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食るようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/09/01(火) 23:27:37 ID:nzAw85Ys0
世の中には変わった建物が多い。
現在僕の通っている大学なんかその最たるものだったという。
一部のマニアでは熱狂的な人気を持つらしい建築家が手掛けた教室棟の数々は、よく映画やドラマなんかの撮影場所にもなったのだそうだ。
とはいえ素晴らしい建物にも老朽化はやってくる。
僕が入学した頃、まさに工事の真っ最中ですあった。
一部の学生、特にデザイン学科からは元のデザインを尊重した作りにして欲しいという要望も出ていたようだが、それが受け入れられたかどうかは定かではない。
ただ新しく出来上がった建物を見る限り、その意見を汲んでもらえたようには思えなかった。
とにもかくにも僕の大学生活の始まりといえば、灰色の養生シートとキンキンうるさい金属音で彩られることとなった。
日府大学は、とにかく辺鄙なところだった。
元が山だったせいで急な坂道だの階段だのがあちこちにあるし、馬鹿みたいに広いので移動にも時間がかかった。
加えて今までの教室棟は鮮やかな、悪く言えば気違い染みた彩色をしていたものがみんな布に覆われて見分けがつかなかった。
学内に林が点在するせいで見通しが悪かったせいもあり、上級生に場所を聞いても一緒に迷子になってしまうことが多々あった。
知らない人に話せば馬鹿げた話だと思われるだろう。
僕だってそう思っていた。
だけど最初からそういうものだと思っていたら、急激な変化に対応できないのかもしれない、とも思った。
さて前置きは長くなったが、唯一改修工事を免れた棟があった。
三号館こと、「ミカン」と呼ばれている教室棟だ。
あまり目に優しくない黄緑色の屋根と、ベージュが混ざったような橙色の壁が「ミカン」の特徴であった。
一階のロビーには売店とソファーがずらりと並んでいる。
昼休みになると近くの棟から学生たちが押し寄せてきて、ロビーは地獄絵図と化すのが恒例であった。
二階には自習室が、三階と四階には小さい教室が四つずつ作られていて、よくゼミの発表や話し合いなんかに使われているらしい。
まぁそれも昼休みになったら関係ないのだが。
ところで三階のトイレの近くにはもう一つ階段が存在する。
「立ち入り禁止」の札がチェーンでぶら下げられているそこは、きっと屋上に続いているのだろうと今まで興味を持ったことがなかった。
そう、今までは。
156
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 17:40:00 ID:gUnPnUrY0
乙
>>102
辺りでクーからドクオの話聞いてるのに名字忘れたのかヒッキー……
157
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 21:56:40 ID:9c74Fb8I0
地元で鬱田って苗字を見かけなかったってことだろう
158
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 22:30:31 ID:gUnPnUrY0
あーなるほどそういう事か
159
:
u
:2015/10/02(金) 23:09:51 ID:iVcz78g20
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http://y2u.be/z2qK2lhk9O0
160
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:20:32 ID:elzXkpGg0
午前十時半過ぎ。
僕は「ミカン」の四階にある教室にいた。
本来なら既に授業が始まっている時間だ。
しかし教室では未だに談笑の声が響いていた。
何故なら、教授がプロジェクターの設定に手間取っているからである。
(;‘_L’)「おっかしいなぁ……」
時折教授が機械に話しかけるものの、それだけで直るはずがない。
かれこれ十分近くスクリーンには目が痛くなるほどの青が表示されていた。
不意に教授はプロジェクターから離れ、教卓の上のマイクを手に取った。
(‘_L’)「ああもう……。みなさん、私語禁止ですよ」
教授の弱々しい声が賑やかな室内に響くがそれだけではどうにもならなかった。
(‘_L’)「はぁ」
小さな溜息がマイクに拾われる。
僕の周りから、クスクスと嘲笑が聞こえてきた。
(-_-)(くっだらねー)
僕はなんだか無性に腹が立ってきた。
困惑と気弱さが混ざったような、教授の薄ら笑いを見て僕は更に憤った。
(-_-)(この人も、はっきり言えばいいのに)
僕は席を立った。
「ちょっと通らせてください」
隣にいた人にそう言おうとして、僕は固まった。
161
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:21:56 ID:elzXkpGg0
川ー川「…………」
妹が、いた。
鴉色の長い髪の毛を揺蕩わせ、不揃いの長さに切られている前髪からは潰れたように笑う目が隠されていた。
(;-_-)「…………」
僕は、自分から声を掛けるのは止めることにした。
椅子は極力引かれていたからその後ろを通るのは容易かったし、何よりなんといえばいいのかわからなかったのだ。
(-_-)(なんなんだよ……)
胃が冷えたような気分になる。
いや、いい。
それよりも教授を手伝わなくては。
階段を下りきった僕に教授は気付かない。
(-_-)「先生」
(‘_L’)「お、おおっ……?」
突然背後から声をかけたせいか、教授は素っ頓狂に叫んだ。
(-_-)「……プロジェクターにつけてるコード、入れ違いになってますよ」
(‘_L’)「え……? …………あれ、本当だ」
白いジャックに黄色いコードが、赤いジャックに白いコードが刺さっているものだから、表示なんかされるわけがないのだ。
162
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:23:41 ID:elzXkpGg0
(-_-)(なんつー機械音痴……)
なにも言わず、そのまま席に戻った。
背後からは慌てて礼を言う教授の声が聞こえてきたが、それに反応出来るほどの余裕が僕にはなかった。
(-_-)(席戻るの嫌だなぁ)
ニコニコしながら待ち構えている妹が視界に入る。
(-_-)「…………」
川ー川「…………」
極力存在を無視するものの、妹の視線がありありと感じられた。
(-_-)(面倒くさい……)
その一言に尽きた。
(‘_L’)「遅れて申し訳なかったけども授業を始めます。今日はうちの大学病院が取材された時の映像を流しますので、その感想を来週提出して頂ければと思います」
川д川「つまんなそうな授業」
ぼそりと妹が呟いた。
それと同時に教室の照明が落とされ、スクリーンに映像が映し出された。
163
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:24:57 ID:elzXkpGg0
「現代ドキュメント 増える十代の自殺とその周辺」
画質はやや荒く、少し前に撮られたもののようだった。
『昨今、子供の自殺が増えています』
『何故彼らは死に急ぐのか? 答えを求め病棟へ向かった我々取材班を待ち受けていたのは子供たちの苦悩と絶望でした』
(,, д )『今は死のうとしたこと、後悔してます』
|゚ノ ∀ )『気がつくと、体がフワーってするんです』
川 - )『死ねって言われたから死のうと思ったんです』
モザイク処理のされた少年少女たちが次々に映し出され、僕は少し胸が痛んだ。
もし死んでしまっていたら、彼らはこの場にいないのだと思うと、なんだか不思議な気分になった。
ミセ*゚ー゚)リ『こんばんは。現代ドキュメントの時間です。今日は、十代の自殺とその周辺というテーマでお送りします。今日お越し頂いたのは…………』
川д川「ねえ、お兄ちゃん」
小声で、妹が声をかけてきた。
(-_-)「…………」
僕はそれに動揺しないように、前を見続けた。
スクリーンの中では、女性アナウンサーとこの授業を受け持っている教授が出てきていた。
うちの教授が出てきたことに関して、周りの人たちはざわめいていた。
が、当の本人が注意してそれはやがて収まった。
(‘_L’)『こういった、若い方たちの自殺というのは非常に衝撃的なテーマだとは思いますが、彼らには彼らなりの理由があるんですね。その事だけでも分かって頂ければと思い、僕が受け持っている患者さんたちに協力を仰ぎ……』
164
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:26:28 ID:elzXkpGg0
(-_-)(自殺、ねえ)
死にたいと思った事はたしかにある。
だけどそれは、一時間もすれば消えてしまうような刹那的な感情だ。
(-_-)(少なくとも僕はそうだった)
だけど、他人がどう考えているかなんてわかるはずもない。
今こうして授業を聞いている人たちの中にもそう思い続けている人はいるかもしれない。
(-_-)(十代を通り過ぎれば嘘をつく事に長けてしまうし)
やがて映像はスタジオから、病院へと移った。
第一のケースではG君という十五歳の少年が、将来に不安を感じて衝動的にマンションの五階から飛び降りたことを告白していた。
成績は優秀で、友達も多い。
放課後になると大好きなサッカーに打ち込み、いじめられた経験もない。
教師や親からは「そんなことをするような子に見えなかった」とインタビューで語られるような明るい少年であったという。
そんな彼が持つ不安とは、なんだったのだろう。
(,, д )『なんかー、うまく言えないんだけど……。これから高校生になるって思ってもピンと来ないんですよ。そこでうまくやってる自分とか想像できなくて。今は幸せだけど、そんなのたまたまの結果だと思えばそれまでだし』
G君は、困ったように笑った。
顔は見えないが、きっと笑っているのだろう。
肩がすくみ、体を揺らしているのだから。
165
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:27:52 ID:elzXkpGg0
(,, д )『そう考えるとなんかすっごい怖くなって。夜中にそれが来ると寝れなくなるんですよ。それに対してどう相手すればいいのかわからなくて。それである日気付いたらベランダから落っこちてて。もう全部嫌んなっちゃって』
最後に、取材スタッフはG君にこう問うた。
『もしもこの先死にたくなったら、死にますか?』
(,, д )『しないっす。落ちた直後に意識が少しあって、その時にうわーすごいバカなことしたって涙出てきたんで。辛くなったらこの事、思い出します』
(-_-)(強い子だなぁ)
十五歳とは思えないくらいしっかりしていた。
出来ればそのまま、真っ直ぐに育ってほしいなと僕は思った。
166
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:29:25 ID:elzXkpGg0
第二のケースでは、Rさんという十七歳の少女がインタビューに答えていた。
幼少期に両親が離婚し、父親に引き取られたものの仲はあまりよくなかったらしい。
演劇部に所属していたがそれは役者としてではなく脚本や照明、音響などの裏方として活躍していたそうだ。
しかし普段は非常に大人しく、もしかするとクラスメイトからもその存在を認知されることは少なかったのかもしれなかった。
というのも高校に上がってすぐ彼女は不登校気味になり、保健室に入り浸っていたそうなのだ。
|゚ノ ∀ )『学校行くのがなんか辛くて……。でも家にいるとあの人に怒られるし』
あの人、というのは父親のことなのだろう。
相当心的距離を置いているのが伝わってきた。
|゚ノ ∀ )『あの人が怒鳴ると、意識がぼーっとするんです。それで、気がつくと、体がフワーってするんです』
(-_-)(解離、離人感)
とても辛かったんだろうな、と思いながらメモを取る。
凄惨な内容の自分語りに、僕は胸が締め付けられそうになった。
場面は変わる。
次はRさんと部活動を共にした人がインタビューに答えていた。
彼女はRさんの先輩に当たるらしい。
『Rさんから自殺の予兆は感じられましたか?』
从 ∀从『今にして思えばそうだったのかなーっていうのはありますね。あの頃、Rちゃんは脚本を何本も書き進めてる時で、でもどれも途中で書くのをやめちゃってたんですよ、この先が書けないんだーって』
(-_-)(脚本が書けない、か)
从 ∀从『どうしたの、って聞いたらどうしても演劇じゃ表現しきれないと。それで試しに読ませてもらったら、全部死にまつわる話ばっかりで、最後に登場人物みんな死んじゃうんですよ』
(-_-)(えぐい)
167
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:30:43 ID:elzXkpGg0
从 ∀从『でも死んだことを説明せずに、間接的に分かってもらわないといけない、その為にはどう演出すればいいのか、と真剣に悩んでたんです。今考えるとその空虚さとか、死を美化する感じとか、あの子の内面を写していたのかなーって』
再び場面は転換し、取材スタッフは問い掛けた。
『もしもこの先死にたくなったら、死にますか?』
|゚ノ ∀ )『……したくなっちゃうかもしれないですね。とにかく今はあの人から離れたいです、遠くに行きたいです』
(-_-)(この人、死んでしまいそうだなぁ)
親子の因縁は他人の因縁よりも根深いものになりやすい。
切っても切れぬ縁であるし、何より離れることが難しいからだ。
(-_-)(いや、親子だけでもないな)
横目で妹を見ると、彼女は熱心に落書きをしていた。
盗み見していることに気付かれないよう、視線をそっと手元に戻す。
……子供であるうちは親に縋らなくては生きていけないし、生殺与奪を握る親は子供に対して自分が万能であるように錯覚してしまう。
生まれながらにして完成されてしまっている上下関係に、他人が介入することは難しい。
それどころか、産んだ恩や育てた恩、親はあなたの為を思っているからなどという言葉で相手を追い詰めてしまうこともある。
虐待された側の心理は、されていない人間にとって理解出来ない領域なのだ。
(-_-)(本当のことを全部話しても、わからない奴にはわからないのだ)
常日頃から気をつけている言葉が、頭の中に響いた。
168
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:31:54 ID:elzXkpGg0
最後は、Sさんという十一歳の少女のインタビューであった。
といっても彼女の記憶に混乱が見られるため、先の二人とは違う形式で話が進められていた。
まずはSさんの育った環境についての再現ドラマが流れた。
彼女の家は典型的な機能不全家族であった。
両親は仲が悪く、父親は滅多に家に帰ってこなかったらしい。
母親もまた家をあけることが多く、近所では当てもなく徘徊するSさんの姿が目撃されていたらしい。
心理的、肉体的虐待は日常的に行われていたためSさんは次第に自分は拾われた子であるという妄想に囚われていった。
(-_-)(無理もないだろうなぁ、生まれた時から虐待なんて……)
Sさんは、別世界に実の両親が存在していると信じていた。
妄想の中の両親はとても優しく、彼女のよき理解者であった。
しかしそれはあくまでも過去の出来事であった。
離れ離れとなってしまった今となっては、架空の両親はただ甘き思い出を反復するだけの存在に過ぎなかった。
そう、妄想の両親ですら、彼女を守る存在ではなかったのだ。
Sさんは次第に現実の両親から逃げ出したくなり、五歳の時に家出を試みた。
Sさんは隣市まで徒歩で移動し、夏祭りの会場で無事保護されたらしい。
その後両親の虐待が明るみになり、Sさんは養護施設に連れて行かれ、そこで暮らすことになったそうだ。
ところが保護された後もSさんの妄想が寛解することはなかった。
時折Sさんは壁に頭を打ち付けるなどの自傷行為や、いきなり同級生に噛み付くなどの加害行為が見られたという。
これらの行動にはSさんなりの理由があったらしいが、いずれにせよ理解できるものではないだろう。
彼女は何度か児童精神科に連れて行かれ、徐々にそれらは落ち着いていったのだという。
あくまでも、施設や教師からはそう見えたのだそうだ。
しかし彼女の妄想は未だに息衝いていた。
Sさんには仲のいい男の子の友達がいて、その子にだけそれを共有していたのだという。
その子もまた何故か、Sさんの妄想を受け止めて話を合わせていたらしかった。
(-_-)(不思議な関係だ……)
ノートに書き込むのも忘れ、僕はドラマに見入った。
169
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:32:00 ID:3qNqrfn20
初遭遇
支援
170
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:33:04 ID:elzXkpGg0
やがてSさんとその仲のいい男子はいじめられるようになった。
虐待を経験していたSさんには、同級生からのいじめはかわいいものであったらしい。
つまりSさんはいじめられても平然としていられたのだが、男子はそうでなかった。
男子はいじめに屈服し、今度はSさんをいじめるようになった。
孤立したSさんは再び情動不安定になり、そして。
『しーね! しーね!』
一つの机を取り囲み、囃し立てる男子たち。
俯いて座っていた女子は、机からカッターナイフを取り出した。
異変に気付く一人の男子。
気付かない周り。
女子は、左手首に薄刃を突き立てた。
男子たちから悲鳴があがる。
床に散らばった血を見て、知らん振りをしてきたクラスメイトたちが叫ぶ。
いじめを苦にしての、自殺。
それはあまりにも悲しい話であった。
(-_-)「はぁ……」
思わず溜め息が漏れた。
場面が変わる。
ショートカットの女児が、じっとこちらを見つめていた。
川 - )『◯◯くんは悪くないです、真に受けたわたしが悪いんです。それに◯◯くんは毎日お見舞いに来て謝ってくるし。◯◯くん以外の他の人たちはなんとも思わないですね、どうでもいい人達なんです』
(-_-)(◯◯くんは例の男子か、酷いことされたのになんで庇うんだか)
川 - )『わたしの中には◯◯くんしかいないんです。大勢に言われたからじゃなくて、◯◯くんに死ねって言われたから死のうと思ったんです』
(-_-)「…………」
171
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:35:22 ID:elzXkpGg0
川 - )『◯◯くんの言葉はすごく印象に残ります。良いことも、悪いことも。でも他の人たちの言葉はあんまり覚えられないです、すぐに頭からすーって逃げてっちゃうんです』
(-_-)(これも解離の一つだ……)
この前レポートを書いたせいか、その言葉が妙に頭によぎった。
(-_-)(あ)
いつのまにかスクリーンにはSさんではなく、一人の男子が映されていた。
これが例の◯◯くんなのだろう。
( ∀ )『酷いことを言ってしまったって自覚はあります。取り返しのつかないことをしたって、すごく情けなくなりました』
(-_-)(よくインタビューに出たなぁ)
根は悪い子ではないのかもしれない。
が、人を一人殺しかけたということには変わりなかった。
( ∀ )『実は昔、家出してたSさんを最初に見つけたの、僕で。その時にこの子守らなきゃ、って思ってたんですよ。なのにそれを裏切っちゃったって思って、すごい辛くて』
(-_-)「…………」
( ∀ )『もういじめなんかしないです、二度としないです。これからはずっと仲良しでいるつもりです』
(-_-)「……………………」
最後に、スタッフは例の質問をSさんに投げかけた。
『もしもこの先死にたくなったら、死にますか?』
川 - )『多分しないと思います。でももし、』
ぷつり、と映像が途切れた。
同時に授業終了を告げるチャイムの音がスピーカーから流れてきた。
172
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:36:44 ID:elzXkpGg0
(‘_L’)「はい、これで今日の授業は終わりとなります。再三の注意になりますが、来週までに感想を出してくださいね」
ざわめきが一気に広がり、一目散に教室を出て行く人たちをぼんやりと眺めていた。
(-_-)(みんな、よくあんな暗い話を見た後に騒げるよな)
遠い世界での話だと思っているのだろうか。
(-_-)(そんなに縁遠い話でもないのに)
川д川「お兄ちゃん」
(-_-)「なんだよ」
川д川「貞子、静かに待ってたよ!」
期待に満ちた瞳で僕を見上げる姿は、まるで犬のようであった。
いや犬の方がまだ百倍もかわいいけど。
(-_-)「ああうん、はい」
川д川「むう」
(-_-)「お前な……。幼稚園児だったらお利口さんですね〜って褒めたくなるけど、大の女子高生がそんなこと出来たって褒めようって気になるわけねーだろ」
川д川「ひっどぉい」
(-_-)「つーかお前学校は?」
川д川「自主休講」
(-_-)「サボってんじゃねえよバカたれ」
173
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:38:53 ID:elzXkpGg0
適当にあしらう一方で、内心困ったことになったなと思った。
これまでにも妹が勝手に大学に来たことは何度かあった。
特に夏休みの間は酷いもので、アパートの前で座り込みをしていた時もあったのだ。
その度に根気強く説得し、なんとか実家に送り返してきたのだが……。
(-_-)(これじゃクーのところに行けないなぁ)
適当に嘘をついて追い払ってしまおうか?
……それが出来れば苦労しないのだが、きっと妹は事前に時間割を調べて来ているだろう。
だから、今日来たのだ。
午前中に授業が終わってしまい、午後が丸々空くことを知っていたから……。
(-_-)「……ここじゃ目立つから、外出よう」
川д川「貞子とご飯食べてくれるの?」
(-_-)「だってお前、そのままじゃ帰らないだろう」
川ー川「ふふふー」
(-_-)「ふふふーじゃねえよ全く」
呆れながら僕はスマホを取り出した。
今日は会えないことをクーに告げておいた方がいいだろう。
(-_-)(昼、どこに行こうかな)
甘えるように絡みついてきた左手を振り払いながら、僕はメッセージを送信した。
174
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:39:44 ID:elzXkpGg0
ピロリン、と無機質な着信音が部屋に響いた。
夢現の狭間にいた素直クールは、意識をすくい上げられるような感覚に陥った。
川 - )「ああ……」
ソファーから起き上がると、彼女は酷い頭痛に苛まれた。
三半規管がおかしくなっているのか、じっとしているのに船酔いした時のような吐き気に襲われる。
思わず素直は口元を押さえた。
( ・∀・)「起きたのか」
川 - )「ああ」
( ・∀・)「体調……は、あんまりよくなさそうだな。やっぱり入院した方が良かったんじゃねえの?」
川 - )「入院したら、疋田くんは心配するだろう」
テーブルに置かれたスマホに手を伸ばし、素直は溜め息を吐いた。
( ・∀・)「……で、医者の静止を突っぱねて来た甲斐はあったのかよ」
川 ゚ -゚)「あまり意地の悪いことを言ってくれるな」
簡略なメッセージを送信し、素直は再びソファーへと倒れこむ。
川 ゚ -゚)「……痛いなぁ」
175
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:41:21 ID:elzXkpGg0
( ・∀・)「相手が女でよかったな、男だったら死んでたかもしれないぜ」
川 ゚ -゚)「女?」
( ・∀・)「殴られた時のこと思い出してみろよ」
川 ゚ -゚)「ふむ……」
…………素直は左側の後頭部に衝撃を感じた。
川 - )『かっ……、は……!?』
うめき声と共に彼女はアスファルトに倒れ伏せた。
同時に頭上からは、ヒュン、と空気を切る音がした。
おそらく空振りしたのだろう。
相手は舌打ちしながら起き上がろうとした素直に一歩踏み込み、再度頭を打ちのめした。
川; - )『……ぐ、ぅ、う』
カラン、となにかが地面に落ちる音が聞こえた。
音は軽く、金属的なものであった。
それを最後に、素直の記憶は途切れた。
( ・∀・)「ここから分かることは三つある。まず相手は左利きだ」
川 ゚ -゚)「なぜ?」
( ・∀・)「振りかぶる時にわざわざ利き手と逆の方向からぶん殴る奴がいると思うか?」
176
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:42:35 ID:elzXkpGg0
川 ゚ -゚)「まあ、そうだけども。殺そうとしたんじゃなくて、ただいたずらに襲っただけかもしれないじゃないか」
( ・∀・)「それはどうだかなぁ。金品や鞄を物色された形跡はないし、何より空振りした時に舌打ちしてるんだぜ。お前を殺そうとしてたって線が濃厚だと思うんだけど」
川 ゚ -゚)「……恨みを買うような真似をしただろうか」
( ・∀・)「さあなあ」
川 ゚ -゚)「で、女が犯人だっていうのは?」
( ・∀・)「金属バットの類でぶん殴られたわりには軽傷だから」
川 ゚ -゚)「軽傷……」
( ・∀・)「大の男が相手だったら首の骨が折れてるに違いないだろうな。あとひょっとしたらクーよりも小柄な奴が犯人かもしれない」
川 ゚ -゚)「ふむ……」
素直の身長は百七十センチ近く、同性の平均を大きく上回っていた。
実際自分よりも高い同性に、素直は出会った事がなかった。
( ・∀・)「背の低い奴が背の高い人間を狙うとどうしても威力が殺される。二発食らってやっと脳震盪が起きたくらいだし」
川 ゚ -゚)「……犯人は、左利きの小柄な女か」
ふう、と素直はもう一度ため息を吐いた。
川 ゚ -゚)「……肉が食べたい、生肉が」
( ・∀・)「生はやめろよ」
川 ゚ -゚)「ん……」
その返事を最後に、素直は再び眠りへと落ちた。
177
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:43:23 ID:elzXkpGg0
僕は、ついこの間行ったばかりのカフェに妹を連れていった。
妹と一緒に学食に行くのはとても嫌だったのだ。
川ー川「素敵なお店だね」
きょろきょろと店内を見渡しながら妹は言った。
案内されたのは奥の席で、ここへ座るのは僕も初めてであった。
飴色の照明が優しく僕たちを照らし、遠くからはコーヒー豆を挽く音が微かに聞こえてくる。
香ばしいコーヒーの香りが漂う中、僕はメニューを広げた。
少しだが緊張が安らぎ、若干だが食欲も出てきた。
(-_-)「……何飲む?」
川д川「貞子はお兄ちゃんと一緒でいいよー」
(-_-)「あっそ。……なんか食う?」
川д川「んー……、少しだけ」
(-_-)「わかった」
店員を捕まえ、僕はブレンドコーヒー二つとカツサンド一つを頼んだ。
ここのカツサンドは値段の割にはボリュームがあって、二人で分け合えばちょうどいいだろうと僕は考えていた。
(-_-)(本当は不本意だけど、ホットサンドは高いからなぁ)
懐事情を思うとそうせざるを得なかったのである。
178
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:44:12 ID:elzXkpGg0
川д川「ねーお兄ちゃん」
店員が去ってすぐ、妹は話しかけてきた。
(-_-)「なに」
と僕も返すが、その次に出てくる言葉を僕は知っていた。
川д川「もう、家に帰ってこないの?」
(-_-)「何回も言ってるだろ。僕はこっちのほうで暮らすんだって」
川д川「どうして?」
(-_-)「山に籠って一生終えたくないんだよ、あそこは辛気臭いし」
川д川「でも自分で働かなくてもいっぱいお金が入ってくるんだよ?」
(-_-)「今はな。だけどうちの借家に住んでるのは爺さん婆さんばっかりじゃん、そいつらの先は長くないんだぜ?」
川д川「でも、」
o川*゚ー゚)o「お先に失礼します、ホットのブレンドコーヒーになります」
川д川「……、」
妹は言葉を飲み込み、僕は愛想よく店員からコーヒーカップを受け取った。
179
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:46:06 ID:elzXkpGg0
川д川「……お兄ちゃんは、故郷が嫌いなの?」
(-_-)「ん、まあ、そうだな」
お前のことも嫌いだよ、と内心付け加えた。
川д川「なんで?」
(-_-)「畑に興味ねえもん。虫も嫌いだし、娯楽もないし。あと閉塞感が無理」
川д川「…………ご先祖様が頑張って得た土地なんだよ……?」
(-_-)「そうだな」
川д川「なのにひどくない……?」
(-_-)「……最初は僕だって大学行ったら家継ごうって思ってたよ」
かちゃん、とカップとソーサーのぶつかる音が響く。
ようやく飲もうとして持ち上げたカップを、妹がそのまま元に戻したのだ。
(-_-)「そうしたら勉強なんか必要ないって親父が怒鳴り散らして、受験に必要な書類破いたりしてたの見てるだろ?」
川д川「…………」
(-_-)「それでもう、この人とは無理だって思った」
川д川「…………でも、家族だよ?」
(-_-)「は?」
180
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:49:01 ID:elzXkpGg0
川д川「お父さんのしたことはたしかに酷いことだけど、身内のしたことだよ? やっぱり仲直り、」
(#-_-)「仲直りするとかしないとかの話じゃないだろ! そんな事されたのに許せるほうがおかしくねえか!?」
o川*゚ー゚)o「あ、あのお客様……」
おどおどした店員の声に、僕ははっとした。
o川*゚ー゚)o「他のお客様のご迷惑になりますので……」
(:-_-)「す、すみません」
カツサンドの乗った皿と伝票がテーブルに置かれ、僕はぼんやりとそれを眺めた。
妹と目を合わせたくなかった。
話もしたくなかった。
これ以上話し合ったって、妹が僕の事を理解してくれるはずがないのだ。
(-_-)「……貞子」
だけど、僕は話してしまう。
言葉に出してしまう。
(-_-)「……そもそも、僕よりお前のほうが可愛がられてたじゃん」
川д川「そ、そんなこと」
(-_-)「なんでかは知らないけどさ、お前が生まれてからは親父も母さんも爺様も婆様もお前の事可愛がってさ。羨ましかったんだ」
川д川「そんなことないよ、お兄ちゃんのことも可愛がってたよ……?」
181
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:49:56 ID:elzXkpGg0
(-_-)「お前が僕のおやつを横取りしてもお兄ちゃんだから我慢しなさいって言われるし、勝手に転けたお前のそばに僕がいただけで妹をいじめたに違いないと罵られ、そうやって『悪いこと』ばかりを積み重ねてきた僕には誕生日にもクリスマスにもなにも貰えず、お年玉だってお前のほうが多くもらってきた、挙げ句の果てには僕に大学は必要ないって言ったくせに、貞子、お前にはどこに行ってもいいと家族のみんなは言って、その時の僕の気持ち、分かるか?」
ぐつぐつと腸が煮えくりかえるような、嫉妬。
惨めさや羨ましさが相俟って、僕は泣きそうになっていた。
奥歯を噛み締めていなかったら、きっと涙は出ていただろう。
だけど泣いてしまったら、母親から家に締め出されて半日庭で過ごした記憶が蘇りそうで、僕は必死に堪えた。
(-_-)「なあ、僕とお前のなにが違ったんだよ。一年早く生まれただけじゃないか。なのにどうして、みんなお前を可愛がるんだよ」
川д川「お兄ちゃん……」
(-_-)「今更家に戻ったって、子供の時と同じ扱いをされるだけに決まってるじゃないか。うっかり子供一人分の食事を用意し忘れる家が、どこにあるんだよ……。もう戻りたくないんだ」
川д川「…………」
妹はとうとう押し黙った。
僕の言葉を理解してくれたのだろうか。
(-_-)(いや、そんなはずない)
希望的観測を捨てなくてはいけない。
きっとこいつは本気で分かっていないのだ。
妹の中には可愛がられた自分の記憶しかない。
どんなに近くで悲惨なことが起きていたとしても、彼女はそこから遠ざかろうとしているはずだった。
そこに自分も関われば自分もそこに落ちてしまうから、なにもなかったように記憶を処理してしまっているのだ。
川д川「……みんな、ほんとはいい人達なんだよ」
(-_-)(ほら見ろ)
僕は、自分の考えが合っていたことに安堵して、悲しくなった。
もうこれ以上苦しむことがないように、悲しまないようにと、希望を持つことを捨てていたのに。
182
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:50:54 ID:elzXkpGg0
川д川「…………でも、たしかに、お兄ちゃんには悪い人達だったかも」
(-_-)(……え?)
川д川「貞子、ずっと見て見ぬフリしてきたって、お兄ちゃんに酷いことしてきたって、今、初めて気付いたの」
(-_-)「……、は…………?」
川д川「ごめんなさい、お兄ちゃんの分の幸せまで奪ってしまって、ごめんなさい」
そう言って、貞子は泣きながらテーブルに倒れ伏した。
(;-_-)「……さだ、こ?」
川д川「わたしが、もっと早くお兄ちゃんの味方をしていたらこんなに苦しまなくて済んだのに……」
(;-_-)「…………」
目の前で起きていることが、僕には信じられなかった。
憎かった妹が、泣きながら謝っている。
ある意味彼女も被害者であったのに。
(;-_-)「……泣くなよ」
長らく続いた沈黙を、僕はやっとの事で破った。
川д川「で、でも……」
(;-_-)「お前が悪いんじゃない、悪いのは親父たちだから」
183
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:52:06 ID:elzXkpGg0
川д川「…………」
ぐすん、と鼻水をすする音がしたので僕はティッシュを差し出した。
川д川「ありがと……」
鼻をつまみ、どうにか鼻水を追い出そうとしている様を見ながら僕は夢を見ている気分になった。
(-_-)(本当に、貞子は分かってくれたんだろうか)
今まで話さなかった本音を、彼女は分かってくれたんだろうか。
分かって、くれたなら。
(-_-)(どれだけいいだろうか)
川ー川「……もう、無理に家に帰ってきて、とは言わないよ」
鼻水を拭き終えたらしい貞子は柔らかく微笑んだ。
川д川「でも、二つだけ許してほしいことがあるの」
(-_-)「なに?」
川д川「時々こうして会いにきてもいい?」
(-_-)「……勝手に大学や家に来ないなら僕はいいけど、親父たちは平気なのかよ」
川д川「んー……。なんとか説得するし、あの人達がお兄ちゃんのところに乗り込むことがないように気をつけとく!」
(-_-)「そうか」
184
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:53:40 ID:elzXkpGg0
きっと両親たちは怒り狂うだろうが、結局は貞子を甘やかすことになるだろう。
今まで貞子のわがままを通してきた罰が、両親たちに降りかかるのだと思うと僕は少し愉快な気分になった。
(-_-)「で、二つ目は?」
川д川「お爺ちゃんのお墓参りに来て欲しいの」
(-_-)「えっ、死んだの?」
僕の言葉に、貞子は呆れたようだった。
川д川「……何度か手紙を入れたとは思うんだけど」
(-_-)「……開けてない」
川д川「なんで!」
(-_-)「だ、だっていつも家に帰ってこいって書いてあるから……」
川д川「もー」
わざとらしく頬を膨らませ、貞子はコーヒーに口をつけた。
(-_-)「ごめんて……」
川д川「……別に良いけどさ」
全く良くなさそうな顔で貞子はそう言った。
185
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:55:53 ID:elzXkpGg0
(-_-)(墓参りかぁ)
僕は正直行くのが嫌だった。
嫌いな祖父の墓参りに行くというのもあるが、もっと嫌なのは風習のせいだった。
(-_-)「……それ、忌屋に泊まらなきゃいけないんだろ?」
僕の言葉に貞子は頷いた。
先祖代々から続く墓場には忌屋と呼ばれる小屋があり、墓参りをした際には必ずそこで一晩を過ごさなくてはいけないのだ。
誰かが亡くなってから一年間は、この奇習をこなさなくてはいけないので僕は苦手で仕方がなかった。
なにせ忌屋には簡易的な風呂場と寝所しかない。
山奥だから電波は届かないし、食事は持参しなくてはいけない。
何よりもうすぐ隣に墓があるもんだから、落ち着いて寝られるわけがないのだ。
弔いの為だとか、穢れを祓う為だとか言われているが僕はどうしても納得がいかなかった。
(-_-)(わざわざ怖いところに泊まるなんてどうかしてるわほんと……)
とはいえ貞子は、どうしてもこの風習を守りたいようだった。
川д川「流石にお兄ちゃん一人じゃ怖いだろうから、その時は貞子も一緒に泊まるから……」
(;-_-)「……考えとく」
結局その場では結論を出さずに、僕たちは連絡先を交換することにした。
行くとなったら、彼女に教えておかないと僕一人で忌屋に行かなきゃいけないからだ。
(;-_-)(面倒な事が次から次へと出てくるなぁ)
カツサンドを頬張りながら、僕はそう思った。
186
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:56:57 ID:elzXkpGg0
食事は話し合いの場です
.
187
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:57:56 ID:elzXkpGg0
登場人物紹介
(-_-) 疋田
分かってるようで分かっていない人
川д川 貞子
全部分かっている人
川 ゚ -゚) 素直クール
まだ分かっていない人
( ・∀・) モララー
分かろうとしている人
カツサンド
四枚切りの食パン二枚を使ってソースをたっぷり染み込ませた分厚いカツとシャキシャキのキャベツが挟んである、また付け合わせにプチトマト五個とゆで卵がのっている、一皿五百九十円
188
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 13:59:14 ID:elzXkpGg0
おまけ
川д川「貞子トマトきらーい」
(-_-)「好き嫌いしないでちゃんと食べろよ」
川д川「えー……うーん……」
(-_-)(あ、食べた)
川д川「……やっぱりおいしくなあい」
(-_-)「でもちゃんと食べたな、前だったら絶対吐き出してたのに」
川д川「貞子成長したからね!」
(-_-)「まあ、高校生だしな……」
川д川「むう、褒めてよ!」
(-_-)「はいはい偉い偉い」
川ー川「……えへへ」
189
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 14:37:26 ID:PjTTnyd20
貞子が左利きじゃありませんように
190
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 14:55:09 ID:NRj0FUNM0
乙!!
ミステリアスだな…
191
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 15:38:09 ID:CfhjuGWg0
乙乙!クーの過去が辛すぎる
あと読んでてヒッキーの田舎がちょっと怖いと感じた
何かこう、じわじわ不安を煽る感じというか……
192
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 16:31:27 ID:/r19CKP60
ヤンデレだいしゅき
193
:
名も無きAAのようです
:2015/10/09(金) 20:02:07 ID:pnIUiJ3.0
乙
ヒッキーの過去もクーの過去も辛いなぁ
194
:
名も無きAAのようです
:2015/11/17(火) 16:33:15 ID:4zk90Y5A0
後少し?
何かどんどん解ってきた気がする!おつ!
195
:
名も無きAAのようです
:2015/11/17(火) 21:15:36 ID:D90sEHJUO
ヒッキーも何らかしらの解離があるという予想
びくびくしながら期待
196
:
名も無きAAのようです
:2015/11/18(水) 17:25:43 ID:dxe9NAng0
もしかしてクールー病もかかってるのか?だとしたら……
197
:
名も無きAAのようです
:2015/12/06(日) 00:38:35 ID:jqtq.Z1w0
七把一絡げ思い出した……
すげぇ引き込まれる期待して待ってる
198
:
名も無きAAのようです
:2015/12/06(日) 18:57:03 ID:HgdJUOCQ0
コンビーフが出てきた瞬間、反射的にスレを閉じてしまったが読んでみたら面白かった
199
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:23:11 ID:v37dldgU0
午後十二時半きっかり。
区切りのいい時間に、そのメールは届いた。
川 ゚ -゚)『悪いけど今日もそっちに行けそうにない。すまない』
さくっと書かれた文章に、僕は少し引っかかっていた。
(-_-)(今日も……?)
昨日、僕は屋上に行けないとメールをした。
クーはそれに対して、了解としか返さなかった。
だから僕は、例の場所にクーが来ていると思い込んでいた。
けれどもこの書き方だと、昨日も大学に来ていないようだった。
(-_-)『何かあったんですか?』
返事はすぐに来た。
川 ゚ -゚)『何でもないよ』
(-_-)(いや絶対あるだろ……)
そう思って、深く突っ込もうとした矢先にもう一通メールが入ってきた。
200
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:24:01 ID:v37dldgU0
川 ゚ -゚)『肉が食べたい』
画面をスクロールすると、下の方には地図が添付してあった。
(-_-)『これは……?』
川 ゚ -゚)『わたしの家までの地図だ。悪いがお金はあとで払うから肉をたくさん買ってくれないか。来るのは何時でもいいから』
(-_-)(……具合悪いのかな)
一人暮らしを始めてすぐ風邪をひいた時のことを思い出す。
食事も作れないし、買い物にも出かけられない。
ただひたすら寝る以外何もできず、じわじわと体力が削られていって、とても心細くて。
あの時はたしかブーンに助けてもらい、なんとかなったのだ。
(-_-)(んー……、あっちに安いスーパーってあるかなぁ)
どんなものならクーが喜んでくれるのか。
そんなことを考えながら、僕の昼休みは過ぎていった。
201
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:24:48 ID:v37dldgU0
結局、僕は行きつけのスーパーで食料を調達した。
ネットで配布されていたチラシやクーポンを駆使した結果、七百円近くも安く買えるとわかったからだ。
(*-_-)(いい買い物したわぁ)
一人ほくそ笑み、両手に提げた袋を持ち直す。
右手の袋にはきゅうりと人参とほうれん草が一袋ずつとサトウのご飯。
左手の袋には豚バラ肉二キロとゴマドレッシングの瓶が入っている。
(-_-)(初めて降りたなー)
きょろきょろと辺りを見回しながら、改札を出る。
北口、西口、と書かれた看板が目につく。
送られてきた地図によると西口に出ればいいらしい。
僕はゆっくりと階段を降りていった。
202
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:25:34 ID:v37dldgU0
西口には飲食店が多く立ち並んでいた。
ラーメン、居酒屋、焼肉、もつ鍋、串焼き、スペインバル、カラオケ。
そんなお店が三階建てのビルや地下に詰まっていた。
中にはテナント募集や新規オープン準備中の看板がつけられている所もあった。
入れ替わりの激しさを感じさせるそれに、世知辛さを感じた。
(-_-)(どこも人がいっぱいだ)
会社帰りのサラリーマンやおじさんを連れたケバい化粧の女性がそこへ吸い込まれていくのを見て、僕はそう思った。
(-_-)(クーはいつもこの賑やかな通りを歩いているんだ)
たまにどこかへ立ち寄ったりするんだろうか。
(-_-)(……でも肉以外食べないもんなぁ)
刺身もダメ、野菜もダメ、お菓子もダメ。
知らない人と楽しく会話もできなさそうである。
(-_-)「おっと」
酒屋の角を右に曲がる。
どうやら店の裏側になるらしく、そこは人通りが少なかった。
びかびかと光る電飾看板に目がやられかけていたので、僕的にはこっちの方がホッとする雰囲気であった。
(-_-)(でも女性が通るには危ない気がするなぁ……)
なにせ明かりが少なかった。
せっかく見つけた街灯も、疎らな光を発しているあたり、すぐにでも真っ暗になってしまいそうだった。
203
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:26:20 ID:v37dldgU0
(;-_-)(ええっと、ここの角を左に……)
そっと路地を覗き込み、僕は固まった。
ピンク色の看板に、六十分コースの文字。
その意味を理解した瞬間、僕の顔は熱くなった。
しかしそこから目が離せなかった。
チカチカと瞬くストロボの光によって、否が応でも視線はそっちに誘導されてしまうのだ。
(;-_-)(どこからどう見ても風俗街です本当にありがとうございました)
所狭しとそんな看板が立ち並ぶ通りには、数人の男が暇そうに立っていた。
きっと客引きを担っているのだろう。
(;-_-)(ど、ど、どうしよう……)
どうもこうもなかった。
地図によればこの先にある雑居ビルがクーの家なので、進むより他ないのだ。
(;-_-)(よ、よし! ……行こう!)
ビニール袋を持つ手に力を入れ、路地に足を踏み入れようとした時だった。
「おにーさんおにーさん」
(;-_-)「ヒェッ!?」
いきなり声をかけられ、僕は慌てて振り向いた。
爪'ー`)y‐「見ない顔だね、ご新規さん?」
(;-_-)「あ、えっと……」
爪'ー`)y‐「ここはどーんな子でも揃ってるよ! 要望さえ言ってくれれば口きいてあげるからさぁ」
204
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:27:33 ID:v37dldgU0
遠慮します、の一言も言えずに僕は後ずさる。
さらに男が踏み込む。
さらにさらに僕は後退する。
爪'ー`)y‐「あっはっは、そんなに怖がらないでよ」
男は人の良さそうな笑みを浮かべるが、なにせガラの悪さがすべてを相殺していた。
胸元の開いた黒いシャツ、暗灰色のスーツ、傷み始めている革靴、黙々と煙を上げているタバコ。
何もかもが恐ろしく見える。
僕はそっと後ろを見る。
が、他の客引きたちは慌てて僕から目を背けた。
(;-_-)(関わりたくないってことか)
となるとはっきり断らなくてはいけない。
爪'ー`)y‐「今の時間帯は空いてるよー、なんなら三十分タダでサービスするよう言ってあげてもいいからさ」
(;-_-)「ぁ、ぁ、あ、あの」
爪'ー`)y‐「んー?」
はくはくと口から息が逃げていく。
それをしっかり捕らえるように、僕はこう言った。
(-_-)「僕そういうんじゃなくて……」
爪'ー`)y‐「……え、女の子より男の方が好きとか?」
(;-_-)「ち、違います! 友達に会いに来たんです!」
205
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:28:48 ID:v37dldgU0
すると目の前の男は一瞬考えるような顔をし、
爪'ー`)y‐「……もしかしてその友達っていうのは、この先にあるビルに住んでたりする?」
珍獣を見るような眼差しで、そう言った。
(-_-)「そ、そうですけど。なにか?」
爪'ー`)y‐「いやあ、あの人にもとうとう最良さん以外に友達が出来たのかぁ、って思ってたのさ」
さいよし。
聞き覚えのない名前だが、クーの唯一の友達といえばモララーさんしかいない。
きっと彼の名字なのだろう。
爪'ー`)y‐「素直さんところに案内してやるよ」
ぴん、と男の指からタバコが放たれた。
タバコはころころと転がりながら地面に落ち、彼は小さく舌打ちをした。
どうやらその隣にあった水溜りにタバコを入れたかったらしい。
大股でタバコに近付き、男はそれを踏みにじった。
爪'ー`)「自己紹介、まだだったな。フォックスっていうんだ」
(-_-)「あ、えっと、疋田、です」
206
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:29:45 ID:v37dldgU0
爪'ー`)「……もしかして叢作のほうに住んでました?」
(-_-)「えっ」
思わぬところでその地名を聞き、胸が騒いだ。
なにも言えない僕に、フォックスは慌ててこう言った。
爪'ー`)「あー、昔唯田に住んでて。っていってもその後すぐ少年院に入ったりしちゃったんすけどね」
(;-_-)「そ、そうなんですか……」
こういう話にはなんて答えればいいんだろうか。
困惑しながら僕はなるべく笑うように心掛けた。
爪'ー`)「んじゃ、行きますか」
おもむろにそう言い、フォックスさんは歩き出した。
慌てて僕はその後に続いた。
207
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:32:57 ID:v37dldgU0
彼は人懐っこくて、話好きな性格だった。
普段僕がなにをやっているのか、クーとはどうやって出会ったのかを根掘り葉掘り聞かれた。
怒涛の質問攻めが終わったあと、今度は自分の兄について語り始めた。
爪'ー`)「いやービックリしたよね。院から帰ってきたら兄貴死んでるからさ。しかも同級生が刺したっていうしさ」
驚くことに、彼の兄はあの鬱田ドクオさんだった。
(-_-)「……大変でしたね」
爪'ー`)「いやぁ、オレは全然。母ちゃんの方が大変だったと思うよ」
カラカラと空っぽな笑みと共に、僕の言葉は一蹴された。
爪'ー`)「そん時に最良さんと素直さんに出会ってさぁ。二人から事情聞いて、あー兄貴にも友達いたんだーってなんか嬉しくなって」
(-_-)「ドクオさんと仲はよかったんですか?」
爪'ー`)「ぜーんぜん」
(-_-)「えっ……」
軽く言われたそれに、頭から血の気が引いた。
その直後、「別に悪くもなかったんだけど」と彼は付け加えた。
爪'ー`)「んー、なんていうの。兄貴って結構周りと距離置いてるタイプで親ともそんなにべったりって感じでもなかったし。一匹狼的な?」
(-_-)「ふうん……」
爪'ー`)「だから話し掛ければ相手してくれんだけど、あっちからはそういう事もなくて。黙々とパズルで遊んだり自分で作ったりしてる方が多かったよ」
208
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:34:05 ID:v37dldgU0
孤独を好んでいた人なのだろうか。
一人でいても苦痛ではない。
それって、どんな感じなのだろう。
爪'ー`)「ああでも別に兄貴のことは嫌いじゃないんだぜ。むしろ今でもスゲーって思ってる」
(-_-)「……どうして?」
爪'ー`)「ロクデナシだからさぁ、オレは。こんなちっせえ区画の元締めなんかどんなバカにでも出来るけど、兄貴のパズルは兄貴にしか作れねえもん」
気付くと風俗店は疎らになり、空きビルや空き店舗が目に入るようになってきた。
フォックスさんはその中でも一際目立つ大きなビルを指差した。
爪'ー`)「あそこの三階にいるよ」
(-_-)「ありがとうございます」
頭を下げると、フォックスさんは照れたように笑った。
爪'ー`)「気が向いたら店に来てもいいんだぜ」
そう言って彼はポケットティッシュを差し出した。
裏にはコスプレ風俗のチラシが差し込まれていた。
僕はなんとも答えられずに、ただはにかんだ。
209
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:35:10 ID:v37dldgU0
雑居ビルは五階建てで、一階はコインランドリーになっていた。
それ以外の部屋は真っ暗だったりダンボールやカーテンで閉め切られていた。
こんなところに人が住んでいるなんて誰が思うだろうか。
(-_-)(……エレベーター動いてるかな)
コインランドリー横のエントランスにあったそれは、かなり年季が入っていた。
恐る恐るボタンを押すと、凄まじい音を立てながら箱が降りてきた。
中に入ると機械油や埃が混ざった臭いがする。
あまり気持ちのいいものではなかった。
(-_-)(三階、ガールズラウンジ、カリブの海……)
階層表示の横には、昔の店名がそのままになっていた。
そこから察するに、一階から三階まで飲み屋やいかがわしいマッサージ店が、四階から五階はヤクザの事務所が入っていたらしい。
廃墟の海へと続くボタンを押すと、エレベーターの扉が乱雑に閉まる。
やおら動き出し、モーターが唸る音が聞こえた。
(-_-)(これ本当に大丈夫かな)
箱が持ち上げられ、すとんと落とされるような感覚。
そしてまた、扉がぶっきらぼうに開いた。
エレベーターホールには、真っ赤な絨毯が敷かれていた。
といっても土埃にまみれてかなり汚れているのだが。
そのまま真っ直ぐ進んだ突き当たりに、漆黒のドアがあった。
(-_-)(着いた)
インターホンがないので、ドアをノックしてみる。
210
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:36:18 ID:v37dldgU0
すると、
「開いてる」
と久々に聞く声がした。
(-_-)「お邪魔しまーす」
部屋の中は薄暗く、それでも物が散乱しているのが見えた。
奥に進むとカウンターとソファーを見つけた。
カウンターには発泡スチロールや本が山積みになっていて、今にも崩れ落ちそうだった。
ソファーには、人影が寝転んでいた。
(-_-)「クー?」
川 - )「ああ、悪いね、疋田くん」
ややかすれ気味の、やつれた様なクーの声。
(-_-)「大丈夫ですか?」
川 - )「まあ、それなりに」
ソファーのそばにあったローテーブルに荷物を置く僕に、クーはそう答えた。
川 - )「暗いだろう。壁際に明度を調節するつまみがあるから、好きにしてくれ」
(-_-)「はいはい」
床に落ちているコードや服らしき影を踏まない様に気をつけて、僕はつまみを探した。
211
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:37:22 ID:v37dldgU0
(-_-)(……これかな?)
つまみは思ったよりも低い位置にあった。
くるりくるりとそれを回せば、部屋は浅い夕陽色に染まった。
(-_-)「こんなもんでいいで、」
すか、という言葉は出なかった。
ソファーからちょうど起き上がったらしいクーは、何も着ていなかった。
(;-_-)「あぁああぁあああああ!?!?!?!?」
思わず手で目をふさぐ。
が、時は既に遅かった。
華奢な体つき、すらりと伸びた腕、全身に広がる火傷や沈着した痣の跡と白い肌のコントラスト、それらを隠すような黒髪。
全てが瞬時に、そして鮮烈に、脳裏に焼き付いた。
川 ゚ -゚)「すまない。君が来る前にシャワーを浴びようとしたんだけど、目眩がしてそれからずっと寝ていたんだ」
(;n_n)「わかったんでいいからなんか服着てください……」
手の隙間から漏れる光さえも、なんだか恥ずかしかった。
衣擦れの音が静かに響き、僕はため息をついた。
(;n_n)「まだですかね」
川 ゚ -゚)「着替え終わったよ」
212
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:38:40 ID:v37dldgU0
そっと手をどかす。
灰色のスウェットを着たクーが、どこか申し訳なさそうに僕を見つめていた。
川 ゚ -゚)「すまなかった」
(-_-)「……気にしてないですよ、具合が悪かったんなら仕方ないですし」
川 ゚ -゚)「それもあるけど」
(-_-)「けど?」
川 ゚ -゚)「別に君に裸を見られてもなんとも思わないというか」
(-_-)「いいからシャワー浴びて下さいよ」
川 ゚ -゚)「……それもそうだな」
そうっと立ち上がり、彼女はゆっくりと僕の横を通り抜けていった。
川 ゚ -゚)「ほんとに、ごめん」
もう一度クーが謝って、だけど僕は怒っても悲しんでもいなかった。
だから僕は、なにも言わずに台所へと向かった。
213
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:39:56 ID:v37dldgU0
カウンターを超えた先に台所はあった。
台所、といっても元は飲み屋の厨房である。
床は打ちっ放しのコン.クリートなのでいかにも寒々しく、壁紙にはヤニがすっかり染み付いていた。
二層シンクの隣には昔ながらの電熱ヒーターがたった一つだけ設置されていた。
その脇には調理器具が散乱していた。
計量カップの中に菜箸や小さいお玉が突っ込んであったり、鍋が適当に重ねられていたり。
包丁だけはさすがに危ないと思ったのか、きちんと鞘にしまわれていた。
食器棚の中にはなぜか電子レンジが突っ込んであり、長らく使われてはいない様だった。
そして一番奥の壁際には、これまた大きい業務用の冷蔵庫と冷凍庫が聳え立っていた。
(-_-)(一人暮らしならこんなでかいのは要らないだろうに)
試しに冷蔵庫の上段を開けてみる。
中はほとんどすっからかんで、味噌や砂糖や塩などの調味料しか入っていなかった。
下段を開けてみると、そこにはニリットルサイズのペットボトルが所狭しに入れられていた。
(-_-)(コーラと天然水……)
コーラはともかく、なんで水がこんなにあるのだろうか。
川 ゚ -゚)「言うのを忘れていたけれども、」
(;-_-)「ひゃっ!?」
川 ゚ -゚)「料理には必ずその水を使ってくれ。茹で水とか、野菜を洗うのも全部」
(-_-)「分かったけどいきなり後ろから声かけられると……」
川 ゚ -゚)「ん」
わかったのかわかってないのか掴めない返事をし、クーは去っていった。
214
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:41:15 ID:v37dldgU0
(-_-)「……生活用水かぁ」
ここの水が気に入らない原因があるのだろうか。
気にはなったが、今は夕飯を作るのが先である。
僕はボトルを何本か取り出した。
一本は鍋でお湯を沸かすために。
もう一本は野菜を洗うために。
残りはまた後で使うので、そのまま空いたスペースへ。
(-_-)(やっぱり変わってる)
洗う水まで指定されてるなんて、と思いつつほうれん草の泥を落とす。
それから人参の皮をむいて、いちょう切りにしてしまう。
きゅうりも同じ様に切る。
お湯が沸いてきたところで塩を少し入れ、人参を茹でる。
火が通ったら、水で冷やしてきゅうりと一緒にボウルに入れる。
ほうれん草も茹でて、食べやすい大きさに切る。
それもまたボウルの中に入れる。
さて、ここでまた新しくお湯を沸かさなくてはいけない。
今度は豚肉を茹でなくてはいけないのだ。
(-_-)(あー、クーのは別にしとこうかな)
どうせ野菜と混ぜても、彼女は食べないだろう。
お湯を沸かす間に僕はもう一つボウルを用意した。
こっちにはたくさんお肉を入れてあげよう。
そうすればきっと喜んでくれるだろうから。
215
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:42:37 ID:v37dldgU0
(-_-)「よい、しょっと!」
鍋にどさどさと豚肉を投入。
しゃぶしゃぶ用の薄切り肉なのですぐに火は通ってくれる。
とはいえ二キロもあるから、分割しないと茹できれないのだけど。
茹で上がった肉はせっせせっせと空のボウルに肉を入れる。
鍋が空いたらまた肉を入れる。
ボールに肉を移し、また肉を入れて……。
(-_-)「……」
その間、クーの体についた傷跡のことを考えていた。
肩から胸には白さを含んだ赤茶色の肌は、きっと火傷の跡だ。
形からして、熱湯かなにかをかけられたような。
二の腕や腹にかけて斑らに広がっていた青黒い痣は、古いものだろう。
あまりにも内出血がひどいと消えるまでに時間がかかってしまうのだ。
そして、クーの左手首で膨れていた一本の線。
あれは、どう見てもためらい傷であった。
(-_-)(何があったんだろう)
自傷を繰り返すうちについたものではなさそうだ。
リストカットというのは、最初はひっかき傷のようなものから始まるのだ。
痛みや血を得ようとするうちにそれはどんどん悪化し、しまいには洗濯板のような腕になる。
だけどクーの体にある切り傷は、あれ以外にないのだ。
だから、あれは、
(-_-)(彼女が死のうとした跡だ)
216
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:43:34 ID:v37dldgU0
考えがまとまるのと豚肉が茹で上がるのはほぼ同時であった。
それぞれのボウルにゴマドレッシングをどっぷりとかける。
(-_-)(聞いたらダメだよなぁ)
電子レンジにサトウのご飯を突っ込む。
ボウルの中身を混ぜ終えたら、ちょうどそれも温まるだろう。
(-_-)(でも気になるし)
味の馴染んだそれを、味見程度に食む。
しゃきしゃきとしたきゅうりの食感。
ほうれん草の甘み。
脂が適度に落ちた豚肉のさっぱりさ。
食欲をそそる人参の彩り。
香ばしいゴマの風味とまろやかな酸味。
(-_-)(おいしい)
もう一口だけ、と言い聞かせて肉を頬張る。
(-_-)(喜んでくれるといいな)
そう思いながら僕はホールへ食事を運んだ。
217
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:44:15 ID:v37dldgU0
ほどなくして、クーはホールに戻ってきた。
(-_-)「髪濡れてると風邪引きますよ」
川 ゚ -゚)「タオルでよく拭いたし大丈夫さ」
それよりも食事だ、と言わんばかりにクーは割り箸を取り出した。
川 ゚ -゚)「おいしそうだな」
肉の山を見て、クーは心底感動したように言った。
(-_-)「茹でた豚肉にゴマドレをかけただけですよ」
パキン、と割り箸を割る音が二つ。
それからいただきますという声。
僕もそれに倣い、肉へと手を伸ばした。
川 ゚ -゚)「うん、おいしいな」
(-_-)「ならよかった」
よほどお腹が減っていたんだろうか。
それきりクーは黙って、ボウルを抱え込んだ。
むしゃり、むしゃり、と肉を咀嚼する音だけが響く。
食べ進めながら僕はボウルを持つ左手を盗み見ていた。
やっぱりどうしても気になってしまうのだ。
川 ゚ -゚)「本当においしいよ」
(-_-)「え? あ、ああ……」
急にこちらを見て言うもんだから、僕は慌てて目を逸らした。
218
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:45:22 ID:v37dldgU0
川 ゚ -゚)「……疋田くん?」
(-_-)「なんでもない」
クーを視界から外し、僕はぐるりと部屋を見回した。
窓際にはチェストが置かれていた。
その上には唇の形をした置き物と、柘榴色の着物を着た女性の写真が乗っていた。
(-_-)「あの写真は……」
川 ゚ -゚)「成人式の時の写真だよ」
肉を飲み込みながら、器用にクーは答える。
川 ゚ -゚)「あんまり似合わないだろう」
(-_-)「そんなことないですよ」
川 ゚ -゚)「そうか?」
(-_-)「というか……、綺麗すぎて一瞬誰なのかと」
川 ゚ -゚)「化粧と髪型のせいだろう」
言葉は素っ気ないが、どうもクーは照れているようだった。
一瞬咀嚼音が途切れたからである。
川 ゚ -゚)「成人式なんてわたしは本当はどうでもよかったんだ」
(-_-)「そうしたらモララーさんに怒られたとか」
川 ゚ -゚)「よくわかったな」
(-_-)「だってクーの話は大体モララーさんのことばっかりだし」
219
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:46:07 ID:v37dldgU0
一瞬キョトンとしたあと、くつくつとクーは笑った。
川 ゚ -゚)「たしかに、そうだな」
着物や草履の一式は、モララーさんが用意したものだという。
もちろんレンタルなどではなく、買ったもので今でも部屋の隅に保管してあるらしい。
帯や着物全体に金糸や銀糸が織り込んであるし、正絹でできているというのだから値段はさぞかし高いだろう。
(-_-)(お金持ちのやることはスケールがでかくて怖いな)
川 ゚ -゚)「あいつは育ちがいいせいか、行事にはうるさくてね。必要ないと言っても絶対に折れなかったんだ」
気付けばクーのボウルは空になっていた。
僕のボウルには、まだ肉が数切れ残っていた。
黙ってそれを差し出すと、肉はクーの口へとさらわれていった。
川 ゚ -゚)「ごちそうさま」
(-_-)「お粗末様でした」
残った野菜で僕はもそもそとご飯を食べる。
ついつい話していると、箸が止まってしまうのだ。
それにしたって、いつもよりも食べるスピードが速かった。
(-_-)「ちゃんとご飯、食べてなかったんですか?」
川 ゚ -゚)「……食べたさ」
バツの悪そうな顔で、クーはこう言った。
220
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:46:52 ID:v37dldgU0
川 ゚ -゚)「本当は君にハンバーグを作ってあげたかったんだけど、その肉も食べてしまってね」
(-_-)「ハンバーグ?」
川 ゚ -゚)「そう、ハンバーグ」
クーは目を閉じて、それからなにかを決意したようだった。
川 ゚ -゚)「昔の話を聞いてもらうために、必要なものだった。それが、ちょっとしたトラブルでふいになってしまったんだけども、」
(-_-)「そんなの、いつでも聞きますよ」
川 ゚ -゚)「…………」
(-_-)「僕、さっきから気になってたんです。クーになにがあったのか、どうして手首にそんな傷を負っているのか」
川 ゚ -゚)「……気付いていたよ。見ていて気分のいいものじゃなかったろう?」
(-_-)「僕はそうは思いませんでした」
本心だった。
不愉快でもなく、醜悪なものでもなく。
僕が知らない空白の時間を手にしたかった。
(-_-)「教えてください」
川 ゚ -゚)「…………」
(-_-)「お願いだから」
だから、
(-_-)「クーの地獄を見せてよ」
221
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:47:41 ID:v37dldgU0
君の地獄に恋してる
.
222
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:48:36 ID:v37dldgU0
登場人物紹介
(-_-) 疋田
タバコは臭いから苦手
川 ゚ -゚) 素直クール
タバコは臭くなるから嫌い
爪'ー`)y‐ 鬱田フォックス
タバコを吸うのはクー避けのためである
223
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:49:33 ID:v37dldgU0
おまけ
爪'ー`)「おつかれーっす」
(・∀ ・)「おつかれっす! 持ち場離れてどこ行ってたんすかー?」
爪'ー`)「んー? 道案内的な?」
(・∀ ・)「またお客さん捕まえたんすか! 流石っすね、こんな暇な時に」
爪'ー`)「んーん、違うよ。コインランドリー入ってるビルあんじゃん」
(・∀ ・)「ああ、あの幽霊ビルの」
爪'ー`)「あそこに住んでる子に用事があるんだと」
(;・∀ ・)「…………」
爪'ー`)y‐「それより火くんない?」
(;・∀ ・)「あ、は、はい……」
爪'ー`)y‐「ありがと」
(;・∀ ・)「…………」
爪'ー`)y‐(素直さんに友達、ねえ)
224
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 16:50:30 ID:v37dldgU0
あけましておめでとうございました
225
:
食べ物メモ忘れてた
:2016/01/08(金) 17:15:05 ID:v37dldgU0
>>222
冷しゃぶサラダ
作り方は作中の通り、野菜と肉が同時に食べられる優れもの、ブーンから作り方を教わった
226
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 17:45:43 ID:W7/8/RCc0
久しぶりだなあけおめ
午後十二時半=24時間制でいう12時30分って解釈でいいんかな……? 考えてたら昼か夜かわからなくなってきた
227
:
名も無きAAのようです
:2016/01/08(金) 18:56:24 ID:FmLMEktA0
乙、支援
クーとヒッキー
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1907.png
ドクオ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1908.png
228
:
名も無きAAのようです
:2016/01/13(水) 02:28:32 ID:bUgmObqk0
乙です
食の描写いいな
読んでたらつい食べたくなって冷しゃぶサラダ作ってしまった
229
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 09:53:29 ID:HjtaKTU60
午後七時十三分。
クーの話が始まってから三十分が経とうとしていた。
実の両親に何故か捨てられてしまったこと。
橋の下で一人泣いていたクーを拾ってくれた夫婦のこと。
なのにその夫婦から手酷く暴力をふるわれたこと。
その暴力の跡が、未だに消えないこと。
それに耐えかねて、五歳の時に家出したこと。
約半日放浪した末に、日府市内のとある神社にたどり着いたこと。
そして、そこでモララーさんと出会い助けられたこと。
川 ゚ -゚)「……警察が来るまでの間、モララーはずっとわたしのそばにいてくれた」
淡々と過去を語っていたクーは、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
川 ゚ -゚)「その間にね、わたしのお腹がぐうぐう鳴りだしてしまってね。とても恥ずかしかったんだけど、でも仕方がなかったんだ、家にいた時はろくに食べさせてもらえなかったから」
(-_-)「そうなんですか……」
川 ゚ -゚)「ああでも、それを聞いたモララーがハンバーガーをくれたんだよ。その時に初めてまともな食事をとれたような気がする」
暗い顔をしていた僕を気遣ってか、クーは明るくそう言った。
だけど僕の心配事は、その内容の悲惨さからくるものではなかった。
(-_-)(授業で見た映像と同じだ)
現実と虚構の間で生きていた少女、S。
両親からの虐待、夏の逃避行、お祭りで出会った少年。
合致する情報があまりにも多すぎた。
230
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 09:54:18 ID:HjtaKTU60
(-_-)(……いや、でも、違うかもしれないし)
この時点ではまだ確信が持てなかった。
しかし、裏付けが取れるエピソードがまだ一つだけ残っていた。
川 ゚ -゚)「――だからね、わたしにとって肉はとても、」
(-_-)「クー」
饒舌に語っていたらしいクーを遮り、僕はじっと彼女を見つめた。
クーは、気まずそうに僕を見返した。
川 ゚ -゚)「……すまない、こんなつまらない話をして」
(-_-)「……つまらなくないよ」
川 ゚ -゚)「そうかな」
(-_-)「むしろ、こんなに大事な話を聞かせてくれてありがたいって思っているんだ」
川 ゚ -゚)「ありがたい、か」
(-_-)「滅多に話せることじゃないでしょう、それを僕に託してくれたんだから」
川 ゚ -゚)「……そういう見方も、たしかに出来るな」
柔らかな声で、彼女はそう言った。
(-_-)「……聞きたいことがあるんだ」
川 ゚ -゚)「…………」
彼女の目から左手首へ、そっと視線を移す。
(-_-)「その手首の傷は、どうしたの」
231
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:04:18 ID:HjtaKTU60
嫌だったら言わなくても、と付け加えかけて僕はやめた。
彼女は自ら袖口を捲って、僕にその傷を見せてきたからだ。
川 ゚ -゚)「モララーに助けられて以来、わたしはずっと彼に頼りっぱなしだった」
何をするにしても、何処に行くにしても、彼がいれば無敵になれる気がしたとクーは語る。
川 ゚ -゚)「わたしはね、何も持っていなかったんだ。生まれも育ちもあんな有様で、何一つとして自分の芯になり得るものがなかったんだ」
(-_-)(それは、クーのせいじゃないのに)
悪いのは彼女の両親なのだ。
生まれた時から彼らが愛情を注がなかったせいで、クーの自尊心や精神はぐちゃぐちゃに踏み潰されてしまったのだ。
川 ゚ -゚)「成りこそ人間の格好をしているが、本当に中身と言えるものはないんだ。生きていたいという意志もなかったんだ」
だけど、と小さく彼女は呟いた。
川 ゚ -゚)「モララーはそれを分けてくれたんだ。わたしに、生きていていいと教えてくれたんだ。遊びにも連れて行ってくれたしたくさんご飯も食べさせてくれた。勉強も教えてくれた、馬鹿なりに彼について行こうと必死になった。他人や生き物は大事に扱うべきだということも学んだ。傷付けてはいけないと、彼は優しいからよくよく教えてくれた」
夢を見ているような目で、クーは喋る。
僕は黙ってそれを受け止めていた。
ちりちりと、心の片隅ではつまらないという気持ちが燻っていたけど。
それでもクーの過去を知るためには必要な話であった。
川 ゚ -゚)「……だけどある日、絶交されたんだ」
昔からよくクーはいじめられていたらしい。
というのも、養護施設で度々問題を起こしていたからだそうだ。
まあそうだろう。
あの映像の情報を信じるならば、彼女の起こした行動は異常そのものであったからだ。
232
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:05:53 ID:HjtaKTU60
川 ゚ -゚)「モララーに何度か怒られて、大人しく、誰も傷付けないように、普通に生きようと思っていたんだ。なのに」
(-_-)「なのに?」
川 ゚ -゚)「わたしが抵抗しなくなっても、誰もいじめを止めてくれなかった」
(-_-)「…………」
川 ゚ -゚)「モララーだけはずっと助けてくれていた。だけど、わたしが十一歳の時に……」
(-_-)「…………」
川 ゚ -゚)「……モララーのお父さんが逮捕されて」
(;-_-)「えっ……?」
川 ゚ -゚)「知り合いから預かった荷物に薬物が入っていたとかいないとか……。まあ言い方が悪くて申し訳ないけど、親の後ろ盾がなくなった途端に彼もいじめられ始めたんだ」
(;-_-)「……!」
川 ゚ -゚)「それで、もうわたしを庇いきれなくなって彼もいじめに加わりだしたんだ」
いじめはますますエスカレートした。
物が無くなったり罵倒を浴びるのは日常茶飯事だったのが、今度は度々暴力もふるわれるようになった。
川 ゚ -゚)「わたしは一人になってしまった」
クーは誰にも頼ることができなかった。
彼女にとって大人は怖くて恐ろしいものだった。
同級生たちはすべて敵に見えた。
モララーさんは、遠く離れた存在になってしまった。
233
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:06:57 ID:HjtaKTU60
川 ゚ -゚)「わたしは次第に生きる気力を失っていった」
もう何をされてもクーは反応しなかった。
無視しているわけではなかった。
たしかに危害を加えられたり、口に出すのも憚れるようなえげつない罵倒を浴びせられたりもした。
けれどもその実感は、まるでなかった。
すべての事象が、他人事のように見えていたのだという。
(;-_-)(解離、状態……)
川 ゚ -゚)「そんなことが毎日続いていたから時間の流れも狂ってしまったのだけども……。果たしていつだったかなぁ」
いよいよ話は核心へと迫る。
川 ゚ -゚)「モララーに死ねと言われたんだ」
(-_-)(……ああ、)
ぴったりと、符号が合ってしまった。
川 ゚ -゚)「モララーが言うには他のクラスメイトたちが囃し立てていて、それに巻き込まれてしまったようなのだけどね。だけどはっきりと、唯一聞こえたのは彼の言葉だけだったんだ」
(-_-)「…………」
川 ゚ -゚)「だから手首を切ったんだ。薄々いつかこんな日が来るだろうと、そう思って準備していたカッターナイフで」
(-_-)「……死んでいい人なんかいないんですよ」
川 ゚ -゚)「死にたくて死んだというよりは、生きる気力が失われたから死んだだけなのさ」
苦笑いを希釈したような表情で、クーはそう言った。
この違いが君には分かるだろうか?
そんな意味合いを含んでいるような、薄い笑みだった。
234
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:09:02 ID:HjtaKTU60
川 ゚ -゚)「結局死にきれなかった」
(-_-)「…………、」
それでよかったんですよとはなかなか言えなかった。
そんな適当な相槌では、彼女を傷付けてしまう気がしたからだ。
川 ゚ -゚)「その後は病院のお世話になったり、モララーからしこたま謝られて腐れ縁が続いたり、仕事を適当にあてがってもらったり……。色々なことがあったよ」
(-_-)「随分端折りましたね」
川 ゚ -゚)「一度に語っても面白くないからな、こんなつまらない身の上話なんて」
(-_-)「そんなことないです、だって」
川 ゚ -゚)「だって?」
(-_-)「……言ったでしょう、最初に。託してくれたことが嬉しいって」
川 ゚ -゚)「…………」
クーは、一度口を開けた。
川 ゚ -゚)「…………、」
けれども、そのまま再び閉ざしてしまった。
代わりに視線は宙を彷徨い、やがて床へと落ちていった。
235
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:09:50 ID:HjtaKTU60
川 ゚ -゚)「……その、話されて嬉しいという感情にも限度があるじゃないか」
(-_-)「……クーの話ならなんでも受け入れるし、その覚悟もあるよ」
川 ゚ -゚)「君が考えているような話じゃないんだ」
(-_-)「クー、」
川 ゚ -゚)「だってわたしは――」
(-_-)「!」
部屋に、電話の着信音が一つ鳴り響いた。
その音で、クーははっとしたような表情をした。
僕はそれを横目で見ながら、慌ててスマホを取り出した。
(-_-)(貞子かよ……)
ブーンだったらシカトしているのに、なんてタイミングが悪いのだろう。
(-_-)(切ったら後々面倒くさいよなぁ)
きゃんきゃんと噛みついてくる様が容易に想像できる。
小声でクーに謝って、それから通話ボタンを押した。
236
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:10:33 ID:HjtaKTU60
(;-_-)「なんだよ」
川д川「あっ、もしもしお兄ちゃん? 今どこにいるの?」
(;-_-)「どこって……えーっと、友達の家?」
川д川「えー家にいないのぉ?」
むくれた声で、大げさに貞子は騒ぎ立てる。
川д川「お兄ちゃんに会おうとしたらね間違えて違う駅降りちゃったの!」
(-_-)「バカだなお前」
川д川「しかもね、出かける前にお財布チェックするの忘れてたからお金もうないの!」
(-_-)「ほんとにバカだなお前」
川д川「だからー、迎えに来て欲しいのー。ねっ、ねっ、いいでしょおー?」
(-_-)「うーん……」
ちらりとクーを見る。
川 ゚ -゚)「……この話はまた今度にしよう」
どこかホッとしたような表情でそう言うから、僕も黙って頷いた。
(-_-)「わかったよ、迎えに行く」
川д川「ほんとー? よかったあ」
(-_-)「で、今どこにいんの」
川д川「うんとねー、北日府だよっ」
237
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:11:46 ID:HjtaKTU60
(;-_-)「北日府!?」
川д川「そーだよー。……どうかした?」
(;-_-)「いや、友達の家もそこにあるからさ。すぐ迎え行けるわ……」
川д川「ほんとー? じゃああたし待ってるからね! 早く来てよね!」
ぷつり、つー、つー、と電話の切れた音。
(-_-)「はあ、まったく」
ごちながら僕はもう一度クーに頭を下げた。
(-_-)「すいません、うちのバカ妹を迎えに行かなきゃいけなくなって……」
川 ゚ -゚)「気にしないでくれよ」
手早く身支度をし、外へ出る。
ぢか、ぢか、と切れかけの蛍光灯が鳴いている。
老朽化した廊下の雰囲気と相まって、なかなか怖いものに見えた。
川 ゚ -゚)「エレベーターまで送るよ」
背後からそんな声がして、僕は少しホッとした。
川 ゚ -゚)「ボロいビルだからね、何か出そうで嫌だろう」
(-_-)「ははは……」
まして昔死体が隠されていたビルなのだから、怖いはずがなかった。
むしろこんなところに一人で住んでいるクーこそがちょっとおかしいのだ。
238
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:12:52 ID:HjtaKTU60
川 ゚ -゚)「今失礼なことを考えていただろう」
エレベーターのボタンを押しながら、クーはそう言った。
僕は何も言わずに微笑んだ。
一階に降りていたエレベーターが、ゆっくりと上がる。
またあの揺れを体験しないといけないのかと思うと、少し気が滅入る。
が、仕方ない。
がたがたと扉が開き、僕はエレベーターに乗り込んだ。
川 ゚ -゚)「……今日は来てくれてありがとう」
(-_-)「どういたしまして」
会釈する彼女につられ、僕も頭をさげる。
すると、クーは茶封筒を差し出してきた。
川 ゚ -゚)「受け取ってくれ」
(-_-)「でも、」
川 ゚ -゚)「苦学生からは流石に集れないよ」
(-_-)「……、」
たしかに僕は貧乏だけど、後ろめたい気持ちになった。
しかしクーは引かないようだった。
(-_-)「……体調が良くなったら、またご飯食べましょうよ」
川 ゚ -゚)「うん、ありがとう」
239
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:13:50 ID:HjtaKTU60
そそくさと封筒をしまう僕を、クーはじっと見つめていた。
それがまた、情けない気持ちにさせた。
川 ゚ -゚)「そのうち連絡するよ」
クーの指がボタンから離れる。
途端、待ち構えていたように扉はあっという間に閉ざされてしまった。
(-_-)(今度はいつ会えるかな)
早くまた話したい。
その気持ちを、古びた箱の中に置いて僕はビルを後にした。
風俗通りは、とても静かであった。
客も、客引きも、フォックスも、誰もいなかったのだ。
ただ、看板だけが相変わらず明滅している。
(-_-)(その方が都合はいいや)
どうにもああいう、品定めするような視線は好きじゃなかった。
フォックスも、僕のことをあまり良い目では見てないような気がしていた。
(-_-)(根は悪い感じはしないんだけど、ちょっとなぁ)
するすると元来た道を辿り、あっという間に駅に着く。
「お兄ちゃーん!」
と、前方から妹の声がする。
240
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:15:48 ID:HjtaKTU60
ただし人が多すぎて、どこにいるのかすぐにはわからなかった。
(-_-)(あ、いた)
ばたばたと、左手を振りながら彼女はやってきた。
川д川「ほんとにすぐ来てくれた!」
(-_-)「すぐそこだったからな」
川д川「えへへーよかったあ」
(-_-)「というか、こんな時間になんで来たんだよ」
川д川「お泊りしようかなーって」
(-_-)「はあ????」
手にぶら下げたボストンバッグは、そういうことだったのか。
(-_-)「いやお前、学校は?」
川д川「お休み」
(-_-)「そうなのか」
川д川「……にしたの」
(-_-)「サボってんじゃねえよバカ」
ゴチンと一発ゲンコツをくれてやると、貞子は涙目で謝った。
241
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:16:45 ID:HjtaKTU60
川д川「……だってさあ、あたしが悪いけどさ、今まで話することなかったじゃん?」
(-_-)「……うん」
川д川「だから、少しでも今までの関係を変えたいなー的な……」
(-_-)「…………」
川д川「明日の朝になったらちゃんと帰るから、ねっ?」
(-_-)「……帰ったらちゃんと勉強しろよな」
川д川「はあい」
気乗りしていない貞子の返事。
と、同時にぎゅるるとお腹の鳴る音。
(-_-)「飯は?」
川д川「食べてなーい、だってお金ないし」
(-_-)「……適当でいいならなんか作ろうか?」
途端、貞子はにっこりと笑った。
川*д川「いいの!?」
(-_-)「コンビニで弁当買うよか安いしさ」
242
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:17:25 ID:HjtaKTU60
ご飯は炊いていないが、幸い手元にはサトウのご飯がある。
あとは適当なおかずを作れば、少食な貞子の胃袋は満たされるだろう。
川*д川「ごっはん、ごっはん、おっにーちゃんのごっはん……!」
(;-_-)「頼むから大人しくしてくれ……」
スキップしながら券売機へと向かう貞子。
それを追う僕。
(-_-)(こんなこと、昔は絶対ありえなかったのに)
恥ずかしくなりながらも、どこか嬉しい気持ちがこみ上げてきた。
(-_-)(ちゃんとした兄妹みたいだ)
僕は、幸せだった。
243
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:18:21 ID:HjtaKTU60
疋田を見送った後、素直は部屋に戻った。
するとソファーには見慣れた男が座っていた。
川 ゚ -゚)「モララー」
特に驚きもせず、素直はその隣へと座る。
( ・∀・)「ちゃんと話せたのか?」
川 ゚ -゚)「いいや、まだ」
( ・∀・)「なんだ、そうなのか」
川 ゚ -゚)「今日はただ食事を作りに来てくれただけだから」
自分の話をするつもりなんてなかったんだ、と言い訳するように素直は呟く。
川 ゚ -゚)「……それにあと二、三日休めば、屋上にだってきっと行ける」
( ・∀・)「そうやって大事なことを先延ばしにするのがお前のダメなところだよな」
川 ゚ -゚)「うるさい」
くつくつと笑うモララーに、素直はいやに腹が立った。
川 ゚ -゚)「洗い物してくる」
テーブルの上に置かれていたボウルをまとめ、そう宣言すると、
( ・∀・)「何食べたんだ?」
と、モララーも立ち上がった。
244
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:19:01 ID:HjtaKTU60
川 ゚ -゚)「ついてくるな」
( ・∀・)「気になるじゃん」
川 ゚ -゚)「……冷しゃぶだった」
( ・∀・)「おー、いいなぁ」
川 ゚ -゚)「どこまでついてくるつもりなんだ、君は」
( ・∀・)「久々に会ったんだ、話しようぜ」
川 ゚ -゚)「そういう気分じゃない」
台所に金属質の音が響いた。
苛立った素直が、ボウルをシンクの中に放り投げたのだ。
川 ゚ -゚)「なんだか調子がおかしいんだ」
( ・∀・)「……大丈夫かよ」
川 ゚ -゚)「わからない。とても胸騒ぎがする」
( ・∀・)「なんか悪いもんでも食べたんじゃ」
川 ゚ -゚)「ただの豚肉だぞ」
( ・∀・)「いやほら、アレとか」
川 ゚ -゚)「…………」
245
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:20:11 ID:HjtaKTU60
素直の視線は、自然と蛇口へ向かっていった。
ぴちょ、り、ぴちょ、り。
水が、少しずつ落ちている。
川 ゚ -゚)「っ……」
ぎゅぅっと力を込め、蛇口を閉める。
水は、止まった。
それから素直は、空のペットボトルが積まれた床を見た。
( ・∀・)「どうよ?」
川 ゚ -゚)「四本増えてる。ちゃんと使ってくれたんだ」
( ・∀・)「多分な」
川 ゚ -゚)「……そうだな」
調理に関する水は全てミネラルウォーターを使えと言われ、疋田はさぞ困惑しただろう。
もしかしたら、少しくらいは水道水を使っていいじゃないかと思っていた可能性もある。
素直は疋田にその理由を伝えなかった。
疋田もまた、それを聞かなかった。
お互いに、あるいはどちらかが踏み込めば、その理由を話したのかもしれないのに。
( ・∀・)「話せると思うかよ」
モララーは苦笑した。
それにまた素直も、苦い顔をして首を振った。
246
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:22:18 ID:HjtaKTU60
( ・∀・)「流石に話せないだろ、アレは」
川 ゚ -゚)「……もういい、寝る」
( ・∀・)「おーい、洗い物は?」
川 ゚ -゚)「今はその水に触りたくない」
生気のない足取りで、クーは台所を後にした。
( ・∀・)「……意地悪くするんじゃなかったな」
取り残されたモララーは、そうごちた。
ソファーにどさりと倒れこみ、素直は目を閉じた。
川 - )(気分が悪い)
素直は、自分の意思で、ちゃんと動いているはずだった。
そのつもりであった。
が、その体を機械で操作しているような違和感を覚えていた。
川 - )(世界が速く見える)
体と意志とが噛み合わないため、素直は自分の行動を把握するのに一拍遅れを取っていた。
素人撮りしたビデオのように突然場面が転換する視界。
ごうごうと耳の中で吹き荒れるような風。
否、耳鳴り。
川 - )「はー……、はー……、はー……」
素直の呼吸が乱れた。
まるで肺が鞴になってしまって、誰かが勝手にそれを操作しているようだった。
247
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:23:35 ID:HjtaKTU60
川 - )(たすけて、)
かひゅ、と口から息が漏れ、すは、と短く息が舞い戻る。
喉はからからに乾いていた。
川 - )(モララー、)
不規則な呼吸が途切れる隙を狙い、僅かな唾液を飲み込む。
川 - )「もららー、」
努めて冷静に出した声は、拙く震えていた。
そもそもこれが本当に自分の声だったのか、素直の耳は判断できていなかった。
素直はもう一度その名前を呼ぶことにした。
川 A )「モララー、」
声は若干低かった。
陰鬱な印象を与える、男の声だった。
川 - )(ちがう、ドクオはもういない)
鬱田は死んでしまったのだ。
素直が手を尽くしても、彼が蘇ることはなかったのだ。
川 - )(これはわたしのこえじゃない)
素直は再び口を開いた。
248
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:24:25 ID:HjtaKTU60
川 ー )「モララー、」
自然と口角が上がっていた。
あたりを和ませるような、人当たりのいい声だった。
川 - )(やめろ、)
またしても素直の口から、素直ではない声が出た。
川* ー )「モララーくん、」
都合の悪いことに、素直はその声を抑止できなかった。
川* ー )「モララーくん、その子は?」
川 - )(やめろ、)
川* ー )「なあんだ、モララーくんの彼女じゃないんだ」
川 - )(やめろと言っているだろう、)
川* ー )「クー! また会ったね!」
川; - )(やめろ、)
川* ー )「ねえモララー、今度屋上に行かない?」
川; - )(やめろ、)
川* ー )「ほらギコくんが前に言ってたじゃない、「ミカン」に変な小屋があるって」
川; - )(やめろ、)
249
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:25:15 ID:HjtaKTU60
川* ー )「鍵なんか壊しちゃえばいいでしょ? それで新しいのをつけちゃうの!」
川; - )(やめて、)
川* ー )「ごめーん、モララーくん。妹に話したらどーしても行きたいって言うからさぁ」
川; - )(だまって、)
川* ー )「ほら挨拶して、ミセリ」
川; - )「うぁ、」
ようやく出たその呻きは、それこそ本当の声であった。
しかし素直には、それを判断する余裕を持っていなかった。
その声はなおも主導権を握り続けた。
川* ー )「クーって本当は面倒見がいいのね。いつもだまぁってモララーくんの後ろにいるから、子供嫌いかと思ってたの」
川; - )(う、う、ぁ、)
川* ー )「いつも病気しがちで学校行けてなかったし……、ミセリも喜んでたよ。ありがとうね」
川; - )(クソおんなが、)
川* ー )「ミセリ? ああ……。ごめんね、今入院してるの。……ううん! そんなに酷くないのよ、きっとすぐ退院できるわ」
川; - )(しね、)
川* ー )「モララーは進路どうするの? やっぱり会社継ぐの? ……あたし? あたしは卒業したらギコくんと結婚するかなー」
川; - )(おまえのせいで、)
250
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:27:09 ID:HjtaKTU60
川* ー )「うん、もう同棲してるよ! ミセリもギコくんに懐いてるみたいだし……。やっと普通の家族になれたって感じかな」
川; - )(ミセリは、)
川* ー )「…………モララー、クー、」
川; - )(死んで、)
川* ー )「……うん。川で一人遊びしてるうちに、溺れたみたいで」
川; - )(違う、)
川* ー )「……あたしが、そばにいたら」
川 - )(お前が殺したんだ)
その瞬間、素直の心は憎悪を掴んだ。
ぐるぐると体の中を巡る血液が、怒りによって煮えていくのがわかった。
同時に腹の中が、すぅっと冷えていった。
が、
川 ∀ )「君がミセリを殺したんだ」
その声は、素直のものではなかった。
川 ∀ )「君が犯人だったんだ、しぃ」
――ぷつん、と素直の意識は途切れた。
251
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:28:14 ID:HjtaKTU60
かつん、と調理台に卵を一当て。
ぴりりと入った亀裂に両親指を添え、熱したフライパン目掛けて卵を割った。
じゅわわっという音が響き、それはたちまち換気扇によって吸い上げられていった。
(-_-)(今日の僕は人のために料理してばっかりだ)
フライパンの余白にソーセージを三本投入。
それから卵とソーセージに、塩胡椒を少々。
白身におおよそ火が通ってきた。
普通ならここで水をいれるらしいが、僕はそうしない。
蓋をして、弱火にしてしまうのだ。
そうすれば、ぷるぷるとろとろの半熟目玉焼きが出来るのだ。
(-_-)(よし、ご飯もチンしよう)
川д川「お兄ちゃん、なにか手伝うことあるー?」
(-_-)「大丈夫、いいよ座ってて」
川д川「そーう?」
首を傾げながら僕を見つめる貞子に、僕は頷いてみせた。
気持ちは嬉しいのだが、残念ながら台所が狭すぎた。
二人もここに立っていたら身動きは取れないだろう。
(-_-)「もうすぐ出来るからな」
蓋をそっとずらす。
塩胡椒が溶け込んだ白身。
つやつやの黄身。
軽く焦げ目のついたソーセージ。
その皮は裂けていて、脂がじわわと噴き出していた。
252
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 10:53:41 ID:HjtaKTU60
(-_-)「よし」
菜箸でソーセージを皿に移す。
目玉焼きも移してしまう。
自慢じゃないけど、箸使いは結構上手な方なのだ。
(-_-)「おっと」
ピーピーと鳴り出す電子レンジ。
が、いかんせん盛り付ける場所がなかった。
(-_-)「貞子ー、これ持ってって」
川д川「はーい」
目玉焼きを乗せた皿を差し出すと、貞子はわぁと小さく声をあげた。
川*д川「すごい美味しそう!」
(-_-)「そーか?」
ただの目玉焼きとソーセージ、誰にでも作れる料理だ。
にも関わらず、貞子はじいっとそれを見つめていた。
(-_-)「……あっちに座ってから落ち着いて見なよ」
川*д川「うんっ」
とてとてと貞子は台所を後にした。
253
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 11:17:22 ID:yK4lo2RI0
支援
しぃ何者だ
254
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 11:26:40 ID:HjtaKTU60
(-_-)(さてと)
レンジの扉を開け、ご飯を取り出す。
一つしかない茶碗にそれを盛り付けて、僕も居間へと移動した。
(-_-)「はいよ」
川*д川「ありがと!」
待っていましたと言わんばかりの貞子に、思わず笑みがこぼれた。
妹は、こんなにも無邪気に笑う人だったんだ。
(-_-)(初めて見た)
川*д川「ねーね、食べていい?」
(-_-)「うん、いいよ」
川*д川「わーい!」
いっただきまーす!と手を合わせ、貞子はソーセージを攫った。
川*д川「っ!!!!」
(-_-)「な、なに、どうしたの?」
川*д川「ううんっ…………、おいしいの……!!」
(;-_-)「……焼いただけだよ、それ」
川*д川「でもすっごくおいしいんだよ、お兄ちゃんのご飯」
(*-_-)「……そっか」
255
:
名も無きAAのようです
:2016/02/16(火) 11:27:20 ID:HjtaKTU60
むしゃむしゃとご飯を口に放り込み、飲み込んで、またソーセージに手をつけて、ご飯を咀嚼して。
一生懸命食べている、という感じがして、ついつい眺めてしまった。
今度は白身に箸がのびた。
川*д川「なんでこんなに綺麗なんだろ……」
(-_-)「綺麗か?」
川*д川「お母さんの作るやつはなんか水っぽいじゃん」
(-_-)「ああ……」
お世辞にも僕の母親は、料理上手だとは言えなかった。
目玉焼きの黄身はかちかちに火が通っているし、水を入れすぎるせいで白身はぐじゅぐしゅになっていた。
しかもそれはまだ食べられるほうの話で、時折底がぶすぶすに焦げていることもあった。
それに関して文句を言うと、問答無用で外に放り出されてしまうから黙って食べる他なかったのだけれども。
川*д川「おいひい……」
(-_-)「ん? ああ、そう、よかった……」
だからこそこうして、そこそこ料理が作れるようになったのだろう。
そのおかげで妹も喜んでご飯を食べてくれている。
(-_-)(そう考えたら悪いものでもなかったのかもしれない)
ふ、と笑いがこみ上げてきた。
川д川「? どうしたの、お兄ちゃん」
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