが……?」
「ええ。まさか、生まれたのがあんな鬼子とは思いませんでしたが。何せ言う事を聞かない、勝手に暴れる。とても使い物にならないので破棄した……筈なんですけどね」

 訓練場で戦闘を繰り広げるアッシュと怪物――バイオレンスドラゴンを見比べる。アッシュは防戦一方であり、ドラゴンはそれを蹂躙していくだけの一方通行になりつつある。おそらくアッシュは、転送出来る武装をすべて使い果たしたのだろう。こうなってはもはや、彼に出来るのはドラゴンの攻撃から逃げ続けるより他にない。

「本当に……破棄したんですか?」
「ええ、間違いありませんよ。私が極秘に保管していた訳ではありません……実に興味深い。アレは自ら、バイオドレスを憑代に蘇ったんですから」
「……どう言う事、ですか」
「実を言うとですね、バイオドレスはアレが元になっているんですよ。言うなれば、バイオレンスドラゴンはバイオドレスの試作機であると言ってもいい」
「……まさか、同じ構造で出来ているものだから、バイオドレスが突然変異してああなった、と?」
「いいえ、もっと呆れますよ。奴は、自分の設計図をバイオドレスに流し込んで、自分の身体に再設計したんですよ」
「――……!?」

 ジングウの言葉に、サヨリは息を呑んだ。

750akiyakan:2013/06/03(月) 08:50:21
確かにアーカイヴには、バイオドレスに関する設計情報が存在した。ジングウはあろう事か、『そのデータが自らの意思でバイオドレスにアクセスし、その形状を自分と同じ物に組み替えた』と言っているのだ。

「そんな事ありえません! 自我を持つ私達擬人兵ならともかく、アーカイヴにあるのはただのデータなんですよ!? 魂も無ければ知性すらない、言わば紙面に描かれた文字と同じものです! それが、自分の意思で動いたなんて……」
「ではサヨリさん。聞きますが、貴方の自我とやらはどこに存在するのですか?」
「え……」
「……失敬、今の言葉は忘れて下さい」

 「失言だった」と言わんばかりに、ジングウは自分の口元を手で押さえた。サヨリは、と言えば、ジングウの言葉の意味が分かっていないようだった。

 視線を二人とも、眼下で繰り広げられる戦いに目を向ける。丁度その時、アッシュの身体をドラゴンの尾が捉えたところだった。

 ――・――・――

(う……)

 微睡にも似た意識の中で、花丸は意識を取り戻した。

(こ……ここは……?)

 水の中に浮いているような浮遊感。しかし、手足に力を込めても自由には動かない。

(僕は……何を……)

 意識を失う以前の記憶を思い出そうとする。ずきりと頭痛が走ったが、どうにか思い出す事が出来た。瞬間、その時の事を思い出して背筋が震えた。自分は、見た事も無い怪物に吹き飛ばされたのだ。

(あれから、僕はどうなったの……?)

 怪物に殺されてしまった。まず、その事が頭に浮かんだ。あんなに強く吹き飛ばされたのだから、自分が無事でいられる訳が無い。しかし、たった今感じた頭痛を思い出して、その考えを否定した。痛みがある、つまり痛覚があると言う事は、まだ生きている証拠だ。実際のところ、頭痛を言い訳にしてまだ自分は生きている事にしたかったのかもしれないが。

(ここはどこ……僕は、一体……)

 その時花丸は、自分の目の前に何かが映っている事に気が付いた。まるでそこにテレビか、或いは窓が存在しているかのように、くっきりと四角く空間が切り取られている。そこ映っているものが何であるかを確認しようとして、

(……え、)

 彼は、言葉を失った。

 映っていたのは、バイコーンヘッドを装着したアッシュの姿があった。だが、その頭を守っている筈のメットが割れ、顔が半分露出している。頭から血を流し、剥き出しになった肌を濡らしているのが目に映った。

(アッシュさん、何で……)
『はぁ……はぁ……くそ。こいつ、エネルギー切れ無いのかよっ!』
(え……?)

 花丸はアッシュが何を言っているのか分からなかった。混乱する彼を余所に、画面の中でアッシュが横へ移動した。そして彼の行方を追おうとした花丸の視界に、奇妙な物が映り込んだ。

(何……これ……?)

 それは、巨大な腕だった。花丸の腕の何倍も大きく、指の太さだけで彼の掌ぐらいある。その腕が先程までアッシュがいた場所に振り下ろされていた。あたかも、アッシュの押し潰そうとしたかのように。

(え……何、これぇ……?)

 訳が、分からなかった。画面の中でアッシュは逃げ惑うように動き回り、それをまるで追いかけるかのように画面の主は動く。そして画面はあたかも、花丸の視界であるかのように存在している。

(うあ……あぁ……)

 花丸の脳裏にとある考えが浮かび、彼はそれを信じたくないと思った。だが、そう願えばそう願う程、その考えは実像を帯びて彼の中で大きくなっていく。

751akiyakan:2013/06/03(月) 08:50:54
ここは一体どこなのか。そして今、自分はどう言う状態なのか。

 すべては、目の前の画面が物語っている。すべては、この状況が教えている。

 画面が動く。その中心に、アッシュが捉えられた。彼がこちらを振り返る。剥き出しになった顔に、僅かであるが恐怖の色が浮かんでいるのが見えた。画面の端に、赤い腕が構えられたのが見えた。思わず花丸は逃げて、と叫び、それと同時にアッシュが跳ねる。避け損なったアッシュの身体を、巨大な腕が殴り飛ばすのが見えた。

(あぁ……ああ……)

 地面に身を投げ出しているアッシュに、ゆっくりと画面が近付いて行く。画面は揺れ、あたかも自分が大きく足踏みをしているのだと錯覚する。いや、錯覚ではない。感覚は無いが、そうなのだ。自分は確かに、アッシュに向かって近付いている。

(止めて……止めて……)

 画面がまるで、アッシュを見下ろすかのような視点になった。ぐぐっ、と画面が動き、まるで片腕を大きく振り上げたように感じられた。

 次の瞬間、アッシュが潰れて赤い飛沫を上げたように見えた。

(――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!)

 花丸の精神はその光景に耐え切れず、喉の奥から絶叫していた。

 ――・――・――

「ぐ……」

 怪物の攻撃に吹き飛ばされ、アッシュは一瞬意識が飛んでいた。

 恐ろしい一撃だった。バトルドレスの衝撃吸収機能が無かったら確実に死んでいたと実感する位に、凄まじい怪力だった。シスイの天士麒麟に敗れた時よりも、正直恐ろしいとアッシュは感じていた。

「は、そりゃそうか……殺す気の無い奴の攻撃と、獲物としか見ていない奴の攻撃なんて、怖さは全然違うよね……う……」

 起き上がろうとして、全身に激痛が走った。末端の感覚が鈍く、痛覚が鈍い。その癖、「やばい」と実感する部分に熱を感じる。おそらく、骨の数本は折れたに違いない。

 だが、泣き言を言って膝を抱えている場合ではない。このままここにいても、怪物に殺されるだけだ。

「この……根性出せ、くそ……」

 天子麒麟による治癒を行うが、治りが遅い。能力を酷使し過ぎた反動なのだろう。傷を負っている場所以外の体温が冷たく、手の震えが止まらない。立って逃げるのは無理と見るや、アッシュはその場を這い出した。

「はぁ……はぁ……」

 のろのろとした、緩慢な匍匐移動。まだ芋虫の方が速いのではないか、と思わせる位だ。やるだけ無駄、大人しく諦めてしまえばと思ってしまう位に、誰から見ても無意味だと分かる行いだ。

 それでもアッシュは生にしがみつく。無駄だと分かっている、無意味と分かっている。それでも、最後の瞬間まで生きる事を諦めない。生き汚いと言わば言え。尊厳などくそ食らえだと、その背中はまるで語っているかのようだった。

 だが、もがいただけで現実が変わる程、世界は脆くない。アッシュの身体に、覆い被さるように影がかかった。

「……やれやれ、ここまでか」

 力無く笑みを零すと、アッシュは振り返って相手の姿を見た。明かりの無い実験場の中に浮かび上がる威容。赤黒い装甲に包まれた竜。その全身はまるで、返り血を浴びてその色を帯びているのだとアッシュに思わせた。

「どうせ殺されるならさぁ、君みたいな不細工なんかじゃなくて、トキコちゃんに殺されたかったぜ」

 おどけながら、アッシュは怪物を睨み返す。その眼差しに変化は無い。否、最初から変化が無い。爬虫類よりももっと無機質な、昆虫を思わせた。

752akiyakan:2013/06/03(月) 08:51:24
「――そのくせ嗤うのか、お前」

 それは、アッシュの見間違いだったかもしれない。拳を振り上げた怪物の口元。半開きになったそれが、彼には嗤っているように思えたのだ。自分よりも脆弱で矮小な存在をすり潰す快感を隠し通せないかのように。

 拳が迫る。次の瞬間、アッシュの身体はそれに押し潰され、床一面に赤い花が咲くように赤い飛沫が――

『――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
「!?」

 突然、まるで怪物の内側から反響してきたような叫び声が聞こえた。瞬間、怪物の腕がぴたりと止まる。アッシュの鼻先スレスレだった。

「今の声……」

 アッシュは、信じられないものを見るように、怪物を見上げた。

「花丸……ちゃん?」

 怪物はまるで、彫像になったかのように動かなかったが、ややあってまるでよろめくように動き出した。

「■■……■■■■――ッッ!!」
「うわっ!?」

 怪物の様子がそれまでと違う。アッシュを狙うのではなく、辺りをやたらめったら攻撃し始めた。両手を振り回し、尾を出鱈目に叩き付ける。まるで、苦しんでいるようにアッシュには思えた。

「伏せなさい、アッシュ!」
「ッ!?」

 頭上から聞こえた声に、アッシュは言われた通りにする。視線を向けると、上にある研究室の窓に眩く輝く光の塊が見えた。

「ッ――!!!!」

 ジングウの手から、収束されたエネルギー波が放たれる。その一撃は怪物を呑み込み、その全身を焼き尽くす。数秒間のエネルギーの照射が止まると、そこには原型こそ留めてはいるが、黒焦げとなった怪物の姿があった。

「…………」

 まだ動くのではないか。そう思って、アッシュは最後の力を振り絞って立ち上がる。

 花丸はどうなってしまったのだろうか。怪物と一緒に死んでしまったのか。そもそも、怪物は死んだのか。様々な思考が、アッシュの脳裏を掠める。

 その時、怪物の腹部が崩れた。

「あれは……!」

 黒焦げになった肉の下から、小さな手が覗いているのが分かった。

「花丸ちゃん!」

 ボロボロの身体を引き摺って、アッシュは怪物の傍まで駆け寄った。

753思兼:2013/06/04(火) 23:44:51
とまらない好奇心 より続きです。



【実在アウトロー】



―第五話、秘密の話―





「ねぇ、静葉ちゃんに亮くんだっけ?二人とも、『色のない森』って聞いたことあるかい?」

「『色のない森』…だと?」

「そ。その名の通り森には色がなくてね。鳥の鳴き声も、風の通り抜ける音も聞こえないらしい。」

「…それが、なんだ?」



「それをね、今から見に行こうと思っているんだけれど…。良かったら、君たちも一緒にどう?」



名も名乗らないうちにそんなことを切り出した男はどこかワクワクしているように見える。

静葉としてはこの気味の悪い男の名前より、この男がさっき発した言葉がずっと気になっていた。



―ねぇ、二人ともさっきいきなり幽霊みたいに現れたように見えたけど…。
それは、チョーノーリョクとかそういう類…?ねぇねえ!―


超能力、まぁそんなものだろうと静葉自身も認識している。


だが、それをなんでこんな男が聞くのか?


普通の人間ならそれこそ幽霊でも見たように逃げ去るだろう。

だがこの男(と女性)はそんなことは無かった。

それに、見知らぬ人間に『超能力』などと聞くのは少々おかしい奴位だろう。


なんにせよ、静葉の答えは決まっていた。



「断る。俺は名前も名乗らん怪しい奴についていくほど愚かじゃない。」

「つれないなぁ〜静葉は。
あぁごめんね〜静葉はこういう固い性格なんだ。」


睨みを効かせて警戒する静葉の横で亮が緊張感無く言う。

754思兼:2013/06/04(火) 23:49:27


「あ、ごめんね〜遅れたけどおれはフミヤ!こっちの子は袖子ね。」

「こんにちは、静葉ちゃんと亮君。」


思い出したとでも言わんばかりに男…フミヤは言う。

静葉の警戒など全く気にしていない様子だ。



「ねぇねぇ〜いいんじゃない?
もしかしたら『あれ』に関する情報が得られるかもよ?」

亮は静葉にこっそり耳打ちする。

それを聞くと静葉はやや渋い表情になり、ため息をついた。


「お前は騒ぎに首を突っ込みたいだけだろうが。
だが、こいつらについていけばもしかすると…」

静葉は成見をちらりと視る。

さほど警戒はしていないように見える。




「…いいだろう。
俺たちも少し探し物があるからな。
探索がてらに協力してやる。
成見、それでいいか?」

「俺は構わないよ…変なものが『見える』し少し不安なんだ。」

「やっぱそう来なきゃね!」


はしゃぐ亮を後目に今度はフミヤを見る。


「その『色のない森』とやらに案内してくれ。」

「うん、わかった!」






<To be continued>

755思兼:2013/06/04(火) 23:53:57

<キャスト>
御坂 成見(思兼)
巴 静葉(思兼)
橋元 亮(思兼)
フミヤ(紅麗様)
葛城 袖子(十字メシア様)

756思兼:2013/06/05(水) 00:07:54

【アウトサイドレコーズ】


―第×話、迷い出る話―



私はここにいるよ。

私は確かに存在しているよ。


キミは『視る』ことができる形で、キミの周りにずっと。


キミに伝えたいことがあるから。

キミに言いたかったことがあるから。



私が約束を破っちゃった理由を、私のことを聞いて欲しい。


こんなふうになっちゃったけど、キミに伝えられるならどんな姿でもよかった。


最後に、最期に…

私の思いをキミに直接伝えたい。

だって私はキミのことが…

今でも、姿かたちを存在を変えたとしても絶対に変わることのないこの気持ち。


伝えないと、私は…後悔してしまう。

未練が残ってしまう。


勝手に逝っちゃった私だけど、これだけは。

私の最後の我儘。




『成見君、おはよう。』


だから、私はキミに話しかけ続けるよ。

キミに気づいてもらうためにも。


大好きなキミに伝えたいことを伝えるために。




<To be continued>
鈴木 遥の主演でした。

757えて子:2013/06/06(木) 20:44:29
白い二人シリーズ。
ヒトリメさんから「コオリ」、Akiyakanさんから「ジングウ」「サヨリ(企画キャラ)」「アッシュ」、しらにゅいさんより「トキコ」をお借りしました。


コオリと一緒に、「けっこん」を調べることにしたの。
だれか、けっこんを知ってる人、いるかな。

「だれに聞いたらいいかな」
「ものしりなひとに、きくといいのよ」
「うん。物知りな人、いろんなこと知ってる」
「きっと、けっこんもしってるのよ」

アオとコオリ、物知りな人にけっこんのこと聞くことにした。


「…分かりませんよ」
「わからないの?」
「しらないの?」

物知りな人に聞いたのに、わからないって言われちゃった。

「分かりません。そもそも何故私に聞こうと思ったんです」
「ジングウ、物知りだから」
「ミレニアムのおにいちゃん、なんでもしってるのよ」
「……」

ジングウ、ふう、って言った。
「ためいき」っていうんだよね、こういうの。

「…あのですね、私にだって分からないことぐらいあります」
「そうなの?」「そうなの?」
「ええ。全知全能ではないんですから」
「ぜんちぜんのうって何?」
「何でも知ってたり何でも出来たりするわけではないということです」
「ふーん」「ふーん」

物知りなジングウでも、知らないこと、あるんだね。
アオたちと一緒。不思議。

「…で、お二方は何故急にそんなことを調べてるんです?」
「あのね、6月はじゅーんぶらいどなんだって」
「じゅーんぶらいどでけっこんするといいんだって」
「でも、アオたち、けっこんって知らないの」
「だから、おべんきょうしてるのよ」
「そうですか…」
「うん」
「あら?アオギリちゃんにコオリちゃん」
「あ、サヨリ」「メイドのおねえさん」

ジングウと話してたら、サヨリも来たの。

「ジングウさん、この子達に変なこと教えてないでしょうね?」
「貴女の中の私ってどれだけ信用ないんですか。……そうだ、サヨリさんにも聞いて御覧なさい」
「? ジングウさん?」
「メイドのおねえさんは、しってるの?」
「こういうのは女性の方が詳しいもんです」

けっこんは、女の人のほうが知ってるんだって。
ジングウは男の人だから知らないのかな。

「何か私に聞きたいことがあるんですか?」
「うん。あのね、けっこんって何?」
「えっ」

サヨリ、顔が赤くなった。
何でだろう。

「ねえねえ、けっこんってなあに?」
「え、えっと…その…」

サヨリ、ジングウを見た。
ジングウ、ぷいってしちゃった。

「サヨリも、知らないの?」
「わ、わわわわわ、私は擬人兵ですから…その、そういうのは…」
「しらないの?」
「うぅ………」

「ぎじんへい」だと、女の人でもけっこんって知らないのかな。
ジングウが「無邪気な子供の攻撃は恐ろしいですねぇ」って言ってる。
どうしてだろう。

「けっこん、難しいね」
「ほかのひとにも、きいてみるのよ」
「うん」

ジングウとサヨリに、バイバイした。
サヨリは、ずっと顔が赤いままだった。
変なの。

758えて子:2013/06/06(木) 20:44:59


「だれに聞いたら、けっこん知ってるかな」
「だれがいいかな」
「だれにしよう」

二人で歩いてたら、アッシュ見つけた。
がっこうは、終わったのかな。

「あれ?アオギリちゃんにコオリちゃんじゃない」
「バイコーンのおにいちゃん、がっこうおわり?」
「そうだよ」
「ねえねえ、コオリ。アッシュなら、知ってるかな」
「きいてみよう」
「聞いてみよう」

アッシュ、がっこうでお勉強してるものね。
けっこんも、知ってる。

「僕に何か聞きたいの?」
「うん」
「あのね、けっこんってなあに?」
「結婚?んー、何て言ったらいいのかなぁ…好きな子と生涯を共にする、みたいな?」
「しょうがい?」
「好きな子とずーっとずーっと一緒にいるって事」
「ずっと一緒にいるの?」
「おべんきょうも、いっしょにするの?」
「そう。健やかなる時も、病める時も、ずっと一緒」
「ごはんも一緒に食べるの?」
「おふろも、いっしょにはいるの?」
「お着替えも一緒にするの?」
「ねるのも、いっしょにねるの?」
「そりゃあもちろ「いたいけな幼女に何吹き込んどんじゃこのパチモンがぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」あべしっ!!」
「あっ」「あっ」

アッシュ、トキコにキックされてとんでっちゃった。
トキコ、どこから来たんだろう。

「バイコーンのおにいちゃん、とんでっちゃった」
「とんでっちゃったね」
「コオリ、しってるよ。こういうの、たーまやーっていうの」
「ちがうよ、コオリ。ファーーーーって、言うんだよ」
「どっちも違うからね!?」
「ちがうの?」
「違うの!」

アッシュの言ってるけっこんも、ちょっと違うんだって。
じゅーんぶらいどって、難しいね。


白い二人とじゅーんぶらいど〜いろんな人に聞いてみよう〜


「けっこんのおべんきょう、むずかしいのよ」
「もっといろんな人に聞いてみよう」
「うん」

759akiyakan:2013/06/07(金) 08:35:25
※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラからは「ジングウ」、「サヨリ(企画キャラ)」、「アッシュ(AS2)」です。

「リベツ」

「カーボナイトコーティング、完了しました」
「ええ。これで取り敢えずは、安心ですね」

 ジングウ達の目の前には、バイオレンスドラゴンの成れの果てが存在していた。黒く焼けた塊と化したそれは、しかしまだ死んではいない。傷が癒えれば、これは再び活動を再開するであろう。もっとも、今はカーボン凍結によって活動を停止しているのだが。

「アーカイヴのデータも削除しましたし、もう暴れ出すような事は無いでしょう」
「……これは破棄しないんですか?」
「ええ。こうして物理的に存在させておけば、少なくともコレが何処かに行くと言う事はありません。これはバイオレンスドラゴンの肉体ですが、動かせなければ牢獄です。ここより外へ、奴が出ていく事は無い」

 言いながら、ジングウは自分よりも巨大なバイオレンスドラゴンの身体を見上げる。カーボン凍結は、生命体の活動すらほぼ半永久的に停止させる技術であり、未使用の生物兵器を保管しておく為の技術としてもホウオウグループではかつて採用されていた。一度炭素の棺に納められたものは、自力でそこから出てくる事は叶わないのだ。

「それに、今は不要でも、いつかは必要になりますから」
「ですが、ジングウさんが自分で仰ったじゃないですか。バイオレンスドラゴンは、人間に扱えるものではないって……」

 サヨリの問いかけに、ジングウは答えない。彼はただ、氷漬けになった暴虐の竜を見上げている。

「しかし……これでは復旧にしばらくかかりそうですね……」

 言いながら、サヨリは辺りを見回す。格納庫は燦々たる有り様だった。本来なら生物兵器が暴れた位では簡単には壊れない仕様になっている筈であるが、それがことごとく踏み潰され、蹂躙されている。破壊に巻き込まれた生物兵器は少なくなく、使い物にならなくなった物もある。

「不幸中の幸いだったのは、バイオドレスが無事だった事ですかね……これ、造ると高くつくんですよ、本当」
「あの……バイオレンスドラゴンは、どうしてそのバイオドレスを吸収しなかったのでしょうか」
「どういう意味です?」
「だって、おかしいじゃないですか。花丸さんのバイオドレスを自分のデータで書き換え、足りない構成素材を補う為に彼を取り込み、更には培養液を予備タンクの中身まで飲み干したと言うのに……隣にあった、もう一つのバイオドレスには目もくれなかった。周囲の物を吸収し取り込む能力を持っていて、おまけに自分と同じ素材出来ている筈なのに何故……」
「……これは私の推測に過ぎませんが、ヤツにとってはもはやバイオドレスは異物だったんでしょう」
「異物……?」
「私が考えるに、既に花丸さんのバイオドレスは何かしらの変異を始めていたのでしょう。それが、バイオレンスドラゴンにとって、自分の身体と同じ形へ組み替えるのに相応しいものだった。だからヤツは、花丸さんのバイオドレスを侵食して自分の物に変え、もう一つのバイオドレスはその変質に不要なものだとして切り捨てた」

 そう考えるのが妥当、と言外にジングウは告げる。実際のところ、ジングウにもバイオレンスドラゴンの行動理由は分からないのだろう。彼にも分からない事があるのだと思うと、サヨリは何だか不思議とホッとした。

「ジングウさんにも、分からない事ってあるんですね?」
「何を突然言いますか。この世は、私には分からない事の方が多いですよ」

 謙遜から出た言葉、などではない。自己主張の塊みたいなこの男から、そんな殊勝な言葉が出る筈はない。だが実際、ジングウはそれが本当の事だと思っているようだった。

 それは一種の悟りだと言える。多くモノを知っている人間、そう言う人間はこの世にはたくさん存在する。凡人にしてみればあたかも、それは「この世の何もかも知っているかのように」映るだろう。だが、実際のところは正しくない。知識はあってもモラルが無い、その辺りをうろついている学生などその典型だろう。結局人間は自分に、理解出来る事を知っている『だけ』でしかないのだ。

760akiyakan:2013/06/07(金) 08:35:56
「それはさておき、花丸さんの容体は?」
「先程見た段階では、まだ意識は戻っていないようでした……ドラゴンの凍結が完了したら、私は見に行く予定です」
「そうですか……あ、サヨリさん。今回の一件ですが――」
「分かってます。クロウさんを介さず、別の上級幹部を介して報告、ですよね?」
「ええ。あのカカシの目にコレが触れたら、間違い無く「破棄しろ」って言うに違いないですからね……これだからあの頑固者は……」

 苦い表情を浮かべるジングウに、サヨリは苦笑を浮かべる。嫌っている割に、クロウさんの事をよく分かっているじゃないですか、と声には出さずに呟く。

「あ、そう言えば」
「今度は何ですか」
「バイオレンスドラゴンに取り込まれた人間って、吸収されて無くなってしまうんですよね?」
「ええ、そうですね。一回起動する度に生贄が必要な兵器なんて燃費悪いですから、それも破棄した理由の一つなんですが」
「だったら、何故花丸さんは無傷だったんでしょうか?」

 カーボナイトコーティングされたバイオレンスドラゴンの腹部を見つめながら、サヨリは言う。そこはアッシュが無理矢理花丸を引き摺り出したせいか、ぽっかりと抉れて無くなっている。

「それは簡単ですよ。花丸さんの代わりに、別のものが身代わりになったんですよ」
「別の物?」
「ええ。何て言いましたっけ、花丸さんといつも一緒にいたあの蛇――」

 ――・――・――

「う……?」

 花丸が意識を取り戻すと、白い天井が目に入った。

 見知らぬ天井、ではない。ここ数日、訓練が終わるといつも担ぎ込まれている場所だ。

「医務室……か……」

 何故自分がここにいるのか。花丸は本能的にそれについて考えるのを避けていた。

「……流石に、疲れているのかな……」

 今日まで続けてきた無理が祟った。だからあんな『悪い夢』を見てしまったのだと、花丸はそう考えていた、そう思おうとしていた。

「あ、花丸ちゃん、気が付いた?」
「あ……アッシュさん……」

 アッシュが姿を見せて、花丸は安心した――見知った顔を見て安心したのか、それとも彼が『無事』な姿を見て安心したのか、花丸には判別出来なかったが。

「どう? 身体の調子は悪く無い?」
「あ、はい……ちょっと何だか、頭がぼうっとしてますけど……」
「そう……まぁ、あんな事あった訳だし、無理も無いけど……」
「……あ、あの、アッシュさん、その頭の傷は……?」

 アッシュの頭には包帯が巻かれていた。左上半分を覆うように巻かれ、瞳も隠れてしまっている。

「あ、これ? ちょっとドジっちゃってね。階段の上からステーンと」
「お、落ちたんですか?」
「そうそう。パカッて裂けちゃってもう、大変大変。父さん縫ってくれたんだけど、『貴方に麻酔は不要でしょう』とか何とか言って、薬無しで縫合してさー。もう痛いのなんのって」
「そ、それはまた……」
「その癖、ちゃんと傷口の消毒してるからねー、あの人。思わず失神しかけたよ」
「あ、はははは……」

 いつものように、おどけた調子でアッシュは言う。それに相槌を打つように、花丸は苦笑を浮かべる。

(違うだろう……何を言っているんだ、お前(ボク)は……)

 頭のどこかで、自分の声が響く。酷く冷静な声だ。冷たい眼差しで、冷めた視線で、自分を見下ろしているもう一人の自分の姿が、花丸の中に思い浮かんだ。

 アッシュは花丸に気を使っている。あの包帯は転んで怪我したものなどではない、花丸(じぶん)が付けた傷だ。よく分からない怪物の中にいて自由は無かったが、それでも花丸(じぶん)が付けた傷だ。ここで言うべきはその傷の所以などではない。

「……ごめん、なさい……」

 ぽつりと、今にも消え入りそうな声で、花丸は言った。アッシュは一瞬呆気にとられたような表情を浮かべたが、すぐに人懐っこそうな笑みを浮かべて「気にしないで」と返した。

761akiyakan:2013/06/07(金) 08:36:32
「別に、花丸ちゃんが謝る必要無いよー」
「でも僕、何も出来なくて……アッシュさんが傷付くの、ただ見ているだけで……」
「仕方ないよ。アレはそう言うものだったみたいだし」

 そう言って、アッシュは花丸を取り込んでいた怪物の正体、バイオレンスドラゴンについて説明した。それがかつてジングウの手で生み出され、彼でも扱えないと判断されて破棄された事。そしてアーカイヴに残っていたデータが花丸のバイオドレスに乗り移り、変形・変異したのだろう、と言う推測も。

「ジングウさんでも、扱えなかったんですか?」

 花丸にはその言葉が、俄かには信じられなかった。ジングウは生物兵器のエキスパートだ。花丸の様な超能力ではなく、技術によってそれを制する力がある。彼にとってはある意味、師に近い存在だ。そんな彼に扱えない、御せない生物兵器が存在する事に、花丸は想像出来なかった。

「別に、珍しい事でもないらしいよ。生物兵器を操るのも、人間と会話するのと大して変わらないんだって。元が地球上の生物だから、それなりに意思の疎通は可能だとか何とか。だから、話が通じないなら言う事を聞いてもらえない、操る事は出来ない。あのバイオレンスドラゴンは、その典型だってさ」
「は、はぁ……あれ、そう言えば……」

 何かを思い出したように、花丸は周囲を探し始めた。毛布や枕、傍においてある物入れなどを動かしている。

「どうかしたの、花丸ちゃん?」
「コハナが……コハナが見当たらないんです」
「…………!」
「いつも一緒にいる筈なのに……おかしいなぁ、どこに行ったんだろ……」
「……あのね、花丸ちゃん、」
「もしかして、アッシュさん知ってるんですか?」
「……うん。その、知っていると言うか、何と言うか……」
「?」
「花丸ちゃん、ドラゴンに取り込まれた時、コハナちゃん一緒にいたの?」
「はい、僕と一緒に――」

 そこで、花丸は硬直した。

 バイオレンスドラゴンに呑み込まれる寸前まで、コハナは花丸と一緒にいた。記憶は無いが、おそらく彼が取り込まれる時に、コハナも一緒に呑まれた筈だ。コハナは花丸の身体に巻き付いて普段一緒にいるのだから。

 そのコハナが、今傍にいない。

「あの、アッシュさん。コハナは――」
「花丸ちゃん、どうせすぐに分かる事だから、僕は隠したりしないよ」

 花丸の言葉を遮るように、アッシュは言う。

「コハナちゃんはもういない」

 瞬間、花丸は心臓を鷲掴みにされたような気がした。視界の端がぼやけ、全身に脂汗が浮かんでいく。

(いや……待って……そんな、嘘だ……)

 バクバクと心臓が早鐘を打つ。アッシュの言葉が、俄かには信じられない。

「嘘……ですよね。いつもの、冗談ですよね……」
「正直、君が無事に帰って来ただけでも奇跡なんだ。コハナちゃんは――」
「――嘘だッ!!!!」

762akiyakan:2013/06/07(金) 08:38:35
 気が付くと、花丸は叫んでいた。自分の喉から出た声に驚く。今叫んだのが自分なのだと、彼自身が信じられなかった。

「そんな、そんな筈ないです……だってコハナは、何時も僕と一緒で……」
「花丸ちゃん……」
「友達……なんです……僕の大切な、大事な友達で……家族で……」

 頬を熱いものが伝う。ボロボロと、花丸の瞳から涙が零れていた。声が震えていた。

「……信じられない気持ちは分かるよ、こんなの本当に運が悪かったとしか言いようがないし……でもね、花丸ちゃん。これが現実だ。君が現実を受け入れられなくても、事実は変わらない」

 アッシュの声は平静だった。いっそ、平坦とすら思える。彼は淡々と、花丸に現実を突きつけた。

「コハナちゃんはもういない。バイオレンスドラゴンに取り込まれて、吸収されてしまった……父さんが体内を調べたけど、見つからなかったって」
「う……あぁぁぁ……」

 コハナは死んだ。バイオレンスドラゴンに食われ、骨すら残さず。

 また花丸は、大切な仲間を失ったのだ。

「そんな……そんなのってないよ……あんまりだよ……」

 室内に、花丸の嗚咽が響く。アッシュはかける言葉が見つからず、花丸の肩に手を置いた。

763クラベス:2013/06/07(金) 23:47:51
ようやくかけたんですが、書いているうちに自分が何を言いたいのか分からなくなってきたので、支離滅裂になってる気がします…;
自キャラオンリーです。

目の前に座る客人・薬師寺院 千郷は未だ黙りこくっている。
涙で潤んだ瞳の前に手製のジュースをおいても、それに手をつけようとしない。
幹久朗は一つ溜息をついて千郷の目の前に座った。
そっとそばに寄りそうアカノミの頭をなで、彼は声をかける。

「まだへこんでるのかよお前は。」
「…」
「ありゃお前のせいじゃなかったんだ。仕方のないことだったんだ。」
「僕の…僕のせいで…」

よほど先日の出来事がショックだったのだろう。彼は聞く耳すらかさない。
キリの消失に加え、ミサキの叱咤も響いているようだった。
幹久朗はもう一つ溜息を吐くと、少し前にのめりこんだ。

「千郷、思い出すのも辛いかもしれないが、もう一度、その時のことを正確に話してくれないか。」
「…分かった…。」
千郷は覚えてる分だけ、できるだけ正確に状況を話す。
前と同じように途中から涙を流し、つっかえながら。
一通り聞き終えたところで幹久朗は腕を組み、頭をそらした。

「千郷、こっからは俺の見解だ。別に本気にしてもらわなくていい。」
幹久朗はそう前置きし、結論をまず、率直にぶつけた。

「キリは、最初からお前の為に死ぬつもりだったんじゃないか?」

「…え?」
千郷は素っ頓狂な声を上げる。まぁ、無理もないと幹久朗は続ける。
「だって妙だろ、お前の言う結界の『位置』が」

「仮に結界を張ったのが第三者、しかも千郷ないしキリの敵だったとする。今、千郷がキリを治療しようと近づいたとして、千郷、お前がもし敵の立場ならどうしたい?」
「治療を阻止…するだろうね。」
「そう、つまり千郷を近づけないよう、キリにのみ結界を張るはずだ。」
「…確かに、僕を巻き込むのはおかしいね…。」

「千郷に逃げられないようにした。こう考えてもおかしい。外部から手出しができないだろうし、キリの消滅後に結界は解除されている。」
「じゃあ、敵である第三者が結界を張る意味はない。」
「次に第三者が味方である場合だが、これはお前自身ありえないことに気づいてるだろう。」
「…うん。味方であるならキリの治療を優先させたはず。『メスが錆びる幻覚』を見せる意味がない。」
一つずつ整理しているはずなのに、頭の中が混乱するようで千郷は顔をしかめる。
「…でも、そうするメリットはキリ君にもないんじゃ…?」

「こっからは俺の想像なんだけどよ。」
幹久朗は手を組んで再び前にのめる。
「キリが相手取っていたのはおそらく件の人外狩りだ。獲物がナイフで、単独だったとはいえキリ程の奴をやれるなら数が絞られる。」
「うん、そうじゃないかと僕も思う。」
「もしさ、お前が来た段階で近くに奴がいたら?」
「…奴からみれば僕も人外だ。間違いなく攻撃対象に…あ。」

「そう、お前が来た時、近くに奴はいた。妖怪主治医であり『第二の主』と称されているお前を、キリは結界を利用して守ったんだ。」
「じゃあ、じゃあメスはどう説明するんだ!」
「…おそらく自分でなんとなく悟っていたんだろう。自分はもう長くないと。」
「そんな…!」

「治療しても助からない自分を無駄に治療し、千郷が時間をロスして逃げる暇を失うことはしたくなかった。だから暗に自分の治療を諦めろと言っていたんだ。」
結果として茫然自失のお前に逃げるも何もなかったんだろうけどな。皮肉なもんだ。と、幹久朗は呟いた。
「…ということは僕はキリ君を救おうとして、助けられたの…?」
「あくまで推測だ。真意は本人に聞かなきゃわからないがな。」

見えていなかった事実の新たな側面が垣間見え、千郷はまた涙をこぼしそうになる。
だが、幹久朗は立ち上がると、乱暴に千郷の顔にタオルを押しつけた。
「泣いてる暇があったら先を見やがれ。お前も長生きとはいえ、俺ほど生きてはいないだろう。」
「幹久朗さん…。」
「生きてりゃなぁ、辛い別れなんざ山ほどあるんだよ。それでも前に進むことは余儀なくされんだ。」

「だったら前向いて先見ようぜ。別れを忘れんなとはいわねぇが、いつまでも引きずるな。」

「当面はキリの復活に力を注ぐことになる。お前の力も必要だ。いいな?」
千郷はしばらくうつむいていたが、やがてタオルをとると幹久朗に頷いた。
「うん。僕に出来ることがあれば、何でもする。」
「よく言った。」
幹久朗は投げられたタオルを受け取った。



妖怪主治医、戦線復帰



今は兎にも角にも、友人の復活を目指す。

764えて子:2013/06/08(土) 18:04:29
「リベツ」の後の話。
Akiyakanさんから「AS2(アッシュ)」をお借りしました。自キャラからは「花丸」です。


バイオレンスドラゴンの暴走事件から数日が経った。

放課後、花丸はまっすぐ帰路につかず、少し離れた道の草むらの前に佇んでいた。
何かするわけでもなく、ただじっと草むらを見つめている。

「花丸ちゃん」
「………アッシュ、さん」

不意に背後から声をかけられ、少し驚いたように振り向く。
その声がひどく暗く、アッシュは少し面食らった。

「花丸ちゃん…大丈夫?」
「…いろんな人から、そう聞かれます」
「そりゃあ…聞きたくもなるよ」
「…僕は、大丈夫ですよ」

口の端を小さく歪めて、先程よりも明るい声で花丸は笑う。
遮光性のゴーグルのせいで表情は読みにくいが、どこか無理をしたような笑みだった。
表面上は普通だが、コハナを失ったショックから未だ立ち直りきれていないのだろう。

「そう……ここに、何かあるの?さっきからずっと見てるけど…」
「…いえ。何も……ただ、ちょっと…」
「?」
「……ここ…コハナと、初めて出会った場所なんです」
「……!」

少しだけ首をアッシュの方へ向け「ちょっと…話してもいいですか?」と、控えめに尋ねる。
アッシュが頷いたのを見ると、花丸は草むらに視線を戻し、ぽつぽつと話し出した。

「初めて会ったのは…確か、小学4年生ぐらい…僕がホウオウグループに入って間もない頃でした。コハナは…病気をしてしまったのか、生まれつきなのか、大きくなれずに他のアオダイショウより体が小さくて…鳥に狙われたり、心無い人たちにいじめられたりしてたんです。それで、ここでボロボロになって弱ってたところを、僕が拾って…」
「……」
「…最初は、自分のことを重ねてたのかもしれないです。僕も、よくいじめられていたから…同情に近かったのかもしれない。コハナも、拾った当初はすごく周りに怯えて気が立ってて…よく、噛まれたりしました。…でも、ずっと一緒にいて、二人で笑ったり泣いたりして…苦しいことや辛いことも一緒に乗り越えて…かけがえのない存在に、なっていったんです」

そこまで言うと、花丸はごめんなさい、と小さく苦笑した。

「…急に、こんな話をしてしまって。でも…誰かに聞いてほしかったんです、コハナのこと」
「花丸ちゃん……」
「…分かってます。もう、コハナはいないって…僕が泣いても喚いても、それは変わらないんだって………でも、どうしても納得できない自分がいるんです。頭では理解しているのに…『そのうちひょっこり戻ってくるんじゃないか』『帰ったらいつもみたいに出迎えてくれるんじゃないか』って…心のどこかで考えてしまう僕が、いるんです…」
「………」

アッシュは、何も言えなかった。
無理もない。友達で家族だと言っていたほど大切な仲間を、突然失ったのだ。
事実を叩きつけられても、現実が変わらなくても、「認めたくない」という気持ちがどこかにあるのだろう。
それを消し去ることは、出来ない。

しばらく、二人は無言のままだった。
時折吹く風が揺らす草の音だけが、辺りに響く。

「…帰ろうか」

やがて、アッシュが沈黙を破り、歩き出した。
少し遅れて、花丸がそれに続く。

歩いていると、背後から小さな声が聞こえた。
アッシュが視線だけ後ろに向けると、花丸が泣いていた。
ゴーグルを外し、俯いて制服の袖で零れる涙を拭っている。
歯を強く食い縛って、嗚咽を漏らすまいと、アッシュに聞かせまいとしている。

それに気づかないふりをして、アッシュは視線を前に戻し、けれど少しだけ歩みをゆっくりにして、歩き続けた。


『ごめんね』


(そんな声が、聞こえた気がした)

765akiyakan:2013/06/09(日) 12:11:58
※えて子さんより「花丸」をお借りしました。自キャラはジングウ、です。

「…………」

 閉鎖区画、生物兵器ハンガー。

 その一角に、カーボナイトコーティングを施されたバイオレンスドラゴンがあった。

 それを、花丸は見上げている。その表情は複雑だ。憎み、憎悪し、睨んでいるようにも見えるが、一方で悼み、愛しみ、今にも泣き出しそうにも見える。

 バイオレンスドラゴンの暴走から数日。花丸はこれに近付いていなかった。

 彼の心中を想像すれば無理も無い話だ。彼はこれに取り込まれ、そして彼の意思に関係無く、アッシュやマキナ、ジングウを傷付けた。それだけではなく、自分の大切な家族であるコハナの命も奪われた。花丸にとってこれは、憎悪すべき仇とも言える存在だ。

 だが一方で――彼は望んでいた。心のどこかで、バイオレンスドラゴンに取り込まれて尚も、コハナが生きているのではないか。ここへ来れば、もう一度彼女に会えるのではないか、と。都合のいい願望だがしかし、彼は本気でそうあってほしいと望んでいた。

 逃げるように鍛錬する日々を続けてきた。しかし、花丸自身、このままではいけないと思っていた。だからこうして、心の整理をつけ、ドラゴンの前に立った訳だが、

「……そんな、都合のいい事は起きないよね」

 はぁ、っとため息をつく。それは落胆したようでもあり、一方で安心したようでもあった。

「ひょっとしたら、バイオレンスドラゴンに取り込まれた相棒が、何かしらのコンタクトをしてくれるかもしれない――」
「!?」
「――そんな事を考えていた、と言ったところでしょうか。花丸さん」
「ジングウ、さん……」

 学生が着る制服の様な黒い服。その上から白衣を羽織るようにして、ジングウが立っていた。

 見た目は十四歳の少年なのに、小柄とは言え高校一年生の自分より、ずっと大きく花丸には映って見えた。そう錯覚させるだけのオーラが、彼にはあった。

「いえ、もっと貴方の望みは欲が深いですね。『ここに来れば、バイオレンスドラゴンに取り込まれたコハナが何故かいて、貴方と再会を待っている』……そちらの方がより貴方の願いに近い。違いますか、花丸さん?」
「……はい」

 俯き加減で、こくりと花丸は頷いた。それから、氷漬けになったバイオレンスドラゴンを見上げる。

「こうしてバイオレンスドラゴンを見に来れるようになって、心の整理がついたつもりでしたが……やっぱり、駄目でした。僕は今でも、コハナがいなくなった事を受け入れられないでいます。時々無性に泣きたくなる時も……あります……」

 言ってる傍から、花丸の肩が震えだした。どうにか堪えているが、それもやせ我慢だろう。

「僕は……弱いです……ジングウさんやアッシュさんみたいに、なれない……どんなに頑張って強くなろうとしても、僕は弱いままなんです……」
「そうですね、貴方は弱い」

 ばっさりと、切り捨てるようにジングウは言った。ここに第三者がいたとすれば、間違いなく突っ込みが飛び込んできそうな位、それ程に一刀両断だった。

「この世の人種は二つに分けられる。『持っている者』、『持っていない者』。この世に敷かれた、どうしようも無いルール。我々が忌むべき、神のルール。誰に対しても平等ではないと言う平等です。貴方は力を『持っていない』側の人間だ」
「……はい、そうです。僕は弱くて、情けなくて……自分の家族すら守れない……」
「――だが、だからこそ見える景色がある。いや、貴方でなければ見えない景色がある」
「……?」
「世界は二分されています。どうしようもなく、二つに分けられている。故に、中間は無い。我々が見る景色は二つの内の一つであり、もう一つは見る事が出来ない。絶対に、揺るぎ無く。『持っている者』は、『持っていない者』の景色は分からない。逆もまた然り」
「……ジングウさん、何を、言いたいのですか……?」
「言ったでしょう、貴方だからこそ見える境地があると。貴方は今マイナスだ。仲間を失い、誇りも砕かれた。どん底まで落ちた。だが、まだ果てではない。十分這い上がれる高さだ」
「……僕に、まだ頑張れって言うんですか、貴方は……?」
「……悔しくないのか、このまま神の思う壺で」
「…………」
「貴方は今、神の掌で揉まれている状態だ、玩ばれている状態だ――誰もが通る道だ。『何故、自分ばかりが』」
「…………」
「ここが境界だ、花丸。神に屈して敗北するか、神に抗って奴に敗北の味を教えてやるか」

766akiyakan:2013/06/09(日) 12:12:30
 真っ直ぐにジングウは花丸を見つめている。その眼力に圧倒されるが、これも錯覚だろう。客観視すれば、ジングウ自身はこの時花丸に威圧や強要の姿勢を見せていた訳では無い。

 それは花丸の主観が見せる錯覚だ。彼の良識、即ち「こうあるべき」と言う理想は、このまま終わって良いとは思っていない。ここで終わっては本当にただの泣き寝入りだ。奪うだけ奪われた、搾取された者の末路だ。「このままで良い訳では無い」、そんな内なる叫びが、花丸にそう思わせていた。

 だが、

「……ジングウさん、すみません」
「…………」
「僕はもう……戦いたくありません。これ以上戦って、友達を失うのは嫌です……」

 言って、花丸は頭を下げる。

 無理も無い。無々世との戦いでデルバイ・ツァロストを破壊され、フェンリルに重傷を負わせてしまった。自分の力で戦う力を欲してバイオドレスを纏ったが、ムカイ・コクジュに敗れた。そして今回、一番身近な存在であるコハナさえも彼は失ってしまった。自分が何かをしようとすれば、すべてが悪い方向へ流れていく。花丸の目には、そう映ってしまったのではないか。

 仲間を失い、誇りを砕かれた。今の花丸にはもう、戦う為の力は残っていない。誰が見ても、そう思ったのではないか。

「――コハナに、もう一度会いたくはありませんか?」
「え――」

 そんな弱った心だからこそ、悪魔は容易に滑り込む。弱った心だからこそ、その甘言を聞かずにはいられなかった。

「どう言う事、ですか?」
「バイオレンスドラゴンの性能は既に知っていると思います。あれは装着者を吸収して取り込んでしまうモノだ。しかし花丸さん、貴方は帰って来た。五体を喪う事無く、こうして無事に、です。それが何故か、貴方には分かりますか?」
「……コハナが身代わりになったから、ですか?」
「ええ。信じられませんが、彼女は自分の身を犠牲にして貴方を守ったと言う訳ですね……ですが、それだけでは辻褄が合わない」
「……?」
「対価が合わない、と言う事ですよ。当然でしょう、人間とアオダイショウですよ? 単純な質量からしてまず違う。コハナ一匹では貴方の対価に釣り合わないのです。ですが、貴方の五体はしっかり揃っている」
「…………」
「私が思うに……貴方はコハナに助けられたのではないでしょうか。つまり、バイオレンスドラゴンに取り込まれ、一体化したコハナが、その機能に干渉して貴方が吸収されるのを防いだ、と」
「っ――!?」

 思わず花丸は、バイオレンスドラゴンの方を振り返った。その表情は驚愕と期待に彩られている。

「ドラゴンに取り込まれたコハナが、まだ生きているかもしれないって事ですか……!?」
「その可能性がある、と言う話ですがね、あくまで」

 「さぁ、どうする?」とジングウは言う。

「生憎と私は魔法使いではないので、貴方の望むモノは与えられない。私が貴方にあげられるのはチャンスだけだ」

 今度は違う。言外に告げるジングウの言葉は「もう一度戦え」と言う意志だ。天秤が絶望で満たされているなら、それと釣り合うだけの希望を渡してやる。これで二つは水平だ。さぁ、もう一度抗って見せろ。言葉は無くとも、ジングウはそう言っている。

「僕は……どうすればいいんですか? どうすれば、もう一度コハナに会えるんですか……!?」

 花丸の言葉に、ジングウは満足そうに笑った。

「分かりました。貴方の覚悟を見せて貰いましょう、花丸さん」



 「抗え、少年」



(その姿は、言葉巧みに人を騙す悪魔のそれに似ている)

(しかし、人はそれ故に気付かないのだ)

(手段はどうあれ、悪魔は人の力になろうとする存在だ)

(神よりずっと、彼らは人間の傍に寄り添ってくれている)

767えて子:2013/06/15(土) 21:37:27
白い二人シリーズ。
ヒトリメさんから「コオリ」、(六x・)さんから「凪」「冬也」「不動 司」「崎原 美琴」、名前のみAkiyakanさんから「サヨリ(企画キャラ)」をお借りしました。


雨がふらなくなったから、コオリと一緒にお出かけしたの。
お外に行ったら、もっといろんな人にけっこんのこと聞けるね。

「だれに聞いたらいいかな」
「だれがいいかな」

外はたくさん人がいる。
アオたち、だれに聞いたらいいかな。

「あ」
「おねえちゃん、どうしたの?」

前から人があるいてくるの。
暗い赤の男の人と、紺色の男の人と、水色の女の人と、緑色の女の人。
アオ、あの人たち知ってる。

「コオリ、あの人たちに聞こう」
「けっこん、しってるかしら」
「がっこうでお勉強する人だから、きっと知ってるよ」

男の人たちも、アオにきづいてくれた。

「あれ?君、花丸くんのお友達の…」
「アオは、アオギリだよ」
「そ、そっか…そっちの子は?」
「コオリは、コオリなのよ」
「そっか。僕は冬也って言うんだ。よろしくね」
「私はミコトです〜。アオギリちゃんにコオリちゃん、よろしくです〜」

紺色の人はトウヤで、水色の女の人はミコトって言うんだって。
アオ、覚えたよ。

「コオリたちね、おねえさんたちにききたいことがあるの」
「ほえ?何ですか〜?」
「けっこんって、なあに?」
「えっ」

トウヤ、赤くなっちゃった。
サヨリと一緒だ。
変なの。

「え、け、け、結婚!?そ、それは、えーと…何て言ったらいいのかなぁ…」
「結婚?そりゃあ、あれだろ」
「あれ?」
「人生の墓場」

赤い男の人、そう言った。
けっこんは、じんせいのはかばなのかな。

「はかばって、なあに?」
「アオ、知ってるよ。死んだ人、はかばに入るんだって」
「めがねのおにいさん、けっこんすると、しんじゃうの?」
「えっ」
「しんじゃうの?」
「コオリ。人生のはかばだから、じんせいが、死んじゃうんだよ」
「じんせいがしんじゃったら、たいへん?」
「うん、きっと大変」

けっこんって、いいことじゃないのかな。
でも、ざっしにはいいことって書かれてた。
変なの。

「どどどどどどどうするのさ不動くん!変な感じで覚えちゃったよ!?」
「俺のせいかよ!」
「120%君のせいだよ!」

赤い男の人とトウヤが、何か話してる。
何だろう。

768えて子:2013/06/15(土) 21:38:03
「おほしさまのおねえさんと、みどりのおねえさんは、しってる?」
「結婚ですか?女の子がドレスを着て、教会に行って、好きな男の人と永遠の愛を誓うのです。そこで投げた花束を受け取った人は次に結婚できると言われています。女の子の夢ですねー」

ミコト、たくさん教えてくれた。
けっこん、女の人にはいいことなのかな。

「こんぺいとうのおねえちゃんのほんにも、おんなのひといたね」
「うん、ドレスきてたの」
「あのひとも、ちかったのかしら」
「花束、なげたのかな」
「きょうかい、いったのかしら」
「ゆめがかなったのかな」
「すてきね」
「すてきね」
「よかった……」

トウヤ、「あんしん」って顔してる。
何でだろう。

「お役に立てましたかー?」
「うん。おほしさまのおねえさん、ありがとうなのよ」
「みどりの人に、まだ聞いてないのよ」
「私か?」
「うん。けっこんって、なあに?」
「結婚か?結婚はだな、女の子の希望であり男の子の絶望だ」
「凪姉!?」

トウヤ、こんどは「おどろく」って顔をしたの。
ころころ顔が変わるね。不思議。

「きぼうと、ぜつぼうなの?」
「むずかしいね」
「むずかしいね」
「でも、たくさん教えてもらったね」
「うん。ありがとうなのよ」
「どういたしましてなのだよ」

たくさんたくさん、けっこんについて聞けたの。
ちょっと、お勉強になったかな。

「教えてくれて、ありがとう」
「コオリたち、たくさんおべんきょうになったのよ」
「あ、う、うん…」
「お勉強、頑張ってくださいね〜」

お礼を言って、ばいばいしたの。
今度はおうちで、けっこんについてまとめるの。


白い二人とじゅーんぶらいど〜もっといろんな人に聞いてみよう〜


「たくさん聞いたね」
「たくさんきいたね」
「けっこんのこと、分かったかな」
「きっと、わかったのよ」

769えて子:2013/06/16(日) 20:46:03
白い二人とじゅーんぶらいどシリーズ完結編。
ヒトリメさんから「コオリ」、紅麗さんから「アザミ」、名前のみakiyakanさんから「アッシュ」、(六x・)さんから「崎原 美琴」、名前も出ていませんが「凪」「不動 司」をお借りしました。


おへやに戻ったら、二人でお勉強。
「けっこん」のこと、たくさんきいたの、まとめるの。

「けっこんって、いいことなのかな」
「おほしさまのおねえさんは、おんなのこのゆめ、っていってたのよ」
「夢って、いいことよね」
「うん、いいこと」

ミコト、「わらう」って顔してたもんね。
けっこんって、やっぱり、いいことなのかな。

「でも、赤い男の人は、じんせいのはかばっていってたよ」
「おはかって、しんじゃったひとがはいるところなのよね」
「うん」
「けっこんすると、しんじゃうのかな」
「じんせい、死んじゃうんだよ」
「じんせいがしんじゃったら、たいへんなのよ」
「とっても大変よ」

けっこんすると、じんせいが死んじゃって、大変なんだって。
けっこんは、いけないことなのかな。

「でも、緑の女の人は、女の子のきぼうで男の子のぜつぼうって言ってたね」
「コオリ、しってるのよ。きぼうはとてもいいことなの。ぜつぼうはわるいことなのよ」
「じゃあ、けっこんは、女の子にとてもいいことなのかな」
「おとこのこにとっては、とてもわるいことなのよ」

だから、ミコトと赤い男の人だと、けっこんの意味がちがったんだね。

「アッシュは、けっこんはすきな人とずっと一緒にいることって言ってたね」
「じんせいがしんじゃっても、いっしょにいたいのかしら」
「一緒にいたいのかな」

でも、そのあとすぐにトキコにけられて、とんでっちゃった。
やっぱり、男の人のけっこんは大変なんだね。

「けっこんって、男の人と女の人でちがうんだね」
「おとこのひとにはとってもわるいことで、おんなのひとにはとってもいいことなのね」
「けっこんって、むずかしいね」
「むずかしいね」

けっこんって、とてもむずかしい。
でも、ちょっとだけ、けっこんのこと分かったよ。
だから、教えに行くの。


「リンドウー、リンドウー」
「みどりのおじさーん」
「おじさんって呼ぶなっつってんだろ!何の用だ、ったく…」
「あのね、リンドウにお願いがあるの」
「お願いだぁ?」
「うん」
「あのね、みどりのおじさん、けっこんしちゃだめよ」
「……は?」
「けっこんってね、男の人のぜつぼうなんだって」
「じんせいのはかばなの。じんせいがしんじゃうのよ」
「だから、リンドウはけっこんしちゃだめなの」
「じんせいしんじゃうから、だめよ」
「………」

リンドウ、固まっちゃった。
アオたち、変なこと言ったのかな。


白い二人とじゅーんぶらいど〜けっこんってむずかしいね〜


(その後)
(「くだらないことを言うな」と)
(二人仲良くお説教されましたとさ)

770スゴロク:2013/06/16(日) 23:42:45
クラベスさんからミサキのフラグを拾わせていただきました。むう、我ながらグダってるなぁ……


キリの消滅から、どれくらいだろうか。百物語組はここ最近激動の時間を送っている。
現在彼らが進めているのは、キリを「101話」として呼び返そう、というプランなのだが、未だ実行の段階にはなかった。彼らはその名の通り、「主」たる春美のもとに100柱の妖怪変化達が集って構成されている。現在まだ姿を見せていない面子に、先だっていなくなったキリを加えた100人。此処に「101話」を加えると、元々キリのいた話が欠番となり、話の合計が一つ増える。そうなった時、彼らに何が起きるのか、起きないのか。そこからして不明瞭なままである。

「…………」

だが、彼女こと、百物語組第七十三話・ミサキを苛立たせているのは、そのコトではない。そもそもの発端であるキリの死、その場にクランケ・ヘルパーが居合わせていたコトだ。

(どうして……!)

元怪盗一家の一人であり、今は天河探偵事務所に属する、彼。その凄まじいまでの医術の腕から、『妖怪主治医』『第二の主』との二つ名を送られるほどの、腕利きの医者。その彼をして、なぜキリが救えなかったのか。

ミサキは、彼がキリを見捨てたのだと思っていた。いくらかの時間を経、幹久朗から推測を聞かされた今でも、その疑念は胸に強く渦巻いている。これが他のメンバーであったなら、多少は頭が冷えていたのかも知れない。しかし、ことミサキという女性に関しては、それは必ずしも当てはまらない。

(やっぱり、医者なんてみんな同じよ)

彼女の妖怪としての名は「口裂け女」である。キリやタマモ、トーコやヒキコなどと同じく、元々現世に存在していた人物が死んだ後、春美に「語られる」コトで妖怪となった存在だ。そして、ミサキの疑念と苛立ちの理由は、彼女の過去にある。

事故で致命傷を負った彼女を、担当した医師は「助からない」と見捨てたのだ。しかもこの時、ミサキは己が異能である視界を乗っ取る能力、「パラサイトシーイング」によってその医師の視点から死に逝く己を見てしまった。これがために、ミサキは「医者」という存在に対して強い忌避感と不信を抱いている。

クランケと共に日々を過ごす中で、少なくとも彼に関してはそのような色眼鏡をかけずに済むようになって来ていた。が、その矢先に今回の事件が起きたコトで、それが一気に反転、根深い不信となって張り付いてしまったのである。

(彼は違う? 何も違わない……あの時の、あの医者と同じよ。助からないからって見捨てるなんて)

それに気を取られて、ここ最近頭がさっぱり回らない。
気が付くと、寺院の端まで歩いて来ていた。中ではカイムやゴクオー達が、キリを呼び戻す具体的な方法について議論している頃だろう。

「………」

本来なら、自分もそこにいなければならない。だが、あそこにクランケが、千郷がいる以上、その気にはなれなかった。そんな場合ではないと頭ではわかっているからこそ、余計に。

(どうせまた、見捨てるんでしょう……?)

そんなコトを思って踵を返しかけた、その背に、

「荒れてますね、ミサキさん」
「え?」

ここ最近聞いていない声が、かけられた。振り向くと、誰もいない。が、今度は前から声が。

「私です」
「……トーコちゃんね。何の用事?」

どんなに探しても姿の見えない、百物語組第六話「後ろの正面の誰か」トーコ。
妖怪としては「神隠し」の部類に入る彼女は、自分から姿を現さない限り、絶対にその姿を見つけるコトが出来ないという特性を持っている。無論それはミサキも知るトコロであるため、それ以上探すのはやめ、ただ耳を傾ける。

「クランケさんのコトです」
「! ……その話なら、聞きたくないわ」

にべもなく言い捨てて去ろうとするが、

「あぅっ!?」

突然足を引っかけられて転んだ。一瞬草履をはいた小さな足が見えた辺り、トーコが一瞬で前に回り込んできたのだろう。

771スゴロク:2013/06/16(日) 23:43:19
「っ、何するのよ」

起き上がる彼女に、トーコは相変わらず姿を見せないまま言う。

「聞いてもらわないと困ります。ガラクさんが凄く心配してましたし」
「……ガラク、が?」

百物語組第七話「がしゃどくろ」ガラク。身長1kmと途方もないデカさを誇るだけに、身じろぎするだけでもちょっとした地震が起きるという組の異端児だ。当然、春美や一緒に暮らしているヒキコ以外との付き合いはあまりないが、散歩好きのトーコなどは時々顔を見せに寄っている。
その彼にも、当然今回のキリ消滅に関する一件は伝わっている。

「コロさんに教えてもらったみたい。キリさんがいなくなった、その時のコト」
「…………」
「キリさんは、最後にクランケさんに『後は頼む』、って言ったそうです」
「だから、それが何なの? 助からないからって見捨てた言い訳になるっていうの?」
「そこから離れてください。それはミサキさんの思い込みじゃないですか?」

容赦のない指摘に、ミサキは頭に血が昇るのを感じた。が、それを言葉に変える前に思わぬ方向から先手を打たれた。

「うん。ミサキさん以外は、誰もクランケさんがキリさんを見捨てたなんて思ってないよ」

横合いから声。視線を向けると、立っていたのは縦ロールの金髪が印象的な、幼げな少女。

「カトレア? あなたまで……」
「どうして、クランケさんが見捨てたって思うの?」

真摯な問いかけに、「そんなの……」と言い返そうとしたミサキは、それが出来ないコトに気付いて愕然となった。

「……!?」

時間を経た今でも、どうせ助からないと見捨てた、との疑念は消えていない。だが、それを支える根拠が薄弱に過ぎた。ミサキ当人にとっては、拭いがたいトラウマがダブる重すぎる事実。だが、それ以外の面子から見ればどうだ?
カトレアにあらためて問われて、ミサキは初めて自分の疑念に対して、疑念を持った。

それは、本当に真実なのか? 誰が真実だと告げたのか?

「……………」

だが、それでも。

「……無理よ。私は、医者を信用できない」
「ミサキさん……」
「目の前に救える命があって、それを見過ごすような医者なんて、私には……」

それだけ言うと、ミサキは足早にその場を立ち去ってしまった。




「……駄目、か。ごめんね、カトレア」
「ううん……でも、どうしよう。このままってワケには絶対いかないし……」

ミサキが去った後、トーコとカトレアは顔を突き合わせて嘆息していた。ミサキの抱く疑念は、想像以上に根が深いようだ。
万が一の可能性がある限り、彼女は医者を、クランケを信用しないだろう。だが、それでは困るのだ。
キリを呼び戻すためには、後事を託されたクランケと、春美を含む百物語組全員の協力が不可欠。その中に意見や信頼の齟齬があっては、作戦を成功させるどころか逆効果になりかねない。

何より、この作戦はキリを呼び戻して終わるワケではない。一連の事態のそもそもの原因である、シン・シーがまだ健在なのである。彼ら兄妹をどうにかしない限り、また同じようなコトが何度でも起きる可能性はある。それを対処するためにも、全員の連携は必須なのだ。百物語組だけではない、探偵事務所やアースセイバー、その他協力者たちとの。

そのためにも、ミサキの疑心暗鬼をどうにかしなければならないワケだが。

「……一筋縄では行きそうにないわね」
「ともかく、一度幹久朗さんとカイムさんに話をしておくね」
「私はガラクさんのところに行くわ。もしかしたらコロさんが出て来てるかも知れないから」

それじゃ後でね、と言い交し、二人はそれぞれにその場を去った。



――――が。



「ここですか、アナタが以前来たというのは」
「ああ。そんなに前のコトじゃないケド……なんか、3年くらい前のような気がするね」
「気のせいでしょう。それより、いいのですか? これはワタシの独断なのですが」
「気にするコトはないサ、君もまた『運命の歪み』なのだから」

好転しない事態は、さらに深い最悪を呼ぶ。

「それはどうも。……では、行きますかね」
「いいだろう。なかなか『壊し』甲斐のありそうなチームだしね、彼らは」
「同感です。常時の結束は固いですが、今ならば……」



解けない糸、そして招かれざるモノ



クラベスさんより「ミサキ」十字メシアさんより「カトレア」YAMAさんより「ピエロ」をお借りしました。
フラグがありますので、拾って頂ければと。

772クラベス:2013/06/17(月) 19:21:22
十字メシアさんより「撫子」をお借りしました。
フラグ回収しようとしたけどそんな余裕も構成もありませんでした無念…。
さてここから先どうしたものですかねぇ…


「主、久しぶりに本を読みませんか。」
堅く閉じられた扉越しに、カイムは声をかけた。その手には原稿が数枚。彼自身がしたためたものだ。
「…どうですか?」
「駄目ですね。ここにいるのは違いありませんが、反応がありません。」
「そうですか…」
心配する撫子が溜息を吐く。
「いっそ扉を無理やり開けるとか。」
「そんな横暴なことできませんよ…。でも、そうでもしないと開きそうにありませんね。」

キリが消えたと報告が入ってから、春美は自室に籠りきりである。
彼女さえ先導をとれば一つにまとまることができるというのに、そんな元気は彼女にはなかった。
二人が並んで考えていると、騒ぎを聞きつけて寺院に戻っていた月光が二人を見つけた。
「カイム殿、撫子殿。春美殿の様子は?」
「一貫して変わりはないようです。」
「そうがか…。まぁ、無理もないぜよ。」

「彼女がいなければ今回の計画を実行に移せないわけですが…。」
「ん…。仕方ないぜよ。」
月光はカイムから原稿を取り上げると、扉を引いた。
鍵の掛ってない扉は案外あっさり開き、布団を被った春美が見えた。


そうよ、そうよ。
医者なんて皆そんなもの。
助かる命も助からないと切り捨てる。
私が信じていた彼だって、そうだった。

そうだと分かっているのに。
どうしてこんなに胸苦しいの?
罪悪感に苛まれるの?
彼は、本当にキリを見捨てたの?

違う。

違うって信じたい。
あの、お化けが嫌いで、強気に見せかけて、実は心優しいあの怪盗は。
私から信頼を盗んだりなんかしないって信じたい。

信じたいのにどうして。
信じられないのはどうしてこんなに苦しいの。
誰か助けてよ。
誰か、誰か。
誰でもいいの。

そう。
例え奇跡が起きて、あいつが違うって言ってくれるとしても。



戸惑う、惑う

773十字メシア:2013/06/17(月) 21:38:40
>スゴロクさん

フラグを拾いたいのですが、どんな展開(阻止など)に持っていってもいいでしょうか?

774スゴロク:2013/06/17(月) 21:42:20
>十字メシアさん
どうぞどうぞ、一向に構いません。

775十字メシア:2013/06/17(月) 22:31:55
>スゴロクさん
ありがとうございますm(_ _)m

776えて子:2013/06/23(日) 19:15:40
白い二人シリーズ。
ヒトリメさんから「コオリ」、スゴロクさんから「火波 スザク」、名前のみ「クロウ」、名前のみ紅麗さんから「アザミ」をお借りしました。


今日は、コオリと二人でお出かけ。
「れすとらん」ってところに、おひるごはん食べにいくの。

「こんぺいとうのおねえちゃん、おかねもったの?」
「持ったの。コオリ、ハンカチとちりがみ、持った?」
「もったの」

じゅんび、大丈夫ね。
まいごにならないように、手をつないで。

「しゅっぱーつ」
「しゅっぱーつ」

れすとらんに、しゅっぱつするの。
リンドウに「ずかい」で教えてもらったから、それを見ていくの。

「れすとらん、どこかなあ」
「どこかなあ」

はじめての道も、いっぱいあるの。
れすとらん、見つけられるかなあ。

たくさんたくさん歩いてたら、おっきなたてものを見つけたの。

「れすとらん、ここかなあ」
「ここかなあ」

れすとらんって、どんなたてものなんだろう。
リンドウに聞いたら、知ってたかなあ。

「あれ?アオちゃん、コオリちゃん?」

たてものをじーっと見てたら、名前をよばれたの。
そっちを見たら、トキコがいたの。
赤い女の人も、いっしょ。

アオ、この赤い女の人、知ってる。
赤い女の人も、アオのこと、覚えてたのかな。
「あれ」って言ったの。

「君、あの時の…」
「?鳥さん、知ってるの?」
「こんぺいとうのおねえちゃん、しってるの?」
「うん。公園でごっつんこしたときに、しんぱい、してくれたの」

ぶらんこからおっこちたときに、「大丈夫」って聞いてくれたの。
アオ、覚えてる。

「お名前、とりさんっていうの?」
「え?あ、まあ、うん…ホントはスザクっていうんだけどね」
「スザクっていうの?アオは、アオギリなの」
「コオリは、コオリなのよ」
「そうか、改めてよろしく」

『じこしょうかい』は大切なの。
アオも、コオリも、きちんとお勉強したのよ。

「それで、二人ともここで何してるの?」
「アオたち、れすとらんに行くの」
「おひるごはん、たべるのよ」
「ここ、れすとらん?」

アオたちが見てたおっきなたてものを指さして聞いたら、トキコは「そうだよ」って言った。
やっぱり、ここがれすとらんなんだね。

「二人で来たの?」
「うん」「うん」
「…二人だけで?」
「うん」
「ふたりで、きたのよ」
「…ここに来ること、誰かに言ってきた?」
「…。コオリ、言った?」
「ううん。コオリ、いってないの」
「アオも、言ってないの」

コオリといっしょに首を振ったら、トキコが青くなったの。
赤いのに、青いの。変なの。

「ご、ご飯食べたら帰るんだよね!?」
「うん」「うん」
「じゃあ早く食べよっか!鳥さんも、ちょっと早いけどいいよね?」
「え?あ、ああ、いいけど…」
「よし決まり!じゃあいこいこ!!」

トキコ、アオたちの背中ぐいぐい押すの。
何でだろう。

777えて子:2013/06/23(日) 19:17:51



れすとらんに入って、みんなですわったの。
アオとコオリがおとなり。トキコとスザクがアオたちとはんたいがわ。

アオとコオリは、おっきいオムライスにしたの。
二人でひとつ。いっしょに食べるのよ。

「おいしいね」
「おいしいね」

オムライス、あつあつなの。
こぼさないように、気をつけないとね。

「あ」
「こんぺいとうのおねえちゃん、どうしたの?」
「コオリ、ケチャップついてるの」

コオリの口、ケチャップいっぱいついてたの。
ハンカチでごしごししたら、とれたみたい。

「おねえちゃん、ありがとうなのよ」
「はは、アオギリにもついてるじゃないか」
「?」

スザク、「わらう」って顔をして、アオの口ごしごししたの。
アオにも、ケチャップついてたのかな。

「ありがとう」
「どういたしまして」
「…アオちゃん、いいなあ…」

トキコ、ジュースをストローでぶくぶくしてた。
何でだろう。

「…スザク、スザク。それなあに?」
「ん、これ?これは鶏の唐揚げだけど…珍しい?」
「うん。アオ、はじめて見たの」

からあげって、不思議な形してるのね。
アオ、はじめて知ったの。

「とりさんのおねえさん、とりさんたべてるの?」
「え?う、うん…」
「コオリ、しってるよ。こういうの、ともぐいっていうのよ」
「なっ!?」
「ぶはっ!!」

スザク、「おどろく」って顔をした。
トキコは、ジュースをぷーってふいたの。

「コオリ、物知りね」
「ごほんに、かいてあったのよ」
「あはははははははは!!とっ、共ぐ…そうだね、おんなじ鳥さんだもんね!!あははははは!!」
「ち、違うぞ!?朱雀と鶏は違う種類だ!共食いじゃない!!」
「ちがうの?」「ちがうの?」
「違うの!」

スザクもとりさんで、からあげもとりさんなのに、いっしょじゃないんだね。
とりさんって、不思議。

778えて子:2013/06/23(日) 19:19:23



「「ごちそうさまでした」」

オムライスを全部食べたら、きちんと手をあわせてごちそうさまするの。
あいさつ、大切なの。

「あ、アオちゃん、コオリちゃん。お金はあとで一緒に払っておくよ」
「いいの?」「いいの?」
「うん」
「トキコ、ありがとう」
「あかいおねえちゃん、ありがとうなの」

おさいふからお金を出して、トキコに渡したの。

「これで、だいじょうぶ?」
「大丈夫!」
「ありがとう」「ありがとう」

トキコ、すごいなあ。
アオたちのわからないこと、いろいろ知ってるの。
たのもしい、ね。

トキコとスザクにばいばいして、れすとらんを出たの。

「おいしかったね」
「おいしかったね」

オムライス、おいしかったの。
トキコ、スザクといっしょだと、いつもとちがうトキコだったの。
不思議。

また、れすとらんに行きたいな。
リンドウ、おしごとでいっしょに行けなかったの。
こんどは、リンドウたちもいっしょがいいな。


白い二人と赤い二人〜レストランでおひるごはん〜


(その後、帰った二人は)
(二人を探していたリンドウとクロウに)
(「勝手に遠くまで出歩くな」と怒られましたとさ)

779紅麗:2013/06/24(月) 01:11:21
「振り返らずに」の続きです。早く書いていかなければ…!
お借りしたのは(六x・)さんより「凪」SAKINOさんより「カクマ」でした!
自宅からは「榛名 有依」「高嶺 利央兎」「榛名 譲」「ハーディ」
「ヤハト」「ミハル」です。



『今度、』

「?」

『今度、もしまた会えた時は――私の故郷の綺麗な風景を、キミ達に見せてあげるよ』

「「ほんとぉ?!」」

『あぁ、ほんとうだ』

「やくそくだよっ!」

『ヤクソクだ』

「「またねー!」」

『あぁ、また、いつか――』


――――・――――・――――


「…ここ、か」

ざ、っと進めていた足を一旦止める。ユウイはあの『色のない森』へ辿り着いた。
ここまで、小さな白い鳥が何度も自分達の前に現れていた。その鳥を追いかけて、ここまできた。
その鳥が夢で出会った「白い女性」なのかどうかはわからないが…夢の中で出会った女性は言っていた。『私が道案内をする』、と。

「ここから見ると、普通の森だけどな」
「ユウイ、もうやめておいた方が…」
「イイヤ…、だめだ。行かなきゃ、だめなんだ」

リオトが心配そうにユウイの肩を掴む。しかし、ユウイは直ぐに首を横に振った。
此処まで来たらもう、立ち止まらずにはいられない。
彼女の瞳には、強い決意が込められていた。

今まで見たことのないユウイの表情に、リオトは言葉を失った。何も言わず肩から手を離し、森を睨みつける。
どうか、何もないように。ユウイをこれ以上闇へ引きずりこもうとするものがないように。そう強く願って。

「凪、ユズリ、平気?」

「あぁ、問題ないね」
「平気なのだよ。さくっと終わらせてしまおう」

頼もしい仲間の言葉に、ユウイは自然と笑みを浮かべた。

――――・――――・――――

周囲を警戒しながら森の奥へと進んでいくと、何やら男二人が言い争うような声が聞こえてきた。

「アタシ達の他にも、此処に来てる人がいたのか…」
「―――!あいつッ!」
「……あ…!」

リオトのクラスメイトである「カクマ」と、榛名姉弟がついこの間遭遇した「ハーディ」という男。
その二人が、この「色のない森」の中にいた。

「カクマ、ハーディさん!」
「うわっ、なんでお前らが此処に来てんだよ!」
「君達…!どうして、こんな所に!」

カクマにはそっくりそのまま言葉を返してやりたい。
そして近付いてきたハーディは、明らかに怒ったような表情をしていた。

「ここが、どれだけ危険な場所かわかっているのかい?!」
「ごめん、でも…アタシ、どうしても此処に来なきゃいけない気がして…。
「ヤハト」って人を助けて欲しいって、白い女の人に言われて…。」

途端。ハーディの表情が変わった。まるで信じられないもの――お化けかなにかを見ているかのような表情だ。
その表情を隠すように、帽子を深く被り直した。

「…勝手に、すればいい。何があっても、私は知らないよ」
「いいよ。アタシが勝手に来てるんだもん。用が終わったらすぐ帰るからさ」

ユウイは余裕たっぷりな表情で笑ったあと、じとっとした瞳でカクマを見て、

「カクマ、あんた、帰らないの」
「あー、もうちょっと奥の方見て何もねーようなら帰るよ」
「そ、じゃあ一緒に行こう。一人だとなんかあった時危ないし」
「仕方ねーなぁ、少しだけだからな?」

――カクマと、ハーディの二人が仲間に加わった。ハーディの方は、何か難しい顔をしていたが…。
とにかく、なんだっていい、この森の奥に行けば「ヤハト」とあの女性を救う何かがあるはずなんだ。
アタシにしかできないこと。…必ず、成し遂げてみせる。

780紅麗:2013/06/24(月) 01:13:06
――――・――――・――――

歩いていると、段々と景色が変わってきた。「色のない森」その名の通り、木々の色が無くなっている。色を失う途中の樹もあった。
幹が緑であったり灰色であったり、なんとも、気味が悪い。七人は更に警戒の色を強める。

そしてさらに歩くこと数分。もう周りの木々は完全に色を失っていた。地面も、草もだ。まるで灰色一色の道を歩いているかのよう。
目の前に、明らかに他とは違う大樹が見えた。もちろん、それも色を失っている。その樹を囲うように存在している泉も同じだ。色がない。
大樹の周りには木は殆どなく、広く丸いスペースの真ん中に大樹が存在している。まるでその大樹が祀られているかのようであった。



そして、



「ユウイ?」
「み、ゆ…?」


―――ユウイのよく知る「少女」が、そこにはいた。


「あっは!やっぱりユウイだー!久しぶり。元気だった?」
「………あ」

ユウイが話し出す前に、リオトが走り出した。
見たことのない顔で、目の前に現れた少女に向かって、まるでそのまま体全体で突進でもするかのように。
隠し持っていたカッターの刃を手馴れた手つきで出し、素早く己の腕に傷を付ける。
ユウイは思わず眼を背ける。その光景を見ていた凪、カクマらは全員目を見開き驚いていた。
血が辺りに飛び散るが、それらは直ぐに鋭い針の形に変化し少女を襲う。

「うぉおおおおおおおおおおおおおッ――!!!!」

かと、思われた。が、

「ッ!?」

つい先ほど自分が付けた傷を、自分の血を固めて塞ぎながらリオトは急ブレーキをかけ、「少女」を見た。

おかしい。リオトは間違いなく少女に向かって、血の針の攻撃を仕掛けたはずだ。
見間違いじゃなければ、その針は少女の心臓目掛けて飛んでいったはずだ。


だが―――少女は怪我一つしていなかった。


信じがたい話ではあるが、「針は少女をすり抜けた」と、考える他なかった。

「ふふ、びっくりしてる?びっくりしてるよね?」

光のない目で、にたぁ、と気味の悪い笑みを浮かべる少女。
言葉を失っている全員に言い聞かせるように、両手を広げて言った。

「どうして今の攻撃が私にあたらなかったんだろう、って!」

「ミユ…お前、死んだんじゃなかったのか」
「えへへ、久しぶり、凪。元気だった?いつ振りだろ?」
「なんで、どうして、ミユ、が…」


ユウイは恐怖で声が震えた。


この、「ミユ」という少女は、




自分が殺したはずの――殺されたはずの、「親友」――

781紅麗:2013/06/24(月) 01:17:21
「まったく、リオト君も相変わらずだね、いつでもユウイのことばかり」
「黙れ…」
「あぁ、こわい、こわいわぁ!」

両手を頬に添えながら、わざとらしく怯えたフリをするミユ。
細眼でユウイの表情を伺い、再び笑みを浮かべた。

「…ふふ、じゃあそろそろ私がなぜここにいるのか、それを話しましょうか」
「…み、ゆ」
「ぶっちゃけた話、私もう死んでるのよ」
「え?」

あまりに突飛な話に、ユウイは短く声を漏らした。
親友は、死んでいる?……あ…いや、そうだ、それは当たり前だ。自分が殺してしまったのだから。
殺したのに、存在している。喋っている。笑っている。…どうして?

「ゆう、れい…?」
「ぴんぽーん!だいせーかいっ」

わぁい!とミユは両手をあげて喜んだ。

「幽霊なんて、そんな馬鹿な話があるか!」

姉の怯える姿を見て、いてもたってもいられなくなったユズリが怒鳴る。
リオトはただただ、殺意のこもった瞳でミユを睨みつけていた。

「不思議よね、ここって。前々から変な土地とは思っていたけど、まさか幽霊まで生み出せちゃうなんて…、ね」
「…お前の目的は一体何だ」

今までだんまりを決め込んでいたハーディがミユに話しかけた。聞いたことのない、とても、「怒り」の混じる声で。

「よくぞ聞いて下さいました!私が幽霊になってまでしたかったこと…それは」


榛名 有依をもう一度殺すこと!


その言葉を合図に、リオトがカッターで腕を切りつけ、
凪が「氷の悪夢」で氷の剣を作り出し、ユズリが「鋏の悪夢」で巨大鋏を生み出した。

「だけど、そっちは「幽霊」だろ?姉貴に攻撃できる手段が…そっちにあるのか?!」
「やだなぁ、弟君ったら。ユウイを殺すのは私じゃないわよ」

森が、ざわめきはじめる。

「私はね、ユウイがこの世からいなくなればそれでいいの!死ねば!死ねばそれでいいのよ!!」
「な――」

ミユの叫びと同時に、数匹の大きな猫が森の奥から飛び出した。その猫には眼がなく、全身が黒。例えるなら影で作られたような――
突然の出来事に、リオトは反応が遅れ、猫の鋭い牙が腕に食い込む。

「が、ァあッ!?」
「リオ兄っ!」

リオトが悲鳴を上げるが、さすがは戦闘慣れしてるだけあるのか、即座に噛まれた部分から流れ出た血を変形させ、鋭い棘を作り上げる。
それは頭を容易く貫き、猫の体から力が抜けた。その瞬間、猫は細かい光の粒となって消滅する。

「……く、そ…油断した」

「ユウイ以外はアレに任せるとして…さ、ユウイはこっち!」
「……え?」

恐怖の連続で頭が回っていなかったユウイ。自分の立っている地面から棘の先端のようなものが突き出していた。

「え、何、こ―――」

肉を裂くような音と共に、幾つもの棘が空へ向かって伸びた。
きっと「ミユ」はユウイとリオト達を隔てる壁、一対一となれるスペースを作りたかったのだろう。だが、

「は、はーでぃ、さん…?」
「ぼーっとするな!また死にたいのか!?」

肩に傷を負ったハーディが、いた。
おそらく棘が伸びる直前に、ハーディはユウイを突き飛ばしたのだろう。もう少し飛び出すのが遅れでもしていたら自分が串刺しになっていただろうに。

「あーらら、邪魔なのも入っちゃったな…ま、いいか。一緒に殺せば」
「これ以上…私の森を汚すな…!」
「みんな…」

…まさか、こんなことになるだなんて。
自分が殺した親友が、「幽霊」という形で現れるだなんて、誰が予想しただろうか。
先ほどリオト達を襲った大型の猫が数匹現れた。涎を垂らしながら、ゆっくりと近付いてくる。

782紅麗:2013/06/24(月) 01:17:54
―――アタシは、また死ぬのかな。



―――いやだ、しにたくない。…もう死にたくない!




逃げるか。

戦うか。

逃げるか。

戦うか。

逃げるか。

戦うか。

逃げるか。



(―――戦う!!)


立ち上がったユウイの瞳が、灰色に輝いた。
同時に、生み出された猫が駆け出す。

「う…ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッッッ!!」


―――・―――・―――


「く…!」

噛まれたところから流れ出る血を止めながら、リオトは他三人の表情を見た。
三人は確実に「恐怖」を植えつけられていた。あのカクマでさえ、笑顔ではあるが冷や汗をかいているほどだ。

(なんとかして…ここを生き延びねぇと…!)

「おい、三人とも、オレの言うことを聞け…!」
「真っ先に敵さんにやられたくせに、何を偉そうに…!」
「カクマうるさい!とにかくだ、この中で一番戦闘慣れしているのはオレだ。
いいか?もう一度言う。死にたくなきゃ…オレの言うことを聞け!オレの傍に来い!」

四人は一箇所に集まると、それぞれ背中合わせになり、武器を構えた。


「おそらく、こいつらはユウイとミユの決着が付くまで消えない。
それまで、とにかく奴らを殺し…だと言葉が悪ぃな。消しまくれ。」


「やっと…俺の練習の成果が発揮できるってわけ、だな。凪、そっちは大丈夫か?」


「……あぁ、正直、とても恐ろしいが…やるしかない」


「いいねぇ、思う存分暴れられる。お前ら、俺の脚引っ張んじゃねーぞ?」



「よし、―――行け!!」



Attack on ×××


――――・――――・――――


『……ヤハト』

「なんだ?」

『…キレイね、ここ…』

「……私の、好きな場所だ」

『…………ずっと』

「…?」

『…ずっと、こうしていられたら、いいね』

「…あぁ」

783紅麗:2013/06/24(月) 01:24:11
【実在アウトロー】に続きます。
お借りしたのは思兼さんより「御坂 成見」「橋元 亮」「巴 静葉」十字メシアさんより「葛城 袖子」スゴロクさんより「夜波 マナ」
自宅からは「フミヤ」でした。


「ついたー!」
「……だ、だいぶ、距離あるんだね…」

ふぅっ、と息を吐き涼しい表情をしたフミヤの後ろから、ぜぇぜぇと息を切らした袖子がやってくる。
急に動かしすぎてがくがくと震える足を、両手で落ち着かせつつ息を整えた。

「袖子、大丈夫?」
「だいじょうぶ…」
「ねーさん、体力ないね」
「うるさいな!」

「…で、ここで何をするんだ?」

これまた涼しい顔をしてやってきた二人、亮と静葉。
「睨んでいる」と言われても仕方がないような瞳で、静葉はフミヤを見つめた。
にぃ、とフミヤは笑うと、

「えっとね、化け物を探す!」
「化け物だと?」
「ちょっと、恐い顔しないの、静葉」

「そうなんだ、ここ最近、「この森で化け物を見た」だとか「恐ろしい声が聞こえる」とかいうウワサが絶えないんだよね。
今のところ死人とかは出てないみたいなんだけれど…警察やら何やらがここに手を出す前になんとか調べておきたくて。」
「ウチも立場上、いかせのごれの異変について放っておくようなことはできないから…」



「……命に関わるようなことがあれば、すぐに帰らせてもらうぞ」
「その時はおれ達だって逃げるさー。なぁに、今まで死人は出てないって言ったろ?だぁーいじょーぶだって!
さー!『色のない森へ入りますよー!みなさーん!』」

まるで観光名所を案内するのお姉さんのように、片手を上げて森へと入っていくフミヤ。
何があっても変わらないその彼の態度に、静葉は大きな溜め息をついた。

「あいつは、なんだってあんなにテンションが高いんだ…?」


――――・――――・――――


森の中を歩き回ること数十分。
彼らの探す「化け物」とやらは、一向に姿を現さなかった。
「色のない森」と言われているこの場所だが、今のところ色がなくなっているところはない。
見えているのは、どこまでも続く緑の道。そう、どこまでも続いている。


―――異変に真っ先に気が付いたのは、亮だった。


「…おかしいな」
「どうした?」
「さっきから景色が全く変わっていない気がする」
「森なんだから、そう思うのは当たり前じゃないか?」
「いや、でも、なんか…」
「私も、そんな気がするわ」

………?

「ウェ?!」
「誰だお前?!」
「っうわあびっくりした!君は…」
「こんにちは、お兄さん」
「え、だれ?」

いつの間にか化け物を探し隊に紛れ込んでいたのは青い髪と無機質な目付きが特徴な「夜波マナ」だった。

「おれがこの間レストランに行った時に知り合った子さ」
「……夜波マナです。よろしく」

マナは静かな声で袖子を初めとする四人に挨拶をする。
そしてくるりと背を向けると、森をきょろきょろと見渡し始めた。

「……だめね、気配は感じるのに、先に行けない…」
「君は、どうしてここに?」

マナは振り返らずに答える。

「……一つは、貴方が心配だったから。貴方みたいなヒトは早死にする。絶対」

うへぁ、とフミヤが間抜けな声をあげる。
その隣で袖子がうんうんと頷き、亮、静葉、成見も「あぁ、確かに…」と言いたげな表情を見せた。

784紅麗:2013/06/24(月) 01:25:37
「そしてもう一つは、この先に私の友達がいるから」

「ともだち?」
「俺達以外にも、ここに来ている奴らがいるのか?」
「えぇ、とてもたくさん。その中に…私の友達がいる。とても、大切な」

「助けないと…大変なことになる、きっと。 一人で抱え込んで、一人で壊れていくような子なの」

「そう……じゃあさっさとこのループの謎を解いて、先に行かないとだね?」
「そうね」

けど、とマナが小さな声で言う。

「こんな現象…一体、どうすれば」
「あ、猫だー!おいでおいで」

マナの呟きをかき消すように、野良猫を見つけた亮が、嬉しそうに声を上げながら猫に近付こうとする。
しかしそれを、成見が止めた。何故だか、その手は震えている。

「…なんだか、様子が変だ…」

直後、猫がふらふらと揺れ、それから地面に伏した。立ち上がろうとすることはなく、ぴくぴくと痙攣している。

「―――――!」

その瞬間に、見えた。見えてしまった。成見は見てしまった。
この猫に何が起こったのか。……この先に、何がいるのか。

「う、……」
「成見くん、どうしたの?!」

突然頭を抱えこみ座り込んでしまった成見の肩を抱き、亮は顔を覗き込む。
成見は頭を押さえたまま、顔を上げようとはしない。見たくもない「過去」の出来事が、流れ込んでくる。

――独りでに動く植物の蔓が、猫を絞め殺している光景――

「みんな…!」

片手で頭を押さえながら、成見は立ち上がった。
顔色が悪い。少々大人びてはいるが、それでも12歳の少年だ。精神的にくるものがあるのだろう。

「ここから、動かない方がいい…この先にいったら、きっとみんな死ぬ――!」

「死ぬ」…その言葉にフミヤたちは凍りついた。
ぐ、と拳を握り締め、今にも殴りかかりそうな勢いで静葉はフミヤに近付いた。

「フミヤ!お前、前に一度此処に来たと言っていたな?!
どういうことだ?!お前まさか…最初から俺達を騙して――!」
「いや、おれが前に来たときにはこんなことなかった!道がループするなんてこともね。」
「……私も、こんなことになるだなんて聞いたことがないわ」

このいかせのごれの情報を全てと言っていいほど把握しているマナでさえわからないこと。
フミヤは苦笑いしながら軽く「は」と息を吐くと、

「…どうやらおれ達、とんでもないことに巻き込まれてるみたいだね…」

(とにかく、ナニカを怒らせたりしないようにここで大人しくしているしかないか…?)


色のない森

785思兼:2013/06/24(月) 21:16:45
別の視点からのお話です。


【電脳ヴィジョン】


―第6話、人工物の話―



「ご主人!ご主人!起きてください!朝ですよ!」


「んぁ…もうそんな時間か。起こしてくれてありがとうな、アイ。」


朝日はとっくに昇り外は明るくなっていたが、締め切ったカーテンに包まれた俺の部屋には関係のない話だ。


少し眠い目を擦り正面を見ると、濃藍色のツインテールの髪に青い目という人間として珍しいというかありえない色の少女が
青色のパジャマ姿で両手をわたわたと振っている。

ちなみにコイツ、色だけが突っ込みどころではない。

なぜなら宙に少し浮いてるし、身体が少し青色に発光しているからだ。


まぁ、慣れたら驚きもしないけどな。



そんな奇抜な少女に起こされた俺の名前は霧島 優人。

いかせのごれ高校に通う学生だ。

奨学金や将来の融資やらで働きもしないで結構裕福な一人暮らしを満喫している。



特別なことをしたつもりはない。

ただ、なんか高校入試で500点満点取ったらいきなり大学やら企業やらから将来の話をされて、
春にあった統一模試で偏差値78.4とか取ったら、こんな生活になっただけだ。

それ以来学校じゃクラスメイトに「おまえなんでこんな落ちこぼれ高校に来たの?」って言われるし、
担任以外の教師はよそよそしい態度するしで居心地悪い。

ただ少々いい点数取っただけだろ?

いかせのごれ高校に来たのは家から近かったからだっつーの。


まぁ、あいつらから離れて一人暮らしができるようになったのだけは良かったけどね。

786思兼:2013/06/24(月) 21:19:05


それより、俺はアイがうちに来たことの方が良かったと思う。


アイとはさっきの奇抜な奴のことで、どういう原理か知らないが俺のパソコンの中から『出てきた』

なんか人工知能が身体をつけられたみたいな感じで、服をネットからダウンロードしたりパソコンの中に入ってネットサーフィンしたりと
よくわからんことをしてるけど、いちいち気にしたら負けだと思ってる。

過去のことはわからんけど俺を『ご主人』って決めたらしく、いろんな手助けをしてくれるし話してて面白い奴だし、そこらの人間より
遥かに好感の持てる奴だな。







一通りのことを終え、アイがトースターに入れててくれたパンを喰いながらニュースを見る。

相変わらずどうでもいいことしかいわねぇなこいつらは。


「ご主人、なんか言ってることがゴミクズですねこの人たち。」

「言ってやるな、こいつらも仕事で言ってるんだからな。」


ふよふよ浮きながらテレビを見ていたアイがそんなことを言い、俺が答える。

ちなみにコイツ、物は食べられるが特に食事をする必要は無いらしい。

睡眠も必要は無いらしいし、何て言うか便利な身体だ。

俺だったら…毎晩徹夜でネトゲしたり映画三昧にするな、うん。



「それはそれとご主人、今日は放課後あそこに行くんですか?」

「ん?ああ、行くよ。アイも来るんだろ?」

「それはそうですが…ご主人、今日は『特別教育相談』でしたよね?放課メッチャ早いんじゃないですか?
団の皆さんの都合と合うのですかねぇ。」

「あ…そうだっけ?面倒だなぁ。」


アイに言われて思い出し、顔をしかめる。

787思兼:2013/06/24(月) 21:22:24

『特別教育相談』

なんて言えば聞こえはいいが、要するに大学やら企業やらのプレゼンテーションを聞くだけだ。

俺を早いとこ引っこ抜きたいらしく、学校もいくら貰ったかは知らんがやたら積極的だし。

その日はそれだけで午前中のうちに俺だけ放課(元々授業受けなくてもいいって言われてるが)っていいこともあるが。


「まぁ、集会所に居ればそのうち集まるだろ。アイはどうする?」

「ん〜私はご主人のクラスに遊びに行こうかと。少しの間ケイイチ君たちと話してませんし。」

「また『日高 愛』に化けて行くのかい?まぁ、面倒な連中にばれないようにね。」

「はいっ♪」


そう言うとアイは一瞬で制服姿で黒髪黒目に変化した。

着替え変装も一瞬とか、ホントに便利だなコイツ。


「んじゃ、そろそろ行くか。」


皿を片付けて、俺とアイは家を出た。





―――――――――――――――――




ま、人目というのは慣れないもんだな。

学校に近づいて、生徒が多くなった途端にあっちこっちでヒソヒソ話だ。


でも諦めは肝心、もう気にしないようにはしてるがな。


そんなことを思ってると、いきなり目の前に長身の少女が現れた。


「優人、アイ。」

「お、アリスじゃないか。これから学校か?」


こくんと頷くこいつはアリス。

まぁ『友達』ってところだが、事情は結構複雑だったりする。


「静葉が今日は少し早めに来てほしいって言ってた。僕も放課後すぐに行く。」

「あ?丁度良かったな。俺は今日は早く終わるからな。」

「良かった。じゃあ、僕はこれで。」


なんて言ってアリスの奴はそそくさと校門をくぐって行ってしまった。


「あー何か、団長がせかしてるってことはやな予感がするなぁ。
ま、考えても仕方ない。さっさと行くか。」

「あ、じゃご主人。私は2-1に行ってきます。」

「おう、正体ばれないようにな。」

アリスに続いていそいそと校舎の中に入って行ったアイを見送りながら、俺も面談場所の化学講義室に足を進めた。



この日を境に、俺はこの街の暗部を知ることになるとも知らずに。




<To be continued>

788思兼:2013/06/24(月) 21:23:58
<キャスト>
アイ(思兼)
霧島 優人(思兼)
アリス(思兼)
ケイイチ(本家様)

789スゴロク:2013/06/24(月) 22:13:05
紅麗さんの製作された修学旅行トレス動画……の女子部屋編、です。時系列は考えていない単発ネタです。


自キャラは「火波 スザク」しらにゅいさんから「トキコ」砂糖人形さんから「ネイロ」「ユウム」紅麗さんから「榛名有依」akiyakanさんから「コロネ」CHANGELINGさんから「水野 瑠璃」十字メシアさんより「乃木鳩 蛍」をお借りしています。一部キャラが掴めていないので多分に独自解釈が入っております(謝

「トーキング」シリーズに則り会話文オンリーです。



「……さっきからなんか男子の方がうるさくないか?」

「勇者がどうのこうのって聞こえたけど……」

「ゆーしゃって、何それ? いい歳して厨二発症?」

「よ、容赦ないね、ユウムちゃん」

「単にいつもと違う状況だからテンション上がっただけでしょ。全く子供なんだから」

「子供、ってネイロ……同世代だろ、アタシら」

「精神年齢の話よ。少なくとも、こんな夜中に馬鹿騒ぎしないくらいには大人よ、私」

「ネーちゃんが言うと、なんか重みあるね」

「そういうトキコは半分くらい子供だろ、中身」

「中身が男の子の鳥さんに言われたくありませんよー、だ」

「む、うっ、ひ、否定できない……」

「鳥さん、そこは否定しようよ!?」

「あーあーあー、痴話ゲンカはその辺にしとけ、二人とも。それに瑠璃も大声出すな」

「ご、ごめんなさい、蛍さん」

「そういえば鳥さん、昼前からるりりー変じゃなかった? 何かやたらテンションの浮き沈みが激しいってゆーか」

「るりりーってお前ね……けど確かにおかしかったよな、どうしたんだ?」

「その、本、今日全然読んでないから、落ち着かなくて」

「……禁断症状?」

「あの、それってもう中毒ってゆわない?」

「手段が目的、の典型ね。本好きもいいけど、少しは他の楽しみも見つけたらどうかしら」

「他の……あ、お掃除かな」

「あー、瑠璃ちゃん綺麗好きだもんねー」

「うん。机の周りとか、椅子の下とか、ホコリが落ちてないかいつも気にしてるから」

「いつも?」

「そう、いつも。ちょっとでも落ちてたら徹底的に掃除しないと気が済まなくて」

「……なぁ、それは潔癖症って言うんじゃないのか?」

「同意見だ、ユウイ。というか瑠璃、お前極端すぎ」

「えー……?」

「えー、じゃなくて。もっとおおらかに生きろよ」

「まーまーホタルさん、その辺にしよ。別に神経質だからって死ぬわけじゃないんだから」

「そういうコトじゃなくてだな……ま、いいか。せっかくの修学旅行なんだ」

790スゴロク:2013/06/24(月) 22:14:16
「そうそう、楽しまないと損だぞ。な、コロネ」

「同感、同感。……ところで鳥さん、最近何かあった?」

「へ?」

「や、いきなり物腰が不自然になった時あったじゃない? 元に戻ってから前より変わったみたいな気がするんだけど……」

「そ、そうか? 僕は別に……」

「? そう?」

(と、鳥さん、コロネちゃんまさか気づいてる?)
(いや、多分無自覚に「感じ取った」だけだ。下手に反応するより流した方がいい)
(う、うぃーす)

「話は変わるけどさー、スザクってなんか妙に旅慣れてるよね」

「あ、それ私も思った。昼間の寺社巡りも勝手知ったる、って感じだったし」

「……そりゃ、一度来たからな」

「???」

「あ、そっか。鳥さん一回留年してるんだっけ」

「あー、そうだったそうだった。出席日数が足りなくて単位落としたんだよね、確か」

「う、うるさい! ほっといてくれよ、気にしてるんだから」

「なるほど。つまり、修学旅行も二度目と」

「でもさー、普通二回も行けるんだっけ? 修学旅行」

「トキコ」

「? 何、ネーちゃん?」

「それは、深く考えてはいけない問題……だそうよ」

「??? ネーちゃん、誰かから聞いたの?」

「さぁ?(くすり」

「?????」

「それよりさー、修学旅行で女子の集まりって言ったらあれでしょ? 恋バナ♪」

「……その話は嫌だなー、僕」

「鳥さん、去年何かあったんだっけ?」

「あー、一回目の修学旅行でな。正人のコトあれこれ言われてキレちゃって……」

「あ、それ知ってる。確か『白い悪魔事件』だっけ? 就寝直前に女子で大ゲンカが起きて、8人くらい怪我したって」

「白? スザクって言ったら赤だろ?」

「あれ、ホタルさん知らないんだっけ? 鳥さんの髪って前は白かったんだよ」

「そうなのか?」

「うん、こっちが元の色。前のは……ま、ちょっとワケありでな」

「ふーん……」

791スゴロク:2013/06/24(月) 22:14:52
「話戻していい、そろそろ?」

「いいけど、この面子だとまともにその手の話が出来そうなのはユウイくらいよ」

「それに、『誰が好き?』って聞いても、もう答え決まってるしねー」

「ば、違うって! リオトは幼馴染で、確かに信頼出来る奴だけど……!」

「あれー? 私、リオ君だって一言も言ってないんですけどー?(によによ」

「!!! こ、この……///」

「そういうお前達はどうなんだよ、二人とも」

「「へ?」」

「知らぬは本人ばかりなり、ね」

「あ、あのね……二人とも今、学校じゃ割と有名なんだよ? いかせのごれ高初の百合ップルだって」

「「…………………………………………」」

「……な、何か返事したら? 真顔で黙られると怖いよ」

「返事って言われても……」

「……一体僕らにどう返せと」

「怖い、怖いから真顔で言うな! ていうか否定しないってコトは事実か?」

「……そこは、まあ」

「認めるしかないよね、うん」

「事実なのか……」

「噂の内容は何なの? 私達知らないよ」

「う、うん、それはね……(かくかくしかじか」

「(まるまるうまうま)ち、違ーう!? 別に略奪愛とかじゃないしー!?」

「ていうか決闘ってナニ!? しかも何でアオイが出て来るんだ!?」

「(しーっ!)静かにしなさい、先生来るわよ」

「「(ぱっと口塞ぎっ)」」

「……やっぱ尾鰭がついてたか。予想はしてたケドも」

「前後の事情が一切わからないまま、第三者から見ればいきなり成立してたカップルだもの。憶測・妄想は当然の帰結よ」

「だからって説明する気にはなれない……」

「そ、そーそー、乙女には秘密があるものだし」

「わからなくはないけどー……スザクが乙女ぇ〜?」

「絶対違う、それは絶対に違うと思うよ、アタシ」

「僕だって乙女なんてガラじゃないよ」

「うん、むしろ漢女……」

「そこ、何か言ったか?」

「いいえ、なにもいっておりません(カクカク」

「何でロボットみたいに……」



ガラッ



「……ちゃんと寝てるな。気のせいか」



パタン


『…………』

792スゴロク:2013/06/24(月) 22:16:55
(……そろそろ行ったかなー?)

(そのようね。気配が消えたわ)

(い、いきなり来るなよ……心臓に悪いよ)

(み、見回りがあるのは予想済みだったはずだけど)

(それよりさ、今男子の方から「こんなもの読んで……」って聞こえたけど)

(誰かエロ本でも持ち込んだか? まったく男ってのは)

(ちょ、ちょっとー、誰か助けてー(ぱたぱた)

(Zzzzz……(ぎゅー)

(あれ? 何でトキコがスザクと一緒に寝てるの?)

(知らないよー、さっき潜り込んだ時に鳥さんがついて来てー。わー、寝相悪い―!?)





「……い、い、いったいこれはどういう状況なんだ……?」←半裸

「と、鳥さん寝相悪すぎ……何でそんなになるまで……」←目の下にクマ

「ていうか鳥さん……そこ、トキコちゃんの布団だよ?」

「え?」


<−しばらくお待ちください−>


「…………」

「え、と、その……」

「……ああ鳥さんは今日もドジだった〜♪」

「なんだその歌はーッ!? ていうか誰がドジだー!?」

「『長崎は今日も雨だった』が正解ね。それにしてもよくメロディまで知ってるわね」

「冷静にツッコんでる場合かネイローッ!!」

「そういう場合よ。他にどうしようもないもの」←即答

「……も、もういい……」←半裸でがくー



ガールズでトーキングin旅先〜企画女子修学旅行〜

793思兼:2013/06/25(火) 00:14:54
色のない森 に続きます。



【真実サバイバー】



―第7話、知恵を絞る話―




「ちっ…間に合うかどうかわからんが。こうなっては仕方ない。
本来部外者の前でコールしたくないが。」

「あれ?静葉、みんなを呼ぶの?」

「少し黙ってろ。」


厳しい顔をしながら静葉は携帯を取り出すと、素早くボタンを押しどこかに電話をかける。


「もしもし、ダニエルか?」

「おーシズハ!どうしたの?」


その電話越しに聞こえたのは高い少年の声で、訛り方からどうやら外人らしい。


「すまない、詳しい説明は後にさせてくれないか。?
いいか、よく聞け。俺はシリウスの団長として『緊急号令』を発動する!
これの意味は言わなくても分かるな?」

「…オッケー理解したよ。
まずは現在地の名前だけでもいいから教えて。
そこに索敵範囲を絞ってシズハのマーカーを逆算するから。」


静葉の謎の言葉を聞くと、ダニエルと言うらしい電話相手の少年は声色を急に変えてそんなことを言った。

一つだけわかることは、静葉は何か解決策を探しているということだ。



「場所は『色のない森』だ!
くそっ…やっぱりあんな胡散臭い奴の言葉に耳を貸すんじゃなかった!」


「ちょっと、扱いひどくない?あんな胡散臭い奴って…」

「その通りでしょ。」

「まったく、その通り。」


身も蓋も無くマナと袖子も同意する。

ちなみに危険を感じ取った(と言うより視た)成見は膝ががくがくしてとても立てる状態ではなかったので、
袖子が背負っている。

794思兼:2013/06/25(火) 00:17:26


「あーシズハ、現在地を特定したよ。
何でそんなとこにいるのかは後で聞くけど、誰を送ればいい?」

「アリスだ!本当は影士も呼びたいが、昼の間はあいつの戦力は落ちるし、
多くてもカバーしきれなくなる!」

「了解したよ。今は昼だから偽装しながらアリスは向かわないといけない。
当然『飛べない』し人間として常識的な程度で行動しないといけないから、
アリスが到着するまでおよそ40〜50分はかかるよ。
じゃ、それまで持ち堪えてね。」


その通信を最後に切れた。



「いいか、あと40〜50分耐えきれば助けが来る。
それまで不用意な行動はするなよ?」


「その間、どうやって耐えきる?」

「効力があるかどうかはわからないが…俺と亮の力を使う。」


マナの疑問に答えた静葉の目が真紅に染まる。

「俺の力『耳を塞ぐ』は、俺たちの立てる音が一切無くなり、気配を極限まで無くす。
亮の『かくれんぼ』は他人の目に見えなくなる力だ。
お前たちに最初に見せただろう?」

「あ!あれはそういうのだったんだ!」

「この力を今、ここにいる全員にかけた。
アリスの到着をダニエルから通知してもらった時、解除する。
それまで、皆余計なまねはするな?」



静葉が言い、森は静寂に包まれる




<To be continued>

795思兼:2013/06/25(火) 00:21:47
<キャスト>
御坂 成見(思兼)
巴 静葉(思兼)
橋元 亮(思兼)
ダニエル・マーティン(思兼)
フミヤ(紅麗様)
葛城 袖子(十字メシア様)
夜波マナ(スゴロク様)

だんだんと長編になってきましたね。

796思兼:2013/06/25(火) 01:48:17
時系列的には過去です


【狂笑サイケデリズム】

―第8話、ある狂人の日記―


<8月10日>
きょうは、おむかいのとなりのとなりのいえのいぬがうるさかったので、
おひるのだれもいないときにころしました。

『あかいてん』はおなかのすこしうえのみぎあたりにありました。

のたうちまわってしんだのが、とてもおもしろかったです。


きょうも、おかあさんとおとうさんはかえってきませんでした。

でも、フランはもう9さいなのでひとりでだいじょうぶです。




<8月11日>
きょうはいいてんきだったので、おひるねをしました。
おひさまがぽかぽかしてて、とてもきもちよかったです。

とちゅうでへんなおじさんが、かってにおうちにあがっていたので
おしおきにはれつさせてやりました。

『あかいてん』はあたまの、みぎのめのちかくにありました。

おへやがよごれてしまったので、ゆうがたにおそうじをしました。

うごかなくなったおにくは、すなにかえておはなばたけにまきました
おはなさんがげんきになるとフランはうれしいです。




<8月31日>
きょうはあさからおかあさんにおしえてもらったとおり、パンをつくりました。
ふわふわでやわらかいおいしそうなパンができました。

2つめをオーブンからだしたときちいさなおとこのこがみていたので、
1つめのパンをあげました。

おいしそうにたべてくれたので、フランはうれしいです。

『あかいてん』はみぎのくびすじにありました。
けれど、フランはおねえさんなのでえがおでおみおくりしました。

797思兼:2013/06/25(火) 01:54:43

<9月15日>
きょうはあめがふっていたので、おせんたくものをおそとにほせませんでした。

しかたがなかったので、きょうはおうちでえほんをよみました。

おゆうはんはおかあさんがおしえてくれたラザニアをつくりました。

とてもおいしくつくれたので、いつおかあさんとおとうさんがかえってきても、
おいしいおゆうはんをつくれるとおもいます。

きょうは『あかいてん』をみませんでした。



<10月5日>
きょうは『あかいてん』のみえたのでおいさんをきってみました。
ああかいてんにそってきれいにきれました。

おかあさんおとうさん、はやくかえってこないかなぁ。




<11月1日>
おかあさんおとうさんまだ?
おなかすいたよ



<11月23日>
たすけてよ
かぜひいてくるしいよ
いたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよ
いたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよ
いたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよいたいよくるしいよ
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて
たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて


<12月10日>
寒い、よぉ
もう、いや…
フランの『あかいてん』に…ナイフをつきたてれば…


<12月25>

し、にた




――――――――――――――――――――――――



「おい!大丈夫か!?」

「あ…あが…」

「意識は一応有るな。飢えと衰弱が激しいが。
俺は重久、すぐに助けてやるからな!」

「し…げひ…さ…?」





こうして狂人の少女は光を見た。


<To be continued>


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