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優しい衛兵と冷たい王女のようです 番外編 『暁の綾蝶』

103 ◆MgfCBKfMmo:2015/07/20(月) 14:46:42 ID:VABT4D4M0
 毛むくじゃらの顔を引き寄せる。体温がすでに下がりつつある。クーの膝もすぐに赤くなる。

 オオカミは目を覚まさない。口も開かず、穏やかそうな顔のまま、何を言っても動いてくれない。
 もっと引き寄せようとしたら、傷口から血の泡が膨らんだ。皮膚の破れる音がする。織物のようだ。

 寒気がした。喉元にまでこみ上げてくるのを必死で耐えていたら、そのうち視界が滲んだ。
 人がものになっていく姿が、ぼやけて霞む。何も見えない。
 オオカミの存在はもう、腕に当たる冷たく固い体毛にしか認められなくなっていた。

 堪らずに目を閉じたら、オオカミの笑顔が嫌でも浮かんだ。
 戦いの最中に浮かんでいたあの奇妙な屈託のなさは、純粋に楽しんでいるものの瞳だとようやくわかった。

 オオカミは楽しんでいたんだ。戦うことが好きだったんだ。
 もっと早くに、そのことに気づいていてあげたなら。


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